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[331] 題名:第五十四話 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年04月13日 (木) 20時03分

          ヴォルクルスの影
 ゼツの死と共にバゴニアは正気を取り戻した。そしてラングランとの和平交渉に取り掛かった。こうして両国の戦いはとりあえずは終結に向かうことになった。
「とまあそういうことだ」
「そうか」
 ジノはゴラオンのモニターに出ているトーマスに対して頷いていた。
「あんたのことも不問になったぜ。何時帰って来てもいいそうだ」
「それは有り難いな」
「けどまだそっちにいるんだろう?」
「うむ」
 ジノは戦友の言葉に頷いた。
「これは私の仕事だからな。全てが終わるまで留まらせてもらう」
「そうかい」
「貴公はそのままバゴニアに留まるのだな」
「ああ、こっちの生活に気に入ってるんでな」
 彼はニヤリと笑ってこう言った。
「ずっといさせてもらうぜ。別に構わないよな」
「私はいいが」
「とりあえず留守は任せな。俺が守っておくからよ」
「頼むぞ」
「まあ今までみたいにどっかの国と戦争になるってことはねえだろうしな。適当にやっとくさ」
「その油断はよくないぞ」
「おいおい、相変わらず厳しいな」
 トーマスはその言葉に苦笑した。
「けどいいや。どっちにしろ任せておいてくれ」
「うむ、わかった」
 こうして二人の会話は終わった。トーマスはモニターから消えた。
「案外いい奴だったんだね」
 リューネはそれを見てジノにこう言った。
「DCの時は変な奴だとしか思わなかったけれど」
「あれでな。気がきくのだ」
 ジノはそんなリューネに対して言った。
「彼には感謝している。今回も何かと動いてくれたのだろう」
「へえ」
「少なくともバゴニアのことは心配ない。私も後顧の憂いがなくなった」
「やっぱり祖国が心配だったんだね」
「それは否定しない。だがこれで安心した」
 そして言葉を返す。
「あらためてこれから宜しく頼む」
「ああ、こちらこそ」
 ジノもこうしてロンド=ベルに入っていった。その時格納庫ではセニアが図面を前に色々と物思いに耽っていた。
「何か、凄いわね」
 彼女は格納庫で胡坐をかき図面の前に座っていた。そして腕を組んで考えていた。
「よくもまあこんなの考えられたわね。やっぱり天才の名は伊達じゃないってことかしら」
「随分悩んでおられるみたいですね」
 ここでウェンディが声をかけてきた。
「うん、まあね」
「それがクリストフから送られてきた新型機の図面ですか」
「そうよ、二機あるわ」
 セニアはそう言って図面をウェンディにも見せた。
「見て、凄いでしょ」
「確かに」
 彼女もそれを見て頷いた。
「これは・・・・・・完成したらかなりのものになりますね」
「一機はマジンガーとかダイターンの能力を参考にしたものらしいわ」
「はい」
「そしてもう一機はバルマーのものらしいけれど」
「これですね」
 彼女はそれに応え図面に写っている二機のマシンのうちの一機を指差した。
「これはまた大胆な外見ですね」
「それで無駄もないしね。何でも地上の二人の科学者が設計したものにクリストフが手を加えたらしいのよ」
「それで」
「確かグランゾンにもバルマーの技術が使われていたのよね」
「それは聞いたことがありますが」
「それに地上やラ=ギアスの技術も入れて。やっぱり天才よね、あいつは」
「何かセニア様が言われると本当に聞こえますね」
「あたしは他人を否定したりしないから」
 彼女はこう述べた。
「だからね。あいつの能力も素直に認められるのよ」
「そうですか」
「あれで。性格がもうちょっとわかりやすければ」
「少なくとも今は敵ではありませんよ」
「それはね。前みたいなドス黒さはないし」
 彼女もそれはわかっていた。
「けれど。相変わらず腹の底は見えないから。それが怖いのよ」
「何か考えている」
「それは確実ね」
 そして頷いた。
「そうじゃなきゃあたし達のところには来ないし」
「はい」
「用心はしておきましょ。敵じゃなくても何を考えているのかわからないし」
「ですね。けれどこれの開発はしないと駄目ですね」
「というかあたしが開発してきたくなったわ」
 にこりと笑ってこう返す。
「何かね、燃えてきたわよ」
「そうですか」
「それでね、手伝ってもらえるかしら」
「私がですか」
「貴女しかいないのよ、いいでしょ」
「困りましたね」
 そうは言いながらも顔は笑っていた。
「子供の頃から私に頼られてばかりで」
「だって信頼できるから。いいでしょ」
「セニア様」
 ここでウェンディは言った。
「何」
「私が今までセニア様の願いを聞き入れなかったことがありますか?」
「いえ、ないけれど」
 覚えている限りはなかった。素直にそれに頷いた。
「ですね。では今回も宜しくお願いします」
「よし、じゃあ早速取り掛かるわよ」
「はい」
 こうして二人はすぐに作業に取り掛かった。だがそれはまだ表には出ていなかった。ロンド=ベルの面々は今はシュウに案内されていく道のことにその関心の殆どを示していたのであった。
「山がどんどん険しくなってきたね」
 ヒメが辺りを見回しながら言う。
「まるで日本アルプスみたいだ」
 見れば山々は雪に覆われていた。そして銀色に輝いていた。
「綺麗だよ、これって」
「そうね」
 そんな彼女にカナンが応えた。
「けれどここにヴォルクルスとやらが眠っているのよね。それを思うと」
「綺麗なのも考えものかあ」
「綺麗なものの中にこそ邪悪なものがある」
  ヒギンズが呟いた。
「ここでもそれは同じなのかな」
「また詩的なこと言うとんな」
 十三がそれを聞いて言った。
「わいはこの風景は素直に気に入ったんじゃけれどな。何時までも見ていたいわ」
「けれどそうはいかないのですよね」
 小介が話に入る。
「僕達はこれからヴォルクルスを倒しに行かなくてはいけないのですから。この風景を何時までも見られるわけではないです」
「残念でごわす」
 大作が言う。
「けどそのヴォルクルスって何なのかしら」
 ちずるが小介に問うてきた。
「シュウさんの話だと邪神か何からしいけれど」
「機械じゃねえのか、それじゃあ」
「どうやら違うようです」
 豹馬が入ってきたところで小介は述べた。
「何でも怨霊とかそういう類のものらしいです」
「怨霊」
「また非科学的やな」
「けれど否定はできないわよね」
「そやけど」
 十三はちずるに言われても今一つ納得しないようであった。
「あたし達も今まで色々と常識じゃ考えられないもの見てきたんだし」
「そうだな、それは認めるしかねえや」
 豹馬もそれは認めた。
「けど怨霊っていうけど何の怨霊なんだと。人間か?」
「どうやら違うようです」
「じゃあ化け猫とかよ」
「それやったらキリーさんが逃げちゃうわよ」
「この前ビデオの佐賀の化け猫見てえらく怖がっておられたでごわす」
「あっ、そうなのか」
「もっとも本当にそうだったら大変だけれどね」
「大阪やったら黒猫は喜ばれるんやけどな、残念や」
「御前のとこはまた別だろ」
「まあそやけどな」
「それで怨霊のことですが」
 小介はメンバーの雑談にも心をとらわれることなくこう言ってきた。
「ええ、それ」
「何の怨霊なんだ?」
「マサキさん達のお話ですとこのラ=ギアスには遥かな昔巨人族という種族がいたそうです」
「巨人」
「はい。彼等の残留思念が集まってヴォルクルスという邪神になったのがその正体なのだそうです」
「そうだったの」
「はい。また巨人といってもゼントラーディトは全く違う別の種族だそうです」
「人間とはまた違うってこと?」
「どうやらそのようです。何でも魔族とかそういった存在だったようです」
「魔族か」
「何かおどろおどろしいわね」
「彼等が滅亡しその残留思念が残り。それが長い間ラ=ギアスを悩ませていたそうです」
「その集合体がヴォルクルス」
「厄介な奴みたいだね」 
 それまで話を聞いていたヒメも言った。
「それでそれはどんな姿をしているのかしら」
「僕にもそれはわかりません」
 カナンの問いに申し訳なさそうに返す。
「ただ、とんでもない力を持っていることは事実のようです」
「力か」
「恐竜帝国とかより強いの?」
「一人で恐竜帝国と同じ程度の力があるようです」
「だから破壊神っちゅうわけやな」
「はい。今回も辛い戦いになるでしょうが」
「まあそれはいつものことさ」
 豹馬が言った。
「気にしてちゃいられないぜ。またやってやるぜ」
「もう、気楽なんだから」
「けど豹馬どんの力は頼りになるでごわす」
「大作、そんなん言うからこいつが調子に乗るんやで」
「勇と一緒だね、子供なんだよ」
「ふふ、確かに」
「何だよ、ヒメちゃんやカナンさんまで」
 コンバトラーチーム以外に言われて口を尖らせる。
「俺と勇じゃ全然違うじゃねえか」
「あら、似てるわよ」
「ちずる」
「子供っぽいところなんか。もう少し大人になりなさいよ」
「ちぇっ」
「シュウさんみたいにとはいかないけれど」
「何だよ、あいつに惚れたのかよ」
「そんなのじゃないわよ」
 少しムキになって否定してきた。
「あの人はね、ちょっと近寄り難いし。どうも側にいたらプレッシャーを感じるのよ」
「それはあるわね」
 カナンがそれに頷いた。
「確か貴女達は未来であの人と戦ったのよね」
「はい」
「その時はもっと不気味なものがあったというけれど。今はどうかしら」
「今はそれはないですね。ただ近寄り難い雰囲気はそのままで」
「おまけにキザだしな」
「隼人以上にキザな奴なんてはじめて見たわ」
「一平もな。呆れてたぜ」
「キザ、ね」
 ヒギンズはそれを聞いて考える目になった。
「どうしたの、ヒギンズ」
「いや、あの人のあれはキザじゃないんじゃないかと思って」
 彼女は答えた。
「自然とそうした雰囲気なのかもな。そして何か心の中に持っている」
「企んでるってことか?」
「そんなのじゃない。けれど何を求めている」
「何かを」
「それが何かはわからないけれど。きっとあの人にとって大切なものだと思う」
「その大切なものの為にヴォルクルスを倒すの?」
「そうかも知れない」
 ヒギンズはちずるの問いにも答えた。
「だから今私達に協力を要請したのかも」
「じゃあ俺達は利用されてるってことかよ、あいつに」
「豹馬」
 ちずるがここで豹馬を咎める。
「あまりそうしたことは。シュウさんがここにいるかも知れないし」
「おっと、そうか」
「聞いたら気を悪くするわ。気をつけましょう」
「けどよお」
「気持ちはわかるけど。いいわね」
「チェッ」
 やはり以前に激しく戦った過去があった。しかし今はとりあえずは味方なのである。ちずるの方が正論であった。
 三隻の戦艦は複雑な気持ちの彼等を乗せて北に向かう。そしてある山の側にまで来た。
「もうすぐですよ」
 その側に来るとシュウが言った。
「ですがそろそろ危険な場所です」
「危険な」
「はい」
 シュウはロンド=ベルの面々に対して頷いた。
「そろそろ。ヴォルクルスの僕達が来ますから」
「僕?」
「ええ。まあ人形のようなものですが」
「一体何なんだよ、それ」
「デモンゴーレムですよ」
「あれかよ」
 マサキ達がそれを聞いて不快な顔になった。
「!?知ってるのかよ」
「嫌になる程な」
 マサキは宙の問いに応えた。
「結構色んな場所で出て来るんだよ。まあ邪教のロボットみたいなものさ」
「何だ、じゃあ雑魚じゃねえか」
「雑魚でもよ、数が半端じゃねえんだよ。一度に千や二千も出て来るんだぜ。鬱陶しいたらありゃしねえ」
「またそりゃ大変な数だな」
「何を言っているのですか。今ここにそれが出るのですよ」
「何っ」
 宙はシュウの言葉に反応した。
「ここにかよ」
「はい、もう出て来ています」
 シュウが言うや否や不気味な土の魔物のような者達が山から出て来た。それがデモンゴーレムであるということはもう言うまでもないことであった。
「二千位ですね」
「噂をすれば何とやらかよ」
「何、大したことはありませんよ」
 しかしシュウはそれだけの数を前にしても平然としていた。
「所詮は心を持たない人形ですからね」
「けど戦わなくちゃいけないんだよな」
「勿論」
「そうとわかれば話は早いぜ。行くぞミッチー」
「宙さん、出るの?」
「当然だろ。おい、皆も行くぞ」
「出るのかよ」
「二千もいちゃ皆出ないわけにはいかないだろ。それともやり過ごすってのかよ」
「いや、それは」
 皆そのつもりはなかった。
「やり過ごせる数じゃなさそうだしな」
「そういうことだ。じゃあ行くぜ」
「あ、ああ」
「まあここは彼の言葉に従うとしようか」
 万丈が面白そうに笑いながら言った。
「そのヴォルクルスのお手並み拝見という意味でもね」
「万丈様、ダイターンのワックスがけは今終わりました」
「グッドタイミングだ、ギャリソン」
「戦いの後は夕食に致しましょう。今晩はここで採れた鳥のオリーブ煮でございます」
「よし、じゃあ夕食の前の運動だ。行くぞ!」
 そう言いながら大空魔竜の艦橋から飛び出た。
「カムヒアーーーーーーー、ダイターーーーーンスリーーーーーーーッ!」
 そして叫ぶ。するとダイターンが轟音と共に出て来た。そして万丈を乗せる。
「ダイターンザンバーーーーーッ!」
 いきなりそれでデモンゴーレムを切り裂いた。瞬く間に数機両断される。
「あっ、最初は俺だぜ!」
 少し遅れてジーグが来た。だが既にダイターンは戦場にいた。
「御免御免、けれどこういうのは早い者勝ちだよね」
「ちぇっ、仕方ねえな」
「それじゃあ皆も来たし。派手に暴れるか」
「おう」
 済んだことは水に流して戦いをはじめた。やはり心を持たないクグツではロンド=ベルの相手にはならなかった。瞬く間にその数を大きく減らしていった。
 中でもシュウのネオ=グランゾンの戦闘力は突出したものであった。デモンゴーレムの岩石による攻撃をことごとくかわし反撃で屠っていく。重力による攻撃で次々とデモンゴーレム達を倒していく。
「ワームスマッシャーーーーッ!」
 重力波を使いデモンゴーレムを潰す。だが数が違っていた。気がつけば周りを囲まれてしまっていた。
「おいシュウ」
「気にすることはありませんよ、マサキ」
 マサキに対してこう言う。
「この程度の数では。ネオ=グランゾンの相手は」
「あれをやるつもりかよ」
「はい」
 余裕の笑みと共に頷いた。
「では、いきますよ」
 そして攻撃に入った。
「ビッグバンウェーブ・・・・・・発射!」
 突如としてグランゾンが光った。そして黒い衝撃波がデモンゴーレム達を襲う。
「グオオオオオオオオーーーーーーーー・・・・・・」
 悪霊達の断末魔の叫びが聞こえる。だがそれは一瞬のことであった。
 彼等は土に還った。一瞬のことであった。ネオ=グランゾンはその圧倒的な力を見せつけたのであった。
「如何ですか、これで」
「ヘッ、またとんでもない強さになってやがるな」
「このネオ=グランゾンもまた進化するということです」
 シュウはまたマサキに応えた。
「このビッグバンウェーブが何よりの証。グラビトロンカノンだけではないのですよ」
「そうやって何処までも強くなっていくんだな」
「はい」
 シュウは頷いた。
「そうでなければ。これからのこともありますし」
「ヴォルクルスかよ」
「まあそれもありますが」
 そして思わせぶりに笑った。
「まだあるかもしれませんね。フフフ」
「ヘッ、また秘密かよ」
「さて」
「まあいいさ。何はともあれこれで戦いは終わりだ」
「はい」
「道案内を続けてくれ。もうすぐなんだろ」
「ええ。では行きますか」
 戦いはほぼ一瞬で終わった。ロンド=ベルはそれぞれの戦艦に戻り再び出発した。この時マサトは美久と話をしていた。
「さっきのネオ=グランゾンの攻撃だけれど」
「マサト君も気付いた?」
「うん。何かゼオライマーのメイオウ攻撃に似ている」
 彼は自分のマシンの攻撃とネオ=グランゾンの攻撃に対して類似性を見出していたのであった。
「その他にも何か似ている気がする」
「そうね」
「それは当然でしょう」
 シュウがそれに応えてきた。
「何故ですか、それは」
「秋津マサト君ですね」
「はい」
「かっては木原マサキ博士。違いますか」
「その通りです」
 今も言われるとあまりいい気はしない。だがマサトはこれに頷いた。
「それが何か」
「私はかってゼーレとも交流がありまして」
「じゃあ」
「はい。鉄甲龍のことも知っていました。当然八卦衆のこともね」
「それじゃあゼオライマーのことも」
「ネオ=グランゾンの設計及び開発の参考にさせてもらいましたよ」
 シュウはそれを認めた。
「そのメイオウ攻撃も。グラビトロンカノンや先程のビッグバンウェーブにね」
「ではネオ=グランゾンもまた」
「いえ、次元連結システムは採用しておりません」
 シュウはそれは否定した。
「このネオ=グランゾンは重力を操ります」
「はい」
「エネルギーにはブラックホールを使っておりますので。それを採用することはなかったのですよ」
「ブラックホールをですか」
「はい」
 シュウはまた頷いた。
「これを扱うのには苦労しましたがね。けれどかなりの力を得ることができましたよ」
「何ということを」
「何、こうでもしなければこれからの戦いには勝てはしませんので」
「これからの戦いに」
「そうです。私達の敵はヴォルクルスだけではありません」
 ここで彼は私達と言った。
「宇宙怪獣もいればバルマー帝国もいます。それをお忘れなきよう」
「はい」
 その時シュウの顔が変わったのを見た。その顔に険がさしていた。
「それでは話もこれで終わりですので行きますか」
「終わりですか」
「私のお話することは。ネオ=グランゾンのことだけでしたから」
「そうだったのですか」
「ええ。では行きましょう」
「はい」
「これからも戦いが続きますからね」
「わかりました」
 彼等はさらに北に向かった。だがそれを苦々しげに見る者達がいた。
「あの者達はさらに北に向かっております」
 イキマがククルにそう報告していた。彼等はまだラ=ギアスに残っていたのである。
「左様か」
「如何致しますか、我等を無視して進んでいるようですが」
「言わずともわかっていよう」
 玉座にいるククルの声が険しくなった。
「全軍出撃用意じゃ」
「ハッ」
「今より彼奴等を追い皆殺しにする。そしてこの基地を放棄せよ」
「この基地をですか」
「最早我等に退路はないものと思え」
 彼女は言った。
「背水の陣じゃ。そして何としてもロンド=ベルを討つ」
「畏まりました」
「ではすぐに出撃準備に取り掛かれ。よいな」
「御意」
 こうしてイキマはククルの前から姿を消した。彼女は一人それを眺めていた。
「どのみちあの者達もわらわには真に忠誠を誓ってはおらぬ」
 かっての戦いでそれがわかった。邪魔大王国の者達はまだ前の女王であるヒミカを慕っていたのだ。
「ヒミカ様にはまだ及ばぬか」
 それはククル自身が痛感していた。だからこそ辛いものがあった。
「だが今度こそ」
 だからこそ自身を見せなければならなかった。それ故の背水の陣であった。
「そしてゼンガーよ」
 彼女はまたもう一つのものを見ていた。
「今度こそうぬを消してくれる。わらわの手でな」
 あくまで彼への憎悪を消そうとはしなかった。その目が赤く輝いていた。
 そして邪魔大王国はその全軍を以ってロンド=ベル追撃に向かった。破壊神の前で別の戦いがはじまろうとしていたのであった。

第五十四話   完


                                          2005・11・15


[330] 題名:第五十三話 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年04月13日 (木) 19時59分

