(75) 何故彼らは死に急ぐ |
投稿者:Tomoko
MAIL
URL
|
「高松……話がある」 そう言った野沢武司は、顔面蒼白だった。 「みんなも聞いてくれ。うちの姉貴が……死んだ」 「え……?」 高松は、自分がつい声をもらしたことに気付いていなかった。 「事故だったんだよ……玉突き事故に巻き込まれてな」 「嘘です」 高松が、意外と冷静なのかもしれないと思うような口調で言った。 だが、その顔は紙よりも白い。 「嘘です。あやめさんが死ぬなんて」 「高松、俺も認めたくないが、これは本当だ、本当のことなんだ」 野沢は泣いている。泣きながら、高松の肩を掴む。 「冗談よしてください。エイプリルフールじゃないんですから。野沢さんまで私をからかおうとなさるなんて……ああ、そうだ。これはきっと夢なんですよ。夢……ハ、ハハハハ」 高松の視界がぐるりと回った。引っ繰り返ったのだ。 「高松! 高松!」 「誰か! 医者を! 早く医者を!」
野沢あやめの墓に、高松は一人、ひっそりと佇んでいた。 「高松……」 ジャンが高松の傍に来た。 「もう帰ろう」 「後少し……後少しだけ……」 高松の目から、涙が盛り上がってきた。 「あやめさん、気の毒だったな」 「ええ――」 高松は空返事をした。 「ジャン……」 「ん?」 「今は……そっとしておいてください」 「腹に溜めるの良くないよ。高松」 「でも……」 「思いっきり泣きな。肩を貸すから」 高松はジャンの肩に顔を埋めて、泣いた。
そして時は流れ―― 高松はルーザーの墓の前にいた。 今日は霧が濃い。 あやめが死んだ時には溢れ出た涙は、今は枯れ果てたように出てこない。 ただ、虚脱感ばかりがあった。 肩を貸してくれた友人も、もういない。 「高松、風邪をひくぞ」 そうだ。この男がいた。――サービス。 自分がジャンを殺したと思っている、男。 ルーザーは戦場へ行く前に、高松には全ての真相を話してくれた。 だからこそ、いっそう、この友が可哀想で……。 「ええ」 と、高松は答えた。 「行こう。どこかで温かいコーヒーでも飲もう」 「――わかりました」 高松は機械的に言った。サービスはそんな彼にコートを羽織らせた。 何故、愛する者達は、死んで行くのだろう。それとも、愛する人の死はインパクトが強いから、それで余計に忘れられないのか。 あやめ、ジャン、ルーザー……。 (何故、貴方がたは死に急ぐのですか……) 実の両親の死は経験したけれど、未だに高松は身近な者の死に慣れることができない。いや、誰しも、そんなことに慣れるのはできないであろう。 (君死にたもうことなかれ) ふっと、与謝野晶子の詩の一部が、頭に浮かんだ。昔読んだきりで忘れていたのに。 愛する者は過ぎ去って行く。永遠に傍にいてくれるものと信じていても、手の中をすり抜けてしまう。 後には、そうでない者が残る。 たとえば、マジックとハーレム。彼らが悪いのでないのはわかっている。 だが、ルーザーを引き止めることのできなかった彼らが、――そして、己が、恨めしい。 「ねぇ、サービス」 高松は隣の友人に話しかけた。 「――なんだい?」 「私達は――どうして生きているのでしょうね」 しばし、沈黙が流れる。やがて、サービスはぽつんと呟いた。 「僕は……生きていることは、罰だと思っているよ」 風が吹いた。それは、サービスの抉られた眼窩を容赦なく晒し出した。 (私達は……生きながら死んでいる者同士なのですね) 霧で体が冷えてきた。高松は身を震わせる。 生き残った数少ない友がかけてくれたコートをかき合せながら、彼と共に歩いた。 心もすっかり冷え切った。 それでもまだ――人を愛せるなら。 愛したい。誰かを。 孤独と飢渇を感じながら、高松は何かを求めていた。
後書き 高松お誕生日小説です。 ちっとも祝っていないように見えるのは何故でしょう(汗)。 ハッピーエンドな話も書きたかったさ! でも、ネタのストックが、今のところこれしかなかったんだ! あやめのことも少しはフォローしておこうかな、と思ったのです。そこから、この話は生まれました。なんかルーザーの方が主なようですが。 しかし、少し暗め……ですね。はい。 でも、パプワの原作はハッピーエンドなので、こういう話を書いても、許される――というか、こういうこと、少しは書いても大丈夫なんじゃないか、という気持ちはありますね。はい。C5はわかりませんが(早く続きが見たい〜)。 最後、高松にほんの少しの希望を持たせました。どこが希望じゃ!と言われたらそれまでですが。 あと、タイトル。『何故』は『なにゆえ』と読みます。『なぜ』と読んでも構いませんが。
|
|
2010年03月12日 (金) 08時13分 |
|