(11) 草むらの向こう |
投稿者:Tomoko
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俺には、果たさねばならぬ誓いがある――。
俺は、ガンマ団総帥になった。引継ぎとかなにやらで忙しかったが、ようやくそれも終わった。
ある日のこと、俺は、草むらの中で、横になっていた。 野原はどこまでも続いている。平和な風景。俺が守らねばならぬもの。 あの別れの日、俺は心の中で、パプワに誓った。今までの自分を変える、と。 そこへ、闖入者が現れた。 「シンタローはん」 奴の名はアラシヤマ。団内で、俺に継ぐ実力の持ち主だ。そして――認めたくはないが、パプワ島で、あの戦いの時に世話になった奴だ。 コージから聞いたところによると、アラシヤマは特戦部隊に対して、自爆技を放ったらしい。……あの時の礼は一応言っといた。 向こうは俺のことを友達だと思っているらしい。俺は、認めていないのだが、便利なので、時々利用している。 「何してますのんや。勤務中どすぇ」 やれやれ。小うるさい奴だ。 そんな時は、この台詞に限る。 「見逃してくれ。アラシヤマ。俺たち親友だろ」 アラシヤマの背後に、いろんな字体の親友の文字が現れて消えた。 「仕方あらへんな。親友やし」 ほんと、こいつは扱い方を知っていれば、扱いやすい。 呼称が、友達から親友に変わった。そんな些細なことでも、アラシヤマにとっては嬉しいらしい。 「おまえもここにいろよ」 俺は言った。 「え? ……でも、まだ仕事が残ってますし」 「いろったらいろ。総帥命令だ」 「……かないまへんな。あんさんには。隣、よろしいでひょか」 「ああ」 アラシヤマは、俺の隣に座った。 「なぁ、アラシヤマ」 「なんどす?」 「俺は、俺の行く道は、いったいこれで、正しいんだろうか――ガンマ団総帥になって、マジックの跡を継いで――。俺は、ガンマ団総帥になることに、戸惑いを感じている。俺は、親父――マジックとは違う道を生きたい。だって、それこそが、俺の使命なのだから」 「シンタローはん……」 「俺は、あの島で誓ったんだ。俺に課せられた使命を果たすと」 俺は、アラシヤマの方に振り向いた。 「絶対、他人には言うなよ」 そう。相手がアラシヤマだからこそ言えること。島から帰って以来、俺の中では、アラシヤマは、大きな存在になっていた。俺は、必ずしも認めたわけではないのだけれど。 「わてにはよくわからしまへんけど――」 アラシヤマが口を開いた。 「シンタローはんがシンタローはんらしくすれば、それでよろしいんじゃおまへんか。その方がパプワはんだってきっと喜ぶと思うし」 俺は、驚きで目を見開いた。 「俺が、パプワのことまで考えてるの、知ってたのか」 「当たり前やないどすか。パプワはんとシンタローはんは、傍目から見ても羨ましく思う程の仲良しやし」 アラシヤマは知っているのだ。俺がパプワにどんな思いを持っているのかを。 俺は、パプワのことを思い出していた。 最初は扱き使われていい迷惑だと思ったが、今では全てが懐かしい。 でも、もう後戻りはできない。だからこそ、己が強くなくてはいけない。 「パプワはんも、きっと、シンタローはんが行く道を、いいと思ってくれはります」 そう言うアラシヤマの眼に、迷いはなかった。 俺は、自分の髪をくしゃっとかき上げた。 かなわねぇな。こいつにゃ。 「じゃ、わてはもう行きますぇ」 アラシヤマが立ち上がった。 髪が、風にふわりと舞った。 友達と言うだけでまとわりついて、いろいろ鬱陶しいところもある奴だけど、今は違った。 「ありがと、な」 俺は、できるだけ早口で、小声で、呟くように言った。
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2003年10月20日 (月) 18時34分 |
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