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第二掲示板@うらたにんわあるど

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[169] 題名:死んだふり1 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2004年08月09日 (月) 02時42分

               死んだふり
 パリーグはかって前期と後期の二シーズンに分かれてペナントを行っていた。観客動員に悩みそれなら、と考え出した言わば苦肉の策だった。しかしこの苦肉の策には一つの問題があった。
 順位も前期と後期に分かれている。よってそれぞれの優勝チームが違う場合が充分に考えられる。その時はその優勝チーム同士でそれぞれプレーオフを行い優勝チームを決定するというものだ。ここに問題があった。
 前期優勝したチームは後期には手を抜くようになるのではないか、プレーオフには出られるのだから。そう危惧する声があった。それに両方優勝したら折角のプレーオフの意味がない。お祭りは多い方がいいという考えだがそうなれば意味はない。それに前期と後期の間隔があありすぎる。問題は山程あった。だが試験的に見切り発車となった。それは昭和四八年のことであった。
 この時パリーグに覇を唱えていたのは阪急ブレーブスであった。闘将西本幸雄が育て上げたこのチームは攻守走、そして投手陣においても圧倒的な戦力を誇り他のチームを大きく引き離していた。そして彼等を率いる西本自身も名将と謳われていた。
 その西本の下にはキラ星の如き人材が集まっていた。ガソリンタンクと呼ばれた大投手米田哲也に若きサブマリンエース山田久志のダブルエースがいた。そして野手陣には韋駄天福本豊からはじまり加藤秀司、長池徳二の左右の主砲、守備の達人大橋譲、脇を固める人材として大熊忠義、住友平、森本潔といた。皆西本が一から育て上げた選手達である。その彼等が闘将西本の下に一致団結していたのだ。
「わしの切り札はこの選手達全員や」
 西本は彼等を指差しながら記者達に対して言った。怒鳴り、拳骨をもって育て上げた彼等は西本にとっては我が子のような存在であった。
 それに対するのは何処か。と聞かれてもこれといった球団がない。強いて言うならば金田正一率いるロッテであった。だが打線が今一つ頼りなかった。
「それでも投手力は大事やな」
 そう主張する男がもう一人いた。南海の監督野村克也である。彼は名門南海の監督に選手権任で就任していたのだ。
 彼はよく知将と言われる。その相手の心理や癖を見抜きそこを衝く作戦からそう言われているのである。
 囁き戦術というのがある。バッターの側に何やら言い集中力を削がす。時にはかなり嫌味なことも言う。
「ふざけた奴だ」
 他の球団の選手達はそれに憤慨する。実際に野村は外見も野暮ったくあまり女性にもてるタイプでもなかった。酒も飲めずキャッチャーということもあり地味な存在であった。
 南海の黄金時代には彼は四番であった。だが人気はあまりなかった。華がなかったのだ。
 当時の南海はスター選手が揃っていた。その中でもアンダースローのエース杉浦忠は別格であった。
 華麗なアンダースローから繰り出されるノビのある速球、キレのあるカーブとシュート。抜群の安定感とコントロールで相手バッターを寄せ付けない。しかも育ちがよく眼鏡の似合う知的な美男子であった。性格も素直で真面目だった。将に天から二物も三物も与えられた男であった。 
 そんな男が監督の気にいられない筈がない。当時南海だけでなく関西球界にその影響力を誇っていた南海の監督鶴岡一人は彼を溺愛した。野村は四番で正捕手だったがあくまでナンバー2であった。
 こういう話がある。昭和四〇年南海はリーグ優勝を果たした。だがシリーズでは王と長嶋を擁する巨人に惨敗した。
 鶴岡は責任をとって監督を辞めることになった。次の彼の行く先は大洋か、東映か、と話題になった。だがここで一つ異変が起こった。
 何と鶴岡の後任であった蔭山和夫が急死したのだ。野村を信頼していた彼は死ぬ間際にこう言った。
「野村に連絡してくれ」
 それを聞いた野村はすぐに動いた。選手を代表して鶴岡に南海の監督に復帰するよう申し出たのだ。だが間が悪かった。野村という男はここぞという時に運命の女神にふられることが多いのだった。
 この時鶴岡は帝塚山の自宅にいた。そこで酒を飲んでいたのだ。
「監督、南海の監督に戻ってくれまへんか」
 野村は彼に対して言った。
「今何言うた!?」
 鶴岡は彼に対して言った。酒も入っていた。しかも急に言われてさしもの彼も動転していた。
「御前三冠王になって少しいい気になっとりゃせんか!?」
 このシーズン野村は戦後初の三冠王に輝いていた。そして文句なしの最優秀選手であった。
「えっ、それは・・・・・・」
 野村は最初何を言っているのかわからなかった。単に彼に監督になってもらいたいだけなのだった。
「ノム、言っとくがな」
 鶴岡は酒に酔った目で野村を睨みつけた。
「三冠王で自惚れるんやないぞ、ホンマの意味でチームの優勝に貢献したのはスギや!御前はスギの引き立て役に過ぎんのや!」
「そんな・・・・・・」
 野村は目の前が真っ暗になった。何故ここまで言われるのかわからなかった。
 この時杉浦は二度に渡る血行障害で投球制限が課せられていた。だが今でいうストッパー的存在として活躍した。鶴岡はそんな杉浦をあくまで庇っていたのだ。
 だがそれを野村に言う必要はなかった。鶴岡は酒と動揺により言ってはならないことを言ってしまった。これで野村と鶴岡の縁は切れた。
 外見に似合わず繊細な男である。それに心優しかった。
 彼はエリートよりも雑草を愛した。疲れ果て他球団を捨てられた選手と見捨てるような男ではなかった。
「わしのとこに来るか」 
 戦力外通告を受けた選手にそう声をかけて南海に誘った。そして彼等を見事再生させたのだ。俗に言う野村再生工場である。
「監督は凄くいい人ですよ」
 当時南海のエースだった江本猛起は今でもこう言う。江本は東映にテスト生として入った。だがその短気でプライドの高い気性が災いし追い出されている。その彼を拾ったのが野村であった。
「わしがキャッチャーやって御前が投げる。それで十五勝や」
 江本はその言葉が嬉しかった。今まで自分をそこまで高く評価してくれた者なぞいなかったのだ。
「高い評価やない。正当な評価や」
 野村は照れ臭そうにそう言った。実は恥ずかしがり屋でもあるのだ。
 その野村が育て上げた南海はかってのスター集団ではなかった。他のチームから流れ着いた者やまだ若い者の多い野村を核とするチームであった。阪急とは無論比べものにならなかった。
 だが前期南海は好スタートをきった。野村がリードする投手力でもってダッシュをかけあっという間に優勝を決めた。まず野村は宙を舞った。
「あとは後期やな」
 しかしここで阪急が地力を見せた。
 何と七割近い勝率でペナントを制したのだ。やはりチーム力が違った。西本は笑顔で宙を舞った。
「これで優勝やないのが変な気持ちやな」
 彼は胴上げのあとでこう言った。
「まあプレーオフで勝てばええだけやな」
 自信はあった。相手は南海である。やはり戦力に大きな差があった。
 それだけではない。後期阪急は南海を徹底的にカモにしていたのだ。
 十二勝一引き分け。ここまで徹底的にやられたのもそうそうなかった。
「死んだふりでもしとるんか!?」
 マスコミもファンも南海のあまりの弱さに思わず口を尖らせた。
「まあそういうところやな」
 野村は否定しなかった。これを彼の知略と見る者もいた。だが実は違っていた。
 実際に勝てなかったのだ。とにかく戦力が違い過ぎた。西本が育て上げた阪急はそれからすぐにシリーズ三連覇を達成する。差は歴然としていたのだ。
 選手達もまるで自信がなかった。はじまる前からもう負けたと思っていた。
 だが野村は負けながらも阪急の試合をまじまじと見ていた。そしていつも何やら書いていた。
「また無駄なことしとるわ」
 南海を赤子をあしらうように倒した阪急ナインは野村がノートをつけているのを見てせせら笑っていた。
「あれでわし等に勝てるんやったら一勝でもしてみい」
 そう言いながらベンチを去る。だがそれを一人真剣な顔で見ている者がいた。
「ノムの奴またたくらんどるな」
 西本であった。彼は野村を見てその目を光らせていた。
「まさか、考え過ぎですよ」
 コーチの一人がそう言った。西本はとかく考え過ぎるところがあった。これは彼があまりにも生真面目であったからだ。
「いや、ちゃうな。あいつは賢い奴や」
 不思議なことに西本は彼が嫌いではなかった。野村も彼に対しては敬意を払っていた。
「プレーオフは厳しい戦いになるかも知れんな」
 そう言うとベンチを去った。こうしてペナントでの両者の戦いは阪急の圧倒的優勢のまま終わった。

「うちの野球は押し相撲や」
 西本は阪急の野球をこう評していた。
「一気に相手を押して勝ち進む。そうでなくてはいかんな」
 流石に闘将といわれただけはあった。彼は積極的に攻撃を仕掛け一気に勝負をつける攻撃的な野球を好んでいた。だがここに言外に潜ませていることがあった。
(野村は何をしてくるかわからん)
 この考えがあった。
(余計なことをせんうちに倒してしもうたほうがええ。時間をかけたらまずい)
 西本の脳裏にノートをつける野村の姿があった。それがどうしても離れなかったのだ。
「うちはもう体当たりしかないな」
 逆に野村はこう言う。
「戦力が違うよってな。けれど」
 ここで彼の目が光った。
「ムッ!?」
 それを見た西本は思わず前に出た。
「連投がきく奴、そうやな佐藤道郎か」
 南海のストッパーである。
「あと左へのワンポイントの村上雅則、この二人には期待しとるわ。福本と加藤を抑えることをな」
「あの二人をフクとヒデにか」
 西本は彼の言葉から耳を離さなかった。
「そして江本と山内新一、西岡三四郎やな。この連中でやりくりしていくしかありませんわな」
 そう言って笑った。
「投手戦を挑んでくるつもりか」
 西本はまずはそう思った。野村はここで西本をチラリ、と見た。
(ここが勝負やな)
 そして言った。
「もうここまで来たらガッツしかありませんわ。もう死ぬ気でいきますわ」
「精神論か、今度は」
 西本はそう考えた。
「確かに戦力はうちの方がずっと上や」
 それは西本にもよくわかっていた。だからといって驕るような男では決してない。彼は相手を舐めるような行動を特に忌み嫌っていたのだ。
「そやが時として別の力が必要になる時がある」
 彼もこれまで伊達に六度もチームをリーグ優勝させシリーズを戦ってきたわけではない。それは痛い程よくわかっていた。
 大毎を率いて戦った時は三原の魔術の如き采配の前に一敗地にまみれた。それに激怒したオーナー永田雅一により解任されている。
 阪急では五度優勝している。だが勝てなかった。
 四三年は雨で一試合空けたところで流れが変わった。その次の年は正捕手岡村浩二のブロックを巡る抗議と彼の退場で流れを向こうにやってしまった。
「周りがセーフと言っても選手がアウトと言えばアウトなんだ」
 西本は写真を見せられてもそう言って選手を庇った。理不尽な言葉だがここに彼の心があった。
 戦力が揃った昭和四六年は切り札の山田が王貞治に第三戦で逆転サヨナラスリーランを浴びて終わった。西本はマウンドに崩れ落ちる山田を迎えに言った。
「監督、すいません」
 彼は泣いていた。西本はそんな彼に対し一言だけ言った。
「ご苦労さん」
 それだけであった。だがそれで充分であった。彼は山田を背負うようにして球場を去った。
 次の年は福本でかき回すつもりだった。だが巨人バッテリーの巧みな牽制とクイックの前にそれは効果を発揮できなかった。それどころか外野を四人配置する独特の王シフトも成功せずそれどころか助っ人ソーレルの拙守もあり崩れた。そしてまた敗れた。
「今年こそは」
 そう思っていても勝てなかった。流れを掴んでもここぞという時に常にそれは敵にいった。戦力で有利と言われる状況でも敗れた。流れ、その恐ろしさを彼もよく知っていたのだ。
「それはあっという間に変わるもんや」
 シリーズ等短期決戦では特にそうである。プレーオフも同じだ。
「南海がもし全員死兵できたら」
 ふと西本の脳裏にそれが浮かんだ。
「うちも危ういな」
 彼は野村が珍しく言ったその精神論的な言葉に警戒した。
「かかったかな」
 野村はそんな西本をチラリ、と見た。
「まあこれがかかったら儲けもんやが」
 彼も西本のことはよく知っていた。伊達に大毎時代から戦ってきたわけではない。その力量は素直に認めている。むしろ敬愛すらしている。
「そうそう迂闊なことをする人やない」
 彼は野村が自分よりも上だと認める男である。野村もこの程度で崩れるとは思ってはいない。
「まあそちらに注意がいけばこっちの考えはばれにくくなるな」 
 それが彼の狙いであった。
「これが決め手になる。脳ある鷹は爪隠すや」
 西本を見て思ったことは決して口には出さなかった。ここは隠蔽することにした。こうして試合前の記者会見は終わった。そして遂にプレイボールとなった。場所は大阪球場、南海の本拠地である。
「敵地やからといって遠慮することはないぞ」
 西本は選手達に対してそう言い檄を飛ばした。
「一気にやったるんや」
「はい!」
 阪急ナインは大声でそれに応えた。その覇気は天を衝かんばかりであった。
「さあ、はじまったな」
 野村は彼等を見ながら呟いた。既にキャッチャーボックスに入っている。
「ここからどうするかや。油断はできんな」
 マスク越しに西本を見る。西本もそれには気付いていた。
「野村も考えてくるやろ」
 西本は野村に目を向けていた。彼は西本から目を離し座り込んだ。
「そやがこっちも負けるわけにはいかんのや。策はわしが全部見抜いたる。そして」
 ナイン達を目だけで見回した。
「わしが育て上げたこの連中に勝てるか。伊達に手塩にかけて育てたわけやないで」
 彼にも自負があった。自らが育てた選手達は誇りであった。54
「その力、ここでも見せたる」
 そしてそれはいきなり南海に見せつけられた。
 まずは先頭打者の福本がホームランを打つ。先制だ。阪急は幸先いいスタートをきる。
 二回にも。阪急は二本のアーチでいきなり南海を圧倒したかに見えた。
「さて、どうする」
 西本はベンチにいる野村を見た。
「このまま黙っとるわけやないやろ」
 勿論野村にそんなつもりは毛頭ない。二回裏の南海の攻撃である。まずは一点を返した。そして尚も攻撃を続ける。
 二死ながら二、三塁。ここで打席に立つのは相羽欣厚である。彼もまた巨人から移籍してきた選手だ。
 その彼がライト前に打った。これで逆転だ。三回にはもう一点入れる。
 だが阪急の自慢の強力打線が黙ってはいない。西本は彼等に対して言った。
「取り返してくるんや」
「わかりました」
 そして次々とバッターボックスに向かう。それを見た野村の目が光った。
「さあ、こっからや」
 野村は立った。
「!?」
 西本は一瞬何かと思った。ここでピッチャー交代であった。
 西岡から佐藤に替える。何とここでストッパーの佐藤だ。
「もう佐藤を出してきたか」
 西本はそれを見て言った。
「意外と早いですね」
 コーチの一人が西本の側に来て言った。
「ああ。何かあるな」
「ですね」
 彼もまた野村のことはよく知っていた。
「ここで佐藤を出すっちゅうことはまだ切り札が向こうにあるっちゅうことや」
「山内でしょうか」
 そのコーチは言った。
「いや、山内は先発でくるやろ」
 西本はそう読んでいた。
「多分次の試合や」
「次の試合で、ですか。すると誰を出してくるか」
「それが問題やな。まさかこんな早く西岡を引っ込めるとは」
「相変わらず何をしてくるかわからない奴ですね」
 彼等は野村の采配に不安を感じた。それは野村にも伝わった。
「かかったようやな」
 彼はマスクの奥で笑った。
「今日はもろたで」
 そして佐藤のボールを受けた。
 佐藤は左右の揺さぶりを得意とする男である。野村はそれを自由自在に使い阪急打線をかわした。だが阪急打線は手強い。おそらく佐藤が疲れたらすぐに攻撃に出るだろう。野村は一球一球受けながら替え時を見計らっていた。
 三番手は村上である。ここであえて左だ。
 村上も変則派である。野村は変化球主体のリードで阪急の攻撃をかわすことにしたのだ。
「村上か。また難儀な奴を出したな」
 西本は顔を顰めた。こうした軟投派の継投はタイミングを崩されやすい。それが野村の狙いだということはよくわかっていた。
「考えよるわ」
 西本は苦い声を出した。
「次は江本がくるで」
「江本ですか!?」
 コーチはその名を聞いて驚いた。
「そうや。短期決戦やしな」
 流石にここまでくると野村の采配の意図が読めてきた。どうやら小刻みな継投でかわすつもりらしい。
「今日は苦しくなるな」
 その言葉は当たった。江本に繋がれそのサイドスローからくる独特のエモボールの前に凡打の山を築いた。そして九回表、阪急は追加点を得られないまま終わった。
「初戦を落とすとはな」
 西本は憮然とした顔で言った。
「野村もやりおるわ」
 目の前では野村が江本に何やら話をしている。表情から見てすぐにかなり上機嫌だとわかる。
「それにしてもいきなり主力級をあれだけ出してくるとは思いませんでしたね」
 コーチが言った。
「ああ、それには驚いたわ。けれどな」
 西本はの村から視線を外すことなく言った。
「明日はこうはいかんで。こっちもやられっぱなしは嫌いやからな。いや」
 彼はあえて言葉を変えた。
「勝つんや。そして今年こそ日本一や」
 そう言うとベンチを去った。そして隣を通り過ぎた山田に対して言った。
「次の試合は頼むで」
「わかりました」
 山田は頷いた。彼は先発を命じられたのだ。
 西本は廊下を歩きながら考えていた。当然次の試合のことである。
「先発はおそらく山内や。江本やない」
 まずはそこから考えた。
「あいつの変化球はムラがある。そこを狙うか」
 山内の武器はスライダーであった。だがこれは日によって大きく変化が異なっていた。
「ノムのリードは厄介やが」
 それに囁き戦術も気になった。だがそこで退いては勝てる勝負も勝てはしない。
「わしも伊達のあの連中を育てたわけやない」
 阪急の強力打線には絶対の自信があった。何故なら彼が一から鍛え上げた打線だからだ。
「次の試合ではあいつ等に今日もぶんまで働いてもらうか」
 そう言うと彼はバスに乗った。そして宿舎へ帰って行った。

 次の試合、阪急は山田を予定通り山田をマウンドに送った。彼はその大きく腕を振り被る投球モーションからアンダースローでボールを繰り出す。西本は彼の投球練習を見ていた。
「今日はあいつはあまり期待できへんな」
 決して気分が乗っていないのではない。山田は気合充分である。しかしだからといって勝てる程甘い状況ではない。
 見れば膝が浮いていた。山田は彼が一からエース学を叩き込んだ男である。彼の調子は手にとるようにわかる。
 膝が浮いているのは山田が不調な時である。こうした時の山田には彼の最大の弱点が露わになるのだ。
 一発病だ。山田はとかくホームランを浴びることの多い男であった。歴代被本塁打は二位である。近鉄の鈴木啓示に次ぐ。特に有名なのが前述の日本シリーズにおける王のホームランであった。
 特に南海には左でパワーのある男がいた。門田博光とジョーンズである。野村の前後を固めるこの二人を西本はある意味野村よりも危険視していた。
「あの二人はちょっと打ち方を変えたら凄いパワーヒッターになるで」
 ある時西本は二人を見て記者達に言った。
「そうですか?ジョーンズは少しバッティングが荒いですよ」
「門田はどちらかというとアベレージヒッターでしょう」
 記者達は口々にこう言った。
「君等はそう思うか」
 西本はそれを聞いて彼等に言った。
「わしは違う思うけれどな」
 何と西本のその言葉は後に当たることになる。
 門田は後にアキレス腱を切断する。それで守れなくなった。そのかわりバッティングに専念するようになりそのパワーを開花させた。
 ジョーンズは西本本人の手により開花した。彼が近鉄の監督になった時に獲得したのだ。彼の指導によりジョーンズは二度のホームラン王を獲得した。
 その彼等を最も警戒した。特に山田のような右のアンダースローは左打者からはボールが見え易いのだ。調子のいい時ならば問題はない。だが今は。しかし西本はこの日は打線については安心していた。
「今日は打ってくれる。山田の調子のぶんまでな」
 それは的中した。阪急は三、四、五回に集中攻撃を仕掛けたのだ。一気に八点をもぎ取った。南海は山内から村上、中山孝一等を投入したが阪急の猛攻は抑えられなかった。しかもエラーを連発してしまい守備においても磐石の強さを誇る阪急との差を曝け出す結果となった。
 それでも打撃においてそれを取り返そうとする。西本の予想通り門田とジョーンズが打った。これにより一時は二点差にまで迫る。
 だが九回に阪急は追加点を入れる。これで勝負ありだった。最後の追撃も及ばず南海は敗れた。阪急は南海の継投を凌ぎ伏兵住友平がニホーマーを放つ等その戦力を見せつける形となった。
「この勝負は阪急の勝ちや」
 こう予想した男がいた。ロッテの監督金田正一である。
「南海は捨て身でかからなあかんわ。それでも最後は阪急が立っとる。戦力が違い過ぎるで」
 彼は一年を通じて阪急、そして南海と死闘を繰り広げた。だからこそよく知っていたのだ。
「三勝一敗で阪急の勝ちや。やっぱり強いわ」
 その阪急が今真の力を見せた。誰もが阪急がそのまま突っ切ると思った。
 
