【広告】AMAZONからG.W.に向けてスマイルセール!4月22日まで開催

第二掲示板@うらたにんわあるど

小説等の、長い文章はこちらに投稿してください。

ホームページへ戻る

名前
Eメール
題名
内容
URL
削除キー 項目の保存

[351] 題名:第七十二話 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年07月02日 (日) 23時26分

           クワサン=オリビー
 ドラゴノザウルスを倒したロンド=ベルはそのままハワイに入った。そしてそこで暫し休暇に入ろうとしていた。
「まずは皆ゆっくりと休んでくれ」
 ブライトが皆に対して言った。そして多くの者はそれに従い海や街に出たのであった。
「そして残るメンバーはいつも同じだな」
 艦橋にはやはりと言うかブライトとアムロが残っていた。
「また宜しくな」
「ああ、こっちこそな」
 二人は笑いながら言い合う。
「俺はまた自分の部屋で機械いじりでもするつもりだけれどな」
「私は何をしようかな」
「おいおい、相変わらず時間の潰し方がわかっていないのか」
「いざ時間ができてしまうとな。どうしても時間をもてあましてしまう」
 ブライトは苦笑しながらこう述べた。
「いい加減趣味の一つでも持っておきたいんだがな」
「それじゃあ本でも読んでいたらどうだ」
「本か」
「ああ。キリーが自伝を書いているそうだしな。暇があれば色々と読んでみるといい」
「何かそれをやったらさらに老けそうだがな」
「ははは、もうそんなことを言える歳でもないんじゃないか」
「そうかもな。お互い何か古くなったな」
「それはな。一年戦争の頃は若かったが」
「もう年寄りになってしまった。月日の経つのは早いな」
「ああ」
「とりあえず本でも読ませてもらうか。これでも読書は嫌いじゃない」
「漫画でも何でもいいけれどな」
「漫画か。そういえばヒカル君も漫画を描いていたな」
「彼女のは熱血スポ根漫画だがいいのか?」
「それを聞くと御前に合いそうだな」
「俺がか」
「ああ。何か御前の声を聞いているとな、思い出すものがある。何だったかな」
「野球なら勘弁してくれよ」
「それはなしだ。まあ今から何か読ませてもらうとする」
「それがいい。じゃあな」
「ああ」
 アムロは艦橋から去った。ブライトも後を当直士官に任せると艦橋を後にした。そして彼も自室に去った。アムロの勧めに従い本を読む為に。
 多くの者はハワイのビーチに来ていた。そしてそこで海水浴を楽しんでいた。
「やっぱりうちってプロポーションいい人多いよなあ」
 勝平が女性パイロットの面々を見ながら言った。
「シーラ様も。あんな綺麗な顔して」
 白いビキニで身を包んだシーラを見て言う。
「胸すっごく大きいんだな。意外だぜ」
「勝平、そのだらしない顔を何とかしろ」
 宇宙太がそんな彼を注意する。
「全く。来てみればまた鼻の下伸ばしやがって」
「ちょっとは引き締まった顔したら?本当にドスケベなんだから」
「そう言う恵子だって中々いいじゃねえか」
「えっ」
 見れば恵子は普通の水着である。緑のワンピースだ。
「脚は綺麗だしよ」
「そ、そうかしら」
 それを聞いて少し驚いた顔になっていた。
「ちょっと胸はねえけれどな」
「胸は放っておいてよ」
 それを言われて少しムッとした顔になる。
「身体動かしていると筋肉がついて胸が減っていっちゃうのよ」
「そうなのか」
「そうなのかって胸は脂肪なんだから当然だろ」
 宇宙太がそれを聞いて説明した。
「運動すれば脂肪は減るんだよ」
「そういえばそっか」
「全く。御前は本当に何も知らないんだな」
「学校の勉強なんてどうでもいいからな」
「そんなことじゃ後でえらいことになるぞ。まあ言っても無駄だろうけれどな」
「俺には頭なんていらねえんだよ。全部勘でやるからな」
「勝手にしろ」
 三人やシーラだけではなかった。見れば実に多くの者がそこにいた。その中にはミサトもいた。彼女は派手な赤いワンピースを着ていた。
「ふうう、何か海も久し振りよね」
「そうね、何年振りかしら」
 その隣にはリツコがいた。彼女は黒いビキニの上から白衣を着ていた。
「海なんて。昔はよく泳いだのに」
「色々と忙しかったからね」
 ミサトはそれに応える。
「気付いたらお互いこんな歳だし。そろそろ体型も崩れてこないか心配なのよ」
「ミサトはビールを止めなさい」
「やっぱりそれ」
「後レトルト食品もね。そのうちブクブク太るわよ」
「うわ、それは勘弁」
 そう言って困った顔になる。
「太ったら加持君やアムロ中佐に嫌われちゃうわ」
「そういえば二人共いないわね。アムロ中佐はまた機械いじりみたいだけれど」
 もうアムロの趣味はわかっていた。だからそれには驚いていなかった。
「加持君は。何処に行ったのかしら」
「何でも猿丸君やサコン君達と一緒に何か話してるらしいわよ」
「あの二人と」
「何の話かはわからないけれど。案外あんたにも関係のある話かもね」
「だったら面白いわね」
 そう言ってクスリと笑った。
「あの二人は私以上の天才だし。何が出て来るか楽しみだわ」
「案外何も出て来なかったりして」
「まあその時はその時ね。ところで」
「何?」
「泳がないの?」
 急に話を変えてきた。
「えっ!?」
「だから泳がないのって。その為に水着に着替えたんでしょ?」
「そのつもりだったんだけれどね」
 ここで少し苦笑いを浮かべた。
「何かあの子達見てると。保護者になりそうで」
 見ればシンジやアスカが楽しそうに遊んでいる。皆明るい顔をして泳いだり西瓜割りに興じたりしていた。
「そこで保護者に徹することにしたのよ」
「じゃあ私も保護者になろうかしら」
「あら、最初からそうだったんじゃないの?」
「まさか。けれど付き合うわ」
「お互いおばさんだと辛いわね」
「あら、おばさんだって魅力はあるわよ」
「熟女の魅力ってやつかしら」
「そうなのかもね」
 二人は笑いながら話をしていた。その目の前では豹柄のビキニを着たアスカがダイゴウジと言い争っていた。
「今度はあたしの番よ!」
「御前さっきやったばかりだろうが!」
 二人は西瓜割りの順番で揉めていた。
「あんただってそうでしょ!」
「俺の後に御前がやった!それでは俺の番だ!」
「そんなの知らないわよ!とにかく今度はあたしなんだから!」
 アスカも引き下がらない。
「とにかく木刀渡しなさいよ!それともジャンケンで決める!?」
「おう、望むところ!」
「それじゃあ行くわよ!」
「よし!」
 二人はジャンケンをはじめた。だが何度やっても勝負はつかない。 
 西瓜割りはその間にジュドー達がやっていた。二人は完全に油揚げならぬ西瓜をさらわれていた。
「ったくよお、旦那は何処に行っても旦那だな」
 青と白の二色のビキニを着たリョーコが胡坐をかきながらそれを見て呟いた。
「子供相手に何ムキになってやがるんだか」
「それがヤマダさんじゃないんですか?」
 淡い青のフリルのついたワンピースのヒカルが言う。
「純真で」
「単純なだけだと思うけれどね、あたしや」
「けれどいいじゃないですか。見ていて楽しいですし」
「まあな」
「西瓜甘いかしょっぱいか。やすいか・・・・・・ぷっ」
「イズミも海でも変わらねえな」
 黒のワンピースのイズミを横目で見ながら言う。どういうわけかリョーコは少し機嫌が悪かった。
「何ていうかなあ、うちの部隊って本当に皆プロポーションいいよな」
 そして勝平と同じことを呟く。
「うちの艦長とかハルカさんは言うまでもなくな」
「リョーコさんだって中々いいですよ」
「よしてくれよ、あたしなんか」
 ヒカルの言葉にこう返す。
「胸だってよお。そんなにねえし」
 そうは言いながらも谷間ははっきりと出ていた。
「男勝りだしよ。やっぱりこんなんじゃ男は寄りつかねえよな」
「そうともばかり言えませんよ」
「よしてくれよ、慰めは」
「リョーコさんみたいな人。すぐにいい人が来ますよ」
「どうだかね」
「もし」
 しかしここで彼女に声をかける者が出て来た。
「!?」
「そこのお嬢さん」
「あたしのことかい?」
 リョーコはそれを受けて顔を上げた。見ればそこには紫の長髪の背の高い男がいた。
「そう、貴方です」
 その男はにこりと笑って応えた。
「宜しければお茶でもどうですか」
「ほら、いたじゃないですか」
「ううん」
 リョーコはその男とヒカルを見て複雑な顔をした。
「これってナンパだよなあ」
「そう考えられてもいいですが」
「波に乗りながらナンパ」
「それはもう一文字しか合ってねえぞ」 
 イズミに突っ込みを入れてから返す。
「で、どうするんだい、あんたは」
 男に対して問う。
「あたしをナンパして。泳ぐかい?一緒に」
「よければ食事などでも」
「いいねえ。それじゃあ行くか」
 そう言って立ち上がった。そして男の手と自分の手を絡めさせた。
「ヒカル、イズミ」
 そして二人に対して顔を向けて言った。
「ちょっと遊んで来るぜ。じゃあな」
「はい、どうぞ」
「美味しく妬けまぁ〜〜〜す」
 二人はそう言って見送った。リョーコは機嫌をなおして男と一緒に食事に向かった。見れば彼女は小柄であったがかなりプロポーションがいいと言えた。自分のことは案外気付かないものなのかも知れない。
 リョーコだけでなく他の面々も海を楽しんでいた。アイビスとスレイはイルイと二人で海の中にいた。
「そら、手を離すぞ」
 銀のビキニのアイビスがイルイに泳ぎを教えていた。
「いいか、自分で泳ぐんだ」
「うん」
 アイビスは言った通りに手を離す。イルイは一人で泳ぎはじめた。
「そうだ、その調子だ」
 彼女はイルイに対して声をかける。
「頑張れ、もう少しで泳げるようになるからな」
 見ればぎこちないながらもイルイは泳ぎはじめていた。アイビスはそんな彼女を励ましていたのだ。
「よし、まずはここまでだ」
 そしてイルイを抱き締めた。
「いいぞ、泳げるようになってきたじゃないか」
「アイビスが教えてくれたから」
 イルイは応える。
「段々泳げるようになってきたよ」
「あたしはそんなに教えていないけれどな」
「いや、中々いい教え方だぞ」
 隣にいるスレイが言う。彼女は青い胸が大きく露出したワンピースを着ていた。胸はアイビスのそれより遥かに大きかった。
「ううむ」
「どうした」
「いや、ちょっとな」
 アイビスもそれが気になりだしていた。
「胸が」
「!?胸がどうした?」
 だがスレイはまだそれには気付いてはいない。
「どうもな。あたしにはビキニは似合わないみたいだな」
「そういうわけでもないぞ」
「そうか?」
「よく似合っている。綺麗な身体がよく出ているぞ」
「綺麗か?あたしはそうは思わないが」
「見事なものだぞ。その細い身体がな。羨ましい」
「羨ましい」
「ああ」
 どうやらスレイはスレイでアイビスに対して嫉妬を覚えているようである。欲しいものは人によって違うということであろうか。
 何はともあれアイビスは少し気持ちが楽になった。その横ではアラドとゼオラがアスカ達とは別に西瓜割りに興じていた。ゼオラは熊の柄のビキニである。
「何かなあ」
「何よ」
 ゼオラはその大きな胸を突き出してアラドに問う。
「何か言いたいことがあるの?」
「いや、ゼオラって水着も熊なんだなって思ってな」
 アラドは問うてきたゼオラに対して答えた。
「熊?」
「ああ、下着もだろ」
 アラドは言った。
「だからなあ」
「ちょっと待ちなさいよ」
 それを聞いたゼオラの顔色が変わる。
「何であんたがそんなこと知ってるのよ」
「だってこの前見えたから」
「えっ!?」 
 それを言われて急に顔が赤くなる。
「見えたって」
「俺に踵落とし入れた時だよ。はっきり見えたんだよ」
「嘘っ、あの時に」
 さらに顔が赤くなる。
「何で見えたのよ」
「何でってそんなことしたら見えるのは当たり前だろ」
 アラドは答えた。
「ばっちり見えたぜ。可愛いの履いてるんだなって」
「そんなこと言ったらあんたはどうなのよ」
 顔を真っ赤にしたまま誤魔化しにかかる。
「そのトランクス。いつも履いてるトランクスと殆ど同じじゃない」
 見ればアラドの水着は青いトランクスのものである。
「赤とか青とか。他にはないの!?」
「黒とか緑もあるぜ」
 アラドは答えた。
「こればっかりじゃないけれどな」
「そんなこと言ってるんじゃないわよ」
 ゼオラはさらに言う。
「全く。水着位他の柄にしなさいよ」
「それはゼオラもそうだろ」
「うっさいわね」
「大体何でトランクスのことまで知ってるんだよ」
「そ、それは」
 まさか着替え中を見たことがあるとは言えなかった。
「それは・・・・・・」
 顔はさらに赤くなる。もう林檎の様であった。
「それはあんたが」
「俺が?何?」
「な、何でもないわよ。とにかく」
 ゼオラは無理矢理誤魔化しにかかった。
「私は熊が好きなのよ、放っておいてよ!」
 無理矢理そう締め括った。彼等は彼等で遊んでいた。まだまだ子供ではあるが。
「何て言うか久し振りにのどかね」
「そうだな」
 レッシィがアムに答えた。
「今まで何かと立て込んでいたからな。たまにはこうした時間もあっていい」
「そうね」
 二人はワンピースであった。アムは白の、レッシィは黒と白のチェックの。レッシィの方が派手な水着であった。
「泳ぐのもプールばかりだったしね」
「あれはあれでいいが。やはり海で泳ぐのが一番だな」
「開放感があるしね」
「そうだな。それにこの日差しだ」
 上を見上げて言う。
「たまには太陽の光を浴びるのも気持ちがいいな」
「そうね」
「あんた達よくそんなことが言えるわね」
「本当」
 そんな二人にエクセレンとアクアが言った。
 見れば二人は水着ではなかった。サングラスをかけ帽子を被り肌を白い大きなバスタオルで覆い日傘まで差していた。かなりの重装備であった。
「こんなに強い日差しなのに」
「お肌の敵よ」
「って何でそんなに警戒しているんだ?」
 レッシィはそんな二人を見て言う。
「戦場にいるより重装備じゃないか」
「そんな格好で暑くないの?」
「そりゃ暑いわよ」
 アクアが答えた。見れば顔は汗だらけである。
「けれどね。お肌を痛めることに比べたら」
「こんなのは平気なのよ」
「そうかな」
「とてもそうは思えないけれど」
 二人は首を傾げさせていた。
「若いからよ、そんなことが言えるのは」
「私達の歳になると。もうこの日差しが」
「そうかな」
「ミサトさん達なんか元気に水着でいるわよ」
「人は人、自分は自分よ」
 エクセレンが答えた。
「どうせミサトさんも日焼け止めクリーム塗ってるんだから」
「けれど私達はそれだけじゃ駄目なのよ。だからこれだけ武装しているの」
「ううむ」
「警戒し過ぎだと思うけれど」
「どうせあたし達はおばさんよ」
「そのうちわかるわ。私達のことが」
「気にし過ぎだと思うが」
 レッシィはまた首を傾げさせた。そしてこう言った。
「まだ二十三だったな、二人共」
「ええ」
 二人はそれに頷いた。
「だったら。そんなに気にすることは」
「まだ若いじゃない。ミサトさんやリツコさんに比べたら」
「そこ、歳の話はしない」
 だがここで遠くからミサトの突込みが入って来た。見れば指をこちらに向けている。
「いいわね」
「了解」
 四人はそれに答えた。ミサトはそれを聞くととりあえずはよしとした。
「宜しい」
「何で聞こえたんだ?」
「ミサトさんって太るとか歳とかの話には敏感なのよ」
 四人はヒソヒソと囁き合った。
「だからどれだけ離れていても耳に入るのよ」
「それはまた厄介だな」
「まあ複雑なお年頃だしね」
「あたし達だってそうなのよ」
 エクセレンがまたそれを口にした。
「とにかくね。女ってのは二十を過ぎるともう駄目なのよ」
「そうそう、もうね、すぐにお肌や髪が駄目になるんだから」
「その割にエクセレンさんもアクアさんもいいプロポーションしてるわよね」
 だがアムはそうは思わなかった。
「髪も綺麗だし」
「手入れしてるからよ」
 だがアクアはそんな言葉に対してこう返した。
「手入れしないと。本当にとんでもないことになるんだから」
「そうなの」
「とにかくね。今が花なのよ」
「女の子は。このプロポーションだって維持するのが大変なんだから」
 次第に話は切実なものとなっていく。
「女は大変なの」
 これが二人の結論であった。
「二十三にもなれば。嫌でもわかるわ」
「ううん、何か歳とりたくなくなってきちゃった」
「私もだ。何かな」
「まあ嫌でもとるから」
「その時に備えておくことね」
 こう言ったところでアクアは横を擦れ違った黄色の髪の少女に気付いた。
「あら」
「どうしたんですか?」
「いえ、さっきの娘可愛いなって思って」
「?どんな娘だったの?」
 エクセレンも気になって尋ねる。
「さっちここを通った小さい娘・・・・・・ってもういないわ」
「そうなの」
「さっきまでいたのに。おかしいわね」
「まあどっか行っちゃったんでしょ。ところでこれからどうするの?」
「艦に戻りませんか?日差しが強いし」
「わあ、何か消極的」
「それじゃあ飲むとか。いい店知ってますよ」
「いい店?」
「はい、士官学校の訓練で立ち寄った時に見つけたんですよ。よかったら案内しますよ」
「それじゃあお願いするわ」
「はい」
「何か二人の肌や髪の毛がそうなる原因がわかったな」
「お酒よね、どうも」
 アムとレッシィは楽しそうに砂浜から去って行く二人の後ろ姿を見ながら言った。二人は毎日かなりの量の酒を飲んでいる。とりわけエクセレンの酒癖の悪さはロンド=ベルでは有名になっていた。
 この日も飲んだ。そしてその店でどんちゃん騒ぎだった。結局肌も髪も荒れる原因は歳ではなく彼等自身の生活にあったのであった。
 何はともあれ一日のバカンスは終わった。艦に戻って来た面々は実によく日焼けしていた。
「ああ、痛い痛い」
 リョーコが日焼けして茶色になった肌を見ながら呟く。
「ちと焼き過ぎたかな」
「二人で何処に行ってたんですか?」
「あの後トロピカルジュースを飲んでな」
「はい」
 彼女はヒカルに何があったのかを話した。
「二人で色々と話してたんだよ。ビーチでな」
「それでそんなに焼けたんですね」
「ああ。けれど結局それだけだった」
 だがそれ以上は何もなかったらしい。
「どうもあの紫の髪の兄ちゃんも色々と連れがいたらしくてな。キリのいいところで別れたんだ」
「お連れさんですか」
「ああ。何でもパイロットとか言っていたな。何のパイロットかまではわからねえが」
「連邦軍の人でしょうか」
「かもな。その割には変わった感じだったけれどな」
「変わった感じ」
「ひょうきんなところもあったけれど気品もあったな。面白い奴だったよ」
「へえ」
「あの外見じゃそこそももてるだろうけれどな。けれど結構ふられてそうだな、ありゃ」
「どうしてですか?」
「抜けてたんだよ。財布やら落として慌ててたし」
「あら」
「別れる時にも道が何処かわかってなかったしな。結構おっちょこちょいだったな」
「何か私も会いたくなってきました」
「そうだな。また会えたらいいな」
 リョーコは笑いながらこう述べた。
「しっかし、やっぱビキニは止めといた方がよかったかもな。腹まで痛いぜ」
「露出が多いですからね」
「折角アキトに・・・・・・おっとと、何でもねえぜ」
「はいはい」
 ヒカルもわかってはいるがそれ以上聞こうとはしない。
「まあビキニはちょっと懲りたな」
「後でお肌を無理なく剥がせるクリームお渡ししますね」
「あ、悪いな」
「クリームを使ってクリーンに」
「だからよお、何時でも駄洒落をやりゃあいいってもんじゃねえんだよ」
 お決まりのイズミの駄洒落に突っ込む。こうして彼等の休みの夜は過ぎていった。
 次の日はオフではなかった。彼等は朝になるとハワイのレーダーサイトから報告を受けていた。
「マウナロア山にか」
「はい」
 レーダーサイトの責任者がブライトに答えた。マウナロア山とはハワイ島にあるカザンである。盾状火山として有名な山である。
「ヘビーメタルが展開しています」
「というとギャブレーか」
「まああいつはいるだろうな」
 キャオがダバに応える。
「まあ毎度毎度懲りない奴だな」
「その数五百」
「五百」
「そして援軍も来ているようです。こちらは四百程です」
「そちらはまたバルマーのものか」
「多分そうだな」
 アムロがブライトの言葉に返した。
「どうする?当然行くんだろう?」
「ああ」
 ブライトは頷いた。
「勿論だ。では行くか」
「わかった。では全艦出撃」
 グローバルが全艦に指示を下す。
「マウナロア火山に向かう。そしてそこにいる敵を掃討する。よいな」
「はっ」
 こうしてロンド=ベルはマウナロアに向かった。既にそこにはヘビーメタル達が展開していた。
「久し振りだな、ダバ=マイロード!」
 聞き慣れた声が戦場に響き渡る。
「今度こそ決着をつけてやるぞ!」
「ギャブレー、やはりいたか!」
 ダバがそれに返す。
「また地球に!そんなに他の星の戦いに介入したいのか!」
「黙れ!これは生きる為だ!」
 ギャブレーは反論する。
「私の様な貧乏貴族が身を立てるにはこうして軍人になるのが一番なのだ!そんなこともわからないのか!」
「そう言いながらあんた食い逃げまでしてたじゃない」
「全く。何処が貴族なんだか」
「ええい、五月蝿い!」
 アムとレッシィに言い返す。
「あれは仕方のないことだ!何時までも過ぎたことを言うな!」
「けど頭、そう言いながら盗賊の首領もやってましたよね」
「だから黙っておれ!そんなことは言わずともよい!」
 ハッシャにも返す。
「私は生きる為に戦っている!そして身を立てるのだ!」
「志が低いぞギャブレー君!」
「それを言うな!」
「毎回見てるけど面白い兄ちゃんだよな」
 リョーコがそれを聞きながら呟く。
「顔は見たことねえけど三枚目なんだろうな」
「案外二枚目かも知れませんよ」
 ヒカルが突っ込みを入れる。
「声は格好いいからな。しかしどっかで聞いた声だな」46
「あの黒騎士さんに似ていますよね」
「ああ、あの人か」
 言うまでもなくバーン=バニングスのことである。
「あとマックスさんにも」
「僕にも?」
「はい、似ていませんか?凄く」
「言われてみれば」
 マックスの方でもそれを認めた。
「似てるね、本当に」
「でしょう?何故なんでしょうね」
「他人の空似だろ。あたしだってノインさんと声が似てるしな」
「まあそうですね」
「そんなこと言ってたらキリがねえぜ。なあイズミ」
「私の声はマヤさんとスレイさんと同じ・・・・・・」
「なのよねえ、本当に似てるのよ」
「思えば不思議なことだ」
 それを受けてマヤとスレイがモニターに出て来た。
「おかしなこともあるわ」
「私の方がイズミに似ているが。この部隊は声が似ている者が多い」
「だからなんだよ。いい加減そういった話は止めようぜ」
「了解」
「こういった話何度目かわからねえしな」
 彼等がそんな話をしている間にもダバとギャブレーの舌戦は続いていた。
「今度こそは遅れは取らん!」
「つまり退くつもりはないということか!」
「当然のことだ!ここで貴様を倒す!」
「なら!」
 まずはダバのエルガイムマークUが戦場に降り立った。
「容赦はしない!行くぞ!」
「望むところだ!来い!」
「期待していますよ、ギャブレー殿」
 ここで一人の少女の声がした。
「はい」
 見れば黄色い髪の少女がカルバリー=テンプルにいた。
「クワサン殿」
 ギャブレーはその言葉に反応した。
「わかっております。このギャブレット=ギャブレー、必ずや」
「はい」
「頭ぁ」
 そんな彼にハッシャが声をかけてきた。
「また一目惚れですかい?」
「馬鹿っ、これは運命なのだ」
 だがギャブレーはそれに反論する。
「運命って」
「可憐な方だ。このギャブレー、必ずや」
「何をブツブツと言ってる、ギャブレー」
 だがそんな彼にネイが声をかけてきた。
「もうすぐ戦いがはじまる。無駄話は止めろ」
「はっ」
「そうだぞ、敵は手強い」
 リョクレイ=ロンも言う。
「油断してはならないぞ。わかっているな」
「無論です」
「わかっているならいい。では先陣を務めよ」
「はい」
 それに従いアシュラテンプルを前に出す。
「行くぞ、ダバ=マイロード!」
「来い!」
 見れば彼だけではなかった。ロンド=ベルの面々は既に戦闘態勢に入っていた。最早衝突は避けられなかった。そして双方共それを避けるつもりもなかった。
 こうして戦いの火蓋が切って落とされた。まずはダバとギャブレーのパワーランチャーの撃ち合いからはじまる。
「これでっ!」
「何のっ!」
 二人はほぼ同時に攻撃を仕掛けた。だがそれは互いに左右に動きかわしてしまった。
「また勘がよくなっている!」
「腕をあげたか。それでこそ私のライバルに相応しい」
 二人はそれを見て互いに呟いた。
「だが私とてやられるわけにはいかん」
「それは俺もだ」
 そして睨み合う。
「この星の人達の平和の為にも」
「家の復興の為にも」
 それぞれ守るものは違っていたがそれに向けられるものは同じであった。
「俺は負けられない!」
「私は逃げぬ!」
 そしてまた射撃に入った。二人は左右に激しく動きながら攻撃を続ける。だがそれは全て互いにかわしてしまう。戦いは双方五分と五分であった。
 その中一機のカルバリーテンプルが戦場にいた。ダバはそれにふと気付いた。
「あれは」
「どうしたの?ダバ」
「いや、何か気になるんだ」
「戦場で余所見をするとは!」
「おっと!」
 そこに来たギャブレーの攻撃をすんでのところでかわす。
「ダバ!貴様らしくもないぞ!」
「くっ!」
「どうしたの、一体」
 リリスがそんな彼に声をかける。
「危ないよ、他を見ていると」
「わかっている、けど」
「けど?」
「あそこにいるカルバリーテンプルは」
「カルバリーテンプル?」
「何か気になるんだ。あれは一体」
「この感触」
 そのカルバリーテンプルの中にいた黄色の髪の少女もそれに気付いた。
「ヤーマンか」
「ヤーマンだって!?」
 ダバはその言葉にハッとした。
「その声・・・・・・まさか」
 ダバは咄嗟にモニターを入れた。そしてそのカルバリーテンプルに問う。
「その声は・・・・・・オリビーか!?」
「何だとっ!」
 ギャブレーはそれを聞いて思わず声をあげた。
「ダバ!何故貴様クワサン殿の名を知っている!」
「やはり!オリビー、俺だ!」
 彼はギャブレーの言葉で全てを確信した。そしてクワサンに問う。
「御前は・・・・・・」
 クワサンはそれを聞いて思わず我を忘れた。
「どうして私の名を知っている」
「忘れたのか、オリビー!」
 ダバはそんな彼女に対してさらに言う。
「お兄ちゃんだ!わからないのか!」
「何っ!?」
 ギャブレーだけではなかった。それを聞いたアムもレッシィもその顔に驚愕の色を露にさせた。
「兄だと!?」
「嘘、そんなの聞いてないわよ!」
「どういうことなんだ、これは!」
「私には兄なぞ・・・・・・」
 クワサンのその整った顔が歪む。
「いはしない!それを御前は」
「わからないのか!どうしたんだ!」
 それでもダバは問い続ける。
「俺のことが!どうしたんだ!」
「クワサン殿!」
 ギャブレーが二人の間に咄嗟に入った。
「この男の言葉は聞かれぬよう!貴女は苦しんでおられる!」
「ギャブレー殿」
「ダバ!」
 ギャブレーは何時になく熱くなっていた。
「クワサン殿を苦しめることは私が許さん!」
「ギャブレー!」
「クワサン殿は私が守る!ここは通しはせぬぞ!」
「俺が言っているのはそんなことじゃない!」
 ダバも感情的になっていた。思わず叫ぶ。
「俺はオリビーを救わなくてはならないんだ!この戦いだって」
「この戦い!?」
「最初はオリビーを探す為だったんだ!それが今やっと会えたんだ!」
「そうだったのかよ」
 ナデシコでそれを聞いていたキャオが呟く。
「あいつ、そんなことは一言も」
「言えなかったんだろうな」
 京四郎がそれに応える。
「色々と考えがあってな。何となくわかるぜ」
「京四郎」
「俺も一人そういう奴を知っているからな」
「そうかい」
「ああ。だからそれは許してやれ」
「許すも何も俺はあいつの親友だぜ」
 だがキャオの声は明るいものであった。
「許すも何もねえじゃねえか。そりゃ言えないことだってあるぜ、人間なんだからな」
「そうか。いい奴だな御前さんは」
「へっ、褒め言葉はいらねえぜ」
 それに対してキャオはいつもの調子であった。
「このキャオ様は器が大きいのさ。隠し事の一つや二つじゃビクともしねえぜ」
「そうか」
 口にこそ出さなかったが京四郎はキャオを見直した。今までは単に軽いだけだと思っていたがその中にあるものを見たからであった。
「ではこれからも支えてやるんだな」
「ああ、言うまでもねえぜ」
 その声は明るいままであった。
「何時でもダバの側にいてやるぜ」
「よし」
 京四郎は頷いた。彼の心が完全にわかった。そしてそこに自分のあるべき姿も見出していたのであった。
 ダバはクワサンに問い続けていた。だがそれに対してクワサンは心を乱していた。
「オリビー!聞くんだ!」
「私には兄なぞ!」
 クワサンはそれを必死に否定する。
「いる筈が・・・・・・!?」
「クワサン殿!」
「どうしたんだ、オリビー!」
「頭が・・・・・・」
「ダバ、貴様のせいだ!」 
 ギャブレーは苦しむクワサンを見て叫ぶ。
「貴様がクワサン殿を!」
「ギャブレー、御前はこのことは何も知らないんだ!」
「何っ!?」
「オリビーは俺の・・・・・・」
「何だというのだ」
 普段とは全く違うダバの様子にギャブレーも戸惑っていた。
「一体これは」
「リョクレイ」
 クワサンはリョクレイの名を口にした。
「リョクレイ、何処にいる!?」
「どうした、クワサン」
 リョクレイのガルーンがそこにやって来た。
「気分が悪い・・・・・・」
「気分が」
「そうだ。撤退していいか」
「・・・・・・・・・」
 リョクレイはそう言うクワサンを見た。見れば戦える状況ではないのがすぐにわかった。
「わかった」
 彼は頷いた。
「では下がるのだ。ここは私が受け持とう」
「済まない」
「ギャブレー、側にいてやってくれ。いいな」
「了解した。ダバ」
 ギャブレーはダバに顔を戻してきた。
「今回の勝負は預けておく。ではな」
 そしてこう言い残して戦場を後にした。後にはダバだけが残った。
「オリビー・・・・・・」
「ダバ」
 そんな彼にリリスが声をかけてきた。
「わかってると思うけど」
「ああ」
 ダバは力ない声で頷いた。
「わかってるさ。じゃあ戦いに戻るか」
「うん」
「ダバ=マイロード」
 ここでリョクレイが彼に声をかけてきた。
「行くぞ」
「ああ。ではこちらも」
「うむ」
 二人は戦いに入った。ダバはとりあえずはクワサンのことは頭の片隅に置いた。そして戦いに心を戻したのであった。
 クワサンとギャブレーが撤退してからも戦いは続いていた。そして敵の援軍が到着した。
「レーダーに反応!」
「敵の援軍ね」
 ユリカはハーリーにこう応えた。
「はい、そうです」
「数は?」
「四百程です。何か新しい敵みたいですよ」
「バルマーじゃないの?」
「ちょっと違いますね。これは」
「これは!?」
「何だろう。バルマーに近いですけれど」
「宇宙から来たみたいな感じ?」
「はい。何か見たことないですね、この反応は」
「フフフ、ロンド=ベルの諸君」
 その中央にいる緑の戦艦から声がした。
「その声は!?」
 沙羅がそれに反応した。
「久し振りだな。元気そうで何よりだ」
「シャピロ、生きてやがったのか!」
「如何にも」
 その声は忍の問いに応えた。
 モニターに赤い髪と鋭い目を持つ男が現われた。シャピロ=キーツであった。かっては連邦軍に所属し、それを裏切ってバルマーに入った男である。先の戦いで戦死したものと思われていたのである。
「御前はあの時俺達が倒した筈だが」
 亮が言う。
「それがどうして生きているんだよ」
「式部、バルマーを侮ってもらっては困るな」
「バルマーを」
「そうだ結城、あの時死んだのは私のクローンだ」
「ヘッ、バルマーお得意のやつだな」
「オリジナルの私は生きていた。これは事実だ」
「つまりあれは影武者だったということか」
「司馬、それは違うな」
「何!?」
「あのシャピロもまた私だった。そして今ここにいる私も私なのだ」
「何かよくわかんないや」
「わかる必要はない。どのみち御前達の運命は決まっている」
「どうせ俺達をぶっ潰すとか言うんだろ」
「察しがいいな、藤原」
「おめえの考えはもうわかってるんだよ」
 忍は激しい表情でこう返す。
「またやってやるぜ。覚悟しな」
「結城」
 ここでアランが沙羅に声をかけてきた。
「わかっているな」
「勿論だよ」
 沙羅ははっきりとした声で返す。
「心配しないでいいよ」
「わかった。それでは信頼させてもらう」
「ああ」
「後ろは任せておけ」
「それじゃあ任せたよ」
「うむ」
 アランはそれを受けていつも通りダンクーガのフォローに回った。シャピロはその間に戦艦の回りに展開するマシン達を見回して言った。
「これはムゲ=ゾルバドス帝国のものだ」
「ムゲ=ゾルバドス帝国!?」
「それは一体」
「ムゲ宇宙にある別の世界の国家だ」
 イングラムがそれに答える。
「別の世界の」
「そうだ。その支配者であるムゲ=ゾルバドスもまた地球を狙っているのだ」
「つまり同じ目的でバルマーと同盟を結んでいるわけかよ」
「簡単に言うとそうなる」
 豹馬にこう答える。
「だからこそシャピロはここにいるのだ。違うか」
「ふふふ、流石はイングラム=プリスケンだ」
 シャピロはその話を聞いて笑みを受けベた。それは肯定の笑みであった。
「その通りだ。ムゲ=ゾルバドスはバルマーの協力者だ」
「やはりな」
「そして私は今その軍を率いて地球に戻って来た。宇宙を支配する為にだ」
「手前まだ諦めてなかったのかよ」
 忍はそれを聞いてその目に嫌悪の光を宿らせる。
「そんな馬鹿げた夢見続けているのか」
「馬鹿げた夢ではない」
 しかしシャピロはそう思ってはいなかった。
「私ならばできる。私は選ばれた者だからだ」
「愚かな」
 だがイングラムはその言葉を一笑に伏した。
「何だと」
「愚かだと言ったのだ」
 イングラムはまた言った。
「宇宙を支配するなど。その様なことは誰にもできはしない」
「私ならばできる」
「ではもっとはっきり言おうか。貴様では無理だ」
「何!?」
「貴様程度の器では無理だ。貴様は自分が思っている程優れてはいない」
「私を侮辱するのか」
「事実を言うことが侮辱ならばそうだ」
 イングラムは言い返した。
「貴様は所詮駒に過ぎない。バルマーから見ればな」
「ふざけたことを言うな、私はその駒を使う者だ」
 シャピロのその鋭い目に怒気が宿る。
「だからこそ私は今ここにいる。そしてこれを踏み台にして」
「神になるとでも言うのか?」
「そうだ」
 彼は言い切った。
「私は宇宙の支配者、そして唯一の神となるのだ。その邪魔はさせん」
「邪魔をするつもりはない」
 イングラムは冷たい声で言い放った。
「自らの器を知らぬ者は破滅する」
 そして言う。
「貴様は俺が何もしなくとも自滅する。どうして邪魔をする必要があろうか」
「フン」
 シャピロはもうこれ以上取り合おうとはしなかった。
「ではそこで見ておけ。私が神となるのをな」
「何も変わってねえな、あの馬鹿は」
 リュウセイがそれを見て呟く。
「馬鹿もあそこまでいくと立派だぜ」
「おいリュウセイ」 
 ライが彼に声をかける。
「何だよ」
「あまりそう言うことは言うな」
「悪口はよくないってか?何か今日はやけに道徳的だな、おい」
「残念だが違う」
 ライはこう返してすっと笑った。
「馬鹿に馬鹿と言っては悪いだろう」
「おっと、そっちか」
「そうだ。馬鹿だと言ってもわからないからな」
「そうだな。プライドだけは異常に高いからな」
「ああ」
「言ってくれるものだな」
 ライの言葉通りであった。シャピロは態度を変えない。
「神をそこまで侮辱してくれるとは」
「フン、リュウセイ達の言ってることが正しいね」
 今度は沙羅が言った。
「あんたは自分がわかっていないよ。他人を見下してばかりでね」
「戯れ言を」
「戯れ言かどうかはすぐにわかるさ。忍」
「おお、わかってるぜ」 
 忍がそれに頷く。
「今日はとりわけ派手に行くぜ!シャピロ、覚悟しな!」
「よし、俺達も行くぞ!」
「久し振りに何かこう熱くなってきたからね」
 獣戦機隊が燃えた。ダンクーガのその身体が赤く燃えた。
「獣化したか」
 アランはそれを見て呟いた。
「よし、これでこの戦いは勝った」
「勝ったのかよ」
「あの状態になったダンクーガを止められる者は存在しない」
 アランはサブロウタに答えた。
「まあ見ておいてくれ。ダンクーガの本当の力をな」
「それじゃあお手並み拝見といこうか」
 万丈が前に出て来た。
「僕達はサポートに回ってね」
「何言ってるんだよ、万丈さん」
 そんな彼に勝平が声をかける。
「ダイターンは前面に出てもらわないと。貴重な戦力なんだから」
「おっと、そうか」
「俺達も前に出るからさ。派手にやろうぜ」
「それじゃあこっちも久し振りにあれをやるか」
「待ってました!」
 勝平が声をあげる。
「やっぱいあれを聞くと違うんだよな」
「じゃあ行くよ」
「ああ、やってくれよ」
「それじゃあ」
 万丈は構えに入った。
「世の為人の為、バルマーの野望を打ち砕くダイターン3!この日輪の輝きを怖れぬのならばかかって来い!」
「よし!」
 それを聞いてむしろ勝平の方が気合が入った。
「じゃあ行こうぜ万丈さん!」
「何で御前が元気になるんだよ」
 宇宙太が活気付く彼に問う。
「まあまあ堅いことは言いっこなし」
「確かに格好いいけれど。あたし達もあんな決め言葉があったらなあ」
「それじゃあ俺達も考えっか」
「もうザンボット=フォーメーションがあるだろ」
「おっと、そうか」
「ワン」
「ほらほら、君達も来るんだろ?」
 万丈が彼等を茶化すようにして声をかける。
「早くしないと置いていくよ」
「あっ、いけね」
「早く動かせ勝平」
「やっぱり万丈さんみたいにはいかないのね」
 そんなこんなでシャピロの軍とも戦闘に入った。その中心にいるのはやはりダンクーガであった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」 
 忍が叫ぶ。断空砲でまずは小型の戦闘機達を薙ぎ払う。
「雑魚はどきやがれ!」
「ちょっと忍!こんなの相手に断空砲はないでしょ!」
「うっせえ!誰だろうが俺の前にいる奴は潰すだけだ!」
 だが彼は沙羅の言葉にも耳を貸さない。完全に熱くなり我を忘れていた。
「どけ!シャピロの前に行ってやる!」
「相変わらず熱いね、どうも」
 万丈がそれを見て呟く。
「僕もここはホットにいかなくちゃいけないかな」
「万丈さんがホットにいくなら俺達だって」
 ザンボットも出て来た。
「派手にやらなきゃな」
「けれどムーンアタックは多用するなよ」
「あれって凄くエネルギー使うから」
「わかってらあ。とりあえずはザンボットクラップとかで雑魚の相手をしてりゃいいんだろ」
「わかってるじゃないか」
「勝平も忍さんと同じで熱くなり易いから。心配なのよ」
「俺はそれがウリなのさ」
「ウリじゃねえだろ、それは」
「無鉄砲っていうのよ」
 宇宙太と恵子は突っ込みを入れる。
「ちょっとは後先考えてよね」
「毎度毎度エネルギー切れになってるからな」
「わかってらあ。じゃあここは静かに」
「断空砲フォーメーションだ!」
 また忍が叫ぶ。そしてまた敵を薙ぎ払っていた。
「・・・・・・やっていいよな」
「そうだな。もう派手にやってる人はいるしな」
「ここはソフトに行きましょう」
「戦いにソフトなんてあんのか?」
「まあ細かいことは言いっこなしで。それじゃあやるか」
「おう」
 万丈に応える。そして彼等も戦場に向かう。
「ダイターンキャノン!」
 足から砲弾を放つ。それで敵のロボットを撃墜した。
「まずはこれで一機」
「一撃か」
「やっぱりダイターンって凄いわね」
「おい、俺達だってやるんだろ」
「おっと、そうか」
「おっとじゃねえよ宇宙太」
 勝平はそれを聞いて拍子抜けした声を出した。
「いつもは俺の台詞だろ、それは」
「何かな、ダンクーガの派手な活躍に押されてな」
「何はともあれあたし達も行かなくちゃ」
「そうなんだよ。それじゃあ」
 ザンボットは構えに入った。
「バスターミサイル!」
 両膝の脇から円盤状のミサイルを放った。それで敵の小型戦闘機を撃墜した。
「まあざっとこんなもんだな」
「何だよ、接近戦はやらないのか」
「一気に近付けばいいのに」
「別にいいじゃねえか。敵を倒せりゃな」
「まあな」
「それじゃあ次行きましょう」
「おうよ」
「いけええええええええーーーーーーーーーーーーっ!」
 目の前の敵に向かおうとしたところで後ろからカミーユの声がした。
「あらっ」
 そして目の前にいる敵の戦闘機達が光の帯の中に消えてしまった。ゼータUのメガランチャーであった。
「うわ、一掃されたよ」
「勝平君、あまり余所見しない方がいいわよ」
 ファがモニターに出て来て言う。
「ファさん」
「今カミーユも気合が入っているからね」
「ニュータイプに気合がか。こりゃ凄えな」
「何言ってやがる、御前だってザンボットのパイロットだろ」
「そうよ。そんなこと言ってる暇があったらまた敵に向かえばいいじゃない」
「何か今回俺言われっぱなしだな」
 ブツブツ言いながらも恵子の言葉に従う。
「じゃあやるか」
 そして目の前の敵をザンボットグラップで斬り裂く。その腕は決してニュータイプにも負けないものであった。
「ふむ」
 シャピロは戦場を冷静に見ていた。そして自軍の戦闘機達が次々に撃墜されていくのも確認していた。
「やはり尋常な相手ではないな」
「やけに冷静だね」
 戦艦のモニターにネイが出て来た。
「ネイ=モー=ハンか」
「こっちもかなりやられてるけれどね。何か策はあるのかい?」
「策か」
「あんたは策士だって話じゃないか。今それを見せてもらいたいもんだね」
「策はここぞという時に使ってこそ価値がある」
 シャピロはネイに対してこう答えた。
「今はその時ではない」
「ヘン、出し惜しみかい」
「生憎私は挑発に乗るつもりはない」
 だがシャピロはそれには取り合わなかった。
「今は只の様子見だ。頃合いを見て退こう」
「余裕だね、それだけ派手にやられてるのに」
「所詮地球の戦力なぞ知れている」
 彼は落ち着いた言葉で続ける。
「何時でも潰せる。我々は言うならば猫だ」
「で、地球が鼠だってわけかい」
「そうだ。鼠を始末するのを楽しんでいるだけだ」
「それじゃあ精々猫のふりを続けるんだね」
 ネイはシャピロに対してやや冷たい言葉を送った。
「それで足下を救われない様に祈るよ。前の時みたいにね」
 そう言ってモニターから消えた。シャピロは彼女が姿を消すと急にその顔を歪めさせた。
「言える時に言っておくがいい。後になって後悔しないようにな」
 彼のプライドが見えていた。だがそれに気付いたのは彼以外にはいなかった。
 戦いは続く。しかしその中でもダンクーガはシャピロの乗る戦艦に次第に近付いていた。
「そこを動くな、シャピロ!」
 忍は左右に剣を振る。それで敵を払っていく。
「ここが貴様の墓場だ!覚悟しやがれ!」
「ここまで来たか藤原」
 シャピロはダンクーガを見据えて言った。
「よく来た。それは褒めてやろう」
「ヘッ、手前になんか褒められても嬉しかねえぜ」
「そうか。では何が望みだ」
「わかってる筈だ、手前の首だ」
 彼は言う。
「覚悟しやがれ!この断空光牙剣で決めてやるぜ!」
「生憎私は貴様にやられるわけにはいかない」
 だがシャピロはそれに対してクールな言葉で応じた。
「私はこれから銀河の神になるのだからな」
「また言ってやがるな」
 リュウセイがそれを聞いて侮蔑した様に呟いた。
「神だ神だってそんなに偉くなりたいのかよ」
「分不相応な野心だな」
 レビも言った。
「あの男は。昔からそうだった」
「らしいな」
 ライが応える。
「それは聞いていた」
「そう、自分以外の存在を認めない」
「人間としては最低な奴だな」
「バルマーにおいてもそうだった。そこはシロッコと似ていた」
「シロッコと」
 カミーユがそれに反応する。
「そうだ。互いに敵視し合っていたがな。そこは同じだった」
「つまりあいつはシロッコと同じか」
「いや、人間としてはシロッコより酷いな」
 アランが言う。
「自分以外の存在は利用するだけだからな」
「その通りだ」
 レビはアランの言葉に応えた。
「だからこそバルマーに入ったのだろうがな。地球を裏切って」
「全ては権力の為だ」
 イングラムも言う。
「あの男にはそれしかない」
「なあ忍さん」
 そこまで聞いてリュウセイは忍に対して問う。
「そんな奴等に負けていいのかよ」
「何馬鹿なこと言ってやがる」
 だが忍はそれに対して怒気で返した。
「俺達がこんな奴に負ける筈ねえだろうが」
「忍の言う通りだ」
 亮も言った。
「少なくとも俺達は自分のことがわかっている」
「そうだね」
 雅人がそれに頷く。
「俺達は結局戦うだけしかできないからね」
「あれっ、バンドもやってたんじゃ?」
「それはそれ、これはこれだよ」
 雅人は明るい調子でリュウセイに返す。
「違うかい?」
「まあそれはそうだけれど」
「だからだよ。自分が神になろうなんて思わないのさ」
 最後に沙羅が言った。
「シャピロ、あんたはそうやって上ばっかり見ていればいいさ」
「ふん」
「けれど上ってのは何処までもあるんだよ。見続けていても果てはないんだ」
「それでは最後まで上がってやろう」
 やはりシャピロはシャピロであった。他の者の言葉なぞ受けはしない。
「そして神になろう。この宇宙に君臨する至高の存在にな」
「そんなのはあの世で言いやがれ!」
 忍がまた叫んだ。
「これを受けてな!くたばれ!」
 そしてダンクーガは断空砲を放った。それでムゲ戦艦を撃つ。
 その腹にまともに直撃した。それで戦艦の動きが止まった。
「むっ」
「もう一撃だ!これで決めてやる!」
 忍はまた攻撃に移ろうとする。だがそれは別の者によって阻まれてしまった。
「シャピロ長官」
 新たな戦艦が戦場に姿を現わした。その砲撃で断空砲を打ち消してしまった。
「そのダメージでは満足に戦えまい。ここは退くのだ」
 穏やかな声であった。およそ戦場にあるものではない。
「!?」
 その声を聞いてタケルの顔が変わった。
「タケル、どうしたの!?」
「様子がおかしいよ」
 それに気付いたミカとナミダが声をかける。
「この声は」
「この声!?」
「声が一体どうしたの?」
「後は私が引き受ける。ポセイダル軍も下がれ」
「間違いない」
 タケルは今度は確信した声を漏らした。
「この声は・・・・・・」
「マーグ司令」
「何っ、マーグだと」
 今度はケンジが声を出した。シャピロの言葉を聞いてであった。
「マーグが、馬鹿な」
「あの時に姿を消した筈だ。それが何故」
「マーグ様はバルマー軍地球鎮圧部隊の司令官であられる」
 ロンド=ベルのモニターに緑の髪の少女が姿を現わした。
「御前は」
「ロゼ」
 少女は名乗った。
「バルマー帝国辺境方面軍第八艦隊副司令官にしてマーグ様の副官だ」
「ではマーグは」
「そうだ。バルマーの司令官であられる。爵位は騎爵であられる」
「兄さんが、そんな」
 タケルはその言葉を信じることができなかった。
「バルマーの司令官だなんて」
「いや、だがこれは事実だ」
 ケンジは狼狽する彼にそう言うことしかできなかった。
「隊長」
「あれはマーグの声なんだな」
「はい」
 タケルはその問いに頷いた。
「そうか、では間違いないな」
「けれど何故」
 タケルは暗い顔で呟いた。
「兄さんが。またバルマーに」
「おそらく洗脳されたのだろうな」
「洗脳!?」
 イングラムの言葉に顔を向けた。
「そうだ。バルマーは洗脳技術にも長けている」
「じゃあそれで」
「おそらくな。君の兄さんはバルマーに洗脳されたのだ。そして指揮官になっている」
「そんな・・・・・・」
「だがそれは解くことができる」
「本当ですか!?」
「ああ、だから安心して欲しい。きっと君の兄さんは元に戻る」
「兄さん・・・・・・」
「シャピロ司令」
 マーグはその間にもシャピロ達に対して声をかけていた。
「ここは下がるのだ。いいな」
「わかりました。それでは」
「ポセイダル軍も下がってくれ。御苦労だった」
「えっ」
 ネイ達はその御苦労という言葉に反応した。
「司令、今何と」
「御苦労言ったのだが。それが何か」
「い、いえ」
 まさか驚いたとは言えなかった。バルマーの司令官達はラオデキアを筆頭として不遜な態度を取る者が多い。その為彼等はマーグの優しい言葉に戸惑いを覚えたのである。
「下がってくれ。おして傷を癒すように」
「は、はい」
「わかりました、司令」
 それを受けてネイもリョウレイも兵を退いた。そして戦場にはロンド=ベルとマーグの軍だけが残る形となった。
「さて」
 マーグはその整った中性的な顔をロンド=ベルに向けた。
「はじめて、ロンド=ベルの諸君」
 次に彼は挨拶をかけてきた。
「先にロゼの説明があった通り私はバルマー帝国辺境方面軍第八艦隊司令マーグ」
 彼は名乗った。
「マーグ!」
「君達に話したいことがあってこちらにやって来た。いいかな」
「ヘン、聞くまでもねえだろうがな」
 甲児が減らず口混じりに言った。
「話してみやがれ。聞いてやるぜ」
「司令に対して」
「待て」
 マーグは前に出ようとするロゼを窘めた。
「わかった。では言おう」
 マーグは話しはじめた。そしてロンド=ベルは動きを止めそれを聞きはじめるのであった。