             甦った堕天使
 ネオ=ジオンではゼクスが離脱し、ティターンズもギガノスも大人しくなった。宇宙ではネオ=ジオン以外はそれ程目立った動きはなくなっていた。
 だがロンド=ベルの仕事がなくなったわけではなかった。そのネオ=ジオンが問題なのであった。
 ネオ=ジオンを率いるハマーン=カーン。この若き女傑の計画する地球降下作戦を阻止する。彼等はこの為に地球に戻っていたのであった。
「ネオ=ジオンは今何処にいる」
 ブライトはラー=カイラムの艦橋でサエグサに問うた。
「地球圏に順調に近付いているようですね」
「そうか」
「戦力を集中させています。このまま我々への迎撃と地球降下を同時に行うつもりのようです」
「相変わらずだな。大胆な作戦を執る」
 ブライトはそこまで聞いてこう呟いた。
「ハマーンらしい。彼女を地球にやると厄介なことになるぞ」
「そうだな」
 それに対して艦橋にいたクワトロが頷いた。
「下手をするとダカールを占領される」
「うむ」
「そうなれば問題だ。ジオンが地球連邦政府から成り行きはどうあれ権限を委譲されるかも知れない。そうなれば地球はジオンのものとなる」
「かってティターンズが狙ったやり方ですね」
「そうだ」
 クワトロはトーレスの言葉に頷いた。
「それだけは防がなければならない。ジオンに大義を与えてはならない」
「もうそれは持っているんじゃないですか?」
 サエグサはここでクワトロにこう問うてきた。
「どういうことだ」
「いえ、アナベル=ガトーがよくジオンの大義だと言っているんで」
「彼の大義はまた別の大義だ」
「そうなんですか」
「政治の大義ではない。彼は政治家ではない」
「はあ」
「だがハマーンは政治家でもある。それが問題なのだ」
「ジャミトフやバスクとはそうした意味で同じだということか」
「そういうことになる」
 ブライトの言葉に頷いた。
「むしろシロッコに近いかも知れない。あれ程の不気味さはないが」
「ギレン=ザビやキシリア=ザビとはまた違うのだな」
「そうだ」
 見ればアムロも艦橋にいた。彼の言葉にも頷いた。
「彼女はかなり特殊な立場にいる。それは女性だからかも知れないが」
「よく知っているな」
「伊達に側にいたわけではない」
 その時彼は僅かな間だがシャア=アズナブルに戻っていた。
「その時のことを覚えているのだ。あくまでその時だが」
 そしてそれは彼にもわかっていた。そしてクワトロ=バジーナに戻った。
「そうか」
「思い出したくはないがな。因果なぞ」
「それはお互い様だ」
 アムロも言った。
「しかし。それが戦争の役に立つのなら思い出してもいい時もあるな」
「悟っているな、アムロ中佐は」
「伊達に中佐になったわけじゃない」
 アムロはこう言って笑った。
「色々とわかるものさ。戦場にいたのも長いしな」
「そうか」
「御前と同じだ。歳はとりたくなかったが」
「そういうわけにもいかないだろう」
 ブライトも話に戻ってきた。
「お互い。この立場になると色々とわかるものだ」
「御前は昔から少し老けていたがな」
「おい、またそれか」
 ブライトはそれを聞いてまた苦笑した。
「何か御前はことあるごとに私を年寄り扱いするな」
「まあ気にするな。まだ二十代なんだろう?」
「それはそうだが」
「老けるには早いだろう。まあ大人びていると思えばいい」
「誤魔化したな」
「ははは、そうかもな」
 ロンド=ベルの面々は意外とリラックスしていた。だが地球ではこの時少しトラブルが起こっていた。
「馬鹿者!」
 研究室に三輪の怒鳴り声が響いていた。
「何故あの様な胡散臭い男にファイルを渡したのだ!」
「必要だからです」
 眼鏡の女はモニターに映る三輪の巨大な顔を前にしてしれっとした態度でこう応じていた。安西エリであった。
「必要だと!?」
「はい。ラ=ギアスに向かったロンド=ベルの別働隊の為に。当然の判断であると思いますが」
「地下のことなぞ放っておけ!」
 それに対する三輪の言葉はいつもと同じようなものであった。
「地球をまず考えよ!ネオ=ジオンの主力が向かって来ているではないか!」
「そちらにも援軍が向かっております」
「誰だ、それは」
「それは私がお答えします」
 金髪の青年が前に出て来た。ロバート=オオミヤである。
「貴様か」
「はい。宜しいでしょうか」
「いいだろう。言ってみろ」
「はい」
 オオミヤは三輪のぞんざいで威圧的な態度にも構わず言った。
「ナンブ=キョウスケ中尉とエクセレン=ブロウにング中尉、そしてヒューゴ=メディウム少尉とアクア=ケントルム少尉の四人です」
「あの四人か」
「はい。地球の方も問題はないかと思いますが」
「それでダカールでも陥落させられたらどうするのだ」
「ダカールをですか」
「そうだ。ネオ=ジオンはアフリカに残っているジオンの残党と呼応してアフリカに降下するというではないか。それへの備えは大丈夫なのだろうな」
「その為のロンド=ベルですが」
「随分と奴等を信用しているな」
 それがどうやら三輪にとっては面白くはないらしい。
「悪いでしょうか」
「フン、まあいい」
 だがとりあえずはそれを不問とすることにした。
「では必ず防げるのだな」
「ダカールは大丈夫でしょう」
「大きく出たな」
「ミスマル司令の軍もありますし」
 それを聞いて三輪の顔がさらに険しくなった。彼はミスマルが大嫌いなのであった。彼がミスマルを一方的にライバル視しているだけであったが。
「神ファミリーもいてくれています。大丈夫でしょう」
「言うにこと欠いて異星人共か!」
 しかしここで切れた。どうやら彼にとってミスマルはまだ許容範囲であってもビアル星人である神ファミリーはそうではなかったようだ。
「あの様な得体の知れない連中の力なぞ不要だ!」
「そうもいかないでしょう」
 だがオオミヤは激昂する彼に対して冷静にこう述べた。
「今は戦力が少しでも必要な時ですし」
「異星人でもか!」
「彼等は我々と何ら変わりがありません。それにもう地球に移り住んで二百年になります」
「それがどうした!」
「もう地球人と同じです。それをルーツが違うというだけでそのように言われるのですか!」
「悪いか!」
 最早話にもならなかった。
「異星人なのには変わりがない!何百年経とうがな!」
「クッ!」
 オオミヤは激昂しかけた。まだ何か反論しようとする。だがそこでモニターが消えた。
 エリが消したのであった。モニターは完全に暗黒の中に消えてしまっていた。
「安西博士」
「事故が起こったようね」
 彼女はしれっとした顔でこう言った。
「モニターが突然故障したわ。暫く使えないわよ」
「済まない」
「事故よ。別にお礼なんていいわ」
 そう言って笑ってみせた。
「それに。あのことが知れたらまたことだしね」
「あれか」
 オオミヤには『あのこと』が何かよくわかっていた。
「あれはな。確かに三輪長官に知れるとうるさいな」
「でしょう?シラカワ博士に渡したなんて言ったら。どれだけ怒るか」
「というかあの人はいつも怒っているようだが。本当に日本人か?」
「何でも日本軍でも相当問題があったみたいよ」
「だろうな。日本軍といえばかなり穏健派で知られていた。それであれだからな」
「日本軍じゃ孤立していたみたい。士官学校での成績は優秀だったそうだけれど」
「当時は防衛大学じゃなかったか?あの人が若い頃はまだ自衛隊だった筈だ」
「あら、そうだったかしら」
「自衛隊であれだと。凄いな」
「それで孤立していたのよ。連邦軍でもずっと日陰だったみたいだけれど」
「そうだろうな」
 オオミヤはそれに妙に頷くところがあった。
「岡長官やミスマル司令がおられたからな。アデナウヤー次官も持て余しておられるようだし」
「というか完全に厄介者扱いよ。政治家の方は」
「やっぱり」
「そのうちえらいことになると思うけれどね。とりあえず今はあのままよ」
「大変だな、何かと」
「まあ気にしない気にしない。それと一つ気になることがあるの」
「まだ何かあるのかい?」
「中国の殷墟でね。また遺跡が見つかったらしいの」
「遺跡が」
「けれどすぐに消えたらしいの。それを発掘した白いスーツの男も姿を消したそうだし」
「白いスーツの男!?」
 オオミヤはそれを聞いて顔を顰めさせた。
「幻惑のセルバンテスか!?彼は死んだ筈だが」
「彼だけでなくBF団自体がね。壊滅したわ」
「そうだったね」
 BF団は国際エキスパートとのバベルの塔の決戦で崩壊した。十傑集は壊滅、三つの護衛兵団はジャイアントロボとの戦いに敗れ首領である謎の少年ビッグ=ファイアもまた黄帝ライセとの最後の決闘に敗れ姿を消した。軍師であった諸葛孔明と十傑集、そしてビッグ=ファイアの生死は確認されていないがとりあえずは戦いは終わったのである。だがBF団の影はまだ消えてはいなかったのだ。それはエリとオオミヤの言葉からもわかった。
「そういうことになってるな」
「けれどとりあえず彼等の線はないわ」
「それはまたどうして」
「そうした超能力は使わなかったそうだから」
「そうか」
 それを聞いて少し安心した。
「ならいいけれど」
「彼等のことは国際エキスパートに任せておいていいわ。九大天王も健在だしね」
「ああ」
「問題はね。その男が何処から来て何処に消えたかがわからないということなのよ」
「つまり何者かすらもわからない」
「何でも中国人らしいけれど」
「中国人といっても多いだろう」
 オオミヤはそれを聞いてこう返した。
「ロンド=ベルにもかなりいるし。サイシーにしろウーヒェイにしろ」
「ええ」
「ヤンロンもそうだな。一口に言っても多いぞ」
「それ位しかわからないのよ。だから余計に不安なの」
「困ったな」
「それも気になるしね。シラカワ博士も何考えているかわからないところもあるし」
「彼は確か未来で死んだのだったよな」
「そうよ」
 エリはそれに頷いた。
「マサキ君達の話だとね。ネオ=グランゾンと一緒に」
「それが何故生きているんだ。しかもネオ=グランゾンも健在だ」
「そう。そして私達の前に姿を現わした時も何かが違っていたわね」
「そうだな」
 オオミヤもそれに気付いていた。
「何か。前の彼とは違う」
「相変わらず何か隠しているけれど。怪しさは消えたわね」
「あの怪しさは。何だったのだろう」
「そこに謎があるみたいだけれど。生きていたことと合わせて」
「とりあえず彼もかっての彼ではない」
「ええ」
「それは確かだな。それが吉と出るか凶と出るかはわからないが」
「どう出てもいいようにはしておきましょう。今の彼が信頼できるにしろ」
「そうだな。それじゃあリュウセイ達の乗る新しいマシンの開発も急ぐか」
「そうね」
 二人は研究所でそんな話をしていた。その間にロンド=ベルには新しい仲間が加わっていた。
「はっじめましてえ」
 異様に高く明るい声がナデシコの艦橋に響いていた。
「エクセレン=ブロウニング中尉です。よろしくう」
 金髪に青い目をした綺麗な女性がそこにいた。赤い服は露出も多くかなり派手である。
「ナンブ=キョウスケだ」
 それとは全く正反対の渋い男の声が次にやって来た。
「階級は中尉。宜しくな」
 茶色の髪に長身の青年であった。キリッとした顔立ちに動き易い服装をしている。
「宜しく」
 ユリカは二人に対してにこやかな顔で応じた。
「ロンド=ベルへようこそ」
「はい」
「ああ」
 二人はユリカの言葉にそれぞれ頷いた。
「楽しくやりましょうね。仲良く」
「戦場でそれはちょっとねえ」
 エクセレンはその言葉にはちょっと戸惑った。
「ましてやロンド=ベルなんて最前線にいつもいるし」
「最前線だからこそよ」
 だがユリカはそんなエクセレンに対して言った。
「楽しくやらないと。参ってしまうでしょう?」
「ううん」
「確かに一理ある」
 エクセレンとは対象的にキョウスケはそれに頷くところがあった。
「キョウスケ」
「戦場だからな。だからこそ何処かで息抜きが必要だ」
「そういうことです」
「しかし。またここは極端だな」
「あらっ」
「何か。最前線にいる気がしない。何処か和やかさがある」
「艦長がこうだしね」
 ハルカが話に入ってきた。
「仕方ないわよ。まあリラックスしていきましょう」
「そうか」
「お酒でも飲みながらね。後でゆっくりと」
「えっ、お酒!?」
 酒と聞いたところでエクセレンが目を輝かせた。
「お酒あるの!?」
「ええ」
 ハルカはにこりと笑ってエクセレンに応えた。
「たっぷりと。ブランデーなんてどうかしら」
「もうさいっこう!私も持ってるんだけれど」
「何かしら」
「ナポレオン。後で二人で飲まない?」
「いいわね。それじゃあ大人のお酒を」
「楽しみましょう」
「何か話がまた別の方向に行っちゃっていますけれど」
 ルリがそれを見ながら言った。
「御二人共これから宜しくお願いしますね」
「ああ。宜しくな」
 キョウスケはそれに頷いた。
「思う存分やらせてもらう」
「はい。ところで一つ御聞きしたいことがあるのですが」
「何だ」
「四人参加されるとのことですが。あとの御二人は何処でしょうか」
「今格納庫にいる筈だ」
「格納庫ですか」
「俺達と違って何かせわしい連中でな。口喧嘩をはじめていた」
「喧嘩ですか」
「心配なら行ってみればいい。まあいつものことだから気にすることもないがな」
「わかりました」
 キョウスケの言葉は当たっていた。この時ナデシコの格納庫で一組の男女が言い争っていた。
「もう、何であんたはいつもそうなのよ」
「いつもと変わらないがな」
 赤い髪を立たせた男に対して紫の髪の女がつっかかっていた。男はまるでロックシンガーの様な格好だが女は連邦軍の軍服を着ていた。だがその野暮ったい連邦軍の服からもはっきりとわかる程見事なプロポーションであった。
「そのいつもが問題なのよ」
 大人びた外見に似合わず声はやけに可愛らしいものであった。
「あんたみたいな非常識なの。見たことはないわ」
「そうか」
「そうかじゃないわよ。大体ねえ」
「何か騒がしいな」
 それを聞いて一矢達が格納庫に入って来た。
「新しいメンバーが加わったらしいが。それか」
「ナナみたいに子供じみた声だな」
「京四郎さん、それどういう意味よ」
 京四郎とナナも一緒であった。三人はそこでその二人を見た。
「君達かい?新入りのパイロットは」
「あっ」
 女の方がそれに気付いた。
「ロンド=ベルの人ですよね」
「ああ、そうだけれど」
 一矢がそれに応えた。
「君達がその新入のパイロットだよね」
「はい」
 女はにこりとした顔で頷いた。
「アクア=ケントルムです。そしてこっちが」
 自分の名を名乗りながら男を左手で指し示した。
「ヒューゴ=メディオだ。階級は少尉だ」
 男は素っ気無くそう答えた。
「私も階級は少尉です」
 アクアはにこやかに笑ったまま言う。
「前は特殊部隊にいた。ガルムレイドに乗っている」
「ガルムレイド」
「確か連邦軍で開発されていたマシンだったな」
「知っているのか」
 京四郎の言葉に反応した。
「ああ。マジンガーやダイモスを研究して開発されたと聞いている」
「ダイモスを」
「そうだ。それでそちらの研究所に行ったこともあったが。気付かなかったか」
「済まない、俺はその時火星にいたと思う」
「そうか」
「だからそれは知らなかったんだ」
「では仕方ないな」
「私はサーベラスに乗ってます」
 今度はアクアが言った。
「こっちはモビルスーツやエステバリスを参考にしました」
「エステバリスをか」
「はい。元々はサーベラスもガルムレイドも二人乗りだったんですけれど開発の途中でそれぞれ一人乗りになりまして。それで私がサーベラスに乗ってるんです」
「そうだったのか」
「はい。これから宜しくお願いしますね」
「ああ。こちらこそ」
 一矢はにこやかに笑って頷いた。
「宜しく」
「はい。何か竜崎君って優しいですね」
「竜崎君!?」
 一矢はその言葉にキョトンとした。
「あの、今竜崎君って」
「だって年下ですから。貴方の方が」
「俺が年下!?」
 今度は戸惑った顔になった。
「あの、俺十七なんだけれど」
「知ってますよ」
 アクアはにこやかに笑ったままだった。
「話は聞いていますから」
「けど年上って」
「二十三です」
「二十三!?」
「何っ!」
 いつもは冷静な京四郎もそれを聞いて驚きの声と顔になった。
「二十三」
「はい。それが何か」
「いや。実は」
「はい」
 アクアはここでロンド=ベルのメンバーの年齢について聞いた。何と十代が殆どで二十代はあまりいないとのことであった。特にパイロットでは少ないという。アムロやフォッカー等数える程しかいないという。それを聞いたアクアは愕然とした。そして気がつけばハルカやエクセレン達と飲んでいた。
「もう、二十代がいないって何なのよ」
 アクアはブランデーをストレートで飲み干してからこう言った。
「私まだ二十三よ。花も恥らう乙女なのに」
「まあまあ」
 そんな彼女をハルカが宥める。
「何でおばさんなのよ、ここじゃ。士官学校を出てまだちょっとしか経っていないのよ」
「へえ、貴女士官学校卒業だったんだ」
「あれっ、言いいませんでしたっけ」
 エクセレンに顔を向けた。
「これでもそうなんですよ。その時はもてたんだけどなあ」
「もてたの」
「顔も声も可愛いってよく言ってもらえたのに。何かあのヒューゴと一緒になってからずっとこんな感じなのよ」
「ここの子達も大体そうよ」
「そうなの」
 ハルカにそう言われて急に力が抜けたようになってしまった。
「ガッカリ」
「年下は嫌いかしら」
「あまり。やっぱり渋いおじさんじゃないと」
「じゃあブライト大佐なんかは?」
「妻子もちは修羅場になるらしいから」
「不死身の04小隊はどうかしら」
「何か。やっぱり渋さとダンディさがないと」
「何か難しいわね」
「ヒューゴばっかりだったから最近側にいる男って」
 そう言ってまたぼやく。
「気がついたらここにいて。何かあっという間に年だけとっちゃうわね」
「けどうちには私達より年上がいるわよ」
「誰」
「ミサトさんとか。リツコさんとか。マクロスにも早瀬さんやクローディアさんがいるわよ」
「早瀬さんも」
 それを聞いたアクアの顔色が変わった。
「ここにおられるんですか」
「知らなかったの?」
「はい」
 エクセレンにそう応えた。
「今はじめて知りました。凄い人がいるんですね」
「あの人ってそんなに有名だったの?」
「何でも士官学校で伝説的な秀才だったらしいわよ」
 エクセレンにハルカがそう説明する。
「それで今でも女生徒の憧れの的なんですって」
「そうなんだ」
「私もあの人みたいになれたらなあ」
「努力すれば?」
「なれるかな」
「そうね。貴女も彼氏の一人でも持てば」
「うっ」
 何故かそれを言われると言葉を詰まらせた。
「変わると思うけれど。どうしたの?」
「いや、ちょっと」
 どういうわけか急に大人しくなった。
「実は、私」
 アクアは口篭もりながら告白した。
「あまり・・・・・・男の人とお付き合いしたことないのよ」
「何だ、そうだったの」
「それはっきり言わないと」
「この年で。キスとかもまだ」
「それはまた奥手ね」
「今時珍しい位」
「あまりそうした機会なくて。ずっと訓練とか勉強ばかりだったし」
「それで側にいるのがヒューゴなのね」
「はい」
「それは駄目よ。もっとこうまともな人と付き合わないと」
「ヒューゴ君ってまともじゃないの」
「まあちょっと変わってる位かな」
「何だ、それならロンド=ベルのメンバーは皆そうよ」
「濃いわけ、それは」
「うちだってヤマダさんとかいるし。まあ個性派揃いよ」
「ダイゴウジだ!」
 ここで何処からか声が聞こえてきた。
「俺はダイゴウジ=ガイだ!誰だ今言った奴は!」
「ほらね」
「ニュータイプ並の耳ってわけね」
 それを聞いて流石にエクセレンも呆れてしまった。
「かなりびっくり」
「他にも一杯いるし。特に新規加入の熱気バサラ君」
「ああ、ファイアーボンバーの」
「そう。彼なんかもう凄いわよ」
「熱気バサラってロックシンガーの」
「貴女も知ってるみたいね」
「そりゃまあ。有名人だし」
 アクアはそれに頷いた。
「ここに参加したって聞いたけどやっぱり」
「彼はとにかくね。派手好きで唯我独尊だし」
「きついわね」
「そんなメンバーばかりだから。結構付き合うのは骨が折れるかもね」
「まあ私も個性派だって自覚してるけれど」
 エクセレンは比較的落ち着いていた。
「アクアちゃんはどうかなあ」
「わ、私は」
 また戸惑う。
「あまり。何ていうか」
「常識なんか捨てちゃった方がいいわよ」
 そんな彼女にハルカが言う。
「さもないと疲れるだけだから。気楽にいきましょ」
「気楽に」
「そうそう。ほんわかとね」
「はあ」
 そんな話をしながら三人は酒を囲んで話をしていた。同じ年代同士で飲むとやはり酒が進むらしい。何瓶も空にしてそこに酔い潰れてしまった。
「それで三人が寝込んでるわけね」
「はい」
 ユリカはルリから報告を受けていた。ルリは報告を終え静かに頷いた。
「二日酔いは薬で防ぎましたけれど」
「じゃあ問題はないわね」
 ユリカはそれでよしとした。
「後は起きた時に仕事をしてもらうから。それまで休んでもらって下さい」
「それでいいんですか」
「あら、何かあるの?」
「処分とかは為さらないのですか」
「処分って何を?」
 ユリカはそれを聞いてキョトンとした顔になった。
「お酒を飲んだだけなのに」
「連邦軍では艦内飲酒は原則として禁止ですが」
「そうだったの」
「御存知なかったですか」
「初耳よ、それ」
「はあ」
 ルリはそれを聞いてもとりたてて呆れるでも困るでもなかった。淡々とした様子であった。
「とにかく戦闘までに復帰してくれればいいわ」
「わかりました」
「それに艦内飲酒禁止っていってもうちは民間人が多いし」
「はい」
「不問にしましょう。あまり堅苦しいのもあれだし」
「いいのですか?三輪長官がまた」
「気にしない気にしない」
 何とあの三輪ですら気にしないとまで言い切った。恐るべき胆力であった。
「今宇宙なんだし。何も言って来ないわよ。地球に着いても何だかんだで言い繕っちゃいましょう」
「わかりました」
「それでいいですね」
「はい」
 こうして艦内飲酒の件は何もなしで終わった。そして暫く経ってからハルカ達は復帰してきた。ハルカはしっかりとした足取りでナデシコの艦橋に戻ってきた。
「丁度休憩時間が終わった頃みたいね」
「はい、丁度その時間です」
 ハルカが艦橋に戻って来るとメグミがそう声をかけてきた。
「ジャストですよ」
「そう」
 ハルカはそれを聞いて微笑んだ。
「だったらいいわ」
「エクセレンさん達と一緒だったんですね」
「ええ」
「何かありました?」
「あったわよ」
 ハルカは苦笑してメグミにそう答えた。
「エクセレンって飲んだら凄いのよ」
「そうなんですか」
「もう絡んで絡んで。酒癖が悪いったらありゃしないわ」
「それはまた」
「まあ楽しかったけれど。また一緒に飲もうかしら。メグミちゃんもどうかしら」
「あっ、私はちょっと」
 そう言って断ろうとする。
「お酒はあまり強くないですから」
「そう、残念ね」
「できればカラオケなんかでも。ご一緒できればなあ、なんて」
「それじゃあそれでいこうかしら。エマ中尉も誘って」
「声が似てるんでわかりませんよ、それだと」
「それでリィナちゃんなんかも。面白くないかしら」
「何で声が似てるんでしょうね。全く違うタイプなのに」
「不思議だけどね、それ。じゃあ仕事仕事」
「今地球に向けて航路をとっています」
「はいは〜〜い」
 ルリの報告に頷く。
「そのまままっすぐでお願いします。今は敵の報告はありません」
「静かなものね」
「こういう時にいきなり出るんですけれどね、いつも」
「いきなりね」
 そう言った時だった。突如として警報が鳴った。
「噂をすれば」
「何とやら」
 皆それに反応した。そしてレーダーを見る。
「横からね」
「これは・・・・・・ポセイダル軍ですね」
 メグミはレーダーを見ながら言った。識別反応は確かに彼等のものであった。
「数は六百程。結構いますね」
「毎回毎回あれだけやられてるのに減らないわね。やっぱり何処かで補給を受けているのかしら」
「おそらくそうだと思います」
 ルリがそれに答えた。
「話によると今冥王星付近にヘルモーズが来ているそうです」
「やっぱり」
「遂に」
 ハルカ達はそれを聞いて来るべきものが来たと思った。
「そしてこちらに向かって来ているそうです。おそらくそこから補給を受けていると思われます」
「ヘルモーズが」
「じゃあまたラオデキアが」
「おい、奴は死んだ筈だぜ」
 既に何機かが出撃していた。モンシアがそれを聞いてモニターに出て来た。
「ユーゼスを自分の手で倒した後俺達の手でな。はっきり見たぜ」
「クローンかも知れません」
 ルリはそれに対してこう言い返した。
「バルマーのクローン技術はかなりのものと聞いていますから」
「クローンかよ」
 モンシアはそれを聞いて嫌な顔を作った。
「何かそうしたことが好きな連中だな、おい」
「まあそれが彼等のやり方なのよ」
 ハルカは彼に対してこう述べた。
「気にしないでね。こっちだってそれなりのことしてるから」
「それなりって何だよ」
「前の戦いで勝ったでしょ、それよ」
「俺達はただ侵略者を撃退しただけだぜ」
「向こうは振られたと思っていたり。男心って複雑だから」
「変な例えだな、おい」
「まあそれは気にしないでね。じゃあ頑張ってね」
「何かエマ中尉と同じ声で言われるとな」
「それは言いっこなし」
 ハルカはモンシアに対してもいつもの調子だった。彼はその間に小隊と合流し戦闘配置に着いた。その頃にはもうロンド=ベルは戦闘配置を終えていた。
「何かあの連中も思い出したように来るわよね」
 アムはエルガイムの中でこうぼやいていた。
「しつこいのかそうじゃないのか今一つわからないわ」
「しつこいって言えばしつこいね」
 レッシィがそれに応えた。
「何度も何度も出て来るからね。所構わず」
「そういや地上でも戦ったっけ」
「何処でも出て来るからね。ゴキブリみたいに」
「じゃあギャブレーはゴキブリの大将か」
「ははは、そういえばそうだ」
 レッシィはそれを聞いて笑った。
「粘着だしね」
「あんな顔でね」
「好き勝手言ってくれるな、相変わらず」
 そしてお約束のように前から声が聞こえてきた。
「あら」
「噂をすれば何とやら」
「かっては同僚だったというのに。よくもそれだけ言えるものだ」
「同僚ってあの時あんた十三人衆じゃなかったと思うんだけれどね」
「うっ」
「あっ、そういえばそうだった」
 アムもそれに気付いた。
「やいギャブレー、自分の経歴を詐称するな」
「だからせこいと言われるんだよ」
「せこい、私が」
 流石に言われっぱなしでありまた言われたのでムッときた。
「それは聞き捨てならないぞ」
「食い逃げしておいて何言ってるんだか」
「あれは」
「他にも色々あったじゃない。それでどうやって言い繕えるってのよ」
「貴様等を倒してだ」
 苦し紛れにそう言い訳をした。
「来い。今度こそ決着をつける」
「ダバ、いいかな」
 アムはエルガイムでダバの方を振り返って問うてきた。
「あたしをご指名みたいだけれど」
「何で俺に聞くんだい?」
 今まで話に入れずにいたダバはエルガイムマークツーのコクピットの中でキョトンとしていた。
「いや、あんたといつもやりあってるから。一応断っておこうと思って」
「俺は構わないけれど」
「じゃあやらせてもらうね。レッシィ、あんたはどうなの?」
「あたしもそれでいいよ」
 レッシィも特に異論はなかった。
「敵は周りにも大勢いるからね。そっちをやらせてもらうよ」
「それなら。じゃあギャブレー、行くよ」
「雪辱、今度こそ晴らしてくれる」
「まあ来たらいいよ。存分に相手してあげるから」
「参る」
「ちょっと待って下さいおかしら」
「ヌッ」
 しかしいいところでハッシャが止めに入ってきた。
「どうしたのだ、一体」
「まだ本隊が到着していやせん。このままだとあっし等袋叩きですぜ」
「言われてみれば」
 本隊はまだかなり後ろであった。実はアム達の言葉を聞いたギャブレーはカチンときて自分達だけ突出してしまっていたのである。
「ここは一旦下がりやしょう」
「しかしだな」
 それでも彼にも意地があった。
「あの小娘を」
「あいつの相手は後でもできやす。けれど今ここにいたら」
「ウヌヌ」
 ハッシャの言うことは正論であった。確かにこのままでは敵軍に包囲されかねない。それがわからない程ギャブレーも愚かではなかった。
「わかった。少し退こう」
「はい」
「アム、とりあえず勝負は少し待て」
「相変わらず抜けてるね、あんたも」
「そんなことはどうでもいい。だがそれでいいな」
「あたしは別にいいよ。じゃあ後でね」
「うむ」
 こうしてギャブレーは少し下がった。そして程なく本隊と合流した。ヘビーメタルの大軍であった。
「ギャブレー君、一人目立とうというのは少し薄情ではないかな」
 指揮官はギャブレーの他にマクトミンもいた。彼は不気味な笑みをたたえたまま合流してきたギャブレーに対して問う。
「私も目立ちたいのだがね」
「失礼した」
 ギャブレーはそれに対して素直に謝罪の言葉を述べた。
「どうも。カッとしてしまった」
「ふむ」
「私もまだまだ指揮官として未熟だということか」
「そんなことはない。貴殿はよくやっている」
 だがマクトミンはそんな彼を謗るわけでもなく逆に褒め称えてきた。
「若さも。上手く使っている」
「若さも」
「そうだ。貴殿はまだ若い。その若さをどう活かしていくかが今後に大きく影響する」
「そうなのか」
「貴殿を見ているとかっての私を思い出すのだよ」
 彼は笑ったままこう言った。
「面白い。そのまま成長したまえ」
「かたじけないお言葉」
「そして名を挙げるのだ。貴殿ならできる」
 どういうわけか彼はギャブレーが気に入っているようである。親しげに言葉をかけていた。
「では今回私はもう一人の若者に向かわせてもらおう」
「ダバか」
「そう。見たところ彼も立派な若者だ」
 彼はそう言ってダバを見据えていた。
「敵だが。このまま永遠に競いたいものだ。ライバルとして」
「ライバル」
「ギャブレー君、ライバルとはいいものだよ」
 彼はまた言った。
「互いに切磋琢磨し合えるからね。実に素晴らしい」
「そう言われると私とダバがそう見えないわけでもないな」
「そういった見方は確かに可能だ」
 マクトミンはそれに頷いた。
「貴殿と彼はライバル関係にあると言ってもいい」
「ふむ」
「そしてライバルとは一人とは限らないのだよ。だから私も彼のライバルとなる」
「そういうことなのか」
「そうだ。では私はそのライバルとして今回の戦いをやらせてもらおう。それでいいな」
「うむ」
 ギャブレーはそれに頷いた。
「思う存分戦われるがよかろう」
「その言葉感謝する。では」
 マクトミンは動いた。そしてダバの方に向かって飛んで行った。
「では私も」
 ギャブレーもそれに続いた。そしてアムに向かう。それと同時に戦いがはじまったのであった。
「ヒューゴ、あたし達も出るわよ!」
 殆どのパイロット達はもう出撃していたがエクセレンやアクア達の部隊は細かい調整等で遅れていた。キョウスケとエクセレンが出撃し今アクアとヒューゴが出撃しようとしていた。
「それは構わないが」
「何よ」
 ヒューゴに言われてムッとした顔になった。
「言いたいことがあるのなら言いなさいよ」
「その格好で乗るつもりか?」
「その格好って・・・・・・あっ」
 言われてようやく気付いた。アクアは連邦軍の軍服のままだったのである。如何にも動きにくそうな膝までのタイトスカートであった。ジャクリーヌが着ているものと同じものである。
「まともな操縦ができるのか、それで」
「そんなのもっと早く言いなさいよ」
 恥ずかしさを隠す為か逆キレしてきた。
「わかったわよ、脱げばいいんでしょう。脱げば」
「脱げばって」
 格納庫で後始末に携わっていたキャオがそれを聞いて呟く。
「脱いだらすぐに乗れるのかよ」
「ええ。私は」
 そう言いながら服に手をかけてきた。まずはスカートである。
「下に服着てるから」
「服って・・・・・・。下着じゃないのかよ」
「いいから。すぐわかるから」
 そしてスカートを脱いだ。見事なラインの両脚がそこから現われる。
「うわっ」
 キャオはその脚を見て思わず声をあげた。だがアクアはそれに構わず今度は軍服の上も脱いだ。
 そこから黒い水着に似た服が現われた。その下には見事なまでのプロポーションがあった。モデルとしても通用するような身体であった。
「この服。操縦用の服だから」
 アクアは服を脱ぎ終えキャオに対してこう言った。
「これでいいんでしょ、ヒューゴ」
「ああ」
 だがヒューゴは目の前にそれだけの肢体を見ながらも平然としていた。
「じゃあ行くぞ。早く乗れ」
「わかってるわよ。じゃあ行くわよ」
 そしてアクアはサーベラスに乗り込んだ。そして二人も出撃するのであった。
「またえらく派手なパイロットスーツだな」
 キャオは二人が出撃したのを見送ってこう呟いた。
「何か。いいもの見させてもらったぜ」
「アヤさんのも凄いですけれどね」
「あっ、あんたもいたんだ」
 見ればそこにはホウメイもいた。
「ええ。ちょっと手伝いに来ました。今厨房は暇ですから」
「そうだったんだ。まあこっちもこれでとりあえずは終わりだぜ」
 キャオは笑いながらこう述べた。
「しかしねえ。可愛い声と顔してあんな身体してたなんて。何か凄いよな」
「うちの部隊って結構可愛い娘多いですしね」
「そうそう、それがすっごく嬉しいのよ、俺としては」
 話が乗ってきた。
「やっぱり同じ戦場にいるんなら周りに花がある方が」
「あれ、女の子にも興味があるんですか」
「ない訳ないじゃないか。やっぱり女の子は最高だよな」
「食べ物は」
「そっちも同じ位最高。もういつも腹が減って腹が減って」
「じゃあ今から何か作りましょうか」
「おっ、何を」
「ラーメンでも。どうですか」
「いいねえ、ホウメイさんのラーメン最高だし」
 今度は食べ物に乗ってきた。
「それじゃあ三杯程もらおうかな」
「それだけでいいんですか?」
「あれっ、まだあるんですか?」
「はい。たっぷりと」
「それじゃああるだけ」
「わかりました。では行きますか」
「了解」
 二人は仕事を終えキッチンに向かった。だが戦場では今激しい戦いがはじまっていた。それはダバやアム達だけではなかった。
「やっぱ敵が多いってのは楽しいな!」
 リュウセイは敵の大軍を前にしても臆してはいなかった。R−1で敵を次々に倒していく。
「見渡す限りだからな!派手にやらせてもらうぜ!」
「派手にやるのもいいが周りはよく見るようにな」
「ライ」
「俺も攻撃をする都合がある。いいな」
「何だよ、サポートに回るんじゃないのかよ」
「今回はそうも言っていられない」
 ライはそう言って前にミサイルを放った。
「敵は多い。それに何か得体の知れない奴もいる」
「得体の知れない奴?」
「あれだ」
 そう言って敵の奥深くを指差した。そこに謎の敵がいた。
「あれは一体何だ」
「ん!?ヘビーメタルだろ」
 リュウセイは特に考えなしにこう応えた。
「ヘビーメタルの部隊だしよ」
「御前はそう思うか」
「何だよ、違うっていうのかよ」
「俺はそう思うがな」
 その謎のマシンを疑念で満ちた目で見ていた。
「あれは。何かが違う」
「じゃあ何なんだよ」
「バルマーか。そうしたものではないのか」
「バルマー」
 それを聞いたレビの顔色が変わった。
「知っているか、レビ」
「あんなのは見たことがないけれど」
 レビはそのマシンを見ながらライに答えた。
「けれど。何か似たものは感じる」
「似たもの」
「やはり」
「どちらにしろ警戒するべきなのは事実みたいね」
 三人の話をまとめるようにしてアヤが言った。
「三人共、気をつけて」
「了解」
「強敵なのか、やっぱり」
「多分ね。若し本当にバルマーのマシンだったとしたら」
 アヤは言葉を続ける。
「厄介よ。遂に主力を送り込んできたということだから」
「では兄さんが」
 タケルがそれを聞いて顔色を変えた。
「地球に戻って来たということか」
「可能性はあるわ」
 アヤはそれに頷いた。
「貴方も、そしてお兄さんもバルマー星人なのよね」
「ああ」
「あの時お兄さんは生きて連れ去られた。それなら何時戻ってきてもおかしくはないわ」
「じゃあ兄さんがあの中に」
「いや、違うな」
 しかしそれはレビによって否定された。
「違うのか」
「あのマシンにはもっと別のものを感じる」
 彼女は言った。
「何か。不気味さと得体の知れなさを」
「バルマー帝国ってオカルトも入ってたんだ」
 エクセレンがそれを聞いて言った。
「何か盛り沢山の帝国ね」
「伊達に銀河に覇を唱えているわけではない」
 そしてレビもそれを認めた。
「ユーゼスですらあの帝国ではほんの一軍人だったのだ。それだけでもわかるだろう」
「ラオデキアもそうだったな」
「それだけの帝国だ。どんなマシンが出て来てもおかしくはない」
「だとしたらあれも」
「そう。可能性は否定できない」
「で、どうするんだ」
 リュウセイはレビの話が終わったのを見計らって声をかけてきた。
「あいつをやっちまうのかい?」
「やるのか」
「ああ。どのみちここにいるんだろ?じゃあ早いとこぶっ潰しておいた方がいいじゃねえか」
「また短絡的だな」
 ライはそれを聞いて呆れたように言った。
「もう少しまともに考えられないのか」
「まともに考えてもやられる時はやられるものさ」
「それもそうだな」
 キョウスケがそれに同意した。
「では一気に叩き潰すとするか」
「おっ、話がわかるねえ」
「敵であれば容赦はしない」
 キョウスケは静かに言った。
「それだけだ」
「じゃあ行くか」
「あっ、待って」
 だがそんな二人をアヤが呼び止めた。
「何だよ」
「二人で行くつもりなの?」
「ん!?何かあんのか?」
「はじめて見る敵に二人だけじゃ危険よ。私も行くわ」
「仕方ないな」
 ライも動いた。
「同じチームだ。行くとするか」
「では私もだな」
 レビも続いた。こうして五機のマシンがその謎のマシンに向かった。
「それじゃあ私達は周りの敵の相手をするわね」
 エクセレンはフォロー役に回ることにした。
「二人もそれでいいかな」
「ああ」
「何か強引に決められちゃってるけど」
 ヒューゴは特に感情を露わにすることなく、そしてアクアは少し不満を抱えたままそれぞれ頷いた。そして彼等はコスモクラッシャー隊と共に五機のフォローに回ることになった。
「何かゴッドマーズって側で見ると余計に大きく感じるわね」
「いや、もっと大きなのもありますよ」
 タケルは横に来たアクアに対してこう言った。
「ザンボットもそうだしダイターンも」
「ダイターンも」
「あれは一〇〇メートル以上あるから。ゴッドーマーズなんか比べ物にならないよ」
「うわ」
「これ有名だけど。知らなかったんですか?」
「えっ、あのその」
 アクアはタケルの問いに慌てた顔になった。
「データでは知ってたけれど。実物はね」
「知らなかったんですか」
「私実戦経験はあまりないから」
「あれっ、けど士官学校を出られて」
「それでも。この戦いが初陣みたいなものだし」
「そうだったんですか」
「タケル君はもう結構実戦経験あるわよね」
「ええ、まあ」
 タケルは特に何もなくそれに頷いた。
「ロンド=ベルにはナデシコが合流した時からいますから」
「そうなの。何か凄い戦いを経てきているのね。まだ十七なのに」
「まあ勝平君達なんか十三ですし」
「十三」
 それを聞いてギョッとした顔になった。
「まだ中学生じゃない、それじゃあ」
「おいらなんか十歳だよ」 
 コスモクラッシャーからナミダが言った。
「小学生」
 どういうわけかアクアの顔色が悪くなってきた。
「皆若いのね」
「それが何か」
 ケンジが彼女に尋ねてきた。
「あっ、うん。ちょっとね」
 アクアは何とか冷静さを取り戻そうと努力しながら言葉を出す。
「私二十三だから。何かこう」
「まあ歳のことは考えないでおきましょう」
「けどね」
 それでもかなりショックなのは事実であった。
「ついこの前まで士官学校にいたのに。急におばさんになるなんて」
「けどアクアさんって声も顔も可愛いですし。いいじゃないですか」
「可愛いかしら」
「ええ」
 ミカのフォローに少し気をよくさせた。
「あまり気にしないでいいと思いますよ」
「そうそう、二十三といえば花盛り」
「ロンド=ベルってこういう大人の雰囲気が少ないからね」
「あら、お言葉ね」
 ナオトとアキラの言葉に応えるかのようにモニターにエマとケーラ、そしてジュンコが出て来た。
「ゲッ」
「ゲッ、じゃないわよ。大人の女がどうしたのかしら」
 まずジュンコが二人に尋ねてきた。
「よく聞かせてもらいたいわね」
「大人の女がどうだとか。面白いことを言ってくれるじゃない」
「い、いやまあそれは」
 アキラはかなり焦っていた。
「何でもないですから、何でも」
「大人の雰囲気が知りたかったら何時でもラー=カイラムかアルビオンにいらっしゃい」
「それかマクロスの艦橋に。早瀬中尉が待っていてくれるわよ」
「あの人が」
 それを聞いてナオトの顔が青くなった。キザな雰囲気を気取っている彼も早瀬だけは苦手なのであった。彼女はロンド=ベルの生活指導員となっていたのだ。
「こう見えてもロンド=ベルは大人の女が多いんだから」
「甘く見たら駄目よ」
「はい」
「それじゃあね」
「健闘を祈るわ」
 こうして三人はモニターから消えた。その恐ろしさにアクアも絶句していた。
「凄いわね、やっぱり」
「まあロンド=ベルだから」
「ミカ、フォローになってないぞ」
 ケンジが言った。
「だがいい。それよりも敵が来た」
「おっと」
 アキラがそれに反応した。もう気持ちは戦場に切り替わっていた。
 そしてナオトが攻撃を放つ。そしてその敵を撃墜した。
「うわあ」
 その軽やかな動きを見てアクアは賞賛の声をあげた。
「すっごおい。これがエースなんだ」
「って何呑気なこと言ってるのよ」
 エクセレンが彼女に突っ込みを入れる。
「貴女も頑張りなさい。ヒューゴ君なんかもう二機も撃墜してるわよ」
「二機も」
「そうよ。彼に負けたくないでしょ。だったら頑張る」
「は、はい」
 アクアはそれに頷いた。そしてサーベラスを動かす。
「私について来てね」
「了解」
 何時の間にかエクセレンに引っ張られる形となった。こうして彼女も戦場を駆け巡ることとなった。
 その時キョウスケ達はその謎のマシンと対峙していた。それは赤い、悪魔の様な外見を持っていた。
「見るからに縁起が悪そうだな」
 リュウセイがそのマシンを間近で見て呟いた。
「何か。髑髏まであるし。如何にもって感じだな」
「そうかしら。今までのバルマーとは雰囲気が違うけれど」
「確かに」
 ライはアヤの言葉に頷いた。
「このマシンは別のものではないのか」
「別のもの」
「バルマーのものかも知れないが。正規のバルマーの技術からは離れた。そんな感じがする」
「じゃあまた他の惑星の」
「いや、違うと思う」
 しかしそれはレビが否定した。
「バルマーが征服した文化にはあのようなものはなかった」
「では一体」
「よくはわからないが。ユーゼスのそれにも似ている。あのアンティノラに似た禍々しさだ」
「アンティノラ」
 かってレビが乗りユーゼスが乗っていたバルマーのマシンである。その凶悪なまでの強さは彼等もよく覚えていた。
「じゃあこれもあのアンティノラと同じだけの強さを」
「可能性はある」
 レビはまた言った。
「用心しなければ。さもないと」
「貴方達は誰ですか?」
「ンッ!?」
 ここでこの赤いマシンから声が聞こえてきた。
「地球の人達ですか?」
「この声は」
 それは少女の声であった。そして五人のモニターに青い髪の少女が現われた。
「なっ」
 その顔を見てまずキョウスケが声をあげた。
「エクセレン、いや違う」
「エクセレン。それは誰でしょうか」
 彼女はそれを聞いてキョウスケに問うてきた。
「貴方の大切な人でしょうか」
「何者だ、こいつ」
 それは他の四人も聞いていた。リュウセイはその話し声を耳にして不審感を露わにしていた。
「人間みてえだが」
 この場合はバルマー人も入る。彼等もDNA等は地球人と変わらないということを知っているからである。
「私は人間です」
 彼女はリュウセイの言葉にも応えた。
「ただ、バルマーにいます」
「バルマー人だったのね」
「やはり」
 アヤとライがそれぞれ頷く。
「そして地球の人達は私の敵になります」
「だからここまで来たんだよ」
 リュウセイは言い返した。
「覚悟しやがれ。ギッタンギッタンにしてやるぜ」
「ギッタンギッタン」
 それを聞いて感情の篭らない声で反芻する。
「聞いたことのない言葉です」
「じゃあ今教えてやるぜ」
 そう言って突進した。
「こうやるんだよ!」
 そしてブーストナックルを放つ。しかしそれは呆気無くかわされてしまった。
「なっ!?」
「これがギッタンギッタンですか」
 かわした後でまた言った。
「わかりました。それでは」
 そしてその腕に剣を取り出した。
「私も貴方をギッタンギッタンにします」
「リュウセイ!」 
 危機を察したライが叫ぶ。しかしリュウセイはそれよりも前に後ろに下がっていた。
「おわっ!」
 そしてその剣をかわした。だが一瞬遅れていれば真っ二つになっていたところであった。
「かわしましたね」
 少女はそれを見てまた言った。
「お見事です」
「こっちはこれでも念動力があるんでね」
「念動力」
「つまり超能力ってやつさ。生憎ちょっとやそっとの攻撃じゃ当たらないんだよ」
「超能力ですか」
「そうさ。バルマー人にはあまりねえみたいだがな」
「それはどうでしょうか」
「何っ!?」
「超能力でしたら私にもあります」
 そう言うと黒い不気味なオーラが彼女を覆ってきた。
「これのことでしょう」
「なっ・・・・・・!」
 リュウセイ達は一瞬目の前で起こったことが理解できなかった。何と彼女の乗る赤い機体が不気味に輝いてきたのだ。
「いきますよ」
「まずい!」
 ライがまず叫んだ。
「ここは退いた方がいい!」
「おい、何を言うんだ!」
 リュウセイがそれに反発する。
「ここで倒しておかなくて何時倒すんだよ!」
「それは何時でもできる!」
 それでもライは言った。
「五機もいるんだぜこっちは!」
「それでもだ!このままでは全滅するぞ!」
「何なら俺だけでも!」
「今の御前でも無理だ!隊長、ナンブ中尉、ここは」
「クッ」
「仕方無いわね」
「おい、アヤまでそんなこと言うのかよ!」
 リュウセイはまだ反発していた。
「敵に背を向けるなんてことできるかよ!」
「退くのも戦争だ!そんなことはわかっているだろう!」
「けどよ!」
「けどよも何もない!今は俺の言う通りにしろ!」
「チッ!」
「そうだ。ここはライの言う通りにしろ」
 突如として低い男の声が聞こえてきた。
「なっ」
「この声は」
 それを聞いてリュウセイ達の動きが止まった。
「リュウセイ、勇気があるのはいい」
「まさか」
 リュウセイ達はその声の主が誰であるのかわかっていた。辺りを見回す。
「だが。引き際を見極めることも必要なのだ」
「そんなことを俺に言うのは」
「一人しかいないわ」
 アヤにもわかっていた。そしてレビにも。
「生きていたのか」
「ああ」
 声は頷いた。
「久し振りだったな。元気にしていたか」
 そして漆黒の影がそこに姿を現わした。それは翼を持った影であった。
「アストラナガン!」
 ライがその黒い影を見て言った。
「イングラム教官、やはり」
「生きていたのですか」
「どうやら俺は悪運が強いようでな」
 その中には青い髪の端整な顔立ちの男がいた。イングラム=プリスケン。かってリュウセイ達の教官でありバルマーにいた男。そして前の大戦でユーゼスと死闘を繰り広げた男であった。その戦いの最後で行方不明になっていたとされていたのである。
「こうして生きている。そしてアストラナガンも健在だ」
 言い終えて笑った。その声も顔も間違いなくイングラムのものであった。
「リュウセイ」
 彼はリュウセイに顔を向けてきた。
「俺からも言おう。今は退くのだ」
「けど」
「けども何もない。今の御前でもこの女の相手は無理だ」
「この女」
「アルフィミィ」
 彼はここで名前を口にした。
「アルフィミィ」
「この女の名だ。バルマーの者だ」
「やはり」
 ライがそれを聞いて頷いた。
「バルマーにおいて兵器として育てられてきた。戦う為にな」
「ラオデキア達とはまた別に」
「そうだ。この女は兵器」
「兵器」
「だからこそ今の御前達でも勝てはしない。人間ではないのだからな」
「馬鹿な、それじゃあ俺達だって」
「御前達とは根本が違うのだ」
 そう言ってリュウセイを下がらせる。
「強いて言うのなら私と同じ。そう、私しか相手にはできない」
「じゃあ」
「ここは任せるのだ」
 彼はあらためてかっての部下達に言った。
「下がれ。いいな」
「あ、ああ」
「了解」
「わかりました」
 リュウセイは渋々、ライとアヤは静かに頷いた。レビとキョウスケもそれに続いた。
「ベルゼイン=リヒカイトか」
「よく御存知ですね」
「当然だ。かっては俺もそこにいた」
 イングラムは言った。
「だからこそ。その機体を止めてみせる」
「私と戦うのですか?」
「その為に甦った」
 そしてまた言った。
「御前だけではない。バルマー、そしてユーゼス」
「ユーゼス」
「その野望を防ぐのが私のこの世界においても仕事だ。行くぞ」
「仰る意味がよくわかりませんけれど」
 アルフィミィは戸惑うことなく言う。
「私の相手をされるというのなら。容赦はしませんよ」
「無論」
 アストラナガンは構えた。
「行くぞ。こちらとてそのつもりだ」
「それでしたら」
 アルフィミィは再び攻撃に入った。
「行きますよ」
「来い」
「アルフィミィ」
 しかしここで彼女のモニターにマーグが出て来た。
「司令」
「イングラムがそこにいるのだな」
「はい」
「ならば相手をするのは危険だ。今は退け」
「退くのですか」
「そうだ。アストラナガンの相手をするにはベルゼイン=リヒカイトはまだ調整不足だ」
 彼は言った。
「相手をするのは調整が万全になってからでいい。わかったな」
「わかりました」
 感情のない声で頷いた。
「それでは撤退します」
「うむ。ところで戦局はどうなっているか」
「我が軍が劣勢です」
 やはり声も顔も人形のようであった。
「そうか。では全軍撤退させよ」
「はい」
「戦いはまだこれからだ。無理をすることはない」
「わかりました。それでは」
 それに応え姿を消した。そしてヘビーメタル達も次々と撤退を開始した。
「あっこら逃げるな!」
「逃げているのではない!」
 ギャブレーはアムに反論した。
「これは名誉ある撤退だ!また会おう!」
「何かあしゅら男爵みたいなこと言ってるな」
「そう言えばまんま同じ言葉ね」
 ジュドーの言葉にルーが頷いていた。
「ではまた会おう、ダバ=マイロード君」
 いささかお笑いが入ったギャブレーに対してマクトミンの方は至って冷静であった。
「貴殿との再会を期して」
 そして彼も戦場を離脱した。こうして戦いは終わった。
「去ったか」
 イングラムは敵が全て撤退した戦場で一人立っていた。そしてこう呟いた。
「教官」
 そんな彼にリュウセイが声をかけてきた。
「何だ」
「生きていたのは何よりだけれどよ」
「うむ」
「それで。何で俺達を助けたんだ?」
「バルマーを倒す為と言えばわかるか」
「バルマーを」
「そうだ。御前達のことはもう心配していないが」
 彼は言った。
「バルマーは遂に人類に対して全面攻勢に出ることを決定したのだ」
「バルマーが」
「銀河で最大の勢力を誇る帝国がその全てを注ぎ込む。それがどういうことかわかるな」
「ああ」
「その証拠が今の女だ。そしてマーグ」
「兄さんが」
 そこにはタケルもいた。兄の名を呼ばれ顔を向けた。
「彼もまた。バルマーにとっては切り札とも言える男だ」
「兄さんが」
「彼を指揮官として向けてきたということがその全面攻勢の証だ。おそらくはかってのラオデキア艦隊以上の戦力を持って来ているだろう」
「あの時以上のかよ」
「ならば。私も戦わなくてはならない」 
 そしてこう言った。
「そしてバルマーを止める。何としてもな」
「だから来たのか」
「そうだ。これから戦いはより激しさを増す」
「今よりも」
「御前達だけでは辛い時もあるだろう。その時にまた私は現れよう」
「俺達と一緒には行かないのか」
「今更それができるとは思っていない」
 そう答えて笑った。
「前の戦いであれだけ干戈を交えたのだ。何を今更」
「気にすることなんてないけどよ」
「それでもだ。ではな」
 そう言ってワープに入った。
「また会う。その時を楽しみにしている」
 そう言い残して姿を消した。こうしてイングラムは何処かへ姿を消したのであった。
「教官」
「とりあえず生きていたのはわかったな」
「ああ」
 リュウセイはライの言葉に頷いた。
「そして俺達の味方だ」
「そうだな」
「それがわかっただけでもいいぜ。それだけでもな」
 それで満足であった。リュウセイにとっては彼が生きていて、そして味方でいるだけで。その他には何もいらなかった。
 ロンド=ベルは再び集結して地球に進路を戻した。ネオ=ジオンと戦う為に。どれだけの敵がいようとも彼らは退くわけにはいかなかったのだ。

 撤退したヘビーメタルとアルフィミィは雷王星付近にいた。そしてそこでバルマーの巨大戦艦ヘルモーズに収納されていた。ギャブレーはその一室にいた。
「また敗れたというのか」
「申し訳ありません」
 そこには銀髪に銀の肌の女がいた。目は左右で色が違っていた。
「そして何の手柄もないし帰って来たと」
「はい」
 ギャブレーはその女に対して申し訳なさそうに頭を垂れていた。
「マーグ様は心優しい方。しかしそれに甘えてはならぬ」
「はい」
「マーグ様が許されてもわらわは許さん。それは覚えておけ」
「ハッ」
「わかったならばよい」
 彼女はそれで話を終わらせた。
「下がるがいい。そして次に備えよ」
「ハッ」
 こうして話は終わった。ギャブレー達の話はである。話は別のところで続いていた。
「以上がオルドナ=ポセイダルからの報告です」
 ヘルモーズの艦橋で一組の男女がいた。美しい顔立ちの少女が整った顔立ちの若者にそう報告していた。
「そうか」
 そして若者がそれに頷いた。
「ヘビーメタル部隊の失態ですが」
「わかっているよ」
「ここまで失態続きですが。どうされますか」
「彼等は必死にやっている。そしてある程度の功績もあげてくれている」
 若者はこう応えた。
「そんな彼等に何もするつもりはないが」
「ですが司令」
「ロゼ」
 彼は少女の名を呼んだ。
「はい」
「あまり彼等を責めるべきじゃない。ロンド=ベルの強さは知っている筈だ」
「ですが」
「今はそれよりもムゲの戦力を向けることを考えよう。シャピロ=キーツだったか」
「はい」
「彼と三将軍にも頑張ってもらう。いいね」
「そのシャピロ=キーツですが」
「彼の経歴も気にはしない」
 彼はそれも不問にした。
「我々は多民族国家だ。君もそうではないのか」
「しかし」
「しかしもこうしたもないよ。地球人だからといって我々と何ら変わりはない。それは覚えておいてくれ」
「わかりました」
「ではこのまま地球圏に向かう。目指すは地球だ」
「はっ」
「地球に着くまで暫く休みたい。私がいない間の指揮を頼むよ」
「わかりました。それではお任せ下さい」
「うん」
 こうして彼は自室に下がった。後にはロゼと呼ばれた少女だけが残った。
「マーグ司令」
 彼女は一人になったところで司令の名を呟いた。
「貴方は優し過ぎるわ。その優しさはバルマーにとっては邪魔なだけだというのに」
 マーグが消えた方を見て呟く。だが彼女はすぐに自分の任務に戻った。
「全艦に告ぐ」
「ハッ」
 周りに幕僚達が現われた。
「我が軍はこのまま地球に向かう。よいな」
「わかりました」
「前に立ちはだかる敵がいれば撃破せよ。一兵も逃すな」
「わかりました。それでは」
「うむ」
 こうしてヘルモーズは地球に向かった。遂にバルマーが本格的に動きだしたのであった。


第五十三話  完


                                    2005・11・13


[329] 題名:第五十二話その二 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年04月13日 (木) 19時48分