 第三戦、舞台は西宮球場に向かう。阪急は二線級の投手陣しかいない。ベテラン米田は明日の先発だ。従って南海の先発投手が問題となる。
 南海の先発は江本。野村はその彼の球を受けていた。
 練習も変化球中心である。彼はそれを受けながら考えていた。
「ふむ」
 彼はストレートを受けて考えた。
 江本はあまり球は速くない。だがフォークとシュート、そして独特の変化球エモボールがあった。従ってその投球は変化球中心である。
「ここはこいつに任せてみるか」
 彼は江本の方に歩み寄った。
「エモ」
 そして笑顔で彼に声をかけた。
「今日は御前に任せたで」
「はい」
 江本も微笑んでそれに答えた。彼は野村のリードには全幅の信頼を置いていたのだ。
 敗戦処理だった彼を拾い快く迎え入れてくれた恩を彼は決して忘れてはいなかった。野村の優しさと繊細さが彼は大好きだった。
「あんな優しい人はおらん」
 彼は友人や記者達に対してよくこう言った。
「ちょっと、嘘でしょう?」
 記者達はそれを聞いて思わず吹き出すのだった。友人達もだ。
「あの嫌味な人が」
「嘘だろう!?」
「御前等はあの人のことを知らんのか」
 当時江本はまだ関西弁を完全に覚えてはいなかった。
「わしを拾ってくれた人やぞ」
 とにかく江本はその短気な性格に問題があった。何かと上層部と衝突することもあった。それで東映を追い出されている。
 その江本に彼は背番号十六を与えたのだ。
「監督、これ・・・・・・」
 江本はそれを見て呆然となった。
「どや、ええやろ」
 野村はニンマリと笑って言った。江本が好投空しく負けた試合では彼を褒め打てなかった野手陣を叱った。
「うちで今日デビューやったこいつを勝たせてやれんかったのは口惜しいやろが」
 彼はそれを聞いた時思わず涙が零れた。彼の細かい気配りが非常に嬉しかったのだ。
 野村は決してエリートではない。本当に地味な存在であった。タイトルを幾ら獲得しても日陰者のような存在であった。
「わしやったらノムはあんなふうには扱えんな」
 西本はよくまだ監督をしていなかった野村を見て言った。彼はその風貌のせいかよく鶴岡に言われていた。鶴岡は彼が反骨精神旺盛で打たれ強いと思っていたのだ。
「あいつはあれで繊細やな。そして寂しがりや」
 西本は彼の本質をよく見抜いていた。彼は野村とは違う。立教大学の頃は主将であった。当時の主将は監督も兼任であった。審判の判定に不服で試合放棄をしたこともある。当時から血気盛んな闘将であった。戦争では陸軍において高射砲部隊の将校を務めた。自衛隊ですら足下にも及ばない位の激烈な訓練と戦場を生き抜いた。戦後派はノンプロで選手兼任で監督になっていた。彼はプロだけで監督をしていたのではなかったのだ。
「ナッパの味しか知らん選手達にビフテキの味を教えてやりたい」
 ある時西本はこう言った。その言葉からは滲み出る苦労があった。
 その西本だからこそ野村のことがよくわかった。甲子園に出場し法政大学の花形選手で鳴り物入りで南海に入団し最初から人の上に立つ存在としてあった鶴岡とは違っていた。
 確かに指導者であった。しかし自分はそうではないと考えていた。
「わしは人の上に立つ器やない」
 西本はよくこう言った。これにはやはり同じパリーグの監督である鶴岡の存在もあっただろう。
 しかし人を見抜く目は持っていた。そして苦労を知っているだけあって下積みの苦しさも理解していた。
「あいつみたいな奴がホンマは陽の目見るべきなんや」
 野村はそれを記者の一人から聞いた。
「西本さんはどうやらわしをおだてて何か聞き出すつもりらしいな」
 彼は笑ってそう言った。
「けれどわしは腹黒いからな。そう簡単には手の内は見せんで」
 そして記者達をあとにして帰って行った。だが野村は誰もいないところでふと立ち止まった。
「恩に来ますわ」
 西本のその言葉だけでも嬉しかった。西本の言う通り野村は繊細で寂しがり屋であったのだ。だからこそ選手達にも優しかった。苦労を積み重ねてきた者や尾羽打ち枯らした者を見棄てることなどできはしなかったのだ。
「野村再生工場はな、不用品のリサイクルや」
 こうは言ってもその彼等を手取り足取り教えた。江本も山内もそうであった。
 その野村のことをよく知る江本はマウンドに立った。そして野村を見据えた。
「監督、行きますで」
「ああ」
 野村はマスクの奥で頷いた。江本は一つしか考えていなかった。勝利しか。
 江本は投げた。緩急をつけて阪急打線を左右にかわす。それを見た西本は言った。
「投球変えてきとるわ」
 そうであった。野村はペナントとは違ったリードをしたのだ。
「ピッチャーはな、リード一つで大きく変わるんや」
 野村はこう言う。確かにこの時の江本はペナントの江本とは別人であった。変化球もあるが緩急をつけて投げていたのだ。
 それに阪急は手こずった。逆に南海の打線は好調であった。またジョーンズが打った。そして野村自身も。
「たまにはわしも打たんとな」
 阪急の大型打線が南海の小粒な打線に負けた。意外にも南海はこれで王手をかけたのだ。
「これは予想しとったわ」
 西本は試合終了後憮然とした顔で言った。日本シリーズでの経験があった。
「しかしうちにはまだ戦力がある。打線だけやない」
 今日江本にしてやられてもまだまだ諦めるわけにはいかなかった。
 ベンチをチラリ、と見た。そこには米田と山田がいる。
「二勝や」
 そして彼は言った。
「仕切り直しや。一気に二勝もらったる」
 この二人に任せた、西本は腹をくくった。それだけではない、勝利も確信した。
「この二人のことならわしは全部知っとる」
 米田もであった。彼は西本以前からいたがここまでの大投手にしたのは西本であった。
「次の試合はヨネや。そして」
 彼は山田を見た。
「最後はこいつや。こうなったら絶対引くわけにはいかん」
 闘将の闘志に火が点いた。それがチーム全体を包み込むのにさほど時間はかからなかった。


[168] 題名:奇跡のアーチ 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2004年08月09日 (月) 02時35分

             奇跡のアーチ
「天国の佐伯オーナー、見ていますか!?」
 アナウンサーの声が響き渡る。
「近鉄が優勝したんですよ!」
 その声は明らかに興奮していた。一九八九年一〇月一四日、藤井寺球場は歓喜の声で爆発していた。
 九年振りの優勝であった。それだけではない。複雑な因縁のある優勝であった。
 この時近鉄バファローズのオーナーであった佐伯勇はその少し前にこの世を去っていた。
「バファローズはわしの子供達の中では一番どうしようもないドラ息子や」
 彼はよくこう言った。
「しかしそんな息子が一番可愛いんや」
 近鉄グループの総帥であり一代で近鉄を日本最大の私鉄にまで押し上げた彼の唯一の不肖の息子であった。だが彼はそんなバファローズを心から愛していた。
「バファローズの日本一を最後に見たいな」
 それが晩年の口癖であった。だが彼はそれを見ることなくこの世を去ってしまった。このアナウンサーの言葉はそれを受けてのことであった。
「ようやく優勝となりましたね」
 それを報道する久米宏の目も温かかった。
「昨年は本当に悔しい思いをしましたけれど」
 彼は感慨深げにそう言った。
「今ようやく優勝しました、本当によかったですよ」
 彼はよく公平性を著しく欠く報道をしていると批判されていた。確かにそうであった。だが今彼を批判する者はこの番組を見ている者では全くといっていい程いなかった。
 それは昨年のあの無念を知っているからだ。
 一〇月一九日、近鉄はロッテオリオンズとの最後のダブルヘッダーを戦っていた。第一試合は梨田昌孝のヒットで何とか勝った。だが第二試合で無念の引き分けに終わった。
「色々と報道したいことがあるのですが」
 久米はその日番組がはじまる前にこう言った。
「その前にこの試合を御覧になって下さい」
「また久米の奴好き勝手やりやがって」
「何様のつもりだよ」
 彼を嫌う者はまずこう言った。だがその試合を見て皆黙ってしまった。
「勝ってくれ・・・・・・)
 皆死力を振り絞って戦う三色のユニフォームの選手達を見てそう思った。
「ここまできたらそれしかない、そうでなかったらせめて決着をつけてくれ」
 だがそれはならなかった。無念の表情でグランドを去る近鉄の選手達を見て何も思わない者はいなかった。
「ここまできて、ですか」
 久米の声も沈んでいた。彼はその一年前のことを思い出していた。
「長かったですね」
 本心からそう言った。
「やっとここまできた、という思いです」
 皮肉屋の彼から出たとは思えぬ言葉であった。彼は珍しく悪意もなく言葉を口にしていた。それ程までのこの年の近鉄は辛く、長い死闘を続けていたのであった。
 
 その無念の最終戦のあと近鉄はキャンプに入った。今年こそは、そういう意気込みがあった。
 だが出だしでつまづいた。そこで阪急が身売りしてできたオリックスブレーブスが台頭してきた。
 その強さの秘密は打線であった。ブルーサンダー打線と銘打たれたこの打線はブーマー、門田博光、石嶺和彦で構成されるクリーンアップを中心に強打を誇っていたその圧倒的なパワーで他の球団を大きく引き離していた。
「オリックスには西武みたいなどうしようもない強さはない」
 近鉄の監督仰木彬はこう言った。
「弱点はある。ピッチャーや」
 その通りであったオリックスの投手陣は長年投手陣の柱であった山田久志が引退してしまい支柱がなかった。だが
それでもブルーサンダー打線は打ちまくり勝利を手にし続けた。
 気付いた時には八・五ゲーム差。最早優勝は絶望的かと思われた。
 だが七月中旬のオリックス戦で勝利を収めると一気に間合いを詰めた。しかしここであの西武が姿を現わしてきた。
「やっぱり出て来たか」
 仰木だけではなかった。選手もファンも何時かはくるものと思っていた。それ程西武の戦力は他と比して圧倒的であったのだ。
 シーズンは遂に三つ巴となった。オリックス、西武、そして近鉄が激しく刃を交える死闘となった。その行方は誰にもわからないものであった。
 だが次第に結果を予想できるようになった。やはり西武が出て来たのだ。
「やっぱりこうなるか」
 多くの者はそう思った。対する近鉄は一〇月五日にオリックスに敗れ自力優勝が消えた。佐伯が亡くなったのはこの日であった。
「まさかこんな日に・・・・・・」
 ナインもファンも意気消沈した。これで終わるかと思われた。
 だがここで近鉄は踏ん張った。次の試合で助っ人リベラのサヨナラスリーランで勝利を収めた。これで西武との差は2ゲームとなった。
「あと少しだ・・・・・・」
 近鉄ナインを闘志が覆った。いよいよ決着を着ける時が来た。場所は敵地西武球場、ここで西武との三連戦だ。
 まずは第一戦、先発は右のエース山崎慎太郎だ。
「山崎か、大丈夫かな」
 西武球場に駆けつけたファンからこんな声が出た。彼は中二日である。流石に疲労が心配だった。
 対するは西武の誇るエースの一人渡辺久信。その荒れた速球が最大の武器だ。近鉄は彼に七連敗を喫していた。
 だが山崎が踏ん張った。打線が苦手とする渡辺を攻略し勝利を収めた。あと二つだ。
 翌日は雨で中止となった。選手もファンも何かを感じていた。
「明日はダブルヘッダーか」
 そうであった。ダブルヘッダーであった。
 彼等の脳裏に昨年のことが思い出される。あのロッテとのダブルヘッダーだ。
 だが相手が違っていた。西武である。まさに決戦である。
 近鉄の先発は高柳出己。二年目ながら仰木の信頼厚い先発の一人である。
「頼むぞ」
 仰木はベンチから高柳を見守っていた。
 だがその高柳が西武打線に捕まってしまう。二回で四点を献上してしまう。やはり西武はここ一番という時に無類の強さを発揮してきた。
 だが近鉄も諦めるわけにはいかない。昨年の悔しさがあった。最後まで近鉄のことを愛してくれた佐伯オーナーのこともあった。
「絶対勝つぞ」
 仰木だけではなかった。コーチも、選手達もその思いは同じであった。
 しかしマウンドに立つ男を攻略することは困難であった。郭泰源、台湾から日本にやって来た助っ人である。『オリエンタル超速球』とまで言われた速球と高速スライダーが武器である。
 そして抜群のコントロールを誇っていた。精密機械の如きそのコントロールは他を寄せ付けずどのバッターも三振の山を築いていた。とりわけホームランを打たれることが少なくその割合は0・六という驚異的なものであった。
「あいつを打つのは不可能やろ」
 三塁側にいる近鉄ファンの一人が口を歪めてそう言った。
「あんな奴打てるもんじゃない」
 多くの者がそう言って諦めかけていた。だがここで一人の男が奇跡を起こす。
 ラルフ=ブライアント。アメリカから渡ってきた近鉄の助っ人である。
 ドジャースのドラフト一位で入団した。しかし芽が出ず日本に渡ることになった。中日の助っ人であった。
 だがこの時の中日には郭源治、ゲーリーという二人の助っ人がいた。彼の出番はなかった。
「俺は試合に出たいのに」
 そういう不満があった。ここで彼に転機が訪れる。
 近鉄の主砲デービスが麻薬の不法所持で現行犯逮捕されてしまうのである。当然彼は退団となった。
 主砲を失った近鉄は慌てて彼の穴を埋める人材を探す。そこでブライアントに白羽の矢が立ったのである。
「使えるのか!?」
 こういう声もあった。だが今はそんなことを言っている暇ではなかった。とにかく時間がなかった。藁にもすがる思いであった。
 こうして彼は慌しく近鉄に金銭トレードで入団した。そしてすぎに試合に出た。彼は怖ろしいまでに打ちまくった。
「何だあれは」
「あんな奴見たことがない」
 相手チームのピッチャー達はその強烈な打撃に怖れをなした。いや、最早それは『畏れ』であった。
 シーズン後半の七四試合だけで三四ホーマー七三打点、鬼神の如き活躍であった。
 だがこのシーズン彼は一時不調に陥った。彼は豪快なアーチを飛ばす一方で三振の多い男であった。またその三振が桁外れに多かったのだ。
「三振か、ホームランか」
 そういう男であった。だがチャンスには必ず派手なホームランを飛ばした。普段は寡黙で読書が好きな男だがその身体には激しいパワーがみなぎっていた。その彼が打席に向かった。
 四回表、四対零。西武圧倒的優勢という状況であった。
 郭は投げた。スリークォーターの投球フォームから白球が放たれた。どのような強打者も容易には打てないボールだ。
 しかしブライアントのバットが一閃した。そしてそれをスタンドに放り込んだ。
「あいつが打ったか」
 仰木はそれを見て言った。だが表情は硬いままだ。まだ三点差だ。勝利には程遠い。
 西武はまだ攻撃を仕掛けてきた。すぐに追加点を入れる。これで勝負あった、かと思われた。
「終わりかな」
「西武の優勝やな」
 近鉄ファンの間からそういう声が聞こえてきた。だが勝負は意外な展開を見せる。
 近鉄は攻撃に出た。郭を攻め立て満塁とした。
「監督、どうしますか?」
 西武ベンチではコーチの一人が監督である森祇晶に話しかけた。
「そうだな」
 森は少し考え込んだ。
「郭の調子は決して悪くはない。あのホームランは仕方ない」
 彼は今日の郭の投球を思い出しながら言った。
「ここは続投だ。あの男を抑えればそれでこちらの勝利だ」
 彼はそう言って郭の続投を決定した。確かにここが勝負どころであった。森の采配は間違ってはいなかった。
 だが彼は予想される範囲内での采配をしただけであった。確かに彼は知将である。その采配には隙がない。後に横浜ベイスターズの監督となった時ヤクルトの正捕手古田敦也の前に一敗地にまみれるまでその知略は野村克也と並んで球界でも最高と謳われていた。しかしそれはあくまで予想される範囲内である。野球は時として信じられない出来事が起こる。それがまさにこの時であった。
 打席にはブライアンとが立つ。郭は彼を黙って凝視していた。
「抑える」
 表情を変えることなくそう言った。そして無言で投げた。
 ブライアントの目が光った。そしてその巨大なバットを振る。
 硬球がまるで毬の様に曲がった。そしてそれは弾丸の様に解き放たれた。
「まさか!」
 西武ナインだけではなかった。森も思わず打球の方向を見た。
 普段は冷静そのものの郭がその顔を蒼白にして打球の行方を追った。それは一直線に飛ぶ。
 速い、あまりに速かった。そして西武ファンのいるライトスタンドに突き刺さった。
「そんな馬鹿な・・・・・・」
 何と満塁ホームランである。あまりもの出来事に球場にいた者は皆言葉を失った。
「あの郭のボールをああまで簡単に」
 西武ベンチは呆然となっていた。ブライアントは一人静かにダイアモンドを回る。
 ホームを踏む彼を近鉄ナインとファンの歓声が出迎える。彼は一人で試合をふりだしに戻したのだ。
 流れは近鉄に大きく傾こうとしていた。それを察した森はすぐに動いた。
「あいつを抑えるしかない」
 そして主審にピッチャー交代を告げた。
「ピッチャー、渡辺久信」
 一昨日の先発である。だがブライアントには抜群に相性がいい。ホームランはおろか、打点さえ許してはいない。そして調子も良かった。
「頼むぞ」
 森はマウンドに降り立った渡辺に対して言った。
「任せて下さい」
 彼は笑顔で言った。彼しか今のブライアントを止められる男はいなかった。
 勝負の時は八回表にやってきた。ブライアントがバッターボックスに入った。
「来たな」
 彼は敵が間合いに入って来るのを見ながら全身に力を込めていった。
 渡辺はブライアントを抑えるには絶対の自信があった。今までホームランは全く打たれていない。完璧に抑える自信があった。
 そしてすぐに追い込んだ。カウントはツーエンドワン。あと一球で仕留められる状況にあった。
「ここまできたら大丈夫だ」
 渡辺はボールを受け取りながら考えていた。
「あとは内角高めのストレート」
 ブライアントの最大の弱点である。
「そこに投げればそれで終わりだ。この勝負もらった」
 彼は振り被った。そしてしなやかなフォームから投げた。
「決まった!」
 渡辺は投げ終えたボールを見て思わず笑った。自信に満ちた笑みだった。
 だがブライアントはそのボールに対してバットを向けた。そして渾身の力で振り抜いた。
「!」
 追えなかった。それは人の目で追えるものではなかった。カメラでさえそれを追うことはできなかった。
 打球はライン際を飛んでいく。そしてライナーでスタンドに入った。切れなかった。切れようとする動きをブライアントのパワーが押さえたのだ。
「あれが打たれるなんて・・・・・・」
 渡辺も唖然とした。そしてガクリ、とマウンドに崩れ落ちた。
「終わった・・・・・・」
 森は一言そう言った。勝敗がこれで決してしまったのだ。
「アンビリーバブルッ!」
 ブライアントは珍しく感情を露わにして叫んだ。そしてダイアモンドを回った。
 また近鉄ナインとファンの歓声が彼を出迎えた。そして彼は逆転のホームを踏んだ。
 この試合はそれが決勝打になった。あとは問題なく試合は進み近鉄の勝利となった。
 これで並んだ。しかしもう一試合残っていた。
 近鉄はここでエース阿波野秀幸を投入してきた。万全の態勢で挑んだ。
 この試合で勝てなければ優位に立てない、しかし勝つことができれば優勝への道が大きく開かれる、そうした状況であった。
 双方共に総力戦の状況であった。どちらも負けることは許されなかった。
 まずは近鉄が先制点を入れた。流れはこのまま近鉄に向かうかと思われた。
 しかし肝心の阿波野が固くなっていた。コントロールが定まらず暴投等で二点を献上してしまう。
「おい、何やっとるんや」
「ここで勝たな意味あらへんねんぞ!」
 近鉄ファンが怒りだす。彼等もまたわざわざ藤井寺から駆けつけてきているのである。その想いは選手達と同じであった。
 ブライアントは一回表の打席では敬遠された。流石にもう勝負をする気にはなれなかったのだ。
 だが三回表、ランナーなしの状況で彼を迎える。ここは勝負するしかなかった。
 ここでまた打った。勝ち越し、四打席連発のアーチはまたもや西武ファンのいるライトスタンドに突き刺さった。
「勝ったな」
 仰木はこれを見て頷いた。流れは完全に近鉄のものとなったのを実感した。
 ここまできては攻撃を仕掛けるまでである。近鉄は意気消沈する西武を完全に潰しにかかった。
 それからは近鉄の一方的な試合であった。西武は大量得点を許し敗北した。何と敵地西武球場においてウェーブが起こった。西武ファンが近鉄の勝利、そして優勝を祝って起こしたのだ。
「おい、マジかよ・・・・・・」
 テレビで試合を観戦していた者もそれを見て驚いた。だがその彼等の心も同じであった。皆近鉄の勝利を心から祝福していた。スポーツを、野球を愛する者としてごく自然な心であった。
 最早もう一つの敵オリックスも問題ではなかった。彼等の前にあるもの、それは優勝の二文字だけであった。
 十三日オリックスはロッテに敗れた。あのロッテにである。
「これも天命やろな」
 オリックスの将上田利治はサバサバとした顔でこう言った。悔いはなかった。彼もまた野球を深く愛していた。
「今年は近鉄のもんや。あの連中には負けたわ」
 そう言って微笑むとベンチをあとにした。そして静かに球場を去った。
 そして十四日近鉄はダイエーに勝ち優勝した。彼等は昨年の無念を遂に晴らしたのだ。
「長かった・・・・・・」
 仰木の胴上げのあと選手の誰かが言った。
「けれど遂にここまで来れた・・・・・・」
 戦いの後の勝利にようやくひたることができた。それを日本中の野球を愛する者が祝福した。
 あれからどれだけの年月が流れようとこの戦い、そしてブライアントのアーチの記憶は残っている。もう藤井寺で公式の試合が行われることはない。しかしその時の熱き戦いの記憶は大阪近鉄バファローズの戦士達全てに残っている。それは永遠に残る、野球の神がこの世にいる限り。

奇跡のアーチ    完



                                 2004・7・18


[167] 題名:知の戦士3 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2004年08月09日 (月) 02時25分

 トォーーーーーーーーッ!
 両手を大きく上に掲げる。するとそこにヘルメットが現われた。
 それを下に持っていく。身体が黒いバトルボディに覆われ手袋とブーツが銀になる胸も赤く変わった。その腹は白と緑である。
 ライダーーーーーマンッ!
 そしてそれを被る。両手を胸のところでクロスさせ拳を打ちつけ合う。
 ベルトの四つの風車が回転した。そしてそこから光を放つ。

「行くぞっ!」
 そして変身を終えた。そこには四人目のライダー、ライダーマンがいた。
「フフフ、変身したな」
 オニビビンバとサタンドールはその姿を見て顔を動かして笑った。
「そうじゃないと面白くないわ。早速相手をしてあげる」
 まずサタンドールが姿を消した。そしてライダーマンの後ろに姿をあらわした。
「ムッ!」
 ライダーマンは咄嗟に気配を感じ後ろを振り向いた。そして振り向きざまに攻撃を仕掛ける。
「無駄よ」
 しかしそこにサタンドールはいなかった。彼女は前に移動しそこからライダーマンに手刀を放った。
「グワッ」
 ライダーマンは怯んだ。だがすぐに態勢を立て直し反撃に移る。
 しかしそこにサタンドールはいなかった。オニビビンバの側に移っていた。
「今度はわしの番じゃっ!」
 オニビビンバはそう叫ぶと身体を前屈みにさせた。そして背中の大砲をライダーマンに向けて来た。
「ヌッ!」
 ライダーマンは咄嗟に左に走った。それを砲撃が追いかけて来る。
「速いな」
 ライダーマンは思った。だが彼も負けてはいられない。すぐに間合いを狭めようとした。
 だがそうはいかなかった。
「それはさせないわ」
 サタンドールの目が光った。不意にライダーマンの動きが止まった。
「何、どうしたことだっ!」
 動けない。何やら得体の知れない力で動きを封じられたようだ。
「オニビビンバ、今よ!」
 サタンドールはそれを見てオニビビンバに対して言った。
「うむ!」
 オニビビンバは頷くとその手に大鎌を出した。そしてそれをライダーマンに投げ付けた。
 大鎌は凄まじい唸り声をあげライダーマンに襲い掛かる。それは彼の首筋を狙っていた。
「クッ、このままでは・・・・・・」78
 かわそうにもかわせない。動くことができないのだから。
「おそらく・・・・・・」
 原因はわかっていた。サタンドールの術によるものだろう。おそらくその名が示すように妖しげな術に長けているのだ。
 そう考えている間にも鎌は近付いて来る。もう少しでライダーマンの首が切断される、その時だった。
 不意に鎌が吹き飛んだ。そして地面に叩き落とされそこで回転する。
「誰だっ!」
 オニビビンバとサタンドールはそれを見て辺りを見回した。そこで口笛が聞こえてきた。
「口笛っ!?まさか」
 彼等も口笛のことは聞いていた。咄嗟にあの男のことが脳裏に浮かんだ。
「ハッハッハッハッハッハ、どうやらジンドグマも俺のことはご存知だったようだな」
 そこで声の主が姿を現わした。
「おのれ、城茂・・・・・・」
「先程のは貴様の仕業か」
「如何にも。俺のこの力を使ったのさ」
 そう言って両手を見せる。既に手袋を脱いでいた。
「電撃は何も感電させたりするだけじゃない。こうして衝撃を送ることもできるんだ」
「クッ・・・・・・」
「残念だったな。俺にはビデオシグナルというものがある」
 過去のその場の映像を映し出すものである。これにより索敵も可能だ。
「それで貴様等がここにいることを掴んだのだ。これで形勢逆転だな」
「クッ・・・・・・」
 彼等は歯軋りした。だが今更どうにもなるものではない。
「ではいくぞ、このストロンガーの力見せてやる!」
 彼はそう言うと変身に入った。

