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第二掲示板@うらたにんわあるど

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[301] 題名:第三十三話 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年03月05日 (日) 19時08分

           恐竜帝国の最後
 出撃準備を進めるロンド=ベル。だが一つ異変に気付いた。
「おい、武蔵は何処だ?」
 ふと甲児が言い出したのであった。
「武蔵!?そういえば見ないな」
 サンシローも異変に気付いた。
「まさか、な」
「いや、有り得るぞ」
 二人はそう言い合った。
「あいつにとっちゃ特別なことだからな」
「そうだな。だが一人にしちゃおけねえ」
「急ぐか」
 こうして彼等は出撃を速めた。そして次々に戦場に向かうのであった。

「叔父上」
 マシーンランドの前面を守るサンキがバットに声をかけてきた。
「どうした」
「こちらに近づいてくる敵がいるようです」
「フン、性懲りもなく。それで何機だ」
「一機です」
 ザンキはそう答えた。
「一機だと」
「ええ、それが何か」
「万策尽きて降伏にでも来たというのか。奴等にしては妙だ」
「それだけ我等の力に恐れをなしたということでしょう」
 ザンキは愉快そうにそう述べた。
「どちらにしろ我等の手に人質がいる以上勝利は揺るぎません。安心していいでしょう」
「そうだな」
「おっと、安心するのは速いぜ」
 そう言いながら一機のマシンが姿を現わした。ブラックゲッターである。
「巴武蔵か」
「そうさ、御前等を倒しに来てやったぜ」
 彼は自身を親指で指差してそう言った。
「そしてリョウ達を救い出すそこを開けろ!」
「フン、馬鹿め」
 だがバットはそれを一笑に伏した。
「開けろと言われてそうそう開ける者がいると思うか」
「なら無理にでも開けてやるさ」
 武蔵は意を決した目でそう答える。
「行くぜ、おいらの力を見せてやる。人間の土壇場の力ってやつをな」
「ならば来い。返り討ちにしてやる」
「おおよ、巴武蔵、一世一代の大勝負だ!」
「よし、かかれ!」
「待て、バットよ」
 しかしゴールの声がそれを止めた。
「帝王ゴール」
 ゴールの乗るグダが姿を現わした。ガレリィも一緒である。
「猿よ、よくぞ一匹でここまで来たな」
「そうさ、御前等を叩き潰す為にな!」
「その無謀なる勇気気に入った。ならばこのわし自らの手で倒してくれようぞ」
「できるのか、おめえに」
 武蔵はゴールを睨み据えた。
「爬虫類によ」
「見くびるなよ、猿よ」
 ゴールは臆することなくそう返した。
「こちらには切り札があるということを忘れるな。見よ!」
 そう言って右手を掲げた。それを合図として磔にかけられたゲッターロボGが姿を現わした。
「リョウ、隼人、弁慶」
 武蔵はそれを見て三人の名を呼んだ。
「待ってろよ、今救い出してやるからな」
「武蔵」
 竜馬が彼の名を呼んだ。
「一人で来たというのか」
「ああ、そうさ」
 武蔵はそれに答えた。
「こんな奴等おいら一人で充分だ。だから安心しろ」
「馬鹿な、これだけの数だぞ!」
「武蔵、死ぬ気か!」
 隼人も叫んだ。
「先輩、俺達のことはいいです!退いて下さい!」
「悪いけど死ぬつもりでここに来たんじゃないのさ」
 だが武蔵はここでニヤリと笑った。
「おめえ等を助け出して、そしてこの連中を潰す為に来たのさ。行くぞ!」
 気合を込める。そして突進した。黒い影が動く。
「ゴール、これがおいらの力だ!」
 そう言いながらゴールのグダに飛びついた。
「喰らえ、これがおいらの大雪山おろしだああああーーーーーーーーーーーっ!」
 大雪山おろしを仕掛けた。グダはそれで宙に舞った。だがそれでもゴールは健在であった。
「フン、その程度か」
「何っ!」
「貴様にはわしを倒すことはできん。いや、猿にはな」
「まだ言いやがるか!」
「フン、これ以上遊びに付き合うつもりはない。死ね!」
「おっと、そういうわけにはいかなくてね」
「誰だっ!」
「僕か?ヒーローってやつさ。悪を倒すヒーローさ」
「戯れ言を!」
「戯れ言を言うつもりはないんでね。それがこの証拠さ」
「何っ!」
 見れば磔が破壊されていた。そしてゲッターは救出されていた。
「おのれ、何奴!」
「聞け!」
 声がまた言った。
「世の為人の為恐竜帝国の野望を打ち砕くダイターン3!この日輪の輝きを怖れぬならばかかかって来い!」 
 そこにダイターンの雄姿があった。彼は空に誇らしく立っていたのであった。
「万丈!」
「武蔵、僕達も参戦させてもらうよ」
「しかし・・・・・・」
「しかしももしももないさ。僕達は仲間だろう?」
「あ、ああ」
「それ以上の理由はいらないさ。さあ、一緒に戦おう!」
「お、おう!」
 武蔵はそれに頷いた。こうして頼りになる男がまずは一人現われた。
「フン、ダイターンではわしには勝てん」
 しかしそれでもゴールは余裕であった。
「ゲッターを奪われたところで我等にはまだカードがあるのを忘れるな」
「へえどんなカードかな」
「とぼけるな、我等にはまだ人質がいるのだぞ。それを忘れたか」
「勿論覚えているさ」
 万丈は笑みを浮かべながら答えた。
「けれど彼等は今はもう御前のカードじゃない」
「何!?」
「俺達が救出したからだ!」
「貴様は!」
「宙さん!」
「ミッチー、来てくれたか!」
 ビッグシューターが姿を現わした。それと共にジーグが跳んだ。
「ビルドアップ!」
 叫ぶ。そして跳んだまま拳を打ち合わせた。宙の身体を稲妻が包みジーグの頭となる。
「鋼鉄・・・・・・ジーーーーグッ!」
 そして身体と合体する。そして宙は鋼鉄ジーグとなったのであった。
「鋼鉄ジーグか!」
「そうだ!人質は俺達が解放した!もう貴様に切り札はない!」
「俺達だと」
「そうだ」
 ここでまた声がした。
「御前等の相手は万丈さん達だけじゃねえんだよ!」
「俺達もいる!」
 五機のガンダムが姿を現わした。その中央には翼を持つガンダムがいた。
「貴様等も・・・・・・!」
「御前が武蔵さんに気をとられている間に俺達と宙さんで人質を救出したのだ」
「マグアナック隊の皆さん、有り難うございます」
「なぁに」
 カトルの周りに何十機ものマシンが展開していた。かなりの数であった。
「カトル様の為なら火の中水の中」
「男四十匹マグアナック隊、何処へでも行きますぜ!」
「おのれ!それで勝ったつもりか!」
「まさか。話はこれからさ」
「御前等の相手、俺達がしてやる!」
「フン、俺達といってもたかだかその数でか。笑わせるでない」
「ちょっと待ったあ」
 だが万丈がゴールのその言葉にクレームをつけてきた。
「ムッ!?」
「誰が僕達だけだって言ったんだい?」」
「どういうことだ」
「僕達は僕達だけじゃないってことさ。さあ皆、出番だ!」
「おう!」
 甲児の声が木霊した。そしてシカゴにロンド=ベルが一斉に姿を現わしたのであった。
「やいゴール!」
 甲児がゴールに対して言う。
「リョウ達の借り、きっちり返させてもらうぜ!」
「そうよ!人質まで使って。許さないわよ!」
 マリアも叫ぶ。彼女は兄にも声をかけた。
「兄さん、やるわよ!」
「勿論だ。ひかるさんもいいね」
「ええ」
「鉄也君も」
「無論」
 鉄也も頷いた。
「その為にここに来たんですからね。なあジュン」
「勿論よ、鉄也」
「さやかさんもだよな」
「当然でしょ。あんな卑怯な連中許しておけないわ」
「そういうことだ。行くぜゴール!徹底的にぶっ潰してやらあ!」
「おい兜!」
「ん!?」
 甲児はその声を聞いてふと立ち止まった。
「誰かいたか!」
「俺を忘れるなっての!」
「あ、ボスいたか!」
「マジンガーチームに俺は欠かせないだわさ!ヌケとムチャもな」
「そうそう」
「おいら達だっているんだよ」
「そういやそうだったな。じゃあ大介さんの足を引っ張らないようにな」
 彼等は大介の小隊にいる。甲児は鉄也とさやか、そしてジュンと共に小隊を組んでいる。同じマジンガーチームといえど小隊が違うのである。
「ヘン、大介さんは任せときなってんだ」
「そういうことでいいですか、大介さん」
「ああ、僕はいいけれど。じゃあボス、行こうか」
「あいよ。まあおいらの活躍を見ているだわさ」
「無理はしねえようにな」
「兜、御前はいちいち一言多いだわさ!」
 いささかコミカルなやりとりをしながらロンド=ベルもまた戦場に現われた。竜馬や万丈達はその間にゴールの側から離れ彼等と合流していた。
「貴様等には負けはせん!」
 ゴールがそう言うと恐竜帝国の大軍が一斉に姿を現わしてきた。
「どのみち貴様等はここで死ぬ!そしてこの地球は我が爬虫人類のものとなるのだ!」
「その言葉、ゲッターには届かん!」
 だが竜馬はそれを否定した。
「ゴール!巣から出たのが貴様の最後だ!」
 隼人もであった。彼等はゴールと対峙していた。
「ここで貴様等との決着をつける!覚悟しろ!」
「武蔵!」
 竜馬は今度は武蔵に声をかけてきた。
「何だ」
「礼を言うぞ。御前に助けられたのはこれで何回目かな」
「リョウ・・・・・・」
「フッ・・・・・・。今回ばかりは御前のガッツに脱帽だぜ」
「隼人・・・・・・」
「先輩の大雪山おろし、流石本家本元っすね!凄かったすよ!」
「弁慶・・・・・・馬鹿野郎が」
 武蔵の目に熱いものが宿っていた。
「そんなこと言ったらおいら照れちまうだろうが」
「けれどその通りネ」
 ジャックも言った。
「ミスター武蔵、ユーは立派なファイターデーーーース、それがミーが保障します」
「兄さんもたまにはいいこと言うのね」
「フフフフフ」
「何がおかしい」
 竜馬は笑うゴールに対して問うた。
「いいだろう。ならばここで決着をつけてやる」
「言われずとも!」
「猿共よ!我等は虫人類と貴様等はどのみちどちらかが滅ぶまで戦う宿命だ。ケリをつける!」
「悪いな、残念だがそうじゃねえんだ」
「何!?」
 答える甲児の声は何処か哀しみを帯びていた。
「どうあがいても手前等に未来はねえんだ」
「俺達はそれを未来で見てきたからな。これは紛れもない事実だ」
 鉄也も言った。彼等は未来の地球で恐竜帝国の滅亡を見てきたのである。
「それがどうした」
 しかしゴールはそれに取り合わなかった。
「貴様等猿が自分の未来を信じているようにわしもまた自身の帝国の未来を信じている」
 それが彼の考えであった。
「マグマの中で耐えた幾世紀!それを糧に我等は地上を席巻する!」
「まだ言うか!」
「そうよ、そして太陽を我等のものとするのだ!」
「もう一度言う、帝王ゴール!」
 竜馬はまた言った。
「その言葉、ゲッターには届かんとな!」
「それはわしが証明してやろう!かかれ、我が誇り高き兵士達よ!」
「ハッ!」
「地上を完全に我等が手にするのだ!」
 こうして最後の戦いがはじまった。まずはラドラとザンキが前に出て来た。ラドラはシグに、ザンキはゼンUに乗っていた。それぞれゲッターとブラックゲッターに向かう。
「キャプテン=ラドラ、貴様か!」
「そうだ!」
 彼は竜馬の問いに答えた。
「ここで貴様を倒し恐竜帝国の永遠の繁栄を手に入れる!覚悟しろ!」
「それが適わないというのにか!」
「それは今俺達が戦って切り開くことだ!」
 ラドラは言った。
「貴様を倒してな!」
「クッ!」
 かろうじてその爪を避けた。ゲッターは両手に斧を取り出した。そして立ち向かう。
「行くぞ!」
「来い!」
 ザンキはブラックゲッターに向かっていた。だが彼はその素早い動きに翻弄されていた。
「これがあのゲッターの動きか」
「こいつは只のゲッターじゃねえんだよ」
 武蔵は戸惑う彼に対してそう言った。
「影のゲッターだ。影の速さ、今見せてやる!」
「おのれ!」
 だがザンキは苦戦していた。バットは甥のふがいない戦いぶりに歯噛みしていた。
「あの馬鹿者が・・・・・・」
「バットよ」
 しかし彼にゴールが声をかけてきた。
「帝王」
「気持ちはわかる。だが迂闊に動いてはならんぞ」
「ハッ」
 その間にザンキは次第に押されていく。そして武蔵のブラックゲッターがその背に回り込んだ。
「何っ!」
「これで終わりだっ!」
 武蔵はザンキの身体を掴んだ。
「大雪山おろしだ!喰らいやがれっ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
 ザンキのゼンが宙に舞う。そしてシカゴの大地に叩き付けられた。ゼンが爆発した。
「ぐわあああああああっ!」
 ザンキは逃げられなかった。その爆発に巻き込まれてしまったのだ。だが彼はゼンの残骸から出て来て最後にこう言った。
「俺はこんなところでは死なん・・・・・・。俺は将軍に・・・・・・」
 そう言って倒れた。そして爆発の中に消えた。
「そんなに将軍になりたきゃあの世でなれってんだ」
 武蔵はそんな彼に対して最後にそう言った。その横ではシグとゲッターの戦いも決着が着こうとしていた。
「シャィィィィィィィィィィィィィィィィィィンスパァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァック!」
 ゲッターが飛翔した。その巨体を白い光が包む。そしてそのままシグに特攻したのだ。
 寸前で離れた。光だけがシグを襲う。そしてその身体を打ち据えた。
「グウウ・・・・・・」
 致命傷であった。シグにとってもラドラにとっても。だが彼はそれでも動じてはいなかった。
「これで終わりのようだな」
「キャプテン=ラドラ、見事だったぜ」
 竜馬は彼に対してそう言葉を贈った。
「俺は戦士だった。それが誇りだった」
 ラドラは言う。
「そして最後までその誇りを抱いて死ねる。これ以上の栄光はない」
「ラドラ・・・・・・」
「さらばだゲッターロボ!俺は最後まで誇りを抱いていられた!それこそが俺の栄光だ!」
 そして彼は死んだ。竜馬達はその爆発を見届けていた。
「立派な戦士だったな」
「ああ」
 竜馬は隼人の言葉に頷いた。
「キャプテン=ラドラ、御前のことは忘れない、絶対にな」
 誇り高き戦士が散った。だが戦いはまだ続いていた。彼等は互いの生存をかけて戦っていた。
「まだだ、まだ怯むな!」
 ゴールが全軍を叱咤する。彼等は雲霞の如き数でロンド=ベルに襲い掛かる。
「撃て!前面に火力を集中させよ!」
「はい!」
 ブライトも指示を下す。そして恐竜帝国のマシンを次々と薙ぎ倒していく。だが戦いはそれでも終わらなかった。
 三十分が経とうとしていた。ここで戦場に異変が起こった。
「ムッ!?」
 突如として両軍を得体の知れない何かが包んだ。そして次の瞬間には彼等は砂漠の様に荒涼とした場所に移動していた。
「これは・・・・・・」
「どうやら異空間のようです」
 ルリが言った。
「異空間」
「はい。誰かが私達の戦いをこちらに移動させたのでしょう。毒ガス攻撃を避ける為に」
「一体誰が」
「そこまではわかりませんが」
 ルリは表情を変えずに答えた。
「何か魔術めいたものを感じます。そうだとしたらかなりの魔力の持ち主が行ったものと思われます」
「あいつか!?」
 マサキをはじめ魔装機のパイロットの何人かは誰の仕業か察した。
 ルリは言葉を続けた。
「ここで決着をつけろということなのでしょう、その人物にとっては」
「まあ場所なんてどうでもいいけれどな」
 勝平が言った。
「要するにあのトカゲ共を全員倒せばいいんだろ。そうしたら帰れるんだよな」
「お待ち下さい」
 ルリが調べはじめた。
「調べたところ構造自体は単純です。勝平さんの言う通り目の前の敵を殆ど倒せば地上に戻れる仕組みになっているようです。上手くできていますね」
「あいつらしいぜ」
 マサキがそれを聞いて呟いた。
「俺達に相応しい場所を用意したつもりかよ。有り難くて涙が出らあ」
「ただ、今はそれについて言う場合ではないと思います」
 そんなマサキにルリの忠告が入った。
「後でゆっくりとそれについてもお話したいと思っています」
「わかったよ。じゃあそうするか」
「はい。まずは」
「目の前のあの連中を倒す。行くぞ皆!」
 竜馬が他の者にも声をかける。
「恐竜帝国、そして帝王ゴールを倒すぞ!」
「おお!」
「ふん、小癪な」
「帝王ゴールよ」
 バットとガレリィが前に出て来た。
「まずは我等にお任せを。必ずや奴等を屠って御覧に入れます」
「うむ、ではまずはそなた等に任せよう」
「ハッ」
「兵権を預ける。すぐに奴等を倒して参れ!」
「御意。哺乳類共よ」
 彼等はロンド=ベルを見据えた。その目は戦いに燃えていた。
「ここで貴様等を滅ぼす。覚悟はいいな!」
「ヘッ、やってみやがれってんだ!」
 甲児がそれに返す。
「このマジンガーはそう簡単にはやられりゃあしねえぜ!」
「俺もだ!」
 鉄也も続いた。
「グレートもいるということを忘れるな!」
「マジンガーだけじゃない。他にもいる」
 大介も言った。
「僕達の力は人類を背負っている。それを侮るな!」
「貴様等のことはもとより知っておる!」
 バットが言う。
「さからこそ戦うのだ。死ね!」
「死ぬのは手前等だ!」
「これで最後だ!グレートの力、地獄で語れ!」
「ぬうう!」
 両者はこの異空間にて最後の戦いをはじめた。ロンド=ベルはゲッター、そしてマジンガーチームを先頭に全面対決に入った。
 バットのグダにゲッターが向かっていた。ここで隼人が言った。
「リョウ」
「どうした、隼人」
「ここは俺に任せてくれないか。奴の弱点はわかっている」
「いけるのか、相手は空にいるが」
「ああ、大丈夫だ」
 隼人は自信に満ちた声でそう答えた。
「一撃で仕留めてみせる。いいか」
「わかった。じゃあ御前に任せる」
「よし」
「オーーーーーーーープンゲェェェェェェェェェェェェェーーーーーーーーーーット!」
 竜馬が叫ぶ。そしてゲッターが三つに分かれた。
「チェンジライガーーーーーースイッチオン!」
 隼人が叫ぶ。そしてまずはライガーが上に来、ベアーがそれに続く。最後にドラゴンが来た。
 三機のマシンが複雑な形になり合体する。そしてゲッターライガーとなった。
「行くぞ、バット!」
 ライガーがそのままグダに向かう。しかしバットはそんなライガーを見下ろして余裕の笑みを浮かべていた。
「死ねぃっ!」
 グダがミサイルを放つ。しかしそれはライガーに何なくかわされてしまった。
「真マッハスペシャル!」
 分身した。それで攻撃をかわしたのだ。
「おのれ!」
「フッ、ゲッターの動きを甘く見るなよ」
「それでも貴様はわしには勝てん!」
「どうしてかな」
 隼人は余裕に満ちた声で彼に尋ねてきた。
「それは貴様が地上にいるからだ」
「ほう」
「空にいるわしに勝てると思うか!勝つつもりならドラゴンで来るのだな」
「確かに空と陸ならば空が有利」
 隼人は言った。
「しかしそれはこの俺には通用しない!今それを見せてやる!」
「何っ!」
「チェーンアタック!」
 ライガーは左腕からチェーンを放ってきた。それでグダを捉える。
「行くぞっ!」
「ヌッ!」
「これがゲッターの戦い方だっ!」
「うおおおおおおおおおおおおっ!」
 チェーンを巻きつけたうえで振り回す。そしてグダにダメージを与えるのであった。
「まだだっ!」
 今度は跳んだ。空こそ飛ぶことはできないがかなりのジャンプ力であった。
「これで止めだっ!ドリルアタック!」
 右腕をドリルに変形させそれで貫いた。それでグダに止めをさしたのであった。
「バ、馬鹿なこのわしが」
 バットは破壊され炎に包まれようとするグダの艦橋において言っていた。
「一度ならず二度までも・・・・・・!」
「二度じゃない」
 しかし隼人はそんな彼に対して言った。
「貴様等が負けたのはこれで三度目だ」
「うわああああああああーーーーーーーーっ!」
 それが断末魔の叫びであった。バットは乗艦と運命を共にしたのであった。
「バット将軍、その最後見届けたぞ」
 ゴールはそれを見てそう呟いた。
「見事であった。だがガレリィよ」
「ハッ」
「バットの仇、そなたがとれ!よいな!」
「無論!」
 彼はそれに答えた。そして大空魔竜に向かった。
「ロンド=ベル!わしの力を見せてやる!」
「おいおい、こっちに来たのかよ」
 ピートはガレリィのグダがこちらに向かって来るのを見てそう言った。
「じゃあ相手をしてやるか。博士」
 そして大文字に顔を向けた。
「あれを使っていいですか」
「ピート君に任せる」
 彼はそう答えた。全てをピートに任せるつもりだった。信頼しているからこそである。
「了解。ジャイアントカッター用意!」
「ジャイアントカッター用意!」
 ミドリがそれを復唱して艦内に知らせる。
「総員衝撃に備えろ、いいな!」
「了解!」
 大空魔竜は腹から巨大な刃を出した。そしてそれでグダに突進した。
「これでえどうだっ!」
「ヌッ!」
 その巨大な刃がグダを両断した。真っ二つになりそれぞれ別々に大地に落ちる。
「認めん、認めんぞ!」
 ガレリィは落ちていく艦の中でそう叫んでいた。
「わしの科学力が猿共に負けただと・・・・・・。認めん、認めんぞおっ!」
 そして爆発の中に消えた。こうしてガレリィも戦死したのであった。
「科学力だけでは勝てはしない」
 ピートはモニターに映るグダの爆発を見てそう言った。
「これは戦争だ。戦争は科学力だけじゃないんだ」
「その言葉、覚えておくぞ」
「ああ」
 サコンにも応えた。こうして恐竜帝国の主立った者達は全て戦死したのであった。
 他の恐竜帝国の戦士達も次々に倒れていった。戦いは完全にロンド=ベルの勝利となりつつあった。竜馬はその中でゴールを呼んだ。
「ゴール、出て来い!」
 彼は叫んでいた。
「貴様の帝国は敗れようとしている。それでも貴様はまだ諦めないというのか!」
「フン、何故諦める必要があるのか」
 ゴールはそれに対してこう答えてきた。
「わしがいる限り恐竜帝国に敗北はない!何故ならわしこそが恐竜帝国最強の戦士だからだ!」
「何っ!」
「ラドラ、ザンキ、バット、ガレリィよ」
 彼はこの戦いで散った己が戦士達の名を呼んだ。
「貴様等の奮戦、無駄にはせぬ。今ここでわしが猿共に引導を渡してくれようぞ!」
「まさか帝王自身が出撃するってのか!?」
「どうやらそうらしいな」
 隼人が武蔵にそう答えた。
「出るぞ、化け物が」
「ああ」
「皆、気をつけろ!」
 竜馬が叫んだ。
「来るぞ、恐竜帝国の切り札が!」
「覚悟しろ猿共よ!」
 ゴールの声と共に地響きが聞こえてきた。
「わしの力今こそ見せてくれる!」
 巨大な戦艦が姿を現わした。二匹の巨大な竜の上に戦艦があった。恐ろしいまでに巨大な怪物であった。
「最強最後のメカザウルスダイ」
 ゴールは言った。
「倒せるものなら倒してみよ!」
「よく言ったわね!」
 ユリカがそれを聞いてすぐに攻撃に出た。
「ミサイル、バンバン撃っちゃって!」
「了解!」
 メグミがそれを聞いてすぐにミサイルのボタンを押す。ナデシコの前面からミサイルが一斉に放たれダイに襲い掛かる。そして直撃した。
「これでどうかしら」
「今何かしたか?猿の女よ」
「なっ、猿ですってええ!?」
 ユリカはそれを聞いて顔を顰めさせた。
「私の何処が猿だっていうのよ!こんな美人を捕まえて!」
「わしにとっては貴様等なぞ同じだ。猿に過ぎない」
「そういえばそうだな」
 ノインがそれを聞いて呟いた。
「ノインさん、それどういう意味だよ」
「リョーコも私も彼から見たら同じだということだ。種族が同じなのだから」
「種族!?」
「そうだ」
 ノインは答えた。
「彼等は爬虫類から生まれた。私達とは根本的に違うのだ」
「じゃあ俺とノインさんもあいつから見れば同じだってんだな」
「そういうことになるな」
「何かピンとこねえな。どういうことなんだか」
「フン、猿は猿だということだ」
 ゴールはそれに答えた。
「それ以上どう説明する必要があるのだ。だからこそ我等は戦うのだ」
 ダイはほぼ無傷であった。ナデシコのミサイルを以ってしてもダメージは殆ど与えられていなかった。
「貴様等が滅ぶか、我等が滅ぶかだ。妥協はない」
「その通りだな」
 それに武蔵が頷いた。
「だからおいら達も退くわけにはいかねえんだ。そうだろ、ゴールよ」
「わかっておるようだな」
「だからこそ貴様をそのデカブツごと沈めてやる!覚悟しやがれ!」
「フン、猿にわしを倒せるか!」
「やってやらあ!」
 他の敵はほぼ倒し終えていた。後はゴールのダイだけであった。ロンド=ベルは彼に火力を集中させてきた。
 無数のミサイルやビームがダイを打ち据える。しかしそれでもダイは立っていた。
「フフフフフフフフフ」
「馬鹿な、殆どダメージを受けていないだと」
「化け物か」
 ブライトとアムロもそれを見て驚いていた。
「この程度でわしを倒すとは片腹痛い」
「ならこれでどうだっ!」 
 それを聞いて激昂した忍が攻撃に移った。
「行くぜ亮!」
「わかった!」
「断空砲フォーメーション、受けやがれ!」
 断空砲を放った。それでダイを粉砕するつもりだったのだ。そしてそれは直撃した。
「やったか!?」
「今何かしたか?」
 しかしゴールのそれまでと変わらぬ声が返ってきただけであった。やはりダイは立っていた。
「ダンクーガの攻撃を何ともしねえだと!?」
「どういうことだ」
「貴様等にわしは倒せんということだ」
 ゴールはそう言葉を返した。
「今度はこちらから行こう。覚悟はいいな」
 そして砲撃を開始した。無数の砲弾がロンド=ベルを打ち据えた。
「クッ、損害状況を報告しろ!」
 ラー=カイラムも直撃を受けていた。ブライトは衝撃にも耐えながら周りの者に対して言った。
「直撃弾二つ!ですが戦闘に影響はありません!」
「そうか、不幸中の幸いだな」
「いえ、そうも言えません」
 だがここでルリがモニターに出て来た。
「どういうことだ」
「今までの戦闘、そして先程のダイの攻撃による衝動でこの異空間に歪が生じております」
「何っ!?」
「それによりこの場所での戦闘が不可能になりつつあります」
「何ということだ・・・・・・」
 ブライトだけではなかった。他の者もそれを聞いて呻いた。
「そしてこの空間が収束しつつあるのですが」
「じゃあ俺達はここで閉じ込められて押し潰されるってのかの!」
「じゃあ負けたのと同じじゃねえか」
「いえ、それは違います」 
 しかしルリはそれを否定した。
「脱出は可能です。私が脱出路を発見しました」
「それは何処だ」
「すぐ後ろです」
「後ろ!?」
「はい。後方に向けて退けばここから脱出することが可能です」
「それは本当なんだな」
「はい」
 ルリはブライトの言葉に頷いた。
「如何為されますか、ブライト大佐」
「ううむ」
 彼はそれを受けて考え込んだ。
「最早恐竜帝国はあの巨大な戦艦だけだ」
「はい」
「戦力はなくなったと見るべきだな」
「わかりました。それでは」
「いや、それは違う」
 しかし竜馬がそれにクレームをつけてきた。
「竜馬」
「あいつがいる限り恐竜帝国は何度でも甦る。あいつを倒さないと何にもならない」
「そうだ、リョウの言う通りだ」
「隼人さん」
「ルリも大佐もよく聞いてくれ。ここは俺達に任せてくれ」
「どういうことだ」
「ここは俺達が引き受ける。あいつは何としても俺達が倒す」
「馬鹿な、我々の一斉攻撃を受けても倒れない相手だぞ。御前達だけで何ができる」
「ゲッターならやれる」
「ゲッターの」
「そうさ。このゲッターロボの力を見くびってもらっては困る」
「それは俺達が一番よくわかっている」
「だから安心してくれ。ゴールを倒して絶対戻ってくるからな」
「竜馬、隼人、弁慶」
 ブライトはここで彼等の名を呼んだ。
「宜しいのですね」
「そうじゃなかったらわざわざ俺達の方から言ったりはしない」
 ルリには隼人が答えた。
「心配はいらないぜ。何なら戦勝にビールでもかける準備をしてくれ」
「おい、御前達は未成年だぞ」
 アムロがそれを聞いて苦笑した。
「幾ら何でもビールはまずいだろう」
「じゃあコーラでいいさ」
 武蔵がそれに応えた。
「武蔵」
「御前も残るつもりか」
「当然だろ」
 彼は三人に対してそう言った。
「おいら達は同じゲッターチームだろ。一緒に戦うのは当然だ」
「しかし」
「生きて帰るんだろ、リョウ」
「あ、ああ」
 竜馬はそう問われて答えるしかなかった。
「さっき言ったよな、生きて帰るって」
「そうだったな」
「じゃあ問題はないな。行くぞ」
「ああ」
「無茶はするなよ」
「隼人、御前こそな」
「先輩も」
「弁慶、御前は自分の心配をしな」
 そんなやりとりをしながら彼等はその場に残った。そして撤退をはじめる仲間達に対して言った。
「すぐに帰って来るからな」
「おう、待ってるぜ」
 それに対して甲児が言葉を返した。そしてロンド=ベルは異空間から離脱した。後には二機のゲッターとゴールのダイだけが残った。
「フン、最後に残ったのはやはり貴様等か」
「そうさ、御前を倒す為にな」
 竜馬が彼に応える。
「ゴール、覚悟しろ。今度こそ御前を倒す」
「できるのか、貴様等に」
「この世に沈まない戦艦なぞ存在しない」
 隼人がゴールに対してそう言った。
「今それを御前に見せてやる」
「ああ、ここには海はないがな」
 弁慶も続く。
「沈めてやる。覚悟しろ」
「フン、ならば沈めてもらおう」
 ゴールは不敵に笑った。
「このわしを、そして恐竜帝国をな!猿共よ!」
「その猿でもな」
 竜馬はそう言いながらゲッタードラゴンを構えさせた。
「退けない時、負けられない時がある!それは今だ!」
 そして跳んだ。ブラックゲッターもそれに続く。
「行くぞ、隼人、弁慶、武蔵!」
「おう!」
「いいぜ!」
「来い!」
「ダブルゲッタァァァァァァァァァァァァァビィィィィィィィィィィィィィィィィィィイーーーーーーーーーッム!」
 ゲッタードラゴンとブラックゲッターが同時にビームを放つ。そしてそれがダイの艦橋を直撃した。
「うおおおおおおおおおっ!」
 それでダイの動きが止まった。だがゲッターの攻撃はまだ続いていた。
「これで止めだっ!」
 ドラゴンは飛翔した。そしてその全身にあの白い光を身に纏った。
「シャィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンスパァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァック!」
 ダイに特攻する。そしてその白い光をぶつけた。
「どうだっ!」
「ぬうううううううううううっ!」
 これによりさしものダイも動きを止めた。流石にこれで動けるとは誰も思わなかった。ダイの巨体のあちこちから火が噴き出しはじめた。
「まさかこのわしが二度も敗れるとはな。いや、三度か」
「そうだ、三度だ」
 隼人がそれに答える。
「これでわかっただろう。御前達が敗れるのが運命だということをな」
「フン、確かにな」
 ゴールは遂にそれを認めた。
「わしの負けだ。それは認めよう。だがな」
「だがな・・・・・・。何だ!?」
 竜馬達は彼の言葉に不吉なものを感じていた。
「わしは死ぬ、だがそれは帝王としての死だ!ゲッターチームよ!」
 彼は竜馬達を見据えた。
「わし一人では死なぬ!貴様等も道連れだっ!」
「何だとっ!」
 ダイは断末魔の叫び声をあげながら突っ込んできた。そしてそのままゲッターに襲い掛かる。
「死ねぃっ!」
「おいリョウ、避けようぜ!」
 咄嗟に弁慶が言う。だが彼は動かなかった。
「駄目だ」
「何でだよ。俺達は勝ったんだ。これ以上あいつと付き合っても何にもならねえだろ」
「本来ならな。だがあいつが爆発したらどうなる」
「どうなるって・・・・・・」
「あれだけの巨体だ。必ずシカゴに影響が出る。そうなったら何の意味もない」
「そうか、そうだったな」
 弁慶もそれを聞いて事情を理解した。
「ここで食い止める。最後にあいつを完全に叩き潰してな」
「そういうことなら付き合うぜ」
「隼人」
「ゲッターの力ならな。そして絶対にあいつ等にコーラをおごらせるぞ」
「おい、コーラかよ」
「何ならジンジャエールでもいいか」
「まあそれでもいいさ」
「フフフ、ゲッターの力か」
 ゴールはそれを聞いて面白そうに笑った。死相が現われたその顔に凄みのある笑みが走った。
「貴様等もゲッター線に取り付かれなかったならばな。ここで死なずに済んだものを」
「何っ!?」
 それを聞いた四人は断末魔のゴールに顔を向けた。
「それはどういう意味だ」
「貴様等はゲッター線の真の恐ろしさを理解しておらん」
「何が言いたい」
「真の恐ろしさだと」
「あれは生物に進化だけでなく滅亡をもたらすエネルギーなのだ」
 ゴールは最後の気力を振り絞るようにして言った。
「我等はゲッターにより滅ぼされ、貴様等は進化した。それが何よりの証拠ではないのか」
「出鱈目を言うなってんだ!」
 武蔵がたまりかねたように叫んだ。
「ゲッター線がおいら達に滅亡をもたらすっていうのかよ!」
「そうだ」
 ゴールは毅然として言い返した。死に瀕しているとはいえそれは帝王の顔であった。
「我等がマグマの中に逃げ込まねばならなかったのが何よりの証拠ではないのか」
「それは・・・・・・」
「貴様等はゲッター線に選ばれただけ・・・・・・。いや、取り付かれただけなのだ。そして貴様等より優秀な種族が出ればゲッター線は・・・・・・」
 ゴールは言葉を続けた。
「貴様等を滅ぼすだろう」
「違う!」
 竜馬は半ばムキになってゴールの言葉を拒絶した。
「俺達の未来はゲッター線と共にある!」
「あくまでそう信じたいか」
「俺はそう信じる!貴様とは違う!」
「フン、そうか。ならばよい」
 ゴールはそれ以上言おうとはしなかった。かわりにダイの動きを速めさせた。
「そのゲッター線を信じて死ぬがいい、猿共よ!」
「クッ、行くぞ!」
「おう!」
 三人が決死の特攻を試みようとする。だがそれより前に武蔵のブラックゲッターが出ていた。
「武蔵!?」
「リョウ、こいつは俺の獲物だ!そうだろ!?」
 そう言いながら突っ込む。黒い影が今風となっていた。
「おいらに任せろ!御前等は先に逃げろ!」
「馬鹿な、死ぬ気か!」
「武蔵、死ぬ時は一緒だと誓った筈だぞ!」
「馬鹿野郎!誰が死ぬと言った!」
「何っ!?」
 一喝された隼人が黙ってしまった。
「さっき生きて帰るって言っただろうが!御前達はおいらのでっかい金星を皆に伝えてもらう為に先に行ってもらうんだよ!そんなのこともわからねえのか!」
「先輩・・・・・・!」
「いいか!三人共速く行け!そして宴会の準備をしてくれ!」
「・・・・・・わかった」
「リョウ!」
 それを聞いて隼人と弁慶が驚きの声をあげた。
「いいのか!」
「先輩は・・・・・・!」
「武蔵、御前にはとびきりの御馳走を用意しておいてやるからな」
「ああ、頼むぜ」
 武蔵はそう言って笑った。
「寿司がいいな。それも鮪のトロを」
「ああ、好きなだけ食べろ。他にも置いておくからな」
「四人でな。帰ったら思う存分食おうぜ」
「ああ、そうだな」
 隼人も言った。
「今度ばかりはな。体重なんか気にせずたっぷり食おう」
「俺も食わせてもらいますよ」
 弁慶までもそう言った。
「俺も寿司好きですから」
「おいおい、寿司以外ねえのかよ。他にもあるだろうが」
「そうだな。一杯ある」
「一緒にな、たっぷりと食おうぜ」
「四人で。いいですね、先輩」
「そうさ。ミチルさんも一緒にな。いいな、皆」
「ああ」
 最後に竜馬が頷いた。
「ミチルさんも待っている。だから戻って来いよ、武蔵」
「おう、じゃあな!」
「待ってるぞ!」
 こうしてゲッターも戦場を去った。ブラックゲッターはそのままダイに突っ込んで行く。
「一匹で・・・・・・死ぬつもりか!」
「死ぬのは手前だ!おいらは生きる!」
 彼はゲッター線の出力を暴走させた。ブラックゲッターが緑色に光った。
「これが貴様等の恐れていたゲッター線だ!とくと浴びやがれ!」
 武蔵の身体も緑色に輝いていた。そして緑の流星となり特攻する。
「死にやがれーーーーーーーーーーーーっ!」
「うおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーっ!」
「リョウ、隼人、弁慶」
 ダイが爆発する。ゴールはその中に飲み込まれていった。武蔵はその爆発の中で一人呟いていた。
「後のことは任せたぜーーーーーーーっ!」
「お待ちなさい」
 だがそこで声がした。
「誰だ!?」
「私の声に聞き覚えはありませんか」
 そして青いマシンが姿を現わした。グランゾンであった。
「グランゾン・・・・・・ってことは」
「ええ。巴武蔵、貴方を迎えに来ました」
 シュウは何かを含んだようないつもの笑みでそう答えた。
「貴方はまだここで死ぬべきではありませんから」
「おい、もう手遅れだろうが」
「手遅れ!?何がですか」
「もうすぐダイの爆発でここは吹き飛ぶんだ。それで何で御前まで死ぬ必要があるんだよ」
「これはまた御冗談を」
「冗談!?」
「はい。私は死にませんよ」
 シュウは笑ったままそう答えた。
「そして貴方もね」
「どうするつもりなんだよ」
「こうするのです」
 シュウはそう言うと何かを発動させた。
「!?」
「このグランゾンは色々と隠された能力がありましてね」
「ネオ=グランゾンもそうなのかよ」
「ほう、これは話が早い」
「で、どうするんだ?ここでまさかそれに変身するのかよ」
「まさか。そうするまでもありません」
「じゃあどうするんだ?」
「ネオ=ドライブ=システムを使います」
「何だそりゃ」
「話すと長くなります。それでは」
 そう言いながらブラックゲッターを掴んだ。そしてそのネオ=ドライブ=システムを発動させた。
「行きますよ」
「おい、ちょっと待てよ」
 そんな話をしている間にシュウと武蔵の姿は消えた。そしてダイの爆発だけが残った。これが恐竜帝国の最後であった。

