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第二掲示板@うらたにんわあるど

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[311] 題名:第四十一話その二 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年03月07日 (火) 19時43分

「じゃあやるか」
「ちょっと不安だけれどね」
「けれどこれしかないしね」
「おうよ。やいおばさん!」
「私は流星!赤い銀河に流れる赤い星!」
「・・・・・・何言ってるのかわからねえけれどよ」
 異様なテンションになっているキャラに戸惑いながらも言う。
「そこで大人しくしてな!俺達の力見せてやるぜ!」
「熱い!身体が燃える!」
 会話にはなっていなかったが戦いにはなっていた。四人はキャラとの戦闘を開始した。マシュマーはそれを見て笑っていた。
「見事だ、キャラ=スーンよ」
「あれが見事なんですか!?」
「見事ではないか。四人を相手にしているのだからな」
「まあ腕はいいですからね、あの人は」
「イリアはどうしているか?」
「あの小さいガンダムと戦っていますよ」
「ほう」
 見ればイリアの部隊はウッソの部隊と交戦していた。ラカンの部隊もいるが彼はバニングの部隊と戦っている。
「皆それぞれの相手を見つけているようだな。よいことだ」
「で、マシュマー様はどんな奴と戦われるんですか?」
「私か?私の相手は決まっている」
 ニヤリと笑ってそうに応えた。
「ジュドー=アーシタ、いるか!」
「言われなくてもここにいるぜ!」
 ジュドーが目の前にやって来た。Gフォートレスから素早くゼータに戻る。ルーやプル達も一緒であった。
「マシュマーさんよ、久し振りだな」
「ふふふ、元気そうで何よりだ」
「生憎俺はしぶといんでね。そう簡単にはやられねえよ」
「では私が御前を倒してやろう。この手で」
「できるのかい?」
 ハイパービームサーベルを抜いた。驚く程巨大な刀身であった。
「真の騎士道の前に不可能はない」
「相変わらずしょってるねえ」
 ルーがそれを聞いて笑った。
「参る!」
「いざ!ってところかな」
 マシュマーが真剣なのに対してジュドーは何処かお茶らけていた。
 だが戦いは真剣なものであった。二つの剣がぶつかり合った。
「やるな、やはり」
「あんたこそな。また強くなったんじゃないのか?」
「騎士は常に鍛錬を怠らぬもの」
 彼は言った。
「ジュドー=アーシタ、御前に遅れをとらぬ為にも!そしてハマーン様の為にも!」
「ハマーンか」
 それを聞いてジュドーの顔が少し変わった。
「また会うことになるだろうな」
「ジュドー、他のこと考えてちゃ駄目だよ!」
「プル」
「今はそこにいるおじさんにだけ集中しな!」
「こら、そこの娘!」
 マシュマーはプルツーのおじさんという言葉に反応した。
「私はまだ二十代前半だ!軽々しくおじさんと言うな!」
「立派なおじさんじゃないか」
「そろそろ腹が出て来ていたりして」
「そこの紫の髪の少女も元気そうだな」
「あら、覚えていてくれたの」
「貴様等だけは忘れようとしても忘れられん。嫌でもな」
「光栄ね」
「私は腹なぞ出てはおらん!その様なこと、鍛錬を積んでいれば起こらん!」
「けれど髪の毛はどうかな」
「そこの娘は余程私を怒らせたいらしいな」
「ネオ=ジオンにいる時見たぞ」
 プルツーはおくびもなく言った。
「毎朝毛生え薬をかけてマッサージしていたな」
「マシュマーさん、あんた・・・・・・」
「あれは整髪料だ、髪を整える為のな!」
「本当かね」
「怪しいよね」
「騎士は身だしなみにも気を使うのだ!覚えておけ!」
「何か騎士って忙しいのね」
「あいつだけだろ」
「とにかくそんなことはどうでもいい!ジュドー=アーシタ!」
「おうよ」
 ジュドーは彼に応えた。
「戦いを続けるぞ!いいな!」
「おうわかった、手加減はしねえぜ!」
「手加減されたとなれば騎士にとって最大の侮辱」
「あの兄ちゃんさっきからずっと騎士騎士って言ってるな」
 ケーンがそれを聞いて素朴な様子で呟いた。
「他に何か言うことねえのかな」
「いいんじゃねえの?見ていて面白いし」
「こらタップ」
 ライトがタップを嗜めた。
「いいじゃないか、見上げた精神だ」
「なあ、前から思ってたんだが」
「何だ?」
 ライトは今度はケーンの言葉に振り向いた。
「御前随分あの兄ちゃんに対しては寛大だな。何かあんのか?」
「!?何もないが」
「そうか?その割には色々と庇うよな」
「敵味方なしでな」
「まあそうかもな。言われてみれば」
 タップにも言われて頷いた。
「何かな、近いものを感じるんだ。俺はあそこまで真面目じゃないがな」
「ふうん」
「まあ似た者同士ってやつだな。はっきり言えば。親近感だろうな」
「そうなのか」
「ああした人ってのは敵だけれど最後まで生き残って欲しいとは思う」
「敵だけれどか」
「ああ。まあこんなこと言ったらまた大尉にどやされるけれどな」
「ははは、それはお互い用心しようぜ」
「ああ」
 そう言うドラグナーチームも戦いに加わっていた。正面はロンド=ベルの主力で攻勢を仕掛けていた。側面ではヒイロ達とゼクスが激しく剣を交えていた。
「ナタクを舐めるなあっ!」
 ウーヒェイが突っ込む。そしてツインビームトライデントでゼクスのトールギスに斬り掛かった。
「ゼクス様!」
 しかしそれを阻むようにかってオズにあったモビルスーツ達が前に出る。彼等はオズ、そしてマリーメイア軍崩壊後ネオ=ジオンに入っていたのだ。
「見ていてあまりいい気持ちはしないですね」
 それをアルビオンの艦橋から見ている一人の少女が呟いた。赤い髪と青い目を持つ少女であった。
 彼女の名はマリーメイア=クリシュナータ。かってオズのリーダーであったトレーズの娘である。マリーメイア軍の象徴として兵を挙げたがその壊滅後はリリーナと行動を共にしていた。そして今はアルビオンにおいてヒイロ達と共にいたのだ。
「リリーナさんのお兄様とヒイロさん達がまた戦うのを見るのは」
「これも彼が選んだ道ですからな」
 シナプスはそのマリーメイアに応えるようにして言った。
「仕方のないことです」
「それはわかっているつもりですけれど」
 だがマリーメイアの顔は晴れない。
「晴れませんね」
「お気持ちはわかります」
 だがそれ以上彼等は言わなかった。戦いに目を向けていた。
 ウーヒェイの前に立ちはだかるモビルスーツ達は瞬く間に薙ぎ払われた。アルトロンのトライデントの威力はそれ程凄まじいものであった。
「ゼクス!」
 ウーヒェイは彼の名を叫んだ。
「何故ネオ=ジオンなぞに!」
「義の為だ」
 アルトロンのトライデントを受け止めながら彼は答えた。鈍い効果音が戦場に響く。
「義だと!?」
「そうだ。私は危ういところをガトー殿に救って頂いた」
「ソロモンの悪夢にかよ!」
 そこにデュオが来た。彼もまた小隊を一つ薙ぎ払ってきていた。
「そうだ。私は義の為に生きる。それならば当然だろう」
「その為に多くの人間が死んでもかよ!」
「戦いにより人は死ぬのは道理」
 ゼクスは言った。
「だからこそ終わらせなければならないがそれにより犠牲が出るのは止むを得ない」
「どうやら今ここで話をしても無駄のようだな」
「ヒイロ」
 後ろから翼を持ったガンダムが現われた。ヒイロのウィングゼロカスタムである。
「行くぞゼクス、俺の前にいるのなら容赦はしない」
「無論」
 ゼクスは彼を見据えた。
「ここは通さぬ。我が誓いにかえて」
「誓いか。俺も誓った」
「何をだ?」
「平和を守り、戦いを終わらせるということを。リリーナにな」
「・・・・・・そうか」
 リリーナの名を聞いても彼は動じなかった。
「ではそれぞれの義の為に戦うとしよう」
「おいヒイロ」
 ここでデュオとウーヒェイが道を開けた。
「御前に任せるぜ。俺達は用事ができちまった」
「残念なことだがな。いいな」
「わかった」
 ヒイロは静かに頷いた。そしてデュオとウーヒェイが離れていくのを見送った。彼等はカトル、トロワと合流して他の敵にあたっていた。
 ヒイロとゼクスの戦いもはじまった。ロンド=ベルとネオ=ジオンのエースパイロット達がそれぞれの義の下において剣を交えていた。
 その中ネオ=ジオンの指揮を採っていたのはグレミーであった。彼は赤いバウを駆りながら戦場全体を見据えていた。
「まずいな」
 彼は戦場を見て一言そう呟いた。
「アリアスとオウギュストはどうしている」
「既に撃墜され戦場を離脱しました」
 傍らにいる緑の一般のバウに乗った男がそう報告する。
「正面は最早劣勢を覆うべくもありません」
「そうだな。そして側面も」
「はい」
 その部下はグレミーの言葉に頷いた。
「こうなっては緊急手段だ。ガトー殿にお伝えしてくれ」
「何と」
「コロニーの落下を速めてくれとな。いいな」
「わかりました」
 それを受けてその部下は後方に向かった。そして暫くしてコロニーがゆっくりと動きはじめた。それに最初に気付いたのは勝平であった。
「ん!?おい宇宙太」
「どうした?」
「あのコロニー動いてねえか?」
「馬鹿野郎!そりゃ地球に向かって落ちてるんだよ!」
「だからあたし達がそれを防ぐ為にここで戦ってるんでしょ!」
「いや、そうじゃなくてよ。何か動きが速くなってねえか」
「何!?」
 それを聞いて二人の動きが止まった。
「それ本当!?」
「ちょっと待ってくれ」
 宇宙太はそれを受けてザンブルのコンピューターで計算をはじめた。そして青い顔で言った。
「その通りだ。間違いない」
「どういうことなの、これって」
「おそらく我々の攻撃に危機を感じたネオ=ジオンがコロニーの落下を速めたのだろう」
「ブライト艦長」
「落下まであとどの位だ?」
「三分です」
 ルリが静かに言った。
「三分でアイルランドのダブリンの落下します」
「まずいな、それは」
「艦長、どうしますか?」
「コウ、アイビス」
 ブライトはここでコウとアイビスに声をかけた。
「君達に任せたい。いいか」
「はい」
「了解」
 二人はそれに頷いた。
「ガトーとスレイは頼む。そして」
「ブライト大佐、一つ重大なことを忘れてはいないかね」
「重大なこと!?」
 グローバルに言われて首を捻った。
「それは一体」
「コロニーを止める方法だよ。ネオ=ジオンを止めてもそれは一時的なものだろう」
「はい、そうですが」
「完全に防ぐにはコロニー自体を完全に破壊するしかない。その方法は考えているかね」
「内部からの攻撃を考えていますが。制止させた後で」
「そう、内部からだ」
 グローバルはその言葉を聞いて笑った。
「丁度おあつらえ向きの作戦を知っているのだが」
「まさか」
「うむ、用意はもうできているぞ」
「あれですね」
 ブライトもそれが何かわかった。微笑んで応えた。
「お願いできますか」
「うむ、任せてくれ」
「ロイ、聞いたかしら」
「おう」
「貴方達にやってもらうわよ。すぐにマクロスに戻って」
「了解した。スカル小隊」
 彼は自分の小隊にまず声をかけた。
「そしてダイアモンド=フォースもだ。いや、バルキリー全機に告ぐ」
「何かあるんですか?」
「マクロスに戻れ。いいな」
「!?」
 皆それを聞いて首を傾げさせた。
「またどうして」
「すぐにわかる。いいな」
「わかりました。それでは」
 彼等も軍人である。命令には従う。こうして彼等はマクロスに戻って行った。その間にコウとスレイは一直線にコロニーに向かっていた。
「ガトー!」
 デンドロビウムに乗るコウは叫んでいた。
「来い!ここで決着をつける!」
「コウ=ウラキか」
 彼はコロニーの前に仁王立ちしていた。そしてコウを見据えていた。
「来たか。そのガンダムを駆って」
「そうだ!コロにーは地球に落させない!」
 そう言いながらガトーのGP−02に向かう。
「俺の命にかえても!」
「それが今の御前の義だな」
「その通りだ!」
 彼はまた叫んだ。
「御前の義とどちらが上か今ここではっきりさせてやる!」
「面白い。どうやら前の戦いからさらに成長したようだ」
 そう言うとバズーカを投げ捨てた。
「な、核バズーカを」
「義による戦いにはこれは不要!」
 ガトーは言った。
「あくまで己の力量に頼るものだ!」
「そうか、なら行くぞ!」
「来い!」
「俺は地球の人達の為にコロニーを止める!」
「私はジオンの大義の為にコロニーを落下させる!」
 二つの義がぶつかり合う。その横でアイビスはスレイと対峙していた。
「久し振りだね、スレイ」
「アイビス、よくも私の前に」
 落ち着いているアイビスに対してスレイは怒気に満ちた目を向けていた。
「覚悟はできているわね」
「ああ」
 アイビスはそれに頷いた。
「あんたとは長い付き合いだ。けれどここは通らせてもらうよ」
「貴女には負けないわ」
「それはあたしの台詞だ」
 アイビスはそう言い返した。
「あたしはあんたと戦って、コロニー落としを防ぐ為にここに来た」
「コロニーを」
「そうさ。だから行くよ」
「アイビス」
 ここでツグミが言った。
「ツグミ」
「落ち着いてね。そして私の言うことをよく聞いて」
「ああ、わかったよ」
 彼女はそれに頷いた。
「私達もいるからね」
 後ろからヴィレッタの声がした。
「外野は任せておいて」
「元々そうしたことは得意だしな」
「ヴィレッタさん、レーツェルさん」
「いいね」
「ああ、頼むよ」
 アイビスは二人の言葉も受け入れた。
「あたしはスレイの相手をしなけりゃならないから」
「俺達もいるしね」
「アラド」
「アイビスさん、フォローは任せて」
「ゼオラ」
「リンさんもイルムさんもいるし。だからアイビスさんはアイビスさんのことに専念してよ」
「アラド、あんたもね」
「おい、そりゃどういう意味だよ」
「余計なことに気を取られて怪我しないように言ってるのよ」
「ちぇっ、お姉さんぶるなよ」
「仕方ないでしょ、実際お姉さんなんだから」
「俺はゼオラの弟じゃねえぞ」
「似たようなものでしょ」
「似てねえよ」
「ふふふ」
 そんなやりとりを見てアイビスの心がリラックスした。
「いいね、何だか落ち着いてきたよ」
「アイビス」
「ツグミ、やるよ」
「ええ」
 アルテリオンは巡航形態になっていた。そしてそれで右に動く。
 ベガリオンは左に動く。そして互いに隙を窺う。
「なあスレイ」
 アイビスはアルテリオンを動かしながらスレイに問うてきた。
「何だ!?」
「あんた、どうしてネオ=ジオンにいるんだい?」
「知れたこと」 
 スレイはキッとして言い返した。
「御兄様の為だ」
「フィリオのか」
「そうだ。だから私はネオ=ジオンにいる」
 彼女はそう言った。
「御兄様を御守りする為だ」
「わかったよ。それがあんたの義なんだね」
「何!?」
「あたしの義ってのと似てるかもな」
「ば、馬鹿な!」
 それを聞いて激昂した。
「私と御前が似ているだと!馬鹿なことを言うな!」
「いや、若しかすると似ているのかもね。あんたとあたしは」
「まだ言うか!」
「意地っぱりだし、素直じゃないしね。常に誰かがいないと駄目だしね」
「アイビス」
「あたしにはツグミがいる。そしてあんたにはフィリオがいる。同じさ」
「戯れ言を!」
 スレイは攻撃を仕掛けてきた。そして一気にアイビスを倒そうとする。
 しかしアイビスの動きの方が速かった。彼女はアルテリオンを上に滑らせた。
「なっ!」
「動きもね、似ているさ」
「クッ!」
「けれどここは勝たせてもらうよ。あたしは多くの人達を助けたい」
「私は御兄様を!」
「スレイ」
「何だ!」
 今度はツグミが声をかけてきた。スレイはキッとした目で彼女もいるアルテリオンを見据えた。
「今は無理だろうけれどよく考えて」
「何をだ」
「フィリオが本当は何を望んでいるかを。こんな罪もない人達を虐殺することかしら」
「ネオ=ジオンの大義は私にとってどうでもいい」
 スレイは言った。
「ただ御兄様が助かれば・・・・・・。他には何も要らない」
「そう。今はそうなのね」
「これからもだ!どう変わるというのだ!」
「人は変わるものよ」
 ツグミはまた言った。
「少しずつ。貴女もね」
「私を惑わそうとしても」
「いや、ツグミはそんなことはしないよ」
「敵の言うことなぞ!」
「確かに今あたし達は敵同士だけれどね。けれど言っていることに何かを感じないかい」
「詭弁だ!」
「今は詭弁に聞こえるだろうね、あんたには。けれど何時かわかる筈さ」
「まだ言うのか!」
「ああ。今わからなくてもね。絶対にわかるって思ってるから」
「わかったところで御前が死ぬことに変わりはない!」
 セイファートを放ってきた。ベガリオンの最大の武器だ。
「アイビス、よけて!」
「わかってるよ」
 アイビスは冷静にそれをかわした。一瞬アルテリオンが分身したかに見えた。
「なっ!」
 そしてセイファートをかわした。見事な動きであった。
「アルテリオンとベガリオンは互いの星だったね。フィリオが開発した」
「ええ」
 ツグミはアイビスの言葉に頷いた。
「だからね。やってやるよ。フィリオの意志を実現させることを」
「御兄様の意志を実現させるのは私だ!」
「今のあんたでは無理さ」
 アイビスはまたスレイの言葉を否定した。
「今のあんたにはね、絶対に」
「まだ言うのか」
「だから何度でも言ってやるって言っただろ。あんたみたいな強情な奴にはな」
「では黙らせてやる!」
「そうはいかないよ!」
 アイビスも攻撃に出て来た。アクセルドライバーを放つ。
「ツグミ!リミッターは!?」
「もう解除してるわ!」
「よし!じゃあ全力でいくよ!」
「ええ!」
 アルテリオンの動きがさらに速くなった。そして複雑な動きを示しながらスレイに向かう。
「これでわかるか!」
「わかるものか!」
 スレイも動いた。アルテリオンのそれに勝るとも劣らない動きだ。
「敵の・・・・・・裏切り者の言葉なぞ!」
「じゃあわからせてやる!ツグミ!」
「ええ!」
 また攻撃を放つ。今度はマニューバーであった。
「これでどうだいっ!」
「うわああっ!」
 さしものベガリオンでもそれをかわすことはできなかった。一発直撃を受けてしまった。
 中破した。それで動きを止めてしまった。
「あたしの勝ちみたいだね」
「まだだ!」
 スレイはそれを諦めようとしなかった。
「この程度で・・・・・・。私は・・・・・・」
「まだやるつもりかい」
「スレイ、もう今のベガリオンではこれ以上の戦闘は無理よ。貴女が一番わかっているでしょう?」
「無理なぞしてはいない」
 だがスレイはそれを認めようとしなかった。
「御兄様の為ならこの命、どうなろうとも」
「止めよ、スレイ=プレスティ」
「ガトー少佐」
「最早今の貴公にそれ以上の戦闘は無理だ。撤退せよ」
「しかし」
「コロニーは私一人でも守り抜く。その心配はするな」
「ですが・・・・・・」
「今無理をしてどうなるのだ?フィリオ殿がそれを望んでいると思うのか?」
「それは・・・・・・」
「わかったなら下がれ。いいな」
「クッ、了解した」
 スレイは不満を胸に抱えながらもそれを了承した。兄の名を出されては仕方がなかった。
「ではこれで撤退させてもらう。いいな」
「うむ」
「アイビス、ツグミ」
 スレイは最後に二人を見据えた。
「何だい?」
「この借りはきっと返す。覚えておけ!」
 そう言い残して戦場を去った。赤い星が遠くへ消えて行った。
「本当に頑固な奴だね」
「昔から変わらないわね」
 ツグミはアイビスの言葉に頷いた。
「素直じゃないし」
「けれど何時かあいつもわかるさ。その時だ」
「ええ」
 ツグミはまた頷いた。今度は笑顔で。
「何時になるかはわからないけれどね」
「貴女も変わったし」
「おい、あたしにも言うのか」
「当然よ。今まで一緒にいて苦労させられたから」
「ちぇっ」
 スレイの撤退によりコロニーの守りに穴が開いた。だがガトーはそこに兵を送った。
「ケリィ、カリウス」
「うむ」
「はい」
 ドラムロとドライセンが出て来た。
「スレイ=プレスティの分を頼む。いいな」
「わかった」
「お任せ下さい、ガトー少佐」
 それを受けて二個の小隊が今までアイビスとスレイが戦っていた場所に現われた。そしてすぐに攻撃を仕掛けて来た。
「まだこんな戦力が!」
「アイビス、よけて!」
 ドライブレードが来る。不意をつかれたアイビスはよけきれない。誰もが万事休すと思った。その時だった。
「こういう時の為にいるのよ」
 ヴィレッタのヒュッケバインがそこにいた。そしてサーベルでドライブレードを受け止めていた。
「なっ、ヒュッケバインだと」
「ヴィレッタさん!」
「危ないところだったわね、アイビス」
 ヴィレッタはアイビスに顔を向けて優しげに微笑んだ。
「けれど間に合ってよかったわ」
「あ、有り難うございます」
「御礼はいわ。元々これが私の仕事だし」
「けれど」
「おっと、それから先は言わない方がいい」
 レーツェルもいた。彼はケリィのドラムロと戦っていた。
「今は戦闘中だしな」
「は、はい」
「貴女達はコロニーをお願いするわ。もう時間がないから」
「わかりました」
「あと一分。頼むぞ」
「はい!」
 それを受けて加速した。そして全速でコロニーに向かう。既にアラドとゼオラがそこに張り付いていた。
「あ、アイビスさん」
「無事だったんですね」
「ああ」
 アイリスは二人に優しい笑みを向けた。
「何とかね。それよりコロニーを何とかしないと」
「ええ」
「わかってますって」 
 二人は既に動いていた。そしてコロニーの推進装置に攻撃を仕掛け、その動きを止めていたのだ。
「速いね」
「アラドがちょっとモタモタしていましたけれど」
「おい、また俺かよ」
「モタモタしてたのは事実じゃない。しっかりしてよね」
「ちぇっ、いつもこうだよ」
「ふふふ。けれどこれで一安心だね」
「いや、それにはまだ早いぞ」
「グローバル艦長」
 モニターにグローバルが姿を現わした。
「コロニーを完全に破壊しなければな。話は終わらん」
「コロニーを・・・・・・。どうやるんですか?」
「マクロスならできる」
「マクロスなら」
「そうだ。君達は危ないから下がっていてくれ。今まで御苦労」
「は、はい」
「何するつもりなんだろう」
「さあ。主砲で一斉射撃とか」
 マクロスが前に出て来た。既に変形し、姿を人型に変えている。
「総員衝撃に備えよ!」
「総員衝撃に備えよ!」
 グローバルの言葉をキムが復唱する。
「ダイダロス=アタック、行くぞ!」
「ダイダロス=アタック、準備完了!」
 マクロスの左腕が動いた。そしてコロニーに向かって突き出される。ダイダロスの中では既にフォッカー達がスタンバイしていた。
「おう、そろそろだぞ」
「はい」
 輝が頷いた。フォッカーはロイ=フォッカースペシャル、そして輝はアーマードバルキリーに乗っていた。
「皆いいな」
「はい」
 他の者達はデストロイドに乗っていた。マックスとミリアはスパルタン、ダイアモンド=フォースはトマホーク、イサムとガルド
はディフェンダー、キリュウとミスティ、レトレーデはファランクスであった。そして柿崎は。
「どうだ、それは」
「いい感じですね」
 フォッカーの言葉に応えた。彼は一際大きなデストロイドに乗っていたのである。
「モンスターの名前は伊達じゃないですね、凄い馬力ですよ」
「今回の主役は御前さんだからな。頼むぞ」
「はい」
 柿崎はコクピットでニヤリと笑った。
「任せて下さいよ」
「どうせならこれからはそれで戦ったらどうだ?」
「モンスターで!?」
「そうだ。バルキリーより性に合っているかも知れんぞ」
「止めて下さいよ、俺はやっぱりバルキリー乗りですから」
「そうか」
「こえは今だけですよ、本当に」
「じゃあそれでいい。だが、今は頼むぞ」
「はい」
「総員衝撃に備えておけよ」
「了解」
 皆フォッカーの言葉に頷いた。
「派手にやるからな」
「ええ」
「わかってますって」
 イサムも笑っていた。そしてその時を待っていた。
「行け!」
 グローバルはコロニーにダイダロスを打ちつけた。凄まじい衝撃がダイダロスを中心に走る。
「デストロイド部隊、発進!」
「よし来た!」
 フォッカーはその言葉を聞いて叫んだ。
「行くぞ!」
「はい!」
 ダイダロスの先端部が開かれるとそこからコロニーの中に雪崩れ込んだ。そして次々に攻撃に移る。
「柿崎!」
「はい!」
 柿崎のモンスターは入口に留まっていた。そしてそこから攻撃を加える。両手と、上の四つの巨砲で。他の者達を援護していた。
 モンスターの火力は絶大であった。コロニーの中が瞬く間に破壊されていく。
「すげえ・・・・・・」
「おい、ボヤボヤしてる暇はないぞ」
 フォッカーはモンスターの攻撃に驚くキリュウに対してそう言った。
「俺達もやらなくちゃいけないんだからな」
「あ、そうでした」
「弾が続く限り派手にやれ!いいな!」
「了解!」
「俺はコロニーの核を破壊する!総員時間まで思いきりやれ!」
 フォッカーはバルキリーを戦闘機形態に変形させた。そしてそのままコロニーの中を飛び回る。まるで風の様な速さであった。
「流石だね、やっぱり」
「キリュウ、だから攻撃しなさいって」
 レトラーデが彼を窘める。
「ボヤボヤしてると時間になるわよ」
「おっとと」
 他の者も派手な攻撃を加えていた。その間グローバルは自分の左腕にある時計をずっと眺めていた。
「そろそろいいな」
「はい」
 早瀬がそれに頷いた。
「では攻撃を終了しましょう」
「フォッカー少佐の方はいいか」
「俺の方はもう終わりましたよ」
 マクロスのモニターにフォッカーが姿を現わした。
「ロイ」
「クローディア、俺の方はもう大丈夫だ」
「そう。じゃあもういいわね。艦長」
「うむ」
 グローバルはクローディアの言葉に頷いた。
「それでは攻撃終了だ。総員撤退」
「総員撤退」
「えっ、もうかよ」
 それを聞いてイサムが声をあげた。
「もうちょっと暴れたかったのによ、デストロイドで」
「我が侭を言うな」
 そんな彼をガルドが窘める。
「戦争だからな。命令には従うものだ」
「へっ、相変わらずの堅物だな。今まで一番派手に暴れていた癖によ」
「俺はいつもと変わりはない」
 だが彼はイサムの挑発にも乗りはしなかった。
「帰るぞ、いいな」
「ああ、わかってるよ。しかし」
「しかし!?」
「意外といいモンだな、デストロイドってのも。気に入ったぜ」
「そうか」
 二人の他にもパイロット達は続々と帰る。そして最後にフォッカーが帰還した。
 バルキリー形態でダイダロスに入る。そして入口でバトロイドに変形した。
「これでよし」
「皆いるな」
「はい」
 輝の言葉にマックスが頷いた。
「皆ちゃんといますよ」
「柿崎は?」
「中尉、俺ここから動けないんですよ」
「あっ、そうか」
 見ればモンスターはちゃんといた。輝はそれを聞いてハッとした。
「そういえばそうだったな」
「そうですよ。何か俺って信用ないのかなあ」
「ははは、それは違うな」
 しかしフォッカーはそれを否定した。
「違いますか?」
「ああ。それだけ御前さんが気にかけられているってことさ」
「そうかなあ」
「いざって時に心配してもらえているってことだ。そうじゃないか」
「言われてみれば」
 上を見上げて考えながらそう応える。
「そうなのかも」
「何事もな、プラスに考えるのがいいのさ。人間ってやつは」
「ロイはちょっと楽天的過ぎるわ」
 クローディアがモニターに現われて彼を叱った。
「少しは危険とかを避けなさい」
「危険なことが大好きなのが俺でね」 
 それでも彼は負けてはいない。
「そうじゃなきゃ今までパイロットなんてやってないさ」
「そのうち撃墜されるわよ」
「言ってるだろ?俺には勝利の女神がついているってな」
「またそんなこと言って」
 叱りながらもクローディアの顔が綻んできた。
「大怪我しても知らないから」
「その時は看病してくれるさ、女神が」
「・・・・・・馬鹿」
「では総員離脱だ」
 グローバルがあらたな指示を出した。クローディアとフォッカーのやりとりが終わるのを見計らったように。
「爆発の衝撃に備えよ」
「了解」
 ダイダロスが引き抜かれた。先端部は閉じられていた。 
 マクロスはコロニーから離れた。そして他のマシンも次々と戦艦の中に戻って行く。既にネオ=ジオンの部隊は前線を離脱していた。だがガトーは最後まで戦場に残っていた。
「おのれ、我等が大義が・・・・・・」
 彼は忌々しげにダイダロスアタックが終わり、腕を引き抜いたマクロスを見据えていた。
「許さんぞ」
「ガトー殿」
 そこにゼクスがやって来た。
「作戦は失敗した。ここは撤退するべきだ」
「ゼクス殿」
「後詰は私が受け持つ。貴殿はもう下がってくれ」
「しかし」
「先日の借りを返させて欲しいのだ」
 そしてこう言った。
「いいか」
「・・・・・・わかった」
 ガトーはそれを認めた。
「では先に下がらせてもらう」
「うむ」
「くれぐれも無理はせぬようにな」
「わかった。それではな」
 ガトーは主力部隊を率いて戦場を離脱していく。ゼクスはそれを見送りながら直属の部隊と共に戦場に留まっていた。今その目の前でコロニーが炎に包まれていく。
「終わったな」
 コロニーはゆっくりと砕けていった。そして巨大な炎となる。
「これでいいのかもな。関係のない者達を巻き込むのは?」
「!?特佐、何か」
「いや、何でもない」
 それを聞いて部下の一人が問うてきたが誤魔化した。
「独り言だ。気にするな」
「わかりました」
「ガトー殿と主力部隊は皆安全な場所にまで退避したか」
「はい」
 部下の一人がそれに頷いた。
「そうか。ならいい」
 ゼクスはそれを聞いて頷いた。そして部下達に対して言った。
「では我々も退却するとしよう。いいな」
「わかりました。それでは」
「うむ」
 ロンド=ベルを見据えながら後ろに下がって行く。そして何処かへ去って行った。
「行ったか」
 ヒイロはそのトールギスを見ながら呟いた。その後ろではコロニーが消えようとしていた。炎から塵へと変わろうとしていたのであった。
「また会おう。その時は」
 彼は窓から姿を消した。振り返るとそこには仲間達がいた。皆作戦成功を心から祝っていた。
「よし、これで危機は去った!」
「やっぱりマクロスはすげえぜ!」
 シャンパンを空け、叫んでいた。皆泡立つ酒によりズブ濡れとなっていた。やはり勝利と人類の危機を救えたことが嬉しかったのだ。
「だがまだやるべきことがあるぞ」
 ブライトはジュドー達にかけられて、乱れた髪を何とか整えながら言った。
「マスドライバーがあるからな」
「そのマスドライバーですけど」
 ケーンが彼に尋ねてきた。
「一体どんなやつなんですか?」
「ん!?知らないのかケーン」
「タップ、知ってるのか?」
「いいんや。ライト、知ってるか?」
「俺も詳しくは知らないけれどな」
 ライトはそれを受けて説明をはじめた。
「月から岩石を地球に向けて放つ兵器だ。外見は大砲に似ているらしいな」
「大砲かよ」
「そんなので地球にまで届くのか!?」
「待て、それは前に言っておいた筈だぞ」
 ダグラスがそれを聞いて顔を顰めさせた。
「御前達、何故それを知らないのだ」
「あっ、聞いてませんでした」
「何ィ!?」
 ケーンのあっけらかんとした言葉がダグラスの血圧をあげさせた。
「貴様等、それはどういうことだ!話を聞いていなかっただとお!」
「だってなあ」
「コロニーのこともあったし」
「そうそう。まずは目先のことを処理していかないとな」
「将校は常に先のことを読んでいろといつも言っているだろうが!御前達、階級は何だ!?」
「少尉です」
 三人はしれっとしてそう答えた。
「それが何か」
「それが少尉の言葉か!そんなのだから御前達はいつも問題ばかり起こしているのだろうが!」
「大尉、それは気のせいですって」
「そうそう、俺達みたいな品行方正の若者を捕まえてそれはないよなあ」
「怒りたい年頃なのかな」
「俺はまだ若い!歳のことは言うな!」
「ありゃヤブヘビ」
「参ったね、こりゃ」
「マスドライバーより先に貴様等を修正してやる!そこになおれ!」
「まあ大尉殿」
 ベンが間に入って来た。
「今は祝いの場ですしここは抑えて」
「軍曹、貴様がそうやってこいつ等を甘やかすからさらにつけあがるのだろうが!そこをどけ!」
「まあ落ち着かれて」
「大尉、まあこれでも飲んでくれ」
「フォッカー少佐」
 フォッカーはその手にある一杯のグラスを彼に差し出していた。
「グッとやってな」
「グッと」
「そう、グッと」
「わかりました。それじゃあ」
「ああ」
 言われるままでにグラスを受け取って飲んだ。するとあっという間にそこに倒れてしまった。
「流石ウォッカだ。よく効くな」
「それ本当にウォッカですか?」
「何かやばい薬なんじゃ」
「おいおい、幾ら俺でもそんなものは飲ませないぞ」
 ドラグナーチームの突っ込みに対して苦笑いで返した。
「これは本当にウォッカさ。ただアルコール度がちょっと高くてな」
「どれ位でしょうか?」
 ベンが尋ねる。
「九十六度ってとこだ。ロシアじゃ普通に飲まれてるらしい」
「九十六度」
「そんなの人間が飲めるのかね」
「俺は普通に飲んでいるぞ。出撃前にクイッとな」
「出撃前に」
「クイッと」
「戦争ってのはな、伊達と酔狂だ。酒は付き物だろうが」
「いや、幾ら何でもそれはまずいんじゃ」
「危ないですし」
「おいおい、御前等らしくない言葉だな」
 流石に引いているドラグナーチームに対してそう言った。
「試しに一度やってみろ。そうすりゃ俺みたいになれるぞ」
「ロイ、貴方」
「ゲッ、クローディア」
 恋人が現われてその顔を変えさせた。かなり狼狽したものになっていた。
「あれだけ出撃前のお酒は止めなさいって言っているのに」
「いや、これは」
「言い訳はいいわ。そんなことだと今度から禁酒よ」
「おい、それは厳し過ぎるだろ」
「貴方にはそうでもしなくちゃわからないわよ。いい、今度出撃前に飲んだら禁酒よ」
「ちぇっ、わかったよ」
「全く。何時まで経っても子供なんだから」
「流石のフォッカー少佐もクローディアさんには勝てないみたいだな」
「ああ。ロンド=ベルのエースの一人も敵はいるんだな」
「若しかするとギガノスの旦那にも」
「あればいいけどな、本当に」
「今回も出て来るんだろうな」
「ああ、どうやらそうらしいな」
「アムロ中佐」
「既にギガノスは防衛ラインを整えているらしい。それの指揮官はマイヨ=プラート大尉だ」
「やっぱり」
「気を引き締めていくようにな。彼は手強い」
「わかってますって」
「思う存分やってやりますよ」
「だといいいのだがな」
 ブライトの顔色はそれを聞くと暗くなった。
「くれぐれも無茶はしないようにな」
「何か俺達って信用ねえな」
「全くだぜ」
「これも人徳ってやつかね、やれやれ」
「そんなに信用されたけれどチャラチャラとしたふざけたことは止めろ!」
「あっ、大尉殿!」
「ええいどけ軍曹!今度こそはこの俺の手で!」
「あっ、やべえぞ大尉が来た!」
「逃げろ、危ねえぞ!」
 三人はダグラスから退散した。ダグラスはそれでも三人を追いかける。そして時間が過ぎていった。束の間の休息の時であった。


第四十一話   完


                                    2005・8・27


[310] 題名:第四十一話その一 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年03月07日 (火) 19時32分