 変身
 右腕を肩の高さで横に垂直にする。そして左腕は肘を直角に折り右腕と水平にする。
 そしてそれをゆっくりと右から左へ旋回させる。それと共に身体が黒くなり胸が厚く赤いものになる。白い手袋とブーツがあらわれる。
 スト・・・・・・ロンガーーーーーーーッ!
 両腕が左斜め上にきたところで両手を合わせる。そこに雷が宿る。
 右腕を引いた。雷は宿ったままである。
 顔の右半分は緑の眼を持つ黒い仮面に覆われる。中央には角がある。そして左半分も。
 胸にSの文字が浮かぶ。そこで電撃が全身を覆った。

「天が呼ぶ 地が呼ぶ 人が呼ぶ 悪を倒せと俺を呼ぶ
 聞け、悪人共。 俺は正義の戦士 
 仮面ライダーストロンガーーーーーッ!」
 名乗りが終わった。彼は雷を全身に包んだまま叫んだ。
「ぬうう、変身しおったか」
 二人はそれを見て舌打ちした。
「トォッ!」
 ストロンガーはエレクトロサンダーを放った。だがそれは怪人達に向けて放ったのではなかった。
 それはライダーマンを撃った。そして彼の身を捉えていた呪縛を解いた。
「これは・・・・・・」
「金縛りは往々にして衝撃で解けるもの、精神的なものだから」
「そうか、だからか」
 ライダーマンはストロンガーの話を聞き納得した。
「さあてと」
 ストロンガーは二体の怪人の方へ顔を向けた。
「これで形勢が変わったな。どうする?何なら俺が二人共相手をしてもいいが」
「ぬうう、小癪な」
 オニビビンバとサタンドールはストロンガーの言葉に顔を歪めさせた。
「待て」
 だがここでライダーマンが言葉をかけた。
「これは俺の戦いだ。悪いが今回はそこで見ていてもらおう」
「しかしライダーマン、貴方は右腕が・・・・・・」
「心配無用だ、俺の武器はアタッチメントだけじゃない」
「しかし・・・・・・」
「ストロンガー、俺を信じてくれ」
 ストロンガーはライダーマンの声を聞いた。そしてその仮面の下半分に現われている顔を見た。そこからは強い決意が感じられた。
「わかりました、ここは任せます」
 彼はそう言うと後方へ跳んだ。
「ここで最後まで見せてもらいましょう、ライダーマンの戦いを」
「有り難う」
 彼は礼を言った。そしてあらためてオニビビンバとサタンドールに顔を向けた。
「そういうことだ、貴様等の相手はこの俺だ」
「フン、その身体でか」
 オニビビンバは彼の顔を見て嘲笑を浴びせた。
「笑わせてくれるわね。アタッチメントも使えなくてどう闘うつもりなの?」
 サタンドールも同じであった。二人はジリジリと間合いを詰めてきた。
「それを今から見せてやる」
 ライダーマンは二人に気圧されることなく言い放った。
「行くぞっ!」
 そう叫ぶと前にダッシュした。そしてオニビビンバへ向けて突進する。
「フン、遅いな」
 怪人はそれを余裕の顔で見ていた。やはり他のライダーに比べて動きが遅い。
 右腕を上げた。そして炎を放とうとする。
 しかしライダーマンは次の瞬間にはそこにいなかった。彼はオニビビンバの視界から消えていた。
「ムッ、何処だっ!」
「上よっ!」
 咄嗟にサタンドールが彼をフォローして叫んだ。オニビビンバは慌てて上を見上げる。
 やはりそこにいた。そしてそこから急降下してくる。
「そうはさせないわっ!」
 サタンドールが跳んでいた。そしてライダーマンにその爪で襲い掛かる。
「甘いっ!」
 だがライダーマンは跳んできた彼女に攻撃を浴びせた。蹴りがその肩に入った。
「クッ!」
 サタンドールはその肩を押さえた。やはり空中戦では上を制しえいる方が有利であった。
 ライダーマンはそのまま急降下を続ける。そして背中から砲撃を仕掛けようとするオニビビンバに浴びせ蹴りを加えた。
「グオオッ!」
 それは後頭部を直撃した。オニビビンバは思わず前屈みになった。
 ライダーマンは着地した。そして蹲るオニビビンバに向かった。
「そうはさせないわっ!」
 だがその前にサタンドールが立ち塞がる。そしてその眼を光らせた。
「それはもう通用しないっ!」
 その瞬間にライダーマンは己が左脚に手刀を入れた。それは深く突き刺さり鮮血が流れた。
「何と・・・・・・」
 これにはさしもの怪人達も呆然とした。
「ライダーに一度見せた術は通用しない、それは知っている筈だ」
「ク・・・・・・」
「俺もライダーの一人、それを忘れてもらっては困るな」
「クッ・・・・・・」
 そうであった。ライダーマンもまたライダーなのであった。その正義を愛しその為に全てをかける男なのであった。
「行くぞ、俺の真の力見せてやるっ!」
 そう言うと今までにない速さで走りはじめた。そして怪人達を取り囲んだ。
「なっ!」
 彼等は眼を疑った。何とライダーマンが増えたのだ。
「馬鹿な、ゼクロスと同じか!?」
「オニビビンバ、それは違うわ」
 サタンドールがまず気付いた。
「素早い動きで分身しているように見えるだけ。本当は一人よ」
「成程、そうか。幻影だな」
「ええ」
 オニビビンバもそれを聞いて納得した。
「落ち着いて見れば問題はないわ。そして疲れたところを叩けばいいだけ」
「そうだな、こうした動きが何時までも続けられる筈がない」
「それはどうかな?」
 ライダーマンはオニビビンバの言葉に対して不敵に笑った。
「何もこれは分身が目的ではない」
「何っ、どういうことだ!?」
「それは・・・・・・」
 彼は口元を歪めた。
「こういうことだっ!」
 そして飛び上がった。急に竜巻が生じた。
「ウオッ!」
 二人はその中に巻き込まれた。そして大きく吹き飛ばされる。
 ライダーマンもその中にいた。だが彼はその竜巻の中を上手く泳いでいた。
「今だっ!」
 そして風の力を使い二人に向かう。そして攻撃を放った。
「ライダーマンキィーーーーーック!」
 まずはサタンドールを撃った。怪人はそのまま竜巻の外へ弾き出される。
 続けてオニビビンバに向かう。さしもの彼も竜巻の中では思うように動けない。
 だがライダーマンは違っていた。彼は風の動きを読んでいた。そしてそれに乗って動いていた。
「喰らえ」
 そしてそこで身体をドリル状にした。
「ライダーマンドリルアターーーーーーーック!」
 X3のX3ドリルアタックを模倣した技だった。彼はX3と同じように身体をきりもみ回転させながら怪人に体当たりを敢行した。
 それは怪人の胸を直撃した。オニビビンバもまた竜巻から落ちた。
 竜巻は消えた。二体の怪人はその下に蹲っていた。
「グググ・・・・・・」
 何とか立ち上がる。だが既に致命傷を受けていた。
 怪人態から人間の姿に戻る。そして着地したライダーマンを見上げた。
「勝負あったな」
 ライダーマンは立ち上がった彼等に対して言った。
「まだだ、これしきの傷で・・・・・・」
 鬼火司令はまだ前に進もうとする。だがそれはできなかった。
「ク・・・・・・」
 ガクリ、と膝をついた。それを妖怪王女が助け起こす。
「済まん・・・・・・」
 礼を言う。だが妖怪王女もそれ以上は無理だった。
 それでも二人はかろうじて立っていた。それは意地であった。
「まさか竜巻を起こしてその中で攻撃を仕掛けるとは・・・・・・」
「大した戦巧者ね」
「俺の武器はアタッチメントだけではないと言った筈だ」
 ライダーマンはそれに対して言った。
「俺は確かに他のライダーに比べてパワーは劣る。だがパワーを使わずとも戦うことはできる」
「頭脳か」
「そうだ、ならば頭脳を使うしかない」
 彼はかってその頭脳を買われてデストロンに入った。それだけあってその知力はライダー達の中でも群を抜いていた。あの本郷をすら上回るとさえ言われているのだ。
「それを忘れたのは迂闊だったな。戦いは力と技だけでするものじゃない。貴様達はそれを忘れていた」
「クッ、確かに・・・・・・」
 その通りであった。彼等はライダーマンのパワーが他のライダー達に比べて見劣りしアタッチメントさえ封じてしまえばいいとたかをくくっていたのだ。それが命取りとなった。
「わし等の完敗だな、貴様の最大の武器を忘れておった」
「戦いはパワーだけでするものじゃない、そんなことを忘れていたなんて」
 二人はガクリ、と膝をついた。
「だがな」
 それでも立ち上がった。やはり彼等にも意地があった。
「我々に勝ったとしえもまだ戦いは終わりではない。それだけは忘れるな」
「そう、いずれ貴方達は我々の前に屈することになる。それだけは覚えてらっしゃい」
「貴様等、まだそんな減らず口を」
 ライダーマンの横に来ていたストロンガーが前に出ようとする。しかしライダーマンはそれを制した。
「いい」
「しかし・・・・・・」
「これが最後だ、最後まで言わせてやれ」
「わかりました」
 ストロンガーはライダーマンの言葉に引き下がった。
「わし等を倒したことは褒めてやろう。それだけはな」
「この妖怪王女を出し抜くとは。流石はライダーきっての頭脳派」
 二人は残された時間が少ないと悟ったのかライダーマンに賛辞を与えた。
「それだけ言えばもうよい。我等は去るとしよう」
「バダンに栄光あれーーーーーっ!」
 そう言うと二人はその場に倒れ伏した。そして爆死して果てた。
「・・・・・・これで終わりですね」
 ストロンガーはその爆発を見届けてライダーマンに声をかけた。
「ああ、今までで最も苦労した戦いだった」
 ライダーマンは答えた。そして二人はエアーズロックをあとにした。
 オーストラリアの戦いは終わった。この地における指揮官鬼火司令と妖怪王女は戦死しオーストラリアのバダンは壊滅した。そしてジンドグマの四幹部は全滅した。
「・・・・・・そうか」
 メガール将軍はそれを北欧の街で聞いた。
「惜しい者達だったが」
 彼は変装し背広を着ている。どうやらこの地で何かを探っているようだ。
 その街は明るい。時計台の時計を見ると真夜中であるにもかかわらず、だ。白夜であった。
「あの時は衝突もしたものだが」
 彼はここでドグマの頃を思い出した。
 その時ドグマはテラーマクロの下最高幹部である悪魔元帥を筆頭に彼とあの四人の幹部がいた。テラーマクロと悪魔元帥は宇宙より来た者であったが他の五人は違った。もとは皆人間であった。
 だがそれでも対立があった。感情的なものであった。
 生真面目な性質でありその暗く沈んだ経歴を持つ彼はやはり明るくはなれなかった。次第にテラーマクロに従うようになる。だが他の四人は違った。
 四人は将軍程暗い生い立ちではなかった。そして元々の性質も明るいものであった。その為彼等とはうまくいかなかったのだ。彼等はよく悪魔元帥と共にあった。
「だがそれは大した問題ではなかった」
 それでも互いに認め合っていた。分裂するなど考えもしなかったのだ。
 だがテラーマクロと悪魔元帥は違った。その対立は日を追うごとに激しくなり遂には彼等は袂を分かった。これでドグマの分裂は決定的となった。
 彼も悪魔元帥や四人の同志達に誘われた。しかし彼はテラーマクロに従った。
「ならばよい。そなたの好きにするがいい」
 それを聞いた悪魔元帥は静かにそう言った。彼は将軍の能力を高く買っていた。だがそれと共にその暗く絶望に満ちた心も知っていた。
「だが忘れるな」
 元帥はドグマを出て行く時に彼に対して言った。
「そなたの力を買っている者がいる。そしてその全てを知っている者もいるということをな」
 それはスカウトの言葉だったのだろうか。だが将軍はドグマに残った。そしてテラーマクロと共に仮面ライダースーパー1と戦い散った。そして今甦りこの地にいる。
「私の生涯は絶望に満ちている」
 彼は呟いた。
「だが一人ではない。そしてこれからも」
 無意識にその首にあるペンダントを握った。
「スーパー1、貴様という敵もいる」
 そして今度は仮面ライダースーパー1のことを脳裏に浮かべた。
「今度こそ貴様を倒す。そしてあの力を世界に示す」
 彼はそう言うとその場をあとにした。
「この白夜も終わる」
 ふと白い空を見上げた。
「永遠にな。あとは絶望が支配するだけだ」
 そして何処かへ消えた。あとには影も残らなかった。

「まさか二人共倒すとは思いませんでしたよ」
 シドニーである。オーストラリア第一の都市と言われる。面白い形をしたオペラハウスもある港町である。
「俺もライダーだ。必要とあれば戦うさ」
 結城は城に対して答えた。
「竜巻を作ってその中で戦うとは。あれは何処から考え付いたんですか?」
「ああ、あれか」
 結城はそれを聞かれ顔を向けた。
「ショッカライダーの話は知っているだろう?」
「ゲルショッカーが一号と二号をコピーして開発した六人のライダー達ですね」
 その時ライダー達の活躍により劣勢に追い込まれていたゲルショッカーが発動した作戦である。これによりライダー達とアンチショッカー同盟を壊滅させるつもりだったのだ。
「かなり苦戦したと聞いていますけれど」
 その通りであった。日本に集結したダブルライダーも流石に六人のライダーを前に苦戦した。彼等は自分達と同程度の力だけでなく怪人の能力も備えていたのだ。しかも怪人の援護もあった。
 アンチショッカー同盟はゲルショッカーにより壊滅させられた。だがダブルライダーは屈しなかった。立花藤兵衛の特訓を受け一つの技をあみだしたのだ。
「それがライダー車輪だ」
 結城は言った。
 それは大掛かりな技であった。ダブルライダーはショッカーライダー達の周りを全力で走りそこに竜巻を作る。そして跳ぶ。それを追ったショッカーライダー達は竜巻に巻き込まれそこで互いに衝突して爆死した。そして彼等はその圧倒的な劣勢をものともせずショッカーライダーに勝利を収めたのだ。
「あれは見事な勝利だった。俺はそれを応用したんだ」
「そうだったんですか」
 城はそれを聞いて大きく頷いた。
「そして奴等を竜巻に巻き込んだ。一か八かだったが上手くいったよ」
「結城さんもいざという時は思い切ったことをやるんですね。ちょっと意外ですよ」
「俺も勝つ為にはこの身をかけるさ。そうでもしなければバダンには勝てない」
「・・・・・・はい」
 城にもそれはわかっていた。事実彼も何度も賭けを行なっている。
「そして俺は勝った。けれど少し代償が高くついたな」
「どうかしたんですか?」
「いや、右腕がね」
 彼はそう言って自分の右腕を見せた。アタッチメントのある腕である。
「竜巻の衝撃でアタッチメントの調子が回復しない。やはり一人で竜巻を作るのは無理があったようだ」
「アタッチメントが・・・・・・」
「暫くの間戦列を離れる。日本に戻っておやっさん達と一緒にじっくりと直させてもらうよ」
「そうですか」
「すぐ戻る、安心してくれ」
 結城はここで微笑んで城に対して言った。
「そしてその時また戦おう。バダンを倒す為にな」
「ええ、お願いしますよ」
 城はそう言うと左腕を差し出した。彼の右腕を見てのことだ。
「バダンを倒すには結城さんの力が必要です。万全の調子にして戻って下さい」
「ああ、わかっている」
 結城はそう言って左腕を出した。
「俺は必ず戻って来る」
「楽しみにしていますよ」
 二人はそう言うと固く握り合った。
「じゃあまた会おう。戦場で」
「はい、頼りにしていますよ」
 二人はそう言うとその場で別れた。城はシドニーに残った。この地に残っているかも知れないバダンの残党を掃討する為である。
 結城は空港へ向かった。当然日本へ帰る為である。
「シンガポール経由東京行き」
 アナウンスが響き渡っている。
「あれか」
 結城はそのアナウンスが伝える方へ向かった。
 そして彼は空港から姿を消した。やがて日本へ向かう便が空へ飛び立った。


 知の戦士     完




                                    2004・6・8


[166] 題名:知の戦士2 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2004年08月09日 (月) 02時21分

 場所は変わる。イギリス、ロンドンである。
 この霧の都にはロンドン塔というものがある。かってはここで多くの者が首を刎ねられている。
 その血生臭い塔に今二人の男がいた。
「そうか、あの二人がここに向かっているか」
 ブラック将軍である。彼は塔の断頭台を見ながら傍らにいる男の話を聞いていた。
「うむ、先程俺の手の者が確認した。カレーで合流しこちらへ来る船に乗り込んだそうだ」
 傍らにいる男はゾル大佐である。かってショッカー、ゲルショッカーにおいてその悪名を欲しいままにした伝説的な魔人達である。
「カレーか。ならばこのロンドンに来るのもすぐだな」
「既に俺の手の者には全て警戒態勢をとらせている。貴様もすぐにそうした方がいい」
「それはわかっている。すぐにそうさせてもらおう」
 彼はそう言うと側に控える戦闘員の方を振り向いた。
「話は聞いたな。すぐにこのロンドンにいる者全員に伝えよ」
「ハッ」
 戦闘員は敬礼した。そしてその場からすぐに立ち去った。
「これでいいな」
 彼はゾル大佐の方を向き直って問うた。
「ああ、流石だ」
 大佐はそれを見て素直に賛辞を送った。
「だがそれだけでは足りぬな」
「というと?」
「奴等が我々のこの地での作戦を勘付いているならば」
 大佐は言葉を続けた。
「我々も直接出向かなければなるまい」
「我々がか」
 将軍はそれを聞いて呟いた。
「面白いではないか。ようやく積年の宿根を晴らす時が来たのだ」
「積年の宿根か、確かにな」
 大佐はそれを聞き呟いた。
「あの時の恨み、忘れられるものではないな」
 ここで彼はかって仮面ライダー二号と戦い敗れたことを思い出した。
「一度は偉大なる首領の御力で甦らせて頂いたが」
「だがそれもほんの僅かのことであった」
 ブラック将軍もそれは同じであった。彼等はデストロンの時に一度甦っている。だがあえなく倒れたのである。
「貴様とて覚えていよう。あの屈辱を」
 大佐は言葉こそ通常であったがその声は激昂していた。
「当然だ。それを晴らせるとなれば迷うことはない」
 将軍もそれは同じであった。
「待っておれ、ライダー達よ」 
 そして眼下のロンドンの市街を見下ろした。
「この霧の都を貴様等の墓場にしてくれる」
 そう言うとその場から立ち去った。そしてあとには霧だけが残った。

 結城と城は荒野をバイクで進んでいた。何時しか牧場もなくなりそこは無人の荒野となっていた。
「オーストラリアってのもバラエティにとんだ国ですね」
 城が結城の隣にきて言った。
「その言葉はちよっと違うと思うがな」
 結城は彼の言葉に少し首を傾げた。
「しかし様々な地形があるというのは事実だな」
「はい、海はあるし大草原はあるしこうした荒野はあるし。見ていて飽きませんね」
「確かに。ここまで進んで風景に飽きたことはないな」
 彼は頷きながら言った。
「アメリカも色んな場所があるがこの国もそうだな。面白い国だ」
「そうですね。けれど毒蛇が多いのは困りものですが」
「それは何処にでもいるだろう。御前さんがこの前いた東南アジアでも結構いるだろうに」
「そりゃそうですけれど」
 東南アジアは確かに毒蛇の種類が豊富である。だがオーストラリアもかなりの多さである。意外にもあまり知られていないがこの地域は毒蛇が多いのである。有袋類だけがオーストラリアではないのである。
「こんなに多ければバダンの奴等に利用されそうで嫌ですね」
「まあ連中は毒も得意だからな。それで何度やられたか」
 これもショッカーからである。バダンも毒を使うことを得意としている。
「ムッ!?」
 その時であった。急に二人の前を数枚のカードが取り囲んだ。
「これはっ!?」
「シャドウか!?」
 だがそれはゼネラルシャドウではなかった。その証拠にトランプのカードではなかった。黒い普通のカードであった。
 それでも敵のものであることに変わりはなかった。そこから戦闘員達が姿を現わしたのである。
「クソッ、待ち伏せかっ!」
 二人はバイクで彼等を振り切ろうとする。だがそれに対しロープをかけてきた。
「ウオッ!」
 ロープは二人を絡めた。そしてそれで動きを封じようとする。
 しかし二人の力がそれに勝った。二人は上に跳ぶとそのロープを渾身の力で引き千切った。
「今度はこちらの番だっ!」
 二人は変身していた。そしてそのまま戦闘員達へ急降下した。
 戦闘員達を拳で次々と倒していく。そこへ怪人達が姿をあらわした。
「イーーーーーッ!」
 ゴッド悪人軍団の一人アリカポネである。だが彼だけではなかった。
「ギュルギュルギュル!」
「キーーーーーーーッ!」
 ブラックサタンの地中怪人奇械人アリジゴクとジンドグマの鍵爪怪人キーマンジョーもいた。ストロンガーが彼等の前に出た。
「ライダーマン、この連中の相手は俺がっ!」
 ストロンガーは迷うことなくその三体の怪人に向かった。
「済まない!」
 ライダーマンは既に戦闘員達に取り囲まれていた。彼はそれを見て怪人達に向かったのだ。
「エレクトロサンダーーーーーーッ!」
 ストロンガーは早速攻撃を仕掛けた。まずは奇械人アリジゴクがそれを受けた。
「ギュルーーーーーーーッ!」
 怪人は断末魔の叫びをあげるとその場に爆死した。だがストロンガーは息をつく暇もなく残る二体の怪人の相手をはじめた。
 ストロンガーは怪人達と戦っていた。ライダーマンはそれに対して戦闘員達を相手にしている。
「イィーーーーーーーッ!」
 怪人達は奇声を発し襲い掛かる。ライダーマンはそれを一人一人確実に仕留めていく。
 そこに新手が来た。ネオショッカーの化石怪人ザンヨウジョーである。
「やはり怪人も!」
「ジュラーーーーーーーッ!」
 怪人は答えるかわりに奇声を発し襲い掛かって来た。ライダーマンは戦闘員達を全て退けると怪人に向かって行った。
 アタッチメントを装填する。ネットアームだ。
「喰らえっ!」
 そしてネットを発射する。怪人はその中に捉われてしまった。
 だがすぐにそれを引き千切り中から出て来た。だがライダーマンはそれより前に既に間合いを詰めていた。
 アタッチメントを再び換える。今度はドリルアームだ。
「これでどうだっ!」
 そしてそれで突きを入れる。ドリルが怪人の胸を刺し貫いた。
「ジュラッ!」
 怪人は苦悶の声をあげる。ライダーマンはその声を聞き勝利を確信した。
 だがそれは誤りであった。怪人はまだ最後の力が残っていたのだ。
 ザンヨウジョーは爆発する直前に口から化石ガスを吐いた。それはライダーマンの右腕を狙っていた。
「ムッ!」
 ライダーマンは不覚をとった。右腕にそのガスを受けてしまったのだ。
 右腕に痛みがはしる。だがそれでも爆発をさけ後ろに跳び退いた。
「ライダーマンッ!」
 ストロンガーが心配し声をかけようとする。だがそこに怪人達が襲い掛かる。
「クッ!」
 ストロンガーは止むを得ず後ろを振り向く。そして攻撃を放った。
「電パァーーーーンチッ!」
 それでアリカポネを退けた。続けて上に跳んだ。
「トォッ!」
 そして空中で一回転した。
「ストロンガー電キィーーーーーーーック!」
 そして蹴りを放った。キーマンジョーはその直撃を受け吹き飛んだ。
 二体の怪人はそれで爆死した。ストロンガーはそれを見届けることはせずライダーマンの方へ駆け寄った。
「大丈夫ですかっ!?」
 そして右腕を押さえ蹲る彼を気遣った。
「ああ、何とか」
 彼の身体は無事であった。だが肝心のアタッチメントが損傷していた。
「これはまずいですね」
「・・・・・・ああ」
 それはライダーマン自身が最もよくわかっていることであった。彼の戦力はこのアタッチメントがほぼ全てなのだから。
「とりあえずは修理する必要がある」
 彼は化石化した腕を見ながら言った。
「だが数日はかかるな」
「数日、ですか」
 ストロンガーはそれを聞いて表情を暗くさせた。その数日が命取りになるかも知れないからだ。
 