 ロンド=ベルはシカゴを離れ南に下っていた。そしてそこでシカゴに関して調査を続けていた。
「異空間において爆発が確認されました」
「そうか」
 大文字はミドリの報告を聞き頷いた。
「彼等が無事だとよいのだが」
「レーダーに反応です」
 そこでミドリがまた言った。
「これは・・・・・・ゲッターのものです」
「おお」
 それを聞いた大文字が思わず声をあげた。普段の冷静さはなく喜びの声であった。
「それは本当かね、ミドリ君」
「はい、ゲッタードラゴンです。彼等は無事です」
「そうか、それは何よりだ」
「ただ」
「ただ・・・・・・どうかしたのかね」
 ミドリの声が暗くなったのに不吉なものを感じた。
「一機だけなのですが」
「・・・・・・・・・」
 その言葉の意味はわかっていた。大文字も表情を曇らせた。
「皆、待たせたな」
 やがて大空魔竜に着艦した竜馬が出迎えてきた仲間達にそう声をかけた。
「心配させやがってよ」
 甲児が笑顔で悪態をついていた。
「これで死んでたらどうするつもりだったんだよ。ヒーローになるのはおめえだけじゃねえんだぞ」
「ははは、済まない」
 隼人が珍しく笑った。
「ただな、あの時はああするしかなかったからな」
「ああ、わかってるさ。よく戻ってきたな」
「有り難うよ、甲児」
「だがそうもばかり言ってはいられないようだな」
 弁慶の言葉が終わるとピートがそう述べた。
「武蔵はどうしたんだ。一緒じゃなかったのか」
「それは・・・・・・」
 三人はその問いに表情を暗くさせた。
「あいつは一人で戦場に残った。そしてダイを・・・・・・」
「そうか」
「生きていると思いたいがな」
「おい、何辛気臭えこと言ってるんだよ」
 それを聞いて甲児がまた言った。
「あいつがそう簡単に死ぬわけねえだろ、安心しろよ」
「甲児・・・・・・」
「今にも戻って来るんじゃねえのか?そこによ」
「甲児君、気持ちはわかるが」
 そんな彼を大介が嗜めようとする。
「僕達は戦っているんだ。犠牲もまた」
「大介さんまでそう言うのかよ」
 甲児はこの時意地になっていた。
「俺は信じてるぜ、あいつを。ほら、今にもここに」
「甲児君・・・・・・」
「来るんだよ、だから待とうぜ」
 だがブラックゲッターは姿を現わさない。誰もが悲しい顔になった。
「戦いには勝ったが」
 神宮寺が言った。
「犠牲はあまりにも大きいものでしたね」
「おい、麗さんまでそう言うのかよ」
 甲児がそれにくってかかった。
「そんな筈ねえだろ、あいつは絶対・・・・・・」
「甲児・・・・・・」
 今度は竜馬達三人が彼に声をかけた。
「有り難う。けれど・・・・・・」
「御前等までそんなこと言うのかよ」
「気持ちは有り難いがな。あいつは・・・・・・」
「先輩・・・・・・」
「それ以上は言わない方がいいわ」
 そんな三人をフォウが慰めた。
「それ以上言うと」
「フォウ・・・・・・」
「二度と会えなくなるかも」
「いえ、それは違うよ」
 ヒメが言った。
「ヒメちゃん」
「武蔵さんね、こっちに戻って来るよ、絶対」
「そう思いたいけれどな」
「ううん、本当だよ。だって武蔵さんの心私に届いたから」
「心!?」
「そうだよ。武蔵さん今こっちに来てる。青いマシンに助けられて」
「青いマシン」
 それを聞いてマサキ達がすぐに反応した。
「またあいつか」
「一体どういうつもりだ」
「その人がね、武蔵さんを助けてくれたよ。もうすぐ武蔵さんこっちに来る」
「そうなのか」
 それを聞いた竜馬達の顔が晴れやかになった。
「武蔵は生きているんだな、ヒメちゃん」
「うん」
 ヒメは頷いた。
「ほら、こっちに来るよ」
 遠くから黒い影が姿を現わした。
「武蔵さーーーーーーん、お帰りーーーーーーーっ!」
 ブラックゲッターが入って来た。満身創痍ながら武蔵は仲間達の前に姿を現わした。そしてそのまま病室に運び込まれたのであった。
「傷は深いがな。とりあえずは無事だ」
 サコンはロンド=ベルの面々にそう説明した。
「命に別状はない。ブラックゲッターもダメージは酷いが修復が可能だ」
「そうか」
 竜馬達はそれを聞いて笑みを作った。
「じゃあ心配はいらないんだな」
「そうだな。だが戦いは今は無理だ。あの傷ではな」
「そうか。それは仕方ないな」
「だがまた戦えるんだな」
「あいつとブラックゲッターが回復したならな。だがそれは少し先だ」
「わかった」
「今は生きているだけで安心だ。心配させやがって」
「そうだな、全く」
 そうは言いながらも皆笑顔であった。やはり仲間の無事が嬉しいのだ。
 彼等は口々に喜びの声をあげる。そしてそれが終わった時大文字が入って来た。
「皆武蔵君の無事が嬉しいようだな」
「ええ」
 皆当然であるようにそれに頷いた。
「彼も無事で恐竜帝国も完全に滅んだ。これで我々の敵が一つ滅んだ」
「はい」
「だが敵が完全にいなくなったわけではない」
 大文字は顔と声を引き締めさせた。
「戦いはまだ続く。今極東支部よりまた連絡が入った」
「何と」
「すぐに戻ってきて欲しいとのことだ。バウドラゴンが行動を活発化させるという情報が入ったそうだ」
「バウドラゴンが」
「そしてラストガーディアンからも要請があった。すぐに日本に来て欲しいとな」
「何かありそうだな」
 そこまで聞いた京四郎が考え込みながらそう述べた。
「今までラストガーディアンは俺達とは独自の行動をとってきた。それが何故今」
「あの銀色のマシンと関係があるとみていいわね」
 ミサトが顎に手をあてながらそう言った。
「あそこの長官の沖って人は昔から色々と噂のある人だし」
「つまり謎の男ってわけだな」
「けれどそういう奴に限って大したことなかったりして」
 キリーとレミーが軽い声をあげた。
「しかしゼオライマーが関係しているとなれば話は別だな」
「真吾の言う通りだな」
 一矢も言った。
「どちらにしろバウドラゴンも何とかしなくちゃいけない」
「行くしかないってことかよ」
「そうだな。色々と謎は多いが」
 甲児に対して京四郎が答えた。
「虎穴に入らずば虎子を得ず、というやつだ」
「それでは決まりだな」
 大文字は京四郎の言葉を聞いた後でそう述べた。
「日本に向かおう。そしてバウドラゴンとの戦いを終わらせる」
「はい」
 こうしてロンド=ベルはシカゴの戦いの勝利と武蔵の生還を喜ぶ暇もなく日本に向かうのであった。そして次の戦場に身を置いた。


第三十三話   完


                                 2005・7・21


[300] 題名:第三十二話その二 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年03月05日 (日) 19時00分

「まさかアメリカで戦うことになるなんてな」
 トッドも同じであった。彼はグランガランの一室でそうぼやいていた。既に戦闘服を着ている。
「やっぱり色々と複雑か」
「ああ」
 ショウが彼に問う。そしてトッドはそれを肯定した。
「ボストンじゃねえのが救いだけれどな」
 彼はボストン出身である。だからこう言ったのだ。
「けれどな。やっぱり故郷で戦うのは嫌だな。それは御前さんにもわかるだろう」
「否定はしない」
 ショウは静かにそう言った。
「日本での戦いも多かったしな。未練はないがやっぱり辛いものはあるな」
「そういうことだな。それはあんた達もだろ」
「ああ」
 そこに居合わせたヤンロンやリューネ達にも声をかける。彼等もそれに頷いた。
「僕も中国での戦いがあったしな」
「あたしもね。一応アメリカ人だし」
「そうだったのか」
「あれ、知らなかったの?」
 ショウの言葉を聞いて意外そうに顔を向ける。
「あたしポーランド出身だけれどアメリカに移住したんだ。だからアメリカ人なんだよ」
「そうか」
「まあ今までもアメリカで戦ったことはあるからね。慣れてるかな」
「そういうものか」
 トッドはそれを聞いて自分は違うといった表情を作った。
「どうも俺はな。抵抗があるんだ」
「だからといって戦わなければならないことに変わりはない」
「それはわかってるさ」
 ヤンロンに答える。
「戦わなきゃもっと悪いことになる。シカゴが奴等に乗っ取られるか」
「化学兵器の投入だな。しかし無茶苦茶だな」
「それがあの人のやり方なのでしょう」
 マーベルがそれに応える。
「どうやらあの人は普通じゃないわ。だからまともにやりあっちゃ駄目かも」
「きついね、どうも」
「けれどそう思うしかないのじゃないかしら」
「否定はしないな」
 トッドはマーベルに対してそう言った。
「一体何処に条約違反を平然と破る司令官がいるんだ。あのおっさんは正気なのか」
「軍の上層部でももてあましているらしいな」
 ヤンロンがそう言った。
「そうだろうな」
「あまりもの過激さでな。彼には敵も多い」
「というより敵しかいないのかもね」
「孤立しているってことか」
 ショウがそこまで聞いて呟いた。
「だとしたらいずれは自滅して失脚するだろうな」
「そうだな。あんな人間が何時までもいられるとは思えない。だが」
「だが?」
「それはすぐじゃない。少なくとも今は戦わなくてはならないな」
「そうだな」
 ヤンロンの言葉に頷いた。
「そういうことだな。じゃあそろそろ行くか」
「ああ」
「ところでよ」
 トッドはここでヤンロンとリューネに尋ねてきた。
「何?」
「マサキはどうしたんだ?いつも一緒じゃねえのか?」
「いつも一緒というわけではないが」
「どうせまた道に迷ってるんじゃない?あいつのことだから」
「おいおい、大丈夫かよ」
 トッドはそれを聞いて呆れた声を出した。
「あいつグランガランに来てもう大分経つぜ。それで道が覚えられないのかよ。確か前の戦いでも乗っていたよな」
「だからといって覚えられるものではない」
「少なくともあいつはね。あいつの方向音痴って凄いんだから」
「それはわかってるつもりだけどな」
「まあマサキのことはいいさ」
 ショウがここで述べた。
「戦いの時にいればいい。あいつはいつも間に合うからな」
「本当に偶然でね。運がいいっていうか」
「そろそろ俺達も出撃準備にかかろう。いいな」
「おう」
 トッドとリューネがそれに頷く。
「では行くとするか」
「毎度のことだけれどね」
 ヤンロンとマーベルも。彼等も戦う顔になっていた。そして格納庫に向かった。彼等もまた戦いに向かう用意をしていた。
 ロンド=ベルが戦いに備えようとしていたその時彼等の前に一つの影が現われていた。
「レーダーに反応です」
 ミドリがそう報告する。
「何だ」
「何かゲッターに似ていますけれど」
「馬鹿な、ゲッターはまだ出撃していない筈だ」
 大文字はそれを聞いて声をあげた。
「では一体誰なんだ」
「ちょっと待って下さい」
 ミドリはまた言った。
「これは・・・・・・また別のものです。ですがゲッター線は感じます」
「一体何なんだというのだ」
「ミドリ君」
「はい」
 サコンが尋ねてきた。
「ゲッター線は感じているのだな」
「はい、確かに」
「そうか。ならば敵ではない。恐竜帝国はゲッター線には勝てないからな」
「そうでしたね」
 彼等が地上を追われたのはその為であった。ミドリもそれを思い出したのだ。
「では誰が」
「おい、そこにいるでっかい恐竜」
 ここで大空魔竜に通信が入ってきた。
「?俺達のことか?」
「そうだよ、他に誰がいるってんだ?」
 通信の声はピートにそう返してきた。
「最初に言っとくがおいらは敵じゃない。それははっきりしておくぜ」
「それはわかったが」
 それでも話は終わってはいない。
「あんたは一体誰なんだ?それも教えてくれ」
「武蔵っていうんだ」
「ムサシ!?」
 ピートはそれを聞いて眉を少し動かせた。
「まさかとは思うが」
「そう、おいらさ」
 モニターに姿を現わしてきた。四角く、太い眉の男が出て来た。
「巴武蔵っていうんだ。知っていてくれているみたいだな」
「知らない筈はないだろう」
 ピートはそう答えた。
「ゲッター3のパイロットだったな。先の戦いで負傷して戦いから離れていたと聞いていたが」
「その傷も完治したんでね。だからこうして来たのさ」
「そうだったのか」
「それで武蔵君」
 今度はサコンが尋ねてきた。
「君が今乗っているのはゲッターか」
「ああ、そうさ」
 彼は答えた。
「ブラックゲッターってんだ。宜しくな」
「ブラックゲッター」
「そうさ、ゲッターを改造して作られたのさ。力は以前のゲッターとは比べ物にならないぜ」
「そうなのか。そういえば早乙女博士が旧ゲッターを改造していると聞いていたが」
「それがこれさ。それでだ」
「何だ?」
「おいらも一緒に戦わせてくれないか?その為にここに来たんだしな」
「我々としては拒む理由はないな」
 大文字はそれにこう答えた。
「むしろ願ったりだ。今は戦力が少しでも欲しい」
「じゃあ決まりだな。今からそっちへ行っていいかい」
「よし、じゃあ着艦だ」
「よし」
 こうして武蔵は大空魔竜に入った。すぐに竜馬達の歓待を受けた。
「武蔵、久し振りだな」
「御前が来てくれると百人力だぜ」
 まずは竜馬と隼人が彼に声をかけてきた。あの冷静な隼人まで笑っていた。
「御前等も元気そうだな」
「勿論ですよ」
 弁慶も話に入ってきた。
「先輩も元気みたいですね。あの時はどうなるかと思いましたよ」
「運がよかったよな、あの時は」
「ああ」
 竜馬がそれに頷いた。
「本当にな。それでそのブラックゲッターで俺達と一緒に戦ってくれるんだな」
「無論そのつもりさ。まあ大船に乗ったつもりでいてくれよ」
「御前はそう言うといつも失敗するからな」
 隼人は笑みを浮かべたままそう言った。
「だが期待しているぞ。一緒に恐竜帝国の奴等を叩き潰そう」
「ああ、やってやろうぜ」
 戦いを前にして頼りになる助っ人が参加した。ロンド=ベルは彼を迎えて意気揚々とシカゴに向かうことになった。
 シカゴはアメリカ最大の工業地帯である五大湖工業地帯の中でもとりわけ重要な都市である。アメリカの大動脈であるミシッシピー川の河口にあり流通の便がよい。この街が繁栄するのは当然であった。この街の歴史はアメリカの産業の繁栄の歴史でもあるのだ。
 だがそれと同時に陰もあった。この街は二十世紀前半の禁酒法の時代にはアメリカ最悪の街であった。暗黒街の帝王アル=カポネが君臨し暴利を貪っていたのだ。光あるところに影がある。この街はそうした意味でもアメリカの歴史の鏡の一つであったのだ。
 今そこに二つの種族の存亡をかけた戦いがはじまろうとしていた。人間と恐竜人。彼等は今この街において対峙しようとしていた。
「やっと来たって感じだな」
「ああ」
 ブライトはアムロの言葉に頷いた。
「それにしてもかなりやられているな。俺もシカゴには来たことがあるが」
 彼は目の前の破壊され尽くした街を見ながら言った。
「まるで廃墟だ。しかも御丁寧にあんなのまで置いてくれている」
 ニューガンダムの目の前にその不気味な要塞があった。それがマシーンランドであった。
「これをどうするか、だな。だがそれより前に」
「フッフッフ、待っていたぞ哺乳類共」
「ラドラ!」
 蛇に手足と翼を生やしたようなマシンに乗る男がロンド=ベルに対して言う。彼がキャプテン=ラドラであった。
「よくぞここまで来た。今こそ決戦の時だ」
「それは違うな」
 だが隼人はそれを否定した。
「何!?」
「ここで御前達は滅びるんだ。俺達の手によってな」
「戯れ言を」
「いや、これは戯れ言じゃない」
 今度は竜馬が言った。
「貴様等は知らないだろうが俺達は未来で御前達と戦った」
「馬鹿な」
「その時知ったんだ。御前達に未来はないとな」
「俺を惑わすつもりか」
「どうやら知らないらしいな」
 隼人は彼等を見据えてこう言った。
「だがいい。どのみち俺達は御前達を倒さなくちゃならない。この世界でもな」
「容赦はしないぞ、キャプテン=ラドラ」
「フン、それはこちらの台詞だ」
 ラドラはそう言って不敵に笑った。
「行くぞ、猿共」
 今度は猿と呼んだ。彼等にとて人間とは決して相容れない存在であるのだ。それは人間にとっても同じことであった。だからこそ存亡をかけた戦いとなるのであった。
 恐竜帝国のマシンが次々に現われる。そしてロンド=ベルに向かってきた。こうして決戦がはじまった。
「行くぞ皆!」
 まず竜馬が叫んだ。ゲッタードラゴンが飛ぶ。
「シカゴを、そして人類を守るんだ!」
「おう!」
 他のメンバーもそれに続く。まずはブラックゲッターが前に出て来た。
「これがおいらの新しい力だ!」
 彼はそう言うと跳んだ。そしてメカザウルスサキに襲い掛かる。
「喰らえっ!」
 両手の爪で切り裂く。それで敵を両断した。
 敵が爆発すると飛び去った。そして次に敵に襲い掛かる。ゲッターのそれよりも遥かに獣じみた動きであった。
「すげえゲッターだな」
 サンシローがそれを見て呟く。
「動きも速い。まるで影だ」
「そうだな」 
 リーがそれに同意した。
「影のゲッターか。言い得て妙だ」
「そうですね」
 ブンタが頷く。
「頼りになります。貴重な助っ人ですね」
「おい、そんな悠長なこと言ってる場合じゃないぜ」
 ここでヤマガタケが他の三人にそう言った。
「ヤマガタケ」
「敵は山程いるんだぜ。俺達も戦わなくちゃ駄目だろうが」
「そうだな。たまにはいいことを言うな」
「サンシロー、そりゃどういう意味だ」
「まあ落ち着けヤマガタケ」
 そんな彼をリーが宥める。
「今は御前にとっても見せ場だぞ。頼むぞ」
「頼りにしてますよ、ヤマガタケさん」
「お、おう」
 二人に乗せられて彼も戦いに入った。早速ビームを放つ。
「■っ!」
 それでゼンを一機破壊した。だがそれでもメカザウルスはいる。彼等もまた敵の中に踊り込んでいった。
 戦いがはじまって一分が経とうとしていた。後方で戦局を見守るガレリィに対してバットが声をかけてきた。
「そろそろだな」
「はい」
 ガレリィはそれに頷いた。そしてグダの艦橋にあるボタンの一つを押した。するとマシーンランドの突出した管に炎が宿った。
「まさか!」
 竜馬がそれを見て叫んだ。
「皆、避けるんだ!」
「何っ、避ける!?」
 それを聞いた勇がそれに反応して後ろに下がった。するとそこに炎が打ちつけられた。
「な・・・・・・」
「やはりな、マグマ砲だ。やっぱり来たか」
「馬鹿な、何故それを知っている!」
 それを聞いたバットとガレリィが驚きの声をあげた。
「このマグマ砲は今はじめて使ったのだぞ!それをどうして知っている!」
「さっきも言った筈だ!」
 竜馬はそれに対して答えた。
「俺達は既に一度御前達と戦っていると!だからこそ知っているのだ!」
「どういうことだ」
「だから言ってるだろう!俺達は今よりずっと未来で御前等と戦ってるってな!」
 今度は豹馬が叫んだ。
「俺達に一度見た技は通用しないぜ!それを覚えておきな!」
「そうだ、だからこそまた言おう」
 竜馬はまた言った。
「御前達に未来はないと!」
「ぬうう、まだ言うか!」
 バットが激昂した。
「ならばそれを覆してやる!■!」
「そちらこそ!」
 彼等の戦いは更に熾烈さを増してきた。マグマ砲が降り注ぎ光と炎が飛び交う。だがその中でもロンド=ベルは着々と前に進んでいた。
「ジークブリーカーーーーーッ!」
「ぬうおおおおおおおっ!」
 ザンキの乗るゼン二号が破壊された。彼は何とか脱出には成功したがゼンは爆発してしまっていた。
「おのれ!覚えていろよ!」
「御前のことなんか覚えておられるか!」
 宙の言葉が返る。そしてラドラの乗るシグはゲッタードラゴンと対峙していた。
「キャプテン=ラドラだったな」
「如何にも」
 ラドラはそれに頷いた。
「俺がキャプテン=ラドラだ。それがどうかしたか」
「話は聞いているぜ」
 隼人がそう述べる。
「恐竜帝国のエースだってな。相当な強さだそうだな」
「そんなことはどうでもいい」
 だが彼はそれを問題とはしなかった。
「俺の誇りは今はただ御前達を倒すことのみなのだからな」
「そうか。ならば話は早い」
「やってやるぜ」
 竜馬と弁慶が言った。そしてドラゴンは両手の斧を構えた。
「行くぞっ!」
 竜馬が叫ぶ。そしてその斧を投げつけてきた。
「ダブルトマホォォォォォォォォォォクブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥメランッ!」
 斧が唸り声をあげて飛ぶ。普通のメカザウルスならよけきれるものではない。そして一撃で倒される。今回もそうであるかと思われた。だが彼は違っていた。
「何のっ!」
「ムッ!」
 三人はそれを見て思わず声をあげた。
「この程度で俺は倒せはせぬぞ!」
「そうか、ならやりがいがある!」
「リョウ、ここは俺達の力を合わせるぞ!」
「そうだ、三人いればどんな奴だって倒せる!俺達は今までそうやってきたからな!」
「わかってる!隼人、弁慶、行くぞ!」
「おう!」
「行くぜ!」
 彼等はラドラと正面きった戦いに入った。そして熾烈な一騎打ちを繰り広げるのであった。
 戦いは続いていた。だが運動性と機動力において圧倒的なロンド=ベルの有利となっていき恐竜帝国は次第に劣勢となってきていた。そして七分が経った。
「フフフ・・・・・・ハハハハハハハハハハハ・・・・・・!」
 何処からか笑い声が聞こえてきた。
「!あの声は!」
「猿共よ!」
 空に青い顔の男の巨大な顔が浮かび上がってきた。それは恐竜人の顔であった。
「我が名はゴール!帝王ゴールだ!」
「御前が恐竜帝国の支配者か!」
「その通り」 
 ジュドーの言葉に答える。
「猿共よ、この時を待ちわびていたぞ!」
「何っ!」
「わしはこうして復活するまで培養液の中にいた。そしてその間常に己の■の断末魔を味わっていたのだ」
 彼は言った。
「貴様等にはわかるまい。その苦しみが。絶え間ない苦しみを味わってきた苦しみが」
「それは貴様自身が招いたことじゃねえか!」
 宙が言った。
「何っ!」
「それでも野望を捨てないとは大したものだな」
「ほざけ、猿が!」
 ゴールはそれを受けて叫んだ。
「今のわしはその苦しみにより作られた。怒りと憎しみによってな」
「それがどうしたってんだ!」
「聞くがいい、猿よ!」
 ゴールは宙の度重なる言葉にも防がれなかった。
「わしが今思うのは我が帝国のことのみ!そして今ここに宣言する!」
「リョウ」
「ああ」
 竜馬は隼人と弁慶の言葉に頷いた。彼等は今のゴールの言葉からそれまでの彼にはなかった鬼気迫るものを感じていたのだ。
「間も無くこの地球は我等恐竜帝国のものとなる!貴様等は滅びるのだ!」
「そんなこと誰が決めたのよ!」
 ユリカが激昂して叫ぶ。
「そうだ、手前は今まで土の下にいたんだろうが!大人しくそこに引っ込んでろ!」
「黙れ猿よ」
 ゴールはリョーコの言葉をも打ち消した。
「我等が悲願、貴様等ごときに潰されてなるものか!」
「今それをやってやるよ!」
「覚悟・・・・・・!」
 デュオとウーヒェイがまず突進しようとする。だが途中でそれをカトルとトロワが止めた。
「待って、二人共」
「ん!?どうしたんだよ」
「そこをどけ。止まっている暇はない」
「そうじゃない。何か感じないか」
「!?」
 二人はトロワのその言葉を聞いて動きを止めた。
「一体何だ。おめえ等がそんなに言うなんて」
「何か感じるのか」
「うん」
 カトルは二人に対して頷いた。
「絶対に何かあるよ」
「ヘッ、罠だったらなあ」
 忍がそれを一笑に伏して前に出る。
「断空砲であのデカブツごとぶっ潰してやらあ!」
「待って」
 だがそれをクェスが止めた。
「何だよ、おめえまで」
「このプレッシャー・・・・・・何」
「プレッシャー!?何か感じているのかよ」
「ええ」
 クェスは忍に対して答えた。
「これは・・・・・・人の」
「そうだ、これは人間の気だ」
 アムロも言った。
「中佐」
「フフフ、どうやら察しのいい者もいるようだな」
「どういうことだよ」
「見るがいい、猿よ」
 ゴールは忍に対しそう言った。そしてマシーンランドの前に突如として人間達が姿を現わした。
「な・・・・・・!」
 皆それを見て絶句した。
「人間・・・・・・」
「軍人だけじゃない、民間人まで」
「フフフ、どうだ。これでもまだマシーンランドを攻撃できるか」
「人間を楯にするつもりか」
「その通りだ」
 ゴールは今度は勇に答えた。
「手前、汚たねえ真似してくれんじゃねえか!」
「まさに冷血動物ってやつだな」
 甲児とキリーがそれぞれ言う。
「上手い手ではあるがね」
 万丈も言う。
「ああしていれば僕達も手は出せない。綺麗汚いは別にしてね」
「あんたそれでも帝王!?」
 アスカもゴールを睨み据えていた。
「帝王なら正々堂々と勝負しなさいよ!」
「あっ、アスカおいらの台詞を!」
「じゃああんたも言いなさいよ!」
「お、おう」
 武蔵もアスカに言われて言う。
「正々堂々と正面から来やがれ!戦いを何だと思っていやがる!」
「戯れ言をほざくな、猿共が!」
 だがゴールは逆に彼等を一喝した。
「笑止!種の存続をかけた戦いに卑怯も何もあるか!そんなものは通用せん!」
「ク・・・・・・!」
 そのあまりもの気迫に皆沈黙してしまった。やり方はともかくとしてゴールは帝王であり種の長であった。今その気迫がそこにいる全ての者を沈黙させてしまった。
「貴様等と人質、どちらから始末してくれるか」
「待て、ゴール!」
 ここで竜馬達とゲッターが前に出て来た。
「ムッ」
「俺が人質になる!だから他の人質達を解放しろ!」
「俺もだ!」
「勿論俺も!」
 隼人と弁慶も叫んだ。
「御前達」
「ゲッターはチームだ。俺達はいつも一緒だ」
「そういうことさ」
「済まない」
「ふむ」
 ゴールはそんな彼等を見て酷薄に笑った。
「我等恐竜帝国の仇敵である貴様等がか。面白い」
「そうだ、これで不服はないだろう」
「確かにな」
 ゴールはニヤリと笑って頷いた。
「待て!」
 だがここで武蔵も出て来た。
「御前等が行くなら俺だって!」
「駄目だ、武蔵!」
 しかしそれを竜馬が止めた。
「御前は残れ!」
「けれどよ!」
「御前までいなくなったら誰が地球を、そしてミチルさんを守るっていうんだ!」
「ウッ・・・・・・!」
 これにさしもの武蔵も沈黙してしまった。
「そういうことだ。俺達のことは気にするな」
「先輩、博士とミチルさんを頼みます」
「隼人、弁慶・・・・・・」
 これが追い打ちであった。もう武蔵は何も言えなかった。
 ゲッターはマシーンランドのすぐ側まで来た。そしてゴールに対して問う。
「ゴール」
「うむ」
「約束だ。人質を解放してもらおうか」
「わかった。ガレリィ長官」
「ハッ」
「人質の半分を解放しろ。よいな」
「わかりました」
 ゴールは残忍な笑みを浮かべていた。そして竜馬達はそれを聞いて顔を壊れんばかりに驚愕させた。
「な・・・・・・半分だと」
「約束が違うじゃねえか!」
「黙れ!」
 だがそれもゴールに一喝された。
「貴様等との約束なぞ守る必要もない!これは種の存続をかけた戦いだと申したであろう!」
「クッ!」
「そしてわしは恐竜の長だ!臣民の約束は守っても貴様等猿との約束を守る義理はないわ!」
 それこそがゴールの信念であった。彼はあくまで恐竜帝国の長であったのだ。
「貴様等とこれ以上話すつもりもない!マグマ砲、一斉射撃!」
 ゴールの指示に従いマグマ砲が放たれる。それはロンド=ベルを打ち据えた。
「うわっ!」
「ど、どうしたらいいってんだよ!」
「落ち着け、甲児君!」
 慌てだした甲児を大介が制止する。
「まだ勝つ方法は残っている、今は耐えるんだ!」
「けれどどうやって」
「それは・・・・・・」
 大介は心の中にあることを思っていた。だがそれを言うことはできなかった。
 しかしアムロは違っていた。彼は戦場を見回した後でこう言った。
「全軍、一時撤退だ!」
「何っ!?」
 皆それを聞いて流石に驚きを隠せなかった。
「ここから逃げろだって!?」
「竜馬達を見捨てるっていうんですか!?」
 甲児とコウがそれぞれ疑問の声を呈する。
「違う!」
 アムロは何時になく強い声を出した。
「ここで俺達がやられたら誰が彼等を、そして他の人質達を助けるんだ!」
「!!」
 皆それを聞いて背筋に雷が走った。
「ここは撤退だ!反撃は許さん!いいな!」
「は、はい!」
「了解!」
 皆何時にないアムロの気迫に飲まれた。そしてそれに従った。
 一斉に戦場を離脱していく。離脱する中武蔵は後ろを振り返った。
「竜馬、隼人、弁慶」
 彼は仲間達の名を呟いた。
「待ってろよ!絶対に助け出してやるからな!」
「武蔵!後は頼んだ!」
「ああ!」
 竜馬の言葉に頷いた。そして彼も戦場を離脱した。こうしてロンド=ベルは皆戦場から離脱したのであった。
「フフフフフフフフフフフフフフ」
 ゴールはその光景を見て笑っていた。
「勝ったぞ!わしは勝ったのだ!猿共に勝ったのだ!」
「はい、まさしく」
 ガレリィが恭しく頭を垂れる。
「陛下の御力により」
「うむ」
 バットもだ。ゴールは満足そうに頷いた。そしてまた言った。
「我が誇り高き恐竜帝国の兵士諸君!」
 自身の兵士達に対して言う。
「我等が恐れるものは最早何もない!このまぶしい太陽が遂に我等のものとなったのだ!」
「帝王ゴール万歳!」
「恐竜帝国に栄光あれ!」
「そうだ、栄光だ!」
 ゴールは叫んだ。
「この太陽の光こそが我等の栄光ぞ!」
「おおーーーーーーーーっ!」
 恐竜帝国の者達が叫んでいた。彼等は勝利の美酒に酔おうとしていた。