第七十二話   完


                                      2006・2・6


[350] 題名:第七十一話 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年07月02日 (日) 23時18分

            決戦!大海獣
 ロンド=ベルはアラスカからハワイに向かっていた。そこから日本に向かう予定である。だがそれは既にある者達には
わかっていることであった。
「そうか、ハワイにか」
 マーグはそれを自らの乗艦の艦橋において聞いていた。ヘルモーズよりも小型の艦であった。
「どうされますか」
 それに副官であるロゼが問うた。
「ハワイは確か諸島だったな」
「はい」
 ロゼは彼の言葉に頷いた。
「それでは海が多いということになる」
「その通りでございます」
「ではあれを使うとしよう」
「あれでございますか」
「そうだ。丁度いいと思うが」
 マーグは笑いもせず彼女にこう返した。
「どうかな」
「いいと思います」
 そしてロゼもそれを認めた。
「それではすぐに」
「うん。あとポセイダル軍にも出撃を命じておいてくれ」
「ポセイダルにもですか」
「あとシャピロはどうかな」
「司令、御言葉ですが」
 シャピロの名を聞いたところでロゼの顔色が少し曇った。
「あのシャピロという男は」
「地球人だから、とでも言うつもりかい?」
「いえ」
 だがロゼはそれは否定した。
「そういう問題ではありません。ですが」
「君が彼を危険視しているのは知っているよ」
 彼は優しい声でそう述べた。
「では尚更」
「ロゼ」
 マーグはロゼの名を呼んだ。やはり優しい声であった。
「私は自分の部下は信じたい。それでは駄目なのか」
「信頼されるに値しない者もいます」
 ロゼは反論した。
「あのシャピロこそまさにそれです。あの男の目には野心が宿っています」
「野心が」
「そもそもその野心の為に地球を裏切った男。どうして信じることにしましょう」
「だが私は彼を信じるよ」
「何故」
「さっきも言った筈だよ。自分の部下は誰であれ信じたいって」
「ですが」
 それでもロゼは言う。
「あの者だけは」
「何も我々を裏切ったりすることはないと思うけれど?」
「それはそうですが」
 バルマーと地球の力関係を見ればそれは一目瞭然であった。だからこそシャピロもバルマーに寝返ったのであるから。これはロゼも承知していた。
「私の背中を狙うというのなら大丈夫だ」
「何故そう言えるのですか?」
 半ばくってかかっていた。ロゼは自分では気付いてはいないが少し感情的になっていた。
「司令に何かあればその後釜を狙う可能性も」
「私を守ってくれている者がいるからね」
「それは」
「君だよ」
 マーグはロゼを見てこう言ってきた。
「えっ・・・・・・」
 それを言われたロゼは思わずその整った顔をキョトンとさせた。
「あの、司令」
 そして戸惑いながら言う。
「それは一体どういう意味でしょうか」
 何故か少しモジモジとしていた。何処か少女の顔に戻っている。
「言ったままだよ」
 マーグはにこやかに笑って答えた。
「君が副官として私のボディガードも務めてくれているからね。安心していられる」
「わ、私はそんな」
 頬を赤らめさせて横に俯く。それがどうしてなのかは自分にもわからない。
「ただ・・・・・・自分の責務を果たしているだけです」
「それで充分だよ」
「そ、そうでしょうか」
 何故こんなに戸惑うのか自分でもわからない。だがどうしても戸惑わずにはいられなかった。
「君がいられるから私は司令としての仕事に専念できる」
「はい」
「これからも頼むよ」
「わかりました。それでは以後もお側に」
「うん、頼むよ」
「はい」
「それでは軍を発進させよう。目標はハワイだ」
「了解」
 こう言い渡すとマーグは自室に戻る。ロゼは一人艦橋に残った。
「な、何故なのかしら」 
 ロゼはまた顔を赤くしていた。
「司令の言葉を聞いていると。どうしても」
 自分でも何が何かわからなかった。
「戸惑わずにはいられない。どうしてなのかしら」
「副官」
「はっ」
 周りにいる部下の一人の言葉に我に返る。
「風邪でもひかれたのですか?顔が赤いですよ」
「な、何でもない」
 慌ててその場を取り繕う。
「それで。どうしたのだ」
「ギャブレー殿から通信が入っておりますが」
「ギャブレーから」
「はい。司令を御呼びですが」
「司令は今お休み中だ。急な話なのか」
「いえ、そうでもないようですが」
「では私が出よう」
 彼女は副官としてのロゼに戻っていた。
「すぐに通せ」
「わかりました」
 この時彼女はまだ自分の心の中に気付いていなかった。だがこれにより彼女の運命は大きく変わることになる。だが彼女はそれにも気付いてはいなかった。そして自分の未来のことも。どんな力を持っていようとも彼女の心は人のそれであったからだ。人だからこそ彼女も弱い、だがそれにもやはり気付いてはいなかった。

 ロンド=ベルはハワイまで僅かの距離にまで達していた。ハワイの管制から通信が入る。
「こちらの受け入れ準備は整いました」
「了解」
 ブライトがそれに応える。
「では今から予定通りそちらに向かう。それでいいか」
「はい。お待ちしております」
 そんなやり取りで終わった。そして彼等はそのままハワイに向かうのであった。
「久し振りのハワイだな」
 ジュドーが自分の部屋で身体を伸ばしながら言った。見ればガンダムチームの面々が集まっている。
「何か。海を見ていると泳ぎたくなってくるぜ」
「もう、お兄ちゃんたら」
 リィナがそれを聞いて困った顔をする。
「遊びに来たんじゃないのよ」
「わかってるよ。ここには中継で来たんだろ」
「へえ、わかってるじゃない」
 エルがそれを聞いて言う。
「てっきり忘れてると思ってたわ」
「前から思っていたが御前俺を何だと思ってるんだ?」
「まあ固いことは言いっこなし」
「それに時間があったら本当に泳げるしね」
 ルーも口を開いた。見れば彼等はかなりリラックスしている。
「けれど水着あったっけ?」
 イーノがポツリと呟く。
「僕今洗濯中ですぐ着れるの持っていないよ」
「ナデシコで貸してくれるよ」
 モンドが彼に答える。
「あっ、そうなんだ」
「結構派手な水着もあるよ。ユリカさんがこの前着てたやつ」
「ああ、あのピンクのビキニか」
 ビーチャがそれに反応してきた。
「またあれは凄かったよな」
「ユリカさんプロポーション抜群だしね」
 イーノが頷く。
「目の毒だったよ、本当に」
「おいおいドモン、一番驚いていたのは誰だよ」
「いいじゃないか、そんなこと。ジュドーだって」
「お、俺はだなあ」
 ジュドーは向きになって返す。
「別によお。ユリカさんは何かなあ」
「歳が離れてるしね」
 ルーが言った。
「そう。ちょっと高嶺の花ってやつだよ」
「意外だね、ジュドーがそんなこと言うなんて」
 エルはそれを聞いてクスリと笑った。
「誰彼構わずってわけじゃなかったんだ」
「その前にユリカさんにはアキトさんがいるだろ。あの時だってよお」
「アキトさんにベタベタだったもんね」
「あの格好で抱きつくんだもの。見ているこっちが驚いたわ」
「まあその天真爛漫さがユリカさんなんだけれどな」
「ちょっとどころじゃなく天然だけれどね」
「まあな」
「それにしてもハワイの海って綺麗だね」
「ああ」
 ジュドーは今度はプルの言葉に応えた。
「ここまで綺麗だと。何か見ていて落ち着くな」
「少し切り取ってお部屋に飾りたいね」
「ああ、できたらいいな」
 プルツーがそれに頷く。
「二人でな。何時までも見ていたい」
「そうだね。シャングリラまで持って行こうよ」
「ジャンク屋に飾ってか。いいな」
「あそこにいる蛸も持って行ってね」
「蛸!?」
 一同はプルのその言葉に反応した。
「蛸って・・・・・・何のこと!?」
「まさか。海まで大分あるし」
 エルとルーは少し驚いて窓を覗いた。
「見える筈ないって」
「そうそう、幾らニュータイプでも」
「ガンダムファイターじゃないんだから」
「けれどいるよ」
 プルは今度はビーチャとモンド、イーノに対して言った。
「ほら、あそこに」
「いるな、確かに」
 プルツーも加わった。そして二人で海のある一点を指差す。
「一体どんな蛸なんだよ。化け物かよ」
 ジュドーも首をかしげながら窓を覗き込む。皆顔を寄せ合って窓の外にある海を見ていた。
 見れば確かに蛸がいた。プルはそれを見て誇らしげに胸を張る。
「ほらね、いたでしょ」
「確かに」
 一同それに頷く。
「蛸だよな、どう見ても」
「ああ」
「しかし、何て大きさなんだよ」
「!?ちょっと待て」
 だがここでプルツーが気付いた。
「どうしたの、プルツー」
「リィナ、よく見てくれ」
 彼女は左にいたリィナに声をかけた。なお右にはプルがいる。
「何?」
「あの蛸、何かおかしくないか」
「大体ここから見えるのだけでもおかしいけれど」
「そういう問題じゃない。見てくれ」
 彼女はさらに言う。
「あの頭・・・・・・何処かで見たことがある」
「何処かで」
「しかも足に・・・・・・頭があるように見えるんだ」
「頭!?まさか」
「ああ、似ていないか。あれに」
 プルツーの顔がみるみるうちに不吉なものとなっていく。
「おかしいぞ、あれは」
「ううん。まさか」
「いや、まさかじゃねえ」
 ジュドーが言った。
「あの蛸は」
「ええ、間違いないわよ」
 ルーが続く。
「あれは・・・・・・」
「ドラゴノザウルスだと!?」
 ラー=カイラムのレーダーが警報を鳴らしていた。ブライトがトーレスに顔を向けていた。
「はい、間違いありません」
 トーレスがそれに答える。
「ドラゴノザウルスです。海上に出現しています」
「他にも正体不明のマシンが多数空中に現われています。どうやらこちらに向かっています」
「ミケーネか」
「いや、違うな」
 だがここでアムロが言った。
「ミケーネはジャブローでの敗戦の後戦力の回復に忙しい筈だ。彼等である可能性は低い」
「では一体」
「話は後だ。すぐ迎撃に出よう」
「そうだな。今は話すよりも動く方が先だ」
 クワトロもそれに頷いた。そして彼等はすぐに動いた。
 出撃して海岸でドラゴノザウルスを待ち受ける。そして空から来る敵にも備えていた。
「ピグトロンまでいやがるぜ」
 甲児が金色に輝く何処か昔のSF小説を思わせる外見の敵を見て言った。
「どう見たってミケーネなんだけれどな」
「いや、それがどうも違うらしい」
 しかし大介はこう言ってそれを否定した。
「それでは一体」
「あれを見てくれ」
 大介は今度は鉄也に応えた。
「あれはミケーネのマシンではない」
「むっ」
 それはメギロートであった。バルマーの無人偵察機である。彼等もよく知っている機体であった。
「あれがいるってことはバルマーかよ」
「まず間違いはないな」
「遂に動き出したというわけですね」
「そうだ。それに今回は新型のマシンも出て来ている」
 見ればメギロートに似たマシンも多数あった。それ等が空に展開していた。
「見たところ今は小手調べといったところのようだが」
「数は多い。油断はできませんね」
「そうだ。ここはドラゴノザウルスと彼等、二つに分けるべきじゃないかな」
「そうだな」
 グローバルが大介の言葉に頷いた。
「大介君の言う通りだ。すぐにそうしよう」
「はい」
「まずは主力はバルマーのマシンを迎撃せよ」
「了解」
「そして水中用のマシンでドラゴノザウルスを迎え撃つ。この際ドラゴノザウルスの上陸は許すな」
「ハワイ市街地への損害を避ける為ですね」
「そうだ」
 彼は早瀬の言葉に答えた。
「戦艦はそれぞれの部隊の援護に回れ。では健闘を祈る」
「了解」
 こうして戦術が決定された。戦いはこうしてロンド=ベルがバルマー、そしてドラゴノザウルスを迎え撃つ形ではじまった。まずは水中に何機かのマシンが入る。
「今回兄さんは入らないのね」
「ああ、バルマーの方をやらせてもらう」
 大介はマリアの言葉に返した。
「ボスは今回はボロットだしね」
「やっぱりこっちの方がいいだわさ」
 ボスは上機嫌で言う。
「慣れたマシンでよ」
「ハンドル裁きも乗ってるしね」
「やっぱりおいら達にはボロットだよ」
 ヌケとムチャも言う。
「そういうことだわざ。それじゃあ敵をどんどんやっつけてやるだわさ!」
「それはいいけどよ」
「何だよ、兜」
「今回ボロットにはミノフスキークラフトもミノフスキードライブもついてねえぞ」
「何、どういうことだわさ」
「ハロもな。全部他のマシンに回しちまった」
「兜、何で黙っていただわさ」
「昨日言ったじゃねえかよ。何言ってやがる」
「何時だわさ」
「飯食ってる時によ。ちゃんと言ったぜ」
「聞いてないだわさ」
 ボスは反論した。
「飯食ってる時に何言っても聞こえないだわさ」
「そんなんでよくパイロットやってけるな」
「それ以外の時はちゃんと聞こえてるから心配ないだわさ」
「いや、そうじゃなくてよ」
 甲児もいささか呆れていた。
「まあいいや。とにかく今は空は飛べねえからな」
「チェッ、ダイアナンAにはつけてるのに」
「ダイアナンAは修理装置があっからな。それにさやかさんも強いし」
「俺は強くないっていうのかよ。ボロットにだって補給装置があるだわさ」
「いいからとにかくフォローを頼むぜ。もう来ているんだからな」
「フン、いつもこうだわさ」
 ボスはこう言ってむくれた。
「ボロットにばっかり。何時かギャフンと言わせてやるだわさ」
 そんなことを言っている間にバルマー軍はハワイ市街に近付こうとしていた。ロンド=ベルはそれへの迎撃態勢を整え彼等を待ち構えていた。
「目標捕捉」
 ヒイロが呟く。
「・・・・・・破壊する」
 白い翼が舞った。そしてツインバスターライフルを構える。
 それで敵を撃った。まずはそれで敵の小隊が一つ吹き飛んだ。
「今度は俺だ」
 トロワが続く。空中高くアクロバチックに跳んだ後で狙いを定める。
「邪魔するのなら・・・・・・容赦はしない」
 感情のない声で言った。そして一斉射撃を加えた。
 無数のミサイルと弾丸が敵を貫いた。そしてまた敵が消え去った。
「何か二人共派手にやってるな、おい」
 デュオがそれを見て言う。
「ここは俺も目立たなくちゃな」
「では行くのだな」
 ウーヒェイがそれを聞いて言う。
「俺も出なくてはならないからな」
「それじゃあ行くぜ!」
「うむ」
 二機のガンダムは空に舞った。どうやら彼等にミノフスキークラフトが回されていたらしい。
「チェッ、あいつ等が持ってたのかよ」
 ボスがそれを見て嫌そうに呟く。
「ボロットにもたまにはスポットを当てて欲しいだわさ」
 だが二人はボスのそんな嘆きをよそに動く。デュオは右に、ウーヒェイは左にそれぞれ動く。そして目の前にいる敵の部隊と正対した。
「一気に行くぜ!」
「行くぞナタク!」
 二人は同時に動いた。ビームサイズとトライデントをそれぞれ出す。そしてそれで敵に斬り掛かった。
「やあっ!」
「はあっ!」
 デュオが敵をまとめて両断するとウーヒェイは敵の中に踊り込んでトライデントを振り回した。それぞれやり方は違うがそれで敵をまとめて斬った。彼等の前と後ろでそれぞれ爆発が起こる。
「行くよサンドロック!」
 残る一人カトルも攻撃に入った。彼の周りにマグアナック隊が姿を現わす。
「カトル様、間に合いましたね!」
「うん、丁度いいよ」
 彼等はカトルの周りを覆った。そして一斉に攻撃に入る。
「皆、頼みます!」
「了解!」
 一斉射撃を加えた。それで以って敵を吹き飛ばす。五人はそれぞれの戦い方で敵を屠ったのであった。
「ふむ」
 それをモニターで遠くから見る男がいた。マーグであった。
「やはり彼等はかなりの戦闘力を持っているようだね」
「はい」
 傍らにいるロゼがそれに応えた。
「やはり。油断のならない相手かと」
「そうだね」
「ですが勝てない相手ではないと思います」
「それはどうしてだい?」
「それは彼等の甘さにあります」
「甘さ」
「はい、私に策があります」
 彼女は言った。
「策・・・・・・一体どんな」
「まずは次の作戦はポセイダル軍の担当でしたね」
「うん」
 マーグはそれに頷いた。
「その通りだけれど」
「その作戦に私も参加させて下さい」
「君が?」
「はい。私は工作員として中に潜入します。そして」
「内部から彼等を撹乱し、破壊するというわけだね」
「如何でしょうか。彼等は戦災で焼け出された者を救ったことは常です。きっと上手く潜入できますが」
「いや、それは駄目だ」
 だがマーグはそれを却下した。
「何故でしょうか」
 ロゼは却下されながらも食い下がった。
「作戦に不備があるでしょうか。それなら」
「いや、いい作戦だと思うよ」
 意外にもマーグはこう答えた。
「外から攻めて駄目ならば中から攻めるのがいい。これは基本だね」
「なら」
「しかしそれは危険を伴う。君自身にね」
「私のことなら」
「ロゼ」
 マーグはロゼの言葉を遮るようにして言った。
「君は自分の身をあまりにも軽んじ過ぎる」
「ですがそれが」
「君の言いたいことはわかる。だが私はそうは思わない」
「・・・・・・・・・」
 ロゼはマーグの話を聞くうちに沈黙してしまった。黙って話を聞いていた。
「君に何かあっては悲しむ者もいる。だからそんなリスクの高い作戦は採りたくはない」
「ですが」
「それなら超能力を使って潜入すればいい。工作の方法は幾らでもある。いいね」
「・・・・・・わかりました」
「その際はまた伝える。だが今はその時ではないんだ。わかったね」
「はい」
 敬礼で応えた。ここまで言われては従うしかなかった。
「どちらにしろここで彼等の強さを正確に把握しておきたい」
 そしてマーグはまた言った。
「メギロートをさらに出そう。いいね」
「了解」
 とりあえずは武力偵察を続けることになった。だがロゼはマーグに対して心の中で思った。
(優し過ぎる)
 と。かってのラオデキアの様に非情な指揮官の多いバルマーにおいてはこれは異様なことでもあった。
(その為指揮官としては)
 しかし彼女は何故かそれを批判する気にはなれなかった。むしろそんなマーグの側に常にいたいとさえ思えるようになってきようとしていた。しかしまだそれには自分では気付いてはいなかったのであった。
 その間にも戦いは続いていた。バルマーはさらにメギロート部隊を送りロンド=ベルに攻撃を仕掛けていた。その間にドラゴノザウルスはゲッターポセイドンやテキサスマックの攻撃を受けながらも徐々に海岸に近付いてきていた。
「まずいな、これは」
 ブライトはドラゴノザウルスの状況を見て呟いた。
「このままでは上陸されてしまう」
「ダイザーに向かってもらいましょうか」
「マリンスペイザーを出していないのにか」
 トーレスにこう返す。
「ここは一時誰かに乗り換えてもらって。これは危険ですよ」
「それも手か。どうするべきか」
「ネッサーも今は手が離せませんし」
 見ればブンタのネッサーもガイキング達と共にバルマー軍にあたっていた。当初はドラゴノザウルスに当たっていたのだがバルマー軍が増えるにつれてそちらに向かったのである。
「ううむ」
「ここはスペイザーしか」
「仕方ないか。ではデュークとマジンガーチームの誰かに通信を入れよう」
「はい」
 その通信を入れようとした時だった。突如としてラー=カイラムの前に白い光が現われた。
「光!?」
「これは一体」
 皆思わずそれに目を向けた。その光の中からアストラナガンがその黒い姿をゆっくりと現わしてきた。
「イングラム教官」
「暫く振りだな、リュウセイ」
 彼はリュウセイに顔を向けてこう言った。
「元気そうで何よりだ」
「あっ、こりゃどうも」
 リュウセイはそれを受けて言葉を返す。
「教官も元気そうで何より。ところで」
「私がここに来た理由だな」
「そうですよ、何でまたいきなり」
 リュウセイは問う。
「いつもそうやっていきなり出て来ますけれど。今回はどうしたんですか?」
「今回もっていつもああなの?」
「どうやらそうみたいですね」 
 アクアがエクセレンの言葉に答えた。
「イングラム少佐といえば神出鬼没ですから」
「うわ、何か昔のアニメのニヒルな味方みたい」
「みたいじゃなくてそのものですよ」
 アクアはさらに言う。
「だってこの前の戦いじゃ途中から最後の方まで敵だったんですから」
「うわあ、何てベタな展開」
 エクセレンはそれを聞いて苦笑いを浮かべていた。だがイングラムは当然ながらそんな彼女には気付くこともなく平然とリュウセイに顔を向けていた。
「私が今回御前達の前に姿を現わしたのは」
「はい」
「御前達の前に恐るべき敵が姿を現わそうとしているからだ」
「あの蛸のことですか?」
 リュウセイはそう言って海にいるドラゴノザウルスを指差した。
「今あれで困っているんですけれど」
「あんな軽いものではない」
「軽いねえ」
 エクセレンはそれを聞いてまた言った。
「あれの何処が軽いのかしら」
「私が見ているのはもっと大きなものだ」
「大きなもの」
「そうだ、詳しい話は後だ。まずは」
 そう言いながら前に出る。
「この場を切り抜けるとしよう。私も協力しよう」
「よし、教官が来たからには百人力だぜ」
 リュウセイはイングラムが前に出て来たのを見て声をあげた。
「ガンガンやるぜ、ガンガン」
「では私に続け、行くぞ」
「了解」
 アヤがそれに応えた。
「皆行くわよ」
「うむ」
「何かリュウセイに引っ張られている気もするがな」
 マヤとライも頷いた。ライはいささか複雑な顔であったが。
 イングラムの後に四機のSRXチームのマシンが続いた。彼はそのままドラゴノザウルスに向かっていた。
「軽いものとは言っても何とかしないわけにはいかない」
 彼は言った。
「行くぞ」
 そしてガン=ファミリアを出した。そしてそれで攻撃を仕掛ける。
 それは海中にいるドラゴノザウルスを的確に撃った。これで今までその動きを止めていなかった怪物が一瞬だが動きを止めた。
「ギャオオオオオオオオオオン!」
「よし、今だ!」
 リュウセイはそれを見逃さなかった。
「一気にいくぜ皆!」
「ええ、わかったわ!」
 まずはアヤがそれに頷く。
「援護は任せろ」
 ライも言う。
「そして私もいる。一気に終わらせるぞ」
 レビも。四人は同時に攻撃を放った。
 まずはストライク=シールドが。続いてハイゾルランチャーが。アヤとライの攻撃が炸裂した。
 続いてレビのパワードが放ったHTBキャノンが撃った。これでドラゴノザウルスはかなりのダメージを被った。だがそれでも獣はまだ生きていた。
「しぶとい奴だ。だが!」
 最後にリュウセイが突っ込む。ウィングから元の形に変形し、海の中に飛び込む。
 海の中にいるドラゴノザウルスは既に満身創痍であった。彼はそのドラゴノザウルスに対して拳を向けた。
「いっけえええええええええええーーーーーーーーーーっ!」
 ナックルを放つ。全身全霊の力で以って拳を撃つ。Zイが離れ、変形して海から出ると今までいた場所で巨大な爆発が起こった。こうしてドラゴノザウルスは滅んだのであった。
「終わったな」
 R−1が離れ、変形して海から出ると今までいた場所で
巨大な爆発が起こった。こうしてドラゴノザウルスは滅んだのであった。
「終わったな」
「ああ、一時はどうなるかと思ったがな」
 ライがリュウセイに応える。
「これでハワイの危機は去ったな」
「いや、残念だがまだだ」
 だがここでイングラムがこう言った。
「教官」
「というと今回ここに来られら理由は」
「ああ、その通りだ」
 イングラムは頷いた。その間に戦いはもう終わろうとしていた。メギロート達はドラゴノザウルスが滅んだのを見て一斉に姿を消した。ピグトロンもマジンガーとグレートにより倒されてしまっていた。とりあえずは敵を退けた形になっていたのであった。
「話せば長くなる」
 イングラムはまた言った。
「暫くそちらに留まりたい。いいか」
「うむ、こちらは構わない」
 グローバルが彼に応えた。
「こちらも話を聞きたい。いいか」
「了解」
 こうしてイングラムはロンド=ベルに合流した。漆黒の堕天使は今その黒い翼をマクロスの銀の身体の上に降ろした。そして彼等の中に入るのであった。
 戦いが終わったことは事実であった。しかし同時に新たな謎と戦いがはじまろうとしていた。それはロンド=ベルだけでなくバルマーにもわかっていた。
「今度はイングラムがか」
「はい」
 マーグはロゼからの報告を受けていた。ロゼは彼の前に片膝をつき報告を述べていた。
「ロンド=ベルに合流した模様です」
「我々のことに気付いたか」
「おそらくは。どうされますか」
「いや、特に手は打たなくていい」
 しかしマーグはこう述べた。
「ただし兵は増やそう。シャピロを呼べ」
「宜しいのですね」
「先にも言ったね。構わないと」
「わかりました、それでは」 
 不本意ではあったがそれに頷いた。
「彼等とポセイダルで。二重の備えと致しましょう」
「そして私も出る」
「司令も」
「そうだ。最初は見ているだけにしようと思っていたがイングラムが来たとなると話は違う」
 彼は言った。
「私も出なければ。わかったね」
「わかりました。では」
 ロゼはここで言った。
「私も行かせて下さい」
「君もかい?」
「はい、イングラムはバルマーにとっては不倶戴天の裏切者。裏切者を捨て置くことはできませんから」
「いいのかい、それで」
「司令」
 ロゼはマーグの言葉にスッと笑った。
「私が女だからと思っておられるのですか?」
「いや、そうではないけれど」
「御安心下さい。司令の身は何があっても御護り致しますから」
「そうか。そこまで言うのなら」
 マーグとて拒むことはできなかった。
「頼むよ」
「お任せ下さい」
 彼等も戦場に向かうこととなった。戦いはまた変わろうとしていた。今様々な者達が地球においてそれぞれの心と野望をぶつかり合わせていた。


第七十一話   完

                                    2006・1・30


[349] 題名:第七十話 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年07月02日 (日) 23時08分

          ネリー=リバイバル
 勇はこの時深い闇の中にいた。目が覚めているのか眠っているのかすらもわからない。ただ深い闇の中にその身を置いていた。
 不意に誰かの声が聞こえてきた。それは彼に向けられていた。
「勇」
 彼の名を呼んでいた。
「勇」
 その声は聞いたことがあった。彼がよく知っている声であった。
「姉・・・・・・さん・・・・・・?」
 勇はその声に問うた。すると穏やかな返事が返ってきた。
「そうよ」
 あの好戦的な声ではなかった。優しく、包み込む様な声だった。
「そんなところで寝ていたら風邪をひくわよ。お茶を入れたらいらっしゃい」
「うん」
 彼は頷いた。だがやはり彼は闇の中にいた。
「早くいらっしゃい」
「わかったよ」
 気がつくと彼は家の中にいた。かって家族で暮らしていた家の茶の間であった。欧風の部屋であった。
 そこには皆いた。父も母も。そして彼に顔を向けていた。
「皆いるんだ」
「何を言っているんだ」
 それを聞いて父研作は不思議そうな顔をした。
「それに驚いたような顔をして」
「ちょっとね」
 勇はこう答えて誤魔化した。
「今まで寝ていたから」
「そうだったのか」
「風邪には気をつけてね」
 今度は母翠が声をかけてきた。
「寒くなってきたから」
「うん」
「それじゃあこれを飲んで温まりなさい」
 また姉が声をかけてきた。
「風邪をひかないようにね」
「うん」
 そして彼は姉からそのお茶を受け取る。それを口にした。その時であった。
「つっ」
 不意に目が覚めた。見れば周りは雪原であった。他には何も見えない。だがここで雪を踏む足音が聞こえてきた。
「!?」
「気がつきました?」
「君は」
 後ろを振り向く。そこにはら一人の少女がいた。
 黒い髪と目を持つ少女である。彼女は勇を優しげな顔で見詰めていた。
「ネリー」
 彼女は名乗った。
「御覧の通り女です」
「そりゃそうでしょうけれど」
 勇はその言葉に戸惑いながら応える。
「ここは一体」
「アラスカの辺境です」
 彼女は答えた。
「アラスカ、そうだ」
 勇はそれを聞いてハッとした。
「俺はここに偵察に来て。それで吹雪の中迷って」
「そして私が見つけました。もう少し遅ければ」
「危なかったのか」
「はい。けれどもう大丈夫です。ブレンも」
「俺のブレンは。何処なんだ」
「今私のブレンが側にいます。怪我をしていますが大丈夫です」
「!?君もブレンを」
「はい」
 ネリーと名乗った少女はにこりと笑って頷いた。
「ふふ」
「!?何で笑うんだ?」
 勇はネリーが笑ったのを見て首を傾げさせた。
「貴方ばかり話しているから」
「おっと」
 勇はそれを言われてようやく気付いた。
「御免」
「いえ、いいけれど。私も楽しいし」
「楽しい。俺の言葉が」
「ええ。だって人とお話するのは久し振りだから。それでね」
「そうだったのか」
 勇はそれを聞いて少し心が温かくなった。
「小屋へ入りましょう」
 今度はネリーが声をかけてきた。
「もうすぐしたら吹雪が来るから」
「吹雪が」
「ええ。あそこに」
 指差した。そこには小さな木の小屋があった。とても小さな小屋であった。
「そこに住んでいるんだね」
「はい」
 彼女はまた答えた。
「一人で」
「そうよ。けれど気にすることはないわ」
 彼女は言った。
「遠慮することはないから」
「有り難う」
「今は休むといいわ。貴方も貴方のブレンも疲れているから」
「俺のブレンも」
「ええ。だから今は休んで。そしてまた」
「うん」
 勇はネリーに導かれ小屋の中に入っていく。ネリーはここで小屋の側に立っている二機のブレンのうちの黄金色の機体に声をかけた。
「お友達をお願いね」
「・・・・・・・・・」
 そのブレンは答えなかった。ただ思わせぶりに光るだけであった。だがそれで充分であった。ネリーにはブレンが何を言ったのかわかったからだ。二人は小屋に入った。

 その頃タダナオとオザワはヒメと共にアラスカの上空を飛んでいた。そして勇を探していた。
「こりゃまずいな」
 まずはオザワが言った。
「吹雪が出て来たぜ。どうするよ」
「これ位の吹雪ならどうってことはないだろう」
 だがタダナオはそれを問題とはしなかった。
「レーダーもあるしな。それに俺のマシンも御前のマシンも全天候での戦闘が可能な筈だぜ」
「それはそうだけれどな」
「勇のユウ=ブレンもそうだったんだがな。どうしちまったんだ」
「きっと道に迷ったんだよ」
 ヒメがここで言った。
「道に」
「うん、勇は子供だから」
 ヒメは言う。
「だから道に迷ったんだよ。きっと今は親切な人のお世話になってるよ」
「だったらいいけれどな」
 タダナオはそれを聞いて笑いながら言葉を返した。
「勇が無事ならそれにこしたことはないしな」
「そうだな。何処にいるやら」
「レーダーにブレンの反応はないか?」
「今のところはないな」
 オザワはレーダーを見ながら返す。
「地上にも空中にも」
「レーダーの範囲を拡げるか」
「そうだな。最大にしてみるぞ」
「ああ」
 やがてレーダーの範囲はアラスカ全体になった。するとヒメのものの他に二機程反応があった。
「おっ」
 タダナオとオザワはそれを見て同時に声をあげた。
「見つかったぞ」
「うん、ここだね」
 ヒメにもそれが何処かわかった。彼女のブレンもレーダーの範囲を拡げていたからだ。
「すぐに行こう」
「ああ、どうやら無事みたいだったな」
「うん」
 こうして三人はレーダーの反応があった場所に向かった。するとそこには一軒の小屋があった。ネリーのあの小屋である。
「ここだ」
 タダナオは吹雪の中下にかろうじて見える小屋を指差した。
「行くか」
「ああ」
 三人は降り立った。そして吹雪の中苦労して進みながら小屋の扉を叩いた。
「はい」
 すぐにネリーが出て来た。見れば中に勇もいた。
「勇、無事だったんだね」
「ヒメ」
 勇はヒメの姿を認めて声をあげた。
「よかった、心配したんだよ」
「済まない、遭難してしまって」
「何だ、ヒメの言った通りだったな」
 タダナオはそれを聞いて思わず笑ってしまった。
「言った通りって何だよ」
「いや、実はヒメはあんたが道に迷ったんじゃないかって言ってたんだ」
 彼は笑ったまま勇にそう説明する。
「そしてそれが本当だったからな。ついおかしくてな」
「そんなにおかしいかな」
「ちょっとな。まあ無事で何よりだ」
「すぐにロンド=ベルに戻るか」
「待って下さい」
 オザワがこう言ったところでネリーが声をかけてきた。
「今は止めて下さい」
「またどうして」
「外は吹雪ですし。それに彼もあのブレンも怪我をしていますから」
「怪我を」
「はい、ですから今は休ませて下さい」
「休むといってもな」
 だがオザワはそれを聞いて困った顔をした。
「こちらの事情もあるし。どうする?」
「ユウ=ブレンはダメージを受けているんだな」
「はい」
 ネリーはタダナオの問いに頷いた。
「少しですが」
「それじゃあどのみちこの吹雪の中じゃ無理だ。無理はしない方がいい」
 タダナオはそれを聞いてこう述べた。
「今日はいい。一応連絡は入れておくがな」
「はい、それがいいと思います」
 ネリーはそれを聞いて頷いた。
「今はここで休んで下さい。そして英気を養われるといいです」
「了解。それじゃあマシンに戻るか」
「いえ、小屋の中の方がいいかと。外は吹雪ですし」
「いや、しかし」
 オザワはそれを聞いて躊躇いを禁じ得なかった。流石に女性がいる部屋で同室というのは抵抗があったからだ。
「私は構いませんから。寝袋もありますし」
「そうですか」
「そういうことなら」
「はい、どうぞ一泊していって下さい」
「わかりました」
 こうしてタダナオ達はネリーの小屋に一泊することとなった。彼等はその間に本隊に勇の無事と居場所を伝えた。そしてこの日は休んだのであった。
 翌朝目が覚めると小屋の中にネリーはいなかった。勇達はそれに気付くとすぐに小屋の外に出た。
 すると外に彼女がいた。ブレンに乗って凍てついた湖の上を滑っていたのであった。
「あれはネリーの・・・・・・」
 勇はそれを見て呟いた。
「あのブレン、ああしたことが好きなんだ」
「何か不思議な光景だな」
 タダナオがそれを見て言う。
「幻想的と言うか何と言うか」
「御前の口からそんな言葉が出るとはな」
「何言ってるんだ、俺はこうしたことは好きなんだぜ」
 嫌味を言うオザワを軽くあしらって述べた。
「フィギュアとかもな。綺麗なのは好きなんだ」
「そうだったの」
「ヒメちゃんもやてみるといいぜ。あれはいいものだ」
「ふうん」
「あら」
 ここでネリーが勇達に気付いた。
「起きてたの」
 そして彼等の側にまで滑ってやって来た。ブレンから出て来て声をかける。
「やってみない?楽しいわよ」
「いや、俺はいいよ」
 だが勇はそれを断った。
「俺がやったら。あいつが嫌がるから」
「そうなの」
「それに・・・・・・今ネリーが滑っているのを見ていたら何か穏やかな気持ちになってきた。それはあいつも同じだろうな」
「あの子も」
 ネリーはユウ=ブレンに顔を向けた。
「そうなの」
「何か見ているだけでも楽しそうだからね。それだけで満足していると思うよ」
「だったらいいけれど」
 ネリーは言葉を続けた。
「この子は遊びたがっていたから」
「遊びたがっていた」
「そうよ。だから私も滑ったのよ」
「そうなのか」
「ええ。私も嬉しいわ。この子が喜んでくれたから」
(遊び・・・・・・。喜び・・・・・・)
 勇はここであることに気付いた。
(もしかしたらアンチボディが生まれてきた理由もそれなのかも知れない)
 ふとそう思いはじめた。勇の考える顔にネリーは気付いた。
「ねえ」
 そしてまた声をかけてきた。
「何?」
「いえ、何か考えているみたいだったから」
「ちょっとね」
 勇はネリーに顔を戻して応えた。
「君が似ていると思ったから」
「似ている?誰にかしら」
「この娘に」
 彼はこう言ってヒメを指差した。
「私に!?」
「ああ。何かブレンと話をしているみたいなところがそっくりだな、って思ってね」
「だって実際に話をしているから」
 ネリーは答えた。
「そうなのか」
 勇はまた考える顔になった。
「性格は全然違うけれど」
「当然だよ」
 ヒメはそれを聞いて言った。
「全然違う人間なんだから」
「そうだけれど。雰囲気とかも似ているから」
「そうかもね」
 ネリーは勇の言葉に頷いた。
「ブレンの心がわかるというのなら同じだから。けれどそれは貴方だって同じよ」
「俺も!?」
「ええ」
 ネリーはにこりと笑って頷いた。
「貴方もブレンの心がわかる筈よ」
「まさか」
 しかし勇はそれを否定した。
「俺はひねくれ者だから」
「それはないわ。だってあの子は貴方を守ってくれたから」
「俺を」
 自分のブレンを見ながら言う。
「そうよ、あの子は貴方を守った。話ができないなんてないわ」
「そうかな」
そうよ。もっとはっきり言うとあの子の声が聞こえるようになってきた」
「声が」
「以前の貴方はもっと性格が違っていたんじゃないかしら」
「それは」
 思い当たるところがないわけではなかった。
「そうかも知れない」
「勇は昔子供だったから」
 ヒメが言った。
「強情だったんだから」
「それなのかも」
 ネリーもそこに言及した。
「だから。あの子の声が聞こえなかったのよ。耳を塞いでいたから」
「耳を」
「けれどそれも変わったにょ。あの子と向き合うようになって」
「そうだったのか」
「ヒメさんでしたね」
「うん」
 ネリーは今度はヒメに声を向けてきた。そしてヒメはそれに応えた。
「貴女は彼の大切な人なのね」
「大切な」
「いや、それは違うよ」
 だが勇はそれも否定した。
「俺には・・・・・・。大切な人なんて」
「そう思い込もうとしているだけよ」
 しかしネリーはそれも否定した。
「人は誰だって大切な人を持っているから」
 そして言う。
「だから生きていけるのよ」
「そうかな」
「一人で生きていくのは辛いし、怖いわ」
 彼女は語る。
「ブレンパワードみたいなオーガニック=マシンと言われる存在だってそうなのだから」
「そうなのかな」
「そうよ。だからこの子達は私達みたいな人を水先案内人として選ぶのよ」
(そうか・・・・・・)
 勇はそれを聞いてまた気付いたように思えた。
(パイロットというものはそういうものなのかも知れないな)
 ふとこう思った。
(だからあいつは)
 自身のブレンを見る。何となくわかってきたような気になった。
「俺と一緒だったせいで痛い目に遭ってきたんだな」
「気付いたの?」
「ああ、何となくだけれど」
 ネリーに応える。
「姉さんはできるだけグランチャーを傷つけないようにしていた」
 自分の姉のことにも気付いた。
「姉さんはグランチャーの気持ちがわかっていたんだ」
「・・・・・・・・・」
 ネリーはそれに対しては何も語らない。だが勇は言葉を続けた。
「ところでネリー」
「何かしら」
 勇はネリーに声を戻してきた。彼女もそれに応える。
「君は大切な人ってさっき言ったね」
「ええ」
「君にもそういう人はいるんだろう?」
「そうよ」
 ネリーはこの言葉にこくり、と頷いた。
「勿論いたわ。けれど・・・・・・お別れしてきたの」
「何故」
「こういう時代でしょう?だからこの子と一緒にいることを選んだの」
 そう言いながら自身のブレンを撫でる。
「そうすることが正しいと思ったから」
「戦う為?」
「違うわ」
 だがそれは否定した。
「この子と二人で暮らしていきたかったけれど。そういうわけにはいかなかったから」
「こうした時代だからな」
「ええ」
 タダナオの言葉に答えた。
「私が生まれたのはこの時代に何かを成す為だろうし」
 運命論を述べる。
「こんなこともあるかも・・・・・・。そう思っていたわ」
 思いながら言う。その声はさらに澄んできたように思えた。
「リバイバルを見たから?」
 ヒメがそんな彼女に問う。
「それはそう」
「ネリー・・・・・・」
 勇達はそれを聞いてネリーの心に触れたような気持ちになった。その時だった。
 不意にユウ=ブレンが動きはじめた。だがネリーがそれを制止した。
「まだ駄目よ、動いちゃ」
 彼女は言う。
「もう少し。傷を癒して」
「・・・・・・・・・」
 その声が聞こえたのであろうか。ユウ=ブレンは動きを止めた。ネリーはそれを見て微笑んだ。
「そうよ、いい子」
 そして勇に対して言う。
「ブレンに好かれているのね」
「そうだね」
 今のことでそれがわかった。
「あいつは・・・・・・俺のことが好きなんだ」
「ええ」
 ネリーはその言葉に頷いた。
「そして私のブレンも貴方のことが好きみたい」
「俺のことを」
「そうよ。貴方・・・・・・ブレンに好かれるのね」
「そうなのかな」
 そう言われても今一つまだ確信が持てなかった。
「それは嬉しいけれど」
 まだ戸惑いがあった
「けれどネリーはすぐだったんだろう?凄いよ」
「私は普通よ」
 しかし彼女は首を横に振る。
「何の力もない女よ」
「いや、それは」
「いえ、本当のことよ。ただ・・・・・・ブレンと出会えただけ」
「そうなんだ」
「そうよ。それだけ」
「後悔しているの?」
 ネリーの言葉の中に悲しみを読み取った。だからこう問うた。
「いえ、違うわ」
 だが彼女はそれも否定する。
「逆よ、後悔なんか」
 彼女は言う。
「私は可哀想だと思ってるの」
「ブレンが?」
「ええ。精一杯遊んであげられないから。この子が望んでいるように」
「そうなの」
「私はこの子の持っているものを全部引き出すことはできないの。残念だけれど」
 そうした意味での悲しさであった。
「でも勇」
 そして勇に顔を向けてきた。
「貴方ならできるかも知れないわ」
「ネリー・・・・・・」
「この子のリバイバルに立ち会った時に私は命がなくなる筈だったの。けれど元気になったわ。けれど・・・・・・」
「とてもそんな感じには見えないけれど」
 オザワが彼女に言う。
「細胞を蝕む病気は一杯あるわ」
「そうか」
 これ以上は聞けなかった。
「それに・・・・・・私がこの子に出会えたのは偶然じゃないから」
「偶然じゃない」
「最期に一人だけじゃないっていう神様の采配だから」
「そうなんだ」
「家族の人には知らせてないの?」
 ヒメが彼女に尋ねる。
「そのこと」
「家族には黙って出て来たの」 
 これがネリーの返答であった。
「悲しませることになるから・・・・・・。それなら目の前にいない方がいいから」
「そうなの」
「なあネリーさん」
 オザワが声をかけようとする。
「貴方の言いたいことはわかっています」
 ネリーは彼に応えた。
「けれど、最期は一人ではありませんから」
「一人じゃない」
「はい。ですからいいです、私は」
「そうですか」
「ネリー」
 また勇が声をかけてきた。
「俺達はここにいるべきじゃないよな」
「勇さん」
「ここから出て。別の場所に行かなくちゃいけないんだよな」
「はい」
 ネリーはその言葉に頷いた。
「貴方達は大きな運命の中にいる・・・・・・。それはわかっていたわ」
「それじゃあ」
「今の動きは地球やオルファン・・・・・・そして大いなる存在の意思に大きな影響を与えているから」
(大いなる意思!?)
 四人は心の中でそれに反応した。
(それは一体)
「ネリー」
 それが気になった勇がまず声をかけてきた。
「はい」
「それは・・・・・・オルファンとは別の存在なのかい?」
「詳しいことは私にもわからないわ」
 彼女はゆっくりと首を振って言う。
「けれど・・・・・・何かが目覚めようとしているのはわかるわ。この星に眠っていた何かが」
「この地球に」
「オルファンとは別に」
 彼等にはそれが何かわからなかった。また一つ大きな謎が生まれたことだけしかわからなかった。
 そして静寂の世界は終わった。突如として何者かの気配が感じられたのだ。タダナオがそれにまず反応する。
「敵か!?」
「何処に」
 オザワがそれに続く。二人は辺りを見回した。
「あれだ!」
 タダナオが指差す。そこには見慣れたシルエットがあった。
「あれは」
「勇!ブレンに乗って!」
「ネリー!」
 ネリーが叫んでいた。
「時が来たから」
「わかった、それじゃあ!」
 勇はそれに従った。すぐにブレンに向かう。
「私も!」
 ヒメも続いた。そしてタダナオとオザワも。彼等はすぐにそれぞれのマシンに向かった。
「まさかグランチャーか?」
 勇はブレンに乗って呟いた。
「ジョナサンなのか」
「フハハ・・・・・・フハハ・・・・・・」
 得体の知れない笑い声が聞こえてきた。
「ヒャハハハハハハハハハ!」
「その笑い声、ジョナサンか!」
「そうだ、俺だあ!」
 ジョナサンの声が返ってきた。
「久し振りだな、勇!」
「生きていたのか!」
「今の御前と同じようにな!やれよ、バロンズゥ!」
「バロンズゥ!?」
 勇はその聞きなれない固有名詞にふと戸惑った。そしてそこに隙を作ってしまった。
「ヒャハハハハハハハハハ!」
 ジョナサンはそこを見逃さなかった。一瞬で間合いを詰め謎の光を放ってきた。
「うわっ!」
 突然の攻撃であった。さしもの勇もかわしきれなかった。その光をまともに受けてしまった。
「勇!」
 ネリーがそれを見てまた叫んだ。
「ジョナサン、貴様!」
 だが勇は無事だった。ジョナサンに対して激昂した言葉を返す。
「折角の再会だ!再会を祝して歓迎してやっているんだ!」
 ジョナサンの叫びには狂気が感じられていた。
「孤独であるより楽しいぞ!」
「まだ言うのか!」
「何度でも言ってやる!オーガニック=エナジーが作ってくれた再会だ!共に祝おう!」
「クッ!」
 ジョナサンはまた攻撃を仕掛けてきた。勇はそれを何とかかわして自身のブレンに対して言う。
「ブレン、逃げろ!相手に出来るもんじゃない!逃げろ!」
「ヒャハハハハハハハ!」
 ジョナサンは勇のその声を聞いてさらに哂う。
「勇のブレンが泣いているなァ!勇!」
 勇に対してもさらに言う。
「貴様が泣くのを見られるとはなあ!人生も捨てたモンじゃない!」
「舐めるなあっ!」
 だが勇は泣いてはいなかった。まだ心では負けてはいなかった。
「どんな状態でも!」
「伊佐未ファミリーにはそろそろ消えてもらう!その血祭りの手始めだ!覚悟してもらうぜえっ!」
「くうっ!」
「いけない!」
 ジョナサンはさらに攻撃を仕掛ける。ヒメ達はようやくそれぞれのマシンに乗り込んだばかりでまだ間に合いそうにもない。
ネリーはそれを見て動いた。
 自身のブレンに飛び乗る。そして勇とジョナサンの間に入ってきた。
「なっ、勇の援軍か」
 ジョナサンは彼女とそのブレンの姿を認めて動きを止めた。
「貴方達の邪気がこの森を・・・・・・」
 ネリーはジョナサンをキッと見据えて言う。
「バイタル=ネットが作る結界を汚しています!」
「何を偉そうに!」
 だがジョナサンはまた激昂して叫ぶ。
「ここは俺とバロンズゥが造る結界だぞ!」
「またバロンズゥ」
「やはり」
 ネリーはバロンズゥという単語に反応した。
「バロン=マクシミリアン」
「バロン=マクシミリアン」
「勇、あっちに人が!」
 そこでようやくブレンに乗り込んだヒメが小屋の側の岩場を指差す。そこは高くなっていた。
「人!?」
「やはりここにいたのね」
 ネリーもその岩場に顔を向けていた。そしてそこにいる仮面とマントを身に着けた謎の人物がいた。
「バロン=マクシミリアン!」
 ネリーはその人物を見据えて叫ぶ。だがバロンは一言も発しなかった。
「・・・・・・・・・」
「グランチャー=バロンズゥをけしかけることは罪を犯すことです」
「・・・・・・・・・」
 だがそれでもバロンは言葉を発しない。
「バロンズゥを退けさせなければ私のブレンも爆発するかも知れません」
 だがネリーはそんなバロンに対して話し続ける。
「それでは私も罪を犯し。あなたも罰を受けることになります。それでもいいのですか?」
「罪を犯し罰を受ける・・・・・・どういうことだ」
 勇はその言葉に何かの謎を見ていた。
「そんなことは関係ない!」
 しかしそれは破られた。またジョナサンが叫んだのであった。
「誰かは知らないが勇と一緒に潰してやる!」
 ネリーに向かってきた。
「そして貴様の罪と罰もチャラにしてやるよ!」
「お止めなさい、バロンズゥを操る人!」
 だがネリーは臆してはいなかった。ジョナサンに対して叫ぶ。
「貴方は自分が思っている程の力はないのです」
「何だと!?」
「バロンズゥ、お帰りなさい、貴方のプレートに!」
「!?」
 ここでジョナサンのバロンズゥの動きが止まった。
「どうした、俺のバロンズゥ」
 ジョナサンは動きを止めた自分のバロンズゥに対して言う。
「何をビビッている、相手はたった一人のブレンだぞ」
「・・・・・・・・・」
 バロンはその様子を見ていた。やはり一言も発しない。
「ネリー、俺のことはいい!」
 隙が出来たのを見て勇が叫んだ。
「早く逃げるんだ!」
「馬鹿なことは言わないで」
 だがネリーはそれを拒否した。
「ジョナサンという奴は普通じゃないんだ!」
「ユウ=ブレンを見れば」
 ネリーはそれでも彼に対して言う。
「守らなければならないのは・・・・・・私とネリー=ブレンです」
(ユウ=ブレン)
 勇はそれを聞いて自身のブレンに対して心で語り掛けた。
(甘えられるのか!?この厚意に)
 ネリーはその間に勇の側に来た。そしてここで何かが聞こえてきた。
「!?」
「ネリーとか!」
 ジョナサンはまたネリーに声をかけてきた。
「ユウ=ブレンを放して戦ってみろ!」
「嫌です!貴方達こそこの森から出るのです!」
 ネリーはそんなジョナサンに対して強い気を向けていた。
「まだ言うのか!」
「ユウ=ブレン!」
 勇は今度は声に出した。
「助けられず、助けられただけで」
 ブレンに対して言う。
「そして落ちていく。いいのか、そんな運命で!」
「・・・・・・・・・」
「!?また」
 勇の心に何かが聞こえてきた。
「何、生まれた時にオルファンに連れて行かれて辛かっただと」
「・・・・・・・・・」
 ユウ=ブレンは言葉には出さない。勇の心に直接語りかけていたのである。
「それをオルファンから連れ出してくれて嬉しかった」
「・・・・・・・・・」
「太陽が見られて太陽がある宇宙を想像できて」
「宇宙の中のこの星・・・・・・。人間が地球と呼んでいる星のことがわかって嬉しかった」
「・・・・・・・・・」
「そういう中で生きてこられたのが喜びだ。けれど今何も出来ないのが・・・・・・」
「わかっているのなら何とかしろ!」
 勇はここで叫んだ。
「クッ!」
 しかしここで動いたのはジョナサンだった。彼は攻撃を仕掛けずにバロンの側に向かった。そしてバロンに対して言った。
「バロン=マクシミリアン」
 あの傲慢さは何処にもなかった。謙虚な様子でバロンに言う。
「お借りしたバロンズゥの力、存分に使わせて頂きます」
「ジョナサン」
 バロンはそんな彼に言った。
「油断はするな。手負いの人間は何をするかわからない」
「心得ております。それでは」
「うむ」
「そこで私の狩りをお楽しみ下さい」
 彼は完全に従者となっていた。彼は今バロンの僕となっていたのだ。そしてその僕がまた勇のところに向かった。
「させん!」
「ここは僕達が!」
 だがその前にタダナオとオザワが立ちはだかる。
「貴様等なぞ!」
 だがジョナサンはそれを無視しようとする。彼等の間をすり抜けてでも勇に向かおうとする。だがその前にまたもう一機姿を現わした。それはヒメ=ブレンではなかった。ヒメはタダナオ達と共にいた。
「なっ!?」
「グッドタイミングってとこかしら」
 レミーの声だった。
「ゴーショーグン!」
「来てくれたのか」
「今度もケン太の予言が的中したみたいだな」
 ゴーショーグンのコクピットから真吾の軽い声が聞こえてくる。
「こりゃ将来は占い師で食っていけそうだね」
「ううん、僕はただ友達から居場所を教えてもらっただけだから」
 だがケン太はキリーに対してこう答えた。
「その友達ってのがよくわかんないんだけれどね」
 レミーがそれを聞いて呟く。
「ま、結果オーライってことで。ケン太のおかげで宝探しは終わったし」
 キリーがここで言う。
「それじゃあ鬼退治といきますか」
「了解」
「最近見せ場が多くて何よりだね」
「糞っ、忌々しい!」
 ジョナサンはゴーショーグンを前にして顔を歪ませる。
「どうしてここに!」
「正義の味方ってのはピンチに現われるものさ」
「それも颯爽とね」
「今回もドンピシャだったわけね」
「ふざけやがって!」
「バロン!」
 ジョナサンが行く手を防がれている間にネリーはまたバロンに問うた。
「あなたは何を考えているの!?」
「答える必要はない」
 だがバロンはそれに対して答えようとはしなかった。
「あなたはあのグランチャーを邪悪に使うことを考えているだけ!あの青年を利用してどうするつもりなの!?」
「黙れ!」
 だがネリーに対してジョナサンが怒声を浴びせた。
「くっ!」
「俺は俺の戦い方をバロンに示し!」 
 彼は言う。
「そのうえでオルファンに凱旋する!勇を討った後で貴様の話を聞いてやる!」
「貴方は何もわかっていない!」
 ネリーはそんなジョナサンに対しても言った。
「貴方は他人に自らの怨念をぶつけようと考えているバロンとそのグランチャーに操られているだけです!」
「五月蝿い!バロンを悪く言うことは許さん!」
 しかしジョナサンは聞こうとはしない。
「バロン=マクシミリアンは俺を理解してくれた!」
 彼はまた言った。
「そのバロンの前で無様な姿を晒すわけにはいかないんだ!」
「ジョナサン!?ネリーを」
「勇!」
 だが彼は勇に向かっていた。
「あっ、しまった!」
「真吾、何やってんのよ!」
 ジョナサンはゴーショーグンの間をすり抜けていた。そして勇に向かう。
「トドメは一気に受けた方が楽だぜ!」
「ブレン!」
 勇はそれを受けてユウ=ブレンに対して叫ぶ。
「撃てなければいい!」
 彼も覚悟を決めていた。
「もういい!よくやった!好きにしろ!」
 叫ぶ。
「付き合う!」
 ジョナサンのバロンズゥが迫る。だがそこでユウ=ブレンの足下にブレートが出現した。
「なっ!?」
 ジョナサンはそれを見て飛び退いた。
「リバイバルのブレード!?」
「オーガニック=エナジーの波動がこの様に現われる!?」
 それまで殆ど口を開かなかったバロンも思わず口にしていた。
「ネリー!覚悟はついた!」
 勇はそれを見てネリーに対して言う。
「ネリーだけでも逃げてくれ!」
「私達だって覚悟はできているわ!」
「何だって!?」
「私達の覚悟は貴方を守ること!」
「俺を」
「ええ。貴方が来てくれたことでようやくわかったの」
 ネリーは言った。
「貴方ならブレン達を強く育ててくれる。私の分も生かしてくれるってわかったから」
「俺が」
「そうよ」
「くっ、何を話している!」
 ジョナサンはまた向かおうとしていた。時間はなかった。
「カーテンの向こうで何をやっている!」
「リバイバル!?」
 勇は咄嗟に言った。
「もう一度リバイバルする!?」
「この子は完全じゃないの!もう一度リバイバルが必要なの!」
 ネリーはそれに応えた。
「ネリー!」
「ジョナサン」
 焦るジョナサンに対してバロンが声をかける。
「バロンズゥの手に私を乗せよ」
 落ち着いた様子で言う。
「このリバイバルが私が怖れているものならば私はオルファンに行かなければならない」
「その前に!」
 だがジョナサンはそれを聞こうとはしなかった。
「狙撃してやる!」
「未熟者の言うことは聞かない!」
 だがバロンは頭に血が昇っている彼を一喝した。それでジョナサンの頭を冷やした。
「急げ、ジョナサン!」
「バロン!」
「リバイバルが終わった時、あのブレードがチャクラの矢になって襲って来たらどうするつもりなのだ」
「そ、それがオーガニックなるものだとしたら」
 ジョナサンも従うしかなかった。彼はまたバロンの下へ来た。そしてバロンを乗せて何処かへと姿を消してしまった。
「行ったか」
「ああ」
 オザワがタダナオに応える。
「ジョナサンの奴、生きていたか」
「まあ予想はしていたがな」
「あいつも気になるがあのバロン=マクシミリアンだけどな」
「あいつか!?」
「何者だ!?ありゃ」
 タダナオは首を傾げさせていた。
「いきなり出て来やがったが。妙な奴だな」
「そもそも男か女かもわからねえな」
「声からして男だろ」
「そうかね」
「俺はそう思うけれどな。どうだろうな」
「私は女の人だと思うよ」
「ヒメちゃん」
 二人はヒメの言葉に顔を向けた。
「何かお母さんみたいな感じがしたから」
「お母さん!?」
「それはちょっと違うんじゃ」
「ううん、そんな感触だった。それに」
「それに!?」
「何か知っている人に感じが似ていた。誰かまではわからないけれど」
「そうなんだ」
「じゃあ。誰なんだ?ありゃ。ミリアルドさんでもないし」
「おいおい、ミリアルドさんはもうこっちにいるぜ」
「だからだよ」
「おい、三人共」
 ここで真吾が彼等に声をかけてきた。
「!?真吾さん」
「連中のこともいいが勇のことも目を向けないか」
「おっと」
「それでネリーさん・・・・・・ん!?」
 ここで彼等は異変を見た。
「な・・・・・・」
 真吾達もそれを見て絶句した。
「な・・・・・・何がはじまるの!?」
 レミーにもいつもの調子はなかった。
「二つのブレンが・・・・・・」
 ケン太も言う。見ればユウ=ブレンとネリー=ブレンが合わさろうとしていたのだ。
「一つになる。そんなことが・・・・・・」
「ネリー」
 勇はその異変の中でネリーを呼んでいた。
「何処だ、何処へ行ったんだ」
「ここよ、勇」
 彼女は心の中で勇に語り掛けていた。
「私わかったのよ」
「わかった!?何を」
「この子がここを出たがらなかったのは貴方の様な人を待っていたのよ」
「俺を」
「そう。命を与えられた者の可能性を探す為に」
「誰が与えた可能性なんだい、それは」
「それは貴方が探して」
 彼女は言った。
「私にはもう探せないから。けれどそれはこの子が探してくれるわ」
「ブレンが」
「そう。この子の力で勇の大切な人達も守ってくれればいいから」
「ネリー=キム、君は」
「勇、忘れないで」
 最後が来ようとしていた。ネリーはこれまで以上に優しい声で彼に語り掛ける。
「私は孤独ではなかったわ。・・・・・・最後に貴方に出会えたし。それじゃあ」
 ゆっくりと目を閉じた。
「有り難う・・・・・・」
「ネリー・・・・・・」
 ネリー=ブレンはリバイバルした。そしてネリーは完全に消えてしまった。
「ネリーさん・・・・・・」
 ヒメはポツリと呟いた。
「あれがあの人の運命だったんだ」
 泣きそうになるヒメに対してタダナオが言う。
「悲しいけれど・・・・・・それだけだ」
「それだけ」
「言い方が悪かったか、済まない」
 彼は自分の言葉を訂正した。
「あの人は死んだんじゃない。中に入ったんだ」
「中に入った」
「そうさ、見てみるんだ」
 前を指差した。
「あの勇のブレンを。あれが何よりの証拠さ。あの人がいることの」
 そこにあるユウ=ブレンはそれまでとは形が違っていた。青い色は変わってはいなかったがそのシルエットはネリー=ブレンのものと合わさったものになっていたのだ。
「泣くなよ」
 勇はその生まれ変わった自分のブレンに対して言った。
「俺のブレンは雄々しかったんだぞ。そのビットだって取り込んだんだ。だから」
 そして言う。
「もう泣くんじゃない」
「・・・・・・・・・」
 ブレンはそれ以上何も言わなかった。ただ泣くのを止めた。丁度そこで仲間達がやって来た。全ては終わったのであった。
 勇は一旦ブレンから降りた。そして小屋の側まで行く。
「ネリーさんの方身を埋めるつもり?」
 側にやって来たヒメが問う。
「ああ」
 勇はそれに頷いた。
「俺もブレンも何時までも泣いているわけにはいかないからな」
 そう言いながら穴を掘る。
「ブレスレット一つの記憶より」
 ネリーが着けていたブレスレットを見詰めながら言う。
「俺達の中に染み込んだネリー=キムの思い出を大切にしたいからな。一杯あるだろ?」
 ここでネリー=ブレンを振り返る。ユウ=ブレンと合わさったネリー=ブレンを。
「・・・・・・・・・」
「御前の中にはネリーも、俺のブレンもいるんだからな」
「この子の中にネリーさんがいるんだ」
「そうさ、俺達はずっと一緒だ」
 勇はまた言った。
「ずっとな。これからも」
「ネリーさんはいい人なんだね」
「ああ」
 ここでヒメは過去形を使わなかった。
「人を愛していたんだ」
「そうだろうな。だからバロンを恐れていた」
「バロンを」
「ネリーはバロンとジョナサンがオルファンに入ることを恐れていた」
「あの人達を?」
「そうさ。けれど俺達は今一つの記憶を封印しよう」
 彼はブレスレットを埋め終えて言った。
「これからの戦いの為に」
「うん」
 二人はネリーと共に戦艦に戻った。彼等もまた生まれ変わったのであった。

