(69) 碌でなし |
投稿者:Tomoko
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ハーレムの部屋の前に来ると、キンタローの息は荒くなっていた。それは、急いで走ってきたから、というだけの理由ではない。 胸がどきどきする。 ハーレムは、この度、無事、今年最後となる任務を果して、本部に帰ってきていた。 話には聞いていたが、実際に人とキスをするのは初めてだ。しかも、好きな人と……。 この部屋は、自動扉ではない。ノックをした。 「おう。入れ」 上機嫌な声が、中からした。また飲んでいるのだろうか。我が叔父ながら仕様もない碌でなしだ。 その男を想っている自分も、相当な碌でなしだとは思うが……。 「叔父貴……」 「なんだ、キンタローか」 怒っていたことも忘れたように、ハーレムは、キンタローを招じ入れた。 まぁ、飲め、と言って、キンタローにも酒を勧める。 「怒ってないのか?」 「何を? ――ああ、あのことか。もう忘れてたよ」 キンタローはほっとした。この叔父は、途方もない楽天家なのだ。 「で? 用は?」 「言ってもいいのか? なんでここに来たのか」 「言わなきゃわからないだろうが」 「俺は……叔父貴と新年を過ごしたい。そのう……二人きりで」 台詞の最後の方は尻すぼみになってしまった。 「俺と二人で新年を迎えたい? そりゃ無理だな」 「どうして!」 勇気を振り絞って告白したのだ。つい詰問口調になってしまう。 「だって……」 ドドドド……と地響きが鳴る。 「来たな、あいつら」 「ハーレム隊長ー!! ハッピーニューイヤー!」 ロッド、G、マーカーが、襲撃よろしく、ハーレムの部屋に殺到した。 ハッピーニューイヤー、と言うのは、英語なので、イタリア人のロッドがそれを言うのはどんなものかと、変なところで疑問に思うキンタローは、気になった。 それに、新年までには、あと少しあるのだが。 「あ、キンタロー様、こんちわ」 ロッドが片手を上げるので、 「ああ」 と、キンタローもそれに応じた。 「でも、隅に置けませんねぇ、隊長も。てっきり一人で酒でも飲みながら新しい年を迎えるんじゃないかと思っていましたが」 「毎年おまえら来るだろ」 「俺達は、隊長の寂しさを紛わせに来たんですよ」 「とかなんとか言いながら、目的は酒だろ」 「ばれたか」 長い付き合いだからな、と、ハーレムは苦笑して、酒を注ぐ。 ロッドは、飾りのついたとんがり帽子をかぶっている。あとは、Gやマーカーと同じく、革の隊服だ。 キンタローも酒を仰ぐ。いい酒だ。キンタローは、自分からはあまり飲まないが、酒には強い。 しかし、今は、半ば自棄気味の気分だ。 せっかく、新年を叔父と祝いのキスを交わそうと思っていたのに、とんだ邪魔が入った。 ポーカーフェイスなキンタローだが、ピッチは早い。 「お、なかなかの飲みっぷりですね。キンタロー様。やはり、隊長の甥ごさんだけのことはありますねぇ」 「世辞はいい。おまえら、この時期に、何もすることがないのか?」 キンタローは遠回しに皮肉を言った。 「俺は、このメンバーで充分満足してますよ。ま、リキッドちゃんがいないのは寂しいですがね」 ロッドはこたえない。或いは、皮肉とわかっててそんな返答をしたのか。 「マーカーもGも、一緒にいたいって」 「誰がそんなこと言った?」 「態度がそう言ってる」 ロッドが舌を出しながら言った。確かに、マーカーは、いつもより穏やかな顔をしている。彼の弟子、アラシヤマが見たら、『お師匠はんはこんな顔もできるのか』とびっくりするであろう表情だ。 「あ、もう少しで今年も終わりですよ」
5……4……3……2……1……0!
