歌帖楓月 |
|
こんばんは。 以前、お絵かき刑事VANにて、 「ロイエルのムースを食べたのは誰だ」 という出張DMBをしました。
ええと、そこで、「ムース事件の前にゼルクがしたあれやこれや」についても書きます。とコメントしました。たしか。
作品として、ページを作るのが、いつになるかわからないので。
ここに載せます! そして、逃げます! 載せ逃げです! さよならーー!
:::::::::::::: 夜も11時をまわるころ。 「わかった。待ってる」 受話器を置いた青年は、少し息を吐くと、背後を振り返った。 ソファの背越しに、本を読んでいる少女の後ろ髪が見える。 「ロイエル。悪いけど、部屋に戻ってくれないか? 今から客が来ることになったから、」 声をかけると静寂が返ってきた。 ゼルクは、彼女がどんな本に夢中になっているのか、と、見に行く。 「本当に夢の中か」 ロイエルは、眠っていた。 青年は、膝の上に落とされていた本を取りあげた。 それは、昔、彼の母が読んでくれた童話だった。
昔々あるところに、働き者の娘が住んでいた。冬、娘は、自宅の穀物倉に、大きな包みを見つけた。その重い包みには、秋に訪ねてきた親戚の名前が書かれてあった。娘は、山向こうに住む親戚の家を訪ねることにした。包みの中には、親戚の食料となる、春まき種が入っていると思ったからだった。春になる前に届けなくては、と、娘は冷たく凍った小川を渡り、冬枯れの山道を登って、強い北風の吹く野原を歩いた。そうして、やっと親戚の家に着く。しかし、娘が持って来た包みには、虫食い穴が開いており、中はすっかり空になっていた。娘はひどく落ち込むが、親戚は笑って遠くを見た。 そしてこう言うのだ。 「見てごらん。お前は春を連れてきたんだ。この種は、お前の来た道を輝かせるためにあったんだよ」 と。 娘が振り返ると、季節は春になっており、彼女の通ってきた場所は黄色く輝く花の道になっていた。
ゼルクは本をソファに置き、ロイエルを抱き上げた。 「読み終わったかな?」 微笑んでいるような表情で、少女は深く眠っている。 階段を上がり、彼女の部屋に入る。ベッドに降ろし、上掛けを被せてやる。左肩のあたりに留まっていた結い紐を解くと、くつろいだ薄茶色の髪から、花の香りが優しく漂った。 香りに惹かれて、青年は彼女の髪に顔を寄せる。 ふっくらした耳朶が視界に入り、ゼルクはそっと口付け、寝入った少女が起きないのを確認してから、かすかに歯を立てた。 「なぁに……?」 ロイエルが、微かに目を開けた。 「なんでもないよ」 優しいささやきを聞くと、無防備に微笑んで、また、瞳を閉じた。 指で髪をすいてやると、猫のように心地良さそうにすり寄ってくる。 ゼルクは愛しそうに笑って、少女の額に口付けた。ん、と、鼻にかかったような小さな声が、耳に届く。 夜明けには咲きそうな花のように眠る。 見つめて、ゼルクは、手指を動かした。
「おはこんばんはー!」 そろそろ早朝という時間帯になってから、情報処理課管理官がやってきた。 「ゼールークーくーん! 僕が来たよー!」 学校帰りの子どもが友達宅に遊びに来るのと同じ元気で、ガイガーが公邸に上がりこんできた。 主は少し眉を寄せて迎えた。 「遅かったな? ずいぶんと」 「うん。友人として、すッッげえ気を遣ったの! そして、ハイ、これが、僕からのおみやげ!」 気軽に差し出されたのは、大きな茶封筒。表面には何も書かれていない。受け取ると、金属の硬さがあった。 「暗証記号は、知らないけどねー」 「かまわない」 封を開けると特殊合金の書類入れが入っている。鍵はない。暗証記号によって開くことができるが、手荒に扱ったり、一度でも入力を誤れば、それは高温となり内部の文書が炭化し損壊する。 ゼルクはソファに腰を下ろし、書類入れを開けて文書を読み始めた。 一方のガイガー管理官はというと、スキップをふみながら、台所に駆けて行く。 「突撃・お宅の冷蔵庫はいけーん! さーてゼルク君ちの冷蔵庫の中には何があるでしょーか?! おッ! これは……」
夜が終わる。 ソファの上で、文書を手にしたまま眠り込んだゼルクに、「冷蔵庫に入っていた残り物」をたいらげたガイガー管理官がニヤリと笑った。 「幸せそうな寝顔だよなあ。僕もこっそり幸せだし、よかったよかった。おや?」 友人の隣には黄色の小さな本が置いてあった。 パラパラパラ、とめくると、熊のような外見の男は、「おー」と声を漏らした。 「懐かしいなあ。『はるいろのみち』か。うーむ、これ見ると菜の花のおひたしが食べたくなるんだよネ。家で、ユリちゃんと作ろっと!」 静かな公邸を出て、管理官は、愛妻の待つ場所へと帰っていく。「もう菜の花過ぎてるなあ。じゃあ、菊の花にしとくかな?」とつぶやきながら。
夜明け前。 「……、」 目を覚ましたロイエルは、まだ薄暗い外の景色を窓に見ると、もう一度まぶたをおろして、寝返りを打った。 「?」 背中に少し違和感を感じて、手をやる。 着けていたはずの、下着だった。 ……いつ、外したんだっけ? けれど、すぐに優しい睡魔が訪れて、意識を遠くに連れて行く。
やっぱり、なんかしてたんですな。 ::::::::::::::
|
(252)投稿日:2008年10月18日 (土) 22時05分
|
|