「よかった、無事で」
 勇を皆が出迎えた。その中にはイルイもいた。
「心配したんだぞ」
「済まない、皆」
 勇は申し訳なさそうに頭を下げた。
「心配をかけてしまった」
「いや、それはいいさ」
「御前が無事だったんだからな」
 彼等は口々に言う。
「皆・・・・・・」
「それよりもそっちは色々あったみたいだな」
「ああ」
 勇はこくり、と頷いた。
「何かとな。けれどもう平気だ」
「そうか」
「それは何よりだ。御前のいない間にオルファンでも動きがあったしな」
「オルファンでも」
「ああ」
 ラッセが答えた。
「完全に海面から離れた」
「そうなのか」
「長く続く戦乱に耐えられなくなってきたようだ」
「事態は悪化しているんだな」
「何、それでも希望は残っているさ」
 落ち込もうとする一同に対して真吾が言った。
「よく言うだろ、人間に残る最後の友達は」
「希望だって言いたいのね」
「そういうこと。わかってるな、レミーは」
「あら、ギリシア神話はレディーの嗜みよ」
 レミーは笑って返した。これがギリシア神話のパンドラの箱の話であるのはもう言うまでもないことであろう。
「今回はケン太が希望になったわけだな」
「そうね」
 レミーはキリーの言葉に頷いた。
「何か俺達より凄いな」
「私達って所詮ロボットに乗るだけだからね」
「正義の味方の正体見たり、枯葉柳」
「それはそうとケン太は何処に行ったんだ?」
 勇が問う。
「あっ、そういえば」
 レミーも気付いた。
「何処に行ったのかしら、あの子」
「お父さんに会っているよ」
「お父さん!?」
 皆真吾のその言葉に眉を顰めさせた。
「真吾、悪い冗談はよしてくれ」
「真田博士はもう」
「何でもあらかじめファザーに自分の意識を移動させていたらしい」
「ファザーに」
「じゃあサバラスさんもこっちに来ているのか」
「ああ。それで話をしている。まあ大体宙の親父さんと一緒だな」
「親父とか」
 宙はそれを聞いて少し複雑な顔を作った。
「まあそういうことさ。心配はいらないよ」
「了解」
 真吾の言葉通りケン太は父と話をしていた。OVAやサバラスも一緒である。
「真田博士」
 サバラスはファザーの中にいる真田博士に問うていた。
「それではケン太の友達と私達の使命は深い関係にあるのですか」
「そうだ」
 そして博士はそれに頷いた。
「ケン太の成長とビムラー覚醒のきっかけとなる」
「ビムラーの覚醒?」
 ケン太はそれを聞いて目を少し丸くさせた。
「ビムラーって瞬間移動を可能にするエネルギーのことだよね」
「うむ」
 父は息子の言葉に頷いた。
「それと僕にどんな関係が」
「いいかケン太、よく聞くんだ」 
 博士は言った。
「御前と御前の仲間達にはこれからも多くの試練が待ち受けている」
「試練が」
「そうだ、それに打ち勝った時人類は新たなステップを踏むことになるだろう」
 彼は言う。
「覚醒したビムラーや、御前の友人達と共に」
「え・・・・・・!?」
 ケン太はそれを聞いてキョトンとした。
「それはどういう意味なんですか?」
 OVAにもわからなかった。そして問うた。
「外宇宙に進出したとはいえ人類はまだ未熟な存在だ」
「はい」
 サバラスはそれに頷いた。それを否定するつもりはなかった。
「本当の意味で巣立ちをするには守護者の下から離れなければならない」
「守護者!?」
 それを聞いたケン太達の顔が疑念に支配された。
「博士、それは」
「どういうことなの、父さん」
 彼等はそれぞれ問うた。
「ビムラーって、守護者って何のことなの?」
「今は今のままでいい」
 だが博士はそれに答えなかった。
「いずれわかることだ。そしてその時こそ」
「その時こそ」
「人類の新たな旅のはじまりとなるのだ」
「父さん!」
「ケン太、暫しのお別れだ」
 博士は息子に対して微笑んでこう言った。
「また会おう」
 そして姿を消した。後はケン太が幾ら読んでも姿を現わさなかった。
「ケン太」
 サバラスはそんな彼に優しい言葉をかけた。
「博士は再びファザーの中で眠りにつかれた。呼び掛けるのはよそう」
「うん・・・・・・」
 サバラスは彼が納得したのを確かめてから言った。
「君は博士の言葉通り旅を続けなければならない」
「旅を」
「そうだ。全ての答えを見つける為にだ。わかったな」
「そうですよ、ケン太君」
 OVAも言った。
「OVA」
「ケン太君の旅はまだ終わりじゃないんですから」
「そうだな」
「わかったよ」
 ケン太は二人の言葉に頷いた。
「僕は自分で答えを見つけ出すよ」
 強い声で言った。
「それがこの旅の目的なんだから」
「そうだな。では私も行こう」
 サバラスは立ち上がった。
「自分自身の旅に。また会おう」
「うん」
 サバラスも発った。彼等は別れそれぞれの旅に向かった。ロンド=ベルの、そしてケン太の旅はまだ続くのであった。


第七十話   完

                                      2006・1・27


[348] 題名:第六十九話 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年07月02日 (日) 23時02分

            ビムラーの動き
「御主人様、御主人様」
 一匹の小鳥が紫の髪の青年に声をかけていた。
「何ですか、チカ」
 シュウはその小鳥の名を呼んで顔を向けてきた。
「今度はドクーガが動き出しましたよ」
「そうですか」
 シュウはそれを聞いて小さく頷いた。
「どうやらこちらも予想通りですね」
「予想通りですか」
「はい、問題はここからです」
 シュウは静かな声で述べた。
「ロンド=ベルもね。おそらく過酷な戦いになるでしょうね」
「そうなんですか」
「そう、特にマーズさんが」
「マーズさん?ああ、彼ですね」
 チカはそれが誰か気付いた。
「彼なら大丈夫じゃないんですかね」
「いえ、わかりませんよ」
 何となく答えたチカに対してこう返す。
「彼は戦士としてはまりにも優しいです。そして」
「そして?」
「いえ、これから先は言わないでおきましょう」
 シュウはここで言葉を止めた。
「後のお楽しみということで」
「チェッ、またですか」
 チカはそれを聞いて口を尖らせた。
「御主人様っていつもそうなんですから」
「フフフフフ」
 シュウは思わせぶりに笑うだけであった。そして部屋を後にする。そして何処かへと姿を消すのであった。

「早瀬君」
 グローバルがマクロスの艦橋で未沙に声をかけていた。
「はい」
「パナマ運河まであとどれ位かな」
「一時間程です」
 未沙は落ち着いた声でこう返した。
「一時間か」
「そろそもマシンの発進をかけておいた方がいいと思いますが」
「そうだな」
 グローバルはその言葉に頷いた。
「では全機に発進用意を命じておいてくれ」
「わかりました」
「そしてドクーガの動きに関しての調査はどうなっているか」
「今彼らはカリブ海におります」
 今度はクローディアが答えた。
「カリブ海か」
「そこから進撃しております」
「思ったよりも普通だな」
「普通ですか」
「うむ、ドクーガだからな」
 グローバルは腕を組みながら静かにこう述べた。
「いきなり派手にくると思っていたのだが」
「彼等もそういつも派手なことはしてはこないでしょう」
「そうかな」
「このままいけばパナマ運河には順調に到着しますし。そこでドクーガを迎え撃ちましょう」
「そうするとするか。しかし最近は基地や街を守る戦いが多いな」
「これも何かの縁ですね」
「そういうものかな」
 こうしてロンド=ベルはパナマ運河に無事到着し陣を敷いた。そしてそこでドクーガを待ち受けるのであった。
「そういやドクーガって何なんだ?」
「ってバサラ」
 ミレーヌがバサラの言葉にキョトンとした。
「あんたもしかして今まで知らなかったの?」
「悪い奴等だってことは知ってるけれどよ」
「そういう問題じゃないでしょ。何で今まで知らなかったのよ!」
「俺は戦うのははじめてだぜ」
「そうじゃなくて!敵の組織のこと位頭に入れておきなさいよ!」
「ヘッ、敵のことなんて知ってもなあ、そんなのは戦いを終わらせる為には何もなりゃしねえんだよ!」
 ここまでの暴言は流石に今までなかった。忍や勝平ですら遥かに凌駕する言葉であった。
「必要なのはな、歌だ!」
 彼は言う。
「どいつもこいつも俺の歌を聴きやがれ!そうしたら戦いなんて一発で終わるぜ!」
「あんたの頭の中はどうなってるのよ!」
 ミレーヌがまた叫ぶ。
「敵のことさえ知らないで戦っても負けるだけでしょうが!」
「安心しな、俺は負けたりはしねえぜ!」
「あんただけよ、そんなこと思ってるのは!」 
 こうしていつもの口喧嘩に入った。真吾達はそれを見てにこやかに笑っていた。
「微笑ましいねえ、どうも」
 キリーがバサラとミレーヌを見て楽しげに言う。
「仲良きことは美しきかな」
「あら、そうきたの」
 レミーがそれを聞いて言葉をかけてきた。
「何か、マドモアゼル」
「私はてっきり若いっていいとか言うと思ったわ」
「おやおや、それはレディーらしくない御言葉」
「生憎歳はくってるからね」
 レミーは自嘲を交えて言う。
「ああした若さを見たらやられちゃうのよ」
「おやおや」
「私も。たまには燃えるような恋がしたいわ」
「最近そうした言葉が多いな」
 真吾がそこで突っ込みを入れる。
「どうしたんだ、また」
「ティーンエイジの若さにやられたのよ」
 レミーはこう返す。
「ロンド=ベルってヤングが多いから」
「そのヤングって言葉からして古いな」
「仕方ないでしょ。私達はアダルトなんだから」
「アダルトねえ」
「大人は大人らしくヤングを見守っていればいいのよ。けれど妬けるわね」
「その心配はないと思うぜ」
「どういうこと、キリー」
「もうすぐあのブンドルが来るからさ。また色々と言うんじゃないかな」
「ブンドルもねえ」
 レミーはここでわざと困った顔を作った。
「個性が強いから」
「あの三人の個性はまた凄いからな」
「アクが強いっていうかねえ。まさかドクーガの三人があんなのだとは思わなかったわ」
「あんなのとは心外だな、マドモアゼル」
「おや」
「言った側から」
 ドクーガの三隻の戦艦がパナマ運河の東に姿を現わした。
「私達は赤い糸で結ばれているというのに」
「何かいつも言われるけれどね、それ」
 レミーはブンドルにこう返す。
「実際そんなものはないんじゃないかしら」
「夢のないことを」
「だって私とあんたは敵同士だし。どう見たって脈はないわよ」
「それは杞憂だな」
「杞憂ってここで使う言葉だったかな」
「さて」
 真吾とキリーは互いに囁き合う。
「敵同士だからよいのだ」
「あら、新解釈」
「ロミオとジュリエットがそうだったように」
「ロミオとジュリエットか」
「また面白い話を出してきたな」
 京四郎がそれを聞いて呟く。
「どうやらここにもロミオとジュリエットがいるらしい」
 一矢をチラリと見ながら言う。
「許されぬ愛。だがそれへの成就に向けて燃える二人。それこそが」
 そしてここで薔薇を掲げた。
「美しい・・・・・・」
「よし、これで前口上は終わったな」
 カットナルが前に出て来た。
「ロンド=ベル、久し振りだな」
「おや、カットナル上院議員。どうしてここに?」
「何故それを」
 万丈の言葉に反応する。
「いえ、何故ここにおられるのか気になりまして」
 万丈はさらに言う。
「どうしたんですか?会社の宣伝ですか?」
「ええい黙っておれ!わしはカットナル上院議員などではない!」
「・・・・・・どう見てもカットナル上院議員よね」
「あんな目立つ人そうそういないし」
 エルとルーがそれを聞いてヒソヒソと囁く。
「我が名はスーグ=ニ=カットナル!カットナル上院議員では決してないぞ!ましてや製薬会社とも一切関係はない!わかったか!」
「自己紹介しちゃってますよ、あの人」
 メグミが呆れた声で言う。
「ううん、狙っているのかしら」
 ハルカも首を傾げている。
「大体お主も財閥を放っておいて何をしているか!」
「何で僕が財閥を持っているって知っているのかな」
「勘だ!」
「うわ、凄い強引」
「ここまで強引だと流石に黙るしかないわね」 
 アクアとエクセレンも困った顔をしていた。
「わしの勘を舐めるな!それにわし等はただ何もなしでここに来たわけではない!」
「そうよ!かみさんから貰ったお小遣いを奮発してやって来たのだからな!」
 ケルナグールも出て来た。
「覚悟せよロンド=ベル!今度こそビムラーを手に入れてやるわ!」
「今かみさんって言わなかったか?」
 ケーンがそれに気付いた。
「あれ、あの人結婚してるんだぜ。知らなかったのか?」
 タップがそこで突っ込みを入れる。
「そうなのか」
「ああ。それもかなりの美人だぜ」
「マジかよ。世の中何があるかわからねえな」
「蓼食う虫も好き好きってね」
「こら、そこ!」
 ケルナグールはドラグナーチームの三人に反応してきた。
「今何と言った!」
「ゲッ、聞こえてたのかよ」
「わしの耳は地獄耳だ!ボクサーを舐めるな!」
 彼は叫ぶ。
「わしのかみさんは心からわしを愛してくれておる!そしてわしもだ!」
「ううむ」
「世の中は本当に不思議だな」
「これがその写真よ!」
「何と!」
 それを見ていつもはクールなライトも思わず叫んだ。
「ちょっと待てライト」
 だがそこでケーンがクレームをつけた。
「御前が何と!はねえだろ」
「おっとそうか」
「そうそう、御前の言う何と!は」
 タップも言う。
「わかってるさ。それじゃあ」
 ライトもわかっていた。そして構えを取り直して言う。
「何とおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!これでいいな」
「上出来上出来」
「やっぱその声だとそれだよ」
 だがそれだけ叫ぶ価値はあった。ケルナグールが出してきた写真には恐るべき光景が映っていたのだ。
 似合わないタキシードに身を包んだケルナグール。そしてその横には純白のドレスに身を包んだブロンドの美女がいたのである。それは美女と野獣そのものであった。
「コラですね」
「違います」
 ルリがユリカに突っ込みを入れた。
「ううむ」
 これにはさしものブライトも考え込んでいた。
「話には聞いていたが」
「実際に見るとな。現実だったなんてな」
 アムロも言う。この二人でさえこの反応であった。
「ハッハッハ、どうだ驚いたか!」
 ケルナグールは呆然とする彼等に対して自信満々で胸を張っていた。
「わしのかみさんだ!美人でとても優しいのだぞ!」
「全く。世の中には不思議なこともある」
 味方である筈のブンドルまでこう言う。
「どうしてこの様な男に」
「ん!?羨ましいのか」
 ケルナグールは彼に対しても得意気に言う。
「わしのかみさんは世界一よ。そしてわしは世界一の幸せ者よ!ワッハッハ!」
「どうもあの声の手合いってのは家庭的に恵まれるみたいだな」
「博士が言うと説得力がありますね」
「そうかな」
 ピートが大文字に対して言っていた。
「ではそろそろ行くとするか!覚悟はよいか!」
「とっくにできてるぜ」
 ジュドーが返す。
「何かドクーガとやる時は前口上がやたら長いんだよな」
「というか戦ってる方が短いな」
 シリアスなカミーユですら同意見であった。
「フン、前口上は戦いの前の当然の儀礼よ」
「それがわかわぬとは無粋な」
「美しさを解さぬことだ」
 ケルナグール、カットナル、ブンドルはそれぞれ言った。
「何かこんな時だけタイミング会うね、この三人」
 モンドがそれを見て言う。
「それだけは見事だね」
「俺達だってああはいかねえけどな」
 ビーチャも頷いていた。
「あたし達でも無理だよね」
「少なくともあたしは変態にはなりたくないぞ」
「コラ、そこの小娘!」
 カットナルはプルとプルツーの言葉にすぐに反応してきた。
「変態とは何だ、変態だと!」
「わし等を捕まえて変態とは!訂正するがいい!」
「何ということだ。美しき少女が」
「変態じゃなかったら変な人かしら」
「アム、そのままだぞ」
 レッシィが突っ込みを入れる。
「うぬうう、もう許してはおけぬ」
「最早これまで。全軍攻撃に移れ!」
「では今日の曲を選ぶとしよう」
 ブンドルは落ち着いた声で述べる。
「曲は」
「そうだな」
 ブンドルは優雅な動作で部下に応える。
「グリーグがいいな」
「ではベールギュントより朝の気分は如何でしょうか」
「うむ、それを頼む」
「わかりました」
 こうして曲がはじまった。ブンドルは静かに目を閉じ曲に聞き入りはじめた。
「素晴らしい。これこそ戦いを清らかにするものだ」
「ふむ、確かにいいのう」
 ケルナグールもこの曲に聞き入っていた。
「わしも気に入ったぞ。お主の選ぶ曲にしてはいいではないか」
「そう。私の選ぶものは全て完璧なのだ」
 相変わらず優雅な動作で言う。
「そしてこの曲を前に行われる戦いはさらに」
 紅のワインが入ったグラスを掲げる。
「美しい」
「さてと、前口上はやっと終わりか」
「何か段々長くなってる気もするが」
 ナンガとラッセが述べる。
「やるぜ!覚悟はいいな!」
「言われずとも!」
「やらせはせん!やらせはせんぞ!」
「戦いは・・・・・・いいものだ」
 それぞれ名乗りをあげてロンド=ベルに向かう。早速三隻の戦艦からインパクター達が出て来る。
「何だ、御主等それしかないのか」
 ケルナグールがまずそれに気付いた。
「そういう御主はどうなのじゃ」
 カットナルがそれにすぐ返す。
「インパクターだけでやるつもりだったのか」
「フン、わしは今お小遣いが足りないのじゃ」
「何だと!?」
 カットナルはそれを聞いて眉を顰めさせた。
「さっき奮発してもらったと言っておったではないか」
「あれは言葉のあやよ!わしのかみさんからのお小遣いは一週間に九千九百九十九万九千九百九十九ドルと決められておるのじゃ!わしもそれ以上もらう気はないわ!」
「そんなことは早く言え!」
「いつも言っておろうが!」
「それってお小遣いの額か?」
「ギャグ・・・・・・じゃねえよなあ」
 甲児と宙がそれを聞いて呟く。
「あのおっさん以外と大金持ちなんだ」
「しかも美人の奥さんもいてか。何かすっげえ恵まれてねえか、おい」
「フン、わしは宇宙一の幸せ者だと言っておろうが!」
 ケルナグールはそんな二人に叫ぶ。
「わしのお小遣いはかみさんからわしへの愛のほんのささやかな一つに過ぎん!どうじゃ、羨ましいじゃろう!」
「とにかくだ」
 カットナルは言った。
「お主は今何も持ち合わせはないのじゃな」
「うむ」
「全く。ではやはりわしがメインになるか」
「カットナル、私もいるが」
「御主も御主で今苦しいのではないのか」
「何のことだ?」
「この前の作戦の費用は一括払いだった筈だが」
「な、何故それを・・・・・・」
 グラスをゴトリ、と落とした。だが下に高価な絨毯を敷いているので割れはしない。
「フン、どうやら図星だったようだな」
 カットナルはそれを聞いてニヤリと笑った。
「では今回のメインは無理だな」
「クッ」
「ではわしがメインを張らせてもらおう。久し振りのロンド=ベルとの戦いのな」
「フン、勝手にやるがいい」
「ではお手並み拝見といこう」
「それでは見ているがいい。いでよ、三十五身合体ロボ!」
「三十五身!?」
「またえらく派手にでたなあ」
 甲児と宙がまた言う。
「フン、五つや六つなどと甘いものではないぞ!」
「ゴッドマーズに喧嘩売ってるつもりかな」
「さて」
 コウとキースも呆れていた。だがカットナルはそれでも続けた。
「ゴッドネロス!さあロンド=ベルを始末するのだ!」
「また御大層なものを出してきたのう」
「美しくない」
「ええい、外野は黙っておれ!」
 カットナルはこう叫んで二人を黙らせる。
「ドクーガ広報部が総力をあげて作り上げたこのマシン!これで今回こそロンド=ベルを始末してくれるわ!」
「広報部!?」
 マサキがそれを聞いて眉を動かした。
「今あの変なおっさん広報部って言ったよな」
「確かに言ったニャ」
 クロがそれに答える。
「何で広報部なんだ?」
「さて、ドクーガのことはわけわからないニャ」
「わかんねえか」
「きっとおいら達じゃわからない変な事情があるんだよ」
「ええい、猫までドクーガにあれこれ言うか!」
 カットナルはそれを聞いてまた激昂した。
「トランキライザー、トランキライザー・・・・・・」
 トランキライザーを出してきれそれを掴む。そして口の中に投げ入れて飲み込んだ後で言う。
「ふう、それでだ」
「うむ」
 ケルナグールがそれに合わせる。
「行けゴッドネロス!あのやかましい連中を粉砕せよ!」
「チッ、やっと来やがったかよ!」
 マサキが前に出ようとする。
「図体がでかいだけじゃ何にもならねえんだよ!今それを教えてやるぜ!」
「待った、マサキ」
 しかしここでゴーショーグンが前に出て来た。
「真吾さん」
「やっぱりドクーガといえば俺達だしな」
「出番は自分で調達しないとね」
「そういうこと。坊やは今回はサポートに回ってくれ」
「坊やってよお」
「まあマサキここはゴーショーグンに任せるニャ」
 クロがかかさず言った。
「あたし達はその他の敵を倒して」
「そうそう。やっぱりいつもメインってやけにはいかないよ」
「チェッ、わかったよ」
 マサキは二匹のファミリアの言葉に仕方なく頷いた。
「それじゃあ行くか。頼んだぜ」
「あたし達に任せるニャ」
「大船に乗ったつもりでいてくれよ」
 サイバスターはゴッドネロスをゴーショーグンに任せて戦場を変えた。そして他の敵に向かうのであった。
「さてと」
 真吾はゴッドネロスを前にしてまずは一言出した。
「これはまたかなり大きいな」
「大きさは問題じゃないわよ」
 レミーがここで言う。
「大事なのは固さ」
「何か誤解を招く言い方だね、そりゃ」
「いや、その通りだな」
「おいおい、そうなのかよ」
「問題はこのゴッドネロスの装甲だ。果たしてどれ位か」
「あとは耐久力」
「その表現もなあ」
「けれどそれも問題だ。レミーの言葉は結構的を得ている」
「ほら見なさい」
「けれどもうちょっと言い方を工夫しような」
「思わせぶりな表現はレディーの魅力を高めるのよ」
「さてさて」
「フン、ゴッドネロスの装甲と耐久力とな」
「あんたには聞いてねえんだけれどな」
「まあここはちょっと聞いてみよう」
「いい心掛けだ、北条真吾」
「久し振りにフルネームで呼ばれたけれど聞きたくて聞いているわけじゃないからな」
「フン、まあよい」
「結局話したいだけなのね」
「難儀なおっさんだな」
「このゴッドネロスの装甲はまさに鋼の装甲よ」
 彼は誇らしげに説明をはじめた。
「これを打ち破るのは無理よ!例えゴーショーグンといえどな」
「あんなこと言ってるぜ、真吾」
 キリーが言う。
「聞こえてるよ。またお決まりの台詞だな」
「ワンパターンなのかしら」
「ワンパターンなぞドクーガにはどうでもよいことよ!」
 カットナルは居直ってきた。
「それよりも如何にビムラーを手に入れるかだ!わかっておろう!」
「そのビムラーもずっと忘れてたっぽいけどな」
「ウッ」
 真吾の言葉にギクッとなる。
「まあそれはいい。では自信があるんだな」
「そうでなければ投入なぞはせん!」
「わかった。それじゃあレミー、キリー、行くぞ」
「了解」
「久し振りに戦いではメインだね」
 ゴーショーグンは前に出た。その手にゴースティックが現われる。
「ゴースティック!」
 それでゴッドネロスに攻撃を仕掛ける。だが大したダメージは与えられない。
「ムッ」
「フン、その程度では無駄なことよ」
 カットナルはそれを見て勝ち誇る。
「ゴッドネロスの装甲はゴースティック如きでは破られはせぬ」
「そか。それじゃあやり方を変えるか」
「どうするつもり、真吾」
「まあ見ていてくれ」
 レミーに軽く返す。そしてゴッドネロスと間合いを離す。またその腕に何かを出してきた。
「ゴーバズーカ!」
 今度はバズーカを出してきた。そしてその照準を定める。
 目標は胸であった。一撃で決めるつもりであった。
 攻撃がゴッドネロスの胸を撃つ。直撃であった。
「やったか!?」
 だがそれは効果がなかった。やはりゴッドネロスは健在であり平気な顔をして戦場に立っていた。
「あらら、効果なし」
「これはまた」
 レミーとキリーがそれを見て声をあげる。真吾もだ。
「どうやらカットナルの言ったことは本当らしいな」
「当然だ!」
 カットナルはさらに勝ち誇る。
「このゴッドネロスは対ゴーショーグン用に開発建造されたものだ!ゴーショーグンに対しては無敵よ!」
「あんなこと言ってるぜ、真吾」
「ううむ、弱ったな」
 だがあまり弱ったようには聞こえない。
「例えビムラーでも倒すことはできぬ!」
「おっと、それがあったか」
 真吾はそれを聞いて気付いた。
「もう、しっかりしてよ」
「俺達がビムラーを忘れちゃ流石にまずいからな」
「すまないすまない」
 真吾は謝りながら構えに入った。
「それじゃ派手にいくか」
 そしてゴーフラッシャーの発射準備に入った。その時だった。
「んっ!?」
「何かいつもと違うわね」
「ああ。こんなに強かったけな」
 まずは三人が気付いた。
「ビムラーの力が強まっているどういうことだ?」
「何か妙だぞ」
 今度はドクーガの三人が気付いた。
「どうやらゴーフラッシャーを撃つつもりのようだが」
「前見た時よりもエネルギーがあがっておらぬか?」
「ビムラーがパワーアップしているのか。いや、違うな」
「違う!?」
「どういうことだブンドル」
 カットナルとケルナグールは彼に問う。
「成長している」
「成長!?」
「ビムラーがか」
「そうだ。そう考えて問題ないだろう」
 彼は言った。
「成長するエネルギー、それがビムラーだったのか」
「わし等が追っていたエネルギーは」
「その様なものであったか」
「それじゃあその力を見せてくれよ」
 真吾は言った。
「成長した力をな。じゃあ行くぞ!」
「了解」
「派手に一発いこうぜ」
「ゴーフラッシャーーーーーーーーーッ!」
 真吾はそれに応えて今緑の数条の光を放った。そしてそれで敵をゴッドネロスを撃った。
「ムッ!?」
「さて、その成長したビムラーの力」
「どれ程のものか見せてもらおう!」
 カットナル、ブンドル、ケルナグールはそれぞれそのビムラーを見据えた。見ればゴッドネロスは光を受けそのまま動きを止めていた。
「やれるか」
「やられるか」
 六人は互いに言い合う。だがそれは一瞬のことであった。
 ゴッドネロスの身体が大きく揺れた。そして緑の光に包まれる。そしてその中へと消え去ってしまったのであった。
「よし、どうやら成長してるのは本当のようだな」
 真吾はそれを見て言った。
「ビムラー、素晴らしい力だ」
「何ていうか神懸かり的よね」
「全く。あんなでかいのを一発で消したんだからな」
「あれが成長したビムラーの力か」
 ブンドルは消えていくゴッドネロスと緑の光を見ながら呟いた。
「成長している神秘的なエネルギー、そして緑の光」
 彼はグラスを手にしながら言う。
「その謎も全てが」
 そして決める。
「美しい・・・・・・」
「作戦は失敗したのにか?」
 そんな彼にケルナグールが突っ込みを入れた。
「いいところで無粋な突込みは止めてもらおうか」
「いや、じゃが本当のことだぞ」
「ゴッドネロスは消えたしわし等の軍もあらかたやられてしまった。残っておるのはわし等だけだぞ」
「何時の間に」
 カットナルの言葉に気付き周りを見る。見れば確かにその通りであった。
「撤退するぞ、こうなっては仕方がない」
「名誉ある撤退か」
「そういうことじゃ。それでは闇に沈む者らしく」
「美しく退くとしよう。それではマドモアゼル=レミー」
「シーユーアゲイン」
 最後にレミーが言った。こうしてドクーガは戦場から去って行ったのであった。
「終わったな」
「何ていうかとにかく騒がしい連中だな」
「まあ何となく憎めないところはあるがね」
 鉄也と甲児、そして大介が口々に言う。
「何はともあれ戦闘は終わりだ。パナマ運河は守られた」
「それはいいけどよ」
 だが甲児はまだ大介に対して言う。
「わかってるよ、甲児君」
 大介も彼が何を言いたいのかわかっていた。
「彼等のことだろう」
「ああ。ビムラーが前より強くなってるよな」
「そうだな。これは一体どういうことなのか」
 彼等の目はゴーショーグンに集中していた。そしてラー=カイラムに集まり話をはじめるのであった。
「正直に言うと俺達にもさっぱりわからないんだよな」
 まずは真吾が言った。
「ビムラーのことは。俺達は気付いたらグッドサンダーチームになっていたわけだし」
「そういうえばそうだったな」
 竜馬がそれを聞いて頷く。
「君達はそれぞれ複雑な事情があったとは聞いているけれど」
「まあね。大人には色々と過去があるのよ」
 レミーがそれに応えて言う。
「まあそれは知っていると思うけれど」
「ああ」
 万丈がそれに頷いた。その言葉通りグッドサンダーの三人は過去があった。
 真吾は国際平和守備隊にいた。そしてレミーは娼婦の娘だった。キリーはサウスブロンクス出身でマフィアであった。そして様々ないきさつでサバラスにスカウトされたのだ。あまり明るいとは言えない過去であった。
「俺達はただゴーショーグンに乗っているだけというところがあるんだ」
「詳しいことは私達にもわからないのよ」
「何とも妙な話だけれどな。どっちかっていうとサバラスの話だな」
「サバラスさんの」
 ファがそれを聞いて呟く。
「それじゃあちょっと今すぐに確かめるというわけにはいきませんね」
「いえ、そうとは限りませんよ」
 だがここでOVAが出て来た。
「OVA」
「サバラス隊長とは私が連絡をとることができます」
「そうだったのか」
「何でしたら今すぐにでもとりますが。どうしましょうか」
「言うまでもないことだな」 
 隼人が言った。
「こっちとしても聞きたいことだ。OVA、悪いがすぐに連絡をとってくれ」
「わかりました、それでは」
「ああ」
 こうしてOVAはその目から映像を出した。そしてホノグラフィーにサバラスが姿を現わしたのであった。
「私に用があるようだね」
 まず彼はこう言った。
「ビムラーのことかな」
「はい、そうです」
 万丈が応えた。
「実は先程のドクーガとの戦いでどうやら成長しているように見受けられましたので。それでお話を窺いたいと思いまして」
「そうか、気付いたか」
 サバラスはそれを聞いてこ呟いた。
「気付く」
「そう。ビムラーは成長する。そして意志を持っているんだ」
「意志を!?」
「馬鹿な、エネルギーが意志だなんて」
 真吾達も驚きを隠せなかった。
「だがこれは本当のことだ」
 サバラスは驚く彼等に対してまた言った。
「今はこれ以上は話すことはできないが。成長し、意志を持つエネルギーだということはわかってくれ」
「何かあまりわからないわね」
「大事なところは後のお楽しみってわけか」
「そう考えてくれればいい。いずれ全てがわかる時が来る」
「全てが」
「そうだ。その時こそケン太も君達も本当の目的を知るだろう。その時まで戦ってくれ」
 最後にこう言った。
「それでは」
 そして彼は姿を消した。サバラスの言葉はこれで終わりであった。
「何か正直あまりよくわからなかったな」
 真吾がまず言った。
「意志を持ち成長するエネルギー」
「何か夢みたいな話だけれどね」
「ところが夢ではないときた。また狐につままれたみたいな話だな」
「そうですね。私もちょっと理解できません」
 OVAも同じであった。真吾達三人に対して言う。
「どうなるんでしょう、これから」
「少なくともゴーショーグンの力はパワーアップした」
「それだけじゃないけれどね」
「けれどわからないうちはそれでよしとしとくか。あまり深刻に考えるのは俺達の柄じゃないしな」
「そうね。とりあえずはこのままってことね」
「ああ」
 謎は残ったままであったがこれでとりあえずビムラーの話は終わった。彼等は釈然としないながらもそのままラー=カイラムのブリーフィングルームに残っていた。
「日本に向かうか、とりあえず」
 アムロが言った。
「今は考えても仕方がない。それよりも日本に来ようとしている敵を迎え撃とう」
「そうだな」
 ブライトがそれに応えた。
「まずは他の敵を倒すことを考えよう。ビムラーは後回しだ」
「それじゃあ早速行くか」
「よし」
 甲児も言う。皆それに頷き立ち上がろうとする。その時だった。
「ちょっと待って下さい」
 ここでトーレスが部屋に入って来た。
「何かあったのか」
「はい、アラスカでリクレイマーが確認されたそうです」
「リクレイマーが」
 ロンド=ベルの面々はそれを聞いて眉を動かした。
「そしてジョナサン=グレーンの姿も確認されています」
「ジョナサンも」
 勇がそれを聞いて声をあげた。
「一体何を」
「勇、行った方がいいよ」
 そこでヒメが声をあげた。
「ヒメ」
「何かある。絶対何かあるよ」
「しかし日本に行くから」
「いや、まだいい」
 だがここでブライトはこう言った。
「日本に行くまでにはまだ時間がある。それにリクレイマーがいるとなるとそちらにも軍を向けなければならない」
「リクレイマーもまた私達にとって敵なのだから」
 ミサトも言った。参謀である彼女の言葉はかなりの重みがあった。
「そうですね、ブライト艦長」
「ああ」
「それではすぐにアラスカに向かいましょう」
「アラスカかあ」
 それを聞いてアスカが嫌そうな声を出す。
「どうかしたのかよ」
「ちょっとね」
 甲児に言葉を返す。
「あそこすっごく寒いから」
「何言ってるんだよ、戦ってりゃそんなこと言ってられっかよ」
 甲児はそんな彼女を笑い飛ばした。
「大体エヴァの中なら平気だろ。俺なんてマジンガーの頭にガラス一枚でいるんだぜ。それでも寒いなんて思ったことなんて一度もねえぜ」
「そりゃ馬鹿は風邪ひかないから」
「そうそう、何せ馬鹿は・・・・・・って何言わせやがる」
「けれどどのみち行かなくちゃいけないよ」
 シンジはいつもの静かな態度で言った。
「リクレイマーも何とかしなくちゃいけないから」
「わかってるわよ」
 アスカは嫌そうな顔のまま応える。
「それじゃあ行きましょ。仕方ないから」
「何か引っ掛かるけどまあいいさ」
 勇は言った。
「まずは俺が偵察に出る。そして随時連絡するよ」
「いいの、一人で」
 ヒメが心配そうに声をかけた。
「偵察だしな。何かあれば戻ってくるから」
「そう、だったらいいけれど」
「ヒメは心配し過ぎなんだよ。大丈夫だって」
「それなら」
「それじゃあな。行って来る」
「うん」
 こうして勇は一人で偵察に出た。だがここで異変が起こった。
「勇が行方不明!?」
「ああ」
 ブライトがヒメに答えた。
「今さっき無線が急に切れた。何かあったらしい」
「ジョナサンか?」
「いや、まだそう決めるのは早い」
 ナンガがラッセに対して言った。
「それで無事なの?」
「それもまだわからない。どうなったのか」
「大変だよ、それ。すぐ探しに行こう」
「そうだな。すぐに捜索隊を出すとしよう」
「うん」
「それじゃあ俺達が行きます」
 タダナオとオザワが出て来た。
「君達がか」
「はい、アラスカにも来たことがありますし」
「訓練でもよく飛びましたし。地理には詳しいです」
「そうか、では頼むぞ」
「はい」
「そしてヒメか」
「勿論私も行くよ」
 ヒメは頷いた。
「私が行かないと。勇が寂しがるから」
「それでは頼む。すぐにな」
「了解」
「すぐに出ます」
 三機のマシンが捜索に出た。そして吹雪のアラスカに入る。そして彼等はそこで新たな出会いと別れを見ることになるのであった。

第六十九話   完


                                    2006・1・23


[347] 題名:第六十八話 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年07月02日 (日) 22時55分