         コロニー阻止作戦
 火星の後継者達との戦いを終え、コロニーへ向かうロンド=ベル、今彼等は慌しく補給を受けていた。
「間に合って何よりですね」
「ええ、まあ」
 ラー=カイラムの艦橋には金髪の美しい女性がいた。青い軍服と膝までのタイトスカートを身に纏っている。ブライトが彼女に挨拶をしていた。
「エマリー艦長、おかげで助かりました」
「いえ、これも任務ですから」
 その女エマリー=オンスはブライトの礼に対して微笑で以って返した。
「ロンド=ベルが宇宙に出たと聞いてこちらに急行したのです。ヘンケン艦長の御言葉で」
「ヘンケン艦長の」
「今は地球の防衛にあたっておられますが。何かあればすぐにロンド=ベルの救援に向かうよう仰っていました」
「そうでしたか。それでヘンケン艦長は御元気ですか」
「ええ、とても。エマ中尉に会いたがっていましたよ」
「何でいつも私なのかしら」
 艦橋にいたエマはそれを聞いて首を傾げさせた。
「エマ中尉、野暮な詮索は止めた方がいいわよ」
「ハルカさん」
 モニターにナデシコからハルカが出て来た。
「まあ細かい話は後でね。ナデシコのサウナででもゆっくりと」
「何か微妙にいやらしい響き」
「リィナちゃんにもそのうちわかるわよ」
「そうなんですか」
「私には今もわからないけれど」
「エマ中尉は真面目過ぎるんだよな」
「そうそう」
「!?何か言った!?」
「いえ、何も」
「気のせいです、はい」
 トーレスとサエグサは当の本人の声が向けられて慌てて引っ込んだ。エマはそれを確認した後でエマリーに尋ねた。
「スレッガーさんやリュウさんはどうしていますか」
「二人共至って健康ですよ」
「そうですか。それは何よりです」
 エマはそれを聞いて微笑んだ。
「そちらにはアポリーさんやロベルトさんもいますし。機会があればまた一緒にお話したいですね」
「そうですか。今は四人共お忙しいので無理なようですが。お話だけはお伝えしておきますね」
「はい。宜しければお願いします」
「わかりました。ところでウラキ中尉はいますか?」
「はい」
 エマと同じく艦橋にいたコウが出て来た。
「何でしょうか」
「朗報です。デンドロビウムを持って来ました」
「えっ、あれを!?」
 それを聞いてさしものコウも驚きの声をあげた。
「持って来てくれたんですか」
「今度の戦いは激しくなることが予想されますから。持って来ました」
「有り難いです、これでガトーにも対抗できます」
「敵はGP−02、油断はできませんから」
「はい」
「頑張って下さい。そして何としてもコロニー落としを阻止して下さい」
「わかりました。それじゃあ」
「はい」
「それにしてもまた強力な兵器が手に入ったな」
 アムロがそこまで聞いてそう呟いた。
「ここでデンドロビウムが手に入るとは思わなかった」
「だがそれでも作戦の達成には困難な程だ」
 ブライトの言葉は冷静であった。
「アムロ、御前には今回も頑張ってもらうからな」
「ああ、任せておけ」
「先陣を切ってもらう。頼むぞ」
「アムロ中佐あってのロンド=ベルですしね」
「コウ、おだてたって何も出ないぞ」
「いえ、本当に頼みますよ。敵はガトーだけじゃないし」
「ああ」
 アムロは真摯な顔で頷いた。
「とりあえず他の敵は任せてくれ。コウ御前はガトーを頼む」
「はい」
「コロニー落としだけは阻止する、何としてもな」
「そのコロニーですが」
 エマリーが言った。
「周りにネオ=ジオンの大軍が展開しているようです」
「やはり」
「コロニーの側にはアナベル=ガトー少佐のGP−02ともう一機赤いマシンが展開しています」
「赤いマシン」
 それを聞いた一同の顔が曇った。
「それは一体」
「何やら戦闘機に似たマシンのようです」
「バウか!?」
 ネオ=ジオンのモビルスーツである。変形してモビルアーマー形態になることも可能である。その際は二機に分離する。一人のパイロットがリモコンでもう一機を操縦するのだ。
「いえ、バウではありません」
「では一体」
「私も詳しいことはわかりませんが。どうやらネオ=ジオンのモビルスーツではないようです」
「ベガリオンだ」
「アイビス」
 アイビスが艦橋に姿を現わした。スレイも一緒である。
「地球に降りる時のことを覚えているか」
「あ、ああ」
 コウがそれに頷いた。
「赤い、アルテリオンに似たやつだったな」
「それなんだ。あれに乗っているのはあたしの知り合いでね、スレイっていうんだ」
「スレイ」
 その名を聞いたアムロの顔色が変わった。
「確かDCで有名なエースパイロットだったという」
「そうさ。スレイ=プレスティ。あたしとはかって同僚だった」
「そういえば君はかってDCにいたのだったな」
「ああ。その時からの知り合いさ」
 ブライトにもそう答えた。
「アルテリオンはそもそもDCの恒星間航行計画の為に開発されたものだったんだ」
「そうだったのか」
「その姉妹機がベガリオンだったんだ。けどDCが崩壊してあたしはアルテリオンで運送屋をやっていた。ツグミと一緒にね」
「あの時にも色々あったわよね」
「ああ。そしてスレイはネオ=ジオンに入った。あいつの兄貴の関係でね」
「兄!?」
 それを聞いた他の者が表情を変えた。
「あいつには兄貴がいるんだ。科学者のね」
「そのお兄さんがネオ=ジオンにスカウトされたんです。半ば強制的に」
「その頭脳に目をつけてね。やったのはキシリア=ザビだった」
「キシリアが」
「けれどそれからすぐ後でキシリアは死んだ。けれどあいつの兄さんは逃げられなかったそれであいつもネオ=ジオンにいるんだ。兄さんの為にね」
「複雑な事情だな」
「兄の為、か。肉親の情に付け込むなんて」
「コウ、肉親ってのは色々あるものだ」
 アムロがそう言って彼を嗜めた。
「卑怯だがそれに入るのもまた方法の一つだ。褒められたことじゃないがな」
「そういうものですか」
「歳をとればわかるさ。わかりたくないことでもな」
「残念だがアムロの言う通りだ。そして我々はだからといってコロニー落としを見過ごしていいわけではない」
「はい」
 それにコウとエマが頷いた。
「補給が終わり次第すぐにコロニーへ向かう。いいな」
「わかりました」
「総員スタンバっておけよ。まさかという時に来るからな」
「あたしが出るよ」
 アイビスが名乗り出た。
「そうした哨戒は得意なんでね」
「頼めるか」
「ああ、任せておいてくれ。じゃあな」
「あ、待て」
 一言言う前にアイビスは艦橋を後にしていた。ツグミもそれを追って艦橋を離れていた。
「少し気になるな。焦っている」
「ああ」
 アムロがそれに頷いた。
「スレイのことが気になるのか」
「気にならない筈がないですね」
 エマがそれに応えた。
「カミーユだって昔はよくああなっていましたから」
「そういえば俺もだったな」
 アムロはそれを聞いて苦笑いをした。
「昔はよくムキになったものだ」
「あの時は本当に手こずらされたものだ」
 ブライトもそれを聞いて苦笑した。
「御前みたいな奴はいないと本当に思ったよ」
「そうだったな。あの時の俺は若かった」
「私もな」
「けれどブライト艦長もアムロ中佐もまだ二十代だよな」
「あまりそうは見えないけれどな」
「確かにな。よく老けていると言われる」
「残念だが否定はできないな」
 トーレスとサエグサにもそう返した。
「あいつもな。よく考えれば俺達は長い付き合いだ」
「全くだ。腐れ縁と言えばそうなるな」
「私の話をしているのか」
「おお」
 丁度いいタイミングでクワトロが出て来た。
「いいところに来たな、シャア」
「その言い方は止めてくれと言っているだろう、アムロ君」
「ふふふ、そんなに嫌か」
「今の私はクワトロ=バジーナだ。シャア=アズナブルでもキャスバル=ズム=ダイクンでもない。これは言っているだろう」
「確かにな。だが一つ聞きたいことがあるんだ」
「何だ?」
「アイビスについて何か思うところはないか」
「アイビスか」
 クワトロはそれを聞いて難しい顔をした。サングラスを取り外す。
「焦っているように見えるな、彼女は」
「御前もそう思うか」
「あの焦りが何時か危険なものとならなければいいがな」
「そうだな。じゃあ手を打っておくか」
「確か彼女はヴィレッタやレーツェルと小隊を組んでいたな」
「ああ」
「二人に任せるか」
「それだけでは不充分だと思う」
 クワトロはブライトに対してそう述べた。
「不充分か」
「そうだ。彼女をフォローできる者がまだ必要だな」
「では一体誰を」
「リンとイルムなんてどうだ」
 アムロがここで二人の名を挙げた。
「あの二人なら大丈夫だと思うが」
「そうだな」
 ブライトはそれに頷いた。
「ではあの二人に任せるか。最近アラドやゼオラも成長してきているしな」
「もう二人で大丈夫だろう。だが今のアイビスは違う」
「彼女に何かあってからでは手遅れだな。ではあの二人にはもう言っておこう」
「それがいいな」
 アイビスに対してリンとイルムもサポートに当てられることになった。アイビスには気付かれないように。帰還したアイビスに対してすぐにヴィレッタが声をかけてきた。
「アイビス、ちょっといいかしら」
「何ですか、一体」
「今度の出撃のことだけれどね」
「はい」
「私達の小隊はアラドとゼオラの小隊とチームを組むことになったわ」
「あの二人とですか!?」
 アイビスはそれを聞いて意外といった顔を作った。
「また何で」
 彼女のアルテリオンと二人のビルトビルガー、ビルトファルケンはタイプが全く異なる。アルテリオンは機動力を活かして一撃離脱を得意とする。それに対してビルトビルガーとビルトファルケンはそれぞれ接近戦用、遠距離戦用であり二機で一組となっている。それぞれ戦い方が全く異なるのである。
「私もブライト艦長に言われただけけれどね。それでいいかしら」
「あたしは別にいいですけれど」
 答えはしたがやはりふに落ちなかった。
「ヴィレッタさんはいいんですね」
「勿論よ」
「レーツェルさんはどう言っていますか?」
「彼も納得してくれているわ。勿論あちらの小隊もね」
「わかりました。それじゃあいいです」
「わかってくれて嬉しいわ」
「じゃあそれでお願いします。次の作戦もお願いします」
「ええ、わかったわ」
 アイビスは話が終わると自室に帰って行った。ヴィレッタはその後ろ姿を見ながらツグミに語り掛けてきた。
「ねえ」
「はい」
 ツグミはヴィレッタの横に留まっていた。まるで話をされるのを知っていたかのように。
「彼女のこと、どう思うかしら」
「焦っています」
 ツグミは率直にそう述べた。
「スレイのことで」
「やっぱりね」
 ヴィレッタはそれを聞いて頷いた。
「今の彼女は危ないわ。冷静さを失っているわ」
「はい」
「貴女からもフォローをお願いするわね」
「わかってます。けれど大丈夫です」
「どうしてそう言えるのかしら」
「私にはわかるんです、長い付き合いですから」
 にこりと微笑んでそう言った。
「アイリスは大丈夫だって。それに何かあっても私がいますから」
「信頼してるのね」
「そうじゃないとパートナーは務まりませんから。アイリスのことは任せておいて下さい」
「わかったわ。じゃあお願いするわね」
「はい」
 笑顔で頷いた。ヴィレッタはそれを見て安心した。どうやら自分の出る幕はないようだと思った。二人には自分が入れないものがあることも悟っていた。

 ロンド=ベルはコロニーのある宙域に到達した。そこには既にネオ=ジオンの大軍が展開していた。
「おうおう、随分いるな」
 ジュドーが彼等を見て嬉しそうに声をあげる。
「こりゃ戦いがいがあるってもんだぜ」
「ジュドー、そんな余裕言っている暇あるの?」
 ルーがそんな彼を嗜めた。
「あれだけの敵よ?対処できるの?」
「できるんじゃなくてするんだよ」
 ジュドーはそう反論した。
「目の前の敵は全部倒すのがセオリーだろうが」
「あっきれた」
「けれどルーだって似たような考えなんだろ?」
 ビーチャが彼女をからかうようにして言う。
「ビーチャ」
「いつもみてえによ」
「否定はしないわ」
 意外にもそれを認めた。
「このメガランチャーがウズウズしてるしねえ」
 ゼータのメガランチャーを構えながら言う。楽しそうに笑っている。
「それでこそルーだよ」
「そういうモンドもマークツーに乗って楽しそうじゃない」
「これが俺の愛機だしねえ」
「フルアーマーになったしね。あたしとお揃いでね」
「エル」
「モンド、抜け駆けはなしだよ、いいね」
「わかってるよ、そんなこと」
「イーノもね」
「メタス改でどうやって抜け駆けするんだよ」
「あんたこの前そのメタスで七機も撃墜してるじゃないさ。それでよく言えるね」
「あれはたまたまだよ」
「たまたまで七機も墜とせないよ」
「それもそうね」
 ルーもそれに頷いた。
「まあ何はともあれそろそろ戦闘開始ね」
「敵さんもスタンバっているし」
「エル、その言い方何かおじさん臭いよ」
「あれ、そうかなあ」
 エルはプルにそう言われ首を捻った。
「あたしはそうは思わないけれど」
「何かブライト艦長みたいだよ」
「確かに似ているな」
 プルツーもそれに同意した。
「というかそっくりだ」
「あたしはまだ十代よ、あんなおじさんと一緒にしないでよ」
「私もまだ十代だが」
 そして絶交のタイミングでブライトが入って来た。
「ゲッ、艦長」
「聞いてたんですか」
「最初からな。リラックスするのはいいが程々にな」
「はあい」
「わかりました」
 今一つ反省のない返事でそう返す。
「まあいい。御前達は正面を頼む」
「了解」
 見ればネオ=ジオンの主力部隊が展開していた。ザクV改や赤いバウ、ドーベンウルフまでいた。
「マシュマーにグレミー、ラカンかよ。本当にオールスターだな」
「ジュドー、頼むぞ」
「わかってますって、艦長」
 ジュドーはモニターのブライトに対してそう言って笑みを作った。
「あんな連中俺一人で充分ですって」
「カミーユ、ジュドー達のフォローを頼む」
「わかりました」
「シローとバニング達もな。宜しくな」
「ええ」
「了解」
 シロー達もそれに頷いた。ブライトの指示はまだ続く。シーブックやダバ達も正面にあたることとなった。指揮はアムロが採る。リュウセイ達もここに回された。見れば小回りの効く部隊は殆どこちらであった。
「そしてヒイロ達は側面だ」
 見ればネオ=ジオンは右手にも部隊を展開させていた。そこにはゼクス等がいた。
「ダンクーガやライディーン、ダイモスもだ。いいな」
「了解した」
「それでいい」
 ヒイロと京四郎が彼等を代表するかのように応える。
「エステバリスは護衛だ。いいな」
「ちぇっ、またそれかよ」
「ヤマダさん、御安心して下さい」
「ダイゴウジだって言ってるだろうが」
 ぼやくダイゴウジに対してルリが言った。
「戦艦も前線に出ますから」
「おっ、そうか」
「はい。今回の作戦は絶対に失敗が許されません。何としても成功させなければなりませんから」
「その為にはナデシコも前線に行っちゃいます」
 ユリカもモニターに出て来た。
「もっともいつものことなんだけれどねえ」
「ハルカさん、それを言っちゃ駄目ですよ」
 メグミがハルカを注意する。しかしハルカは何処吹く風であった。
「わかって頂けたでしょうか」
「おう、充分な」
 ダイゴウジはニヤリと笑ってそう答えた。
「そうこなくっちゃな。戦いは派手にやらねえと」
「おう、その通りだ」
 リョーコがそれに頷く。
「徹底的にやるぜ。何人たりともあたしの前に存在させねえ!」
「リョーコさん、何かどっかのレーサーみたいですね」
「お、そうか」
「レーサーが言った。イレッサー」
「・・・・・・なあイズミ、最近無理して駄洒落言ってねえか?」
「そんなことはどうでもいい!とにかく戦争だ!」
「ヤマダさん、前に出るとエネルギー切れ起こしますよ」
「おっとと・・・・・・ってだから俺はダイゴウジ=ガイだって言ってるだろ!」
「ルリちゃんもからかわない。めっ」
 ハルカが窘める。
「ナイーブなんだから、彼」
「・・・・・・初耳だぞ、それ」
 レッシィがそれを聞いて我が耳を疑ったような顔をする。
「何かのジョークか!?」
「あら、ジョークじゃないわよ」
 ハルカは笑ってレッシィにそう返した。
「ダイゴウジ君ってあれでも繊細なんだから。タケル君以上にね」
「おい、忍じゃないのか」
「まあ確かに忍は繊細じゃないけれどね」
「雅人、ドサクサに紛れて何言ってやがる!」
「まあそっとしておいてあげてね」
「わかりました」
「・・・・・・何か釈然としねえがまあいいか。俺は小さなことにはこだわらねえ!」
「成程な」
 レッシィはそれを聞いてようやくハルカの言葉が正しいとわかった。
「可愛いところあるじゃないか」
「コウとアラド、アイビスの小隊はコロニーに向かえ」
 ブライトはまだ指示を出していた。
「正面に向かう部隊と共にな。いいな」
「了解」
「わかりました」
 コウとアラドがそれぞれ頷く。だがアイビスからの返事はなかった。
「アイビス」
「あ、ああ」
 ツグミに言われようやく我に返った。
「了解。任せておいて」
「・・・・・・・・・」
 そんな彼女を見てツグミ、ヴィレッタ、レーツェルは無言で何か考えていた。だがそれを口に出すことはなかった。
「では全軍攻撃だ。一気にカタをつけるぞ」
「よし!」
 ジュドーがそれを聞いて叫んだ。そして敵に向かって突進する。ネオ=ジオンの部隊もそれに対応して前に出て来た。
「来おったな」
 先頭にいる三機の黒いドライセンがまず動いた。
「オルテガ、マッシュ」
 中央のドライセンに乗る髭の男が左右に声をかけた。
「用意はいいな」
「おう」
「何時でもいいぜ」
 大男と片目の男がそれに頷く。彼等がネオ=ジオンの黒い三連星であった。
「丁度あの坊やもいるしな」
「ふふふ」
 三人はニューガンダムを確認してまた笑った。
「あの坊やとも長い付き合いだ。では挨拶をしておこうか」
「うむ!」
 三人は一斉に動きはじめた。そしてアムロのニューガンダムの前に殺到した。
「ムッ、黒い三連星か!」
「その通り!元気そうで何よりだ、坊や!」
 ガイアが彼に対して言う。笑っていた。
「また会ったな!」
「確かに」
 アムロは笑ってはいなかった。しかし懐かしさは感じていた。
「やはり生き残っていたか」
「生憎わし等は戦場慣れしていてな」
「そうそう撃墜された程度では死にはしないさ」
「というかあの三人どれだけ戦っているんだ?」
「一年戦争の頃にはもう現役バリバリだったんだろ?」
「じゃあもう立派なおじさんだな。老いてなお盛んってやつだな」
「また面白い連中を入れているな」
 三人はドラグナーの三人を見てそうアムロに対して言った。
「あの三人、まだ未熟だができるな」
「それは認める」
 クワトロが彼等にそう述べた。
「あれで意外と戦力になってくれている」
「俺達って意外性の男達だったのかよ」
「せめてエースと呼んで欲しいよな」
「三人で一人ってのはよく言われるけれどな」
「しかもよくしゃべる」
「男は寡黙でなければならないが」
「つってもそれが俺達の持ち味だからなあ」
「そうそう」
「個性はいかさなきゃな」
「益々気に入った」
 ガイアはその話を聞いてさらに笑った。
「どうやら三人一組というのはわし等だけではなくなったようだな」
「専売特許だったのにな」
「まあそれはオーラバトラーのあの赤いのが出て来てから変わったが」
「・・・・・・そういや似てるよな」
「つーーーかそっくり」
「もしかしてクローンじゃないのか?」
「はっはっは、わし等みたいなむさいおっさんをクローンにする物好きはおらんぞ」
「残念なことだがな」
「まあ同じ顔がうじゃうじゃいるのも落ち着かんわい」
「そういやそうだな」
「プルとプルツーみたいな可愛い娘じゃないし」
「声が同じなのは一杯いるけれどな」
「あの三人とも一度手合わせしてみたいが今はそうはいかん」
「坊や、行くぞ」
「今度こそ破られはせん」
「来るか!」
 アムロも身構えた。
「うむ、行くぞ!」
「ジェットストリームアタック」
「受けてみよ!」
 三人は縦一列になった。ガイアが先頭である。
「オルテガ、マッシュ、いいな!」
「おう!」
「坊や、観念しな!」
 まずはガイアが動く。ドライブレードで切りつける。
 次にマッシュだ。ビームを放つ。
 最後はオルテガであった。ハンドガンで攻撃を加える。しかしアムロはその全てをかわしきった。
「やりおるな」
「また腕を上げたようだな」
 三人は攻撃を終えすぐに態勢を整えていた。そしてアムロと対峙する。
「危ないところだった。やはり黒い三連星と呼ばれることはある」
「だが対処はできるな」
「シャア」
 クワトロがモニターに出て来た。
「アムロ君、ここは君に任せていいか」
「あの三人を止めろということか」
「そうだ。君ならできると思うが」
「断ることはできないみたいだな」
 戦局を見る。既に戦いは激しくなってきていた。アムロの周りにおいてもそれは同じであった。
「断れないのは私も承知だ。だがいいな」
「ああ」
 アムロは頷いた。
「わかった、ここは任せてくれ」
「よし、では頼むぞ」 
 クワトロはケーラとクェスを連れて別のエリアに向かった。アムロはこうして一機で黒い三連星と対峙する形となった。
「面白い、邪魔はなしか」
「坊や、それでいいか」
「俺に断る権利はない」
 アムロはそう答えた。
「ここは俺が引き受けると言ったからな。だからここにいる」
「ふふふ、いい男になったな」
「あの時はまだ青かったが」
「見事なものだ。流石は連邦の白い流星といったところだな」
 彼等はアムロを取り囲んだ。そして一斉に攻撃に移る。
「行くぞ!」
「覚悟!」
「見える!」
 アムロと三人の戦いが本格的にはじまった。それはまさに一年戦争の再現であった。
「そうだ、これこそが騎士の戦いだ」
 ザクV改に乗るマシュマーは黒い三連星の戦いを見て興奮していた。
「正面から正々堂々と渡り合う。流石は歴戦の戦士だ」
「といっても三人がかりですけれどね」
「ゴットン」
 後方にいるエンドラにいるゴットンに対して顔を向けた。
「どうして御前はそう無粋なのだ?あの方々に敬意を払おうとは思わないのか?」
「そりゃ素晴らしい人達だとは思いますよ」
 彼も何かと世話になっていた。黒い三連星はネオ=ジオンにおいてはかなりの人望も併せ持っていたのであった。
「けれど戦争って結局は生き残った者が勝ちですし」
「空しい考えだな、それは」
 マシュマーはそれを聞いて嘆息した。
「ゴットン、御前にはもう少し騎士道を教えてやるべきだな」
「騎士道で戦争なんてできるんですか?」
「たわけたことを言う」
 マシュマーはまた言った。
「それがなくしてどうして戦争と言えるのだ。戦争とは騎士が行うものだ」
「死んだら元も子もないですよ」
「戦場に散るのは名誉なことではないか」
「あたしは生きたいんですけれど」
「どうやら御前には再教育が必要だな。後でアーサー王の本を貸してやろう」
「ああ、あの伝説の」
「アーサー王は実在だ」
「そうでしたか!?」
 それを聞いたイリアが首を傾げる。今までは二人の漫才のようなやりとりを黙って見ていたがそれを聞いて流石に疑問に思ったのだ。
「あれは確か架空の人物では」
「いや、アーサー王は実在だ」
 だがマシュマーはそれを否定した。
「何か新しい歴史資料でも見つかったのですか!?」
「私の心の中にいる。それが何よりの証拠だ」
「・・・・・・そうですか」
 それを聞いてもう聞く気にはなれなかった。
「わかりました。それよりも」
「うむ、わかっている」
 既に目の前にはロンド=ベルがいた。彼等はまっすぐにこちらに突っ込んで来る。
「今このその騎士道を見せる時だ。キャラ、イリア、いいな」
「身体が熱くなって止まらない・・・・・・」
 アールジャジャに乗るキャラの耳には入っていなかった。彼女は何か得体の知れないものに支配されているようにも見えた。
「早く、早く戦争を・・・・・・!」
「わかった。では行くがいい」
 マシュマーは特に驚くことなくそれを認めた。
「そしてロンド=ベルを正々堂々と打ち破るのだ!」
「私は銀河!太陽は壊れる!」
「・・・・・・何で俺の周りってこんな人ばかりなんだろ」
「?ゴットン、何か言ったか」
「いえ、何も」
(耳だけはいいんだな)
 マシュマーの問いを誤魔化しながら心の中でそう呟く。キャラの小隊は既にビーチャ達の小隊に向かっていた。
「うわ、またこのおばさんかよ!」
「ビーチャ、相手を刺激しちゃ駄目だよ!」
 イーノがすぐに注意した。
「けどよ!」
「ビーチャ、あたしが出るよ!」
「エル!」
「女には女ってね!」
「お、俺だって!」
 モンドも出た。
「ここは任せてくれよ!」
「何言ってるんだ!一人であのおばさんは相手にゃできねえだろ!」
「けどあたし達だってニュータイプなんだ!やれるよ!」
「そういう問題じゃねえ!あんなぶっ飛んだおばさんそうそう相手にできるか!」
「じゃあどうしよう!」
「とりあえずモンド、後ろに退きな!」
「どうするんだよ!」
「こうやんだよ!行ッけええええーーーーーーーーー!」
 ビーチャはハイメガランチャーを放った。そしてそれでキャラのアールジャジャを破壊しようとした。キャラの小隊のアールジャジャはそれで吹き飛んだ。
「やったか!」
「光の帯!それは死の光!」
 だがキャラは健在であった。ビーチャの百式改の攻撃をかわしてしまっていた。
「うわっ、生きてやがった!」
「で、どうするのさ!」
「一番怖いのが残ったじゃないか!」
「こうなったら四人でやるしかねえだろ!言った通り!」
「そうだね」
 他の三人はようやく頷いた。


[309] 題名:第四十話 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年03月07日 (火) 19時21分

          オルファンの真実
 バイタル=ネット作戦中止を伝えられた地上のロンド=ベルは動きを決めかねていた。彼等は次にどうするべきか、確固たる方法を見つけ出せないでいた。
「ミケーネの奴等をぶっ潰しちまうか?」
 まずは甲児が言った。
「今のうちによ」
「できれば俺もそうしたいがな」
 それに対して鉄也が言葉を返した。
「今奴等は動きを見せない。何処に潜んでいるのすらわからない」
「そこを見つけ出してだな」
「甲児君の言いたいことはわかる」 
 大介も口を開いた。
「今のうちに敵は叩けるだけ叩きたい」
「それなら」
「だが彼等についてまだ詳しいことはわかってはいない。今彼等に対して迂闊に動くのは危険だ」
「そうか」
「ガイゾックは」
 今度は豹馬が言った。
「あいつ等だっているぜ」
「彼等も今姿を見せてはいない」
 彼には万丈が応えた。
「そして彼等の調査は兵左衛門さんが進めてくれている。動くのはあの人からの報告があってからでいい」
「ちぇっ、ガイゾックも駄目かよ」
「バームも今は大人しいしな」
 健一も口を開いた。
「ティターンズやドレイク軍もこれといって活発化はしていない。それに遠い」
「そうだな」
 彼等は今太平洋にいる。それに対してティターンズ達は欧州にいる。距離があったのだ。
「それを考えると今は彼等に向かうのも愚だ」
「じゃどうしろってんだよ」
 健一と万丈の落ち着いた会話に豹馬が切れた。
「このまま指くわえて待っていても何にもなりゃしねえぜ」
「いや、それは間違いだ」
 だがそこでドモンが立った。
「ドモン、何か考えがあるのか?」
「俺が一人で行く。そしてティターンズも何もかも叩き潰してやる」
「おいおい、そりゃ無理だろ」
「流派東方不敗は王者の風!」
 彼は叫んだ。
「敗北は決して有り得ない!」
「もう、またそんなこと言って」
 レインがそれを聞いて呆れた声を出した。
「一人で行動するのは駄目よ。そんなことしたら絶交よ」
「レイン」
「今はこっちにいてね。大変なのだから」
「・・・・・・わかった」
「だが我々がこうしている間にも敵が陰で動いているのは事実」
 ゼンガーが静かに言った。
「動かなくてはな」
「しかし今は情報が少ない」
「万丈様、それについてですが」
「ギャリソン」
 ここでギャリソンが出て来た。
「只今よりロンド=ベルは日本に来て欲しいとのことです」
「日本に」
「はい。三輪長官直々の御命令ですが」
「またあの人か」
 万丈はその名を聞いて露骨に嫌悪感を示した。
「今度は一体何の用なんだ」
「どうせロクでもない用件なんだろうな」
「ったく勘弁して欲しいぜ」
 健一と豹馬が口々にそう述べた。他の者もおおむねそんな気持ちであった。
「如何されますか」
「行くしかないだろう」
 万丈はそう答えた。
「ギャリソン、大文字博士は何と言っておられるんだい?」
「行くべきだと仰っていますが。今シーラ様達とお話中です」
「そうだろうな。では僕達も行くか」
「そうだな。言っても仕方がない」
「行ってからやろう」
 こうして彼等は日本に向かうこととなった。そして第二東京市において三輪達と合流することとなった。
「久し振りです、大文字博士」
「お久し振りです、司令」
 第二東京市の防衛を担当している冬月が大空魔竜のモニターに姿を現わした。そして大文字と会談に入った。
「三輪長官に呼ばれたですな」
「ええ、まあ」
 大文字はそれに答えた。
「何の用件かまではわかりませんが」
「オルファンについてですよ」
「オルファンに」
 彼はそれを聞いてその太い眉を動かした。
「彼もその存在は気にかけていましてね。解決策を考えているのです」
「それで我々を」
「はい。そこまで話を進めるのに苦労しましたよ」
「何かあったんですか?司令」
 ミサトが彼に尋ねた。
「あの長官またとんでもないことを言い出したとか」
「とんでもないかどうかまではわからないがね」
 冬月はそれに言葉を返した。
「オルファンに対して核攻撃を仕掛けようとしたのだ。長官の強権でな」
「な・・・・・・」
 ミサトはそれを聞いてあらためて呆れた。
「やっぱり・・・・・・」
「すんでのところでそれは制止されたよ。ミスマル提督も協力してくれてね」
「危ないところでしたね」
「残念かどうかはわからないが長官職はそのままだ。だが核攻撃が回避されたのは事実だ」
「よかったですね」
「というかとんでもない話なんじゃないんですか!?」 
 マヤがそれを聞いて首を傾げさせた。
「核攻撃だなんて。南極条約違反ですよ」
「それが通用する人ならね」
 シゲルがマヤに対してそう言った。
「あの人が条約なんて守ると思う?」
「まさか」
 マヤはそれには首を横に振った。
「そんなもの勝手に破るに決まってるじゃない」
「そうだよな」
 マコトも同じ意見であった。
「絶対にそうだよな。あの人ならやる」
「それでその三輪長官ですけれど」
 ミサトは冬月にまた問うた。
「今そちらにおられるのですか?」
「ああ」
 彼はそれに答えた。
「元気にしておられるよ。今日も朝から鰯を頭から食べていたよ」
「そうですか」
「相変わらず無駄に元気ね」
 リツコも言った。
「それで今どちらに」
「第二東京市の市庁にいるよ」
 彼は答えた。
「大文字博士はすぐに行かれた方がいいです。おそらく貴方の御力が必要でしょう」
「わかりました」
「そしてサコン君、君もだ」
「俺もですか」
「そうだ、君の頭脳もな。頼りにしているよ」
「お任せ下さい」
「赤木博士にも頼めるかな」
「そう言うと思ってました」
 リツコはそれを聞いてにこりと微笑んだ。
「ああしたおじさんの相手はお任せ下さい」
「リツコ、貴女まさか」
「嫌ねえ、ミサト。タイプじゃないわよ」
「そ、そうよねえ」
 流石にこれはまずいことを言ってしまったと思った。
「あんなとんでもないおじさん」
「とんでもないで済まないわよねえ」
「ああ」
「どう見ても危ないおじさんだよな、あの人」
「こら、そこ」
 ミサトは誤魔化しの意味も含めてか三人を注意した。
「ヒソヒソと話をしない」
「わかりましたあ」
「けれど本当のことだよなあ」
「本当のことなら尚更言っちゃいけないことがあるのよ。覚えておきなさい」
「はい」
「それではお願いできますかな」
「はい」
 大文字は改めて頷いた。
「アノーア艦長もお連れしますので。それでは市庁で」
「はい」
 こうして大文字とサコン、リツコ、ノヴァイス=ノアの面々、そして護衛とオルファンの詳しい説明役として勇が市庁に向かった。広い会議室では既に三輪と冬月が待っていた。
「それでは話を聞かせてもらおうか」
 三輪は四人に対して早速そう言った。
「まずは座ってな」
「席なぞいい!」
「いえ、そういうわけにはいきません」
 席を不要としようとする三輪に対して冬月はそう答えた。
「長くなる話ですから」
「うむむ」
「司令、有り難うございます」
「礼はいい」
 リツコに対してそう答えた。
「では早速説明をお願いしたい。いいかな」
「わかりました。それでは」
 まずは大文字が口を開いた。そして皆を代表してオルファンに対して説明をした。
「・・・・・・以上がオルファンの地上離脱に伴うオーガニック=エナジー喪失に関する推論です。これにはアノーア艦長のご協力もあったことを述べさせて頂きます」
「何と」
 三輪はそれを聞いて眉間に皺を寄せさせていた。
「この数値は決して悲観的なものではありません」
 彼の説明は続いていた。
「結果としてオルファンの地上離脱により生物らしい生物は■滅してしまうでしょう」
「ならば躊躇してはならん!」
 三輪はそこまで聞いて叫んだ。
「即刻オルファンを破壊せよ!至急にだ!」
「いえ、それはできません」 
 だが大文字はそれを制止した。
「何故だっ!?」
「連邦政府がオルファンの安全性を認めたからです」
 彼は答えた。だが三輪はそれでも言った。
「そんなものがどうした!」
「連邦政府が認めたことを覆されるのですか?」
「人類が■滅するかも知れんのにそんなことが言っておれるのか!」
「ですがもう認められたことですので」
「そんなことわしが知ったことか!そもそも誰がそれを認めたのだ!」
「私です」
 ここで声がした。
「ヌッ!?」
 三輪だけでなくそこにいた全ての者が声がした方に顔を向けた。そこは扉の方であった。扉のところに一人の顎鬚を生やした男が立っていた。
「親父!?」
 勇はそれを見て驚きの声をあげた。そこにいたのは彼の父伊佐未研作であった。
「何だ、貴様は」
「オルファンの代表伊佐未研作です」
 彼は静かにそう名乗った。
「今回はオルファンについての説明に参りました」
「弁解か?それとも詭弁か?」
 三輪は最初から彼を疑ってかかっていた。
「言ってみよ。返答次第では即刻銃殺だ」
「御言葉ですが長官」
 感情的になっている三輪に対して彼はあくまで冷静であった。
「私は連邦政府から要請を受けてここに来ているのです。貴方にそう言われる覚えはありませんが」
「クッ・・・・・・」
「おわかり頂けたでしょうか。ではお話して宜しいですかな」
「どうぞ」
 冬月がそれを勧めた。
「お話下さい」
「わかりました。それでは」
 それを受けて彼は説明をはじめた。
「まず最初にお伝えしたいことは」
「はい」
 冬月がそれに応えて頷いた。
「オルファンの制御は可能なこと、そして人類の■滅は有り得ないということです」
「何ですと」
「それは本当ですか!?」
 大文字とリツコがそれを聞いて驚きの声をあげた。
「はい」
「では博士にさらに御聞きしたい」
 大文字は頷いた研作に対してさらに問うた。
「貴方は我々が推測する地球上のオーガニック=エナジーの喪失についてどう御考えですか?」
「それもまた正しいことです」
 研作はそう答えた。
「ですがオルファンはその性質について微妙な変化が起こっているようなのです」
「それによりオルファンが無害なものとなると!?」
「その通りです」
 彼は頷いた。
「だがそれの何処に証拠がある!?」
 三輪は研作を睨みながらそう述べた。
「証拠がないのでは話にはならんぞ」
「それは僕が説明しましょう」
「!?」
 扉が左右に開きそこから金髪の少年が入って来た。
「君は」
「はじめまして。カント=ケストナーです」
 彼はそう名乗った。
「十歳で博士号をとり、積極的にオーガニック=エナジーの論文を発表している神童か」
 研作は彼の姿を見てそう呟いた。
「その神童が何の用だ!?」
 三輪は彼に対しても攻撃的であった。
「言ってみろ」
「はい。僕はオルファンの活性化を植物の繁殖と重ね合わせてみました」
「植物の!?」
「ええ、植物もまた生物です」
 彼は研作に対しそう答えた。
「オーガニック=エナジーに何らかの影響を受けると考えられます」
「ふむ」
 冬月と大文字はそれを聞いて眉を動かさせた。リツコは目を閉じて思索に入った。アノーアは彼から目を離さない。研作もである。勇も彼に注目していた。ただ三輪だけが感情的になっていた。
「結論から述べますとオルファンの繁殖と植物の繁殖には同調が見られます」
「同調が」
「ええ。つまり太平洋とオルファンの活性化により、地球の緑が復活しようとしているのです」
「地球の緑が」
「では地球を活性化させているというの!?」
「そういうことになります。僕はそれを知った時とても感動しました」
「ふん」
 三輪はそれを聞いてもまだふてくされていた。
「馬鹿なことを言う」
「人類が汚してきた地球はまだ人類に絶望せずに地球の生態系を救う術を与えてくれたのですから」
「その通りだ」
 研作はそれに頷いた。
「私の考えと全く同じだ」
「ですが僕は伊佐未博士の論にはまだ賛成できない部分があります」
「それはどこだね」
「オルファンのエネルギーは太陽のようなものですから人間にはコントロールできないのです」
「それでは何の意味もないではないか」
 三輪はそれに反論した。
「聞くだけ無駄だ。下がれ」
「お待ち下さい」
 だがそれを冬月が制した。
「まだ彼の話は終わってはいません」
「ふん」
「そこだ」
 研作はここでクレームをつけてきた。
「当初は我々もオルファンはその浮上により全地球上のオーガニック=エナジーを使用するだろうと考えていた」
「はい」
「だが今はその考えを訂正しつつある。理由は君の考えと同じだ」
「博士はそれについてどう思われますか」
 カントは研作に問うてきた。
「僕にはオルファンがまるで地球をいたわっているように思えるのですが」
「そうだな」
 研作はそれに頷いた。
「今はそれに同調せざるを得ないな」
「それが貴方の主張するオルファンの安全性の根拠でしょうか」
 リツコが口を開いた。
「そうですな」
 そして研作はそれにも頷いた。
「ではまた御聞きしたいことがあります。尋問のようで申し訳ありませんが」
 今度は大文字であった。
「何でしょうか」
「オルファンの飛翔は何によって行なわれるのです?オルファン内部だけでたくわえられたオーガニック=エナジーだけでそれをまかなえるのですか?」
「それだけではないと思われます」
「!?どういうことなんだ」
 勇はそれを聞いて疑問を感じた。
「親父の奴、まさか」
「勇君、落ち着き給え」
 だがそれをゲイブリッジが制止した。
「いいね」
「わかりました」
 勇はそれに従った。そして落ち着きを取り戻し研作に顔を戻した。
「ではそのエネルギーとは」
 大文字はまた問うた。
「一体何でしょうか」
「そこまではわかりません」
 彼はそう答えた。
「ですがオルファンや人類を銀河へと誘うエネルギーであることは確かです」
「銀河に」
「それは一体」
 会場がそれを聞いてざわめきはじめた。それが何なのか彼等にはまだわからなかった。
「とにかくオルファンが人類、そして地球にとって有害なものではないのですね」
「それは保証します」
「わかりました。それでは貴方を信じさせてもらいましょう」
「馬鹿な、何を言っておるか!」
 大文字がそう言ったのを見て三輪が席を立った。
「敵を信じるなぞ!正気なのか!」
「無論正気です」
 彼はそう言葉を返した。
「だからこそここにいるのです。おわかりでしょうか」
「クッ!」
「長官、貴方も落ち着いて下さい」
 冬月がそう言って三輪を窘める。
「感情的になっては何もなりませんぞ」
「わかっておる!」
 激昂したままでそう答えた。
「だが敵を信用するとどういうことになるのか貴様等はわかってはおらん!」
「それは俺について言っているのですか!?」
 勇が三輪に突っかかってきた。
「何!?」
「俺もかってはオルファンにいました!けれど今はロンド=ベルにいます」
「無論そんな輩は銃殺だ!」
 三輪は叫んだ。
「何なら今ここでわしがそうしてやる!」
「なっ・・・・・・!」
 それを聞いて他の者は絶句してしまった。三輪は本当に拳銃を抜いていたからだ。
「そこになおれ!スパイは生かしては返さん!」
「俺はスパイじゃない!ロンド=ベルの一員だ!」
「黙れ!わしの目は誤魔化されんぞ!」
「五月蝿いニャ!」
「御前こそ黙ればいいんだよ!」
 ここでクロとシロが出て来た。
「!?何だこの猫共は」
「ちょっと色々あってね。ここに来たんだニャ」
「細かいことは気にするなよ」
「マサキ君か」
「あの子、また道に迷ったわね」
「まあ悪いがそういうことだ」
 ここで今度はマサキが部屋に入って来た。
「ったくよお、馬鹿でかい建物だぜ」
「そういう問題じゃないのじゃないかしら」
 リツコがそれに疑問を投げかけた。
「貴方の方向音痴はまた別よ」
「ちぇっ、リツコさんはきついな」
「猫には優しいわよ、ふふふ」
「まあそれはいいとしてだ」
 大文字と冬月は三輪を静かにさせてから言った。
「三輪長官、彼はロンド=ベルにとって欠かせないメンバーの一人です。それは理解して頂けますな」
「クッ・・・・・・」
「彼を撃つことは許されません。それはおわかり下さい」
「・・・・・・わかった。ではあの男はいいとしよう」
「はい」
「だがわしはオルファンを完全に信じたわけではないぞ。それを覚えておけ」
「わかりました。では」
「伊佐木博士、お話を続けましょうか」
「わかりました。では」
 話が再開されようとした。しかしここで突如として警報が鳴った。
「!?」
「敵襲か!?」
「ガイゾック、いやミケーネか」
「こんな時に!」
 ロンド=ベルの面々は口々にそう言いながら席を立つ。そして部屋に軍人達が入って来た。
「長官、敵です!」
「何処にだ!?」
「東京湾上空です。オルファンです!」
「何だと!やはり罠だったか!」
 そう言って今度は研作に銃を向けようとする。だが大文字はそれも制した。
「お待ち下さい!」
「またか!今度は利敵行為とみなすぞ!」
「落ち着いて考えて下さい。何故彼がここにいるのにオルファンが来るのですか」
「この男は囮だ!」
「囮ならばわざわざ伊佐木ファミリーを送り込んだりはしません。おそらくこれはオルファン内で何かあるのでしょう。伊佐木博士、違いますかな」
「・・・・・・申し訳ないが私にはよくわかりません」
 彼はそう答えた。
「リクレイマーに出撃命令は出しておりません」
「嘘をつくな!」
「長官、貴方は黙っていて下さい!」
 大文字は三輪を一喝した。
「今は彼の話を聞かねばなりません」
「おのれ、大文字め。覚えておれよ」
「何か古典的な台詞だニャ」
「そういうことしか言えないんだろうね」
 クロとシロがそれを聞いて三輪を馬鹿にしていた。
「リクレイマーに対する出撃命令は私の他には一人しかおりません」
「その一人は」
「姉さんだ」
 勇が言った。
「姉さん!?」
「クィンシィ=イッサーだ。オルファンのリクレイマー達のリーダーだ」
「あの赤いリクレイマーの娘かしら」
「ええ、そうです」
 リツコの問いに答えた。
「親父の他にリクレイマーに対して出撃命令を出せるのは姉さんしかいません。今度のは多分」
「それでそのリクレイマー達は何処にいるのかね」
「ハッ、東京湾からこちらに向かっております」
「わかった。ではすぐに迎撃に向かおう。それでいいな」
「はい」
 勇とマサキがそれに頷いた。
「ロンド=ベル総員出撃、目標は敵リクレイマー部隊」
「了解!」
 彼等はそれを受けて一斉に動いた。後には歯軋りするだけの三輪だけがそこに残された。彼は為す術もなく口惜しさに身体を震わせるだけであった。
 ロンド=ベルはすぐに東京湾に展開した。それと正対するように既にリクレイマーの部隊がそこにあった。中央には赤いリクレイマーがいた。勇はそれを見て顔を歪ませた。
「姉さん、やはり」
「勇、わかってると思うがよ」
 甲児が彼に声をかけてきた。
「わかってるさ、大丈夫だよ」
「ならいいがな」
 まだ不安であったがここは勇を信じることにした。甲児も思いきりがあった。
「頼むぜ」
「ああ」
 勇は頷いた。その前にいる姉を見据えながら。
 クィンシィはそこに悠然と立っていた。狂気に近い笑みすら浮かべていた。
「太陽か・・・・・・あははははははははははははは!」
 彼女は笑っていた。
「久し振りに海から出たよ!」
「あれは・・・・・・依衣子か」
 大空魔竜の艦橋にいた研作が彼女のリクレイマーを見て頷いた。
「どういうことなんだ、これは」
「娘さんがどうしてこちらに」
「私にもわかりません」
 彼は大文字の言葉に首を横に振った。
「ただ一つ言えることはあれがここに戦いに来ているということです」
「左様ですか」
「はい」
「本当に綺麗・・・・・・勇にも見せたいものだよ」
「姉さん、自分の言っていることがわかっているのか」
「ああ、わかってるよ」
 彼女はそれに答えた。
「あんたはいつもじっとしないで私に心配ばかりかけているからね」
「まだそんなことを」
「さあ、そこに大人しくしているんだ。そして私に討たれろ」
「勝手なことを」
「勝手なことじゃない。弟の不始末は姉がとるものだ」
 彼女は冷徹な声でそう述べた。
「それの何処が間違っている」
「姉さんは間違っている!」
 勇は言った。
「間違っているのは姉さんの方だ!」
「私に口ごたえするつもりかい?」
「違う!本当のことを言っているだけだ!外を見るんだ!」
「グランチャーで来てみればすぐにこうして敵対行動をとる!」
 クィンシィは叫んだ。
「それがロンド=ベルだ!御前達はオルファンを害するつもりなんだ!」
「それは誤解だ!」
「誤解なものか!私を騙そうとしても無駄だ!」
「まだそんなことを!」
「五月蝿い!それ以上言うと本当に討つぞ!」
「やれるものならやってみろ!」
 勇も負けずと叫んだ。
「俺ももうあの時みたいなガキじゃないんだ!」
「御前はまだ子供だ!」
「なら大人になった証拠を見せてやる!来い!」
「私に対してよくそこまで言ったね」
 赤い目が光った。
「覚悟するんだね。ケリをつけてやるよ!」
 赤いグランチャーが消えた。そしてユウ=ブレンの前に出た。
「勇!」
「大丈夫だヒメ!」
 勇はそう叫んでヒメを安心させた。
「姉さんは俺に任せろ!」
「わかった!じゃあお願いするよ!」
「ああ!」
 勇は姉との戦いに入った。それを合図とするかのようにグランチャー達も一斉に行動に移った。そして両軍入り乱れての戦いがはじまったのである。
 機動性を駆使して戦おうとするグランチャー達に対してロンド=ベルは守りを固めてそれに対抗した。前面に強固な装甲を誇るマジンガー達を前面に置く。
「そう簡単にはやらせねえぜ!」
 甲児がそう宣言する。そしてロケットパンチを放つ。それで敵を一機ずつ撃墜していく。
 上空はブレンやオーラバトラーで固め地上からエヴァ等で攻撃を仕掛ける。後方には三隻の戦艦を置き援護射撃を加える。こうして戦いを順調に進めていた。
 勇はその中姉との戦いに専念していた。クィンシィは鋭い刃を弟に向ける。
「■っ!」
 刃が一閃した。だが勇はそれを後ろに退いてかわす。
「まだだっ!」
「ちょこまかと動き回る!」
 クィンシィはそれを見て叫んだ。
「鬱陶しい!」
「俺だってやられるわけにはいかないんだ!」
 勇もそれに言葉を返した。
「幾ら姉さんでも!」
「私は御前を殺す為にここに来た!」
 また叫んだ。
「この手でな!」
「姉さん!」
 クィンシィは突撃してきた。その刃で勇をブレンごと切り裂こうとする。しかしそこでバランスを崩していた。勇は咄嗟に剣を振るった。
「なっ!?」
 それを受けたクィンシィの動きが止まった。
「今、何をした!」
「攻撃をしたんだ」
 勇は言い返した。
「俺だって殺されるわけにはいかないんだ!」
「知ったことを!」
 クィンシィはそれを聞いて激昂した。しかしダメージを受けたグランチャーでの動きには無理があった。先程までに比べて鈍く、そして隙もあった。勇は後ろに退き狙いを定めた。
「これなら・・・・・・!」
 剣からエネルギーを放った。ソード=エクステンションである。これで仕留めるつもりであった。
 クィンシィはそれでも突撃を止めない。そのまま特攻してくる。だがそこに勇のソード=エクステンションの光の帯が迫っていた。
 直撃であった。それを受けてクィンシィのグランチャーが動きを完全に止めた。そして地上に落ちる。
「くっ、コントロールが!」
「やったか」
 勇は姉のグランチャーを見下ろしてそう呟いた。
「けれどまだ動ける筈だ」
 油断はしていなかった。彼女から目を離さない。
「また来るのなら!」
 しかしここで思わぬことに気がついた。クィンシィのグランチャーの側に誰かがいるのだ。子供だった。
「あれは・・・・・・」
 それはカントであった。彼はそれを確認して驚いて彼の側に降り立ってきた。
「そんなところにいるな!危ないぞ!」
「確かめたいことがあるんです」
 カントは勇に対してそう言った。
「気にしなくていいですから」
「馬鹿な!グランチャーだぞ!」
 そう言ってまた止めようとする。
「大切なことなんです」 
 だが彼は勇の言葉を聞き入れようとしなかった。
「黙って見ていて下さい」
「・・・・・・一体何をする気なんだ」
 勇はそれを見守ることにした。黙って彼を見ていた。
 彼は懐から何かを取り出した。それは花であった。しなびた一輪の花であった。
「さあ、この花に力を分けて下さい」
 そう言ってクィンシィのグランチャーに花を近づけた。すると花が光った。
「花が光った・・・・・・!?」
 それだけではなかった。それまでしなびていた花が急に元気を取り戻していたのだ。
「これがオーガニック=エナジーの力なのか!?」
「勇」
 グランチャーの中から声がした。
「姉さん」
「覚えているかい?私に花をくれたことを」
 それを聞いて幼い日のことが脳裏に浮かぶ。かって自分が摘んだ一輪の花を姉にプレゼントしたあの日のことを。
「いつも二人だけで・・・・・・お婆ちゃんが働きに出ていた時」
「ああ」
 勇は姉の話に頷いた。
「あの時は嬉しかったよ」
「有り難う」
「私の誕生日にね」
「誕生日・・・・・・」
 だがそれを聞いた勇の顔が強張った。
「そうだったのか!?」
「!?どういうことなんだ」
 それを聞いたクィンシィの顔も強張った。
「覚えていないのか、私の誕生日だったことを」
「・・・・・・御免、覚えてない」
 彼は素直にそう答えた。
「昔のことだから」
「そうかい・・・・・・そうだろうね」
 一瞬悲しい顔になった。だがすぐにそれは険のあるものに一変した。
「だからあんたはオルファンを出たんだ!」
 そしてこう叫んだ。
「両親を裏切り、家族の絆を捨てて!」
「違う!」
 勇はそれを否定した。
「姉さんもわかる筈だ!」
「何をだ!」
「オルファンを離れれば俺の言っていることが!」
「戯れ言だ!」
 だが彼女は弟のその言葉を完全に否定した。
「御前はオルファンを傷つける!それだけだ!」
「違う!」
「もう御前とこれ以上話すつもりはない」
 そう言うとグランチャーを立たせた。カントは慌ててそこから退く。
「今度会った時こそ始末してやる!」
「姉さん!」
 クィンシィはその場から去った。瞬く間にその姿を消してしまっていた。
 それに従い他のグランチャー達も姿を消す。こうして彼等は東京湾から姿を消した。
「姉さん」
 勇は姉が去った方を見て呟いた。
「完全に抗体になってしまっている。どうして」
「勇・・・・・・」
 ヒメがそこに来た。そして彼を慰めようとするがそれはできなかった。
「何が不満なんだ、この世界に!」
「それは彼女もわかっていないんじゃないかな」
 万丈が勇に対してそう言った。
「姉さんも」
「そうさ、人間ってのは複雑なものでね」
 彼は語った。
「自分で自分がわかっているつもりでもそうじゃない時があるものさ」
「そうなの」
「ああ」
 ヒメの問いにも頷いた。
「君の姉さんもそうじゃないかな。自分ではわかっているつもりでもね」
「・・・・・・・・・」
「何時かわかるかも知れないさ。今はそれよりも目先のことを考えた方が君の為だ」
「わかりました」
「わかってくれればいいさ。丁度次の敵のおでましみたいだしね」
「次の」
「レーダーに反応です」
 そこでミドリが言った。
「左に敵接近、ガイゾックです」
「ほらね」
「よりによってこんな時に」
「敵は待ってはくれないものさ。じゃあ行こうか」
「わかりました」
「ヒョッヒョッヒョ、どうやらあの忌々しいザンボットとやらはいないようじゃの」
「御意、ブッチャー」
 側にいる不恰好な形のロボットが彼にそう応えた。
「まずはここを廃墟にしてしまおうか。メカブースト発進じゃ」
「御意、ブッチャー」
 そのロボットはまた言う。そしてバンドックから次々とロボット達が姿を現わしてきた。
「やれやれ、今度はガイゾックかよ」
「勝平達がいれば面白かったんだがな」
 サンシローとリーが口々にそう言う。
「彼等は何といってもガイゾック退治の専門家ですからね」
「俺には劣るけれどな」
「ヤマガタケ、それはちょっと自信過剰だぞ」
 サコンがそう言って彼を窘める。
「だが思う存分やってくれ。いいな」
「そんなの御前に言われなくてもわかってらあ」
「ふふふ」
 実はサコンはそう言ってヤマガタケを乗せるつもりだったのだ。そして彼は上手くそれに乗ってくれた。会心の笑みであった。
「だが一つ気になるな」
「何がだ」
 疑問の声を呈するピートに顔を向けた。
「神ファミリーの人達は今何処にいるのかと思ってな」
「あの人達は今ダカールにいる」
「ダカールに」
「そうだ。そこで連邦政府と今後のガイゾックの行動に関して意見を述べてくれている。同時にダカールの防衛もしてもらっているよ」
「そうだったんですか」
 ピートは大文字にそう説明され意外そうな顔をした。
「日本にいると思ってだんですけれどね」
「三輪長官と衝突してな」
 大文字はそう説明した。
「それでダカールへ向かったのだ。色々と言われたらしい」
「やはりな」
「それでも今はよくやって下さっている。大事の前の小事ということだ」
「あの人達が分別のある人達でよかったですね」
「そもそもあの人が異常なのだが」
「けれどそれにより大体のことはわかってきた。どうやらガイゾックもまた銀河規模の組織らしい」
「そうなのですか」
「文明を発見次第破壊に向かう。かってはバルマーやゼントラーディの前にも姿を現わしたらしい」
「バルマーにも」
「彼等はそれを退けたがな。だがかなりのダメージを負ったようだ。当時のバルマーは今程強くはなかった」
「そうだったのですか」
「それかららしい。バルマーがあなったのは。そして宇宙怪獣との戦いもあった」
「話を聞く限り宇宙怪獣とガイゾックは行動が似ていますね」
「どういうことだ、サコン」
「いや。文明を狙うと聞いてな。若しかするとガイゾックも宇宙怪獣と似たような存在なのかも知れないと思ってな」
「そうなのか」
「俺はそう思う。他の者がどう思うかまではわからないが」
「サコン君の言う通りかもな」
 だが大文字はそれに同意した。
「詳しいことはまだよくわからないが彼等と宇宙怪獣は似ている可能性がある。それを考えて対処するといいかもしれない」
「ではザンボットはライディーンのようなものか、奴等にとって」
「そういうことかもな。いないのが残念だ」
「まああいつ等がいたらいたら五月蝿いけれどな」
「サンシロー、それは勝平だけじゃないのか」
「リー、御前は恵子と話したことないのかよ?」
「?勿論あるぞ」
「じゃあわかるだろ。あの三人は五月蝿いぜ、かなりな」
「まあそれがロンド=ベルの長所ですけれどね」
「そうなのか?ブンタ」
「黙って戦争やるよりは楽しく戦争した方がいいですよ。そういうことです」
「そんなものかな。まあいいや、今はガイゾックに向かおう」
「おうよ」
「フォッフォッフォッ、わしをみくびってもらっては困るのう」
「おいおい、その顔で言っても説得力がないぜ」
 サンシローはブッチャーにそう言い返した。
「まだヤマガタケの方が迫力があるぞ」
「サンシロー、何でそこで俺を出すんだよ」
「まあ気にするな。で、ここには何しに来たんだ、ブッチャーさんよ」
「知れたこと。御前達を殺す為じゃ」
 彼はその巨体を揺すりながらそう答えた。
「覚悟はよいか、虫ケラ共よ」
「生憎俺達は虫ケラじゃねえんだよ」
 マサキはそう言ってブッチャーを睨み返した。
「御前が俺達を殺すつもりならやってやるぜ。覚悟しな!」
「マサキまた熱くなっちゃって」
「まあいつものことだけれど」
「クロ、シロ、行け!」
「ニャッ!?」
 二匹のファミリアはいきなり主にそう言われ驚きの声をあげた。
「ハイ=ファミリアだ!用意はいいな!」
「いきなりニャ!?」
「おいら達だって準備があるんだぞ!」
「うるせえ!そんな悠長なこと言ってる場合か!戦争なんだぞ!」
「それはわかってるニャ!」
「けれどファミリアに入る時間位くれよ!」
「チッ、仕方ねえな。じゃあ今すぐ行け」
「わかったニャ」
「じゃあ行って来るよ」
「おう、早くな」
「あれってシロちゃんとクロちゃんが入っていたのね。驚いたわ」
「リツコも知らなかったのね。私もよ」
「で、ミサトさん、僕達もガイゾックに向かうんですよね」
「モチよ」
 通信を入れてきたシンジにそう答える。
「容赦はいらないからね。どんどんやっちゃって」
「はい」
「ったく、あの偉大なレスラーの名前冠してる割にぶっさいくよね」
「?アスカ、ブッチャーのファンやったんか?」
「そうよ。悪い!?」
「いや、意外や思てな」
「アスカって何かホーガンとかが好きなんじゃないかって思ってたけど」
「あたしはね、馬場のファンだったのよ。けれどね、ブッチャーも大好きなのよ」
 アドタブラ=ブッチャーはジャイアント馬場と数多くの■闘を展開してきたことで知られている。全日本プロレスの看板レスラーである馬場と悪役レスラーの代表であるブッチャーの戦いは今尚語り草になっている程であった。
「本当はすっごくいい人だったんだから」
「そうらしいわね」
 レイがそれに頷いた。
「少年院で励ましの言葉を贈ったりとか。素顔は素晴らしい人だったと聞いているわ」
「へえ、意外」
「まあ男は外見じゃわからへんっちゅうこっちゃ」
「一目で悪だってわかるのもいるけどな」
 甲児が目の前のブッチャーを指差しながらそう言った。
「やいブッチャー!おめえは今からその偉大なレスラーの名を捨てな!」
「ん〜〜〜〜、何を言っとるのかのう?」
「おめえはこれから青ブタだ!そう名乗りやがれ!」
「ってまんまじゃないの。ちょっとは捻りなさいよ」
「兜、アスカの言う通りだぜ」
「いいんだよ。どうせあいつが聞く筈ねえんだしよ」
「ヒョヒョヒョ、わかっておるようじゃな。猿なりに」
「な、猿だと!」
「わしをブタと言ったお返しじゃ。悔しかったらかかって来い」
「ああ、今からそっちに行ってやらあ!」
 頭に血が登った甲児はすぐにマジンガーを飛ばした。
「覚悟しやがれ!」
 しかしそこにメカブースト達が来る。瞬く間にマジンガーは取り囲まれた。
「邪魔だっ!」
 だが甲児はメカブースト達を意に介さなかった。スクランダーカッターを構えて飛ぶ。
 そしてそれで敵を切り裂いていった。マジンガーのその攻撃にメカブースト達は次々に爆発四散していった。
 それに続く形でロンド=ベルは攻撃をガイゾックに向けてきた。忽ちのうちにガイゾックのメカブースト達はその数を減らしていった。
「ぬうう、やりおるなあ!」
「おめえ等がトロいだけなんだよ!」
 甲児の言葉が返ってくる。
「とっととやられちまいな!」
「御前等にわしがやられはせんわ!」
「悪役ってのはヒーローに倒されるのが決まりなんだよ!」
「フン、ヒーローか」
 だがブッチャーは甲児のその言葉を鼻で笑った。
「それが自分だけの正義だとは思っておらんらしいな」
「何っ、どういうことだ」
「貴様等にはわからんわ。フォフォフォ」
「馬鹿なこと言ってねえでそこになおりやがれ!」
 甲児は感情的になってそう叫んだ。
「手前が正義な筈ねえだろうが!」
「待て、甲児君」
「鉄也さん」
 いきり立つ甲児を鉄也が制止した。
「今はバンドックよりもメカブーストを倒す方が先だ」
「けれど」
「鉄也君の言う通りだ。今僕達は敵の真っ只中にいるのだからな」
 大介も言った。
「ここは落ち着いてくれ。いいね」
「ちぇっ、わかったよ」
 兄の様な存在である二人に言われては甲児も納得するしかなかった。
「じゃあ今は他の奴に任せるよ」
「そうだな。また機会があれば狙えばいい」
「では僕達はメカブーストに専念しよう」
「了解、行くぞ甲児君」
「おう、鉄也さん、大介さん」
 彼はダイザーとグレートに続く形でメカブースト達に再度切り込んでいった。ダイアナンエース、やヴィーナスエース、ひかると
マリアの乗る二機のスペイザー、そしてボスも一緒である。マジンガーチームはゲッターやジーグのフォローも受けながらガイゾックのメカブーストを倒していっていた。
 無論彼等だけでなく他のロンド=ベルの面々もガイゾックのメカブースト達と戦っていた。バンドックにはゼンガーとクスハ、そしてブリットが向かっていた。
「行くぞ二人共」
「はい」
「了解」
 クスハとブリットは先を進むゼンガーに対して頷いた。グルンガストは剣を構えそのままバンドックに向かう。
「久し振りだな。キラー=ザ=ブッチャー」
「ん〜〜〜〜お主はあの時の」
 ムートロンでの戦いのことが二人の脳裏に思い浮かぶ。
「あの時は逃してしまったが今度はそうはいかぬ」
「ほう、わしを倒すとでもいうのか」
「そうだ。この斬艦刀、受けてみよ」
 そう言いながら巨大な刀を取り出す。
「そして地獄に落ちるのだ」
「地獄なんぞそいじょそこらにあるわ。今更言うつもりはないぞ」
「戯れ言を」
「戯れ言?フォフォフォ、果たしてそうかのう」
 彼はセンガーを嘲笑うようにしてそう言った。
「お主もそれはわかっているのではないのか?今までの戦いでのう」
「・・・・・・俺の戦いは地獄にある戦いではない」
 ゼンガーはブッチャーの言葉に対してそう返した。
「我が戦いは悪を断つ戦い、貴様の様な輩を斬る戦いだ!」
「面白い、ではこのバンドックを倒すというのか!?」
「無論、覚悟せよ!」
「ミサイルを撃て」
「御意、ブッチャー」
 それに従いギッザーが頷く。するとバンドックから夥しい数のミサイルがグルンガストに向けて放たれた。
「ゼンガーさん!」
「危ない、よけるんだ!」
「よける必要はない」
 それを見て驚きの声をあげるクスハとブリットに対してそう言葉を返した。
「この程度、これで充分!」
 刀を一閃させた。それだけでバンドックのミサイルを全て叩き落してしまった。
「ほほう」
「覚悟はできたか」
「生憎わしは往生際が悪くてのう」
 しかしそれでもブッチャーの態度は変わらなかった。
「その程度では驚きはせぬぞ」
「では今度はこちらから行こう」
 グルンガストがズイ、と前に出た。
「成敗!」
「フォフォフォ」
 だがバンドックは退いた。そしてグルンガストとの間を開けていく。
「逃げるか!?」
「逃げるのではない。撤退じゃ」
 ブッチャーは笑いながらそう反論した。
「これ以上遊んでいては怒られるからのう。さらばじゃ」
「怒られる!?」
 それを聞いたサコンの眉がピクリと動いた。
「ガイゾックの指揮官はブッチャーではないのか」
「それではさらばじゃ」
 だが彼に考える時間を奪うようにブッチャーはこう言った。
「また会おう、猿共よ」
「あの野郎、また猿だと!」
 メカブースト達をあらかた倒し終えた甲児はそれを聞いて怒りの声をあげた。
「待ちやがれ!やっぱり生かしておけねえ!」
「落ち着け、甲児君」
 だがそんな彼を鉄也がまた制止した。
「もう間に合わない」
「ちぇっ」
「まあ今はガイゾックを退けたところでよしとしよう」
 大介が最後にこう言った。
「全機集結だな。戦いは終わった」
「そうですね」
 徹夜がそれに頷く。戦いは確かに終わった。だが色々と謎を残した勝利であった。

