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(67) エレーヌと高松 投稿者:Tomoko MAIL URL
「来てくれてありがとう。せっかくだから、奢ってあげるわね」
「いえいえ、いいですよ。話ができればそれで。突然、押しかけてしまって、すみません」
 向かいの女性――エレーヌ・椿に、高松が言った。
「いいのよ。あなたは今日は私のお客様だもの。じゃあ、私が頼むわね。パンプキンパイなんてどうかしら。今日はハロウィンだもの」
「いいですね」
 高松に選択権はなかった。それに、パンプキンパイは嫌いではない。
 エレーヌが、チリリン、とベルを鳴らして給仕を呼んだ。
「パンプキンパイ二人分、持ってきてちょうだい」
「かしこまりました」
 給仕がうやうやしく礼をした。
「エレーヌさん、あなたの歌、とても良かったです」
「ありがとう。たまに白粉つけて着物着て、踊ることもあるのよ。あなたにも見せたいわ。――そう言えば、あなた、お名前何と云うの?」
「高松です」
「高松くん。いくつ?」
「15です」
「へぇ〜、では、私とそんなに変わらないんだ」
「あなたは?」
「この間、16になったばかりよ」
「え?!」
 高松は、驚きの声を上げてしまった。
「そんなに意外? まぁ、ここじゃ、18で通ってるからね。オーナーは事情を知っているけど」
「そんなに若いのに働いているんですか。偉いですね」
「高松は学生?」
「研究所で助手をすることもありますよ。学業の合間にね」
 高松は、エレーヌに向かってウィンクした。
「何の研究をしているの?」
「主にバイオ・テクノロジーの分野で。一月までには、論文も仕上がりそうなので、時間が余ったから、足を伸ばしてみました」
 店は、ハロウィン仕様になっている。テーブルにはひとつずつ、かぼちゃのランプが置かれていた。
「綺麗ですねぇ」
「私が?」
「いえ、かぼちゃのランプの明かりが」
「もうっ!」
 エレーヌが顔を膨らませた。
「こういうときには、お世辞のひとつでも言うものよ」
「すみませんねぇ、正直者なので、嘘を言うのが下手なのですよ」
「あなたは嘘つきよ。顔が嘘つきの顔をしているもの」
「と、みんな言いますがね」
「まぁ、いいわ」
「それにしても、『大和撫子』という和風の名前つけてるわりには、ハロウィンなんて西洋のイベントも取り入れているのかと思ってね」
「オーナーの趣味なのよ」
 エレーヌは言った。
「こうやって、いろんな国の祭りをごちゃまぜにする辺りなんか、いかにも日本的じゃない?」
「まぁね」
 高松が微笑んだ。
 クリスマスと正月を同時に祝う日本という国と、西洋と東洋のいいところを貪欲に取り入れるこの店は、案外似ているかもしれない。
 今は、静かな音楽が、スピーカーに乗って流れている。高松は、その音に、意識をたゆたせていた。
「トリック・オア・トリート!」
 白いお化けが、高松達のテーブルを襲った。
「わあっ!」
「慌てないで……オーナーよ」
『大和撫子』のオーナーが、するりとかぶりもののシーツを取った。
「やぁ。この店は気に入ってくれたかい?」
「は、はい」
 口元の髭に黒いベスト、蝶ネクタイ、眼鏡をかけたこの中年男は、確かにいたずら好きの部分を持ったまま、大人になったのかもしれない。
 楽しそうなオーナーだな、と高松は思った。そして、この店に勤めることができたのを、エレーヌの為に、良かったと思った。
 しかし――エレーヌにしか聞かせられない話もある。
「あの……オーナー、今、お話中だから」
 空気を察して、エレーヌが取り成してくれた。
「わかった。けれどお客さん。この子には手を出さないでくださいね」
「わかりました」
 高松が笑顔で答えた。
「んもう、茶目っけが過ぎるんだから」
 エレーヌは、赤くなって苦笑した。
 オーナーが去ると、入れ違いに、給仕が注文のパンプキンパイ二人分を持ってきた。
「美味しいですね」
「この店のお料理は、いつもとても美味しいわよ」
 パイが半分以上なくなったとき、高松は、黙って一葉の写真をエレーヌの前にすべらせた。
 途端、エレーヌの顔が変わった。
「まぁ! まぁ! これ、私よ!」
「私もそうだと思います。というか、見比べてみて、改めてそうだと確信しました」
「この子は、何と呼ばれていたの?」
「レイチェル・リタ・ワーウィック」
「そう、そうだったわね。あなたに初めて会ったとき、あなたは確かにそう言ったわね」
 エレーヌは、疑わしそうな視線で、うわ目遣いで高松を見た。
「あなた、一体何をしている人なの? 興信所?」
「いえいえ。ちょっとした引っかかりで、真実を探しているだけですよ」