           集結!!七大将軍
 ジャブローへの攻撃が失敗に終わった後ミケーネ帝国軍は岡の言葉通りジャブローから北にあるギアナ高地近辺で軍を集結させていた。そこに続々と兵がやって来ていた。
「超人将軍ユリシーザ、到着しました」
「悪霊将軍ハーディアス、ここに」
「大昆虫将軍スカラベ、参りました」
「猛獣将軍ライガーンでございます」
 異形の者達が暗黒大将軍の周りに集まってきていた。そして暗黒大将軍は彼等を見てまず言った。
「遠地よりはるばる御苦労だったな」
「いえ」
 将軍達はそのねぎらいの言葉に恭しく頭を垂れた。
「暗黒大将軍、そしてミケーネ帝国の為ならば」
「我等例え火の中水の中であっても」
「済まぬな」
 暗黒大将軍はそんな彼等に対してまた言った。
「ではその命預からさせてもらいたいが」
「はっ」
「ジャブローを攻略する。よいな」
「そしてそこを我等の地上攻略の本拠地とすると」
「そうだ」
 今度は強い声で頷いた。
「総攻撃を仕掛ける。よいな」
「了解」
「敵はロンド=ベルだ」
「ロンド=ベル」
 その名を聞いた将軍達の顔色が変わった。
「手強いぞ。それはわかっているな」
「無論」
「用心してかかれ。敵は今守りを固めておる」
「ではその陣は私が崩して御覧に入れましょう」
「超人将軍か」
「はい」
 見ればユリシーザが名乗り出てきていた。
「私がまず敵に切り込みます。そして血路を」
「いや、それはそれがしが」
 今度はライガーンが名乗り出た。
「ジャブロー一番乗りは。是非それがしが」
「何を言うか、それはわしの役目だ」
 今度はハーディアスが出て来た。
「この悪霊将軍こそジャブロー一番乗りの大任を果たすのだ」
「馬鹿を言え」
「それはわしが」
 将軍達は互いに言い争いをはじめた。だがそれは暗黒大将軍達によって阻まれた。
「まあ待て」
「将軍」
「ここはわしに任せよ。今その任を与える者を選ぶ」
「それは」
 将軍達はそれを聞いて固唾を飲んだ。そして彼の裁決を待った。
「超人将軍」
「はっ」
 ユリシーザが顔を上げる。
「先陣は貴殿に任せる。よいな」
「有り難き幸せ」
「そして次は猛獣将軍」
「はっ」
「主力を率いてくれ。よいな」
「わかりました」
 ライガーンはそれを聞き恭しく頭を垂れた。
「そして右は大昆虫将軍」
「はっ」
「左は妖爬虫将軍」
「わかりました」
「それぞれの軍で以って担当するように。よいな」
「了解しました」
 二人はそれに頷いた。
「そして怪鳥将軍と魔魚将軍はそれの援護」
「了解」
「畏まりました」
「悪霊将軍は遊撃戦力だ。自由に動いてよい」
「わかりました」
 こうして瞬く間に布陣を命じた。その統率力は流石と言えるものであった。
「わしは予備戦力を以って全軍の指揮にあたる」
「はい」
「何かればすぐに動こう。では全軍出撃するぞ」
「了解」
 こうしてミケーネ帝国はその全軍を以ってジャブローに向かった。そしてその動きはすぐにロンド=ベルにも伝わった。
「ミケーネ帝国軍が動きました」
「よし」
 岡は司令室でその報告を聞いた。そしてすぐにモニターを開いた。
「大文字博士」
「はい」
 開いた先は大空魔竜の艦橋であった。大文字がすぐに姿を現わした。
「遂に来ました」
「そうですか」
「既にこちらの迎撃態勢は整っております」
「こちらもです」
「では宜しく頼みますぞ」
「はい、こちらこそ」
 二人は互いに頷き合った。そして勝利を誓い合うのであった。
 ロンド=ベルは既に戦闘態勢に入っていた。そして敵を見据えていた。
「敵発見」
 ライトがマギーを見て報告する。
「これはまた。とんでもない数だね」
「どれだけいるんだ?」
「いいか、よく聞けよ」
「ああ」
「ジャングルが三で敵が七だ」
「どっかで聞いた表現だな、おい」
 タップがそこで突っ込みを入れる。
「おっ、わかったか」
「っていうか宇宙怪獣のそれのままじゃねえのかよ」
 ケーンも言う。
「元ネタがわかるとは鋭いな」
「わからねえ奴がいるのかよ」
「本当のところはどうなんだよ。そんなにいるのか?」
「残念だがそれは本当さ」
「ルリちゃん、マジ?」
「はい」
 ケーンはルリに問うた。そしてルリはそれに答えた。
「ライトさんの仰る通りです。戦闘獣がジャングルを覆っています」
「七三の割合で」
「はい」
「何とまあ」
「おいおい、マギーちゃんを信用してないのか」
「マギーちゃんじゃなくておめえを信用してねえんだよ」
「これはまた」
「だっておめえよく嘘つくから」
 タップが言う。
「嘘?さて、何のことだか」
「そうじゃなきゃハッタリだよな。大体いつもおめえはよお」
「あんた達三人共そうだと思うけれど」
「何だとアスカ」
 入って来たアスカにも刃を向ける。
「大体敵が来てるのにそんなにしゃべってていいの?」
「いいんだよ、俺達は」
「そうだそうだ」
「その根拠は?」
「それは俺達がドラグナーチームだからだ」
「それ以外に何の理由があるんだよ」
「あっきれた」
 ケーンとタップの言葉を聞いたアスカの言葉である。
「そんなのだからお笑いになるのよ。チャンバラトリオみたいに」
「ちょっと待て、あれ三人じゃねえぞ」
「あれっ、そうだったの」
「それを言うのならレッツゴー三匹じゃないのかな」
 ライトが言う。
「ジュン、チョーサク、ショージってな」
「つまりわて等のことですな」
「流石ライトはん、よう知ってはる」
「その意気で将来はコメディアンでんな」
「おいおい、コメディアンか」
 ミオのファミリアの三匹にそう返す。
「せめてシェークスピア劇の主役とか言って欲しいな」
「御気に召すまま?」
「きついな、アスカは」
「あんたなんて精々喜劇役者と。間違ってもハムレットやロミオなんて言わないでよ」
「狙ってたんだけどな。マクダフとか」
「マクベスじゃないの」
「あれは声が低くないと映えないからパス。やっぱりこのライト様は見栄えのいい王子様じゃなきゃな」
「じゃあ俺オセロー」
「俺は何がいいかな」
「あんた達にはシェークスピアは似合わないって言ってるでしょ」
 アスカがまた言う。
「またきっついねえ」
「本当は見たい癖に」
「そんなことよりマギーはどうなのよ」
「おっと」
「ちゃんと見てなさいよ。今何処にいるのよ」
「ああ、今見られるところまで入ったぞ」
「えっ!?」
 アスカはいきなり言われてキョトンとした顔になった。
「もう!?」
「ほら、前」
「おお、また多いねえ」
「どれだけいるんだろうね、本当に」
 ケーンとタップはやはりいつものままであった。
「な、言った通りだろ」
 ライトは得意気に言う。
「マギーちゃんはいつも正しいのさ」
「そういうことは早く言いなさい!」
 アスカもいい加減切れてきた。
「来てからじゃ遅いでしょ!大体あんた達は」
「アスカ、敵の攻撃がはじまったよ」
「うっ」
 シンジの言葉に顔を前に向ける。
「すぐに迎撃に掛かって」
「わかってるわよ」
 アスカはそれに頷きポジトロンライフルを構えた。
「三馬鹿とは違うってとこ見せてやるわよ!」
「三馬鹿って誰なんだよ」
「まさか俺達?」
「やれやれだね」
「こら、そこに馬鹿共!」
 ラー=カイラムのブリッジからダグラス大尉の怒声が聞こえてきた。
「さっさと戦闘に向かえ!そんなところでさぼっていると許さんぞ!」
「うわ、大尉殿がお怒りだ」
「さっさと行こうぜ」
「さっさとではない!早く行け!」
 彼はまだ怒っていた。
「大体貴様等は」
「まあ大尉殿」
 ここでベンが仲裁に入る。
「ワカバ少尉殿も今行かれましたし」
「軍曹!貴様がそうやってあの連中を甘やかすからだな」
「まあダグラス大尉も落ち着いて」
 ブライトも言った。
「怒っていては冷静な判断は」
「ううむ」
「さて今のうちに」
「攻撃開始!」
「あのフォーメーションで行くぜ!」
 ライト、タップ、そしてケーンはフォーメーションを組んだ。そして光子バズーカを一斉に放つ。
「よっし!」
「今日も絶好調!」
 いきなり目の前にいる戦闘獣の小隊を消し飛ばす。軽さはともかく腕は充分であった。
「何だかんだ言ってやりますね、連中も」
「ああ」
 ブライトはトーレスの言葉に頷いた。
「見事なものだな」
「全く」
 ダグラスは苦い顔でそれに応えた。
「最初からそう真面目にしていれば」
「まあまあ」
 そんな彼をまたベンが宥める。ラー=カイラムの艦橋も相変わらずであった。
「敵が迎撃して参りました」
「流石と言うべきかな」
 暗黒大将軍はスカラベからの報告に応えた。
「ロンド=ベル、容易な相手ではない」
「はい」
「これだけの数を前に臆することがないとは。だがこちらも手を緩めるな」
「はっ」
「包囲殲滅にかかれ」
 彼は指示を下した。
「数ならば我等は負けてはおらん。それで徐々に潰していく」
「了解」
 ミケーネは数で押す作戦を採った。そして損害をものともせず前進を開始した。だがここでロンド=ベルは動いた。
「ヘッ、幾ら数で来ようってな」
 まずはマサキが言った。
「俺達には通用しねえんだよ。シロ、クロ、いつものあれをやるぜ」
「あれか」
「じゃあさっさとやるニャ」
「おい、何でそう素っ気ねえんだよ」
 そんなファミリア達に対して不平を述べる。
「だっていつもやってることだから」
「あたし達にとっちゃいつもの光景だニャ」
「ヘッ、じゃあいいよ」
 マサキはいささかふてくされながら言った。
「やることは変わらねえしな。じゃあ行くぜ!」
 サイバスターは敵の真っ只中に躍り出た。
「ヌッ、サイバスターか!」
「攻撃を集中させよ!」
 将軍達の指示を受けてすぐに攻撃が仕掛けられる。だがサイバスターはそれを何なくかわしていく。
「戦闘獣でサイバスターを捉えられるかよ!」
「ちょっよマサキ、一人で何やってるのよ!」
 そこにリューネのヴァルシオーネがやって来た。
「リューネ」
「あたしもいるよ!どのみちこれだけの数サイバスターだけじゃ無理でしょ」
「まあな」
「そういうこと。あたしも混ぜてよ」
「まあそういうことなら」
「あたしの他にもいるしね」
「他にもって」
 マサキはその言葉に眉を顰めさせた。
「誰なんだよ」
「僕だ」
 ヤンロンが出て来た。
「私も」
 テュッティも。
「あたしも忘れないでね」
 ミオもいた。四機の魔装機神がここに揃った。
「一人じゃまとめて相手できないけど五人いれば何とかなるわよね」
「そういうことだ」
「これだけの数でもあの攻撃を加えれば」
「何とでもなるよ」
「ヘッ、じゃあやるかい?」
「勿論」
「無論。その為に来た」
 リューネとヤンロンが答える。
「それじゃあ早速やるぜ!」
 サイバスターを筆頭とした五機は一斉に散った。
「いっけえええええーーーーーーーーーーーーっ!」
 まずはマサキが叫んだ。
「サイフラァーーーーーーーーシュ!」
 そしてサイフラッシュを放った。他の四機もそれに続く。これによりロンド=ベルを包囲せんとしていたミケーネ軍は大きなダメージを受けた。
「ヌウッ!」
 それは将軍達も襲った。破壊された戦闘獣こそ少なかったがそれぞれ大きなダメージを受けていた。
「クッ、何ということだ!」
 暗黒大将軍からもそれは見えていた。そして苦悶の言葉を漏らした。
「ぬかったわ、奴等の存在を忘れていたわ」
「将軍、ロンド=ベルが反撃に転じてきました!」
 そこでまた報告が入った、見ればロンド=ベルはダメージを受けているミケーネの戦闘獣達に対して激しい攻撃を浴びせはじめていた。
「よし、今だ!」
 ショウのビルバインが突撃を仕掛ける。
「一気にやるぞ!」
「やっちゃえショウ!」
 チャムも叫ぶ。そしてビルバインはそのオーラソードを抜いた。
「はあああああああああっ!」
 目の前を飛ぶ戦闘獣を切りつける。そして唐竹割りにしたのであった。
「ショウにばかり格好いい場面は独占させねえぜ!」
 それにトッドが続く。彼のダンバインに攻撃が集中する。だが彼はそれを分身でかわす。
「甘いんだよ!」
 そして攻撃に移る。オーラソードに炎が宿った様に見えた。
 戦闘獣をその炎が宿った剣で貫く。それは戦闘獣を完全に仕留めていた。
 爆発の中トッドは更に舞う。次々にそのオーラソードで敵を屠っていく。彼の周りには最早炎と爆風だけがあった。インディゴブルーのダンバインが紅に見える程であった。
「トッドもやるわね」
「ここでやらなきゃ洒落にならないからね」
 彼はマーベルにこう返した。
「ジャブローを陥落させられたらな。アメリカもやばくなる」
「アメリカも」
「ここを拠点にでもされて攻撃されたらたまったものじゃないんでな。そういうことは潰させてもらうぜ」
「戦略ってやつね」
「そうさ。ここが陥ちたらまずやばいのは御前さんのところだろう」
「テキサスが」
「ああ。南にあるだけにな。違うか?」
「言われてみればそうね」
 マーベルはそれに頷いた。
「それじゃあここでしっかりしないとね」
「マーベルはいつもしっかりしてるじゃない」
 そんな彼女にチャムが言った。
「ショウやトッドなんかより」
「おい、俺もかよ」
 二人はそれを聞いて同時に声をあげた。
「うん。大人だしね」
「確かに歳はくってるわね」
 マーベルは穏やかに笑いながらそれに応えた。
「けれどパイロットとしてね。今一つじゃないかしら」
「別にそうは思わないけど」
「有り難う。それじゃあここでそれを証明してみせるわね」
「うん、それがいいよ」
「俺もやるか」
「私も」
 ニーやキーンも出て来た。
「最近何かと影が薄いからな」
「これでも聖戦士なんだし。しっかりしたところ見せないと」
「ニー、後ろは任せてね」 
 そこにはリムルもいた。
「ビアレスはサポートには向かないけれど」
「接近戦用だからな、それは」
 それを聞いたトッドが言った。
「オーラバトラーの中でも特にな」
「それで少し困る時があるのだけれど」
「何、それでもやり方があるんだよ」
「やり方?」
「姫さんはそれなりに剣もできるようになったしな。思いきって前に出なよ」
「けれどそれじゃあサポートが」
「それもやりようなんだよ。何もサポートってのは後ろからだけやるもんじゃないんだ」
 トッドはさらに言う。
「派手に斬るのもそれさ。わかったな」
「それじゃあ」
「頑張りなよ、要は度胸ってこそさ」
「ええ」
 こうして三人も前に出た。そしてガラリアもそこにはいた。
「ガラリア」
「私も何かと影が薄いのでな」
 彼女は笑いながらショウにこう声をかけてきた。
「たまには活躍の場を見せておかないとな。忘れられてします」
「ガラリアも普通に強いと思うけれど」
「ただ強いだけでは駄目なのだよ」
 チャムに対して言った。
「生半可な腕ではな。かえって怪我をする」
「そうなのかなあ」
「そうだ。だからこそここでそうではないことも見せる」
 オーラソードに炎を宿らせる。
「来い、思う存分相手をしてやろう」
 そう言って目の前の戦闘獣達に向かう。早速数機を切り伏せた。
「うわあ、やっぱり凄いねえ」
 それを見たチャムが感嘆の言葉を口にする。
「やっぱりドレイク軍でバーンと争っていただけはあるよね」
「バーンか」
 その名を聞いたショウは少し複雑な顔をさせた。
「あいつも。今はどうしているかな」
「どうせヨーロッパで御前さんを倒すことばかり考えているさ」
 トッドがここでこう言ってきた。
「俺をか」
「あの旦那は一つのこと以外考えられねえからな。自分では気付いていないみたいだが」
「あれで気付かないの」
「自分は案外自分のことはわからないものさ」
 ショウはチャムにこう述べた。
「特に生真面目な人間はな」
「俺みたいに少し不真面目さを持たないとな」
「トッドは単に軽いだけでしょ」
「へっ、いつも通り言ってくれるね」
「どうせ口が悪いですよ〜〜〜〜だ」
「それはそうとまた敵がこっちまで来ているぞ」
「おっと」
「いけない」
 トッドとチャムはショウの言葉で言い合いを止めた。
「全く、次から次へとまあ」
「全然数が減らないね」
「いや、減ってはいるさ」
 ショウは前を見据えて言う。
「ただもっと減らす必要がある。それだけさ」
「それじゃあ行くか」
「よし」
 ショウのビルバインとトッドのダンバインは動きを合わせた。二機のオーラバトラーは同時に空を駆った。
「ショウ、遅れるんじゃねえぜ!」
「わかってる!」
 彼等は左右に一旦散りそこから敵の小隊に突進する。当然ながらその手にはオーラソードが握られている。
「はあああああっ!」
「やるぜ!」
 二つの影が敵を切り裂く。そして戦闘獣達が空中で二つに割れていく。彼等もまたその剣の腕をあますところなく見せていたのであった。
 魔装機神達の攻撃がやはり決め手となっていた。ミケーネ軍は攻勢に出て来たロンド=ベルに対して守勢に回っていた。
「中軍が突破されました!」
 暗黒大将軍の下に報告が入る。
「左右両軍共に壊滅状態!最早前線を維持できておりません!」
「水中部隊と航空部隊は」
「こちらも壊滅しております!そして遊撃軍も!」
「ヌウウ」
「将軍、どう為されますか」
 それを聞いた腹心である獣魔将軍が問うてきた。
「このままでは我が軍は」
「後詰を投入せよ」
 だがそれでも暗黒大将軍は冷静さを失ってはいなかった。落ち着き払った態度でこう指示を下した。
「それで戦線を再構築する。よいな」
「わかりました。それでは」
 こうして最後の軍が投入された。だがそれでも勢いは戻らなかった。
 暗黒大将軍が自ら前線に出て戦う。それでもミケーネの劣勢は覆らず戦いは次第に彼等にとって壊滅的なものとなろうとしていた。その時であった。
「フン、所詮その程度か」
「何!?」
 何処からか声がした。
「ミケーネ帝国、口程にもないわ」
「誰だ、そこにいるのは」
 暗黒大将軍はその声に対して問うた。
「ミケーネを侮辱することは許さぬぞ」
「安心せよ、我等とてミケーネの者」
「何だと」 
 ここでその声は我等と言った。
「助太刀に来たのだ。安心するがいい」
「ここは助けてやろう」
 そして二つの移動要塞と戦闘獣達が姿を現わした。その二つの移動要塞を見た甲児が声をあげた。
「ブードとグールかよ!」
「久しいな、兜甲児よ」
 男の声を女の声が同時に聞こえてきた。
「元気でいるようだな、何よりだ」
「あしゅら男爵!」
 海にある移動要塞ブードには右半分が男、そして左半分が女の異形の者がいた。フードで全身を覆っている。
「そしてわしもいる」
 空にある移動要塞グールからまた声がした。そこには自身の首を小脇に抱えた第二次世界大戦のドイツ軍の軍服を身に纏った男がいた。
「ブロッケン伯爵もかよ」
「フフフ、我等はミケーネの力により甦ってきたのだ」
「別に頼んだ覚えはねえぜ」
「貴様に頼まれるいわれはないわ!」
 あしゅら男爵はその言葉にいきなり激昂してきた。
「貴様等への復讐の為に甦ってくたのだからな!」
「だから俺はおめえ等なんか呼んだ覚えはねえって言ってるだろ!」
「呼ばれてもおらぬわ!話がややこしくなるから黙っておれ!」
「何だと!」
「甲児君も落ち着きなさいよ」
 そんな彼をさやかが窘める。
「とにかく今は彼等は生き返った理由を聞かないと」
「そうだな」
「しかし敵から理由を聞くってのも」
「変な話だな、おい」
 ダバとキャオがそう言い合う。何はともあれ二人の説明がはじまった。
「確かにあの時我等は死んだ」
「そのままでいてくれてよかったのにな」
「だから黙っておれ!それでだな」
 また甲児を黙らせてから言う。
「その亡骸はミケーネ帝国に回収された。そしてドクターヘルによって復活させて頂いたのだ」
「何だって、ドクターヘルだと!?」
 それを聞いた甲児がまた声をあげた。
「左様」
 あしゅら男爵は頷く。なお彼はこの時自分の発言の意味をまだわかってはいなかった。
「ミケーネにより復活されていたドクターヘルによってな」
「何てこった」
 甲児はそれを聞いて呻く。
「あいつまで生きていたのかよ」
「それがどうしたのだ、兜甲児よ」
 ブロッケン伯爵は得意な顔で彼に問うてきた。
「ドクターヘルが生きておられたことがそんなに恐ろしいのか」
「いや、やっぱりな、なんて思ってたからよ」
「驚いてはおらぬのか」
「おめえ等が今ここにいるとな。まあ少し驚いちまったけれどな」
「フフフ、素直だな」
「けどな」
 ここで甲児の口調が変わった。
「何だ?」
「おめえ等そんなことベラベラ喋っていいのか?」
「何!?」
「それって軍事機密じゃねえのかよ、ミケーネの」
「ムッ」
 それを聞いた二人の顔色が一変する。
「ドクターヘルが生きていたなんてよ。すげえニュースだぜ」
「今この話全世界に流れたわよね」
「間抜けなことだな、相変わらず」
 さやかと鉄也も言った。
「どうするんだよ、そんなこと言っていいのかよ」
「それが貴様等にどう関係あるというのだ!」
「あらら、逆キレ」
「お決まりのパターンってやつだな」
 レミーとキリーがそれに突っ込みを入れる。
「どのみち貴様等は全員ここで死ぬのだ!大人しく首を洗っておけ!」
「そうかい、何か決まりきった台詞だな!」
「マンネリこそが我等が王道!」
「そんなことに携わる程我々はオーソドックスではないのだ!」
「そうかい、じゃあこれまで通り捻り潰してやるぜ!」
「行くぞ兜甲児!」
「今日こそは決着をつけてくれる!」
 暗黒大将軍の指示を待つまでもなく彼等は動いていた。そして前線で積極的に攻撃に出る。
「死ねい!」
 ブードからミサイルが飛ぶ。それはマジンガーを正確に狙っていた。
 だがそれはかわされてしまった。かわした甲児が叫ぶ。
「外れだぜ、下手糞!」
「おのれ!」
 あしゅら男爵はそれを聞いて激昂した声をあげる。
「潜水艦で空のものを狙おうとするからよ!」
 そんな彼にブロッケン伯爵が言う。
「何だと!」
「空には空だ!今わしが手本を見せてやろう!」
 そして破壊光線を出す。だがそれもマジンガーにかわされてしまった。
「狙いが甘いんだよ!」
「何だと!」
 ブロッケンも激昂した。
「わしを愚弄するというのか!」
「ほれ見よ、お主も外したではないか」
 あしゅら男爵がそれを見て楽しそうに言う。
「もう少ししっかり狙わんか」
「貴様にだけは言われたくはないわ!」
 今度はあしゅら男爵に対して叫んだ。
「わしを馬鹿にすることは許さんぞ!」
「馬鹿にはしておらん。事実を言っているだけだ!」
「何!」
 二人は喧嘩をはじめた。最早ロンド=ベルへの戦闘よりそちらを優先させていると言ってもよい程であった。その間に彼等の指揮する戦闘獣達も次々と撃破されてしまっていた。
「奴等は何の為に来たのだ」
 暗黒大将軍は戦いよりも喧嘩を優先させる二人を見て呟いた。
「さて」
 これには部下達も答えられなかった。首を傾げるだけであった。
「ですが時間は稼げたかと」
「時間か」
 暗黒大将軍はここに何かを見た。
 そして今の自軍を見る。とても戦える状況ではなかった。彼は遂に決断を下した。
「作戦を中止する」
「中止ですか」
「そうだ、これ以上の戦闘は無駄に損害を出すだけだ。それは避けなくてはならん」
「わかりました」
「丁度我々も時間を稼げた。今が時だ」
 彼はまた言った。
「全軍撤退、よいな」
「了解」
 こうしてミケーネ軍は撤退を開始した。あしゅら男爵とブロッケン伯爵は意図せずして友軍を救ったのであった。
「待て、逃げるのかよ」
「逃げるのではない!」
 あしゅら男爵が甲児に対して言う。
「兜甲児よ、これは逃げるのではないのだ」
 男の声と女の声、両方で言う。
「じゃあ何だってんだよ!」
「これは名誉ある撤退だ。また会おうぞ!」
「二度と見たくはねえぜ!」
 これが最後のやりとりであった。ブードもグールも撤退した。こうしてジャブローでの戦いは幕を降ろしたのであった。
「終わりか」
 大文字は戦場からミケーネ軍がいなくなったのを確認して呟いた。
「何とかジャブローは防いだな」
「ええ」
 それにサコンが頷く。
「もっとも連中のことですからまた何かしてくるでしょうが」
「いや、以後はこちらで何とかできるようになった」
「長官」
 ここで岡が大空魔竜のモニターに出て来た。
「丁度君達の別働隊であるヘンケン艦長の部隊がこちらに向かってくれることになってね」
「ヘンケン艦長が」
「そうだ。以後は彼等にジャブローの防衛を担ってもらうことになる。君達はそのまま独立行動をとってくれ」
「わかりました。それでは」
「しかもタイミングがいいことにパナマ運河にまた敵が来ているそうだ」
「パナマ運河に」
 言わずと知れたアメリカ大陸の要衝である。北アメリカと南アメリカを分ける場所でありここに造られた運河を通って多くの船が太平洋と大西洋を行き来する。アメリカがこの運河を作り長い間自分達のものとしてきた。その為にパナマの指導者を拘束して自国で裁判にかけたことすらある。
「ドクーガが向かっている」
「ドクーガが」
 真吾はそれを聞いて声をあげた。
「最近見ないと思っていたら」
「出番が欲しくなったみたいね」
 レミーがそれに続いて言う。
「あの三人目立ちたがり屋だから」
「悪役だってのにまた難儀なことだな、全く」
 キリーも言う。やはりこの三人はいつもの調子であった。
「それで君達にはそちらに向かって欲しいのだが」
「わかりました」
 大文字はその要請を受けた。
「それではすぐに」
「頼むぞ。おそらくそれが終わったらすぐに日本に向かうことになるだろうが」
「日本ですか」
「どうもまたキナ臭いのでな。当分そこで戦ってもらうことになると思うが」
「了解しました。それでは」
「まずはここで補給等を受けてくれ。それからパナマに向かってくれ」
「はい」
 こうしてロンド=ベルの次の作戦は決まった。彼等は今度はパナマ運河で戦うこととなった。
「また今度も個性派が出て来るんだな」
 勇はふと呟いた。
「何か嫌なの?」
「嫌とかそういう問題じゃないけどさ」
 ヒメの問いにこう答える。
「何かな。あの三人は戦っていて違和感があるんだ」
「違和感って?」
「悪人っぽくないっていうかな。そんな感じなんだ」
「悪人じゃない、ね」
 カナンがそれに反応した。
「戦っている相手に言う言葉じゃないけれど」
「それでもそう感じるんだ。不思議にあっちのリズムに乗ってしまうし」
「確かにあのやりとりはね」
 カナンはここでは頷いてみせた。
「独特のものがあるわ」
「やりとりだけじゃなくて雰囲気もな」
「私のあの人達は悪い人じゃないと思うよ」
「ヒメ」
「ただ、何か色々と考えてるみたい。そのうち一緒になるかも」
「一緒って言われてもねえ」
 カナンはそれを聞いて今度は困った顔になった。
「また個性の強い人達がね」
「一緒っていうよりは協力してくれるって言った方がいいかな」
「ドクーガなのにかい」
「ドクーガじゃなくなったら。わからないよ」
「ドクーガじゃなくなったらか」
 勇はそれを聞いて不思議な顔になった。
「あまりピンとこないな。そんな三人」
「ある意味ドクーガの顔だしね」
「そうだよな。まああの三人ならドクーガなしてもやっていけるだろうけれど」
「あれだけキャラクターが立っていればね」
「まあね」
 ドクーガについては皆何故か悪い印象を持っていなかった。皆わりかし明るい顔で次の作戦の準備を進めていたのであった。
「ダンクーガのエネルギーはこれでいいな」
「ああ、満タンだぜ」
 忍がキャオに対して答える。
「また派手に暴れてやるぜ」
「ダンクーガは何かとエネルギー食うからな。エネルギータンクもつけといたぜ」
「おや、気が利くね」
 沙羅がそれを聞いて言った。
「気を利かせるのもメカニックの仕事なんでね」
 キャオはそれに対して明るく返した。
「改造できるところはもう完全にしちまったし。後はこれ位しかないしね」
「断空光牙剣もあっしな」
「やっぱりあれがあると心強いからね」
 雅人も言う。
「けれど忍っていつも際限なく使っちゃうからなあ。有り難みは今一つなんだよな」
「ヘッ、武器ってのは使う為にあるのさ」
 忍はあっさりとこう返す。
「またやってやるぜ。徹底的にな」
「徹底的にやるのもいいが後先は考えてくれよ」
 ここで亮がブレーキに回ってきた。
「補給が大変なんだからな」
「ヘン、悠長なこと言ってたら戦争ってのは勝てねえんだよ」
 やはり忍は忍であった。話を聞こうとはしない。だがそれでも戦いへの準備は進んでいた。彼は彼で戦いに備えていたのである。
 だがそれはドクーガも同じであった。彼等は今カリブ海にいた。そこで三隻の戦艦が空の上に留まっていたのである。
「さて、ブンドルよ」
「何だ」
 ブンドルはモニターに姿を現わしたカットナルを見上げて声をかけた。
「今回は誰の受け持ちだったかな」
「そういえば誰だったかのう」
 ケルナグールも出て来た。
「久し振りの作戦行動なので忘れてしまったわい」
「久し振りだったか?」
 だがカットナルはケルナグールのその言葉に眉を顰めさせた。
「この前のヨーロッパでのティターンズへのあれは何だったのだ?」
「ロンド=ベルに対してだ」
 しかしケルナグールはこう返す。
「連中と久しく戦ってなかったので今から腕が鳴るわい」
「そうだったのか」
「それで今回はわしがメインでいきたいのだがな」
「何を馬鹿なことを言う」
 カットナルはそれには反論してきた。
「今回はわしだ。その為にここに来たのだからな」
「何!順番がどうとか言っていたのはお主ではないのか!」
「それとこれとは別だ!そういえばティターンズの作戦はお主がメインだったな!」
「如何にも」
「そしてその前のギガノスではブンドル、お主だった」
「うむ」
 ブンドルはそれを静かに認めた。
「その通りだが」
「では次はわしだ!メインは順番だというのがドクーガの鉄の掟だった筈だ!」
「そうだったか!?」
 だがケルナグールはそれには懐疑的であった。
「ドクーガは早い者勝ちではなかったか」
「勝手に話を作るでないわ。大体だな」
 トランキライザーを噛み砕きながら反論する。
「お主はそもそも目立ちたがり過ぎるのじゃ。ブンドルも」
「その格好で言っても説得力がないぞ」
「確かに」
 ブンドルもケルナグールの言葉に頷く。
「それに私は特に自分を目立ちたがりだとは思っていないが」
「いや、悪いがそれも違うぞ」
 ケルナグールは彼に対しても言う。
「お主も。かなり目立ちたがりだぞ」
「それは心外だな」
「まあ悪役は目立ってこそ華だ。では今回はわしだな」
「フン、まあいい」
 ケルナグールも折れてきた。
「では今回は三人でメインを張ろうぞ」
「待て、三人か」
「よく考えればギガノスの前のバウドラゴンとの戦いはお主がメインではなかったか?」
「バウドラゴン、また古い話を」
「いや、つい最近じゃぞ。とぼけるでない」
「チッ」
「とにかくそろそろ作戦開始の時間なのだが」
 ブンドルが腕時計を見ながら言う。豪奢な装飾が施されているスイス製の高給腕時計であった。
「おっ、もうか」
「ゴングが鳴るのだな」
「では行くとしよう。今回は三人でやろう」
「チッ、結局はそれか」
「まあよい。では行くとしよう」
「全軍発進」
 ブンドルが指示を下す。
「目標はパナマ運河だ。いいな」
「我等も行くぞ」
 カットナルも自分の部下達に対して言った。
「パナマで派手に暴れるぞ」
「わし等もじゃ」
 ケルナグールも続く。
「パナマを粉々にしてやろうぞ。よいな」
「待て、今回は破壊工作が目的ではないぞ」
「おっと、そうだったか」
 カットナルの突っ込みに応える。
「あくまで占領が目的だ。忘れるな」
「うむ、済まぬ」
「既にロンド=ベルが向かおうとしているという情報もある。警戒はするようにな」
「フン、あの連中も動きが早いのう」
「わし等程ではないがな」
「油断は大敵だ。では行くか」
「おう」
「待っておれ、ロンド=ベル」
「そしてマドモアゼル=レミー」
 ブンドルはここで呟いた。
「私達の赤い糸の為にも」
 目を閉じ紅の薔薇を掲げる。そして彼も戦場に赴くのであった。
 ドクーガもまた動いていた。そしてロンド=ベルも。今アメリカ大陸の心臓部で双方の激突がはじまろうとしていたのであった。そしてそれを止めることはもう誰にもできなかった。


第六十八話   完

                                     2006・1・18


[346] 題名:第六十七話 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年07月02日 (日) 22時49分