「わいがおる限りゼツは進まさへん」
「口では何とでも言えるけれどね」
「ホンマに信用してへんのやな」
「何か心配なのよ。何しでかすかわからないし」
「困ったもんや」
「まあそれでも宜しくね。あらためてね」
「おう」
「けど、タダナオがそれじゃあちょっと辛いわね」
「オザワもやしな」
「オザワもなの」
「そや。オザワの方はもう完成しかけとるらしいで」
「マシンが」
「ああ。それでラストールも空いてもうたんや」
「ラストールも」
「そっちはまだ操者がおらへん。空席ってわけやな」
「それなら丁度いい人がいるよ」
「誰や、それ」
「新しく参加してくれた助っ人よ」
 リューネはそう言いながら後ろを指差した。
「ジノ=バレンシアさんよ」
「宜しく」
「えっ、ジノ=バレンシア」
 ロドニーはそれを聞き、そして彼の顔を見てキョトンとした。そしてあらためて言った。
「あんたひょっとして」
「知ってるの?」
「知っとるも何も有名人やろが」
 ロドニーはリューネに対してこう返した。
「バゴニアきっての剣の達人や。大会でも凄い強かった」
「そうなの」
「そうなのやあらへんわ。何でこんな人がここにおんねん」
「ちょっとね」
 リューネはくすり、と笑って言った。
「まあ色々とあって。けれど心強い味方になってくれると思うよ」
「味方か」
「何か不思議そうだね」
「シュテドニアスとバゴニアも決して仲がええとは言えんかったからな」
 口が少し尖っていた。何故かひょっとこを思わせる。だがロドニーの言ったことは事実であった。シュテドニアスとバゴニアもまた長い間いがみ合ってきた関係なのである。
「それで今は同じ部隊に、ってなってもな。何か不思議や」
「そういうものなの」
「もっともここはそうしたことが多いみたいやけれどな」
「まあそうね」
 これはリューネも頷くところがあった。
「あんたとも何回かやり合ったしね」
「あの時はえらい目に遭ったで」
「そっちが攻めてきたんやけれど」
「あれはあの大統領が議会とか軍の穏健派の反対押し切ってやったからな。けれど負けて失脚や」
「そうらしいわね」
「それでロボトニー先生が今大統領をやっとる。もうシュテドニアスもあんなことはせえへん」
「だといいけれどね」
「ロボトニー先生やったら大丈夫や」
「信頼してるんだね」
「当たり前や、わいの先生やった人やで」
「えっ、先生って」
「聞かんかったか?わいはシュテドニアス士官学校出身なんや」
「嘘」
「本当ですよ」
 今まで横にいて黙っていたエリスがリューネにそう説明した。
「閣下は士官学校卒業です。私の先輩にあたります」
「エリスさんもそうなんだ」
「はい」
 エリスはにこりと笑って頷いた。
「その時から閣下は有名人でした。士官学校でも」
「ふうん」
「ラディウス少尉」
 ここでロドニーがエリスに声をかけてきた。
「何でしょうか」
「わいもう将軍でもないし。それにシュテドニアス軍やないから」
「あっ、そうでした」
 彼にそう言われてハッと気付いた。
「閣下言われても。もうちゃうんやからな」
「すいません、つい」
「いや、まあええけれどな」
「将軍だったんだ」
「ってあんた等と戦ってた時わい閣下って言われとったやろ」
「御免、聞いてなかった」
「何で聞いてへんねん。あれだけ何度も顔を見合わせたのに」
「何か面白いおじさんがいるなあ、って。それだけしか思わなかったよ」
「おもろいか。怒るでしかし」
「ロドニーさんも古いの知ってるね」
 ミオが話に入ってきた。どうやらツボに触ったらしい。
「あっ、そうなんか」
「やすきよなんて。通じゃないとわからないよ」
「やすきよ・・・・・・。何やそれ」
「あっ、何でもないから」
 咄嗟にリューネが話を戻しにかかった。
「地上の話だから。気にしないで」
「漫才やったらわいも詳しいけれどな」
「ラ=ギアスにも漫才ってあるの?」
「当たり前やろが。シュテドニアスで有名なんが愛する、愛さないの二人や」
「何か変わった名前だね」
「あとハードゲイスペシャル一号二号。これはキワモノやな」
「よく知ってるね」
「わいは漫才見るのが趣味やからな。そら」
 どうやら彼も素質はあるらしい。上機嫌になってきた。
「知っとるで。最近あまり見てへんからよおわからんけれどな」
「見てないんだ」
「ラングランとの講和やらこっちへの移動やらでゴタゴタしとったからな。で、見てなかったんや」
「そうだったの」
 どうやら彼も彼なりに多忙であるらしい。
「気付いたらここにおるし。それでジノさんまでここに来る。人生とはわからへんもんやで」
「急にシリアスになったね」
「アホ、わいは元々シリアスなんや」
「声はそうなんだけれどね」
「そやから声に突っ込むなっちゅうねん。何か仮面被ってくれとか言われて困っとるんや」
「仮面か」
「どうせ変な奴と間違えとるんやろ。黒い仮面がどうとか言われて困っとるんや」
「誰が言ってるのさ」
「あの翡翠色の長い髪の毛した別嬪さんの女王様おるやろ」
「ああ、シーラ様」
「あの人の横にいつもおる妖精二人にや。何でわいが仮面なんて被らなあかんねん。それにあの銀色のマシンに乗っとる女の子にも声でえらい驚かれたしな」
「美久ちゃんね」
「美久ちゃんっていうんか。あの娘にもどえらいびっくりされたで、ホンマ」
「あんたって声は格好いいから」
「おっ、そうか!?」
 それを聞いてデレーーーーッとした顔になる。
「どうしても似てる声の人が多くなるのよ、色々な事情でね」
「事情か」
「そういうこと。まあそこは気にしなくていいよ」
「そうなんか」
「あたしだってアレンビーに似てるってよく言われるし」
「アレンビー?ああ、あのセーラー服のガンダムか何かに乗っとる娘やな」
「そうそう」
「そういや似とるな。何かそっくりや」
「声はね、どうしても似るのよ」
「じゃあわいの声はその黒い仮面の奴とそっくりやったと」
「一人じゃないけれどね、それも」
「何か嫌な話やな、わいと同じ声が二人も三人もって」
「まだいるんだけれどね」
「ってまだおるんかい」
「それもおいおいわかるよ。まあ驚かないでね」
「覚悟しとくわ」
「それがいいよ」
「それでジノさん」
「はい」
 ロドニーはジノに顔を向けてきた。そしてジノはそれに応じてきた。
「あんたはこれからここでやるんやな」
「そのつもりですが」
 ジノは落ち着いた声でこう応えた。
「それが何か」
「それやったら魔装機換えたらどないでっしゃろ」
「魔装機を」
「そや。ギンシャスプラスやったら今度辛いかもしれへんし」
「ギンシャスプラスでも」
「そやから他の何かに乗り換えた方がよろしいと思いまっせ。空いとる魔装機にでもな」
「ふむ」
「それじゃあラストールだね」
「ラストール」
 リューネの言葉に目を向けさせた。
「あれなら接近戦が得意だし。ジノさんにも合ってると思うよ」
「そうなのか」
「それでいいかな。嫌なら別にいいけれど」
「いや」
 だがジノはその言葉に首を横に振った。
「かってシュメル先生に言われた。魔装機は性能ではないと」
「ふん」
「真の達人が乗るならばどのような魔装機でも最高の性能を引き出せると。そう仰った」
「じゃあラストールでいいんだね」
「うむ。どのような魔装機でも乗りこなしてみせよう」
「有り難いね。あれがいい、これがいいってダダをこねてたどっかのおじさんに聞かせたいよ」
「おい、そらどういう意味や」
「あっ、聞こえてた!?」
「わざと聞こえるように言うたんちゃんかい」
「それは気のせいだって。聞こえてたら御免ね」
「ホンマに。口の悪いやっちゃな」
「それでジノさんはどの小隊に入るの?」
「空いている場所でいい」
 ここでも彼は謙虚であった。
「私はそこで私の役目を果たさせてもらおう」
「謙虚だね」
「謙虚も何もないさ」
 そう言って微笑んだ。
「それが戦争というものだろう。違うだろうか」
「まあそうだけれど」
「そういうことだ。それではこれから宜しくお願いする」
「ああ、こちらこそ」
 あらためて皆に対して挨拶をした。こうしてロンド=ベルにまた一人頼もしい仲間が入ったのであった。
 その日は結局何もなかった。だが次の日朝から異変が起こった。
「これは」
 その時部隊の先頭で哨戒にあたっていたダイターンのレーダーに反応があった。それを見た万丈が顔を曇らせる。
「万丈様、どうなされましたか」
「ギャリソン、どうやら大変なことが起ころうとしているよ」
 彼は自分の執事に対して答えた。
「大変なことといいますと」
「こちらに敵が向かって来ている。それもかなり巨大な奴がだ」
「巨大ですか」
「多分ゼツだ。遂に来たぞ」
「ふむ、それは何とかせねばなりませんな」
「何とかって」
「ギャリソンさんってこんな時でも落ち着いているのね」
 それを後ろから見ていたビューティとレイカが呟いた。
「慌てても何にもなりませんから」
 これ対してやはり落ち着いた様子で返す。
「そして万丈様、その敵はどちらに向かって来ていますか」
「こちらに一直線に来ている」
 万丈はレーダーを見ながら言葉を送る。
「すぐに皆に伝えてくれ、来たと」
「はい」
 ギャリソンはそれに頷いた。
「全軍戦闘態勢だ。これは用心してかかった方がいい」
「わかりました」
 こうしてロンド=ベルは戦闘態勢に入りゼツを待ち受けた。彼等は緊張した顔もちで前を見据えている。皆強張っていた。
「来るか」
 マサキが前を見ながら呟いた。
「あの爺さん、やっぱり俺達を最初に潰すつもりか」
「どうやらそうみたいね」
 セニアがそれに応じてきた。彼女もノルス=レイに乗って出撃している。
「それだけあたし達が憎いってことでしょ」
「何度も痛めつけてやったからな」
「そういうことは絶対に忘れないからね」
「嫌な性格だな」
「ラングランにいた時からね、頭がおかしかったから」
「頭がか」
「所謂狂気に心を支配されていたってやつね」
 そう語るセニアの表情が暗いものとなる。
「自分とその研究の為には。他人がどうなろうと構わない」
「エゴイストってことかしら」
「そうね」
 シモーヌの言葉に頷いた。
「一言で言うと。増大化した自我と制御の効かない欲望。それが全てなのよ」
「そうなのか」
「本当にいかれてるのね」
「それで今シュメルさんを使って何かを作り上げた。多分かなりの自信作の筈よ」
「そうでなければバゴニアから出奔したりはしないな」
 アハマドは冷静に言った。
「見切りをつけたのだろう。利用価値がなくなったとな」
「でしょうね」
「それでラングランも俺達も滅ぼすってか。冗談じゃねえぜ」
「冗談じゃなくて本当のことよ」
 いきり立つマサキに対してシモーヌが言った。
「何が出ても。驚くんじゃないよ」
「ああ」
 シモーヌに言われては落ち着くしかなかった。マサキはとりあえずは落ち着いた。
「皆、もうすぐだ」
 万丈の通信が入ってきた。
「来るぞ、彼が」
「来るか、いよいよ」
「ゼツ」
 ロザリーの目が憎悪に光った。
「シュメル先生を。まさか」
「待つのだ」
 だがそんな彼女にジノが声をかけてきた。
「落ち着くんだ」
「ジノさん」
「いいな。何があっても」
「は、はい」
 兄弟子に言われては頷くしかなかった。ロザリーは少し落ち着きを取り戻した。
「だが。何があっても覚悟はできているな」
「ええ、それは」
「ならいい。もうすぐだ」
 彼はそう言いながら前を見据えた。
「来るぞ」
「はい」
 ロンド=ベルの前に何かが姿を現わした。それは巨大な、まがまがしい形の魔装機であった。
「ヒョヒョヒョヒョヒョヒョ」
 そこから不気味な笑い声が聞こえてきた。狂気を露わにした笑みであった。
「きやがったな」
 マサキがその笑い声を聞いて言った。
「ゼツ、それが貴様の最後の切り札ってわけか」
「切り札?はて、これはわし自身じゃ」
「!?」
 皆その言葉を聞いて眉を顰めさせた。
「おい、今何て」
「聞こえんかったか?これはわし自身じゃと言っておるのじゃ」
「何を言っているんだ?」
「俺達を馬鹿にしてるんじゃねえのか?」
「ヒョヒョヒョ、わしの前に敵はおらぬ」
「まさか」
 彼等はその声を聞いて疑惑を確信に深めていった。
「ゼツ、手前」
「わしはこの力さえあれば他には何もいらぬ。このガッツォーさえあればな」
「そのガッツォーで何をするつもりなの、ゼツ=ラアス=ブラギオ」
 ウェンディが彼に対して問うた。
「そのガッツォーで」
「ぬ、御主は誰じゃ?」
「えっ!?」
 ウェンディはその返事を聞いて呆然となった。それはもう返事ではなかった。
「ゼツ、貴方まさか」
「わしは御主みたいな女は知らぬぞ。何処の馬の骨じゃ」
「やっぱりな」
 万丈がそこまで見ていて頷いた。
「駄目だ。もう彼は完全に狂っている。何を言っても駄目だ」
「狂って」
「ああ。あそこまでいくと。もうどうしようもない」
「ゼツ、それあ手前の末路なのかよ」
「末路だああだと妙なことを言うのう」
 マサキに対しても何もかもが定まらない声で返す。
「若僧が。年寄りは敬わなければならんのじゃぞ」
「そうだな」
 マサキはとりあえずはそれに頷いてみせた。
「手前にはもう言うことはねえ。ここで引導を渡してやるよ」
 彼は静かにこう言った。
「覚悟しな。その覚悟ってやつを覚えていたらな」
「ヒョヒョヒョ、面白い言葉じゃの。何じゃそれは」
「・・・・・・もう何を言っても無駄なようね」
「ですね」
 シーラがウェンディの言葉に頷いた。
「こうなっては。もう終わりです」
「はい」
「全機に告ぐ」
 そのうえで彼女は指示を下した。
「あの魔装機を撃墜しなさい。そしてこの戦いを終わらせるのです」
「了解」
 こうしてゼツとロンド=ベルの最後の戦いがはじまった。ロンド=ベルはまずガッツォーを取り囲んだ。
「喰らいやがれっ!」
 まずは甲児がロケットパンチを放つ。それは一直線にガッツォーに向かって行った。
「これなら!」
 甲児は命中を確信していた。だがここでガッツォーは突如として分身した。
「なっ!」
「まさか!」
 皆それを見て驚きの声をあげた。今までのゼツからは信じられない動きだったからだ。
「これは一体・・・・・・」
「この動き、シュメル先生のものだ」
 それを見てジノが言った。
「シュメルさんの!?」
「じゃあまさか」
「おそらくは」
 ジノはガッツォーを睨みすえたまま答えに応じる。
「先生の能力を。そのままあのガッツォーとやらに入れたのだ」
「どうやって」
「ヒョヒョヒョ、あの男の脳味噌は役に立ってくれるわい」 
 ゼツはまた笑った。
「脳味噌を」
「あの男。腕だけは立っておったからのう。こうしてわしに脳を移植させたのじゃ」
「何ということを」
「それじゃあシュメル師は」
「身体はゴミ箱行きじゃ」
 ゼツは相変わらず視点の定まらない目でこう言ってのけた。
「わしにとってはあんな身体は必要ないのでな」
「酷い!」
「何て野郎だ!」
「わしは全てじゃ。わし以外にこの世には誰もおらんよ」
 さやかと甲児の言葉も最早真っ当に届いてはいなかった。
「虫しかおらぬ。この世にはのう」
「・・・・・・終わっているな、何もかも」
 ジノは首を横に振ってこう言った。
「この男は救えない。何があろうと」
「そうだな」
 マサキもそれに頷いた。
「こうなっちゃ手加減はいらねえ。ヤンロン、テュッティ」
「うむ」
「わかってるわ」
 二人がそれに応じて頷く。
「ミオ、リューネ、やることはわかってるな」
「当たり前でしょ」
「やるしかないわね」
 この二人も同じであった。彼等は前にいるガッツォーを見据えていた。
「行くぜ、五機でな」
「よし」
 サイバスターが飛ぶと他の四機も続いた。そしてゼツのガッツォーを取り囲んだ。
「ん!?何をするつもりなんじゃ」
「ゼツ、憎しみの果てにあるのは何か、よく見させてもらったぜ」
 マサキは重い声で語った。
「手前はもう終わったんだ、本当にな」
「何が終わったのじゃ?わしの世界がはじまるというのに」
「自分で自分がどうなってるかわからねえようになっている奴はもう終わりなんだよ」
 マサキの言葉は続く。
「こうなっちまっちゃもうどうしようもねえ!ゼツ、俺達が手前を裁いてやるぜ!」
 サイバスターの身体に何かが起こった。突如としてその身体が白く光った。
「これは・・・・・・」
「精霊憑依ね」
 ウェンディが皆に対しこう語った。
「精霊憑依」
「元々魔装機はその力を精霊によって得る」
「はい」
「サイバスターは風の魔装機神。サイフィスと契約しているのよ」
「それじゃあ今サイフィスが」
「ええ。サイバスターに憑依したのよ」
 サイバスターの身体が今までとは違って見えた。気が感じられた。
「これでサイバスターの力は今までとは比較にならないものになったわ。そしてそれを引き出したマサキも」
「じゃあまさか」
「出切るかも知れないわ」
 ウェンディはまた言った。
「彼に引導を渡すことが」
「ゼツ!」
 マサキは叫んでいた。
「これが俺の手前への引導だ!受け取りやがれ!」
 そう言いながらサイバスターの前に魔法陣を出させた。
「アカシックバスターーーーーーーッ!」
 魔法陣の中から巨大なオーラの鳥が姿を現わした。そしてゼツに向かって飛ぶ。
 それは一直線にゼツのガッツォーに向かった。だがガッツォーはそれをさけようとする。だがよけきれなかった。
「ヌオッ!?」
 直撃であった。これにより右腕が肘から吹き飛んだ。
「わしの右腕が」
「まだだ!」
「今度はあたしの番だよ!」
 ヴァルシオーネが動く。そして赤と青の螺旋状のビームを放つ。
「クロスマッシャーーーーーーーーッ!」
 今度はその螺旋の光がガッツォーを撃った。右腕が完全に吹き飛んだ。
「ヤンロン!」
「わかっている!」
 ヤンロンはリューネの言葉に頷いた。そして彼も攻撃を仕掛けた。
「これで・・・・・・どうだっ!」
 グランヴェールは炎の柱をガッツォーに向けて撃った。電光影裏であった。
 それで今度はガッツォーの左腕を吹き飛ばす。またしても肘から下がなくなった。
「何か起こったのかのう?」
「まだわかってねえのか!」
 マサキは相変わらずの様子のゼツを見て思わず声をあげた。
「何処までいかれてやがるんだ」
「もうわかってる筈よ、マサキ」
 そんな彼に今度はテュッティが言った。
「彼には。もうこうするしかないわ」
 そう言いながら攻撃態勢に入る。
「行くわよ・・・・・・」
 いつもの穏やかな様子はなかった。その顔と声も激しいものとなっていた。
「ヨーツンヘイム!」
 そして水の柱を放った。それでガッツォーの左腕を完全に消し去った。
 だがそれでもガッツォーは動く。両腕がなくなろうともゼツは動いていた。
「クッ、まだ」
「ならあたしが!」
 ミオも攻撃に入った。
「これでっ!」
 突進する。ガッツォーの腹に拳を放った。
 超振動拳であった。腹に直撃を受けさしものガッツォーも動きを止めた。だがそれでもゼツは生きていた。
「何も起こっておらぬのう、ヒョヒョヒョ」
「マジでいかれてやがるな」
 宙も呆然としていた。
「何処までも。どうなっちまってるんだ」
「だがそれももう終わりだ」
 そんな彼に竜馬が言った。
「終わりか」
「そうだ。あれを見てくれ」
 そう言いながらゲッターで前を指差す。見ればロザリーが狙いを定めていた。
「先生の仇・・・・・・!」
 その目は何かを見ていた。決して仇や憎しみを見る目ではなかった。
「今ここで・・・・・・!」
 そしてリニアレールガンを放った。それで全てが終わった。
「ヒョッ!?」
 一条の光がガッツォーを貫いた。ゼツの顔が止まった。
「何が起こったんじゃ?」
「御前が終わっちまったんだよ」
 マサキは彼に対して言った。
「何もかも。成仏しやがれ」
「何を言っておるのじゃ」
 彼だけがわかっていなかった。
「わしが終わる筈が。ヒョッ!?」
 だがここで気がついた。
「何じゃこれは。赤いものが」
 見れば彼は血に染まっていた。先程のロザリーの攻撃で彼自身も傷ついていたのだ。
「これは何じゃ!?ふむ、鉄の味がするのう」
「駄目だ」
 皆それを見て首を横に振った。
「どうしようもない」
「ああ」
「ん!?何かわしの身体があちこち爆発しておるのう。これは一体」
 既にガッツォーのあちこちから爆発が起こっていた。そしてもうそれは止まらなかった。
「どうなっておるのじゃ!?おお、これは花火か」
 最早自分の見ているものすらわかってはいなかった。
「わしの復讐がなったことを祝う花火じゃな。おお、有り難い」
「あんなのになっちまっても復讐は忘れねえのか」
「何という奴だ」
「花火じゃ。祝え、祝おう」
 彼は爆発の中で悦に耽っていた。
「わしの復讐を。そしてわしの世界がやって来たのを」
 それが最後であった。遂にガッツォーは爆発し何もかもが消えた。こうしてゼツは消えてしまった。
「終わったな」
「ああ」
 ロンド=ベルの面々は爆発し、消えていくガッツォーとその中にいるゼツを見送りながら言った。彼等はこれで一つの戦いが終わったことを実感していた。
「ロザリー」
「うん」
 声をかけられたロザリーは静かに頷いた。そして言った。
「先生、仇はとったよ。そして」
 前を見た。
「さようなら」
 その目からは涙が溢れ出ていた。今彼女にとってかけがえのない者が自分の前から永遠に去ってしまったのだということがわかっていたからであった。
 こうしてゼツとロンド=ベルの戦いは終わった。だがその彼等の前に一つの影が現われた。
「お久し振りですね」
「シュウ」
 マサキはネオ=グランゾンに気付きそちらを見た。そこにはネオ=グランゾンが威圧的な姿と共に立っていた。
「丁度話が終わった時に出てきやがったな」
「一体何の用だい?」
 リューネも彼に問う。やはりシュウを警戒していた。
「今一つの戦いが終わりました」
「ああ」
「確かにね」
「しかしまだ戦いは終わってはいません。バゴニアとの講和がこれから成ってもね」
「ヴォルクルスかよ」
「はい」
 シュウはマサキの言葉に頷いた。
「いよいよ復活しようとしております。それを止めなければなりません」
「で、俺達に何をして欲しいんだ?」
 マサキは彼を睨んだまま問うた。
「どうせろくなことじゃねえんだろうが」
「確かにあまりいいことではありません」
 シュウはある程度それを認めた。
「また皆さんに戦いに赴いてもらうのですから」
「やっぱりな」
「そんなことだろうと思ったわよ」
「お嫌ならいいですが」
「そう言いながら何で俺達の前に姿を現わすんだよ」
「どうせあたし達じゃなきゃどうしようもない仕事なんでしょ」
「ご名答」
 シュウはここでは嘘をつかなかった。
「是非貴方達にヴォルクルスを倒す手助けをして頂きたいのです」
「ヴォルクルスをか」
「あんた一人じゃできないの?そんな化け物に乗っていて」
「生憎。私では限界がありまして」
「えらく謙虚だな、おい」
「そうでしょうか」
「いつも自信に満ちた慇懃無礼な態度なのによ。何を企んでやがる」
「さて、何のことか」
「ヘッ、言わねえつもりかよ。まあいいさ」
 とりあえずはそれを不問にすることにした。だがさらに問う。
「で、手前とヴォルクルスのことだが」
「はい」
「どういう関係なんだ?どうも俺にはただ敵対しているだけのようには見えないんだがな」
「敵対、ですか」
「そうさ。今の手前には前みたいな怪しげな感じがねえ」
「はい」
「怪しいというのは変わらないが何かが違うんだ。雰囲気がな」
「そういえばそうね」
 それにリューネも頷いた。
「何かね、違うのよ。未来で戦った時と比べると」
「あの時の私と今の私は違いますから」
「!?どういうことだ、そりゃ」
「言ったままですよ」
 シュウはそれに対して一言言っただけであった。
「今申し上げたままです。あの時の私と今の私は違うのです」
「!?」
「同じ人間でも違うのです。それが全てです」
「訳わかんねえな、何か」
「いえ、簡単ですよ」
「おめえの言う簡単なのと俺達の言う簡単なのは訳が違うんだよ」
「そうだね、そのマシンだって一人で設計、開発したんだし」
「このネオ=グランゾンもまた簡単なのです」
「何かさらに話がわからなくなってきたな、おい」
 トッドがそれを聞いてぼやく。
「空軍の士官教育の方がまだましだぜ」
「トッドさんって士官になる予定だったんだ」
「ああ、パイロットはな。皆そうだぜ」
「そういえばそうですね」
 シンジはそれを聞いて頷く。
「アムロ中佐もそうでしたし」
「あの人はパイロットになってから教育を受けたんだがな。まあ同じか」
「ですね」
「まあショウはちと違うがな」
「うちは士官じゃなくてもパイロットになれるわよ」
 そんな彼にマーベルが言った。
「おっ」
「私だってショウだってそうだし」
「まあそれを言うとそうなんだがな」
「だが士官教育は無駄じゃなかったみたいだな」
「おいおい、お世辞を言っても何も出ないぜ」
 話に入ってきたショウにそう返す。
「俺は生憎ケチでな。軍人ってのは財布が軽いんだよ」
「そう言いながらこの前僕にジュース奢ってくれましたね」
「子供は別だ」
 シンジに対して一言言う。
「子供には優しくしなくちゃならないのがパイロットなんだよ」
「そうなんですか」
「正義の味方だからな」
「正義の味方」
「アメリカじゃそう教えられるんだよ。アメリカ軍は正義の軍隊だってな」
「またえらくあれですね」
「それがアメリカ軍だったんだよ。まあ変な考えなのは今思うとそうだな」
「トッドもわかってきたじゃない」
「俺はこんなタチなんでな。根がひねくれているからそう考えるのさ」
「少なくとも素直じゃないな」
「おいショウ」
 ショウに言われて少しムッとしたようであった。つっかかってきた。
「御前さんに言われたくはないんだがな」
「俺にはか」
「そこにいる坊やならまだ許せるがな。御前さんにだけは言われたくはねえな」
「何で俺だけなんだよ」
「自分の胸に聞いてみな」
「わからないな」
「あら、わかっているのじゃないかしら」
 マーベルがくすりと笑ってショウに対して言う。
「マーベル」
「だってショウったら。いつも素直じゃないんだから」
「そうかな」
「そうよ。最初会った頃なんて特に」
「あの時は本当に手を焼いたよ」
「ニー」
 ニー達も話に入ってきた。
「本当に我が侭で意地っ張りでな。苦労したよ」
「本当」
「キーンまで言うのかよ」
「俺達だから言うとは思わないのか?」
「大変だったんだから」
「何かえらい言われようだな」
「ドレイクの旦那も御前さんのことには手を焼いていたみたいだしな。よく色々と言っていたぜ」
「ドレイクに言われても何とも思わないが」
「まあそうだろうな」
「しかし。俺もあまり評判がよくはないんだな」
「ショウさんもそうだったんですか」
「あえ、シンジ君は違うだろう?」
「僕は。ちょっと」 
 シンジは俯き加減に言う。
「何か。よく頼りないって」
「そうか」
「っていうかそのままじゃないの」
 アスカも参戦してきた。
「アスカ」
「あんた見てるとねえ。本当にイライラするのよ。いつもウジウジしちゃって」
「そんな言い方はないだろ」
「けど本当のことじゃない。根暗でさ。もっとシャキッとしなさいよ」
「けど」
「けども何もないわよ」
 アスカはいつもの調子であった。
「イライラしてしようがないのよ、本当に」
「けれど何でいつもシンジ君に言うのかしら」
「えっ」
 マーベルに言われてハッとする。
「アスカちゃんっていつもシンジ君に言ってるわよね。前から思っていたけれど」
「シンジ君だけか?」
「何かドラグナーの連中や甲児やガンダムチームの面々にも色々食ってかかってるような気がするんだけれどな」
「見境なし、かな」
「そういえばマスターアジアにも色々と言っていたわよね」
「まあそれは置いておいて」
 マーベルはそう言ってショウ達を窘めた。
「けれどシンジ君に対して一番言っているから」
「そ、それは」
 どういうわけかアスカは戸惑いだしていた。
「何かあるのかしら」
「何もないですけれど」
 そうは言っても戸惑ったままであった。
「いや、あのその」
「言えないのかしら」
「言えなくはないですけれど。その」
「いいわ。じゃあこれでお終い」
「終わるのかよ」
「ええ。彼女が言いたくないみたいだから」
「あたし別に言いたくは」
 トッドの突っ込みに大人の余裕で返したマーベルに不覚にも突っ込んだ。やはりこうしたところが若かった。
「じゃあ言えるかしら」
「それは」
 あっさり切り返される。結局は無駄であった。
「言いたくないのだったらそれでいいわ。私も色々と言いたくないこともあるし」
「うう」
「それに今はもっと大事な話がはじまっているしね」
「そうだったな」
 まずショウがそれに頷く。
「シュウ=シラカワ。今度は何を考えている」
「何か碌なことじゃねえのだけはわかるがな」
 そう言いながらもシュウから目を離さなかった。皆シュウに注目していた。
「シュウ」
 マサキはまた問うた。
「手前はヴォルクルスを倒したいんだな」
「はい」
 集はそれにこくり、と頷いた。
「その通りです。何度も申し上げていますが」
「それがまず信用できねえんだ」
 だがマサキはここでこう言った。
「何故でしょうか」
「今までの手前の行動だ。未来で手前は俺達の前に姿を現わした」
「はい」
「未来へ行く前にもな。その時手前は世界を破壊しようとした。その手前が何故今ヴォルクルスを倒そうとしやがるんだ」
「自由の為とでも申しましょうか」
「自由の為!?」
「はい。こう見えても私は自由というものを愛しておりまして。それが最も大事なものであると考えています」
「他人はどうなってもか」
「他の方は他の方です。とりあえず私は自身が自由であることを願います」
「それがヴォルクルスを倒すこととどう関係があるってんだ?手前はそもそもやってることがヴォルクルスとそっくりだったじゃねえか」
「ヴォルクルスとですか」
「そうだ。忘れたとは言わせねえぞ」
「確かに前はそうでした」
 シュウはそれは認めた。
「以前の私はね」
「じゃあ今の手前は違うってのかよ」
「はい」
 シュウはそれも認めた。
「ですからこうして貴方達の前に姿を現わしているのですよ」
「ヴォルクルスを倒す為に」
「そういうことです」
「まだ信用はできねえがな」
 マサキはこう言いながらもシュウに顔を向けた。
「まあいい。どのみちヴォルクルスはさっさと始末しておかなきゃならねえ」
「はい」
「案内しな。何処にいるのかわかってるんだろう」
「勿論です。それでは」
「ああ」
 こうしてシュウは一時的にではあるがロンド=ベルに加わることになった。だが母艦には入らずネオ=グランゾンに留まったままであった。そんな彼にチカが声をかけてきた。
「いいんですか、御主人様。あっちに入らなくて」
「いいのですよ、今はね」
 シュウは謎めいた笑みを浮かべてそれに応えた。
「今はね。どのみち彼等とは一旦すぐに別れることになりますし」
「あれ、別れちゃうんですか」
「私にはまだやる仕事がありますので。仕方のないことです」
 そしてこう言った。
「けれど今はこれをセニアに送っておきましょうか」
 そこでコクピットから何かを取り出した。それは分厚いファイルであった。
「ネオ=グランゾンの転送システムでね。これでまた彼等に大きな力が加わります」
「ああ、安西博士やオオミヤ博士から貰ったやつですよね」
「はい」
 シュウはそれに頷いた。
「あのクリバヤシ、オザワという二人にとって非常に有益な筈です」
「それはまあそうですけれどね」
「後はゼンガーさんですが」
「彼がどうかしたんですか?」
「ここでそろそろ因果を断ち切られればいいのですが」
「因果ですか」
「はい」
「あの人にそんなのありましたっけ」
「あるのですよ。ここにまで来ているでしょう?」
「ああ、あれですか」
 それが何かチカにもわかった。納得したように頷く。
「あれが因果だったんですか」
「そうなのですよ」
「けれどあれはどうにもならないんじゃないですかね」
「何故ですか」
「あれだけ憎まれていると。手の施しようがないですよ」
「それはどうですかね」
 だがシュウはその言葉には否定的であった。
「彼女は何もわかっていないだけですから」
「あれっ、ゼンガーには問題はないんですか」
「この場合はね」
 シュウの答えはそれであった。
「後は彼女が気付くだけです」
「気付きますかね」
「気付きますよ」
 しかしどういうわけかシュウの答えは楽天的なものであった。
「きっとね」
「何か気楽ですね」
「そうでしょうか」
「御主人様はいつも何かを見透かされていますけれどね。今回もまた」
「ふふふ、さて」
 シュウは笑ってそれを誤魔化した。そして道案内に入った。
「こちらです」
「行くか」
「ああ」
「もし何かやらかしたら」
「よせ、甲児君」
 鉄也はいきり立つ彼を制止した。
「疑うこともしなければならない時もあるが。今は抑えておくんだ」
「けどあいつは」
「俺も君と同じ考えだ」
 それは認めた。鉄也も甲児と同じくシュウを信用してはいなかった。
「だが何かすることは何時でもできる。違わないか」
「それはそうだけれどよ」
「甲児君、安心するんだ」
 大介も言った。
「僕もいる。けれど今は彼を信用しよう」
「大介さんも言うんなら」 
 この二人に言われては逆らうことはできなかった。この二人は甲児にとって仲間であると共に兄のような存在であるからだ。そういった意味で彼は末っ子の様な存在であった。
 シュウはそのままラングラン領に入った。そして北の奥へ進んで行く。そこは険しい山脈であった。
 そこでまた戦いがはじまろうとしていた。破壊を司る神との戦いが。彼等の戦いは地下においても続いていた。そしてそれは何時終わるかもわからなかった。


第五十二話   完


                                        2005・11・6


[328] 題名:第五十二話その一 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年04月13日 (木) 19時43分

              狂気の魔装機
 シュメルの行方はようとして知れなかった。ロンド=ベルの面々は彼の捜索を続けたが手懸かりはないままであった。こうして一週間が過ぎようとしていた。
「参ったな」
 マサキがグランガランに帰るとたまりかねたようにこう言った。
「何もわかりゃしねえ。どうしたもんか」
「あんたがそんなこと言うとはね」
 同時に帰ってきていたリューネがそう応えた。
「そんなに困ってるのかい」
「困らない筈がねえだろ」
 マサキはそれに対してこう返してきた。
「シュメルさんがどうなったのか、考えるだけであれなんだからな」
「そうだったね」
 それを聞いたリューネの顔が曇った。
「どうなってるんだろう」
「あまりいいことになってるとは思えねえな」
 マサキも同じ考えであった。
「ゼツの野郎、一体何をするつもりなんだ」
「何をするつもりでも私達は彼を止めなければならないの」
 ここにウェンディが来た。そして二人に対してこう言った。
「さもないと取り返しのつかないことになるわよ」
「そうだな」
「けれど一体何をやってくるつもりなんだか」
「そこまではまだわからないけれど」
 ウェンディは言った。
「恐ろしいことを行っているのは事実ね。覚悟はしておいて」
「ああ」
「わかったわ」
 彼等だけでなく他の面々もその顔は暗いものであった。そしてここで新しい情報が入って来た。バゴニア軍で異変が起こったのだ。
「あの人が!?」
 それを聞いてドロシーが最初に驚きの声をあげた。
「知っている人なのか?」
「知ってるも何も」
 彼女はナンガの問いに少し慌てながら答えた。
「あたしの前に先生のところにいた人なのよ」
「そうだったのか」
 皆それを聞いて表情を変えた。
「ジノ=バレンシアさんだよね。あたしも知ってるよ」
「へえ」
 今度はプレセアが言った。
「バゴニアじゃ有名な剣の使い手だよ。鬼のバレンシアって言われてるわよ」
「鬼か。じゃあとんでもなく怖い顔をしてるんだろうな」
「ヤマガタケよりもな」
「こらサンシロー」
 ヤマガタケはサンシローに言われて彼に対してつっかかってきた。
「そりゃどういう意味だ」
「まあまあ」
 それをブンタが宥める。
「ここは落ち着いて。それでそのバレンシアさんですが」
「はい」
 そして話を元に戻す。ロザリーはそれを受けて話を再開させた。
「ロザリーさんの兄弟子にあたるわけですね」
「ええ」
 ロザリーはそれに頷いた。
「二年で先生から免許皆伝を貰ったそうでして」
「二年で」
「何でも天才だったとか。それでいて凄く真面目で熱心な方だったそうです」
「そんな人が」
「何をしたのかしら」
「脱走らしいわよ」
 それにマーベルが答えた。
「脱走」
「それでバゴニアの前線は大騒ぎよ。さっき偵察していたらそんな話を聞いたわ」
「何でまた脱走なんか」
「多分シュメル師のことでしょうね」
 マーベルの考えはそこにあった。
「自分の恩ある人が捉われたのだから。そうした行動に出てもおかしくはないわ」
「それで脱走ですか」
「可能性としては高いのじゃないかしら」
「ううん」
 皆それを聞いて考え込んだ。
「言われてみれば」
「それでどうするつもりなのかしら」
「少なくとももうバゴニアにはいるつもりはないでしょうね」
 マーベルはまた言った。
「覚悟のうえでの脱走なのは間違いないでしょうし」
「そうか」
「何はともあれこれでバゴニア軍は一人有力なパイロットを失ったわけだ」
「そして剣の使い手も」
「けれどゼツはそれで怯むようなことはないわよ」
 ウェンディはここでも言った。
「気をつけて。必ず何かしてくるから」
「はい」
「そして何があっても感情的にならない。いいわね」
「それは何故」
「感情的になればそれだけ周りが見えなくなるわ」
 彼女は言った。
「それは避けなくてはいけないわ。とりわけ貴女はね」
「わかってます」
 ロザリーはウェンディの言葉に頷いた。
「覚悟はもう決めていますし。何があっても」
「そう」
 ロンド=ベルは全体的に重苦しい空気に覆われていた。そして会議を打ち切りとりあえず解散した。皆それぞれの部屋に戻った。
 ロザリーもそれは同じであった。だが戻ってすぐに誰かが部屋の扉をノックしてきた。
「誰?」
「私よ」
 それはウェンディのものであった。ロザリーはそれを聞くと部屋の扉を開けた。そしてウェンディを招き入れた。
「どうしたんですか?」
「さっきの話の続きだけれどね」
 ウェンディは部屋に置かれていた椅子に座りながら言う。椅子はロザリーが勧めたものであった。
「先生がどうなっていても、もう覚悟はできているの?」
「はい」
 ロザリーはそれに頷いた。
「もう。何が起こっても驚きません」
「そう」
 ウェンディはそれを聞いて彼女も頷いた。
「だったらいいわ。貴女に伝えたいことがあるの」
「それは一体」
「ゼツのことよ」 
 彼女はゼツについて言及をはじめた。
「ゼツのこと」
「そうよ。彼が進めていた研究だけれどね」
「はい」
「人間をね、使ったものなのよ」
「人間を」
「だから何があっても動揺しないでね」
「はい」
「何があっても」 
 そう言い終えるとウェンディは部屋を後にした。そっと一人姿を消した。
 後にはロザリーだけが残った。彼女は険しい顔になっていた。
「もし先生が奴に殺されていたら」 
 その時はもう決めてあった。
「あたしが奴を殺してやる」
 決意した。そして彼女は戦場に身を留めることをあらためて決意したのであった。

 戦いは暫く止んでいた。ラングラン本軍とバゴニア本軍もまた半ば休戦状態に陥っていた。そしてロンド=ベルもこれは同じであった。
「何か静かだね」
「嵐の前だな」
 哨戒にあたるリューネに対して同行していたヤンロンが言う。
「これからだ。何かが起こるのは」
「ゼツが来るってことだね」
「それしかないだろう」
 ヤンロンの声はクールだが強いものであった。
「何が来ても驚かないようにな」
「わかってるよ」
 それで驚くようなリューネではない。こくりと頷いた。
「あんたもね」
「僕もか」
「意外とね、あんた隙が多いから」
「それはまた心外だな。僕の何処に」
「グランヴェールは今一つ打たれ弱いじゃない。それと同じだよ」
「打たれ弱い、か」
「あたしはそう思うよ。ゼツがどんな化け物出してくるかわからないけれど攻撃は受けないようにね」
「わかった」
 珍しく素直に頷いた。
「それは君もな。ヴァルシオーネも守りはあまり強くはない」
「ああ」
 これもわかっていた。リューネの乗るヴァルシオーネはその外観故かあまり守りは強くはない。それはリューネ自身がよくわかっていることであった。
「魔装機は全体的に守りが弱いのかな」
「地の魔装機はまた別だがな」
「そういう意味じゃミオはいいよね」
「その分機動力が劣る。五十歩百歩だ」
「そんなものかね」
 そんな話をしているうちにヴァルシオーネのレーダーに反応があった。一機こちらに向かって来る。
「!?何だろ」
「それはどうやら魔装機だな」
 ヤンロンのグランヴェールの精霊レーダーにも反応があった。彼はそれを見てすぐに言った。
「バゴニアのものだ。こちらに向かって来る」
「じゃあ敵だね」
「そうだな・・・・・・いや待て」
 だがヤンロンはここで止まった。
「何かあるのかい?」
「どうもおかしい。逃げているようだ」
「!?逃げてる」
「ああ。そしてその後ろに魔装機が数機続いている。これもバゴニアのものだ」
「脱走!?」
「おそらく。どうする」
 ヤンロンはリューネに問うてきた。
「バゴニア同士のことだ。我々には関係ないと思うが」
「そうだね」
 リューネはそれを聞いて考え込んだ。それから言った。
「とりあえず見てみようよ。それから考えればいい」
「珍しく落ち着いた考えだな」
 本当であった。いつもは直情的なことではマサキに匹敵するリューネであるのにこの時は冷静であった。
「皮肉は止めてよ。何かね、気になるんだ」
「気に」
「とにかく行こう。そして場合によっちゃ他の皆も呼ぶ」
「ああ」
「それでいいね。じゃあ行こう」
「よし」
 こうして二人は現場に向かった。程無くしてその魔装機達がいる場所に到着した。
 そこではバゴニア軍の魔装機同士が衝突しようとしていた。一機の魔装機を数機の魔装機が追撃している。
「待ちな、バレンシア少佐」
 その数機の魔装機の先頭の魔装機から声がした。
「脱走は許されねえぜ」
「私は辞表を出した筈だが」
 逃れる魔装機から声がした。そこにはジノがいた。
「そしてこの魔装機の分の金は払ったが」
「認められてはいないぜ」
「そして私ももう少佐ではない筈だが」
「辞表も認められていないんだよ。これだけ言えばわかるよな」
「戻れというのか、私に」
「その通りさ」
 トーマスは笑いながら言った。
「さあ一緒に来な。裁判が待っているぜ」
「それは断る」
「逃げるのか?」
「違う。私はバゴニアを見限った」
「祖国をか」
「そうだ。シュメル先生を害するバゴニアはもうかってのバゴニアではない」
 彼は毅然とした態度で言う。
「私の祖国はもうない。バゴニアは最早あの男の私物、そのような国家は私の祖国ではない!」
「あんたの言いたいことはよくわかった」
 トーマスは一通り話を聞いた上で言葉を返してきた。
「だがこっちもビジネスなんだ。悪いが付き合ってもらうぜ」
「こちらには付き合う理由はない」
「そう言わずによ。さあ来るんだ」
「断ると言ったら?」
「その時は腕づくだ」
 彼はそう言いながら剣を抜いた。
「女に対しては腕づくはしないが男は別でね。意地でも来てもらうぜ」
「そうか」
 ジノもそれに応じて剣を抜いてきた。
「ならば話は終わりだな。私も従うわけにはいかない」
「来な。あんまりかっての同僚を相手にするのは気分じゃないがな」
 そうは言いながらも両者は次第に間合いを詰めてきた。
「仕事だ。遠慮なくやらせてもらうぜ」
「うむ」
 両者は激突しようとした。だがここにリューネとヤンロンがやって来た。
「ジノ=バレンシアだって!?」
「確かバゴニアを脱走したという」
 二人はそう言いながら戦場に姿を現わしてきた。
「それはやはり本当だったのか」
「ラングランの者達か」
 ジノは彼等に顔を向けて言った。
「何故ここに」
「レーダーに反応があってね。それで来たのさ」
「シュメル師のことが原因か、脱走は」
「脱走したつもりはないが」
 ジノはそう答えたうえで言った。
「少なくとも理由はそれだ。否定はしない」
「そうか、わかった」
 ヤンロンはそれを聞いたうえで頷いた。
「では僕達の方針は決まった」
「決まったって?」
「彼を助ける。いいな」
「助けるの」
「そうだ。彼はシュメル師の件でバゴニアを出た。それならばもう敵ではない」
「ああ」
「そしてロザリーと同じだ。ならば助けるのが道理というものだろう」
「そう。まあ助けるのにはやぶさかじゃないよ」
 リューネは彼とは違った視点からこう言った。
「困っている人を助けるのはね。義を見てせざるは勇なきなりってね」
「よく知ってるな」
「あんたのいつもの言葉を聞いて覚えたんだよ。学習ってやつさ」
「それは何よりだ」
 ヤンロンはそれを聞いて感心したように頷いた。
「学はもって止むべからず、常に学んでおかないとな」
「ミオとかは全然勉強してないよ」
「彼女はまた特別だ」
 どうやら流石の彼もミオは苦手なようだった。
「どうも僕が何を言っても通じないようだ。困ったものだ」
「まあミオはね。特別だから」
 そういうリューネもまた彼女には手を焼いている。
「意外とゲンナジーとは合ってるみたいだけれどね」
「あれがまた不思議だ。明らかに個性が違い過ぎる」
「だからじゃないかな。正反対だからかえって合うとか」
「ううむ」
「まあ話はそれ位にして。バレンシアさん」
「うむ」
「助太刀するかな。安心してね」
「かたじけない」
 ジノの方もそれを受けることにした。
「では頼めるか。正直これだけの数だと私の手に余るところだった」
「これだけの数って・・・・・・ほんの数機だけじゃない」
「よく見ろ」
「!?」
 ヤンロンの言葉に従い辺りを見る。見れば確かにそうであった。
 数十機もの魔装機達がやって来た。それが全てジノの追撃に向けられていたものであることは明らかであった。
「うわ、こりゃ凄い」
「確かにこれでは一人では無理だな」
「残念だがな。頼めるか」
「乗りかかった船だしね、いいよ」
 それでもリューネは臆するところがなかった。
「任せておいて、魔装機神とヴァルシオーネがいるから」
「それでも慎重にな。さっきの話を忘れるな」
「そうだね」
 一瞬ムッとしかけたが頷いた。グランヴェールもヴァルシオーネも守りは弱い。それをわかっていなければ大変なことになるからだ。
「では行くぞ」
「雑魚はあたし達でやるから。あんたはそこのリーダー格をやってね」
「おい、俺のこと忘れてもらっちゃ困る」
「覚えてるよ、トーマスだったね」
「ああ」
 クレームをつけながらも言葉を返されたのでとりあえずは機嫌をなおした。
「あんたも何かと大変みたいだね。DCからラ=ギアスまで」
「これでも案外楽しいもんだぜ」
「そうなの」
「波乱万丈ってやつさ。俺には相応しい」
「そうなんだ」
「あんたとは今は敵味方だがな。まあよろしくやろうぜ」
「いいけれど手加減はしないよ」
「ビジネスに手加減は無用だぜ」
 さばけた言葉を続ける。
「だからそっちも覚悟しておいてくれよ」
「了解」
 リューネは笑って返した。
「じゃあ覚悟させてもらうよ。それでいいね」
「ああ。じゃあな」
「また派手にやり合おうね」
「その時は容赦しないからな」
「それはこっちの台詞だよ」
 戦場でのやりとりとは思えない程の軽いやりとりの後で両者はとりあえず別れた。そしてジノはトーマスと対峙した。
「正直あんたとは戦いたくはなかったがな」
「それはこちらもだ」
 両者は互いにこう言った。
「けれどなっちまったものは仕方がねえ。行くぜ」
「うむ」
 互いに剣を構えなおす。そして次第に間合いを詰めていく。
「どうやら剣の腕もあるようだな」
「伊達にこれで飯を食べているわけじゃないんでな」
 トーマスは不敵に笑いながらこう答えた。
「俺の剣の腕、見せてやるぜ。そっちも自慢の剣技を見せてくれよ」
「言われずとも」
 そう言いながらまた間合いを詰める。
「参る」
「来な」
 まずはジノから仕掛けてきた。剣を構え前へ突進する。
 そして切り掛かる。だがそれはトーマスにより受け止められてしまった。
「ムッ!」
「これはまた。いい太刀裁きだ」
 トーマスはそれを受け止めた後でこう言った。
「どうやら腕は衰えちゃいないみてえだな」
「当然のことだ」
 ジノは言い返した。
「今まで日々鍛錬を積んできた。何時如何なる時であろうともな」
「武士道ってやつかい」
「武士道」
「おっと、あんたは知らないか。これは地上の言葉さ」
 トーマスはこう説明した。
「そのうちわかるさ。まあ気にするな」
「そうか」
「そのうちも俺に勝たなきゃないんだがな。じゃあ今度は俺からやらせてもらうぜ」
 そう言うと間合いを離してきた。
「俺はどっちかっていうとこっちの方が得意なんでね。悪く思わないでくれよ」
 そして攻撃を放ってきた。リニアレールガンであった。
「そうら」
 一発ではなかった。続けて何発も放つ。それでジノを仕留めるつもりであった。
 だがジノは彼の攻撃をかわしていく。まるで蝶の様に身軽な動きだ。
「今度は見切りってやつかい」
「お望みならそれも見せよう」
 ジノはこう返してきた。
「どちらにしろ私もむざむざやられるわけにはいかない」
「何の為に?」
「それはわからない」
 ジノは言った。
「だがここで死んではならないのはわかる。これから私が為さねばならぬことの為にな」
「運命ってやつかい。あんた外見はキザな感じだがどうしてストイックなんだな」
「私は剣に生きる者だ」
 また言った。
「ならば全てをこれに賭ける。他には何もいらぬ」
「いい覚悟だよ、本当に」
 トーマスはそれを聞いて感服した。
「あんたとは一度何処かで心ゆくまで語り合いたかったな。酒でも飲みながら」
「悪くはないな」
「しかし今は無理だ。おそらくこれからもな」
 それはトーマス自身がよくわかっていることであった。だからこそ言えた。
「あんたがバゴニアを出ちまったからな。脱走は死、今それをわからせてやるぜ」
 そしてまたリニアレールガンを放った。二人の攻防は激しさを増す一方であった。