「研作さん」
 戦いが終わると研作はノヴァイス=ノアの艦橋に入った。すると直子が彼に声をかけてきた。
「義母さん」
「翠は元気ですか」
「ええ、まあ」
 彼は妻の母に対して形式的な挨拶を返した。
「元気ですよ。翠も依衣子も」
「それならいいですけれど」
「家族は皆元気です。それは安心して下さい」
「オルファンにいるのですね」
「はい」
「・・・・・・考え直す気はないのですか」
 彼女はあらためて研作に対してそう尋ねた。
「・・・・・・・・・」
「どうなのですか」
「我々は人類の脅威になる為にオルファンを復活させたのではないのです」
「では何故」
「妻にも娘にもそんなことはさせません」
 彼は強い声でそう答えた。
「それは本当です。だからこそ今日の会議でも私の意見が通りました」
「そうですか。じゃあ問題はありませんね」
「はい」
「何処がだよ」
 しかしそれに対して異論を差し挟む者がいた。
「こんなの詭弁に決まってるじゃないか!」
「勇」
 それは研作の息子であった。彼はそれを聞いて息子に目をやった。
「親父!一体何を考えている!」
「人類の救済だ」
「嘘だ!」
「嘘じゃない。だから私は今ここにいる」
「皆を騙す為に!」
「違う。落ち着くんだ」
「俺は落ち着いている!」
「まあ聞くんだ。オルファンが人類にとって有害な存在でないのは御前もわかっているだろう」
「・・・・・・・・・」
「だからだ。御前にも協力して欲しいんだ」
「協力!?」
「オルファンに戻る気はないか?母さんが心配しているぞ」
「誰が!」
 勇はそれを断った。
「誰があんな所に!戻るものか!」
「そうか。では今はいい」
 研作は今息子を説得するのを諦めた。
「後でな。ゆっくり考えるといい」
「幾ら考えても同じだ!俺は・・・・・・」
「さらばだ、勇」
 だが研作はここで別れを告げた。
「また会おう」
 踵を返した。そしてそのままノヴァイス=ノアを発った。ヘリコプターでオルファンに向かっていた。
「行ったか・・・・・・」
「御父さん、行っちゃったね」
 ヒメが艦橋で父の乗るヘリを見送る勇に対して言った。
「あんな奴親父でも何でもないさ」
 勇は俯いてそれに応えた。
「どうなってもいいさ」
「そうなの」
「ところでだ」
 ゲイブリッジはヘリが姿を消すのを見計らったように口を開いた。
「カント君の理論の研究も進めなければならないな」
「そうですね」
 同じく艦橋にいたリツコがそれに頷く。
「何かと興味深い理論です」
「ただ、一つ気になることがある」
「何でしょうか」
「オルファンを飛翔させる謎のエネルギーの存在だ。これは一体何なのだろうか」
「私もそこまでは」
「これについての研究もはじめよう。そしてオルファンに対する認識を改めなくてはな」
「はい」
「あと一つ問題があります?」
「?」
 ゲイブリッジとリツコは同時にコモドに顔を向けさせた。
「アノーア艦長が戦闘中に行方不明になられたのですが」
「戦■!?」
「いや、どうも違うらしい」
 ゲイブリッジが勇に対して答えた。
「どうも思い詰めておられたようだからな」
「ジョナサンのことで・・・・・・」
「そこまで詳しいことはわからないが姿を消されたのは事実です」
「そうだな。だが艦長の代理が必要だ」
 そう言いながらコモドに顔を向ける。
「頼めるか」
「私ですか」
「そうだ。君以外には見当たらない」
「艦長が見つかるまでは・・・・・・」
「残念だが今はそんなことを言っている状況ではない。我々は今は彼女一人の為に足踏みをする状況ではないのだ」
「わかりました。それでは」
「うむ、頼むぞ。そしてだ」
 ゲイブリッジは言葉を続けた。
「私は艦を降り、連邦政府にオルファンの件を直接上奏しよう」
「連邦政府に直接ですか」
「問題は政治的になりつつある。私は直接彼等に働きかけ、ロンド=ベルの後ろ楯となろう」
「わかりました。それではお願いします」
「うむ。こちらのことは任せておいてくれ。直子さん」
「はい」
 今度は直子にも声をかけてきた。
「申し訳ありませんが貴女の御力も必要です」
「わかりました。それでは」
 直子はそれに頷いた。こうしてゲイブリッジと直子が共に動くこととなった。
「婆ちゃん」
 勇は祖母に声をかける。直子はそんな孫に対して優しい笑みを返して言った。
「背中のことは任せておいて」
「うん」
 孫はその言葉に頷いた。それで全ては決まった。オルファンに関することも大きく動いていた。


第四十話   完


                                    2005・8・20


[308] 題名:第三十九話 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年03月07日 (火) 19時09分

            火星の影
 ポセイダル軍とゼクスの部隊を退けたロンド=ベルの宇宙進出組はそのままコロニーに向かっていた。偵察部隊を出しながらの慎重な進軍であった。
「ヒイロ達からの報告はあったか」
「はい」
 トーレスがブライトに応えた。どうやら今度の偵察部隊はヒイロ達であったらしい。
「今しがた敵の防衛ラインをBポイントに発見したそうです。今から帰還して詳細を報告したいとのことですが」
「わかった、許可する」
 ブライトはそれを認めた。
「それではすぐにBポイントに向かおう。舵はいいな」
「了解」
 彼等はヒイロ達の報告に基づきネオ=ジオンの防衛ラインに向かった。その途中も作戦についての検討を怠ってはいなかった。
「GP−02があるのが問題だな」
 コウが他の仲間達に対してそう言った。
「あれは核を持っている。気をつけろよ」
「こっちにも使ってくるでしょうか」
「絶対にな」
 ウッソにそう答えた。
「ガトーはそういう男だ。己の理想の為ならば何でもする」
「危険ですね」
「だからソロモンの悪夢って言われてるんだよ。ハンパじゃねえぜ」
「わかりました」
 ウッソはそれを聞いて頷いた。
「あの時のことは僕も知っているつもりですから」
「そうだな」
 オデロがそれを聞いて応えた。
「俺達もあの人とは何回か戦っている。手強い」
「そうね」
 マーベットも応えた。
「多分彼だけじゃないし。他にもネオ=ジオンの名のあるパイロットが大勢いるでしょうね」
「マシュマーもいるかな」
「絶対いるよ、あいつは」
 ジュドーにルーが突っ込んだ。
「それにグレミーも」
「その通りだ」
 ここでヒイロ達が部屋に入って来た。
「おお、戻ってきたかよ。無事みたいだな」
「運がよかっただけだ」
 トロワがジュドーにそう答えた。
「敵に気付かれなかった。そして情報を最大限集めることができた」
「まあ俺のデスサイズヘルカスタムのおかげだけれどな」
「ナタクも頑張ってくれた。それに越したことはない」
「結局御前等ってこういう任務に向いてるんだな」
「元々そうした用途の為に開発されましたから」
 カトルも言った。
「情報を収集するのは得意なんです」
「それは何よりだ。ところでだ」
「はい」
 アムロの言葉に頷いた。
「敵の部隊はどれだけ展開しているんだ」
「俺達の二倍程だ」
「二倍」
 皆ヒイロの言葉を聞いて拍子抜けした。
「それだけか」
「他に伏兵とかはいないのか」
「辺りをくまなく探したが見当たらなかった」
 彼はそう答えた。
「コロニー周辺に主力がいるのかも知れないが」
「そうか。やけに少ないな」
「何かあるんでしょうか」
 カミーユが首を傾げながらそう言った。
「奴等の今までのやり方を考えると。おかしいですよ」
「普通に考えればそうなるな」
 クワトロもカミーユと同じ考えであった。
「彼等は策を好む。おそらく今回も何かやってくるだろう」
「はい」
「警戒は続けるべきだな」
「それでコロニーの方はどうなっているんだ?」
「かなりの数のモビルスーツが展開していました」
 カトルがアムロにそう答えた。
「そこに敵の主力がいました」
「そうか、やはりな」
「激しい戦いになるが皆覚悟はできているな」
「できてなけりゃここにはいねえぜ」
 リョーコがそう言った。
「やるぜ皆、ネオ=ジオンの奴等をぶっ潰す」
「よし」
「そしてついでコロニーもやるぜ」
 彼等の士気は高かった。シローもまたそうであった。しかしアイナは少し違っていた。
「お嬢様、どう致しました」
 それに気付いたノリスが声をかけてきた。
「何かお考えのようですが」
「兄さんのことが気になって」
「ギニアス様の」
「ええ。ネオ=ジオンにおられるわね、今でも」
「はい」
「今度の戦いにも参加しているんじゃないかって思って」
「その可能性はありますな」
「やっぱり」
「しかしそれは致し方のないことです。我々はネオ=ジオンとは袂を分かったのですから」
「それはわかっているつもりだけれど」
「ならば御気に召される必要はありません。どうしてもというのならギニアス様には私が向かいましょう」
「貴方が」
「はい。私はお嬢様に忠誠を誓う身」
 彼は言った。
「お嬢様の為ならどのようなことでも喜んで致しましょう」
「有り難う」
「おっと、ノリス」
 しかしここでシローが出て来た。
「シロー殿」
「それは俺の仕事じゃないかな」
「どういうことですか」
「わかってる筈だぜ、俺はアイナの恋人だ」
「認めたつもりはありませんぞ」
「アイナ公認なんだよ。それでその恋人が言うんだ」
「何と」
「アイナの悩みは俺が全部引き受ける。当然今回のもな」
「シロー」
 アイナは彼のその言葉を聞いて顔を晴れやかにさせた。
「いいなアイナ、兄さんのことは任せておけ」
「いいの、本当に」
「その為にここにいるんだ、任せておけよ」
「わかったわ、じゃあもし兄さんがいたら」
「任せてくれ」
「ええ」
 二人は笑顔で頷き合った。そしてその場を二人で後にする。ノリスは一人それを見送っていた。
「お嬢様も成長されたか」
 かっては自分の膝程の背丈しかなかった。そしてそこで彼から離れなかった。それはまだついこの前のように感じられる。
 だが彼女はもう成長していたのだ。幼い少女から一人の女性へ。彼はそれを噛み締め、寂しくもあり、また嬉しくもあった。実に複雑な気持ちであった。
 敵の防衛ラインに接近していた。既にマシンを出していた。彼等は前方を警戒しつつ進んでいた。
「さて、と」
 グローバルは前面を見ながら言った。
「どうでるかな、敵は」
「おそらくは守りに徹するかと思いますが」
「果たしてそうかな」
 しかし早瀬のその言葉には賛同しなかった。
「敵の指揮官にもよるが。積極的にくるのではないかな」
「防衛でですか」
「防衛だからこそだ」
 彼はそう答えた。
「積極的にやらなければいかんからな」
「ソロモンの悪夢が指揮官ならば尚更な」
「彼は今はコロニーの側にいるようです」
「そうなのか」
「はい。カトル達からの報告ではそうでした。GP−02に乗っています」
「最も頼りになる男を側に置いておくか。戦争の常道だ」
 クローディアの言葉に頷いた。
「では防衛ラインにいるのはライトニング=カウントか」
「そこまでは確認できていませんが」
「だが名のある者であることには間違いない。覚悟はしておくようにな」
「わかりました」
「艦長」
 キムが彼に報告してきた。
「どうした」
「前方に敵発見。かなりの規模です」
「遂にか」
「巨大な戦艦か何かもいるようです。どうしますか」
「決まっている」
 彼の返答はそれであった。
「全軍に告ぐ。攻撃用意」
「了解」
「このラインを突破してコロニーに向かう。総員戦配置!」
 その言葉がはじまりとなった。ロンド=ベルは前面に出た。彼等の前にモビルスーツ隊が姿を現わした。そしてそれ以外の敵も。
「何だ、あれは」
 ケンジがその銀色の巨大な戦艦を見て驚きの声をあげた。
「見たことのない戦艦だが。ネオ=ジオンのものか」
「いや、違うな」
 クワトロがそれを否定した。
「ネオ=ジオンにあのような艦はない。少なくともジオンの技術ではない」
 確かにその艦はネオ=ジオンの形ではなかった。円盤に似た形で手のようなものが突き出ていた。まるで要塞のような印象を与える。
「どちらかというと木星トカゲの技術だな」
「京四郎、そうなのか」
 一矢がそれを聞いて尋ねた。
「ああ。これは俺の勘だがな」
「京四郎さんの言う通りです」
 そこでルリが言った。
「あれはかぐらつきです。かって木星連合の旗艦でした」
「やはり」
「しかしあの艦は木星連合の敗北と同時に撃沈されました。何故ここにいるのかはわかりませんが」
「ネオ=ジオンが接収したのかもな」
「まさか」
「いや、わからないよ」
 プルツーが一矢に答えた。
「あたしがネオ=ジオンにいたのは知ってるね」
「ああ」
「あたしもいたよ」
 プルもそうであった。プルツーは他ならぬ彼女のクローンであるのだ。
「だから知ってるんだ。ネオ=ジオンは他の組織の兵器も接収して使う。サイコガンダムマークUがそうだった」
 彼女は最初サイコガンダムマークUに乗っていたのだ。そしてプルやジュドーの説得によりそれを降りロンド=ベルに加わった。乗機も今の赤いキュベレイに変わった。
「だが、今回は違うね」
「どういうことなんだ、プルツー」
「どう違うの?」
「ジュドー、プル、あの中から何か感じるだろ」
「!?」
 言われた二人はかぐらつきに目をやった。
「あそこからは人のプレッシャーを感じる。けれどそれはニュータイプのものじゃない」
「確かにな」
「うん」
 二人はそれに頷いた。
「何かこう・・・・・・。ハマーンに少し似ている。キュベレイに乗っていない時の」
「まさか」
 それを聞いたアキト達の顔色が変わった。
「あいつか!?」
「おい、そんな話は聞いてないぜ」
 サブロウタがナガレにそう言葉を返した。
「あの人は確か今は・・・・・・」
「ロンド=ベルの諸君」
「むっ!?」
 だがそんな話を打ち消すようにその巨大戦艦から声がした。
「私は草壁春樹だ。かって木星にいた」
 ナデシコ、そして他の艦やマシンのモニターに頬がこけた中年の男が現われた。
「諸君等の中には私をよく知っている者もいるだろう」
「くっ、あんたか。やはり」
「タカスギ=サブロウタか」
 草壁は彼の存在に気付いた。
「久しいな。またこうして会えるとは」
「どうしてこんなところにいるんだよ」
「私は理想を捨てるつもりはなかった」
「それでネオ=ジオンと手を組んだってことか!」
「そうだ」
 彼は答えた。
「私は今は火星の後継者を率いている。ネオ=ジオンの同盟者だ」
「火星の後継者!?まさか」
 ユリカはそれを聞いてハッとした。
「まさか今火星を占領しているのは」
「そう、我々だ」
 彼は答えた。
「火星はバーム星人達により占領されたが彼等は小バームに撤退し地球に入り込んだ。彼等にとって火星はさ程の価値もなかったのだろう」
「それでその機に乗じて火星を占領したのですね」
「そうだ」
 ルリの問いにも答えた。
「そしてネオ=ジオンと同盟を結んだのだ。正しき世界を作り上げる為にな」
「馬鹿な!ザビ家などと!」
 アムロがそれを聞いて激昂した。
「貴方もネオ=ジオンがどのような組織か知っている筈だ!それを何故!」
「ネオ=ジオンの理想は素晴らしい」
「な・・・・・・!」
 ロンド=ベルの者達にとっては驚くべき答えであった。
「あれこそまさに理想だ。理想は実現されなければならない」
「その為に多くの人が死んだとしても!」
「正しき世界を作るのに犠牲はつきものだ」
「詭弁だ!」
「詭弁ではない。正しき世界には不要な存在も多い。そうした者達を粛清することもまた必要なのだ」
「・・・・・・・・・」
 クワトロはそれを黙って聞いていた。何故か一言も発しない。
「その為にはコロニー落としを成功させる。人類の未来の為に」
「どうやら言っても無駄なようだな、このおっさんには」
 忍が話を打ち切るようにして言った。
「じゃあ潰してやる!覚悟はいいな!」
「我々も何の策もなしにここにいるわけではない」
「何ィ!?」
「い出よ、我が愛する兵士達よ」
 ロンド=ベルを取り囲むようにして木星トカゲの大軍が姿を現わした。
「ここで殲滅してくれる。そして人類の理想社会を築くのだ」
「そうはさせるかあっ!」
 ダイゴウジが叫んだ。
「このダイゴウジ=ガイ様がいる限り勝手なことはさせねえ!」
「ヤマダさん、ナデシコの重力波ビーム圏内から出てますよ」
「おっとと」
 メグミに言われ慌てて戻る。
「とにかくだ。また懲りずに出て来たのならまた潰してやるだけだ。覚悟しろ!」
「熱いね、どうも」
 ナガレがそれを聞いて微かに笑った。
「けれどそれもまたよし」
「よし、はじめて意見があったな!」
「ただエレガントにことを運びたいが」
「ナガレ、それ言うと話がややこしくなるから止めな」
「済まない、ノイン女史」
「あたしはリョーコだよ。だから止めなって」
「話はいい!とにかく行くぞ!」
 ダイゴウジが話を引っ張っていた。
「攻撃目標かぐらつき!一気に行くぞ!」
「おう」
「それは待ってくれ」
 しかしそれはグローバルにより制止された。
「グローバル艦長」
「君達ナデシコとエステバリス隊には木星トカゲの部隊の迎撃に向かってもらう。バルキリー隊と共にな」
「何故」
「その方が向いているからだ。あの戦艦にはダンクーガとゴッドマーズ、そしてダイモスを向かわせる」
「よしっ、あのおっさんを地獄に叩き込んでやるぜ」
「忍にいい目見させるのはちょっと癪だな、いつも派手に戦ってる癖によ」
「それが人徳ってやつなんだよ」
 忍はリョーコにそう言い返した。
「まあここは任せてな。悪いようにはしねえぜ」
「後先考えずにやるのは止めろよ」
「そうじゃなかったら戦争なんてできねえだろうが」
 亮の忠告には当然のように耳を貸さない。
「戦争ってのはなあ、直感でやるもんなんだよ」
「・・・・・・それが士官の言葉か」
 それを聞いたアランが呆れた声を出した。
「藤原、落ち着け」
「落ち着くのは俺の仕事じゃねえ。目の前にいる連中をブッ殺すのが仕事なんだよ」
「何かいつもこんな感じだなあ」
 雅人も呆れていた。だがそこに敵が来る。
「おっと!」
 火星トカゲの攻撃をかわす。そしてダンクーガの拳で目の前にいる一機を叩き潰す。
「その程度でやられるかよ!」
「腕は落ちてはいないようだな」
「うっせえ、アラン、御前のところにも来てるぞ!」
「わかっている」
 アランはそれに応えてブラックウィングを動かせた。そして木星トカゲを一機撃墜した。
「これでいいな」
「おう、まあな」
「では君達にはそのままかぐらつきに向かってもらおう」
 グローバルがあらためて指示を下した。
「いいな」
「言われなくてもやってやらあ!そこにデカブツ覚悟しな!」
「私がデカブツか」
 草壁はそれを聞いて苦笑した。
「面白い。では来るがいい。ダンクーガの力見せてやろう」
「おうよ!」
「おっと、俺も行かせてくれよ」
「洸」
 洸とブルーガーもやって来た。
「小隊を組んでいるしな。いいだろう」
「ああ、まあな」
「俺達もかぐらつきに向かう。グローバル艦長、それでいいか」
「そうだな」
 彼は神宮寺の言葉を聞きそれに頷いた。
「許可しよう。君達も向かってくれ」
「了解。聞いたな、ミスター」
「ああ」
「攻撃目標はあの化け物。麗、マリッペ、猿丸先生もいいな」
「はい」
「わかったわ、洸」
「それで僕もなんですねえ、トホホ」
「おいおい、猿丸先生がいなくて何がコープランダー隊なんだよ」
「レーダーの方宜しく頼みますね」
「はい」
 彼は嫌々ながらもそれに頷いた。そして突撃するブルーガーの中でレーダーにしがみつくのであった。
 ゴッドマーズとボルテスもかぐらつきに向かう。他のマシンはその道を開けるのと艦隊の護衛に回っていた。特にエステバリス隊は艦隊を上手く護衛していた。
「オラオラッ!」
 リョーコのエステバリスがライフルを放つ。それにより木星トカゲを次々に撃墜していく。
「ボヤボヤしてっとまとめて撃墜してやるぞ!」
「リョーコさん気合バッチリィ」
「気合は機雷・・・・・・」
「そこで無理矢理な駄洒落飛ばすんじゃねえ!気が抜けるだろうが!」
 イズミにそうクレームをつける。
「おやおや」
「けれど私たちもちゃんとやってますよお」
「・・・・・・まあな」
 見ればヒカルとイズミも戦っていた。ライフルで敵を次々と撃墜していた。
「相手が相手だけに慣れたもんだな」
「ほう、慣れたものか」
「その声は!?」 
 アキトがその声に反応した。
「北辰衆!」
「久し振りだな、テンカワ=アキト」
 そこに突如として北辰衆の者達が姿を現わした。
「元気そうで何よりだ」
「貴様等、どうしてここに!」
「我等もまたネオ=ジオンに協力しているのだ。草壁閣下の下でな」
「何っ!?」
「ボゾンジャンプを使ってここまで来た。わざわざ火星からな」
「一体何の為に」
「戦場に来る目的は一つ」
 北辰は落ち着いた声でそう答えた。
「敵と戦う為。違うかな」
「俺達とやろうってのか!」
「無論」
 ダイゴウジに答えた。
「貴様等の相手は我々がする。そしてテンカワ=アキト」
 彼はそう言いながらアキトを見据えた。
「貴様の相手は私だ。覚悟はいいか」
「言われなくても御前だけはやってやる」
 アキトはキッとした顔で言い返した。
「この前の借りがあるからな」
「へえ」
 それをナデシコのキッチンで聞いていたホウメイは声を漏らした。
「彼も強くなったもんだねえ。ラーメンのことばかり考えていると思ったら」
「やってやる。このエステバリスで!」
「・・・・・・・・・」
 ルリはそれを黙って聞いていた。表情は変わらないが何やら思うところがあるようである。
「アキトってさいっこう!」
 ユリカはその横でアキトの雄姿を見てはしゃいでいた。
「そうでなかったら私の恋人にはなれないわ!」
「けれど勝てるかどうかは別です」
「どういう意味なの、ルリルリ」
 それにハルカが尋ねた。
「アキト君なら負けないわよ」
「負けはしないでしょう。けれど」
「けれど!?」
「勝てもしないと思います。エステバリスでは」
「何かよくわからないんですけれど」
 ハーリーがそれを聞いて首を捻る。
「今のアキトさんとエステバリスでは勝てないということでしょうか」
「はい」
 ルリは彼にそう答えた。
「もっと強いマシンがあればわかりませんが」
「そう言いましても」
 これには皆首を傾げた。
「エステバリスはあれ以上は強化できないし」
「どうしたものか」
「そうかなあ」
 しかしユリカだけはそれには疑問であった。
「艦長、何か御考えでも」
「新しいエステバリス作っちゃえばいいじゃない。思い切って」
「ネルガルに?」
「そうね、プロスペクターさんに頼んで。どうかしら」
「う〜〜〜〜〜ん」
 だがそれには殆どの者が賛成していないようであった。
「それはどうでしょうか」
「駄目かなあ」
「駄目というよりは。お金が」
「お金が解決したらいいのね」
「えっ!?」
 これには皆再び驚かされた。
「じゃあ連邦軍にかけ合ってみるね、時間があったら」
「艦長、本気ですか!?」
「勿論よお。それだとロンド=ベルのパワーアップにもなるしアキトも活躍できるし。いいことばかりじゃない」
「そうでしょうか」
「悪くない考えだと思います」
 驚いたことにルリがそれに賛成の意を表わした。
「ルリちゃん」
「アキトさんの素質と能力を考えますといずれエステバリスでは限界が生じると思われます。新しい、全く別のマシンを開発する必要があります。オモイカネもそう分析しています」
「じゃあそれで決まりね」
「ただ、開発にはかなりの時間がかかると思います。それでもいいですか」
「えっ、今すぐじゃないの!?モビルスーツみたいに」
「モビルスーツもすぐには開発できないぞ」
 ブライトがそれを聞いて呆れてそう言った。
「そんなことできたら苦労はしない」
「そうだったの」
「かなり後になりますがそれでいいでしょうか」
「ええ、いいわ」
 それでもユリカはそれをよしとした。
「ルリちゃん、じゃあプロスペクターさんに連絡して」
「はい」
「何はともあれアキトの格好いい姿をもっと見られるんだから。楽しみよね」
 だが当のアキトはそれどころではなかった。彼は北辰と必死に戦っていた。
「このおおおおっ!」
「甘いっ!」
 ライフルやミサイルを放ってもそれをかわす。そして胸元に飛び込んできて接近戦を仕掛ける。アキトはそれを何とかかわす。だが接近戦は苦手なので思ったように反撃を仕掛けられない。それが北辰の狙いであったのだ。
「どうした、その程度か」
「クッ・・・・・・」
 アキトはそう言われて歯噛みした。
「前と然程変わってはいないな。進歩がない」
「言うな!」
 アキトはそれに激昂して間合いを離す。そしてまた攻撃に転じた。
「これなら!」
「何度やっても無駄だ」
 だが北辰の笑みは変わらなかった。彼は余裕をもってアキトの攻撃をかわしまた接近戦を仕掛ける。こうしてアキトを翻弄していたのであった。
「そのエステバリスではな。私を倒すことはできん」
「そんな筈はない!」
 アキトはそれに反論する。
「できる筈だ!エステバリスでも!」
「無駄だ。このマシンはエステバリスに対抗する為に開発されたのだ」
「やはり」
 ルリはそれを聞いて呟いた。そして北辰を見る。その金色の目が輝いた。
「・・・・・・成程」
「何かわかったんですか!?」
「はい。おおよそのことは」
 ハーリーにそう答えた。
「北辰衆のマシンのデータはわかりました。後でファイルにしてネルガルにお送りします」
「頼んだわよ、ルリちゃん」
「はい。これで何とかできると思います。いずれは」
「今は!?」
「アキトさん次第です」
 そうであった。今はエステバリスでやるしかない。それはルリが最もよくわかっていることであった。アキトもわかっていた。だからこそ命をかけて戦っていたのだ。
「そら、どうしたのだ」
「クッ!」
「それではこの夜天光を倒すことなぞ不可能だぞ」
「果たしてそうかな」
 しかしそれに異を唱える者が出て来た。
「ムッ!?」
「邪魔しちゃ悪いがな。アキトの危機には黙ってはいられなくてな」
「貴様は」
「俺か?フォッカーっていうんだ」
 ロイ=フォッカーとその愛機ロイ=フォッカー=スペシャルがその場に姿を現わした。
「大した自信だ、気に入ったぜ」
「気に入ってどうするつもりだ」
「決まっているさ。倒してやるよ。それがパイロットってもんだろ」
「・・・・・・私を倒せると思っているのか」
「今までその台詞は飽きる程聞いてきたな」
 彼は自信に対して自信で返した。
「言った奴は全員死んでいるがな」
「面白い」
 北辰もそれを受けることにした。
「では私が生き残る最初の者となる」
「それも聞いているぜ」
「さらに面白い。では行くぞ」
「来な。アキト」
 フォッカーはアキトに声を送った。
「そういうことだ。悪いが他の連中の相手に回ってくれ」
「は、はい」
「もう、フォッカー少佐ったら」
 ユリカはフォッカーが出て来たのを見てふくれていた。
「折角アキトがいいところ見せてくれるところだったのに」
「いえ、フォッカー少佐の判断は的確です」
「どうして?」
「今のアキトさんでは押されていました。だからこそ少佐がここに来られたのです。相手をできるのは自分しかいないとわかっておられるこそ」
「そういえばそうね」
 ルリの言葉にハルカが同意した。
「モビルスーツ部隊は今近くにいないし。アムロ中佐やカミーユ君なんていたら別なんだろうけど」
「エマ中尉やウラキ中尉もあっちだし」
 彼等はロンド=ベルはおろか連邦軍でも屈指のエースであった。流石に彼等の力量はズバ抜けたものがある。ハルカ達もそれはよく知っていた。
「となるとここにはフォッカー少佐しかいない。ここはお任せしましょ」
「はい。では少佐、お願いできますか」
「俺はクローディア以外のレディの頼みは引き受けないんだがな」
「じゃあ私からもお願いするわ」
 それを受けてそのクローディアも出て来た。
「ロイ、頼めるかしら」
「おうさ」
 それを聞いてニヤリと笑った。
「クローディアに言われちゃあな。仕方ないか」
「お願いするわね」
「そういうわけだ。そこの若いの」
「私のことか」
「そうさ、他に誰がいるんだ」
 北辰に対して言う。
「覚悟するんだな。いいな」
「スカル小隊のリーダー、ロイ=フォッカー。噂だけは聞いている」
「じゃあ話は早い。行くぜ」
「本来ならばテンカワ=アキトを相手にしたいところだが売られた勝負は買わないわけにはいかない。行くぞ」
「おうよ」
 バルキリーと夜天光が激突した。フォッカーはめまぐるしく動き回りながら夜天光に攻撃を仕掛ける。
「ミサイルじゃあ俺は倒せはしねえぞ!」
「クッ!」
 北辰はそれを見て舌打ちした。
「まさかこれ程の動きとは・・・・・・」
「バルキリーの運動性能を甘く見るな!この程度じゃねえぞ!」
 さらに動きを速める。そして攻撃を仕掛けてきた。
「食らえっ!」
 今度はバルキリーがミサイルを放った。ミサイルはそれぞれ複雑な動きを示しながら北辰に向かう。彼はそれを手に持つ杖で何とか防いでいた。
「おのれっ!」
「まだ終わりじゃねえぜ!」
 変形した。そしてガウォークになりガンポッドでの攻撃に変える。ミサイルだけでも苦戦していた北辰はそれを受けてさらに窮地に陥った。
「ぬおっ!」
 ガンポッドの攻撃を胸に受けた。それで怯んだところにフォッカーはバルキリーに戻り再びミサイルを放つ。それが決め手となった。夜天光は大破してしまった。
「おのれ・・・・・・」
「どうだ、これがバルキリーの動きだ!」
「それよりも貴様の技量といったところか」
「フン、褒めても何も出ねえぞ」
「率直に感想を述べたつもりだがな。だが今回の勝負は決まった」
「俺の勝ちだな」
「残念だがな。ここは退いてやろう。さらばだ」
 そう言い残すと姿を消した。他の北辰衆もリーダーが去ったのを見て戦場を去った。フォッカーはそれを悠然と眺めていた。
「少佐」
 そんな彼にアキトが声をかけてきた。
「おう少年、元気そうだな」
「有り難うございます。助けて頂いて」
「礼には及ばんと言っているだろ。俺も久し振りに戦いがいのある奴とやりあえて楽しい気分なんだ」
「そうなんですか」
「ああ。あの夜天光ってのはかなりの強さだ。それはわかった」
「そのわりには押してたように思えますけれど」
「俺のミサイルをあそこまでかわした奴ははじめてだ」
 ヒカルに対してそう答えた。
「本来ならあそこで倒せていた。しかしそれができなかった」
「それでガウォークに」
「ああ。あれは予想外だったぜ。だが何とかそれで退けることはできたな」
「ついでにあいつの手下もどっかに行っちあったしな。清々しくなったぜ」
「とりあえずはそうですね。ホッとしました」
 ジュンがリョーコに対してそう述べた。
「一時はどうなるかと思いましたけれど」
「そう言う割にジュンさんも頑張っていましたよね」
「えっ、そうかなあ」
「おうさ。まさか北辰衆の奴等を一度に二人も相手にするとは思わなかったぜ。大健闘だな」
「あ、あれはたまたまで」
 ヒカルとリョーコに言われ謙遜した。
「本来の僕の実力じゃないよ。本当にたまたまなんだから」
「パイロットにたまたまはなくてな」
 そんな彼にフォッカーが言葉をかけた。
「培った技量が全てなんだ。偶然なんてのはないさ」
「そうでしょうか」
「ああ。だから御前さんも自分の腕に自信を持ったらいい。それだけのことができたんだ」
「はい」
「それでいずれは俺みたいになれよ」
「少佐みたいに」
「そうだ、俺を目指すんだ」
「それは駄目よ、ジュン君」
 しかしここでクローディアがモニターに姿を現わした。
「クローディアさん」
「ロイみたいになったら何時か大怪我するわよ。今までどれだけ怪我してきたか」
「おい、それは言わない約束だろ」
「言いたくもなるわよ。この前だって調子に乗ってアクロバットやってマクロスに激突しかけたじゃない」
「あれは前の戦いの話だろうが」
「それでもよ。どうしてそんなに向こう見ずなのよ」
「パイロットってのはなあ、命掛けでやるもんだ」
 彼は反論した。
「だから多少の危険は付き物なんだよ」
「それと向こう見ずは違うわよ」
 クローディアも負けてはいない。
「もしものことがあったらどうするのよ」
「そんなことは有り得ないな」
「どうしてそう言えるのよ」
「俺には勝利の女神がついているって言ったろ」
「え!?」
「御前がな、クローディア。御前がいる限り俺は死なないさ」
「・・・・・・馬鹿」
「結局おのろけなんですね」
「仲良きことは美しきかな、ですよ」
「そうなのかなあ」
 ジュンとヒカル、アキトはそれぞれの感想を述べた。戦いはその間に佳境に入っていた。
「ゴッドバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァドチェェェェェェェェェェェェェェンジ!」
 ライディーンが変形した。かぐらつきを前にゴッドバードになる。
「照準セェェェェェェェェェェェェェェェェェェーーーーーーーーット!」
 照準を合わせた。そしてそのまま突撃を敢行した。
「ぬうっ!」
 直撃を受けたかぐらつきが揺らぐ。だが草壁はそれでも艦橋に立っていた。
「まだだ!まだ沈みはせん!」
 そう言って動揺しかけた部下達を安心させようとする。しかしそこに忍のダンクーガが来た。
「皆、一気にいくぜ」
「おう!」
 他の三人がそれに頷く。ダンクーガは巨大な剣を出してきた。
「空なる我もて敵を討つ・・・・・・」
 恐ろしい程落ち着いた声になっていた。この時忍は心を空にしていた。
「いけええええええええ!断空光牙剣!」
 剣身が巨大な白い光となった。そしてかぐらつきを一閃した。それで以って致命傷を与えた。
「ぬううっ!」
「これでどうだっ!」
「まだだ、まだ沈みはせん!」
 しかしそれでも草壁は立っていた。
「この程度ではまだ!」
「いえ、司令、これ以上は」
 ここで部下の一人が彼に対して言った。
「コントロール部をやられました!これ以上の戦闘は不可能です」
「まことか」
「はい、残念ながら」
 部下は口惜しそうにそう述べた。
「ここは退くべきだと思いますが」
「・・・・・・わかった」
 彼は苦汁に満ちた顔でそれを受け入れた。
「では下がろう。よいな」
「はっ」
 かぐらつきはそれを受けて戦場から離脱を開始した。しかしそれを逃す忍ではなかった。
「待ちやがれ!」
「待て、藤原」
 だがそれをアランが制止した。
「何だよ、追うなってのかよ」
「そうだ。今はかぐらつきよりも優先させなければならないことがある」
 彼は忍に対してそう語った。
「残敵の排除、そしてコロニー落としを防ぐことだ。わかったな」
「・・・・・・チッ」
 彼は舌打ちしながらもそれに頷くことにした。
「そうだな。じゃあそっちに向かうか」
「そうだ。では行くぞ」
「ああ」
 だが敵は既にその殆どが撤退していた。木星トカゲの部隊はボゾンジャンプで戦闘宙域から去っており、モビルスーツ部隊はコロニーの方に離脱していた。こうして戦いは幕を降ろしたのであった。
「これで敵の防衛ラインは突破したな」
 ブライトは戦闘の終わった宙域を見回しながらそう言った。
「はい。思ったよりあっさりといきましたね」
「一時はどうなるかと思いましたけどね」
「そうだな」
 トーレスとサエグサに対して頷いた。
「だがまた新たな敵がはっきりしたな」
「火星の後継者か」
「ああ」
 艦に戻り、艦橋にやって来たアムロに対しても応えた。
「ナデシコと合流した時からおかしいとは思っていたがな」
「そうか」
 アムロはそれを聞いて頷いた。
「だがまさか新しい組織が出て来るとはな。意外だった」
「しかもネオ=ジオンと結託するとはな。これは厄介だぞ」
「ああ」
「それも火星にだ。下手をするとネオ=ジオンはティターンズに匹敵する力を手に入れたのかも知れない」
「だとしたら大事ですよ」
 トーレスがそれを聞いて口を挟んできた。
「ただでさえ手強いモビルスーツを一杯持っているっていうのに」
「わかっている。いずれ彼等も何とかしなくてはならない」
「そうだな」
「だがとりあえずはコロニーに向かおう。全てはそれからだ」
 こうして彼等はコロニーに向かうことになった。アイビスはその時アルビオンの自室で窓の外を眺めていた。
 そこには無限の銀河が拡がっている。彼女は何も語らずただその星の大海原を見ているだけであった。
「アイビス、部屋にいたのね」
 そこにツグミが入って来た。
「探したのよ、何処にいるのかって思って」
「済まない、心配をかけたな」
「いえ、いいわ。それより気になるのね」
「ああ」
 彼女は友の言葉に頷いた。
「何かね、ネオ=ジオンとなるとね」
「彼女、多分今回の作戦にも参加しているわよ」
「だろうな。あいつのパイロットとしての腕とベガリオンの性能を考えるとね」
 アイビスは真剣な顔でそう語った。
「絶対にいるだろうね。そしてあたしに向かって来る」
「けれど、わかってるわね」
「ええ」
 彼女はそれに頷いた。
「負けないよ、あたしは。もう何があっても」
「そうよ」
「アルテリオンがある限りね。絶対に負けない」
「ただ、無理はしないでね」
「無理!?」
「ええ。何かアイビスって彼女のことになると人が変わるから」
「そうだろうね」
 彼女はそれを認めた。
「あいつのお兄さんのこともあるしね。今はネオ=ジオンにいるんだったな」
「そうらしいわね」
「ネオ=ジオンとは縁があるね。どういうわけか」
「本当ね。皮肉なものだわ」
 ツグミは悲しい顔になった。
「ここにいる人の多くがそうだから言ってはいられないけれど」
「ああ」
 アイビスは答えながら星を見た。星は何も語らず銀河に輝いていた。
「こんなに綺麗なのにな、星は」
「そうね」
 ツグミもそれを受けて星に目をやった。
「人間ってのは戦い続ける。因果なものだよ」
「そうね。けれど戦いは何時か終わるわ」
「終わるのかな、本当に」
 アイビスはそれを疑問にすら感じた。
「こんなに激しいのに」
「どんなことでも終わりがあるから。この戦いも」
「そう思いたいね」
「それでこの戦いが終わったらどうするの?」
「どうするって?」
 アイビスはツグミに顔を戻した。
「どうすればいいと思う?ツグミは」
「遠い何処かに行かない?二人で」
「遠くへか」
 それを聞いて虚空に目をやった。
「悪くはないね、それも銀河の遥か彼方へ」
「何があるかわからないけれど。行ってみる」
「ああ、行こうか」
 彼女はそれに応えた。
「二人でね」
「若しかするとまだ増えるかもしれないけれど」
「?誰だよ、それ」
「それは秘密」
「わからないこと言うね、全く」
「ふふふ」
 そんな話をしながらも次の戦いの時は迫っていた。アイビス達にとっても正念場が近付こうとしていたのであった。


