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[199] 題名:絶望の運命1 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2004年09月29日 (水) 01時35分

             絶望の運命
 アメリカは実に多彩な顔を持つ国家である。
 フロンティアや摩天楼だけではない。見渡す限りの農園もあれば荒涼とした平原もある。雪に覆われた山々があり湖がある。
 そこにいる人々も雑多である。白人だけではない。黒人やアジア系もいる。ネィティブもいる。まさに人種の坩堝だ。黒人、すなわちアフリカ系アメリカンはかっては南部に多くいた。その文化は今でも南部に色濃く残っている。その中心地がニューオーリンズである。
 この街はルイジアナ州のみならず南部の中心都市の一つでもある。ルイジアナの名が示す通りかってはフランスの植民地であった。
 だがイギリスとの戦争やアメリカの独立等を経てアメリカの領土となった。そこからこの街の新たな歴史がはじまった。
 この街はミシッシピー河の河口にあることから港町として栄えた。外輪船が行き交い、フランス風の建物が立ち並んでいた。やがてこの街を別のものが支配するようになる。
 音楽である。奴隷として連れて来られた黒人達が教会で賛美歌を習い、そこから黒人霊歌が誕生した。
 そしてジャズ、カントリー、ソウル、ゴスペル、ブルース等が誕生した。黒人達はその卓越した音楽センスでもって多くの素晴らしい音楽を生み出していった。
 今ではこの街は工業都市でもある。ヒューストンの石油工業とも繋がり、機械や化学も盛んである。
「こうして見ると色んな顔のある街ですね」
 佐久間は今では観光用となっている外輪船に乗りながら言った。
「繁栄もあれば差別もある、それの克服と栄光もある。貿易もしちえれば工業もある」
「まるでアメリカそのものですね」
 隣にいた沖がそれに合わせるように言った。
「アメリカにいた時にここにも何度か来たことがあります」
「そうだったのですか」
「はい。それで結構色んなことがありましたね」
 彼は微笑んで言った。
「タチの悪い男にからまれたこともありますよ。何でもクー=クラックス=クランとか言って」
「本当ですか!?」
 アメリカ南部を中心に活動する白人至上主義を旗印とする狂信的な団体である。真っ白な服と独特のフードを被っていることで知られている。
 彼等の主張はかなり極端である。標的はアフリカ系だけではない。ユダヤ系やアジア系、ヒスパニックやアイルランド系、イタリア系等のカトリックにも向けられる。先鋭的なプロテスタントでもあるのだ。
 その為実際には敵も多い。その野蛮な行動の為多くの者の嫌悪も買っている。
 かってクランの幹部だった男が政界に名乗り出たことがあった。そのまま白人至上主義を唱えていた。
 結果は無様なものであった。殆ど票が入らなかった。ことあるごとに反対のデモが起き、所属している政党から締め出しを受けるという有り様であった。
 所詮そうした詰まらない連中である。差別を謳い蛮行を繰り返すだけが脳の輩共だ。何故顔を隠すのか。それは自らの行いが人間として最低なものであることをあらわしているに他ならない。
「それでどうなりました」
「どうもなりませんよ」
 沖は涼しい顔で言った。
「返り討ちにしてやりましたよ」
「大丈夫だったんですか!?」
 クランの報復を危惧しての発言だった。
「何、単なるチンピラだったようです。酒に酔ってからんできただけだったようで」
「それはよかった」
 佐久間はそれを聞きホッと胸を撫で下ろした。
「別に何ともありませんよ」
 沖は何でもなかったように答えた。
「例えそいつがクランでも」
「クランでも」
「そんな奴は許せません。差別を言い立て他の者を暴力で屈服させるなぞバダンと同じですから」
「そうですね」
 佐久間はそれに頷いた。そしてあることに気付いた。
(俺達も心の中の何処かにバダンがあるのかな)
 と。これはある意味で事実だろう。人は良心だけではないのだ。中には邪悪な心も持っている。それが不完全な存在である人間なのだ。
(そしてこの人はライダーになるべくしてなった)
 沖の今の話を聞いてそれを確信した。
(正義感と悪を排除しようとする心、それがなくてはライダーにはなれない)
 人々を守る為にその拳を血に染めるライダー、その心は常に正義を愛する心と悪と戦う心がなくてはならないのである。
「船から降りたらどうします?」
 沖はその話を打ち切って佐久間に話し掛けてきた。
「降りてからですか?」
「はい。そろそろ食事時ですが」
 見ればもうすぐ正午である。
「そうですね」
 佐久間は少し考えてから答えた。
「音楽を聴きながら食べるのもいいですね」
「それならいいお店を知っていますよ」
 沖は微笑んで言った。
「ハンバーガーのお店でして。他にも色々な料理がありますよ」
「それはよさそうですね」
 アメリカの特色のひとつだがニューオーリンズも多くの人々がいる。だから食べられる料理も多岐に渡るのだ。
「歌手はかなりいいのが揃っていますよ。ジャズですけれど」
「ジャズですか」
 ニューオーリンズからはじまったアメリカの誇る音楽文化の一つである。
「ジャズはお好きですか?」
「はい」
「なら問題ありませんね」
 こうして二人はその店へ向かった。そして料理と音楽を楽しみに行った。

「そうか、あの男が来たか」
 メガール将軍はニューオーリンズの後方に広がる広大な沼沢地の中にある基地の中でその報告を聞いていた。
「やはりな。すぐに来ると思っていた」
 それは彼にとって予定されたことであった。
「どうなさいますか」
「既に考えてある」
 将軍は戦闘員の言葉にすぐ答えた。
「この時が必ず来るとわかっていたからな」
 彼は思わせぶりにそう言った。
「左様ですか」
「うむ。既に戦力も整えてある」
 彼は戦闘員に顔を向けた。
「私のやり方は知っているな」
「はい」
「ならば良い。既に刺客を送り込んである」
「刺客をですか」
「うむ。だがそれはほんの挨拶だ」
 彼はニコリともせず言葉を続ける。
 いつものように硬い表情である。彼はその顔を変えることはない。
「その者達にはすぐに帰るように言ってある。形勢が不利になったならな」
「何故ですか」
「あの男を倒すのは誰だ」
「それは・・・・・・」
 戦闘員は問われ少し口篭もった。
「私以外にはおらん」
 彼は答えられないのはわかっていた。だから自分で言った。
「それが運命なのだ。私のな」
 彼の声は沈んだものになっていた。
「私のこの身体とスーパー1のあの身体」
 恨めしそうに言った。
「同じものであった筈なのだ」
 顔を少し上に上げた。
「それが何故こうなったのか」
 暗い表情がさらに暗くなった。
「悔やんでもはじまらないがそう思わずにはいられない」
 顔を下に向けた。
「だがそうした思いもここで断ち切らねばならない」
 彼はそう言うと再び戦闘員に顔を向けた。
「よいな、あの男を倒し、このアメリカを消し去る」
「はい」
 戦闘員はその言葉に対し敬礼した。
「その為に私は選りすぐりの精鋭達を連れて来た」
「といいますと」
「見よ」
 将軍は右を指差した。そこにあったシャッターが開いた。
「おお」
 それを見た戦闘員は思わず声をあげた。
「この者達が全てを成し遂げるであろう」
「流石です、将軍」
 彼はメガール将軍にバダン設立当初から属していた。その為彼に対する忠誠心も篤かった。
「用意はいいな」
 将軍はそれをよそにシャッターの向こうにいる者達に語り掛けた。
「はい」
 彼等は一様に頷いた。
「よし。ならば早速作戦に取り掛かるぞ」
「わかっております」
 彼等はシャッターから出て来た。全部で五人いた。
「久しいな」
「地獄谷以来ですから」
 彼等は全部で五人いた。その中央にいる忍者に似た服の女が答えた。
「そうだったな。思えばあの時からかなり経つ」
「はい」
 五人は深々と頭を垂れた。
「堅苦しいことはいい。今はそういう時ではない」
 だが将軍は彼等に顔を上げさせた。
「あれの用意もいいな」
「万事整っております」
 五人の中にいるスキンヘッドの大男が答えた。
「そうか」
「何時でも出撃はできます」
 細い目の男が言った。
「ではすぐにでも行こう」
 メガール将軍はシャッターの方へ歩きだした。
「お待ち下さい」
 頭に布を着けた男が彼を引き留めた。
「我々もお供致します」
 虎の毛を着た男も言った。
「よいのか」
 将軍は彼等に顔を向けた。
「この戦いは生きて帰れる保証はないぞ」
「それがバダンの戦い」
 五人はそれに対して言った。
「我等とてそれは承知しております」
「そうか」
 将軍の顔は変わらなかった。だが声は変わっていた。
「是非ともお供を。そしてスーパー1を共に倒しましょうぞ」
「そなた達には別の作戦を執ってもらいたかったのだが」
「それは問題ない」
 ここで後ろから声がした。
「お主は」
 見ればそこに死神博士がいた。
「スペインにいた筈ではなかったのか」
「興味深い話を聞いたのでな」
 彼は科学者特有の冷徹な目でメガール将軍を見た。
「興味深い話?」
「そうだ。お主が使っている機械だ」
「あれか」
「そうだ。一度見たいと思ってな」
 彼はそれ以上は語らなかった。
「よいか」
「どうせ断っても無理に見るつもりであろう。構わん」
「ふふふ、恩に着る」
 彼は前に出た。そして将軍と共にシャッターの向こうの通路を進んだ。
「聞いたところによると古代中国の破壊兵器だそうだな」
「うむ。マタギの里である山彦村に隠されていた」
「その経緯は知っている。それにしてもよく残っていたものだ」
「だから我等も利用したのだ。一度はスーパー1に破壊されたがな」
 後ろにはあの五人が続く。戦闘員達もだ。
 やがて格納庫に辿り着いた。
「ここだ」
 将軍は扉を開けた。
「済まんな」
 死神博士はその扉をくぐった。そして将軍と五人が続く。戦闘員の最後の一人が閉めた。
 中には一機だけ置かれていた。龍の首を持つ巨大な円盤だ。
「ほう」
 博士はそれを見てまず声をあげた。
「見事なものだな」
「お主もそう思うか」
「うむ。これだとこのニューオーリンズは楽に破壊できる。だが」
「だが!?」
「アメリカ全土を瞬時となると難しいな」
「そうか」
 将軍はそれを聞き目を少し暗くさせた。
「時空破断システムを搭載していないな」
「わかるか。装填には成功していない。思ったより扱いにくくてな」
「そうか。では力を貸してやろうか」
「力を!?」
「そうだ。ことと次第によってはお主の作戦もかなり変わるぞ」 
 実は彼はこれに乗りスーパー1ごとニューオーリンズを焼き払うつもりだったのだ。
 当然スーパー1はここに乗り込んでくるだろう。その時はこの兵器ごと自爆するつもりであった。五人には別に作戦を執ってもらい、後を託すつもりだったのだ。
「まずはこれに時空破断システムを搭載する。そして無人飛行が可能なようにする」
「そんなことができるのか」
「私を誰だと思っている」
 死神博士は自信に満ちた声で言った。
「死神博士だぞ」
 それだけで充分であった。彼の名はバダンにおいては権威そのものであった。
「そうか、ではやれるのだな」
「当然だ」
 死神博士は不敵に笑った。薄い唇に自信が満ちる。
「ではとくと見せてやろう。我が技術の粋をな」
 それから数日死神博士は格納庫から出て来なかった。他の者の立ち入りは一切許されなかった。
「恐るべきプロフェッショナルの意識ですね」
 指令室で戦闘員の一人がメガール将軍に対して言った。
「うむ。伊達にショッカーで最高の頭脳と謳われたわけではない」
 将軍も彼には一目置いていた。
「いいか、決して邪魔はするなよ」
 そして周りの部下達にこう言った。
「死神博士は誇り高い。もしそんなことをすれば・・・・・・。わかっているな」
「はい」
 彼等はそれを聞き顔を一瞬青くさせた。死神博士は冷酷非情なことでも知られているからだ。
 誰も格納庫には近寄ろうとしなかった。そしてそこからまた数日が経った。
「終わったぞ」
 死神博士が指令室にやって来た。その顔は格納庫に篭る前と何ら変わってはいなかった。だが表情は自信に満ちたものであった。
「そうか」
 将軍はそれを聞き頷いた。
「では見せてもらおう」
「うむ、とくと見るがいい」
 今度は死神博士が案内した。そして二人は格納庫へ向かった。
「これだ」
 そして博士は基地の中の火の車を指差した。
 見たところ外見には何羅変わったところはない。
「外見ではない、見るところは」
 博士は将軍の次の言葉を見透かしたように言った。
「念じてみよ。飛べと」
「うむ」
 将軍は死神博士に言われ試しに念じてみた。
 すると火の車が宙に浮いた。
「おお」
 将軍はそれを見て思わず声をあげた。
「それでKではない。撃てと念じてみよ」
 言われるままに念じてみた。すると竜の目から黒い光が放たれた。
「時空破断システムを竜の目においたのだ。どうだ、いいだろう」
「うむ、まさかこれ程までのものにしてくれるとは」
 将軍は満足したように言った。
「これなら文句はあるまい」
 博士はやはり自信に満ちた笑みを浮かべた。
「それどころではない。有り難く礼を言わせてもらう」
「礼はいい。当然のことだからな」
 彼にとっては開発も改造も自然なことであった。息を吸うようなものである。
「わしの望みは一つだ。これでアメリカを、スーパー1を倒すがいい」
「わかった」
 将軍は頷いた。
「喜んで使わせてもらおう」
「それでいい。では健闘を期待するぞ」
「うむ」
 死神博士は踵を返した。そして格納庫から姿を消した。
 将軍は暫く格納庫に残っていた。そして火の車のテストを繰り返していた。
「将軍」
 そこにあの五人がやって来た。
「御前達か」 
 彼は五人に顔を向けた。
「見よ、これが死神博士の改造した火の車だ」
 彼はそれを指差して言った。
「私の意のままに動く。これ程までのものを作るとはな。流石だと思わんか」
「その死神博士ですが」
 見れば彼等は険しい顔をしている。
「言いたいことはわかっている」
 将軍は落ち着いた顔で頷いた。
「はい、死神博士といえば」
 狡猾な一面もあったのだ。だからこそショッカーにおいて大幹部として君臨することができたのだ。
「それはわかっている。だがもしそうならばこちらにもやり方がある」
「といいますと」
「簡単なことだ。これを使わなければよい」
 メガール将軍は素っ気ない声で言った。
「そういう顔をする必要はない」
 将軍は五人が表情をさっと暗くさせたのを見て宥めた。
「それはそれでもう考えてある。当然死神博士もそれはわかっているだろう」
「それはそうですが」
 よく考えてみればあの死神博士がそこまで頭が回らないとはとても思えなかった。
「だがこれで二正面作戦を展開することが可能になったな。我々tこの火の車とでだ」
「はい」
「では作戦会議に移ろう」
 メガール将軍は五人に対して言った。
「今後のスーパー1及びアメリカをどうするかについてな」
「わかりました」
 こうして将軍と五人は指令室に戻った。見ればモニターがついたままである。
「来たか」
 そこには死神博士がいた。彼は将軍達に顔を向けた。
「丁度いいものが行われているぞ」
「いいもの?」
「見るがいい」
 死神博士はその手に持つ鞭でモニターを指し示した。見ればそこにはスーパー1が映っていた。
 彼だけではない。他にもいた。
「ム」
 見ればバダンの戦闘員達である。
 スーパー1は彼等と戦っている。街は言うまでもなかった。
「これはどういうことだ」
 メガール将軍は死神博士に問うた。
「お主に見せたいものがあってな」
 彼は不敵な笑みを浮かべていた。
「私にか」
「そうだ。スーパー1が改造手術を受けているのは知っているな」
「無論だ。全てのライダーが受けていることをな」
 それはメガール将軍も知っていることであった。
「だがその戦闘までは見ていないだろう」
「残念だが。スーパー1は東南アジアにいたのでな。私は北欧だった」
「それは仕方ないな。だが一度その目で見ていた方がいい」
「うむ」
 スーパー1はその拳法でもって戦闘員達を次々と倒していた。
「また腕を上げているな」
 将軍はそれを見て言った。
「単に改造のせいだけではない。腕自体もかなり上達している」
 スーパー1は赤心少林拳の使い手である。
「そして」
 将軍の目はそこに留まらなかった。
「格闘スタイルはそれ程変わりはないようだな」
「そうか」
 死神博士は拳法にはあまり興味がない。
「やはり守り主体か。ならばそこに攻め方がある」
「見出したようだな」
「うむ。私もまた拳法を使うからな」
 ドグマの帝王テラーマクロから直伝されたものである。
「ではそれを使うのだな」
「うむ。だが」
 将軍はここで考える顔をした。
「当然工夫はしていくつもりだ」
「そうであろうな」
 死神博士にもそれはわかった。
「だがそれはお主自身で考えることだ。私の管轄外だ」
「わかっている」
 将軍は頷いた。
「見ているがいい。私がどう戦い、どう勝つのかをな」
「楽しみにしておこう」
 博士は唇の端だけで笑った。
「では私はこれで失礼させてもらう。こちらもそろそろ作戦の準備があるのでな」
「確かセビーリャだったな」
「うむ、よい街だ」
 スペイン南部の港町だ。死神博士の出身地でもある。
「そこから欧州の地獄がはじまる。ダンテの神曲のようなな」
「また古い作品を出すな」
「地獄を描いた作品としては最もよい。まさにあれこそ地獄だ」
 彼等は復活するまでその地獄にいた。だからこそよくわかるのだ。
「地獄はいい。実に快適だった。そして」
 彼の目が妖しく光った。
「この世にそれを復活させればそれこそ我がバダンの理想郷となる」
「それは同意する」
 メガール将軍にとってこの世界は破壊されなければならないものである。
「だが私はそれよりもまず為さねばならないことがある」
「それがあの男との戦いだな」
「そうだ」
「思う存分やるがいい。ではな」
「うむ」
 こうして死神博士は姿を消した。そして後には何も残らなかった。
「行ったか」
 将軍は彼が姿を消すのを見届けた。
「では我々も行くぞ」
「はい」
 五人は同時に頷いた。
「仮面ライダースーパー1よ」
 彼は暗い目で呟いた。
「今度こそ貴様との決着をつける」
 そして五人に顔を向けた。
「よいな。その為にはそなた達の力が必要だ」
「わかっております」
 五人はその言葉に頷いた。
「我等の命はメガール将軍に預けます」
「すまん」
 メガール将軍は頷いた。そして言った。
「行くぞ、仮面ライダースーパー1を倒しに!」
「ハッ!」
 五人だけではなかった。戦闘員達も続いた。彼等はメガール将軍を先頭に基地から出撃していった。

 戦闘員達との戦いを終えた沖と佐久間はニューオーリンズの郊外にいた。
「街から少し行くと沼地ばかりですね」
「ええ。ですから結構蚊も多いんですよ」
 沖が答えた。
「ミシシッピー河の河口にありますからね。どうしても水気が多くなってしまうんです」
「そうなのですか。南部にはあまり来たことがないですからそれは知りませんでした」
「佐久間さんは主にニューヨークや五大湖近辺で活動されたんですよね」
「はい。あちらはここよりはずっと乾燥していますね」
 ニューヨークとニューオーリンズでは気候にかなりの違いがある。ニューヨークは西岸海洋性気候だがニューオーリンズは亜熱帯に近い。すぐ前にはカリブ海が広がっている。
「五大湖にしろ寒い位ですからね」
「そうでしょうね。しかしアメリカは広い」
「こうした街もあるということですね」
「はい。アメリカは多くの顔を持つ国です。このニューオーリンズにしろそうです」
「隣にはテキサスもありますね」
 西部劇での有名な舞台である。
「テキサスもまたアメリカです。シカゴもニューヨークもまたアメリカです」
「面白い国ですね。様々な顔がある」
 役はあらためてそれを知った。
「これでバダンさえいなければ」
 佐久間は少し苦笑させた。先の小競り合いを思い出したのだ。
「ですが見逃すわけにはいかない」
 沖はここで険しい顔を作った。
「バダンを倒すことこそが俺達の使命なのですから」
「わかってますよ」
 佐久間は答えた。
「世界を守ることがライダーの役目。そしてその為には」
「全てを賭けます」
 その顔は引き締まっていた。強い決意が見られた。
「俺がライダーとして生まれ変わったその日からそれは決まっていたことです。いや」
 彼はここで言葉を訂正した。
「俺がこの世に生まれた時からそれは決まっていたのかも知れません」
「運命ですか」
「はい」
 佐久間は頷いた。
「人の一生はおそらく生まれる前から決まっているんだと思います。その人が何をするのか」
「そして貴方はライダーになる運命だったと」
「ええ。ならば俺はその運命に喜んで従います。ライダーとして」
 彼もまた強い決意を胸に持っていた。佐久間は彼にもライダーとは何であるかを感じ取っていた。
「だからこそ」 
 彼はここで街の方を振り向いた。
「絶対に守り抜きます。この世界を」
「はい」
 佐久間もそれに頷いた。その時だった。
「運命か」
 後ろから声がした。
「出たな」
 沖と役は素早く向き直った。
「久方ぶりだな。沖一也よ」
 そこにはメガール将軍が立っていた。あの五人と戦闘員達も一緒である。
「奇巖山以来だな」
「そうだな」
 彼はあの時のバダンとの対峙を脳裏に思い出した。
「メガール将軍よ」
 彼はすぐに構えをとった。赤心少林拳の構えである。
「貴様がここに来た理由はわかっている」
「そうか」
 彼はゆっくりと前に出た。
「お待ち下さい」
 だが後ろに控えていた五人が彼の前に出た。
「ここは我等にお任せを」
 彼等はそう言って将軍を制止した。
「よいか」
 将軍は彼等を一瞥して問うた。
「はい」
 五人は胸のところで左手に拳を作り右手の平でそれを包んで答えた。
「ならば見せてもらおう。そなた達の戦いを」
「有り難うございます」
 五人は頭を垂れた。そして沖と佐久間に向かい合った。
「沖一也よ」
 五人の中心にいる黒服の女が彼に問うた。
「我等のことは覚えているな」
「無論だ」
 沖は構えを保ったまま答えた。
「地獄谷五人衆、忘れる筈がない」
「ならばよい」
 五人はここで左右に散った。
「鷹爪火見子」
 黒服の女が名乗った。
「蛇塚蛭夫」
 細目の男が続いた。
「熊嵐大五郎」
 スキンヘッドの大男が。
「大虎竜太郎」
 虎の毛を羽織った男も。
「象丸一心斎」
 最後に頭に布を巻いた男が。五人はそれぞれの名を名乗り終えると構えをとった。
「ムン!」
 掛け声と共にその全身を気で覆った。するとそれぞれその身体が変わっていった。
 まずは鷹爪の身体が紅くなる。翼が生え爪と嘴が生える。
「サタンホーク!」
 蛇塚の身体が緑色になる。そして顔が蛇のそれになる。
 身体に蛇が巻きつき左手も蛇に変化する。
「ヘビンダー!」
 熊嵐の額に金属の三日月が出る。鬣と鉄の身体が全身を覆う。
 そしてその左腕は鉄球になる。
「ストロングベア!」
 大虎の身体はその身に着けている虎の毛皮と同化していく。
 爪が生えた。そして牙も生え揃った。
「クレイジータイガー!」
 象丸の右手に巨大なバズーカが現われる。その身体も青灰色になる。
 牙が生え目が赤くなった。
「ゾゾンガー!」
 彼等はそれぞれ怪人に身体を変えた。そして沖を取り囲んだ。
「覚悟はいいか、沖一也!」
 サタンホークが彼の前に出て問うた。
「せめて苦しまぬよう一撃で倒してやる!」
 そう言うと両手の爪で引き裂かんとした。だが沖はそれを上に跳びかわした。
「無駄だっ!」
 だがそこにゾゾンガーが砲撃を仕掛けた。右手に持つバズーカを使ったのだ。
「沖さん!」
 佐久間が思わず叫んだ。沖は爆風の中に呑み込まれたかに見えた。
 だがそれはそう見えただけであった。彼はその中からすぐに出て来た。
「トォッ!」
 その時には姿は変わっていた。スーパー1に変身していたのだ。
「変身したか、やはりな」
 後方から戦いを見守るメガール将軍はそれを見て呟いた。
「油断するな」
 将軍は五人に対して言った。
「スーパー1の力は知っていよう。気を抜いてはならんぞ」
「ハッ」
 五人はそれに対し振り向くことなく頷いた。顔はスーパー1から離さない。
 スーパー1は五人の輪の中に着地した。そして構えをとっている。
 佐久間は既に戦闘員達と戦っている。そしてスーパー1の戦いもはじまった。
「行くぞっ!」
 まずはサタンホークが跳び掛かって来た。その爪で再び切り裂かんとする。
「二度も同じ手にっ!」
 だがスーパー1はそれを巧みにかわした。足捌きだけで、である。
 しかしそこにヘビンダーがやって来た。
「サタンホーク、助太刀するぞ」
「済まない」
 サタンホークは右に、ヘビンダーは左に展開した。
「ふふふふふ」
 ヘビンダーは無気味な笑い声を漏らした。そしてその左手を伸ばしてきた。
「甘いっ!」
 しかしスーパー1はそれもかわした。だがそこに鉄球が襲い掛かって来た。
「ムンッ!」
 それは蹴りで弾き返した。パワーハンドに換える暇はなかった。
「よくぞ今のを防いだ」
 そこにはストロングベアがいた。
「だがこれはどうかな」
 間合いを離す。そして胸のブーメランを取り外した。
「**(確認後掲載)っ!」
 そのブーメランをスーパー1めがけ投げつけた。しかしスーパー1は既にレーダーハンドに腕を換えていた。
「させん!」
 そして右手からミサイルを放った。それでブーメランを撃ち落とした。
 しかし息をつく暇はなかった。そこに槍が襲い掛かって来た。
 今度はクレイジータイガーの槍だった。怪人はそれを手足のように使っている。
「俺もいるということを忘れるな」
「クッ」
 他の三体の怪人もスーパー1を取り囲もうとする。ゾゾンガーは離れた場所で他の四人を援護しようとバズーカを構えている。
「さあ、どうする、スーパー1よ」
 メガール将軍はスーパー1を見据えて言った。
「山彦村の時は各個撃破されたが今度はそうはいかんぞ」
「そのようだな」
 スーパー1は五体の怪人に囲まれながらもいささかも怯んではいなかった。恐怖なぞ何処にもなかった。
「今度はあの時のようにはいかんぞ。それを今教えてやろう」
「それはどうかな」
 しかしスーパー1はまだ諦めてはいなかった。
「こうした時の戦い方もあるということを見せてやる」
「そうか」
 何かあるな、メガール将軍はすぐにそれを悟った。
 だがそれに対処するつもりはなかった。ここは様子を見ることにした。
(この五人さえ無事ならそれでいい)
 彼はそう考えていた。いざという時は自分が出る筈だった。
「待て、スーパー1」
 将軍とスーパー1の会話を遮る様にクレイジータイガーが出て来た。
「今の貴様の相手は我等だ。まずは我等の相手をしてもらおうか」
「望むところだ」
 スーパー1はそれを受けた。腕をすぐに換えた。
「チェーーーーンジ、エレキハァーーーーーンドッ!」
「エレキハンドか」
 メガール将軍は彼が換えた青い手を冷静な様子で見ていた。
「それをどうするつもりだ」
 表情を一切変えない。ただスーパー1を見ている。
「さあ来いっ!」
 そして怪人達を挑発する様に言った。
「言われなくとも!」
 怪人達はそれに対しスーパー1の言葉が終わらぬうちに一斉に進み出た。その瞬間に隙が生じた。
「よし、今だ!」
 スーパー1はその隙を見逃さなかった。すぐにその青い拳を地面に撃ち付けた。
「エレクトロサンダーーーーーーーッ!」
 地面に電流を放った。ストロンガーが得意とするあの技だ。
「ウオオッ!」
 これには怪人達も思いもよらなかった。全身を電流に覆われもがき苦しむ。
「そうか、広範囲に電流を放ち対処したのか」


[198] 題名:神殿の闘神2 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2004年09月19日 (日) 03時06分

「ムン!」
 ライドルを一閃させた。それは怪人の額を断ち切った。
「エェヒィーーーーーーンッ!」
 奇械人トラフグンは断末魔の叫び声をあげた。そして彼もまた同僚達の後を追い爆死した。
「残るは貴様だけだ!」
 ]ライダーはナマズギラーをライドルで指し示した。
「アレレレレレレレレッ!」
 怪人はまず全身に力を溜めた。
「何をする気だ!?」
 ]ライダーは咄嗟に身構えた。これが仇になった。
「アレーーーーーーーーッ!」
 怪人は全身から電気を放ってきた。電気ナマズの改造人間だったのだ。
「クッ、しまった!」
 ]ライダーは自分の迂闊さを悔やんだ。水は電流をよく通すのだ。
「グググ」
 しかしそれでも]ライダーは踏ん張った。顔を上げ怪人を睨みつける。
「ほお、まだやる気か」
 ナマズギラーは既に勝利を確信しちえた。電流のダメージはかなりのものである筈だからだ。
「だがこれで終わりだ」
 今度は口髭を伸ばしてきた。
「じかに電流を味あわせてやるわ!」
「今だ!」
 ]ライダーは髭が伸びてきたのを見て咄嗟に動いた。
「貴様の力の源はそれだな!」
 彼はナマズギラーの髭に電流が宿っているのを見て言った。
「ならばそれを断ち切ればいい!」
 そしてライドルを一閃させた。髭はそれぞれ断ち切られた。
「グオッ!」
 ]ライダーの予想は当たっていた。それは怪人の力の源であった。
 怪人の身体から電流が消えていく。これで勝負は決まった。
「トゥッ!」
 ライドルを袈裟斬りにした。怪人は鮮血を水中に撒き散らしその場で爆死した。
「成程な。さらに腕をあげている。戦う度に」
 アポロガイストはその戦いぶりを見て言った。
「アポロガイスト、来い!」
 ]ライダーはそんな彼をライドルで指し示していた。
「言われずとも行こう」
 ゆっくりと動いた。そして降りて来た。だがそこで山が動いた。
「ムッ」
 それはキングダークの腕であった。彼は両者の間に入るようにして上がって来た。
「キングダークか」
 キングダークは]ライダーの前にその巨体を現わしてきた。アポロガイストはそれを見て後ろに退いた。
「わかった。ではまずは貴様に任せよう」
 彼は後方に退いた。そして]ライダーとキングダークの戦いを観戦することにした。
「]ライダー、残念だがまずはキングダークと戦ってもらう。俺との勝負はその後だ」
「わかった」
 ]ライダーのそれを了承した。
「一つ言っておく。キングダークも生まれ変わった」
「どういう意味だ!?」
「かってのキングダークは総司令自ら動かされていた」
 最初キングダークは鉄の巨人だと思われていた。だが]ライダーが中に潜入するとそこにはゴッド総司令である呪博士がいた。彼が脳波でキングダークを操っていたのであった。
「今は違う。話すことはできないが自らの意思で動いているのだ」
「人工知能か」
「そうだ」
 アポロガイストは答えた。
「さあ]ライダーよ、この新生キングダークに勝つのだ。そしてこの俺と決着をつけろ」
 それこそがアポロガイストの望みであった。彼はあくまで]ライダーと決着を着けることを望んでいるのだ。
 だがキングダークにも意思がある。例えそれが人工知能であったとしても。彼は]ライダーを見据えるとその岩石の様な腕を振り回してきた。
「来たか」
 その腕で掴もうとする。だが]ライダーは巧みに泳ぎそれをかわした。
 しかしそこにもう一撃来た。もう一方の手で殴ろうとする。 
 だが力が減退されている。やはり水中では思う様に動けない。
「この程度ならば相手にはならん」
 ]ライダーはその拳をかわしながら言った。そしてライドルを身構えた。
「行くぞ、キングダーク!もう一度貴様を地獄に葬ってやる!」
 そして飛ぶ様に泳ぐ。そのままキングダークの懐に潜り込む。
「グオッ」
 キングダークの呻き声にも似た叫び声が出てきた。そして]ライダーを防ごうとする。
 しかし]ライダーの動きは彼のそれより遥かに速かった。彼はすぐにキングダークの身体に貼り付いた。
「ほお、そう来るか」
 アポロガイストはそれを見て言葉を漏らした。手出しをするつもりはないようだ。
「だが通用するかな、キングダークに」
 彼は]ライダーのその戦術をやや冷ややかに見ていた。
「まあやってみるがいい。負けないようにな」
 ]ライダーはその言葉を聞いてはいなかった。ライドルで繫ぎ目を突く。
「トォッ!」
 だがその手応えはなかった。いや、見事に弾き返されてしまった。
「何ッ!」
「グググ」
 上からキングダークの呻く様な笑いが聞こえて来る。腕が動いた。
「危ない!」
 ]ライダーは素早くキングダークから離れる。そして止むを得ず間合いを離す。
 腕が遂先程まで]ライダーがいた部分を襲う。少しでも遅れていたならば命はなかったであろう。
「まさか以前より硬度が増しているのか」
「その通りだ」
 アポロガイストは]ライダーに対して答えた。
「このキングダークはただ復活したわけではない。以前よりも遥かに強くなっているのだ。水中ではわかりにくいだろうがな」
「クッ、そうだったのか」
 ]ライダーはそれを聞き歯噛みした。
「そして違うのは力だけではない」
 アポロガイストの言葉に合わせるかのようにキングダークの両目に黒い光が宿っていく。
「クッ!」
 ]ライダーはそれを見て慌ててその場から離れる。そこに二条の黒い光が襲い掛かった。
「やはりな。そう簡単には当たらぬか」
「当たるものか」
「そうでなくては面白くない。だがな」
 アポロガイストの声は笑っていた。
「何時までもかわせるものではない。さて、どうする?」
 確かに]ライダーは今はかわしている。だがその動きにキレが次第になくなってきていた。疲れが出てきたのだ。
「クッ、まずいな」
 それは彼も自覚していた。危機が近付いているのがわかった。
 彼は考えた。敵の守りは硬い。まともな攻撃では通用しない。
「]キックでも無理だ」
 水中ではただでさえ威力が大きく減少する。だからこそ怪人達との戦いもライドルで行ったのだ。
「どうすればいい」
 彼は黒い光をかわしながら考えた。攻撃を当てることは容易なのだ。
「あれだけの巨体ならば当然か」
 そう、巨体であった。
「待てよ」
 彼はここで閃いた。
「攻撃を当てることは容易だ。ならば」
 彼はまずは間合いをさらに広くした。
「?どうするつもりだ」
 アポロガイストはそれを見て不思議に思った。
「あの間合いならば攻撃は全くできないぞ」
 だが]ライダーはあえて間合いを広くしている。そして彼は叫んだ。
「来い、クルーザー!」
 マシンを呼んだ。すると後ろから銀のマシンがやって来た。
「よし!」
 そしてそのマシンに跳び乗った。マシンは速度を全く緩めない。
 そのままキングダークに突進していく。アポロガイストはそれを見て思わず叫んだ。
「それがあったか!」
 キングダークは光を放つ。だがそれはマシンの魚雷の様な動きの前に全く無力であった。
「この程度で!」
 ]ライダーは突き進む。キングダークは腕を振り回す。
 だが当たるものではない。]ライダーはそのまま体当たりを敢行する。
「クルーザーアターーーーーック!」
 そしてキングダークの腹の突攻する。激しい衝撃が水中で起こった。 
 マシンがキングダークの腹を撃ち抜いた。そして背中から飛び出て来た。
「決まったな」
 ]ライダーは暫くそのまま進むと機首をキングダークの背に向けて反転させた。そこではキングダークが貫かれたままで動きを止めていた。
 やがてガクリ、と頭を垂れた。そしてそのまま爆死した。
「キングダークはこれで死んだか」
 ゴッド悪人軍団を掌握していた巨大な魔人を再び地獄に葬り去ったのであった。だが戦いはそれで終わりではなかった。
「見事だ、]ライダーよ」
 目の前にあの男がやって来た。
「マシンを使うとは思わなかった。流石だと褒めておこう」
「アポロガイスト」
 ]ライダーは宿敵を見据えた。
「待て、今貴様と戦うつもりはない」
「どういうことだ」
 ]ライダーは問い詰めた。アポロガイストはそれに対して言った。
「今の貴様は疲れきっている。そんな状況の貴様に勝っても嬉しくとも何ともない」
 彼は弱っている敵の相手をする趣味はない。
「日をあらためる。勝負は三日後だ」
「三日後か」
「そうだ。場所はパルテノン神殿」
 アテネにあるアテネ女神の神殿だ。
「時間は正午だ。必ず来るがいい」
「言われずとも」
「ふふふ、それでいい」
 アポロガイストはそれを聞いて笑った。
「では楽しみにしているぞ]ライダーよ。そこで決着を着けようぞ」
「望むところだ」
 ]ライダーもそれを了承した。これで決まりであった。
「今日はこれでさらばだ。だが三日後貴様は死ぬ」
 彼はそう宣言した。
「それまでこの世に未練がないようにしておくがいい」
 そして海中から消えた。あとには]ライダーが残った。
「最後の戦いか、アポロガイストと」
 ゴッドの時には数多くの死闘を繰り広げた。そしてバダンになってからもであった。彼の行くところ常に彼の姿があったと言ってもよい。例外は日本だけであったが奇巌山で対峙している。
「・・・・・・・・・」
 ]ライダーは思うところがあった。だがそれは口には出さなかった。
 そして彼も海から姿を消した。後には死闘を告げる怪人達の残骸が残されていた。

 アポロガイストは基地に帰るとすぐに指令室に入った。そして言った。
「すぐに残りの戦闘員を集めよ」
 と。指令室にいた戦闘員達は突然のその言葉に驚いた。
「全員ですか」
「そうだ」
 アポロガイストは頷いた。
「基地の外に出ている者全員だ。このギリシアにいるバダンの者は全て集めろ」
「それですとアポロガイスト」
 戦闘員の一人が恐る恐る尋ねた。
「何だ」
 アポロガイストはそちらに顔を向けた。
「この指令室には収まりきれませんが」
 見たところこの指令室はあまり広くはない。少なくともギリシアにいるバダンの者全ては収めきれない。
「そうか」
 アポロガイストはそれを聞き口に手を当てて考え込んだ。そしてまた言った。
「では上に出よう。あそこなら問題ない」
「わかりました」
 戦闘員はその言葉に頷いた。
「ではすぐに全員集めよ。大至急だ」
「ハッ」
 指令室にいる戦闘員達は皆敬礼をして答えた。そしてすぐに召集にかかった。
 暫くするとギリシアにいるバダンの者全てが基地が置かれている宮殿の大広間にやって来た。アポロガイストの宮殿であるアポロン宮殿だ。この宮殿は外からは霧に覆われ決して見えないのだ。レーダーにもかからない。将に謎に覆われた城であった。
「諸君等に来てもらったのは他でもない」
 アポロガイストはバダンギリシア支部、いや東欧にいるバダンの者全てを前にして言った。ここにはギリシアだけでなく東欧のバダンの者も全て集まっていた。彼が召集したのだ。
「バダン東欧本部は今日を以って解散する。諸君等はこれより西欧本部若しくは南欧本部に落ちるがいい」
 西欧本部は今はスペインにある。死神博士の管轄だ。南欧はシチリアだ。百目タイタンがいる。尚北欧本部であるゼネラルシャドウは本拠地を置いていない。これは彼独自の戦略思想に拠るところが大きい。
「な・・・・・・!」
 戦闘員も科学者達も彼の言葉に仰天した。無理のないことであった。
「アポロガイスト、本気ですか!?」
「俺が嘘を言ったことがあるか」
 アポロガイストは平然とした様子で彼等に言葉を返した。
「俺は言ったことは必ず行動に移す。バダン東欧本部は解散だ」
「しかし」
 彼等はそれでもまだ信じられなかった。アポロガイストの性格を知っていてもだ。
「一体何を為さるおつもりですか」
「決まっている、]ライダーを倒す」
 その口調も物腰も毅然としたものであった。
「それでしたら我々の力も必要でしょう」
「そうです、是非お供させて下さい」
 戦闘員達が次々に申し出る。彼は冷酷であったがカリスマ性も併せ持っていたのだ。
「駄目だ」 
 しかし彼はその申し出を断った。
「]ライダーを倒すことができるのはこの俺しかいない。足手まといを連れて行くつもりはない」
「しかし」
「くどい」
 彼は次に来るであろう言葉を拒絶した。
「それ以上言うとその者を今この場で処刑する」
 そして白いスーツの懐から拳銃を取り出した。
「さあ、まだ言いたい者はいるか」
「いえ」
 戦闘員達はその言葉と銃を見て口を閉ざした。他の者もである。
「ならばいい」
 彼はそれを見て銃を懐に収めた。
「ではすぐにこの宮殿から立ち去るがいい。既に爆弾を仕掛けてある」
「それでは・・・・・・」
「案ずることはない。俺が負けることなぞ有り得ない」
 アポロガイストは彼等に対しそう宣言した。
「だから行くがいい。今度会う時はこの手に]ライダーの首を下げている」
「わかりました」
 彼等もそれに従った。そして次々とその場を去って行った。
「さらばだ」
 アポロガイストは去って行く彼等の背を見ながらそう呟いた。
「再び会う。その時までの別れだ」
 そして彼も宮殿を後にした。暫くしてアポロン宮殿は爆発し炎の中に包まれた。そして後には欠片一つ残ってはいなかった。

