(59) 覇王への道 |
投稿者:Tomoko
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子供の頃、よく遊んでくれた、優しい人がいた。 その人は、大人で、とてもいい人だった。 長い黒髪が印象的なその青年は、名前をトリスタンと言った。 「マージック! マージック! おーい」 トリスタンは、ボール遊びをしていたマジックに呼びかける。 「ここだよ。ここ」 そう言って、トリスタンは笑う。 「マジックってば、吾輩に気付かないんだもんなぁ、ひどいよ」 トリスタンは、自分のことを吾輩と言う。 「ごめんごめん」 マジックも笑いながら謝っておく。 「まぁ、いいさ。今日はどんな遊びする?」 「鬼ごっこがいい!」 「よーし、じゃあじゃんけんしよう」 トリスタンとマジックは、傍目にも仲の良い友人に見えた。
数年後―― マジックの父が、厳しい顔で、マジックに告げた。 「マジック、十五歳の誕生日に、ガンマ団の総帥になるか、それとも、一生その手を血に染めずに生きていくか、選ばせると――それが、おまえの母との約束だった。おまえの返事はどうだ」 「はい、父さん。僕は、お父さんに従います」 マジックは、はきはきと答えた。 「そうか……では、試験を行う」 「試験?」 マジックの父、クラウンがパキッと指を鳴らすと、二人の兵士に支えられ、傷だらけの男が入ってきた。 「トリスタン!」 マジックは驚いて声を上げた。 「この男は、我が軍のスパイだったのだ。まずは、この男を――殺してくれるな?」 クラウンの目は冷たい。 「でっ、できません!」 「そうか。では、さっきの言葉は、取り消すという訳か」 「…………」 「チャンスを与えよう。しばらく二人きりにする。どうするかはおまえが決めなさい」 クラウンがそう言うと、兵士達はトリスタンの体をどさりと投げ出した。 クラウン達が出ていくと、重い扉が閉まった。 「は、はは……マジック。久しぶりだな」 トリスタンは、無理に笑おうとした。 「トリスタン、喋らないで」 「――吾輩を殺せ、マジック」 「できないよ、そんなこと」 「敵に情けをかけては、戦場では生き残れないぞ」 「だって……」 「……吾輩に手をかけることが嫌だと言ったな、マジック」 「う、うん」 「なら、吾輩と一緒に逃げないか?」 「――え?」 「吾輩が、ガンマ団以外の、いろいろな風景を見せてやる。どこまでも続く森、この世のものとも思えない、澄明な湖、働く人達――港から港へと、冒険するんだ。いいだろう?」 「……でも、すぐ捕まるよ」 「吾輩が出ていく道順は、既に総帥が確保してくれている」 「父さんが?」 「ああ。これは、試験だ」 トリスタンは、腫れた顔を近づけた。 「お願いだ! マジック! 吾輩を選んでくれ! 吾輩は、まだ死にたくない!」 不意に。 マジックに怒りが込み上げてきた。 この男は、己に命乞いをしているのだ。スパイのくせに。 父さん。 マジックは、一粒の涙を流した。 心は決まった。
その夜、マジックは、泣いて泣いて――泣いた。 『おまえは、おまえにとって正しい道を選んだんだ。これで――』 トリスタンの最後の言葉が頭の中で繰り返される。 しばらくして、涙が少し途切れたとき、クラウンが近づいた。 「マジック――トリスタンと一緒に逃げていたら、私はおまえを殺すところだったよ」 約束を破ることにはなるが――そのときは、私も一緒に逝くつもりだった、とクラウンが言った。その方が、K国の為にもなるだろう、とも。 「私と共に、歩んでくれるな? マジック」 マジックは、涙まみれの顔で、こくんと頷いた。 それは、覇王への道。血塗れの。
後書き マジックパパ、酷過ぎますね。原作のパパの方が好きなんですが。 それから、数年前に発行された、えんどれ界のオリジナル系パプワ同人誌の中の話と、重なったところがあります。仙台オフのときにも、当時の友人達に、ちょこっと話したんですが。 キャラの設定について、もう開き直ってます。
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2008年06月05日 (木) 12時28分 |
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