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From:室長
アメリカのおける移植の現状ですが、腎臓に限って言えば、慢性透析患者は100万人を超えており、7万人あまりの人が、移植を望んで登録しています。年間の移植数は2005年時で17000人前後です。単純計算でも、3-4年の待ち時間であり、血液型によっては、5-6年待ちです(例えばB型の場合)。
透析を続けるのと、移植をするのでは、母集団をそろえた検討でも、移植を受けた方が、生存率が高いことが証明されており、以前は腎臓移植はただ単にQuality of Life を高めるだけのものと言われいたのが、今では、Life Saving Operation と認識されています。そのため、移植数を増やすのが緊急の課題とされ、アメリカにおいても、様々な試みが最近行われています。
例えば、これまでは、ドナーとして考えていなかったドナーを使う試みが行われています。
ECD (Extended Criteria Donor )というカテゴリーが導入され、60歳以上のドナー や、50-59歳で、以下のうち2つをもつもの(死亡原因が脳血管障害、クレアチニンが1.5以上、高血圧の既往歴がある)を積極的に使おうとしています。これで約20%ドナーが増加する期待されています。(これは端的に言えば、いわゆる病気腎臓です)
その他、高齢者や小さな子供の腎臓を2つ一緒に一人のレシピエントに植えることも行われています。背景は高齢者の腎臓や子供の腎臓は一つでは、通常の成人にはその、身体的要求を満たすだけの大きさ(腎臓のマス)がないと考えられていたため、これまでは、使われずにいたからです。
さらに、以前では病気を伝播させる可能性があるので、やられていなかった、感染症にかかった腎臓も今では、普通に用いられています。もちろん、治療法の確立していないエイズやウエストナイルウイルス、狂犬病などはだめですが、効果がある治療法があると考えられている一般のバクテリア感染症(日本では、法定伝染病に含まれている髄膜炎菌すら含んでいます)はもちろんのこと、B型肝炎、 C型肝炎なども、レシピエント側の抗体の有無に寄りますが、普通に移植されています。(これも、いわゆる病気腎臓ですよね)
これまで、アメリカではあまり行われてこなかった心臓停止後のドナーも最近増えてきています。これに関しては、はるかに日本の方が進んでいましたが、日本移植ネットワークが介在するようになり、むしろ、その数が日本では減少しています。
さらに、最近のトピックは、もっと生体ドナーを増やすために、ドナーさんの評価に関わる費用の一部(旅費や滞在費)を援助しようという試みが始まっています。
そして、さらに進んで、丁度フィリピンで先日報道されましたように、ドナーとなった人に、金銭的な報酬を出そうかと言うことまで、アメリカで議論されだしました。 (AP Monaco, Kidney International 69:955-957, 2006)
その他の試みとしては、血液型不適合やクロスマッチ陽性のため、移植が難しいカップル同士でドナーをチェンジして移植を行う試みもされています。既に、韓国やオランダではもう行われています、この点でも日本は韓国にすら、数段遅れている状況です。( JAMA 293: 1716, 2005, Transplant Proc 36: 2949-2951, 2004)
さらに、おそらくこれは、アメリカならではの状況かも知れませんが、全く自発的に、一つ腎臓を提供したいという申し入れからの、移植さえ行われています。
このように、腎臓移植の数が年間17000件をこえるアメリカでさえ、このような努力がされている状況で、それを端的に表しているのが、今年1月にフロリダで行われた、アメリカ移植外科学会のシングルトピックカンファレンスで ドナーをいかに増やすかということが議題となりました。
まとめて言えば、はるかに移植数の多いアメリカにおいても、臓器不足は深刻であり、そのため、様々な努力がされているということです。また、その中には、いわゆる病的腎臓が含まれています(ECDや感染症のドナーなど) 癌を持ったドナーや腎臓を移植する試みは公式にはされていませんが、ご存知のように、丁度万波先生が行ったように、癌を伴った腎臓を摘出して、バックテーブルで腫瘍を切除し、他のレシピエントに移植した14例の症例報告がCinncinatti 大学から出されています (Transplantation Proceedings, 37: 581-582, 2005)。再発はなく、すばらしい生存率を報告しています。また、最近のイタリアからの報告(Transplantation 83:13-16, 2007)を見ても、癌がレシピエントに移る確率はかなり低い(0.02-0.2%以下)と考えられるため、万波先生の報告も含めて、これが、アメリカの移植外科学会で公表されれば、新たなドナーのソースとして、認められるかもしれません。
2007年02月21日 (水) 23時02分
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