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第二掲示板@うらたにんわあるど

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[291] 題名:第二十八話その一 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月28日 (火) 18時58分

            同床異夢
 オデッサでの前哨戦に勝利したロンド=ベルはそのまま進撃を続けた。そしてティターンズ、ドレイク軍の拠点であるオデッサの軍事基地に到達した。そこには彼等の全軍が配置されていた。
「凄い数ね」
 ミサトはそれを見て一言そう呟いた。
「こっちの十倍は優にいるわね」
「十倍」
「ちょっとシンジ、びびってるの!?」
 アスカがそれを聞いて突っかかってきた。
「こんなのいつものことじゃない」
「アスカの言う通りだな」
 イサムがここで出て来た。
「十倍、つまり一人で十機落せばいいだけだ。楽勝楽勝」
「イサム、自惚れはよくないぞ」
 だがそんな彼をガルドがたしなめた。
「油断こそが命を落すもとなのだからな」
「ヘッ、悪いが俺は不死身でな」
 それでも彼は悪びれない。
「俺にとっちゃあ敵なんて倒される為だけにしかいねえのよ」
「そう、敵はただ倒すのみ」
 ドモンも出て来た。
「俺のこの拳で立ち塞がる者は全て叩き潰す!」
「ドモンさんはちょっと極端なのよ」
 しかしアスカはそれには賛成しなかった。
「何か拳だけで全てを語ろうとするし」
「それが悪いのか?」
「悪いってゆーーーか他の話し方ないの?」
「あるとでもいうのか」
「・・・・・・もういいわ」
 これには流石に呆れたようであった。
「ドモンさんに言ったあたしが馬鹿だったわ」
「あら、そうは思わないわ」
 レイがそう言葉を入れてきた。
「人間は口だけで話をするものじゃないから」
「拳だけで話もできないわよ」
「そうね。人は心で話をするから」
「そりゃまあそうだけれど」
「俺は心でも話すぞ」
 またドモンが言った。
「この熱き血潮でな!!」
「・・・・・・わかったからもういいわ」
 いつもの調子が崩れていた。どうもアスカは彼が苦手なようであった。
「何となくレインさんの苦労がわかったし」
「あら、慣れるとそうでもないわよ」
「レインさん」
「私も最初はドモンには手を焼いたけれどね。今でも少し」
「そうでしょうね」
「というか会話通じないし」
「そうなのよ。あんなのでしょ?最初は何度絶交だって叫んだか」
「それでも絶交しなかったんですね」
「まあね」
 シンジの問いに答える。
「ドモンが小さい時から知っていたし。色々と面倒を見てきたしね」
「そうだったんですか」
「おさなじみって・・・・・・。昔からあんなのだったんですか?」
「あんなのとは言ってくれるな」
「けど実際にあんなのだし。それでレインさん」
「はい」
「ドモンさんと今まで一緒にやってこれた秘訣って何ですか?」
「秘訣」
「ええ。何か異星人と話している気持ちになりませんか?」
「そうね。本当に手を焼いているし」
「でしょうね」
「ドモンの食事から服の洗濯までやってるけれど」
「えっ!?」
 皆それを聞いて驚きの声をあげた。
「それ本当ですか!?」
「ええ、それが何か」
「じゃ、じゃあドモンさんの下着なんかも」
「トランクスもね。当然よ」
「一緒にレインさんのも洗ってるんですよね」
「勿論よ。それがどうかしたの?」
「あ、あのそれって」
「恋人同士とかそんなんじゃ」
「あら、それはないわ」
 だがレインはそれを笑って否定した。
「ドモンは私にとってパートナーなんだから。単なる」
「そうですか」
 皆それを聞いていささか拍子抜けした。
「そうですね。驚いて損した」
「何を驚いているのかちょっとわからないけれど」
「なあ」
 それを聞いていたマサキが小声でデメクサに話し掛けた。
「もしかしてレインさんもかなりの天然か」
「それはマサキさんも良く知っている筈ではないでしょうか」
「どういう意味だよ」
「あれ、前一緒にレースのチームを組んでいませんでしたっけ」
「それは話が違うぞ」
「あ、すいません」
「少なくともあんたは言えた義理じゃないよ」
 最後にシモーヌの言葉が締めとなった。
「さて、話はお終い」
 ミサトが一同に対してそう言った。
「やるわよ。一気に」
「はい」
「全機出撃。正面から叩くわ」
「正面からですか」
「そうよ。ここまで来たら変な小細工は無用よ」
「それもそうだな。流れはこっちにある」
 クワトロもそれに同意した。
「私とアムロ中佐が先鋒を務めよう。それでいいか」
「ええ。お願いできますか、大佐」
「ふふふ、大佐か」
「あ、すいません」
 ミサトは思わず口を塞いだ。だがそれは実は正解であった。
「今は違いましたね」
「そういうことだ。では行くか」
「はい」
 皆格納庫に向かった。シンジはその途中でトウジに尋ねた。
「なあトウジ」
「何や」
「さっきミサトさんクワトロ大尉を大佐って呼んだよね」
「ああ」
「あれってやっぱりジオンの赤い彗星のことなんだね」
「当たり前やろが」
 トウジの答えは素っ気無いものであった。
「御前かてクワトロ大尉がホンマは誰なんか知っとるやろ」
「うん」
 ロンド=ベルでそれを知らない者はいなかった。それはクワトロの乗る赤い機体でもわかることであった。
「何で今更そんなこと聞くんや?」
「いや、階級が気になってね」
「それか」
「今クワトロ大尉って正式にはどんな階級になってるんだろ。まさか本当に大尉じゃないだろうし」
「一応佐官待遇にはなってるみたいよ」
 アスカがそれに答えた。
「アスカ」
「アムロ中佐と一緒にいあるから。同じ待遇みたいよ」
「そうだったんだ」
「どっちにしろあそこまでいくとね。関係ないかも」
「クワトロ大尉は凄いからなあ」
「うん。この前の戦いでも小隊単位で敵を倒してたし。マスターアジアみたいだ」
「あの人のことは出さないで」
 しかしアスカはそれに関してはいい顔をしなかった。
「どうして?」
「あんな不自然な人は御免よ。訳がわからないから」
「そうかなあ。僕は憧れるけれど」
「・・・・・・あんたホモ!?」
「な、何でそうなるんだよ」
 シンジはそれを聞いてかなり狼狽した。
「僕はそんなんじゃ」
「けれど憧れてるんでしょ」
「うん、そりゃ」
 それは素直に認めた。
「強いし。堂々としているし」
「確かにね」
 アスカは不承不承ながらそれを認めた。
「素手で使徒を倒しちゃうんだもんね」
「いや、それだけじゃないけれど」
「他にもあるの?」
「格好よくない?何かどんあことでも強引に解決しちゃうっていう雰囲気があって」
「強引過ぎるわよ」
「そうかなあ」
「いい、あれは人間じゃないのよ」
「じゃあ何なんだよ」
「宇宙人かも知れないわよ。そのうち大気圏を生身で突破しちゃうかもね」
「それじゃあゼータじゃないか」
「どうした?」
 それにカミーユが反応してきた。
「カミーユさん」
「言っておくがモビルスーツでもそのまま大気圏を突入したり突破したりはできないぞ。ゼータは別だがな」
 ゼータとその発展型であるゼータUは大気圏突入が可能なのである。これはそういったふうに設計、開発されている為である。モビルスーツに限らず他のマシンでもこれは無理であった。
「わかってますよ」
「けれどあの人なら」
「有り得る、か」
「ニュータイプでも無理ですよね」
「悪いがニュータイプは超人じゃない」
 カミーユの答えはそれであった。
「そんなことはできない。悪いがな」
「そうでした、すいません」
「謝る必要はないさ」
 シンジにそう返した。
「ただわかって欲しいだけだ」
「はい」
「それに誰だってなれるしな」
「誰にもですか」
「ああ。ティターンズにいる連中にしろそうだしな」
「アースノイドでもなれるんですか」
「ほんの些細なことからね。俺だってそうだった」
「カミーユさんも」
「アムロ中佐やクワトロ大尉だってそうだろうな。ティターンズにいるジェリドやヤザンがサイコミュ搭載のモビルスーツに乗れるのもそうだからなんだ」
「そうだったんですか」
 ヤザンのハンブラビ、ジェリドが乗ることもあるバウンド=ドッグはサイコミュ搭載型である。これは彼等がニュータイプ能力を僅かながら持っているからであるというのがカミーユの見方である。
「君達も最初に比べて勘や動きが比較にならない程になった。そういうことさ」
「能力を引き出すってことでしょうか」
「簡単に言えばそうなるかもな」
「カミーユ」
 エマが声をかけてきた。彼女は既にスーパーガンダムに乗り込んでいた。
「エマ中尉」
「貴方が小隊長でしょう?早く来なさい」
「すいません。じゃあシンジ君」
「はい」
「続きは後でな」
「わかりました」
 こうしてカミーユも出撃した。シンジ達もエヴァの中に入った。既にクワトロはもう出撃していた。攻撃に入っている。
「バカシンジ、急ぐわよ」
 アスカの声がする。
「クワトロ大尉にばかり活躍されたら困るからね」
「わかったよ」
 シンジは頼りない声でそれに応えた。
「けど焦らないでよ。敵の数は半端じゃないんだから」
「そんなのイサムさんと同じよ」
 しかし当然というかやはりというかアスカは臆してはいなかった。
「まとめてやっつけてやるから」
「そうなの」
「だからあんたも頑張りなさいよ。へたっていたら承知しないから」
「うん」
「じゃあエヴァ弐号機でまぁーーーーーーす!」
「エヴァ初号機、お願いします」
 四機のエヴァも出撃した。そして戦場に向かった。
 クワトロはアムロと共に戦場に入っていた。既にファンネルを放っていた。
「やってみるさ!」
 放たれたファンネル達がティターンズ、そしてドレイク軍を撃つ。彼の周りで爆発が次々に沸き起こった。
 彼だけではなかった。アムロも攻撃を仕掛けていた。彼もまたフィンファンネルを放っていた。
「うおおおおっ!」
 敵の弱点を的確に貫いていく。そして敵を屠っていく。まさに白い悪魔であった。
「チッ、あの二人が先鋒かよ」
 ジェリドはそれを見て舌打ちした。
「俺が行くか」
「待て、ジェリド」
 だがそんな彼をカクリコンが制止した。
「どうしたんだ!?」
「あいつが来ているぞ」
「あいつか」
 彼にはそれだけでわかった。見れば目の前に青い翼がいた。
「カミーユ!」
「ジェリドか!」
 カミーユにもそれはわかった。すぐに変形を解きモビルスーツ形態になった。それと同時にライフルを放つ。
「出て来なければ!」
「御前を倒す為ならな!」
 ジェリドはビームライフルをかわした。そして逆にカウンターを仕掛けながら言う。
「俺は地獄にでも出てやるさ!」
「何を勝手な!」
 カミーユもそれをかわしながら言う。両者はそのままサーベルを抜いた。
 そのまま切り合いに入った。それでもまだ互いに言い合う。
「御前を倒して俺は!」
「どうするつもりだ!」
 カミーユも負けてはいなかった。
「ただ乗り越えるだけだ!御前は俺にとって壁だ!」
「壁!?」
「そうだ、壁があれば乗り越える!それが俺のやり方だ!」
「戦いをそんなふうに!」
「悪いか!」
「だから戦いがなくならないんだ!」
 二人は戦いを続ける。それを見て舌打ちする男がいた。
「チッ、奴はジェリドにとられたか」
 ヤザンであった。彼もまたカミーユを狙っていたのだ。
「ジャマイカン少佐はもうシャトルに向かっているな」
「はい」
 ダンケルがそれに答えた。
「指揮はガディ少佐がとっておられますが」
「ガディ少佐ならいい」
 ヤザンはそれに頷いた。
「やりやすいからな。おい」
 そしてあらためてダンケルとラムサスに声をかけた。
「俺達は俺達でガンダムをやるぞ。あのスーパーガンダムだ」
 カミーユと同じ小隊にいるエマのものだ。
「あれなら相手には不足はねえ。いいな」
「了解」
「わかりました」
 二人はそれに頷いた。そしてヤザンに従い動いた。
「行くぜ!」
 エマのスーパーガンダムに襲い掛かる。だがスーパーガンダムのロングライフルが火を噴いた。
「うわっ!」
 何処からかビームも放たれていた。それによりラムサスとダンケルのハンブラビがダメージを受けた。
「大丈夫か!」
「はい、何とか」
「最小限に抑えました」
 二人は何とか無事だった。ヤザンの部下だけはあった。
「無理はするな、いいな」
「はい」
「誰だ、さっきのビームは」
 エマの他に来たビームの主を探る。
「何か妙なプレッシャーを感じるが・・・・・・。奴か」
 ガンダムマークVに気付いた。フォウのものであった。メタスもいた。
「女ばかりか。だがいい」
「ヤザン大尉ね」
 スーパーガンダムから問い掛けがあった。エマの声であった。
「エマ中尉かい」
「そうよ」
 エマは答えた。
「カミーユじゃなくて残念だったかしら」
「俺は贅沢は言わねえ主義でな」
 それに対しこう返す。
「誰でもやってやらあ。戦えるんならな」
「そう」
「行くぜ、覚悟しな!」
「そっちこそ!」
 彼等も戦いに入った。見ればカクリコン達もジュドー達と戦いに入っていた。戦いは熾烈なものとなっていた。
「ティターンズが本格的に戦いに入ったか」
 後方にいるゲア=ガリングから戦局を見守る男がいた。
「ビショット様、どうなされますか」
「ドレイクもおります」
 その男ビショットはルーザに対してそう答えた。
「ここは真面目にやりましょう。赤い三騎士を出します」
「わかりました」
 ルーザはそれに頷いた。反対する理由もない。
「彼等は遊撃に。まあ適度にやってもらいましょう」
「ショットも動いておりますしね」
「ほう、ショットも」
 ビショットはそれを聞いてその目を細めた。
「どうやらあの男も空気を読んでいるようですな」
「そうでしょう。ミュージィも出ているようです」
「ミュージィもですか」
「ここがとりあえずの正念場ということでしょう。ドレイクも前に出ています」
「確かに」
 見ればウィル=ウィプスは前線に出ていた。そして攻撃に加わっている。
「それでは我等も行くとしましょう。適度にね」
「わかりました」
 ゲア=ガリングも前線に出て来た。見ればスプリガンも動いていた。彼等もまた全面攻撃に加わろうとしていた。
「クッ、あの連中まで来たか」
「けれどそれは予想通りだろ?」
 ショウに対しトッドがそう声をかけてきた。
「俺達にとっても連中にとってもここが一つの正念場なんだからな」
「ああ」
「出て来るぜ、注意しな」
 そしてこう言ってきた。
「わかるだろ、来ているのが」
「ああ」
 ショウはまた答えた。
「とりあえず赤いの三人はニー達がやってくれ」
「わかった」
「ミュージィも来ているわよ」
「マーベル」
「彼女は私が相手をするわ。任せて」
「頼む」
「アレンの旦那とフェイは俺とガラリアで相手をするぜ。それでいいな」
「ああ」
 ガラリアはトッドの問いに頷いた。
「ジェリルとあの旦那は御前持ちだ。どっちかにした方がいいがな」
「ジェリルか」
「戦艦は女王様方にやってもらうか。スプリガンは何とかなるな」
「私がいるじゃない」
 何故かここでユリカが出て来た。
「あんたか」
「私に任せて。そのスプリンターってのやっつけてやるから」
「スプリガン」
「細かいことはいいじゃない。それでそのジェリルも」
「そうそう容易な相手じゃないぞ」
 ショウがそう忠告する。
「いいのか」
「その人はアキトさんにお願いします」
 ルリがここでこう言った。
「俺が」
「はい」
 ルリがアキトに答えた。
「アキトさんなら大丈夫です」
「ルリ」
 ショウが彼女に声をかけてきた。
「何でしょうか」
「ジェリルは生半可な相手じゃない。いいのか?」
「勿論です。だからこそアキトさんにお願いしているのです」
「アキト、いけるか」
「やってみる」
 アキトの答えはそれであった。
「とりあえずは。けれど何かあった時は頼むよ」
「うむ、任せておけ」
 それにダイゴウジがすぐに答えた。
「御前の後ろはこのダイゴウジ=ガイが守るからな」
「俺もいるしな」
「私も」
 サブロウタとナガレもいた。彼等もまたアキトと共にいたのである。
「じゃあ頼めるかな」
「そのつもりで御前と小隊組んでるんだよ」
「水臭いことは男にとってあってはならんことだ」
「そういうことです」
 ルリのその言葉が決め手となった。
「アキトさん、それではお願いしますね」
「わかった。それじゃあ」
「頼むぞ」
 ショウも声をかけた。そしてそこに迫る赤い悪魔に備えた。
「来たぞ!」
「アキトさん!」
「ああ!」
「あっはははははははははははははは!」
 異常な笑い声が戦場に木霊する。そしてジェリルのレプラカーンが姿を現わした。
「ショウ、そこにいたのかい!」
「ジェリル!」
「今度こそその首もらうよ!」
 ジェリルが突進する。だがそこにアキトのエステバリスが出て来た。
「御前の相手は俺だ!」
「何だい、この坊やは」
 ジェリルは動きを止めてそう問うた。
「あたしの前に出て来るのなら容赦はしないよ」
「最初からそのつもりだ」
「うんうん、それでこそ私のアキトよ」
 ユリカはジェリルと対峙するアキトを眺めて満足そうであった。
「そんな赤い髪のパンクなんかとっととやっちゃって」
「艦長、あれはヘビメタですけれど」
 メグミがそう注釈を入れる。
「パンクとヘビメタは違いますよ」
「あら、そうだったの」
 ユリカはそれを聞いてキョトンとした顔になった。
「同じものだと思ってたわ」
「パンクもヘビメタもどうでもいいんだよ」
 それに当人が答えてきた。
「今のあたしはね、血を見られればいいんだから」
「・・・・・・・・・」 
 それを聞きながらアレンとフェイは深刻な顔をしていた。彼等もまたそれぞれの相手と対峙していたのであった。だがジェリルのことは目についていた。
(やはりな)
(どんどんおかしくなってきていやがる)
 彼等は彼女をそう見ていた。そして危惧を覚えずにはいられなかった。
 しかしジェリル本人はそれに一向に気付かない。まるで鬼の様な顔でアキトを見据えていた。
「小僧、覚悟はいいね」
 今にも首を引き抜かんようであった。
「容赦はしないよ」
「そんなもの最初から求めちゃいないよ」
「アキトは私だけを求めてるのよね」
「艦長、ラーメンだったんじゃ」
 今度はハルカが突っ込みを入れてきた。しかしユリカには効果がない。
「何言ってるのよ、それは照れ隠し」
「そうでしょうか」
「ハーリー君、そう考えた方がいい場合もありますよ」
 ルリが彼をそう嗜める。しかしユリカの耳にはやはり入ってはいない。だがそこにスプリガンが迫ってきた。咄嗟にユリカが動いた。
「そこの戦艦にミサイル!」
「了解!」
 クルーはすぐにそれに反応する。そしてスプリガンにミサイルを放った。
「ヌッ!」
 そのミサイルが何発か命中した。ショットは思わず呻き声を漏らした。
「あの船の艦長、できるな」
「ショット様、御無事ですか」
 すぐに女の声が入って来た。
「ミュージィか」
 彼はそれを聞いて微かに笑った。
「心配無用だ。今は御前の戦いに専念しろ」
「わかりました」
 ミュージィは素直にそれに従った。そしてモニターから姿を消した。ショットはそれを確認した後で前に顔を戻した。
「あの艦は確かナデシコだったな」
「はい」
 部下の一人がそれに答える。
「艦長はミスマル=ユリカだったな。確かまだ若い筈だが」
「データによりますとその通りです」
 先程の部下がまた答えた。
「そうか。まさかこれ程までとはな」
「如何なされますか」
「決まっている。我々も迎撃だ」
「ハッ」
「容赦はするな。撃沈しろ」
「わかりました」
 スプリガンも反撃を仕掛けてきた。だがナデシコはそれを何なくかわした。
「そう、左!」
 ユリカがまた叫んでいた。
「それでかわせるから。ほらね!」
 艦橋ではしゃいでいた。今にも跳び上がらんばかりであった。
「艦長、落ち着いて下さい」
「いいのよ、私はこうなんだから」
 ルリの言葉も気にしない。
「どんどんやっちゃって!いいから!」
 そしてまたスプリガンに攻撃を仕掛けた。二隻の艦の戦いも続いていた。
 そしてショウもまた戦っていた。あの男がやって来たのだ。
「そこか、ショウ=ザマ!」
「バーン!」
 その男バーン=バニングスは一直線にショウのところへ向かって来た。そして剣を抜く。
「今日こそは貴様を倒す!」
「やらせるか!」
 しかしショウも負けてはいない。それを自らの剣で受け止めたのであった。
「ぬうう」
 バーンは剣を結び合いながらもショウを見据えていた。その目は憎悪に燃えていた。
「ショウ=ザマ、貴様がいる限り私は」
「この目」
 ショウはそれを感じハッとした。
「そしてこのオーラ、あの女と同じ」
「女のことなどどうでもいい」
 バーンはショウの言葉に対しそう言い返した。
「私は貴様さえ倒せればそれでいい!覚悟しろ!」
「ショウ!」
「わかってる!」
 チャムも彼のオーラに気付いていた。
「バーン、憎しみに心を支配されるか!」
「言った筈だ!私は貴様さえ倒せればそれでいい!」
 バーンは即座にそう返した。
「貴様さえな!」
「クッ、やはり同じか」
「ショウ、どうするの?」
「決まってる」
 チャムに対してそう答えた。
「バーン、御前を止める」
「私を止める必要はない」
 だがバーンはそう答えた。
「どういうことだ」
「私が貴様を倒すからだ。何度でも言ってやる!」
「ならば俺は」
 ショウのビルバインが剣を構えた。
「貴様のその悪しきオーラを切る!覚悟しろ!」
「オーラなぞ!」
 二人もまた死闘をはじめた。オーラバトラー達もまた死闘に入っていた。
 戦いは二つの戦域で激化していた。だがその他の場所でも戦いがはじまっていた。
 シャトルへ続く戦域で既にブランのアッシマー隊が戦いに入っていた。だがそこにいたのはアッシマー隊だけではなかったのである。
 ウッソはその時聴いた。あの音を。
「これは」
「ウッソ、どうしたんだ?」
 彼にオデロが声をかけてきた。
「オデロ、気をつけて」
「!?」
「後ろに下がって。すぐに」
「?あ、ああ」
 オデロは素直にそれに従った。すると彼が今までいた場所を太い一条の光が通り抜けた。
「な・・・・・・」
「やっぱり」
 ウッソはそれを見て悟った。そして光が来た方に目をやった。
「ファラさん、やはり生きていたのか」
「フフフ、相変わらず勘がいいねえ」
 そこに赤紫のモビルスーツが立っていた。その中に妖艶な顔立ちの赤紫の髪の女がいた。
「ウッソ、あんたを殺す為に地獄から舞い戻ってきたよ」
「馬鹿な、あんたは死んだ筈」
 ジュンコが彼女の姿を認めて驚きの声をあげた。
「木星の戦いで。それがどうして」
「偶然ってやつさ」
 その女ファラ=グリフォンはマーベットの言葉にそう答えた。
「偶然」
「そうさ、ティターンズの部隊に拾われてね。それで今ここにいるのさ」
「チッ、悪運の強い奴だね」
「言っておくけれどあたしだけじゃないよ」
「それはどういうことですか!?」
「わからないのかい?坊や」
 そう問うてきた。
「!?」
「このプレッシャーをね。あたしでさえ感じるってのに」
「!?まさか」
「ウッソ、間違いねえぞ!」
 オデロにも今感じられた。
「アハハ、その通りさ」
「その声は」
「ウッソ、私もいるんだよ」
 そこにはかって木星帝国でファラ=グリフォンのザンネックと並んで悪魔と恐れられたマシンがいた。ゴトラタンであった。それに乗る女は一人しかいなかった。
「カテジナさん、貴女まで」
「私も地獄の奥底から甦ってきたのよ」
 ウッソを見据えてそう宣言する。
「クロノクルと共にね」
「白いの、私もいるのだ」
 赤い髪の青年がそこにいた。かって木星帝国の女王の弟であったクロノクル=アシャーがいた。彼はリグ=コンティオに乗っていた。
「御前を倒す為にな」
「クロノクル、悪いけれど」
 カテジナ=ルースが前に出て来た。
「ウッソは私にやらせて」
「カテジナ」
「いい?」
「・・・・・・・・・」
 彼はそれに対して沈黙した。迷っていたのだ。だがそれを認めることにした。
「わかった。いいだろう」
「有り難う」
「ウッソ、あたしもいるんだよ」
 ファラもウッソに対してそう言った。
「あたしはねえ、誰と戦っていようがあんただけを見ているからね」
「クッ」
 その声と目には狂気が宿っていた。まるで魔物のようであった。
「いいね、その首あたしが貰い受けてやるから」
「マーベット」
「ええ」
 ジュンコとマーベットはそれを聞いて互いに頷き合った。そしてザンネックの方に向かった。
「おや、邪魔をするつもりかい?」
「邪魔じゃないわ」
 ジュンコが彼女にそう返す。
「ウッソはやらせない、それだけよ」
「その為に・・・・・・貴女を止めるわ」
「できたらね」
 二人を前にしてもその狂気は変わってはいなかった。
「あたしを止められる女なんてこの世にはいやしないんだから」
「何て女だ」
 オデロはそれを聞いて絶句していた。
「前に戦った時より酷くなっていやがる」
「オデロ、そう言っていられる場合じゃないかも」
 しかしここでウッソの声がした。
「ウッソ」
「オデロはクロノクルさんを頼む。いいかな」
「ああ」
 彼はそれに頷いた。
「俺はそれでいいぜ。どのみち相手を選ぶつもりもないしな。しかしな」
「何!?」
「ウッソ、気をつけろよ。カテジナさんはもう昔のカテジナさんじゃない」
「わかってるよ」
 認めたくはないがその通りであった。
「わかるから。プレッシャーで」
「ならいいけどな」
「僕も迷わない、カテジナさんが僕の前に立ちはだかるのなら」
「どうするの?」
 何とカテジナ本人が問うてきた。
「ウッソ、言ってごらんなさい。私をどうするのかしら」
「倒します」
 それが答えであった。
「カテジナさん、例え貴女でも」
「いい答えだわ。その通りよ」
「!?」
 オデロはその言葉の使い方に疑問を感じた。
「まさかまだ酷くなるのか?」
「私も貴方を倒すわ。さあ、ウッソ」
 またウッソの名を呼んだ。何故かそれは血の滴りを感じさせる声であった。
「いらっしゃい。可愛がってあげるわよ」
「・・・・・・・・・」
「ウッソ、気をつけろよ」
 オデロがまた声をかけてきた。
「わかってるとは思うがな」
「うん」
 それに頷いた。そして前に出る。
「カテジナさん、行きます!」
「ウッソ、私の手の中で!」
 両者は互いに激突した。こうしてシャトルの前でも激しい戦いが開始された。
 戦いは熾烈さを増していく一方であった。だがその中でそこから逃げようとする者達もいた。
「ええい、シャトルはまだ出ないのか!」
 ジャマイカンであった。彼はシャトルで宇宙に脱出しようとしていたのであった。
「このままではロンド=ベルに捕まってしまうぞ!」
 ヒステリックにシャトルのパイロットに対してそう喚く。だがパイロットは冷静に返した。
「もう少しです、お待ち下さい」
「その待っている間にやられるのだ」
 ジャマイカンはまた喚いた。


[290] 題名:第二十七話その二 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月28日 (火) 18時51分

