(36) 笑顔のゲンキ |
投稿者:Tomoko
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「ついに、心戦組の用意が整ったのぉ、トシ」 「どこが整ってんだよ。隊員俺とアンタと、みなしごのソージしかいねぇじゃねぇか」 トシ――土方トシゾー――に笑いかける近藤イサミは、今日も天然で、明るい。 「だいたい、俺は、ガキを入れるのには反対なんだ」 「何を言うか、トシ! 今じゃわしも敵わないくらい、ソージは強くなっておるぞ」 確かに、イサミと、沖田ソージ、と呼ばれる子供が手合わせすると、真剣勝負でも、三本に一本は取られる。 「……本当は、そういう問題じゃねぇ。俺は、あのガキは信用できん。俺らに心開いてないっつぅか、一線を引いている、というか――あの笑顔だって、作りモンだしよ」 「だが、強い」 「まぁ、それは認める。だけど、仲間にできるかどうかは別だ。近藤さん、アンタ、ソージに裏切られたらどうする」 「裏切られても、わしの心は変わらん」 そのとき、微かな気配がした。 「ソージ!」 トシゾーに何を言う隙も与えぬまま、近藤イサミは駆け出した。
「見つけたぞ、ソージ。やっぱりここにいたか」 イサミは嬉しそうに笑う。そこは、初めて、ソージとイサミが出会った場所だった。 「また隠れんぼ、か?」 ソージは黙ったままだ。 「聞いてたのか……わしらの話」 イサミは、とすんとソージの隣に腰を下ろした。 「どうせ――」 ソージは、耳をそばだてなければ聴こえぬほどの小声で呟いた。 「どうせ、僕の笑顔は作り物だよ。心戦組になんて、入ってやんないんだからね」 「ソージ――トシには、わしから言っておく。心戦組の隊員に、なってくれぬか」 「やだね。どうせ僕の剣の腕目当てなんだろ」 ソージの声が、普通のトーンに戻った。 「それもあるが――……わしはおまえが好きなんじゃ。一緒に戦いたい」 とイサミ。 「いつ寝返るかわからない子供と?」 「そうじゃ。おまえにやられる覚悟など、とうにできとる」 「どうして――……どうしてなんだよ」 「なぜって、そりゃあ……ほっとけないからじゃ」 「…………」 ほっとけない。だから、この男は、数年前にも、ここで声をかけたのか。 ただ、それだけのために。 「給料分しか働かないよ」 「ああ、それで充分じゃ。おまえの笑顔が、わしの報酬じゃ」 「ぼくの笑いは演技さ」 「演技でも、笑うと幸せになれるんじゃ。壬生の諺にもあったじゃろう。笑う門にはメリーゴーランドとか――」 「それじゃ、アニメの主題歌だよ。『笑う門には福来たる』だろ。馬ー鹿」 そして、ソージは、伸びをして、口を開いた。イサミも立ち上がる。 「アンタらみたいなのが率いる組織なんて、心細くて敵わないよ。僕も手伝ってやるから、安心しろよ」 「おお、やる気か、ソージ」 「ただし、一千万払えよ」 「やるともやるとも。ソージが加われば、千人力じゃ。全財産を投げ打っても、惜しくはないぞ。そして、たとえ命を賭しても」 「あんまり安請け合いするんじゃないよ。――馬鹿」 ソージの顔に浮かんだ笑みは、どこかしらはにかんでいるような、今まで見たことのないようなものだった。 イサミは気付いたが、敢えて、それを指摘することはしなかった。
後書き いや〜。本編の近藤さん。見直しました。ただの変態M男じゃなかったんですね(失礼な) トシさんには、敢えて悪役をやってもらいました。トシさん好きなんですけどね。 『笑顔のゲンキ』は、『姫ちゃんのリボン』の主題歌です。SMAPが歌っているんですよぉ。大好きで、カラオケ行く度歌ってます。 それから、『笑う門にメリーゴーランド』は、『コボちゃん』のOPから取りました。 ほんとにパクリ大好き人間で困ります。えへ。 ソージが心戦組入るのに、一千万は安いかなぁ、とおもったんだけど、彼には、イサミから金を巻き上げる数々の秘策を持ってますからねぇ(笑) 心戦組の話を書くのは、これが初めてだなぁ。
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2006年07月21日 (金) 19時29分 |
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