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第二掲示板@うらたにんわあるど

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[281] 題名:第二十二話その二 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月23日 (木) 19時13分

「これで一安心だな」
「そうね」
 ナナは京四郎の言葉に頷いた。
「とりあえずは。けれど大丈夫かなあ」
「リクレイマーのことか?」
「うん。かなり数も多いし」
「それを何とかするのが俺達の仕事だろ」
 京四郎は心配そうなナナにそう言った。
「ナナ、御前はいつも通り俺のサポートに徹してくれ。いいな」
「うん」
 そこへカミーユの小隊が来た。そこにはフォウもいた。
「ナナ」
 フォウはナナに語りかけてきた。
「フォウさん」
「焦らないでね。皆心配するから」
「うん」
「貴女の考えていることは私にもわかるわ」
 彼女はナナの一矢に対する気持ちに気付いていた。
「けれど余計にね。そして思い詰めたらいけないわよ」
「思い詰めたら」
「あの時エリカさんがどうして一矢さんの下を去ったかわかるかしら」
「それは・・・・・・」
「それは一矢さんを苦しめたくはなかったからなの」
「苦しめたくなかったから」
「ええ」
 フォウは頷いた。
「私が以前ティターンズにたことは知ってるわね」
「はい」
「その時私もカミーユに救われた。そしてカミーユを苦しめてしまったわ。だからエリカさんの気持ちもよくわかるの」
「そうだったんですか」
「だから今はエリカさんを責めないでね。あの二人は今は」
「わかりました」
 ナナはそれを聞いて頷いた。
「フォウさんの気持ち、よくわかりました。有り難うございます」
「そう。それならいいわ」
「はい」
「フォウさん」
 話が終わると京四郎がフォウに話し掛けてきた。
「何でしょうか」
「有り難うな」
 京四郎は一言そう言っただけであたt。だがそれで充分であった。
「いえ」
 フォウは微笑んでそれに応えた。かって強化人間としてサイコガンダムに乗り込んでいた時とは別人の様に優しい笑みであった。
 戦いは続いていた。だが撃墜されるのはアンチボディだけでありロンド=ベルのマシンはどれも健在であった。やはりロンド=ベルの強さは変わらなかった。
「おのれ、またしてもか」
 ジョナサンは自軍にとって劣勢になった戦局を見て歯噛みした。
「だがまだだ。勇、貴様を倒すまでは」
「まだやるつもりか」
 勇は彼を見据えてそう言った。
「当然だ。貴様だけは許さん」
 ジョナサンは勇を睨みつけてそう言った。
「俺を侮辱したのだからな」
「ジョナサン=グレーン」
 ここで高い女の声がした。
「ムッ!?」
 勇もジョナサンも声がした方を見た。そこには赤いアンチボディがいた。
「姉さん」
「私は御前の姉さんではない」
 勇の言葉にすぐに言葉が返ってきた。
「私はクィンシィ=イッサー。覚えておけ」
「くっ」
 勇はそれを聞いて舌打ちした。だがクィンシィはそれに構わず言葉を続けた。
「ジョナサン、ここは撤退しろ」
「何故だ」
「これ以上の戦闘は無意味だ。それにここにバーム軍が迫っている。今の我々ではロンド=ベルとバーム軍両方を相手にすることは無理だ」
「馬鹿な、バーム軍なぞ」
「できるのか!?今の御前に」
 クィンシィはジョナサンを見据えてそう問うてきた。
「勇に片腕を斬られた御前に。できるというのか?」
「・・・・・・わかった」
 ジョナサンはそれを聞いて頷いた。
「今はそれに従おう」
「最初からそう言えばいい」
 クィンシィは冷たくそう言った。
「それでは全機撤退する。いいな」
「わかった。勇」
 ジョナサンは最後に彼を見た。
「今度会う時にはノヴァイス=ノアも貴様を倒してやる。いいな」
 そう言って姿を消した。シラーも姿を消していた。
「ジョナサン」
 勇は彼が消えた後を見ていた。だが何時までも見ているわけにはいかなかった。
「勇、来たよ」
 ヒメが言う。するとそこにはバーム軍がいた。
「やはり来たか」
 トロワがそれを見て一言そう言った。
「ああ、そんな感触はあった」
 シーブックがそう言う。
「だがこれを退けたなら暫くは大丈夫だ」
「どういうことだ、ウーヒェイ」
 宙が彼に尋ねる。
「今までバーム軍は俺達にかなりの戦力を向けてきたな」
「ああ」
「それだけにダメージも大きいということだ。おそらく今バーム軍は戦力をかなり消耗させている」
「だから今回の作戦の後は暫く行動がとれないということか」
「そうだ。だがそれだけにバームも必死になるだろう」
 彼は展開するバーム軍を見ながらそう述べた。
「じゃあここが踏ん張り時だな」
 健一がそれを聞いて言った。
「行くぞ皆、奴等を退けて香港へ行くんだ」
 そして前に出ようとする。だがそれを止める者がいた。
「待て、健一」
「その声は」 
 健一はその声の主をよく知っていた。
「兄さん、今の声は」
「まさか」
 大次郎と日吉もそれをよく知っていた。彼等は声がした方を見た。
「久し振りだな、三人共」
 そこには角を生やした神がいた。ボアダンの守護神であるゴードルであった。そしてそれに乗る者が誰なのか誰もが知っていた。
「ハイネル兄さん」
 健一がその名を呼んだ。
「プリンス=ハイネル、生きていたのか」
 洸がそれを見て驚きの声をあげた。
「如何にも」
 ゴードルに乗る美しい顔立ちの若者が洸に答えた。彼こそ健一達の兄でありかってはバルマー軍にいたプリンス=ハイネルであった。
「地球の戦士達よ、余は戻って来た」
「何故!?」
 めぐみが問う。
「平和の為、と言おうか」
 ハイネルは返す。だがそれに懐疑的な者もいた。
「おいおい、今まであれだけ暴れておいてそれはないんじゃないの」
 真吾がそう言った。
「そうだな。降伏勧告とかならともかく」
 キリーもそれに同意した。
「虫がよすぎるってもんだ」
「待ってくれ」
 だが健一がここで間に入ってきた。
「兄さんはそんな人じゃない。兄さんは前の戦いで戦いというものの無意味さがわかっている。それに兄さんは人を騙したりは決してしない」
 ハイネルの誇り高い心を誰よりもわかているからこそ言える言葉であった。
「だからここは兄さんを信じてくれ」
「おい、何を言っているんだ」
 ピートがそれに反論した。
「相手は今まで散々地球を侵略してきた奴等の指揮官の一人だぞ。どうしてそんな奴を信用できるんだ」
「ピート」
「どうやらおめでたいのは一矢だけじゃないみたいだな」
「だが今ここで戦っては同じことの繰り返しになってしまう」
「健一」
 そんな彼に対してアムロが声をかけてきた。
「アムロさん」
「御前の気持ちはわかる」
 彼は先の戦いで健一達と共にバルマーと戦ってきた。だからこそわかるのであった。
「だがそれでも今はまず疑ってかかった方がいい」
「アムロさん・・・・・・」
「冷静になれ。今バームは気が立っている。指導者のリオン大元帥を殺されたと思っているからな」
「はい」
「そんな状況で彼等が講和のテーブルにつくとは思えない。冷静に考えるんだ」
「そうだ」
 一矢がアムロの言葉に同意した。
「あのリヒテルがそんなことをするもんか」
(それにだ)
 アムロは心の中で考えていた。
(偽者を用意して欺こうとするのはボアダンの常套手段だった)
 かっての戦いの経験からそれを思い出していた。
(今回のその可能性がある。油断してはならない)
 そう思いながらゴードルを見た。彼は己の勘を研ぎ澄まさせた。そして敵の不意打ちに備えた。
「ふふふ、確かにな」
 ハイネルは彼等のやりとりを見て笑った。
「確かに余を信じろという方がおかしな話だ。かっては敵同士だったのだからな」
「兄さん」
「しかしこれだけは言っておこう」
 ハイネルは毅然とした声でロンド=ベルに対して言った。