 この頃ロンド=ベルの三隻の戦艦はシュメルの邸宅の近辺に駐留していた。そして哨戒に出しているマシンの管制にあたっていた。
「何か変わったことはないかね」
 大文字は大空魔竜の艦橋においてピート達に対してこう言った。
「どうも最近バゴニアも静かで不気味なのだが」
「何かを企んでいるのは間違いないでしょうがね」
 サコンがそれを聞いてこう言った。
「けれどそれが見えない。だから余計に」
「焦るというわけか」
「ああ」
 ピートの言葉に頷いた。彼等も少し苛立ちを覚えはじめていた。
「ただ、碌でもないことを企んでいるのは事実だ」
「碌でもないことか」
「あのゼツって爺さんからは邪なものしか感じない。おそらくシュメル師も奴の犠牲になった筈だ」
「サコン君、滅多なことは」
「わかってますよ」
 サコンは大文字の言葉に頷いた。
「今はロザリーがいないから。言えますが」
「うむ」
「いるとね。どうしても彼女のことを考えなくちゃいけません。一番辛いのは彼女ですから」
「わかってくれているか」
「皆そうですよ」
 サコンはまた言った。
「本当に。錬金術士は科学者と同じようなものですよね」
「話を聞く限りではな」
「やっていいことと悪いことがある。許せませんよ」
「サコンがそこまで怒るのも珍しいな」
「そうか」
「普段はもっとクールだが。どうしたんだ」
「どうしてもな」
 サコンはまた言った。
「怒らずにはいられない。あのゼツという男許せん」
「だが熱くなっては駄目だぞ」
 大文字はここでサコンをたしなめた。
「君まで熱くなっては話にならないからな」
「それはわかっているつもりです」
「うちは只でさえサンシローがいるんだ。熱くなる奴はもう足りている」
「サンシローか」
「もっともあいつはそうでなくちゃ困るんだがな。あいつはうちのキーマンだ」
「確かにな」
 これにはサコンは冷静に頷いた。
「あいつがいなくちゃどうにもならないところがある」
「ああ」
「ただ、それを言うとすぐ調子に乗るからな。困った奴だ」
「そこらへんは舵取りだな。上手くやるしかない」
「そうだな」
 そんな話をしていた。ここでモニターのスイッチが入った。
「!?」
「誰だ」
 一行はそれに気付き顔を上げた。するとモニターにフェイルが姿を現わした。
「殿下」
「お久し振りです、大文字博士」
「はい」
 フェイルはまずはそう挨拶をしてきた。大文字はそれに応える。
「お元気そうで何よりです」
「はい、殿下の方も」
「貴方達の活躍は本当に感謝しております。おかげでこちらも順調です」
「はい」
「それで今はどうされていますか」
「ここで待機中です」
 大文字はそう説明した。
「御存知だとは思われますがシュメル師がゼツに拉致されまして」
「ええ、それは聞いています」
 フェイルもそれに頷いた。
「残念なことですが」
「それでゼツが何をしてくるかわかりませんので。ここで警戒しつつ待機しているのです」
「ですがそれにしてはいささか数が少ないようですが」
「同時に哨戒活動にあたっておりまして」
 そう説明する。
「それで半分程出撃しております」
「そうだったのか」
「それで今回は何の御用件でしょうか。戦局のことでしょうか」
「はい、それです」
 フェイルはそれに対して頷いた。
「実はバゴニアで政変がありまして」
「クーデターか何かでしょうか」
「少し違います。どうやらゼツが出奔したようなのです」
「出奔!?」
 それを聞いた大文字は思わず驚きの表情となった。ピートとサコンは顔を顰めさせた。
「馬鹿な、そんなことが」
 まずピートが言った。
「あいつはバゴニアの実権を握っていたんでしょう!?」
「はい」
 フェイルの方もそれに頷いた。
「じゃあ何故。出奔する理由がない」
「そのままの地位にいれば楽にラングランに対して害を与えることができるのに」
「そう、そこです」
 フェイルはそこを指摘してきた。
「彼はバゴニアの実質的な独裁者でした」
「はい」
「バゴニアのことなら何でも思いのままにできる状態でした。その為に我々とバゴニアの戦争がはじまった」
「少なくともそう聞いています」
「しかしここに来て突然の出奔です。我々もこれがどういうことなのか当惑しているのが実情なのです」
「そうなのですか」
 大文字はそこまで聞いて呟いた。
「では理由がわからない」
「はい。そしてこれによりバゴニアが正常に戻ったようです」
「正常に」
「バゴニア政府から我々に対し講和を打診する話が来ております」
「では戦争は間も無く終わると」
「少なくともラングランとバゴニアの間では。しかし」
「彼ですか」
「そういうことです」
 フェイルはそう応えた。そしてまた言った。
「今は行方すら掴めません。一体何を考え、何処にいるのか」
「姿が見えないだけに不気味と」
「ええ。若しかするとそちらに向かっているかも知れません」
「可能性はありますな」
「今バゴニアもラングランも厳戒体制に入ろうとしております。そちらも御気をつけ下さい」
「わかりました」
「そして彼が来たならば用心して下さい。必ず何か邪なことを企んでいますから」
「それは承知しているつもりです」
「くれぐれも御用心を。それでは」
 そう言い残してフェイルはモニターから姿を消した。それを確認した後で大文字はピート達に対して顔を向けてきた。
「どう思うかね」
「正直戸惑っています」
 まずピートがこう言った。
「ここに来て。一体どういうことか」
「やはり何かあると思うのが自然だな」
「ですね」
 それにサコンも同意した。
「出奔したということはつまりバゴニアにはもう見切りをつけたということでしょう」
「見切りを」
 大文字とピートはサコンの言葉に顔を向けた。
「はい。そうでなければ出奔したりはしません。もうバゴニアに用はない」
「用はない」
「まさか」
「そのまさかだと思います」
 サコンはここでこう言った。
「そしてもう行動を移しているのではないでしょうか」
「まずいな」
 ピートの顔が険しくなった。
「若しかするとこっちにも」
「可能性はある」
 大文字が言った。
「すぐに哨戒に出しているパイロット達を呼び寄せよう」
「はい」
「今待機しているパイロット達も出撃させよう。いいな」
「わかりました。それでは」
「うむ」
 こうしてロンド=ベルはすぐに準備を整えた。そして臨戦態勢に入った。

 この頃リューネ達はバゴニアの魔装機達をほぼ倒し終えていた。そしてジノはトーマスとの戦いを続けていた。
「凄いね」
 リューネはジノの剣技を見てこう言った。既に他の魔装機達は全て撃破されるか撤退している。ヴァルシオーネのサイコブラスターとグランヴェールのメギドフレイムによるものであった。
「あれだけの剣技を持つ者はラングランにもあまりいない」
 ヤンロンも同じ意見であった。ジノの剣技を見て唸っていた。
「見事なものだ。だがどうかな」
「何かあるの?」
「戦法の違いだ」
 ヤンロンはそこを刺激してきた。
「ジノ氏は接近戦が得意だな」
「ええ」
 それは見ればわかることであった。彼はその剣を使った攻撃を得意としている。
「だが対する相手は遠距離戦を得意とする。この違いがある」
「向こうの方が有利ってこと?」
「そうは言ってはいない」
 ヤンロンはそれは否定した。
「だがそれに彼が気付くかどうかだ」
「遠距離戦もやらなきゃいけないってこと」
「そうだ」
 ヤンロンはそれに頷いた。
「そこだ。だが彼にできるか」
「気付くか、だね」
「うむ。それに気付かなければ戦いは進まない」
 そしてこう言った。
「どうなるかだな、そこが」
「何か難しそうだね」
「だがそれの両立はできる」
「両立?」
「僕も君もやっているだろう」
 ヤンロンの言葉は思わせぶりなものとなっていた。
「遠近両方の戦いをな」
「それ」
「そうだ」
 ヤンロンの声が強いものとなった。
「果たして彼にそれができるか、だが」
「できると思うよ」
 しかしそれに対するリューネの返答はあっけらかんとしたものであった。
「簡単に言うな」
「あたしやヤンロンも平気でできてるんだし」
「うむ」
「出来ない筈が無いじゃない、あの人に。まあここは落ち着いて見ていようよ」
「そうするか」
 結局彼はリューネの言葉に従うこととなった。そしてジノとトーマスの戦いは続いた。
「本当にいい腕をしてるよ」
 トーマスはジノの動きを賞賛しつつこう言った。
「全く。よくやってくれる」
「また世辞か」
「世辞じゃねえさ、本当のことだ」
 それに対するトーマスの返事であった。
「ここまで凄いパイロットはDCにいた時にもお目にかかったことはねえ」
「また言ってくれちゃって」
 リューネがそれを聞いて茶化す。
「だがそれもここまでさ。そろそろケリをつけさせてもらうぜ」
「ムッ」
 トーマスはそう言うとあらためて構えに入った。
「今度こそ決めてやる。覚悟するんだな」
 そう言いながら攻撃態勢に入った。そしてリニアレールガンを放つ。
「今度は一発だけじゃねえぜ!」
「何とっ!」
 続け様に連発してきた。どうやら持っている全てのリニアレールガンを放ってきたらしい。
「流石にあんたでもこれは逃げられないな!覚悟しな!」
 トーマスは会心の笑みと共に叫んだ。そして攻撃を連発する。
 ジノは相変わらずその超人的な技量でそれをかわす。だがそれも限界があった。
 最後の一発が襲い掛かる。流石にこれはよけられそうにもなかった。
「クッ!」
「勝ったな!」
 トーマスは勝利を確信していた。ジノの顔が苦渋に歪む。その一瞬はまさにそう見えた。
 だがそれはやはり一瞬のことであった。ジノも遅れこそとったがシュメルの弟子であった。咄嗟に攻撃を放った。
「これでっ!」
 トーマスが放ったリニアレールガンを撃ち消した。ジノもリニアレールガンを放ったのである。
「俺の攻撃を・・・・・・!」
「まだだ!」
 それで終わりではなかった。ジノはさらに攻撃を放つ。それでトーマスに逆襲を加えた。
 その中の一発がトーマスの乗る魔装機の右腕を吹き飛ばした。それで勝負は決まりであった。
「クッ、どうやら俺の負けみたいだな」
「危ないところだった」
 ジノはトーマスに対してこう言った。
「私ももう少し反応が遅れていれば。どうなるかわからなかった」
「世辞は止めときな」
 トーマスはいつもの笑みを浮かべてジノにこう言った。
「今回は俺の負けさ。それは認める」
「そうか」
「負け犬は大人しく引き下がる。早く行きな」
「いいのか」
「仕方ないだろ、俺は負けたんだ」
 トーマスはまた言った。
「それじゃあな、あんたはもうこれでバゴニアとはおさらばだ」
「済まない」
「謝る必要はないさ、どのみちまた会うことになるだろうさ」
「また」
「あんたと俺はこれで敵味方だ。これは当然だろう」
 トーマスは醒めた見方を述べた。
「だったらまた会うさ。その時は容赦しねえぜ」
「うむ」
「そういうことだ。じゃあな」
 そう言いながら飛び立つ。そして最後にジノに顔を向けた。
「あんたとの勝負は楽しいからな。また会おうぜ」
「わかった」
 こうしてジノとトーマスの戦いは終わった。戦いを終えたジノのところにリューネとヤンロンがやって来た。
「お疲れさん」
 まずはリューネが声をかけてきた。
「大変だったね、何かと」
「申し訳ない」
 ジノはまずリューネに対して謝罪してきた。
「何で謝るのさ」
「危ないところで助太刀に入ってくれたこと、まことにかたじけない」
「何さ、そんなことだったの」
「そんなこと」
「そうさ。こんなのあたし達にとっちゃいつものことだから。気にすることはないよ」
「それでもだ」
「堅苦しいね、何か」
「剣を極めんとするからかな。よくそう言われる」
「いいね、そういうの。気に入ったよ」
 リューネはそれを聞いて顔を綻ばせた。
「どうやらあんたとは何かと気が合いそうだね」
「そうかな」
「絶対そうさ。あたし昔からそういうの大好きなんだ。武士道とか侍とかね」
「武士道、侍」
 武士道という言葉は先程トーマスからも聞いた。よくはわからないが悪いものではないということはわかる。
「それを大事する人がラ=ギアスにもいるなんてね。嬉しいね」
「まあ話はそれ位にしてだ」
 ヤンロンが中断していた話を元に戻してきた。
「ジノ=バレンシアさんでしたね」
「はい」
「バゴニア軍を辞められたそうですが」
「ええ。理由はもうおわかりだと思いますが」
「はい」
 その通りだった。ヤンロンはその言葉に対して頷いた。
「もう私はバゴニアとは袂を分かちました。最早バゴニアの者ではありません」
「そうですか」
「といってもこれからどうするか。ちょっとわかりかねているのも実情なのですけれどね」
「ううむ」
「それならうちに来たらどう?」
 リューネがここでこう言った。
「ロンド=ベルに」
「そうさ、行くあてもないんだろう?じゃあうちに来るといいよ」
「しかし私は」
「固いことは言いっこなし。うちは前に敵だった奴でも一杯いるんだし」
「それでも」
「ロザリーもいるよ。何かと話にも困らないと思うけど」
「だが」
「まあ細かいことは後でね。とりあえず来たらいいさ。それから考えなよ」
「・・・・・・わかった」
 ジノは戸惑いながらもそれに頷いた。
「行くのならば一時とは言わない。これから行動を共にさせてもらおう」
「よしっ、これで決まりだね」
「うむ。諸君等の末席に加えて頂く」
 リューネに押し切られる形で頷いた。こうしてジノはロンド=ベルに合流することとなった。そこでリューネ達に対して通信が入った。
「おや、何だろう」
「大空魔竜からか」
 二人はそれぞれ通信に出た。するとモニターに大文字が姿を現わした。
「二人共、無事だったようだな」
「ええ、まあ」
「ちょっとばかし身体を動かしてたけれどね」
 ヤンロンとリューネはそれぞれ応えた。
「だが無事で何よりだ。そちらでは色々とあったようだな」
「はい。ジノ=バレンシア氏と合流しました」
「バレンシア少佐とか」
「今は軍属を離れております。そして我々に参加したいとのことですか」
「いいだろう」
 大文字はそれは問題なく頷いた。
「バレンシア氏のことは聞いている。腕も立つし人格者だということだな」
「ええ」
「なら問題なら。彼の参加を喜んで歓迎する」
「有り難うございます」
「そして君達に通信を入れた件だが」
「はい」
「何かあったの?」
 リューネが問うてきた。
「すぐにこちらに戻って来てくれ。大変なことになりそうだ」
「大変なこと」
「まさかゼツの奴が」
「そのまさかだ。彼はバゴニアを出奔した」
「何と」
 それを聞いていたジノが驚きの言葉をあげた。
「あの男が出奔だと」
「そう。そして後でわかった情報だが一機のマシンに乗っているらしい」
「マシンに」
「それはまさか」
「可能性はある。そしてそれがこちらに向かって来ているそうだ」
「ロンド=ベルに」
「ことは一刻を争う。すぐに戻って来てくれないか」
「了解」
「どうやら迷ってる暇はないようだしね」
 ヤンロンとリューネは迷うことなくそれに頷いた。
「ではすぐに戻って来て欲しい。お願いする」
「はい」
 こうして大文字はモニターから姿を消した。そしてジノも含めた三人は大空魔竜のもとへと向かった。彼等は程なくしてシュメルの邸宅の側に待機する大空魔竜の側に戻って来た。
「何かものものしいね」
 リューネがシュメルの邸宅の回りを見てこう呟いた。
「まるで今にも戦いがはじまるみたいだよ」
 見ればロンド=ベルのマシンの殆どが展開していた。どうやら戻って来たのはヤンロンと彼女が最後であるようだった。
「ゼツが来るって話やからな」
 ギオラストから声がした。
「んっ、タダナオじゃないの?」
 ギオラストに乗っているのはタダナオである筈だった。だが今そこから聞こえてきたのは訛りのある言葉であったのだ。
「タダナオは今ちょっと勉強中なんや」
「勉強中」
「そや。新しいマシンに乗る為にな。セニアさんと一緒や」
「ふうん」
「それでわいが乗っ取る。これからよろしゅうな」
 乗っていたのはロドニーであった。口髭を綻ばせて挨拶をしてきた。
「パイロットが変わったんだ」
「そや」
「それであんたが。大丈夫なのかね」
「おい、そりゃどういう意味や」
 ロドニーはそれに食ってかかってきた。
「わいやったら何か不安でもあるんかい」
「というか滅茶苦茶不安よ」
 リューネの言葉は手厳しかった。
「そんなにお茶らけていて。大丈夫なんでしょうね」
「安心せえ」
 彼は自分の胸をドン、と叩いて言った。


[327] 題名:第五十一話その二 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年04月13日 (木) 19時34分

「ヒイロ=ユイ」
「暫く振りだな。元気そうで何よりだ」
 ヒイロは感情が見られない声でこう言った。
「今あの曲が戦場を支配している」
「ああ」
「あの曲に答えがある。御前自身のな」
「私自身の」
「わかっている筈だ。御前はネオ=ジオンにいるべき人間ではない」
「・・・・・・・・・」
「義理は果たした筈だ。なのに何故まだそこにいる」
「私は自分の信念で動いている」
「信念か」
「そうだ。ガトー殿に言われた。それこそが人の生きる道だと」
「ではガトーは御前の心を縛るのか?」
「!?」
 ゼクスの仮面が動いた。まるで割れたように動いた。
「それは」
「あの男は誰かを縛ったりするような男ではない。自分を縛ることはあっても」
「では私は」
「そうだ。御前は自分で自分自身を縛っているだけだ」
 ヒイロは静かにこう言った。戦場に似つかわしくない程の静かな声で。
「それに気付くことだな。そうすれば道が開ける」
「その道標があれだというのか」
「そういうことになる」
 ゼクスはバサラ達を指差した。ヒイロはそれを肯定してきた。
「考えてみるのだな」
「・・・・・・・・・」
 ゼクスは答えられなかった。ただバサラの歌が耳に入る。それが徐々に自分の中に浸透していくのは感じていた。だがそれが結果として何をもたらすのかはまだわからなかった。
 ここで増援が遂に到着した。アナベル=ガトーの部隊であった。
「ゼクス殿、御無事か!?」
 GP−02に乗っていた。その禍々しい程の威圧的なシルエットの中から謹厳な声が聞こえてきた。
「ガトー殿か」
「遅れて申し訳ない。かなりの損害を出しているようだが」
「彼等は手強い」
 ゼクスは一言こう言った。
「我が軍はこれ以上の戦闘は無理かも知れない」
「ならば下がられよ」
 ガトーは撤退を勧めた。
「ここは我等が引き受ける」
「しかし」
「既にこのエリアの放棄は決定している」
「何!?」
「ここにティターンズ及びポセイダル軍が接近している。もうすぐ彼等の軍とも遭遇しかねん。これ以上ここで戦力を消耗することはないという決定だ」
「全ては地球降下作戦の為だな」
「そうだ」
 ガトーはそれに頷いた。
「撤退されよ。もうここでの戦闘は終わった」
「わかった」
 ゼクスはそこまで聞いて頷いた。
「それではお願いする。いいか」
「うむ」
 こうしてゼクスとその部隊は撤退にかかった。だがここでロンド=ベルは追撃に向かった。
「逃すな!」
 ブライトの指示が下る。それに従いロンド=ベルは追撃をはじめた。だがその前にガトー率いるモビルスーツ部隊が出て来た。
「やらせはせん!」
「ガトー!」
 コウが彼の姿を認めて叫ぶ。
「また出て来たか!」
「言った筈だ!」
 彼はそれに対して言い返した。
「私は大義の為に生きていると!その為には何度でも戦う!」
「クッ!」
「さあ来いロンド=ベルの戦士達よ!私は逃げも隠れもしない!」
「流石だな」
 クワトロは彼の姿を認めて呟いた。
「ジオンきっての戦士だっただけのことはある。だが」
 しかしここでその鋭い目が光った。
「我々とて無闇にここにいるわけではない。ブライト艦長」
 彼はブライトに声をかけてきた。
「今だ。すぐに動こう」
「わかった」
 ブライトはそれに頷いた。そして指示を下す。
「モビルスーツ部隊はこのままモビルドール部隊の追撃に向かえ」
「了解」
「その他の部隊でモビルスーツ部隊への迎撃に向かう。戦艦も前に出ろ」
「ということはエステバリスもですよね」
「う、うむ」
 突然モニターに出て来たユリカに少し驚きながらも答える。
「その通りだ」
「わっかりました。アキト」
 ユリカはそれを聞いた後でアキトに対して声をかけてきた。
「活躍の場面よ。頑張ってね」
「気軽に言ってくれるなあ」
「アキトなら大丈夫だから。頑張ってね」
「丁度アキトさんの方にヴァルヴァロが一機向かっています」
「ヴァルヴァロが」
 ルリの言葉にコウが反応した。そしてアキトに対して言った。
「アキト君、気をつけろ」
「どうしたんですか?」
「そいつはケリィ=レズナーだ」
「ケリィ=レズナー」
「一年戦争で活躍したジオンのパイロットじゃなかったかしら」
「その通り」
 コウはハルカの言葉に頷いた。
「エマ中尉、御名答です」
「えっ、私!?」
 ハルカはエマと間違われキョトンとした。
「私ハルカだけれど」
「あっ」
 コウはそれを聞いてしまったと思った。
「声が似てるって言われてるけど。違うわよ」
「す、すいません」
「もう、しっかりしてよね、ウラキ中尉も。そんなのだとエマさんに怒られるわよ」
「私そんなことで怒ったりはしないけれど」
「あら」
 ここでエマもモニターに出て来た。
「声は似ているかも知れないけれど外見は全然違うじゃない」
「案外似ている部分はあったりして」
「そうかしら」
 軽い調子で言うハルカに対してエマは堅い調子であった。
「まあそれはいいわ。アキト君」
「はい」
 今度はエマが言ってきた。
「気をつけてね。強敵よ」
「わかりました」
「無理はしないようにね。いざとなれば皆で」
「はい」
「俺もいるしな」
 サブロウタが出て来た。
「ナガレもな。頼りにしろよ」
「私もか」
「同じ小隊だろ。まあ宜しく頼むぜ」
「まあいいだろう」
「ったく何時になってもキザだな。どうもこうした声はキザなのが多いな」
「どっかのエレガントな人もそうだったらしいわね」
「ハルカさんよく知っていますね」
「あの人有名だったから。案外何処かで生きてるんじゃないかしら」
「まさか」
「わからないわよ、インド人なんだから」
「それインドの人に対する偏見ですよ」
「そうかなあ。クェスちゃんなんかあっちでニュータイプに目覚めたんでしょ?やっぱり何かあるわよ」
 そうルリに答える。
「あそこは。特別だから」
「というよりトレーズさんってインド人だったの」
「そうよ。名前見ればわかるでしょ」
「ううん」
 それでもエマは懐疑的であった。
「何か。フランス辺りの貴族かと思っていたわ」
「父はアーリア系でした」
 マリーメイアが話に参加してきた。
「それは確かですよ。DNAでもはっきりとしています」
「そうだったの」
「そして私も。インド人ですよ」
「ううん」
「何かイメージが壊れたみたいね、エマ中尉は」
「少しね。何かインド人っていうと独特のイメージがあるから」
「独特なのね」
「あの国は特にね。訳がわからないところがあるし」
「それならトレーズさんにぴったりじゃないかしら」
「それを言うと」
「まあそれはそれで。ところで誰か忘れているような」
「俺を忘れるなあっ!」
 ダイゴウジが叫んだ。
「このダイゴウジ=ガイを忘れるとは何事だ!俺は戦場にいるんだぞ!」
「ヤマダさん、あまりエステバリスから離れないで下さいね」
 ルリがそれに対して冷静に返す。
「さもないとまたエネルギー切れですよ」
「そんなことはどうでもいい!」
「どうでもよくありません」
 ルリの声はピシャリとしたものであった。
「何かあったら困りますから」
「そんなものは根性でどうにかなる!」
「なったら戦争は誰でも勝てます」
「うう・・・・・・」
 いつものことであるがルリが圧倒的に優勢であった。ダイゴウジは分が悪い。
「わかりましたね。決して前には出ないで下さい」
「わかった」
 渋々であったが頷くしかなかった。
「だが見せ場は用意してあるんだろうな」
「それは有り余っています。是非お願いします」
「わかった。それでは行くぞ」
「ってダイゴウジさんがリーダーだったのかよ、うちの小隊って」
「どうやらそうらしいな」
「嫌なのか?」
「いえ、そうは要っていないですけれどね」
 サブロウタはダイゴウジの言葉に応えた。
「まああまり熱くはならないで下さいよ」
「馬鹿者ぉっ!」
 それを聞いて激昂して叫んだ。
「貴様はあのリュウセイ=ダテ少尉と声が似ているのに何とだらしないのだ!」
「だから別人なんですってば」
「私もライ少とは別人だが」
「そんなことはどうでもいいっ!男は気合だ!」
「はいはい」
「わかったな!わかったならば行くぞ!」
 そう言って二人を無理にでも引っ張って行こうとする。やはり強引であった。
「ヴァルヴァロだろうが何だろうが倒す!例え相手がジオンのエースであろうとも!」
「アナベル=ガトーが相手でもですか?」
「無論!」
 普通の者なら怖気付くようなやりとりであったが彼は臆するところがなかった。
「例え宇宙怪獣が銀河を埋め尽くさんばかりに来ようとも俺は背は向けん!それがダイゴウジ=ガイの生き様だ!」
「よし、その意気だ」
 ナガレはそれを聞いて満足したように笑った。
「では行こうか、リーダー」
「アカツキ」
 意外な者から声がかかりダイゴウジはキョトンとした。
「行かないのか?今行くと言った筈だが」
「あっ、いや」
「行くのだろう。では私も一緒だ」
「いいんだな」
「悪い筈がないだろう、ここは戦場だしな」
 物腰こそクールであったがそこには何かが宿っていた。
「それはそうだが」
「では行こう。何なら私が先に出るぞ」
「おい、それは俺の役目だ」
「それでは行ってくれ。後はフォローする」
「わかった。では」
「うむ。行くぞ、サブロウタ」
「了解」
 サブロウタはナガレの思わぬ発言と行動に戸惑いながらも頷いた。
「アキトも。いいな」
「は、はい」
 話から取り残されていた感のあったアキトも頷いた。
「では行くぞ。エステバリス隊突貫!」
「こっちはもう先にやってるよ!」
 リョーコから声が返ってきた。
「あらっ」
「あらっじゃねえよ、戦争中にちんたら話してる暇があったら撃ちやがれ!」
「今何処を見ても敵ばかりですしね」
「敵機を倒した後で食べるのはステーキ。素敵」
「・・・・・・強引なのもここまでいくともう何だかわかんねえな」
「とにかく行けばいいのだな」
「だからさっきからそう言ってるじゃねえか」
「僕もいますし」
「副長も」
 見ればアオバも出撃していた。
「最近は何かエステバリスでばかり出ているような」
「人が少ないからな」
 それにリョーコが応えた。
「仕方ないさ。まあ頑張ってくれ」
「はい」
「とにかく旦那、早くきな!」
「おう!」
 ダイゴウジはそれに対して叫んだ。
「行くぜ!そして一気にやるぞ!」
「わかった!では派手にやらせてもらおう!」
「そうこなっくちゃな!パーティーのはじまりだぜ!」
「よし!」
 こうして八機のエステバリスのパーティーがはじまった。八機は周りのモビルスーツ達を派手に倒していく。
「じゃいっくよおおーーーーーーーーーっ!」
「美味しくいただきまーーーす」
「真面目にやれって言ってるだろ!」
 だがそんな中でアキトは少し違っていた。何か考えていた。
「エネルギーか」
 先程のダイゴウジとルリのやりとりを思い出していたのだ。
「エステバリスはそれで大きな制約があるな」
 フィールドを離れれば自由な行動がとれない。エステバリスは母艦の周りでしか自由な行動がとれないのはこの為であった。離れればすぐにエネルギーを大量に消耗してしまうようになるのだ。
「そこか」
 彼はエステバリスの弱点に気付いた。気付いたというよりは再認識させられたと言うべきか。
「けれどどうすれば」
 だがどうするかまではわからなかった。エステバリスはフィールドの中で行動するものだからだ。これが常識となっていた。
「おい、アキト!」
 ここでリョーコの声がした。
「!?」
「上だ、来るぞ!」
「わかった!」
 それに反応してすぐに動いた。そしてかわした。
 ヴァルヴァロの攻撃であった。咄嗟にかわして助かったのであった。
「危なかったな」
「クッ、なかなかやるな」
 ヴァルヴァロに乗る褐色の肌に金髪の男がそれを見て言った。彼がケリィ=レズナーであった。
「これがエステバリスか。どうして中々性能がいい」
「あんたがケリィ=レズナーか」
「如何にも」
 ケリィはこれに頷いた。
「若いの、そちらの名は何という」
「アキト、テンカワ=アキトだ」
 彼はこれに応じて名乗った。
「そうか、アキトというのか」
「何故俺の名を聞くんだ?」
「戦士の名は覚えておかなければなるまい」
 ケリィはこう言った。
「俺の攻撃をかわすとは見事だ。だがそれが何時まで持つかな」
「クッ」
 アキトはその気迫に押されそうになった。だが踏み止まった。
「来い、戦士よ。今戦いとは何であるかを教えてやろう」
「戦いを」
「そうだ。見たところまだ若い。違うか」
「よくわかってんねえ、この人」
 サブロウタがそれを聞いて呟いた。
「アキト、一人で大丈夫なのか?」
「何なら我々も」
「いや、ここは一人でやらなきゃ」
 だが彼はダイゴウジとナガレの助っ人を断った。
「何かこの人は俺に大切なことを教えてくれそうな気がする」
「敵がか」
「いや、それはある」
 ナガレはそれを否定しようとした。しかしダイゴウジは違っていた。
「強敵と書いて友と呼ぶのだな」
「何か世紀末救世主みたいだね」
「だからそれを言うな」
「強敵か」
 軽いやり取りのサブロウタ達に対してアキトのそれは重くなっていた。
「それから学べるもの」
「来るか、若者よ」
 ケリィはまた言った。
「来ぬのならばそれもよしだが」
「いや」
 アキトはそれに首を横に振った。
「やってやる。それしかないみたいだしな」
「わかってはいるようだな」
 ケリィはそれを聞いて笑った。
「では来るがいい。ただし、手加減はしないぞ」
「言われなくても」
 こちらも手を抜くことは許されないと思った。アキトのエステバリスは右に動いた。
 それに対してケリィのヴァルヴァロは左に動いた。互いに隙を窺う。
「君はどうやらいい戦士になれる素質があるな」
 彼はアキトの動きを見てまた言った。
「俺から生き延びることができたならば。楽しみだ」
「有り難うございます」
 アキトはそれに応えた。だがここで言葉を付け加えた。
「けど俺は戦士の他になりたいものがあるんです」
「それは何だ」
「ラーメン屋です」
 彼は言った。
「ラーメン屋」
「ええ。宇宙一のラーメン屋になる。それが俺の夢なんです」
 彼は自分の夢を語った。
「その為にも。ここで死ぬわけにはいかない」
「面白い若者だ」
 ケリィはそれを聞いてまた笑った。
「戦士よりもラーメン屋になりたいか。こんなことを聞いたのははじめてだ」
「駄目でしょうか」
「人それぞれだ。それについてとやかく言うつもりはない」
「ケリィさん」
「俺はこうした生き方しかできない。だからラーメン屋がどんなものかは知らないが」
「案外話のわかる人みたいだな」
「そうですね。何か大人って感じで」
「あの声がそうさせるのかも」
 三人娘はそれを聞いてヒソヒソと話をした。
「ラーメン屋を目指すのならば目指せばいい」
 ケリィはそれをよしとした。
「だが戦場にいる限り君は戦士だ。それを忘れるな」
「戦場にいる限り」
「そうだ。そして俺は戦士に対して容赦はしない。わかるな」
「はい」
 アキトもそれに頷いた。
「では行くぞ、覚悟はいいか」
「覚悟はしません。ただ生きるだけ」
「ならば生きるがいい。俺は何としても君を倒す」
「ならば僕も貴方を倒す」
「ならば」
「行きます!」
 こうして二人は激突した。互いに射撃を行う。
「ムンッ!」
「これでっ!」
 だがそれはそれぞれ外れてしまった。両者は交差しまた距離を開けた。だがここでまた両者は向かい合った。
「あれをかわすとはな。やはり見所がある」
「何て強さだ。歴戦の戦士っていうのは伊達じゃないな」 
 二人はそれぞれ呟いた。そしてまた対峙する。
 ユリカはそれをナデシコの艦橋から見ていた。その目がキラキラと輝いている。
「アキト、格好いい」
 彼女は純粋にアキトの姿を格好いいと思っていた。
「何か相手も凄いけれどアキトも凄いわよねえ」
「そう簡単に言える状況じゃないと思いますけれど」 
 ルリがそう突っ込みを入れてきた。
「何で?」
「あのヴァルヴァロのパイロットはかなりの技量です。油断はできないかと」
「けれどアキトだってかなり腕はあがってるし。大丈夫よ」
「経験の差があります」
「経験の差?」
「はい。あのヴァルヴァロのパイロットは見たところかなり場数を踏んでいます。けれどアキトさんは」
「アキトだってもうかなり戦ってきてるわよ。それでも駄目なの?」
「数のケタが違います」
 ルリはまた言った。
「その違いはどうしようもないです。ですからアキトさんにとっては苦しいです」
「じゃあ負けるかもしれないってこと?アキトが」
「可能性はあります」
「そんな」
「けれどアキトさんも頑張っています。ここからが肝心です」
「肝心」
 見れば勝負は接近戦に入っていた。アキトはエステバリスの機動力を発揮してヴァルヴァロに襲い掛かる。だがケリィはそれを技量でカバーしていた。寄せ付けない。
「まだだっ!」
「巨体なのに!」
 思いも寄らぬヴァルヴァロの素早い動きにアキトは戸惑った。
「何て速さなんだ!」
「この俺と、そしてヴァルヴァロを甘く見てもらっては困るな!」
 ケリィは叫んだ。
「ムッ!」
 そしてヴァルヴァロはその爪で攻撃にかかってきた。それがアキトのエステバリスを切り裂いた。
「アキトォッ!」
「大丈夫だっ!」
 驚きの声をあげるユリカに対して言った。
「ほんのかすり傷!」
「確かにな」
 ケリィもそれに頷いた。
「もう少しで急所だったが。運がいい」
 その通りであった。ヴァルヴァロの爪はエステバリスをかすめただけであった。
「だが次もそういくかな」
「今度はかわしてみせる」
 アキトはケリィを見据えて言葉を返してきた。
「今度はな」
「いいな。さらに気に入った」
 ケリィはそれを聞いて笑った。
「ではかわしてみせよ。いくぞ」
「来い!」
 ヴァルヴァロは突進してきた。だがアキトは動かない。ジッとそれを見ている。
「えっ、逃げないの!?」
 ユリカはそれを見て身体を硬直させた。
「逃げて!さもないと!」
「心配することはありません」
 ここでまたルリが言った。
「けど」
「今のアキトさんなら大丈夫です」
「大丈夫なの!?」
「はい。必ずかわします。ですから安心して見ていて下さい」
「ルリちゃんがそう言うのなら」
 作戦参謀である。彼女の言葉には従うことにした。
「けど・・・・・・怖いわね」
「アキトさんはもっと怖い筈です」
「それもそうですね」
 メグミがそれを聞いて頷いた。
「実際に前にいるのはアキトさんですから」
「けれどアキトさんは逃げていません。何かを掴まれようとしています」
「何かを」
「それが今わかります。ほら」
 そう言ってアキトを見た。今まさにヴァルヴァロの爪が切り裂かんとしているところであった。
「若者よ、どうする!」
 ケリィはアキトに問うてきた。
「この爪を避けなければ死あるのみだぞ!」
「こうするんだ!」
 アキトはそれに対して叫び返した。そしてエステバリスを動かした。
「ヌッ!」
「これでどうだっ!」
 アキトのエステバリスが分身した。そしてヴァルヴァロの爪をかわした。
「なっ!」
 ユリカもダイゴウジ達もそれを見て思わず声をあげた。
「物理分身だと!?」
 F91が得意とする技であった。だが彼は今それをエステバリスで行ったのである。
「まさかエステバリスで」
 ダイゴウジがそれを見て驚きの声をあげた。
「何ということだ」
「かってドモンさんに言われたんだ」
 アキトはそれに応えるようにして言った。
「どんな機体でも技を極めればできないことはないって。それにはまず覚悟が必要だって」
「覚悟か」
「今俺は覚悟を決めたんだ。切られれば仕方がないって。それでやってみた」
「そうだったのか」
「何とかできたみたいだな。危なかったけれど」
「見事だと褒めておこう」
 ケリィはそれをよしとした。
「だがそれでも俺を倒せるか?かわすだけでは戦いにはならないぞ」
「そんなこと言われなくても」
 前に出ようとする。だが突如としてエステバリスの動きが鈍った。
「!?」
 アキトはそれを見て思わず呆然となった。
「これは一体」
「無理をし過ぎたのだ」
 ケリィはそれを見てこう言った。
「物理分身はエステバリスにとって無理があったのだ。今その無理が来たのだ」
「クッ」
「機体のことも考えておくべきだったな。それもまた戦士の務めだ」
「しまった・・・・・・」
 アキトはそれを聞いて顔を苦くさせた。だがどうにもならなかった。
「さて、どうするのだ。もう満足にも動けまい」
「それでも」
「無理はするな、若者よ」
 だが彼はこう言ってアキトを下がらせた。
「何故」
「俺は万全の相手としか戦うことはない。今の君では俺の相手とはなり得ない」
「・・・・・・・・・」
「また会おう。その時こそ君の万全の姿を見たい」
「帰るのか」
「そうだ。今の君に勝ってもそれは俺の誇りとはならない」
 彼は言った。
「ではな。また会おう」
 そして彼は戦場から離脱した。後にはエステバリス達とナデシコが残された。
「助かったのね、アキト」
「はい。ですが」
 ルリの顔はそれでも晴れなかった。
「それ以上のものをアキトさんは感じておられるでしょう」
「それ以上のもの」
「得られたものは大きかったですが。傷も大きいです」
「なあアキト」
 リョーコが声をかけてきた。
「何だい」
「いいことは言えねえけれどよ」
 彼女はそう断ったうえで言った。
「悪いことは気にするなよ。いいことだけを覚えておけ」
「有り難う」
「おい、礼なんざいらねえよ」
 そう言われてかえってリョーコの方が照れてしまった。
「あたしは別に礼を言われることなんか言ってねえよ」
「じゃあそう思っておくよ」
「ちょっと待てよ、それじゃあ何かあたしが」
「そうは言っても嬉しいくせに」
 そんな彼女にヒカルが突っ込みを入れてきた。
「素直じゃないんですから」
「あのなあヒカル」
「素直にアイムソーーーリーーーーー♪」
 イズミはイズミでまた懐かしい歌を出してきた。
「何時も上手く言えないけれど♪」
「・・・・・・イズミ、その曲中々いいな」
「そういえばそうだな」
 サブロウタ達もそれに頷いた。
「何かこう落ち着くな」
「しっとりした感じが」
「そうだな。あたしも何か・・・・・・って話が変な方向に行っちまったじゃねえか、おい」
「それが狙いだったりして」
「狙いを狙う、えらーーーーい」
「・・・・・・強引を通り越してもう無理矢理になってきてるぞ」
「まあそれはいいとしましょう」
「とりあえずリラックスリラックスゥ」
「ちぇっ」
 そんなやりとりをしているうちに話はうやむやになった。そして彼等は再び陣を整え戦いに備えるのであった。だが戦いは既に終わりに向かっていた。
「よし、これ以上の戦闘は必要ない」
 ガトーは戦局を見定めた後でこう言った。
「全機撤退せよ。後詰は私が引き受ける」
「少佐が」
「そうだ。ここは私に任せろ。諸君等はその間に後方まで下がれ。いいな」
「は・・・・・・はい」
「了解しました」
 そんな話をした後で彼等は戦場を離脱にかかっていった。だがここでガトーは一機宇宙空間に仁王立ちしてロンド=ベルの前に立ちはだかってきた。
「ガトー、またしても」
「ウラキ中尉、そのデンドロビウムで私の相手をするつもりか」
「そうだと言ったら」
 コウは彼に向かってこう言った。
「どうするつもりだ、ガトー」
「私が今ここにいるのは同志達を逃がす為」
 彼は静かな、それでいて力のある声でこう言った。
「それを阻むのならば容赦はしない!」
「ではどうするつもりだ!」
「わかっている筈だ」
 彼はそう言うと右手に持つバズーカを前に構えた。そしてデンドロビウムを見る。
「これでも来るというのか」
「行ってやる!」
 それでもコウは臆するところがなかった。
「貴様の覚悟は知っている!だがそれで俺を阻めるか!」
「阻んでみせる!」
 ガトーもまた引き下がらなかった。
「この私の手で!」
「ならばやってみろ!」
 コウも負けてはいなかった。そう言って身構える。
「貴様のその核で俺を阻めるのならばな!」
「では見せてやる!私の大義を!」
「待て!」
 だがその両者の間に誰かが入って来た。熱気バサラであった。
「何だ、貴公は」
「俺は熱気バサラだ、ファイアーボンバーのヴォーカル兼ギターさ」
「ファイアーボンバー」
「今人気沸騰中のバンドさ。知らねえのか」
 バサラはガトーの問いに答えた。だが戦場のみに生きている彼はそうした音楽のことなぞ知る由もなかったのである。
「どうやらあんたも俺の曲を聴きたいようだからな。来てやったんだ」
「何を言う、私は音楽なぞ」
 そう言って否定しようとする。だがバサラはそれを遮るようにして言った。
「聴きなって。悪いようにはしねえからよ」
「ムウウ」
「じゃあ行くぜ、俺の歌だ!」
 そう叫んでギターを構えてきた。そして歌いはじめた。
「パワー=トゥ=ザ=ドリーム!聴きやがれ!」
「ムウッ!」
 戦場に派手な曲が流れはじめた。そしてそれがガトーを覆う。それによりガトーの動きが止まった。
「馬鹿な」
 コウもそれを見て思わず叫んでしまった。
「あのガトーが。まさかこんな」
「人間戦いだけで生きているんじゃねえんだよ!」
 バサラは音楽を奏でながらそう叫んだ。
「人を導くのは音楽だ!そして俺の歌だ!」
 いささか暴論ながらもそう言ってのけた。そう言えるのは確かに彼だけであった。
「どうだ、俺の歌は!心に響くだろうが!」
「戯れ言を」
 だがガトーはそれを頑なに拒否してこう返してきた。
「たかがこの程度のもので!私を止められると思っているのか!」
「そうかい。だがその心には届いている筈だぜ!」
「何っ!?」
「俺の歌は人の心を掴む!そして離さねえんだ!」
「馬鹿を言え!」
「馬鹿かどうかはあんたが一番よく知っている筈だぜ!」
 バサラはまた叫んだ。
「その心にあるものが見えてきている筈だ!あんたは何を望んでいる!」
「わ、私は・・・・・・」
 彼はこの時自分の心の中を見た。そこには確かにあった。彼が求めていたものが。
「私は大義に生きている!他には何もいらぬ!」
「何!」
「その為に今ここに立っている!若者よ、少なくとも君の歌には屈しはせぬ!」
「何だって!何ておっさんだ!」
「そりゃそうなって当然でしょ!」
 ミレーヌがここに来て言った。見ればバトロイドに変形している。
「歌は人の心を綺麗にするんだから。こうした人にやったらもっと生真面目な方向に行っちゃうに決まってるじゃない」
「おう、そうだったのか」
「そうだったのかじゃないわよ」
 バサラの声を聞き呆れた声を出した。
「全く。これからどうするのよ」
 ミレーヌはまたバサラに言った。
「この人、これから大暴れするかも知れないわよ」
「いや、その心配はないよ」
 だがここでコウがこう言った。
「もう戦場にはガトー以外いないから。少なくとも時間稼ぎにはなった」
「あれっ、そうなんですか」
 ミレーヌはそれを聞きキョトンとした顔になった。彼女の肩にいるグババも同じであった。
「その証拠にもう撤退をはじめている」
「あっ」
 見ればその通りであった。ガトーは既に戦場から去ろうとしていた。
「何でまた」
「その大義の為だろうな」
 コウはミレーヌに対してこう言った。
「大義の為、ですか」
「そうさ。その為に命は置いておかなくちゃいけない。あいつはそう考えているのさ」
「何かまたとんでもないことするつもりですかね」
「ソロモンの時もそうだったしな。そしてコロニー落としの時も」
 彼はこの時彼と戦ってきた幾多の戦場を思い出して言っていた。
「そして今も。少なくとも今はあいつが命をかける場面じゃなかったってことさ」
「そうだったんですか」
「それに気付かせただけでも凄いことさ。しかし」
 ここでコウの顔が険しくなった。
「今度会う時がもしその時なら。覚悟が必要だな」
「そうですね」
「グババ」
 ミレーヌとグババはそれに頷いた。だがバサラは相変わらずであった。
「その時こそ俺の歌が力を発揮する番だぜ!」
 彼はいつものテンションでこう言っていた。
「今と同じでな!また派手にやってやるぜ!」
「派手にやるのはもういいわよ!」
 ミレーヌはまたバサラに対して叫んだ。
「もうちょっと大人しくしなさいよ!せめて後方で歌うとか!」
「そんなことやってちゃ俺の歌のよさが伝わらないんだよ!」
 バサラもこう言って引き下がらなかった。
「それに俺には敵の弾は当たらないんだよ」
「どうしてよ」
「俺は不死身だからさ!そんなものに当たって俺が死ぬかよ!」
「もう、いい加減に馬鹿言うのは止めてよ!」
 ミレーヌもやはり切れてきた。
「あんたはそれでいいかも知れないけれどあたし達はどうなるのよ!」
「知るか、御前は自分でよけろ!どうにかなるだろ!」
「どうにかなったら戦争なんかいらないわよ!」
「その戦争を終わらせる為にやってるんだ!いいじゃねえか!」
「よくないわよ!」
 そんなこんなな口喧嘩の中で今回の戦いは終わった。とりあえずはバサラ達の活躍が光った。そしてアキトにも得るものがあった戦いであった。
「アキトさん」
 ナデシコに帰還してきたアキトにルリが声をかけてきた。
「もうすぐナデシコの新型艦が完成します」
「新型艦が」
「はい。ナデシコCです」
 彼女は言った。
「地球でそれを譲り受ける予定ですが」
「ネルガルからだね」
「はい。そしてその時に」
 ここでまた彼女は言った。
「新しい機体の開発も頼むことができるのですが」
「新しい機体」
 それを聞いたアキトの顔色が少し変わった。
「まさかそれは」
「それはアキトさん御自身で考えて頂きたいのです」
「俺に」
「はい。エステバリスのことはもうよく御存知ですね」
「まあ」  
 アキトはそれを認めた。
「もしかするとね。かなり知っているかも」
「少なくとも私よりは。それでお願いしたいのです」
「新しいエステバリスを」
「どんなものがいいか。おおよそでいいからお願いします」
「おおよそで」
「それだと可能でしょうから。お願いできますか」
「そうだな」
 アキトはそれを聞いて考える顔になった。
「大体なら。協力させてもらうよ」
「ええ。それではお願いします」
「わかった。それじゃあ」
「はい」
 こうして彼は新しいエステバリスの設計をとり行うことになった。それが一体どのようなものになるのかはまだ誰にもわからな
かった。アキト自身にも。

