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[341] 題名:第六十二話 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年06月10日 (土) 01時14分

           ダカールの攻防
 ダカールへ踵を返すロンド=ベルとダカールに向かうネオ=ジオン。両者は全速力で街に向かっていた。これは双方共同じであった。
「彼等は今何処にいるか」
 ハマーンはグワダンの艦橋で部下達にこう問うた。
「もうすぐダカールに着くそうです。そして街の東側に布陣するようです」
「そうか、予想通りだな」
 ハマーンはそれを聞いてこう呟いた。
「ならば。わかっておろうな」
「はい」
「もうすぐ火星の後継者達も到着する。彼等と連動して我等はそのまま東側から攻撃に入る」
「はい」
「これでダカールの守りは他の部分が手薄になる。そこを衝くぞ」
「わかりました。それでは」
「そして連邦軍は何処にいるか」
「街の北及び西に展開しているようです」
「そうか」
 これもまたハマーンの読み通りであった。彼女はそれを聞いて満足したように微笑んだ。
「そちらにはマシュマーとグレミーの部隊が向かっているな」
「はい」
「我等は三方から攻撃を仕掛ける。だがそれだけではない」
 そしてこう言った。
「南からもだ。連邦はどうやら一年戦争の時の我等の作戦を忘れれているようだな」
「どうやらそのようで」
「海を制する者が地球を制する」
 かって大英帝国がそう豪語したことであった。
「それを今また思い出させてくれる。地球に閉じ篭もっている者達には」
「それでは」
「この戦い、裏を衝いた方の勝ちだ」
 ハマーンはまた言った。
「そして裏を衝くのは我々だ。よいな」
「はっ」
 ネオ=ジオンはダカール攻略に策を講じていた。それはまるで竜の顎の様にダカールという街を捉えようとしていた。

 ロンド=ベルはそれも知らず一路ダカールに向かっていた。彼等はただダカールだけを目指していた。
「敵は北と東からダカールに向かっています」
 ルリが報告する。
「その数はかなりのものです。そして宇宙からもエネルギー反応がありました」
「火星の後継者ね」
「おそらく」
 ユリカの問いに答える。
「どうしますか」
「決まってるじゃない。やっつけちゃいます」
 ユリカは一言で終わらせた。
「放っておいたら大変なことになりますから」
「わかりました」
「街の東と西は連邦軍正規軍が守りを固めています」
「御父様ね」
「はい。そしてキングビアルも。神ファミリーも参戦しています」
「あの人達も頑張ってるんですね」
「頑張ってるどころか主力ですよ」
 メグミは付け加えた。
「キングビアルがないと今までダカールを守りきるなんてできませんでしたから」
「じっちゃんも頑張ってるんだな」
「そうですね。だから勝平君も頑張って下さいね」
「へへっ、わかってらあ」
「あとは調子に乗らないで」
「ちぇっ、メグミさんも案外きついなあ」
「そうでしょうか」
「大人しい顔して。何か傷ついたぜ」
「何言ってやがる、何言われても平気な癖してよ」
 サブロウタがそれを聞いて話に入ってきた。
「御前さんとリュウセイはちょっとやそっとじゃへこたれねえだろ。そんな臭い演技は止めた方がいいぜ」
「ちぇっ、サブロウタさんまで」
「へこたれるのなんて俺が許さねからな。俺の歌でネオ=ジオンだろうが火星の後継者だろうが黙らせてやるぜ!」
「バサラさん、歌で人が黙るのですか」
「当然だ!」
 ルリのクールは質問も彼には効果がなかった。
「俺の歌は万人が感動するんだよ!それでハマーンだろうが草壁のおっさんだろうが感動させて何もできなくさせてやるぜ!」
「けれど火星の後継者は機械ですい」
「機械が何だってんだ!」
「わあ、相変わらず凄いこと言ってますねえ」
「ここまで凄いと何も言えないわね」
 メグミもハルカも呆れていた。ハルカはまた目を閉じ困った様な顔で笑っていた。
「機械でもですか」
「そうだ!」
 ルリの問いにまた答えた。
「動くものは何でも動けなくしてやる!俺の歌に敵はいねえんだよ!」
「何無茶苦茶言ってるのよ」
 そこにミレーヌの突込みが入る。
「機械に音楽がわかる筈ないでしょう」
「そんなことはねえよ」
 しかしバサラはそれを聞き入れようとはしない。
「機械だろうが異星人だろうが俺の歌の前には勝てはしねえよ」
「自信があるのですね」
 ルリはここでピントがずれたような問いをした。
「言うまでもねえだろ」
 それに対するバサラの返答はいつもの通りであった。
「やってやるぜ俺はよお、宇宙を俺の歌で平和にしてやる」
「そんなことできるわけないでしょ」
「頑張って下さいね」
 ミレーヌとルリはそれぞれ全く違う受け答えをした。
「バサラさん、期待していますよ」
「そうかい、ルリちゃんは俺の歌を聴きたいのか」
「それで戦いが終わるのなら。そしてバサラさんにはその力があります」
「そら見ろ。ルリちゃんがお世辞なんて言うか!?」
「ルリさん、こんな馬鹿を持ち上げちゃ駄目ですよ」
「誰が馬鹿だ、誰が!」
「あんた以外に誰がいるってのよ!」
「何かファイアーボンバーは相変わらずねえ」
「血気盛んな年頃なんだろ」
 レミーとキリーはそれを聞きながら話をしていた。
「俺達もかってはああだったな」
「というと真吾にも若い頃があったのね」
「おい、それはあんまりだろう」
 真吾はレミーの言葉に苦笑いを浮かべた。
「俺だってまだ若いんだぞ。少なくともアムロ中佐よりはな」
「あら、そうだったの」
「何か老成してるって感じがするがね」
「声のせいかな」
「まあそれもあるわね」
「俺達も人のこと言えないけれど」
「この前ブライト艦長や万丈君の真似やったらそっくりだったしな」
「そういえばあたしもキシリア=ザビの真似やったら受けたし」
「老けて見られるってことかね、俺達は」
「損な話ね、どうも」
「まあグッドサンダーはそうしたチームだから」
「どういうチームなのよ、それって」
「老けた若年寄のチームってことさ。まあそれはそれでいいさ」
「花も恥らう乙女がそんなのじゃ」
「恋の一つもしたいってね」
「キリーはもててたんじゃないのか?」
「ブロンクスには女は寄り付かないさ」
「そうは言っても実は違うんじゃないの?」
「だったら今度試しに付き合ってみるかい?」
「生憎本物のレディーは安くはないわよ」
「おやおや」
「ダカールに到着しました」
 きりのいいところでルリから報告が入った。
「おや、遂に」
「あっという間だったけれどね」
 それでもグッドサンダーチームはいつもの調子であった。
「東側から敵接近。そして宇宙からも来ます」
「空挺作戦ということだな」
 ブライトがそれを聞いて呟いた。
「ホシノ少佐、敵の数は」
「宇宙に五百」
「地上には」
「モビルスーツ部隊が六百、そして戦艦が数十隻です」
「多いな」
「それだけ敵も必死ということでしょう」
「それでもまた数的にはロシアでティターンズと戦った時よりはましだな」
「ましなのかしら、それって」
 大介の呟きにエクセレンが突っ込みを入れる。
「まずは全軍戦闘配置につけ」
「了解」
「そして敵を迎撃する。何としてもダカールに入れるな」
「わかりました。それでは」
 ロンド=ベルも戦闘配置についた。ダカールの丁度前で布陣する。
「いいか、敵を一兵たりともダカールには入れるな」
 再びブライトの指示が下る。
「その時点で我等は負けだ。ネオ=ジオンを寄せ付けるな!」
「口で言うのは簡単だけれどねえ」
 デュオはそれを聞きながら軽く呟いた。
「実際にやるのはこりゃ難しいぜ」
「だがやれないことはない」
 トロワは冷静に述べた。
「こちらが間違えなければな」
「つまり俺達の問題ということか」
「そういうことになりますね」
 カトルがウーヒェイに答えた。
「今まで僕達は常に劣勢の中で戦ってきましたし」
「いつもと変わらないと思っていいのか」
「そう思えば少なくとも気は楽になる」
 ウーヒェイの言葉に今度はヒイロが答えた。
「戦いとは。気の持ちようだ」
「そういうことだ。落ち着いていけば問題はない」
 ノインも言った。
「敵の数、決して多くはない」
「おい、ノインさん」
 そこにリョーコが入ってきた。
「そりゃあんたみたいな綺麗な人が言う台詞じゃないぜ」
「そうなのか」
「それはゴツイおっさんが言う言葉だよ」
「やらせはせん、やらせはせんぞ!とかですよね」
「よく知ってるな、ヒカル」
「漫画のネタになりますから」
「では何と言えばいいのだ?」
「それはまあ。敵の数に負けるな、とかじゃねえのかな」
 そこまでは深く考えてはいなかった。リョーコの言葉は急に弱くなった。
「他にもあんのかも知れねえけどよ」
「どれがいいかな」
「数に負けるな!はどうでしょうか」
「そりゃおめえの描いているスポ根漫画の台詞だろ」
「あっ、そうでした」
「ったくよお、やっぱりノインさんはクールでビシッとした声じゃねえとな。決まらないんだよ」
「何かやけに私のことを気にかけてくれるな」
「何かな。放っておけないんだよ」
「リョーコさんって口や態度はあれですけれどすっごく優しいんですよ」
「おい、褒めたって何も出ねえぜ」
 そう返しながらも頬を赤らめさせている。
「あたしはケチだからな」
「はいはい」
「まあビシッとやってくれりゃいいから」
「わかった」
 ノインはそれに頷いた。
「ではそうさせてもらおう」
「おうよ。ところでな」
「何だ」
「ミリアルドさんのこと。頑張れよな」
「有り難う」
 それを聞いてすっと微笑んだ。
「ではそうさせてもらう」
「まあそういうことだ。じゃあ戦いに向かうぜ」
「了解!」
「美味しく頂きま〜〜〜す」
 イズミもやって来た。そして遅れてジュンも。エステバリスチームもナデシコと共に前線に出て来たのである。
「やっぱり戦いは前に出ないとな!」
 ダイゴウジが叫ぶ。
「収まらん!今まで護衛ばかりでイライラしていたところだ!」
「その割には派手に暴れていたな」
 ナガレがそれに突っ込む。
「俺の気のせいか」
「気のせいじゃなくてその通りだよ」
 いつものようにサブロウタがそれに合わせる。
「ヤマダさん。無茶すっからなあ」
「ヤマダではない。ダイゴウジだ!」
 そしてダイゴウジもいつもと変わりがなかった。
「俺の名はダイゴウジ=ガイだ!何度言えばわかる!」
「じゃあダイゴウジさん」
 たまりかねたサブロウタが言う。
「何だ」
「今回は大人しくやってくれるんでしょうね」
「フッ、笑止!」
「笑止って」
「つまりいつもと変わりがないということか」
「それが俺の戦闘スタイルだ!突撃、格闘、熱血、撃破!それが俺の戦い方だ!」
「エステバリスの特性とは少し違うな」
「まあそれでも戦えるんだけれどね」
「アキト、御前はどうだ!」
 ダイゴウジはアキトに話を振ってきた。
「あっ、俺ですか」
「そうだ。貴様の戦闘スタイルは何だ!熱血か!」
「そう言われましても」
 アキトは少し戸惑っていた。
「まあゲキガンガーみたいにはやりたいですけれど」
「では熱血だな!」
「はあ、まあ」 
 戸惑いながらも答える。
「ならばいい!男は熱血だ!」
「いいこと言うじゃん、ダイゴウジさん!」
 それにリュウセイが乗ってきた。
「おお、ダテ!」
「やっぱり男は熱くなくちゃな!派手にガーンと!」
「そう、派手にガーンと!」
「あんなこと言ってるぞ、サブロウタ」
「声が似てると複雑な気分だね、こりゃ」
 サブロウタはリュウセイとダイゴウジのやりとりを聞きながら苦笑していた。
「あんたはキャラ被っていていいけれどな」
「まあな」 
 ナガレはサブロウタの言葉に頷いた。
「それじゃあ今回も派手にやろうぜ!」
「そのうち合体を見せてくれよな!」
「おう、任せとけ!」
 リュウセイとダイゴウジは相変わらず熱い世界に入っていた。そして話を続ける。だがそれは中断されてしまった。
「ヤマダさん、ダテさん」
 ルリの声が通信に入ってきた。
「ダイゴウジだ!」
「敵が出現します」
 ルリはダイゴウジに構わず言う。
「何と」
「ってさっきから言われてることじゃないか」
「人の話は聞いて欲しいな、いつもながら」
「ええい、黙れ黙れ!」
 サブロウタとナガレの突込みをかわす。
「そして敵は!?ネオ=ジオンは前からだな」
「はい。そして火星の後継者達が今来ました」
「上から」
「そうです。今出ます」
 それと同時に彼等の前に木星トカゲ達が姿を現わした。かなりの数であった。
「来た!」
「彼等だけではありません」
 ルリの言葉が続く。
「ネオ=ジオンも。来ました」
 その声に従うかのようにネオ=ジオンも姿を現わした。彼等は数十隻の戦艦の前にモビルスーツ部隊を展開させてきていた。明らかに戦う気であった。
「決戦を挑むつもりだな」
「シャア、やはりいるな」
 グワダンの艦橋から声がした。ハマーンがそこにいたのだ。
「ハマーン、あくまでジオンの亡霊に従い続けるか」
「言え。どうせ貴様にはわからぬことだ」
 ハマーンは不敵に笑ってそれに返した。
「貴様にはな」
「言ってくれるな」
 思わせぶりに言ったハマーンに対してクワトロも返した。この時一瞬であるが彼はクワトロ=バジーナではなくシャア=アズナブルとなっていた。
「だが今は貴様と話している時間はない。全軍攻撃開始」
「はっ」
 ネオ=ジオンはそれを受けて攻撃態勢に入った。
「ダカールに突入する。よいな」
「やはり来るか」
 アムロがそれを聞いて呟く。
「皆、わかってるな」
「はい」
 シーブックがそれに応える。
「全軍守りを固めろ。何としても守り抜くぞ」
「守るのかよ。何か性に合わねえなあ」
「そうぼやくな、ジュドー」
 カミーユが彼を窘める。
「これもまた戦いの一つだからな」
「わかってますよ。カミーユさんは細かいなあ」
「君がまた大雑把過ぎるんだよ」
 カミーユは困った様な顔をして返した。
「そんなのだと周りが困るぞ」
「それはカミーユも気をつけなさいよ」
 ファが言った。
「俺もか」
「意外と乱暴なんだから。フォローするのが大変よ」
「済まない」
「まあそれがカミーユの持ち味だけれどね。それは覚悟のうえだし」
「悪いな、いつも」
「そのかわり後でコーヒーを頂戴ね。クリームをたっぷり入れたのを」
「了解」
「チョコレートケーキもつけて。いいかしら」
「何だよ、またケーキか」
「ファも好きね」
 フォウがそれを聞いて微笑む。
「そう言うフォウだってこの前ケーキ美味しそうに食べてたじゃない。人参のケーキ」
「セシリーちゃんの作ったのね。彼女ケーキも上手なのよ」
「まあパンと似た様なところもあるけれど。美味しかった?」
「ええ、とても」
 フォウはそれに頷いた。
「美味しかったわ。今度ファも食べてみればいいわ」
「今度ね。今はチョコレートケーキが」
「コーヒーにチョコレートって腹が黒くなるぞ」
「いいのよ、どうせカミーユみたいな我が侭なのと一緒にいるんだから」
「俺は我が侭か」
「自分の胸に聞いてみなさい。困ってるんだから」
「ちぇっ」
「話はそれで終わりね」
 まとめるようにしてエマが言った。
「エマさん」
「来たわよ。用意はいい?」
 エマはそう言いながら前に出て来た。そしてビームライフルを構える。
「はい」
 カミーユ達もそれに頷いた。そして前に出る。
 攻撃に移る。まずはエマがビームを放つ。
「前に出るから!」
 ガザCが一機撃墜された。ビームで貫かれ爆発四散する。それが戦いの合図となった。
 ネオ=ジオン、そして火星の後継者達とロンド=ベルのダカールを巡る攻防がはじまった。ロンド=ベルはダカールの前で陣を敷き突撃して来る敵軍を迎え撃っていた。
 敵は数を頼りに来る。しかしそれに対してロンド=ベルは的確な動きでそれを防ぐ。数をものとはしなかった。
「やるな、やはり」
 ハマーンはグワダンの艦橋で敵の動きを見ながらこう呟いた。
「やはりあちらに兵を向けておいて正解だったな」
「はい」
 周りの部下達がそれに頷く。
「ミネバ様もな。本来はこのようなことはしたくはなかったのだが」
「これも作戦ですな」
「オウギュスト達なら信頼できますが」
「それもそうだな」
 それには頷くことにした。
「我等の攻撃は陸と空からだけではない。それを思い知らせてやる」
「はっ」
 部下達はまた頷いた。
「それでは引き続き攻撃に移りましょう」
「そうだな。引き続き攻撃に取り掛かれ。よいな」
「了解」
 ネオ=ジオンの攻撃は続いた。彼等はあくまでもその数を背景に攻撃を続ける。時として回り込み、時としては離れ。ハマーンもまたその用兵を見せていた。
「木星トカゲはともかくネオ=ジオンの動きはいいな」
 ブライトもそれに気付いていた。
「敵の前線指揮官は誰だ」
「キャラ=スーンとイリア=パゾム、それにラカン=ダカランです」
 トーレスがそれに答える。
「ゲーマルクとリゲルグ、それにドーベンウルフが確認されています」
「彼等がか」
「はい。ですが全体的な指揮はハマーンが執っているようです」
「だからか。この動きは」
 ブライトはそれを聞いて納得した。
「では我々も警戒しなくてはならないな。アムロとクワトロ大尉に伝えてくれ」
「はい」
「細かい指揮は頼むと。私とグローバル艦長はあくまで艦隊の指揮に徹するとな」
「わかりました。それではそう連絡します」
「頼むぞ。細かいところまでやらないとこれは勝てない」
 ブライトは歴戦の勘からそう判断した。彼も伊達に多くの戦いを潜り抜けてきたわけではないのだ。
「あの二人、そしてバニング大尉、フォッカー少佐に細かい部分は任せたい」
「わかりました。それでは」
「頼むぞ。しかしハマーン=カーン」
 ブライトは呟いた。
「やってくれるな、何処までも」
 戦いは激しさを増していた。ネオ=ジオンは巧みな攻撃を仕掛け続ける。だがロンド=ベルは基本的に動じずそのまま守りを固めていたのであった。
「キュベレイは出ないのか!?」
 その中カミーユはあることに気付いた。
「これはどういうことなんだ」
「どうやら後方で全体の指揮に専念しているようね」
 エマがそれに応えた。
「全体の指揮に」
「少なくとも今は彼女が戦場に出る時じゃないってことよ」
「そうなんですか」
「ええ。それよりも今は敵を防ぐことを考えましょう」
「はい」
「ダカールに入れてはならないのは変わらないから。いいわね」
「わかりました。それじゃあ」
 カミーユのゼータツーからメガランチャーが放たれた。
「いっけえええええええええええええ!!」
 それで敵のエンドラを一隻撃沈する。戦いは遂にネオ=ジオンの後方に控える戦艦達にまで及んでいた。
「クッ、一撃かい!」
 キャラがそれを見て呻く。
「やってくれるねえ、坊や達」
「何時までもおばさんに遅れをとっているわけにはいかないんだよ!」
「言ってくれるね、ジュドー!」
 キッとジュドーを見返す。
「あたしだってまだ花の二十代なんだよ!」
「あっ、そういえばそうだった」
「ハマーン様なんて二十一歳だよ!」
「ううむ、とてもそうは見えねえなあ」
「けれどあたし達から見れば立派なおばさんだよね」
 プルが無邪気な声で言う。
「それを言うと後が怖いぞ、プル」
「だって本当のことだもん。や〜〜いおばさん」
「どうやらあんた達、死にたいらしいねえ」
 キャラはこめかみをヒクヒクとさせながら言った。
「まずはあんた達からやってあげるよ!このあたしの燃えるビートでね!」
「何かバサラさんみたいなこと言うなあ」
「面白いねえ。じゃああたしもファイアーボンバーみたいに派手にやってやろうかい!」
「あんたも若かしてファンか?」
「だったらどうしたっていうんだい?」
「・・・・・・いや、だったらいいんだけどよ」
 ジュドーは少し口篭った。
「まあ、元気でやってくれ」
「!?よくわかんないけれどやってやるよ!」
 そう言いながらファンネルを繰り出してきた。
「死になっ!」
「死ねって言われて」
「そう簡単に死ぬ奴なんていないんだよっ!」
「ファンネル!」
「あたし達だって持ってるんだよ!」
 プルとプルツーが返す。そしてキュベレイのファンネルでゲーマルクのファンネルを全て撃ち落してしまった。
「チッ、ファンネルをかい」
 キャラはそれを確認してまた舌打ちをした。
「じゃあ次の手段があるさ」
「二人共気をつけろ」
 ジュドーはプルとプルツーに対して言った。
「ゲーマルクはとにかく武装が多いからな。厄介だぞ」
「そんなのもう知ってるもん」
「伊達に前の戦争を生き抜いてきたわけじゃないよ」
「じゃあ大丈夫なんだな」
「任せて」
「それよりジュドーも自分の身は自分で守れよ」
「へッ、プルツーは相変わらずだな」
「そうじゃなきゃ気分が悪いだろ?」
 プルツーは笑いながらそう言葉を返した。
「あたしがプルみたいだと」
「いや、見分けつきにくいから」
「おや、面白いこと言ってくれるね」
「あまり変わりはねえと思うぜ。それじゃまあ話を最初に戻して」
「やるよ!」
「ジュドーも気をつけろよ!」
「言われなくたってわかってらあ!」
「アッハハハハハハハハハハハハハ!」
 キャラは高笑いを浮かべながら攻撃に入った。
「死ぬんだよ、ここで!」
 ゲーマルクの全身からビームを放つ。ゲーマルクの重武装を生かした効果的な攻撃であった。
「チッ!」
 だがジュドーとプル達はそのビームを的確な動きで全てかわした。左右に動き、そして舞う。とりわけプルとプルツーのキュベレイの動きは華麗であった。
「こんなモン!」
「あたし達には通用しないよ!」
「じゃあもう一回やってやるさ!」
 キャラは完全に戦いに酔っていた。
「このゲーマルクに勝てる奴なんていやしないんだよ!」
 三人とゲーマルクの戦いは続く。その横ではガンダムチームとラカン率いるドーベンウルフ隊の戦闘が繰り広げられていた。ガンダムとネオ=ジオンの誇る重モビルスーツ達の死闘であった。
「ネオ=ジオンのモビルスーツはやけに重装備だな」
 シナプスがそれを見て呟いた。
「あそこまで重装備のモビルスーツを前線に投入して来るとはな」
「だが数はそれ程ではありません」
 パサロフがそれに答えた。
「見たところ。一機一機の性能は高いですが量産性には劣っているようです」
「どうやらその様だな」
 シナプスもそれに頷いた。
「ザクVにしろ数が少ない」
「はい」
「ネオ=ジオンの弱点か。数の問題は」
「だからこそ重装備のモビルスーツを開発したのだと思われます」
 ジャクリーヌも話に入って来た。
「数の分を質で補う為に」
「ふむ」
「おそらくこれからも重装備のモビルスーツを戦場に投入してくるでしょう。サイコガンダムマークUやクイン=マンサといった
ものを」
「ネオ=ジオンも必死というわけだな」
「はい。今は戦線に投入して来てはいませんが」
「いずれは来るだろうな。その時は用心しておくか」
「はい」
「だが今投入して来ないのは。引っ掛かるな」
「整備の問題でしょうか」
「他に何かあるかも知れん」
「それは一体」
「まだわからないが。嫌な予感がする」
 シナプスは歴戦の勘からそれを感じ取っていた。
「ネオ=ジオンは奇襲を好む。今回もそうだった」
「はい」
 この迂回戦術のことを言っているのである。
「まだ何かやって来るかも知れない。警戒は続けよ」
「了解」
 戦いは続いていた。だが次第にマシン及びパイロットの質で遥かに優位に立つロンド=ベルが優勢となってきていた。木星トカゲはその殆どが姿を消し、ネオ=ジオンのモビルスーツ隊もかなりのダメージを受けていた。
「ハマーン様」
 ここでランス=ギーレンが申し出て来た。彼はガズアルで出撃していたが戻って来ていたのである。
「もう潮時かと思いますが」
「そうだな」
 ハマーンもそれに頷いた。
「では随時戦場から退いていく」
「ハッ」
「後は・・・・・・彼等がやってくれるな」
「はい」
 ランスは不敵に笑うハマーンに対して応えた。
「では撤退だ」
「了解」
「すぐには下がるな。敵に知られてはまずい」
「わかりました」
 こうしてネオ=ジオンは少しずつ戦勝から退いていった。それはあまりにも少しずつであったのでさしものロンド=ベルの者達も気付かなかった。只一人を除いて。
「これは」
 セレーナであった。前線でゼータに乗って戦う彼女はネオ=ジオンの動きに不審なものを感じていたのだ。
「ブライト大佐」 
 彼女はすぐにラー=カイラムに通信を入れた。するとすぐにブライトがモニターに出て来た。
「どうした」
「ネオ=ジオンの策にかかりました」
「策に」
「はい。彼等は今この東と北、そして西から攻撃を仕掛けていますね」
「ああ」
「ですが南は。今そちらへの備えはありますか」
「そういえば」
 ブライトもそう言われハッとした。
「だがあそこは海だ。まさかとは思うが」
「そのまさかです。ネオ=ジオンにはジオンの残党も協力しています」
「うむ」
「その中には潜水艦部隊もあります。ジオンの水中モビルスーツ部隊もです」
「彼等がか」
 かってキシリアの配下として暴れ回った者達であった。クワトロもシャア=アズナブルであった頃ジオンの水陸両用モビルスーツであるズゴッグに乗っていたことがある。そしてそれで連邦軍の本拠地であるジャブローに大々的な強襲を仕掛けたこともある。
「彼等がネオ=ジオンと協力しているとなると。恐ろしいことになります」
「ううむ」
 ブライトはそれを受けて考え込んだ。チラリと敵の動きを見る。
「確かにな」
 彼もここで敵の動きがわかった。
「どうやら撤退に移るようだ。この戦いで撤退するとなると」
「撤退できる状況にある、ということですから」
「そうだな。ではダカールに対して第二の奇襲の可能性がある」
「はい」
「わかった。ではすぐに足の速い部隊を数機ダカールの港に向かわせよう。気付かれぬようにな」
「わかりました。それでは」
「うむ」
 こうして数機ダカールの港に向けられた。だが主力は尚もこの戦場に釘付けとなってしまっていた。
「どうやら敵は我等の意図に気付いたようですな」
「その様だな」
 ハマーンは今度はニー=ギーレンの言葉に頷いた。彼もまたグワダンに戻っていたのだ。
「どうされますか」
「だからといって行かせるわけにはいかん。攻撃を続けよ」
「ハッ」
「そしてここから動かせるな。奴等が行けば我等の作戦は失敗に終わる」
「はい」
「既にサイは投げられた。後は作戦を成功させるだけだ。そしてその為には」
「ここで彼等を引き留める」
「うむ」
 こうしてネオ=ジオンは撤退を進めながらも攻撃に入っていった。戦いは更に熾烈なものとなっていた。
「クッ、しつこい!」
「また木星トカゲが来ました!」
 メグミの声が響く。するとそれに呼応するかの様に木星トカゲ達が姿を現わす。そしてロンド=ベルの動きを妨げる。
「ネオ=ジオンのモビルスーツも反転してきました!」
「またか!」
「中にはそのまま突っ込んで来る者達もいます!」
「クッ!」
 戦場に苦渋の声が聞こえた。それが誰のものであったのかはわからない。
 だがそれがロンド=ベルの今の声であった。彼等は勝ちながらも焦りを感じていた。
「このままでは」
「ダカールが・・・・・・」
 その焦りは逆にネオ=ジオンにとっては喜びであった。それこそが彼等の目的が達成されようとしていることの何よりの証であるからだ。
「もうすぐだな」
 ハマーンはグワダンの艦橋で会心の笑みを浮かべていた。
「ジオンの大義が現実のものとなる時は」
「はい」
 部下達もそれに頷く。
「いよいよです」
「ミネバ様もお喜びだろう」
 ダカールを見ながら呟く。
「このハマーン、ミネバ様の為なら鬼でもなろう」
 そう呟いた。戦いは尚も続いていた。

第六十二話   完


                                    2005・12・22


[340] 題名:第六十話 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年06月10日 (土) 01時09分

           砂漠の狼
 地上に降下したロンド=ベルはダカールを拠点としてネオ=ジオンに備えていた。既にネオ=ジオンもその主力をカイロに置いており南下に取り掛かろうとしていた。ロンド=ベルはそれを受けてサハラ砂漠に展開して彼等を待ち受けていたのであった。
「敵はどういったルートで来るでしょうかね」
「一番の近道は砂漠の通過だな」
 グローバルは早瀬のその問いに対して答えた。
「それは君も予測していることではないのか」
「はい。ですから今こうしてサハラ砂漠に展開しております」
「ふむ」
「四隻の戦艦により。これならばネオ=ジオンといえどもそうおいそれとは対抗できはしないでしょう」
「だが彼等はそれだけではない」
 グローバルはまた言った。
「彼等は。ジオンの残党も抱き込んでいるのだぞ」
「それはわかっています」
「ならば。数のうえでは油断はできないな」
「ですが彼等は旧式機ばかりです」
 クローディアがここで言った。
「あまり脅威に感じる必要はないと思いますが」
「クローディア君、戦いはマシンだけでするものではない」
 グローバルは彼女に対しても言った。
「例え一年戦争の頃のマシンだとしても。乗っている者が優秀ならば違うのだ」
「はあ」
「フォッカー少佐達のバルキリーも。新型機が出ていてもまだ第一線だな」
「はい」
「それと同じだ。要は乗る者だということだよ」
「ではジオンの残党はかなりの脅威だと思われるのですか」
「その通りだよ」
 彼は言った。
「だからこそ。気をつけてくれ給えよ」
「わかりました」
「ところでラ=ギアスに向かった彼等はどうしているかな」
「それは」
 そこまでは流石に知りようがなかった。
「無事だとは思いますが」
「だといいがな。我々も宇宙での戦いが終わったのだ。彼等もそろそろだと思うがね」
「はい」
「エネルギー反応です」
 ここでキムから報告が入った。
「エネルギー反応」
「はい。巨大な質量のものが三つ。こちらに実体化してきております」
「巨大なものが三つ」
「まさか」
「いや、そのまさかかも知れないぞ」
 グローバルは早瀬とクローディアに対して言う。
「どうやら彼等も無事だったみたいだな」
「はい」
 実体化したものは彼等が期待したものであった。今ここにロンド=ベルは無事再び合流したのであった。
 彼等は七隻になりそのままサハラに展開していた。既に砂漠にマシンを投入し敵に備えていた。
「砂漠での戦いも久し振りだな」
 アムロが笑いながら言う。彼はニューガンダムで出撃していた。
「一年戦争の時を思い出す」
「ああ、あの時か」
 ブライトもそれに応える。
「あの時は。苦労したものだ」
「俺も御前も。お互い若かったな」
「そうだな。リュウ中尉やセイラさんがいてくれたおかげで助かった」
「リュウさんか。元気でやっているかな」
「ヘンケン艦長の部隊で元気にやっているそうだ」
「そうか。また会う機会があったら酒を飲み交わしたいな」
「その時は私も呼んでくれよ」
「ああ、わかった」
「けどダカールを空にしていいのかね」
 ふと勝平が呟く。
「オールスターってのはいいけどさ。ダカールに誰もいねえってのはまずいんじゃねえかな」
「おい、何言ってるんだ」
 宇宙太がそれを聞いて呆れたように言葉を返した。
「ダカールにもちゃんといるだろうが」
「誰がだよ」
「キング=ビアルがいるでしょ。もう、自分の家族がいるのに忘れちゃったの?」
「おっと、そうだったか。そういえばそうだったんだな」
「この馬鹿は」
「何でこう何でもかんでも忘れちゃうのよ」
「俺は戦いだけにしか興味ねえからな」
 勝平はこう言って開き直ってきた。
「だからそんな些細なことは忘れちまうんだよ」
「そんな能天気なことで今まで良く生きてこられたな」
「本当。今回ばかりは呆れたわ」
「ははは、気にしない気にしない」
「それにあそこには連邦軍の主力もいるしね」
「そうだったんだ」
 勝平は万丈の言葉に顔を向けさせた。
「そうさ。ミスマル司令が指揮をとってね」
「ああ、あの面白いおっちゃんか」
「ははは、おっちゃんか」
「何かなあ、あの人すぐ顔が変わるしなあ」
「まあそうだね」
「普段は滅茶苦茶おっかなそうな顔してんのにミスマル艦長を前にしたら急に変わっちゃうんだもんなあ」
「ははは、それだけ娘さんが可愛いってことさ」
「そうなんだ」
「あたしなんかお父さんやお母さんにあそこまで可愛がられたことはないけどね」
「いや、恵子ちゃんも大事にされてきたよ」
「そうかしら」
「君が気付いていないだけでね。可愛がられてきたんだ」
「だったらいいけれど」
「普通の親はね、そうなんだ」
 万丈の顔が変わった。
「間違っても自分の子供を犠牲にしたりはしない。絶対に」
 その顔が曇った。しかしそれは一瞬のことであった。
「試しにナデシコの艦橋を覗いてみようか」
「ナデシコの」
「そうさ。きっと今頃ミスマル司令がおいおいとやってるよ」
「何か面白そうだな」
「悪趣味な気もするけれどな」
「まあ固いことは言わないで。それじゃあスイッチオン」
 こうして四人なモニターのスイッチを入れた。すると万丈の予想通りの光景がそこにあった。
「おお〜〜〜〜、ユリカ」
 ミスマル司令は泣きながらユリカに語り掛けていた。
「無事だったか!?宇宙に行くと聞いてお父さんはどれだけ心配したか」
「もう、心配し過ぎよ、御父様ったら」
 だが当の本人はいつものようにあっけらかんとしたものであった。
「火星にいた時と同じなんだから。こんなの平気よ」
「しかしコロニー落としにマスドライバー。おまけにポセイダル軍と戦闘があったそうじゃないか」
「ソロモンの悪夢もいましたけど」
「おお、何と恐ろしい話だ」
「・・・・・・案外普通よね」
 ハルカは目を閉じ苦笑いを浮かべて困ったような顔でエクセレンに対して言った。
「まあね」
 エクセレンも同じような顔で大きな汗をかきながら応えていた。
「ロンド=ベルだと。もっと洒落にならない戦いもあったんでしょう?」
「ロシアでのティターンズとの戦いなんか。十倍の戦力差だったから」
「またワイルドで」
「パイロットもジェリド=メサにヤザン=ゲーブル。ザビーネ=シャルにカテジナ=ルースよ」
「クールなのがあまりいないわねえ、何か」
「大変だったわよ、何かと」
「そうでしょうねえ、そんな顔触れが相手だと」
「で、その時もこんな調子だったんだけれど」
「やっぱりね」
「今度の敵はジオンの残党だよ!?お父さんはどれだけ心配か」
「大丈夫ですって。思い切りやっちゃいますから」
「しかも艦長相変わらずだし」
「こりゃ先が思いやられるわ」
「そろそろ新型艦も届くんですよね」
「うむ」
 メグミの言葉を聞くと急に元の厳しい顔に戻った。
「その通りだ。今度就航するナデシコCはもうダカールに向けて送られている」
「ジャブローからですか」
「そう。ネルガル重工が気を利かしてくれてね。有り難いことだ」
「それじゃあダカールでの戦いが終わったら乗り換えますね」
「うんうん、だから何時でもダカールに戻っておいで。お父さんは本当にユリカのことが心配で心配で」
「・・・・・・人の顔って本当に一瞬で変わるのね」
「まあ私達も結構表情豊かだけれどね」
「声が似ている人達の中にはそうでない人達もいるにはいるけれどね」
「まあそれは言わない約束で」
 この時宇宙にいるサラとラー=カイラムにいるエマがクシャミをしたのはあまり知られてはいない。
「とりあえず司令」
「何だね、シナプス大佐」
 また元の顔に戻った。
「まずはダカールの防衛ですが」
「うむ、それだがね」
「はい」
 真面目な顔のまま話は続けられる。
「実は既に整え終えてはいる」
「はい」
「神ファミリーにも協力してもらってね。既に市街地の外にモビルスーツ部隊を展開させている」
「では万全とみなさせて頂いて宜しいでしょうか」
「だが実はそうもいかない」
「何故」
「我々のモビルスーツの数が足りないのだ。太平洋とジャブロー、そしてヨーロッパ方面に集中させていてね」
「とてもダカールにまで手が回らないということですか」
「恥ずかしい話だが。こればかりはどうにもならなかった」
「仕方ありませんな、それでは」
「神ファミリーに関しても。残念ながら連邦軍内で偏見が根強い」
「おい、何でだよ」
 それを聞いて勝平が話に入ってきた。
「俺達だって地球の為に戦っているんだぜ。それが何で」
「ところが君達の出自を理由にする者達もいるのだ」
 ミスマル司令は沈痛な顔でこう述べた。
「出自って」
「君達がビアル星人だからだ。そして君達がいるせいでガイゾックがやって来たとな。そうした意見もあるのだ」
「馬鹿言ってんじゃねえ、あいつ等が地球に来るのは」
「人間とは愚かな一面もある」
 その声に沈痛さが増していった。
「そう考えられない場合もあるのだ。今はこうした状況だしな」
「クッ・・・・・・」
「君等が地球の為に戦ってくれていることは多くの者がわかっている。しかしわかっていない者もいるのだ」
「あの三輪のおっさんかよ」
「彼もそうだが彼だけではないのだ」
 司令は言った。
「残念なことだ。実に」
「そんな・・・・・・」
 それを聞いてさしもの勝平も黙ってしまった。
「それじゃあ俺達は一体・・・・・・」
「気にすることはないさ」
 だがここで一矢が言った。
「俺も。エリカがそうした目で見られているからな」
「一矢さん」
「けど、俺は負けない、エリカもな」
「・・・・・・あんた、どうしてそんなことが言えるんだよ」
 それを聞いても勝平は言葉を返せなかった。
「あんな状況でどうやって」
「パンドラの箱の話を知っているかい?」
「パンドラの箱」
「そう。ギリシア神話にあるあれさ」
「確か箱を空けたらそこから多くの災厄が出て来るんですよね」
 恵子が問うた。
「そう。だけれど人間の側に残ったものが一つだけあった。それは」
「希望」
 勝平達は同時にそれを呟いた。
「そう、それはどんな災厄にも負けないんだ。だから俺もエリカも負けはしないんだ」
「相変わらず甘いことを言っているな」
 京四郎がそれを聞いて言う。
「京四郎」
「だが。希望を持つのは悪いことじゃない。少なくとも俺は御前のその甘さが好きだ」
「済まない」
「謝る必要はないさ。背中は任せておけ」
「ああ」
「俺もいるしナナもいるしな」
「そういうこと。だから任せてね、お兄ちゃん」
「わかった。俺は常に希望を持っている」
「そういうことなのね、一矢さんが希望を持てるのは」
 恵子は晴れやかな顔で言った。
「そうさ。俺達は一人じゃない。京四郎もナナもいてくれる」
「毎度毎度世話がやけるがな」
「けど。任せてもらっていいわよ」
「何か心強いな」
 宇宙太の声が温かいものになった。
「そうして周りに誰かいてくれるとな」
「俺達にも家族がいるしな」
「頑張っていくわよ」
「よし」
 ザンボットチームも前に出た。ルリはそんな彼等を見て表情を変えずにまずは呟いた。
「いいですね、やっぱり」
「そうね」
 それにレイが応える。
「私にはよくわからないことがまだあるけれど」
「そうなのですか」
「けれど。碇君達と一緒にいるようになって。わかってきたわ」
「それは何よりです」
「貴女も。そうだったみたいね」
「はい。私もナデシコに来るまではそうでした」
 ルリはそれを認めた。
「温かいということが何なのか。知りませんでした?」
「今は知っているのね」
「ええ。ナデシコの皆さんと、そして一矢さんを見ていると」
 そう言いながらモニターに映るダイモスを見ていた。
「わかってきました。少しずつ」
「一矢さんのこと。応援しているのね」
「はい」
 これは一言で言い切った。
「是非共。幸せになって欲しいです」
「そうね」
 レイはその言葉に頷いた。
「私も。そう思うわ」
「レイさんも」
「よくわからないけれど。あそこまで一途になれるのなら」
「いいのですか」
「これからも大変だろうけれど頑張って欲しいわ」
「そうですね」
「あの人達に何かあったら」
「その時は私達が」
「頑張りましょう」
「わかりました」
「けれどちょっち妬けるのよねえ」
 ミサトはやれやれといった顔でこう言った。
「あそこまで熱いと。離れ離れになってまで」
「ロマンスよね」
 リツコがそれに応える。
「若い男女の許されぬ愛。ロミオとジュリエットよ」
「けれどそれがいいんですよ」
 マヤがここで話に入る。
「例え何があろうとも掴み取るんだ、って。一矢君見てると私も恋をしたくなります」
「恋。それはここに来い・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
 イズミの突然の駄洒落にグランガランの艦橋は凍りついた。
「イズミさん、それはちょっと違いますよ」
「そう」
「恋は愛なんですよ。燃えるような恋」
「意外とマヤちゃんって夢見る少女だったのね」
「そうね。けれどイズミちゃんの駄洒落をフォローできるなんて流石ね」
「似てる声で慣れてきたってことかしら」
「さあ」
 ミサトとリツコは二人のやり取りを聞きながらそう話していた。
「一矢君とエリカちゃんはこれから目が離せませんよね」
「結構うちの部隊ってそうしたのは完成されてるからなあ」
「まあ全然気付いていない連中もいるけどな」
「確かに。どっかの方向音痴君とかね」
「ははは、彼はなあ。まだまだ先だよ」
 マコトとシゲルは笑いながら話をしていた。そこでマサキがクシャミをした。
「チェッ、風邪かなあ」
「何かベタよね、それって」
「何とやらは風邪ひかないっていうけど」
「おい、そりゃどういう意味だ」
 マサキはシロの言葉につっかかった。
「俺だって風邪くらいひかあ」
「冬でもトランクス一枚で寝ているのに?」
「あれが男のパジャマなんだよ」
「そんなの初耳だニャ」
「男の素足なんぞ見苦しいだけだニャ」
「ああ五月蝿え。そんなこと言ってると逆さづりにするぞ」
「その時はあたし達影に隠れるから」
「どうぞ御自由に」
「チェッ」
 ここはマサキの負けであった。仕方なく口をつぐむ。
「けど。何かあっという間だったよねえ」
 クロは話題を変えてきた。
「ラ=ギアスからここまで。色々とあったニャ」
「それはそうだな」
 マサキもそれには同意した。
「何かとな。それでまた地上だ」
「ここにいる敵はもうわかっているよな、マサキ」
「ああ、まあな」
 今度はシロの言葉に頷いた。
「けど、まだ何かあるだろうな」
「何か」
「ああ。ネオ=ジオンとかティターンズとか以外にもな。他にも色々いるしな」
「バルマーとかかニャ?」
「それもあるけれどな。他にもだ」
「他にも」
「何か・・・・・・嫌な予感がするんだ」
 マサキは真剣な顔でこう呟いた。
「それとはまた別に。出て来そうでな」
「そういう時のマサキの勘って当たるからなあ」
 シロが言った。
「要注意ってことよね。まあ何もないことを祈るわ」
「ところでクロよ」
「何?」
「御前の声もなあ。よく聞き間違えるんだよ」
「ニナさんとかかニャ?」
「ああ。シロもな。カトルとそっくりだしな」
「おいらはそうかも知れないけれどクロは大分違うニャ」
「まあそうだけれどな。俺もヒイロと声が似てるしな」
「そうそう」
「まあそれは置いておいてだ。今度の敵はジオンの残党だったよな」
「それもいるってことだぞ」
「ああ。何かな、嫌らしそうだな」
「嫌らしそう?」
「砂漠だろ?砂漠で戦うのはな」
「確かサイバスターは土には相性がよかった筈だぜ」
「そういう問題じゃなくてな。何処から敵が出て来るかわからねえからよ」
「ああ、それ」
「気をつけておいてくれよ。奇襲なんか受けたら洒落にならねえからな」
「了解」
「じゃあ哨戒はおいら達に任せておくニャ」
「頼むぜ。何かあってからじゃ遅いからよ。ミオも頼むぜ」
「頼まれるわよ」
「地中とかな。宜しく頼むぜ」
「了解」
「あとはゲッターとスペイザーか」
「任せておきな」
「こういうのは大好きだしね」
 隼人とマリアがそれぞれ言葉を返す。
「任せておいてよ」
「大丈夫かね」
「あっ、何か気に障る言葉」
「いや、そうじゃなくてな」
「マサキって本当に女の子の扱い下手よね」
「こんなこと言ったら突っ込まれるのに決まってるじゃない」
「まあいいわ。作戦行動中だし」
 マリアはマサキのところにまで行こうとしたがそれは止めた。
「そのかわり。あとで怖いわよ」
「チェッ」
「黙っていればいいのに」
「雉も鳴かずばっていうけど」
「御前等も黙ってろよ」
 マサキはクロとシロにこう言って誤魔化そうとした。
「それより哨戒はいいのかよ」
「今のところ問題はないニャ」
「地中にも何もいないわよ」
 ミオからも通信が入ってきた。
「そうか。けれどそろそろだろうな」
「だろうね」
 ミオもそれには同意した。
「何が出るかな、何が出るかな」
「・・・・・・何でそんなに嬉しそうなんだよ」
「知らない?こうやってでっかいサイコロ回す唄があるんだけれど」
「そんなの知らねえよ」
「そっかあ、残念」
「大体いつもそんなネタ何処で仕入れて来るんだよ」
「テレビで。何かと勉強になるよ」
「ネタも勉強かよ」
「そういうこと。意外と面白いよ」
「俺は生憎お笑いは目指しちゃいないんでな」
「けど素質はあるよね」
「同感」
「流石にミオはよく見てるニャ」
「御前等さっきからどっちの味方なんだよ」
「あたし達はあたし達の味方よ」
「そもそも猫に何を求めているんだよ」
 猫は元々我が侭で気紛れなものである。クロとシロはファミリアでありかなりしっかりしているがこうした習性はやはり同じであった。
「御前等それでもファミリアかよ」
「ファミリアだけれど猫だニャ」
 クロが言い返す。
「そしてマサキの無意識の表れでもあるんだぞ」
「そうだったな」
 マサキはそれを言われ少し頷いた。
「ファミリアってそうだったんだな」
「そうそう」
「ヤンロンのあれもミオのも納得できるな」
「けどテュッティのあれは腹が立つニャ」
「仕方ねえだろ。犬と猫は仲が悪いもんだ。俺には別に何ともねえぞ」
「それでもむかつくニャ」
「まあそう言うな。お互い嫌い合っているんだからお互い様だ」
「うう」
「ただわかんねえのがシュウんとこなんだよな」
「チカのこと?」
「ああ。あれはなあ。一体何なんだろうなあ」
「シュウの抑圧された意識じゃないかな」
 シロが言った。
「抑圧された意識」
「そうさ。だってシュウっていつも慇懃な態度じゃない」
「ああ」
「それだとストレスもあるんじゃないかな。それがチカに出ているんじゃないかニャ」
「で、あんなにやかましいのか」
「おまけに口も悪いし」
「シュウも密かに口は悪いけどな」
「お金にも汚いし」
「あれがわからねえんだよな。まあシュウも色々あるってことか」
「そうだと思うニャ」
「その点マサキはわかり易いけどね」
「つまり俺が単純だって言いたいんだな」
「そういうこと」
「おめえ等当分餌抜きだ」
「あたし達前から何も食べないよ」
「ファミリアだから。残念でした」
「ヘッ、本当に口が減らねえ奴等だぜ」
 そんな話をしながら砂漠を進んでいた。そしてその先ではネオ=ジオン軍が進撃していた。
「宜しいのですか、ハマーン様」
 イリアがグワダンの艦橋にいるハマーンに対して問う。
「何がだ」
「ロンメル大佐のことですが」
「致し方あるまい」
 ハマーンはまずはこう言葉を返した。
「彼が望んだことなのだからな」
「しかしロンド=ベルは宇宙に向かった部隊と地球に潜伏していた部隊が合流しかなりの戦力となっていますが」
「それもわかっている」
 ハマーンは言った。大空魔竜達三隻の戦艦は地球に潜伏していたと考えられているのである。ラ=ギアスで戦っていたことは他の者は知らない。
「幾らロンメル大佐と青の部隊が精鋭だといっても。質量共に違い過ぎます」
「マシュマーとグレミーの部隊を援軍に送っているがそれだけでは不足か」
「私はそう思います」
 イリアも引かなかった。
「やはり。全軍で向かうべきだったかと思います」
「確かにそれでは勝てたかも知れない」
「ならば」
「だが。それでロンメルが納得すると思うか」
「大佐がですか」
「そうだ。あの男は誇り高い。自らの手で戦うことをよしとしている。本来ならばマシュマーやグレミーが向けられたことも
内心快く思ってはいない筈だ」
「誇りですか」
「私も最初は全軍でロンド=ベルに向かうつもりだった。ただでさえ我が軍は数が少ない」
「はい」
「火星の後継者達の援軍はあってもな。それにあの草壁という男」
「草壁という男」
「ジオンの大義とは関係のない男だ。ましてや北辰衆なぞ。信用できる筈もない」
「それは同意致します」
 イリアも北辰衆は信頼してはいなかった。
「彼等からは得体の知れないものすら感じます」
「そなたもか」
「はい」
 どうやらハマーンもそれは同じであるようだった。
「あの者達は。獣だ」
「獣ですか」
「そうだ。餌を与えているうちはいい。だがそれをきらしたならば」
「我等にも牙を剥いて来る、と」
「私はそう見ている。若しミネバ様にその牙を剥いたならば容赦はするな」
「はっ」
「消せ。一人残らずだ」
「わかりました」
「ロンメルのことは彼等に任せよ。今は我々は一路ダカールに向かう」
「ハッ」
「そしてミネバ様をそこにお入れするのだ。そしてジオンの大義を宣言する」
「それこそがジオン復活のはじまり」
「そう。ミネバ様がジオンの公王になられる時だ。今まで長きに渡ってアクシズに閉じ篭っていた我々がな」
「ではその時の為に」
「進む。よいな」
「了解」
 こうして彼等はサハラ砂漠を隠密に迂回してダカールに向かっていた。しかしこれもまた何者かに補足されていたのであった。
「そう易々と貴女達をダカールに行かせるわけにはいかなくてね」
 白いスーツの男が砂漠のジープの中でノートパソコンを打っていた。
「悪くは思わないようにね。まあダカールは見れるでしょうから御安心を」
 そう言ってパソコンを打ち続けていた。彼はそれが終わるとジープで何処かへ姿を消したのであった。

