(32) 決意表明 |
投稿者:Tomoko
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「ふぅ〜。パプワくん達どこで何をしているのかしらねぇ……」 アメリカザリガニのカオルは、沼の中で、疲れたスナックバーのママのような溜め息を吐いた。 「シンタローさんが帰って来た頃から、妙にばたばたしているし……」 カオルがグチっていると、 「カオルちゃん」 一人の金髪の青年が現れた。 「あら、ミヤギくんじゃない。どうしたの?」 カオルは、ミヤギの親友のトットリが持っている、脳天気雲のおかげで、寒いときは暖かく、暑いときは涼しく、快適に過ごしている。 「今日はトットリくんはいないのねぇ」 「ああ……」 ミヤギは浮かぬ顔だ。 カオルは訊いた。 「どうしたの? 何かあったの?! 話して頂戴!」 「トットリがぁ〜、大怪我して帰って来ただ」 そこまで言うと、ミヤギががばと両手をついて、額を地面にこすりつけた。簡単に言うと、土下座である。 「カオルちゃん、おらの髪、切ってくんろ」 「まぁ、ミヤギくんもトットリくんも、ミヤギくんの長い髪好きだったじゃない」 「だからだべ!」 ミヤギは、泣いていた。涙が、鼻筋を伝ってぽとん、と落ちた。 「トットリ、特戦部隊の奴にやられちまってよぉ――そのとき、おら一緒にいなかったから何もできなかったんだぁ……せめて、二人だったら、共に戦えたのに――罪滅ぼしってわけじゃないけど……」 「わかったわ! 男の意地ね!」 「そう! そうだべ! 今までの自分に、ふんぎりをつけるためだべ! そして、トットリのためにも」 「そういうことなら、喜んで協力するわ。カオル久々の大仕事よ。みんなー! 出てらっしゃーい!」 「はーい」 たくさんの生物が、沼地からやってきた。アライグマのナカイくんや、カンガルーネズミのエグチくんまで。 「ぼくたちもこわいからにげちゃたけど、ミヤギくん、勇気あるね」 エグチに言われて、ミヤギも悪い気はしない。目元の涙を拭った。 「おらにだって、勇気なんてあるかどうかわかんねけどな」 「ミヤギくんて、いい男ね」 カオルが言った。 「さ、みんな、ハサミ持ってカモーン!」 「ぎゃああああ! こんなにいらねぇべ!」
その頃、パプワハウス―― 「なんだ? 今の悲鳴」 シンタローが訝る。 「さあな」 パプワは平静そのものだ。
断髪式(?)は終わった。 「へへ、髪切ったおらもなかなかだべ」 水溜りを見つめながら、ミヤギが呟く。 「おっと。見惚れてる場合じゃねぇべ。早くトットリのところに行ってやんねぇとな」 第三者がこの場に居れば、ミヤギの背中が、逞しくなっていることに気付くはずだ。 「トットリ、少しは喜んでくれるべかなぁ」 ミヤギは、ちょっとはにかんだ笑みをもらした。
大方の反応は、だいたい予想通りのものだった。 しかし、コージの「失恋でもしたんかー!」と言う台詞には、「阿呆かー!」とツッコまずにはいられなかった。 失恋の前提ととして、まず恋愛することが先にある。しかし、この生物と野郎どもとの島のどこにロマンスが……。 理由をきくと、彼らも納得したようだった。
「おい、ミヤギ、ちょっと来い」 シンタローが手招きした。 「シンタロー、グンマは大丈夫なんだべか」 グンマは「高松〜、目が痛いよ〜」とさっきから泣いている。 「ああ、アレは大丈夫だろ。ドクターという、鼻血マシンだけど、ものすごく強い保護者がついてるし」 天才博士も、シンタローにかかっては、『アレ』扱いである。 「それで?」 シンタローがぼそっと言う。 「え?」 「それでおまえ、後悔しないのか?」 「ああ、しねぇべ」 トットリにもわかってくれる、という強い確信が、ミヤギの中にあった。 「これがおらの、決意表明だべ!」 そう言い切ったミヤギは、とびっきりの笑顔をしていた。 「これがベストな形か、と思ったこともあったが――やっぱりおまえら、ベストフレンドだな!」 シンタローが柔く、ミヤギの首を固めた。 「知ってるか? ベストフレンドって、恋人って言う意味もあるんだぜ」 「ええっ」 ミヤギが真っ赤になった。シンタローは、ミヤギの首から腕を外し、うーんと背伸びをしながら一言。 「ま、ホントかどうかはわからないけどなー……」 油断ならないべ。シンタロー。 彼のことが好きだったときもあったけど――まだそれなりに憧れの気持ちも残ってるけど―― 今はトットリが一番!
☆おまけ☆ 「それにしても、ザリガニに散髪頼むなんざぁ、人類の尊厳を捨てないと、なかなか出来るもんじゃねぇよなぁ」 「――だったら、シンタローも植物になってみれ。人生観変わるから」
後書き えーとー。山之辺黄菜里さん、ベストフレンド、ネタに使いました。申し訳ありません! そして、いつもありがとう。 『南国少年パプワくん』6巻の話をベースにしています。ということは、同じ頃、マーカー師匠とアラシヤマが戦っているはずですが、彼らの戦いは静かだったので(笑)、シンタロー達の耳には、聴こえなかったんでしょうね。 それにしても、いや〜、ミヤギのSS、書く日が来るとは思いませんでした。試しに書いてみたら、あれよあれよと――。でも短いですね。私に長編は難しい……。
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2006年07月07日 (金) 22時07分 |
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