[82] 失敗作(おとぎ話風) |
- エドゥゾル - 2011年10月29日 (土) 16時43分
昔、あるところにとてもすごい発明家がいました。 家事全般を完璧にこなすメイドロボット、嘘を探知する機械、カウンセリングをするプログラム、果てには浮遊する島までもを創ってしまったのです。 そう、彼は天才でした。 ですが彼には友達がいません。なぜなら、とても意地っ張りで、強がりで、傲慢だったからです。 だから誰も彼と友達になろうとなんてしませんでした。
ですが、彼も人間。心はあるのです。
ある日彼はロボットを創ることにしました。自分を嫌いにならないようにプログラムした、友達を。 その噂を聞いた人々は、きっとこんなものを創るだろうと想像しました。 容姿はそこらの誰よりも美しく、声は波にように透きとおり、性格は春のように和やかな、そんな女性を。
出来たロボットは、失敗していました。
容姿はなんとか標準を保っているものの、声はそれはひどいがらがら声で、性格どころかあまり話さないロボットだというのです。 発明家は完成した当日、人々にこう言いました。 「みなはこれを失敗したというが、俺はそうは思わない。私は彼女の名を決めた。「彼女の名は「Success」・・・「セクサス」だ」 人々は発明家を笑いました。そんなものが成功作なのかと、腹を抱えて笑いました。
それから数十年、天才発明家は表舞台から姿を消しました。 そして、人々が彼を忘れはじめていたころです。
彼の住んでいた、人里離れた大きな屋敷で、彼は死体となって発見されました。 彼はもうとっくにお爺さんになっていて、顔はとても安らかに、幸せそうな顔で死んでいました。 隣でロボットは、無機質な目口を幸せそうに歪ませ、石のように微動だにせず、彼を膝枕した状態で動かなくなっていました。
彼らにどんな物語があったのかは誰も知りません。彼ら以外は、知りません。
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