「敵発見」
 先頭を行くガンダムチームからの報告を受けてロンド=ベル隊に緊張が走った。
「敵の数は」
「何か砂嵐が酷くてよくわかんねえんだけれどよ」
「わかるだけでいい。報告してくれ」 
 ブライトがビーチャに対して言う。
「どれだけだ」
「レーダーに映っているのは二百機程かな。何かやけに古そうなモビルスーツが多いな」
「古そうな」
「ああ。こりゃデザートザクかな」
「えっ、デザートザク」
 バーニィがそれを聞いて嬉しそうな声をあげた。
「そんな年代ものがまだあったんだ」
「ちょっとバーニィ」
 クリスが彼を窘める。
「今は戦闘中よ。わかってるわね」
「わかってるけどさ」
「まあまあクリス中尉」
 コウが間に入ってきた。
「いいじゃないか。折角年代もののモビルスーツが出て来たんだし」
「そんなの前のバルマー戦役で嫌になる程出て来てますけど」
「細かいことは言いっこなし。そうかあ、デザートザクかあ」
 彼もまたモビルスーツマニアなのである。
「いいなあ。他に何があるかな」
「ゲルググがあるよ」 
 今度はモンドが言った。
「あとグフもあるし。何か凄いよ」
 イーノも言う。彼もかなり楽しそうであった。
「うわ、聞いてるだけで涎が出そう」
「これで旧ザクでもあれば完璧なんだけれどな」
「流石にそれはないみたい」
 エルが応える。
「けれどこれだけ旧型モビルスーツがあれば。売れるわよねえ」
「ルー、貴女エゥーゴのパイロットだったんじゃ」
「前はそうでしたけど。今はシャングリラでジャンク屋やってますから」
「そうだったの。道理で」
 クリスはそれを聞いて異様に納得していた。
「感じが変わったと思ったら」
「意外といいものだよ、ジャンク屋も」
 プルがルーにかわって答える。
「気楽だしな。それに毎日お風呂に入られる」
「プルツーも変わったし。この子達には合ってるのかもね」
「今度俺も店に入れてもらおうかな」
「バーニィさんなら何時でもいいぜ」
 ジュドーが言った。
「クリスさんも。一緒にどうだい?」
「私は遠慮するわ。私はやっぱり軍にいるのが合ってるし」
「それは残念」
「クリスさんだったらモデルにでもなれるのに。惜しいなあ」
「褒めたって何も出ないわよ、イーノ」
「あれっ、僕何も言っていませんけど」
「じゃあケーンね」
「へへっ、その通り」
 ケーン達ドラグナーチームがクリス達の横に来ていた。
「何かお金の話が聞えたんで」
「俺達もお金は大好きなんで」
「三銃士の参上というわけ」
「全く困った子達ね」
 クリスはそれを聞いて苦笑いを浮かべた。
「そんなのだと。将来いい大人にはなれないわよ」
「そこは口八丁手八丁」
「ノリと勢いで」
「どうにでもなるのが人生と」
「あっきれた」
「まあモビルスーツの素晴らしさがわかるんじゃいいんじゃないかな」
「何言ってるのよバーニィ、彼等が欲しいのはお金よ」
「あれっ、そうなの」
「大体彼等にしろジュドー君達にしろしっかりしてるんだから。何処をどうやったらこんなふうになるのかわからないけれど」
「きつい御言葉」
「何か俺達って結構ジュドー達と同一視されてるんだな」
「この前フロイライン=アスカには三馬鹿なんて呼ばれてたしなあ」
「何か言った?」
 今度はアスカが出て来た。
「馬鹿に馬鹿って言って何が悪いのよ」
「ほら、噂をすれば何とやら」
「本当に耳年増だよなあ」
「一言余計なのよ、あんた達は」
 そう返してまた言う。
「大体男ってのはねえ、無口で強くないといけないのよ。それで何でそんなにペチャクチャと」
「無口で強い、ねえ」
「じゃあBF団十傑衆の直系の怒鬼なんかは」
「いいねえ、あれで格好いいし」
「しかも組織の大幹部ときた」
「・・・・・・あたしはとりあえず普通の人限定なんだけれど」
「人間だよなあ、一応」
「確か科学的にはそうだったな!」
「あれの何処が人間よ!七節艮であちこちぶっ壊しまくってんじゃない!あんなの使徒より強いわよ!」
「使徒より強いって」
「それは言い過ぎじゃ」
「あたしはああいった常識外れなのが一番嫌いなのよ!ちょっとはまともな人間はいないの!?」
「タケルなんかどうだ」
「タケルさん」
 アスカはそれを聞いてキョトンとした顔になった。
「ああ。強いし無口な方だしそれにルックスもかなりのもの」
「年上だしアスカ的にもいいんじゃないのか」
「あたし別に年上は」
「あれっ、違ったのか」
「そういうんじゃないわよ」
 ケーンに応える。
「ただ。あの人はちょっと」
「タイプじゃないってか」
「いや、格好いいとは思うわよ。けど」
「けど。何なんだよ」
 ジュドー達も話に入ってきた。
「あたしなんかが入られる人じゃないから」
「謙遜ってやつ?」
「だから違うって。けど、何か重いもの背負っている人だからね。あたしなんかよりずっと」
「まああの人はね」
 これにはガンダムチームもドラグナーチームも頷いた。
「本当に。辛いだろうから」
「そういうのを受け止めてくれる人がいたらいいんだけれどね」
 ルーが言う。
「包容力があるか。優しいか」
「けど。タケルさんも凄く優しい人だから」
「それがかえって辛い場合もあるしね」
 ビーチャにモンド、そしてイーノも言った。
「そうなのよね。誰かいてくれたらいいだけれど。タケルさんにも恋人が」
 エルの続いた。
「せめて全部わかってくれる人がいると違うだろうな。俺のとこのリィナみたいに」
「あれっ、そういえばリィナここにいないね」
「ダカールに置いてきた」
 プルに答える。
「ダカールに」
「ああ。今回砂漠での戦いだからな。色々と危ないしな」
「危ないって何がだ」
 プルツーがそれに問う。
「お風呂ならあるぞ」
「そんなんじゃなくてな。砂漠って毒蛇とかいるだろ。サイドワインダーとかよ」
「ジュドー君」
 クリスがそれを聞いて困った顔をして彼に声をかける。
「何、クリスさん」
「それ北アメリカよ。アフリカにサイドワインダーはいないわよ」
「あっ、そうだったか」
「まあここにも色々といるけれどね。だから安心できないのは同じだけれど」
「じゃあリィナ置いてきたのはどのみち正解だったかな」
「リィナちゃん人参食べろって五月蝿いのがなければなあ」
「それは御前が単に人参嫌いだからだろ。あの娘はいい娘だぜ」
「それはわかってるさ。けれどな」
 キースの言葉に口を尖らせる。
「やっぱり人参は食べられないよ」
「やれやれ」
「話はそれで終わりか」
 今度はバニングが入ってきた。
「大尉」
「丁度いいタイミングだ。来るぞ」
「敵が」
「そうだ。砂漠から来る。用意はいいな」
「勿論」
 彼等は一斉に応えた。
「空からの部隊はドラグナーチームと変形可能なモビルスーツがメインであたれ。他の者は砂漠から襲って来る部隊を迎撃しろ」
「了解」
「我々は砂漠での戦いにはあまり慣れてはいない。地の利も敵にあることを忘れるな」
「はい」
「わかったら行け。いいな」
「わかりました」
 バニングの指示の下彼等は一斉に動いた。するとその前に砂の海からジオンのモビルスーツ達が次々と姿を現わしてきたのであった。
「来たな、連邦の犬共め」 
 その先頭にいるデザートザクに乗る険しい顔の男が呟いた。彼がロンメルであった。
「この日が来るのをどれだけ待ったことか」
 彼は感慨を込めて呟いた。
「今日こそはジオンの大義を。果たしてくれる」
「ジオンの大義ですか」
 上にいる赤いバウから通信が入ってきた。
「今まで待たれていたのですね」
「貴官は」
「グレミー=トトです」
 まずグレミーが名乗った。
「大佐の援軍に来たネオ=ジオンの者の一人です」
「そうか、そうだったな」
 ロンメルはそれを聞いて頷いた。
「とりあえずは感謝する」
「はい」
 だがその言葉は何処か不愉快さが混じっていた。やはり援軍というものに内心楽しんではいないようであった。
「援軍に来たのは貴官の部隊だけだったか」
「いえ、私だけではありません」
「すると」
「私も一緒です」
 ザクV改が砂漠の中から姿を現わした。
「マシュマー=セロ、義によって助太刀させて頂きます」
「義によって、か」
「はい」
 マシュマーはその言葉に頷いた。
「私もまたネオ=ジオンの大義の為に戦っていますから」
「そうか。いい目をしているな」
「有り難うございます」
「疑いを知らない目だ。ジオンにはそうした目をした者が多かった」
「はい」
「アナベル=ガトーもまたそうだった。いい男だった」
「少佐を御存知なのですか」
「当然のことだ」
 ロンメルは答えた。
「私もかってはドズル閣下の下にいたことがあったからな。その時に知った」
「そうだったのですか」
「立派な武人だ。星の屑作戦のことは聞いている」
「はい」
「あの時は今一歩で及ばなかったが。今こうして我々がそれを果たそうとしている」
「ミネバ様の下に」
「ミネバ=ザビ様か」
「はい」 
 マシュマーとグレミーが同時に頷いた。
「ドズル閣下の忘れ形見だったな」
「その通りです。今ようやくミネバ様も地球に来られました」
「夢にまで見たものだ。何もかも」
 彼はまた感慨の世界に入った。
「一年戦争の時我々はここに残った」
「アフリカに」
「そして時を待っていたのだ。ジオンが復活する時をな」
「バルマー戦役でも別働隊として活躍されていたと聞いていますが」
「そうだった。だがその時もすんでのところでギレン閣下が倒られた」
「あれは残念なことでありました」
 彼等はギレンがキシリアに暗殺されたことを知らない。知っているのがネオ=ジオンにおいても僅かな者達だけであった。ハマーンも知ってはいた。彼女はドズル派でありキシリアが事故死するとキシリア派を一掃している。そしてミネバを擁立したのである。
「ロンド=ベルを粉砕されようとしていたその時に」
「だが閣下の志は今も生きている」
 ロンメルは力強い声で言った。
「この戦いでロンド=ベルを打ち破る。そしてジオンの大義を実現するのだ」
「はい」
「それでは」
「全軍攻撃開始!一兵たりとも逃すな!」
「了解!」
 こうして戦いがはじまった。まずは地の利を心得る青の部隊が動いた。彼等は砂の中に潜みながらロンド=ベルに攻撃を仕掛けてきたのであった。
 これに対しロンド=ベルはまずは戸惑った。
「クッ、まるでガラガラヘビだぜ!」
 ピートが言う。
「何て奴等だ。砂漠をまるで海みたいに泳いでやがる」
「ここは彼等にとっては遊び場のようなものだからな」
 大文字がここで言う。
「皆油断するな。敵は何処から来るかわからない」
「はい」
「周囲とレーダーに気を配れ。そして慎重に進むのだ。よいな」
「わかりました。それでは」
「うむ」
 こうして彼等は陣を整えながら戦いに入った。まずは出て来たモビルスーツを各個に撃破していくことからはじめた。
「まるでモグラ叩きだな、こりゃ」
 ケーンが言う。
「何かそう思うと楽しくなってきたぜ」
「あら、あんたモグラ叩き得意だったの」 
 アスカがそれを聞いて突っ込みを入れる。
「だったら今度勝負しない?あたし得意なのよ」
「いいけど勝ったら何くれるんだよ」
「あたしのプロマイドでどうかしら」
「んなもんいらねよ」
「あっ、何よその言い方」
「俺にはリンダちゃんって女神がいるんだよ。そんなの欲しくとも何ともねえぜ」
「ふうん、あんたって意外と一途なんだね」
「当たり前だ、一途なのがケーン=ワカバの売りなんだよ」
「お笑いだけじゃなかったんだ」
「御前俺を何だと思ってたんだ?」
「馬鹿」
「馬鹿とは何だ、馬鹿とは!俺だってなあ」
「話はいいからさっさと次の敵狙おうぜ」
「そうそう。レディとのお付き合いはまた後で」
 そんな二人の間にタップとライトが入って来た。そして口喧嘩を止めさせる。
「ちぇっ」
「じゃあ何事もなかったかのように」
「戦闘再開っと」
「レディィィィィィゴォーーーーーーーッってな」
「ああ、もう聞きたくもない言葉」
「何か言ったか?」
「何にも」
 ドモンをかわした後でアスカも戦いに入る。戦いはさらに激しさを増していった。
 その中でアスカも所謂モグラ叩きに参加していた。まずは敵の攻撃を防ぐ。
「フィールド舐めんじゃないわよ!」
 フィールドで攻撃を防いでから叫ぶ。そして次にそのフィールドを掴んできた。
「フィールドってのはただ守るだけじゃないっていうの見せてあげるわ」
 そしてそれを振り回してきた。
「こうやるのよ!」
 それを投げる。そして砂漠から出て来たばかりのゲルググを一機粉砕した。
「ついでにおまけよ!」
 その後でグレイブも投げる。それで今度はデザートザクを粉砕したのであった。
「どんなもん?」
「凄いけれど無駄な動きが多いな」
「ゲッ、貴方が」
 モニターに映った顔を見てギョッとした顔になる。何故か左目が一瞬だが異様に大きくなった。そこにいたのはドモンであったからだ。
「どうした?俺の顔に何かついているのか?」
「いや、そうじゃないけれど」
 彼女はどうもガンダムファイターというものが苦手なのである。
「だったらいい。派手なのもいいがもう少し落ち着いていけ」
「はあ」
「いいな。筋はいい。このままいけば見事なファイターになれるからな」
「別にガンダムファイターになりたくなんかないんだけれど」
「また何か言ったか?」
「何でもないわ。それじゃあ」
「うむ」
 これでモニターから姿を消した。アスカはそれを見てようやく胸を撫で下ろした。
「ああ、びっくりした」
「何か今回の戦いやけに驚いてない?」
 今度はシンジがモニターに出て来た。
「どうしたの?そんなに驚いて」
「別に驚きたくて驚いてるんじゃないわよ」
 アスカはこう言い返してきた。
「けど驚くしかないのよ。帰って来たら人が増えてるし」
「ミリアルドさんとかキョウスケさんとか」
「そうそう。アイビスさんやアラドさん達がいないのが気になるけれどね」
「何か遅れるみたいだよ」
「そうなの」
「残って何かしてるみたいで。後から来るって」
「だったらいいけれどね。何か心配ね」
「アスカでも心配するんだ」
「何、その嫌な言い方」
 シンジの言葉に顔を顰めさせる。
「あんたも何が言いたいのよ」
「いや、ちらっと思っただけで」
「ちらっとだけでも充分よ」
「そんな、下着を見るんじゃないんだから」
「下着っていえばあんたトランクスに替えたそうね」
「それがどうしたんだよ」
「いや、何か似合うかなあ、って思って」
「別にそんなことどうでもいいだろ」
「今度見せてよ」
「なっ、そんなことできる筈ないじゃないか」
 下着姿を見せろと言われて顔を赤らめる。
「何馬鹿なこと言ってるんだよ」
「あたしの下着姿も見せるからさ」
「いいよ、そんなの」
「あら、見たいんじゃないの?この発育のいいナイスバディを」
「だからいいって」
「そんなこと言っていいの?折角女の子の方から誘ってるのに」
「こんなの誘うとかそんなのじゃないだろ」 
 シンジも言い返す。
「下着なんて。そんなの」
「見せてあげるって言ってるのに」
「だからいいって」
「二人共いい加減にしなさい」 
 そしてここで怒る者が入って来た。
「馬鹿なこと言ってないで早く戦いに戻る」
 エマであった。彼女はきつい言葉で二人に対して言う。
「わかったわね。ほら早く」
「はあい」
「バカシンジのせいよ」
「何で僕のせいなんだよ」
「あんたがあたしの誘いに乗らなかったからでしょ」
「そんなの関係ないじゃないか」
「関係あるわよ」
「いい加減にするようにね」
「・・・・・・わかりました」
 エマの青筋を立てた顔を見てようやく黙った。こうして二人も戦いに戻ったのであった。
「また会ったな、ジュドー!」
「あんたとも長い付き合いだよなあ」
 マシュマーとジュドーは剣を交えながらこう言い合った。
「何か。他人じゃないような気がしてきたぜ」
「当然だ。私達はライバルなのだからな」
「ライバル」
「そう。ライバルとは互いに認め合い、競い合うもの」
 いつもの調子で語りはじめた。
「それが他人同士でない何よりの証拠ではないか」
「よくわかんねえけどとにかく俺達がライバルってことだな」
「その通り」
「それじゃあ遠慮なくいくぜ。どのみち最初っから遠慮なんてしてねえけれどな」
「うむ。ではこちらも参る」
 マシュマーも頷いた。
「覚悟!」
 ビームサーベルで切りつける。しかしジュドーはそれを受け止めた。
「甘いんだよ!」
「ならば!」
 今度は突いてきた。しかしそれもかわされてしまう。
「やるな!」
「あんただけが腕をあげてるんじゃないんでね!俺もそれなりに努力してるんだよ!」
「嘘。一番訓練とかさぼってる癖に」
 プルが突っ込みを入れる。
「それで努力してると言われてもな。白々しいだけだ」
「ええい、黙ってやがれってんだ!」
 誤魔化すかのようにプルとプルツーに対して叫ぶ。
「大体おめえ等何やってるんだよ。戦いはまだまだこれからだろうが!」
「だってあたし達はモグラ叩きなんだもん」
「モグラ叩きぃ!?」
「そうさ。砂漠から出て来るモビルスーツを待っているんだ。ジュドーとは別にね」
「そうだったのかよ」
「そう。それがモグラ叩き」
「何か御前等もケーンさん達の影響受けてきたな」
「波長が合うからね」
「明るいとニュータイプじゃないみたいな考えがあるけれどな」
「まあ最初のアムロさんはそうだったらしいけれどな」
「おいおい、また俺か」
 アムロがそれを聞いて苦笑を浮かべた。
「何か俺ばかり引き合いに出されるな」
「やっぱりパイオニアですから」
「言い易いし」
「おまけに頼りになるしな、アムロ中佐は」
「頼られているのかな、本当に」
「いや、これはマジですよ」
 ジュドーがフォローを入れる。
「アムロさんがいないとロンド=ベルじゃないですから」
「そうかな。俺なんて口煩いだけだと思うが」
「それはブライトさんがいますし」
「こら、ジュドー」
 それを聞いたブライトがモニターに現われてきた。
「私がどうしたというのだ?」
「あっ、いけね」
「全く。御前達みたいな連中ははじめてですか」
「それじゃあ俺もパイオニアってやつですね」
「馬鹿を言え。御前達はトラブルメーカーだ」
「あら」
「仕方のない奴等だ。全く」
「何か俺達って問題児っぽいな」
「っぽいじゃなくてそのものだ。わかったら早く戦争に戻れ」
「へいへい。相変わらずブライトさんは厳しいなあ」
 ぶつくさ言いながら戦いに戻る。
「それじゃあマシュマーさんよ、あらためて」
「参る!」
 二人の戦いが再開した。その横ではロンメルがバニングと対峙していた。
「連邦軍の中にもこうした動きが出来る者がいるとはな」
 ロンメルはバニングの動きを見ながらこう言った。
「見上げたものだ。一年戦争からの生き残りか」
「いい動きをしているな。これはモビルスーツの性能に頼ってはいない」
 バニングも同じものを感じていた。
「見事だ。敵は誰だ」
 そう言いながらデザートザクのエンブレムを見る。肩に青い狼が描かれていた。
「ロンメル大佐。彼がか」
「GP−01.バニング大尉か」
 ロンメルもまた相手が誰かわかった。
「どうやら戦いがいのある相手のようだな」
「お互い一年戦争からの生き残りというわけか」
 両者は呟き合った。
「ならば容赦はいらないな」
「手加減をした方が負けだ。ならば」
 そう言いながら互いに間合いをとる。
「この一撃で決める」
「二撃目はないな」
 ビームライフル、ザクマシンガンを構えた。そして撃つ。
 撃つと同時に動いた。攻撃をかわす為だ。だがここで皮肉な結果が生じてしまった。
 デザートザクの動きが一瞬だが遅かった。やはり性能差が出てしまった。それによりビームがロンメルのデザートザクを貫いてしまった。
 そして果てた。攻撃はこれで終わりであった。ロンメルのデザートザクはガクリと砂漠に膝を落としてしまった。
「ロンメル殿!」
 マシュマーが彼に気付き慌てて駆け寄ろうとする。ジュドーとの勝負を捨ててまで。
「いや、いい」
 だがロンメルは彼を退けた。血が垂れた口で語る。
「勝敗は戦の常。これもまた運命だ」
「しかし」
「マシュマー=セロといったな」
「はい」
「貴殿のような若い者がジオンの志を知っている。わしはそれだけで満足だ」
「ですが」
「わしは亡霊だった。亡霊は消え去る運命」
「・・・・・・・・・」
「ただそれだけのことだ。後は貴殿等に任せたい」
 見れば青の部隊はほぼ壊滅していた。残っているのはネオ=ジオンの新鋭モビルスーツだけである。それが全てを物語っていた。
「さらばだ。後は任せた」
「ロンメル殿」
「ジオンの大義」
「はい」
「そしてミネバ様を。宜しくな」
「わかりました。このマシュマー=セロ、命にかえても」
「・・・・・・・・・」
 その後ろではグレミーが黙ってそのやりとりを見ていた。彼は一言も発しはしない。
 ロンメルのデザートザクが爆発した。そして全ては終わった。青の部隊は砂漠に散ってしまった。
「これからどうしますか」
「こうなってしまっては止むを得まい」
 マシュマーはグレミーに対して言った。
「一時撤退だ。そしてロンメル殿達の墓標を築くぞ」
「わかりました。それでは」
「だがダカールには向かう」
 それでもマシュマーは言った。
「それが。ロンメル殿の意志、そしてジオンの大義だからな」
「ジオンの大義」
「貴官もそれはわかっていよう」
「勿論です」
 当然のように頷く。だがその顔には何故か純粋なものはなかった。何処かギレン=ザビを思わせる企んだものが感じられるものであった。マシュマーはそれに気付きはしなかったが。
「では退くぞ」
「はい」
「ロンド=ベルよ、また会おう!」
 こうしてネオ=ジオンは後方に退いていった。砂漠での戦いはまずはこれで終わった。
「思ったより呆気なかったな」
 ジュドーは姿を消したネオ=ジオンの後ろ姿を見ながらこう呟いた。
「意外とね。あのマシュマーにしてはあっさりと」
「いつもだったら騎士道がどうとかいってしつこく戦場に残るのにね」
「それであの部下に言われるんだよな」
「ああ、ゴットンさんのことね」
「あの人ゴットンさんっていうんだ。はじめて知ったよ」
 ガンダムチームの面々がそれに続いて話をはじめた。
「何はともあれ。これで第一ラウンド終了ってことだな」
「第二ラウンドはもっと北で相手はハマーンってとこかしら」
「いや、残念だがそうはならない」
 ルーが言ったところでブライトの通信が入ってきた。
「何かあったの、ブライト艦長」
「皆すぐにダカールに戻るぞ」
「ダカールに」
「ハマーンの本軍が砂漠を迂回してダカールに向かっているとのことだ。すぐにそれの迎撃に向かう」
「じゃあ青の部隊は囮だったってことかよ」
「そうだ」
 ブライトはジュドーの言葉に応えた。
「戦争においてはよくあることだ。私も迂闊だった」
「ちぇっ、けどハマーンらしいって言えばらしいよな」
「そうだな」
 クワトロがそれに頷く。
「ハマーン、これで我々を出し抜いたつもりか」
「いや、まだそうと決まったわけじゃない」
 アムロがここで言う。
「要は間に合えばいいんだからな。違うか」
「ふっ、確かに」
 そしてクワトロもそれを認めた。
「では戻るとするか」
「ああ」1
 ロンド=ベルの面々はそれぞれの艦に戻った。そしてダカールに戻ることになった。七隻の戦艦はマシンの収納を終えるとダカールに踵を返したのであった。
「慌しいなあ、本当に」
「ねえプルツー、ちょっと時間があるよ」
 プルがここでプルツーに話し掛けてきた。
「だからさあ」
「お風呂だろ」
「あっ、わかった?」
「いつものことだからな。まあいい」
 プルツーの方も丁度その気になっていたようである。
「入るか」
「うん。新しいお風呂セット出してね」
「そうだな。戦いの間に一息つくとしよう」
「うん」
 二人はセットを持って風呂場に向かった。それをアムとレッシィが見ていた。
「何かまた戦争だってのにあの二人には緊張感がないな」
「あたし達が言えた義理じゃないけれどね」
「そう言われると困るな」
 アムの言葉に少し顔を苦くさせる。
「この部隊はどうもこうしたお気楽さがな」
「嫌なの?」
「別に嫌とは言っていないさ。ただポセイダル軍にいるよりはずっと感じがいい」
「そうなの」
「あそこはギスギスしていたからな。十三人衆の間でも色々とあった」
「足の引っ張り合いとか?」
「それはチャイ=チャーだけだったな。むしろギワザの動きの方が気になった」
「ギワザの」
「あいつには気をつけた方がいい。何かを企んでいる」
「企んでいるって何を」
「そこまではわからないが。十三人衆のメンバーに何かと声をかけていた」
「ふうん」
「フル=フラットとも接触を持っていたらしい。明らかに何かを考えている」
「謀反でも起こす気かしら」
「それはあるかもな。あいつは野心家だ」
「野心家ねえ。あの小心者だ」
「小心者でも野心は持つさ。それに釣り合うかはともかくな」
「きついね、その言葉」
「冷静に言っているだけさ。あたしの見方でね」
「それがきついのよ」
「あたしはああした男は好かないんだよ。ネイがどうして惚れてるかまではわからないけれどね」
「あの二人もね。あのままいくとは思えないけれどね」
「それはどうしてだい?」
「ギワザってさ、自分勝手な奴じゃない」
「ああ」
「そんな奴が。最後までネイを信じられるとは思えないのよ」
「それもそうだね」
「それかあいつ自身が負けるかだね。あいつじゃポセイダルには勝てないわよ」
「勝てはしなくてもいいところまではいくかもね」
「結局はそれ止まりだと思うけれどね」
「きついな、アムも」
「あんたに習ったのよ」
 笑いながらそう返す。
「それじゃあ今度は声が似てるってよく言われるプルちゃん達に習って」
「お風呂に入るんだな」
「ええ。あんたもどう?」
「そうあな」
 レッシィは少し考えてから答えた。
「そうさせてもらうか。では行こう」
「まずはサウナで汗をかいてね」
「おい、おじさん臭いな」
「それが気持ちいいのよ。テュッティさんだってそう言ってるじゃない。美容にもいいって」
「美容にもか」
「あんたもそのでかい胸をちょっとは引き締めたら?そうしたらダバにももてるかもね」
「フン、じゃあそっちはその胸を大きくさせるんだな」
「言われなくたってもう大きくなってるわよ」
「それじゃあそれをお風呂で確かめさせてもらうか」
「望むところ」
 そんな話をしながら二人も風呂場に向かった。こうして戦士達は束の間の休息を楽しむのであった。

 この時ハマーン率いるネオ=ジオンの本隊はサハラ砂漠を大きく迂回してダカールに向かっていた。その後方の本陣にグワダンがいた。
「そうか、青の部隊がか」
「見事な最後だったとのことです」
 ハマーンはランス=ギーレン、ニー=ギーレンの二人から戦いの報告を聞いていた。
「彼等は死に場所を求めていたのだ」
 ハマーンは報告を聞いた後でこう呟いた。
「死に場所を」
「そうだ。だからこそ我等に協力を買って出たのだ」
「ダカールに行く為ではなく」
「それもあっただろう。だがそれだけではなかったということだ」
 ハマーンは寂寥感を感じさせる声でこう述べた。
「それが死に場所を求めていた、ということですか」
「そういうことだ」
 そしてその声のまま述べた。
「その結果だ。本望だっただろうな」
「そして我々が得たものは」
「時間だ」
 ハマーンは一言で言った。
「時間を得た。何よりも貴重な時間をな」
「それではこのままダカールへ」
「陸と。そして」
「海から」
「そちらの用意もまたできているな」
「無論。そして彼等も来ます」
「くれぐれも言うがダカールは傷つけるな」
「はっ」
「ミネバ様が入られる場所だ。市民達にも危害を加えるな」
「市民達もですか」
「今はネオ=ジオンの評判を落とすわけにはいかんのだ」
 ハマーンはここでは政治的な判断を下した。
「ダカールで以前何があったかは知っているな」
「シャア=アズナブルの演説ですか」
「そこでティターンズの毒ガス使用が暴露された。それにより彼等は信頼を失った」
「そして地球圏の掌握を果たしたものの結局は」
「支持を得られず今に至る。ああはなりたくないであろう」
「はい」
 これにはランスもニーも頷いた。彼等とてむざむざと自分達の信頼を落とすような真似はするつもりはなかった。
「そういうことだ。わかったな」
「はい」
「了解しました」
「では行くぞ。速度をあげよ」
 ハマーンは軍の速度をあげさせた。そしてダカールに向かっていた。
 ロンド=ベルとネオ=ジオンのダカールを巡る攻防は続いていた。両者は互いの信念と誇りをかけてアフリカの砂漠において干戈を交えるのであった。

第六十一話   完


                                     2005・12・19


[339] 題名:第六十話 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年06月01日 (木) 20時02分

             真の自由
「ねえ」
 ゴラオンの控え室でヒメがふと口を開いた。
「どうしたの、ヒメ」
「シュウさんだけれど」
 それに応じてきたカナンに顔を向けて言った。
「ええ、彼が何か」
「どうしてマサキ君達はあんなに彼を警戒してるのかなあ」
「何か色々あったらしいわね」
 カナンはその言葉にこう返してきた。
「未来とかで。以前のあの人のことは私も聞いているだけだけれど」
「それでも今のあの人とは関係ないよね」
「いや、そうもばかりは言えないだろう」
 勇がそれに対してこう述べた。
「あの人がしたことは。やはり信用できないものがあるよ」
「けれど一度死んだんだよね」
「そうらしいわね」
「だったらそれで終わりじゃないかな。死んだのなら生まれ変わって心も生まれ変わったんだし」
「ヒメはそう考えるのね」
「うん。それに」
「それに」
「あの人、少なくとも悪い人じゃないよ。私達を騙したりもしていない」
「まさか」
「ううん、私にはわかる」
 ヒメは言った。
「隠してることはあるかも知れないけれど。少なくとも騙したりとかはしていないよ」
「そうかな」
「そうだよ。だから安心していいよ」
「どちらにしろそれももうすぐわかることね」
 カナンは一言こう述べた。
「もうすぐ到着らしいから。ヴォルクルスの神殿に」
「ヴォルクルス、か」
 勇がふと呟く。
「一体どんな敵だろうな」
「かなり手強いのは予想できるけれど」
「どのみち碌な相手じゃないのはわかるな」
 それまで黙っていたヒギンズも口を開いた。
「おそらく。ここで負けるとラ=ギアスが大変なことになる程にな」
「厄介なことね」
「何か俺達はそうした戦いばかりやっているような気がするな」
 ラッセが口を開いた。
「難儀なことにな。それがロンド=ベルらしい」
 ナンガがそれに応じる。
「やれやれだ。まあ長い人生だ。そうした時があってもいい」
「いいのか」
「そうさ。少なくとも退屈はしないしな」
「クールだな」
「まあそう言えばそうだな。どのみち戦うしかないしな」
「ああ」
「しかし。今度は神様だとはな」
「邪神なんだよね、けど」
「それでも神様は神様だろ。何者かまではわからないがな」
「そういうことだな。さて、と」
 ナンガは立ち上がった。
「そろそろ出撃だろう。用意しておくか」
「ああ」
 他のブレンのパイロット達もまた立ち上がった。そして彼等も戦場に向かうのであった。
「シュウ様」
「おや」
 サフィーネのヴィーゾルがシュウのネオ=グランゾンの側にまでやって来た。
「まだ早いですが」
「少しでもシュウ様のお側にいたくて」 
 サフィーネは思わせぶりな笑みを浮かべながらこう答えた。
「だって長い間ずっとロンド=ベルにおりましたから。ご無事かどうか心配だったのですよ」
「御主人様がそう簡単にやられるとは思えないんですけどね」
「チカ、あんたは黙ってなさい」
「あら」
「いつもいつもそうやってシュウ様のお側にいられるんだから」
「当然でしょ、ファミリアなんだから」
「だからなのよ。羨ましいったらありゃしない」
「そうかなあ」
「そうなのよ。全く、シュウ様に御迷惑はかけていないでしょうね」
「御迷惑って」
「サフィーネ、心配はいりませんよ」
 シュウは穏やかに笑ってこう返した。
「シュウ様」
「チカはよくやってくれていますよ、何事にもね」
「そういうことです」
 チカはここで胸を張った。
「御主人様の活躍は。このチカちゃんあってのものなのですから」
「それでも調子に乗らないようにね」
「はい」
 シュウに窘められて一瞬引っ込む。
「まあそういうことです。チカはよく私を助けてくれていますよ」
「それならば宜しいのですが」
「まだ何かあるのですか」
「いえ、まあ別にないですけれど」
「あっ、やはりこちらにおらしていたのですね」
「この妙な言葉使いは」
 サフィーネにはそれが誰のものかすぐにわかった。
「シュウ様、お慕い申し伝えております」
「モニカ、ですから言葉使いが変ですよ」
 ノルス=レイがやって来た。今回はセニアではなくモニカが乗っていた。
「いいのかよ」
 マサキがグランガランの艦橋にいるセニアに問うた。
「今回も御前さんが出撃するつもりだったんだろう」
「今回は特別よ」
 セニアはやれやれといった顔でそう返す。
「あの娘の強引さには負けたわ、本当に」
「強引ねえ」
「いざとなったらね。絶対意地を通そうとするのよ、子供の頃から」
「それは意外だね」
 シモーヌがそれを聞いて声をあげる。
「どっちかっていうとセニア姫の方がそう見えるけれど」
「よくそう言われるけどね。けれど実は違うのよ」
「ふむふむ」
「喧嘩した時でも。いつも絶対引かないのよ、モニカは」
「そうだったのか」
「ええ、そうよ。だからロンド=ベルにも参加したし」
「クリストフにも同行していたしね」
「案外あれで頑固なのよ。おしとやかに見えてもね」
「そうしたところは似てるんだな」
「何か言った?」
 マサキに言葉に顔を向けてきた。
「いや、何にも」
「そう。だったらいいけれど。頑固な妹を持つと苦労するわ」
「それは言う人が違うと思うけれどね」
 最後にベッキーの言葉が締めとなった。モニカとサフィーネはその間もやりとりを続けていた。
「ちょっとお、離れなさいよ」
「嫌でしてよ」
 サフィーネはモニカにシュウの側から離れるように言うがそれでも離れようとはしない。
「ずっと御会いでしませんでしたから」
「最近は一緒にいることが多いじゃない」
「それは貴女もそうではなくて?」
「フン、口の減らない姫さんだね」
「口は減らなくても他のものは減りますからいいのでしてよ」
「それは一体どういう意味なんだい」
「体重でしてよ。貴女またお太りになられたようですよ」
「なっ、気にしていることを」
 サフィーネの顔が嫌悪に歪む。
「まるで達磨のようでしてよ、本当に」
「達磨あ!?」
「ええ。コロコロして。可愛らしいですけれど」
「コロコロですってぇ!?」
「あ〜〜あ、完全に怒っちゃったよ」
 チカが横で呟く。
「甘い顔をしれてばこの小娘!」
「何ですのこの大年増!」
「大年増ですってえ!?あたくしを捕まえて!」
 急所を衝かれたのであろうか。さらに激昂してきた。
「あたくしはまだ二十一歳よ!」
「わたくしなんかまだほんの十八歳ですわよ」
「何でこのお姫様こんなに文法が変なのだろう」
「ところで二人共」
「はい」
「何でございましょうか、シュウ様」
「だから文法が変ですよ、モニカ」
 シュウはそんな彼女を嗜めながら言った。
「そろそろですが」
「そろそろ」
「はい。神殿までね。宜しいですか」
「わかりました」
「それでは」
 二人はそれぞれシュウの横についた。しかし彼はそれをよしとしなかった。
「いえ、今は待って下さい」
「どういうことですの?」
「今回私は単独で行動をとらせて頂きます」
「お一人で、ですか」
「ええ。何かとやることがありましてね」
 そう言いながら思わせぶりに笑う。
「貴女達はマサキと小隊を組んで下さい。サフィーネにとってはいつものことですが」
「あの憎たらしいガキとですか」
「おい、聞こえてるぜ」
 そこにマサキのサイバスターがやって来た。
「相変わらずだな、あんたも」
「フン」
 サフィーネは彼から顔を背ける。
「あたくしは生憎年下は好みじゃありませんの」
「あっ、そういえばそうだったニャ」
 それを聞いてクロが気付いた。
「マサキってまだ十七だったニャ」
「じゃあシュウとは四つ違いか」
 シロがそれを聞いて言う。
「シュウは確か二十一だったから。サフィーネと同じ歳の筈ニャ」
「そうしてよ、華の二十一歳美貌も盛り」
「といってもあのファッションじゃあなあ」
「普通の男は逃げていくだけニャ」
「おーーーーほっほっほっほっほっほ、所詮子猫にはわかりませんわね、この崇高なファッションは」
「崇高かな」
「どう見ても怪しいお店の人だニャ」
 シロとクロの言葉は続く。どうやらこの二匹とサフィーネのセンスにはかなりの差があるらしい。
「それでよ」
「あら、まだいたんですの」
「まだってなあ」
 マサキはサフィーネのその言葉に呆れながらも返す。
「今回も小隊を組むんだからな、何訳のわかんねえこと言ってやがんだよ」
「仕方ないですわね」
「こっちだっておめえみてえな訳のわかんねえ女と組むのは引けるんだよ。けれどまあ何かと都合があってな」
「申し訳ありませんね、マサキ」
「へっ、よしてくれよ」
 だがシュウの言葉には別の顔を見せた。
「おめえに謝られちゃ何かあるんじゃねえかって思っちまうからな。それだけは勘弁してくれよ」
「おやおや」
「それよりもな。ヴォルクルスを倒す策はあるんだろうな」
「勿論ですよ」
 シュウは特に匂わすことなくこう答えた。
「さもなければ。ここまで来ませんよ」
「まあ信じさせてもらうぜ」
 マサキは内心いぶかりながらもこう述べた。
「けれどよ、何かあった時はわかってるんだろうな」
「その時はどうぞ好きなようになさって下さい」
 シュウはそう返した。
「もっともそんなことをして私にどういった利益があるか、ですが」
「御前だけはわからねえからな」
 ここでマサキはその疑念を見せてきた。
「おめえはどうも信用できねえ。バルマーの時からな」
「また昔のことを持ち出しちゃって」
 チカはそれを聞いて呟く。
「また何か企んでいるだろうかな、って思ってな」
「信用がないのですね」
「正直に言わせてもらうとな」
 マサキはそれに応えた。
「まだ完全には信用できねえ。今度はどうするつもりだ」
「さて」
 シュウはそれにはとぼけてみせた。
「少なくともヴォルクルスを倒すつもりはありますよ」
「信じていいんだな」
「信じていなければ貴方達はここには来なかった。違いますか」
「・・・・・・いや」
 それは事実であった。心の何処かでシュウを信用していたからこそここまで来た。それもまた事実であった。
「着きましたよ」
「遂にかよ」
 見れば目の前には一際巨大な黒い山がそびえ立っていた。
「ここです。ヴォルクルスがいるのは」
「ここか」
 マサキはその山を見上げて大きく息を吐き出した。そして言った。
「こんなでけえ山ははじめて見るな。何て高さだ」
「ラ=ギアスで最も高い山でしょうね」
 シュウがそれに答える。
「標高は。あのチョモランマ以上でしょうか」
「そこにヴォルクルスがいるんだな」
「そうです。では覚悟はいいですね」
「ああ」
 マサキは頷いた。見れば三隻の戦艦からもうマシンが出ていた。そして戦闘態勢に入っていた。
「行きますよ」
 シュウはそう言うと前に出た。そして山のある部分にネオ=グランゾンの右手で触れた。
「開きなさい」
 その一言で山が開いた。そして大きな洞窟が顔を覗かせた。
「ここです」
「そこから入るんだな」
「はい」
 シュウはマサキの言葉に頷いた。
「ここから中に。そして行く先には」
「ヴォルクルスだな」
 皆マサキのその言葉に無言で応えた。そして静かに洞窟の中に入っていくのであった。
 