「今地球とバームが戦っている場合ではないのだ。これはわかるだろう」
「ああ」
 それにはアムロも同意した。
「今地球、ボアダン、いや銀河に危機が迫っているのを忘れるな」
「奴等か」
 先の戦いに参加した者達がそれに頷いた。
「そうだ。奴等だ」
 そう語るハイネルの影に不吉なものが差した。彼もまた迫り来る脅威に警戒していたのだ。
「奴等を倒すことこそが我等の本来の目的であることを忘れるな。そして健一、大次郎、日吉よ」
「はい」
 三人は兄の言葉に顔を向けた。
「我等四人、例えどこにいようと一緒だ。我等は同じ血を引いているのだからな」
「兄さん・・・・・・」
「だから安心せよ。余は御前達の側に何時でもいる。そして何があろうと死にはしない。そう」
 ハイネルは言葉を続けた。
「地球とボアダン、そして銀河を救うまでな。そして今は」
 そう言いながらバーム軍に目を向けた。
「奴等の卑劣な罠を破らなければならない」
「罠!?」
「そうだ」
 ハイネルは頷いた。
「すぐにわかる。見よ」
 バーム軍を指差す。それはバーム軍にもわかった。指揮を執っているのはライザであった。ガルンロールに乗っていた。
「あれはボアダンのプリンス=ハイネルか」
 彼女もハイネルのことは聞いていた。
「先の戦いで死んだのではなかったのか。それがどうして」
 だが今の彼女にそれに構っている精神的な余裕はなかった。それをまずは無視することにした。
「まあいい」
 そして周りの者に声をかけた。
「あれを出せ。よいな」
「ハッ」
 兵士の一人がそれに応える。そして一機のマシンが出撃した。それを見た一矢の顔が驚愕に覆われた。
「あれは・・・・・・!」
「まさか・・・・・・」
 他の者も同じであった。皆驚かずにはいられなかった。
「エリカ!」
 そのマシンの頭には人がいた。それはエリカだったのだ。
「一矢・・・・・・」
 エリカはダイモスを見た。一矢もエリカを見ていた。
「エリカ、どうして」
「竜崎」
 ここでマシンから男の声がした。一矢もよく知っている声であった。
「ハレック」
「今は攻撃しないでくれ。このエリカ様は本物のエリカ様だ」
「どうしてエリカを」
「これこそが罠なのだ」
 ハイネルは一矢に対してそう語った。
「そこにいるバームの者のな。竜崎一矢、御前を倒す為にだ」
「俺を!?」
「そうだ」
 ハイネルはまた答えた。
「だが御前はまだ倒されるわけにはいかない。何故なら」
「何故なら!?」
 皆それに問うた。
「御前はこれからの地球とバームにとって必要な人間だからだ。その為には」
 ここでハレックの乗るマシンが動いた。
「竜崎!」
 ハレックが叫んだ。
「このクラインは今は俺の手では動かん!コンピューターが制御している!」
「何!」
「済まない竜崎」
 ハレックは言った。
「俺は・・・・・・御前との決着をつけられそうにない」
「ハレック!」
 クラインは姿を消した。
「来たか」
 それと同時にハイネルは動いた。すぐにダイモスの側に来た。
「何をするつもりだ」
 ライザはそれを見ていぶかしんだ。
「折角竜崎一矢、そしてリヒテル様に害を及ぼすであろうエリカ様を除けるというのに。どういうことだ」
「そうはさせん」
 だがハイネルには彼女の考えがわかっていた。ダイモスの側で身構える。
 そこにクラインが姿を現わしてきた。そこでゴードルが動いた。
「御前達の邪な企み、このプリンス=ハイネルが退けてくれよう」
「おい、一矢」
 ここで京四郎が一矢に声をかけてきた。
「何だ、京四郎」
「このままでいいのか。御前がエリカを救わなくてどうする」
「あ、ああ」
 一矢はそれに頷いた。
「お兄ちゃん」
 ナナも彼に語りかけてきた。
「エリカさんはお兄ちゃんの為に命をかけているのよ。だからお兄ちゃんも」
「わかってる」
 最初から迷いはなかった。彼は身構えた。そして出て来たクラインを見据える。
「エリカ」
「はい」 
 エリカに声をかける。彼女はそれに頷いた。
「俺は君を助ける。何があってもな」
「一矢・・・・・・」
「世界、いや宇宙の全てが敵になっても俺は君を守る」
 彼は言った。
「何故なら・・・・・・君は俺が愛した女だからだ。君は俺が愛する者だからだ」
「一矢・・・・・・」
 エリカの黒い瞳から銀の涙が溢れ出た。
「その言葉だけで私は・・・・・・。どんな苦難にも耐えられます」
(これでいいのよね)
 ナナはそれを見て思った。
「エリカさんを信じるわ。私が大好きな人が愛する人だもの」
「そうだな、ナナ」
 京四郎はそれを聞いて頷いた。
「暫くの間に大人になったな」
「京四郎さん・・・・・・」
「俺達は一矢を見守ろう。そしてエリカも」
「はい」
「やれやれ」
 それを見ながらデュオが声をあげた。
「あそこまで言われたらこっちまで信じてみようって気になるな」
「全くだ」
 ウーヒェイもそれに同意した。普段の彼からは予想もできない言葉であった。
「カトルだけじゃなかったんだな。あんなお人好しは」
「あれ、僕は最初から信じていましたよ」
 当の本人はデュオにそう言葉を返した。
「ふふふ、それはカトル君らしいね」
 万丈がそれを聞いて笑ってそう言った。
「しかしあのクラインは厄介だな。何とかしないと」
「そうですね」
「このまま黙っているのは願い下げだ」
 ヘイトがこう言った。
「若い二人の恋路を邪魔するのは」
 レミーも言う。
「拳で叩き潰すだけだ」
「ドモンさん、そうじゃないわよ」
 リューネがそれに突っ込みを入れる。
「馬に蹴られて死んじまえ、でしょ」
「む、そうだったか」
「・・・・・・確かにドモンさんの拳で殴られたら死んじゃうだろうけれど」
 シンジがポツリと呟く。
「とにかくここはあたし達が頑張ろうよ」
 プルが言った。
「ええ、頑張りましょ!」
 ヒメも同意した。
「そういうことだ、一矢。他の奴等は俺達に任せな!」
 甲児が一矢に対して言葉をかけた。
「皆・・・・・・」
「こうした時はお互い様だ。気にするな」
 デュークもそう声をかける。今ロンド=ベルは心が一つになった。
「済まない。必ずエリカを救い出す!」
「よし」
「後ろは任せな!」
 ダイモスは身構えた。そこへハレックの声がした。
「素晴らしい戦士達だな、竜崎」
「ハレック」
「どうやら俺の目に狂いはなかったようだ。御前も彼等も素晴らしい者達だ。どうやら地球人というのは素晴らしい者達のようだな」
「わかってくれたか」
「ああ。だが俺達は戦わなくてはならない。それはわかるな」
「無論」
「では言おう。このクラインには爆弾が仕掛けられている」
「何!?」
「ライザは俺やエリカ様ごとロンド=ベルを消し去るつもりなのだ」
「馬鹿な、何ということを」
「しかも時限爆弾だ。あと三分で爆発する」
「ク・・・・・・」
「一矢」
 だがここでバニングが一矢に語りかけてきた。
「それだけあれば充分だ。その間は我々が周りを引き受けるからな」
「何、三分なんて楽勝だぜ」
 ビーチャは本心を隠して強がりで言った。
「そうだよ。だから一矢さんはエリカさんを助けなよ」
「モンド・・・・・・」
 一矢には彼等の心が痛い程わかった。そしてそれに痛み入った。
「わかった。必ず救う。俺の全てをかけて」
「では来い、竜崎」
 ハレックが言った。
「御前ならこれの亜空間移動に対応できる筈だ」
「勿論だ。行くぞ、ハレック!」
「よし、来い!」
「・・・・・・フ」
 ハイネルはそんな彼等を見て微笑んだ。清々しい笑みであった。
「竜崎一矢、どうやら余が思っていた以上の男だ」
 そう呟いた。
「ここはこの者に任せるとしよう。健一」
「はい」
「余もここは御前達に協力させてもらおう。今は周りにいるバーム軍を退けるぞ」
「わかりました、兄さん」
 ハイネルも戦いに参加した。ゴドールの剣が唸る。
「このハイネル」
 彼は剣をかざしながら言う。
「義の為に戦う。その前に立ちはだかるのなら容赦はせん!」
 そしてバームのマシンを次々と両断していく。だがパイロットは決して狙わなかった。