           ジャブロー攻防戦
 ロンド=ベルはダカールから大西洋を渡りジャブローに向かっていた。彼等は海の上を通っていた。
「何か海の上通るのも久し振りだよな」
 甲児が言った。
「今まで砂漠とか高原での戦いが続いたからね」
 マリアがそれに合わせる。
「海の上は。何か懐かしいね」
「そういえばそうだな」
 鉄也もそれに頷く。
「もっともマジンガーは海での戦いはあまり得意じゃないけれどな」
「ブレストファイアーが使えねえからな」
「ロケットパンチだけか。あとスクランダーカッターと」
「おいおい、それだけ使えれば充分じゃないか」
「大介さん」
「それに君達の能力が大きく関係するのがマジンガーじゃないか。そんなことを言ってどうするんだ」
「けど大介さんのグレンダイザーなんかマリンスペイザーと合体できるし」 
 甲児は大介に対して言った。
「それを考えるとかなり違いますよ」
「そうかな」
「それにグレンダイザーもパイロットの能力が大きく関係しますしね。今回は若しかしたら大介さんが主役かも知れないですよ」
「僕がか」
「ジャブローはアマゾン川流域ですからね」
「そういえばそうだったな」
「大介さんにも見せ場がねえと。ベガ星連合軍との戦い以来でしたっけ」
「メインで戦ったのはね。ロンド=ベルに入ってまだ間もないし」
「それじゃあ頑張って下さいよ。期待していますよ」
「何か照れるな。ところで鉄也君」
「はい」
 鉄也は大介の言葉に応えた。
「今度の敵はミケーネ帝国だが」
「暗黒大将軍が来ているんですね」
「そうだ。彼等のことは君が一番よく知っていると思うが」
「ええ」 
 彼はそれを認めた。
「俺にとっちゃあいつ等は宿敵そのものですから」
 その声も強くなっていた。
「かなりのことを知っているつもりですよ」
「そうか。なら心強い」
「多分今度は怪鳥将軍と魔魚将軍、そして妖爬虫将軍が出ているでしょうね」
「その三人か」
「はい。そして総指揮を執るのが暗黒大将軍です」
「七大将軍のうち三人をか」
「おまけにあいつまで。こりゃ激しい戦いになるな」
「甲児君にとっちゃそっちの方がいいでしょ」
「何でいつもこんなに簡単にわかるかな」
「だって甲児君ってすぐ顔に出るから」
 さやかは答える。
「考えが簡単にわかっちゃうのよね」
「テレパシーとかじゃなくてかよ」
「私にはそんな能力はないわよ」
「タケルみてえにはいかねえか」
「タケルさんだって何でもdきるわけじゃないわよ」
「何かよお、顔もよくて運動神経もいいからな、あいつは」
「だからって万能ってわけじゃないでしょ」
「ははは、確かに」
「まあ甲児君もかなり超能力者みたいなところはあるわね」
「ジュンさん」
「それだけの怪力とパイロットセンスはね。見事なものだわ」
「褒められっと照れるなあ、おい」
「別に褒めてるつもりはないけれど」
「いやいや、本当のことなら尚更」
「調子に乗ってると怪我するわよ」
「いや、甲児君は調子に乗ってくれた方がいい」
 大介がそんな彼をフォローして言った。
「派手に暴れてくれた方が彼らしいしね」
「じゃあ今回も派手にやっか」
「兄さんって本当に甲児をその気にさせるの上手いわね」
「年上だからかしら」
 マリアとさやかはそれを見てヒソヒソと話をはじめた。
「けどさやかも年上じゃないの?」
「けどねえ。大介さんみたいには中々」
「やっぱり王子様だったからかな。人の扱いが上手いとか」
「それを言うならマリアだってお姫様でしょ」
「あっ、そうだった」
「そうだったって」
 これにはやはり呆れたようであった。
「何で忘れるのよ」
「御免御免」
「じゃあ大介さん、今回はマリンスペイザーで出撃するの?」
 ひかるが尋ねてきた。
「そうだな、どうしようか」
「ジャブローは森林地帯だし陸からも厄介よ」
「ううむ」
 ジュンの言葉を聞いてさらに考え込む。
「どうしようか」
「じゃあおいらがマリンスペイザーに乗るだわさ」
「えっ!?」
 それを聞いてマジンガーチームの一同は思わず声をあげた。
「ボス、今何て」
「聞こえなかったのかよお、兜」
 ボスは甲児に対して言った。
「おいらがマリンスペイザーに乗るだわさ。これでいいだろ」
「ヌケやムチャもか!?」
「勿論」
「おいら達は何時でも一緒だぜ」
 ヌケとムチャもそれに応えた。
「いいんだな、本当に」
「鉄也、何か引っ掛かる言葉だわさ」
「いや、そんなつもりはないんだが」
 だが普段は冷静な鉄也も態度が明らかに違っていた。
「その、つまり」
「おいらがボロットじゃないから心配だって言いたいんだろう」
「まあはっきり言えばそうなるわね」
 マリアが答えた。
「あんたボスボロット以外操縦したことなかったんじゃなかったっけ」
「何回かマジンガーにも乗ったことはあっただわさ」
「本当、甲児」
「練習の時にな。けどやっぱり無理なんじゃねえのか?」
「兜、まだ言うのかよ」
「だってよお、あの時だって危なっかしかったしな」
「そうよね。やっぱり適性もあるし」 
 さやかも言った。
「やっぱりボスはボロットが一番じゃないかしら。私もさやかに賛成するわ」
「ジュンまで。何だよお、もう」
 いい加減ボスも頭にきた。
「おいらが他のマシン操ったら駄目だっていうだわさ」
「だからそうじゃねえって」
 甲児がまた言った。
「やっぱりボスにはボロットが一番合ってるよ」
「そうかも」
「何でえ何でえ皆しておいら達をオミソにしやがって」
「まあまあ」
 そこで大介が間に入ってきた。
「ボスも一応マリンスペイザーは操縦できるんだね」
「勿論だわさ」
「じゃあそれでいい。是非乗ってくれ」
「えっ、いいのかよ大介さん」
「構わないさ」
 彼は甲児に答えた。
「フォローはするからね。それにスペイザーになったら操縦するのは僕だし」
「そりゃそうだけれどよ」
「まあここは任せてくれ。いいね」
「大介さんがそう言うのなら」
「仕方ないわね」
 こうして他のマジンガーの面々は納得した。ボスは今回マリンスペイザーに乗ることになったのである。
 ジャブローに向かう者達の中には当然ザンボットチームもあった。彼等は今マクロスの中にいた。
「何かマクロスの中ってすげえなあ」
 勝平達は今マクロスの中のハンバーガーショップにいた。
「船の中にこんなでっかい街があるなんてよ」
「エクセリオンはもっと凄いらしいわよ」
 驚く彼に恵子がこう言った。
「そうなのか」
「ええ。何でも七キロもあるらしいから」
「うわ、そりゃすげえ」
「けど銀河の彼方に行っちゃってるからね。会えないと思うわ」
「そっか、残念だな」
「そのかわりここにいるだろ。それでいいじゃないか」
 宇宙太がぼやく彼に対して述べた。
「それに俺達はまた戦場に向かわなくちゃいけないんだからな」
「今度はアマゾンかよ」
「ええ」
「何かヘビとか鳥とか訳わかんねえもんが一杯出て来そうだな」
「来そう、じゃなくて出るのよ」
 恵子はまた言った。
「そうなのか」
「そうよ。だって今度の敵はミケーネ帝国よ」
「あの地下にいたって奴等だよな」
「ええ。何でも凄い数で来てるらしいわよ」
「敵っていつも数で来るな」
 彼はそれを聞いてぼやいた。
「何とかなんねえのかよ、うざったくて仕方がねえ」
「贅沢言うな、贅沢を」
 宇宙太はそんな彼を軽く叱った。
「それにその大勢の敵の為に爺様が俺達にあれを渡してくれたんだろうが」
「あれって!?」
「馬鹿、イオン砲だろ」
 今度はきつい声になった。
「何で忘れるんだよ」
「悪い悪い、ちょっとな」
 だがその謝る声にも重みはなかった。
「あのでっかいやつだよな」
「そうだ」
「全く。物覚えが悪いんだから」
「それであれってかなり威力があるんだよな」
「キングビアルの主砲にも使える程だからな」
 宇宙太は述べた。
「かなりの威力を持っている。それは期待していい」
「わかった。じゃあ派手にやってやるぜ」
「けど無茶はしないでね」
「何だよ、無茶しねえで何が戦いなんだよ」
「冷静にやれってことだ。只でさえ御前は無鉄砲なんだからな」
「何か俺って信用ねえな」
「それじゃあ冷静にやりなさいよ。万丈さんの指示に従ってね」
「ちぇっ、その万丈さんから思いっきりやっていいって言われてるのによ」
「けどハメは外すなってことだ」
「この前だってムーンアタック乱射してたし。残りのエネルギーのことも考えてよ」
「へいへい」
「わかってるのかしら」
「また万丈さんのフォロー受けるのだけは止めてくれよ」
「わかってるって言ってるだろ」
 彼等も新しい装備に気を向けていた。ロンド=ベルは多くの装備も換装し、その戦力を増していた。だがそれでも彼等は気を緩めてはいなかった。
「ジャブローか」
「あの場所とは本当に縁があるな」
「ああ」
 アムロとブライトはラー=カイラムの艦橋で話をしていた」
「一年戦争の時ですね」
「その通りだ」
 アムロはミサトの言葉に応えた。
「あの時はシャアが来た」
「また昔のことを出してくれるな」
 クワトロはそれを聞いて苦笑いを浮かべた。
「あの時の御前は赤いズゴックに乗っていたな」
「懐かしいな、それも」
「その時から赤が好きだったんですか」
「葛城三佐と同じかな」
「私と!?」
「その赤い軍服のことだよ。それはネルフの制服なのかい?」
「はい、そうですけど」
 彼女はアムロに応えた。
「何かおかしいでしょうか」
「いや、ちょっとな。軍服にしては派手だと思ったので」
「佐官の服は赤くなるんです」
「そうだったのか」
「尉官は連邦軍のものと似たような感じですけれど」
「だから女性もズボンなのか」
「はい。けれど最近連邦軍の軍服も多様化していますね」
「それは否定しないな」
 ブライトはそれに頷いた。
「ナデシコのクルーも連邦軍所属だったな」
「形式的にはそうなります」
「当然マクロスもだ。それを考えるとかなり変わった」
「SRXチームもですが」
「そうだったな。まるで全然違う軍ですね」
「そもそも葛城三佐の場合階級の呼称まで違うな」
 アムロが言った。
「ネルフはそうした呼び方になっているんだな」
「はい。かっての自衛隊に倣っています」
「それは聞いたことがあるが。最初聞いた時はかなり違和感があったよ」
「そうなんですか」
「軍じゃないんじゃないかってね」
「まあ普通はそうなりますね」
 ミサトもそれに応えた。
「私も最初はわかりませんでしたし」
「案外私達の軍服は古いのかもな」
 ブライトがここで言った。
「古いかな」
「ああ。少なくともかなり長い間着てはいる」
「確かにな」
「あの時は御前は志願兵で私は士官候補生だった。その時からだしな」
「おい、またその話か」
「ははは、一年戦争はもう遠い昔になったな」
「歳もとるわけだ、お互い」
「私はその時はまだ子供でしたよ」
「ミサト、嘘仰い」
「あ、わかった」
 リツコの声に応える。
「二十九歳でしょ、貴女は」
「そういうリツコは三十よね」
「歳のことは止めよう。そもそも俺と葛城三佐も何故か俺の方が年上になっているみたいだしな」
「実際アムロ中佐って幾つなんでしょうね」
「まあもうそういうことは止めにしよう。どうも変な設定も入っているしな」
「そうですね。何かセーラー服やタキシードを着たりしそうで」
「今ミサトがセーラー服着たら完全にあっちの世界ね」
「こら、それはどういう意味よ」
「冗談よ。けど大人がセーラー服着たら本当にまずいわよ」
「確かに。けどアムロ中佐のタキシードは似合いそう」
「そうかな」
「アデューとか言ってね」
「そう言われると着てみたいな」
「タキシードは持っていないのか?」
「柄じゃなくてね。着る機会もないし」
「相変わらず軍服とパイロットスーツで通しているんだな」
「私服も持ってるさ、一応な」
「プロ野球チームのユニフォームだったら面白いですね」
「だからミサトはそこから離れなさいって」
 ラー=カイラムの艦橋は比較的リラックスしていた。見れば皆彼等と同じ様に緊張は見られなかった。
「いい感じだね」
 万丈がそれを見て言った。
「リラックスしていると。戦いもスムーズにいく」
「はい」
 それにギャリソンが頷く。
「やはり固まっていては何にもなりませんからな」
「そういうこと。ダイターンの整備は終わったかい?」
「ワックスがけも済ましております」
「早いね。それじゃあジャブローでも派手に暴れるか」
「ジャブローか」
 ゼンガーがそれを聞いて呟いた。
「何かあるのかい、少佐」
「いや、まさかこの戦いで来ることになるとは思っていなかったからな」 
 ゼンガーはそれに応えた。
「そのまま日本に行くと思っていたのだが」
「日本か」
 万丈はそれを聞いてふと遠くを見た。
「そういえば離れてかなり経つな。大丈夫かな、あそこは」
「どうやら無事なようでございます」
 ギャリソンがそれに答えた。
「最近はガイゾックもバーム星人達も大人しいようでして」
「それじゃあ心配事はあの長官だけか」
「はい。最近は仕事がなくてイライラしておられるようですが」
「軍人は暇なのが一番なんだけれどね」
「そうは考えておられないようで。また何かと周囲を困らせておられるようです」
「やれやれ、あの人は相変わらずだな」
「全くだ」
 それにケンジが頷く。
「俺達はあんな人の下にいなくて本当によかったと思っている」
「大塚長官は話のわかる人だしね」
「ああ。あの人でなければタケルも今頃はどうなっていたかわからない。少なくとも三輪長官なら絶対に許しはしなかった。これはわかる」
「そうだね」
 これは万丈も同じ意見だった。
「ダバ君達もね。果ては大介君達も」
「しかしあの男はどうしてあそこまで異星人達を憎むんでしょうね」
 今度はアキラが言った。
「結局生物的にも遺伝子的にも全く変わらないのに」
「そういう問題じゃないのさ」
 万丈はアキラにこう述べた。
「じゃあどういう問題なんですか?」
「これは感情の問題なんだよ」
「感情の」
「そうさ。人間というのは弱い生き物でね」
 彼の話は続く。
「自分達と少し違うだけでそれを認められない場合もあるのさ」
「それがあの長官ですか」
「そう、そうした意味であの人は弱い人なんだよ」
「弱いんですか、あの人は」
「それは一理あるな」
 ナオトがそれに頷く。
「弱い犬程よく吠えるっていうしな」
「犬って」
「ははは、シニカルだね。けれど僕もあの人はそんなに強くはないって思ってるよ」
 万丈もそれには同意した。
「彼と比べたら一矢君の方がずっと強いよ。それだけは言える」
「そうなんですか」
「そしてタケル君もね。彼なら大丈夫だ」
「けどあいつには負けないぜ」
 ナオトがまた言った。
「こっちだってコスモクラッシャー隊の意地があるからな」
「おいおい、御前がそんなにライバル意識燃やしてどうするんだ」
「リーダー」
「ちょっとは仲良くできないのか。同じ仲間だろう」
「それはそうですけど」
「ナオト兄ちゃんは結構へそ曲がりだしね」
「おいナミダ」
 今度はナミダに顔を向けた。
「俺がへそ曲がりだって」
「うん」
「言わせておけば」
 コスモクラッシャー隊もかなりリラックスしていた。そしてそれはタケルも同じであった。
 彼はこの時リュウセイ達と話をしていた。話題はジャブロー、そしてアマゾンについてであった。
「とにかくすっげえのよ」
 リュウセイは身振り手振りを踏まえてタケルに話をしていた。
「何十メートルもあるアナコンダがいてよ」
「そんなのがいるんだ」
 タケルはそれを聞いてその目をリュウセイに向けていた。
「そうなんだよ。もう最初見た時はやけにでっかい丸太が浮かんでいるなって思ったんだけどよ」
「丸太が」
「おうよ。けどそれは違ってたんだ」
「それがアナコンダだったんだね」
「ああ。見たらR−1よりでけえんだよ。よくこんなのが生きているなってその時はマジで驚いたね」
「他にはどんなのがいるんだい?」
「化け物みてえな魚だよ」
 今度は魚に話が移った。
「ピラルクっているだろ」
「うん」
「あの馬鹿でけえ魚。食うと美味いんだけどな」
「美味しいんだ」
「特に刺身にしたらな。一度食うと止められねえぜ」
「ちょっと待てリュウセイ」
 レーツェルがそれを聞いて表情を強張らせる。
「!?」
「ピラルクを刺身で食べたのか」
「ああ、そうだけれど」
 彼はそれに答えた。キョトンとした顔を作っていた。
「それはまずいぞ。あれは生では危険だ」
「危険って?」
「虫がいる。特にこのアマゾンの魚は性質の悪い虫が多いんだ」
「虫って何だよ」
「寄生虫だ。何ともなかったのか」
「ああ、大丈夫だったぜ」
 彼は明るい顔で答えた。
「検査でも引っ掛からなかったしな。平気だぜ」
「そうか」
 レーツェルはそれを聞いて少し安堵した様であった。
「運がよかったな」
「運かよ」
「そうだ。下手をすれば命に関わる」
「命っておい」
「寄生虫を甘く見ないことだ。生物には特に注意するんだ。いいな」
「ああ、まあ」
 リュウセイはキョトンとした顔に戻って頷いた。
「レーツェルさんがそこまで言うんなら」
「実際に川魚は危ないんだ」 
 タケルも言った。
「そうなのかよ」
「鯉とか鮒でもね。生で食べるのは用心した方がいいよ」
「俺刺身好きなんだけどな」
「そういう問題じゃないから。若しものことがあったら満足に戦えないよ」
「ううむ」
「タケルの言う通りだ。リュウセイ、御前は無用心過ぎる」
「ライ」
 今度はライが出て来た。
「食べ物ことは特にだ。当たったりしたらどうする」
「ライの言う通りよ」
 今度はアヤが口を開いた。
「うちの部隊は貴方がメインなんだから。気をつけてよ」
「じゃあどうやって食えってんだよ」
「それは色々ある」
 レーツェルが述べた。
「煮たり焼いたり。フライや天麩羅もいいな」
「おっ」
 リュウセイはそれを聞いて身を乗り出してきた。
「美味そうじゃねえか」
「他には鍋か。確かアマゾンは鯰も多かったな」
「ピラルクばりにでけえ鯰が一杯いるぜ」
「そんなに大きいの」
 タケルはそれを聞いて驚きの顔を作った。
「ああ。三メートルはあるな」
「三メートル」
「意外とこれが美味い」
 レーツェルは驚くタケルに対して言った。
「白身でな。あっさりしている」
「そうなんですか」
「何なら私が料理しようか」
「鯰をですか」
「そうだ。流石に刺身にはしないがな」
「ちぇっ」
「そちらは養殖でもなければな。とてもできない」
 虫を警戒しているのは言うまでもない。
「この戦いの後は鍋にしよう。美味いのができるぞ」
「それじゃあ」
「ジャブロー戦の後は鍋パーティーだぜ」
「本当に食べるのが好きなのね、リュウセイは」
 アヤはそれを見て呆れた声を出した。
「若いからな」
「私もまだ若いけれど。何か最近リュウセイ達に負けてるわ」
「アヤで若いって言ったらアクア達はどうなるんだ」
 レーツェルはそれを聞いて笑った。
「あまり歳のことは言わない方がいいぞ。後で揉める元だ」
「了解」
 そして遂にジャブローが見えてきた。戦いは既にはじまっていた。
「進め!」
 暗黒大将軍の叱咤が飛んでいた。
「ここを陥落させ我等が地上侵略の拠点とするのだ!」
「ハッ!」
 戦闘獣達がそれに頷く。そして基地に向けて果敢に攻撃を繰り返していた。
「将軍達よ」
 その中暗黒大将軍は指揮を執る将軍達に対して声をかけていた。
「ハッ」
 それにドレイドウ、バータラー、アンゴラスの三人が応える。
「わかっておるな。ここは功を焦るな」
「わかっております」
 彼等はその言葉に頷いた。
「ジャブローは地上人達の最大の基地だ。ここを我等がものとすれば」
「その覇権は確実なものとなる」
「だからこそだ。今他の将軍達も呼び寄せている」
「他の者も」
「そうだ。この戦いの意味がわかるな」
「はい」
 七大将軍が全て揃うことなぞそうはないことである。彼等はそれを聞いてさらに気を引き締めさせた。
「そして今新しい情報が入ってきた」
「情報」
「ロンド=ベルがこちらに向かって来ている。マジンガーチームも一緒だ」
「ロンド=ベルが」
「しかもマジンガーチームまで」
「妖爬虫将軍はそのままジャブローへの攻撃を行え」
「はっ」
 ドレイドウがそれに頷く。
「魔魚将軍と怪鳥将軍はロンド=ベルへの攻撃に向かえ。よいな」
「わかりました」
「それでは」
「わしはここで全軍の指揮を執る。だがマジンガーチームが来たならば」
「来たならば」
「斬る。よいな」
「わかりました。それでは」
 こうして彼等は作戦を決定した。この間ジャブローの連邦軍は防戦一方であった。
「ここは耐えよ!」
 岡長官が部下達に対して必死に声をかけていた。
「よいな、もうすぐロンド=ベルがここにやって来る。それまで持ち堪えるのだ!」
「ロンド=ベルが」
「そうだ。彼等が来る。それまでの辛抱だ、いいな」
「わかりました、それでは」
「もう少しですね」
 ロンド=ベルが救援に向かっているという言葉に彼等は活気付いた。そしてまた立ち上がる。
 迫り来るミケーネ軍を防ぎ続ける。そして司令部のレーダー員が叫んだ。
「来ました!」
「遂にか!」
 岡もそれを聞いて叫んだ。
「はい、左に七隻の戦艦!」
「マシン達も次々に発進しています!彼等です!」
「よし、間に合ってくれたか!」
 岡の顔に会心の笑みが浮かぶ。
「長官、御無事ですか」
「御父様」 
 司令部のモニターに大文字とめぐみが出て来た。
「博士、それにめぐみも」
「何とか間に合ったようですな」
「大丈夫、そっちは」
「ああ、心配はいらない」
 彼は娘に優しい言葉をかけてそれに応えた。
「何とかな。そちらも何かと大変だろうが頼む」
「何、こちらも心配は無用です」
 大文字は穏やかに笑ってこう応えた。
「修復に換装を受けましたから。ではすぐにそちらの救援に向かいます」
「頼みますぞ。ただ注意して下さい」
「ジャブローの地形ですな」
「はい。御承知の通りここは森と河ばかりです」
 彼は言う。
「敵もまたそれを利用して攻めて来ます。御気をつけ下さい」
「わかっております。それでは」
 大文字はパイロット達に対して言った。
「皆行くぞ。河には水中用のマシンを優先させて送り込む」
「よし」
 弁慶がそれを聞いて頷く。
「俺の出番だな」
「おいらもいるぜ」
 武蔵も名乗りをあげた。
「巴先輩」
「ブラックゲッターだって水中戦はできるんだ。今から水中戦の真髄ってやつを見せてやるぜ」
「ミーもいまーーーーーース!」
「兄さんって水中戦得意だったかしら」
「HAHAHA、愚問デスね、テキサスマックはこれまで水中でも負け知らずデーーーーーーーーーース!」
「おいおい、ジャックは今はブラックゲッターのサブパイロットだろ」
 竜馬がそれを聞いて呆れたように言う。
「それともテキサスマックで出撃するのかい?」
「残念だが今整備中だぞ」
「シット!何てことデーーーーーーーーース!」
 サコンの言葉に口惜しがってみせる。
「これではミーの見せ場がありまセーーーーーーーーン!」
「まあおいらのサポートを頼むぜ」
 そんな彼に対して武蔵は言った。
「頼りにしてるからよ。メリーもそれでいいな」
「ええ、私はいいわ」
 メリーはそれに応えた。
「兄さんは放っておいていいから。じゃあ行きましょう、武蔵さん」
「よし」
「そしてネッサーの出番ですね」
 珍しくブンタがはりきっていた。
「皆さん、行きますよ」
「あとは水属性の魔装機か」
「私泳げないけれど」
 テュッティがここで困ったように言う。
「いや、別にテュッティがそのまま水に入るわけじゃないよ」
 シモーヌがそんな彼女に声をかける。
「だからさ。安心していいのよ」
「そうなの」
「はい。ですから安心して水に入りましょう」
 デメクサも言った。
「ジノさんも」
「うむ、では行くか」
 ジノの方は抵抗はなかった。
「久遠流の水練の妙技を見せよう」
「何かうちって結構水での戦いもできるんだね」
 万丈がそれを見て言う。
「けれどここは慎重に行こう。まずは空を飛べるマシンでモビルスーツやヘビーメタル達の渡河を援護しよう」
「了解」
 これにまずフォッカー達が頷いた。
「じゃあ俺達が中心になってやらせてもらうぜ」
「うん、頼むよ」
「じゃあモビルスーツはすぐに渡河にかかるぞ」
 クワトロが言う。
「いいな。すぐに行かなければ」
「了解」
 これにまずエマが頷く。
「ウッソ達は援護をお願いね」
「任せて下さい」
 Xガンダムは空を飛ぶことができる。だからこそエマはウッソ達に声をかけたのである。
「絶対に。やらせません」
「頼むわよ」
「待って下さいよ、エマさん」
 だがそんな彼女にカツが声をかけてきた。
「カツ、どうしたの」
「僕達も空を飛べますよ」
「僕達?」
「はい、スーパーガンダムになりましょうよ。それなら」
「あっ」
 そう言われてやっと気付いた。
「そうだったわね、それがあったわ」
「そうですよ。忘れてたんですか?」
「うっかりしてたわ、御免なさい」
「何かエマさんらしくねえな」
「弘法も筆の誤りってことかしら」
 ジュドーとルーがそれを見て言う。二人は既にマシンを変形させて空に舞っていた。見れば変形できるマシンは全て変形していた。
 そして渡河に取り掛かった。森と河に足をとられながらもそれでも先に進む。
「させん!」
 アンゴラスがここで動いた。彼とその部隊が河の中からロンド=ベルに襲い掛かる。だがそれはマリンスペイザーによって阻まれた。
「ヌウッ!」
「やはり来たかアンゴラス!」
 大介が彼を見据えて言う。
「ここは通さん!僕達がいる限りな!」
「デュークフリード!」
「大介だけではないだわさ!」
 ダイザーと合体しているマリンスペイザーから声がした。
「おいらもいるってことを忘れるなだわさ!」
「おいらもいるよ」
「おいらも」
 ヌケとムチャもいた。三人は何とかマリンスペイザーのコクピットに乗り込んでいたのだ。
「三人共宜しく頼むよ」
「おう、任せとけだわさ」
 ボスが大介に応える。
「大船に乗ったつもりでいるだわさ」
「ボス、マリンスペイザーはもう水の中にいるよ」
「だから言うなら潜水艦だよ」
「ええい、五月蝿いだわさ!」
 横から突っ込みを入れてきた二人を一喝する。
「ここは黙って大介のサポートに回るだわさ。わかったわね」
「了解」
「そういうことだ。僕達が御前の相手をしてやる」
「おのれ」
「ここを通りたくばこのマリンスペイザーを倒してからにしろ!それまでは通ることは許さん!」
「ならば!」
 アンゴラスの牙とダイザーのダブルハーケンがぶつかり合う。彼等は水中で激しい格闘戦に入った。
「おのれ、河からの攻撃は防がれておるか」
 バータラーはそれを見下ろして歯噛みしていた。
「やってくれるな、流石に」
「おっと、河だけじゃねえぜ」
 ここで甲児のマジンガーがやって来た。
「兜甲児!」
「おめえの相手はこの俺だ!覚悟しな!」
 彼は叫びながらその紅の翼を前に出してきた。
「スクランダーカッターーーーーーーッ!」
 そしてそれで切り刻もうとする。だがバータラーはそれは何とかかわした。
「チッ、やっぱり七大将軍だけはあるな」
「小癪な真似を」
 攻撃をかわしたバータラーはこう言ってマジンガーと甲児を睨み付けた。
「このわしに空で戦いを挑むとは、身の程知らずが」
「一つ言っておくけどな、マジンガーは空でも無敵なんだぜ」
 甲児もバータラーを見据えて言う。
「それは今までの戦いで散々教えてやってるんだけどな、また教えてもらいてえのか」
「ほざくな!」
 バータラーは激昂した。
「今からその減らず口を潰してくれる。覚悟しろ!」
「ヘン、やれるもんならやってみな!」
 彼等もまた一騎撃ちに入った。そして他の者達もそれぞれ戦いに入る。その中にはビルギットもいた。
「ヘッ、甘いぜ!」
 彼は敵の戦闘獣の攻撃をかわして呟く。そしてヴェスパーを放った。
「これならどうだっ!」
 それを受けた戦闘獣が一撃で吹き飛ぶ。だが戦闘獣は一体ではない。
 そのすぐ後ろからもう一体やって来る。これにはアンナマリーが前に出た。
「これは私が!」
 ビームで急所を撃ち抜く。それで敵を退けた。
「やるじゃねえか」
 ビルギットはそんな彼女を見て声をかけてきた。
「宇宙戦ばかりでこうした密林での戦いは慣れてないと思ってたのによ」
「結局戦うのは何処でも変わらないから」
 アンナマリーはそれに対して前を見据えたまま答える。
「地上でも何処でもね」
「そういうことか」
「そうよ。貴方だって宇宙の方が多い筈だけれどね」
「まあな」
 ビルギットはそれを認めた。
「けど実はここは知ってるんだよ」
「そうなの」
「新入りの時にここで訓練を受けたんだ。だからそこそこやれるさ」
「じゃあ期待してるわね」
「こっちこそな。今日も宜しく頼むぜ」
「ええ、わかったわ」
 二人も協同して敵にあたっていた。ロンド=ベルはその機動力と火力を生かしてミケーネの戦闘獣達にあたる戦術を採っていたのであった。
 徐々にジャブローの基地に近付いていくロンド=ベルに対して暗黒大将軍は作戦の切り替えを決意した。
「ドレイドウ将軍」
「ハッ」 
 ドレイドウが彼の言葉に応える。
「一時基地への攻撃を中止せよ。そしてロンド=ベルに向かえ」
「了解しました」
「そしてわしも向かおう」
「暗黒大将軍もですか」
「そうだ。それにあちらにはわしと戦いたくて仕方のない者もいるしな」
「それは俺のことだな」
 鉄也がそれに応える。
「そうだ。久しいな、剣鉄也よ」
「またこうして会えるとはな。嬉しくて仕方がないぜ」
「それはこちらもだ。今ここで貴様を倒せるのだからな」
「フン」
 鉄也はそれに応える形で声をあげた。
「じゃあ来い、叩き潰してやる」
「言われずともな。行ってやろう」
 両者は動いた。そしてジャブロー上空で対峙する。
「皆の者」
 暗黒大将軍は周りの者に対して言った。
「手出しは無用ぞ。よいな」
「ハッ」
 これにミケーネの者達が頷いた。
「皆」 
 鉄也も仲間達に対して言う。
「これは俺の戦いだ。手出しは無用だぜ」
「ああ、わかった」
「思う存分やりな」
 ロンド=ベルの仲間達はそんな鉄也に対して言葉をかける。彼等とて戦士である。戦いの邪魔をするような無粋な真似をするつもりはなかった。
「行くぜ!」
「来い!」
 両者はまず剣を取り出した。
「マジンガーブレード!」
「死ねい!」
 そして互いに斬り掛かる。剣が撃ち合い空中で火花が散った。
 そのまま鍔迫り合いに入る。そしてジリジリと睨み合う。
「また腕をあげたようだな」
「そっちこそな」
 鉄也は暗黒大将軍の言葉に返す。
「どうやら今までの戦いは無駄に戦っていたのではないな」
「そちらこそ。修業を怠らなかったらしいな」
「フン、それは当然のことだ」
 彼は言った。
「わしは誇り高きミケーネ帝国の総司令官だぞ!そのわしが戦への備えを怠ると思うか!」
「では俺と倒す為に腕を磨いていたということだな!」
「そうよ!」
 彼は言い切った。
「だからこそ今ここにいる!剣鉄也、貴様という最大の敵を葬る為にな!」
「じゃあ俺も見せてやる!グレートマジンガーの、そして俺の戦いをな!」
「では見せてみるがいい!このわしに!」
「言われずとも!行くぞ!」
 一度間合いを離した。そしてマジンガーブレードを収め拳を向ける。
「ドリルプレッシャーパンチ!」
「何の!」
 だがそれもあえなくかわされてしまう。
「クッ!」
「並の相手ならいざ知らずそれでわしが倒せると思うか!」
「何だと!」
「来い!ブレストバーンだ!」
「ブレストバーン」
 言わずと知れたグレートマジンガーの切り札の一つである。胸から溶岩を放ちそれで敵を焼き尽くす。甲児の乗るマジンガーの必殺技ブレストファイアーの強化兵器である。
「そうだ。それでなくてはわしは倒せぬぞ」
「フン、誰が挑発に乗るか」
 だが鉄也はそれを仕掛けようとはしなかった。
「ホウ」
「攻撃を仕掛けるのは俺だ。それを指定してくるということは何か考えがあるのだろう」
「さてな」
「むざむざ敵の策に乗る俺じゃない。ここは控えさせてもらうぜ」
「へえ、ここは何もしねえのか」
 甲児はバータラーと激しい死闘を展開しながらこう言った。
「俺だったら速攻でブレストファイアーなんだけどな」
「そんなことするのはあんただけよ」
 そんな彼にアスカが突っ込みを入れた。
「何も考えずに戦ってるって証拠じゃない。そもそもあんた何で戦ってるのよ」
「何でって決まってるじゃねえか」
「何よ」
「それはな」
「うん」
 アスカは彼の次の言葉を待った。思わず息を飲む。
「格好いいからだ!」
「ヘッ!?」
 それを聞いてアスカの顔が一瞬凍りついた。
「マジンガーに乗って戦うってのが格好いいから戦ってるんだよ!それ以外に何の理由があるってんだよ!」
「ふざけるのは止めなさいよ!」
 我に返ったアスカは激昂した言葉を出した。
「あんた馬鹿ァ!?そんな理由で今まで戦ってたの!」
「じゃあどういう理由で戦えばいいんだよ」
「止むに止まれない理由とか。そんなのあるでしょう」
「そんなのねえし。俺気がついたら爺ちゃんの開発したマジンガーに乗ってたんだよ。成り行きでな」
「お爺ちゃんって」
「アスカ、知らなかったの?甲児さんのお爺さんがマジンガーZを開発したんだよ」
 シンジがここで言う。
「常識だと思ってたけどな」
「し、知ってるわよ勿論」
 知らなかったことを必死で誤魔化す。
「あたしが知らない筈ないでしょ」
「そうかなあ」
「何か知らなかったみてえに聞こえるんだけどな」
「とにかくね」
 話を必死に誤魔化す。
「あんたにも理由はあるじゃない。そのお爺さんの作ったマシンに乗って悪い奴等と戦うっていう」
「言われてみりゃそうだな」
「結局理由があるじゃない。格好いいからだっていう馬鹿な理由じゃなくて」
「ところでアスカよお」
「何よ」
「御前の方はどうなったんだ?基地に辿り着いたのか?」
「えっ!?」
 そう言われてキョトンとした顔になった。
「えっ、じゃなくてよ。御前等って今回は基地に辿り着いて基地の部隊との合流が任務だったんじゃねえのか」
「そうだったっけ、シンジ」
「そうだったかじゃないよ」
 シンジは声をかけられて呆れたように言った。
「だから今基地に向かってるんじゃないか」
「そうだったの」
「アスカ遅れてるから。早く行くよ」
「う、うん」
「エントリープラグに気をつけてね。それじゃ」
「エヴァってのはそれが不便なんだよな」
「まあね」
 アスカは甲児の言葉に頷いた。
「それで行動が制限されちまうからな」
「けれどそれはそれで戦い方があるのよ」
「そうなのかよ」
「見てなさいって。あたしの戦いぶりをね」
「アスカさん」
「何?」
 今度はルリが声をかけてきた。
「すぐに母艦に一時帰還して下さい」
「ちょっと、やろうとしてたところでいきなり何よ」
 また激昂してルリに声をかける。
「もう弾薬がありませんけど」
「えっ」
「ポジトロンライフルの弾薬が。すぐに補給された方がいいです」
「大丈夫よ、そんなの」
「何故ですか」
「まあ見てなさいって。あたしの戦い方を」
 だが弾薬がもうないのは事実であった。それでもアスカは戦場に残っていた。
「バカシンジもアホ甲児も見てなさい」
「馬鹿って」
「俺はアホかよ」
「ATフィールドってのはねえ」
 迫り来る戦闘獣達を見据えながら言う。
「こうやって使うものなのよ!」
 自身の前にあるATフィールドを掴んだ。そしてそれを投げ付ける。
 何とATフィールドで敵を攻撃した。それの直撃を受けた戦闘獣達は両断され空中で四散した。
「どうかしら」
「うわ」
「またとんでもねえ攻撃仕掛けやがるな」
 シンジと甲児は敵を倒して得意満面のアスカに対して言った。
「ATフィールドってのはねえ、ただ身を守るだけじゃないのよ」
 アスカは得意なまま言う。
「こうした使い方ってのもあるのよ。覚えておきなさい」
「けれどもう弾薬はありませんよ」
「わかってるわよ」
 それでも冷静なルリに辟易しながら言葉を返す。
「何かルリって綾波に似てて。苦手なのよね」
「そういえば似てるね」
 シンジもそれに頷く。
「でしょ。甲児もそう思わない?」
「まあそういえばそうだな」
 甲児もそれに頷いた。
「どういうわけかわかんねえけど」
「それでアスカ」
「何よ」
「基地には早く来てね」
「わかってるわよ」
「それじゃあ俺も真面目に戦いに戻るか」
「ってあんたは早くそっちの将軍倒しなさいよ」
「おいおい、おめえが話し掛けてきたんだろ」
「そんなことはどうでもいいのよ」
 シュバルツのそれに似た台詞で話を誤魔化した。そしてシンジ達に遅れてジャブローの基地に入るのであった。
「ムウ」
 暗黒大将軍は鉄也との一騎撃ちの中でも戦局を見据えていた。ロンド=ベルの面々がジャブローの基地に入っていくのを見て彼は戦局が変わったのを察していた。
「今はこれが潮時か」
 そして呟く。それが判断に移ったのはすぐであった。
「全軍一時撤退だ」
 彼は判断を下した。
「撤退ですか」
「そうだ。今こちらに向かっている他の七大将軍の部隊と合流して戦力を再編成する」
 彼はアンゴラスの言葉に答えた。
「よいな。それからまたここに戻る」
「はい」
「今は退く。よいな」
「わかりました。それでは」
「全軍撤退!」
 ドレイドウやバータラーもそれに頷いた。こうして彼等は潮が引くようにして戦場から身を引いたのであった。
「行ったみてえだな」
「ああ、だがすぐに来るな」
 鉄也は甲児に対してこう言った。
「今度はさっきよりずっと強大な戦力でな」
「ずっとかよ」
「ああ。敵も必死だ」
 そしてこう述べた。
「七大将軍が全員来るかも知れない。激しい戦いになるだろう」
「ヘッ、それならこっちも歓迎してやるぜ」
 甲児の戦意は衰えてはいなかった。
「基地に入ることもできたしな。返り討ちにしてやるぜ」
「そうだ、その意気でいいんだ」
 そこに大介がやって来た。既にマリンスペイザーと分離してグレンダイザーに戻っていた。
「大介さん」
「ここに僕達がいる限り彼等の好きにさせるわけにはいかない」
「そうですね」
 その言葉に鉄也が強い声で頷く。
「ここで彼等を退けるんだ。負けることは許されないぞ」
「はい」
 三機のマジンガーは夕陽の中で並んで立っていた。そして次の戦いに思いを馳せるのであった。
 戦いは終わりロンド=ベルは基地に集結した。そしてそこで守りを固めに入った。
 そして主だった者達は基地の司令部に入った。そしてそこで基地の責任者である岡と会った。
「よく来られました」
「はい」
 大文字が一同を代表して挨拶を返す。
「ロンド=ベルが来られるとは。まさかとは思いましたが」
「ダカールのミスマル司令からの要請でして」
「あの方から」
「はい、御父様は太平洋区に向かって欲しいと仰っていました」
 ユリカがそれに答える。
「太平洋区」
「何でも敵の動きが活発化しているそうで」
「確かにそうですな」
 これは岡も認めた。
「それで三輪長官もカリカリしております」
「あの御仁もですか」
「宇宙人もミケーネもまとめて始末しろと。日本の総司令部は大変なようです」
「だろうな」
 京四郎はそれを聞いて頷いた。
「あのおっさんがまともなことをやる筈がないからな」
「京四郎君」
「これは失敬」
 大文字に窘められてここは引いた。
「このジャブローにも今のようにミケーネが来ておる」
「はい」
 一同はまた岡の言葉に頷いた。
「そしてバルマーやガイゾックも。黙ってはいないだろう」
「あとバームも動きはじめているそうですけれど」
 ここで一矢が問うた。
「それは本当ですか?」
「それも本当のことだ」
「やはり」
「火星の小バームはまだ大人しいようだがな。地上ではそうはいかない」
「リヒテルが」
「彼は地球人に対して激しい憎悪を抱いている。そうおいそれとは倒すことはできないだろう」
「厄介なことですな」
「太平洋は今までにない危機を迎えております。これは隠しようのない事実です」
「はい」
 皆またしても岡の言葉に頷くしかなかった。
「まずはこのジャブローでの攻防戦ですな」
「はい。どうやら七大将軍が全員来るそうです。激しい戦いになるでしょう」
「ヘン、七大将軍が何だっていうんだ」
 甲児はそれに対して強気であった。
「何人いようがマジンガーの敵じゃねえぜ」
「いや、それはどうかな」
 だがそんな彼に対して大介は言った。
「大介さん」
「甲児君、確かにマジンガーは素晴らしいマシンだ」
「ああ」
「そしてパイロットの能力が大きく影響する。今の甲児君なら確かにかなりのことができるだろう」
「それなら」
「それでも限界がある。もう今のマジンガーでは甲児君の能力を完全に生かしてはいないかも知れない」
「何だって」
「君はそれだけパイロットとして凄くなったということなんだが。だが器であるマジンガーはその能力を収めきれないようになってきたんだ」
「馬鹿な、そんなことは」
「いや、どうもそのようだな」
 鉄也もそれに同意してきた。
「鉄也さんまで」
「甲児君、今の君は無理をしてはいけない。さもないと大変なことになりかねない」
「何だよ、マジンガーを疑うってのかよ」
「違うんだ。今の君を完全に生かすことができるマシンが必要なんだ」
「今の俺を」
「マジンカイザーがあったな」
「ああ」
 甲児は鉄也の言葉に応えた。
「そろそろあれの封印を解かなければならないかも知れない」
「そうだな」
 それに大介も頷いた。
「ミケーネとの戦いの為にはな。あれの力も必要なのかも知れない」
「けどいいのかよ」
 そんな二人に対して甲児は言った。
「マジンカイザーは確かに凄えパワーを持っているけどよ」
「今の甲児君なら大丈夫だ」
「ああ」
 だが二人はそれをよしとした。
「だから安心していい」
「鉄也さんと大介さんが言うんならいいけどよ」
「ミケーネを倒す為にはマジンカイザーの力が必要だ」
「頼むぞ、甲児君」
「ああ、わかった」
 甲児は頷いた。何時になく真剣な顔であった。
「それで彼等は今何処に」
 大文字はミケーネ軍の所在について大文字に尋ねた。
「今ジャブローの北、ギアナ高地近辺にいるらしい」
「ギアナ高地に」
「そしてそこで軍を集結させているらしい。そしてそれが済み次第」
「こちらに来るということですか」
「そうだ。それに備えて守りを固めておこう」
「わかりました」
「まずは防衛ラインを構築しよう」
「はい」
 彼等は岡の言葉に頷く。
「そしてミケーネを迎撃しよう。その際は」
「アマゾン河が使えないのが痛いですな」
「うむ」
 今度は岡が頷いた。グローバルの言葉であった。
「敵は強力な水中部隊まで持っている」
 魔魚将軍アンゴラスの部隊であった。ミケーネ帝国は戦闘国家である。如何なる状況、如何なる相手に対しても戦うことができるのだ。
「それを考えるとな。川は使えない」
「やはり森を使うしかありませんな」
「そうだな。まずは基地を中心として布陣する」
「はい」
「モビルスーツやエヴァは森に入る」
「わかりました」
 これにミサトが応える。
「そして空を他のマシンで固める。それで行こう」
「了解」
「消極的だがこれでいいな」
「宜しいと思いますが」
 慎重派で知られるシナプスと大文字はそれに賛同した。
「ではそれでまずは敵を防ぎましょう」
「よし。それではすぐに布陣に取り掛かってくれ」
「了解」
「敵はすぐにでも来るかも知れない。急いでくれ」
「はっ」
 彼等は次の敵の動きに対して備えはじめた。そして実際に敵の攻撃は間も無くはじまろうとしていた。ジャブローの攻防は新たな幕を開けようとしていた。

第六十七話   完


                                      2006・1・14


[345] 題名:第六十六話 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年06月10日 (土) 01時44分

          死闘!キリマンジャロ
 ロンド=ベルがキリマンジャロに向かっている丁度その頃戦場とはまた違った場所で動きがあった。
「そうか、マーグが地球に到着したか」
 若い男の声が玄室に響いていた。
「はっ」
「では私の出る必要はないな」
「それではここに留まられるのですね」
「そうだ」 
 低く、それでいて澄んだ声で返事が帰ってきた。
「それに今はここにあの者達が来ようとしているしな」
「あの者達ですか」
「まだ地球人はいい」 
 彼は言った。
「彼等は我等と同じだ。意志がある」
「はい」
「だがあの者達は違う。意志なぞない。あるのはただ本能だけだ」
「そうした意味で地球人やザンスカールよりも厄介ですな」
「そうだ。だからこそ気をつけねばならない」
 声が強いものになった。
「サルデスやヒラデルヒアはどうしているか」
「こちらに戻って来ておられるようです」
「そうか。ならばよいがな」
 それを聞いてとりあえずは安心したようであった。
「だが油断をしてはならんぞ」
「はい」
「ズフィルードといえど敗れているのだ。何度とな」
「彼等にも」
「近頃辺境方面軍の失踪が相次いでいる」
 男はそれに対する様にこう言った。
「これが何を意味するか。わからぬわけでもない」
「確かに」
「宇宙怪獣の力は日増しに強くなっている。まるで我々を喰らい尽くさんとするかのように」
「我々を」
「そうだ。我々の敵は一つではない。まずはこれを忘れるな」
「はい」
「全ては霊帝の為。それを忘れた者は」
 声が引き締まる。
「この帝国を滅ぼすことになる。よいな」
「ハッ」
 男はそう言うとその場を後にした。地球とは遥かに離れた場所においても戦いは行われていたのであった。
 そしてこれは地球においても同じであった。ドレイク達もまた暗闘を繰り広げていたのであった。
「そうか、ジェリル=クチビがか」
 ドレイクは部下からの報告を聞いて一言呟いた。
「はい。一人でギリシアと呼ばれる国を掌握しました」
「それは何よりだ。見たところギリシアは戦略の要地」
「はい」
「そこを抑えることは実に大きい。我等にとってな」
「そうですね。今我々は欧州にいますが」
「うむ」
「この地域においてあの場所の戦略的意義は極めて大きいようです」
「ティターンズはそれを知っているようだな」
「おそらくは。彼等は地上人の中でもとりわけ地上に対する執着が強いようですから」
「それはどうかな」
「といいますと」
「私の見たところティターンズは然程地上に対する執着はない」
「そうでしょうか」
「それよりも彼等は宇宙を見ているのではないのか。彼等の正体は地上人ではない」
「といますと」
「先の大戦のことは覚えておろう」
「無論」
 その部下は答えた。
「あの時はジオンが強い勢力を持っておりました」
「そう、そのジオンだ。ティターンズはそのジオンと同じ様な存在ではないかと私は見ている」
「まさか」
 これには多くの部下達を異議を呈した。
「ティターンズは連邦政府の中にある軍とされています」
「うむ」
「その彼等が。どうしてジオンと同質なのでしょうか」
「異端者は何処にでもいる」
 ドレイクはそんな彼等に対して語った。
「連邦政府然り、だ。現にバイストンウェルでは我等も最初はそうだったではないか」
「確かに」
 部下達もそれには頷いた。
「その異端を異端とせぬようにするのもまた政治というものなのだ。そして我等はそれに一度は成功した」
「はい」
「それと同じことだ。ティターンズもそうした意味では政治を行っている」
「政治を」
「あのジャミトフ=ハイマンという男は少なくともそうだ」
「ジャミトフ大将ですか」
「あの野心に燃えた目、似ておるわ」
 不敵な笑みを浮かべた。
「私にもな。そしてあの二人にも」
「あの二人ですか」
「左様」
 これが誰と誰を指すのか、言わずもがなであった。手を組んでいるからといってそれが固い絆とは限らないのである。むしろその裏で激しい駆け引きを繰り返している場合すらあるのだ。
「今あの二人はどうしているか」
「取り立てて動きはありません」
 部下の一人がそれに関して報告をした。
「どうやらバルカン半島にも気付いてはいない模様です」
「所詮はその程度か」
「ですがスプリガンはジブラルタルに向かっている様です」
「ジブラルタルに」
「はい。そこを防衛しているティターンズの部隊と何やら接触しようとしている模様ですが」
「まずいな」
 ドレイクはそれを聞いてこう呟いた。
「あの場所にあの男を向かわせるわけにはいかぬ」
「では手を打ちますか」
「無論。すぐにバスク=オム大佐に連絡をとれ」
「はい」
「ジブラルタルはティターンズに全てを任せたいとな。それでよい」
「わかりました。それでは」
「至急に頼むぞ。よいな」
「ハッ」
 こうしてドレイクからバスクにすぐに連絡がとられた。この時バスクはロンドンにいたがそれを聞いてあからさまに嫌な顔をした。
「フン、異邦人めが」
「どう為されました」
 そんな彼に腹心であるジャマイカンが声をかけてきた。
「気付かれたわ。ジブラルタルを我等に全て任せたいとのことだ」
「ドレイク殿からですか」
「そうだ。どうやら我々がショット=ウェポンと奴を対立させようとしているのを察したらしい」
「速いですな、気付くのが」
「流石と言うべきかな。伊達に軍を率いているわけではない」
「そしてどうされますか」
「ショット=ウェポンには持ち場に戻る様に伝えよ」
「はっ」
「あの男をジブラルタルに置きバルカンを牛耳るあの男を抑えようとしたが。止むを得ん」
 彼等もバイストンウェル軍内の対立には気付いていた。そして手を打ったのである。
「こうなれば他の手を考える。ビショット=ハッタはどうしているか」
「ジャミトフ閣下と何やら積極的に話をされている様ですが」
「閣下とか」
 バスクはそれを聞いて考える顔をした。ゴーグルの奥からでもそれはわかった。
「閣下も何かと御考えの様だな」
「はい」
「ではここは閣下に御任せするよしよう。それよりもまずはこの欧州だ」
「はい」
「欧州の要塞化を急げ。よいな」
「了解しました」
「特に今カルタゴ近辺にいるネオ=ジオンの残党には警戒しろ。あの者達も何をしてくるか油断がならん」
「そしてミケーネは」
「潰せ」
 一言であった。
「どのみち奴等も敵だ。容赦することはない」
「わかりました」
「ガイゾックもだ。我等に歯向かう者は全て敵だ。よいな」
「了解しました」
「欧州をまず掌握しここに足場を作る」
 彼はまた言った。
「全てはそれからだ。よいな」
 ティターンズもまた動いていた。ロシアを失いながらもまだ諦めてはいなかった。欧州における戦いもそれがはじまる時を待っていたのであった。