 洞窟はほんの一瞬のように感じられた。気付くと彼等は広い神殿の中にいた。
 不思議と峻厳さは感じられなかった。そのかわりに中には禍々しい邪気に満ちていた。
「これがヴォルクルスの気かい」
 ベッキーがそれを周りに感じながら呟いた。
「あんまりいいもんじゃないね。身体に纏わりつくみたいだ」
「それだけ邪悪だということでしょうね」
 デメクサも珍しく真面目な顔になっていた。
「これだけの妖気は。拙僧も今まで感じたことはない」
 ティアンもであった。普段の破天荒さは何処にもなかった。
「ヴォルクルス、一体どれだけ邪悪な存在なのか」
「ようこそ、シュウ様」
 ここで低い男の声がした。
「お待ちしておりましたぞ」
 長い法衣を着た波がかった髪の男が出て来た。まるで悪霊の様な外見である。
「久し振りですね、ルオゾール」
「ルオゾールだと」
 ヤンロンがその名に反応する。
「ルオゾールって!?誰だそりゃ」
「おい甲児君、前聞かなかったか」
 大介が甲児の言葉を聞いて呆れた声を出した。
「あれっ、そうだったっけ」
「ヴォルクルスに仕える神官だ。前マサキ君達から聞いていただろう」
「悪い、完全に忘れてた」
「やれやれ。全く」
「何か兄さん最近年寄り臭くなってきたね」
「まあね。何かと苦労が多くて」
 そう言いながら苦笑をする。
「おかげで。ベガ軍団と戦っていた時より肩が凝るよ」
「そういう時はサロンパスだぜ、大介さん」
「甲児、あんたのせいでしょ」
「まあまあ」
「実はマリアちゃんもその肩凝りの一旦を担っていたりして」
「もう、ひかるさんたら」
 ひかるの言葉に口を尖らせる。そう話している間にも話は動いていた。
「この者達ですな」
「ええ」
 シュウはルオゾールの言葉に頷いていた。
「でははじめますか」
「はじめる・・・・・・一体何をだ」
 ショウがそれを聞いて眉を顰めさせる。
「まさかねえ」
 アスカの目に疑惑の光が宿る。
「邪神の復活なんて生け贄がつきものだし」
「何っ、それじゃあ」
「そうよ、トウジ」
「人違いだぞ」
「ゲッ、ドモンさんじゃない。どうしてこんなところに」
「今まで一緒にいたが。何故そんなに驚く」
「いや、ちょっとね。何か声がそっくりだったから」
「そうか」
「いやあ、間違えちゃった。御免なさい」
「アスカもせっかちやなあ」
「ってあんたがドモンさんと声が似てるからでしょ」
 アスカはそれを聞いて噛み付いてきた。
「全く。何でこんなに声が似てる人ばかりなのよ」
「分かれる前は僕とリンさんも間違えてたよね」
「全然似てないけどね。何故かしら」
「アスカは耳がいいから」
 レイがいつもの感情も抑制もない声で言う。
「だから。聞き間違えるのだと思うわ」
「けど。僕とリンさんは全然似ていないよ」
「いえ、似ているわ」
「そうかなあ」
「私もクリスさんと似ているし。そういうものよ」
「そういうものか」
「ええ」
「まあドモンさんっていったらあの思い出したくもない変態爺さんがいるけれど」
「ここにも急に出て来たりしたらおもろいな」
「おもろくはないわよ!何処の世界に使徒を素手で破壊できる人がいるのよ!」
「あれはね。びっくりしたよ」
 シンジもその時のことを思い出していた。
「正直。あんなことができるなんて」
「人間力を極限まで出せれば。可能よ」
「・・・・・・その前に人間なの、あの人」
「そう言われると凄い疑問なんだけれど」
「多分人間よ」
「・・・・・・多分ね」
 さしものアスカも言葉がなかった。
「また戦うことになったら。会いたくはないわね」
「そうかなあ。僕は敵だけれど格好いいと思うよ」
「あんた、あんな人間か何かさえわからないのが格好いいって言うの?」
「あれだけ強いと。何か憧れない?」
「憧れないわよ!あたしは人間がいいのよ!人間が!」
「生物的には同じよ。これは保障するわ」
「そういう問題じゃないわよ!ニュータイプとかそういうのじゃないでしょ、あれは!もう完全にBF団とかそういう感じじゃない
のよ!」
「また懐かしい名前出したなあ、おい」
「大作君、元気かなあ」
「元気らしいわよ」
 レイがトウジとシンジに答える。
「そうなの」
「BF団も壊滅したそうだし。安心していいわ」
「そう、それはよかったよ」
「やっぱ幸せにならへんとな。不幸な子供は」
「その前にあたし達が不幸になりそうなんだけれど」
「不幸!?何があったの」
「皆。動けないんだけれど」
「えっ」
 気が付けばその通りであった。全てのマシンが動けなくなってしまっていた。
「おい、こりゃどういうことだ」
 マサキがシュウとルオゾールに対して問う。
「一体何をしやがった」
「影縛りです」
 ルオゾールは一言こう答えた。
「影縛りだと」
「はい。貴方達が動けないようにね。縛らせて頂きましたよ」
「何っ、それじゃあまさか」
「ええ、その通りです」
 ルオゾールはまた答えた。
「貴方達は。ヴォルクルス様の生け贄になる為にここにまで来たのですよ」
「何っ、それじゃあ」
「シュウ、手前騙しやがったな」
 だがシュウはそれには答えない。かわりにルオゾールが言う。
「ではシュウ様」
「はい」
 ここでシュウはやっと口を開いた。ルオゾールにも顔を向ける。
「断章の第四段を」
「わかりました。では」
 それを受けて暗誦をはじめた。
「全てに平等なるは、死と破壊……万物は無から生じ、無へと帰る」
「その言葉は」
 ファングが呻き声に似た声をあげる。
「ヴォルクルスの書の一部か」
「ええ。そしてそれが終わり生け贄を奉げた時にヴォルクルス様が甦られるのです」
「手前等、最初からそのつもりだったのかよ」
「騙される方が悪いのですよ。騙される方がね」
 ルオゾールはそう答えてうそぶいた。
「ではシュウ様、生け贄を」
「わかりました。では」
 暗誦を終えたシュウはマサキ達に顔を向けて来た。殆どの者が彼を怒りの目で睨み据えている。
「手前、許さねえからな」
「シュウ様、わたくしはシュウ様の御為ならこの命を放り投げても惜しくはありません」
「ですから文法が変ですよ、モニカ」
 シュウはそう答えながらまた言った。
「モニカ、ヴォルクルス様の復活には信頼していた者に裏切られた絶望と悲しみの感情が必要なのです」
「はい」
 モニカはその言葉に頷いた。
「そしてそれが強ければ強い程」
「ヘン、なら全く意味はねえな」
 甲児が悔し紛れのようにこう言った。
「俺達は最初から手前をあんまり信用してなかったんだ。それでどうして信頼していたなんて言えるんだよ」
「ですね。それは私もわかっています」
「それならとっとと解放しやがれ!今すぐぶちのめしてやっからよ!」
「まあ話は最後まで聞いて下さい」
 激昂する甲児に対して穏やかに言う。
「そう、信じていたものが崩れ去る時の絶望感。今の貴方達にはありません」
「シュウ様」
 ルオゾールが痺れを切らした様に声をかけてきた。
「わかっています。それでは」
 シュウはそれに応えてにこりと笑ったままネオ=グランゾンをルオゾールのナグツァートに向けた。そして言った。
「絶望よ・・・・・・今!」
 一条の雷が落ちた。そしてそれは何とルオゾールのナグツァートに落下したのであった。
「なっ!?」
 これには一同思わず息を飲んだ。
「どういうことだ一体」
「ナグツァートが。落雷に撃たれた」
「な、何が一体・・・・・・」
 落雷に撃たれたルオゾールはそれでも生きていた。だが全身、そしてナグツァートに大きなダメージを受けており最早幾許もないのは誰の目にも明らかであった。
「シュウ様、これは一体」
「ふふふ、ルオゾール、どうですか」
 彼は虫の息の彼に笑いながら声をかけてきた。
「信頼していた者に裏切られるというのは」
「シュウ様、これは」
 サフィーネも驚いて声をあげる。
「何もありませんよ、生け贄を捧げただけです」
「生け贄を」
「ええ」
 シュウはしれっとした態度で答える。
「言った筈です。信じていた者に裏切られた絶望と悲しみが大きければ大きい程いいとね」
「ではルオゾールは」
「そうです。どうですか、ルオゾール」
 再び彼に声をかける。
「今の気持ちは」
「あ、あががががががががが・・・・・・」
 だが彼は断末魔の中に呻くだけであった。何とか言葉を出そうとするがそれは容易ではなかった。
「何か苦しそうな顔ですね。おかしなことです」
 冷徹な笑みを浮かべて言う。
「あれだけ崇拝していたヴォルクルスの生け贄になれるというのに。もう少し嬉しそうな顔をしたらどうです?」
「い、今名を」
「ああ、呼び捨てにしたことですか」
 シュウはうそぶく。
「ヴォルクルス様と契約した以上そのようなことは」
「これも貴方のおかげですよ」
「私の・・・・・・」
「ええ、全てね。貴方の蘇生術が未熟だった為私とヴォルクルスの契約が消されてしまったのです。幸運と言えば幸運でしたね」
「そんな・・・・・・」
「まあ安心して下さい」
 今度はこう言った。
「ヴォルクルスはは復活させますよ、貴方の命でね」
「復活させてどうしようと・・・・・・」
「私の性格は知っているでしょう?」
 その声に冷笑を漂わせてきた。
「ヴォルクルスは私を利用しようとしました。自由を愛し、何者にも縛られない私をね」
 声に冷笑の他に凄みも混じってきた。
「それがあの忌まわしい契約で私の自由は奪われていたのです。許すことはできません。何故なら」
「何故なら・・・・・・」
「この世で私に命令できるのは私だけなのです!」
 そして言い切った。その顔をえも言われぬ威圧感が覆った。
「ヴォルクルス・・・・・・その代償としてこの手で葬って差し上げます。完全にね」
「あぐううううううう・・・・・・」
「もう碌に話もできないようですね。ですが楽には死ねませんよ」
 威圧感は消えた。だがその声を支配する冷徹さはまだ残っていた。
「貴方のその感情が。復活の力なのですからね」
「しゅ・・・・・・うう・・・・・・」
 最後に何を言ったのか、もう誰も聞き取れはしなかった。しかし呪詛の言葉であるのは確かであった。ルオゾールは最後に恨みと憎しみ、そして絶望を感じながら滅んでしまった。
「サフィーネ」
 シュウは今度はサフィーネに声をかけてきた。
「は、はい」
「貴女は下がっていなさい」
「何故でしょうか」
「貴女も正式ではないとはいえかってヴォルクルスと契約を交あわしています。かなり魔力が高くないとヴォルクルスに取り込まれてしまいますよ」
「大丈夫です」
 だが彼女は言い切った。
「私は。サフィーネ=グレイスですから」
「宜しいのですね」
「はい」
 そして頷いた。
「シュウ様と共に。戦わせて下さい」
「わかりました」
 シュウはそれを受けて頷いた。
「ですが。わかっていますね」
「はい」
「ヴォルクルスに操られた時は」
「その時はシュウ様が私を」
「わかりました。では」
「おい、シュウ」
 気が付くとマサキが横にいた。ルオゾールが倒れた為その影縛りが解けたのである。
「おや、マサキ」
「またえれえこと企んでくれてたなあ、おい」
「隠していたのは申し訳ありません」
「まあどのみちこんなこったろうとは思ってたけどよ。で、ヴォルクルスが出て来て勝てるのかよ」
「勝算がなければわざわざ来ませんよ」
 シュウはすっと笑って答えた。
「確実にね」
「じゃあ勝てるんだな」
「ええ」
「相変わらずの自信だけどよ。何かあっても知らねえぞ」
「何かとは」
「サフィーネのこともあるしよ」
「彼女なら大丈夫ですよ」
「大丈夫なのかよ」
「ここまで来て異常はないのですから。心配いりません」
「それはもうわかっていたことなのか」
「ええ。ところでマサキ」
「何だ?」
「周りを見て下さい。そろそろ来ますよ」
「むっ」
 見ればその通りだった。デモンゴーレム達がその姿を現わしていた。
「おいおい」
「どうです、かなりの数でしょう」
「どれだけいるんだよ、こんな数のデモンゴーレム見たことねえぞ」
「これもまたヴォルクルスの力です」
「これ全部俺達で倒さなきゃいけねえのか」
「そうですね。けれど私は彼等の相手をするわけにはいきません」
「ヴォルクルスを倒すからか」
「はい。では用意はいいですね」
「ああ」
「出ますよ、いよいよ」
 マサキは息を飲んだ。目の前に実体化してきた巨大な影を見据えながら。
「とうとう出て来ましたね」
「ああ」
「ヴォルクルス。長かったですねえ」
「面白いな」
 アハマドが姿を現わした禍々しい怪物を見て楽しそうに呟く。
「口の中がアドレナリンで一杯だ。やはり俺は戦いが好きなのだな」
「コーヒーとどっちが好き?」
 ミオがそれを聞いて突っ込みを入れてきた。
「コーヒーだ」
 アハマドはあっさりと返す。
「それもブラックがいい。チョコレートケーキがあるともっといいな」
「アハマドさんも案外ノリがいいのね」
「だが漫才はやらないぞ。ゲンナジーと二人でやってくれ」
「了解」
「何か一気に緊張がほぐれたが。まあいい」
「いいの」
 今度はリューネが突っ込みを入れてきた。
「ああ。落ち着いてきたからな。ところでいいな」
「ああ、わかってるよ」
 リューネはアハマドの言葉に頷いた。
「来てるからね、やるよ」
「うむ」
 見ればヴォルクルスとデモンゴーレムだけではなかった。ヴォルクルスの上半身や下半身だけの存在も多数出現していた。そしてロンド=ベルを取り囲んでいた。
「グググ・・・・・・」
 地の底から響き渡る様な声がした。それがヴォルクルスのものであることは明らかだった。
「ワガ・・・・・・ネムリヲ・・・・・・サマタゲタノハ・・・・・・オマエタチカ」
「ええ」
 シュウはその言葉に応えた。
「それが何か」
「ワカッタ・・・・・・デハ・・・・・・ホウビヲ・・・・・・ヤロウ」
「いらねえつってもくれるんだろうな、こういう奴は」
「マサキも話がわかるようになってきましたね」
「まあな。長いからな、こんな戦いが」
「死だ。御前達に死をやろう」
「ほらな、やっぱりだ」
「で、どうしますか」
「そんなもんこっちでお断りだぜ。やってやるぜ」
「では行きますか。サフィーネ」
「ハ、ハァハァ・・・・・・」
 彼女はこの時肩で息をしていた。何かと戦っているようであった。
「大丈夫ですか?」
「な、何とか」
「無理なら下がっていなさい。まだ間に合いますよ」
「だ、大丈夫です。何故なら」
「何故なら」
「あ、あたくし、シュウ様と○○○するまで死ねませんものーーーーーーーーーっ!」
 そして叫んだ。どうやらそれで吹っ切れたようであった。
「その時まで、何があっても生き抜きますわ!」
「殺したって死にそうにもねえしな」
「お下品・・・・・・」
 モニカがそれを聞いて呟く。だがどうにかこうにか洗脳は取り払うことができた。
「何かサフィーネ様らしいなあ」
 チカも呟く。こうして彼女は何とか打ち勝った。
「さて」
 シュウはそれを確かめたうえでヴォルクルスと向き直った。
「では行きますよ。覚悟はいいですか」
「覚悟、何だそれは」
「貴方が滅び去るということを知ることですよ、これからね」
「馬鹿なことを」
 ヴォルクルスはそれを聞いて言う。
「我は破壊神。神が滅びることなぞ」
「神でも滅びますよ。ましてや貴方は神ですらない」
 シュウは言い返した。
「何だと」
「単なる悪霊です。本来破壊とはその後に創造、そして調和があるもの」
 インドサンスクリット哲学の考えであった。
「貴方はただ破壊するだけです。それでどうして神と言えましょうか」
「言わせておけば」
「貴方が破壊の神ならば。このネオ=グランゾンを破壊してみなさい」
 そして言う。
「できるものならばね」
「ならば」
 それを受けて巨大な爪が煌いた。
「死ぬがいい」
 しかしそれはあえなくかわされてしまった。ネオ=グランゾンは宙に浮かんでいた。
「その程度ですか」
「ぬうっ」
「それでは。私は倒せませんね」
 挑発するように言った。
「かって私は破壊神の名を持つ者を倒しました」
「そんなことあったか?」
「忘れてしまいましたか、マサキ」
 隣に来たマサキに対して顔を向けて問うた。
「シュテドニアスとの戦いの時ですよ」
「シュテドニアス」
「バイラヴァのことよ、マサキ」
 テュッティがここで彼に対して言った。
「バイラヴァ。あれかよ」
「そう、あれです」
 シュウはそれに頷いた。
「バイラヴァというのはシヴァの別の姿です。彼の破壊の心がそのまま出たものです」
「そうだったのかよ」
「思えば詰まらない相手でしたが」
 ラセツが乗っていたそのマシンはシュウにあえなく倒されていたのである。マシンが弱かったのではなくネオ=グランゾンがあまりに強かったせいだ。
「ヴォルクルスもまた。滅びることになります」
「戯れ言を」
 しかし下にいるヴォルクルスはそれを認めようとはしなかった。
「我が滅びる筈がない。神は滅びぬ」
「どうやら言っても無駄なようですね」
「そうだろうな。こういった奴はどうあがいても潰すしかねえよ」
「では」
 シュウはそれに応える形で動いた。そしてワームスマッシャーを放つ。
「容赦せずにいきますか」
「今回ばかりは手伝ってやるぜ」
「おや」
 そう言って動きを合わせてきたマサキに顔を向ける。
「珍しいですね。貴方が私にそのようなことを言うなんて」
「へっ、おめえを助けるわけじゃねえよ」
 マサキはそれに対してこう言い返した。
「こいつを何とかしなくちゃ世界がえらいことになっからな。魔装機神操者としての義務さ」
「そうですか」
「じゃあ行くぜ。倒すんだったら一気にやった方がいい」
「はい」
「共同作戦だ。俺はフォローに回る」
「メインは私ですか」
「おめえが呼び出したんだからな。当然だろ」
 マサキはそう言葉を返した。
「違うか。何なら替わってやってもいいがな」
「いえ、それは遠慮します」
 しかしそれはシュウの方で断られた。
「私のやったことですから。私が始末しましょう」
「そうか。じゃあやりな」
「はい。それでは」
 そしてシュウは攻撃に入った。ヴォルクルスの前に行きまずはグランワームソードを出した。
「これで」
 迫り来る爪を薙ぎ払った。そしてその腕も切り落とす。
 だがそれでもヴォルクルスは立っていた。それどころか腕が切られた側から生えてきていた。
「まるで化け物だな」
「再生能力に優れているということです」
 驚きを隠せないマサキに対してシュウは冷静なままであった。
「そうした意味で非常に厄介な存在です」
「やっぱり一気にやるしかねえか」
「ええ。それでは縮退砲で」
「待ちな。それだけじゃ駄目かも知れねえぜ」
「まさか」
 シュウはそれを否定しようとした。
「この縮退砲の威力は貴方も知っているでしょう」
「まあな。けどそれだけじゃ足りねえかも知れねえ」
「ではどうしろと」
「だからその時の為に俺がいるって言ったろ。いい考えがあるんだ」
「いい考え」
「そうだ。まずは俺がコスモ=ノヴァを撃つ」
「はい」
「おめえはそこで縮退砲を撃つんだ。それならいけるぜ」
「成程、同時攻撃ですか」
「これならあの化け物でも一撃でくたばるだろう。それでどうだ」
「面白いですね。やってみますか」
 シュウはそれに頷いた。そして銀色のマシンと青いマシンが同時に動きはじめた。
「何をしようと無駄なこと」
 ヴォルクルスはそれを見て言った。
「我を倒せはせぬ」
「何か同じことばかり言ってるな」
「実はあまり知能は高くはないのです」
「そうなのか」
「単なる悪霊の集合体ですからね。その思考にあるのは破壊への衝動だけです」
「つまり本能だけってことだな」
「ええ」
 シュウは頷いた。
「ですから。こっちは頭を使えばいいのです」
「その為の攻撃だな」
「そうです。では行きますか」
「おう」
 二人は攻撃に入る。まずは約束通りマサキが動いた。
「いっけえええええーーーーーーーーっ!」
 その銀色の身体がさらに輝きを増した。その両肩から白い光を放つ。
「コスモノヴァ!」
 二つの光が一つとなった。そしてヴォルクルスの腹を直撃した。
「グオオ・・・・・・」
 だがそれでもヴォルクルスは立っていた。しかしそれを見てもマサキ達は冷静なままであった。予想していたことであったからだ。
「次は私が」
「おう、頼むぜ」
 シュウが前に出た。そして胸から黒い光を放った。
「縮退砲・・・・・・発射!」
 今度は黒い光が伸びた。それで今しがたコスモノヴァが撃った部分を狙う。見ればそこには大きな穴が開いていた。
 しかしそれは今閉じようとしていた。驚くべき回復力であった。
 だが回復するより前に黒い光がそれを防いだ。さしものヴォルクルスもその動きを止めてしまった。
「もう一撃だ!」
「はい」
 だがコスモノヴァは一発しかない。どうするかと思われた。
 しかしそれは問題にならなかった。マサキはそれを驚くべきことでカバーしたのだ。
「アカシック=バスター!」 
 アカシック=バスターを放つ。しかしそれは一撃ではなかった。
 もう一撃放った。それは今しがた攻撃が加えられた場所にまたしても命中した。
 立て続けの攻撃にヴォルクルスは為す術もなかった。そのまま動きを止めていた。
「シュウ、最後は手前でつけやがれ!」
 マサキはそれを見てシュウに対して言った。
「自分のことは自分でするんだろ!だったらやりな」
「やれやれですね」
 シュウはそう言いながらも前に出て来た。
「貴方は。どうしてそう言葉遣いが乱暴なのか」
「それが俺の売りなんだよ」
「売りと乱暴なのはまた違いますが。ですがそれをここで言っても仕方ありませんね」
「早くしな」
「まあ話していても何ですし。ここは決めますか」
「御主人様、ドカンとやっちゃって下さい」
「わかりました。それでは」
 また攻撃態勢に入った。その胸が黒く光る。
「縮退砲・・・・・・発射!」
 それで全てが終わった。ヴォルクルスは闇の中に消えた。最後の断末魔の言葉すらなかった。
『グオオオオオオオ・・・・・・』
 だがそれは違った。残留思念が最後の呻き声をあげていた。シュウはそれを聞き逃さなかった。
「どうですか、滅んだ気持ちは」
 そして涼しげな笑みを浮かべてこう問うた。
「自分が滅ぼされる気持ちは。また違うでしょう」
『おのれ・・・・・・』
 その声は呪詛であった。
『人間が・・・・・・神を滅ぼすなぞと・・・・・・』
「先程も言いましたが貴方は神なぞではありませんよ」
 シュウは涼しげな笑みのままこう返した。
「貴方は悪霊に過ぎません。悪霊は所詮神にはなれません」
『まだ言うのか』
「ええ、何度でも言いますよ。悪霊は神にはなれないと」
 そして顔を引き締めてから言う。
「神になれるのは人間ですから」
「人間が!?」
 その言葉にシンジが反応した。
「人間が神に」
「はい、その通りです」
 シュウはシンジの言葉に頷いてみせた。
「使徒もまた。そうした意味では同じだったのですけれどね」
「カヲル君も」
「そう。彼もそれはわかっているでしょうね」
 ここで彼は過去形を使わなかった。
「だからこそ一度は貴方の前から姿を消したのです」
「あの、シュウさん」
 アスカが彼の口調に気になり問うた。
「何か彼が生きているみたいな口調ですけれど」
「ええ、彼は生きていますよ」
 そしてシュウはそれを認めた。
「嘘・・・・・・」
「使徒もまた復活していましたね」
「はい」
 その通りであった。エヴァが再び起動させられたのはその為であったからだ。
「あの変態爺さんにやられてしまいましたけど」
「ふふふ、変態ですか」
 シュウは当然のようにマスターアジアも知っていた。
「これはまた手厳しい」
「あれを変態って言わなくて何で言うのよ。本当に人間なのかしら」
「ホンマアスカはあの人嫌いなんやな」
「嫌いって言うか常識外れ過ぎるから。使徒を素手で破壊するなんて流石に思いもよらなかったわ」
「まあそやけどな」
「あの人もあの人で人類の可能性の一つなのですよ」
「つまり修業を積めばなれるということですね」
「その通りです」
「どんな修業やったらああなるのかすっごく疑問なんだけれどね」
「けど。何か憧れるよね、あんなに強いと」
「素手でマシンを叩き潰すシンジっちゅうわけやな」
「もうそれじゃあ漫画ね」
「勿論シンジ君もそうなれる可能性はあります」
「本当ですか!?」
「って目輝かせてるし」
 アスカはもう完全に呆れていた。
「どうなってるのよ、最近」
「けれど碇君が前向きになれたらいいと思うわ」 
 レイはここで静かに言った。
「違うかしら」
「まあそう思えるならそれでいいけれど」
「けど不満やっちゅうわけやな」
「前向きどころか未熟、未熟!とか叫んで暴れ回るシンジなんて想像できないわよ」
「そらまた」
「まあ人間が神様になれる可能性があるっていうのは興味深いわね」
「それもまたおいおいわかってきますよ」
「そうなんですか」
「はい。これから戦いはより激しさを増すでしょう。敵はバルマーだけではありません」
「はい」
「地球にもいます。そう、地球にも」
「ミケーネ、そして使徒ですか」
「はい」
 ここで彼は言外にあるものを言わなかった。これもまた彼の考えであった。
「それを通じて色々とおわかりになるでしょう。人間とは何なのかも」
「人間までも」
「少なくとも今消えた悪霊なぞではありません」
『ウオオオオオオオーーーーーーーー・・・・・・』
 最後の思念が消えた。こうしてヴォルクルスは完全に消え去ってしまったのであった。
「それはわかりますね」
「はい」
「ではそれを確かめる為に貴方達はこのラ=ギアスを後にしなくてはなりません」
「地上に」
「そうです。戻るつもりはありますね」
「当然です。何か名残惜しいですけれど」
「胞子の谷にも行けなかったしね」
「胞子の谷?」
 シンジはリューネの言葉に反応した。
「それって何ですか?地名みたいですけど」
「ラングランにある観光名所の一つなんですよ」
 シュウがそう説明した。
「巨大な茸の胞子が舞っていましてね。綺麗な場所ですよ」
「そうだったんですか」
「残念ながら時間がありそうにもないですが」
「今度来た時でいいです」
「今度って何時あるのよ」
 アスカがすかさず突っ込みを入れる。
「何時来れるかわかんないわよ」
「心配するなよ、戦いが終わったら連れて行ってやるよ」
 マサキが言った。
「終わったらな。それでいいだろ」
「はい」
「アスカも一緒にどうだ?」
「フン、あたしはそんな子供っぽい場所には行きたくなんかないわよ」
「おやおや」
「けれどバカシンジが心配だからね。保護者同伴ってことで行ってあげてもいいわよ」
「つまり行きたいんだな」
「不本意だけれどね」
「何でこの人こんなに素直じゃないのかね」
「チカ、女の子は色々と複雑なんですよ」
「そういうこと。わかったわね」
「それじゃあそれはそれでいいな」
「はい」
「じゃあまあ戦いも終わったし。地上に戻るか」
「ダカールでいいですか」
「ダカール?何かあんのか、あそこで」
「今ダカールに向けてネオ=ジオンが降下作戦を行っているのですよ」
「ゲッ、やばいなそりゃ」
 サンシローがそれを聞いて声をあげる。
「早く行かねえと。まずいぜ」
「ええ。既に宇宙に向かった貴方の仲間達は地上に戻ろうとしております。どうされますか」
「決まってるだろ、すぐに助けに行くぜ」
「ダカールをハマーンなんかに渡しちまったら大変なことにならあ。それにあいつ等が心配だぜ」
 マサキだけでなく甲児までもが言った。
「すぐに行かねえと。シュウ、すぐに道を開きやがれ」
「言われなくともすぐに開きますよ」
「よしきた」
「待ってくれ、甲児君」
 しかしここで鉄也が呼び止めた。
「どうしたんだよ、鉄也さん」
「俺達だけ言っても仕方が無い。戦艦も一緒でないと」
「おっと、そうか」
「一旦外に出よう。そして戦艦と一緒に地上に戻ろう。それでいいな」
「了解」
「じゃあすぐに外に出るか」
「よし」 
 こうして彼等は皆神殿から出て戦艦の中に入った。その前にネオ=グランゾンが立つ。
「それでは宜しいですね」
「はい」
「よくありませんわ」
 しかしそれに異議を唱える者がいた。サフィーネであった。
「どうかしたのですか?」
「シュウ様、ここでお別れなのですか?」
「はい」
 シュウはつれなくともとれる様子でそれに頷いた。
「また御会いできますよ」
「いえ、そうではなくて」
「何かあるのですか?」
「おおありですわ!あたくしも御一緒に」
「どうするつもりなんだよ」
「シュウ様とラ=ギアスに残って。そして」
「ああ、そっから先はもう言わなくてもわからあ」
 マサキはこう言って話を打ち切った。
「一応本人の希望だけどよ、どうすんだ、シュウ」
「サフィーネ、できるなら貴女とモニカはロンド=ベルに残って下さい」
「何故ですの!?」
「今の私は単独行動に専念したいので。それに彼等にとって貴女達は貴重な戦力です」
「ですが」
「私のことは心配いりません。それに貴女には期待していますから」
「期待」
「はい。私の願いに応えてくれることをね。今は彼等のサポートをお願いします」
「シュウ様の御言葉でしたら」
「こういう時シュウって上手いニャ」
「本当だね」
「まあ今は静かにしてな、クロ、シロ」
「了解ニャ」
「それじゃ」
 二匹はマサキの影の中に戻った。
「このサフィーネ、喜んで」
「わたくしもシュウ様の御言葉に従わさせて頂たく存じますわ」
「何でこの姫さん文法が変なのかなあ」
「これもう子供の頃からなのよ」
「セニアはおかしかないのにな」
「顔以外全然似てないってよく言われるわ」
「だろうな」
「それではそれで宜しいですね」
「了解させて頂きました」
「不本意ですけれど」
「ではそれではそろそろはじめますよ」
「はい」
 こうして地上への道が開かれた。巨大な黒い穴がそこに開いた。
「ではまた会う日まで」
「シーユーアゲイン」
「最後は決めたな、レミー」
「最後に格好つけるのがいい女の条件だからね」
 こうして彼等は地上に戻っていった。シュウはそれを一人見送っていた。
「長かったようであっという間でしたね」
「ええ」
 チカの言葉に頷いた。
「それでは我々も次の行動に移りますか」
「そうですね」
「彼もそろそろ地球に来ますし」
「案外遅かったですね」
「色々あったようですからね、彼等も」
「一枚板じゃないってことですか」
「そう。それに司令官は」
「これからも何かありそうですね」
「はい」
 彼等はそんな話をしながらヴォルクルスの神殿を後にした。この時シュウですら気付いてはいないことがあった。
 白いスーツにボルサリーノの男がそれを見ていたのである。彼は雪の中に立つようにしてシュウ達を見ていた。
「ヴォルクルスも倒しましたか」
 にこやかな笑みをたたえてネオ=グランゾンを見ていた。
「どうやら時がはじまったようですね。我等の主が降臨する時が」
 そして一言こう言うとその場を後にした。彼が何処から来て何処に消えたのか誰も知らなかった。


第六十話   完


                                      2005・12・14


[338] 題名:第五十九話 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年06月01日 (木) 19時55分