「では覚えておいてやる。リュウセイ=ダテ少尉でいいな」
「ああ」
「覚えたぞ。では心おきなく■」
 またビームサーベルを抜いた。それで両断しようとする。だが彼はそれより前に突進していた。
「さっきも言ったけれどな」
 ナイフを構えながら言う。
「俺は不■身なんだよ!そこんとこもよく覚えていて欲しいな!」
 そして再び打ち合った。両者の一騎打ちがはじまった。
 ロンド=ベルとティターンズの戦いが本格化してきた。数においてはティターンズが圧倒的に優勢であるがそれでも次第にロンド=ベルに押されだしていた。
「ええい、何をしておるか!」
 ジャマイカンは戦局が思わしくないのに苛立っていた。
「敵は我等の三分の一程だぞ!押し潰せ!」
 だがそれは不可能だった。エースパイロット達が釘付けになっているうえに機体性能及びパイロットの技量はロンド=ベルの方が遥かに上であるからだ。ティターンズはその数を一秒ごとに減らしていた。
 しかしロンド=ベルはその中においても油断してはいなかった。何かが来るのを察していたからだ。
「うっ」
 突如としてシーラが声をあげた。
「シーラ様、まさか」
「はい、来ます」
 カワッセに対してそう答える。
「これはドレイクです」
「やはり」
「ドレイクだけではありません」
 エレも言った。
「エレ様」
「エイブ、ショウ達は近くにいますね」
「はい」
「彼等に伝えて下さい。赤い髪の女もこちらにやって来ていると」
「赤い髪の女」
 そこにドレイク軍が姿を現わしてきた。ウィル=ウィプスの巨体が空に浮かび上がっていた。
「来たな」
「相変わらず派手な登場しちゃって」
 ショウとチャムがそちらに顔を向けた。
「ドレイク、また地上を戦乱で乱すつもりか。その野心で」
「ショウ」
 そんな彼にエレが声をかけてきた。
「エレ様」
「気をつけて下さい。ドレイクだけではありません」
「というと」
「貴方も感じませんか、この悪しきオーラを」
「悪しきオーラ」
「そうです。赤い髪の女のオーラを」
「赤い髪の女・・・・・・まさか」
 それはショウもよく知っている女であった。嫌でも忘れられなかった。
「それがこちらに向かってきています。注意して下さい」
「はい」
 ショウは真摯な顔でそれに頷いた。そして前を見た。
「皆」
 まずは仲間達に声をかけた。
「ニー達はオーラバトラー達を頼む」
「了解」
「トッドとマーベルは俺の側にいてくれ。いいな」
「わかったわ」
「御前も感じているんだな」
「ああ」
 トッドの言葉に応えた。
「ここまで近くなら・・・・・・わかる」
 ショウは言った。
「ジェリル=クチビ、あくまで戦いに快楽を追い求める気か」
「あの女にゃ何を言っても無駄だぜ」
 トッドが言った。
「あいつの音楽を聴いたことがあるんだがな」
「ヘビメタとは聞いている」
「ああ。しかし普通のヘビメタじゃねえ」
「どういうことだ?」
「一言で言うといかれてやがるな。まともじゃねえ」
「だろうな」
 ショウはそれに同意するところがあった。
「ジェリルは明らかに何かがおかしい。そのオーラは増幅する一方だ」
「このままじゃ何かえらいことが起こりそうだな」
「ああ」
「二人共、そんなこと言っている場合じゃないわよ」
 ここでマーベルが話に入ってきた。
「マーベル」
「来たか?」
「ええ。見て」
 既にドレイク軍とロンド=ベルも戦いに入っていた。その中で二機のレプラカーンがショウ達のところに向かってきていた。
「ショウ、久し振りだな!」
 その中にいる白人の男が彼に声をかけてきた。
「アレン=ブレディ!」
「俺もいるぜ!バイストンウェル以来か!」
「フェイ=チェンカ!」
「チッ、やっぱりこの二人も一緒かよ」
 トッドは二人の姿を認めて舌打ちした。そしてショウに対して言った。
「ショウ、あの二人は俺達に任せろ」
「貴方はジェリルを頼むわ」
「悪い」
「悪くはねえよ。俺もアレンの旦那とは色々とあるしな」
「ほう、トッドもいるな」
 アレンの方でも彼に気付いた。
「元気なようだな。何よりだ」
「皮肉はもう間に合ってるぜ」
 トッドはそう言葉を返した。
「旦那にはこれまでの借りがあるからな。楽しくやらせてもらうぜ」
「勝てるのか?候補生がベテランに」
「俺はもう候補生じゃないんでね」
 トッドは悪びれずそう返した。
「今ここでどっちがトップガンが決めねえか?そっちの方があんたにとってもいいだろ」
「確かにな。おいフェイ」
「何だ」
「こいつは俺をご指名だ。御前はそっちの西部の姉ちゃんを相手にしてくれねえか」
「女が俺の相手かい」
 フェイは不敵に笑った。
「まあいい。ダンバインなら相手に不足はない」
「私には不服みたいね」
「まさか」
 フェイは口の左端を歪めて笑っていた。
「マーベル=フローズンだったな」
「ええ」
「あんたにはこっちも色々と煮え湯を飲まされているんでね。今度はこっちが煮え湯を飲ませてやるぜ」
「私は冷たい飲み物が好きなんだけれどね」
「冷たいのは身体に毒だぜ」
 フェイはそれに対してそう返した。
「身体には熱いものがいいんだ」
「あら、エスコートしてくれるの?」
「勿論。地獄までエスコートしてやるぜ」
「じゃあ受けるわ。けれど地獄に落ちるのは」
 ダンバインの剣をフェイのレプラカーンに向けて言った。
「貴方よ。いい?」
「その言葉そっくりあんたに返してやるぜ。行くぜ!」
「どうぞ」
 マーベルとフェイが戦いに入った。その横ではトッドとアレンも戦いに入っていた。
 両者は剣を繰り出し合う。その剣撃で周りを銀に染め上げていた。
「くらえっ!」
「チッ!」
 アレンが剣を突くとトッドがそれを払う。両者は互いに一歩も引かない。
 トッドの剣もアレンに防がれる。アレンの腕も全く落ちてはいなかった。
「また腕を上げているのかよ」
 トッドは彼の剣捌きを見て忌々しげにそう呟いた。
「折角追いついたと思ったのによ」
「坊やにはまだまだ負けんさ」
 アレンはそう言葉を返した。
「俺には勝つことはできんよ」
「そいつはどうかな」
 だがトッドはそれを笑って否定した。
「御前さんが腕をあげたように俺だって腕をあげてるんだぜ」
「ほう、そうだったのか」
 アレンはそれを聞いてあえてとぼけてみせた。
「じゃあそれを見せてもらうとするか」
「俺はまだるっこしいのは嫌いでね」
 そう言いながら剣を構える。
「ここで決めたいんだがいいか?」
「こちらもな。俺もせっかちな性分でね」
 アレンのレプラカーンも既に構えていた。
「どっちが本当のトップガンか、ここで証明するか!」
「トップガンは俺だ!」
 両者は互いに攻撃に入った。激しい斬り合いが再び空中ではじまるのであった。
 その横にいるショウの前にあの赤い髪の女がいた。
「捜したよ、ショウ」
 その女ジェリル=クチビはショウを見据えて酷薄な笑みを浮かべていた。
「どうして欲しい?まずは手を切ってやろうかい?」
「ジェリル」
 ショウもまた彼女を見据えていた。
「まだ邪なオーラを」
「邪!?お笑いだね」
 だが彼女はショウのその言葉を一笑に伏した。
「あたしのどこが邪なんだい?笑わせてくれるね」
「ショウ」
 チャムがショウに対して言った。
「駄目だよ、自分ではわかってないよ」
「ああ」
 頷いた。それは彼にもわかっていた。
「どうやら言っても無駄みたいだな、やはり」
「あたしは元々誰かに何か言われたりするのは嫌いなんだよ」
 ジェリルの返答はそれであった。
「覚悟しな、ここでケリをつけさせてもらうよ」
「引くつもりはないんだな」
「この赤い髪に誓ってね」
 ジェリルは言った。
「■んでもらうよ、ショウ」
「わかった」
 それを受けてショウも剣を抜いていた。
「ジェリル=クチビ、今ここでバイストンウェルに送り返してやる」
「できるものならやってみな。できるものならね」
 レプラカーンはゆっくりと、滑るように前に出て来た。そして剣を突き出してきた。
「ヌッ!」
「殺してやるよ!」
 ジェイルは叫んだ。
「御前の血でこの赤い髪をさらに赤く染めてやるよ!あっはははははははははははは!」
「この女・・・・・・」
「狂ってる・・・・・・」
 ショウもチャムのジェリルのその形相に絶句した。それは鬼気迫るものがあった。
「殺してやる殺してやる殺してやる!」
 ジェリルは剣を遮二無二切り回しはじめた。彼女はただショウを狙っていたわけではなかった。完全に戦いの血の匂いに酔ってしまっていたのだ。
「その血、あたしが飲んでやるよ!有難く思いな!」
「ショウ!」
「わかってる!」
 そう言いながら剣を前に突き出した。それでまずはジェリルの剣の動きを止めた。
「チッ!」
「ジェリル!御前の思う通りにはさせない!」
 ショウもまた攻撃を繰り出した。そして二人は本格的な戦いに入るのであった。
 ドレイク軍の援軍を受けティターンズは態勢を立て直した。ジャマイカンも冷静さを取り戻していた。
「よし、このまままずは陣を整える」
 彼はそう指示を下した。
「アッシマー隊を戦線に投入せよ」
「了解」
「ブラン大尉とベン中尉に伝えよ。一気に戦艦をつけと」
「わかりました」
 部下の一人がその指示に敬礼で応える。ブランとベンは元は連邦軍にいたが今はティターンズに所属しているのである。
 すぐにアッシマー隊と一機のスードリがロンド=ベルの左側面に向かう。だがそこには大空魔竜とガイキング達、そしてブレンパワードがいた。
「勇、来たよ」
 すぐにヒメが勇に対してそう言った。
「あの黄色い丸いの、こっちに来るよ」
「わかってる」
 勇はそれにすぐに頷いた。
「ヒメ、行くぞ」
「うん」
「俺達もな」
 それにサンシロー達も応えた。
「行くか」
「よし!」
 ヤマガタケが叫ぶ。彼のバゾラーが宙に浮かんだ。
「バゾラーが飛んでる」
 ヒメがそれを見て思わず声を漏らした。
「これどういうこと!?」
「ミノフスキークラフトをつけたんだよ」
 ヤマガタケは得意気にヒメに対してそう言った。
「ミノフスキークラフトを」
「そうだ。だから飛べるんだよ」
「わざわざ無理を言ってバゾラーにつけたんだがな」
 ピートがここでこう言った。
「戦利品だからいいものを。強引に自分のものにするのはどうかと思うぞ」
「いいじゃねえかよ、これでガイキングチームもパワーアップするんだし」
「それはそうだな」
 サコンがそれに同意した。
「サコン」
「バゾラーの弱点は空を飛べないことだった」
 彼は言った。
「それはガイキングチーム全体に影響があった」
「他の三機は飛べるからな」
「そうだ。一機でも飛べないのがあると影響が出る。だがそれが今解決された」
「へへへ」
 ヤマガタケはサコンのその言葉に得意になっていた。
「俺の株もこれでさらに上がるってものよ」
「だが注意もまた必要だ」
「何だ、注意って」
「空での戦いは陸での戦いとはまた違う」
「そうなのか」
「ええ、そうですよ」
 ブンタがそれに答えた。
「陸では上か周りから攻撃を受けませんよね」
「ああ」
「空では下からも来ますから。それに注意して下さい」
「下から」
「そうだ」
 リーも話に入ってきた。
「それには幾ら警戒しても警戒し過ぎることはない。それだけは覚えておけ」
「あ、ああ」
「まあヤマガタケにそれが理解出来るかどうかは疑問だけれどな」
「こらサンシロー」
 からかいに即座に反応した。
「そりゃ一体どういう意味だ」
「そのまんまさ。しっかりしろよ」
「ちぇっ、俺って信用がねえんだな」
「信用してもらいたければ活躍しろ」
 ピートが締めのようにそう述べた。
「そこにいるアッシマーを倒してな」
「あの円盤みたいなやつか」
「そうだ」
 ピートは答えた。
「どうだ、やれるか」
「甘く見るなってんだ。これでもUFOは今まで大分相手にしてきたんだ」
「そういやベガ帝国とも戦ったな」
「ああ」
「大介さんのおかげで彼等も倒せましたね」
「今度は大介かよ」
 ヤマガタケはまた不平を漏らした。
「どうして二枚目ばかり注目されるんだよ。たまには俺みたいにいかしたのを注目しろよ」
 そう言いながらミサイルを放つ。それで二機のアッシマーを撃墜した。
「おお」
「いきなり二機も」
「へっ、どんなもんだ」
 ヤマガタケはその戦果に得意になっていた。
「これが俺の実力よ」
 そこに敵のビームが来る。しかしそれはネッサーのバリアによって無効化された。
「守りは任せて下さいね」
「おう、頼むぜ」
「やれやれ」
 大文字はそんな彼等を見て少し困ったような色をまじえて笑っていた。
「ヤマガタケ君も張り切っているな。張り切るのはいいことだが」
「調子に乗って墓穴を掘らなければいいですがね」
 ピートがそう言葉を加えてきた。
「あいつは只でさえお調子者ですから」
「だがいざという時にはあれでも頼りになるからな」
 サコンは彼のフォローに回った。
「不思議な奴だ。意外性の男と言うべきかな」
「意外性の男か」
「ああ。普段はあれでもここぞという時にはやってくれるからな。ヤマガタケはそういう男だ」
「その通りだな」
 大文字は彼の意見を肯定した。
「ヤマガタケ君にはいうも意外な場面で助けてもらっているしな」
「そういえば」
 ピートもそれに頷くところがあった。
「何か意外な場面でいつも活躍してくれますね」
「後ろにいきなり出て来た敵を撃墜したり」
 ミドリが言った。
「ヤマガタケ君にはそうしたことが多いわね」
「あれで勘も動く場合があるしな」
 サコンがまた言った。
「そういったことが多い。本当にわからない奴だ」
「何処かサンシローに似てるかな。無鉄砲なところといい」
「サンシロー君とか」
 大文字はそれを聞いてまた考え込んだ。
「違いますか」
「言われてみればそうだな。サンシロー君は野球、彼は相撲だが」
「ここにいる連中は大なり小なりそうかもしれませんね」
「サコン君」
「リーやブンタにしろ俺やピートにしろ」
「俺もか」
「そうかもね」
 ミドリもそれに頷いた。
「おい、そうなのか」
「ピート君も案外抜けているとことがあるから。結構周りが見えていない時があるし」
「ううむ」
「けれど七人いるからね。それで私達はやっていってるのだと思うわ」
「そうだな。君達は地球を救う為に集められた」
 彼等はその超能力を買われて集められた。その七人であったのだ。
「それはおそらく互いに補い合う為だったのだろうな」
「そして博士が俺達を統括する」
「私はただ君達を頼りにしているだけだ」
 そう言っても彼以外にこの七人をまとめられる者もいなかった。彼は大空魔竜にとってなくてはならない指導者であったのだ。
「それでは皆左翼に回ってくれ」
「了解」
 ピートが大空魔竜を左翼に向ける。他の者達もそれにならう。アッシマー達との戦いが本格化した。
「彼等を止められれば我々の勝利は見えてくるからな」
「はい」
 大空魔竜がミサイルを放つ。それでアッシマーを小隊ごと吹き飛ばした。だがその数はまだ減ってはいなかった。
「あの黄色い円盤さんまだまだいるよ」
「ヒメ、落ち着いていけよ」
 勇がヒメに対してそう声をかける。
「そうすれば上手くいくからな」
「うん」
 彼等の攻撃は続く。そしてアッシマー隊はその動きを止められてしまっていた。
「まずいな」
 スードリの艦橋でそれを見て苦い顔をする金髪をリーゼントにしたいかつい顔立ちの男が呻いていた。彼がブラン=ブルタークである。
「アッシマーではやはり荷が重いか」
「ですがここはこれしかないと思いますが」
 後ろにいる男が彼にそう声をかける。ベン=ウッダーである。
「それはわかっているつもりだがな。しかし」
「彼等の力が予想以上だったと」
「そういうことになる。これは辛いぞ」
「はい」
「オデッサは今や我等ティターンズの地上での最大拠点だ」
 ティターンズは今東欧に勢力を持っている。その拠点がこのオデッサとなっているのだ。
「ここを失うことは地球進出が振り出しに戻ったことになる」
「はい」
「それだけは避けなければならないのだが」
「ではこのスードリも前線に向かわせましょう」
「スードリもか」
「はい。そうすれば戦いは有利になります。スードリの主砲であの大空魔竜を牽制するのです」
「やれるか」
「やれるではありません」
 ベンは強い声でそう応えた。
「やらなければならないのです。それが軍なのですから」
「わかった」
 ブランもそれに頷いた。
「ではやってみよう。いいか」
「はい」
「スードリを前線に出せ。そしてそれで一気に仕留める。私も出よう」
「大尉もですか」
「そうだ。アッシマーの出撃準備はできているな」
「はい」
「ならば問題はない。一気にいくぞ」
「わかりました。それでは私はスードリに残ります」
「頼むぞ。何かと大変だと思うがな」
「何、これも仕事ですから」
 笑ってそう返した。
「大尉は大尉の仕事をなさって下さい。私は私の仕事をしますから」
「すまない。ではな」
「はい」
 こうしてブランもアッシマーで出撃してきた。彼はスードリの上に位置した。
「さてと」
 そしてそこからロンド=ベルを見る。既にかなりの数のアッシマーを撃墜していた。
「これ以上やらせるわけにはいかんからな。おい」
 後ろにいる自身の小隊に声をかけた。
「スードリを援護しながら行くぞ、いいな」
「了解」
 こうして彼も自ら前線に出た。勇のユウ=ブレンの前に出て来た。
「来たな」
「勇、一人でいける!?」
「いけるんじゃない」
 ヒメにそう言う。
「いくんだ。絶対に」
「何の為に?」
「それは」
 不意にそう言われて戸惑った。
「勇、何の為に行くの!?」
「そうだな」
 考える。中々言葉が浮かばない。だがそれでも言った。
「守る為かな」
「守る」
「そうだな。皆を、俺自身を、そして平和を守る為に行くんだ」
「君はだから戦うんだね」
「そういうことになるな」
 ようやくヒメの唐突な問いの意味がわかってきた。
「俺は行く、戦う。守る為に」
「私も行っていいかな」
「ヒメもか」
「うん。私も守る為に戦いたい。それでいいよね」
「ああ」
 勇はそれを認めた。頷いた。
「行こうヒメ、そして守るんだ」
「うん、守ろう」
 それに応えた。
「皆を」
「じゃあ行くぞ。合わせろ!」
「よし!」
 ユウ=ブレンとヒメ=ブレンの動きが合わさった。
「いっけええーーーーーーーーっ!」
「シューーーーーーーーートォッ!」
 同時に攻撃を放った。それがブランのアッシマーを襲う。
「うおっ!」
 何とか致命傷は避けた。だが大破してしまった。これ以上の戦闘は無理であった。
「チッ、まるで化け物だな」
 ブランは何とかアッシマーの態勢を立て直しながらそう呟いた。
「ニュータイプだけではないというのか、ロンド=ベルは」
「大尉」
 スードリからベンが声をかけてきた。
「ご無事ですか」
「ああ、何とかな」
 彼を安心させる為にそう答える。
「だがこれ以上の戦闘は無理だな」
「はい」
 見れば彼だけではなかった。アッシマー隊はその数を大きく減らし残っている機もかなり損傷していた。
「撤退する。ジャマイカン少佐には私から言っておく」
「わかりました」
 こうしてスードリは残ったアッシマー達に守られながら戦線を離脱しにかかった。ブランの機はすぐに収納されてしまった。
「退くか」
「これで勝ったな」
 大文字はそれを見てそう呟いた。
「彼等はいい。後は中央にいる敵の主力を叩くぞ」
「はい」
 ピートが頷いた。そして大空魔竜を動かす。
「前へ出ます」
「うむ、頼むぞ」
 こうして戦いは中央にさらに向けられた。だが既にティターンズに彼等を防ぐ力は残っていなかった。
 ティターンズも撤退をはじめた。それを見てドレイクも顎に手を当てて考え込んだ。
「如何なされますか」
「ティターンズは退いていくな」
「はい」
 家臣の一人がそれに応えた。
「このまま後方の基地に退いていくものと思われます。おそらくそこで態勢を立て直し再度戦いを挑むものかと」
「そして危急の場合には撤退だ」
 後方基地には脱出用のシャトルもある。それで宇宙への脱出が可能なのである。
「一部の者だけがな。味方を見捨てて」
「それには我等も」
「その心配はない」
 だがドレイクはそれを安じさせるようにして言った。
「既に我等の進むべき道は見つけてある」
「左様でしたか」
「ビショット殿とショットに伝えよ」
 彼は言った。
「北欧で落ち合うべし、とな」
「北欧ですか」
「そうだ。何かあればそこで力を蓄える」
「そしてそこを足掛かりに地上を」
「そういうことになるだろうな。それでよいな」
「はっ」
「だがこれだけは覚えておけ」
「何をでしょうか」
 家臣はドレイクに顔を向けてきた。
「我等はバイストン=ウェルの人間だ」
 ドレイクの言葉は重みを増してきていた。
「地上では異邦人に過ぎない。それは肝に命じておけ」
「は、はい」
 それが一体どういう意味かわからなかったがそれに頷いた。
「わかりました」
「うむ」
 彼がわかっていないのは見破っていたがとりあえずはそれでよしとした。そして今度は戦闘の指示を下した。
「オーラバトラー隊に伝えよ」
「はい」
「撤退せよとな。聖戦士達を後詰にする」
「わかりました」
 こうして彼等も撤退に入った。彼等も戦場から去っていった。
「逃げるか」
「おいトッド」
 アレンがトッドに声をかけてきた。
「勝負はお預けだな。次会う時を楽しみにしてるぜ」
「ヘッ、二度と会いたくはねえな」
 トッドは減らず口でそれに応える。
「あんたの顔を見るのも声を聞くのももううんざりだからな」
「有り難いね、そこまで気にかけてくれるとは。だが今はここまでだ」
「アレンだんよ」
 トッドは退いていくアレンにまた声をかけてきた。
「何だ」
「俺はあんたにだけは負けねえからな。それだけは忘れるな」
「生きていたらな」
 アレンは不敵な笑いでそう返した。そして退いていく。そこにはフェイがいた。
「ジェリルは何処だ?」
 フェイはアレンにそう問うてきた。
「そこらにいないか」
「見当たらないぞ、一体何処に行ったのか」
「あいつのことだ、まだショウ=ザマとやりあっているのかもな」
「有り得るな。命令を聞いているのか」
「あいつにはそんなこと言っても無駄だぜ」
「わかってるさ。だが連れて行かないと後で面倒なことになる」
「ああ」
 二人はジェリルを探した。アレンの予想通り彼はまだショウと戦っていた。
「あっははははははははははははは!」
 奇怪な笑い声を出しながら剣を振るう。ただショウの命をそれで断ち切らんとしていた。
「クッ、何てオーラだ」
「ショウ、大丈夫!?」
 チャムが必■にそれに応戦するショウに心配そうに声をかけた。
「何か物凄い邪悪なオーラを感じるよ」
「これが今のジェリルのオーラか。いや、違う」
 ショウもまた彼女のオーラを感じ取っていた。
「このオーラ、まだ大きくなる。そして」
「何ぶつくさ言っているんだい!?」
 ジェリルが凄みのある声でそう問うてきた。
「あたしの攻撃はおしゃべりしながらじゃよけることはできないよ」
「何のっ!」 
 両断せんと振り下ろした剣をかわしながら言う。彼もまたその手に剣を持っていた。
「ジェリル、何処までそのオーラを増幅させていくつもりだ」
「決まってるじゃないか」
 ジェリルは言った。
「戦いが続く限りだよ。あたしはこの戦いが続く限りやらせてもらうんだからね」
「そして殺戮を続けるのか」
「そうさ」
 彼女は言った。
「それが悪いのかい?あんたも殺してやるから楽しみにしていな」
「クッ」
「ショウ、油断しないで」
 チャムがまた声をかけてきた。
「オーラがまた大きくなってきているから」
「ああ」
 ジェリルのオーラが見えるようであった。赤黒い気がレプラカーンを覆っていた。
「あの気、これ以上大きくなったら
「どうなるの!?」
「わからない。だが恐ろしいことが起こるな」
「うん」
 それはチャムにもわかった。こくりと頷く。
「今のうちに何とかしないと」
「わかってる。こっちも全力でいくぞ」
 ショウのビルバインを緑色のオーラが包んだ。淡い緑であった。
「ハイパーオーラ斬りだね」
「ああ」
「やっちゃえ!それで一気に決めちゃえ!」
 チャムの声に呼応するかのように動いた。だがそこで二人が入ってきた。
「待ちな、御二人さん」
「お楽しみのところ悪いが今日はここまでだ」
 そこには二機のレプラカーンがいた。
「アレンにフェイか」
「その通り」
 まずはアレンが答えた。
「ショウ、ここは引いてもらうぜ」
「勝手なことを」
「そうよ、そっちから来たんじゃないの」
「文句は上に言ってくれ。所詮下っ端は命令に従うだけだ」
「俺達はその命令でここに来たんだ。ジェリル」
「何だい!?」
「ここは退け。後方で態勢を整える」
「馬鹿言ってるんじゃないよ」
 予想通り彼女はそれに反発してきた。
「あたしはこいつの首を手に入れるまでは帰らないよ」
「それは次の機会にしておけ」
「今は撤退する軍の後詰をしなくちゃならねえんだ。それはわかるな」
「チッ」
 彼女も幾多の戦場を潜り抜けてきた。もうその程度はわかるようになっていた。
「わかったよ。それじゃあ退かせてもらうよ。ショウ」
 最後にショウの方に振り向いてきた。
「今度会った時が最後だ。覚えておいで」
「言われなくても」
 ショウもジェリルを睨み返した。
「御前のそのオーラ、俺が止めてやる」
「フン」 
 だがジェリルはその言葉を一笑に伏した。そして言った。
「やれるもんならね。やってみな」
「・・・・・・・・・」
 アレンとフェイはそんな彼女を見て心の中で思った。それはショウと似たようなことであった。
「アレン、フェイ」
 彼女は二人にも声をかけてきた。
「行くよ。しゃくだけれどね」
「あ、ああ」
 ジェリルを呼びに来た筈が逆に引っ張られる形となった。彼等はこうして戦場を離脱していった。
「とりあえずは前半戦終了ってところだな」
 ショウはグランガランに帰投した後でそう呟いた。
「まだまだ戦いは続くけれどな」
「ショウ」
 彼にニーが声をかけてきた。
「ニー」
「ジェリル=クチビと会ったそうだな」
「ああ」
 彼はそれに答えた。
「あのオーラ、さらに増幅していた」
「そうか」
「あのままだと何かが起こる。それが何かまではわからないがな」
「その通りです」 
 シーラがそれに答えた。
「シーラ様」
「あの邪悪なオーラはこれからも増幅していくでしょう」
「はい」
「今はそれが彼女の中に収まっているからいいです。しかしそれが収まりきれなくなると」
「どうなるのですか!?」
 二人はそれに問うた。
「彼女は恐ろしい力を手に入れることになるでしょう。ですがそれと同時に破滅します」
「破滅」
「はい。人はその手に余る力を持ったならばそれに滅ぼされます」
「その力に」
「そうです。それは彼女にも言えます。そして」
「俺達にも」
「はい」
 最後にそう頷いた。そして彼等は休息に入った。次の戦いに備える為に。

 それはティターンズ及びドレイク軍も一緒であった。彼等は後方の基地に集結しそこで戦力の回復に務めていた。
 その中にはアレン達もいた。彼とフェイはそれぞれのレプラカーンの前で座って食事を摂っていた。黒パンにソーセージであった。
「あまり美味くはねえな」
「ああ」
 二人はそう言い合っていた。
「固いパンだ」
「ソーセージもな。幾ら何でももう少しいい肉を使えってんだ。何だこの肉は」
「そのソーセージが気に入らないみたいだな」
「中国のやつを食べ慣れていたんでな」
 フェイは笑ってそう答えた。
「中国のソーセージはな、ちょっと違うんだ」
「そうらしいな、ハムもそうだと聞いているが」
「ああ。しかしそれでもこのソーセージは大概なものだぜ」
「まあ食えるだけましだけれどな」
「だな」
 ここでアレンは話を変えてきた。
「なあフェイ」
「何だ」
「御前さっきのあれをどう思う」
「ジェリルのことか」
「そうだ。あいつのオーラ、戦う度に増幅しているな」
「それだけじゃねえ。何か禍々しくなってきている。それはショウの奴もわかっていたみてえだな」
「そうだな。俺もあれは妙だと思った」
「俺もだ」
 それに関して二人は同じ意見であった。
「あのままオーラが増幅したらどうなるか、だな。問題は」
「えらいことになるかもな」
「あのままだとな。何が起こるかわからねえが」
「俺達にとって悪いことにならなきゃいいな」
「ああ」
 彼等はそんな話をしながら食事を摂った。そして彼等もまた次の戦いに備えるのであった。オデッサはまだ戦いの神に魅入られていたのであった。


第二十七話   完


                                  2005・6・17

 


[289] 題名:第二十七話その一 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月28日 (火) 18時46分

            オデッサの戦い
 中国、そして中央アジアでの戦いを終えロンド=ベルは遂にティターンズが占拠するオデッサに到達した。そこには既にティターンズ、そしてドレイク軍の軍勢が集結していた。
「ドレイク殿からの連絡はあったか」
 スードリの艦橋でティターンズの軍服に身を包んだ口髭の男が周りの者にそう問うていた。ジャマイカン=ダニンガンという。バスク=オムの腹心の一人でありこのオデッサの責任者でもある。階級は少佐である。
「ハッ、只今連絡が入りました」
「何と仰っているか」
 ジャマイカンは答えた部下に対して再度問うた。
「援護は任せておくように、とのことです。こちらにオーラバトラーをさらに送るとのことです」
「そうか、ならばいいが」
 とりあえずそれを聞いて安心した。
「敵はロンド=ベルだ。油断はできぬからな」
「ハッ」
「ダブデは全機稼動しているか」
「既に。モビルスーツ部隊も展開しております」
「用意は整っているな。しかしそれだけでは駄目だ」
「といいますと」
「ヤザン大尉とジェリド中尉はどうしているか」
「既に前線におりますが」
「あの二人に厳命しておけ。ロンド=ベルを狙え、とな」
「どういう意味でしょうか」
 この部下は二人のカミーユに対する執着を知らなかった。
「知らぬのならよい。伝えるだけでな」
「わかりました」
 何も知らないまま頷く。そして命令通り二人にそれを伝えるのであった。ティターンズは決戦に備えていた。
 それに対してドレイク軍はいささか余裕のある態度であった。彼等はティターンズの後方に位置しそこでティターンズを見守る形となっていた。
「どう見るか」
 ドレイクはウィル=ウィプスの艦橋において傍らに控える家臣の一人に問うた。
「はい」
 その家臣は敬礼した後で答えた。
「あのジャマイカンという男、将の器ではありませぬ。おそらくこの戦いはロンド=ベルのものでしょう」
「そうではない」
 だがドレイクはその言葉に対し鷹揚に手を横に振った。
「確かにこの戦いにおいてはそうだろうがな」
「といいますと」
「私が問うているのはこれからのことだ」
「これからのこと」
「そうだ。再び地上に出たな」
「はい」
「我が野心、再び果たそうと動くべきかどうかだ」
「それにつきましては」
 家臣はあらたまって答えた。
「殿の思われるままに」
「で、あるか」
 ドレイクはそれを聞いてニヤリ、と笑った。
「わかった。それではそうしよう」
「はい」
「だが当面ティターンズとの同盟は続けておくぞ」
「わかりました」
「問題はあの二人だが」
 ここである二人の顔が脳裏に浮かんだ。
「いずれそれも始末をつけよう。よいな」
「わかりました」
「そしてロンド=ベルだが」
 ここで東を見据えた。
「裏切り者のショウ=ザマもいる。ここは慎重に相手をせねばならぬな。聖戦士を用意しておくか」
 彼もまた戦いに思いを馳せていた。異邦人達もまた地球に心をひかれようとしていたのであろうか。

 ロンド=ベルはボルガ川を越えロストフに達していた。かってナチス=ドイツとソ連の戦いの激戦地の一つであった。第二次世界大戦においてこの地域は激戦地であったのだ。とりわけスターリングラードの攻防は有名である。
「さて、と」
 ブライトはロストフを越えると辺りを見回した。ロンド=ベルの六隻の戦艦が一列に並んでいた。
「そろそろだな。総員スタンバっておけ」
「了解」
 ロボット部隊を出す。彼等は戦艦の前にそれぞれ小隊を組んで配置された。
「いいか」
 ブライトは彼等に対して言った。
「前方にはティターンズ及びバイストンウェル軍の大軍がいる。その数は尋常なものではない」
「だろうな。敵さんも必死だ」
 フォッカーがそれに答えた。
「だがこの作戦、何としても成功させなければならない。我々の任務は東方から彼等を攻撃することにある」
「西からも来るんだったな」
 シローがふとそう呟いた。
「そうだ。連邦軍の主力がな。こちらはミスマル司令が率いておられる」
「だったら安心だな」
 京四郎がそれを聞いて頷く。
「三輪長官だったら大変なところだ」
「そういえばよくあの人ティターンズに入らなかったね」
 エルがふと呟く。
「如何にも、って感じなのに」
「あの人にはあの人の考えがあるんだろうさ」
 ビーチャがそれに答える。
「俺達もそこまで突っ込めねえよ」
「そうだよね」
 イーノがそれに同意する。
「あの人の考えることなんてわからないし」
「けれど何で連邦軍にいるのかなあ」
「それも偉いさんで」
 モンドにルーが合わせる。
「迷惑っていったら迷惑よね」
「うんうん」
「これだけ好き勝手言われる長官も珍しいな」
 健一はガンダムチームのやりとりを見て呆れたように言う。
「岡長官とは全然違うな」
「おい健一」
 それに一平が突っ込みを入れる。
「幾ら何でもあの人とあんなのを一緒にするな」
「あんなのかよ」
「兄さん、その通りでごわす」
「おいらもそう思うよ」
 弟達も一平と同じ意見であった。健一はそれを聞いて苦笑してこう返した。
「そうかもな。思えば岡長官はできた人だったよ」
「そういえばあの人今何処にいるんだ?」
 豹馬が尋ねてきた。
「更迭されたらしいけれど行方知れずだな」
「めぐみちゃん、何か知ってる?」
「私もわからないのよ」
 めぐみはちずるの問いに困ったように答えた。
「元気だとは思うけれど」
「まあ忍者ですからね。何かしておられるかも知れませんよ」
「小介、それホンマか!?」
「確証は得られませんが」
「しかし小介どんが言われると何か説得力があるでごわすな」
「そうだな。ひょっとしたらオデッサにいるかもな」
「それはないと思うわ」
 だがめぐみはそれを否定した。
「どうして?」
「私の勘だけれどね」
 そう断ったうえで言う。
「ジャブローとかそういう辺りにいるんじゃないかなあ。今あそこも色々とあるし」
「ジャブローか」
 言わずと知れた連邦軍最大の軍事基地である。過去何度も攻防があった。
「北アメリカかも。あそこもね」
「そういえばあそこに武蔵がいたな」
 竜馬が話に入ってきた。
「武蔵さんが」
「ああ。ロンド=ベルと離れてな。今アメリカに行っているんだ」
「そうだったの」
「最近姿を見ないと思ったら」
「そのかわりに私が来ました」
 ジャックも出て来た。
「武蔵の替わりの形ね。頑張ってマーーーース」
「おかげで余計に訳わからなくなっちまってるな」
「それは言わない約束デーーーーース」
 何時の間にかお笑いになってはいたがそうした話をしながらロンド=ベルはオデッサに向かう。そして遂に敵の陣地の前にまで来た。
「来たな」
 そこにはもうティターンズのモビルスーツ部隊が展開していた。ティターンズの誇るエースパイロット達もそこにいた。
「やはりいるか」
 カミーユは彼等の気配を察していた。彼の察し通り彼等はいた。
「来やがったな、ヒヨっ子共が」
 その中に三機のエイに似たモビルスーツがいた。ティターンズの変形モビルスーツハンブラビである。
 それに乗る男はヤザン=ゲーブル。金髪を後ろに撫で付けた獰猛そうな顔付きの男であった。
「ラムサス、ダンケル」
 彼は後ろの二機のハンブラビに乗る男達に声をかけた。ラムサス=ハサン、ダンケル=クーパー、ともにヤザンの直属の部下達である。
「はい」
「来たぜ。いつも通りやるぞ」
「了解」
「わかりました」
「よし。おうジェリド」
 彼は部下達の声を聞くと次にジェリドの乗るメッサーラに通信を入れた。
「そっちはどうだ」
「もう準備はできている」
 ジェリドはそう声を返した。
「カクリコン、マウアー」
「おう」
「何、ジェリド」
「こっちもいいな」
「無論だ」
「何時でも」
「よし。こっちはいい」
「よし。後はクロスボーンの連中だな」
「そっちもできているよ」
 後方のバウンド=ドッグから声が返ってきた。ライラの声であった。
「ザビーネの部隊もドレルの部隊もね。もう準備はできているよ」
「よし、それならいい」
 ヤザンはそれを聞いて満足そうに頷いた。
「バイストンウェルの連中もいるしな。パーティーの準備は万端だ」
「本当にそう思うか?」
 だがここでジェリドが問うてきた。
「どういう意味だ」
「連中が信用できるかどうかだ」
「そんなの最初からわかってることだ」
 ヤザンはジェリドの疑問に対してそう答えた。
「御前は信用しているのかよ、連中を」
「そうだな」
 ジェリドもヤザンもそれは同じであった。
「あてになんかしていねえさ、最初から」
「わかった。では俺達だけでやるか」
「ハナからそのつもりさ。だが注意しろよ」
「何だ」
「今日はあの小僧の相手はなしだ。ジャマイカンが五月蝿いからな」
「わかっている。俺もティターンズの将校だ」
 ジェリドは少し憮然としながらもそう答えた。
「命令には従う。それ安心してくれ」
「お互いな。あいつ俺にまで言ってきやがったからな」
「御前にもか」
「ああ。そんなに俺が信用できねえっていうのかってんだ」
「あんたは血の気が多過ぎるんだよ」
 ライラはそんな彼に対してそう言った。
「いつも餓えた野獣みたいな目で戦場にいるだろ。だからそう言われるんだよ」
「へっ」
「戦うのが好きなのはいいけれどね。政治家にはよくは思われないよ、そういうのは」
「別に俺は政治家じゃないんでな」
 ヤザンは悪びれずにそう返した。
「戦う時は思いきりやらせてもらいたいんだよ。政治なんて糞くらえだ」
「おやおや」
「それは御前さんだってそうだろう、ライラさんよ」
「否定はしないよ」
 ライラは落ち着いた様子でそう答えた。
「あたしはね、戦いたいからここにいるんだよ」
「そういえばあんたは元々ティターンズじゃなかったな」
「そうだね。ブランやベンとそれは一緒だね」
 そう言いながらアッシマーの部隊に目をやる。
「今でこそここでこうやっているけれどね」
「人間何があるかわからないってやつだな」
「そうだね。実際にこうやってまた地球に戻れるとは思ってなかったしな」
「全くだ」
 カクリコンがその言葉に頷く。
「マクロスの前での戦いに敗れてからセダンの門にずっとこもっていたからな。こうして今地球にいるのがまだ信じられん」
「カクリコン」
 彼にジェリドが話しかけてきた。
「何だ」
「この戦いが終わった後はどうするつもりなんだ」
「そうだな」
 問われて考えながら答えた。
「アメリアと一緒になるか、遂に」
「そうか。いよいよか」
「そん時は俺も呼んでくれよ」
 ヤザンが彼に声をかける。
「あんたをか」
「そうだ。祭は好きなんでな。いいだろ」
「別に構わないが」
「あたしもいいかい?」
 今度はライラが問うてきた。
「戦友ってことでね」
「ああ、いいとも」
「当然俺もだな」
 ジェリドも入ってきた。戦友達が次々と彼に問うてくる。彼はそれが内心嬉しかった。
「だがそれは戦争が終わってからだな」
「おいおい、そこで戦争に戻るか。まあいいさ」
 ヤザンは不敵に笑った。
「来るぜ。鴨がよお」
「鴨か。余裕だな」
「俺にとっちゃあな。ラムサル、ダンケル行くぞ」
「はい」
「了解」
 二人がそれに頷く。
「また蜘蛛の巣を仕掛けるぜ」
「それじゃあ俺達も行くか」
「おう」
 ジェリドはカクリコンの言葉に頷いた。
「マウアー、いいな」
「ああ」
 ライラやアッシマーの部隊も前に出て来た。そして彼等が前に出ると同時にロンド=ベルも姿を現わした。
「もう戦闘用意を整えているな」
「はい」
 マヤがブライトの言葉に頷く。
「ティターンズのものと思われるモビルスーツ部隊が前方に多数展開しております」
「そして後方からオーラバトラーと思われるエネルギー反応も。巨大なものもあります」
「オーラシップだな」
 ブライトはシゲルの報告を聞きそう呟いた。
「さて、何が出るかな」
「おそらくウィル=ウィプスでしょう」
 シーラがそれに答えた。
「あれですか」
「はい。このオーラはドレイクのものです」
「オーラ」
「まるで全てを覆うかのような。こんなオーラを持つのは彼だけです」
「だとすると厄介ですね。あの男だと」
 ブライトも前の戦いでドレイク達と数多くの死闘を繰り広げてきた。だからこそわかるのだ。
「けれどやらなくちゃいけませんよ」
「それはわかっている」
 トーレスの言葉に返す。
「全軍戦闘用意」
 そして全軍に指示を下した。
「作戦目的はオデッサの解放だ。いいな」
「了解」
 フォッカーをはじめとして主立ったパイロット達がそれに頷く。
「総員攻撃開始。総員健闘を祈る」
「よし!」
 こうして戦いがはじまった。ロンド=ベルとティターンズはほぼ同時に攻撃に入った。
 まずはヤザン達三機のハンブラビが出て来た。それに対するかのようにゼオラとアラドのビルトファルケンとビルトビルガーが出る。
「アラド、行くわよ」
「おい、ちょっと待てよ」
 突進するゼオラを諫めるようにして言う。
「ヴィレッタさんとレーツェルさんがまだ来ていないぞ」
 彼等は四機で小隊を組んでいた。見れば他の二人はまだ後ろである。
「いいのよ、今はそんなこと言ってる場合じゃないわ」
「そういうわけにはいかないだろ。相手は三機だぜ。しかもあのハンブラビは」
「あんたまたそんなこと言ってんの!?」
 ゼオラはまごまごするアラドをそう言って叱りつけた。
「そんなんだからスクールでも落ちこぼれだったんでしょうが」
「スクールは今は関係ないいだろ!?」
「あるわよ。いつおあたしがフォローしてきたんだから」
「ゼオラ」
 アラドは彼女の言葉に少し戸惑った。
「大体あんた接近戦用でしょ。あんたが先に行かなくてどうするのよ」
「わかったよ」
 アラドはそれに従うようにして前に出て来た。
「そのかわりフォローはしっかり頼むぜ」
「任せといて」
 こうして二機は三機のハンブラビと正対した。ヤザンは彼等を見て獣じみた笑いを浮かべた。
「ヘッ、獲物が来たぜ」
 そしてラムサスとダンケルに指示を下した。
「予定通りだ。あれをやるぜ」
「ハッ」
「了解」
 二人はそれを受けてすぐに動いた。アラドのビルトファルケンと取り囲んだ。
「!?一体何をする気なんだ!?」
「アラド、気をつけて」
「あ、ああ」
 ゼオラの言葉に頷く。その間に三機のハンブラビはアラドを取り囲んでいた。
「行くぜ、蜘蛛の巣攻撃!」
「ハッ!」
 ヤザンの言葉に従い一斉に動く。三機のハンブラビが海蛇を放ってきた。
「うわっ!」
「アラド!」
 ゼオラが思わず叫んだ。アラドはその間にその海蛇の攻撃を受けていたのだ。
「へッへッへ、どうだハンブラビの蜘蛛の巣攻撃は」
「蜘蛛の巣」
「そうだ。最高にしびれるだろうが」
「しびれるだか縛られるだか知らないけどね」
 ゼオラは危機に陥っているアラドの窮地を救うべく攻撃に移っていた。
「アラドをやらせるわけにはいかないのよ。覚悟しなさい!」
 そしてヤザンのハンブラビに向けてミサイルを放った。だがそれはあっさりとかわされてしまった。
「おおっと、危ねえな」
「クッ」
「見たところまだお嬢ちゃんみてえだな。一体何しにここへ来たんだ!?」
「あんた達みたいなのを倒す為よ」
 アラドを庇うようにして前に出ながらそう答えた。
「ティターンズやネオ=ジオンみたいな連中を倒す為にね。志願してロンド=ベルに入ったのよ」
「ほお、そりゃあいい」 
 ヤザンはそれを聞いて面白そうに声をあげた。
「こんな可愛らしいお嬢ちゃんにまで追っ掛けられるとはな。俺達も人気者になったものだぜ」
「あんただけじゃないわ」
 ゼオラはキッとして言い返した。
「ティターンズもネオ=ジオンも許さない、絶対に」
「ゼオラ・・・・・・」
「何があったのかは知らねえがな」
 ヤザンはその目を憎悪で燃やすゼオラに対して言った。
「ここは戦場なんだよ。生きるか死ぬかだ」
 そう言いながらハンブラビを変形させてモビルアーマーの形態になった。
「悠長なことを言ってたら死ぬぜ。それだけ教えておいてやるよ」
「クッ!」
 そこにビームが来た。だがそれは何とかかわした。
「早い・・・・・・」
「可愛い顔してんだ。変なこと言わな方が身の為だぜ!」
「誰が!」
 ゼオラとヤザンが一騎打ちに入った。アラドはその間に二機のハンブラビと正対しようとしていた。だがそこにヴィレッタとレーチェルが到着した。
「やっと間に合ったわね」
「早いのもいいが人を置いていくのはよくないな」
「ヴィレッタさん、レーチェルさん」
「詳しい話は後よ。アラド」
「はい」
 ヴィレッタの言葉に頷く。
「ゼオラの援護に回って。この二機のハンブラビは私達が引き受けるわ」
「いいんですか!?」
「ああ。あのヤザン=ゲーブルの強さは生半可なものではない。少なくとも今のゼオラだけでは無理だ」
「わかりました」
「早く行って。さもないと危ないわ」
「騎士殿の参上は格好よくないとな」
「は、はい」
 二人に急かされて戦場に向かう。そしてヤザンのハンブラビの素早い動きの前に翻弄されるゼオラの方に来た。
「な、何て速さなの」
 ヤザンのハンブラビはその機動力とヤザン自身の操縦を駆使してゼオラのビルトファルケンの攻撃を巧みにかわしつつカウンターで攻撃を仕掛けていた。
「こんなのはじめてだわ」
「へへへ、お嬢ちゃんよ、大人の男の動きは知らないみたいだな」
「そんなもの」
「俺はもっと色気のある大人の女が好みなんだがこの際贅沢は言わねえ」
 モビルスーツ形態に戻りながら言う。
「覚悟しな。これが戦争ってやつだ」
 ビームを放つ。そしてそれでゼオラを仕留めようとした。
「まだっ!」
 それを必死でかわそうとする。だが足に当たってしまった。
「よけきれなかったみてえだな」
「うう・・・・・・」
「さて、と。これで最後にするか」
 ヤザンは今度はビームサーベルを抜いてきた。
「安心しな。苦しまずにやってやるからよ。俺はそういうのが嫌いなんだ」
「・・・・・・・・・」
「悪く思うな。これも戦争ってやつだ」
 ビームサーベルを振り下ろす。だがそれを払う者がいた。
「誰だ!?」
「騎士の登場だ」
 サーベルを払った者がそう返す。
「ゼオラ、フォローに来たよ」
「アラド」
「フン、さっきの坊主か。彼女を助けにでも来たか!?」
「そんなところだ。ここはやらせないぞ」
「じゃあきな。二人まとめて相手してやる」
「言われなくても!」
「アラド、待って」
 だがそんな彼をゼオラが呼び止めた。
「ゼオラ」
「あたしがフォローするわ。いつも通りね」
「頼めるかい?」
「ええ」
 ゼオラはそれに頷いた。
「いつも通りいきましょ」
「よし、いつも通りいこう。わかった」
「姫のピンチに現われるうるわしの騎士様が相手かい」
 ヤザンは二人を見て面白そうに笑った。
「たまにはこういうのも悪くはねえ。思う存分相手してやるぜ!」
 二人とヤザンは戦いに入った。二人は何とか互角に勝負を進めていた。
 ジェリオ達はリュウセイ達SRXチームと対峙していた。彼等はそれぞれ息の合った連携で戦いを進めていた。
「チッ、思ったよりやりやがるな」
 ジェリドはメッサーラのメガ粒子砲をかわしたR−3を見て舌打ちした。
「前にも戦ったことはあるが腕を上げているみたいだな」
「どうやらそうみたいね」
 マウアーがそれに同意する。
「手強いわよ。しかも数は敵の方が多いし」
「厄介な相手ではあるな」
 カクリコンがここでこう言った。
「しかしこのままじゃラチがあかねえ。二人共いいな」
「ええ」
「わかっている」
「連中の動きを止めてくれ。後は俺が一人ずつやってやる」
 二機のバウンド=ドッグが前に出て来た。そしてSRXチームに対して拡散ビームを放つ。
「うわっ!」
 リュウセイは驚きの声をあげながらそれをかわした。声こそ大袈裟であるが動きはそうではなかった。
「あぶねえあぶねえ」
「チッ、今のをかわすとはな」
「あのメッサーラのパイロット、かなりすげえぞ」
「それは当然だ。あれに乗っているのはジェリド=メサ中尉だ」
 ライがそう言い加えた。
「ジェリド?ティターンズのエースパイロットの一人じゃねえか。ヤザン=ゲーブルと大尉と並ぶ」
「そうだ。確か今は大尉だったかな。間違えていた、すまん」
「いいってことよ。けれどそうだったら楽しくなるな」
「楽しくなる?」
「ティターンズのエースと戦えるなんてわくわくしてこねえかってことだよ」
 首を傾げたアヤに対してそう述べる。
「どうだい、アヤも入らねえか?」
「入らないっていっても無理矢理入れるでしょ」
 そんなリュウセイに呆れたように声をかける。
「違うかしら」
「うっ」
「その通りだな。いつものことだ」
「ライ」
「どうせ三機いるんだ。丁度いいな」
「いや、違うな」
 だがここでレビも入ってきた。
「レビ」
「もう一機来たぞ。これで四機だ」
 見ればもう一機来ていたライラの乗るバウンド=ドッグだ。
「ジェリド、助けに来てやったよ」
「ライラ」
「その連中相手じゃ三機じゃ辛いだろう。相手になってやるよ」
「そうか、悪いな」
「礼はいいよ。困った時はお互い様だからね」
「頼む」
 三機のバウンド=ドッグとメッサーラが編隊を組んだ。中心にいるのはジェリドのメッサーラである。
「敵さんメッサーラを中心に持ってきやがったな」
「予想された展開だな」
「じゃあこっちもそれでいくわよ。リュウセイ、いい?」
「了解」
 SRXチームも陣を組んだ。リュウセイの機を中心とする。
「これでいいな。よし、行くぜ」
「よし」
 レビがそれに頷いた。まずは三人が攻撃を仕掛ける。バウンド=ドッグもだ。
「リュウセイ、行って!」
「ジェリド、出番だよ!」
「よしきた!」
「わかった!」
 それを受けて二人は一度に前に出た。そして互いにまずは遠距離攻撃を仕掛けた。
「いけ!」
「これでどうだっ!」
 だが両者はそれを超人的な勘でそれを察知しかわす。操縦も見事であった。
「チッ、ロンド=ベルってのはこんなのばかりいやがるな」
「流石ってとこだぜ。伊達にティターンズのエースにゃなってねえな」
 ジェリドもリュウセイもそれで互いの力量を推し量っていた。そしてさらに進む。
 ビームサーベルを抜いた。それで切り合う。光が舞い跳んだ。
「ロンド=ベルは通さん!」
「そう言われて引き下がる奴はいねえ!」
 互いに激しい剣撃を繰り出すがそれは両者に止めをさすどころかダメージすら与えられない。ジェリドもリュウセイもその剣捌きまで一流であったからだ。
「カミーユより上か、接近戦は」
「イングラム教官でもこうはいかねえ。つええ」
 同時に後ろに下がった。そして今度はメッサーラがミサイルを放った。
「これならどうだっ!」
「やらせねえっ!」
 ゴールドメタルナイフでそのミサイルを切り払う。動きは完全に見切っていた。
「やはりな、ミサイルも通用しないか」
「ジェリド中尉だったな」
「!?」
 ジェリドはそのリュウセイの声に反応した。
「今は大尉だ。それがどうした」
「俺が誰かわかってるか」
「伊達隆盛だったか。SRX計画のことは知っている」
「嬉しいね知っていてくれているなんてな」
 リュウセイはそれを聞いて喜びの声をあげた。
「俺も有名になったもんだぜ」
「それで何が言いたいんだ!?」
 ジェリドは問うてきた。
「死ぬ前に名前を覚えていて欲しいというのなら覚えていてやるがな」
「生憎俺は不死身なんでね」
「ほう、初耳だな」
「これからも覚えていてもらっておきたくてね。いいかい?」
「面白い奴だ」
 ジェリドはそれを聞いて笑った。