 バダン東欧本部の者達はアポロガイストの言葉に従い南欧、及び西欧本部に向かった。そしてそこでそれぞれの部に入れられた。
「アポロガイストめ、何を考えている」
 死神博士も百目タイタンも彼の行動について首を傾げた。
「前々から妙な考えを持っているとは思っていたが」
 百目タイタンは地下の己の宮殿の謁見の間で一人考え込んでいた。
「わからんな。何故一人で行くのか」
「フフフ、貴様にはわかるまい」
 そこであの声がした。
「また貴様か」
 それは後ろからであった。タイタンは後ろを振り向いた。
「そうだ。ギリシアでの話を知ってこちらに来てやったのだ」
 ゼネラルシャドウはマントを翻しながら言った。
「アポロガイストの行動の意味がわかりかねているな」
「否定はしない」
 百目タイタンは不機嫌を込めた声で返した。
「何故全力で以って]ライダーに向かわない。俺にはそれがわからん」
「あの男は全力で向かっている」
「一人でか」
「そうだ。奴は己の全てを賭けて]ライダーに向かっているのだ」
「ふむ」
 タイタンはそれを聞いて首を二三回縦に振った。
「つまり戦闘員達を足手まといと考えているのか」
「それもあるだろうが大筋においては違うな」
「では何だ」
「貴様はストロンガーとの闘いを他の者に邪魔されたいか」
「邪魔をするならば命はない。そう」
 ここでシャドウに顔を向けた。
「貴様といえどな」
 その無数の目で彼を睨みつけた。
「そうだろうな。それは俺とて同じこと」
「成程な。奴の考えがこれで理解できたわ」
 タイタンは納得したような声で言った。
「つまり奴は自分自身だけの力で決着を漬けたいというのか」
「そうだ。それにはもう他の者の存在なぞ一切不要だ」
 ゼネラルシャドウは半ば自分自身に言うようにして語った。
「そう、何者ものな」
 今度はその声をタイタンに向けた。
「貴様の言いたいことはわかっている」
 タイタンはまた彼に無数の眼を向けた。
「アポロガイストは]ライダーと一騎打ちで決着を着けたいのだろう」
「そうだ。ようやくわかったか」
「フン」
 シャドウの声に対しいささか不服そうな声を出した。
「俺もその程度はわかる。貴様がどう思っているか知らんがな」
「フフフフフ」
「奴のその心意気は認める。だがな」
 ここでまたシャドウを見据えた。
「奴のとの戦いは俺のものだ」
「それはどうかな」
 だがシャドウも引かない。
「北欧に来たら俺が優先的にやらせてもらう。北欧は俺の管轄だからな」
「勝手にしろ。だがな」
 タイタンはここで言った。
「若し南欧に来た場合はわかっているな」
「当然だ。俺もその程度の分別はある」
 シャドウは言葉を返した。
「もっとも奴の倒すのは誰なのかは既に定まっていることだが」
「どうせまたカードの結果なのだろう」
「悪いか」
「いや」
 タイタンはそれをあえて否定しなかった。
「貴様の占いに口を挟むつもりはない。貴様の好きにすればいい」
「ではそうさせてもらおう」
「だがな」
 タイタンはここで目を光らせた。
「これからは言わなくともわかっているだろう」
「フフフ」
 シャドウはそれに対しては不敵に笑って返した。
「では俺はこれで帰らせてもらおう」
「土産はいるか」
「土産?」
「持って行くがいい」
 タイタンはシャドウに対し何かを投げた。それは一本のワインであった。
「シチリアのワインだ。口に合うかどうかはわからんがな」
「赤か白か」
「白だ。あえて貴様の好みに合わせてやった。有り難く思え」
「心遣い感謝しよう。では俺も返礼をするとしよう」
「何だ」
「受け取るがいい」
 そう言うとマントを翻した。すると空中に数本の煙草が現われた。
「ハバナ産だ。貴様にやろう」
「有り難いな。最近ハバナ産に凝っていてな、早速失敬させてもらおうか」
「好きにするがいい」
 タイタンはそれを掴んだ。そして指で火を点けた。すぐに口に含んだ。
「フム」
「美味いか」
「ああ」
 タイタンは満足した様に口から煙を吐いた。
「葉巻はいい。どうも普通の煙草では味わいがない」
「そんなにいいのか」
「貴様もどうだ」
「いや、俺は煙草は吸わん」
 シャドウはそれに対しては右手を出して拒絶した。
「酒は嗜むがな」
「そうか。ではこの葉巻は全ていただくとしよう」
「その為に持って来た。そうするがいい」
「わかった」
 タイタンは遠慮なく葉巻を全て手に取った。そしてそれを全て収めた。
「ではな。俺は本拠地に帰らせてもらう」
「ああ」
 その時だった。不意に上の方から声がした。
「タイタンにシャドウよ」
「その声は」
 忘れられる声ではなかった。あの声であった。
「元気そうで何よりだ」
「首領!」
 二人はすぐにその場で片膝を着いた。そして恭しく頭を垂れた。
「フフフ、よい。そう畏まらなくともな」
「ハッ」
 だが二人はそれでも片膝を着いたままであった。
「御前達に声をかけたのは他でもない」
「何でしょうか」
「うむ」
 首領はここで一旦言葉をとぎらせた。そしてまた口を開いた。
「今度の作戦だが」
「はい」
 二人は次の言葉を待った。
「一つに集中させる。北欧本部及び南欧本部は統合させる」
「統合ですか」
「そうだ」
 首領は厳粛な声でそう言った。
「そして本部はこのシチリアに置く。そしてここで時空破断システムを使用するがいい」
「わかりました」
 二人はそれぞれ時空破断システムを授かっていた。それぞれそれを兵器に装填しているところであった。
「指揮権はそなた達二人に任せる。上手くやるようにな」
「ハッ」
 二人は頭を垂れながらチラリと互いを見た。何かを含む目であった。
「この欧州を死の荒野とするがいい。期待しているぞ」
「お任せ下さい」
 二人はそう言って上げていた頭を再び垂れた。
「では任せた。思う存分やるがいい」
「ハッ!」
 こう言い残すと首領はそこから気配を消した。そして彼は何処かへ気配を移した。
「これで欧州はよし」
 彼は既に日本の本部へ移っていた。
「暗闇大使よ」
「ハッ」
 その前には鍵爪を生やした暗闇大使が畏まっていた。
「御前の言う通りだ。二人は早速互いを意識しておったわ」
「そうでございましょう」
 彼はそれを聞き満足した様な笑みを浮かべて答えた。
「あの二人はブラックサタンでも何かと張り合っていました」
「それはよく覚えているぞ」
 首領は思い出した様に笑った。
「思えば滑稽ではあったがな。何かというといがみ合っておったわ」
「そうでございましょう。奴等の属性は水と油の如きものですから」
 タイタンは奸智を好む、だがシャドウは策は弄しても戦いは正々堂々としている。戦い方でもかなりの違いがあった。
「対立しない筈がないのです」
「そしてその対立から力を出させるのか」
「はい。おそらくあの地域に向かうライダーはストロンガーです。チャージアップしたあの男の力は凄まじいものがあります」
「それに勝つ為にだな」
「はい。あの二人は確かに強大な力を持っております。しかしそれだけでは足りません」
「フム。タイタンは死神博士から何かを借りたようだがな」
「それでもです。またシャドウもその全力を出すでしょうが」
「それだけでは足りないというのだな」
「怖れながら」
 暗闇大使はここでまた頭を垂れた。
「流石だな。かってベトナムにおいてその智略で名を馳せただけはある」
「遠い昔の話です」
 だが彼は心の中で胸を張っていた。それは彼の誇りであるからだ。
「ではシチリアはこれでいいな」
「はい」
「ギリシアだが」
 首領はここで話を移した。
「アポロガイストは一騎打ちを挑むつもりのようだな」
「そうのようです」
「しかも東欧のバダンを解散させてか。どうやら退路を断ったようだな」
「あの男にはあの男の考えがあるのでしょう」
 暗闇大使は考える顔を述べた。
「頭の切れる男だが昔からどうも勝負にこだわるところがある。それが奴の持ち味だがな」
「それがこの度の行動になったのでしょう」
「うむ」
 首領はここで考える様な声を出した。
「ここは奴に任せるとしよう。どのみち東欧ではこれ以上の損害は出ない」
「では独断で東欧本部を解散させたのは不問ですな」
「そうだ。]ライダーを倒せばそれでいい。倒せない時はあの男が死ぬ時だしな」
「では今回はあの男の戦いをゆうるりと見守ることに致しましょう」
「そうだな。アポロガイストも強い。奴の力だと必ずや]ライダーを倒すことができよう」
「ハッ」
「では下がるがよい。そなたも日本での作戦があるだろう」
「わかりました。では」
 暗闇大使はマントでその全身を包んだ。そして闇の中に消えた。
「アポロガイスト、期待しておるぞ」
 首領もそう言うと何処かへ姿を消した。そして全ては暗闇の中となった。

「健闘を祈ります」
 竜はパルテノン神殿に向かう神に対して声をかけた。
「有り難うございます」
 神は後ろを振り向いてそれに応えた。その顔には笑みがあった。
「これがアポロガイストとの最後の戦いになるでしょう」
「はい」
 神もそれはようわかっていた。
「今回で決着を着けます。向こうもそのつもりでしょう」
「そうでしょうね」
 今度は竜が頷いた。
「明日またこの場所で。楽しみに待っていて下さい」
「はい。最高級のシャンパンを用意しておきますよ」
「有り難いですね。俺はあれが大好きなんですよ」
「ではそれを楽しみにしておいて下さい」
「ええ」
 神はバイクに乗った。そして今度は振り向くことはなかった。
「絶対に帰って来て下さいよ、神さん。いや」
 竜はここで言い替えた。
「]ライダー」
 戦場に向かう神の背は神のものであった。だがそこには仮面ライダー]の姿がはっきりと現われていた。

 パルテノン神殿はアテネのアクロポリスの丘にある。この神殿が建てられたのは遥かな昔である。紀元前四三二年に当時の優れた建築家や陶芸家を集めて作られた。アテネの守護神である知と戦いの女神アテネの為の神殿であることは言うまでもない。
 ドーリア様式の代表としても知られるこの神殿もギリシアの長い歴史の証人である。東ローマ帝国の時代には教会となっていた。そこに住む神はアテネではなくなっていたのだ。だがその神は変わった。
 東ローマ帝国が倒れオスマン=トルコが支配するようになった。今度はイスラムのモスクとなった。この神殿はアテネから二度も主を変えることになったのだ。
 ギリシアが独立すると本来の神が戻って来た。かって戦乱に崩壊したこともあったが今ではその姿を取り戻している。そして今もアテネを見守っているのである。
「これがパルテノン神殿か」
 神はその前に来た。感慨を込めて神殿を見上げる。
「思っていたよりずっと巨大なんだな」
 ここに来たのははじめてであった。初めて見るこの神殿に対して思いを馳せずにはおられなかった。
 神が座すこの神殿で今運命の戦いがはじまろうとしていた。神はそのことを考えると複雑な思いになった。
「戦いの女神の神殿での戦いか」
「我等の決着を着けるのに相応しい場所だとは思わないか」
 神殿の柱の陰から白いスーツに身を包んだアポロガイストが姿を現わした。
「確かにな」
 神はそれに応えた。
「アテナは戦いを司る。だがそれは決してアーレスの好むような戦いではない」
 アーレスもまた戦いの神である。ゼウスとヘラの息子だ。同じ戦いの神であってもアテナと違い粗暴で血を好む。その為あまり親しまれてはいない。
「あくまで知と技による戦いなのだ」
「そうか」
 神はアポロガイストのその言葉に頷いた。
「我等の戦いに相応しいとは思わないか。かって日本において幾多の死闘を繰り広げた我等にとってな」
「それは貴様に同意する」
「有り難いな。どうやら気に入ってもらえたようだ」
 アポロガイストは口の左端を歪めて笑った。
「でははじめるとしよう。我等の最後の戦いを」
「望むところだ」
 アポロガイストは神の前に降りて来た。そして二人は睨み合う。
「行くぞ」
 まずはアポロガイストが構えをとった。

 アポロ
 両手を肩の上まで上げる。そしてそこから一旦左右に大きく開く。
 チェンジ!
 その両手を顔の前でクロスさせた。白いスーツが黒く変わった。
 背中に白いマントが現われる。右手が変形し左手に炎の楯が現われる。
 顔が赤い仮面に覆われた。アポロガイストはクロスさせている両手を元に戻した。

「さあ来い!」
 神に対して叫ぶ。神もそれに対して構えをとった。
「行くぞ、アポロガイスト!」
 そして変身に入った。

 大変身
 両手を真上に突き出す。そこからゆっくりと左右に開く。斜め上で止める。
 身体が銀のバトルボディに覆われ胸が赤くなる。黒い手袋とブーツが現われた。
 エーーーーーーックス!
 そして左手を拳にして脇に入れる。右手を手刀にして斜め前に突き出す。
 銀色の仮面が顔の右半分を覆うと左半分もすぐに覆われた。そして眼が赤くなった。

 全身を光が包んだ。そして仮面ライダ−]が姿を現わした。
「トォッ!」
 ライドルを引き抜いた。そしてアポロガイストに襲い掛かる。
「ムンッ!」
 アポロガイストはまずそれを楯で受けた。そして戦いを開始した。
 楯でライドルを受けると右手のサーベルで突いた。]ライダーは後ろに跳びそれをかわす。
 後ろに跳ぶとすぐに反撃に転じた。前に跳びライドルで突く。
 それを払う。そして今度は切り払う。]ライダーはライドルでそれを受ける。
「流石にやるな」
 アポロガイストはそこで言った。
「貴様こそな」
 ]ライダーも負けてはいない。彼等は鍔競り合いを開始した。
 両者共一歩も引かない。そして同時に後ろに退く。
 アポロガイストは今度は右腕を前に突き出してきた。そして銃弾を放ってきた。
「アポロマグナム!」
 銃弾が襲い掛かる。だが]ライダーはそれに対して逃げようとはしない。
「この程度っ!」
 そう叫ぶとライドルを身体の前に風車の様に激しく回転させた。
「ライドル地獄車!」
 そしてそれで銃弾を全て弾き返した。
「ならばっ!」
 今度は左手を大きく振り被った。そこには楯がある。
「ガイストカッターーーーーッ!」
 横からその楯を投げる。楯の横の刃が高速回転をしながら襲い掛かる。だが]ライダーはそれから目を離してはいなかった。
「トォッ!」
 上に跳ぶ。そして紙一重でそれをかわした。
「甘いな」
 しかしアポロガイストはそれに対して余裕の笑みを見せた。
 楯が後ろで飛んでいる。だがそれは急に向きを変えた。]ライダーはそれに気付いてはいないようだ。少なくともそう見ることができた。
 だが]ライダーも伊達に今まで多くの組織と戦ってきたわけではない。それは見切っていた。
「トォッ!」
 ガイストカッターが背中に突き刺さるその直前に跳んだ。そしてそれをかわした。
 ライドルを使い空中で大車輪をする。そして着地した。
「これをかわすとはな」
 アポロガイストは楯を左手で受けながら言った。
「見事なものだ。褒めてやろう」
「あと少し跳ぶのが遅れていたら俺は死んでいた」
「そうか。ならばこれで死ぬがいい」
 またマグナムを放ってきた。だがそれは簡単にかわされてしまう。
「フン、この程度では最早通用せぬか」
「言った筈だ、ライダーに同じ技は通用しないと」
「確かにな」
 彼はそれを聞くと構えを変えた。
「ならばこのサーベルで決着を着けよう。良いか」
「望むところだ」
 ]ライダーもライドルをスティックからホイップに換えた。そして身構えた。
「行くぞ!」
「来い!」
 そして両者は再び激しく斬り合った。銀の火花が辺りに飛び散る。
「**(確認後掲載)っ、]ライダー!」
「誰が!」
 左右に斬り合い、突きを繰り出す。そしてそれを防ぎ反撃を仕掛ける。双方一歩も引かなかった。
 アポロガイストのマントが翻る。]ライダーは上に跳ぶ。やがて斬り合いは百合を越えた。
 それでも決着は着かなかった。]ライダーは突きを繰り出した。
「フンッ!」
 アポロガイストは楯でそれを防ぐ。その瞬間激しい衝撃が彼を襲った。
「何っ!」
 楯が粉々に砕けたのだ。]ライダーの突きが彼の楯を打ち砕いたのだ。
 さらにライドルを繰り出す。だがそれはアポロガイストのサーベルの前に全て防がれてしまう。
 楯を失おうともアポロガイストは怯まなかった。なおも激しい攻撃を繰り出し続ける。
 ]ライダーもだ。時は流れやがて陽が落ちる頃になった。
 両者は徐々に疲れを感じるようになっていた。そして互いに隙を窺うようになった。
(早く勝負を決めなければ)
(こちらがやられる)
 ]ライダーもアポロガイストもそう考えていた。そして互いに動きを止めた。
(これが最後になる)
 それはわかっていた。だが迂闊に動くことはできなかった。先に動いた方が負けだからだ。
(来い)
 二人は互いを窺う。だがピクリとも動かない。
 そのまま時が過ぎていく。次第に焦りを感じるようになった。
(おのれ)
 痺れを切らしだしたのはアポロガイストの方であった。彼の気性がそうさせた。
(何とかして決めなければ)
 隙を窺う。だが相手もそうそう迂闊ではない。隙は見せない。
 だが一瞬であった。]ライダーはピクリ、と動いた。
(ムッ!?)
 右腕が動いた。ライドルを持つ手だ。
 胸が空いた。心臓が見えた。
「今だ!」
 それを見たアポロガイストはすぐに動いた。
「これで最後だ!**(確認後掲載)、]ライダー!」
 そして突きを繰り出す。心臓を突くつもりであった。
 突進するアポロガイスト。だが]ライダーはそれを見ても焦らない。
 彼も動いた。そしてスッと前に出た。
「よし!」
 そして態勢を崩したアポロガイストに向かった。
「喰らえ」
 そしてライドルを繰り出す。
「ライドル三段突きーーーーーっ!」
 アポロガイストの胸にライドルを繰り出した。それは彼の胸を激しく突いた。
 心臓を、腹を。そして喉を。三つの急所を瞬く間に貫いた。
「ガハッ!」
 アポロガイストは思わず呻き声を出した。そして前に崩れていく。
 ]ライダーはそれをすり抜けた。そしてアポロガイストの背の方に振り向いた。
「終わったな」
 アポロガイストは崩れ落ちていく。やはり急所を貫かれたのは効いたようであった。
 だが彼も意地があった。かろうじて踏み止まった。
「甘く見るな」
 そう言うと倒れ込みそうになるところで態勢を立て直した。
「俺を)誰だと思っている」
 そう言いながら]ライダーの方へ向き直った。
「アポロガイストだ」
 そして完全に立ち上がった。
「見事だ、]ライダーよ。まさか急所を三つ攻撃するとはな」
「咄嗟に繰り出しただけだ。成功するとは思わなかった」
「謙遜はいい。俺は貴様を褒めているのだ」
 彼はそう言いながら変身を解いた。そして白いスーツに戻る。
「軍人であった頃から、いやそれより前から俺は誰にも負けたことがなかった。俺は常に勝利者だった」
 それが彼の誇りであった。
「そしてゴッドに入っても俺は常に勝ってきた。皆俺の前に屍を曝した。だが」
 彼はここで口調を変えた。
「その俺を破ったのが貴様だった。復讐の為に甦ろうともまたしても敗れた」
 アポロン第二宮殿での最後の戦いの時だ。死期を悟った彼は]ライダーに対して戦いを挑んだのである。
「そしてバダンにおいても何度か刃を交えたが遂に勝利を収めることはできなかった」
「長江とモンゴルでだな」
「そうだ。そしてここでもだ。俺は遂に貴様に勝つことはできなかった」
 彼は言葉を続けた。
「だが俺はそれを恥だとは思ってはいない。むしろ誇りだと思っている」
「誇り」
「そうだ。貴様の様な男と最後まで命を賭けて戦ったのだからな。戦士としてこれ以上の喜びはない」
「アポロガイスト」
「そろそろお別れだ。貴様との勝負実に楽しかったぞ」
 そしてニヤリ、と笑った。
「]ライダーよ、さらばだ。俺が戦った中で最強にして最高の戦士よ」
 彼は倒れなかった。最後にこう言った。
「バダンに栄光あれ。偉大なる首領の手に世界が収められんことを!」
 そう言うと彼は爆死した。その後には何も残らなかった。
「アポロガイスト・・・・・・」
 ]ライダーはその爆煙が全くなくなるまで見ていた。そしてその風を正面から受けていた。
「見事な戦士だった。味方だったならどれだけ心強かったか」
 ギリシアの戦いは終わった。こうして東欧に平和が戻ったのであった。

「そうですか、アポロガイストがそんなことを」
 戦いの後アテネの空港で竜は神から戦いの結末を聞いていた。
「見事ですね、バダンにいるのが惜しい位です」
「はい」
 神も同じ意見であった。
「しかしそれがあの男の生き方だったのでしょう。いや、戦士にとって何処に属しているかは関係ない。ただ強い相手と戦いたいだけです」
「それだけが望みですか」
「ええ。ですからあの男は貴方との戦いを最後まで望んだのです。バダンにおいても貴方だけを狙っていた」
「確かに。けれど俺はそれを嫌だと思ったことはなかった。常に倒してやると思っていました」
「そういうものです。貴方も戦士なのですから」
「戦士ですか。ライダーではなく」
 神はそれを聞いて苦笑した。
「あっと、ライダーであることを否定したりはしませんよ」
 竜は笑ってそう弁明した。
「戦士とライダーは同じなのですから」
「同じですか」
「はい、戦いに身を置く者として。しかし」
「しかし!?」
「ライダーは正義の為に戦います。それが戦士であるところにプラスアルファされるのです」
「正義ですか」
「ええ、正義です」
 竜は頷いて答えた。
「それがライダーなのでしょう。貴方達は正義の為にライダーとなった」
「・・・・・・・・・」
 神はそれには沈黙した。決して望んで改造人間となったわけではないのだから。
「それは否定されたいでしょう」
「ええ」
「お気持ちはわかります。私は貴方達の全てを知っているわけではありませんが貴方達のこれまでの戦いやライダーとなった経緯は知っています」
 ライダーと関わる者としてそれを知らない者はいない。特に立花は。
「それぞれそれについて思われるところはあるでしょう。私の考えではそれは全て運命だったのです」
「運命ですか」
 神はそれを聞いて悲しげな顔になった。
「運命だったのですか、俺がカイゾーグ仮面ライダー]となったのは」
「認めたくありませんか」
「いえ」
 彼は首を横に振った。
「そうなんでしょうね。あの時親父と共にゴッドに殺されかけたのは」
 あの時の記憶が甦る。神はゴッドの刺客により父と共に瀕死の重傷を負った。
 しかし彼は甦った。その父が最後の力を振り絞って彼を改造人間にしたのだ。
「敬介、御前はもう人間ではない」
 父神敬太郎はそう言いながら彼に改造手術を施した。
「だが御前の命を救うにはこれしかない。・・・・・・許してくれ」
 その目は泣いていた。父として我が子を改造人間にするには忍びなかった。
 だがそれしかなかった。そして彼は改造人間となり甦った。
 ゴッドとの戦いでも多くのものを失った。恋人であった水城涼子はゴッドの工作員となって彼に襲い掛かってきた。幾度も命を狙われた。
 そして彼女と瓜二つの顔と姿を持つ霧子。彼女達は何と双子の姉妹であったのだ。そして涼子はゴッドに潜入していたのだ。彼を裏切ったわけではなかった。
 その彼女達も死んだ。ゴッドに手にかかったのだ。
 彼には何も残ってはいなかった。だがそんな彼を立花やチコ、マコ達が支えてくれたのだ。
「そしておやっさんと出会ったのも。アポロガイストとの戦いも運命か」
「はい。そして今も戦い続けているのも」
「残酷な運命だ」
 首を横に振ってそう言った。何かを打ち消すように。
「しかし受け入れますよ、喜んで」
 そこで笑顔になった。
「そう言うと思いましたよ」
 竜はそれを聞いて微笑んだ。
「貴方はそういう人です。だからこそライダーになった」
「運命の女神達が選んだのですかね、俺を」
「そうなのでしょう。貴方だけでなく他のライダー達も。そう」
 言葉を続けた。
「貴方達だからこそ選ばれたのだと思います」
「俺達だからですか」
「はい、その運命は確かに過酷です。しかし貴方達ならそれを克服することができます。いえ、しました」
「色々とありましたけれどね」
「それでもです。自分に勝てないとバダンにも勝てません。どれだけ強くとも」
 力の強さは本当の強さではないのだ。心が強いことこそ本当の強さなのだ。竜はそう言っていた。
「その強さがあるから貴方達は戦える。そして勝てる」
「バダンにも」
「当然です。そしてその勝利はもうすぐです」
「はい」 
「では行きましょう。そろそろ最後の戦いがはじまりますよ」
 二人は日本行きの便に向かった。そしてそこから日本に向かった。戦いに向かう為に。

神殿の闘神   完

           2004・9・9


[197] 題名:神殿の闘神1 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2004年09月19日 (日) 02時59分

             神殿の闘神
 この頃ギリシアでは一つの噂が起こっていた。
「二柱の神がエーゲ海に姿を現わしている」
 というものである。
 一人の神は巨大で角を生やした神である。それは赤い目を持ち海の中を進んでいるという。そしてその身体は鋼鉄だと言われている。
 もう一人は赤い仮面を被った神だ。それは神殿に現われ腕の立つ者を探しているという。
「また何とも思わせぶりな神だな」
 それは日本の新聞でも話題になっていた。立花はそれをアミーゴのカウンターで読んでいた。
「おい、御前達はどう思う」
 そこで史郎や純子に尋ねた。
「どうと言われましても」
「まさか本当に神様がいるなんて」
 二人はピントの外れた答えを言った。
「ああ、わかってねえなあ」
 立花はそれを聞いて首を横に傾げて言った。
「バダンの仕業かどうか、って聞いてるんだよ。ほら、思いきり怪しいじゃねえか」
「どう思う、純子ちゃん」
「言われてみれば確かに」
 二人はようやくそれを理解した。そこへ結城が店に入って来た。
「三人共何騒いでるんですか」
 その後ろにはチコとマコもいた。三人で情報収集に出ていたのだ。
「おお丈二、丁度いい時に来た」
 立花は彼の方へ顔を向けた。
「いい時?」
「そうだ、これを読んでくれ」
 そう言うと新聞紙を結城に渡した。
「そこの国際欄だ」
「国際欄ですか」
 結城はそこに目を通した。チコとマコはそれを覗き見る。
「おい二人共、行儀悪いぞ」
 立花はそんな二人を嗜めた。だが二人は新聞から目を離さない。
「ねえマコこれって」
 チコは相棒に話し掛けた。その眉を顰めさせている。
「ええ、多分」
 マコもわかっていた。見れば結城も察している。
「おやっさん、これって」
「怪しいと思うか」
 立花は結城に顔を向けた。
「マスター、これってゴッドの連中よ」
「そうよ、間違いないわ」
 チコとマコは立花に対して言った。
「おい、御前達には聞いてないぞ」
「何よ、私達だって話に入れてくれていいじゃない」
「そうよ、いつも子供扱いして」
「口だけは減らん奴等だ」
 立花はその言葉にいささか閉口した。
「まあいい、言ってみろ」
「マスター、覚えてるでしょ、これ」
 チコは結城が手に持っている新聞を指差して言った。
「何をだ!?」
「ゴッドよ、ゴッド」
 マコも言った。
「ゴッド!?馬鹿を言えあの組織はとっくの昔に滅んでるぞ」
 彼は口を尖らせた。
「だから、バダンってゴッドと同じなんでしょ!?首領が」
「ああ、そうだが」
「だったら話がわかるわ。これキングダークとアポロガイストよ」
「キングダークとアポロガイスト!?」
 立花と結城は二人のその言葉に顔をハッとさせ見合わせた。
「おい、アポロガイストはわかるが」
 立花はその顔を困惑させたものにしていた。
「キングダークはもう破壊されているよ、ゴッドの崩壊と共に」
 キングダークは呪博士共々]ライダーに破壊されているのだ。
「けれどまた作ったんじゃない?今までの大幹部を全員甦らせたんだし」
「すよ、バダンならそれだけの力はあるわ」
 二人は口々に言った。
「ううむ、確かに」
「バダンの力をもってすればそれは容易い」
 二人はその言葉に頷いた。
「もしそれが事実だとするとすぐに手を打たなければなりませんね」
 結城は立花に顔を向けて言った。
「ああ、そうだな。今ギリシアにすぐ迎えるライダーはいないか」
「おじさん、今通信が入りました」
 ここで純子の声がした。
「ん!?」
「誰からだ」
 見れば純子は店の奥にいた。そこから声だけがする。
「敬介さんからです」
「敬介からか。また妙な縁だな」
 立花はそれを聞いて思わず呟いた。
「おやっさん、とにかく通信に出ましょう」
「ああ」
 結城に促され立花は通信室に向かった。チコやマコもそれに続く。史郎は店番に残った。
「おい、敬介か」
 立花はマイクを手に取ってまずそう問うた。
「はい」
 すぐに神の声が聞こえてきた。
「よし、敬介だな。間違いない」
 彼はそれを聞いてまずは安心した。
「今何処にいるんだ?実は御前に教えたいことがあるんだ」
「バダンのことですね」
「そうだ」
 立花は頷いた。
「ギリシアにそれらしいのが出ているんだが」
「ええ、わかってますよ。今アテネにいますから」
「おい、もういるのか」
「はい、エーゲ海に怪しいのがいると聞きましたんで。今捜査中です」
「そうだったのか。じゃあわしから言うことは何もない。上手くやれよ」
「わかってますよ、おやっさん。こっちは俺に任せて下さい」
「おう、じゃあ頼むぞ」
「はい」
 神はこれで通信を切った。
「もう敬介がいるんですか」
「ああ」
 立花は結城に答えた。
「これでまあ問題はないだろう。特に海はな」
「そう思いたいですけれどそれは少し楽観し過ぎではないですか?」
 落ち着いた顔の立花に対し結城の顔は険しかった。
「アポロガイストとキングダークがいるとしたら厄介ですよ」
「あの連中か」 
 立花は表情を暗くさせた。
「いや」
 だがすぐに頭を振ってそれを打ち消した。
「ここは敬介を信じる。あいつならやってくれる」
 彼は自分に言い聞かせているのではなかった。神のことをよく知っていたのだ。
 彼はゴッドとの戦いの時は常に彼と共にあった。神もまた彼にとっては息子の様な存在であった。
「あいつのこともわしはよくわかっとる、御前のことと同じでな」
「おやっさん」
 結城はその言葉を聞き感じ入った。
「だからここはあいつに任せる。なぁに待ってろ」
 彼はここでニヤリと笑った。
「今度あいつがかけてくる通信は勝利の報告だ。それを楽しみに待っておこう」
「そうですね」
 結城もそれを聞き微笑んだ。
「じゃあ俺達は心の準備をしおきましょう。そして」
「そして?」
「あいつの故郷を守りましょう。何時戻ってきてもいいようにね」
 それが日本であることは誰もがわかることであった。
「おお、そうだな。そうしよう」
 立花もそれに対し笑顔で頷いた。そして彼等はアミーゴのカウンターに戻っていった。

 ギリシアは長い歴史を持つ国である。古代ギリシア文化が知られている。それは欧州の文化の源泉と言える存在である。オリンピックもそうである。これは古代ギリシアにおいて四年に一度ギリシア圏の全ての国や都市が参加する祭典であった。男達は全裸になりその技を競い合った。
 そしてギリシア神話は今も多くの人の心を捉えている。トロイアでの戦いや多くの英雄達の物語なくして欧州の文学はなかっただろう。それは今も彼等の心に生きている。
 そこにはロマンがあった。美がり悲劇があった。欧州の文化はここからはじまったと言っても過言ではない。
「ここで全てがはじまったんだな」
 神はアテネにいた。この街も古い歴史を持っている。
 アテネの名はギリシア神話の知と戦いの女神からとられている。海神ポセイドンとこの街を争ったがアテネのオリーブを選んだこの街の市民によりアテネの街となりこの名を冠したのだ。
 アテネはギリシアの中でも特に栄えた街であった。そしてペルシアと戦いそれに勝利を収めている。
「それもアテネの加護だったのかな」
 神はふと呟いた。だがアテネの加護が去る時が来たのだ。
 この勝利によりアテネはギリシア世界の盟主となった。だが次第に増長し各都市の反発を招くようになった。そしてスパルタとの戦いに敗れ以後衰退していく。
「驕りにより神の加護を失ったか」
 神は丘の上を昇りながら言った。見れば所々に古代の遺跡がある。
 アテネもギリシアの神々も今でも生きていた。この古代の遺跡の中にいるのだ。
「キリスト教により異端とされたけれど」
 だが彼等は生きているのだ。そして今もギリシアの、欧州の人々の心の中にいる。
 神はそう考えながら丘の上を昇る。そして頂上にやって来た。
「さてと」
 そこは古いイオニア様式の神殿であった。白い大理石である。
「ここに来る、って言っていたけれど」
 神は辺りを見回した。そして腕の時計を見る。
「そろそろかな」
 そう言った時だった。
「久し振りだな、神敬介よ」
 神殿の陰ぁら白いスーツの青年が姿を現わした。
「貴様は!」
 その青年が誰か。わからない筈がなかった。
「貴様がここに来ることはわかっていた」
 アポロガイストは黒い手袋に覆われた手で神を指差した。
「だからこそここにやって来たのだ」
「何、ではすると俺に連絡をよこしたのは」
「連絡!?何のことだ」
 アポロガイストは逆に問うた。
「俺はそんなことは知らん。ただ貴様の動きを呼んでここに来ただけだ」
 彼は嘘を言う男ではない。それは神もよく知っていた。
「そして貴様を倒すだけだ」
 右手をあげた。すると神殿の陰という陰から戦闘員達が姿を現わした。
「これだけではない」
 さらに怪人までもが出て来た。
「ワオーーーーーーーッ!」
 ゴッドの三頭怪人ケルベロスだ。もう一体いた。
「チーーーリーーーーーッ!」
 デストロンの針棘怪人ハリフグアパッチだ。二体の怪人は前後から神を取り囲んだ。
「覚悟はいいな」
 アポロガイストは怪人と戦闘員の輪の外から神に対して言った。
「クッ」
 神は歯噛みした。だが構えをとった。その時だった。
 不意に神の左右で爆発が起こった。それで戦闘員達が吹き飛んだ。
「何だ!」
 アポロガイストは咄嗟に辺りを見回した。右手に彼がいた。
「神さん、遅れて申し訳ありません」
 そこには竜がいた。彼は手榴弾を放ったのだ。
 そしてそれで戦闘員達を倒した。二体の怪人はそれより前に跳び安全圏に逃れていた。
「クッ、神敬介に連絡を送ったというのは貴様か」
「如何にも」
 アポロガイストの問いに不敵に答えた。
「まさか貴様等がここにいるとは思わなかったがな。しかし遅れたのがかえって好都合になった」
「フン、勝手に言え」
 アポロガイストはそれに対して言った。
「貴様も神敬介と一緒に葬り去ってやる」
「そうはさせない!」
 ここでアポロガイストの上から声がした。
「そこか!」
 アポロガイストは懐から拳銃を取り出した。そして声のした方へ向けて発砲した。
 だがその銃弾は届かなかった。全て弾き返されてしまった。
「やはり効かぬか」
 だがアポロガイストはそれに驚いてはいなかった。当然のようにそこにいる男を見上げていた。
 ]ライダーはそこにいた。身体の前でライドルを風車の様に回して銃弾を弾き返していたのだ。
「]ライダーよ」
 アポロガイストは彼に対して言った。
「降りて来い、そして俺と戦うがいい」
「望むところだ!」
 ]ライダーはライドルを手に持ち飛び降りてきた。そして着地するとアポロガイストと対峙した。
「さあ来い、アポロガイスト!」
 両者は睨み合う。だがそこに怪人達がやって来た。
「アポロガイスト、ここはまず我等にお任せを」
「]ライダーを倒すのは我々の任務故」
 ケルベロスとハリフグアパッチは言った。
「やれるか」
 アポロガイストは問うた。
「無論」
「この名にかけて」
「そうか」
 心の中に思うところもあったがここは彼等に任せることにした。
(どのみちこの者達に倒せる筈がない。だが今の]ライダーを見ることはできるな)
 だがそれは決して言わない。それは隠し彼等に対して言った。
「ではやってみるがいい。見事]ライダーの首を挙げよ」
「ハッ」
「お任せあれ」
 アポロガイストは一旦後方に退いた。怪人達は]ライダーを取り囲んだ。
「行くぞ」
 まずはハリフグアパッチが来た。怪人はまず肩から爆弾を放ってきた。
 それは]ライダーに向かって飛んできた。だが彼は臆していなかった。
「ムンッ!」
 ライドルをホイップに換えた。そしてそれで爆弾を両断した。
 爆弾は空中で爆発した。]ライダーは爆風に隠れるようにして跳んだ。
「トォッ!」
 空中でライドルのスイッチを入れる。今度はロングポールだ。
「受けろ!」
 そして伸びるそれで怪人を突く。それはハリフグアパッチの胸を貫いた。
 またライドルのスイッチを入れる。するとポールは引っ込んだ。
「グオオオーーーーーーッ!」
 胸を貫かれた怪人はその場に倒れた。そして爆発して果てた。
 今度はケルベロスの番だ。怪人は]ライダーの着地地点にいた。
「**(確認後掲載)ぇっ!」
 全身に電気を帯びた。そしてそれで]ライダーを包み込まんとする。
 しかし]ライダーの方が一枚上手であった。彼はライドルをまた換えていた。
「これならどうだっ!」
 それはロープであった。鞭の様に操りそれで怪人の三つの首を絞めた。
「グググ」
 怪人はそれを引き離そうとする。だがそれはもがけばもがく程食い込んでくる。
 電流を流そうとする。だがそれも効かなかった。
「無駄だ、このロープは電流を通さない」
 ]ライダーは言った。そして首を絞める力を強くさせる。
 次第に怪人の三つの頭の顔は歪んでいく。顔の色もドス黒くなってきた。
「グオオ・・・・・・」
 そして力が弱ってきた。最後にガクリ、と膝を着いた。
 それで終わりであった。]ライダーがロープを抜くと怪人はその場に崩れ落ち爆発の中に消えた。
「これで怪人は倒した」
 ]ライダーはその爆発を見送っていた。そして顔を後ろに向けた。
「アポロガイスト、今度は貴様の番だ!」
 そしてライドルをホイップにして身体の前で]の文字を描いた。そしてアポロガイストに対して身構えた。
「望むところだ!」
 アポロガイストも右手で]ライダーを指し示した。そして両者は前に出た。その剣を打ち合わせる。
 忽ち激しい剣撃がはじまった。両者は一歩も引かず互いに剣を繰り出す。
「流石だな。またしても腕をあげたようだな」
 アポロガイストは]ライダーのホイップを受けながら満足そうに言った。
「貴様こそな」
 ]ライダーもそれは感じていた。二人は互いの腕を認めていた。
「どうやら今はお互いこのまま闘っても決着は着かない」
 アポロガイストは間合いを離して言った。
「だがこの戦いは最後には俺が勝つ」
「どういう意味だ?」
 ]ライダーはその言葉に問うた。
「知りたいか。ならば教えてやろう」
 彼は自信に満ちた声で言った。
「見るがいい」
 そして丘の上から見える海を指し示した。そこにはエーゲ海の青く澄んだ世界が広がっていた。
 だがそれは一瞬であった。すぐにそこから銀の神が姿を現わした。
「あれは!」
 ]ライダーはその海神の姿を見て思わず言葉を失った。
「フフフ、驚いたようだな」
 アポロガイストはそれを見て更に機嫌をよくした。
「忘れたわけではあるまい、あの巨人を」
 見れば海に現われたその神は全身が銀でできていた。そして頭から二本の角を生やしていた。
「キングダーク」
 ]ライダーはその巨人の名を呼んだ。
「まさかキングダークまで復活させているとは」
「ただ復活させただけではない」
 アポロガイストは言った。
「見るがいい」
 アポロガイストはまたキングダークを指し示した。するとその目が黒くなった。
「あれは・・・・・・」
 それは闇ではなかった。何と黒い光であった。そしてそれがキングダークの両目に満ちた。
 そして放たれた。黒い光はキングダークの側の小島を撃った。
 一瞬であった。その小島は跡形もなく消え去っていた。
「何と・・・・・・」
 ]ライダーはそれを見て思わず呆然となった。
「驚いているようだな」
 アポロガイストは彼に言った。
「これが我がバダンの切り札だ。時空破断システム」
「時空破断システム」
「全てを消し去る究極の兵器だ。そう、全てとな」
「まさかそれを使って」
「そう、そのまさかだ」
 彼は言った。
「このギリシア、そして地中海を全て消し去ってやる。黒い光の中に全ては消え去るのだ」
「そんなことはこの俺が許さん!」
「そう言うと思っていた」
 アポロガイストはそれを聞くと満足そうに言った。
「ならば来い、]ライダーよ。そしてキングダークを倒してみよ」
「言われなくともそうしてやろう!」
「そうでなくては面白くない」
 アポロガイストはそう言うと背中のマントをたなびかせた。風が吹いてきていた。
「俺とキングダークはこの海の中にいる。そして貴様を待ち受けている。さあ来るがいい、]ライダーよ」
 その目が光った。
「このエーゲ海の藻屑にしてくれる!」
「それは俺の台詞だ!」
 そう言った時にはアポロガイストは姿を消していた。見ればキングダークも青い海の中に姿を消していた。
「アポロガイスト、キングダーク」
 彼がゴッドと戦っている時に常にその前に立ちはだかってきた強敵であった。ゴッドとの戦いは彼等との戦いであったと言っても過言ではなかった。
「俺は必ず勝つ、貴様等を倒してな!」
「]ライダー・・・・・・」
 戦闘員達を倒し終えた竜はその後ろ姿を見ていた。何時になく激しい彼の気迫を見て声をかけることができなかったのである。
 丘の上での戦いはとりあえずは終わった。だがそれは次の戦いのほんの序章に過ぎなかった。それは]ライダーも竜もアポロガイストもわかっていた。