            燃える地球
 ロンド=ベルは遂に地球圏に降下しようとするネオ=ジオン本軍にまであと僅かという距離にまで迫っていた。彼等はすぐに戦闘態勢に入った。
「全機出撃用意」
 ブライトの指示が下る。
「すぐに敵にあたるぞ」
「はい」
 皆それに頷く。
「まずは戦艦を重点的に狙え。戦艦を沈めればそれだけ降下する戦力が減る」
「わかりました」
「特に大気圏突入可能な機体は前に出ろ」
「僕達ですね」
 カミーユがそれに応える。
「そうだ。そして」
「あたしよね」
 ルーも出て来た。
「そうだ。わかってるな」
「はい」
「まあ任せておいて。けれど単独行動は駄目なのよね」
「後で何処に降下するかわからないからな。小隊ごとの行動は守ってくれ」
「わかりました」
「了解。そういえばうちも結構大気圏突入できる機体が多いわよね」
「ここにはいないけれどセレーナさんもゼータだしな」
 ビーチャが言った。
「後はザンボットもそうだったんじゃないの?」
「あれっ、そうだったのか」
 勝平はエルの言葉にキョトンとした。
「ザンボットって大気圏も突入できたのかよ」
「馬鹿、何で知らねえんだよ」
 宇宙太がそんな彼に対して言う。
「だから地球まで来れたんだろうが」
「けどあれはキングビアルの中にいたからじゃねえのか」
「まあそうかも知れないけどな」
 宇宙太も一旦は勝平の言葉に頷いた。だがそれでも言った。
「それでもちゃんと睡眠学習で習っただろうが」
「大気圏突入能力をかい?」
「そうだよ。ちゃんと覚えておけ」
「あんたがしっかりしないと駄目なんだからね」
 恵子も言った。
「頼むわよ、もう」
「悪い悪い」
「まあ突入したらかなりザンボットが傷むんだけれどな」
「それじゃあまともに戦うのは無理か」
 モンドがそれを聞いて呟く。
「まあ仕方ないね。ゼータとかが特別なんだから」
 イーノも言う。
「やっぱりザンボットも普通にやらなくちゃ駄目か。結構大気圏の戦いって難しいんだな」
「ジュドー、君のダブルゼータは大気圏は無理だったな」
「ええ、まあ」
 彼はカミーユの言葉に応えた。
「それは流石に。その点ではゼータには負けますね」
「そうか」
「キュベレイでも駄目かなあ」
「馬鹿、死にたいのか」
 プルツーが能天気に言うプルを窘める。
「そんなことをしたら大変なことになるぞ」
「そっかあ」
「無理はするな。いいな」
「うん」
「ドラグナーやバルキリーも無理だな」
 ブライトは話を続けた。
「エステバリスも。ライディーンやダンクーガもだ」
「何かあまりないですね、本当に」
 ケーラが言った。
「仕方無いと言えば仕方無いですけどね」
「だがいざという時これでは心もとないな」
 ブライトの言葉は続いた。
「グレンダイザーはいけるのですけれどね」
「残念だがあれは今ラ=ギアスにいるしな」
「失礼、そうでした」
 ケーラは自分の言葉を引っ込めた。
「後は・・・・・・ゴッドマーズですか」
 エマがふと呟く。
「ゴッドマーズだといけるのではないでしょうか」
「そうだな」
 ブライトはまず頷いた。
「タケル、そこはどうだ」
「いけることはいけますけれど途中の操縦はかなり落ちると思いますよ」
「どういうことだ、それは」
「ゴッドマーズが地球に降りた時も本当は何処に降りるかわかりませんでしたし。六神もバラバラでしたから」
「そうか」
「それじゃあゴッドマーズも無理ですね」
「すいません」
「いや、謝ることはない」
 ブライトは申し訳なさそうな顔をするタケルを宥めた。
「仕方のないことだからな」
「はい」
「大気圏でも自由に動けるマシンは流石にないか」
「ゼータだけでは不安ですね」
「それならあたしのがあるよ」
「アイビス」
 アイビスとツグミがそこにやって来た。
「アルテリオンは元々宇宙飛行用だからね。単独で大気圏突入も可能なんだ」
「宇宙に出ることもできます」
 ツグミがここで一言付け加えた。
「そうだったのか」
「そうだったのかって言わなかったかな」
「いえ、初耳よ」
 フォウが言う。
「言ったかも知れないけれど皆忘れていたかも」
「やれやれだね」
 アイビスはそれを聞いて苦笑いを浮かべた。
「まあ実際に使う機会もなかったから仕方ないか」
「そういえばそうだな」
「それは置いておいてね。そういうわけだから大気圏でも自由に戦かえるよ」
「そうか」
「だからいざという時は任せて。後ろは引き受けるから」
「よし」
「ただ、一機だけだと貴女達に負担がかからないかしら」
 エマがふと言った。
「何、そんなの気にしないよ。アルテリオンだからね」
「そういう問題じゃないわ。大気圏で何かあったら本当に命がないわよ」
「命なんて。戦争してれば何時死ぬかわかったもんじゃないし」
「そういう問題じゃないの」
 エマの声が強くなった。
「無駄死にはよくないわ。いいわね」
「けれど実際に大気圏で満足に戦えるのはアルテリオンなんだろ?」
「それはそうだけれど」
「だからどのみちいざって時はやるから。任せてよ」
「一機だけじゃないですよ、アイビスさん」
 アラドが言った。
「あら」
「ゼオラも」
「俺達のビルトビルガー、ビルトファルケンも大気圏で戦えますよ」
「そして突入もできます。安心して下さい」
「そうだったの」
「はい。何せ特別製ですから」
「私達もいますから。アイビスさんもツグミさんも安心して下さい」
「いいね、じゃあお願いしようかな」
 アイビスはそれを聞いて頬笑みを浮かべた。
「今回は同じ小隊でいこうか」
「はい」
「宜しくお願いします」
「それじゃあ私とレーツェルはイルム、リンと組むわね」
「ええ」
「申し訳ないですけれどお願いします」
「いいのよ。年寄りは年寄りで固まりたい時があるし」
「おいおい、私も年寄りか」
 レーツェルはそれを聞いて苦笑した。
「全く。好き勝手言ってくれる」
「男は歳をとると渋みが加わるからいいのじゃなくて」
「知らない言葉だね。女は歳をとると磨きがかかるとは聞いているけれど」
「言ってくれるわね」
「それはお互い様」
 二人はそう言い合いながら笑みを浮かべる。だがそれで話はまとまった。
「それじゃあ行きますか」
 ジュンコが言った。
「敵もスタンバっていうことだろうしね」
「そうでしょうね、彼等のことだから」
 マーベットも言う。
「いつものこと。気にしないでいきましょ」
「けど迂闊に前には出ないで下さいね、ジュンコさん」
「こら、それは子供の言うことじゃないわよ」
 そう言ってウッソに返す。
「大人が子供に言うことよ。覚えておきなさい」
「はい」
「そこで納得するからウッソなんだよな」
「オデロはもうちょっと素直にね」
「はいはい」
 マーベットの突っ込みに返す。
「何か俺の場合は子ども扱いなんだよな」
「実際子供じゃない」
「それはそうだけれど」
「では総員出撃」
 ブライトが命令を下す。
「攻撃目標はネオ=ジオン。だが作戦行動時間は八分とする。それを過ぎれば我々も降下する」
「地球にですね」
「そうだ。目標はダカール。いいな」
「了解。それでは」
「よし。作戦開始!」
「はい!」
 こうして総員出撃した。その前にはもうネオ=ジオンの艦隊がいた。既に降下態勢に入っていた。
「クッ、もう降下態勢に入っていたか」
「ようこそ、ロンド=ベルの諸君」
 モニターにハマーンが姿を現わす。
「ハマーン」
「よく来てくれたと言いたいが少し遅かったようだな」
「クッ」
「既に我が軍の殆どは降下態勢に入っている。出迎えに来てくれたのなら話は別だ」
「ハマーン、そんなことを言っていられるのも今のうちだぜ」
 ジュドーが叫ぶ。
「どっちにしろ地球で御前等を倒してやるからな。覚悟しな」
「ジュドーか」
 ハマーンは彼を見据えた。
「相変わらず元気なことだ。だが今ここで私を倒すことはできぬぞ」
「チッ!」
「会うのは地球でだ。その時を楽しみにしている」
「待てハマーン」
 今度はクワトロが言った。
「・・・・・・シャアか」
 彼の姿を見て顔色が変わった。急に険を深めた。
「またしても私の前に姿を現わしたというのか」
「地球がそれ程恋しいというのか」
「戯れ言を」
 そうは言いながらも顔には嫌悪感が如実に現われていた。
「全てはジオンの大義の為。ミネバ様の為だ」
「それがミネバの為だというのか」
「そうだ。ミネバ様はジオンの唯一の正統な後継者なのだからな。そのミネバ様がジオンの大義を果たされる。素晴らしいことだと思わないか」
「それがミネバ=ザビが望んでいないのはわかるがな」
 クワトロはそう言い返した。
「ミネバはただジオンの呪縛に捉われているだけだ。それがわからないのか」
「貴様とそれについて話すつもりはない」
 ハマーンはこの話を打ち切った。
「話は終わりだ。ではな、シャア」
 そう言い残してグワダンに指示を下す。
「行くぞ、まずはこのグワダンからだ」
「ハッ」
 それに従いグワダンが降下に入った。
「ダカールで待っているぞ、シャアよ」
「くっ」
 歯噛みしたところでどうにもならなかった。こうしてハマーンはミネバと共に地球に降下したのであった。
「ハマーン様に続け!」
 マシュマーが叫んだ。彼はザクV改に乗っていた。
「地球に辿り着きジオンの大義を知らしめるのだ。よいな!」
「了解しました。ところでマシュマー様」
「何だ、ゴットン」
「そろそろ艦に帰った方がいいんじゃないですか?」
「構わん」
 だがマシュマーはゴットンの言葉に従おうとはしなかった。
「まだいい」
「いいって。あと数分しかありませんよ」
「数分あればロンド=ベルを数機撃墜できる!」
「そんなこと言って一度も勝ったことないじゃないか」
「?何か言ったか?」
「いえ、何も」
「ではいい。ゴットン、御前はそこで私の活躍を見ていろ」
「いや、最初からそうするつもりですけれど」
「仕方のない奴だ。だがいい」
 そして隣にいるグレミーに顔を向けた。彼は赤いバウに乗っていた。
「グレミー」
「はい」
「行くぞ。騎士道を奴等に知らしめるのだ」
「はい」
「待ちな、マシュマー」
 後ろにいるゲーマルクから女の声がした。
「キャラ=スーンか」
「あたしもいるよ。一緒にやるんだろ」
「戦いに女性を巻き込むのは好きではないが」
「何言ってるんだよ、長い付き合いじゃないか」
「ううむ」
「あたしも暴れさせてもらうよ。イリアもそれでいいね」
「私はいいが」
 彼女はリゲルグに乗っていた。かってのゲルググに似たモビルスーツであった。
「じゃあ決まりだよ。地球にキスする前にいっちょ派手にやるよ」
「派手にか」
「ラカンの旦那もいるしね。あれ、旦那は」
「もう地球に行っちゃいましたよ」
「何だい、つれないねえ」
 ゴットンの言葉を聞いて仕方なさそうに言う。
「まあいいさ。それじゃあ遊ぶとするかい」
「戦いは遊びではない!」
 マシュマーはそれに反論する。
「美しき華の場だ!そんな軽い考えでどうする!」
「いや、マシュマー様もえらい勘違いしてるけど」
「さっきから何だ、ゴットン」
「いえ、別に」
「全く。御前といいキャラといいだな」
 急に説教をはじめた。なおここは戦場である。
「そんなことで。そもそもハマーン様は」
「なあマシュマーさんよお」
「誰だ、軽々しく」
 顔を向ければそこにはガンダムチームがいた。当然その先頭はダブルゼータであった。
「ヌッ、何時の間に!?」
「いや、さっきから」
「あんた達がおしゃべりしている間に来ちゃったのよ」
 ルーもいる。見れば戦闘は既にはじまろうとしていた。
「ヌウウ、卑怯な」
「それはちょっと違うと思うなあ」
 モンドがそれを聞いてぼやく。
「そっちが勝手におしゃべりしてただけだし」
「通信聞いていて信じられなかったよ」
 イーノもモンドに続く。
「まあおかげで俺達楽にここまで来れたけれど」
「何か相変わらずだね、この人」
 ビーチャとエルも言った。やはりマシュマーはマシュマーであった。
「おのれ、名乗りもせずに」
「名乗りって?」
「やあやあ我こそはってやつだよ。ほら、万丈さんがいつもやってるだろ」
 プルツーがプルに説明する。
「ああ、あれ」
「そうさ。この日輪の輝きを怖れぬのならかかって来い!ってあれさ」
「あれ格好いいよな」
「モビルスーツには似合わないけれどな」
「けどドモンさん達ならやりそうだよ」
「まああの人達は少し違うから」
「元気にしてるかな」
「殺したって死なない人達だし。大丈夫だろ」
「そだね」
「ええい、無駄話はいい!」
「ってあんたがやってたじゃん」
 マシュマーにジュドーの突込みが入る。
「くうっ」
「で、どうするんだよ。やるのかい?」
「無論」
 マシュマーは答えた。
「さあ来るがいい。容赦はするな」
「最初ッからそんなつもりはねえけどよ」
「ハマーン様の為、ジオンの栄光の為」
「何かガトーさんと微妙に違うね」
「そもそもがシリアスじゃないからな」
「ええい、外野は黙っていろ!」
 名乗りの途中でプルとプルツーに叫ぶ。
「マシュマー=セロ、参る!」
「で、あたしも行くよ!」
「ゲッ、キャラまでいるのかよ」
「あたしがいなくちゃネオ=ジオンになんないでしょ」
「そうだったかな」
「そういうことさ。それじゃあ派手に暴れてやろうかね!」
 そう言いながらガンダムチームに向かって来た。彼女にはビーチャとモンド、そしてイーノが向かった。
「おっと、俺達が相手だぜ!」
「何で俺達なんだよ!」
「何か運が悪いなあ」
 調子づくビーチャに対してモンドとイーノは不満げであった。しかしそれでも巧みな連携でキャラのゲーマルクの前に展開していた。
「そして私の相手は御前達か」
 イリアの前にはプルとプルツーがいた。
「因果なものだな。かっては味方だったのに」
「今じゃジュドーの側にいられるもん」
「まあそういうことだ」
「そうか。それで満足してるのだな」
「毎日お風呂入られるし」
「いつも二人一緒だしな」
「よし、わかった」
 イリアはその言葉に頷いた。
「では遠慮なくいく。覚悟はいいな」
 こうして三組の戦いがはじまった。そしてもう一組の戦いもはじまっていた。
「ルー=ルカ。またこうして会うとは」
「因果なものね」
 ルーはグレミーと対峙していた。その隣にはエルがいる。
「貴女とは戦いたくはないが」
「けれどそうも言ってはいられないでしょう」
「確かに」
 グレミーもそれに頷くしかなかった。
「では」
「いらっしゃい。相手をしてあげるわ」
「参る!」
「ルー、サポートは任せて!」
「お願いね!」
 こうしてルーとエル、そしてグレミーの戦いもはじまった。その時には両軍の戦いもまた本格的なものとなっていた。
「時間を忘れるな!」
 戦いの中ブライトは全軍に対して言った。
「八分だ!それ以上は待てんぞ!」
「了解!」
 皆それに頷く。
「それまで派手にやってやるぜ!」
「忍、熱くなって忘れないようにね」
「わかってらあ!」
 いつものように沙羅に返しながら攻撃をエンドラに仕掛けた。
「喰らえ、断空砲フォーメーションだ!」
 巨大な白い光を一隻の戦艦に向けて放つ。そしてその腹に直撃させた。
「よし!」
 それだけでエンドラは沈んだ。多くの脱出船を出した後で炎の中に消えた。
「この調子でどんどん沈めていくぜ!」
「何か忍調子がいいね」
「当たり前だ!かえって制限があると暴れたくなるんだよ!」
 雅人にそう返す。
「だが時間は守るようにな」
 だがそこで亮の忠告が入った。
「さもないと大気圏に突入することになる」
「ヘッ、その時はそれさ」
「おい、何を言っている」
 それを聞いてアランが声をかけてきた。
「そんなことをしてはダンクーガがもたないぞ」
「わかってるって。冗談だよ」
「そうは聞こえなかったが」
「さもないとまた葉月博士にどやされるしな。ここは慎重に行くぜ」
「だが戦いは大胆に、だな」
「その通りだ。アラン、用意はいいな!」
「うむ!」
 アランもダンクーガに動きを合わせてきた。
「まとめて沈めてやるぜ。雑魚もな!」
 次々と断空砲を放ってきた。そしてそれでエンドラを沈めていくのであった。
 そうこうしている間に数分経った。ブライトは自分の腕の時計を見た。
「あと僅かか」
「結構降下されてしまいましたね」
 トーレスが言った。見れば撃沈されている戦艦も多いがそれ以上に降下に成功した艦も多かった。
「六割程、ですかね」
「それでも上出来と言うべきか」
 ブライトはそれを受けて呟いた。
「地上での戦いはそれなりに辛いものになりそうだがな」
「まあそうですね」
 トーレスはそれに頷いた。
「けれど今は少しでも多くの敵を倒すことに専念しましょう」
「うむ」
「そろそろラー=カイラムの主砲の射程ですしね」
「よし。主砲発射用意!」
 それを受けたブライトの指示が下る。
「一斉発射。てーーーーーーーーーっ!」
 そして主砲が火を噴いた。これによりまた一隻の戦艦が撃沈された。
「やるな、ブライト艦長も」
 クワトロはそれを見て呟いた。
「では我々も頑張るとしよう。クェス」
「はい」
「右にいる敵に回ってくれ。いいな」
「えっ、大尉は」
「私はいい。一人でも大丈夫だ」
「そうなのですか」
「伊達に赤い彗星と呼ばれたわけではないさ」
 そう言いながら攻撃態勢に入る。
「ファンネル、オールレンジ攻撃!」
 そしてそのファンネルで小隊を一個消し飛ばしてしまった。
「こういうことだ。安心してくれ」
「わかりました。それなら」
「うむ。頼むぞ」
「行け、ファンネル達!」
 クェスは動きながらヤクト=ドーガのファンネルを放った。そしてそれで敵を撃墜していた。
「どうやら彼女も戦いに慣れてきたようだな」
 クワトロはそれを見て呟く。
「それがいいことかどうかまではわからないが。ララァ」
 ふとその名を口にした。
「君はどう思うかな」
 かっての女性のことを思いながら戦いに入る。そして荒れ狂う戦場で攻撃を続けていた。
 さらに時間が経った。ブライトは言った。
「よし、時間だ!」
 指示を続ける。
「全機撤収!降下に入るぞ!」
「了解!」
 殆どの者がそれに従い戦艦に帰って行く。だがガンダムチームはまだ戦場にいた。
「チッ、もう時間かよ!」
「ジュドー、戻るわよ!」
 ルーが言う。既に彼女達は闘いを切り上げ撤収にかかっていた。
「えっ、けどよ」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!死にたいの!」
「マシュマー様も!」
 ゴットンも主に声をかけていた。
「このままだと無駄死にですよ!」
「私が無駄死にするというのか!」
「ステーキになりたいんですか!早く戻って下さい!」
「くっ・・・・・・。ジュドーよ!」
 彼は無念の声で以ってジュドーに声をかけた。
「この勝負、預ける!ダカールで会おうぞ!」
「ほら、マシュマーもそう言ってるし」
「仕方ねえなあ。じゃあ戻るか」
「そういうこと」
「じゃあな、マシュマーさんよお」
「うむ。ダカールで決着をつける!」
 こうして両者は別れた。そしてそれぞれの艦に戻った。
 ネオ=ジオンの艦隊が全艦降下に入った。そしてロンド=ベルの四隻の戦艦もまた降下に入った。
「皆いるな」
「はい」
 ジャクリーヌはシナプスの問いに応えた。
「全機収納しました。これで降下に入られます」
「うむ。それでは降下を開始する」
「了解」
 こうして四隻の戦艦は降下態勢に入った。だがその時だった。
「後方に敵機」
「何、こんな時にか」
「お約束ってやつだな」
 神宮寺がそれを聞いて言った。
「毎度毎度のことだが。いい加減慣れたな」
「ミスター、そんなこと言っていていいのかよ」
 洸がそんな彼に対して言う。
「まあ待て。何もこのままにしておくってわけじゃない」
「けれどミスター」
 今度はマリが言った。
「ブルーガーはもう出れないわよ」
「それにブルーガーでは大気圏突入は」
「バーニアを付けていなかったのか?」
 麗が応えてきたので返した。
「はい。残念ながら」
「しまったな。出るつもりだったのだが」
「どうする?ライディーンも大気圏は無理だ」
「カミーユにでも頼むか」
「いや、あたしが行くよ」
「アイビス」
 アイビスが出て来た。
「行っただろ。アルテリオンは大気圏でも戦えるって。こんな時の為にもうスタンバッてたんだ」
「そうだったのか」
「私も行きます」
「あんたもか」
 ツグミも出て来ていた。
「じゃあここは二人に任せるか」
「ああ、頼むよ」
 アイビスはにこりと笑って応えた。
「殿軍を引き受けるのはこの上ない名誉ってのは日本の言葉だったっけ」
「ああ」
 洸が頷く。
「よくそう言うな」
「じゃあその名誉引き受けさせてもらうよ。ダカールだったね」
「そうだ、ダカールだ」
 神宮寺が答えた。
「行けるな」
「帰ったら上等のワインを御馳走してくれたらね。それじゃあ」
「おいおい、俺達はワインは飲まないぞ」
「あれ、そうだったのか」
「まだ未成年だからな」
「他のコープランダー隊はともかくミスターはそうは見なかったけれど」
「ははは、生憎老けていてな」
 神宮寺は笑って応えた。
「これでも十代なんだよ」
「そうだったのか」
「まあお茶かコーヒーでいいかな」
「何か急に安くなったね」
「とびきりの玉露を用意しておくから。それで勘弁してくれ」
「わかった。それでいいよ」
「それじゃあ頼む」
「ああ」
 こうしてアイビスが出撃した。神宮寺はそれを眺めながら呟いた。
「頼むぞ」
「ミスター、そろそろ降下です」
「何かに捉まるかベルトを」
「そうだったな」
 麗とマリに言われてすぐに降下準備に入る。
「では行くか、ダカールに」
「はい」
 既にロンド=ベルも後戻りできないところまできていた。そしてアルテリオンが一機そこに残った。
「頼めるか、アイビス」
 ブライトも彼女に声をかけた。
「ああ、大丈夫さ」
「敵は一機ですし」
 ツグミもそれに応える。
「後ろは任せてダカールに行ってくれ」
「すぐに私達も追いつきますから」
「そうか。では頼むぞ」
「はい」
 こうして四隻の戦艦が降下した。残ったのはアルテリオン一機となった。
「さて、と」
 アイビスは一機になったのを確かめてからツグミに顔を向けてきた。
「わかってるね、ツグミ」
「ええ」
 ツグミもそれに頷いた。
「スレイ、あんただろ」
 おもむろに通信を入れて問う。
「来ているのは。違うかい?」
「わかっていたか」
 ベガリオンが姿を現わした。そしてアイビスとツグミの前にやって来る。
「私だということに」
「ああ、わかるさ」
 アイビスは穏やかな笑みを浮かべてこう言った。
「来るのはね。じゃあはじめようか」
「うむ」
 スレイも頷く。
「決着を着けるのをね」
「こちらこそ。容赦はしないぞ」
「覚悟はできているさ。けれど勝つのはあたしさ」
「戯れ言を。このベガリオンが負けるというのか」
「少なくとも勝てはしないわ」
「何っ」
 ツグミの声にキッとする。
「それはどういうことだ」
「すぐに勝てるわ。貴女はあることに気付いていないから」
「ツグミ、御前もまた私を侮辱するというのか」
「侮辱じゃないわ。けれど」
 ツグミの顔が悲しそうなものになった。
「貴女は。何もわかっていないから」
「フン、では教えてみせよ」
 そう言いながらベガリオンを右に動かした。
「私に。その身を以ってな」
「ああ、いいさ」
 アイビスが応える。
「スレイ、あんたを倒す」
 その目が燃えていた。赤い瞳がルビーのようになっていた。
「いいね」
「私はずっと御前に嫉妬していた」
 スレイはふとこう漏らした。
「何だって」
「どういうことなの」
 それを聞いたアイビスとツグミの顔が一変する。
「嫉妬・・・・・・あんたがあたしに」
「そうだ」
 もう隠すこともなかったのだろう。スレイは素直に述べた。
「プロジェクトTDにいた頃から私は兄様の喜ぶ顔が見たかった。銀河を飛ぶことは私にとって兄様の夢を適えることだった。そして私はプロジェクトのナンバー01になった」
「そうだったのか」
「只それだけのことだった。兄様の笑顔が見たいだけに」
「そして共にネオ=ジオンに移ったんだね」
「そうだ。だがアルテリオンは御前に渡り銀河を飛ぶのは御前がやっていた。私は・・・・・・只の戦士になっていた」
「それは貴女の望みではなかったのね」
「そういうことになる」
 スレイは言葉を続けた。
「兄様の夢を取られたような気がしてな。兄様は何も仰られなかったが」
「けれどそのフィリオも今は」
「そう、ネオ=ジオンを出られた。知っていたか」
「聞いてはいたわ。本当のことだったのね」
「ああ」
 スレイは頷いた。
「兄様の心遣いだったのだろう。私に対する」
「そうよ」
 ツグミはまた言った。
「貴女を自分の呪縛から解放する為に。フィリオはあえてネオ=ジオンを離れたのよ」
「研究する為の費用や施設も捨ててか」
「費用も施設も関係なかったのよ」
「そうだったのか」
「フィリオの夢はもう動いているのだから」
「動いて」
「それは貴女が嫉妬したアイビスと・・・・・・そして」
 ツグミはさらに言った。
「貴女がいるから。だからフィリオは」
「そうか。そうだったな」
 申し訳なさそうに俯く。
「そんなことに気付かなかった私は・・・・・・。愚かな妹だ」
「それでネオ=ジオンを離れたんだね」
「もうあそこにいる理由もない」
「それじゃああらためて聞くよ」
 アイビスは再び問うてきた。
「何で今あたし達の前に姿を現わしたのか。言えるね」
「ああ」
 不敵に笑うアイビスに対して答えた。
「それはアイビス・・・・・・御前に勝つ為だ」
 昂然と顔を上げる。
「兄様のことも兄様の夢のことも関係ない。私は御前に勝ちたい。その為にここに来た」
「やっと言ったね」
 それを聞いたアイビスの顔が急に優しいものになった。
「私は御前に勝つ!私自身の誇りに賭けてライバルである御前を倒す!」
「そうかい、わかったよ」
 アイビスは優しい笑みのまま頷いた。
「それならいいさ。存分にやれる」
「スレイ、やっと自分の言葉で話してくれたね」
「自分の言葉だと」
 ツグミの言葉に顔を向けた。
「ええ。今までの貴女は自分の殻に入っていたわ。そしてそこから話をしていた」
「・・・・・・・・・」
「フィリオのこともそう。自分のことも。けれど今貴女は本当の意味で自分の言葉を話してくれたのよ」
「そうだったのか」
 気付いてはいなかった。だがツグミの言葉で今ようやくわかった。
「それが大切なことの一つだったのよ。貴女はスレイ=プレスティなのだから」
「スレイ=プレスティ」
 自分の名を呟く。
「そうさ、あんたはスレイ=プレスティさ」
 アイビスも言った。
「あたしはスレイと戦うんだ。アイビス=ダグラスとしてね」
「アイビス・・・・・・」
「あんたとならあたしも全てを賭けて戦える」
 そしてアルテリオンを右に動かした。ベガリオンと対比するように。
「さあやるよ、スレイ」
 またスレイに声をかける。
「これが最初で最後の真剣勝負だ。いいね」
「うむ」
 スレイも頷いた。
「あたしが勝ったらあたしの言うことを聞いてもらうよ」
「私が勝った時は」
「あんたが勝った時かい」
「そうだ」
「その時はね」
 そこでにやりと笑った。
「その時に考えるさ。じゃあ行くよ!」
「うむ!」
 二機のマシンが互いに動く。
「負けないよ、スレイ!あんたもかって見ていた夢をもう一度見る為にね!」
「それは私もだ!」
 こうして二機のマシンは戦いに入った。まずは逆時計回りに動きはじめた。
「行くぞアイビス!」
「スレイ、あんたにも教えてあげるよ」
 両者は互いに言った。
「今ここで決着を!」
「夢ってやつをね!」
 アルテリオンとベガリオンは同時に突進した。そしてまずはキャノンを放った。
「相対速度、距離算出!」
「その程度の動きで!」
 二人はそれぞれ照準を合わす。
「一撃で決める!」
「これで!」
 互いにキャノンを放つ。しかしそれは互いに避けられてしまった。
「よし、ブレイクターンだ!」
「こちらもだ、!」
「やるね」
 アイビスは自分と全く同じ動きをしてみせたスレイを素直に称賛した。
「伊達にナンバーワンじゃなかったということだね」
「御前もな」
 スレイは不敵に笑ってそれに返した。
「どうやら本物のようだな。私のライバルとして」
「まさかあたしをライバルとまで言ってくれるなんてね」
「それだけ御前を認めたということだ。だが」
 スレイの目がキッとなった。
「勝つのは私だ。そしてこのベガリオンだ!」
「その言葉、そっくりあんたに返してやるよ!」
 アイビスは笑った。楽しそうに。
「これでね!ツグミ、あれをやるよ!」
「アイビス、もう仕掛けるっていうの!?」
「当たり前さ!今のはね、あたしの会心の攻撃だったんだ」
 ブレイクターンを仕掛けながら言う。
「それが通用しないんならね。あれしかないよ」
「わかったわ」
 ツグミもそれに頷いた。
「じゃあアイビス、リミッターは解除したわ」
「よし、GRaMXsで行くよ!」
「テスラ=ドライブ=オールグリーン!フルブーストで行けるわ!」
「よし来た!」
 アイビスはツグミの言葉に頷いた。そして影達が一つになった。
「なっ!」
 スレイはその華麗な動きに思わず息を呑んでしまった。そしてそれが命取りになった。
「まさかそれは・・・・・・」
「オンリーワンフィニッシュで決めるよ!」
「うん!」
 アルテリオンは攻撃態勢に入った。ベガリオンはそれに対して一瞬だが対応が遅れた。それで全ては決まった。
「ブレイク!」
 GRaMXsがベガリオンに決まった。こうして全ては終わった。
「な・・・・・・」
 ベガリオンが大きく揺れる。勝敗が決した証だった。
「急所は外れたみたいだね」
「情をかけたというのか」
「まさか。本気でやったよ」
 アイビスはスレイにそう言い返す。
「そうじゃなきゃ。あたしがやられていたからね」
「今のは確実に撃墜できたのよ」
 ツグミも言う。
「けれど貴女の咄嗟の動きで。急所は外されたの」
「どうやら私も運がいいようだな」
「それは違うよ」
 アイビスは自嘲の笑みを浮かべたスレイにこう言った。
「実力さ。全部ね」
「そうか」
「一歩遅けりゃあたしが負けていたよ。けれど今はあたしの勝ちだ」
「フッ、見事だった」
「で、さっきの話だけど」
「ああ」
 穏やかな顔に戻っていた。スレイはアイビスの言葉に顔を向けた。
「あたしの言う事、聞いてくれるって言ったね」
「そうだったな」
「あんた、ネオ=ジオンを抜けたんだろ?ロンド=ベルに来る気はないかい?」
「ロンド=ベルに」
「ああ。フィリオは今安西博士のところにいるけど。あそこはうちと繫がりが深いんだ」
「だからね。こっちに来たらどうかって思うのだけれど」
「馬鹿な。今の私には」
 申し訳なさそうに顔を背ける。
「今まで御前達と憎しみ合ってきたのだ。それでどうして」
「今も憎んでいるのかい?」
「いや、それはない」
「じゃあいいじゃないか。それで決まりさ」
 アイビスは言う。
「それに・・・・・・あんたも銀河を飛びたいんだろう。ベガリオンに乗って」
「ああ」
「だったら一緒に来なよ。皆歓迎するよ」
「私でもか」
「あんただからだよ。この戦いを終わらせて」
「この戦いを終わらせて」
「銀河に行こう。仲間としてね」
「仲間として・・・・・・」
「そうさ。アルテリオンとベガリオンで」
 さらに言おうとする。しかしここで邪魔者が入った。
「おやおや」
「あれは」
「ネオ=ジオンの」
 見ればネオ=ジオンのモビルスーツ部隊であった。その先頭にはガーベラ=テトラがいる。
「シーマ=ガラハウ」
「また強敵が」
 三人はそのガーベラ=テトラを見て舌打ちした。
「まさかまだ残っていたなんてね。哨戒に出たところで獲物にありつけたよ」
 シーマはアルテリオンとベガリオンを見ながら笑った。
「さて、早速いただかせてもらおうかね。アルテリオンとベガリオンなんて最高の御馳走だよ」
「クッ、やるつもりか」
「ここは私が!」
 スレイが前に出ようとする。それをアイビスが呼び止めた。
「待てよ、何をするつもりだい」
「知れたこと」
 スレイは振り向いて言う。
「あの部隊は私が引き受ける。御前達は地球に行け」
「けど」
「けどもどうしたもない。私は御前達に借りができた。それをここで返す」
「駄目よ、スレイ」
 だがそんな彼女をツグミまでもが呼び止めた。
「ベガリオンは急所を外したっていってもかなりのダメージを受けているわ。それでやったら」
「くっ」
「あんた、何故」
「私は仲間を失いたくない」
 スレイはアイビスにそう答えた。
「だから・・・・・・行け」
「スレイ・・・・・・」
「いえ、まだ諦めるには早いわ」
 しかしここでツグミがまた言った。
「ツグミ」
「アイビス、スレイ、私の言うことをよく聞いてね」
 そして二人に言う。
「それぞれの機体に今から言うコードを入力して」
「コードをかい」
「ええ」
 ツグミは頷いた。
「いいわね。H・Y・P・E・R・7・7」
「HYPER!?まさか」
 それを聞いてまずスレイが驚きの声をあげた。
「何をするつもりなんだい、ツグミ」
「説明している時間はないわ!二人共早く私の指定したフォーメションを最大速度で!」
「このコードを入力してかい!けれどこれを入れたら」
「激突一歩手前だ!自殺行為だぞ!」
「いえ、大丈夫よ」
 ツグミは危惧の声を言う二人に対して穏やかな頬笑みを見せた。
「今の貴女達なら。だから安心して」
「いいのか」
「ええ。全てのタイミングは私がとるわ。だから機体のコントロールに集中して」
「よし」
「それでは行くぞ」
「でははじめて」
「了解」
「ツグミ、あんたを信じるよ」
 こうしてアルテリオンとベガリオンはそれぞれ接近しつつ高速移動に入った。
「ふん、何をする気か知らないけどね」
 シーマはそれを見つつ不敵な笑みをたたえ続けていた。
「どのみちここで死ぬんだ。覚悟しな」
「行くよ、スレイ、ツグミ」
「了解」
「ええ、わかったわ」
 だが三人はもうシーマの言葉を聞いてはいなかった。高速移動に入り何かになろうとしていた。
「フォーメーション=ヘリオス、スタート!」
 そしてツグミが叫んだ。二機のマシンが今ぶつかり合った。
「翔けろ、ベガリオン!」
「行け、アルテリオン!」
 スレイもアイビスも叫んでいた。今三人の心が一つになった。
 二機のマシンはぶつかったように見えたが違っていた。それは一つになろうとしていたのであった。
 ベガリオンがその間に変形する。そしてアルテリオンがその中に入った。
 両機は合体した。何と一つの機体となったのであった。
「な、何だいあれは」
 その姿を見たシーマはまずは驚きの声をあげた。何とベガリオンの中に作業活動形態のアルテリオンが入ったのであった。
そして一つになっていたのだ。
「これは・・・・・・」
「一体何だ」
 アイビスとスレイも戸惑っていた。だがツグミはそんな二人に対してまた言う。
「アイビス、機体コントロールを確認して」
「あ、ああ」
「スレイはテスラ=ドライブと火器管制コントロールを。いいわね」
「了解」
「コンディション・グリーン!テスラ・ドライブA・B、シンクロニティ100%!」
 ツグミも自分の仕事を行っていた。そして言う。
「二人共よく聞いて。この機体こそがプロジェクトTDの結晶なのよ」
「プロジェクトTDの」
「ええ。ハイペリオンよ」
「ハイペリオン」
「星の神達を生み出した太陽神の父か」
 スレイはそれを聞いて呟いた。ギリシアの古代の神の一人である。太陽を司る偉大な神であった。
「これがフィリオの真の目的だったのよ。そしてそれをアイビスとスレイにそれぞれ託しているのよ」
「あたし達に」
「どうして」
「フィリオは。身体が弱いから」
 ツグミは残念そうに言った。
「パイロットになれるような強い身体じゃないから。だから私達に託したのよ」
「自分の夢を」
「御兄様・・・・・・」
「今は地球にいるけれど。心は常に銀河と共にあったのよ。だから」
「あたし達に託してくれたんだね」
「ええ」
「わかったよ。今フィリオの夢、受け取った!」
「兄様の夢は妹である私が!」
「じゃあいいわね!」
「ああ!」
「来るぞ!」
 スレイが叫ぶ。見ればネオ=ジオンの部隊がもうそこまで来ていた。
「行くよ、スレイ、ツグミ!」
 アイビスもそれに応じた。ハイペリオンを駆る。
「銀河の彼方へ行くまで・・・・・・戦い抜くよ!」
「よし!」
 ハイペリオンはネオ=ジオンに向かう。だがそこに思わぬ助っ人がやって来た。
「ちょっと待ってよ!」
「あたし達も入れて下さい!」
「えっ、あんた達」
 見ればアラドとゼオラであった。二人はそれぞれビルトビルガーとビルトファルケンに乗っていた。
「どうしてここに」
「言ったじゃないですか、仲間だって」
「だから。ブライト艦長達に無理言って出させてもらったんですよ。大気圏突入もできるからって」
「けど。わざわざ残るなんて」
「いいの?それでも」
「何、大丈夫ですよ」
 アラドはこう応えて笑う。
「いつものことですから」
「いつものこと」
「ピンチと救援はロンド=ベルの常だって。ほら、皆言うじゃないですか」
「そうだったのか」
「アイビスさんだってそうだったじゃないですか。急に出て来て」
「そういえばそうだったね」
 アイビスはロンド=ベルに入った時のことを思い出して微笑んだ。
「あんた達は連邦軍からだったけれど。あたしやツグミはね」
「飛び入りだったわね。けれどそれも何かの縁だったのよ」
「だろうね。そして今スレイも来たし」
「あらためて宜しくな」
「ああ。じゃあ行くよ、皆」
「はい」
「援護はあたし達がします。アイビスさん達は」
「ああ、わかってるよ」
 そう言って前にいるシーマのガーベラ=テトラを見据えた。
「あいつをやる。一気に行くよ」
「ええ。任せるわ」
「御前の技量、見せてもらおう」
「まだ素直じゃないんだね」
 スレイの態度に少し笑う。だがもうその心はわかっていた。言葉なぞ飾りでしかなくなっていた。
「行くよ、そして」
「仲間達のところに!」
 ハイペリオンと二機のマシンが駆けはじめた。そして前に突っ込む。シーマはそれを見てもまだ笑っていた。
「さかしいねえ、本当に」
 どうやら彼等のこと自体が気に入らないようであった。
「やっちまいな。たかが三機だ」
「了解」 
 それに従いモビルスーツ達が前に出る。だが三機の力は彼等では相手のしようがないものであった。
「オクスタン=ライフル、セット!」
 まずはゼオラが攻撃に入った。狙いを定めて叫ぶ。
「シュートッ!」
 光を放った。それで前にいるドライセンを小隊単位で葬った。
「チッ、小隊をまるごとか!」
「何て奴だ!」
「俺だって!」
 アラドが続く。まずはビルトビルガーのジャケット=アーマーを外す。
「ジャケット=アーマー、パージ!」
 すると翼が生えたようになった。そしてそのまま前に突き進む。
「飛べ!ビルガー!」
 ガゾウムの小隊に突っ込む。そこにビームが降り注ぐ。
 だがそれは最早アラドにとって何でもないものとなっていた。まるで流星の様に早く、幻の世界に住む蝶の様に流れる動きでその攻撃をかわす。そして突攻した。
「ビィィィィクッ!」
 ガゾウムの小隊を切り裂く。彼が通り抜けるとその小隊を構成していたモビルスーツの数だけ爆発が起こった。
 ハイペリオンの前にも敵はいた。しかしもうアイビス達は焦ってはいなかった。
「ベガリオン以上の速度にアルテリオン以上の運動性」
 アイビスはハイペリオンを操りながら呟いていた。
「これがハイペリオンの力」
「アイビス!火器管制と出力コントロールは任せろ!」 
 スレイが彼女に対して言う。
「スレイ」
「そうよ、スレイの言う通りよ」
 ツグミも。
「ハイペリオンは私達三人の、そしてフィリオの機体よ」
「あたし達の」
「そう、貴女は一人じゃないわ。だから」
「ツグミの言う通りだ。フォローは私達に任せろ!」
「わかった。わかったよ、二人共」
 ここまで嬉しい言葉はなかった。アイビスは素直な笑みを浮かべた。
「ツグミ、スレイ、行くよ!」
「うむ!」
「任せたわ!」
 見ればジャムルフィンの小隊がいた。アイビスはそれを見てすぐに決断を下した。
「スレイ!02だ!」
「よし!」
 スレイがそれに頷く。そしてスピキュールを放った。
 ハイペリオンが通り抜けた時ジャムフルィンはもういなかった。その攻撃で全機撃墜されてしまったのであった。
 これで彼女達を阻む者はもういなくなっていた。彼等はそのまま突き進み遂にシーマの前までやって来た。
「変形に合体なんてね」
 シーマは忌々しそうに呟く。
「全くロンド=ベルらしい機体だよ!鬱陶しいったらありゃしない!」
「おばさんが憎いのはそこじゃないんじゃない!?」
「何だって!?」
 シーマはアイビスのおばさんという言葉にこめかみをひくつかせてきた。
「あたし達の若さが憎いんじゃないの?」
「よせ、アイビス」
 スレイがここで言う。
「図星をついては相手を怒らせるだけだ」
「どうやら死にたいらしいね」
 シーマの顔が憤怒で歪む。暗い怒りの顔であった。
「ほらな、見ろ」
「あんたの言葉が一番大きいけどね」
「そうかな。ふふふ」
 そう言いながら彼等は攻撃に移っていた。
「ツグミ、スレイ、GRaMXsでいくよ!」
「わかったわ!」
「御前の動きに合わせる!」
 二人はアイビスの言葉に頷いた。
「相対距離、速度データロード!」
 ツグミが自身の前のコンピューターに入力しながら言う。
「テスラドライブ=フルブースト!」
 スレイも叫ぶ。攻撃の用意は整った。
「よし、決めてみせる!」
 アイビスも動いた。照準を合わせる。
「そこだーーーーーーーーーっ!」
 今三人の心が一つになった。そしてガーベラ=テトラを撃ち据えた。シーマはかろうじて急所を外させたがそれが限度であった。ガーベラ=テトラは今の攻撃で完全に戦闘能力を失ってしまった。
「ちっ、小娘だと思って甘く見ちまったようだね!」
「言っただろ、若さには勝てないって」
 アイビスはそう言い返す。
「今回はあたし達三人の若さの勝利なんだよ。もうおばさんの時代じゃないさ」
「フン、男だって知らない癖にね」
 シーマはそれでも憎まれ口を叩いた。
「よくそんなことが言えるよ」
「そんなことはこれからゆっくりと知ればいいさ」
「そう、今の私達は」
「夢を適えられるのだから」
「夢かい、言ったねえ」
 シーマはそれを聞いて思わせぶりに目を細める。
「じゃあ精々その夢を追うんだね!生き残れたらね!」
 そう言い残して姿を消した。こうして戦いは一瞬にして終わったのであった。
「ミッション終了ね」
「ああ」
 アイビスはツグミの言葉に応えた。
「これでな。もう終わりだ」
「そうだな。アイビス」
 スレイが言う。
「あらためて。これから宜しくな」
「ああ、こちらこそ」
 アイビスもそれに応える。
「この機体で。銀河の果てまで行こう」
「そうだな。ハイペリオンなら何処までも行ける」
「三人で。永遠に」
「あのお話中悪いですけど」
「ん、何!?」
 三人はアラドの言葉に我に返った。
「そろそろ行かないと。まずいんじゃないですかね」
「ほら、他の皆はもう降下していますし」
 ゼオラも言う。
「早く行かないと。ダカールまで」
「おっと、そうだったね」
 アイビスもその言葉に我に返った。
「じゃあ行くか」
「そうだな。久し振りの地球だ」
「スレイはずっとアクシズにいたから。懐かしいでしょう」
「ああ。青い地球の中に入るのは。本当に久し振りだ」
 その目を細めて言う。
「早く行きたいな。では行くか」
「ああ」
 アイビスもそれに頷いた。
「じゃあ行くよ。目標はダカール」
「一直線で」
「行きましょう」
「よし、二人共遅れるなよ!」
 今度はアラドとゼオラに声をかける。
「降下だ。帰ったら早速皆のところに行くよ!」
「了解!」
 三機のマシンは降下に入った。すぐに大気圏の摩擦熱がそれぞれの機体を覆う。
「アイビス」
 その中でスレイがアイビスに声をかけてきた。
「何だい!」
「さっき地球は青いと言ったな」
「ああ」
「だがどうやら違うようだな。地球は赤い」
「赤いか」
「そうだ。今見える地球は青くはない。赤い」
 見ればその通りであった。大気圏内から見える地球は赤かった。摩擦熱でそう見えていたのだ。
「まるで・・・・・・」
 スレイは言葉を続けた。
「燃えているみたいだ」
「燃えている、かい」
「そうだ。ここから見るとそう思える」
「確かにね」
 アイビスもそれに頷いた。
「燃えているよ、地球が」
「ああ」
 五人はその燃えている地球に入って行った。そこにはまた新たな戦いが彼女達を待っているのを知りながら。

第五十九話   完


                                       2005・12・8



 


[337] 題名:第五十八話 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年06月01日 (木) 19時48分

         邪魔大王国の最期(後編)
 邪魔大王国の三幹部を倒したロンド=ベルは北進を再開した。だがその行く手にはまだ障害があった。
「そろそろですが」
 シュウがモニターで大空魔竜のクルーに対して話し掛けていた。
「用意は宜しいですか」
「そうか、遂にか」
 大文字はそれを聞いてまずは頷いた。
「破壊神ヴォルクルス。その神殿がそこに」
「そうです」
 シュウはそれに言葉を返した。
「準備は宜しいですね」
「ああ、こっちはな」
 ピートが応える。
「何時でもいける。ただ、一つ気になることがある」
「何でしょうか」
「ずっと気になっていたことだがヴォルクルスってのはそんなに手強いのか」
「はい」
 シュウは特にやましいところを見せるわけもなくそれに応えた。
「かなりの強さです。少なくとも私一人では無理な程に」
「ネオ=グランゾンを以ってしてもか」
 それを聞いた大文字の顔が少し変わった。
「だとするとかなりのものだな」
「その通りです」
 シュウはまた答えた。
「ですから。気をつけて下さいよ」
「ただ、腑に落ちないところもある」
 今度はサコンが言った。
「それは何でしょうか」
「確かグランゾンは最大で六万五千五百三十五の敵を同時に攻撃が可能だった」
「ええ」
 これは事実であった。ネオ=グランゾンの母体であるグランゾンはワームスマッシャーとグラビトロンカノンによって同時に複数の敵を攻撃することが可能なのである。それこそがグランゾンの最も大きな戦力であった。宇宙怪獣の大軍ですら退けることが可能な程であった。
「そのグランゾンより遥かに強力なネオ=グランゾンを以ってしても。一機では無理だというのか」
「ヴォルクルスというのは化け物なのかよ」
 サンシローも言った。
「何なんだよ、そもそもは」
「元々は悪霊の集合体に過ぎません」
 シュウはここで説明した。
「かってラ=ギアスにいた巨人族の。ですがそれが集合体になることにより破壊の神となってしまったのです」
「つまり怨念の集合体というわけだな」
「その通りです」
 サコンにまた答えた。
「ですから彼には破壊への衝動と願望しかありません」
「厄介なやつみたいだな」
 それを聞いたピートが呟いた。
「力は強くてそれか。一番相手にしたくない奴だな」
 リーも言う。
「だからこそ貴方達の御助力頂きたいのですよ」
「ふむ」
「まあよしとしよう」
 まだ頷けないところはあるが妥協することにした。
「では引き続き道案内を頼む」
「はい」
「そろそろだからな。では配置につくか」
「ええ。それに別の御客様も来られていますし」
「別の!?」
「まさか」
「はい、そのまさかです」
「レーダーに反応」
 ミドリが言う。
「邪魔大王国のものです」
「やはり」
「しつっこい奴等だぜ」
 サンシローがぼやく。
「まあそう言っても仕方ないですし。出ましょう」
 ブンタが言った。
「じゃあ行くか。おっと、その前に」
「どうした、ヤマガタケ」
「バゾラーにミノフスキードライブをつけておかねえとな。あれがあるのとないのとで全然違うからな」
「そうだな。バゾラーだけ飛べないのでは勝手が悪い」
 リーがそれに同意する。
「それが終わったらすぐ出撃するぜ。コンバット=フォースの力を見せてやる」
「はい」
 ブンタは今度はサンシローの言葉に頷いた。そして彼等は格納庫に向かった。 
 彼等が出撃する頃にはもう邪魔大王国の者達は展開していた。そしてロンド=ベルに対して鶴翼の陣を敷いていた。
「ククルよ」
 対するロンド=ベルは魚鱗の陣であった。一気に突破を計り戦いを終わらせようという意図は明白であった。その先頭にはゼンガーがいた。そしてククルに対して語りかけていた。
「何じゃ」
 ククルはそれに対して憎悪と敵意を露わにした目を向けていた。
「まだ諦めてはいないのか」
「諦める?何をじゃ」
 ククルは言い返した。
「わらわの戦いは邪魔大王国の再興まで終わりはせぬ」
「それが人のものではないとしてもか」
「無論。わらわとて人ではない」
「愚かな」
 それを聞いたゼンガーの言葉であった。
「そうして己を偽って何とするか」
「偽りじゃと」
「そうだ。その姿と赤い血こそが何よりの証」
 彼は言った。
「それを偽るというのか。偽って何になる」
「偽ってなぞおらぬ」
 ククルはまた言い返した。
「わらわは邪魔大王国の女王。それ以外の何者でもないわ」
「ではその国が滅べば何とするか」
「何っ!?」
 ククルはそれを聞いてその細い眉を動かした。
「御前の国はこれで終わる。その時はどうするのだ」
「戯れ言を」
 ククルはそれを否定した。
「わらわの国が滅ぶじゃと」
「そうだ」
 彼は言い切った。
「最早三幹部も死んだ。そして残った者達も今そこにいるだけだ」
「くっ」
 否定はできなかった。その通りであったからだ。邪魔大王国はヒミカの死後幾多の戦いによりその戦力を著しく喪失していたのである。これは事実であった。
「それでどうして滅びぬというのか」
「貴様等を倒せば済むこと」
 苦し紛れにこう言った。
「敵さえ滅ぼせば。復興する時間はある」
「そしてまだ諦めないというのか」
「わらわは決して諦めはせぬ」
 また言い切った。
「邪魔大王国の為に。諦めるわけにはいかぬのじゃ」
「愚かな」
 ゼンガーは剣を構えた。
「最早妄執と言ってよい」
「ほざけ!」
「その妄執俺が断ち切ってくれよう。覚悟はいいな」
「覚悟するのはうぬよ」
 ククルも身構えた。
「わらわのこの手で決着をつける。覚悟せよ」
「ゼンガーさん」
 ここでクスハとブリットが声をかけてきた。
「何だ」
「偉そうなことは言えないですけど」
「頑張って下さい」
 そして二人はこう言った。励ましの言葉であった。
「感謝する」
「周りは俺達に任せて下さい」
「うむ」
「ゼンガーさんは一騎打ちに専念していておいていいですから」
「無論そのつもり」
 その巨大な刀身が銀色に輝いた。
「行くぞ、ククル」
「その首、今日こそはヒミカ様の墓前に持って行ってやろう」
 そう言いながら舞を舞いはじめた。
「黄泉へ旅立たせてやる故な」
「ならばこの剣でそれを断ち切ってやる」
 大きく振りかざした。
「参る!」
 そして突っ込む。
「死にやれ!」
 ククルも前に出た。二人の戦いがこうしてまたはじまった。
 その周りではロンド=ベルと邪魔大王国との最後の戦いが幕を開けていた。両者は互いに死力を尽くして激戦を行っていた。
「ジークブリーカーーーーーーッ!」
 その中には鋼鉄ジーグもいた。彼は目の前にいたハニワ幻人にブリーカーを仕掛けていた。
「これで・・・・・・」
「ギャオオオオオオオッ!」
 ハニワ幻人は背骨を圧迫されていた。そして悲鳴をあげる。
「死ねええええっ!」
 それが止めの言葉になった。ハニワ幻人はジーグにより真っ二つにされてしまった。
 そして爆発して果てた。ジーグは爆発の中に立っていた。
「次だ!」
 すぐに別の敵に向かう。
「ミッチー、行くぞ!」
「ええ、宙さん」
 美和も彼の言葉に頷く。そして二人は新たな敵に向かって行くのであった。
 ロンド=ベルはその鋼鉄ジーグを中心として攻撃を仕掛けていた。その中には当然ながらネオ=グランゾンもいた。だが彼は積極的には動こうとはしなかった。フォローに回るだけであった。
「あれ、御主人様いいんですか?」
 チカもそれに気付いた。そして主にこう声をかけてきた。
「戦わなくて。大丈夫ですか?」
「ええ」
 シュウはその問いに穏やかに応えた。
「どのみちすぐに嫌でも全力で戦わなければなりません。その時のことを考えておかないと」
「そうですか」
「はい。ところでチカ」
「何でしょうか」
「彼女のことはどう思いますか?」
「彼女!?」
 チカはその言葉を聞いてまずは戸惑った。
「彼女っていいますと」
「ククルですよ」
 シュウはそんな彼女に対して言った。
「どう思われますか、貴女は」
「そうですね」
 チカはそれを受けて主に自分の考えを述べた。
「あれは駄目でしょうね」
「駄目ですか」
「彼女が人間でも。あそこまで対立してると」
「人間の世界に戻るのは不可能だと仰りたいのですね」
「その通りです。邪魔大王国と共に滅びるんじゃないですかね」
「滅びますか」
「はい。あたしはそう思いますけど。御主人様はどうですか」
「私はそうは思いませんね」
 彼はそう答えた。
「彼女もまた運命には逆らえませんよ」
「運命ですか」
「ええ。変えられたこの世界では」
 彼はここで未来で起こった出来事についても述べた。
「彼女もまた変えられている筈です。そしてそれが求めるものは」
「何なんでしょうか」
「それはおいおいわかることです」
「ちぇっ、またそれだ」
 チカはそれを聞いて呆れたように言った。
「御主人様は。いつもそうやって勿体ぶるんですから」
「ふふふ」
 その笑いは肯定の笑いであった。
「意地が悪いんですから。何でいつもそうやってギリギリまで明かさないんですか」
「シナリオというものはその時まで知らない方が楽しめるのですよ」
 シュウは謎めいた笑みを浮かべてこう言った。
「違いますか。何事も楽しくなければ」
「それはそうですけれど」
「そういうことです。ヴォルクルスもそうです」
「彼等にはまだ何も言っていないんですか」
「勿論ですよ。おそらく最後の最後になって驚くことでしょうね」
 笑みを浮かべたまま言葉を続ける。
「その時にどんな顔をするか。彼も」
「あの人もですか」
 どうやらチカにはそれが誰なのかわかっているようである。
「驚くなんてもんじゃないんじゃないですか?あの人は」
「でしょうね」
「だってまさか自分が、ねえ」
「敵を欺くにはまず味方から、です」
 そしてシュウはこの言葉を述べた。
「それですか」
「はい。だからこそ」
 妖しげな笑みを浮かべたままロンド=ベルを見ていた。それからまた言った。
「彼等にはここはお任せするとしましょう」
「わかりました」
 彼等のそうしたやりとりなぞ知る由もなくロンド=ベルの戦いは続いていた。戦いはシュウの予想通りロンド=ベルに有利なものとなっていた。
 ハニワ幻人達はその数を大きく減らしていた。そして気付けば残っているのはククルの周りにいる数機だけという状況となってしまっていた。
 その数機も瞬く間にビルバイン達によって倒されてしまった。こうして遂に邪魔大王国はククル一人となってしまったのであった。
「さて、どうするつもりだ」
 ゼンガーはここで彼女に問うた。
「これで邪魔大王国は終わった。それでもまだ戦うというのか」
「無論」
 だがククルには降伏する気はなかった。
「その為にここにいうのじゃからな」
「そうか」
 彼はそれを聞いて剣を構えた。示現流の構えであった。
「ではもう話すことはない。覚悟はよいな」
「わらわがいる限り邪魔大王国は滅びはせぬ」
「さて、それはどうでしょうか」
「何!?」
 声がした方に顔を向けた。
「もう邪魔大王国はなくなってしまったと思いますが」
 声の主はシュウであった。彼はこうククルに語っていたのである。
「どういうことじゃ、それは」
「それは他ならない貴女御自身が最もよくおわかりの筈ですが」
「くっ」
「貴女は彼等の女王ではありましたが彼等ではありませんでしたからね」
「その通りだ」
 ゼンガーもその言葉に頷いた。
「ククル、もうわかっている筈だ。邪魔大王国は完全に滅んだ」
「まだそのようなことを」
 目を吊り上らせてそれを否定しようとする。
「わらわがいる限りまだ」
「最早民もいないというのにか」
 ゼンガーはここでまた言った。
「民を持たぬ王は王ではない。違うか」
「クッ・・・・・・」
「それを認めよ。最早勝負はあったのだ」
「じゃが貴様との勝負は」
「その状況でまだ戦うというのか」
「何っ!?」
 ククルはその言葉に動きを止めた。
「周りには敵しかいないというのに。俺に勝ったとしてどうするか」
「貴様の首こそが我が望み」
 それでも彼女は諦めようとはしない。
「そのようなことは関係ないわ!」
「そうか」
 ゼンガーはそれを聞くと剣を一閃させた。
「ならb。これで文句はないな」
「なっ・・・・・・」
 ククルは絶句した。今の剣によりマガルガが動かなくなってしまったからだ。
「これは一体」
「貴様のことは全て見切った。マシンのこともな」
「マガルガのことも」
「そうだ。その動力源を切った」
 彼は言う。
「最早攻撃態勢に入ることはできん。少なくとも一時間はな」
「ではわらわは」
「これでわかっただろう。ククル、貴様は俺に敗れたのだ」
「グウ・・・・・・」
 流石に言葉が出なかった。
「どうするのだ、それで」
「少なくとも貴様に屈するつもりはない」
 しかしそれでもこう言った。
「屈する位ならば・・・・・・死ぬ」
「そうか」
 ゼンガーはそれを聞いて静かに頷いた。
「では死ぬがいい。一人では」
「そうしてくれる」
 自爆スイッチを押そうとする。しかしシュウがここで彼女に声をかけた。
「お待ちなさい」
「止めるつもりか」
「ええ。少なくとも今ここで死ぬのはどうかと思いまして」
「何!?」
「貴女は女王でしたね。では女王として相応しい死に場所があるのではないですか」
「女王として」
「ええ」
 シュウは頷いた。
「そこが何処か、貴女はわかっている筈です」
「・・・・・・わかった」
 そしてククルもそれに頷いた。
「シュウ=シラカワだったか」
「はい」
「このことは礼を言う。わらわとて己が骸を敵の前に晒すことは本意ではない」
 そしてこう述べた。
「そうさせてもらおう。さらばじゃ」
「おい」
 ここでトッドが言った。
「行かせていいのかよ」
「構いませんよ」
 しかしシュウはそれをよしとした。
「もう邪魔大王国は崩壊しましたし。彼女一人ではどのみち大した意味もないでしょう」
「それはそうだけどよ」
「それに」
「それに?」
「いえ、何もありません」
 だがここでははぐらかした。
「どのみちこの話は終わりです。ではまた行きますか」
「今一つ腑に落ちねえがまあいいか」
「行くか」
「うむ」
 こうしてロンド=ベルは再び北に向かうこととなった。だがここでチカがまた主に問うてきた。
「御主人様」
「何でしょうか」
「あのまま行かせてよかったんですか。自決しないかも知れないんですよ」
「おそらく彼女はしないでしょうね」
 そしてシュウの返答は意外なものであった。
「じゃあ何故ですか。行かせたら後々厄介ですよ」
「いえ、それが厄介ではないのですよ」
 シュウは穏やかな笑みを浮かべてこう言った。
「一人なのは事実ですし。それに」
「それに?」
「これもまた運命ということですよ。彼女自身のね」
「また運命ですか」
「ええ。全てはそれです」
 彼は言葉を続けた。
「ネオ=グランゾンが私におしえてくれるのですよ。あらゆることをね」
「これってそんなに凄いマシンだったんですか」
「色々と技術を入れていますから。最早私と一心同体です」
「それじゃああたしとも同じってわけですか」
「そうなりますね」
「ふうん、何か妙な気分ですね」
 そんなことを言いながらコクピットの周りを歩きはじめた。
「これがあたしと一緒だなんて。やいあたし」
 ネオ=グランゾンに対して言う。
「御主人様を御守りするんだよ。さもないとあたしまで死んじまうんだからね」
「結局はそれですか」
「結局も何もあたしは御主人様のファミリアですよ。当然じゃないですか」
 今度はシュウに顔を向けて言う。
「御主人様が死んだらあたしまで消えてしまうんですから。おっかないたらありゃしないですよ」
「ふふふ」
「いや、笑い事じゃなくてですね」
「貴女がそこまで心配してくれているとはね。嬉しいですね」
「勿論ですよ」
 また言う。
「あたしは御主人様なんですから。無意識の産物ですよ」
「では今度の戦いではちょっと頑張ってもらいましょうか」
「!?」
 チカは主のその言葉に首を傾げさせた。
「ハイ=ファミリアとしてね。いいでしょうか」
「あれですか」
 それを聞いて嫌そうな顔をした。
「あの猫や犬達がやっている」
「テュッティのあれは犬ではないですよ」
「どのみち同じですよ。あの中に入るんですか」
「別に痛くも何ともないですよ」
「けれど。何かねえ」
「クロやシロと一緒になるのが嫌だとか」
「まあそれです。あたしは猫が大嫌いなんですよ。何かっていうとあたしを餌扱いしますし」
「ファミリアが食べられることはありませんよ。私が死なない限り死ぬこともないですし」
「それでもですよ。全く、あの二匹には何時か思い知らせてやりますよ」
「はいはい」
「はいはいじゃなくてですね。御主人様も気をつけて下さいよ」
「何がですか?」
「猫にですよ。あれは悪魔の生物なんですからね」
「赤木博士は御好きですが」
「あの人は変人なんですよ。顔はいいけれど」
「そうだったのですか」
「そもそも何であんな髭だらけで無愛想で陰険な親父がタイプなんですか。どう見たっておかしいでしょう」
「それは碇博士のことですか」
「勿論ですよ。何であんなのからあんな頼りないのが出て来たのか。不思議で仕方ないですよ」
「そうですか」
「ええ、そうですよ」
 チカは言った。
「あんなナヨナヨしてグジグジしたのなんか。あたしああいうのを見ていたらイライラしてくるんですよ」
「ところでチカ」
「何ですか?」
「貴女通信のスイッチを入れていますよ」
「ええっ!?」
 その言葉に驚いた。そして実際にスイッチを見る。見ればその通りであった。
「何時からですか、これ」
「今さっきですよ」
 シュウは答えた。
「赤木博士のお話が出た時から」
「うわ、じゃあ聞かれたかなあ」
「まずいのではないですか」
「まあその時はその時です」
 意外にも取り乱してはいなかった。
「あの狂犬女でも出て来ない限りは」
「呼んだ!?」
「おや」
 シュウがその声を聞いて自身も声をあげた。
「聞いておられたみたいですよ」
「そこのチビ!あたしに何か用!?」
 アスカは通信からであるがそれでもチカに突っかかってきた。
「聞いていないと思ったら大間違いだからね!誰が狂犬だって!?」
「ああ、五月蝿い」
「五月蝿いのはあんたの方よ!あたしにそこまで言って無事で済むなんて思っちゃいないでしょうね!」
「そんなのあたしの知ったことじゃないよ」
「何ですってええ!」
 さらに激昂してきた。
「大人しくしてりゃ!そこにいなさい!今すぐ行ってあげるから!」
「アスカ、そんなの無理だって」
 シンジの声も聞こえてきた。
「今収納されてすぐなんて。無理だよ」
「まだスーツは着てるわよ」
「いや、そういう問題じゃなくてさ。エヴァも休息が必要だし」
「それじゃあたし一人でも行ってやるわよ!ミスター、ブルーガー貸して!」
「ミスターは宇宙だし」
「それじゃあバルキリーよ!」
「バルキリーも全部出てるって。だから無理なんだよ」
「無理なんて知らないわよ!」
 理不尽さが増していく。
「あたしにそんな言葉効果がないんだからね!」
「ああ、やかましい」
 チカはここで通信を切った。
「やれやれですよ。全くロンド=ベルにはああしたのが多くて困ります」
「彼女、本当に来るかも知れないですよ」
「まさか。今頃エヴァチーム全員で止めていると思いますよ」
「まあそうでしょうね」
「ですから気にしないでいいです。それより御主人様」
「何でしょうか」
「本当にいいんですね」
「ヴォルクルスのことですか」
「あれを出すとなると。失敗した時は」
「ですから彼等にも協力をお願いしたのですよ」
 シュウの顔が引き締まる。
「是非共、とね。失敗は許されませんから」
「ええ」
「ですから貴女にもお願いがあるのですよ。わかりましたね」
「お任せ下さい」
 その羽根で胸を叩いた。
「こなったら例え火の中水の中ですよ」
 そして言う。
「御主人様、何処までも一緒ですよ」
「期待していますよ」
「はい」
 そして遂にヴォルクルスが眠る山が見えてきた。彼等のラ=ギアスでの戦いも遂にその最後を迎えようとしていたのであった。