「上手くいったな」
 それをモニターから見る者達がいた。
「これでライダーマンは翼をもがれたも同様だ」
 それは鬼火司令であった。
「あとはストロンガーを引き離せばいいだけ。本当に楽ね」
 妖怪王女もいた。彼等はモニターに映るライダーマン達を見て笑っていた。
「奴等はここへ向かっているのだな」
「ええ」
 妖怪王女は答えた。
「ならば問題はない。ここへ来たところを倒すとしよう」
「そうね、まずはストロンガーを引き離さないと」
「何か策はあるか」
「それは任せて」
 妖怪王女はそう言うと笑った。
「こうしたことは得意だから」
「そうか、ならば期待しておるぞ」
 鬼火司令はそれを聞いて顔を崩した。
「それでは行くとするか」
「ええ。ライダーマンの首を獲りに」
 二人は顔を向けて頷き合うとその場をあとにした。そして戦場へ向かった。

 結城と城はそのままオーストラリアの奥深くを進んでいた。そしてある岩山を見つけた。
「どう思います?」
 城はその岩山を指差して結城に尋ねた。
「そうだな」
 結城もその岩山を見た。一見普通の岩山だが何処か妙な雰囲気だ。
「調べてみよう。何かあるかも知れない」
「わかりました」
 二人は頷き合うとバイクを降りた。そしてその岩山を登った。
 そして表面を調べ回った。やがて戦闘員を発見した。
「やはり」
 咄嗟に物陰に隠れる。そしてその戦闘員の動きを見張った。
 戦闘員は穴の中へ入って行く。どうやらそこが入口らしい。
「行きましょう」
「ああ」
 二人はその穴の中に入った。そこは薄暗い洞窟だった。
「気をつけていこう」
「はい」
 二人は前後左右を警戒しつつ進んで行く。城はその時ふと尋ねた。
「右腕の様子はどうですか」
「あまり思わしくはないな」
 結城は深刻な声で答えた。
「普通に動かすことはできるがアタッチメントとなると無理だ。装填できるまでにはまだかかる」
「そうですか。じゃあ今回は俺が奴等を叩きますよ」
「いや、その必要はない」
 結城はその申し出に対し首を横に振った。
「俺も戦わせてもらうよ」
「しかしその腕じゃあ・・・・・・」
「大丈夫さ、俺の武器はこの右腕だけじゃない」
 彼は微笑んで言った。
「それを見せてあげるよ」
「そうですか・・・・・・」
 だが城は不安であった。強化されたとはいえライダーマンの戦闘力は他のライダー達と比べると見劣りする。そしてアタッチメントがなくてはそれはさらに落ちるのだ。
 二人はそのまま進んだ。そして道を曲がった時だった。
「ムッ!」
 突如落とし穴が開いた。結城はその中に落ちた。
「結城さんっ!」
 城は驚いて手を差し伸べようとする。だが間に合わなかった。彼はそのまま奈落へと落ちて行った。

 どれだけ落ちたであろうか。結城は足で受け身をとり着地した。そして周りを見回す。
「ここは・・・・・・」
 そこは巨大な空洞の一室であった。見たところ何もない。
「てっきり罠でも仕掛けてあると思ったが」
 やはり何もなかった。彼はすぐに道を見つけた。そしてそこを進んでいく。やけに曲がりくねり長い道であった。
 どれだけ歩いただろうか。やがて前に光が見えてきた。
 結城はそちらへ向かった。するとそこから外に出ることが出来た。
「ここは・・・・・・」
 そこは何度かテレビや本で見たことのある場所であった。オーストラリアで最も名の知られた場所の一つである。
 先住民であるアボリジニー達の聖地でもある。巨大な岩石のテーブルである。結城は今その上にいたのだ。
「まさかこんな場所に出るとはな」
 結城は周りを眺めながら思わず呟いた。
「噂には聞いていたが凄い場所だ。見渡す限り赤い絨毯だ」
「そう、確かに赤い絨毯だな」
 そこで何者かの声がした。
「・・・・・・やはり来たか」
 結城はその声に対し振り向いた。そこには二人の敵がいた。
「今は岩の絨毯だが」
 一人は鬼火司令である。
「もうすぐ貴方の赤い血で染まることになるのよ」
 もう一人は妖怪王女である。二人は既に勝ち誇った笑みを浮かべている。
「それは俺を倒すという意味だな」
「当然」
 二人は同時に言った。
「幽霊博士と魔女参謀の仇をとる為にも」
「貴方のアタッチメントをいただくわ」
 二人は左右に散りそれぞれ身構えた。
「そうか、その為に俺を落とし穴に落としここまで来させたのだな」
 結城は全てを察した。
「そうだ、仮面ライダーストロンガーと引き離す為にな」
「貴方一人を倒す為に」
 二人に抜かりはなかった。そしてライダーマンを左右から取り囲んだ。
「では見せよう、我等の真の姿を」
「とくと御覧あれ」
 そう言うと鬼火司令は左手から炎を出しそれを地面に打ち付けた。妖怪王女はその仮面を取った。
 炎が彼の全身を包む。やがてそれが消えた時顔が髑髏になり右腕は大砲になっていた。胸も赤く変形し背にも大砲があった。
 妖怪王女のスカートが伸びた。足全体を覆い服が厚くなる。そしてその髪が伸びた。
「それが貴様等の正体か」
 結城はそれを見て言った。
「そうだ、これがわしの真の姿、オニビビンバだ」
「同じくサタンドール」
 二人はそれぞれ名乗った。
「さあ結城丈二、いやライダーマンよ」
 オニビビンバは結城に対して言った。
「貴方も変身するがいいわ。そうでなくては面白くとも何ともないわ」
 サタンドールが続けた。そして間合いを離す。
「そうか、ならば」
 結城はそれを聞いて身構えた。
「見せてやろう、ライダーマンの力を!」
 そう言うと変身に入った。


[165] 題名:知の戦士1 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2004年08月09日 (月) 02時19分

                知の戦士
「またしても戦死者が出たというのか」
 ドクトル=ゲーは北欧にいるメガール将軍と会っていた。そして幽霊博士と魔女参謀の戦死の報告を聞いて思わず声を漏らした。
「そうだ、中国でな」
 将軍は顔を俯けて答えた。彼にとっては袂を分かったとはいえかっての仲間であった。
「惜しい者達をなくしたな。相手は誰だ?」
「仮面ライダーX3と仮面ライダー]だ」
「ほう、奴だったか」
 ゲーはそれを聞いてその暗い目に光を宿した。
「やはりそうそう簡単には倒れぬか」
 笑みを浮かべた。ゾッとする笑みだった。
「楽しそうだな」
 将軍は彼のそんな様子を見て言った。
「うむ、そうでなくては張り合いがない」
 どうやら彼と戦う事を楽しみにしているようだ。
「仮面ラァーーーーイダX3を倒すことは我が悲願だ。私がデストロンにいた時からな」
 彼は凄みのある笑みに変えた。
「この斧が叫んでおる。奴の血を飲ませろと」
「それはお主自身の心ではないのか?」
 メガール将軍はそんな彼を見て言った。
「そうかも知れぬな。だがそれでもよい」
 彼はその陰惨な笑みを崩さない。
「私はあの男を倒すことだけで今までこのバダンにいるのだからな」
「そうか。それは私と似ているな」
 彼はそれを聞いて顔に陰を作った。
「スーパー1とか」
「うむ」
 小さな声を出して頷いた。
「その為に今もこの姿でいる」
 彼の声は沈んだものになっていった。
「そうか」
 ゲーもそれ以上は聞こうとしなかった。そして踵を返した。
「帰るのか」
「うむ、こちらも何かとあってな」
 彼は振り向いて答えた。
「あの男と戦う時が近付いているしな」
「そうか、期待しているぞ」
「お主もな、必ずやあの男を倒すがいい」
「わかった」
 ドクトル=ゲーは言葉を送ってその場をあとにした。そして彼等はそれぞれの作戦行動に入った。

 城茂はインドネシアでの戦いのあとオーストラリアに来ていた。そして今中央部をバイクで走っていた。
「凄いところだな。見渡す限りの草原か」
 そしてその中を羊達が歩いている。のどかな光景であった。
「そういえば最近は砂漠とかバリ島とかで戦っていてこうしたところとは無縁だったな。たまにはこんな所でのんびりとしたいもんだ」 
「だがそうは上手くいかないぞ」
 ここで後ろから声がした。
「?」
 城はその声に対し振り向いた。そこには彼と同じ戦士がいた。
「あれ、結城さんもここに来たんですか!?」
 彼は結城の姿を認めて言った。
「ああ、アメリカからな。あの地には村雨君がいるし彼に任せることにした」
「へえ、アメリカにはあいつがいるんですか」
 彼はそれを聞いて意外そうな顔をした。
「ああ、シアトルで早速デルザーの改造魔人を倒したそうだ」
「デルザーの?どいつですか?」
「ヘビ女らしいぞ」
「ヘビ女ですか。それはやりましたね」
 彼はヘビ女には苦戦させられてきたのだ。
「嫌らしい奴でしたよ。マントを使ったり催眠術を使ったり」
「彼もルミちゃんを人質にとられたりして苦戦したそうだけれどね」
「あいつのやりそうなことですね。いや、まだ奴にしては正攻法ですよ」
「そうだな。しかしそれも彼は打ち破った」
 結城はそう言うと伝え聞いたシアトルでのゼクロスの戦いぶりを城に話した。
「何か忍者みたいですね」
 聞き終えた彼の最初の言葉はそれであった。
「ああ、俺もそう思った」
 結城もそれに同意した。
「分身に煙幕に手裏剣だからな。実際に隠密行動も得意だし」
「そういえばそうしたライダーって今までいませんでしたね」
「ああ。何だかんだ言って皆派手だからな」
「俺は地味ですけれどね」
「何言ってるんだ、君が一番派手だよ、普段のその服も」
 そう言って城のSの字が入ったシャツや薔薇の刺繍が入ったジーンズを指差した。
「そうですかねえ。俺はもっと目立つ格好をしたいんですけれど」
「それ以上目立ってどうするんだ」
 二人はそんな会話をしながら西へと向かっていた。
 
 オーストラリア中央部。ここは荒地となっている。アボリジニー達にとっては聖地と言われる場所も多い。
 その中の岩山の一つ。そこに今バダンの者達がいた。
「異常はないな」
 戦闘員が同僚に対して問うた。
「ああ、今のところは」
 問われた戦闘員が答えた。
「そうか。じゃあ交代だ」
「よし」
 彼等はそう言うと敬礼し合い歩哨を代わった。
 警戒はかなり厳重である。それをモニターから見る男は満足そうに笑った。
「フッフッフ、皆気合が入っておるな」
 鬼火司令であった。彼はそれを見て満足気である。
「機嫌がいいようね」
 そこに妖怪王女がやって来た。
「当然だ。ここまで厳重な守りはそうそうないぞ」
「そうかしら。そんなこと言っていつもライダー達に遅れをとっているのは何処の誰かしら」
「・・・・・・それはお互い様じゃろうが」
 彼は急に顔を不機嫌にさせて言った。
「だが今回はそれは許されんぞ」
「・・・・・・わかっているわ」
 妖怪王女は頷いた。その表情にはいつもの笑みはない。
「二人の仇をとる為にな。必ずやあの男を倒さなければならん」
「ええ」
 二人はそう言うとモニターのスイッチをVTRに変えた。
 そこにはライダーマンが映っていた。今までの戦いの映像である。
「やはり戦闘力自体は大したことはないな」
 鬼火司令はデストロンとの戦いを見て言った。
「そうね、それは今も変わらないみたい」
 妖怪王女も言った。確かに怪人には分が悪いようである。
「これでよく今まで勝てたものだ。アタッチメントのせいか」
「そうね、おそらくこれがなければとっくの昔に倒されていたわ」
 彼等はそう分析した。
「それでは戦い方は決まったな」
「ええ、まずはアタッチメントを潰しましょう。私達が出るのはそれから」
「うむ」
 こうして二人は映像を切った。そしてその場をあとにした。

 城と結城は相変わらずオーストラリアの真ん中を進んでいた。今は休息をとる為通り掛かった小さな村に入ろうと
していた。
「しかしこんなに大きいのに人はあまりいませんね、オーストラリアって」
 二人はバイクを止め村の中に入っていた。城がヘルメットを置きバイクから降りて結城に言った。
「ああ、アメリカとはかなり違うな」
 結城もそれに同意した。彼は今までアメリカにいただけありその比較がよくできた。
「同じ英語の国でも事情もかなり違っているしな、どちらかというとこの国はのんびりしている」
「そうですね。ここに来るまでよくのどかに羊と一緒に寝ている人を見ましたよ」
 オーストラリアは農業も盛んである。特に牧畜は有名である。羊はオーストラリアの人々にとって切っても切れないものである。
「この村もそうみたいだな。周りに牧場が多い」
「ええ。何か俺達ここ何日か人より羊の方をよく見てますよ」
「そう言うと何だかモンゴルみたいだな」
「ははは、敬介さんと場所が変わったみたいですね」
「おお、そういえばそうだな。けれどモンゴルというにはここは暑過ぎるな」
「荒野も多いですし」
「おいおい、それはもうちょっと先の方だぞ」
 二人はそうした話をしながら村の中を進んだ。そして一つの小さなレストランに入った。木で造られた何処か西部劇に出て来るようなレストランである。
「いらっしゃい」
 中には白い口髭を生やした体格のいい男がいた。ジーンズにウエスタンハットを身に着けている。
「お、アジアから来たのかい」
 彼は二人の顔を見て言った。
「ええ」
 二人は頷いた。どうも悪感情はないようでそれは安心した。
「日本人かい、それとも中国人かい?」
「日本人ですけれど」
 結城が答えた。それを聞いて男は少し考える顔をした。
「そうか、日本人か」
 彼は少し残念そうな顔をした。
「どうかしたんですか?」
 城が彼に問うた。
「いや、うちはレストランなんだがな」
「ええ、それはわかります」
 変な話をする、結城はそう思った。
「肉料理は羊のものしかないぜ、何しろそれだけには困らないから」
 どうやら羊料理のレストランのようだ。
「あ、そうなんですか」
「それでいいかい?羊が駄目ってのなら悪いが他の店をあたってくれ」
「構いませんよ、別に」
 城が答えた。
「俺達は羊も大好きですから」
「へえ、そりゃ珍しいね」
 男はそれを聞いてふと目を広げた。
「日本人ってのはあまり羊は好きじゃないから。匂いが駄目だそうだが」
「まあ独特の匂いですね」
 結城はそれを聞いて言った。肉食文化が入って日が浅いせいか日本人は羊に馴染みが薄い。そして匂いが駄目だという人が多い。思えば残念なことである。
「わしにとっちゃあ魚の匂いのほうが駄目なんだが。まあ人の好みってやつがあるからな」
「俺はあの匂いがたまらないんですけれどね。じゃあ早速いただけますか?」
「おお、ちょっと待ってな」
 彼はそう言うと店の奥に入った。そしてサラダの山を持って来た。
「まずはこれでも食って腹を落ち着かせてくれ」
「はい」
 レタスと豆、そしてトマトのサラダである。キーウィも入っている。
 それを食べていると男はカウンターのところで肉を焼いていた。その音と香りが二人の席の方にまでやってくる。
「いい匂いですね」
「ああ、焼きあがるのが楽しみだ」
 やがて肉が運ばれてきた。マトンのステーキだ。かなり分厚い。
「お待ちどうさん、腹一杯食ってくれ」
 男は二人の前にそのステーキを置いた。二人は早速ナイフを入れて口に含んだ。
「お、美味いや」
 まず城が言った。
「本当だ、柔らかいし。かなり上等の肉だな」
 結城も同じだった。二人はソースもかけずに塩と胡椒の味付けもままその肉を味わっている。
「美味いだろう、何せこの村の羊だからな」
 男はニンマリと笑って言った。どうやら美味しいと言われたのが余程嬉しいらしい。
「この村の羊は特別でな、毛もたっぷりととれるし肉も最高なんだ。何しろいつも賞をとっている位だからな」
「羊毛もですか」
「そうだ、他のとこの羊の毛と比べても全然違うぜ」
 彼は益々機嫌をよくした。
「わしも今までオーストラリア中を歩き回ってきたがここの羊に勝ってるのは見たことがない。それ程ここの羊は素晴らしいのさ」
 かなり羊に思いいれがあるようだ。彼の機嫌はさらによくなっていく。
「今日は気分もいい。どんどん焼いてやるよ」
「えっ、本当ですか!?」
「ああ、オーストラリアの男ってのは気前がいいんだ、それをたっぷりと教えてやるよ」
 そう言うとカウンターに戻った。
「ビールもたんまりあるぜ。良かったら飲んでくれ」
「はい!」
 こうして二人は羊とビールを心ゆくまで堪能した。そして店を後にした。
「お金も安かったですね」
「そうだな、あれだけ食べてあの程度ですむとは思わなかったよ」
 二人はビールで赤くなった顔を向け合いながら話した。息もビール臭い。
「オーストラリアってのは食べ物は安いと聞いていたけれどこれ程とは思いませんでしたね」
「ああ、何か得した気分だ。ところで今バイクの乗るのはまずいな」
「ええ。流石に」
 城も苦笑した。
「少し酔いを醒ましに行くか」
「了解」
 こうして二人は牧場に向かった。
 牧場では羊達がのどかに草を食べていた。二人はその中を歩いている。
「たまにはこうしたところを歩くのもいいですね」
「うん、戦いばかりでは疲れてしまうしな」
 二人は気分よく草原を歩いている。
「戦いが終わったらこうしたところでのどかに暮らすのもいいですね」
「そうだな、これまでのことを全部忘れて」
 二人はまだ来ぬ平和を夢見ていた。その為には勝たなくてはならない、それもよくわかっていた。
 そしてその場に腰を下ろした。そこへ何者かが襲い掛かって来た。
「ムッ!」
 二人は咄嗟に左右に跳んだ。敵は下から来た。
「フェフェフェフェフェフェ」
 ショッカーの蟻酸怪人アリキメデスであった。怪人は地中から襲い掛かって来たのだ。
「こんなところにまで来るとはな」
 二人は既に変身を終えていた。そして地中から這い出て来た怪人と対峙した。
「俺もいるぞ!」
 そこに上から声がした。
「ウワッ!」
 二人に向けてミサイルが放たれた。二人は慌てて跳びそれをかわした。
「上からもかっ!」
 デストロンツバサ一族の木霊ムササビであった。怪人は上空を舞っている。
 見れば戦闘員達もやって来た。そして二人を取り囲んだ。
「木霊ムササビは俺が!」
 ストロンガーは急降下してきた木霊ムササビを掴んで地に引き摺り落とした。
「わかった、ではアリキメデスは俺がやる!」
 ライダーマンはそれを受けてアリキメデスへ向かった。その前を戦闘員達が立ちはだかる。
「行くぞっ!」
 ライダーマンはアタッチメントを装填した。パワーアームである。
 それで戦闘員達を切り裂いていく。そして彼等を退け怪人の前に来た。
「来たか」
 怪人はそれを見ると頭を前に突き出した。そして触覚から赤い液体を出した。
「ムッ!」
 それはライダーマンに向けて放たれた。だがライダーマンはそれを斜め前に跳びかわした。
 着地と同時にアリキメデスに向けて跳ぶ。そして跳びながらアタッチメントを換装した。
「アリは硬い甲殻に守られている」
 彼はアリの身体のことを考えながらアタッチメントを換えていた。
「ならばこれが有効だっ!」
 そう言うと分銅を取り付けた。
「スウィングアーーームッ!」
 打撃用のアームである。そしてそれで怪人の頭部を打ち付けた。
「ギャッ!」
 怪人は思わず叫び声をあげた。どうやらライダーマンの分析は正しかったようだ。
 ライダーマンはそのまま攻撃を続ける。最初の攻撃で怯んだ怪人はそのまま打たれるがままだった。
 最後の一撃が頭を打った。怪人はこれで倒れた。
 ライダーマンは後ろへ飛び退いた。怪人は爆死して果てた。
 その時ストロンガーは木霊ムササビと死闘を繰り広げていた。
 怪人が再びミサイルを放ってきた。ストロンガーはそれに対し両手を身体の前に突き出した。
「磁力扇風機っ!」
 そしてそれでミサイルを巻き込む。ミサイルはあえなく爆発した。
「アアアア」
 怪人はそれを見て驚愕の色を浮かべた。だがすぐに気を取り戻し襲い掛かった。
 だが接近戦ならストロンガーの方が分がある。彼は怪人に攻撃を加えダメージを与えた。
「トォッ!」
 そして空中に投げた。怪人はそれに対し必死でバランスを取ろうとする。
 しかしストロンガーの方が動きが速かった。彼は空中に跳んでいた。
「スクリューーーーキィーーーーーック!」
 身体を回転させて蹴りを放った。空中でそれを受けた怪人は遠くまで吹き飛ばされ爆発四散した。
「やはりここにいたか」
 ストロンガーは着地して怪人の爆炎を見上げながら呟いた。
「ああ。予想通りだな」
 ライダーマンがそこにやって来た。既に戦闘員達も皆地に伏している。
「このオーストラリアで何を企んでいるかは知らんが」
 ライダーマンは強い口調で言った。
「俺達がいる限り好きにはさせないっ!」
 ストロンガーも同じく強い声で言った。そして二人の戦士は牧場をあとにした。


[164] 題名:竹林の戦い2 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2004年08月09日 (月) 02時16分