第三十九話   完


                                       2005・8・15


[307] 題名:第三十八話その二 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年03月07日 (火) 18時58分

「クマゾーといったな」
「うん」
「俺だって引き際位は心得ているつもりさ」
 そう言って微笑んだ。それからまたクマゾーに対して言った。
「さっきは殴って済まなかったな。君は立派だったよ、尊敬に値する坊やだ」
「尊敬?」
「そうだ。オルファンに来ればグランチャーをやろう。来るか?」
「ううん」
 だが彼は首を横に振った。
「それよりも僕はヒメ姉ちゃんや皆の側がいいも」
「そうか。それならいい。そこのお嬢ちゃんにも申し訳ないことをしたな」
「・・・・・・・・・」
「これでな。また会おう」
 そう言って甲板を後にしようとする。勇がそれを見て駆けた。
「逃がすか!」
 だがジョナサンの方が早かった。彼は甲板にあった自身のリクレイマーに乗った.そしてその場を後にしようとする。
「させるかいっ!」
 十三が乗り込もうとする彼を拳銃で撃とうとする。しかしそれはできなかった。
「艦長!」
 コモドが甲板に駆けてきた。
「敵襲です!」
「敵!?」
「はい、グランチャーの部隊です。如何致しますか!?」
「すぐに迎撃用意を!」
 彼女は艦長の務めによりすぐに指示を下した。
「ブレンも出撃させる!」
「了解!」
 それに従い勇達が動く。見ればグランガラン等三隻の戦艦が前に出て来ていた。彼等も既に敵の動きを察していたようであった。
「行くぞ!」
「うん!」
 ブレンが出撃する。他のマシンも次々と出る。そしてグランチャーに備えていた。
「ジョナサン、迎えの部隊を呼んでいたのか」
「俺だって二手三手先は読んでいる」
 彼は後退しながら答えた。既にロンド=ベルの攻撃が届かない範囲まで退いている。
「それにオルファンがバイタルネット=グロウブのネットに引っ掛かるのは面白くない」
「アノーア艦長への腹いせか?」
「あんなちっぽけな艦でオルファンを止めようというのが生意気なんだよ!」
「まだそんなことを!」
「ジョナサン!」
「シラーか!」
 見ればシラーのグランチャーがいた。そしてもう一機。
「エッガも」
「フハハハハハハハハハハハ!」
「何だ、あいつ」
「おかしいのかよ」
 ロンド=ベルの面々は彼が異常なテンションで笑うのを見てそう言った。
「どけ、ジョナサン!」
「何!?」
「裏切り者なぞ俺が串刺しにしてやるわあ!勇、覚悟!」
「勇、エッガよ」
「ああ」
 カナンの言葉に頷いた。
「どう見ても様子がおかしいわ。注意してね」
「わかってる」
「おかしいというレベルじゃないな、あれは」
 鉄也がそれを見て呟いた。
「狂っている。勇君、警戒しろよ」
「はい」
「エッガ!」
 エッガの異常にジョナサンも気付いていた。彼に声をかける。
「しっかりコントロールしろ!」
「裏切り者があ!親を裏切るガキなんぞ親不孝以下だろうがあああああっ!」
「何だとっ!」
 ジョナサンは自分のことを言われたと思い顔を顰めさせた。しかしシラーがそれを制止する。
「よせ!」
「何故だ!」
「今のエッガは・・・・・・駄目だ」
 彼女はそう言うだけであった。ジョナサンもそれに従うしかなかった。
「何なんだ、あのチャクラ光は」
「見たこともないぞ」
 ラッセもナンガもエッガを見て唖然としていた。
「どうなっているんだ」
「少なくとも普通の事態じゃないね」
 万丈が言った。
「これは厄介だぞ」
「そうね」
 マーベルがそれに頷いた。
「あのグランチャーを何とかしないと大変なことになるわ」
「しかしこの気」
 ショウは何かを感じていた。
「ジェリルやバーンのそれに似ている。どういうことなんだ」
「どっちかっていうとジェリルだな」
「トッド」
「あの女と同じだ。暴走していやがる。まだあの女はその一歩手前ってとこだがな」
「そうだな」
「剥き出しの悪意と憎悪、そして嫉妬」
 シーラが言った。
「あのグランチャーとパイロットは完全に正気を失っています」
「正気を」
「それだけではありません。邪悪なものすら感じます」
「じゃあどうすればいいんですか!?」
 エルがそれを聞いて不安になった。そしてシーラに尋ねた。
「このままじゃ大変なことになっちゃいますよ」
 ベルもである。
「止めなければなりません。ですがこのままだといずれ彼も」
「自滅するだろうな」
 勇がそれを聞いて呟いた。
「はい。しかしそれは今ではありません」
「やるしかないか」
「勇、どうするの!?」
「俺が行く。エッガは俺が倒す」
「ヒャハハハハハハハハハ!御前にそれができるのかあ!?」
 エッガはそれを聞いてけたたましい、狂気を含んだ笑いを出した。
「御前ごときが、裏切り者があ!」
「俺は裏切り者じゃない」
 勇は彼に言った。
「俺は気付いたんだ、御前とは違う!」
「じゃあそれを見せてみろ!俺が潰してやるからなあ!」
「エッガ、待て」
 だがそこにジョナサンが出て来た。
「ジョナサン」
「勇、もう一度聞こう。オルファンに戻る気はないんだな」
「ああ」
「博士達が待っていてもか」
「俺はもうロンド=ベルにいる。オルファンに俺の居場所はない」
「親がいてもか」
「俺は御前とは違う」
 彼はそう反論した。
「御前みたいにコンプレックスがあるわけじゃないからな」
「コンプレックスか」
 ジョナサンにもそれは何なのかわかった。口の端を歪めて笑った。
「さっきので誤解したようだな」
「誤解!?」
「俺は母親というものを否定した。御前みたいにベタベタするということはない」
「なら」
 勇はそれを信じなかった。
「そこをどけ。俺は今エッガを倒す」
「ふん」
 しかしジョナサンはどこうとはしなかった。彼にも意地があるからであろうか。
「そう言われて易々とどくと思うか?」
「なら先に御前を倒すまで。行くぞ」
「待てよお、ジョナサン」
 エッガは今度はジョナサンに声をかけてきた。
「あいつは俺を狙ってるんだ。俺にやらせてくれよ」
「いや、駄目だ。御前は普段の御前じゃない」
 ジョナサンはそう言った。
「落ち着け。さもないと大変なことになるぞ」
「大変!?何がだ」
 声に含まれている狂気が増したように思われた。
「戦争やってるっていうのにこれ以上大変なことがあるのかよお」
「・・・・・・何を言っても駄目なのか」
「ジョナサン!」
 今度はシラーが声をかけてきた。
「今は話をしている場合じゃない!戦いをやってるんだ!」
「チッ」 
 それを聞いて舌打ちするしかなかった。
「わかった。ではそっちに向かう」
「そうするしかない。エッガは諦めろ」
「・・・・・・わかった。エッガ」
 最後にエッガに声をかけた。
「それではな」
「おうよお!」
 彼にはもう何もかもわかってはいなかった。ジョナサンが今どう思っているのかも。ただ狂気の中に身を置いているだけであった。気付かないのは彼だけであった。
 そして勇のブレンに向かう。剣を取り出し斬り掛かる。
「■えええええっ!」
「クッ!」
 勇はそれを受け止めた。
「勇!」
「ヒメ、来るな!」
 彼はヒメを制止した。
「けど!」
「こいつはエゴに溺れているだけだ!そんな奴に負けない!」
「じゃあ任せていいんだね!?」
「ああ」
 彼は頷いた。
「ここは俺一人でやる。ヒメは他の奴等を」
「わかった」
 ヒメもそれを聞いて頷いた。
「じゃあここは君に任せるよ。ナンガさん、ラッセさん」
 共に小隊を組む二人に声をかけた。
「いこ。そして他のことしよ」
「わかった」
「勇、ここは任せたぞ」
「はい」
 彼等は小隊を分けた。そして勇はそのままエッガとの戦いを続けた。
 エッガの攻撃は執拗であった。動きも破天荒なものでありとらえどころがない。だが勇はそれを的確に防いでいた。
「勇さんも凄いんだなあ」
 シンジはそれを見上げて呟いた。エヴァはノヴァイス=ノアの甲板の上で艦の護衛にあたっていた。
「あんなに強いなんて思わなかったよ」
「彼も目覚めたのですよ」
「ジョルジュさん」
「うっ」
 アスカはシャッフル同盟が出て来たのを見て引いた。シンジに言おうとしたところを先を越された形となった。
「人というものは吹っ切れれば、きっかけがあれば変われるものなのですよ」
「そうなんですか」
「シンジ君、貴方もね。かなり変わりましたよ」
「いや、僕はそんな」
 それには謙遜した。
「あまり。というか全然」
「それは違うと思うわ」
 だがそれはレイによって否定された。
「最初の頃と比べると。まるで別人よ」
「そうかなあ」
「少なくとも甲児達には近くなったわよ。あと宇宙に行った三馬鹿」
「おい、そりゃどういう意味だ!」
 不意にタップの声が聞こえた。
「えっ、いたの!?」
「悪い悪い、俺だ」
 驚くアスカの前にヂボデーがモニターから出て来た。
「ちょっとからかってみたくなってな」
「驚かさないでよ。心臓が止まるかと思ったじゃない」
「あれ、アスカの心臓って鉄でできてるんじゃないの!?」
「サイシー、あんたねえ」
 アスカは顔を顰めさせた。
「レディに言っていいことと悪いことがあるってわからないの!?」
「マドモアゼル=アスカ」
 ここでジョルジュがまた言った。
「レディは常におしとやかでなくてはなりませんよ」
「くっ」
「まあそういうことだな。レディでなければ別に構わないが」
「アルゴさんてワイルドなのが趣味なの!?」
「マドモアゼル=アレンビー、貴女もですよ」
「ちぇっ、ジョルジュさんは厳しいなあ」
「とにかくねえ」
 アスカは強引に話を戻しにかかった。
「シンジはまだまだってことなのよ。ちょっとはましになってきたけれどね」
「ホンマ素直やないなあ」
「うっさいわね、あたしはいつも本音しか言わないわよ」
「ではその本音とやらを見せてもらおう」
「どうやって!?」
 ドモンに声を向けさせた。
「戦いだ!それ以外何があるというのだ!」
「・・・・・・やっぱりね」
 予想していたが実際に聞くとかなり呆れてしまった。
「今からそれを見せてもらおう!」
「言われなくてもやってやるわよ。もう来てるし」
 見れば防衛ラインをかいくぐってグランチャーが数機来ていた。
「あんた達もやんなさいよ。海の上で大変でしょうけれど」
「笑止!」
 シャイニングガンダムは水面を蹴った。そして空に飛び上がった。
「海の上であろうと俺は遅れはとらん!食らえええええええええええええっ!」
 敵のグランチャーに攻撃を仕掛ける。そしt一撃で破壊してしまった。
「まだだ!」
 そして別の機も。どうやら彼にとって海での戦いもそれ程苦とはならないようである。
 アスカはそれを見ていささか呆れるものがあったが戦場に心を戻した。そして上空のグランチャーに対して射撃を開始した。
「行くわよ、三人共!」
 ポジトロンライフルを放つ。それで敵を次々と一掃していく。
「ぼやぼやしてるとあたしが全部撃ち落としちゃうわよ!」
「そら無理やろ」
「突っ込む暇があったら攻撃する!」
 トウジに対しても臆するところはない。
「いいわね、これって戦争なのよ!」
「ええ」
 レイはそれに頷いた。そして甲板を蹴った。
「なっ!?」
「上の敵への攻撃は下から撃つだけじゃないから」
 そう言いながらナイフを取り出す。そしてそれでグランチャーを斬り裂いていった。
「何てやり方・・・・・・」
「さっきドモンさんのを見て思いついたの」
 着地しながらそう答えた。
「意外と有効よ。やってみたら」
「うう」
「僕は遠慮しておくよ」
「あら、どうして」
「危ないからね。やっぱり下から地道に撃っていくよ」
「そうなの」
 シンジのその言葉を聞いてもレイはいつもの調子であった。心の中ではどう思っているかわからない。あくまで感情を表には出そうとしなかった。それがあればの話ではあるが。
 ノヴァイス=ノアの方の護衛は万全であった。それがわかっているからこそロンド=ベルの攻撃は熾烈なものであった。それはグランチャー達にとっては実に厳しいものであった。
「まずいな、これは」
「ジョナサン、臆したか」
「そういう問題じゃない。ただ純粋に戦局を見ているだけだ」
 彼はシラーにそう答えた。
「それは御前にだってわかるだろう」
「だが退くつもりはないぞ」
「まだ戦うつもりか」
「今はな。それにあいつも気になる」
「・・・・・・あいつか」
 それに応える形でエッガを見る。彼の狂気はさらに高まっているようであった。
「ヒャハハハハハハハハハハハハハハハ!」
「まだ!」
 狂人そのものの笑いを叫びながら攻撃を仕掛け続ける。次第にそれは攻撃というよりは衝動による動作となりだしていた。勇はそれを受け止めていた。
「■、勇!■、■!」
「まだ言うか!」
「あれはもう駄目だろうけれどな」
 一度は見放しながらもシラーはまだ彼を見ていた。
「このままでは破滅するだろうな」
「だが俺達にはどうしようもない。最初にそれは言ったのは御前だぞ」
「私に何と言えというのだ?」
「別に何かを言えとは言うつもりはない」
「じゃあ」
「とにかくそろそろ撤退を考えるぞ。このまま戦っても何にもならん」
「またか」
「仕方ないことだ。今はな」
 ジョナサンの方が戦局を冷静に見ていると言えた。師ラーはそれを実感していたが口には出さなかった。ジョナサンより劣っていることを認めるのが癪だったからだ。
 その間もエッガの勇への破壊衝動は収まらなかった。やがて剣を持っていない方の手でも攻撃をはじめた。足まで使おうとしていた。
「何処までも・・・・・・!」
「どうしたあ!?驚いたかあっ!」
 エッガの目にはもう勇は映ってはいなかった。別のものを見ていた。それが何なのかは自分自身ですらわかってはいなかった。そこまで狂気に支配されてしまっていたのだ。
「まだまだ続くぞおおおおっ!」
「いや、続かない」
「何っ!?」
 勇のその冷静な言葉に反応した。
「今何て言ったあああああ!?」
「御前はここまでだ。もう御前の動きはわかった」
「戯れ言を!」
「戯れ言じゃない、食らえ!」
 勇は剣を一閃させた。
「これが戯れ言じゃない証だ!」
 エッガのグランチャーの腹を切り裂いた。それで完全に息の根を止めてしまったのだ。
「何のっ!」
「まだっ!?」
 エッガはそれでも動こうとした。しかしそれは適わなかった。
「な、どうしたよ俺のグランチャー!」
 空しく力をなくしていっていた。そして所々から破滅の音が聞こえてくる。
「力があるんだろう!?御前はジョナサンにも劣らない力があるんだろう!?」
 だが返答はない。火が噴きはじめた。
「そう言ったじゃないか!御前は俺と一緒に」
「どうやら終わりのようね」
 ミサトはグランガランの艦橋でそれを見て言った。
「あの男は力に溺れました」
「はい」
 シーラの言葉に頷いた。
「そうみたいですね。だから破滅した」
「破滅は自らが招くもの。彼はそれに気付きませんでした」
「オルファンを潰して。うおっ!?」
 爆発した。そして彼は愛機と共にその中で果ててしまったのであった。
「あれがグランチャーに取り込まれた男の最後か」
「無残なものだな、おい」
 ショウとトッドがそれを見て言った。嫌悪感を露わにした顔であった。
「■んだか」
「ああ」
 ジョナサンにシラーがそう答えた。
「エッガは■んだ。グランチャーに取り込まれてしまった」
「馬鹿な奴だ」
「自業自得とは言わないのか」
「・・・・・・言えないな」
 ジョナサンの返答はそれであった。
「あいつとは確かに色々あったが。仲間だった」
「で、これからどうするんだ?仇を取るか?」
「取れたら取るべきだが。今じゃない」
「どういうこと、それは」
「戦力を失い過ぎた。今はオルファンに撤退だ」
「わかった。ではそうするか」
「ああ」
 ジョナサン達も撤退した。こうして太平洋上での戦いは幕を降ろしたのであった。
「敵機の反応、消えました」
 ミドリがレーダーの反応を見ながらそう報告した。
「オルファンまで撤退したようです」
「そうか」
 大文字はそれを聞いて頷いた。
「とりあえずは撃退したか。だが恐ろしいものを見てしまったな」
「ええ」
「グランチャーにも色々と問題はあるようだ。要は使う者の心次第ということか」
「それはどのマシンにも大なり小なり言えますね」
 サコンがそれに応えた。
「モビルスーツにしろそうですしマジンガーにしろ」
「確かにな」
 甲児がそれを聞いて頷いた。
「マジンガーが悪い奴等の手に渡ったらとんでもねえことになっちまう」
「一度ゲッタードラゴンが敵の手に渡ったが。てこずったしな」
 竜馬がそれを聞いて話に入ってきた。
「それを考えるとな。要は使う人間の心次第だ」
「はい」
 エレもそれを聞いて応えた。
「オーラーバトラーもそうです。もし使う者が悪しきオーラ力に支配されていたならば」
「大変なことになりますな。ドレイクのように」
「ドレイク」
 ショウはそれを聞いて眉を動かせた。
「あの男だけであってくれればいいが」
「どうしたんだ、ショウ」
 ニーがそれを聞いて彼に顔を向けた。
「あの男の他にまだ危険な奴がいるのか」
「ジェリルのことを覚えているか」
「ジェリル」
「あの女のオーラ力・・・・・・。どんどん禍々しいものになっていく」
「確かにな。戦う度にひどくなっていく」
「あのままいったらどうなるのかしら」
「そこまではわからないが」
 ショウはキーンにも応えた。
「恐ろしいことが起こりそうな気がする」
「どんなことなの?」
「だからそれはわからないって言ってるだろ」
 チャムにはそう返した。
「俺の取り越し苦労であって欲しいが」
「どっちにしろあの女は危険だね」
 ガラリアもそれに同意した。
「あたしにはわかるんだよ。ああした状態ってやつがね。嫌な気持ちさ」
「ガラリア」
「マーベル、あんたにはわからないかもしれないけれどね。あたしも昔はああだったんだ」
「そうだったな」
 トッドがそれに同意した。
「お互い道を踏み外すところだったぜ」
「まさかあんたとこっちで一緒に戦うことになるなんて思わなかったけれどね」
「おい、それは言うなよ」
「ふん、似た者同士仲良くしようよ」
「お断りだね。御前さんはタイプじゃないんだ」
「おやおや」
 戦いの後のそんなやりとりであった。しかしそれはすぐに中断された。
「大文字博士」
 大空魔竜のモニターにゲイブリッジが姿を現わした。
「何かあったのですか」
「はい。今回の作戦のことですが」
「それなら御心配なく。予定通り続けます」
「いえ、そうではなくて。先程連邦政府から連絡がありまして」
「連邦政府の」
「また何か変なことじゃねえだろうな」
 サンシローがそれを聞いて悪態をつく。
「作戦を中止しろだの」
「その通りだよ、サンシロー君」
「何ですと!?」
 大文字はそれを聞いて驚きの声をあげた。
「作戦を中止ですか」
「はい」
 ゲイブリッジは表情を変えることなくそれに頷いた。
「今こちらに連絡が入りまして。作戦を中止せよとのことです」
「それは何故」
「連邦政府はオルファンの危険性について認識を改めたようです」
「馬鹿な、急に」
「オルファンが危険なのは彼等も承知の筈では!?」
 ミサトも抗議した。
「それをどうして」
「ガバナーの仕業かもな」
「加持君」
 気がつくとミサトの後ろには腕を組んで立っている加持がいた。
「それはどういうこと!?そしてそのガバナーって」
「リクレイマーの統率者のことさ。それが一体誰なのかは俺も知らないが」
「噂では軍や政府にも強い影響力を持っているそうね」
「リツ子」
「そのようです。ですが彼等も力押しでそれをしたわけではない」
「どういうことですか!?」
「オルファン対策会議に代表を送ることを決定したそうだ」
 ゲイブリッジが勇に答えた。
「それは一体」
「君の御父上だよ。伊佐未研作博士だ」
「親父が」
 勇はそれを聞いて複雑な顔をした。嫌悪感と何処か懐かしさをまじあわせた複雑な顔であった。
「そうだ。これについてどう思うかね」
「時間稼ぎだ」
 勇は吐き捨てるようにそう言った。
「そんなの決まってるじゃないか。親父の考えそうなことだ」
「そうかしら」
 だがヒメはそれに疑問の言葉を呈した。
「だったら君のお父さんがわざわざ出て来ないんじゃないかな」
「どういうことだ」
「何かお話したいことがあるのは本当かも」
「その間にオルファン浮上の時間を稼ぎたいだけなんだ!」
 勇はそれを認めようとしなかった。
「よくあることじゃないか!どうしてそんなみえみえの策略に」
「けれど乗るのも面白いわよ」
「ミサトさん」
「勇君、元気があるのはいいけど少し落ち着いてね」
「・・・・・・はい」
 勇は憮然としながらもそれに従った。
「これはチャンスよ。オルファンのことについて知る為にね」
「そうなんですか」
「ええ、そうよ」
 ミサトは満面の笑みで頷いた。
「何か考えがあるわね、期待してるわ」
「任せといてよ」 
 最後に明るい声がグランガランの艦橋に響いた。ミサトの頭脳が今動こうとしていた。


第三十八話   完


                                     2005・8・11


[306] 題名:第三十八話その一 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年03月07日 (火) 18時54分