 邪魔大王国は滅んだ。だがククルは生き残っていた。彼女は一人南に落ちていた。
「これで邪魔大王国も最期か」
 彼女は空しく空を飛びながら呟いた。
「わらわの代で。そしてあの男も倒すことが適わなかった」
 それが何よりも無念であった。
「このまま。 ない。それがわらわの責じゃ」
 南に落ちそのまま地下に戻るつもりだった。そこで自決するつもりだった。そして彼女は実際に地下に戻った。そして誰もいない地下宮殿を進んでいた。そして己が玉座へ向かっていた。
「誰もおらぬな。当然か」
 ククルは気配一つしない宮殿を見回してまた呟いた。
「あの時の最後の出撃で。皆出たのじゃからのう」
 その結果があれであった。邪魔大王国はまさに彼女しか残っていなかったのだ。だがそれでも彼女は先へ進んでいた。自分で自分を決する為に。
 だがここでふと立ち止まった。何かの気配を感じたからだ。
「!?」
 そして咄嗟に身を隠した。そこにはミケーネの者達がいた。
「ようやく甦ったな」
「うむ」
 だがそこにいたのは見たこともない者達であった。背丈は彼女とそれ程変わりはなかった。しかも明らかに他のミケーネの者とは姿形が違っていた。
 一方は首を脇に抱えた男であった。軍服を着ている。恐ろしげな顔であった。
 そしてもう一人はさらに異形の姿であった。右半分が男であり左半分が女であった。そしてその声も男と女の両方のものであった。
「我等が復活できたのも。地獄大元帥のおかげじゃ」
「そうじゃな。だがそれだけではないぞ。それはわかっておるな」
「無論」
 男の声と女の声両方で答えが返る。
「全ては闇の帝王のおかげ。だがそれが適ったのは」
「ここにいる者達が生け贄となってくれたせいだな」
「その通りだ」
「わらわ達のことか」
 ククルはそれが他ならぬ自分達のことを言っているのだとわかった。
「邪魔大王国。利用されていたとも知らず」
「その滅んだ時の命を闇の帝王復活へのエネルギーにされていたとはな。まさか夢にも思うまいて」
「おのれ、そうだったのか」
 怒りに歯軋りする。しかし今は出るわけにはいかなかった。話はまだ続いていたからだ。
「これで邪魔大王国は充分役に立ったわけじゃ」
「後は我等でやるとするか。地上征服とな」
「その為に我等も復活させてもらえたのだしな」
「そういうことじゃな。じゃがブロッケン伯爵よ」
「何だ、アシュラ男爵」
 二人は互いにその名を呼び合った。
「遅れはとらぬからな」
「フン、そちらこそ用心しておくがいい」
 二人は早速いがみ合いに入った。しかしククルはもうそれを聞いてはいなかった。何処かへと姿を消してしまっていた。
 邪魔大王国は滅んだ。だがククルは生きていた。それがどういったことをもたらすのか。この時はまだ誰もわかってはいなかった。


第五十八話   完


                                 2005・12・4


[336] 題名:第五十七話その二 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年06月01日 (木) 19時42分

「それでも軍人か!そもそも戦いとは」
「確かに一理ある」
 クワトロはぽつりと半ば独り言のよう言った。
「やっぱりな」
「だがそれは一面だけでしかない」
 そしてこう付け加えることも忘れなかった。
「そりゃ一体」
「敵もそう思っているということだ」
「敵も」
「言われてみればそうね」
 クリスはそれを聞いて頷いた。
「クリスさん」
「ネオ=ジオンの将兵もジオンの大義を信じているわけよね」
「そうだ」
 ここで答えるクワトロの顔が少し複雑なものになった。
「それじゃあネオ=ジオンにとってはジオンの大義が正義になるわ」
「じゃあ正義が二つあるということか」
「その通り。正義は一つではない」
 クワトロは締め括るようにして言った。
「アナベル=ガトーがソロモンで核を放ったこともまた事実なのだ」
「あれもかよ」
 所謂ソロモンの悪夢である。バルマー戦役においてガトーは強奪したGP−02でソロモンに核攻撃を敢行した。これによりソロモンに集結していた連邦軍の艦隊は壊滅的な打撃を受けソロモンを奪われることになった。人類に再びジオンの悪夢を思い出させた衝撃的な事件であった。
「そう、あれこそがアナベル=ガトーにおいては正義だったのだ」
「複雑なんですね」
「複雑。服を雑に置いてふくざっつぅ〜〜〜」
「だからよお、戦い前に気の抜ける強引なネタは止めてくれよ」
「パターン青、使徒です!」
 リョーコにそう言われるとイズミはいきなり叫んだ。
「エヴァ発進用意!」
「っておい、今度はマヤさんの真似かよ」
「これはそっくりですね、何故か」
「だからそれも止めろって」
 リョーコの言葉は続く。
「紛らわしいだろうが」
「それもそうですね」
「あたしだってノインさんの真似は自粛してるんだよ。お互いそれだけは止めようぜ」
「そういえば私もレイちゃんに声が似てるって言われるのよね。全然似てないのに」
「俺も。シーブックにそっくりだって」
「バーニィは本当に同じに聞こえるわよね」
「だろ?一緒にいるとどっちがどっちかわからなくて」
「俺もだよ。何でかわからねえけどリュウセイと同じ声に聞こえるんだよな」
 サブロウタが言った。
「あとラッセさんとかな。まあこれはわかるけどな」
「わかるか?」
 しかしダイゴウジはそれには首を捻った。
「全然キャラクターが違うぞ、おい」
「いや、そういうあんたも」
 リョーコがいつものように突っ込みを入れる。
「声がドモンやトウジと似てるぜ。まあ声の話はこれ位にしておこう」
「私の声に似ているのはいないようだしな」
「そういえばそうですね」
 皆クワトロの言葉には頷いた。
「かえって珍しいですよね」
「あとコウさんの声も」
「えっ、俺」
 コウは後ろで自分のことが話されたのに気付いた。
「ええ、まあ」
「俺はまあ。そんなに特徴のある声だとは思わないけれど」
「そうかねえ」
 だがリョーコはそれには懐疑的だった。
「何か。皇帝みたいな声だけどな」
「皇帝!?まさか」
 それを聞いて思わず笑ってしまった。
「俺はそんな柄じゃないさ」
「そうですかねえ」
「いや、案外そうかも」
 バーニィが言った。
「バーニィ、それはまたどうしてだ」
「何かコウさんの声ってそんな感じがするんですよ」
「そんな感じ」
「黒と銀色の軍服着て」
「それは何か俺には全然似合いそうにもないな」
「はあ」
「まあどっちにしろ俺は今のままでいいさ。連邦軍のパイロットでな」
「そして人参さえなければ」
「人参を食べなくても死なないよ」
 クリスの突っ込みにこう返す。
「けれどニナさんが怒りますよ」
「まあそれは」
 逆に形勢が悪くなってしまったのを悟った。だがそれでも言った。
「何とかなるよ」
「そうですかね」
「そうそう。それじゃあ前線に向かおうか」
「もう向こうから来てますよ」
「しかもノイエ=ジールが」
「ノイエ=ジール。ガトーか」
 それまでの砕けた表情が消えた。引き締まったものになる。
「ノイエ=ジールは頼みますね」
「他の連中は俺達がやりますから」
「わかった」
 コウはクリスとバーニィの言葉に頷いた。
「後ろは俺がやる」
「いつも済まないな、チャック」
「なあに、これが俺の適役だから。気にしない気にしない」
「けれど文句は言うなよ」
「わかってるって。まあ当たりはしないから」
「大丈夫なんですか、キース中尉」
「どうなっても知りませんよ」
「御前等が言うなよ」
 キースはクリス達に言われて口を尖らせた。
「どのみち大して変わらないんだからな。パイロットとしちゃ」
「まあそうですけれど」
「今は機体もいいしな。大丈夫さ」
「だが過信はしないようにな」
 バニングが三人を注意した。
「敵も必死だ。それを忘れるな」
「は、はい」
「わかってますよ」
 三人はそれを聞いて慌てて言葉を返した。
「そうだといいがな」
 バニングはそう言いながら前に出て来た。後ろには04小隊の面々が続く。
「ではウラキ、ノイエ=ジールは任せた」
「はい」 
 バニングも言った。コウはそれに頷く。
「では突貫します」
「うむ」
「やばくなったら何時でも俺に言いな」
 モンシアも声をかけてきた。
「水割り一杯で駆け付けてやるからよ」
「随分安いですね」
「ヘッ、サービスしてやってんだ」
 彼はこう言って減らず口を叩いた。
「何ならワインボトル一本でもいいんだぜ。とびきり高いのをな」
「いや、そこまでは」
「そうだろう。まあいざとなってら呼びな。いいな」
「はい」
 そして04小隊はそのまま前に向かった。そして戦場に赴くのであった。
「よし」
 既にキース達は周りに展開している。そしてそれぞれの敵に向かっていた。
「ガトー、また出て来たな」
「コウ=ウラキか」
 ガトーの方も気付いた。そしてコウのGP−03に向かう。
「どうやらさらに腕をあげたようだな」
「当然だ!」
 コウは言い返す。
「俺もここまで多くの戦場を潜り抜けてきた!腕を上げたのは御前だけじゃない!」
「ではその腕を見せてもらおう」
 ガトーはそう言いながらノイエ=ジールを前に出してきた。
「果たしてその機体の能力を完全に引き出しているのか。見せてもらおう」
「やってやる!」
 コウはまた叫んだ。
「行くぞガトー」
「来るがいい」
 両者は互いに動いた。
「先の戦いからの決着、今着けよう」
「望むところだ!」
 そう言いながらミサイルを放った。
「これでどうだっ!」
「甘いっ!」
 だがそのミサイルはかわされてしまった。ノイエ=ジールはその巨体からは想像もできない速さでそれを横にかわした。
「なっ!」
「確かに腕をあげた」
 ガトーはミサイルをかわした後で言った。
「だがそれではまだこの私を倒せぬ!ましてやジオンの大義を止めることなぞできぬ!」
「その大義の為にどれだけの人が死のうともか!」
「無論!」
 彼は言い切った。
「義を知らぬならば生きている価値はない!人は義によってこそ生きるのだ!」
「貴様はギレン=ザビを肯定するのか!」
「私はギレン閣下の理想に共鳴しここにいる!ならばわかろう!」
「貴様!」
「コウ=ウラキ!貴様は確かに優れたパイロットだ!だが義を知らぬ!」
「義で世界が変わるのか!」
「変わる!少なくともギレン閣下ならば今の人類を変えられた!」
「御前はあの男が独裁者だったとわからないのか!」
「独裁の何処が悪い!」
 彼はまた言った。
「この世界は正しき者によってこそ導かれるべきなのだ!優秀な指導者によって!」
「くっ!」
 流石にこれは否定できなかった。どう批判的に見てもギレン=ザビが指導者として歴史的にも突出した存在であるのは明らかであるからだ。コウも言葉を詰まらせた。
「そしてそれに反する愚か者共は淘汰されるべきなのだ!今の地球連邦政府に大義はあるか!」
「大義はなくとも!」
 たまりかねたように叫んだ。
「そこには多くの人がいる!連邦政府の腐敗とは全く関係なく生きている人達が!俺はその人達の為に戦うんだ!」
「では見せてみよ!」
 ノイエ=ジールはビームを放った。
「それが貴様の義というのならな!」
「やってやる!」
 そのビームをかわしながら言う。
「そしてガトー、貴様を倒す!」
 そう言いながらビームサーベルを出した。そして突撃を開始する。
「これで!どうだ!」
「来い!」
「うおおおおおおおおおーーーーーーーーっ!」
 コウは叫んでいた。そしてそのまま一直線にガトーに向かう。
「死ねえええええええええーーーーーーーーーーっ!」
 恐ろしいまでの速さであった。GP−03もまたノイエ=ジールに匹敵する巨体であった。だがそれをものともしない恐るべき速さでノイエ=ジールに突撃していた。今コウはこの巨大なマシンの能力を極限まで引き出していた。
「ヌウッ!」
 流石のガトーもこれは完全にかわすことができなかった。ビームサーベルが掠った。
「クウッ!」
「チィッ!」
 ガトーもコウもそれぞれ舌打ちした。
「ぬかったか!」
「しまった!」
 両者はそのまま交差した。そしてまた互いに向き合う。
「危ないところだった」
「もう少しだったのに」
 また対峙した。そしてまた睨み合う。
「どうやら私の予想以上だったようだな」
 ガトーはコウを見据えたまま言った。
「コウ=ウラキ。君は素晴らしいパイロットになったと言っておこう」
「ガトー、俺も御前に言いたいことがある」
 コウも言った。
「そのノイエ=ジールでそこまでの動きができるなんて。御前はやっぱり凄い奴だ」
「だが」
 二人は同時に言った。
「ここで負けるわけにはいかぬ!」
「ガトー、御前を倒さなくちゃいけないんだ!」
 また攻撃を開始した。
「いくぞ!」
「喰らえっ!」
 それぞれビームを放つ。今度はドッグファイトをはじめた。こうして二人は熾烈な一騎打ちを展開していた。
 戦いは何時までも続いていた。だがそれは二人だけではなかった。
 他の者達もまた戦いを行っていた。その中にはシーマ=ガラハウもいた。
「チッ、とにかく辛い戦いだね)
 長く濃い紫がかった黒髪の女が赤いモビルスーツガーベラ=テトラに乗っていた。そして戦場をかけていた。
「やられているのはこっちばかりじゃないか。これでどうやって守れって言うんだい」
 彼女は戦局を冷静に見回していた。だがその戦意は衰えてはいなかった。
「こうなっちゃ仕方ないさね。ロンド=ベルの誰かを仕留めるしか」
 獲物を狙っていたのであった。そしてその獲物を探していた。まるで餓えた狼のような目になっていた。
「さて、敵は」
「ん!?何だあの赤いモビルスーツ」
 ここでドラグナーが彼女の前に現われてきた。
「誰が乗っているんだ、あれ」
「クワトロ大尉だったりしてな」
「おいおい、だったらそれはドッペルゲンガーだぞ」
 ライトがいつもの調子でタップに対して言った。
「どうやらあれはガーベラ=テトラだな」
 マギーを見ながら言う。
「ああ、あのガンダムの系列のモビルスーツか」
「その通り」
「何か外見だけ見たら全然そうは見えねえな」
 タップはそう言いながら首を傾げさせていた。
「全く別の系列のモビルスーツに見えるぜ」
「どっちかって言うとジオンのやつだよな」
「確かジオンの系列の科学者が開発に関わっていたな」 
 ライトはケーンの言葉に応えるようにして言う。
「やっぱりそうかよ」
「今コウさんとバニングさんが乗っているあれの開発の時に一緒に作られたやつらしい。ところがそれがネオ=ジオンの手に渡ってしまって」
「今あそこにいるってわけか」
「確かそうだったな」
「何か連邦軍ってのも間抜けだよな」
 タップが呆れたように言う。
「毎度毎度ポカやってねえか、何か」
「それは言わない約束だぜ」
 ケーンが茶化して言う。
「俺達だってたまたまパイロットになったんだしな」
「それを言うとアムロ中佐も最初はそうだったな」
「本当にいい加減な組織だよな」
「ところが組織はいい加減でも機体はしっかりしていると」
 ライトは二人に対してこう述べた。
「というと」
「あれかなり手強いみたいだぞ」
「ゲッ、マジかよ」
「マギーちゃんはそう教えてくれているな」
「それじゃあどうするよ」
「いつもみたいに三人でやるか?」
「それが妥当だな」
「よし」
 二人はライトの言葉に応え左右に散った。
「それじゃあやりますか」
「で、乗っているパイロットは誰かな」
「名のあるパイロットみたいだけれどな」
「何か言ったかい?」
 シーマの声が三人の通信に入ってきた。
「さっきから楽しそうにお喋りしてるけど」
「げっ、シーマ=ガラハウ」
 ライトがその顔を見て思わず呟いた。
「よりによってこんなのが出て来るとは」
「何だ、知ってるのかよライト」
「知ってるも何も一年戦争でのジオンのエースパイロットの一人だぞ」
「エース!?このおばさんが」
「そこの坊や、口は慎んだ方がいいよ」
 シーマは凄みを利かせた声でケーンにこう言ってきた。
「さもないと死ぬことになるからねえ」
「うわ、マジでこええ」
「というかその一言は禁句だろうが、おい」
 タップがそう忠告する。
「ここは穏やかにだな。お嬢さんとでも」
「そこの坊やも死にたいのかい?」
 タップにも凄みのある声をかけてきた。
「あまりおいたしてると後悔することになるよ」
「ううむ、どうやらいつもの軽い調子が通用する相手じゃなさそうだな」
 と言いながらもライトはいつもの調子であった。
「それじゃあ真剣にやりますか」
「よし」
 三人はそれぞれ左右に散った。
「ほんじゃまおば・・・・・・おっとと」
「シーマ=ガラハウな」
 ライトがケーンに教える。
「敏感な年頃だから。注意するように」
「そうだな、危ねえ危ねえ」
「フン、面白い坊や達だね」
 そうは言いながらも目は全く笑ってはいなかった。
「あたしの相手をしようなんて百年早いってことを教えてやるよ」
「ありゃ、百年か」
 ケーンはそれを聞いて拍子抜けしたように言った。
「何か短いな」
「そうだな。俺達いつも一千年とか一億年とか言われるもんな」
「それを考えると俺達も成長したものだ」
「これを記念にダグラス大尉に一杯おごってもらおうぜ」
「おっ、いいねえ」
「ベン軍曹にばかり世話になるのも悪いしね」
「ほう、奢ってもらいたいのかい」
 シーマはそれを聞いてニヤリと笑ってきた。
「それじゃああたしがたっぷりと奢ってやるさね」
「奢るって何をだ?」
「幾ら何でも敵さんに奢ってもらう程俺達は貧乏じゃないぜ」
「まあ確かに金持ちではないけれど」
「何言ってやがる、えらいさんの御曹子の癖に」
「そういう御前もそうだろうが」
「親父のことは関係ねえよ」
「けどリンダちゃんなんか実は玉の輿なんだよな」
「博士の娘だからな」
「そうそう」
「ええい、そんなこたあどうでもいいんだよ」
 ケーンは半ばやけっぱちになって言った。
「とにかく前のあのガーベラテトラを何とかするぞ。どういうわけか話が全然進んでねえけどな」
「それは俺達のおしゃべりのせいだな」
「まあそれは言いっこなし」
「ってタップ、おめえが一番しゃべってるじゃねえかよ」
「気にしない気にしない」
「気にするぜ、ったくよお」
「で、どうするんだい坊や達」
 シーマがまた声をかけてきた。
「あたしの奢り、受け取るのかい?」
「まあそれは」
 タップが言った。
「いらないって言ったら嘘になるかな」
「そうかい」
「で、奢りって何奢ってくれるんだろうなあ」
「ここはリッチにロイヤル=ミルクティーを」
「じゃあ俺アメリカンコーヒー」
「俺緑茶」
「残念だけど飲み物じゃないよ」
「何だ、残念」
「それじゃあ何なんだよ」
「それはね」
 言いながらニンマリと笑う。
「これさ!受け取りな!」
「おわっ!」
「何とっ!」
「ライト、その表現止めろ!マジであのネオ=ジオンの変てこな兄ちゃん思い出したじゃねえか!」
「すまんすまん、声が似てるものでね」
「気をつけてくれよ、ホントに」
「一瞬誰かと思っちまったぜ」
 そんな軽い会話を続けながらもシーマの攻撃は無事かわしていた。
「けどよお、こりゃマジで危険な状況だぜ」
「同感」
「どうするよ、ライト」
「だからさっきから言ってるじゃないか」
 彼は困ったように言葉を返した。
「ここはいつもみたいにフォーメーションでいくって」
「そうだったか」
「納得」
「話位はちゃんと聞いてくれよ」
「悪い、忘れちまってた」
「けど今覚えたぜ」
「まあいいか。それじゃあやるか」
「よし」
「おう」
 ライトの言葉を受けて二人はまた動いた。
「タップはフォローに回ってくれ」
「よし来た」
「ケーンは接近戦だ。俺が側面から支援する」
「よし、じゃあ行くぜ」
 ケーンはそれを受けて突進をはじめた。
「へえ」
 シーマはそんな彼を冷静に見ていた。だがその顔からはもう笑みは消えていた。
「いい動きをするじゃないか。口は軽いけど腕はいいみたいだね」
「行くぜ、シーマ=ガラハウ!」
「さあおいで。切り刻んでやるよ」
 そう言いながらビームサーベルを抜く。
「ジオンで伊達にエースパイロットになっていたわけじゃないってことを教えてやるからね」
「うおおおおおっ!」
 ケーンはそのまま突っ込む。シーマは構えをとりそこから向かった。両者が激しく激突しようとしたその時であった。
「おっと!」
 シーマは突如としてサーベルを切り払った。そしてそれでタップのレールキャノンの攻撃を退けた。
「なっ、絶対当たると思ったのによ!」
「この程度であたしをやろうなんて片腹痛いね!」
 シーマはそう言い返した。
「あたしをやるつもりならもっと本気できな!」
「これでも本気だっての!」
「それじゃあ俺が!」
 ライトがそれを受けたかのようにしてサッと動いた。そしてハンドレールガンを出す。
「捉えた!そこだっ!」
 そしてレールガンを放つ。しかしそれもかわされてしまった。
「これもか!」
「化け物かよ!」
「なかなか腕はいいって認めてあげるよ」
 シーマは凄みのある顔を二人に向けてきた。
「けどこれじゃねえ、他の奴はともかくあたしの相手は務まらないよ」
「チイッ!」
「じゃあ俺が!」
 今度はケーンが切りかかった。
「死にたくないのならどきやがれ!」
「死にたくない、ねえ」
 ケーンのその言葉を聞くとどういうわけかまた笑った。
「生憎あたしは生きることだけを考えているんだよ」
「何っ!?」
「あたしにとっちゃジオンの大義も平和もどうだっていいってことだよ!生き残る為には何だってするってことさ!」
「どういうことだ!」
「言ったままさ!理想とかそんなので何になるっていうんだい!そんなことは偉い奴等の言い訳に過ぎないんだよ!」
 叫びながらケーンのサーベルをかわした。
「あんた達みたいなヒヨッ子にはわからないだろうね、一年戦争の生き残りの言葉はね!」
「だったらどうだってんだよ!」
 ケーンはまた反論した。
「大体歳のことを言ったら怒ったのはそっちじゃねえか!」
「そんなことは忘れちまったね」
 こう返してうそぶいた。
「あたしは都合の悪いことはすぐ忘れちまうんでね」
「何て勝手な話なんだよ!」
「けど俺達もそうだよな」
「ってタップ、それを言うと折角のシリアスがよ」
「まあ一理はあるな」
 そしてライトはシーマの言葉に頷くべきものを見出していた。
「どういうことだよ、それ」
「政治ってやつはそういう一面もあるのは事実だ」
 彼は珍しく真面目な顔で言った。
「上層部が理想を旗印にして自らの野望を達成しようとするのはよくある話だ」
「言われてみればそうだな」
 ケーンもそれに頷いた。
「ジオンだってそうだったしな」
「まああれはな」
 タップも頷く。
「ナチスとかソ連とかもそうだったからな」
「それで戦争になる。まあたまらない話ではあるな」
「けどそれで戦争になっても俺達は戦うしかないんだな」
「軍人だとな」
「じゃあ今はやってやるぜ。どのみちここで死んじまったらどうにもならねえからな」
「それじゃあ決まりだな」
 今度はタップが音頭をとった。
「必殺技でいくぜ、ドカンと一発」
「あれをやるか」
「よし」
 三人は同時に動きはじめた。今度はそれぞれの役割分担はしない。
「一斉射撃だ!行くぜ!」
 ケーンが叫んだ。
「光子バズーカ、発射スタンバイ!」
「おう!」
「何時でもいけるぞ!」
 二人がケーンにそう応える。
「よし、今だ!」
 三機のドラグナーが一斉に動く。そして照準を合わせる。
「撃てええええええええええええっ!」
 ケーンが叫ぶと同時に攻撃を放った。三機のドラグナーはガーベラテトラに向けて一斉攻撃を仕掛けたのであった。三色の光がシーマを襲う。
「チイッ!」
 シーマはそれを見てすぐに上に跳んだ。だがさしもの彼女も完全にかわしきれるものではなかった。
 ガーベラテトラの右足が吹き飛んだ。避けきれず右足を失ってしまったのであった。
「やってくれたね!」
「というかこっちが言いたいぜ!」
 ケーンが言い返す。
「俺達のフォーメーションアタックをかわすなんてな」
「流石は一年戦争のエースといったところか」
「フン、褒めても何も出ないよ」
「さっきは奢るって言ってたのに」
「やっぱり勝手だよなあ」
「何とでも言うんだね。けどとりあえず今はあんた達に花を持たせてやるよ」
「花より団子」
「三色団子がいいな」
「今のバズーカは三色だったけどな」
「けど覚えておくんだね」
 シーマは三人に構わず言う。
「あたしは執念深いんだ。この借りは絶対に返してもらうよ」
「うわ、お決まりの台詞」
 ケーンがそれを聞いて呟く。
「まさか俺達が言われるとは思ってなかったな」
「同感」
「それだけメジャーになったってことかな」
「そんな軽口言えるのもいまのうちだけだよ」
「また言われた」
「もしかしてアムロ中佐になれるのももうすぐか!?」
「エース中のエース。いい響きだねえ」
「フン、まあいいさ」
 これ以上相手をしていてはリズムが狂うと思ったのだろうか。シーマは話を切り上げることにした。
「今日はこれで帰るよ。また会った時は楽しみにしておくんだね」
「それじゃ」
「元気でね。おば・・・・・・じゃなかったシーマ=ガラハウ・・・・・・ええと」
「中佐だよ」
 シーマはそう付け加えた。
「階級も覚えておきな。いいね」
「了解」
「それじゃあ御機嫌よう」
「フン」
 こうしてシーマは戦場を離脱した。三人は後方へ消えていくガーベラテトラを見送っていた。だが緊張は消えてはいなかったのであった。
「ふう、手強かったな」
「やっぱり一年戦争の生き残りってのは強いよな」
 まずケーンとタップが言う。
「年季が違うからな。それに実戦経験も」
 そしてライトが続く。
「年季か」
「まあこれは仕方無いな」
「俺達まだティーンネイジだし」
「そうそう」
「それじゃあ若きエース目指して」
「休もうか」
「・・・・・・って何でそうなるんだよ、ケーン」
「悪いけどこっちはもう弾切れなんだ」
 ケーンはタップにそう返した。
「何だそりゃ、そんなの我慢しろよ」
「レールガンも全部そうなのにかよ。光子バズーカも使えないんだぜ」
「ん、よく見りゃ俺のものだ」
「俺のもだ。これじゃあ仕方がないな」
「とりあえず一旦帰ろうぜ。それで補給済ましてまた大暴れだ」
「よし、華のドラグナーチームの力見せてやるぜ」
「それまで戦士は一時の休息、と」
 そんな軽口を叩きながら戦場を一時後にした。だがその頃には戦いはもう終わりに近付こうとしていた。
「いけーーーーーーーーっ!」
 モンシアが叫ぶ。そして04小隊が一隻のエンドラに総攻撃を仕掛けていた。
「戦艦が何だってんだ!とっとと沈んで楽になりやがれ!」
「おお、今日は張り切ってるじゃないか」
 ベイトがそんなモンシアを見て笑みを浮かべる。
「どうしたんだ、そんなに乗って。いつもとは全然様子が違うじゃないか」
「気持ちが乗ってんだよ」
 モンシアはベイトにそう声を返した。
「何かよお。もうすぐ地球に帰れると思うとな」
「帰ってもまた戦いだぜ」
「それでもだ。やっぱり星ばかり見てても面白くとも何ともねえからな」
「それはそうですね」
 アデルがそんなモンシアに同意して言った。
「やっぱりメリハリがありませんと」
「そういうことだよ。やっぱりわかってるな」
 モンシアは彼のその言葉を聞いて目を細めた。
「地球に帰ったらまた一杯やろうぜ」
「はい」
「いきなり戦いにならなきゃ、だけどな」
「おい、不吉なこと言うんじゃねえよ」
「けどそれがいつものパターンだろ、ロンド=ベルの」
「まあな」
「俺は参加は今回がはじめてだが御前さんは前からだったよな」
「ああ」
「だったらわかってる筈だぜ、ここのジンクスは」
「余計なジンクスもあるもんだぜ」
 モンシアはそれを聞いて不満を露にした。
「まあそん時はそん時だ」
「吹っ切れたな」
「騒いでも仕方ねえしな。それよりだ」
「ああ」
 ここで先程攻撃を仕掛けたエンドラを見る。
「さっさとこのしぶといのを沈めちまおうぜ」
「じゃあ行くか」
「よし」
 三人が動こうとする。だがその目の前で戦艦は突如として炎に包まれた。
「なっ!」
「総員退艦!」
「急げ!」
 エンドラの中で悲鳴が木霊する。そして慌てて戦場を離脱する脱出用の艦艇を後にして戦艦が炎の中に消えるとそこにGPー01がやって来た。
「これでよし」
「バニング大尉」
「エンジン部分を狙った。脆いものだった」
 三人の目の前に現われたバニングは静かにこう言った。
「もっとも御前達の事前の攻撃があったこそだがな。礼を言う」
「いやあ、礼なんて」
「大尉のおかげですよ」
「そうですよ、私達は今から三人で攻撃を仕掛けようかとしていたところでしたから」
 ベイト、モンシア、アデルはそれぞれ言う。
「まあまた戦艦を沈められてラッキーです」
「うむ」
 モンシアの言葉に今度は静かに頷いた。
「だがまだ戦争は終わってはいない」
「はい」
「アムロ中佐も既に一隻の戦艦と敵の小隊を三個撃破されている。中佐に負けぬようにな」
「いや、幾ら何でもそれは」
 流石にベイトも閉口でぃた。
「無理ってものですよ」
「やっぱり連邦の白い流星は伊達ではありませんね」
「敵じゃなくてよかったぜ、全く」
「だが敵はまだいる。それはわかるな」
「はい」
 三人はまたバニングの言葉に頷いた。
「では行くぞ」
「了解」
 04小隊はまた動いた。しかしこの時には戦争の趨勢はもう定まっていた。だがそれでもデラーズは戦場に残っていた。
「閣下」
 部下の一人が艦橋に立つデラーズに声をかけてきた。
「また戦艦が一隻撃沈されました」
「エンドラ級十七番艦ホーイックです」
 別の部下がその艦の名を告げる。
「既に我が軍の損害は七割に達しようとしていますが」
「如何為されますか」
「まだだ」
 だがデラーズはそれを聞いてもこう言うだけであった。
「まだ。退くわけにはいかぬ」
「まだですか」
「ですがもう限界です」
「それも承知のうえだ」
 こう言いながらも彼は退こうとしなかった。
「あと少し。あと少し耐えるのだ。よいな」
「あと少しですか」
「そうだ。そうすれば」
 ここで艦橋に連絡将校が入って来た。
「閣下」
「どうした」
 デラーズは彼に顔を向けた。そして問うた。
「ハマーン様から連絡です」
「摂政からか」
「はい。如何されますか」
「モニターに映せ」
 彼はそう指示を出した。
「私が直接話を聞こう。よいな」
「ハッ」
 こうしてモニターのスイッチが入れられた。そしてそこに赤紫の髪を持つ女が姿を現わした。
「まだこのモニターを使えるところを見ると無事なようだな」
「うむ」
 デラーズはハマーンに対して頷いた。
「何とかな。ところでそちらはどうだ」
「順調に進んでいる。もうすぐ降下態勢に入る」
「ではもうこちらでの防衛はいいな」
「うむ。御苦労だった」
 ハマーンにも戦局はおおよそわかっていた。ここで彼等を下がらせるのが得策だと判断したのである。
「ではアクシズに退いてくれ」
「わかった」
「後のことは木星トカゲ達で済ませる」
「木星トカゲか」
 それを聞いたデラーズの顔が曇る。
「あの様な機械だけでか」
「他には北辰衆も来るそうだが」
「信用できるのか」
「そんなことは大した問題ではないだろう」
 しかしハマーンはそれを不問とした。
「利用できるものは利用する。違うか」
「しかし」
「貴殿の言いたいことはわかっている。だがこれも勝つ為だ」
 ハマーンはさらに言った。
「ひいてはそれがジオンの為になる。わかってくれるな」
「仕方あるまい」
 デラーズもジオンを出されては頷くしかなかった。仕方なく妥協した。
「ではここは従うとしよう」
「うむ」
「ではこれで撤退する。地球は任せた」
「わかった」
 こうしてハマーンはモニターから姿を消した。デラーズはそれを確認してから後ろにいる部下達に顔を向けた。
「聞いたな」
「ハッ」
 部下達は一斉に敬礼をして応えた。
「ではすぐにアクシズまで撤退する。よいな」
「わかりました」
「後のことは木星トカゲ、そして北辰衆に任せるものとする。ネオ=ジオンの部隊は撤退だ」
「木星トカゲに、ですか」
 部下の一人が先程のデラーズと同じ表情を浮かべた。
「その先は言うな」
 しかしデラーズはそれから先を言わせなかった。
「よいな」
「申し訳ありません」
「わかればいい。ではすぐにモビルスーツ部隊を収納しろ」
「ハッ」
「そしてすぐに戦場を離脱するぞ」
「了解」
 こうしてデラーズ指揮下のモビルスーツ部隊は撤退した。その中には当然ガトーも含まれていた。
「ガトー、逃げるのか!」
 コウはそんな彼を見て叫ぶ。
「来い!俺と決着をつけるのだろう!」
「それはまた別の機会だ」
 彼は後ろ目にコウを見て言う。
「今は退く。これもまた命令だ」
「クッ!」
「だが言っておく。ジオンの大義がある限り」
 そして言う。
「私は敗れることはない!連邦にも君に対してもだ!」
「何を!」
 コウは退くガトーのノイエ=ジールにおいすがろうとした。しかしそれは適わずガトーは戦場を離脱した。こうして戦いは終わった。
 結果としてロンド=ベルは戦いに勝利した。しかし彼等が休息をとる時間はなかった。
「すぐに地球に向かうぞ!」
 ブライトが指示を下した。
「ハマーンの部隊は既に降下態勢に入っている!急がないと大変なことになる!」
「クッ、思ったより動きが速い!」
 カミーユがそれを聞いて言った。
「ハマーン、何としても地球に降りるつもりなのか!」
「その通りだ」
 クワトロはそんなカミーユに対して述べた。
「彼等もまた地球を支配したがっているのだからな」
「まだ諦めていないのか」
「それは当然のことだ」
 アムロも言った。
「それが今のジオンの願いなのだからな」
「そういった意味で彼等は最早スペースノイドを代表してはいないのだ」
「それじゃあ一体」
「最早ティターンズと同じだ。いや、ティターンズもまた彼等と同じなのかな」
「何かよくわかりませんね」
 カツがそれを聞いて首を傾げさせた。
「ネオ=ジオンは大体わかるつもりですけれどティターンズがジオンと同じだなんて。彼等はアースノイド至上主義じゃなかったんですか?」
「それもまた表向きだ」
 クワトロはカツに対しても言った。
「彼等が求めていることもまた人類の掌握だな」
「はい」
「それも武力による。そのうえ彼等はサイド3、ジオン共和国とも親しい関係にある」
「それは聞いたことがあります」
「そうだろう。そしてジオン出身の開発者も多く参加している。またジャミトフ=ハイマン自身もギレン=ザビの思想に共鳴している部分があるという」
「それじゃあまるで連邦軍の一部隊なんて仮の姿じゃないですか」
「そうだ、彼等の正体もまたジオンだ」
 クワトロはここで言い切った。
「つまり我々は二つのジオンの亡霊と戦っていることになるのだ」
「そうだったんですか」
「ギガノスはまた別でしょうか」
 リンダはそれを聞いてクワトロに尋ねてきた。
「彼等も似ていると思うのですが」
「あれは似て非なるものだ」
 クワトロはこう述べた。
「ギルトール元帥はかなり理想に頼っていた」
「はい」
「それが彼の限界でもあったが。だがジオニズムとはまた違う」
「そうだったのですか」
「少なくとも彼は手段は選ぶ。そこもまた違う」
 クワトロはジオンの亡霊とギルトールをそう分けて考えていたのであった。そしてこれは正しかった。
「だからこそ彼等とも一線を画しているのだ」
「わかりました」
「そしてだ」
 彼はさらに言った。
「そのジオンの亡霊達は今アフリカでかっての同志達と再会しようとしている。そしてダカールを目指している」
「はい」
「彼等をダカールに行かせてはならない。行かせれば彼等に大義を与えることになる」
「ジオンの大義を」
「具体的に言うとネオ=ジオンによるダカール占拠だ。そしてそこでジオンの復活を宣言するだろう」
「下手をするとそこで地球圏の掌握をも言い出しかねないな」
「そうだ。私が怖れているのはそれだ」
 クワトロの言葉は続いた。
「そうなったらさらに厄介なことになる。ジオンへ賛同する者が今だに多いのも事実だ」
 これは翻って言うならば連邦政府への批判がそれだけ大きいということである。だからこそギガノスの様な勢力も興るのである。
「地球圏は只でさえ火種が尽きないというのに」
「全てはハマーンの策か」
「ハマーン」
 それを聞いたカミーユの顔色が変わった。
「あの女、またしても」
「問題はハマーンだけではない」
「じゃあ一体」
 カミーユはクワトロの言葉に問うた。
「ジオンそのものもまた問題なのだ。彼等の存在こそがな」
「そうだな。その通りだ」
 アムロはクワトロの言葉に頷いた。
「少なくともザビ家の呪縛がこの地球圏にある限り。地球は彼等の脅威に怯え続ける」
「じゃあどうすれば」
「ザビ家を倒すだけだ」
 アムロは単刀直入にカミーユに返した。
「ザビ家を」
「それじゃあミネバ=ザビを」
 フォウの目が嫌悪に歪む。彼女は少女を害することに抵抗を覚えたのだ。
「それもまた違う」
 ここでクワトロはミネバ=ザビを否定した。
「あの娘は何も知らない。単なる象徴だ」
「そうか」
「言われてみればそうね」
 カミーユとフォウはそれを聞いてまずは納得した。
「彼女は彼女でその呪縛から解き放たれなければならないが。問題は他の者達だ」
「他の者達」
「エギーユ=デラーズ然り、そしてハマーン=カーン然りだ」
「またしてもハマーンか」
「彼女が今のネオ=ジオンの実質的な中心だ。全ては彼女が決めている」
「そうした意味での独裁者だな」
「実質的には、だがな。彼女もそれはわかっているがあくまでその心はザビ家にある」
 ハマーンはその一生をジオンと共に過ごしてきた。一年戦争の後でアクシズに逃れそこから長い間を生きてきた。最早彼女にとってザビ家こそが全てでありミネバはその忠誠、いや崇拝の対象であったのだ。
「それがなくしては。ハマーン=カーンではないのだよ」
「因果なものだな」
 アムロはそこまで聞いた後で呟いた。
「あれ程の鋭さを持ちながら。一つのことから逃れられないというのは」
「それは我々も同じだと思うが。アムロ中佐」
「言ってくれるな、クワトロ大尉」
 二人は棘のあるやり取りを交あわせた。
「だがハマーンに関しては事実だ」
 棘はクワトロの方が引っ込めた。そしてこう述べた。
「彼女はあまりにも鋭過ぎるのだ」
 これは一面においては正解であった。確かにハマーンは鋭過ぎた。
「その為に一つのことしか見えないのだ」
 これもまた正解であった。
「その為だ。そのせいで今ザビ家の呪縛に捉われている」
「そうした意味でハマーンもまた地球の重力にあがらえなかったということだな」
「そうだ」
 アムロの言葉に頷いた。だがここでクワトロは一つのことを見落としていた。ハマーンもまた一人の女だということをである。そう、彼女は女だったのだ。彼はそのことを忘れていた。
「その為に。ネオ=ジオンはここまで来た」
「地球圏に。戻って来たのか」
「今彼等はまさにその地球に還ろうとしている。そして我々はそれを食い止めなければならない」
「それならば」
「ネオ=ジオンを討つ。まずはそれからだ」
 彼等もまた戦わなければならなかった。その為の決意を新たにするのであった。
 しかしそこで一人遠くに離れている者がいた。セラーナであった。
「遂にネオ=ジオンと」
 彼女は意気あがる同僚達を寂しそうな目で見ていた。
「姉さん」
「どうしたんですか、セラーナさん」
 だがそんな彼女にシーブックが声をかけてきた。
「あっ」
 声をかけられた彼女はそれを聞いて我に返った。
「少しね」
 そして照れ臭そうに笑った。
「考えていたことがあって」
「そうだったんですか」
「ええ。けれどもういいわ。すぐにまた戦いよね」
「ですね」
 シーブックはそれに頷いた。
「けれどその前に少しエネルギーを補給しませんか」
「エネルギー?」
「食べるんですよ。セラーナさんもお腹が空いていませんか?」
「そういえば」
「セシリーがパンを焼いてくれてますから。それで体力をつけましょう。戦ってばかりだと身体がもちませんよ」
「そうね」
 それを聞いてうっすらと笑った。
「それじゃあ私も一つもらおうかしら。セシリーの焼いたパンは好きだし」
「美味しいんですよね、あれ」
 シーブックはそれを聞くと我がことのように喜んだ。
「やっぱりセシリーはパンを焼いているのが一番似合っていますし。さあ早く行きましょう」
「早くって」
「早く行かないとジュドー達やケーンさん達が食べちゃいますよ。あの人達そうしたことには凄く俊敏だから」
「あの子達らしいわね」
 そんな話を聞いていると心がほぐれてきた。
「それじゃあ行きましょう。さもないとパンがなくなるから」
「はい」
 こうしてセレーナはセシリーのパンを食べに向かった。心はそちらに向かい何とか戦いからは離れることができた。そして別のことからも。
 
