(82) 先生と大佐の結婚式 |
投稿者:Tomoko
MAIL
URL
|
「わあー!大佐かっこいいな!」 「本当、すごく似合いますね」 ハーレムとサービスが感嘆の声を上げた。 「ありがとう、君達」 照れたようにグラント・サーリッチ大佐が言った。彼は結婚式用の白いスーツを着ている。 「僕のお嫁さんになる人は、どんな感じかな?」 グラントが訊く。 「あ、それ、俺達まだ見てないの」 「女性の支度を覗くのは、紳士としてルール違反ですからね」 「君達もいっぱしのジェントルマンってわけか」 グラントはハーレムの、それからサービスの頭を撫でた。 「ご結婚おめでとうございます」 ハーレムとサービスの双子が声を合わせた。 「ありがとう。君達もいい相手と結婚できるといいな」 「まだ早いですよ」 サービスが面映ゆそうに言った。 それに……グラントのフィアンセ、イザベラ・ガーネットはサービスの初恋の相手であった。 こっちはまだ子供、向こうは大人。年齢差だけでも、既に諦めていたのだが。 だから、自分以上の素晴らしい相手と、幸せな家庭を持って欲しかった。サーリッチ大佐は、イザベラの夫として申し分ない。 (まあ、ちょっと悔しいけどね) もし、自分が後十歳年を取っていたら、イザベラを誰にも渡さない、そんなことを思ったこともあった。でも、グラントと彼女が結ばれるなら祝福できる。そんな気がする。 (幸せになってね) グラントとイザベラは教会で式を挙げた。 オルガンの音。ライスシャワー。 イザベラが投げたブーケは、サービスが受け取った。 イザベラは、今まで見たことがないぐらい綺麗だった。おがくず色の髪も、日に受けて輝いている。豪華なドレスは、イザベラの美々しさを際立たせている。 サービスは、笑顔で拍手していた。 「残念だったな、サービス」 ハーレムが小声で囁いた。 「何が?」 「イザベラって、おまえの初恋だったんだろ?俺にはどこがいいのかわかんないがな」 「でも、今日からイザベラ先生は大佐のものだから」 イザベラは青の一族の家庭教師でもあった。 「イザベラ先生…結婚したら僕達の教師やめるかな」 「ばっか。それとこれとは関係ねぇだろ?」 ハーレムがチョップを食らわした。だが、だいぶ手加減されている。 「ったいな」 サービスは言ったが、本当はダメージはそれほどでもない。 「イザベラ先生が俺達の先生、辞めるわけねぇだろ」 「うん、そうだね」 ハーレムは、彼なりにサービスを元気づけたかったのだ。不器用なのでちょっと乱暴だけど。その気持ちがサービスには嬉しかった。 「君にも、初恋の人はいるのかい?」 サービスが双子の兄に訊いた。 「ま、一応な」 「どんな男性?」 サービスが冗談混じりにまた訊いた。 「俺はホモじゃねぇっ!」 本気で怒っているのがおかしい。サービスはくすくす笑った。 「俺にだって、好きな女ぐらいいるぜ……」 ハーレムの声が小さくなった。 「こら。うるさいぞ。ハーレム、サービス」 長兄のマジックに叱られた。 「……すみません」 サービスは謝り、ハーレムは知らんぷりをした。 カーンカーンと祝福の鐘が鳴る。 海辺の教会では、磯の香りがした。 今日の主役はこの上もなく晴れやかな顔をした。 グラントがイザベラを抱き上げる。周りはわーっと盛り上がった。 口笛が鳴り、拍手が一層大きくなった。 「いいカップルですね」 次兄のルーザーも感心しているようだった。 サービスは、いつか自分も、イザベラのような女性と恋愛をして、このような教会で挙式するんだ、と思った。そして、幸せな結婚生活を送るんだ、とも。 「ねぇ、ハーレム」 ルーザーがハーレムに話しかけた。 「花嫁が投げたブーケを取った女性は次は自分が結婚できるんだって」 その話を盗み聞いていたサービスは、だからさっき、女の人達がブーケを取り合おうとしていたのか、と思っていた。結局、サービスの手元に転がり込んで来たのだが。 「ちょっとごめんよ。サービス」 ルーザーがサービスの持っている花束から一輪の花を取り出して、ハーレムのポケットに挿した。 「君にも幸福のおすそわけ」 「……よけいなことすんじゃねぇよ」 ハーレムが頬を紅潮させながら横を向いた。それをサービスは和やかな心持ちで眺めていた。
後書き オリジナルキャラのイザベラ先生とグラント大佐の結婚式です。 ちなみに、双子はちゃんと女性が好きです。いや、女性も、と言った方がいいでしょうか。 大人になった双子はバイである設定ですので。好きになったら仕方ない……みたいな?
|
|
2011年01月07日 (金) 20時52分 |
|