 重慶で神敬介は一人市場を回っていた。
「ここは辛い料理で有名だけれど」
 中華料理といっても色々ある。四川料理は辛い味付けで知られている。
「何を食べようかな。そういえば四川料理は本格的に食べたことはなかったな」
 彼は商店街に向かった。そこでは一つ大きなレストランが目立っていた。
「百酒飯店か」
 店の看板はかなり巨大なものであった。そして文字が筆で書かれている。
「どれ、ここにしようか」
 そして彼はその店に入って行った。
 暫くして神は店から出て来た。その顔は満ち足りたものであった。
「ふう、美味かったな」
 彼は満足した顔でそう言った。
「思ったより辛くないな。唐辛子のせいかな」
 実は日本の唐辛子と四川省の唐辛子は違う。日本のものはかなり辛めなのだ。
「俺は日本の唐辛子の方がいいなあ。けれど四川料理には確かにここの唐辛子が合っているや」
 料理とはその地域の風土と密着している。従って素材もその地域のものが一番合うのだ。
「さて、と。市場に戻るか」
 彼は市場に戻って行った。
 その時風見志郎も重慶にいた。
「ようやく着いたか」
 彼は重慶駅から降り立ってまずは口を開いた。
「途中で線路が破壊されているとはな。誰がやったかは知らないが」
 彼は考えながら道を進む。
「この辺りで不穏な動きは聞かないな。やはりバダンか」
 駅のすぐ側は市場である。ふとそこが目に入った。
「市場で情報を仕入れるか。何かわかるかも知れない」
 そしてふらりと市場に向かおうとした。その時であった。
「おのれ、バダン!」
 市場が突如喧騒に包まれた。そして誰かが前に出て来た。
「あれは・・・・・・」
 風見は彼の姿を認めて目を見張った。
 ]ライダーはライドルを手にしていた。そして戦闘員達を相手に戦っている。
「ここにまでいるとはなっ!」
 ライドルを振るい戦闘員達を倒していく。そこに怪人が姿を現わした。
 無気味な赤い怪人である。ブラックサタンの憑依怪人サソリ奇械人である。
「ショエーーーーーーッ!」
 怪人は奇声と共に]ライダーに向かって来た。
「やはり来たかっ!」
 ]ライダーはライドルを手に怪人に向かって行く。だがそこにもう一体来た。ネオショッカーの剣豪怪人マダラカジンであった。
「クッ、もう一体いたのか・・・・・・」
 前後から挟み撃ちを受けた。それは何とかかわした。だが怪人達はジリジリと追い詰めてきた。
「ムムム・・・・・・」
 ]ライダーはライドルをホイップに変えた。そして斬り合いに持ち込もうとする。その時だった。
「待てっ、加勢するぞっ!」
 そこに赤い仮面の男が現われた。
「X3!」
「]ライダー、助けに来たぞっ!」
 X3はそう言うと]ライダーの前に出た。そしてサソリ奇械人の前に向かった。
「こいつは俺に任せろっ!」
「はい!」
 ]ライダーはそれに対して頷くとマダラカジンに向かっていった。
 二人のライダーは駅前でそれぞれ怪人達を相手に戦いをはじめた。やはり一対一ではライダー達に分があった。
「トォッ!」
 X3が拳を振るった。それによりサソリ奇械人の顎が砕けた。
 X3の攻撃は終わらない。続けて蹴りが入る。そして次には跳躍した。
「X3ドリルアターーーーーック!」
 そして頭から回転しながら急降下する。それは怪人の腹を直撃した。
「ショエエエエエエーーーーーーッ!」
 怪人は断末魔の叫びをあげた。そして地に倒れ伏しその場で爆発した。
 しかし戦いはまだ終わってはいない。]ライダーとマダラカジンの死闘が続いていた。
「マダラーーーーーッ!」
 怪人は右腕のサーベルを振るう。]ライダーはそれをライドルホイップで受け流す。
「どうした、その程度かっ!」
 そのサーベルがライドルにより叩き割られた。怪人はそれを見て間合いを離した。
「チィッ!」
 そして今度は口からマシンガンを放ってきた。しかしそれは見切られていた。
「無駄だっ!」
 ]ライダーは空中に跳んだ。そして空中で身体全体で]の文字を作った。
「]キィーーーーーーーック!」
 そして蹴りを放った。それは怪人の胸を撃った。
「ガオオオオオーーーーーーッ!」
 マダラカジンも倒れた。そして彼もまた爆死した。
「見事だな、相変わらず」
 X3は鮮やかな勝利を収めた]ライダーに対し声をかけた。
「いえ、X3のおかげですよ」
 彼はそれに対し謙遜して答えた。二人の戦士は歩み寄ると手を握り合った。
 それを遠くの丘の上から苦々しく見る男がいた。
「ぬうう、X3もここに来たか」
 アポロガイストであった。彼は二人が手を握り合うのを顔を顰めて見ていた。
「ライダーが二人いると厄介だな」
 彼は考え込んだ。そして後ろを見た。
「あれを使うか」
 その時だった。不意に戦闘員がやって来た。
「アポロガイスト様」
「どうした!?」
 彼は不機嫌そのものの声で戦闘員の方を振り向いた。
「ギリシアにブラック将軍が来ておられますが」
「帰ってもらえ」
 彼は吐き捨てるように言った。
「それが・・・・・・。何か火急の用件があると言われるのですが」
「火急の用件!?」
「はい。何でもアポロガイスト様が今開発中の怪人のことでお話があるとか」
「開発中!?俺は怪人は・・・・・・」
 彼はここまで言ったところでハッとした。
「まさか・・・・・・」
 心当たりは一つしかなかった。
「如何なさいますか?」
「・・・・・・すぐに行こう」
 彼は口調を変えた。
「すぐに全員ギリシアに戻るぞ。]ライダーを倒すのは次の機会だ」
「わかりました」
 戦闘員は敬礼した。そしてその場をあとにする。
 アポロガイストも踵を返した。そして後ろを振り返った。
「]ライダーよ」 
 彼は眼下にいる]ライダーを見た。
「貴様は俺が必ず倒す。その時を楽しみにしておれ」
 彼はそう言い残すとその場をあとにした。

 敵を退けた風見と神は再会を懐かしむ間もなくホテルの一室で話し合いの場を持った。話の内容は決まっていた。
「そうですか、ここに来るまでにそんなことが」
「ああ、まさか像に化けているとは思わなかったがな」
 風見は白帝城での戦いのことを神に話した。
「俺も同じですよ。成都で奴等と一戦交えました」
「そうか、やはりな」
 それを聞いた風見の目が光った。
「だとするとバダンは間違いなくこの地で例によって何かを企んでいるな」
「でしょうね。そうでなくては怪人までは出て来ません」
「ああ。奴等の今までの行動からしてな」
「けれどここで何を企んでいるかが問題ですね」
 神はここで考える目をした。
「俺達を狙っているんでしょうか」
「それも充分考えられるが」
 風見は直感でそうではないと思っていた。
「何か他に策を企んでいるかも知れないぞ」
「では何を」
「そうだな」
 彼は考えた。そしてあることが脳裏に浮かんだ。
「実は俺は重慶には鉄道で来たんだが」
「鉄道でですか」
「ああ。その時事故でかなり遅れた。何でも線路が爆破されていたらしい」
「線路が・・・・・・」
 それを聞いて神も感づいた。
「流石だな。敬介も察したか」
「ええ。おそらくそれはバダンの仕業ですね」
 経験がそれを二人に伝えていた。歴代の組織と戦ってきた彼等はその潜り抜けてきた修羅場によりその直感を身に着けていたのだ。
「連中にしてはえらく地味な作戦に思えますけれどね」
「地味だからこそ効果があるものもあるしな。とくに鉄道は線路を潰せばいいだけだから楽だ」
「はい」
「それに交通や経済に及ぼす影響も大きい。死傷者も多い」
「ですね」
「奴等にとってはやり易い作戦だ。おそらくこの四川省の経済を完全に破壊するつもりだ」
 四川省の人口は約一億人、それなりの経済規模がある。特にこの重慶は中国でも屈指の重工業都市である。それを狙ってのことであろう。
「敬介、こうしている時間はない。すぐに奴等の計画を阻止しよう」
「はい、まずは何処から行きますか?」
「奴等が狙う場所はわかっている」
 風見は答えた。
「今までは地道に小さな線路を潰してきている。おそらく今度は大物を狙ってくるだろう」
「というと・・・・・・」
「そうだ、ここと成都を結ぶ線だ」
 風見は顔を引き締めて言った。
「おそらく既にそこへ向かっているだろう、一刻の猶予もない」
「ですね、行きましょう」
 神も決断は早い。二人は同時に席を立った。
「行くぞ、ここでこの地の奴等を倒す」
「ええ、そしてこの地に平和を」
 二人はホテルを出た。やがて遠くからマシンの音が聞こえてきた。

 幽霊博士と魔女参謀はその時風見の予想通り重慶と成都の間の線にいた。そして線路の側に何かを埋め込もうとしていた。
「急ぐのじゃぞ。さもないと電車が来てしまうからの」
 幽霊博士は作業にあたる戦闘員達に指示を出していた。
「魔女参謀、怪しい者は来てはおらんな」
 そしてその護衛と見張りにあたる魔女参謀に対して問うた。
「ええ、今の所は」
 魔女参謀は答えた。左右は竹林である。あまり見晴らしがいいとは言えない。その為は戦闘員はいつもより多いようだ。
「気をつけてくれよ。今ライダー達に来られては元も子もないからのう」
「残念だがその心配は無用だ」
 そこで竹薮から一人の男が姿を現わした。
「貴様は・・・・・・!」
 それは風見志郎であった。
「生憎だったな、貴様等の計画は全てお見通しだ」
「クッ、何故ここがわかった」
「愚問だな」 
 風見はそれに対し口の両端で自信に満ちた笑みをとった。
「貴様等の考えることがわからないと思ったか。貴様等のいるところライダーは必ず現われるのだ」
「クッ、こうなったら・・・・・・」
 幽霊博士と魔女参謀はすぐに手を振り下した。戦闘員達が風見の周りを取り囲む。
「フッ、俺だけだと思うか!?」
 ここで彼は身構えながら笑った。
「まさか・・・・・・」
 魔女参謀はこの言葉を聞き辺りを見回した。
「そうだ、もう一人いるということを忘れるな!」
 ここで線路から一台のマシンがやって来た。
 その上には彼がいた。神敬介がいた。
「ぬうう、奴も・・・・・・」
 幽霊博士は神の姿を見て歯軋りした。
「役者は揃ったな。行くぞっ!」
 風見のその言葉が合図となった。二人は同時に変身に入った。

 変・・・・・・身
 風見は両手を肩の高さで右に垂直に置いた。そしてその両手を右から左斜め上にゆっくりと旋回させる。
 それと共に身体が変わっていく。緑の身体に白い手袋、赤いブーツ。胸は銀と赤である。
 ブイ・・・・・・スリャアアアーーーーーーーーッ!
 右手を拳にし一瞬右脇に入れる。そしてそれをすぐに突き出し逆に左腕を拳にし左脇に入れる。
 顔の右半分が赤い仮面に覆われる。すぐに左半分も。

 大変身
 神はマシンの上で両腕を垂直に上に突き出した。そしてそれをゆっくりと開いていく。
 身体が白くなっていく。胸が赤くなり手袋とブーツが黒くなる。
 エーーーーーックス!
 左手を脇に入れる。右手を左斜め上に突き出す。
 銀の仮面が顔の右半分を覆いすぐに左半分も覆う。

 二つの光がその場を支配した。そしてその中から二人のライダーが姿を現わした。
「トォッ!」
 ]ライダーはマシンから跳んだ。X3も跳躍した。
 そして同時に着地する。二人は並んで立った。
「さあ来い、バダン!」
 二人は身構えた。戦闘員達を前に臆するところはない。
「ヌウウ、変身しおったな、やはり」
 幽霊博士はそれを見て悔しさで顔を歪めさせた。
「さあ来い、幽霊博士、魔女参謀!」
 X3が叫んだ。
「怪人達は何処だっ!」
 ]ライダーもそれに続く。
「怪人だと!?」
 魔女参謀はここで口の端を歪め嘲笑した。
「愚かな、貴様等の目は節穴か」
「何!?」
 二人のライダーはそれを聞いて少しいきり立った。
「そうよのう、今までの我等との戦いから何も学んでおらんと見える」
 幽霊博士も笑いながら前に出て来た。
「まさか・・・・・・」
 ライダー達はその只ならぬ気配に何かを悟った。
「やっと思い出したようね。そう、私達もまた」
 魔女参謀はベールを剥ぎ取った。そこで巨大なピンク色の蝶が飛んで来た。
「来たわね」
 魔女参謀は跳んだ。そしてその蝶と合体した。
「何!」
「見よ、これが私の正体だ!」
 するとその顔が見る見るうちに変わっていった。まるで蛾の様な顔になり髪はピンクになったかと思うと蝶の羽根のように変化した。
「ヌウウ、その姿は・・・・・・」
「フフフフフ、どうかしら。美しいでしょう」
 魔女参謀の声だった。その怪人はその蛾に似た顔でライダー達を見た。
「ほう、本当の姿をあらわしおったな」
 幽霊博士は正体をあらわした同僚を横目に見て目を細めた。
「ええ。やっぱりこのマジョリンガの姿を方が落ち着くわね」
「そうじゃろそうじゃろ。やはりわし等はその姿が一番似合っておるからのう」
「ということは幽霊博士、貴様も・・・・・・」
 X3は彼を指差した。
「当然じゃ。まさか知らぬわけでもあるまい」
「・・・・・・・・・」
 知らない筈がなかった。何故ならそれはもうわかっていることなのだから。
「ショッカーの時以来わし等の正体は決まっておる。そう、このようにな」
 そう言うと背中のマントを被った。服が白から黒に変わっていく。
「ムッ!」
 マントを元に戻すとそこには別の者がいた。
「やはりな。それが貴様の正体か」
「フォフォフォ」
 彼は得意気に笑った。その顔は黄金色に輝く機械の髑髏であった。
「その通り、これがわしの真の姿じゃ」
 彼はその剥き出しの歯でカラカラと笑った。
「ゴールドゴースト、よく覚えておくがいい」
「ゴールドゴースト・・・・・・」
「ただしじゃ」
 ゴールドゴーストはここで口調を陰惨なものに変えた。
「この姿を見て生きている者はそうはおらぬがのう」
「それはこのマジョリンガについても言えるわね」
 マジョリンガも前に出て来た。
「さあ行くぞライダー達よ、せめて苦しまずに死なせてやろうぞ!」
「何を、倒れるのは貴様の方だっ!」
 ]ライダーのその言葉が角笛となった。彼等は互いに前に突進した。
「行くぞっ!」
 X3はゴールドゴーストに、]ライダーはマジョリンガに向かって行った。そして互いに撃ち合った。
 彼等は竹林に飛び込んだ。そしてそこで戦いを開始した。
「さあ、何処から来る!?」
 竹林に入ったX3はゴールドゴーストの隙を窺う。そこにロケット弾が飛んで来た。
「ムッ!」
 X3は身を捻ってそれをかわした。見れば前の竹の陰からゴールドゴーストが右手から煙を放っていた。
「よくぞかわした」
「生憎今は褒められても嬉しくはないな」
 彼は少し皮肉を込めて言った。
「言ってくれるのう、その口は相変わらずか」
 ゴールドゴーストは笑いながら言うと再びロケット弾を放ってきた。
「そう二度三度と同じ手をくらうかっ!」
 X3はそれを見事な身のこなしでかわした。そして竹に隠れるようにして間合いを詰めていく。
 ロケット弾は休むことなく放たれる。しかしX3はそれを何なくかわす。
「どうした、その程度かっ!」
「まだまだ青いのう」
 ゴールドゴーストはX3のその言葉を聞いてせせら笑った。
「笑うか、ならばこれでどうだっ!」
 間合いを一気に詰めた。そして拳を繰り出した。
「それが甘いというのじゃ」
 怪人は左手でそれを受けた。機械の三本指の腕である。
「クッ!」
 そしてX3の拳を握り潰そうとする。しかしX3はその左手に右の拳を入れ何とかそれから逃れた。
「ならばっ!」
 今度は左の蹴りを入れる。しかしそれも彼の左手に防がれる。
「その程度の動きならばどうということはない」
 彼は余裕をもってそう言った。
「この俺の攻撃をこうも見事にかわすとは・・・・・・」
 流石にX3も動揺を禁じ得なかった。
「さて、今度はこちらから行くぞ」
 彼はそう言うとその左腕を振るってきた。
「危ないっ!」
 慌ててその腕をかわす。竹がまるで空気の様に両断されていく。
「何と・・・・・・」
 竹が音を立てて倒れていく。X3は後ろに跳びそれをかわした。
「フォフォフォ、まだまだこれからじゃ」
 彼は無気味な笑い声を出した。そしてまたその腕を振るった。
 ]ライダーはマジョリンガと対峙していた。彼等もまた竹林の中にいた。
「さあ来い、マジョリンガ!」
 彼はライドルを抜いていた。竹を切り易いようにだろうか。ホイップである。
「言われなくとも殺してあげるわ」
 彼女はそう言うと両手をゆっくりと上げた。
「ム!?」
 その両手には何かしらの力が宿っていた。そしてそこからその何かを放った。
 そして]ライダーの周りにある倒れた竹林が一斉に動きだした。
「何っ、これは!?」
 ]ライダーは咄嗟に身構えた。そこに竹が一斉に襲い掛かって来た。
「クッ!」
 彼はライドルでそれを切った。だが竹は切ったそのすぐ側から再び襲い掛かって来る。
「無駄よ。切れば切る程竹は増えるわ」
「クッ・・・・・・」
 その通りであった。そして切られた竹の先が槍となり彼を襲う。彼はすぐにライドルをスティックに変えた。
「考えたわね」
 マジョリンガはそれを見て言った。
「けれど何処までそれが続くかしら」
 必死にライドルで竹を叩き潰す彼を嘲笑していた。]ライダーはマジョリンガを攻撃するどころではなかった。迫り来る無数の竹の相手をするだけで必死であった。
「クッ、このままでは・・・・・・」
 潰しても潰してもきりがなかった。竹は次から次に抜かれ襲い掛かって来る。]ライダーは次第に疲れてきた。
「マジョリンガを倒さなければ・・・・・・」
 だが隙がなかった。彼女は自身の周りにも竹を旋回させていたのだ。
「竹さえなければ・・・・・・」
 そう考えている間にも竹が襲って来る。]ライダーはライドルでそれを叩き潰した。
「このままでは拉致があかない。一体どうすれば・・・・・・」
 ライドルを振るう。竹が落ちる。その時ライドルの先が目に入った。
「ムッ!?」
 高速で振り回した結果であろう。ライドルに炎が宿っていた。
「ドクターケイトの時と同じか」
 彼はそれを見て長江流域でのドクターケイトとの戦いを思い出した。あの時はライドルに炎を宿らせ炎に弱い彼女を退けたのだ。
「待てよ」
 彼はここで気付いた。
「ドクターケイトはケイトウの花の化身だった、そして竹は・・・・・・」
 そう、同じ植物だ。
「そうか、ならばやり方がある!」
 彼は目の前に迫る竹を全て叩き落とすとライドルを身体の前で風車のように大きく旋回させはじめた。
「ムッ、]ライダーよ血迷ったか!」
「それは地獄で言うんだな!」
 ライドルに炎が宿っていく。そしてそれから手を離す直前彼はライドルのスイッチを入れた。
「ロングポールッ!」
 放たれたライドルは空中で大きく回転しつつ伸びた。そして大きく回転しながらマジョリンガに向かって行った。
「ムッ!」
 それは竹などものともしなかった。燃え盛るライドルは竹を全て燃やしていく。そしてマジョリンガの周りを護る竹も燃え落ちて
いく。
「クッ!」
 彼女はたまらず上に跳んだ。だが]ライダーもそれに動きを合わせていた。
「そこだっ!」
 ]ライダーは思わず叫んだ。そしてマジョリンガを見据えた。
「受けてみろ」
 そう言うと手を伸ばした。そこにライドルが戻って来る。
 そしてそれで大車輪をする。まるで風車の様に回転をはじめた。
「]キィーーーーーック!」
 そして跳ぶとそこで]の文字を作った。そしてそこから蹴りを放つ。
「グオオッ!」
 蹴りはマジョリンガの胸を直撃した。怪人は思わず叫び声をあげた。
「マジョリンガッ!」
 それを見たゴールドゴーストは思わず叫んだ。そこに一瞬隙が生じた。
「もらった!」
 X3はそこに絶好の機会を見た。ゴールドゴーストを掴み投げ飛ばした。
「ウオッ!」
 怪人は思わず叫んだ。だがかろうじて受け身をとりダメージを最小限に抑えた。
「やるな、だがっ!」
 それはX3の計算通りであった。そして空中に跳んだ。
「X3・・・・・・」
 空中で反転する。そして加速をつけた。
「スカイキィーーーーーーック!」
 そこから両足で蹴りを放った。蹴りはゴールドゴーストの腹を撃った。
「グウオオオオオオッ!」
 ゴールドゴーストは叫び声をあげ後ろに吹き飛ばされた。そしてそこにマジョリンガも落ちてきた。
「勝負あったな」
 X3はその倒れた二体の怪人を見て言った。そこに]ライダーも着地してきた。
「ウググ・・・・・・」
 彼等はそれでも立ち上がった。そして変身を解き人間態に戻った。
「見事じゃ、我等を破るとはな」
「これで中国での作戦は失敗ね」
 二人共口から血を流している。だがそれでも言葉を続ける。
「最初から貴様等を始末するべきであった。戦力を分散させたのが失敗だったか」
 幽霊博士は身体を震わせながら言った。
「今言っても仕方がないことだけれどね」
 魔女参謀もであった。彼等は死期が迫っていようともまだその目は光っていた。
「これでわし等は終いじゃ。だがな」
 そして最後の力を振り絞って目を光らせた。
「私達の仲間はこうはいかないわよ」 
 魔女参謀もであった。
「わしはただ消えいくのみじゃ。バダンの心は永遠に残る」
「そう、バダンに栄光あれーーーーーっ!」
 彼等はそう言うとその場にタ倒れ伏した。そしてそのまま爆死した。
「・・・・・・これでまた二人バダンの最高幹部が倒れた」
「はい、いつもながら敵とはいえ見事な連中です」
 二人のライダーはその爆発を見届けながら言った。それは敵への礼儀であった。

「・・・・・・あの二人が死んだか」
 鬼火指令はそれを自身の基地内で聞いていた。
「ハッ、お二人共見事な最後だったそうです」
 戦闘員が敬礼して報告した。
「・・・・・・ならば良いがな」
 彼は苦渋に満ちた声でそう言った。
「・・・・・・下がれ」
 そして戦闘員に対して言った。
「わかりました」
 戦闘員はそう答えるとその部屋をあとにした。
「・・・・・・逝ってしまったか、遂に」
 彼は一人になると沈んだ声でそう呟いた。
「色々とあったがの。思えば長い付き合いだった」
 彼等は口では何かと言い争っていた。だがそれは仲間内のことであり互いにドグマ、そしてジンドグマの者として信頼し合っていたのだ。
 そこに来客が来た。あの女である。
「鬼火指令、話は聞いているかしら」
 妖怪王女であった。彼女は仮面の下からでもわかる険しい表情で彼に尋ねてきた。
「無論だ」
 彼は憮然とした顔で答えた。
「ならわかっているわね。ジンドグマの掟を」
「ああ」
 ジンドグマは独特の憲法があった。破壊と殺戮を奨励するのがその根幹であったがそれと共にもう一つジンドグマを
ジンドグマたらしめているものがあった。
「仲間を倒した者は最後まで追い詰め仇をとる」
 妖怪王女は凄みのある声でそう言った。
「わかっておる、早速行くとするか」
「何処へ!?」
「オーストラリアじゃ。そこにライダーマンがいるという」
「ライダーマン!?何を言っているのよ」
 妖怪王女はそれを聞いて言葉を荒くした。
「私達の仇は仮面ライダーX3と仮面ライダー]よ」
「その二人を倒す前にまず奴だ」
 彼は怒りを必死に抑えて言った。彼とて仲間を討たれその心中は穏やかではない。
「あの男のアタッチメントを奪う。そしてそれを使わせてもらう」 
「あの二人を倒す為に・・・・・・」
「そうだ、それなら話はわかるだろう」
「ええ」
 彼女は険しい顔をとどめたままだが頷いた。
「ライダー達は残らず倒す、ジンドグマの絆に従ってな」
「そうね、私達の手で」
 二人は頷き合った。
「ならば行くぞ、そして手始めにライダーマンを血祭りにあげる」
「わかったわ」
 二人はそう言うと部屋をあとにした。そして皆その基地から出撃していった。