 宇宙での戦いはとりあえずのところは最後の局面に入ろうとしていた。だがここで一つの動きがあった。
「ハマーン様」
 ランス=ギーレンとニー=ギーレンがグワダンの艦橋にいるハマーンに声をかけてきていた。
「どうした」
「ベガリオンのことですが」
「あれで宜しいのですか」
「よい」
 ハマーンは二人の問いにこう返した。
「どうせ遅かれ速かれこうなることだった。ミリアルド=ピースクラフトと同じだ」
「あの男と同じですか」
「そうだ」
 ハマーンはまた答えた。
「心がここにない者がいても仕方のないことだ」
 彼女は二人を見てはいなかった。別のものを見ていた。
「これから我等の大義を実現させる為にはそうした者は去った方がいい」
「左様ですか」
「だからこそ彼等を追わないのですね」
「今度出会う時は敵だとしてもな。その時は倒すだけだ」
 その言葉に剣を含ませた。
「いつものようにな」
「わかりました」
「それでは引き続き今ある戦力を降下させていきます」
「うむ」
 ハマーンはそれを聞いて頷いた。
「去る者は追わずだ。よいな」
「はい」
 こうして二人はハマーンの側から離れた。そしてハマーンはまた一人になった。
「御前と同じだな」
 一人になると何かを呟いた。
「シャア」
 そして今では消えた名を呟いた。
「御前も追えなかったのだ。それでどうして他の者を追うことができる」
 だがこの呟きは地球の青の中に消えてしまった。それを確認したのか彼女は自分の中から戻り指示を下した。
「モビルスーツ部隊全軍降下用意!」
 集結する各艦にそう伝えた。
「防衛は木星トカゲによって行う!他の者は全て地球に降下せよ!」 
 その声は鋭利で張りがあった。ハマーンは普段の、ネオ=ジオンの摂政としてのハマーンに戻っていた。
「地球に降りたならばダカールに向かう。よいな」
「ハッ!」
 各部隊の指揮官達がそれに頷く。そして戦いへの決意を強める。
「では降下用意が整い次第それぞれ降下する。健闘を祈る!」
 地球はそんな彼等を何も言わず見詰めていた。その目は青かった。だが誰も知らなかった。その目は時として燃え、赤くなるということを。


第五十七話   完


                                     2005・12・1


[335] 題名:第五十七話その一 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年06月01日 (木) 19時35分

            兄と妹(後編)
 ギニアス=サハリン技術少将の部隊を退けたロンド=ベルはそのまま前進を続けていた。全軍警戒態勢を緩めない慌しい進軍であった。
 あちこちに偵察用の部隊が出される。それでいて速度を緩めてはいなかった。
「何か変わったところはないか」
「今のところは何もありません」
 グローバルに輝が答える。
「どうやらネオ=ジオンはそのまま防衛ラインに集結しているようです」
「そうか」
 グローバルはそれを聞いて頷いた。そしてポケットからパイプを取り出そうとする。
「艦長」
 だがそれをキムが制止する。
「艦橋は禁煙ですよ」
「やれやれだな」
 彼はそう言われて微かにはにかんだ。
「では我慢するとしよう。後で幾らでも吸えるか」
「そういうことです」
「ところでレーダーにも異変はないか」
「はい、今のところは」
 クローディアがそれに答える。
「異常なしです。落ち着いたものです」
「それは何よりだ」
「あと一時間程で敵の防衛ラインです」
 早瀬が報告する。
「そろそろ偵察に送り出している部隊を呼び戻しましょう」
「うむ」
 グローバルはそれに頷いた。そしてあらためて指示を下した。
「ブライト大佐に伝えてくれ」
「はい」
「そろそろ戦闘用意に入るとな。総員集結だ」
「わかりました。それでは」
「うむ。宜しく頼むぞ」
 返礼した早瀬に対して言葉をかける。そして艦長の椅子に深く座りなおした。
「これからが大変だな」
「これからですか」
「そうだ。おそらく敵も必死だ。これまで以上に激しい戦いになる」
「はい」
「用心し給えよ。ハマーン=カーンは手強い」
「ジオンの亡霊がですか」
「彼等は自分達を亡霊とは思ってはいない」
 グローバルはまた言った。
「ジオンを再興させるつもりだ。亡霊と違って生きている」
「と彼等は思っているのですね」
「そうだ。だからこそ手強い」
 グローバルは言葉を続ける。
「亡霊ならば動きはしない。だが生きている者は」
「動く」
「そういうことだ。だからこそ我々も動かなければならないということだ」
「敵はそれだけではありませんし」
「火星の後継者達か」
「はい」
 早瀬はまた頷いた。
「おそらく彼等も展開しているでしょう」
「厄介なことだな」
「あの草壁中将は。一度は連邦軍に投降した筈でしたが」
「彼もジオンと同じだ」
「ジオンと」
「そうだ。多くの者の目から見れば彼もまた亡霊だ。木星のな」
「木星の」
「だが彼はそうは思ってはいない。彼はあくまで自分の理想、そして野望を果たすつもりなのだ」
「だからまた立ち上がったのですか」
「そう。だから彼も手強い」
「強敵ばかりですね」
「それも当然だよ、クローディア君」
 クローディアに対して言う。
「楽な戦争なぞないさ。被害が少ないのが楽かというとそうでもない」
「はい」
「必ず誰かが犠牲になる。しかしそれを怖れていても駄目だ」
「駄目なのですか」
「戦わなければならない時もある。今がそれだ」
「今が、ですか」
「そうだ。ネオ=ジオンや火星の後継者達だけではない」
 グローバルの言葉はさらに続く。
「ティターンズとドレイク軍、ギガノス、バルマー帝国、ミケーネ帝国、バーム星人、あとはガイゾックか」
「はい」
「今のところだけでもこれだけいる。他にもいたかな」
「マスターアジアがいますが」
「ああ、彼ね」
 クローディアは早瀬の言葉を聞いて頷いた。
「他には使徒もいるようね」
「ええ」
「そういうことだ。敵は多い」
「ですね」
「そしてどれも手強い。迂闊なことをしていてはこちらがやられる」
「気が抜けませんね、何か」
「そうだ。キム君もわかってきたようだな」
「ここに入って長いですから、私も」
 キムはグローバルにそう答えた。
「それなりにわかってきました」
「それなりでは駄目なのよ」
 早瀬がお気楽な彼女にそう注意する。
「皆戦っているのだから。わかってるかしら」
「まあまあ」
 そんな彼女をグローバルが宥める。
「堅苦しいことは抜きだ。バルキリー隊もそうだしな」
「しかし艦長」
「ロンド=ベルで堅苦しいことはやめておこう。フランクにな」
「全く」
「では全軍集結するよう指示を出してくれ」
「はい」
 早瀬はあらためて返礼した。
「迅速にな。時間はあまりない」
「ですね」
「全軍を以って防衛ラインに向かう。そして一気に突破するぞ」
「はい」
 こうしてロンド=ベルのマシンが集められた。彼等はそれぞれ母艦に帰り臨戦態勢に入った。その中にはコウもいた。彼はパイロットスーツのままアルビオンの廊下を歩いていた。
「おいコウ」
 そのコウに後ろからキースが声をかけてきた。
「何だ」
 コウはそれを受けて立ち止まる。そしてキースに顔を向けてきた。キースはそんな彼に歩み寄ってきた。
「今度の防衛ラインのことだけどな」
「ああ」
「敵の指揮官はデラーズ提督らしいぞ。かなり厄介だぜ、こりゃ」
「デラーズか」
 コウはそれを聞いて深刻な顔になった。
「それじゃああいつもいるな」
「ああ。前方を偵察していたドラグナーチームの連中が言っていたらしい」
「何てだ」
「ノイエ=ジールもいるそうだ。これだけ言えばわかるよな」
「ああ、嫌でもな」
 コウは応えた。
「ガトー、やはりいるか」
「気をつけろよ。ノイエ=ジールを出してくるってことは本気だ」
「わかってる」
「あいつは御前のオーキスに任せるけどな。周りの奴等は俺達に任せてくれ」
「頼めるか」
「何言ってるんだよ、その為の仲間じゃないか」
 キースはそう言って笑った。
「それに士官学校からの付き合いだしね。任せておけよ」
「済まない」
「まあ邪魔にはならないようにするからな。宜しくな」
「ああ。ところで」
「ん!?まだ何かあるのか?」
「同じ仲間で思い出したけれどクリスとバーニィは何処だい?ちょっと姿が見えないけれど」
「ああ、あの二人ならちょっとナデシコに入ってるぜ」
「ナデシコに」
「ちょっと事情があるらしくてな。けど戦いの時には合流するってよ」
「だったらいいけれどな」
 一先それを聞いて安心した。
「けど。事情って何だ。モビルスーツの故障か」
「いや、どうも違うらしい」
「それじゃあ一体」
「お客さんらしいぜ、うちに」
「うちに!?」
「何でも誰かに会いに来たらしい。誰かまではわからないけれどな」
「ふうん」
「そこいらもおいおいわかるさ。それじゃあこっちはこっちで出撃準備にかかろうぜ」
「ああ」
 その頃ナデシコではキースの言葉通り客人が訪れていた。クリスとバーニィが彼を案内していた。
「本当のことですね、それは」
 クリスが後ろにいる客人に対して問う。
「ああ」
 そして客人はそれに頷いた。
「だからこそここに来たのだ」
「そしてまた俺達と一緒に、ですか」
「そうだ」
 彼は頷いた。
「そのつもりだが。信用できないか、やはり」
「そういうわけじゃないですけれど」
 クリスは彼に答える。
「貴方のことは我々も知っているつもりですし。ただ」
「ただ」
「この前まで敵だった方をそうおいそれと信用することは。私も軍人ですから」
「それは私もわかっているつもりだ」
 彼はそれにも答えた。
「だがそれを承知でここに来たのだ」
「そうなのですか」
「ミリアルド=ピースクラフト少佐、でしたね」
 バーニィが問う。
「そうだ」
 その客人、ミリアルドは頷いた。
「あの仮面は捨てた。私はミリアルド=ピースクラフトに戻った」
 そしてこう言った。
「リリーナの為に。ここに来たのだ」
「そうなのですか」
 クリスはそこまで聞いて言った。
「ではもうライトニング=カウントではないのですね」
「無論そのつもりだ」
 彼はまた言った。
「あれはゼクス=マーキスとしての通り名だ。だが今の私はミリアルド=ピースクラフトだ。そんな通り名は持ってはいない」
「わかりました」
 クリスはそこまで聞いて頷いた。
「ミリアルド=ピースクラフト少佐」
 そして彼に声をかける。
「これから貴方をナデシコの艦橋にまで案内致します。これからも宜しくお願いします」
「うむ、こちらこそ」
「はい」
 こうして彼はナデシコの艦橋に案内された。案内した後でバーニィはクリスに声をかけてきた。
「なあクリス」
「何かしら」
 クリスはそんな彼に顔を向けてきた。二人でナデシコの廊下を歩いている。
「どう思う」
「どう思うって。ミリアルド少佐のこと」
「ああ。何か今一つ信用できないんだけどな、俺」
「それなら大丈夫よ」
 クリスはそれは笑って言い切った。
「何でそう言えるんだい?」
「目よ」
「目!?」
「そうよ。今のミリアルド少佐は信じられる目をしてるわ。だから大丈夫よ」
「確かに悪い人じゃないのは知ってるつもりだけどさ」
「じゃあ安心していいわよ。それにここにはリリーナちゃんもいるし」
「彼女も」
「あの娘がいる限りあの人は大丈夫よ」
「そんなものかな」
「何言ってるのよ、バーニィ」
 クリスはここでバーニィにこう言った。
「貴方だって元はネオ=ジオンだったじゃない」
「それはそうだけどさ」
「同じよ。だから安心していいわ」
「君がそんなに言うのなら」
 バーニィも信じることにした。
「そう思うことにするよ。それでいいんだね」
「ええ。ところでお腹空かない?」
「!?言われてみれば」
 小腹が空いていた。それに気付くとさらに腹が減ってきた。
「ハンバーガーでも食べましょうよ」
「いいね。じゃあ俺はチーズバーガー」
「私はホットドッグ。それ食べてから格納庫に行きましょう」
「うん」
 そんなやり取りをしながら歩いていった。そして戦いに心を馳せるのであった。
 二人がハンバーガーを食べに向かっている頃ミリアルドはナデシコの艦橋にいた。そしてユリカ達と面会していた。
「ミリアルド=ピースクラフト少佐ですね」
「うむ」
 ミリアルドはユリカの問いに頷いた。
「我が軍に参加したいとのことですが」
「その通りだ。頼めるか」
「貴方は以前ネオ=ジオンにおられましたね」
「否定はしない」
 もとより嘘をつく気もなかった。またもうこれは誰もが知っていることであった。
「その通りだ」
「わかりました」
 ユリカはそれを聞いた後で頷く。それからまた問うた。
「ここにはどうやって来られましたか」
「自分の機体に乗ってきた」
 ゼクスは淡々と答える。
「トールギスVだ。それが何か」
「それは今ナデシコの格納庫にあるのでしょうか」
「そうだ。そして今チェックを受けている」
「わかりました」
 ユリカはまた頷いた。
「それではあらためて御聞きします」
「うむ」
「そのトールギスVで我が軍に参加されたいのでしょうか」
「そうだ」
「その際の階級氏名はミリアルド=ピースクラフト少佐で宜しいですね」
「異論はない」
「わかりました」
 そして三度目であるがまた頷いた。
「それではお伝えします」
 その場にいた一同に緊張が走る。
「ミリアルド=ピースクラフト少佐、貴方を歓迎致します」
「やっぱり」
 ハルカはそれを聞いて一言声をあげた。
「そうこなくっちゃね」
「わかっていたのですか」
「それはね」
 メグミにそう応える。
「前うちにもいたし。ほら、こういうことってヒーローものにはつきものじゃない」
「かっての敵が味方になる」
「そういうことよ。しかも美形がね」
「そういえばミリアルド少佐ってかなりイケメンですよね」
「妹さんも凄いけどね。やっぱり血筋かしら」
「高貴な感じも出て。いいですよね」
「高貴な血筋に生まれながらもその誇りと信念故に敵となっていた。もう完璧でしょ」
「おまけにパイロットとしても一流。揃い過ぎですよね」
「これで入らない方がおかしいわよ」
「そうですね」
「あの」
 ヒソヒソ、いや半ば堂々と話す二人をルリが窘めた。
「今はそのお話は止めた方がいいです」
「あっ、御免ルリルリ」
「すいません」
 二人はそれぞれこう言って口をつぐむ。
「それじゃあこれで」
「お話は中断させてもらいます」
「はい」
 ルリはそれに頷いて顔をミリアルドに戻した。そして彼をじっと見詰めていた。
「それでは宜しくお願いします」
「うむ」
 ミリアルドはまた頷いた。
「私からも。これから宜しく頼む」
「はい。それでは早速ですが」
「わかっている」
 ここから先はもう言うまでもないことであった。だがあえて言った。
「出撃をお願いします。小隊はヒイロ=ユイの小隊に参加して下さい」
「ヒイロ=ユイか」
「何か不都合でも」
「いや」
 だがそれには首を横に振った。
「別に何もない」
「それでは宜しくお願いしますね。では総員戦闘配置」
「了解」
 ブリッジのクルー達はそれを受けて敬礼する。
「マシンは全機出撃して下さい。エステバリス隊は艦隊の護衛」
「はい」
「そして他の部隊で攻撃に出ます。攻撃目標は敵防衛ライン」
 ユリカの指示が続く。
「一点集中攻撃により敵の陣を崩します。そして地球圏に降下しようとする敵へ向かいます」
「はい」
「ナデシコも積極的に前面に出ます。ダメージコントロールはこれまで以上に厳密にお願いします」
「了解」
「ではミリアルド少佐」
「うむ」
 ミリアルドはユリカの言葉に応えた。
「すぐに格納庫に向かって下さい。宜しくお願いします」
「わかった」
 ミリアルドも敬礼した。そしてすぐに艦橋を後にしたそれから格納庫に向かう。
 ナデシコの中が慌しくなっていた。クルー達が左右に走りそれぞれの部署に着く。その中ミリアルドは一人格納庫に向かって歩いていた。
「広いな」
「だから迷わないで下さいね」
 ここで不意に横から声がした。それは彼も知っている声であった。
「迷うと厄介ですよ」
「卿もここにいたのか」
「はい」
 ノインはミリアルドの言葉に頷いた。
「ロンド=ベルにいるとは聞いていたが」
「ヒイロ=ユイ達も一緒ですよ」
「そうか」
「はい。そしてリリーナ様も」
「・・・・・・・・・」 
 それを聞くと口をつぐんでしまった。
「元気にしておられます」
「それは何よりだ」
 そして一言こう述べた。
「リリーナは本来は軍艦にいるべきではないが」
「これもリリーナ様の御考えです」
「戦いを終わらせる為にか」
「はい。マリーメイア様もおられますし」
「二人共考えがあるのだな」
「それはおそらくミリアルド様と同じ御考えですが」
「それはどうかな」
 だがミリアルドはそれには懐疑的な言葉を述べた。
「といいますと」
「私は戦いしかできない男だ」
 自嘲を込めるでもなく淡々とこう言った。
「リリーナ達とは違うさ」
「しかしそうだとしても目指されているものは同じでしょう」
「・・・・・・・・・」
 ノインにそう言われてまた沈黙してしまった。
「だからこそまたここに来られた」
「少なくとももうゼクス=マーキスではない」
 それが返答であった。
「これからはミリアルド=ピースクラフトとして生きる。それでいいか」
「はい」
「トレーズも。それを望んでいたのかもな」
「あの方の考えられていたことも目指されていたこともミリアルド様と同じでした」
「そうだろうな」
「だからこそ木星で。残念なことです」
「いや、それは違うな」
 彼はここでトレーズの死を肯定した。
「違うといいますと」
「トレーズはわかっていた」
 そしてこう述べた。
「自分自身の引き際をな。そして去ったのだ」
「あの時がトレーズ閣下の引き際だったのですか」
「そしてオズのな。全てわかっていたのだ、彼は」
「そしてそのうえで」
「自分の役目が終わったことも。そしてこれ以上いても何にもならないということもな」
「そうだったのですか」
「私もそれがようやくわかってきた」
 そしてそのうえでまた言った。
「私のすべきことがな。だがどうやらそれが終わったからといって私は退場するわけにはいかないようだな」
「勿論です」
 ノインの言葉が少しきつくなる。
「リリーナ様はどうなるのですか」
「あの娘は私がいなくても平気だと思うがな」
「いえ、他にも」
「他にも?何だ」
「な、何でもないです」
 ゼクスから顔を背けた。耳が赤くなっている。
「そうか」
 だが彼はそれには気付いていなかった。ただ頷いただけであった。
「では案内を頼む。一度歩いたので大体は覚えているが」
「はい」
「今は確かウィングゼロに乗っているのだったな」
「はい」
 マシンのことになると隠すことなく話すことができた。何時の間にか耳も白く戻っていた。
「中々いい機体です」
「そのようだな。ゼロシステムも搭載されている」
「今では五機のガンダム全てに搭載されていますが」
「ウィングだけではないのか」
「改造されまして。それにより五人の戦闘力が飛躍的にあがっております」
「それは頼もしい。どうやら私の出番はなさそうだな」
「ご冗談を」
 ノインはそう言って微笑んだ。
「折角来られたのですから。活躍して頂けないと」
「休みはないということか」
「はい。宜しくお願いしますよ」
「わかった」
 そう応えて頷いた。
「では行くとしよう」
「はい」
「戦場が私を待っているというのならな。私も行かなければならない」
「ですが用心はされて下さいね」
「敵か」
「今回もかなりの数のようですから」
「確かデラーズ提督の部隊だったな」
 彼もそれは知っていた。
「激しい戦いになるだろうな」
「今まで激しくなかった戦いもないですが」
「それを言うとな。ロンド=ベルでの戦いはいつもそうだ」
「それもそうですね」
 そんな話をして格納庫に着いた。やはり道案内するまでもなかった。
 ロンド=ベルは次々と出撃していた。そして前面にいるネオ=ジオンの大軍と正対するのであった。
「来たな」
 そのロンド=ベルをサダラーンの艦橋から見据える一人の男がいた。
 黒い肌にスキンヘッドという風格のある顔立ちであった。ジオンの軍服がよく似合っている。彼こそがエギーユ=デラーズ。ジオンの頃からザビ家を支えているネオ=ジオンの宿将であった。
 その軍事的指揮は言うに及ばず理想家としても有名であった。ネオ=ジオンにおいてはハマーンと共に名を知られた男であった。
 その彼が今ここにいた。それからもネオ=ジオンの意気込みが感じられるものであった。
「ガトー」
「はい」
 艦橋にはガトーもいた。彼はデラーズの呼び掛けに応じて頷いた。
「ノイエ=ジールの用意はできておるな」
「ハッ」
 ガトーは今度は敬礼で応えた。
「今すぐにでも」
「わかった」
 デラーズもそれを聞いて頷いた。
「では全軍を挙げて迎撃に移る。シーマ=ガラハウにもそう伝えよ」
「シーマ=ガラハウにもですか」
「どうした、何かあるのか」
「閣下、御言葉ですが」
 ガトーはここで言った。
「あの女は」
「わかっている」
 デラーズはそれにも応えた。
「だが今我等は同床異夢といったことを気にしている場合ではない」
「はい」
「勝たなければならん。そしてジオンの大義を確立させなければならんのだ」
「ジオンの大義」
 それを聞いただけでガトーの気が引き締まった。
「よいな」
「はい」
「その為には不本意ですが火星の継承者達とも手を結ばなければならなかったのだ」
「あの草壁という男も」
「うむ。おそらくは大義なぞわからぬ男だ」
 彼は草壁を信用できない男と見ていた。
「大義に名を借り己が欲望だけを考えている男だ。我等とは違う」
「はい」
「若しくはその違いをわからぬのかもしれぬがな。だが今はそれはいい」
 見れば防衛ラインにいるのはネオ=ジオンのモビルスーツだけではなかった。火星の後継者達のマシンも多数存在していた。
「今はな。よいな」
「わかりました」
「ではすぐにノイエ=ジールで出撃せよ。時はあまりない」
「ハッ」
「ここで奴等を防ぎ止めミネバ様を地球へお送りするのだ」
「ミネバ様を」
「ドズル=ザビ様の忘れ形見」
 実はデラーズもガトーもドズルの部下ではなかった。彼等は共にギレン=ザビの直属であった。その為ギレンのジオニズムに深く共鳴していたのである。そのジオニズムがジオン=ズム=ダイクンが唱えたものとは全く異なるものとなっていても、である。それが彼等のジオニズムであったのだ。
「そのミネバ様を地球へお送りすることは我等が悲願であった。そして」
「ダカールにおいてジオンの正当性を唱える」
「それにより我等がジオンの大義は道理を得るのだ。これに勝るものはない」
「まさしく」
 彼等はこの時理想家となっていた。
「理想なくして政治はない」
「その通りです」
 一面においてそれは真実であった。それを認識できるという点においてデラーズは政治家でもあった。だが政治はそれだけではなかった。それを見ないところがデラーズでもあった。
「その理想を実現させる為にガトーよ」
 あらためてガトーに顔を向ける。
「やってくれるな」
「お任せ下さい」 
 彼は再び返礼した。
「この命にかえても」
「うむ」
 ノイエ=ジールがその巨体を銀河に現わした。そして軍の最前列に位置する。そしてロンド=ベルの大軍を待ち受けるのであった。再び戦いがはじまろうとしていた。
「前方のネオ=ジオン軍を視認」
 クリスがそう報告する。
「その数約六百六十、部隊はモビルスーツ及び木星トカゲ」
「へっ、連中もかよ」
 リョーコがそれを聞いて声をあげた。
「クリスさん、割合で言うとどの位だい?」
「モビルスーツが六で木星トカゲが四ってところね」
「了解。やけにモビルスーツが少ねえな」
「今までの戦いで数が減ってるんだろうね」
 ジュンがそれに答えた。
「何だかんだ言ってネオ=ジオンはティターンズやギガノスより台所事情が苦しいし」
「そうなのか」
「それは有り得るな」
 クワトロが二人の話を聞いて言った。
「クワトロ大尉」
「ネオ=ジオンは一年戦争でのジオンの残党を母体としている」
「はい」
「その為元々の戦力自体が決して多くはなかった。そしてバルマー戦役でかなりのダメージを受けた。この時にギレン=ザビとドズル=ザビが死んだことにより彼等の部下達の離脱があった」
「そういえばそうですね」
「ギレン=ザビの死はそれだけ大きいってことですか
「そうだ。そのうえキシリア=ザビも事故で失った。今ザビ家の正統な人物はミネバ=ザビしかいない状況だ。しかし彼女はまだ子供だ。部下といえば摂政であるハマーン=カーンとエギーユ=デラーズしかいないな」
「そう思うと勢力が小さいのですね」
「そうだ」
 クワトロはそれにも答えた。
「少なくとも連邦軍のかなりの数が参加したギガノスや元々連邦軍であり木星の勢力まで吸収したティターンズに比べてはかなり戦力自体は落ちる。あくまで数のうえだがな」
「けれどその数が大きいですね」
 クリスが言った。
「一年戦争は。結局数での勝負でしたから」
「その通りだ」
 そしてクワトロはクリスのその言葉をよしとした。
「だからこそ彼等は焦ってもいるのだ」
「成程」
「だから地球に降下しようってんだな」
「そうだったのか」
 ダイゴウジがそれを聞いて驚きの声をあげた。
「おい、そうだったのかなあ、って」
「ダイゴウジさん、今までわかってなかったんですか」
「わかるも何も悪い奴等だからそうするとばかり思っていたぜ」
「あのなあ」
 それを聞いてリョーコも呆れた声を出した。
「そんなので戦争になるかよ」
「あれ、熱血漫画やいつもそうですけれど」
「ここは漫画じゃねえんだよ」
 ヒカルに言い返す。
「戦場なんだよ。わかるか」
「だからこそだ」
 ダイゴウジはやはりダイゴウジであった。めげるということを知らない。
「戦場とは何ぞや。戦いとは何ぞや」
「何が言いたいんだよ、あんた」
「戦いとは正義と悪の激突の場だ!そして正義が勝つ場所だ!」
「じゃあどっちが正義なんだよ!」
「フン、愚問!」
 彼はさらに言う。
「俺達が正義に決まっている!俺達は正義の部隊ロンド=ベルだぞ!」
「・・・・・・・そうだったのかしら」
 クリスはそれを聞いて呆然としていた。
「市民を守るものだとは聞いていたけれど」
「クリス、あの人にはあの人の考えがあるんだよ」
 バーニィがザクVごとクリスの側に来て囁く。
「だから気にしないで」
「そうか」
「そうそう」
「何がそうそうか!」
 だがダイゴウジの耳は地獄耳であった。その二人の会話を聞き逃してはいなかった。


[334] 題名:第五十六話 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年06月01日 (木) 19時30分

        邪魔大王国の最期(前編)
 ラ=ギアスにいるロンド=ベルはシュウの誘導に従いそのまま北に向かっていた。だがその行く手に彼等に復讐の念を燃やす者が向かおうとしていた。
「邪魔大王国のことですが」
 地下の巨大な玄室であった。昆虫将軍スカラベが暗黒大将軍の前にいた。そして報告を行っていた。
「何かわかったか」
「はい。今までラ=ギアスにいましたが」
「うむ」
 暗黒大将軍はそれを聞いて上の顔を動かした。
「どうやら全軍を挙げてロンド=ベルに向かうつもりのようです」
「何だとっ」
 暗黒大将軍はそれを聞いて声をあげた。
「それはまことか」
「はい。それが何か」
「まずいぞ。今はその時ではない」
「といいますと」
「ロンド=ベルに攻撃を仕掛けるのは今ではないということだ」
 彼は重厚な声でスカラベにそう語った。
「まだ我等も邪魔大王国も充分な戦力を備えてはおらぬ」
「戦力なら既にありますが」
「単純な戦力ではない」
 だが彼は今ある戦力をよしとはしなかった。
「まだあの方がおられぬ」
「あの方」
「知れたこと。闇の帝王だ。復活はまだ先であろう」
「はい」
 スカラベはそれを聞いて頭を垂れた。
「残念なことに。今はまだ」
「まだ時間はかかるか」
「手を尽くしてはおりますが。まだ暫くの猶予を」
「仕方あるまい。だが急ぐようにな」
「ハッ」
「闇の帝王が戻られたその時こそミケーネが世界をその手の中に収める時」
 重厚な声をそのままに言う。
「その時にはそなた達にも働いてもらう」
「お任せを」
「そして人間共を一掃する。手はじめに日本だ」
「日本を」
「あの国を完全に占拠しそこを我等の拠点とする。よいな」
「ハッ」
「全ては我等が闇の帝王の為に」
「闇の帝王の為に」
「世界を掌中に収めるのだ」
 そう最後に言って不敵に笑った。彼等もまた動いていた。そしてロンド=ベル、人類との決戦に備えて刃を研いでいたのであった。

 ロンド=ベルはそんなことも知らずヴォルクルスとの戦いに思いを馳せていた。彼等は皆緊張した面持ちでそれぞれの艦に乗り込んでいた。
「そろそろかよ」
「あら、まだ先よ」
 さやかがソワソワする甲児に対して言った。
「そんなに焦らない。どうせ嫌でも戦わなくちゃいけないんだから」
「けど何か気がはやってな」
「甲児君らしいわね、何か」
 ジュンがそれを見て笑った。
「けど焦り過ぎてもよくないわよ。焦りは禁物よ」
「まあそうだけどよ」
「そんなに気がはやるんだったらトレーニングジムでも行ってきたら、甲児」
 今度はマリアが言った。
「そこで体力を発散させるといいわよ。そうしたら時間なんてあっという間だし」
「それもそうかな」
「じゃあ行こ。あたしも付き合うわよ」
「あっ、ちょっと待って」
 そんな二人をさやかが呼び止めた。
「何、さやか」
「マリア、さっきひかるさんが呼んでたわよ」
「ひかるさんが?」
「ええ。今思い出したんだけど。どうするの」
「何の用事かしら」 
 マリアはそれを聞いて首を傾げさせた。
「まあそれは行ってみたらわかるわ」
「それもそうね。じゃあ」
「ええ」
 こうしてマリアは甲児から離れてひかるの方へ向かった。さやかはそれを見届けてから甲児に顔を戻した。
「で、どうするの」
「どうするのつったってなあ」
 一人残った甲児は首を傾げさせた。
「まあ一人でもいいさ。じゃあ行ってくらあ」
「ええ」
 こうして甲児は一人トレーニングルームに向かった。さやかはそれを見て少し胸を撫で下ろしたようであった。
「嘘でしょ」
 そんな彼女にジュンが声をかけてきた。
「ちずるさんが呼んでたなんて」
「本当よ。けど」
「けど?」
「何かね、あの娘と甲児君が一緒にいると少しイライラするのよ。どうしてかわからないけれど」
「そうなの」
「八つ当たりはしないようにはしてるけれど。どうしてかしら」
「まあそういうことは私にもわからないけれど」
 ジュンもあまりそうしたことには詳しくはない。仕方のないことではあった。
「さやかは甲児君よりも大人なんだから。しっかりしてよね」
「ええ」
 軽いやり取りの後で二人はその場を後にした。ロンド=ベルはそれぞれの思いを抱いて戦場に向かっていた。
「今のところは順調だな」
「ここは生物もあまりいない場所ですから」
 シュウがエイブにそう応えた。
「そうなのか」
「いるとすれば高山に住む動物達位ですね。しかしこれだけの高さになるとそうはいません」
「さっき雪男を見たぞ」
「イェテイですね」
「ああ。地上でもヒマラヤにいると言われている謎の動物だ」
「ここでは謎でも何でもないですよ」
 今度はサコンの言葉に応えた。
「ラ=ギアスでは普通にいる動物ですから」
「普通にか」
「ええ。身体は大きいですが大人しい動物です。害はありません」
「そうか」
「何か凄いな。そんなのが普通にいるなんて」
「いや、サンシローそれは違うぞ」
 ここでサコンはサンシローに対してこう言った。
「違うのかよ」
「そうだ。ここは地上じゃないんだ。地上とは生態系も異なる」
「生態系がねえ」
「だから地上にはいない生物がいるのも当然だ。現にシュウの側にいる小鳥だが」
「ああ、あの五月蝿いの」
「五月蝿いってのは余計ですよ」
 チカはそれを聞いて口を挟んできた。
「あたしはねえ、そもそもシュウ様の」
「この小鳥にしろラ=ギアスにしかいないものだ」
「何処にでもいそうな外見だけどな」
「馬鹿を言っちゃいけません」
 チカはサンシローの言葉に反論した。
「こう見えてもあたしは由緒正しいファミリアで」
「ファミリア?」
「所謂使い魔だ。マサキのクロやシロと同じだ」
「ああ、あれか」
「シュウ様の身の周りのお世話をする非常に有り難いファミリアなので御座います」
「身の周りの世話を、ねえ」
 サンシローはそれを聞いて首を傾げさせた。
「シュウは何でも自分でやっているように見えるけどな」
「それは表向きのこと。あたしは影に日向にサポートしているので御座います」
「そうなのか」
「そもそもファミリアというのは御主人様の無意識下から生まれたもので」
「待て」
「どうした?」
「今こいつ無意識下って言ったよな」
「ああ」
 サコンはそれに頷いた。
「ということはこいつはシュウの無意識にある思考とかそんなのが具現化した奴だよな」
「そういうことになるな」
「じゃあこいつとシュウは同じなのか?全然似ていないが」
「言われてみればそうだな」
 サコンもそれに気付いた。
「あの無口でクールなシュウにもこんな無意識があるのか」
「意外と言うべきか」
「チカ、貴女は少し黙っていなさい」
「あ、すいません御主人様」
 シュウがここでチカを窘めた。
「無意識ですか」
 そして彼女にかわって二人の前に出て来た。
「否定はしません。彼女は私の無意識下にある思考の具現化の一つですから」
「そうだったのか」
「またえらく正反対だな」
「そうでもありませんよ」
「何っ」
 サンシローもサコンもそれを聞いて声をあげた。
「それは一体どういうことだ」
「彼女は私の願望を表わした存在なのですから」
「願望を」
「それもいずれわかりますよ」
 笑ってこう述べた。
「それも近いうちにね」
「近いうちにか」
「ええ。その時を楽しみにしておいて下さい」
 そしてこう言った。
「宜しいですね」
「よくはわからねえけどよ」
 サンシローが実直に言った。
「まああの小鳥があんたの一部だってことはわかったよ」
「はい」
「あんたも意外と複雑なんだな」
「そうでしょうか」
「色々な一面を持っていてな。まあ人間ってそんなもんだろうけどな」
 意外と鋭かった。どうやらエースというのは鈍くては務まらないらしい。
「ところで」
「何だ、今度は」 
 シュウがまた言った。サンシロー達がそれに反応した。
「敵が来ましたよ」
「何っ」
「ヴォルクルスか」
「いえ、これは違いますね」
 シュウはネオ=グランゾンのレーダーを見ながら応えた。
「これは邪魔大王国のものです」
「邪魔大王国」
「まだ諦めていなかったのか」
「おそらく。彼等も意地があるのでしょう」
「ヘッ、負け続けていてもまだ意地があるのかよ」
 サンシローはそれを聞いて減らず口を叩いた。
「懲りない奴等だぜ」
「だが侮ることはできないぞ」
 そんな彼にサコンが忠告する。
「ここまで追ってきたということはそれだけ必死だということだからな」
「そうか」
「その通りだ。油断するな」
 そう言った後で大文字に顔を向けた。
「博士」
「わかっている」
 大文字は頷いた。
「総員出撃。そしてこの場で迎撃にあたる」
「ここでですか」
「足場こそ辛いが防御に適している。ここで戦うべきだと思うが」
「むっ」
 サコンはそれを受けてモニターで周りを見回した。確かに足場は狭くクレバスも多い為不安定であった。だが岩山が多く防御が期待できるのは事実であった。
「どうかね、サコン君」
「それでいきましょう」
 サコンとて天才を謳われている。それがわからない道理はなかった。コクリ、と頷く。
「では総員すぐに出撃だ。空を飛べる者も下に降りるんだ」
「了解」
「そして岩山を利用して敵にあたる。ただしダイターンは空を飛んでくれ」
「何故ですか?」
「隠れるにはあまりにも大きいからだ」
 大文字は万丈の問いに対してこう説明した。
「流石にその巨体では無理だろうからな」
「その通りで。それじゃあ僕は僕でやらせてもらいます」
「うむ、頼むぞ」
「ゲッターはまず地中に潜るか」
「そうだな」
 ゲッターチームはまずその巨体を隠すことにした。
「それでは他のメンバーはすぐに出てくれ。おそらくすぐにでもやって来るぞ」
「了解」
「じゃあ出るぜ」
「よし」
 こうしてロンド=ベルは出撃した。ダイターンの他にはコンバトラーやボルテス、そしてゼオライマーといった大型のマシンが空中に展開していた。そして邪魔大王国の軍を待ち構えていた。
 やがて三機のヤマタノオロチを中心とした邪魔大王国の軍がやって来た。その先頭にはやはりククルがいた。
「ロンド=ベルの者達よ」
 ククルはマガルガのコクピットから言った。
「今日こそはうぬ等を滅してくれる。覚悟はよいな」
「ヘッ、その言葉はもう聞き飽きたぜ」
 宙がそう言い返す。
「逆に言い返してやる。邪魔大王国」
「何じゃ」
「今日こそはこの鋼鉄ジーグが貴様等を倒してやる。覚悟しな」
「フン、鋼鉄ジーグか」
 ククルはそれを受けてジーグを見下ろした。
「そういえばヒミカ様はうぬに倒されたのであったな」
「それがどうした」
「ヒミカ様の無念もここで晴らしてくれよう。覚悟するがいい」
「覚悟するのは貴様等の方だぜ」
「減らず口なら今のうちに申しておけ」
 ククルは冷やかな声でこう述べた。
「どのみちここでうぬもまた滅びるのだからな」
「ククルよ」
「貴様か」
 その声を聞いただけでククルの目の色が変わった。
「ゼンガー=ゾンバルト。うぬもここで終いじゃ」
「どうやらわかるつもりはないようだな」
「わかる!?」
 その言葉を聞いたククルの顔色が変わった。
「何をわかるというのじゃ」
「それは貴様で考えろ」
 そう言いながらダイゼンガーを浮上させた。
「おいゼンガーさん」
「浮かんじゃ何にもならないぜ」
「そうですよ。折角岩山に布陣しているのに」
「そのようなことは関係ない」
 だがゼンガーはそれを無視した。
「相手が宙にいるのならば俺も宙にいる」
 強い声でそう言う。
「それが武士というものだ。ククル」
 そしてククルを見据えた。
「貴様がわからぬというのなら地獄ででも教えてやる」
「地獄でか」
「そうだ。この斬艦刀はただ敵を切るだけではない」
 恐ろしく巨大な刀を構えながら言う。
「悪をも絶つのだ。邪な心をな」
「言ってくれるのう」
 口元は笑っていたがその目は怒っていた。
「わらわを悪じゃとな」
「己の心に逆らい続けて何が善か」
 ゼンガーは言い切った。
「貴様が正しいと思うのならば来い。そして決着をつけよ」
「言われずとも」
 ククルは言うより先に前に動いていた。
「相手をしてやろう。来るがいい」
「参る」
 ゼンガーもまた動いた。そして二人は空中で対峙した。
「今度こそ死ぬがいい」
「今度こそその悪を絶つ」
 そう言うが早いか二人は激突した。それを合図に戦いがはじまった。
「さてと」
 その中にはタダナオとオザワもいた。二人はそれぞれ新しいマシンに乗っていた。
「この新型機のテストでもあるな、この戦いは」
「ああ」
 オザワはタダナオの言葉に頷いた。見れば二人共見たこともないようなマシンに乗っていた。
「確か御前のがジガンスクードだったな」
「そうだ」
 オザワはタダナオの言葉に頷いた。
「そして俺のがアルフレードカスタムか。何か参考にしたマシンがすぐにわかるな」
「これクリストフから貰ったのをかなりもとにしてるんだけれどね」
 二人のモニターにセニアが現われてこう言った。
「ひ、姫様」
 タダナオは彼女の顔を見るとその顔を急に赤くさせた。
「あれっ、どうしたの?」
「な、何でもありません」
 タダナオは慌てて対面を取り繕う」
「クリストフというとシュウ=シラカワ博士のことですね」
「ええ」
 セニアは頷いた。
「そっちのジガンスクードもね。色々と参考にさせてもらったわ」
「そうなのですか」
「ジガンスクードはダイターンとかスーパーロボットを。そしてアルフレードカスタムは」
「SRXの流れを汲んでですね」
「ええ。こっちは殆どクリストフの設計を」
「シラカワ博士が」
「あたしは作っただけ。けれど凄いわよ」
「凄いのですか」
「それは戦ってみてのお楽しみ。まあやってみて」
「わかりました」
 彼はそれを受けて戦場に向かう。すると目の前にヤマタノオロチが現われた。
「いきなりかよ」
「どうするんだ」
 オザワがタダナオに問うてきた。
「やるのか」
「やるに決まってるだろ」
 タダナオは友の言葉に対して笑いながら応えた。そして攻撃準備に入る。
「まずは」
 攻撃態勢に入る。流れるような動きだ。
「スプレット=ビームキャノン!シューーート!」
 その肩にある二つの砲塔からビームを放った。
 それがヤマタノオロチに襲い掛かる。それは指揮を執るイキマにも向かってきた。
「なっ!」
「イキマ様、これは!」
「案ずるな!この程度の攻撃!」
 だが彼はわかっていなかった。この攻撃の真の恐ろしさを。ビームは的確な動きでヤマタノオロチの急所を攻撃してきた。そしてそれは到底耐えられるものではなかった。
「グハッ!」
 ヤマタノオロチが大きく揺れた。一撃にして大破してしまったのだ。
 イキマ自身も負傷していた。胸、そして腹から血を流している。致命傷であった。
「ウググ・・・・・・」
「イキマ様、脱出を」
 周りの者が声をかける。見ればあちこちから火を噴き出しえいる。そして倒れて動かない者も多い。
「いや、よい」
 だが彼はそれを断った。
「最早助からぬ。だがククル様にはお伝えしてくれ」
「何と」
「これでわしは死ぬが邪魔大王国は永遠だと」
「永遠」
「そうだ。我等はまだ滅びぬ」
 最後の力を振り絞って言う。
「闇の帝王がおられる限り。よいな」
「わかりました。それではお伝えします」
「うむ、頼むぞ」
 そして彼は死んだ。彼の乗るヤマタノオロチを墓標として。こうしてイキマは戦死した。
「すげえ、一撃かよ」
 それを見てオザワが感嘆の声を挙げた。
「どうやら予想以上みたいだな」
「そっちのジガンスクードもそうじゃないのか」
 だがタダナオはその言葉にも乱れることなくオザワにそう言ってきた。
「僕のもか」
「そうだ。やってみろ」
「よし」
 彼はもう一機のヤマタノオロチに狙いを定めた。それはアマソの乗るものであった。
「アマソ様、奴等が来ます」
「臆するでないぞ」
 アマソは部下達に対してこう言い伝えた。
「イキマの弔い合戦だ。よいな」
「ハッ」
「敵が来たところを一気に押し潰す。攻撃用意をしておけ」
「わかりました。では」
「イキマよ、見ておれ」
 アマソは怒りに満ちた目で呟いた。
「うぬが無念、今こそ晴らしてくれる」
 そしてオザワの乗るジガンスクードを見据えた。それは一直線に突っ込んできていた。
「見せてやるぞこのジガンスクードの力」
 オザワは言った。
「プラズマスパイラル!」
 その胸を光が包んだ。そしてそこから放たれた光が一直線に突き進む。
「死ねえっ!」
「今だ、やれ!」
 それを見てアマソが攻撃を命令する。だがそれはあえなく弾き返されてしまった。
「なっ!」
「すげえ」
 オザワはそれを見て呟いた。
「これがジガンスクードの力なのか。これならいける」
 そして全身に更なる力を込めた。
「いけええええええーーーーーーーっ、一撃で粉砕してやる!」
「グワアッ!」
 一条の光がヤマタノオロチを貫いた。それで終わりであった。
「ヌウウ!」
 アマソもまた致命傷を負っていた。彼は最後の力を振り絞って言った。
「ミマシ!我等が邪魔大王国を!」
 そして炎の中に消えた。これでアマソも戦死した。
「何と、イキマとアマソが」
 ミマシは戦友達の最後を見て驚きを隠せなかった。
「無念であっただろう」
 長い付き合いであった。その間のことを思い出し項垂れる。
「だが御主等の死は無駄にはせん」
 しかしそれはほんの僅かのことであった。
「その無念、見事晴らしてくれよう。行くぞ」
「ハッ」
 そして周りの者に声をかけた。
「総攻撃じゃ。まず狙うわ」
 目の前に奴がいた。
「鋼鉄ジーグじゃ!ヒミカ様の仇もまとめて討つぞ!」
「了解!」
 それを受けてミマシのヤマタノオロチは動いた。全速力でジーグに向かって来る。
「来たな」
 それはジーグからも見えていた。彼はまず後方にいる美和に顔を向けた。
「ミッチー、あれをやるぞ」
「ええ、わかったわ宙さん」
 美和はそれに頷いた。そしてビッグシューターが動いた。
「マッハドリル発射!」
「よし!」
 それを受けてジーグも跳んだ。
「マッハドリルセット!」
 その両腕にマッハドリルを装着するとそのままヤマタノオロチに突進した。
「これでも喰らえっ!」
「ミマシ様、来ました!」
「火力を集中させよ!」
 ミマシの指示が下る。だがそれより先にジーグは突進していた。
 そしてそのドリルでヤマタノオロチを刺し貫いた。これでミマシも終わった。
「ぬうう・・・・・・」
 見れば周りにいる者達はその多くが倒れ、負傷している。彼自身も身体の半分が吹き飛んでいた。こうなっては最早明らかであった。
 彼は何とか生き残っている僅かな者達を見つけた。そして言った。
「総員退去」
「ミマシ様は」
「わしはいい」
 彼もそれを断った。
「どのみち助からぬ。それよりな」
「はい」
「国を頼む。よいな」
「わかりました。それでは」
「うむ、さらばだ」
 生き残った者達が退去するとヤマタノオロチは撃沈した。こうして邪魔大王国を支えた三人が死んでしまった。
「まさか、あの者達が」
 それはククルも見ていた。思わず絶句してしまった。
「嘘じゃ、このようなことが」
「嘘ではない」
 彼女に正対するゼンガーが言った。
「これが真実だ。邪魔大王国はこれで終わりだ」
「戯れ言を」
 だが彼女はそれを否定した。
「邪魔大王国は滅びぬ。これからも永遠に繁栄するのじゃ」
「それはない」
 しかしゼンガーはその言葉も否定した。
「この世にあって滅びぬものはない。例えどのようなものであってもな」
「うぬう」
 その言葉を聞いて激昂した。
「ではうぬは邪魔大王国が滅びるというのか」
「そうだ」
 彼は臆することなく言い切った。
「それが今だ。御前の腹心であった三人が滅んだことが何よりの証」
「ぬかせ」
 彼女はさらに激昂した。
「わらわがいる限り。邪魔大王国は滅びはせぬ」
「愚かな。一人で国を保てるとでも思っているのか」
「それは貴様が言うことではない」
 その目が赤く変色してきた。
「わらわに逆らう者は容赦することはできぬ。覚悟はよいな」
「覚悟はとうにできている」
 ゼンガーはまるで夜叉の様になったククルの顔を見て臆することはなかった。目は赤くなり顔は憤怒で歪んでいた。それはまるで京劇の仮面の様であった。
「ならば容赦はせぬ」
 ククルは身構えた。
「この黄泉舞を受けて死ぬがいい」
「それは適わぬ」
「何と」
「気付いていないのか、今の自身に」
「どういうことじゃ」
「よく見るのだ」
「何っ!?」
「己が周りを。それでも言えるか」
 見ればククルの周りに部下達はもう殆ど残ってはいなかった。いるのはロンド=ベルのマシンばかりとなっていた。
「これが現実だ。今の御前は一人だ」
「言うな!」
「一人だけの王国だ。それでも滅びぬというのか」
「左様」
 それでもククルは言った。
「わらわがいる限り何度でも。それがヒミカ様の願いである限り」
「ヒミカか」
 それを聞いてまたゼンガーは言った。
「あの女が御前をどう思っていたか。知ってはいないのか」
「何をじゃ」
「あの女は御前を利用しようとしていただけだ。それがわからないのか」
「まだ言うか」
「何度でも言おう。御前は利用されていただけだ」
「何処にその様な証拠が」
「それは御前自身だ」
「わらわ自身じゃと」
「そうだ。御前が人間であることが何よりの証」
 彼は言う。
「その赤い血に白い肌が。御前を人間だと言っている」
「それがどうした」
「邪魔大王国はハニワ幻人の国だ。何故人間がそこにいる」
「グウウ」
 言い返せなかった。確かにその通りであるからだ。
「御前はその力を邪魔大王国に利用されていただけだ。御前は女王ではなかった」
「では誰が女王なのじゃ。わらわなくして」
「ヒミカだ」
 ゼンガーはまたしても言い切った。
「ヒミカ様が。馬鹿な」
「あの女は死しても邪魔大王国の女王だった。それはあの三人を見てもわかるだろう」
「・・・・・・・・・」
 その通りであった。それはククル自身が最もよくわかっていた。それを聞いてククルは完全に沈黙してしまった。
「御前は女王ではない。傀儡に過ぎないのだ」
「ではわらわは何なのじゃ」
「人間だ」
 ゼンガーはまた言った。
「人間・・・・・・」
「そうだ、人間ならばわかるだろう」
 彼はさらに言う。
「どうするべきかな」
「・・・・・・・・・」
「わからないならいい」
 ゼンガーは沈黙してしまったククルに対して声をかけた。
「だがまた来るがいい。わかるまで何度もな」
「・・・・・・後悔するぞよ」
 ククルはそんな彼に言い返した。
「わらわを逃がしたことを」
「俺の生き方に後悔はない」
 しかしゼンガーは言い切った。
「俺は常に前を見据えている。過去はただ学ぶだけのもの」
「フン」
 最後まで聞くとその場を後にした。ククルは残った僅かな兵を連れてその場を後にした。
「あのゼンガーさん」
 一人立つゼンガーにクスハとブリットが側に寄って来た。
「いいのですか、あれで」
「あの女、きっと」
「構わん」
 ゼンガーは二人に対しても同じであった。
「何度来ようとも。俺は敗れはしない」
「けれど」
「他の者に迷惑はかけぬ。これは俺とあの女の戦いだ」
「けどそれじゃあ」
「他の兵達か」
「はい」
 クスハはそれに頷いた。
「このままじゃやっぱり」
「心配は無用だ。このダイゼンガーがある限り」
「けど」
「ゼンガーさん一機じゃ」
「そんなに心配なのか」
「勿論ですよ」
「同じ小隊じゃないですか」
 二人はさらに言った。
「若しもの時は任せて下さい」
「俺達も一緒にいますから」
「・・・・・・これはあくまで俺とあの女のことなのだが」
「それはいいです」
 クスハはここで無意識に駆け引きをした。
「けど。他のハニワ幻人は」
「俺達がやります。ゼンガーさんは自分のことに専念して下さい」
 ブリットもそれに加わった。やはり彼も無意識であった。
「他のことは俺達が引き受けますから」
「・・・・・・・・・」
 それを聞いてゼンガーは沈黙してしまった。
「いいですよね、それで」
「嫌なら・・・・・・仕方ないですけれど」
「士は己を知る者の為に死す」
 ゼンガーは二人に応えなかった。しかし一言こう言った。
「えっ」
「その言葉は」
「自分を認めてくれている者の言葉は受けなければならないな」
「それじゃあ」
「ゼンガーさん」
「うむ。あらためて頼む」
 彼は言った。
「俺と共に。戦ってくれ」
「は、はい!」
「それじゃあ。やらせて下さい」
「済まないな。いつも」
 ゼンガーはそう言ってあらためて二人に顔を向けた。
「何かと。迷惑をかける」
「いえ、そんなこと」
「俺達の方こそ」
 二人はゼンガーにそう言われてかえって照れてしまった。
「いつも助けてもらってるし」
「困った時はお互い様ですよ」
「それでは頼むぞ」
「はい」
 二人は頷いた。
「あの女とはここで決着をつける」
「邪魔大王国とも」
「うむ」
 ゼンガーも頷いた。
「では今は帰ろう。戦いはまだある」
「はい」
「そして。次の戦いで」
「やりましょう」
「三人で」
 彼等は誓い合った。今三人の心が繋がった。それは戦いに向かう戦士としての繫がりであった。今クスハもブリットもようやく真の意味で戦士となったのであった。
 戦いはロンド=ベルの圧勝であった。地形を上手く活用したことと新型のマシンの活躍によるところが多かった。邪魔大王国は三人の幹部と多くの戦士達を失った。最早その衰退は決定的なものとなってしまったのであった。
 だがそれでも戦いは終わったわけではなかった。それはロンド=ベルもよく認識していた。
「また来るな」
 宙が大空魔竜のリビングルームで言った。
「残った戦力でな。まだ戦いは終わっちゃいない」
「やっぱりかなり詳しいね」
 万丈がそれを聞いて宙にこう返した。
「邪魔大王国のことはやっぱり君が一番よく知ってるね」
「ああ」
 宙は万丈の言葉に頷いた。
「この身体になったのも。あいつ等のせいだからな」
「彼等の」
「俺は最初は人間だったんだ。純粋な」
 宙は語りはじめた。
「だが親父によって改造されたんだ。サイボーグに」
「邪魔大王国と戦う為にかい」
「そうさ。そして銅鐸を守る為に。俺は邪魔大王国と戦う為に人間じゃなくなった」
 そう語る声は内容に反比例してふっきれたものであった。
 普通の者であれば奇異に聞こえるものであった。しかし万丈は違っていた。表情を変えることなく普段の様子のままで聞いていた。
「最初は。悩んだものさ」
「そうだろうね」
「親父も恨んだ。憎んださ。しかしそれしかないとわかった」
「君が邪魔大王国と戦うしかないってことに」
「そしてヒミカを滅ぼした。ロンド=ベルにも入った」
「ふん」
「今の俺がここにいるんだ。その結果な」
「その間色々悩んだのだね」
「ああ。わかるか」
 宙は万丈の顔を見ながら言った。
「色々と恨んだり憎んだりしたがな。だけど今はどうでもいい」
「君が鋼鉄ジーグであること、そして心が司馬宙であることは変わらないのだからね」
「俺はわかったんだ。心が問題だってな」
「そう、心だね」
 万丈は頷いた。
「俺は身体はサイボーグになった。しかし心はそのままだった。司馬宙のままだった」
「心までは変わっちゃいなかった」
「ああ。それに気付いた時俺は悩まなくなった」
「恨んだり憎んだりすることもなくなった」
「俺は人間だ。それがわかったからな」
「その通りだね」
「今まで悩んでいたのが馬鹿馬鹿しくなった。俺は人間だって確信できたからな」
「それさえわかればいいんだ」
「ああ」
 今度は宙が頷いた。
「心さえ人間だったら。それで人間なんだからね」
「わかるのか」
「ああ。僕もそうだったからね」
「あんたも」
「僕のことは聞いてるね」
「ああ」
 今度は宙が聞き役になった。万丈の話を聞く。
「僕の父は。メガノイドを開発したんだ」
「そうらしいな」
「能力だけでなく。そのエゴまで強化した最悪のサイボーグだった。奴等は人間じゃなかった」
「そして火星で奴等を滅ぼしたんだったな」
「酷い戦いだった。そこで僕は地獄を見た」
「俺と同じだな」
「そうだね。そしてコロスもドン=ザウサーも倒した。けれど・・・・・・残ったのは」
 その声に血が滲む。
「何もなかった。僕には何も残らなかった。血に濡れた腕以外は」
「そして地球に戻ってきたんだな」
「そうさ。ダイターンと一緒にね」
 目にも血が滲んでいた。
「火星から持って来た金塊で財閥を作って今は暮らしているけれど。やっぱり僕には何もないんだ」
「それは違うな」
「えっ」
「あんたは何もないわけじゃない。それどころか他の奴等が羨むようなものばかり持っているじゃないか」
「お金の話はなしだよ」
「それなら俺だって持っているさ」
 宙はそう答えて笑った。
「伊達にプロのレーサーやってるわけじゃない。店もあるしな」
「しっかりしているんだね」
「そんな下らない話はしないさ。お互いな」
「ああ」
「あんたはいつも側にビューティやレイカがいるじゃないか」
「あっ」
 言われてハッと気付いた。
「それにトッポにギャリソンさんも。あんたは一人じゃないんだぜ」
「そうか、そうだったね」
「俺も途中で気付いたのさ。俺には母さんもまゆみもいる。そしてミッチーもな」
「お互い一人じゃないということだね」
「そうさ。だから何もないわけじゃない」
「それどころか一杯持っているというわけだね」
「そうとしか思えないだろ。だから暗くなることなんてないさ」
「そうだね」
「それじゃあ似た者同士一杯やろうぜ。実はバゴニアでたっぷり買い込んでいるんだ」
「僕はお酒には五月蝿いよ」
「これもお互い様だぜ。じゃあ今日は二人で心ゆくまで飲むか」
「何か僕達が一緒にいるとブライト大佐やアムロ中佐を思い出すっていうけれど」
「余計面白いじゃないか。それじゃあ二人で騒ごうか」
「いいね」
「皆驚くぜ。何でここにブライト大佐とアムロ中佐がいるんだってな」
「弾幕薄いぞ、何やってんの!」
「ニューガンダムは伊達じゃない!」
「いいね、そっくりだよ」
「そっちこそな。本人かと思ったぜ」
「全く」
「それじゃあ飲むか」
「よし」
 こうして二人は宙の部屋で飲みはじめた。そしてブライト、アムロと間違われたのであった。