          バイタル=ネット
 宇宙においてネオ=ジオンとの熾烈な戦いが繰り広げられていたその頃地球においても激しい戦いがはじまろうとしていた。
「バイタル=ネット作戦?」
「はい」
 大文字に対してアノーアがそう説明をしていた。
「ノヴァイス=ノアのオーガニック=エンジンと積載したプレートを配置することで行う作戦です」
「ふむ」
「オルファンの浮上地点を囲み、オルファンを含むオーガニック=エナジーの共振作用を発生させ、オルファンの頭を抑えようとするネットを作り出すのです」
「それでオルファンを止めるのですね」
「はい」
 アノーアは答えた。
「これでいこうと思うのですが」
「ううむ」
 だが大文字はそれに対して懐疑的な声を漏らした。
「そう簡単にあれだけ巨大なものを止められるでしょうか」
「プレートの共振によってオルファンの頭を抑えることができれば」
 彼女はそう説明した。
「そうすれば自分自身のエネルギーの反発を受けて海の中に戻っていくでしょう」
「そうなのですか」
「問題はその際迎撃に出て来るリクレイマーです」
 アノーアはそう言った。
「彼等をどうすか、です。問題は」
「それに対して我々の存在が必要だと」
「はい」
 彼女は答えた。
「ご協力をお願いできるでしょうか」
「勿論です」
 彼は快諾した。
「我々はその為にこの地上に残ったのですから」
「それは有り難い」
「ではそういうことで。喜んでノヴァイス=ノアの護衛に回りましょう」
「お願いします」
 こうしてオルファンに対する方針が定まった。彼等はこうしてリクレイマーとの戦いに備えをはじめるのであった。これについて早速ブレンのパイロット達がノヴァイス=ノアに入った。
「何かここに戻るのは久し振りだな」
「ナンガさん前にここにいたの?」
「そうさ」
 ヒメの問いに答えた。
「俺とラッセはな。ヒメと合流するまではここにいたんだ」
「そうだったの」
「今見ると懐かしいな。古巣に帰るというのはこうした気分か」
「おいおい、懐かしい気分に浸るにはまだ若いぜ」
「そうか、ははは」
「ナンガ君、ラッセ君」
 前から白い髪をオールバックにした老人がやって来た。
「久し振りだね。元気そうで何よりだ」
「ゲイブリッジさん」
「この人もオルファンと関係あるの?」
「ああ」
 二人はヒメの問いに答えた。
「ここにいた時の俺達の上司だったんだ」
「ブレンには乗れないけどな」
「そうだったんだあ」
「ヒメちゃんだったね」
 ゲイブリッジはにこりと微笑んでヒメに語りかけてきた。優しい笑みだった。
「君のことは聞いているよ。これからも宜しく」
「はい」
 ヒメはそれに元気よく答えた。
「こrから、宜しくお願いします」
「うん。ところで」
 彼は今度は勇に顔を向けてきた。
「君のことも聞いているよ。それでだ」
「何でしょうか」
「君に会わせたい人がいるんだが」
「?会わせたい人?」
 勇はそれを聞いて首を傾げた。
「それは一体」
「ノヴァイス=ノアの艦橋に来てくれるか。よかったら」
「わかりました」
「じゃあ俺達も一緒に」
「私も」
「うん、皆是非来てくれ」
 ロンド=ベルにいるブレンのパイロット達は皆艦橋に案内された。勇がまずそこに入った。するとそこには彼がよく知る人がいた。
「ばあちゃん!」
 勇は目の前にいる優しい顔立ちの老婆を見て驚きの声をあげた。
「どうしてここに」
「勇、大きくなったね」
 彼女は孫を見てその優しい顔にさらに優しい笑みを浮かべさせた。
「それに立派になって」
「それでどうしてここに」
「ここにいたら御前に会えると思ったんだよ」
 彼女はそう答えた。
「俺に」
「そうさ。御前や依衣子にね。依衣子は元気かい」
「姉さんか」
 勇はそれを聞いて顔を下に向けた。
「姉さんは今は・・・・・・」
「直子さん」
 ゲイブリッジがここで彼女の名を呼んだ。
「勇君はね、この前まで家族と共にいたんだ。しかし」
「そうだったのかい」
 直子はそれを聞いてあらためて勇を見た。
「御前も色々あったんだね。大変だっただろう」
「いや」
 しかし勇は首を横に振った。
「俺はこれでよかったって思ってるし。それに今ばあちゃんに会えてとても嬉しいんだ」
「おや」
「久し振りに会えたんだから。オルファンにいた時はずっと会えなかったから」
「あたしもだよ」
 直子も言った。
「けれどこれから暫くはこうして会えるね」
「うん」
「あの」
 ラッセがゲイブリッジに尋ねてきた。
「どうかしたのかね」
「直子さんはもしかして伊佐未ファミリーの一員ですか?」
「如何にも」
 ゲイブリッジはそれに頷いた。
「伊佐未翠博士の母だ。勇君の母方の祖母なんだよ」
「そんな人がどうしてノヴァイス=ノアに?」
「私が乗艦を要請したのだよ」
「司令が」
「そうだ。不都合があれば遠慮なく言ってくれ」
「いえ」
 だがラッセはそれには首を横に振った。
「ただ、司令のお知り合いなのですね、それを御聞きすると」
「古い友人だよ」
「左様ですか」
(成程な)
 ラッセはそれを聞いて思うところがあったがそれは口には出さなかった。こうしてノヴァイス=ノアでの再会は終わった。
 ロンド=ベルはノヴァイス=ノアを護衛したままオルファンに向かった。その途中どういうわけか勇は浮かない顔をしていることが多かった。
「ねえ勇」
 それが気になったヒメが声をかけてきた。
「どうしたの?あまり楽しんでないよ」
「何でもないさ」
 彼は不機嫌な顔でそう答えた。
「お婆ちゃんとも話してないみたいだし」
「そうでもないよ」
「いや、そうだよ。話してないよ」
 ヒメはそう反論した。
「どうして?お婆ちゃんが可哀想だよ」
「ヒメには関係ないだろ」
「何でそんなこと言うんだよ、可愛くないよ、それ」
「何言ってるんだよ!」
 勇も腹が立ってきた。
「だからヒメには関係ないだろ!」
「そんなわけない!私勇のことわかる!」
「どういうことなんだ!?」
「やきもち焼いてるんだ!カナンさんが最近オルファンで色々と忙しいから!そうなんでしょ!」
「違う!」
「どう違うの!その通りでしょ!」
「カナンも関係ないだろ!」
 たまりかねたように叫ぶ。
「俺はカナンの生徒でもヒメの生徒でもないんだ!何でいちいち」
「いちいち・・・・・・何!?」
 ヒメはそう言って勇を見上げた。
「何か言ったら!?臆病者!」
「臆病者じゃない!」
「じゃあキスでもして黙らせるつもり!?前みたいに!」
「クッ!」
「何騒いでいるの、お兄ちゃん、お姉ちゃん」
 ここでケン太が出て来た。
「ケン太君、どうしてここに」
「僕達ここに呼ばれちゃったんだ、ノヴァイス=ノアに」
「どういうことなんだ?」
「よくわからないけれど。クマゾー君達も一緒だよ」
「子供達をか。何かあるのか?」
 勇はケン太からそれを聞いて考え込んだ。
「だとしたら一体」
「バイタル=ネット作戦にオーガニックな効果が期待できるんだって」
「どういうことなんだ?」
「子供達が大人より純粋だから?」
 ヒメも首を傾げていた。
「そういうことなのか?しかし」
「これは私の考えなのだよ」
「司令」
 ゲイブリッジが彼等の前に出て来た。そしてそう語った。
「ヒメ君の言う通り子供達の純粋な心が欲しくてね。それでここに来てもらったんだ」
「そうだったんですか」
「それで僕達は何をすればいいんですか?」
「ここにいてくれるだけでいい」
 ゲイブリッジはケン太にそう答えた。
「この作戦の間だけで。それでいいかな」
「本当にそれだけでいいんですか!?」
「ああ」
 彼は答えた。
「大人しく遊んでいてくれればいいからね」
「わかりました。それじゃあ」
「うん」
「ケン太君、遊んでばかりでは駄目ですよ」
「OVA」
「ちゃんと勉強もしないと」
「わかってるよ。OVAまで一緒なんてな」
「グッドサンダーチームはいつも一緒です」
「ちぇっ」
 こうしてケン太はOVAに連れられ個室に入った。勇とヒメはそれを黙って見送っていた。
「子供の存在がオルファンに影響を与えるということか」
「それもいい影響なのかも」
 しかしそれはまだわからなかった。彼等にとってみればそれは全くわからないことであるからだ。

 オルファンは活動を続けていた。アノーアがコモドに指示を下していた。
「補給作業は終わったわね」
「はい」
 コモドは答えた。
「たった今」
「そうか。では作業要員の引き揚げを頼む」
「了解」 
 作戦準備を着々と進めている。だがそこで艦橋の扉が開いた。
「!?誰だ」
「アカリちゃん」
 見ればアカリが艦橋に入って来ていた。アノーア達はそれを見て少し驚いたがすぐに我に返った。
「ここはブリッジよ。悪いけれど子供は」
「ごめんなさい」
「わかればいいから」
 アノーアはそう言ってアカリを下がらせようとする。コモドに顔を向けた。
「コモド、悪いけれど」
「はい」
 コモドはそれに従い彼女を艦橋から下がらせようとする。だがそれはできなかった。
「まあそう怒らないでくれるか」
 若い男の声がした。
「その声は」
 それを聞いたアノーアの顔が強張った。
「まさか貴方は」
「この子は俺をここまで案内してくれたんだからな」
「君は・・・・・・誰だ!?」
 異変を感じたゲイブリッジが銃を取り出そうとする。だがそれは適わなかった。
 ゲイブリッジの銃が何かに弾かれた。そして床に転がった。
「挨拶が遅れました」
 銃を手にする若い男が姿を現わした。
「私はジョナサン=グレーン。リクレイマーのパイロットです」
「ジョ、ジョナサン!?」
 アノーアはその名を聞いて普段の冷静さを失った。
「ジョナサンだというの!?どうして貴方が」
「フン」
 だがジョナサンはそれに答えずに冷徹な目でアノーアを見据えた。
「リクレイマーって・・・・・・。貴方何時から」
「そんなことも知らなかったのか」
 ジョナサンはそれを聞いて吐き棄てるように言った。
「貴女はそういう人だ」
「クッ!」
「動くな!」
 動こうとしたコモドに対して叫んだ。
「俺の持っている爆薬はこのブリッジなぞ簡単に吹き飛ばすぞ!」
「爆弾まで持って来たか!」
「そうだ」
 ゲイブリッジに対して不敵に答えた。そしてすぐにアノーアを見据えた。
「わかったか!?」
「ジョナサン、貴方という人は・・・・・・!」
 普段の冷静さは何処にもなかった。アノーアは髪を乱し、汗にまみれた顔でジョナサンを見ていた。
「貴女だって嫌だろう?」
 ジョナサンはそんなアノーアに対して言った。
「自分の目の前で息子がバラバラになるのを見るのはな」
「・・・・・・・・・!」
 ブリッジにいた者はそれを聞いて驚愕した。信じられない言葉であった。
「まさか」
「ジョナサンが艦長の・・・・・・」
「ママン、ノヴァイス=ノアの指揮権を渡してもらおうか」
「ジョナサン・・・・・・」
「おっと、今更母親面はするなよ」
 憎悪に満ちた目で母を見る。
「あんたは息子を捨てた女だからな」
「どういうことなんだ」
 ゲイブリッジがそれを聞いて疑問の言葉を漏らした。
「男と愛を育てるのを面倒がった女は子供を育てるのも面倒だったんだ」
 彼は言った。
「だから俺を捨てて仕事に逃げたんだ!」
「違うわ」
 アノーアは首を小さく横に振ってそれを否定した。
「ジョナサン、貴方は私の母よ」
「今頃そんなこと言うな!」
 ジョナサンは叫んだ。
「あんたの言うこtなんて信じられると思うか!」
「それは・・・・・・」
「指揮権を渡せ!」
 彼はまた叫んだ。
「そして俺はこのノヴァイス=ノアを・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
 アノーアはそれには答えなかった。だがそのかわりか後ろにあるスイッチを背中向けに押した。それと共に艦内をサイレンが木霊した。
「何を!?」
「非常スイッチを入れました」 
 アノーアはそう答えた。
「これでこの艦の全ての操作は私の肉音のみとなります」
「クッ」
「ジョナサン、貴方の思い通りにはなりません」
「やるね、ママン。なら」
 ジョナサンは次の手に出た。
「きゃっ!」
「来い!」
 アカリを抱き抱えた。
「悪いが御前には人質になってもらう!」
 そして艦橋を後にした。途中でクマゾーも捕まえ、二人を連れて甲板に出た。
「来たな」
 後ろを振り向く。そこにはアノーアがいた。
「ジョナサン」
「フン」
「私が人質になります。子供達を解放しなさい」
「あんたの考えは読めているよ」
 彼は憎悪に燃えた目で母親を睨んでいた。
「子供達を解放した後で俺を撃つつもりだろう。違うか?」
「息子を撃つことはありません」
「嘘をつけ!」
 だがジョナサンはそれを否定した。
「あんたはそういう女だ!あんたにとって俺は単なる実権の道具だったんだ!」
「貴方は私の息子です」
「白々しい演技を!」
 またもや叫んだ。
「もう騙されるか!甲板に俺を追い込んだのもここなら爆発の被害が少ないからだろう!あんたはそういう打算で全てを考える女なんだ!」
「ジョナサン!」
「俺の名を呼ぶな!」
 彼は叫び続けた。
「子供を産むことまで計算する女が!」
「艦長!」
 アノーアの後ろから複数の声と足音が聞こえてきた。
「ジョナサン!」
「勇か!」
「貴様、どうしてここに」
「話は長くなる。だが言っておく」
「何をだ!?」
「俺は御前とは違う、俺は自分の目的の為なら自分の母親だって殺してみせる」
「母親!?」
「そうさ」
 ニヤリと笑ってそう答えた。
「母親だってな」
「どういうことなんだ」
「彼はアノーア艦長の息子なんだ」
 ゲイブリッジが勇達にそう語った。
「艦長の!?」
「そうさ」
 ジョナサンはニヤリと笑って言った。
「俺はこの女の息子なんだ」
「さっきは息子と呼ぶなと言ったのに・・・・・・」
「利用できるものは何でも利用してやる」
 アノーアに対しても悪びれなかった。
「そして生きてやるんだ、それが俺のやり方だ」
「人質をとっても!?」
「むっ」
 ヒメの言葉に反応した。
「それはどういう意味だ」
「君はそんな人だったの!?お母さんを悲しませて」
「こんな女!」
 ジョナサンは激昂した。
「母親でも何でもない!知るものか!」
「小さい男だな、御前は」
「勇」
「そんな子供も人質にとって。何時からそんな小さな奴になったんだ?」
「挑発するつもりか、勇。無駄なことだぞ」
「何!?」
「俺は御前と違って任務に忠実なんだよ」
「そういうふうに逃げるのか」
「勝手にそう解釈しろ。俺は俺の任務を果たす」
「貴方は大変聡明な方の血を受け継いでいるというのに」
 アノーアが三人のやりとりを見ていて耐えられずにそう漏らした。
「そんな行動がどれだけ馬鹿げているか、わかっている筈です」
「あんたは男と女の愛よりまだ遺伝子のことを信じているのか!」
 それを聞いてさらに怒りが昂ぶった。耐えられなかった。
「それでその天才の遺伝子を買ってシングルマザーになったのか!」
「君、そんな言い方はないでしょ!」
「御前は黙ってろ!」
 ヒメを一喝した。
「御前みたいな小娘に何がわかるというんだ!俺の何が!」
「そんなこと言って何なるというんだよ!」
「俺は道具じゃないんだ!遺伝子なんかじゃないんだ!」
 叫び続ける。
「じゃあ俺のこの気性もその天才のものか!じゃあ俺は一体何なんだ!」
「ジョナサン・・・・・・」
「俺は狂人の遺伝子を受け継いだのか!どうなんだ!?」
「それは私の遺伝子に問題があったからよ」
 悲しくなった。
**の問題ではないわ」
「まだそんなことを言うのか!」
 どうやらジョナサンの求める答えはアノーアの出すそれとは全く違っているようである。ジョナサンはそれに苛立ちを覚えている。しかしアノーアにはそれがわからないようであった。
「それなら子供なんか作るな!俺の前で母親面するな!」
「ジョナサンさん、いい加減にしなさい」
 直子が見るにみかねたのか前に出て来た。
「婆ちゃん」
「貴方がそうやって憎まれ口を言える理由を考えたことがありますか?」
「理由!?」
「ええ。貴方を生んでくれたお母さんがいらっしゃるからでしょう?そのお母さんにそんな悪態をついて。恥ずかしいとは思わないのですか?」
「恥ずかしい!?どうしてかね」
 それを聞いて口の端を歪めて笑った。
「男を一人も愛せなかった女を。どうして母と呼べるんだ」
「まだそんなことを」
「俺だけがわかるんだ!御前等になんかわかってたまるか!」
「いや、わかるな」
 今度はゲイブリッジが言った。
「ジョナサン君、艦長は毎日君のことを思っていた。私は知っている」
「嘘をつけ!」
「嘘ではない」
「じゃあ一方的な思い込みだ!」
「まだわからないの、君!」
「勝手に思っているだけの思いなぞ子供に伝わるか!」
「どうしてそんなひねくれた考えを持つんだよ!」
「御前等に俺のことがわかってたまるかと言った筈だ!」
「そんなこと言って甘えてるだけじゃないか!」
「五月蝿い!」
 彼等のやりとりは続いていた。だがここでクマゾーがふと呟いた。
「お兄ちゃん、お母ちゃんのおっぱい欲しいんだも?」
「何!?」
 それを聞いて一瞬ジョナサンの動きと声が止まった。
「ママのおっぱいが欲しくてここに来たんだも?」
「貴様ァッ!」
 それを聞いてさらに激昂した。
「ふざけるな!」
 クマゾーを打った。鈍い、嫌な音が甲板に響いた。
「クマゾー!」
「このガキ、何を言ってるんだ、頭を吹っ飛ばしてやる!」
 ぞう言いながら銃を構えようとする。アノーアがそれを止めた。
「その子を撃っては駄目!」
「こんな時に何を!」
「貴方の憎しみの対象は私の筈!」
「そうだ!」
「それなら私が相手なのよ!」
「黙れ!」
「そんなことしてたらおっぱいもらえないも!」
「まだ言うか、このガキ!」
 本当に構えようとした。しかしここでアノーアが叫んだ。
「それなら母が貴方を!」
「遂に本性が出やがったな!」
「ジョナサン!」
 争いが混沌としようとしていた。しかしそれは一つの銃声によって打ち消させた。
「な・・・・・・」
 ジョナサンの手に持っている銃が弾かれていた。それは空しく床に落ちていた。
「誰だ、誰が撃った!」
「わいや」
 十三が後ろで拳銃を構えていた。その銃口から煙が出ていた。
「お約束で拳銃だけ弾かせてもらったで」
「チッ!だがまだ爆弾が!」
「それもやらせてもらうよ」
 また銃声がした。それで爆薬の信管も弾かれてしまった。
「今度は誰だ!」
「危ないからね」
「万丈さん」
「仲間の危機に颯爽と現われるのがヒーローだからね。間に合ったかな」
「ふざけた真似を!」
「ジョナサンといったね」
 万丈はジョナサンに対して顔を向けてきた。
「君の気持ちはわからないでもない。しかしあまりにも見苦しいとは思わないのかい?」
「何がだ!」
「君のその発言は聞いていてどうかな、と思う。少し落ち着いた方がいい」
「御前なぞに言われてたまるか!」
「投降しなさい、ジョナサン」
「何!?」
 落ち着きを取り戻し、静かな声で語りかけてきたアノーアを睨んだ。
「そうすれば悪いようにはしないわ」
「また嘘を言うのか!」
 だが彼はその言葉を頭ごなしに否定した。
「悪いようにしないって言っていつも嘘をついてきたじゃないか!」
「そんなことはないわ!」
「いつも裏切ってきたのがママンだ!」
「私が何時!」
「八歳と九歳と十歳の時と!」
 ジョナサンは叫んだ。
「十二歳と十三歳の時も!僕はずっと待っていたんだ!」
「な、何を!」
「クリスマスプレゼントだよ!」
「!!」
 アノーアはそれを聞いて絶句した。
「カードもだ!ママンのクリスマス休暇だって待っていた!けれど僕に何もくれなかったじゃないか!」
「それは・・・・・・」
 それ以上言えなかった。この時でようやくジョナサンが何を欲しがっていたのか気付いたのであろうか。
「あんたは何もくれなかった!それなのに最初の贈り物がピストルの弾なのか!それが母親なのか!」
「・・・・・・・・・!」
「ジョナサン、それ以上言うのは止めろ!」
「勇!」
「大人しくするんだ!」
「生憎そのつもりはない!」
「何だとっ!」
「行っちゃうも?」
 クマゾーはそれを見てジョナサンの顔を見上げて呟いた。


[305] 題名:第三十七話 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年03月07日 (火) 18時49分

            十三人衆
 宇宙に出たマクロスと三隻の戦艦、そしてパイロット達はそのまま航路をコロニーとネオ=ジオンの部隊が展開しているエリアに向けた。打ち上げ時の激しい戦闘と比べると落ち着いた航路となっていた。
「まずは宇宙に出られためでたしといったところか」
「油断するのは早いわよ、勝平」
 生まれてはじめて宇宙に出られて上機嫌の勝平に対して恵子がそう忠告した。
「敵は宇宙にこそ一杯いるんだから」
「そうだったのか」
「そうだったのかって」
「何で御前はそういつもいい加減なんだ?」
 宇宙太も呆れた声を出した。
「これからネオ=ジオンやギガノスと戦わなくちゃいけないんだぞ。そんなことでどうするんだ」
「何とかなるだろ、そんなもん」
「何とかって・・・・・・」
「コロニーが落ちたらどうするんだ、全く」
「そんなものザンボットで止めてみせるさ」
 勝平は自信満々にそう答えた。
「御前達だっているんだからな。何としても止めてやるぜ」
「全く」
「まああんたらしいと言えばそうだけれど」
「そうだ、その心意気だぜ」
 忍がそこにやって来た。
「忍さん」
「敵なんてなあ、片っ端からぶっ潰してやりゃあいいのよ。それが戦いってやつだ」
「さっすが忍さん、話がわかる」
「おうよ、断空光牙剣でコロニーなんざ真っ二つにしてやるぜ」
「それが地球に落ちたらどうするんだ?」
 端で聞いていたアランが見ていられなくなったのか出て来た。
「そこまで考えているのか」
「真っ二つにすりゃあ爆発するから関係ねえぜ」
「まあそうだけれど」 
 恵子はそれでも何か釈然としなかった。
「けれど荒っぽ過ぎないかしら」
「戦争で何言ってるんだよ、恵子」
「けれどね。少しでも周りに迷惑がかからないようにしたいし」
「恵子ちゃんの言う通りだ」
 アランがそれに頷いた。
「藤原も勝平君ももう少し落ち着いて戦え。そうでないとまた痛い目を見るぞ」
「ヘッ、そんなこと言ってちゃ戦争になりはしないぜ」
「そうだそうだ、戦争だから派手にいかないとな」
「やれやれ」
「まあ聞くとは思わなかったけれど」
 二人はそれを聞いて呆れた声を返した。宇宙太はもう匙を投げていた。
「まあいい。ところで艦長達から何か連絡はあったか」
「今のところはねえぜ」
 忍がそれに答えた。
「まあどのみちすぐに戦いに入るぜ。ブラックイーグルの出撃準備はできてるんだろうな」
「当然だ」
「ならいいけれどよ。今度の敵はネオ=ジオンにギガノスだからな」
「ああ」
「手強いだろうな。腕が鳴るぜ」
「あんたはそれしかないの?」
「沙羅」
「戦うことと食べること以外に何か言ってるの見たことないよ、最近」
「うっせえ、それ以外に何を考えろってんだよ」
「またそれね」
「俺は戦うのが仕事なんだよ。それは御前も一緒だろうが」
「否定はしないわよ」
「じゃあそれでいいじゃねえか。獣戦機隊はな、戦わなくちゃ意味がねえからな」
「その通りだがな」
 亮も出て来た。
「もうちょっと他のことも考えた方がいいんじゃないかな、忍は」
「雅人」
「最近戦いがさらに派手になってるけど。息抜きも必要だな」
「息抜きか」
「とりあえずはテレビゲームでもしない?面白い格闘ゲームが手に入ったんだけれど。勝平達もどうかな」
「えっ、格闘ゲームか!?」
「ああ。戦いがない時はそうしたのもやるのもいいよ。どうだい?」
「いいね。入れてくれよ」
「よし、じゃあ行くか。忍はどうするの?」
「俺か?俺は」
 忍は声をかけられて考える顔をした。
「行かせてもらうか。けどそのかわり容赦はしねえぜ」
「わかってるよ。じゃあ行こう」
「おう」
 彼等は雅人の部屋に消えた。アラン一人が残った。
「世話の焼ける連中だ、全く」
 そう言って苦笑した。
「だがそれだけに見ていて飽きないけれどな」
「京四郎」
「俺のところの二人もな、困ったもんだ」
「あんたは弟と妹を抱えているからな」
「おいおい、俺は二人も兄弟を持った覚えはないぞ」
「ふふふ、どうだか」
 アランはそれを聞いてまた笑った。
「一矢君はあれで繊細だしな。色々と大変だろう」
「長い付き合いだからな」
 京四郎は一矢について言及した。
「世話が焼ける時もある。けれどな」
「けれどな」
「本当にいい奴だ。一本気でな」
「ああ」
「俺はあいつのそういうところが好きだ。おっと、あいつには言うなよ」
「わかってるさ」
「ナナもな。お転婆だが気の利く奴だ。だから心配で見ていられない時もある」
「そうなのか」
「俺ができることなんて少ししかないがな。その少しがあいつ等の助けになればいいと思っている」
「いい奴だな」
「おいおい、よしてくれ」
 それを聞いて苦笑した。
「お世辞は苦手だぜ」
「ははは」
 二人はそんなやりとりをしながら笑っていた。そして戦場に向かうのであった。
「ふう、食った食った」
「キャオ、またそんなに食べて大丈夫なのか」
 ダバは腹をさするキャオに対して声をかけていた。二人はナデシコの廊下を歩いていた。
「腹が減っては戦はできねえってね。ドラグナーの連中だって滅茶苦茶食ってたじゃねえか」
「それはそうだけれど」
「あの三人はまた異常よ」
 リリスがそう言った。
「私から見ても食べ過ぎじゃないかな、彼等は」
「育ち盛りだかららしいがな」
 ダバがそれに対して言う。
「あまり説得力はないけれど」
「まあ単に食い意地が張ってるだけだろうな、連中は」
「そうなのか」
「俺だってそうだからな、よくわかるぜ」
「結局キャオは食べることばっかりね」
「気にしない気にしない」
「食べ物で思い出したんだが」
「どうした?」
「ギャブレーが宇宙に戻ってきているらしいぞ」
「へっ、あいつが!?」
「ああ。何でもポセイダル軍は中央アジアから引き上げたらしい。そして宇宙に展開しているようだ」
「何でまた」
「詳しいことはわからないが。地球を出たのは確からしい」
「へえ、そうなのか。まあまたろくでもねえことを企んでいるんだろうな」
「ポセイダルのやることは全てろくでもないことなのね」
「あったりまえだろうが」 
 リリスにそう反論した。
「連中がとんでもなくて他に何がとんでもねえんだよ」
「そう言われると」
「連中のバックにはバルマーがいるんだぜ。それを考えるととんでもないだろうが」
「それはそうだけれど」
「そういうことだ、リリス。御前もうかうかしてるとまたとっ捕まるぜ」
「驚かさないでよ」
「別に驚かしてはいねえけどよ」
「ならいいけれど」
「まあ二人共落ち着いてくれ」
 ダバが二人を宥めた。108
「いずれにしろポセイダル軍が宇宙にいることは事実だ」
「ああ」
「そうね」
「今も遭う可能性があるのは頭に入れておいた方がいいな」
「そうだな。やっぱりダバは目のつけどころが違うぜ」
「反乱軍のリーダーだっただけはあるね」
「よしてくれ」
 しかしダバはそれには笑わなかった。
「俺は皆と変わらないさ。普通の青年さ」
「そうかね」
「謙遜はよくないよ」
「謙遜じゃないさ。人間ってのは能力差はそれ程ない」
 彼は言った。
「選ばれた人間なんていやしないさ。それを認めると」
「認めると」
「ポセイダルになる。それだけは認められない」
「そうか」
 いささか話が深刻なものとなってしまった。三人の顔は少し硬いものとなってしまった。しかしそこでそれを解す者が出て来た。
「よう、そこにいたか」
「ケーン」
「丁度いいや。ポーカーでもしねえか?」
「ポーカー!?」
「地球のカードの遊びだよ。ほら、トランプってのを使ってする」
「ああ、あれを使ってか」
「やらないか?今俺とタップ、ライトの三人でやってるんだけれどよ。メンバーは多い方がいいからな」
「面白そうだね」
「ダバ、行こうぜ」
 キャオの方が乗り気であった。
「俺達には勝利の女神もいるしよ」
「褒めたって何も出ないわよ」
「へへっ、こういうのは金を賭けるって相場が決まっていてな」
「そうそう」
「勝利の女神がいると違うのさ。じゃあ行こうぜ、リリス」
「それなら」
「ダバも」
「あ、ああ」
 キャオに押されるようにしてケーン達の部屋に入った。彼等もまたそれぞれの方法で束の間の休息を楽しんでいたのであった。
 だが艦橋はそうではなかった。マクロスの艦橋ではグローバルが早瀬やクローディア達を周りに置き周囲を警戒していた。
「今のところネオ=ジオンにこれといった動きはないか」
「はい」
 クローディアがそれに答えた。
「コロニーを護衛する本隊と護衛部隊の他は。ただ戦力が増強されているようです」
「増強か」
「ゼクス=マーキスの部隊も参加したようです。戦力は拡充されたとみてよいでしょう」
「ライトニング=カウントがか。厄介といえば厄介だな」
「はい。ですが予想されたことではあります。そのかわりセダンの門にいるティターンズに対しては南アタリアにおいて我々を襲撃した木星トカゲの部隊を送っているようです」
「あの者達をか」
「はい、北辰衆も一緒です」
「動きが速いな、ネオ=ジオンも」
「それだけ今回の作戦に力を入れているということでしょう」
 早瀬がそれに答えた。
「ですから我々も気を引き締めていかなければならないかと」
「無論だ」
 グローバルはそれに応えながらパイプを取り出した。しかしそれは艦橋にいる少女の一人に止められた。
「艦長、艦橋は禁煙です」
「おっと」
 それを言われて仕方なさそうにパイプをしまった。
「厳しいな、シャミー君は」
「当然です、決まりですから」
「やれやれ。まあそれはいい」
 気を取り直して艦橋に心を戻した。
「各艦に伝えてくれ。警戒を怠らないようにな」
「はい」
「ネオ=ジオンの他にギガノスもいる。安心はできないからな」
「ギガノスは今月に防衛線を張っているようです」
「そうか」
 クローディアの言葉に頷いた。
「ギガノスの蒼き鷹が防衛線の指揮を執っているようです」
「彼がか」
「ただ一つ気になる情報も入っています」
「何だね?」
「ギガノス軍内部で意見衝突があるようです」
「意見衝突」
「はい。まずはその蒼き鷹ことマイヨ=プラート大尉を頂点とする若手将校一派」
「うむ」
 マイヨはその能力と人柄から若手将校のリーダーとなっていたのだ。人望もある人物であった。
「彼等は今のギガノスの上層部に対して不審を募らせているようです」
「上層部と対立しているのだな」
「はい。その上層部の中心人物がドルチェノフ中佐です」
「あまりいい評判のない人物だったな」
「そうですね。私利私欲に対してのみ熱心な人物だと聞いております」
 早瀬の言葉は簡潔ながら辛辣であった。
「おそらく腐敗した上層部とそれに反発する若手将校達の反発でしょう」
「軍ではよくあることだな」
「残念なことに」
 とりわけ軍部の力が強い勢力ではそうなり易い。第二次世界大戦前の日本でもそうであった。大戦後はかなり歪な形ではあるが文民統制となり政治に何か言いたければ選挙に行き、そして政治家になればよくなったがこの時代は違っていた。それだからこそ二度のクーデターが起こったのであった。
「それでプラート大尉はどうしてるか。分別のある人物だと聞いているが」
「彼はギルトール元帥を信頼し落ち着くよう若手将校達を説得しているようです」
「流石だな。彼等に慕われるだけはある」
「ギルトール元帥も対応に苦慮しているようです」
「あの人ならそうだろうな」
 グローバルもギルトールのことは知っていた。かっては彼の部下だったこともある。
「非常に立派な人だ」
「はい」
「軍人として優秀なだけではなく清潔でな。部下の意もよく汲んでくれた」
「そのようですね」
「そして理想家でもあった。今はそのせいでああして連邦政府に弓を引いているがな」
「残念なことですか」
「それを言っても仕方ないがな」
 だがそれは言葉尻に表われていた。
「あの人ならそうするだろうということはわかる」
「それが為に事態は好転してはいないようですが」
「うむ」
 グローバルはそれに頷いた。
「我々にとっては好都合なことではあるのだがな」
「はい」
「だが。あの人のことを思うとな。複雑な心情だ」
 あまり感情を表に出さないグローバルらしからぬ発言であった。そしてここでベネッサっがグローバル達に告げた。
「偵察に出ているコスモクラッシャー隊からの報告です」
「どうした?」
「進路上に敵軍が展開しているそうです」
「ネオ=ジオンか?」
「いえ、ポセイダル軍だとのことですが。如何為されますか」
「ポセイダル軍か」
「今は避けられれば避けるべきだと思いますが」
「そうだな」
 早瀬の言葉に頷いた。
「では今は避けよう。よいな」
「了解」
 早瀬はそれに頷いた。グローバルはそれを確認してからベネッサに対して言った。
「そういうことだ。今は避けよう」
「わかりました。それでは」
「いえ、待って下さい」
 だがここでキムが言った。
「どうした、今度は」
「そのコスモクラッシャーが攻撃を受けています。どうやらポセイダル軍に発見されてしまったようです」
「まずったな」
「どうしますか」
「致し方あるまい。コスモクラッシャーにはすぐにこちらに戻るように伝えよ」
「わかりました」
「我々もそちらに急行する。全機出撃用意だ」
「わかりました」
「時間はない。一気にかたをつけるぞ」
「了解」
 こうしてふとした弾みのような形でロンド=ベルはポセイダル軍に対して向かうこととなった。コスモクラッシャーはその頃全速力でマクロス達の方に向かっていた。
「まずいことになったな」
 ケンジがコスモクラッシャーの中で苦い顔をしていた。
「まさか奴等に見つかるとは」
「すいません、私のせいで」
 ミカがケンジと他のメンバーに対して謝罪する。
「迂闊に通信を入れたばかりに」
「いや、ミカのせいじゃない」
 ケンジはそう言って彼女を慰めた。
「どのみち連絡を入れなくてはならなかったからな。それはいい」
「申し訳ありません」
「問題はこれからだ。さて、逃げきれるかな」
「何、大丈夫ですよ」
 アキラがメンバーを元気づけるようにして言った。
「俺の操縦、見ていて下さいよ。あんな連中余裕で振り切ってみせますよ」
「宜しく頼むぜ、アキラ」
 ナオトもそれに続いた。
「御前の操縦が頼りなんだからな」
「おう」
「これでタケル兄ちゃんがいたら完璧なんだけれどね」
「そのかわりに御前がいるんだろうが」 
 ケンジはナミダにそう言い返した。
「タケルの分まで働いてもらうからな」
「任せといて」
「それではいいな」
「はい」
 皆ケンジの言葉に頷いた。
「マクロスに向かうぞ」
 こうしてコスモクラッシャーはマクロスに向かっていた。しかしそれは当然ながらポセイダル軍に追撃を受けていた。
「ギャブレー、わかってるね」
「無論」
 ギャブレーはネイの言葉に頷いた。
「コスモクラッシャーを撃墜する。そしてその近くにいるであろうロンド=ベルを倒す。それが我等の使命」
「そうさ。ギワザ様からのね」
「その通りだ」
 ヘビーメタル部隊の後ろにいる戦艦から声がした。ポセイダル軍の戦艦であるサージェ=オーパスである。
「そうすれば我等のバルマーでの地位もあがるからな。ここで得点をあげておくと大きいぞ」
「わかっております」
 ギャブレーはそれに頷いた。
「今は十三人衆も揃っておりますし。必ずや使命を果たせましょう」
「果たせるのではない」
 だがギワザはそれには賛同しなかった。
「といいますと」
「果たすのだ。何としてもな」
「わかりました。それでは」
「うむ」
 ギワザは鷹揚さを装って頷いた。だがその声には虚飾があった。だがこの時にそれに気付いた者はいなかった。
 先陣はギャブレーの他にハッシャがいた。彼等は他に二機のヘビーメタルと共に小隊を組んでいた。だが彼等の他にもいた。
「ギャブレー、遅れるなよ」
 褐色の肌の男がギャブレーに対してそう言った。
「チャイ=チャー殿」
「十三人衆になったからといって天狗になるなよ。御前はまだなったばかりなのだからな」
「わかっている」
 ギャブレーは内心苦く思っていたがそれに応えた。
「この戦いで何としてもエルガイムを倒す。それを私の証明にしてくれよう」
「できればな」
「何っ!?」
「今まで何度も敗れているのに信用できるかということだ」
「私を侮辱するというのか」
「よせ、二人共」
 だがそれを老人が止めた。
「今は争っている時ではない」
「ワザン=ルーン殿」
 ギャブレーはその老人の名を呼んだ。彼もまた十三人衆であった。
「ロンド=ベルを倒すことに専念しろよいな」
「はい」
「フン、まあいいだろう」
 ギャブレーもチャイもそれに頷いた。
「だがワザン殿」
「何だ」
 チャイはまだ言った。ワザンは仕方なしかそれに顔を向けた。
「ギャブレーがまだ新入りであることはわかっているな」
「そんなことにこだわっているのかお主は」
「何だと」
「我々は軍人だ。軍人は戦場で戦果を挙げるものだぞ」
「それはわかっている」
「ならばそのことだけを考えていよ。よいな」
「クッ」
 チャイはそれ以上言い返すことはできなかった。彼等はワザンを主軸にして進んでいた。先陣は彼等三人が指揮し、主力はアントンとヘッケラーを従えたネイを中心にテッド=デビラスとリィリィ=ハッシー、リョクレイ=ロン、そしてもう一人の十三人衆が指揮を執っていた。各ヘビーメタルを混ぜたようなヘビーメタルに乗っている。
「うふふふふふふふふふ」
「上機嫌だねえ、マクトミン」
「当然だよ、ネイ=モー=ハン」
 赤い髪を立たせタキシード調の服を着た一見気色の悪い男がネイの応えた。マフ=マクトミンであった。
「ライバルと再会できるんだからねえ」
「あの坊やのことかい?」
「その通り」
 マクトミンは恭しい調子でそう返した。
「ライバルとはいいものだ。敵であっても尊重したい」
「そんなもんかね」
「このアトールXはね、ずっと彼との再会を待ち望んでいたんだよ」
「そうかね」
「嬉しいんだよ、私は」
 不気味に笑いながら言う。
「ダバ=マイロード君とまた会えるのがね。しかし彼にはギャブレー君がいる」
「それはわきまえているのかい?」
「まさか。ギャブレー君よりも先に彼を倒したいものだ」
「生憎だったね。先陣じゃなくて」
「いや、これはこれで都合がつけられる」
 彼はまた言った。
「チャンスは幾らでもやって来るさ。私は焦らない主義でね」
「おやおや」
「待たせてもらうよ。ダバ君が向こうからやって来るのを」
 そんな話をしながらロンド=ベルに向かっていた。やがて向こうに四隻の戦艦が見えた。
「あれがロンド=ベルだ」
「はい」
 ネイはギワザの言葉に頷いた。
「すぐに攻撃にかかれ。まずは先陣が突っ込め」
「はい」
「了解しました」
 まずはワザンとギャブレーがそれに頷いた。
「チャイ=チャー」
「はい」
 チャイはギワザに言われてようやく応えた。
「よいな」
「わかりました」
(私を捨て駒にするつもりか、ギワザめ)
 答えはしたが内心では別のことを思っていた。どうやら彼はギワザに対してもよくは思っていないようであった。
「他の者はそれに続け。よいな」
「了解しました、ギワザ様」
 ネイが代表してギワザに答える。
「是非共お任せ下さい」
「うむ」
 ギワザはやはり鷹揚なふりをして頷いた。そして再び指示を下した。
「攻撃開始!」
「ハッ!」
 ポセイダル軍が前に出た。ロンド=ベルからもそれは確認された。
「ポセイダル軍、来ました」
「やっとコスモクラッシャーと合流できたというのにか」
「申し訳ない」
 ケンジが彼等に対して謝罪する。
「いや、それはいい」
 ブライトがそんな彼をフォローする。
「その通り。まずは目の前の敵を倒さなければならない」
 グローバルも言った。
「問題はこれからだ。総員出撃」
「了解」
 グローバルトの言葉に従い総員出撃した。そして前方に展開する。
「行くぞ、あまり時間はない」
「はい」
「一気に倒す。そしてコロニーに向かうぞ」
「了解!」
 ロンド=ベルもまた前に出た。その先頭にはダバの小隊がいた。左右にアムとレッシィがいる。
「ダバ、やっぱりギャブレーがいるよ」
「ああ」
 ダバはアムの言葉に頷いた。
「やはりな」
「ほんっとうにしつっこい奴だね、あいつ」
「彼にとってはそれが仕事だからな」
 嫌悪感を露わにするアムに対してダバは落ち着いていた。
「だがこちら尾むざむざやられうわけにはいかないしな」
「ええ」
「行くぞ、アム、レッシィ」
「あれをやるんだね」
「ああ」
 今度はレッシィに答えた。
「まずは一撃を加える。いいな」
「了解」
「派手にやるか」
 三機のヘビーメタルはバスターランチャーを取り出した。そしてそれをポセイダル軍に向ける。
「行けっ!」
 ダバが叫んだ。同時に三つの光の帯がポセイダル軍に向かう。そしてそれが彼等を切り裂いた。
「よし、今だ!」
 四隻の戦艦の砲撃がそれに続く。これにより切り裂かれたポセイダル軍がさらに打ち据えられた。
「突っ込め!」
「よし!」
 他のマシンがズタズタになったポセイダル軍に突進した。それによりポセイダル軍は総崩れになるかと思われた。
「ぬおっ!」
 とりわけチャイ=チャーの部隊はそうであった。最早軍のていを為してはいないようにすら見えた。しかしそこにワザンの部隊が来た。
「ここは任せるがよい」
「フン」
 しかしチャイは彼に礼を言うことはなかった。忌々しげに顔を背けるだけであった。
 ギャブレーの部隊は持ち堪えていた。そして彼はハッシャと共に敵を探していた。
「ダバ=マイロードは何処だ!」
「お頭、今さっきバスターランチャーをぶっ放していたじゃありませんか」
「それはわかっている!」
 彼はその突っ込みに返した。
「今何処にいるのか聞いているのだ!」
「目の前にいやすよ」
「何っ!?」
 その言葉に驚く。見ればその通りであった。
「ギャブレー、そこにいたか!」
「いたかではない!来たのだ!」
 彼も負けてはいない。
「ダバ=マイロード、御前を倒す為にな!」
「こら、そこの食い逃げ男!」
 しかしここでアムが入って来た。
「格好つけてるんじゃないわよ。いい加減ダバにつきまとうの止めなさいよ!」
「つきまとうだと!」
「そうよ!そんなんじゃ幾ら外面がよくてももてないわよ、この二枚崩れ!」
「何だと、二枚崩れだと!」
「正式に言うと三枚目だね、あんたは」
「ガウ=ハ=レッシィ!」
 レッシィの姿も認めてキッとなる。
「裏切り者が!おめおめと私の前に!」
「あたしは裏切ったんじゃないよ」
「言い逃れを!」
「ポセイダルのことがわかったのさ。そこがあんたとは違うんだよ」
「それが言い逃れだというのだ!」
「まああんたとは話すつもりもないしね」
 そう言いながらパワーランチャーを向ける。
「邪魔だ。とっとと消えな」
「クッ!」
 何時の間にか彼とレッシィの戦いになっていた。アムはハッシャと戦っていた。
「ここで会ったが百年目!」
「おまええの方がずっとしつけえぜ!」
「裏切った奴を逃がす程あたしは間抜けじゃないのよ!」
「裏切ったんじゃねえ!見切りをつけたんだ!」
「レッシィの真似をしても無駄よ!」
「チッ!」
「何か凄いね」
 リリスは二組の戦いを傍目で見ながらダバにそう声をかけてきた。
「どうする、ダバ」
「俺か?」
「うん。とりあず手は空いているけれど」
「そんなのすぐに塞がるさ」
「どうして?」
「ダバ、そこかい!」
 そこにサイズを手に持つオージェがやって来た。
「今度こそ逃がしはしないよ!」
「ネイ=モー=ハン」
「言った通りだろ。敵は大勢いるんだ」
 ダバはセイバーを構えながらリリスに対して言った。
「だから俺は手は空かないんだ」
「そうだったの」
「何ぶつくさ言ってるんだい!」
 サイズが襲い掛かってきた。ダバはそれをかわす。
「あたしを前にしていい度胸だね、おしゃべりなんて」
「いい度胸かどうかは知らないが」
 ダバはそのサイズをかわしながら言った。
「俺は自分が戦わなくちゃいけないのはわかっているつもりだ。ポセイダルを倒す為にな」
「ほう」
 それを遠くから聞いていたギワザはダバの言葉を聞いて笑った。
「ポセイダルをか」
「そしてヤーマンを解放するんだ。圧政者から」
「奇麗事を言うねえ」
 ネイはそれを聞いて笑った。
「その奇麗事が何時まで通用するかね」
「通用するんじゃない」
 ダバはそれに反論した。
「通用させるんだ。理想は必ず現実になる」
「じゃあそれを見せてもらおうかい」
 再びサイズを構えた。
「あたしのこのサイズにね!」
「何の!」
 そのサイズをセイバーで受け止めた。
「この程度で!」
「面白い!あたしの力見せてやるよ!」
 また一組の戦いがはじまった。ポセイダル軍とダバ達の戦いはこの地球においても激しさを増すばかであった。
 戦いは熾烈さを増していた。ギワザはそれを後方から一人眺めていた。
「戦局は五分と五分といったところか、今は」
「どうやらそのようで」
 傍らにいる部下の一人がそれに応えた。
「我が軍は全力を以って戦っている。その介があると言うべきか」
「ですが一つ気になることがあります」
「何だ」
「敵の部隊の一部が戦線から離れておりますが」
「むっ」
 見ればダブルゼータの小隊とウィングゼロカスタムの小隊が戦線を離れていた。そしてポセイダル軍の側面に回り込んでいた。
「彼等は一体何をするつもりでしょうか」
「まずいな」
 それを見たギワザの顔が曇った。
「まずいですか」
「そうだ。どうやらかなり大掛かりな攻撃を仕掛けるつもりのようだな」
「しかしあの程度の数で」
「数は問題ではない」
 ギワザはそう言って部下の言葉を退けた。
「地球人のマシンは戦闘力が高い。おそらく我々の想像もつかないレベルのものがまだある」
「それでは」
「そうだ。一旦戦線を縮小するぞ」
「わかりました」
 ポセイダル軍はギワザの言葉に従い戦線を退けさせた。それを見たヒイロの目が動いた。
「気付かれたか」
「おい、もうかよ」
 ジュドーがそれを聞いて声をあげる。
「まだそれには早いぜ」
「敵も馬鹿ではないということだな」
 ノインが彼に対して言う。
「どうする?ヒイロ=ユイ。我々の行動は見破られたようだが」
「それならそれで戦い方がある」
 ヒイロはクールな声でそう答えた。
「このまま突っ込む。敵にな」
「いつもの通りだな」
「そうだ」
 ジュドーの言葉にもクールに答える。
「行くぞ、ノイン」
「ああ」
「プル、プルツー、ルー、いいか」
「何時でもいいよ」
「用意はできている」
「突っ込むのは大好きだからね」
「よし」
 ジュドーの方も用意はできた。
「じゃあ行くか。ポセイダルの奴等、ギッタンギッタンにしてやるぜ」
「ジュドー、あまり暴走しないようにな」
「わかってるって、ノインさん」
「・・・・・・どうだか」
 ノインの心配そうな声をよそにジュドー達は突進した。そしてポセイダル軍に切り込む。ワザンの部隊に突っ込んだ。
「でりゃあああああああああああっ!」
 ハイパービームサーベルが唸った。それでまずは一機のアローンを両断した。
「まずは一機!」
「一機だけじゃ満足しないでしょ!」
「勿論!」
 隣にいるルーに答える。そしてまたサーベルを振るった。
「二機目!」
「あたしも!」
 ルーのゼータガンダムがビームライフルを放った。それで敵を撃ち落とす。
 プルとプルツーのキュベレイもまた攻撃を開始しっていた。ファンネルが竜巻のように敵に襲い掛かる。
「いっけえええーーーーーーーーっ!」
「観念しな!」
 ファンネルが殺到して敵に襲い掛かる。それによりポセイダル軍は瞬く間に薙ぎ倒されていっていた。
 ワザンはそれでも指揮を続けていた。だがそれでも限界があった。
「ワザン様、このままでは」
「わかっている」
 部下の言葉に頷く。
「チャイ=チャー」
「何だ!?」
 チャイが嫌そうな顔でモニターに出て来た。
「申し訳無いが力を貸してくれないか」
「断る」
 だがチャイはそれを拒否した。
「どうしてだ」
「私も忙しい。貴殿のところまでフォローする余裕はない」
「馬鹿な、今貴方の部隊は後方にいる筈」
「黙れ!」
 話に入ってきたワザンの部下を一喝した。
「私を誰だと思っている!十三人衆の一人チャイ=チャーだぞ!」
「クッ!」
「一般のパイロットが偉そうに言うな!今度そのようなことを言ったら唯ではおかんぞ!」
「もういい、わかった」
 ワザンは呆れたのかそれ以上言おうとはしなかった。
「手間をかけたな」
「フン」
 チャイは挨拶もせずにモニターから姿を消した。見れば部下は激昂している。
「ワザン様」
「言いたいことはわかっている」
 だがワザンは冷静なままであった。
「しかし今は落ち着け」
「・・・・・・はい」
「助けは来る。マクトミン殿がこちらに向かわれるそうだ」
「マクトミン様が」
「そうだ。だから今は踏ん張れ。よいな」
「ハッ」
「ワザン殿」
 早速モニターに彼が姿を現わした。
「助太刀に参った」
「すまないな」
「気にすることはない」
 彼はいささか不気味な笑みを浮かべながらそう答えた。
「戦友を助けるのは当然のことだからな」
「そうか。では宜しく頼む」
「うむ」
 マクトミンが前線に出ると戦場の雰囲気が一変した。
「フフ、ウフフフフフフフフフフフフ」
「?何だこいつ」
 ジュドーがそれを見て声をあげた。
「気色悪いおっさんだなあ」
「おっさんという表現は適切ではないな、少年」
 マクトミンはジュドーにそうクレームをつけた。
「このような眉目秀麗の青年を捕まえてな」
「じゃあそこのいかした兄ちゃん」
「何だね」
 そう言われてようやく答えた。
「あんた一体何者なんだい!?ポセイダル軍なのはわかるけど」
「私はマフ=マクトミンという」
 胸を張って答える。
「以後覚えておいてくれ」
「そうかい。じゃあマクトミンさんよ」
「む!?」
「早速やるかい。あんたもその為にここへ来たんだろ?」
「話のわかる少年だ」
 マクトミンはそれを聞いてまた笑った。
「名前を聞いておこう。何というのだね」
「俺はジュドー。ジュドー=アーシタってんだ」
「ジュドー君か。いい名だ」
「ありがとよ」
「それではジュドー君、手合わせ願おうか」
「おうよ」
 二人はそれぞれ構えた。
「武人の務め。手加減はしないよ」
「そんなのいらねえぜ。じゃあ行くぜ」
「ふふふ、いい目をしている。どうやらダバ君だけではないようだな」
「ダバさんには負けるけどな、俺だって二枚目で通ってるんだよ」
「どちらかというと三枚目のような気もするが。まあいい」
 マクトミンは言葉を続けた。
「貴殿との勝負、楽しませてもらう」
「おうよ!」
 二人も戦いをはじめた。これによりジュドーが動けなくなった。彼の猛攻を受けていたワザン達にとっては好機であった。彼等はその間に戦線を立て直した。そこでギワザからの命令が来た。
「ワザン殿」
「何か」
 モニターに姿を現わしたギワザに応える。
「撤退せよ。これ以上の戦闘は危険だ」
「何かあったのか」
「こちらに地球人の新たな部隊が接近してきているようだ。彼等も敵に回ると厄介だ」
「そうか」
 ワザンはそれを聞いて頷いた。
「それでは仕方がないな」
「うむ。後詰はネイとマクトミンに任せる。貴殿はすぐに後退してくれ」
「わかった。それでは」
 こうしてワザンとその部隊は戦線を離脱にかかった。途中で同じく撤退するチャイの部隊を見た。
「ワザン様」
「言うな」
 部下を止めた。そして沈黙を守ったまま戦場を離脱するのであった。
「ポセイダル軍が撤退したか」
 ブライトは退く彼等を見てそう言った。
「思ったより早いな」
「どうやらそれには訳があるようですね」
「?どういうことだ」
 トーレスに問うた。
「来ていますよ、新手が」
「オモイカネからの報告です」
 モニターにルリが出て来た。
「ネオ=ジオンの新たな部隊がこちらに向かって来ています」
「ネオ=ジオンの!?それは一体」
「先頭にいるのはトールギスVです」
「奴か」
 ヒイロがそれを聞いて呟いた。
「どうしますか?敵との距離はまだかなりありますが」
「このまま進んで敵の防衛ラインに遭遇した場合挟み撃ちに遭う可能性があるな」
 ブライトは戦局を冷静に見据えていた。
「ここでカタをつける。多少時間がかかるが止むを得ない」
「わかりました。それでは」
「うむ」 
 ロンド=ベルは陣形を整え彼等を待った。程なくしてモビルスーツの一軍が姿を現わした。
「ヘッ、思ったより速えな」
「敵もそれだけ必死だということだ」
 デュオとウーヒェイがそれぞれ言う。
「ゼクスは俺が相手をする。他の連中を頼む」
「了解、腕が鳴るぜ」
 リュウセイがそれに応えた。
「ここはいっちょSRXに合体するか」
「いや、それには及ばないな」
「どうしてだよ、ライ」
「今はそれ程強力な敵がいるわけでもない。ヘルモーズでも出ているのなら別だがな」
「ライの言う通りね」
 アヤもそれに同意した。
「今はSRXになる必要はないわ。今のままで対処した方がいいわね」
「ちぇっ、つまんねえな」
「どうせリュウセイはいつも派手に暴れてるだけなのに」
 レビが言った。
「それは言わない約束だろ」
「まあ頑張ってくれよ、兄ちゃん」
 サブロウタが茶化した。
「声が似ているからあんたには頑張って欲しいからな」
「エレガントにな、リュウセイ」
「ライ、それはもっと言っちゃいけねえだろうが」
「おやおや」
「お話は終わりましたか?」
 丁度いいタイミングでルリが出て来た。
「あ、ルリちゃん」
「それでは戦いに備えて下さい」
「わかってますって」
「少佐は厳しいんだから、全く」
「というか皆が変なんだと思うけれど」
「ハーリー君」
 ルリはハーリーにも言った。
「そんなことを言ってはいけませんよ」
「わかりました」
「おい、そこにいる仮面の兄ちゃん」
「私のことか」
 トールギスVに乗るゼクスは応えた。
「一体何の用だ」
「何の用もこんな用もねえ。一体どうしてネオ=ジオンなんかにいるんだよ」
「そういえばそうだな」
 シーブックがそれに頷いた。
「ゼクス=マーキスといったほうがいいか」
「ああ」
「どうして貴方はまた俺達の敵に?かって共に戦ったというのに」
「恩の為だ」
 彼は静かに言った。
「恩」
「この世界に戻った時私は宇宙に出た。そしてそこでティターンズの部隊と遭遇した」
「彼等と」
「撃退はしたがダメージを負い過ぎた。そこをネオ=ジオンのアナベル=ガトー少佐に救ってもらったのだ。傷を負っている者を助けないわけにはいかないとな」
「へえ、ソロモンの悪夢ってそんな奴だったんだ」
「勝平、いいから御前は黙ってろ」
「その恩がある。私はガトー少佐の恩を返す為に今こうしてここにいるのだ」
「そうか、なら引くつもりはねえな」
「無論」
 忍の言葉にも答える。
「貴殿等をここで食い止める。いいな」
「ヘッ、ならこっちも容赦はしねえぜ」
 忍の闘志が燃え盛った。
「やってやるぜ!覚悟しな!」
「参る!」
 こうしてロンド=ベルとネオ=ジオンとの戦いもまたはじまった。まずはヒイロとゼクスが出て来た。
「ヒイロ=ユイ、やはり御前が」
「予想はしていた」
 ヒイロはポツリと言った。
「御前がネオ=ジオンにいるのはな」
「そうか」
「御前には御前の理念がある」
「・・・・・・・・・」
「だが俺達にも俺達の考えがある。ここは通させてもらう」
「では私はそれを何としても防ごう。恩の為にもな」
「一つ聞きたい」
「何だ?」
「リリーナのことはいいのだな」
「・・・・・・・・・」
 ゼクスは暫く沈黙した。だがすぐに口を開いた。
「リリーナにもリリーナの考えがある。私はそれを否定はしない」
「そうか」
「しかし私も引いてはならない時がある。それが今だ」
「わかった。では行くぞ」
「来い」
 トールギスとウィングゼロカスタムのビームサーベルがぶつかった。激しい緑色の火花が飛び散った。
 ネオ=ジオンとロンド=ベルの戦いもまた熾烈なものとなった。だがここでもパイロットの差が大きく出ていた。
 ネオ=ジオンの強力なパイロットはここではゼクスだけであった。しかしロンド=ベルは違っていた。
「フィンファンネル!」
 アムロのニューガンダムがフィンファンネルを放つ。それにより敵の小隊を一つ完全に殲滅した。
 その横ではクワトロが同じくファンネルを放っていた。そしてアムロと同じように敵を小隊単位で倒していた。
「クッ、あれがロンド=ベルのエースか!」
「何て強さだ!」
「馬鹿者、怯むな!」
 指揮官クラスのパイロットが怖気づく彼等を怒鳴りつけた。
「この程度の攻撃で何を怯んでいるか!」
「しかし!」
「しかしも何もない!わしが戦いの手本を見せてやる。来い!」
 そう言って前にでた。だがそこをエマのスーパーガンダムに狙い撃ちにされた。
「前に出るからっ!」
 ロングライフルで貫かれた。そしてあえなく脱出したのであった。
「あの二人だけじゃないのか・・・・・・」
「ロンド=ベルは化け物ばかりかよ」
 数はほぼ互角であった。ならば機体性能、そしてパイロットの質が上の方が優位に立つのは常識であった。ゼクスの部隊はその数を大きく減らしていた。
「クッ、まずいな」
「ゼクス殿」
 ここで通信が入ってきた。
「その声はアナベル=ガトー殿か」
「戦闘が行われていると聞いて偵察に来たのだが。御無事か」
「心配無用、大丈夫だ」
 ゼクスはそう答えた。
「そうか。では今からこちらに向かう。すぐに撤退してくれ」
「他ならぬ貴殿の要請だ。わかった」
 ゼクスはそれに従った。そしてヒイロから距離を置いた。
「ヒイロ=ユイ、今日はここまでだ」
「退くつもりか」
「また剣を交えることもあるだろう。その時また会おう」
 そう言って戦場を離脱した。イサム達がそれを追おうとする。
「待ちやがれ!」
「待て」
 しかしそれをクワトロが制止した。
「クワトロ大尉、どうして」
「あれを見ろ」
 クワトロはサザビーで指し示した。するとそこには巨大な楯とバズーカを持つガンダムがいた。
「あれは・・・・・・」
「GP−02だ。今核バズーカを装填している」
「ガトー・・・・・・!」
 コウがそれを見て呻いた。
「今迂闊に出ては核攻撃を受けるだけだ。わかったな」
「ええ」
「チッ、仕方ねえな」
 彼等も引き下がるしかなかった。こうしてロンド=ベルとネオ=ジオンの前哨戦は終わった。ロンド=ベルはここでは勝利を収めることができた。
 すぐに各機を母艦に収める。そしてコロニーに向かうのであった。
「あれがアナベル=ガトーか」
 ナデシコの喫茶店でアキトが思案に耽る顔をしていた。
「ソロモンの悪夢・・・・・・。きっと手強いんだろうな」
「おい、何辛気臭いこと言ってるんだよ」
 リョーコがそれを聞いてアキトを叱った。
「敵なんてなあ、どいつでもぶっとばしゃあいいのよ」
「リョーコの言う通り!」
 ダイゴウジもそれに同意する。
「敵は片っ端から叩き潰すだけだ!」
「そう簡単にいけばいいがな」
「ヌッ」
 ナガレが話に入って来た。
「一年戦争、そしてバルマー戦役であそこまで戦った歴戦のパイロットをそう簡単に相手にできるか?」
「そう言われると不安ですね」
 ジュンはナガレの声に頷いた。
「ネオ=ジオンを代表するエースの一人ですし」
「しかしだからといって逃げていい場合じゃない」
「京四郎さん」
「虎穴に入らずば虎子を得ず、だ。今は何としてもコロニー落としを防がなくてはな」
「その為にはガトー少佐とも戦わなくちゃいけないか」
「それは俺に任せてくれ」
「ウラキ中尉」
「俺はあいつと色々あったからな。俺にやらせて欲しいんだ」
「コウ、いいのね」
「ああ」
 心配そうな顔で声をかけるニナに頷いた。
「相手があいつだからこそなんだ。やってやる」
「頼みますよ、ウラキ中尉」
 クリスが彼に声をかけた。
「周りは私達でフォローしますんで」
「安心して下さい」
 バーニィもこう言った。
「すまないな」
「水臭いこと言うなよ」
 キースもそれに続いた。
「そういう時の戦友だろう?強い敵を相手にする時はお互い様さ」
「キース」
「へっ、そうやってまとめて撃墜されて救助されるなんていう情ない真似はすんじゃねえぞ」
「モンシアさん」
「そうなったらなあ、俺達が御前等を拾わなくちゃいけねえからよ。面倒臭いことはさせるんじゃねえぞ」
「はい」
「おっと、俺は御前等を心配してるわけじゃねえからな。余計な仕事はしたくねえだけだからな」
「わかってますよ」
 コウ達は微笑んでそれに頷いた。
「その時はお願いしますね」
「ケッ、こんな若造にはわからねえか」
「何がわからないんだか」
「モンシアさんは何時になっても変わりませんね」
「うっせえ」
 ヘイトとアデルにそう悪態をついた。
「御前等だって同じだからな。どうして俺の周りにはこんなに手前のケツも拭けねえのばかりなんだ」
「ホンットにこの人は素直じゃないねえ」
 サブロウタが茶化しながら言った。
「まあいいさ。それで話を変えるけれどよ」
「何だ?」
「今回のネオ=ジオンの指揮官はデラーズ少将だったよな」
「確かそうだったわね」
 セシリーがそれに頷いた。
「他にも名のあるパイロットが大勢いるみたいだけれど」
「ハマーン=カーンは来ないのかね、こんな重要な作戦なのに」
「ハマーンだってそうそう動けないんじゃないかな」
 ナナが言った。
「あの人も忙しいし」
「果たしてそうかね」
「?サブロウタ、何か引っ掛かるのか?」
「あ、いや」
 アキトの言葉に声を濁す。
「ちょっとね、気になっただけで」
「気になる」
「前の戦いじゃよく陣頭指揮を執っていたらしいからね、あの人。今そうしないのが不思議でね」
「ネオ=ジオンも変わったからな」
 それに対してデュオが言った。
「どういうことなんだ、それは」
「今ネオ=ジオンはザビ家の者が殆どいない」
 ウーヒェイがリョーコに答えた。
「残っているのはドズル=ザビの遺児であるミネバ=ザビだけだ。だが彼女はまだ子供に過ぎない」
「ハマーンは確か彼女の摂政となっている筈です。だからそうそう表には出られないのでしょう」
「そういうことだったのか」
 サブロウタはトロワとカトルの言葉に頷いた。
「ネオ=ジオンもネオ=ジオンで大変なんだねえ」
「そこに派閥があったりして」
 ヒカルがあっけらかんとした声で言う。
「そうなったら漫画みたいで面白いですよね」
「こらこら」
 そんな彼女をファが嗜めた。
「そんな上手い話があるわけないでしょ」
「いや、あるかもな」
「カミーユ」
「ネオ=ジオンは元々ギレン=ザビとキシリア=ザビで派閥があった。それは一年戦争でガルマ=ザビが死んでから表面化しだした」
「・・・・・・・・・」
 クワトロはそれを沈黙して聞いていた。一言も発しない。
 ガルマ=ザビはジオンにおいては若いながらそのバランスのいい能力と温厚で誠実な人柄、そしてカリスマ性により将来を期待されていた。兄弟の間でも評判がよくとりわけ父デギンと次兄ドズルは彼を可愛がっていた。しかし北米での戦いで命を落した。それはザビ家にとっては大きな痛手であったのだ。彼の死そのもの以上に。
「そして今もハマーンとデラーズの部隊では根本的に何かが違うと思うんだ」
「デラーズのところには旧ジオンの者が多いようね」
 フォウが言った。
「黒い三連星やアナベル=ガトー。大体デラーズ提督の下にいるわね」
「そして若い士官達はハマーンの下に」
 カミーユがそれに続いた。
「分裂する可能性はあるな」
「いや、それはないな」
 だがそれはライトが否定した。
「またそりゃどうしてだ?」
 ケーンがそれに問うた。
「デラーズ提督は敵ながらできた人物だからな。そうしたことはしないだろう」
「成程」
「けれど野心のある奴が出て来たらどうなるんだ?」
「その時が一番危ないな」
 タップの問いに答えた。
「ハマーンに匹敵するカリスマ性の持ち主が現われるかどうか、だが」
「そんなのザビ家の奴しかいねえんじゃねえか?」
「あるいは」
「あれっ、クワトロ大尉。何か?」
「いや、何でもない」
 だがクワトロはそれには首を横に振った。
「ケーン君、気にしないでくれ」
「そういうことなら」
「・・・・・・・・・」
 ケーン達はそれでよかった。だがアムロとブライトはそれを見て何か不吉なものを感じていた。
「とにかくだ」
 ライトが話を続けていた。
「とりあえずはネオ=ジオンも分裂したりはしないだろう。これからどうなるかわからないがな」
「ちぇっ、じゃあ今まで通り連中の相手をしていかなきゃいけねえのかよ」
「そうぼやくなよ、タップ」
「まあ音楽でも聴いて気を紛らわせろ」
「そうだな。じゃあマイケル=ジャクソンでも聴くか」
「微妙に古いな、おい」
「スリラーは名曲だぞ」
 何時の間にか音楽の話になり話し合いは終わった。クワトロは話が終わるとラー=カイラムに戻ろうとした。だが廊下で二人の男が彼を呼び止めた。
「シャア」
「どうした、アムロ君」
 クワトロは声の主に顔を向けた。
「今の私はその名ではないが」
「じゃあキャスバル=ズム=ダイクンと呼ぼうか」
「厳しいな。それにブライト艦長も一緒だとは」
「少し気になることがあってな」
 ブライトもアムロと同じ顔であった。真剣なものであった。
「さっきの話だが」
「ネオ=ジオンのことか」
「そうだ。それについて御前はどう考えている」
「もう私には関係のないことだ」
 クワトロは一言そう答えた。
「今の私はクワトロ=バジーナなのだからな」
「そうか。ならいい」
「安心してくれ、二人共」
 彼はここで二人に対して言った。
「今のネオ=ジオンは私の考えとは違う」
「どういうことだ」
「私の考えはジオニズムだ。それは変わらない」
 そう語った。
「だがあれは・・・・・・。単なる独裁主義だ」
 ギレン=ザビが目指したのがそれであった。彼はアドルフ=ヒトラーやヨシフ=スターリンの正当な後継者であったのだ。彼自身もそれを自負していた。だからこそ父であるデギンに『ヒトラーの尻尾』と揶揄されたのだ。デギンもかっては独裁者たらんとしたが途中でその権力に疲れてしまったのだ。権力というものの魔力に耐えられなかったということであろう。それがデギンの限界であったのかも知れない。
「少なくとも私は独裁者になろうとは思わない」
「御前自身がそう思っていようとも周りが動いてもか」
「フッ、それはないな」
 しかし彼はアムロのその言葉を一笑に伏した。
「今更私のような男を担ぎ出してどうするのだ。地球を、人類を崩壊させるのかね?」
「・・・・・・・・・」
 アムロもブライトもそれには答えなかった。
「まあいい。それは私自身で見せよう」
 彼は言った。
「安心していてくれ。私はもうキャスバル=ズム=ダイクンでもシャア=アズナブルでもない。クワトロ=バジーナだ」
「そうか」
「そうだ。連邦軍のな。それは変わらない」
 二人にそう言うとその場を後にした。そしてラー=カイラムに帰るのであった。


