(57) リキッドの誕生日 |
投稿者:Tomoko
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パプワ――。 パプワハウスには毎日大勢の客がやってくる。 俺は、皆にご飯を作ったり、その間に掃除したりして、結構大変だ。 (シンタローさんも、パプワには昔、さんざん扱き使われてたって言ってたっけ……) 滅多に弱みを見せないシンタローも、酒の席やなんかでは、笑い話としてそういうことを口にしていた。 だから、主婦業に目覚めたのか。俺が家政夫になっていたときには、もう立派なお姑さんだった。 俺も――パプワに鍛えられたな。 シンタローさんの、パプワのしごきについては、俺にも覚えがあった。だけど、それで、シンタローさんとパプワの二人は、だんだんと親密さを増して行ったらしい。 トンガリ山でのエピソードを聞いたら、イッポンダケに登った自分の姿を思い出して、涙が出てきた。 パプワは今も目覚めない。 こうやって、パプワの寝顔を見られるのは、シンタローさんでもできない。赤の番人である俺の特権である。 チャッピーには家族ができた。わりと子沢山だ。 こうしてぴくりとも動かないパプワは、まるで死んでいるかのように見える。 いつか――目覚める日があったら、そのときは……。 長い長い物語を話そう。おまえが寝ている間に、どんなことが起こったか。 「リキッドさん」 ソージの声だ。 「ん? なんすか? ソージさん」 「ちょっとね。今日、君の誕生日だって聞いたもんで」 「誕生日か……」 「子供の頃は、ランドで過ごしたんでしょう?」 「そうだな」 俺は、パパに連れて行ってもらった、初めてのランドのことを思い出していた。 「でも、俺にとっては、ここがランドみたいなもんだから」 「ふぅん……」 「で、何しに来たんすか?」 もしかして、俺の誕生日を祝いに来てくれたのかな――と、淡い期待を抱いたり。 「ちょっとね……はい、これ」 それは、一輪の綺麗な青い薔薇の花だった。なんだか、いい匂いがする。 「ありがとっす。ソージさん」 「一輪百万ですからね」 「えっ? 金とんの?」 「冗談だよ、馬ー鹿」 いかにも、聖薔薇族らしい贈り物であった。俺は、花瓶にその花を活けた。 青の番人となったソージは、ここに残ることを許された。聖薔薇族のハッピーチャイルドで、人間の姿をしているが、ちょっと普通の人間とは違う。 と、それを言うなら、今の俺もそうか。赤の秘石に、不老不の体に、作り変えられたんだっけ。番人の条件として。事故では死ぬこともあるらしいけど。 だから、基本的に、俺は二十歳のまま、年を取らない。 けれど、ソージの心遣いが、俺には嬉しかった。 「お誕生日おめでとにゃ〜」 「お誕生日スウィングスウィング!」 「め、めでたいです〜」 「おまえらの心遣いは嬉しくない」 俺は、つい声を出して、ツッコんでしまった。 でも、この島らしいといえばこの島らしいかな。 「ったく」 俺は嬉しくて、つい鼻をこすった。 「他の生物達も、集まっているよ」 ソージの言葉に俺は、うっす、と答え、開いたままのドアに向かった。 振り向いて、パプワの寝入っている姿を見る。 (本当は、こいつが目覚めることが、最大のプレゼントなんだがな) でも、俺は、祈ることしかできない。パプワが起きるまで。 何日何年何十年経っても、俺はパプワを見守る。 俺とシンタローさんに、命を与えてくれたパプワを。 この島の生物達は、パプワを大事にしているヤツらばかりだ。さっきのコモロだって、オショウダニだって、ヤマギシだって。 パプワはこんなに愛されている。それは、パプワがみんなを愛したからだ。 俺も、同じように、こいつらを愛している。 「ハッピーバースディ! リキッドさん」 小動物達が入ってくる。 恐竜達は、入れないので、外から俺達を見守っている。 パプワ……おまえのおかげで、俺はこんなに島に溶け込むことができた。 「あれー?」 「どうした? エグチくん」 「パプワくん、今笑ったような顔した」 「ほんとかっ?!」 俺は寝ているパプワの元に急ぐ。 「ほんとだ……」 「早く、パプワくんと一緒に遊びたいね」 「うん……ごめんな。パプワは……」 俺は言葉を続けようとしたが、ソージがそれをさえぎった。 「『俺達を助けたせいで、力を使い果たした』ですか? それ何遍も聞いたよ」 パプワの寝顔を見る為に屈んでいた俺に、ソージが視線を合わせた。 「パプワくんにとっては、シンタローさんとリキッドさんの無事が一番嬉しいんだよ。名付け親のくせにそんなことも知らないなんて、リキッドさんの馬ー鹿」 俺は、残された赤の一族の子供に、パプワという名をつけた理由を、ソージには話してある。 「ソージ……」 俺は、このひねくれ侍が、本当はいいヤツなのを知っている。 ただ、誤解から、素直になれない性格になってしまっただけだ。 「――なに見てんだよ」 「いや、別に」 ソージに今の気持ちを言ったところで、答えはわかっている。 「わおおん」 チャッピーが、何かを伝えたそうに鳴いた。 「チャッピーがね、パプワくんも、リキッドくんが誕生日を迎えて嬉しいって」 エグチが言った。 「はは……誕生日を迎えても、俺、年取らねぇんだけどな」 俺の台詞は、照れ隠しに聞こえただろう――その通りなんだから。 さすがにちょっと恥ずかしくなってきたのだ。 俺も素直じゃない。ソージのことばかり言えねぇな。 さぁ、今日も、張り切って、家事に取り掛かろう。今や、すっかり趣味になっちまった。 今夜は、ご馳走だ。
後書き えーと、リキッドの誕生日SS書くのは、これが初めてです。 重複とかありますが、その辺は見逃してください。 文章がおかしいところもあるかと思いますが、目についたら、おいおい直していこうと思います。 リキッドの誕生日なのに、パプワが中心みたいですが……。 読んでくださって、ありがとうございます!
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2008年05月21日 (水) 13時43分 |
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