[288] 題名:第二十六話その二 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月28日 (火) 18時39分

「レーダーに反応」
 マヤがシナプスにそう報告する。
「何処からだ」
「後ろからです。これは・・・・・・」
 レーダーを見ながら言う。
「パターン緑。ポセイダル軍です」
「ポセイダル」
「あいつ等地上にまで来てたの」
「しつこいね、ホントに」
 ダバ達が口々にそう言う。言っている間に後方からポセイダル軍が姿を現わした。
「遂に見つけたぞ、ロンド=ベル!」
 褐色の肌の男がグルーンのコクピットの中でそう叫ぶ。
「チャイ=チャー!」
「ここで会ったが最後だ、覚悟しろ!」
 ギャブレーもいた。当然ハッシャも。
「ギャブレーまで」
「しつっこいねえ、あいつも」
 アムが彼を認めて呆れた声を漏らした。
「食い逃げからずっとじゃないの」
「あいつそんなことまでやってたのかよ」
「何か意外と抜けてるんだな」
 ジュドーと一矢がそれを聞いてヒソヒソと話をする。
「そんなことはどうでもいい。ダバ=マイロード」
「何だ」
「今日こそは決着をつける。さあ来い!」
「言われなくても!」
 ダバが出撃した。他の者達も次々に出る。
「行くぞ!」
「待って!」
 だがそんなダバをユリカが呼び止めた。
「何か」
「タケル君達呼び戻さなきゃ」
 ユリカは携帯をかけた。
「本格的な戦いになりそうです」
「はい。ところで僕に何か」
「ダバ君に?」
「はい、ですから呼び止めたのですよね」
「あ、言葉のあや」
「言葉の!?」
 それを聞いてダバも思わず拍子抜けした。素っ頓狂な声を出す。
「だから気にしないで。そっちは続けていいから」
「はあ」
 拍子抜けしたまま答える。だがすぐに自分のペースに戻った。
「とにかく行くぞ、ギャブレー!」
「うむ!」
 二人がまず互いに前に出た。それを合図とするかのように両軍互いに攻撃を開始した。こうしてまた戦いがはじまった。
「これでどうだっ!」
「甘いっ!」
 ギャブレーがパワーランチャーを放つ。ダバはそれを左に滑ってかわした。
「この程度で俺を!」
「ならば!」
 今度はセイバーを抜く。それで切り掛かる。
 ダバも抜いていた。それで対抗する両者は打ち合ったまま対峙する。
「貴様を倒し私はギャブレー家を再興する!」
「バルマーの下でか!」
「それの何処が悪い!」
 そう言って開き直った。
「例えバルマーの下だろうと私は家を再興せねばならんのだ!」
「それが侵略の手先であってもか!」
「そんなことは関係ない!」
 二人はセイバーを打ち合いながら戦いを続ける。両者は一歩も引かなかった。
 そしてさらに戦いが続く。ポセイダル軍もロンド=ベルも互いに激しい応酬を加え合う。だがやはりマシンそれぞれの性能の差とパイロットの腕が違っていた。ロンド=ベルが押しはじめていた。
「まずい、このままでは」
 チャイ=チャーは戦局の劣勢を悟った。
「早いうちに何とかしなければ。ギャブレー」
「ハッ」
「ダバ=マイロードは今はいい。全体のフォローに回れ」
「わかりました。ダバ=マイロード」
 ダバに顔を向けて言う。
「勝負はお預けだ。いいな」
「待て!」
「待てと言われて待つわけにはいかん。さらばだ!」
 そう返してダバとの戦いを中止する。そして後方に退いた。
「これでとりあえずはよし」
 チャイはギャブレーが全体のフォローに回ったのを確認してから呟いた。
「後は如何に敵の勢いを防ぐか、だな」
 だがそれは難しかった。ロンド=ベルの攻撃はかなり激しいものであったからだ。
 それでもギャブレーの活躍もありかろうじて戦線は維持できていた。だがそれもほんの僅かの間だけであった。
「皆さん、遅れて申し訳ありません!」
 ミカの声が響く。ゴッドマーズとコスモクラッシャーが戻って来たのだ。これで戦局はさらにロンド=ベルに傾いていった。
「よし、行くぞ!」
「はい!」
 コスモクラッシャー隊はケンジの声に従いポセイダル軍に突き進んだ。そしてまずはコスモクラッシャーが出る。
「ナミダ、いいな」
「うん!」
 ナミダはナオトの声に元気よく頷く。
「タケルには負けるんじゃねえぞ」
「わかってるって。ナオト兄ちゃんこそね」
「おい、俺がタケルに負けるっていうのかよ」
「油断しているとな」
 ケンジがそう忠告する。
「それどころか命さえ危ない。それはわかってるな」
「わかってますよ」
 ナオトはそう答えた。
「だから訓練をやってるんでしょ」
「そういうことだ。アキラ、ミカ」
「はい」
 二人も顔を向けてきた。
「二人も頼むぞ。いいな」
「了解」
「任せて下さい」
 コスモクラッシャーは敵の上空を飛翔する。そして的確な動きで敵を倒していく。そしてその間にゴッドマーズが入っていく。
「あれだけは何としても止めろ!」
 チャイ=チャーの声は半ばヒステリーと化していた。それに従いハードメタル達が動く。だが彼等ではゴッドーマーズは止められなかった。
「これならっ!」
 ヘビーメタルの攻撃をかわす。巨体からは想像できないまでの身のこなしであった。
 かわしながら剣を振るう。それによりポセイダル軍はその数をさらに減らしていった。
「ギャブレーはどうしているか!?」
 チャイ=チャーは側にいる部下の一人に問うた。
「今前線でオーラバトラー、ブレンパワードと戦っております」
「クッ・・・・・・!」
 見ればその通りであった。ギャブレーの乗るグルーンはビルバイン、ユウ=ブレンを相手に戦っていた。如何にギャブレーといえど彼等を一度に相手にするには辛いらしく押されていた。
「まずいな、このままでは」
「はい」 
 その部下が答えた。
「如何なされますか。やはり」
「それも手だ」
 部下の言葉に頷いた。
「このままではな。致し方ない」
「はい」
「退く必要はない」
 だがここで声がした。
「誰だ!?」
「チャイ=チャー」
 そして彼の名を呼んだ。気品のある若者の声であった。
「ここは私に任せておけ」
「誰だ、私に気安く話しかけるのは。名乗れ」
「マーグ」
 若者の声はそう答えた。
「マーグ!?」
「そう。バルマーの者だ」
 そして巨大なマシンが姿を現わした。
「あれは!」
 そのマシンを見たロンド=ベルの面々は思わず声をあげた。それは彼等がよく知っているマシンであった。
「そんな馬鹿な・・・・・・」
 最も驚いていたのはタケルであった。彼は驚きのあまり呆然としてしまっていた。若者の声はそんな彼にも声をかけてきた。
「マーズ」
「その声は!?」
「久し振りだな。元気そうで何よりだ」
「兄さん、兄さんなのか!?」
「そうだ」
 若者の声は答えた。そのマシンからであった。
「私は今ここに来た。しかも御前と同じゴッドマーズに乗ってな。それが何故かわかるな」
「・・・・・・・・・」
「一体これはどういうことなんだ!?」
 ピートはそれを見て声を漏らした。
「何故ゴッドマーズが二機も。しかもタケルの兄だと」
「それだけじゃないな」
 サコンが彼に対して答えた。
「タケルが異星人なのは知っているな」
「ああ」
「それだ。おそらくそれに関係がある。今はずっと見ておこう」
「そうだな。そうするしかあるまい」
 大文字も彼に同意した。
「ピート君、いいな」
「・・・・・・はい」
 ピートだけではなかった。他の者もだ。皆見るしかなかった。彼等のやりとりを。
「私は今バーム軍にいる。何故かわかるか」
「・・・・・・・・・」
「御前と戦う為だ。さあ来い」
「一体何を言っているんだ、兄さん」
「マーズ」
 マーグの声は強いものになった。
「私はバルマーの者、御前を倒さなければならない。それだけで充分だろう」
「嘘だ!」
 だがタケルはそれを否定した。叫んだ。
「兄さんは俺にゴッドマーズのことを教えてくれた。地球を守る為に。それが何故・・・・・・」
「言った筈だ。私はバルマーの者だと。バルマーの者はバルマーの為に戦う」
 そう言いながら剣を抜いてきた。
「これ以上は言わない。さあ来い」
「嫌だ、そんなことは俺には・・・・・・」
「ならば」
 マーグは剣を一閃させた。タケルは何とかそれをかわした。
「私からいこう」
「クッ!」
「■にたくなければ、地球を失いたくなければ来い!」そして地球を救え!」
 二人は戦いをはじめた。だが攻めるのはマーグだけでありタケルは守るだけであった。二人の戦いは奇妙なものとなっていた。
 ロンド=ベルの者達は戦いながらそれを見守っていた。だがヒメがふと漏らした。
「あの人、何で地球を救えって言うんだろ」
「どういうこと!?」
 カナンがそれに問うた。
「うん。あの人バルマーの人だよね」
「ああ」
「だったら地球を滅ぼすとか言う筈なのに。タケル君に地球を救えだなんて変だよ」
「そういえばそうだな」
 ナンガがそれに頷く。
「あのマーグって坊やからはどうも悪意ってのは感じない。むしろ何か温かいな」
「旦那もそう思うか」
 ラッセもであった。
「俺もそうだな。何かあのゴッドマーズの剣捌きも殺そうってやつじゃない」
「ラッセさん」
「むしろ・・・・・・何て言うかな。悪い場所を切り取ろうとするような。そんな感じに見える」
「どういうことなんだ!?」
 勇はそれを聞いて首を傾げた。
「タケルを殺すつもりじゃないのか」
「多分ね」
 ヒメが彼に答える。
「あのマーグって人はタケル君を殺すつもりはないと思うよ」
「だったら余計わからないな」
 サンシローが問うた。
「じゃあ何故今こうしてあいつと戦っているんだ?矛盾するぞ」
「何か事情があるな」
 ヒギンズがそれに答える。
「私達の知らない何かが」
「俺達の。それは一体」
「残念だがそこまではわからん。だがとりあえずはタケルは安全だろう。命まではな」
「そうか」
 ラッセの言葉に応える。
「じゃあ今のうちに他の連中を何とかしておくか。ダバ」
「何だい」
 ダバに声をかけるとすぐに返事が返ってきた。
「このヘビーメタルってのはビーム兵器には強いけれど他の兵器に対してはそうじゃないみたいだな」
「ああ」
「よく気付いたわね」
 アムがそれに対して言う。
「ヘビーメタルはなえ、ニームコーティングされてるのよ。あまり安いの意外はね」
「そうだったのか。道理で」
「だからミサイルとかの方がいいかもね。あたしだってマインよく使うし」
「そうか。バスターランチャーの方が多いと思うが」
「そうかなあ。まああれってぶっぱなすと気持ちいいけれど」
 レッシィの問いにそう返す。
「けれどレッシィだって派手にやってるじゃない。お互い様よ」
「リリス」
「やっつけられればいいんじゃないかな。私はそう思うよ」
「そうだな。リリスが正しい」
 ダバはリリスの意見を支持した。そして二人に対して言った。
「とにかく今は前にいる敵を倒そう。タケル君のことは後だ」
「わかったわ」
「じゃあ今まで通りやるか」
「今まで通りか」
「サンシロー、あんたもね。いつも通り派手に頼むよ」
「言われなくたって」
 既に彼は派手にやっていた。今更という感じではあった。
「やってやらあ。行くぜ皆!」
「それでこそサンシローだな」
 リーがそれを聞いて頷く。
「ポイントゲッターはこうでないと」
「チェッ、俺はそうじゃないのかよ」
 ブンタがリーに続きヤマガタケがぼやく。ぼやきながらも攻撃に向かうのが彼らしかった。
 戦いはさらに激しくなりギャブレーのグルーンもダメージを受けた。ショウのビルバインのオーラソードの一閃を受けたのであった。
「おのれ、ダバ以外にもいるというのか」
「まだやるか!」
「残念だがそうもいかぬらしいな。そこの赤いマシンの男」
 ショウに問うてきた。
「名を名乗れ。何という」
「ショウ。ショウ=ザマだ」
「ショウ=ザマか。よし」
 ショウに名を聞いて頷いた。
「その名、覚えたぞ。また会おう!」
「お頭、待って下さいよ!」
「お頭ではない!今は隊長と呼べ!」
 そして彼は戦場を離脱にかかった。ハッシャもそれに続く。
 チャイ=チャーのグルーンも攻撃を受けていた。トッドのダンバインのオーラソードにより大破させられたのだ。
「ショウだけにやらせるわけにはいかねえんでな!」
「おのれっ、よくもこの私を!」
 チャイ=チャーは脱出しながら呪いの言葉をトッドに対して吐く。
「地球人共め、覚えていろよ!」
「覚えてもらいたきゃそれなりにやるんだな!俺はショウと違って雑魚の名前は覚えないんでな!」
「おのれ、その言葉忘れるな!」
 恨みの言葉を残し戦場から離脱する。他のヘビーメタルもそれに続いた。
 残っているのはマーグの乗るゴッドマーズだけであった。相変わらず剣を振るい続けていた。
「どうしたマーズ」
 彼はマーグに問うた。
「戦わないというのか」
「そんなこと・・・・・・」
 タケルは兄に対して言う。
「できる筈ないじゃないか!兄さんなんだぞ!」
「兄という問題ではない」
 彼の返事はこれであった。
「私と御前は敵同士だ。それ以外に何を言う必要がある」
「しかし」
「しかしも何もない。若し御前が剣を取らなければ」
 剣でタケルのゴッドマーズを指し示して言う。
「私が御前を倒すだけだ。そして地球が滅亡するだけだ。それでもよいのか」
「いえ」
 それに答えたのはタケルではなかった。
「マーグさんと仰いましたね」
「君は」
 それはナデシコの方から聞こえてきていた。マーグはそちらに顔を向ける。
「ルリ。星野ルリです」
「君か。確かロンド=ベルの」
「末席を拝借しております。それよりマーグさん」
「うむ」
「貴方は本当はタケルさんを殺すつもりはありませんね」
「どうしてそう言える!?」
「貴方の動きからです」
 ルリはマーグに対してそう答えた。
「私の動き、か」
「はい。貴方は何故タケルさんをそのまま切り捨てられないのですか」
「おい、ルリ」
 アキトが彼女を嗜める。だがルリは続けた。
「何かを切り取ろうとしているようにしか見えませんが」
「気付いていたか」
「はい」
 ルリは答えた。
「何かありますね」
「答える必要はない」
 だがマーグはそれに答えようとはしなかった。
「それは君には関係のないことだ」
「いえ、それは違います」
 しかしルリはそれに反論した。
「貴方はタケルさんに地球を救えと仰いました」
「・・・・・・・・・」
「タケルさんに何かあるのですね」
「何かって何だ?」
 ダイゴウジはそれを聞きながら首を捻った。
「悪い奴等をぶっ潰すだけじゃねえのかよ」
「リョーコさん、それじゃあ今と同じですよ」
「ったく御前と一緒じゃねえぞ、タケルは」
「もう少し深く考えられないものか」
 ヒカル、サブロウタ、ナガレの三人が一斉にリョーコに突っ込みを入れた。
「とにかく何かありそうだな」
「そうですね」
 アキトとジュンはダイゴウジやリョーコよりはまだ冷静であった。
「マーグさん」
 ルリはさらにマーグに対して問う。
「貴方はタケルさんについて何か知っておられますね」
「答える必要はない」
 だがマーグはそれについて答えようとはしなかった。
「私はただ敵としてこの弟を倒すだけだからな」
「嘘だ」
 今度はタケルが反論した。
「兄さんは何か知っている、俺のことを」
「・・・・・・・・・」
「教えてくれ、俺には一体何があるんだ。俺の秘密は」
「知りたいか」
 マーグはあらためて問うてきた。
「御前の過酷な運命を。それでもいいのだな」
「覚悟はできている」
 タケルはそれに答えた。
「だから教えてくれ、兄さん、俺は一体」
「わかった」
 マーグはそれを聞いてようやく納得したように頷いた。
「では言おう。マーズ、御前の秘密を」
「秘密」
 皆沈黙した。そしてマーグの言葉に耳を傾けさせた。
「御前の身体には」
「俺の身体には」
 タケルもロンド=ベルの面々も固唾を飲んだ。
「爆弾が埋め込まれている。正確に言うならばガイヤーにだ」
「!」
 皆それを聞いて驚愕に支配された。
「ガイヤーに。そんな」
「反陽子爆弾だ。御前が■ねば爆発するようにされている。ユーゼスによってそうセットされていたのだ」
「ユーゼスに」
「やっぱりね」
 万丈がそれを聞いて頷いた。
「あいつならそれ位のことはするな。あいつらしいというか」
「ですね」
 シーブックがそれに同意する。
「タケルさんを地球に送り込んだのはその為だったのか」
「そう。爆発すれば地球は消えてなくなる」
 マーグはシーブックにそう答えた。
「マーズ、これでわかったな。御前がどうして■んではならないのかを」
「・・・・・・・・・」
 彼は沈黙したままであった。答えることはできなかった。だがそれでもマーグは言った。
「私は御前を救いに来たのだ。ガイヤーのその反陽子爆弾を取り除く」
「できるのかい?」
「やってみる」
 マーグは剣をかざしてそう答えた。
「そして御前を救う」
 構えた。そしてガイヤーに突き立てようとする。しかしそれは適わなかった。
 一機の戦闘機がそこにやってきた。それは突如としてマーグの乗るゴッドマーズのところにやって来た。
「マーグ、そこにいたのね」
「女の声!?」
 タケルとマーグはそれに反応した。だがそれは残念ながら遅かった。
 光が放たれた。それはマーグのゴッドマーズを狙っていた。
「ああっ!」
 それがマーグを包む。そして彼は何処かへと消え去ってしまっていた。
「兄さん!」
「何者だ、貴様は!」
「今は名乗る必要はない」
 戦闘機に乗る女はそう言葉を返した。
「だがいずれはまた会う。その時を楽しみにしていなさい」
 そしてその戦闘機も女も消えた。後にはマーグによって知らされた驚くべき事態と突如として起こったことにより呆然とするロンド=ベルの面々だけが残っていた。

 皆マーグの話を心の中で反芻していた。しかしどうしても納得がいかなかった。
「嘘だろ」
 弁慶がまず口を開いた。
「タケルさんが、そんな」
「残念だが嘘じゃない」
 隼人がそれに答える。その声にも顔にもいつものクールさはなかった。
「あの人が■ねば何もかもが終わる。それは事実だ」
「事実」
「隼人の言う通りだな」
 竜馬が険しい顔でそう呟いた。
「ユーゼスなら平気でやる。弁慶、御前もそれは知っているだろう」
「・・・・・・ああ」
 否定できなかった。彼と幾度となく■闘を繰り広げてきたからこそわかることであった。
「問題はそれだけじゃない」
 隼人は深刻な顔のまま言葉を続けた。
「これからどうするか、だ」
「タケルさんがだな」
「ああ」
 竜馬の問いに答える。
「今まで色々なことがあったがな。今回ばかりはどうも」
「どうすればいいんだろうな」
「それは俺にもわからん」
 隼人にも答えは出なかった。
「だが俺は何とかやっていきたい」
「タケルさんとか」
「そうだ。これは皆同じだと思う」
 さらに言う。
「俺はあの人が好きだ。そしてあの人なら何があろうと乗り越えられる。俺はそれを信じたい」
「自分の運命にもか」
「乗り越えられるし、乗り越えて欲しいな」
 黙りがちであった弁慶もまた口を開いた。
「俺は馬鹿だから上手くは言えないけどな」
「弁慶」
「タケルさんにはな。これからも一緒にやっていきたい」
「ああ」
「そうだな」
 竜馬と隼人もそれに頷いた。彼等だけではなかった。タケルについては皆心から心配していた。
 とりわけコスモクラッシャー隊の面々はそうであった。皆深刻な顔で部屋に集まっていた。
「タケルのことだが」
 まずはリーダーであるケンジが口を開いた。
「どうすればいいと思う」
「どうればって」
 ミカが椅子に座り俯いたままそれに答える。
「どうすればいいのよ。タケルが■んだら地球が終わるなんてそんなの信じられないわ」
「ああ」
 ナオトがそれに頷く。
「まさかこんなことになっちまうなんてな。嘘だと思いたいさ、俺も」
「しかし本当のことなんだ、これは」
 ケンジが二人に対してそう言う。見れば彼だけが立っていた。腕を組んだまま語る。
「あのマーグという男、嘘をついているようには見えない」
「ですね」
 アキラがそれに同意する。
「タケルが■んだら全てが終わるのは多分本当のことでしょう」
「どうする?」
 ナオトが顔を上げて一同に問うた。
「タケルをこのまま置いておいていいのか、俺達のところへ」
「ナオト、何を言ってるの」
 ミカがそれを聞いて顔を上げてきた。
「まさかタケルをメンバーから、ロンド=ベルから外すの!?」
「・・・・・・・・・」
 ナオトは答えようとしなかった。硬い顔のまま何も語らない。
「ねえ、隊長」
 それを見て狼狽したミカは堅持に問うた。
「隊長はどう思いますか?まさかそんな・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
 ケンジも答えられなかった。見ればナオトと同じ顔をしている。
「アキラ、貴方はどうなの!?」
「・・・・・・・・・」
 アキラも同じであった。彼等は皆答えることはできなかった。
「そんな・・・・・・」
「どうすればいいだろうな」
 ケンジは苦い声を吐き出した。
「タケルと一緒に戦うべきか」
「勿論だよ」
 ナミダがそれに応えた。
「ナミダ」
「皆コスモクラッシャー隊だよね」
「あ、ああ」
 ケンジだけでなくナオトやアキラもそれに頷いた。
「それなら一緒にやっていこうよ。おいらあの時はいなかったけれど」
 タケルがはじめてゴッドマーズに乗った時について言及した。
「タケル兄ちゃんがバルマー星人だってわかっても皆受け入れたんだろ?それに同じじゃないか」
「同じ!?」
「うん。タケル兄ちゃんもおいら達も。同じ地球の為に戦っているんだよ」
「同じ、か」
「そうだよ。だから一緒に戦おうよ。タケル兄ちゃんを殺させなければいいんだからね」
「そうだな」
 ケンジがまずそれに頷いた。
「リーダー」
「俺達はどうやらとんでもない勘違いをしていたらしい」
「勘違い」
「そうだ。コスモクラッシャー、そしてロンド=ベルは皆がいてのロンド=ベルだな」
「ええ」
「だったら一人欠けてもロンド=ベルじゃない。一人が欠けても、な」
「じゃあタケルを」
「そうだ、これまで通り仲間だ。あいつはコスモクラッシャー隊の一員だ」
「そうだな、リーダーの言う通りだ」
 まずナオトが頷いた。
「俺達の仲間だ。あいつの命は俺達は身体を張っても守る」
「そして地球も。元々それが仕事だしな」
 アキラもであった。
「答えは出ているな。あいつは今まで通り俺達の仲間だ」
「皆・・・・・・」
 ミカはそれを聞き笑顔になった。
「あいつと地球を何があっても守るぞ、いいな」
「はい!」
 三人はそれに頷いた。こうしてタケルもコスモクラッシャー隊も再び結束したのであった。
「皆いい人達ね」
 ユリカはそれを聞いてナデシコの宴会室で満面の笑みを浮かべていた。そこにロンド=ベルの主だった面々が集まっていた。そして皆タケルを笑顔で囲んでいた。
「やっぱりこの部隊に入って正解だったわね」
「はい」 
 ルリがそれに頷いた。その目の前ではタケルがドラグナーチームの面々にいじられていた。
「よし、歓迎するぜ!」
「まあ飲め飲め!」
「参加の条件はワインボトル一本一気飲みだ!」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ」
 タケルは慌ててケーン達から離れて言う。
「俺お酒はまだなんですよ」
「固いことを言う奴はドラグナーには乗れねえぞ!」
 ケーンは滅茶苦茶な反論をかけてきた。見ればこの三人はもう顔が真っ赤であった。
「それとも何か!?俺の酒が飲めねえってのかよ!」
「いや、そういうわけじゃなくて」
「何ィ、じゃあ何なんだよ!」
「おい、誰か止めさせろ」
「ケーンもまだ未成年じゃないのか?」
 ベン軍曹が間に入って来た。そしてケーンを止める。
「少尉殿、ここは大人しくされて下さい」
「うっ、軍曹」
 彼の姿を見ると急に酔いが醒めた。そして静かになった。
「わかったよ。無理強いはよくないな」
「そういうことです」
 こうしてタケルは解放された。そしてパーティーは正常に戻った。
「雨降って地固まる、か」
 ブライトは皆のやりとりを見ながら目を細めてこう言った。
「これからいよいよオデッサだからな。願ったりかなったりだ」
「ああ」
 そしてアムロの言葉に頷いた。
 パーティーが終わりロンド=ベルはオデッサに向かった。そしていよいよティターンズとの決戦の時が来たのであった。


第二十六話   完


                                 2005・6・11


[287] 題名:第二十六話その一 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月28日 (火) 18時35分

            天の光、双子の邂逅
 幽羅帝の命でアルマアタに向かったシ=アエンとシ=タウであったがそこで二人が目にしたのは廃墟と化した自分達の基地であった。
「これは」
 既に誰もいなかった。廃墟だけが拡がっていた。
「火も水も使っていない。やはり」
「そうね」
 シ=アエンは妹の言葉に頷いた。
「あの男ね。間違いないわ」
「すぐに仇を」
「それはできないわ」
 だが姉は妹をそう言って制止した。
「何故」
「今我々はゼオライマーを倒さなくてはならない」
 そしてこう語った。
「その任務の方が先よ」
「その通り」 
 それに答えるかのように二人の前に幽羅帝が姿を現わした。ホノグラフィーであった。
「帝」
 二人はそれを受けて跪いた。
「よい。それよりもわかっていますね」
「はい」
 二人は答えた。
「すぐにゼオライマーを追いなさい。そして倒すのです」
「わかりました」
「木原マサキを必ず殺すように。よいですね」
「はっ」
「それでは行きなさい。吉報を待っていますよ」
 そう言って姿を消した。後にはシ=アエンとシ=タウだけが残った。
「行くわよ」
「ええ」
 二人はすぐにその場を後にした。そして戦いに赴くのであった。

