(42) イザベラの涙 |
投稿者:Tomoko
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ニーナは棺に入っていた。 「最後の祈りを」 私は、ハンカチで目頭を押さえているジュリアの隣で祈っていた。 不思議ね。悲しいはずなのに、涙も出ないなんて。泣ける余裕もなかったけど。
私は或る夜、あの子の墓に来て、叫んでやった。 「ニーナの馬鹿ーーーーッ!!」 何となく、この子は長生きしないんじゃないかという予感はあったけど。 「一人で死ぬなんてずるいわよ! 裏切り者! あーっ! さては、これもいつものいたずらね。そうなんでしょう。ね、そうなんでしょう? アンタの死を悲しんでいる人達を見て、こっそり笑ってたんでしょう! いけないことよ! アンタにはそういういけないところがあった。ジュリアだって、アンタのこと散々心配して。遺言も残さないなんて、どういうつもりなの! さあ、狂言なんかやめて、墓の中から出てきなさい! それともイエス・キリストや、パウロやペテロを呼ばなきゃダメ? ねぇ、これ全部嘘なんでしょう? 出てきなさい。出てきなさいよ……」 葬式のときには出なかった涙が、溢れ出た。 「イザベラ」 優しい、綺麗な声が聞こえてきた。ジュリアだ。 「ジュリア……」 私はジュリアに抱きつき、わんわん泣いてしまった。 「ここじゃないかと思ってね」 ジュリアは私の髪を撫でながら言った。 「私も夢のような気がするの。もちろん、悲しいし、寂しいけれど……私は埋葬するときにいっぱい泣いたから、今度は貴方の番ね」 辛かった。 けど、ジュリアの言葉に、少し慰められた。 ニーナは孤児院時代からの友達で、学校も一緒だった。 私は特待生で、彼女は、親切な夫婦に、養子としてもらわれ、名門といわれる寄宿学校に入った。 ジュリアが来てから、私達は三人グループになった。 私は、ニーナも大切にしていたつもりだった。でも、彼女にとっては、どうだったのかしら? 私はジュリアと一緒にいる機会も多くなったから、ニーナに対する態度も、少しずつ変わっていったかもしれない。 例えば、勉強会のとき、ニーナに教えることをしなかったし、美術の時間も、彼女ではなく、ジュリアをモデルにしたり。 それとも……あれかな。
『私は神様じゃないのよ!』 『私達、もうやっていけないわね』 確か、そんな風なことを言ったと思う。 あれが引き金になったのかどうかわからないけれど――。原因は、つまらないことだったと思う。それがエスカレートして、そんな台詞を吐かせたのだ。本気じゃなかった。まさか、死ぬとは思わなかったから――。 私へのあてつけ? ううん。そうじゃない。こんなことが起きるには、もっと大きな背景があったはず。 多分あの子は――死に捉えられていた。だから、この道を選んだ。 それは、傍からは何とでも批判できるけど、ニーナの道は変えられない。 だが、これだけは言える。 私は生涯忘れるまい。彼女のことを。
「ジュリア……」 私は友の顔を見た。ジュリアも泣いているようだった。 彼女もショックだったのだ。 私はもう天涯孤独。友人も、ジュリア以外に、ない。だから、この友達の為ならば、何でもしよう。そう決意した。
後書き イザベラシリーズ最新話です。 オリジナルキャラクターの話で、興味のない方は、さぞ読みにくいと思いますが。 そうそう。PAPUWAでは、青の一族には母親、というものがいないらしいですが。 ジュリアさんが青の四兄弟の母親、ということに、私の中での設定ではなっていますので、どうするか迷ったのですが、結局、開き直りました。(もう、既に話の内容はPAPUWAから離れているし)
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2007年02月26日 (月) 12時57分 |
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