 ロンド=ベルはシカゴ郊外にまで退却していた。そしてそこで策を練っていた。
「あと一時間だ」 
 その中でサコンがこう言った。
「シカゴの大気成分が人間にとって有害なものとなるまでな」
「あと一時間か」
「はい」
 シナプスの言葉に頷いた。
「それまでにマシーンランドを破壊しなければシカゴはお終いです」
「そんなこと誰が許すってんだよ」
「時間がな」
 サンシローにそう答える。
「これだけはどうしようもない」
「クソッ・・・・・・!」
「人質さえ救出できれば光明は見えるのだがな」
 シナプスは深刻な顔のまま頷いた。
「それはそうですが」
「マシーンランドへの攻撃と人質の救出を同時に行うしかありませんね」
 ここでアムロがそう提案した。
「両方か」
「はい」
 そして頷いた。
「それしかないでしょう」
「けれどそれは危険な賭けですね」
 セシリーが反論する。
「あのマシーンランドを前にして」
「それはわかっている。けれどそれしかない」
 アムロの声は強いものであった。
「違うだろうか」
「いえ」
 セシリーは首を横に振った。彼女にもそれはわかっていた。
「やるぞ、何としても」
「それなら俺が人質の救出をやらせてもらうぜ」
「宙」
「俺は生身の人間じゃないんでね。連中の大気にも平気なのさ」
 彼は不敵に笑ってそう言った。
「いいだろ、中佐」
「頼めるか」
「おう」
「僕も行かせてもらおうか」
 万丈が出て来た。
「万丈」
「潜入工作はお手のものなんでね。いいかな」
「万丈ならいいな。じゃあ頼む」
「よしきた。けれど二人だけじゃ心もとないかな」
「では俺達も行こう」
「ヒイロ」
 ヒイロ達五人も出て来た。
「俺達の本来の仕事はこれだ。適任だと思うが」
「そうだな。では頼む」
「わかった」
 こうして七人行くことに決まった。とりあえずは人選は終わった。
「後は」
 細かい作戦について話し合おうとした。だがここでラー=カイラムの通信のコール音が鳴った。
「!?何だ」
 ブライトはそれに顔を向けた。
「これは・・・・・・極東支部からです」
「あいつか」
「多分ね」
 宙はそれを聞いて嫌な顔をした。万丈もそれに続いた。そして予想通りそのあいつが顔を現わしてきた。
「三輪だ。すぐに日本に戻れ」
 彼は出て来るなりそう言った。
「何故ですか」
「マシーンランドはどうされるおつもりですか」
 大文字とシナプスが続け様に問う。彼はそれに対して答えた。
「前にも言ったな、化学兵器を投入すると」
「はい」
「これより一時間後シカゴに対して化学兵器を投入する。だから戻れというのだ」
「化学兵器を」
「そうだ。対爬虫人類用の毒ガスだ。これで奴等を一気に殲滅する」
 彼はそう述べた。
「な・・・・・・毒ガス」
「そうだ。何か不都合があるか」
 アムロの驚きの声にも動ずるところはなかった。
「化学兵器としては普通だが。それがどうかしたか」
「長官」
 たまりかねたブライトが申し出てきた。
「まだシカゴには一般市民が大勢います」
「わかっている」
「そこに毒ガスを使えば・・・・・・。どういうことになるかおわかりでしょうか」
「無論だ。それでもあえて使うのだ」
「馬鹿な!」
 一矢がそれを聞いて激昂した。
「あんた・・・・・・それで軍人か!」
「何っ!」
 三輪もそれを聞いて激昂した。
「一般市民を・・・・・・そしてリョウ達を犠牲にするなんてそれでも軍人の考えることか!」
「一般市民が勝手なことを言うな!」
 三輪は叫んだ。
「わしは軍人だからこそ人類の勝利を考えて毒ガスを投入するのだ!それの何処が悪い!」
「あんたのやろうとしていることはあのティターンズと同じだ!ジオンとどう違うというんだ!」
「黙れ、一般市民が!」
 彼はまた叫んだ。
「全ては人類の為だ、何を甘いことを言っておるか!」
「それで勝ったとしても誰が喜ぶ!」
「勝利は喜ぶ為のものではない!生き残る為のものだ!」
「それでは連中と一緒だ!」
「それがどうした!」
 一矢も三輪も引かない。だが他の者達は違っていた。
「俺は戦うことだけを教えられてきた」
 まず鉄也が口を開いた。
「だが今は違う。甲児君や大介さんに多くのことを教えてもらった」
「鉄也さん」
「だから言おう。そんな命令を聞くつもりはない」
「何だと!」
「鉄也さんの言う通りだぜ」
「そうだな」
 甲児と大介も続いた。
「顔を洗って出直してきな!」
「僕達は必ず人質もリョウ君達も救出して恐竜帝国を倒す、ここは大人しくしてもらいたいですね」
「ク・・・・・・貴様等」
「長官」
 顔を真っ赤にした三輪に対してシナプスが声をかけてきた。
「何だ!?」
「一時間後と仰いましたな」
「それがどうした」
「ではそれまでにマシーンランドを破壊し、人質を救出すればよいのですね」
「ぬっ」
「お話はわかりました。それでは」
「待て!貴様等わしの命令に逆らうつもりか!」
 さらに喚こうとする。だがここで通信が切れた。三輪はモニターから姿を消した。
「あれ?おかしいな」
 マサキが笑いながら言った。
「急に消えちまったよ。変なこともあるもんだ」
「全くだな」
 ヤンロンもそれに頷いた。
「だがこれであの長官の了承は得た。少なくともそうなる」
「マサキ、済まないな」
「何、機械が故障しちまったんですから。大佐が謝る必要はないですよ」
「そうか。だがこれでわかるな」
「ええ」
 皆シナプスの言葉に頷いた。
「後には引けなくなった。あと一時間だ」
「一時間」
「そうだ。私の考えに賛成できない者は自由に申し出ていい。責任は私が取る」
 だが誰も動こうとはしなかった。皆その場に残った。
「済まないな」
 シナプスはそれを見てそのいかめしい顔を僅かにほころばせた。
「諸君等の決意に感謝する」
「何、当然のことですから」
 万丈がそう述べた。
「万丈君」
「どのみち奴等との戦いは避けては通れないでしょうし」
「そういうことだな」
 鉄也も頷いた。
「この世界でもな。俺達は負けるわけにはいかないってことさ」
「だな」
 最後に甲児の言葉に頷いた。これで決まりであった。
「じゃあ行くか」
「ああ」
 ロンド=ベルは再び決戦に挑む。これが恐竜帝国との最後の戦いになるのであった。


第三十二話   完

  
                                    2005・7・15


[299] 題名:第三十二話その一 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年03月05日 (日) 18時55分

             恐竜帝国の侵攻
 誰かが闇の中から彼を呼んでいた。それは女の声であった。
「司令」
(俺が司令?)
 彼はそれを聞いて不思議に思った。
(馬鹿な、俺は司令ではない。どういうことなんだ)
「マーグ司令」
 だが声はそう言っていた。それは確かに彼のことを呼んでいた。
(俺を呼ぶのは誰だ?)
 今度はこう思った。
(俺を司令と呼ぶ。君は一体誰なんだ)
 気になり目を覚ました。するとそこに彼女がいた。
「ようやく目覚められたのですね」
 そこには青緑のショートヘアの美少女がいた。丈の短いスカートを身に着けている。
「君は」
 マーグはベッドに寝ていた。そして彼は彼女をそこから見上げていたのだ。見れば少女は彼を見て微笑んでいた。
「私はロゼです」
「ロゼ」
「はい。バルマー帝国銀河辺境方面軍第八艦隊副司令です」
「バルマーの」
「はい」
 ロゼと名乗った少女は答えた。
「そして第八艦隊だって」
「御存知ないですか」
 ロゼはここでマーグに問うてきた。
「何を」
「第七艦隊は全滅してしまいましたから」
「そうなのか」
「はい、地球で。そこの原住民達によって全滅させられたのです。ラオデキア=ジュデッカ=ゴッツォ士師はその際に戦死されたようです」
「ラオデキア司令とは」
「マーグ司令」
 ロゼはそれを聞いて悲しい顔を作った。
「御友人のことをお忘れですか」
「友人。彼と私がか」
「はい。ラオデキア士師は司令の御友人でした。同じ士師としても互いに認め合っていたではありませんか」
「そうだったのか」
 だがマーグには今一つよくわからない話であった。
「私にとっては重要なことなのだな」
「はい」
 ロゼは頷いた。
「悪いがよく覚えていないが」
「貴方は地球への征伐の為に派遣されることになったのです」
「地球にか」
「そうです。ラオデキア士師、そして他の多くのバルマーの将兵の仇を取る為に。だからこそ今このヘルモーズに乗っておられるのです」
「ヘルモーズ?」
「我等がバルマーの艦隊の旗艦です」
「そうか。宇宙船なのだな」
「簡単に言いますと。巨大な艦ですよ」
「そうなのか」
 だが実感は沸かなかった。
「どうも今一つよくわからないな」
「いずれおわかりになられると思います。地球のことと共に」
「そうか」
「ええ。ですから今暫くは私にお任せ願いますか」
「君に?何をだ」
「全てのことをです」
 彼女は微笑んでそう言った。
「戦いのことも。宜しいでしょうか」
「悪いが私は今何もわからない」
 彼は首を傾げながらそう答えた。
「だから任せるも何も。君に言われた通りにしよう」
「はい」
「それでは地球に到着したならばすぐに作戦を開始してくれ」
「わかりました」
 ロゼは笑みと共に応える。
「必ずや地球を我がバルマーの手に」
「わかった。バルマーの手に」
 そう言いながら起き上がった。そしてベッドから出た。
「マーグ様、どちらへ」
「いや、何」
 彼はロゼに顔を向けて言う。
「広い船らしいね、このヘルモーズは」
「は、はい」
 ロゼは何故か戸惑いながら答えた。何故戸惑っているのか彼女自身にもよくわからなかった。
「その通りですが」
「なら色々と見て回りたい。これから地球までかなりの距離があるようだし」
「ええ」
「案内してくれたら嬉しいのだけれど。いいかな」
「私がですか」 
 それを聞いて今度は戸惑った。
「あの、司令」
「何だい?」
「あの、その」
 何故戸惑っているかはやはりわからなかった。だがそれでも問うことはできた。そして彼女は問うた。
「本当に私なぞでいいのでしょうか」
「今ここに君以外で誰がいるというんだい?」
「それはそうですが」
 先程までの冷静さは何処にもなかった。ロゼは不自然な程うろたえていた。
「ただ」
「ただ、何だい?」
「本当に私でいいのですよね」
「だから君以外に他に誰がいるんだい?」
「はあ」
 何故か狼狽していた。狼狽しながら答える。
「それではお願いします」
「君が?」
「あの、何か」
「頼んだのは私だが。違ったのかな」
「あ、そうでしたね」
 ロゼはまだうろたえていた。
「そうでした。それでは司令」
「うん」
「行きましょう。案内させて頂きます」
「頼むよ」
 こうしてマーグはロゼの案内のもとこのヘルモーズの艦内を歩き回った。そしてゆっくりと地球に向かうのであった。多くの軍を共に。

 ティターンズ、ドレイク軍が東欧を制圧し、ギガノス軍が中央アジアを中心に暴れ回っていた頃北米においては一つの勢力がその牙を見せようとしていた。
「キャプテン=ラドラよ」
「ハッ」
 地底から声が聞こえてきていた。
「シカゴの防衛はどうなっているか」
「かなり手薄となっております」
 声はそう答えた。
「そうか。遂に時が来たな」
「はい」
 声はまた答えた。
「これよりシカゴを制圧する。よいな」
「わかりました」
「先鋒はそなたとする。必ずや制圧せよ。失敗は許されんぞ」
「無論承知のこと。では帝王ゴールよ」
「うむ」
「必ずや地上を再び我等が手に」
「頼むぞ」
 彼等はそう言うと闇の中に消えた。そして闇の中で何かが蠢く音がした。

 ローマでの戦いの後ロンド=ベルは南フランスの保養地であるニースにいた。ここでほんの骨休みであった。
「たまにはこんなのもいいね」
 万丈はレストランでフランス料理を楽しみながらそう言った。
「今まで戦っていたばかりだったから。羽根を休められるよ」
「はい、万丈様」
 その向かいの席にはギャリソンがいた。
「ですがここの料理は今一つ爪が甘いですな」
「そうかなあ」
 それを聞いたトッポが首を傾げた。彼も万丈達と同じデーブルにいたのだ。
「美味しいと思うよ。まずいの?」
「味は素晴らしいです」
 ギャリソンはステーキを切って口に入れながらそう答えた。
「ですが」
「何かあるんだね」
「はい。ソースのスパイスが少し多うございます。それが問題かと」
 彼はソースのスパイスの多さを問題にしていたのだ。
「それさえなければ完璧なのですが」
「厳しいなあ」
「完璧主義者だからね、ギャリソンは」
 万丈はそれを聞いて笑いながらそう述べた。
「ダイターンの整備も。これからも頼むよ」
「お任せ下さい」
 万丈達がレストランで食事を楽しんでいる間他のメンバーはホテルのプールにいた。そしてそこで楽しんでいた。
「ふう、何かこうしてプールで泳ぐのも久し振りね」
 ピンクのビキニのユリカがプールから上がってそう言う。
「アキトもそうじゃないの?今までずっと戦ってばかりだったし」
「俺はそうは思わなかったけれど」
 だが彼はそれについては特に気にとめていないようであった。
「ラーメンを作っていたし。そっちもかなり上手くなったしね」
「またラーメンなの?ここでも」
 ユリカはそれを聞いて頬を少し膨らませた。
「今日だけは私と遊びましょうよ。照れなくていいから」
「いや、照れるとかそんなのじゃなくて」
 いきなりユリカに抱きつかれて戸惑った。
「俺はそもそもラーメンを作りたくて」
「それはわかってるから」
 わかっていなかった。
「遊びましょうよ。さ、泳ぎましょ」
「だ、だから」
「ねえルリちゃん」
 赤のかなりきわどい水着に身を包んだハルカが白いビキニのルリに声をかけてきた。
「はい」
「あのおじさんはこれからどう動くと思う?」
「おじさんといいますと」
「マスターアジアよ。あの人は一体何者なのかしら」
「一言で言うと凄い人ですね」
「それどころじゃないわよ」
 黄緑のワンピースのアスカがそれを聞いて口を尖らせた。
「一体何処にあんな人がいるのよ。アストロ超人並じゃない」
「アスカ、何でそんな古い漫画知ってるんだ?」
 ケーンがそれに突っ込みを入れる。
「意外と中身は年食ってたりして」
「じゃあこれからはアスカ夫人と御呼びしようか」
「あんた達は黙ってなさい!」
 アスカはそれを聞いて三人を一喝した。
「話がややこしくなるでしょーーが」
「そうかあ?」
「気のせいだよなあ」
「偏見はよくないな」
「・・・・・・口が減らないわね、本当に」
「まあいいわ。君達も話に入りたいのね」
「そういうこと」
「よろしければ」
「レディーの中に加えて頂きたい」
「意外と女性の扱い方は心得ているじゃない」
 ハルカはそれを聞いてクスリと笑った。
「君達いい男になるわよ」
「いやあ、照れるなあ」
「ハルカさんにそう言ってもらえると」
「嬉しいというか何というか」
「とにかくね」
 アスカが三人を横目で睨みながら言う。
「あの変態がこれから敵になるのはかなりまずいのよ。それはわかってる?」
「今度は変態か」
「アスカ、何であの人にそんなに嫌悪感を示すんや?」
 シンジとトウジも思わず首を傾げてしまった。
「示して当然でしょ」
 彼女はそれに対してそう答えた。
「相手は人間じゃないんだから」
「おい、それはまずいぞ」
 ケーンがそれを聞いて珍しく顔を強張らせた。
「それを言うとダバさんやタケルはどうなるんだよ」
「ああ、俺達は別にいいけれど」
 ダバはそれを特に気にはしていなかった。
「ヤーマン人だってことはわかってるから」
「ダバさん達は人間よ」
 しかしアスカはこう言った。
「そう思ってくれるかい?」
「ええ。少し背が高いけれど。どっちにしろルーツは同じじゃないかしら」
「そうかもな」
 ダバはそれを肯定した。
「バルマー人もね。詳しくはわからないけれど俺達は多分同じなのだと思う」
「それはバイストンウェルの人間もか?」
 ニーも話に入ってきた。
「そうだと思うな」
 ダバはそれも肯定した。
「外見も中身も同じだ。それに考え方もな」
「そうなのか」
「ただ単にオーラ力の差だけだと思う。これはラ=ギアスの人間でもそうだな」
「ショウ」
「そうした多少の差はあるけれど俺達は結局同じなんだと思う。住んでいるところは関係ないんじゃないかな」
「そういうものか」
「あたしはそう思っているけど」
 アスカがまた言った。
「ただあの化け物だけは別なのよ」
「今度は化け物かよ」
「よくもまあそれだけ」
「バルマーともゼントラーディともやりあったしバイストンウェルのことも知ってるわ。だからわかったのよ」
「使徒もそうだったしね」
「結局ね、あたし達は人間なのよ。けれどあの怪物爺さんは別だし」
「使徒なのかも」
 黒いワンピースのマヤがポツリと呟いた。
「こら、そこ」
 真っ赤なハイレグのミサトがマヤを注意する。
「怖いこと言わない」
「否定はできないわね」
 白いワンピースの上から白衣を着たリツ子がここで言う。
「リツ子まで」
「けれどあれは普通じゃないわよ」
「むむむ、確かに」
 それはミサトも否定はできなかった。
「あんな人はじめて見たのは事実ね」
「そういうことね。一体何者なのかしら」
「少なくともあの人は地球の人です」
 そんな彼女達にルリがそう答えた。
「そうなの」
「はい。骨格等にこれといった差はありませんでした。おそらく身体の能力を一〇〇パーセント引き出しているだけかと思います」
「北斗神拳と同じということか」
 それを聞いたフォッカーが異様に低い声でそう呟いた。
「ならば」
「あ、あのフォッカー少佐」
 ミサトがそれを見て慌てて彼を止める。
「それを言うと話がおかしくなりますから」
「ん、そうか」
「ですから止めて下さい。お願いですからね」
「わかった。では大人しくしておこう」
「はい」 
 こうしてフォッカーは止めた。そして話が再開された。
「それでああした戦いができるのだと思います。それでも凄いことですが」
「そうだったのか」
「それでも異常よね」
「御前はホンマにあの人が嫌なんやな」
 アスカの言葉を聞いたトウジが呆れた声を出した。
「それはいいでしょ。とにかくあれが敵なのよ」
「はい」
 ルリがそれに頷いた。
「あの人の力はデビルガンダムに匹敵する程です。一個軍よりも上でしょう」
「一人で」
「けれどあの人なら」
「今後あの人が前に現われたなら注意が必要です。かなりの苦戦になるでしょう」
「俺達が総掛かりでもか!?」
「はい」
 ケーンの問いに素っ気なく答える。
「おそらくは。だからこそ注意が必要なのです」
「うっ」
「それにデビルガンダムもか。本当に厄介だな」
「ああ」
 ダバがショウの言葉に頷いた。
「これからのことを考えるとな。大変だな」
「けれどそれを何とかしてきたのがロンド=ベルだろう?」
 ケーンがここで言った。
「だったらやろうぜ。敵が来たらそこでやっちまえばいいし」
「あんたはホンットにお気楽ね。よくそんな簡単に言えるわね」
「それが俺の性分なんでね」
 アスカにそう返す。
「その時に思いっきりやらせてもらうぜ。それでいいんじゃねえのか?」
「それはそうだけれど」
 ミサトはそれを聞いて少し複雑な顔をした。
「何かね。ちょっちお気楽過ぎないかしら」
「ミサトもそうじゃないの?」
「確かにそうだけれど」
 リツ子の言葉も少し認めた。だがそのうえで言った。
「それでもね。ケーン君達はお気楽過ぎるわ」
「だがそれで何とかなってきたのも事実だしな」
 フォッカーがまた言った。
「そんなに深刻になってもはじまらない。ある程度リラックスしていこうぜ」
「そうですね」
 ルリがそれに頷いた。
「ではそうしましょう。そして今はここで遊べばいいと思います」
「さっすがルリちゃんは話がわかるね」
「そういうわけではないですが。フォッカー少佐」
「何だ?」
「お酒を飲んだままプールに入るのは止めた方がいいですよ」
「うっ」
 見れば顔が赤い。かなり飲んでいるようであった。
「わかりましたね」
「ああ。ったくルリちゃんにはかなわねえな」
「というかお酒飲んでいる方が問題だと思うけれど」
「シンジ、今度御前さんにもおごってやるぜ」
「あの、僕未成年ですから」
 シンジはそれを聞いて慌てて拒む。だがフォッカーはそれでも言った。
「何、男ってのは飲むのも仕事だ。遠慮するな」
「けど」
「一杯やってみろ。病み付きになるぞ」
「い、いいですよ」
「そう言うな」
「いえ、本当に」
「ウイスキーだ。これ一本飲めば御前も俺みたいになれるぞ」
「ですから」
「ほれ、グッといけ」
 何処からかウイスキーのボトルを取り出していた。それを執拗にシンジに勧めようとする。シンジはそれを断ろうとする。そしてここでミサトが間に入る。一同はそんなやりとりをしながらプールで休暇を楽しんでいた。
 そうして数日が過ぎた。休暇が終わりブライトもアムロも艦橋に入っていた。
「長いようで短かったな」
「休暇なんてそんなもんさ」
 アムロがブライトの呟きにそう返す。
「俺も機械いじりに専念できたしな、久し振りに」
「またそれか」
 ブライトはそれを聞いて苦笑した。
「相変わらずだ、そっちは」
「どうも外に出て遊ぶのは苦手でね。それは御前もじゃないのか」
「確かにな。船の中にいる方が落ち着く」
 ブライトはそれを認めた。
「どうやら私はそうした意味で生粋の軍人らしいな」
「だろうな。御前がいるおかげでロンド=ベルも締まっているしな」
「おい、褒めても何も出ないぞ」
「ははは」
 そんなやりとりをしていた。だがそんな和やかな雰囲気はほんの一時のことであった。
「バッカモーーーーーーーン!」
 いきなり怒声と共にモニターに厳しい顔の男が出て来た。三輪であった。
「三輪長官」
「どうしてここに」
「どうしてもこうしてもあるか!一体何をしておるか!」
「何って・・・・・・。今まで休暇をとっていたのですが」
 アムロが彼に答える。
「ミスマル司令の許可は得ていますよ」
「環太平洋区の司令官はわしだ!わしの許可なしに勝手に休暇をとるとはどういうことだ!」
「といいましても今我々は欧州にいますし」
 ブライトが答える。
「それならば欧州区の司令官の指示に従うのが基本ではないのでしょうか」
「貴様等の指揮権はわしの手にある!貴様等の多くは環太平洋区出身だな!」
「それはそうですけれど」
 これも事実であった。とりわけ日本人が多いのが特色である。
「ならば当然わしの管轄下にあるのだ!それを忘れるな!」
「何て滅茶苦茶な解釈だ」
 アムロもブライトも内心そう思ったがそれは口には出さなかった。その程度のことはわきまえなければならない立場にいたからである。
「ではすぐに来い。場所はシカゴだ」
「シカゴ」
「シカゴに恐竜帝国が総攻撃を仕掛けてきた。それにあたれ」
「わかりました」
「ただし、貴様等を完全に信用したわけでなない」
「どういうことですか!?」
「二十四時間後我々はシカゴに化学兵器を使用する。ことは徹底的にやらなければならん」
「馬鹿な、化学兵器なぞ!」
 さしものブライトも冷静さを失っていた。
「南極条約はどうなるのですか!」
「そんなことを言っている場合か!」
 三輪はまた叫んだ。
「敵は人ではない!見よ!」
 モニターにシカゴの映像を映す。そこには紫の巨大な化け物がいた。いや、化け物ではなかった。それは生き物ではなかったからだ。
「何ですか、それは」
「マシーンランドという」
 三輪はそう述べた。
「恐竜帝国の最終兵器らしい。これでシカゴの大気成分を奴等に合ったものとしているのだ。それが完了するまで二十四時間なのだ」
「だから二十四時間だったのですか」
「そうだ。ようやくわかったか」
「ですがそれでも化学兵器なぞ」
「まだ言うか、この愚か者!」
 三輪はまた叫んだ。
「これは種の生存をかけた戦いだ!甘いことを言っている場合か!」
「しかし!」
 ブライトはそれでも食い下がった。
「シカゴの市民はどうなるのですか!」
「戦いには犠牲も必要だ!」
 三輪も負けてはいなかった。
「そんなことを言っていて戦争になると思っているのか!」
「ですが!」
「ですがもこうしたもない!」
 彼はまたもや叫んだ。
「つべこべ言っている暇があればすぐにシカゴに向かえ!よいな!」
 そう言って一方的にモニターを切った。それで終わりであった。
「相変わらずだな」
「ああ」
 ブライトはアムロの言葉に頷いた。
「だがどうする。といっても行くしかないか」
「すぐにメンバーを集めてくれ。いいか」
「わかった」
 こうしてロンド=ベルのメンバーが集結した。そしてすぐにニースを経つこととなった。
「しかしとんでもない話だな」
 弁慶が離陸する大空魔竜からニースを見下ろしながら言った。
「二十四時間後で化学兵器を投入するか。何処までとんでもねえおっさんなんだよ」
「だがそれも戦争だ」
 隼人がここでこう言った。
「あいつを肯定するのか?」
「そうじゃない」
 竜馬に答えた。
「俺もあのおっさんは好きにはなれない。とんでもない奴だとは思っている」
「じゃあ何故」
「それが戦いってやつだからだ。俺達だって自分達を楯にして戦っているな」
「ああ」
「それも結局同じなんだ。俺達とあのおっさんは根本的に違うが戦いにが犠牲がつきものなんだ」
「だがシカゴの市民を見殺しにはできないぜ」
「わかってるさ」
 弁慶にも答えた。
「何としてもやらなくちゃな。それこそ俺達の命をかけても」
「そうだな、行くか」
「ああ」
 彼等はそんな話をしながら大西洋に出た。それを遠くから見ている男がいた。
「全ては予定通りですね」
「そうなのですか、御主人様」
 チカがグランゾンのコクピットで主に対してそう声をかけてきた。
「ええ、全てはね。ところで彼は元気ですか」
「彼!?ああ、あのむさい奴ですね。元気ですよ」
「彼に伝えて下さい。出番が来たと。是非共ロンド=ベルに向かって欲しいとね」
「わかりました。けれどいいんですか?」
「何がですか」
 シュウはチカに問うた。
「いえ、彼ですよ。大丈夫かな、と思いまして」
「前の戦いの傷なら問題ないですが」
「そうじゃなくてですね」
 チカはまた言った。
「何かあぶなっかしいんですよ。とんでもないことをしそうで」
「その時こそ私の出番ですよ」
 シュウはここで思わせぶりに笑った。
「出番!?」
「はい。彼を死なせるわけにはいきませんからね。彼はこれからも必要な方。こんなところで命を落されては困るのです」
「そうなのですか」
「それでは私達も行きますよ」
「ええ」
「ネオ=グランゾンに変えてね。いいですね」
「わかりました」
 こうして彼等もシカゴに向かった。だがロンド=ベルの面々はそれには気付いていなかった。

 ロンド=ベルはそのままアメリカに向かっていた。大文字がピートに尋ねた。
「ピート君、シカゴまでどの位かね」
「あと一時間程です」
 彼はそう答えた。
「一時間か。辛いな」
「辛くはないですよ」
「どうしてだい?」
「戦いは一瞬で済ませますから」
 彼の声には独特の重みがあった。
「一瞬でね」
「そうか」
 そこに決意があった。見れば彼の目は何時になく厳しいものであった。彼もまた故郷での戦いに燃えていたのであった。


[298] 題名:第三十一話その二 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年03月05日 (日) 18時50分