 ロンド=ベルは一路オデッサに向かっていた。途中カスピ海北岸にやってきた。
 ここは中央アジアにある世界最大の湖である。あまりもの大きさに海とまで呼ばれている。
 その水は独特で塩気すらある。これをもって海と呼ばれる一面もあった。
 今彼等はその北岸を移動していた。ふとユリカが言った。
「ねえねえ、ここで海水浴できたら気持ちいいと思わない?」
「えっ、海水浴」
 それを聞いたナデシコのクルーが皆驚きの声をあげた。
「ええ。最近戦いばっかりだったじゃない」
「確かに」
「お肌も荒れちゃったわねえ」
 メグミとハルカがそれに合わせて言う。
「そういった疲れを癒す為に。どう?」
「アキトさんと一緒にですか」
「もっちろん」
 ルリにも胸を張って答える。
「この時の為におニューの水着用意してきたんだから」
「そこまでですか」
「そうよ。ピンクのビキニ。見てみる?」
「いえ、いいです」
 ルリはそれをきっぱりと断った。
「何かありそうですし」
「えっ、何が?」
「ただそんな気がするだけですけど」
 前もってそう断ったうえで言う。
「予感がします。誰か来ます」
「誰かしら」
「美形のお兄さんだったらいいわね」
「それはないわよ」
「どうかしら。わからないわよ」
 ハルカはメグミにそう言って妖艶に笑った。
「すっごい男前の貴公子が出たりして」
「だといいけれど」
「何かうちの部隊って二枚目揃いでも一癖もニ癖もあるのばっかりだしね」
「特にウィングチームとか」
「呼んだか」
 そこにヒイロ達が姿を現わした。
「あら、君達いたの」
「今来たところだ。艦長はここか」
「私?」
 ヒイロに言われてユリカが顔を向けてきた。
「何か用?」
「偵察部隊は出さなくていいのか」
「ああ、それならコスモクラッシャー隊が行ったわよ。ゴッドマーズと一緒に」
「そうか」
「ゴッドマーズまで出たのかよ」
「ええ。そろそろティターンズの勢力圏だし。武力偵察も兼ねてね」
 デュオに答える。
「どうせなら俺達が行きたかったが」
「それならば仕方がないな」
「何なら貴方達も出る?」
「そうですね」
 カトルはそれを受けて少し考え込んだ。
「それでタケルさん達からは連絡は」
「今のところはないわね」
「特に敵に遭遇したとの報告もありません」
「なら出ても構わないかな」
「ううん、ちょっと待って」
 だがユリカはここで五人を止めた。
「何だ」
「貴方達泳ぐ気はない?」
「泳ぐ!?」
 五人はそれを聞いてキョトンとした声をだした。
「ええ。カスピ海でね。どうかしら」
「悪いが遠慮させてもらう」
 ヒイロがまず言った。
「今はオデッサでの戦いの前だ。身体は大事にしたい」
「そうだな」
 ウーヒェイもそれに同意した。
「今はティターンズとの戦いが待っている。その前に何かあっては話にもならない」
「何だ、御前等は嫌なのかよ」
「そういう御前はどうなのだ」
 トロワが尋ねてきた。
「えっ、俺」
「そうだ。泳ぐ気はあるのか」
「そうだなあ」
 問われてあらためて両手を後頭部にもってきて考え込んだ。
「俺もあんまりそんな気じゃねえなあ。何か気が乗らねえ」
「そうか」
「僕も。今はいいです」
 カトルも断った。
「あらら。じゃあ最後のトロワ君は?」
「俺もいい」
 彼も断った。
「今は一人でゆっくりしたいからな」
 これで決まりであった。結局泳ぐという話は立ち消えてしまった。ユリカはそれがいささか不満であった。
「何か面白くないなあ」
「そうでしょうか」
 ルリが問う。
「何かね、パーーーーーッとしたいのよ、今」
「艦長はいつもパーーーーーッとしてますけど」
「いつも以上によ。何かストレス溜まっちゃって」
「あれだけ好き勝手やってよくストレスが溜まるものだ」
 ヒイロの言葉はともかくして戦いは長引いていた。ロンド=ベルの面々にも疲れが少し見られていた。それはブライト達にもわかっていた。
「だがオデッサの後だな」
 今はそれどころではなかった。ブライトの判断はそうであった。
 ロンド=ベルはそのままカスピ海北岸を通過した。そしてそのまま西へ向かう。しかしその前に青いマシンが姿を現わした。
「あれは」
「シュウか」
 マサキがすぐに気付いた。そしてすぐにサイバスターで外に出た。
「やはり来ましたね」
「相変わらず手前は神出鬼没みてえだな、おい」
「ふふふ」
 シュウはマサキの言葉に対して思わせぶりに笑った。
「色々とね。私も忙しいものでして」
「今度は何を企んでやがるんだ!?」
「マサキ!」
 そこにサフィーネがやって来た。
「シュウ様への暴言は許しませんわよ」
「おや、サフィーネも」
「はい」
 シュウの前ということに気付きあらためて畏まる。
「お元気そうで何よりです」
「今日は何のご用件でおこられあそばされたのですか」
「モニカ、文法が変ですよ」
 モニカもいた。彼女はノルス=レイに乗っているのである。セニアがメカニックを務めている。
「それはさておきだ」
 マサキは話を戻しにかかった。
「何で今ここにいるんだ」
「実は貴方達にお伝えしたいことがありここに参りました」
「俺達に」
「はい」
 シュウは答えた。
「重要なことですが宜しいでしょうか」
「どうせ聞くつもりはねえと言っても言うんだろうが」
「ふふふ」
「まあいいや、聞いてやるよ。話しな」
「それでは」
 シュウはあらためて話をはじめた。
 それはゼオライマーについてであった。だが多くは語らない。ただここにもうすぐ来るだろうということだけであった。
「おい」
 それを聞いたマサキが彼に問うた。
「それだけか」
「はい」
「他にも知ってるんじゃねえだろうな、ゼオライマーのことをよ」
「生憎ですが」
 ここはとぼけた。
「私はあれには関わってはおりませんので」
「嘘つけ、ネルフにもかなり入り込んでいたってのにか」
「ネルフ、さて」
 これも誤魔化した。
「どちらにしろ今ゼオライマーは貴方達の殆どとはあまり関係はないようですが」
「それは私達に対して言っているのかしら」
 リツ子がシュウにそう声をかけてきた。
「おや」
「シラカワ博士、お久し振りと言うべきかしら」
「そうですね、赤木博士」
 シュウはリツ子にそう答えた。
「お元気そうで何よりです」
「ええ。それよりもゼオライマーのことだけれど」
「はい」
「木原博士はどうなったの?今あの中にいるのはまだ少年みたいだけれど」
「彼本人ですよ」
「彼本人!?」
「ええ」
 驚いた声をあげるリツ子に静かにそう答えた。
「それはどういう意味かしら」
「そのままです」
「・・・・・・・・・」
 リツ子はそれを聞いてさらに懐疑的な顔になった。
「どうやら誤魔化しているというわけでもないようね」
「貴女ならおわかりだと思いますが」
 シュウはここでこう言った。
「貴女ならね」
「私が・・・・・・そう」
 そしてリツ子は何かに気付いた。
「そういうことなのね」
「おい」
 そこにマサキが話に入ってきた。
「赤木博士、そりゃどういう意味だよ」
「レイと同じなのよ、彼は」
「綾波とか」
「そうよ。それもいずれわかると思うわ」
「わからねえな。どういうことなのか」
「マサキ、お楽しみは後にとっておいた方が面白いものですよ」
「御前が話をややこしくしてるだけだろうが」
「さて」 
 シュウはまたとぼけた。
「とにかく木原マサキに関してはそういうことです」
「わかったわ。あとは」
「何でしょうか」
「ゼオライマーは一体どういうマシンなのかしら。よくわからないのだけれど」
「一言で言いますとこのグランゾンに似ているものがありますね」
「グランゾンと」
「はい」
 青いマシンが威圧的にその場に立っていた。リツ子はあらためてそれを見た。
「貴方のそのマシンと同じような存在」
「少なくとも今は」
 シュウは言った。
「ですがそれも変わる可能性があります。彼自身によって」
「彼自身によって」
「それが運命ならばね」
「変えられる運命ね」
「彼も心の中ではおそらくそれに気付いているかもしれませんが。まだ御聞きしたいことはありますか」
「いえ、ないわ」
 リツ子はそう答えた。
「そこまでわかれば充分よ、今のところは。有り難う」
「どう致しまして。それではこれで」
「あっ、待ちやがれ」
 マサキが呼び止める。
「いつも適当なところで消えるんじゃねえ!」
 姿を消したグランゾンを追おうとする。だがここでリューネが呼び止めた。
「ストップ」
「何だよ」
「お客さんよ、ほら」
 見ればブライストとガロウィンであった。彼等はカスピ海の上に立っていた。
「おかしい、確かに気配はしたのに」
「どうやら似た気配のマシンがいたようね」
 姉が妹にそう述べる。
「見たところロンド=ベルしかいないようだけれど。お姉様、どうするの?」
「彼は今はどうでもいいわ」
 シ=アエンはロンド=ベルは無視することにした。
「今はね。それよりも」
 何かを察した。
「向こうから来たわよ。タウ、いいかしら」
 突如としてロンド=ベルの前にゼオライマーが姿を現わした。銀の巨体が緑の平原に浮かび上がっていた。
「こんなところに出てしまったけれど」
 マサトにはまだ何が何なのかよくわからないようであった。困ったような顔になっている。
「ここは一体」
「敵の前よ、マサト君」
 美久が彼にそう答える。
「前を見て」
「前を・・・・・・うっ」
 彼もブライストとガロウィンの存在に気付いた。二機のマシンが水の上に立っているのを見た。
「まさかこんなところで」
「これも天の配剤」
 シ=タウがそう述べる。
「天の」
「そうだ。私が貴様を倒すな」
「タウ」
 それを聞いたシ=アエンは何かに驚いたようであった。
「貴女今何て」
「お姉様」
 妹は姉をキッと見据えてこう言った。
「ゼオライマーは私がやるわ。ここで見ていて」
 そして突進する。一直線にゼオライマーに向かって来た。
「覚悟っ!」
「来た!」
「マサト君、落ち着いて」
 美久が彼を落ち着かせる。
「ゆっくりと敵の動きを見ていればいいから」
「う、うん」
 美久の言葉に従うことにした。落ち着きを取り戻しガロウィンの動きを見る。
 見れば速い。だがその速さは焦りによる速させあった。
「焦ってる」
「ええ」
 それは二人にもよくわかった。
「だから落ち着いていけばいいわ。いいわね」
「うん」
 マサトはそれに従った。狙いを定めて腕を構える。
「これで」
 そしてエネルギー波を放った。それでガロウィンを撃つ。
「ヌッ!」
 攻撃を受けたシ=タウは憤怒の声と共に動きを止めた。そのすぐ後ろに姉が来ていた。
「タウ、何をしているの!」
「お姉様」
「ブライストとガロウィンは二つで一つ。それを忘れたというの!?」
「違う」
 だが妹は姉のその言葉を否定した。
「それは嘘よ」
「嘘、何を言っているの」
「私達は二つで一つじゃない。私はお姉様の影なのよ」
「タウ、貴女」
 それを聞いたシ=アエンの整った顔が驚愕に支配される。
「これどこれからは違うのよ。木原マサキ」
 ゼオライマーとマサトを睨み据える。
「貴様を倒して私は影ではなくなる!天が水を倒すのだ!」
「天が水を倒す」
 それを聞いたマサトの声が豹変した。
「おかしなことを言う」
「何!?」
「水は天から落ちるもの。それ以外は有り得ん」
「私を愚弄するか」
「確かに愚弄だな」
 マサキではなかった。別の者としか言いようのない口調であった。
「劣っているということを教えてやるのならな」
「私が貴様なぞに」
「では劣っている証を見せてやろう」
 そう言いながらゼオライマーを構えさせる。
「俺が冥府へ送ってやってな」
「マサト君、貴方・・・・・・」
「美久」
 その何者かは美久に対しても言った。
「俺が誰なのか、わかるな」
「・・・・・・ええ」
 小さく頷いた。彼がマサトではないことだけがわかった。
「■。苦しまずにな」
 エネルギー波を放つ。それはもうよけられるものではなかった。
「これで終わりだというのか・・・・・・」
 シ=タウは観念した。だがその時だった。
「そうはさせないわ!」
 姉が前に出て来た。そしてエネルギー波を身体で受け止めた。
「お姉様」
「タウ」
 シ=アエンは妹に顔を向けた。
「よかった、無事だったのね」
「どうして」
 その声は震えていた。
「どうして私を助けたの!?」
「妹だからよ」
 そう答えた。
「そんな、私達はいつも一緒だった」
 シ=タウはそれを受けて語りはじめた。
「同じ顔、同じ姿だった。私はそれが嫌でならなかった」
「タウ・・・・・・」
「同じ顔、同じ姿なのにお姉様は全てにおいて私より勝っていた。私はいつもお姉様の影だった」
 沈んだ声でそう続ける。
「この顔もこの姿も憎かった。どうして同じに生まれたのか。私は影。お姉様がいつも前に出て私はそれを助けるだけ」
「何を言ってるの」
「私を楯にして助かる為にも。お姉様は私を道具としてしか見てはいないのよ!」
「そんなことはないわ!」
 シ=アエンは強い声で妹に対してそう言った。
「同じ顔、同じ姿だから貴女を愛したのよ」
「お姉様・・・・・・」
「その心、偽りはないわ。私達は同じなのだから」
「同じ」
「ええ」
 シ=アエンは頷いた。
「私達は生まれた時一緒だった。そして今までずっと。私達は同じなのよ」
「同じ・・・・・・。私はお姉様」
「そう。そして私は貴女。一緒なのよ。同じなのだから」
「・・・・・・・・・」
 姉の言葉に何かを悟ったようであった。顔を上げた。
「お姉様」
「何」
「よくは言えないけれど・・・・・・。水に戻るわ」
「では私は火に」
「そう。そして天を倒しましょう、一緒に」
「わかったわ」
 それに頷いた。二機のマシンが同時に動きはじめた。
「フン」
 マサト、いや木原マサキはそれを見て馬鹿にしたように笑った。
「茶番は終わりだ。火も水も天には勝てはしない」
「それはどういう意味」
「決まっている」
 美久に対して答える顔も声もマサトのものではなかった。険があり荒んだ笑みを浮かべていた。
「水はさっき言った。火もな」
 言う。
「天の中にあるもの。火が天を覆っているのではない」
 太陽のことを言っているのであろうか。
「それが二ついようが怖れることはない。天の力を見せてやろう」
 そしてゼオライマーを動かした。天にゆっくりと上げる。だがそこに二人が攻撃を仕掛ける。
「確実にやらなければ。あれをやるわ」
「ええ」
 ガロウィンがゼオライマーの後ろに回った。ブライストは前にいる。
「ビームサーチャーーーーーッ!」
「マグラァァァッシュ!」
 シ=タウが叫ぶ。シ=アエンも。火と水が天に襲い掛かった。直撃を受けた。
 だがゼオライマーは傷一つなかった。悠然と浮かんでいた。
「その程度か。所詮は」
 マサキは二人を見下ろしてそう述べた。
「下らん。塵一つ残さず消してやる」
 両手と胸に光が宿った。
「塵一つ残さず消え去るがいい」
 ゼオライマーを中心として爆発が起こった。白い光が支配した。
「あれは・・・・・・」
 それはロンド=ベルからも確認された。皆驚愕の声を出した。
「何という力だ」
「あれが冥府の王の力・・・・・・」
 リツ子もその中にいた。彼女もゼオライマーを見据えていたのだ。
「とんでもない力ね。シラカワ博士の言う通り」
「ええ」
 ミサトの言葉に頷く。
「それにパイロットが途中で変わったような」
「貴女もそう思う?」
 爆発を見ながらミサトに問いかける。
「ええ。何か急にね。ガラッと」
「そうね」
 それに気付いている者も何人かいた。特にアムロ達はそれを敏感に察していた。
「どういうことだ。プレッシャーが変わった」
「このプレッシャー・・・・・・。さっきまでのものとは全く違う」
 アムロとクワトロがそう呟く。
「邪悪な。まるで悪魔のような」
「どういうことだ、これは」
「ふふふふふふ」
 マサキは光の中で哄笑していた。まるで破壊そのものを楽しむように。
「どうだ、冥王の力は・・・・・・」
「ああ・・・・・・」
 ブライストもガロウィンも今まさに破壊されようとしていた。白い爆発の中で身悶えしていた。
「タウ・・・・・・」
 最後に妹の名を呼んだ。
「お姉様・・・・・・」
 それに応えた。それが最後であった。
 二機のマシンは爆発した。そして二人もその中に消え去った。後には何も残ってはいなかった。
「これでよし。雑魚は消えた」
「どうするつもりなの、これから」
「一旦帰る。もうここには用はないからな」
 マサキは美久にそう答えた。そして姿を消した。
「何なんだ、あいつは」
 甲児はそれを見て驚嘆と違和感のこもった声を漏らした。
「化け物かよ」
「そんな生易しいものじゃないでしょうね」
 ミサトが彼にそう応える。
「ミサトさん」
「もしかすると私達の最大の敵になるかもね、彼は」
「あの男が出て来たならな」
 クワトロもそれに同意した。
「あの邪悪なプレッシャー・・・・・・。一体何だというのだ」
「かってのシュウとはまた違った・・・・・・。そう、何かを破壊しようとしている。それでいながら守ろうとしている」
「何か矛盾していませんか」
 シンジがアムロにそう問うた。
「破壊しようとしてながら守ろうとしているなんて」
「人間とはそういうものだ」
 クワトロがそう答える。
「壊そうとしながら一方で守りたいと思う。矛盾した考えを同時に心に持っている」
「そうなんですか」
「そうだな」
 タダナオもクワトロの言葉に同意した。
「生きているとな。それもわかるようになる」
「まるで私が老人のようだな」
「確かに大尉はちょっと年配ですが」
「きついな」
 タダナオの言葉に苦笑する。
「けれどそれだけ人生に経験を積んでいるってことで」
「確かにな。色々とあった」
「ならおわかりだと思いますよ。あのゼオライマーの中の人間のこともね」
「彼は一人だ」
 クワトロの答えはそうであった。
「一人」
「しかし厳密に言うと一人ではない。心がな」
「二重人格者ということでしょうか」
「いや、それよりも複雑だ。どういう事情かわからないがな」
「それがわかってるのはシラカワ博士だけじゃないかしら」
「あいつは本当のことを中々言わねえからな。いつも勿体つけやがる」
 マサキがそれを聞いてそう言った。
「あいつらしいけれどな、それが」
「だとしたら真相は彼の手によって明らかにされるか」
「違うかも」
 だがリツ子はクワトロの言葉に疑問を呈した。
「私達の手でわかるかもね。そうするように彼が導くか」
「自分で手を汚さずに、かよ」
「それとは違うわ。マサキ君って彼のことになると変につっかかるわね」
「そうかね」
「ええ。まあそれは置いておいてね。とにかく」
 リツ子がその整った目を毅然とさせた。
「これからはゼオライマーについても何かとあるわよ。覚悟していて」
「ああ」
 ロンド=ベルは進軍を再開しようとした。だがここでレーダーに反応があった。


[286] 題名:第二十五話その二 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月28日 (火) 18時25分

「レイも」
「ええ」
「トウジもいい?」
「わいは何時でもええで」
「どうやら君達は彼等と色々とあるみたいだね」
「貴方もそうだと思うけど」
 ここでミサトが万丈にそう声をかけてきた。
「違うかしら、万丈君」
「葛城三佐」
「ネルフとも関わりが深かったし」
「昔のことを言われてもね。わからないな」
 万丈はここではとぼけてみせた。
「まあ彼等のことは君達に任せたいけれどいいかな」
「はい」
「任せといて。何かあたし達最近影が薄くてね。たまには見せ場が欲しいのよ」
「贅沢な方ですね」
「女の子はもうちょっと大人しい方がいいぜ」
「そんなんじゃもてないと思うぜ」
「うむ」
「・・・・・・あんた達が目立ち過ぎるからよ」
 アスカはシャッフル同盟の四人にそう言葉を返した。
「特にあんた」
「俺か」
 アスカはエヴァでドモンのシャイニングガンダムを指差した。ドモンはそれに応えた。
「そうよ。あんたは特に。素手でロボットを破壊するなんて反則よ」
「そんなことは誰でもできる」
「できないと思うけど」
 シンジがそれを聞いて呟く。
「俺は修業によりこの身体を手に入れた。だから誰にでもできる」
「・・・・・・じゃああんたのお師匠様が素手で使徒を破壊したのも?」
「当然だ」
 ドモンは毅然としてそう答えた。
「師匠にとってはあの程度」
「何でもないっていうのかしら」
 マヤがふと言う。
「そうなんじゃないかな」
 シゲルもだ。
「結局俺達の常識は通用しないってことだな。使徒以上に」
「使徒以上って」
 マヤはマコトの言葉に首を傾げた。
「人間じゃないってこと?」
「失礼なことを言うな」
 ドモンの突込みが入る。
「師匠は人間だ!」
「・・・・・・こんなに説得力のない言葉はじめて聞いたわね」
「こらこら」
 リツ子にミサトが突っ込みを入れる。
「ネオ=ドイツのシュヴァルツ=ブルーダーも相当なものらしいが」
 大文字が考えながら言葉を口にする。
「あの東方不敗も。正直私も驚いている」
「けれど博士、あれは可能なのですよ」
「サコン君」
「人間の能力は完全には発揮されていません」
 彼は言う。
「一〇〇パーセント発揮されたならば。それは可能なのです」
「ニュータイプと同じってこと?」
 ミサトがサコンに尋ねる。
「わかりやすく言うと。まあニュータイプとは発揮する方向が違いますけれど」
「そう言われると納得できるわね」
「そうですかあ?」
 マヤはリツ子の言葉にも懐疑的であった。
「私それでも使徒を素手で破壊するのは無茶苦茶だと思いますけれど」
「使徒と死闘」
 ここでイズミが駄洒落を呟いた。
「同じ声で言うと効果二乗ね・・・・・・」
「それはさておき」
 ミサトもリツ子もこれには沈黙した。だがサコンはそれでも怯んではいなかった。
「流派東方不敗はそうした流派。だから驚くには値しない」
「何か核戦争後の世界に出てきそうだな」
「サンシロー君が言うと説得力があるわね」
「よくそう言われるな」
「ただかなりの力があるのは事実だ。特にあのマスターアジア」
「ええ」
「下手をするとこの地球すら破壊できる。そこまでの力が彼にはある」
「それはあの銀のマシンもよ」
 ミサトはそう言ってゼオライマーに目を向けた。
「私達の目的はあれなのよ」
「そうだったのか」
「ええ。今まで秘密にして申し訳ありませんが」
 ミサトは大文字に謝罪した。
「あのマシンにはそこまでの力があるのです」
「外見からはとてもそうは見えねえな」
 勝平がふとそう言う。
「サイバスターのでっかいやつみてえだ」
「勝平、全然似てないわよ」
「マサキさんに失礼だろうが」
「いや、俺はいいけどよ」
「マサキ」
 ゼオライマーの方からそれに反応があった。
「何だ、あっちのマシンから声がしたぜ」
「そりゃパイロットもいるだろうね」
 勝平に万丈が答える。
「そっちにもマサキがいるのか」
「ん、俺のことか」
「ああ。君は一体誰なんだ」
「マサキ=アンドーっていうんだが。それがどうかしたかい?」
「そうか。じゃあ別人だね」
「何かそのマサキとかいうのに悩まされてるみてえだな。どうしたんだよ」
「いや、別に」
 だがマサトはそれには口篭もった。
「何もない。だから気にしないで」
「そういうわけにはいかないわよ」
 だがアスカがここで食い下がった。
「あたし達はあんたの為にここにいるんだからね」
「僕の為に」
「そうよ」
 アスカはさらに言った。
「あんたが世界を滅ぼそうとしてるからよ。わかってんの!?」
「僕が、そんな」
 だがマサトはわかってはいなかった。そう、彼は。
「何で僕がそんなことをしなくちゃいけないんだ」
「とぼけても無駄よ」
「とぼけてなんかいない、ただ」
「ただ、何!?」
「自分が何なのかもわからないんだ。君は僕の敵なのかい!?」
「あんたが世界を滅ぼそうとする限りはね」
「そうなのか」
 だがわからなかった。マサトにとってはそれがどういうことすらも。
「マサト君」
 ここで美久が語り掛けてきた。
「話をしている暇はないわ」
「えっ」
「気をつけて。さっきの二人が来たわ」
 ここで赤いマシンと青いマシンが姿を現わした。彼等はそれぞれ着地した。
「やっと追いついたわね」
「ええ、お姉様」
 中にいるのはあの二人であった。
「木原マサト」
 そして二人はマサキに声をかけてきた。
「覚悟はできているな」
「木原マサト」
 万丈はそれを聞いてすぐに反応した。
「まさか」
 だが他の者はそれには気付かない。ドクーガとの戦いに既に向かっている者が殆どであった。既に戦いははじまっていたのである。
「万丈さん」
 万丈もそうであった。同じ小隊を組むザンボットチームが声をかけてきた。
「行こうぜ、もうはじまってるぜ」
「そうだね。それじゃあ」
「早くしなよ。さもないと俺が全部やっつけちまうぜ」
「ふふふ、それもいいかもね」
 そう軽口で返す。言いながらダイターンを動かす。
「しかし僕も戦わなくちゃな。じゃあ久し振りにやるか」
「おっ、待ってました!」
「世の為人の為ドクーガの野望を打ち砕くダイターン3!この日輪の輝きを怖れぬのならばかかって来い!」
「よし!」
 一同に気合が入った。そして戦いに赴く。こうしてドクーガとの戦いがはじまった。そしてもう一つの戦いも。
「何か僕達は入れないね」
「入れないのじゃないのよ、入るのよ」
 アスカはシンジに対してそう言った。
「けれど何かあの人達独特の状況になってるよ」
「確かにそうだけど」
「ここは様子を見た方がいいわ」
 レイが二人に対して言う。
「様子見」
「ええ。今下手に動いたら私達の方がダメージを受けるわ。それを考えると」
「ここはレイの言う通りやな」
「トウジ」
「エヴァにはATフィールドがあるけどな。それでも連中はそれを突き破るかもしれへん」
「あんた何言ってんのよ」
 アスカがクレームをつける。
「ATフィールドよ。どーーーんと構えていなさいって」
「けれどマスターアジアさんは軽々と破っちゃったよ」
「そういやBF団の十傑集もな。アルベルトとかいうおっさんやったな」
「よく覚えてるね、トウジ」
「ああした人等もおるしな。ここは用心しとった方がええで」
「うぬぬ」
 アスカは答えられずかわりに呻いた。
「そうした特別な人達は置いておいて」
「あのゼオライマーも特別なもんやったらどないするんや」
「だとは限らないでしょ」
「アスカはそう言っていつも暴走するけど今は止めた方がいいよ」
「何でよ」
「わい等はこれからオデッサに行くんやで。その為にアホなことは控えた方がええ」
「あたしがアホですって!?」
「だからそうじゃなくてね。落ち着いて」
「後でドクーガでも相手にしたらいいわ」
 レイがそうアスカに対して言う。
「それで気が晴れるなら」
「うっ」
 何故かわからないがレイに言われると従う気になる。アスカにとってもそれは不思議なこことであった。そして今はそれに従うことにした。
「わかったわよ。まあいいわ」
 アスカは言った。
「ここは大人しくするわよ。それも戦いだからね」
「そうそう」
「ほなゆっくりと見とくか」
「ええ」
 エヴァは動かなかった。ここは双方の戦いを見守ることにしたのである。
「観客もいるか」
 シ=タウはそれを見て呟いた。
「舞台は揃った。木原マサキよ」
 そしてゼオライマーとマサトを見据えた。
「覚悟はいいな。我等を裏切った罪、今償わせてやる」
 前に出る。だがそれをシ=アエンが止めた。
「待って、タウ」
「お姉様、どうして」
「油断しては駄目よ。いつも通り二人でやりましょう」
「・・・・・・・・・」
 シ=タウはそれを聞いて一瞬だがその整った顔に曇りを浮かび上がらせた。
「いつも通りね」
「ええ。フォローを頼むわ」
「わかったわ。それじゃあ」
 二機のマシンは並行して動きはじめた。ゼオライマーはそれを見ていた。
「マサト君、来たわよ」
「う、うん」
 美久に対して頼りない声で答える。
「戦わなくちゃいけないんだね」
「ええ。さもないと死ぬわよ」
「死ぬ」
「あの人」
 シンジはそれを聞きながら呟いた。
「どうしてだろう。僕と同じ感じがする。前の僕に」
「私にも似ているわ」
「綾波」
「そして碇司令にも。似ているわ」
「一体どういうことなんだ」
「そして悩んでいるわ。自分が一体何なのかって」
「馬鹿言ってんじゃないわよ」
 アスカが突っ込みを入れた。
「あいつは悪い奴なのよ。世界を破滅させようとしているのよ」
「それはどうかしら」
 だがレイはそれに対してもそう返した。
「少なくともあの人はそうじゃないわ」
「断言できるの!?」
「ええ。けれど」
「けれど」
 シンジが繰り返した。
「もう一人の人は。いえ」
 少し言葉に躊躇いが見られた。
「その人も本当はそうは思っていないのかも知れないわ」
「わっかんないわね。何が言いたいのよ」
「それはそのうちわかると思うわ。けれど今は」
「わからへんっちゃううことやな」
「ええ」
「とりあえず僕達は見るだけしかできないね、今は」
「そうね。だから見ていましょう」
「うん」
 その間に二機のマシンはゼオライマーに接近していた。まずはシ=タウが攻撃を仕掛ける。
「メガサーチャー=ビーム発射!」
 青いビームを放つ。それでゼオライマーを撃つ。
「うわっ!」
 マサトはそれを何とかかわした。だがそこにシ=アエンがさらに攻撃してきた。
「マグラァァァァッシュ!」
 赤い光を放つ。それでさらにゼオライマーを撃つ。
「うわっ!」
「マサト君!」
 マサトは大きく揺れた。彼自身にもダメージは及んでいた。
「ううう・・・・・・」
「大丈夫!?」
「な、何とか」
 気遣う美久に対して答える。そしてまた前を見た。
「このブライストとガロウィンは対になっている」
 シ=アエンがマサトに対して言う。
「そしてその二つが一つになった時最大の力を発揮するのだ」
「・・・・・・・・・」
 どういうわけかシ=タウはそれを横で聞きながら面白くなさそうであった。しかし今それに気付いている者はいない。
「行くわよ、タウ。あれをやるわ」
「・・・・・・ええ」
 シ=タウはいささか力ない声で応える。そしてまずはシ=アエンが言った。
「一撃で仕留めるわよ」
「わかったわ」
 それに応えてガロウィンが動く。ゼオライマーの後ろに回る。
「何をする気なの!?」
「すぐにわかる」
 シ=アエンが美久に対して言う。
「地獄でね。行くわよ、タウ」
「・・・・・・ええ」
 シ=タウが頷く。二機は同時に攻撃に入った。
「マグラァァァァッシュ!」
 だがそれは同時ではなかった。ガロウィンの動きが一瞬だが遅れていた。
「ビーム=サーチャー!」
「タウ・・・・・・!」
 シ=アエンにもそれはわかった。そしてマサトはそれに入ることができた。
「同時じゃない、なら」
「マサト君、避けて!」
「うん!」
 マサトは美久に従って。そして二人の攻撃を避けることができた。
「た、助かった」
「そんな」
「タウ」
 シ=アエンは妹に顔を向けて問うてきた。
「どういうことなの、遅れるなんて」
「御免なさい、お姉様」
「トゥインロードは同時に放たなくてならない。それなのに」
「・・・・・・・・・」
「いいわ。けれど次は・・・・・・ンッ!?」
 ここで通信が入った。幽羅帝からであった。
「二人共そこにいたか」
「帝」
「どうしてこちらへ」
「詳しい話をしている暇はない」
 幽羅帝の声にはいささか焦りが見られた。
「すぐにアルマアタに向かうのだ」
「アルマアタへ」
 彼等の秘密軍事基地の一つがある場所である。中央アジアにおいては大都市でもある。
「うむ。そこが襲撃を受けたのだ。青いマシンにな」
「青いマシン」
「まさか」
 彼女達もそのマシンのことは知っていた。脳裏にそのシルエットが浮かび上がる。
「わかったな。今は木原マサキは放っておけ」
「わかりました」
 帝の命令である。従わずにはいられなかった。
「それではすぐにアルマアタへ向かいます」
「頼むぞ」
「ハッ」
 幽羅帝はモニターから消えた。シ=アエンはそれを確認してからマサトに対して言った。
「木原マサキ、命拾いしたわね」
「うう・・・・・・」
「今日のところはその命預けておくわ。けれど次は」
「必ずや」
 シ=タウが言った。その目はマサトよりも姉に向けられていた。だが姉はやはりそれには気付かなかった。
「それではさらばだ」
 こうして二人は姿を消した。後にはゼオライマーだけが残った。
「行った」
「一体何があったんや」
「多分向こうで何かあったのね」
 レイがシンジとトウジに対して言う。
「去らなければならない事情があって」
「事情」
「ええ。誰かに襲撃を受けたとか」
「襲撃。ギガノスかなあ」
「いえ、それはないわ」
 レイはそれを否定した。
「ギガノスの人達はあの人達のことは知らない筈よ」
「じゃあ一体」
「恐竜帝国もミケーネもこにはいないし。誰名のかしら」
 恐竜帝国もミケーネもかなりのダメージを受けている。しかも今の活動は日本に限られていた。従って彼等の可能性はなかった。
「ガイゾックとちゃうか」
 トウジが首を傾げながら言う。
「ガイゾック」
「そや。最近連中は姿を見せとらんけどな」
「多分違うわ」
 だがレイはそれも否定した。
「何でよ」
「そういう気がするだけだけれど。多分あの人達に何かhしたのは」
 そして言う。
「あの青いマシンの人よ」
「あの」
 三人はそれを聞いてわかった。そして確信した。
「確かにあの人なら」
「有り得るわな」
「そうね。最近姿を見せないけれど」
「そのうち私達の前にも姿を現わすでしょうけど」
「敵として!?」
「いえ」
 アスカの言葉に首を横に振った。
「これも多分だけれど今のあの人は敵じゃないと思うわ」
「どうしてそんなことが言えるのよ。あの人は未来で皆と戦ったすじゃない」
「それもあのマシンの本当の姿で、だよね」
「そうしたこと考えるとやっぱりわい等に対して何かしてくるんとちゃうか」
「安心していいわ」
 しかしレイはやはりそれを否定する。
「それはないから。けれど何かを考えている」
「何よ、それ」
「そこまでは」
「わかんないことだらけじゃない、何なのよ、これ」
「まあそう怒るなや。怒ってもはじまらんで」
「うう」
「それよりも今はあの人をどうするかだよ」
 シンジはそう言ってゼオライマーを見た。
「ゼオライマー。今僕達の前にいるけれど」
「世界を滅ぼす冥府の王」
「どう出るか、やな」
 四機のエヴァがゼオライマーを取り囲んだ。だがゼオライマーはそれでも身動き一つしない。
「美久、どうしよう」
「心配しないで、マサト君」
 美久はマサトを安心させるように優しい声でそう語り掛けてきた。
「次元連結システムがあるから」
「次元連結システム」
「ええ。異次元から無限の力を引き出すものよ」
 彼女はそう説明した。
「これがあるからゼオライマーは他のどんなマシンにも負けないわ」
「よくわからないけれど」
 彼は首を傾げながら言った。
「それがあると僕達は助かるんだね」
「一言で言うとね。じゃあ行くわよ」
「うん」
 ゼオライマーは動き出した。それを見てエヴァ達も身構えた。
「来る!?」
「やるわよ」
 四機のエヴァは一斉に動きはじめた。零号機と参号機がまずポジトロンライフルを放つ。
 そして初号機と二号機が突っ込む。彼等は連携して攻撃を仕掛けたのだ。
「これでどう!?」
 アスカは薙刀を振りかざした。それでゼオライマーを両断するつもりだったのだ。
 だがそれは適わなかった。ゼオライマーはそれを弾いたのだ。
「なっ!?」
「ATシステム!?」
「少し違うわね」 
 リツ子が言った。
「よくわからないけれどバリアーの一種みたい」
「バリアー」
「ええ。とにかく今のゼオライマーには攻撃は通用しないわよ」
「そんな、それじゃあ」
「今は戦わない方がいいわね。ミサト」
「ええ」
 ミサトはそれに応えた。そしてシンジ達に対して言う。
「今は退いて。戦っても勝てないわ」
「そんなのやってみたくちゃ」
「アスカ」
 ミサトはきつい声を出した。
「引くのも戦いのうちよ。負けじゃないんだから」
「わかりました」
 ミサトに言われては従うしかなかった。アスカは渋々ながらもそれに従うことにした。
 エヴァ達はゼオライマーから離れた。美久はそれを見届けてからマサトに対して言った。
「じゃあ私達も帰りましょう」
「う、うん」
 美久が操作したのかゼオライマーは姿を消した。文字通りそのまま消え去ってしまったのであった。
「消えた」
「今度はテレポーテーションかしら」
 リツ子は冷静にそれを見て分析していた。
「強さはあのグランゾンに匹敵するかもね」
「グランゾンに」
 マヤがそれを聞いて青い顔になった。
「あんなのみたいなのが敵になるんですか」
「厄介なことだな」
 シゲルも顔を曇らせた。
「そうよ。使徒よりも厄介かもね」
 ミサトはそんな二人に対してそう答えた。
「あのマサトって子が何者かはまだわからないけれど」
「木原マサキだったら厄介だったわね」
「その木原マサキって誰なんですか」
 マコトはリツ子にそう尋ねた。
「チラチラと名前だけ聞いていますけれど」
「一言で言うと天才科学者ね」
「天才」
「そう、シュウ=シラカワと並ぶね。私なんかより遥かに上よ」
「先輩よりも」
 マヤはそれを聞いて言葉を呑んだ。リツ子がそう認めるということは余程のことであるからだ。
「ただし生きていれば、ね」
「死んだんですか」
「そういうことになってるわ。一応は」
「生きているってこともありますからね」
 シゲルがそう言った。
「案外わかりませんよ」
「クローン」
「まさか」
「いえ、そのまさかかも」
 リツ子はマコトの言葉を肯定した。
「有り得るわ、彼ならね」
「随分と凄い人だったみたいね」
「そのままだとね。あれで人間性さえよければ完璧だったんでしょうけれど」
「ところがそうはいかなかった」
「ええ。話によると何処か異常があったらしいわ。傲慢で冷酷、そして非情だったらしいわ」
「最悪ね」
「自分以外は皆人間とみなしてはいなかったらしいわね。そして何かよからぬことを考えていたらしいわ」
「もしそんなのがまだ生きているとしたら厄介ね」
「だから俺達がロンド=ベルに出向になったのか。やれやれ」
「シゲル君たら」
「まあ僕は皆とまた一緒にできるからいいですけれど」
「前向きね」
「今回は僕と声が似ている人もいますし。楽しいですよ」
「マコト君はアキト君でいいわね。私なんか」
「ストップ」
 そこでミサトが止めた。
「またこの場を氷点下にしたいの」
「・・・・・・そうですね」
「俺なんかライトニングカウントと一緒の声なんだけどな。あの人どうしてるかな」
「さあ。そのうち会えるんじゃない」
「敵じゃなければいいけど」
「まあそれは置いといて。これでとにかくゼオライマーはよし」
「やっと話が元に戻りましたね」
「あっ」
 シーラの声にはっとした。
「早く来て下さると有り難いのですが。こちらも今佳境でして」
「おっとと。じゃあ今すぐそちらへ向かわせます。シンジ君、いい?」
「ええ、まあ」
「戦っているしね。じゃあ行くわよ馬鹿シンジ」
「その言葉久し振りだなあ」
「最近あんたばかりに構っていられないのよ。変なのが思いっきり増えたから」
「その変なのは誰のことを言っておるのだ!」
「わし等のことだとただではおかんぞ!」
 カットナルとケルナグールがそれにすぐに反応した。
「まさかと思うけど自覚してるのかしら」
「どうやらそうみたいだな」
 マヤとマコトがヒソヒソと囁きあう。
「よせ、二人共」
「あの人が一番あれみてえだな」
 ブンドルに至ってはシゲルの突っ込みも耳には入らなかった。
「戦いは華。百花繚乱の場で騒ぐのも無粋だぞ」
「何かえらい変わった兄ちゃんがおんな」
「何なのかなあ、あの人。クラシック戦場にかけてるけど」
「まあた訳わかんないのが出てるじゃない。あたし達のとこだけでも大概だってのに」
「ふ、マドモアゼルアスカはご機嫌斜めのようですね」
「カルシウム足りないんじゃないの?」
「そういう時はミルクだぜ、ミルク」
「落ち着かないと肌が荒れるぞ」
「だからあんた達にだけは言う資格がないっていうのよ!」
 シャッフルのいつもの四人に噛み付いた。
「とにかく行きましょ。話がはじまらないわ」
「はじまらなくているのは誰かしら」
「アスカ、まあ落ち着きなって」
 アレンビーも話に入ってきた。
「こっちに来るの待ってるからさ」
「う、うん」
 アレンビーに言われて落ち着きを少し取り戻した。
「じゃあ今からそっちに向かうから」
「いいよ、おいで」
「それじゃ」
 こうして思ったより大人しく戦場に向かった。ドクーガとの戦いもまた熾烈なものとなっていた。
「メガ粒子砲、てーーーーーーーーっ!」
 ブライトの命令が下る。そして敵の小隊が薙ぎ倒される。戦いは一進一退であった。
 だがエヴァがそこに加わったことでややロンド=ベル有利になった。すぐにそこにブライトが指示を下す。
「中央に攻撃を集中させろ!」
「よしきた!」
 すぐに万丈が動いた。勝平達のザンボットも一緒だ。
「ぬ、ダイターンが来たぞ」
 ケルナグールがそれにすぐに反応した。
「いよいよわしの切り札を出す時だな」
「ケルナグール、今度の切り札は何だ」
「フン、いつもいつも巨大ロボットばかりでは芸がないからのう。今日はこれを用意してきたわ」
 出て来たのは一体のマシンであった。
「何だ、それは。また懐かしいものを出してきたのう」
 ビグザムであった。ジオンの大型モビルアーマーである。
「おう、これなら問題はないだろう。ちゃんと地上用に改造してあるぞ。この通り音声もな」
「やらせはせん、やらせはせんぞお!」
「どうじゃ」
「御前の声ではないか」
「無粋な」
「はっはっは、格好いいじゃろう。これで一気に戦局を打開してくれるわ」
「また何かやってるわね」
「いつものことだけど」
「だがビグザムを出すとはな。ジッターもネタ切れなのか」
「単に声が一緒だからビグザムなんじゃないの?」
「まあそれはいいこなし」
 ゴーショーグンの三人はそれを見てもいつもの軽いやりとりであった。
「どうせ再生怪人はすぐにやられるって相場が決まってるんだから」
「クールだな、レミー」
「あたしは大人の女だからね。クールなのよ。けれど心はホット」
「やれやれ」
「ふっ、マドモアゼル=レミー、いつも通りで何よりだ」
「あんたもね、ブンドル」
 レミーはブンドルにそう言葉を返した。
「まあたクラシックなの?本当に好きねえ」
「これもまた私の高尚な趣味の一つ」
「ところでブンドルって何人なんだ?」
 甲児が囁く。
「レオナルドだのメディチだの言っているからイタリア人だろう」
 宙がそれに答える。
「俺はレースでイタリアに行ったことがあるからわかるつもりだが」
「けれどマドモアゼルって言ってるぜ。ありゃ何だ」
「まあ気にしない方がいいんじゃない?」
 そんな二人にマリアがそう言った。
「ジャックだって変な日本語使ってるし」
「HAHAHA,マリアもきついデーーーーーース!」
「兄さんは普通にしゃべれると思うけれど」
「だよなあ」
「この前普通に話していたぞ」
 甲児と宙が突っ込みを入れる。だが彼はそれをスルーしてしまっていた。
 何はともあれビグザムがやって来た。その前にゴーショーグンが立ちはだかる。
「ドクーガが相手ならメインは俺達だからな」
「張り切ってるね、真吾」
「じゃあ実力を見せてもらおうか」
「よし」
 レミーとキリーに頷く。ゴーショーグンは攻撃に入った。緑の光が全身を包む。
「ゴーーーフラッシャーーーーーーーッ!」
 それでビグザムを撃った。一撃で消し飛んでしまった。
「何、あのビグザムを!」
「再生怪人は弱いって言ったでしょ」
「やっぱり新型でないとね。話が収まらないんだな、これが」
「いや、それだけじゃないな」
 真吾は少し冷静な声でそう述べた。
「ビムラーの力が強くなっているみたいだな。どういうことだ」
「ふむ」
 ブンドルもどうやらそれに気付いたようであった。頷いていた。
「ゴーショーグンが強くなっているな。パイロットの腕だけではない」
「どういうことだ、ブンドル」
「だからわしのビグザムがやられたというのか」
「どうやらそのようだ」
 ブンドルは二人に対してそう述べた。
「これはかなり手強いようだな。少なくとも今の我々の戦力では今のゴーショーグンの相手をしては危険だ」
「下がれというのか」
「そうだ」
 ケルナグールに対して言った。
「それも戦いのうちだ。いいな」
「フン、まあいいわ」
 ケルナグールは渋々ながらもそれに従うことにした。何処かアスカと似ている。
「ビグザムもなくなってしまったしな。ここは大人しく引き下がろう」
「珍しく聞き分けがよいな」
「フン、かみさんに言われたのだ」
 ケルナグールはそう返した。
「もっと人の話を聞くようにな。かみさんに言われたならば仕方あるまい」
「そうか。どうも貴様は自分のかみさんの話ばかりしておるのう」
「それもいいがな」
「ふっふっふ、わしのかみさんは別嬪じゃぞ。御前達に会わせるのが勿体ない位な」
「もうそれはいいわ」
「それでは撤退するぞ」
「おう」
 ブンドルの言葉を合図にドクーガも戦場から離脱を開始した。それにより戦いも終わった。
「何かいつものパターンだな」
「ドクーガが相手だとな。あの三人もいたし」
「まあいいんじゃない?お決まりのパターンってのも悪くはないわよ」
 グッドサンダーの面々は撤退するドクーガ軍を見ていつもの調子で話をしていた。
「やりやすいから」
「結局それか」
「しかしビムラーの力が強くなっているのは意外だったな」
 真吾はそれについて言及した。
「このエネルギーの力はまだまだよくわからないが」
「ミスターサバラスに聞きたいけどな。今何処にいるやら」
「今のところはこれからのお楽しみね」
「そうだな。じゃあ今は素直に喜ぶだけにしておこう」
「鬼となるか蛇となるか」
「ろくなもんがないわね」
「こんなあっけらかんでいいのかなあ」
 雅人はそんなやり取りを見て思わずそう呟いた。
「ちょっと考えただけでも物凄い話だと思うんだけれどな」
「それを言ったら俺達のダンクーガだってそうだぞ」
「あたし達の闘争本能がもとになってるからね」
 亮と沙羅が雅人に対してそう言う。
「そういえば」
「そういうことだ。ロンド=ベルにいたらそれ位は普通になる」
「俺はその普通ってのは嫌いだがな」
 忍がここで言った。
「常識なんざ糞くらえだぜ」
「あんたはもうちょっと大人しくしなさい」
「忍はかえって破天荒過ぎるんだよな」
「だがそれがいい方向に動くこともある。不思議なもんだ」
「・・・・・・っていうか横紙破りしかないんじゃないの?ダンクーガって」
「プレセア、それは言っちゃ駄目だよ」
 ベッキーが嗜める。
「それでも何とかなるのが世の中だからね」
「お兄ちゃんもそうですね、そういえば」
「おい、俺かよ」
「あんた結構忍に性格似てるからねえ」
「ベッキーまで言うのかよ」
「あたしはただ思っただけだけれどね。シモーヌはどう思うんだい?」
「あたしも一緒だね」
 シモーヌもそれに同意した。
「あんたのその無鉄砲なところはね。忍と似てるね」
「シモーヌさんもそう思いますか?」
「ああ。けれどそこがまた」
「そこがまた?」
「可愛いんだけどね」
「ちぇっ」
 マサキはふてくされた。そんなやり取りの中戦いを終えたロンド=ベルは集結した。そして再びオデッサに向かった。
「それにしてもあのゼオライマーだが」
 ブライトはラー=カイラムの艦橋で一言そう漏らした。
「どうした」
 それにアムロが顔を向けた。
「ああ。圧倒的な力を持っているようだな」
「それか」
「どう思う」
 アムロに問うてきた。
「あの力、危険なものだろうか」
「それは使う人間によるな」
 アムロの答えはそうであった。
「どんな素晴らしい力もそれを使う人間の心が悪かったらそれで終わりだ」
「そうだな」
「それはロンド=ベルの指揮官である御前が一番よくわかってることじゃないのか」
「そうかも知れない」
 ブライトはあらためて頷いた。
「あのドレイクにしろそうだな」
「ああ。逆にショウやシーラ姫を見てもな。それはわかるだろう」
「うむ」
「そういうことじゃないかな、結局は」
「そうだな」
「俺にしろ御前にしろティターンズみたいになっている可能性はあるんだ」
「ジャミトフやバスクみたいにか」
「そう言うとわかりにくいな」
 アムロは言葉を変えた。
「ギレン=ザビみたいにな。若しくはユーゼスか」
「ユーゼスか」
 かって死闘を繰り広げたバルマーの副司令官であった。彼は最後の最後で本物のラオデキアに滅ぼされてしまった。狡猾で残忍な男であった。
「ああしたふうにはなりたくはないな」
「ああ」
 それはブライトも同じだった。
「ああならない為にもな。心は重要だ」
「そうだな。ではゼオライマーは」
「その木原マサキという男が問題だ。話を聞く限りじゃまともな奴とは思えない」
「死んだともいうが」
「その怨念が残っていないことを祈るな。そう」
 アムロは一旦言葉をとぎった。それからまた言った。
「ジオンみたいにな」
 彼にとってそれは忘れられぬことであった。ジオンとの戦いにより彼の人生が変わったのだから。今彼はそれを噛み締めながら言ったのだ。
 ティターンズもまた実質的にはジオンの流れを汲む者達であった。今二人は彼等がいるオデッサを見据えていた。
「やるぞ」
「うむ」
 ロンド=ベルはオデッサに向かっていた。だがその前に一つの出会いと別れが彼等にあるのをこの時はまだ知らなかった。知ることもできなかった。


