歌帖楓月 |
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ガイガー管理官(男25歳) こんばんは。 続きをどうぞ!
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そういう性質の世界。しかし、ロイエルの内心で、何かがずれた。 「でも、中将そうじゃない。それじゃ、駄目なの。私は、」 全てがそうであってはならない、という意識が、刻印のように消えずに刻まれている。肯定が、いつしか否定に置き換えられている。 「そういう考え方をしたことはないかい?」 中将が静かに笑って、深い目でそう言うと、ロイエルはきっぱりと首を振った。 「そう、全部は考えられないの。自分はまだ不十分、なのに、どうして見てもらえるの? 私はね、頑張らなきゃならないの。私は努力して、目標を達成するの。目標としてる対象と、話ができるように。そこからきっと、交流が始まるの。だから今はまだ、そうではないの」 にっこりと、ロイエルは芯の強い微笑みを浮かべた。内心の矛盾を打ち消すべく。私は間違ってない、と。 ゼルクベルガーは、ロイエルの瞳を、湖の底を覗くかのような目で、静かな表情でひたりと見つめた。 「?」 ロイエルは何をされたかわからなかった。空気がふわりと暖かくなった。自分の体が中将に、先程までよりも沈まっている。 あたたかい…… 「中将?」 まもられてる なにから? ……知ってる。本当は、心のどこかでわかってる……あたしは、……向かっちゃいけないものに向かったままなんだ。だけど、 「だけど中将、それがなきゃ、まだ私は多分、生きていけないの……、」 どうしてか泣きたくなった。勝手に口がそう言葉を紡いで、嗚咽で口が塞がれた。 中将はロイエルに自分の方を向かせ、静かに微笑んで、抱き締めた。 自分と相手との境界がなくなるような、優しい抱擁。ロイエルの瞳からぱたぱた涙が落ちた。 「ちゅうしょ……、」 はじめに会ったのが、このひとならよかったのに……と、ロイエルの中でだれかが悲しそうにつぶやいた。 「中将だったらよかったのに……」 ゼルクベルガーの背に手を回してシャツを握ると、もう少し強く抱き締められた。 脆いガラス細工を扱うように、大事そうにゆっくりと右手でロイエルの顎を持ち上げて、ゼルクベルガーはロイエルを見つめる。 「大丈夫だよ」
ロイエルを抱き上げて自室に戻った。ベッドの上に腰を下ろして、ロイエルをひざの上に乗せる。ロイエルはゼルクベルガーの首に手を回したままだ。 ぐす、と、ロイエルが涙交じりの息を吸った。中将から手を離した。 この部屋は空調が効いていて暖かい。 「……ごめんなさい、泣いちゃって。もう大丈夫」 彼と話しているとこうなることが多い。どうしてだろう。いじめられて泣く場合が半分以上だけど。 だけど、私、小さい子供じゃないんだから。泣かないようにしなくちゃ。ロイエルはそう思う。 「中将、もう平気」 ごしごしと袖で涙を拭いて、膝の上から降りようとすると、ゼルクベルガーが微苦笑した。 「まだ体が冷たいよ?」 「ううん」 ロイエルは首を振った。その通り寒いのだが。いつまでもこうしているのは、いかにも「手の掛かる子供です」と言っているようで、はずかしい。と、ロイエルは思った。 「この部屋暖かいし」 付け足すようにそう言った。 中将は、ちょっと微笑んで、ロイエルを抱え直した。ひざの上で横抱きにするようにして、回した両手の指を組む。 やわらかく捕まえられた格好だ。 ロイエルは戸惑う。 降りられなくなった。どうしよう。こんなの、子供が甘えてるみたいなのに。はずかしい。 「あのね、もう寒くないから、いいの」 中将はそれには応じず、別の話を振った。 「ロイエル、たまには、私のことを名前で呼んでくれないかい?」 「え……でも、」 ロイエルは困惑して、口に指をやった。名前でって、 「ゼルクベルガー、中将?」 「ゼルク」 「え……」 ロイエルは瞬いた。イングリット教授や、たまにガイガー管理官がそう呼んでる。でも、私は、この人より年下なのに、名前だけで呼んでいいんだろうか? 「でも、中将、」 言いよどむロイエルに、ゼルクベルガーがくすりと笑った。 「どうも職名で呼ばれると、仕事をしているような気になる。今だけでいいから、そうしてもらえないかな?」 なるほど、と、ロイエルは納得した。それなら、名前で呼んだ方がいい。せっかくの休日に疲れさせてはいけない。 ロイエルはとまどいながら口を開いた。 「じゃ、……ゼルク、」
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ガイガー: はい。 先週からこちら、よくわからん星の話が続いてましたが。 お待たせいたしました! 甘くなったきましたよ。ハハハ。 呼ばせたいだけなんじゃないかと思うんですがね?
それではまた来週。 来週で終わりみたいですよ。 |
(141)投稿日:2005年03月12日 (土) 23時16分
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