「行くぞドモン!」
「はい!」
 二人は呼吸を合わせて叫び合う。そして言った。
「流派東方不敗は」
「王者の風よ!」
 空中で力強い構えをとった。そしてそのまま二機の異形のガンダムに向けて急降下を仕掛ける。
「ヘッ、東方不敗がどんなもんか知らねえが」
 まずはミケロが出て来た。
「このガンダムヘブンズソードを倒せると思っているのかよ!」
「流派東方不敗は無敵!」
 ドモンがそれを聞いて言葉を返す。
「貴様ごときに敗れはしない!」
「ならばやってみやがれ!」
 ミケロもまた叫んだ。
「やれるもんならよ!」
「では見せてやろう」
 ドモンは言った。
「これが流派東方不敗だああああああああっ!」
 そして拳を放つ。それでまずはミケロの飛ばしてきた羽根を弾き飛ばした。
「何ィッ!」
「ドモン、次だ!」
「はい!」
 二人は動きを合わせてきた。
「ダブルシャイニング・・・・・・」
「ストラァーーーーーーーーーーイクッ!」
 それでヘブンズソードを弾き飛ばした。ミケロは無様に宙を舞った。
「ウオオオオオオオオオオッ!」
 だが二人はそのまま急降下を続ける。そしてその下にいるグランドガンダムを見下ろした。
「今度は貴様だぁっ!」
「面白い」
 チャップマンはやはり不敵な笑みを浮かべて見上げていた。
「私に一度見た技を通じないぞ」
「わかっている!」
 ドモンはまたもや叫んだ。
「今度はこれだあっ!師匠!」
「うむ!」
 二人は互いに顔を見て頷き合った。そしてまたもや動きを合わせる。
「覇千王気炎弾」
 今度はマスターアジアが言う。
「連射ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!」
 二人は同時に覇千王気炎弾を放った。それは凄まじい唸り声をあげグランドガンダムに襲い掛かった。そしてチャップマンはそれを避けることができなかった。
「グオオオオオオオオオオオッ!」
 激しい衝撃がグランドガンダムを襲う。そして大破した。二人は瞬く間に二機の異形のガンダム達に対してかなりのダメージを与えたのであった。
 二人は着地した。そして背を重ね合ってミケロとチャップマンに対して言う。
「どうだ、俺達の力は!」
「大したものだと言っておこう」
 チャップマンは煙が沸き起こるグランドガンダムのコクピットからそう述べた。
「まさかこれ程までとはな」
「俺を吹き飛ばすとはな。やってくれるじゃねえか」
 空から声がした。ミケロもいた。
「まだやるか」
「ならば相手になるぞ」
「そうしたいのはやまやまだが」
 チャップマンが答える。
「今日はこの位にしておこう」
「逃げるのか」
「そうじゃねえよ」
 今度はミケロが答えた。
「こっちにも都合があるんでな。手前の相手は別の奴がやってくれるさ」
「何!?」
「フフフ」
 驚くドモンに対してマスターアジアは何故か意味ありげに笑っていた。
「じゃあな。精々頑張りな」
「さらばだ」
 二人は姿を消した。気がつけば戦いは終わっていた。デスアーミー達もジョルジュ達により皆倒されてしまっていた。
「もう終わりか」
「そのようですね」
 ジョルジュが答えた。
「他愛ないといえばそれまでですが。何か引っ掛かりますね」
「それビンゴみたいだぞ」
 彼等の側にやって来たライトがそう述べた。
「ライト」
「マギーちゃんが教えてくれてるぜ。またお客さんだ」
「デスアーミーか」
「いや、それだけじゃない」
「では何者が」
「これは普通の敵ではないです」
 ナデシコもドラグナーチームの他のロンド=ベルの面々もやって来た。その中にいるルリがドモン達に対してそう述べた。
「おや、ルリちゃんもわかったようだね」
「はい」
 ルリはライトの言葉に頷いた。
「これは・・・・・・かなり危険な相手です」
「まさか」
 それを聞いたドモンが身構えた。
「そいつは俺が追っている」
「そうよ、彼よ」
 レインがライジングガンダムで出ていた。そして彼の側に来た。
「キョウジ=カッシュよ」
「やはり」
「来るわ。覚悟はいい?」
「無論」
 ドモンの声がそれまでのより遥かに強くなった。
「その為に俺はここまで来た」
「そうだったな」
 マスターアジアがそれに頷く。
「ではドモンよ、よいな」
「はい」
 ドモンもまた頷いた。
「さあ来い、デビルガンダム」
「デビルガンダム」
 その名を聞いた他の者達の背に寒気が走った。
「何という禍々しい名だ」
「一体どんな奴なんだ」
「すぐにわかる」
 ドモンは一言そう述べるだけだった。だがここで禍々しいまでのプレッシャーがロンド=ベルの面々を襲った。
「この気は・・・・・・」
「何てとんでもない力なんだ」
「気をつけて下さい」
 そんな彼等に対してルリが言う。
「ルリちゃん」
「デスアーミー達も来ていますから」
「ああ、わかってるさ」
 答える彼等の周りに早速姿を現わしてきた。かなりの数であった。
「もう来ているしな」
「じゃあやるか」
「おいドモン」
 甲児がドモンに声をかけてきた。
「甲児」
「そのデビルなんとかっているバケモンは御前等に任せるぜ、いいな」
「ああ」
「思う存分ギッタンギッタンにやってやりな。そのデビルなんとかってのを」
「甲児君、デビルガンダムよ」
 名前を覚えられない甲児に対してさやかが突っ込みを入れた。
「わかってるよ。デビルガンダムだったよな」
「わかってるじゃない」
「今覚えたのさ。まあそんなことどうでもいいや。とにかくドモンよ、やってやるんだ、いいな」
「ああ」
「雑魚は俺達がやるからな。御前は大物をやるんだ」
「済まない」
「いいってことよ。じゃあな」
 甲児はそう言うと戦いに向かった。すぐに拳を振り回す。
「ロケットパァーーーーーーンチッ!」
 それで早速デスアーミーを一体破壊した。相変わらずの威力であった。
 他の者達も負けてはいなかった。彼等は雲霞の如き数のデスアーミー達に対して果敢に立ち向かっていた。
「ドモン、後ろは安心していいぞ」
「はい」
 師の言葉に頷く。
「御前はデビルガンダムに入るのだ」
「えっ!?」
 ドモンは最初師が何を言っているのかわからなかった。
「師匠、今何と」
「聞こえなかったのか」
 マスターアジアはそれを聞いて笑った。
「御前はわしと共に世界を救うのだ。デビルガンダムの力のよってな」
「馬鹿な!」
 彼はまだ師が何を言っているのかわからなかった。
「師匠、ご冗談を」
「わしが嘘を言ったことがあるか?」
 だがマスターアジアは逆にこう問うてきた。
「御前に対して」
「いえ」
 首を横に振る。彼がそのような人物でないことは他ならぬドモン自身がよくわかっていた。
「ではわかるな。来い、ドモン」
「一体何処に」
「わしと共にだ。さあ、来るぞ」
 地響きが聞こえてきた。
「この世の救世主が。これこそ地球を救う者なのだ!」
「馬鹿な!」
 その救世主の姿を見てドモンは叫んでしまっていた。その救世主の邪悪な姿が古都に浮かんできた。
「何てとんでもない姿なんだ」
 それを見たロンド=ベルの者達が思わず声をあげる。
「化け物かよ」
「いえ、化け物じゃないわ」
 レインが彼等にそう答える。
「あれがデビルガンダムなのよ」
「あれが」
「ええ」
 レインは頷いた。
「あの不気味な姿。それが何よりの証拠」
「見れば確かにガンダムの頭があるな」
 アムロがそれに最初に応えた。その言葉通りその頭は確かにガンダムのものであった。
「だが」
 しかし彼はそれを否定した。
「あれはガンダムじゃない。化け物だ」
「確かにな」
 クワトロがそれに合わせた。
「ガンダムは化け物だ。だが」
「シャア」
「あれは本物の怪物だ。最早この世にいていいものではない」
「大尉もそう思うか」
「ああ」
 彼はドモンにも答えた。
「ドモン君、君の言いたいことはわかっているつもりだ」
「有り難い。師匠」
 再びマスターアジアに声を向ける。
「俺は師匠の仰ることがわかりません。どういうことですか」
「人間は滅びなければならん」
「馬鹿な」
 ドモンにはまずそれがわからなかった。
「何故滅びなければいけないのですか」
「わからぬか」
 彼はそれを聞いて険しい顔となった。そして宙に跳んだ。
「今この地球は死に瀕しているのだ。他ならぬ人間によってな」
「それは否定できないね」
 万丈がそれに同意した。
「戦争だけじゃなく環境破壊も進んでいる。確かに真実の一面ではあるね」
「そう、それだ」
 マスターアジアはサン=タンジェロ城の城壁の上に着地して万丈に対して答えた。
「人間は今まで何をしてきた。地球を食い潰すだけではないか。愚かな存在だ」
「違う!」
「どう違うとうのだ?」
 彼は叫んだドモンに対して逆にそう問うてきた。
「真実ではないのか?ドモン、貴様も今までの戦いでそれを知ってきたであろう」
「・・・・・・・・・」
 それに答えることはできなかった。何故なら彼もレインとの旅やこれまでの戦いで地球を見てきたからであった。確かに地球は荒廃していた。それは否定できなかった。
「そういうことだ。では我等が今為さねばならないことはわかるな」
「しかしシャッフル同盟だ」
「シャッフル同盟は地球を守るもの」
 それがマスターアジアの考えであった。
「ならばそれを害する人間こそ滅ぼすべきではないのか。それが先代のキング=オブ=ハートであるわしの結論だ」
「あの爺さんもシャッフル同盟だったのかよ」
「だとすると他にも四人あんなのがいたのか」
「化け物が五人も」
「何か想像するだけで怖いね」
 ジュドー、ビーチャ、モンド、イーノがヒソヒソとそう話していた。
「ドモン、そして御前に聞こう」
 そのうえで弟子に対して問うた。
「わしと共に来るか。どうだ」
「俺は・・・・・・」
 心が揺らいでいた。師のもとに行くべきか否か。判断がつきかねていた。だがそれよりも先に動いている者達がいた。
「手前勝手なこと言ってるんじゃねえ!」
「あ、よせ勝平!」
「今は動いちゃ駄目よ!」
 勝平がザンボット3を動かしていた。宇宙太と恵子の制止は残念ながら間に合わなかった。
「俺達が何であんたに滅ぼされなくちゃいけねえんだ!難しいこと言って俺を混乱させるつもりかよ!」
「結局頭にきただけかよ」
「いつもこうなんだから」
 呆れる二人をよそに突っ込む。だがマスターアジアはザンボットを前にしても余裕であった。
「フ、ザンボット3か。その力は知っているぞ」
「それがどうした!」
「貴様は確かに強い。だがな」
「褒めたって出るのは拳だけだぞ!」
「わしはもっと強いのだああああっ!」
「何ィ!」
 マスターアジアは跳んでいた。クーロンガンダムはその手に長い布を持っていた。
「受けてみよ!」
 彼はその布を振り回し叫ぶ。
「流派東方不敗の技を!」
「うわあああああああっ!」 
 それに絡め取られた。そしてザンボットの巨体が宙に舞う。ザンボットは無様に大地に叩きつけられてしまった。
「わしに向かってきた勇気は褒めよう。その命、預けておく」
「いててててててて・・・・・・」
「勝平!」
 ドモンは彼のことを気遣い声をあげる。
「大丈夫か!」
「何とかね」
 彼は何とかザンボットを起き上がらせながらそう答えた。
「けれど、かなりのダメージを受けちまったよ」
「何も考えずに突っ込むからだろうが」
「何時まで経っても進歩しないんだから」
「フン」
 二人の言葉に口を尖らせる。だが彼は何とか無事であった。
「師匠」
 ドモンはあらためて師を見据えた。
「先程のことですが」
「何だ?」
「謝罪して下さい。俺の大切な仲間を傷つけたことを」
「では聞こう」
 ここで彼はまた問うてきた。
「あのザンボットとやらは人間を守る為に戦っているのだな」
「そう聞いています」
 彼は答えた。彼もザンボットがビアル星人のものであり、その彼等が地球を守る為にガイゾックと戦っていることを知っているのである。
「それが何か」
「それが愚かだというのだ」
 マスターアジアはそれを否定したのであった。
「何と・・・・・・」
「何を驚く。ガイゾックだったな」
「はい」
「人間を滅ぼすのだ。それの何処が悪いというのだ」
 彼は弟子を挑発するようにして言った。
「地球を害する人間共をな。そうは思わんか」
「思わん!」
 今度は何処からか声がしてきた。
「マスターアジア、狂うのもいい加減にしろ!」
「この声は」
 ロンド=ベルの面々はそれを聞いて辺りを見回した。するとまた声がした。
「貴様はそれでも正義の戦士なのか!」
 また新たな影が姿を現わした。それは黒いガンダムであった。
「また変なガンダムが」
 ニナはそのガンダムを見て顔を顰めさせた。
「一体どんなガンダムなの?」」
「ガンダムシュピーゲル」
 声はそう答えた。
「ネオ=ドイツのガンダムだ」
「ああ、知ってるぜ」
 ヂボデーがそれを聞いて声をそのガンダムに対してかけてきた。
「嫌でもな」
「全くだよ」
 見ればサイシーもヂボデーと同じ顔をしていた。
「おいら達を訳のわからないうちにあしらってくれたもんな」
「あんな勝負ははじめてだった」
 アルゴもである。
「何時の間にか負けていた」
「あの三人がか」
 さしもの京四郎もそれを聞いて驚きを隠せなかった。
「あのネオ=ドイツのガンダムってのはそんなに凄いのか」
「あれ、京四郎さん知らなかったの?」
 ナナがそれを聞いて声をあげた。
「ネオ=ドイツのガンダムシュピーゲルっていったら物凄く強くて有名なのよ」
「そうなのか」
「滅茶苦茶な強さでね。大会じゃ準優勝だったのよ」
「あれは圧倒的でした」
 ジョルジュの顔と声も苦いものであった。
「まさかこの私まで為す術もなく倒されるとは。思ってもいませんでした」
「あんたまでもか」
「ええ」
「あたしもね」
 アレンビーもジョルジュと同じであった。
「あっという間にやられちゃったわよ。何だっていうのよ」
「そして俺は引き分けだった」
 ここでドモンが言った。
「運がよかった。そうとしか言えない」
「あれはな。本当にそうだったな」
 サンシローがそれを聞いて応える。
「あんた普通にやってたら絶対に負けてたぜ」
「わかってる」 
 ドモンは険しい顔でそれに頷いた。
「俺が一番な。シュヴァルツ=ブルーダー」
 そして人の名を呼んだ。
「何だ」
 コクピットの中にいる覆面の男が尋ねてきた。
「一体どうしてここに来たんだ?お前はネオ=ドイツに帰ったのではなかったのか」
「確かに一度は帰った」
 彼はドモンの問いに対してそう答えた。
「だがデビルガンダムの気配を察しここまで来た。そしてもう一つの脅威も」
「もう一つの脅威」
「そうだ。マスターアジア」
 シュヴァルツはまたマスターアジアに顔を向けてきた。そして問うた。
「そのクーロンガンダムの真の姿を見せてもらおうか」
「フッ、気付いておったか」
「無論!」
 彼はドモンを彷彿とさせるような力強い声で応えた。
「貴様の魂胆、私にわからないとでも思っていたか」
「何よ、あの化け物に正体があるっていうの!?」
「まんまどっかの悪の組織じゃない」
 ルーとエルが声をあげる。
「その正体とは」
「見ていればわかる」
 今度はドモンに対して言う。
「見ていればな」
「フフフフフフフフフフ、では見せるとしよう」
 マスターアジアはまたもや笑った。
「このクーロンガンダムの真の姿」
 そう言いながら身構える。凄まじい気がクーロンガンダムの全身を覆った。
「マスターガンダムをな!」
「マスターガンダム!」
「見るがいいドモン、ロンド=ベルの小童達よ!」
 マスターアジアは叫んだ。
「これぞ史上最強の存在よっ!」
 気がローマを覆う。幾度もの死闘を潜り抜けてきた歴戦の強者だけが放つことのできる気であった。そしてそれが消え去った時そこには紫のガンダムがいた。
「見たか、ドモン」
「何と・・・・・・」
 ドモンはそのガンダムを見て絶句した。そのガンダムには紫の翼まであった。
「これこそがわしのガンダムの真の姿なのだ」
「何てプレッシャーなんだ」
 シーブックがそのマスターガンダムを見て呟いた。
「鉄仮面のなんて比較にならない」
「ええ」
 セシリーもそれに同意する。
「まるでこの街を・・・・・・いえ地球まで覆うような。こんなプレッシャー感じたことはないわ」
「それが東方不敗の気ってわけね」
「その通り!」
 アヤの言葉に頷く。
「わしこそがこの地球を救える者だ。さあドモンよ」
 彼はまたしてもドモンに対して声をかけてきた。
「わしと共に来い。よいな」
「断る!」
 だがドモンの答えは意外なものであった。少なくともマスターアジア自身にとっては。
「何!?」
「師匠、貴方は今俺の大切な仲間を傷つけた。それを許すことなぞできはしない」
「馬鹿な、大義を知らぬというのか」
「人間を救うのは大義ではないと」
「大義の前には犠牲も必要なのだ。いや」
 彼は言った。
「人間はその大義にとって害悪でしかない。違うとでもいうのか」
「違う!」
 ドモンはまた答えた。
「人を救うことこそ我等が大義!シャッフル同盟の大義だ!」
「フン、どうやらわしは御前を育て損ねたようだな」
 マスターアジアはそこまで聞いて鼻で笑った。
「馬鹿弟子が。最早貴様なぞあてにはせん」
「それで結構!」
 ドモンはまた言った。
「人を滅ぼすというのなら師匠・・・・・・いやマスターアジアよ」 
 言葉を続ける。
「貴様といえど倒す!それがシャッフル同盟だ!」
「この馬鹿弟子があああっ!」
 マスターアジアは叫んだ。
「人というものがわからんのか!だから御前はアホなのだ!」
「それで結構!」
 ドモンは怯まない。
「俺は人の為に戦う!馬鹿だのそういうことは関係ない!」
「ドモン=カッシュ、よくぞ言いましたね」
 ジョルジュはそれを聞いて感心したように言った。
「流石です。それでこそキング=オブ=ハート」
「ジョルジュ」
「俺達も同じ考えだぜ」
「ああ」
「ヂボデー、サイシー」
「マスターアジア、あんたは間違ってる」
 ヂボデーはマスターアジアを指差しそう言う。
「地球は大事だけれど人間は邪魔だなんてどう考えてもかしいだろ」
「サイシーの言う通りだ」
 アルゴも言った。
「俺もまたシャッフル同盟としてそれには反対させてもらう」
「フン、若造共が。情に流されおって」
「これは情ではない」
 シュヴァルツがまた言った。
「真理だ。マスターアジア、貴様にはそれがわからないのか」
「わかるだと。フン馬鹿めが」
 彼はシュヴァルツの言葉に対して不敵に笑みを返した。
「わしをわからさせたければ言葉では無理ぞ」
「ならば!」
 シュヴァルツはそれを受けて跳んだ。
「拳で教えてやろう!行くぞ!」
「望むところ!」
 マスターアジアもまた跳んだ。そして跳びながら空中で演舞をはじめた。
「演舞か」
「これが東方不敗の演舞よ!」
 彼は誇らしげに叫んだ。
「華麗にして豪壮、見よ、この舞いを!」
「では私も見せてやろう!」
 シュヴァルツもそれを受けて動いた。
「これがゲルマン忍術の舞いだっ!」
「ゲルマン忍術ぅ!?」
 それを聞いて多くの者が顔を顰めさせた。
「何だそりゃあ」
「嘘に決まってるだわさ」
「いや、残念ながら嘘じゃない」
「何ィ、知っているのかサコン」
 甲児とボスに合わせるかのようにサコンがここで言った。
「ああ。かって日本に忍者がいた」
「それは知ってるぜ」
「岡長官もだったな」
「ああ」
「私も忍術なら使えるわよ」
 ここでめぐみも話に入ってきた。
「一応はね。これでもくの一なんですから」
「そう。忍者は戦国時代に出来上がった」
「そういやそうだったっけ」
「甲児君たらまた。だから歴史赤点なのよ」
 さやかがまた呆れた溜息をついていた。サコンはそれに構わず続ける。
「そしてその中には海を渡った者達がいた。山田長政のようにな」
 シャム、今のタイで国王の臣下の将として活躍したと言われている日本人である。他に海を渡った日本人としてキリシタン大名であった高山右近等がいる。
「そして忍者の中にもまた海を渡った者達がいたのだ。当然ドイツに入った者達もいた。それこそがゲルマン忍術の起こりだ」
「何かとんでもねえ話だな」
「作り話としては最高だわね」
「だがこれは作り話ではない」
「そうなのか」
 さしもの大文字も首を傾げていた。
「あの国にそんなものがあったとは初耳だな」
「私達の知らないこともあるのでしょう」
 ミドリがフォローを入れる。
「世の中ってそんなものですから」
「確かにね」
 ミサトがそれに同意した。
「ミサトさん」
「目の前にあんなとんでもないおじさんがいるんだし。ドイツに忍者がいても不思議じゃないわ」
「そういうものでしょうか」
「そうなんだろ」
 マヤにシゲルがそう答える。
「大体エヴァにしろかなり不思議なものだしな」
「そうそう」
「ううん」
 マヤはまだ少し納得できないでいた。だが彼女に深く考えさせる程周りは落ち着いてはいなかったのであった。
 マスターアジアとシュヴァルツは空中で演舞を続ける。そしてそれぞれ両手を出してぶつかり合った。
「ムン!」
「ヌン!」
 互いに気と気もぶつけ合う。そして力比べをはじめた。
「あの時よりさらに腕をあげたようだな」
「貴様のおかげでな」
 彼はそう答えた。
「まさかこれ程早く再び拳を交えるとは思わなかったがな」
「それはわしも同じこと」
 マスターアジアは言った。
「だが今こうして交えたからには」
「ガンダムファイターとして」
「死合う!」
 彼等は空中でそのまま激しい戦いに入った。マスターガンダムは拳法で、ガンダムシュピーゲルは忍術で互いに応酬し合う。
「喰らえっ!」
 マスターアジアが拳を繰り出すとシュヴァルツはもうそこにはいなかった。それは残像であった。
「ムッ!」
「今度はこちらだっ!」
 後ろにいた。そして手裏剣を放つ。
「これならっ!」
「飛び道具を使って勝てると思うてかあああああっ!」
 マスターガンダムは分身した。それで手裏剣をかわした。まるで流れるような動きであった。
「手裏剣をかわすとはな」
「未熟未熟うううううっ!」
 彼は叫んでいた。
「我が拳を受けて猛省するがいいっ!」
「猛省するのは貴様だあっ!」
 今度はシュヴァルツが消えた。そして拳をかわした。
「ヌウッ!?」
 彼はいた。マスターアジアの拳の上に。そこで腕を組み立っていた。
「小癪な真似を!」
「もらった!」
 そのままマスターガンダムの脳天に拳を振り下ろす。だがそれもかわされてしまった。
「ムッ!」
「まさかわしをここまで楽しませてくれるとはな。褒めてやろう」
「生憎褒められても嬉しくはない」
「フン、照れるでない」
「照れはない。ただ貴様を倒すのみ」
「あくまでそれを追い求めるか」
「そうだ。だからこそここにいる。人間を滅ぼさせはせん!」
「害を滅ぼして何が悪いかああっ!」
「それは貴様の独断だ!主観のみでものを語るな!」
「わしの言っていることは真実よ!」
「ならば私を倒してそれを証明するがいい!」
「望むところ!」
 二人の戦いは激しくなる一方であった。シャッフル同盟はそれを尻目にデビルガンダムに向かっていた。五機のガンダムが怪物を取り囲んだ。
「行くか」
「うむ」
 ドモンの言葉に他の四人が頷く。そして一斉に攻撃に入った。
「まずは俺からだ!」
 アルゴが攻撃に入った。その手に持つグラビトンハンマーを頭上で振り回しはじめた。
「砕け散れ!」
 そしてそれをデビルガンダムに向けて放った。
「グラビトンハンマーーーーーーッ!」
 それでデビルガンダムを砕かんとする。続いてサイシーが動いた。
「ハアアアアアアッ!」
 突進する。そして背中の旗を出す。
「行くぜ・・・・・・フェイロンフラッグ!」
 それでデビルガンダムを攻撃する。そして一気に突き抜けた。
「どうだああっ!」
 だがそれで終わりではなかった。ジョルジュも構えていた。
「私の持つ最大の技・・・・・・お見せしよう!」
 彼は自信に満ちた笑みと共に言う。そしてローゼスビットを一斉に放ってきた。
「行け、美しき薔薇達よ!」
 彼はその美しき深紅の薔薇達に向かって言う。
「ローゼス!スクリーマーーーッ!」
「今度は俺だぜ!」
 ヂボデーもいた。彼は拳をふり立てる。
「バーニングパンチ・・・・・・」
 その拳を繰り出す。赤い光のブローが敵を撃つ。
「シューーーットォォ!!」
 それでデビルガンダムを狙う。赤い光が一直線に飛ぶ。
 四人の最大の攻撃がほぼ同時にデビルガンダムを直撃した。いずれも戦艦ですら一撃で沈めることが可能な攻撃である。これにはさしものデビルガンダムも立ってはいられないだろうと誰もが思った。だがそれは思っただけに過ぎなかった。
「な・・・・・・!」
 誰よりも驚きの声をあげたのは他ならぬシャッフル同盟の面々であった。彼等は平然と立っているデビルガンダムを見て絶句せずにはいられなかった。
「我々の最大の奥儀を受けて立っているとは」
「化け物なのか!?」
「フフフフフフフフフフフ」
 デビルガンダムの中から男の笑い声がした。
「キョウジ!」
 ドモンはそれを聞いて憎しみに満ちた声で何者かの名を呼んだ。
「やはりそこにいたか!」
「キョウジか」
 それを聞いてもう一人複雑な感情を示した者がいた。シュヴァルツであった。
「だがいい。今はな」
 しかし彼はすぐにその感情を消した。そしてマスターガンダムに向き直るのであった。
 デビルガンダムは立っていた。そしてキョウジの笑みは狂気に満ちたものであった。
「フフフフフフフフフフフ」
「何がおかしい!」
 ドモンの問いにも答えはしない。
「ハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
 彼は笑い続けていた。そして攻撃を放ってきた。
「ムッ!」
 長い蔦が地を這う。そしてシャッフル同盟目掛け襲い掛かって来た。
「何のっ!」
 ドモン達はそれをかわした。空中で態勢を整える。
「この程度の攻撃で!」
 その蔦は蔦ではなかった。何とその先はガンダムの頭であった。デビルガンダムの触手であったのだ。
「何と不気味な」
 ゼンガーはそれを見て嫌悪感を露わにさせた。
「あそこまで邪悪なものは見たことがない」
「ゼンガーさん」
 クスハがそれを聞いて彼に顔を向ける。
「断じて違う、あれはガンダムではない」
 彼は嫌悪感を露わにしたまま言う。
「あれは・・・・・・化け物に他ならない」
「そう、あいつは化け物だ」
 ドモンがそれを受けるようにして言った。
「だからこそ、俺達が倒す!」
「だが貴様等にデビルガンダムが倒せるかな?」
「できる!」
 マスターアジアの言葉に叫んだ。
「今それを見せてやる。シャッフル同盟に敗北はない!」
「うむ!」
 彼等は跳んだ。だが今度は五人ではなかった。
「ドモン、あたしもいるよ!」
「アレンビー!」
「そして私も」
 レインもいた。二人はドモンに動きを合わせていた。
「このままやるよ!」
「フォローは任せて!」
「わかった。では行くぞ!」
「何時でも来な!」
「シャッフル同盟の力!」
「今こそ見せる時です!」
「力を合わせるぞ!」
「よし!」
 五人は一斉に全身に力を込めた。そして再び技を繰り出す。
「バーニングパァーーーーーンチッ!」
「フェイロンフラッグ!」
「ローゼススクリーーマーーーーッ!」
「グラビトンハンマーーーーッ!」
 それだけではなかった。アレンビーとレインも技を放っていた。
「飛べぇっ!」
 アレンビーは叫ぶ。そして腕のリボンを放つ。
「伸びて!ビームリボン!」
 それでデビルガンダムを撃つ。レインもそれに続くように技を放つ。
「必殺必中!」
 弓を構えながら叫ぶ。
「ライジングアローーーッ!」
 二人の攻撃も放たれた。そして最後にドモンが技を放つ。
「いくぞっ!俺のこの手が真っ赤に燃える!」
 その手に気を溜めながら言う。その手はまるで炎のように燃え盛っていた。
「御前を倒せと轟き叫ぶ!」
 叫び続ける。そして突撃する。
「爆熱ゴッド・・・・・・」
 技の名を叫ぶ。それにつれて身体を力が覆う。
「フィィィンガァァァァァァァァァァァァァァッ!」
 それでデビルガンダムを襲った。そしてそれは悪魔の腹を直撃した。
「ヒィィィィィィィィィィィィィト・・・・・・」
 デビルガンダムの巨体が揺れていた。だが彼はなおも力を放っていた。
「エンドッ!」
 そしてこれが最後であった。力を全て放ってしまった。これで終わりであった。
 デビルガンダムの巨体が赤い光に包まれた。そして一瞬の後光は爆発となった。そしてこれで悪魔は消え去ったのであった。
「勝負あったな、マスターアジアよ」
「フン、まだまだ」
 だが彼は健在であった。シュヴァルツとの戦いは五分と五分であった。だが彼に疲れはなかった。
「デビルガンダムは不死。何を驚くか」
「まだ諦めないというのか」
「わしの辞書に諦めるという言葉はない!」
 ここで彼は叫んだ。
「だが今は退いてやろう。貴様との勝負はお預けか」
「そうか」
「そしてドモンよ」
 今度はドモンに顔を向けてきた。
「ムッ」
「貴様とは今日限り師でも弟子でもない。敵同士だ」
「言われずとも」
「今度会う時が貴様の最後だ。よいな!」
「マスターアジア!」
 彼もまた師を呼び捨てた。その声には憎悪だけがあった。
「俺も貴様を倒す!その時を楽しみにしていろ!」
「フッ、そうさせてもらおう。ではロンド=ベルの強者達よ」
 ロンド=ベルの面々に対して言う。
「これで一先さらばだ。風雲再来!」
「ヒヒーーーーーーーーン!」
 馬が空から舞い降りてきた。マスターアジアは空中でそれに乗った。
 そして何処かに去った。後にはただ覇気だけが残っていた。
「デビルガンダムを一先退けたとはいえ」
 ブライトは戦いが終わったのを確認してから呟いた。
「マスターアジアか。また厄介な敵だな」
「ああ」
 それにアムロが頷いた。
「特にあいつにとってはな」
「そうだな」
 二人はドモンを見ていた。彼はまだマスターアジアを見据えていた。その目には憎悪と怒りが燃え盛っていた。
 シュヴァルツもまた何処へかと姿を消した。彼等はとりあえずは古都を守った。しかし同時に新たな強敵をも抱え込むことになったのであった。


第三十一話   完



                                    2005・7・10


[297] 題名:第三十一話その一 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年03月05日 (日) 18時44分