「とりあえずはこれでいい」
 アポロガイストは小島に置いた基地の指令室に着くと言った。既にスーツ姿に戻っている。
「]ライダーは間違いなく海にやって来る」
「宜しいのですか?」
 ここで戦闘員の一人が問うてきた。
「何故だ」
 アポロガイストはその戦闘員に顔を向けて逆に問うた。
「]ライダーは水中戦においては無類の強さを発揮しますが」
「それか」
 アポロガイストはそれを聞くとニヤリ、と笑った。
「俺がそれを知らないと思っているのか」
「いえ」
 戦闘員は首を横に振って応えた。
「ならばいい。若しここで首を縦に振っていたならば」
 言葉を続ける。
「わかっているな」
「わかっております」
 アポロガイストの冷酷さはバダンにおいてもよく知られていた。彼はゴッドにおいては怪人や戦闘員を処刑する権限を与えられていた。それを実行することも多かった。
 バダンにおいては大幹部や改造魔人の権限は他の組織に比して大きかった。首領に意見を上奏することもできるし、怪人や戦闘員を処刑することもできた。これまでの組織と違う部分はまずここであった。
「では俺が考えていることも大体予想がつくだろう」
「はい」
「見るがいい」
 アポロガイストはここでモニターのスイッチを換えさせた。それまで海面を映していたが基地の中に切り換わった。
 そこには怪人達が映っていた。普通の怪人達ではなかった。
 ショッカーの放電怪人ナマズギラー、ゲルショッカーの毒粉怪人エイドクガ、ブラックサタンの豪力怪人奇械人ワニーダ、ネオショッカーの宝石怪人ウニデーモン。いずれも海棲動物をベースとする怪人ばかりであった。
「この者達が]ライダーの相手をする。そして」
 アポロガイストはここでニヤリと笑った。
「俺も行く。そしてあの男を完全に叩き潰す」
「アポロガイスト自らですか」
「そうだ。俺は水中戦にも秀でているのは知っていよう」
「はい」
 戦闘員はその言葉に頷いた。
「さあ来るがいい、]ライダーよ」
 アポロガイストはその顔から笑みを消した。
「今度こそ貴様を倒してやる。貴様の愛する海でな」
 モニターは海面に切り替わった。海は戦いへの序曲を知りもせずその静かな動きを続けていた。

 地獄大使は東南アジアにいた。彼はジャングルの中にいた。
「行くぞ」
 周りには戦闘員達がいる。彼は戦闘員達を急かしながら進んでいく。
 そしてある場所に着くと彼等に対し言った。
「ここでいい」
 次に目配せをした。
「来るがいい」
「ハッ」
 戦闘員達は頷いた。そして密林の中に消えていった。
 地獄大使はその中に立っていた。だがすぐにそこから動いた。
 弓矢が飛んできた。彼はそれをかわしたのだ。
 前に突き進む。だがそのすぐ下から槍が来た。
「甘いっ!」
 そこには戦闘員がいた。彼は鞭で槍を弾き飛ばした。
 そしてその戦闘員を撃つと上に跳んだ。木の上に止まる。
 だがそこにもすぐに攻撃が仕掛けられた。何とすぐ後ろに戦闘員の一人が保護色を使って紛れ込んでいたのだ。
「グググ」
 その戦闘員は後ろから首を絞めてきた。地獄大使の顔が見る見る赤くなっていく。
 しかし彼はそれからすぐに脱出した。戦闘員の腹を殴ったのだ。
「ガハッ」
 彼は腹を押さえてその場に崩れ落ちた。地獄大使は彼を掴むと下に放り投げた。
「まだだ、来い!」
 地獄大使は叫ぶ。そして密林の中に飛び込んだ。
 暫く気配を立った。やがて痺れを切らした戦闘員が二人姿を現わした。
 そこに鞭が襲い掛かった。茂みの中から出て来たそれはその二人の戦闘員を捕らえた。
 だがそこに弓矢がまた来た。茂みの中に射る。
「そこか!」
 しかし何もなかった。どうやら既に姿を消しているらしい。
 暫くはまた静寂がジャングルを支配した。双方息を潜めている。
 何かが動いた。茂みの中だ。
「そこだ!」
 弓が来た。呻き声があがった。
「やったか!」
 だがそれは違った。中から出て来たのは一匹の鹿であった。
「鹿!?」
 声をあげてしまった。それが命取りとなった。
「そこかあっ!」
 上から声がした。木の陰で弓を持って立っていた戦闘員は思わず顔を上げた。
 そこに彼はいた。攻撃する暇すら与えず跳び掛かって来た。
 それで終わりだった。彼の喉元には地獄大使の鍵爪が突き付けられていた。
「これで終わりだな」
 大使はニヤリと笑って言った。
「ご苦労であった。いい練習になった」
「ハッ」
 すると茂みから他の戦闘員達も出て来た。
「お見事でした」
 戦闘員の一人が他の者を代表して彼に言った。
「いや、そなた達もご苦労であった」
 彼はそれに対しねぎらいの言葉をかけた。
「こうして常に鍛えておかねばな。ライダー達に遅れをとってしまう」
「ハッ」
 戦闘員達はその言葉に頷いた。
「そしてあ奴にもな」
 彼はここで憎悪をその顔に剥き出させた。
「負けるわけにはいかんのだ。それはわkっておろう」
「はい」
「ならばよい」
 彼は一先その憎悪を顔から消した。
「ここにもすぐにライダーがやって来よう。どのライダーであろうが必ず倒す。そしてこの東南アジアを地球から消し去るのだ」
「わかっております」
「その為には気を緩めてはならん。ライダーは手強い」
 彼の言葉には普段の豪放さはなかった。険しいものであった。
「ライダーだけではない」
 また言った。
「あの男もいる」
「あの男とは!?」
 戦闘員の一人がそこに突っ込んだ。
「・・・・・・いや何でもない」
 地獄大使はそれを否定した。
「今の言葉は忘れよ。よいな」
「はい」
 その戦闘員は頷いて応えた。
「では戻るとしよう。そうだ」
 彼はここであることを思い出した。
「さき程鹿を射ていたな。あれで今日は宴といこう」
「それはよろしゅうございます」
「そなた等も付き合うがいい。宴は人が多いにこしたことはない」
「有り難き幸せ」
 これも地獄大使であった。彼は陽気さも併せ持っているのだ。
「では帰るぞ。帰ったらすぐにあの鹿を食べるとしよう」
「はい」
 彼等は鹿を見つけるとそれを担いだ。そして密林から姿を消した。

 ]ライダーはクルーザーDで海中を進んでいた。アポロガイストの挑戦を受けてのことである。
「アポロガイスト」
 彼はふと宿敵の名を呟いた。
「海中戦を挑むとはどういうつもりだ」
 それが不思議でならなかったのだ。
 彼はカイゾーグである。当然の様に海中戦は得意としている。元々は深海開発用に計画されていたのだから当然といえば当然であった。
 だからこそ不思議なのだ。ゴッドも彼には水中戦はあまり挑んでいない。アポロガイストは特にそれを避けていたふしがあった。
「それが何故だ」
 彼は考えていた。
 アポロガイストがそうしていたのは負けることがわかっていたからだ。むざむざ敵の有利とする場所で戦う程彼は愚かではない。これは戦略の基本である。
 しかし今は違う。彼は]ライダーをあえて水中に誘い込んできたのだ。
「何かある」
 普通はそう思う。だがアポロガイストは決戦においては小細工を弄するしない。誇り高い彼は自らの手で倒すことを好む傾向があるのだ。これはバダンの者では珍しいことであった。
「誇りか」
 ]ライダーはここにハッとした。
 そうであった。アポロガイストは誇り高い。そうだからこそ彼はここに]ライダーを呼んだのではなかろうか。
「あえて俺が得意とする戦場を選ぶ。そしてそこで倒す」 
 彼の好みそうなことであった。
「だとしたら俺も負けるわけにはいかない。カイゾーグの名にかけて」
 父により開発されたカイゾーグ。彼はここでもゴッドい殺された父の心を受けていたのだ。
「親父」
 亡き父のことを思い出した。
「見ていてくれ。俺は必ずバダンを倒す。そして」
 海中は戦いの予兆なぞ全く感じさせない。普段と変わらない。
「世界に平和を取り戻してやる」
 そう思いながら彼は海中を進んでいった。
 海藻や珊瑚が下に見える。]ライダーはそれを見下ろして思った。
(綺麗だな。何時見ても飽きない)
 彼はこの海藻や珊瑚が好きだった。これ等だけではない。海の全てを愛しているのだ。
 だからこそバダンが許せなかった。彼にとって何にも替え難いこの海を汚すからである。
(バダン)
 彼は組織の名を心の中で呟いた。
(貴様等はこの俺が倒す。例え何があろうとも)
 岩山の側を通り掛かった。そこを横切る。
 不意にその岩山が動いた様に見えた。
「ムッ!?」
 それは岩山ではなかった。巨大な腕が現われた。
「危ないっ!」
 マシンの機首を捻る。そして咄嗟に身をかわした。
 腕から逃れた。そして安全な場所にまで退避する。
「キングダークか!」
「その通り」
 上の方から声がした。聞き覚えのある声だった。
「その声は!」
 ]ライダーは上を振り向いた。そこにはあの男がいた。
「よくぞ来た、]ライダーよ。招きに応じてくれて感謝する」
 アポロガイストは既に変身していた。そして水中に立っている。
「貴様をここに招いた理由はわかっているな」
「無論」
 ]ライダーはマシンから降りるとライドルを引き抜いて身構えた。
「ここでキングダークも貴様も倒してやる」
「フフフ、そうでなくてはな」
 アポロガイストは下にいる]ライダーを見据えていた。
「こちらも面白くはない」
 そして右手をゆっくりと上げた。
「折角この者達を集めて来たのだからな」
 彼の周りに四体の怪人達が姿を現わした。あの四体の海棲怪人達だ。
「さあ行け、そして]ライダーを倒すのだ!」
「ハッ!」
 四体の怪人はアポロガイストの指示に従い四方に散った。そしてそれぞれ]ライダーに襲い掛かってきた。
「来たか」
 ]ライダーはその怪人達から目を離さない。すぐにその中の一体が来た。
「ウニニーーーーーッ!」
 怪人は棍棒を振り回してやって来る。]ライダーはそれに対してライドルのスイッチを入れた。
「ライドルホイップ!」
 それまでのスティックからホイップに換えた。そしてそれを手にウニデーモンに向かっていく。
 棍棒が振り下ろされる。だが]ライダーはそのまま進む。
「愚かな。水中戦を知らないか」
 ウニデーモンは確かに海栗をベースとしている。だがどちらかというと鬼に近い。だから海での戦いを忘れていた。
 棍棒は重い。その為水中では抵抗を強く受け動きが鈍くなる。鈍くなるとそれだけ衝撃が弱まる。
 だがホイップは違う。抵抗が極めて少ない。その差が出た。
 ホイップが一閃された。それは棍棒を切った。
 柄のところで切断される。それは海の底へ落ちていく。
「ウニッ!」
 だがウニデーモンは怯まない。今度は額から光線を出そうとする。
「まだ水中戦がわかっていないか」
 ]ライダーはそれを見て呟いた。
 光線は熱である。熱は水中では弱まる。従ってウニデーモンの自慢の光線もその力は極端に弱まるのだ。
 ]ライダーはそれを何なくかわした。そしてそのまま前に進む。
「喰らえっ!」
 ライドルを突く。それは怪人の首を刺し貫いた。
 それで決まりであった。怪人は動きを止めた。ホイップを引き抜くとそのまま下に落ち海の底で爆発した。
 すぐに別の怪人が来た。エイドクガーである。
「クエェェーーーーーーーッ!」
 怪人は奇声と共に右手の毒針を振るってきた。ウニデーモンのそれとは比較にならない速さだ。
 ]ライダーはそれをかわす。水中にいるとは思えない速さだ。
「ウニデーモンよりは慣れているな」
 ]ライダーはそれを見て言った。
 怪人の動きもかなり速かった。やはりエイの力を受けているだけはあった。だがそれだけでこの動きは出せなかった。
 毒蛾の動きである。空を舞う様にヒラヒラと飛ぶ様に来る。
「舞うか」
「そうとも」
 エイドクガーは不敵に言った。
「]ライダー、貴様も舞わせてやろう!」
 毒針を振るう。だがそれは流石に当たりはしない。]ライダーは彼の動きから目を離さない。
 次第に目が慣れてきた。動きが見えてきた。
「よし!」
 ホイップを振るった。それはエイドクガーの右腕を一閃した。
「クエッ!?」
 右腕が断ち切られた。だが]ライダーの攻撃はそれで終わらなかった。
「トォッ!」
 怪人の腹を切った。その腹から鮮血が溢れ出る。
「クエエエ・・・・・・」
 それで決まりであった。エイドクガーもまた海の底に落ち爆発して果てた。
 次に来たのは奇械人トラフグンであった。
「**(確認後掲載)、]ライダー!」
 怪人は両手の鋭い鰭の刃で]ライダーを両断せんとする。左右に縦横無尽に振るう。
 だが]ライダーも負けてはいない。それをホイップで受ける。
「この程度か!」
「まだだ!」
 怪人は叫んだ。間合いを離し腰に手を当てた。
「喰らえっ!」
 そこからトゲを出した。それをすぐに撃って来る。
「これならどうだ!」
 それは一直線に]ライダーに向けて向かって来る。まるで魚雷の様に。
 しかしそれも]ライダーには通用しなかった。
「甘いなっ!」
 それもホイップで叩き落とされた。そしてすぐに前に出た。
 怪人はそれに対してまたもや刃を振るう。だがそれはもう見切られていた。


[196] 題名:早過ぎた名将 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2004年09月19日 (日) 02時54分

             早過ぎた名将
 九五年、この年は神戸の市民にとって決して忘れることのできない年である。
 阪神大震災。一月一七日早朝に襲ったこの震災で多くの人の命が失われた。
 政府の対策は遅れに遅れた。不幸だったのはこの時の内閣が村山内閣であったということだ。
 社会党は長い間非武装中立論を唱えてきた。憲法第九条を守っていれば平和は守れる、だから自衛隊は不要だと主張してきた。つまり国防を放棄していたのだ。
 これは世界に例を見ない主張であった。今までこの様な主張をした政治家、政党は存在しない。何故か、政治家の主張ではないからだ。宗教家の主張である。
 彼等は空念仏を唱えていただけであった。政治は何一つわかっていなかった。それが証明されたのがこの震災の時であったのだ。
 政府の対応は遅れた。危機意識の欠如が致命的であった。自衛隊は動かさなかった。各国からの援助の申し出も全て断った。その結果多くの人が死んだのだ。
『馬脚を現わす』
 この時の社会党に相応しい言葉であった。彼等はその実態を見事にまで見せてくれた。それを他の政党の責任に転嫁したり、関西人を中傷したりする者が今でもいる。愚劣極まるとしか言い様がない。
 街には火事場泥棒まで出て来た。そうした事態にマスコミは優雅な報道を続けた。
「まるで温泉街のようです」
 とある人権派ニュースキャスターのコメントだ。彼は取り巻きの体力づくりが趣味だという若いアナウンサー共々背広で震災地に降り立ち煙草をふかしながら言った。
 よく神戸市民のリンチに遭わなかったものだと不思議にすら思える。だが神戸市民はそうした苦難を乗り越えようと立ち上がった。兵庫が地元の某政治家がカラオケではしゃいでいる間彼等は被災地から再び立ち上がったのだ。
 これは神戸を地元とするオリックス=ブルーウェーブも同じであった。
「頑張ろう KOBE」
 彼等はそれを合言葉にした。そして震災の傷跡の中再び起き上がった神戸市民の前にその雄姿を見せようと誓った。
「絶対に勝つ!」
「神戸市民の為に!」
 彼等の目の色は違っていた。そしてペナントに立ち向かって行った。
「俺達も頑張ろう」
 それを見た神戸市民は思った。被災地で救援活動に当たる自衛官達もそれは同じだった。彼等はオリックスの選手達に励まされたのであった。
 オリックスにはこの時一人の天才がいた。イチローである。
 彼は打撃だけではなかった。その守備も肩も足も超一流であった。将に非の打ち所のない存在であった。
 こうした選手はそうそういない。阪急時代から外野手には恵まれていたオリックスでもだ。
 例えば安打製造器張本勲にしろ打撃の神様と謳われた川上哲治にしろその守備はお粗末なものであった。特に張本は三千本安打の実績がありながら今だにコーチの声すらない。テレビの稚拙で人格を疑うコメントを聞いていればそれは大いに頷けるものである。
 イチローは彼等とは全く違っていた。何時でもオリックスの柱となる存在であった。
 彼を中心としてチームは勝利を収めていった。主砲ニールに守備の達人馬場敏史、本西厚博、バランスのとれた田口壮等がいた。投手陣は阪神から移籍してきた野田浩司、メジャーでも活躍した長谷川滋利、不惑ながらこのシーズンノーヒットノーランを達成した佐藤義則、ストッパーには剛速球を誇るルーキー平井正史がいた。バランスのとれた戦力であった。
 そして率いるは知将仰木彬、近鉄の監督時代奇策で鳴らした男である。
 オリックスはそのまま独走するかに思われた。多くの人の心が彼等を後押ししていた。だがそこに立ちはだかるチームもあった。
 ロッテであった。千葉ロッテマリーンズ。万年Bクラスだったこのチームに太平洋を渡って一人の男がやって来たのだ。
 ボビー=バレンタイン。彼はメジャーの風をこのチームに運んで来たのだ。
「私が監督を務めるチームでは一つのことを最優先させる」
 彼はまず選手達に会うと言った。
「また勝つとかそんな決まり文句だろ」
 選手達はそう思っていた。彼等は何処か諦めきったムードを持っていた。だがバレンタインは違っていた。
「怪我人は絶対に出さない。これは絶対に守る」
 それを聞いた選手達は自分の耳を疑った。
「この人は違う」
 彼等はその時わかった。
「これがメジャーなのか」
 そう感じた。そしてそのメジャーの風を運んで来たもう一人の男がいた。
 フリオ=フランコである。メジャーでそのシェアなバッティングで知られた男である。彼は開幕戦何とスーツで千葉マリンスタジアムに現われた。
「え、スーツでですか!?」
 記者もファンもそれを見て驚いた。
「そうだよ。何かおかしいかい」
 彼は平然と答えた。
「いえ、それは」
 球場に何を着ていかなければならない、という規則はない。あるとすれば巨人位である。オーナー達の悪行でダーティーさを世の人々に知られているがそれには頬かむりし、球界の紳士を詐称する為にそうしているのだ。これに騙されるのは相当な愚か者だけであるが。
 フランコはロッカーに入るとナインに言った。
「マリンでの開幕だからスーツを着てきたんだ」
 彼もまたメジャーの風をナインにもたらしたのであった。
「思ったより効果があるな」
 これを見て頷く男がいた。この年から日本ではじめてゼネラルマネージャーに就任した広岡達郎である。彼はそのポーカーフェイスを綻ばせることなく頷いていた。
「これは期待できるな」
 彼はその徹底した管理野球のみがよく語られる。それは彼が知略の持ち主であるということよりも大きい。プライドが高く、常に表情を変えない冷徹なイメージもそうさせている。
 だが彼は実は人材を適材適所に置くことも心得ていた。だからこそヤクルト、西武を優勝させることができたのだ。
 最初それでもロッテは低迷した。だが五月からその快進撃がはじまったのだ。
『バレンタイン旋風』
 マスコミはそう書いた。このロッテの快進撃の中心には間違いなく彼がいた。
 先発投手には無理はさせなかった。予定された投球数を超えると交代させる。そして失敗しても決して怒らなかった。
「積極的に次の塁を狙うんだ、そして打つんだ」
 何事も果敢にすることを勧めた。そして例えば暴走してアウトになってもこう言った。
「ナイストライ、ネクストタイム」
 試合に負けてもそれが積極的ならばよかった。選手達は気持ちよく気分を切り替えて次の試合に挑めるのであった。
 彼と選手達の絆がどんどん強くなっていった。そしてロッテは二位になっていた。
 だがやはりトップには手が届かない。やはりオリックスはこの年には特別なものがあった。
「オリックスに勝たせてやりたい」
 日本中の誰もがそう思った。無駄に大砲ばかり集めながら無様に敗れ優勝戦線から早々と姿を消した球界の盟主なぞ誰も見ていなかった。
 オリックスの選手達は目の色が違っていた。彼等は神戸市民の為に戦っていた。
「あれこそ真の野球だ」
 バレンタインも言った。
「何かの為に必死に戦う、美しいプレイだ」
 彼もまたその姿に心打たれていた。だが勝負の世界は別であった。
 九月、オリックスは遂にマジックを点灯させた。十三日には一になった。
「あと一勝だ」
「そして神戸に優勝旗を」
 オリックスナインは意気込んだ。だが十四日は近鉄に敗れた。
「明日勝てばいい」
 しかしオリックスナインは焦らなかった。
「神戸の人達に胴上げを見せることができるんだからな」
 そして彼等は待った。敵が乗り込んで来るのを。ロッテが神戸にやって来た十五日、戦いの幕が開けようとしていた。
 球場にはオリックスの胴上げを見ようと神戸市民が詰め掛けて来た。誰もが期待に胸を弾ませている。
「この三連戦で決まるな」
 誰もがそう思っていた。オリックスナインもであった。
「神戸で優勝だ」
 彼等はそれだけを考えていた。
「ふむ」
 バレンタインはその様子を冷静に見ていた。
「動きが固くなっているな」
 オリックスナインの動きを一目見て呟いた。
「選手だけじゃない。監督やコーチまで固くなっている」
 仰木も投手コーチとして投手陣を支えている山田久志もだ。バレンタインには手にとるようにわかった。
「これは攻略できるな」
 彼は悟った。そして記者達との話に向かった。
「監督、今日はどうですか?」
 バレンタインは記者達からも評判であった。
「そうだね」
 彼は明るい笑顔で応えた。そして椅子に座りつつ朗らかに報道陣に対し話を続けた。
 そして試合開始の時間がきた。オリックスの先発は野田、ロッテは伊良部秀輝である。
「やっぱり伊良部できよったわ」
 一塁側を埋めるオリックスファンは彼の姿を認めて言った。
「また今日もえらい球投げよるで」
 伊良部といえば剛速球である。一五八キロを記録したこともある剛球が最大の武器だ。
「そうそう簡単に勝たせてくれる気はないみたいやな」
 神戸市民は彼の姿を見て溜息混じりに言った。
 その日の伊良部は特に凄かった。八回までオリックス打線を僅か三安打に抑える。頼みのイチローも八回にようやくヒットで出塁するのがやっとだった。しかも後続は全く期待できない状況であった。彼の剛速球の前に為す術もなく三振の山を築いていく。全く打てる気がしなかった。
「あかんわこら」
 神戸市民は溜息を出した。
「見てるこっちが感心する投球や」
 その通りであった。将にエースであった。
 ロッテは四回に林博康のソロアーチが出た。今日の伊良部にはそれで充分であった。
「ナイスピッチング」
 バレンタインは八回まで無得点、十三奪三振に抑えた伊良部を讃えた。伊良部はそれを微笑みで受けた。
「有り難うございます」
 九回になるとバレンタインは伊良部を降板させた。調子は落ちていない。
「投球数を超えた」
 だから降板させたのだ。伊良部もそれは納得した。
 まずは成本年秀、そして河本育之、このリレーでオリックスを何なく抑えた。このシーズンのロッテを象徴するのはこの中継ぎ、リリーフ陣であった。
 近代野球において中継ぎ、リリーフの重要性は言うまでもない。ロッテはそれを忠実に守ったのだ。
 オリックスは敗れた。結局伊良部を筆頭とするロッテ投手陣に抑えられた形となった。だが実際はそれよりも複雑で深刻な問題を抱えていた。
「悔しいな」
 一塁側スタンドを埋め尽くす神戸市民を見てナインは呻く様に呟いた。
「折角来てくれたのに」
 彼等は何としても地元で胴上げを達成したかったのだ。
 震災に遭いながらも応援に来てくれた人達、ナインは彼等に深く感謝していた。
 だからこそ胴上げを見せたい、だがそれは今日も適わなかったのだ。
「明日こそは」
 そう決意して球場を後にする。だがその心は日増しに焦りを増していた。

 翌日の第二戦、オリックスの先発は長谷川である。やはり必勝態勢だ。それに対してロッテは昨日の伊良部とは正反対のピッチャーを先発のマウンドに送り込んでいた。
 小宮山悟である。多彩な変化球と頭脳的な投球で知られる。特にコントロールは抜群で『ミスター=コントロール』とも仇名されていた。
「嫌な奴が出て来たわ」
 神戸市民は予想していたこととはいえ彼の顔を見て思わずこう言った。
「打ちたいところやが難しいやろな」
 小宮山はとにかく頭が切れる。理詰めで投球を組み立てバッターの心理を読み取る。まるでコンピューターの様な男である。
 独特のサングラスを着けた。そして小宮山のピッチングがはじまった。
 まずはイチローである。だが小宮山は怖れてはいなかった。
「イチローならこれだ」
 ストレートとシュートを巧みに使い揺さぶる。そして最後は外角のボールを引っ掛けさせる。こうしてオリックスの切り札を何なく打ち取った。
「イチローは普通のバッターとは違う」
 彼もそう考えていた。
「ストライクゾーンが他のバッターよりもずっと広い」
 しかしそこが付け込むところであった。
 それを利用して引っ掛けさせる。三振の極端に少ないバッターだが、こうして打たせてとればいい。イチローのそのミートの巧さとストライクゾーンの広さを逆に利用したのだ。
「オリックス打線は相手をしやすい」
 小宮山はそう考えていた。
「足も絡めてこないし、全体で崩そうともしてこない。あくまで一人一人との戦いだ」
 そうなれば彼の得意とするところであった。こうしてオリックス打線は小宮山に各個撃破されていった。
 ロッテ打線は彼の好投に応える。二回、四回、七回に小刻みに得点を重ねていく。長谷川も好投するが打線が沈黙していた。かろうじて五回に高橋賢のソロアーチで一矢報いるのがやっとだった。
 そして八回からはまた中継ぎ陣を投入する。そしてこの日もオリックス打線を抑えたのである。
「今日もか」
 オリックスナインは思わず溜息をついた。
「あと少しなのに」
 プレッシャーがその両肩に覆い被さってきた。
「勝てない、あと一勝なのに」
 確かにあと一勝だ。だがそれでも勝てないのだ。
 野球は一勝一勝積み重ねていくものである。しかしその一勝を掴むのには血の滲む様な戦いを経て得られるのだ。
 オリックスもこのシーズンそうやって戦ってきた。だが最後の最後でその戦いに負け続けているのだ。
「明日がある」
 誰かが言った。
「明日勝てばいいじゃないか」
「そうだな」
 ナインはその言葉に頷いた。
「明日で胴上げだ、そして神戸の人達に報いるぞ!」
「おお!」
 オリックスナインはそう誓って球場を後にした。だが彼等はこの時も気付いていなかった。自分達が堅くなっていることに。
 バレンタインはそれに気付いていた。だが何も言わなかった。
「勝てるな、明日も」
 彼は微笑んでそう言っただけであった。そしてベンチから姿を消した。
 仰木の表情はそれに対して暗いものだった。
「選手達はよくやってくれとる」
 そう言うだけで精一杯であった。それ以上は言えなかった。
「明日勝つ、それだけや」
 そう言い残して球場から去った。その足取りも重いものであった。
 