「うわっ!」
「脱出するがいい」
 彼はバームの兵士に対してそう述べた。その兵士はそれに従うように脱出した。
 ズバンザーがドゴールの後ろで爆発する。ハイネルはその爆風を背で受けながら呟いた。
「バームの兵士達、そしてリヒテルよ、早く気付くのだ」
 そう呟きながら空を見る。
「自分達の真の敵が何なのかをな。いずれ気付く筈だ」
 言葉を続ける。
「余もかってはそなた達と同じだったのだから」
 ハイネルの参戦は大きかった。ロンド=ベルは彼の助けもあり順調に戦いを進めていた。その間にダイモスはクラインとの戦いを進めていた。
「竜崎」
 ハレックは一矢に語りかけていた。
「こいつの動きに惑わされるな。心を無心にすれば動きを見切れる筈だ」
「無心にか」
「そうだ」
 彼は一矢にそう答えた。
「できるな、御前なら」
「ああ」
 自信はあった。一矢はそれを受けてまず目を閉じた。
「さあ来い」
 そう言いながら構える。
「俺の空手を見せてやる」
「よくぞ言った、地球の誇り高い戦士よ」
 ハレックはそれを聞いて笑みを浮かべた。
「それでこそ俺が見込んだ男だ。頼むぞ」
 その間に戦局は進んでいた。損害が無視できない程になったのを見てライザは決心した。
「全軍撤退せよ、よいな!」
「待て!」
 ロンド=ベルはそれに対して追撃を仕掛ける。だがライザはそれより先に撤退してしまった。戦場にはロンド=ベルとハレックだけが残る形となった。
 クラインが姿を消した。それはダイモスに襲い掛かる合図でもあった。
「来たな」
 一矢は気配を感じていた。例えマシンであろうともその殺気は感じられた。彼は身構えた。
(頼むぞ)
 ハレックは姿を消したクラインの中でそう呟いた。
(願わくばクラインの制御系統を破壊してくれ)
 彼は密かにそう願っていた。
(俺がこれを操れるように)
 何かを決意していた。だがそれを表に出すことはなかった。それはあくまで決意であった。
 クラインが姿を現わした。そしてダイモスに攻撃を仕掛ける。だがダイモスはそれを見切っていた。
「そこかあっ!」
 一矢は動いた。そしてクラインに攻撃を仕掛ける。
「ダブルブリザァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッド!」
 胸から竜巻を放つ。そしてそれでクラインを捉えた。
「必殺烈風・・・・・・」
 蹴りを放つ。一直線に向かう。
「ダイモキィィィィィィィック!」
 それでクラインを撃った。蹴りがその急所を貫いた。これで決まりだった。
「よし!」
 攻撃を受けたハレックが会心の笑みを浮かべた。
「後はエリカとハレックを」
「竜崎一矢」
 ハレックはクラインの中から一矢に語りかけてきた。
「俺を信じてくれたことに礼を言おう」
「気にするな、ハレック。御前のおかげで」
「言うな。だがもう時間がない」
「何!?」
 一矢だけではなかった。それを聞いた全ての者が驚きの声をあげた。
「もう起爆装置を解除する時間は残されてはいないのだ」
「そんな・・・・・・」
 ナナはそれを聞いて絶句した。
「それじゃあハレックさんもエリカさんも」
「クッ」
 京四郎もそれを聞いて舌打ちした。
「何てこった」
「爆発すれば結果は同じだ。ロンド=ベルもエリカ様もな」
「じゃあどうすれば」
「解決する方法は一つだけある」
「それは」
「エリカ様」
 ハレックはエリカに声をかけた。
「これで竜崎に借りを返すことができます」
「ハレック、貴方は」
「御免!」
 ハレックは動いた。そしてエリカをクラインから解き放った。
「竜崎、エリカ様を!」
「わかった!」
 一矢はすぐにダイモスでエリカを保護した。ハレックはそれを見て笑った。覚悟を決めた、清々しい笑みであった。
「よし、これでいい」
 彼はすぐにクラインのコクピットに戻った。そしてロンド=ベルから離れた。
「一矢、ハレックを追って!」
 エリカが叫ぶ。
「あの人は・・・・・・死ぬ気です!」
「わかってる!」
 それは一矢にもわかっていた。彼は追おうとする。だがそれを当のハレックが止めた。
「来るな、竜崎!」
「!」
 その声に思わず動きを止めてしまった。
「バームと地球の平和の為に御前の様な勇気ある男を死なせたくはない」
「ハレック・・・・・・!」
「バームと地球の平和・・・・・・。そしてエリカ様と御前を勇気ある戦士達に託そう」
「何処へ行くつもりだ」
「何処へか」
 ハレックはまた笑った。
「それは決まっている」
 空を見上げて言う。そこには何処までも続く果てしない青空があった。
「成層圏を突き抜けて星空の彼方・・・・・・。この果てしなく広がる宇宙が俺の故郷」
 彼は言う。
「ハレック!死ぬな!」
「さらば我が友竜崎一矢。出来ることならもう一度御前と拳を交えたかったが・・・・・・。さらば!」
 そして彼は消えた。大空に姿を消した。
「ハレックゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーッ!」
「ああ・・・・・・」
 一矢の叫び声とエリカの嘆きが木霊する。その中でミドリがポツリと言った。
「・・・・・・成層圏での爆発の反応を確認」
「そうか」
 普段は冷静な大文字もそれを聞いて沈んだ声を出した。
「クラインの反応、消えました」
「あの男、最初から爆弾が解除不能なのを知っていて」
 サコンも沈んだ顔でそう呟く。
「何て奴だ」
「・・・・・・バームにも、いや異星人にもあんな男がいたのか」
 ピートも同じだった。皆ハレックのその行動に深い衝撃を受けていた。
「ハレック、御前って奴は」
 一矢はとりわけそうであった。空を見上げていた。
「行っちまったんだな」
 甲児がそこで呟いた。
「え!?」
「あいつの故郷にな。あいつが言っていた」
「甲児・・・・・・」
 カミーユの心にも甲児のその言葉がしみていた。
「・・・・・・・・・」
 一矢はそれを聞いて何も言えなかった。エリカも同じであった。あまりにも誇り高い戦士の最期であった。
 だがその時だった。不意にエリカの側に何者かが姿を現わした。
「ああっ!」
 そしてエリカを捉えた。それはバームの工作員達であった。
「エリカッ!」
「何だとっ!」
 一矢と京四郎がそれを見て驚きの声をあげる。
「メルビ様の御命令だ、エリカ様をお連れしろ!」
「馬鹿な、そんなことをさせるか!」
 だがそれは間に合わなかった。彼等はすぐに瞬間移動でロンド=ベルから離れた。
「一矢!」
「エリカ!」
 二人は叫ぶ。だがそれでも間は離れていく。
「やっと会えたのに・・・・・・どうしてなんだ!」
「私も・・・・・・どうしてこんな・・・・・・」
「エリカを・・・・・・エリカを渡すかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「一矢ああーーーーーーーーーっ!」
 だがエリカを捉えた工作員達は姿を消した。そしてエリカの姿は消えた。
「エリカァァァァァァッ!」
 神戸の海の一矢の叫びだけが響いた。こうして神戸の戦いは悲しい結末と共に幕を降ろした。ロンド=ベルは悲しみに浸る間もなく香港に向かわなければなからなかった。

 海底城ではライザがリヒテルの叱責を受けていた。彼はライザに詰め寄っていた。
「ライザ、どういうことだ」
 彼は怒りに満ちた顔と声で彼女に問う。
「何故エリカを作戦に利用したのだ、説明せよ!」
「この作戦、リヒテル様の了承を得ましたので」
「何!?」
 ライザの返答に目を丸くさせた。
「リヒテル様は獄中の者を作戦に使うと私が申し出た時了承して下さいましたが」
「むう・・・・・・」
 リヒテルはそれを聞いて言葉を詰まらせた。
「違うでしょうか」
「・・・・・・確かに」
 そう言ったのは事実である。彼はそれに頷くしかなかった。
「まあよい。それでは今回の件は問わぬ。よいな」
「はっ」
 これでこの話は終わった。だがリヒテルは言葉を続けた。
「してエリカは」