第二十五話   完


                                      2005・6・5


[285] 題名:第二十五話その一 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月28日 (火) 18時17分

           燃ゆる透水、凍る鬼火
「バウ=ドラゴンが動いているようですね」
 暗い玄室でシュウの声が木霊していた。
「何でも今度は二人出撃させたとか」
「ええ」
 それにチカが答えていた。
「今度はそっくりの顔の女二人ですよ」
「あの二人ですね」
 シュウはそれが誰かわかっているようであった。
「また面白いことを。しかし幽羅帝は焦っているようですね」
「焦ってますかね」
「ええ」
 シュウはチカにそう答えた。
「あの二人はまだ置いておいていいのです。それよりも私ならば月を出すでしょう」
「月ですか」
「はい」
 シュウは頷いた。
「チカ、貴女もそうしませんか」
「私はそうは思いませんねえ」
 彼女はそう答えた。
「やるならドバーーーーッとやっちゃいたいじゃないですか」
「そうですか」
「そうですよ。それなら後腐れがありませんし」
「ふふふ、貴女らしいですね」
 彼はそれを聞いて笑った。
「けれど私は別の考えです」
「別の」
「やはりここはあの二人でしょうね」
「そうですか」
「あの二人の力は強大です」
 そう語るシュウの目の光の色が強いものになった。
「二人が合わさればその力は八卦集一でしょう。ですが」
「ですが?」
「果たしてそれができるかどうか、です。問題は」
「できるでしょう」
 チカは考えることなくすぐにそう答えた。
「何故ですか」
「だってあの二人は双子なんでしょう?」
「ええ」
「じゃあ大丈夫ですよ。何も問題ありませんよ」
「果たしてそうですかね」
 シュウはそれを聞いて思わせぶりに笑った。
「!?何かあるんですか!?」
 チカはそれを聞いて首を傾げた。
「だってあの二人は」
「チカ」
 シュウはここでチカの名を呼んだ。
「はい」
「貴女は私のファミリアですね」
「ええ」
 答えながら何を今更、と思った。シュウが何を言いたいのかよくわからない。だが主は時としてそうした質問をする。それももう知っていた。
「私の無意識下から生まれた」
「はい。何を言いたいんですか」
「つまり私と貴女は同じだということです。互いに鏡のようなもの」
「結局はそうですけれどね」
「鏡に映る自分を見て時として嫌になることはありませんか」
「いいえ」
 チカは首を横に振った。
「何でですか?私は自分のこの美しい姿を一度も嫌だと思ったことはありませんよ」
「ふ、貴女はそうでしょうね」
 シュウはそれを聞いて薄く笑った。
「ですが人によっては違うのです。鏡に映る自分が憎い人もいるのです」
「わかりませんね」
 チカはまた首を傾げた。
「何で自分自身が憎くなるのか。私は自分が可愛くて仕方ないですよ」
「ふふふ」
 シュウはまた笑った。
「人によっては、ですよ。あくまで」
「そんなもんですかね」
「ええ、そうです」
 そのことについては一応句切りがついた。チカは話を変えた。
「それでどう考えてるんですか」
「バウ=ドラゴンのことでしょうか」
「勿論ですよ」
 チカは言った。
「彼等については何もしなくていいんですか?このままですと」
「彼等については心配ありませんよ」
 シュウはそれに対してそう答えた。
「彼等については、ね」
「何かよくわかりませんね」
 チカはやはりまた首を傾げた。
「あんなの放っておいて大丈夫なんですかね」
「ええ、心配はいりませんよ」
 シュウは何の不安もないといった顔でそう答えた。
「何もね」
「だといいですけれどね」
 チカは言った。
「それじゃああの連中は無視でいいですね」
「はい」
「じゃあ後はラ=ギアスですかね」
「いえ」
 だがシュウはここで首を横に振った。
「そこはまだです」
「まだですか」
「はい。運命をね、変えなくてはなりませんから」
「運命!?」
「そうです。私が未来で一度死んでこの世界もかなり変わりましたね」
「ええ」
「そしてそれにより歪を生じています」
 シュウの顔が険しくなった。整っているその顔に険が浮かんだように見えた。
「それを正さなくてはならないのです」
「グランゾンを使って、ですね」
「はい」
 シュウはそれに答えた。
「チカ、貴女にも働いてもらいますよ」
「やれやれ」
 それを聞いて疲れたような声を出す。
「何かあたしの仕事って全然減りませんね。御主人様のファミリアになってから」
「貴女は生まれた時からそうでしょう」
 シュウはそれに対して言った。
「最初から私のファミリアだったのですから」
「だからですよ」
 チカは言った。
「あたしは生まれてから大忙しなんですよ。たまには休みたいですよ」
「残念ですがそれは無理でしょうね」
 シュウは元の涼しげな笑みを浮かべてそう答えた。
「貴女がこの世にいる限りはね」
「やれやれ」
 チカは溜息をついた。
「まあ仕方ないですね。そのかわりお金はしっかりと頂きますよ」
「いいですよ」
 シュウはそれを認めた。
「では今度はダイアでどうでしょうか」
「ダイアはいいですよ」
「では何を」
「ルビーがいいですね。とびきり大きな」
「ではそう善処します」
 シュウは言った。
「そのかわり働いて下さいね」
「わかってますって」
 こうして二人の会話は終わった。そしてすぐに青いマシンが何処かへと飛び去った。

「秋津マサト君」
 沖がマサトに語りかけていた。二人の他に美久もいる。彼等は今何かしらの研究室にいた。
 そこは無数の試験管が置かれていた。その中にそれぞれ黄色くて小さいものがあった。そしてそれは一つじつが異なる形をしていた。
「これが君だ」
「えっ・・・・・・!?」
 その中の一つを見せられてマサトは思わず声を出した。
「あの、沖さん今何て」
「聞こえなかったのか」
 沖の声は冷淡なものであった。
「これが君だと言ったんだ」
 それはよく見れば細胞であった。一つずつが成長していた。
「これが僕・・・・・・」
「そうだ」
 沖はまた言った。
「君はゼオライマーに乗る為に作られたものなのだ」
「嘘だ!」
 それを聞いてマサトは叫んだ。
「僕は秋津マサトだ!ちゃんと両親もいるしそれに・・・・・・」
「だがこれが現実だ」
 そんなマサトに対して沖はまた言った。
「君はクローンなのだ。木原マサキに作られたな」
「そんな・・・・・・」
 ようやく飲み込めた。だがそれは飲み込みたくはない忌まわしい現実であった。
「僕がクローンだったなんて」
「木原マサキのな」
 沖の言葉はやはり冷淡なものであった。
「そんな馬鹿な!」
「君がどう思おうと勝手だ。だがこれが真実だ」
 沖はまた言った。
「それを否定することはできない」
「・・・・・・・・・」
 マサトは沈黙してしまった。沖はそれでもまだ言葉を続ける。
「そしてこれが運命なのだ」
「運命?」
「そうだ。君はゼオライマーに乗る為にこの世に作り出された。そして戦う為にな」
「そんな、じゃあ僕は道具だというのか」
「そうよ」
 美久がここでマサトに対して言った。
「マサト君、貴方は道具なのよ。そして私も」
「馬鹿な」
 マサトはそれを否定した。
「じゃあ君もそうなのか」
「ええ」
「そんな・・・・・・」
 思いもよらぬその答えを聞いて思わず絶句した。
「じゃあ君も・・・・・・」
「ええ」
 美久は頷いた。
「私もマサト君も同じよ。ゼオライマーに乗って戦う為に」
「そんな筈がない!」
 マサトはそれを否定した。
「人はそんなことの為だけに生まれるわけじゃない!そんな・・・・・・」
「否定できるの?」
「うう・・・・・・」
 否定できなかった。今までの話を聞いて出来る筈もなかった。
「人間っていうのは元々運命付けられて生まれてくるではないかしら」
「どうしてそんなに冷静にいてられるんだ」
「それが私の運命だから」
 美久の言葉は変わらなかった。
「だからよ」
「けれど僕は違う」
 もう理屈ではなかった。とにかくそれを否定したかった。
「僕は・・・・・・僕はクローンなんかじゃない!僕は僕なんだ!」
「あ、待ってマサト君!」
 マサトは部屋を飛び出た。美久はそれを追おうとする。だがそれを沖が止めた。
「いい」
「けど」
「どのみち彼にはここに戻るしかないんだ」
 やはり冷たい声でそう述べた。
「いいんですか?」
「ああ。彼はきっと戻って来る。そして」
 言葉を続けた。
「ゼオライマーに乗る。彼の心がマサキのものである限りな」
 そう言って追おうとはしなかった。結局美久はマサトを追わなかった。
 マサトは外を走っていた。たださっき聞いたことを忘れたかったのだ。
「そんな、そんな筈があるものか!」
 自分はクローンなどではない、自分は自分だ。彼は自分自身にそう言い聞かせていた。
「僕は秋津マサトだ。それ以外の何者でもないんだ」
 言い続けた。そしてまだ走る。
「僕は、僕は・・・・・・」
 だがここで全身を鈍い痛みが襲った。
「うっ・・・・・・」
 彼は意識を失った。そして前に倒れる。
「この男か」
 薄れいく意識の中で女の声がした。
「そうみたいね」
「見たところまだ子供ね」
「そうね」
 二人いるようであった。だが何故かその声は似ているように感じられた。
「こんな子供に耐爬が」
(耐爬!?)
 マサトにはその名前だけが聴こえた。
(誰なんだろう、それは)
 だがそう考える前に意識がさらに薄れ考えられなくなってしまっていた。
(うう・・・・・・)
「連れていきましょう、タウ」
「ええ、お姉様」
 こうして彼は意識を失い暗闇の世界に落ちた。そして何処かへと連れ去られてしまったのであった。

 目が醒めた。すると彼は縛られ地下の冷たい部屋の中で吊られていた。
「目が醒めたか」
 女の声がした。それは少女の声であった。
「君は」
 その少女を見る。濃い化粧こそしているが優しげな顔立ちの少女であった。
「木原マサキ」
 その少女はその名を呼んだ。
「私を覚えているな」
「覚えているも何も」
 吊り下げられながらもマサキは言った。
「君と会うのははじめてなんだよ」
「嘘をつけ!」
「うっ!」
 少女の鞭が彼を撃った。その痛みで黙ってしまった。
「一体何を」
「忘れたとは言わせぬ!」
 少女は強い声でそう言った。
「木原マサキ」
「またその名前を」
「我が愛しき人を奪った罪、今ここで償わせてやる」
「愛しき人・・・・・・」
「そうだ」
 少女は言った。
「先の湘南での戦い、覚えているな」
「あの時の」
「忘れてはいないな」
「うん」
 嘘をつくつもりはなかった。正直にそう答えた。
「あの時の変わったマシンに乗っていたのは」
「そうだ、耐爬だ」
 少女は答えた。
「耐爬の無念、今ここで晴らしてやる。時間をかけてな」
「待ってくれ、僕は・・・・・・グフッ」
 左右に現われた者達に腹を殴られた。そして言葉を止めた。
「言葉を慎め」
 そこに黒く長い髪をした二人の女が現われた。見れば同じ顔をしている。
「鉄甲龍の前だ」
「鉄甲龍」
「そうだ。それもとぼけるか」
「とぼけるも何も」
「では言い方を変えようか」
 髪で顔の右半分を隠した女が言った。
「上海を拠点とする国際電脳」
「あの多国籍企業が」
 中国を代表するコンピューター関連の企業として知られている。そのオーナーはうら若き美少女であることも有名である。
「それは隠れ蓑に過ぎない」
 左半分を隠した女も言った。
「それが我等鉄甲龍だ」
「またの名をバウドラゴンという」
「バウドラゴン」
「私がその主」
 少女は静かに言った。
「幽羅帝だ」
「幽羅帝」
「そう。御前に私が乗る筈だったあのマシンを奪われた者だ。そして今度は愛しき者も奪われた」
「マシンを。まさか」
「そのまさかだ」
 幽羅帝は言った。
「あのゼオライマーは本来私のものだったのだ。それを御前が」
「僕が」
「十五年前我等を裏切り持ち去った。その欲望の為にな」
「欲望って」
「思い出せないのなら思い出させてやる」
 その澄んだ声に憎悪がこもった。
「時間をかけてな。そのうえで殺してやる」
 その左右にいる女達もジリ、と動いた。マサトはそれに命の危険を感じた。その時であった。
「!」
 部屋の扉が突如として破壊された。そしてそこから美久が姿を現わした。
「マサト君、そこにいたのね!」
「美久!」
 美久はマサトに駆け寄って来た。幽羅帝はそれを見てすぐに左右の女達に指示を出した。
「シ=アエン、シ=タウ!」
「はっ!」
 名を呼ばれた二人はすぐにそれに応えた。
「あの女を始末せよ!」 
 それに従い美久に襲い掛かる。まずはシ=アエンが蹴りを繰り出した。
「うっ!」
 それが腹を直撃する。だが美久はそれでも立っていた。
「なっ・・・・・・」
「この程度で」
 彼女は怯んではいなかった。そして逆に攻撃を繰り出す。
「グッ!」
 拳を受けてシ=アエンが退く。そこにすかさずシ=タウが来た。
「ならばこれで!」
 手刀を繰り出す。そしてそれで美久を撃とうとする。だが美久はそれをかわした。
「まだっ!」 
 そして蹴りでシ=タウも退けた。二人はそれで間合いを広げてしまった。
「私達の攻撃を受けて平然としちえるなんて」
「この小娘、一体」
 二人は信じられないといった顔をしていた。見たところ二人の動きは相当な手馴れのものであった。だが美久はそれ以上であったのだ。年端もいかない小娘がどうして、二人はそう思っていた。
 彼女はその間にさらに前に出ていた。そしてマサトの側に来てその鎖を断ち切った。
「マサト君、大丈夫だった」
「美久、来てくれたんだね」
「ええ」
 彼女は微笑んでそれに応えた。
「すぐにここを出ましょ。ゼオライマーで」
「ゼオライマーで」
 マサトはそれを聞いた時一瞬だが暗い顔を作った。しかしそれをすぐに打ち消した。
「行くか。それしかないからね」
「ええ」
 そして美久に守られながら部屋を出た。後には幽羅帝とシ=アエン、シ=タウだけが残った。
「おのれ、逃げられたか」
「陛下」
 その整った唇を噛む帝の前に二人が進み出て来た。
「御心配なく、逃がしはしません」
「ここは我等にお任せを」
「頼むぞ」
 帝は二人を見てそう言った。
「木原マサキを討て、よいな」
「ハッ!」
 二人はそれを受けてすぐに姿を消した。それを遠くから見ている男がいた。
「あの二人も動いたか」
 塞臥であった。彼はそれをほくそ笑みながら一人物陰から覗き込んでいたのである。
「面白いことになってきたな、ふふふ」
 彼は今度は幽羅帝を見ていた。彼女は一人そこに残っていた。
「木原マサキ」
 そしてまたその名を呼んだ。
「許しはせぬ、決して」
 少女の顔から女の顔になっていた。だが彼女はそれに気付かずただ憎しみでその身体を燃やすのであった。

 その頃ロンド=ベルは重慶から中国を離れ中央アジアに出ていた。そこは見渡す限りの砂漠であった。
「何か懐かしいな」
「ああ」
 アムロとブライトが見渡す限りの砂の海を眺めながらそう言った。
「ここだったな。俺がホワイトベースを出て行こうとしたのは」
「あの時は正直驚いたぞ」
 ブライトは苦笑してそう述べた。
「急にいなくなるのだからな。全く御前という奴は」
「ははは、済まない」
「凄い大昔の話してない?」
 それを聞いたエルが他のガンダムチームの面々にそう囁いた。
「二人共あれでもいい年だからな」
「俺達ヤングとは違うってことだろ」
「そうそう」
「けれどまだ二十代じゃなかったっけ。二人共」
「それでも年季が違うんでしょ」
「つまり若年寄りってわけね」
「ブライト艦長とアムロ中佐って御爺ちゃんだったんだ」
「プル、それは違うぞ」
「まあおっさんではあるかな」
「だな」
「おい」
 二人がコソコソと話す彼等に目を向けてきた。
「好き勝手言ってくれるな」
「あ、御免なさい」 
 謝るが当然のように誠意は見られない。
「ちょっとまあ色々と」
「言っておくが私もアムロもまだ若いぞ」
「その通りだ」
「けれど一年戦争が初陣だよな」
「やっぱりおっさんよねえ」
「全く」
 ブライトがいい加減うんざりした顔をした。
「まだ二十代でそんなことを言われるとはな」
「歳はとりたくないものだ」
「そうはいってもとってはしまうものだな」
 ここでクワトロが出て来た。
「私もその中の一人だ」
「そういえばクワトロ大尉もだったな」
「意外とうちっておじさん多いわよね」
「おばさんはレミーさんだけだけれど」
「誰がおばさんですってえ!?」
 レミーの声が後ろから聞こえてきた。
「こんな魅力的なレディーに対して失礼でなくて」
「あ、レミーさんいたんだ」
「何でラー=カイラムに?」
「ちょっとね。事情があって」
「ケン太をこっちに移動させてもらったのさ」
 真吾とケリーもそこに出て来た。その後ろにはケン太がいた。
「私もです」
 OVAもいた。何やらありそうである。
「ここは子供が多いからな。それで移動させてもらったのさ」
「グランガランもゴラオンもね。ちょっとそういったのじゃ合わなくてな」
「それでここに移動することになったんですね」
「ご名答」
 レミーが答えた。
「いいアイディアでしょ」
「それはどうかなあ」
 だが皆それには首を傾げた。
「あまりいいとは思わないなあ」
「何で?」
「いや、ね」
 ジュドーが言った。
「俺達がいるから」
「あたし達なんてシャングリラで色々やってたんだよ」
「それこそ口には言えないことも。それでもいいのかい?」
「それも社会勉強のうちさ」
 真吾が言った。
「俺達だって何かとあったさ」
「俺は自伝すら売れなかった」
「あんたは文章が下手なのよ。ブンドルに笑われるわよ」
「まああいつにわかってもらいたくはないけどな」
「それもあってここに移動させたのさ。いいかい」
「まあそういうことなら」
「ファさんやエマさんもいるしね」
 ファはロンド=ベルの面々ではかなり母性的な性格をしている。そしてエマはしっかりしていることで有名だ。恋愛に関しては奥手だが。
「じゃあいいな」
「これで決まりね。いいかしら、ブライト艦長」
「私は構わないが」
 その程度でいちいち言うブライトでもなかった。すんなりとそれを認めた。
「よし」
 こうしてケン太はラー=カイラムに入ることとなった。だが真吾達はグランガランに戻ってしまった。
「あれ、真吾さん達は来ないのか」
「意外ね」
「声のせいかしら」
「あ、ブライト艦長と似てるもんね」
「そういえば」
「声は置いておいてだ」
 ブライトがガンダムチームの面々に対して言った。
「敵はいないのだろうな」
「今のところはいませんね」
 サエグサが答える。
「近くにいるかも知れませんかれど」
「気をつけろ」
 ブライトの声が引き締まった。
「ここはゲリラ戦に向いているからな。注意するに越したことはない」
「了解」
 こうして周囲を警戒しながら進んだ。やがて前方に奇妙な部隊が姿を現わした。
「出たな」
 真吾がそれを見て言った。
「ドクーガだ。何かお約束だな」
「出ると思ったら出るのよねえ」
 レミーもそれに続く。
「お決まりのパターンってやつだな。時代劇と一緒で」
「ふ、時代劇か」
 ブンドルが早速キリーの言葉に反応した。
「あの形式美は中々いい。特に東映のそれはな」
「お主時代劇まで見ておったのか」
 カットナルがそれに突っ込みを入れる。
「何にでも手を出すのう」
 ケルナグールもである。やはりこの三人は一緒であった。
「私は美しいものが好きだ」
「時代劇が美しいのか?」
「そうだ」
 彼は答えた。
「あの様式美。あの悪役の見事な死に様にお決まりの台詞。何をとっても」
 言葉を続ける。
「美しい」
 そして彼もまたお決まりの台詞を言うのであった。薔薇も忘れてはいない。
「やれやれ、どうやら単なる趣味のようじゃな」
「わしはかみさんとオペラを観に行く方がいいわい」
「ケルナグール、お主オペラを観るのか」
 カットナルはそれを聞いて思わず声をあげた。
「嘘ではないのか」
 ブンドルもである。彼もまた驚いていた。
「おう、メトロポリタンにな」
「なっ、メトロポリタン」
 アメリカで最も知られた歌劇場である。ミラノのスカラ座やウィーン国立歌劇場と並ぶオペラのメッカである。
「当然パリも行くぞ」
「何ということだ。嘘ではないのか」
「かみさんが好きでな。わしはほんの付き合いじゃ」
「だろうな」
「だが驚いたな。ケルナグールがオペラを知っているとは」
「御前等わしを何だと思っているのだ?さっきから黙って聞いていれば」
「気にするな」
「単なる先入観だ」
「フン、まあいい。今は時代劇やオペラよりいいものが目の前にあるぞ」
 他の二人もケルナグールの言葉に顔を前に向けた。
「わかっておる」
「戦いこそ最高の芸術」
 三人はそれぞれの部隊を出してきた。そしてブンドルが言う。
「それでは戦いの曲を奏でよう」
「今日は何がいいですか」
 部下の一人が彼に問う。
「そうだな。オペラの話が出たことだし」
「ワーグナーでしょうか」
「ワルキューレの騎行は駄目だぞ」
「はい」
 どうやら彼はあの曲は好きではないらしい。
「ローエングリンがいいな」
「ローエングリンですか」
「そうだ」
 ブンドルは答えた。ワーグナーの歌劇の一つでありロマン派の代表的な作品である。魔女オルトルートと彼の夫テルラムントの謀略により危機に陥ったエルザ姫を救う為に聖杯の城モンサルヴァートから現われた白銀の騎士。白鳥の曳く小舟に乗って姿を現わしたその騎士ローエングリンとエルザの悲しい愛の作品である。透明で澄んだ音楽の世界に合唱と英雄の歌が聴かれる。タイトルロールともなっているローエングリンはヘルデン=テノールと呼ばれるワーグナーの作品独特のテノールであり難役としても知られている。
「第一幕の前奏曲がいい。あるか」
「はい、こちらに」
 部下は一枚のCDを出してきた。
「指揮はフルトヴェングラーで宜しいですね」
「上出来だ」
 二十世紀前半のドイツに君臨した偉大な指揮者である。その影響はイタリアのトスカニーニと並ぶ程であり長い間クラシックの世界に影響を及ぼしてきた。
「それでは」
「うむ」
 音楽が奏でられはじめた。青い色の透明な世界が音を通じて拡げられはじめた。
「おやおや、ローエングリンですかい」
 キリーがそれを聞いて言った。
「あの旦那も本当に好きだねえ」
「ただ単にキザなだけだと思うけれど」
 レミーがそれに突っ込みを入れる。
「しかし只のキザじゃないな」
「万丈が言うと説得力あるな」
「同じ声で突っ込み有り難う。まあそれはさておき」
「さておきで済ませられるのはこの人だけだな」
「同感」
「とりあえず僕達はドクーガに専念しよう。いいね」
「あれ、まだ何か出るんですか?」
「今度は何なんだよ。またギガノスでも出るのか?」
「違うみたいだね。これは」
 アキトとリョーコにそう答える。
「これは湘南の時と同じみたいだね」
「湘南、それじゃあ」
「うん。彼だ」
 そこへ銀色のマシンが姿を現わした。
「ほら、出て来たよ」
「あれが」
「シンジ、用意はできてるでしょうね」 
 アスカがシンジに声をかけてきた。


[284] 題名:第二十四話 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月23日 (木) 19時33分