 第三戦オリックスはベテラン佐藤を投入してきた。その経験に頼ったのである。それに対してロッテは助っ人左腕ヒルマンである。長身から繰り出す多彩な変化球を武器とする。特にカーブとスクリューがよかった。
 だがヒルマンには弱点があった。その短気さである。この試合でもそれが問題視された。
 まず先頭打者のイチローを迎える。ここでいきなり死球を浴びせてしまう。
「やったか!」
 神戸市民はそれを見て騒然となった。やはりここにはヒルマンの激しい性格が脳裏にあった。ナインも思わず血相を変えた。
 イチローはベンチに下がり治療を受けた。そして無事グラウンドに戻ってきた。
「よかった・・・・・・」
 やはり彼はオリックスの看板であった。その彼に何かあっては話にならなかった。
 これでオリックスナインに火がついた。二回に彼等は反撃に出た。
「やられたらやりかえせや」
 彼等もまた関西の球団である。その独特の闘志は持っていた。かって闘将西本幸雄が阪急時代に植えつけたその心がこの時にもあったのだ。
 まず昨日ホームランを打った高橋がツーベースを放つ。本西もこれに続く。一死一、三塁。ここでかって阪神でスター選手であった岡田彰布が打席に立つ。
「岡田、やったらんかい!」
 阪神優勝の時にはバース、掛布雅之と共にクリーンアップを組んでいた。バックスクリーンへの三連発等驚異的な破壊力を見せつけ優勝に貢献している。
 その岡田が打席に入ったのだ。見ればその表情はいつもと変わらない。
「流石だな。落ち着いているよ」
 バレンタインは彼の顔を見て言った。
「優勝を経験しているだけはある。これは危ないかもな」
 見ればヒルマンはもう頭に血が登っている。それに対して岡田は冷静だ。
「ここは覚悟しておくか」
 バレンタインの予想は当たった。岡田は見事レフト前にタイムリーを放った。まず高橋が還った。
「よっしゃあ!」
「仰木さんの采配がバッチリ決まったわあ!」
 この日仰木は思い切った作戦に出た。ニール、D・Jの助っ人二人をスタメンから外しこの岡田をファーストに置いたのだ。そしてその采配が見事に的中した。
「仰木マジックか」
 バレンタインは彼の采配を見て呟いた。
「素晴らしいものだ。私には思いつかない」
 彼は感心したように頷いていた。だが彼の采配はそれで終わりではなかった。
 次は指名打者福良淳一。やはりベテランだ。
 だが彼は守備がいい。その彼を指名打者に持ってくるとは誰も思わなかった。
「これも仰木さんならではやな」
 神戸市民はそれを見て笑っていた。絶対に何かあると思っていた。
 それは的中した。やはり彼も打った。
 ツーベースだ。これでランナー二人が還った。これで三点を先制した。
 マウンドにいるヒルマンは連打を浴びさらに頭に血が昇っていた。
「これは交代か!?」
 ロッテファンもそう思った。バレンタインがベンチから出て来た。
 だが彼はヒルマンを下げなかった。
「落ち着け」
 彼は微笑んでヒルマンに対して言った。
「ボールはいい。落ち着けば何ということはない」
「監督」
 ヒルマンはバレンタインの言葉に次第に落ち着きを取り戻してきた。
「まだいける、安心していけ」
「わかりました」
 ヒルマンは彼の言葉で落ち着きを取り戻した。
 これでヒルマンは立ち直った。以後オリックス打線を何なく抑えていく。
「三点に抑えてくれれば上出来だ」
 バレンタインは先発投手に対してそう考えていた。
「打線は四点取ってくれればいい。それで勝てる」
 単純な様だが難しい。だが彼はそれができるように選手達のモチベーションを高めることが上手かった。
 ロッテは諦めてはいなかった。昨年までだったらこれで諦めていただろう。だがこの年のロッテは違っていた。
 オリックスのマウンドには佐藤がいる。四十一歳のベテランだ。武器である独特に落ちる球ヨシボールを駆使してロッテ打線を寄せ付けない。四回に林のソロホームランを浴びただけであった。
「これは打てないな」
 ロッテベンチはそう考えていた。だがその眼は死んではいなかった。
「絶対チャンスは回ってくる」
 そう思っていた。ただオリックスの隙を窺っていた。
「佐藤はええな」
 オリックスベンチでは仰木は黙って彼の投球を見ていた。
「だがそろそろやな」
 試合は終盤に入っていた。七回のオリックスの攻撃だ。
「どう思う」
 彼はここで投手コーチを勤める山田久志に尋ねた。
「佐藤ですか」
 見たところ佐藤の投球は全く問題ない。
「疲れは見えへんか」
「そうですね」
 佐藤は四十一歳である。流石にそれは隠せない。
「続投させるべきやと思います」
 山田は答えた。
「続投か」
 だが仰木はその言葉に顔を曇らせた。
(まずいな)
 山田はその顔を見てすぐにそう思った。
(監督は焦っている。少しでも早く勝ちたいな)
 普段の彼ではなかった。明らかにソワソワしていた。
「平井は大丈夫やろな」
 そしてここで守護神平井の名を出した。
「終盤だしそろそろブルペンで出来上がっているやろ」
「それですが」
 山田はその眉を少し顰めさせた。
「どうした」
 仰木はそれに気付いた。
「もう少し後でもいいのではないですか」
 七回だ。肩が出来上がるにしろもう少し先だ。それに。
(今日の平井は固くなっている)
 彼もまた優勝を意識していたのだ。山田はそれを敏感に察知していた。
「あの、やはりここで平井を出すのは」
「駄目か!?」
 仰木は顔を顰めさせた。
(これだから投手コーチは)
 彼は一瞬心の中でそう思った。彼は現役時代セカンドであった。その為内野手の視点で野球を見る。
 それに対して山田はピッチャー出身だ。彼はマウンドから野球を見る。
 山田はよく言った。
「ピッチャーは繊細なんだ」 
 彼はコーチに就任した時にまず全てのピッチャーにレポートを提出させた。それぞれの野球観やチーム、特に監督やフロントについてどう思っているかまでも。細かく書かせた。
「監督にもフロントにも言わない、俺の胸の中にだけ閉まっておく」
 彼は前もってそう約束した。そしてレポートを書かせたのだ。
「まずは一人一人知っておかなくてはな」
 そこからはじめたのだ。
 やはり多かれ少なかれ不満や不安を持っていた。山田はそれを見てそのピッチャーに合わせた指導やアドバイスをすることにした。
「選手は機械じゃない、生身の人間なんだ」
 そういう観点から考えていた。そしてピッチャーの心理については特に気を使った。
「俺もピッチャーだった」
 山田はまずそこから考えた。そして現役時代の自分を思い出してみた。やはり色々とチームや監督に対して思うところがあった。
「西本さんには色々と教えてもらったな」
 彼は闘将西本幸雄の拳を受けながらエースとして育てられたのだ。それも思い出した。
「今は鉄拳は駄目だが」
 流石にそれは止めた。
「こうして見ると本当に色々な人間がいるものだ。だが一人一人伸ばしていこう」
 そしてピッチャーの側に立って常に彼等を育成した。時には仰木と衝突もした。
「投手コーチは監督と喧嘩するものだ」
 よくそう言われる。これは投手の起用を巡ってのことである。
「監督は毎試合エースを投げさせたいものだ」
 かって近鉄において仰木の下で投手コーチを務めた権藤博はこう言った。
「それを止めさせるのが投手コーチの仕事だ」
 ここには酷使で短い現役時代になった自身の経験もあった。
 権藤は常に仰木と衝突した。彼の奇抜とも言える作戦によく異を唱えた。そして最後はその衝突が限界にまで達し近鉄を去った。
 山田もそれは似たような状況であった。そして彼は権藤よりもさらにプライドが高かった。
「俺は西本さんからエースとしての教育を一から受けたんだ」
 そうした思いがあった。現役時代もそのプライドで監督である上田利治とは何処かギクシャクしていた。同期であり共に阪急お黄金時代を支えた福本豊に至っては一方的に嫌われていた。
 事の発端は些細なことであった。彼の投げている試合で福本がエラーをしたのだ。
「すまん」
 人のいい福本はすぐに謝った。だが頭に血が昇っていた山田はそれに対しグラブをマウンドに叩き付けたのだった。これで二人の関係は決定的な亀裂が生じた。
 こうしたこともあり山田はオリックスにおいても仰木とよく対立した。このシーズンもそうであった。
「強いチームでは監督と投手コーチは対立するものだ。そうでなければおかしい」
 山田はこう言ったが後に彼は中日のヘッド兼投手コーチに招かれる。そして監督である星野仙一の全幅の信頼の下中日を投手王国に育て上げる。そして見事リーグ優勝を達成した。
 こうした例もある。彼は自分を認める者に対しては従う。西本に対してもそうであった。
「西本さんがなかったら俺はここまでなれへんかった」
 彼もそう言った。彼もまた西本の野球を一から叩き込まれていたのだ。
 それは仰木も同じだった。近鉄のコーチとして常に側にあった。だが彼は三原脩の下で現役生活を送っていた。ここが彼と山田の違いだった。
 仰木の戦術戦略は明らかに三原の流れを汲むものであった。奇計を得意とし相手の裏をかく。それはオーソドックスな戦術で選手を基礎から手取り足取り育てていく西本のそれとは違っていた。そして仰木はスター選手を優遇する。彼は華のある選手を愛した。だが西本にそれはなかった。
「西本さんは誰でも同じ様に接した」
 そうであった。西本は相手がどんな実績を持っていてもそれに臆することはなかった。そしてどんな無名の選手でもこれだと思えば使った。
 現役時代山田のライバルであった近鉄の鈴木啓示も同じだった。彼は西本とことあるごとに衝突した。時には無名の若手を見習えとまで言っている。
「わしはそいじょそこらのヒョッコと違うぞ!」
 鈴木は激怒した。遂にはトレードまで直訴している。そこまで彼等は対立した。
 だが彼もやがてわかった。これは西本の愛情なのだと。本当に鈴木のことを考えて言っていたのだ。
 それが西本幸雄という男であった。山田は常に彼のことが念頭にあった。
「西本さんみたいになるんや」
 そう考えていた。自分のチームの選手に接する時もそれが出ていた。
 だが仰木は少し違う。従ってそうした面からも摩擦が生じるのは当然であった。
 この時もそうであった。二人の間に気まずいムードが流れた。
「わかりました」
 だが山田が折れた。
「平井でいきましょう。そして優勝しましょう」
「ああ」
 仰木は頷いた。こうして平井の投入が決定された。
「大丈夫か」
 山田はマウンドに昇った平井に対して声をかけた。
「任せて下さい」
 口ではそう言う。だがその表情は見ていられない程硬かった。
「そうか」
 山田は頷きはした。しかし結果はわかっていた。
「頼むぞ」
 彼はそう言ってマウンドを降りた。こうなっては後は全て彼に託すしかないのだ。
「これはうちの勝ちパターンや」
 山田はベンチに戻りながら自問自答していた。
「しかしそれでも駄目な時もある。これは時と場合による」
 チラリと平井の方を見た。
「御前の責任やない。しかしな」
 次に仰木を見た。
「責任はかかる。それもピッチャーの宿命やということはわかってくれ」
 そしてベンチに引っ込んだ。彼は仰木とは反対のいつもの場所に控えた。
 彼はいつもベンチでは監督と距離を置くようにしていた。それも投手への気配りからだった。
「近いと監督と何を話しているか不安になるからだ」
 彼はそう考えていた。
「調子や交代のこととか考えてしまう。そうするとピッチングに集中できなくなる」
 だからそうしていたのである。ここでも投手の側に立って考える山田の考えが出ていた。
 だが仰木は違う。彼はセカンドだったのだから。だから投手の心理については山田程知らないもの無理はなかった。それが為にこの山田や権藤と衝突してもだ。
 平井はもう球場の雰囲気に飲まれていた。いつものマウンド度胸は何処にもなかった。
「どう思う」
 バレンタインは平井を見た後ナインに対しそう尋ねた。
「そうですね」
 ナインは彼から目を離さなかった。じっくりと見ていた。
「いけます」
 誰かが言った。
「何か助かったという気がします」
「助かったか」
 バレンタインはそれを聞いて微笑んだ。
「ならいい。じゃあどうするべきかわかっているな」
「当然です」
 彼等は答えた。
「ここで勝負をかけます」
「よし」
 バレンタインの笑みは温かいものだった。その笑みこそ彼の魅力の秘密だった。
「じゃあここは君達に任せた。思う存分暴れてきたらいい」
「はい!」
 ロッテナインの心に火が点いた。点くようにしたのはバレンタインだ。だがそれに乗ったのは彼等だった。
 平井はまずはワンアウトを取った。神戸市民はそれを見て喝采を送る。
「ええぞ平井!」
「今日もその速球見せたらんかい!」
 彼等は優勝がもう目の前にあることを感じていた。そしてそれを指折り数えて待っていたのだ。
 もう勝ったものとばかり思っていた。平井の顔は見えていなかった。
 それが彼にとってはさらにプレッシャーとなった。表情がさらに硬くなる。
「ここまでだな」
 山田はその顔を見て呟いた。彼にはその時未来が見えた。
 彼の予想は当たった。まずは諸積兼司がセンター前にヒットを放った。
「ヒットや、安心せんかい!」
 神戸市民はそう言う。だが平井はこれで完全に崩れた。
 そこからロッテの総攻撃がはじまった。平井はコントロールも定まらず続け様に打たれた。最早ピッチングになってはいなかった。
「さあ来い!早く来い!」
 ロッテナインが仲間を迎える。そして今逆転、駄目押しの得点が入った。オリックスナインはそれを見てその場に崩れ落ちてしまった。
「まさかこんな・・・・・・」
 特に平井の落胆は酷かった。もう涙まで流していた。
「残酷なようだがこれも野球だ」
 バレンタインはマウンドを降りる平井を見てこう言った。
「こっちにとっては気持ちのいい攻撃も相手にとっては苦痛となる」
 それは真理であった。スポーツとはそういうものだ。
「だがこれでこの試合は決まった。
 彼は動いた。そして予定の投球を越えたヒルマンを降板させた。マウンドには河本が立った。これで勝負は決まった。
 試合はロッテの勝利に終わった。オリックスはこうしてこの三連戦一勝もできず本拠地での胴上げは果せなかった。神戸市民にとっては断腸の三連戦であった。
「ここまできて戸惑うとはな」
 仰木は顔を顰めさせていた。まさか敗れるとは思っていなかったのだ。
「神戸のお客さんには悪いことをした」
 そしてベンチを後にする。そこを報道陣が取り囲む。
「負けるべくして負けた試合やな」
 山田は一人ベンチに残り腕を組んでいた。ベンチにはもう誰も残ってはいない。
 明らかな采配ミスであった。それは彼にはよくわかった。
「平井には悪いことをした」
 まずそう思った。
「今日は流れに従うべきやったな。それに逆らったら碌なことはあらへん」
 それは今までの現役時代の経験でよくわかっていた。だが仰木もそれは同じ筈であった。むしろ彼の方がそうした流れを読むことは遥かに上手い。
「その筈なのにな」
 ふと仰木への疑念が湧いた。
「やっぱりわしの方がええかな、監督は」
 彼もまたいずれは監督になりたいと考えていた。ましてやこのオリックスはかって阪急であった。自分の古巣だ。
「このチームのことやったら何でもわかる」
 伊達にこのチームで現役時代の全てを過ごしてきたわけではなかった。彼は西本、梶本、上田の三代でエースとして活躍してきたのだ。
「だからこそ勝てる。それにわしにはその資格がある」
 彼の性格はプライドが高いことである。そしてそれに相応しいものを求める傾向がある。
 後に彼は星野の招きで中日に入ったがこれには取引があったとも噂される。この時自身の後継者を探していた星野はその後継者にかって同じNHKで解説者を務め気心の知れた彼を選んだというのだ。
 そして山田はその下で辣腕を振るった。彼は投手コーチとして揺るぎない名声を得た。
 星野が中日の監督を退く時彼は予定通り中日の監督に就任した。そしてスタッフには佐々木恭介や大橋譲等同じ西本の門下生達を入れた。やはり彼は西本の弟子であったのだ。
「西本さんの作り上げたチームみたいにしたる」
 そういう思いはこの時からあった。
「このチームを作り上げたのは西本さんや。そしてわしがそのチームを受け継ぐんや」
 彼はそう考えていた。そしてベンチを見回した。
「その時は近いな」
 彼はベンチを去った。これ以降彼と仰木の対立は激化していく。
 翌年にはそれが頂点に達した。そして遂に彼と仰木の対立は選手達はおろかフロントまで抱き込む騒動となった。
「オリックスで何か起こっているな」
 マスコミはそれを察したが近寄ろうとはしなかった。巨人や阪神ならばすぐに漏れてくる類の騒動であるがオリックスはそれを外には漏らさないのだ。
 だがそれで騒動が収まるわけではない。マスコミなぞ関係なかった。
「俺をとるか、あいつをとるかどっちかにしてくれ!」
 仰木はフロントにそう言って詰め寄った。山田をとると言えばその時点で辞表を叩き付けるつもりであった。
 山田は既に投手陣の心を捉えていた。そしてそれは看板であるイチローにも及ぼうとしていた。
「あいつまで巻き込まれては勝ち目がない」
 仰木は山田の意図に気付いてすぐに手を打ったのだ。
 イチかバチかの賭けだった。彼は腹をくくっていた。
 だがその賭けに勝った。ここで彼のその勝負師、魔術師としての勘が勝ったのだ。
「・・・・・・わかった」
 フロントは彼の考えを飲んだ。山田の解任を決定したのだ。
「君に監督をやってもらおう」
「わかりました」
 仰木は心の中でニヤリと笑った。彼は政争に勝ったのだ。
 こうした生臭い話も起こる程両者の対立は深刻であった。だがこれのはじまりはやはり投手と野手の対立が発端であった。
 自分の率いたチームを幾度となく日本一に導いた野村克也も森祇晶もこう言っている。
「我が儘で身勝手で自己主張が強いのがピッチャーだ」
 二人は共にキャッチャー出身である。だからこそこうした考えになるのだろう。当然の様に彼等は投手出身の指導者や評論家からは目の敵にされている。嫌悪感を露わにする者も多い。
 だが彼等と同じ、若しくは近い考えを持つ者は野手出身者には多い。仰木もそれは大体同じである。だからこそことあるごとに対立したのだ。
「ピッチャーは確かに重要だ。だが野球はそれだけでは勝てない」
 近代野球はそうである。ピッチャーだけで勝てる時代はもう終わったのだ。
 まずピッチャーを支える守備。エラーが少ないだけではない。守備範囲の広さ、脚、肩、連携。そしてシフト。それだけに留まらない。
 攻撃における機動や連打、打つポイント、近代野球は頭脳なのだ。
 山田もそれはよくわかっていた。だからこそ監督になった時にそうした面を指導できるスタッフを集めたのだ。しかしこの時それを最もよくわかっていた男が一人いた。それがバレンタインであった。
「それだけでは駄目だ」
 バレンタインはそこにプラスアルファを付け加えたのだ。
 それは何か。バレンタインは答えた。
「モチベーションだよ。選手の気持ちを高めることが何よりも重要なんだ」
 彼は言った。そしてロッテの選手達を見てこう言った。
「彼等は決して弱くはない。少し気持ちを切り替えたら凄く強くなることができる」
 そしてその通りになった。
 彼の采配は確かに見事だった。ロッテナインはそこに近代野球を見た。しかしそれに留まらなかったのだ。
 彼はこう言った。
「このシーズンここまで気持ちよく野球ができたのは君達のおかげだ」
 と。だがナインはそれに対してこう言った。
「いえ、それは俺達の台詞です」
 彼等はバレンタインの言葉をそのまま彼自身に返したのだ。
「このシーズン、本当に最高の状態で最後まで戦えました。全部監督のおかげです」
「有り難う」
 バレンタインはその言葉に感謝の言葉を述べた。
「来年も君達と一緒に野球がしたいな」
「はい」
 それはロッテナイン全ての願いであった。
 だがそれは適わなかった。バレンタインはこのシーズン限りで広岡ゼネラルマネージャーから解任された。
 実は広岡は来年も彼に監督をやってもらうつもりであった。文句を言うつもりは一切なかった。
「私の仕事はまた別だ。総合的なことをやっていればいい」
 そういう仕事がやりたかったこともあった。ゼネラルマネージャーという仕事が気に入っていた。日本ではじめてということも彼のプライドをくすぐっていた。
 しかしここで問題が生じた。コーチ陣とバレンタインの軋轢を知ったのだ。
「それは本当か!?」
 広岡は自分のところに直訴に及んだ彼等に対して問うた。
「我々が嘘を言っているように見えますか?」
「何なら調べて下さい、すぐにわかりますよ」
 彼等はバレンタインのアメリカ式のベースボールに反発したのだ。アメリカではコーチは監督の下にある。日本の様に親しい関係ではない。言わばスタッフに過ぎないのだ。全ては監督が取り仕切るのだ。
 これが彼等には我慢ならなかった。どうしても見下されているように思えてしまう。
「だがな」
 広岡はここで彼等を宥めることにした。
「選手達は彼を深く信頼している。それに彼のおかげに二位になったんだ」
「それは認めます」
 彼等は一様に言った。
(これで終わるかな)
 しかし広岡の予想は外れた。
「しかし我々はそれでは納得できません、もう彼の下ではやっていけません」
「そこまで言うのか」
 広岡は厄介なことになったと悟った。そして事態はかなり深刻なのを理解した。
(まずいな)
 彼は考えた。今度は自身の経験を話すことにした。
「いいか、君達」
 彼はコーチ陣を見回した後で口を開いた。
「大体日本ではコーチと選手、監督とコーチが仲がよすぎるんだ。これはアメリカでは全然違う」
 彼はヤクルトの監督時代そう言ってコーチと選手が一緒に食事を採ることすら戒めた。馴れ合いになってしまうという理由からだ。
「本来はもっとシビアなものなんだ。それをわからないと駄目だ」
「ここは日本です」
 だがそう言い返されてしまった。
「日本には日本の野球があります。それはゼネラルマネージャーもご存知でしょう」
 広岡はしまった、と思った。切れ者と言われる彼が今一つ世渡りを上手くできない理由としてその口がある。言いたいことは絶対に言う、それが舌禍を起こす。そして持論を絶対に曲げない。今回はそれを口にして彼等を説得しようとしたが失敗した。彼はそのプライドの高さと鼻っ柱の強さから人を説得するのも下手であった。
(これは無理だな)
 広岡はそこで決めた。バレンタインの更迭を決定した。
「わかった、君達の意見を飲もう。それでこの話は終わりだ」
「はい」
 彼は止むを得ない、と思った。こうしてバレンタインの解任が決定された。
『ボビー止めないで』
 ファンは連日その垂れ幕を掲げて訴えた。だが広岡は首を横に振った。
「彼を呼んだのは早過ぎたな」
 垂れ幕を見ながら広岡は唇を噛んでそう言った。
「どうやら彼の考えが浸透するにはもう数年必要だったらしい、球界全体に浸透するには」
 この解任劇で広岡は批判の矢面に立たされた。だがマスコミの批判程度で屈する彼ではなかったのでそれは問題ではなかった。 
 しかしロッテは以後低迷した。そしてファンと選手達の願いによりバレンタインがロッテに復帰するのはそれから九年の歳月が必要であった。
 バレンタインは野球とは何かをロッテの選手達、そしてファンに教えてくれた。そして今また彼等に再び教えようとしている。彼もまた野球を心から愛しているのだから。

早過ぎた名将
  
           2004・8・28


[195] 題名:土壇場の意地 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2004年09月08日 (水) 00時26分

             土壇場の意地
 最後の最後、ここで決まるという場面がある。
 これは何事にもある場面であり野球だけに限らない。その最後に全てが決まると思うと人は不思議な高揚に包まれるものだ。
 だが勝負の世界において敵にそれを見せ付けられることほど嫌なことはない。悔しいことはない。それが勝敗の常だとわかっていても受け入れられないものだ。
 それはこの日の近鉄バファローズもそうであった。
「今年は何かがおかしいな」
 ファンはよくこう言った。かっては常に優勝を争っていたというのにこのシーズンは順調に勝つことができなかった。
「戦力は同じなんやけれどな」
 それが不思議で仕方なかった。それでどうして勝てないのか。
「監督のせいちゃうか」
 誰かが言った。このシーズンから近鉄の監督は知将と謳われた仰木彬から三〇〇勝を達成した往年の大エース鈴木啓示に変わっていたのだ。
 鈴木は徹底した根性論者であった。選手達にはとにかく走るように言った。 
 そして選手が怪我をしても出させ続けた。流石に選手達もこれには反発した。
 その為選手と監督の間に深い溝ができていた。これでは満足に勝てる筈もなかった。
「あのままやとまずいんちゃうか」
 心あるファンはそう思った。だがフロントは動かなかった。
 これから二年後近鉄は最下位になる。チームが完全に崩壊したせいであった。
 鈴木の下では選手達の顔も暗かった。とかくチームは沈んでいた。
「しかし野球は好きや」
 ナインはそう思っていた。だから球場でプレイを続けていた。
 このシーズンもやはり西武の独走であった。全てにおいて隙のない戦力であった。
「それにひきかえ西武は」
 ファンは溜息混じりに向こうの青いユニフォームを見た。
「一体何時になったら負けるんやろうなあ」
 そう思わせるだけの圧倒的な戦力であった。その前のシーズンも日本一になっていた。西武の黄金時代はまだまだ続くかと思われた。このシーズンも既にマジック一となっていた。
 そして今日の試合に挑んでいた。一〇月六日、藤井寺である。
「よりによって西武の胴上げ見なあかんのかい」
 近鉄ファンにとってはしゃくでならなかった。この数年毎年優勝を争ってきた当のチームである。
「それも藤井寺でやで。やっとれんわ」
 皆口々に不満を言い募っていた。お世辞にもマナーのいいファンとは言えない。
「いや、わからんで」
 ここで年老いた一人のファンが呟いた。
「何でや、おっちゃん」
 彼等はシーズン中は毎日のように球場に通っている。だからもう顔馴染みである。
「いや、昨日西武に勝ったやろ」
「ああ」
「昨日の西武見てどう思った?」
「どうと言われると」
 彼等はそこで考えた。
「まあ一時みたいな強さは感じんかったな」
「あおやな。ちょっと前までの西武やったら負けとったかも知れん」
 五日の試合は一点差で近鉄の勝利であった。
 そこでファンが微かに感じたのがそれであった。
「デストラーデがおらんからな」
 西武の黄金時代を象徴する男の一人であった。陽気で大柄なキューバ出身のスラッガーである。秋山幸二、清原和博と共にクリーンアップを組んでいた。
「しかし鈴木健がおるで」
 西武の期待の若手だ。バッティングセンスの良さで知られている。
「あいつはデストラーデ程怖ないしな。それに今一つ西武に合っとらん気がする」
「そういえば」
 これは後に的中する。鈴木健はヤクルトにトレードで出され、そこで思いもよらぬ活躍をするのだ。彼は満面に笑みをたたえてヤクルトに来てよかった、と言った。
 尚西武から他の球団にトレードで出た選手は多い。先に挙げた秋山はダイエー、清原は巨人に行った。二人共その球団に完全に馴染んでいた。秋山はダイエーでは誰もが一目置くチームリーダーであり王貞治からも絶対の信頼を置かれていた程である。
 セカンドの辻発彦もヤクルトに行って復活した。バントの名手平野謙はロッテに。奈良原浩は日本ハムに。吉竹春樹は阪神に帰った。やはりこうして見ると人材流出が激しい。工藤公康もダイエーから巨人に移っている。これだけの主力の放出をフロントが一切止めていないのもまた妙ではある。
 だがこの時はそのキラ星の如き人材が揃っていた。西武はまだまだ圧倒的な強さを誇示している筈であった。
 しかし何かが違っていた。どうもあの強さや覇気が感じられないのだ。
「とにかく今までの西武とは何かちゃうで」
 その老ファンはまた言った。
「優勝にプレッシャーなんか感じへんチームやけれどな」
 何度も優勝しているチームはもう慣れたものである。マジック一だからといって緊張することはない。
「ただ、何かがちゃうんや」
 そして西武のベンチを見た。見れば普段と全く変わりのない西武ベンチであった。
「渡辺の調子はどうだ」
 西武の将森祇晶はコーチの一人に今日の先発である渡辺久信の調子を聞いていた。
「いいですよ。今日はいけます」
「そうか」
 森はそれを聞くと頷いた。
「では今日で決めるとするか」
「はい」
 彼等は今日で優勝を決めるつもりであった。
 見れば西武ナインは皆そういう考えであった。
 こうして試合ははじまった。近鉄の先発は吉井理人である。
「さて、どうなるかな今日は」
「案外あっさりした試合になったりしてな」
 ファンは口々にそう言っていた。
 試合は投手戦となった。渡辺も吉井も好調で互いに一点を許しただけであった。
 しかし九回表に試合が動いた。秋山がホームランを放ったのだ。
「おい、これで決まりやで」
 一塁側はもう諦めた雰囲気になった。
「西武の胴上げなんか見たくもないわ」
 中には帰り支度をはじめる者までいた。
「今日の渡辺は打てへん」
 それが共通した意見であった。誰も殆ど期待していなかった。
 だがあの老ファンだけは違っていた。
「最後まで座って見とかんかい」
 彼は去ろうとする周りの者に対して言った。
「しかしなあおっさん、今日の渡辺見てみいや」
 三色の近鉄の帽子を被った中年の男が言った。
「ああした時のあいつは打てるもんやないで」
 作業服の男も言った。見れば今日の渡辺はストレートがかなり走っていた。
「黙って見とくんや」
 だが彼は頑として引かなかった。
「バファローズのファンやったらな」
「・・・・・・ああ」
 その言葉に負けた。彼等はまた座った。そして試合を観た。
 その時マウンドの渡辺は何処か不安を覚えていた。
「大丈夫かな」
 彼はふとそう思った。
「近鉄が相手だからな」
 近鉄の打線はパワー打線で知られていた。一点リードしているとはいえやはり怖い。
 自軍のベンチを見る。もう優勝を今か、今かと待っている。
「皆は待ち遠しいみたいだな」
 やはり優勝は嬉しい。西武ナインは胴上げの瞬間を待ち望んでいた。
 渡辺はその期待を一身に背負っていた。彼もまた優勝が待ち遠しかった。
 渡辺は慎重に投げることにした。近鉄の四番石井浩郎にツーベースを浴びるものの後続を無難に抑えた。
「よし、あと一人だ」
 西武ベンチは総立ちになった。身を乗り出し、その時に備える。
 バッターボックスには大島公一がいる。小柄で俊足が売りのルーキーだ。
 忽ちツーストライクに追い込んだ。
「これで終わりだ」
 渡辺も優勝を確信した。球威は落ちていない。
 投げた。ストレートだ。大島は手が出せない。外角に見事に決まった。
「やった!」
 渡辺はその瞬間ガッツポーズをした。優勝だ、その場にいるほぼ全ての者がそう思った。
 そう一人以外は。
「ボール!」
 主審の判定は無慈悲なものであった。
「えっ!?」
 渡辺もキャッチャーの伊東勤もその瞬間自分の耳を疑った。
「ボールですか!?」
 伊東が驚いた顔で主審に問うた。
「ボールだ」
 だが判定は覆らない。こうして仕切り直しとなった。
「何てこった」
 西武ベンチはいささか落胆した。これで決まったと思ったから当然であった。
「けれどあと一球だ」
 森は彼等を宥めるようにして言った。
「それで全てが決まる。ここは落ち着くべきだ」
「そうですね」
 ナインもこれで鎮まった。そして渡辺に顔を戻した。
「頼むぞ」
 だが渡辺はボールの判定に完全に調子を崩していた。
「あれがボールになるか」
 彼はまだ納得できないでいた。
 野球においてピッチャーはとりわけ特殊なポジションである。野球はまずピッチャーからだ、と言われる程重要だ。
 繊細なものである。ちょっとした心の動きが投球に影響するものだ。
 この時の渡辺もそうであった。彼はそれまでの勝利を確信した顔ではなかった。
「落ち着け」
 だがそこにキャッチャーの伊東がやって来た。
「あと一球じゃないか」
「はい」
 だが彼はまだ気落ちしていた。伊東はそんな彼を元気付ける為に言った。
「三塁側を見るんだ」
 渡辺は言われるまま三塁側を見た。
「あと一球!」
 所沢から駆けつけた青い半被のファン達が声援を送っていたのだ。
「見たな」
「はい」
 渡辺は頷いた。
「お客さんが待っている。だからここは気を鎮めるんだ」
「わかりました」
 渡辺は伊東のそうした細かい心配りを受け取った。
「じゃああとほんの少しだけ頑張ろう。そうしたら後は胴上げだ」
「はい」 
 伊東はこれでいいと思った。そして安心してキャッチャーボックスに戻った。
 渡辺はこれで落ち着いていた。少なくとも心は。だが投球んそれが伝わるのはもう少しだとだった。
 投げた。ストレートだ。だが僅かだがコントロールが狂った。
「ム!」
 伊東はそれを見た瞬間まずい、と直感した。そしてその時にはもう遅かった。
 大島のバットが一閃した。そしてボールはセンター前に弾かれていた。
 石井は当然の様にホームインした。まさかの同点であった。
「こんなところで・・・・・・」
 渡辺は思わず顔を顰めさせた。だがこの回は何とか後続を断った。
「おい、こんなところで同点やで!」
「大島、よくやった!」
 一塁側の近鉄ファンはもうお祭り騒ぎである。まさかの同点タイムリーに皆大騒ぎだ。
 見れば帰ろうとしていた客も戻っていた。こうした時のファンは実に現金だ。
 だが森はこうした状況でも冷静だった。
「こういうこともある」
 ごく普通のこととしてとらえていた。
「むしろプラスに考えなければいけない」
「プラスにですか」
 コーチの一人が問うた。
「そうだ。あれを試すいい機会じゃないか」
「あれですか」
 そのコーチはそれを聞き顔を険しくさせた。
「その時が来ればだがな。どうだ」
「そうですね」
 彼は問われて暫し考え込んだ。だが顔を上げた。
「やりますか」
「よし」
 まずマウンドに渡辺にかわって守護神潮崎哲也を送った。
「ん、潮崎か」
 近鉄ファンはそれを特に不思議に思わなかった。
「渡辺も九回投げとるし妥当なとこやな」
 老ファンは予定事項の様にそれを見ていた。同点とはいえ延長に守護神が登場することは充分考えられたことであったからだ。
「今日は流石に何をしても勝ちたいやろからな」
「しかし森はここからがわからへんで」
 三色帽のファンがそこに口を挟んだ。
「そやな、あの男はホンマに頭が回るやっちゃからな」
 作業服の男も言った。近鉄は今まで森の知略に対しても数限りない死闘を繰り広げていたのだった。
 敵だからこそよく知っていた。森はそれにあえて気付かないふりをしていた。
「今気付かれると何にもならん」
 それは彼が最もよくわかっていることであった。
「ふむ」
 見ればファンの中には何かを察している者はいるようだ。だがそれが何かまではわかっていない。
「当然といえば当然か」
 森はそれを見て安心した。
「流石にこれはわからないだろう」
 彼はニンマリと笑った。
 試合は進む。近鉄のピッチャーも守護神赤堀元之に替わっていた。
「赤堀、がんばらんかい!」
 一塁側から声援が飛ぶ。近鉄の誇る絶対的な守護神である。彼もまた敵の目の前での胴上げは何としても阻止するつもりであった。
 制球に苦しみながらも抑えていく。十回は両者共目立った動きはなかった。
 十一回表、西武の先頭バッターは鈴木健であった。
 鈴木は赤堀のボールを引きつけた。そして思いきり振った。
「いったか!」
 その打球を見た西武ナインもファンも思わず総立ちになった。
「入るな!」
 近鉄ファンとベンチは思わずそう叫んだ。打球は際どいところを飛んでいく。
「どうなる!」
 今にもきれそうだ。だが中々きれない。打球はそのままライト線ぎりぎりをかすめるようにして飛ぶ。
 巻いた。打球はポールを巻いた。鈴木の値千金のソロアーチだった。
「やった、やった!」
 鈴木は満面の笑みでダイアモンドを回る。森はそれを見て今度こそ勝利を確信した。
「よくやった」
 そして帰って来た鈴木を出迎えた。
「有り難うございます」
 鈴木は監督に迎えられ笑顔のままで答えた。
「これで勝ったな」
 森はベンチに引っ込む鈴木の姿を見て言った。そしてスコアボードに目を移した。
「よし」
 森はここで先程から考えていることを実行に移す決意をした。
 彼は電話を手にした。ブルペンに電話をかける。
「行くぞ」
「わかりました」
 電話の向こうから元気のいい声が聴こえてきた。
「ライオンズ選手の交代をお知らせします」
 ここでアナウンスが入った。
「ん、守備固めか?」
 近鉄ファンはそれを聞いてまずそう思った。
「レフト潮崎!?」
「何!?」
 近鉄ファンだけでない。西武ファンもこのアナウンスには仰天した。
「ピッチャー杉山賢人」
 左のルーキーである。速球を武器としこのシーズンの新人王を獲得した。
「杉山はわかるが」 
 劣勢の時でも冷静だったあの老ファンですらすっかり狼狽していた。
「レフト潮崎やと!?森は何を考えとるんじゃ!」
 思わず絶叫していた。潮崎がレフトに入り杉山がマウンドに登っても球場はまだざわついていた。
「ふふふ」
 森はそのざわめきを不敵な笑みを浮かべながら聞いていた。
「これには誰も気付かなかったようだな」
 彼の声は自信に満ちていた。
「それはそうでしょう」
 傍らにいたコーチもそれに頷いた。
「こんなことは今までなかったことですから」
 ピッチャー複数を同時にグラウンドに置く。しかもマジック一のこの場面で。森は何を考えているのか。誰にも理解することができなかった。
「監督ホンマに森か!?」
 作業服の男が思わず口にした。
「長嶋とちゃうやろな」
 長嶋茂雄はこのシーズンから巨人の監督に復帰していた。相も変わらず奇妙な采配を執っていた。
「あんな太った長嶋がおるか?」
 だが三色帽の男が森を指差して彼に対して言った。
「いや」
 作業服は首を横に振ってそれを否定した。
「確かに森や」
「そうやろ、あれは森や」
 そう言う三色帽も信じられなかった。一体何を考えているのか、と思っていた。
「わからへんな、いや」
 ここで老ファンがハッとした。
「そうか、わかったで」
「何や、おっちゃん」
「これはな」
 他の二人はゴクリ、と喉を鳴らした。次の言葉を待った。
「日本シリーズへの対策や」
「シリーズのか!?」
「そうや」
 彼は険しい顔で他の二人に頷いた。
「セリーグはもう決まっとるやろ」
「ああ、ヤクルトやな」
 このシーズンのセリーグは長嶋茂雄が戻ってきた年であったがそれだけで優勝出来る程野球の世界は甘くはない。この年のセリーグ昨年の最後の最後まで、そうシリーズまで見る者を離さない程の死闘を展開し、それで実力をつけた野村克也率いるヤクルトが優勝していたのだ。
「野球は頭でするもんや」
 野村はニンマリと笑ってこう言った。これは勘、いや思いつきだけで野球をする巨人に対しての痛烈かつ爽快な皮肉であった。
 野村と同じく森もまた知略で知られている。だが彼は野村とは少し違う。
「知略とはそのチームに合ったものでなければならない。こちらにも敵にもな」
 彼はこう考えていた。ここも野村と同じだが少し違う。野村は自分の考えにチームを合わせようとするところがあるが森はその選手を見て策を練るのだ。
「その選手が私を嫌っていても構わない」
 森はよくそう言った。
「使える選手は誰だろうが使う」
 そうした考えの持ち主であった。巨人時代からかなりシビアな考えの持ち主であった。
 その考えのもとこの策を使った。そう、シリーズにおいての秘策だ。
「どういうつもりだ」
 ヤクルトの偵察隊も藤井寺に来ていた。彼等もまた我が目を疑った。
「うちのクリーンアップ用か」
 誰かがそれを見て言った。
 当時ヤクルトのクリーンアップは広沢克己、ハウエル、池山隆寛であった。右、左、右とジグザグになっていた。
 三人共長打力に秀でていた。三振も多いがそれは脅威であった。
 ここで最大の問題は四番のハウエルだ。彼はここぞという時に打つ男であった。この前のシリーズでは徹底的にマークして抑えている。
 だが今回はそれだけでは危ないことが考えられる。見たところヤクルトは昨年より遥かに強くなっているようだ。
「だからこそハウエルを抑えなければならない」
 森はそう考えていた。彼には一つの持論があった。
「敵の主砲は何としても封じろ」
 である。
「そうすればそのチームの得点力は大幅に減る」
 これはその通りであった。彼はかってこの論理で勝利を収めてきた。
 ならばハウエルを封じなくてはならない、彼には都合のいいことに一つの弱点があった。
 それは彼が左打者というところにあった。そう、彼は左投手を苦手としていたのだ。
「うちの左といえば」
 ワンポイントで使えるとなればやはり杉山だ。しかし。
「広沢と池山がいるしな」
 その後には古田敦也もいる。森は彼には妙に警戒心を抱いていた。
「古田もいるしな」
 確かに古田は打撃もいい。しかしそれだけではないと感じていた。
「もしかするとあの男は」
 古田を見る度に思うことがあった。
「私以上の男かもな。野村さんも凄い男を育てているものだ」
 後に野村も森も古田に一敗地にまみれる。その時にそう思ったことを噛み締めるのであった。
 ヤクルトの打線はそうした強さがあった。だがそれを何処かで断ち切らなくてはならない。
「それは敵の主砲であるべきだ」
 そうでなくては意味がないのだ。
「主砲の一発で全てが変わる」
 かっての巨人がそうであった。王と長嶋がいたことはやはり重要であった。
 昭和四七年のシリーズはその好例であった。第三戦、阪急のマウンドにいたのはサブマリン投手山田久志であった。
 山田はこの試合好投を続け九回まで巨人打線を完封に抑えていた。だが九回に王の逆転サヨナラスリーランを浴びてしまった。
 これでシリーズの流れは変わった。巨人は勢いを掴みシリーズを制覇したのであった。
「あれがシリーズの怖さだ」
 森はそのことがよくわかっていた。シリーズは一打で流れが変わるものなのだ。
 だからこそ万全を期さなくてはならない。そう、ハウエルは何としても抑えなくてはならなかったのだ。
 その為に秘策がこれであった。おあつらえ向きに近鉄のクリーンアップには左打者がいた。
 ブライアントだ。まずは彼を仮想のハウエルに見た。
「さて、ここからだ」
 森はヤクルトの偵察陣に目をやった。
「これを見てどうするかな」
 彼はあえて手を見せたのだ。これでヤクルト側を少しでも惑わせる為に。
「野村さんは賢い。だがな」
 森はニヤリ、とここでも笑った。
「私としても負けるわけにはいかない」
 彼もまたここで野村を牽制しておくつもりだったのだ。
「頼むぞ」
 そしてマウンドにいる杉山に目をやった。
「ブライアントとハウエルはかなり違うタイプだが」
 ブライアントはとにかくバットを振り回す。ハウエルはそれに対して時としてミートに徹することもある。
 しかし左にあることにかわりはない。絶好の仮想敵であった。
 杉山は森の期待に応えた。ブライアントをショートフライに討ち取った。
「よし」
 それを見て森は満面に笑みをたたえた。
「では交代だ」
 そして杉山をレフトに送った。そして潮崎がマウンドに立った。
「考えたもんやな」
 老ファンは感心したように言った。
「こんな抑え方があるんやな。流石にここまではわからんかった」
「おっさん、そんなこと言うてる場合ちゃうで」
 ここで三色帽が言った。
「そうや、このままやと西武の胴上げやで」
 作業服も言った。彼等は明らかに焦っていた。
「そん時はそん時や」
 老ファンはそれに対して突き放したように言った。
「それも野球を見てたらあることや。観念せんかい」
「しかしなあ」
 彼等はそれでも食い下がった。
「あとあんた等何年近鉄ファンやっとるんや」
「いきなり何言うんや!?」
 二人はそれを聞いてハァッ!?とした顔になった。
「聞いとるんや。ファンになって大分経つやろ」
「そりゃまあ」
「物心ついた時からや」
 二人は頭を掻きながら答えた。
「じゃあわかってる筈や。このチームが今までそういう勝ち方してきたかな」
「ああ」
 二人は老ファンのその言葉に頷いた。そうであった。近鉄の野球はある意味奇跡的なところがあった。
 絶体絶命の状況から立ち上がり勝利を収める。そうしたことが何度もあった。
「九回で六点差ひっくり返したこともあったやろ」
 この年の六月のことであった。ダイエー戦で誰もが諦めた状況から勝利を収めたのだ。
「それがうちの野球や。忘れたわけやないやろ」
「そらまあ」
「わしもパールズの頃から知っとるし」
 彼等はまだ戸惑いながら言った。
「じゃあよく見とくんやな。そしてあかんかったらそこではじめて諦めるんや」
「そやな」
 二人は老ファンのその言葉にようやく納得した。そしてまたグラウンドに目を戻した。
 その間に潮崎は石井を三振に討ち取っていた。遂にあと一人だ。
「さて」
 ここで森は再び考えた。
 次のレイノルズはスイッチヒッターだ。だが左投手には弱い。
「どうするべきか」
 ここで杉山に代えるべきか。それとも潮崎でいくべきか。彼は迷った。
「止めておくか」
 彼は杉山を引っ込めた。代わりにレフトに垣内哲也を送った。
「あれ、杉山をおろすんか!?」
 これには誰もが驚いた。
「折角の秘策やのにな」
 実は森には彼を使わなければ引っ込めざるを得ない理由があったのだ。
 杉山と潮崎に外野の守備練習を行っていた時だ。杉山の動きが悪いことに気が着いたのだ。
「これはまずいな」
 森は思った。彼は守備を特に重要視することで知られていた。
「相手の戦力を見る時はまず守備からだ」
 彼はよくそれを言った。間違っても打線から見ようとはしなかった。
「打線から見たら戦力を見誤る」
 それが理由であった。打線は確かに派手だ。だがその派手さに惑わされるのだ。
 だから彼はまず守備から見た。そしてそこから攻略法を見出すのだ。
 そして八七年の巨人との日本シリーズにおいては決定的な勝利を収めている。
「巨人の守備には致命的な弱点がある」
 彼は巨人のデータを調べてそう看破した。
「センターのクロマティだ」
 彼は巨人の主砲であった。その打撃センスの良さは折り紙つきだった。
「バッターとしては脅威だ。だがその守備は穴になっている」
 まず彼はクロマティの動きを見た。
「動作が緩慢だな」
 確かにクロマティの動きは遅い。打球への反応が悪い。特に内野への送球が遅かった。
「そして肩も弱いな」
 そのボールにも注目した。そして彼は結論を出した。
「彼のところにボールがいったならば積極的に次の守備を狙え」
 そうノートに書いた。そしてその機会がやってきた。
 第六戦。ここで勝てば西武の日本一である。遂にその作戦を実行に移す機会がやってきた。
 二塁には清原がいる。彼は西武時代は足もあった。
 ここでセンターフライがあがった。深い。森の目が光った。
「行け!」
 清原がタッチアップした。クロマティも巨人ナインも誰もが三塁だと思った。
 だが清原は三塁ベースを回った。三塁ベースコーチ伊原春樹の右手が大きく回った。
 清原はそのままホームへ突進する。中継の川相が慌ててボールをホームに送球する。
 ホームで激しい激突があった。アウトか、セーフか。場内は判定を固唾を飲んで見守った。
「セーフ!」 
 主審の右手が横に切られる。何と二塁からのタッチアップであった。
「これでよし」
 森はそれを見てほくそ笑んだ。だがそれで終わりではなかった。
 今度は一塁に辻がいた。今度は秋山がセンター前にヒットを放った。
「流石に今度はない」
 辻は一塁だ。如何に彼の走塁が名人芸でも精々三塁までだ。そう、どの様な機動力であっても。
 だがまた三塁を回った。クロマティは驚愕した。
「こんな野球は見たことがないぞ!」
 彼ははっきり言えば油断していた。今度ばかりはないものと思っていたのだ。
 だが西武は違った。やはり彼の隙を狙っていたのだ。
 また慌てて返球する。だがやはり肩が弱かった。守備は普段からの練習がものを言う。ましてや彼は三十代後半であった。衰えもあった。
 辻は見事ホームを陥し入れた。これで巨人の流れを完全に潰し、そして勝利を確固たるものにした。
「守備でのミスは取り返しがつかない」
 彼はこう考えていた。奇しくも彼と犬猿の仲で知られる権藤博もこう言っている。
「エラーでの失点は返って来ない」
 投手出身の彼もまた同じことを言った。守備はそれだけ重要なのだ。
 絶好の例を挙げるとすれば『史上最強打線』という破廉恥な名前を掲げている巨人がそうである。確かにホームランは多い。だが守備は穴だらけだ。おそらく今まででも屈指のお粗末さであろう。そういう意味では球史に永遠に名を残す。その為優勝を逃した。もっともこれは無能なフロントと監督のせいでもあるが。とある巨人の提灯持ちのスポーツ新聞紙は『史上最強球団代表』という北朝鮮のプロパガンダに匹敵する下品な礼賛記事を載せた。笑い話にしても性質が悪い。己の保身にしか頭が回らず、オーナーの茶坊主としてヒステリックに喚き散らし、挙句の果てには裏金で解任される知能の低い男をここまで賛美できるのもまた日本のマスコミだけであろう。こうした愚か者が作り上げたチームである。満足に勝てる筈もない。監督は負ければ選手の責任にする。愚将の見本の様な男であった。
 こうした愚劣で滑稽なチームの野球と森の野球は根本から違う。彼は野球とは何かをその灰色の頭脳でよくわかっているのだ。
「だからこそだ」
 彼は杉山の守備を信用できなかったのだ。
「もしレフトに打球が飛んだら」
 そう思うとやはり怖かった。だから垣内を送ったのだ。
 そして彼にはもう一つ読みがあった。
「今日の潮崎はいい」
 そう、潮崎の調子を見て安心していたのだ。
 武器であるシンカーのキレがよかった。十回も三人で無難に抑えていた。
「これならば抑えられる。問題はない」
 こうして潮崎続投を決めたのだ。
 そして彼はこのシーズン近鉄に相性が良かった。ホームランは一本も打たれていない。特に今打席にいるレイノルズはノーヒットに抑えている。
「続投だ」
 こうして潮崎続投を決定したのだ。
「流石にもうあかんで」
 近鉄ファンは流石にもう観念していた。
「レイノルズは潮崎が大の苦手や。幾ら何でもこれでお終いや」
 三色帽も作業服もそう言って諦めていた。
「何度も言わすな」
 それを老ファンが叱った。
「最後まで見とけ、ちゅうとるやろが」
「おっさん、そうは言ってもこらあかんで」
「そうや、せめて胴上げだけはこの目で見んようにしようやないか」
 二人はそう言い返した。だが彼は動かなかった。
「わしは最後まで見る」
 そしてグラウンドから目を離そうとはしなかった。
「・・・・・・わかったわ」
 二人はそれを見て観念した。再び腰を下ろした。
「じゃあ最後まで観ようやないか」
「ただし負けたらビール奢ってもらうで」
「好きなだけ奢ったるわ。負けたらな」
 売り言葉に買い言葉である。彼もそれに乗った。
「そのかわり、最後まで観るんや」
「・・・・・・ああ」
 二人はようやく腹をくくった。そしてグラウンドに顔を移した。
 潮崎は投げた。サイドスローから右腕が唸る。
「シンカーか」
 レイノルズの身体の外へ逃げる様に斜めに落ちていく。見事なシンカーだ。
「決まったな」 
 潮崎も伊東も思った。だがレイノルズのバットはその軌跡に動きを合わせた。それでも二人はまさか打たれるとは思いもしなかった。
「このシンカーは打てない」
 そう確信していた。だがそれは誤りであった。
 レイノルズはバットを渾身の力で振りぬいた。凄まじい唸り声が響いた。
「何っ!」
 森はそれを見た瞬間思わず声をあげた。今コーチ達と共に胴上げの準備をしているところであったというのに。
 打球は大きな弧を描いて飛ぶ。そして藤井寺のレフトスタンドに吸い込まれていった。
「まさか・・・・・・」
 潮崎は今スタンドに入ったボールを見た。西武ファンの沈黙は絶叫のそれであった。
 その場にしゃがみ込む。ナイン達もだ。
「まさかここで打たれるとは・・・・・・」
 流石にこれには落胆した。まさかの一撃であった。
 レイノルズはダイアモンドを回る。そしてホームを踏んだ瞬間にナインとファンから歓喜の声で迎えられる。
「どや、これが近鉄の野球や」
 老ファンは満足した笑みで言った。
「こういった土壇場にこそ力を発揮するんや。今年は少ないがな」
「そやったな」
 二人はそれに納得した。
「なあおっさん」
 ここで二人は老ファンに恐る恐る語り掛けた。
「何や?」
 彼はそれに対しゆっくりと顔を向けた。
「ビールやけれど」
「ビール!?」
 彼はそのことは完全に忘れていた。だが二人はそれに構わず言った。
「わし等が奢るわ。好きなだけ飲んでや」
「・・・・・・まあくれる、ちゅうんなら貰うけれどな」
 彼はそれを了承した。だが何故奢られるのかはわかっていなかった。
 試合はこれで流れが止まった。結局延長十二回引き分けに終わった。
「勝てなかったか」
 森は疲れきった顔で言った。
「一勝するのは難しいということはわかっているつもりだが」
 その顔は土気色になっていた。
「それでも今日は勝ちたかったな」
 そしてベンチから姿を消した。西武が優勝するのはこれから一週間後の十三日であった。長く苦しいトンネルであった。
 近鉄ファンは彼とは好対照であった。思いもよらぬ引き分けに安堵していた。
「これが近鉄バファローズの野球や」
 球場を出る時老ファンは満足した顔で言った。
「見たやろ、最後の最後までお客さんを帰さへん野球や」
「ホンマやな」
 二人はその言葉に首を縦に強く振った。
「じゃあ後は酒屋でゆっくりと話しようか、胴上げみんで済んだし」
「ああ、約束通りじゃんじゃん奢ったるで!」
 三人は酒場へ消えた。そしてその言葉通り心ゆくまで酒を楽しんだ。
 これが近鉄の野球であった。それは藤井寺から大阪ドームに変わろうと何時までも変わらないものである。