「それですが」
 ライザは言葉を濁した。
「戦闘中に行方不明となられ」
「何っ!?」
 リヒテルはそれを聞いて驚きの声をあげた。
「それはまことか!?」
「はい」
 ライザは頷いた。
「今は何処におられるのか」
「そんなことはどうでもよい。すぐに探して参れ」
「その必要はないぞ、リヒテル」
 だがここでメルビが出て来た。
「メルビ補佐官」
「エリカは俺が保護しておいた」
「それはまことか」
「ああ。エリカをここへ」
「はっ」
 メルビの後ろにいる兵士がそれに応えて姿を消した。そして暫くしてエリカが姿を現わした。
「エリカ、生きていたのか」
「・・・・・・はい」
 エリカは兄に対して沈んだ顔で頷いた。
「メルビ補佐官に助けて頂きました」
「そうか、それは何よりだった。メルビ補佐官、礼を言おう」
「礼なぞいらぬ」
 だが彼はそれに対して鷹揚に応えるだけであった。
「戻って来たのは何よりだ。もう二度とこのような事態は起こさせぬ」
 リヒテルはそう言いながら腰の剣を抜いた。
「エリカ、そこになおれ。この兄の手で始末をつけてくれる」
「はい・・・・・・」
 最早逃げようとしなかった。潔く自らの運命を受け入れるつもりだった。だがここでまたメルビが出て来た。
「まあ待て、リヒテル。エリカを渡すわけにはいかんぞ」
「留め立てするのか」
「違うな。渡せぬと言ったのだ」
「何っ」
「エリカは俺の花嫁になるのだからな」
「なっ」
 それを聞いたリヒテルが驚きの声をあげた。
「それはまことか」
「そうだ。俺がわざわざ地球に来たのはその為だ」
 メルビは笑いながらそう答えた。
「もう一人身でいるのにも飽きてな。それで来たのだ」
「それはならん」
 しかしリヒテルはそれを拒絶した。
「このことに関しては全て余に権限あある」
「フン」
 しかしメルビはその言葉を鼻で笑った。
「俺がオルバン大元帥の甥だとしてもか」
「クッ・・・・・・!」
 切り札を出した。これにはさしものリヒテルも沈黙するしかなかった。
「心配するな。ここで式を挙げるとは言わん」
 リヒテルを安心させる為かそう言った。
「御前がこの結婚を認めるのなら俺はすぐにでもここを去ろう。もうすることもないのでな」
「去るのか」
「そうだ。これは御前にとってもいいことだと思うが」
 メルビは笑いながらそう言った。
「余にも?」
「そうだ。エリカはていよく追放だ。どうだ、悪い話ではあるまい」
「ううむ」
「どうする?御前にとってもいい話だぞ」
「・・・・・・わかった」
 リヒテルはその言葉に頷いた。
「よし」
 メルビはそれを聞いて満足気に頷いた。
「ではこれで決まりだ。よいな」
「うむ」
「さあエリカよ」
 メルビはあらためてエリカに顔を向けた。
「小バームへ戻るぞ。よいな」
「・・・・・・・・・」
 エリカは答えなかった。メルビはそれに構わず続けた。
「マルガレーテも連れて行ってよいか」
「何故だ?」
「エリカ付きの侍女としてな。どうだ」
「よかろう」
 それを認めた。
「そなたの好きにするがいい。余にそれを止めるつもりはない」
「わかった。それでは」
 それを受けてマルガレーテにも顔を向けた。
「よいな」
「はい」
 マルガレーテは気丈な顔で頷いた。頷いてからエリカを見た。
「おひいさま・・・・・・」
「マルガレーテ・・・・・・」
 幼い頃から互いに知った者同士である。その結びつきは深かった。
「さあエリカ」
 メルビはそれを無視してエリカに言う。
「これで御前は俺のものだ。その笑顔は俺にだけ見せるのだ。よいな」
「はい・・・・・・」
 エリカは頷きながらもそれに従うことはできなかった。
(ああ、一矢)
 そして心の中で一矢の名を呼んだ。
(ようやく貴方に会えたというのに・・・・・・)
 想うのは一矢のことだけであった。彼女は自らの数奇な運命に翻弄されようとしていた。
 だがエリカはそれにあがらうことを決意していた。その心は最早何を以ってしても変えられないものとなろうとしていた。

「それではな」
 ハイネルは健一達に別れの言葉を送っていた。
「余はこれで去らせてもらおう」
「兄さん、行くのかい」
 健一はそんな彼に対して声をかけた。他のボルテスチームの面々も一緒であった。
「うむ。まだ余にはやるべきことがあるのでな」
 ハイネルはそう答えた。
「やるべきことって?」
「やがて御前達にもわかることだ」
「そうなのか」
 悪いことではないのはわかっていた。今健一達とハイネルは心で繋がっていたからだ。
「父上はお元気か」
「ああ」
「元気にしとるばい」
「そっちは心配しなくていいよ」
「そうか、それは何よりだ」
 それを聞いてあらためて微笑んだ。
「余のような不肖の子を持って心苦しいだろうが」
「何を言っているんだ」
 健一はそんなハイネルに対して言った。
「兄さんみたいな人をそんなふうに思う筈がないじゃないか」
「そうかな」
「ああ、その通りだ」
 一平がここで言った。
「プリンス=ハイネル、あんたは立派な男だ」
 彼はハイネルに対してそう言った。
「あんたみたいな男を息子に持てて博士も喜んでいることだろう」
「だといいがな」
「そうだよ。兄さんは俺達にとっても誇りなんだ」
「健一」
 ハイネルはあらためて弟達を見た。
「兄さんは立派な戦士だ」
「そしておいどん達にとっては誇り高い兄さんたい」
「そうだよ。おいら達ハイネル兄さんがいてくれて本当に有り難いと思っているんだよ」
「大次郎、日吉」
 ハイネルは弟達のそんな言葉を聞き目を潤ませた。
「どうやら余は自らに過ぎた弟達を持ったようだな。何という幸せか」
 そしてロンド=ベルの面々に顔を向けた。
「この者達を宜しく頼む」
「ああ、任せとけ」
 豹馬が彼に応えた。
「健一達は俺達が守るからよ。フォローしてやるぜ」
「ちょっと、それは違うわよ」
 ちずるが彼に対して言う。
「フォローされる、でしょ。豹馬はいつも健一さんにフォローされてるじゃない」
「おい、何言うんだよ」
「ホンマのことやろが」
 十三の突っ込みを入れる。
「豹馬、おまさんはちと焦り過ぎなんや。ちっとは健一さんを見習わんかい」
「十三には言われたくはねえな」
「確かに十三さんもそうですよね」
「そうですたい」
 小介と大作も話に入ってきた。
「確かに健一は豹馬君よりは落ち着いているけれど」
 めぐみが言った。
「けれどやっぱり皆の力が必要よな」
「ああ、それはわかってる」
 健一もそれに頷いた。
「頼りにしてるぜ、皆」
「おお、宜しくな」
「豹馬の場合は宜しくお願いします、だな」
「甲児君もね」
「ちぇっ、さやかさんもきついな」
「ふふふ」
 ハイネルはそんなやりとりをするロンド=ベルの面々を見て微笑んだ。
「いい仲間達だな。大事にするようにな」
 そして健一達に対してこう声をかけた。
「はい」
 健一達はそれに頷いた。
「そして兄さんも」
「わかっている」
 ハイネルはそれに頷いた。
「任せておけ。よいな」
「はい!」
「それではロンド=ベルの誇り高い戦士達よ」
 彼はまたロンド=ベルの面々に顔を向けた。
「さらだ、また会おう」
「シーユーアゲイン」
 最後にレミーの言葉が響く。そしてハイネルはゴドールと共に姿を消した。後にはロンド=ベルの面々だけが残った。
「立派になったな、あらためて」
 鉄也が去り行くゴドールを見ながらそう呟いた。
「ああ、そうだな」
 竜馬がそれに同意する。
「どうやら人間的にも成長したようだ。プリンス=ハイネル、大きくなったな」
「そうだな。しかし一つ気になるのだが」
「何だ」
「いや、ハイネルを見ているとな」
 鉄也は言う。
「あのリヒテルという男に似ているな、と思ってな」
「確かにな」
 隼人がそれに頷く。
「あの二人は似ている。気性も何もかもな」
「御前もそう思うか」
「ああ。だから何かがあれば変わると思う。だが」
 隼人は尚も言う。
「そうなるまでが大変だろうな。ああしたタイプは何かと頑固だ」
 彼は的確にリヒテルという男を見抜いていた。