              ドラグーン
 香港での戦いを終えたロンド=ベルはそのまま中国を横断して重慶に向かっていた。ここにドラグナーの新型があるのである。
「何だかなあ」
 タップはアルビオンの自室でぼやいていた。彼等はアルビオンに移っていたのである。
「重慶に着いたらすんなりと除隊できると思ったんだけれどな」
「連邦軍の制度に引っ掛かっちまうとはな」
 ライトもいた。彼がここで言った。連邦軍ではマシンや戦闘機に乗ることができるのは将校以上なのである。改革によりそう定められたのだ。
「まあおかげで給料はよくなったけれどな」
「おいおい、そういう問題かよ」
 タップはケーンにそう突っ込みを入れた。
「このままいったら何時死ぬかわかんねえんだぞ」
「大丈夫だって」
 ケーンはタップを宥めてそう言った。
「死にはしねえよ」
「何でそう言えるんだ!?」
「根拠はねえけれどな」
「おいおい」
 ライトがそれを聞いて呆れた声を出した。
「何となくかよ。ったく」
「けれど今まで生きてこれたんじゃねえか。色々とあったけれどな」
「そういやそうだな」
「まあ危ない場面もあったけれどな」
 タップとライトはそれに頷いた。
「その原因の殆どは御前にあるけれどな」
「御前に言われたかねえよ」
 ケーンはタップにそう返した。
「いつも無茶しやがって」
「戦いってのは多少の無茶はつきもんなんだよ」
「確かにな」
 ライトがそれに同意する。
「無茶は戦いの調味料だ」
「初耳ですな」
 それを聞いたベン軍曹がそう答えた。
「三人共何を話しているのですかな」
「軍曹」
 三人は彼に顔を向けた。見ればベン軍曹は部屋の扉のところに立っていた。そして部屋の中に入って来た。
「とりあえずもうすぐ重慶ですが」
「は、はい」
 三人は彼の姿を見て背筋を立たせた。階級が上になってもやはり怖いことは怖いのであった。
「一応これで登録も解除できますが」
「それ本当!?」
 タップがそれを聞いて驚きの声をあげた。
「はい。そうすれば除隊も可能ですが」
「将校でも」
「それは関係ありません」
 軍曹はやや事務的にそう答えた。
「少尉殿達はあくまで志願者という形になっておりますので。こちらとしては強制はできません」
「そうだったのか」
「じゃあこれでお別れできるんだな」
「はい」
 軍曹はまた答えた。
「何度も申し上げる通りこちらはそれを強制できないのです。あくまでそちらで決められることです」
「そうだな」
「タップ、どうするつもりなんだ」
「決まってるじゃねえか」
 タップはそう返した。
「除隊だよ。それで退職金で商売をはじめるんだ。前に言ってただろ」
「そういえばそうだったな」
 二人はそれを聞いて思い出した。
「俺達は成り行きでこうなっちまったんだし」
「抜けられたら抜けたいな、って言ってたしな」
「そうだろ。何で今まで忘れていたんだよ」
「いやあ、忘れてたわけじゃねえけど」
「忙しかったし」
「まあ色々とあったからな」
 タップもそれに頷く。
「けれど思い出したんならいいや。俺は抜けるぜ」
「おいちょっと待てよ」
 ケーンがそれを呼び止める。
「御前が抜けたらドラグナーチームはどうなるんだよ」
「三人じゃないと本当の力は出せないんだぞ」
「じゃあ御前等は残るのかよ」
「そう言われてもなあ」
「判断に困るというか」
「それ見ろ」
 タップはそこに突っ込んだ。
「気楽にいこうぜ。俺達が抜けても誰かが入ってくれるさ。世の中そんなもんだ」
「ドライだな」
「ドライじゃねえぞ。それが世の中さ。俺達のかわりなんざ幾らでもいるさ」
「確かにな」
 ライトが真面目な顔で頷く。
「しかし俺としてはここが気に入ってるしな」
「そうなのか」
「俺も・・・・・・そうだな」
 ケーンもそれに同意する。
「ここも案外悪くはねえしな。ベン軍曹は最初は怖かったけれど」
「そうなのですか」
 軍曹はそれを聞いて少し憮然とする。
「あ、いやそんな意味じゃなくてさ」
「新兵教育ってやつは何処もこんなもんだと思うし。それだけですよ」
「ふふふ」
 軍曹はそれを聞いて少し嬉しそうに笑った。
「どうやら少尉殿達に教育させて頂いたのは正解でしたな」
「そうなんですか」
「はい」
 彼は答えた。
「最初は私も戸惑いました。こんな軽薄な連中でいいのか、と」
「俺リーゼント切られたし」
「まあそりゃ当然だな。坊主にならないだけまし」
「そうそう」
「ですが一緒にいるうちに。まあ何といいますか」
「俺達の実力がわかったと」
「いえ」
 だが軍曹はそれは否定した。
「残念ながらそうではありません」
「あれ、違うの!?」
「はい。まあ何と言いますかマシになったな、と」
「マシに」
「ええ。少しはパイロットとしていけるようになったのでは、と。今ではそう思っております」
「・・・・・・何か俺達って今一つ評価が悪いな」
「アムロ中佐やクワトロ大尉と比べてな」
「御言葉ですが比べる相手が凄過ぎますな」
「まあそうだけれど」
「しかし何というか凄い評判にはなってねえから」
「だから出て行っても問題はねえんだよ」
「私はそれにも反対です」
「何で!?」
「寂しくなるからです」
 軍曹はタップに対してそう述べた。
「これはあくまで個人的な感情ですがタップ少尉も他の御二人もいなくなると寂しいです」
「そんなもんかな」
「何か俺達ってガンダムチームと同じでお笑い担当と思われてるけれどな」
「こんな二枚目を捕まえてな。何処を見てるんだか」
「タップの何処が二枚目なんだよ」
「待てよ、こんな男前捕まえて何言うんだ」
「この雰囲気です」
 軍曹はそのやりとりを見ながらまた言った。
「これがないとやはり寂しいです」
「そうなのか」
「私としては少尉殿達には去ってもらいたくはありません。ですが」
 彼は言葉を続けた。
「しかしそれを決められるのは御自身です。私が申し上げることではありません」
「・・・・・・・・・」
「ですがよく御考え下さい。少尉殿達に去って欲しくない者もいるということを。それでは」
 それだけ言ってその場を離れた。後には三人だけが残った。
「なあタップ」
 ケーンはあらためてタップに顔を向けた。
「どうするんだ」
「・・・・・・・・・」
 彼は俯いたまま答えようとしなかった。黙っていた。
「軍曹のあの言葉は心からの言葉だぜ」
 ライトもそう言った。
「ああした人もいてくれてるんだ。それはよく覚えていろよ」
「・・・・・・ああ」
 彼はようやく頷いた。だがその顔はまだ晴れてはいなかった。何処か暗く沈んでいた。
 しかし時は彼等を待ってはくれなかった。ロンド=ベルは遂に重慶に到着したのであった。ここは中国四川省にある都市でありこの辺りでは最大の都市でもある。ここの料理は辛いことで有名だ。
「さて、と」
 重慶に到着するとブライトはダグラス大尉に顔を向けた。
「ようやく重慶に着きましたね」
「はい」
 大尉は嬉しそうに声をあげた。
「これでようやくあの三人ともおさらばです」
「はい」 
 だが横にいる軍曹はあまり浮かない顔をしている。
「やっとだな、本当に」
「そうですね」
 嬉しそうな大尉とあくまで対象的であった。大尉もそれに気付いた。
「ん、嬉しくはないのか?問題児共に一番手を焼いていたのは軍曹だろう」
「確かにそうですが」
 彼は答えた。
「それでも色々と思うところがありまして」
「?変わった奴だな」
 大尉はそれを聞いて首を捻った。
「まあいい。今日という日程嬉しい日はない」
 彼はそう言った。
「そうじゃないか、本当に」
「ええ、まあ」
 軍曹も仕方ないように頷いた。
「じゃあ行くか。そして新しいパイロットを迎えよう」
 そうした話をしながらロンド=ベルは軍の基地に向かった。そこでは既にいかめしい顔の老人がいた。
「よく来てくれたな」
「はい」
 ブライトはその老人に敬礼して応えた。
「お久し振りです、プラート博士!?」
「プラート!?」
 ケーン達はそれを聞いて驚きの声をあげた。
「まさかプラートって」
「ええ、そうよ」
 リンダがそれに応えた。
「私の御父様なの」
「娘が世話になったな」
 博士はそう言ってケーン達に顔を向けた。
「何とまあ」
「リンダちゃんって母親似だったんだ」
「ええ」
 ルーにそう応える。
「兄さんは御父様似だけれど」
「あれ、お兄さんいたの?」
 エルがそれを聞いて驚きの声をあげた。
「え、ええ。まあ」
 しかしそれに答えるリンダの声は何処か元気がない。
「ちょっと事情があって今は別々だけれど」
「ふうん、そうなんだ」
「まあそれはいいわ。それより」
「おう」
 ビーチャがルーに応えた。
「ケーン達の見送りだよな」
「そうそう」
「何か寂しくなるな。なあイーノ」
 モンドはイーノに話を振ってきた。イーノにはそれがわかっていたようである。すぐに応えた。
「まあね」
「何というか名残惜しい気もするけれど」
「お兄ちゃん達と雰囲気似てるしね」
「それはよく言われるな」
「あたしもそう思うよ」
「似た者同士で上手くやっていたしな」
 プルとプルツーもそれに同意した。
「何かまあ色々あったけれどな」
「これでお別れか」
「それじゃあな」
「ああ」
 ケーン達はロンド=ベルの面々に顔を向ける。その顔はどうも複雑なものであった。
「何だかな」
 ケーンは照れ臭そうに笑いながら言った。
「俺達には哀しい場面なんて似合わないけれど」
「というかあんた達にはお笑い以外似合わないわよ」
 アスカが斜に構えて突っ込みを入れる。
「この三馬鹿トリオが」
「おい、人をチャンバラトリオみたいに言うな」
「あれは四人じゃなかったっけ」
「シンジ君、五人だったと思うわ。メンバーチェンジしたのよ」
「というかミオのファミリアと似てる気がするけどな」
「・・・・・・なあトウジ」
 それを聞いたライトが疲れた声を出した。
「幾ら何でもカモノハシと一緒にしないでくれるか」
「あ、すんまへん」
「いいけどな。何か漫才やりそうで嫌なんだよ」
「というかやってることがそもそも漫才だし」
「アスカも黙っとらんかい」
「あたしは文句言うのが仕事だからいいのよ」
「ホンマに御前は」
「まあ話はそれ位にしてだ」
 キリのいいところでアムロとブライトが入って来た。
「三人とはこれでお別れだな」
「ええ、まあ」
「名残惜しいですけれどこれで」
「それじゃまた御会いしましょう」
「うむ。そしてドラグナーともな」
「えっ!?」
 三人はそれを聞いて驚きの声をあげた。
「艦長、今何て」
「聞こえなかったのか?ドラグナーともお別れだ」
「何故」
「何故って当然だろう」
 アムロが三人に対して言った。
「御前達がいないと他に誰も乗らないからな。それで解体するんだ」
「元々テスト用だったしな。これも当然のことだ」
「そんな・・・・・・」
「解体するなんて」
「もう決まったことなんだよ」
 アストナージも出て来た。
「まあ除隊するんだから問題ないよな、御前達にとっちゃ」
「確かにそうですけど」
「それでも」
 そう言われてもまだ不満そうであった。
「そんなことされたら」
「おいおい、除隊する人間が言っても何にもならないぞ」
「アムロの言う通りだ」
 ブライトは澄ましてはいるがその声は何処か笑みが含まれていた。
「除隊するんだからな。仕方がない」
「ちょっと待って下さいよ」
 ケーンがそれにくってかかる。
「ドラグナーを解体するなら」
「どうするつもりだ?」
「それは・・・・・・」
 返答に窮した。だがそれは一瞬のことであった。
「じゃあ俺達が残ったらどうなるんですか」
「決まっている。ドラグナーはそのままだ」
「パワーアップされてな」
「そのままですか」
 ケーンはその言葉に反応した。
「ああ、そのままだ」
「ううむ」
 ケーンはブライトの言葉を受けて考え込んだ。
「おいどうしたんだよケーン」
「心変わりか?」
「そういうわけじゃねえけどよ」
 口ではそう言いながらも迷っていた。
「何かな。寂しくならねえか」
「何でだよ」
「清々しねえか」
 タップは相変わらずであった。
「御前等はそうかも知れねえけどよ、俺は違うみてえだ」
「今更そんなこと言ってもよお」
「除隊するんだろ」
「最初はそう思っていたけれどな。何かな」
「ちぇっ、じゃあ御前は残るのか?」
「・・・・・・・・・」
「まあいいさ、俺達はこれで除隊だ。じゃあな」
 だがケーンはそれに答えなかった。彼にしては珍しいことに沈んだ顔をしていた。これには他の者も驚いていた。いつもの軽いケーンは何処にもいなかったからだ。その時だった。
「むっ」
 麗が何かを感じた。
「敵か!?」
「はい」
 神宮寺の問いに答えた。
「これは香港の時と同じです。それも五人」
「五人というとあれだな」
「はい。グン=ジェム隊です。すぐそこまで来ています」
「よし、じゃあ行くぞ」
 神宮寺がまず動いた。
「猿丸大先生、マリ、いいな」
 麗は既に動いていた。彼はそれを受けて他の二人に声をかけたのだ。
「は、はい」
「いいわ、ミスター」
 二人はそれに応えた。もう一人も既に動いていた。
「俺もだろ、ミスター」
「ああ」
 神宮寺はそのもう一人を見て笑った。洸であるのは言うまでもないことであった。
「ライディーンがいなけりゃ話にならねえからな」
「そういうことだ」
「よし、コープランダー隊出動だ!行くぜ皆!」
 洸の声に答え彼等は出た。他の者も次々に出て行く。
「俺達も行くか」
 アムロがモビルスーツパイロットの面々に声をかけた。
「よし」
 バニングがそれに頷く。そして彼等も出た。
 後にはブライトとドラグナーチームだけが残った。だがそのブライトも動いた。
「艦長も行くんですか」
「当然だ」
 ブライトは素っ気無くそう答えた。
「私も指揮を執らなくてはならないからな」
「そんな」
「そんなもこんなもない」
 やはり素っ気無い声であった。
「それが戦争というものなのだからな」
「待って下さいよ」
「何だ」
 だがそれでもケーンの声に応えて足を止める。
「俺も行きます」
「何!?」
 それを聞いてブライトも他の二人も声をあげた。
「俺も出ますよ、ドラグナーで」
「おい、本気か!?」
 タップが問う。
「ああ、本気だ。もう決めた」
 ケーンは答えた。
「やっぱり俺は残るよ。それで戦う」
「おいケーン」
「これだからお坊ちゃんってのは」
「ライトは人のこと言えねえだろうが」
「親父は関係ねえぜ」
 ライトは軽くそう返した。彼の父は欧州ではかなりの高い地位にあるのである。彼は名門の生まれなのだ。
「けれど御前だったそうだろ」
「まあな」
 彼はそれを認めた。
「とにかく俺は行くぜ」
「仕方ないな」
 ライトはうっすらと笑った。
「じゃあ俺も行くか」
「よし」
「あ、おい」
 結果としてタップは一人残された形となった。こうなっては致し方なかった。
「しようがねえな、もうこうなったらヤケだ」
 彼も覚悟を決めた。
「俺も行くぜ、いいだろ」
「おう」
「これでドラグナーチーム目出度く復活だな」
「よし」
 こうして彼等も出撃に向かった。ブライトは走っていく彼等の後ろ姿を見て涼しげな笑みを浮かべた。
「これでいいのですね」
「うむ」
 プラート博士はそれに頷いた。
「まさかこんな簡単にいくとはな」
「根は単純な連中ですからね」
「根ではなくそのままだと思うが」
「まあ確かに」
「しかしこれで話が進んだな。これでいい」
「ですね」
「しかし大佐」
「何でしょうか」
 ブライトは博士に顔を向けた。
「君も人が悪い。いや、人の扱いに慣れていると言うできかな」
「伊達に老けてはいませんので」
「ははは」
 そんなやりとりをしながら彼等も進んだ。そしてブライトはラー=カイラムに乗り込むのであった。こうして戦いがはじまった。
「フフフ、予想通りだな。ここに来るのは」
 グン=ジェムは彼等を見据えてそう呟いた。
「ロンド=ベルめ、今度は逃がさんぞ」
「そ、それでどうする」
 ゴルが尋ねた。
「決まってるだろ。バラしちまうのさ」
 ガナンが相変わらず釘を舐めながら言う。
「スパッとね」
「ミンのはざっくりだけれどな」
 ジンが突っ込みを入れる。四天王も全員揃っていた。
「よし、いつも通りいくぞ」
「了解」
 四人はそれに頷いた。
「目標はロンド=ベル、一気に潰す。それから重慶を占領だ」
「ロンド=ベルさえやっちまえば後は楽だな」
「赤子の手を捻るようなもんだね」
「そ、その通り」
「丁度奴等の他に敵はいねえし」
「やるぞ皆の衆!」
「おう!」
 グン=ジェム隊が動いた。そしてロンド=ベルに襲い掛かる。彼等はロンド=ベルを取り囲んできた。
「来たな」
 ブライトがその動きを見ながら呟く。
「どうやらまた攻撃を仕掛けてくるようだな」
「そうみたいですね」
 トーレスがレーダーを見ながら言う。
「ただミノフスキークラフトは撒いていません」
「それも必要ないだろう」
 ブライトは艦橋から外を見ながらそれに応えた。
「これだけ曇っていればな」
 見れば外はどんよりと曇っていた。重慶は晴れることが少ない。従って今も曇り空であるのだ。
「ロボット部隊にも注意するように言え。視界に注意しろとな」
「はい」
「そして我々もだな。これは用心が必要だ」
「ですね」
「そしてドラグナーチームはいるか」
「はい」
 三人が一斉にモニターに姿を現わしてきた。
「ここにちゃんといますよ」
「パワーアップされたやつでね」
「よし」
 ブライトはそれを見て頷いた。
「では頼むぞ。いつも通りな」
「任せて下さいよ」
「こうなったら乗り掛かった船」
「そうそう」
 タップもいつもの彼に戻っていた。どうやら吹っ切れたようである。
「そういうわけで艦長、やらせてもらうぜ」
「期待していてくれていいから」
「それではそうさせてもらうか」
 ブライトはここは彼等を乗せることにした。
「どうだ、パワーアップされたドラグナーは」
「いいですね、最高」
「何っていうか乗り心地から違う感じですよ」
「そうか、それは何よりだ」
「けれど変ななんだろなあ」
「どうした」
「これって解体されるんでしたよね」
「ああ」
「それで何でパワーアップされてるんですか?変じゃないですか」
「それはだな」
 誤魔化そうとした。その時トーレスが言った。
「艦長」
「どうした」
「敵が接近してきます。指示をお願いします」
「おっと」
 ブライトはそれを受けて指揮官の顔に戻った。そしてすぐに指示を下す。
「砲門開け!」
「了解!」
 それを受けて動く。そして砲撃をはじめた。すぐにそれでメタルアーマーが数機撃墜される。
「弾幕も忘れるな!左舷いつもみたいにはなるなよ!」
「わかってますって!」
「ありゃりゃ」
 ケーン達はそれを見てとぼけた声を漏らした。
「絶妙のところで誤魔化されたな」
「まあいいんじゃないの。パワーアップしてくれてることはいいんだし」
「ご都合主義っていえばそうだけどな」
「そうだな。まあ今は深く考えないでおこうか」
「そうだな。じゃあ今回も暴れますか」
「よし」 
 彼等も戦いに入った。すぐにバズーカを放つ。
「これでどうだああっ!」
「ほう、小童共もいたか」
 グン=ジェムが彼等の前に出て来た。
「げ、おっさん」
「やっぱり出て来たか」
「フフフ、ヒーローは呼ばれた時に出てくるものよ」
「おっさんの何処がヒーローなんだよ」
「どっからどう見ても悪役じゃねえか」
「その減らず口、これで黙らせてやろう」
 グン=ジェムはそう言いながら巨大な青龍刀を取り出してきた。
「行くぞ!」
「うわっ!」
 それはケーンを狙っていた。危うくそれをかわす。
「危ねえじゃねえか!」
「死んだらどうするつもりなんだよ!」
「念仏位は唱えてやる」
 彼の返事はそれであった。
「だから大人しくしておれ!」
「そう言われて大人しくする馬鹿が何処にいるんだよ!」
「ケーン、いいからここは避けろ!」
「あんなのまともに受けたら只じゃ済まねえぞ!」
「わかってるって!」
 三人はそれぞれコンビネーションをとりながらグン=ジェムと対峙する。だがそれでは何とか互角といったところであった。彼等ではまだグン=ジェムの相手は荷が重いようであった。
「これはまずいな」
 ブライトはそれを見て言った。
「あの三人ではまだ無理か」
「どうしますか?」
「ゼンガーはどうしている」
「ゼンガーは」
 トーレスはそれを受けて戦局を見た。するとゼンガーは今丁度クスハやブリットと共に敵の小隊を一つ全滅させたところであった。
「丁度手が空いておりますが」
「そうか、ならいいな」
 ブライトはそれを受けて頷いた。そして指示を下した。
「それではゼンガーを向かわせろ。いいな」
「わかりました」
 ゼンガーがグン=ジェムのところへ向かう。ケーン達はグン=ジェムの前に中々手を打てないでいた。
「クッ、何て腕だ」
「フフフ、この前のようにはいかんぞ」
 グン=ジェムは高らかに笑ってそう言った。
「さて、観念したか」
「生憎俺は諦めが悪いんでね」
 ケーンはそう言葉を返した。
「観念なんて言葉は知らねえんだよ」
「その心意気気に入ったぞ、若僧」
 グン=ジェムはそう言うと刀を大きく振り被った。
「では武士の情だ。一思いにやってやろう」
「チッ、よけるしなねえな、こりゃ」
「待て!」
 だがそこに一陣の風が吹いた。
「風!?」
 違った。それは声であった。
「ケーン=ワカバよ」
 そこにいたのはゼンガーであった。彼のグルンガストが前に出て来たのだ。
「ここは俺に任せるのだ」
「ゼンガーさん」
 ゼンガーはケーンのドラグナーの前に立ってそう言った。
「よいな」
「けれどよ」
「今の御前ではこの男の相手をするのは困難だ」
 だがゼンガーはケーンの言葉を遮りそう述べた。
「他に相手をすべき敵がいる。今はこの男の相手をすべき時ではない」
「時じゃないってのか」
「そうだ」
 ゼンガーは答えた。
「今は俺に任せるのだ。いいな」
「ケーン」
 ライトがそれを受けてケーンに声をかけてきた。
「ここはゼンガーさんの言葉を受けようぜ。今の俺達じゃこのおっさんの相手は荷が重い」
「けれどよ」
「タイミングってやつだよ」
 タップも言った。
「今はそのタイミングじゃないんだ。だからここは大人しく引き下がろうぜ」
「それがわからない御前じゃないだろう」
「・・・・・・わかったよ」
 ケーンは渋々ながらそれを受け入れることにした。頷く。
「じゃあゼンガーさん、お願いします」
「うむ」
 ゼンガーもそれを受け入れた。
「それではここは俺に任せるのだ。いいな」
「はい」
「じゃあ俺達はこれで」
 こうしてドラグナーチームの三人は別の戦場に向かった。ゼンガーは彼等を背にグン=ジェムと対峙していた。
「ギガノスきっての剣豪グン=ジェムか。話には聞いている」
 まずはゼンガーが口を開いた。
「あの三人を相手にしても一歩も引かぬとはな。噂通りの腕のようだ」
「お世辞はわしには通じぬぞ」
 だがグン=ジェムはそれを笑って受け流した。
「金か食いものならともかくな」
「世辞ではない」
 ゼンガーはそう言い返した。
「本当のことだ。俺は嘘は言わぬ」
「そうか。では御前は一つ間違えておるから言っておこう」
「何だ」
「わしがギガノスきっての剣豪ではない」
 そしてこう言った。
「ギガノスの汚物よ。汚物は剣豪ではないな」
「・・・・・・汚物だからといってその中にる剣は隠せはしない」
 ゼンガーの返答はそれであった。
「ゼンガー=ゾンバルト、今ここに言おう」
 そう言いながら剣をゆっくりと引き抜く。
「死合う!」
「面白い」
 構えをとったゼンガーを見てグン=ジェムも笑みを浮かべた。
「ならばわしも貴様と剣を交えよう。覚悟はいいな」
「覚悟ならば常にできている」
 ゼンガーは言った。
「男として、剣を手にする者としてな」
「気に逝ったぞ、その言葉」
 グン=ジェムも構えた。
「では思い切り死合うとしようぞ」
「参る!」
 両者は互いに剣を振りかざした。そして同時に前に出た。
「グオオオオッ!」
「ムンッ!」
 グン=ジェムの咆哮とゼンガーの気合が交差する。そしてぶつかり合う。両者の一騎打ちが幕を開けたのであった。
 剣撃が乱れ飛び銀の火花が辺りを彩る。激しい動きは何時しか舞の様になっていた。
 激しい戦いと時として舞の様に美しくなるという。二人の戦いがまさにそれであった。
「すげえ」
 その戦いに何時しか両軍は魅入られていた。戦いを止めそれを見守っていた。戦いは一時中断する形となっていた。
 ロンド=ベルもグン=ジェム隊の者達もそれを見守る。双方固唾を飲んで見ていた。
「よく見ときなよ」
 ミンは周りの者に対してそう言った。
「あれが大佐の本当の力だよ」
「あれが」
「ああ」 
 ミンは笑った。
「ちょっと本気を出せばね。あれだけの剣の腕があるんだよ」
「久し振りに見たよな」
 ガナンもそれに応えた。
「何か最近は俺達が前に出ていたからな」
「けれどそれがいいからな」
 ジンもいた。
「まあな。特に御前さんはそうだろ」
「あ、ああ」
 ゴルは頷いた。
「けれどこうやって大佐の戦いぶりを見るのもいい」
「ああ」
「思う存分見せてもらおうぜ」
 彼等は動こうとはしなかった。無粋な真似はせずグン=ジェムの戦いを見守っていた。それはロンド=ベルも同じであった。
「凄いな」
 アムロがそれを見て呟いた。
「ゼンガーの剣捌き、尋常なものじゃない」
「そうだな」
 京四郎がそれに頷く。
「俺よりも上かも知れないな」
「京四郎さんよりも!?」
「ああ」
 ヒメに対して頷く。
「俺だからわかるのかも知れんが。グン=ジェムの腕は俺なんか足下にも及ばん」
「京四郎さんがそう言うのなら本当なのね」
 カナンが納得する。
「信じられないけれど」
「そういうことだ。あとわかってるな」
「ええ」
 皆京四郎の言葉に応える。
「下手な手出しは無用だ。いいな」
「了解」
 彼等もまた戦いを見守っていた。そしてその中に一騎打ちは続いていた。
 斬り合いは既に数百合に達していた。だが何時終わることかわからないまでに続いていた。戦いは収まるどころかさらに激しくなるようであった。
「やるな」
「貴様こそな」
 両者は互いにニヤリと笑ってそう言葉を掛け合った。
「ここまでの奴に会ったのは久し振りだ」
「その言葉、痛みいる」
 ゼンガーはグン=ジェムの言葉に応えた。
「だがそれも終わりにさせてもらおう。行くぞ!」
「ムッ!」
 グン=ジェムは振り被った。そして思い切り刀を振り下ろす。
「成仏するがいい!」
「何のっ!」 
 ゼンガーはそれをかわした。後ろにも横にも跳んだのではなかった。
 前に出たのだ。そしてそれでかわした。これには一同目を瞠った。
「何っ!」
「示現流に下がるという技はない!」
 ゼンガーは叫んだ。
「只前に出るのみ。そして」
 言葉を続けながら剣を繰り出す。
「前にいる敵を倒すのみ!」
 一撃を繰り出した。それはゲイザムの左腕を切り落とした。刀を持つ腕であった。
「グウウ・・・・・・」
「勝負あったな」
 ゼンガーはグン=ジェムの背中に出ていた。そして振り返りそう言った。
「おのれ・・・・・・」
「では覚悟はいいな」
「フン」
 グン=ジェムはそれに対して不敵に笑った。
「生憎わしは降伏することも死ぬことも嫌いでな」
「ではどうするつもりだ」
「逃がさせてもらう。わしは逃げるのも得意でな」
 そう言いながら間合いを離した。そして自軍の中に入った。
「また来る。その時こそ決着をつけてやろうぞ」
 グン=ジェムは去った。彼の部下達も彼と共に姿を消した。こうして戦いは終わった。
「終わったな」
「追わなくていいのかい?」
 甲児がゼンガーにそう声をかけてきた。
「折角勝ったってのによ」
「いい」
 ゼンガーは一言そう述べた。
「今はな。逃がしてもよい」
「何でだよ」
「二度の敗北でグン=ジェム隊はその力を大きく削がれた。これで暫くの間は奴等も大きな作戦行動を起こせないからだ」
「そうだな」 
 フォッカーがそれに頷く。
「今の戦いでも連中は派手にやられた。流石に今は戦力の回復に務めるだろう」
「うむ、あのグン=ジェムという男指揮官としても有能なようだからな」
「そうなのか」
 甲児はそれを聞いて半分わかったようなわからないような声を出した。
「外見からは想像もつかねえけれどね」
「兜、人を外見で判断するのはよくないぜ」
 ボスが忠告した。
「おいらいたいにハンサムならともかくな」
「おいおい、ボスがハンサムかよ」
「何ィ、文句あるのかよ」
「その前に本名はいい加減わかったのかよ」
「男がそんな小さいこと気にするなだわさ」
「・・・・・・それって小さいことかなあ」
 シンジが呟く。
「思いきり大きなことですよね」
 デメクサの言葉が最後となった。何はともあれ重慶の戦いは幕を降ろした。
「こうして晴れてロンド=ベルに正式に入隊」
 ケーンがブリーフィングルームではしゃいでいた。
「皆、宜しくな」
「何か予想通りだけれどね」
 リューネが言う。
「それでも歓迎するよ。大勢いた方が楽しいしね」
「そうそう」
 セニアがそれに同意する。
「ロボットって一杯あった方がいいじゃない。色々と研究できて」
「セニアって結局それなのね」
「悪い?」
「悪くはないけどモニカと全然違うからね」
「モニカはモニカ、あたしはあたし」
 リューネに対してそう反論する。
「だからいいじゃない」
「まあそうだけれどね」
「何というかお姫様らしくないんだよなあ」
 マサキの言葉も意に介していないようであった。
「別にいいわよ。王位継承権ないんだし」
「だからといって気ままに振舞っていいというわけじゃないし」
「そうそう」
 オザワの言葉にベッキーも頷く。
「まあそれが役に立っているからいいけれど」
「ケースバイケースてやつだね」
 シモーヌがここでこう言った。
「だからセニア姫にはあたしはとやかく言うつもりはないよ。魔装機の整備もしてくれるしね」
「さっすがシモーヌ。話がわかるわね」
「確かに」
 タダナオもそれに同意した。
「姫には我々もお世話になっていますし」
「タダナオもそう思う?」
「は、はい」
 赤い顔でそれに頷く。
「少なくとも私はそう思いますが」
「やっぱりわかってくれる人はわかるのね。嬉しいわ」
「まあそうなんだけれどな」
「魔装機が地上でも満足に戦うことができているのはセニアとウェンディさんのおかげだし」
「二人がいないとどうしようもないわよ」
「縁の下の力持ちってわけだな」
「そうなるな」
「俺のところでいうとミッチーみたいなものか」
「宙さん」
「ミッチーがいなかったら俺は只のサイボーグだからな」
「そういえば宙って邪魔大王国はもう滅ぼしているのよね」
「ああ」
 宙はセニアの問いに答えた。
「この手でな。色々とあったが」
「そうだったの。けれどあのククルってのが復活させたのよね」
「あいつが何者か知ってる?」
「いや」
 だが彼はそれには首を横に振った。
「残念だが。よくは知らない」
「そう」
「だったら仕方ないわね」
「あの女は俺が戦ってきた連中とは違う」
 宙は言った。
「能力も外見も。他の連中とは全然違う」
「そうね」
 美和がそれに頷く。
「彼女は何か私達に近いものを感じるわ」
「俺達に」
「ええ。何処かね」
「確かにな」
 ゼンガーがそれに同意した。
「俺はあの女と何度か刃を交えた」
 自らの経験からそう言う。
「あの動き、邪魔大王国のそれではない」
「やはりな」
 宙はそれを聞いて頷いた。
「では一体」
「そこまではわからないがな」
「けれどそうだとすればそれで謎よね」
 クスハが言う。
「一体あの人は何なんだろう」
「それもおいおいわかるんじゃないかな」
「アラド」
「それに今のところ邪魔大王国とは戦っていないんだし。置いておいていいと思うよ」
「そういうわけにはいかないわよ」
 ゼオラが口を挟んだ。
「だからあんたはいつも能天気って言われるのよ」
「いや、アラドが正しい」
 ゼンガーはここはアラドの肩を持った。
「ゼンガーさん」
「今我々は邪魔大王国とは戦闘をしていない。奴等は今日本にいる筈だ」
「そのようですね」
 ツグミが言った。
「今のところ話は聞きませんし。先の戦いでの傷を癒しているのではないでしょうか」
「だろうな」
 竜馬が頷いた。
「だとすれば今奴等のことは考えなくていいな。それよりも目の前のことを考えよう」
「グン=ジェム隊、そしてティターンズのことですね」
「そうだ」
「連中は今目の前にいるからな。対策を練っておかなきゃな」
 隼人も言った。
「特にティターンズはな」
「ああ」
 弁慶の言葉に頷く。
「連中だけじゃないからな」
「ドレイクか」
「そうだ」
 ショウの言葉を指摘した。
「連中をどうかするか、だな。問題はそこもだ」
「ドレイク。まさかまた地上に出て来るなんて」
「しかもティターンズと組むなんてな。俺も信じられないさ」
「そんなものだ」
 隼人に対してサコンがそう答えた。
「人間ってのは利害で結びつくものさ。特にああした人種はな」
「サコン」
「それは覚えておいて損はない。そして利害がなくなったならば」
「結びつきが切れる」
「そういうことだ」
 サコンは言った。それは確かに真実であった。
「そこも考えていくべきだな、連中には」
「ああ」
 彼等の話は入り組んだものになった。そしてそれは長い間続いた。
 ロンド=ベルもまた戦いへの備えを進めていた。そしてそれは勝利を目指すものであった。

 戦いを終えたグン=ジェム隊は予想通り戦力の回復に務めていた。破壊されたメタルアーマーの補充及び修理に専念すると共に兵員や物資の補充も受けていた。そして次の機会を待つのであった。
「大事なのはこれからどうするかだ」
 グン=ジェムは部下達に対してそう語った。
「まずは力を回復させなきゃならん」
「賛成」
 四天王もそれに同意した。
「それまではたっぷり力をつけておけ。いいな」
「言われなくても」
 彼等はテーブルを囲んでいた。そして多量の肉を口にしていた。
「た、大佐」
 まずはゴルが口を開いた。
「この肉美味いな」
「おう」
 彼は骨付き肉にかぶりついていた。グン=ジェムも同じである。
「いい豚肉だな。やはり豚はいい」
「そうだな」
 ガナンも食べていた。
「何か砂漠の方じゃこれは食えねえからな」
「あっちはムスリムが多いからね」
 ミンがそれに応える。
「連中は豚食わないからね」
「確か戒律がどうとか言ってたな」
「ああ」
 グン=ジェムに答える。
「戒律のせいでこんな美味いもんが食えないなんて悲しいことだよ」
「だがその分俺達が食える」
 ジンが突っ込みを入れる。
「まあそういうことだな」
 ガナンは骨を皿に放り出してまた新しい肉にかぶりついた。そこに別のメニューがやって来た。
「おう、来たな」
 グン=ジェムはそれを見て嬉しそうに笑った。見ればそれは大蛇を丸ごと料理したものだ。香辛料をふんだんに使ったソースをかけている。そしてグラスも人数分運ばれてきた。赤いものがその中にある。
「これよ、これ」
 グン=ジェムはそれを見てまた笑った。
「やっぱり蛇の生き血は食前酒にもってこいだな」
「おう」
 ガナンがそれに頷く。ゴルとジンもそれを飲んだ。だがミンはそれを口にしなかった。
「やらねえのかい」
「あたしは蛇が嫌いでね」
 それが答えだった。
「悪いけどあたしはいいよ」
「そうかい」
「じゃああの伊達男にでもやるか」
「そういやプラート大尉がいないな」
 ジンがそれに気付いた。
「奴なら別行動だぞ」
 それにグン=ジェムが答えた。
「別行動」
「うむ、奴もここには今一つ会っていないようだったのでな。あの三人組と合わせて別行動をとらせることにした」
「そうだったんだ」
「さ、寂しいのかミン」
「馬鹿言っちゃいけないよ」
 ゴルにそう言葉を返す。
「あんなキザ野郎。あたしには合わないよ」
「そうだろうな」
「ミ、ミンにはもっといかつい男が似合う」
「あたしの男の趣味は五月蝿くってねえ」
 彼女は得意気に語りはじめた。
「男気のあるのがいいんだよ。それもあたしに釣り合うね」
「じゃあいねえな」
 ガナンはばっさりと切り捨てた。
「そんなの地球にはいねえ」
「宇宙にもな」
「ガナン、ジン」
 ミンは二人を睨み据えた。
「じゃあ何かい!?あたしに魅力ないって言うのかい」
「わしはそうは思わんぞ」
「大佐」
「だがミンの相手をしたら身体がもたんだろうな」
「普通の男ならな」
「み、三日でお釈迦」
「チッ」
 ミンはそれを聞いて舌打ちした。
「やわな男は嫌いなんだよ。あたしみたいな荒れ馬を乗りこなせるようないい男じゃないとね」
 そう吐き捨てた。彼等がそんな話をしているその時マイヨは一人砂漠にいた。プラクティーズや正規軍の面々と行動を共にしている。グン=ジェムの言葉通りであった。
 彼は手に一通の手紙を持っていた。それを読み険しい顔をしていた。
「何ということだ」
 そして嘆息した。そこには月のことが書かれていた。
 ギガノスは今紛糾していた。地球をそのままの形にしようというギルトールに反発する者達がいるというのだ。
「ギルトール閣下の崇高な理念を理会できない者が我がギガノスにいるとは」
 それが彼には信じられなかった。彼にとってギルトールの理念は無謬のものであるからだ。
 だがそれに意を唱える者達がいた。ドルチェノフ中佐等急進派の将校達だという。
「閣下の理念に従えば我がギガノスの理想は達成されるというのに」
 全てを否定されたような気になった。それ程までに彼はギルトールを崇拝していたのだ。
 だからこそ悩む。しかし地球にいる彼は今それに対して何もできはしない。それは嫌な程よくわかった。
「どうすればいいのだ」
 しかし答えは出なかった。出る筈もなかった。だからこそ悩むのであった。
「・・・・・・・・・」
 マイヨは一人悩んだ。悩まずにはいられなかった。そして時間だけが過ぎる。彼はその中で一つの考えを持つのであった。


第二十四話    完


                                     2005・5・29


[283] 題名:第二十三話その二 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月23日 (木) 19時26分