 戦いを終えた風見と神は四川省をあとにしていた。そして今は西安にいた。
 ここはかって漢、そして唐の都であった。特に唐代は世界の中心地の一つであり百万の人口を擁し栄華を極めていた。
「そういえば風見さんは万里の長城で戦っていたんですよね」
「ああ、ドクロ少佐とな」
 彼等はその古い街並みを見渡しながら歩いていた。
「手強い奴だったがな。それでも何とか倒した」
「俺はドクターケイトとですよ。長江で戦って次はモンゴルで思いの他手強い奴でした」
「そうだろうな。デルザーの改造魔人も手強い」
 風見は頷きながら言った。
「ここまで戦って勝ってこれたのが不思議な位だ」
 彼もまたドクロ少佐とはシンガポール、そして万里の長城において幾度となく死闘を繰り返したのだ。
「よくストロンガーは勝ってこれたと思う。それは尊敬に値するよ」
「それを本人に言ったらまた図に乗りますけれどね」
 神は口の両端と目元を細めた。
「そうだがな。まああいつも超電子を身に着けてから優位に立ったそうだが」
「逆に言えば超電子がなければ危なかったということでしょうか」
「それはどうかな、と思うが。奴の勝利にかける執念は凄まじい」
 風見はストロンガーの戦いを思い出しながら言った。
「ところで奴は今何処にいる!?」
「茂ですか?」
「ああ。確かインドネシアに一也と一緒にいた筈だが」
「何でもオーストラリアにいるそうですよ」
「オーストラリアか」
 風見はそれを聞いてまた考える顔をした。
「確か今あそこには結城もいたな。奴に迷惑をかけなければいいが」
 彼は結城の生真面目な性格を知っていた。だから城が一緒にいると気苦労が絶えないのではないか、と危惧した。
「あいつはガサツですからね」
 それは神もわかっているようだ。
「けれど大丈夫だとおもいますよ」
「何でだ?」
「風見さんと付き合ってこれたんですから」
「おい、そりゃどういう意味だ」
 風見は苦笑して抗議した。
「いえ、冗談なんですけれどね」
「そうは聞こえないが」
 風見は少しを目を剣呑なものにしていた。
「まあまあ落ち着いて」
 神はそんな風見をあしらった。
「ううむ」
 風見はまだ不満そうである。だが次第にその目も元に戻した。
「まあいいか。ところでだ」
「何ですか?」
「御前さんは今度は何処へ向かうんだ?俺はまだ決めていないが」
「そうですね」
 彼はふと宿敵のことを思い出した。
「ギリシアにも行ってみます。あそこで気にあることがありますので」
「そうか、気をつけろよ」
「はい」
 二人の戦士はそれで違う道に進んだ。そして次の戦場に向かうのであった。


 竹林の戦い    完



                                  2004・5・30


[163] 題名:竹林の戦い1 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2004年08月09日 (月) 02時12分

           竹林の戦い
「さて、中国だが」
 幽霊博士が口を開いた。ジンドグマの四幹部はまた集まっていた。
「今は誰もいなかったな」
「ええ、ドクロ少佐が仮面ライダーX3に敗れたしね」
 妖怪王女が答えた。
「うむ、惜しい男であった」
 鬼火司令がそれを聞いて腕組みをしながら言った。彼は元軍人であったので彼に対して共感する部分も多かったのだ。
「それだけではないわ。ドクターケイトもモンゴルで仮面ライダー]に敗れている」
 魔女参謀は付け足すように言った。
「日本支部はあの有様。今東アジアに我がバダンの勢力はない有様じゃな」
 幽霊博士はそれを聞いて顔を顰めた。
「東南アジアも同じ状況ね。北米も中南米もかなりの痛手を受けているわよ」
 妖怪王女の情報網は健在であった。彼女は常に的確な情報を手に入れていた。
「まずいのう。このままではアジア太平洋地域の我等の活動が崩壊してしまう」
「鬼火司令、そう考えるのは早いのではないかしら」
 魔女参謀は彼に対して言った。
「そうは言うが現実ではこうじゃ。それをどうするかが問題だが」
「わしに考えがあるぞ」
 ここで幽霊博士が他の三人の顔を見回しながら言った。
「お主がか?どうせろくな考えではあるまい」
「そうよね。幽霊博士っていつもとぼけてるんだもの」
 鬼火司令と妖怪王女が馬鹿にしたように笑った。
「そんな言い方はないじゃろ」
「あら、じゃあどういう考えなの?」
 妖怪王女は尚も態度を変えない。
「わしが中国に向かう。そしてここでの活動を再び行なう」
 彼は珍しく強い声で言った。
「おういえばお主は中国出身だったな」
 鬼火司令が思い出したように言った。
「そうじゃ。思えば懐かしいのう」
 彼は懐かしげに笑った。
「その故国に戻るのも何かの縁じゃ。思う存分暴れてやるわ」
「では私も同行していいかしら」
 ここで魔女参謀が口を開いた。
「お主がか?」
 博士は一瞬不思議な顔をした。
「そうよ。いけないかしら」
「い、いや」
 彼は首を横に振った。
「大歓迎じゃ。助っ人に来てくれるのならこれ程心強いものはない」
 彼は笑みを浮かべて言った。
「ではこれで決まりね」
 魔女参謀もニヤリと笑った。
「うむ、では早速行くとしよう」
「ええ」
 二人は席を立った。
「気をつけてな」
「私達もすぐに動くわ」
 残る二人も声をかけた。
「うむ、期待しておれ」
「そちらも頼んだわよ」
 こうして彼等は二手に分かれた。そして部屋をあとにした。

 白帝城は日本人もよく知っている場所の一つである。唐代の詩人李白が謡い三国志の主人公の一人劉備がこの世を去った場所でもある。険しい四川省の中でも特に険しい場所にある。
「ここまで来るのは一苦労だったな」
 そこに彼はいた。風見志郎である。彼はドクロ少佐との戦いの後中国各地を回っていた。
「確かに中国は広いな。何度回っても飽きない」
 彼は世界中を回って戦ってきた。その為中国でも戦ってきていた。
「しかしこの城に来たのははじめてだったな」
 だが戦いがない時はこれといって来る理由がない。従って行っていない場所もある。
 今彼は珍しく観光で来ている。こうして戦いがない時の旅もいいものだと思った。
「まあ束の間の休息だな」
 そうであった。バダンはまだ世界各地で暗躍している。彼の戦いはバダンがこの世から消え去るまで続くのだ。
 だが今は旅を楽しみたい。戦士にもそうした心の余裕は必要であった。
 城の中には多くの像が置かれている。全て三国志の英雄達である。
「そういえば学生の頃に読んだな」
 ふと彼は学生の頃を思い出した。
 その像を見て回る。その時像の一つがピクリ、と動いた。
「ムッ!?」
 次の瞬間全ての像が動き出した。そして風見を取り囲んだ。
「バダンか!?」
 像は何も言わない。ただ風見に襲い掛かって来た。
 風見はその像達を倒していく。倒された像は次々と戦闘員の姿になり横たわる。
「やはりな」
 部屋を出る。戦闘員達は最早像にすら化けずそのまま追って来た。
「ギッ!?」
 彼等は風見を見失ってしまった。慌てて周囲を見回す。
「俺はここだ!」
 上の方から声がした。慌てて顔を上げる。
 彼は壁の上に立っていた。赤い仮面の戦士がそこにいた。
「トゥッ!」
 掛け声と共に跳び降りた。その周りを戦闘員達が取り囲む。
 だが彼等はやはり敵ではなかった。忽ちX3に倒されていく。
「チャカァーーーーーー」
 そこに怪人が出て来た。デストロンの熱線怪人レンズアリである。
「やはり来たか」
 X3も怪人が出て来ることは予想していた。すぐに身構える。
 怪人は目から熱線を放ってきた。X3はそれを上に跳びかわした。
「どうした、俺はここだぞ」
 そして壁の上から挑発する」
 怪人はそれに対し感情を露わにした。そして熱線を乱射する。
「フンッ!」
 だがそれは当たらない。X3は上に跳び今度は怪人の背中についた。
「喰らえっ!」
 そして怪人の背中を掴んだ。
「X3回転投げーーーーーっ!」
 そして空中に舞い上がり激しく回転する。その遠心力を利用して思いきり投げた。
「チャカーーーーーッ!」
 怪人は断末魔の叫びをあげた。そして地面に叩き付けられ爆死した。
 そこにもう一体来た。ショッカーの毒液怪人毒トカゲ男である。
「ゥオオオオオオーーーーーッ!」
 怪人は叫び声をあげながらこちらにやって来た。
「また来たな」
 X3は着地して身構えた。怪人はそこを狙って赤い毒液を放ってきた。
「おっと」
 それを横に身を捻りかわす。怪人はそこに今度は舌を放ってきた。
 しかしそれもX3はかわした。そして一気に間合いを詰めた。
 拳が繰り出される。二つの拳が撃ち合った。
 だがそれはX3の勝利に終わった。怪人は拳を押さえ怯んだ。
「今だっ!」
 X3は跳んだ。そして怪人を今度は天高く放り投げた。
「トゥッ!」
 そして自身も跳んだ。急降下し毒トカゲ男の背中に向かう。
「X3ダブルアターーーーーーーック!」
 蹴りが怪人の背を撃った。毒トカゲ男は空中で爆死した。
「あとはいないか」
 Oシグナルにも反応はなかった。X3は変身を解いた。
「こんなところにも姿を現わすとはな。どうやら俺には片時の休息も許されないらしい」
 彼は顔を顰めてそう言った。そして白帝城を出るとそのまま長江を登っていった。

 神敬介はこの時成都にいた。四川省でもかなり大きな都市である。
「ここが成都か」
 やはりここも三国志ゆかりの地である。それだけでなく長い間この地域の中心都市でもあった。
「一度来てみたいと思っていたけれど」
 街の中は人でごったがえしていた。今は三国時代の面影は流石に少ないがそのかわり人の活気で満ちている。
 動物園に行った。そこでは中国の珍獣であるパンダがいた。
「そういえばこの四川省にいるんだったな」
 よく竹を食べると言われるがその他のものも食べたりする。そして大柄で怒らせると怖い。
「見れば爪も牙もあるや」
 そうなのである。中国語で大熊猫という。可愛らしい外見に惑わされては怪我をする怖れもある。
「パパ、意外と怖そうだね」
「ああ、ああ見えてもとっても強いんだぞ」
 後ろでは親子連れがそんな話をしている。神はそれを見てクスリと笑った。
 その時彼は何かを感じた。
「!?」 
 殺気だった。彼はそれを確認すると黙って動物園をあとにした。
 そして彼は街中を出た。街の外れに向かった。。
「ここら辺りでいいだろ」
 彼は人気のない場所に着くと言った。するとそこに黒服の男達が姿を現わした。
「わかっている。さっさとその服をとれ」
「そうか、流石は神敬介だな」
 彼等はそう言うと服を剥ぎ取った。中から怪人と戦闘員達が姿を現わした。
「アワワワワワワワ」
 ゴッド悪人軍団の一人サソリジェロニモであった。怪人は服を剥ぎ取ると同時に斧を投げてきた。
「ムッ!」
 神はそれをかわした。そしてそのすぐ側の竹薮に飛び込んだ。
「追えっ!」
 怪人はすぐに戦闘員達に命令を下した。だがそれには及ばなかった。
「その必要はないっ!」
 神の声と共に彼が姿を現わした。銀の仮面を持つカイゾーグ、仮面ライダー]である。
「俺はここにいる」
 彼は怪人達を一瞥してそう言った。
「さあ、何処からでも来いっ!」
「望むところだ!」
 サソリジェロニモの声が響いた。戦闘員達が斧を手に一斉に襲い掛かる。
「斧か」
 ]ライダーは戦闘員達の手に光るそれを落ち着いて見ていた。
「ならば俺も武器を出そう」
 そう言うと腰からライドルを引き抜いた。
「行くぞっ!」
 そしてそのライドルで打ちかかった。
 左右から襲い来る戦闘員達を次々に薙ぎ倒す。ライドルが風車の様に回転する。
 戦闘員達は忽ち蹴散らされた。怪人はそれを見て今度は自分が向かった。
「俺が相手だっ!」
「来い、返り討ちにしてやる!」
 ライドルと斧がぶつかり合った。銀の火花が辺りに飛び散る。
「ムムム」
 両者は鍔迫り合いをはじめた。最初は互角であった。
 だが次第に]ライダーの力が勝ってきた。サソリジェロニモは押されてきていた。
「そうはさせんっ!」
 怪人は反撃に出た。間合いを離し斧を投げ付けて来た。
「トゥッ!」
 ]ライダーは跳躍してそれをかわした。そして空中で一回転した。
「ライドル脳天割りーーーーーーっ!」
 そしてそのライドルを怪人の頭部に振り下ろした。それは見事に決まった。
「ウオオオオオオ・・・・・・」
 サソリジェロニモは呻いた。頭蓋骨だけでなく脳まで潰された。怪人は脳天から鮮血をほとぼしらせながら倒れた。
 そして爆死した。]ライダーは着地してその爆発を見送った。
 だが勝利の余韻に浸っている暇はなかった。そこに新たなる怪人が襲い掛かって来た。
「グルゥゥゥゥゥーーーーーーーーーッ!」
 ゲドンの針怪人獣人ヤマアラシである。怪人は全身の針を揺らせつつ]ライダーに向かって来た。
「今度はゲドンの獣人か」
 ]ライダーは怪人の姿を認めて身構えた。
 怪人はいきなり身体を丸めた。そして飛んで来た。
「ムッ!」
 ]ライダーはそれを横にかわした。怪人は今度はバウンドして向かって来た。
「今度は跳ねてきたか」
 今度の攻撃もかわした。しかし怪人は執拗に攻撃を繰り返す。
「まずな、このままでは」
 ]ライダーは呟いた。
「だからといってこちらから攻撃を仕掛けることは・・・・・・」
 見れば全身が針の山である。おいそれと攻撃を仕掛けられそうもない。
 しかし。]ライダーはあることを閃いた。
「そうだ、俺にはこれがある!」
 手に持つライドルのスイッチを入れた。そこに怪人ば襲い掛かって来る。真正面からとんで来た。
「ロングポールッ!」
 そしてライドルを思いきり引き伸ばした。それで怪人を突いた。
「ウオォッ!」
 動きが止まった。そして奇声を発しながら元の姿に戻った。
「今だっ!」
 ]ライダーは勝機を見た。そしてライドルのスイッチを入れ前に突進した。
「これでも食らえっ!」
 それはライドルホイップだった。怪人の柔らかな胸を切り裂いた。
「ウオオオオオオオーーーーーーッ!」
 怪人は胸から鮮血をほとぼしらせながら叫んだ。そして前から倒れ伏し爆死して果てた。
「もういないようだな」
 ]ライダーは回りを見回して確認した。そして変身を解いた。
 爆炎が消え去った。そしてそこには何も残らなかった。神敬介は一人成都へと戻って行った。

「X3と]ライダーへの襲撃は失敗したわ」
 重慶の地下に設けられた基地の中で魔女参謀は幽霊博士に対して言った。
 指令室であった。赤い光が点滅し辺りにはコンピューター等が置かれている。そして戦闘員達が動き回っていた。
「そうか、やはりのう」
 幽霊博士は顎鬚をしごきながらそれを聞いていた。
「怪人ではライダー達を倒せぬか」
「そう言っている余裕なんてあるの?」
 魔女参謀は彼があまりにも暢気な口調なので少し口を尖らせた。
「焦っても仕方あるまい。結局はライダー打倒はここでは主な作戦ではない」
「それはそうだけれど」
「のう」
 ここで彼は傍らにいる戦闘員に対して問うた。
「準備は進んでおろうな」
「ハッ、既に特別チームを編成しております」
 戦闘員は敬礼をして答えた。
「ならばよい」
 彼はそれを聞くと顔を崩して笑った。
「簡単な作戦じゃがそれが案外効果のあるものなのじゃ」
「それはそうだけれど」
 魔女参謀はまだ口を尖らせている。
「だけれどこんなことをしていてもらちが明かないわよ」
「魔女参謀、お主は少し派手過ぎる」
 博士はそんな魔女参謀に対して窘めるように言った。
「線路を破壊するのは充分な破壊工作になるのじゃ。そしてこれにより多くの人が死に交通が麻痺する。経済も混乱する」
「それはそうだけれど」
「考えてもみよ。鉄道が人々の生活にどれだけ必要か」
 それは言うまでもなかった。この中国においても鉄道は極めて重要な交通手段であった。
「そんなことはわかっているわ。けれど」
 だが彼女はまだ不満であった。
「案ずることはない。地道な作戦も時には必要じゃ」
「確かにな。幽霊博士の言うことにも一理ある」
 ここで何者かが入って来た。
「ム」
 魔女参謀は彼の姿を見て目を光らせた。
「ホッホッホ、お主も賛成してくれるか」
 そこには白スーツの青年がいた。アポロガイストである。
「かってゲルショッカーもラッシュ時に破壊工作を仕掛けようとしたことがある。鉄道を狙うのは非常に効果があるものだ」
 クラゲウルフが新宿を狙ったことを言っているのである。
「俺も機会があればやってみたいな。期待しているぞ」
「その言葉謹んで受けよう」
「だがな」
 アポロガイストはここで目を光らせた。
「]ライダーを倒すのは俺に譲って欲しい」
「何故じゃ!?」
「俺とあの男の関係を知っていれば話すまでもないと思うが」
 彼のその目の光はまるで猛禽のようであった。
「確かに。けれど私達も今回の作戦を失敗させるあけにはいかないわ」
「そう、そして彼奴がその課程で死ぬようなことがあっても」
「責任は持てないと言いたいのか」
「そういうことになるわね」
 魔女参謀は突き放すようにして言った。
「そうか。では俺が独自で倒しても問題はないな」
「うむ。それは好きにするがいい」
 幽霊博士はそれを認めた。
「しかしお主は今ギリシアで何か作戦行動があるのではなかったのか?」
「そういえば。何か作っているようね」
「・・・・・・そのことについてはいずれ話そう。今は話すことはできない」
 彼はニヤリともせずそう言った。明らかに何か隠している。
「だがそれなら話が早い。早速動かさせてもらうか」
「うむ、好きにするがいい」
「ではな」
 アポロガイストはそう言うと踵を返した。そして指令室をあとにした。
「何かと口うるさい男ね」
「ゴッドの第一室長だったからのう」
 彼等はアポロガイストがいなくなったのを見計らって話をはじめた。
「だけれどこれでライダー達の相手はしなくていいわね」
「うむ。心置きなくやらせてもらおう」
 二人はそう言うと会議室に向かった。それを一匹の虫が聞いていた。
「ふむ、そういうことか」
 その虫は虫ではなかった。虫に姿を似せた盗聴器であった。その先にはアポロガイストがいた。
 彼は黒いマシンに乗っていた。そして耳にその盗聴器を当てて聴いていた。
「いい考えだ。若しもの時はこちらも考えがあったが」
 彼にはあまり仲間意識というものがない。ゴッドにいた時でも怪人達を挑発したりすることが多かった。彼は怪人を監督し必要とあらば総司令に意見を具申したり怪人を処刑したいする権限まで与えられていたので怪人達には怖れ嫌われていたのだ。
「それでは早速やらせてもらおう」
 彼はそう言うとマシンのスピードを速めた。
 マシンは風になった。そして姿が見えなくなった。
 同時にアポロガイストも変身していた。白いスーツの青年から赤い仮面を被った姿に変身していた。
「見ていろ]ライダー、この四川省が貴様の墓場だ」
 彼はそう言うと重慶に向かってマシンを走らせた。


[162] 題名:最後の逆転劇 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2004年08月01日 (日) 01時04分