「だが何時かは奴もわかるだろう」
「何時かは、か」
「そうだ。しかしその時に手遅れになっていないことを祈る」
「隼人・・・・・・」
 弁慶はそれを聞いて難しい顔をする。そしてロンド=ベルの面々はそれぞれの艦に戻った。

「エリカ」
 一矢は感慨深げに空を見ていた。
「君は生きていた。そして地球とバームのことを心から考えていてくれた。俺と同じように」
 彼にはそれが嬉しくてならなかった。
「ならば俺も二つの星の為に戦う。我が友ハレックの為にも」
「ふうむ」
 ビルギットはそんな彼をみながらモンシアに対して言った。
「一矢の奴そんなに落ち込んじゃいませんね」
「まあ男ってのはそういうもんさ」
 彼はそう答えた。
「それはどういう意味ですか?」
 ジュンが彼に問う。
「そのまんまだ。あいつはふられたんだよ」
「おい、適当なこと言うな」
 それにリョーコが食ってかかる。
「あいつ等は別れてなんかいねえぞ。勝手な作り話してんじゃねえ」
「あの二人は離れ離れになってるだけですよ」
 ヒカルが言う。
「つまりロミオとジュリエットってことか」
「まあそういうことだな」
 リョーコはビルギットの言葉に頷いた。
「だから何時かはまた会えるさ」
「あれ、ロミオとジュリエットは最後は」
「あたし達はシェークスピアじゃねえ」
 リョーコはヒカルの言葉を否定した。
「あたし達はロンド=ベルだ。不可能を可能にする、そうだろ」
「御前もたまにはいいこと言うな」
 ガイはそれを聞いて声をあげた。
「だがその通りだ。よくわかっているな」
「ヘン、あんたからそれを学んだんだよ」
「それは何よりだ、ふふふ」
「けれど悪影響も入っているな」
 ナガレがポツリと呟く。
「二人共すぐエキサイトするから」
「アキト、おめえもな」
 リョーコが突っ込みを入れる。
「人のことはあまり言えねえぞ」
「そうかなあ」
「人の振り見て我が振りなおせ」
 イズミがポツリ、と呟く。そこにルリが突っ込みを入れる。
「イズミさん、意味が違うと思います」
「気にしない、気にしない」
「まあ俺はリョーコの言葉に賛成させてもらうぜ」
 ビルギットがそう言った。
「お、有り難いねえ。どうしてだい?」
「いや、俺達はシェークスピアじゃないって言っただろ」
「ああ」
「それだ。俺達であの二人を結び付けてやれたらいいな」
「いいな、じゃねえよ」
 リョーコはニヤリと笑いながら言った。
「結び付けるんだ、いいな」
「そうだな、その通りだ」
「リョーコさんっていい人なんですね」
 クスハがそんな彼女に対して言った。
「おい、褒めたって何も出ねえぞ」
 照れ隠しにそう笑う。
「けれどこれで何か安心しました。希望があるってわかったし」
「そうだな」
 ブリットもそれに同意する。
「あの二人は必ず地球とバームの架け橋になる。だから」
 言葉を続けた。
「その為にも一緒になってもらいたい。こういうと変な意味になるが」
「いえ、そうは思いません」
 ルリがブリットに対してそう述べた。
「無益な戦いより平和の方がいいのは事実ですから」
「そうだな」
 ブリットはそれに頷いた。そしてまた言った。
「地球とバーム・・・・・・。もう一度話し合うことができればな。本当にそう思う」
「はい」
 ルリはそれに応えた。そしてその金色の目で遠くを見た。
「けれどそれにはまだ」
 ルリの見ているものは遥か彼方にあった。だがそれは決して届かない場所ではない。彼女にもロンド=ベルの者達にもそれがわかっていた。だからこそ彼等は諦めてはいなかった。そしてそこに辿り着く為に再び戦場に向かうのであった。


第二十二話    完



                                    2005・5・15


[280] 題名:第二十二話その一 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月23日 (木) 19時05分

             誇り高き戦士
 マイヨは地球に降り立った。そこは見渡す限り砂漠が広がっていた。
「凄い場所ですね」
 彼の後ろにいるウェルナーがその何処までも広がる砂漠を見渡して言った。
「こんなところに本当に友軍がいるんですかね」
「いる」
 マイヨは静かな声でそう答えた。
「もうすぐしたら来る予定だ。それまで周囲への警戒を怠るな」
「わかりました。しかしまたこんなに早く地球へ侵攻するとは思いませんでした」
「マスドライバーが完成してからだと思っていたのですが」
 カールがそう述べた。
「マスドライバーか」
「はい。ギルトール閣下が開発を進めておられる」
「あれが完成した暁には我等の理想も完成致します」
「そうだな」
 マイヨはダンの言葉を受けて頷いた。
「閣下の理想の為にはマスドライバーは何としても必要だ」
「はい」
「だがそれだけではないのだ」
「といいますと」
 三人はそれを受けてマイヨに顔を向けた。
「閣下の理想には御前達の力も必要だ」
「我々の」
「うむ」
 マイヨはまた頷いた。
「閣下の理想には選ばれた者達の力が何よりも必要なのだ。御前達のような」
「大尉殿」
「だからこそ我々はここに来た。よいな」
「はい!」
「閣下の理想の為、力を借りるぞ」
「大尉殿、いえ閣下の為に」
「この命喜んで捧げましょう」
「うむ」
 マイヨはそれを聞いてまた頷いた。そして月を離れここに来る時のことを思い出していた。

「美しいな」
 ギガノス統合作戦本部の一室で威厳のある顔立ちをしたギガノスの軍服の男が地球を眺めながらそう呟いていた。
「地球はここから見るのが最も美しい。そうは思わないか」 
 そう言いながらマイヨに顔を向けてきた。
「ハッ」
 マイヨはそれに応えて頷いた。
「閣下の仰る通りです」
 マイヨの前にいるこの男こそがギガノスの指導者ギルトール元帥であった。かっては連邦軍において温厚かつ有能な将軍として知られたが今ではギガノスの指導者となっている。その理想主義故に地球に対して反逆の道をとった。彼もまた地球の未来を憂え、そして動いたのであった。問題はその理想ではなく行動にあったのだが彼はそれでもあえてこの道を選んだのであった。
「美しい星にはそれに相応しい者が住むべきなのだ。そうは思わないか」
「はい」
 マイヨはその言葉に同意した。
「閣下の御考えこそ地球を、そして人類を救う道だと思います」
「そうか。そう思うか」
「はい」
 マイヨは純粋な目をしていた。そしてその目でギルトールを見ていた。その後ろにある水槽で一匹の魚がはねた。
「これはランブルフィッシュといってな」
 ギルトールはマイヨに説明をはじめた。
「一つの水槽に一匹しか飼えぬ。二匹飼えば互いに死ぬまで戦う」
「激しい気性の魚ですね」
「だがわしはこの魚が好きだ」
 一言そう答えた。
「この闘争本能がな。狙った相手には最後まで立ち向かう。そのひたむきさが好きだ」
「はい」
「それでだ」
 ここで彼はマイヨに対して言った。
「実は気になることを聞いた」
「何でしょうか」
「君の父上が生きておられるとな。今中国にいるそうだ」
「まさか」
「そう思いたいか?だがそれが真実だとしたら」
「・・・・・・・・・」
 マイヨは答えられなかった。だがギスカールはそんな彼に対して言葉を続けた。
「どうする?返答を聞きたい」
「はい」
 こうして彼は地球に来たのである。今彼はそのことを思い出していた。
「ここにも連邦軍はいたな」
「はい」
 カールが答えた。
「重慶の辺りに。あと香港にも」
「そうか。中国にか」
「どうしますか?」
「まずはグン=ジェム隊と合流してからだ」
 マイヨはそう答えた。
「全てはそれからだ。いいな」
「ハッ」
 プラクティーズの面々は彼に敬礼して応えた。そしてその後ろにいるメタルアーマー達も彼に従うのであった。
 
 ロンド=ベルはその頃第二東京市を離れ香港に向かっていた。そして途中神戸に立ち寄っていた。
