(39) 祭りだ祭りだ |
投稿者:Tomoko
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通りは、いろいろな屋台でいっぱいだった。 お面やヨーヨー、金魚すくい、風船などもあって、カラフルな光景である。からからから……と回っているのはかざぐるまである。風鈴が、風を受けて、ちりん、ちりんと鳴る。風情がある。 イカ焼きや、焼きとうもろこし、綿飴の匂いがする。それぞれの店の人達が、大きな声で、お客さんに向って叫んでいる。 「安いよ、安いよー」 「このおもちゃがなんと二十円! さぁ、買った買ったー」 そんなこんなで、この道は、今夜は賑わっていた。 「ジャン、相変わらず大食漢ですねぇ」 「はへ?」 ジャンは、りんご飴を食べている最中だった。 「物食べながら返事しないでくださいよ」 高松は呆れたようだった。 サービスは、一足遅れてついてきていた。その彼が、ジャンの肩を叩き、射的のコーナーを指差した。 「ほら。ジャン。あれ、やってみないか? 君なら優勝間違いなしだよ」 「ええっ、そっかなー。照れるなー」 「駄目だ。皮肉も通じない」 サービスの言葉に、高松はあっはっはと笑った。 何故このような縁日が催されたのか。それは、この国を支配しているマジックが、大の日本びいきということも考えられるであろう。しかし、節操はなく、西洋風のお祭りをすることも多い。 と、長身の男が、何やらきょろきょろしていた。 「不審人物発見!」 高松が叫んで、男の方に駈けて行った。サービスとジャンも後を追う。 「やぁ、高松。あんさんらでっか」 男の正体は野沢だった。 「誰かと待ち合わせですかぁ? 隅に置けませんね。先輩も」 「いやぁ」 野沢はでれっとした顔になった。 「で、どんな関係の人です?」 「わいの姉貴や」 ずでっと高松はこける真似をした。 「お姉さんが来ることぐらいで、そんな照れた顔しないでください!」 「何言うんや。わいの姉貴は美人やで。そしてわいより強い」 野沢は、またそわそわし出した。 「ああ、姉貴、どこぞでナンパに遭うてなきゃいいけど」 「待って」 とサービスが話に入った。 「野沢さん、中学時代、男子柔道で日本一になったんだよね」 「そうや」 「で、お姉さんは野沢さんより強い、と」 「そうや」 「なぁんだなんだ。心配いらない。それ程強かったら、安心安心」 「サービス、あんたには、兄弟を心配する心情はわからへんのかい」 「ないね。少なくとも、心配したことは」 「そりゃ、あなたはそうでしょうねぇ」 高松が嘆息した。 「心配しない理由は他にもある。見てよ」 サービスが指を差すと、数人もの男達が、ころころと道端に転がっていた。 「ふっ。弱っちいわね」 「姉貴ー、無事だったんかー」 「このぐらいの男にやられるあやめ姉さんじゃ……ちょっと、何するのよ、武司」 「良かったー、姉貴が無事で本当に良かったー」 「これはあの……」 「そうみたいだね」 高松とサービスが顔を見合わせる。同じ言葉が頭を過ったのだろう。 (シスコン) 「やぁ、野沢さんて、お姉さん思いなんだなー」 ジャンがのんびり言う。 「なんてこの男は、物事をプラスにしか考えないんでしょうねぇ。まぁ、そこがいいところだけど」 高松はこっそり呟いた。 しかし、本当に綺麗な女の人だ。 茶色がかった髪をふわふわにカールしている。肌は卵のようにつるんとしている。眉は細過ぎも太過ぎもせず。鼻梁は細い。ふっくらした唇には、真っ赤な紅色。しかし、それをうるさいと感じさせない。 野沢が自慢するのも、わかる気がする。 「あら、かわいい子揃いじゃない。アンタの友達?」 「そうや。わいの後輩や」 「野沢あやめと申します。愚弟がいつもお世話になっております」 「お世話やなんて……世話しとるのはわいの方や」 「アンタねぇ……こういうときは、黙って、私に倣って、お礼の一つでも言うもんよ」 「せやなぁ。ま、いつもつきおうてくれて、おおきに。これからもたのんまっせ」 「その大阪弁、なんとかならないの?」 「姉貴こそ、東京弁が鼻につくわ。なんとかならへん?」 「仕方ないやろ。うちは東京で仕事しとるんやから」 「あ、昔の姉貴の言葉遣いに戻ったわ。安心したわ。そうや。もう一つ、不安に思っていたことがあったんやけどなぁ。ジャン、高松、サービス。