土壇場の意地   完


                                  2004・8・23


[194] 題名:魔都の攻防2 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2004年09月08日 (水) 00時18分

「逆ダブルタイフーーーーーンッ!」
 腰のダブルタイフーンから二つの竜巻が発せられた。それは魔神を激しく打ち据えた。
「クッ、それがあったか!」
 ドクトル=ゲーも抜かりがあった。彼はダブルタイフーンの存在を忘れていたのだ。
 魔神は瞬く間にその全身を破壊されていく。そしてすぐに砂のようになり消えていった。
「これでどうだ」
 X3はそのうえでゲーに対峙した。
「おのれ、だが」
 彼はそのX3に向かって歩きだした。
「逆ダブルタイフーンのことを私が知らないと思ったか」
 そう言うと手に持つ斧を振り被ってきた。
 逆ダブルタイフーンには弱点がある。それは一度使用したら三時間は使えないのである。
 斧が振り下ろされる。丁度変身が解ける瞬間に、だ。
「**(確認後掲載)ぇっ!」
 斧がX3の頭上を襲う。だがX3はそれを何なくかわした。
「何っ!?」
 変身も解けてはいなかった。X3はそれまでと変わらぬ動きでゲーの斧をかわしていたのだ。
「これは一体」
「ドクトル=ゲー、どうやら俺のことを詳しく調べていなかったな。若しくは忘れていたか」
「そういうことだ!?」
「俺は再改造を受けたのだ」
「それは知っている」
「その時に俺は弱点を克服した。そう、俺は逆ダブルタイフーンを使っても変身が解けないのだ」
「何っ!?」
 ここで弱体化するのはあえて口にしなかった。それは駆け引きであった。
「抜かったな。さあどうする」
「おのれ、こうなれば」
 彼は後ろに跳んだ。そしてその目に無気味な光を宿らせた。
「この私の手で」
 そこで基地が地震に遭ったかのように揺れた。
「ムッ!?」
 ゲーはこれに慌てて周りを見回した。
「これはどういうことだ!」
「ドクトル=ゲー、大変です!」
 彼の前に戦闘員達が雪崩れ込んで来た。
「御前達、これはどういうことだ!」
 ゲーは彼等を問い詰めた。
「基地の各部で爆発が起こっております!」
「何、まさか!」
「そう、そのまさかだ」
 ここでX3が言った。
「もう一人いるということを忘れていたな」
「クッ、そうかあの男か」
 ゲーは思わず歯軋りした。そうであった。役がいたのだ。
「ヌウウ、どうやら全てにおいて私の負けのようだな」
 彼は屈辱に身を震わせながらもそれを認めた。
「仮面ラァーーーーイダX3よ」
 斧で彼を指し示した。
「今回は負けを認める。だがな」
 彼は言葉を続けた。
「この借りは必ず返す、この手でな」
 そう言うと踵を返した。
「すぐに会おう、その時が貴様の最後だ」
 そして戦闘員達と共にその場から立ち去った。
「これで上海はとりあえず救われたな」
 X3は呟いた。だが、それが一時的なものに過ぎないこともわかっていた。
「X3!」
 ここで後ろから役の声がした。
「ここにいましたか、捜しましたよ」
 彼はそう言って駆け寄って来た。
「行きましょう、もうすぐこの基地は完全に破壊されます」
「わかりました」
 X3は頷いた。そして役と共にその場を後にした。
 二人が出ると基地は大爆発を起こした。上海の海からそれは上がった。
「海中にあったのですね」
 二人は岸辺に板。役はその爆発を見ながら言った。
「ええ。どうやら海からあの魔神を出すつもりだったようです」
「魔神!?」
 役はそれに顔を向けた。
「ええ、ドクトル=ゲーが作らせていたものです。三面六臂の機械の巨人です」
「そうですか」
「怖ろしい奴でした、眼から黒い光を発していましたし」
「黒い光ですか!?」
 役はそれを聞き目の色を変えた。
「ええ。何かご存知ですか?」
「はい。トロントでゼクロスと一緒にいた時ですが」
 彼はその時の暗闇大使と十二人の闇の戦士達のことを話した。X3はそれを聞き終えると深刻な声で言った。
「そうでしたか。どうやら敵はまた新たな力を手に入れたようですね」
「はい」
 役はそれに頷いた。
「その力がどういうものか、まだ詳しくは知りませんが」
 役の顔は危惧のそれであった。
「どうやらこの世界を破壊し尽す程のものであることは間違いないようですね」
「ええ」
 二人はその爆発を見ていた。翌日の新聞には謎の爆発と報じられた。だがこれといって被害もなく、バダンの証拠も残っていなかったのでそれで話は終わった。

 魔神と基地を破壊されたドクトル=ゲーは上海郊外に設けてあった第二基地に移っていた。
「さてと」
 彼は指令室に入ると周りを見回した。
「魔神は破壊されてしまった。この失態をどうするか」
 彼は考えていた。
「こうなっては仮面ラァーーーーーイダX3を始末するしかないが」
 それは当初からの予定であった。だが今はそれよりも魔神を失った失態の方が気懸りであった。
「これが若し大首領のお耳に入れば」
 彼はX3を倒す前に首領により処刑されるだろう。それを考えると暗澹たる気持ちになった。
「それは心配ない」
 ここで何者かの声がした。
「首領にはわしがとりなしておこう」
 指令室おシャッターが左右に開いた。そしてそこから軍服の男が姿を現わした。
「お主か」
 それは暗闇大使であった。ゲーは彼に顔を向けた。
「ドクトル=ゲーよ」
 彼はゲーを見据えて言った。
「お主は何の心配もする必要はない」
 暗闇大使は彼を落ち着かせるようにして言った。
「フォローはわしに任せておけばよいからな」
「よいのか!?」
 思いもよらぬ好意にゲーは少し不安になった。
「よい、そなたにはこの中国と仮面ライダーX3を始末してもらわねばならんからな」
 大使はそう言うとニイ、と笑った。
「そうか」
 ゲーもそれを聞きようやく笑みを取り戻した。
「見返りは何だ」
「見返りか」
 大使はそれを聞き口の両端を吊り上げた。
「ダモンとのことだがな」
「ダモン!?」
「地獄大使のことだ」
「ああ、あの男か」
 ドクトル=ゲーは彼の本名を忘れていた。
「何かあれば牽制してくれぬか」
「牽制か」
「そうだ。わしにつけなどという虫のいいことは言わぬ」
 彼はドクトル=ゲーを見据えて言った。
「だが奴が下手なことをせぬようにしてもらいたいのだ」
「ふむ」
 ゲーはそれを聞き顎に手を当てて考えた。
「わかった」
 そして顔を上げた。
「今回のことを考えるとな。喜んでやらせてもらおう」
「恩に着る」
 暗闇大使は無気味な笑いを浮かべた。
「しかしだ」
 ドクトル=ゲーはここで眉を顰めさせた。
「お主とあの男のことだが」
「何だ」
 大使はそれについて尋ねられたのが内心面白くなかったのだろう。微かに顔を歪めさせた。
「確か従兄弟同士だった筈だが」
「その通りだ」
 かろうじてそれを心の中に押し込めて頷いた。
「どうしていがみ合うのだ。かっては共に祖国の為に戦っていたと聞いたが」
「それは認める」
 だが憎悪も認めていた。
「あの男が指揮官、わしが参謀だった」
 彼は苦虫を噛み潰した顔で答えた。
「思えば忌々しい話だ」
「何故だ?」
「わしがあの男の下にいたからだ。その他に理由があるか」
 彼はゲーを睨み付けて言った。半ば叫んでいた。
「そうか」
 だがゲーは落ち着いた物腰のままであった。
「それ程までにあの男が憎いか」
「否定はしない」
 彼は言った。
「色々とあったらしいな。戦場で」
「うむ」
「ベトナムにいたそうだが」
「長い戦いだった」
 彼は上を見上げた。そして虚空にその戦いの日々を浮かべた。
「我々はかってフランスに抑圧されていた」
 ベトナムはフランスの植民地であった。彼等はこの地で典型的な植民地統治を行なっていたのだ。
「どの者も無気力だった。だがそれが一変した」
 フランスがドイツに敗れたのだ。それに乗じて日本がこの地にやって来たのだ。
「日本人達は厳格だった。融通が利かず短気で何かあるとすぐに手をあげた」
 当時の日本軍の軍人達は確かにそうであった。
「だが同時に彼等は公正だった。規律に厳しく、我々に対してフランスのようなことはしなかった」
 彼と地獄大使は幼い時に日本軍と会ったのだ。
「わしもダモンも彼等に会い目覚めた」
 日本軍は彼等に武器を与えた。そして戦士になるよう教えたのだ。
「我々も日本軍のように戦った。彼等は確かに苛烈だったがそれだけに強かった」
 あれ程自分達に対して絶対的な強さを誇示し、威張り散らしていたフランス軍が呆気なく敗れていった。それを見た彼等の驚きはどれだけのものだっただろう。
「彼等は最後には敗れた。しかし」
 もう彼等は無力な植民地の民ではなかった。誇り高きベトナム人民だったのだ。
「わし等はホー=チ=ミンの軍に入った」
「人民軍だな」
「そうだ。そしてそこで我々は頭角を表わした」
 ベトナム人民軍は強かった。彼等にとってフランス軍は最早敵ではなかった。瞬く間に破っていった。
「だが戦いは終わりではなかった」
 その後はアメリカ軍が来た。南ベトナムにサイゴンを拠点として傀儡政権を作りそこから支配しようとした。
「我々は密林の中に潜み戦った」
 正規戦も行った。だがそれ以上にアメリカ軍を悩ませたのが彼等のゲリラ戦であったのだ。
「何とか勝った。そして遂に祖国は統一された」
「それで終わりでないのが我々の世界だな」
 ゲーはここで言った。
「そうだった」
 大使はまた虚空を見た。
「今度は中国だった。奴等もフランスやアメリカと同じだった」
 中国は歴史的にベトナムを自分達の領土とみなしていた。だから攻めて来るのは必然であった。
「それも破った。その頃にはホー=チ=ミンは既にこの世にはなかった」
「それからお主達はどうしたのだ?」
「カンボジアでの戦いに参戦した」
「そうだったな」
 当時隣国カンボジアはポル=ポトという狂気の独裁者による異常な恐怖政治が行われていた。彼等は経済も文化も芸術も全て破壊し知識人や都市に住む者を虐殺していった。それはカンボジアの人口の半数近くに及んだという説もある程であった。バダンに比肩し得る狂人の集団であった。
「あの地に攻め込んだのは中国との戦いの前だった。だが我々がその地に向かったのはその後だった」
 中国に勝ってもベトナムに安息の時はなかったのだ。
「ダモンもわしも戦いを辛いと思ったことはなかった。我々は常に共に行動していた」
「指揮官と参謀としてだな」
「うむ」
 彼は頷いた。
「あの時もそうだった。激情的で力押しを得意とする奴に対してわしは策略を得意とした」
「あの男の性格はあの頃から変わってはおらんようだな」
「・・・・・・・・・」
 暗闇大使はそれには答えなかった。
「まあいい。話を続けてくれ」
 大使はそれには答えなかった。だがそのかわりにまた口を開いた。
「あの男を補佐してわしが作戦立案、計画する。奴が実際の指揮を執る。こうして長い間我々は常に勝ってきた。フランスにもアメリカにも中国にも。かって日本軍ですら成し得ぬことをやり遂げたのだ」
 それがベトナムの誇りであった。いかなる国にも屈しないという。
「あの時もそうだった。ダモンとわしは戦場で指揮を執っていた」
 カンボジアもまたジャングルである。アマゾンが戦ったアンコールワットもその中にあった。
「そこでわしは知ったのだ。あの男の真意を」
「それは何だ」
「あの男はわしを憎悪していたのだ。そう、自らの半身をな」
 彼等は見れば見る程似ている。まるで鏡のように。
「あの男は次第にわしを疎んじるようになっていた。以前から作戦については意見対立が多かったしな」
「当然だろうな。指揮官と参謀の意見が食い違うことはよくあることだ」
「それは最初からだった。だが我々は祖国の為に戦っていた。だから互いに我慢をすることもあった」
 彼の顔は次第い憎悪で歪んできた。
「あの時もそうであった筈だ。だがあの男はわしを陥れた」
「ほう」
 ゲーはここで眉を上げた。
「敵の中にいる時にあの男は逃げた。わしを見捨ててな。いや」
 その顔がさらに歪んできた。
「最初からそのつもりだったのだ。あの男、ダモンは敵にわしを殺させるつもりだったのだ」
 こういう話がある。木の枝を隠すには林の中に隠す。死体を隠すには戦場に隠す。
「今までの衝突からの怨恨もあった。いずれは互いにそうなる運命だったかも知れぬ。しかし」
 最早その顔は悪鬼のそれであった。
「殺すのはわしの方だった。あの男はわしを先に陥れたのだ」
「食うか、食われるか、か」
「そう言うかも知れんな」
 彼はいささか落ち着いた。そしてそううそぶいた。
「奴はその直後ショッカーには入った。おそらくそこでさらなる力を欲したのだろう。あるいは祖国に見切りをつけたか」
「両方だろうな」
「それはよい。わしはポル=ポトの兵士達の銃撃に倒れた。そして生き残った兵士達により埋葬された。それから長きに渡って眠っていた」
「それをマシーン大元帥により醒ませられた」
「うむ」
 彼はその言葉に頷いた。
「そして大首領のお力により復活した。暗闇大使としてな」
「そうだったのか」
 ゲーはそれを聞き息を吐いた。
「それだけのことがあったのか」
「済まんな、愚痴を言ってしまった」
「いや、構わん。わしはそのようなことを責めるつもりはない。だがお主に何かあれば牽制程度はしよう。今回のことは助かるしな」
「そうか」
「ではわしもすぐに動かなければな」
 そう言うと扉の方へ動いた。
「もう行くのか」
「そうだ。あの男は手強い。すぐに動かなければ機を逃してしまう。まずはあの男を倒す。中国はそのあとでどうにでもなる」
「早いな。戦力はあるのか」
「戦力か」
 ドクトル=ゲーは暗闇大使のその言葉に唇の右の端を一瞬だけ歪めさせた。
「わし自身だ。わかっているだろう」
「そういうことか」
 大使も口の両端だけで微かに笑った。
「では健闘を祈るぞ」
「うむ」
 ゲーは扉の前に立った。
「では待っているがいい。仮面ラァーーーーーイダX3の首をな」
「楽しみにしていよう」
 ゲーはそれを聞くと扉の中に消えた。
「さて、どうなるか」
 暗闇大使は彼が消えた扉を見て呟いた。
「あの男も死力を尽くすだろうが相手も手強い。行方はわからんな」
 それは彼の頭脳をもってしても不明であった。
「他にも手を打っておく必要があるな。狡猾な奴のことだ、そうそう罠にはかからぬだろうが」
 従兄弟の性質は誰よりもわかっていた。
「わしも動こう」
 そう言うとマントで全身を包んだ。そしてあの黒い光と共に姿を消した。

 基地を破壊した風見と役は上海の外灘にいた。
 ここはかっての租借地であった。今もここには当時を思わせる異国風の建物がある。
「何か不思議な感じだな」
 風見はそこを歩きながら言った。
「中国にいるようで何処かそんなん気がしない。まるで他の国にいるようだ」
「元々ここは中国にある外国でしたからね」
 隣にいる役が言った。
「ですからそうした感触を持たれます。私も何回かここに来ました」
「そうなのですか」
「ええ」
 役はそう言って微笑んだ。
「かなり変わりましたがね。この感触は変わりません」
 彼は懐かしむような顔で言った。
「街の外見は変わっても空気までは。色々とキナ臭さも漂いますが」
 この街は多くの騒乱のはじまりともなってきた。そして暗黒街の勢力も強い。
「それでもその中には言葉にできない魅力があります。実はそこに魅入られているのです」
「そんな不思議な魅力がこの街にはあるのですか」
「ええ」
 役は頷いた。
「危険な甘い毒のようなものです。確かに危ない、しかしその危険が何時しかたまらなくなるのです」
「そうですか」
 風見は普通の危険には驚かない。デストロン以降の悪の組織との戦いでは常に死と隣り合わせであった。だからそう簡単に驚いては務まらないのだ。
「もっとも私も何度も死線をくぐりましたが」
「よく生きていましたね」
「そうそう簡単には死なない身体ですから」
「そうなのですか。ん!?」
 風見はその言葉に引っ掛かるものを感じた。
「待って下さい、今何と」
「今ですか!?」
 役は先程の言葉をしまった、と悔やんだ。そして慌ててとぼけた。
「ええ、今確かそう簡単に死なない身体と」
「それですが」
 誤魔化そうとする。その時であった。
「風見志郎よ」
 彼等を黒服の男達が取り囲んだ。
「来たか。相変わらず芸のない」
 風見は彼等を見渡して言った。
「何とでも言え」
 そこで怪人が前に出て来た。
「我々は最早貴様を倒すしかないのだからな」
 デストロンの毒針怪人ドクバリグモであった。
「その通り」
 もう一体姿を現わした。
「この中国を焦土にする前にはまず貴様を除かねばならんのだ」
 ゴッドの催眠怪人パニックであった。
「風見志郎、いや仮面ライダーX3よ」
 彼等は前後から風見と役を取り囲んだ。
「覚悟するがいい」
「フン」
 だが風見はそれに対して不敵に笑った。
「面白い。ではこの中国ではもう貴様等を倒すだけでいいのだな」
「何!?」
 怪人達は彼の不敵な言葉に思わず声をあげた。
「何を驚いている、俺は難しいことは何一つ言っていないぞ」
 既に怪人達を呑んでいた。
「ここで貴様等を倒す、そして中国に平和を取り戻す」
 そう言いながら腰からベルトを取り出した。
「行くぞ」
 そしてゆっくりと構えに入った。

 変身
 両手に手刀を作り右の真横に置く。左手は肘を直角にし、右手と水平にさせる。
 そしてその両手をゆっくりと右から左に旋回させる。
 身体が緑のバトルボディに覆われ白い手袋と赤いブーツが現われる。そして胸が銀と赤になっていく。
 ブイ・・・・・・スリャーーーーーーーーッ!
 右手をまず脇に引く。その時手は拳にしている。
 次には左手を脇に入れる。そして右手を手刀にし、それを斜め上に突き出す。
 顔が赤い仮面に覆われる。右半分が、そして左半分が。眼は緑になっている。
 
 ダブルタイフーンが激しく回転する。そこから強い光が放たれた。
「トォッ!」
 X3は跳躍していた。そして怪人達と正対する位置に着地し身構えた。
「来いっ!」
「望むところだっ!」
 怪人達も彼に向かった。そして戦いがはじまった。
「グモーーーーーッ!」
 まずはドクバリグモが襲い掛かって来た。
「来たな」
 X3はそれを見つつススス、と前に進んだ。そこに毒針が襲い掛かる。
「甘い」
 だがそれを何なくかわした。そして反撃に転じる。
 腹に膝蹴りを入れた。そして怯んだところに背に肘を入れる。
「グオッ」
 思わず身を屈めた怪人に対してさらに攻撃を仕掛ける。
「喰らえっ!」 
 その身体を掴んだ。そして空中へ放り投げる。
「トオッ!」
 そして跳んだ。一直線に怪人に向けて跳ぶ。
「X3ドリルアターーーーーーーック!」
 そして激しくスクリューの様に回転しながら頭から突っ込んだ。そしてそのまま怪人に体当たりを敢行した。
「グモーーーーーーーッ!」
 X3は怪人を貫いた。腹に巨大な穴を空けられた怪人は海面に落ちつつ爆発した。
 X3は着地した。そしてパニックと対峙した。
「おのれ、よくもドクバリグモを」
 パニックはドクバリグモの爆発を見ていたが、すぐにX3に顔を向けた。
「今度は貴様だ」
 X3はそんな怪人に対して指差して言った。
 パニックもそれに怯むようなものではなかった。流石に怪人であるだけはあった。
 頭をX3に向けた。そしてそこからロケット弾を放った。
「ムッ!」
 だがX3はそれを上に跳んでかわした。しかしそれはパニックの計算のうちであった。
「かかったな!」
 パニックは上を見上げてニヤリ、と笑った。そしてまたロケット弾を放って来た。
「その程度っ!」
 だがX3もそれは読んでいた。空中で反転すると叫んだ。
「ハリケーーーーーーーーンッ!」
 すると青いマシンニューハリケーンが飛んで来た。
「よし!」
 X3は空中でマシンに乗った。それはまるで合体するようであった。
「糞っ、マシンの存在を忘れていたわ!」
 歯噛みするパニック。だがそんな彼に対しX3はマシンに乗ったまま特攻を掛けて来た。
「ハリケーーーーンアターーーーーーック!」
 マシンで空中から急降下体当たりを仕掛けた。これは流石に耐えられるものではなかった。
「クルーーーーーーーーーッ!」
 怪人は遥か彼方に吹き飛ばされた。そして空中で爆死した。
「これで怪人達は皆倒したな」
 X3は怪人の爆炎を見上げて言った。
「X3」
 そこへ役がやって来た。
「戦闘員は私が全て倒しました」
「そうですか。それは何より」
 X3はそれを聞くと明るい声で答えた。
「ですがまだここでの戦いは完全には終わっていません」
「ええ、最後の大物が残っていますからね」
 役はその言葉に頷いた。
「その通りだ」
 そこで声がした。空中からだ。
「出たなっ!」
 二人はそれを聞くと顔を上へ向けた。
「仮面ラァーーーーーーーイダX3よ」
 そこにはドクトル=ゲーがいた。ただし彼自身がそこにいるわけではない。
 巨大なホノグラフィーであった。彼の巨大な映像が浮かんでいた。
「ドクトル=ゲー、何の用だ」
「わかっている筈だ」
 ゲーはX3を見下ろして言った。
「遂に決着を着ける時が来た」
「そうか」
 X3はそれを聞き頷いた。
「私は今豫園にいる」
「豫園か」
 豫園は上海の名所の一つである。黄浦江の中央にあり狭い空間に芸術的な細かい造りが多数為されている。まるで迷宮のようになっている。
「そこに私はいる。勝負は明日の正午だ。いいな」
「よし」
 X3はそれに頷いた。
「ならばよい。仮面ラァーーーーーイダX3よ」
 下にいる彼を見据えた。
「今度こそ貴様をこの手で倒す」
「それはこちらの台詞だ」
「相変わらずだな。楽しみだ」
 ゲーは微かに笑った。
「貴様をこの手で葬るのを楽しみにしておこう」
 そして彼は空の中に消えた。後には何も残らなかった。
「役さん」
 X3は役に顔を向けた。
「はい」
「明日は俺一人で行きます」
「しかし」
「大丈夫です」
 X3は力強い声でそう言った。
「ドクトル=ゲーも一人です」
「確証はあるのですか?」
「ええ。奴はこうした時は必ず一人で勝負を挑むのです。デストロンの時もそうでした」
「そうですか」
「ええ。奴は汚い作戦をよく使いますが一騎打ちもまた好むんです。俺は過去それで奴を倒しました」
 三浦海岸での闘いの時である。
「あの時も奴は一対一で勝負を挑んできました。そして今度も」
「あの男の意地というやつですね」
「はい。ならば俺もそれにこたえるだけです。それが戦士です」
「ですね」
 役は戦士という言葉を聞き頷いた。
「ならば私は止めません。思う存分闘ってきて下さい」
「わかりました」
「ただ」
「ただ!?」
「必ず勝ってかえってきて下さいね。貴方は世の人々の為に必要なのですから」
「はい」
 風見は頷いた。そして決戦に思いを馳せるのであった。
 翌日X3は豫園に来た。入口に来るとマシンから降りた。
「よし」
 頷く。そしてその中へ入って行く。
 園の中には池もある。緑波池という。蓮で有名な池だ。この中にある建物を湖心亭という。
 その中央には橋がある。九曲橋という。ギザギザになった複雑なつくりをしている。こうしたつくりになったのは由来がある。
化け物よけだ。
「人間はギザギザにも歩けるが化け物にはそれができないからだ」
 という。中国独自の考え方だ。
 だが今その橋の上に魔人がいた。ドクトル=ゲーである。
「そろそろだな」
 彼は空を見上げた。太陽は中空にある。
「ドクトル=ゲー」
 そこで彼を呼ぶ声がした。
「来たな」
 彼は声がした方に顔をゆっくりと向けた。そこにあの男がいた。
「約束通り来たぞ」
 X3は彼を指差した。差されたゲーは不敵に笑った。
「よくぞ来てくれた。礼を言うぞ」
「そんなものはいい」
 X3は言い返した。
「貴様の望みはわかっている。俺と最後の闘いをしたいのだろう」
「そうだ」
 ゲーは不敵な笑みを浮かべたまま言った。
「この上海での作戦は水泡に帰した」 
 それはX3が魔神を破壊し、怪人達を全滅させたことによりそうなったのだ。
「だが私がまだいる。そう、中国は私一人により灰燼に帰すのだ。貴様が死んだ後でな」
「戯れ言を、そんなことを俺が許すと思っているのか」
「貴様が思う、思わないは関係ないのだ」
 ゲーは冷徹に言い放った。
「何故なら貴様はここで死ぬからだ」
 ゲーは左手に持つ盾を自身の顔の前に掲げた。するとその後ろに無気味な影が姿を現わした。
「遂に正体を現わすか」
「その通り」
 見ればゲーのシルエットが変わっていく。鎧が青い甲羅になっていく。金色の兜も青くなっていく。
「フフフフフ」
 ゲーは笑った。盾を下ろす。するとそこには無気味な蟹の顔をした怪人がいた。
「カニレーザー」
 X3は彼の姿を見て言った。
「そうだ、この姿に戻るのも久し振りだ」
 ドクトル=ゲー、いやカニレーザーは含み笑いを出したまま言った。
「私がこの姿をとるのはこれで二度目だ」
 彼はX3を右手に持つ斧で差しながら言った。
「一度は貴様に敗れた。だが二度目はない。仮面ラァーーーーーイダX3よ」
 彼は言葉を続けた。
「今度こそ貴様を倒す!」
「やらせるか!」
 X3は前に跳んだ。そshちえカニレーザーと正対する。そして上海での最後の闘いが幕を開けた。
「ムンッ!」
 ゲーは斧を振り下ろした。X3はそれを横にかわした。
「トオッ!」
 反撃に回る。右から拳を繰り出す。
 だがそれはカニレーザーの盾に防がれた。
「フフフ」
 攻撃を凌いだカニレーザーは余裕の笑みを出した。
「どうした、その程度か?」
「クッ」
 X3は彼の言葉に歯噛みした。
「甘い、甘いぞ仮面ラァーーーーーイダX3、私をこの程度で倒そうとはな」
 彼は再び斧を繰り出してきた。
 速い、そして重かった。それはドクトル=ゲーの時のそれとは比較にならなかった。
 X3はそれを何とかかわす。だがそれにも限度がある。次第に追い詰められていく。
「どうした、逃げてばかりいるつもりか!?」
「何をっ!」
 その言葉に挑発された。拳を繰り出す。だがそれはやはり盾に防がれる。
「その程度では無駄だ。先程も言ったがな」
「グググ」
「ではそろそろ本気を出すとしよう」
 彼の額が光った。そこに光が集まっていく。
 周りが暗闇に覆われた。そして彼の額が光った。
「受けてみよっ!」
 そして光を放った。それはレーザーだった。
「ウオッ!」
 上に跳んだ。そしてそれを何とかかわした。
 レーザーは後ろの石に当たった。それは瞬時に飴の様に溶けた。
「チ、かわしたか」
 カニレーザーは口惜しそうに言った。
「だがそれで逃げたことにはならん」
 今度は上に放つ。それは空中にいるX3に襲い掛かる。
「何のっ!」
 空中でキリモミ回転をしてそれをかわした。カニレーザーは続けてレーザーを放つが当たらない。
「おのれ」
 彼は着地したX3を見て歯噛みした。
「こちらもそうそう簡単にやられるわけにはいかん」
 X3は言った。
「やれるものならな」
 だがカニレーザーは余裕であった。
「やってやる」
「ではやってみるがいい。できるものならな」
 彼は自身が揺るぎない程の優勢にあると感じていた。だからこそここまでの余裕があった。
 実際に斧と盾、そしてレーザーでX3を追い詰めていた。彼は接近し、また斧で切り掛かった。
「ムッ」
 X3はそれを受けた。そして斧の柄を握った。
「まずはこれだっ!」
 そう叫ぶと斧を奪った。そしてそれで逆に切りつけた。
「フン!」
 カニレーザーはそれを盾で受けた。激しい激突音が響いた。
 両者の腕に衝撃が走る。まずは盾が割れた。
 続いて斧が。これで斧と盾は破壊された。
「どうだっ!」
 斧と盾を破壊したX3は叫んだ。
「甘いな」
 だがカニレーザーはまだ余裕があった。間合いを離す。そしてレーザーを放たんとする。
 X3はそれを冷静に見ていた。カニレーザーの動きの細部まで見ていた。
(やはりな) 
 X3はあることを確信した。
 カニレーザーの動きはあまり速くはなかった。少なくともX3のそれよりは。
(甲羅に覆われているせいか。動き自体は速くはない)
 ドクトル=ゲーの時からそうであった。攻撃は激しいがフットワークは今一つであった。
 蟹は全身を硬い甲羅で覆われている。その為動きはあまり速くはない。
 ドクトル=ゲー、いやかにレーザーは攻撃自体は速い。だが、その甲羅のせいか身のこなしはあまり速くはなかった。
(ならばこちらにも戦い方がある」
 既に斧と盾は破壊している。彼の武器はレーザーだけだ。
「**(確認後掲載)ぇっ!」
 カニレーザーがそのレーザーを放ってきた。X3は横に跳びそれをかわした。
「甘いな」
 X3は言った。だがそこにカニレーザーは続けざまにレーザーを放って来る。
 X3はそれを左右にかわす。かわしながら間合いを次第に縮めていく。
「今の奴なら近寄れば大丈夫だ」
 懐に飛び込んだ。カニレーザーは間合いを離そうとする。だが動きが遅く追いつかれる。
「ヌウウ」
「今度はこちらの番だ」
 X3は腕を出した。そしてそれを叩きつける。
「ムッ」
 それは拳ではなかった。掌底であった。
「グッ」
 思ったより効いた。カニレーザーは呻き声を出した。
「よし」
 二号から聞いた。硬い鎧に覆われた相手には拳よりもこうした攻撃の方が効果があると。
「どうやらその通りだな」
 X3はそれを見て確信した。どうやら拳よりも効果があるようだ。
「ならば」
 続けて出す。それはカニレーザーの胸を激しく撃った。
「ガハッ」
 血を吐いた。赤黒い血だ。その動きがさらに鈍くなった。
「よし!」
 X3は勝機を見た。今こそ決着を着ける時であった。
「喰らえっ!」
 怯むカニレーザーを掴んだ。そして空中へ放り投げた。
 カニレーザーは宙に舞った。X3はそれに続いて飛翔した。
「最後だ、カニレーザー!」
 叫んだ。そしてそのままカニレーザーに頭から一直線に突き進む。
「X3空中回転ドリルアターーーーーーーーック!」
 激しくキリモミ回転しながら体当たりを敢行した。それはカニレーザーの腹を直撃した。
「グオオオオッ!」
 カニレーザーは激しい呻き声を発した。そしてさらに天高く弾かれる。
 X3は着地した。その前に暫くしてカニレーザーが落ちて来た。
「グググ・・・・・・」
 何とか立ち上がる。だが所々傷を負い、全身から血を流していた。
「まさか衝撃を私の中に浴びせてくるとはな」
 立ち上がった。そしてドクトル=ゲーの姿に戻っていく。
「如何に貴様の鎧が厚くとも衝撃は浸透する。俺はそれを思い出したのだ」
 X3は彼に対し言い放った。
「そして貴様の脚の動きは遅い、その鎧故にな」
「フフフ、そこまで見ていたか」
 ドクトル=ゲーはそれを聞いて笑った。
「どうやら私は自らの護りの故に敗れたようだな」
「そうだ、だが斧と盾を破壊しなければ俺も危なかった」
「あそこで勝負が決していたか」
「そうかも知れん。だが」
 X3はさらに言った。
「俺は必ず勝つ運命だ。何故なら仮面ライダーだからだ」 
「フン、言ってくれるな」
 ドクトル=ゲーはそれを聞いて笑った。だがそれは冷笑ではなかった。
「だが見事だ。そうまで言える者は貴様の他にはおらん。そして」
 血を吐いた。だがまだ言葉を続ける。
「その貴様と戦えたことを誇りとしよう。地獄でな」
「ドクトル=ゲー・・・・・・」
「ではそろそろ楽にならせてもらおう」
 彼は毅然とした姿勢になった。
「私は悪に殉じよう、喜んでな。さらばだ仮面ラァーーーーーイダX3!」
 それが最後の言葉だった。ドクトル=ゲーはゆっくりと前に倒れると爆死した。
「ドクトル=ゲー」
 X3はそれを最後まで見送っていた。
「敵ながら見事な最後だ」
 彼は敬意を覚えた。強敵に対する純粋な敬意であった。
 これで上海の戦いは終わった。風見は役のもとへ戻った。
「そうですか、ドクトル=ゲーも遂に」
「ああ、見事な最後だった」
 二人は朝焼けの港にいた。今船がやって来た。
「手強い奴だった。流石にデストロンで大幹部だっただけはある」
「そうでしょうね。しかし彼も本望でしょう」
「何故だい」
 二人は桟橋に足を踏み入れた。そしてそのままゆっくりと昇っていく。
「思う存分最後まで戦えたからですよ。それもライダーとね。それならば悔いはないでしょう」
「そうですか」
 二人は船に入った。あとから続々と人が船に入る。
「彼等もまた戦士です。戦う旗印は違いますが」
「はい」
 それは風見にもわかっていた。
「戦士は戦場での死を願うもの。彼もまた戦場で倒れました」
「それこそがあの男の願いだったのですか」
「少なくとも最後は」
 役は意味ありげに言った。
「ですがその最後にこそ出るものです、その真の姿が」
「ええ」
 X3も多くの敵と戦ってきた。ドクロ少佐も幽霊博士もそれぞれ勇敢で潔い最後であった。
「敵とはいえ敬意を払うべき時には払わなければなりません。たとえ敵であっても」
「はい」
 風見は頷いた。その通りだと思った。
「では行きましょう」
 桟橋が取り外された。汽笛が鳴る。船はゆっくりと出港した。
「次の戦場へ」
「はい」
 船は次第に船足を速めていく。そして上海をあとにする。そして次の戦場に向かうのであった。

「ドクトル=ゲーも倒れたか」
 暗闇の中であの首領の声がする。
「はい」
 その前に暗闇大使が控えていた。あの軍服姿である。
「見事な最後だったそうです」
「惜しい男だったが」
 彼もまた首領の腹心であった。仮面ライダーX3の前に作戦失敗を重ねていたとはいえ頼りになることに違いはなかった。
「だが惜しんでいてもはじまらぬ」
「はい」
 首領は冷徹にそう言った。
「次の戦場は何処だ」
「アメリカです」
「誰がいるのだ」
「メガール将軍です」
「ほう、またアメリカに戻ったのか」
「はい、強く志願いたしまして」
「そうであろうな。あの国は奴にとっては複雑な思いがある」
 首領は含み笑いと共に言った。
「希望を胸にして入り、そして絶望と共に人でなくなった地だ。さぞかし思うところも多いだろう」
「それに加えまして」
「まだ何かあるというのか」
「はい、あの国には」
 大使はここでニイ、と笑った。
「あの男がおります」
「ほう、そうだったのか」
「東南アジアから転戦したようでして」
「それはいい。益々面白いことになった」
 首領はさらに上機嫌になった。
「よし、メガール将軍に伝えよ。あの男とアメリカを見事完全に叩き潰せとな」
「それには及ばないかと。あの男は既にそのつもりです」
「そうであったな、ではここは奴に全てを任せるとしよう」
「わかりました」
 首領と暗闇大使の笑いが闇の中に響く。そしてそれは次第に地の底へ沈んでいった。