第三十七話   完



                                     2005・8・7


[304] 題名:第三十六話 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年03月05日 (日) 19時28分

             宇宙へ
 会議の結果ロンド=ベルは二手に分かれ宇宙と地上にそれぞれ向かうこととなった。彼等はまずはマクロスと合流する為南アタリアに入った。
「諸君、よく来てくれた」
 アタリアに到着すると浅黒い肌に口髭を生やした男がモニターに姿を現わした。マクロスの艦長であるグローバル准将であった。
「お久し振りです、閣下」
「うむ」
 ブライトの敬礼に対して返礼する。
「お元気そうで何よりです」
「君もな。少し老けたようだが」
「それは止めて下さいよ」
 ブライトはその言葉に苦笑した。
「まだそんな歳ではないですから」
「ははは、そうだったかな。まあそれはいい」
「はい」
「話は聞いているよ。では早速発進に取り掛かろう」
「はい」
 こうして三隻の戦艦が打ち上げに入った。それを三隻の戦艦とマシンが護衛に回っていた。
「いいか」
 ブライトは宇宙に出る予定のマシン達に対して通信を入れていた。
「何時敵が来るかわからない。だが宇宙に行く者は敵が来ても時間になったら艦に入れ。いいな」
「了解」
「それまでは護衛を頼む。健闘を祈る」
「わかりました」
「ところで諸君」
 今度はグローバルが声をかけてきた。
「何でしょうか」
「新入りのパイロットを紹介したいのだが」
 ここでマクロスから五機のバルキリーが姿を現わした。そのうちの二機は金龍が乗っているのと同じ機種であった。
「VFー19か」
 金龍がその黒い、三角の機影を見て言った。
「まさかまた参加してくるとはな」
「お久し振りです、大尉」
 ここで彼のところにも通信が入ってきた。
「ん!?おお」
「どうも、ガムリンです」
 かなり額の広い男が出て来た。
「フィジカです」
 もう一人いた。
「御前達か」
「はい、これでダイアモンド=フォース復活ですね」
「また三人でやりましょう」
「おう」
 金龍はそれに頷いた。
「また三人で暴れようぜ」
「はい」
「ダイアモンド=フォース!?」
 それを聞いたウッソが首を傾げた。
「おう、前に俺が組んでいた小隊だ。マクロスの精鋭だったんだ」
「へえ、そうだったんですか」
「頼りにしていろ、敵の十機や二十機」
「頼りにしてるわよ、大尉」
「任せとけ」
 ジュンコにも答えた。彼はかなり上機嫌であった。やはりかっての部下であり戦友と再会できたのがかなり嬉しいようであった。
「あとの三機は」
「霧生隼人さ」
 若いアジア系の男が出て来た」
「霧生?あのテストパイロットか」
「はい、少佐」
 彼はフォッカーに答えた。
「今回マクロスに配属になりました。宜しくお願いします」
「そうか、あの小僧がな。大きくなったものだ」
「小僧は止めて下さいよ」
「止めてもらいたければ早く一人前になるんだな」
「ちぇっ、少佐は厳しいなあ」
「おいおい、俺みたいに優しい男を捕まえて何てこと言うんだ、なあ輝」
「ふふふ」
 輝はそれを見て笑っていた。
「だが御前の参加は歓迎するぞ。これから宜しくな」
「はい」
「そして後の二人は」
「私です」
 赤い髪の少女がモニターに出て来た。
「御前は」
「レトラーデ=エレンディルです。少佐、お久し振りです」
「ああ。それにしても何か霧生と似たようなこと言うな」
「隼人とは一緒でしたからね、研修中もずっと」
「おい、それは関係ないだろ」
 霧生がそれを聞いて不平を申し出る。
「研修中のことは」
「あら、そうかしら」
「あの時は俺だってまだ慣れてなかったし。少佐にも迷惑をかけたけどな」
「ははは、今ではいい思い出だ」
 フォッカーはそれを聞いて大声で笑った。
「あの時のことは俺にとってはいい思い出だ」
「だったらいいですけれど」
「まあ二人共実戦に慣れるまでは大変だろうがな。頑張れ」
「わかりました。それじゃ」
「隼人、油断しないでね」
「わかってるよ」
「おう、霧生」
 フォッカーはまた彼に声をかけてきた。
「何でしょうか」
「隼人っていうのは止めておけよ。こっちにはもう隼人がいるからな。混乱のもとだ」
「隼人ってまさか」
「そうだ、神隼人だ。知ってるだろう」
「勿論ですよ。ゲッターライガーのパイロットですね」
「その通りだ」
 隼人のことはかなり有名になっていた。ゲッターのパイロットの一人として伝説的な存在とも言える程であった。
「あっちが先輩だしな。だから御前は霧生で統一しろ」
「わかりました」
「後は・・・・・・もう一人いたか」
「はい」
 紫の長い髪の美人が姿を現わした。
「ミスティ=クラウスです。宜しくお願いします」
「あら、ミスティ」
 ミリアが彼女の姿を認めて微笑んだ。
「暫く振りね」
「ミリア」
 彼女もミリアの姿を認めて微笑んだ。
「また一緒になれたのね」
「ええ。宜しくね」
「わかったわ。また二人で戦いましょ」
「なあ、ミリア」
 柿崎がミリアに問うてきた。
「何かしら」
「そのミスティって娘と御前知り合いなのか?」
「ええ、一緒に戦ったことがあるわ。ゼントラーディでね」
「へえ、ゼントラーディ出身だったのか」
「そうよ。腕利きのね。覚悟しておいてね」
「敵だったらな。味方で感謝してるよ」
「ふふふ」
「それでだ」
 フォッカーがまた言った。
「御前さん達にはそれぞれ小隊に入ってもらうぞ。期待しているからな」
「はい」
「これでバルキリーもかなりの数になったな。戦力としては申し分ないか」
「ロイ、安心するのは早いわよ」
 黒人の美女がモニターに出て来た。左目をウィンクさせている。
「クローディア、マクロスに戻っていたのか」
「ロイがいるからね。私がいないと何するかわからないから」
「おいおい、信用がないな」
「人徳ってやつね。けれど大丈夫みたいね」
「俺には勝利の女神がついているからな」
「バルキリーのことかしら」
 バルキリーとは北欧神話に出て来るワルキューレの英語読みである。嵐の神ヴォータンの娘として天を駆る戦場の女神達である。
「違うさ」
「じゃあ誰?」
「御前だよ。俺にとっちゃ御前が勝利の女神なんだよ」
「もう、そんなこと言って」
 クローディアはそれを聞いて頬を赤らめさせた。
「褒めたって何も出ないわよ」
「ははは」
「それでクローディアさん」
 イサムがフォッカーに代わって尋ねてきた。
「何かしら」
 冷静な彼女はもう表情を元に戻していた。
「それでその安心するのは早いってのは何ですか」
「新兵器よ」
 クローディアはそう答えた。
「新兵器!?」
「というか追加のマシンだけれどね。デストロイドよ」
「ああ、あれですか」
 イサムはそれを聞いて頷いた。
「そういえばデストロイド部隊は殆どマクロスから降りてコロニーの防衛に回されたんですね」
「パイロットはね。けれどマシンは少し残ったの」
「へえ」
「トマホーク、ディフェンダー、スパルタン、そしてファランクス。一体ずつあるわよ」
「それはいいですね」
「あとモンスターも。これだけあればいざという時に楽でしょ」
「ええ、まあ」
「アーマードバルキリーも残ってるし。多少無茶しても大丈夫だからね」
「無茶はスカル小隊のお家芸だからな」
「ロイ、貴方が一番心配なのよ」
 クローディアはそう言って口を尖らせた。
「何かあったら許さないんだから」
「俺には御前がいるからな。その心配はないさ」
「・・・・・・馬鹿」
「後でそっちに行くからな。上等のステーキとブランデーを用意しておいてくれ」
「わかったわ。レアでね」
「おう、分厚いのを頼むぞ」
「ステーキか、いいな」
「中尉はミンメイちゃんがいるじゃないですか」
 マックスがそう突っ込みを入れる。
「柿崎なんか誰もいないんですよ」
「うるせえ」
「いや、俺が言っているのはステーキなんだけど」
「あ、そうだったんですか」
「じゃあ宇宙に出たらどーーーんとでっかいの食べましょうよ」
「柿崎、御前はまた食い過ぎるんだよ」
「いいじゃねえか、食えるってのは健康な証拠だぜ」
「全く・・・・・・。中尉、それでいいですか」
「中尉のおごりで」
「おい、勝手に話を進めるなよ」
「御前等、何なら俺が作ってやろうか」
 フォッカーが言った。
「俺の焼いた肉は特別だぞ」
「そうなんですか!?」
「おう、バルキリー乗ってる奴は全員来い。俺がどんどん食わせてやる」
「ひゅう、さっすが少佐」
「イサム、よかったな」
「ガルド、御前はもっと嬉しそうな顔しろ」
「嬉しいが」
「その岩みたいな顔で言っても説得力ないんだよ」
「何かやけに騒がしいな」
 他の者達ははしゃぐバルキリーチームを見てそう呟いた。
「それはそうだろうな。昔のメンバーが揃ったんだし」
 隼人が言った。
「俺も自分と同じ名前が出て来て少し驚いているがな」
「前から思っていたが御前の名前って何か変身しそうだな」
「それはどういう意味だ」
 武蔵の突っ込みに苦笑する。
「いや、何となくな。そう思ったんだ」
「前から言われるな、それは。どういうわけかわからんが」
「格好いいってことじゃないのか?俺も言われるぞ」
 宙が言った。
「何かどっかの作家みたいな名前だってな」
「そうなのか」
「もっとも俺は小説なんて書くどころか読むこともあまりないがな」
「漫画ばかりだな、そういえば」
「そうだな。特に野球ものか。妙に懐かしいんだ」
「じゃあ今度俺とバッテリー組むか」
 弁慶がそれを聞いて申し出てきた。
「一緒に魔球を開発しようぜ」
「よし、それでメジャーを目指すか」
「おう」
「宙さん、それじゃあロンド=ベルはどうなるのよ」
「ミッチー」
「野球もいいけれどまずはこっちを優先させてよね」
「わかってるさ、それは」
「どうかしら。宙さんって勝手だから」
「おいおい」
 まるですねた恋人を宥めるようであった。だが宙と弁慶は妙に馬が合っていた。ミッチーはそれを見て嫉妬を感じたのかも知れない。
 彼等がそんなやりとりをしている間に三隻の戦艦は打ち上げ準備に入った。マクロスも一緒である。
「それでは行くか」
「はい」
 ブライトがグローバルの言葉に頷いた。
「打ち上げまであと三十分」
「あと三十分」
「こうした時にいつも出て来るのよね」
 ルーが少し嫌そうな顔をして言った。
「今度は何処のどいつが出て来るのやら」
「ここらにいたっけ」
 エルがそれを聞いて尋ねる。
「ミケーネでも何でもいるんじゃない?連中神出鬼没だから」
「そんなこと言ってたら出るぜ、おい」
 ビーチャが茶々を入れてきた。
「呼ばれて飛び出てってやつでな」
「ビーチャがそう言うとろくなことにならないんだよな」
「モンド、そりゃどういう意味だ」
「けれど実際にさあ。いつもこうした場面で出て来るし」
「そうなんだよね。あと地球に降下する時。何故かいつも出るよね」
「動けないからな、母艦が」
 ジュドーが言った。
「だから仕方ないさ。大気圏にそのまま突入できる機体ならともかく」
「ドラグナーはいけるぜ」
「それいいよな」
「へっへっへ、まあそれがドラグナーの自慢の一つ」
「ただ機体はかなり傷むけれどな。それは気にしない気にしない」
「しますぞ」
 おちゃらけた三人にベンの怖い声が入ってきた。
「ゲッ、軍曹」
「少しは整備班のことも考えて欲しいものですな、全く」
「そ、それはまあ」
「ほんの少しは」
「もっと真剣に、です。よいですな」
「はい」
 流石の三人も彼だけは苦手であった。皆それを見て笑っていた。
「あのやんちゃ坊主共も軍曹だけは苦手のようだな」
「あと大尉も」
「俺もか」
 バニングはヘイトにそう言われ意外といった顔をした。
「俺はあの三人にはあまり言ってはいないぞ」
「無言の圧力ってやつですよ」
「ふむ」
「まあうちには大尉みたいな人も必要だってことですよ」
「そういうものか」
「もっと凄いのがこれから現われるかもしれませんね」
 モンシアが面白そうに言った。
「もっと凄いのってどんなのですか」
「藤原達よりとんでもないのだったら勘弁願いたいな」
「ちぇっ、また俺達かよ」
「まあ忍がいるからね」
「そういう御前だって相当なもんだろうが」
「何だってえ!?」
「これだからな」
「俺達はそういう役割だけれど」
 亮と雅人はダンクーガの中で喧嘩をはじめた二人に対して呆れていた。そうこうしている間に打ち上げまで二十分程となった。
「あと二十分か」
「今回は大丈夫ですかね」
 トーレスがブライトに対してそう声をかけてきた。
「ここいらにはこれといった敵もいないし」
「いや、それはわからないぞ」
 しかしブライトはそれには懐疑的であった。
「我々の敵は多いからな。こうした時にこそ出る」
「けれど今はどんな敵が」
「ティターンズとドレイク軍はヨーロッパですしネオ=ジオンとギガノスは宇宙、他の勢力は殆ど日本近辺に集まっていますけれど」
 サエグサもトーレスと同じ意見であった。
「バルマーもいるだろう。中央アジアではポセイダルと遭遇した」
「あっ」
「彼等は宇宙に戻ったようだがな。それにマスターアジアがまた動くかもしれない」
「あんなのが急に出て来たら使徒どころじゃないわよ」
 アスカが彼の名を聞いて露骨に嫌そうな顔をした。
「一人で世界征服できるんじゃないの、あれって」
「御前ホンマにあの人が嫌いやねんな」
「そういうトウジは・・・・・・って十三さんじゃない」
「あまり人を嫌うのはどうかと思うで。敵やっちゅうてもな」
「じゃああれ人間!?」
「そう言われると困るな」
「ちょっと十三」
 それを聞いてちずるは困った顔をした。
「それを言ったら何にもならないじゃない」
「けどあれはマジで人間の動きちゃうしな」
「一応可能なことは可能ですけれどね、ああした動きは」
「小介、それは本当か!?」
「はい、人間の持つ潜在能力を全て使った場合ですけれど」
 豹馬にそう答えた。
「可能なことは可能ですよ」
「聖戦士やニュータイプみたいなものか」
「おいおい、俺はあんな真似はできねえぞ」
 トッドがそれに反論した。
「俺はこれに乗ることだけだぜ」
「まあそうだけれどね」
「巨大化とかはできないの?」
「オーラバトラーにはそうした機能はないわね」
 マーベルが真面目に答えた。
「至って普通よ、確かに硬いけれど」
「そうなの」
「だからそれは安心してね」
「ええ」
「んっ」
 ここでルリが声を出した。
「どうしたの、ルリちゃん」
 ハルカがそれに気付いて彼女に声をかけた。
「敵・・・・・・来ます」
「やっぱりねえ」
「それで何処からですか!?」
 ハーリーが慌てた様子でそれに尋ねる。
「前からですか!?それとも後ろから」
「ハーリー君、落ち着いて下さい」
 それに対してルリは静かな声でそう言った。
「全方向からですよ」
「ええっ!?」
「何時の間にいっ!?」
「木星トカゲです」
 ルリの金色の瞳が光っていた。
「かなりの数です」
 それを言い終わらぬうちに木星トカゲの兵器達が姿を現わした。そしてロンド=ベルを取り囲んだ。
「出ましたよ」
「ゲッ」
「それだけではないです」
「まだいるの!?」
「はい、今度は見たこともない兵器です」
 杖を手にした足のないマシンもそこに数機いた。
「あれは・・・・・・」
「我等は北辰衆」
 その中のリーダーと思しき吊り上がった目に白いスーツの男が言った。
「北辰衆」
「そうだ、我々は火星の後継者の部隊の一つ、故あってネオ=ジオンの協力している」
「火星の後継者!?」
 ブライトはそれを聞いて眉を顰めさせた。
「ユリカ君、知っているか」
「知らないです」
「そうか」
 あっけらかんと答えたユリカに対して頷いた。
「新しい敵か、よりによって」
「けれど使っている兵器は木星トカゲと同じです、ですから戦い方は変わらないかと」
「そうか」
 今度はルリの言葉に頷いた。
「では木星トカゲとの戦いの要領でいくか。いいか
 そしてパイロット達に対して言った。
「二十分だ。宇宙組はそれまでに戦いを収めろ」
「了解」
「地上組はそれ以上の戦闘も可能だ。だが決して無理はするな」
「はい」
「以上だ。では頼むぞ」
「よし、聞いたな」
 フォッカーが他の者に対して問う。
「暴れる時間は二十分、思いきりやるぞ」
「はい」
「スカル小隊発進!かかるぞ!」
 まずはバルキリー達が動いた。先頭にいるのはフォッカーのロイ=フォッカースペシャルであった。
「数だけ多くてもなあ」
 目の前に群がる木星トカゲ達のマシンに対して言う。
「それだけじゃ相手にはならねえなっ!」
 次々にミサイルを放つ。それで瞬く間に数機撃墜した。
「どうだっ!」
「少しはやるようだな」
 ここで不気味な声がした。
「ムッ!?」
「この北辰衆の力、見せてくれよう」
 後ろに先程の足のないマシンがいた。そのコクピットには北辰に似た服装、雰囲気の男がいた。
「■」
 彼は一言そう言うと杖を振るってきた。そしてフォッカーのバルキリーを撃墜せんとしてきた。
 しかし動きはフォッカーの方が速かった。彼はそれをいとも簡単にかわしてみせた。
「少しは出来るみたいだな」
「ロイ!」
「クローディアか」
 彼は恋人の姿がモニターに入ったのを見て不敵に笑った。
「勝利の女神のおでましってわけだ」
「もう、ふざけていていいの?」
「ははは、手厳しいな」
「そんなのだから心配するのよ」
「そうだな。勝利の女神を悲しませるわけにはいかない」
「じゃあ真面目にやってよね」
「ああ、そうするか」
 彼はそう言うと目の色を変えた。そしてガゥオークに変形させた。
「そこの赤いの、容赦はしないぜ!」
「何っ!?」
「ロイ=フォッカーの腕前、見せてやる!」
 フォッカーが本気になった。そしてガンポッドを連射する。
「ヌヌッ!」
 北辰はそれをかわすので必■であった。フォッカーの攻撃は止まるところを知らない。
「これで終わりだあっ!」
「グオオオッ!」
 そして撃墜した。瞬く間であった。
「フン、逃げたか」
 だがパイロットは脱出に成功していた。そして何処かに姿を消していた。
「まあこれで厄介なのが一機消えた」
「ロイ、油断しては駄目よ」
「おいおい、またか」
「敵はまだいるってことよ。けれど新しく参加したメンバーも頑張っているわね」
「そうだな」
 見れば金龍はダイアモンド=フォースを率いて戦場を駆っていた。ガムリンとフィジカが一緒である。
「フォーメーションを崩すな!」
「はい!」
「了解!」
 二人はそれに頷く。そして木星トカゲに三機一組で襲い掛かる。
「行くぞ!」
 金龍の言葉に従い突撃する。そしてミサイルのこうげきにより小隊単位で倒していく。彼等もまた歴戦の勇者であった。
「ひゅう、あの旦那達は放っておいても大丈夫みたいだな」
「心配なのは貴方よ」
「げ、早瀬大尉」
 モニターに美人だが気の強そうな女性が姿を現わした。茶色の長い髪に軍服をしっかりと着こなしていた。
「霧生君、実戦ははじめてでしょ。油断しては駄目よ」
「わかってますよ」
「わかってますよって言っていつもわかっていないから。だから言うのよ」
「ちぇっ、大尉は厳しいなあ」
「厳しくて結構、だから変な真似はしないでね」
「はい」
 霧生は渋い顔でそれに頷いた。
「それじゃあ行って来ます」
「しっかりね」
「ちぇっ、本当に何時まで経っても子供扱いなんだからな」
「霧生って実際に子供だから」
 霧生のバルキリーの右横にミスティのバルキリーがやって来た。
「だから心配になって言うのよ」
「何だよ、ミスティまでそう言うのかよ」
「ミスティさんだけじゃないわよ」
 今度は左横にまたバルキリーがやって来た。
「レトラ」
「私も同じなんだから」
「何か俺って女の人にそう思われ易いのかね」
「無鉄砲だからね」
 レトラはそれに対してそう答えた。
「だから心配になるっていえばなるわね」
「これでもバルキリーは満足に操れるぜ」
「それでももしもがあるでしょ」
 今度はミスティが言った。
「だからよ。それが嫌なら頑張りなさい」
「ちぇっ、わかったよ。じゃあ遅れるなよ」
「ええ」
「わかったわ」
 二人はそれに頷いた。そして霧生の後について行く。
「行くぜ!バルキリー!」
 霧生のバルキリーが敵の小隊の中に飛び込んだ。そして一気に襲い掛かる。
「片っ端から撃ち落とせ!」
 ミサイルを乱射する。そして木星トカゲの一団を次々と撃墜していった。
「元気の分だけは頑張ってるみたいね」
 早瀬はそれを見てマクロスの艦橋で微笑んだ。
「何時までもそうした元気が続けばいいけれど」
「一条中尉みたいにかね」
 グローバルが彼女にそう声をかけてきた。
「艦長」
「おっと、これは失言だったかな」
「いえ」
 だが彼女はそれは否定はしなかった。
「彼とはまた違った意味で」
「そうなのか」
「霧生少尉は何か弟のような感じがします」
「弟か」
「はい」
 彼女は答えた。
「ですから一条中尉とはまた違います」
「だが君にとっては一条中尉も弟みたいなものではないかな」
「彼もですか」
「おっとと、これは失言だったか」
「艦長」
 クローディアが口を尖らせる。
「人のことにあれこれ言うのはよくありませんわよ」
「ははは、クローディア君は厳しいな。だが早瀬君、気をつけたまえよ」
「何をでしょうか」
「霧生少尉のコントロールをだ。彼は確かにパイロットとしての素質に恵まれている」
「はい」
「だが名馬は扱いづらいものだ。それを上手くコントロールしないと大変なことになるからな」
「わかりました。それでは」
「うむ」
「霧生少尉」
「今度は何ですか?」
「すぐにマクロスの近くに戻って。エレンディス少尉とクラウス少尉も」
「私達もですか?」
「小隊を組んでいるからね。マクロスの護衛に回って」
「デストロイドと乗り換えでもするんですか?」
「君がそうしたいというのならね。モンスターなんてどうかしら」
「ちょっとそれは待って下さいよ」
「どうしてかしら」
 早瀬は霧生が自分のジョークに乗ってきてくれたので微かに微笑んだ。
「俺にはあんなでかいの乗れませんよ。あれはちょっと」
「じゃあバルキリーで真面目にやってね。いいわね」
「了解。そっちにはエステバリス隊もいますね」
「ええ」
「彼等に負けないようにしますよ」
「ほう、面白いことを言う」
「あ、ヤマダさん」
「ダイゴウジだああっ!」
 ダイゴウジは霧生に本名を言われてすぐにそれを否定した。
「間違えるなっ!俺の名はダイゴウジ=ガイだ!覚えておけ!」
「けれどデータにはヤマダとありますけれど」
 ミスティがクールな様子でそれに突っ込む。
「データが間違えているんですか?」
「それはないでしょ」
 レトラがそれを否定する。
「クローディアさんと早瀬大尉の作られたデータがそうそう間違っているとは」
「その通りです」
「貴女は」
「ホシノ=ルリです。階級は少佐、ナデシコのクルーの一人です」
「えっ、貴女が!?」
 霧生はモニターに出て来たルリの姿を認めて驚きの声をあげた。
「あのナデシコの名参謀が」
「意外でしたか?」
「ま、まあ。それでホシノ少佐」
「はい」
「ダイゴウジさんって本名じゃないんですね」
「そういうことになています。本人は必■に否定していますけれど」
「俺には心の名前がある!」
 ダイゴウジはそれに対してもクレームをつけた。
「それがこのダイゴウジ=ガイなのだ!」
「そういうことですので」
「わかりました」
 事情を理解した三人はルリの言葉に頷いた。
「あまり気にしないで下さいね」
「はい」
「それよりもダイゴウジさん」
「ムッ!?」
「操縦上手いわね」
「こら」
 ポツリと呟いたレトラをミスティが窘める。
「敵が来ています。気をつけて下さい」
「木星トカゲか?楽勝楽勝」
「それだけではありません。あの怪しい人達も来ています」
「北辰衆か」
「はい」
 アキトに答えた。
「かなり手強いことが予想されます。皆さんお気をつけて」
「了解」
「そんな奴等の一匹や二匹!」
 ダイゴウジがまず飛び出た。
「俺が粉砕してくれる!」
 だがここで木星トカゲの集中攻撃を受けた。飛び出た為だ。
「おわっ!」
「言わんこっちゃない」
 サブロウタがそれを見て呆れた声を出した。
「ダイゴウジさん、あまり前に出ると危険だぜ」
「我々がフォローする。だからここは下がってくれ」
「チッ、わかたよ」
 ナガレにも言われ渋々ながら後ろに下がる。だが敵の攻撃を一撃も受けていないのは流石といったところか。
「とにかく踏ん張るぜ、皆」
 八人揃ったところでリョーコが言う。
「こんな雑魚共に手こずっていちゃあコロニー落としを防ぐなんて夢のまた夢だからな」
「コロニーが落ちたら大事ですからね」
「コロニーが落ちてコロ、と■ぬ」
「イズミ、おめえはそのつまらねえギャグを止めろ!気が抜けるだろうが!」
「それもマヤさんと同じ声ですし」
「えっ、私も!?」
 ジュンの声に反応してマヤも出て来た。
「そんなに声似てるかなあ」
「僕だってアキト君に似てるって言われるし」
「俺も。けれどライトニングカウントだからいいか」
「そうかしら」
 三人共話に入ってきた。
「よく言われるけれど。そんなにイズミさんと似てるかなあ」
「姿形は違えど声は同じ、うふふ」
「何か変な気分」
 イズミ自身に言われ余計変な気持ちになった。マヤは複雑な心境であった。だがそうこうしている間にも戦いは続いているのである。
「マヤさん」
「あっ、何!?」
 ルリに言われ戦場に心が還った。
「来ていますよ、そっちに」
「あっ」
 見ればエヴァの方にも木星トカゲが大挙してやって来ていた。
「すぐに指示を下した方がいいです」
「そうね。エヴァ各機に伝えます」
 すぐにミサトが動いた。
「小隊を崩さずに迎撃をするように。良いわね」
「了解」
「わかりました」
 彼等は口々に頷く。そして木星トカゲへの迎撃に入った。
「危ないところだったわね。ありがと、ルリちゃん」
「いえ」
 ミサトの感謝の言葉にこくりと頷くだけであった。
「気がついただけですから」
「そうなの。あとそっちに連中のボスが来ているわよ」
「はい」
 どうやら既に察していたようである。
「アキトさん、対処お願いできますか」
「俺!?」
「はい、お願いします」
「何か唐突だなあ」
「アキト対敵のエースってわけ!?」
 ここでユリカが出て来た。
「あ、艦長」
「いいわ。どんどんやっちゃって。私が応援するから」
「艦長は今まで通り艦の指揮をお願いします」
「わかってるわよ。男と男の勝負に入るような野暮な真似はしないわよ」
「いや、そうじゃなくて」
 アキトはいつもの様子のユリカにこれまたいつも通り戸惑っていた。
「ナデシコを宜しく頼むよ、ユリカ」
「ノープロブレムよ、アキト」
 ユリカはそれに対して自信に満ちた声を返した。
「私が艦長なんだから。絶対に沈んだりしないわ」
「いや、そうじゃなくてね」
「アキトさん、来ましたよ」
 それを言うより早くルリの指示が来た。
「上です」
「上!?」
 見上げた。するとそこにあの赤いマシンがいた。
「フン、貴様がエステバリスのエーステンカワ=アキトか」
 北辰の一人はアキトを見下ろして笑った。
「見たところ普通の若者のようだな。コックでもしている方が似合うような」
「へえ、鋭いねえ」
 サブロウタはそれを聞いて面白そうに笑った。
「わかってるじゃねえか、アキトをよ」
「おいおい」
 それをナガレが嗜めた。
「悠長なことを言っている場合か」
「おっと、そうだった」
「だが人は外見では判断はできない。テンカワ=アキトよ」
「何だ!?」
「貴様と一勝負したい。いいか」
「断っても来るつもりだろう」
「確かにな」
 彼はそれを否定しなかった。
「行くぞ。覚悟はいいか」
「俺だってエステバリスに乗ってる時はやってやるんだ!」
 アキトは叫んだ。
「行くぞ!やってやる!」
「さあ来い」
 男は冷静なままであった。その吊り上がった目が冷たく光る。
「思う存分相手をしてやる」
「行ってやる!」
 二機はすぐに戦いに入った。まずはアキトnエステバリスが攻撃に入る。
「これならっ!」
 ラビットライフルを放つ。しかしそれは北辰に呆気なくかわされてしまった。
「造作もないこと」
「クッ!」
「この程度では私は倒せはしないぞ」
「ならこれでっ!」
 今度は大型レールカノンを放った。しkしそれもかわされてしまった。
「甘いな」
「レールカノンも!」
「どうやら貴様の腕自体は悪くはないようだな」
 北辰は冷静にアキトのエステバリスを見ながらそう言った。
「だがエステバリスではな。私の相手となり難い」
「エステバリスを舐めるなあっ!」
 アキトはそれを聞いて叫んだ。
「エステバリスを馬鹿にできるというのか!」
「できるな」
 しかし北辰はそれにも冷徹に言葉を返した。
「来い。今それを見せてやる」
「何を!」
 アキトは突っ込んだ。そこで北辰の杖が微かに動いた。
「ふん」
「なっ!」
 それだけでエステバリスのレールカノンが弾き飛ばされた。アキトはそれを受けてすぐにラビットライフルを出そうとする。だがそれは間に合わなかった。
「こういうことだ」
「クッ・・・・・・!」
 秋とのエステバリスの喉元に杖が突き付けられていた。これでは動くことができなかった。
「エステバリスは接近戦に弱い。ならばそれを突いていけばいいだけのことだ」
「アキトッ!」
 ユリカが出ようとする。しかしルリがそれを制止した。
「ルリちゃん」
「大丈夫です」
 ルリはそう言ってユリカを宥めた。
「アキトさんは■にませんよ」
「けど」
「殺すつもりなら杖を突き付けたりしませんから」
 ルリの言う通りであった。北辰はアキトの動きを封じただけでここではそれ以上何もしようとはしなかった。
「さて、負けを認めるか」
「クッ・・・・・・」
「認めざるを得ないな。だが認めるわけにはいかない。貴様にもプライドがあるだろう」
 彼はアキトの心境を見越してそう言った。
「今は勝負を預けておこう。どのみちまた会う」
「また」
「そうだ。その時にはエステバリスでは相手にはならないぞ。私も本気を出させてもらう」
「あれで本気じゃねえのかよ」
「とんでもねえ野郎だ」
 ダイゴウジとリョーコがそれぞれ言う。しかし北辰はそれに構わずに戦場を離脱しにかかった。
「敵機の反応、レーダーから消えました」
 ルリがクールにそう報告した。
「他の木星トカゲの機体も撤退していきます」
「去ったということか」
 ブライトはそれを聞いて一言そう呟いた。
「今回は様子見ということか」
「おそらくは」
 ルリがそれに答える。
「ただ、今回の大規模な攻撃で一つわかったことがあります」
「それは?」
「ネオ=ジオンにあるのはモビルスーツだけではないということです。そして彼等と結託している可能性のある勢力が存在しています」
「それは」
「それが何かまではまだわかりませんが。ただ強大な勢力であることだけは間違いないでしょう」
「またかよ」
 甲児がそれを聞いて顔を顰めさせた。
「もう新しい敵は勘弁して欲しいぜ」
「あら、そうかしら」
 だがさやかはそこにからかい半分に言葉を入れた。
「甲児君は戦えればいいんじゃないの?」
「ちぇっ、まあそうだけれどよ」
「地上にも敵は山程いるんだから。頼むわよ」
「何だかんだ言って甲児君はうちのエースだからな」
 大介も言った。
「期待しているよ」
「いやあ、大介さんにそう言われると」
 かなりあからさまなお世辞ではあったがまんざらではないようだ。
「俺も張り切らなくちゃな」
「張り切っていつもみたいに失敗しなければいいがな」
「甲児君ってそそっかしいから」
「鉄也さん、ひかるさん」
 甲児はそれを聞いて渋い顔をした。
「ちょっとは俺を信用してくれよ」
「ははは、済まない」
「けれど頼りにしてるわよ」
「もう遅いよ」
「さてと」
 ブライトは時計を見ながら言った。
「そろそろ時間だ。各機母艦に入れ」
「了解」
「わかりました」
 宇宙に行く者達はそれに従い次々と母艦に入った。それを確認した後でグローバルがブライト、シナプス、そしてユリカに対して声をかけてきた。
「ではいいかね」
「はい」
 三人の艦長はそれに頷いた。グローバルはそれを確認した後で言った。
「では行くぞ、宇宙へ」
 まずはマクロスが飛び立った。そしてそれに続いて三隻の戦艦が。彼等は悠久の銀河に向けて飛び立ったのであった。
「行ったか」
「ああ」
 上を見て呟くピートに対してサコンが頷いた。
「これからが大変だろうがな」
「そうだな。ところでさっきの連中だが」
「木星トカゲか」
「そうだ。奴等は宇宙で一度出ていたそうだな」
「ホシノ少佐の話ではな。その時は前の戦いで残っていたのをバームが使っていたそうだが」
「では今回もバームがか!?」
 そこにサンシローが入ってきた。
「だとしたら厄介だぞ。ネオ=ジオンとバームが手を結んだとしたら」
「いや、それはないだろう」
 それはリーが否定した。
「リヒテルはどうもそうした男じゃないようだ」
「そうだな」
 ピートがリーの言葉に頷いた。
「あのリヒテルという男は敵ながらかなりの潔癖症で己の倫理に五月蝿い。地球人とは間違っても手を組んだりはしないだろう」
「そうですね」
 ブンタもそれに頷いた。
「彼はそんなことはしないと思います」
「そうか」
「それよりもっと危険かも知れないぞ」
「そりゃどういう意味だ?」
 ヤマガタケがサコンに問うた。
「これは俺の仮説だがな」
「ああ」
 他の者もピートの言葉に耳を傾けた。
「木星か何処かの勢力とネオ=ジオンが結びついているのかもしれん。木星トカゲを持っている勢力がな」
「木星か」
 彼等はそれを聞いて考えを巡らせた。
「それは有り得るな」
「そうですね。前の戦いでシロッコはティターンズに戻りましたけれどまだ木星にいる勢力があるかも」
「その可能性はあるな。そして火星も」
「博士」
 大文字もやって来ていた。
「火星はあの戦いの後連邦軍の軍政下に置かれていたな」
「はい」
「草壁中将が指揮するな」
「あの人だったら問題はないと思いますが」
 彼は連邦軍では温厚で真面目な人物として知られている。将としても有能だと評判であった。
「だが最近連絡がとれないようなのだ」
「何っ」
「まさか」
「ギルトール将軍の例もある。まさかとは思うがな」
「まさか中将はネオ=ジオンと手を結んだとか」
「あの人が」
「可能性は否定できない」
 それが大文字の返答であった。
「まだ確証は得られないがな」
「そうですか」
「だがそうだとすると我々はまた一人強敵を向こうに回したことになる」
「宇宙に行った奴等、大丈夫かな」
「それは彼等で何とかするしかないな、残念ながら」
「ああ。だが俺達のところに来たら遠慮なくやらせてもらうぜ」
「当然だ」
 サンシローの言葉に頷いた。彼等もまた戦いに思いを馳せるのであった。
 地上に残った者達は南アタリアから太平洋上のオルファンに向かった。そしてそこでオルファンの調査及び警戒にあたることとした。
 