「この子、何者なの?」
「グレッグ・ワーウィックと、ロベリア・ワーウィックの娘さんですよ」
「だから、ワーウィックって、誰?」
「だから、ちょっと引っかかりがあったものでね」
「どんな引っかかり?」
「今は、知らない方がいいと思いますが」
「私が真相を知ったら、ショックを受けると思っているわけ? あるべき記憶がないのに、長い間生きてきた私よ。今更どんな話を聞かされても、怖くないわ」
 そう言うエレーヌの顔には、ある種の覚悟が生まれていた。
「そうですか……それでは……グレッグ・ワーウィックと云う男は、私どもの目の前で亡くなりました」
「まぁ……」
「そして、レイチェルさんのお兄さんも……」
「亡くなったって言うの?」
「ええ」
 しばらく、会話が途絶えた。高松はカチャカチャと音を立てて、パイを切り分けた。そして、また一切れ、彼のパイが皿から消えた。
 エレーヌが、重い口を開いた。
「私のせいなの?」
「え?」
「その方達が亡くなったのは、私のせいなの?」
「いえいえ。そんなことを言いたいのではありません。第一、あなたには直接関係のないことですし」
「本当にそうなのかしら……私は、幼い頃の記憶がないのよ。あなたも知っているわよね」
「ええ」
「もし、その人達が、私の関係者――家族とかなのだとしたら――私がそのきっかけを作ったのかしら」
「いいえ。グレッグ氏は自殺でしたし、彼の息子のランハさんは、どなたかに殺されていたとしても、あなたには関係ないと、私は考えています」
「ランハと言う方は、殺されたの?」
「と、私は見てますけれどねぇ」
 高松は、最後に残った一口分のパイを口に放り込んだ。
「この写真はどなたから?」
「グレッグ・ワーウィック氏の妻にして、ランハさんとレイチェルさんのお母さん、ロベリアさんからいただいたものです」
「そう……もうちょっと近くで見せてくれる?」
「もちろん」
 写真を眺めているエレーヌは、かぼちゃのランプに照らされて、絵にでもしたくなるような姿であった。
「ワーウィックさんの家に、行ってみてもいいかしら」
「――それは、私に訊かれましても……あなたの自由意思で決められてはいかがですか?」
 高松は、少し突き放す口調で言った。高松が渋っても、彼女も話を聞きたいと言ったのだ。
「そうね。今までだってそうしてきたんだから」
 エレーヌが独り言を呟くと、
「この写真、貰ってもいいかしら?」
と訊いた。
「どうぞ。あなたのものかもしれませんし。というか、九割方、あなたでしょうね。幼い頃の記憶がないと云うのも、あなたを見ている限り、嘘ではないようですし」
「でも、どうして記憶がないのかはわからないの」
 エレーヌが、少し心許ない口調で言った。
「気がついたら、ここのオーナーに貰われていたし。オーナーもその家族も、いい人達で、助かっているんだけど、ときどき不安になるの……」
 エレーヌは目元を擦った。
「あなたに奢ってもらおうとは思いません」
 高松は席を立った。
「ここに代金、置いておきます。思ったより手頃な値段でしたから」
 そう言って、テーブルの上に金を置いた。
「おためごかしは言いません。もう来るなと言うなら来ません。ご迷惑おかけして、すみませんでした」
「いいえ。また来てちょうだい。あなたは大切なお客様なのよ」
 エレーヌは、力ない笑みを浮かべた。それは、どこか相手に、「どうぞわたしに寄り掛かってください」とでも言わせたくなるような痛々しい表情だった。しかし、本人にそんなつもりはないのは、高松にはわかっていた。エレーヌは、自覚はないだろうが――天性の娼婦であるのかもしれない。
(ちょっと刺激が強かったかな)
 高松はこっそり思った。エレーヌ自身も知らなかった家族が、幸薄い死に方をしたと云うのは――自分で言ってても、面白い話ではない。
 もう、彼女には関わらない方がいいかもしれない。高松は思った。
 だが、幼少時の記憶がなくても、今まで兎にも角にも生きてきた彼女だ。芯の強さも気高さもある。
 やっぱり、また来ようか――と云う気持ちが起こりかけて、ふと、単純な事実に気がついた。高松には、もうあまり金はないのだ。

後書き
ハロウィン話のはずが、後半、ハロウィンあまり関係ないんじゃない?みたいな話になってしまいました。
昨日書く予定だったのですが、昨日は爆睡しまして(笑)
せめて、今日書こうと思って、ディスプレイの前でうんうん唸って、やっと最後まで漕ぎつけました。

2008年11月01日 (土) 23時43分




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