魔都の攻防    完
                                          2004・8・16


[193] 題名:魔都の攻防1 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2004年09月08日 (水) 00時13分

             魔都の攻防
 上海は現代の中国を語るうえで欠かせない街である。
 この街が発達したのは宋代からである。港町に適していることに目を着けられ、ここに貿易の監督庁が置かれたのだ。
 それから歴史がはじまった。元代には綿花の栽培が行われ、ここから運び出された。そして明代には綿織物の中心地の一つとなったのだ。
 だがこの街が知られるようになったのは清代末期からである。この時清は康煕、雍正、乾隆の三人の皇帝による長い黄金時代を終え下り坂に達していた。そこでアヘン戦争が起こったのだ。
 ことの発端は貿易からであった。当時清は茶の貿易で巨万の富を得ていた。主な貿易相手はイギリスである。彼等にとって紅茶は欠かせないものであった。
 これによりイギリスは大幅な貿易赤字となった。これを解消する為にイギリスは決して手をつけてはいけない禁じ手に走った。阿片である。
 阿片の貿易は巨額の富をもたらした。インドで作らせたものを清に売る。清からはこれまでどおり茶を購入するが阿片はインドを通じて行われる。所謂三角貿易だ。
 これにより清では阿片中毒患者が急増する。これに困った清朝は林則徐を送り込む。
 彼は何とかして阿片に浸る民衆を救おうと考えた。そして阿片を片っ端から押収し、処分した。
 これに怒ったイギリスは清朝に宣戦を布告した。これがアヘン戦争である。これに敗れた清は南京条約を結びイギリスに屈服する。こうした時代であった。今現在イギリスが麻薬に悩まされているのはこれの因果応報であろうか。
 この条約で上海に租借地ができた。これがこの街の運命を変えたのだ。
 外国人がやってきたことはこの街に大きな影響を与えた。国際意識を持つようになり、文化にも影響を与えた。そしてこの街に人が集まるようになった。
 清朝が滅んでもこの街の状況は変わらなかった。相変わらず外国人が出入りし、商人達が活発に動き回っていた。国民党の時代には浙江財閥の本拠地となっていた。南京に首都を置いた国民党政府にとっては南京と並ぶ重要な都市であったのだ。
 共産党の時代でもこの都市は重要であった。文化大革命のはじまりはこの街からであった。十年に及ぶ無意味な内乱もここからはじまったのだ。
 そして今は中国の経済の中心である。中国は昔から経済の中心は長江流域であった。その長江のはじまりであり終わりであるこの街は今も眠ることなく動いているのだ。
「噂には聞いていたが凄いな」
 風見志郎はその上海の街中にいた。
「北京や重慶も凄かったが。ここはまた別格だな」
「そうですね」
 隣にいた役が頷いた。
「何といってもここは中国で最も活気に満ちた街だと言われていますからね」
「中国のか」
「はい、それだけにその動きも激しいです」
「確かに。止まっていたら飲み込まれそうだ」
 人々だけではない。車やバイクも滝のように走っている。
「気をつけて下さいよ、ちょっと油断したらあの中に消えてしまいますから」
「そうだな。何か東京よりもこっちの方が動きが速いな」
「中国人の動きは速いですからね」
 実際に彼等は日本人よりもやや歩くのが速いようだ。
「それに結構物騒ですよ」
「それは知っている」
 風見は役に顔を向けて答えた。
「魔都と呼ばれている位だからな」
 上海には黒社会も多い。チャイニーズ=マフィアと呼ばれる連中だ。
「しかし俺にはあまり関係ないな、連中は」
 ライダーである彼にとってそのような組織は幾らあっても敵ではない。
「何かしているようなら容赦はしないが」
「そうですね。まあ黒社会は今回は敵ではないです」
 役は落ち着いた声で言った。
「おそらく何もしてこないでしょう。不意の強盗等を除いては」
「その時は容赦しないさ」
 風見は鋭い目で言った。
「まあまあ。今この街にはそんな連中より遥かに危険な者達が蠢いていますし」
「ああ」
 風見はそこで頷いた。
「この魔都の何処かにいる。そしてこの中国を死の国変えようとしている奴等がいる」
「その者達を倒すことが我々の仕事です。黒社会も何とかしなければいけませんが今はバダンの方が先です」
「うん」
 二人は頷き合うと街の中へ消えた。それをビルの屋上から見る影があった。
「来たか、風見志郎」
 それはドクトル=ゲーであった。
「この上海が貴様の墓場となる」
 彼はその暗い顔で風見達を見ていた。
「最早逃げることはできん。そして」
 右手を横にスッと挙げた。彼の後ろに無数の黒い影が姿をあらわした。
「この者達に追い詰められ死んでいくがいい。我々が中国を黒い光に覆うのを見ながらな」
 そう言うと彼は姿を消した。影達も彼に続き姿を消していった。

 アポロガイストはギリシアのある島にいた。
「さてと」
 白いスーツに身を包んだ彼はボートを岸に着けるとすぐに上陸した。共に数人の戦闘員がいる。
「お待ちしておりました」
 そこへ別の戦闘員達が姿を現わした。敬礼して彼を出迎える。
「ご苦労」
 彼も敬礼してそれに応えた。そしてすぐに言葉をかけた。
「建造している場所は何処だ」
「こちらです」
 戦闘員達は彼を案内して島の奥へ入って行った。
 見れば岩山の上に草原が広がっている。彼等はそこを歩いていく。
「随分見晴らしのいい島だな」
 アポロガイストは周りを見回しながら戦闘員達に対して言った。
「ですが人は住んでおりません。航路も空路も近くにはありません」
「ものを隠すには絶好の場所というわけか」
「はい」
 戦闘員達は答えた。
「しかし念には念を入れました。地下で建造しています」
「正解だな。ライダー達に見つかりでもしたらことだ」
「はい、それが一番の問題です。連中は勘がいいですから」
「だからこそ奴等とは戦いがいがあるがな」
 アポロガイストはここで不敵な笑みを浮かべた。
「ではそこに案内しろ」
「はい」
 戦闘員達は彼をある大きな岩の前に連れて来た。
「ここです」
 その岩の横を押す。すると岩が左から右に開いた。
「どうぞ」
「うむ」
 アポロガイストは頷いてその中へ入った。戦闘員達もそれに続く。彼等が全員入ると岩は自然に閉じていった。
 その中は地下基地であった。一行はその中を歩いていく。
「随分深いな」
「何しろ大きいですから」
 戦闘員の一人がアポロガイストの問いに答えた。
「確かにな」
 アポロガイストはその言葉に納得した。
「だがあれをまた改造するとは思わなかったな」
「はい、あれだけで充分な戦力になりますし」
 彼等はその建造中のものについて話しているのだろうか。
「しかしあれを付けることでさらに戦力があがったな」
「ええ。最初聞いた時は何かと思いましたが」
 やがて基地の最深部に辿り着いた。
「こちらです」
 先頭をいく戦闘員が階段を降り終えるとアポロガイストに言った。
「ここにあれがあるのだな」
「はい、あちらです」
 戦闘員達は前方を指差した。アポロガイストはそこへ顔を向けた。
「ほお」
 アポロガイストはそれを見て一声あげた。
「順調に進んでいるようだな」
 彼は満足した笑みを浮かべた。
「まだまだやるべきことはありますが」
 戦闘員の一人がそう答えた。
「そうだな。だがこれだけ進んでいるとは思わなかった。上出来だ」
「有り難うございます」
 人を滅多に褒めることのないアポロガイストの言葉に彼等は思わず頭を垂れた。
「見ているがいい、]ライダー」
 彼は不敵な笑みを浮かべた。
「貴様はこの巨大な亡霊により滅びるのだ」
 白いスーツが黒い光に包まれた。それはまるで闇の世界に輝く暗黒の太陽のようであった。

 風見と役は上海の夜のビル街を歩いていた。
 上海のビルは独特な感じがある。それは東京やニューヨークとはまた違う。
「これが中国なのかな」
 風見は派手なネオンの光を見ながら呟いた。
「いや、これは上海独特のものですよ」
 役が言った。
「北京や香港はまた違います」
「香港は知っているつもりだが。それにしてもシンガポールとは違って何か猥雑な感じがするな」
「シンガポールはまた特別ですよ」
 シンガポールの風紀の厳しさは有名である。ニューヨークやこの上海はおろか他のどの都市と比べてもそれは際立っているのだ。
「あそこはまた厳し過ぎるという意見もある位です」
「しかしあそこまでしたほうがいいと思う時もあるな」
 風見はそれに対して言った。
「太平洋への玄関口だからな。あそこまでしないとかえって困る」
「バダンも狙う程でしたしね」
「ああ、あの時あの基地を潰して本当によかった」
 彼はシンガポールでの戦いを思いだして言った。
「もしシンガポールの基地が完成してあの場所を拠点にされていたら」
「おそらく今頃環太平洋地域はバダンの思うがままでしたね」
 シンガポールはそれ程までに重要な地であるのだ。げんにバダンはシンガポールでの敗戦を今も悔やんでいる。
「この上海も今よりずっと大変なことになっていたな」
「そうですね。おそらく既にバダンの手に落ちていたでしょう」
「この上海がか」
「ええ」
 風見は役の言葉を聞き戦慄を感じた。
「風見さんがあの時シンガポールにいなかったら・・・・・・。そう思うと私も恐ろしいですね」
「有り難う」
 風見は彼に対して礼を言った。
「いえ、本当に思ったことを言ったまでです」
 役はそれに対して謹んで言葉を返した。
「もしライダーがいなかったらこの世界は」
「いや、俺達は必ずこの世にいたと思いますよ」
 風見は顔を暗くさせた役に言った。
「それが運命ですから」
「運命ですか」
「ええ、俺達は悪と戦う為にこうして改造人間になったんです。げんに」
 彼は言葉を続けた。
「悪の組織が、あの首領が再び動く度に新たなライダーが誕生しています」
 そうであった。首領が闇から身を起こす時、その時に新たなライダーがいつも誕生したのである。
「俺もそうでした。家族をデストロンに殺された俺はダブルライダーに改造人間にしてくれるよう頼み込んだ」
 だが彼等はその時は断った。自分達のような境遇の者をこれ以上作りたくない為だった。
「そして二人を守って死に瀕した時俺は生まれ変わった」
 自分達を守る為に瀕死の重傷を負った風見を救う為に彼等は改造手術を施したのだった。
「そして俺は悪と戦う三人目のライダー、仮面ライダーX3となった」
 その時より彼は悪との絶えることなき戦いに身を投じたのである。
「あの首領が何度でも甦り、そして世界を狙うのなら俺達もそれを阻止する。そして」
 その目に強い光が宿っていた。
「その度に光は強くなる。新たな光と共に」
「その新たな光がゼクロスですか」
「そうなりますね」
 風見はそれを否定しなかった。
「彼の力は絶大です。それに」
「それに・・・・・・!?」
「彼もまた悲しみを知っています。ライダーは悲しみを知ってはじめて本当の意味でのライダーなのです」
「本当の意味で、ですか」
 役にはその言葉の意味がわからなかった・
「悲しみを知ることにより本当の意味での優しさを知る、そしてその優しさを持ってこそ真実の強さを身に着けることができるのです」
「真実の強さ・・・・・・」
 役はそれを聞き考え込んだ。
(では私が今まで思っていた強さは何だったのか)
 彼はそう考え込んだのだ。
(長きに渡って、気の遠くなるような放浪を経て身に着けたこの力は真実の強さではないのか)
 風見は役のそうした思考には気付かなかった。だが言った。
「ライダーだけがそれを持っているのではありません」
「といいますと」
 役は顔を上げた。
「人が持つ強さですから」
「人が持つ強さ」
 彼はそれにハッとした。そうであった。彼等は機械の身体を持っていてもその心は人間のものなのである。
 だから彼等は人間なのだ。その彼等の持つ力もまた人間のものである。それは当然のことであった。
(何故今まで気付かなかったのか) 
 そう悔やまざるにいられなかった。
「風見さん」
 彼は風見に声をかけた。
「はい」
「どうやら私はまた大切なことを教わったようです」
「よして下さいよ、そんな大袈裟な」
 彼は笑って言った。
「いえ、大袈裟ではありません」
 役はそれでも言った。
「また一つライダーに教えられました。ライダーは常にその心を胸に戦っているんですね」
「俺にも難しいことは言えませんが」 
 風見はそう断った。
「大切なのは人としての心ですよ、それを忘れないことです」
「そうなのですか」
「ええ。ライダーといっても心は人間です。それに」
「それに・・・・・・?」
「それがあるから人間なのだと思います。忘れたらそれこそバダンと同じです」
「それは人としての身体を持っていても、ですね」
「そうです、バダンの魂を売った者もいますから」
 そうした者がバダンを支えている一因なのだ。もっともその中には騙され、純粋に正義を信じている者もいる。かっての結城丈二のように。
「俺はそう思うんですよ。人としての心があれば例えどのような身体であってもそれでいいと」
「・・・・・・・・・」
 役はそれを聞いて沈黙した。
「俺も他のライダーも皆悩んだと思いますよ。茂なんかは自分から志願したにしろ最初はかなり悩んだと思いますし」
「そうですね」
 城は親友の仇をとる為にライダーとなった。だがブラックサタンに入るまでにどれだけの覚悟と苦悩があったか。彼はそれを決して語ろうとしないが心の奥底にそれを秘めている。
「けれどそれで思い悩むのも人間だからなんです。皆そうやってその苦悩を乗り越えていくんです」
「辛いんですね」
「ええ。けれどそれに勝てないと悪には勝てない。まずは自分に打ち勝てないと」
 自分に勝てなくて悪に勝てる筈もないのだ。
「厳しいですね」
「それがライダーの運命です」
 風見はそう言うと前を向いた。
「この街にもバダンが潜んでいます」
「はい」
「奴等を一人残らずこの街から消す為にも俺は負けるわけにはいかないんです」
 そう言うと歩きはじめた。そして繁華街へ入って行った。

 繁華街に入るとすぎに数人の男が二人を取り囲んだ。
「ゴロツキか!?」
 風見は彼等を見回した。どの者も卑しい顔をしている。
「いや、違う」
 風見はすぐに察した。
「バダンか」
 彼等は答えなかった。無言で一斉にナイフを放ってきた。
「ムッ!」 
 風見と役は上に跳んだ。男達は上を見上げた。
「逃げたか!」
 見れば彼等の姿は戦闘員のそれに変わっていた。その中央にいる無気味なシルエットの男が言った。
「追うぞ」
 見れば怪人であった。ネオショッカーの毒針怪人アブンガーである。
「はい」
 戦闘員達は彼の言葉に従い間近のビルに登った。そしてそこから周りを見回す。
「何処だ」
 だが気配はしない。上海の人々の夜を知らぬかのような猥雑な声と湿った風があるだけである。
「ここだ」
 そこで声がした。彼等が声がした方に顔を向けた。
 そこに探している男がいた。X3と役であった。二人は隣のビルの上にいた。そのビルはバダンの者達がいるビルより少し高かった。
「来ると思っていたぞ」
 X3は彼等を指差して言った。
「貴様等が欲しいのは俺の首だな」
「そうだ」
 アブンガーが答えた。
「仮面ライダーX3、この上海を貴様の墓としてやる!」
「面白い」
 X3はそれを聞いて言った。
「やれるものならやってみよ」
「望むところだ!」
 戦闘員はX3と役のいるビルに跳び移ってきた。アブンガーもそれに続く。
 彼等はすぐにX3と役を取り囲んだ。そして攻撃を仕掛けてきた。
「戦闘員は私が」
 役がX3の前に出て言った。
「お願いします」
 X3はそう言うと怪人に向かった。
「アブーーーーーーーッ!」
 怪人は奇声を発するとX3に向かってきた。右手のその毒針を突き立ててくる。
「ムッ」
 X3はそれを身体を左に捻ってかわした。そしてかわすと同時に蹴りを放つ。
 それは怪人の顎を撃った。怪人はたまりかねて思わず体勢を崩す。
 そこへ拳を繰り出す。怪人はそれを受け床に倒れた。
「止めだっ!」
 X3はそこで跳躍した。
「トォッ!」
 空中で回転する。赤い仮面が夜の闇の中に映える。
「X3きりもみキィーーーーーーーック!」
 そして蹴りを叩き込んだ。怪人はその直撃を受けビルから落ちた。そして空中で爆死した。
「やりましたね」
 そこへ戦闘員を全て倒し終えた役がやって来た。
「ええ」
 X3はそれに頷いた。
「あとは私の仕事だ」
 役はここで急に無気味な声を出した。
「仕事!?」
「そう、私の仕事は」
 見れば彼の顔が急に変わっていく。
「仮面ライダーX3、貴様を捕らえることだっ!」
 彼は既に役の姿をとってはいなかった。そこにはデストロンの磁石怪人ジシャクイノシシがいた。
「クッ、どういうことだ」
 X3は捕まりながらも怪人に顔を向けて問うた。
「フッフッフ、こういうことだ」
 そこで前から声がした。
「何」 
 するとそこに黒い一団が姿を現わした。
「貴様は」
「久し振りだな、仮面ラァーーーーイダX3」
 そこにはドクトル=ゲーもいた。
 見ればその後ろに役がいる。彼は戦闘員達に後ろ手で縛られている。
「すいません、X3.さっき捕まってしまいました」
「クッ・・・・・・」
 助けに行こうにも彼も捕らえられていた。
「観念するのだな。逃れられん」
 ドクトル=ゲーの声が夜の街に響いた。その顔は酷薄な笑みに満ちていた。

 捕らえられた二人は手を後ろに縛られ牢屋に入れられた。
「暫くそこで大人しくしているがいい」
 ドクトル=ゲーは牢屋に入れられた風見を見下ろして満足そうに言った。
「この中国が灰塵に帰するまでな」
「何、貴様やはり」
「フフフ、そうだ」
 ゲーはまた酷薄な笑みを浮かべた。
「我がバダンの秘密兵器によりこの中国は消え去るのだ。まずはてはじめにこの上海からな」
「馬鹿な、十三億の人々を殺すつもりか」
「十三億のゴミと言った方がよいな」
 ゲーはそううそぶいた。
「我がバダンに従わぬ者はゴミと同じ。違うのか」
「貴様、人をゴミと言うのか」
「私の考えはよく知っている筈だが」
 ドクトル=ゲーは風見を不思議そうに見て言った。
「バダンに従わぬ者は生きている価値すらない」
 それが彼の、そしてバダンの考えの全てであった。
「貴様も中国の次に消してやる。まずはこの大陸が滅ぶのを見るがいい」
「誰がっつ」
 風見は暴れようとする。だが手を後ろで縛られそれはできない。
「無駄だ、そのロープは特殊な繊維で作られている。力で引き千切ることはできん」
 ゲーはそんな彼に対して言った。
「観念するがいい。そしてことが終わり次第」
 彼はここでその手に持つ斧を風見に見せた。
「この斧で貴様の首を落としてやる。一撃でな」
 そう言うと彼はその場を去った。後には彼の無気味な笑い声だけが牢獄の中に響き渡った。
「やはり中国を滅ぼすつもりでしたね」
 憮然として床に座った風見に役が話しかけてきた。
「ええ、これは一大事です」
 彼は流石に深刻な顔をしていた。
「何とかしないと怖ろしいことになる」
 彼はその顔を険しくさせた。
「しかしこの状況では」
 縛られていては何もできない。しかもロープはドクトル=ゲーの言ったとおり力では駄目だった。
「まずいな、このままでは変身もできない」
「大丈夫です」
 焦りはじめた風見に役が言った。
「ここは私に任せて下さい。もとはといえば私の責任ですし」
「しかし」
 責任を問うつもりはなかった。だが役のその真摯な声に何かを感じずにはいられなかった。
「役さんも縛られていますし」
「これですか!?」
 役はそう言って微笑んだ。見れば彼の手は自由となっている。
「え・・・・・・」
 これには流石の風見も驚かざるにいられなかった。
「縄抜けですよ」
 役は風見を元気付けるような声で言った。
「私の特技の一つでして。私が古武術をしているのはご存知ですね」
「はい」
「その中に関節を外す技もありまして。それで抜けたのですよ」
「そうだったのですか」
「意外でしたか」
「いえ」
 風見はそれには首を横に振った。
「どうも貴方は多くの技能を身に着けておられるようですしそれ程には」
「そうですか」 
 役はここで風見が自分のことに何か察しをつけているのでは、と思った。だがそれを口に出すことはなかった。
「ではロープをほどきますので」
「お願いします」
 風見は身体の後ろを差し出した。役は素早い動きで彼の両手を縛るロープを解いた。
「これでよし」
 風見は自由になった両手首を動かしながら言った。
「じゃああとはここを出るだけですね」
「ええ」
 風見は頷くと鉄格子の前に来た。そして左右に引っ張った。
「ムン!」
 それで鉄格子は破壊された。人一人が通れる隙間が開いた。
「行きましょう」
「はい」
 二人はすぐにその間を通り抜けた。そして廊下に出た。
 角を曲がる。丁度そこに戦闘員が一人いた。
「ムッ」
 その戦闘員は慌てて身構えようとする。だが風見はそれより速く彼を手刀で倒した。
「今声を立てられたら困るのでな」
 二人はその戦闘員が息絶えたのを確認すると先へ進んだ。
 その時ドクトル=ゲーは基地の最深部にいた。
「開発は進んでいるか」
 そして白服に身を包んでいる戦闘員達に尋ねた。
「ハッ、あとは最終チェックだけです」
「そうか」
 戦闘員の言葉を聞き満足気に笑った。
「それが終わればあとは出撃させるだけだな」
「はい」
 戦闘員が答えた。
「これが起き上がった時まず上海が消える」
「それから中国全土が」
 戦闘員は言葉に合わせた。
「そうだ、長い歴史を誇るこの国が瞬時にして地球上から消え去るのだ。壮大な話だな」
「まことに。おそらくバダンの輝かしい歴史にこの偉業が残ることでしょう」
「私の名と共にな」
 ドクトル=ゲーは追従ともとれるその言葉に頬を緩めた。
「そしてその光景はあの男にじっくりと見せてやる。そして」
「絶望の中その首を落とすのですな」
「そうだ、この斧でな」
 そう言うと右手に持つ斧をゆっくりと上げた。
「待たせたな」 
 彼は自身の斧に語りかけた。
「だがもうすぐだ。無念を晴らす時はな」
 その顔にいつもの酷薄な笑みが宿っていた。
「あの時の恨み、忘れたことはない。だが」
 斧の向こうで何かが起き上がった。
「もう暫くの辛抱だ。待っておれよ」
 その起き上がったものの頂上が光った。
「この魔神が中国を滅ぼす。そして」
「この俺がバダンの野望を打ち砕く」
 ドクトル=ゲーの声に合わせるように何者かの声がした。
「ムッ!?」
 右だ。ドクトル=ゲーも戦闘員達もそちらに顔を向けた。
「何、貴様!」
 ゲーは荷物の上に立つその男を見て憤怒の声をあげた。
「どうしてここに、とは聞かないのか」
 だがX3はそんな彼にあえて余裕を含んだ声で言った。
「ヌヌヌ」
 それがかえってゲーを怒らせた。
「貴様等の企みは必ず破られる運命になる」
 X3は言った。
「たとえ捕らえられようともライダーはそれから必ず抜け出す、そして貴様等の野望をくじく!」
「ほざけ!」
 ドクトル=ゲーは怒りを爆発させた。そして斧を投げてきた。
「おっと」
 X3はそれを何なくかわした。
「では今度はこちらからだ」
 そう言うと荷物から降りた。そこを戦闘員達が取り囲む。
「やってしまえ!」
 ゲーの命令が下る。戦闘員達が一斉に襲い掛かる。
「フン」
 だが所詮ライダーの敵ではない。X3は彼等を埃を払うかのように何なく倒していく。
「ヌウウ、かくなるうえは」
 ゲーはそれを見て歯軋りした。そして右手を挙げた。
「出でよ、怪人達よ!」
 すると奥から三つの影が飛び出てきた。
「来たな」
 それはやはり怪人達であった。ジシャクイノシシの他にも二体いた。
 ショッカーの絞殺怪人ミミズ男とブラックサタンの電撃怪人奇械人電気エイだ。彼等は三方向からX3に迫ってきた。
「シャクーーーーーーーッ!」
 まずはジシャクイノシシが突進してきた。そしてその左腕で殴り掛かる。
 X3はそれをかわした。そして逆に蹴りを放つ。
 それはジシャクイノシシの左腕を撃った。それでジシャクが壊れた。
「よし!」
 X3はさらに攻撃を仕掛ける。パンチを三連発で繰り出した。
「X3トリプルパァーーーーーーンチッ!」
 それで決まりだった。怪人は顔にそれを続けて受け倒れた。そして爆死した。
「オフオゥゥーーーーーーーーッ!」
 今度はミミズ男がやって来た。怪人は手に持つリングを放ってきた。
 それはX3の首に引っ掛かった。
「これは」
 それはミミズに似せたリングであった。X3の首にかかるとすぐに締め付けにかかった。
「ググッ」
 何とか外そうとする。だが動けば動く程それは食い込んできた。
「まずい、このままでは」
 次第に息が苦しくなってくる。やがて倒れるのは時間の問題であった。
「その前に」
 X3は怪人を睨みつけた。
「奴を倒す!」
 そう叫ぶとまず体当たりを仕掛けた。
「オフッ!?」 
 そして次にはチョップを浴びせた。怪人はそれで怯んだ。
 それで攻撃を止めるX3ではなかった。彼は続けて渾身のチョップを繰り出した。
「X3チョーーーーップ!」
 普通のチョップとは違う。普段のそれよりも遥かに強力なチョップであった。
 それが怪人の首を直撃した。ボキリ、と鈍い音がした。首の骨が折れる音であった。
 ミミズ男もそれで倒れた。そして爆発の中に消えた。怪人が倒れると首のリングも力をなくし外れた。
 残るは奇械人電気エイだけだった。怪人は爆発を背にX3と対峙した。
「さあ来い」
 X3は身構えながら怪人と対峙した。
「エーーーーーーイッ!」
 怪人は奇声を発した。そしてX3に両手の鞭を振るってきた。
「甘いな」 
 だがX3はそれを後ろに跳びかわした。敵の攻撃は既に見切っていた。
 怪人の攻撃は執拗に続く。X3はそれでもそれを何なくかわす。
 怪人は今度は電撃を放ってきた。それは一直線にX3に向かってきた。
 X3はそれを全身で受け止めた。身体にバリアーを張ったのだ。
「これでどうだっ!」
 怪人の電撃はそのバリアーにより無効化された。怯む怪人にX3は突進した。
「喰らえっ!」
 飛び蹴りを放つ。そしてその反動で上に跳び上がった。
「X3ダブルキィーーーーーーーーック!」
 そして空中でもう一度反転し再び蹴りを放つ。これで怪人は爆死した。
「もういないようだな」
 彼は着地するとドクトル=ゲーに顔を向けた。
「ドクトル=ゲー」
 彼の名を呼んで身構えた。
「遂に決着をつける時が来たな」
「私はそうは思わん」
 彼はそれに対し不敵な言葉で返した。
「何!?」
「少し予定が変わったが」
 彼はそう言いながら次第に後ろに下がっていく。
「どのみち貴様は始末する予定だ。そう、この上海でな」
「その言葉、貴様にそっくり返そう」
「できるかな!?」
 ゲーは不敵に笑った。
「これを前にして」
「何!?」
 するとドクトル=ゲーの後ろにいた巨大なあの魔神が再び動き出したのだ。
「しまった、こいつのことを忘れていた!」
「ハハハ、迂闊だったな、仮面ラァーーーーイダX3!」
 ゲーの高笑いが響き渡る。
 魔神は身体中に繋がれていたコードを全て引き千切った。そして周りのコンピューターや機械を壊しながらX3に襲い掛かって来た。
 見れば三面六臂の巨大な、阿修羅の如き姿である。その顔は鬼にそっくりだった。そして赤く薄い光に照らされた基地の最深部で暴れはじめた。
 その目標は言うまでもない。X3である。
「クッ!」
 魔神の巨大な脚が来た。X3はそれを何とかかわした。
 そしてその巨体を昇りにかかった。素早く猿の様に駆け上がる。
 だがそれを六本の腕が襲い掛かる。そしてそのうちの一本がX3を叩き落とした。
「ガハッ!」
 床に叩き付けられ思わず呻き声をあげた。だがすぐに立ち上がる。
「フフフ、どうだ。そうそう容易にはいかんぞ」
 ゲーは後方から両者の戦いを見守りつつ彼に言った。
 X3は戦法を変えた。魔神の後方に回り込もうとする。
「無駄だと言っておろうに」
 ゲーはそんな彼を嘲笑する声を出した。顔は笑っていないが声は笑っていた。
 魔神の三つの顔のうち一つがX3を捉えた。そして目に何かが宿った。
「あれは!?」
 それは闇だった。いや、よく見るとそれは闇ではなかった。
 それは黒い光だった。それは二条の光線となりX3に襲い掛かってきた。
「何のっ!」
 X3はそれも何とかかわした。今さっきまでいた場所が黒い光を浴びその中に消えていた。
「何という光だ」
 その床の場所にはもう何もなかった。ただ黒い穴が開いているだけであった。
「さて、何時までそうやって逃げていられるかな」
 ゲーの声がまた響いた。
「三つの顔に六本の腕。そうそう容易には逃げられんぞ」
 魔神の攻撃は続いた。彼はその目から放つ黒い光と丸太の様な六本の腕でX3を追い詰めんとする。
 X3はそれに対して逃げるだけで手一杯であった。次第に部屋の隅にまで追い詰められてきた。
「まずいな、このままでは」
 背が壁についた。見れば魔神がすぐ側にまで迫ってきている。
「さあ、観念したか」
 ゲーは魔神を挟んで彼と正対した。
「誰が」
 X3に降伏の二文字はない。何故ならライダーだからだ。
「そうか、ならばそのまま**(確認後掲載)」
 魔神がその言葉と共にゆっくりと六つの目にあの黒い光を宿してきた。
「クッ、どうすれば」
 ここで彼の脳裏にあることが閃いた。
「そうだ、ここはあれしかない!」
 見れば黒い光が今にも放たれようとしている。もう戸惑っている時間はなかった。
「さあ、観念したか」
 ドクトル=ゲーはX3を見据えていた。
「止めは私がさしてやろうぞ」
 そして右手に持つ斧を煌かせた。
 だがX3はそれに構わなかった。腰を落とし構えた。
「喰らえ」
 そして腰のダブルタイフーンが光った。


[192] 題名:隻眼の軍人2 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2004年08月31日 (火) 00時15分

「どうした?」
 侮蔑が消えていた。何処か親しげな笑みであった。
「そうだ、バダンの最高幹部だったな」
「それがどうした」
 暗闇大使はそれを聞き一瞬戸惑った。
「いや何も」
 地獄大使はあえてからかうような顔をした。
「今のところは、という意味だったな」
 挑発する為に。
「貴様っ!」
 やはり暗闇大使は激昂した。左手に持つ鞭をこちらに向けようとする。
「面白い。ここでやるつもりか」
「だとしたらどうする!」
 暗闇大使は感情的な声で言った。
「いや」
 やはり地獄大使はからかうような顔をしている。
「最高幹部にしては軽率であるな、と思ってな」
「ム」
 暗闇大使はその言葉に我に返った。
「フフフ」
 地獄大使はその様子を楽しそうに見ている。
「落ち着くがいい。部下も見ているしな」
 彼はあえて彼を宥めるようにして言った。
「ところで本題に入ろう」
 地獄大使はここでようやく本題を言うことにした。
「時空破断システムだがな」
「うむ」
 暗闇大使は内心で怒りを沸騰させていたがあえてそれを隠し応えた。
「あれはネクロノミコンの力を使っているな」
「だとしたらどうする」
 暗闇大使は憮然とした顔で問うた。
「いや、だったらいいのだ」
 地獄大使は納得した顔で頷いた。
「だとすればこちらも安心して使えるというものだ」
「もとは貴様が持っていたものだからな」
 暗闇大使は言った。
「そうだ、わしがあえて貸してやったものだ」
「有り難く使わせてもらった」
「しかしそれだけではないだろう」
 地獄大使はここで問うた。
「どういう意味だ?」
「ネクロノミコンだけで開発したわけではないだろう、と聞いているのだ」
「フン、察しがいいな」
「貴様の考えていることはわかる」
 地獄大使は言った。
「何しろ血を分けた従兄弟同士なのだからな」
「不幸にしてな」
 暗闇大使は再び顔を憮然とさせた。
「フフフ」
 地獄大使にとってその様子がたまらなく面白いようだ。
「その力、何なのかと思ってな」
「それを聞く為にわざわざ日本に来たのか」
「まあな」
「わしが貴様に教えると思っているのか」
「言っただろう、わしには貴様のことは全てわかると」
「それはわしも同じだがな」
 暗闇大使は言い返した。
「そうだな。これでわしの知りたいことはわかった」
「そうか」
 暗闇大使は相変わらず憮然とした様子で言った。
「ならば去れ」
「言われずともな。誰が好き好んで貴様と会うものか」
 地獄大使はここで嫌悪感をあらわした。
「わしはこれで持ち場に去らせてもらう。だが一つ忘れるな」
「何だ」
 暗闇大使は顔を向けた。
「貴様の椅子は仮のものに過ぎんということをな」
「そうか」
 ここは気にもかけぬふりをした。
「いずれ・・・・・・わかっているだろうな」
「何のことだ」
「フン、まあいい」
 地獄大使は背を向けた。
「ショッカーの時からの掟だ。力こそが絶対だ」
「ならばわしの勝ちだな」
「言っておれ。それもいずれわかることだ」
 地獄大使は背を向けたまま言った。
「その時を楽しみにしておれ」
「貴様の最期をな」
 地獄大使はその言葉を聞き流し指令室をあとにした。暗闇大使はそれを見送りながら呟いた。
「あの男、気付いているのか」
 彼はいぶかしんでいた。
「時空破断システムの秘密に」
 それは彼と首領だけが知っていることである」
「いや」
 しかし彼はここで首を横に振った。
「黒い光のことは誰も知らぬ筈だ。わしと首領以外は」
 トロントでゼクロスに見せたあの光のことである。
「あの光がある限りわしの力は絶対なのだ」 
 彼は自分に言い聞かせるようにして言った。
「地獄大使、いやダモンよ」
 彼は従兄弟の名を口にした。
「今度は貴様の後塵は拝さぬぞ。決してな」
 その目には憎悪の光が宿っていた。
「今のわしの力をとくと思い知らせてやる」
 彼はそう言うとその場から姿を消した。そして闇の中に沈んでいった。

 筑波とがんがんじい、そして志度博士の三人はバベルの塔の前にいた。
「遂に来たな」
 博士はその塔を見上げて言った。
「ええ」
 二人はそれに対して頷いた。やはり上を見上げている。
「かって神の世界に行こうとして建てられた塔が今は悪の世界をもたらす為にある」
 博士の言葉は神話を語るように神秘的なものであった。
「その塔を崩し中東に平和をもたらさなければならない。その為に」
 左右にいる二人を見回した。
「行こう」
「はい」
 二人は頷いた。見ればがんがんじいは既に鎧を着込んでいる。
 筑波は人間の姿のままだ。だがすぐに腰からベルトを取り出した。
「行きますよ」
「うん」
 二人は筑波の言葉に頷いた。筑波はゆっくりと変身の構えをとった。

 スカイ・・・・・・
 まず両手を拳にし脇に入れる。そして右手を前に突き出した。
 すぐにそれを引っ込め左手をかわりに前に出す。その掌を拡げる。
 そして手刀にすると右から左に旋回させる。
 身体が黄緑のバトルボディに覆われ手首と足首が黒い手袋とブーツに覆われる。
 変身!
 その左手を脇に入れる。そして手刀にした右手を左斜め上に突き出す。
 顔の右半分が黄緑の仮面に覆われる。左半分もすぐに。目が紅く光った。
 