 ここもまた港町であった。彼等はそこで補給を受けていた。それは海底城にいるリヒテルの耳にも届いていた。
「そうか、奴等は今神戸とかいう都市にいるか」
「はい」
 報告をした兵士がそれに応えた。
「このまま日本を離れるようです。一体何のつもりでしょうか」
「ふむ、我等に怖れをなすような連中でもない。おそらく別の敵に向かっているのであろう」
 リヒテルはそう読んだ。そshちえそれは正しかった。
「だがそれはかえって好都合やも知れぬな。我が軍のダメージも無視できぬ」
「はい」
「暫くは軍を整えるべきかも知れぬ。だが神戸には攻撃を仕掛けたい」
「それでは」
「うむ。出撃の用意をせよ。よいな」
「ハッ」
「リヒテル様!」
 ここでバルバスが入って来た。何やら慌てふためいた様子であった。
「バルバス、どうした」
 リヒテルは落ち着いた様子で彼に顔を向けた。
「落ち着け。指揮官がそんなに慌ててどうする」
「大変でございます」
「大変!?何があったのだ」
「小バームよりメルビ補佐官が来られました」
「何、メルビ補佐官が」
「はい」
 バルバスはそこまで言ってようやく落ち着きを取り戻した。
「如何なされますか」
「ううむ」
 リヒテルは考えた後でバルバスに対して述べた。
「メルビ補佐官はオルバン大元帥の甥」
「はい」
 オルバンはバームの最高指導者である。リオン亡き後その後を継ぎ指導者となった形である。
「それが事前の連絡もなしにか」
「どうやらそのようです」
「一体どういうことだ」
「まさか地球攻略が進まぬことにオルバン大元帥がご立腹なのでは」
 バルバスは心配そうな顔でそう述べた。
「ならばメルビ補佐官は監視役として派遣されてきたのでしょうか」
 ライザも心配そうな顔であった。リヒテルは二人の顔を見ながら言った。
「まずは落ち着け」
「はい」 
 二人を鎮めた。
「とりあえずは会おう。よいな」
「はい」
「わかりました、リヒテル様」
 二人はそれに頷いた。リヒテルはそれを見届けた後でまた二人に対して言った。
「それではこちらに案内してくれ。よいな」
「ハッ」
「しかしだ」
 リヒテルは二人の姿を見送りながら考えていた。
「何故今あの男がここに」
 それが彼が考え込む理由であった。
「メルビ・・・・・・。酒に酔うだけの無能者が。どうして今ここに」
 考えても結論は出なかった。すぐに二人が戻ってきた。
「メルビ補佐官をお連れしました」
「うむ」
 彼は考えることを止めた。そしてメルビを部屋に入れるように言った。
 こうして程無くしてメルビが司令室に呼ばれた。見ればだらしない歩き方をする男であった。
「久し振りだな、リヒテル」
 まずは彼の方から挨拶があった。
「メルビ補佐官、よくぞ参られた」
 儀礼的な礼を返す。だがメルビはそれを手で払った。
「歓迎しても何もでんぞ、ふふふ」
「・・・・・・・・・」
 リヒテルは儀礼を無視したその態度に思うところがあったがこの場では言わなかった。儀礼に従い言葉を続ける。これがバームの儀礼であることは言うまでもない。
「それではそなたがここへ来た理由を聞かせてもらおう」
「俺がここへ来た理由か」
「そうだ」
 リヒテルは頷いた。
「一体何の用でこちらに来られたのか。お聞かせ願いたい」
「さて、忘れたな」
 メルビはとぼけた。
「何!?」
 これにはリヒテルも憤りを覚えた。元々短気な気性でありそれが余計に彼の怒りを刺激した。
「まあそう怒るな」
 だがそれでもメルビは至って落ち着いていた。いや、ふざけているような態度であった。
「それとも大元帥に聞かせたくはない話でもあるというのか?ん?」
「馬鹿な」
 ここでリヒテルはあることに気付いた。
「待たれよ」
「何だ」
「メルビ補佐官・・・・・・。そなた酔っておられるのか!?」
「如何にも」
 彼は恥じることなくそう答えた。
「酒を飲めば酔う。これは当然のことであろう」
「馬鹿な」
 それを聞いてライザが顔を顰めさせた。
「さて、面妖な」
 だがそれでもメルビは笑っていた。
「大元帥の甥が酒を飲んではならないという法律でもあるというのか?」
 彼はそう嘯いた。リヒテルはそれを見て目を鋭くさせるだけであった。だがメルビはそんな彼に声をかけた。
「リヒテル提督」
「何か」
「そなたの妹君はどうしたのだ」
 彼はエリカについて問うてきた。
「・・・・・・・・・」
 リヒテルは答えようとしない。だがメルビはそれに構わず話を続ける。
「折角わざわざ地球に来たのだ。美しき姫君に挨拶させてもらうか」
「メルビ補佐官」
 リヒテルは怒りを押し隠した声で彼に対して言った。
「何だ」
「今我々は地球制圧作戦を実施中だ。下らぬことなら早々に立ち去られよ」
「わかったわかった」
 メルビはそれでも反省することなく手を振ってそれを制した。
「ならばここで我がバーム軍の戦いぶりを見物させてもらおう」
「なっ」
「見物と」
 それを聞いてバルバスもライザも思わず声をあげた。
「そうだ。見物だ」
 しかしそれでもメルビの態度は変わることがなかった。平然とそう言葉を返した。
「勝利の酒を用意しておく。楽しみにしているぞ、リヒテル。ハハハハハ」
 笑いながら司令室を立ち去った。リヒテルは彼がいなくなったのを見てから吐き捨てるように言葉を出した。
「役立たずめが・・・・・・!」
 その声には先程まで溜めていた怒りが満ち満ちていた。
「リヒテル様」
 そんな彼にライザが声をかけてきた。
「何だ」
「メルビ補佐官は一体何の用件でこちらに来られたのでしょうか」
「余の知ったことか」
 まだ怒りが収まらない。また吐き捨てるように言う。
「だが奴が小バームに戻ればオルバン大元帥が今の状況をお知りになるのは事実だ」
「はい」
 バルバスもそれに頷いた。
「そうなればバーム十億の民がどれだけ絶望し落胆するか。それを思うとな」
「それですが」
 ここでライザが申し出た。
「私に一つ策があります」
「策!?」
「はい。あの男を使うのです」
「あの男」
 リヒテルはそれを聞いてそれが誰のことであるのかすぐにわかった。
「フン」
 怒りを覚えながらもそれを認めることにした。
「あの様な裏切り者なぞ不要、好きにするがいい」
「ハッ」
 ライザは頷いた。それから答えた。
「必ずや地球人共を成敗してみせましょう」
「頼むぞ」
 そう言ってリヒテルは司令室を離れた。ライザはその後ろ姿を見ながら心の中で呟いた。
(リヒテル様、どうか私めをお許し下さい)
 こうしてバーム軍は行動を開始した。そこにはそれぞれの思惑があった。

 ロンド=ベルはその頃神戸で補給を受けていた。六隻の戦艦が港に停泊し、そこで修理も受けていた。そして戦士達は香港へ向かう準備に追われていた。
「何か神戸に来たことは滅多になかったな」
 ショウがビルバインの整備をしながらマーベル達にそう言った。
「そういえばそうね」
 マーベルは記憶を辿りながらそう述べた。
「ここに来るのははじめてだった筈よ」
「日本に来ることは何回かあったがな。それでもここに来たのははじめてだったか」
 ニーもそれに同意した。彼等も神戸ははじめてであった。
「そういえばあんた達って地上に出てから色々と飛び回っていたんだよね」
 ベッキーがそんな彼等に声をかけた。
「ああ、その通りだ」
 ガラリアがそれに応える。
「思えば因果なことだ」
「まあそれはそれで楽しいけれど」
 チャムがショウの右肩に降りながらそう言った。
「あたしはここに来れていいと思ってるよ。だって楽しいから」
「やれやれ、チャムは気楽でいいな」
 ショウはそれを聞いて苦笑した。
「もう、またそうやって馬鹿にする」
 だが彼女はそれを聞いて頬をふくらませた。
「そんなのだからショウは色々と敵を作っちゃうんだよ」
「それは関係ないだろ」
 ショウはそれを聞いて口を尖らせた。
「俺は別に誰かに嫌われているつもりはない」
「おいおい、よく言うぜ」
 トッドがそれを聞いて呆れた声を出した。
「じゃあ俺やガラリアは何だったんだよ」
「最初は俺達とも衝突していたしな」