           古都の攻防
 サンクトペテルブルグでの戦いを終えたロンド=ベルはローマに向かっていた。その途中彼等に通信が入って来た。
「!?これは」
 それを受け取ったシモンが怪訝な顔をした。
「どうした」
「ギガノスの通信です」
「ギガノスの」
 それを聞いたシナプスも怪訝な顔になった。
「一体何だ」
「ええと、マイヨ=プラートとなっています」
「ギガノスの鷹」
 ベンがそれを聞いて声をあげた。
「まさか彼が」
 ダグラスもであった。二人はその名を聞いただけですぐに反応した。
「一体何だ」
「ええと」
 シモンは二人に挟まれながらも冷静に答える。
「ケーン=ワカバと話がしたいとのことです」
「あの馬鹿とか」
 ダグラスの言葉は容赦がなかった。
「物好きな。アスカみたいに喧嘩がしたいとでもいうのか」
「どうやら違うようですけれど」
「そうなのか」
「大尉」
 ベンがここでダグラスに声をかけてきた。
「どう思われますか」
「放っておけ」
 彼はそれに対してこう答えた。
「ギガノスだな。どうせ罠に決まっている」
「そうでしょうか」
「敵が対話を望んでくる時は大抵何かあるものだ。信用できん」
「それはどうでしょうか」
 ここでモニターにルリが出て来た。
「ホシノ少佐」
「彼はそうした人ではないと思いますが」
「どうしてですか」
「マイヨ=プラート大尉は今まで私達に対して常に正面から向かって来ました」
「確かに」
 ベンがそれに頷く。
「それに一般市民に危害を加えはしません。あくまで軍人として己を律しているように見えます。策略も用いたことはありません。そうしたことを嫌っているようです」
「つまりは生粋の軍人であると言いたいのですな」
「はい。ですから彼の今回の申し出は信用できると思います」
「ふむ」
 ダグラスはそれを聞いてあらためて考え込んだ。
「では一度ワカバ少尉に話してみましょう。それでいいでしょうか」
「それでお願いします」
「わかりました」
 ダグラスはケーンと話をした。これを聞いたケーンは意外といった顔であった。
「ギガノスの蒼き鷹が俺にかよ」
「そうだ、どうするつもりだ」
「どうするつもりって言われてもなあ」
 彼はこの時自分の部屋でくつろいでいた。上は丸裸で下はトランクス一枚であった。
「どうしようかな」
「とりあえずは服を着ろ」
「あ、はい」 
 それを受けて服を着る。それから話に戻った。
「全ては御前の決断次第だが。どうするのだ」
「そうだな」
 彼は暫し考えた後で答えた。
「とりあえず会ってみるのも面白いか。その申し出受けるぜ」
「そうか、わかった」
 こうしてケーンとマイヨの会談の場が設けられることになった。場所はコロセウムとなった。
「あの旦那も何考えてるかね」
 タップがケーンの部屋に来てそうぼやいた。ライトも一緒である。
「さあな、あの人はどうも理想を追い求めている人みたいだしな」
「兄さんらしいといえばらしいけれど」
 リンダは不安そうであった。
「けれどどうしてケーンと話をしようなんて思ったのかしら。それもいきなり」
「俺がエースだからかな。ロンド=ベルの」
「それだったらアムロ中佐だろ」
「うっ」
 ライトにそう突っ込まれてたじろぐ。
「いくら御前さんでもアムロ中佐やショウ程派手に暴れちゃいないだろうが」
「比べる相手が凄過ぎるけれどな」
「じゃあ比べるなよ。俺はニュータイプでも聖戦士でもないんだからな」
「まあ俺達だってそうだけれどな」
「それなりに活躍はしててもな。だからこそわからないんだ」
「何でだよ」
「どうしてこれだけ大所帯のロンド=ベルからわざわざ御前を選んだのかな。あの旦那にしかわからないが」
「俺はわかっていないとでも言うのかよ」
「御前がわかってるなんて誰も思っちゃいないだろ」
 タップがそう切り返す。
「もしかするとあの旦那もわかっちゃいねえかも知れないがな」
「訳わからねえな」
 ケーンはどうにも話が掴めないでいた。
「あの旦那がわかっていなけりゃ話にもなりゃしねえだろうに」
「だからこそ話がしたいのかもな」
 ライトは考えながらそう述べた。
「理解した為にな」
「またわからなくなっちまった。まあいいさ」
 ケーンは開き直ることにした。
「とにかくあの旦那と話をするぜ。それでいいだろ」
「ああ」
「気をつけてね、ケーン」
「わかってるって」
 最後はリンダの言葉ににこりと笑って頷いた。こうしてケーンは本隊より一足先にローマに入った。リンダも一緒であった。
「ここがローマか」
「ええ」
 街を見回すケーンに対してリンダが答える。
「何かと古いもんが多いな」
「ローマだからね」
「あの向こうに見える城なんかいいな」
「サン=タンジェロ城ね」
「へえ、そういうのか」
「ローマじゃかなり有名な場所よ。一番上に天使がいるし」
「天使が」
「ええ」
「そりゃ面白いな。戦争じゃなきゃずっといたいな」
「戦争が終わったら行ってみたらいいわ」
「リンダとな」
「もう」
 そんな話をしながらコロセウムに向かった。かって多くのグラディエーター達が血を流した場所でもある。そこにネクタイを締め、ベストを着た男が一人立っていた。
「・・・・・・・・・」
 三人は互いに顔を見ても何も言わない。暫くそのままで時間が過ぎた。やがてケーンが口を開いた。
「なあ」
「何だ」
 マイヨもそれを受けて口を開いた。
「俺と話がしたいそうだけれど何かあるのかよ」
「ケーン=ワカバ」
 マイヨは彼の名を呼んだ。
「何故御前は戦う?」
「何っ!?」
 ケーンはそれを聞いて思わず声をあげた。
「何故戦うのだと聞いているのだ」
「一体何が言いてえんだ、あんたは」 
 その質問に戸惑っていた。
「俺が何の為に戦うかだって」
「そうだ」
 マイヨは頷いた。
「戦いが好きなのか?それとも命令だからか」
「生憎どちらでもねえ」
 ケーンは素直にそう答えた。
「では連邦への忠誠か」
「連邦に?まさか」
 ケーンはそれも否定した。
「お世辞にもそんなにいいもんじゃねえだろ。いかれたおっさんがいたりするからな」
 それが三輪を指していることは言うまでもない。
「そうか」
 マイヨは一通り聞いて頷いた。
「では御前は信念を持って戦っているわけではないのだな」
「信念はあるさ」
 だがケーンはそれを認めはしなかった。
「俺は皆を守る為に戦っているんだ。ロンド=ベルでな」
「守る為か」
「そうさ。あんた達みたいな連中からな。俺は皆を守りたい、だから戦っているんだ」
「そうなのか」
「あんた達ギガノスみたいな連中がいる限り」
 ケーンは言う。
「俺は戦い続けるだろうな」
「ふむ」
 マイヨはそれを聞き終えて考える目をした。そしてそれから言った。
「では御前は自分の内にある力は自覚してはいないか」
「力!?何だそりゃ」
「気付いていないか。大いなる無知としか言いようがないな」
「どういう意味だ、そりゃ」
「愚かだと言ったのだ」
「確かに俺は落ちこぼれだけれどな」
 反論する。
「少なくともあんたみてえに人を馬鹿にしたりはしねえよ」
「何っ」
「ケーンの言う通りよ」
「リンダ」
「久し振りね、兄さん。挨拶が遅れたけれど」
 リンダは兄を見据えてそう言った。
「どうしてケーンをここに呼び出したのかわかったわ」
「何?」
「ケーンを愚か者、馬鹿者と罵って自分を優位に置きたかっただけなのね」
「何を言うか」
「いえ、その通りよ。兄さんは怖いのよ」
「私が怖れているというのか、ケーン=ワカバを」
「ええ」
 リンダは答えた。
「自分と違うものを信じて戦うケーンが怖いのよ。違う!?」
「・・・・・・・・・」
 すぐには答えなかった。だが妹に対して言葉を返した。
「言ってくれるな。御前を呼んだつもりはないというのに」
「それがどうしたの」
 リンダも負けてはいなかった。
「私は自分の考えで動いているわ。兄さんとは違うわ」
「戯れ言を」
 それを聞いたマイヨの眉が動いた。
「私こそ自分の信念で動いているのだ」
「そして多くの人を傷つけるのかよ」
「黙れ」
 ケーンの言葉を遮って言う。
「無能な者は不要、優れた者だけ生きればいいのだ」
「それじゃあ獣と変わらないだろうが!」
「閣下の崇高な御考えを獣の考えと言うか」
「じゃあ言い換えようか」
 ケーンは怒りに満ちた声でマイヨに対して語る。
「あんたのその考えはな、ギレン=ザビのそれを全く同じだ。何処がどう違うんだよ」
「私がギレン=ザビと同じだと」
「ええ」
 今度はリンダが頷いた。
「同じよ。あの何十億の罪のない人を殺したギレン=ザビと同じよ。ギガノスとジオンがどう違うのよ」
「我々はジオンとは違う」
 半ば苦し紛れにそう返す。
「我々は美しい地球をそのまま守り・・・・・・」
「そして罪のない人を殺すんだろうが!」
「まだ言うか!」
「何度でも言うわ!」
「クッ!」
 三人は完全に衝突してしまった。最早後戻りはできなかった。互いに二つに別れて睨み合っていた。そこで三人の周りに何者かが姿を現わした。
「ヘヘヘヘヘヘヘヘヘ」
「何者」
 まずはマイヨが彼に顔を向けた。
「俺か。俺はミケロ=チャリオットっていうんだ。知ってるか?」
「ミケロ!?」
 それを聞いたケーンが声をあげた。
「あんたまさかネオイタリアのガンダムファイターか」
「そうさ」
 彼はそう答えて笑った。赤く立てた髪と痩せた血色の悪い顔が印象的である。何処か鳥を思わせる。
「じゃあ俺のことも知ってるな」
「ああ」
 答えるケーンの顔に嫌悪感が露わになっていた。
「マフィアだったな。ガンダムファイトでも汚いことばかりやってたな」
「ヒヒヒ」
「そのあんたが何の用なんだ!?生憎俺達はあんたには用はないぜ」
「そっちにはなくてもこっちにはあるんだよ」
「そう答えると思っていた」
 マイヨはそう答えながら懐から拳銃を取り出した。そしてそれをミケロに向ける。
「愚か者よ、立ち去るがいい。立ち去らないならばこちらにも考えがある」
「何だ、そのおもちゃは」
「私はギルトール閣下の理想とする社会を見るまでは死ぬわけにはいかぬ。わかったならばすぐに立ち去れ」
「ヘッ、理想なんぞ何になるんだ」
「閣下を愚弄するか」
「理想よりなあ、力の方が大事なんだよ」
「どうやら貴様と話すだけ無駄なようだな」
 そう言って狙いを定めた。
「覚悟しろ。一撃で楽にしてやる」
「ガンダムファイターにピストルなんざなあ」
「その通り!」
 ここでコロシウムの中央から声がした。
「ムッ!?」
「その声は」
 マイヨとケーン、リンダがその声を聞いて中央に顔を向けた。マイヨの顔はいぶかしげであるがケーン、リンダの顔は朗らかなものであった。
「ミケロ=チャリオット、まだ卑劣な手を使うか!」
「どうやら貴方はずっと変わらないようですね」
 ドモンとジョルジュがそこにいた。そして他の三人も。
「シャッフル同盟見参!覚悟しろ!」
「おお、よく来てくれたな」
「仲間の為なら火の中水の中ってやつさ」
「そういうことさ。心配だから来たんだぜ」
「悪いがこんな鳥みたいな奴は俺一人で充分だぜ」
「過信は禁物だ」
 強がってみせたケーンをアルゴが窘める。
「ガンダムファイターは常人とは違うからな。拳銃では倒せん」
「そうだったのか」
 マイヨはそれを聞いて左の眉を顰めさせた。
「迂闊だったな」
「ふふふ、だがそれは極限まで鍛えれば誰でもできることなのだ」
「その声は」
「また登場ね」
「如何にも!」
 ケーンとリンダの声に応えるかのように空中に颯爽と紫の影が現われた。
「東方不敗参上!」
「師匠!」
「ドモン、元気そうで何よりだ」
 彼はコロシウムの最上段に着地しながら弟子に対して声をかけてきた。
「オーラが変わったな。どうやらまた腕をあげたようだ」
「おかげさまで」
「しかし油断してはならんぞ。今この街は危険に充ちておる」
「危険といいますと」
「あのおっさんが一番危険だと思うけれどな」
「ケーン」
 ポツリと呟いたケーンをリンダが窘める。まるで保護者のようであった。
「ドモンよ、あれの用意はいいな」
「はい!」
「それでは行くぞ!ガンダムファイト!」
「レェェェェェェェェェェェェデデデデデデデディィィィィィィィィィ」
 ドモンだけではなかった。他のシャッフル同盟のメンバーも叫んでいる。
「ゴォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーッ!」
 最後にミケロが叫んだ。そしてドモンがまた叫ぶ。
「ガンダァァァァァァァァァァァァァァァッム!」
 ガンダムが飛んで来る。皆それに飛び乗った。こうしてガンダム達が古都に姿を現わした。
「何時見ても凄えな」
「ケーン、悠長なことを言っている場合じゃないぞ」
 ここでブルーガーがコロシウムの上に姿を現わしてきた。
「ミスターか」
「乗れ、すぐに本隊に戻るぞ」
「ああわかった。ギガノスの旦那」
 ブルーガーに飛び乗る直前にマイヨに顔を向けた。
「何だ」
「さっきの話はまた何時かな。戦場でもいいぜ」
「望むところだ」
 マイヨもそれを受けた。こうして戦士達は別れた。
「兄さん」
 ブルーガーはケーン達を乗せるとその場を去り後方に向かう。リンダはその後部座席で遠くなっていくコロシウムを見ていた。
「やっぱり気になるの?」
 そんな彼女にマリが声をかけてきた。
「ええ」
 リンダはそれに対して頷いた。
「気にならないって言えば嘘になるわね」
「そう」
「兄さんはギガノスにいて父さんはドラグナーの開発者。皮肉なものね」
「そう悲観的になることはありませんよ」
 だがそんな彼女に麗が声をかけてきた。
「麗さん」
「きっとわかり合える日が来ますから。その時が来るように努力してみればどうでしょうか」
「兄さんと父さん、そして私が」
「ええ。それは努力しなければ来ません。けれど努力したならば」
 彼女は言った。
「神が助けて下さいます。ご安心下さい」
「はい」 
 それを聞いて幾らか気分が楽になった。そしてアルビオンに戻った。ブルーガーはそのまま出撃する。
「おう、戻って来たな」
「遅かったんでそのままリンダちゃんとスパゲティでも食べているかと思ったぜ」
 タップとライトがケーン達を出迎えた。二人はもうパイロットスーツに身を包んでいる。ケーンにもそれを手渡した。
「生憎そんな時間はなかったんでね」
 ケーンはスーツを着ながらそれに応える。
「スペイン広場にも行けなかった。折角あそこで洒落こもうとしたのによ」
「まあケーンたら」
 リンダがそれを聞いて顔を赤らめる。
「おいおい、スペイン広場かよ」
「レストランじゃなくて」
「こう見えても俺はロマンチストでな」
 そう返す。
「ローマの休日に憧れてるんだよ。悪いかよ」
「別に」
「意外だと思うけどな」
「わかったら早く出るぞ。ドモン達がもう戦っているからな」
「おっと、そうだったな」
「じゃあ急ぐとするか」
「よし。三銃士出撃だ!」
「よしきた!」
 こうしてドラグナーチームも出撃した。その頃マイヨはコロシウムから去り一人車で市街に向かっていた。車中で携帯にかける。
「私だ」
「大尉殿」
 ダンが出て来た。
「何処におられたのですか、心配しておりました」
「野暮用でな」
 マイヨは多くは語らなかった。そう答えただけであった。
「だがそれももう済んだ。今からそちらに向かう」
「はい」
「合流した後ですぐに出撃するぞ。いいな」
「了解」
「・・・・・・これでよし」
 マイヨはダンに電話をかけ終えると携帯を懐にしまった。そして一言そう呟いた。
「ケーン=ワカバ、御前の守るもの、いずれ見せてもらう」
 そう言って彼はローマを後にした。ギガノスの蒼き鷹もまた動いていたのであった。
 シャッフル同盟とマスターアジアはミケロと対峙していた。彼はネロスガンダムに乗っていた。
「ヘヘヘ、ドモンよ」
 彼はドモンを見据えて笑っていた。
「覚悟しろよ。手前には予選での借りがあるからな」
「馬鹿なことを」
 ドモンはそれに対して一言そう述べただけであった。
「貴様が俺に敗れたのは当然のことだ。それがまだわからないのか」
「ああ、わからないさ」
 彼は悪びれることもなくそう返した。
「だから今やってやるさ。手前を殺す」
「やれるものならな」
 ドモンは臆することなくそう言い返した。
「やってみるがいい」
「フッ、わかったぜ。聞いたかチャップマンよお」
「何!?」
 それを聞いたシャッフル同盟の一同の顔色が一変した。
「チャップマン、ジェントル=チャップマンか!?」
「馬鹿な、あの男は死んだ筈だぞ」
「そんなことが有り得るものか」
 ネオ=イギリスのガンダムファイターでありガンダムファイト史上前人未到の三連覇を達成した英雄である。だが彼はドモンとの戦いの後安らかに眠った筈なのだ。その彼が何故。皆それを嘘だと思った。しかしすぐにそれが真のものだとわかった。
「うむ」
 声がした。そして独特のシルエットのガンダムが姿を現わした。ネオ=イギリスのジョンブルガンダムであった。
「確かに聞いたぞ、ミケロよ」
「馬鹿な、あんたは死んだ筈だ」
 ドモンが彼に声をかける。
「それが何故」
「しかもミケロなどのような輩と」
 とりわけジョルジュの動揺は激しかった。イギリスとフランスのライバル関係はこの時代でも有名であるが彼はそうしたものを越えてチャップマンをガンダムファイターとして、そして騎士として尊敬していたからであった。
「そんなことは関係ない」
 チャップマンはそう答えただけであった。
「今の私にとって力だけが必要なのだからな」
「馬鹿な、心のない力なぞ」
 ジョルジュが言う。
「何の意味もないというのに」
「確かにな」
 マスターアジアがそれに同意する。
「力は地球を守るものだ」
「はい」
 ドモンがそれに頷く。だが彼はこの時師の目の奥にあるある暗い決意には気付いてはいなかった。
「力を知らぬ者は」
「力によって滅びる!ミケロ=チャリオット、そしてジェントル=チャップマン」
 ドモンは二人に対して叫んだ。
「俺達が貴様を倒す。シャッフル同盟の名にかけて」
「ヘッ、できるのかよ手前等に」
「ならば見せてみるがいい」
「言われなくとも。行くぞ!」
 まずはドモンが前に出た。それでも二人はまだ余裕の笑みを浮かべていた。
「ヘヘヘヘヘ」
「何がおかしい」
「おかしいから笑うのさ」
 ミケロが返す。
「俺達二人で手前等を相手にするとでも思っているのかよ」
「何!?」
「出て来な、出番だぜ」
 ミケロの言葉に合わせるかのように陸と空に突如として影が姿を現わした。それはデスアーミー達であった。
「なっ、デスアーミー」
「すると御前達は」
「その通りさ」
 今度はジョルジュの言葉に答える。
「俺達はDG細胞の力を得た」
「そして今の姿があるのだ」
「馬鹿な、悪魔の力を借りるとは」
 ジョルジュが叫ぶ。
「そこまで落ちたというのか」
「落ちたか」
 しかしチャップマンはドモンのその言葉を鼻で笑った。
「それはこの力を見てから言ってもらうか」
「まだ力を」
「この力」
 それに構わず言う。
「今こそ見せてやろう!」
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」
 ネロスガンダムとジョンブルガンダムが変形した。そして巨大な、かつ異形のガンダムへと変形したのであった。
「な・・・・・・・!」
 ドモン達はそれを見て絶句した。そこにいたのはそれ程までに異様なガンダム達であったのだ。
 ミケロのネロスガンダムは空にいた。銀色の翼を持つガンダムであった。
「何だあのガンダムは」
「ガンダムヘブンズソードっていうのさ」
 ミケロがドモンに対して答えた。
「ガンダムヘブンズソード」
「そうさ、空を駆るガンダムだ。どうだ、いいだろう」
「馬鹿な、そのような異形のガンダムなぞ」
 ドモンはそれを否定した。
「ガンダムではない!」
「では私のグランドガンダムもガンダムではないのか」
 チャップマンがそれを聞いてドモンに対して言った。
「この素晴らしいガンダムも」
「無論!」
 ドモンの返答に迷いはなかった。
「貴様のそれもまたガンダムではない!」
「ほお」
 チャップマンはそれには答えず不敵に笑うだけであった。
「言ってくれるな、私を前にして」
「では聞こう」
 ドモンはまた言った。
「貴様のその異形のガンダムは怪物の姿ではないのか!」
 見れば黄色の身体に背に複数の巨砲を持っている。それは確かに怪物の姿であった。
「否定はしない」
 チャップマンの返答はそれであった。
「だがそれこそがガンダムではないのか。怪物の様な姿が。そしてガンダムファイターもまた」
「違う!」
 ドモンは叫んだ。
「ガンダムファイターは怪物ではない、人間だ!」
「フ、戯れ言を」
「言ってくれるぜ」
 ミケロも突っ込みを入れた。
「この拳こそがそれを証明している」
 ドモンは右の拳を彼等に見せつけた。
「この真っ赤に燃える拳が。ミケロ=チャリオット、そしてジェントル=チャップマン」
 彼は二人の名を呼んだ。
「今貴様等にそれを教えなおしてやる。それから地獄に行け!」
「ドモンよ」
 後ろからマスターアジアの声がした。
「この二人、倒せるか」
「はい!」
 ドモンはそれに答えた。
「このような連中、俺一人で」
「いや、それは無理だ」
 しかし彼は弟子のその言葉を否定した。
「何故」
「御前は確かに強くなった。だがな」
 師は言う。
「一人では限度があるのだ。だが二人ではどうか」
「二人では」
「そうだ。わしも手伝おう」
「師匠」
 それを聞いたドモンの顔が明るくなった。
「その為にわしはここに来たのだからな。では行くぞ」
「はい!」
「ドモン=カッシュ」
 ジョルジュが彼に声をかけた。
「デスアーミー達は私達が引き受けましょう」
「済まない」
「まあ今度は俺達にも見せ場をくれたらいいからな」
「おいらはラーメンでいいよ」
「ヂボデー、サイシー」
「そういうことだ。では行くがいい」
「わかった」
 最後にアルゴの言葉に頷いた。そして銀色のガンダムと漆黒のガンダムが同時に跳んだ。


[296] 題名:第三十話その二 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月28日 (火) 19時25分

「あのアンドロイドの女の子のことかしら」
「さてね」
 加持はここではとぼけてみせた。
「まあまだ謎はあるってことさ。それよりも」
「レーダーにまた反応です」
 マヤがまた言った。
「今度は二つです。これは」
「何なの!?」
「八卦衆のものです。来ました!」
 その言葉に呼応するかのように二体のマシンがサンクトペテルブルグの街に姿を現わした。彼等は雪の街に立っていた。
「ほう」
 彼等を見たマサキは思わず喜びの声をあげた。
「今度は御前達か。八卦もいよいよ数がなくなってきたか」
「木原マサキ」
 そんな彼に対して緑のマシンに乗る祗鎗が言った。
「この山のバーストンが出撃したからには今までのようにはいかんぞ」
「ほお」
 だがマサキはそれを聞いても動じはしない。面白そうに呟くだけであった。
「ではどうなるというのだ」
「知れたこと」
 祗鎗はまた言った。
「貴様を倒す。この山のバーストンと」
「地のディノディロスで」
 茶の髪の女も言った。ロクフェルであった。
「御前達二人でか」
「そうだ」
 祗鎗はマサキを睨み据えた。
「木原マサキ」
 その目には強い憎しみの光が宿っている。
「貴様だけは許さん」
 前に出る。だがマサキはそれを前にしてもまだ笑っていた。
「面白いことを言う」
「何!?」
「俺は誰にも許されるつもりはない。貴様の言っていることは戯言に過ぎん」
「俺の言っていることが戯言だと!?」
「そうだ」
 マサキは答えた。
「違うというのなら答えてもらおうか」
「クッ」
「答えられぬか。それも当然だ」
 笑ったままであった。
「貴様はそういうふうに作られているのだからな」
「作られている」
「そうだ」
 今度は答えた。
「しかしそれを教えるつもりはない。俺はそこまでお人好しではない」
「というかここまで底意地の悪い奴はじめて見たわ」
「アスカが言うかね、ほんと」
 それを聞いてライトがまた軽口を叩いた。
「そしてだ」
 マサキはまた言った。
「御前もそこにいる女も俺に倒されるのだ。それが宿命だ」
「宿命だと」
 今度はロクフェルが声をあげた。
「そうだ、宿命だ」
 マサキはそれにも答えた。
「今それを教えてやろう。来るがいい」
「言われなくても」
「ロクフェル」
 前に出たロクフェルに対して祗鎗が声をかけた。
「何!?」
「御前だけ行かせるわけにはいかない」
「祗鎗、貴方」
「俺も行く。いいな」
「ええ、わかったわ」
 ロクフェルはそれに頷いた。そしてまずはディノディロスが前に出た。
「ほう、御前から来るか」
「そうだ」
 ロクフェルはマサキに対してそう答えた。
「これが地の響き」
 全身に力を込める。
「とくと味わえ!」
 そして胸の光から力を放出した。それを大地に叩き付けた。
 するとそれにより地響きが起こった。何と地震を起こしたのであった。
「馬鹿なことをする」
 だがそれを見てもマサキはまだ笑っていた。
「天と地、どちらが上なのか知らぬらしい」
「何だと!?」
「天は地の上にあるもの」
 マサキは言う。
「それがひっくり返ることなぞはありはしない。見よ」
 その地震を受けた。
「これが何よりの証拠だ。地は天に届きはしない」
「な・・・・・・」
「さて、天の裁きだ」
 ゼオライマーがマサキの言葉と共にゆっくりと腕を動かした。
「ぬがいい。裁きを受けてな」
 次元連結砲を放とうとする。それでディノディロスを滅ぼすつもりであった。だがそれより前にバーストンが動いていた。
「そうはさせんっ!」
「祗鎗!」
「ロクフェルはやらせん、この俺の命にかえて!」
 そう言ってミサイルを放った。バーストンの持つ全てのミサイルを放ってきた。無数のミサイルがゼオライマーに襲い掛かる。
 しかしそれでもマサキはやはり余裕であった。地震の時と同じくそのミサイルも全て受けた。だがゼオライマーは傷一つ負ってはいなかった。
「馬鹿な・・・・・・」
「こういうことだ」
 マサキはまだ笑っていた。
「山も同じだ。天に届く山なぞありはしない」
「おのれ」
「何をしてもな。貴様等は所詮は俺の前に滅び去る宿命なのだ」
「宿命か」
「そうだ」
 マサキは答えた。
「覚悟を決めろ。宿命は受け入れられなくてはならないものだからな」
「それは貴様が言うことではない!」
 それでも祗鎗はまだ諦めてはいなかった。
「宿命とは自分で切り開くものだからだ。違うか」
「貴様等に限っては違うな」 
 返答は冷酷極まるものであった。
「駒共はな」
「駒だと・・・・・・俺達が」
「その通りだ」
 呆然とした祗鎗に対してやはり冷酷な返答を送る。
「違うというのか。貴様等は全て俺の楽しみの為の駒だ」
「私達が・・・・・・」
「惑わされるな、ロクフェル」
 祗鎗はそう言ってうろたえようとする戦友を落ち着かせた。
「今はその時ではないぞ」
「え、ええ」
「木原マサキよ」
 祗鎗は再びマサキに顔を向けた。
「どうやら貴様は俺の全力を以って滅ぼさなければならない男のようだな」
「ようやくわかったか」
「言うな。まさかこれを使うとは思わなかったが」
「ムッ!?」
 それを見たアムロの直感が彼に教えた。
「まさか」
「受けよ、木原マサキ」
「いけない、皆!」
 アムロが咄嗟に叫んだ。普段の落ち着いた彼からは想像もできない言葉であった。
「どうした、アムロ」
「ブライト、すぐにあいつを止めろ」
「何があるのだ」
「あいつは・・・・・・核を使うつもりだ」
「何!?」
 それを聞いたブライトの表情も一変した。
「まさか」
「いや、おそらくそのまさかだ」
 クワトロもアムロと同じものを察していた。
「このプレッシャー、間違いない」
「クッ、どうすれば」
「心配ありません」
 だがここでエレが出て来た。
「オーラーバトラーならば核を受けても何ともありませんから」
「そうだったか」
 それを聞いてハッと思い出した。オーラバトラーは地上ではその力を大きく増幅させる。実際に核ミサイルの直撃を受けても無事だったのである。
「それならば」
「ここは俺達に任せろ」
 すぐにショウ達が出ようとする。だがここでマサキが攻撃を放ってきた。ショウ達はあわててそれをかわした。
「一体どういうつもりだ」
「余計なことはしないでもらおう」
「余計なこと」
「そうだ」
 それがマサキの返答であった。
「観客は客席にいろ。それだけだ」
「俺達は客かよ」
「じゃあこのままんじゃえっていうの!?何さ、あいつ」
「いや待て、チャム」
 そんなチャムをショウが窘めた。
「ショウ」
「あいつは俺達を観客と言ったな」
「うん」
「だったらあいつは核ミサイルを止めることができるかも知れない」
「何でよ」
「それだけ自信があるということさ。そうじゃないと言えないだろ」
「そりゃそうだけれど」
「だから安心していいかも知れない。あいつはやる」
「やれなかったら」
「その時は俺がやる。それだけだ」
 ショウは覚悟を決めながらことの成り行きを見守っていた。バーストンはいよいよミサイルを放とうとしていた。
「これで終わりだ、いけえっ!」
 核ミサイルが放たれた。それは一直線にマサキに向かう。だがゼオライマーは何とそれを打ち消してしまった。
「な、核ミサイルまでも」
「これでわかっただろう」
 マサキはミサイルを消した後でそう答えた。
「貴様等が何故俺を倒せないのかをな」
「いや、まだだ」
 それでも祗鎗は諦めようとしなかった。
「まだだ、必ず貴様を倒す」
「ふ、まだわからないか」
「わかってたまるものか」
「ならばいい。俺はわからせる為に話しているのではないのだからな」
「では何故話す」
「の宣告の為だ」
 そううそぶいた。
「貴様等へのな。行くぞ」
 そう言うとゼオライマーを天に昇らせた。
「苦しまずに」
 メイオウ攻撃を放とうとする。だがここで異変が起こった。
「む!?」
 黄色い奇妙な形をしたマシンが姿を現わしたのである。ゼオライマーはそれを見て動きを止めた。
「ほう、遂に全員揃ったか」
「何だ、あれは」
 だがロンド=ベルの面々にとってははじめて見るものであった。マサキ程落ち着いてはいなかった。
「八卦衆の一つか?」
「それにしちゃ随分変わった形だな、おい」
「ここにいたか、二人共」
 その奇妙なマシンに乗る男が祗鎗達に声をかけてきた。塞臥であった。
「塞臥」
 ロクフェルが彼の名を呼んだ。
「オムザックが復活したのね」
「如何にも」
 塞臥はニヤリと笑ってそう答えた。
「ようやくな。思えば長かった」
「それは何よりだ。だが」
 祗鎗の声の色はロクフェルのものとは違っていた。何故か硬かった。
「どうしてここに来た。貴様への出撃命令はまだだった筈だ」
「少し用があってな」
「俺達にか」
「そうだ。ここは一先戻ろう。よいか」
「ううむ」
 祗鎗はそれを聞いて考え込んだ。そしてロクフェルに対して問うた。
「ロクフェル」
「何!?」
「御前はどう思う」
「私は」
 彼女は戸惑いながらも答えた。戦闘の時の気丈さは何故か感じられなかった。
「塞臥に従う。それでいいか」
「そうか」
 祗鎗もそれを聞いて納得したようであった。縦に首を振った。
「ならばいい。塞臥よ」
 塞臥にも顔を向けた。
「今は貴様に従おう。それでいいな」
「ああ。では行くか」
「うむ」
 こうして三機のマシンは姿を消した。後にはゼオライマーとロンド=ベルの面々だけが残った。
「さて、と」
 まずはアスカが口を開いた。
「遂にこの時が来たって感じかしら。何か長いようで短かったけれど」
 そしてゆっくりとエヴァを前に出す。
「覚悟はいい?木原マサキさん」
「ほう、御前は」
 マサキはエヴァを見て面白そうに声をあげた。
「チルドレンの一人か。まさかこんなところで会うとはな」
「悪いの?」
「別に悪いとは思っていない。面白いと思っただけだ」
「面白いですって!?」
 それを聞いて整った眉を顰めさせた。
「それどういう意味よ」
「そのままだ」
 どうやらマサキはアスカのような少女を扱い慣れているようであった。アスカの噛み付きにも怯んではいない。
「こうして会えたのがな。どのみち会うことになったと思うが」
「で、ご対面して面白いってわけね」
「そうだ」
 マサキは答えた。
「面白くないわけがなかろう。碇ゲンドウの遺産を今こうして見れるのだからな」
「父さんを知ってる」
「そこにいるのは碇の息子か」
 今度はシンジに顔を向けてきた。
「何か?」
「ふ、面白い」
 マサキはシンジの声を聞いて笑った。
「全く似ていない。似ているのは顔の輪郭だけか。どうやら受け継いだのは遺伝子だけらしい」
「それがどうかしたんですか!?」
 話していると不快感を覚えた。シンジはそれに耐え切れなくなったかのように声をあげた。
「怒ったか」
「怒ってなんかいません。けれど貴方にはあまりいい感触は受けません」
「素直だな」
 マサキはそう言われても全く臆してはいなかった。どうやら他人が自分をどう思っていても何とも思わない人間であるようだ。それがマサキらしいと言えばマサキらしい。
「ふむ」
「何か?」
「さっきの言葉は否定してやる」
 シンジをよく見た後でこう述べた。
「純朴だな。あの男と同じだ」
「!?今何と」
「聞こえなかったのか。御前は父親に似ていると言ったのだ」
「あいつ、頭おかしいのか!?」
 離れて話を聞いていた甲児が首を傾げさせた。
「何処がどう似てるんだよ」
「いや、僕は似ていると思うな」
「万丈さん」
「意外だろうけれどね。シンジ君は父親似だよ」
「嘘・・・・・・」
 それを聞いて最も驚いているのはミサトとアスカであった。
「司令とシンジ君が」
「んなわけないでしょーーーが」
「と否定するのは容易いね」
 万丈がそこに突っ込みを入れた。
「けれど認めるのはどうかな」
「意味深い言葉ね、万丈君」
「世の中ってのは皆そうなのさ。否定するのは容易い」
「ええ」
「けれど認めるのは・・・・・・それより難しいんだ」
 メガノイドとの戦いを乗り越えた彼ならではの言葉であった。
「木原博士」
「ほう」
 マサキはそれを受けて万丈に顔を向けた。
「破嵐財閥の御曹子か。暫く見ないうちに大きくなったな」
「お久し振りです、と言った方がいいかな」
「挨拶はいい。どうせ今の俺と貴様はそういう関係ではない」
「おやおや」
「それにしても貴様までいるとはな。碇の息子だけではなく」
「他にも大勢いますよ。博士、貴方の興味を引く存在が」
「そのようだな」
「それでこれからどうされるのです?」
 万丈はそのうえで彼に対して問うた。
「何をだ?」
「僕達と戦うのか。それとも」
「安心しろ。今は御前達と戦うつもりはない」
「そうなの」
「こらシンジ、安心しない」
 安堵の声を漏らしたシンジをアスカが窘めた。
「そういってブッスリいくのが悪い奴の行動パターンなんだからね」
「それは安心しろ」
 しかしそれはマサキ自身が否定した。
「俺はやるとしたら正々堂々とやってやる。ゼオライマーの力でな」
「ホントかしら」
「セカンドチルドレンか。気の強いことだ」
「何よ」
「一つ言っておく。俺のゼオライマーを以ってしたらエヴァなぞものの数ではないということをな」
「何ですってえ!?」
「そのままだ。セカンドよ、御前では俺には勝てない」
「そんなに言うのならやってもらおうじゃないの!」
「待って」
 いきりたつアスカをレイが宥めた。
「今あの人と戦っても何にもならないわ」
「そういう問題じゃないの、これはあたしとあいつの問題よ!」
「そうやってまた自爆するのかね、このお嬢様は」
「何!?」
 からかうような言葉を口にしたケーンを見据える。
「お嬢様は我が侭ときたもんだ」
「おしとやかにならないとレディにはなれないぜ」
「あんた達に言われたくはないわよ!」
 今度はドラグナーチームに噛み付いてきた。
「あたしはあんた達みたいにピーマン頭に言われたくて戦ってるんじゃないの!」
「ピーマンか、今度は」
「その前はカボチャだったっけ」
「いや、スイカだったぞ。どういう理屈かは知らないが」
「スイカは水ばっかりでしょ」
「おう」
 三人はアスカの説明に頷いた。
「つまり大事なのは一切入ってないってこと。あんた達はそれそのものじゃない」
「うわっ、きついなそりゃ」
「俺達ってそんなに馬鹿だったか?」
「学校の勉強だけで判断するのはよくないぞ」
「別に学校の勉強だけじゃないわよ」
「そうかなあ」
「疑問だな」
「あんた達の行動を見て言ってるのよ。もっとちゃんとしたら!?」
「俺今回の戦いで七機撃墜したぞ」
「俺は六機。負けたな」
「俺は五機だけれどな。マギちゃんは活躍したぜ」
「とにかくあんた達は馬鹿なの。わかった!?」
「理屈なしかよ」
「何とまあ我が侭な」
「ほっといてよ」
 そう言って拗ねるアスカであった。だがレイは四人のそのやりとりを見てケーン達に対して内心感謝していた。
「有り難う」
 これは誰にも聞こえなかった。レイが心の中で言った言葉であった。だが実際にアスカの矛先がマサキから離れたのも事実であった。
「さてと、これでまた帰らせてもらうか」
「ラストガーディアンに?」
「知っていたか」
「おかげさまで。それでこれからどうするのです、博士」
「それを言う程俺はお人よしではない」
 万丈に対して邪な笑みを向けてそう答えた。
「だがこれだけは教えてやろう。ローマへ行くといい」
「ローマに」
「そうだ。そこで面白いことがある。俺が貴様等に教えてやるのはそれだけだ」
「へッ、ケチらずにもっと教えてくれりゃいいいのによ」
「そういう問題か?」
 悪態をつくデュオに対してウーヒェイが突っ込みを入れた。
「何か声が似ていてむかついてな。気にしないでくれ」
「そういうわけにもいかないだろ。それに声のことは言うな」
「おっと、悪い」
「俺もマサキと声が似ているしな」
「だから止めろ。とにかくローマだな」
「そうだ」
 マサキはウーヒェイの問いに対してそう答えた。
「無理に行くなとは言わんがな。だがいいことがある」
「どうせとんでもないことだろうな」
 甲児が半ば達観した声を漏らす。
「御前がてぐすね引いて待っているとでもいうのか」
「それはない」
 宙に対してそう返す。
「さっきも言った筈だ。俺に小細工を弄する必要はないと」
「俺達を倒せるからか、何時でも」
「ふふふ」
 鉄也の問いには答えなかった。ただ嘲笑だけは贈った。
「それではな。また会おう」
「そしてどうするつもり!?」
「その時に考えるとしよう。ではな」
 ミサトにそう答えて姿を消した。こうしてゼオライマーはまたしても姿を消したのであった。
「行ったね」
「何かむかつく奴ね。頭にくるわ」
 アスカは姿を消したところでようやく怒りの本来の矛先を思い出したようであった。
「あんな奴はじめてよ。今度会ったらホンットウにギッタンギッタンにしてやるんだから」
「その時は私も交ぜて」
 マリアが話に入って来た。
「グレンダイザーでボコボコにしてやるんだから、あんな奴」
「マリアさんってダイザーに乗れたんですか?」
「勿論よ」
 シンジに答えた。
「フリード星の王女なんだから。当然でしょ」
「そうだったんですか」
「これは意外だろうけれどね」 
 シンジに対して大介が言葉をかけてきた。
「グレンダイザーはフリード星の王族以外には乗ることができないんだ。言い換えると僕だけじゃなくマリアも乗ることができるんだ」
「そうなるんですね」
「そうさ。だから僕に何かあってもマリアがいるから。安心してくれ」
「そんなこと言わないで下さいよ」
 甲児が大介のその言葉を聞いて声をかけてきた。
「甲児君」
「マジンガーチームは一人欠けたら終わりなんですから。頼みますよ」
「それはわかってるよ」
「ならいいですけれどね。大介さんがいないと俺が困りますから」
「有り難う」
「そして俺は除け者か」
「いや、鉄也さんもいてくれないと」
 拗ねるそぶりを見せた鉄也に対して慌てて声をかける。
「三人いないとマジンガーチームじゃないですから。そんなこと言っていじめないで下さいよ」
「おいおい甲児君、俺はいじめはしないぞ」
「そうですかあ!?俺はそうは思えませんけれど」
「ははは」
 三人の和気藹々とした話が聞こえる中サンクトペテルブルグでの戦いは終わった。そしてロンド=ベルはティターンズとドレイク軍をミスマル司令率いる連邦軍正規軍に任せローマに向かうのであった。古の都であるローマが彼等を待っていた。

「帝」
 鉄甲龍の基地の奥深くでルラーンが幽羅帝に対し畏まって言葉を送っていた。
「どうした」
「我等の目的のことですが」
「それがどうかしたのか」
 帝はそれを聞いてあらためてルラーンを見た。優しい目であった。
「我等の目的は世界を滅ぼすことでしたな」
「今更何を言う」
 帝はそれを聞いて右の目を微かに疑問で曇らせた。
「ゼーレが人類補完計画に失敗した場合我等が動く計画であった」
「はい」
「補完に失敗した人類を浄化する為に。それを忘れたわけではあるまい」
「無論です」
 ルラーンはそれ自体は認めた。
「ですが」
「ですが・・・・・・何だ?」
「それは御本心ですか?」
「何を言いたい」
 幽羅帝には彼の言葉の意味がわからなかった。
「それは帝の御意志なのでしょうか。私はそれを御聞きしたいのですが」
「無礼な」
 彼女はそれを聞いてその幼さの残る目をキッとさせた。
「私が嘘を言うとでもいうのか」
「いえ」
「ならばわかろう。私は世界を破壊する為に存在している」
「はい」
「そしてその為なら如何なことでもしよう。例え我が身が滅びようともな」
「御身が」
「そうだ。それはそなたが最もよくわかっている筈だが」
「如何にも」
 それも認めた。だがそれでも言った。
「それが本当の帝の御意志ならよいのですが」
「まだ言うのか」
「いえ」
 ルラーンはここで話を止めることにした。
「これ以上は。それでは私はこれで」
「うむ。ゆっくりと休むがよい」
「はっ」
 ルラーンはいたわりの言葉を受けてその場を退いた。後には帝だけが残った。
「おかしなことを言う」
 彼女はルラーンがどうしてあのようなことを言ったのか理解できなかった。
「私が世界の、人類の破壊を望んでいないとでもいうのか?馬鹿な」
 それを肯定しようとした。だが何故かそれを肯定しきれなかった。それが何故か彼女自身にもわからなかった。
「どういうことなの?」
 その時彼女は一人の少女に戻っていた。
「私はこの世界も人類も滅ぼすつもりなのに。それを私は本当は望んでいないというの」
 だがそれはわからなかった。彼女自身には。だが一人だけそれを理解している者がいた。彼女のよく知る者である。そしてそれは彼女自身でもあったのだ。


第三十話   完


                                   2005・7・3


[295] 題名:第三十話その一 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月28日 (火) 19時22分

           仕組まれた引き金
「そうか、うまくいったか」
 巨大な玄室の中で一人の男が周りにいる者達の言葉を聞き満足そうに頷いていた。
「では次は洗脳だな」
「ハッ」
 周りの者達が彼の言葉に頷く。
「万全を期すようにな。よいな」
「わかりました。ではユーゼスの残したあの技術を使いましょう」
「よし。それにしてもユーゼスめ」
 男はユーゼスについて言及した。
「まさか今あの技術が使われるとは思っていなかったであろうな」
「全くです」
 部下達がそれに合わせて笑った。
「オリジナルのラオデキアに監視されていたとも知らずに。己が宇宙の支配者となるつもりだったようです」
「宇宙の支配者か」
 男はそれを聞いて笑みを浮かべた。そして周りの者に対して問うた。
「皆に聞く」
「はい」
「宇宙を統べるに相応しい者は誰か」
「陛下以外におりませぬ」
 彼等は一様にそう答えた。
「そうであろう。ではわかっているな」
「はい」
「朕の意思が。全てを統べる為に」
「全てを統べる為に」
「マーグをあの星に向かわせたのだ。そしてあの女も」
「あの女ことですが」
「何かあるのか」
「果たして大丈夫なのでしょうか」
「どうしてそう思うのだ?」
 男は疑問の声を呈した部下に対してそう問うた。
「いえ、あの女は生粋のバルマー星人ではありませぬ」
「それは知っている」
「だからこそです。信用できるでしょうか」
「マーグはバルマー星人だ」
 彼はそう述べた。
「ラオデキアと同じくな。それには逆らうことができまい」
「女であっても」
「女だからこそというのもある。だがそれ程心配か」
「はっ」
 否定はしなかった。
「僭越ながら」
「ふむ。そなたの考えはわかった」
 だが男はそれを退けることはなかった。見るべきものを見出したようであった。
「ならばさらにつけよう。シャピロ=キーツがいたな」
「はい」
「あの男をまた地球に送る。そしてムゲ=ゾルバトス軍もな」
「あの者達も」
「これで不安はあるまい。だがシャピロには注意しろ」
「はい」
「あの男が妙な動きをしたならば」
 男の目が剣呑に光った。
「消せ。よいな」
「わかりました」
 そして彼等はその部屋の中に沈んでいった。地球から遠く離れた場所でのことであった。