「いやっほー! 今度こそ、明けましておめでとう!」 ロッドが明るくはしゃいで、ハーレムの唇を奪う。 その後、ロッドが受けた眼魔砲は、当の相手のものではなかった。 「き、キンタロー様?!」 「悪い。蚊がいた」 この時期に蚊かよ!と、誰もが心の中でツッコんだ。 そこで、ロッドは気がついた。キンタローもライバルだと。 (いやぁ、モテるねぇ、隊長) 「よくやった、キンタロー。おまえが眼魔砲を撃たなかったら、俺が撃っていた」 物騒な会話である。 (うひゃー、剣呑剣呑) ロッドがひょいっと肩を竦めた。しかし、懲りないこの男は、またもハーレムに近寄った。 「隊長、俺、キスだけでは物足りないっすよ。どうすか? 新年初のベッドを共に……」 どうっ! 「悪い。蜂がいた」 キンタローがしれっとした顔で言った。 ロッドは床に突っ伏した。 この一族は、何かというと、すぐ眼魔砲を撃つ。 「御苦労。キンタロー、ロッドには悪い癖がある。好色でとぼけてて、どうしようもないヤツだ。まぁ、それだけでないから使っているんだが……おまえには一応礼をしなければな。何がいい? あ、お年玉、というのは無しだぞ」 礼? 俺に? キンタローの心臓はどきんと跳ね上がった。 からからになった喉から、キンタローは声を絞り出した。 「お、俺は……その……叔父貴とキスを……」 「ああ、なんだそんなことか。新年の挨拶だな」 そう言って、ハーレムは、キンタローのほっぺにチュッとした。 「……足りない」 キンタローは、ロッドみたいな呟きをもらす。 「あ? 何言って……」 ハーレムは返答する間もなかった。気が付くと口中に甥の舌が入っていた。 突然のディープキスに、ハーレムは驚いていた。しかも、どこで覚えたのか、やり方が巧妙だ。 どんっとキンタローを突き飛ばす。 「どっ、どっ、どこで覚えた、そんなキス!」 真っ赤になったハーレムが叫ぶ。 「どこって、本を読んで……」 「本を読んだくらいでこんなキスができるなんて……お、おまえ、おまえもやっぱり……」 ハーレムは顔を背けてこう言った。 「おまえもやっぱりルーザーの息子だな」 「叔父貴、何が気に入らなかったんだ。そんなに俺と父さんが嫌いか?!」 「もういい。風に当たってくる。誰もついてくるな」 そう言って、ハーレムは、ベランダへと向かっていった。
「叔父貴……」 「気にすることないっすよ。キンタロー様」 すっかりダメージから立ち直ったロッドが言った。 「気にするなって言われても……叔父貴は、俺と父さんを……」 「隊長はね、ルーザー様が好きだったんですよ」 「好きだったらどうして……」 「いやよいやよも好きのうちって言うでしょうが」 イタリアにも、そんな諺があるのだろうか。だが、今度は、キンタローもそれを指摘する余裕を忘れていた。 「キンタロー様、隊長にも頭を冷やす時間をお与えください」 マーカーが、気遣わしげに言った。この男は、本当は優しいのだ。 「わかった……」 キンタローは、ドアを開けて出て行った。自分の部屋に帰るのだろう。 「それにしても、おまえが敵に塩を送るとはな」 「仕方ないでしょ。キンタロー様も嫌いじゃないし。無理して寝ようとは思わないけど」 マーカーの揶揄に、ロッドはへらへら笑いながら答えた。 確かにらしくないけれど、これがロッドの最大限の思いやり。 「G、今回は、アンタの出る幕はなかったな」 「――いつものことだ」 Gは口元を引き締めた、男性的な顔をしたドイツ人である。しかし、口数が少ないため、身近な人間以外には、あまり重要視されない。 ロッドは近づくと、彼の肩をとんとんと叩いた。
後書き 視点がごちゃごちゃです。わざとやった……と言うのは、言い訳に過ぎないでしょうか。 『お人好し』で書けなかった、キンタローの話です。 しかし、グンマが思っていた通りには……陥落には、至らなかったですねぇ。ま、一応、それに近い状態にはなりましたが。 やっぱり、特戦部隊の面々は、キンタローにとってお邪魔虫集団の用です(笑) タイトルの『碌でなし』は、碌でなしの叔父と、恋する甥の話が書きたかったからつけました。 本当はねぇ……裏の話なんでしょうけどねぇ……。やおいが嫌いな方、見逃してください。 最後は、特戦部隊の話になってしまいました。先の読めない展開で、私も書きながら、楽しみました。彼ら、ああ見えても、優しいんですよ。きっと。 私が感じた謎。ルーザーはハーレムにディープキスをしたのか?! だとしたら、ものすごく羨ましいぞ!(笑)
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2009年01月01日 (木) 20時50分 |
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