歌帖楓月 |
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こんばんは。 全年齢向けには三日月国、こちらDMBでは加筆修正作業で、やるべきことはあるのですが。 そうなるとやはり脇道にそれたくなるというのが悲しい人の佐賀県というものでございまして。 昨日の昼は、私の住む地域は嵐に見舞われ、「おおお、これは凄い。世間中風雨で真っ白!!」と大自然に感動しまして。
はい。「一体何を言っているのかこいつは?」と思われること千万です。
時間軸またも未来にすっとばしまして。 すみません、小話を、考えつきました。なあに、どこの恋愛モノにもあります「雷がこわいというオンナノコに萌え話」でございます。
では、どうぞ。
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時間軸、首都に連れて行かれて、まあまあ仲良くなったころ。 別々にお休みなさい後。夜のお邪魔します。 ロイエル→ゼルク 天気予報が当たって怖い深夜2時。
『未明から風雨が強まり大荒れになる予想です』
最近は外れていた天気予報なのに。今夜はぴたりと当ててきた。 窓ガラスに勢いよくぶつかる、たくさんの雨粒の音。 ロイエルは寝返りを打った。 響く雨音が気になり、ねむれなくなった。 この上、雷でも鳴ったら……。 ぐい、と、上掛けを頭から被ってきつく目を閉じる。 早く早く眠らなきゃと思えば思うほど、さえた。 止まない雨の音。 とうとう、遠雷が聞こえてきた。 「……、」 耳をふさぐ。 夜の嵐なんて、大嫌いだ。 雷は近づき、光は強くなり音は大きくなる。耳が痛くなるくらいに手で押さえても、肩がこわばるくらいにまぶたをきつく閉じても、軽々と入り込んでくる。 見たくない白紫の光がまぶたをやすやすと通り抜けて、ほとんど同時に体に響く重低音。 飛び起きた。 でも。 もう大丈夫一人で寝られるから、と言ったのは、何日前のことだったか。 ……お願いするの恥ずかしい。 逡巡するが、雷雲は近づいていて、また雷を落とす。気味の悪い紫がかった閃光と、踏みとどまろうとする心を砕いて震わせるほどの地響き。 「!」 少女は半泣きで部屋から飛び出した。 怖くて独りで居られない。 隣の隣の部屋が、彼の部屋で。 怖いけれど、静かに急がずになんとか扉を開けて、そして閉める。暗い部屋。きっと寝ている。こんなの怖いのは私だけだもの、この人なら寝ていられる。 また、すぐそこで雷が鳴った。岩が降るような轟音。 怖い。これ、絶対にどこかに落ちてる。 肩を竦めて、耳をふさぎながら、近づく。 自分が居ないから、この人は、ベッドの真ん中で、仰向けに眠ってる。 ……何で、こんなぐっすり寝られるんだろう。うらやましい。 声を掛けたほうがいいのか、黙って隣に寝させてもらった方がいいのか。 決めかねる少女の背後から、稲妻と地響きが襲う。 「っ!」 悲鳴をかみ殺し、とても声を出して頼めるような余裕がないので、そうっとベッドに膝を乗せた。 この雷が遠くなるまで、ここに居させて。 内心で彼にたのんで、起きる気配が無いのに少し安心して、寝台の端、彼の足元近くに居場所に貸してもらう。膝を立てて座り、そこに顔を伏せて、両手で耳をふさいだ。 「ロイエル、眠れないの?」 「きゃあああっ!?」 起き上がって声を掛けられるとは思ってもみなかったので、ロイエルは、今の今まで我慢できていた悲鳴を外に出してしまうことになった。おまけに、ひどくびっくりして身を震わせたので、ベッドから転げ落ちそうになった。 「おっと、」 背中から床に落ちそうになるのを、右肩をつかまれて背を支えられて引き戻された。 たくましい右腕に包まれて、頭の後ろに当てられた左手にほっとして、少女はゼルクを見た。 起こしてごめんなさい、とか、少しでいいからここに居させて、とか、言うつもりだったのだが。間断なく聞こえる雷鳴に、体がそれより早く青年に近づいた。自分の耳にあった両手が逃げるように離れて、がっしりした肩に触れる。 