 地球では相も変わらず戦いが続いていた。ロンド=ベルはサンクトペテルブルグまであと僅かの距離にまで迫っていた。
「寒くなってきたな」
 バニングがアルビオンの格納庫でモビルスーツを前にそう呟いていた。
「そうですか?俺には丁度いいですけれど」
「御前さんは鈍感だからな」
「ヘイト、そりゃどういう意味だ」
「まあまあ」
 彼の部下達も一緒だった。アルビオンのパイロット達が皆そこにいた。
「けれどモンシアさんって意外と寒さに強いんですね」
「慣れってやつよ」
 ツグミに対してそう答える。
「俺の生まれた国は寒くてな。それで慣れたのさ」
「ふうん、そうなんですか」
「俺と同じだな」
 アルゴがここでポツリと言った。
「ていうかアルゴさんの故郷でしょ、ここ」
「一応はな」
 アルゴは頷いた。
「俺はコロニー生まれだがな。ネオ=ロシアだからな」
「あたしも同じだね」
 アレンビーも言った。
「あたしも寒い国だよ、ネオースウェーデン」
「あ、そうだったね」
 アイリスがそれを聞いてハッとした。
「あんたも寒い国の生まれだったんだ」
「そうだよ。オーロラも見たことあるよ」
「ねえ」
 それを聞いたクリスがグイ、と顔を前に出してきた。
「オーロラって綺麗なの?見たことないのだけれど」
「まあ綺麗って言えば綺麗かな」
 しかし当のアレンビーの答えは素っ気無いものである。
「あたしはあんまり興味なかったけれど」
「あら、そうなの」
「スフェーデン生まれだからってオーロラが好きとは限らないよ。あたしはそれより戦う方が好きだし」
「何か今更って感じのする言葉だな」
 キースがそれを聞いて呟いた。
「けれどスフェーデンはいいところなのは事実だよ」
「本当!?」
「魚が美味しいしね。鮭も鰻も美味しいよ」
「いいな、それって」
 それを聞いたコウとコスモクラッシャー隊の面々が声をあげた。
「魚が美味いって」
「あ、そうか」
 アレンビーはそれを見て気付いた。
「あんた達日本人だったんだね。だから魚が好きなんだ」
「嫌いな人はそうそういないな」
 ケンジがそれを認めるような言葉を口にした。
「刺身にしてもいいし」
「天麩羅もいい」
「鍋や唐揚げにしてもな」
「ふうん、色々な食べ方があるんだ」
「そうさ。知らなかったのか?」
「だってドモンは何かいつも焼いたのをそのままガブリだったし。もしくは生のままで」
「ドモンさんは特別よ」
 ミカがそれを聞いて困ったような顔をした。
「ドモンさんだったらウランを食べても平気なんだから」
「偉いいいようだな」
 当のドモンがそれを聞いて顔を顰めさせた。
「俺でもウランなんかは食べないが」
「レインさん、それ本当?」
「ええ」
 レインはミカの言葉に頷いた。
「ドモンはね、健康は大事にしているから。これでも体調管理はしっかりしているわよ」
「レインさんが全部やってるんじゃ」
「世話女房だしな」
 キースとバーニィがそれを聞いてヒソヒソと話をしている。だが彼等はそれをよこに話を続ける。
「そうだったんだ。ドモンさんも格闘家だしね」
「当然だ。俺は何時誰の攻撃を受けるかわからない。常にそれに備えている」
「だからね。体調管理もしっかりしていないと駄目なの」
「成程」
「生の魚を食べる時も気をつけている。虫がいては大変だからな」
「・・・・・・ドモンさんだったら虫まで消化しちゃいそう」
「それ禁句だぞ、バーニィ」
 それでも二人もヒソヒソと話をしている。
「まあ鰻なら蒲焼にしてもいいと思うよ。あたしも一度食べてみたいし」
「蒲焼か」
 コウがそれを聞いて目を輝かせた。
「いいよな、あのタレが。やっぱり鰻は蒲焼だよ」
「俺はひつまぶしの方がいいな」
 ナオトが突っ込みを入れる。
「肝の吸い物も忘れるなよ」
 アキラも。彼等もどうやら鰻が好きなようである。ナミダも何だか嬉しそうであった。
「だがそれはサンクトペテルブルグの戦いが終わってからだ」
 ここでバニングが皆を引き締めにかかった。
「それはわかっているな」
「はい」
 皆それに応えた。
「わかっているならいい。ではそろそろ戦いだ。配置についておけ、いいな」
「わかりました」
 こうして彼等は控え室に入った。入る時にタケルに対してミカが声をかけてきた。
「タケル」
「どうしたんだい?」
「お兄さんのことだけれど」
「兄さんの」
 それを聞いたタケルの顔が曇った。ミカはそれを見て言った。
「あ、嫌ならいいのよ。けれど」
「ミカの言いたいことはわかってるよ」
 彼はそう言葉を返して笑った。
「兄さんは生きている、それでいいさ」
「いいの?」
「今はね。けれど絶対に救い出す、絶対にね」
「お兄さんだから?」
「そうだな」
 タケルはそれを認めた。
「それはある」
「やっぱり」
「兄さんはやっと巡り合えた俺の肉親なんだ。何としても助け出したい」
「助け出してどうするの?」
「そこまではわからない」
 そう答えるしかなかった。
「だが兄さんを助け出したい。それじゃあ駄目なのか」
「いえ」
 ミカはそれを否定しなかった。
「それでいいと思うわ。けれどね、タケル」
「何だい」
「無理はしないでね、いいわね」
「わかってる」
 タケルはそう頷いた。
「だけど無理はしなければならない時は」
「私達がいるわ。安心して」
「有り難う」
 タケルはにこりと笑った。そして戦場に向かった。
 ロンド=ベルは戦場に布陣した。そこには既にティターンズとドレイク軍もいた。サンクトペテルブルグの入口であった。
「ロマノフ王朝の帝都か」
「ああ」
 ピートの言葉にライが頷いた。
「そしてソ連の時には国父の街だった。ロシアの歴史において最も重要な都市の一つだ」
 この都市はロシアきっての名君とされるピョートル一世の作り上げた都市である。当時欧州きっての軍事国家であったスウェーデンとの戦いにおいて勝利した彼がここに街を築いたのであった。理由は幾つかあった。
 まずはそのスフェーデンに近かったこと。勝利を収めたとはいえいまだスフェーデンはロシアにとって脅威であった。そして港になった。ロシアにとって港とは喉から手が出る程欲しいものであるのだ。ロシアの拡張主義はこの不凍港を手に入れる為でもあったのだ。
 最後に西欧の進んだ技術や文化を取り入れるに適しているとピョートル一世が考えたこと。彼はここに古いロシアの匂いのしない西欧風の都市を築こうと考えたのだ。そして自らの名を冠したのである。ここに彼の意気込みが見られた。
 北極の凍てついた大地の上にこの都市は築かれた。その際夥しい犠牲者が出ている。この都市は白骨都市とさえ言われた。ロシアの歴史の暗部でもあったのだ。
 そしてロマノフ朝の都となった。栄耀栄華を極める貴族達の街であった。革命の後には聖地となった。ロシアの激動の歴史と共に歩んできた街であった。
 今この街で激戦がはじまろうとしていた。ロンド=ベルとティターンズ、ドレイク連合軍が対峙していた。そして別の俳優達も姿を現わそうとしていた。
「とりあえずはゼオライマーは無視していい」
 ブライトは全軍にそう言い伝えた。
「無視ですか」
「そうだ」
 カミーユにそう答える。
「ゼオライマーにはエヴァを向ける。いいな」
「了解」
 シンジがそれに頷く。他の三人もいた。
「やってみます」
「やってみますじゃないでしょ」
 アスカがそう突っ込みを入れる。
「やるのよ。あの銀色のマシンを破壊するのよ」
「けれど敵じゃなかったら」
「は!?あんたまだそんなこと言ってるの」
 アスカはそれを聞いて呆れた声で返した。
「あれが敵じゃなかったら何だっていうのよ。そんなんだからあんたはなよなよしてるって言われるのよ」
「別になよなよしてるわけじゃ」
「口ごためはいいの。男がそんなの止めなさい」
「男だからってわけじゃ」
「ええい、だからそれがいけないのよ!」
 アスカは遂に切れてしまった。
「とにかくゼオライマーが来たら倒す。それでいいでしょ」
「うん」
 アスカに押し切られる形となった。頷くしかなかった。
「どのみちあいつは洒落にならない程危ない奴なんだから。見たでしょ」
「うん」
 木原マサキの危険さはシンジもよくわかっていた。これまでの戦いでそれがわかっていた。
「どのみち放っておいたら危ないわよ。あんな冷酷で残酷な奴見たことないわ」
「アスカもああした奴は嫌いなのか」
「好きな奴を見つける方が難しいわよ」
 ケーンにそう返す。
「あんな奴!あたしの手でギッタンギッタンにしてやるわよ。見てなさい!」
「このお嬢さんがここまで嫌うのも珍しいな」
「カルシウムが足りないとか」
「毎日牛乳は一リットル飲んでるわよ」
 ライトとタップにそう返す。
「だから骨は丈夫よ」
「情緒は安定しねえんだな」
「全くだ」
「あんた達には言われたくはないわよ」
 反撃に出て来た。
「特にあんたにはね」
 そう言ってケーンを睨みつけてきた。
「おやおや」
「まあ話はそれ位にしてや」
 トウジが間に入って来た。
「ケーンさん達はあっち頼んます」
「了解」
「わし等はゼオライマーっと。まそのうち出て来るやろ」
「突然ね」
 レイがポツリと呟いた。
「シンジ君、気をつけてね」
「う、うん」
 レイに突然言われ戸惑うシンジであった。
「僕も頑張るよ」
「そうね。頑張ればいいわ。自分の範囲でね」
「そうだね、そうするよ。少しずつ」
「フォローもあるしな」
「洸さん」
「俺達でな」
「ミスター」
 コープランダー隊からも言葉が来た。
「だから安心してやれ。後ろは気にするな」
「はい」
「だからゼオライマーは任せたぞ。俺達の方も片付いたら行くからな」
「お願いします」
「あらあら」
 アスカがそうした温かい光景を見ていささかシニカルに笑った。
「シンジって何か男にもてるのね。それも年上に」
「いいことだ!」
 ここにドモンが入って来た。
「男と男の友情、それは熱き心の血潮」
「あんたが言うと説得力あるわね」
 さしものアスカも彼だけは苦手であった。正確に言うとガンダムファイターがであるが。
「そこにこそ真の世界があるのだ!」
「はい、ドモンさん」
 シンジはそれにも頷いた。
「僕頑張ります。そしてやります」
「そうだ、やり遂げろ」
 ドモンはそれに応え彼を励ます。
「そこに真の世界があるのだからな!」
「はい!」
「まあシンジも強くなったかしら」
 アスカはいささか呆れながらもそう呟いた。
「みんなの影響で」
「そうかもね」
 そこでエヴァ弐号機のモニターにミサトが出て来た。にこりと笑っていた。
「ここに入るまでのシンジ君とは偉い違いよ」
「そうでしょうか」
 シンジがそれを聞いてモニターに出て来た。
「ええ。前はホントに引っ込み思案だったから。けれど朱にも混じればっていうのは本当ね」
「確かにね」
 アスカもそれは認めた。
「少なくとも今のあんた臆病じゃないし」
「そ、そうかな」
「ええ。けれど甲児みたいにはならないでね」
「おい、そりゃどういう意味だ」
 甲児もモニターに出て来た。
「何か俺が馬鹿みてえな言い方じゃねえか」
「あんたが馬鹿じゃなかったら誰が馬鹿なのよ」
「何ィ!?」
「あんたこの前マジンガーに乗る理由何て答えたのよ」
「格好いいからだ。何度でも言ってやるぞ」
「だからあんたは馬鹿なのよ!よくそれでマジンガーのパイロットが務まるわね」
「俺とマジンガーは一身同体だからな」
 彼は誇らしげにそう答えた。ふんぞりかえってすらいる。
「だから戦えるんだよ、一緒に」
「理由にも何にもなってないじゃないの。ちょっとは大介さんみたいに悩んだら!?」
「僕も関係あるのか」
 大介はそれを聞いて少し困った顔になった。そして甲児に声をかけてきた。
「甲児君」
「あ、大介さん」
 甲児も彼に顔を向けてきた。どうも彼には弱いらしい。
「話はそれ位にしてだ。戦いの方を頼むよ」
「あ、いけね」
 その言葉にハッとした。
「丁度敵も来ているし。そちらをお願いできないか」
「わかりました。それじゃあ行きます」
「甲児君、大介さん、久し振りにあれをやりますか」
 ここで鉄也も出て来た。
「あれですか」
「いいな」
 二人はそれを聞いて笑みを作った。彼等にだけわかる笑みであった。それを受けてまず大介のグレンダイザーが続いた。
「じゃあ行くか。目標はあれだ」
「はい」 
 そこにはダブデがいた。丁度いい場所にいると三人は思った。
「甲児君、鉄也君」
 大介はまた二人に声をかけた。
「僕に続け、いいな」
「はい」
「了解」
 二人は彼の言葉に頷いた。
「久し振りにマジンガーチームの真の力を見せてやろう」
「腕が鳴りますね」
「甲児君」
 グレートマジンガーがマジンガーZにマジンガーブレードを手渡した。
「いいな」
「ええ」
「よし!」
 大介の言葉を合図に一斉に前に出た。そして同時に叫ぶ。
「トリプルマジンガーブレード!」
 まずはマジンガーとグレートが突進する。ダイザーはその上でスペイザーに変形した。
 そのまま三機はダブデに突っ込む。まずはマジンガーとグレートが斬りつける。それだけでもかなりのダメージであった。
 だがそれで終わりではなかった。上にはスペイザーがいたのだ。スペイザーはグレンダイザーに戻った。その手にはダブルハーケンがある。彼はそれを振り下ろした。
「止めだっ!」
 それで決まりであった。ダブデは真っ二つになり爆発して果てた。三人の見事な連携攻撃であった。
「うわ、凄いや」
「シンジ、感心してる場合やあらへんで」
 トウジがそう彼に言った。
「わし等もあれ位やれるようにならなあかんのやで。それはわかってるか」
「そ、そうだね」
「けれど無理でしょうね、あんたとろいから」
「アスカ」
「努力しなさい、いいわね」
「う、うん」
 シンジはまた頷いた。
「努力したらひょっとしたらマスターアジアみたいになれるかも知れないから」
「それは無理ね」
 リツ子がキッパリとそれを否定した。
「シンジ君は人間だから」
「俺の師匠は人間だ!」
「だといいけれど。使徒でも驚かないわよ」
「同感」
「クッ」
 さしものドモンもリツ子とミサトの連続コンボの前に沈黙したかと思われた。だがその沈黙は二人のコンボを受けてのことではなかった。これがドモンであった。
「ゴォッドスラッシュ・・・・・・」
 彼はオーラバトラー達を前にして構えに入っていた。全身に力がみなぎっている。
「タイフゥゥゥゥゥゥン!!」
 そして竜巻を放った。それで敵を一掃してしまったのである。
「とりあえず彼も怪しいわね」
「こらこら」
 今度はミサトが止めた。リツ子にしてみればドモン達は常識の範囲外であるのに変わりはないのであった。
 だが何はともあれ戦いは行われていた。ロンド=ベルは果敢に攻撃を仕掛けていた。
「ゴッドバァァァァァァァァーーードチェェェェェェェェェェーーーンジッ!」
 洸がライディーンの照準を一機のスードリに合わせた。
「照準セェェェェェェェェェェェーーーット!」
 そしてゴッドバードを放つ。それでスードリは大破し炎上する。乗組員達は脱出するので精一杯であった。
「クッ、スードリが一撃か」
「流石はライディーンといったところですか」
 ブランに対してベンがそう答える。
「ですが我々にとってはそれだけでは済みません」
「ああ」
「少佐、これからどう戦われますか?このままですと」
「わかっている」
 ベンに対して言葉を返す。
「ドレル隊長に申し上げよう。これ以上の戦いは不利だとな」
「はい」
 こうしてブランはドレルに意見を具申した。彼はそれをベルガ=ダラスのコクピットで聞いていた。
「撤退すべきか」
「はい」
 ブランはそう答えた。
「御言葉ですが我が軍の損害は最早無視できない程になっております」
「うむ」
 それは他ならぬドレルが最もわかっていることであった。頷くしかなかった。
「それにこのサンクトペテルブルグの市街にまで迫ってきております。これ以上の戦闘は我々にとって地球の市民達の不必要な反感を抱かせるだけかと」
「アースノイドのか」
「はい。それは避けるべきだと思いますが」
 ティターンズは表向きはアースノイド至上主義を唱えている。その実態は木星と手を結びクロスボーンを受け入れていてもだ。だが表向きとはいえ重要であることには変わりがない。
 それがわからぬドレルではなかった。彼もまたロナ家の人間であり政治に深く関わっているのだから。ただの軍人ではないのである。
「わかった」
 ドレルはブランの提案を受け入れることにした。
「ではこのサンクトペテルブルグを放棄するとしよう。以後は北欧に向かう」
「ハッ」
「後詰は私が引き受ける。ブラン少佐には損傷の激しいモビルスーツ及びオーラバトラーの回収を頼みたい。いいな」
「おおせのままに」
 ブランは頷いた。こうしてティターンズ、そしてドレイク軍の作戦が決まった。
「ドレイク殿」
 ドレルはティターンズを代表してドレイクのウィル=ウィプスのモニターに姿を現わした。
「これから北欧に向かいたいのですが。宜しいですか」
「北欧ですか」
「はい」
 ドレルはそれに頷いた。
「まずはそこで勢力を回復させるべきだと思うのですが。如何でしょうか」
「ふむ」
 ドレイクはそれを聞いて考えるふりをした。あくまでふりである。そしてドレルに対して問うた。
「ドレル殿」
「はい」
「それはジャミトフ閣下の御考えですかな」
「閣下の」
「若しくはバスク大佐の。どうなのでしょうか」
「それは」
 ドレルは躊躇したが答えることにした。
「私の考えです。この部隊を預かる指揮官としての判断です」
「では御二人の御考えではないのですな」
「はい」
「成程」
 ドレイクはそれを聞いてまた考えるふりをした。
「卿の御考えですか、つまりは」
「それが何か」
 それを聞いてドレルは問うた。
「不都合があるのでしょうか」
「いえ、別に」
 ドレイクはそれに対しては不平を述べはしなかった。
「ただ北欧はどうかと思いましてな」
「いけませんか」
「これはあくまで私の考えですが」
 ドレイクはここでは考えていた。考えながら述べた。
「北欧よりいい場所があるのではないですかな」
「といいますと」
「西欧等はどうでしょうか。北欧に比べれば勢力を回復させ易いと思いますが」
「言われてみれば」
 北欧は人口が少ない。だが西欧はそれに比べて遥かに人口が多い。しかもジャミトフの出身地であるゼダンもある。ここではティターンズの人気は高いのである。
「悪くはないですね」
「では決まりですな。西欧へ向かいましょう。そこで勢力を回復させるとしましょう」
「わかりました。それではそれで」
「はい」
 ドレルはモニターから姿を消した。それを見送りドレイクは不敵に笑っていた。
「これでよし」
「殿」
 ここで家臣の一人がドレイクに話し掛けてきた。
「どうした」
「何故あの若者に西欧を勧められたのですか」
「さっき申したであろう」
 ドレイクは不敵に笑いながらそう言葉を返した。
「勢力を回復させる為だ」
「いえ」
 だが家臣はそれで全てだとは思わなかった。さらに問うた。
「それだけではないと思いますが」
「ふふふ」
 ドレイクはまた不敵に笑った。
「どうやらわかっているようだな」
「ハッ」
「ここはティターンズに対して恩を売るべき時だ」
「はい」
「ジャミトフ=ハイマン、バスク=オム、いずれも野心に満ちた男だな」
「どうやらそのようで」
 彼等の野心は既にドレイクも見抜いていた。これは同類だからであろうか。
「その野心をくすぐらせてもらおう。そうすれば今後何かと面白くなるやも知れぬ」
「この地上の世界を手に入れる為に」
「そうだ。だが」
 ここでドレイクの目が光った。
「それはあの二人には悟らせるな。あの二人だけではないがな」
「はい」
「ビショットにもショットにもだ」
「無論です。ビショット殿もショット殿も今回は後方に退いておられますな」
「いつものことだ」
 ドレイクはそれに対してやや忌まわしげに吐き捨てた。
「小賢しい真似を。漁夫の利を得ることしか考えておらぬは」
「ですがそれも想定のうちでは」
「否定はせぬ」
 ドレイクはそれも認めた。
「こちらも利用させてもらう。最後に立っているのは私なのは既に決まっていることだからな」
「殿が」
「そうだ。だがな」
 ドレイクの顔が歪んだ。
「果たしてあの二人だけなのか」
「といいますと」
「リムルの動きを見よ」
 ロンド=ベルにおり敵味方に分かれている娘について言及した。
「リムル様ですか」
 家臣達も彼女のことは知っていた。抵抗はあったがあえて述べた。
「そうだ。何故ゲア=ガリングを執拗に狙う」
「それは」
 それが彼女の特徴であった。ゲア=ガリングが戦場に出たならばまずそこに向かおうとする。その際強い怒りと憎しみのオーラを放っているのだ。
「ビショットとは確かに婿の話があるが」
 それは既に反故になっているにも等しい話であった。
「あの娘はあそこまでビショットに対して感情を持ってはいない筈だな」
「ええ」
「では何故だ。何故ああまであの艦を狙うのだ。あれはどういうことだ」
「それは」
 それは誰にもわからなかった。家臣達は皆首を傾げてしまった。
「あの裏切り者達が何か吹き込んだとは思えぬ」
 ショウだけではない。ショットやガラリアについても述べていた。
「あの者達はそうしたことはせぬからな」
「はい。では何故でしょうか」
「今はわからぬな。だが」
 ドレイクの目に暗い光が宿った。
「必ず何かある。その時は動かねばならぬな」
「はっ」
 彼等も戦場を離れた。こうしてティターンズとドレイク軍はサンクトペテルブルグからバルト海へと次々と逃れていった。凍てついた氷の海であった。
「逃げるか」
「どうしますか?」
 シナプスに対してバニングが尋ねた。
「追いますか、それとも」
「うむ」
 シナプスはそれを受けて考え込んだ。
「追ってもいいがな。だが一つ気懸りなことがある」
「あれですか」
「そうだ。そろそろ出て来る頃だな」
「ですね。出るとするなら」
 バニングはニュータイプではない。だが歴戦の勘が彼に何かを教えていた。
「そろそろですね」
「ああ。葛城三佐」
 シナプスはここでミサトに話を振ってきた。
「はい」
「そちらのレーダーに反応ははないか」
「ちょっと待って下さい。伊吹ニ尉」
「はい」
 マヤがそれに応える。
「レーダーに反応は?」
「今のところは・・・・・・あっ」
 マヤがここで声をあげた。
「反応です、市街地にです」
「また厄介なところに出て来るわね」
 ミサトはそれを聞いて顔を顰めさせた。
「どうやら木原博士ってのは女にはもてないタイプみたいね」
「おいおい、どうしてそうなるんだ」
 加持はそれを聞いて思わず苦笑した。
「場所を考えないからよ。そんなのはもてないわよ」
「そんなもんか」
「女はね、ルックスだけを見ないの。内面を見るんだから」
「じゃあ俺やアムロ中佐はどうなるんだ?俺はともかく中佐は」
「格好いいじゃない。優しいし」
「おやおや」
 それを聞いて肩をすくめさせた。
「どうやらかなりお目が高いようで」
「少なくとも男を見る目は養ってきたつもりだから」
「ほう」
「だからわかるのよ。少なくとも木原博士は女にはもてないわ。ひょっとすると興味がないのかも」
「じゃあもう一人はどうかな」
「もう一人」
 それを聞いたミサトの顔色が豹変した。


[294] 題名:第二十九話その二 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月28日 (火) 19時15分

「俺達にもやらせてもらうぜ!」
 ヤザンがいた。二人の部下も一緒である。
「ヤザン=ゲーブル大尉か」
「おう、そこの紫の髪のいかした兄ちゃんよ」
 ヤザンはドレルに対して声をかけてきた。
「何か」
「ここは大船に乗ったつもりでいな。俺もいるからな」
「それはいいが大丈夫なのか」
「何がだ!?」
「連戦でだ。オデッサからずっとではないのか」
「生憎俺もハンブラビも頑丈でな」
 ヤザンはその問いに対して不敵に笑って返した。
「あの程度の戦いじゃ何ともないのさ」
「そうか」
「それに俺だけじぇねえぜ。ジェリドもいる」
「ほう」
 見ればメッサーラが飛んでいた。撤退するティターンズ及びドレイク軍をフォローしていた。
「あのスキンヘッドの旦那のところの聖戦士とやらもな。だから安心しな」
「そうだな。では頼りにさせてもらおう」
「物分りはいいみてえだな」
「そういうわけでもないが」
「まあいいさ。それよりも気合入れてやろうぜ。獲物がこっちから向かって来るんだからな」
「わかっている。だが注意してくれ」
「どうしてだ?」
「戦いはこれで終わりではないからだ。それはわかっているな」
「ああ、勿論だ」
 ヤザンもそれはわかっていた。
「これから当分ロンド=ベルの奴等とやり合うことになるからな。この連中だけとは限らねえしな」
 ティターンズもまた敵の多い組織なのである。ロンド=ベル、そして連邦軍は言うまでもなくネオ=ジオンやギガノスとも対立していた。そしてバルマー帝国軍とも。これはネオ=ジオンやギガノスも同じであったが。まだドレイク軍という同盟軍がいるだけ彼等の方がましとも言える状況ではあるが。
「腕が鳴るがな。思う存分やらせてもらうか」
「ヤザン大尉」
 ここでラムサスとダンケルが声をかけてきた。
「行きましょう、前から来ています」
「おう、わかっている」
 ヤザンは二人に対しそう答えた。
「それじゃあな。御前さんも■なねえ程度に頑張りな」
「ああ」
 こうして彼等も戦いに入った。ロンド=ベルと彼等の戦いはさらに熾烈なものとなっていた。
「厄介なことになったか」 
 大文字は膠着しつつある戦場を見てそう呟いた。
「どうすべきかな」
 その間にもティターンズ及びドレイク軍は戦場を離脱していく。彼はそれを見て少しであるが焦りを感じていた。
「俺に一つ考えがありますが」
「何かね」
 ピートの言葉に顔を向けた。
「バルキリー隊を動かしましょう」
「彼等をか」
「はい」
 バルキリーはロンド=ベルの中でもとりわけ機動力、そして運動性に優れる者達である。
「一体どうするのかね、ピート君」
「彼等を一度戦線から外します」
 彼はそう答えた。
「それから彼等を右に回り込ませ敵の前に向かいます。そして挟み撃ちにします」
「いけるかね、それで」
「大丈夫です」
 ピートは大文字の疑問の声に対し自信を持ってそう答えた。
「彼等なら。絶対にいけます」
「そうか」
 大文字は彼の言葉を信じることにした。それに頷いた。
「ではすぐに向かわせよう。ロイ=フォッカー少佐に連絡をとってくれ」
「わかりました」
 ミドリがそれに答える。こうして作戦が決定された。
「聞いたか」
 フォッカーがバルキリーのパイロット全員に対してそう言った。
「行くぞ、一気にな」
「はい」
「何時でもいいですよ」
 輝とイサムが彼等を代表してそれに答える。
「よし、ならいい。では一気に仕掛けるぞ」
「はい!」
「バルキリーチーム、発進!」
 彼等が一斉に動いた。そして光の様な速さで敵の右を突き進む。
「ムッ!?」
 アレンとフェイが最初にそれに気付いた。だが気付いた時には手遅れであった。
「しまった!回り込むつもりか!」
 ドレルが気付いたがもう遅かった。バルキリー達は彼等の前に回り込んできていた。
「よし、今だ!」
「はい!」
 輝とイサムだけではなかった。ガルドもマックスもミリアも柿崎もそれに頷いた。そして一斉にミサイルを放った。
「全機突撃だ!前にいる奴から始末しろ。いいな!」
「ラジャー!」
 バルキリー達が突っ込む。まずミサイルで数機撃墜しガンポッドでさらに撃墜する。こうしてティターンズ、そしてドレイク軍の動きを止めた。
「クッ、何という速さだ!」
「ドレル様、私が行きます」
 ここでザビーネが出て来た。
「卿がか」
「はい。今彼等を止めなくては大変なことになります。ここは私が行きましょう」
「できるか!?」
 だがドレルはそれに対し眉を顰めさせて答えた。
「卿一人で」
「そうも言っていられないでしょう」
 ザビーネの言葉は簡潔であるが真実であった。
「実際に我々は危機に陥ろうとしております。迷っている暇はありません」
「そうだな」
 ドレルもバルキリー達の動きを見てそれを悟った。そしてそれを認めた。
「わかった、すぐに行ってくれ」
「わかりました」
 ザビーネが動いた。そして前から攻撃を仕掛けるバルキリー達に向かう。他の者達は後ろの主力部隊に向かって行った。だがその時だった。
「ヌッ!」
 何かが戦場にやって来た。それは銀色のマシンであった。
「よりによってこんな時に出て来るなんてね」
 ミサトはその銀色のマシンを認めてそう言葉を漏らした。
「時と場所を選ばない男は嫌われるわよ」
「ミサトさん、そんなこと言ってる場合じゃないんじゃないかな」
「まあいいのよ」
 シンジのいつもの突っ込みをさらりとかわした。
「中にいるのは本当に男なんだから。美少年かどうかは知らないけれど」
「葛城三佐って何時から美少年好みになったのかしら」
「あまり考えない方がいいよ」
「アムロ中佐とも仲いいんだし」
「それって」
「そこ五月蝿い」
 ミサトはヒソヒソと話をするマヤ達三人にそう突っ込みを入れた。
「それよりゼオライマーの動きから目を離さないでね」
「あ、はい」
「そうでした」
 三人は慌ててゼオライマーに神経を集中させた。
「今のところ我が軍に攻撃を仕掛ける様子はありません」
「変ね」
「ティターンズにもドレイク軍にもです。これはどういうことでしょうか」
「そうね」
 ミサトはそれを受けてあらためてモニターに映るゼオライマーを見た。確かに動きはない。
「中のパイロットが違うのかしら」
「まさか」
「いえ、有り得るわ」
 リツ子がここで出て来た。
「先輩」
「ゼオライマーは色々と謎があると言われているわ。もしかすると中にいるのは一人じゃないのかも知れないわよ」
「コンバトラーやボルテスみたいに何人かで乗ってるってこと?」
「可能性はあるわね」
「そう」
 それはミサトにもよくわかった。
「じゃあ話が早いわ。今のゼオライマーは今までの戦力でない可能性があるわ」
「それじゃあ一気にやるの?」
「それは待って下さい」
 アスカが前に出ようとすると翡翠の髪の少女がそれを止めた。
「シーラ姫」
「今のあのマシンからは邪気を感じません。少し待って下さい」
「しかし」
「今までゼオライマーというあのマシンからは邪なオーラが感じられました。しかし今はそれがありません」
「どういうことなのかしら」
「そこまではわかりませんが。少なくとも今のゼオライマーは私達にとって脅威ではないでしょう」
「そうかしら」
「私もそう思います」
 エレもそう述べた。
「エレ様も」
「はい。それよりも別の憎しみのオーラを感じます」
「そこにいる赤い髪の人と灰色の髪の人!?」
「残念ですが違います」
 どういうわけかアスカの言葉は今回はどうも滑りが悪いようである。
「確かにあの二人も問題ですが」
「問題とかそういうレベルじゃないと思うけれど」
 シンジがそう言って首を捻っていた。
「それよりも大きな憎しみです。憎しみだけではありません」
 二人は言った。
「悲しみ、戸惑い、嫌悪・・・・・・。様々な負のオーラが感じられます」
「そしてその統括こそが憎しみなのです」
「よくわからないけれどとにかくイジイジと恨んでるわけね。暗い奴」
「アスカはまたいつも怒鳴りすぎやけれどな」
「あたしのことはいいのよ、今は」
「その憎しみが今ここに来ます」
 シーラとエレはアスカの声を聞きながらも話を続ける。
「今!?」
「はい」
 答えた時であった。赤紫の身体を持つマシンも姿を現わした。
「探したぞ、木原マサキ」
「またその名前を」
 ゼオライマーの中にいる少年がそれを聞いてそう呟いた。
「僕は秋津マサトだっていうのに」
「嘘をつく必要はない」
 赤紫のマシンに乗る仮面の男がそれに対してこう返した。
「それは俺が最も知っていることだからな」
「そういう貴方は」
「葎」
 男は名乗った。
「八卦衆の一人だ。先程言ったな」
「何故僕に名乗るんだ」
「とぼけるつもりか」
 それを聞いた葎の声に怒気がこもった。
「ここに来るまでの戦いで御前は言った筈だ」
「そんな」
「俺を倒すことなぞ造作もないことだとな。今それを見せてもらおう」
「あれは八卦衆のマシンみたいね」
 リツ子が葎のマシンを指差してそう言った。
「何なのかまではわからないけれど」
「この月のローズセラヴィーの力を見せてやろう」
「答えてくれたわよ」
「親切な人みたいね」
「・・・・・・一体何者だ、この連中は」
 突然の乱入者達により戦いは停止した状態になっていた。ドレルがまず我に返った。
「見たことも聞いたこともないマシンだが」
「それよりもドレル様」
 ザビーネが意見を具申してきた。
「何だ」
「今が好機だと思いますが」
「!?」
 一瞬戸惑いを見せたがそれが何を指しているのかすぐにわかった。ドレルは頷いた。
「わかった。では行くか」
「ハッ」
「全軍に告ぐ」
 ドレルはティターンズ、そしてドレイク軍のパイロット達に告げた。
「今すぐその場所から撤退する。そshちえサンクトペテルブルグへ向かう。いいな」
「了解」
「チッ、もうかよ」
 ジェリドはそれを聞いて舌打ちした。
「これからだというのにな」
「いや、今は退いた方がいい」
「カクリコン」
「あのマシン、一体何者かわからないが俺達にとってはいい潮時になってくれた」
「挟み撃ちにされているからか」
「それもある。だが戦いの流れが途絶えた。これを利用しない手はない」
「まあここはわかってやるか」
 カクリコンに言われてはジェリドもイエスと言うしかなかった。
「じゃあ撤退するぜ。行くか、カクリコン」
「おう」
 最後にメッサーラに搭載されているミサイルを全て放ち拡散ビーム砲も放った。それでロンド=ベルの動きを牽制しながら戦場を離脱したのであった。
 こうしてティターンズとドレイク軍は戦場を離脱していった。さらに損害を受けたとはいえその戦力はまだかなりのものであった。
「敵軍がレーダーの視界から消えました」
「今は仕方ない」
 ブライトはサエグサの報告にそう返した。
「それより今は目の前のことを何とかしなければな」
「ブライト大佐」
 ここで横にいるミサトが声をかけてきた。
「どうした、葛城三佐」
「ここはエヴァを中心に作戦を立てたいのですが」
「エヴァをか」
「はい。あのゼオライマーはかなりの攻撃力を持っております。通常のマシンではそれに耐えられない可能性が大きいと思われます」
「確かにな」
 ブライトも先のシ=アエン、シ=タウとの戦いを見ていた。彼もゼオライマーの力は見ているのである。
「ではそうするか。エヴァチームを前に」
「はい」
「防御に力を入れて。エネルギーをATフィールドに集中させよ」
「了解。いい、皆」
 ミサトは四人に声をかけてきた。
「フィールド全開よ。そしてゼオライマーに向かって」
「ほいな」
「何か消極的でやなやり方だけれどね」
「待って」
 だがここで綾波が止めた。
「レイ、どうしたの?」
「あのマシンを見て下さい」
「!?」
 皆それを受けてゼオライマーに目を向けた。見ればローズセラヴィーと戦いを繰り広げている。
「今のゼオライマーは私達を見ていません」
「どういうことなの!?」
「おそらくあの中にいるのは木原博士ではないのです」
「ルリちゃん」
 ミサトはモニターに姿を現わしたルリを見上げた。
「それなら」
「あの中にいるのはごく普通の人と思われます。ただ」
「ただ!?」
「それでも身体は木原博士と同じものだと思われます」
「じゃあ二重人格者か何か?」
「はい」
 ルリはそれに答えた。
「詳しいことまではわかりませんが」
「そういえばそうだな」
 アムロがそれに頷いた。
「アムロ中佐」
「ゼオライマーの動き、あの時とはまるで違う。今のあれは素人のそれだ」
「素人」
 実際にゼオライマーはローズセラヴィーに為されるがままであった。一方的に攻撃を受けていた。
「どういうことだ」
 それに最も驚いていたのは他ならぬ葎であった。
「ゼオライマーの力、この程度だというのか」
「ううう・・・・・・」
 マサトはゼオライマーのコクピットで呻いていた。そして葎に対して問うた。
「答えてくれ」
「!?」
「何故僕を憎むんだ?」
 マサトはそう問うてきた。
「君のことは知らない筈だけれど」
「知らないのか」
「それに僕は秋津マサトだ」
「それは知っている」
 葎はそれに頷いた。
「だが同時に木原マサキでもある」
「やはりな」 
 ロンド=ベルの面々の中で何人かがそれを聞いて表情を変えた。
「それなら」
 マサトはまた問うた。
「君はどうして木原マサキを憎むんだ?彼が君に何をしたというんだ」
「俺という命を弄んだ」
「命を!?」
「そうだ。見ろ」
 葎はここで仮面を取り外した。そしてそこには群青色の髪をした美男子がいた。男というよりは女に近い顔であった。実に整った顔であった。
「!!」
 皆その顔を見て絶句した。
「何て綺麗な顔・・・・・・」
「それで何で嫌がるんだ。わからねえ」
「俺より少しだけ不細工なだけだってのに」
 さやかと甲児、そしてボスも唖然としていた。だが葎はそんな彼等に対して言った。
「美しいか。だが美とは価値観に過ぎん」
「価値観」
「そうだ。俺にとって美とは男らしさだ」
「男らしさ」
「俺は女ではない。男だ。だからこそ」
 さらに言う。
「この顔が俺の憎しみのもとなのだ」
「顔が」
「そうだ、木原マサキよ」
 彼はマサトではなくマサキに対して言っていた。
「我等八卦衆は貴様により作り出された」
「クローンか何かか」
 サコンはそれを聞いて呟いた。
「どちらにしろ人工的に作り出されたのだな」
「そうだ」
 葎はサコンの言葉に答えた。
「そしてその際貴様は我等に多くの傷を植えつけた」
「傷を」
「我等八卦衆はそれぞれ心に傷を持っている。他の者のことは詳しくは知らないが」
 葎は語っていた。
「俺はこの顔だ。この女の様な顔をどれだけ憎んできたか。俺はこの顔を持って生まれたが為に苦しまなくてはならなかった。どうして女の顔を持って生まれたのか」
「それが木原マサキの為してきたこと」
 リツ子はそれを聞いて絶句していた。
「色々と頭のおかしなのには会ってきたけれど」
「どうやら最低の奴だったみたいね」
「ええ」
 ミサトとそう話をした。話をしながらゼオライマーとローズセラヴィーから目を離さない。葎はまだ言っていた。
「木原マサキ、貴様により俺は苦しめられてきた。俺は貴様が憎い」
 また言った。
「心の奥底から憎い。貴様を殺す為に俺は今まで生きてきたのだ」
「僕を」
「そうだ」
 声が憎しみの血の色に滲んできた。
「貴様の為に俺は憎しみを持って生きてきた。今その憎しみを消すのだ!」
 そう言うとローズセラヴィーを動かした。
「ルナフラッシュ!」
 まずは両手の指先を集約させた。そしてそれで攻撃を仕掛ける。
「うわっ!」 
 それに揺れるマサト。だが葎はさらに攻撃を続ける。
「これで終わりではないぞ!」
 身構えた。そして叫ぶ。
「チャージ!」
 巨大な砲を出した。それでゼオライマーを狙う。光を放った。
「これでどうだっ、Jカイザー!」
 それでゼオライマーを完全に破壊しようとする。そしてそれがゼオライマーを包む。
「うわあああっ!」
 マサトは光の中でさらに打ち据えられた。だがそれでもゼオライマーは動いていた。そしてマサトも生きていた。だが彼はこの時にはもう彼ではなくなっていた。
「ククククク・・・・・・」
「!?」
 葎だけではなかった。他の者もその声を聞いて動きを止めた。
「何っ、まさか」
「そのまさかだ」 
 声に邪気が篭っていた。顔を上げるマサトは既にマサトではなくなっていた。
「ククク、それが貴様の最大の攻撃か」
「何っ」
「所詮は女の顔を持つことにすら耐えられない弱き者。俺の手の中で踊るだけだ」
「貴様まさか」
「そう、そのまさかだ」
 マサトは完全に顔を上げた。そして葎に顔を向けた。
「貴様が探していた木原マサキはここにいるぞ」
「おのれ」
 葎はそれを聞いてその整った顔を憎悪で歪ませた。
「遂に出て来たか。だがそれもここまでだ」
「ここまで?」
「そうだ」
 マサキは言った。
「貴様に勝利は有り得ん。まずはそれを言っておこう」
「ほざけ、今の状況でそれが言えるというのか」
「言えるとも」
 しかしマサキの態度は変わらなかった。
「今それを見せてやる。次元連結システムをな」
「えっ」
 それを聞いたリツ子が眉を顰めさせた。
「次元連結システムはゼオライマーの中にあるのじゃなかったの?」
「どうも違うようですね」
 サコンが彼女に対してそう答えた。
「彼の話しぶりからするとそれは外にあるようです」
「外に」
「ですね。今それがわかりますよ」
「その次元連結システムとは」
「今教えてやる」
 マサキはやはり邪悪な笑みを浮かべたままそう言った。
「美久」
「美久!?」
 それを聞いたリツ子達の顔がまた変わった。
「来い。そしてゼオライマーに戻れ」
「まさか」
 そこにいた全ての者が最早マサキから目を離すことができなくなっていた。今やマサキの一挙手一投足に全ての神経を集中させていた。そしてマサキの動きに応じて何かが動いた。