 この戦いもまたロンド=ベルの勝利に終わった。ネオ=ジオンはまた戦域を縮小させ、次なる戦いに備えることとなった。ここで彼等はそれぞれの想いを胸に持つこととなった。
 まずガトーであるが戦場から帰った彼はさらに精悍な顔になっていた。そして戦場に想いを馳せることがさらに強くなっていたのであった。
 それはケリィやカリウス達も同じであった。この戦いで彼等はそれぞれ何かを感じたようであった。だがここに彼等とはまた違った心を抱く者がいた。
 ゼクスであった。彼は戦場から帰ると一人ネオ=ジオンの旗艦であるグワダンにある自分の部屋に篭った。そして考えに耽るのであった。
「・・・・・・・・・」
「どうしたのだ、ゼクス=マーキス」
 部屋の扉が開いた。そして誰かが入ってきた。
「その様に考え込んで。何があったというのだ」
「貴殿か」
 見ればそれはハマーン=カーンであった。彼女はネオ=ジオンの軍服とマントに身を包みそこに立っていた。
「先の戦いのことか」
「わかっていたか」
 彼は静かにそう答えた。
「何でもお見通しというわけかな」
「そんなことはない」
 ハマーンはそれは笑って否定した。
「何となく勘で語っただけだ。どうやら当たったようだな」
「そうか」
 ゼクスはそれを聞いて頷いた。
「では私の考えていることもわかるというわけか」
「無論」
 ハマーンはそれを認めた。
「私とてネオ=ジオンの摂政だ。見抜けぬと思ったか」
「流石と言うべきかな」
 ゼクスはそう言いながら自らの仮面に手をかけた。そしてそれを外した。
「そこまで見ていたとは」
 そしてミリアルド=ピースクラフトに戻った。こうしてゼクス=マーキスはいなくなった。
「ではミリアルド=ピースクラフトよ」
「何か」
「これからどうするつもりだ」
「もう考えてある」
 ミリアルドは言った。
「おそらく今度会う時は敵と味方だ」
「そうか」
「それでもよいのだな、ハマーンよ」
「貴殿は元々ジオンの人間ではない」
 ハマーンは答えた。
「ジオンの者ではないのならば言う必要もない。違うか」
「これからジオンが宇宙を支配するというのに寛大なのだな」
「その時は貴殿はこの世にはいない」
 ハマーンの声は峻厳なものであった。
「それも覚悟のうえではないのか」
「そうだな」
 そしてゼクスもそれに頷いた。
「私はジオンの大義は信じてはいない。そしてジオンが人類を支配するとも思ってはいない」
「言ってくれるな」
 ハマーンはそれを聞いてシニカルに笑った。
「私を前にして」
「言うべきことは言わなければな。後で後悔する」
「そうなのか」
「また貴殿も私が言ったからといってそれを阻むつもりもあるまい」
「それもそうだ」
 ハマーン自身もそれを認めた。
「私はジオンの為に生きている。ミネバ様の為にな」
「あの少女の為にか」
「あの方を王座にお就けする。その為には如何な犠牲も払う」
「血を分けた妹と分かれてもか」
「知っていたのか」
 それを聞いたハマーンの顔がさらに険しくなった。
「少しな。今は敵味方だそうだな」
「貴殿と同じだった」
 ハマーンは苦虫を噛み潰すようにして言った。
「今まではな」
「そうか」
「だが貴殿は妹のもとに帰るのだな」
「リリーナがそれを望んでいるのならな」
 彼の返答はこうであった。
「私はあの娘を守ることが宿命のようだ。それに従う」
「守るのか」
「所詮私にできることはそれだけだ。私はトレーズでもなければリリーナでもない。単なる軍人だ」
「本当にそう思っているのか?」
「それはどういうことだ」
 ミリアルドはハマーンの言葉に顔を向けてきた。
「ピースクラフト家の嫡子。それだけではないと思うが」
「買い被ってもらっては困る」
 だがミリアルドはその言葉を意に介そうとはしなかった。
「私は只の軍人だ。それ以外の何者でもない」
「では軍人として生きていくのか」
「それ以外にあるまい」
 彼は一言こう言った。
「今までの仮面の報いなのだからな」
「シャアとはまた違うな」
「ジオンの赤い彗星か」
「あの男も私の許を離れた」
「・・・・・・・・・」
「そして今貴殿も。私はどうやら男運は悪いらしい」
「それを苦としているのか」
「それが許される状況でもない」
 笑ってこう返してきた。
「さっきも言ったが私はミネバ様の為、ジオンの為にいるのだからな」
「そして動いている、か」
「そういうことになる」
「そしてその障害となるものは全て取り除いていく、というわけか」
「それをわかっていて貴殿も袂を分かつのだろう」
「それも否定しない」
「ではな。行くがいい。トールギスは整備してある」
「用意がいいな」
「せめてもの餞別だ」
 ハマーンは言った。
「ただし敵として会ったならばこちらも手加減はしない」
「それはお互い様だな。では」
「さらばだ」
 こうして二人は別れた。赤い巨艦からトールギスが飛び立った。ハマーンはそれを一人艦橋から眺めていた。
「男運が悪い、か」
 そして自嘲するようにして呟いた。
「そうかもな。だがもう言っても仕方がない」
「ハマーン様」
 ここで後ろから声がした。
「どうした」
「ミネバ様が御呼びですが」
「ミネバ様が」
 声は侍従のものであった。ミネバの侍従の一人である。
「少しお話されたいことがあるそうですが」
「わかった」
 ジオンの主といってもまだ年端もいかぬ少女である。常に誰かいないと寂しいのだろう。そうした意味でもハマーンは彼女にとってなくてはならない存在であった。
「わかった、行こう」
 ハマーンもそれはわかっていた。頷きそちらに脚を向けた。
 そして艦橋から姿を消した。彼女の全てはミネバの為にあった。だからこそ行かねばならなかったのだ。


第五十一話   完


                                     2005・10・29


[326] 題名:第五十一話その一 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年04月13日 (木) 19時28分

            ファイアーボンバー
「さて、と」
 バサラはマクロスの市街地にある喫茶店に腰掛けてから辺りを見回した。そしてこう言った。
「これから面白いことになるだろうな」
「何馬鹿なこと言ってるのよ」
 それに向かいに座るミレーヌが反論する。
「戦争に参加するなんて。何考えてあんなことしたのよ」
「俺のこの手で戦いを終わらせる為だって言わなかったか」
「ホンットに馬鹿ね、あんた」
 流石に呆れてしまったようであった。
「そんなことできると思ってるの!?」
「俺の歌ならできるんだよ」
 バサラは話を聞いてはいなかった。
「絶対にな」
「できないとは思っていないのね」
「何でだよ」
 当然思ってはいない。
「俺の歌には不可能はないんだよ。今までだってそうだっただろうが」
「何処がよ」
 ミレーヌは思いきり不満であった。
「インディーズでデビューしていきなりトップに躍り出たな」
「そういえばそうだったかしら」
「そしてあれよこれよという間にこうなった。俺の歌がそうさせたんだ」
「あたしもいたでしょ」
「俺もな」
「・・・・・・・・・」
 見れば他のメンバーもいた。彼等はミレーヌと同じように不満を露わにしていた。
「あんた一人でどうにかなると思ってるの?」
「俺一人でもやってやるさ」
「・・・・・・だから人の話は聞け」
 たまりかねたレイが言った。
「御前一人じゃ危なっかしくて仕方がない」
「何が言いたいんだよ」
「俺達も一緒に行く。いいな」
「えっ、御前達もか」
 バサラはそれを聞いて驚きの声をあげた。
「戦場だぜ。いいのかよ」
「いいも悪いもないだろう」
 それが彼の答えであった。
「俺達はメンバーだ。それ以外に何がある」
「けどよ」
「危険に身を置くのは承知のうえだ」
「伊達にあんたと同じバンドにいないわよ」
 ミレーヌはまた言った。
「あたしも一緒よ。いいわね」
「・・・・・・・・・」
 ビヒーダも一言も発しないがこれは同じであった。
「ファイアーボンバーは宇宙でも一緒だ。いいな」
「あ、ああ」
 バサラもこれに頷いた。
「それじゃあ決まりね。お願いするわ」
「ああ、宜しくな」
 彼等は宇宙でもバンドを組むことになった。このことはすぐにグローバルにも伝えられた。
「そうか」
 彼は艦橋でそれを聞いていた。話を聞きながらパイプを口にやろうとする。
「艦長、艦橋は禁煙です」
「おっと」
 キムに言われて慌ててパイプを引っ込める。だがいささか不満そうであった。
「済まない。それでバサラ君達だが」
「はい」
 これに早瀬が応える。
「それぞれバルキリーに乗ってもらうのだったな」
「そうです。バサラ君はもう自分のバルキリーを持っていますが」
「他のメンバーか。これについては何か考えがあるかね」
「ミレーヌちゃんに関しては一人で乗ってもらいます」
 早瀬はこう答えた。
「彼女の音楽センスは傑出したものがありまして」
「ほう」
「バサラ君のそれに匹敵します。ですから一人乗りで頑張ってもらいます」
「パイロットとしての技量はどうかね」
「先程テストしたのですが」
「ふむ」
「かなりのものです。やはり血筋でしょうか」
「ジーナス少尉の従妹だったか」
「そのせいでしょうか。天才的なものがあります」
「彼女は元々かなりの音感を持っておりまして」
 クローディアも言った。
「それも大きく影響していると思います。その動きは類稀なセンスを感じます」
「それは何よりだ」
 グローバルはそれを聞いて満足そうに頷いた。
「バサラ君もそれは同じでして。やはり音楽センスがパイロットとしての能力に大きく影響しています」
「私はよくわからないが」
 グローバルは一言そう断ったうえで言った。
「リズム感といったものか」
「はい、おそらくは」
 二人はその言葉に頷いた。
「そのせいでしょうか。後の二人も同じです」
「そうか」
「ただレイさんとビヒーダさんには二人一緒に乗ってもらいます」
「どうしてかね」
「そちらの方が音楽的に効果があるとの判断からです。これは安西博士からの提案ですが」
「彼女からか」
「はい、先程相談してみたところ。そう仰いました」
「彼女が言うと信憑性があるな」
 グローバルはその言葉に頷くところがあった。
「そういえば彼女は今まで何をしていたのかね」
「博士ですか」
「そうだ。最近姿を見なかったが」
「何か色々と研究していたそうです、ロバート=オオミヤ博士と」
「彼とか」
「それが終わったとかで。それで相談に乗ってもらいました」
「そうだったのか」
「その彼女からのアドバイスでして。如何でしょうか」
「私はそうした音楽のことはよくわからないがいいのではないか」
 彼はそう述べた。
「ここは早瀬中尉に任せる。いいかね」
「わかりました。それでは」
「ただ気をつけてくれたまえ」
「といいますと」
「バサラ君はどうやらかなり手強いようだぞ。用心しておきたまえ」
「それでしたら」
 その整った大人びた顔にうっすらと苦笑を浮かべさせた。
「もう慣れていますから。一条君やイサム君で」
「だといいがな」
「ロイ程じゃないでしょうし」
「フォッカー少佐よりもか」
「まだ彼に比べればましでしょう」
「それもどうかな」
 彼はクローディアの言葉にあえて笑ってみせた。
「彼はフォッカー少佐より凄いかもしれないぞ」
「まさか」
「それもすぐわかることだ」
 グローバルは楽しそうに笑いながら言う。
「すぐにな。ではそろそろネオ=ジオンの勢力圏か」
「そうですね。ここはゼクス=マーキスの部隊が展開していた筈です」
「彼がか」
「ライトニングカウントは手強いです。用心していきましょう」
「うむ」
 マクロスの艦橋ではバサラ達とネオ=ジオンについて話が為されていた。だが他の艦では別の会話が話されていたのである。
「何かバンドまで入って来ると思わなかったね」
「バンド?」
 レッシィがエルの言葉に反応した。
「バンドって何だい?」
「あっ、ペンタゴナにはないのか」
「楽器を演奏するグループならあるけれどね」
「そう、それ。ファイアーボンバーってそうしたグループなんだ」
「そうだったのか」
「一杯あるけれどね。ファイアーボンバーはその中でも特に人気があるグループの一つなのよ」
「アヤさんも好きだしね」
 ルーも言った。
「派手な音楽が売りだし。ヴォーカルもいいし」
「そうそう」
 エルがこれに相槌を打つ。
「男と女の二人がいるのがいいよね」
「それでファンの層も厚くなってるしね」
 モンドが言った。
「俺はミレーヌちゃんがいいな」
「おいおい、モンドはそっちかよ」
 ビーチャがそれを聞いて茶化してきた。
「ビヒーダさんみたいな大人の女の人がよかねえか?」
「ビヒーダさんかあ」
 だがモンドの好みはそうではないようであった。
「あの人大きいだろ。だからなあ」
「ゼントラーディの人だから仕方ないんじゃないかなあ」
「あっ、あの人ゼントラーディさったの」
 アムがイーノの言葉を聞いてキョトンとした顔になった。
「あれ、知らなかったの?」
「ええ。そういえばそんな感じがするわね」
「私やミリアさんと同じなのよ、彼女も」
 ミスティがやって来た。そして皆に対してこう言った。
「かってはね、同じ戦場で戦ったわ」
「そうなんですか」
「ミリアさんはその時から凄かったわね。もう天才的な動きで」
「今みたいに」
「今よりは荒かったけれどね、動きは」
「へえ」
「ついていくのだけで大変だったわ。まあそのおかげで腕は上がったけれど」
「ミスティさんも大変だったんですね」
「あら、そうでもないわよ」
 だが彼女はそれは笑って否定した。
「ゼントラーディではそれが普通だったから。戦うことだけが全てだったし」
「そうなんですか」
「私も地球の音楽や文化を知って変わったのよ。キリュウやレトラーデちゃんとも知り合ったし」
「そういえばミスティさんってキリュウさんと仲いいですね」
「そうかしら」
「あとハーリー君とも。どうしてなんですか?」
「ハーリー君とはね。何か長い付き合いのような気がするのよ」
「えっ、けどここに来てからですよね。知り合ったのは」
「それでもね」
 彼女は笑いながら応えた。
「何か。ずっと一緒にいたみたいな。そんな気がするの」
「そうなんですか」
「そういえばミスティさんの声ってアマノさんにそっくりよね」
「アマノさん?」
 ミスティはその名前に顔を向けた。
「それは誰なの?」
「あっ、前いた仲間でして」
 それにルーが応えた。
「ガンバスターっていうロボットに乗ってたんですよ。タカヤ=ノリコさんって人と一緒に」
「そうだったの」
「今は遠く銀河に行っちゃってますけれど。いい人達ですよ」
「そうなの。じゃあ会うことはできないわね」
「もうね。けれどまた会いたいなあ」
「そうだな」
 ガンダムチームの面々はふと遠い目をした。
「もっとも会う時は宇宙怪獣もまた一緒だろうけれど」
「あの連中がいなければな」
「全くだぜ」
「宇宙怪獣」
 それを聞いたミスティの顔が急に険しくなった。
「地球にも来ていたのよね」
「ええ、凄い数が」
「何とか追っ払いましたけれど」
「彼等を甘く見ては駄目よ」
 だがミスティの顔は険しいままであった。
「私もゼントラーディにいた頃何度も戦ったけれど」
「やっぱり手強かったのですね」
「バルマーなんかよりもね。苦労したわ」
 そしてこう言った。
「彼等は本能のまま動いているの。それでいて進化し続ける」
「はい」
「だからこそ注意が必要なの。そして諦めることを知らない」
「それじゃあ」
「また来るんですか」
「それはわかってることだと思うけれど」
「・・・・・・・・・」
 皆沈黙してしまった。その通りだったからだ。先の戦いのあれはほんの一時凌ぎに過ぎなかった。それはよくわかっていた。
「宇宙には色々いるんだね」
 レッシィがそこまで聞いて言った。
「ペンタゴナにはそんな連中は来なかったけれどね、幸いに」
「そういえばガイゾックも来なかったわよね」
「単に運がよかっただけだろうけれどな」
 ダバがそう述べた。
「ダバ」
「来てたの」
「うん。ここに皆いたからね。気になってね」
 彼は笑いながらこう応えた。
「けれど別の存在が来た。彼等が」
「ポセイダルが」
「あのオルドナ=ポセイダルというのはバルマー星人なんだろうか」
「よくわからないけれど」
 タケルがそれに応えた。
「そうじゃないかな。俺も兄さんもそうだったし」
「タケル」
「どうも彼等はその統治にバルマー人を送り込むみたいだ。そして統治する」
「じゃあ彼女はやはり」
「俺みたいに爆弾は仕掛けられてはいないだろうけれどね。可能性はあるよ」
「そうか」
 ダバはそこまで聞いて頷いた。
「けれど何か引っ掛かるな」
「何が?」
「いや、そのポセイダルなんだが」
 だがリリスの問いに答えた。そして言う。
「何か。人形の様な気がするんだ」
「人形?」
「ああ。無機質で。しかも感情が見られない」
「ポセイダルって元々そういう女だよ」
 レッシィが言った。
「氷みたいな女さ。だから特に気にすることはないよ」
「そうだろうか」
「心配し過ぎじゃないの?まさか黒幕がいるなんて思っていないでしょうね」
「ないかな」
「ないって、そんなの。幾ら何でも」
 アムは笑いながらそう言った。
「単にポセイダルがバルマー人だってだけでしょ。心配することはないわよ」
「だったらいいんだけれど」
「まあそのうちここにもまた来るだろうけれどね」
 エルがいささか気楽な声でこう言った。
「いつものパターンで。今頃またあのでかいのが来ていたりして」
「ヘルモーズだったね」
 イーノがそれに合わせた。
「そんな名前だったっけ。そう、あの花みたいな形したやつ」
「花ってより何か油さしみたいな形だよな」
「そういえばそうだね」
 モンドはビーチャの言葉に相槌を打った。
「似てるね、確かに」
「そうだろ。前からそう思ってたんだよ」
「油さしにしてはでかいけれどね」
 ルーはそれを聞いて苦笑していた。
「最初見た時はびっくりしたわよ。あんなので乗り込んで来るんだから」
「あれでもバルマーにとっては些細な戦力なのよ」
「そうらしいですね」
 皆ミスティのその言葉に頷いた。
「辺境方面だけで七個艦隊あるから」
「あたし達はその一個をやっつけただけか」
「その他にも七つも」
「私も彼等の艦隊と戦ったことはあるわ。凄い戦力だったわ」
「あんなのがまだまだいるんですね」
「ええ。本国にはもっといるそうよ」
「うわ」
「何か嫌になっちゃう」
「幸か不幸か彼等も宇宙怪獣に狙われているそうだけれど」
「連中もですか」
「ええ。それもかなり大規模にね」
 ミスティはタケルに応えた。
「本国の近くに彼等の巣があるそうだから」
「それは大変だ」
「敵とはいえ同情するぜ」
「そのせいかわからないけれど周りにはそれ程戦力を送ってはいないようで。それでもあれだけの戦力を送られるのだけれど」
「普通に凄いわね、それって」
 アムはそれを聞いて素直に感嘆した。
「かなりでかい帝国みたいね」
「そうでなければあそこまでなれないでしょ」
 レッシィが突っ込みを入れる。
「もっとも宇宙怪獣にそこまでやられて大丈夫かどうかまではわからないけれど」
「実情はかなり苦しいみたいね」
「やっぱり」
「けれど凌いではいるらしいわ。そして相変わらず戦力を各地に向けている」
「その一つが俺達ってわけかよ」
「あ、ジュドー」
 皆ジュドーの言葉にハッとした。
「あんたも来たの」
 見ればプルとプルツーも一緒である。
「来ちゃ悪いのかよ」
「いや、何かいつもの顔触れが集まったなあ、って」
「何処に行ってたの?」
「ちょっとシーブックさん達と話してたんだよ。セシリーさんのパンを食べながら」
「そうだったのか」
「ウラキさん達は訓練でいなかったけれどな。バニングさんがやってるらしいから」
「バニング大尉も相変わらずね」
「そうだな。かなり厳しかったみたいだぜ。カミーユさん達も一緒だった」
「そういえばいないと思ったら」
「カミーユさんも」
「ジュピトリスが来てから何か前よりも訓練に身を入れているよな」
「そうだね」
「あの人にも思うところがあるんだろうな」
 ダバは考えながらこう述べた。
「俺もギャブレーとは色々あるからな」
「あいつはかなり違うと思うよ」
「そうか、レッシィ」
「あいつには何かシリアスなところがないのよ。抜けているしね」
「そうそう、だから食い逃げもするし」
「いつも勝手に自滅してんだよな、ペンタゴナの時から」
 キャオもそれに合わせて笑っていた。
「だからあいつはちょっと違うでしょ」
「そういえばそうか」
「って納得するのね」
「まあね」
 ダバは少しぼんやりとしたような声を返した。
「それは否定できないかな、と思ってね」
「あいつ妙に憎めないからね」
「そうなんだよな。敵の筈なのに」
「結構惚れっぽいし」
「そうそう」
「見ていると飽きないのよね。また来るだろうし」
「しぶといんだよな、おまけに」
「その時はまた相手になってやるさ」
 ダバは強い声でこう言った。
「あいつも俺と戦いたいだろうしな」
「そうだろうね。あの声はライバルの声だ」
「おい、マックスさんがそれ聞いたら苦い顔するぜ」
「おっと」
 レッシィはジュドーにそう言われ口を塞ぐ仕草をしてみせた。
「いけないいけない、そうだったね」
「まあレッシィさんも結構似てる声の人がいるし」
「それあたしのこと?」
 ルーがこう言ったところでクェスがやって来た。
「あ、いたの」
「訓練も終わったしね。それで戻って来たのだけれど」
 クェスはそう答えた。
「あたしもよく言われるな、って思ってたのよ。レッシィさんにリリスちゃんでしょ、それにファムちゃん」
「そうそう」
「それにヒギンスさん。やけに多いな、って思ってたのよ」
「そういえばそうよね」
「あとは・・・・・・ユングさんよね」
「あの人もどうしてるのかなあ」
「とりあえずは無事なんじゃないかな。よくわからないけれど」
「アムロ中佐に聞けばわかるかも」
「あの人だって銀河の彼方のことなんてわからないわよ」
「そうか、ははは」
 そんな気軽なやりとりをしていた。だがそれは突如として破られることになった。
 警報が鳴った。皆それに即座に反応した。
「敵!?」
「多分ね」
 ミスティがそれに応える。
「ここはネオ=ジオンの勢力圏だから」
「それじゃあ」
「おい、そこにいたのか」
 そこにケンジがやって来た。他のコスモクラッシャー隊のメンバーも一緒である。
「出撃だ。ネオ=ジオンだ」
「やっぱり」
「そして指揮官は!?」
「ゼクス=マーキス特佐さ」
 ナオトが言った。
「率いている部隊はモビルドールだ。覚悟はいいか」
「相手にとって不足はないってね」
 ジュドーがそれに返した。
「それじゃあ行きますか」
「よし」
 皆それに頷く。
「総員戦闘配置」
 トーレスの声が響く。
「パイロットは格納庫に向かえ。そしてすぐに出撃だ」
「よし」
 こうしてロンド=ベルの面々は出撃した。そして四隻の戦艦の前方に布陣したのであった。
「来たか」
 ウーヒェイが彼等を見据えてこう言った。彼等も出撃していた。
「ゼクス、まだわからないというのか」
「そういうところは御前さんとそっくりだな」
「どういう意味だ、デュオ」
 彼はデュオにそう問い返した。
「頑固なところがさ。まあうちのメンバーは皆そうだけれどな」
「それは俺もか」
 トロワがそれを聞いて問うてきた。
「そうさ。当然俺もな」
「僕もなんですね」
「御前さんもな。外見に似合わず」
「そして俺か」
「わかってんじゃねえか」
 ヒイロにそう返す。
「御前さんが一番頑固だからな。参るぜ」
「そうなのか」
 だがヒイロはそれを聞いても顔色一つ変えない。やはり無表情であった。
「だからわかるだろ。あの仮面の旦那の考えていることが」
「ああ」
 ヒイロは頷いた。
「何となくわかるつもりだ」
「なら話は早え。ここで説得できるかな」
「説得してどうするつもりだ?」
「勿論俺達の仲間になってもらうのさ」
 デュオは軽い声でそう言った。
「そうなれば鬼に金棒だぜ。ライトニング=カウントまで参加するんだからな」
「それはいい話だ」
 ヒイロはそれに賛成したようであった。
「だろう?それじゃあ」
「しかし俺では無理だ」
 だがヒイロはここでこう言った。
「何でだよ」
「俺だけが説得をしても何の効果もないということだ」
「それじゃあ俺達全員で」
「それも愚だな」
 トロワがそれに対してこう反論した。
「ヒイロが駄目ならば俺達全員でやっても無駄だ」
「そんなことやってみなきゃわかんねえだろ」
「いや、俺もそう思う」
 ウーヒェイもそれを否定した。
「おめえもかよ」
「俺達ではあいつを説得できない。例え剣を交えてもな」
「じゃあどうすればいいんだよ」
「よくわからないですけれど他の方法があるんじゃないですか」
「他の方法って」
 それを聞いてかえって混乱するデュオであった。
「何があるっていうんだよ」
「そのうちわかる」
 答えにはなっていないがこれがヒイロの返答であった。
「それもすぐにな」
「どうやってだよ」
「戦っていればわかる」
 ヒイロの言葉はあくまで感情がない。無機質であるがそこに分析がないというわけでもなかった。
「すぐにな」
「ちぇっ、教えてくれたっていいだろ。俺は何でもわかるってわけじゃねえんだからな」
「アムロさんやカミーユさんとは違うんですね」
「あの人達は特別だろ。ニュータイプ以前に天才だろうが」
「おいおい、俺は別に天才でも何でもないぞ」
 それを聞いたアムロの苦笑いが聞こえてきた。
「あっ、聞こえてました?」
「最初からな。俺は少し勘がいいだけさ」
「勘だけではじめて乗ったガンダムであそこまでできるのか」
 ブライトがそこに突っ込みを入れた。
「御前を天才と言わなくて誰を天才と呼ぶんだ」
「おいブライト、おだてても何も出ないぞ」
 アムロはそうブライトに返した。
「ははは、そうか」
「それよりそっちの方も頼むぞ」
「わかっている」
 ブライトは真剣な顔になり頷いた。
「任せておけ、こっちはな」
「ああ、頼んだぞ」
「もうすぐ来るぞ。機数は五百」
「それだけか」
「とりあえずはな。そして援軍もこちらに向かっている」
「その数は」
「三百だ。こちらはモビルスーツ部隊だ」
「やけに念を入れているな」
「それだけ敵も真剣だということだろう」
 ブライトは率直にこう述べた。
「地球に効果できるかどうかがかっかっているからな」
「それでネオ=ジオンは地球の何処に効果するつもりなんですか?」
 ジュドーがそう問うてきた。
「ヨーロッパはティターンズやドレイク軍がいるし太平洋は守りが堅いし」
「限られていますよね」
 シーブックもそれに頷いた。
「これはまだ確証を得ていないが」
「それでも」
 彼等はブライトにさらに突っ込んだ。
「何処なんですか。教えて下さい」
「ダカールだ」
 彼は言った。
「ダカール」
 連邦政府の本部が置かれている場所である。かってここをティターンズと争ったこともある。この時カミーユがフォウを説得しサイコ=ガンダムから降ろしている。
「そこを狙っているらしい。そして一気に地球圏を掌握するつもりのようだ」
「連邦政府を牛耳ってか」
「ハマーンめ、大胆なことをする」
「ハマーンらしいといえばらしいな」
 クワトロはそこまで聞いて静かにこう言った。
「ここぞという時に思い切ったことをする。ただ単にジオンの亡霊に取り憑かれているだけではない」
「むしろその亡霊を己がものとするということか」
「その通りだ」
 アムロの言葉に頷いた。
「だからこそ恐ろしい。あの女は危険だ」
「それは肌身で感じたことか」
 アムロはクワトロにそう問うてきた。
「シャア=アズナブルとして」
「・・・・・・・・・」
「それともキャスバル=ズム=ダイクンとしてか」
「・・・・・・私はクワトロ=バジーナだ」
 クワトロの返答はこうであった。
「クワトロ=バジーナとして語っている。これでいいかな、アムロ中佐」
「ああ。それならいい」
 アムロもそれを認めた。
「それではクワトロ大尉に聞きたい」
「何か」
「これからのこの戦いの戦術だ。どうするべきか」
「そうだな」
 クワトロは一呼吸置いたうえで語りはじめた。
「まずはモビルスーツ部隊を中心にしてもビルドール部隊を叩く」
「そして」
「次に来るモビルスーツ部隊に対しては戦艦とエステバリス、そして先のモビルドール部隊に向けた戦力から余剰分を向ける。これでいいと思う」
「わかった。それではそれでいくか」
「いいのか」
「俺はそれでいいと思っているからな」
 アムロはそう返しただけであった。
「それじゃあやるか。そして早く終わらせて次の戦いに向かおう」
「よし」
 まずアムロのニューガンダムとクワトロのサザビーが動いた。他の者はそれに続く。その後ろでバーニィはふとクリスに声をかけてきた。
「なあ」
「何?」
「アムロ中佐とクワトロ大尉の関係ってかなり変わってるよな」
「そうね」
 クリスもそれに頷いた。
「何か他の人達とは違う。そうした関係よね」
「やっぱり連邦の白い流星とジオンの赤い彗星だからかな」
「それだけじゃないかも」
「じゃあやっぱり」
「ララァ=スン少尉かしら」
「それかな、やっぱり」
 バーニィはその名を聞いて考える顔になった。
「あの二人の関係は」
「それだけじゃないかも知れないけれどね」
「それは」
「口では上手く言い表せないけれど」
 クリスはそう言いながらも言った。
「何かそうしたしがらみや因縁も越えた。そうした縁もあるわね」
「そうなんだ」
「私もよくはわからないわよ」
 そう前以て断りを入れた。
「けれど・・・・・・。何となくそう思えるのよ」
「女の勘ってやつ?」
「ばか」
 そう言われて顔を少し赤くさせた。
「そんなのじゃないわよ」
「けれど俺にはよくわからないから。こうしたことは」
「そのうちわかるかもよ」
 キースが二人に対してこう言った。
「キース中尉」
「これは俺がそう思うだけだけれどね」
「そうなんですか」
「まあ今はそれより戦争戦争」
 そう言いながら前を向く。
「コウはもう先に言ってるぜ。ぼやぼやしてると放っておかれるぞ」
「あっ、いけない」
「待って下さいよ」
 二人が少し慌ててキースの後を追う頃には既に戦いははじまっていた。まずはアムロとシャアがファンネルを放っていた。
「うおおおおおおおおおーーーーーーっ!」
「これなら!」
 一斉に無数のファンネルが飛び立つ。そして敵に襲い掛かり屠っていく。二人が暴れているところにケーラやクェスも到達する。
 ケーラは主に二人の援護に回る。だがクェスは二人と同じように積極的に攻撃を仕掛けていた。
「行けっ、ファンネル達!」
 赤いヤクト=ドーガのそれをまるで生き物のように言う。そしてファンネルを放つ。それにより小隊単位で敵を薙ぎ倒していく。それにより敵の陣に穴が開く。するとそこに四機のガンダムが雪崩れ込んで来た。
「用意はいいよな!」
「無論!」
 デュオの言葉にウーヒェイが頷く。
「俺はいい」
「僕もです」
 トロワとカトルも頷いた。こうして四機のガンダムがネオ=ジオンの陣に切り込んだ。
「いっくぜえええええええっ!」
 まずはデュオの乗るガンダムデスサイズヘルカスタムが飛翔する。そのシルエットが月をバックにした。まるで死神の様に映った。
 敵の小隊に踊り込むとその手に持つ鎌で斬っていく。ネオ=ジオンのモビルドール達はそれにより次々とその首や胴を断ち切られ爆発して消えていく。
「今度は俺だ!」
 ウーヒェイが叫んだ。アルトロンガンダムカスタムはその手にツインビームトライデントを出した。そしてそれを頭上で旋回させる。その後で構えて切り込む。その姿はまるで双頭の竜であった。
 デュオの攻撃が縦横無尽なものであったのに対してこちらは演舞のようであった。左右にいる敵達を舞うように斬っていく。そして敵を倒していった。
 トロワも動いていた。ガンダムヘビーアームズカスタムの左眼が光った。突如としてその胸が開いた。
「邪魔するなら・・・・・・容赦はしない」
 トロワの静かな声が戦場に響く。そして敵にミサイルとガトリングガンを斉射する。前にいる敵はそれだけで戦場から消えていった。そしてそれが終わると今度はミサイルをまた放つ。先の二人とは正反対に遠距離攻撃で敵を倒していた。
 カトルのガンダムサンドロックカスタムは先の二人と同じような戦いを繰り広げていた。その手に持つ二本のショーテルを振り敵を倒す。だがそれだけではなかった。
「カトル様!」
「お助けに参りました!」
 そこに数十機のモビルドール達が姿を現わした。マグアナック隊である。彼等はカトルの周りを囲み一斉に攻撃に入った。
「カトル様には指一本触れさせん!」
「邪魔だ、どけ!」
 カトルは彼等を指揮しながら戦いを続ける。四機のガンダムとマグアナック隊によりロンド=ベルは一気に優勢に立った。
「どうやらあの四人は相変わらずみたいね」
「嬉しいか?」
 この時ヒルデとノインはようやく戦場に辿り着いたところであった。それぞれヴァイエイトとウイングゼロに乗っている。
「そうね。元気そうで何よりだわ」
「そう言う私達も戦場にいるのだがな」
「それはわかってるわよ。用意はいい?」
「ああ」
 ノインは頷いた。そしてバスターライフルを構えた。
「まずはこれを放つ」
「ええ」
「それから突撃する。一緒に行くぞ」
「それはいいけれど」
「まだ何かあるのか?」
「ヒイロの姿が見えないけれど。どうしたのかしら」
「彼なら大丈夫だ」
 ノインはスッと笑って同僚にそう返す。
「大丈夫」
「そうだ。今頃自分の戦いを行っている」
「そうなの」
「だから私達も私達の戦いをしよう」
「ええ、わかったわ」
 二条の光の帯が輝いた。そしてまた戦士達が参戦した。
 この時ゼクスは後方で全軍の指揮にあたっていた。乗っているのはガンダムエピオンであった。
「特佐」
 彼のもとに傷ついたモビルドールが一機やって来た。
「第一防衛ラインが突破されました」
「そうか」
 ゼクスはそれを聞いて頷いた。
「敵はモビルスーツ部隊を中心としてこちらに攻勢を仕掛けてきております」
「そして第二ラインにも接近しているのだな」
「はい」
 部下はそれに対して頷いた。
「増援は」
「間も無くだとは思いますが」
「このままでは間に合いそうもないか」
「残念ながら」
 彼は項垂れてこう答えた。
「しかも敵の戦意が異常に高く」
「何かあったのか?」
「後方に変わったバルキリーが三機程おりまして」
「変わったバルキリー」
「はい。赤とピンク、そして青緑の派手な色の新型のバルキリーですが」
「それが何かしているのか」
「報告によりますと音楽を奏でているとのことです」
「音楽を」
 それを聞いたゼクスの仮面の下の顔が動いた。
「どういうことだ」
「詳しいことはわかりませんが」
 彼が知っているのはそれまでだった。それ以上は何も知らなかった。
「ロックをかけているとか」
「ううむ」
 ゼクスはそれを聞いて呻いた。
「気になるな。よし、私も行こう」
「宜しいのですか?」
「丁度戦線自体の危機だ。前線に出る必要もある」
 彼は戦線を立て直す為にも前に出るつもりだったのだ。
「行こう。ここは頼む」
「ハッ」
 こうしてゼクスは前線に出た。そこで彼は大規模な攻勢を受け為す術もなく倒されていく自軍の兵士達を見た。だがそれを見ても彼は冷静なままであった。
「ダメージを受けた者は無理をするな」
 彼は落ち着いた声でこう指示を下した。
「そして散開しろ。このままではまとまえてやられるだけだ」
「ハッ」
「了解しました」
 部下達はそれに応え陣を組み替えていく。そしてロンド=ベルにあたった。
「そして聞きたいことがあるのだが」
「何でしょうか」
 傍らにいたモビルドールにいる部下に対して問うた。
「変わったバルキリーがいると聞いたのだが」
「バルキリーですか」
「そうだ。何処にいる?」
「それでしたらあれです」
 彼はそれに応えて前を指差した。
「あの小隊です」
「あれか」
 見れば確かにその通りであった。風変わりな程派手なカラーリングのバルキリーが三機いた。そして何やら派手な演奏を奏でていた。
「俺の歌を聴けーーーーーーっ!」
「バサラ、今度はあたしの曲の番よ!」
 相変わらず自己主張が激しいバサラに対してミレーヌが反発する。
「ちょっとは演奏のバランスも考えなさいよ!」
「バランスなんざ壊す為にあるんだよ!」
 だが予想通りであるが彼は話を聞こうとはしない。
「そんなこと戦場で言ってられっかよ!」
「その皆を励ます為にあたし達は今ここにいるんでしょ!」
「それは違うな」
 バサラの声が一変した。
「俺達はここにいるのは皆を励ます為じゃない」
「どういうこと!?」
 突然真面目になったバサラの声にミレーヌはキョトンとしていた。
「何かあるの?」
「そうだ。俺がここにいるのはな」
 一人称になっていた。
「戦いを終わらせる為だ!行くぜ!」
 彼はまた叫んだ。
「トライ=アゲインだ!」
「もう、マイ=フレンドはどうなるのよ!」
「それは後だ!とりあえず俺の歌だ!」
 こうしてバサラの歌がはじまった。ミレーヌは仕方なくそれに演奏を合わせる。ゼクスはそれを見ていた。
「あれなのだな」
「はい」
 部下の一人がそれに頷いた。
「変わった戦い方だな」
「軍楽隊とはまた全然違いますな」
「例えて言うならばリン=ミンメイか」
 彼は言った。
「彼女に近い。歌で敵味方問わず何かを語り掛けているようだ」
「その通りだ」
 ここで声がした。
「ゼクス、御前もあの歌を聴いているだろう」
「貴様か」 
 ゼクスはその声に反応した。
「そうだ」
「何処にいる」
「此処にいる」
 そう言って天使が舞い降りた。ウイングゼロカスタムであった。