 光が全身を包む。光が去るとそこにはスカイライダーがいた。
「行きましょう」
「うん」
 スカイライダーの言葉に今度は博士とがんがんじいが頷いた。三人はライダーを先頭に塔の中に入って行く。
 塔の中は玄室と螺旋階段により繋がれていた。二人は玄室を通過し階段昇っていく。玄室と玄室の間は空洞になっている。
「ライダー」
 がんがんじいは階段を昇りながらスカイライダーに尋ねた。
「何だい」
 ライダーはその質問に対して問うた。
「空から上には行きまへんねんな」
「うん」
 ライダーは頷いた。
「バダンの連中は中にいるからね。それに中の方が何かある可能性が高いし」
 ライダーは言葉を続ける。
「屋上は守りが堅いだろうし。まずは中で敵の戦力を減らしていこうと思って」
「成程」
 博士とがんがんじいはそれに納得した。
「それに」
 ライダーは言葉を加えた。
「それに?」
「二人をそのままにしてはおけないから」
「ライダー・・・・・・」
 二人はここであらためてライダーの優しさを知った。
 三人は螺旋階段を進んでいく。そこへ怪人達が姿を現わした。
「来たな」
「ホオーーーーーーーーッ!」
 デストロンツバサ一族の予言怪人火炎コンドルである。怪人は階段の上にいる三人に襲い掛かってきた。
「ここは俺に任せてっ!」
 スカイライダーは二人にそう言うと跳んだ。そして怪人に向かっていく。
「頼む!」
 二人はそれに従い階段を昇っていく。前に戦闘員達が現われるがそれも倒していく。戦闘員達が悲鳴と共に暗闇の中に落ちていく。
 火炎コンドルはスカイライダーに向けて体当たりを敢行しようとする。ライダーはまずその一撃をかわした。
「甘いな」
 怪人は旋回した。そして今度は爪で切り裂こうとする。
 口から火を吐く。だがスカイライダーはそれを全てかわした。
「無駄だ」
 今度はライダーの攻撃であった。まずはパンチを繰り出す。
 だが怪人もさるものである。それはかわす。
「やはりな」
 それを見たライダーは後ろに退いた。そこに隙が生じた。
「今だっ!」
 火炎コンドルはそこに襲い掛かった。両手の爪でスカイライダーの胸を切り裂かんとする。
「かかったな!」
 そこでライダーは怪人の両手を掴んだ。そして思いきり後ろへ放り投げる。
「ギッ!」
 怪人は壁に叩き付けられた。そこから立ち直り再び向かって来る怪人にスカイライダーは蹴りを繰り出した。
「スカイキィーーーーーーーーック!」
 それは怪人の胸を貫いた。怪人は首をビクッ、とあげたがすぐにそれを垂れさせた。そしてスカイライダーの脚が抜かれると下に落ち爆死した。
 ライダーは二人の元へ戻った。そして再び階段を昇る。
 扉が見えてきた。するとそこが開いた。
「ム」
 中から怪人が姿をあらわした。ショッカーの毒針怪人蠍男である。
「シュッシュシュシュッ」
 怪人は奇妙な鳴き声をたてながらスカイライダーに向かってきた。
「こんなところで出て来るとは」
 スカイライダーは前に出た。すると後ろから別の声が聞こえて来た。
「ルロロ、ルロロ!」
 ブラックサタンの食虫怪人奇械人カメレオーンである。怪人は戦闘員達を引き連れ階段を昇っていく。
「ライダー、後ろはわて等に任せて!」
「君は前の怪人を!」
 がんがんじいと博士が後ろの怪人達へ向かう。
「すまない!」
 スカイライダーはそれを受けて前の蠍男へ向かう。怪人はそこに鋏を繰り出してきた。
「そうくると思った!」
 彼はその鋏をかわした。怪人は続けて拳を繰り出す。
 だがライダーはそれもかわした。そして脚払いを仕掛ける。
「シュッ!?」
 怪人はそれでバランスを崩した。壁の方に倒れ掛かる。
 そこでライダーは攻撃を仕掛けた。怪人の顔めがけ拳を浴びせた。
「スカイパァーーーーーンチッ!」
 一撃だけではなかった。続けて出す。それは怪人の頭部を激しく打ち据えた。
「シュッ・・・・・・」
 それで終わりであった。怪人は最後に一声叫ぶと崩れ落ちた。そして先の火炎コンドルと同じく闇の中へ落ちその中に消えた。最後に下の方で爆発が起こった。
「よし」
 後ろを振り向く。見れば博士とがんがんじいが怪人達に苦戦している。
「ルロロロロロロ」
 奇械人カメレオーンは左手を回転ノコギリに変形させた。そしてそれで二人を切り裂かんとしている。
「うわあっ!」
 がんがんじいは慌ててそれをかわす。あまり格好のいい動きとは言えないがそれでも何とかかわしている。
「がんがんじい、無理をするんじゃない!」
 博士はそんな彼に対して言う。言いながらがんがんじいをフォローしている。
「そうは言いましても」
 彼にも引けない理由があった。今後ろではスカイライダーが戦っているのである。自分がしっかりしなくては彼にいらぬ負担がかかるのだ。
「そうだがんがんじい、ここは俺に任せろ!」
「その声は!」
 後ろを振り返る。そこに彼がいた。
「よくやってくれた、あとは俺がやる!」
「はいな!」
 彼等は場所を入れ替わった。スカイライダーが怪人の前に出て来た。
「行くぞっ!」
「ルロロロロロッ!」
 怪人はライダーが前に出ると奇声を発した。すると急に姿を消した。
「保護色か」
 カメレオンの怪人の特色である。彼等はカメレオンの能力で姿を消すことができるのだ。彼もそれは今までの戦いで知っていた。
「何処にいる」
 ここは動かないことにした。どのみち階段には自分がいる。そこより後ろには回れない。攻撃は前からしか来ない。それがわかっているから気持ちは楽であった。
「さあ、どうする」
 ライダーは姿を見せぬ怪人に問うた。その時であった。
 何かがライダーの首めがけ襲い掛かってきた。彼はそれをかがんでかわした。
「来たなっ!」
 ライダーはかがみながら前に拳を繰り出した。鈍い音と共に確かな手ごたえが拳に伝わった。
「ガハッ・・・・・・」
 怪人が血を吐きながら姿を現わした。ライダーはそれをのがさなかった。
「スカイスルーーーーーッ!」
 怪人を掴み壁めがけて放り投げる。ライダーの拳をまともに腹に受け弱っていた怪人にそれをかわすことは不可能であった。
 怪人は頭から壁にぶつかった。これでゆっくりと下に落ちていった。そしてまた爆発が起こった。
「これでよし」
 ライダーはその爆発を見下ろして言った。そして上にいる二人に顔を向けた。
「じゃあ上に」
「よし」
 二人はそれに対して頷いた。そして合流し扉をくぐった。
 三人が入ったのは玄室であった。そこには何もなかった。左右に燭台が数台ずつ置かれているだけであった。
「ここは」
「スカイライダー、貴様が死ぬ場所だ」
 ここで前の扉が開いた。そこから怪人が姿を現わした。
「ググググググ」
 ドグマの蜘蛛怪人スパイダーババンであった。怪人は右手に持つ刀でライダーを差しながら言った。
「先に貴様に倒された仲間達の仇、とらせてもらう」
「来い」
 ライダーは構えをとりそれに応えた。両者は間合いを詰めた。
「喰らえっ!」
 怪人は左手から糸を放ってきた。
「ムッ!」
 それはライダーの右腕を絡めとった。怪人はそれを見て会心の笑みを浮かべた。
「今度こそ貴様の最後だっ!」
 一気に間合いを詰める。そして右手に持つ刀でライダーの首を断ち切らんとする。
 だがそれは適わなかった。
「させんっ!」
 ライダーはそれより前に残る左手で攻撃を繰り出した。怪人の右の手を手刀で打ったのだ。
「グオオッ!」
 怪人はそれを受け思わず叫んだ。そして不覚にも刀を手放してしまった。
「よし!」
 ライダーはその刀で糸を断ち切った。そして怪人にあらためて対峙した。
「まだだっ!」
 スパイダーババンはそこにまた糸を放ってきた。だがライダーに一度見せた技は通用しない。
 ライダーは右にステップしそれをかわした。そして左斜め前に跳び一気に怪人に襲い掛かった。
「フンッ!」 
 回し蹴りを繰り出す。それは怪人の後頭部を撃った。
「ウッ!」
 思わず呻き声をあげる。ライダーはそこに続けざまに攻撃を仕掛けた。
 拳を出す。怪人の左頬をまともに打った。
 そこで怯んだ怪人を掴んだ。そして後ろに叩きつけた。
「スカイバックドロップ!」
 プロレス技で有名なバックドロップだった。これをまともに受けた怪人はこれで倒れた。
 そして爆発して消えた。これでこの玄室での戦いも終わった。
 三人はさらに上を目指した。そして遂に頂上に辿り着いた。
「ここは」
 そこは何層にもなったバルコニーであった。様々な植物が植えられ、花々が咲き乱れていた。清らかな水が流れ、砂漠の中にあるとはとても思えぬ光景であった。
「これはまさか」
 三人はこれが何か知っていた。
「そうだ、あの伝説の遺跡だ」
 三人の前にあの男が姿を現わした。
「ゼネラルモンスター」
 彼等はその男の姿を認めてその名を呼んだ。
「よくぞここまで来た、スカイライダーよ」
 ゼネラルモンスターはスカイライダーに対して言った。
「かって世界七不思議の一つと言われたバビロンの空中庭園にようこそ」
「バビルの塔の上に置くとは」
「凝った演出だろう、これも貴様と戦うのに相応しい場所を作る為だ」
「俺とか」
「その通り、見ろ」
 ゼネラルモンスターは右手に持つステッキで庭園の頂上を指し示した。
「ム」
 三人はその指し示した方を見た。そこには何か巨大な鏡のようなものがあった。
「とくと見るがいい」
 ゼネラルモンスターがそう言うとその鏡に何かが宿った。
「あれは・・・・・・」
 それは闇の様に見えた。
「いや、違う。あれは闇じゃない」
 博士はそれを見て顔を青くさせた。
「あれは・・・・・・」
 その黒いものは次第に鏡を覆っていった。
「黒い光だ!」
「まさか、そんなものがこの世に・・・・・・」
「存在する筈がない、と言いたいのだな」
 ゼネラルモンスターはスカイライダーに対して言った。
「しかしこれは事実だ。その証拠に見せてやろう」
 その言葉と同時に鏡を覆っていた黒い光が前方に放たれた。
 それは光線となり前方を襲った。黒い光が通った場所が全て闇の中に消えていった。
「な・・・・・・」
 三人はそれを見て絶句した。前にあった岩山が一瞬にして消え去ったのだ。
「どうだ、この光の力は」
 ゼネラルモンスターは満足そうな声で言った。
「素晴らしいものだろう」
「ゼネラルモンスター、まさかこの黒い光で」
「そうだ、この中東を死の荒野に変えてやる」
 スカイライダーに対して答えた。
「そしてそのあとに我がバダンの世界を築くのだ」
「クッ!」
 彼はそれを聞きゼネラルモンスターに向き直った。
「そうだ、それでいい」
 ゼネラルモンスターはそれを認めると不敵に笑った。
「どのみち貴様は倒さねばならないからな。我がバダンの為に。そして」
 彼は言葉を続けた。
「この私のプライドにかけて」
「俺は違う」
 ライダーはそれに対して反論した。
「ここにいる人々の為にゼネラルモンスター」 
 彼を見据えた。
「この黒い光を封じ、貴様を倒す!」
「そうか」
 ゼネラルモンスターはそれを聞いて頷いた。
「ならば私を倒すがいい」
「そのつもりだ!」
 彼は言い切った。
「フフフフフ」
 ゼネラルモンスターはそれを聞くと益々上機嫌な笑い声を出した。
「それでいい。ようやくあの時の借りを返せる」
 彼は眼帯を取り外した。そこには赤い眼があった。
「行くぞ、スカイライダー」
 見ればもう一方の目も変わっている。そして言った。
「ゼネラルモンスター、本体!」
 掛け声と共にその身体が変わった。
 そのカーキ色の軍服が黒い身体になる。帽子が角になり口からは牙が生える。そしてその左腕がヤモリに変形した。
 ゼネラルモンスターの正体、ヤモリジンであった。
「行くぞっ!」
 ヤモリジンは前に突進した。
「望むところだっ!」
 スカイライダーも前に跳んだ。両者の拳が激突した。
「フンッ!」
 ヤモリジンの右腕に鞭が現われた。それでスカイライダーを打ちすえようとする。
「グッ!」
 それを左脇に受けた。思わず苦悶の声を出す。
 攻撃はそれで終わらない。続けて鞭を繰り出す。
 しかし一撃目こそ受けたもののスカイライダーも怯まない。脚を狙ったそれを上に跳びかわした。そして右脚で旋風脚を出す。
「フッ」
 だがヤモリジンはそれを後ろに退きかわした。そして間合いをとるとニヤリ、と笑った。
「これをよけられるかな」
 ヤモリジンは左右に分身した。そしてそのそれぞれのヤモリジンがライダーを取り囲んだ。
「分身か」
 取り囲まれたライダーはそれを見て呟いた。
「その通り。そしてそれだけではない」
 その全てのヤモリジンが攻撃を出す。無数の鞭がライダーを襲う。
「グオッ!」
 激しく全身を打ち据えられる。思わず叫び声を出してしまった。
 ゼネラルモンスターは後ろに戻った。すると分身が一つになる。
「フフフ、どうだ」
 ヤモリジンは倒れ込むスカイライダーを見下ろして言った。その声にはあからさまな優越感があった。
「私の鞭は。かなり効くだろう」
「フン、残念だな」
 ライダーはそれに対し言い返した。そして立ち上がった。
「この程度でライダーを倒せるとは思わないことだ」
「フン」
 ヤモリジンはそれを見て言った。
「流石だな。もっともそうでなくては張り合いがないというものだ」
 彼はそう言うと今度は左腕のヤモリの牙を鳴らさせた。
「次は別の方法で攻めてやろう」
 立ち上がったスカイライダーに対してそのヤモリの首を伸ばした。それは一直線にスカイライダーの首へ襲い掛かった。
「クッ・・・・・・!」
 ヤモリの牙がスカイライダーの首を喰らう。ライダーは思わず苦悶の声を漏らした。
「さあ、これならどうする」
 ヤモリジンはもがき苦しむライダーに対して言った。
「これはどうしても外すことはできない。外そうとすればする程その首に食い込む」
「ウウウ・・・・・・」
 ライダーは何とか引き剥がそうとする。だがヤモリの牙はヤモリジンの言う通り剥がそうとすればする程ライダーの首に食い込んでいく。
「さあ、これで最後か」
 ヤモリジンはそんな彼に対して言った。
「最後は苦しまないようにしてやろう。これでな」
 右手に爆弾を持った。それでスカイライダーを始末しようというのだ。
「壮絶に散るがいい、最後はな」
 彼は勝利を確信していた。だがスカイライダーは違っていた。
 彼は諦めてはいなかった。勝機をまだ窺っていたのだ。
「まだだ」
 ヤモリジンの左腕を見た。それはまだ彼の首にくらいついている。
 しかし、だ。それを外さなくてはならない。何故か、ヤモリジンは今から爆弾を彼に投げるからだ。
 この左腕は取り外しができない。従って爆発に巻き込まれない為にその瞬間外さなくてはならないのだ。
(その時だ)
 しかしそれは一瞬である。それにダメージで満足に動けるかどうかさえもわからない。
 それでも動かなくてはならない。勝つ為にだ。
 ヤモリジンは勝ち誇った顔でゆっくりと爆弾を振り上げる。そしてそれを投げた。
「さあ、これで最後だ!」
 ヤモリジンは叫んだ。そしてその瞬間左腕をスカイライダーから外した。
「今だっ!」
 ライダーはそれを見てすぐに跳んだ。その瞬間までいた場所で爆発が起こった。
「ムッ!」
 ヤモリジンは咄嗟に上を見た。そしてすぐに身構えようとする。
 しかしライダーの方が早かった。彼は既に空中で攻撃の用意を整えていた。
「これで最後だヤモリジン、いやゼネラルモンスター!」
 彼は激しく回転しながら言った。
「大回転・・・・・・」
 天高く舞い上がった彼は前転を繰り返しながら急降下する。
「スカイキィーーーーーーーック!」
 そして渾身の力を込めた蹴りを放った。それは身構えようとするヤモリジンのガードをかいくぐりその胸を撃った。
「ウオオオッ!」
 ヤモリジンはそれを弾き返そうとする。だが力及ばず吹き飛ばされた。
 激しく床に叩き付けられる。何度も床にバウンドし遂に止まった。
「決まったな」
 スカイライダーは着地した。そして床に倒れ込む彼を見下ろして言った。
「見事だ」
 ヤモリジンは立ち上がりながらスカイライダーに対して言った。
「どうやらまた敗れたようだな」
 そしてゼネラルモンスターの姿に戻っていく。カーキ色の軍服の胸が血に染まっている。
「まさか二度に渡って敗れるとはな、この私が」
 彼はここでニヤリ、と笑った。
「見事だ、スカイライダー」
「ゼネラルモンスター・・・・・・」
 その言葉に恨みも憎悪もなかった。ただ強敵を褒め称える言葉があるだけだった。
「私の負けだ。どうやら君は常に私より上にいたらしい」
 彼は異様に清々しい顔で述べた。
「さらばだ。多くは言わない」
 そして口から血を吐いた。
「早くこの塔から立ち去るがいい。私と死と共にこの塔は崩壊する」
「何と」
「私の身体には爆弾が埋め込まれている。私の死により爆発するようになっているのだ」
 これは改造人間の常であった。
「それによりこの塔も崩壊する。さあ早く行け。私が倒れぬうちにな」
「・・・・・・わかった」
 スカイライダーは頷くと後ろを振り向いた。そこには博士とがんがんじいがいた。
「少し手洗いですが我慢して下さい」
 そして二人を両脇に抱えた。そこでもう一度ゼネラルモンスターの方へ顔を向けた。
「ゼネラルモンスター」
 彼に語りかけた。
「何だ」
「さようなら。見事だったぞ」
「礼を言う」
 彼は死相を浮かべながらもそう言った。
「じゃあな」
 スカイライダーは二人を抱え上にあがった。そして庭園から離れていった。
「フフフ、最後まで見事な男だ。味方であったならな」
 ゼネラルモンスターはそう言うとゆっくりと前に倒れた。そして爆発の中に消えた。
 それが合図だった。バベルの塔と空中庭園は爆発してしまった。
「これで終わりですね」
 スカイライダーはそれを上から見下ろしていた。両脇に抱えられている二人は黙って頷いた。
「ゼネラルモンスターも遂に死んだか」
 スカイライダーの声は感慨に満ちていた。そこには強敵を思う漢の心があった。
「ライダー・・・・・・」 
 ライダーは何も答えない。だがその仮面が全てを物語っていた。
 中東でのスカイライダーとゼネラルモンスターの戦いは終わった。ライダーはここで長年の宿敵を遂に葬り去ったのだ。そして彼は中近東の平和も守ったのだ。

「ゼネラルモンスターも死んだか」
 百目タイタンはモニターを消して呟いた。
「惜しい男だったが。何処か甘さがあったな」
「それは奴だ軍人だったからだ」
 同席していた男が言った。
「あの男はまず軍人であった。軍人は時としてその美意識に流されてしまう」
「お主は違うのだな」
 タイタンは彼に対して問うた。
「当然だ。私ならばあのようなことはしない」
 その男は毅然とした声で答えた。
「かって同じナチスにいても考えは違うということか」
「その通り」
 彼はそう言うと立ち上がった。赤いマントが暗闇の中に現われた。
「フム」
 タイタンは改めて彼を見上げた。
「そういえばお主は軍人としてナチスには入ったのではなかったのだったな」
「そうだ。私は科学者として入った」
 赤いマントの男、ドクトル=ゲーはそれに対して答えた。
「成程な。ナチスといっても科学者と軍人では違うのか」
「そういうことだ。私はあくまで冷徹にいく」
「仮面ライダーX3との勝負においてか」
「うむ」
 ドクトル=ゲーは頷いた。
「奴は必ず来る、私はあの男の考えることは全てわかるのだ」
「それは凄いことだ」
 タイタンはやや冷ややかな声で言った。
「からかっているのか」
「いや」
 彼はあえて余裕をもって首を横に振った。
「ただそれはある程度というところだろう」
「確かにな。それは否定しない」
 彼は憮然としながらもそれを肯定した。
「だがそれだけで充分だ、奴は今上海にいる」
「ほう」
「そこで奴を倒す、あの魔都が奴の墓場だ」
「上海ごと消し去るつもりか」
「それでは面白くはない」
 今度はドクトル=ゲーが首を横に振った。
「仮面ラァーーーーイダX3はこの私の手で倒す。このドクトル=ゲーの名にかけてな」
「ふむ」
 タイタンはそれを興味ありげに聞いていた。
「そうでなくてはならん、奴はこの私の斧の前に倒れなくてはな」
「では上海はどうするのだ」
 タイタンは彼に問うた。
「中国を滅ぼすのがお主の作戦だろう」
「それはわかっている」
 ドクトル=ゲーは言った。
「上海をまず廃墟にする。その手筈は既に整えている」
「そうか。どうやってするつもりだ」
「それを言ってしまっては面白くないだろう」
「確かに」
「楽しみにしておれ。中国は仮面ラァーーーーイダX3と共に必ずやこの世から消え去る」
「期待しておこう」
 タイタンは素っ気ない声で言った。
「だがあの男もかなり手強いのだろう」
「それはよく知っている」
 ドクトル=ゲーはタイタンに目を向けた。
「私がもっともよく、な」
「ほお」
 タイタンはここで彼の目の色が変わったことを見た。
「デストロンでもそうだったからな。そして」
「シンガポールでも」
「うむ」
 彼はここで頷いた。
「よく知っているな」
「当然だ。俺も伊達に地底王国の主となったわけではない」
 彼は平然とした態度で言葉を返した。
「お主にとってはどれも痛恨の敗北だったな」
「それは認める」
 不本意ではあっても、だ。
「しかしそれも今回で最後だ。この悪魔生霊の力でな」
「生霊か」
 タイタンはそれを聞いて目の色を少し変えた。
「その力、面白そうだな」
「ドイツに伝わる黒魔術の一つだ」
「北欧の神々の力を使ったものか!?」
 ドイツの神々と北欧の神々は同じである。嵐の神ヴォータンや雷の神ドンナー、炎の神ローゲ、ワーグナーの楽劇にも登場する彼等は北欧の凍てついた大地より生まれた。
 金色の髪に青い瞳を持つ彼等はその神々を心の奥に持つ。それは魔女や魔術師達により密かに伝えられていたのだ。
「そうだな。系列ではそうだろう」
「ふむ」
 タイタンはドクトル=ゲーの説明を聞き一応納得した。
「だがそれだけではないだろう」
 それに気付かぬタイタンではない。彼はドクトル=ゲーに対して言った。
「鋭いな」
 ゲーはそれを肯定した。
「よくわかったな」
「わからないと思ったか」
 タイタンの言葉は不敵なものであった。
「俺も黒魔術を使うのでな」
「そうだったな、それもかなりのものと聞いたが」
「そんなに使う機会はないがな。それでも一通りは知っている」
「そうか」
「それでその魔術には何を入れているのだ?」
「聞きたいか?」
「いや」
 タイタンはここで首を横に振った。
「聞いては面白くない。当ててみせよう」
 彼はゲーの魔術を当てることにした。
「そうだな」
 彼は暫し考え込んだ。
「悪魔生霊というが俗にキリスト教でいう悪魔ではないな」
「ふむ」
 ゲーはそれを聞き眉を少し上げた。
「そうだな。黒魔術とは実は悪魔の術ではない」
 そうなのである。実際はゲルマンのルーン文字やケルトのドルイドの術の流れを汲むものが多いのだ。
「巨人族の術だな」
「そうだ」
 ドクトル=ゲーはそれを認めた。
「それも霜の巨人や山の巨人ではない」
 北欧神話において巨人族は人間や神々の宿敵である。だが今タイタンが言った巨人達はそれ程力はない。
「炎の巨人の力か」
 北欧神話において最も怖れられているのは炎の国ムスペルムヘイムに住むこの巨人達だ。彼等は全身が炎に覆われている。そして自分達の国から普段は出ようとしない。その国は全てが炎に包まれ他の世界の住人達は入ることすらできないのだ。
 だが彼等は一度だけ他の世界に姿を現わすと言われている。それは世界が滅亡する時だ。
 神々の黄昏、俗に言うラグナロクである。この時彼等は炎の国を出て神々のいるヴァルハラに攻め込んで来る。そして神々と熾烈な戦いを演じるのだ。
 そして最後に世界に立っているのは彼等の王スルトである。彼はその手に持つ炎の剣レーヴァティンで全ての者が倒れた世界を焼き尽くす。そして炎の世界に戻っていくのだという。
 神々も世界も焼き尽くす恐るべき力を持った彼等のことはあまりよく伝えられていない。表の世界に伝わるにはあまりにもその力が強大なのだ。
「だとしたらどうする」
 彼は不敵な笑みを浮かべた。
「そうか、成程な」
 タイタンはそこに答えを見た。
「流石だな、あの力を使えるとは」
「知るのにかなり苦労したがな」
「確かにあの力をもってすれば仮面ライダーX3を倒すこともできるだろう。しかしな」
「しかし、何だ!?」
 ドクトル=ゲーはここに引っ掛かるものを感じた。
「炎にも弱点はある」
「それはどういうことだ!?」
「俺は全身に炎を持っている」
「それは知っている」
 ゲーは何を言う、と言わんばかりの態度でもって応えた。
「まあ聞け。その俺もかってその炎の力で敗れた。それも二度だ」
「ブラックサタンの時にだな」
「うむ」
「だがあの時は炎の力の関係だったのだろう」
「簡単に言うとそうなるな」
 一回目の戦いでは海に投げ込まれ、その冷却により敗れた。そして二度目はその力の許容量を超えていた為肩の部分を攻撃され、そこからマグマを噴き出して敗れた。
「だが俺が言いたいのはそれではない」
「わからんな」
 ゲーはそれを聞き顔を顰めた。
「お主のその力のことではないのか!?」
「だから落ち着いて聞け」
 タイタンはそんな彼に諭すようにして言った。
「炎の巨人の力にも欠点はあるというのだ」
「それは何だ!?」
「そこまでは俺は知らん。ゲルマンの魔術には詳しくないのでな」
「そうなのか」
 ドクトル=ゲーはそれを聞きいささか拍子抜けした。
「だが完全な魔術なぞない、それに頼り過ぎるな、ということだ」
「それはわかっているが」
「わかっていればいいがな」
 タイタンはそれ以上は言わなかった。
「わかっているならいい。では健闘を祈る」
「礼を言う。長居したな」
「それは構わん。では中国を死の荒野にし、仮面ライダーX3を倒すことを期待するぞ」
「楽しみにしておれ」
 そう言うとドクトル=ゲーは姿を消した。あとには白い煙だけが残った。
「わかっていないだろうな」
 タイタンは彼が姿を完全に消したのを確認して言った。
「だからこそ今まで敗れてきたのだ」
 その声は相変わらず冷徹なものであった。
「どうなるかわからんがあの男も強い」
 X3のことは聞いていた。
「そうそう容易にはいかんだろうな。そして俺も」
 彼はここで立ち上がった。
「奴に言ったことをよく肝に命じておかねばならん、さもないとまた敗れることになる」
 無数の目が光った。
「三度目はない、それは俺のプライドが許さん」
 暗闇の中に無数の赤い光が見える。
 彼もまた闇の中に消えた。そしてあとには何も残っていなかった。



隻眼の軍人   完



                                 2004・8・5



[191] 題名:隻眼の軍人1 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2004年08月31日 (火) 00時11分

              隻眼の軍人
 中東には多くの戦火の跡が残されている。
 かって四度の中東戦争があった。これはイスラエルとアラブ諸国の間で行われた戦争である。
 これはイギリスの二枚舌外交に大きな要因があった。だがそれにも増してアラブとイスラエルの対立は激しかったのだ。
 スエズやシナイ半島を巡って干戈を交えた。結果としてイスラエルは国土を守り多くの占領地を獲得した。
 だがここで多くの深刻な問題が生じた。その一つがパエスチナ問題である。
 この問題も複雑かつ深刻である。一朝一夜で解決できるものではない。
 中東の問題は他にもある。クルド人にしろそうであるし原理主義者達もいる。いまだに中東は世界の火薬庫であるのだ。
 その中東でかって最大の都市と謳われアラビアンンアイトにもその栄華を残す街がバグダットである。この街に今二人の男がいた。
「まだまだ戦争の傷跡があるな」
 筑波洋は街を見回して言った。
「そらそうですやろ、あそこまで徹底的にやりましたからなあ」
 がんがんじいも隣にいる。二人はバグダットの街を見回しながら歩いている。
「原因はどうあれ激しい戦争だったからな。そうおいそれとは修復しないか」
「ミサイルやら爆撃やらでようさん攻められてましたしな。人も大勢死んだし」
「そうだな」
 筑波はそれを聞くと表情を暗くさせた。
「人間は愚かなこともする。戦争なんかはその際たるものだ」
 戦争が行われる度に平和を言う人がいる。だがその人も別の立場だと戦争を主張したりする。それが人間の一面である。
 逆に絶対的な平和主義というのも胡散臭い。我が国では口でそれをとなえても裏でテロリストや北朝鮮の如き悪辣な独裁国家と結託している自称平和主義者もいる。こうした連中が正義の味方の仮面を被り声高に己が主張を押し通そうとする。まことに卑しい話である。
「人は戦わなくちゃいけない時がある」
 筑波はそう思っている。
「愛するもの、守るべきものがある時には」
 彼は平和を愛している。だが平和主義者ではない。
 平和を守る為に戦う戦士、それこそがライダーである。彼はその力を平和の為に使っているのだ。
 ここで後ろから爆発がした。
「ん!?」
 二人はそちらに顔を向けた。見ればビルが爆破されている。
「原理主義者でっしゃろか」
「多分」
 筑波はがんがんじいの言葉に頷いた。
「行こう、負傷者がいたら救助しないと」
「はい」
 二人は爆発したビルの方へ向かった。そして負傷者の救助にあたった。
 今もバグダットは駐留する外国の軍隊と原理主義者達の戦いが続いている。双方共無益な血を流しながらもまだ陰惨な戦いを続けている。その中で巻き添えとなり無数の屍が築かれようとも。
 筑波とがんがんじいは負傷者の救助を終えると赤十字の医療所に来た。そこでテロの話を報告したのだ。
「またですか」
 報告を受けた赤十字の医者は表情を暗くさせた。中年の口髭を生やしたアラブ系の男である。
「一体何時になったら終わるのか」
 彼はふう、と溜息をついた。
「今回は死者はいませんでしたが」
「しかし傷を負う人がいるのは事実です」
 彼は筑波の慰めの言葉にも顔を晴れやかにさせなかった。
「戦争で傷つくのはいつも罪のない人達です」
「はあ」
 二人はその言葉に頷くしかなかった。それを最もよくわかっているからだ。
「貴方達には感謝しています。しかし」
 彼は顔を暗くさせたまま言う。
「戦争が完全に終結しない限りこうした悲劇は繰り返されます」
 その通りであった。だからこそ彼は顔を暗くさせているのだ。
「私は元々軍医でしたが」
「そうだったのですか」
 二人はその告白に少し驚いた。
「ええ、アメリカ海兵隊にいました」
「海兵隊ですか、それはまた」
 筑波はそれを聞いて暗い顔になった。
「洋さん、海兵隊ってあの」
 アメリカ海兵隊のことはがんがんじいも聞いていた。常時戦闘態勢にあり有事の際にはまず戦場に向かう軍である。アメリカ軍の先鋒である。それだけに損害も多い。訓練も極めて厳しい。
「ああ、あの海兵隊だ」
 筑波は答えた。この医者はそこでおそらく多くの戦争の傷を見てきたのだ。
「戦場が嫌になり軍を辞めたのですが」
 彼は俯き加減に話を続けた。
「しかしそれでも傷ついた人を放っておくことはできませんでした。しかし」
 その顔は暗さを増していくばかりである。
「やはり戦争により傷を負う人は減ることはない。こればかりは神ですら何もすることはできないのでしょうか」
「それは・・・・・・」
 筑波とがんがんじいは何も言うことができなかった。
「信じる神が違う、と言えばそれまでですが」
 医者は自嘲気味に笑ってから言った。
「それでも何とかしたい、しかし何もできない。私の力なぞは全く無力なものです」
「それは違いますよ」
 筑波はここで言った。
「貴方のような方がいなくて誰が傷ついた人達を救うのですか」
「えっ・・・・・・」
 医者はその言葉に顔を上げた。
「確かに戦争は悲惨なものです。しかし」
 筑波は言った。
「その巻き添えになる人を救う人も必要なのです。貴方のような人が」
「私の様な」
「はい」
 筑波は頷いた。
「見て下さい」
 筑波は医者の後ろを指し示した。
「あ・・・・・・」
 彼はそれを見て言葉をあげた。そこには手当てを受けている多くの子供達がいた。
「貴方のような方がいなければあの子供達はどうなるのです。彼等には貴方が必要なのですよ」
「私が、ですか」
「そうです。戦争は一刻も早く終わらせなければなりません。しかし」
 筑波は医者に目を戻した。
「貴方のように戦場で子供達を救う人も必要なのです。俺は馬鹿なんで上手くは言えませんが」
「いえ」
 医者はここでようやく微笑んだ。
「貴方の言葉で目が覚めました。そうですね、傷ついた人々を助けなくては」
「わかってくれましたか」
 筑波もそれを見て微笑んだ。
「はい、これからもここに留まりあの子供達の側にいることにします」
 彼はそう言うとまた子供達の方に顔を向けた。
「お願いします」
 筑波は右手を差し出した。
「わかりました」
 彼もそれにならった。そして二人は固い握手を交わした。

「洋さんは優しいですな」
 病院を離れた筑波にがんがんじいが言った。
「俺は別に優しくなんかないよ」
 筑波はそれに対して苦笑して答えた。
「俺はライダーだからな。ライダーは人を救うことが務めだ。それに」
 がんがんじいに顔を向けた。
「がんがんじいの方がよっぽど優しいよ」
「それは買い被りでっせ」
 がんがんじいは顔を真っ赤にして言った。
「わいみたいなええ加減な人間そうはおりまへんで」
「いや、それは違う」
 筑波はそんな彼に対して言った。
「がんがんじいはいつも身体を張って戦ってるじゃないか。人を守る為に」
「それはまあ正義の味方の務めですさかい」
「それで今までどれだけ傷を負ってきたか。その身体を見ればわかるよ」
 見ればその身体のあちこちに傷がある。大きいのも小さいのも無数にある。
「これはわいが弱いから」
「弱いからじゃないよ、それは勲章だ」
「勲章・・・・・・」
「そう、がんがんじいはそれだけ人々を守る為に戦ってきたという証だよ。それが勲章じゃなくて何だというんだ」
「そうでっしゃろか」
「そうだよ、少なくとも俺はそう思っている」
「洋さん」
 がんがんじいはその言葉にじんときた。今まで彼と共に戦ってきたが今の言葉はとりわけ心に響いた。
 筑波は心優しい戦士である。彼は悪と戦う心と同時に人々をいたわる心も併せ持っている。
「心に優しさがないとライダーになれない」
 かって本郷猛が言った言葉だ。彼等は改造人間だ。だがその心は人間である。
 だからこそ哀しみを背負っている。孤独である。だがその哀しみと孤独を乗り越えて悪と戦い、人々を愛さなければならないのだ。それがライダーなのだから。
 がんがんじいもそれを知っている。だからこそ筑波のそんな言葉と心遣いが有り難いのだ。
「洋さん」
 彼はまた筑波の名を呼んだ。
「何だい」
「夕食にしましょうや、そろそろ」
「もうそんな時間か」
 見れば夕陽が沈もうとしている。家からは煙があがってきている。
「じゃあ何処かで食べよう。羊がいいな」
「今日はわいがおごりますわ」
「え、いいよそんなの。いつも通り割り勘でいこうよ」
 実は食べる量はがんがんじいの方がずっと多い。しかしそれでも筑波は割り勘でいっているのだ。
「水臭いことはいいっこなしでっせ」
 がんがんじいはそんな筑波に対して言った。
「今日はわいの奢りつったら奢りでっさかい」
「そこまで言うんなら」
 彼も納得した。がんがんじいはそんな彼を押し立てるようにして前の店に入る。
 そして二人は食事を採った。がんがんじいの言葉通り彼の奢りであった。
 それを遠くから見る影があった。
「勲章か」
 カーキ色の軍服に身を包んだ隻眼の男である。ゼネラルモンスターだ。
「私にとっての勲章は一つしかないな」
 彼は筑波達が入った店を見下ろしながら言った。
「それは筑波洋、貴様の命だけだ」
 その目には冷たい炎が宿っていた。
「今度こそ貴様を倒す、ネオショッカーの時以来の我が悲願を果す為にな」
 その後ろに数人の戦闘員が姿をあらわした。
「ゼネラルモンスター」
「何だ」
 彼は後ろを振り返ることなく答えた。
「既にバグダットに怪人の配備を終えました」
「そうか」
 彼は相変わらず振り返ることなく答えた。
「ではそろそろ作戦を発動するとしよう」
「ハッ」
 戦闘員達は敬礼した。
「アメリカ軍も原理主義者も関係ない。我等はこのバグダットを占領するのみだ」
「はい」
「そしてここを拠点に中東を征服する。わかっておるな」
「当然でございます」
「ならばよい」
 ゼネラルモンスターはそれを聞いて頷いた。
「その時には時空破断システムで全てを破壊する。そしてその廃墟のあとに我がバダンの世界が築かれるのだ」
 彼はここでニヤリ、と笑った。
「よいな、そしてその為には」
 眼下を見下ろす。
「スカイライダー、筑波洋は必ず除いておかなければならない」 
 ゼネラルモンスターは姿を消した。そしてあとには硝煙の匂いが漂っていた。

「フム、もうすぐはじまるか」
 ゼネラルシャドウは赤い円卓の上でトランプ占いの結果を見て呟いた。
「ゼネラルモンスターも本気を出すか」
 そのカードの結果は彼に戦いを知らせていた。
「これは面白いことになりそうだ」
「気楽に言うな」
 ここで何者かの声がした。
「奴が時空破断システムを使用して中東を廃墟にしたならばこのシチリアにも影響が出るかも知れないというのに」
 部屋の中に巨大な火の球が姿を現わした。
「貴様か」
 シャドウはその火球を見て口の端を歪めて笑った。
「貴様はそれがわかっているのか」
 百目タイタンは火球から姿を現わしてシャドウに対して言った。
「当然だ」
 シャドウは口の端を歪めたまま答えた。
「そうでなくてはどうして楽しめるというのだ」
「フン」
 タイタンはそれを見てその無数の目を歪めさせた。
「その時の手は打ってある、とでもいうつもりか」
「そうだ」
 シャドウはあえて素っ気無い様子で答えた。
「もっともそれは貴様も同じだと思うがな」
「確かにな」
 タイタンはそれを聞いて含み笑いを漏らした。
「俺は地底にいればいいからな」
「それは俺も同じこと。既に本拠地は別のところにある」
「ほう、ではこのシチリアを俺に明け渡すつもりか」
「残念だがそうではない」
 シャドウは杯を空にすると言った。
「このシチリアはあの男との決着を着ける場だ。貴様に渡すわけにはいかぬ」
「それは俺とて同じこと」
 タイタンはシャドウを見据えて言った。
「俺もあの男と決着を着けなければならんからな。その為に死神博士の力を借りた」
「そうか、それは何よりだ」
「今の俺はあの男にも勝てる、貴様の出る幕はない」
「それはどうかな」
 シャドウはそれに対して冷笑で返した。
「どういうことだ」
 タイタンはその言葉に顔を向けた。無数の目がシャドウを睨む。
「例えば、だ」
 シャドウはトランプのカードを切りながら言う。
「貴様がここで死んだとしたならば」
「やるつもりか」
 タイタンはその言葉に身構えた。
「安心しろ」
 カードを切り終えたシャドウは言った。
「今貴様は死ぬ運命にはない。カードにはそう出ている」
「またカードか」
 シャドウは構えを解きとシャドウの前のカードを見て言った。
「占いなぞで何がわかるというのだ」
「全てがわかる」
 シャドウは皮肉な言葉を吐くタイタンに対して素っ気なく返した。
「俺の占いが外れることはない。それで俺は今まで戦ってきたのだ」
「フン」
 タイタンはそれを聞き顔を一瞬そむけた。
「どのみち勝てなければ意味はない。あの男に勝ってこそ、だ」
「その為に未来を知っていて損はないぞ」
「そんなものは自分の手で掴むのだ」
 タイタンは言った。
「この力でな。時として奪い取る。それがバダンの掟だ」
 右手を顔の前に開いて言う。そこには赤い炎が漂っている。
「確かにそうだ。しかし俺は違う」
 シャドウは反論した。
「俺はあくまでカードに従って動く。そこから全てがはじますのだ」
「ならばそうするがいい」
 タイタンは突き放すようにして言った。
「どちらにしろストロンガーを倒すのは俺だ」
「それはどうかな」
 シャドウも負けてはいない。
「奴を倒すのは俺だとカードが教えているが」
 彼はそこでタイタンに対し一枚のカードを見せた。スペードのキングである。
「これが何を意味するか、わかるな」
「わからんな」
 タイタンはそれを見てもなおうそぶいた。
「俺はカードなぞ信じぬからな」
「そうか。ならばいい」
 シャドウはカードを引っ込めた。
「いずれわかることだしな。中東での戦いの結果も」
「ゼネラルモンスターか」
 タイタンは中東と聞き思い出したように言った。
「どう戦うかな」
「それは占ってはおらぬ」
 シャドウはその言葉に対して言った。
「そこまで占っては面白くはないだろう」
「確かにな。珍しく意見が合ったな」
 タイタンはそれを聞き不敵に笑った。
「ではゆっくりと観戦させてもらうとするか」
 タイタンはそう言うと踵を返した。
「ストロンガーとの戦いに備えると共にな」
「それがいいだろうな」
 シャドウはタイタンの背にかけるように言った。
「だが覚えておけ」
 タイタンは振り返ることなく言った。
「ストロンガーを倒すのはこの俺だ。俺以外の誰にも倒させはせん」
「覚えておこう。一応はな」
「フン」
 タイタンはそこで姿を消した。炎の燃えカスがあとに残ったがそれもすぐに消えた。
「行ったか」
 シャドウはその燃えカスが消えるのを見ていた。
「どのみちカードの運命には逆らえぬということを知るだおうな」
 そう言うと椅子を後ろに向けた。手には杯がある。
 戦闘員が一人入って来た。ボトルを持っている。そしてシャドウの持つ杯に酒を注ぎ込んだ。白いワインである。
「ご苦労」
 シャドウは酒を受けて言った。そして彼に対して指示した。
「モニターを」
「わかりました」
 戦闘員は頷くとテーブルにある一つのボタンを押した。するとシャドウの前に映像が浮かんできた。
「では見せてもらうとするか、ゼネラルモンスターの戦いぶりを」
 彼は杯を口に含んだ。そしてまた飲み干した。
「酒もある。今は酒と戦いに酔うとしよう」
 彼はその皮膚のない顔を無気味に歪めて笑った。そしてモニターに映る戦いから目を離すことはなかった。
 モニターにはスカイライダーが映っている。彼はバグダット郊外で怪人達と戦っていた。
「ウオーーーーーーーーーッ!」
 ジンドグマの突進怪人マッハローラーが突撃を敢行する。スカイライダーはそれを紙一重でかわした。
「フンッ!」
 その入れ替わりに襲い掛かって来る戦闘員を倒す。彼の隣にはがんがんぎいがいる。
「ライダー、雑魚はわいがやりますわ!」
「頼む!」
 スカイライダーはそう言うと怪人に向かって行った。マッハローラーはそれを見るとまた突進した。
「ライダーに一度使った技は」
 スカイライダーはその突進から目を離すことなく言った。
「二度と通用せん!」
 屈んだ。そして足払いを仕掛ける。怪人はそれでバランスを崩した。
 そこで怪人の身体を掴んだ。そしてそのまま激しく回転した。
「竹トンボシューー‐トッ!」
 上に向けて放り投げる。そして自らも跳んだ。
「喰らえっ!」
 怪人に蹴りを放つ。マッハローラーはこれで爆死した。
 怪人を倒し着地するスカイライダー。そこに新たな怪人が襲い掛かって来た。
「ウククククククククッ!」
 ショッカーの凝結怪人ヤモゲラスである。怪人は無気味な声をあげライダーに向かって来た。
 怪人は口から白い液体を吐き出してきた。ライダーはそれを左に動きかわす。
「凝結液か」
 見れば後ろにいた戦闘員がそれを浴び固まった。スカイライダーはそれを見て身構えた。
 両者は睨み合った。ヤモゲラスは口からまた吐き出そうとする。
「ムッ」 
 その時に一瞬隙が生じた。それを見逃すスカイライダーではなかった。
「トオッ!」
 ライダーは跳んだ。そして怪人の頭上にやって来た。
「受けてみろ」
 彼は空中で前転した。そして両足で怪人を踏み付ける。
「必殺飛び石砕きっ!」
 彼は怪人を踏んだ。それも幾度となく踏んだ。
 そして上に跳んだ。着地した時怪人は彼の後ろで倒れ爆発して果てていた。
「見事だ」
 ゼネラルシャドウはそれを見て言った。だが彼と同時にもう一人の男もぞう言っていた。
「ムッ!?」
 シャドウはその言葉を聞き耳を澄ませた。そしてモニターを見る。
「ほほう」
 モニターを確認した彼は笑った。そしてまた椅子に身体を沈め観戦に戻った。
 スカイライダーの前に一人の男が姿を現わした。ゼネラルモンスターである。
「久し振りだな、スカイライダー」
 彼はゆっくりと前に進みながらスカイライダーに話しかけてきた。
「いや、筑波洋よ」
「何の用だ、ゼネラルモンスター」
 スカイライダーは彼を見据えて問うた。
「挨拶に来た」
「挨拶だと!?」
「そうだ」 
 彼はスカイライダーをその右目で凝視したまま言った。
「貴様に最後の勝負を挑む為にな」
「最後の、か」
「そうだ。今までの戦いに終止符を打つ」
 ゼネラルモンスターの声は何時にも増して低く、強いものであった。
「この砂漠の都バグダットが貴様の墓場になる」
「その言葉、全て貴様に返す」
 スカイライダーは言い返した。
「俺は負けるわけにはいかない。そしてゼネラルモンスターよ」
 彼を指差した。
「貴様を今度こそ完全に地獄に叩き落してやる」
「言ってくれたな」
 ゼネラルモンスターはそれを聞き右眼を光らせた。
「そうでなくては面白くない」
 そして一瞬だがニヤリ、と笑った。
「ではあれを見るがいい」
 彼はそう言うと右手のステッキで後ろを指し示した。
「ム!?」
 スカイライダーはそちらに顔を向けた。それを見たライダーの顔が見る見る強張っていく。
「な・・・・・・」
 バグダットの郊外に巨大な塔が登ってきた。それは古代メソポタミアの建築様式で造られたものであった。
「あれはまさか・・・・・・」
 スカイライダーはそれが何かすぐにわかった。戦闘員達を倒し終え隣にいたがんがんじいの顔も強張っていく。
「そうだ、バベルの塔だ」
 ゼネラルモンスターは二人に対して言った。
「かって神の世界に行こうとし、その神の怒りに触れた不遜の塔だ」
 バダンは今それを復活させたのであった。
「そしてこの塔がバグダットを滅ぼすのだ」
「どういう意味だ!?」
「すぐにわかる」
 ゼネラルモンスターは素っ気無い様子で言った。
「その時には貴様も全てが終わるが」
「何っ」
「スカイライダーよ」
 ゼネラルモンスターは激昂しようとするスカイライダーに対して言った。
「このバグダットを救いたくばバベルの塔に来い。そして私を倒してみよ」
「望むところだ、ゼネラルモンスター」
 スカイライダーは再びゼネラルモンスターを指差した。
「今度こそ貴様を倒す!」
「楽しみにしている」
 彼はそう言うとライダーと正対したまま後ろに下がった。
「来た時が貴様の最後だ。よく覚えておくがいい。スカイライダー、貴様は私が倒す」
 そして姿を消した。ゼネラルモンスターは影と共に消えた。
「行きましたな」
「ああ」
 ライダーはがんがんじいに答えた。
「もうすぐ奴との最後の戦いか」
 彼は塔を見て言った。
「生きて帰れる保証はない」
 がんがんじいはそれに対して黙って頷くだけであった。
「だがそれでも行かなくちゃな」
「そうでんな」
 がんがんじいはまた頷いた。
「そうでんな、ってがんがんじいまさか」
「洋さんだけやとしんどいでっしゃろ、わいも行かせてもらいますわ」
「しかし・・・・・・」
 スカイライダーは自分だけで行くつもりであった。
 敵は強い。おそらく塔の中には予想もできない数多くのトラップがあるだろう。だからこそ彼は一人で行くつもりだったのだ。
「前にも言ってくれましたやんか、わいも正義の戦士やって」
「ああ」
 それは真実だ。スカイライダーにとってがんがんじいはもはや常に頼りになるパートナーであった。
「そうだよ筑波君、悪と戦っているのは君だけじゃない」
 後ろから声がした。
「博士・・・・・・」
 そこには志度博士が笑顔で立っていた。
「どうしてここに」
「君がバグダットにいると聞いてね。そして激しい爆発の音が聞こえてきたからもしやと思って来たんだ」
「そうだったんですか、お恥ずかしい」
「いや、恥ずかしいことじゃないよ」
 やはり彼は筑波に対し微笑んでいた。
「君の見事な戦いを見せてもらったのだから。そして」
 彼は言葉を続けた。
「今度はそれをバベルの塔で見せてくれ」
「わかりました」
 スカイライダーはその言葉に対し頷いた。
「よし、じゃあ行こう」
 彼はここでライダーとがんがんじいの肩に手を置いた。
「ええ」
「わかってますがな」
 二人は頷いた。博士はそれを見てまた微笑んだ。
「じゃあ行こう、悪の塔へ」
 そして三人は塔へ向かった。ゼネラルモンスターが待つ悪の本拠地へ。

