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「神秘面より観たる生長の家四十年史」 G "現世利益"は宗教が生きている証拠である 谷口雅春先生著 (35)
日時:2012年08月02日 (木) 13時03分
名前:龍


    "現世利益"は宗教が生きている証拠である

 その条件を充たすのに相応しい体験に、こんな事実があるのである。まだ生長の家が今のように富山県に多くの信徒をもっていない時のことであった。

 同県高岡市の商工会議所の講堂で講演会が午後一時からひらかれることになっていた。それに先立って午前十時頃から会議所の二階の畳の部屋で誌友会がひらかれた。集まっている人は五十人ばかりであった。

 私が生長の家の教えの概略をザッと話して、色々の功徳を得た人の体験を話したあとで、「質問したい人は手を挙げて質問してください答えますから」というと、座席の中ほどのところに坐っていた三十五、六と見える男の人が、「質問」といって手をあげた。「どうぞ」というと、

「今、先生の話しておられる事をきいていると、みんな現世利益の話ばかりではないか。現世利益の宗教は低級なもので、本当の宗教は霊が救われるのでなければならない。何故先生はそんな現世利益の話ばかりなさるんですか」
 
 と問うのでした。あとで聞いてみるとこの人は中川という名の人だそうで、生長の家に熱心で、「もう何を見てもありがたくて、もうありがとうて、ありがとうて」と本部へ来て涙を浮かべながら感謝の言葉を繰り返された和田でんとか言う妙好人とも称うべきお婆さんがあったが、そのお婆さんの息子で、中川という家に養子に往ったのだときいたのである。兎も角、適切な立派な質問である。

 私はその時、釈尊出家の動機というものが生老病死の四苦を解脱するためであって、生老病死というのは現世の苦しみである。宗教というものはむつかしい理論ではなくて、悟りによって現実世界を救うことである。

 理論が高尚であるように見えても、その理論を説く人も、その理論を聴く人も、現実に"生"の苦しみ、"病"の苦しみ、"老"の苦しみ、"死"の苦しみから逃れられないような宗教では虚仮(こけ)おどしに過ぎないのです。

 本当にその説く宗教が正しくて、本当の真理を説いているならば、その真理を悟った人の生活に、その功徳があらわれて来なければならないのです。その真理を悟っても、現実に功徳の証拠があらわれないような宗教だったら、「死んでから来世は救われる」とその宗教が説いても、どこにも救われる証拠はないじゃありませんか。

 現世も来世も同じように唯心所現の世界であるから、未来世が救われる宗教ならば、現世でも救いの力をもっていなければならないというような返事をして、次の人の質問に対する回答に移って往って午前の誌友会は終って、昼食後階下の講堂で講演会がひらかれた。会場が狭いので、多分三百人位の聴衆で満員になっていたと思う。

 私が演壇に立って聴衆を見渡すと、講堂の座席の中央あたりに、午前あの質問をした中川さんの顔が見えるのである。私は誌友会の席上では時間が短くて、私の返事がよく納得できなかったかも知れないと思って、その中川さんの顔を見つめながら現世利益の話をした。

 親鸞聖人の御作にも「現世利益和讃」というのがあって、阿弥陀仏を念ずれば、諸天善神が護って下さって、おのずから現世の利益がととのうと書いてある。
 山伏の弁円が親鸞聖人を殺してやろうと待ち伏せをしていると、その日に限って、親鸞聖人は、その弁円の待ち伏せている道をお通りにならないで、又別の道をお通りになる。そこで、次の日はその別の道に待ち伏せていると聖人は、その日はその道をお通りにならない。こうして自然に危険に近づかなくなってしまうのである。

 実相の浄土には、争いもなく、危険もない。その実相を悟ると、現実の世界にその完全な不調和のない状態があらわれて来る。実相即現象、現象即実相となるのである。これが現世利益というものである‐‐‐‐。

 こんなことを中川さんの顔を見詰めながら話していると、あまり私から顔を見つめられるのできまりが悪いのか、中川さんは斜めに体を曲げて、自分の顔を隣に坐っている人の背中に隠してしまうのである。右隣りの人の背に顔を隠すかと思うと、今度は左燐りの人の背に顔を隠すのである。そうかと思うと、今度は正面から真っ直ぐに見ているが、また顔を燐の座席の人の背でかくしてしまうのである。‐‐‐‐私は気の毒に思って中川さんの顔を見ないで話すことにした。

       (以上転載 このお話はHに続きます)



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