 ロンド=ベルの三隻の戦艦とマクロスが宇宙に出たのはネオ=ジオンにも伝わっていた。ハマーンはそれをアクシズにおいて聞いていた。
「やはりな。予想通りと言うべきか」
「如何なされますか」
 彼女の前にイリアがいた。そしてハマーンに問うていた。
「マクロスまでいます。厄介かと思いますが」
「構わん。予定を変更することはない」
 それがハマーンの答えであった。
「デラーズ中将に伝えよ。このままコロニー落としを続けるようにとな」
「わかりました」
「だが護衛部隊の増援は必要だな。火星の後継者達は先程アタリアに攻撃を仕掛けていたな」
「はい」
「彼等にも回ってもらうか。だが北辰衆はこちらに戻ってもらう」
「何故でしょうか」
「あの者達は信用できん」
 そう答えるハマーンの顔が険しくなった。
「腹の中に何かあるかも知れぬ。油断するな」
「はい」
「彼等にはティターンズに向かってもらおう。シロッコへ向ける」
「シロッコにですか」
「毒を以って毒を制すということだ」
 ハマーンの目がさらに険しくなった。
「よいな。彼等は毒だ」
「はい」
「毒は毒の使い方がある。もう一つの毒もな」
「もう一つの毒!?」
「あ、いや」
 だがハマーンはここで言葉を濁した。
「何でもない。気にするな」
「わかりました」
「それでゼクスにはコロニーの方へ回ってもらいたい」
「ライトニングカウントもですか」
「ヒイロ=ユイもいる。おあつらえ向きだろう」
「ですが彼もまた」
「少なくともあの男は毒ではない」
 イリアの言葉を遮るようにしてそう述べた。
「我等にとってはな。そして彼等にとっても」
「彼等にとってもですか」
「そうだ。毒ではない。それはわかるな」
「はい」
 しかしこの時イリアはハマーンの言葉の意味を少し取り違えていた。彼等とは何であるのかを。あえてはぐらかせたハマーンの話術であった。
「この作戦に我等の第一段階がかかっている」
「はい」
「その次に地球に降下するぞ。目標はアフリカだ」
「了解しました。中央アジアにいるギガノス、ヨーロッパにいるティターンズに対抗する為にも」
「頼むぞ。御前にも行ってもらうからな」
「マシュマー殿やキャラ殿もでしょうか」
「無論だ。そしてグレミーやラカンにも行ってもらう」
「了解しました」
 彼女は己の手勢を全て地球に送り込むつもりであった。
「後で私も行くことになるだろうからな」
「ハマーン様も」
「ミネバ様と共にな。連邦の腐った屍達に我等の正当性を見せつけるのだ」
「ですがそれは」
「私が今まで過ちを犯したことはあるか?」
 諫めようとするイリアを見て自信に満ちた笑みを浮かべた。
「あれば遠慮なく申し出てみよ」
「いえ」
 イリアはそれに対して首を横に振った。
「ハマーン様に限ってそれはありません」
「ふふふ」
 彼女の待っていた答えであった。彼女は自信に満ちた笑みをたたえ続けた。
「私の手でザビ家は復活するだろう。ミネバ様を頂点とするな」
「はい」
「その時は近い。イリア、御前にも思う存分働いてもらうぞ」
「御意」
 イリアは彼女に対して敬礼した。そしてその場を後にした。ハマーンが一人広い部屋に残る形となった。
「デラーズ、そしてガトーに任せておけば問題はないか」
 彼女は星の大海を見ていた。そしてその彼方にある遥かな戦いを見据えていた。
「失敗すればそれはそれでやり方がある。どう転んでもネオ=ジオンに損はない」
 アクシズからも無限の星達が見える。それはまるで無数の戦士達の魂のようであった。
「シャア」
 だが彼女は突如として別の名を呟いた。
「私と共にいればいいものを。ザビ家を理解できる愚か者よ」
 どういうわけかその声には苦いものが混ざっていた。
「だがよい。どのみち私にとって男は不要。セラーナ」
 別の名を呼んだ。今度は女のものであった。
「御前にかって言われたことか。ふふふ」
 ハマーンもまた戦いに身を置こうとしていた。また一人巨大な人物が歴史において動こうとしていた。人の世界は彼等によって大きく揺れ動こうとしていた。


第三十六話   完


                                    2005・8・1


[303] 題名:第三十五話 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年03月05日 (日) 19時20分

            冥王、暁に出撃す
 朝が来た。一機のマシンが姿を現わそうとしていた。
「行くか」
「うん」
 ゼオライマーが姿を現わした。銀色のマシンが暁の紅の光を受けて輝いていた。
 ロンド=ベルの面々も沖もゼオライマーを見ていた。彼等はそれを見送る為に出て来ていたのだ。
「行って来いよ」
「そして全てを終わらせて来い」
「はい」
 マサトは彼等の言葉に頷いた。沖も声をかけてきた。
「マサト」
「沖さん」
「御前には済まないことをしてきた。許してくれとは言わない。だがこれだけは言わせてくれ」
「いいですよ」
 マサトはそれを聞いて微笑んだ。
「僕は。これが運命だったんですから」
「運命か」
「ええ。そしてその運命を終わらせる為に美久」
「ええ」
「行こう」
 マサトと美久、そしてゼオライマーは出撃した。何もかもを終わらせる為に。

「来たか」
 幽羅帝は鉄甲龍の要塞の中にいた。それは上海から少し離れた荒野に置かれていた。
「木原マサキ、いえ秋津マサト」
 はじめて彼の名を呼んだような気がする。何故か憎しみは感じない。
「もう一人の私・・・・・・。いよいよ全てが終わる」
 彼女は前を見た。そこにゼオライマーが姿を現わした。
「来たよ」
 マサトは優しい声で彼女に声をかけた。
「もう一人の僕に会いに」
「ええ」
 帝はその言葉に頷いた。
「いらっしゃい、もう一人の私」
「うん」
 マサトも彼女の言葉に頷いた。
「全てを終わらせましょう」
「そう、全てを」
 二人は優しい頬笑みを浮かべ合ってそう言い合う。
「運命を終わらせる為に」
「彼の怨念を消す為に」
 ゼオライマーはゆっくりと宙に浮かび上がった。そしてその拳を打ち合った。
「さようなら、僕」
「さようなら、私」
 帝は最後にそう言った。優しい、落ち着いた頬笑みを浮かべながら。
「上海郊外で爆発を確認しました」
 暫くしてロンド=ベルにも爆発が確認された。ミドリがそう報告する。
「そうか、終わったか」
 大文字はそれを聞いて瞑目した。
「彼は全てを終わらせたのだ」
「はい」
「自分自身でな。だが辛いことだろう」
「でしょうね」
 ミドリがそれに頷いた。
「自分自身を消したのですから。そして彼自身も」
「いや、待ってくれ」
 だがここでサコンが広範囲用のレーダーを見ながら言った。
「どうしたんだね、サコン君」
「彼はまだ生きていますよ。無事です」
「何っ、まさか」
「ええ、どうやら無事だったようです。その場にゼオライマーが立っています」
「そうか」
 大文字はそれを聞いて少し安堵したようであった。
「彼は生きていたのか。では」
「いえ、まだ油断はできないようです」
 しかしここでサコンの顔が険しくなった。
「敵が来ています。これは・・・・・・ミケーネです」
「無粋な奴等だな、やはり」
 鉄也がそれを聞いて顔を顰めさせた。
「俺が行きます。奴等が相手ならどれだけいても平気です」
「私も行きます」
「それよりも前に動いているのがいるがな」
「えっ!?」
 鉄也とジュンはそれを聞いて驚きの声をあげた。
「それは」
「すぐわかる。だがゼオライマーが危ないのには変わりない。俺達も行こう」
「了解」
「では博士」
「うむ」
 大文字はあらためて頷いた。そして指示を下す。
「ロンド=ベル発進。ゼオライマーの救援に向かうぞ」
「はい!」
 六隻の戦艦が空に舞い上がった。そして戦場に赴くのであった。二人を助けに。

「終わった・・・・・・。全てが」
 マサトはメイオウ攻撃により全てが消え去ったその場で一人そう呟いた。
「もう一人の僕が消え去った。僕は一人になったんだ」
「いえ、一人じゃないわ、マサト君」
 美久がマサトに声をかけた。
「私がいるから」
「美久・・・・・・」
「いつも私が側にいるから。マサト君は一人じゃないわ」
「優しいんだな、君は」
 マサトはそれを聞いてそう答えた。
「本当に。いや、君だけじゃない」
「私だけじゃない?」
「八卦衆も・・・・・・。皆美しい心を持っていた」
 彼はここでこう言った。
「幽羅帝も。皆美しい心の持ち主だった。しかし僕だけが違う」
「マサト君・・・・・・」
「僕が造った皆が綺麗で、どうして僕だけが薄汚いんだ」
 マサトは言った。
「何故、何故僕だけが」
「それは違うわ」
 だが美久はそれを否定した。
「マサト君」
 彼の名を呼んだ。マサト、と。
「人は自分の心の中にないものは造り出せないわ」
「・・・・・・・・・」
「貴方の心の中にそれがあったから彼等を造り出せたのよ。それは違うわ」
「そうなのだろうか」
「ええ」
 美久は頷いた。
「貴方は貴方の心の中にあるそれぞれのものを彼等に託したのよ。私にも」
「そうなのだろうか。けれど」
 それでもマサトは言った。
「僕は彼等を・・・・・・」
「それも違うわ。見て」
「えっ」
 美久の言葉に顔を上げた。前を見た。
「ほら」
 そこには彼等がいた。もう一人の自分も。彼等は微笑んでそこに立っていた。
「そして貴方は彼等を壊そうとはしなかった」
「馬鹿な、そんな」
「彼等が彼等の道を見つけられるようにしていたのよ。全てがわかったうえで」
「どういうことなんだ」
 マサトは彼等を見てさらにわからなくなっていた。
「何故彼等が」
「貴方は彼等を滅ぼすつもりはなかったのよ。彼等にそれぞれの道を歩んでもらいたかったの」
「けれど僕は彼等の心に」
「しがらみを抜けてこそ人ははじめて歩けるものなのよ」
 美久はまた言った。
「どれがわかっているから彼等も、そして貴方も今ここにいるのよ」
「そうだったのか」
「ええ。そして彼等は歩いていくわ。見て」
 彼等は微笑んでその場を去っていった。ある者は一人で、そしてある者達は二人で。それぞれの道を歩みはじめた。一人ずつマサトの前から去って行った。
「行ったんだね」
「ええ」
 美久は頷いた。
「そしてマサト君も」
「僕も!?」
「そうよ」
 彼女はまた答えた。
「貴方の運命を切り開いたから。貴方もこれからは自分の道を歩いていけるわ」
「そうかもしれない」
 マサトは一旦はそれに頷いた。
「けれど」
「けれど・・・・・・何かしら」
「僕の道は僕のだけじゃないんだ。美久、君もいる」
「私も」
「うん。そして・・・・・・」
 暗い顔だが意を決したものであった。
「僕自身も。もう一人の僕もいる」
「マサト君、いいのね」
「ああ。僕は僕の運命を受け入れた」
 彼は言った。
「それが僕の道なんだ。彼もいることが」
「そうなの、わかったわ」
「僕は僕だけじゃない。秋津マサトは」 
 悟った顔になっていた。
「僕だけじゃないんだ」
 ゼオライマーは動きはじめた。そして飛び去ろうとする。しかしそこで四機のエヴァが姿を現わした。
「終わったみたいですね」
 シンジがまず言う。
「シンジ・・・・・・君だったっけ」
「はい」
 シンジはそれに答えた。
「マサトさん、お疲れ様でした」
「有り難う」
「計画は終わったみたいですね」
「うん」
 マサトはそれに頷く。
「僕達が終わらせたよ。彼の計画はね」
「そうですか」
 シンジだけでなく他の三人もそれに頷いた。
「じゃあこれでゼオライマーは役目を終えたんですね」
「うん」
「帰りますか、日本に」
「ああ、帰ろう。そして僕は」
 マサトは何か言おうとした。だがそこで異形の者達が姿を現わした。
「んっ!?」
 それはミケーネ帝国の戦闘獣達であった。先頭には魔魚将軍アンゴラスがいた。
「フン、そう易々と日本に帰ってもらっては困るな」
「ミケーネ帝国」
「何であんた達がここにいるのよ」
 アスカが彼等にくってかかる。
「フン、知れたこと。ゼオライマーを破壊する為だ」
「ゼオライマーを」
「そうだ。その圧倒的な力、必ずや我等にとって害となる。ならば今のうちにな」
「相変わらずせこい奴等やな」
 トウジがそれを聞いて呆れた声を出した。
「ちょっとはでっかいふうにやれんのかいな」
「全くよね」
 アスカもそれに続く。
「そんなんだからあたし達に負けてばっかりなのよ。わかる!?」
「何っ、わし等を愚弄するつもりか」
「愚弄も何も本当のことじゃない」
「何だとっ!」
「ゼオライマーを倒す前にあたし達がいるのよ。あたし達を倒せると思ってるの!?」
「えっ、それって」
 マサトはアスカのその言葉を聞いて驚いた。
「僕達を・・・・・・」
「あたし達はねえ、あの計画を何とかする為にいたのよ」
 アスカはそれに答えた。
「あんたを相手にする為にロンド=ベルにいるんじゃないのよ。わかる!?」
「ちょっとアスカ」
「シンジ、あんたは黙ってなさい」
 アスカはそう言ってシンジを黙らせたうえでマサトに話を続ける。
「だからね、あんたには何の恨みもないのよ。ゼオライマーにもね」
「そうだったの」
「だからそこで大人しくしてなさい。いいわね」
「いや」
 だがマサトは動いた。
「僕も戦わせてもらうよ。君達だけ戦わせるみたいだから」
「・・・・・・いいの?」
 レイが彼に問うた。
「ここで戦うと一度だけじゃないわよ」
「・・・・・・・・・」
「ミケーネは完全に貴方を敵視するわ。そして他の勢力も」
「構わないよ」
 マサトは言った。
「僕は決めたんだ。戦うって」
「どういうことかしら」
 アスカがそれに問う。
「このゼオライマーの力は世界を破壊する為にあるんじゃなかったんだ。木原マサキ、いや僕はそれを望んじゃいない」
「それで」
「じゃあこの力は別の方に使う!世界を破壊するんじゃなくて・・・・・・」
 彼は言った。
「世界を守る為に!」
「フン、また世迷言を言う輩が出てきおったか」
 アンゴラスはそれを聞いて嘲笑した。
「ならばよい。ゼオライマー共々貴様等を叩き潰してくれる!」
「待てっ!」
 しかしここで新たな声がした。
「ムッ!?」
「正義の道に目覚めた者を滅ぼさんとする外道の輩、俺は決して見逃しはしない!」
「何者だ!?」
「ドモン=カッシュ!」
 ドモンは叫んだ。
「ガンダァァァァァァァァァァァァァァムッ!」
 ガンダムが姿を現わした。そしてドモンはそれに乗る。
「シャイニングガンダム、見参!」
「ドモンさん!」
「何故ここに!」
「悪が跳梁跋扈するところシャッフル同盟あり!」
「シャッフル同盟が!」
「そうだ!ここにいるのは俺だけではない!いでよシャッフル同盟!」
 ドモンが叫ぶと他の四機のガンダムも姿を現わした。そしてエヴァ達の前に出る。
「シャッフル同盟参上!ミケーネよ、覚悟はいいか!」
「その程度の数で我等に挑むつもりか」
「戦いは数ではない!」
 ドモンはそれに反論した。
「気迫だ!そして悪を憎む正義の心だ!」
「ぬかせ!それでわしに勝てると思うか!」
「シャッフル同盟に敗北はない!行くぞ!」
「ちょっと待ちやがれ!」
 また声がした。
「またあ!?」
「今度は一体」
「ダイゴウジ=ガイだあっ!」
 ダイゴウジのエステバリスが出て来た。
「俺もやらせてもらうぜ!おう、マサトっていったなあ!」
「はい」
「その心意気、気に入ったぜ!俺もやらせてもらう!」
「貴方も」
「そうだ、その為に来たんだからなっ!」
「何かドモンさんと同じこと言ってる」
「シンジ、それを言うのは野暮ってやつやで」
「そうかなあ」
「そうね」
 レイがそれに頷く。
「あと間違ってもドモンさんとダイゴウジさん、トウジ君の声について考えちゃ駄目よ」
「何で?」
「それが決まりだから」
「よくわからないけどわかったよ」
「そういうことね」
「そこの魚野郎!」
 ダイゴウジはシンジ達に構わず相変わらずのテンションで叫び続ける。
「俺が刺身にして食ってやる!覚悟しろ!」
「何っ、刺身だとお!?」
「そうだ!それが嫌なら天麩羅だ!好きなのを選べ!」
「ぬうう、言わせておけば!」
 アンゴラスはそこまで聞いて激昂した。
「貴様から先に倒してやろう、覚悟はいいな!」
「覚悟なくして戦いはない!来い!」
「よくぞ言った!■ぃ!」
 ミケーネはダイゴウジに軍を向けようとする。しかしここでまた新たな者達が出て来た。
「待て!」
「またか!」
「俺達もいることを忘れるな!」
 ダイモスが姿を現わした。ガルバーも一緒である。
「ダイモス!」
「俺達だけじゃない!見ろ!」
「何っ!」
 そこにはロンド=ベルの全軍がいた。彼等はミケーネに正対するようにして布陣していた。
「エステバリスの特性を忘れていたな」
 一矢は彼等に対して言った。
「エステバリスは一定範囲ナデシコから離れるとエネルギーの供給に支障をきたす。ならばエステバリスが日本からここに来れる筈がない」
「クッ・・・・・・!」
「ならば母艦、そして他の者も来ているということだ。御前達の敵は彼等だけではない」
「おのれ」
「来るなら来い!貴様等をここで一掃してくれる!」
「誰が人間なぞに!」
 こうしてミケーネとロンド=ベルの戦いがはじまった。だがこの戦いはロンド=ベルの圧勝に終わった。ミケーネの者達は重傷を負ったアンゴラスを先頭に僅かな数がかろうじて戦場を離脱しただけであった。
「口程にもない奴等だ」
 ドモンが壊走する彼等の後ろ姿を見て言った。
「所詮はこの程度か」
「いや、それは違うな」
 鉄也がそれを否定した。
「奴等はまだ本気を出しちゃいない。これでもまだほんの小手調べか」
「小手調べか」
「ああ。奴等の戦力は底知れない。油断するな」
「わかった。ところでだ」
 ドモンはここでゼオライマーに顔を向けた。そしてマサトに対して声をかけてきた。
「秋津マサトだったな」
「はい」
「俺は過去は問わん。歓迎するぞ」
「僕を」
「そうだ。何か不都合があるか?」
「いえ」
 彼は首を横に振った。
「お願いします、これから」
「ああ」
 こうしてマサトと美久、そしてゼオライマーがロンド=ベルに入った。ラストガーディアンは解体し、沖は連邦軍へ編入されることとなった。
「これでまた一つ終わったな」
 タダナオは日本に帰りふとそう言葉を漏らした。
「恐竜帝国とバウ=ドラゴン。二つの敵が滅んだわけだ」
「ああ。だが全てが終わったわけじゃない」
 それに対してオザワが言った。
「ティターンズもドレイク軍もいる。さっきのミケーネもな」
「そうだったな。他にも一杯いやがる」
「敵はまだ多いぞ。気を引き締めていこう」
「そうだな」
「ちょっと待ったあ」
 だがここで彼等に声をかける少女がいた。
「ルー」
「まだ何か忘れているんじゃなくて?」
 ルーは悪戯っぽく笑いながら二人に尋ねてきた。
「ん!?まだあったか?」
「ガイゾックにバルマー、そしてバームか?あとは」
「ギガノスにオルファンもいるぞ」
 タダナオがオザワにそう付け加えた。だが彼も完全ではなかった。
「ネオ=ジオンよ。彼等もいるでしょう?」
「おっと、そうだった」
「けれど連中はキシリアが事故■してからこれといって・・・・・・」
「それは甘い考えだな」
 フォッカーがそこにやって来た。
「少佐」
「ネオ=ジオンには何人かとんでもない奴がいるぞ。注意しておけ」
「ソロモンの悪夢、アナベル=ガトーですか?」
「一人はな」
 フォッカーはタダナオにそう答えた。
「だが彼だけじゃない」
「ハマーン=カーン。そして」
「エギーユ=デラーズだ。あの男もいるということを忘れるな」
「あいつまだいたんですか」
 タダナオはその名を聞いて声をあげた。
「前の戦いで■んだと思っていたのに」
「生憎な。奴は生きている」
「しぶといおっさんだな」
「また何か企んでいるだろう。用心しておいた方がいい」
「ですね」
 タダナオもオザワもそれに頷いた。
「奴が今度何かしようもんなら宇宙に出向いて叩き潰してやりますよ」
「頼もしいな」
「何、あんな爺」
「ひとひねりですよ」
「諸君!」
「!?」
 突然放送が入った。
「今人類は危機に瀕している!バルマー、そしてミケーネの脅威によって」
「この声は」
 彼等はその声を聞いて驚きの声をあげた。
「言っている側から」
「一体どういうことだ」
 それはデラーズの声であった。彼が演説を行っていたのだ。
「それに対して地球連邦政府は何かしているだろうか。いや!何もしていない」
 デラーズは連邦を批判する演説を行っていた。
「それにより今地球は■のうとしている。ミケーネ等により」
「自分達もその一つとは考えてねえのかよ」
「それがわかる程周りが見えていたらジオンには入らねえさ」
 オザワがややシニカルにそう述べた。彼はどうやらジオンが嫌いであるらしい。
「ギレン=ザビの狂信者がそれで何の御用件かね?全く」
 彼のシニカルな言葉は続いた。冷たい顔でデラーズの演説を聞く。
「今こそ腐った連邦政府、そして地球を蝕む者達に鉄槌を下す時だ!」
「ギレンと同じだな」
 オザワはシニカルな突込みを入れた。
「我々は今ここに宣言する!地球に正義の鉄槌を下すと!」
「どうするつもりだ!?」
「これより地球に対してコロニー落としを敢行する!これから四十八時間後にだ!」
「何だと!」
 オザワだけではなかった。それを聞いて全ての者が驚きの声をあげた。
「彼等とは縁も所縁もない者達のことを考慮し、四十八時間の猶予を与える!その間に連邦政府の者達も逃げるかも知れない!だがそれは彼等が嘲笑を受ける根拠となるだろう!臆病者として!」
「何勝手なこと言ってやがる!二日かそこらで逃げられるわけねえだろうが!」
 タダナオがそれを聞いて激昂した。
「あいつは馬鹿なのかよ!一体どういうつもりだ!」
「粛清だな」
 フォッカーが言った。
「粛清」
「そうだ。ネオ=ジオンに反対する者達に対してな。地球はネオ=ジオンを快く思わない者が多い」
「そりゃそうでしょ。一年戦争の時にはかなりやられましたから」
「だからだ。地球にいる多くの者は彼等にとって敵だ。だからコロニー落としをしようというのだ。ネオ=ジオンの力と決意を知らしめる為にもな」
「それで何十億人が犠牲になっても」
「ジオンにとってそんなことは関係ない」
 フォッカーはまた言った。
「そうじゃなきゃ一年戦争なんてはじめからしないさ。そうじゃないか」
「ですね」
 二人はそれに頷いた。かってジオンは一年戦争の折毒ガスにより多くの人々の命を奪った。そしてコロニー落としを行い、オーストラリアを破壊した。それがジオンのやり方であった。
「ぞれがジオンだ。わかってるとは思うが」
「はい」
「さて、どうするかな」
 フォッカーは考える顔をして言った。
「これはえらいことになってきたぞ」
「フォッカー少佐、ここにおられたのですか」
「ルリちゃん」
 ルリがそこにやって来た。
「タダナオさん達も。丁度いいです」
「集合か?」
「はい」
 ルリはタダナオにそう答えた。
「すぐに集まって下さい。ナデシコのオペレーションルームです」
「わかった。じゃあ行くか」
「はい」
 彼等はそれに頷いた。そしてナデシコのオペレーションルームに集合した。
「話は聞いていると思う」
 まずブライトがそう言った。
「ネオ=ジオンが地球に対してコロニー落としを行おうとしている。四十八時間後にだ」
「はい」
 皆それを聞いて頷いた。
「残された時間はあまりない。しかも月では新たな動きがある」
「新たな動き」
「ギガノスだ。どうやら彼等はマスドライバーシステムで地球に対して攻撃を行おうとしているらしい」
「ギガノスも」
「そうだ」
 ブライトはそれに答えた。
「マスドライバーで地球をピンポイントに狙っているらしい」
「そのマスドライバーって何ですか?」
 ジュドーが尋ねた。
「とんでもねえ兵器だってのはわかるんですが」
「何でも岩石を地球に向けて放つ巨大な砲らしい」
「岩石を」
「地球に至ればそれは隕石になる。つまり隕石で地球を攻撃するのだ」
「それってとんでもないことじゃないですか」
 皆それを聞いて驚きの声をあげた。
「早く何とかしないと。コロニー落としも問題ですけれど」
「だから宇宙に行かなければならないのだ」
 ブライトは彼等にそう答えた。
「わかるな、私の言っていることが」
「ええ」
「我々はこれより宇宙に出る。攻撃目標はコロニー落としを敢行しようとするネオ=ジオン軍、そしてマスドライバーを完成させたギガノスの月の基地だ」
「敵の本拠地かよ、よりによって」
 ケーンがそれを聞いて驚きの声をあげた。
「腕が鳴るぜ」
「おいおい、心配しねえのかよ」
 タップがそれを聞いて呆れてしまっていた。
「何でだよ、タップ」
「敵の本拠地だぜ、いきなり決戦だってのによ」
「地球に降り立ったギガノス軍の一部が月に戻っているらしいしな」
「それマジかよ、ライト」
「ああ。さっきチラリと聞いたけれどな。あの旦那も一緒らしいぜ」
「そうか、ならさらにいいや」
 ケーンはニヤリと笑った。
「あの旦那とも色々話したいことがあるしな」
「ケーン」
 そんな彼にブライトが言った。
「何ですか?」
「確かにマスドライバーは月にあるが彼等の本拠地にあるわけではないぞ」
「そうなんですか!?」
「そうだ。本拠地とは少し離れた場所に置かれている。だがそれを守る敵軍はかなりの数のようだがな」
「そうだったんですか」
「まあそうだろうな」
 ライトがそれを聞いて頷いた。
「幾ら何でも本拠地のすぐ側に置くような無謀な真似はしないよな」
「そうそう、誰かさんとは違って」
「おい、そりゃどういう意味だ」
「ケーン、静かにしろ」
「ちぇっ」
「それでだ」
 ケーンはくってかかった。ブライトはそれを制止した後で話を再開した。
「南アタリアに駐留しているマクロスのグローバル准将が協力を申し出てきてくれたのだ」
「グローバル准将が!?」
「補充のパイロット、マシンも一緒にな。それについてどう思うか」
「是非共受けるべきだな」
 シナプスがそれを聞いてそう述べた。
「マクロスはその存在だけで大きな戦力だ」
「はい」
「そのうえ新たな戦力が参加するとなればな。断る理由はない」
「わかりました。ではアタリアへ」
「うむ」
 シナプスは頷いた。こうしてまずは南アタリアへ向かうこととなった。だが話はそれで終わりではなかった。
「あ、皆そこにいたのかよ」
「武蔵」
 武蔵が部屋に入って来たのだ。
「傷はもういいのか」
「ああ、何とかな。ちょっと休んでたら治っちまった」
「ちょっとって・・・・・・。熊か何かじゃねえんだから」
「それはおかしいだろ」
「そうか?おいらにとっちゃいつものことだからな」
「まあいいか。それで何かあったのか?」
「ああ。何でもオルカンとか何とかがよ」
「オルカン?」
「オルファンのことね」
「あ、そうそうそれ」
 武蔵はカナンの言葉に頷いた。
「そのオルファンがな」
「どうかしたの?」
「浮上するとかそんなのを今ラジオで言ってたんだ」
「何だって!?」
 それを聞いた勇が思わず声をあげた。
「オルファンが!?」
「どうしたんだよ勇、そんなに驚いて」
「どうしたもこうしたもない、それは大変なことだ」
「どう大変なんだよ」
「オルファンが浮上すると世界が滅亡すると言われているんだ」
「えっ!?」
「まさか」
「いや、本当のことだ」
 勇は皆に対してそう答えた。
「オルファンをこのままにしては大変なことになる」
「どうする!?」
 ラッセが皆に対して問うた。
「オルファンのこともある。このまま宇宙に行っていいか。だがコロニー落としなんて物騒なものも放置しちゃいけないな」
「そうだな」
 ブライトはそれを聞いてまた頷いた。
「二手に分かれよう。まずは宇宙に行く部隊」
「はい」
「母艦はラー=カイラムとアルビオン、ナデシコがいいと思うが」
「異論はない」
「私も」
 二人の艦長はそれに異存はなかった。
「アルビオンは宇宙戦に適しているからな」
「アキトと一緒なら何処でも」
「えっ、俺!?」
「これでいいな。では部隊だが」
「エステバリスは絶対ですね」
「そうだな。アキト、いいな」
「ええ、まあ」
 アキトは仕方ないといった様子でブライトに頷いた。
「どのみちエステバリスはナデシコから離れてそうは動けないですから」
「これでよし。後はモビルスーツ部隊だ」
「いいな、皆」
「はい」
「当然ですね」
 カミーユやジュドー、ウッソ達がアムロの声に頷く。
「そしてヘビーメタル」
「はい」
「そしてメタルアーマー」
「エースは宇宙に羽ばたく、いいねえ」
「ケーン、あまり調子に乗って撃墜されるんじゃねえぞ」
「うるせえ」
「そしてコスモクラッシャー隊」
「了解、いいな皆」
「はい」
 ケンジの言葉に頷いた。
「バルキリー隊」
「まあそうだろうな。マクロスがいるし」
「そしてライディーンに獣戦機隊、ザンボット、そしてダイモスとガルバーにも行ってもらう。これでいいな」
「わかりました」
「久し振りの宇宙かよ、腕が鳴るぜ」
「後は・・・・・・。SRXチーム」
「よし!」
「アラドとゼオラ、そしてアイリス達にも行ってもらうか」
「アラド、暫く宇宙の戦闘やっていないけれど大丈夫でしょうね」
「いちいち言わなくても大丈夫だよ」
「だといいけれど」
「宇宙か。暫くぶりだな」
「アイリス、何だか懐かしいね」
「ああ」
「次は地上だ」
 ブライトの言葉は続いた。
「母艦は大空魔竜、グランガラン、そしてゴラオンの三隻だ」
「といっても残ったものだが」
「まあそれはいいってことさ」
「マジンガーチーム、ゲッターチーム、そしてジーグだ」
「おいらはどうなるんだ?」
「ブラックゲッターならもう完全に修復したぜ」
 アストナージが彼にそう説明した。
「えっ、もうかよ」
「てこずったがな。けれどこれでもう大丈夫だ」
「そうか。じゃあこれでまた戦えるんだな」
「武蔵ここで提案デーーーース」
「何だよ、ジャック」
「ミーとメリーと武蔵の三人でブラックゲッターに乗りませんか!?若しくはテキサクマックを三人で」
「三人でか」
「その方が戦力になると思うから。どうかしら、武蔵さん」
「おいらはいいけれどよ、別に」
「じゃあこれで決まりデスネーーーーーーー」
「おいおい、勝手に決めるなよ。・・・・・・けれど、まあいいか」
 武蔵はそれに頷いた。こうしてブラックゲッターと新しいパイロットが決定した。
「ガイキングチームもだな」
「大空魔竜がいるからな。当然だな」
「そしてオーラバトラー隊」
「了解」
「シャッフル同盟とモビルファイターか」
「任せろ」
「ブレンパワード、そしてダイターンとコンバトラー、ボルテス、ゴーショーグン、ゼオライマー、そしてエヴァだ」
「あたし達は陸なのね」
「まあ予想通りやな」
「魔装機もだ。それはいいな」
「ああ。こっちはいいぜ」
「マサキの方向音痴が気になるけれどね」
「おい」
「そしてクスハとブリット、ゼンガーにも行ってもらいたいが」
「異存はない」
「私もです」
「俺も」
 三人はそれにすぐに答えた。
「これで決まりか。ではまずは南アタリアに向かうとしよう」
「全軍ですか?」
「そうだ。宇宙に出る時が一番危険だからな。地上に残る部隊にも協力してもらいたい」
「わかりました。それでは」
「頼むぞ」
 こうして一先全軍を以って南アタリアに向かうことになった。タダナオは部屋を出ながらオザワに声をかけていた。
「なあ」
「どうした?」
「オルファンのことだけれどよ」
 彼は友の顔を見ながら言葉を続ける。
「あれが浮上したら本当に世界が破壊されちまうのかよ」
「勇の言葉だとそうらしいな」
 オザワはそう答えた。
「僕も詳しくはわからないがあいつが言っているから本当なんだろうな」
「そうなのか」
「どうするかまではわからないがな」
「勇はそれがわかっているかな」
「少なくとも僕達よりはわかっているだろう」
 そう答えるより他になかった。
「ここは彼に任せるしかないだろうな、実際は」
「勇ならやってくれるかな」
「やるしかないな、滅亡したくなければ」
「そうだな」
 二人は頷き合った。そしてそれぞれの部屋に入るのであった。次の戦いに備えて。


