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(40) 黒いサンタクロース 投稿者:Tomoko MAIL URL
 ねぇ、みんな。黒いサンタクロースって知ってるかい?
 それはね――

「赤いサンタは、いい子にプレゼントを配るのは知ってるよね?」
「うん! 俺、今年は鉄道模型がいいな」
「黒いサンタもいるって知ってる?」
「黒いサンタ?」
「そう。悪い子には罰を与えるんだ」
「うっそだ〜。そんな変なサンタ聞いたことないよ」
「ハーレムは、充分注意しないとね」
 ルーザーが言う。
「黒いサンタって、ルーザーお兄ちゃんが作った話じゃないの?」
 ハーレムも負けてはいない。
「そんなことないよ」
 ルーザーは相変わらず動じない。
「黒いサンタが来ない内に、早く寝ようね」

 ハーレムは、黒いサンタのことを考えると、眠れなかった。
 マジックの茶室の障子を破ったのは――悪いことではないと思う。
 キャッチボールをしていて、高い壷を割ったのは――悪いことではないと思う。
 チャンバラごっこで一方的に相手を叩いたことは――悪いことではないと思う……多分。

 ぎぃぃ……と扉が開いた。
 黒いサンタクロースか! ハーレムは、密かに恐怖を感じた。
 しかし、必死で寝たふりをする。
 入ってきた人影は、ハーレムの前で止まった。そして、そっと何かを枕元に置いた。
(なぁんだ。黒いサンタクロースなんて、ルーザー兄貴の作った嘘じゃん)
 ハーレムは、起きて、枕元に置かれた物を安心して掴んだ。
(ん? 何だ? これ)
 変な贈り物だ。ぬるぬる、ぶよぶよしているし、臭いし――
 それは、動物の内臓だったが、この当時のハーレムには知る由もなかった。
「こんなもん、いらないよ!」
 ハーレムが人影に向かってそれをぶつけた。
 すると、黒い人間は、袋でハーレムを叩き始めた。
「ちょっ、ちょっとやめろよ! サービス! サービス!」
 隣のサービスは、双子の兄の叫び声で目を覚ました。
 影のような黒い人間は、袋にハーレムを詰めようとする。
「やめろーっ! やめてくれよ! わーっ!!」

「今日もこの季節がやってきたか」
 サンタの格好をしたマジックはうきうきしているようだ。
「双子の喜ぶ顔が楽しみですね」
 ルーザーも言う。
 鉄道模型に、うさぎのぬいぐるみ。ハーレムとサービスのリクエストだ。
 と、そこへ、さささっと黒い影が走った!
「む、何者!」
 マジックが追っかける。プレゼントの入った袋を置いて。
「お兄ちゃーん! 助けてー!!!」
「お兄ちゃん! ハーレムが攫われる!」
 ハーレムとサービスの声が重なる。
「ハーレム! おまえ、ハーレムをどうする気だ!」
 台詞の後半は、黒い不審者に向けられたものだ。影のような存在は、ぴたりと立ち止まる。
 不審者の持っている袋からは、ハーレムが暴れて叫んでいる様子が伺える。
「兄さん! 黒いサンタです!」
「なにっ?!」
「彼は、ハーレムを地獄に連れて行くつもりなんですよ」
「そんなことさせるか! 眼魔砲!」
 マジックが攻撃したが、黒いサンタの前で、眼魔砲の放つ光が消えた。
「なっ! 眼魔砲が効かない!」
 ならば体当たりで――と、マジックは走った。
 ぶつかった途端、黒いサンタは倒れ、ハーレムは袋の中から顔を出した。
 ルーザーは駆け寄って、ハーレムの手を引っ張った。ハーレムはずるずると袋から出された。
「うちの弟をどうするつもりだったんだ!」
 マジックは、黒いサンタを揺さぶる。
「ハーレム! 無事でよかった!」
 サービスは、ハーレムを抱きしめた。

「待ってくれ!」
 声は意外な方からした。
 マジックとルーザーが振り向くと、皆に親しまれている赤いサンタクロースがいた。
「これ、黒。ここは違う。家を間違えたんじゃ」
「あ……兄者」
 黒いサンタはもぐもぐと言う。
「おお、よしよし。大変じゃったのう。黒が勘違いしたおかげで、怖い思いをさせて」
 赤いサンタは、ハーレムの方に近づいて、頭を撫でた。
「怖くなんかないやい!」
 ハーレムは言った。けれど、それは虚勢だった。
「あのぅ……家を間違えたって言ったけど、それは、どんな家?」
「なぁに。乱暴者でお父さんやお母さんを殴ったり蹴ったりしている少年の家に行く予定だったんじゃ。実はその少年は、双子でのう。双子の弟は、両親の手伝いをしたりして、とても良い子なんじゃ」
「へぇ〜。僕達みたい」
「うるさい!」
「いやいや、君達はいい子じゃよ。こんなに仲がいいじゃないか」
 サービスとハーレムは、抱き合っているのに気がついて、お互いからぱっと離れた。
「お詫びに、クリスマスプレゼントを君達にあげよう」
「え? でも、プレゼントは僕達が……」
 マジックが口を挟もうとした。
「勘違いしてもらっちゃ困る。君達もまだ子供のようじゃないか。君達にもプレゼントをあげるつもりじゃ。君、サンタのソリに乗りたくはないかね?」
「サンタのソリ?!」
「でも、僕達みんな、乗れるの?」
「なぜ、サンタのソリが大きな袋を乗せられるか、知ってるかな? 自由に大きさを変えられるからだよ」
 赤いサンタクロースが言った。
 黒いサンタは、無言だった。
「わしらもスケジュールが詰まっているから、少しの間だけだがな」
「わぁい! サンタのソリに乗れるなんて!」
「夢みたいだ!」
 サービスとハーレムは素直に喜ぶ。
「ありがとうございます。えーと、サンタクロースさん」
 マジックがお礼を言う。
「サンタクロースなんているわけないんだから、誰かが仕組んだんだな」
 ルーザーがこっそり呟く。
「おや、疑っているな。君。乗ってみればわかる」
 窓の外から、トナカイとソリが現れた。
「さあ乗ろう。黒、おまえも来るんじゃ」
「わかった。兄者」

 君は見ただろうか。トナカイの引くソリに乗ったサンタクロースの姿を。
 でも、黒いサンタクロースにはご注意あれ。

後書き
黒いサンタクロースの存在は、『トリビアの泉』(終わってしまって残念)で知りました。
赤いサンタと黒いサンタが兄弟なのは、私の創造です(でも、本当にそうかも)。ソリが自由に大きさを変えられるのも。
黒いサンタとは、ルーザーの仕業だと、ハーレムが疑惑の目を向ける、という設定もありましたが、自然と没になりました。
後半、長くなったなぁ。

2006年12月18日 (月) 17時03分




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