[10524]雪の王子、春の少女。 - 投稿者:繰る名
…嗚呼、また君は泣くんだね。
…涙がこぼれ落ちそう。
それでも。
拭おうとした手は、赤すぎて。
…触れて君を汚すくらいなら、そのままでいいと思った。
偽りの雪、故郷の歌、かけがえのない大切な人。
全てが愛おしく輝くあの日に帰れたら、なんて。
…思ってはいけないのにね。
震える手で握らされたのは十字架だった。
もういちど、目を開けると。
凍雲の張り付いた漆黒の空と、君の哀れな顔。
最期に、笑った顔が見たかったから、僕は笑った。
…いや、笑えていただろうか。
君は、また泣く。
…哀れな子だ。
いよいよ瞼が重くなって。
かろうじて生を訴える鼓動の音も、遠のいた。
…嗚呼、雪が降ればいいのに。
よくわからないけれど、一瞬、そう思ったのも束の間。
ひとしきり強い振動が、身体を伝わる。
その時、わかった気がした。
…これが、最後の「音」だと。
少女は、腕に抱えた青年のために、空に泣いた。
青年は、すでに息を絶えていた。
少女は泣く。 青年は笑ったまま。
ある物語は終結する。
それは―…
…悲しき恋路と、誰かが語った。
(
2009年10月04日 (日) 17時33分 )
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