(78) 私の好きな人 |
投稿者:Tomoko
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「久しぶりね、聡」 私、ミラルカ・ロックは、数年来の友人、港田聡に声をかけた。 「おう、ミラルカ」 少々ぶっきらぼうに聡は答える。 女の子と見紛う可愛い少年だった聡は、今や立派な青年である。いつからかそばかすが出て来るようになった。でも、黄色い髪は変わらない。 私達は、揃って十七になっていた。 美少年の聡も良かったけど、私は今の彼の方が好き。 「お姉さん元気?」 「涼子はいつも元気だよ」 「聡はちゃんと遥さんと仲良くやってる?」 「……まぁ、ぼちぼちとな」 私の初恋の人、大澤遥は、港田涼子――つまり、聡のお姉さんと結婚した。 子供も授かったらしい。 「赤ちゃん、もうすぐ生まれるって?」 「ああ」 「元気に生まれてくるといいね」 「ああ」 「男の子かな、女の子かな」 「女の子だよ――既にわかってるんだ」 「お姉さんに似るといいね」 「性格は似てほしくないけどな」 そんな軽口を叩いて笑い合う。 だが、ふと聡は真剣な顔になる。 「ミラルカ……俺と結婚しないか?」 「え……何? 藪から棒に」 「ガキの頃から好きだったんだ。卒業したら――答えを聞かせてくれ」 「そんな……」 こういう時、どうすればいいのかしら。私も――聡が大好きだから。 私は聡の耳元で囁いた。 「いいわよ」 「ほんとか?! やったぁ!」 聡はガッツポーズをした。 大袈裟な程喜ぶんだから。こういうところは、昔と変わっていないのね。 私の顔は綻んでいることだろう。 後ろには影が伸びている。長い影だ。冬だからかな。 今までの私達を象徴しているような気がしてならない。 いろいろあったからね。紆余曲折を経て家族とも和解した。 特に、お母様――私は母をこう呼んでいる――は、今では一番の理解者だもの。 明るい夕陽が、私達のこれからの前途洋々たる未来を祝福しているみたいに思えた。 私は隣にいる聡と、そっと手を繋いだ。
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2010年11月20日 (土) 06時48分 |
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