              最後の逆転劇
 平成五年、このシーズンはヤクルトと西武の二年越しのシリーズの第二幕で名高い。このシリーズは足掛け二年に渡る西武とヤクルトの選手達の死力を尽くした激闘だっただけではなく野村克也と森祇晶、二人の知将がその全知全能をかけて火花を散らした戦いでもあった。
 これに比べるとペナントは平凡だったかも知れない。その前の年はヤクルトと阪神のデッドヒートがありその中でヤクルトのエース岡林洋一のシーズンを通しての力投、荒木大輔や高野光の復活といったドラマがあった。それに比べるとこのシーズンはあまり面白みのないシーズンだったと言えるだろうか。
 しかし個々の試合では面白いものもあった。時には息詰まる投手戦があり時には激しい乱打戦があった。そして思いもよらぬ逆転劇もあった。それがこの試合であった。
 六月五日、藤井寺球場では近鉄バファローズと福岡ダイエーホークスの試合が行われていた。
 両方共強打が売りのチームである。よく乱打戦になった。だがこの試合は少し様子が違っていた。
 ダイエーはこの時その荒い野球が原因か中々勝てなかった。監督に西武のフロントで辣腕を振るっていた根本睦夫を招聘してもそれは変わらなかった。
 元々根本の本領はその人材発掘と獲得方法、そして育成にあった。采配はそれ程定評があるわけでもない。だがその人材発掘と獲得により西武の黄金時代を築いたことからもわかるようにその手腕は際立っていた。ある人球界の裏の事情にも詳しい者は彼をこう呼んだ。
「球界一の寝業師」
「球界の裏番」
 これは誹謗中傷と捉えられかねないが彼を語るうえではこれ程合った言葉はなかった。とかくその手腕は他の者の追随を許さず怖れられていた。西武では森も、その前任者広岡達郎も人事にはタッチしておらず彼がオーナーから一任されてそれを全て取り仕切っていたのだ。
 その根本の存在は無気味であった。だがグラウンドではそれ程ではない。
 この試合はダイエー優勢のまま進んでいた。九回表には岸川勝也が駄目押しのスリーランを入れていた。
 八対ニ、六点差である。流石に誰もここから勝てるとは思っていなかった。
「今日はあかんな」
 近鉄ファンの中にはとっくの昔に帰っている者もいる。残っている者も皆諦めていた。
 だが運命の女神は残っていた者達に想いも寄らぬ恩恵を与えたのである。
 この時ダイエーの先発は渡辺正和。サウスポーである。彼は八回まで二失点という好投であった。
「このまま完投かな」
 試合を見ている者達はそう思った。そうそう波乱があるとは思えなかった。
 まずは先頭の四番石井浩郎を歩かせてしまった。次にくるのは鈴木貴久。彼はパンチ力があった。
 その彼が左中間にタイムリーを放った。ツーベースだった。
「今更打って何になるんや」
 観客達はそれを醒めた目で見ていた。だが渡辺はこれ調子を崩した。
 九回である。体力的にもそろそろ限界だ。特にコントロールが乱れてきていた。
「しかしこの回で終わりだ」
 渡辺は余計気を立ててしまった。それがまたコントロールを悪くさせた。
 村上嵩幸にも四球を出す。それを見て根本は首を傾げた。
「どう思う?」
 そして傍らにいたコーチに声をかけた。
「もう九回ですけれどね」
 彼も少し不安を覚えていた。
「けれどいけるのではないでしょうか」
「そうか!?」
 根本はそれを聞いて眉を顰めた。
「ううむ」
 根本は同じ考えではなかった。そして彼は自分の考えに従った。
「ここまでやってくれれば充分だ」
 そう言うとマウンドに向かった。そして渡辺に対して言った。
「今日はご苦労さん」
「え、はい」
 彼もこのまま完投させてもらえるとばかり思っていた。まさかこんな言葉を聞くとは思わなかった。
 根本は主審に対して言った。ピッチャー交代、と。
「ピッチャー、池田」
 それを聞いた当の池田親興は思わず耳を疑った。
「今俺ですか!?」
 彼はこの時ストッパーを務めていた。だがこの点差では出番がない。そう思ってこの日はピッチングをしていない。
ブルペンで投げている投手は他にいる。何故自分なのか。
「あの、監督が本当にそう仰ったんですか!?」
 彼はブルペンコーチに対して尋ねた。
「ああ、間違いない」
 ブルペンコーチも半信半疑であった。
「悪いがすぐに行ってくれ。まあ今日の試合なら勝てるさ。心配するな」
「はあ」
 バスタオルすらカバンの中だ。とりあえずはスパイクに履き替えブルペンで急いで何球か投げた。そしてマウンドに向かった。
「おいおい、本当に池田が出て来たぞ」
 近鉄ファンも信じられないといった顔であった。
「今日はどう見てもあちらの勝ちだろうに」
 だが根本は何も言わない。ただマウンドで投球する池田を見ていた。
「こんな点差じゃセーブもつかないだろうに」
 彼はそうした声を聞いていた。自分も同じ考えだ。
「本当に俺なのかな」
 そういう思いが消えない。心にも余裕がなくなっていた。
「おい」
 それを見た近鉄ナインは池田のボールにあるものを感じていた。
「何かいつもとちゃうな」
 最初に言ったのは石井だった。四番を任されているだけあってボールを見抜く目は大したものだ。
「そういえばストライクの幅が小さいな」
 切り込み隊長の大石大二郎も見ていた。彼は打撃にも定評があった。
「それにボールも走っていない。今日の池田は打てるかもな」
 皆それを見て囁いていた。だが流石にそれは池田の耳には入らなかった。
「よし」
 ナインは頷いた。
「思いきっていくか。どのみち今日はこれで最後だ」
「ああ」
 そして代打大島公一が打席に入った。
「早く終わらせよう」
 池田はそのことだけを考えていた。代打が出たことは忘れていた。
 この時近鉄の七番はサードの金村義明であった。だが彼は一回の守備で右膝を痛め退場していた。そのあとに守備の上手い吉田剛が入っていたのだ。
「吉田か」
 彼はそこにいるは吉田だと思い込んでいた。そして投げた。
 大島は打った。それは鈴木のものと同じく左中間のツーベースとなった。
「しまった」
 池田は舌打ちしてスコアボードに顔を向けた。その時にルイベース上にいる大島が目に入った。
「えっ!?」
 その時はじめて大島のことに気付いた。そういえば。
「左にいたな」
 大島は左バッターである。それに対して吉田は右である。
 それに背丈も違っていた。大島は吉田よりも小柄である。何故それに気付かなかったのか。
「何故気付かない・・・・・・」
 池田は自分を恨めしく思った。それが余計にピッチングを余裕のないものにした。
 だが後四点もある。安全といえば安全だ。彼はとりあえず気をとりなおそうとした。だがそれはうまくいかなかった。
 一度乱れた気は容易には落ち着かない。彼は余計に乱れるばかりであった。
 それを知っていたのであろうか。近鉄は次々と代打を送る。池田はそれをもう聞いてはいなかった。
 今度の代打は安達俊也である。池田はただキャッチャーのミットに投げた。だがそのボールは思わぬところへ行ってしまった。
「なっ・・・・・・!」
 それを見たダイエーベンチは思わず顔を顰めた。何とそれはワイルドピッチとなりバックネットにぶつかった。これで三塁の村上が帰ってきた。三点差。
 池田の気は落ち着かない。安達に投げたボールは甘くなった。
 それをセンター前に弾かれる。大島がかえり二点差となった。
「これはいかんな」
 根本はそう言ってマウンドへ向かった。そして言った。
「ピッチャー交代」
 次の投手は左腕の下柳剛であった。池田はトボトボとマウンドを降りた。
「結局俺は何だったんだ・・・・・・」
 ベンチに戻ってもそういう思いだった。
「どうせなら最後まで投げさせて欲しいな」
 彼にもストッパーとしての意地があった。だがそれをここで言っても何にもならなかった。
「ランナーも残しちまった」
 その責任があった。
「こうなったら最後まで見なくちゃいけない」
 そしてグラウンドに視線をやった。
 下柳である。打席には中根仁がいる。
 彼は守備がいいことで知られていた。そして彼にはもう一つ得意なものがあった。
 それは左投手の攻略である。彼は左殺しとしても有名だったのだ。
 下柳は先に書いたように左である。根本はそれをわかっていたのだろうか。
「よし!」
 中根がバットを振った。それはセンター前に転がった。これで無死一、二塁である。
「おい、まさかしたら」
 それを見て近鉄ファン達が元気を取り戻してきた。
「ああ、ひょっとしたらな」
 逆転、それが脳裏をよぎった。
 だが一番の大石、二番の水口栄二は凡打に終わった。あと一人で終わりである。
「終わりかな」
 だが打席にはラルフ=ブライアントがある。当たれば大ホームラン間違いなしの男だ。
 しかし三振もまた異常に多い。それが彼の弱点であった。
「しかしここで一発があればそれで終わりだ」
 そう思った根本は彼を敬遠した。それは止むを得ないことであった。
 打者一巡である。次に打席に立つのは石井だ。
 違った。彼はこの時代走を出されていたのだ。
「というと」
 この場合打席に立つのは内匠政博だ。足はともかくその打力は石井とは比較にならない。
「終わったかな・・・・・・」
「まあ所詮こんなもんや」
 近鉄ファンはそう言って苦笑した。だが普通こうした場合には代打がある。近鉄にはまだそれがあった。
「代打、山下」
 コールが告げられる。そして山下和彦がバッターボックスに入る。
 彼は普段はこれといって目立たない捕手であった。だがいざという時にはとんでもないものを放つことで知られていた。所謂意外性の男であった。
 その彼が打席に入った。観客達は不安と期待が入り混じった目で彼を見ていた。
「どうなる・・・・・・!?」
 ゴクリ、と喉を鳴らす。下柳は彼に対して投げた。
「今や!」
 それは絶好球であった。山下はそれを振った。打球はセンター前に抜けた。
「よし!」 
 まずは安達がかえる。そして中根が。これで同点である。
「まさかふりだしに戻るやなんて」
 観客達はニンマリしていた。それだけでもう信じられなかった。
 しかしそれだけではなかった。何と一塁ランナーのブライアントが三塁ベースを回ったのだ。
「えっ!」
 これには皆驚いた。ブライアントはそれ程脚が速くはない。その彼がまさかこのような行動に出るとは。
「ここまでキたらイチかバチかだ!」
 彼には思いきりのよさがあった。普段は物静かだか野球に関しては別だった。だからこそ豪快に振り回した。
「させるかい!」
 ダイエーのセンター大野久はボールを捕った。そしてそのままホームへ返球する。
 だがそれが逸れた。そしてよりによってブライアントに当たってしまった。
「クッ・・・・・・」
 ボールはそのままファウルグラウンドを転がった。空しく転がるそのボールが全てを物語っていた。
「ウオオオオーーーーーーッ!」
 ブライアントは雄叫びをあげながらホームを踏んだ。安達がそれを迎える。
「やった、やったぞ!」
 他のナインも一斉に出て来た。そしてブライアントを取り囲む。
 ブライアントは彼等にもみくちゃにされる。そして殊勲打を打った山下も。思いもよらぬ大逆転劇に近鉄ナインは興奮の坩堝と化した。
 それは観客席も同じだった。皆奇跡の逆転劇に狂喜していた。
「やっぱりこれがバファローズの野球や!」
 誰かが言った。そう、こうした思いもよらぬ逆転こそがバファローズであった。
 運命の女神というのは非常に気紛れである。そして移り気である。だがバファローズは不思議とこの女神の恩恵を受けることが多い。
 その中の一つがこの試合であった。そして女神は今もこのチームに対して不思議な微笑を向けているのである。


最後の大逆転    完



                                         2004・7・3


[161] 題名:麗わしの島の戦い2 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2004年08月01日 (日) 01時00分

マシーン大元帥は自身の基地に戻った。入口で戦闘員が敬礼した。
「何か変わったところはないか」
「暗闇大使が来られています」
 その戦闘員は答えた。
「暗闇大使がか。今何処にいる」
「客室に案内致しましたが」
「そうか、会おう」
 彼はそれを聞いて基地の中の客室に向かった。
「おお、戻ったか」
 彼は椅子に座っていたがそこから立ち上がった。部屋の中はコンクリートの壁と赤い絨毯がある。そして椅子とテーブルが中央になる。見れば簡素な部屋である。
「うむ、よく来てくれた」
 彼は暗闇大使に挨拶した。そして彼に再び席に着くように勧め自らも座った。
「ところで何の用だ」
 彼は問うた。
「わざわざ本部からこのようなところにまで来てくれるとは」
「うむ、一つ頼みたいことがあってな」
 暗闇大使の目が光った。
「頼みたいこと!?」
 大元帥もその言葉に眉を動かした。
「そうだ、ゼクロスのことでな」
「今あの男は日本にいるのではなかったのか!?」
「何を言っておる、バダン日本本部は今壊滅状態じゃ。あの男も世界を動き回っておる。我々を捜してな」
「そうであったな。日本支部は全ての改造人間を倒されてしまったしな」
「そうじゃ。これはわしの失態だがな。だが今それをここで言っても何にもならぬ」
「うむ」
 姿形は酷似していてもやはり地獄大使とは違っていた。従兄弟は激情家だが彼は常に冷静である。そうしたところが二人の不和を助長しているのかも知れない、とマシーン大元帥は思った。
(だがそれは口に出しては言えぬな)
 そのことを口にしたならば暗闇大使も激怒してしまうのだ。彼等はそれ程までにお互いを嫌悪し憎み合っているのだ。
「それで頼みだが」
 暗闇大使は再び言葉をかけてきた。
「頼めるだろうか」
「内容によるな」
 彼は言った。
「そうか。ではあの男と戦う時になった場合だが」
「それなら構わないぞ」
 捕らえろ、というものならば首領から直々のものでない場合以外は断るつもりであった。
「そうか。ならば少しテストして欲しいものがある」
「テスト!?兵器か何かか」
「そうだ。実は今開発中の兵器があってな」
「それは興味深いな」
「それをあの男との戦いに際して使ってもらいたい。頼めるか」
「こちらとしても有り難い話だ。新兵器がどのようなものか興味があるしな」
 彼はそれを快諾した。
「そうか、有り難い。では宜しく頼むぞ」
「そしてその兵器は何時こちらに届くのだ?」
「すぐに送る。楽しみにしておいてくれ」
 彼は言った。そして基地を後にした。
「兵器か。そういえばあまり使ったことはないな」
 デルザーの主戦力はあくまで改造魔人であった。他の組織の大幹部達と同等の戦闘力及び位を持つ彼等はそれ自体が最大の戦力であったのだ。
「だが面白いな。果たしてどのような兵器か」
 彼はほくそ笑んだ。
「あのゼクロスを葬り去れればそれでよし。それでわしの名もさらに上がるというものよ」
 彼は笑ってその部屋を後にした。部屋は闇の中に消えていった。

 城と沖はバリ島においてバダンの捜索を続けていた。そしてライステラスに謎の一隊が向かっているとの情報を掴んだ。
「臭いな」
 道をバイクで進みながら城は言った。
「はい、レーダーの反応が普通のものとは明らかに違いますし」
 沖はXマシンのレーダーを見ながら答えた。
「すぐに行きましょう」
「ああ、そこにいる奴は大体察しがつくがな」
 二人はそう言ってライステラスに向かった。
「よし、準備はいいな」
 ヨロイ騎士は緑の棚田の中で戦闘員達に対して指示を出していた。
 このライステラスはウプド郊外にある。標高は八〇〇メートルであり中々涼しい。その緑の田園地帯はのどかで優雅ですらある。
 だが今ここにバダンの悪の戦士達がいた。彼等は周囲に散りこの田園地帯を次々と占拠していった。
「よし、作戦は順調なようだな」
 ヨロイ騎士は戦闘員達の動きを見ながら言った。
「ライダー達が来る前にここを我等の陣地とするのだ」
 その指揮は的確である。やはり古から騎士だっただけはある。
「待てっ!」
 だがそこに声がした。
「来おったな」
 ヨロイ騎士はその声がした方に振り向いた。
 そこは棚田の上の方であった。そこに二人の戦士達がいた。
「城茂、そして沖一也よ」
 ヨロイ騎士はその二人の戦士の名を呼んだ。
「今ここで倒してくれる」
「貴様にそれができるかな」
 城は彼を挑発するように言った。
「ほざくな、かかれっ!」
 それに対してヨロイ騎士は剣を振るった。散っていた戦闘員達が集まり二人に襲い掛かる。
「来たな」
 二人は身構えた。変身することなく戦闘員達を倒していく。
「絡め取れっ!」
 ヨロイ騎士が指示を出す。戦闘員達が二人の左右に回り鎖を投げる。
「ムッ」 
 それは二人の両腕、及び両足をとった。
「さあ、どうする」
 ヨロイ騎士は二人を見上げて言った。
「このままでは力尽きるぞ」
 まるで何かを待っているかのような口調であった。
「この程度でっ!」
 沖が叫んだ。そしてその鎖を引き千切った。城もそれに続いた。
 ヨロイ騎士はそれでも攻撃を止めない。執拗に鎖を投げさせ二人を絡め取ろうとする。まるでその体力を徐々に奪っていくように。
「フフフフフ」
 彼はその様子を眺めながらほくそ笑んでいた。そこに何かがやって来た。
「ヨロイ騎士よ、待たせたな!」
「来たか!」
 城と沖の後ろにその影は現われた。そして二人を取り囲んだ。
「磁石団長か!」
「そうだ、貴様等を倒す為にやって来たぞ!」
 彼は自信に満ちた声で二人に言った。
「見たところヨロイ騎士の部隊との戦いで相当に体力を消耗しておるな」
「あの鎖はそれが目的だったのか」
「そうだ、流石にそれは見抜いたか」
 ヨロイ騎士は上の方に向かって歩きながら言った。
「あの鎖は貴様等の体力を奪うのが目的だったのだ」
 その後ろに怪人達が現われた。
「そして疲れたところに磁石団長の一団が到着して一気に倒す。素晴らしい戦術だろう」
「確かにな」
 沖はそれを聞いて無表情で答えた。
「成功したならな」
 城は不敵な声で言った。
「フフフフフ、今それが成功したのだ」
 磁石団長とヨロイ騎士は並んでその言葉を言った。
「さあ、観念するがいい。貴様等は最早変身する力も残ってはおるまい」
「それはどうかな」
 二人は言った。
「俺は電気がその力の源」
「俺は赤心少林拳の修業により気から力を取り入れることが出来るのだ」
 二人は彼等と正対して不敵に言った。
「それがどうしたというのだ。スーパー1はともかくストロンガーは変身できまい」
「そうじゃそうじゃ、例え変身したとしてもその体力ではチャージアップできまい」
 ヨロイ騎士と磁石団長は勝ち誇った態度を崩さない。
「・・・・・・ならば見せてやろう」
 城は不敵な態度を崩さない。
「ライダーの力を合わせた技を」
 沖も言った。そして二人は構えをとった。

 変身
 城は手袋を取ると両腕を肩の高さで右に垂直にした。右腕は伸ばし左腕は肘のところで直角にし右腕と並行にする。そしてそれを上にゆっくりと旋回させる。
 身体が黒くなっていく。胸は赤くなりブーツが白になる。
 スト・・・・・・ロンガーーーーーッ!
 銀の両手を合わせる。するとそこに電撃が走る。
 その両手が白い手袋に覆われる。顔の右半分が黒と白の仮面に覆われる。眼は巨大で緑である。そしてそれが左半分も覆っていく。

 変・・・・・・
 沖は両手を爪の様にした。そしてまず右腕を頭の高さで後ろに引き左腕は腰のところで前に置く。
 右腕を前に出す。掌は上を向いている。そしてそれはすぐに引き込む。
 身体が黒と銀になっていく。手袋とブーツは銀である。
 ・・・・・・身!
 手首のところで両手を合わせそれを前に出す。そして時計回りに百八十度回転させる。
 顔が銀の仮面に覆われる。左半分も。眼が赤く光った。

 二人は光に包まれた。そして二人のライダーが現われた。
「フフフ、変身したな」
 ヨロイ騎士は彼等を見てまだ笑っていた。
「一体どうするつもりなのかのう」
 磁石団長もそれは同じである。やはり笑っていた。
「見るがいい」
 スーパー1はそれに対して言った。
「チェーーーーンジ、エレキハァーーーーーンドッ!」
 スーパー1は腕をエレキハンドに換えた。そしてそれでストロンガーを掴んだ。
「ムッ!」
 何とそれでストロンガーに対して渾身の力で電撃を放った。ストロンガーの全身が緑に輝く。
「何とっ!」
 二人の改造魔人はそれを見て驚愕した。彼はその電気の力を瞬く間に吸収したのだ。
「よし、これで充分だ」
 ストロンガーは電気を吸収し終え満足した声で言った。
「わかりました」
 スーパー1はそれを聞くと電撃を止めた。そして腕をスーパーハンドに戻した。
「どうだ、ファイブハンドにはこうした使い方もあるのだ」
「ぬうう、ぬかったわ」
 ヨロイ騎士はスーパー1の言葉を聞き歯軋りした。
「俺は元々は惑星開発の為に改造されたのだ。人々を助ける為にな」
 彼の声には何処かやりきれぬ思いが込められていた。
「貴様等バダンがいる限り俺達の戦いは終わらない」
 ストロンガーは二人を指差して言った。
「小癪な・・・・・・」
 磁石団長はそれに対して呪詛の言葉を漏らした。
「だが貴様等を倒してもう一度夢を掴む、行くぞっ!」
 ストロンガーの夢、それはかって共に戦ったあの戦士との約束を果たすことであった。だが彼はそれを誰にも言おうとはしない。自分の心の中に留めているだけであった。
 その前に怪人達が出て来た。そしてストロンガーとスーパー1を取り囲む。
「来たな」
 二人のライダーは背中合わせになり取り囲む怪人達と対峙した。
 四体いた。ゲルショッカーの酸欠怪人サソリトカゲス、デストロンヨロイ一族の一人カマクビガメ、ゴッドの木人怪人アルセイデス、ドグマの忍者怪人カメレキングであった。
「どうだ、この怪人達は」
 磁石団長は怪人達の輪の中にいるライダー達に対して余裕を含んだ声で問いかけた。
「打ち破れるものなら破ってみよ」
 磁石団長も同じである。まるでライダーの敗北を確信しているようだ。
「大した余裕だな、二人共」
 それを聞いたストロンガーが言った。
「まだ勝負ははじまってはいないというのに」
「勝負とは常にはじまる前から決まっておるのだ」
「そうだ、現に貴様等は既に取り囲まれているではないか」
 二人はストロンガーに対し反論した。
「スーパー1」
 ストロンガーはそれを聞いてスーパー1に声をかけた。
「わかっていますよ」
 彼が何を言いたいのかスーパー1はわかっていた。そう言って頷くだけで充分だった。
「ならば見せてやる、俺の技を」
 スーパー1は身構えると腕をゆっくりと動かした。
「ちょこざいな、やれい!」
 二人の指示が同時に下った。そして二体の怪人がスーパー1に襲い掛かった。
「ソオーーーーーーリィーーーーーーーーーーーッ!」
「フシューーーーーーーーーーウッ!」
 サソリトカゲスとカメレキングが来た。鋏と剣がライダーを襲う。
「ムンッ!」
 スーパー1は彼等の腕を蹴り飛ばしてその攻撃をかわした。そして跳び上がった。
「スーーーパーーーーライダァーーーーー」
 空中で叫ぶ。
「天空連続キィーーーーーーック!」
 そしてまずはカメレキングを蹴った。間髪入れずサソリトカゲスも蹴った。
 彼等の後ろに着地した。二体の怪人はその背の向こうで爆死した。
「今度は俺だっ!」
 ストロンガーは自分から残る二体の怪人に向かって行った。
 アルセイデスは蔦の鞭を放ってきた。カマクビガメは自身の首を伸ばしてきた。
 ストロンガーは首をかわした。そして蔦の鞭は手で掴んだ。
「無駄だっ!」
 そしてそこから電撃を放った。
「グオオッ!」
 怪人は苦悶の声をあげる。カマクビガメの首も戻るまでには時間があった。
「今だっ!」 
それを逃すストロンガーではなかった。すぐに彼は跳んだ。
「ストロンガーーーーー・・・・・・」
 上空を跳びながら叫ぶ。
「ダブルキィーーーーーック!」
 まずはアルセイデスを蹴った。続いてようやく首が戻ったカマクビガメを。
 そしてスーパー1と同じように怪人達の後ろに着地した。怪人達は先の二体の同僚達と同じくライダーの背で爆発した。
「どうした、もう終わりかっ!」
 ストロンガーはヨロイ騎士と磁石団長を見据えて言った。
「ヌウウ、マシーン大元帥が送ってくれた精鋭達をこうも簡単に倒すとは・・・・・・」
 彼等は思わぬ展開に舌打ちした。
「今度は貴様等の番だっ!」
 スーパー1はストロンガーの横に来て言った。
「ムムム・・・・・・」
 改造魔人達は怯んだ。だがそれは一瞬であった。
「こうなれば我等で倒してくれる」
「そうじゃ、最初からこうすれば問題なかったのじゃ」
 ヨロイ騎士は二振りの剣を、磁石団長は磁石の杖を取り出した。それを手にして身構える。
「行くぞっ!」
「望むところだっ!」
 かくして二組の戦いがはじまった。ストロンガーはヨロイ騎士と、スーパー1は磁石団長と戦いをはじめた。
「喰らえっ!」
 磁石団長は前に屈んだ。そして背中から何かを発射してきた。
「ミニ磁石っ!」
 無数の磁石がスーパー1に襲い掛かって来た。
「来たな」
 スーパー1はそれを見て身構えた。
「どうじゃ、この磁石の嵐、よけられるかっ!」
 磁石団長はスーパー1を前に豪語した。
「それはこれを見てから言うのだな」
 彼はすぐに腕を換えた。
「チェーーーンジ、冷熱ハァーーーーーンドッ!」
 そして腕を緑のものに換えた。
 まずは炎を放った。忽ち磁石が紅く染まる。
「フン、何をするかと思えば」
 磁石団長はそれを見て笑った。
「そのようなものでわしの磁石を止められると思うてかあっ!」
 だがスーパー1は答えない。すぐに炎を収めた。
「次はこれだっ!」
 そして今度は冷気を出した。
 それまで炎で激しく熱されていた磁石が今度は冷気に曝される。これによりまず磁石の一つが割れた。
「ムッ!?」 
 そしてそれは全ての磁石に渡った。粉々に砕け散り床に落ちた。
「熱したあとで急に冷やすとどういうことになるか・・・・・・。わかるな」 
「おのれ・・・・・・」
 磁石団長は悔しさと怒りで歯噛みした。だがそれを続けている暇はなく磁石の杖を振るってスーパー1に向かった。
「もう飛び道具は止めじゃあっ!」
「望むところだっ!」
 そして二人は今度は接近戦を開始した。
 ヨロイ騎士は両手に長短二振りの剣を持っていた。それでストロンガーに斬り掛かる。
「ムンッ!」
 だがストロンガーはそれをかわした。間合いが離れた。
「間合いなぞわしには関係ないわっ!」
 彼はそう叫ぶと頭上で剣を交差させた。
「高圧熱線っ!」
 交差された剣から熱線が放たれる。それはストロンガーに襲い掛かる。
「ストロンガーーバリアーーーーーッ!」
 ストロンガーは叫んだ。すると彼の身体が青く光った。
 そして自身の前に電磁の壁を作った。それで熱線を防いだ。
 壁と熱線は相殺された。ストロンガーはそれを確認すると身体の色を元に戻した。
「まだだっ!」
 そして今度は胸のSの文字のところに両手を合わせた。
「チャーーーーージアーーーーーーップ!」
 叫んだ。そしてSの文字が激しく回転をはじめた。
 ストロンガーの角と胸の中央が銀色になった。超電子の力を発動したのだ。
「おのれ、本気を出してきおったな」
「そうだ、勝負はこれからだっ!」
 今度は自分から突進した。剣と拳がぶつかり合う。
 四人は激しい戦いを続けていた。相変わらずストロンガーはヨロイ騎士と、スーパー1は磁石団長と戦いを続けている。
 状況は次第にライダー達の方に傾いてきていた。さしもの二人もチャージアップしたストロンガーと五つの腕を自由自在に操るスーパー1が相手では分が悪かった。
「今だっ!」
「はいっ!」
 二人は彼等の一瞬の隙を逃さなかった。そして頷き合うと一斉に跳んだ。
「行くぞっ!」
 彼等は同時に空中で一回転した。
「超電・・・・・・」
「スーパーライダァーーーー・・・・・・」
 二人は技の名を同時に叫んだ。
「スクリューーーーーキィーーーーーック!」
「閃光キィーーーーーック!」
 そして蹴りを放った。二人の蹴りが同時に二体の改造魔人の胸を撃った。
 二人は後ろに大きく吹き飛ばされた。ライダー達は着地しながらそれを見守った。
「グオオオオオオ・・・・・・」
 二人は地面に叩き付けられながらも立ち上がった。そしてライダー達の方へ顔を上げた。
「見事な蹴りだ。我等にここまでのダメージを与えるとはな」
 ヨロイ騎士は足をふらつかせながらもまだ前に進もうとする。
「わし等の負けじゃ。バリ島での作戦は失敗だ」
 磁石団長も同じである。彼等の目の前には死が口を開いていた。
「やりおるわ、ライダー達よ」
 それでも彼等は膝をつこうとはしなかった。
「褒めてやろう、復活した我等をまたしても破るとは」
 そして誇りも忘れてはいなかった。
「貴様等を倒しこのバリ島を死の島に変えてやるつもりだったが。こうなっては致し方あるまい」
「あとはマシーン大元帥に任せるとしよう」
 二人はよろめきながらも踏ん張ってそう言った。
「だがのう」
 二人は目を見開いた。
「デルザー軍団改造魔人は死ぬまでその偉大な祖先の名を汚すことはないのじゃ。今からそれを見せてやろう」
「とくとな」
 二人はそう言うとその場に座り込んだ。
「死ぬその時も堂々とし威厳を忘れぬ、それをしかと見よ!」
「地獄で待っておるぞ!」
 彼等はそう言うと爆発した。二つの爆発がライダー達の目に映った。
「死んだか」
 ストロンガーはそれを見て呟いた。
「ええ。流石は誇り高き魔物達の子孫です。見事な最後です」
 スーパー1もそれに同意した。こうしてバリ島の戦いは終わった。