「ムッ」
 やがて彼はレーダーを見て反応した。
「大佐」
「どうした、ジン」
 グン=ジェムは彼に顔を向けた。
「敵です。新手が来ます」
「新手か」
「ええ」
 彼は答えた。
「敵の戦艦の前です。結構いますよ」
「そうか」
 彼はそれを聞いて頷いた。
「じゃあ御前も行け。いいな」
「了解」
 ジンの部隊も動きはじめた。するとそこでドラグナーチームが姿を現わした。
「竜騎士隊、参上!」
「お待たせえ!」
「俺達が来たからにはもう安心だぜ!」
 ケーン、タップ、ライトの三人が朗らかな声を出す。そして戦場に颯爽と名乗りを挙げた。つもりだった。
「あんた達、何ふざけてんのよ!」
 後ろからアスカの声がしてきた。
「あれ、アスカいたのかよ」 
 ケーンがそれを聞いてとぼけた声を出した。
「御前も間に合ったのか」
「フン、あたしを誰だと思ってんのよ」
 アスカは胸を張ってそう言う。
「あたしはねえ」
「やかましい女だろ」
 タップが言う。
「それじゃなきゃ五月蝿い女かな」
「どっちにしろいい意味じゃねえけれどな」
 ライトとケーンもそれに合わせた。
「ええい、黙ってなさい!そんなんだからピーマン頭って言われるのよ!」
「ピーマンか、今度は」
「その前は玉葱だったかな」
「いや、カボチャだったぜ。確か」
「どっちにしろ野菜なんだな」
「いいんじゃねえの?レイちゃんがベジタリアンだし。なあ」
「私は」
 アスカと共に出撃していたレイが彼等に合わせる。
「別にいいですけれど」
「そうか。なあアスカ」
「何よ」
「たまには果物でも出してくれよ。俺達も野菜ばっかじゃ飽きるぜ」
「そういう問題じゃないと思うけれど」
 シンジがそれを聞いて呟く。彼もトウジもいたのだ。
「おい、御前達」
 しかしここでピートの突込みが入った。
「話はいいから早く戦うんだ。いいな」
「ちぇっ、ピートさんは真面目だなあ」
「ホント、同じアメリカ人だってのに俺なんかとは偉い違い」
「ここらへんが学生と海兵隊のトップガンの差だろうね」
 しかしそれでも三人は相変わらずの調子であった。それでも戦場に向かった。
「やっと行ったか。よし、エヴァは戦艦の周りを固めてくれ」
「了解」
 シンジ達はそれに頷いた。
「そろそろ敵も近付いてきた。接近戦もあるだろうからな」
「まあ任せといてよ」
 アスカがまた胸を張って言った。
「天才のあたしがいるんだからね。どんと構えてなさいって」
「アスカさん、前に敵が来ていますよ」
 そこでルリがアスカに言った。
「えっ、嘘」
「本当です」
 見れば本当だった。ジンのスタークダウツェンであった。
「丁度いい獲物がいたな」
 ジンはアスカのエヴァを見てそう言った。
「エヴァを仕留めりゃでっかい手柄だ。やらせてもらうぜ!」
「あたしは手柄じゃないわよ!」
 そう言い返す。そしてジンの攻撃をかわした。
「フィールド使うまでもないわ!」
「言ってくれるな!」
 人はそれを聞いて笑った。
「じゃあ一思いにやってやる!」
「やれるもんならね!」
 エヴァも戦いに入った。こうして二分が過ぎた。
「あと一分か」
 ブライトはそこで呟いた。
「他のパイロット達はどうしている」
「はい」
 サエグサがそれに答えた。
「丁度皆戻りました。今それぞれのマシンに向かっています」
「そうか」
 ブライトはそれを聞いて頷いた。
「ならいい。予定通りだな」
「はい」
 サエグサは頷いた。
「準備が整い次第全機出撃だ。いいな」
「はい」
 彼等の前の戦いはさらに激しくなっていた。ドラグナーチームはその中に入っていた。
「ドラグナーだあ!当たると痛てえぞおっ!」
 ケーンはビームサーベルを振り回しながらそう言う。そしてグン=ジェム隊のメタルアーマーを次々と斬り伏せていく。
「死にたくない奴はどっか行きやがれ!」
「といっても来るのが戦争」
「それを相手にするのが俺達」
 タップとライトはそんなケーンのフォローをしながらそう言った。
「しかし妙だな」
「どうした、ライト」
 ケーンが彼に問うた。
「いや、あそこにいつもの旦那がいるな」
「ああ」
 ライトはそう言って後方にいるマイヨのファルゲン=マッフを指差した。
「ついでにあの三人組もいるぜ」
 タップはプラクティーズを指差していた。
「いつもは真っ先に突っ込んで来るあの旦那が大人しくしているってのも妙だな」
「まあそうだけれどな。けれどあっちにはあっちの事情があるんだろう」
 ケーンはあまり深く考えずにそう言った。
「とりあえず俺達は目の前にいる奴等を相手にしようぜ。何かとんでもねえのが来てるし」
「あれか」 
 タップは今度はグン=ジェムのゲイザムを指差した。緑のマシンであった。
「何か異様な外見だな」
「威圧感もあるぜ」
「フフフ、若僧共よくぞわかったな」
 グン=ジェムはケーン達の言葉を聞き満足気に笑った。
「わしがこの部隊の隊長グン=ジェムだ。以後覚えておけ」
「何かギガノスっていうより山賊か何かみてえだな」
「ああ」
 タップとライトがケーンの言葉に同意する。
「本当にロボットのパイロットか?」
「世紀末の世界から出て来たんじゃねえのかな」
「好き勝手言ってくれるな」
「まあそりゃ」
「俺達の仕事はそれだし」
「それは違うぞ」
 クワトロが突っ込みを入れる。
「君達の仕事はパイロットだが」
「わかってますって」
「ふざけただけですよ」
「大尉って冗談が通じないんだから、もう」
「・・・・・・だといいがな」
 それでもクワトロはまだ不満そうであった。
「まあいいだろう。君達は彼を相手にしてくれ」
 そしてドラグナーチームにグン=ジェムの相手をするように言った。
「了解」
「けれど大尉は?」
「私か?」
「ええ。てっきり大尉かアムロ中佐が相手をするとばかり」
 クワトロとアムロはロンド=ベルにおいて切り札とも言えるパイロットであった。当然グン=ジェムは彼等のうちどちらかが相手をすると思っていたのだ。
「ちょっとな」
 クワトロはそう答えて思わせぶりに笑った。
「思うところがあってな」
「わかった。ギガノスの蒼き鷹だ」
「けれどそれなら俺が」
「彼は動かんさ」
 しかしクワトロは彼等にそう答えた。マイヨの考えが読めていたのだ。
「?何故ですか」
「あ、いや」
 だがクワトロはそれを誤魔化すことにした。
「動きでな。あれはおそらくフォローに回るだけだろう」
「そうなのですか」
「じゃあ俺達は安心してあの山賊に向かいますね」
「ああ、頼む」
 クワトロは言った。
「フォローは私とアムロ中佐がやろう」
「だから安心して言ってくれ」
「了解。それじゃあ」
「ああ」
 アムロにも挨拶をしてグン=ジェムに向かう。だがグン=ジェムは彼等を前にしても余裕であった。
「ハッハハハ、来たな小童共が」
 彼は大声で笑った。
「貴様等ではわしの相手にはならんが食事の前の軽い運動には丁度いい」
「俺達は運動の相手かよ」
「御免こうむりたいね、可愛い娘ちゃんが相手じゃないんだから」
「同感」
「そう言ってられるのも今のうちだ」
 それでもグン=ジェムは笑っていた。
「貴様等、念仏は唱えたか。では行くぞ」
「俺クリスチャンなんだけれど」
 ライトがそれを聞いて呟く。だがそこにゲイザムの刀がやって来た。
「うわっ!」
 紙一重でそれをかわした。それを見たライトはもう笑ってはいなかった。
「何て太刀筋だ」
「フフフ、どうだ」
 グン=ジェムはライトを見据えて笑った。
「わしの太刀は。驚いただろう」
「ああ、流石にな」
 ライトの言葉にいつもの軽さはなかった。
「これは厄介な奴だぜ。ケーン、ライト」
 そして他の二人に声をかける。
「気をつけろ。これはかなりの強敵だぞ」
「どうやらそうみたいだな」
 ケーンは言った。
「こりゃ三人力を合わせないとな」
 タップも頷いた。やはり顔は真剣なものだった。
「散るぞ。いいな」
「ああ」
 ライトの言葉に従い散開する。それぞれグン=ジェムの斜めに向かう。
「連携は俺が指示するからな。二人共頼むぜ」
「わかった」
「フン、小僧共が無駄なことを」
 グン=ジェムの態度は囲まれても同じであった。
「どのみち貴様等はここでわしに始末されるのだ。無駄なことは止めろ」
「無駄かどうかはやってみなくちゃわからないってね」
「そういうこと」
「だから山賊のおっさんよお」
 三人はそれぞれ言う。
「俺達の若い力受けてみるんだな」
「決して無鉄砲じゃないぜ」
「若者は行動するから若者なんだからな」
「口の減らん奴等だ。だがな」
 ゲイザムは構えをとった。
「それはわしを倒してから言うのだな。できたらな」
「やってやらあ!」
「若者を舐めるなあっ!」
 三人とグン=ジェムはぶつかり合った。まずはタップとライトが攻撃を放つ。バズーカであった。
「いっけええ!」
「ケーン、今だ!」
「おうよ!」
 ケーンも攻撃を放った。同じくバズーカだった。だがグン=ジェムはそれを何なく受け止めた。
「今何かしたのか?」
 そしてニヤリと笑って三人に問うてきた。
「何っ!?」
「俺達のフォーメションアタックを受けてピンピンしてやがるとは」
「このおっさん不死身か!?」
「その通り」
 何とグン=ジェムはその言葉を肯定した。
「わしは不死身よ!この程度の攻撃で倒れると思ったか!」
「チッ、どうやら俺達の相手は怪物じゃなくてゾンビだったみてえだな」
「ゾンビっていうより海坊主だろ」
「またメジャーな名前が出て来たな」
「フフフ、海坊主か。それはいい」
 彼はそれを聞いて笑った。
「では小童共を頭から食ろうてやるわ!」
 そして刀を振り回して三人に向かう。戦いはさらに激しさを増すのであった。
 そこで三分経った。遂にロンド=ベルが全軍出て来た。
「待たせたな!」
「済まない皆!」
 ジュドーとカミーユが最初に出て来た。
「今度の敵は何か世紀末な奴だな」
「サンシローさん何か懐かしそうですね」
「否定できないな」
 ブンタの言葉に苦笑した。
「何でかわからないが」
「俺もだ」
 フォッカーもそれに同意する。
「何か妙に懐かしい雰囲気だな」
「それを言ったらあたしもそうだよ」
 沙羅が言った。
「少佐達とは一回それについてよくお話したいね」
「ああ。何かそんな気がする」
 竜馬も言う。
「何故だろうな。なあ一矢」
「そうだな。何故だろう」
「とんでもない拳法でもあるんじゃないのか」
 リーがポツリと呟いた。
「拳法か。そういえば」
 ここでチラリとドモンの方を皆見る。
「一人ケタ外れなのがいるしな」
「俺は普通だ」
 しかし本人はそう強弁した。
「こんなことは修業すれば誰でもできることだ」
「できたら苦労しないわよ」
 グランガランの艦橋にいるリツ子が突っ込みを入れる。
「使徒を素手で倒すなんて流石に思いもよらなかったわ」
「けれど格好よかったですよね」
 シンジが彼女にそう言う。
「シンジ君・・・・・・」
「僕何かあの人に憧れます。格好いいですから」
「おっ、シンジも一皮剥けたな」
 甲児がそれを聞いて嬉しそうな顔をする。
「それでこそロンド=ベルだぜ」
「甲児君・・・・・・」
 だがミサトはそれに対していささか不満なようであった。
「幾ら何でもエヴァはあんなことできないわよ」
「マジンガーは腕飛ばせますよ」
「そんな問題じゃなくてね。あの人は人間かどうかもあやしいでしょーーーが」
「師匠は人間だ」
 ドモンは強弁した。
「あんな素晴らしい人は他にはいない!」
「人間かどうかすらあやしいぜ、ありゃ」
 だがリョーコがそれに疑問の声を呈した。
「けれど格好いいのは事実ですよね」
「おさげの髪の中年。おっさげえ」
 ヒカルが言えばイズミも洒落を飛ばす。だがドモンは冷気にも負けずに続ける。
「いずれそれは皆もきっとわかってくれる筈だ」
「その通り!」
 ガイがそれに賛同した。
「ドモン=カッシュ、御前は本当の漢だな!」
「ガイ」
 ドモンは彼に顔を向けた。
「いずれ貴様とは心ゆくまで語り合いたい。いいか」
「望むところだ」
 ドモンはニヤリと笑ってそう返した。
「男なら」
「うむ」
「心ゆくまで語り合うべし!」
「そしてそこから真の友情が生まれるのだ!」
 彼等は波を背負ってそう宣言した。そして舞台は移った。
「・・・・・・熱いのはもういいから」
 アムが突っ込みを入れる。
「とにかく今は目の前の敵をやっつけちゃいましょ。丁度一杯いるし」
「おっと」
 ドモンもガイもそれに気付いた。
「そうだな。それではまず」
「この連中を相手にするか」
「というかそれが先でしょーーーが」
「困ったものだな。男ってやつは」
「あら、女だってそうよ」
 レッシィにマーベルがそう言った。
「マーベルさん」
「貴女もそれはわかってると思うけれど」
「ああ」
 レッシィはにこりと笑ってそれに応えた。
「確かにな。あんた程じゃないけれど」
「ふふふ」
「おいマーベル」
 ショウがマーベルに声をかけてきた。
「一体何の話をしているんだ?敵が来ているぞ」
「ふふふ、ちょっとね」
「あんたの話をしてたんだよ」
「俺の?」
 ショウはレッシィにそう言われ首を傾げた。
「俺とトロワや雅人の声が似てるってのはもう止めてくれよ」
「それなら私と早瀬中尉も言われたから言わないな」
「あたしなんかどれだけ同じなんだか。だからそれは言わないよ」
「だったらいいけど。気になるな」
「気にしなくていいわ」
「そうそう。どうでわかんないんだし」
「子供じゃないんだよ」
「そうだったわね」
「一応は」
 しかし二人はショウをその大人の女性の態度で扱うのだった。
「とにかく行きましょう。今は」
「ああ」
 マーベルにそう言われショウはようやく納得した。
「じゃあ行くか」
「ええ」
「それじゃあね、レッシィ」
「ああ。後で一杯やろうな」
「そうね。いいわね」
 そしてショウ達も小隊となり戦場に向かう。途中でトッドと合流していた。
「マーベルさんも大変だね。子供の御守りは」
「レッシィ」
 ダバの声がした。
「行くぞ。敵が来た」
「ああ、今行くよ」
 あたしもね、と思いつつ彼女も戦場へ向かった。彼女達もまたそれぞれの思いがあった。
 戦いが本格的になるとようやくマイヨ達も動きだした。だが彼等はあくまでグン=ジェム隊のフォローであった。
「大尉殿」
 戦場に向かいながらウェルナーがマイヨに声をかけた。
「どうした」
「あの者達のことですが」
「先に言った筈だ」
 だがマイヨはそんな彼に対しそう言った。
「言うなとな」
「はい」
 ウェルナーはそれを受け仕方なく頷いた。
「今は戦いに専念しろ。ロンド=ベルは手強いぞ」
「わかりました」
「そのロンド=ベルですが」
 今度はカールが口を開いた。
「どうした」
「本隊が出て来ました。我々も本格的に戦闘に参加しなくてよいのでしょうか」
「今回の我々の任務はグン=ジェム隊のフォローだ」
 マイヨは一言そう述べた。
「それも任務だ。そういうことだ」
「ハッ」
 だがマイヨの顔は堅いままであった。やはり彼にも色々と思うところがあった。しかしそれを態度には表さないだけであったのだ。
「ダン」
「はい」
 マイヨはダンに声をかけてきた。彼はそれに応えた。
「左に行け。ウェルナーは右、カールは中央だ」
「ハッ」
「了解しました」
 二人もそれに頷いた。そして三人はそれぞれの小隊と共に動いた。
「私も行く。よいな」
「ハッ!」
 マイヨも動いた。そのレールガンが煌いた。
「奴等の迎撃態勢が整う前に・・・・・・」
 彼はセラーナの乗るゼータに照準を合わせていた。
「叩く!」
 そしてレールガンを放つ。光が一直線にセラーナに向かっていった。それはセラーナを貫くかに見えた。だがそうはならなかった。
「来る・・・・・・!」
 セラーナは直感でそれを悟った。死が来ていると。
 すぐに動いた。ゼータをウェイブライダーに変形させた。そして飛翔した。
 それでマイヨの攻撃をかわした。それからまた元に戻り着地した。
「ムッ!?」
 マイヨはそれを見て目を瞠らせた。
「あのゼータ・・・・・・できるな。カミーユ=ビダンか」
 彼もカミーユのことは聞いている。アムロやクワトロの次にくるロンド=ベルのエースパイロットであった。
「いえ、違います」
 だがダンがマイヨにそう言った。
「では誰だ」
「あれは確かセラーナ=カーンだった筈です。本来は連邦政府の高官らしいですか」
「セラーナ=カーンか」
「御存知でしたか?」
「いや。だがいい腕をしている」
 彼は一言そう言った。
「どうやらロンド=ベルのパイロットは皆優れているようだな。戦いがある」
 マイヨはそれが満足だったのだ。そしてそのまま攻撃を続ける。
「相手にとって不足はない。ギガノスの蒼き鷹の力見せてくれようぞ」
「はい!」
「我々も!」
 彼等も戦線に参加していた。こうして戦いは激しさを増すばかりであった。だが次第に個々のパイロットの技量と性能で大きく勝るロンド=ベルがやはり優勢になってきていた。グン=ジェムにもそれはわかっていた。
「損害が馬鹿にならなくなってきたな」
 彼はその戦局を見てそう呟いた。
「うちの猛者共も攻めあぐねているようだしな。ここは潮時かのう」
 そこへ新たな敵がやって来た。ジンが戦闘を続けながら言う。
「大佐、敵だぜ」
「おい」
 ライトもであった。
「また新手だ。ゴキブリみたいだな」
「俺達はゴキブリかよ」
 ジンがそれに反論する。
「生憎だが俺達じゃねえぜ」
「あ、ホントだ」
「これは違いますね」
 ルリも言った。
「はじめて見る敵です。これは」
「デスアーミーよ」
 ここでマスターアジアがいきなり戦場に姿を現わしてきた。
「師匠」
「ドモンよ、約束通り来てやったぞ」
 彼はビルの屋上に腕を組み立っていた。そしてドモンに言った。
「御前も元気そうで何よりだな」
「はい。ところでデスアーミーとは」
「一言で言うと悪の尖兵だ」
「悪の尖兵」
「そんなの山程いるんじゃねえのか?」
 ヤマガタケがそれを聞いて呟いた。
「どっちにしろまた新手の敵が出て来たってところだな」
「そういうことですね」 
 リーとブンタがそう言った。これがロンド=ベルの面々の見解であった。
「地球を廃墟にせんとする者の手先だ。わしは今まで奴等を追っていたのだ」
「それで香港に」
「うむ」
 マスターアジアはドモンの言葉に頷いた。
「奴等だけは何とかせねばならん。ドモンよ、用意はよいか」
「はい!」
 ドモンはそれに答えた。
「何時でも。師匠と共に!」
「よし、よくぞ言った!」
 マスターアジアはそれを受けて宙に跳んだ。
「出でよ、我が分身よ!」
 クーロンガンダムが姿を現わした。マスターアジアはそれに乗り込む。そして空中で構えをとった。流派東方不敗の構えであった。
「ドモン!」
「師匠!」
 二人は互いを呼び合った。
「ガンダムファイト」
「レェェェェェェェェェデェェェェェェイ」
 そして互いに叫ぶ。
「ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!」
 最後は同時に叫んだ。師弟が今左右で不敗の構えをとったのであった。
「・・・・・・なあ大佐」
 ミンがそれを見ながらグン=ジェムに声をかけてきた。
「何だ」
「ここは潮時なんじゃねえかい」
「潮時か」
「ああ。かなりやられちまったしまた敵が出て来るっていうしな。ここらが潮時だろう」
「ううむ」
「俺もそう思うぜ」
 ガナンが言った。 
「これ以上やっても意味はねえと思うな」
「どうやら敵は俺達も狙っているようだしな」
 ジンはレーダーを見てそう述べた。
「大佐、どうするよ」
「お、おでは大佐に従う」
「うむ」
 彼等が自分と同じ考えなのに密かに満足しながらグン=ジェムは頷いた。
「それでは腹は決まった。退くぞ」
「了解」
 四人はそれに頷いた。
「そのさい後ろを持つのは」
「私にやらせて頂きたい」
「御前か」
「はい」
 見ればマイヨであった。彼はグン=ジェムの言葉に頷いた。
「撤退の際の後詰はこの上ない名誉。是非やらせて頂きたい」
「死ぬかも知れんがいいのか」
「無論」
 マイヨはそれに即答した。
「武人として、ギガノスの軍人としてそれは覚悟のうちではありません」
「ほお」
「それは誇りなのです」
「言ったな。いい目をしとるわ」
 グン=ジェムはマイヨの目を見て言った。見ればその目は強い光で輝いていた。
「わし等とは違うな」
「どうせ俺達は愚連隊だしな」
「ヘッ、エリートに雑草はわからないさね」
「そう言うな」
 グン=ジェムはガナンとミンを黙らせた。そしてマイヨにまた言った。
「プラート大尉、それでは貴様に任せる。いいな」
「はい」
 マイヨは頷いた。
「大尉殿」
 そこへプラクティーズの面々も入ってきた。
「我等も御供致します」
「いや、いい」
 だがマイヨはそれを断った。
「御前達はグン=ジェム大佐と共に下がれ」
「しかし」
「これは命令だ」
 だがマイヨはそれに対し強い声でそう返した。
「命令」
「そうだ。御前達も軍人だ。ならばわかっているだろう」
「はい」
 彼等はそれに頷くしかなかった。
「そでは大尉殿、御健闘を」
「うむ」
 マイヨは静かに頷いた。そして撤退をはじめたギガノス軍の最後尾に来た。
「さあロンド=ベルの諸君よ」
 ロンド=ベルの面々を見据えて言う。
「私と剣を交えたいという者は来るがいい!」
「あれがギガノスの蒼き鷹か」
 ダバがそれを見て呟いた。
「どうやら死を覚悟しているな。相手にはしない方がいい」
「そうだな」
 レッシィがそれに頷く。
「ギガノスは退けた。今は彼等は相手にはしなくていい」
「ああ」
「問題は今迫っている敵だ」
「そうだな。ライト」
 ダバはライトに顔を向けた。
「今そのデスアーミーの動きはどうなっているんだ?」
「まっすぐこっちに来ているな」
 ライトはそう答えた。
「そろそろ来るぜ。おっ」
 そして声をあげた。
「来たぞ。皆準備はいいか」
「おう」
「何時でもいいぜ」
「よし」
 ライトは他の者の声に頷いた。
「パーティーの第二幕だ。やるぜ!」
「おう!」
 ロンド=ベルを黄色いロボットが取り囲んだ。見れば白い単眼を持っている。
「これがデスアーミー」
「そうだ」
 マスターアジアはドモンの言葉に頷いた。
「見たところ大した力はないようですが」
「だが油断はならんぞ」
「わかってます」
 師の言葉にそう頷く。
「では行きますか、師匠」
「うむ」
 師は弟子に対して頷いた。
「では行くぞドモン」
「はい」
 師弟は同時に動いた。
「流派東方不敗は」
「王者の風!」
 二人がまず突っ込んだ。そしてデスアーミー達に拳を振るう。
「未熟未熟!」
「はああああああああああああああああっ!」
 群がるデスアーミー達を次々と破壊する。だがそれでも彼等の数は減らない。
「俺達も行くぞ」
 アムロが他の者に声をかけた。
「二人だけに任せていては駄目だ」
「そうだな」
 クワトロがそれに頷く。
「総員攻撃に移れ。いいな」
「了解」
 それに全ての者が頷いた。そして一斉に動きをはじめた。こうしてデスアーミーとロンド=ベルの戦いが幕を開けたのであった。
 戦いは完全にロンド=ベルのものとなっていた。彼等はそれぞれ敵を撃つ。だがその数が違い過ぎた。先にギガノスとの戦いがありその疲れもあった。彼等の動きは少し鈍いようであった。
「やはりギガノスとの戦いの影響か」
「だろうな」
 クワトロがアムロに答えた。
「それに数も多い。一機一機はそれ程ではないがこうまで多いとな」
「ああ」
 アムロはそれに頷いた。
「だがやらなくちゃいけない。香港をこの連中に渡すわけにはいかないからな」
「何か策があるのか、アムロ君」
「残念だがない」
 アムロはそう答えた。
「けれどやってやるさ。こんな戦いは今まで幾らでもあったんだからな」
「落ち着いているな」
「それはお互い様だろう?」
 アムロはクワトロに顔を向けてそう言って笑った。
「宇宙怪獣たバルマーの時からそうだったんだからな」
「それは違うな」
 だがクワトロはそれに異論を述べた。
「一年戦争の頃からだ」
「そうだったな」
 アムロはまた笑った。
「じゃあそっちは頼むぞ」
「わかった」
 ニューガンダムが右、サザビーが左に位置した。そしてそれぞれ攻撃を放つ。
「いけっ、フィンファンネル!」
「ファンネルオールレンジ攻撃!」
 そしてデスアーミー達を撃つ。ファンネルにより彼等は薙ぎ倒されていった。
 だがそれでも数は減らない。その数を頼みにロンド=ベルに迫る。戦艦にも接近していた。
「弾幕薄いぞ、何やってんの!」
 ブライトが叫ぶ。彼の周りにもデスアーミーが群がってきていたのだ。
「ミサイル発射!同時に側面にも注意しろ!」
「はい!」
 トーレスとサエグサがそれに頷く。そして周りにいるデスアーミー達を倒していくのであった。
「いいからやっちゃって!」
 ユリカが叫ぶ。
「前の敵をまず撃って!」
「はい!」
 それにハーリーが頷く。
「艦長、前には」
 ルリがここでユリカに言う。
「アキトさん達がいますけれど」
「アキトなら大丈夫よ」
 ユリカはそれに対してにこやかに返した。
「だからグラビティ=ブラスト発射!」
「わかりました。アキトさん」
「俺!?」
「はい」
 ルリがアキトに答えた。
「上に飛んで下さい。ガイさんもです」
「よし!」
「サブロウタさんとジュンさんは左です。いいですね」
「あいよ」
「じゃあそれで」
 彼等はそれぞれ動いた。すると今までいた場所にグラビティ=ブラストが通った。そしてデスアーミー達を吹き飛ばしたのであった。凄まじい威力であった。
「どう、これがナデシコのパワーよ!」
 ユリカはそれで敵を倒すことができてはしゃいでいた。
「お化けなんかには負けないわよ!」
「お化けか」
 タケルがそれを聞いておかしそうに笑った。
「確かにな。何か変な気を感じる」
「気!?」
 それを聞いてジョルジョが声をあげた。
「タケルさん」
「はい」
 タケルは彼に顔を向けた。
「気を感じられたのですか」
「ええ」
 タケルはそれに答えた。
「それが何か」
「いえ」
 ジョルジョはそれに答えはしなかった。
「どうやら私の思い違いですね。確か貴方は格闘家ではありませんでした」
「残念ですけれど」
 彼は運動神経はかなりのものであった。だが格闘は専門的には学んではいなかったのである。
「俺そうしたことは専門的にはやっていなくて」
「ですね。でしたら違います」
「気を感じることですか」
「ええ。それはどうやら私の思い違いです。貴方はまた別の力を持ってもられます」
「別の力!?」
「それが何かまではわかりませんが」
 ジョルジョは言った。
「貴方はその力により今後大きなことを為さるかも知れませんね。その力、正しく使うのです」
「はい」
 何が何だかよくわからないまま頷いた。
「とにかく頑張ってみます」
「はい。それでは今はゴッドマーズの力、見せてもらいましょうか」
「わかりました。それでは」
「はい」
 タケルもデスアーミーとの戦いに参加する。ジョルジョはそれを後ろから見守っていた。
「よおジョルジョ」
 そこに他のシャッフル同盟のメンバーが来た。
「あのタケルってのはかない筋がいいみたいだな」
「おいらもそう思うよ」
「格闘家ではないようだがな」
「ええ」
 ジョルジョはそれに頷いた。
「それでは私達もタケルさんに負けないように頑張りましょう」
「おう、シャッフル同盟の名にかけて」
「この世に正義がある限り」
「悪は全ての力で粉砕する!」
 四人が一斉に動いた。そして周りにいるデスアーミー達を粉砕していく。圧倒的な力であった。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!」
「ハイハイハイハイハイハイハイハイッ!」
「ヌウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!」
「ムンッ!」
 チボデー、サイシー、アルゴ、そしてジョルジョの力はデスアーミーのそれなぞ問題にはならなかった。彼等は疾風の様な速さで敵を屠っていく。しかし彼等だけではなかった。
 戦場に何やら風が舞った。それと共に輪が数体のデスアーミーを両断した。
「誰だっ!」
 ドモンはそれを見て声をあげた。
「ギガノスの残党か!」
「あたしをあんなのと一緒にしないでくれる!?」
 ドモンの目の前のビルの屋上から声がした。
「折角助けに来てあげたのに」
「御前は」
「アレンビー=ビアズリー」
 アルゴがそこにいるガンダムを見上げて言った。
「ノーベルガンダムか」
「ノーベルガンダムゥ!?」
 ミサトがそれを聞いて顔を顰めさせた。
「また訳のわからないガンダムが出て来たのお!?」
「ネオスウェーデンのモビルファイターよ」
 ニナが彼女にそう説明する。
「何でも女の子に姿を合わせたガンダムらしいわよ」
「女の子ねえ」
 ミサトはニナの話を聞きながらあらためてそのガンダムを見た。見れば何かセーラー服を着ているようであった。
「確かに女の子らしいけれど」
 ミサトの顔はそのままであった。
「何かあれじゃあセーラー服を着た女子高生じゃない」
「貴女もそう思う?」
 ニナがあらためて問うてきた。
「ええ」
「私もそう思うわ」
 見れば彼女も顔を顰めさせていた。どうやら現実を必死に自分に言い聞かせているらしい。
「あれでもガンダムなのよ」
「そうなのよね。ううん」
 ミサトは一言漏らした。
「何かガンダムも色々いるわね」
「そうね」
 ニナもそれに頷いた。そして戦いに目を戻す。
「で、あれ強いの?」
「どうかしら」
 ニナは首を横に捻った。
「とりあえずは強いでしょ。仮にもモビルファイターなんだし」
「そうね」
「ただ」
「ただ?」
「どうせ変なのに決まってるでしょうけれどね」
「同感」
 二人は半ば諦めていた。そして戦いを見守っていた。
「まさか御前が来るとはな」
「久し振りね、アルゴさん」
 アレンビーはアルゴを見下ろしてそう声をかけてきた。
「元気だった?まあ見たところ元気みたいだけれど」
「ああ」
 アルゴは憮然とした声で答えた。
「俺はな。御前もそうだったみたいだな」
「まあね」
 アレンビーは明るい声でそれに頷いた。
「それでどうしてここに来たんだ?」
「どうしてって?決まってるじゃない。助けに来てあげたのよ」
「助けに」
「そうよ。ロンド=ベルをね。ネオスウェーデンの政府から直接言われたのよ」
「初耳だな」
 大文字はそれを聞いて呟いた。
「サコン君、知っていたかね」
「どうやら急に決まったみたいですね」
 サコンはそれにそう答えた。
「多分ミスマル司令が手回ししてくれたんでしょう。あの人ならやってくれますよ」
「ふむ」
 大文字はそれを聞いて考える顔をした。
「だとしたら有り難いな。それではアレンビー君」
「はい」
「喜んでその申し入れ受けたいが。いいかね」
「勿論ですよ」
 彼女は明るい声でそれに応えた。
「その為に来たんですから」
「そうか、それは何よりだ」
 大文字はそれを聞いて納得した。
「それでは宜しく頼むよ」
「はい!」
 すぐにアレンビーは動いた。天に跳ぶ。
「行くよっ!」
 そしてリボンを取り出した。
「ビームリボン!」
 それでデスアーミーを撃つ。一撃で粉砕していく。
「強いわね」
 それを見てミサトが呟く。
「ニナの言う通りね」
「ええ」
 ニナがそれに頷く。
「けれど一つ気になることあるのよ」
「何かしら」
「何でアルゴは彼女を知っていたのかしら。それもよく知っているようだけれど」
「そういえばそうね」
 ニナもそれについてふと考えた。
「アルゴっていえばねえ」
「ええ。ナスターシャさんよね」
「呼んだか」
 ここで低い女の声がした。そして軍服の眼鏡をかけたきつそうな顔立ちの女がラー=カイラムの艦橋に姿を現わした。
「あ、ナスターシャさん」
「うむ」
 彼女は二人を見て頷いた。彼女はナスターシャ=ザビコフ。ネオロシアのガンダムファイトの監督である。今はアルゴに同行しロンド=ベルに参加している。チボデーギャルズや少林寺の僧侶達と同じである。
「アルゴとアレンビーのことで聞きたいようだな」
「まあ話してくれるんなら」
「何かあったの?」
「アルゴはアレンビーに負けたことがある」
 彼女は一言そう言った。
「嘘」
「本当のことだ。ガンダムファイトでな。四十八秒で負けた」
「あのアルゴが」
「そうだ。あっという間にな。恐るべき強さだった」
 アルゴの強さはもうロンド=ベルの者ならば誰でも知っていた。そのアルゴを秒殺するとはそれだけで信じられないものであったのだ。
「あのアレンビーの強さは本物だ。それは私が保証する」
「本物、か」
「けれど一見じゃわからないわよね」
「私も最初はそう思った」
 ナスターシャは言った。
「だが見ていればいい。それでわかる」
「わかったわ」
 二人はそれに頷いた。
「じゃあ見せてもらうわ。ネオスウェーデンのモビルファイターをね」
「ちょっち怖いけどね」
「ふふふ」
 ナスターシャはそんなニナとミサトを見て笑った。
「では見ておいてくれ。我がネオロシアのアルゴもな」
 アルゴはもう戦闘に戻っていた。そのハンマーでデスアーミーを破壊していく。まさに鬼神であった。
「うおおおおおおおおおおおっ!」
「アルゴ、張り切ってるな」
 そこへイサムがやって来た。
「何か見ている方がやる気になってくるぜ」
「御前はそうだな」
 アルゴは彼に顔を向けてそう答えた。
「では見ているといい」
「おいおい、俺だってやるぜ」
 イサムはそう言葉を返した。
「何せガルドの奴に撃墜数で勝たなくちゃいけねえからな」
「それに勝てると思っているのか」
 ウィンクしながら言うイサムの側にガルドもやって来た。
「御前は今回まだ八機しか撃墜していない」
 彼は言う。
「俺は十機だ。それで勝てると思っているのか」
「ああ、勝てるさ」
 彼は言った。
「二機位これでな」
 バトロイドからガウォークに変形しながら言う。そして前にいる二機のデスアーミーを瞬く間にその拳で破壊した。
「どうだ」
「その程度か」
 だがガルドはそれを見ても冷静だった。
「それでは俺がもう一機倒せば済むことだな」
「じゃあ俺は二機倒してやるぜ」
「おい二人共」
 張り合う二人の上にフォッカーがやって来た。ファイターになっている。
「少佐」
「そろそろアルビオンに戻れ」
「あれ、何かあったんですか?」
「もう戦闘も終わりだ。見ろ」
 見れば戦場にデスアーミーは殆ど残ってはいなかった。その残り僅かなデスアーミー達に今クーロンガンダムとシャイニングガンダムが攻撃を仕掛けようとしていた。
「行くぞドモン!」
「はい、師匠!」
 二人はあの技を放とうとしていた。全身に気を込める。
「超級覇道・・・・・・」
「電影弾ーーーーーーーーーーーーっ!」
 マスターアジアが飛ぶ。そして周りにいる敵を一掃してしまった。それで戦いは終わりだった。
「すげえ」
 イサムはそれを見て一言そう漏らした。
「何回見ても無茶苦茶な強さだな」
「そうだな」
 フォッカーがそれに同意した。
「桁外れの強さなのは事実だな」
「はい」
 ガルドが頷く。
「あの強さは少し常識を超えています。現実のものとは思えません」
「だが現実だ」
 しかしそんな彼等にアルゴがこう言った。
「アルゴ」
「だから俺達は今ここにいるのだしな。違うか」
「いや」
 イサムが彼に対して言った。
「その通りだ。無口だがいいこと言うじゃねえか」
「褒めても何も出ないぞ」
「ウォッカもかい?」
「酒は別だ」
「そうか。じゃあ後で飲もうぜ」
「うむ」
「おい、俺も入れろ。最近クローディアに止められていてな」
 フォッカーも入って来た。彼等は酒の話をしながら艦に戻った。これも勝利者の特権の一つであった。
「さてドモンよ」
 戦いが終わりマスターアジアはあらためてドモンに顔を向けた。
「また腕をあげたようだな」
「有り難うございます、師匠」
「近いうちにわしを越えるかも知れんな」
「いえ、そのような」
「謙遜はよい。わしにはよくわかるからな」
「はい・・・・・・」
「そしてこのデスアーミー達だがな」
「何かあるのですか」
「うむ。この者達はDG細胞により動いている」
「DG細胞!」
 それを聞いたドモンの顔色が一変した。
「あれのせいだったのですか」
「そうだ。御前が何を為さねばならんかはわかるな」
「はい」
 ドモンは強い声で答えた。
「俺は今その為に戦っているのですから」
「そうだ。わかっていればよい」
 マスターアジアはそれを聞き満足そうに頷いた。
「だがあれは」
「あれは・・・・・・!?」
「いや」
 しかしマスターアジアはドモンの問いに言葉を濁した。
「何でもない。気にするな」
「はい」
「然るにドモンよ」
 彼は言葉を変えた。
「今はまだ御前は未熟な部分もある。しかしな」
「しかし」
「修業を積め。さすれば御前はより大きな存在となるだろう」
「はい」
「それではわしはまた去ろう」
「何処へ行かれるのですか、師匠」
「ローマだ」
 彼は一言そう述べた。
「ローマ」
「うむ。今度はあそこが気になってな。ミケロ=チャリオットは覚えていよう」
「はい」
 ネオイタリアのガンダムファイターであった。マフィア出身の札付きの男である。彼はドモンが倒したのであった。
「あの者がまたよからぬことを企んでいるらしい。それを阻止しなくてはな」
「それでしたら俺も」
「ドモン」
 だが彼は弟子を制止した。
「今御前にはやらなくてはならぬことがあるではないか」
「しかし」
「それともわしが遅れをとるとでも思うのか」
「いえ」
「使徒を素手でぶっ潰すような人に限ってそれはないわよね」
「アスカ、何か最近すれてきとらへんか?」
 十三がそう突っ込みを入れる。
「たまには息抜きも大事やぞ」
「何かトウジじゃなくて十三さんでも似たようなものね」
「そら御前関西弁やからやろが」
「何か隼人さんやサコンさんと話してるような気にもなるけれど」
「それは言わん約束になっとるで」
「はいはい、じゃあそうしとくわ。じゃあ帰りましょ」
「烏もないとるしな」
「・・・・・・何か言っていることが古くない?」
「気にすんなや」
 アスカと十三がそんなやりとりを続けていた。そしてその間にもドモンとマスターアジアは話を続けていた。だがそれもやがて終わりに近付いていた。
「それではドモンよ」
「はい」
「機会があれば、いや必ずまた会おう」
「はい」
 マスターアジアは風雲再起を呼んだ。そしてそれに乗った。
「それではな」
 そして彼は大空に消えていった。後に馬のいななきだけを残して。
「行ったか」
 ロンド=ベルの面々はそれを見送って呟いた。
「相変わらずとんでもねえ爺さんだな」 
 甲児が半ば呆れたように言った。
「あれだけ派手にやってくっるとな。こっちまで気持ちよくなってくらあ」
「甲児君らしいわね」
 さやかがそれを聞いて笑う。
「意外と合うんじゃないかしら」
「確かに嫌いじゃねえな」
 甲児はそう返した。
「あんな人は見ていて気持ちがいいぜ」
「じゃあ甲児も弟子入りしてみたら?もっと強くなるわよ」
「いいかもな」
 マリアの言葉に同意する。
「いっちょやってみるか」
「おいおい甲児君」
 そんな彼を大介が止めた。
「それはせめてこの戦いが終わってからにしてくれよ」
「あ、そうだった」
「全く甲児君の無鉄砲さにも困ったものだな」
 鉄也も少し苦笑して言う。
「確かにあの力は凄いがな」
「そうですね」
 洸が頷く。
「けれどあの人がもし敵になったとしたら」
「俺達でも相手になるかどうかわからんな」
「ああ」
 神宮寺の言葉に賛成した。
「おい、馬鹿なことを言うな」
 ドモンがそれに反論した。
「そんな筈がないだろうが。師匠が」
「まあな」
 一応はそれに同意する。
「だがあの力・・・・・・。恐るべきものには変わりない」
 ブライトが最後にそう呟いた。皆今はマスターアジアの去った方を見送るだけであった。そして重慶に向かうのであった。ウォンに相変わらずの疑念を覚えながら。

「さて、マーグだが」
 またあの声が聞こえてきた。やはりあの部屋にいる。
「そろそろ行かせてもいい頃だと思うが」
「それですが」
 それに注進する者がいた。
「実はマーグは今もうここにはおりません」
「何っ!?」
 玉座の男はそれを聞いて声をあげた。
「それはまことか」
「はい」
 下にいる者はそれに答えた。
「どうやら既に地球に向かっているようです」
「何故だ」
「もしかするとマーズのことを知ってではないでしょうか」
「マーズのか」
「はい」
 下の男はまた答えた。
「もしそうだとすれば厄介なことになりますが」
「そうだな」
 玉座の男はそれを聞いて頷いた。
「だとすればすぐにでも動こう」
「それでは」
「あの者を呼べ」
「はい」
 彼はそれを受けてすぐに動いた。そして一人の少女が呼ばれてきた。
「御呼びでしょうか」
「うむ」
 玉座の男はそれに頷いた。
「実はそなたにすぐに地球に行ってもらいたいのだ」
「地球にですか」
「そうだ。実はマーグがそちらに向かったらしい」
「マーグが」
 少女はそれを聞いて考える声を出した。
「だとしたら厄介なことになりますね」
「そなたにもわかるな」
「はい」
 少女は応えた。
「それではすぐにでも」
「うむ、頼むぞ」
「ハッ」
 こうして少女は姿を消した。後には気配もなかった。
「これでよし」
「あの娘もよく働きますな」
 さっきの下の男がそう言った。
「あの者にも守らなければならないものがあるからな」
 玉座の男はそれに対してそう返した。
「守らなければならないものですか」
「そうだ。母星だ。思えば我等の掌中にある星は実に多いな」
「はい」
「その中の一つに過ぎんが。役に立ってくれるわ」
「そうですね。それでは地球はこれで」
「後はマーグとあの娘により全てが終わる。全てがな」
 話は終わった。彼等はそのまま闇の中に消えていった。そして後には何も残ってはいなかった。

第二十三話   完



                                2005・5・24


[282] 題名:第二十三話その一 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月23日 (木) 19時20分

            ギガノスの汚物
 その宮殿は地球では誰も知らない遥か遠くにあった。白亜の豪奢な宮殿であり、それは様々な宝玉や金、銀等によって飾られていた。その奥に彼はいた。
「ラオデキアのことだが」
 宝玉で作られた玉座に座る者が言った。その下に何人かいた。
「はっ」
 その中の一人がそれに応えた。
「まさか敗れるとは思わなかったな」
「あれは誤算でした」
 彼はそう答えた。
「ラオデキアの能力を以ってすれば簡単に掌握できる筈でしたが」
「ユーゼスの裏切りもあったそうだな」
「それはオリジナルのラオデキアが排除しましたが」
 彼は玉座の男にそう答えた。
「ですがそれでも敗れてしまいました。残念なことに」
「うむ。だが過ぎてしまったことを今ここで言っても何にもならない」
「はい」
「これからどうするか、だ」
 玉座の男はそう言った。
「朕に考えがあるのだが」
「何でしょうか」
「マーグだ」
 一言そう言った。
「マーグですか」
「あの男を使おうと思う。どうだ」
「それは」
 下にいる男達はそれを聞いて皆難しい顔をした。
「問題があるのではないでしょうか」
「それはわかっている」
 玉座の男はそれに答えた。
「マーズとのこともあるしな」
「それです」
 下にいる男の一人がそれに反応した。
「ガイアーに埋め込まれた爆弾はマーズが死ねばすぐにでも爆発するようにはしております」
「あれはいざという時の為だったな」
「はい」
 男達が答えた。
「その時が来る可能性は否定できない。特に今のままではな」
「それはわかっております」
「だからこそだ」
 玉座の男はあらためて言った。
「マーグを出したいと思っているのだ」
「しかしマーグは」
「それもわかっている」
 玉座の男は続けた。
「目付け役を置けばよい。洗脳したうえでな」
「目付け、ですか」
「そうだ。かってユーゼスの時には失敗したがな。あれはあの男の野心を見抜けなかった朕の責任だ」
 彼は言った。
「失敗は繰り返してはならぬ。よって今回はマーグを洗脳するのだ」
「そしてその目付けは」
「それはもう決めてある」
 玉座からそう答えた。
「いるか」
「・・・・・・はい」
 闇の中から誰かが姿を現わした。
「そなたにマーグを、そして地球攻略を任せたいのだが。よいか」
「謹んでお受け致します」
 それは女の声であった。答えた後で片膝をつく。
「是非共お任せ下さい」
「頼むぞ」
 こうして話は終わった。彼等は闇の中に消えた。こうしてまた銀河が動くのであった。