「か、かみなりが怖いからここに少しだけ居させて?」 冷静に言葉をつむごうと思っていたのに、それだけがやっと口からあわてて出た。 「ああ、」 ゼルクは、なんだそれならよかった、というような安堵の仕方をした。 「震えてる」 苦笑して、引き寄せられて抱きしめた。 また近くに、雷が落ちた。 「っ!」 ロイエルはびくりと震えてすがりつく。 「大丈夫、怖くないよ」 大きな手がゆっくりと髪をなでて背中をさする。 「この家には落ちないんだ。建物に避雷針がつけてあるから」 「……ひらいしん?」 「雷避けのこと」 安心させるように、ぎゅっと抱きしめる。 「かみなり、ここには落ちないの?」 「うん。いいから、今夜はここに寝ていきなさい」 少女を抱きしめたまま、座っている位置を少々脇にずらして、横になる。一瞬、ほっとしたロイエルだったが、思い直して首を振った。 「ううん。あのね。いいの、落ちないなら、独りで大丈夫だから。あのね、一人でちゃんと寝られるの」 「……そう?」 青年は少女を包んでいた腕をほどいた。 「うん、」 一人起き上がって、「起こしちゃってごめんなさい」と謝って、背を向けて部屋を出ようと歩き出す。 そこまで見届けてから、ゼルクは起き上がると、面白そうに笑った。 そして、パン、と大きな音を立てて両手を叩いた。 「ひゃあッ!」 ロイエルがまた盛大に驚いて身を震わせ、耳をふさいで縮こまった。 「……」 音の正体を確かめようと振り返る。と、青年の笑顔が目に入った。悪戯されたことがわかって、ロイエルは、むうっと口を引き結ぶ。 「中将の、意地悪ッ!」 こらえていた両目からぼろぼろと涙が落ちる。 意地っ張りな女の子を少し挫けさせてから引き戻そうかなくらいに考えていた青年は、予想以上の効果にぎょっとした。 「ごめん、」 素になって謝ると、座り込んで泣き出した少女のところに急いだ。 「どうして、こわいからきたのにびっくりさせるの!? 意地悪ッ!」 きっ、と、顔を上げて糾弾してから、両手で顔を覆って泣くのに戻る。 「ごめんね。やりすぎた。……こんなに怖がってたとは思わなかった」 震えて緊張した背を右腕で包み、膝下に左手を差し込んで抱き上げる。 すると、あわてて顔から手を離し、青年の肩を押して離れようとした。 「いいの! 一人で帰れる!」 「駄目」 抱えなおして、ベッドに連れ戻し、腰掛けて、膝の上に座らせて抱きしめる。 目を見開くロイエルだったが、そのまま素直に力を抜きそうだったのを我慢すると、びっくりさせられた恨みを返すように、ぎゅっと強く抱きしめ返した。 「……っ、意地悪な中将なんて、嫌い」 「ごめんね」 髪を撫でられる。 とても心地がよくて、このまま居たくなる。 雷が止む気配は無い。 心を表して、ロイエルの手指が青年の背で迷う。 「……」 ……帰る帰らないは別として、せっかく一人で寝てたのに、起こされてそれでも居ていいよって言ってくれたのに、謝ってるのに、こんなに優しくしてもらってるのに。 なのに、わたしが許さないのは、間違ってる。 「もういいの」 素直な声が、青年の耳に届く。 「わたしこそ、ごめんなさい」 涙を拭いて、少女はゼルクを見上げた。 「ごめんなさい。寝てるところ邪魔したのに。私がお願いするのが本当なのに。……雷が怖いから、中将、一緒に寝てもいい?」 「……」 けなげな様子に、ゼルクは何か思うところがあったらしく口を開きかけたが、少しの沈黙を間に挟んで、微笑んだ。 「いいよ」
腕枕をしてもらい、青年の胸に頬を寄せて、彼の鼓動を聞きながら、やがてロイエルは眠りに落ちた。 晴れていれば、そろそろ東の空が白々とする時刻。しかし、雲は厚く、雨の止む気配は無い。 窓外の天候に、ゼルクは微笑んだ。 では、 日が射すまでは、この子は私のもの。
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(310)投稿日:2009年09月13日 (日) 22時25分
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