第三十五話   完


                                        2005・7・27


[302] 題名:第三十四話 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年03月05日 (日) 19時14分

           月下の格闘
 オルファンは太平洋の海の底深くにある。ここに彼等はいた。
「先程のシカゴでの戦いに関してですが」
 伊佐未翠が夫である研作に報告していた。夫に対してというにはあまりにも事務的な声であった。
「ゲッター線を中心とした膨大なエネルギーが確認されております」
「それのオルファンへの影響は」
 問う研作の声もまた事務的なものであった。無機質ですらある。
「浮上に影響が出ました。浮上を再開しました」
「そうか」
 研作はそれを聞いて頷いた。
「それは何よりだ」
「二週間後に海面に姿を現わすものと思われます」
「思ったより早かったか。だがそれはそれでいい」
 研作は理知的な声でそう述べた。
「オーガニック=エナジーに惹かれ生ける者をいとおしむオルファン」
「はい」
「それが姿を現わすと動じに起こる人類の新たな段階への覚醒・・・・・・。それが来ようとしているのだな」
「カント=ケストナーの論文ですね」
 翠は静かにそう述べた。
「そうだな。だが認識を改めるべきか」
「といいますと」
「あ、いや」
 だが彼は妻に対して言葉を濁した。
「私個人の考えだ。忘れてくれ」
「はい」
「だがこれでまた動く。人類がな」
 不思議なことにそれは破滅を願う言葉ではなかった。まるで何かを期待するような言葉であった。

 ロンド=ベルが日本に向かっているその頃ラストガーディアンの基地では木原マサキが沖と美久を前にして何かを語っていた。
「この世界を征するのは連邦政府か鉄甲龍だ」
 マサキは邪気を含んだ声でそう二人に語っていた。
「俺はそう見ていた」
「そのうえで動いたのか」
「そうだ」
 マサキは沖にそう答えた。
「だからこそ俺は双方に俺のクローンを送り込んだのだ。どちらに転んでもいいようにな」
「御前自身を」
「俺自身が世界をかけてそれぞれ戦う」
 その声の邪悪さが増したように感じられた。
「それ以上のゲームがあるか」
「・・・・・・・・・」
 沖も美久も答えない。だが沖は答えるかわりに腕を懐に入れようとした。それを見たマサキがまた言った。
「ほう、またか」
「何っ!?」
「また俺を殺すのだな、沖よ」
「クッ・・・・・・」
 沖はそう言われて動きを止めてしまった。
「あの時と同じように」
「・・・・・・・・・」
 沖は懐から手を離した。そして項垂れたように顔を俯けさせた。
「沖さん、どういうことですか」
「この男は俺が鉄甲龍を抜けた時に俺を殺したのだ」
 答えない彼の替わりにマサキがそう答えた。
「己が野心の為にな」
「えっ・・・・・・」
 美久はそれを聞いて絶句した。
「沖さん、それは本当なんですか!?貴方が・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
 沖は答えない。それが何よりの返答であった。
 マサキはそれを見てやはり笑っていた。そして美久にも言った。
「御前もまた同じ」
「えっ・・・・・・」
「御前は次元連結システムそのものなのだ」
「そんな・・・・・・」
「ゼオライマーの為に作られたアンドロイド、それが御前なのだ」
「木原マサキ」
 沖はようやく顔を上げ彼の名を呼んだ。
「御前は何処まで他の者を踏み躙れば気が済むのだ」
「踏み躙る!?当然だ」
 マサキは邪な笑みをたたえてそれに答えた。
「俺にとって他の者なぞ塵も同然。御前は塵を踏んでも何とも思わないだろう」
「それでは今まで御前が倒した者も塵だったのか」
「そうだ」
 マサキは言い切った。
「あの者達は全て俺が作り出した。余興としてな」
「余興として・・・・・・」
「互いに憎み、愛するようにした。だがその想いが決して適うことのないようにな」
「何て酷い・・・・・・」
「酷い!?あの者達は俺の駒に過ぎん。駒は遊ぶ為にあるものだ」
 そう語るマサキの目は冷徹なだけでなく邪悪な赤い光も宿していた。
「将棋やチェスの駒と同じだ」
「では私達もそうなのか」
「そうだ」
 マサキはまた言い切った。
「この世の全てのものが俺の駒だ。俺がこの世界を滅ぼす為のな」
「一つ聞きたい」
 沖はまた問うた。
「何だ?」
「何故貴様はこの世界を滅ぼそうとする。ゼーレとの契約の為か」
「そういう老いぼれ共も集まりもあったな」
 マサキはそううそぶいた。
「確かに俺は一時期あの老いぼれ共に従うふりをしていた。碇と同じようにな」
 その言葉と顔には忠誠なぞといったものは一欠片も存在していなかった。碇ゲンドウとはまた違った意味で彼はゼーレを欺いていたのであろうか。
「人類補完計画か。戯れ言を」
 彼はゼーレの計画も一笑に伏した。
「あのようなもので人類を生き長らえさせてどうする。素直に滅べばいいのだ」
「それが御前の本心か」
「そうだ」
 マサキは答えた。
「その為にゼオライマーを作ったのだ。世界を滅ぼす為のな」
「・・・・・・・・・」
「わかったなら行かせろ。また奴等が来る」
「奴等」
「八卦だ。それも三人な。御苦労なことだ」
 冷たい笑いを浮かべたまま部屋を出ようとする。だがそこで彼を沖と美久が呼び止めた。
「待て」
「待って、マサト君」
「何だ」
 彼はここでどういうわけかマサトという名に反応した。顔を二人に向き直した。
「それはマサト君の考えなの?」
「どうなのだ、マサキ」
「秋津マサトは俺自身だ」
 それがマサキの答えであった。
「ならば答えはわかろう。また言おうか」
「いや、いい」 
 沖はそれを聞いて首を横に振った。
「御前には・・・・・・もう何も聞きたくはない」
「フン」
 沖の言葉を聞いてまた邪な笑みを浮かべた。
「凡人にはわからぬさ。この俺の考えは」
「本当に世界を滅ぼすつもりなのね、マサト君」
「くどいな。だが何度でも言おう」
 彼は前に顔を戻しながらまた言った。
「そうだ」
「そう・・・・・・」
「それこそが冥王計画。俺が世界の王となる為のな」
「マサキ」
「もう聞かないのではなかったのか?」
 沖が声をかけてきたのを嘲笑しながらまた顔を向けてきた。
「相変わらずはっきりしない奴だ」
「御前は誰もいない世界の王になるつもりか」
「それがどうした」
「他に誰もいない孤独な世界・・・・・・。それが御前の望む世界なのか」
「何度も言っているだろう。そうだとな」
「では何故彼等を作った」
 八卦衆のことを指していた。
「そしてマサトと幽羅帝を。それは何故だ」
「余興の為だと言っただろう」
「美久もか」
「くどいな。だが答えてやろう」
 マサキは言った。
「そうだ」
「それは本当に余興なのか!?」
「何!?」
「木原マサキ、御前は孤児だった」
 沖は彼の生い立ちについて言及した。
「常に孤独だった。御前は孤独が永遠に続いていいのか」
「・・・・・・・・・」
 それには何故か答えようとはしなかった。
「彼等と美久、そして二人の御前を作ったのはその孤独から逃れる為ではなかったのか。そして御前は彼等に救いを求めているのではないのか、どうなのだ」
「下手な推理だな」
 マサキはそれも一笑に伏そうとした。
「俺は推理小説は読まないがそれでも下手だとわかるぞ」
「推理ではない」
 沖はそれを否定した。
「これは御前の深層心理ではないのか」
「深層心理か。さっきの言葉は訂正しよう」
「どういうことだ」
「御前は下手な推理をしたのではない。耳学問をかじっただけだ」
 沖のその分析もまた否定した。
「馬鹿馬鹿しいことだ。では行くぞ、美久」
「え、ええ」
 彼は美久を連れて基地を後にした。そして何処かへと出撃していった。

 その頃ロンド=ベルは富士の山麓にいた。そしてそこでミケーネ、ハニワ幻人の連合軍と遭遇していた。
「そういやこいつ等もいたんだな」
 サンシローが彼等を前にしてぼやく。
「恐竜帝国が滅んでも敵は健在ってことか」
「フン、我々をあのようなトカゲ共と一緒にするな」
 ミマシがサンシローのその言葉に突っ込んできた。
「所詮奴等は滅びる運命にあったのだ。だが我等は違う」
「どう違うってんだ!?一度俺に敗れたってのによ」
 宙が彼にくってかかった。
「一度負けた奴はそう簡単には這い上がれねえんだよ。それを教えてやらあ」
「教える?貴様がか」
 マガルガに乗るククルがそれを聞いて冷淡に笑った。
「機械がか。面白いことを言う」
「何っ!」
「我等が偉大なる女帝ヒミカ様は貴様により滅ぼされた。だが邪魔大王国が貴様に敗れたわけではない」
「屁理屈を!」
「それが屁理屈ではないことを今わらわが証明してくれよう。そこにいる男」
 ゼンガーを見据えた。
「かかって来るがよい。今度こそ地獄に送ってやろうぞ」
「一騎打ちということか」
「左様。あの時の借り、返させてもらう」
「よかろう。では行くぞ」
「おいゼンガー」
 仲間達が前に出ようとする彼を止める。
「危ないぜ、罠かも知れねえ」
「罠ならそれまでのこと」
 ゼンガーは彼等の言葉に対しそう返した。
「この剣で断ち切ってくれる。罠もな」
「そうか」
「フフフ、それでこそわらわの敵」
 ククルの笑みが妖艶なものとなった。
「かかって参れ。わらわの舞い、またもや見せてくれようぞ」
「うむ」
 彼のグルンガストも空に舞い上がった。こうして一騎打ちがはじまった。
 戦いは一騎打ちだけではなかった。ロンド=ベルはミケーネと邪魔大王国の連合軍に向かって行った。そしてまずは激しい砲撃及び銃撃戦が行われた。
「オーラノヴァ砲、いけますね」
「ハッ」
 エレの言葉にエイブが頷く。
「何時でも射撃可能です」
「わかりました。それではオーラノヴァ砲発射」
「オーラノヴァ砲発射!目標は前面!」
「ハッ!」
 ゴラオンに乗る他の者もそれに応えた。そして巨砲が火を噴いた。
 それによりハニワ幻人の多くの部隊が薙ぎ倒される。これにより彼等の陣に穴が開いた。
「あのポイントを狙え!」
 そこですかさずブライトが指示を下す。ロンド=ベルはそれに従いそこに集中攻撃を仕掛けた。
 そして斬り込む。先頭にはオーラバトラーがいた。
「チャム、じっとしてろよ!」
「うん!」
 ショウのビルバインのソードが緑色に光った。そしてそれでミケーネの戦闘獣オベリウスを両断した。
「ガオオオオオオオオオオオンッ!」
 オベリウスは断末魔の叫び声をあげ空に散った。ビルバインはその爆発を潜り抜けるとさらに突き進み次の戦闘獣を一閃した。
 彼等により敵は完全に二分された。そして背後に回ったオーラバトラー隊が反転し分断された部隊の左側の部隊に襲い掛かる。
「あの部隊をまず叩け!」
 それを見たブライトがまた指示を下した。これにより左側の部隊は包囲され圧倒的な火力により次々と撃破されていった。
 左側の部隊が殲滅されるのは最早時間の問題であった。ミマシ達はそれを見て右側の部隊に指示を下した。
「すぐに守りを固めるのじゃ」
 それを受けて右側の部隊は守りを固めようとした。だがそれは適わなかった。
 突如としてそこにゼオライマーがやって来た。マサキは彼等の姿を認めるとすぐにゼオライマーを攻撃に移らせた。
「フン、蝿共が」
 彼はすぐにメイオウ攻撃を放った。そして彼等を一掃してしまったのだ。
「な、ゼオライマーが」
 それを見た両軍は戦いを停止させた。
「ここに来たか」
「まさか我等の精鋭を瞬く間に消し去るとは」
 その反応はそれぞれ違っていた。だがゼオライマーの登場に驚かされたのは同じであった。
「ヌッ、あれがゼオライマーか」
 ククルもそれは同じであった。ゼンガーとの戦いを止めそちらに顔を向けた。
「ククル様」
 ここでアマソが声をかけてきた。
「ロンド=ベルだけでなくゼオライマーまで出て来ては最早戦にならぬかと思いますが」
「むう」
「ここは一時撤退すべきです。そしてまた機をあらためて雌雄を決しまそうぞ」
「・・・・・・わかった」
 ククルにもそれはわかっていた。彼の言葉を認めた。
「全軍撤退せよ。よいな」
「ハッ」
 これを受けて連合軍はその場から姿を消した。ククルもまたゼンガーに捨て台詞を言い残して戦場を後にした。
「また会おうぞ」
「去ったか」
 ゼンガーはそれを見届けて一人呟いた。そしてゼオライマーに顔を向けた。
「暫く振りだな、銀のマシンよ」
「ほう、流石に知っていたか」
 マサキはゼンガーの言葉を受けて笑った。
「ロンド=ベルよ。今は御前達の相手をするつもりはない」
「何っ!?」
「俺の敵は別にいるからな。そろそろか」
 そこで三機のマシンが姿を現わした。彼等はゼオライマーのすぐ側にいた。
「久し振りだな、木原マサキよ」
 先頭にいる祗鎗が彼にそう言った。
「今度こそ貴様の最後だ」
「フン、また雑魚に相応しい台詞を」
 しかしマサキは冷静なままであった。いや、侮蔑がそこにあった。
「残り三機がまとめて来るとはな。探す手間が省けたというものだ」
「何っ!?」
「貴様等では俺は倒せぬ。それを教えてやろう。冥土の土産にな」
「待て」
 だがここで黄金色のマシンに乗る男がゼオライマーに通信を入れてきた。塞臥であった。
「ほう」
 マサキは彼の通信が入ったのを確認して口の端を歪めさせた。
「雷のオムザックか。ようやく修復したようでな」
「おかげでな。このオムザックのことは知っていよう」
「唯一ゼオライマーに対抗できるということだったな」
「そうだ」
 冷やかな様子のマサキに対して言う。
「このオムザック、決してゼオライマーに劣ってはいない」
「では俺を倒すというのか?」
 マサキは彼に対して問うた。
「どうなのだ?俺を倒すのか?」
「まさか」
「何っ!?」
 それを聞いた祗鎗は驚きの声をあげた。
「塞臥、どういうことだ」
「フン、貴様には関係のないことだ」
 塞臥は祗鎗を鼻で笑った。そしてゼオライマーとマサキに顔を戻した。
「手を組まないか、俺と」
「何故だ?」
「俺達が手を組めば無敵、共に世界を掌握しようというのだ」
「世界をか」
 話を聞くマサキは邪な笑みを浮かべたままであった。
「あのような小娘に世界をどうにかできる筈もない。だが俺ならできる」
「塞臥、貴様!」
 祗鎗はそれを聞いて激昂した。
「貴様、やはり!」
「それがどうしたというのだ」
 だが塞臥は開き直った。
「世界は力ある者の手に収まるべきなのだ。あのような小娘の手に収まるべきものではない」
「小娘だと!貴様、帝を!」
「力ある者の手、か」
 マサキは二人の言葉を聞いて冷やかに笑っていた。
「戯れ言だな」
 しかしそれは二人の耳には入らない。彼等、いや祗鎗は激昂したままであった。
「謀反を企むか!」
「謀反ではない」
 塞臥は邪悪ささえ感じられる声でそう答えた。
「当然の権利を主張するだけだ。力のある者がな」
「まだ言うか!」
「何なら貴様を仲間に加えてもいいのだぞ」
 塞臥は今度は勧誘に出た。
「貴様の力、惜しい。どうだ?俺につかぬか?悪いようにはしないぞ」
「断る!」
「やはりな」
「・・・・・・当然のことだ」
 どういうわけか塞臥とマサキではそれを聞いた反応は違っていた。
「貴様が謀反を企てるというのなら、塞臥」
 祗鎗はそう言ってバーストンの全身に力をこめさせた。
「俺は貴様を倒す!」
「できるのか?貴様に」
「できる!」
 そう言って腹から何かを出した。
「この核ミサイルでな!せめて一撃で葬ってやる!」
「何っ、核だと!?」
 ロンド=ベルの者達はそれを聞いて驚きの声をあげた。
「あいつ、そんな物騒なモンまで持っていやがったのかよ!」
「何て野郎だ!」
「死ね、塞臥!」
 だが祗鎗はそれに構わずに攻撃に入った。
「これで消し飛ぶがいい!そして己が罪を地獄で悔やむのだ!」
「ふん」
 だが塞臥は核ミサイルを突き付けられてもまだ平然としていた。そしてロクフェルに顔を向けた。次に彼女の名を呼んだ。
「ロクフェル」
「な、何っ!?」
 問われたロクフェルは驚いたように顔をあげた。
「御前を愛しているぞ」
「え、ええ」
「何だとっ!」
 それを聞いた祗鎗の顔が急に強張った。
「ロクフェル、今何と!」
「フン、知らなかったのか」
 塞臥は嘲笑しながら祗鎗に対して言った。
「ロクフェルは俺を愛しているのだ。貴様ではなく俺をな」
「馬鹿な!」
「これは本当のことだ。そして俺もまた」
「それは嘘だな」
 キリーが彼の言葉を聞いて一言で論破した。
「あいつは彼女を愛してなんかいないさ。あれは嘘に決まってる」
「どうしてそう言えるんだ?」
「勘ってやつさ」
 真吾にそう答える。
「ブロンクスで培った勘さ。あいつは根っからの悪党だ」
「そうか」
「女を騙すような奴は皆悪党なのよ」
 レミーも言った。
「それがこの世の決まりなのよ」
「決まりか」
「まあ真吾にはわからない話かもな。これは大人の世界の話」
「そうそう」
「おい、からかうなよ。俺にだってそれ位わかるよ」
「運がないせいで随分振られたからね」
「おい」
 ゴーショーグンの三人のやりとりの中でも彼等はそれぞれ睨み合っていた。主導権は塞臥が握っていた。
「愛しているぞ、ロクフェル」
「本当!?」
「嘘だ!」
 祗鎗がまた叫んだ。
「あいつは御前を利用しようとしているだけだ!御前を愛しているのは俺だけだ!」
「そうかもしれない」
 ロクフェルはそれに対し弱い声で返した。
「けれど私は・・・・・・」
「ロクフェル」
「フフフ、何度でも言うぞ」
 塞臥は笑いながらまた言った。
「愛している、愛しているぞ、ロクフェル」
「黙れ!」
 たまりかねた祗鎗が叫ぶ。
「まだ言うか!これ以上言うと・・・・・・」
「祗鎗!」
 だがここでロクフェルが叫んだ。
「塞臥を殺さないで!お願いだから!」
「ロクフェル!」
「フフフ、どうする祗鎗」
 塞臥はやはり笑っていた。
「俺を倒すのか?それとも」
「クッ・・・・・・!」
「今はゼオライマーを!それが私達の!」
「止めろ!」
 突如としてマサキが叫んだ。
「ムッ!?」
「止めろと言っている。愛なぞという迷いごとを語るのは」
「マサト君」
「一体どうしたんだ、あいつ」
 見ればコクピットにいる彼は苦しんでいた。右腕で顔を押さえ呻いている。
「愛だと・・・・・・貴様等には互いに憎しみ合うようにプログラムしたのだ。それにあがらうつもりか」
「何っ」
「何だと!?」
 それを聞いた塞臥も祗鎗も共に驚きの声をあげた。
「プログラムだと」
「一体どういうことだ」
「貴様等を作ったのは俺だ」
 それまでの邪な笑みは何処にもなかった。マサキは呻きながら言う。
「互いに憎しみ合い、滅びるように作ったのだ。八卦全員をな」
「馬鹿な、それでは俺達は」
「そうだ。全て俺の手の中で弄ばれる駒だったのだ。その駒が・・・・・・」
 ゼオラマーが不気味に光った。
「勝手に動くな!**!」
「私は消えても消せないものがある!」
 だがロクフェルは最後に叫んだ。
「何だと!?」
「私の心は消せない!恋をしていたというこのことが私の生きた証!貴様にもそれだけは消せない!」
「ロクフェル・・・・・・」
「貴様が私達を造っていたとしても!私達は生きていたという事実は消せない!」
「黙れ!」
 マサキは呻きながら叫んだ。
「それ以上・・・・・・言うなあっ!」
 マサキはそう叫ぶとメイオウ攻撃を放った。そしてそれにより三機のマシンを襲った。
「ロクフェル・・・・・・!」
 祗鎗は最後にロクフェルのディノディロスを抱き包んだ。それでメイオウ攻撃から彼女を護ろうとする。
「それでも俺は御前を・・・・・・」
「祗鎗・・・・・・」
 ロクフェルも彼を抱いた。そして二人は光の中に消えた。
「馬鹿な、これが運命だというのか」
 塞臥も光の中にいた。そしてその中に消えようとする。
「俺は・・・・・・世界を手に入れるに相応しい者ではなかったということか・・・・・・」
 彼もまた光の中に消えた。こうして八卦衆はマサキとゼオライマーにより一人残らず消えてしまったのであった。
「終わったか・・・・・・」
「これが八卦衆の最後か」
 ロンド=ベルの者達はメイオウ攻撃を見届けた後静かにそう延べ合った。だがここで万丈が言った。
「いや、まだだ」
「万丈」
「まだ彼が残っている。二人の彼がね」
「二人の」
「そうさ」
 万丈はゼオライマーの方に顔を向けた。そこで通信が入ってきた。
「はい」
「ロンド=ベルか」
 モニターにサングラスの男が姿を現わした。
「こちらラストガーディアン。私は責任者の沖だ」
「ようやくお出ましかよ」
「待たせやがって」
「実は諸君等に話したいことがある。聞いてくれるか」
「どうやら聞かなくちゃいけない話みたいだね。わかった」
 万丈が頷いた。
「ゆっくりと話を聞きたい。そちらに向かっていいかな」
「ああ」
 こうしてロンド=ベルは湘南へ向かった。そして沖達との話に入るのであった。

 沖は彼等に全てを話した。ロンド=ベルの面々はそれを聞き終えて頷いた。
「そういうことだったのか」
「全てはあの男の手の平でのことだったのか」
「ゼーレまで手玉に取ろうとしていたとはね」
 ミサトも言った。
「木原マサキ、噂通り危険な男みたいね」
「だが一つ気になるな」
「何だ?」
 沖は万丈の言葉に顔を向けさせた。
「マサト君は彼のクローンなんだね」
「そうだ」
「しかし見たところ普通の人間みたいだ。それがどうしてああなるのか」
「僕にもわからないんです」
 マサトはそれに対してそう答えるしかなかった。
「いつも・・・・・・気付いたら僕の中のもう一人の自分が」
「二重人格ってやつか」
 サコンがそれを聞いてこう述べた。
「だが少し違うようだな」
「というと」
「彼の身体は元々彼のものではなかった。最初から本来の彼のものだったのだ」
「そう言うと何だかわかりにくいな」
 サンシローがそれを聞いて呟く。
「簡単に言うと彼は元々彼ではなかった。木原マサキだったのだ」
「僕が・・・・・・」
「そういうことになる」
 サコンは彼にも言った。
「君はそのもう一人の君の仮の心に過ぎないのだ」
「じゃあ僕は僕でないんですか!?」
「それもまた違う」
 普段のサコンとは違い妙に難解な話であった。
「君は君だ。それは一つの人格だ」
「はい」
「だが、君の中にはもう一つの人格がある。それが問題なんだ」
「木原マサキが・・・・・・」
「彼はどうやらゼオライマーに反応して甦るようだな。その時本来なら君はそこで消え去り完全に木原マサキとなる筈だったのだろう」
「けどどうして」
「それは俺にもわからない」
 サコンは首を横に振った。
「彼が何を考えているかまではな」
「そうですか」
「しかし君がいることは事実だ」
「僕が!?」
「そうだ。これが何を意味するのか。確か鉄甲龍の幽羅帝は君と同じだったな」
「そうらしいですけれど」
「彼女と君は木原マサキの分身だ。彼女も今何を考えているのだろうな」
「・・・・・・・・・」
 答えは出なかった。マサトは今自分が袋小路の中にいるのだと思っていた。

「帝」
 ルラーンが幽羅帝に声をかけてきた。
「わかっている」
 彼女はそれに静かに答えた。
「八卦衆、全滅したな」
「はい」
「・・・・・・全ては木原マサキの為に」
「いえ、それは違います」
「何っ!?」
 ルラーンの言葉を眉を動かした。
「それはどういうことだ」
「貴女の為にです」
「私の為に、か」
 それを聞いて哀しい顔になった。
「そうかも知れぬな、私が戦場に送り出したのだから。私が行けば」
「いえ、そうではないのです」
 ルラーンはまた否定した。
「貴女は・・・・・・木原マサキなのです」
「馬鹿な」
 帝はそれを聞いて言葉を震わせた。
「それは一体どういう意味だ」
「貴方と秋津マサトは・・・・・・木原マサキのクローンなのです」
「嘘を申せ!」
「いえ、残念ながら」
 ルラーンは首を横に振った。
「これは真実です。木原マサキは己が野心の為に自らのクローンを二人置きました。日本と鉄甲龍にそれぞれ一人ずつ」
「それが私だというのか」
「はい」
 ルラーンは答えた。
「貴女は木原マサキのクローンであり、もう一人の秋津マサトだったのです」
「では私は木原マサトの分身か」
 彼女は呆然とした声でそう述べた。
「はい。私が貴女に仕えてきたのは貴女を殺す為でした」
「木原マサキへの憎しみ故か」
「最初はそうでした。あの男はこの世にいてはならない」
「では私も」
「それもまた違います」
 しかしルラーンはそれも否定した。
「どういうことなのだ。私は木原マサキなのだろう?」
「はい」
「では憎いのではないのか、私が」
「私は確かに木原マサキは憎い。しかし貴女は」
「私は」
「あまりにも美しい。そして心優しい」
「世界を滅ぼそうとする者がか」
 帝は問うた。ルラーンはそれに答えた。
「貴女はそれを望まれてはいない」
「馬鹿な」
「その証拠に八卦にも涙を流された。それが何よりの証拠」
「・・・・・・・・・」
「そんな貴女だからこそ私は今まで側にいた。私は・・・・・・貴女は憎くはない」
「私は」
「そうだ。だからこそ」
 そう言いながら懐から銃を取り出した。
「さらばです。貴女へのしがらみがないように」
 その銃をこめかみに当てた。
「何をするつもりだ」
「貴女の為です」
 ルラーンは静かにそう答えた。引き金にかけた指に力を込める。
「私もいなくなれば貴女は」
「止めろ」
 帝はそれを制止した。
「馬鹿な真似はよせ」
「・・・・・・その御言葉だけで充分です」
 ルラーンは最後にそう言って笑った。
「貴女は私が思っていた通りの方だった。これからは一人で歩まれて下さい」
 そして死んだ。その死に顔は不思議な程穏やかであった。
「ルラーン・・・・・・」
 帝は彼の亡骸に歩み寄った。そしてその目をそっと伏せさせた。
「私を愛してくれていたのね。有り難う」
 目から銀色の光が滴り落ちた。そしてそれが床に落ちると顔を上げた。
「私一人になった。だがそれだからこそ全てを決する」
 意を決してそう言った。
 彼女は何処かへ姿を消した。最早そこには彼女しかいなかった。だからこそ動いた。全てを終わらせる為に。

 ロンド=ベルの者達はラストガーディアンの基地に集結していた。そしてそこでまだ話を続けていた。
「マサト君」
 ミサトが険しい顔で彼に向かっていた。
「私達ネルフが何故また結成されたか知っているかしら」
「ゼオライマーの為でしょうか」
「そうよ。鉄甲龍はゼーレの裏組織だった。人類補完計画が失敗した時世界を滅ぼす為のね。木原博士はそれの責任者だったのよ」
「けれど彼はゼーレに従うつもりはなかったの」
 リツ子も言った。
「自分の野望を達成させる為にゼーレを利用しようと考えていたのよ」
「そして僕達が作られた」
「そういうことになるわね」
 ミサトはまた言った。
「貴方は彼自身、そして彼の駒ということになるかしら」
「そうですね」
「私達は彼の冥王計画を防ぐ為にロンド=ベルに参加したの。必要な場合は破壊する為に」
「破壊・・・・・・」
「そうよ。これからどうするつもりなの!?」
「どうするつもりと言われましても」 
 ミサトに問い詰められ返答に窮してしまった。
「僕は何も・・・・・・」
「わからないのも無理はないさ」
 ここで加持がこう言った。
「加持君」
「少なくとも彼には罪はないさ。彼に何を言ってもはじまらない」
「加持さんの言う通りだな」
 隼人がそれに頷いた。
「隼人君まで」
「マサトといったな」
「はい」
 マサトは隼人に頷いた。
「俺は御前は信じられると思っている。御前はな」
「はい」
「悪い印象は受けない。だがもう一人は違う」
「・・・・・・・・・」
「もう一人の御前は絶対に信用できん。あいつは邪悪そのものだ」
「おい、隼人」
 竜馬がそれを止めようとする。だが隼人はそれに構わずに言葉を続けた。
「あいつがこれからどうなるかわからない。だがもう一人の御前は何としても止める」
「ゼオライマーを破壊しても」
「そうだ」
 隼人は言い切った。
「俺の命にかえてもな。だが」
 彼はまた言った。
「御前は死なせはしない。それは安心してくれ」
「はい・・・・・・」
 力なく頷くしかなかった。マサトは自分はこのまま運命に翻弄されるだけなのだろうかと思った。だがここで彼にその運命を断ち切る機会が訪れた。
「!?」
 モニターのスイッチが入った。最初に勝平がそれに気付いた。
「誰かここにやって来たぜ」
「!?誰だ」
 沖はそれに顔を向けさせた。
「こんなところに」
「私だ」
 するとモニターに美しい顔立ちの少女が姿を現わした。
「私が鉄甲龍の皇帝幽羅帝だ」
 彼女はまず自分の名を名乗った。
「鉄甲龍の」
「敵の首領がわざわざお出ましかよ。一体どういうつもりだ」
「秋津マサト」
 彼女は周囲の声に構わずマサトに声をかけてきた。
「私はこれから鉄甲龍の要塞を動かす」
「何っ!?」
「そして世界を滅ぼす。かねてからの計画通りな」
「何勝手なこと言ってやがる!」
 サンシローがそれを聞いて最初に激昂した。
「御前の好きにさせてたまるかよ!」
「そうだそうだ!」
 豹馬もそれに同意した。
「御前の好きなようにさせるかよ、今からそっちに行ってやるぞ!」
「何処にあるのかもわからないのに?」
 ちずるが彼にそう突っ込みを入れた。
「うっ」
「豹馬もサンシロー君も落ち着いて。あたし達に言ってるんじゃないんだから」
「わかったよ、ちずる」
「じゃあ俺達も大人しくしておくか」
「そうそう」
 こうして彼等は黙った。そして二人の木原マサキが向かい合った。
「場所は知っているな」
「勿論」
 マサトは答えた。
「では来るがいい。そしてそこで全てを終わらせる」
「わかった。そちらに行く」
「待っている」
 それが最後の言葉だった。幽羅帝は姿を消した。
「ロンド=ベルの皆さん」
 マサトは彼等に顔を向けた。
「ここは僕がやります。いいでしょうか」
「駄目だって言っても行くつもりだろう」
 隼人がクールな声でそう述べた。
「俺達がそうだからな」
「マサト」
 沖が前に出て来てマサトに声をかけた。
「はい」
「私が言えた義理ではないが」
 そう断ったうえで言う。
「行って来い。そして全てを終わらせるのだ。御前自身の因果をな」
「わかりました」
「マサト君」
 美久も前に出て来た。
「私も連れてって」
「美久、けれど君は」
「私がいないとゼオライマーは動かないわ。それに」
「それに!?」
「マサト君と一緒にいたい。そして運命を切り開くのを手伝わせて」
「けれど」
「美久、行ってくれるか」
 沖は彼女を助けるようにここで言った。
「沖さん」
「マサトには御前が必要だ。頼めるか」
「はい」
 美久はそれに頷いた。
「私が作られたのはその為ですから」
「そうだな」
「マサト君と一緒に行きます。いえ、行きたいです」
「そうなのか」
 マサトはそれを聞いてようやく頷いた。
「では一緒に来てくれるかい。そして助けて欲しい」
「ええ」
 美久も頷いた。
「行きましょう、全ての因果を断ち切って運命を切り開く為に」
「うん」
 最後にまた頷いた。マサトもまた決意した。
 それまでの彼を象徴するような暗黒の空が世界を覆った。しかしそれもまた終わる時が来る。マサトと美久は今それに辿り着く為に動こうとしていた。


第三十四話   完


                               2005・7・24




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