あんたらから見ても、姉貴は魅力的やろ?」 「うん。すごい魅力的だよ」 ジャンは素直に答えた。 「強いって言うから、ごついのかと思ったけど、そうでもないんだな」 サービスも認めた。 「綺麗ですね。野沢先輩のお姉様とは思えませんねぇ」 高松が皮肉った。 「この野郎。それはどういう意味や」 野沢は、高松の首をきゅっと締める真似をした。高松は笑った。 「武司、紹介してくれる? 誰がジャンで、誰が高松で、誰が……サービスなの?」 サービスの名前を言うとき、あやめは、ちょっと笑ったような気がした。 「特に、この美形さんの名前は、知りたいわ」 「サービス……わいから姉貴を取るつもりか?」 野沢が睨んだ。 「向こうが気になるんだったら、僕の責任ではないよ」 「こいつ、いけしゃあしゃあと」 「この美人さんがサービスね。そうじゃないかとは思ったけれど。後の二人は……? 待って。垂れ目の人が高松ね。何となく、日本人ぽいから。で、食べ物をいっぱい持っているのが、ジャンね」 「大当たりや!」 「私、こういうことには、ちょっと自信あるの」 「鋭い方ですね」 「わかってくれはったらええんや」 サービスの言葉に、野沢は得意になった。 「あら、当てたのは私よ」 あやめが口を挟んだ。 「ジャンって言ったかしら。あなたって、体格いいわねぇ。南国育ち?」 「ええ、まぁ」 「だと思った。日焼けしてるもの。あなた、私とちょっと手合わせ願えない?」 「ご冗談を……」 「私を女だと思って甘く見てるのかしら? まぁいいけど」 急に―― 辺りの空気は張りつめた。あやめとジャンは対峙した。が、しばらくすると、あやめが言った。 「やめたわ。あなたみたいにへらっとしている男と戦っても、面白くなさそうだもの」 「姉貴……ジャンの強さを見切ったんやな」 野沢が感心したように顎を撫でた。 あやめの闘気を、ジャンは穏やかに受け止めて、跳ね返したのだ。 それに気付いた人物は、もう一人いる。 「強いんですね。ジャン。あなたは本当に――」 高松である。耳のいいジャンには、聞こえるか聞こえないかぐらいの声を、聞き分けることができたが、敢えて何も言わなかった。 「やぁ、君達」 高松、ジャン、サービスのトリオと、野沢姉弟の前に現れたのは、マジックだった。 「兄さん!」 「マジック総帥!」 「遠くから見ていたよ。なかなか別嬪なお嬢さんだ」 「別嬪だなんてそんな……」 あやめは、柄にもなく照れているようだ。 「総帥。この人はナンパ男を一人で片付けた……うっ」 高松の鳩尾に、あやめの一発が入った。 「いくら総帥でも、姉貴は渡さんで」 野沢が凄んだ。 「兄さん。あやめさんは、野沢さんより強いんだよ」 「ほう。それはそれは。もし君が男だったら、ガンマ団にスカウトしたいところだねぇ」 「まぁ」 「あやめさん……ゲホッ、サービスにはお咎めなしですか」 高松がむせながら言った。 「だって、サービスって美形なんですもん。美形は何でも許されるのよ。高松も可愛いけど、ちょっとスケベ面よね」 「大きなお世話です。それに、会った途端、タメ口ですか」 「だって、私は、あなた達より年上よ」 そして、あやめは、ホーッホッホッと高笑いをした。 マジックは、面白そうに眺めている。 「ねぇ、兄さん。ルーザー兄さんや、ハーレムは?」 「ルーザーもハーレムも、来てる筈なんだが。二人きりの方が、仲良くなれるかもしれないから、探さないがね」 ジャンは、それとなく、赤い総帥服の男の方を見た。 (それにしても、どこから来たんだろう。マジック総帥) 野沢姉弟に夢中になっていたとはいえ、野沢より長身のマジックに気付かない訳がない。普段ならば。ということは── (気配を消して来たんだ!) もちろん、今日は祭りの日である。ここは戦場ではない。いたずらっ気を起こして、驚かせたかったのだろう。 だが──ジャンにもさとられずに近付くことが出来るとは──ただ者ではない。 (気をつけなくちゃいけない、か) ジャンは改めて肝に銘じた。 彼らの間を、子供を肩車した親子連れが通っていった。マジックはそれを、姿が消えるまでしばらく眺めていたが――― 「ジャン君、ちょっとじっとしてて」 「へ?」 マジックは、ジャンの脚をくぐり抜けて、立ち上がった。 「わっわっ」 ジャンは狼狽して、マジックの首っ玉にかじりついた。 