[325] 題名:第五十話その二 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年04月13日 (木) 19時21分

「後はコンバトラーとボルテスだな」
「一旦分離しろってことだな」
「そうだ。苦労をかけるがそれでもいいか」
「おうよ」
 豹馬はそれを快諾した。
「たまにはそうしたことも面白いしな」
「中々面白そうでごわす」
 大作も乗り気であった。
「それでいいか、大次郎」
「はい」
 大次郎も健一の言葉に頷いた。
「別に断る理由も」
「そういうことだ。俺達もいいぞ」
「何か面白くなってきたな」
「そうだね。邪魔大王国はよく地底から出て来るし」
 万丈も言った。
「その裏をかくのも面白いね。是非やってみよう」
「よしきた」
「それじゃあ今からその準備をはじめるか」
「ちょっと待ったあ」
 しかしここでミオが話を強引に再開させた。
「ミオ」
 竜馬が彼女に少し驚いたような声をかけた。
「一体どうしたんだ」
「大事なことを忘れてないかしら」
「大事なこと」
「そうよ。あたしのザムジードは地中だって進めちゃうのよ」
「そうだったのか」
「おほほほほほほ、流石の竜馬さんも知らなかったようね」
「ってザムジードは空も飛べるだろうが」
 マサキがミオに突っ込みを入れた。
「そっちの方が重要なのに今更何言ってやがる」
「天才は忘れたころにやってくる」
「ミオ、字が違うよ」
「えっへん」
「何威張ってるんだか。全く」
 リューネの言葉にも動じるところはない。こうしたところはやはりミオであった。
「で、どうするんだリョウ」
 隼人はそんな中でも冷静に竜馬にそう声をかけていた。
「ザムジードも使うのか」
「そうだな」
 彼は暫し考えた後でそれに答えた。
「是非共といったところか」
「そうか」
「さっすがねえ。話がわかる」
「純粋に戦力として見れば非常に頼りになる」
 しかし竜馬の言葉は微妙なものであった。
「だから。ここは参加してもらいたい」
「何か引っ掛かる言葉ね」
「というか滅茶苦茶ストレートじゃない」
「どう曲解できるってんだよ」
 リューネとマサキの突っ込みにもへこたれない。ミオはそういう意味でやはりミオであった。
「けどいいわ。それじゃあお願いします」
「ああ、こちらこそ」
 竜馬はミオにそう言葉を返した。そして握手をする。
「この戦いは君の手にかかっているからな」
「まっかせて頂戴。大船に乗ったつもりでね」
「泥船にしか思えねえよ」 
 マサキは最後まで突っ込みを入れていた。だがそれをよそに戦いへの準備は着々と進められていったのであった。

 ロンド=ベルが邪魔大王国とまたもや戦いを繰り広げようとしていた頃シュメルの邸宅に二十機近い魔装機がやって来た。見れば皆バゴニアのものであった。
「ヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョ」
「やはり来たか」
 シュメルは彼等を見ても冷静なままであった。彼は邸宅の外でルジャノール改に乗っていた。そしてゼツの乗る魔装機と対峙していたのであった。
「ゼツ、それ程にまでこの私が必要なのか」
「誰も御前なぞ必要とはしておらぬわい」
 だがゼツの答えはいささか奇妙なものであった。
「何っ」
「わしが欲しいのは御前の技だけじゃ」
 彼はそう言った。
「その他には何もいりはせぬ。特に人の心なぞはな」
「愚かな」
 シュメルはそれを聞いて吐き捨てるように言った。
「人から心を抜いたら何になるというのだ。錬金術を学びながら人の道を踏み外したというのか」
「それも何の役にも立たぬのう」
 ゼツは何処までも狂っていた。
「わしは人にはそんなものは一切求めぬ。駒に求めるものではないわ」
「駒だと」
「それ以外に何と言うのじゃ」
 彼はまた言った。
「わし以外の存在は全て駒。この世の中にはわしだけがおればよい」
「何処までも腐っているというのか」
「腐っていようとどうしようとわしさえよければよいのじゃ。わしの研究が達成されることとラングランへの復讐が為されればのう」
「・・・・・・・・・」
 シュメルはもう何も語ろうとはしなかった。もう話しても無駄だと思ったからであった。
「ではどうしても私を連れて行くというのだな」
「そうじゃ」
 彼は言う。
「正確には御前の技をのう」
「断ると言ったら」
「決まっておろう」
 ゼツの言葉はシュメルにとっては何処までも予想されたことであった。
「意地でも来てもらう。行け」
 彼の指示に従い一機の魔装機が進み出てきた。見ればごく普通の一般のパイロットであった。
「シュメル殿」
 そのパイロットはかなりビクビクしながらシュメルに声をかけてきた。
「何だ、若者よ」
「申し訳ありません」
 彼はそう言ってシュメルに謝罪した。
「このようなことになってしまい」
「よい」
 だが彼はそれを咎めはしなかった。
「貴殿にも貴殿の事情があるのだからな」
「すいません」
「だが私も捕らえられるわけには行かない。行くぞ」
 そう言っただけであった。ルジャノールがギンシャスを一閃した。
「!?」
「若者よ」
 シュメルはバゴニアのパイロットに声を掛けてきた。
「逃げるがよい。その機体はもう駄目だ」
「は、はい」
 彼はそれに従い魔装機から脱出した。するとギンシャスは程なくして爆発してしまった。
「急所は外してある。無駄な血を流すことはない」
「な、何て技なんだ」
 バゴニアのパイロット達はそんな彼を見て思わず震えた声を出してしまった。
「あれが剣聖シュメル」
「話に聞いていた以上だ」
「まさかルジャノール改であんなことを」
「剣を極めれば魔装機の性能なぞ何の関係もない」
 シュメルは静かにそう述べた。
「今のが何よりの証拠だ。わかったならば」
「いいのう、さらに欲しくなったわ」
 しかしゼツだけは別であった。やはり笑っていた。
「貴様の技がのう。早く来るがいい」
「何度も言っているがそのつもりは毛頭ない」
 シュメルは毅然としてそう返した。
「私は貴様の様な輩を認めることはない。早く立ち去るがいい」
「立ち去れと言われてそうする愚か者がいるというのか、ヒョヒョヒョ」
 また不気味でけたたましい笑い声を出した。
「それではわしも奥の手を使うまでじゃ」
「何をするつもりだ」
「こうするのじゃ」
 そう言うといきなりゼツの乗る機以外の魔装機が急に動かなくなってしまった。
「!?」
「こ、これは」
「一体どうしちまったんだ」
「どういうことだ、これは」
「ゼツ、何をしたのだ」
「特に何もしてはおらんわ」
 そう言ってうそぶいた。
「ちょっとこの連中の機体に細工をしただけでのう」
「細工だと」
「皆わしの意のままに動くのじゃ」
 彼は楽しそうにそう述べた。
「全てな。もちろん自爆することも可能じゃ」
「何だと!?」
「ここまで言えば意味がわかるのう」
「おのれ・・・・・・」
 シュメルはそれを聞いて義憤を感じずにはいられなかった。キッとゼツを見据える。
「何処までも卑劣な」
「ヒョヒョヒョ、褒め言葉じゃ」
 だが狂気の世界に住む彼にそんな言葉が通用する筈もなかった。
「そしてどうするのじゃ?一緒に来るのか?」
「・・・・・・・・・」
 シュメルはそれに答えられなかった。沈黙してしまった。
「それとも来ぬのか。その場合はわかっておろうな」
「シュメル殿」
 パイロットの一人が彼に声をかけようとした。だがそれを途中で自ら止めてしまった。
「いえ」
 首を振って沈黙の世界に戻る。
「何でもありません。失礼しました」
「俺も」
 彼等はこれ以上何も語ろうとはしなかった。だがシュメルにとってはそれで充分であった。彼の心がそんな彼等を見て何も思わない筈がなかったのであった。
「さて、どうするのじゃ!?」
 それを見透かしたようにゼツがまた声をかけてきた。
「来るのか?それとも」
 彼は言葉を続けた。
「来ぬのか。どちらなのじゃ?」
「・・・・・・わかった」
 彼は苦渋に満ちた声でこう言った。そしてバゴニアの魔装機の前に進み出た。
「これでよいのだな」
「そうじゃ。素材はこれで全て揃った」
 ゼツはシュメルもまた素材の一つ、道具としてしか見てはいなかった。所詮その程度のものとしか認識していなかったのである。彼にとって命とはそうしたものでしかなかった。
「ヒョヒョヒョヒョヒョ、これでよし」
 ゼツはけたたましい、邪悪ささえ感じられる笑い声をたてながらその場を後にした。その後にはシュメルとバゴニア軍が続く。こうしてシュメルは道具として消えることになったのであった。

 シュメルが捕われたその時ロンド=ベルは邪魔大王国と激しい戦いを繰り広げていた。
「そこだっ!」
 ピートが大空魔竜の攻撃を放つ。そしてそれが終わるとすぐに突進させた。
「ジャアントカッターーーッ!」
 それで目の前にいるヤマタノオロチに攻撃を仕掛ける。そこにはアマソが乗っていた。
「ぬう、回避せよ!」
 アマソはそれを見てすぐに指示を下す。だがそれは間に合わなかった。
 ジャイアントカッターがアマソの乗るヤマタノオロチを両断した。そしてオロチは炎に包まれた。
「ぬう!」
「アマソ、無理をするでない」
 呪詛の声を漏らすアマソに対してククルが言った。
「ここは退くがよい」
「ククル様」
「わらわの命じゃ。よいな」
「わかりました。それでは」
「うむ」
 アマソはククルの言葉に従い戦場を離脱した。だが邪魔大王国のハニワ幻人達はまだその数を大きく減らしてはいなかったのであった。
「まだだ、数では負けてはおらぬ」
 ククルはそう言って部下達を鼓舞した。
「押すのだ、数を以ってな」
「はっ」
 物量で押し切ろうと仕掛けてきた。中央に兵を集結させる。そしてそれで一気に潰そうとした。だがここで伏兵達が動いた。
「今だ、隼人」
「よし!」
 隼人は竜馬の言葉に頷いた。そしてゲッターライガーのハンドルを大きく動かした。
「行くぞライガー!」
「何だとっ!」
 ゲッターライガーが地中から躍り出た。そして躍り出ると同時にすぐに攻撃に移ってきた。
「ライガーミサイル!」
 右腕からミサイルを放つ。それでまずは目の前にいる敵を一機屠った。
「次だっ!」
 しかし攻撃はそれで終わりではなかった。左腕のドリルで側にいる敵を貫くと跳んだ。そして眼下にいる敵を一体右腕のチェーンで絡め取った。
「チェーンアタック!」
 着地すると同時に敵を振り回す。それから地面に叩きつけた。それで敵がまた一機倒されたのであった。
「ぬうう、ここでゲッターライガーが出て来るとは」
「驚いたようだな」
 隼人は不敵な態度でククルに対して言った。
「だが所詮は一機。機先を制されたがまだ」
「誰が一機だと言った?」
 隼人は不敵な態度のままククルにまた言う。
「どういうことじゃ!?」
「地中にいることができるのはライガーだけじゃないってことだ」
「まさか」
 ククルはその言葉を聞いて眉を顰めさせた。その時だった。
「今よ、兄さん!」
「わかっている、マリア」
 マリアと大介の言葉が聞こえた。そして地中からドリルスペイザーが姿を現わした。
「ドリルミサイル!」
 それで敵を屠る。動揺しだした敵に対して更なる攻撃を繰り返すのであった。
「グレンダイザーまでおるとは」
「迂闊だったわね」
 マリアがククルに対して言う。
「グレンダイザーはどんな状況でも戦うことができるのよ。例え火の中水の中」
「おいおい、今は地面の下だろうが」
 甲児がマリアに突っ込みを入れる。
「あっ、そうだったかしら」
「しっかりしてくれよ、全く」
「御免御免。とにかくね」
 マリアはあらためてククルに顔を向けた・
「ダイザーを甘くみないってことね」
「おのれ」
「そしてあたし達だけじゃないんだから」
「まだおるのか」
「その通り!」
 地中から十機のマシンが姿を現わしてきた。そして豹馬と健一が叫んだ。
「レッツコンバイン!」
「レェッツ、ボルト=イィィィィィィン!」
 それに従いそれぞれのマシンが宙を飛ぶ。そして空中で合身した。
「まさか地中から!?」
「コンバトラーとボルテスの構造を忘れていたようだな」
「何っ!?」
「俺達のマシンの中にはなあ、地中を進めるものもあるんだ」
「それを忘れていたとは迂闊だったな」
「クッ、わらわを侮辱するというのか」
「悪いが侮辱じゃねえぜ」
 豹馬はまた言った。
「本当のことだ。観念するんだな」
「ククル、ここで貴様を倒す!」
「ほざけ、人間共が!」
 それでもククルは戦意を失ってはいなかった。
「わらわを倒せると思うか!邪魔大王国の女王を!」
「できる」
 それにゼンガーが返した。
「うぬはまたわらわの前に」
「ククル、貴様は人間だ」
「ほざけ、戯れ言を」
「その証拠に貴様には赤い血が流れている」
「わらわの血が赤いだと」
「そうだ、それを今」
 剣をかざした。
「見せてやろう!このダイゼンガーでな!」
「ダイゼンガーがどうしたというのじゃ!」
 ククルは叫んだ。
「貴様に受けた数々の侮辱、今返してくれる!」
「俺は決して負けはしない!」
「何故だ!」
「俺の剣は悪を断つ剣!その前に倒れぬ悪はなし!」
「悪は貴様等こそよ!」
「まだ言うか!」
「貴様等にかって奪われた邪魔大王国の繁栄」
 かって邪魔大王国が築いていた日本での王国のことに言及する。
「それを奪った貴様等こそ!悪でなくて何だというのじゃ!」
「栄枯盛衰は世の常」
 ゼンガーは急に冷静な声になった。そして言う。
「それがわからぬして何を言うか!ククル、貴様は逃げているだけだ!」
「わらわが逃げているだと!?」
「そうだ、現実から逃げていることに他ならない」
「言わせておけば」
 その白面の顔が紅潮してきた。憤怒の形相に変わる。まるで夜叉の様な顔であった。
「ここまでわらわを侮辱してくれるとは」
「侮辱と取られても構わぬ」
 剣を構えた態勢のまま続ける。
「だが俺の言っていることは真実だ。ククル、貴様は間違っている」
「言うな!」
 ククルは叫んだ。
「わらわの誇りまでも傷付けるとは・・・・・・。最早容赦ならぬ!」
「容赦なぞ最初から求めてはおらぬ!」
「ならば・・・・・・」
 ククルも身構えた。
「死ね!ここがうぬの墓場よ!」
「参る!」
 ククルの顔は最早鬼のそれとなっていた。ゼンガーも。だが二人の鬼の顔はそれぞれ違っていた。怒りで心を忘れた鬼と正義をその中に持つ鬼の差であった。今二人の鬼が激突した。
「よしっ!ミオちゃん只今参上!」
「師匠、まいど!」
「ここで真打ち登場でんな!」
「主役は遅れてやってくる!」
「エッヘン!」
 ファミリア達におだてられ胸を張る。そしてすぐに攻撃に移った。
「レゾナンスクエイク!」
 辺りにレゾナンスクエイクによる地震で攻める。これは空中にいる敵にも襲い掛かる。これで敵を一気に薙ぎ払いにかかったのであった。
 そしてこれは的中した。邪魔大王国の兵はその数を大きく減らした。戦いの趨勢はこれによりロンド=ベルの方に傾こうとしていた。そして彼等はこれを見逃さなかった。
「今だ」
 万丈が言った。
「皆、一気に畳みかけよう」
「よし!」
 まずはゼオライマーが前に出て来た。
「マサト君、あれをやるのね」
「ああ」
 マサトは美久の言葉に頷いた。
「ゼオライマー、御前の力を見せてくれ」
 そう言って両手の拳を打ち合わせた。メイオウ攻撃であった。
 広範囲にゼオライマーの光が襲い掛かる。これでミマシのヤマタノオロチも倒されてしまった。
「ヒミカ様ーーーーーーーーーーーーっ!」
「ミマシ」
 ククルはそれを聞いてハッとした。
「今ヒミカ様の名を」
「ククル様」
 それにミマシも気付いた。脱出しながら我に返る。
「も、申し訳ありません」
「いや、よい」
 頭を下げる彼に対してそう返した。
「今は下がれ、よいな」
「は、はい」
 そう言ってミマシを下がらせた。だがその心の中はかなり動揺していた。
 だがそれは表には見せない。やはりゼンガーとの死闘に明け暮れていた。
「これでどうじゃっ!」
「まだだっ!」
 ゼンガーは攻撃を受けてもそれに怯むということはなかった。まるで仁王の様に立ち続けている。
「この程度でっ!」
「まだ立つというのか」
「俺を倒すつもりならば本気で来るがいい」
 ククルを見据えてそう言う。
「この程度で俺を倒せるとは思わんことだ」
「おのれっ」
 ククルはそれを聞いてその顔をさらに怒りで燃え上がらせた。
「その舌、断ち切ってくれる」
「貴様にできるというのか」
「わらわに倒せぬ者はいない」
「ならば見せてみよ!」
「うぬに言われずとも!」
 二人の戦いはさらに激しさを増した。そしてその横では勇とヒメがイキマの乗るヤマタノオロチに二人で攻撃を仕掛けようとしていた。
「いくぞ、ヒメ!」
「うん!」
 ユウ=ブレンとヒメ=ブレンは共に歩調を合わせた。そして攻撃に移る。
「いけえーーーーっ!」
「シューーーーートォーーーーーーーッ!」
 そしてそのチャクラ=エクステンションでイキマを貫いた。イキマもまた愛機を撃墜され戦場を離脱するしかなかった。
「おのれ、またしても」
「よい、イキマ」
 ククルは彼にも声をかけた。
「お主達はよくやってくれている。案ずることはない」
「勿体なき御言葉」
「今は下がれ。そして次に備えよ」
「ハッ」
 イキマは一礼して下がった。こうしてまたしてもククルだけが戦場に残ることとなった。だがそれでも彼女は戦い続けていた。
「まだだっ!」
 彼女はゼンガーに向かった。
「貴様を倒すまでは!」
「我を失っているか」
 ゼンガーはそんな彼女の様子を見てポツリと呟いた。
「我を忘れては全てを忘れる」
 そしてこう言った。
「全てを忘れる者は最早何もできぬ!今それを見せてやろう!」
 だがそれはククルの耳には入っていなかった。夜叉と化した彼女にはゼンガーの姿しか見えなくなっていたのであった。逆にゼンガーには全てが見えていた。
「今だっ!」
 剣を下から上に一閃させた。それだけであった。
「どうだっ!」
「今何かしたというのか?」
 だが傷はなかった。ククルはそれを確かめたうえでゼンガーに対し侮蔑した笑みを向けた。
「わらわの前で素振りをするとは見上げた度胸じゃ」
「誰が素振りだと言った?」
「何!?」
「俺の技に気付かないとは。やはり我を失っていたか」
「何を言っておるのじゃ」
「見ろ」
 ゼンガーは一言言った。
「今の己の姿をな」
「むむっ」
 ククルは見た。すると胸から血が噴き出してきた。
「なっ」
「貴様のいる場所は見切っていた」
 ゼンガーは言った。
「気配でな。コクピットの位置もわかっている」
「ではそこに直接攻撃を仕掛けてきたというのか」
「そうだ。位置さえわかれば何とでもなる」
 ゼンガーは言葉を続ける。
「このようにな。気を使ったのだ」
「気を」
 武道の極意の一つである。気で斬るというものだ。これを使えるようになるには相当の修業が必要なのは言うまでもないことではあるが。
「迂闊だったな。俺は気も使うことができるのだ」
「おのれ・・・・・・」
 胸が次第に朱に染まっていく。かなりの傷であるのはもう言うまでもないことであった。
「見ろ、己の血を」
「これがどうしたというのじゃ」
「貴様の血の色・・・・・・。それは赤だ」
「クッ」
「それが何より物語っている。貴様のことをな」
「まだ言うか、戯言を」
 だがククルはそれを認めようとはしなかった。
「わらわは邪魔大王国の女王、それ以外の何者でもないわ」
「女王か」
「そうじゃ。貴様なぞに惑わされはせぬ。わらわは・・・・・・」
「ならば行くがいい」
「何!?」
「御前の王国に。だがわかっている筈だ」
 彼はまた言った。
「その王国を支配しているのが誰なのかな」
「・・・・・・・・・」
 反論できなかった。先程のイキマの言葉。今も耳に残っていた。
「俺は追いはせぬ。行くがいい」
「後悔するぞ」
 ククルは苦し紛れのように言い返した。
「何度もわらわを逃がしてはな」
「前にも言った筈だ、俺は後悔はしない」
 ゼンガーの言葉は毅然としたものであった。そこには一切の迷いがない。
「だからこそ御前を行かせるのだ」
「フン」
 ククルは朱に染まった身体のまま言った。
「覚悟しておれ」
 それが最後の言葉であった。マガルガは胸に激しいダメージを追いながらも戦場を離脱した。こうして邪魔大王国との戦いはまたしても幕を降ろしたのであった。
「なあゼンガーさん」
 トッドが彼に声をかけてきた。
「何だ」
「あの女を何度も逃がしてるけどよ。まずいんじゃねえのか」
「邪魔大王国のことか」
「いや、あの連中は正直楽な相手だからな。それは気にはならねえ」
 トッドはそれはよしとした。
「けどな、あの女は別だろ」
「ククルか」
「そうさ。半端な腕じゃねえ。倒せるうちに倒しておいた方がいいだろう」
「本来ならそうしていた」
 ゼンガーはそれに対して答えた。
「だがあえてそれはしない」
「何でだよ、また」
「それもいずれわかる」
 彼はそう言った。
「いずれかよ」
「そうだ。あの女も気付くだろう」
 ダイゼンガーもまた遠くを見ていた。
「その時でいい。その時でな」
「まああんたのことだからな」
 トッドはいつもの調子でそう述べた。
「好きにしてくれ。ただ死ぬなよ」
「わかっている」
「死なれたらこっちも後味が悪いからな」 
 何はともあれ戦いは終わった。だがここで一つ疑問があった。
「何であいつ等は俺達に向かって来たんだ?」
「何でって俺達を敵だと思っているからじゃないのか?」
 ナンガに対してラッセがこう返した。
「わざわざこんなところまで俺達を追ってきた程だしな。当然だろう」
「俺が言っているのはそんなことじゃない」
 だが彼はそれを否定した。
「じゃあ何なんだよ」
「最初奴等は俺達以外の連中を追っていたようだが」
「そういえば」
 ラッセもそれを言われて気付いた。
「確かバゴニア軍だったか」
「そうだ。だとしたら何故だ?」
 ナンガは言った。
「バゴニアの連中は。何故俺達のところにまで奴等を誘導したんだ」
「漁夫の利を狙ったんじゃないかしら」
 ヒギンズがそれに応えた。
「漁夫の利か」
「よくある話でしょ。ティターンズにしろドレイク軍にしろよくやってることだし」
「確かにな」
「連中も私達と邪魔大王国が共倒れになるのを狙ったんじゃないかしら」
「そうかもな。だったら納得がいく」
 ナンガは一旦はそれに頷いた。
「しかしな」
「まだ何かあるの?」
「引っ掛かるんだ」
 彼は一言こう言った。
「引っ掛かるって」
「俺の杞憂であればいいが」
 だがそれが杞憂に終わるとは思っていなかった。
「まさかな」
 嫌な予感がしていたのだ。そしてそれは不幸にして的中した。
「何だと!?」
 大文字はそれを聞いて驚愕の声を出した。
「それは本当か」
「はい、間違いないようです」
 ミドリが彼にそう答えた。
「シュメル先生は。さらわれました」
「クッ」
「最も怖れていたことが」
 ロンド=ベルの面々はそれを聞いて口々にこう言った。
「あの時誰か置いておけば」
「こんなことにはならなかったのに」
「過ぎたことを言っても仕方がない」
 ナンガがそんな彼等に対して言った。
「大事なのはこれからのことじゃないのか」
「そうは言ってもな」
 それでも彼等は中々前向きにはなれなかった。
「一体どうなるんだ、これから」
「ゼツの手に渡ったら。大変なことになるぞ」
「やるしかないだろ」
 だがそんな中でマサキが言った。
「マサキ」
「なっちまったモンは仕方ねえ。こうなりゃゼツの野郎が何をしてきてもぶっ潰す。それだけしかないだろ」
「そうだな。マサキが正しい」
 ヤンロンがそれに賛同した。
「今はそれを第一に考えよう。シュメル師の安全も気になるが」
「そうね」
 シモーヌがそれに頷いた。
「ヤンロンの言う通りね。ここはゼツを何とかすることを考えましょう」
「そうですね。あれこれ考えても仕方ないですし」
 デメクサも言った。
「まずはシュメルさんのお家に戻りましょう。話はそれからです」
「そうね」
 こうして彼等は一先シュメルの邸宅に戻った。そこはやはりもぬけの空であった。
「やっぱり・・・・・・」
 ロザリーは誰もいない邸宅を見て寂しさと無念さ、そしてそれとは別の感情を入り混ぜた顔を作った。
「もう、いないのね」
「そうね」
 それにレミーが頷いた。
「残念だったかしら」
「残念って」
 ロザリーはその言葉にハッとした。
「それって・・・・・・。どういう意味よ」
「私を舐めてもらっちゃ困るわ。それ位お見通しよ」
 レミーはロザリーを少し斜に構えて見ながらそう答えた。
「あんた、あの人が憎かったんでしょ」
「え!?」
「隠してもわかるわ。目をみたらわかるから」
「おい、レミー」
 真吾が彼女を止めようとする。だがそれはできなかった。
「いいから。任せておいて」
「しかし」
「まあ待て真吾」
「キリー」
「ここはレミーに任せておこうぜ。男じゃできないこともある」
「・・・・・・わかった」
 真吾も納得した。そしてレミーはまた言った。
「調べたわ、色々とね」
「そうだったの」
「あんたのお父さんも剣の使い手だったのね」
「ええ」
 ロザリーはそれを認めた。
「バリー=ギムナスだったわね、確か」
「名前まで調べていたの」
「ちょっと時間がかかったけれどね。かってシュメルと勝負をしたことがある」
「そうよ」
 ロザリーはそれを認めた。
「けれど敗れた。そしてその傷がもとで命を落とした。間違いはないかしら」
「いえ、その通りよ」
「おい、それじゃあ」
 皆それを聞いて驚きの声をあげた。
「シュメルさんはロザリーにとって」
「親の仇だっていうの!?」
「そうよ、その通りよ」
 ロザリーは言った。
「私が先生に近付いたのはお父さんの仇を取る為だった」
「やっぱりね」
 レミーはそこまで聞いて頷いた。
「最初は隙を見てすぐに仇をとるつもりだったわ。けれど」
「会って変わったのね」
「ええ」
 それも認めた。
「実際に会ってみると先生は優しかった。剣を教える時でも」
「うちのパパとおんなじなんだね」
 プレセアがそれを聞いて呟いた。
「何か似てる」
「剣を極めるということは人としても極めるということだ」
 ゲンナジーがここで言った。
「その道を極めるということは容易ではない。だがそれができた時には」
「人としても一つの極みに達しているということになる」
「その通り」
 チェアンの言葉に応えた。
「何かゲンナジーもいいこと言うね」
「そうか」
 リューネの言葉に応えた。
「うん。何かゲンちゃんらしくていいや」
「ミオからは絶対に出ない言葉だしね」
「まあ気にしない気にしない」
「そんな先生の側にいるうちに変わってきたのよ。けれど」
「お父さんのことは忘れられなかったのね」
「ええ」
 ロザリーはまた頷いた。
「どうしたらいいのかわからなかった。シュメル先生はとても温かい人だったし」
「よくあることなのよ」
 レミーは一言こう言った。
「憎い筈の相手がね。本当がいい人だったってことは」
「どうしたらいいのかわからなかったのよ」
「そういう場合はね、素直になればいいのよ」
「素直に」
「そうよ。変に意地を張っても仕方ないから。素直になるのよ」
「どういう意味なのかしら」
「すぐにわかるわ」
 首を傾げるリューネに対してシモーヌが言った。
「すぐにね」
「ふうん」
「それでシュメルさんの人間性は好きになってたのよね」
「ええ」
 ロザリーはレミーの言葉に頷いた。
「本当に悪人だったら今頃は毒でも使ってでも」
「それよ。けれど貴女はそうはしなかった」
「えっ・・・・・・」
 ロザリーはその言葉にハッとした。
「それって」
「そうよ。貴女は先生を好きになりだしていたのだから。だから復讐を捨てていた」
「もう捨てていたの」
「そう。だからそれに従いなさい」
「いいの?それで」
「復讐だの仇討ちだのってね。終わっても空しいだけよ」
 レミーは笑ってこう言った。
「だから忘れた方がいいわ。女ってのはね、楽しく生きないと綺麗になれないわよ」
「綺麗に」
「折角可愛く生まれたんだから」
 いつもの調子で言う。
「楽しく生きなさいな。さしあたってはシュメルさんへの憎しみは忘れること。いいわね」
「はい」
 ロザリーは頷いた。
「じゃそうします」
「そういうこと。じゃあこれから飲む?」
「お酒ですか」
 それを聞いたロザリーの顔が明るくなった。
「私大好きなんですよ」
「あらあら、意外ね」
「先生は少しずつ飲んでいたけれど。私はもう幾らでも飲めて」
「おや、それは嬉しいねえ」
 ベッキーがそれを聞いて嬉しそうな声をあげた。
「じゃあ飲むかい?あたしも好きなんだよ」
「あたしも入れてもらおうかな」
 シモーヌも入ってきた。
「こう見えてもお酒には五月蝿くてね。カクテルとかね」
「あっ、いいですね」
 カクテルと聞いてロザリーの顔がさらに明るくなった。
「私もそれ好きで。じゃあ四人で」
「飲みましょう」
 こうしてロザリーの心は晴れた。彼女はとりあえずはシュメルへの憎しみの感情を消すことができたのであった。
 彼女はこれでよかった。だがバゴニアでは一つの異変が起こっていた。
「それは本当のことなのか!?」
 ジノは基地に帰投した後で整備兵達から話を聞いて思わずそう問い返した。
「はい」
 整備兵達は頷いた。そしてそのうえでまた言った。
「シュメル師はゼツ術士に身柄を拘束されました。そしてそのまま首都に連行されたそうです」
「それも自軍の兵士を人質にとってです」
「何ということだ」
 否定したかったがそれはできなかった。ゼツならやりかねない、ジノ自身もそう思っていたからであった。
「そしてシュメル師は」
「・・・・・・・・・」
 だが整備兵達はジノのこの問いには首を横に振った。
「残念ながら」
「あまりいいことにはならないかと思います」
「・・・・・・そうか」
 ジノはそれを聞いて顔を苦渋の色で覆った。
「何ということだ。我等は何だったのだ」
「囮だったというだけさ」
 後ろにやって来ていたトーマスがこう言った。
「何でもない、よくある話だろ」
「そうは言ってもな」
「俺達は軍人だぜ、そうした作戦もあるだろう」
「しかし」
「しかしもこうしたもねえさ」
 トーマスの言葉は醒めたものであった。
「それが仕事なのさ。違わないか?」
「・・・・・・・・・」
「まあ気持ちもわからないことはないがな。落ち着きな」
「しかし」
 それでもジノは不満を隠さなかった。
「しかしもこうしたもねえさ」
 だがそれに対するトーマスの言葉はやはり醒めたものであった。
「俺達は軍人だってことさ。どうしても不満なら軍を辞めるしかない」
「軍をか」
「あんたもそれは嫌だろう。冷静になるんだ」
 彼はそう言い続けた。
「いいな」
「わかった」
 ジノはとりあえずはこう言った。だがまだ不満は消えてはいなかった。
 トーマスも整備兵達も去った。ジノは一人格納庫にいた。そして今まで自分が乗っていたギンシャスプラスを見上げていた。
「辞める、か」
 彼は考えていた。シュメルは自分の武道の師範であった。剣術家だけでなく人間としても尊敬していた。その彼をこうした形で拘束するとは。しかも一人の狂気の人間によって。彼は決意しようとしていた。
「迷うことはないな」
 そう言ってギンシャスプラスに乗り込んだのであった。
 そして彼は姿を消した。何処かへ。ジノのまた何かに誘われていたのであろうか。


第五十話   完


                                      2005・10・21


[324] 題名:第五十話その一 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年04月13日 (木) 19時16分

              ロザリーの真実
「ねえ」
 ふとレミーが真吾達に対して口を開いた。
「どうしたんだ?」
 真吾がそんな彼女に問い返した。
「最近気になっていることがあるんだけれど」
「お肌の荒れかい?それはゆっくり寝るに限るぜ」
「そんなのじゃないわよ」
 キリーの言葉に少しムッとしながらもそう返した。
「いつも手入れしているんだから。珠の肌よ」
「おやおや」
「それじゃあ一度確認させてもらいたいものだね」
「言っておくけれど高いわよ、レディーのお肌は」
「これはまた手厳しい」
「それで気になることって何なんだ」
「あのロザリーって娘よ」
 レミーは言った。
「ロザリー」
「何かね、引っ掛かるのよ」
「それは一体」
「あの娘の目よ。何か妙な感じがするのよね」
「妙な感じ、ねえ」
「あんた達も何か感じない?変だって」
「俺はそうは思わないが」
「綺麗な目だとは思うね。純真そうで」
「それはまああたし達とは違って・・・・・・って何言わせるのよ」
「自分で言ったんじゃないか」
「今度はレミーの負けだな」
「もう。ふざけるのもいい加減にしてよ。真面目な話をしたいんだから」
「わかったわかった。それで目がどうしたんだい?」
「恋をする目じゃないのよ」
「恋を」
「ええ。あたしはこうした経験が豊富だからわかるんだけれどね」
「流石にベテランだけはある」
「キリー、それが余計なんだ」
「おやおや。どうやらいつもの軽い調子は似合わない状況のようで」
「あんたはちょっと軽過ぎるのよ。それでね」
「ああ」 
 真吾がそれに頷き返した。
「あのシュメルさんを見る目がね、何か憎しみがあるのよ」
「憎しみが」
「それだけじゃないけれど。けれど押し掛けフィアンセってわりには何かおかしいのよね」
「そうだったのか」
「そういや何か殺気めいたものも感じないわけじゃないな」
「やっとブロンクスでの勘が戻ってきたようね」
「まあ最近何かとドタバタしていてそっちの勘は使うことがなかったからな」
「俺はよく使っているよ」
「あんたはメインパイロットだからね。頑張ってもらわないと困るのよ」
「何か貧乏くじだな」
「リーダーは文句を言わない」
「それもそうだ」
「意外。納得するのね」
「たまには意表をつかなくちゃな。兵法の基本さ」
「いつも行き当たりバッタリだけれどね」
「ドクーガに合わせているとな。どうしてもこうなる」
「それはそれで一興」
「舞台即興ってやつね」
「クナッパーツブッシュが得意としたやつだな」
 ドイツの有名な指揮者の一人である。とかく変人であり練習をことの他嫌ったことで知られている。知っている曲の練習は皆知っているからその必要はないと練習に顔を出した時点で言いそのまま帰ったこともある程である。当時ドイツはフルトヴェングラーやワルター、クレンペラー等多くの優れた指揮者がいたがその中でも異彩を放っていた。
「それはおいといてね。やっぱり妙なのよ」
「ふむ」
「何かあるわよ、絶対に。それが何かまではわからないけれどね」
「監視が必要ってところかな」
「そこまでいくかどうかはわからないけれどね。けれど覚えておいた方がいいかも」
「了解。それじゃあ」
「レディーの身辺チェックといきますか」
「それはレディーにするものじゃないわよ、キリー」
「細かいことは言いっこなしってね」
「全く」
 グッドサンダーチームの面々もロザリーに対して何か妙なものを感じていた。そして魔装機のパイロット達はこの時彼等だけで何かと話をしていた。
「何ちゅうかなあ」
 その中心にはロドニーがいた。彼はいつもの訛りの強いトロイア弁で話していた。
「エリスがフェンターちゅうのに乗っててわいがガディフォールっていうのが納得いかへんのや」
「また贅沢なこと言うな」
 マサキがそれを聞いて呆れていた。
「おっさんはそれでいいって言ってたじゃねえか。何が不満なんだよ」
「いや、わいもええ魔装機に乗ってみたいんや」
「そうは言ってもなあ」
「何かあらへんか?ええのは」
「といっても今は何も空いてないんだよ」
「そうなんか」
「ノルス=レイもセニアが乗っているしな。悪いが当分我慢してくれよ」
「寂しいのお、それは」
「まあちょっとの間だけだからね」
「それはホンマでっか、姫さん」 
 セニアのその言葉に思わず身を乗り出してきた。
「ええ。実は今新しいマシンを何機か開発しているのよ。それをタダナオとオザワに乗ってもらいたくてね。その時に空くと思うわ」
「それじゃあわいギオラストを」
「まだ決まったわけじゃないけれどね。今やっと一機めが完成したところだし」
「何だ、それは」
「ダイゼンガーよ」
「ダイゼンガー」
「ええ。接近戦用の特殊なマシンよ。丁度今ゼンガーが乗っているわ」
「ゼンガーが」
「彼に相性がいいと思ったから。それで乗ってもらったのよ」
「何かすげえマシンみてえだな」
「そうだね。あの人が乗るんだから」
 マサキの言葉にリューネも頷いた。
「あたしとウェンディで開発しているのよ。二機目と三機目が開発したらあの二人にも乗ってもらうわ。あれ、その二人は?」
「ああ、丁度哨戒中さ」
 マサキがそう言った。
「ゼンガーも一緒なんじゃねえかな。最近あの三人一緒にいることが多いし」
「そうだね。何か妙な顔触れだけれど」
「クスハさんとブリットさんがいつも一緒だからね。はぐれ者同士ってやつかな」
「こら、ミオ」
 マサキがミオに注意した。
「どうしておめえはそう」
「気にしない気にしない」
「・・・・・・ったくよお。何でゲンナジーはこんなのとコンビ組んでるんだか」
「ゲンちゃんはいい相方だよ。よく気が利くしね」
「その前に最近何処が存在感薄いのかわからなくなってきたぞ」
「元々目立つ外見だしな」
 ヤンロンも言った。
「しかも力も強い」
「けれどこの前あたしに腕相撲で負けたよ」
「おめえはまた特別だよ」
「何よ、その言い方」
「パワーアンクルなんていつもつけてりゃ誰でも強くなるってもんだ。っていうかそんなの着けてどうするつもりなんだよ」
「力が強いってのは便利だよ」
「そうかも知れねえけどよ。オリンピックの金メダリストに勝てるなんて普通じゃねえぞ」
「あれには僕も驚いた」
「細かいことは気にしないってね」
「それじゃあミオと同じだろうが」
「あれっ、そうだっけ」
「ったくよお、何でこううちの女ってのはこうガサツなんだよ」
「あらマサキ、言ってくれるわね」
「誰がガサツだってえ!?」
「お兄ちゃんに言われたくはないわよ」
「ゲッ」
 シモーヌ、ベッキー、プレセアの登場にタジタジとなってしまった。やはりマサキには女難が似合うのであった。
 