「そうそう」
 ニーとキーンもそれに賛同した。
「ショウって結構とんがってるから。色々と揉めるのよね」
「ちぇっ」
「まあそこが可愛いのだけれど」
 マーベルはそう言って微笑んだ。
「子供扱いするなよ」
「あら、それはお互い様でしょ」
 やはりマーベルの方が一枚上であtった。彼女はさっきのチェムへの言葉をあてこすったのだ。
「やっぱりマーベルの方が上だね」
 ベッキーもそう判断した。
「ショウ、あんたはまだまだ女について修業が足りないよ」
「そんなの別に修業しなくても」
「いやいや、それはどうかね」
 だがベッキーはそれでも言った。
「あんたには女難の相が出ているからね」
「女難の相!?」
「ああ」
 ベッキーはそれに頷いた。
「かなりやばい女みたいだね。注意しなよ」
「やばい女」
「顔とかは見えないけれどね。下手をしたら今後大変なことになるよ」
「そうか、女か」
 ショウはそれを聞いて呟いた。
「一体誰なんだろうな」
「案外側にいたりして」
「キーンかリムルだったりしたら面白えんだがな」
「そういうトッドもちょっとは女の子と話でもしたらどうだい?何だったら相談に乗ってあげるよ」
「おいおい、御前さんとかよ」
 ベッキーの言葉に苦笑した。
「よしてくれよ、悪いけれど俺はまだそういったことはいいんだ」
「あら、奥手なんだね」
「というか俺はな。好みが五月蝿くてな」
「そういえばあんたはバイストンウェルでも何だかんだ言って女っ気のない生活だったね」
 ガラリアが突っ込みを入れた。
「そんなに顔は悪くないのに」
「顔の問題じゃねえよ」
 トッドはそれに対してそう答えた。
「まあ色々あるんだ。その話はそれくらいにしてくれ」
「わかったよ」
 どうやらあまり触れられたくはないらしい。彼は話を強引に打ち切ってしまった。そして話は別の方へ流れていった。
「シーラ様知らない?」
 そこにエルとベルがやって来た。
「あれ、艦橋におられないのか?」
「おられないわよ。だから探してるのよ」
「何処に行かれたんだろう」
「シーラ様ならラー=カイラムに行かれた」
 そこへ通り掛かったカワッセがそう答えた。
「ラー=カイラムに?」
「そうだ。何でもノヴァイス=ノアからお客人らしい」
「ノヴァイス=ノア?あああれね」
 エルはそれを聞いて頷いた。
「あの三角の船」
「そうだ」
 カワッセはベルにもそう答えた。
「そこで話をされておられる。だから心配は無用だ」
「そうだったの。じゃあ一安心ね」
「全くいつもシーラ様の側にいねえと気が済まねえのかよ」
「あらトッドに言われたくないわ」
 エルはトッドの言葉に頬を膨らませた。
「いつも女っ気がないくせに。偉そうに言わないでよ」
「ああ、もうその話はいい」
 思いもよらない反撃にさしものトッドも白旗をあげた。
「話がややこしくなっちまう。それでカワッセ艦長」
「何だ」
「そのお客人ってのは。誰なんだい?」
「何でもアノーア=マコーミックと仰るらしい。ノヴァイス=ノアの艦長を務めておられるそうだ」
「ああ、あの人か」
 ショウはそれを聞いて頷いた。
「あの人なら問題はないな」
「そうね」
 それにはマーベルも同じ考えであった。
「あの人だと安心できるわ」
「どうやらかなりの人物のようだな」
「ええ。俺も一度会っただけですが」
 ニーも答えた。
「かなりできた人ですよ。おそらく今度についての話し合いでしょう」
「ふむ」
 カワッセはそれを聞いて考えた。
「どちらにしろ我等はシーラ様の御命令に従うまで。シーラ様ならば間違った御考えをされることはないからな」
 彼のシーラに対する忠誠は絶対的なものであった。それはシーラのカリスマと政治力の賜物であった。
「まああの女王様はしっかりしてるしね。顔に似合わず」
「顔は関係ないんじゃないの?」
「あはは、まあそれはご愛敬ってことで」
 ベッキーはマーベルの突っ込みにそう言って笑って返した。
「まあどちらにしろこれから何かとあるだろうな」
「ああ」
 トッドがショウの言葉に頷いた。
「ドレイクが出たとなるとおそらく奴も出る」
「あの旦那は絶対に御前さんを狙ってくるぜ。注意しな」
「わかってるさ」
 過去何度も剣を交えてきた。だからこそわかることであった。
「それだけじゃないだろうな」
「?どういうことだ」
「え、いや」
 トッドの言葉に慌てて返す。
「さっきの女難のことか?」
「それもあるけれどな」
「そんなに気にすることないよお」
 チャムがそう言って慰めようとするがそれでもショウは少し考え込んでいた。
「そう思いたいけれどな。嫌な予感がする」
「まああの旦那以外にも御前さんを狙ってるのはいるしな。俺もそうだったし」
「警戒するにこしたことはないぞ」
「すまない」
 ガラリア達の言葉に頷いた。そしてショウはビルバインのコクピットの中に入りそこも整備するのであった。
 
 その頃シーラはエレと共にラー=カイラムに来ていた。そしてノヴァイス=ノアの艦長であるアノーア=マコーミックと話をしていた。
「オルファンについてですが」
 金色の髪を後ろで束ねた美しい女性であった。少し歳がいっている感じもしないではないがそれでもそうした女性が好みの者にとってはたまらないような美貌であった。しかもそこには知性すら漂っている。
「今のところはこれといった活動はありません。しかし」
「今後のことは全くわからないということですね」
「はい」
 同席していたブライトの言葉に頷いた。
「そしておそらくリクレイマーの活動も活発化するでしょう。彼等にとってオルファンは絶対のものですから」
「ところで気になることがあるのですが」
 シナプスが問うた。
「はい」
「あのリクレイマーの兵器アンチボディですがあれは本当に兵器なのですか」
「といいますと」
「いえ」
 ここでシナプスは言葉を一旦とぎった。それからまた言った。
「これは勇やヒメを見て思ったのですがどうも兵器には思えないのです。何か意思を持っているような」
「否定はしません」 
 アノーアはそれを肯定した。
「アンチボディには意思があります。彼等は一つの生物でもあるのです」
「成程」
「じゃあライディーンやエヴァみたいなものですかあ!?」
「それとはまた違います」
 ユリカの質問に答えた。
「人間の様に複雑な考えはまだ持っていません」
「まだ」
「何といいますか」
 アノーアは言葉を少し濁らせた。
「彼等はまだ子供なのです」
「子供」
「はい。ですから色々とまだ問題もあるのです。子供は一言で言うと未熟な存在。そして」
 言葉を続ける。
「成長する存在だからです」
「ふむ」
 ブライトはそれを聞いて考え込んだ。
「そう言われるとわかった気もします。私も人の親ですから」
 ミライとの間の子供達のことを言っているのである。
「そして多くの少年兵を見てきましたから。彼等のようなものでしょうか」
「おおまかに言うとそうなるかも知れません」
 アノーアはそう返した。
「彼等は生きているのですから」
「何か言葉の意味がよくわかんないんですけどお」
 ユリカがキョトンとしてそう言った。
「ユリカさん」 
 シーラがそんな彼女に声をかけてきた。
「はい」
「貴女も結婚されて人の親になられればわかりますよ」
「そうなんですかあ」
「ええ。私もそう思います」
 エレもシーラに同意した。
「そうしたことは中々わからにことです。子供を持たない限り」
「ううん」
 ユリカはそれを聞いて考え込んだ。
「じゃあ私も子供ができたらわかるのかなあ」
「そう思いますよ」
 シーラはそう答えた。
「ユリカさんにも。といっても私達もまだですが」
「じゃあ私アキトと結婚しちゃいますねえ」
「どうしてそうなるのよ」
 ミサトがそれを聞いて呆れた声を出した。
「最初はやっぱり女の子で、それで・・・・・・」
「とにかくだ」
 暴走しかかったユリカを止める為にもアムロが出て来た。
「そのアンチボディが意思を持っていることはわかりました」
「はい」
「オルファンはどうなんですか?」
