(71) 博士がタイムマシンを造った訳 |
投稿者:Tomoko
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「はい。――わかりました。今度から気をつけます。はい」 グンマ博士が、携帯を切った。 「誰からだった?」 彼のいとこの、キンタロー――既にそう呼ばれるようになってから久しい――は、グンマに訊ねた。 「ん。タイムパトロールから」 グンマが力なく微笑んだ。 「今度は何だ?」 「過去の人間に対して、本名を名乗った人がいたんだって」 「無理もなかろう。なんなら、過去の人間に話しかけるのも禁止したらいい」 「うん。キンちゃんの言う通りなんだけどね。それだと、タイムマシンを作った意味がないから」 「こんなこと、やめたらいい。タイムパトロールにまで睨まれて、貴様に何の得がある。あいつらは、機会があれば我々からタイムマシンを取り上げようと、虎視眈々と狙っているんだぞ」 「――わかってる。でも、僕はね、時間を行き来することで、少しでも多くの人がささやかな願いを叶えて幸せになることができたら、それでいいんだ」 ふっと、グンマは遠い目をした。その瞳はどこを見つめているのか。 全く、こいつらしい。 キンタローは仕方なさそうに首を振った。 「しかし、そのタイムマシンを悪用する輩が出てきたらどうするつもりだ?」 「そのときにこそ、タイムパトロールの出番だよ」 「――そうだな」 ちょっと馬鹿っぽい、お坊ちゃん気質のところもあるけれど、グンマはグンマで、ちゃんと考えてるんだな、とキンタローは思った。 だから、自分も手伝う気になれる。 「ああ、そうだ。おまえ、今日誕生日だろ」 「え? あ、うん。高松からもプレゼントもらったよ。――鼻血付きだったけど」 グンマとキンタローの目が合った。 「仕方ないよね、高松は」 「ああ。あいつは、どうしようもない」 けれど、彼らのことを一番気にかけているのも、高松である。それを知っていても、キンタローはそう言わざるを得なかった。 「何もらったんだ?」 「写真立てだよ。親しい人達の写真を飾りなさいって」 「鼻血付きのにか」 「鼻血はとっくに拭いたよ」 グンマは、いつもの元気を取り戻したようだった。 「グンマ……ほら」 「何?」 「タイピンだ」 「ありがとう。早速つけてみるよ」 グンマは、ネクタイにキンタローからのタイピンをつける。ダイヤがちかりと光った。 「高かったでしょ」 「いや……」 「ありがとう。僕って幸せ者だな」 それは、俺の台詞だ――キンタローは心の中で呟いた。 反発し合ったこともあったけど、今はこいつの手伝いをしたい。 キンタローの心境の変化は、グンマの優しさが齎したものかも知れなかった。 「今度から、タイムパトロールからの連絡は、俺に回すようにしてくれないか?」 「なんで?」 「そういう対応は、俺の方が慣れている」 「いいよ。僕の仕事なんだから。でも、気持ちは受け取っておくね。キンちゃんには世話になりっぱなしなんだから」 グンマが、今度は心からの笑顔で言った。 そんなところが、力になりたいと思わせるのだ。助手のイバラギも多分、そうなのだろう。 ――では、これからはグンマのサポート役に徹しよう。 仕様もない発明をしているように見えても、本当は、強くて優しいキンタローのいとこ。 さすがにマジックの実の息子だけあるな、とキンタローは感心した。
後書き グンマの誕生日、ほんとは昨日(五月十二日)です。 いろいろあって、アップするのが遅れました。 プレゼントのくだりは、書いているうちに出てきました。 ほんとはイバラギ視点で書く予定だったのですが、キンタローも好きなので、急遽、グンマの話し相手役を変更しました。
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2009年05月13日 (水) 09時25分 |
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