 ゼンガーはこの時新たなマシンダイゼンガーに乗っていた。まるで鎧を身に纏った侍の様なそのマシンはその手に巨大な刀を持っていた。そして彼はその刀を黙々と振っていた。
「ふう」
 彼は何百回か振り終えた後で大きく息を吐き出した。
「ようやく馴染みはじめてきたか」
「そこにおられたのですか」
 そこへザッシュがやって来た。彼はガルガードに乗っていた。
「ザシュフォード殿か」
「はい」
 ザッシュはそれに頷いた。
「最近何かと修行に励んでおられるようですが」
「それは貴殿とて同じだろう」
 ゼンガーは彼にそう言葉を返した。
「シュメル殿の剣はどうだ」
「知っておられたのですか」
「知らない筈もない」
 ゼンガーは言った。
「あそこまで熱心にやっていると。そしてどうなったのだ」
「はい。何とか技を一つ身につけることができました」
「そうか」
「冥皇活殺法。これなら今までよりも遥かに皆の役に立つことができます」
「ガルガードは長距離戦用の魔装機だったな」
 その通りであった。ガルガードはリニアレールガンやハイパーリニアレールガンを装備しており、遠距離での戦闘を主眼に置いた設定となっているのである。
「はい」
「それでも剣を身に着けたのか」
「何があるかわかりませんから」
 ザッシュはそう答えた。
「これからは。ゼンガーさんもそう思っておられるから今こうして修業に励んでおられるのでしょう」
「否定はしない」
 それがゼンガーの答えであった。
「俺は常に戦場に身を置いている。常にな」
「そうなのですか」
「いつ何時敵が来るかも知れぬ。その時動けないのであれば死ぬだけだ」
「ですね」
「無駄に死ぬつもりはない」
 彼は言った。
「それだけだ」
「そして今は」
「あの邪魔大王国の女のことか」
「はい。彼女は一体」
「かって俺と剣を交えた」
 彼は静かにそう語った。
「その時右腕を斬り落とされた。それからだ」
「因縁というやつですか」
「少なくとも向こうはそう思っているだろう」
「ではこの前の戦いのことも」
「そうだろうな。また来るだろう」
 そう語りながらもその目は決して怯えたものではなかった。
「それに備える。何時来てもいいようにな」
「それが武士道でしょうか」
「そうされている」
 ゼンガーは言った。
「貴殿のそれは騎士道か」
「ええ、まあ」
「道は違えど志は同じだ。大事にするがいい」
「はい」
「人は武器によってのみ戦うのではない」
 そしてこうも言った。
「心によって戦っている。それを忘れぬようにな」
「はい」
 こうして彼等は修業を続けた。この時バゴニアでは新たな動きがあった。
「バレンシア少佐」
 ギンシャスに乗るバゴニア軍のパイロットが指揮官であるジノに対して声をかけていた。
「どうした」
 ジノはそれに応えた。そして彼に顔を向けた。
「今回の作戦ですが」
「うむ」
「一体何の目的で我等をこのような場所に派遣しているのでしょうか」
「・・・・・・わからん」
 ジノはそう答えた。彼等は今戦闘が行われているバゴニアの国境からも、そしてシュメルの邸宅からも遠く離れたバゴニア西の山岳地帯に派遣されていたのである。そしてそこで哨戒行動を命じられていたのであう。
「この様な場所にラングラン軍が来るとは到底思えません」
「ましてやシュメル師の邸宅からも離れています。これは一体」
「気持ちはわかる」
 ジノはまずは彼等の心を汲んだ。
「だがな」
「はい」
「我々は軍人だ。余計なkとに口を挟んだり詮索したりするのは止めておけ」
「は、はい」
「そうしたことは軍服を脱いで言った方がいい。よいな」
「は、はい」
「現にシュテドニアスではそうしている」
 ロボトニーのことを言っているのである。
「それでいいのではないか」
「そうですね」
「ではそうするとしよう」
「あんた中々良識派だな、おい」
 ここで知った声がした。ジノはそれを受けて上を見上げた。
「貴殿か」
「よう、あんたもこっちに派遣されていたんだな」
 トーマスはジノ達を見下ろしながらそう声をかけてきた。
「どうだい、気分は」
「悪くはない」
「おや」
 トーマスはそれを聞いて意外そうな顔をした。
「さっきの話を聞く限りとてもそうは思えないけれどな」
「聞いていたのか」
「盗み聞きする気はなかったがな。けどそれがいいと思うぜ」
「そうか」
「俺達は軍人なんだからな。命をチップにして金を稼ぐ」
「そういうものか」
「俺はそういう考えさ。あんたとは大分違うようだがな」
「そのようだな」
「まあそれはどでもいいことさ。俺は軍人の仕事だけする。それ以外は何もするつもりはないぜ」
「シビアなのだな」
「当たり前さ、何で給料の分以外のことをしなくちゃならねえんだ」
 トーマスはこう言った。
「俺は金の分だけしか仕事はしねえ。後は知ったことじゃねえな」
「貴殿にとって戦争はそういうものか」
「だからそれについての議論はしねえって言ったろ」
 トーマスはまた言った。
「だからお互い詮索なしだ。けど一つ聞きたいことがある」
「それは何だ」
「あんたさっき気分は悪くないと言ったな」
「うむ」
「それはまたどうしてだい?何か特別な事情があるのか?」
「この景色を見たまえ」
 ジノはそう言ってギンシャスプラスの右腕で下を指し示した。
「見事なものだと思わないか」
 眼下には青い谷と緑の山が連なっていた。そしてそれは何処までも続いているようであった。
「まあ確かにな」
 トーマスもそれは認めた。
「ロッキーとタメを張れるな。見事なモンだ」
「ロッキーか」
「知ってるのか」
「地上の世界にあると聞いたことがある。だが私はそれよりもアルプスの方に興味を感じる」
「またどうして」
「あの少女の話を聞いたのでな」
 ジノは急に優しい顔になった。
「親友の励みで立ち上がる麗しき少女の話・・・・・・。何と素晴らしいことだろうか」
「またえらくロマンチストだな」
「いや、違うんじゃないのか」
 素直に感動を述べるトーマスに対して部下達は少し違っていた。
「俺その話知ってるんだけれどよ」
「どうなんだ」
 彼等はヒソヒソと話をしていた。
「可愛い女の子が主人公なんだよ」
「本当か!?」
「ああ。ハイジっていう元気な女の子でな。そしてその友達はクララっていうんだ」
「ふむ」
「立ち上がるのはその女の子なんだ」
「そうなのか」
「それがまた可憐な少女なんだよ。そっちの趣味の奴にはたまらないようなな」
「おい、それはもしかして」
「ああ」
 彼等の声はさらに小さくなった。
「あの鬼のバレンシア少佐が」
「まさかな・・・・・・」
「そこの二人」
「は、はい」
「何でしょうか」
 二人はその当人の声を聞きビクッと背筋を伸ばした。
「何か見えたか、そちらでは」
「い、いえ何も」
「異常なしであります」
「そうか」
 ジノはそれを聞いて頷いた。
「貴殿の方は」
「こっちも何ともねえぜ」
 トーマスはそう答えた。
「のどかなもんさ。このまま何時までも飛んでいたいものだぜ」
「そうも言ってはいられないがな」
「わかてるさ。まあこれが仕事ってやつだ」
 トーマスはそうぼやきながらも哨戒を続けていた。だが彼等自体は何も見つけ出すことはできなかった。だが彼等はある者達に見られていたのであった。
「人間共か」
「はい」
 ミマシがククルに対してそう述べた。
「まさかとは思いますが」
「そうじゃな」
 そしてククルは頷いた。
「我等の隠れ家が見つかった。こうしてはおれぬぞ」
「ではすぐに兵を送りますか」
「いや、送るだけでは駄目じゃ」
 ククルはそれには首を横に振った。
「では」
「先程の戦の傷は癒えておるか」
「ハッ」
 イキマがそれに頷いた。
「皆ククル様の御声を今か今かと待ち望んでおります」
「ならばよい。では行くとしよう」
「皆でですか」
「あの者達が尖兵であったならどうする」
 ククルはそうミマソとイキマに対して問うた。
「そしてその後ろに本軍がいたならば。悠長なことは言ってはおれぬ」
「それでは」
「うむ、行くぞ」
 こうして邪魔大王国の者達は総力を挙げてジノとトーマス達に向かって行った。ジノ達はすぐにその大軍を察知した。
「敵か!?」
「ラングランか」
「いや、違う」
 だがジノはラングラン軍である可能性を即座に否定した。
「精霊レーダーの反応が普段とは違う」
「言われてみればそうだな」
 トーマスもそれに頷いた。
「だがこりゃ一体何だ?見たことのねえ反応だが」
「それは私にもわからん」
 ジノは首を傾げてそう答えた。
「これは一体・・・・・・何者だ」
「何者でも構うことはねえぜ。やっちまうとするか」
「いや、待て」
 だがジノはそれに反対した。
「何だ、怖気付いたのか?」
「違う。命令を忘れたか」
「ああ、あれか」 
 それを言われて思い出した。
「敵を見つけたならばシュメル師範の邸宅の方に一旦退却しろってことだったな」
「そうだ。命令は絶対だ。では退くとしよう」
「了解」
 そう言いながらも内心面白くはなかった。
「今日のラッキーナンバーはセブンだったか」
 不意にそう呟いた。
「どっかに書いて置いておきゃよかったかもな。残念なことをした」
「どうしました、隊長」
 それを聞いて部下の一人が声をかけてきた。
「ラッキーがどうしたとか。何かあったのですか?」
「いや、何でもねえ」
 彼はそれには答えずそう言って誤魔化した。
「独り言だ。気にするな」
「わかりました。それでは」
「ああ」
(何なら手の平にでも書いておくとするか)
 内心そんなことを考えながらシュメルの邸宅に向かっていた。何故向かわなければならないのかはこの時は特に疑問には思ってはいなかった。
「何だと、また邪魔大王国が」
「はい。どうやらこちらに向かっているようです」
 大文字に対してシーラとエレがそう話していた。
「先程ニーとキーンの小隊から連絡がありました」
「こちらに全軍を挙げて向かって来ているそうです」
「全軍で」
「ヘッ、遂に出て来やがったか」 
 宙が彼等の会話を聞いてそう言った。
「邪魔大王国、今度こそぶっ潰してやらあ」
 そう言っていきまく。だがそこにいつものように美和がやって来た。
「駄目よ宙さん、無理をしちゃ」
「何だ、またかよ」
「邪魔大王国の強さを忘れたの?ヒミカだって大変な強さだったじゃない」
「今の俺はあの時の俺とは違うさ」
 だが宙は自信に満ちた声でそう返した。
「やってやらあ。ミッチー、フォローを頼むぜ」
「もう、人の話は聞きなさいよ」
「生憎そんな暇もなくてな。じゃあ行くぞ」
「待ってよ、宙さん」
 こうして宙は格納庫に向かって行った。その後を美和が追う。大文字達はそれを見届けた後でまた話に戻った。
「鋼鉄ジーグはもう出撃しますが」
「はい」
「我等も出なければならないようですな」
「そうですね。しかし問題があります」
「それは」
「ここの防衛のことです」 
 エレの側にいるエイブがそう答えた。
「防衛」
「言わずとも知れたことですが。シュメル氏の護衛はどうされますか」
「そうでしたな」
 大文字はその言葉を聞いて考え込んだ。
「どうしたものでしょうか」
「魔装機を何機か置いては」
「いや、それも」
 ミドリの言葉にも首を傾げさせた。
「今は少しでも戦力が必要だ。迂闊に彼等を置くことは」
「敗北に繋がるということですね」
「はい」
 今度はシーラの言葉に頷いた。
「ですがここに誰か置かないと」
「それもわかっている」
 またミドリの言葉に応えた。
「しかし」
「困ったものですな」
 カワッセが難しい顔を作った大文字の顔を見てそう呟いた。彼等は今どうするべきか深刻に悩んでいたのである。だがそこで思わぬ方向から助け舟が出て来た。
「ロンド=ベルの武人達よ」
「貴方は」
 みればシュメルであった。彼はロザリーを連れて大空魔竜の艦橋に来ていたのだ。
「どうしてここに」
「案内してくれた者がおりまして」
「大文字博士、申し訳ありません」
「シュメルさんがどうしても博士達にお話したいことがあるというので」
 大介と鉄也が大文字に対して申し訳なさそうにそう述べた。
「シュメルさんが」
「そうさ。まあ何を話すのかはちょっと見当がつかねえがな」
 見れば甲児も来ていた。どうやらマジンガーチームの三人が彼等を連れて来たようである。
「ふむ」
 大文字は彼等とシュメル達を見てから考え込んだ。
「ここにまでですか」
「はい。どうしてもお願いしておきたいことがありまして」
 シュメルは考え込む大文字の懐疑の念を打ち消すかのようにそう声をかけてきた。
「宜しいでしょうか」
「どうやら是非共聞かなければならないお話のようですな」
「そうかもしれません」
 シュメルはそれを否定しなかった。
「それでも宜しいでしょうか」
「そうですな」
 彼はそれを聞いてまた暫く考え込んだ。それから口をまた開いた。
「御聞きしましょう。してそのお話とは」
「ロザリーのことです」
 シュメルはそう答えた。
「そちらの方の」
「そうです。実は彼女のことで貴方達にお願いがありまして」
「先生、止めてよ」
 ロザリーはその横でシュメルに対してそう言っていた。
「いいのよ、私のことは」
「残念だがそういうわけにはいかない」
 シュメルは首を横に振ってそう返した。
「最早一刻の猶予もならないからな」
「けど」
「ロザリー」
 シュメルはその目でロザリーを見据えた。不思議と剣の使い手特有の鋭さはなかった。温かい目であった。
「私の頼みだ。聞いてはくれないか」
「先生の」
「そうだ。それでは駄目だろうか」
「・・・・・・わかったわ」
 ロザリーは溜息を吐き出してそう答えた。
「それじゃあ先生の言葉に従うことにするわ」
「済まないな。では」
 そしてあらためて大文字達に顔を向けた。
「ロザリーをロンド=ベルで預かって欲しいのですが」
「ロンド=ベルにですか」
「はい」
 シュメルは頷いた。
「最近何かと騒がしいですし。無闇に戦火に晒されるよりは戦場にいた方が身の危険も少ないだろうと思いまして」
「それでですか」
「木の枝を隠すには森の中で。そういうことです」
「そうですな」
 大文字はそれを聞いてあらためて考え込んだ。
「ただ、難点があります」
「それは」
「ロザリーさんの見の置き場ですが。どうされますか」
「それならば御心配なく」
 大文字の心配事にシュメルはあっさりとそう答えた。
「ロザリーは魔装機の腕もかなりのものですから」
「そうだったのですか」
「そうよ」
 ロザリーは得意そうな顔で言葉をかけてきた。
「私こう見えても魔装機も扱えるんだから。もっとも乗るのはもっぱら買い物用のルジャノール改だったけれど」
「だが今回は全く違うものに乗ってもらう」
「先生、今度は何なの?」
「ブローウェルだ」
「ブローウェルってあの」
「以前ゼオルート殿から譲られたものだが。ラングランの魔装機だ」
「魔装機ですか」
「ええ。それが何か」
「いえ、よく譲られたものだと思いまして」
「私とゼオルート殿の関係でしたから国家同士でも納得してくれたのです」 
 シュメルは率直に大文字にそう答えた。
「だから今こうして持っていたのです。これなら性能的にも問題はないと思いますが」
「確かに」
 大文字達はシュメルの言葉に頷いた。
「そういうことです。では宜しいでしょうか」
「はい」
 一同を代表して大文字が頷いた。
「ロザリーさんのこと、お任せ下さい」
「かたじけない」
 こうしてロザリーもロンド=ベルに入ることとなった。彼女はすぐにゴラオンの個室に案内された。
「へえ、個室なんだ」
 ロザリーは廊下を案内されながらそう言った。ゴラオンの軍艦然とした艦内を見回しながら。
「意外だった?」
 案内役を務めるセニアがそう言って彼女に顔を向けてきた。
「まあね」
 そしてロザリーはそれに頷いた。
「軍に協力してるから。タコ部屋かと思ってたのよ」
「それはないわよ」
 セニアは笑ってそう言った。
「軍に協力しているといってもここは軍隊じゃないから」
「そうなの」
「その証拠に兵器がバラバラでしょ?」
「そうらしいわね」
「地上の兵器もあればバイストンウェルの兵器もあるし。他の惑星からの兵器もあるわ」
「色々とあるのね」
「だから整備も大変だけれどね。けれど面白いわよ」
「面白いの」
「ええ。特に最近あたしが作ったマシンはね」
「あれ、マシン作れるの」
「そうよ。こう見えてもそっちには自信があるんだから」
 ウィンクしてそう述べた。
「任せておいて」
「そうなんだ」
「あんたのブローウェルもね」
「ええ」
「改造しておくわ。名付けてブローウェル改」
「あまり変化がないみたいだけれど」
「それがおおありだから。まあ楽しみにしておいてね」
「わかったわ。それじゃあ」
「ええ」
 こうしてロザリーは個室に入ってセニアと別れた。そして彼女は個室に備え付けられていたベッドに横たわり天井を見上げたのであった。
「何か急に決まったわね」
 そして今までのことを思い出していた。不意にシュメルの顔が脳裏に浮かぶ。
「先生、何であたしをここに入れたんだろう」
 それが不思議であった。今まで共に暮らしてきたというのに。
「まさか」
 ここであることに気付いた。だがそれはすぐに否定した。
「そんなことはないわ。気付かれる筈が」
 だが相手はラ=ギアスにおいてその名を知られた剣の使い手である。気付かない筈もないとは言えなかった。
「けれど」
 考えても結論は出なかった。考えれば考える程心が乱れていった。彼女はそれに耐えられなくなってベッドから起き上がった。そして部屋を出ようとした。
「あっ」
 扉を開けるとそこに二人の少女がいた。黒髪の少女と紫の髪の少女である。
「あんた達は確か」
「キーンよ」
「リムルです」
 二人はそれぞれロザリーにそう名乗った。
「確かオーラバトラーの」
「そうよ。やっぱり知ってたのね」
「ロザリーさんですよね」
「ええ」
 ロザリーはリムルの問いに頷いた。
「そうだけれど。どうしてここに」
「少し御聞きしたいことがありまして」
 リムルはそうロザリーに答えた。
「ロザリーさんはシュメルさんのところで剣を学んでおられたんですよね」
「まあ多少は」
「それなら剣の腕にも自信はおありですね」
「少しはね。けれどそれがどうかしたの?」
「はい」
 リムルはそこまで聞いたうえであらためて頷いた。
「実はそれで」
「あたし達に剣を教えて欲しいんだけれど」
「あんた達に!?」
「そうです。駄目でしょうか」
「ううん」
 リムルにそう言われ難しい顔をした。
「そうは言われても人に教える程上手くはないわよ」
「それでも」
「一緒に稽古するだけでもいいから」
「稽古だけでいいの?」
「はい」
 リムルはそれに応えた。
「是非。お願いします」
「あたし達最近何か剣の腕が頭打ちで。悩んでいて」
「そうだったの」
 ロザリーはそれを聞いて考える顔になった。それからまた言った。
「それならいいわ。一緒にやりましょう」
「いいんですか!?」
「こっちの稽古にもなるしね。じゃあ何処でやろうかしら」
「トレーニングルームが一つ空いているけれど」
「じゃあそこでしようか。二人共用意はいい?」
「はい」
「そう言うと思って木刀は用意しておいたから」
「木刀」
「ショウが作ってくれたんです。日本の剣道の稽古に使う木の刀だって」
「それを振ったり互いに形をやったりして稽古をするのよ。ただこれは両刃だけれど」
「まあそうでしょうね」
 ロザリーはそれを聞いて苦笑した。
「オーラバトラーも魔装機も剣を使っているんだから」
「そうですね」
「まあ片刃でも面白いかもと思うけれど」
「もうキーンたら」
「片刃か」
 ロザリーはそれを聞いてふと呟いた。
「あれ、何か?」
「いや、あのね」
 リムルの怪訝そうな言葉に応えた。
「バゴニアじゃ片刃もよく使うから。こっちの魔装機の装備だってそうでしょ」
「そういえば」
「何か変わった形のディスカッターだと思ったけれど」
「あれはラ=ギアスでも珍しい形の刀なのよ」
「そうなんですか」
「ええ。やっぱりオーソドックスなのは剣だし。あんなのは珍しいわね」
「へえ」
「そうなんだあ」
「それについても教えておきたいことがあるし。じゃあ行きましょう」
「はい」
「稽古となったら手加減はしないわよ」
「あら、それはこっちの台詞と」
 ロザリーは笑ってキーンにそう返した。
「あたしの剣技、思う存分見せてあげるわね」
 そんな話をしながら三人はトレーニングルームに向かった。そして爽やかに汗を流すのであった。
 稽古が終わりシャワーを浴び終えるとロザリーの心はもう晴れていた。だが個室に戻ることはなくそのままブリーフィングルームに直行することになった。
「ああ、来たか」
 ニーがロザリー達三人の姿を認めると声をかけてきた。
「丁度いい。実は今後の作戦のことでな」
「邪魔大王国のことかしら」
「そうだ」
 彼はリムルの言葉に頷いた。
「こちらに全軍を挙げて来ている。これに対してどうするかだ」
「といってももう決まっているでしょ」
「どういうことだ」
 彼はキーンの言葉にも応えた。
「戦うしかないでしょ。やっぱり」
「まあな」
 彼もそれは認めた。
「だが問題はそれだけじゃない」
「どう戦うか、かしら」
「そうだ。それについて話し合いたい。いいか」
「といっても断れる状況でもないし」
「行きましょう」
「ええ」
 こうして三人は部屋に入った。そこではもう既に主立った者達が集まっていた。
「こんな時に、といった心境だな、本当に」
 ピートがまずそう口を開いた。
「バゴニアだけでも厄介だというのに。ここで邪魔大王国まで来るとは」
「そうか?俺にとっちゃ好都合だぜ」
 だが宙はそれとは全く正反対であった。
「ここで奴等の息の根を止められるからな。思いきりやってやらあ」
「相変わらずだな」
「当たり前だ。奴等を倒す為に俺はいるんだからな」
 隼人にもそう答える。
「邪魔はするなよ。邪魔をするのなら例え御前でも」
「おいおい、誰が御前さんの邪魔をすると言った」
「ははは、それはわかっているつもりさ」
「頼むぜ、あの連中との戦いは正直御前さんが頼りなんだからな」
「ああ」
 宙は隼人のその言葉に頷いた。
「このラ=ギアスを奴等の墓場にしてやるぜ、絶対にな」
「墓場か」
 ここでサコンがふと呟いた。
「そうだ。それがどうした?」
「あのククルという女も倒すつもりなのだな」
「当たり前だろ」
 宙は迷わずにそう言葉を返した。
「邪魔大王国の奴等は俺が一人残らずぶっ潰してやるぜ」
「そうか」
 サコンはそれには特に反論せずゼンガーの方をチラリと見た。だが彼は意図的にかどうかはわからないがそれに関しては一言も語ろうとはしなかった。
「どちらにしろ明日にでも邪魔大王国の主力と正面からの戦闘になるな」
「ああ」
 皆竜馬の言葉に頷いた。
「おそらく今度も激しい戦いになるだろう。それで考えたんだが」
「何をだ?」
「ここは地中から攻めてみようと思うんだ」
「地中からか」
「じゃあ俺の出番だな」
 それに応えるかのように隼人が声をあげた。
「そうじゃないのか、リョウ」
「半分は当たっているな」
「半分か」
「そうだ。それだけじゃない。ここは大介君にも頑張ってもらいたい」
「僕もか」
「ドリルスペイザーがあったな」
「ああ」
「それを使ってもらいたいんだ。いいかな」
「僕としては特に反対する理由はないな」
「ではそれで決まりだ。これで二人だな」
「ちょっと、三人でしょ」
「おっと、済まない」
 ここでマリアの突込みが入った。ドリルスペイザーは彼女が操縦しているのである。


[323] 題名:第四十九話その二 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年04月13日 (木) 19時08分

 その頃月では一つのトラブルが起こっていた。
「あいつは何処だ」
 髭の男が辺りを見回して誰かを探していた。
「まさかまた何処かへ行ったとでもいうのか」
「そのまさかよ」
 ピンクの長い髪の少女がそれに答えた。
「今さっきどっかへ飛んで言ったわよ」
「何処へだ!?」
「港に」
「馬鹿な。港なんかで何をするつもりなんだ」
「そこに俺のやりたいことがあるって。それであたしが止める間もなく行っちゃったのよ」
「いつものことか。やれやれ」
「・・・・・・・・・」
 溜息をつく髭の男の後ろでは異様に大柄な女が黙って立っていた。
「どうするの、それで」
「どうすると言われてもな」
 髭の男はピンクの少女に言われて止むを得ずのように顔を上げた。
「こうなっては仕方ない。俺達だけでやるぞ」
「いつもみたいにね」
「仕方がない。いいな、ミレーヌ」
「うん、レイ」
 その少女ミレーヌ=ジーナスはレイ=ラブロックに頷いた。
「ビヒーダもいいな」
「・・・・・・・・・」
 大柄な女ビヒーダ=フィーズは答えるかわりにドラムを鳴らした。それが言葉であった。
「じゃあ行くか。今回は三人だ。ミレーヌ、しっかり頼むぞ」
「うん、任せておいて」
「おい、あれ見ろ!」
 ここで建物のモニターを見て街の人々が一斉に驚きの声をあげた。
「!?」
「何!?」
 それを聞いてミレーヌ達もモニターに目をやった。
「バルキリーだ!赤いバルキリーが映っているぞ!」
「赤いバルキリー!?」
「まさかロンド=ベルのミリア=ジーナスか!?」
 だがそれは違った。モニターに映るそのバルキリーは逆翼であった。それはミリアのバルキリーのシルエットではなかったのである。
「見たことのないバルキリーね」
「新型か」
「けどあのバルキリーって」
 それを見たミレーヌの顔が急に曇っていく。
「レイ、あれって」
「ああ」
 レイもミレーヌに対して頷いた。
「まさかとは思っていたがな」
「どうしよう」
「今更どうしようもない。俺達ではな」
「あいつ、死にたいの!?あんな場所に一機で」
「死ぬとは思っていないだろうな、奴本人は」
「嘘っ、戦場よ、あそこは」
「今は何処でも戦場だ」
 レイはミレーヌに突き放すようにそう述べた。
「それで戦場が何処にあるのか言っても無駄だろう」
「けど自分から行くなんて。馬鹿じゃないの」
「馬鹿なのもわかっているだろう?」
「うう・・・・・・」
 反論できなかった。確かに彼の今までの行動を見ればその通りであるからだ。
「だったらここは落ち着いて見るとしよう。あいつが何をするのかをな」
「仕方無いの?」
「仕方無い」
「あ〜〜あ、またこれよ」
 ミレーヌはそう言われて思わずそうぼやいた。
「何かあたし達っていつもあいつの我が侭に振り回されてるみたい」
「まあそう言うな」
「言いたくもなるわよ。大体戦場で歌を歌っても」
「何とかなる」
 だがレイはミレーヌのその言葉を否定した。
「リン=ミンメイだ」
「リン=ミンメイ」
「これでわかったな」
「・・・・・・ええ」
 その名を出されては頷くしかなかった。ミレーヌも音楽をしていればその名を知らないとは言えなかったからだ。その名は最早伝説とさえなっていた。
「では見るぞ、黙ってな」
「何もなければいいけれど」
 そのミレーヌの言葉をよそに赤いバルキリーは単身戦場に突入しようとしていた。
「ヘヘヘ、ここまであっという間だったな」
 そのバルキリーのコクピットには一人の若い男がいた。小さなメガネをかけ黒い髪を思い切り前に伸ばしている。そして派手なステージ衣装を着てその手にはエレキギターを持っている。コクピットにいると言えばまず誰もが冗談だろうと思うような格好であった。
「ちょろいちょろい。じゃあ早速はじめるとすっか」
「!?艦長」
 それにまず早瀬が気付いた。
「一機見慣れないバルキリーがこちらに向かって来ておりますが」
「バルキリーが」
「はい」
 そしてグローバルに対して頷いた。それからまた言った。
「逆翼のバルキリーです。あの新型です」
「確か量産にはまだ時間があったな」
「そうですが。しかし何故ここに」
「それはおいおいわかるだろう。だが問題は他にある」
「艦長、識別信号は発されておりません」
 クローディアがここでこう報告した。
「味方かどうかすらわかりません」
「では敵か」
「私もそう思ったのですが」
 しかし彼女はここで言葉を濁した。
「違うというのか」
「敵にしては。動きが破天荒過ぎます」
「ううむ」
 見れば確かにそうであった。そのバルキリーはただ戦場の中心に向かっていたのだ。まるで戦争を止めさせようとしているかのように。
「あれは一体何なのでしょうか」
「わからん」
 グローバルもそう答えるしかなかった。
「だが警戒は怠るな。いいな」
「了解」
 早瀬達はそれに頷いた。だがその間にも赤いバルキリーは戦場に向かって突き進んでいた。
「よし、そろそろいいな」
 男は不敵に笑いながらそう言った。
「それじゃあそろそろはじめるか」
 そう言いながらギターに手を添えさせた。
「おい皆」
 両軍に放送を入れる。
「聴こえてるか!?」
「その声は」
 それにまずアヤが反応した。
「まさか。こんなところに」
「!?大尉、どうしたのだ」
 レビがそれに気付いて声をかける。
「普段と全く様子が違うぞ」
「確かにな」
 ライもそれに頷いた。
「これではまるでコンサートに行ったようなものだ」
 何処と泣く落ち着かなくなっていたアヤを見てそう述べた。
「隊長、どうされたのですか」
「彼がいるのよ」
 アヤは目を輝かせてライにそう返した。見ればその目はまるでいたいけな少女の様に光っていた。
「彼」
「熱気バサラよ。今ここに来ているのよ」
「な、何だってえっ!?」
 それを聞いてライだけでなくリュウセイも驚きの言葉をあげた。見れば他の者もそうであった。
「おいどういうことなんだ、ここは戦場だぜ」
「それも戦闘中に。命が惜しくないというのか」
「命!?生憎俺はそんなものには興味がなくてな」
「おめえは」
「熱気バサラ!」
 バサラが答えるよりも前にアヤがその名を言っていた。
「本当!?本当にここに来たのね」
「おいおい、一体どうしたんだよ」
 バサラはそんなアヤを見て面白そうに笑った。
「サインなら後でしてくれよ」
「そうじゃないのよ。確かにサインは後でもらうけれど」
「結局もらうのかよ」
「何かコバヤシ大尉もリュウセイと根は変わらないか」
「おめえだってそうだろうが。盗人猛々しいってことわざを知らねえのか」
「そんなものとっくの昔に忘れてしまったさ」
「へっ」
「それよりもだ。あの男、これから何をするつもりなんだ」
「それだよな。見たところあのバルキリーは特別だ」
「ああ」
「武装もねえみてえだし。どうすっかね」
「俺のバルキリーに武器なんていられねえぜ」
「何か訳わかんねえこと言ってるな」
「これは予想外だ」
「そこにいるのはリュウセイ=ダテかよ」
「あれ、俺のこと知ってるの?」
「そうさ。話は色々と聞いてるぜ。何でも相当無茶なことをしているそうじゃねえか」
「無茶がロンド=ベルの花なんだよ」
「それでも御前のは異常だな」
「だからおめえは黙ってろよ」
「ではそうしよう」
 ライはリュウセイにそう言われ以後言葉を慎むことにした。それからバサラはまた言った。
「戦争に度になってるそうだな。しかしその戦争も俺が終わらせてやるぜ」
「それは幾ら何でも無理だろうな」
「それは俺の歌を聴いてから考えるんだな」
「歌を」
「そうさ。じゃあ聴きな」
 ギターに指をやった。そしてはじめてからかなり激しく弾きはじめた。
「いくぜ・・・・・・」
 次第にテンションがあがっていく。まるでそれを楽しむかのようにニヤリと笑った。
「よし、俺の」
 彼は言った。
「俺の歌を聴けーーーーーーーーーーーっ!」
 ギターをさらに激しく奏ではじめた。そして歌も歌う。それがロンド=ベルの将兵達にかなり大きな影響を与えていた。
「艦長」
「どうした」
 また早瀬がグローバルに報告をしてきた。
「今表われた熱気バサラというシンガーですが」
「うむ」
「彼の歌が思わぬ効果をあげております」
「それは一体」
「御覧下さい。我が軍の動きがよくなっております」
「ふむ」
 見ればその通りであった。攻撃力も機動性もかなりあがっていた。まるでバサラの曲に元気づけられているように。
「これについてどう思われますか」
「彼の歌の効果だと言いたいのだな」
「はい」
 早瀬はそれに頷いた。
「リン=ミンメイの時と同じものかと思われます」
「リン=ミンメイか」
「歌のジャンルこそ違いますが。同じような効果を今度は我々に対して与えてくれています」
「武器を使わずに、だな」
「はい」
「面白いことだ。我々はまた歌に助けられていることになる」
「そういうことですね」
「だがこれは好都合だ。一気に勝負をつけるとしよう」
「では全軍」
「総攻撃だ。マクロスも前面に出してくれ」
「了解」
 ロンド=ベルは攻勢に移った。木星トカゲの軍は瞬く間にその数を大きく減らしていった。
「あれ、妙だな」
 ダイゴウジは目の前で為す術もなくやられていく木星トカゲ達を見てふと呟いた。
「この連中こんなに弱かったか?」
「そういえばそうだな」
 ナガレがそれに応えて頷いた。
「幾ら何でもこれは弱過ぎる」
「というより俺達が普段より調子がいいように感じるな」
「サブロウタ」
「ダイゴウジさん、あんた特に乗ってるな」
「ん、そうか」
「何かな。あの兄ちゃんの曲に乗っているみたいだぜ」
「あいつのか」
 それに応えて後ろを見た。そこにはバサラのバルキリーがいた。
「行くぜ!」
 彼は一心不乱に曲を奏で歌っている。ここがまるでコンサート会場であるかのように。
「今日の俺は一味違うぜ!」
「何か凄い男だな」
「気に入ったみたいだな」
「あそこまで破天荒だとな。何か好感が持てる」
「あんたらしいね」
「アキト、御前もそうは思わないか」
「俺ですか」
「そうだ、どう思う?」
「そうですね」
 アキトは考えた後で答えようとした。しかしここでユリカがモニターにニュッと出て来た。
「ねえアキト」
「わっ、ユリカ」
「今いいこと考え付いたんだけど」
「何だい、それは」
「どうで碌なことじゃねえぞ」
「知らないふりをしておこう」
「ああ」
 サブロウタとナガレはそれを見てヒソヒソと話をしていた。ダイゴウジは特に興味を示してはいない。
「この戦い終わったら二人でファイアーボンバーのコンサートに行きましょうよ」
「えっ、また急に」
「思い立ったが吉日よ。いいと思わない?」
「それは・・・・・・」
「二人で楽しくコンサートでデート!さいっこうよねえ!」
「ううん」
「ね、二人っきりの時間を過ごしましょうよ。折角なんだし」
「ミスマル大佐」
 だがここで早瀬もモニターに現われた。
「早瀬さん」
「どうしてここに」
「聞こえていましたよ、さっきから全部」
「何だ、そうだったんですかあ」
「笑い事ではありません」
 頭をかいて笑うユリカに対して厳しい言葉を返す。
「今は戦闘中です。無闇は私語は謹んで下さい。いいですよ」
「わかりましたあ」
「テンカワ少尉も。いいですね」
「はい」
「アキトって少尉だったのかよ」
「サブロウタ、御前もだぞ」
「えっ、今知ったよそれ」
「ちなみに俺は大尉だ」
「ダイゴウジさんも出世したんだな」
「私は中尉だ」
「じゃあ俺とアキトだけかよ、少尉なのは」
「いや、あの三人娘もだぞ」
「あれっ、そうだったんだ」
「副長は少佐だがな。ちゃんと階級はある」
「今まで知らなかったよ、何か凄い妙な感じがするな」
「俺達だってそうだぜ」
「おっ、三銃士のお出ましだな」
「わかってんじゃないか、サブロウタ」
「何かこうここの雰囲気ってのは俺達に合ってていいね」
「へっ、よく言うぜライト」
「御前も最初軍に入るのに抵抗があったじゃねえか」
「それはそれこれはこれ」
 ライトはケーンとタップに対しそう返した。
「今は違うんだな、これが」
「そうなのか」
「少なくとも俺は誰かさんみたい自慢のリーゼントをバッサリとやられちゃいないしな」
「それ思い出させるなよ」
「俺は大丈夫だったぜ」
「タップのそれは地毛だろうが。俺のはセットしてたんだよ」
「へえ、あんたリーゼントにしてたのかよ」
「何か妙か?」
 サブロウタにそう返した。
「これでも個人的には気に入ってたんだぜ。ビシッと決まってな」
「何かリーゼントっていうと敵のイメージが強いんだよな」
「誰だよ、それって」
「ティターンズのジェリドやヤザンなんかがそうだろ。ヒーローにリーゼントは似合わないぜ」
「そういう御前の髪の色は何なんだよ。地毛かよ、それ」
「ああ、これか」
 サブロウタは自身の金色の長髪を眺めながら得意そうに笑っていた。
「これな、染めてるんだよ」
「何だ、そうなのか」
「リョーコの緑色の髪だってそうだぜ。あれは染めてるんだ」
「へえ」
「フォウさんのはどうかは知らねえがな。そういう人もいるってことさ」
「何か触れてはいけない核心に触れちまった気がするな」
「こら、そこ」
「危ないネタは振らない」
「私のこれは地毛よ」
 しかしフォウはそれでもモニターに出て来てそう答えた。
「答えになってるかしら」
「まあ」
「何か話が収まりそうにもないのでこれで止めておくけれど」
「丁度そんな方もおられるし」
「それって誰だよ」
「ほら、あれ」
 ライトはケーンとタップの言葉に答え戦場の中央を指差した。
「あそこに丁度一人」
「おお」
 そこにはスレイがいた。彼女はまだアイビスと激しい攻防を展開していたのだ。
 ドッグファイトを展開する。互いにきりもみ回転をしながら攻撃を仕掛ける。二匹の大蛇がその隙を窺い合っているようであった。だがそれは大蛇ではなかった。二つの流星であったのだ。
「クッ、この動きについてこれるとは!」
「また腕をあげたじゃないか」
 アイビスは焦るスレイに対してそう言葉をかけてきた。
「流石だね。褒めてやるよ」
「貴様ごときに!」
 スレイはそれを聞いて激昂した。
「褒められるいわれはない!」
 そしてビームを放ってきた。しかしそれはアイビスに見切られていた。何なくかわされてしまう。
「今度は甘いね」
「クッ!」
 スレイは思わず舌打ちしてしまった。焦りが増す。
「何処までも私を愚弄してくれる!」
「どうしてそう思えるんだい?」
「何!?」
「あたしが何時あんたを愚弄したんだい?いつもそう言うけどさ」
「それは」
 答えようとするが言葉が思い浮かばなかった。
「貴様は私の・・・・・・」
 言おうにもそれ以上出なかった。スレイは沈黙してしまった。
「スレイ、まだ意地を張るの?」
 今度はツグミが言った。
「その声はツグミか」
「ええ」
 ツグミはそれに応えて頷いた。
「ずっと一緒だったのよ。アイビスと」
「そうか。では私のことも見ていたのだな」
「ええ」
「私があがく姿を。さぞかし堪能したことだろうな」
「そんな・・・・・・」
 スレイのお世辞にも上手とは言えない煽り言葉に対して言葉を失ってしまった。
「満足か?私のその様な姿を見て。かってはDCで一ニを争うエースパイロットでありテスト生でも最も優秀だった私がアイビスごときにムキになる姿を見られてな。さぞかし満足だろうな」
「スレイ」
 ツグミより先にアイビスが口を開いていた。
「あたしのことは何を言ってもいい。そんなの気にしたりはしないからね」
「何が言いたい?」
「そのかわりツグミに対して言うのは許さないよ、絶対に」
「絶対に、か」
「そうさ、今はそらさ。覚悟はできてるだろうね」
「それは私の言葉だ」
 アイビスはそう言って身構えた。
「アイビス、ツグミ」
 その声の険しさが増す。
「貴様等を倒す、必ずな」
「今ここでかい?」
「そうだ」
 そう答えた。
「行くぞ。最早容赦はしない」
「面白いね。じゃあこっちから行くさ」
「アイビス」
「心配することはないよ」
 心配そうな声をかけてきた相棒に対して言った。
「あたしにはあんたがいるから。あんたがいる限り大丈夫さ」
「有り難う」
「話は済んだか」
「ああ」
 アイビスは答えた。
「じゃあ行くよ。覚悟はいいかい」
「無論」
 スレイも迷いはなかった。
「この一撃で決める」
「来な。あんたの好きなようにね」
 アイビスは言った。
「あたしはそれを受けてやるよ。何時でもね」
「ならば!」
「来たわ、アイビス!」
「わかってるよ」
 ツグミにそう返した。
「そうくるのなら!」
 アルテリオンは動いた。銀の影が消えた。
「クッ!」
「スレイ、確かにあんたは凄いよ」
 何処からかアイビスの声がした。
「けれどね」
 彼女はまた言った。
「あんたには・・・・・・迷いがあるんだ!」
「馬鹿な、私に迷いなぞ」
「じゃあ何でそんなにいつも焦ってるんだい?」
「それは」
「答えられないね。そういうことさ」
 アイビスはそんな彼女に対してまた言った。
「あんたはどうしようか迷っているんだ。そのベガリオンをどう使うのかをね」
「そんなことは決まっている!」
 強い声でそう叫ぶ。
「貴様を倒す為だ、アイビス!」
「そうかい」
 それに応えた。ベガリオンの前に姿を現わした。
「なっ、前に!」
「ずっとここにいたのさ」
 彼女は驚くスレイに対してそう言った。
「私の前にだと!」
「そうさ。だけどあんたは気付かなかった」
「どういうことだ」
「あんたは前を見ていなかったんだよ。周りを、そして自分が見たいものしか見えちゃいないんだ。だからあたしにも気付きはしなかったのさ」
「戯れ言を」
 だが彼女はそれを否定した。
「目の前にいるのなら。最早容赦はしない!」
「そうはいかないんだよ」
 アイビスはまた言った。
「今のあんたには」
「黙れ!」
 ここでベガリオンの攻撃が放たれる。しかしそれはアルテリオンにかわされてしまった。
「チィッ!」
「あたしはね、今も全然動いちゃいないのさ」
「まだ言うか!」
「言ってやるよ。あんたが目に見えるものを信じようとしない限りはね。そしてそうである限りあんたは」
「なっ!」
 姿を消した。また辺りを見回す。
「何処だ!」
「あたしは勝てないのさ」
 アルテリオンが前に姿を現わした。先程と全く同じであった。
「グウウ・・・・・・」
 パイロットにとってこれ程屈辱的なことはなかった。スレイは歯噛みするしかなかった。
「わかったのならまた来るんだね」
「情をかけるというのか、この私に」
「生憎あたしはそんな殊勝な女じゃないよ」
「では何故」
「またあんたと会いたいだけさ」
「なっ・・・・・・」
 スレイはそれを聞いて絶句した。衝撃がその全身を走った。まるで稲妻の様に。
「今何と・・・・・・」
「愛の告白と言いたいところだけれどね。残念だけれど違うよ」
「アイビス」
 調子に乗るかのように言うアイビスに対してツグミが言葉を入れる。
「どうしたの、今日は。何かおかしいよ」
「そうかも知れないね」
 アイビスは意外にもそれに頷いた。
「けれど。これは全部本心なんだよ」
「本心なの」
「そうさ。少なくとも嘘は言っちゃいないよ」
「そうだったの」
「スレイ」
 アイビスはスレイに顔を戻した。
「わかっていると思うよ、あんたは」
「何をだ」
「自分自身のことをさ。わかったらまた来な」
「貴様に言われずとも」
 まるで反抗するかのような口ぶりであった。そこには普段の高慢なまでの自信はなかった。何かに反抗するかのように子供じみたものを持っていた。
「また来る。その時こそ貴様もツグミもヴァルハラに旅立つ時だ」
 そう言い残してその場を後にした。その時にはもう戦争はあらかた終わってしまっていた。やはりロンド=ベルの勝利であった。
「本当に素直な奴じゃないね」
「アイリス、今日は一体どうしたのよ」
 ツグミは後ろからアイリスにそう問いかけてきた。
「おかしいわよ、本当に」
「それはさっき答えたよ」
 だがアイリスはそれにはあえて答えようとしない。腕を振って笑ってそう返す。
「二回答えるのはちょっと勘弁してもらいたいよ」
「じゃあ率直に聞くけれど」
「ん!?」
「スレイのこと、本当に待ってるのよね」
「あたしは嘘は言わないよ」
 これこそが他の何よりもわかり易い言葉であった。
「これでいいかい?」
「わかったわ」
 ツグミはそれに頷いた。彼女のことも長い付き合いでわかっていたからである。
「じゃあ貴女の好きなようにして。戦闘に関しては貴女に全てを任せているんだから」
「悪いね、いつも」
「悪くなんかはないわ。けれど」
「けど・・・・・・何だよ」
「貴女は私のパートナーなのよ。それは忘れないで」
「ずっとか」
「当然よ。私と貴女は一緒にいる運命なんだから」
「運命」
 アイリスはそれを聞いてハッとした。
「アルテリオンもベガリオンもそうだったんだな」
「そうよ、今更何言ってるのよ」
「いや」
 アイリスは今自身が口にしたいことを言えないのがわかっていた。どちらにしろツグミにはわかっていることだろうとも思ったのも事実である。
「ツグミ」
「何かしら」
「あ、いや」
 言おうとしたが止めた。
「何でもない。気にしないでくれ」
「わかったわ。じゃあそろそろ帰りましょ。用意はいいわね」
「ああ」
 こうして戦いを終えた彼等は帰還した。そこではまた別の話が起こっていた。
「まさかこんなことになるなんてね」
 アヤはいささか考え込みながらそう言った。
「何と言えばいいのかしら、この場合は」
「そうね」
 セシリーもアヤと同じ様に考え込んでいた。
「彼が来るなんて」
「正直思いもしなかったわ」
 クリスが言った。ロンド=ベルの面々は先程の事態にかなり面食らっていたのであった。
「おいおい、何をそんなに驚いているんだよ」
 だがその張本人であるバサラは特に変わった様子もなくそう彼等に対して言った。
「俺はここに用があって来たんだからな。宜しく頼むぜ」
「用があってだと!?」
 ブライトがそれを聞いてその眉を顰めさせた。
「それは一体どういうことなんだ。教えてもらおうか」
「理由は簡単さ」
 彼は笑ってブライトにそう返した。
「俺の歌を聴かせる。そして戦争を終わらせるんだ」
「戦争を」
「そうさ。リン=ミンメイみたいにな」
「ミンメイみたいにか」
 輝はそれを聞いて呟いた。
「それじゃあまさか」
「ゼントラーディとの戦争は歌で終わったよな」
「ああ」
「じゃあ今回もそれで終わらせられると考えてな。それでここにわざわざ来たってわけさ。宜しくな、これから」
「宜しくって」
 恵子がそれを聞いて驚きの声をあげた。
「まさかロンド=ベルに入るつもりなんですか!?」
「ああ、その通りさ」
 バサラは胸を張ってそう返した。
「部屋はないのかい?そうならコクピットで寝泊りするけれどよ」
「いや、それは大丈夫だが」
 ブライトが彼にそう答えた。
「我々は四隻の戦艦を擁している。その中にはマクロスもある」
「へえ」
「だからそちらの心配はない。食べ物のこともな」
「有り難いね。じゃあいいんだな」
「いや、だがそれは」
 しかしブライトの顔は苦いままであった。
「我々としては。君の参加は」
「言われても俺の意志は固いぜ」
「どういうことだ」
「何と言われてもここにいるからよ。宜しく頼むぜ」
「だが」
「まあ細かいことは気にしないでくれ。金はこれでどれだけでも稼ぐからよ」
 そう言って背中のギターを親指で指し示した。
「安心してくれよ」
「そういう問題じゃないの」
「ん!?」
 バサラはその声にハッとして後ろを振り向いた。するとそこには見知った顔が並んでいた。
「見ないと思ったら。こんなところにいたのね」
「何だ、御前等も来てたのかよ」
 だがバサラは彼女達を見ても一向に変わりはしなかった。
「何だじゃないわよ」
「大体コンサートをほったらかしにして何をしていたんだ」
「見ての通りさ」
 バサラはしれっとして言った。
「俺の歌を皆に聴かせていたってわけさ」
「何の為によ」
「戦争を終わらせる為だ」
「バッカじゃないの!?ミンメイさんにでもなるつもり!?」
「ミンメイさんか、いいねえ」
 バサラはその名を聞いてニヤリと笑った。
「俺ももうすぐあの人みたいに伝説になるんだな」
「またそんなこと言って」
 これには流石に呆れてしまった。
「あんたがなれる筈ないじゃないの」
「いや、それはわからないな」
 ブライトがそこに入ってきた。
「えっ、まさか・・・・・・」
 ミレーヌは彼を見て少し驚いた顔をした。
「ブライト=ノア大佐!?ロンド=ベルの」
「そうだが」
「嘘みたい。こんなところで会えるなんて」
「私はそんなに有名人だったのか」
「どうやらそうらしいな」
 アムロがそれに対して応えた。
「アムロ=レイも。何か夢みたい」
「どうやら俺もらしいな」
 ミレーヌの言葉に苦笑した。
「それであんたロンド=ベルに入るつもりなの!?」
「ぞうじゃなかったら来る訳ねえだろ」
「戦争を終わらせるって。相変わらず破天荒なんだから」
「全くだぜ」
 忍が頷いた。
「こんな滅茶苦茶な奴だとは思わなかったな」
「藤原中尉が言うんだから本物だよな」
「うるせえ」
 バーニィの言葉に突っ込みを返した。
「まあ断られても俺は入らせてもらうぜ。そしてこの銀河に俺の歌を響かせてやるんだ」
「そう言っていますが」
 ブライトはそう言ってグローバルに顔を向けた。
「どうしますか?」
「面白いな」
 だがグローバルはそれを聞いても特に変わったところはなかった。
「熱気バサラ君だったな」
「ああ」
「君の参加を歓迎しよう。是非共頼む」
「やっぱりお偉いさんは違うね。そうこなくっちゃ」
「そして君達も」
「あたし達も!?」
 ミレーヌはそう言われてキョトンとした顔になった。
「そうだ。彼と同じグループを組んでいるのだったな」
「ええ、まあ」
「それはそうですが」
「・・・・・・・・・」
 レイも答えた。だがビヒーダは相変わらずであった。
「どうかな。部屋も食べ物もあるが」
「それはいいですけれど」
「何かあるのかね?」
「まあちょっと」
 ミレーヌは言った。
「ペットのことで」
「ペット」
「グババっていうんですけれど。その子も連れて来ていいですか?」
「ああ、いいとも」
 グローバルはそれも認めた。
「そんなことならな」
「よかった。それじゃあ」
「おいおい、それでいいのかよ」
「それでじゃないわよ」
 ミレーヌはバサラに言い返した。
「あたしにとっては凄く大事なことなんだから」
「やれやれだぜ」
 何はともあれこうしてミレーヌ達の参加も決定した。彼女達はマクロスに入ることになった。ミレーヌは毛だらけのマリモに似た大きな目を持つ生き物を連れて来た。
「ここよ、グババ」
「グババ」
 グババはミレーヌの肩でミレーヌにそう言われてにこりと笑った。
「それがグババなのね」
「貴女は」
「私は早瀬未紗。このマクロスのブリッジオペレーターよ」
「そうなんですか。宜しくお願いします」
「こちらこそ。ところで一つ聞きたいことがあるんだけれど」
「何ですか?」
「貴女の楽器は何かしら。よかったら教えてくれないかしら」
「ベースですよ」
「ベース」
「はい。それとヴォーカルを担当してます」
「ヴォーカルはバサラ君だけじゃなかったの」
「あいつだけじゃないんですよ、うちのバンドは」
 ミレーヌは笑ってそう答えた。
「ヴォーカルが二人いるんですよ」
「そうだったの」
「それでレイがキーボード、ビヒーダがドラムなんですよ」
「四人のグループなのね」
「はい、それが何か?」
「うん、ちょっとね」
 早瀬は彼女に応えて微笑んだ。
「彼がバルキリーに乗っているから。若しかすると貴女達にも乗ってもらうかも知れないわ」
「あたし達もですか!?」
「グババ!?」
「ええ」
 驚きの声をあげるミレーヌとグババに答えた。
「どうかしら。嫌だったらいいけれど」
「あいつは言われなくても出て行くし」
「まあ彼のことはね。仕方ないわ」
 流石の早瀬もバサラに対してはいささか面食らっていた。
「それでもね、放っておくと危険だしね。こちらとしても心配なのよ」
「あいつはそう簡単には死にませんよ」
「いや、それでもね」
 早瀬は苦笑した。
「本当に死なれるわけにもいかないし」
「けれどあのバルキリーには武装はありませんよ」
「そうらしいわね」
「知ってたんですか」
「さっきメカニックから聞いたのよ」
「そうなんですか」
「それで色々と話をしたのだけれど貴女達に乗ってもらうことになったらそのバルキリーも武装はない予定よ」
「あたし達にも」
「ええ。音楽に専念してもらう為にね。それでいいかしら」
「といってもあたしバルキリーに乗ったことなんか」
「それなら僕がやるよ」
 マックスがここで出て来た。
「おじさん」
「おい、おじさんはないだろ」
 マックスはおじさんと言われて苦笑した。
「僕は君の従兄なんだ。おじさんじゃないだろ」
「けれど前からそう呼んでたじゃない」
「それでもだよ。確かに結婚して子供もいるけれど」
「夫婦でパイロットだったわよね」
「ああ。よく知ってるな」
「有名だもの。ロンド=ベルの青いバルキリーと赤いバルキリーって」
「そうだったのか」
「それも夫婦で。あたしいつも学校で言ってるのよ。自慢のおじさんだって」
「だからおじさんじゃないんだって」
「マックス少尉も従妹にはかなわないようね」
「からかわないで下さいよ」
 早瀬にまでそう言われては参るしかなかった。それでも彼は言った。
「操縦は僕が教えるよ。それともミリアの方がいいかい?」
「おじさんだと何か。親戚だし」
「僕は駄目か」
「御免ね。それにミリアさんも」
「ミリアは厳しいぞ」
「そうなの。何かあまり合わないような気がするし」
「そういえばバサラ君はどうやって操縦を身に漬けたのかしら」
「あの動きははじめてのものではなかったですね」
「あいつは特別なんですよ。運動神経も抜群で」
「そうだったの」
「パイロットとしての経験はない筈ですけれどそうしたことは得意なんですよ」
「じゃあ彼には特にそうした教育は必要ないわね」
「そう思います」
「それじゃあ彼はいいわ。問題は貴女達ね」
「どうしますか」
「そうね」
 早瀬は暫し考え込んだ。そしてそれから言った。
「まだ色々と話し合ってみるわ。私一人で決められるものでもないし」
「そうですか」
「正式に決定するまでは待機していて。いいかしら」
「わかりました。それじゃあ暫くお邪魔します」
「ええ。こちらこそ」
 早瀬は笑みで返した。こうしてミレーヌ達もロンド=ベルに参加することとなった。
 