 ロンド=ベルはその頃キリマンジャロに到着していた。そして陣を敷き周囲に警戒を払っていた。
「油断するな」
 ピートが仲間達に対して言う。
「デスアーミーは何処から来るかわからないぞ」
「へっ、あんな連中屁でもねえぜ」
 サンシローがそれを聞いて軽い声で返した。
「例えどれだけ来ても俺がまとめて相手してやらあ」
「そう気楽にいけばいいがな」
 ピートはいつもの彼の強気な言葉をいなしながら述べた。
「まあ期待させてもらうか」
「何だよ、その言い方」
 サンシローはそれにクレームをつける。
「今までだって俺の活躍でやってこれたじゃねえか」
「おいサンシロー、御前だけじゃねえぞ」
「ヤマガタケ」
 ヤマガタケがそれに反論してきた。
「俺だっているんだ。御前なんか俺のアシスタント程の役にも立っていねえじゃねえかよ」
「おい、そりゃ逆だろ」
 サンシローがそれに反撃を返した。
「御前が俺の女房役なんだろ」
「俺が女房役だと!?」
「というよりファーストか。御前はピッチャーじゃねえだろ」
「何だよ、いきなり野球用語なんか出してきやがって」
「俺にはそっちの方がしっくりいくんだよ」
「じゃあ俺も相撲でいかせてもらうぜ。御前は俺の露払いだ」
「何だよ、えらく格が下じゃねえか」
「褌担ぎにされないだけでもましだと思いやがれ。大体御前は目立ち過ぎなんだよ」
「って御前も充分目立ってるじゃねえか」
「あれっ、そうか」
「そういえばそうだな」
 リーが非常にタイミングよくそれに頷いた。
「ヤマガタケにはな。地上からの攻撃でいつも助けられている」
「今回も宜しく頼みますよ、ヤマガタケさん」
 ブンタも続く。
「どんどんとね」
「ほら見ろ、やっぱりリーとブンタはわかってくれてるじゃねえか」
 それを聞いて上機嫌でサンシローに言う。
「やっぱり俺がいねえとな。ロンド=ベルは駄目なんだよ」
「そうだな」
「特に僕達は」
「よし、任せとけ」 
 胸をドン、と叩いた。
「何でもやってやる。大船に乗ったつもりでいな」
「どうやらあいつもやる気になったみたいだな」
 サコンがそれを見て呟く。
「いつもながらリーとブンタが上手いがな」
 ピートもそれを見て笑っていた。
「しかし一番そうしたのが上手いのは別にいるがな」
「ああ」
 二人はそう言いながらミドリに顔を向けた。
「!?」
 だがミドリはそれに気付いていない。ただキョトンとした顔をしているだけであった。
「ミドリ君」
 そんな彼に大文字が声をかけてきた。
「はい」
「レーダーに反応はないかね」
「今のところはありません」
 ミドリはそれに答えた。
「そうか、ではまだいいな」
「いや、そう思うのは早計だ」
 だがここでドモンが大空魔竜のモニターに出て来た。
「ドモン君」
「俺にはわかる、奴はもうすぐ側にまで来ている」
「側にまで」
「ああ。今は隙を窺っているんだ。何時出ようか、とな」
「まるで野獣の様だな」
「そう、奴等は野獣だ」
 ピートのその言葉に応える。
「来るぞ、今にも」
 そう言った瞬間であった。
「レーダーに反応!」
 ミドリだけではなかった。メグミもサエグサも言った。
「デスアーミーです。我が軍を包囲しております!」
「何だと!何時の間に!」
「やはり!」
 ドモンはそれを聞いて叫んだ。
「皆臆するな!こんなことは読んでいた!」
 彼は叫んだ。
「敵が来たならば!」
「敵出現!」
 丁度ドモンの前に一機現われた。
「倒す!」
 だがそのデスアーミーはドモンの拳により撃ち砕かれた。それにより爆発が起こった。
「それだけだ!幾ら来ようとも怖れることはない!」
「フン、口だけは達者になったようだな!」
「マスターアジア!」
 マスターアジアも姿を現わしてきた。
「ドモン、首は洗って来たか!」
「どういうことだ!」
「わしに倒される覚悟はよいかということだ!その為に来たのであろう!」
「戯れ言を!」
 ドモンはそれを否定する。
「それは俺が貴様に言う言葉だ!今ここで貴様を倒す!」
「ほう、そしてデビルガンダムもか」
「そうだ!デビルガンダムもそこにいる筈だ!出て来い!」
「言われずともここにおる」
「何だと!」
「出でよ、デビルガンダム!」
 彼は叫んだ。すると大地からデビルガンダムが姿を現わした。驚くべき巨体であった。
「何てこった」
 ヂボデーがその巨体を見て忌々しげに呟く。
「この前よりでかくなってるぜ」
「そうですね」
 ジョルジュがそれに頷く。
「成長しているようですね」
「成長!?そんな馬鹿な」
 サイシーはそれを聞いて首を横に振った。
「ロボットが成長するなんて」
「いや、それがデビルガンダムだ」
 だがそれはアルゴによって否定された。
「DG細胞の力だ。それによりデビルガンダムは成長するのだ」
「ふふふ、その通りだ」
 マスターアジアはアルゴの言葉を聞き得意気に笑って応えた。
「デビルガンダムは成長していくのだ。それこそが究極のガンダムである何よりの証!」
「究極のガンダムだと!?」
 カミーユがそれを聞き声をあげる。
「馬鹿な、あんなのはガンダムじゃない。只の怪物だ!」
「カミーユ、落ち着いて」
 そんな彼をフォウが宥める。
「焦っても何にもならないわ」
「だけど」
「フォウの言う通りよ、カミーユ」
 だがここでエマも彼を制止にやって来た。
「落ち着きなさい、今は」
「クッ・・・・・・」
 エマにまで言われては仕方がなかった。カミーユは黙ることにした。
「このデビルガンダムこそが腐敗した人類を粛清し自然を復活させる何よりの力なのだ!ドモン、まだわからぬというのか!」
「誰が!」
 ドモンは頭からかっての師の言葉を拒絶した。
「貴様の言うことなぞ!それに人類は腐敗なぞしてはいない!」
「それはどうかな」
 だがマスターアジアもかっての弟子の言葉を否定してきた。
「宇宙怪獣やバルマー帝国が近付いてきておるのに自分達のことしか考えず戦いと享楽のみを追い求める。それが腐敗と言わずして何と言うのか」
「珍しくまともなこと言っちゃてるわね」
「こらアスカ」
 また悪態をついたアスカをミサトが窘める。
「まるであの人がいつもとんでもないこと言ってるように言わない」
「だっていつもとんでもないんだもの」
「それでもよ。とにかく今は黙って話を聞くこと。いいわね」
「了解」
「とは言っても」
 ミサトは話を終えたところでふと呟いた。
「腐敗、かあ。じゃあいつもビールばっかり飲んでるあたしはどうなるのかな」
「その前に身体によくないわよ」
 リツコがここで横から言ってきた。
「ビールとインスタント食品ばかりじゃ。たまにはまともなのも食べなさい」
「ビールは美容にいいのよ」
「何処がよ」
「少なくともスタイルには自信があるんだから。健康にもね」
「あら、もうお肌の曲がり角なのに」
「それは貴女もでしょ」
 ムッとした顔を作ってそれに反論する。
「お互い若くないんだから。言いっこなしよ」
「あら、私は大丈夫よ」
「どうして?」
「節制しているから。貴女とは違うわ」
「そんなのしても太る時は太るのよ」
「けれどアムロ中佐には好かれないわよ」
「いちいち言ってくれるわね」
 今度は顔に険を作ってきた。
「アムロ中佐とも何もないわよ」
「そうだったの」
「どうしてそういった話になるのよ。中佐とは何回か一緒に御食事をしただけよ」
「それのせいよ。あとは声」
「声!?」
「アムロ中佐と貴女の声はね。よく合うのよ」
「そうかしら」
「そういうこと。まあ変な噂話には気をつけなさいね。あとはお肌にも」
「フン」
 二人がそんな話をしている間にも戦いははじまろうとしていた。ドモンとマスターアジアが睨み合う。
「ドモンよ」
 彼はドモンの名を呼んだ。
「来るがいい。そしてわしに倒されよ!」
「誰が!」
 やはりそれを拒絶する。
「何度でも言ってやる!貴様もデビルガンダムもここで最後だ!」
「では見せてみよ、貴様の明鏡止水を!」
「おう!」
 そして彼はそれに応えた。
「キング=オブ=ハートの名の下に!」
 彼は叫びはじめた。
「いや、それはまだだ!」
 また誰かの声がした。
「まさか」
 それを聞いてミサトの顔が露骨に嫌そうなものになった。さっきまでのリツコとのやりとりで見せていた作った顔ではなかった。
「そのまさかみたいね」
 リツコもそれに応える。二人だけでなくロンド=ベル全軍がそれに何かを見ていた。
「ドモン、今はまだ明鏡止水を使う時ではないぞ!」
 彼の前にガンダムシュピーゲルが姿を現わした。
「シュバルツ=ブルーダー!」
「やっぱり」
「いつも何処から出るのかしら」
「ガンダムシュピーゲルレーダーに反応ありませんでした」
 マヤがそう報告する。
「今も映ってません」
「・・・・・・でしょうね」
 ミサトは呆れた声でそれに応えた。
「ステルスじゃないみたいですけれど」
「これは一体どういうことなんですかね」
「深く考えない方がいいわ」
 シゲルに対しても言う。
「ネオ=ドイツの科学力を結集して作られたガンダムファイターらしいし。何があっても不思議じゃないわ」
「それはそうですけど」
 それでもまだマヤには疑問があった。
「何かしら」
 それにリツコが問う。
「ドイツに忍者っていたんですか?私聞いたことないですけど」
「確かいなかったと思うけどな」
 マコトがそれに応える。
「それにあれはどう見ても普通の忍術じゃないし」
 シゲルも言った。
「BF団とか国際エキスパートの忍者に近いですよね。マスク=ザ=レッドとか影丸とか」
「そういえばそんな忍者もいたわね」
 ミサトの言葉は溜息に近くなっていた。
「あたしも忍術は知らないわけじゃないけれど。あれはねえ」
「あれは忍術の限界越えてますよ」
 めぐみも話に入ってきた。
「めぐみちゃん」
「BF団や国際エキスパートの忍術はどちらかと言うと妖術です」
「そうなの、やっぱり」
 そう言われると納得できるものがあった。
「普通の忍者はあんなことできません。当然ドイツに忍術があったなんて最近になってはじめて知りましたし」
「そうなの」
「あれも妖術に近いです」
 ゲルマン忍術を評してこう述べた。
「私も父もあんなことはとてもできませんから」
「でしょうね」
「とすると増々怪しい存在ね」
 リツコはそう言いながらシュバルツを見据えていた。
「シュバルツ=ブルーダー、一体何者なのかしら」
「只の人間じゃないのはもうわかってることだけれどね」
「ニュータイプ・・・・・・じゃないですよね」
「だからあんなのは知りませんって」
 シーブックがモニターに出て来た。
「俺も宇宙でいましたけどゲルマン忍術だのそんなのは」
「やっぱりね」
 ミサトはそれを聞いてまた頷いた。
「ニュータイプでもなければ一体」
「何者なのかしら、彼は」
「ドモン、迂闊に明鏡止水に頼るな!」
 シュバルツはドモンに対して叱る様に言っていた。
「明鏡止水は切り札。それに頼っていては身を滅ぼす!」
「俺自身を」
「そうだ!」
 彼はまた言い切った。
「それよりも今は己の力で戦え!いいな!」
「わかった。それじゃあ」
 ドモンは彼の言葉に何かを見たのであろうか。珍しく素直に頷き前に出た。そしてその拳で戦いはじめた。
「そうだ、それでいい」
 シュバルツはそれを見て満足そうに頷いていた。
「それでは私も戦うとしよう。行くぞ!」
 そう言いながら分身の術を使って来た。シュバルツが何人にも分かれた。
「参る!」
 そしてデスアーミー達に攻撃を仕掛ける。その手裏剣と刃で敵を次々と屠っていく。
「うわ、やっぱり強いわね」
 ミサトがそれを見て呟く。
「流石は忍者」
「だからあれは忍者じゃありませんって」
 めぐみが反論する。
「妖術ですよ、殆ど」
「・・・・・・確かにそうかも」
「甘いっ!」
 デスアーミーの攻撃が当たったかと思うと姿を消した。そこには巨大な岩があった。
 そしてデスアーミーの頭上に姿を現わす。そのまま降下し敵を一刀の下に切り伏せるのであった。
 爆発が彼の背で起こる。次に彼は畳返えしでその姿をまた消した。
「また消えた」
「今度は何処に」
「何かもう滅茶苦茶ですね」
「何処にあんな畳があったんだ」
 ネルフの面々も驚きの連続であった。彼等はもうシュバルツの戦いから目を離せなくなっていた。
 姿を消したガンダムシュピーゲルはデスアーミーの後ろにいた。一言呟いた。
「・・・・・・滅っせよ」
 それだけであった。そのデスアーミーも爆発し炎の中に消えた。シュバルツはそれを見届けるより速くまた動いていた。そしてデスアーミー達を次々と屠っていくのであった。
 ドモンとシャッフル同盟もまた戦いの中心にいた。彼等はその拳で以って敵を倒し続けていたのであった。
「うおおおおおおおおおおおおっ!」
 ドモンの叫び声が木霊する。そして目の前の敵をまた一機粉砕した。
「まだだ、来い!」
「へえ、気合入ってるじゃねえかドモンの奴」
 豹馬がそれを見て言う。
「何かいつもと違うな」
「そう?普段と変わらないと思うけど」
「ちずる、おめえはそうした男の熱さってのがわかんねえのかよ」
「悪かったわね、女で」
「一平はわかるよな」
「俺か」
 話を振られた一平は少し戸惑いを見せた。
「そうだよ。同じ超電磁ロボのパイロットとしてな」
「まあわからないでもないな」
「ほら見ろ」
 豹馬は一平のその言葉を聞いて得意気になった。
「一平もこう言ってるじゃねえかよ」
「アホ、一平は御前に合わしとるだけや」
 だがそんな彼に十三がクレームをつけた。
「おろ」
「おろ、やないわ。大体御前はそもそも最近まともに技も開発しとらへんやろが。しっかりせんかい」
「おい、何だよその言い方」
 今度は十三に突っかかってきた。
「俺が最近何もしてねえみたいじゃねえか」
「ホンマのことやろが」
「何!」
「まあ待つでごわす」
 そんな二人を大作が止めた。
「そもそもコンバトラーの技はもう充分多いでごわす。もう必要ないと思わないでごわすか?」
「そうやろか」
「言われてみればもう充分だと思います」
「小介」
 小介も話に入ってきた。
「コンバトラー単体としては」
「コンバトラー単体!?」
「はい。ここはもっと大きな技に挑戦すべきだと思います」
「大きな技って言われてもねえ」
 ちずるも首を傾げた。
「何かあるかしら」
「合体技というのはどうでしょう」
「合体技!?」
 小介のその言葉にコンバトラーチームの他の四人が一斉に反応した。
「はい。健一さん」
 彼は健一にも声をかけてきた。
「どうしたんだ、小介君」
「少しお話したいことがあるのですが」
「その合体技のことだね」
「はい。宜しいでしょうか」
「そうだな」
 彼は暫く考えた後で口を開いた。
「皆はどう思うかな」
 そしてボルテスチームの面々に話を聞いてきた。
「面白そうだな」
 まずは一平が答えた。
「コンバトラーとの合体技か。面白そうだ」
「やってみる価値はあると思うよ」
 日吉も賛成した。
「コンバトラーとボルテスは相性がいいしね」
「おいどんも賛成でごわす」
「大次郎もか」
「はい。さらに仲良くなってよいと思うでごわす」
「そうね」
 めぐみも口を開いた。
「やってみましょう。どんな技が出るか楽しみよ」
「よし、ボルテスとしては全員賛成だな」
「おう」
「そういうことだ。こっちはいい」
「よし、それじゃあすぐにはじめっか」
「ああ」
 コンバトラーとボルテスは並んだ。そして攻撃に入る。
「行くぜ健一」
「ああ、豹馬」
 二人はそれぞれ動きを合わせる。
「まずは俺からだ!やるぜ!」
 コンバトラーの全身を赤い光が覆った。
「超電磁タ・ツ・マ・キーーーーーーーーーーッ!」
 まずは超電磁タツマキが放たれた。その間にボルテスは天空剣を出す。
「超電磁ボォォォル!」
 そしてそこから超電磁ボールを放った。コンバトラーはその間にその身体を激しく回転させる。
「超電磁スピィィィィィンッ!」
 そして敵に突攻を仕掛ける。それによりまず一撃目が加えられた。
「よし、次は俺だ!」
「頼むぜ健一!」
「ああ!」
 ボルテスは天空剣を振り被った。そして敵に襲い掛かる。
「天空剣!」
 超電磁スピンの直撃を受けてその動きを止めている敵にさらに襲い掛かった。そしてその剣を振り下ろす。
「Vの字斬りぃぃぃっ!」
 それが止めとなった。敵は二体のマシンの攻撃を受け爆発四散した。見事な連携攻撃であった。
「やったな」
「ああ」
 コンバトラーとボルテスは互いに顔を見合わせ言った。
「これで新しい技が完成したな」
「いきなりだったが上手くいったな。ところで」
「何だ?」
「この技の名前は何にする?」
「技の名前か。そうだなあ」
 豹馬は少し考えた後で述べた。
「超電磁Xの字斬りなんてどうだ」
「超電磁Xの字斬り」
「そうだ。いい名前だと思うけれどどうだ」
「あっきれた」
 それを聞いてまずちずるが言った。
「そのまま合わせただけじゃない」
「ホンマや。もうちょっとましな名前考えんかい」
「何だよ、文句でもあるのかよ」
「あるから言ってるのでしょ」
「他にはないんか、他には」
「まあ待ってくれよ、二人共」
 だがそんな二人に対して健一が言った。
「俺はそれでいいと思うんだけれどな。シンプルでいいし」
「健一さんがそう言うんなら」
 ちずるも頷くものがあった。
「わいもええわ。じゃあそれでオッケーやな」
「そうだな。それでいこう」
「よし」
 こうしてコンバトラーとボルテスの合体技が完成した。これにより両チームの結び付きがさらに深いものになったのは言うまでもない。
 コンバトラーとボルテスがその合体技を実現させていたその頃戦いは更に激しさを増していた。
 ドモン達シャッフル同盟はシュバルツやレイン達の援護を受けデビルガンダムに迫っていた。そして遂に対峙することとなったのであった。
「遂にここまで来おったな、ドモン」
 マスターアジアはドモンを見下ろしながら言った。
「それは褒めてやろう。ではわし自ら相手をしてやる」
 そしてドモンの前にまでやって来た。
「マスターアジア」
「ではよいな。ガンダムファイト」
「レェェェェェェェェェェェェェェェディィィィィィィィィィィィィィィィィ」
「ゴォォォォォォォォォォッ!」
 こうして両者の戦いがはじまった。まずはマスターアジアが容赦のない攻撃を浴びせてくる。
「これでどうじゃっ!」
「クッ!」
「動きが鈍いわ!その程度でわしを倒せると思うてか!」
「何だと!」
「未熟未熟ゥッ!所詮はこの程度か!」
「言わせておけば!」
 ドモンも反撃に転じる。だがそれは空しくかわされてしまった。
「何処を狙っておるか!」
「チィッ!」
「この程度の動きすら読みとれぬとは!わしの見込み違いだったようじゃな!」
「見込み違いだと!」
「そうよ!」
 彼は言い切った。
「貴様は不肖の弟子よ!貴様なぞに流派東方不敗は極められはせぬ!ましてや明鏡止水なぞ!」
「その減らず口黙らせてやる!」
 ドモンはムキになって攻撃を浴びせる。だがそれも当たりはしない。
「何処を見ておるか!」
「クッ!」
「最早これ以上戦っても意味はないわ!一気に勝負をつけてくれようぞ!」
 そう叫びながら構えに入った。
「行くぞ、ダークネス・・・・・・」
 その右腕が禍々しく輝きはじめた。
「フィンガァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!」
「ヌオッ!」
 かわしきれなかった。反応が遅れた。その結果としてドモンはダークネスフィンガーの直撃を受けてしまった。
「ドモン!」
 シャッフル同盟の仲間達は吹き飛ぶドモンを見て叫んだ。彼等は今デビルガンダムとそれぞれ戦っていたのだ。
 シャイニングガンダムは地面に叩きつけられた。激しい衝撃が大地を襲い揺れる。最早立てないかとすら思われた。
「まだだ!」
 だがドモンはそれでも立ち上がった。満身創痍のまま立ち上がる。
「俺はまだ負けてはいない!この程度で!」
「やれるというのか、まだ!」
「そうだ!今それを見せてやる!」
 そう言いながら構えをとる。するとその全身が徐々に金色に輝きはじめた。
「ほう」
 シュバルツはそれを見て声をあげた。
「そうか、遂にか」
「行くぞ、マスターアジア!」
 今ドモンの心は完全に澄み渡っていた。そこに何かがやって来た。
「あれは」
 アレンビーが最初に気付いた。
「ガンダム。何でこんなところに」
「ゴッドガンダムね」
 レインはそれが何なのかすぐに理解した。
「御父様が開発した。今届いたのよ」
「けど今のドモンは」
「大丈夫よ、ドモン!」
 レインが彼に声をかける。
「ゴッドガンダムが来たわよ!そのまま続けて!」
「けれどそれじゃあ乗り換えられないわよ、どうするのよ」
「だから心配しないで」
 それでもレインに動揺はなかった。
「そのままで。意識さえシンクロすれば」
 その時シャイニングガンダムのコクピットが外れた。
「何と!」
 マスターアジアからもそれは見えた。だが彼は手を出さなかった。
「どうして」
「それは彼が真のガンダムファイターだからさ」
 一矢がいぶかしるナナに対して言った。
「本当のガンダムファイター!?」
「そうさ。本当の戦士は相手が戦える状態じゃないと拳を向けたりはしない。マスターアジアはそうした意味でも本物のガンダムファイターなんだ」
「そうだったの」
「敵であろうともそれは認める。だがドモンもまた真のガンダムファイターだ」
 彼はドモン達から目を離そうとはしなかった。
「ドモン、見せてみろ御前の戦いを!」
 一矢は叫んだ。
「そしてデビルガンダムを倒すんだ。いいな!」
 ゴッドガンダムの中にシャイニングガンダムのコクピットが入った。すすろその全身が瞬く間に金色に輝きはじめた。
「これだ、この気持ちだ」
 ドモンは黄金色に輝く中で呟いた。
「この気持ちこそが明鏡止水。これさえあれば」
 彼は言う。
「怖れるものはない。行くぞ、マスターアジア!」
「ようやく目覚めたようじゃな!」
 マスターアジアは黄金色に輝く弟子に対して言った。
「遅いわ!だが褒めてやろう!」
 そしてまた構えをとった。
「明鏡止水を見せてくれたことをな!では参る!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
 両者は互いに拳を繰り出した。そしてそれが撃ち合う。
 二人の一騎撃ちが激しさを増すその頃イルイはラー=カイラムの中にいた。アイビス達と一緒にいる部屋である。彼女はアイビスとツグミ、そしてスレイ達と共にいたのである。
 一人部屋にいた。何も語らない。だが何かを察していた。
「危険・・・・・・」
 彼女は呟いた。
「あれはキケン・・・・・・。デビルガンダムは・・・・・・」
 何かを呼んでいるようであった。そして上を見上げた。
「来て、聖なる獣達よ」
 また呟いた。
「そして地球を守る戦士達を助けて」
 何かが来た。そしてそれはデビルガンダムの周りに姿を現わしたのであった。
「!?」
「何だ一体!?」
 デビルガンダムの周りに三体の何かが姿を現わした。そしてそれは咆哮をはじめた。
「鷲か!?」
 アムロがその中の一体を見て言った。
「そして鮫」
 次には竜馬が。
「最後は豹かよ。何なんだありゃ」
 甲児も言った。見れば確かにそれはそのままの姿であった。
「サンバルカンだね」
「ミオちゃんも知ってるの!?」
 ユリカがそれをきいて楽しそうな声をあげる。
「もっちろんよ。へドリアン女王がよかったわよね」
「そうそう、デンジマンから出ててね」
「あれだけの悪役はそうそういないわよね。声もいいし」
「うんうん」
「よくそんな話御存知ですね」 
 ルリが二人に尋ねる。
「何処で御覧になったんですか?」
「ビデオで」
「DVDで」
 二人はそれぞれ答えた。
「すっごい面白かったんだから」
「三人の戦隊ものはこれが最初で最後だったみたいだけれどね」
「そうだったんですか」
 ルリはそれを聞いて頷いた。
「ではあれのコードネームは決まりですね」
「何かしら」
「バルイーグル、バルシャーク、バルパンサーです」
「いや、それはストレート過ぎると思うけど」
 メグミがそれに突っ込みを入れる。
「せめてイーグルとかシャークにしない?ルリちゃん」
「じゃあそれで」
「何かルリルリって時々本気か冗談かわからないのよね」
 ハルカも言う。
「けどそれがルリさんの持ち味なんですけれどね」
「ではハーリー君」
 ルリが今口を開いたハーリーに対して言った。
「コートネームのインプットお願いしますね」
「了解」
 こうしてあの三体のインプットが行われた。それはすぐに他の六隻にも送られたのであった。
「鷲と鮫と豹か」
 ブライトは送られてきたコードネームを見て呟いた。
「何かそのままだな」
「そうですね。けれどストレートでしっくりきますね」
 サエグサがそれに答えた。
「陸空海三つ揃ってるわけですし」
「そういえばそうだな」
「何か。意志めいたものも感じますけれど」
「意志」
 ブライトはその言葉に反応した。
「だとすれば何の意志だ」
「いや、ただ言ってみただけですけれど」 
 問われたサエグサの方がキョトンとする。
「それが何か」
「いや、いい」
 サエグサにもわかっていなかった。ならば仕方がないと思った。それ以上は聞かなかった。
「問題はあの三体がデビルガンダムに何をするかだ」
「とりあえずは我々に対する攻撃の意志はないようですが」
「だが油断するな。いきなりということも考えられる」
「はい」
 こうしてロンド=ベルはその三体にも警戒を払うことにした。だが三体の獣は彼等には構うことなくデビルガンダムに攻撃を仕掛けたのであった。
「ムッ!?」
 マスターアジアがそれに顔を向けた。
「デビルガンダムに攻撃を仕掛けるというのか」
「何処を見ている、マスターアジア!」
 そんな彼にドモンが叫んできた。
「貴様の相手はこの俺だ!余所見をすることは許さん!」
「ヌウッ!」
 だがマスターアジアは彼から間合いを離した。そして三体の獣に向かう。
「逃げるな!」
「ほざけ!今は貴様の相手をしている時ではないのだ!」
 彼も叫んだ。
「貴様の相手は後でしてくれるわ!楽しみに待っておれ!」
「チイッ!」
「ドモン、今はそれよりも!」
 レインが声をかけてきた。
「デビルガンダムをやれ!今こそその時だ!」
「シュバルツ」
「ここは我々が引き受けよう!さあ行け!」
「わかった、それじゃあ!」 
 ドモンはそれを受けた。そして前に進む。
 だがその前に無数のガンダムヘッドが地中から姿を現わしてきた。そしてドモンに向けて襲い掛かる。
「何のっ!」
 だがドモンはそれを蹴りで薙ぎ払った。そしてそのまま跳躍する。
「トオッ!」
 空中で身構える。その腕にキング=オブ=ハートの紋章が浮かび上がった。
「キング=オブ=ハートの名にかけて!」
 彼は言った。
「俺の拳が真っ赤に燃える!勝利を掴めと轟き叫ぶ!」
 今彼の全身が再び黄金色に輝いていた。
「ばぁぁぁぁぁぁくねつ!」
 拳も輝きを増してきた。
「ゴッドフィンガァァァァッ!」
 そしてその拳をデビルガンダムの脳天に叩き込んだ。今デビルガンダムの身体にも黄金色の光が炸裂した。
「石破!」
 技の名を叫ぶ。
「天驚けぇぇぇぇぇんっ!」
 それが全てであった。デビルガンダムは今その動きを止め光に包まれた。
「ヒィィィィト!エンドッ!」
 ドモンは着地した。それまで動きを止めていたデビルガンダムの巨体が光に包まれた様に見えた。そしてそれは光の中に消えていった。
「何と・・・・・・」
 これにはさしものマスターアジアも絶句した。
「デビルガンダムを倒すろは・・・・・・。何ということを」
「正義は必ず勝つ!」
 ドモンはそんな師に対して言い切った。
「だからこそ俺は勝った!違うか!」
「ヌウウ!」
「次はマスターアジア、貴様の番だ!」
「ほざけ、馬鹿弟子があっ!」
 彼もまだ負けてはいなかった。
「わしの名を言ってみよ!」
「何!」
「言ってみよというのだ、この東方不敗の名を!」
「一体何滅茶苦茶言ってるんだ、あのおっさん」
 忍がそれを聞いて言う。
「手前の名前なんてよ。いきなり言わせてよ」
「頭がおかしくなったとかじゃないよね」
「まさか」
 勝人の言葉を沙羅が否定した。
「そんなんだったらとっくの昔にあれでしょ」
「それもそうだね」
「沙羅の言う通りか」
 亮もそれに頷いた。
「まだやるつもりなのよ、あの人」
「ヘッ、意気盛んだな」
「そうも悠長には言っていられないぞ、忍」
「何かあるのかよ」
「あの気迫、只者ではない。おそらくまだ何かやるつもりだ」
「何かか」
「ああ、注意しておけ」
 デスアーミー達も消えていた。だがマスターアジアはそれでも戦場に残っていたのである。
「ドモン!」
 彼は弟子を見据えていた。
「貴様だけは許さんぞ!」
「何故そこまでして闘う!」
 ドモンはそんな彼に対して問うた。
「俺がデビルガンダムを倒したからか!」
「それだけではない!」
 だが彼は言った。
「それだけではないのだ、ドモンよ!」
「では何故!」
「わしは敵は必ず破る!それがこの東方不敗の名の誇りだからだ!」
「だから闘うというのか!」
「左様!では覚悟はよいな!行くぞ!」
「ならば!」
 彼もそれを受けることにした。互いに構えをとる。
「流派東方不敗の名にかけて!」
「俺のこの手で!」
「うわ、また熱くなってきたね」
「変態同士の対決ね」
 驚くシンジに対してアスカは冷めた様子であった。
「何かアスカってあの人が本当に嫌いなんだね」
「嫌いとかそんなんじゃないわよ。受け付けないだけ」
 彼女は素っ気無く返した。
「まあ死にはしないでしょうし。離れて見ましょう」
「冷たいなあ」
「素手で何でも破壊できるような人達でしょ。気にしない気にしない」
 彼等は離れて見ることにした。こうしている間にも両者を包むオーラは高まっていく。
「凄いオーラだな」
「そうだね」
 チャムはショウの言葉に頷いた。
「けれど邪悪なものは感じられません」
 シーラがここでモニターに出て来た。
「シーラ様」
「あの人はあの人で何か大きな志があるようです」
「志」
「それは私も感じます」
 エレも言った。
「あの人は。少なくとも私利私欲はありません。自分を犠牲にして何かを果たそうとしています」
「何を」
「そこまではまだわかりませんが。けれど何かがあります」
「そうなのか」
 ショウは二人の話を聞いてからマスターアジアを見た。
「マスターアジア、一体何を考えているんだ」
「ではここで死ぬがいい、ドモン!」
「死ぬのは貴様だ!」
 彼はやはり睨み合っていた。
「デビルガンダムを破壊してくれた恨みもまとめて晴らしてくれる!」
「そんなもの!恨みなぞ今の俺には!」
 両者は今まさに激突せんとしていた。だがその時であった。
「マスターアジアさん」
「ヌッ!?」
 ここでウォンが姿を現わした。
「デビルガンダムが破壊されたそうですね」
 彼は薄笑いを浮かべながら彼にこう声をかけてきた。
「見ていたのか」
「少しね。残念なことです」
「残念で済むと思うか!わしの夢が果たせぬようになったのだぞ!」
「ですがそう御考えになるには少し早いです」
 だが彼はこう言ってマスターアジアを宥めてきた。
「・・・・・・その言葉、何かあるな」
「はい、実はデビルガンダムの細胞の一部を確保しておりまして」
「何!?」
 これはドモン達には聞こえていなかった。あくまでウォンとマスターアジアとだけの話であった。
「それはまことか」
「私が貴方に嘘を言ったことがありますか?」
「フン」
 実はマスターアジアは彼を信頼なぞしてはいなかった。だがここはあえて信じる演技をすることにした。
「では下がるとしよう」
「そうそう、もう一つありますよ」
「何じゃ!?」
「四天王が遂に完成しようとしております」
「ほう、四天王が」
 それを聞いてニヤリと笑った。
「思ったより速いではないか」
「私とて無駄に手をこまねいているわけではないということです」
「わかった。ではすぐにネオ=ホンコンに戻ろう」
「はい」
「ドモンよ!」
 彼は弟子に顔を向けた。
「急用ができた。これでさらばだ!」
「何だと!」
「ちょっと待てよ!いきなり帰るのかよ!」
「何て勝手な爺さんなんだ」
 勝平だけではなかった。宇宙太も呆れた声を出した。
「ふはははははははは!君子豹変すよ!」
「・・・・・・そういう意味だったかしら?」
「もうどうでもいいわよ、実際」
 恵子は首をかしげアスカは諦めていた。その間に風雲再起がやって来た。
「ではさらばだドモン!また会おうぞ!」
 ドモンに何かを言わせる間もなくその場を後にした。こうしてキリマンジャロでの戦いは幕を降ろしたのであった。
「何かいきなり終わっちゃいましたね」
「相変わらず嵐の様だな」
 ブライトはトーレスの言葉に頷く形で応えた。
「ですがデビルガンダムは倒しましたしとりあえずの作戦目的は達成しました」
「とんでもないのを残しているがな」
「まあ今は仕方ないですよ」
 サエグサはそう言ってブライトを慰めてきた。
「両方を何とかするのはやっぱり難しいですし」
「そういうものか」
「はい。ではダカールに帰りましょう。ここんとこ連戦続きで艦もかなり傷んでいますしね」
「修復の為にも」
「よし。作戦終了」
 ブライトは全軍に伝えた。
「ダカールに帰還する。いいな」
「了解」
「これで終わりか、やれやれ」
 殆どの者はそれに頷く。だがドモンだけはまだキリマンジャロに一人立っていた。
「ドモン」
 そんな彼にレインが声をかけてきた。
「どうしたの、戦いは終わったわよ」
「ああ、わかっている」
 とりあえず彼はそれに頷いた。
「しかし」
「マスターアジアのことね」
「ああ。そしてデビルガンダムだ」
「それは今貴方が倒したじゃない」
「いや、俺にはわかる」
 だが彼はここで言った。
「奴はまだ生きている。キョウジも」
「お兄さんも」
「そうだ。また戦うことになるだろう。その時は今よりもずっと辛い戦いになる」
「今よりも」
「そう、その通りだ」
 シュバルツがそれに応えた。
「シュバルツさん」
「私にもわかる。デビルガンダムはまだ生きている」
「何故それが」
「そんなことはどうでもいい。私にはわかる、それだけで充分だろう」
「けど」
「いや、シュバルツの言う通りだ」
 ドモンもそれに頷いた。
「勘だ。全てがそれでわかるんだ」
「勘で」
「勘を馬鹿にしない方がいい。戦いにおいて最も重要なものの一つだ」
 シュバルツはまた言った。
「これがどうなるかで戦いが変わっていくのだ。ドモンの言うことは正しい」
「そうなんですか」
「ドモン、これから何を為すべきかわかっているな」
「無論」
 ドモンは答えた。
「その為に俺はここにいる」
「よし、では今は何も言うまい。私も消えるとしよう」
 そう言いながら間を離した。
「今は暫しの別れ。だが次に会う時は」
 彼の身体を霧が包んでいく。
「決戦の時。その時にまた会おうぞ!」
 そして姿を消した。霧が消え去ると彼の気配もまた完全に消え去ってしまっていた。
 ドモンはそれを見届けた後で艦に戻った。そしてロンド=ベルはダカールに帰還したのであった。
「御苦労だったな、諸君」
 その彼等をミスマル司令が出迎えた」
「これでアフリカは救われた。とりあえずはな」
「はい」
 グローバルがそれに頷いた。
「ですが北アフリカにはまだネオ=ジオンがおりますな」
「彼等についてはまだ抑えている状況だ」
 司令は言った。
「抑えて」
「こちらもな。彼等に向ける程の兵はないのだよ。環太平洋区が今大変な状況になろうとしていてな」
「太平洋が」
「またあのおっさんかよ」
 豹馬がそれを聞いて嫌そうな声を出した。
「一体何があったのですか」
「まずジャブローが敵の総攻撃を受けている」
「ジャブローが」
「ミケーネ帝国のな。彼等は暗黒大将軍の指揮の下大規模な攻勢に出て来たのだ」
「暗黒大将軍が」
 それを聞いた鉄也の顔色が変わった。
「ミケーネ帝国、遂に」
「そして日本ではバーム星人達が勢力を盛り返してきた。またガイゾックも出没してきている」
「将に混沌ですな」
「そうだ。だから君達には至急そちらに向かってもらいたい。修復が終わってからな」
「わかりました。それでは」
 グローバルはそれを了承した。
「すぐに向かいます。では」
「うむ、頼むぞ」
 こうしてロンド=ベルの次の作戦が決まった。彼等はジャブローに向かうこととなった。
「日本に戻るのか」
 一矢はそれを聞いて感慨深げに呟いた。
「家でも思い出したのか」
「いや、違う」
 だが彼は京四郎のその言葉には頷かなかった。
「エリカのことを思うとな」
「まだ諦めていなかったのか」
「誰が諦めるもんか」
 彼の声が強くなった。
「俺はエリカをこの手で・・・・・・。その為に戦っているんだ」
「地球よりも一人の女の為にか」
「エリカを救えなくてどうして地球が救えるんだ」
 一矢はまた言った。
「俺は地球も救う。だがエリカも」
「わかった。御前はとんだ甘ちゃんだな」
 京四郎はまたシニカルに言った。
「こんなに甘いとは思わなかった。何処まで甘いんだか」
「京四郎」
「そしてそんな奴の側にいる俺もな。甘いものだ」
「今何て」
「聞こえなかったのか?俺も応援してやるよ」
「本当なのか、それは」
「ああ。俺も今までは地球の為には一人の女のことは放っておけと考えていた」
 彼は述べた。
「だが御前を見ているうちに考えが変わった。一人の女を救えなくてどうして地球が救えるんだ、ってな」
「協力してくれるのか」
「だから今ここにいる」
 彼はまた述べた。
「京四郎・・・・・・」
「だが一矢忘れるな」
 彼はここで声を厳しくさせた。
「御前は地球人でエリカはバーム星人だ」
「ああ」
「結ばれるまでには多くの苦難があるぞ。それはわかっているな」
「勿論だ。けれど俺は乗り越えてみせる」
「よし」
「エリカを、そして地球を救うんだ」
 彼は決意を新たにした。ロンド=ベルの面々はそんな彼等を遠くから見守っていた。
「妬けるわね、本当に」
 マリがそれを見て言う。
「あそこまで想っていると。エリカさんも幸せね」
「幸せなんですか」
「当然よ。あんな人にあそこまで想われてるんですからね」
 マリは猿丸にそう答えた。
「一矢さんみたいな人に。あんなに誰かを思える人なんてそうそういないわよ」
「そうだな」
 それに神宮寺が頷いた。
「一矢さんは確かに立派だ。あんな人は他にはそうはいないだろう」
「ミスターもわかるのね」
「ああ。妬けるのもな」
「ミスターもそうなの」
「少しな。だが応援したくなるな」
「そうね。私も似た様な状況だったから」
「フォウさん」
「ティターンズにいて。そしてカミーユに導かれてここまで来たから」
「そうだったな。あの時は本当にどうなるかと思ったよ」
 カミーユがそれに応えた。
「けれど今君はここにいる。だから彼等も」
「ええ、きっと願いは適うわ」
 フォウは何時になく優しい声で述べた。
「私達もそうだったんだから」
「何かこっちも妬けるなあ、おい」
 タップがそんな二人を茶化す。
「俺達みたいなもてない連中にとっちゃ目の毒だぜ」
「もてないのは御前だけじゃないのか、タップ。と言いたいが御前はローズちゃんがいるじゃないか」
「おっと、そうだったか」
 ライトに言われてようやく気付く。
「俺なんか本当に誰もいないんだ。それに比べれば」
「ダイアンさんとはどうなったんだ?」
「ベン軍曹と婚約されたそうだ」
「嘘」
 これには流石に皆驚いた。
「あの軍曹と」
「あれで結構女性にも優しいんだ、これが」
「ううむ」
「また意外なカップリング」
「で、皆俺とリンダちゃんの仲は突っ込まないのか?」
「当たり前過ぎてなあ」
 ジュドーが応える。
「何か突っ込めないんだよ、ケーンさんのは」
「ちぇっ、最近何か影が薄いなあ、俺」
「そのうち主役じゃなくなったりしてな」
「おいタップ、言っていいことと悪いことがあるぞ」
「けど最近俺達の出番が減っているのも事実」
「ぐっ」
 ライトの言葉に顔を強張らせる。
「ここいらで大きな見せ場がないとやばいぞ」
「脇役に降格かよ」
「何か深刻な話になってきたな」
 真吾がここで言う。
「恋を達成しようとする熱い話題から出番の話ね。生臭いわね」
「そういう時は俺達が爽やかに話を戻すのが大人の流儀ってやつだな」
 今度はグッドサンダーチームが出て来た。
「そういえば最近ドクーガも大人しいですよね」
 ファが彼等に声をかけてきた。
「前まで何かと出て来たのに」
「案外破産してたりして」
 レミーがそれに応えた。
「今までの負けが響いてね」
「そういえばあの三人って実業家でしたね」
 麗がそれに応じる。
「確かフライドチキンに製薬会社に化粧品会社で」
「結構成功しているらしいのよ、これが」
「嘘みたい」
「あれで」
「ああ見えても経営センスはあるらしいんだ、これが」
 キリーが仲間達に対して述べる。
「俺なんかホットドッグ屋やっても売れそうにないのにな」
「しかもケルナグールの奥さんはかなりの美人らしい」
「何か何も信じられなくなってきたな、おい」
 ケーンが言う。
「世の中ってのは怖いところだ」
「といっても鍋島の猫よりはましだろ」
 だがそこでキリーがタイミングよく言葉を入れる。
「怪談に比べれば」
「怪談に猫がおんねん・・・・・・プッ」
「だから強引な駄洒落は止めろって」
「あれ、今回は結構面白いですよ」
 何だかんだで和気藹々としていた。こうして英気を養っていたのであった。
 ロンド=ベルは修復を終えるとジャブローに向かって出撃した。今度もまた激しい戦いの中にその身を投じるのであった。


第六十六話  完

                                   
                                      2006・1・8


[344] 題名:第六十五話 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年06月10日 (土) 01時37分

             明鏡止水
「さて」
 白いスーツの男がそこにいた。暗く、巨大な玄室であった。
「あの方は無事彼等のところに辿り着きましたよ」
「・・・・・・・・・」
 それを聞いて何かが頷いた。
「いずれ貴方達も動くことになるでしょう。準備は宜しいですか」
「・・・・・・・・・」
 その何か達はまた頷いた。
「この地球を守る為に。神は貴方達を作り上げた」
「・・・・・・・・・」
 返事はないが意識は感じられた。白いスーツの男にはそれが感じられていた。それを感じながら話を続けていた。
「宜しいですね、何もかも」
「・・・・・・・・・」
「頼みますよ、その時は」
 彼は言葉を続けた。
「ここから出る時です。そして地球を救う時」
 何かの意志があるらしい。だがそれが何かまではわからなかった。わかっているのは彼だけであった。
「それができるのは私達、そして彼等だけなのですから」
 そう言い残してその場を後にした。何かが動こうとしていた。

 ロンド=ベルはキリマンジャロに到着した。そしてそこでシャッフル同盟を中心として訓練がはじめられたのであった。
 目的は言うまでもなかった。彼等が明鏡止水を得る為である。ロンド=ベルの面々は彼等を中心として訓練を行いはじめたのであった。
「行くぜ!」
 ドモンのシャイニングガンダムに対して甲児が攻撃を仕掛ける。
「来い!」
 ドもンは身構えていた。甲児はそれに対して容赦のない攻撃を仕掛けて来た。
「ロケットパァーーーーーーンチッ!」
 ロケットパンチであった。本気で撃っていた。その証拠にそれはドモンのシャイニングガンダムの急所を的確に狙ったものであったからだ。
「ヌウッ!」
 ドモンはそれを避けることができなかった。ガードして防ぐのが精一杯であった。だがそれでは不充分なのは誰の目からも明らかであった。
「クッ、駄目だ!」
 ドもンはそれを防いだ後で言った。
「こんなことでは・・・・・・。明鏡止水なぞとても」
「そもそもその明鏡止水って何なんだよ」
 甲児が問うてきた。
「ちょっと甲児君」
 それを聞いてさやかが声をあげる
「もしかしてそれを知らずに訓練に参加していたの?」
「ああ、そうだけど」
 甲児は何も知らないといった顔でそれに答えた。
「けどそれがどうかしたのかよ」
「あっきれた」
 彼女はそれを聞いて呆れた様な声を出した。
「何で知らないのよ」
「そもそも明鏡止水ってどういう意味なんだよ」
「それは」
「それは僕が説明するよ」
「大介さん」
「明鏡止水とは武道の極意の一つなんだ」
 彼は言った。
「武道の」
「そう。何事にも動じず、己を見失わない。簡単に言うとこうなるんだ」
「そうだったんですか」
「何か難しいですね」
「そう、これを身に着けるのは非常に難しい」 
 大介はまた言った。
「だからこそ彼も悩んでいるんだ。そうおいそれとは身に着けられないからね」
「そうだったんですか」
「けど本当にそんな難しいのできるんですかね」
「過去には何人かいたそうだ」
「過去には」
「けれど。殆ど伝説の話さ。それでもドモン君達はしなくちゃいけないんだ」
「それはわかっている」
 ドモンはそれに答えた。
「だが。どうやって掴めるというんだ」
「それを見極める為にここにいるんじゃないのか?
 そんな彼に京四郎が声をかけてきた。
「京四郎」
「皆御前さん達に付き合っているんだ。その程度はわきまえて欲しいな」
「何だと!」
「まあそう怒るな。それこそ明鏡止水とは最もかけ離れた状態じゃないのか」
「クッ!」
「とりあえずは修業を続けるんだな。そしてそこから手に入れるんだ」
「それしかねえみてえだな」
 それを聞いてシャッフル同盟の他の面々が言った。
「そうですね。では続けますか」
「皆も協力してくれるしね」
「ならばやるぞ。そして明鏡止水を身に着ける」
「それじゃあ今度は俺が相手になってみる」
「一矢」
「ドモン、遠慮はいらないぞ。どっからでもかかって来い」
「わかった」
 ドモンはそれを受けて身構える。そしてダイモスと対峙した。
「本気で行くぞ!」
「来い!」
「ダブルブリザァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッド!」
 一矢はいきなり切り札を出してきた。胸からダブルブリザードを出す。
「うおっ!」
 そしてそれはシャイニングガンダムを襲った。ドモンは宙に舞った。
「ドモン!」
「兄ちゃん!」
 それを見てヂボデーとサイシーが叫ぶ。
「な、これがダイモスのパワー!」
「まだだ!これで終わりじゃないぞ!」
 一矢は叫んだ。そして次の動きに入った。
「必殺!烈風!」
 拳を構える。そして攻撃を繰り出しにかかった。
「正拳突きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーッ!」
 落ちてきたシャイニングガンダムに対してその拳を繰り出す。激しい衝撃がシャイニングダンガムとドモンを襲った。
「うおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーっ!」
 多くの敵を一撃の下に葬り去ってきたダイモスの切り札であった。だがドモンはそれもかろうじて耐えてみせた。
「まだだ、まだだ!」
 彼は立っていた。そして闘志を失うことなくこう叫んだ。
「俺は倒れん!」
「いや、今日はここで止めておこう」
 だが一矢はここで構えを解いた。そしてドモンに対してこう言った。
「何故だ!」
「ドモン、今の君は疲れている。これ以上の訓練は無意味だ」
「何!」
「その証拠が今だ。普段の君なら俺の攻撃でも何なくかわせた筈だ」
「クッ!」
「だから今日はこの位にしておこう。明日もあるしな」
「だが俺は」
「いや、一矢君の言う通りだ」
 大介も言った。
「それにシャイニングガンダムの修理のこともある。今日はこれで止めておいた方がいい」
「だが」
「そんなにやりたいんなら生身でやってもいいんじゃねえのか」
「生身で」
 ドモンは甲児の言葉に顔を向けた。
「ああ。まあ疲れているんならいいけどよ」
「そうか。その手があったか」
「どうだい?シャッフル同盟でよ。特訓でも何でもよ」
「甲児君も参加してみたら?」
「馬鹿言えよ、俺でもガンダムファイターとまともにやり合うなんてことできはしないぜ」
 さやかの言葉に慌てて顔を向けて言う。
「さやかさんだってそんなの無理だろ」
「それはまあね」
 甲児もさやかも格闘能力はかなりのものを持っている。ドクターヘル配下の工作員と何度も拳を交えたことがあるのだ。ただパイロットの能力だけでマジンガーやダイアナンエースのパイロットになっているのではないのである。これは鉄也やジュン、そして大介達も同じであった。
「ここは連中に任せようぜ。とりあえず俺達はお開きだ」
「そうね。食事の後でトレーニングに行きましょ」
「ちぇっ、どっちにしろ身体を動かさなきゃいけねえのかよ」
「文句言わない。私達も特訓よ」
「へいへい」
 そんなやりとりを続けながら彼等は休息に入った。ドモンはその後で何処かへと姿を消した。シャッフル同盟達も一緒であった。
「何処に行ったのかしら、もう」
 レインが彼等の姿を捜して言う。
「いつも勝手な行動ばかりするんだから」
「やっぱり心配なんだね」
「当然でしょ」
 アレンビーにこう返す。
「パートナーなんだから。それにここだってデスアーミーが出て来るかも知れないし」
「大丈夫よ、五人いるんだし」
「そういう問題じゃないのよ」
「そういう問題じゃないって?」
「危ないじゃに。やっぱり」
「皆と離れていると?」
「そうよ。あのメンバーは何するかわからないんだし」
「特にドモンが」
「ええ」
 レインは困った様な顔をして頷く。
「ドモンって私の話は全然聞かないし。それで危ないことばかりするから。心配なのよ」
「そんなに心配なら行ってみれば?」
「行ってみればって。何処にいるか知ってるの?」
「大体のところはわかるわ。じゃあ行く?」
「ええ、よかったら案内して」
「わかったわ。それじゃ」
 アレンビーはそれに応えて今までいた木の上から飛び降りた。そしてレインの前にやって来た。
「行こう、こっちよ」
「ええ」
 こうして二人はドモン達のいる場所に向かった。その頃ドモン達はギアナの滝の側で激しい訓練に明け暮れていた。
 濃紫の空には黄金色の月が朧ながら巨大な姿を現わしていた。そして彼等はその下で修業を続けていた。
「ヌンッ!」
「まだだ!」
 互いに拳を繰り出し、そして蹴りを浴びせる。だがその中でも彼等はまだ明鏡止水を掴めないでいたのであった。
「まだだ、この程度では」
「何もわからん。明鏡止水、一体何だというのだ」
 普段は無口なアルゴでさえ苦渋に満ちた声を漏らす。彼等は悩み、苦しんでいた。
「このままでは」
 特にドモンの焦りは大きかった。彼は目の前に自分以外のものを見ていた。
「この馬鹿弟子があああっ!」
 それはマスターアジアであった。彼はドモンを前にして叫んでいた。
「クッ!」
 ドモンはそれを見て苦渋の声を漏らしていた。
「まだわからんのか!今まで何をやっておったかあ!」
「言うな!」
 ドモンはマスターアジアの幻想に対して叫んでいた。
「俺は、俺は・・・・・・」
「フン、どうやら何もわかってはおらんようだな」
 マスターアジアは戸惑うドモンを侮蔑した顔で見ていた。
「そんなことで明鏡止水を身に着けられると思うてかあ!何もできておらぬではないか!」
「何だと!」
「未熟、未熟!どうやら貴様を見込んだのはわしの間違いであったわ!」
「まだ言うか!」
 ドモンは拳を繰り出した。しかしそれはあえなく受け止められてしまった。
「チッ!」
「やはりこの有様よ。まるで蝿が止まるようだな」
「蠅だと!」
「そうよ、貴様は蠅よ!」
 幻影はまた叫んだ。
「薄汚い蠅よ!蠅ならば大人しく潰されるがいい!」
「誰が!」
 今度は蹴りを出す。しかしそれは幻影を切っただけであった。
「無駄なあがきよ。貴様のやっていることはな」
「無駄かどうかはすぐにわかる!」
 ドモンはまたしても叫んだ。
「もうすぐそれを見せてやる。そしてデビルガンダムを倒す!」
「その言葉偽りはないな」
「!?誰だ」
 ドモンはその言葉に我に返った。そして辺りを見回す。
「誰なんだ、一体」
「私だ!」
 そして叫びと共に一人の男が姿を現わした。
「な・・・・・・シュバルツ=ブルーダー!」
 その男はシュバルツであった。彼は今滝の上に一人腕を組んで立っていたのであった。その背には黄金色の満月があった。
「シャッフル同盟、何だこの様は!」
 シュバルツは五人を見下ろしてこう叫んだ。
「何!」
「明鏡止水すら会得出来ずに世界を守れるというのか!恥を知れ!」
「おい、いきなり出て来て大層なこと言ってくれるじゃねえか!」
 ヂボデーがそれを聞いて激昂した声をあげた。
「そうだそうだ!大体あんた何でいつもいきなり出て来るんだよ!」
「そんなことはどうでもいい!」
 ヂボデーとサイシーの言葉はこれで一蹴した。
「私は貴様等のあまりものふがいなさに憤慨してやって来たのだ!」
「憤慨して」
「わざわざここまでか」
「そうだ!」
 ジョルジュとアルゴにもこう返す。
「貴様等だけで何も掴めないというのなら私が相手をしてやろう。行くぞ!」
「なっ!」
 彼は飛び降りた。そして空中で飛翔しドモン達に対して何かを投げて来た。
 それは手裏剣であった。無数の星形のものがドモン達に対して襲い掛かって来た。
「まずはこれをかわしてみろ!」
「手裏剣!」
「クッ、シュバルツ=ブルーダー、本気だというのか!」
「本気でなければわざわざ来たりはしない!」
 シュバルツはまた叫んだ。
「そしてこれだけではない!」
「なっ!?」
 シュバルツの姿が消えた。そして同時に気配まで消えてしまった。
「クッ、何処だ」
「何処だ、何処にいるというのだ」
 シャッフル同盟は必死に辺りを探る。だがシュバルツの気配は何処にも感じられはしなかった。
 辺りは静まり返っていた。だがドモン達の動揺する気がその静寂を静寂でなくしていた。
「やはりその程度か」
 それはシュバルツにもわかっていた。彼はそれを感じこう言った。
「やはり御前達に世界を守ることはできはしない。ならば」
 シュバルツは姿を現わした。
「ここで死ぬがいい!引導を渡してくれよう!」
 シュバルツは一人ではなかった。五人いた。そして五人のシュバルツがシャッフルとそれぞれ対峙したのであった。
「行くぞ!」
 五人のシュバルツが跳んだ。そしてドモン達に襲い掛かる。
「覚悟はいいな!」
「チッ!」
 まずそれに反撃を加えたのはドモンであった。彼は咄嗟に身構えた。
「させん!」
 この時彼は無心になった。焦りも怒りも消え去っていた。ただ戦いにのみ心が研ぎ澄まされていたのであった。
 その時変わった。何かが。彼の右腕が黄金色に変わった。
「な・・・・・・」
 他の四人がそれに気付いた。そして彼等の腕も黄金色に変わっていた。
「どういうことだ、これは」
 まずアルゴが言った。
「腕が黄金色に」
 そしてヂボデーも。
「腕だけではありません」
 ジョルジュが続く。
「身体全体が。しかも紋章まで」
 サイシーが最後に言った。見れば彼等の身体は黄金色に輝きその腕にはそれぞれの紋章が浮き出ていた。
「それこそが明鏡止水だ」
「これが」
 ドモン達はシュバルツ達に顔を向けた。
「そうだ。わだかまりやこだわりの無い澄んだ心、それこそが明鏡止水なのだ」
「そうだったのか」
「今御前達の心にはわだかまりも焦りも何もかもが消えた。そして戦いにのみ心が向けられた」
「だからか」
「そう、その時にこそはじめて明鏡止水は会得されるのだ。そしてそれが人に己を超えた力を身に着けさせるのだ」
「それが今の俺達だというのか」
「そうだ」
 シュバルツはまた言った。
「今御前達はその入口に立ったのだ。そう、今こそ・・・・・・ムッ!?」
「ドモン、大変よ!」 
 そこにレインとアレンビーがやって来た。
「レイン」
「デスアーミーが出たわ!」
「何だと、デスアーミーが!」
「クッ、よりによってこんな時に!」
 シュバルツはそれを聞いて舌打ちした。
「ドモン、話は後だ。今はデスアーミーに迎え!」
「わかった!」
 だがそうはいかなかった。突如として彼等の前にあの男が姿を現わしたのだ。
「そうさせんぞ、ドモン!」
 彼はいきなりドモン達の前に姿を現わし叫んだ。
「なっ、マスターアジア!」
「ここは通さん!今ここで葬ってくれようぞ!」
「マスターアジア、どうしてここに!?」
「フン、わしは何時いかなるところにも姿を現わすことができるのだ!愚問だな!」
「な、何て事なの・・・・・・」
 レインもそれを聞いて絶句した。
「話はよい!ドモンよ覚悟はいいか!」
「やらせるか!今の俺は!」
「わしを倒せるというのか!その明鏡止水で!」
「やってやる!行くぞ皆!」
「おう!」
 シャッフル同盟の面々はそれに応えた。一斉に身構える。
「ガンダァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァムッ!」
 叫んだ。そして何処からかガンダムがやって来る。ドモン達はそれに飛び乗った。
「来い、マスターアジア!」
「フン、ならばわしも呼ぼうぞ!」
 マスターアジアも叫んだ。
「いでよ、マスターガンダム!」
 黒い影が飛翔した。そしてマスターアジアはそれに飛び乗った。彼等はまるで一心同体であるかの様に動きを合わせたのであった。
「マスターガンダム、見参!」
「見せてやる、明鏡止水を!」
「ほう、また言いおったな!」
 マスターアジアはそれを聞いてニヤリと笑う。
「ドモン、デスアーミー達は俺達に任せな!」
「ヂボデー!」
「おいら達もちょっと自分の腕を試したくてね!」
「サイシー!」
「貴方はマスターアジアに専念して下さい。周りは私達が受け持ちます」
「ジョルジュ!」
「御前はその戦いに専念しろ。そして見事師を越えてみせろ」
「アルゴ!皆済まない!では行くぞ!」
 ドモンの右手がまた輝きはじめた。
「俺のこの手が真っ赤に燃える!」
 彼はまた叫んだ。
「師匠を倒せと轟き叫ぶ!」
「よくぞ言った!」
 マスターアジアはそれを聞いて高らかに笑った。
「それでこそ我が弟子!見事わしを倒して見せよ!」
「言われずとも!行くぞ!」
 二人は同時に前に出た。
「シャァァァァイニング!」
「ダークネス!」
 それぞれの拳を繰り出し合う。
「フィィィィィィンガァッーーーーーーーーーー!」
 黄金色の光と漆黒の影がぶつかり合う。だがそれはマスターアジアの勝利に終わった。
「ウオオッ!」
 ドモンは吹き飛ばされた。そして背中から大きく地面に叩き付けられたのであった。
「クッ、どういうことだ!」
「馬鹿者があっ!」
 そこにガンダムシュピーゲルに乗ったシュバルツが現われた。そしてドモンに対して怒声を浴びせた。
「シュバルツ!」
「今の御前はまだ完全ではないのだ!」
「何だと!」
「まだ修行中だ!それで明鏡止水を完全に会得している筈がなかろう!」
「クッ、そうだったのか!」
「フン、そんなこともわかっておらなかったのか!」
 マスターアジアは地面に倒れ付すドモンに対して言った。
「だから御前はアホなのだ!そんなこともわかっておらぬのだからな!」
「何だと!」
「付け焼刃なぞこの東方不敗には無駄なことよ!確かなものでなければな!」
「確かなもの」
 ドモンは呟きながら立ち上がってきた。
「確かなものでなければ駄目だというのか」
「そうよ!」
 彼はまたしても叫んだ。
「見せてみよ、貴様のその確かなものをな!」
「ああ、やってやる!」
 ドモンも叫んだ。
「この技で!最早迷いはない!」
 その目を瞑った。そして瞑想に入る。
「フン、念仏でも唱えるというのか!」
 だがドモンはそれには応えない。ただ目を閉じ、意識を集中させているだけである。
 その身体が次第に黄金色になっていく。今彼の心は澄み渡り一点の曇りもなかった。
「そうだ、それでいいのだ」
 シュバルツはそれを見て言った。
「何事にも動じない。それこそが明鏡止水の心なのだ」
「ほう、完全に会得した様だな」
 マスターアジアはそれを見て不敵に笑った。
「その力で。何を掴むかドモンよ」
「それは・・・・・・」
 その目をカッと見開いた。
「勝利だ!」
 彼は叫んだ。そしてその右の拳を掲げた。
「最早動じん!行くぞマスターアジア!」
「来い!馬鹿弟子があっ!」
「行くぞ!流派、東方不敗の名し下に!」
 ドモンは身構えた。
「超級!覇王!」
「超級!覇王!」
 マスターアジアも映じ技の名を叫んでいた。二人の動きは今完全に重なっていた。
「電影弾ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
 今二人は技を同時に繰り出した。そして激しくぶつかり合った。
「ウウウ・・・・・・」
「ヌヌヌ・・・・・・」
 二人は凌ぎを削り合う。そこに一点の余地もなかった。
 だがそれも遂に限界があった。二人は遂に技を中断し互いに退いたのであった。
「やりおるな」
 マスターアジアは構えを取り直して言った。
「明鏡止水、遂に会得しおったか」
「勝負はこれからだ!来い!」
「そうしたいのはやまやまだがな」
 だがマスターアジアはここで奇妙なことを口にした。
「何だと」
「ここは下がろう。勝負はお預けだ」
「待て!逃がすか!」
「逃げるのではない。その証拠にキリマンジャロで待っておるわ」
 彼はそう言いながら構えを解いてはいなかった。まだ警戒を続けていたのだ。
「風雲再起!」
「ヒヒーーーーーーーーーーーーーーーーン!」
 そして愛馬を呼んだ。馬のモビルファイターがそこに姿を現わした。
 マスターガンダムはそれに乗った。そしてそこからドモンを見下ろしながら言った。
「ドモンよ、とりあえずは褒めておこう」
「褒めるだと」
「明鏡止水を会得したことをだ。どうやら貴様はまた一つ成長した様だな」
「貴様なぞに言われたくはない!」
「まあ聞け。だがそれで終わりではないのだ」
「どういうことだ」
「戦いはまだこれからも続く。今貴様は明鏡止水という長い道のその最初に入ったに過ぎないのだ」
「最初に」
「そうだ。やがてその意味もわかるだろう。だがその日はない」
「何だと」
「貴様はキリマンジャロで死ぬからだ。デビルガンダムによってな」
「貴様ァ!」
「精々首を洗って待っているがいい。ではさらばだ!」
 こうして彼は戦場から姿を消した、見れば戦いは終わりデスアーミー達も姿を消していた。こうしてドモン達の戦いは幕を降ろしたのであった。
「とりあえずはおめでとうといったところだがな」
 ヂボデーがまず言った。
「けど。素直には喜べないね」
「ああ」
 アルゴはサイシーの言葉に応えた。
「明鏡止水は会得したが。まだマスターアジアもデビルガンダムも残っている」
「それにしても気になる言葉です」
「最後のマスターアジアの言葉か」
「はい。私達は明鏡止水の入口に入ったに過ぎないというあの言葉です」
 ジョルジュはドモンの言葉に応えて言った。
「まあこれから多くの道があるのですか」
「その通りだ」
 ここでシュバルツが言った。
「まだ御前達の戦いははじまったばかりだ。明鏡止水もな」
「そうか」
「そうだ。だからこそ己の腕を磨いていけ」
「己の腕を」
「そうすればより強くなる。ドモン!」
 彼はドモンの名を呼んだ。
「御前もこれからさらに強くなれ。そしてマスターアジア、デビルガンダムを倒すのだ」
「マスターアジアを」
「その時は必ず来る。私はそれを楽しみにしているのだ」
「出来るのか、俺に」
 だがドモンはその言葉に戸惑いを見せた。
「マスターアジアを越えることが!」
「御前は何度も言っている」
 だがシュバルツはそんな彼に対して言った。
「あの男を倒してみせると。倒すということは即ち越えるということだ」
「そうなのか」
「そうだ。やってみせろ。御前は今狙う者だ」
「ああ」
「狙われる者より狙う者の方が強い。ならば出来る筈だ」
「出来るのか、俺に」
「できる。だがそうなる為にはより多くの戦いが必要だ」
「戦いが」
「強くなれ、ドモン」
 声がさらに強くなった。
「そして師を越えろ。いいな」
「師匠を」
「その時にこそ御前は本当の意味でガンダムファイターとなっている。ではまた会おう」
 そう言いながら何処からか煙玉を取り出した。
 そしてそれを足下に投げる。それで彼は姿を消したのであった。
「本当の意味でのガンダムファイターか」
 もう朝になろうとしていた。彼はその中で呟いていた。
「マスターアジアを倒したその時にこそ」
「そうですね」
 それにジョルジュが応えた。
「貴方が師を越えたその時こそ本当の意味で戦士となっているということでしょう」
「師を越える」
「親離れってことかな」
 ヂボデーはまた言った。
「親から離れてやっと一人前ってな。そういうことじゃねえかな」
「そうかなあ」
 サイシーはそれを聞いて首を傾げる。
「何かちょと違う気もするけどな」
「いや、大体の意味では同じだ」
 だがアルゴがそれに対してこう述べた。
「親も師匠も同じだ。育ててくれるという意味ではな」
「そうですね」 
 それにジョルジュも頷いた。
「だからこそ越えなければならないもの」
「そうだ」
「巣立たなければなりませんから」
「そうだな。ドモンもその時が来ようとしているのだ」
「俺がマスターアジアから離れる時がか」
「けれど離れ方は一つじゃないわ」
 今度はレインが言った。見れば彼女もアレンビーもガンダムに乗っていた。
「色々あるから。それも考えてみて」
「俺にはそこまではわからないが」
 ドモンは俯いてそれに応えた。
「今俺がやることはわかっている」
「それは」
「マスターアジアを倒す!それだけだ!」
「よし、じゃあやってみな!」
 また何処からか声がした。
「その声は・・・・・・豹馬か!」
「ああ、だけど俺だけじゃないぜ!」
 コンバトラーXが姿を現わした。そして他のマシン達も次々と出て来た。
「ドモン君、遂に身に着けたようだな」
 グレンダイザーもいた。大介は優しい声でドモンに語りかけてきた。
「大介さん」
「まさか本当にやり遂げるとはね。凄いことだ」
「そんなに凄えことなのかよ」
「甲児君、今まで何聞いてたのよ」
 さやかがそれを聞いて呆れた声を出した。
「難しいって大介さんも言ってたでしょ」
「それはそうだけどよ」
「凄いことなのよ、まさか皆身に着けるなんて思っていなかったけれど」
「それじゃあシャッフル同盟はかなり強くなったってことだな」
「その通りだ」
 鉄也がそれに応えた。
「最早シャッフル同盟はこれまでのシャッフル同盟とは違う。本当の意味で世界を守る戦士になったんだ」
「そうだったのか」
「これでデビルガンダムも倒せる。遂に時は来た」
「ああ」
 ドモンもまた鉄也の言葉に頷いた。
「やってやる。デビルガンダム、待っていろ!」
「では全軍出撃だな」
 大文字はそれを聞いて決断を下した。
「目標キリマンジャロ中央」
「はい」
 ミドリがそれに頷く。
「作戦目的はデビルガンダムの撃破だ。それでよいな」
「わかりました。それでは」
「何かあっという間だったな」
 ピートが操縦桿を操りながら呟く。
「何がだ」
「明鏡止水までだ。最初は無理じゃないかとさえ思ったんだがな」
 サコンにこう応える。
「だがそれはどうやら俺の認識不足だった様だ。連中は見事やってくれた」
「そうだな。これで俺達の戦力もまた上がった」
「では行くか」
「よし」
「少し待ってくれ皆」
 だがここでモニターに誰かが姿を現わした。
「貴方は」
「お久し振りです、大文字博士」
 それはウルベであった。彼はいつもの様に落ち着いた顔でロンド=ベルの前に姿を現わしたのであった。
「ウルベさん」
「ドモン君、今こちらにも話は伝わったよ」
 ウルベはドモンに対して声をかけてきた。
「明鏡止水を会得したそうだね、おめでとう」
「はい」
「これで君もさらに強くなったということだ。それは素直に喜ぼう」
「有り難うございます」
「そして私がここに現われた理由だが」
「祝辞を述べに来られたわけではないのですな」
「はい」
 大文字の言葉に頷いた。
「実はドモン君に贈りたいものがありまして」
「贈りたいもの」
「そうだ。新型のガンダムファイターだ」
「新型、まさか」
「そう、そのまさかだ」
 今度はレインの言葉に応えてきた。
「ゴッドガンダムが遂に完成した。今そちらに向けて発射したところだ」
「発射!?」 
 それを聞いたビーチャが顔を顰めさせた。
「今発射って言ったよな」
「うん」
「確かに」
 モンドとイーノがそれに応える。
「何かおかしかねえか、モビルスーツを発射なんてよ」
「ビーチャ、モビルファイターよ」
 ルーが突っ込みを入れる。
「おっと、そうだったか」
「モビルファイターだから発射してもいいんじゃないかな」
 ルーはまた言った。
「どうしてさ」
「だってあれ呼び掛けに応じて現われるし。ダイターンみたいに」
 今度はエルに説明する。
「だから大気圏だろうが何だろうが平気なんでしょ。それで呼び掛けに応じて何処にでも現われる」
「それ考えると凄いマシンよね」
「確かに」
「大気圏突入可能だなんて。ゼータみたいだよ」
 モンドとイーノはまた頷いた。
「確かにゼータは参考にさせてもらったよ」
「やっぱり」
 ガンダムチームの面々はウルベのその言葉を聞いて頷いた。
「だが変形機能はない。そのままで突破は可能なんだ」
「凄えマシンだな、おい」
 今度はジュドーが言った。
「まるで化け物みてえだ」
「だってガンダムファイターだし」
「何でもありなんだろ、結局は」
「ははは、手厳しいお嬢さん達だな、これはまた」
 プルとプルツーの言葉に合わせるかの様に今度は白髪に眼鏡をかけた知的な紳士が姿を現わした。
「貴方は」
「どうも、大文字博士」
 その紳士もまた大文字に挨拶をかけた。
「御父様」
 そしてレインも彼に声をかけた。何と父と呼んだのだ。
「元気なようだな、レイン」
「はい」
「それで何よりだ。ドモン君と仲良くやっているかな」
「ええ、まあ」
 だがこれには言葉が少し鈍かった。
「一応は」
「ははは、まあ彼のことは御前に任せているからな」
「はい」
「お姉さんらしくしっかりと面倒を見てくれよな」
「レインさんってドモンさんより年上だったの」
「少し意外ね」
 ファとエマがそれを聞いてヒソヒソと話をする。
「同じ年だと思ってたの?」
「はい、まあ」
 ファはレインに声をかけられてこう答えた。
「違ったんですね」
「若く見られるのはいいけれどね」
 レインは笑いながらこれに言葉を返した。
「ドモンより一つ年上なのよ、実は」
「そうだったんですか」
「小さい頃から知ってるけれど。その時から手を焼いたわ」
「やっぱり」
「そして今もいつも一緒にいるというわけなんだよ」
「幼馴染みってわけですね」
「そういうことさ」
 ファは紳士にも言われ納得した。そして話は再開された。
「ミカムラ博士」
「はい」
 紳士は大文字に名を呼ばれ彼に顔を向けた。
「ゴッドガンダムは貴方が開発されたのですな」
「そうです。シャイニングガンダムをさらに改良したもので」
 彼は説明を続ける。
「シャイニングガンダムよりも高い攻撃力と運動性を持っております。これならばデビルガンダムにも対抗できるでしょう」
「デビルガンダムにも」
「ゴッドガンダムはガンダムファイターとしてだけではなく他の戦闘も考慮して開発されたものです」 
 ウルベがここで話に入ってきた。
「それにはデビルガンダムへの対策も入っております。その為攻撃力と運動性がさらに高くなったのです」
「そうだったのですか」
「はい。そしてドモン君が操縦することを念頭に開発しました」
「俺が」
「そうだ」
 ミカムラ博士は頷いた。
「期待しているよ、これで見事デビルガンダムを破壊してくれ」
「言われなくとも」
「ちょっとドモン」
 レインがここで注意する。
「そこははい、でしょ。言われなくても、じゃなくて」
「そうだったか」
「ははは、別に構わないさ」
 だがミカムラ博士はそんな彼を笑って許した。
「ドモン君はそれでいい。闘志が前面に出ていなくてはな」
「いいのね、それで」
「いいんだよ。私もドモン君は小さい時から知っているしね」
 暖かい目になっていた。
「君の父上とも長い付き合いだし」
 そう言いながら寂しい目になっていた。
「だからこそ。宜しく頼むよ」
「はい」
 ドモンは今度はまともに頷いた。
「父さんは・・・・・・俺が救いだす!絶対に!」
「是非共頼む。いいね」
「それではゴッドガンダムはもうすぐ到着する筈だからすぐにそちらの作戦に戻って下さい」
「はい」
 大文字はウルベの言葉に応えた。
「我々からはそれだけです。それでは」
「レイン、ドモン君、またな」
「はい」
「さようなら」
 こうしてウルベとミカムラ博士はモニターの前から姿を消した。彼等が消えた後で豹馬はちずるに声をかけてきた。
「なあ、ちずる」
「何?」
「ミカムラ博士とドモンの親父さんって知り合いだったのか」
「ええ、そうよ。何でも一緒にガンダムファイターを開発していたそうよ」
「ふうん、そうだったのか」
「けど何であんな寂しそうやったんや?」
 今度は十三がちずるに尋ねてきた。
「何かあったんかいな」
「カッシュ博士は今冷凍刑に処されているのよ」
 ちずるはそれにも答えた。
「冷凍刑」
「ええ。デビルガンダム事件の責任をとらされてね。それで」
「そうやったんか」
「何か複雑な話でごわすな」
「ドモンさんはそんなお父さんを刑から解き放つ為にも戦ってるのよ」
「それを考えるとあいつも重いもの背負ってるんだな」
「そうですね。そこにドモンさんの影があると思います」
「影か」
 小介の言葉にも耳を傾ける。
「人間誰だって光と影がありますから。ドモンさんだっていつもあのテンションではない筈ですよ」
「そうか。言われてみればそうだな」
「豹馬はいつも変わらへんけどな」
「おい十三、そりゃどういう意味だ」
「単純やっちゅうこっちゃ」
「何、俺が単純だと」
「だから止めなさいって二人共」
 ちずるがその間に入る。
「もういつも喧嘩ばかりするんだから」
「こいつが先に言ってきたんだぜ」
「挑発に釣られる方が悪いんや」
「もう。けれどこれでドモンさんはお父さんを刑から釈放することができるのね」
「デビルガンダムに勝てば、でごわすな」
「完全に破壊できれば、ですけれどね」
 だが小介はまだ懐疑的であった。
「デビルガンダムの生命力は異常な程ですから。今度で完全に破壊できればいいのですが」
「できなかったら」
「ドモンさんのお父さんはそのままです。そうならないことを祈ります」
「そうね」
 コンバトラーの面々の心配はそのままロンド=ベル全体の心配であった。皆同じことを考えていたのであった。
「ピート君」
 大文字はピートに声をかけてきた。
「今度こそ、デビルガンダムを完全に破壊するぞ」
「わかってますよ」
 何時になく強い言葉の大文字に彼も強い言葉を返した。
「じゃあ行きますか」
「うむ」
 大空魔竜が発進した。続いて六隻の戦艦も。キリマンジャロの死闘が遂に幕を開けようとしていた。


