(24) 士官学校物語・春 番外編 〜1年A組担任 田葛和希 |
投稿者:Tomoko
MAIL
URL
|
※この話には、オリキャラが出てきます。苦手な方は、速やかにお戻りください。
「いいかー。よーく聞け。今、私は本当に情けなく思っている」 1年A組担任、田葛和希。24歳、独身。この年で生意気盛りの男子生徒を教えるのは、さぞや大変であろう。 しかも、前に座っている二人が、クラスの問題児であったとしたら、なおさら――。 「中間テスト、おまえらが、ブービーとビリだった。おっと、私の教え方のせいにしないでくれよ。成績トップクラスの高松とサービスがいるからな。おまえらの成績が悪いのは、日頃の勉強を怠っているからだ。よく肝に命じておけ!」 「え? 俺とジャン、ブービーとビリケツ?」 うひょっと叫んでから言ったのは、問題児の一人、ニールだ。 「俺、いっつもビリケツだったからさぁ……あれだろ。俺って、ブービーだろ? やった! 成績上がったじゃん!」 「馬鹿野郎! おまえは最下位だ。いつもと変わらん!」 「ちぇっ」 ニールはすねた素振りをしてみせた。先生は、そんな彼の前を通り過ぎ、もう一人のところへ行った。 「あー、ジャン。おまえは……気の毒だったな」 「何がですか?」 「そのう……友達――隣のクラスのハーレムと一緒に事件に巻き込まれて、勉強どころじゃなかったかもしれん」 「ああ、そのことですか」 ジャンは、この教師に好感を覚えた。 いくら、友達が刺されたからと言って、何もやり返すことはなかったじゃないかと、何人もの教師に言われた。たとえ、正当防衛であったとしてもだ。士官学校の生徒は、言わば殺しの専門家になるべく、訓練を受けている。愚連隊とはいえ、素人相手に手を上げることは、ご法度だった。それを無視して、ハーレムは、彼らと喧嘩して、ジャンもその男共を、やっつけようとしたのだ。 それから、ジャンの好感度は、生徒の間では上がったが、ハーレムとジャンの二人から話を聞いた先生の幾人かは、渋い顔をした。 増して、気の毒だ、という先生は、初めてであった。 「先生〜。俺も勉強どころじゃなかったんですけどぉ」 「馬鹿! おまえはいつもそうだろ!」 「あんまり怒ると禿げまっせ。高いヅラ先生」 「違うよ。二ール。宝塚だよ」 閑話。 何故、ジャンは宝塚を知っていたのか。 「なぁ、この人達、すごい派手な衣装着てるけど、なんかの祭りかな」 誰かが置き忘れた雑誌を手に取って、ジャンが、サービスに訊く。 「ああ、これ? 宝塚だよ。兄さんも好きだと言っていた」 「ふぅん。男なのに、綺麗な顔してんなぁ」 「それ、女性だよ。宝塚では、女装の麗人が、男役をやるんだよ。女役も、もちろん女性だけどね」 「サービス、入ってみないの?」 「入れるわけないだろうがッ!」 上記のようなやり取りが、昔、あったのである。――閑話休題
「どっちも違う!」 「ああ、そうでしたね。宝塚が好き先生」 ジャンは、間違えて覚えていた。わざとではない。 「俺の名前は田葛和希だッ!」 「じゃあ、宝塚は好きじゃないんですか?」 「い、いや、嫌いなわけではないが……」 「田葛より宝塚の方が、俺は好きだな」 二ールが口を挟む。 「固有名詞を出すな、固有名詞を」 「は?」 「固有名詞の問題で、どんなにネットワーカーや作家達が悩んでいるか!」 「それ、誰の代弁かなぁ。それに、今更気にすんのも遅いと思うけど。ジャンだって口にしてたし。ていうか、なんでジャンには遠慮して、俺の方にはバンバンツッコんで来るわけ?」 「なんとなくだ」 「実は俺のこと好きとか?」 「断じて違う!」 「俺、先生のこと好きっすよ」 「某女性歌劇団の方が好きとか言ってなかったか?」 