(35) 写真 |
投稿者:Tomoko
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のっしのっしと、大男が、ガンマ団の廊下を歩いている。 団員なら、誰も知らぬものはない、特戦部隊隊長、ハーレムである。 今日は、遠征から帰還したのであった。 最近まで隠居生活していたドクター高松と、彼が可愛がっているグンマとが歩いてくる。二人は腕を組んでいた。高松は嬉しそうだったが、グンマは少しひいているようだ。 「おう。久しぶり、というか、変わってねぇな、おまえら……」 ハーレムが呆れ顔で台詞を吐く。 「どういう意味ですか」 高松が柳眉を逆立てる。 「べたべたいちゃいちゃしてんじゃねぇよ。グンマだっていい大人なんだから」 「あら、それは焼きもちですか」 「違う。せっかくいい物持ってきたのに、もうやらんと決めた」 「ね、ねぇ、叔父様」 グンマが止めに入る。(仕方ないよ……)と目で訴えてこられると、ハーレムも何も言えなくなる。 「いい物……って何ですか?」 高松が、グンマの手前、おずおずと訊く。好奇心も疼いたのであろう。 ハーレムは、アルバムを持ってきていた。写真か何かだろうか。 「ほぉ、知りたいか。知りたいだろう」 「もうそんなに知りたくなくなりました」 「いいじゃない。高松。そんなにむきにならなくても」 グンマの方が、大人みたいだ。 「僕は知りたいな。ねぇ、叔父様、何持ってきたの?」 「ん? これか?」 ハーレムはアルバムから写真を取り出す。もちろん、中身は隠したままで。 「高松。おまえにとってはいい物だ。百万で売ってやる」 「いりませんよ。どうせ大した物じゃないんでしょう」 「ああ。俺にとっては大した物じゃない。むしろ、焼き捨てたいくらいだ」 「アンタ……そんなモンを人に売りつけようとしてたんですか?」 「じゃあ、タダでもいい」 「怪しいですね。百万で売ると言ったり、タダでいいと言ったり、どうせいかがわしい写真でしょうが」 「おっ、結構言うねぇ」 ハーレムは、この会話を楽しんでいるみたいだった。 「まぁいい。さっき、リッちゃんのダディーに見せる写真を準備していたら見つかったんだ。おまえは喜ぶと思ってな」 それは、なんと、ルーザーのセーラー服の写真であった。しかも、プリーツスカートの。 「ほわああああああ!!! るッ、ルーザー様〜〜〜〜!!!!」 大量の鼻血が、廊下に溢れ出た。 「高松、鼻血拭いて。通行人の迷惑になるから、医務室行った方がいいよ。はい、ティッシュ」 グンマは、持っていたティッシュを高松の鼻の穴に詰めた。高松はぶつぶつ言いながら写真を食い入るように眺めている。あれだと、医務室に行くまでもつかどうか自信がない。仮にたどり着いても、その部屋は鼻血まみれになるだろう。 「余計なことしてくれたね。ハーレム叔父様」 「何が?」 「ああなること、予測していたくせに」 「へっへっへっ。久々にあいつがトチ狂うところを見たくてな」 「鼻血で溺れ死ななきゃいいけど」 「大丈夫だろ」 「僕は心配だよ」 「だぁから、心配いらないって。奴が死んだら、責任取ってやるからさ」 「どうするの?」 「立派な墓を建ててやる」 「『立派な墓を建てるように、お父様に言う』の間違いでしょ。叔父様、給料全部、競馬に回してるんだから」 「リキッドの給与もだぜ」 「――それ、犯罪じゃない。ここみたいな無法地帯でなきゃ、捕まってるよ」 「そう。ここは無法地帯。だからいいんだ。まぁ、パプワ島もなかなか良かったけどな」 「懐かしいね、パプワ島。パプワ島の写真はあるの?」 「おう。あるとも」 そう言うと、ハーレムは、アルバムを開いた。南国の景色が現れた。青の混じったエメラルドグリーンの海。高い椰子の木。太陽の光を燦々と浴びている砂浜――楽しそうな特戦部隊の面々。そして―― 「これがリッちゃんだぜ」 拷問の痕が痛々しい、青年の写真が何枚もあった。 「うわぁ……」 グンマが何を言おうか迷っていると、ハーレムが、笑った。 「おまえにも、渡す物があるんだ。高松だけにやって、おまえにやらないというのも、不公平だからなぁ」 「いらないッ! いらないよぉ! 僕にはそんな趣味はないからッ!」 「馬鹿。そんなんじゃないっての」 ハーレムはグンマに一葉の写真を渡した。 それは―― マジックに肩車をしてもらっている幼いグンマだった。 「こんな写真があったんだ――」 マジックもグンマも楽しそうだ。ぷくぷくした子供は、にこにこしている。 「こんな時代もあったんだ――僕ね、お父様がシンちゃんシンちゃんばっかり言ってるの、ほんとは羨ましかったんだ」 「え……俺はうっとうしいだろうな、あいつが思春期になったら、どう反応するかな、とばかり思ってたんだが――それに、おまえには、高松がいただろうが」 「高松は高松だよ。僕、お父様のことも好きだったんだ」 「へぇ……高松も気の毒になぁ。あんなにおまえのこと、追い回してたのに『高松は高松だよ』なんて言われちゃなぁ」 「高松のこと嫌いって訳じゃないんだ。ただ、愛情表現が僕には重すぎて……まさか、隠居までするとは思ってなかったけど」 「そうかそうか。じゃ、暇があるときにでも、言ってやんな。あいつ、ちっとも変わってないぜ、というか、前よりひどくなってないか」 「うん……」 グンマの視線が、写真に戻った。 (僕もお父様に愛されてたんだね――そうでしょ。お父様) ルーザー叔父の息子として、厳しい環境にあったこともあるけれど―― それが、一挙に癒されていく気がした。
後書き 途中から、グンマ視点になっていますね。――ま、いっか。 リキッドの拷問はなしにしてあげたい、なしにしてあげたいのですが、結局それを認める文章を書いてしまいました。 ハーレムは、見かけによらず、部下思い、家族思いかと。眼魔砲も拷問も、愛の形ですかね。
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2006年07月19日 (水) 17時07分 |
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