(47) シンタロー、ガンマ団脱出 その二 |
投稿者:Tomoko
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(さよなら故郷――なんてな) 海かもめが啼いている。シンタローは、前々から話をつけて貸し切りにしてあった小さな船の甲板の上から、海上を眺めていた。 ボートは港の船着き場の桟橋に置いてきた。 (もうすぐだ、もうすぐ。コタロー……) 彼は、日本にいるはずのコタローのことを思った。 頬の輪郭を軽く覆ったハニーブロンドの柔らかい髪。利発そうな大きな青い眼。ほっそりと伸びた長い手足。 「お兄ちゃん」 と呼ぶ快いソプラノの声。 兄の目から見ても、これ以上はなかなかいないというくらいの美少年である。 だが、今、弟はガンマ団日本支部に幽閉されている。 ガンマ団は世界各地に支部があって、日本支部はその一つである。 コタローの幽閉は、実の父であるマジックが直接命を下したことだ。 「正気かよ! 親父! 自分の息子を閉じ込めるなんて、どういうつもりなんだよ! 親父!」 部下の制止もきかず、マジックに詰め寄ろうとするシンタロー それに答えたのは、冷たく青い双眸。 「だっ!」 シンタローの体は壁に打ちつけられた。 「お兄ちゃーん!」 コタローの、自分を呼ぶ声。コタローは、父に連れられ行ってしまった。 何故そうしなければならないのか、シンタローは一言も、聞かされていない。ともかくも、それが弟を見た最後だった。今から一年近く前のことである。 (この石さえあれば――) シンタローは、リュックから戦利品を取り出した。 コタローを助け出した後、この宝石を売り払い、大金持ちになって、二人でどこか静かなところで暮らそうと、シンタローは決めていた。 これだけ大きな宝石だ。かなりの高値で売れるだろう。 彼は、急いでその宝物をまたリュックにしまった。 「――ん?」 空に、黒い点が幾つか浮かんでいる。それはヘリであった。 ダビデの形に似た図形の中央に、『G』の黒文字を置いたマークを前方につけた赤い機体。 「ちっ。奴らもう来やがったか!」 シンタローが悔しげに舌打ちする間もなく、ヘリは機銃掃射を開始した。 彼は咄嗟に身を防ぐ。 弾丸はエンジンを貫いた。エンジンは火を噴き、そして爆発した。 シンタローの体は、爆発のショックで、破片もろとも海に投げ出された。 彼は半ば意識を失っていた。彼の体は、どこまでも沈んでいく。 ふと、弟の声を聞いたような気がした。 シンタローは薄眼を開けた。 何かの拍子でリュックの留め金がはずれ、海と同じ色の球体が、眩いばかりの光を放っていた。 それは、気のせいだったのかもしれない。 その光はシンタローを助け、彼を在るべき処へ導いてくれる道標であるかのようだった。 彼は穏やかな心持になり、不意に力が抜けた。
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2007年08月11日 (土) 10時28分 |
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