「少なくとも、嫌いじゃないっすよ。先生。からかいがいがあるし」 「からかいがいというのはなんだ。からかいがいというのは」 「俺達、いいコンビになりそうっすよね。二人で漫才やりません? 先生がツッコミで、俺がボケ。コンビ名は、『高いヅラとアートニーチャー』」 「商標名も出すな」 「アートニーチャーは、商標名じゃないっすよ」 「おまえ、私が禿げると決めてかかっているようだが、私の父は、髪ふさふさだぞ」 「へぇ。では、母方のおじいさんなんか、つるつるではないですか?」 「うっ、そういえば……」 「ハゲのDNAは、母方から受け継がれるんですってよ」 ニールは真顔になって言った。 「禿げてても、貫禄があればそれで十分だ」 田葛も負けてはいない。 「もういい。おまえらと付き合って、時間を無駄にしたくはない」 ”おまえら”という言葉に、今まで笑いこけていたジャンは、(同類かよ!)と心外な気持ちになった。 「とにかく、おまえらには補習が必要だ。――入ってきたまえ」 田葛が、パンパンと手を叩く。 高松とサービスが入ってきた。 「やぁ。劣等生諸君」 「げっ。高松!」 逃げようとするニールを、田葛は手で制した。 「やぁ、忙しいとこ、悪いな。こいつらを特訓してやってくれ」 そして、田葛は、二ールの方に向き直った。 「同じような年頃の人間の方が、おまえらも気安かろう。私の心遣いに感謝したまえ」 「田葛〜。俺、高松苦手なんだけど」 ニールは哀れっぽく言った。 「なぁに。そのうち慣れてくる」 「というわけです。落ちこぼれの君。我々がびしびし鍛えてあげますからね」 「僕も、先生のいうことなら、きくしかないよね」 高松が言い、サービスも頷いた。 「ありがとう、高松、サービス」 ジャンは、心から礼を述べた。 「ジャン〜。アンタは、こいつら、平気なのかよ」 ニールが、嫌で嫌でたまらない、という顔で訊いた。 「ああ、友達だもんな」 「というわけだ。若い頃は友人同士、楽しくやりたまえ」 はっはっはっと笑いながら、田葛は去っていった。 「ああ、そうそう。追試は、明後日だからな」 そう、非情な宣告を残して。
これがきっかけで、ジャンは、サービスと高松と共に勉強するようになり(ニールは適当にサボった)後に、皆から、『仲良し三人組』といわれるまでになる――。
おまけ 「ニール、おまえ、補習をサボったな。せっかくの私の好意を無にしおって」 「うっ。だって、勉強嫌いなんだもん☆」 ニールは、可愛らしく甘えてみせる。少なくとも、本人はそのつもりだ。 「そこで、私が直々に見てやることにした」 「うっ! ま、まぁ、高松よりはマシかな」 「私は甘やかさんぞ! さぁ、教科書の36ページを開け。問1からやるんだぞ」 「先生。俺、お腹が……」 「とかなんとか言って逃げる気だろう。いいからやれ!」 「ふぁ〜い」 こうして、めでたく、ニールも、ジャンと共に、追試をパスしたのである。
後書き オリキャラが出張ってますねぇ。 ニールと田葛の掛け合い漫才のところで、ちょっと苦労しました。 それにしても、小説書くのなんて、久しぶりだなぁ。勘を取り戻すのにも、時間がいったかな。 ニールは、なんで高松が苦手なんでしょうねぇ。あの、彼独特の皮肉な態度、かな。それとも、からかおうとして、逆に返り討ちに合うからかな(笑) 追試、という言葉が出たのは、葵さんとこのドリーム小説の影響です。それ読むまで、追試というものの存在忘れてたよ(おいおい)。学校生活、短かったからなぁ。追試も、数学のしか受けたことがなかったし。 あと、ジャンをもっと活躍させてあげたかったな。
|
|
2005年11月21日 (月) 18時53分 |
|