 中国香港。この街の歴史はアヘン戦争により清がイギリスに対して開港したことからはじまる。それ以来この街は独自の発展を遂げていた。今はネオ=ホンコンという一つの行政区域となっている。元首はウォン=ユンファ。若き実業家としても知られその政治手腕は卓越したものとして知られている。だがその評判は今一つよくはなかった。
「大尉殿」
 香港から帰って来た、マイヨに対してプラクティーズの面々声をかける。
「ウォン主席との会談はどうでしたか」
「何とも言えないな」
 マイヨは一言そう答えた。
「と言いますと」
「食えない男だ」
 マイヨはまた言った。
「表面上は穏やかだが腹の底は知れたものではない。ああした男は信用できない」
「信用できませんか」
「私はそう見る」
 彼は三人にそう答えた。
「巧言令色少なしかな仁、というな」
「はい」
「その言葉を思い出した。一体何を企んでいるかわかったものではない。少なくともギルトール閣下の理想とは相容れない男だ」
「そうなのですか」
「そうだ。あまり好きにはなれない」
「それで会談自体はどうだったんだい?」
 ここで女の声がした。
「上手くいったんだろうねえ、大尉殿」
 浅黒い大女が出て来た。
「ミン大尉か」
 マイヨは彼女に顔を向けた。
「それは安心してくれ。会談は成功した」
「じゃあ香港で暴れてもいいんだね」
 ミンはそれを聞いてニヤリと笑った。
「嬉しいねえ。それでこそ戦争ってやつだよ」
「戦争というものを履き違えているようだな」
 マイヨはそれを聞いて一言そう言った。
「ギルトール閣下の御考えは頭に入っていないようだが」
「フン、理想で飯が食えるかよ」
 ミンの横にいた釘を咥えた男がそれを聞いて嘲笑った。
「戦いってのは勝ちゃいいんだからな」
「そ、その通りだ」
 異様に大きな身体を持つ男もそれに同意した。
「おでは暴れられればいい」
「おいおい、ゴルよ。それはちと違うぜ」
 釘の男がそれを聞いて言った。
「まあそうかも知れねえがな」
「カナンもわかってるじゃないか」
 ミンがそれを聞いて笑った。
「それでこそグン=ジェム隊だね」
「確かにな」
 それを横で聞いていた男が呟いた。水色の長い髪をしている。
「俺達ははっきり言って暴れるのが仕事だからな」
「ジンの言う通りだね。そういうこと」
「だから俺はここにいるんだ」
「お、おでも」
「四人共それでいいのか」
 マイヨはいささか呆れた様子で四人に対して言った。
「誇り高きギガノス軍としての節度を保とうとは思わないのか」
「節度!?それって食えるのかい!?」
 それを聞いてまずミンがそう嘯いた。
「食えるのならいいぜ。美味けりゃな」
 カナンも言った。
「もっとも俺はグルメだからな。まずけりゃいらねえぜ」
「ウホホホホホ」
 ジンもであった。ゴルは獣のような声で笑っていた。
「くっ」
「何という連中だ」
 プラクティーズの面々はそれを聞いて呆れた声を出した。
「貴様等の様な連中がいるから我がギガノスは・・・・・・」
「待て」
 しかしそれをマイヨが制した。
「大尉殿、しかし」
「仲間内で争ってはならない。今はそんな時ではない」
「へえ、流石だねえ」
「ギガノスの蒼き鷹の面目躍如ってやつだな」
「お世辞はいい。それよりグン=ジェム大佐はどちらだ」
「大佐かい?」
「そうだ。ここにおられる筈だが」
「わしならここにいるぞ」
 マイヨの後ろから声がした。
「若僧、わしに何か用か」
 見ればそこに禿頭の大男が立っていた。濃い顎鬚を生やしている。異様な外見の男であった。
「グン=ジェム大佐」
 マイヨはその風貌にも怖気づくことなく言った。
「今回の会談のことですが」
「うむ」
 その男グン=ジェムはマイヨを見下ろして答えた。
「ウォン主席は香港に入られることを了承して下さいました」
「ほう」
「勿論それには色々と見返りも要求されましたが」
「ギガノスが地球を掌握した時のことだな」
「はい」
 マイヨは答えた。
「ネオ=ホンコンとしての位置をそのまま保障してもらえるならそれでよいとのことです」
「ふふふ、やはりな」
 彼はそれを聞いて顎に手を当てて笑った。
「あの男、色々と考えとるわ。大人しそうな顔とは裏腹にな」
「はい」
 マイヨはそれを聞いて少し憮然とした。
「それがギガノスにとってよいかどうかはわかりませんが」
「若僧」
 グン=ジェムはマイヨに対して言った。
「私はマイヨ=プラートです。大佐」
「そうか。それではマイヨ=プラート大佐」
「はい」
「世の中というのは奇麗事だけでは成り立ってはおらんのだ」
「・・・・・・・・・」
 マイヨはそれには答えなかった。ただ沈黙した。
「汚いものも山程あるということを覚えておけ。それがわからぬうちは駄目だ」
「私はそうは思いませんが」
 そしてこう反論した。
「理想こそが全てを動かすのです」
「なっ」
 ミン達はそれを聞いて声をあげた。
「あいつ、大佐に何てことを」
「ぶっ殺されるぞ」
「やれやれ、また棺桶が必要だよ」
「アーメン」
 彼等はマイヨの運命を悟った。プラクティーズの面々も青い顔をしている。しかしグン=ジェムはそうはしなかった。
「ほう、わしに意見をするか」
「はい」
 マイヨは臆することなくそう返した。
「正しいと思うからこそです。違うでしょうか」
 その目と声には迷いはなかった。それを見たグン=ジェムはニヤリ、と笑った。
「若僧・・・・・・いやプラート大尉よ」
「はい」
「面白いことを言うじゃねえか。気に入ったぞ」
「えっ!?」
 四人もプラクティーズもそれを聞いて思わず驚いた。
「その一本気さが気に入った。どうやらわしが思っていた以上の男のようだな」
「有り難うございます」
 マイヨはそれを聞き真摯な顔で頷いた。
「だがもう少し世の中を知る必要があるな。今度の戦いだが」
「はい」
「御前は後方でわし等のフォローに回れ。御前の考えるのとは違った戦争を見せてやる」
「違った戦争ですか」
「そうだ」
 グン=ジェムは答えた。
「楽しみにしていな。わし等の戦争は荒っぽいからな」
「はい」
 話が終わるとグン=ジェムは四人に顔を向けた。
「おう御前等」
「はい」
「四天王全員出撃だ。いいな」
「了解」
「派手に暴れてやりますぜ」
「おでもやるぞお」 
 彼等はそれに応えて嬉しそうな声をあげる。
「ふふふ」
 グン=ジェムはそれを見て満足そうに笑った。
「では行くか」
 こうして彼等は出撃準備に向かった。マイヨ達はその後ろ姿を見送っていた。
「大尉殿」
 ダンがマイヨに語り掛けてきた。
「何だ」
「あのような者達を誇り高きギガノスに入れてよいのでしょうか」
「それも全てギルトール閣下の御考えだ」
 マイヨはそう述べた。
「それ故気にするな。いいな」
「はい」
 他の二人もそれに頷いた。
「それよりも今は次の戦いのことに備えよ」
「次の」
「相手はロンド=ベルだ。ドラグナーもいるのだぞ」
「はい」
 三人はそれに頷いた。
「油断するな。そして決して侮るな。よいな」
「ハッ!」
 三人は敬礼してマイヨに応えた。そしてその場を離れた。マイヨも自身の機に向かった。そして戦場に赴くのであった。

 ロンド=ベルは香港に到着した。接舷したラー=カイラムからカミーユ達が降りる。
「ここに来るのも久し振りだな」
「そうね」
 フォウがそれに応える。
「ねえカミーユ、あの時のこと覚えているかしら」
「忘れるわけないだろ」
 カミーユはそう答えた。
「僕達がはじめて会った場所なんだから、ここは」
「嬉しい。覚えてくれていたのね」
 フォウはそれを聞いて笑顔になった。
「あの時は私と貴方は敵同士だったわね」
「ああ」
「けれど今はこうして一緒にいる。不思議なものね」
「人生なんてそんなものかも知れないわよ」
 エマが二人に対してそう言った。
「エマさん」
「私も最初はティターンズにいたんだから。覚えているかしら」
「そういえばそうらしいわね」
 ミリアがそれに応えた。
「私だってゼントラーディにいたのだし」
「そういえばそうだったな」
 イサムがそれに応える。
「あんたには随分苦戦させられたぜ」
「俺なんか一度撃墜されてるしな」
「柿崎のあれは油断し過ぎだ」
「おい、それはないだろ」
 イサムと柿崎が言い合いをはじめる。そこに金龍もやって来た。
「それよりも折角香港に来たんだし食いにでも行かないか」
「それいいわね」
 エマがそれに同意した。
「香港といえば広東料理よね。私あれ好きなのよ」
「そうなんですか」
「あら、意外?」
 カミーユの顔を覗き込んでそう問う。
「意外といえば意外ですけれど」
「そうかしら」
「ほら、エマさんってあっさりした感じのする人じゃないですか」
「よくそう言われるわね」
「リィナちゃんやハルカさんに声は似てるのにね」
「そこ、声の話はしない」
 マックスが笑いながらファに対して言う。
「そんなこと言ったら僕なんかあのラオデキアや黒騎士に似てるって言われてるんですよ」
「そういえば」
「それがどれだけ落ち込むか。特に黒騎士は」
「あの人疲れるからなあ」
「ショウ、ショウって。他にいねえのかよ」
「いないのだろうな」
 ガルドが一言そう言う。
「彼にとってはショウ=ザマこそが全てだ」
「成程な」
 イサムはそれを聞いて納得した。
「だからか。あれだけ怨念めいた執念を燃やすのも」
「そうだろうな」
 ガルドはまた言った。
「彼にとってはな。ショウ=ザマを倒すことが全てなのだ。それが彼の信念だ」
「それでも疲れる人には変わらねえな」
 柿崎が呆れた声でそう言った。
「一条隊長みたいに何処かほのぼのしてりゃいいのに」
「俺はほのぼのしてるのか」
「あ、いや」
 苦笑する輝の声を聞いて慌てて否定した。
「決して悪口じゃないですよ」
「わかってるよ」
 輝はそう答えて笑みを変えた。今度は邪気のない笑みであった。
「だからいいさ。それよりも行くか」
「食べにだな」
「ええ。美味しい店を知ってますので」
 金龍にそう答える。
「皆で行きましょう。大勢の方が楽しめますよ」
「よし」
「じゃあフォウも行くか」
「ええ、カミーユ」
 こうしてゼータの面々とマクロスチームが街に繰り出すことにした。そこへダバ達も通り掛かった。
「あれ、何処へ行くんですか?」
 ダバが彼等に尋ねる。
「あ、ダバ」
 カミーユがまずそれに気付いた。
「ちょっと皆で食べに行くんだけれど」
「食べにですか」
「何、何食うんだよ」
 食べ物と聞いてキャオがはしゃぎだした。
「地球の食い物って美味えからな。何食わしてくれるんだよ」
「中華料理よ」
 エマがそれに答えた。
「ああ、サイシーの作る料理だな。俺あれ大好きなんだよな」
 舌なめずりしながらそう言う。
「ギョーザだろ、ラーメンにチャーハンに」
「それだけじゃないわよ」
 エマは笑いながらキャオに言う。
「他にも一杯あるのだから。どう、君達も」
「それでは御言葉に甘えまして」
「御馳走食えるんだったら何でも」
「まあたキャオはそういってはしゃいで」
「まあ気持ちはわかるがな。まあ私達も行くか」
「賛成」
 アムもレッシィも呆れながらもそれに賛成していた。こうして彼等も合流し広東料理を食べに行くのであった。
 こうして多くの者が香港の街で楽しんでいる時アムロはラー=カイラムに残っていた。
「やはりそこにいたか」
 そこへブライトがやって来た。見れば彼は自室で機械いじりをしていた。
「ああ。最近時間がとれなかったからな。たまには一人でゆっくりとしていたくてな」
 アムロはブライトに顔を向けてそう答えた。
「それで趣味に熱中していたんだな」
「何かこうしていじるのも久し振りだけれどな」
「そうだな。御前も忙しくなってきたからな」
「おいおい、それはお互い様だろう」
 アムロはそれを聞いて笑った。
「もっとも御前はあの時から忙しかったけれどな」
「そうだな。しかし私達も歳をとったものだ」
「歳のことは言うなよ」
 そう答えてまた笑った。
「俺も御前も中年になったわけじゃないぞ、まだ」
「そうだな。わだ若いか」
「御前はあの時から何かと年寄り臭かったがな」
「おい、言った側からそれか」
「ははは」
「艦長」
 ここでブライトを呼ぶ声がした。チェーンのものであった。
「こちらにおられたんですか」
 そして部屋に入ってきた。
「あ、アムロ中佐も」
「何かあったのか?」
「ええ。ちょっと三輪長官が御呼びです」
「あの人か」
 ブライトはそれを聞いて顔を曇らせた。
「どうで碌な話じゃないな」
「仕方がない。それでも呼んでいるんだからな」
「俺も行こう」
 アムロはそう言って席を立った。
「いいのか?御前はあの人は嫌いだった筈だが」
「そうも言ってはいられないだろう。それにあの人を好きな人なんていやしないさ」
「それを言ったらお終いだぞ」
「ははは、そうだがな。じゃあ行くか」
「うむ」
 こうして二人は艦橋に向かった。チェーンがその後ろについて行く。そこにはもうモニターに口髭を生やした不機嫌そうな顔の軍服を着た男がいた。
「ブライト大佐、久し振りだな」
 彼はブライトを見るなりそう声をかけてきた。彼が連邦軍環太平洋区司令長官兼日本国防省である三輪防人である。連邦軍においては超タカ派として知られている。その過激な発言と言動を知らない者はいなかった。
「はい」
 ブライトはモニターを見上げてそれに応えた。
「お久し振りです、長官」
「うむ」
 三輪はそれに対してはまずは鷹揚に頷いた。
「アムロ中佐も一緒だな。ならば話が早い」
 アムロはロンド=ベルにおいては重鎮とされているのである。
「何でしょうか」
「単刀直入に言おう。今からロンド=ベルはわしの指揮下に入れ」
「えっ!?」
 ブライトもアムロもそれを聞いて思わず驚きの声をあげた。
「長官、今何と」
「聞こえなかったのか。わしの指揮下に入れと言ったのだ」
 三輪はもう一度言った。
「長官の言葉ですが」
 ブライトがそれに反論を開始した。
「我々は独立部隊ということになっております」
「そんなことは関係ない」
 だが三輪はそれを認めなかった。
「今地球がどういう時かわかっておるのか」
「勿論です」
 アムロもそれに加わった。
「だからこそ我々は今こうして香港にいるのです」
「そしてオデッサに向かうのだな」
「はい」
 二人はそれに答えた。
「ミスマル司令からのご命令で。何か不都合でも」
「それこそが問題だ」
 三輪はそう言い切った。
「あの男の管轄は何だ」
「宇宙軍です」
「そうだろう。この地球、そして環太平洋ではない。ロシア地区が環太平洋区に含まれているのは知っているな」
「はい」
 ブライトは答えた。
「すなわちオデッサの作戦の総指揮はわしがあたっておる。わしの指揮に従うのは当然だ。それはわかっているな」
「いえ」
 だがブライトは反論した。
「何!?」
 それを聞いた三輪のこめかみが動いた。
「上官に反論するつもりか」
「そうではありません。意見を申し上げるだけです」
 ブライトは冷静にそう返した。
「何度も申し上げますが我々は独立部隊です」
「だからそれがどうしたと言っておる」
「我々は環太平洋区の管轄にあるのではないのです」
「オデッサの作戦はわしの管轄だ!」
 三輪は叫んだ。
「その程度のこともわからないというのか!」
「それはわかっております」
 それでもブライトは反論した。
「ですが部隊は管轄下にはない筈です。所属以外の」
「クッ・・・・・・」
 その通りであった。それを言われると反論できなかった。
「三輪長官」
 ここでブライトは言った。
「今後我々の作戦は我々で決定させて頂きます。少なくとも環太平洋区の管轄ではないことをご理解下さい」
「後悔するぞ」
「後悔はありません」
 恫喝にも屈しなかった。
「そんなことを怖れていては戦いなぞできませんから」
「本当だな」
「はい」
 臆してはいなかった。
「今の我々は目の前の敵を倒さなくてはなりません。それだけです」
「・・・・・・その言葉二言はないな」
「長官」
 アムロが言った。
「お話中申し訳ありませんが」
「何だ?」
「何者かがこのラー=カイラムに接近してきました。申し訳ありませんがこれで」
 スイッチに手をかける。
「待て、話はまだ・・・・・・」
 だがスイッチは押された。三輪の姿が消えていく。
「許さんぞ、この非国民・・・・・・」
 言い終わらないうちに姿が消えた。こうしてモニターは暗闇に戻った。
「これでいいな」
「済まないな、アムロ」
 ブライトはアムロに顔を向けて礼を述べた。
「何、いいさ。こうしたことは御前がやっては何かと都合が悪いだろう」
「ああ」
「そうしたことは俺が引き受けるさ。その為にもロンド=ベルにいるんだからな」
「悪いな、いつも」
「だからそれは言うな。お互い様だろ」
「そうかな。私はどうも御前には助けられてなかりだが」
「それは俺もさ。御前はラー=カイラムの艦長だ。しっかりした艦長がいてくれてどれだけ有り難いか」
「全くだ」
 ここでクワトロの声がした。
「それはアムロ君に同意するな」
「シャア」
 アムロはそれを受けてクワトロに顔を向けた。
「御前も残っていたのか」
「残っていてはいけない理由でもあるのかな」
 クワトロはそれを受けてそううそぶいた。
「少なくとも私はそうは思わないが」
「言ってくれるな」
 アムロは表情を変えずにそう答えた。
「御前がただここに残っているとは思えないが」
「それはお互い様だろう」
 クワトロはそう返した。
「君もこの香港には何かを感じている筈だが」
「・・・・・・ああ」
 アムロはそれに頷いた。
「否定はしない。この街には何かがある」
「あのウォン=ユンファ主席のことか」
 ブライトはそれを聞いてアムロとクワトロにそう問うた。彼は先程ユリカ達と共に彼と会談の場を持ったのであった。そこにはアムロとクワトロも同席していた。
「確かに彼は腹に一物あるようだが」
 それはブライトにもわかっていた。だがクワトロはそれに対して首を横に振った。
「残念だが違う」
「では」
「彼は確かに色々とある人物だろう。しかし今我々に対して何かをしてくるとは思えない。少なくとも直接的には」
「そうか」
 ブライトはそれを聞いて頷いた。
「では何が」
「第二東京市のことだが」
 ここでクワトロは先の戦いについて言及した。
「あの戦いのことを覚えているか」
「忘れる筈がない」
 ブライトは一言そう答えた。
「あんなことができる人間は今まで見たことがないからな」
 そしてマスターアジアについて言及した。彼の凄まじい戦闘力を見てブライトも驚愕していたのであった。
「そうだ。彼だ」 
 クワトロは言った。
「彼はネオ=ホンコンのモビルファイターだ。そして香港に来いと言った」
「ああ」
「何か隠しているのかも知れない。少なくともこの街で何かが起こるだろう」
「何かが」
「それが何かまではまだよくわからないが」
 アムロが言った。
「俺達はどうやら変な場所に来てしまったのかも知れないな。ましてやこの香港では過去にも色々あった」
「ああ」
「今回もな。おそらくは」
 ここで通信が入った。モニターにシナプスが現れた。
「丁度よかった。三人共いるか」
 彼はブライト達三人の姿を認めてまずはこう言った。
「何かあったのですか?」
「ああ。こちらのレーダーに反応があった。メタルアーマーだ」
「メタルアーマー」
「ギガノスの蒼き鷹か」
「それだけじゃない。他にもいる」
「他にも」
「そうだ。まっすぐにこの香港に近付いてきている。守備隊のいない場所を通ってな」
「何と」
「すぐに迎撃に移ろう。そちらからも出てくれ」
「了解しました。行けるか」
「ああ」
 アムロとクワトロはそれにすぐに応えた。
「まずは俺達は食い止める」
「その間に他のパイロットを呼び戻してくれ」
「わかった。シナプス大佐、そちらは誰がいけますか」
「ウラキ達とコスモクラッシャー隊がいける。他は集まるまで三分といったところだな」
「三分ですか。こちらも大体そうですね」
「三分か。なら大丈夫だ」
「その間なら充分防ぎきることができる」
「頼むぞ」
 ブライトはまたアムロとクワトロに対してそう言った。
「こうした時ばかり済まないな」
「だからそれは言うな。お互い様だ」
「そういうことだ。艦長は艦長の仕事に専念してくれ」
「わかった」
「他にはダンクーガチームとゴーショーグンがいけるらしい。あとはシャッフル同盟だ。そしてグランガランとゴラオンからは魔装機がいけるそうだ」
「案外大丈夫だな」
「そうだな。ではアムロ君、行こうか」
「ああ。シャア、油断するなよ」
「私が油断をすると思うのかい?」
「念の為だ。それじゃあ駄目か」
「君も成長したようだな。だがいい」
 クワトロは頷いた。
「では行こう。三分頑張ればいいからな」
「ああ」
 こうしてアムロ達は出撃した。そして彼等はラー=カイラムの前に出て来た。ケーラのリ=ガズィとクェスの乗るヤクト=ドーガも一緒であった。
「二人共いたのか」
「丁度スクランブルでして」
 ケーラがアムロに答える。
「あたしはチャムちゃんやリリスちゃんとお話してたから。声が似てるせいか気が合って」
「また声か」
「そういえばアムロ君と宙君の声も似てるな」
「呼んだかい」
 ここで宙も出て来た。既に鋼鉄ジーグとなっている。
「俺も車いじってたら出そびれちまってな大空魔竜に残っていたんだ」
「宙さんたら」
 美和も一緒であった。
「私までお付き合いしちゃったじゃないの」
「おいおい、ミッチーは別に誘ってないだろ」
「けれど気になるじゃない。宙さんっていつも車の改造滅茶苦茶だし。気になって仕方ないわ」
「あれは俺のやり方なんだよ」
 宙はそう反論した。
「それはわかってるだろ。レースやってた時からそうだったんだからな」
「それはそうだけれど」
「話はいい。ミッチー、行くぞ」
「わかったわ」
「よし、今いるのはこんだけだな」
 忍がダンクーガに乗って姿を現わしてきた。
「とりあえずは今いるだけでやるぜ。皆いいな」
「ちょっと待って」
 ここで子供の声がした。
「子供!?」
「折角はじめてコスモクラッシャーに乗ったのに自己紹介位させてよ」
「自己紹介って・・・・・・。おめえ誰だ!?」
「おいらかい?おいらは赤石ナミダっていうんだ」
 コスモクラッシャーに乗る一人の少年がそう名乗った。
「新しくコスモクラッシャー隊に配属されたんだ。宜しくね」
「宜しくねっておい」
 忍はそれを聞いて呆気にとられた。
「ガキが戦場に出てどうするんだよ」
「ちょっとお、それあたしに言ってるの?忍さん」
 プレセアのふくれた声がした。
「別に子供でも戦えればそれでいいんじゃない?そんな言い方失礼しちゃうわ」
「いけね、忘れてた」
「おいおい忍、しっかりしてくれよ」
「メインパイロットのあんたがしっかりしてくれないと困るんだからね」
「そうそう」
 そんな忍に亮、沙羅、雅人が突っ込みを入れた。
「まあそれはいいか。それで坊主」
「何だい」
「御前さんも戦えるんだな。じゃあ度胸入れてやれよ」
「うん」
 ナミダは忍の言葉に頷いた。
「戦争ってのは気合だからな。どれだけ暴れるかだ。いいな」
「わかったよ、兄ちゃん」
「ヘッ、兄ちゃんかよ」 
 忍はそれを聞いてニンマリと笑った。
「照れ臭えな。そう言われると」
「忍は一見すると怖いからな」
 マサキがそこでこう言った。
「けれどそこがまたいいのよね。野性味があって」 
 シモーヌがそれに合わせる。
「今度二人でじっくり飲みたいね。忍、いいかしら」
「あ!?悪くはねえけれどよ」
 忍はシモーヌにそう返した。
「飲むのなら覚悟しとけよ。俺は強いぜ」
「ああ、それもわかってるさ」
 忍の酒は有名であった。シモーヌもそれがわかっていたのだ。
「だから誘うんだろ。とことんまで飲もうね」
「ああ、この戦いが終わってからな」
「よし来た。じゃあ多く撃墜した方がワインを一本奢るってのはどうだい」
「ワインじゃ面白くねえな。今一つ酔えないんでな」
「じゃあウイスキーにするかい?」
「それがいいな。じゃあ行くぜ」
「あいよ」
 忍の言葉を受けてロンド=ベルが動き出した。
「やぁぁぁぁぁぁぁぁってやるぜっ!」
 そして香港に侵入してきたギガノス軍と戦闘に入った。それを遠く離れた場所から見守る一人の男がいた。
「ふふふふふ」
 スーツを着た黒髪の男である。サングラスをかけチョコレートを口にしている。
「いよいよはじまりましたね、ショーが」
 彼はロンド=ベルとギガノスの戦いを見守りながらそう言った。
「面白くなりそうです。ところで東方不敗さん」
「何じゃ」
 彼の隣にはマスターアジアがいた。彼はそれに応えた。
「そちらの用意はできていますか」
「言われずともな」
 素っ気なくそう答えた。
「とうの昔にできておるわ。それより何故ギガノスを香港に入れたのだ」
「保健ですよ」
 男はにんまりと笑いながらそう答えた。
「これからのね。いざという時の為ですよ」
「フン」
 マスターアジアはそれを聞き面白くなさそうに応えた。
「ウォンよ、そうしてまた小細工を弄するか」
「小細工ではありませんよ」
 その男ウォン=ユンファはそう返した。
「あくまでこれから生き残る為です。違いますか」
「少なくともわしは好きにはなれんな。こういうことは」
 マスターアジアはやはり不機嫌な顔でそう答えた。
「わしの性に合わぬのでな」
「まあそれはいいでしょう。人それぞれですよ」
 ウォンはやはり笑いながらそう言う。
「ただ私は私のやり方でやらせてもらいますが」
「フン」
「貴方ももう少ししたら出番ですね。健闘を祈りますよ」
「わしが遅れをとると思うか」
「まさか」
 ウォンはやはり笑いながら答えた。
「楽しみにしているだけですよ。私はね」
「所詮お主にはわからんだろうな」
 マスターアジアはここでふとそう呟いた。
「本当の戦いというものは」
「!?」
 ウォンはそれを聞いて首を傾げた。
「今何と」
「何でもない」
 だが彼はそう答えて誤魔化した。
「気にすることはない。そしてわしは時が来たら動こう」
「はい。期待していますよ」
「うむ」
 こうして彼等は戦いを見守り続けた。戦いは魔装機を先頭にしてはじまっていた。
「行くぜ!」
 まずはマサキが突っ込む。その後ろにヴァルシオーネと他の魔装機神も続く。
「まずはこれだあっ!いっけええええええ」
 サイバスターの身体に緑の光が宿る。
「サイフラァーーーーッシュ!」
 そしてサイフラッシュが放たれる。そrねいよりグン=ジェム隊のメタルアーマー達がダメージを受ける。それだけではなかった。
「あたしも行くよ!サイコブラスターーーーーッ!」
 リューネも攻撃を放った。サイコブラスターで敵を撃つ。そこへ他の魔装機神も続く。これによりグン=ジェム隊は総崩れになると思われた。
 だが彼等はそうはならなかった。それでも戦場に踏ん張り迎撃を開始したのだ。
「へへッ、やるじゃねえか」 
 スタークガンドーラに乗るカナンが不敵に笑った。
「おうゴル、行くか」
「おう」
 ゴルがそれに頷く。そして彼等とその直属の配下が前に出て来た。だがここでもう一機出て来た。
「待ちな」
 それはミンのスタークダインであった。
「ここはあたしも入れなよ」
「ミン」
「俺もな」
 ジンもやって来た。彼等はそれぞれの手勢と共にやって来たのだ。
「あの連中はかなり手強いよ。用心が必要だ」
「おいおい、言葉が違うだろうが」
 カナンはミンに対してそう言った。
「御前の場合は早いとこ暴れたいだけだろうが」
「わかってるじゃないの」
 ミンはそれを聞いてニヤリと笑った。
「じゃあ思う存分暴れてやるかい」
「お。おでも」
 ゴルがそれに続く。
「久し振りに派手にやりたい」
「ハハハ、仕方のない連中だ」
 グン=ジェムはそれを少し離れた位置から見ながら笑った。
「最近暇をもてあましていたようだからな、ははは」
 そして四人に対して言った。
「おう、御前等」
「はい」
「徹底的にやってやれ。いいな」
「言われるまでもなく」
 彼等は最初からそのつもりであった。
「やってやりますぜ」
「おう、わしも行くぞ」
 そしてグン=ジェムも動きはじめた。彼の配下の部隊がこぞって動きをはじめた。
「グン=ジェム隊、総員攻撃開始だあっ!」
「おう!」
 荒くれ者達がそれに従う。そして彼等の一斉攻撃が開始された。
「ヘッ、面白くなってきやがったぜ」
 忍はそれを見て思わず笑った。
「こうした派手なやりあいってのは何時やってもいいもんだな」
「おいおい忍」
 そんな彼にマサキが声をかけた。
「喧嘩じゃねえんだぞ、これは」
「俺にとっちゃあ同じことさ」
 だが彼はそう言葉を返した。
「暴れられるんだからな。何かこんな楽しいことは久し振りだぜ」
「あんたいっつもそうじゃないか」
 沙羅がそんな忍に対して言った。
「いい加減大人しくするってことを覚えたらどうだい」
「御前には言われたかねえよ」
 忍はそう言葉を返した。
「御前だって相当なもんだろが」
「まあそうだよね」
 雅人がそれに頷く。
「けれど忍がそうだってのは変わらないよ」
「何ィ!?」
「そう、それだ」
 亮が指摘する。
「忍、少しは落ち着くことも覚えろ」
「馬鹿言ってるんじゃねえぞ、ダンクーガは闘争本能で動いてるんだろうが」
「時にはそれを前に出さないことも必要なんだ」
 それでも亮はそう言った。
「さもないと大変なことになるぞ」
「そん時はそん時だ」
 だが忍はそれを聞かなかった。
「俺には俺のやり方があるんだ。行くぜ!」
 ダンクーガの全身に力を込めさせた。
「断空砲フォーメーション!行っけえええええええっ!」
「やれやれ」
 亮は呆れながらもそれに付き合うことにした。
「やれ、忍!」
「言われなくてもな!」
 そして断空砲が放たれた。それで敵を撃つ。一個小隊が消し飛んだ。
「ほう」
 グン=ジェムはそれを見てニヤリと笑った。
「やるじゃねえか。敵にも見所のある奴がいるな」
「ですね」
 ジンがニヤリと笑って応えた。
「けれど俺達の域にはまだまだですぜ」
「そう簡単にわしみたいになられても困るしな」
 グン=ジェムも笑っていた。
「だが残念なことだ。わしの敵だったのが」
「はい」
「ガナン、ゴル」
 ガナンとゴルに声をかけた。そしてダンクーガを指差して命令した。
「まずはあの黒いのをやれ。いいな」
「はい」
「お、おう」
 二人はそれに頷く。それから動いた。
「行くぜ、ゴル」
 ガナンが先に出た。だが少しいったところで動きを抑えゴルが前に出た。
「うおおおおおおおっ!」
 そのままダンクーガにタックルを仕掛ける。不意を衝かれたダンクーガはそれをまともに受けてしまった。
「グッ!」
「今だっ!」
 そこにガナンの攻撃が来る。両肩の二つのレールガンを放つ。ダンクーガはそれも受けた。だがそれでも尚立っていた。
「ダンクーガがこの程度でやられるかよ!」
「ほう、やるな」
 ガナンはそれを見て楽しそうに笑った。
「どうやら思ったより楽しめるな」
「それはこっちの台詞だ」
 忍はそう言葉を返した。
「相手してやるぜ、こっちに来い」
「面白い。ゴル、また仕掛けるぞ」
「おう」
 そして二人はまたダンクーガに攻撃を仕掛けた。だが今度はかわされた。
「二回もやられねえぜ」
「じゃあ三回ではどうだ?」
「何度やっても同じだぜ!」
 忍はそう言い返す。そして逆に剣を抜いた。
「断・空・剣」
 それでゴルのスタークゲバイとガナンのスタークガンドーラを切りつける。しかしそれはかわされてしまった。
「チイッ!」
 ダンクーガと二機の戦いの側でミンが暴れていた。彼女の乗る赤いマシンスタークダインはロンド=ベルめがけ突進していた。
「やらせてもらうよっ!」
 彼女は機体から何かを取り出した。
「死になっ!」
 何とそれはチェーンソーであった。彼女はそれを手に暴れはじめたのだ。
「何て女だ」
 京四郎はそれを見て呆れた声を出した。
「もう少し女らしく戦うってことはできねえのか」
「は!?誰に言ってるんだい」
 ミンはそれに対してふてぶてしく笑った。
「あたしにそんなこと期待するんじゃないよ」
「やれやれだ」
 京四郎はまた呆れた声を出した。
「淑女の嗜みも知らないのか」
「それは食べられるのかい?」
「まさか」
 うそぶくミンにそう返す。
「だが一つ言っておこう」
「何だい!?」
「衣食満ちて礼節を知る、だ。御前達はどうやらそうではないらしいな」
「食えりゃそれでいいさ。あと暴れられりゃあね」
 当然のように京四郎の言葉を一笑に付す。そして京四郎に向かった。
「話はいいかい。念仏でも唱えなっ!」
「やれやれだ。ナナ」
 彼はナナに声をかけた。
「しっかりつかまってろ。飛ばすぞ」
「うん」
 ナナは頷いた。ガルばーが上にあがろうとする。だがその時だった。
「待って!」 
 その前に一機のガンダムが姿を現わした。
「ガンダムッ!?」
「一体誰が」
 見たことのないガンダムだった。皆それを見て思わず首を傾げた。だがドモンは違っていた。
「レイン」
「レインさん!?」
 コウがそれを聞き驚きの声をあげる。
「レインさんもガンダムに!?」
「ええ」
 そのガンダムの中から声がした。それは確かにレインのものだった。
「私も一応ガンダムに乗れるから」
「そうなんだ。それでそのガンダム何ていうんですか?」
「これ?」
「はい」
 興味深そうな声であった。コウらしいと言えばそうであった。
「ライジングガンダムっていうの」
「ライジングガンダム」
「ええ。私用にね。開発されたの。御父様が」
「御父様って」
「コウ、ミカムラ博士だよ」
 ここでキースが言う。
「ああ、あの人か」
 有名な人物であった。優れた科学者であると共に温厚な人柄で知られている。日本においてロボット工学の権威として知られている人物の一人である。
「色々あってね。私のも作ってもらったの」
「そうなんだ」
「レイン」
 ドモンがここでレインに声をかけた。
「無理はするな」
「大丈夫よ、ドモン」
 だがレインは臆することなくそう返した。
「私だって戦えるんだから」
「初耳だぞ」
 しかしドモンは素っ気なくそう返した。
「・・・・・・ちょっと、貴方私とどれだけ一緒にいるの!?」
「子供の頃からだ」
「子供の頃からドモンと付き合っていたのか」
「レインさんも大変だったのね」
 ケンジとミカがそれを聞いて呟く。
「私が合気道やってたの知らないの?」
「ああ」
 やはりドモンの言葉は素っ気ない。
「そういえばそんなこともあったか」
「・・・・・・まあいいわ」
 レインは呆れながらも言葉を続けた。
「弓も薙刀もやっていたから。だから少し位なら大丈夫よ」
「そうか。では頼む」
「ええ、任せて」
「へえ、女かい」
 ミンはあらためてレインのライジングガンダムを見据えて笑った。
「言っとくけどあたしは女だからって遠慮しないよ」
「わかってるわ」
 レインは怖気づくことなくそれに返した。
「こっちだって容赦はしないから」
「綺麗な顔していいね。気に入ったよ」
 ミンはまた笑った。
「思いきり切り刻んでやるよ。覚悟しな」
 チェーンソーにスイッチを入れた。そして構える。
「行くよ!」
 そして向かう。だがライジングガンダムはその横薙ぎにされたチェーンソーをかわした。
「まだっ!」
「やるねっ!」
 かわしながら攻撃態勢に入る。薙刀を構える。
「これならっ!」
 そしてそれで切りつける。だがミンはそれをかわした。後ろに跳んだのだ。
「むっ!」
「悪いね、あんたの攻撃は見切ってるよ!」
 ミンはニヤリと笑ってそう返した。
「これはお返しだ。とっときな!」
 チェーンソーを振り回しながら襲いかかる。しかしレインはそれもかわした。
「逃げるのは上手いね!」
「逃げるのだけじゃないわよ!」
 言いながら薙刀をまた構える。そしてそれで反撃に転じる。
「こっちだって!」
 両者もまた攻撃に入った。双方一歩も引かないものとなった。
 ジンはその暫く後ろでそれぞれの機に指示を出しているようであった。冷静に戦局を見ていた。




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