「さて」
 シュウは一人ネオ=グランゾンのコクピットにいた。共にいるのはチカだけである。
「もうすぐですね」
「ヴォルクルスですか」
「ええ」
 シュウはファミリアの言葉に頷いた。
「いよいよですよ。覚悟はできていますか」
「勿論ですよ」
 チカは答えた。
「何度も言いますけれどあたしは御主人様のファミリアですから」
「はい」
「御主人様と一心同体、御主人様の為なら例え火の中水の中ですよ」
「では一つだけお願いがあります」
「何で御座いましょうか」
「ルオゾールの前では私の影の中にいて下さい。いいですね」
「またどうして」
「貴女は口が軽過ぎるんですよ。余計なことをしゃべられては困ります」
「あら、これはまた」
「いいですね。特に彼に気付かれてはなりませんから」
「わかりました。今回は特別ですからね」
「そういうことです」
 シュウは頷いた。どうやら彼等は何かしらの秘密を共有しているようである。だがそれは互いに口には決して出そうとはしない。
「当然マサキ達にも同じですが」
「あいつ等にわかる筈もないですよ」
「さて、それはどうでしょうか」
 だがシュウはそれにも懐疑的だった。
「何かあるんですか」
「マサキもリューネもあれで勘が鋭いですよ。注意して下さい」
「そうなんですかね」
「油断大敵。秘密は何処から漏れるかわかりませんよ」
「はあ」
 チカはシュウのその言葉にぼんやりとだが頷いた。
「敵を欺くにはまず味方からってことですね」
「私はそこまで人が悪くはありませんよ」
「いやいや、何を仰いますか」
 それには笑って応えた。
「御主人様がそんなことを仰っても説得力がありませんよ」
「ふふふ、確かに」
 これはシュウも認めた。
「これからやることを考えるとね」
「ではいいですね」
「はい」
 チカはあらためて頷いた。
「それではその日に備えて」
「英気を養いましょう」
 チカはシュウの影の中に入った。シュウはそれを確かめるとネオ=グランゾンを自動操縦にして目を閉じた。眠りに入ったのである。
 今ラ=ギアスでも二つの戦いが行われていた。戦いは至る所で繰り広げられていたのであった。

第五十六話   完


                                     2005・11・24


[333] 題名:第五十五話 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年06月01日 (木) 19時15分

             兄と妹(前編)
 ゼクスがネオ=ジオンから離脱したことはすぐにネオ=ジオン全体に知れ渡ることとなった。だがハマーンは何故かそれに対して何ら対策を打とうとしなかった。
「宜しいのですか、ハマーン様」
「何がだ」
 彼女は側に控えるランス=ギーレンとニー=ギーレンの言葉に顔を向けさせた。
「ゼクス=マーキスのことです」
「あのまま行かせて」
「よい。どのみちあの男はゼクス=マーキスになりきれなかったのだ」
「といいますと」
「あの男はミリアルド=ピースクラフトだったということだ。ネオ=ジオンにはゼクス=マーキスはいてもミリアルド=ピースクラフトはいない」
「はあ」
「そういうことだ。ミリアルド=ピースクラフトは本来の場所に帰った」
 そしてこう述べた。
「それだけのことだ。気にすることはない」
「左様ですか」
「私は別に力で人を縛るつもりはない」
 落ち着いた声でそう述べる。
「ただ。ジオンの大義を信じる者だけが集え。信じられない者は今のうちに去るがいい」
「それは我等もですか」
「そうだ」
 彼女は言い切った。
「何時でもいいぞ。そして戦場でまみえよう」
「まさか」
 二人は表情を変えずにそれに応えた。
「どうしてハマーン様の側を離れることができましょうか」
「我等二人あくまで最後までハマーン様に従います」
「頼もしいことだな。マシュマーといい」
 それを聞いて顔に笑みを浮かべた。
「だがジオンの大義をそれに優先させよ」
「ジオンの大義を」
「ひいてはミネバ様を御守りするのだ。あの方こそがジオンの正統なる継承者」
「はい」
「あの方がおられるからこそまたジオンも生きているのだ。それを忘れるな」
「わかりました」
「他の者にはジオンの大義はない。誰にもな」
 それはランスとニーにだけ言っているのではなかった。自分自身に対しても言っていた。
「ではそろそろ降下に取り掛かる」
「はい」
「目標は北アフリカだ。行くぞ」
「はっ」
 こうして彼等は地球圏に接近していった。そのすぐ後ろにはロンド=ベルが迫ってきていた。
「さて、と。いよいよハマーンとのリターンマッチだな」
「あのおばさんも元気かしらね」
 ジュドーとエルが楽しそうに言う。
「元気なんじゃねえの?死んだって話は聞かねえし」
「殺しても死ぬような人じゃないしね。また派手に暴れると思うよ」
「何か怖いね、それって」
 ビーチャとルーの言葉を聞いてイーノが少し萎縮する。
「けど何とかしなくちゃいけないのは事実だからね。行かないと」
「モンドもわかってるじゃないの」
「ひやかすなよ、エル」
「いやいや、冷やかしやないよ。これから本当に大変だろうからね」
「その前にお風呂に入りたいけれど」
「おい、こんな時でもお風呂か」
 プルツーはそんな能天気なプルの言葉を聞いて呆れた。
「けど。今日まだ入ってないし。ベタベタするよ」
「わかったわかった」
「じゃあプルツーも一緒に入ろ。二人の方が楽しいし」
「おい、私もか」
「何時でも一緒じゃない。だからさ」
「仕方ないな」
「リィナも来たら?三人だともっと楽しいし」
「あ、私はもうエマさんと一緒に入ったからいいよ」
「そうなの」
「声が似てる者同士ってことか」
「まあそれは言わないでおこうよ。プルとプルツーも困るでしょ」
「それもそうだな」
 プルツーはリィナにそう言われて苦笑した。
「では二人で行くか、プル」
「うん、プルツー」
 こうして二人は風呂に向かった。そんな二人をケーン達三人が見ていた。
「何ていうかなあ」
「本当に緊張感がねえな、おい」
「まあそれもそれで一興」
「あんた達からそんな言葉聞くとは思わなかったわね」
 ルーはそれを聞いてあえてキョトンとした顔を作った。
「風邪でもひいたの?」
「おいエル、そりゃどういう意味だ」
 それを聞いてケーンがつっかかる。
「言っとくがなあ、俺は風邪をひく程やわな身体じゃねえぞ」
「ケーン、それは違うぞ」
 そんな彼にライトが突っ込みを入れる。
「大体風邪ひかないって馬鹿ってことじゃねえのか」
「馬鹿で結構」
 タップの言葉にも居直った。
「風邪をひくよりましだぜ」
「何か話が噛み合っていないよ」
 イーノがケーンにそう忠告する。
「とにかく風邪はひいてないんだね」
「まあそれはな」
 ケーンは素直にそれは認めた。
「さっきリンダちゃんの入れてくれたロシアン=ティー飲んだからな。全開バリバリだぜ」
「御前のあれはちょっとジャムを入れ過ぎだがな」
「やっぱり紅茶はレモンだよな」
「へっ、無粋な奴等だぜ」
 ライトとタップをそう言って笑う。
「可愛い娘ちゃんの入れてくれたものを味あわなくてどうするんだよ。そんなのだから御前等今一つ目立てねえんだよ」
「いや、俺達かなり目立ってるぜ」
「この前の戦いだって活躍したじゃないか」
「そうじゃなくてな。何かこう渋さってやつが」
「あんた達に渋さ、ねえ」
 ジュドーはそれを聞いて首を傾げさせた。
「どうもピンとこないな」
「そうだね」
 モンドもそれに頷く。
「どっちかってっと三の線だよな」
「ビーチャさん、それ言い過ぎよ」
「そうだそうだ。ったくよお、エースチームを捕まえて」
「俺達地獄のドラグナーチームによくそんなのが言えるな」
「何かこう、畏怖ってのが欲しいな」
「畏怖って・・・・・・。アムロ中佐やクワトロ大尉みたいにやれるんならともかく」
 ルーがまた言った。
「あんた達が言っても。説得力ないわよ」
「じゃあどうすればいいんだよ」
 ケーンはエルの言葉に口を尖らせた。
「俺はこれでお滅茶苦茶格好いいつもりなんだぜ」
「何処がなんだよ」
「ドラグナーチームつったらロンド=ベルきってのお笑い担当だって話よ」
「あたし達も人のこと言えないけれどね」
「シャングリラに戻っても言われたし」
「ガンダムチームってことでかなり頑張ってけどよお」
「何か今一つシリアスさがないんだよなあ」
「お互い困ってるんだな、それで」
 ライトがガンダムチームの面々の言葉を聞いて呟いた。
「やっぱり。俺達にはシリアスか」
「あのギガノスの旦那みてえに」
「やってやるか、俺達も」
「それ絶対無理だと思うぜ」
 ジュドーが三人に突っ込みを入れた。
「おい、折角やる気になってんのに水入れるのはなしだぜ」
「だってさあ、ケーンさん達も俺達も結局アムロさんやクワトロさんじゃないんだし」
「まあそうだけどよ」
「俺達は俺達でやろうぜ。また機会があればそのうちシリアスになれる時も来るだろうしさ」
「永遠になかったりしてな」
「タップ、おめえはまたそうやって」
「まあその時が来ることを祈ろう。その時に備えて台詞の勉強でもしてだな」
「ハマーン様ばんざーーーーい!とかか」
「・・・・・・そんなに声が似てるか?」
「というかそっくりだぜ」
「やれやれだな」
「まあ声のことは抜きにして。そろそろスタンバっておくか」
「ブライトさんが五月蝿いしね」
「そうそう」
「シリアスな台詞の勉強でもしながら。行きますか」
「よし」
 丁度そこでプルとプルツーも風呂から出て来た。そしてガンダムチームとドラグナーチームは格納庫に向かったのであった。
「何かいつもの連中がやけに早く格納庫に入っちゃったね」
 ローザはそんな一行を見ながら入った。
「あの問題児達もちょっとはパイロットとしての自覚が出て来たのかしら」
「それはどうでしょうか」
 リンダはそのローザの言葉に少し懐疑的だった。
「ケーンは。相変わらずみたいですけれど」
「じゃあ彼等は全員そうなんだ」
「そうだと思います」
 そしてこの言葉にも頷いた。
「けれどそうでないとケーンでないですし」
「確かにね」
 この言葉にはローザも笑った。
「よくも悪くも。兄とは違います」
「そのお兄さんのことだけれど」 
 ローザはそれを受けてマイヨのことに話の舵を切ってきた。
「はい」
「どうやら無事らしいわよ。未確認だけれど地球にいるらしいわ」
「地球に」
「そこでギガノスの若手将校の残党と合流したみたい。今は傷を癒しているそうよ」
「そうなのですか」
 それを聞いて僅かではあるがリンダの顔が晴れやかになった。
「兄は。生きているのですか」
「多分ね。確かなことはまだわからないけれど」
「けど。まだギガノスに」
「それは仕方ないわ。けれど生きていることは生きているみたいよ」
「はい」
「だから。気を落とさないようにね。生きていれば希望はあるから」
「ですね」
 その言葉に頷いた。
「私も。希望を持つことにします」
「ええ」
「これからも色々とあるでしょうけれど。頑張ります」
「そう、その意気」
 どうやらローザのリンダの心を励ます作戦は成功したようであった。それを感じ笑みを浮かべる。
「じゃあ格納庫に行きましょう。整備があるから」
「はい」
 リンダは笑顔で頷いた。
「あの悪ガキ共が痛めつけてくれたマシンの整備もあるしね。頑張るわよ」
「はい!」
 こうして二人は笑顔で格納庫に向かった。だがそうはいかない兄と妹もまたいた。
「・・・・・・・・・」
 スレイは一人アクシズの自室にいた。そして窓の向こうに映る星達を眺めていた。 
 そこに誰かが来た。薄茶色の髪に眼鏡をかけた美青年であった。軍服ではなく白い科学者の白衣と青い服を着ていた。
「そこにいたのか、スレイ」
「御兄様」
 スレイは彼女に気付き顔をそちらに向けた。彼女が兄と呼ぶこの男はフィリオ=プレスティという。アルテリオンとベガリオンの開発者でもある。かってはDCの科学者であったが今はネオ=ジオンにいるのだ。
「どうしたんだい、最近」
「いえ、何も」
 誤魔化そうとするが兄の目は誤魔化せなかった。
「アイビスのことかな」
「おわかりですか」
「当然だ。ロンド=ベルにいるんだね、今」
「ええ」
 やはり誤魔化せなかった。スレイはこくり、と頷いた。
「それで彼女と何かあったと」
「否定はしません」
 こうなっては認めるしかなかった。
「何か。彼女には勝てなくて」
「勝てない」
「DCのテストパイロットだった時は私は序列は一位でした。そして彼女は四位でした」
「うん」
「それなのに。今はどうしても勝てない。技術でも機体でも負けてはいない筈なのに」
「スレイ、アルテリオンとベガリオンの名前の由来は知っているかい」
「名前の由来?」
 スレイはその言葉に顔を上げた。
「そうだよ。アルテリオンとベガリオンはね、織姫と彦星なんだ」
 兄は妹の対してこう語った。
「だから。つがいなんだ」
「私とアイビスだ」
「御前も彼女もそうした意味では同じなんだ」
 彼はまた言った。
「アルテリオンとベガリオンは対立する関係にはないんだ。共にいてこその機体なんだ」
「しかし私とアイビスは」
「先程ミネバ様から御言葉があったよ」
「ミネバ様から」
「ああ。ネオ=ジオンに賛同できない者は去ってもいいと仰られている。もっとも実際に言っているのはハマーン=カーンだろうけれどね」
「何故そのようなことを」
「これからの為に結束を固めたいのだろう」
 フィリオはこう分析していた。
「ネオ=ジオンは火星の後継者達と同盟関係にある。そしてかってのジオンの戦力をそのまま受け継いでいる」
「はい」
「けれどそれだけじゃ足りないらしいんだ」
「それでは何故ここで戦力を減らすようなことを」
「ただ戦力の問題じゃないんだ」
 彼はまた言った。
「ネオ=ジオンは同床異夢ではやってはいけない。そういうシステムなんだ。その為には考えが異なる者達を入れておいてはならない。それだけで組織として立ち行かなくなる」
「何故」
「それは独裁体制だからだよ」
 フィリオは一言でネオ=ジオンのシステムを看破した。
「ミネバ=ザビを頂点とするね。ネオ=ジオンはザビ家が頂点でありザビ家の為に存在しているんだ」
「ではジオンの大義は」
「ある意味においては正しいけれどある意味においては間違いだ」
 ジオンの大義についても指摘した。
「だから。それに納得できない者は去れということなんだ。内部で何かあっては外に向かうことはできないから」
「そうでしたの」
「そして私は今ハマーン=カーンに会ってきた」
「まさか」
「そのまさかさ」
 そう言ってにこりと微笑んだ。
「ネオ=ジオンから脱退することを伝えてきたよ。もう私はネオ=ジオンの人間じゃない」
「・・・・・・・・・」
 スレイはそれを聞いて沈黙してしまった。何も言うことはできなかった。
「けれど御前は違う。自分のことは自分で決めてくれ」
「自分で」
「ネオ=ジオンに残るのも。出るのも。全て自分で」
「私自身で」
「そうだ。私はもうネオ=ジオンを出て安西博士やオオミヤ博士の方へ向かうけれどね」
「御一人でですか」
「私は軍人ではないし。別に構わないさ」
「けれど私は」
「ベガリオンは一人乗りの筈だけれど」
「しかし」
「だから自分で決めるんだ。いいね」
「・・・・・・わかりました」
 そう言われて止むを得ず頷いた。
「それでは」
「そうだ。けれどさっき言ったことは覚えておいてくれ」
「さっきの言葉を」
「アルテリオンとベガリオンは二つで一つなんだ。それを覚えておいてくれ」
「はい」
 スレイはこくり、と頷いた。
「そこに御前の道があると思う。いいね」
「わかりました」
「色々と断ち切らなければならないものもあると思う。けれどそれを断ち切らないと前へは進めない」
「はい」
「私が言えるのはそれだけだよ。後は全部御前で決めるんだ。いいね」
「それしかないのですか」
「ああ。それじゃあこれで私は去らせてもらう」
「もう」
「長くいる必要もないしね。それじゃあ」
 こうして兄は去った。部屋にはまたスレイだけが残った。
「私で決めること」
 突き放された気持ちになった。どうしていいかはわからない。
 だが何とかしなければならないのはわかっていた。彼女はそこに何かを見つけようとしていたのであった。
 
 ロンド=ベルはネオ=ジオンの守る防衛ラインに接近しようとしていた。それを受けて総員戦闘配置に着こうとしていた。
「今度の敵の指揮官は誰だ」
「ギニアス=サハリン少将です」
「ギニアス=サハリン」
 その名を聞いたブライトの眉が動いた。
「まさか」
「はい、どうやらアイナの兄のようです」
「やはりな」
 ブライトはトーレスの言葉を聞いて頷いた。
「ここで出て来たというのか」
「前の戦いで戦死したという情報もありましたが」
「確かアプサラスという巨大モビルアーマーと共に戦死したと思われていたのだったな」
「はい」
「シローとアイナの手で。それで今ここでか」
「あの二人にとっては心情的に穏やかではないでしょうね」
「だがここで避けるわけにはいかない」
 ブライトは戦局を鑑みて冷静にこう述べた。
「このまま進む。いいな」
「わかりました」
「あの二人にも出てもらう。辛いだろうがな」
「はい」
 そして戦闘宙域にさしかかった。ロンド=ベルの面々は次々に出撃して敵への攻撃に備えていた。その中には当然ながらシローとアイナもいた。
「ネオ=ジオンも必死だな」
「ええ」
 アイナはシローの言葉に頷いた。
「地球圏への降下がかかっているから。当然よね」
「地球から離れたのにまた地球に戻って来るのか」
 シローはそれを聞いてふと呟いた。
「何か。不思議だな」
「人間とは中々地球の重力から離れられないものなのだよ」
 クワトロがそんな二人に対して声をかけてきた。
「クワトロ大尉」
「それが人間の弱さなのかも知れないがね」
「弱さですか」
「地球から離れられれば何かを得られるかも知れない」
 実は彼はそれが何かもわかってはいた。
「しかしそれと一緒に何かを失うかも知れない。それが怖いのだ」
「失うんですか」
「そうだ。それが何かまではわからないが」
「何か今一つわからない話ですけれど」
「ははは、これは済まない」
「いえ。ですがそんな時代ももうすぐ終わるんじゃないですか」
「それはどうしてかね」
「いえ、何かそんな気がするだけです」
 ぼんやりとそう思ったに過ぎなかったがあえて口に出した。
「この戦いでかなり変わってきていますよね」
「確かにな」
 クワトロもそれは認めた。
「少なくともあの未来ではなくなっている。恐竜帝国も滅んだ」
 彼は恐竜帝国が今出て来たこととその崩壊に人類の未来が変わってきていることを感じていた。
「そしてバルマーも来ている。まだ何かあるのかもな」
「宇宙怪獣もいますしね」
「それもあったか」
「他にも大勢いますし。もう地球だそんなの言っている場合じゃないですよ」
「そうだな」
 その言葉に忘れていたものを思い出させられた。
「では私も無理をする必要はないな。君達もいることだしな」
「無理を!?」
「いや、何でもない」
 その言葉は打ち消した。
「だが今無理をしようという者達が前にいる」
「はい」
 シローにもそれが誰なのかはわかっていた。
「そろそろ来るぞ。用意はいいな」
「はい」
「来るのなら」
「アイナ様御気をつけて」
 ノリスのドライセンも前に出て来た。
「いざという時にはこのノリスもおりますので」
「有り難う、いつも
 それを聞いて優しい顔になった。
「頼りにしているわ、ノリス」
「いえ、そのような」
 だがそう言われるとかえって照れるようであった。その厳めしい顔が赤くなった。
「シロー殿も用心されよ」
「あ、ああ」
 照れ隠しかシローにも声をかけてきた。
「何かあってからでは遅いですからな」
「了解」
「そら、来たぜ」
 忍が前を見て言った。ネオ=ジオンのモビルスーツ部隊が出て来ていた。
「ゾロゾロとよ。わざわざやられに来やがったか」
「相変わらず強気だな、おい」
 リョーコがそれを聞いて楽しそうに言う。
「旦那も断空砲をぶっ放したくて仕方ねえみてえだな」
「当たり前じゃねえか、派手にやらなくて何が戦いなんだよ」
 忍はそんなリョーコに対して言葉を返してきた。
「やってやるぜ、今日もな」
「派手にやるのもいいが周りには気をつけるようにな」
 そんな彼にアランが忠告をかけてきた。
「そうでないとフォローが大変だ」
「よく言うぜ、あんたもかなり派手にやる癖によ」
「俺はあくまで戦いに合わせているだけだ」
 アランはクールな声でこう述べた。
「御前とはまた違う。一緒にしないでもらおうか」
「ヘッ、まあいいや」
 忍はそれには絡もうとしなかった。
「どのみちやるぜ。亮、断空砲用意だ」
「よし」
「目標はあのデカブツだ。一撃で沈めるぜ」
「デカブツ!?」
 それを聞いたアイナの顔が動いた。
「モビルアーマーもいるの!?」
「!?そりゃ普通にいるんじゃねえかな」
 ジュドーがそれを聞いて応えた。
「モビルスーツがいるんだし。それにネオ=ジオンつったらモビルアーマーが多いし」
「サイコガンダムがいたりして」
「あれか。あまり思い出したくないな」
 プルツーはプルの言葉を聞いて露骨に嫌な顔をした。
「他には何があるかな」
「クインマンサにノイエ=ジールもあったか」
 それでもプルツーは言った。
「こうして見ると確かに結構あるな」
「そうだな」
「あとは・・・・・・」
「アプサラスね」
 そしてアイナが言った。
「アプサラス」
「貴女達は知らないかしら。ジオンが開発していた巨大モビルアーマーなのだけれど」
「ちょっと」
「聞いたことがないが」
「そう」
 それを聞いて少し悲しそうな顔になった。
「アプサラスはね、宙に浮くモビルアーマーだったのよ」
「宙に」
「キュベレイみたいにミノフスキークラフトをつけていたのか」
「ええ。けれど一年戦争で破壊されたわ」
「何故」
「俺が破壊したんだ」
 シローが名乗り出た。
「アイナが元々ジオンにいたことは知っているな」
「うん」
「あたし達もそうだったからな」
「その時に乗っていた機体だ。開発者はギニアス=サハリン」
「サハリン」
「まさか」
「そう、私の兄が開発したモビルアーマーだったわ」
 アイナ自身で告白した。
「兄は私にアプサラスの能力を世に知らしめたかったの」
「それでアイナさんを」
「何かいかれているところがあるな」
「プルツー」
「いえ、その通りよ」
 プルが咎めようとした言葉は他ならぬ妹の手によって否定された。
「私も兄の狂気に気付いたわ。けれど私にはどうすることもできなかった」
「アイナ様は心優しい方ですから」
 ノリスがそう言って庇う。
「しかしアイナは迷っていた。そして俺は」
「アイナさんを救い出したのか」
「格好いい」
「その後でギニアス少将と戦ったんだ。その時で死んだ筈だが」
「今生きているかも知れないな」
「ああ」
 シローもそれに頷いた。
「若しかするとここにも」
「そうだ」
 ここでブライトが言った。
「ブライト艦長」
「今前方に展開しているネオ=ジオンの指揮官はギニアス少将だ」
「御兄様が」
「アイナ中尉、いいか」
「・・・・・・・・・」
 ブライトの問いに一瞬沈黙してしまった。
「肉親との戦いだが。それでもいいのか」
「・・・・・・はい」
 だが彼女はそれに頷いた。
「やります」
 そして言った。
「やらせて下さい。それが戦争ですから」
「よし」
 それこそがブライトが望んでいた答えであった。それを聞いて満足して頷いた。
「では宜しく頼む。モビルスーツ部隊は敵主力にあたる」
「はい」
「他の部隊はモビルスーツ部隊の左右に展開して敵を扇状に撃破する。いいな」
「わかりました」
「了解」
 総員それに頷く。
「四隻の戦艦は後方で援護に回る。エステバリスはその護衛を務めてくれ」
「何だよ、また護衛かよ」
「護衛はごっめーーーーーん・・・・・・ウプッ」
「何かイズミさんの駄洒落も無理がなくなってきましたね」
「・・・・・・ヒカル、それマジで言ってるのか」
「マジだから。イェイイェイイェイ」
「だからそんな古い唄誰も知らねえって」
「あれっ、俺は好きだぜ」
 サブロウタも参戦してきた。
「その唄子供の頃から聴いてたしな。カラオケでいつも歌ってるしな」
「おっ、カラオケか」
 ダイゴウジも加わった。
「それならば一つしかない。ゲキガンガーを熱唱だ!」
「ちょっと待て、歌劇団の唄だろうが!」
「あの唄歌うときリョーコさんって声変わりますよね」
「あれ、そうか?」
「凄く可愛い声にあれ何でなんですか?」
「何でって言われてもよお」
 ルリの問いに言葉を少し詰まらせる。
「あたしも不思議なんだよ。どうしてかってな」
「その歌の声域によって声を変わるものだ」
「ノインさん」
「私とリョーコはよく声が似ていると言われるがな。確かに私もあの歌を歌うと声が変わる」
「そうなのですか」
「というかノインさんがあの歌を歌うのって凄い意外ですよね」
「・・・・・・私はああした歌が好きだ」
 メグミの言葉に頬を赤らめさせる。
「明るい曲がな」
「そうなのですか」
「驚かないのか」
「何をでしょうか」
 だがルリは相変わらず無機質な様子であった。
「私があの歌を好きでだ」
「人それぞれですから」
「そうか」
「はい」
 彼女は応えた。
「他の人が何を歌おうとどんな曲が好きでもそれでいいと思います。人それぞれですから」
「有り難う」
「何故御礼を」
「私はな。こんな声と外見だからどうにも大人に見られるのだ。まだ二十代になって間もないというのに」
「それだけノインさんがしっかりされているということです」
「そうかな。おばさんに見られないか」
「ブライト艦長もクワトロ大尉もまだ二十代ですが」
「あっ」
 それを聞いてハッとした。
「そういえばそうか」
「ですから。年齢のことはあまり気になさらずに」
「わかった。そうだな」
 その整った美貌に少し苦味を加えた笑いを浮かべながら頷いた。
「有り難う、ホシノ少佐」
「いえ」
「おかげで気が楽になった。年齢のことは気にしなくていいのだな」
「私はそう思います」
「では私なりに思う存分やらせてもらおう」
「戦いをですか?」
「他のこともだ」
 そう言ってまた笑った。今度は純粋な笑みであった。
「若いのだからな」
「!?」
「まあルリルリにはまだわからないわよね」
 ハルカがキョトンとするルリを見ながら言う。
「世の中一矢君みたいに一直線な子ばかりじゃないってことがね」
「一直線ですか」
「そうよ。まあそれもこれから勉強することになるわ」
「勉強?」
「人生のね。まあそれは置いといて」
「はい」
「敵は?そろそろ出て来る頃よね」
「前方に八百機程です」
「やっぱり多いわね、流石に」
「ここが敵の正念場ですからね」
 ハーリーも言った。
「それじゃあまずは前方にグラビティ=ブラストいっちゃいましょう」
 それを受けてユリカが言う。
「ドカーーーーーンと一発」
「ドカーーーーーンと」
「はい。それでまず流れを掴みます。そこにモビルスーツ隊に突入してもらいます」
「流れるみたいに」
「はい」
 ユリカはハーリーの言葉に応えた。
「ブライト大佐、それでいいですか」
「私としては異存はないが」
 ブライトはモニターに出てそう応えた。
「ではこちらもハイメガ粒子砲を撃つとしよう」
「はい」
「そしてそこに空いた穴に一気に突入する。アムロ、それでいいな」
「ああ」
 アムロもそれに頷いた。
「ではそれで。早速グラビティ=ブラストいっちゃって下さい」
「了解、艦首敵前方に」
 ハルカがそれに従い舵をとる。
「エネルギー充填完了」
「発射!」
 そして早速発砲する。黒い稲妻が銀河を切り裂いた。そしてネオ=ジオンの大軍を撃ち据える。それが通過するだけで無数の光が起こる。多くのネオ=ジオンのモビルスーツが消え去った。
「てーーーーーーーーーーーっ!」
 ブライトの乗るラー=カイラムの攻撃も続く。それを受けてネオ=ジオンの陣に巨大な二つの穴が空いた。
 そこにモビルスーツ部隊が突入し左右に他のマシンが展開する。こうして戦いはまずはロンド=ベルの流れではじまった。
「今のダメージは」
「五十機程です」
 後方に巨大な岩石の様なマシンがあった。そこから一人の男が部下から報告を受け取っていた。
「五十機か」
「はい」
 その機体のモニターにいる部下は頷いた。
「どうやら敵はハイメガ粒子砲、そしてグラビティ=ブラストを使ったな」
「おわかりですか」
「わからない筈がない」
 そのマシンの中にいる男はそう返した。
「まずは陣を整えよ」
「はい」
「それで穴を塞ぐ。それから迎撃態勢を整える」
「わかりました」
「そしてこのアプサラスも前線に出よう」
「アプサラスもですか」
「そうだ。何か不安か?」
「いえ」
 その部下はそれには答えなかった。
「では護衛が我々が」
「頼むぞ」
 男はそれに声をかけた。
「ここは通してはならぬ。それはわかっているな」
「はい」
「ならばいい。ではこのアプサラスの力ロンド=ベルに見せてくれよう」
 こうして巨大なマシンがロンド=ベルの前に姿を現わした。それは今敵軍の中に突入したばかりのロンド=ベルの前に現われた巨大な魔物であった。
「な・・・・・・」
「こいつは一体・・・・・・」
「ネオ=ジオンの秘密兵器か!?」
「これがアプサラスよ」
 驚く一同に対してアイナが言った。
「これが」
「ええ」
 そして彼女は頷いた。
「かって私が乗り込んでいたジオンの巨大モビルアーマー」
 そう呟きながらその単眼を見る。
「まさかまた出て来るなんて」
「乗っているのはおそらく」
「アイナはそこにいるな」
 そしてアプサラスの中から声がした。
「その声は」
「やはり生きていたか」
 シローもその声を聞いて声をあげた。
「そうだ、私だ」
「御兄様」
「アイナ、まさかこうして再び出会うとはな。思ってもいなかった」
 アプサラスの中には金色の髪を持つ青年がいた。
「こうして私の前に姿を現わすか。アプサラスの力を示す為に」
「いえ、違うわ」
 彼女はドーベンウルフの中から言った。
「私は。御兄様を止める為にここにいるのよ」
「私を」
「ええ」
 彼女は言い切った。
「何があってもここは通さないわ」
「フン、このアプサラスを以前のアプサラスと同じだと思うな」
「えっ!?」
「私がさらなる改良を加えたこのアプサラス。モビルスーツでは相手にはならん」
「そんなこと」
 兄の言葉に反発した。
「確かめてみなくてはわからないわ」
「何をする気だ?」
「これで!」
 叫びながら何かを出してきた。
 インコムを出した。有線で敵に襲い掛かるドーベンウルフの主力武器の一つである。言うならばジオングの腕に近い。
 それでアプサラスを撃つ。今までこれで多くのモビルスーツを倒してきた。それにアプサラスの弱点はわかっていた。確実に仕留めたと思った。
 だがそれは適わなかった。アプサラスは全くの無傷であった。インコムの攻撃にも何らダメージを受けることなく平然と宙に浮かんでいた。
「なっ!?」
「これでわかったか」
 ギニアスは勝ち誇った笑みを妹に見せた。
「所詮無駄だということが」
「そんな・・・・・・」
「最早このアプサラスを倒せる者は存在しない。これは私が作り上げた究極のモビルアーマーなのだ」
「くっ!」
 シローもその言葉を聞いて歯噛みした。
「そんなことが有り得るものか!この世に無敵の奴なんて」
「では貴様がアプサラスを落とせるというのか!」
「やってやる!」
 その言葉に応じてライフルを構えた。
「これで!」
 そして狂ったように射撃を続ける。それで撃墜するつもりであった。
 だがそれも無駄だった。シローのガンダムが放った攻撃はアプサラスに全て弾かれてしまったのだ。
「これは・・・・・・」
「アイフィールドだ」
 アムロがそれを見て言った。
「アイフィールド」
「ビーム兵器に対するバリアーだ。このニューガンダムにも装備されている。これは知っているな」
「ええ」
「どうやらあのアプサラスもそれを装備しているらしい。これはかなり厄介だな」
「じゃあどうすれば」
「ミサイルで攻撃する方法もあるが。あの装甲には通用するかどうか」
「手詰まりというわけですか」
「いや、そう考えるにはまだ早い」
 アムロは冷静なままであった。
「必ず弱点はある。弱点のないマシンなんか存在しない」
「けど」
「君達はとりあえず下がれ」
「えっ」
「ここは俺が食い止める。その間の他のモビルスーツの相手を頼む」
「しかしそれじゃあ」
「アムロ中佐に負担が」
「心配はいらないさ」
 にこりと笑って二人に言った。
「モビルアーマーの相手は一年戦争で慣れているしな」
「そうですか」
「アイナ様、ここはアムロ中佐にお任せしましょう」
「ノリス」
「このままではアイナ様にもシロー殿にも無駄な危害が及びます」
「俺達じゃアプサラスを倒せないっていうのかよ」
「お言葉ですが」
 彼は正直に言った。
「ですから。ここはお下がり下さい」
「クッ」
「シロー、ここはノリスさんの言う通りよ」
「セレーナさん」
 セレーナもシローに対して言う。
「貴方達でも今のアプサラスの相手は難しいわ。ここは下がりなさい」
「グッ」
「シロー」
 アイナも言った。
「仕方無いわ、やっぱり」
「わかった」
 苦渋に満ちた顔で頷く。
「アムロ中佐、ここはお任せします」
「ああ」
「俺達はその間に他のネオ=ジオンの部隊を叩きます。どうか宜しく」
「わかった。それじゃあな」
「はい」
 こうしてアムロ一人を残してシロー達は他の場所に向かった。こうして戦いは二つの戦いとなったのであった。
「アムロがアプサラスを引き付けてくれているか」
「好判断ですね、アムロ中佐の」
「ああ」
 ブライトはトーレスに対して頷いた。
「やはりいざという時はあいつか。色々と助けられる」
「しかしそれだけでは駄目ですよ」
「わかっている」
 それに応じるとゆっくりと右手をあげた。
「アプサラスは無視しろ!皆他のモビルスーツ部隊を狙え!」
「了解!」
「ダブルゼータ、F91はハイメガランチャー、ヴェスパーで後方の戦艦を狙え!一隻も撃ち漏らすな!」
「よしきた!」
「わかりました!」 
 ジュドーとシーブックがそれに応える。
「ジュドーとシーブックの小隊の者は二人の援護だ。敵艦の主砲に気をつけろ」
「了解!」
「それでは援護にあたります」
 ルーとセシリーがそれぞれを代表して答える。
「戦艦は前に出る!攻撃を強化しろ!」
「艦長!左に敵小隊!」
「弾幕を張れ!何やってんの!」
 いつもの叱責が飛ぶ。
「エステバリス援護を頼む!」
「はい!」
 アキトが頷く。
「ドラグナーチームとバルキリー隊はモビルスーツと共に敵への攻撃!ファイアーボンバーは後方で音楽を奏でるんだ!」
「バサラ、わかったわね!」
「ヘッ、もうやってるぜ!」
 どうやらバサラにはさしものブライトの命令も効果がないようであった。
「ダンクーガ、ザンボット、ライディーン、ダイモス、ゴッドマーズはモビルスーツ達の側面で攻撃を頼む!容赦はするな!」
「よし、派手にぶちかますぜ!」
「待ってました!宇宙太、恵子、やるぜ!」
 彼等もそれに頷く。
「一気に粉砕する!そして地球圏に向かうぞ!」
「はい!」
 ブライトの指示が終わると皆頷いた。彼等はここで止まるわけにはいかなかったのだ。
 ロンド=ベルは総攻撃に出た。そしてネオ=ジオンのモビルスーツ部隊を取り囲み一気に押し潰そうとする。数においては大きく劣っていたがその戦闘力では寄せ付けなかった。攻撃はさらに熾烈なものとなった。
 その結果アプサラスの周りのモビルスーツ達もその数を大きく減らしていた。ギニアスがアムロに足止めを受けている間に戦いは決まってしまっていた。
「おのれ」
「アプサラスの力に溺れたな」
 アムロがギニアスを見据えてこう言った。
「戦いは一機でやるんじゃない。御前はそれを忘れていた」
「クッ」
 これは仕方のないことでもあった。彼は少将といっても技術畑の人間である。従って実戦経験に乏しかったのだ。
「さあどうする、降伏するかそれとも」
「このアプサラスに降伏の二文字はない」
 彼はそれを拒んだ。
「また敗北の二文字もない」
「そうか」
 アムロはそこまで聞いて頷いた。
「では覚悟するんだな」
「フン、如何にニューガンダムといえど」 
 自信に満ちた笑みと共に言う。
「このアプサラスを倒せはしない」
「それはどうかな」
「何っ!?」
「行けっ、フィンファンネル!」
 アムロが叫ぶと背中のファンネルが飛び立った。そしてアプサラスに向かう。
「ファンネルでこのアプサラスを!」
「ファンネルだからだ!」
 アムロはまた叫んだ。
「これなら!」
 ファンネルはアプサラスの周りで複雑な動きを示した。そしてその背後と側面、上方、下方、前面にそれぞれ位置する。それからビームを放った。
 ピンポイントに何処かを狙っているようであった。ビームがアプサラスを撃ち据えた。それでその動きは完全に止まってしまったのであった。
「な・・・・・・」
「言った筈だ、弱点のないマシンなんて存在しないと」
 アムロは再び言った。
「アプサラスの弱点は見切っていた。ギニアス、御前はそれに気付かなかった」
「馬鹿な、アプサラスの開発者の私が」
「御前は慢心していたんだ」
 アムロの言葉は続く。
「だから気付かなかった。そして負けたんだ」
「クッ・・・・・・!」
「これで終わりだ。アプサラスはな」
「いや、まだだ」
 それでも彼はそれを認めようとはしなかった。
「私はまだ敗れてはいない。私が敗れる時は」
 その目が真っ赤に充血していた。その目のまま言う。
「私がアプサラスと共に死ぬ時だ。今は・・・・・・」
 そう言いながらコクピットのあるボタンを押した。
「さらばだ。この復讐は必ず果たす!」
 脱出した。そのまま何処へと消え去る。こうして行動不能になったアプサラスを残して彼は脱出してしまったのであった。
「終わりましたね」
「ああ」
 アムロのところにシローが来て声をかけた。アイナも一緒であった。
「だが脱出には成功した。また来るだろうな」
「そうですか」
「御兄様」
「アイナ、辛いだろうがな」
「はい」
 気を落としそうになるアイナにシローとアムロが声をかける。
「覚悟はしていると思う。けれどそれが揺らいだら」
「いえ、大丈夫です」
 ここで毅然として顔を上げて言った。
「前の戦いで。もう決心していますから」
「そうか」
「ですから御気になさらないで下さい。シローも」
「いいんだな」
「ええ」
 そしてまた頷いた。
「どのみち御兄様はもう」
「俺には兄弟がいなかったからよくわからないがな」
 アムロはそう前置きしたうえで言った。
「あまり思い悩むと。周りが見えなくなるぞ」
「周りが」
「そういう時は誰かを頼るのがいい。君にはシロー君もいるしノリスさんもいる」
「はい」
「だから苦しい時は頼るんだ。いいな」
「わかりました」
「俺ではあまり力になれないかも知れないけれど」
 シローはそう言いながらアイナの側にやって来た。
「困ったことがあったら何でも言ってくれよ。できるだけ力になるからな」
「有り難う」
 そして二人は乗艦に戻っていった。アムロはそんな二人を見送りながら自身もラー=カイラムに戻って行った。
 艦に戻るとチェーンがやって来た。そして彼に声をかけてきた。
「どうでした、あの二人は」
「見ていたのか」
「はい。何かと心配でしたから」
「心配なのはあの二人のことかい?」
 彼は笑いながらチェーンに声を送った。
「俺がアプサラスと戦っている時に不安だったからじゃないのか」
「いえ、そんな」
 慌ててそれを否定する。
「アムロ中佐ですから。大丈夫と思ってました」
「そうなのか」
 実はわかっていた。戦っている時にチェーンの思念も感じていたからだ。だがそれは口には出さなかった。アムロ程のニュータイプでなければわからないことだからだ。
「だったらいいけれど。俺のことよりあの二人の方が大事だからな」
「そんなに傷ついていますか?」
「アイナはな」
 前を見据えながら言った。
「シローが頑張っているが。何かと気遣って欲しい」
「わかりました」
「俺はどうもそういうことは苦手だからな。ブライトも」
「うふふ」
「おいおい、おかしいのか」
「だって御二人共そういうところはそっくりですから」
「そっくりか」
「はい」
 チェーンはニコリと笑って言った。
「あまり器用でないところが」
「そうか」
「口下手ですよね、中佐も艦長も」
「否定はできないな」
 言われてみればその通りである。アムロも頷くしかなかった。
「だとするとあの二人は俺やブライトの出る幕じゃない」
「ですね」
「ここは他の者に任せるとするか。おじさんは引っ込むとしよう」
「おじさんって」
「最近な。どうも皆俺やブライトを年寄り扱いするからな」
 そう言いながら苦笑いを浮かべた。
「俺もブライトもまだ二十代なんだが。若さってやつは怖いな」
「クワトロ大尉もそんなこと仰ってましたね」
「あいつもか」 
 アムロはそれを聞くと目に感慨を宿らせた。
「そろそろ俺達も引退する時なのかもな」
「引退ってまだまだ現役じゃないですか」
「そういった意味じゃなくてな。ニュータイプとして」
「ニュータイプとして」
「俺もあいつも歳をとってきた。もう若い連中に任せてもいいかな」
「けれどこの戦いはアムロ中佐もクワトロ大尉も必要ですよ。皆本当に頼りにしてるんですから」
「問題はその後だ」
「その後」
「そうだ」
 アムロはまた言った。
「この戦いが終わったら人類は新たな歩みをはじめなくちゃいけない。その役目は俺達じゃないんだ」
「それじゃあ」
「もっと若い者達がしなくちゃいけない。そうでないと人類はよくならない」
「できるでしょうか」
「できるか」
 アムロは答えた。
「一年戦争も終わらせたしバルマー戦役も乗り越えたし未来も変えることができた。人間は確かに進歩している」
「進歩」
「俺は人間を信じている。きっとできるさ」
「そうなのですか」
「チェーン、君にもな」
「私にも」
「頼りにしているよ、何かとね」
「は、はい」
 アムロにそう言われるとその顔を明るいものにさせた。頬も赤らめた。
「私、頑張ります」
「ああ、宜しく頼むよ」
「はい。それじゃあまずは」
「アイナを宜しくな」
「了解」
 そして敬礼をしてアムロの前を去った。アイナもまた心配し、気遣ってくれる者達がいた。彼女も一人ではなかったのだ。
 だが一人で悩む者もいた。人はそれぞれ悩みを抱えて生きている。だがその悩みは何時かは拭い、克服しなければならない。そうでなくては人は前に進めはしないのだから。

