(29) 問題児 |
投稿者:Tomoko
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※この小説にはオリキャラが登場します。
「お邪魔しまーす」 そう言って、高松は職員室のドアを開けた。 「やぁ。高松君」 そう言ったのは、白い髭と髪の、トーマス・トンプソン先生だ。学年主任にして、1年B組担任。英語と日本語とラテン語の担当である。カール・ギュツラフ並に、かなり言語に精通していて、エスペラント語や、サン・ロレンソ語まで話せるのだから、大したものである。 高松は、ぐるりと室内を見回して言った。 「田葛先生は?」 「今、席を外しておる」 「そうですか。じゃ、これ、机に置いておきますね」 高松が手にしていたのは、学級日誌である。今日、彼は日直だった。 「すまないね。おお、そうだ。ちょっと相談あるんだが、いいかね?」 「なんでしょう」 「この間、ジャン君にだけ、学力検査したことがあったんじゃ。そのとき、漢字のテストを出したんだが……」 「何か問題でも?」 「漢字で、一から五までを書けと、言ったんじゃ」 「はぁ? 簡単過ぎやしませんか? 小学生じゃないんですから」 「一、二、三は、何の苦もなくクリアしたんじゃが……四は……一を四本並べた形だったよ。五も、推して知るべし、じゃな。最初はふざけているのかと思ったんじゃが、どうもそうではないようでな。なぁ、少し問題があると思うじゃろ?」 「少しどころか……ものすごく問題に思えます」 「他にも、いろいろ常識外れの答えをすることが多いそうじゃ。日本語は、この学校じゃ必須科目になりつつある。そこで、お願いがあるんじゃが」 察しのいい高松は、トンプソン先生が何を言うか、おおよそ見当がついたが、神妙な顔をして訊いた。 「ジャン君の勉強を見てやってくれたまえ。気が向いたときとか、暇なときでいいから」 「わかりました。でも、私にどうしてそんな役割を?」 「君が、今のところジャン君と一番親しい仲というじゃないか」 「……まぁ、半分腐れ縁みたいなものですがね」 「頼むよ」 「わかりました。では、失礼しました」 高松は、職員室を出て行った。
後日、サービスと共に、A組担任の田葛に呼び出され、ジャンとニールの勉強の世話をしてやって欲しいと頼まれたとき、高松は思った。 (誰でも考えることは一緒だな)
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2006年03月14日 (火) 22時35分 |
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