 その頃暗闇大使はバダン日本支部で作戦の準備にあたっていた。
「ゼクロスとライダーマンの動きはどうか」
 彼は指令室で戦闘員の一人に尋ねた。
「ハッ、今のところ目立った動きはありません」
 その戦闘員は敬礼をして答えた。
「そうか。今何処にいるのだ」
「アミーゴを本拠地として我々のことを探っている模様です」
「ふむ」
 彼はそれを聞き顎に手をあてた。
「あの二人がか」
 彼には思い当たるところがあった。
「どちらも諜報には長けている。ライダーマンは頭が切れる。ゼクロスはまさに機械化された忍者だ」
「忍者ですか」
「そうだ」
 大使は戦闘員の言葉に答えた。
「気をつけろ。忍者は影の中に潜みそこから襲い掛かる」
「魔物のようですね」
「魔物よりも手強い。かって忍者を従えた者がこの日本を制したとまで言われる」
「日本をですか」
「うむ」
 彼はまた頷いた。
「それだけ忍者の力は絶大だったのだ」
 戦国大名達は皆そうであった。武田信玄もそうであったし北条氏康もそうであった。徳川家康は伊賀忍者の力で天下人になったところが大きい。
 その伊賀を攻めた織田信長にしてもそうだ。彼の配下には蜂須賀正勝や滝川一益等忍出身の者がいた。彼は諜報戦も得意としていたがそれは彼等の力があってのものであった。
 その忍者は江戸時代においても隠密として活躍した。彼等はまさに歴史の影として活躍してきたのだ。
「だからこそ油断してはならん」
「わかりました」
「油断したならば一瞬にしてこのバダンも壊滅させられる。そう、一瞬にな」
「フン、相変わらず心配性だな」
 ここで暗闇大使の声と全く同じ声が聞こえてきた。
「・・・・・・貴様か」
 大使は声のした方を不機嫌そのものの顔で見た。
「貴様はないだろう、折角会いに来てやったというのに」
「呼んだ覚えはない」
 暗闇大使は嫌悪に満ちた声を返した。
「そう言うな。長い付き合いではないか」
「誰がっ」
 大使はここで激昂した。
「貴様とのことなぞ我が記憶から全て消し去っておるわ」
「嘘を言う必要はない」
 声は余裕のあるものであった。
「我々はあの時から一緒ではないか」
 陰から銀と赤の右足が出て来た。
「あのスラム街で生まれた時からな」
 声の主が姿を現わした。地獄大使であった。
「我々はあのベトナムのジャングルで共に戦った仲ではないか」
 彼はまるで毒蛇の様な笑みを浮かべながら言った。
「誰が」
 暗闇大使は彼を睨みつけていた。
「わしは司令官、貴様は参謀総長としてな。中々の名コンビだったな」
「ふざけるな、貴様はわしを利用していただけだっ!」
 暗闇大使は語気を荒くさせていた。
「フランスとの戦いでも、アメリカとの戦いでも、中国との戦いでもそうだった。貴様は単にわしを利用していただけではない
か!」
「馬鹿なことを言う」
 だが地獄大使はそれに対して冷笑で以って応えた。
「それがあの戦争だったのではないか」
「どういう意味だ」
 暗闇大使はまだ地獄大使を睨んでいる。
「あの戦争では全ての国民が駒に過ぎなかった。ホーチミンですらな」
 ベトナムの一連の戦争であった。
 まずフランスがこの地を植民地とした。そして第二次世界大戦の時に日本軍がやって来た。ここでも彼等は学校を建て現地民に対して厳格な教育を施した。融通が利かずしかもすぐ手をあげる日本の軍人達をわずわらしく思いながらも彼等はそこに自分達の進む道を見た。
「日本軍とも手を結ぶことが出来ていれば喜んで結んでいた」
 当時を生きたベトナム人でこうした考えの者もいた。ベトナム共産党もである。
 彼等が他の共産党と決定的に異なるのは彼等はあくまで民族主義者であったということだ。共産主義は独立を達成する為の錦の御旗に過ぎない。指導者であるホーチミンもそうした考えであった。
「共産主義なぞ何の役にも立たない」
 彼等は後に自らの行動によりそれを公言した。現在のドイモイ政策である。
 こうしたしたたかな国である。その国民も粘り強かった。
 日本の敗戦後フランス軍がまたやって来た。彼等はまたベトナムを植民地にする為に戻って来たのだ。
 彼等は前と同じようにベトナムを統治できると思っていた。だがそれは誤りだった。
 ベトナムはホーチミンに率いられていた。そして彼等は日本軍の心を学んでいたのだ。
 彼等は強かった。裸足の軍隊が近代装備のフランス軍を圧倒していたのだ。そして遂にフランス軍の本拠地難攻不落と言われたディビエンフー要塞が陥落した。これでフランスはベトナムを去った。
 ところがここでベトナム共産党の伸張を快く思わないアメリカが介入してきた。彼等は南ベトナムに傀儡政権を置くとそれを援助する形でベトナムに介入してきた。その圧倒的な物量でベトナムを制圧しようとしたのだ。
 だがアメリカ軍も苦戦した。彼等はジャングルに潜み、そこから攻撃を仕掛けた。農村にも都市にも潜んでいた。さしものアメリカ軍も彼等の神出鬼没の攻撃に手を焼いた。
 そこでベトナムは外交にも訴えた。アメリカこそが侵略者であり自分達は被害者だと。これは国際世論と何よりも国内の支持を失ったアメリカにとって致命的であった。
 結果としてアメリカは敗れた。そしてベトナムは統一されたがここでまた敵が出て来た。
 中国である。彼等は歴史的にベトナムを自分達の領土の一部だと考えていた。その中国がベトナムに雪崩れ込んできたのだ。
 しかしそれも退けた。さしもの中国もベトナムの卓越した戦術の前に退くしかなかったのだ。
 その後はアメリカ、中国、ASEAN諸国との対立が続いた。しかし彼等はソ連と組みこれに対抗した。冷戦が終わるとこれ等の国々との関係を改善しASEANにも加入した。そして日本にしきりにラブコールを送っている。
 こうした優れた戦闘力と外交能力を持つベトナムが最も評価する国の一つが日本である。ベトナムの外交官の一人が日本軍の戦いを聞いて思わずこう言ったという。
「一度に二万の海兵隊を倒したなんて信じられない。日本軍の様に強い軍隊は今までない」
 硫黄島での戦いだ。この歴史に残る壮絶な死闘はさしものベトナム人達も想像できないものであったのだ。
 そうした長年に渡る死闘を潜り抜けてきたのがこの二人だ。だが彼等はそれでも互いを憎み合ってきた。
「貴様はあの時何をした」
「ショッカーより前のことは覚えておらぬ」
 地獄大使はとぼけてみせた。
「わしにはもう何の意味もないことだからな」
「ふざけるな」
 暗闇大使はそんな彼にくってかかった。
「何時でもそうだった。功績は常に貴様のものだった。わしは貴様の陰に過ぎなかったのだ」
「それが参謀であろう」
 地獄大使は素っ気なく言った。
「貴様には表に出る能力がなかっただけのことだ。自身の無能を棚にあげてそのようなことを言うとは」
 彼はここで従兄弟を侮蔑した目で見た。
「知の魔神の名が泣くぞ」
「言うな、わしは暗闇大使だ。その名はもうない」
 叫ぶその目はもう血走っていた。
「このバダンの最高幹部だ!」
「フフフ」
 地獄大使はそれを聞いて急に笑みを変えた。


[190] 題名:サバンナの巨象2 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2004年08月31日 (火) 00時05分

「ブゥゥーーーーーーーーヨンッ!」
 アマゾンもまた突っ込んできた。モスキラスは彼を捕らえその血を吸いそれで倒すつもりだった。
 しかしアマゾンの方が一歩上であった。彼は両手の鰭を一閃させた。
「ムンッ!」
 それで終わりであった。両者が交差する。そしてマシンはそのまま突き進んでいく。
 モスキラスはその間動かなかった。だがその頭が一瞬ぐらついた。
 その頭が落ちた。すると首を失った身体はマシンにもたれかかるようにして倒れる。そしてそのまま横転し爆発に巻き込まれた。
「モスキラス・・・・・・」
 サイタンクはそれを見て歯噛みした。そしてあらためてアマゾンを見た。
「仇はとってやる」
 その声には明らかに怒りが込められていた。
「行くぞっ!」
 マシンごと突っ込む。彼は額にある角を向けてきた。
「フワァーーーーーーッ!」
 その堅固な皮に覆われた巨体でアマゾンを叩き潰そうとする。彼の武器はその巨体と角であった。
 アマゾンもマシンをそちらに向ける。そして突撃する。
 アマゾンは身構えた。そしてその右腕を左肩のところに置く。
「ケケーーーーーーーッ!」
 そしてそれを横に払った。丁度サイタンクと交差した時だった。
「・・・・・・・・・」
 サイタンクは動かなかった。そして何も言おうとしなかった。
 やがてその上半身がゆっくりと落ちていく。そしてサバンナの草の上に落ちた。
 マシンが爆発した。上半身も爆発した。こうして二体の怪人はアマゾンによりほぼ一瞬で倒された。
「見事だ、流石はゲドン、ガランダーを倒しただけはある」
 ここで新たな声がした。
「仮面ライダーアマゾンよ」
 二体の怪人を倒したアマゾンの前にもう一体の怪人が姿を現わした。
「今度は俺が相手だ」
 ネオショッカーの切断怪人グランバザーミーであった。怪人はマシンに乗りその巨大な鋏の右腕を振り回していた。
「チョキチョキチョキチョキチョキチョキッ!」
 そして奇声と共に向かって来た。アマゾンもそれに応じた。
「ケケーーーーーーーッ!」
 マシンを正面からぶつける。凄まじい衝撃がサバンナに走った。
「ゲッ!?」
 グランバザーミーはマシンから放り出された。だが上手く受け身をとり着地した。そしてアマゾンの襲撃に備える。
「何処だ」
 ジャングラーDも何処かへ消えていた。当然アマゾンもいない。
 辺りを見回す。だがアマゾンの姿はない。
 八方に気を張り巡らす。その時だった。
 後ろから何かの気配がした。慌ててそちらを振り向く。
「そこかっ!」
 だがそこにあったのは一つの巨大な穴だった。それ以外には何もなかった。
「どういうことだ、モグラ獣人か!?」
 彼はすぐにアマゾンと共に戦う獣人のことを脳裏に浮かべた。
「裏切り者が、一度死んでもまだ懲りないというのか」
 穴に入ろうとする。入口を覗き込んだその時だった。
「ケケーーーーーーーッ!」
 不意に上から声がした。怪人は咄嗟に上へ鋏を繰り出した。
 だが遅かった。アマゾンはそれより前に腕を振り下ろしていた。
 怪人の首が落ちた。そしてそれは穴の中に落ちていった。
 首をなくした胴体が倒れ込む。そして爆発した。
 穴の奥からも爆音が聞こえてきた。どうやらグランバザーミーの首が爆発したらしい。
「やったな」
 アマゾンの後ろから声がした。モグラ獣人がそこにいた。
「モグラ、有り難う」
 アマゾンは彼に対して言った。
「まさかこんな使い方するなんて思わなかったよ」
「咄嗟に思いついた。アマゾンもまさかこんなに上手くいくとは思わなかった」
 アマゾンは変身を解きながら言った。
「まずジャングラーDで上に飛ぶ。そしてそこでマシンで空に留まる」
 彼はマシンの激突の直後上に跳んでいたのだ。そこでマシンで空を飛んでいたのだ。
「そしてモグラにテレパシーで送った。あいつの後ろに向かってくれ、と」
「うん」
 これもガガの腕輪の力だった。この腕輪はアマゾンに超絶的な力を授けるだけではないのである。
「そして怪人がモグラの穴に気をとられている時にマシンから降りて襲い掛かる。やることはいつもと同じだけれどちょっと変えたらそれだけでかなり違う」
「そうだよな、おいらもびっくりしたよ」
「バダンの奴等強い、だからアマゾンの頭使わなくては駄目。そうでないと勝てない」
 彼とて馬鹿ではない。そうした頭脳戦も得意なのである。
「けれどこれでバダンさらに追い詰められた。今度は全力で来る」
「全力でかい」
「そう、アマゾンバダンの攻撃二回退けた。そろそろ痺れを切らす頃」
 その読みは当たっていた。
「モグラも気をつける。もうすぐバダンが総攻撃を仕掛けてくる」
「ああ」
 アマゾンはマシンを呼び寄せた。アマゾンが乗った。
「モグラも乗るか」
「うん」
 モグラ獣人は人間態になるとアマゾンの後ろに乗った。アマゾンはそれを確かめるとアクセルを踏んだ。
 マシンは走りはじめた。そしてその場をあとにした。後に戦いの後を残して。

 キバ男爵は夜のサバンナにいた。そして一人夜空を見上げていた。
「あの者達も敗れたか」
 彼は星の動きから戦いの行方を見ていた。そして呟いた。
「こうなったら私自身が行くしかないな」
「そうか、遂に行くのか」
 ここで後ろから声がした。
「うむ、これ以上は捨てておけぬ。無駄に戦力を消耗してしまうのでな」
「兵器の準備はできているのだろうな」
 声の主はゆっくりとキバ男爵に近付いてきていた。
「当然だ、だからこそ行くのだ」
 キバ男爵は落ち着いた声で言った。
「そういうお主も準備はできているのだろうな」
 そして後ろを振り向いた。
「無論だ。後はあの男が来るのを待つだけだ」
 その男はドクトル=ゲーだった。彼は血に飢えた陰惨な笑みを浮かべながら言った。
「仮面ライダーX3か。できるならこの私が相手をしたかったが」
 キバ男爵はデストロンにいた時の屈辱を忘れたわけではなかった。恨みを込めた声でそう言った。
「それは致し方あるまい。だがお主にも獲物があるではないか」
「確かに」
 男爵はゲーの言葉に対して頷いた。
「私にとってはおあつらえ向きの獲物かも知れぬな」
 彼は表情を変えることなくそう言った。
「奴には何か感じるところがある」
「それは何だ!?」
 ゲーは問うた。
「うむ、何かな。このサバンナで戦う運命だったような気がするのだ」
「運命か」
「そうだ、私はこのアフリカで長い間戦ってきた」
 キバ一族はアフリカの暗黒宗教を信じる部族であった。その長となった彼もまたその暗黒宗教を信奉している。
「奴はアマゾンだがな。しかしどちらも文明とは無縁の場所だ」
「そういえばそうだな」
 ドクトル=ゲーはそれを聞いて言った。
「そうだ、私は日本に来た時妙な違和感を覚えたものだ。ここは私に相応しい場所ではない、とな」
「ではこのサバンナの方がよいのだな」
「うむ。アフリカこそ私が戦う場所に相応しい。そう考えている」
「そうか」
 ゲーはそれを聞いて頷いた。
「では仮面ライダーアマゾンはお主に任せてもよいな」
「うむ。お主は仮面ライダーX3をやるがよい。それを私に約束させたくてここに来たのだろう」
「わかっていたか」
 ゲーはその言葉を聞いて不敵に笑った。
「わからないと思ったか。お主のあの男への執念を知っていて」
「フフフ、ならばいい」
 彼は満足そうに頷いた。
「仮面ラァーーーーイダX3は私が倒す。手出し等は一切無用だ」
「こちらもだ。私は獲物を狩るのに他の者の手は借りない主義だ」
「ならばこれで決まりだな」
「うむ、健闘を期待するぞ」
「そちらこそな。見事アマゾンの首をとるがよい」
「わかっておる、その時はまずお主に見せてやろう、アマゾンライダーの首を」
「楽しみにしているぞ。それではな」
「うむ」
 ドクトル=ゲーは別れの挨拶と共に姿を消した。あとにはキバ男爵だけが残った。
「アマゾンライダーよ」
 彼の後ろで何か巨大なものが動く音がした。
「今度こそ貴様の最後だ」
 まるで何か巨大な生物が歩くような音がする。それは夜のサバンナに地響きを立てて進んでいた。

 アマゾンとモグラ獣人は相変わらずサバンナを歩いていた。そこを謎の一団が取り囲んできた。
「バダンか」
「その通り」
 問うたアマゾンに対し誰かが答えた。
「キバ男爵」
 その者はアマゾン達の正面にいた。そして彼に答えた。アマゾンはその者の名を呼んだ。
「アンコールワット以来だな。ここで決着を着けさせてもらう」
 彼はその無気味に光る眼でアマゾンを見ながら言った。
「これでもってな」
 彼は右手に持つ槍を掲げた。すると後ろから何かがやって来た。
「な・・・・・・」
 それは一匹の巨大な象であった。恐竜程の大きさである。
 いや、それは象ではなかった。それは機械であった。象に似せた巨大なロボットであった。
「これは・・・・・・」
「驚いたか。これが我がバダンの秘密兵器だ」
 キバ男爵は驚くアマゾンに対して言った。
「秘密兵器・・・・・・」
「そうだ、時空破断システムという」
「何だそれは!?」
「答える必要はない」
 キバ男爵はアマゾンに対し冷たい声で言い放った。
「今ここで見せてやるのだからな」 
 そう言うと槍をゆっくりと振り下ろした。
「貴様の命と引き換えに」
 巨象はゆっくりと口を開いた。そしてそこから何かを吐き出した。
「ムッ!?」
 それは光の帯だった。ただし普通の光ではない。何と黒い光だ。
「モグラ、跳べ!」
 アマゾンは咄嗟に横にいるモグラ獣人に対して言った。モグラ獣人はそれに従いすぐに左に跳んだ。アマゾンは右に跳んでいた。
 黒い光がそれまで二人がいた場所に突き刺さった。そうするとそこは跡形もなく消えていた。
「ふむ、かわしたか」
 キバ男爵はそれを見て言った。
「だが何時までかわしきれるかな」
「ヌヌヌ」
 アマゾンはその言葉を聞き激昂した。
「アマゾン甘く見るな。アマゾンそんなものに負けない」
「ではどうするつもりだ」
「見ていろ」
 彼はそう言うと隣にいるモグラ獣人に顔を向けた。
「モグラ、ここはアマゾン一人でやる。モグラは安全な場所行く」
「しかしアマゾン・・・・・・」
 彼はそんなアマゾンを気遣った。だがアマゾンはそれに対しいつもの微笑みを見せた。
「心配ない。アマゾン勝つ」
「・・・・・・わかったよ」
 彼はいつものようにアマゾンを信じることにしtら。そしてその場を去った。
「フン、まあ雑魚の一匹や二匹どうでもいい」
 キバ男爵は地を掘りその中に消えたモグラ獣人を見て言った。
「今はアマゾンライダーさえ倒せればそれでいいからな。さて」
 そして再びアマゾンに顔を向けた。
「覚悟はいいな」
「覚悟するのはそっち」
 アマゾンはそんな彼に対して言い返した。そして構えに入った。
「行くぞ」
 その身体にゆっくりと気が集まりはじめた。

 アーーーーー
 両手を半ば拡げる。その指はまるで爪を立たせたようである。
 雨腕は肩の高さで横に開いている。そして肘を直角にし上に向けている。
 マーーーーー
 その腕を胸の前でクロスさせた。
 身体が緑と赤のマダラに覆われる。背中と両手両足に鰭が生え手袋とブーツが黒くなる。
 ゾーーーーーン!
 その両腕を元に戻す。眼が赤く光った。
 白い光がアマゾンの全身を包む。その中右半分、左半分と獣の仮面が顔を覆っていく。
 
 光が消えた。仮面ライダーアマゾンがそこに姿をあらわした。
「ケケーーーーーーッ!」
 アマゾンは奇声を発した。そして両手の鰭を擦り合わせ威嚇の音を出した。
「変身したか」
 キバ男爵はそれを見て言った。
「ならば容赦する必要はない。やれい!」
 再び槍を振り下ろした。巨象の口から再びあの黒い光が放たれる。
「ケケッ!」
 アマゾンは恐るべき跳躍でそれをあくぁす。だが巨象はそこに続けて光を放つ。
 それに対しアマゾンは空中で方向転換してかわした。そこに戦闘員達が襲い掛かる。
「無駄っ!」
 アマゾンはその戦闘員達を爪で切り裂いた。胸や腹を切り裂かれた彼等はそのまま地に落ちる。
 アマゾンは着地した。そこへまた黒い光が襲い掛かる。
 今度は横に滑った。そして追いかけてくるその光をかわす。
 戦闘員達はそこに骨の槍を投げる。だがそれはアマゾンの鰭の前に全て叩き落とされる。
 アマゾンはまた跳躍した。天高く跳ぶ。
「ケケーーーーーーーーーーーッ!」
 光がそれを追うが間に合わない。アマゾンは空中で一回転した。
 そして巨象の頭上に着地した。
「ここなら攻撃受けない」
「ヌウウ」
 キバ男爵はそれを見上げて歯噛みした。
「黒い光、この世に存在しない」
 アマゾンは巨象を見下ろしながら言った。
「だから潰す、そして世界救う!」
 そう言うと右腕を大きく振り被った。
「スーーーパーーーー大切断っ!」
 ギギの腕輪とガガの腕輪の力を最大にまで出したうえで繰り出すアマゾン最大の大技の一つである。それを巨象の脳天めがけ振り下ろしたのだ。
 白い光が巨象の身体の中心を走った。そしてそれが消えた時アマゾンは地面に着地していた。
「これで巨象死んだ。黒い光もう出ない」
 巨象は動きを止めていた。そしてやがてゆっくりと左右に分かれていく。
 アマゾンの後ろで巨象が真っ二つになった。そして爆発が起こった。
「おのれ、よくも」
 キバ男爵は爆風を背に受け立っているアマゾンを睨みつけた。
「かくなるうえは」
 戦闘員達がアマゾンを取り囲んだ。キバ男爵は彼の正面に立った。
「私自ら貴様を倒してやろうぞ」
 彼は槍を顔の前にかざした。そして何かを唱えはじめた。
「見るがいい、アマゾンライダーよ」
 彼はその呪文を唱え終わるとアマゾンに対し言った。
「これが私の真の姿だ」
 その身体が灰色の毛に覆われる。牙が生え鼻が異様に伸びる。そして左腕が醜く変形した
「怪人・・・・・・」
「そうだ」
 キバ男爵は彼に対し言った。
「キバ一族の長吸血マンモス、これが私の正体だ」
 キバ男爵、いや吸血マンモスは言った。槍はその右手にある。それでアマゾンを指していた。
「一つ言っておく」
 吸血マンモスはまた言った。
「私のこの姿を見て生きている者はいない。唯一人を除いてな」
「何ッ」
「その一人ももうすぐ死ぬ。ドクトル=ゲーの手にかかってな」
 それが風見志郎であるのは言うまでもないことであった。
「そしてアマゾンライダーよ」
 吸血マンモスのその目が赤く光った。
「貴様はここで死ぬのだ。行くぞ!」
「ケケッ!」
 アマゾンはその言葉に対して身構えた。それが戦争のはじまりだった。吸血マンモスと戦闘員達は槍を手に一斉にアマゾンに襲い掛かった。
 まずは戦闘員達が来る。アマゾンはそれを爪や蹴りで退ける。
「何処を見ているっ!」
 そこに吸血マンモスの槍が襲い掛かる。だがアマゾンはそれを身体を右に捻ってかわした。
 そして左手の鰭で切ろうとする。しかしそれは吸血マンモスの長い毛と厚い皮膚に防がれる。
「なっ」
「ククククク」
 驚くアマゾンに対して吸血マンモスは不敵に笑った。
「今度はこちらの番だ」
 そして左腕で打った。アマゾンはそれを胸にまともに受け後ろに吹き飛んだ。
「ウググ・・・・・・」
 だがアマゾンは一瞬で立ち上がった。しかしダメージは隠せない。
「私はかって世界を支配したマンモスの力を手に入れている」
 吸血マンモスは痛みをこらえるアマゾンを見下ろすようにして言った。
「そして誇り高きキバ一族の長でもある」
 その言葉には重みがあった。
「その二つにかけて負けるわけにはいかん」
 そこで槍を繰り出した。
「ムッ」
 アマゾンはそれを身体を捻ってかわした。
「仮面ライダーアマゾンよ」
 吸血マンモスは槍を繰り出しながらアマゾンに対して言った。
「このサバンナが貴様の墓場だ」
 槍をアマゾンの首に突き出した。だがアマゾンはそれもかわした。
「ケケッ!」
 そしてその槍の穂に噛み付いた。その牙でもって砕こうとする。
「ムムム」
 それを見た吸血マンモスは槍を離した。アマゾンはそれを見ると槍を手にとった。
「喰らえっ!」
 そして槍を投げる。だがそれも吸血マンモスの堅固な皮膚の前に阻まれる。
「フフフフフ」
 吸血マンモスは余裕の笑みを浮かべた。そしてアマゾンを見据えて言った。
「今度はこれだ」
 そう言うとその左腕を地面に打ちつけた。
「ムッ!?」
 すると辺りを地震が襲った。
「まさか」
 アマゾンはその地震に必死に耐えながら怪人を見た。
「ククククク」
 吸血マンモスは笑っていた。そしてまた左腕を地面に打ちつける。
 再び大地が揺れる。そして地割れがアマゾンを襲った。
「どうだ、地震の味は」
 何とかその地割れから身をかわしたアマゾンを嘲笑するように言う。
「大地を支配したマンモスの力、とくと味わうがいい」
 そう言うとまた地面を打った。また地割れがアマゾンを襲う。
 サバンナを無数の地割れが襲った。それはやがて四方八方からアマゾンに向かって来た。
「まずい、このままでは」
 アマゾン自身の身も危なかった。だが彼は別のことを危惧した。
「サバンナの自然が・・・・・・」
 彼はこの時も自然を愛する心を忘れてはいなかった。そしてそれはその自然を破壊する者への怒りとなった。
「させない!」
 アマゾンは吸血マンモスを見据えた。怪人は勝ち誇った顔で大地を打ち続ける。
「倒す、そして自然守る」
 アマゾンは誓った。だがどうしてあの怪人を倒すのか。問題はそこであった。
 あの毛と皮膚には大切断すら通じない。他の攻撃も効果は期待できない。
 だが倒さなくてはならない。どうするべきか、アマゾンは考えた。
「象の力大きい」
 それはわかっていた。だがそれをどうするか、である。
「その力の源は」
 彼は考えた。それを絶てばいい。今までの戦いとアマゾンでの生活でそれはよくわかっている。
 象の力は。そしてそれをあらわすのは何か。
「牙・・・・・・」
 そう、牙であった。
 吸血マンモス、いやキバ男爵はキバ一族の長である。ならばその力の源も牙である筈だ。アマゾンはそう考えた。
「牙さえ取れば・・・・・・!」
 アマゾンは思った。そして跳んだ。
 それまで彼がいた場所を地割れが蜘蛛の巣の様に襲い掛かった。彼は咄嗟のところでそれをかわした。
「ケケーーーーーーーーーーッ!」
 彼は叫んだ。そして空中で一回転した。
「また来るか」
 吸血マンモスはその動きを見上げて言った。
「無駄なことを」
 彼は自分の皮膚と毛の防御力に絶対の自信を持っていた。アマゾンの大切断ですら怖くはなかった。
 そう、身体は。だがキバは違った。
 アマゾンは急降下する。その真下にはキバがある。
「ケケーーーーーーーーーッ!」
 アマゾンは再び叫んだ。そしてそれと共に右腕を大きく振り被った。
「スーーーーーーパーーーーーーー・・・・・・」
 彼は技の名を叫びはじめた。
「効かぬというのがわからぬようだな」
 吸血マンモスはそれを受けるつもりであった。そしてそこで彼に絶対的な敗北を悟らせるつもりだった。
 だがそれは叶わなかった。
「大切断!」
 アマゾンは右腕を振り下ろした。それは吸血マンモスの二本の牙を一閃した。
「ウオッ!?」
 牙が地に落ちた。そこから鮮血がほとぼしり出る。
「グオオオオオオッ!」
 両腕でその牙の傷口を押さえる。だが血は止まることなく溢れ出る。
「まだだっ!」
 アマゾンはさらに攻撃を続けた。今度は吸血マンモスを掴み空中に放り投げた。
「ケケーーーーーッ!」
 そして自らも跳んだ。空に舞い上がった吸血マンモスに向かって蹴りを放つ。
「アマゾンキィーーーーーーーーック!」
 蹴りを放った。それは吸血マンモスの牙の間を直撃した。
 攻撃を終えたアマゾンは両足で着地した。吸血マンモスはその前に落ちた。 
「グググ・・・・・・」
 吸血マンモスは傷口から血を流しながらも立ち上がってきた。
「まだ来るつもりか」
 アマゾンはそんな彼に対して身構えた。
「心配するな」
 吸血マンモスはそんなアマゾンに対して言った。
「私にはもう戦える力は残ってはおらぬ」
 そしてキバ男爵の姿に戻った。
「ようやく復活した我がキバ一族が再び滅ぶとはな」
「悪が滅ぶ、これ運命」
「フン、運命か」
 キバ男爵は蒼白の顔でアマゾンを見据えて口の左端を歪めた。
「ならば最後に勝つのはバダンだ」
 そして槍を右手に構えながら力を振り絞って言った。
「偉大なる我等が首領が世界を手に入れられるのは定められしこと。ライダー達の死と共にな」
「それ違う、悪は滅びる運命になる」
 アマゾンはそれに対し反論した。
「戯れ言を」
 キバ男爵は言い返した。
「まあそれはすぐにわかることだ」
 そしてまた口の端を歪めた。
「その時を見れないことだけが残念だが地獄での楽しみにとっておこう」
 そう言うと最後の力を振り絞って両足で立った。
「仮面ライダーアマゾンよ」
 そしてアマゾンを見て言った。
「キバ一族の火が消えるこの瞬間、よく見ておけ。そして」
 彼は言葉を続けた。
「これが近いうちの貴様の未来だということを忘れるな」
 そこまで言うとゆっくりと後ろに倒れた。
「バダンに栄光あれーーーーーーーーーっ!」
 そう言い残し爆死して果てた。キバ一族の偉大なる長の見事な最後だった。
「アフリカでの戦いはこれで終わりか」
 アマゾンはその爆発を見ながら呟いた。
「だけどまだ戦いは終わりじゃない。まだ首領が残っている」
 そう言うとその場をあとにした。それまでサバンナをズタズタに引き裂いていた地割れもキバ男爵の死と共に消えていた。
戦いの傷跡は草原の中に消えていた。

「よく帰ってきたね」
 モグラ獣人は川辺でアマゾンを出迎えていた。
「うん、何とか倒した」
 アマゾンは出迎えたモグラ獣人に対して笑顔で応えた。
「手強かったけれど」
「仮にも大幹部だからな」
「うん、けれどこれでアフリカのバダンの勢力はかなり減った。キバ一族も滅んだ」
 アマゾンは感慨深げに言う。
「他のライダーにも勝って欲しい」
「大丈夫だよ」
 モグラ獣人はここでアマゾンを元気付けるようにして言った。
「皆あんなに強いんだよ、負ける筈ないじゃないか」
「モグラ」
「アマゾンも言ったじゃないか、正義は必ず勝つ、って。だろ!?ライダーが負ける筈ないさ」
「そう、そうだった」
 アマゾンはその言葉に笑みを取り戻した。
「モグラ、有り難うアマゾン気が楽になった」
「アマゾン・・・・・・」
「やっぱりアマゾン一人では戦えない」
 彼はここで一瞬しょげた顔をした。
「けれどモグラやおやっさん、まさひこ、りつ子さんがいるから戦える。皆がいるからアマゾン戦うことできる」
 それがアマゾンであった。鬼神の様に戦い敵を切り裂く。だがその心は繊細で心優しいのだ。
 だからこそ悪と戦うことができるのだ。その友を守る為に、世界を守る為に戦うのだから。アマゾンの心は他のどのライダーよりも素朴で温かいのだ。
「行こう、モグラ」
 アマゾンは言った。
「まだバダンは残っている。一人残らず倒して世界を平和にしよう」
「よし!」
 二人は歩きはじめた。夕陽が二人を照らしていた。
 長い影が消えていく。そして二人は新たな戦場に向かっていった。

「キバ男爵は死んだか」
 ドイツの古城でドクトル=ゲーはその報告を聞いた。
「惜しい男だったが」
 デストロンにいた頃はツバサ大僧正等と共に競い合った。ヨロイ元帥とはうまが合わなかったが彼らは互いを認め合い功を競っていたのだ。
「やはりライダーは一筋縄ではいかんな」
 ここで後ろから声がした。ゼネラルモンスターが闇の中から姿を現わした。
「うむ。そちらもそろそろ作戦を発動するようだな」
 ゲーが彼に顔を向けた。
「既に全て整っている」
 ゼネラルモンスターは胸を張って答えた。
「来るぞ、あの男が」
「それも計算のうちだ」
「そうか」
 ゲーは彼の言葉を聞きやや機械的に頷いた。
「健闘を祈る」
 そして儀礼的に言った。
「そのようなもの祈ってもらいたくはない」
 だがゼネラルモンスターはそれに対して反論した。
「何っ!?」
「我がナチスの掟を忘れたのか」
 ゼネラルモンスターは目をひそませたゲーに言った。
「総統は仰ったな。勝利こそ全てだ、と」
 彼等はかってナチスにいた。その時ヒトラーに言われたことであった。
「私は勝利しか望まない。スカイライダーを倒し中東を死の荒野に変えることだけしかな」
「そうか、そうだったな」
 ゲーはそれを聞き満足したように笑った。
「そういうことだ。ではシャンパンを用意して待っておくがいい」
 彼はそう言うと背を向けた。
「スカイライダーの首を持って来る故な」
「楽しみにしいるぞ。私も持って来るからな」
 彼はここで残忍な笑みを浮かべた。
「あの男の首をな」
「では私も祝いの酒を用意しておかなくてはならんな」
 ゼネラルモンスターは振り向いて言った。
「当然だ」
「では用意しておこう。楽しみにしておくがいい」
 彼はそこまで言うと顔を元に戻した。そして闇の中に消えた。
「仮面ラァーーーーイダX3よ」
 一人残ったゲーは呟いた。
「あの時のようにはいかぬ、覚悟しておれ」
 そこまで言うと彼も姿を消した。そしてあとには古城の古い苔むした石の壁だけが残った。


サバンナの巨象    完


                                  2004・7・24




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