第六十五話   完

                                  2006・1・5
 


[343] 題名:第六十四話 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年06月10日 (土) 01時32分

         キリマンジャロ航空戦
 何とかダカールを守りきり、イルイという少女を保護したロンド=ベルはデビルガンダムを倒す為にキリマンジャロに向かって
いた。七隻の戦艦はマクロスを中心として陣を組み空からキリマンジャロに向かっていた。
 その途中ドモンは黙ったままであった。ただ腕を組み窓から見える空を眺めているだけであった。
「おい、どうしたんだよ」 
 そんな彼に豹馬が声をかけてきた。
「黙りこくってよ。汗でもかきに行かねえか?」
「いや、今はいい」
 だがドモンはそれを断った。
「今は。一人にしておいてくれ」
「おい、どうしたんだよ」
「豹馬」
 ここで彼に健一が声をかけてきた。そして言った。
「今は。一人にしてやれ」
「健一」
「汗をかくなら俺が付き合う。それでいいな」
「あ、ああ」
 健一に言われては頷くしかなかった。豹馬は彼に従いドモンの側から離れた。そして一人になったドモンはそのまま思索に耽るのであった。
「何ていうか嫌な話よね」 
 アスカはゴラオンの休憩室で紅茶を飲みながら不満そうに声を出した。
「あんなのと戦わなくちゃいけないなんて。ああ嫌だ嫌だ」
「何でそんなに嫌がるのよ」
 あまりにも不平不満を露わにする彼女にキーンが尋ねてきた。
「前にも戦ってるんでしょう?勝手がわかってるからいいじゃない」
「そういう問題じゃないのよ」
 だがアスカはここで言い返した。
「キーンさんはあれを見て何も思わないの?」
「あれって?」
「マスターアジアよ。素手で使徒をやっつけるのよ。あたし最初にそれ見た時腰が抜けるかと思ったわ」
「ああ、あれね」
 それにジュンが頷く。
「あれは確かにね。びっくりしたわ」
「ジュンさんもそう思うでしょう!?あんなの普通じゃないわよ」
「普通じゃなくても戦いだからね」
 激昂気味のアスカに対してジュンはいつもの様にクールな調子であった。
「どんなのが出ても驚いたらよくないと思うわ」
「うっ」
「私達は今まで宇宙怪獣を相手にしてきたんだし。それにBF団はあんなのがゴロゴロいたじゃない」
「ああ、思い出したくない」
 どうやらアスカはBF団も嫌いなようであった。思いきり嫌そうな声を出した。
「あんな指をパッチンしただけで何でも真っ二つにしたり妖術だか忍術だかわかんないの使う連中なんかもう見たくもないわ」
「よっぽど嫌なのね」
「ええ」
 これには大きく頷いた。
「常識外れなのは嫌いなのよ。何であんなのが普通にいるのよ」
「まあ世の中何がいてもおかしくないしな」
 ニーが言った。
「それは君も今までの戦いでわかっているんじゃないのか?本当は」
「それはそうだけれど」
 それに関して否定はしなかった。
「けど。嫌なものは嫌なの」
「こら、嫌だからってそんな態度だと何時まで経っても駄目だぞ」
 チャムにそう注意される。
「アスカは本当はいい娘なんだから素直にならなきゃ駄目」
 リリスも言う。
「さもないと立派な大人にはなれないぞ」
「一応もう大学は出ているんだけれどね」
 言葉を濁しながらも答える。
「けれど何ていうか。ここってあたしの常識通用しないし。パイロットでもマシンでも科学者でも」
「幾ら何でもサコンさんは常識外よ」
「あの人もね」
 キーンの言葉に応える。
「アムロ中佐なんか平気で神技やっちゃうし」
「あの人も特別よ」
「ダイターンみたいなどっからともなくやって来るマシンまであるし。おまけに万丈さんも人間離れしてるしね」
「自信なくしてるとか?」
「そうじゃないけれど。何かこうね・・・・・・。驚きっぱなしで」
「けれどアスカだって頑張ってるじゃない」
「マーベルさん」
 マーベルの声にも元気なく顔を向けただけであった。
「止めてよ。あたしはやっぱり普通の人。ニュータイプでも聖戦士でも超能力者でもないし。只のチルドレンよ」
「アスカじゃないと出来ないことだってあるわよ」
「使徒を素手で倒せる人までいるのに?」
「すっごいショックだったんだな」
「まあそうならない方がおかしいけれど」
 ニーとキーンがそれを聞いて呟く。
「現に今でもエースパイロットじゃない。エヴァの中ではトップよ」
「ううん」
「シンジ君達を引っ張ってるじゃない。だから皆貴女を頼りにしているわよ」
「だったらいいですけれど」
 マーベルに言われて少しずつ気分をなおしていた。
「それじゃあキリマンジャロでは頑張ってね」
「ううん」
「貴女しかいない場面だって考えられるから。そうした時にやってもらわないよ困るのよ」
「あたししかいない場面」
 それを聞いて表情が変わってきた。
「そうよ」
 マーベルはそれを見逃さなかった。すかさず声をかける。
「いいわね、期待しているわ」
「はい、それじゃあ」
 そこまで言われて乗らないアスカではなかった。ようやく顔をあげた。
「やってやろうじゃないの」
「そうそう」
「それでこそアスカ」
「ところで今どの辺りかな」
 チャムがふと言った。
「あのダカールって街から離れて結構経つけれど」
「今丁度ダカールとキリマンジャロの中間辺りよ」
 マーベルがそれに答える。
「中間」
「真ん中ってことよ。半分行ったってことね」
「そっかあ、半分かあ」
「あと半分で着くのね」
「そうよ」
 リリスにも答えた。
「もうちょっとゆっくりとできると思うけれど」
「キリマンジャロに着いたらまた派手に戦わなくちゃいけないし」
「今のうちに英気を養っておきますか」
「残念だがそうはいきそうにもない」
 ここでカワッセがやって来た。そして一同に対して言う。
「総員戦闘配置に着いてくれ」
「カワッセさん」
「敵ですか?」
「ああ。火星の後継者の部隊が前方に展開しているらしい」
 彼はマーベル達の問いにこう返した。
「それも結構な数だという。すぐに出撃してくれ」
「やれやれ」
「何かいつものことだけれど。何処にでも敵はいるわね」
「そう言うな。今は仕方がない」
 カワッセはぼやくキャオとキーンにこう返した。
「キャオはすぐにナデシコに戻ってくれ。リリスと一緒にな」
「あいよ」
「そして聖戦士は総員出撃だ。すぐに前に出てくれ」
「了解」
「エヴァはミノフスキークラフトがあったな。それを着けて艦の防衛に回ってくれ」
「艦の防衛ね。わかったわ」
「地味な仕事だが。頼むよ」
「いいわよ。何でもやってやるわ」
 アスカはにこりと笑って言葉を返した。
「敵が誰でもね。それがあたしの仕事だから」
「やってくれるか」
「はい。グランガランの周りにいればいいんですよね」
「ああ、頼むぞ」
「わかりました。それじゃあ」
「宜しくな。後でバームクーヘンを御馳走するからな」
「ちょっと待って下さい、何でバームクーヘンなんですか!?」
 それを出されて戸惑いを見せる。
「あたし別にバームクーヘンは」
「好きだと聞いたが」
「誰にですか!?」
「ワカバ少尉達にだが。違っていたか」
「あいつ等ぁ〜〜〜〜・・・・・・」
 それを聞いてワナワナと身体を震わせる。
「シーラ様も大層御気に入れられてな。今シェフに作らせている」
「シェフに」
「だから楽しみに待っていてくれ。いいな」
「はあ」
 何だかわからないうちに押し切られてしまった。カワッセが去ると後にはキョトンとした顔のアスカだけが残った。
「で、どうするのかしら」
 そんなアスカにマーベルが声をかけてきた。
「食べるの?それとも断るの?」
「シーラ様が一緒だと。断れる筈ないじゃない」
 アスカは憮然とした顔でこう返した。
「仕方ないわね。それじゃあ頂いてあげるわ」
「素直じゃないな、何か」
「何よ、悪いの」
 ニーに喰ってかかる。
「あたしは甘いものってあまり好きじゃないのよ。子供っぽくって」
「その割にこの前チョコレート美味しそうに食べてなかったっけ」
「あれはたまたまよ」
 キーンの突っ込みに苦しい言い訳を返す。
「それしかなかったから。別に好きじゃないわよ」
「あら、けれどケーキには五月蝿いじゃない」
「そういえばそうよね」
 チャムがマーベルの言葉に頷く。
「苺のケーキもモンブランも美味しそうに食べてたし」
「あれは綾波に付き合って」
「はいはい、わかったからもういいわ」
「ちょっとマーベルさん」
「アスカはもう少し自分に素直になった方がいいわ。さもないと綺麗な顔が台無しよ」
「綺麗って」
「女の子の顔はね、男の子を惹き付ける為にあるのよ。それでそんなに素直じゃなかったわ誰も来ないわよ」
「来なくたってあたしは」
 反論しようとする。だがやはりマーベルの方が大人であった。
「困るんじゃなくて。何かと」
「うっ・・・・・・」
「まあすぐにはできなくてもいいわ。徐々に」
「アスカもいい娘になるんだね」
「あらチャム、アスカはもういい娘よ」
「そうなの」
「ただ素直じゃないだけよ」
「ちぇっ」
 最後にはアスカが折れた。仕方なさそうに口を尖らせる。そしてそのまま格納庫に向かうのであった。
「あれ、何処に行ってたの?」
 格納庫でシンジが彼女に声をかけてきた。
「部屋にもトレーニングルームにもいないから。気になってたんだよ」
「別に」
 アスカは口を尖らせたままシンジに顔を向けた。
「あんたには別に関係のないことだし」
「関係ないって」
「・・・・・・あんた、バームクーヘン好き?」
「何だよ、急に」
 シンジはアスカの突然の脈絡も何もない問いに戸惑った。
「好きかどうかって聞いてるのよ。どうなの?」
「そりゃ嫌いじゃないけれど」
 シンジは戸惑いながらも答えた。
「けれどそれがどうしたの?」
「何でもないわよ」
 アスカは憮然としたまま答えた。
「ちょっとね、気になっただけ」
「そうなの」
「ところであんたエヴァにミノフスキークラフトはつけているわね」
「うん」
「じゃあいいわ。聞いてると思うけれど今回は空中戦だから。しっかりやりなさいよ」
「宇宙での戦いと同じ感じでいいよね」
「それは」
 アスカも少し実感が湧かない。返答に戸惑っているとミサトがやって来てシンジの問いに答えた。
「ええ、大体はそれでいいわ」
「そうなんですか」
「ただね、重力の関係は頭に入れておいてね」
「重力の」
「ほら、宇宙って重力はないでしょ」
「はい」
「けれど空にはあるから。それを注意してね。他はそれ程変わりはないわ」
「わかりました。それじゃあ」
「気をつけてね。シンジ君も空ははじめてだった筈だから」
「はい」
「最初はね、何かと戸惑うものなのよ、何でも」
「そうなんですか」
「他のこともね。戦い以外にも」
「こら、そこで変な方に話をもっていかない」
 妖しい話に持って行こうとしたミサトをリツコが注意する。
「中学生には刺激が強過ぎるでしょ」
「けどジュドー君達は喜んで合わせてくれたわよ」
「彼等はまた特別。シンジ君はウブなんだから。そこら辺もわきまえなさい」
「了解。厳しいわね、リツコは」
「貴女がズボラ過ぎるのよ。それじゃあ艦橋に戻って」
「そろそろなのね」
「ええ、彼等もいるわ」
 リツコは答えながらその顔を真剣なものにさせていく。
「だから。そう簡単にはキリマンジャロには行けないかもね」
「しつこい男は嫌いなのにね」
「生憎向こうはそんなことはお構いなしみたいよ。そもそも機械の兵器ばかりだし」
「心の通っていないのはもっと嫌い」
「あら、じゃあカミソリみたいな目をした人は嫌いなのね」
「勿論。あんなサイボーグみたいなのはお断りよ」
「あらあら。それは意外ね」
「あたしは純情な子がいいのよ。まだ若い子供がね」
「やっぱりショタなのね、貴女」
「人聞きの悪いこと言わないでよ、そもそもあたしは」
「葛城三佐、葛城三佐」
 だが話はここで中断せざるを得なかった。マヤの声で放送が入ったからだ。
「あら、呼び出し」
「赤木博士、赤木博士」
「あんたもね」
「艦橋に来いってことかしら」
「すぐに艦橋に来て下さい」
「ビンゴ」
「じゃあすぐに行くわよ」
「そういうことだから。シンジ君、後はモニターでね」
「わかりました」
「他の二人にも言っておいてね。大体宇宙での戦い通りでいいからって。それじゃあ」
 こうしてミサトとリツコは艦橋に向かった。後にはチルドレン達だけが残った。
「宇宙での戦いって」
「わいと綾波は経験ないけどええんかな」
「どうにでもなるわ」
 困った顔のトウジに対してレイはいつもの様に冷静なままであった。
「戦うのは同じだから」
「そうかいな」
「ええ。だから気にする必要はないわ。問題は敵を倒すことだけ」
「敵を」
「けれど今は私達はそんなに重要じゃないわ。重要なのは」
「誰や」
「アキトさんとドモンさんよ」
「アキトさん!?」
 それを聞いた三人は戸惑いの声をあげる。
「ドモンさんはわかるけれど」
「どうしてアキトさんなのよ」
「すぐにわかるわ」
 だがレイはそれに対しても口調を変えない。
「私達はあの人のサポートに回ればいいわ。それと艦隊の護衛に」
「ううん」
「よくわからないけれど」
 三人は釈然としないまま頷こうとした。
「綾波がそう言うんなら」
「やってみっか」
「そうね。今回のキーマンはアキトさんと」
「じゃあ出ましょう」
 レイが合図を打った。
「いいかしら」
「よし。それじゃあ」
「エヴァ発進」
 こうして四機のエヴァが出撃した。彼等は話通りグランガランの周りで艦隊の護衛にあたった。そしてその前を黒いエステバリスが通り過ぎていった。
「あれがブラックサリナね」
「そうよ」
 レイはアスカの言葉に頷く。
「アキトさんが乗っているわ」
「とりあえずは大丈夫みたいだけれど」
 シンジはブラックサレナの動きを見ながら呟く。それは今までのアキトの操縦と何ら変わるところのない安定したものであった。
「どうなのかな」
「何かあったら助けに行くだけだから」
 レイはまた言った。
「それまでは。私達の戦いを続けましょう」
「そやな。それしかあらへんな」
 それにトウジが頷く。こうして彼等はその配置についたのであった。
 ロンド=ベルの前方に木星トカゲ達が展開していた。そしてその中には北辰衆もいた。
「ナデシコはどうやら新型艦になったようですな」
「うむ」
 北辰は部下の言葉に頷いた。
「そして最新鋭のエステバリスもあるな。情報通りだ」
「あの黒いエステバリスですな」
「あれの相手は私がする」
 北辰は静かに言った。
「手出しは無用だ。よいな」
「わかりました。それでは」
「全軍攻撃に移る」
「了解」
 彼等は静かに動きはじめた。そして攻撃に掛かる。ロンド=ベルと火星の後継者達の空中戦が幕を開いたのであった。
「空を飛べないやつは戦艦の甲板に出ておけ!」
 ブライトの指示が下る。
「そしてそこから援護射撃だ!いいな!」
「了解!」
 アムロ達がそれに頷く。そして早速攻撃に移る。
「このヴェスパーなら!」
 まずはシーブックがヴェスパーを放つ。それでカトンボが一機消し飛ぶ。セシリーもそれに続く。
「私だって!」
 ビギナ=ギナのメガビームランチャーから光が放たれる。それでまたカトンボが一機炎に包まれた。艦上からであったがそれでも彼等の攻撃は正確であった。
「やっぱり凄いわね」
 アムがそれを見て素直に感嘆の言葉を述べる。
「シーブック君もセシリーちゃんも。ニュータイプだけあるわ」
「私達も腕を見せないと駄目だぞ」
 そんな彼女に対してレッシィが言う。
「折角出撃しているんだからな」
「けれどちょっと攻撃が難しいわね」
「艦の上からだとか」
「うん。このグランガランって結構足場ないし」
「それはそうだが」
 二人のエルガイムとヌーベルディザートは何とかグランガランの上にいる形となっていた。それでも攻撃は行っていた。
「辛いね」
「やはりここはダバに期待か」
「そうね」
 だがそうは言っても彼等も頑張っていた。パワーランチャーで敵を撃ち抜いていく。やはり確かな腕を持っていた。
 ロンド=ベルは七隻の戦艦を軸に戦いを行っていた。その中でも最新鋭のナデシコの活躍は目を見張るものであった。
「艦首を敵に向けて下さい」
 ユリカはハルカに指示を出す。
「了解」
「ルリちゃん、ミサイルはいけますか」
「はい、何時でもいけます」
 続けてルリにミサイルの状況を問う。そしてそれを聞いてからハーリーに言う。
「ハーリー君、ミサイル発射用意」
「攻撃目標は」
「前方にいる木星トカゲ一個小隊。了解しましたか?」
「了解、照準セットしました」
「では攻撃に移ります」
「はい」
「ミサイル発射!」
「ミサイル発射!」
 攻撃命令が復唱される。それによりミサイルが放たれる。
 幾十ものミサイルが敵を狙う。そしてそれは寸分違わず敵を撃った。これにより敵の小隊がまるごと消え去った。見事なまでに正確な攻撃であった。
「やりましたね」
「はい」 
 ハーリー達がそれに頷く。
「次はまた前方の敵です。いいですね」
「了解」
「艦長、待って下さい」
 だがここでルリが声をかけてきた。
「何か」
「エステバリス隊に北辰衆が攻撃を受けています」
「北辰衆が」
「はい。どうしますか」
 ルリは問うてきた。
「援護しますか」
「わかりました」
 そしてユリカはそれに頷いた。
「援護します。艦首をそちらに向けて下さい」
「はいは〜〜い」
 ハルカがそれに従い操縦桿を動かす。
「ミサイルで攻撃します。攻撃用意再度用意」
「了解」
「今度は外してもいいです」
「外しても、ですか」
 メグミがそれを聞いて声をあげる。
「艦長、それでいいんですか、本当に」
「構いません」
 だがユリカはそれをよしとした。
「ただこちらのエステバリスに当たらなければいいのですから」
「そうですか。それじゃあ」
「はい。援護射撃に徹して下さい。いいですね」
「わかりました。それではミサイル発射ですね」
「はい。ハーリー君、どうぞ」
「じゃあいっきまぁ〜〜〜〜す!」
 ハーリーはそれに従いミサイルを放った。これはユリカの言葉通り派手に撃っただけで特に照準を定めたものではなかった。その為その全てがかわされてしまった。
「この程度の攻撃で」
 北辰衆はそれをかわして不敵に笑う。
「我等がどうにかなると思うてか」
「笑止」
「おいおい、それは完全に時代劇の悪役の言葉だぜ」
 それに対して今まで対峙していたリョーコが言い返す。
「格好だけじゃなくて言うことまで悪役だったみてえだな」
「リョーコ、今更何を言っている!」
「ヤマダの旦那」
 ダイゴウジの言葉に顔を向ける。するとすぐにいつもの言葉が返って来た。
「ヤマダではない!ダイゴウジと呼べ!」
「悪い、ダイゴウジの旦那。それでだ」
「何でえ、おリョウ」
「・・・・・・そのおリョウっての何なんだよ」
「おお、時代劇だからな。ちょっと言い方を変えてみたぞ」
「そんな変に芸の細かいこたあどうでもいい。今がチャンスだぜ」
「うむ」
「敵の攻撃が止んだし反撃開始だ!ガンガン行くぜ!」
「では俺が先陣だ!」
「あたしだよ!」
 二人は早速先陣争いをはじめた。
「ここはこのダイゴウジ=ガイ様が!」
「切り込み隊長つったらあたしに決まってるんだろ!」
「あの、二人共」
 そんな二人にヒカルが声をかけてきた。
「ヌッ」
「どうしたんだ、ヒカル」
 ヒカルは顔を向けて来た二人に対してまた言う。
「そんなこと言ってる間にサブロウタさんとナガレさんが行っちゃいましたよ」
「ナヌッ!?」
「何時の間に」
「今さっきですよ。お話してる間にもう先に」
「何ということだ・・・・・・」
「あたしのお株が奪われるなんて・・・・・・」
「お株を奪われて恥をおっかぶる・・・・・・」
「何か今回もイズミさんのジョークは面白いですね」
「・・・・・・そうか!?」
 リョーコは脱力しながらもそれに突っ込みを入れる。
「まあいい。こうなりゃ仕方がねえ」
 そしてすぐに立ち直った。
「旦那、こうなりゃ開き直ってガンガン行くぜ!」
「うむ、派手に暴れるか!」
 二人は頷き合った。
「ヒカル、イズミ、やってやるぜ!」
「うんうん、リョーコさんはこうでなくっちゃ」
「少し藤原中尉入っています。注意」
「だからイズミよお、何でも駄洒落に絡めるなよ」
「面白いからいいじゃないですか」
「とにかくだ。皆行くぜ!」
「それじゃあ僕も」
「って副長もいたのか」
「嫌だなあ、僕だってパイロットですから」
「それじゃあ六人で行くか。あの二人に負けないようにな」
「アキトさんはいませんよ」
「ん、どうした!?」
「敵のボスと戦ってます。ブラックサレナで」
「そうだったのか。何か主役みたいだな」
「黒い衣を纏った主役ですね」
「そう言われるとあいつも格好いいな。どっか頼りないんだけれどな、いつも」
「母性本能をくすぐられますか?」
「ば、馬鹿言うな」
 リョーコはヒカルにそう言われて顔を急に赤らめさせた。
「何てあたしがそんな。大体だな」
「はい。大体」
「あんな頼り無い奴は。何ていうか側で見ていてやらねえと心配でな」
「心配で仕方がないだけだと」
「まあそういうことだ。誤解するなよ」
 必死に取り繕ってこう言う。
「わかりました」
「わかってくれたならいいさ。じゃあ行くぜ」
「了解!」
「美味しくいただきまぁ〜〜す」
「旦那と副長もいいんだな」
「俺に異論はない!」
「僕はそれでいいです」
「よし来た。それじゃあ反撃開始だ!」 
 五機のエステバリスが突攻を仕掛ける。そしてサブロウタ、ナガレと合流した。その側ではアキトのブラックサレナが北辰と激しい一騎撃ちを展開していた。
 北辰が杖を手に攻撃を仕掛けるがブラックサレナはそれをかわす。そして間合いを取って遠距離から反撃する。両者はそれぞれ得意とする戦法に持ち込もうとしていた。
「ふむ、ただ単に腕をあげただけではないな」
 北辰はそれを見て言った。
「ブラックサレナの力もある。それもかなりな」
「それは否定しないさ」
 アキトも言い返す。
「今御前に対抗出来ているのはこのブラックサレナのおかげなのは事実だ」
「ほう、素直だな」
「だがそれだけじゃない。俺だってやってやるんだ」
「機体の性能に溺れない、ということか」
「そうだ」
 アキトはまた言い返した。
「ブラックサレナを乗りこなす。そして御前を倒す」
「私を」
「火星の後継者・・・・・・。御前達が何を考えているかまではわからないがな」
「残念だが私は火星の後継者達ではない」
「何だって」
「私は単に雇われたに過ぎない。当然部下達もな」
「どういうことなんだ、それは」
「言った通りだ。私は本来別の組織だった。だが草壁中将に雇われたのだ。金でな」
「じゃあ傭兵か」
「簡単に言うとそうなる」
 そして彼もそれを認めた。
「彼の大義とやらに力が必要だったということだ。そして私達は雇われたのだ」
「そしてネオ=ジオンにも」
「所詮彼等は同じ穴の狢。大義とやらには興味はないがな」
 シニカルな口調で言う。
「だが貰った分だけは働く。それが私の考えだ」
「だから俺とも戦うのか」
「貴様の場合はそれだけではない」
「何!?」
「貴様との勝負は実に面白い」
 彼は不敵に笑いながらそう述べた。
「これからどうなっていくのかな。そして今もだ」
「今も」
「闘う度に腕をあげている。果たしてどうなっていくか」
「見極めたいとでもいうのか」
「そうだ」
 彼は言い切った。
「強くなるがいい、テンカワ=アキト」
「俺の名前を」
「当然知っているさ。ロンド=ベルのことは全て調べてある」
「くっ」
「貴様のオゾンジャンプの能力もな。どうやら貴様はかなりの潜在能力を秘めているようだ」
「俺が。まさか」
「自分では案外気付かないものなのだ、人間とはな」
 北辰は思わせぶりにこう言った。
「それも見ていきたいものだな。ここで死ななければな」
「馬鹿な、俺は負けない」
 彼も言い返した。
「俺は宇宙一のラーメンを作るんだ、それまでは」
「ラーメンなぞに興味はないのでな、生憎」
「じゃあ一体」
「戦いだけに興味がある。だからここにいる」
「御前は一体・・・・・・」
「今言った筈だ。戦うことだけに興味があると」
 彼は涼しい顔でこう述べた。
「二度も言わせるとはな」
「そうか。戦闘マシーンってわけか」
「否定はしない」
「俺は違う。俺は」
「ではそれを私に見せてみよ」
 今度は挑発する様にして言った。
「見事な。そうすれば貴様を認めてやろう」
「御前なんかに認められる為に戦ってるんじゃない!」
 彼はまた言い返した。
「俺は・・・・・・俺のラーメンの為に」
「戦うというのか。ではそれでいい」
 これ以上の会話に必要性を感じなかったのか打ち切って来た。
「行くぞ。よいな」
「行ってやる!」
 アキトは激昂した声をあげて突き進んだ。そして北辰も攻撃を返す。両者の戦いもまた激しさを増していった。
 激しい戦いの中ドモンはマクロスの甲板の上にいた。そしてそこで敵を迎撃していた。
「この程度で!」
 彼は空から来る敵に対しても遅れはとらなかった。跳躍しその時に敵を屠る。それで一機ずつ敵を倒していた。
「俺を倒せると思っているのか!」
「調子いいね、兄ちゃん」
 そんな彼にサイシーが声をかける。見ればシャッフル同盟も一緒である。
「サイシー」
「今日は何時になく張り切ってんじゃん。どうしたんだよ」
「キリマンジャロが近いと思うとな」
 ドモンはそれに対してこう答えた。
「自然と気合が入る。身体に力がみなぎってくるようだ」
「いいね、そんな気持ち」
 ヂボデーがそれを聞いて声をかけてきた。
「燃えるハートってやつだな」
「そうだな。確かに戦いに心が向いている」
 ドモン自身もそれを認めた。
「あいつともうすぐ会えると思うとな」
「キョウジ=カッシュとか」
「ああ」
 今度はアルゴが言った。ドモンはそれにも応えた。
「あいつはこの手で必ず倒す」
「そうか」
「ですがドモン、焦りは禁物ですよ」
「ジョルジョ」
「今の貴方には焦りが見られます。それではデビルガンダムに遅れをとりますよ」
「そうか」
「その通り!」
 ここでマクロスの艦橋の方から声がした。
「この馬鹿弟子があっ!戦いに焦りは禁物だと何度言えばわかる!」
「この声は!?」
「誰だと思う?」
「もう言わなくてもわかるでしょ」
 それを聞いたマリアとさやかが呆れた声で話していた。
「戦いにおいて最も重要なのは平常心よ!それがわからぬ貴様はやはりアホなのだ!」
「マスターアジア、何処だ!」
「ここじゃ!」
 見ればマクロスの艦橋の頂点に彼がいた。生身で腕を組みそこに立っていた。
「そこにいたか!」
「わしの気配に気付かぬとは貴様もまだまだ未熟よのう」
「なっ、航行中の戦艦に生身で出ているだと」
 これにはさしものグローバルも驚きを隠せなかった。モニターには確かに彼が映っていた。間違えようがなかった。
「何者なんだ、彼は」
「少なくとも普通の人間ではないかと」
 クローディアは何とか平常を保ちながらそれに答えた。
「東方不敗マスターアジア。何処まで恐ろしいの」
 早瀬ですら驚きを隠せなかった。
「まさか超音速の戦艦の上にいるなんて」
「ちょっとお、幾ら何でもあれはないでしょ!」
 ミレーヌがそれを見て叫んでいた。
「どなってるのよ。あんなこと出来るなんて人間なの!?」
「信じたくないけれど一応人間らしいわよ」
 アスカがそれに返す。
「そうなの」
「そうよ。とんでもないでしょ」
「とんでもないって次元じゃないわよ」
 ミレーヌはまだ叫んでいた。
「話には聞いてたけどあんなことできるなんて嘘でしょ」
「あたしも最初はそう思いたかったわよ」
 アスカの声がどういうわけか半分喧嘩腰に聞こえる。
「こんなの。使徒だって素手で倒すのよ」
「嘘・・・・・・」
「本当よ」
 ミレーヌに対してレイが答える。
「車より速く走ることだってできるわ」
「聞いているとさらに人間とは思えないわね」
「だから嫌なのよ、あの人を見るのは」
 アスカは拒絶反応を露わにしてこう述べた。
「こんなの。普通じゃないでしょ」
「そもそも普通の基準なんてあいまいなものだけれど」
「バカシンジ、あんたは黙ってて」
 今度はシンジに噛みついた。
「どっちにしろあの人が出て来たってことはもうそれだけで常識がぶっ飛んじゃうんだからね」
「何か超兵器みたいね」
「人間最終兵器よ」
「成程」
「まあ後は何が起ころうとあたしは驚かないわ。何があろうとね」
「そう」
「見てたらわかるわ。あまりの凄さに腰抜かさないようにね」
「何かよくわからないけれど了解」
 ミレーヌは答えた。
「それじゃあ見ながら戦争続けるわ」
「弾にあたらないようにね」
「うん」
「それじゃあ音楽頼むわね」
「了解。曲は何がいい?」
「そうね。じゃあプラネット=ダンスをお願いするわ」
「オッケー、それじゃ」
 ミレーヌはプラネット=ダンスの演奏をはじめた。それをバックにマスターアジアは話を続けていた。
「フン、その程度でよくもシャッフル同盟キング=オブ=ハートを名乗れたものだ」
「何だと!」
 ドモンはそれを聞いて激昂する。
「この程度の連中に手こずっているのがその何よりの証拠よ。わしならばこの様な連中ガンダムファイターを使わずとも倒してくれるわ!」
「またとんでもないこと言ってるよ」
「考えたら駄目よ」
 アスカはミレーヌにそう忠告をした。
「いいわね」
「納得できないけどわかったわ」
「そういうこと」
「では見せてくれよう、流派東方不敗の真の技を!」
 そう言いながら跳んだ。
「消えええええええええええーーーーーーーーーっ!」
 蹴りを繰り出した。それで目の前にいるカトンボを一機突き破った。
「まだよ、この程度ではわしは終わらん!」
 そしてそのまま空中で態勢を立て直す。回転しながら別の木星トカゲに向かう。
 今度は拳であった。一撃を加えるとさらに攻撃を続ける。
「ハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
 それで完全に粉砕した。降り立つとまた飛翔した。
「なっ、艦から艦に飛び移るだと!?」
 ブライトが驚きの声をあげた。マスターアジアはラー=カイラムに降り立っていた。
「フフフフフフ、まだよ、まだまだあっ!」
 また飛び上がる。そして木星トカゲ達を屠っていく。その姿はまるで鬼神の様であった。
「何ということだ」
 グローバルはそれを見てまた呟いた。
「あんなことができる人間がこの世にいるとはな。世の中は広い」
「それだけの問題ではないと思いますが」
 クローディアがそれに答えた。
「まだ信じられません」
「私もだ」
「あんなことができるとは。嘘だとしか思えません」
「だがどうやら現実の様だ」
「はい」
「その結果として火星の後継者達の戦力はかなり落ちている。今が好機だ」
「はい。それでは全軍攻撃開始ですね」
「うむ」
 彼は頷いた。
「一気に戦局をこちらに引き寄せよう。それでいいな」
「了解、それでは」
「攻撃開始だ、いいな」
「はい」
 こうしてロンド=ベルは攻撃に入った。火星の後継者達にもうそれを防ぐことは出来ず為す術もなく倒されていくだけであった。北辰もそれを見ていた。
「ここが潮時か」
 彼は戦局を見て冷静にそう述べた。
「全軍撤収だ。よいな」
「はっ」
「了解」
 それに北辰衆達が頷く。そして彼等も戦いから退きはじめた。
「テンカワ=アキトよまた会おう」
 彼は最後にアキトに声をかけた。
「今度会う時は楽しみにしているぞ。ではな」
 そう言い残してその場から姿を消した。他の北辰衆と木星トカゲ達も撤収した。こうしてキリマンジャロでの航空戦は終わった
のであった。
「とりあえずはこれで終わりか」
「いえ、もう一人いますけど」
 トーレスがブライトに対してこう言った。
「彼か」
「はい。どうしますか」
「どうしますかと言われてもな」
 ブライトは戸惑いながらもそれに応えた。
「とりあえずは我々に対して攻撃する意思はない様だしな。様子を見るか」
「そうですか。それでは」
「ただし全機警戒態勢は緩めるな」
 ブライトは緊張を解くことのないように指示を出した。
「いいな。マスターアジアは危険だ」
「はい」
「あれだけの戦闘力を持っている。何があってもいいように警戒だけは続けろ。いいな」
「了解」
「フン、流石はロンド=ベルだな」
 マスターアジアは自分の周りに集まって来たロンド=ベルの戦艦やマシンを見据えながら言った。
「すぐに集まってきおったわ。今は戦うつもりはないというのにな」
「そんなこと信用できるものか」
 そんな彼に対してドモンが言った。彼はマクロスの甲板にいた。
「どういうつもりだ、何故ここに来た」
「何、貴様に言いたいことがあってな」
「俺に!?」
「そうだ。正確に言うならば貴様等シャッフル同盟にだ」
「どういうことだ、それは」
「今の貴様等ではデビルガンダムに勝てはせん」
「何をっ」
「待って、ドモン」
 いきり立つドモンをレインが制止した。
「今は。彼の話を聞きましょう、いいわね」
「クッ、まあいい」
 ここは仕方なくレインの言葉に従うことにした。
「じゃあ言ってみろ、何を言いたいんだ」
「明鏡止水だ」
「明鏡止水」
 シュバルツにも言われた言葉であった。それを聞いたドモンの眉が動いた。
「それを知れ。さすればデビルガンダム、そしてわしとも戦えるようになるだろう」
「貴様とも」
「そうよ。今のままでは歯ごたえがなくて困るわ」
 あえて挑発する様にして言った。
「だから身に着けるがいい。そして見事わしの相手をしてみせよ」
「ああ、やってやる!」
 ドモンは叫んだ。
「明鏡止水、身に着けて貴様を倒す!見ていろ!」
「フン、できるものならな!ではさらばだ!」
 マスターアジアもまた叫んだ。
「風雲再起、いでよ!」
「ヒヒーーーーーーーン!」
 何処からともなく馬のいななきが聞こえてきた。そして風雲再起が飛翔して来た。
「馬までもが・・・・・・」
「何処まで非常識なのよ!」
 ミレーヌはまた叫んだ。だが叫んだところでどうにかなる話ではなかった。
「さらばだ、ロンド=ベルよ!」
 マスターアジアは風雲再起に飛び乗り言った。
「キリマンジャロで会おうぞ!その時までに腕を磨いているがいい!」
「貴様に言われずとも!」
 ドモンはかっての師を睨み据えていた。そして言う。
「倒す!その時を待っていろ!」
「貴様にできるものならな!」
「何だと!」
「わしの気配に気付かぬ未熟者があ!そしてどうしてわしを倒せるというのか!」
「クッ!」
「そりゃ普通生身で戦艦の上になんかいやしないわよ」
「こんな話はじめて見たわ」
 アムとレッシィが呆れた顔で言う。
「本当にね。嘘みたい」
「嘘じゃないっていうのが余計に凄いわね」
「だから御前はアホなのだ!」
 マスターアジアはさらに言う。
「いかなる事態においても敵の存在を忘れぬ。それができぬ貴様にどうしてわしを倒せるというのか!」
「黙れ!」
 ドモンも負けてはいなかった。
「俺は貴様を倒す!さっきも言った筈だ!」
「フン!」
「もう論理もへったくれもないわね」
「熱い男の世界だね、こりゃ」
「レミーとキリーには似合わない世界かもな」
「あら、御言葉ね、真吾」
 レミーがそれを聞いて面白そうに真吾に振ってきた。
「私だって熱い男の世界は好きよ」
「どうだか」
「燃えるじゃない、見ていると」
「まあクールなのが売りの俺としちゃちょっと敬遠したい世界だけれど」
「そう言いながらこの前サンシロー君と熱い話してたわね」
「それでもスポーツは別っと」
「勝手ね、何か」
「男の世界には矛盾はつきものだぜ」
「その首を洗って待っていろ!必ず倒す!」
「フフフ、できるものならやってみよ」
 ドモンを見下ろし傲然として言い放つ。
「やってやる!」
 ドモンはマスターアジアを見上げ宣言した。
「キング=オブ=ハートの名にかけて!」
「ではわしは流派東方不敗の名にかけて!」
「マスターアジア!」
「ドモン!」
 二人は互いの名を呼んだ。
「貴様を倒す!」
「御前を倒す!」
 遂に宣戦が布告された。それで全ては決まった。
「覚悟していろ!」
「その首、洗って待っているがいい!」
「ねえマサト君」
「何だい、美久」
 マサトはここで話し掛けて来た美久に声を向けた。
「あの人についてどう思う?」
「マスターアジアにかい?」
「ええ。マサト君はあの人が人間じゃないって思ってるの?」
「まあね」
 マサトはそれを認めた。
「あんなことができるんだから。やっぱり人間じゃないんじゃないかな」
「そう思うのが普通よね」
「違うの」
「ええ。私にはわかるわ」
 美久は言った。
「あの人は完全に人間よ。間違いないわ」
「あれでかい」
「そうよ。人間の能力を完全に引き出したらああなるみたい」
「そうだったのか」
「それじゃあニュータイプと同じなのか」
 ケーンがそれを聞いて言った。
「難しい話はよくわかんねえけどよ」
「身体と頭脳の違いはあるけれどそれは同じみたい」
「そうだったのかよ」
「ただ、あそこまでなるには相当なトレーニングが必要だけれど」
「相当、ねえ」
「どうやったらあそこまでなれるんだか」
「どっちにしろ俺達には無縁な話だね」
「あんた達はちょっと怠け過ぎなのよ」
 いつもの調子の三人にアスカが突っ込みを入れる。
「ちょっとは真面目にやりなさいよ」
「あれっ、俺達だって真面目だぜ」
「そうそう、いつもクールでダンディなタップ様ってね」
「何処がよ」
「まあそれはあの蒼き鷹の旦那に譲って」
「そういえばあの旦那もどうしてるかねえ」
「生きてるだろうけどな」
「まあそのうち姿現わすんじゃない?格好よくね」
「格好よく、かあ」
「主役奪われたりして」
「おい、縁起でもないこと言うな」
「本当にそうなるかもな」
「ライト、おめえまで」
「ドモン!」
 外であれこれ言っている間にも話は続いていた。
「では待っているぞ!さらばだ!」
「ヒヒーーーーーーーーーーーーーン!」
 最後に風雲再起のいななきが聞こえた。そしてマスターアジアは姿を消した。彼は流星の様に華麗に姿を消していった。
「行ったか」
「とりあえずは、ですけれどね」
 トーレスがブライトにこう言った。
「けれどキリマンジャロでは大変なことになりそうですね」
「ああ」
「あの御仁とデビルガンダム。辛い戦いになりそうですよ」
「我々以上に彼等がな」
「シャッフル同盟ですか」
「そうだ。ここで一皮剥けて欲しいが」
「それは彼等の頑張り次第ですね」
「できると思うか」
「思う、ってのはうちにはない言葉じゃなかったでしたっけ」
「そうか。そうだったな」
 ブライトはそう言われ笑って返した。
「不可能を可能にする、それがロンド=ベルだったな」
「そういうことです」
「だからドモンも、か」
「とりあえずはキリマンジャロまで行きましょう」
 サエグサも言った。
「それからですね。全ては」
「わかった。それでは向かうとするか」
「了解。進路はキリマンジャロのままで」
「ああ、頼む」
 戦いを終えマシンを収納してキリマンジャロに向かう。彼等もまた戦いに赴こうとしていたのであった。
 ドモンは大空魔竜の中に入った。だがそこでも彼は闘争心を抑え切れないでいた。
「クソッ!」
 憎しみの目でマスターアジアが消えた方を見る。だがそれでもどうにもならないことは明らかであった。
「ドモン」
 そんな彼にレインが声をかけてきた。
「レイン」
「気持ちはわかるけれど今は」
「一人にしておいてくれないか」
 だがドモンはそれを拒もうとした。
「今は」
「そう・・・・・・」
 そう言われてはもう返す言葉はなかった。レインは仕方なくそこから立ち去ることにした。こうしてドモンは一人になった。
 彼は夕暮れの空を見ていた。まるで炎の様に赤い空を。
 そこで何かを見ていた。それが何かは彼だけがわかっていることであった。しかしその先に何があるのか、そこまではわかってはいなかった。