 戦いに敗れたネオ=ジオンは防衛ラインを後退させていた。ハマーンはグワダンのモニターに映る自軍とロンド=ベルの陣を見据えながら思案に耽っていた。
「やはりやってくれるな、彼等は」
 険のある声でそう言った。
「あの防衛ラインを易々と突破するとは。サハリン少将はどうしたか」
「脱出されました。そして今は後方で自軍の建て直しにあたられています」
「そうか、わかった」
 彼女はその報告を聞いて頷いた。
「撤退したモビルスーツ部隊はどうしているか」
「今はデラーズ中将の部隊と合流しておりますが」
「そうか」
「そのデラーズ中将から伝言です」
「何だ」
「貴殿等はそのまま地球降下作戦を実行されたし。防衛は我等が引き受ける、とのことです」
「つまり後ろは気にするなということか」
「おそらくは。如何されますか」
「デラーズ中将に伝えよ」
 ハマーンはそれを聞いて言った。
「その申し出喜んで受けさせてもらうとな」
「わかりました。それでは」
「うむ、頼むぞ」
 伝言を聞き終え返事を送るとハマーンはまたモニターに顔を戻した。
「降下作戦の戦力は予定通りだな」
「はい」
「マシュマー、グレミー、キャラ、イリアの各部隊はどうしているか」
「全て順調です」
 艦橋にいる参謀達が報告を続ける。
「何れも降下可能です」
「よし」
「このグワダンも当然降下するのですね」
「そうでなくてはここにはいない」
 ハマーンは不敵な笑みを浮かべてこう返した。
「ミネバ様もだ。わかっているな」
「ハッ」
「全軍北アフリカに降下する。予定通りな」
「そこには青の部隊がいましたな」
「そうだ。まずは彼等と合流する」
 ハマーンの言葉は続く。
「そのうえでダカールを目指す。そこを占拠しジオンの大義を人類に再び知らしめすのだ。いいな」
「わかりました」
 参謀達はそれに頷く。
「キュベレイも用意しておきます」
「うむ」
「強化人間部隊も」
「強化人間部隊か」
 それを聞いたハマーンの赤紫の眉がピクリ、と動いた。
「あの者達は確かグレミーの部隊だったな」
「はい」
「それが何か」
「いや」
 ハマーンはそこで考える顔になった。
「少しな。気になることがある」
「気になることが」
「近頃グレミーはラカンと色々と二人で話をしているそうだな」
「それはまあ」
「ラカンはグレミーの副官ですから」
「そういう問題ではない」
 だがハマーンは問題はそこではないとした。
「といいますと」
「グレミーには注意しておけ」
「注意」
「そうだ。少しでもおかしなことがあれば私に報告しろ」
 その声がさらに険しいものとなった。
「そしておかしなことがあれば」
「はい」
「消せ」
 峻烈な声であった。反論を許さない凄みがそこにあった。
「よいな。消せ」
「・・・・・・わかりました」
 参謀達は仮面の様に表情のない顔になった。そしてハマーンのその言葉に頷いた。
「我等はティターンズやギガノスと比べて兵力は少ない」
「はい」
「例え火星の継承者と協力していてもな。そもそも彼等も兵力には乏しい」
「そうでしたな」
「それで何かあればすぐに崩壊に繋がる。それを常に心に留めておけ」
「わかりました」
「全てはミネバ様の下にあらねばならぬ」
 ハマーンは締めるようにして言った。
「ミネバ様こそがジオンの大義を実現される方」
「はい」
「そのミネバ様を裏切ることは私が許さぬ。例えミネバ様がお許しになろうともな」
「わかりました。それでは」
「うむ、頼むぞ」
 ネオ=ジオンにもまた不穏な空気があった。ハマーンはそれを察しすぐに手を打とうとしていた。だがその彼女ですら防げないものがある。それが何かは彼女にもわからなかった。だがそれは確実に存在したのであった。


第五十五話   完


                                     2005・11・20


[332] 題名:暗躍 名前:電波時計 MAIL URL 投稿日:2006年05月03日 (水) 16時04分

「はっ、はっ、はっ・・・・・」
コスモピンクはトレーラーへと急いだ。
後ろではコスモレッドが謎の犀怪人と、仮面ライダーソニックがネオジョーカー怪人『M』と死闘を繰り広げていた。
そして・・・・・・・
遂にトレーラーの後部の出入り口にたどり着いた。
「夏海ちゃん!」
ピンクがトレーラーの取っ手に手をかけた。
その時・・・・・・・
ビリッ!!
「きゃっ!!」
電気のようなものが流れ、ピンクは思わず手を放した。
「これは・・・・スキャン」
ピンクが扉をスキャンする。
すると、扉には高圧電流が流れていた。
コスモスーツのおかげで先程は大丈夫だったが、生身で触れていたら黒焦げになっていただろう。
「そうだ、前から・・・・・」
ピンクは運転席からもトレーラーの扉を開ける事が出来るのを思い出した。
すぐに運転席へと向かった。
「っ!中嶋さん!!」
ピンクは運転席でうなだれている中嶋を見つけた。
「中嶋さん!しっかりしてください!中嶋さん!!」
「うっ・・・・・」
気を失っていた中嶋が目を覚ました。
「あれ?理恵ちゃん、一体どうした?」
中嶋は不思議そうな顔でピンクを見た。
「一体何があったんですか?」
ピンクが聞くと中嶋は、
「何があったって・・・・何が?」
と首を傾げた。
「何言ってるんですか!?突然夏海ちゃんの悲鳴が聞こえて・・・・・」
「悲鳴?いつ?・・・・って言うか、俺なんで気を失ってたんだ?」
「中嶋さん、一体どうしたんですか!?」
話がまるでかみ合わない。
中嶋は夏海の悲鳴が聞こえる前に気を失ったのか?
だが中嶋は何故自分が気を失ったのかを解らなかった。
いや、解らなかったというよりは・・・・
「思い出せない・・・・・」
中嶋は気を失う前の5分弱の記憶を失っていた。
レッドとピンクが戦い始めた所で中嶋の記憶は終わっていた。
「そんな・・・・一体どうして・・・・」
ピンクはこの状態に驚愕していた。
その時
バチッ バチッ バチッ
火花が散るような音
「はっ、中嶋さんすぐに後ろの扉を開けてください!!」
「わかった!」
ピンクは再び後部の扉の所に向かった。
ギィィィィィ・・・・バタン!!
扉が開いた。
「夏海ちゃん!」
ピンクは中に飛び込んだ。
すると、夏海が中嶋の様に気を失って倒れていた。
「夏海ちゃん!!」
ピンクは夏海に駆け寄った。
バチッ バチッ
コンピューターが火花を上げていた。
ここは危険と判断し、ピンクは夏海を運転席の中嶋の元まで運んだ。
「中嶋さん!夏海ちゃんをお願いします」
「わかった!気をつけろよ!」
ピンクがその場を離れようとした時だった。
「り、理恵さん・・・・・」
夏海が力ない声で呼びかけた。
「夏海ちゃん!?気が付いたの?」
「それより・・・・あの犀型の怪人の・・・・後方にあるビルから・・・・」
「夏海ちゃん、あまり喋らない方が良いわ」
「・・・・大丈夫・・・・です」
夏海は弱々しく話し続けた。
「後方のビルから・・・・ブーメランのような・・・・物が・・・・気をつけて・・・・ください・・・・」
「わかったわ、ありがとう・・・・夏海ちゃん!」
ピンクは夏海にお礼を言うと、再び戦場に急いだ。




ドカァァァァァンン!!!
「うわぁぁぁぁぁ!!」
コスモレッドは凄まじい衝撃で吹き飛ばされた。
ドサッ!!
「くっ・・・・」
犀怪人の巨大鉄球による攻撃の直撃こそしていないものの、その凄まじい衝撃でレッドは大ダメージを受けていた。
「ふんっ・・・・つまんねぇな」
犀怪人は呟いた。
「もう少しマシな奴はいないのか?・・・・・・・そうだ。いい事思いついたぜ」
そう言うと、犀怪人は持っていた鉄球を消した。
「ハンデをくれてやる。俺はメタハンマーを使わないで戦う。お前は素手なり、武器使うなり、好きにしろ。ただし全力で戦えよ」
ボロボロになったレッドは剣を杖代わりに立ち上がった。
「ハンデ・・・だと・・・・・」
正直な話、レッドはハンデを貰っても勝てる気はしなかった。
あの巨大鉄球を軽々と振りまわしていたのだ。
腕力も相当のものだろう。
そんな奴が素手で挑んでくるなんて、迷惑極まりない。
「お前・・・・一体何者だ・・・・」
レッドは犀怪人に問い掛けた。
「冥土の土産に教えてやるぜ。俺の名前はライノセラスメタルだ・・・・・・・・ん?」
突然ライノセラスメタルが後ろの廃ビルの方に振り向き、誰かと話し始めた。
(何だ?誰かいるのか?)
レッドはその隙に体勢を立て直した
ライノセラスメタルと後方の存在の会話は続く。
「わかったよ・・・・・・しゃーねな」
ライノセラスメタルは会話を終え、レッドの方に振り向いた。
「待たせたな」
レッドは再び剣を構えたが、もう少しライノセラスメタルから話を聞き出そうと思った。
「お前・・・・一体何が目的だ?」
「そいつは言えねぇな。言ったら俺が後ろからやられちまうからな」
後ろ・・・・・やっぱり誰かいるのか・・・・・
「お前、一人じゃないな?」
「ああ、一応俺入れて三人だったか?」
三人・・・・・・
こいつと後ろのビルにいる奴と、もう一人は何処だ・・・・・
「もう一人は何処にいる?」
「そいつも言えねぇな、知りたきゃ自分で見つけな」
まさか、さっきの夏海ちゃんの悲鳴はこいつの仲間が・・・・・
「質問に答えるのも飽きて来た。さっさと続きやるぞ」
バキ! コキ!
ライノセラスメタルは拳を鳴らし始めた。
「行くぜ!!ヘビーパンチ!!」
ドコォォォォォォ!!!
ライノセラスメタルが地面を殴ると、地響きと共に地割れが起こった。
「くっ!!」
タッ!
レッドは地面を蹴って、地割れをかわすために空中にジャンプした。
その時、
ヒュン・・・・
風を切る音がレッドの耳に届いた。
「何っ!?」
廃ビルから何かがこちらに飛んでくるのが一瞬見えた。
そして、何かがレッドに当たる寸前、
「ウインドアロー!!」
ヒュン!!
ガキィィン!!
ピンクの放った矢がソレを空中で打ち落とした。
カラン・・・・
打ち落とされたソレは地面に落下した。
スタッ!
レッドは打ち落とされた物の側に降りた。
「これは・・・・・」
打ち落とされた物。
それは巨大なブーメランのような武器だった。
「彰君!大丈夫だった?」
ピンクがレッドの側に駆け寄ってきた。
「ああ。助かったぜ、坂本」
コキ・・・コキ・・・
コスモピンクの姿を確認したライノセラスメタルは拳を鳴らした。
「数が増えたか。面白い、少しはマシになったか」
「ウインドアロー!!」
バシュウッ!!
ピンクは間髪入れずにライノセラスメタルを攻撃した。
だが・・・・・
ガキッ!!
「なんだ・・・・・・お前もこの程度か・・・・・・」
ピンクの放った風の矢は確実にライノセラスメタルに直撃した。
しかし、ライノセラスメタルがダメージを受けた様子はなかった。
「そんな・・・・・・ウインドアローが効かないなんて・・・・・・・」
ピンクはショックを隠せなかった。
「今度はこっちの番だな」
ライノセラスメタルは再び拳を振り上げた。
「ヘビーパンチ!!!」
ドコォォォォォォン!!!
「っ!!避けろ、坂本!!」
「きゃああああ!!」
2人はギリギリの所で地割れをかわした。
「おいおい・・・・・逃げてばっかりじゃ勝てないぜ・・・・・・」
(・・・・・・・・・・・・・・・・・)
「ゴチャゴチャうるせえな!!」
(・・・・・・・・・・・・・・・・・)
「はいはい。わかりましたよ」
(・・・・・・・・・・・・・・・・・)
「えぇえぇ。どうぞご自由にすればいいんじゃないですか?」
ライノセラスメタルと背後の何者かの会話はそこで終了した。
「ふぅー、やれやれ。これで自由に戦えるぜ。ヘビーパンチ!!」
ドコォォォォォォォン!!!
再び地割れがレッドとピンクを襲う。
「くっ!!」
地割れをかわしながらレッドは考えを巡らせた。
(どうする。どうすれば奴に勝てる。)
「ヘビーパンチ!!」
ドコォォォォォォォン!!!
そうしている間にも、ライノセラスメタルの攻撃は続いた。
先程からの地割れ攻撃で周りは荒れ放題、地面は罅だらけだった。
(地割れ・・・・・・・地割れ・・・・・・・地割れ・・・・・・・そうだ!)
「おい!坂本、ちょっと耳貸せ!!」
レッドはピンクに叫んだ。
「どうしたの?彰君?」
「いいから!急げ!!」
(ぼそぼそぼそ・・・・・・)
レッドはピンクに自分の考えを伝えた。
「ええっ!?でも、それじゃ彰君が・・・・・・」
「ゴチャゴチャ言ってる場合かよ!!じゃ頼むぞ!!」
そう言うと、レッドはフレイムソードを構えて、ライノセラスメタルに向かっていた。
「ちょっと彰君!!」
ピンクの静止も聞かず、レッドはライノセラスメタルに斬りかかった。
「でやぁぁぁぁぁ!!」
ガキィィィィィン!!!
が、フレイムソードの刃はライノセラスメタルの体を傷つける事無く、金属音だけが響いた。
「へっ!逃げてばっかよりはマシになったな。でもそんな攻撃じゃ俺は倒せないぜ!!」
ドスッ!!
「グハッ!!!」
ライノセラスメタルのパンチをレッドは胸にもろに食らい5メートルほど吹っ飛ばされた。
「ゲハッ!!ゴハッ!!」
・・・・・・・・一撃が重い・・・・・・息が出来ない・・・・・・・体の中の物全部吐き出しそうだ・・・・・・・
そんなことが頭に浮かんだ次の瞬間。
「彰君!!危ない!!」
ブゥゥゥゥゥン!!!
「!!」
ドカッ!!
「ゲハッ!!!」
今度は丸太のような太い足で蹴りを食らった。
ドサッ!!
派手に吹っ飛ばされ、地面に叩き付けられた。
・・・・・・・・・・・やばい・・・・・・・・意識がなくなりそうだ・・・・・・・・
人間死にそうになっても意外と冷静でいられるものだと感心しつつ、こちらに向かって歩いてくるライノセラスメタルが目に映った。
「おいおい、まだ死ぬなよ。こっちはまだまだ暴れたいんだからよ」
そうだ・・・・・・・そのまま来い・・・・・・・・あと三歩・・・・・・・・
「地球人ってのは脆いな。ドラゴンの言った通りだぜ」
あと二歩・・・・・・・・・あと一歩・・・・・・・・・・
最後の一歩をライノセラスメタルが踏み出した瞬間、
「今だ坂本!!打て!!」
レッドは渾身の力をこめて叫んだ。
「うん!!」
ヒュォォォォォ!!!
ピンクの弓、ウインドアローに風の力が集まっていく。
「トルネードショット!!!」
バシュッッッッッッ!!!
「!!」
ドカァァァァァァァァン!!!
凝縮した風の力を一本の矢として放つコスモピンクの必殺技『トルネードショット』。
その矢がライノセラスメタルに、いや、ライノセラスメタルの足元に直撃した。
「くっ!!・・・・・・・・・・・目くらましのつもりか?それともただ外しただけか?」
ピキ――――――――――
「どっちにしろ・・・・・・・・」
ピキピキピキ―――――――
「俺の勝ちみたいだな」
ピキピキピキピキピキ――――――――
「・・・・・・って、さっきから何の音だ?」
先程から聞こえる奇妙な音にライノセラスメタルが気付いた。
「今ごろ気付いても遅いぜ・・・・・・・・・」
「何!?」
「さっきの攻撃はお前じゃなくてお前の足元・・・・・・・・・つまり、お前がボロボロにした地面を狙ってたのさ・・・・・・・・・」
「何!?・・・・・・・・」
ドカァァァァァァァァァァ!!!
轟音と共にライノセラスメタルの足元が崩れ出した。
「くそぉぉぉぉぉぉぉ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!」
ライノセラスメタルは崩れた地面と共に地底に沈んでいった。




レッドとピンクが戦い始めたのと同じ頃・・・・・・・・・・

「はぁ!!」
ドカッ!!
ソニックの蹴りが『M』を捕らえた。
「ぐぅぅぅぅぅ・・・・・・・・」
仮面ライダーソニックとネオジョーカー改造人間『M』の戦いは続いていた。
だがこの戦い、わずかだがソニックが優勢に進んでいた。
「くそっ・・・・・・・何故だ!?」
『M』は思った疑問をそのまま口にした。
新型の自分が旧ジョーカーの改造人間であるソニックに劣る理由がわからないのだ。
「何故だ!?何故この俺が、新型の俺が旧式に押されている!?」
ブゥゥゥン!!
『M』がパンチを繰り出すが、その攻撃は空を切った。
ソニックは空高く飛翔し、空中で回転しキックを放った。
「ソニックキック!!」
ドカァァァァァ!!
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ソニックのキックを腹に受けた『M』は吹っ飛ばされた。
「くそっ!くそっ!!くそっ!!!」
ダンッ!!ダンッ!!ダンッ!!
『M』は拳を地面に叩きつけた。
自身の力に絶対の自信を持っていた。
だがその力ではソニックに歯が立たない。
「おのれ・・・・・・・・・!!」
『M』が再びソニックに攻撃しようとしたその時だった。
「あらあら・・・・・・・全然ダメね、アナタ・・・・・・・・・・」
どこからか女の声が。
『M』は慌てて周りを見まわす。
「このお声は・・・・・・・・まさか!?」
すると、『M』の背後から別の改造人間が現れた。
腰のベルトに赤い石、両肩についているバラの装飾品、エースやソニックと似た容姿。
ソニックはその改造人間の姿を見ると、
「その姿にワイルドストーン・・・・・・・・・・・幹部か」
「ええ、そうよ。裏切り者の『S』・・・・・・・ああ、今は仮面ライダーでしたっけ?」
傍から見ると何気ない会話。
だが、2人の間には途轍もない殺気が漲っていた。
「私(わたくし)の名前は『Q』。お近づきの印に薔薇の花でも・・・・・・・・・」
『Q』はそう言うと、何処からか一輪の薔薇の花を出した。
「ふふふ・・・・・・・・・・・美しいでしょう?私はこんなに美しい薔薇の改造人間・・・・・・・・」
フッ――――――
『Q』は手に持っていた薔薇の花をソニックに向かって放った。
パサ
その花は静かにソニックの足元に落ちた。
「何の真似だ。こんな事をして!?」
「ふふふ・・・・・・・・言ったでしょう。お近づきの印って、そして・・・・・・・・・・・・・あなたへの手向けの花よ!!」
「!!」
ドカァァァァァァァン!!!
突如『Q』の放った花が爆発した。
それを見ていた『M』は、
「おお、さすがは『Q』様。見事に『S』を葬り去りましたな」
と感心した。が・・・・・・・・・
「ふふふ・・・・・・・・・・・まさか、これくらいで死んだりはしないでしょう?」
と落ち着いた調子で爆煙を見ながら話す『Q』。
「は?」
『Q』の言葉の意味が理解できなかった『M』は同じく爆煙の方を見た。
バッ!!
爆煙の中からソニックが上空に飛び出した。
「くっ・・・・・・・・!」
『Q』の予想通りソニックは生きていた。
が、無傷という訳ではなかった。
「ふふ・・・・・・・・・綺麗よ。惚れ惚れするくらい・・・・・・・・・・」
爆発でボロボロになったソニックを見て、『Q』は恍惚状態になっていた。
「ちょ、『Q』様。しっかりしてください!」
ボーっとしている『Q』を『M』は注意した。
その隙をソニックは見逃さなかった。
「ソニックキック!!」
必殺キックが『Q』に放たれる。
だが、その瞬間・・・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・ローズビュート」
バシッ!!
「ああっ!!」
ドサッ!!
『Q』の武器、茨の鞭『ローズビュート』がソニックの体の自由を一瞬にして奪った。
「ふふふ・・・・・・・・・・・やっぱりアナタは空を飛んでいるより、地を這いつくばっている方が綺麗だわ。・・・・・・・・・・・・『M』」
「はっ!」
ドカッ!!
「ぐふっ!!」
『M』がローズビュートで身動きの出来なくなったソニックのわき腹に蹴りを入れた。
ドカッ!! バキッ!! ドカッ!!
一方的な攻撃が続いた。
「さっきまでの礼をたっぷり返してやるぜ!!」
ドカッ!!
「ぐっ・・・・・・・・・・・・・!!」
『M』の先程までの恨みを晴らすかのような一方的な攻撃。
ドカッ!! ドカッ!! ドカッ!!
「くっ・・・・・!!・・・・・・・うっ!!」
「そろそろ止めを刺してあげるわ」
『Q』が新たにベルトのバックルからローズビュートを取り出す。
そしてそれは槍状に変化した。
「さようなら仮面ライダー」
止めの一撃が振り下ろされそうになった瞬間、ソニックの目に今まで共に戦ってきた相棒がマシンを走らせてくるのが見えた。
ギュゥゥゥゥゥウ!!
「なっ!?」
「な、何っ!?」
ドカッ!!!
ストームホッパーが宙を舞い、『M』と『Q』をふっ飛ばした。
「仮面ライダーエース!ただいま参上」
エースはストームホッパーから降りるとソニックのもとに駆け寄った。
「大丈夫か?明日香」
エースはソニックの体を縛っていた茨の鞭を引き千切った。
「お前・・・・・・・・・・・・何で来たんだ!!」
「はあっ!?」
ソニックの第一声はエースの想像していないものだった。
「お前、この前の怪我だってまだ完治してないんだぞ!それなのに何で・・・・・・・・・・・・このバカ者!!」
「バ・・・・・・・・・・・バカって、お前!!じゃあな、こっちだって言わせてもらうけどな!!お前こそ何で一人で勝手に行ったんだよ!!」
「そ、それはその・・・・・・・・・・・・・・・そ、そうだ。お前みたいな怪我人がいても足手まといだからだ!!」
カチン!!
「な・な・な・な・何だと!!!」
「本当の事を言ったまでだ!!」
徐々にヒートアップしていく2人の口論。
そんな中、忘れ去られた2人がいた。
『Q』と『M』である。
「あいつら・・・・・・・・・・・・・・俺らのことを完全に忘れてますよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
『Q』は黙っていた。
が、その手が怒りに震えているのが『M』には見て取れた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ここは私にお任せを。『Q』様はお引き下さい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ブワッ!!
『Q』は黙ったまま、薔薇の花吹雪と共に消えた。
「・・・・・・・・・・・ふうっ」
『M』はため息をついた。
『Q』が怒り狂って暴れられたら、大変な事になると知っていたからだ。
その頃、エースとソニックの口論も終わりに向かっていた。
「とにかくだ!!この話は後で絶対に決着をつけるからな!!」
「ああ!!望むところだ!!」
口論が終了したところでエースの目に戦闘体勢に入った『M』の姿が映った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・お前は少し休んでろ。ここは俺がやる」
「なっ!?ちょ、ちょっと・・・・・・・・・・・」
ソニックの言葉を最後まで聞かずに、エースは戦いに向かった。
「『S』と同じ裏切り者の『A』よ。ネオジョーカー改造人間『M』が相手だ!!」
「もう1人いた幹部はどうした?」
「ふんっ。わざわざ『Q』様の手を煩わせる事もない。お前は私が倒す!!」
「やれるもんならやってみな」
お互いに構えた。
(とは言ったものの、この前の傷も完全に癒えていない。無理は出来ないか・・・・・・・・・・)
エースは頭の中で考えを巡らせた。
ジリッ・・・・・・・・・・・
沈黙が場を支配した。
バッ!!
先に動いたのは『M』だった。
「はあぁぁぁぁぁ!!」
ブウゥゥゥゥゥン!!
『M』が次々とパンチやキックを繰り出すが、エースはそれらをかわす。
「どうした!?かわすだけでは勝つ事など出来ぬぞ!!」
誇らしげに叫ぶ『M』に対して、エースは黙って攻撃をかわし続けた。
ブンッ!! ブンッ!! ブンッ!!
なおも攻撃を続ける『M』。
だが、一瞬。ほんの一瞬。『M』に隙が出来た。
それをエースは見逃さなかった。
「ライダーパンチ!!」
ドゴォォォォ!!
「ぐはっ!?」
エースの強烈なパンチを食らって『M』は吹っ飛ばされた。
ドサッ!!
「な、何!?」
一発。一発食らっただけなのに体の自由が利かなくなった。
「な・・・・・・・・・・・何故だ!?」
混乱する『M』。
「トオッ!!」
その隙をつき、エースは空高くジャンプし、空中で一回転をしてキックを放った。
「ライダーキック!!」
ズガーーーーーーン!!
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
エースの必殺キックを腹に食らった『M』は身体から火花を散らせ、フラフラになりながらもエースに問い掛けてきた。
「ゴフッ!!な、ナぜだ!?何故・・・・・・・・ワたし・・・・・が!?」
エースは静かに答えた。
「お前は脳改造されて痛みをあまり感じない身体になってるから気付かなかっただろうな」
「ナ、何のコト・・・・・ダ・・・・・・・・?」
「腹だよ、腹。お前、ソニックのキックかなんかを腹に食らっただろ。そこにダメージが溜まってたからな、2発ともそこを狙ったってわけだ」
「な・・・・・・・ナんだと?・・・・・・・・・ハッ」
『M』の脳裏にソニックのキックを腹に食らった事が甦った。
「ま、まさカ・・・・・・・・・」
「生憎だが、俺も本調子じゃなかったからな。早く決めさせてもらった」
「クッ・・・そレさえ・・・な・・けれバ・・・新型の・・・ワ、私が・・・・・・負ける・・・・・・・事は・・・・・・・・・・」
『M』はついに力尽き、地面に倒れこんだ。
ドカァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!
「そいつは違うぜ・・・・・・・・・・・・・・俺には・・・・・・・・・いや俺達には・・・・・・・・・・・・・・・護りたいものがある。だから、どんな事があっても・・・・・・・・・・・負けるわけにはいかないんだよ」
爆発した『M』を見ながらエースは静かに、そして力強く言った。
「護。終わったんだな」
エースから護の姿に戻り、振り向くと同じく変身を解除した明日香がいた。
「お前、休んでろって言っただろ」
「それよりも・・・・・・・・・・・・」



「彰君!!しっかりして!!彰君!!」
理恵は倒れた彰に必死で呼びかけた。
「大丈夫だって・・・・・・・・・・・・ちゃんと生きてるから・・・・・・・・・・・」
とは言うものの、怪我の具合からみて大丈夫とは言い難かった。
グゥゥゥゥ――――――――――
理恵の胃が空腹を知らせる音を出した。
「ええい!緊張感のない音を出すんじゃない!」
「えへへ・・・・・・・・・・ごめん」
と話している2人の下に、
「お―――い!!」
遠くの方から呼びかける声がした。
理恵がそちらの方を見ると、見知らぬ男女がバイクを押しながらこちらに向かってきていた。
「お前達も無事・・・・・・・・・・・・・じゃないわね」
バイクに乗っていた女性が彰と理恵を見て言った。
「この2人か?まだ高校生くらいじゃないか」
バイクを押していた男性が彰と理恵を見て言った。
「えっと・・・・・・・・・・どちら様ですか?」
理恵が謎の男女に質問した。
「おいおい。さっき一緒に戦ったでしょ?・・・・・・・・・・・・・・・そーか、自己紹介がまだだったわね、私は寺井明日香。またの名を仮面ライダーソニック」
「始めまして。俺は高坂護。またの名を仮面ライダーエース」
2人はごく普通に名乗った。
―――――――――――普通に名乗った。
2人は普通に仮面ライダーだと名乗った。
―――――――――――名乗った。
「「ええっ!!!」」
彰と理恵は驚いた。
「普通そういうのって秘密じゃないんですか!?」
彰が尋ねた。
「普通はな。でも君達も普通の奴とは違った事情があるみたいだからな」
護は彰の問いに答えた。
「とりあえず話は後だ。今は傷の手当てをしたほうがいい。特に君」
護は彰の状態を見て言った。
実を言うと、彰はずっと倒れっぱなしだった。
「そうですね。夏海ちゃんの事もありますし、とにかく一度病院に行きましょう」
「ついでに明日香も連れてってくれないか?俺は後からバイクで追いかけるから」
「こんなもの、たいした事はない」
明日香は強がるが、
「いいから行け」
と言うと護は明日香を抱えて、理恵は彰に肩を貸して、トレーラーに乗り込んだ。
「じゃ、頼むな」
「はい、お任せ下さい」
バタン!!
理恵はそう言うと、トレーラー後部の扉を閉めた。
ブロロロロロロ・・・・・・・・・・・・・・!!
トレーラーが走り出すのを見送ると、ストームホッパーの所に戻った。
「いい加減に出て来たらどうだ。物見の使徒」
護が静かにそう言うと、背後から物見の使徒が姿を現した。
「ほう・・・・・・・・・・・・いつから気付いた?」
「始めからだ。この独特の殺気。それにお前が近くにいると妙な感覚がする・・・・・・・・・・・『J』の時も見てたな?」
「正解。さすがだな。まっ、今回はこれくらいだな。お前達の能力も大体わかった」
物見の使徒がそう言うと、前回と同じく姿が薄くなってきた。
「おい!まだ話は終わって・・・・・・・・」
護が呼び止めるが
「お前と長く話をする訳にはいかない。だが、一つだけ教えてやる。さっきお前は俺に敵か味方か?・・・・・・・・と聞いた。俺はわからないと言った」
「・・・・・・・・・・・?」
物見の使徒が何を言わんとしているのか、護はわからなかった。
「前言撤回だ。お前達は俺の、いや我らの敵となる価値もない」
「!?」
「さらばだ・・・・・・・・・・・・・・」
物見の使徒の姿は完全に消えた。
だが、護はただその場に立ち尽くしていた。
「どういう事だ?・・・・・・・・・・」
物見の使徒は言った。
敵になる価値もないと。
この言葉の意味もわからぬまま、護はストームホッパーに跨り、明日香達を乗せたトレーラーの後を追った。





薄暗い空間

酷く禍禍しい空気が場を支配している

ここはネオジョーカーの本部

本部の最深部にある『首領の間』

『首領の間』にはすでに三人の影がいた。

そこに一つの影が入って来た。

「ケケケ・・・・・・・・・。威勢良く出てって結果がそれか!」
入って来た影に『首領の間』にいた影の一人・・・・・・・・・・『J』が話し掛けた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・命令も無しに『A』と戦ったアンタに言われたくないわよ!!」
『Q』は『J』に怒鳴った。一触即発の空気が流れた。
「よせ!!」
その場にいたもう一人の影・・・・・・・・・・・・『K』が場を静めた。
「チッ!」
「ふんっ!」
『J』と『Q』は渋々黙った。
「それで?首領はどうしたの?『K』」
『Q』が『K』に尋ねた。
「首領はお休みになられている。報告は後でいいだろう」
「へっ!助かったな、『Q』」
『Q』が『J』に厳しい視線を向ける。
「それより・・・・・・・・・未確認の敵がいたわ。W.R.Gと仮面ライダー以外の奴が。どういう事かしら?クトゥルー教団のワイリーさん?」
『Q』がそう言うと、部屋の隅にいた最後の影が前に出て来た。
「おやおや・・・・・・・・・・・・確かにあの犀みたいな奴は私の仕入れた情報にはなかったですが、『どんな手を使っても絶対に奪ってくる』と言ったのは『Q』様ですよね?」
ワイリーと呼ばれた男は他の三人『J』、『Q』、『K』とは違いその姿は人間と変わりなかった。
紫色の長髪を後ろで縛ってポニーテールのようにしている。顔付きは美形なのだろうが、かなり目つきが悪い。
それがこの男、ワイリー・ギルバートの特徴だった。
「ちょっと・・・・・・・・自分のミスを私のせいにする気!?」
「それは『Q』様も同じじゃないですか?」
『Q』の手が怒りに震える。
それを見た『K』は
「やめろ、『Q』!だが、お前にも責任があるのだぞ。ワイリー・ギルバート」
「はいはい。では、今回は私のミスも確かにありますので情報料はなし、という事で・・・・・・・・・・おっと、時間だ。ではまた、ごきげんよう」
腕時計を見ながらそう言うと、ワイリーはさっさと『首領の間』を出て行った。
「チッ!気にいらねぇな!」
ワイリーが出て行った後、『J』がもらした。
「そう言うな。奴ら・・・・・・クトゥルー教団は確かに素性の知れぬ連中だが、利用価値はある。利用するだけ利用してやるさ」
「それは向こうも同じでしょうけど・・・・・・・・・・」
『K』と『Q』の言葉を最後に『首領の間』は闇と沈黙に満たされた。







ここはコスモレッドとコスモピンクがライノセラスメタルを倒した場所。

護達がここを立ち去ってから、すでに1時間近く経っていた。
ライノセラスメタルが沈んだ地面の側に、二つの人影・・・・・・・いや、その二人はヒトと呼ぶには異形過ぎる。
一人は蝙蝠のような姿をしており、もう一人は蠍のような姿をしていた。
「あーあ、これはまた。派手にやられたもんだ」
蠍怪人が地面を見ながら言った。
「へぇ、そんなに派手なのかい?」
蝙蝠怪人が不思議そうに尋ねた。
「ああ、もうメチャクチャだぜ。まっ、あの怪力バカは死んでねぇだろうがな。おい!!手伝うか?」
蠍怪人が地面に向かって呼びかけた。
すると・・・・・・・・・・・
ドカァァァァァァァァ!!!
地面を吹き飛ばし、ライノセラスメタルが這い出てきた。
「ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・・・・・・・・あいつら・・・・・どこ行きやがった!!」
息を荒くしながら、ライノセラスメタルが周りを見渡した。
「あのね、ライノセラスメタル。君が沈んでから、もう1時間はたってるんだよ。いるわけないじゃん」
蝙蝠怪人がライノセラスメタルをなだめる様に言った。
「んっ?バットメタルにスコーピオンメタル。なんでお前らがここにいる?」
「今頃かよ!?本当にお前の頭の悪さにはホントに驚かされるな」
「なんだと!?」
険悪なムードになるスコーピオンメタルとライノセラスメタル。
「まぁまぁ、二人とも。そう喧嘩腰にならないで」
が、二人の間にバットメタルが仲裁に入った。
「僕達はライノセラスメタルが帰らないから、迎えに来たんだよ」
「あの二人は?」
ライノセラスメタルがもらした。
「ああ、あの二人ならとっくに帰ったよ」
「何!?あいつら・・・・・・・・・・・・・・!!」
バットメタルの答えにライノセラスメタルは怒りに震えるが、
「まっ、賢明な判断だな。バカに付き合う必要はねえってこった」
「なんだとっ!!」
スコーピオンメタルの一言で再び険悪なムードになる両者。
「はあっ・・・・・・・・・・スコーピオンメタルは一言多いよ。早く帰還しよう」
そう言うと、バットメタルは懐から門の絵が描かれたカードを取り出した。
シュッ!!
バットメタルがカードを投げると、絵が実体化し、門が現われた。
ガガガガガ・・・・・・・・・・・・・・・
門が徐々に開いていく。
「じゃあ、帰ろうか?」
「おう!」
「へいへい」
三人は門を通って消えた。
ガガガガガ・・・・・・・・・・・・・・・
門が閉じ、そして門自体も消えた。


数秒後。

タッ!!
白い虎を模した鎧のような物を着た青年がその場に駆けつけた。
「くそっ!遅かったか、こちら『白虎』。ターゲットはすでに消失。残留物等はゼロ。現場を確認した後、帰還します」
『白虎』と名乗った青年はその場に誰もいない事を確認すると、夜の闇に消えた。


つづく



次回予告

男は戦う。

何のために?

皆のため? 平和のため?

否――――――――

自分のため 復讐のため

男は戦う。

次回、スーパーヒーロー作戦OG

第6話 「復讐の剣」


後書き

どうも、電波時計です。
用事で長く書いていなかったので、少々スランプ気味です。
気分転換に色々な方のSSを読ませていただきましたが、みなさんとても上手くて、自分の文章表現力のなさを思い知りました。
上手く文章を書きたいです。
ねえ、ゲストの護さん。
護「そこで俺にふるか。まあ、今回はタイトル通り、暗躍してる連中が色々と出てきたな。」
はい。ネオジョーカー、クトゥルー教団、謎の3怪人、『白虎』と名乗る青年。
護「あと、物見の使徒な。」
そうそう。果たして謎が解ける日は来るのか?それとも真実は闇に葬られてしまうのか?
護「ちょっと待て!闇に葬るつもりか?」
ないない。ちょっと言ってみたかっただけ。
護「ところで、前回のタイトル。ありゃなんだ?『馬と蜘蛛と犀と水溜り』だっけか?」
またまた、わかってるくせに。
馬→『M』
蜘蛛→物見の使徒
犀→ライノセラスメタル
水溜まり→???
つまり、登場した敵キャラの事だったわけ。タイトルが思いつかなかったから。
護「そんな適当な。・・・・・・・・・・んっ?じゃあ、物見の使徒とあの水溜りは敵ってことか?」
――――――あっ!!ではまた。
護「おい!どうなんだ?誤魔化すな!!」




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