 その頃鉄甲龍のキエフの基地で一人の老人がプールに浮かぶ全裸の美久を見て驚きの声をあげていた。
「まさかこの娘がな」
 ルーランであった。鉄甲龍の技術者である。
「木原マサキに味な真似をする」
「味な真似か」
 それを聞いた塞臥がルーランに声をかけてきた。
「それはどういうことだ」
「わかるのか」
 だがルーランはそれには答えずに逆にこう問うてきた。
「お主に」
「馬鹿なことを言う」
 彼はそれを聞いて薄い笑みを浮かべた。
「俺を誰だと思っているのだ。八卦衆の雷だぞ」
「それは知っている」
 ルーランも負けてはいなかった。表情を変えずにそう返す。
「だがこれを見てもまだわからないようだな」
「少なくとも興味はない」
 塞臥はその言葉に対してそう答えた。
「俺にはどうでもいいことだ」
「オムザックさえあればか」
「そうだな」
「あれは確かに強力だ」
 それを聞いてルーランが呟く。
「だがお主はそれを使って何をするつもりなのだ」
「さてな」
 塞臥はそこはとぼけた。
「何を言っているのかよくはわからないが。さて」
 彼はルーランに対して背を向けた。
「オムザックをなおしてくれたことの礼は言おう。これでゼオライマーも終わりだ。いや、葎が倒すか」
「そうだな」
 ルーランはそれに頷いた。
「この娘がここにいる限りはな」
「その娘に何があるかは知らないが」
 塞臥は振り向かなかった。
「俺には関係のないことだ。ではな」
 そして彼は姿を消した。後にはルーランとプールの中の美久だけが残った。美久は全裸であった。
 彼は塞臥が去った後も暫くプールの中の美久を見ていた。そして呟いた。
「木原マサキ、恐ろしい男だ」
 その顔には驚愕の色が浮かんでいた。
「まさかこの娘までとはな。そこまで考えていたか。ん!?」
 そこでプールの中の美久が突如として動きはじめた。
「なっ、何が起こったのだ」
 美久はそのまま宙に浮かんだ。そして何処かへ姿を消してしまった。
「消えた。まさか・・・・・・」
 彼は美久が何故姿を消したのかわかった。そして遠くを見据えた。
「木原マサキ、また動くか。何処までも恐ろしい男だ」
 彼の声にも顔にも憎悪はなかった。だがそこには怯えの色があった。己より力が上の者に対する怯えであった。

「ククククク」
 マサキは葎を前に笑っていた。
「もうすぐ貴様も■ぬ。覚悟はいいか」
「ほざけ!」 
 葎はその言葉を聞いて激昂した。
「貴様を倒すことこそが俺の唯一の望み。それを適えるまでは!」
「■なぬとでもいうのか」
「そうだ。見ろ!」
 彼はここで雲の中に衛星を放った。小さな衛星であった。
 その衛星から雷が落ちる。そしてそれが葎のローズセラヴィーを直撃した。
「チャージ!」
「ほう、エネルギーを充填したか」
「そうだ」
 彼は答えた。
「貴様を完全に倒す為に。行くぞ」
「来い。だがその前に余興を見せてやる」
「余興!?」
「そう、これだ」
 ゼオライマーの前に一人の少女が浮かび上がった。美久であった。
「その娘は」
「これこそがゼオライマーなのだ」
 マサキは葎に対してそう言った。
「ゼオライマー!?」
「何を言っているんだ!?」
 コウがそれを聞いて眉を顰めさせた。
「あの娘がゼオライマーだなんて。おかしくなったのか!?」
「おいコウ、それはないだろ」
 キースがそれに突っ込みを入れた。
「何かの隠語じゃないのか」
「いえ、どうやら違うわ」
 だがここでニナが二人に対してそう言った。
「多分ゼオライマーの秘密はあの娘にあると見て間違いないわ」
「!?どういうことなんだ」
「どうなってるんだよ」
「見ていればわかるかもね」
 だがニナは冷静なままであった。
「ここはじっくりと見せてもらうわ、ゼオライマーを」
「そうね」
 リツ子もそれに頷いた。
「じたばたしてもどうにもならないのなら。見るしかないわ」
「ええ」
「そうだな」
 二人に続いてコウも頷いた。
「ここは見るとするか」
「コウ、いいのかよ」
 キースがそれに疑問の声を呈した。
「黙って見ていて」
「そうするしかないだろ」
 コウはもう腹を括っていた。
「今は俺達にはどうしようもないんだからな」
「確かに」
 クリスがそれに頷いた。
「今はどうしようもありませんね。攻撃を仕掛けるには迂闊ですし」
「ああ」
「見とくしかないか。それじゃあとりあえず距離だけは置きましょう」
「わかった。そうするか」
「はい」
 コウはバーニィの言葉を取り入れて小隊を後ろに下がらせた。そしてそこで武器を構えるのであった。
 美久はゼオライマーの前に浮かんだままであった。だが突如として光に包まれた。
「!?」
「光に」
「フフフ」
 マサキはそれを見てまた笑った。やはり邪な感じのする笑みであった。
 美久は姿を変えた。何とそれは人間のものではなかった。
「なっ!」
 それを見た葎もロンド=ベルの面々も思わず表情を変えた。何とその美久は骨に似た外見のロボットだったのである。
「ロボット、まさか」
「いえ、有り得るわ」
 リツ子がマヤにそう答えた。
「木原博士ならね。アンドロイドを作る位簡単なことよ」
「けれど何故彼女を作ったのでしょう」
「それが今からわかるのよ」
 リツ子もまた腹を括っていた。
「鬼が出るか蛇が出るか」
「楽しみといえば楽しみね」
「ええ」
 ミサトも同じであった。皆美久とゼオライマーに視線を集中させていた。
 美久は次に変形した。蜘蛛に似た形となった。
「うっ・・・・・・」
 それを見て眉を顰める者もいる。だが美久は動き続けた。
「さあ来い」
 マサキはまた言った。
「そしてゼオライマーの力となるのだ」
 美久はゼオライマーの中に入った。そしてその中央に連結した。するとゼオライマーの力が急激に上がった。それは他の者からもわかった。
「な・・・・・・」
 まずは葎がそれに絶句した。
「まさか次元連結システムとは」
「その通りだ」
 マサキは不敵に笑ったまま彼に答えた。
「美久がそうだったのだ。これには気付かなかっただろう」
「ぬうう」
「さて、余興は終わりだ」
 マサキはここで話を打ち切りにかかった。
「これで決めてやる」
 まずは上に次元連結砲を放った。それで衛星を破壊した。
「これでエネルギーを充填することはできないな」
「クッ・・・・・・」
「そして」
 ゼオライマーはまた動いた。
「これで全てが終わる。行くぞ」
 ゼオライマーはゆっくりと浮かび上がった。そして拳を合わせた。
「■」
 それだけであった。それでメイオウ攻撃が葎に襲い掛かった。彼は光にその身を包まれた。
「この力・・・・・・」
 葎はローズセラヴィーと共に光に包まれながらゼオライマーを見ていた。もうすぐ全てが終わる。だがその時になってようやく気付いたのであった。
「秋津マサトではない」
「今更何を言っている」
 マサキは壊れていくローズセラヴィーと葎を見て笑っていた。
「俺は木原マサキだ」
「いや、違う」
 だが葎はその言葉に対してそう返した。
「貴方は俺、いや我々の」
 そして最後にこう言った。
「おとうさん・・・・・・」
 消えた。葎もローズセラヴィーも光の中に消えてしまった。一瞬のことであった。
「馬鹿が」
 マサキは勝ち誇りながらそう呟いていた。
「俺は御前の父なぞではない。戯れ言を」
「何て奴だ」
 それを見てバーニィが顔を顰めさせていた。
「あそこまでするなんて。いや、それだけじゃない」
「わかっている」
 コウがそれを制止しながら応える。
「あいつは・・・・・・俺達の味方じゃない」
「ええ」
「むしろ・・・・・・」
「ほう、観客がいたか」
 マサキはここでようやくロンド=ベルの面々に気がついた。
「面白い。では次の舞台を用意しよう」
「次の舞台?」
「ついて来い、フフフ」
 こう言って彼は姿を消した。完全に消え去ってしまっていた。
「レーダーに反応です」
 ナデシコの艦橋でメグミが報告した。
「北です。ゼオライマーのものです」
「誘ってるのかしら」
「おそらくは」
「大佐、どうしますか?」
 ユリカはここでブライトに問うた。
「何か北にいますけれど」
「北か」
 ブライトはそれを受けて考え込んだ。
「ティターンズやドレイク軍もまだいるな」
「はい」
「丁度いいと言えばそうなるが。罠の可能性が高いな」
「どうする、ブライト」
 アムロも問うてきた。
「リスクが大きいぞ」
「そうだな。どうするべきか」
「何とろ臭いこと言ってるんだよ」
 リュウセイも話に入って来た。
「敵が誘っているなら乗る、それで叩き潰してやりゃいいじゃねえか」
「おいリュウセイ」
 ライが彼に注意した。
「そんな簡単にいくと思っているのか」
「簡単にいっちゃあ面白くはねえな。しかし誘いに乗る価値はあるぜ」
「馬鹿なことを」
「いや、待て」
 だがブライトがそれを制止した。そしてメグミに対して問うた。
「レイナード中尉」
「はい」
「ゼオライマーは確かに北にいるのだな」
「レーダーに反応があります」
「そうか」
「ラー=カイラムのレーダーでもそうです」
「アルビオンも」
 トーレスとシモンもそう報告した。間違いはなかった。
「リュウセイはそう言っているが。どうすべきかな」
「乗ってもいいんじゃないかな」
 万丈がブライトにそう述べた。
「万丈もか」
「条件付だけれどね。ティターンズのこともある」
「ああ」
「ここは北に言ってもいんじゃないかな。僕はそう思うよ」
「そうか」
 ブライトはそれを受けてあらためて考え込んだ。
「では北に行くか」
「うん」
「よし、全軍このまま北に向かう」
 意を決した。他の者にもそう伝える。
「ティターンズ及びドレイク軍、そしてゼオライマーを目標とする。いいな」
「了解」
 彼等は再び北へ進みはじめた。北の大地は雪に覆われはじめていた。ロシアの冬であった。

「そうか、葎まで」
 幽羅帝は基地の奥深くで報告を受けていた。
「これで四人。全てゼオライマーと木原マサキに倒されてしまった」
「はっ・・・・・・」
 報告をする大男が跪いたまま頷いた。祗鎗である。
「見事な最後だったそうです」
「八卦衆らしいか。ならばせめてもの救いか」
「・・・・・・・・・」
 祗鎗はそれには答えなかった。俯いて沈黙していた。
「祗鎗」
 帝はここで彼の名を呼んだ。
「次はそなたに行ってもらいたい。よいか」
「喜んで」
「そしてロクフェルにも行ってもらいたいのだが」
「ロクフェルもですか」
「何か不服なことでもあるのか?」
「いえ」
 祗鎗はそれには沈黙した。
「何もありません」
「ゼオライマーの力は強大だ。二人がかりでなければ相手にならぬかも知れぬ。いや、シ=アエンとシ=タウが既に敗れているな」
「はい」
「油断はできぬ。二人で連携して相手をせよ。よいな」
「御意」
 こうして祗鎗の出撃が決まった。彼はそれを受けた後退室した。その後ろに一人の男が現われた。
「貴様か」
「うむ」
 それは塞臥であった。彼は不敵な笑みを浮かべていた。
「次の出撃が決まったそうだな」
「それが何かあるのか」
「一つ提案がるのだが」
 塞臥はここでこう言った。
「提案?」
「そうだ。俺と手を組むつもりはないか」
「一体どういうことだ」
「そのままだ。俺と手を組めばいいことがある」
「貴様の言っていることがわからぬのだが」
「とぼけられるとはな。ではあらためて言おう」
 塞臥は言葉をあらためた。そのうえでまた言った。
「俺につけ。これならわかるな」
「・・・・・・・・・」
 祗鎗は黙ってそれを聞いていた。
「帝よりいい目を見せてやるぞ。どうだ」
「塞臥」
 祗鎗は彼の名を呼んだ。
「何だ」
「貴様、まさか謀反を企んでいるのではないのか」
「謀反?」
 彼はそれを聞いてうそぶくような顔を作った。
「俺がか。どうしてそう思う」
「貴様については前から怪しいと思っていた」
「ほう」
「それならば俺はゼオライマーと木原マサキより御前を先に倒す。わかったな」
「さてな」
 彼はこれにはとぼけてきた。
「だが貴様の心はわかった。今はそれでよしとしよう」
「それでいいのか」
「貴様についてはな。ではな」
「・・・・・・・・・」
 祗鎗を尻目に彼は姿を消した。その口の端に邪な笑みを浮かべたまま。
 彼等もまたそれぞれの思惑があった。それが複雑に混ざり合ったまま戦場に向かう。戦いは一つの色で染められているものではなかった。


第二十九話   完


                                     2005・6・28


[293] 題名:第二十九話その一 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月28日 (火) 19時08分

                                      二つの顔を持つ男
 アクシズはネオ=ジオンの本拠地である。かって一年戦争の終結によりその身を隠したジオンの残党達はこの惑星に潜み再起の時を待っていた。そして先のバルマー戦役において突如として姿を現わし戦いに参加したのであった。
 バルマー戦役の折にはジオンにおいて総帥を務め実質的にジオンの独裁者として君臨していたギレン=ザビが指導者となっていた。冷徹かつ知的でカリスマ性も併せ持つ彼は優れた指導者であったが兄弟間の確執により滅んだ。そして彼を滅ぼした妹のキシリア=ザビもまた事故によりこの世を去っていた。これを不慮の事故とするか何かしらの謀略とするかは見解が分かれている。
 だがこれによりネオ=ジオンに有力な指導者がいなくなったのは事実であった。これを危惧したネオ=ジオンの高官達はドズル=ザビの忘れ形見ミネバ=ザビを名目的な指導者としハマーン=カーンやエギーユ=デラーズが実質的に取り仕切るという体裁になった。彼等は宇宙においてはティターンズ、ギガノスに次ぐ第三の勢力としてアクシズを中心に展開していた。
「ティターンズが敗れたか」
 その中の一室で漆黒の軍服に身を纏った女が報告に来た褐色の肌の派手な服の女にそう問うていた。
「はっ」
 その女イリア=パゾムは静かな声でそれに応えた。
「彼等は今北欧に向けて撤退中です。ロンド=ベルはその追撃にかかっております」
「正道だな」
「といいますと」
 イリアは漆黒の服を着た赤紫の髪の女の言葉に反応した。
「どういった意味でしょうか」
「戦略において正道だという意味だ」
「正道ですか」
「そうだ。イリア、御前ならどうするか」
「私ですか」
「攻めるのではないのか、彼等を」
「仰る通りです」
 答えは決まっていた。イリアはそう言葉を返した。
「今ティターンズもドレイク軍もその力を弱めております」
「うむ」
「叩くのは今が好機です。崩壊させるのは無理でしょうがかなりの痛手を与えることはできます」
「そういうことだ」
 それこそがこの女の考えであった。
「だが我々はそれを見ているだけでは駄目だ」
「では」
「そうだ。動くつもりだ」
 女はそう言った。
「ミリアルド=ピースクラフトはどうしているか」
「今シロッコのジュピトリスと対峙しております」
「ジュピトリスとか。では動かすわけにはいかぬな」
 シロッコのジュピトリスは主立った戦力の殆どを地球に降下させているティターンズにとって宇宙の要ともいえる存在となっていた。シロッコの能力とその戦力はネオ=ジオンも侮れないものがあった。
「それでは他の者を動かすとするか」
「デラーズ閣下の軍はギガノス軍と対峙しているので動かせないそうです」
「それもわかっている」
 女の答えは迅速でかつ冷徹なものであった。
「あの軍にはアナベル=ガトーやシーマ=ガラハウもいる。そうおいそれとは敗れはしないだろう。如何にギガノスといえどな」
「実はそのギガノスのことですが」
「どうした」
「ギガノスを代表する若手の将校の一人であるマイヨ=プラートが今地球にいるそうです」
「地球にか」
「はい。これは一体どういうことでしょうか」
「わからぬな」
 女は元々険のある顔をさらに険しくさせた。
「マイヨ=プラートはギガノスにおいて最高のパイロットと言ってもいい」
「はい」
「ロンド=ベルがいるとしてもだ。グン=ジェム隊に任せておればいいものを」
「それにつきましてはギガノスで何かあるのではないかと言われております」
「それは何だ」
「内部の権力争いではないかというのがもっぱらの噂です」
「権力争いか」
 それを聞いた女の目が光った。
「確かマイヨ=プラートはギルトール元帥の派閥だったな」
「その通りです」
 イリアはそう答えた。
「それどころか元帥の信奉者であるとも言われております。若手将校がギルトール元帥を崇拝しているのも若手将校の間で人望の高い彼が元帥を崇拝しているからだとも言われております」
「そうか。ならば答えが出たな」
 女はそれを聞いてそう呟いた。
「若手はそうだな。だが老人達はどうだ」
「あっ」
 イリアはそう言われてハッとした。
「彼等はまた違う考えだな。違うか」
「そうなります」
 イリアも事情がわかった。
「ハマーン様の仰る通りです」
「これは当然のことだ」
 赤紫の髪の女ハマーン=カーンは不敵に笑いながらそう答えた。
「人は全ての者が一つの考えを持っているわけではないのだからな」
「そうなのですか」
「そうならばどれだけやりやすいか」
 ここでハマーンの言葉の色が微妙に変わった。
「私とてそう思う」
 その言葉は何かしら苦渋が込められていた。しかもその苦渋の色は一色ではなかった。複雑に混ざり合っているようであった。
「人とはわかりあえない時があるのだ」
「!?」
 それを聞いたイリアは首を傾げた。だがハマーンはそれを素早く見抜き言葉を変えた。
「いや、何でもない。気にするな」
「左様ですか」
「そうだ。だがそれでもまだギガノスを滅ぼせるわけではない」
「はい」
「ギガノスに関してはまだ均衡状態を続けるべきだ。ティターンズに対してもな」
「それでは今後は現状維持になるのでしょうか」
「宇宙ではそうなる」
 ハマーンは横を見ながらそう答えた。
「宇宙ではな」
「ですが今後は」
「イリア」
 ハマーンはここで彼女の名を呼んだ。
「はい」
「時が来れば動くぞ。デラーズ提督に伝えよ」
「何と」
「アナベル=ガトーとシーマ=ガラハウの部隊を借りたいとな。提督にも協力してもらいたい。そしてかわりの者をギガノスに回すことにしたい」
「一体何を為さるおつもりで」
「あれをやる」
 そう言ったハマーンの顔が邪なものに覆われた。
「コロニー落としだ。かってギレン閣下がやられたな」
「コロニー落としを」
「我々に相応しい作戦ではないか。地上にいる敵を一掃できるまたとない好機だ」
「はい」
「そして連邦への警告にもなる。我がネオ=ジオンを侮るな、とな」
「ですが一つ問題があります」
「何だ」
「それだけの作戦となるとおそらくガトー少佐やシーマ中佐の部隊だけでは足りないかと思われます」
「それはわかっている」
「では如何為されるのですか」
「マシュマーやグレミーにも行ってもらおう。総力戦を挑む」
「では私も」
「頼む。さもないと成功はしないだろう。おそらくロンド=ベルも出て来るからな」
「ですね。では」
「ギガノスへの備えだな」
「はい」
「それは私が行く」
「ハマーン様が」
 イリアはそれを聞いて思わず声をうわずらせた。
「宜しいのですか。ハマーン様御自身が」
「私とてモビルスーツのパイロットだ」
 ハマーンはその落ち着いた声に笑みを微かに入れてそう返した。
「出撃すべき時は出る。相手が誰であろうとな」
「しかし」
「ミネバ様のことか」
「怖れながら」
 イリアは頭を垂れてそう答えた。
「それについての心配はない」
「といいますと」
「ランス=ギーレンとニー=ギーレンの二人がいる。彼等なら大丈夫だ」
「ですがハマーン様」
「御前の言いたいことはわかっている」
 ハマーンの声に今度は戸惑いが混ざった。
「私とてミネバ様のもとは離れたくはない」
「では」
「だがミネバ様はいずれザビ家、いや人類を統べられるお方」
「はい」
「ではいずれ私から離れられるであろう。私は所詮その程度の存在なのだ」
 その声には自嘲も込められていた。実に複雑な声であった。
「私はミネバ様にとってかりそめの相手でしかないのだからな」
「そう思われているのですか」
「私はそれでいい」
 ハマーンはまた言った。
「ミネバ様さえ幸せになられればな。この身を喜んで捧げよう」
「そうなのですか」
「だがそれはまだ先のことだ」
 ハマーンは言葉を続けた。
「ミネバ様が人類を統べられるまではな。死ぬわけにはいかぬ」
「ミネバ様がそれを望まれている限り」
「ああ」
 ハマーンは最後にそう頷いた。そして彼等もまた彼等自身の動きに備えるのであった。

「ぬうう」
 ハマーンとはまた別の澄んだ少女の声が闇の中に響いていた。
「シ=アエンとシ=タウまで敗れたというのか」
「残念ながら」
 仮面の男葎がそれに答える。
「ゼオライマーのメイオウ攻撃の前に敗れ去ったようです」
「そうか」
 その少女幽羅帝はそれを聞いて落胆した声を漏らした。
「またしてもか。惜しい者達だったが」
「はっ」
「葎」
 ここで幽羅帝は彼の名を呼んだ。
「どう思うか」
「といいますと」
「とぼけるでない。そなたはあの木原マサキについてどう思うか」
「木原マサキに」
 その冷静な声が急激に変わっていく。
「言うまでもありません」
 その声は憎悪に覆われていた。先程までの冷静さは何処にもなかった。
「そうか。それではわかるな」
「はい」
「そなたに次の出撃を命じる。木原マサキの首を所望する」
「おおせのままに」
 葎はそれに頷いた。
「では」
 そして姿を消した。遠くで何かが動く音が聞こえてきた。
「シ=アエン、シ=タウ」
 幽羅帝は彼女の前から姿を消した二人の名を呟いた。
「そなた達も行ってしまったか。また私の愛する者達が」
「フン」
 それを聞いて遠くから哂う者がいた。だが彼女はそれには気付かない。
「葎、必ず帰って来て。私は貴方まで失いたくはないの」
「また甘いことを」
「・・・・・・・・・」
 その哂う者とは別に彼女を見る者がいた。だがやはり彼女はそれには気付かない。
「お願いだから。もう誰も失いたくはない」
「甘いものだな。皇帝だというのに」
「・・・・・・・・・」
 二人は正反対の顔をしているようだ。だがそれは陰に隠れ見えはしない。それを知ってか知らずか二人は帝を見続けるのであった。
 確かに顔は正反対であっただろう。だが目の色は同じであった。それは何故か。それは当の本人達ですら気付いてはいなかった。それに気付くには彼等もまた不完全であるということであろうか。人とは不完全なものでしかないのだ。例えどのように生まれ出たとしても。そしてそれに気付いても気付かなくても時として残酷な運命が待っているものなのである。そう、気付いても気付かなくても。それは神のみが決めることである。
 帝は部屋に下がった。それを見て二人も何処かへと消えた。だが彼等もまた俳優達の一人である。それには気付いてはいないようであったが。

「木原マサキか」
「そうだ」
 ラストガーディアンの司令室で沖はマサキを問い詰めていた。
「では聞きたいことがある」
「秋津マサトではなくてもか」
「無論」
 沖はそう答えた。
「私は木原マサキに聞いているのだ」
「ククク」
 マサキはそれを聞いて不敵に笑った。
「わかった。では聞いてやろう。何だ?」
「御前は一体何を考えているのだ?」
「何を!?」
 マサキは笑ったまま目を動かした。
「おかしなことを言う。それは御前もわかっているのではないのか」
「私がわかっているだと」
「そうだ。だから御前はあの時俺を殺したのだろう」
「クッ」
 沖はそれを聞いて舌打ちした。
「御前は自分の為に俺を殺した。違うのではないのか」
「・・・・・・・・・」
「答えぬか。まあいい。言葉を続けよう」
 マサキはまた言った。
「沖、御前はまだそれを捨ててはいないな」
「否定はしない」
 沖の返答はそれであった。
「そして御前に言いたい」
「何をだ?」
「鉄甲龍、バウ=ドラゴンを倒せ。これは命令だ」
「命令か」
 マサキはまた不敵に笑った。
「俺に命令するというのか。この俺に」
「それがどうした」
「御前は俺のやり方を知っている筈だ。俺は誰の指図も受けん」
「ではどうするのだ」
「好きなようにやらせてもらう」
 そう答えた。
「俺のやりたいようにな。この世界も」
「そうか」
 沖はそれ以上言うのを止めたようであった。
「ならばいい」
「いや、御前はいいとは思ってはいない」
 マサキはそれに対してそう言った。
「ついでだ。言っておくぞ、沖」
 また言葉を出す。
「俺に命令するな、俺を操ろうなどと思うな。好きなようにやらせてもらうからな」
「・・・・・・・・・」
「わかったな。俺は俺だ。木原マサキなのだ」
「そうか。ところでだ」
「どうした?」
「美久の姿が見えないが。何処へ行ったのだ?」
「フン、あの女か」
 マサキはまた嫌な笑みを浮かべた。
「あの女なら逃げて行ったぞ」
「逃げた!?」
「俺が少し言ってやっただけでな。女とは脆いものだ」
「一体何を言ったのだ」
「事実を言ったまでだ」
「事実を」
「そうだ。御前は俺の、そしてゼオライマーの道具に過ぎないとな」
「な・・・・・・」
 それを聞いてさしもの沖も絶句した。
「マサキ、御前は」
「事実を言ってやって悪いのか?」
 だがマサキは全く悪いとは思っていなかった。
「いずれわかることなのだぞ。このゼオライマーの道具だということがな。そして俺の計画の為の手駒だと。駒は駒だ」
「しかし」
「御前がそのようなことを言うとはな」
 それでもマサキは言った。
「俺を自分の野心の為に殺した御前がな。何時の間にそんなに優しくなったのだ」
「だが美久がいなければ」
「わかっている」
 マサキは焦ってはいなかった。
「人形は何時でも俺の手の中に帰って来る。安心しておけ」
「美久は人形か」
「俺にとってはな。そして」
 そして言葉を続ける。
「御前も、あの者達もな。全て俺の手の中で踊っているに過ぎん。いや、俺が踊らせてやっているのだ。俺の楽しみの為にな」
 その言葉には何の温かみもなかった。冷酷な、氷の悪魔の様な言葉であった。
「捨てておく、今はな。だがゼオライマーには乗ろう」
「何故だ」
「奴が来ているからだ」
「奴が」
「そうだ。俺を憎くて仕方がない男だ」
 その黒い目が禍々しく光った。
「俺を殺そうと考えている。今もその憎しみを感じる」
「そしてゼオライマーでその男を倒すのか」
「言うまでもないことだな。その時に御前は見る」
「何をだ」
「人形が俺の手に戻る瞬間をだ。その時を楽しみにしていろ」
「何をするつもりなのかは知らないが」
「楽しみにしておけ。では行こう」
 そう言って前に出た。そして部屋を出る。
「鬱陶しい蚊を退治しにな。所詮は奴等は蚊だ」
 マサキは部屋を後にした。そこには沖だけが残っていた。
「私は恐ろしい男を殺したのかもしれないな」
 一言そう呟いた。だが時間は戻りはしない。彼もまたその中にいるのである。それは逃れられぬことであった。
 その頃美久は一人駐車場にいた。ラストガーディアンの地下駐車場である。そこには車は一台もなくただ暗闇が広がっているだけであった。美久はその暗闇の中に一人立っていた。そして泣いていた。
「酷いわ、マサト君」
 彼女は先程のマサキの言葉に傷ついていたのだ。彼女もその心は一人の少女なのである。
「何で。何でいきなり」
 涙がとどめもなく流れていた。さめざめと泣いていた。
「人形だなんて。私達はパートナーじゃなかったの」
 少なくともマサトはそう思っているだろう。だがマサキは違う。彼女はそれに気付いてはいないのである。
 そのまま泣き続けていた。そうして最後まで泣き心を静めようとする。だがそれは適わなかった。
「きゃっ」
 後ろから漆黒の服の女達が近付いてきた。そして彼女を後ろから取り押さえた。そして彼女を何処かへと運び去った。こうして美久は姿を消したのであった。
 それとほぼ同じ時間にマサキはゼオライマーで出撃していた。彼は一人でも余裕の態度であった。
「フン、八卦共が」
 彼は敵を嘲笑していた。
「懲りもせずに」
 そして何処かへと去って行った。日本を離れ西へと消え去っていった。