バサバサバサッ、と落ちてきた、食べ物がまだ残っている容器を、高松が受け止めた 。 「ああ、驚いた。落っこちるかと思った」 「兄さん。なんでいい年した男に、肩車なんてやるんです?」 「なんだ。おまえもやって欲しいのか?」 「そうじゃありませんっ」 サービスはふいっと横を向いた。 「はっはっは。気分はどうだい? ジャン君」 「はぁ……」 ジャンは当惑していた。でも、その感情の中にもなんだか不思議な、わくわくした気持ちも混じっていた。 ソネが子供の頃は、肩に乗せて遊んだし、ジャンもヨッパライダーに乗せてもらったことがある。 でも、これは── まるっきり子供扱いで肩車されたのは、長い生涯の中で、生まれて初めて、である。 「ジャン君。君は私の理想の子供なのだよ」 マジックが言った。 「君のような子供が生まれたら、いいな、と思うよ。もう数年早く会いたかったよ。そしたら、全精力を傾けて、可愛がってあげられたのにな」 (遠慮しときます……) ジャンが、心の中で呟いた。 マジックが子供好きだなんて、意外だった。子供好きに悪い人はいない。けれど、ガンマ団のマジック総帥は、大悪党だ。 ジャンもマジックも、190cmを超えている。その様は、さぞかし異様に見えたことだろう。子供が、「おっきい肩車ー」と指差して、母親にたしなめられる、という、ありがちな行動も見られた。 ジャンは、細長い提灯がずらっと灯った光景を見ることができた。それは素晴らしい眺めであった。 「どうだい? そこから見える景色は」 マジックが訊いた。 「最高です。とても」 そのとき、ジャンは涙ぐんだ。何故だろう。涙が出るのは。 マジックの優しさからか、景色の見事さからか。 何故か、お腹のあたりが押しつぶされそうに、きゅうっとなる。けれど、それは決して不快ではなく── 同じお腹に来るのでも、快不快があるようだ。 だんだん、手足や背中がしびれてくるようになる。それさえも、快い。 (ああ、俺、今、ガンマ団の総帥の肩に乗ってるんだなぁ) 総帥に心酔している者は、さぞかし悔しがるだろう。それとも、「そんなことをするのはマジック総帥じゃない!」と認めまいとするか。 しかし、ジャンにとって、マジックは敵である。敵、それもうんと年下の男に肩車されて、喜ぶのもおかしな話である。 「将来、結婚したら、君みたいな子供を持ちたいねぇ」 マジックはしみじみと嘆じた。 (そうか。この人には、こういう面もあるんだ──) それがわかったからこそ、ジャンは泣きそうになったのかもしれなかった。 暗黒街の皇帝。唯一無二の覇王。血も涙もない殺し屋。そう人も言うし、マジック自身そう思っているのかもしれないけど。 (周りの環境のせいかもしれない) 高松から、青の一族のことをいろいろ聞いてきた。サービスはあまり話したがらない。殺し屋の一族であることを、恥ずかしく思っているのだろうか。 一度、そのことについて訊いてみたら、 「君には関係ないだろう!」 と、一蹴された。閑話休題。 マジックは……覇王にしかなれない男であったのかもしれない。それが、悲劇の発端だった。 子供らしい子供時代を、彼は過ごしてきただろうか。恐らく無縁であっただろう。 ジャンは、奇妙な感情を抱いた。──マジックは子供みたいだ。 確かに、ジャンからは、ずっとずっと年下なのだから、そう思っても何の不思議もないのかもしれないが。 けれど、今までのマジックには、威圧感があった。こっちの方が、生きている年数は長い、ということを忘れさせるぐらいに。 また、マジックも鷹揚に振舞っていた。 それが、今日は違う。 「理想の子供を持ちたい」 それは、幼い女の子が、「お嫁さんになりたい」という夢を持つのと同じではないか。 だが、マジックは、もう大人と呼ばれる年齢である。子供扱いされないのなら、せめて、子供扱いできるものが欲しい。 総帥に子供ができたら、彼は、その子をどんな風に可愛がるだろうか。 (猫っかわいがりしたりして……) 今日のマジックの態度や台詞からすれば、それも有り得ない話ではない。ジャンは、総帥の未来の子供に、密かに同情した。 「兄さん、もうちょっと離れて歩いてください」 「何? おまえも肩車して欲しいって?」 「そうじゃありませんよ。僕は、こんなことで注目の的になるのは、ごめんですからね」 そうでなくとも、美貌では、女性にも、勝るとも劣らずなサービスである。