[25] 超短編小説 |
- こーれん - 2007年07月07日 (土) 16時10分
〜Rain Forest〜
少し開けっ放しの窓から聞こえる小雨の音で目を覚ます。 眠気が身体を襲うが、いつまでも布団に潜っているわけにはいかない。 俺は勢いをつけて、ベッドから飛び起きた。 「あー……何で窓開いてんだよ、くそったれめが……」 無性に苛立ちが頭の中を駆け巡る。いつもはこんな些細な事では怒らないのだが、どうも気分が悪い。 近くにあった布巾を手に取り、濡れている部分を拭く。 幸いにも、今日は祝日なので、取り立てて時間に追いかけられているわけでもないし、明日も休日だ。 濡れた布巾を洗濯機に持っていこうして、部屋から出ようとするが、ドアを開けると何かにぶつかった。 「う……何してんだよ、人の部屋の前で」 「お母さんからお兄ちゃん早く起こして来いって言われたから……」 厄介な。俺は妹に起こされなきゃいかんほど駄目な奴と思われているのか。胸が締め付けられる感じだ。 「ぐ……そんなに遅い時間じゃないだろっ?」 と、時計を見る。 午後三時。充分、遅い。 実に、遅い。 これなら起こされてもおかしくない時間だ。 「いくら休みだからって……寝過ぎじゃない?」 「……うるさいっ、昨日はバイトがあったから疲れてんだよ!」 「昨日ずっと家にいたじゃない」 何故、昨日ずっと友達と(俺は恋人と読んでいるが)遊びに行っていたはずの妹が、俺の行動を把握出来ているのか、実に不思議なところだ。 これ以上言い訳するのがめんどくさくなったので――言い訳が出て来なかったとは言えない――俺は妹を無視し、洗濯機のある場所へと行く事にした。 手に持った布巾をポイッと投げ捨てるとさっさと自分の部屋に戻り、手をつけていない課題をやる。
「――で?何であんたは俺の部屋にいるんですか」 俺が机に向かって勉強しているのにも関わらず、妹はベッドに座っている。 お袋に俺の監視でも頼まれているのだろうか。 「ん〜、だって暇なんだもん。友達も今日は遊べないみたいだしさ」 「ふーん。友達……ねぇ」 「何よ」 「いや、男かな、と」 「……え……?」
やばい。 これは、マジでヤバい時の空気だ。 部屋を数秒ほど静けさが包む。 閉まっている窓から聞こえるほんのり湿った感じが嫌な雨の音が、また雰囲気を暗くしていた。 「……わ、悪かった。余計な事を言ってよ」 「……お兄ちゃんの馬鹿」 顔が見れないのですが。 ……見たら、そこには鬼の如し形相があるのでないかと思うと、やはり妹の顔を見ることは出来ない。 「ただでさえお兄ちゃんのお世話だけでも精一杯だっていうのにさ……彼氏なんか作ってる暇、あるわけないじゃない?」 「……随分な言い草ですね」 「悪いのは、そっちでしょう?」 ああ言えばこう言う。随分と成長したじゃないか、我が恨めしき妹も。 「ああいいさ。どうせ俺は駄目な兄貴ですよ。そうさそうさ……」 「っさいなぁ……さっさと勉強しなさいよっ。大体お兄ちゃんはさぁ……」 「あー……」
この後、数時間ほど妹の有り難い説教を拝聴して、勉強に集中出来なくなった。 そのおかげで、次の日に学校で居残りをさせられたのは最早、別の話である。
The End.
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