 ロンド=ベルはオデッサでの戦いの後北へ向けて進んでいた。敗走するティターンズとドレイク軍を追撃しているのであった。
「敵は今何処にいる」
 カワッセはグランガランの艦橋で周りの者にそう問うた。
「レーダーに反応はないか」
「はっ」
 それに対し部下の一人が応えた。
「今のところはありません」
「そうか」
「ですが油断は禁物です」
 だが後ろに控えるシーラがここでこう言った。
「シーラ様」
「強いオーラを感じます。気をつけて下さい」
「オーラをか」
「はい」
 艦橋にいたマサキ達にそう答える。
「月が来ています」
「月!?」
「そして天が。月は非常に強い憎しみをその心に抱いているようです」
「憎しみをか」
「まるでバーンね」
「あの兄ちゃんもしつこいよね」
 それを聞いてエルとベルがそう言った。
「似ているかもな」
 だがショウはそれを聞いても笑わなかった。笑えなかったと言っても過言ではない。
「憎しみというものは無限に増大するからな」
「あんたが言うとわかりやすいな」
「ああ。だが敵が近付いているのは事実だ。そろそろ出るか」
「全機出撃だな。それでいいな」
「ああ」
 皆マサキの問いにそう言葉を返した。
「何時でもいい」
「じゃあ行くよ」
「ちょっと待って」
 しかしここでセニアが一同を止めた。
「セニア、何かあるのかよ」
「タダナオのフェイファーだけれど」
「僕のですか」
 タダナオはセニアに声をかけられ急に顔を赤くさせた。
「うん。あんたそれで合ってるかな、って思って」
「も、勿論ですよ」
 彼は顔を赤くさせたままそれに答える。
「それでどうしたんですか」
「あ、ちょっとね」
 セニアはここで少し考える顔を作った。
「最近考えててね。新型の魔装機を作ろうと思って」
「新型を」
「うん。よかったらタダナオにそれに乗ってもらおうかなって。今のところ考えているだけだけれど」
「宜しいのですか?」
「今は考えてるだけよ」 
 セニアは前もってそう答えた。
「それが一機になるか二機になるかはまだわからないし。どんなの作るのか本当にわからないしね」
「殿下」
 ここでウェンディも出て来た。
「宜しければ私も協力させてもらいますが」
「頼めるかしら」
「ええ」
 ウェンディはにこりと笑ってそれに応えた。
「私でよければ。興味もありますし」
「それじゃあ一緒に考える?二人でね」
「ええ」
「そういうこと。タダナオ」
「は、はい」
 また声をかけられドキリとする。
「できたら言うからね。楽しみに待ってて」
「できたらですけれど」
「楽しみに待っております」
「なあ」
 真っ赤な顔のタダナオを横目で見ながらマサキがモハマドに囁いた。
「何であいつあんなに顔を赤くさせてるんだ?」
「風邪ではないのか?養生が必要だな」
「・・・・・・お兄ちゃんもモハマドさんも本気なのかしら」
「多分な」
 呆れるプレシアにゲンナジーがそう答える。そんな話をしながら彼等は出撃した。そして戦艦の前に展開する。
「さて、と」
 マサキはサイバスターのコクピットの精霊レーダーのスイッチを入れた。
「月が出るか、天が出るか、だな。何が出てきやがるか」
「とりあえずは別の人達が来たよ」
「ん!?」
 ミオの言葉を受け顔を前に向ける。するとそこには黒い小型のモビルスーツの部隊がいた。ティターンズのクロスボーン=バンガードの部隊であった。
「奴等か」
 シーブックがそれを見て身構えた。
「セシリー」
「わかってるわ」
 セシリーはシーブックに声をかけられても冷静であった。
「私はいいわ。行きましょう」
「うん」
 それならば問題はなかった。二人は頷き合って隣同士になって構える。銀色の二体の美しいマシンが並んでいた。
「信頼し合う関係だな」
 カトルがそれを見てそう呟いた。
「いいものですね」
「信頼できる仲間がいるというのはいいことだ」
「ま、そういうことだな」
 それにカトル、ウーヒェイ、デュオが合わせる。
「ちょっと熱いけれどな」
「あら、熱いのはいいことですよ」
「あ、つい」
 エステバリスの三人は相変わらずであるが。それでもシーブックとセシリーは互いに連携をとりながら前に出る。そして同時に攻撃を放った。
「セシリー!」
「シーブック!」
 ヴェスパーとビームランチャーが放たれる。二つの光が絡み合って進むように見えた。
 それにより敵が吹き飛ばされる。ビームシールドもまるで効果がなかった。
「見事と言うべきか」
 片目の男がそれを見てそう呟いた。ザビーネ=シャルであった。
「あの二人にはそうそう容易には勝てはしないな。だが」
 その左の目が光った。
「それは並のパイロットならばだ。私ではどうかな」
「待て、ザビーネ」
 しかしそれを若い士官が止めた。
「ドレル様」
「今は任務を優先させよとのジャミトフ閣下からの直々のご命令だ」
「ジャミトフ閣下の」
「そうだ」
 それを聞いたザビーネの顔が微妙に歪んだ。
「わかったな。今は撤退する友軍の援護に回る。いいな」
「わかりました」
 不満ではあったが従わないわけにはいかない。それを了承した。
「それではサンクトペテルスブルグまで友軍を援護致します」
「うむ」
 ドレルはそれを聞いて頷いた。
「無事な者達もこちらに参加するらしい。健闘を祈るぞ」
「わかりました。それではドレル様も」
 こうして彼等はそれぞれの任務に専念することにした。的確に動き撤退する友軍のフォローに回っていた。そこに比較的ダメージの低い者達も加わっていた。


[292] 題名:第二十八話その二 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月28日 (火) 19時03分

「貴様も軍人ではないのか。その程度のこともわからんのか!」
「ですが」
「ですがも何もない!」
 ヒステリーは収まらなかった。
「早く出せ、さもないと貴様を軍法会議にかけるぞ!」
「少佐、一つ御聞きしたいのですが」
「何だ」
 ジャマイカンは問い掛けてきたシャトルのパイロットをジロリと見据えながらそれに応えた。
「詰まらぬ質問なら答えぬぞ」
「今戦っている我等の同志はどうなるのでしょうか」
「あの者達か」
「はい」
「問題はない。作戦が失敗したならばサンクトペテルブルグを経て北欧に逃れるように伝えてある。サンクトペテルブルグまでの道はクロスボーンの者達が守っているな」
「はい」
「ドレイク殿の軍もある。それは問題ない」
「それを聞いていささか安心しました」
「全てはジャミトフ閣下のご指示だ。それを忘れるな」
「それでは少佐が宇宙に行かれるのも」
「うむ」
 ジャマイカンは頷いた。
「閣下のご命令だ。今厄介なことが起こっているらしくてな」
「厄介なこと」
「私も詳しいことはまだ知らぬ。だが重要なものであることは確かだ」
「はあ」
「わかったら早く行け。今宇宙には閣下とバスク大佐の部隊の他はシロッコのジュピトリスしかない」
「ジュピトリスですか」
「シロッコは信用できぬ。一度はバルマーに膝を屈した男だ」
「はい」
「それはわかるな。では行け」
「あと十秒です」
「十秒か」
「はい。十、九、八、七」
 パイロットはカウントをはいzめた。
「六、五、四、三、ニ、一」
 次第に離陸の時が近付いてくる。シャトルのエンジンに火が点いた。
「零!」
 そして離陸した。ジャマイカンを乗せたシャトルは瞬く間に空の彼方へと消え去ってしまった。
「行ったか」
「チッ、逃げ足だけは相変わらずだな」
 ロンド=ベルの面々はそのシャトルを見上げてそう悪態をついた。
「大将が逃げちまっちゃ話にならねえじゃねえか」
「いや、そういうわけでもない」
 宙にアムロが答えた。
「どういうことだ」
「このオデッサは東欧の要地だ。ここを抑えればそのまま北にも東にも西にも行ける」
「ああ」
「そして南にも。黒海を使ってな」
「そんなに重要な場所だったのか」
「そうだ。だからこそジオンもティターンズもここを狙った。そして」
「そして?」
「ティターンズとドレイク軍を叩くチャンスだ。今戦わなくてどうするというんだ」
「そうか、そうだな」
 宙はようやくアムロの言葉に頷いた。
「わかったぜ。俺も真面目にやらせてもらうか」
「宙さん、今まで真面目じゃなかったの?」
「ミッチー」
「それどういうことなの?」
「単なる言葉のあやだよ」
 彼はそれに対してそう答えた。
「言葉のあや」
「俺が戦いに手を抜くとでも思うのかよ」
「それはないと思うけれど」
「そういうことだ。わかったらついて来てくれ。ピッチを早める」
「ええ」
 やはり宙が中心であった。ミッチーはそれに従った。
「けれど宙さん」
「何だ」
「くれぐれも無茶はしないでね。言っても無駄でしょうけれど」
「俺は不死身なんだ、無茶は当然だ」
「またそんなことを」
「いいからミッチー、あれを出してくれ」
「あれって?」
「ジークドリルだ。大至急だ!」
「わかったわ。ジークドリル発射!」
「よし!」
 ジーグの手にドリルがついた。それで敵に突進する。そこには三機のバーザムがいた。
 だが彼等は一瞬で倒されてしまった。それ程までにジーグの動きと攻撃力は絶大であったのだ。そしてそれは彼だけではなかったのであった。
 彼等と小隊を組むゲッターチームもいた。ゲッターチームはライガーに変形していた。
「チェーンアタック!」
 隼人の声が戦場に木霊する。そして一体のハイザックを絡め取った。
「よし!」
 そしてそれを空中で振り回す。放り投げた後で大地に叩き付ける。その寸前にパイロットは脱出ポッドで逃れていた。
 ハイザックが爆発した。隼人はそれを見てクールに笑っていた。
「命だけは助かったようだな」
「HAHAHA,また隼人のキザデスネーーーーーー」
 そこでお決まりのジャックの声が聞こえてきた。彼もまたリボルバーを手に戦っていた。
「ジャックか」
「ユーの戦いぶりにはいつも惚れ惚れシマーーース!ミーの次に格好いいデーーーース!」
「もう、また兄さんたら」
 例によってメリーが困った声を出す。
「そんなのだから三枚目って言われるのも」
「ノープロブレム!」
 しかし彼は困ってはいなかった。
「ミーの格好よさはそうそうはわからないものなのデス!」
「そうだったのか」
 竜馬がそれを聞いて首を傾げた。
「ううん、世の中というのはわからないな」
「御前さんの声を聞いていると納得できるな」
 宙が彼に対してそう言った。
「どっかの拳法家や超人や街の狩人とかはなしだぞ」
「妙な組み合わせだな」
「そういう宙さんもピッチャーや聖闘士や超能力者だったんじゃなかったかしら」
「ミッチー、それは言わない約束だぞ」
 流石の宙もあまり言われたくはないことがあるようであった。
「御免なさい」
「わかってくれればいいけれどな。それでだ」
「ああ」
「今は竜馬が中心になって戦わないんだな」
「地上にいるからな」
 竜馬はそれに対してそう答えた。
「地上に」
「ああ。モビルスーツは地上にいることが多いからな」
「成程」
「それで俺が出ているのさ。ゲッターライガーでな」
「そうだったのか。海だったらまた別だな」
「その時は俺の出番だ」
 今度は弁慶が出て来た。
「俺のゲッターポセイドンが大暴れしてやるぜ」
「頼むぜ。俺も海での戦いはあまり得意じゃないからな」
「そうだったのか」
「まあ海の中で女神の為に戦ったことも・・・・・・いや何でもない」
「自分で言ったら何にもならないわよ」
「すまない」
 困った顔をするミッチーに対してそう謝罪した。
「とにかく今は一気に攻めよう。いけるか」
「ああ」
 隼人はそれに頷いた。
「速攻はライガーの得意戦法だ。御前さんこそ遅れるなよ」
「おい、俺は元レーサーだぞ。それはレーサーに言っていい台詞じゃないぜ」
「おっと、そうだったな」
「そういうことだ。隼人、遅れるなよ!」
「望むところ!ゲッタービジョン!」
 分身した。そしてそれで敵の攻撃をかわしながら突き進む。
 彼等もまた敵を次々と屠っていった。ティターンズもドレイク軍も十倍の数がありながら彼等に為されるがままであった。
「ふむ」
 ドレイクはそれを見て一言呟いた。
「どうやらここではまだ決着をつけるべきではないようだ」
「ではどう為されますか」
「そろそろではないのか」
 問うた家臣に対してそう答える。
「といいますと」
「北のあの街への道に配された者達だ」
 彼はサンクトペテルブルグのクロスボーンについて言及しているのであった。
「確か我等のいざという時の退路を確保していたな」
「はい」
「それを使うとしよう。連絡するがよい」
「わかりました」
 こうしてドレイクは部下に連絡させた。そしてウィル=ウィプスは徐々に後方に退いていった。それにまず気付いたのはルーザであった。
「ビショット様」
「どうなされました?」
「ドレイクが撤退しようとしております」
「まことですか?」
「はい、あれが証拠です」
 指差す。そこには後方に下がっていくウィル=ウィプスがいた。
「ふむ」
「あれが何よりの証拠と思いますが」
「確かに。では我々もそろそろ潮時ですか」
「そう思います。どうかご決断を」
「わかりました。それでは我々も退きましょう」
「はい」
 ゲア=ガリングも後方へ退きはじめた。それを見てショットも不審に思った。
「ドレイクもビショットも何を考えているのだ」
「ショット殿」
 そこにガディが通信を入れてきた。
「ガディ少佐」
「どうやら事情が変わったようです」
「といいますと」 
 それに答えながらドレイクとビショットの行動について考える。
「今戦局は我等にとって芳しくありません」
「はい」
 それは言うまでもないことであった。
「機を見るべきかと思いますが」
「それはドレイク閣下の御意見ですか」
「ドレイク閣下の」
「はい」
 実はティターンズの者の多くはドレイク軍が一枚板だと思っているのである。それはガディも同じであった。
「違いますか」
「確かにそうです」
 ショットはとりあえずはそう答えた。
「ここは退くべきかというのがドレイク閣下の御考えです」
「やはり」
「ガディ少佐はどう思われますが」
「そうですな」
 ガディは考えた後でそれに答えた。
「私はドレイク閣下と同じ考えです」
「そうですか」
「今我が軍の損害は五割に達しようとしております」
「それはこちらもです」
 三割で全滅とされる。それを考えると今の両軍のダメージはかなりのものであった。
「既に大勢は決しました。指揮官であるジャマイカン少佐もシャトルで宇宙に出ました」
「はい」
「ここはやはり撤退すべきかと思います。既に援軍が北から向かっております」
「我が軍のクロスボーンですな」
「はい。どうなされるべきかもう答えは出ていると思いますが」
「確かに。ではショット殿、ここは北欧に撤退します。それで宜しいですな」
「はい」
 ショットも頷いた。そして再びガディに対して言った。
「クロスボーンが来るまで後詰は我等が引き受けましょう」
「宜しいのですか?そちらもかなりのダメージを受けているのでは」
「何、心配いりません」
 ショットはそう答えてニヤリと笑った。
「こちらにも切り札がありますのでね」
「そうですか。切り札が」
「ええ」
「ではお任せします。こちらもパイロットを集めて戦場を離脱しなければなりませんので」
「お気をつけて。後ろをお任せ下さい」
「はい」
 こうしてガディはモニターから姿を消した。それを見届けてからショットはミュージィに対して通信を入れた。
「ミュージィ」
「はい、ショット様」
 すぐにミュージィが答えた。
「暫くの間後詰を頼む。いけるか」
「お任せ下さい」
 彼女はそれに頷いた。
「ショット様のご命令とあらば。この命喜んで捧げます」
「いや、それは止めてくれ」
 だがショットはその言葉を拒んだ。
「何故」
「御前に何かあっては私が困る」
 それは駒としてであろうか。それとも別の視点からであろうか。それはショットにしかわからない。
「よいな。暫くでいい。危なくなったらすぐに退け」
「わかりました」
「確か今ガラリアと対峙していたな」
「はい」
「それは気にしなくていい。だから奴との戦いは退け。よいな」
「ハッ」
 ミュージィはそれに従った。そして彼女もまたモニターから姿を消した。
「これでよし」
 ショットは真っ暗になったモニターを見てそう呟いた。
「たまにはこうして得点を稼いでおかなくてはな。ドレイクやビショットに遅れをとる」
 彼もまた政治を見ていた。その目は戦場よりも政治を見ていたのであった。
 そうした点において彼とドレイクは同じであった。しかし彼は一つのことを見落としていた。そしてそれにはまだ気付いてはいなかったのであった。
 戦いは終幕に近付いていた。ティターンズもドレイク軍も北へ向けて兵を動かしていた。エースパイロット達も戦いを止めそれに従っていた。
「逃げるか」
「多分な」
 忍に真吾がそう答える。
「多分北欧にでも逃げるのだろうな」
「わお、フィヨルドね」
「何かあの旦那がまたあの言葉を言いそうなところだな」
「御前さん達北欧にも言ったことがあるのかよ」
 忍はそれを聞いて問うた。
「いや、ない」
 真吾はそれに対してそう答えた。
「言ってみたいとは思うがな」
「そうよね。ここもいいけれど」
「戦場よりは観光がいいからな」
「それはちょっと違うんじゃないの?」
 沙羅が異論を述べてきた。
「あら、何故かしら」
「あたし達がそこに行くってことはそこが戦場になるからね。だから観光はできないでしょ」
「あらら、そうだったわね」
 それでもレミーの軽い調子は変わらなかった。残念そうには見えないのが現実であった。
「難しいわね、そこは」
「けれど一度はゆっくりと見てみたいなあ」
「ローラとか、雅人」
「違うよ」
 亮の言葉に苦い顔をする。
「一人で言ってみたいんだよ。オーロラも見たいし」
「それは北極や南極で見られるんじゃないのか?」
 真吾がそう問うてきた。
「南極はもう殆ど消し飛んでいるけれどな」
「それでもペンギンやアザラシはいるらしいわよ」
「生命は偉大だね」
「いや、そういう問題じゃなくて」
「あれ、ペンギンじゃないのか?」
「俺が見たいのはオーロラなんだけれど」
「おっと、そうだった」
「見られればいいけれどな。サンクトペテルブルグで見られるかなあ」
「少し北に行けば見られるぞ」
 亮がそう答えた。
「フィンランドとかな。行ければだが」
「行けたらいいな」
「戦争だけれどな」
「それはもう諦めてるよ」
 そんな話をしながらもロンド=ベルはティターンズとドレイク軍の追撃に掛かっていた。ショットの部隊がそれを止めていた。しかし彼はそれ以上に状況を見ていた。
「そろそろか」
「ですな」
 部下の一人がそれに答える。
「では我々も引きますか」
「うむ。ミュージィ」
 ショットがミュージィのブブリィに通信を入れてきた。
「はい」
「撤退だ。もういい」
「わかりました」
 彼女はそれを受けて撤退した。しかしそれでもなお執拗に戦いを続けている者達がいた。
「カミーユ、まだだ!」
「まだやるtっていうのか!」
 ジェリドはそれでもなお執拗にカミーユと戦いを続けていた。徐々に退いてはいるがそれでも彼は戦いを止めようとはしなかった。
「ジェリド、まだやっているのか」
 カクリコンがそこに声をかける。
「カクリコン」
「ヤザン達も退いた。御前も退け」
「しかし」
「退くのも軍人だ。今はその時だ」
「・・・・・・チッ」
 カクリコンに言われては従わないわけにはいかなかった。彼は舌打ちをしながら戦場を離脱することにした。ゼータUと距離を置きながらメガビーム砲を放った。
「クッ!」
 カミーユがそれをかわす間に彼はメッサーラを変形させた。そして戦場を離脱した。
「ジェリド、また来るな」
「カミーユ」
 そこにファがやって来た。カミーユを心配そうな顔で見ている。
「どちらかが死ぬかまでやるしかないっていうのか」
「・・・・・・・・・」
 ファはそれに答えなかった。今はただ心配そうな顔をカミーユに向けているだけであった。
 ウッソとカテジナもであった。ファラはもうジュンコ、マーベットとの戦いを止めていた。しかしそれでも戦場に留まっていた。
「一体何をするつもりなんだ!?」 
 クロノクルは既に戦場を離脱していた。オデロは自由になったがファラの監視を続けていたのであった。
「フフフフフ」
 ファラは奇怪な笑みを浮かべていた。そしてザンネックを宙に浮かしていた。
「ファラさん、一体何を」
「ウッソ!」
 そこでカテジナの声がした。
「私から余所見をするなんていけない子ね!」
「うわっ!」
 そこにビームが来た。ウッソはそれを咄嗟にかわした。
「そうよ、貴方は私だけを見ていなければ駄目なのよ」
「カテジナさん・・・・・・」
 その目には最早狂気しか宿ってはいなかった。
「また余所見をして御覧なさい。今度こそ命を奪ってやるわよ」
「まずいな、これは」
 オデロはそれを見て目を顰めた。カテジナとファラから目を離さない。
「ジュンコさん、マーベットさん」
 そして二人に声をかけた。
「わかってるわ」
 二人はそれに頷いた。既にわかっているようであった。
 三機のガンダムが同時に動いた。そしてファラのザンネックも動いた。
「アッハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
 狂気じみた笑い声が戦場に木霊した。そしてファラのザンネックがビームを放ってきた。
「ウッソ、あたしのものになりな!」
「なっ!」
「ウッソ、上だ!」
 オデロが咄嗟に叫んだ。
「上に飛べ!」
「わかった!」
 それに従った。そして彼はザンネックのビームをかわした。
「チッ!」
 攻撃をかわされて悔しがるファラ。だがそこに一瞬の隙ができていた。オデロ達はそれを見逃さなかった。
「今だっ!」
 ザンネックに総攻撃を仕掛けた。そしてそれを大破させたのであった。
「ヌッ、ウッソ以外の奴に!」
「あたし達もいるってことを忘れて欲しくはないわね」
 ジュンコがファラに対してそう言う。
「それにウッソをやらせるつもりはないんでね」
「そういうことね」
 マーベットも言った。
「悪いけれど貴女には退場してもらうわ」
「クッ、覚えておいでよ」
 ファラはそう悪態をついた。
「ウッソの首を獲るのはあたしなんだからね。その可愛い首に接吻してあげるよ、フフフ」
「うっ・・・・・・」
 オデロはそれを聞いて背中に悪寒が走るのを禁じえなかった。何か生理的に受け付けないものすら感じていた。
「この女も」
「カテジナ」
「何!?」
 カテジナはファラの声を聞いて不機嫌そうに彼女に顔を向けてきた。
「退くかい、そろそろ」
「何を言ってるのよ」
 しかし彼女はそれに従おうとしなかった。
「ウッソが前にいるのに。何故去る必要があるの!?」
「ウッソは何時でも可愛がることができるよ」 
 その声に無気味なぬめりが混ざった。
「けれど二人でそれを競うのはできないんじゃないのかい?今は」
「貴女のせいでね」
「けれどこれは約束だよ。いいとこのお嬢さんは約束を守るんだろう?」
「・・・・・・フン」
 カテジナはそれを聞いて顔を顰めさせた。だがそれに従うことにした。
「わかったわ、ファラ。ここは貴女に従うわ」
「そういうことだね」
「けれど覚えておきなさい」
 これはカテジナの彼女への対抗心そのものであった。
「ウッソの首を愛でるのは私よ」
「今のうちに言っておきな」
 しかしそれでもファラの態度は余裕であった。
「今のうちだからね。夢を見られるのは」
「フン」
 カテジナはまた悪態をついた。だがここで彼女も撤退した。退きながらウッソに対して声をかけてきた。
「ウッソ」
「は、はい」
「愛しているわよ」
「・・・・・・・・・!」
 その目に禍々しいものを宿らせながら。それを見たウッソの背に悪寒が走った。彼もまたオデロと同じものを感じていたのだ。
「ずっとね」
 そして彼女は去った。後にはえも言われぬ禍々しいプレッシャーだけが戦場に残っていた。そしてまたここに憎悪の気を戦場に撒き散らす者がいた。
「バーン、まだやるか!」
「無論!」
 バーンはショウに対してそう返した。
「私は最早貴様さえ倒せればそれでいい!」
「まだそんなことを!」
「ショウ=ザマ、私は騎士の出だ」
「それがどうした!」
「その出自にかけて貴様に敗れるわけにはいかんのだ!それは私の全てだからだ!」
「まだそんなことを!」
 バーンにも意地があった。彼は今その為に戦っているといって過言ではなかった。だからこそ戦場にいるのだ。だがショウにとってそれは偏執的なものでしかなかった。そして彼以外の者もそう見ていた。
「おいバーンさん」
 そこに三機の赤いビアレスがやって来た。クの国の赤い三騎士である。
「む、お主達か」
 バーンは彼等に顔を向けてきた。
「そろそろ撤退したらどうだ。もうティターンズもあらかた撤退しているぞ」
「地上人なぞどうでもよい」
 バーンはそれに対して素っ気無くそう返した。
「今私はショウ=ザマと戦っているのだ。邪魔をしないでもらいたい」
「悪いがそういうわけにはいかない」
「何!?」
「ドレイク閣下も撤退されている。これ以上の戦闘は命令違反にもなるぞ」
「ドレイク閣下もか」
「そうだ。流石にあんたでもドレイク閣下に逆らうのはどうかと思うんだが。どうだ?」
「ううむ」
 ドレイクの名を出されて流石のバーンも考え込んだ。
「閣下のご命令にだけは背くわけにはいかない」
「そういうことだな」
「じゃあ帰るか」
「致し方あるまい。ショウ=ザマ」
 そしてまたショウに顔を向けてきた。そして最後にこう言った。
「勝負はお預けだ。だが貴様を倒すのはこの私以外にはない。よく覚えておけ!」
「まだそんなこと言って!」
「チャム、いい」
 ショウはチャムを制止した。
「今はな」
「そうなの」
「ああ。どのみち奴とはまた会う」
「しつこく向こうからやって来るしね」
「その時でいいさ。しかし」
「しかし・・・・・・何!?」
「バーンのオーラも・・・・・・。禍々しくなってきている」
「そだね」
 それはチャムも感じていた。
「ジェリルのものとは感じが違うけれど。何か変になってきているよ」
「増幅もしている。何もなければいいが」
「うん」
 二人はビルバインのコクピットでそんな話をしながら退いていくバーンのレプラカーンの後ろ姿を見ていた。赤い筈のその機体が何故か黒く見えていた。
 こうして戦いはとりあえずは終わった。ロンド=ベルは十倍の戦力差を覆し見事な勝利を収めたのであった。だがそれで戦いが終わったわけではなかった。
「ようやくオデッサを奪還したが」
 ブライトはラー=カイラムの艦橋でそう呟いた。それにモニターに姿を現わしたアムロが合わせる。
「これでお終いじゃないのが辛いところだな」
「ああ」
「その通り」
 そこにミスマル司令がモニターに出て来た。
「司令」
「オデッサの解放御苦労。これでティターンズとドレイク軍はウクライナから姿を消した」
「はい」
「しかし彼等は北欧に向けて撤退している。君達にはそれを追撃してもらいたいのだが」
「了解しました」
 ブライトは躊躇することなくそれに応えた。
「喜んで引き受けましょう」
「済まないな」
「いえ、これが仕事ですから」
 彼の言葉はあくまで軍人のものであった。
「作戦とあらば。それにティターンズもドレイク軍も敗れたとはいえまだかなりの戦力を持っております」
「うむ」
「それを何とかしなければなりません。彼等を地上から排除することは今の段階では不可能だとしても」
「その通りだ」
 司令はそこまで話を聞いて強い声で頷いた。
「それではやってもらえるな」
「はい」
「後のことは今からそちらに向かわせる部隊にやってもらう。君達はそのまま北に向かってくれ」
「わかりました」
「今そちらにティターンズの一部隊であるクロスボーン=バンガードが向かっている。彼等には注意してくれよ」
「クロスボーンが」
 シーブックがそれを聞いて顔を顰めさせた。
「やはり出て来るのか」
「予想はしていたけれど」
 セシリーもシーブックと同じ顔をしていた。
「私はコスモ=バビロニアから逃れられないのかしら」
「そんなことはない」
 だがシーブックがそれを否定した。
「セシリーはセシリーだ。そうじゃないのか」
「ええ」
「パン屋のセシリーだ。少なくとも俺はそう思っているよ」
「有り難う」
 セシリーはそれを聞いて顔を綻ばせた。
「じゃあ後でパンを焼くわ。また食べてね」
「ああ」
 シーブックも顔を綻ばさせてそれに応える。
「セシリーの焼いたパンを食べるのも久し振りだからな。楽しみにしているよ」
「うふふ」
「ところでだ」
 ミスマル司令はまだモニターに映っていたのである。そして声をあげた。
「ユリカはどうしているか」
「お父様、どうしたの?」
 それを聞いたのかユリカがキョトンとした顔でモニターに出て来た。
「戦いが終わってホッとしちえたところだったのに」
「おおユリカ」
 司令の顔が急に崩れてきた。
「元気だったかい!?お父さんは心配していたんだよ」
 目から涙を不自然なまで流している。そこには先程までの厳しい顔は何処にもなかった。娘を想う父の顔だとしてもかなり異様なものであった。
「大丈夫よ」
 しかし当のユリカは相変わらずであった。
「こんな戦い幾らやっても平気なんだから」
「十倍の戦力差でかよ」
 ビルギットがそれを聞いて呆れた声を漏らした。
「まったく凄い度胸だね」
 アンナマリーもであった。二人もこの戦いでかなり激しい戦闘を繰り広げていたのであった。二人共この戦いでの撃墜数は優に五機を越えていた。五機撃墜すればエースと認定されるのに、である。
「だから心配する必要なんてないのよ」
「しかしだなあ」
 司令の顔は崩れたままであった。
「お父さんはなあ、本当に心配だったんだよ。娘が戦場にいるというだけで」
「あの、司令」
 ここでブライトが話し掛けてきた。
「むっ」
 それを受けて顔が急激に元の厳しいものに戻る。
「何だね、大佐」
「・・・・・・百面相みたいだな」
「しーーーーーっ」
 アラドをレーツェルが嗜めていた。
「親から指揮官の顔に戻っただけだ。人間なんてそんなものさ」
「そうなんですか」
「アラド、そんなのだから貴方は子供だって言われるのよ」
 ゼオラも入ってきた。
「それ位わかりなさいよ。親の気持ちを」
「・・・・・・俺昔の記憶がないから」
 アラドはそれに対して暗い顔をしてそう答えた。
「えっ!?」
「気がついたらスクールにいた。そしてパイロットになったんだ」
「そうだったの」
「ゼオラは違うのかい?てっきり同じだと思っていたけれど」
「ご、御免なさい」
 彼女は急に謝ってきた。
「知らなかったわ。それは」
「そうだったのか」
「貴方のことなら何でも知っているつもりだったけれど、あの、その」
「いや、いいさ」
 アラドは戸惑うゼオラに対してそう言った。
「俺もゼオラの昔のことはよく知らないし。それでおあいこだろう?」
「そ、そうね」
 彼女はまだ戸惑っていたがそれに応えた。
「おあいこね。そうよね」
「そうさ。ところで」
「何!?」
「そろそろ熊のパンツは止めた方がいいんじゃないか。いい加減子供みたいだぜ」
「あんたもトランクス一週間もはきっぱなしにしてる癖に!」
 下着のことを言われてゼオラは激怒した。
「昔から下着は毎日替えなさいって言ってるでしょ!」
「いいじゃないか、ジュドー達だってそうだし!ドモンさんなんか一月程そのままの時があったって言ってるぞ!」
「あんな普通じゃない人と一緒に言わない!そんなのだからあんたは駄目なのよ!」
 いつもの二人に戻った。司令はその間もユリカとブライト達の間で交互に顔を変えていた。
「ユリカ、本当に気をつけておくれよ」
「それでクロスボーンの件だが」
「は、はい」
 これには流石のブライトも面食らっていた。戸惑いながら彼と話をする。
「暫く休んだらすぐに言ってくれるかね」
「わかりました」
「ユリカ、無理するんじゃないよ。御前に何かあったら」
「ロンド=ベルにいるから大丈夫よ。お父さんも気をつけてね」
「おお、何という優しい娘なんだろう!」
「そして一つ聞きたいことがあるのだが」
「え、ええ」
 まるで二人の人間の相手をしているようである。知ってはいても慣れるものではなかった。
「何でも銀色のマシンと遭遇したそうだね」
「あ、はい」
 ブライトはその質問にハッとした。
「そうです。何か素性の知れない少年が乗っていましたが」
「そうか、やはりな」 
 彼はそれを聞いて頷いた。
「彼から話はなかったが。やはり動いていたか」
「?彼とは」
「知らないのか、君達は」
「ゼオライマーのことでしょうか」
 ミサトがそれに答えた。
「葛城三佐」
「それなら知っておりますが。司令、それに関して何か」
「いや、それを知っているとなると話は早い」
「はい」
「今後そのゼオライマーがより活発に動くと思う。君達の前にも姿を現わすだろう」
「やはり」
 ミサトはそれを聞いて顔を引き締めさせた。
「司令、あのゼオライマーは破壊して宜しいでしょうか」
「破壊か」
「ネルフではそれも視野に入れておりますが」
「それも聞いているよ」
 司令のミサトへの返答はそれであった。
「冬月司令からね。だが少し待って欲しい」
「何故でしょうか」
「情報がまだ少ない。そもそもあれに乗っているのは少年だったな」
「はい」
「木原マサキではないようだが。なら一体どういうことなのだ」
「それは」
「破壊するのはもう少し様子を見てからにして欲しい。冬月司令にも私からそう言っておこう」
「そうですか」
「破壊するにしろそれからでも遅くはないだろう。だが気をつけてくれ」
「何をでしょうか」
「ゼオライマーの力だ」
 司令はブライトに対してそう答えた。
「あの力については私よりも君達の方がよく知っていると思う」
「はい」
 その通りであった。二機のマシンを一瞬で葬り去ったあの力を見て戦慄を覚えない者はいなかった程であった。
「くれぐれも気をつけて欲しい。君達でもあのマシンの相手をするのは困難かも知れないのだ」
「ですね」
 ブライトは表情を消してそに頷いた。ユリカも真摯な顔になっていた。
「あの力を使えば世界を灰燼に帰すことも可能でしょう」
「うむ」
「それは防がなければなりませんが。ですが覚悟は必要です」
「そういうことだ。だが今は気をつけるだけでいい」
「はい」
「そうなった時のことも考えていてくれ。今言えるのはそれだけだ」
「わかりました」 
 ブライトは敬礼した。それを合図とするかのように会談は終わった。ミスマル司令は最後まで娘との別れを名残惜しそうにしていたがそれでも別れる時が来たのだ。そしてそれに従わざるを得なかった。
 戦士達の戦いは続く。彼等には休息はなく次の戦場が待っていた。彼等はそこに向かう。それは何の為か。平和の為であった。


第二十八話   完


                                    2005・6・23




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