目立つのは当たり前であろう。 サービスが通る度に、彼を見た人々は、ひそひそ、ひそひそと盛り上がる。彼は、屋台を無視してどんどん先に歩いていく。 「おーい、サービス。おまえの好きな花火を見に行くぞ」 マジックが大声で呼んだ。 サービスは、無言で振り返った。 「…………」 「花火って、この間やったのと、同じやつかい?」 ジャンが尋ねた。 「いいえ。もっと勇壮で、もっと華麗ですよ」 「へぇ、見てみたいな」 「マジック総帥も行くみたいですし……」 高松は、にやりと、人の悪い笑みを浮かべた。 「サービスも行きますよね、もちろん」 「……ああ」 「サービスは花火が大好きなんですよ」 高松が、こっそりジャンに告げた。
「あ、間に合ったね」 マジックが鷹揚な調子で喋った。 「兄さん、こっちですよ」 ジャンが声のする方を見ると、笑顔のルーザーと、ふくれっ面のハーレムがいた。 「楽しいですよ。とても。来た甲斐がありました」 「ふん。こっちはつき合わされて迷惑だぜ」 ハーレムが吐き捨てるように言った。だが、満更でもなさそうなのが、ジャンやマジックには、見て取れた。 「相変わらずあまのじゃくなんだから」 ルーザーにも見破られて、ハーレムはますます不機嫌になったらしい。 「ああ、野沢くん。あやめさん。こちらは私の弟で、ルーザーとハーレムだよ」 「ルーザーというのはお兄さんの方ね。ハーレムは……」 あやめはハーレムに近づいてしげしげと見た。 「あらやだ。この子、サービスにそっくり。髪型のせいで、似てないように見えるけど」 「なんだ? この女」 「ねぇ、あんた、もしかしてサービスと双子だったりしない?」 「……へぇ。ビンゴだぜ。第一印象でわかる奴は、なかなかいねぇぜ」 「どうもありがとう」 あやめはウィンクした。 「しかもいい女だしな」 「おい、姉貴。こっちの方が花火がよく見えるで」 野沢があやめとハーレムを引き剥がした。 「姉貴に手ェ出したら許さへんで、ハーレム」 「このシスコン」 「わいがシスコンなら、あんたはブラコンやで」 「なんだとこのぉ」 「待ちなさい、君達」 ハーレムは、野沢の胸ぐらを飛びかかっていこうとした瞬間に、マジックに押さえられた。 「野沢君。君も四年生なら、分別ぐらいつく年齢だろうが」 「……せやな。つい見境なくなるところでしたわ。わいもまだまだ子供やな」 「……ま、急いで大人にならなくてもいいんじゃねぇの?」 ハーレムが言った。普段は仲が良い野沢とハーレムである。またすぐにわだかまりが解けたようだった。 「私達も、ここで見ていいかな」 「ええ、どうぞ」 マジックに、ルーザーが機嫌良く答えた。 最初の一発の花火が上がった。 大きくて綺麗な光の円が、空の画布に広がった。その後、パラパラと火花が消えていく。 「たーまやー」 高松が叫んだ。たまやとは、花火屋の名前である。 華やかに輝いて、すぅっと消えていくところは粋である。 「なぁんだ。今日やる花火って、火山花火のことだったんだ」 「ジャン……火山花火って、なんだい?」 「あ……」 サービスの怪訝な顔に、ジャンは、己が失言したことを悟った。 「それに、この間は花火を知らないと言ってなかったっけ」 「う……打ち上げ花火くらいは知ってたさ」 「ふぅん」 (でも、この花火と打ち上げ花火と、どう違うんだろう) そう思ったジャンは、サービスに疑問をぶつけた。 「なぁ、サービス。この打ち上げ花火って、どんな仕組みなんだ?」 「まず、火薬を詰めた花火の元になる玉を大筒に入れて……」 (なんだ、火山花火とは違うのか) ジャンは、ほっとしたような、残念なような気がした。 火山花火は、ヨッパライダーが得意とする宴会芸で、拳骨でわざと花火状に火山を爆発させる、豪壮な技である。 ドォン、と地響きが鳴った。 「ジャン、説明は後だ」 サービスは、かなり花火が好きらしい。 (眼魔砲の影響か) ジャンはこっそり思った。が、次の瞬間、その思いを忘れた。 一瞬の輝きに賭ける光芒。そして、跡形もなく消えていく潔さ。ジャンは、粋という名の切なさを知った。 「どうだい、ジャン。ここの火山花火は」 サービスが訊いてきた。 「あ?」 「だって、打ち上げ花火って、君の故郷じゃ、火山花火って言うんだろ?」 「あ、ああ……」 本当はちょっと違うのだが、ジャンはサービスの勘違いを、神に感謝した。 