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(14) 決意 投稿者:Tomoko MAIL URL
 あの頃は、自分こそは世界の中心にいると思っていた。
 今も、それは変わっていないのかもしれないが……。

 窓外に広がる灰色の空。安っぽい木の机。無遠慮に脚を組んだまま机に乗せている男が、手を頭の後ろに回し、ゆっくりと煙草をふかしている。
 普段は鋭い眼光を放つ眼が、今はぼんやりと遠くを見つめている。
「ハーレム」
 独特の外国訛りで名を呼ばれ、ハーレムはたっと身を起こし、灰皿に短くなった煙草をぎゅっと押しつけた。
「なんだ?」
「電話だ。マジックとやらから」
 どうやら、この傭兵は、自分の雇い主であるガンマ団の総帥の名前を知らないらしかった。
 それも仕方がない。S国を鎮圧するための、にわか仕込みの傭兵軍団であるのだから、マジック総帥を知らぬ者も、いたとしても、おかしくはない。
「そうか。今行く」
 言いながら、ハーレムは立ち上がる。
「なんだ? おまえの家族か?」
 この大柄な浅黒い肌の男の問いに、ハーレムは「そうだ」と答える。
 兵士達の休憩室であるこの部屋には、いろいろな国籍の隊服を着た男たちが思い思いの席についている。
 新聞を読んでいる者、昼間から酒を飲んでいる者、やはりなんということはなく、座っているだけの者。ポーカーにいそしんでいる者。部屋中にもうもうと煙草の煙がたち込めている。
 それらの間を、ハーレムは通り過ぎていく。別に気にとめない者もいれば、何事かと様子を伺う者もいる。
「もしもし、兄貴?」
「久しぶりだな。ハーレム」
 兄マジックは、鷹揚に言った。
「どうだ? 調子は」
「まあまあだな。そっちは?」
「こっちも相変わらずだ。春休みでサービスが帰ってきてるんだが、呼ぼうか?」
「ああ――いや、いい。あっちもいろいろ忙しいだろうからな」
 ハーレムの記憶の中にいるサービスは、いつも、至極ごもっともと頷くしかない意見を述べていた。
 ハーレムの頬が緩む。
 近況報告に始まって、仕事の話、世間話と、会話は続く。
 最後に、マジックはこう言った。
「無事で、帰ってこい」と。
「俺のことは、死神でも避けて通るんだぜ」
 冗談混じりで、ハーレムは嘯く。しかし、まるっきりそういった自負が、ないわけでもなかった。
 お望み通り、無事に帰ってきてやるさ。
 生きて、闘って、必ず勝つ。
 そして、マジック兄貴、いつかアンタに追いついてやる――。
 そんなことは、口にしなかったが、ハーレムは決意を固めていた。

 あの頃、自分こそは世界の中心にいると思っていた。
 でも、もっと強大な存在がいた。
 ハーレムにとって、それはマジックだった。
 だからこそ、己は早く戦場に出たかったのかもしれない。
 亡くなった父への憧憬も、あった。
(俺は、小さい頃に誓った、軍人になったぜ。親父のような)
 そんな姿を、父に見せたかった。

2004年03月23日 (火) 20時55分




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