「何だ、もう終わっていたのか」
 立花は二人と合流して言った。
「折角わしが来てやったというのに」
 あからさまに残念で仕方がないといったふうである。
「おやっさんが来ていたなんて聞いていませんよ」
「そうですよ。アメリカにいたんじゃなかったんですか」
 二人は残念で仕方なさそうな彼を宥めるようにして言う。
「フン、どうせわしはいてもいなくても一緒だ」
 彼はヘソを曲げた。
「おやっさんも強情だなあ。戦いはまだまだこれからだってのに」
「そうそう、バダンの奴等は次から次に来ますよ」
「それはわかってはいるが。しかしわしがやることはどうせ足手まといにしかならんだろう」
「それは違いますよ」
 二人は表情を引き締めて答えた。
「おやっさんがいなかったら俺達は今こんなにくつろいだりできませんよ」
「そうですよ、俺達ライダーを理解して常に側にいてくれる人の存在がどれだけ有り難いか」
「お前達・・・・・・」
 立花はその言葉にじんときた。
 彼等は皆孤独である。家族はない。早くにうしなったか殺されてしまったか。そして普通の人間ではない。心は人間であっても身体はそのほぼ全てが改造されている。彼等の他には誰もいない。孤独な戦士達なのだ。
 その彼等を常に父親のように支えてきたのが立花である。ライダー達にとって彼の存在がどれだけ有り難かったか、それは言うまでもなかった。
 彼等が苦しみ、悩んでいる時も常に側にいた。時には厳しく、時には優しく。彼なくしてライダー達は悪の組織を破ることは出来なかったであろう。
「だからおやっさんはむくれる必要はないんですよ」
「そうですよ、ここは勝利を祝って乾杯しましょうよ」
「そう言ってくれるか」
 涙は流さない。笑顔で言った。
「ええ、飲みましょうよ今日は!」
「そして次の戦いに英気を養いましょう!」
「よし、わしのおごりだ、今日はじゃんじゃん飲むぞ!」
「はい!」
 こうして三人は酒場に向かった。束の間の勝利の喜びを味わう為に。

 勝者はそうして勝利の美酒を味わう。だが敗者は苦い憎しみを味わう。マシーン大元帥がそうであった。
「死んでしまったか・・・・・・」
 彼は円卓に一人座しそう呟いた。
「かっては常に共にあったというのに・・・・・・」
 残る二つの席には誰もいない。杯も空である。
 一人杯に酒を入れる。そしてそれを飲む。
「お主達の仇は必ずこのわしがとってやる」
 その声は沈んでいたが怒りに満ちていたものであった。
「だから悲しむでないぞ」
 そして再び酒を口にした。
「えらく辛気臭いな」
 そこに誰かがやって来た。
「お主か。悪いが今は一人にしてくれ」
 彼は後ろを振り返らずに言った。
「お主!?誰かと勘違いしているのではないかな」
「!?」
 マシーン大元帥はその声に対し後ろを振り向いた。見ればそこには彼がいた。
「いや、違うか」
 暗闇大使に瓜二つではあるが違っていた。身体から発せられる気は彼の方が獰猛であった。
(あの男の気はもっと狡猾なものだ。それに対しこの男のは・・・・・・)
 心の中でそう思った。
「どうやらあいつを間違えたらしいな」
 地獄大使はどうやら怒っているらしい。
「だがいい。今はそれ程気分は悪くない」
 そしてマシーン大元帥と向い合った。
「ところで聞きたいことがあるのだが」
「バリ島での戦いならば他の者に聞くがいい」
 マシーン大元帥の声は不機嫌そのものであった。
「フフフ、まあそう怒るな」
 地獄大使は気の短い自身のことはさておき彼をたしなめた。
「わしが聞きたいのはそれではない」
「では何だ!?」
「ここにあの男がよく来るそうだな」
「あの男!?・・・・・・ああ、奴のことか」
 マシーン大元帥は最初は誰のことかよくわからなかったがすぐに誰のことか察した。
「確かにな。しかしそれがお主と一体どういう関係があるというのだ?」
「言わずともわかることだと思うが」
 地獄大使の声は少し不機嫌なものになった。
(本当に感情の起伏の激しい奴だ)
 マシーン大元帥は心の中で呟いた。
「それで何が聞きたいのだ?」
「うむ。あの男を見つけたのはそなただったな」
「うむ。ラオスの奥でな」
「そうか。確か死んでいたと聞いたが」
「それはお主が最もよく知っていると思うが」
「・・・・・・そうだが」
 彼等は従兄弟同士であった。だが極めて仲が悪かった。
 その理由は誰も知らない。マシーン大元帥も不思議に思っていたのだ。
「聞いていいか」
 マシーン大元帥は逆に尋ねてみることにした。
「何じゃ!?」
 地獄大使はそれに対し何か身構えるようであった。
「お主とあの男はかっては共に戦ったのではなかったのか!?」
「・・・・・・そうだが」
 地獄大使は憮然とした表情で答えた。
「だがそなたは急にショッカーに入った。あの男はそのまま東南アジアに留まっていたのか!?」
「・・・・・・わしがショッカー東南アジア支部にいた頃には既にいなかったがな」
 大元帥はそれを聞いて彼を注意深く見た。
(嘘ではないようだな)
 こうした組織にいてはどうしても洞察力が求められる。彼は地獄大使の顔をよく見てそう思った。
「では彼は一体何処にいたのだ!?」
「・・・・・・それは知らぬ。わしもな」
「そうか」
 どうも暗闇大使も首領に以前仕えていたことがあるらしい。それは物腰等でわかる。
(どうやらショッカーの頃らしいが)
 確証はない。暗闇大使本人もそれは決して言わないであろう。
「まあ何はともあれだ」
 彼はここで尋ねることを少し変えた。
「お主達は東南アジアでかっては共に戦っていたのだな」
「そうじゃ。勇将と言われていたのは知っていよう」
「うむ」
「それに対してあ奴は知将と言われておった」
「対照的だな」
「あの時からそう言われておったわ」
「そうか」
 そう言う地獄大使の顔は誇りと蔑みが同時に見られた。こんなところにも従兄弟に対する憎悪が見てとれる。
「一つ言っておく。あの男の知は奸智じゃ。それはよく覚えておけ」
「わかった」
 マシーン大元帥は素っ気なく答えた。奸智はバダンの常である。百目タイタンなどはそのいい例だ。特に警戒するまでもない。最初から念頭に入れていることだ。
「で、わしに対して他に何か聞きたいことはあるか!?」
 地獄大使は不機嫌そのものの声で問うてきた。
「いや」
 マシーン大元帥は首を横に振った。
「わしはまだ聞きたいことがあるがな」
「何だ」
「あの男の所在だ。何か知っているか?」
「・・・・・・いや、これといってはないが」
「そうか」
「どうしたのだ!?焦っているように見えるが」
「・・・・・・何でもない。どうもあの男の影が最近また出て来てな」
「何処にだ!?」
「ヘビ女が姿を消したのは聞いているな」
「らしいな」
「他のライダー達の所在は掴んでいる。だがゼクロスだけは掴めていない」
「こちらもだ。果たして何処にいるのやら」
 そうだった。ゼクロスの所在は今誰も知らないのだ。それがバダンにとって最大の捜査対象の一つであった。
「わしも捜しているが。まだ何もわかっておらんのだ」
「こちらもだ」
 地獄大使に対し大元帥も答えた。
「早く捜し出さねばな。さもないといきなり本部に襲撃をかけられる怖れがある」
「そうだな。まさかとは思うがあの男なら有り得る」
 彼等もゼクロスの力をよく知っていた。九人のライダーが一斉に立ち向かってようやく相手になる程の力の持ち主である。それは当然であった。
「一体何処にいるのか、それさえわかればな」
「うむ・・・・・・」
 彼等もまた捜すものがあった。だがその影すらも見つけることができないでいた。



麗わしの島の戦い    完

     
           2004・5・17


[160] 題名:麗わしの島の戦い1 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2004年08月01日 (日) 00時56分

          麗わしの島の戦い
 バリ島、インドネシアにあるこの島は独特の文化を持っていることで知られている。
 インドネシアは一億五千万以上の人口を持つ東南アジア最大の国であるが同時に多様な文化も併せ持っている。スカルノやスハルトといった強権政治家達もそのことはよく認識しその文化を保護してきた。否、それを否定してはインドネシアという国は成り立たないのである。
 そうした難しい国であり民族問題も抱えている。東ティモールはその最たるものであったが他にも色々と民族問題はある。だが国民は全体的におおらかで平和を愛している。そして外交にも長けておりアメリカや中国、日本といった大国にも臆するところはない。
 この国で最も勢力の強い宗教はイスラム教である。だがアラブのイスラムとはいささか違う。
「ここの人達は思ったよりおおらかですね」
 沖一也はバリの街中を歩きながら隣にいる城茂に言った。
「確かにな。俺もアラブは行ったことがあるけれどこことは比較にならない位厳しかったぞ」
 城はインドネシアの雰囲気に驚きながら言った。
「リビアなんかは凄かったな。もう何から何まで怒られっぱなしだった。街の爺さんの厳しいこと厳しいこと」
「まあ城さんでしたらそうでしょうね」
「おい、そりゃあどういう意味だ」
 彼はその言葉に対し口を尖らせた。
「いえ、ただ普通に思っただけで」
「確かに俺は堅苦しいことも決まりごとも好きじゃないが」
「それがまずいんじゃないですか?」
「最後まで聞け。だからといって現地の習慣を破ったりはしないぞ」
「滝さんが言ってましたよ。牛肉が食べたいと盛んに言ってったって」
「イスラムは牛肉は食べてはいいんだぞ。それに豚肉も傷みやすいから食べないんだ」
「そうだったんですか」
「そうだ、イスラム教ってのは案外現実的でよく考えられた宗教なんだ」
 その通りである。例えば犬の唾を不浄としているのは狂犬病を恐れてのことである。実際には酒を飲む人も多かったりする。酒に関しては時代により解釈が異なる。当然人によっても。トルコの国父ケマル=アタチュルクは酒好きとして有名であった。
「それはわかっているつもりですが」
「だからアラブと東南アジアでは変わるものさ。マレーシアでもシンガポールでもムスリムは多いけれどアラブのそれとは雰囲気が全く違うし」
「そういえばここには占い師も多いですね」
 イスラムは建前上占いはするなという。だが実際にはイスラムにおいて占いはかなりの発展を遂げている。ちなみにキリスト教では異端とされ徹底的に弾圧された錬金術はイスラムにおいては奨励されそれが科学の発展に繋がっている。
「これもインドネシアの特色かな。確かに他のアラブ諸国に比べると多いな」
「ですね。まあここはバリ島ですが」
 バリ島はヒンズー教の勢力圏である。
「しかしムスリムもいるからな。そうした多くの宗教や文化が雑多に暮らしているというのは俺は案外嫌いじゃない」
「城さんに合っていますしね」
「おい、それじゃあ俺がガサツみたいに聞こえるじゃないか」
「あれ、違うんですか?」
「違う、すぐに訂正しろ」
 二人はこんな話をしながらバリ島の中を歩いていた。わりかしインドネシアの雰囲気とその風土が気に入っているようである。そこに一人の男がやって来た。
「さて、茂も一也も元気かな」
 それは一人の小柄な東洋人であった。彼はサングラスをして空港に降り立った。

 城と沖はバロン=ダンスを見ていた。バリ島名物の一つである。
 この島特有の伝説にバロンとランダの伝説がある。これはインドにもインドネシアの他の島にもない独特の伝説である。
 バロンは善を象徴としランダは悪を象徴する。聖獣バロンと鬼女ランダは互いに永遠に争い善と悪の戦いを続けるのである。だがランダにも良心はあり話は複雑である。しかもランダは死しても甦りバロンも同様である。これはインドの輪廻転生の思想に根拠がある。
「善と悪の対立ですか」
 沖はそれを見ながら呟いた。
「俺達に似てると思ってるな」
 城はそれを聞いて尋ねた。
「ええ。俺達もこうして悪の組織と何度も戦っていますしね」
「そうだな。思えば俺も多くの組織と戦ってきた」
 城の目が感慨に耽ったものになる。ブラックサタン、デルザー、ネオショッカー、ドグマ、ジンドグマ・・・・・・。沖もそれは同じである。彼等はライダーとなってから実に多くの組織と戦ってきた。
 一つの組織が崩壊すれば首領はすぐに新たな組織を起こす。幾度彼は死のうとも甦る。そしてライダー達は彼の野心を阻止する為に戦うのだ。
「かってあの奇巌山で葬ってやったがな」
 城はデルザーとの最後の戦いを思い出していた。
「だがすぐにネオショッカーを立ち上げた。それが潰れてもドグマ、ジンドグマだ。御前さんはドグマとの戦いがはじめてだったな」
「はい、彼等に国際宇宙開発センターを破壊されたのがはじまりでした」
 彼の声は少し沈んだものとなった。
「それから日本に渡りドグマと戦いました。その時に先輩達とお会いしたのでしたね」
「ああ、懐かしいな」
 地獄谷五人衆との戦いであった。赤心少林拳も交えた総力戦であった。メガール将軍が手ずから鍛え上げた精鋭達との死闘であった。
「あの時に俺の他にもライダーがいたんだって知りましたよ。俺は一人じゃなんだって」
「皆俺達はネオショッカー首領との戦いで死んだと思っていたけれどな」
 城は苦笑して言った。
「あ、そうだったんですか」
「そうだよ。って知らなかったのかよ」
「ええ、初耳です」
「・・・・・・仕方ないな。まあおやっさんだけは信じていたみたいだけれどな」
「立花さんですね」
「ああ。あの人にだけはかなわないな」
 彼は急に温かい表情になった。
「俺達はあの人に育てられたからな。ブラックサタンやデルザーとの戦いでどれだけ助けられたか」
「俺もですよ。谷のおやっさんに」
「そうした人達がいるから俺達も戦える。それだけは忘れたくないな」
「ええ、同感です」
 バロン=ダンスは終わった。そこに新たに誰かが姿を現わした。
「ムッ!?」
 二人はそれを見て目を見張った。それはバダンの戦闘員達であった。
「バダンか!」
 二人は彼等の姿を認めると彼等の中に飛び込んだ。そして彼等との戦いをはじめた。
「クッ、城茂と沖一也か!」
 彼等は二人から間合いを離して叫んだ。
「バリ島に来ているとは知っていたがまさかここにいるとはな!」
 そして二人を取り囲む。二人は背中を向け合って彼等に対峙している。
「生憎だったな、たまたまダンスを見ていたんだ」
 城は不敵な表情で彼等に対して言った。
「貴様等に会ったのは軍善だったが」
 沖は赤心少林拳の構えを取っている。
「ここで会ったが百年目だ、相手をしてやるぞ!」
 二人は同時に叫んだ。
「クッ!」
 彼等はその気迫に押された。やむおえなく退こうとする。
「待て、それには及ばん!」
 そこに二体の怪人が姿を現わした。
「来たな」
 二人は怪人達を見て呟いた。観客達はそれを楽しげに見ている。
「おいおい、面白い見世物だな」
「ああ、日本の番組みたいだ」
 日本のテレビ番組はインドネシアでも人気である。彼等はこの戦いを何かの見世物だと思っている。
 怪人はショッカーの人食い怪人サラセニアンとネオショッカーの甲羅怪人オカッパ法師である。二体の怪人は二人に挑みかかって来た。
「ムッ」
 二人は森の中に投げ飛ばされた。観客達は思わず息を飲む。
「おいおい、いきなりやっつけちまったよ」
「何言ってるんだ、凄いのはこれからだよ」
 二人は素早く森から飛び出て来た。その時には既に変身していた。
「おおーーーーーっ!」
 皆その姿を見て拍手喝采である。彼等はそれを気にもとめず怪人達と対峙する。
「行くぞっ!」
 そして拳を振るって立ち向かう。怪人達も武器を手にして向かって来た。
「エケエケエケエケ」
 サラセニアンはストロンガーにその鞭で攻撃を仕掛けてきた。その右腕を掴み取った。
「ムムム」
 ストロンガーはそれを引いた。だが怪人の力も思ったより強く力比べは均衡していた。
 ストロンガーは鞭に左手を添えた。そして叫んだ。
「電ショック!」
 高圧電流が鞭を伝わった。そしてサラセニアンを激しく撃つ。
「エケエケーーーーーーッ!」
 怪人は叫び声をあげた。ストロンガーは怪人の力が怯んだのを見て反撃に移った。
「トォッ!」
 空中に跳んだ。そして一回転した。
「電キィーーーーーック!」
 電気を帯びた蹴りが炸裂する。怪人は後ろに吹き飛び爆死した。
「おお、凄いリアルだな!」
「おお、まるで映画みたいだ!」
 観客は誰もそれが本当なのだとわからない。戦いはそれに構わず続いている。
「カッパーーーーー」
 オカッパ法師は奇妙な叫び声をあげると頭の皿をスーパー1に投げて来た。
「ムッ!」
 スーパー1はそれを銀の腕で弾き返した。地に落ちた皿は忽ちその場所を溶かしていく。
「ケッ」
 今度は黒い布を投げてきた。スーパー1はそれを避けようとしたが避けきれず捕まってしまった。
「しまった!」
「ケケケケケ」
 オカッパ法師はそれを見て笑っている。逃れられないと確信していたのだ。
 だがスーパー1には切り札があった。そして彼はそれを今使うことをためらわなかった。
「チェーーーンジ、パワーーーーーハァーーーーーーンドッ!」
 彼は腕を換えた。忽ち銀であった腕が真紅のものになる。
「おいおい、今度は手の色が変わっちまったぞ!」
 皆それを見て大騒ぎする。しかし当のスーパー1はそれどころではない。
「ウオオッ!」
 その黒い布を掴む。そして左右に思いきり引きそれを千切ろうとする。
 やがて力が勝った。布は引き裂かれた。
「今度はこちらの番だっ!」
 スーパー1は身構えた。そして再び腕を換えた。
「オカッパ法師、河童の改造人間である貴様の弱点は・・・・・・」
 赤い腕が光った。そして青いものになった。
「水だ、河童は多量の水分がなくては生きていけない!」
 そして腕をエレキハンドに換えた。
「チェーーーーンジ、エレキハァーーーーーンドッ!」
 換装するとすぐにそれを怪人に向けた。
「喰らえっ!」
 そして電撃を放った。
「ギャアオオオオオッ!」
 これにはさしものオカッパ法師もたまらなかった。普通の怪人よりもかなり多くの水分を必要とする彼はそれだけ電気を通し易かったのである。そして彼はそれに打ちのめされた。
 それが決め手であった。怪人は倒れ爆発した。
「おお、やけに強いなあ」
「正義の味方はこうでなくちゃな。上映される日を楽しみにしておくか」
「気楽なものだな」
「ま俺達やバダンのことを知らないだけまだいいですよ」
 そんな観客達の声を二人のライダーは苦笑して聞いていた。

 前哨戦はライダー達の勝利に終わった。二人の改造魔人はそれをモニターで見ていた。
「やはりあの怪人達では駄目か」
 ヨロイ騎士はモニターから目を離して言った。
「だがあの二体の怪人が駄目では実際にライダー達を倒せる怪人はおらんぞ」
 磁石団長はそんなヨロイ騎士に対して言った。
「それはわかっている。だが怪人はまた送られて来る」
「ライダーを倒せればよいのだがな」
「それが出来る怪人がおらんのだ。相手も手強いことだしな」
「やはり我々が出向くのが一番か」
 ヨロイ騎士が意を決した顔で言ったその時だった。
「まあ待てヨロイ騎士よ、それにはまだ早いのではないか」
 不意に部屋に一体の古代エジプトの棺が現われた。
「来たか」
 二人はその棺を見て言った。
「うむ、お主達のことが心配になってな」
 その棺の中からマシーン大元帥が姿を現わした。
「よく来てくれたな、マシーン大元帥」
 二人は彼の姿を認めると急に表情を明るくさせた。
「何を水臭い、我等は常に一緒ではないか」
 彼は二人に対して言った。
「堅苦しいことは抜きだ、早速本題に入ろう」
「うむ」
 三人はそこにあるテーブルに着いた。
「どうやらストロンガーとスーパー1に苦戦しておるようだな」
「うむ、先程襲撃をかけさせたが」
「サラセニアンとオカッパ法師がやられてしまった」
 二人は口惜しさを滲ませて言った。
「そうか、あの二体の怪人がのう」
 大元帥はそれを聞いて顎に手を当てた。
「うむ、やはりあの二人は手強かった」
「おかげでライダーに対抗できる怪人がいなくなってしまった」
「怪人なら任せておけ」
 マシーン大元帥は二人の話を聞き終えて言った。
「わしがすぐに送ってやろう。そのことは心配無用だ」
「まことか!?」
 磁石団長が思わず声をあげた。
「うむ。ライダーにも対抗出来るような怪人なら何体か持っている。それもこのバリ島の気候に合ったものをな」
「おお、それは有り難い。これであの二人を倒せるぞ」
 ヨロイ騎士も声を出した。
「だがそれだけではライダー達は倒せん」
 マシーン大元帥はここで声を厳しくさせた。
「的確な作戦がなくてはな」
「うむ」
 二人はその言葉に表情を引き締めた。
「ここは二手に分かれて動くべきだと思うが」
「今までと同じようにか」
「そうだ。まずはヨロイ騎士が陽動部隊を率いる」
「うむ」
 ヨロイ騎士はそれに対して頷いた。
「そして磁石団長が主力部隊を率いる」
「挟み撃ちにするつもりだな」
「その通りだ」
 マシーン大元帥は磁石団長の言葉に頷いた。
「まずヨロイ騎士がライダー達を誘き出す。そしてその背後から磁石団長が襲い掛かる。そして奴等を一網打尽にするのだ。幸いこのバリ島は陽動を仕掛けるにはもって来いの場所だしな」
 観光地だけあってテロにも悩まされているのである。
「相変わらず見事な作戦だな」
「フフフ、世辞はいらぬぞ」
 マシーン大元帥は二人の言葉に対して不敵な笑みを浮かべた。
「それよりもこちらのこてゃ頼んだぞ」
「任せておけ」
 二人は胸を張って答えた。
「必ずやライダー達を始末してくれよう」
「期待しておるぞ」
 三人は杯を取り出しそれを打ちつけ合った。こうして彼等の作戦は決定された。




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