そして、故郷のことを思い出した。 ソネやイリエは、今年の火山花火は見れただろうか。ヨッパライダーは元気だろうか。 クライマックスが近づくと、ぽんぽんぽーんと連続して花火があがる。 「すごいなー」 「綺麗……」 「ジャン、サービス。もう終わったぞ」 ジャンとサービスは、マジックが呼ぶまで、空を眺めていた。 「しばらく余韻に浸らせてくださいよ」 サービスがむすっとした。 「車まで、一緒に歩こうじゃないか」 「え、ええ……」 なんだかんだいっても、サービスは兄には逆らわない。ハーレムも仏頂面で、後に続く。 マジックが乗ってきたのは、リムジンだ。 「あやめさん、送っていくかい?」 「私に敵う暴漢がいて?」 「いや、それはまぁそうだが……君は女の人だから」 「悪いけど私、高松達と寮まで一緒に行くわ」 「寮は、女人禁制だよ」 「でも、少しでも高松と離れたくないのよ。ねぇ」 「そうですね。あやめさん」 「あー。君達もしかして」 サービスが冷やかすように訊く。 「もしかしなくてももしかするんですよ。ねぇ」 「そ。高松。アンタとこんなに話が合うとは思わなかったわ」 「あやめさんも、美人な上に、頭の回転が速いですからねぇ。ルーザー様の次に、大好きですよ」 「くー、わいがついていながら。せっかくの花火見ながら、最後の方じゃべたべたいちゃいちゃやねん。ええんか! 姉貴、そいつはなぁ、そこにいるルーザーさんのことになると、すぐ鼻血噴いてまうのや。そんな変態に姉貴はやれん。それに、そいつには、ホモ疑惑もあったんやから」 「誰がホモですか、誰が」 「あら、そんな疑惑や鼻血なんかで気持ちは変わらないわよ。ねぇ、高松」 「ねぇ、あやめさん」 「その鼻血は、常人のそれを超えてるんやで。最初は普通の会話してたから、油断しとったわ」 野沢の話によると、シスコンの弟とブラコンの友人で苦労している同士、気が合ったらしい。 「ブラコンとは、誰のことだい?」 サービスは真顔で質問した。 「サービスは気づいてないんですか。まぁ、その方が幸せでしょうけど」 「ブラコンだと? おまえらなぁ、それは、俺のことか?」 ハーレムが睨めつけた。 「おや、自覚があるんですね」 「ふん」 ハーレムは肯定もせず否定もせず、そっぽを向いた。 「照れ屋さんなんだから。少しは『サービス大好き』と、言ったらどうですか」 「サービス、大好きだよ。俺」 「……アンタに言えって言ってませんよ。ジャン」 高松は頭を抱えた。 「どうしたんだい? 高松」 「高松も苦労するわね」 あやめが溜息をついた。 「高松、寮に着いたら、姉貴とは離れ離れやで。ざまぁみろや」 「家に遊びに行きますよ」 「私の家、ちょっと遠いわよ」 「手紙も書くし」 「男どもの魔の手から、魔の手から姉貴を救うのが、わいの使命やな!」 野沢は張り切っているようだった。 「サービス。今日は何としてでも家に帰ってもらうよ」 と、マジック。 「好きにしてください」 サービスは、ちらりと、ジャン達に一瞥をくれた。ハーレム以外、みんな、笑っていた。 「さようなら。サービス。またお会いしましょう」 「サービスが寮からいなくなるのは寂しいけど、また再会できるからな」 「別れの挨拶はそれまでだ」 ハーレムがぶっきらぼうに遮った。 「誰も相手にしないもんだから、ハーレムがすねとるで」 「だっ……だれがッ!」 あっはははと、その場にいたメンバーが笑った。 「もういい。帰る。サービスも来い」 「腕引っ張らないでよ。君の馬鹿力だともげてしまう」 ハーレムに急き立てられ、サービスは車に乗った。 ルーザーが、窓から手を振っている。 「さようなら。皆さん」 「さよなら。ジャン、高松、野沢さん、あやめさん」 サービスも、一人一人に挨拶した。 車が行ってしまった後も、ジャンは一人残っていた。 さぁっと風が吹いて、草の葉すれが聞こえた。
後書き さあッ、本編はいつもより長いかなっと。 花火の知識は、父に説明してもらったけど、ちんぷんかんぷんだったので誤魔化しました(笑)
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2006年10月24日 (火) 14時25分 |
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