 戦いが終わりロンド=ベルは地球圏へと再び向かった。ネオ=ジオンは一時戦場から退いていた。
「木星トカゲ達はどうしているか」
 ゼクスはスレイのベガリオンのモニターにその姿を映していた。ロンド=ベルへの迎撃は彼が担当していたのである。
「はい」
 スレイはそれに応えた。
「既に全機戦場から離脱しました。一部は火星に帰ったようです」
「そうか」
 ゼクスはそれを聞いて静かに頷いた。
「わかった。それならいい」
「特佐はどうされるおつもりですか」
「私か?」
「はい。木星トカゲの部隊は壊滅しましたし。このままでは」
「私の方も今防衛ラインを築いているところだ」
 ゼクスはそう答えた。
「だが一つ問題がある」
「ティターンズですか」
「そうだ。パプテマス=シロッコが動きはじめたのだ」
「こんな時に」
「デラーズ閣下も応援に来られるそうだが。これもまた問題だ」
「何故でしょうか」
「バルマー帝国の本隊が地球に向かって来ているらしいのだ。まだ未確認の部分が多い情報だがな」
「バルマーが」
「今アクシズを空にするわけにはいかない。デラーズ閣下にはアクシズの防衛をお願いしたいと思っている」
「ですがそれでは」
「構わんさ。私はどのみちここでは余所者だ」
 ゼクスはそう言って笑った。
「喜んで捨石になろう。それで死ねばそれまでのことだ」
「・・・・・・・・・」
「だが君はそうはいかないだろう。兄君のこともある」
「・・・・・・・・・」
 スレイは何故か答えようとしなかった。黙って俯いている。
「これからは君自身が決めるといい。何事もな」
「それは一体どういう意味でしょうか」
「そのままの意味だ。特に深い意味はない」
 そう返すだけであった。
「いいな。あと」
「はい」
「兄君は今こちらに向かっている。合流するかね」
「はい」
 スレイはこくり、と頷いた。
「ならいい。ではな」
「はい」
 こうしてゼクスはモニターから姿を消した。スレイは暗くなったモニターを見て深刻な顔になていた。
「お兄様・・・・・・」
 一言そう呟いただけであった。それ以上言葉は出なかった。
 赤い流星が銀河の中に消えていった。只一つのその星は何かを欲していた。しかしその欲するものが何であるかはその星自身もわかってはいなかった。だが運命は変わろうとしていた。彼女が気付かないうちに。


第四十九話   完


                                        2005・10・13


[322] 題名:第四十級話その一 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年04月13日 (木) 18時59分

           熱気バサラ
「それでね」
 アヤは何時になく上機嫌で皆に対して語っていた。
「彼ったら本当に格好いいんだから」
「何だ、またアイドルか?」
 そこに通りかかったリュウセイはそれを聞いて一言そう言った。
「アヤも相変わらずだよな。今度は何処のアイドルなんだ?」
「アイドルじゃないわよ」 
 リュウセイにもアヤの上機嫌な声が向けられた。
「アーティストよ」
「画家か何かか?」
「違うわよ。ミュージシャンよ」
「何だ、そっちかよ」
 ゼオラにそう言われてあらためて頷いた。
「まあどっちでもいいか。それで誰に夢中なんだ、今度は」
「熱気バサラよ」
 アヤは熱っぽい声でそう答えた。
「ああ、ファイアーボンバーの」
 リュウセイはそれを聞いて思い出した。
「確か最近やたら派手なコンサートやttらしいな」
「そうなのよ、バルキリーで出て来て。もう最高だったわ」
「バルキリーでかよ」
 イサムがそれを聞いて呆れた声を出した。
「またえらくクレイジーだな、おい」
「同感だ」
 さしものガルドも今回ばかりはイサムを引き合いには出せなかった。
「とんでもない奴がいるものだ」
「そのとんでもなさがいいのよ」
 しかしアヤの言葉は変わりはしない。
「熱気バサラらしくて。ぶっ飛んでいて」
「そういう問題かしら」
 エマはそれを聞いて首を傾げさせた。
「幾ら何でもそれはやり過ぎじゃないかしら」
「それで終わりじゃないのよ、彼は」
「まだあるのかよ」
「今度は何をしたのだ」
 イサムとガルドはもう興味津々で聞いていた。見れば他の者も同じである。
「バルキリーに乗り込んでね」
「そして」
「銀河に飛び上がったのよ。ギターを持ちながらね」
「おいおい、ギターを持ってバルキリーの操縦とはまたハイセンスだな」
 さしものフォッカーも完全にいつものクールさと斜に構えた素振りはなかった。
「俺でもそうはいかないぞ」
「そうね」 
 クローディアも珍しくフォッカーを窘めない。
「貴方よりも無茶をする子がいたなんて」
「私も初耳ね」
 早瀬もそれは同じであった。
「そこまで滅茶苦茶だと。かえって尊敬するわ」
「滅茶苦茶なら俺達だって大概なものだがな」
 忍は獣戦機隊のメンバーと共にバンドも組んでいる。だがその彼等でもコクピットにギターを持ち込んで演奏したりはしないのである。
「エレキギターをね、もう派手に鳴らして」
「はあ」
「俺の歌を聴けーーーーーーーって。もうしびれたわ」
「同感」
「ある意味は」
 皆それを聞いて完全に呆れてしまっていた。
「そこまでやると立派よね」
「熱気バサラにしかできないわよね」
「そう、そこなのよ」
 アヤは胸を張ってそう言った。
「その誰にもできないことを平然とやってのける。そこに憧れるのよ」
「そんなの俺だって得意だぜ」
 今度はリュウセイが胸を張った。
「常識や理屈なんて大嫌いだからな」
「御前のは単なる我が侭だ」 
 しかしライはそう言ってそれを否定した。
「我が侭と横紙破りはまた違う」
「ちぇっ」
「けどバサラもかなり我が侭だって聞いたよ」
 エルがそう言った。
「何でも人の話を全然聞かないんだって」
「そうなの」
「ええ。というか耳に入らない」
 ルーの問いにも答えた。
「メンバーはそれで何かと苦労しているらしいわよ」
「だろうね。あんな個性が強いの一人いるだけで何かと大変よ」
 モンドがそれに対してそう述べた。
「うちも結構そうした人間が多いしね」
「イーノ、そりゃ俺のことか」
「御前以外に誰がいるってんだよ」
 ビーチャがイーノにかわってジュドーにそう声を返した。
「何でも派手にやりゃいいってもんじゃねえぞ」
「それが戦争だろうが。っていうか手前等だってかなり派手にやってんじゃねえかよ」
「そうだったかな」
「そうだったかなじゃねえよ。この前の戦いでハイメガランチャーぶっ放しまくってただろうが」
「それが俺のやり方なんだよ」
「モンドもエルも。ミサイルやらビームやらバズーカやらどんどん使ってたじゃねえか」
「仕方ないだろ、向こうも山程の数で来るんだし」
「こっちはこっちで大変なのよ。そういうあんたもどれだけミサイル撃ってたのよ」
「悪いが覚えちゃいねえ」
「全く。ハイメガキャノンも飽きる程撃ってるし。だからダブルゼータの側にいると何時巻き添え食らうかわからないのよ」
「そん時はよけるんだな」
「まずは味方を撃たないようにしなよ」
「まあそう言うなって」
「ところでね」
 イーノが話題をかなり強引に変えにかかってきた。
「何だ」
 そして肝心のジュドーがそれに乗ってきた。成功であった。
「そのファイアーボンバーだけれどね」
「ああ」
「ミレーヌ=ジーナスってマックスさんの何なのかなあ」
「ああ、ミレーヌちゃんか」
 それを聞いたケーン達が身を乗り出してきた。
「それなら俺が知ってるぜ」
「そうなの」
「当たり前さ。この俺に知らないことなんてねえぜ」
「女の子のことはな」
「この前ナデシコのプールでリンダちゃんにメロメロだったしな」
「ええい、五月蝿え」
 囃し立てるタップとライトに睨みを利かせてから話を再開させてきた。
「それでミレーヌちゃんだけれどな」
「うん」
「実はマックスさんの従妹なんだ」
「従妹!?」
「それ本当!?」
「はい、そうですよ」
 丁度そこに同席していたマックスがそれに頷いた。
「ミレーヌはね。僕の従妹なんですよ」
「へえ」
 皆それを聞いてまたしても驚いた。
「そうだったんですか」
「意外でしたか?」
「まあ姓は一緒だったんでまさかとは思いましたけれど」
「しかしケーンもよくそんなの知ってたよな」
「マギーちゃんに教えてもらったのかい?」
「違うさ。アイドル雑誌で読んだんだよ」
「アイドル雑誌!?」
「ああ。それを読んでわかったんだよ。ミレーヌちゃんの詳しいことがな」
「その雑誌のことは僕も知っていますよ」
 マックスはケーンにもそう答えた。
「まさか公になるとは思っていませんでしたけれど」
「丁度その雑誌にミレーヌちゃんのグラビアもあったし。それで買ったんですよ」
「結局それなんだね。納得」
 雅人はいつもの調子のケーンの言葉を聞いて妙に納得していた。
「歳相応ってやつだよな、本当に」
「ただミレーヌちゃんってなあ」
 それでもケーンは何やら不満そうであった。
「どうしたい」
「相談に乗ろうか、竹馬の友」
「どうせお金とリンダのこと意外でだろ」
「まあそう言うなって」
「お金なんてどうせ大した価値もないものさ。本当の愛に比べたらな」
「ライト、その台詞はどっかの薔薇の騎士みたいだから止めときな」
「ハマーン様、このマシュマー=セロ」
「うわあ、何かそっくり」
 プルはライトの他愛のない悪ふざけを聞いてキャッキャッと笑い出した。
「面白いね、プルツー」
「私達も人のことは言えないがな」
 そうは言いながらも彼女も笑っていた。
「何かな。本当に似ている」
「まあそっちの方はいいさ。それでミレーヌちゃんのことだけれどな」
「ああ」
「彼女なあ」
「どうしたんだよ」
 二人だけでなく他の者も溜息をつくケーンを心配そうに眺めた。
「何かなあ、胸がねんだよなあ」
「何だ」
 それを聞いた女性陣は一斉に白け返ってしまった。
「何かと思えば」
「下らない」
「下らなくなんかねえよ」
 ケーンはそうした冷淡な女性陣に対して敢然と反旗を翻した。
「胸ってのはなあ、どれだけ大事なモンか。わかってねえのかよ」
「そんなもの自然と大きくなるわよ」
 ルーが白けた声のままそう返す。
「ゼオラを見なさい、ゼオラを」
「えっ、あたしなの?」
「まあたまたま目に入ったから。けれど本当に立派じゃない、その胸」
「肩が凝っちゃうけれどね」
「胸が大きいと肩が凝るのですか」
「ルリルリ、知らなかったの?」
「はい。ハルカさんはどうなのでしょうか」
「私?まあ時々ね」
「そうですか」
「胸ってのはなあ、大きくないと何かこう物凄く悲しいモンなんだよ」
「まだ言うか、こいつは」
「そんなんだから最近皆から変な目で見られるのよ」
 だがそんなレッシィとアムの視線にも屈しはしなかった。
「だからミレーヌちゃんは悲しいんだよ。何か可哀想でな」
「いや、それはどうかな」
 だがここでその反旗に逆襲を加える者が姿を現わした。
「小さい胸は小さい胸でそれでいいと思うよ」
「そういうあんたは」
「はい」
 見ればガムリンであった。彼は落ち着いた声でケーンの前に姿を現わした。
「確かにミレーヌちゃんの胸は小さいけれど」
「ああ」
「だからといって彼女の魅力は少しも損なわれてはいないと思うよ」
「むっ」
 対峙するケーンの目が光った。ガムリンもそれを受けて立った。
「胸が大きいということはそれだけでいいことだと思うけれど小さいことも同じ位いいことなんじゃないかな。私はそう思うのだけれどね」
「いや」
 ケーンはそれに首を横に振ろうとする。
「俺はリンダのあの豊かな胸に惚れたんだ」
「さりげなくとんでもないこと言ってるよな」
「プールのあれか」
 タップとライトはヒソヒソと囁き合っていた。
「だからこそ俺は・・・・・・巨乳だ!」
「ならば私も言おう」
 ガムリンも負けてはいない。
「ミレーヌちゃんの美しさを際立たせるが為に貧乳こそ最高だ!」
「・・・・・・何か傍目から見ると馬鹿以外の何者でもないですね」
「メグミ、それは言わない約束だよ」
 沙羅がメグミに対してそう言った。
「男ってのは訳のわからないものに執念を燃やすんだからね」
「それでも今回は何か」
「だから言わないでおきなよ。男ってのは片目を瞑って見てやるのも必要だっていうしね」
「けど沙羅さんは何かいつも睨んでる感じですよね」
「あ、あたしのことはどうでもいいんだよ」
 そう言われてかえって沙羅の方が狼狽した。
「あたしはね。まあ色々とあったから」
「そうでしたね」
 それはメグミも知っていた。申し訳なさそうに項垂れる。
「わかってくれたらいいよ。しかしこの二人は」
 見ればケーンとガムリンはそれぞれの主張を頑として譲らず対峙を続けていた。
「何処までやってるんだよ。こうなったらとことんまでやらせてみたくなったね」
「それでも答えは出ないだろうな」
 亮が沙羅の言葉にそう述べた。
「平行線にしかならないな」
「そうなのかい」
「元々どっちが正しいかどうかは関係のない話だ。あくまで個人的な嗜好の話だ」
「まあそう言えばそうだね」
「それで結論が出る筈もない。何処までいっても平行線だな」
「じゃあ止めるのかい?」
「いや」
 しかし亮はそれには首を横に振った。
「今はいい。二人が疲れきるまでやらせよう」
「わかった。じゃあ見とくよ」
「ああ」
 だが決着はつかなかった。何時の間にか誰もいなくなりケーンとガムリンだけが何時までも議論のようなものを続けていたのであった。
 ロンド=ベルはその間にも地球圏へ向けて進んでいた。やがて月の圏から離れようとしていた。
「また月とも暫くお別れだな」
「そうね」
 ナナは一矢の言葉に頷いた。
「それにしても近くで見ると何か全然違うね」
「何がだ?」
「お月様よ。地球から見たらあんなに綺麗なのに側で見たら穴だらけで。何か不思議ね」
「何でもそういうものだ」
「京四郎さん」
「側で見るのと遠くで見るのとでは勝手が違う」
「そうなの」
「人間でもそうだ」
「そんなものかしら」
「誰でもな。一矢にしろそうだな」
「俺がか」
「ああ。遠くから見ると頼もしいが側で見るとこんな危なっかしい奴もいない」
「心外だな、それは」
「いや、あながちそうとも言えないね」
「アイビス」
「一矢、あんたは向こう見ず過ぎるよ。何でも一途に思い過ぎるんだ」
「俺はそんなつもりは」
「あんたにそんなつもりはなくてもね。そうなんだよ」
「・・・・・・・・・」
 一矢はアイビスにそう言われ俯いてしまった。
「あたしもそうだからね。よくわかるんだ」
「ほう、意外な言葉だな」
「意外かい?」
 彼女はそれを聞いて京四郎に顔を向けて笑った。
「じゃあ今までどう思っていたんだい、あたしのことを」
「クールな奴とばかり思っていたがな」
「そうか。案外知られていないんだね」
「御前さんは気取り屋なんだよ」
 そこに04小隊のメンバーがやって来た。そしてモンシアが言った。
「何か一匹狼でな。もうちょっと可愛くできねえのかよ」
「それは押し付けではないですか」
 アデルがそれに意を唱えた。
「可愛いも可愛くないもあくまで主観的なものですし」
「俺はその主観で言ってるんだよ」
「やれやれ、いつものことか」
 ベイトがそれを聞いておどけてみせた。
「全く。困った奴だ」
「側にいても遠くにいてもモンシアさんはモンシアさんですね」
「うるせえ、それがどうした」
 彼は二人に言われてそう開き直った。
「俺には俺のやり方があるんだよ。指図するな」
「残念だがそういうわけにはいかん」
「大尉」
「モンシア、御前がスタンドプレーに走ればそれだけ他のメンバーに迷惑がかかる。それはわかるな」
「そ、そりゃまあ」
「第四小隊は一人一人のチームワークが命だ。それを忘れるな」
「は、はい」
「チームワークか」
 一矢はそれを聞いて呟いた。
「そういえば俺は御前達によく助けてもらってるな」
「当たり前じゃない」
「何かと世話を焼かされているがな」
 ナナと京四郎がそれに答えた。
「それがガルバーの役割だから」
「だがくれぐれも無茶はするなよ」
「ああ」
 一矢はそれに頷いた。
「そうだな。俺達はパートナーだ」
「そうよ」
「そしてそれは俺達だけじゃない」
「わかったよ、それも」
 彼等は今コスモクラッシャー隊と小隊を組んでいた。そのうえでの話であった。
「あいつ等もいるしな」
「そういうこと」
「全く。やっとわかったようだな」
「済まない」
「だが謝る必要はない」
 京四郎は一矢のそんな謝罪の言葉を受け流した。
「俺達が欲しいのは御前の謝罪ではなく力だからな」
「そして無茶をしないこと。いいかしら」
「じゃあそれを見せてやるよ」
「お願いするわね、お兄ちゃん」
 そんなやりとりを終えて彼等もその場を後にした。第四小隊のメンバーも去りアイビスは一人そこに残る形となった。
「パートナー、か」
 そこでツグミの顔が脳裏に浮かんだ。
「あたしにはあいつがいるか」
 だがそう思ったところで別の者の顔も浮かんだ。
「えっ!?」
 アイビスはその顔が脳裏に浮かんで思わずギョッとした。
「な、何でだろ。あいつの顔が」
 どうして浮かんだのかは彼女にもわからなかった。だが浮かんだのは事実であった。
「まさか。そんなこと有り得ないよ」
 頭を振ってそれを否定する。
「そんなことが有り得ないって」
 そう言いながらその場を立ち去った。それから暫くして敵影発見を知らせる警報が各艦に鳴り響いた。
「また敵か」
 皆それを聞いてうんざりとした声をあげた。
「またティターンズか?それともギガノスか?」
「いや、そのどちらでもない」
 グローバルが出撃に向かおうとするパイロット達の愚痴に答えた。
「ネオ=ジオンだ。しかも火星の後継者達だ」
「あいつ等か」
 アキトがそれを聞いて顔を引き締めさせた。
「また来たのか。懲りない奴等だ」
「元々機械だからな。それも当然だろ」
 サブロウタがそんな彼に軽い声を向けた。
「気にしない気にしない。そういうふうにインプットされてるんだからな」
「いや、そうじゃなくて」
「戦えるのが嬉しいのだな」
 今度はダイゴウジが出て来た。
「アキト、御前の気持ちはよくわかる」
「そうでもなくて」
 無闇に熱血に入ろうとするダイゴウジに額に汗をかきながら言う。
「言われなくともな。それでこそ心の友だ」
「そうでもなくて」
「御二人さん、こんなところで油を売っている暇はないぞ」
 しかしここでナガレが助け舟を出してきた。
「早く出撃しないとな。我々だけが遅れるぞ」
「おっと、そうだった」
「今度こそ一番乗りをしなくてはな」
 比較的単純な二人はそれに乗った。そして格納庫に急行した。
「アキト、君もな」
「は、はい」
「安心しろ、今回はいないようだ」
「連中ですか」
「そうだ。どうやら別行動を採っているらしい。何でもポセイダル軍とネオ=ジオンの戦いも熾烈になってきているらしい」
「ポセイダル軍と」
「本隊が地球圏に戻って来たらしい。今冥王星付近だそうだ」
「冥王星に」
「その関係でそちらに向けられているらしい。どちらにしろ今我々の前には姿を現わさないさ」
「だといいですけれどね」
「言いたいことはわかっている」
 ナガレは複雑な顔を作ったアキトに対してまた言った。
「だが今やるべきことをやろう。全部それからだ」
「それからですか」
「そうだ。とりあえずは今の敵を倒そう。いいな」
「わかりました。それじゃあ」
「ああ。後ろは任せてくれ」
 そして彼等も戦場に向かった。その目の前には既に木星トカゲの大軍が布陣していた。
「何かこの連中だけは数が全く減らないな」 
 洸がライディーンからその大軍を見てこう呟いた。
「まるで宇宙怪獣みたいだぜ」
「言われてみれば何かそんな感じだな」
 神宮寺がそれに頷く。
「数で押してくるしな。しかし連中はこんなもんじゃなかった」
「ああ」
「ガンバスターの連中が命をかけて戦わなくちゃいけなかった程にな。エクセリオンも全てを賭けて」
「辛い戦いだったな」
「今もそうだけれどね」
 マリは二人が深刻になりそうなところで言葉を入れてきた。
「だから二人共そんなに暗くならない、今もそうなんだから」
「おいおい、何か今日はやけに立派だな」
「マリっぺも成長したのかね」
「もう」
 それに対して茶化して返す二人に頬を膨らます。
「そんなこと言ってると知らないわよ、本当に」
「そうですね。マリさんは今回は正しいことを仰っています」
 猿丸がここでマリの援軍に入った。
「洸さんもミスターも変に暗くならないように。いいですね」
「猿丸大先生に言われるとな」
「そうなのかな」
「そうなのよ」
 マリはまた言った。
「だからリラックスしていきましょう。いいわね」
「よし」
 洸はそれを受けて身構えた。弓矢を取り出す。
「じゃあこれでいくか。ミスター、バックアップを頼むぜ」
「よし」
 ブルーガーはライディーンのサポートに回った。その後ろを守る。
「ゴォォォォォォォォォッドゴォォォォォォォォォォォォガン!」
 そしてその弓矢を放った。それを合図として戦いがはじまった。
 まずはライディーンのゴッドゴーガンが木星トカゲの一小隊を刺し貫いた。幾つかの爆発が起こり銀河を照らす。そこにロンド=ベルの攻撃が襲い掛かる。木星トカゲの一団はそれによりまずはその第一陣を壊滅させられた。
 しかしそれで終わりではなかった。彼等はその数を頼りに襲い掛かる。戦いは本格的なものに入っていった。
「いけっ!」
 ブルーガーがミサイルを放つ。それで一機撃墜した。そしてまた一機。神宮寺の操縦は実に巧みなものであった。
「凄いじゃない、ミスター」
「今更わかったのか?」
 マリの言葉に不敵に笑いながらそう返す。
「だったら少し鈍過ぎるな」
「わかってたけどね。長い付き合いなんだし」
「おや、長かったか」
「悪魔帝国との戦いからじゃない。忘れてもらっちゃ困るわ」
「マリさんは参加してきたのが新しかったですから」
 ここで猿丸が注を入れてきた。
「仕方がない一面もありますよ」
「ちぇっ、猿丸さんまでそんなこと言っちゃって」
「それより御前さんはレーダーの方を頼むぜ」
「私はサブパイロットを務めていますから」
「了解」
 四人はこうして何だかんだ言って的確にブルーガーを操縦していた。ライディーンのサポートとして立派に戦っているといって過言ではなかった。
 それはコスモクラッシャーも同じであった。同じように戦闘機でありながら多くのパイロットが搭乗している。それだけにそれぞれの力が合わさると強かった。
「何か戦闘機も強いんだな」
「おい、何当たり前のことを言っているんだ」
 アランが勝平に対してそう声をかけてきた。
「御前も戦闘機に乗っているだろうが」
「あ、そうだったか」
「勝平、御前そんなことまで忘れていやがったのか」
「あきれた」
「うるせえ、ザンボットに乗ってるから仕方ねえだろうが」
「そんな問題じゃねえだろ」
「大体自分が元々乗っている機体位覚えておきなさいよ」
「相変わらずだな、本当に」
 アランはそんな彼等を見て笑ってはいたが戦いは真剣なものであった。烏の様に舞い敵を倒していく。そして他にも戦闘機が戦場を駆っていた。
「アイビス、今日はどうしたのよ」
「・・・・・・・・・」
 アイビスはツグミの言葉にも応えようとはしない。ただ黙って戦場を駆っていた。
「何かおかしいわ、今日の貴女は」
「おかしいかい?」
 ここでようやく口を開いた。そしてこう尋ねてきた。
「今日のあたしは」
「ええ」
 ツグミは率直にそれに頷いた。
「どうしたの?何かに焦ってるみたいだけれど」
「焦ってる、か」
 それを聞いて顔を少し暗くさせた。
「そうかもね。何か胸騒ぎがするんだ」
「胸騒ぎ」
「あいつが来るんじゃないかと思ってね」
「あいつって」
「決まってるじゃないか、あいつだよ」
 アイビスは反論にならない反論で以って返した。
「わかるだろ?あいつだよ」
「それってまさか」
「やっとわかってくれたね」
 伊達にパートナーを務めているわけではなかった。彼女の言いたいことがわかった。
「来ると思うかい?ここに」
「そうね」
 ツグミはその眉を引き締めさせてそれに答えた。
「来るわ、絶対に」
「そうだね、来るよ」
「アイビスさん」
 そこにアラドとゼオラがやって来た。
「どうしたんですか、今日は」
「一人でこんなところにまで。危ないですよ」
「一人だからここまで来たんだよ」
「!?」
 二人はアイビスのその答えに目を丸くさせた。
「それって一体」
「どういう意味なんですか?」
「ヴィレッタさんやリンさんのところへ行って欲しいんだけど」
「どうして」
「来るのさ、あいつが」
 彼女は遥かな銀河の彼方を見据えてそう言った。
「あいつはあたしだけが狙いなんだ。だから」
「巻き添えになりますから。下がっていて下さい」
「ううん、どうしようゼオラ」
「どうしようって言われても」
 どうしたらよいのかゼオラにもわかりかねていた。アイビスはその間に速度を全開にさせた。
「行くよ、ツグミ」
「ええ」
 ツグミはそれに頷いた。そして二人は戦場の中央へと向かって行った。
「あ、行っちゃった」
「誰かを待っているみたいだけれど」
「誰かって?」
「そこまではわからないわよ」
 アラドの問いにバツが悪そうな顔をする。
「けど。あたし達もうかうかしていられないわ。行くわよ、アラド」
「お、おいちょっと待ってくれよ」
「遅いと置いてくわよ」
「おい、俺は子供じゃないんだぞ」
「身体はそうでも頭の中はまだ子供ってことよ」
「言っていいことと悪いことがあるぞ」
「じゃあそうじゃないってところを見せてよね」
「わかった。じゃあやってやらあ」
 そんなやりとりをしながら二人も戦場へ戻った。ロンド=ベルの激しい攻撃が仕掛けられている戦場の中央にアイビスのアルテリオンがその白銀の姿を現わすとそこに赤い姿のアーマドモジュールもいた。
「やっぱりいたね」
「御前を倒す為にわざわざここまで来たのだ」
 そのアーマードモジュールベガリオンに乗る女がそう言葉を返した。
「アイビス、覚悟はいいか」
「ああ、あんたが望むのならな」
 アイビスはそうその女スレイに言った。
「来な。今日こそは決着をつけてやるよ」
「望むところ。行くぞ!」
 加速した。そして全速力で突進しながらミサイルを放つ。
「これなら!」
「アイビス、来るわ!」
「わかってるさ」
 アイビスは冷静にそう答えた。そしてミサイルの手前でそのマシンを動かした。
「ムッ!?」
 それだけでミサイルはアルテリオンを素通りした。驚くべき運動性能であった。
「スレイ、また腕を上げたようだね」
 アイビスはそのミサイルを全てかわしたのを確認した後でスレイにそう言った。
「クッ!」
「けれどね。あんたに負けるわけにはいかないんだ」
「それはこちらとて同じこと」
 スレイはアイビスを睨みつけていた。
「御前を倒し・・・・・・私の方が上だということを思い知らせてやる!」
「じゃああたしは絶対に負けるわけにはいかない」
「御前が勝つとでもいうのか」
「いや」
 しかしそれには首を横に振った。
「あたしはね、少なくとも今のあんたに負ける気はしないんだ」
「戯れ言を」
「わからないのかい、そのベガリオンの本当の力が」
「ベガリオンの」
「そうさ。あんたのお兄さんが開発したそのマシン、今のあんたは完全に使いこなしちゃいない」
「戯れ言を言うな!」
 そう言われて激昂した。
「私が御兄様のマシンを乗りこなせていないというのか!」
「そうさ」
「あの時DCを捨てた御前達に何がわかるというのだ!ネオ=ジオンに身を寄せる私達の苦しみを」
「それはわかってるつもりさ。けれど今のあんたは完全に一つのことに捉われている」
「まだ言うのか」
「何度でも言ってやるさ。あんたはそうでもしないと昔からわからなかったからね」
「貴様も昔から変わりはしないな」
 逆襲の様にそう返した。
「あの時から私に対して。何故私の前にいつもいる!」
「さてね」
 それを言われてすっと笑った。
「悪いけれどそれはあたしにもわからないんだ。けれどあんたと話をしているとそれがわかってくるようになる。そう思って今ここにいるんだ」
「私に倒されにか」
「それでもわかるならいいさ。けれどこっちも全力でやるよ」
「全力でか。面白い」
 ベガリオンはまた加速をつけはじめた。
「ならば見せてみろ、御前のその何かを!」
「ああ、見せてやる、見つけてやるさ!あたしがあんたに何を求めてるのかをね!」
 二人はぶつかり合った。一度ではなく何度も。赤い星と白い星が激突する。そしてその向こうに何かを生み出そうとしていたのであった。




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