第六十四話   完


                                     2006・1・1


[342] 題名:第六十三話 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年06月10日 (土) 01時25分

               謎の少女
 ダカール東方におけるロンド=ベルとネオ=ジオン、火星の後継者達の戦いが続く中ダカール南方に新たな影が近付こうとしていた。
 潜水艦が数隻ダカールに向かっていた。それはかってジオンで使用されていた潜水艦ユーコンであった。
「敵はいるか」
 一人の巨漢が部下に対して問うた。一年戦争の生き残りであるフラナガン=ブーンである。一年戦争の後乗艦と共に身を隠していたがネオ=ジオンの地球降下を受けそれに賛同してこの作戦に参加したのであった。
「今のところありません」
「そうか」
 ブーンはそれを聞いて頷いた。
「だが油断するな。敵は何時来るかわからない」
「はい」
「モビルスーツの発進準備にかっかれ。グラブロもだ」
「グラブロもですか」
「そうだ、用心に越したことはない」
 彼は言った。
「敵にはあの連邦の白い流星がいたな」
「アムロ=レイですか」
「あの坊やとは一年戦争の頃にやり合ったことがある」
 彼は口の端だけで笑いながらこう述べた。
「手強かったぞ。部下を何人も失った」
「はあ」
「俺自身も危うく死ぬところだった。あの坊やがいるとなると用心した方がいい」
「ここに来ないとしてもですね」
「その時はその時で手強いのが来るだろうからな」
 彼はまた言った。
「どちらにしろ総力を挙げてダカールに上がるぞ。いいな」
「了解」
 潜水艦部隊は一路ダカールに向かっていた。その時ダカールは最早恐慌状態にあった。
「南へ兵を回せないのか!」
「駄目だ、北も西もとてもそんな余裕は!」
 マシュマーとグレミーの部隊の攻撃は激しかった。連邦軍はそれへの対処だけで手が一杯であったのだ。ミスマル司令もそこに釘付けとなっていた。
「むうう」
 彼は南からジオンの残党の潜水艦部隊が接近しているのは聞いていてもそれに対処することができないでいた。兵がとても回らないのだ。
「キングビアルだけでも行かせられれば」
「あれがなくては西の守りが成り立ちません」
 幕僚の一人がそれに対して言った。見れば顔に苦渋が浮かんでいる。
「如何ともし難いか」
「はい。西はほぼ神ファミリーだけで頑張ってくれています。その彼等を動かすということは」
「わかった。ではいい」
 それでは仕方がなかった。ミスマルも納得するしかなかった。
「ロンド=ベルはどうしているか」
「依然東に展開する敵主力部隊と交戦中です」
「そうか」
「一部足の速い部隊を急遽南に振り向けてくれたそうですが。彼等に一途の望みをかけますか」
「そうするしかないな。また彼等に期待しよう」
「わかりました。それでは」
「待って下さい、司令」
 だがここで別の幕僚が彼に言って来た。
「どうした」
「ジャブローからこちらにナデシコCが向かって来ています。全速力です」
「ナデシコが」
「はい。どうやらネルガルに発注していたものが届いている様です。彼等に応援を願いますか」
「頼めるか」
「はい。それでは」
「うむ。またとない援軍だな」
「はい」
 幕僚達はそれに頷いた。
「天の助けと言うべきか」
「ナデシコ一隻が加われば。かなり違います」
「その間に我々は北と西の敵を退けよう」
「はい」
「それでいいな」
「了解」
 思わぬ助っ人の報告に連邦軍は何とか息を吹き返した。だが市民達にはまだ不安が渦巻いていた。
「僕達大丈夫かなあ」
 ケン太がふと呟く。
「真吾さん達もいないのに」
「ケン太君、安心して下さい」
 だが不安にかられる彼をOVAが宥めた。
「その真吾さん達がここに残るように言ったのでしょう?だから大丈夫ですよ」
「そうかあ」
「そうです。だから心配しないで下さい」
「そうだね。OVAもいるし」
「私もですか」
「皆もいるし。もう僕怖がらないよ」
「それは何よりです」
 OVAもそれを聞いて安心した。見れば彼の他にリィナやクマゾー達もいた。他にも市民達が大勢いた。
「皆大変そうだね」
 それを見てユキオが呟く。
「戦争だからね。仕方ないよ」
 アカリも言う。
「皆暗い顔してるも。これからどうなるか心配だも」
「私達にはどうしようもないからね」
 リィナも困った顔をしていた。
「シャングリラにいた時も。こんな感じだったけれど」
「リィナさんってコロニーにいたんだったね」
「ええ、そうよ」
 ケン太の言葉に頷く。
「もう離れて随分経つけれど。お兄ちゃん達と一緒に学校に通いながらジャンク屋やってたのよ」
「そうだったの」
「あの時も何かと色々あったけれど。今もね」
「ロンド=ベルって色んな人がいるも」
「人だけじゃないからね。本当に」
 リィナは少し困ったようにして言った。
「今も。お兄ちゃん達大丈夫かしら」
「ジュドーさんだったら大丈夫なんじゃないかな」
「ビーチャさん達も。あれで結構腕がたつし」
「だったらいいけれど」
 ユキオやアカリに言われても何故か安心出来なかった。
「お兄ちゃん達あれで結構おっちょこちょいだから」
「けど皆がいるから」
「大丈夫かしら、本当に」
 何処か保護者の様であった。立場は全く逆だがリィナは兄達のことを真剣に案じていた。だがそこで思わぬ客が彼女達の前に姿を現わした。
「そこの者」
「!?」
 見れば赤がかった蜂蜜色の髪の毛の少女がそこにいた。
「ここは何処じゃ」
「ここはって」
 リィナ達はそれを聞いて戸惑いを覚えずにはいられなかった。
「ダカールだけれど」
「ダカール、ここがそうなのか」
 その少女はそれを聞いて納得した様に頷いた。
「何か騒がしいところだな」
「まあ今戦争やってるからね」
 ケン太がこれに答えた。
「仕方ないと言えば仕方ないよ」
「戦争」
「うん」
「今ダカールにネオ=ジオンが攻めて来ているんだ。君も知っているだろう?」
「勿論じゃ」
 少女はそれに答えた。
「私の兵士達じゃからな。あの者達のことは心から信頼しておる」
「あの者達って」
 リィナがそれを聞いて不審に思った。
「貴女、彼等のこと知ってるの?」
「知ってるも何も私の兵だ」
 少女はまたこう言った。
「私の兵のことを知らない筈はないだろう」
「何か君さっきから変なことばかり言っているけど」
 ケン太もいい加減訳がわからなくなってきていた。
「一体何なのさ。そもそも君は誰なんだよ」
「ミネバ=ザビ」
 彼女は名乗った。
「ジオン公国の公王であるぞ。それが何か」
「ミネバ=ザビって」
 リィナはそれを聞いてまずは我が耳を疑った。
「冗談でしょ。そんな訳が」
「これが何よりの証拠じゃ」
 ミネバと名乗るその少女はそれに答えるかの様に自分が着ている軍服と胸の模様を見せた。
「これこそが私がジオンの公王である証。これでわかったであろう」
「嘘・・・・・・」
「まさかこんなところに」
「ところでそなた達に聞きたい」
 ミネバはリィナやケン太達に問うてきた。
「ダカールの議会とやらがある場所は何処じゃ」
「何処じゃって」
「そんなこと僕達が知ってるわけないも」
 クマゾーもそう答えた。
「何だ、知らぬのか」
「知ってたらこんなところにいないし」
「困ったのう。御付の者とはぐれてしまったし。ハマーンも側におらぬし」
「ハマーン。まさか」
「ハマーンを知らぬのか?」
「いえ、勿論知ってるけど」
 リィナは戸惑いながら答えた。
「ハマーンは良い者じゃ。私のことをいつも心配してくれる」
「あのハマーンが」
「私が風邪をひいた時も側にいてくれるしな。何かと苦労をかけておる」
「嘘」
 確かに聞いただけでは信じられぬことであった。リィナ達にとってもハマーンとは強敵であり苛烈で冷徹な女指導者であったのだ。その彼女がそうした一面があるということはにわかには信じられぬことであった。
「私にはもう両親はおらぬがハマーンがいてくれる」
 ミネバは嬉しそうに言った。
「それだけで充分じゃ。本当は何かと大変であるのにそんな顔一つ見せずにな。大儀なことじゃ」
 そしてまだ幼少ながらそれがわかるミネバも凄いと言えた。やはりザビ家の血であろうか。聡明であると言えた。
「じゃが側にいて欲しいのじゃ。オウギュストには申し訳ないが今はちと寂しい」
「オウギュストって」
「今の御付の者じゃ。さっきまでいたのじゃが」
「オウギュスト大尉、こちらです!」
 そこで急に声がした。
「そちらか!」
「はい!やっと見つけました!」
「えっ」
「まさか」
 ケン太達はそれを聞いて戸惑いを覚えた。
「ミネバ様、こちらでしたか!」
「おお、そなた達か」
 ミネバはやって来た如何にも怪しそうな男達の方を振り向いて笑った。
「申し訳ありません、我等の落ち度で」
「よい。では議会に向かうぞ」
「いえ、まずは私共と共にいて下さい」
 やって来た紫の髪をセンターで分けた男がこう申し出て来た。
「おお、オウギュスト」
「はい」
 彼、オウギュスト=ギダンはミネバに敬礼してから述べた。
「今すぐに議会に行っては危険です。まずは完全に掌握せねば」
「それまで待つのじゃな」
「その通りです。それまではここに潜伏しておきましょう」
「わかった。ではここに留まるぞ」
「はっ」
「ところでミネバ様」
 部下の一人がミネバに尋ねてきた。
「この者達は。ロボットもおりますが」
「まずいも」
 クマゾーがそれを見てヒソヒソと囁く。
「ネオ=ジオンの連中だも」
「若しも私達のことを知ったら」 
 アカリも言う。
「只じゃ済まないよね」
「ケン太君、私がいますから」
「けどOVAも危ないんだよ」
「大丈夫です、皆は私が守りますから」
「私の知り合いじゃ」
 ミネバはオウギュスト達に対してこう語った。
「お知り合いですか」
「うむ。ここで偶然出会った。良い者達じゃぞ」
「そういうことでしたら」
「害はありませんな」
「この者達に危害を加えてはならん」
 ミネバは部下達に対して命じた。
「よいな。これは命令じゃ」
「はっ」
「それでは」
 オウギュスト達はそれに従った。そしてミネバの側で立つだけであった。
「これでよいな」
「う、うん」
 微笑んで語りかけてきたミネバにリィナが答えた。
「私はアクシズから出たことはあまりなくてな。外の世界のことはよく知らぬのじゃ」
「そうなの」
「地球に降りたのもはじめてじゃ。何か感じが違うのう」
「地球は青いんだも」
「青い」
 クマゾーの言葉にキョトンとする。
「そうなんだも、青いんだも」
「それは聞いてはいたが」
「そしてとっても綺麗なんだも。一度見たら忘れられないんだも」
「そうなのか。それでハマーンも来たがっていたのか」
「ハマーンが来たがっていたって?」
 ケン太はその言葉に顔を向けさせた。
「君が来たかったんじゃないの?」
「私は特にそうは思ってはおらぬ。ただ、ハマーンがどうしても行きたそうだったのでは。それでそれを認めたのじゃ」
「そうだったの」
「じゃあハマーンの作戦が」
「ハマーン様を呼び捨てにするとは」
「よい。この者達はジオンとは関係がない。だからよい」
「は、はい」
 ミネバは兵士達をそう言って制した。
「それでじゃ」
 彼女は次にリィナ達に顔を向けて来た。
「その方等の名は何というのじゃ?」
「私達の名前?」
「そうじゃ。よかったら申してみよ」
「ええと」
 彼女達は戸惑いながらもそれに答えた。
「リィナ。リィナ=アーシタよ」
「リィナか」
「ええ。宜しく」
「よい名じゃな。気に入ったぞ」
「有り難う」
「そしてそこの少年は何というのじゃ」
 今度はケン太に顔を向けて来た。
「ケン太」
 彼は名乗った。
「真田ケン太っていうんだよ」
「ケン太か。日本人じゃな」
「あれ、わかるの?」
「私とて名前で何処の者か位はおおよそわかる。リィナは少しわかりにくいがな」
「私は一応日系人よ」
「そうなのか」
「ええ。わかりにくいでしょうけれど」
「顔を見れば。そう見えぬこともないな。じゃが綺麗な顔をしている」
「綺麗な顔って」
 そう言われて少し照れた。
「よい父君と母君を持っておる様じゃな。そんなに綺麗な顔を与えてくれて」
「ま、まあそうかな」
「私も。よい父君と母君だったが」
 そう言って寂しそうな顔になった。
「もうおられぬ。この前の戦争で御二人共亡くなられてしまった」
「そうだったわね」
 リィナはそれを聞いて彼女も寂しい顔になった。
「バルマー戦役で」
「父上は立派な方だったという。敵に決して背を見せなかったそうじゃな」
「それは本当のことよ」
 リィナは言った。
「ソロモンでね。最後まで立派に戦われたわ」
「うむ」
 敵ではあった。だがリィナはあえて言った。ミネバをおもんばかってのことである。
「それは聞いておる。父上は立派な方だった。それさえわかればいい」
「そう」
「母上は非常にお優しい方だった。私は父上の勇気と母上の優しさをいつも覚えておきたいと考えている」
「ミネバさんも僕達と同じなんだも」
「同じ」
 ミネバはクマゾーの言葉にキョトンとした。
「同じと申すと」
「お父さんとお母さんがいないも。僕達だってそうだも」
「そなた達もか」
「うん。僕達お父さんもお母さんもいないんだ。だから孤児院にいるんだ」
 ユキオが答えた。
「そうじゃったのか」
 ミネバはその言葉を聞いて悲しい顔になった。
「そなた達も父君と母君がおらぬのか」
「けれど寂しくはないよ」
 アカリが言った。
「皆いつも一緒だから。今でもね」
「そうなのか。それはよいな」
 ミネバはそれを聞いてどうやらホッとしたようであった。
「側に誰かがいてくれると。寂しくないわよ」
「私も。ハマーンが側にいてくれるからな、いつも」
「ハマーンさんが好きなのね」
「うむ」
 またリィナの言葉に頷いた。
「好きじゃ。私のことをいつも考えてくれる。ハマーンがいなくては私は生きてはおれぬ」
「そう」
「ハマーンは私の為に動いてくれる。私はそのハマーンの言うことを聞くのが仕事だ。それはわかっているつもりだ」
「ミネバちゃんも優しいんだも」
「優しい、私が」
「そうだも。ハマーンさんのことを思っているも。だからそんなことが言えるんだも」
「ハマーンには自分のことはあまり考えてくれるなと言われているのだがな」
 そう言いながら俯く。
「だが。私の側にいて、身を削って働いている者を。どうして考えずにおれよう」
「それが優しいっていうことなのよ」
 アカリも言った。
「ミネバさんってすごく優しいよ。まるでヒメ姉ちゃんみたいに」
「ヒメ姉ちゃん」
「僕達のお姉ちゃんだよ。孤児院から今までずっと一緒だったんだ」
 ユキオも言う。
「いつも僕達の面倒見てくれているんだ。ずっとね」
「そうか。いい人のようじゃな」
「とってもね。ところで私達の名前だけれど」
「うむ」
「私はアカリ」
「僕はユキオ」
「クマゾーだも。宜しくだも」
「うむ。こちらこそ宜しくな」
 ミネバも挨拶を返した。
「では暫しここにて留まろう。色々と話でもしながらな」
「うん」
 こうして子供達はOVAも交えておしゃべりに入った。それは何処にでもある普通の光景であった。ミネバもここでは何処にでもいる普通の子供であった。

 彼女達がダカールの一郭で留まっているその時にもジオンの潜水艦部隊はダカールに向けて進んでいた。既に水中モビルスーツ達が発進していた。
「敵はいるか」
 後方で全体の指揮を執るブーンが部下達に対して問うた。
「今のところはいません」
 部下達はそれに答える。
「このまま進撃を続けて宜しいでしょうか」
「ああ、構わん」
 ブーンはそれをよしとした。
「だが気をつけろ。何時来るかわからんぞ」
「了解」
「それでは上陸します」
 ズゴックにゴッグ、そしてアッガイといったジオンの誇る水陸両用モビルスーツ達が姿を現わした。そしてゆっくりと港から市街地に向かおうとする。
「ジオンが来たぞ!」
「迎撃しろ!」
 港湾を守る僅かばかりの連邦軍の将兵達が戦車や装甲車、戦闘機で向かう。だが所詮そういった装備ではモビルスーツの敵ではなかった。
「無駄だな」
「とっとと失せろ」
 ビームによる攻撃であっさりと退けられた。そしてジオン軍はそのまま前に進もうとする。
 だがその前に一陣の風が姿を現わした。それは銀の翼を持つ鳥であった。
「よし!ギリギリ間に合ったな!」
 マサキはサイバードのコクピットで敵の姿を見て叫んだ。
「こっから先は進ませねえぜ!」
「サイバスター!」
「全機散開しろ!」
 その姿を認めたブーンが叫ぶ。
「サイフラッシュが来るぞ!注意しろ!」
「了解!」
「ありゃ、もう読んでやがるのか」
 敵が散ったのを見たマサキは拍子抜けして言った。
「動きが早えな。一体どういうことだよ」
「敵もあながち馬鹿じゃないってことだろうな」
「ショウ」
 ウィングキャリパーがやって来た。そこにはショウとチャムがいた。
「サイフラッシュの威力はもう言うまでもない。警戒するのも当然さ」
「ショウってあったまあいい」
「茶化すなよ、チャム。けれどそれはそれでやり方があるさ」
「やり方が」
「ああ。丁度今ダバも来たしな」
 ブローラーに変形したエルガイムマークUもやって来た。機動力に優れるマシンだけを行かしたのはどうやら正解だった様である。
「ガンダムファイターももうすぐ来る。ここはそれぞれの機動力を活かして敵を一機ずつ落としていこう」
「それがいいな」
 ダバもショウの意見に賛同した。
「敵の数はそれ程多くはない。ここは確実に行こう」
「間に合ったら急に冷静になったな」
「戦いってのは冷静にならないと駄目だろう?さもないと失敗する」
「ちぇっ、何かヤンロンみたいな言葉だな」
「そうかな」
 ダバはそう言われ少し困った様な顔をした。
「俺はそうは思わなかったけれど。説教臭いかな」
「ダバは真面目だから」
 リリスがそんな彼をフォローする。
「ついそうなってしまう時があるよ。けど気にしないで」
「有り難う」
「それじゃあすぐに敵に向かおう。ダカールの市街地に進ませてはいけない」
「おうよ」
「もうすぐガンダムファイター達もやって来る。それまで持ち堪えるぞ」
 ダカールの港での戦いもはじまった。マサキ達は上陸して来るジオンのモビルスーツに対してその機動力をフルに活かして攻撃を仕掛ける。まずはショウが動いた。
「はああああああっ!」
「いっけええええーーーーーーーーっ!!ハイパーオーラ斬りだああーーーーーーーーーっ!!」
 チャムも叫ぶ。ビルバインのオーラソードが振り下ろされるとそれだけでズゴッグが両断された。両断されたズゴッグは炎の中に消えた。
「行けっ!」
 ダバも攻撃を仕掛ける。エルガイムマークUに戻りそこからSマインを投げる。それでアッガイを一機破壊する。
「もう一機!」
 そして次はパワーランチャーを放つ。それでその横にいたゾッグも屠った。
「チッ、手強い連中が来やがったな」
 ブーンはそれを見て舌打ちした。
「このままじゃダカールの占拠は及びつかんな」
「どうしますか」
 潜水艦に残った部下の一人が問うてきた。
「潜水艦も前に出せ」
 ブーンはその部下に対して言った。
「ユーコンもですか」
「そうだ。対地ミサイルで攻撃する」
「ミサイルで」
「モビルスーツだけでは無理そうだ。ここは仕方がない」
「わかりました。それでは」
「ああ」
 それに従いユーコンの艦隊が前に出て来る。だがそれにはまだ誰も気付いてはいなかった。
 シャッフル同盟を中心としたモビルファイター達が戦場に到着したがそれは変わらなかった。彼等は相変わらず水中用モビルスーツを相手にしていただけであった。
「何か呆気なくやっつけていけてるね」
 アレンビーが言った。
「ちょっと拍子抜けしちゃったよ」
「所詮水中用モビルスーツだからな。陸での動きが遅い」
 ドモンがそれに答えた。
「このまま一気に押し切る!やってやる!」
「甘いぞドモン!」
 ここで突如として声がした。
「その声は」
「まさか」
 シャッフル同盟の面々が一斉に注目する。
「敵を侮るな!この程度ではないぞ!」
「何処だ」
「何処にいるんだ」
「ここだ!」
 水面から水しぶきがあがった。そしてその水面にガンダムシュピーゲルが立っていた。
「シュバルツ=ブルーダー!」
 ドモンがその名を叫ぶ。
「ジオンとて歴戦の勇者!それを忘れるとは御前もまだ未熟なようだな!」
「クッ!」
「未熟なのはいいけれど」
 クロが冷静な目で見て言った。
「あの人なんで水面に立っていられるニャ?」
「水陸両用でもそんなの無理だよニャア」
「そんなことはどうでもいい!」
 シロの突っ込みも強引になかったことにする。
「今ジオンはその潜水艦によりミサイル攻撃を仕掛けようとしている!それに気付かぬとは迂闊だぞ!」
「そうだったのか!」
「何であの人が知ってるのかニャ?」
「もう突っ込むのよそうぜ。どうもおいら達の常識が通用する人じゃなさそうだし」
「潜水艦を叩け!さもなければ御前達に勝利はない!」
「だがどうやって」
「水の中に入れ!それ以外に道はない!」
 シュバルツは尚も言う。
「水の中に」
「そうだ!そしてそこで敵を倒せ!そこで何かを掴むのだ!」
「確かにモビルファイターは水中でも性能は落ちたりはしないが」
「だからこそだ!さあ早く行くのだドモン!」
 シュバルツは言う。
「来い!そして敵を倒せ!」
「よし!」
 ドモンは跳んだ。そして海の中に飛び込む。
「来い!誰であろうが俺が倒す!」
「何かバイストンウェルでも同じことやったよね」
「バーンと戦った時だったな」
 ショウはチャムの言葉を聞いて懐かしそうに呟く。
「あの時は大変だったね」
「ああ」
「バーンの奴しつっこいし。けどあたしショウなら大丈夫だって思ってたよ」
「嘘つけ、ずっと耳元で怒鳴ってた癖に」
「兄貴、陸はおいら達に任せな!」
「サイシー!」
「この程度の敵なら問題はありません」
 ジョルジュも言う。
「安心してていいぜ。丁度いいウォーミングアップだ」
「最近あまり派手に戦っていなかった。だからやらせてもらうか」
「済まないな、皆」
「まあそういうことよ。それじゃあそっちは任せたわよ。レインさん」
 アレンビーはここでレインに声をかけた。
「何かしら」
「あんたも行ってあげたらいいわ。ドモン一人じゃ暴走するからね」
「ちょっと、私はドモンの保護者じゃないわよ」
「固いことは言いっこなし。さあ早く早く」
「もう」
 そうは言いながらもレインも海の中に入る。
「これでいいの?」
「そうそう。それじゃあそっちは任せたわよ」
「じゃあリューネ、こっちは派手にやらせてもらうぜ」
「えっ、リューネ!?」
 アレンビーはそれを聞いてキョトンとする。
「リューネ来てたっけ」
「何言ってるんだよ。来て・・・・・・あれ!?」
 だがそこにはヴァルシオーネはいなかった。いるのはサイバスターだけであった。
「おかしいな。いると思ったんだけどな」
「あたしの声がリューネに似ているから間違えたみたいだね」
「どうやらそうみてえだな」
 マサキもそれを認めた。
「済まねえ。俺のミスだ」
「いいってことさ。あたしもあんたとヒイロ間違えたりするからね」
「そういうことか」
「そういうこと。それじゃあ行くよ」
「よし」
「ガンダムファイト」
「レディィィィィィィィィ」
 アレンビーに合わせる。シャッフル同盟だけでなくマサキも言う。
「ゴォォォォォォォォォッ!」
 陸上での戦いも再開された。そしてそこに新たな影が姿を現わした。
「あれは」
 最初に気付いたのはダバであった。
「アルテリオンか」
 見れば銀色のマシンであった。北西から一直線にやって来る。
「ビルトビルガーにビルトファルケンもいるよ」
 リリスも言う。
「よかった。勝ったんだね、アイビス」
「どうやらそうみたいだな」
 ダバは彼女達の姿を確認して頬笑みを浮かべていた。
「それに。もう一人いるみたいだ」
「もう一人?」
「ほら」
 ダバはアルテリオン達を指差す。そこには赤いマシンもあった。
「ベガリオンだ。スレイも俺達の仲間になるんだな」
「そうだ」
 エルガイムマークUのモニターにスレイが姿を現わした。
「私もアイビスと共に戦わせてもらう。それでいいな」
「ああ、喜んで歓迎するよ」
 ダバは笑顔でこう返した。
「宜しくな。俺はダバ=マイロード」
「スレイ=ブレスディ」
「君の参加を歓迎するよ。これから共に戦っていこう」
「優しい男だな、君は」
「そうかな」
 ダバはスレイにそう言われて少し照れ臭そうに笑った。
「自分じゃそんなつもりはないけれど」
「いや、本当のことだ。どうやら懐の大きい人物の様だな」
「褒めたって何も出ないよ」
「そういう問題ではない。確かペンタゴナから来ているのだったな」
「うん」
「あの星も大変だというが。君の様な男がいればこれからは明るいかもな」
「アマンダラ=カマンダラと同じことを言うな」
「アマンダラ=カマンダラ」
 スレイはその名を聞いて少し顔を顰めさせた。
「誰だ、それは」
「ペンタゴナの武器商人よ」
 リリスが彼女にそう説明する。
「このエルガイムマークUとか売ってくれた人なんだけれど。どうにも胡散臭いのよ」
「何を考えているかわからないところはあるな」
 ダバもそれに頷く。
「表向きはいい人なんだけれどな」
「あの人にはペンタゴナに戻ってからも気をつけた方がいいみたいね」
「ああ」
「どうやら腹に一物ある人物の様だな」
「一言で言うとそうだね」
「そうか。何処にでもその様な輩はいるのだな」
「ついでに素直じゃない奴もね」
「何か言ったか、アイビス」
「別に。じゃあすぐに参戦するよ」
「うむ」
「やっと合流できたんだ。派手にやらせてもらうよ」
「待って、アイビス」
 しかしここでツグミが呼び止めた。
「何だい、ツグミ」
「街の外れの方に逃げ遅れた子供がいるわ」
「子供が」
「ええ、早く助けないと。大変なことになるわ」
「そうあね、行こう」
「いいのか、アイビス」
 ここでスレイが声をかけた。
「何がだい?」
「今は民間人より。戦いの方が大事ではないのか」
「それはあんたもわかっていると思うけれどね」
 アイビスは笑ってスレイにそう返した。
「戦いはどうにでもなるけれど。子供の命はどうにもならないだろう?違うかい」
「ふ、確かにな」
「まずは子供を助けるんだ。いいね」
「わかった。では協力させてもらおう」
「それじゃあ俺達は先に行ってますね」
「そっちは任せて下さい」
「ああ、頼むよ」
 アイビスは申し出て来たアラドとゼオラに対してそう返した。
「宜しくね。あたし達もすぐに行くから」
「はい」
「それじゃあお先に」
「ああ」
 こうして彼等は二手に分かれた。そしてそれぞれの場所に向かうのであった。
 アラドとゼオラの参戦により陸上での戦いは完全にロンド=ベルのものとなった。だが海中での戦いはそうはいかなかった。
「クッ、このデカブツは!」
 ドモンが苦渋に満ちた声を漏らす。目の前にグラブロが立ちはだかっていたのだ。
「どうした、そんな旧式のモビルアーマーも倒せないのか」
 シュバルツが横で問う。ドモンの横にはレインもいた。
「大丈夫よドモン、貴方なら倒せるわ」
「フン、好き勝手言ってくれるな」
 グラブロに乗るブーンはそれを聞いて苦笑いを浮かべた。
「残念だが陸上と水中では戦い方が全く違う。それを教えてやろう」
 そう言いながらその爪で襲い掛かる。だがそれはドモンによってかわされてしまった。
「クッ!」
「反応が遅いぞ!」
 またシュバルツの叱咤が飛ぶ。
「それがシャッフル同盟の実力か!その程度だったのか」
「何だと!」
「そんなことでマスターアジアを倒せるというのか!甘い、甘いぞ!」
「マスターアジア!」
 その名を聞いてドモンの顔色が変わった。
「そうだ。マスターアジアの力は御前が一番知っていよう。ここで遅れをとるようであの男に勝てると思っているのか!」
「そんな筈がない!」
 ドモンも叫んだ。
「こんなところで迷っていては俺はあの男に勝つことはできん!」
「そうだ!」
 シュバルツはまた叫んだ。
「ではどうするべきかわかっているな!」
「ああ!やってやる!」
 ドモンが燃えた。
「はああああああああああああああああっ!」
「な、何だ!?」
 ブーンはドモンの様子が一変したのを見て思わず驚きの声をあげた。
「一体どうしたんだ」
「俺のこの手が真っ赤に燃える!」
 ドモンは叫び続けていた。
「勝利を掴めと轟き叫ぶ!」
 その身体の色が一変していた。何と黄金色になっていたのだ。
「行くぞ!ばぁぁぁぁぁくねつゴッド・・・・・・」
 腕を突き出す。そしてそのまま突進する。
「フィィィンガァァァァァッ!!」
 腕を叩き付けた。それでグラブロの動きが完全に止まった。
「ウオッ!?」
「ヒィィィィィィト・・・・・・」
 ドモンの声はなおも続く。そしてそれと共に腕も輝き続ける。
「エンドォォォォォォォッ!!」
 これで全ては終わった。グラブロは爆発し全ては終わったのであった。
「ウオオオオオオオオオオオッ!!」
 グラブロは爆発した。水中で派手な爆発が起こる。ブーンもまたこの中に消えたのであった。
 ドモンは爆発の前に立っていた。そして一人呟いていた。
「今のは一体」
 無意識に出した攻撃ではあったがかなりの威力であった。しかもそれは自分がはじめて出したものであった。思いも寄らぬ攻撃であった。
「明鏡止水だ」
 そこでシュバルツが言った。
「明鏡止水」
「そうだ。己の心を研ぎ澄まし、平穏を得た時に得られるものだ。言うならば武道の極意だ」
「武道の」
「それこそがマスターアジアに打ち勝つことのできる唯一にして最大のものだ。それを手に入れた時御前は本当の意味でのガンダムファイター、そしてシャッフル同盟の戦士となるだろう」
「それ程までに」
「どうだ、身に着けたいか」
 シュバルツは問うてきた。
「そしてマスターアジアを倒したいか」
「無論!」
 彼は答えた。
「その為に俺は戦っている。マスターアジアを・・・・・・この手で倒す!」
「そうか。ならば迷うことはないな」
 シュバルツはそれを聞いて頷いた。
「ならばギアナ高地へ行くがいい」
「ギアナ高地に」
「そこにデビルガンダムが潜伏している。それを倒し見事明鏡止水を会得するのだ」
「デビルガンダムですって!?」
 それを聞いたレインが声をあげる。
「それならどのみち行かないと。大変なことになるわ」
「そうだな。どちらにしろ行く」
「そう言うと思っていた。では私はそこで待とう」
 そう言うとその身体に渦巻を纏った。
「ギアナ高地で会おう。さらばだ!」
 シュバルツ=ブルーダーはこう言い残して戦場を後にした。気が付いてみるとユーコンも水中モビルスーツ部隊もあらかた倒されてしまっていた。残った僅かな者も撤退していた。戦いはロンド=ベルの勝利に終わっていたのであった。
「危ないところだったな」
「ああ」
 マサキの言葉にショウ達が頷く。
「だが何とか防いだぜ。これでダカールは安心だ」
「どうやらな。後は残敵がいないかどうか哨戒に移ろう」
「ああ」
 彼等はそれで済んだ。だがそれで済んではいない者達もいた。
「今のが明鏡止水・・・・・・」
 ドモンはまだ呆然としていた。
「この力があればマスターアジアにも」
「そうね。けれど辛い修業になるわよ」
「それは覚悟のうえ」
 レインにそう返す。
「やってやる。キリマンジャロに行くぞ」
「ええ」
 そして別のところでも。哨戒に移っていたマサキ達のところにアイビス達が戻って来たのだ。
「おう、そっちはどうだった」
 マサキがアイビスに声をかける。
「子供を保護したんだよな」
「ああ」
 アイビスはそれに応えた。
「一人ね。可愛い女の子さ」
「女の子」
「イルイっていいます」
 黒いドレスに身を包んだ金色の髪の少女がモニターに姿を現わした。まるで人形の様に整った顔である。
「何でも身寄りがないらしいんだ。どうするよ」
「そうだな。ブライト艦長とかに話しないと駄目だがこっちで当分保護してもいいんじゃねえか。どっちみちうちにはクマゾー
とかいるしな」
「そうだね。じゃあイルイ、あたし達と一緒に来るかい?」
「うん」
 イルイは静かに頷いた。
「よし、これで決まりだ。それじゃあ皆哨戒が済んだらブライト艦長達のところに戻ろうよ。こっちも色々とつもる話があるからね」
「ああ」
 こうして彼等は戦いを終えブライト達のところに戻った。その頃には東側での戦いも終わっていた。ネオ=ジオン、そして火星の後継者達は撤退しロンド=ベルの勝利に終わっていた。ダカールは何とか救われたのであった。
 その中リィナ達はまだダカールに残っていた。だがその身辺は急に騒がしくなっていたのであった。
「ミネバ様」
 オウギュストが険しい顔でミネバに声をかける。
「作戦は失敗したようです。ここは下がりましょう」
「うむ、致し方あるまい」
 ミネバもそれに従うしかなかった。こくり、と頷く。
「ではな」
 そしてリィナ達に声をかける。何処か寂しげな顔であった。
「また会おうぞ。機会があればな」
「うん。ミネバちゃんも元気でね」
「ミネバちゃん」
 ケン太にそう言われ少し戸惑ったような顔になった。
「何か面白い呼び方じゃな」
「そう?気に入ってくれた?」
「うむ。また会った時にはそう呼んでくれ。よいな」
「うん。それじゃあね」
「またな」
「では」
「わかっておる」
 オウギュスト達に守られながらその場を後にした。作戦が失敗した以上ここに留まっていては危険だからである。妥当な判断であると言えた。
「いっちゃったね」
「うん」
 ユキオとアカリがそれぞれ言う。
「悪い人じゃなかったね」
「そうだね」
「けれど寂しそうだったも。無理してるっぽいも」
「そうね」
 それにリィナも頷く。
「ザビ家なんかに生まれなきゃ。普通の女の子だったかも」
「普通の」
「普通の基準なんて曖昧なものだけれどね。うちのお兄ちゃん達なんて絶対に普通じゃないし」
「それはまあそうだけれど」
「ジュドーさん達はお勉強を全然しませんし」
「そういう問題だけじゃないんだけれどね」
「あ、そうですか」
 OVAがそれに応える。
「何か。可哀想ね」
「そうですね」
 それにはOVAも頷いた。
「あのままだと。潰れてしまいそうです」
「ネオ=ジオンのせいなのね、やっぱり」
「そうでしょうね。どうなっちゃうんでしょう」
「それはわからにわ。けれど」
 リィナは言った。
「あのままでいて欲しくはないわ」
「はい」
 リィナ達もロンド=ベルに帰った。そしてダカールを何とか守りきった彼等はミスマル司令達と今後のことに関して話に入った。
「ネオ=ジオンはカルタゴに向けて撤退している」
「カルタゴにですか」
 グローバルがそれに問う。
「ギリシア方面に進出して来たティターンズ及びドレイク軍との衝突を避けたらしい。そこで戦力を回復するつもりのようだ」
「さしあたってはダカールの危機は去ったということですな」
「だがまた問題が出て来た」
「キリマンジャロですな」
「知っていたか。デビルガンダムが出現した」
 ミスマルの顔が曇った。
「そして周囲を占拠してしまっているらしい。早急に何とかしなければならないが」
「では我々が行きましょう」
「頼めるか」
「はい。その為の我々ですから」
 グローバルは迷うことなくこう答えた。
「喜んで行きましょう。どのみちデビルガンダムを放っておくわけにはいきません」
「うむ」
「補給路整い次第向かいます。その際ダカールのことはお任せしても宜しいでしょうか」
「こちらは安心してくれ。ネオ=ジオンの脅威は去ったしな」
「はい」
「そしてそちらには私からプレゼントがある」
「プレゼント」
「ジャブローから届いたのだ。あれが」
「ナデシコの新型艦ですか」
「それとエステバリスの新型機だ。今度のは重力波ビームの影響に関係なく行動をとれる」
「ほう」
「一機だけだがな。大きな戦力になる筈だ」
「それではそれを受け取らせて頂いてから」
「頼むぞ。援軍を送れないのが申し訳ないが」
「何、それは構いません」
 グローバルはそれは気にはしなかった。
「台所事情は何処も同じですから」
「そうか、済まないな」
「それではそれで。ミスマル中佐には御会いになられますか」
「そうしたいのはやまやまだが今は忙しいのだろう」
「はい。補給や戦争処理に忙殺されています」
「ならばよい。今は大切な時期だしな、会うと支障が出る」
「それでは」
「また何かあったら連絡してくれ。それでは」
「はい」
 これからの方針が決定した。ロンド=ベルはキリマンジャロにいるデビルガンダムの征伐に向かうこととなった。そしてナデシコの新型艦の受け渡しも行われた。ナデシコのクルー及びパイロット達は直ちに乗り換えに取り掛かった。
「うっわあ〜〜〜ピッカピカァ」
 ユリカは艦内を見てまず喜びの声をあげた。
「こんな綺麗な船に乗れるなんて。幸せぇ」
 そう言いながらアキトに擦り寄る。
「アキトと一緒だし。何か夢みたい」
「あの、ユリカ」
 だがアキトはそれに戸惑っていた。
「周りの目があるしさ」
「そんなの気にしないからいいわよ。私はアキトがいたらそれでいいのよ」
「さっきと言葉が微妙に矛盾してます」
「あら、そうかしら」
 ルリのいつもの突っ込みにも動じない。
「まあそんなことは置いといて」
「いいんですね」
「いいのよ。だってアキトが一緒なんだから」
 そう言いながらベタベタとアキトにまとわりつく。
「ねえ、アキトだってそうでしょう?」
「そ、それは」
 だがアキトはそれに対して赤面したままである。何も言えない。そんな彼にメグミとハルカが助け舟を出してきた。
「艦長」
「はい」
「艦橋に行きませんか。ピカピカのブリッジを見に行きましょう」
「ピカピカの」
「操縦桿もピカピカかも。きっと綺麗ですよ」
「うん、見たい」
 ユリカの興味はどちらに流れた。これでアキトは救われた。
「それじゃあ行きましょうよ、ねえ」
「はい」
「それじゃあ」
「うん。やっぱり最初に艦橋に行くのは艦長の務めよね」
「そうそう」
 そう言いながら三人で艦橋に向かった。こうしてアキトは何とか解放されたのであった。
「ふう」
「いつものことですけれど大変ですね」
「まあ慣れてきたかな・・・・・・ってルリじゃないのか」
「はい、私です」
 見ればツグミであった。彼女はにこやかに笑ってそこにいた。
「今アルテリオンとベガリオンもこっちに入っています。また宜しくお願いしますね」
「うん、こちらこそ」
 アキトはにこやかに笑って挨拶を返す。
「そういえばこうして話したことはなかったね」
「いつもアイビスと一緒ですからね、私は」
「そのアイビスさんは?姿が見えないけれど」
「イルイちゃんのことでブライト艦長のところに行っています。スレイも一緒です」
「そうだったのか」
「また新しい仲間なんですね」
「それはスレイのことかい?」
 アキトはルリの言葉に声をかけた。
「はい。けれどスレイさんだけではないです」
 ルリはそれに対して静かにそう返した。
「イルイちゃんという女の子もです。ロンド=ベルにいたら皆さん仲間でしたね」
「ああ、ここの考えではそうらしいね」
「では歓迎しましょう。仲間です」
「うん」
「そして新しいマシンも来ていますよ」
 ツグミはここで話題を変えてきた。
「エステバリスの新型機が」
「あれだね」
 アキトはそれに応えて格納庫の端にあるマシンを指差した。それは漆黒のマシンであった。
「ブラックサレナ、黒い百合だったかな」
「はい」
 ツグミがアキトの言葉に頷く。
「重力波ビームの影響を一切受けないで戦えるらしいですよ」
「重力波ビームの」
 それを聞いてアキトの顔色が変わった。
「そして機動力も今までのエステバリスとは比較にならないそうです。凄い性能らしいですよ」
「誰が乗るのかな、これに」
「何を言っているんだ、アキト君」
 ここで後ろから男の声がした。
「その声は」
「これは君が乗ることを念頭に入れて開発したんだよ。君以外に誰が乗るっていうんだ」
「貴方は」
 ツグミはそれを聞いて後ろを振り向いた。するとそこには少しキザな口髭を生やした愛想のよい顔の中年の男がそこにた。
「プロスペクターさん」
「久し振りだね」
 彼はルリに名を呼ばれて挨拶を返した。
「ネルガルからね。ちょっと出向してきたよ」
「ナデシコを送り届ける為にですね」
「うん。それとこのブラックサレナをね。ここに着いたらいきなり戦闘に巻き込まれたからね。大変だったよ」
 彼は笑いながらそう返した。
「けれどその介があったね。君達にこれを届けられたんだから」
「その一つがブラックサレナですか」
「ああ、その通りだ」
 彼はにこやかに笑って言葉を返した。
「これさえあればあの北辰衆にも引けはとらないだろう」
「北辰衆にも」
 それを聞いてまた顔色が変わる。
「勝てるかな」
「勝てるじゃないよ、アキト君」
 プロスペクターはそんな彼に笑いながら言う。
「勝つんだよ。絶対にね」
「わかりました。それじゃあ」
「次はデビルガンダムらしいから気をつけてね」
「はい」
「マスターガンダムにも匹敵する機動性だけれど。あれはそれだけじゃないからね」
「確かに」
「まあ彼はドモン君達に任せよう。君は」
「北辰衆を」
「頼んだよ」
「わかりました」
 アキトも次の戦いに対して意を決した。戦いは果てしなく続く。
 それはロンド=ベルだけではなかった。カルタゴに向けて兵を退けるネオ=ジオンもまた同じであった。
「ギリシア軍に異変がか」
「はい」
 ハマーンはグワダンの艦橋において情報部からの話を聞いていた。そしてそれに顔を向けていた。
「どうなっているのだ」
「どうやら強力な指導者を得た様です。彼等はそれに心酔しているとのことです」
「強力な指導者だと」
「はい。ジェリル=クチビです」
 情報部の男はその指導者の名を告げた。
「ジェリル=クチビ」
「ドレイク軍の聖戦士の一人です。今はティターンズと協力関係にありますが」
「その聖戦士が何故ギリシア軍を掌握したのだ?」
「詳しいことはわかりませんが。ですが今ギリシア軍が彼女の下にあるのは確かです」
「連邦軍を裏切ってか」
「そうです。その結果ギリシアは自動的にティターンズ及びドレイク軍の勢力圏となりました。彼等はこれを機にバルカン半島に積極的に進出しているとのことです」
「バルカン・・・・・・火薬庫にか」
「はい」
 十九世紀、いやそれ以前からバルカン半島は火種の絶えない地域であった。ローマ帝国が征服したのを皮切りとしてビザンツ帝国やオスマン=トルコといった大国がここを勢力圏としてきた。その際複雑に入り組んだ民族を利用して互いに争わせるといった統治もあった。またトランシルバニアのドラキュラ公の様に苛烈な人物も多く、血の匂いが絶えることもなかった。そしてオスマン=トルコが衰えるとここにロシアとオーストリアがやって来た。汎ゲルマン主義を唱えるオーストリアと汎スラブ主義を唱えるロシアはそれぞれ民族感情を煽った。結果として第一次世界大戦が起こったことは歴史においてあまりにも有名である。その結果欧州の衰退が始まったと言っても過言ではない。民族主義は欧州という巨大な文明をも衰退に導いたのであった。
 だが戦乱はそれで終わりではなかった。第二次世界大戦になるとナチス=ドイツが来た。彼等もまた民族主義を煽り狡猾な統治に乗り出した。だがそれは一人の男によって阻まれた。
 その男の名はチトー。『君はあれを』という命令から取られた仇名を持つこの男はその卓越した組織力と統率力によりナチスに反旗を翻したのであった。その巧みなパルチザン戦術によりナチスは終始翻弄された。彼は本物であった。白頭山に篭り白馬に乗って戦ったと自称する強盗とは全く違っていた。彼は真の意味での英雄であった。
 第二次世界大戦が終わると彼はユーゴスラビアの大統領となった。そして強大なソ連に対して敢然と反旗を翻し国を保った。ユーゴスラビアは彼の指導の下国家として歩んでいた。だがこの国はあくまでチトーによってのみ支えられたいた。二つの文字、三つの宗教、四つの言語、五つの共和国、六つの民族、七つの国家、八つの国境・・・・・・。それが全て一人のチトーによって支えられていたのだ。一人の英雄によって。
 チトーが死ねばどうなるか、もうわかっていた。そしてチトーが死に剥き出しの民族感情が露わになった。その結果また多くの血が流れた。それに周辺国家、そして大国が介入した。これがバルカン半島の歴史であった。ハマーンもそれを知っていたのだ。
「厄介なことになるな」
「はい。既にドレイク軍の一部隊が駐留をはじめております」
「一部隊が」
「ドレイク軍の中にも色々とあるようでして」
 情報部の男は話を続ける。
「ドレイク=ルフトとクの国の国王であるビショット=ハッタ、そしてかって地上にいたショット=ウェポンの三人に分かれているようなのです」
「派閥争いというわけか」
「言い換えると権力闘争になります。そしてティターンズとも水面下では何かと鍔迫り合いがあるようです」
「当然だな。所詮は同床異夢は」
 ハマーンは一言で済ませた。
「ティターンズとてジュピトリアンやクロスボーン=バンガードを抱えている。決して一枚岩ではない」
「はい」
「我等とて同じだがな。火星の後継者達と組んでいる」
「ですな。結局は同じかと」
「だがそれもまた政治だ。利害の為ならば誰とでも手を組むのがな」
 ハマーンはまたしても言い捨てた。
「何処も同じだ。そうした意味ではな」
「はい」
「だがティターンズとドレイク軍のそれは覚えておこう。何かに使える」
「調略ですか」
「考えてはいる。特にシロッコだ」
「かってジュピトリアン、そしてバルマーにいたあの男ですか」
「そうだ。何かに使えるかも知れん。引き続き彼等への情報収集を続けてくれ」
「わかりました。それでは」
「うむ、頼む」
 こうしてティターンズ及びネオ=ジオンへの話は終わった。だが話はそれで終わりではなかった。ハマーンは今度は参謀達に顔を向けた。
「ミネバ様はどうされているか」
 彼女は問うた。
「はっ、既にダカールを離れられこちらに向かっておられます」
「御無事なのだな」
「オウギュスト=ギダンも一緒です。心配はありません」
「そうか。ならいい」
 ハマーンはそれを聞いてまずは安心した。だが言葉は続けた。
「オウギュストに伝えよ。マシュマーの部隊と合流せよとな」
「マシュマーの部隊と」
「そうだ。そしてミネバ様をマシュマーに任せて自身はグレミーの部隊に入るように言え。よいな」
「グレミーの部隊に」
 参謀達はそれを聞いて眉を顰めさせた。
「何故その様な複雑な動きを」
「グレミーには気をつけよ」
 ハマーンは彼等に対してこう言った。
「あの男、何を考えているかわからぬ。それに野心も感じる」
「野心も」
「そうだ。だからこそだ。そしてオウギュストに伝えよ」
 彼女は言葉を続ける。
「若しグレミーに不穏な動きが見られたならば」
「見られたならば」
「消せ。よいな」
「・・・・・・はい」
 参謀達はハマーンのその冷徹な言葉に戦慄すら覚えた。だが何とか平静を保ちそれに頷いた。
「わかりました。それでは」
「ミネバ様が戻られたならば私が迎えに行こう」
 今度はミネバに関して言った。
「ミネバ様には申し訳ないことをした。謝らねばならん」
「ですが」
「ミネバ様に何かある危険もあった。それを承知で作戦を立てたのだ。その罪は私にある」
 ハマーンは毅然として言った。
「御許しになられずともな。謝罪はしなければならぬのだ」
「左様ですか」
「よいな。ではそれまではここで待機」
「はっ」
「破損した艦艇及びモビルスーツの修理に務めよ。戦いはまた行われるぞ」
「わかりました」
「それまでは力を蓄えよ。そしてまた動くぞ」
「了解」
 ネオ=ジオンもまた次の動きに備えていた。戦いは終わったがそれは完全な終わりではなかった。次の戦いへの単なる息抜きに過ぎなかったのであった。


第六十三話   完

  
                                       2005・12・27




Number Pass

ThinkPadを買おう!
レンタカーの回送ドライバー
【広告】AMAZONからG.W.に向けてスマイルセール!4月22日まで開催
無料で掲示板を作ろう   情報の外部送信について
この掲示板をサポートする このページを通報する 管理人へ連絡
SYSTEM BY せっかく掲示板