[156] 機会のつかみ方 谷 口 雅 春 先 生 |
- 明鏡 - 2014年10月05日 (日) 16時35分
機会のつかみ方 谷 口 雅 春 先 生
『 生長の家 』 誌 昭和二十四年九月号
【 一日の法語 無限の宝庫は 今 此処 にある 】
昔々インダス河のほとりに一人のペルシャ人が住んでいた。 その名前はアーリー・ハーフェッドと云った。 河岸に立っている彼の小さい家からは美しい田舎の景色が 海岸の方へずっと伸びて行っているのを見渡す事ができた。
アーリー・ハーフェッドには妻との間に数人の子供があった。 彼は豪農で広々とした穀物の畑や花畑や果樹園や数マイルもつづく森林を所有していた。 彼は自分のほしいだけの金と、その外ありとあらゆるものをもっていたのである。 それで彼は非常に満足で幸福であった。
或る朝のこと 一人の仏教僧侶(そうりょ)が彼の家を訪問した。 そして暖炉(だんろ)の前に腰かけながら、この世界の成り立ちから、 太陽の最初の光がこの地球の上にさしこんで来て、それが如何に結晶してダイヤモンドになったかというような話まで説明してくれるのであった。
この老僧はこんな話をしてから、自分の拇指(おやゆび)をその豪農の主人公の前に突きだして、 「 この拇指ほどの太陽の光でも広い広い金鉱、銀鉱、銅鉱などよりもまだまだ価値が あるのである。このほんの僅(わず)かの日光でもこんな農園位 いくらでも買えるだけの値打があるのだ。一にぎりの日光があればこの一国全体を買う値打がある。 そのすばらしい日光が結晶したダイヤモンドの鉱山をもってしたら、 この国全体を買って尚(なお)余りがあるほどだ 」 と説明したのであった。
アーリー・ハーフェッドはその老僧のいうことをきいていた。 すると今まで田地 田畑 果樹園 森林それから無尽の金銭をもっていて 随分富めりと思っていたのが、それがただの一にぎりの日光の値打しかないのだと 知らされると一ペンに貧乏になったような気がしたのである。
彼は今まで満足していた心が不満足となり、堪えがたき寂しい感じにおそわれて、 その夜はおちおち眠ることが出来なかった。
翌朝になると、彼は不機嫌な顔をしておきて来た。 そしてその不機嫌の原因であった老僧に心配そうに 「 どこへ行ったらそのダイヤモンドの鉱山が見つかるのですか 」 ときいた。
「 どうしてあなたはダイヤモンドがほしいのですか 」 と其の坊さんはおどろいてたずねた。するとその主人は 「 私は富みたいのです。そして子孫に富を残しておいてやりたいのです 」 と答えた。
老僧は答えていった。「 あんたのなすべきことは一所懸命そのダイヤモンドの鉱山が 見つかるまで探しまわることですよ。」
「 しかしどこへいって探したらいいのでしょう。」と哀れな主人はいった。
「 東西南北どこへでも行って探しなさい。」と老僧はいいました。
「 そんなに歩き廻って、やっとダイヤモンドの鉱山の所へ来たら、 どうしたらそれがわかるのですか。」
「 高い山脈の間に白い砂の河底の その白い砂の中にダイヤモンドを見出(みいだ)す でしょう。」 と老僧は答えた。
そこで主人公は自分のもっていた農園を売りとばして自分の家族をば隣の農家にあずけ、 その売って得た金をもってダイヤモンド鉱山の探検に出掛けて行った。
つづく・・・
一日の法語 (つづき)
彼はアラビヤの山々を越え、パレスチナ及びエジプトを通って、何年も何年も、 彼は困難な旅を続けて行ったが、ダイヤモンド鉱山は見つからなかった。
彼は出発の時携帯した金を全部使いつくしてしまって、その後には飢え死にが ただ待っているのであった。 彼は自分自身の愚かさと自分自身のやつれはてたみすぼらしさとを恥じて海にとびこんで自殺したのであった。
話かわって彼から農園を買いとった人は 今もっている農園に満足し切っていた。 そして自分の環境を出来るだけととのえ 自分のすべての田地、畑をできるだけよきものにして、 ダイヤモンドや あてにもならぬ富貴栄華を求めることなしに ただ今を「ありがとうございます」と 暮していたのであった。
所が、彼が農業用に飼っていたラクダが、ある日 水を呑(の)んでいるのを見ていると、 小川の白い砂の中からピカリと光る ある物が見えたのである。
彼はその光る小石をとりあげて見た。 余りに光輝燦然と光る石なので、めずらしい石だと思って家にもってかえり、 暖炉の近くの棚の上にそれをおいたが 何時(いつ)の間にか そのことも忘れてしまっていた。
ある日 例の老僧がその農園の新しい持主である彼の所へ訪ねて来た。 老僧は彼の部屋に足を踏みこんだとたんに、棚にあった‘光るもの’が目についたのである。
「 ダイヤモンドだ。ダイヤモンドだ。アーリー・ハーフェッドが帰ってもって来たのかえ。」と 老僧は興奮して叫び声をあげた。
「いいえ」と百姓はいった。「あれはダイヤモンドでござんせんよ。あれはただの石でさあ。」
兎(と)も角、この石を採取した現場を見ようと云うので、二人はその農園を流れる河の 白い砂のところへ行って、指で砂をかきまわしてみると、
驚いたことには、出てくる、出てくる。先のものよりも まだまだ大きい光輝燦然たる大粒のダイヤモンドが出てくるのであった。
これが有名なゴルコンダーのダイヤモンド鉱の発見された歴史であるということが或る本に書いてあった。
あの哀れなるアーリー・ハーフェッドが遠く さすらい歩かないで、ただ自分の家でじっとして 今あるものに完全に感謝して 今に全力をつくしていたならば 飢え死に一歩手前で身投げするどころか全世界第一の大富豪になっていたのであった。
彼のもっていた農園地帯全部が無数の宝石を蔵しているダイヤモンド鉱であったのである。 無限の富は すでに 今 ここに 与えられているのである。
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