 彼は単刀直入に尋ねてきた。
「はい。アンチボディのことを聞いているとオルファンにもその可能性がありますが」
「そうですね」
 アノーアは一呼吸置いてから答えた。
「おそらくそうだと思います」
「やはり」
「リクレイマー達がオルファンの上昇を助けているのは彼等の目的を達する為ですがもしかするとそれはオルファンの意思に従っているのかも知れません」
「つまり彼等はオルファンにコントロールされていると」
「それも違います。彼等は自らの意思で動いているのは間違いありません」
「話が複雑になってきたな」
 フォッカーがそれを聞いて眉を動かせた。
「こういう話にはツキモンだが」
「それで今彼等がとるであろうと予想される行動は」
 アノーアの言葉が続く。
「その目的を妨害しようとする者の排除」
「排除・・・・・・」
 その時であった。サイレンが鳴った。
「敵か!?」
 皆すぐにそれに反応して立ち上がった。
「艦長、敵です」
 トーレスが部屋に入って来てそう言った。
「敵はグランチャー、こちらに急行しております」
「グランチャーが!?」
「はい。どうしますか」
「決まっている、総員戦闘用意」
 ブライトはすぐに指示を出した。
「手の空いている者からすぐに出てくれ。そして皆それぞれの持ち場に戻ってくれ。いいな」
「わかりました」
「それでは私も」
「待って下さい」
 だがブライトはアノーアを呼び止めた。
「ノヴァイス=ノアはここから離れた場所にありましたね」
「ええ」
「車でだと危険です。ガルバーを用意しますのでそれで移動して下さい」
「わかりました」
 こうしてロンド=ベルは配置についた。戦闘配置を終えるのとグランチャーが神戸に姿を現わしたのは同時であった。
「あのグランチャーは」
 勇は目の前にいるグランチャーを見て言った。
「シラーか」
「勇」
 そんな勇にヒメが声をかけてきた。
「あの娘とは戦っちゃいけないよ!」
「シラーはそんな話の通じる奴じゃない」
 だが勇はヒメのその言葉を拒絶した。
「やるしかないんだ」
「どういうつもりなの、シラー」
 今度はカナンがシラーに語り掛けた。
「フン」
 だがシラーは彼女の言葉を鼻で笑った。
「裏切り者に言う言葉はないよ。勇、御前にもな」
「私は違う」
 だがカナンはそれでも言った。
「愛されたかっただけ。そして・・・・・・」
「そんなことはどうでもいいんだよ!」
 だがシラーはカナンの言葉を聞こうとはしなかった。叫んで彼女の言葉を打ち消した。
「あたしにとって伊佐未勇は邪魔なんだ!ジョナサンやあたしにはね!だから死んでもらうんだ!」
「カナン・・・・・・」
「あんたも邪魔だ!だから殺してやる!」
 そう叫ぶと突進してきた。
「死ねえっ!」
 カナンに襲い掛かろうとする。だがその前に勇のブレンパワードが出て来た。
「シラー!」
「勇、ならば!」
 カナンはそれを受けて目標を勇に変えた。剣を彼に向ける。
「御前から先に!」
「やらせるか!」
 彼等は戦いに入ろうとした。だがそこにもう一機アンチボディが来た。
「駄目だよっ!」
「御前はっ!」
 それはヒメブレンだった。ヒメが二人の間に入ってきたのだった。
「ヒメ」
「君、どういうつもりなの!?」
 ヒメはシラーに顔を向けて叫んだ。
「死ねだなんて。そんなことして誰が喜ぶっていうの!?君間違ってるよ!」
「戯れ言を言うな!」
 シラーはまた叫んだ。
「御前みたいな奴にわかってたまるか!」
「わからないよ!」
 ヒメも返した。
「君みたいな分からず屋の言うことはね!君お父さんやお母さんに大事にされたことないの!?」
「そんなこと・・・・・・」
 シラーは言葉を詰まらせた。それを聞く勇やカナンも複雑な顔をしていた。
「シラー、何をしている」
 そこにジョナサンがやって来た。
「ジョナサン=グレーン」
「今は私情を挟む時じゃない。早く任務を達成しろ」
「クッ、わかった」
 シラーは舌打ちしながらもそれに頷いた。
「勇、カナン、ここは退いてやるよ」
 そう言って彼等と間合いを離した。
「今は御前達だけを相手にしている場合じゃないからな。その命預けておいてやるよ」
「待て!」
 勇は追おうとする。だがそこにジョナサンはミサイルを放ってきた。
「クッ!」
 それをかわす。だがその間にジョナサンとシラーは彼等から距離を離していた。
「生憎だったな、勇!」
「ジョナサン!」
「御前には片腕の借りもあるが今は預けておいてやる。精々首を洗って待っていろ!」
「待て、何処へ行く気だ!」
 見れば彼等はノヴァイス=ノアに向かっていた。
「知れたことだ」
 ジョナサンはそのピラミッドを見据えながら呟いた。
「俺を捨てた女を・・・・・・。俺を愛さなかった女を・・・・・・」
 その声には次第に怨みが募っていた。
「殺してやる、俺をこんなふうにしてくれた女を!」
「ジョナサン!」
 だが勇の声ももう彼の耳には届いていなかった。彼はアンチボディを引き連れてノヴァイス=ノアに突進する。
「死ねえええええっ!」
 だがそこにロンド=ベルのマシンが移動する。そしてノヴァイス=ノアの周りで激しい戦いがはじまった。
 カナンはシラーの乗るアンチボディに向かった。そして剣を突き立てる。
「そんなものっ!」
 しかしシラーはそれをかわす。そして逆に攻撃を返してきた。
「まだっ!」
 だがカナンもそれは見切っていた。後ろに跳びそれをかわす。
「やられるわけには」
「やられなかったらどうするつもりだ、御前は」
 シラーはここで問うてきた。
「何っ!?」
「御前はわかっている筈だ。誰にも愛されてはいないということをな」
「・・・・・・・・・」
 答えなかった。いや、答えることができなかった。それはカナン自身が最もよくわかっていることだったからだ。
「御前も私も。オルファンから逃れることはできあなかったのだ」
「違う!」
 カナンは叫んだ。
「オルファンの問題じゃないのよ!私だって」
「私だって・・・・・・何だ!?」
「うう・・・・・・」
 やはり答えられない。今のカナンにはそれに答えることはできなかった。
「裏切り者よ、死ねえええっ!」
「クッ!」
 シラーのアンチボディの剣が振り下ろされる。カナンはそれを避けることができなかった。観念した。だがその時であった。
 金属がぶつかり合って弾かれる音がした。見ればカナンとシラーの間に一機のブレンがいた。
「ラッセ・・・・・・」
 そこにいたのはラッセのブレンであった。彼はカナンに対して優しい笑みを浮かべてこう言った。
「あまり無茶はするなよ」
「え、ええ」
 カナンはそれに戸惑いながらも頷いた。
「一人じゃ限度があるからな。大勢いた方がいい」
「そうね」
「一人よりも二人、二人よりも三人だ」
「戯れ言を」 
 だがシラーはラッセのその言葉を拒絶した。
「人間はいつも一人だ。大勢いても何になる!」
「助け合うことはできるな」
 そこにナンガが来てそう答えた。
「まだ言うか」
「これを戯れ言とか言うのならそう言ってくれていい」
 ナンガはそう言葉を返した。
「しかし大勢いた方が力になる。違うか」
「御前さんにもそれがわかる時が来るかもな」
「馬鹿も休み休み言え」
 シラーはナンガとラッセの言葉をやはり拒絶した。
「そんなもの嘘だ。嘘は消さなくてはならない」
 そう言うとまたカナンに向かってきた。しかし今度はヒギンズも来た。
「何だかわからないが力を貸すよ」
「ヒギンズ」
「あんたとは深い付き合いだからね。やらせてもらうよ」
「有り難う」
「幾ら揃ったところで!」
 それでもヒギンズは怯まない。剣を手に向かって来る。四人は彼女と正対した。そして戦いを再開した。
 ジョナサンは勇と戦っていた。戦いながらノヴァイス=ノアに向かおうとする。
「行かせない!」
「邪魔するな、勇!」
 ジョナサンは目の前に立ちはだかる勇に対して叫んだ。
「あいつは、あいつだけは俺が・・・・・・」
 ジョナサンはもう勇は見てはいなかった。ただノヴァイス=ノアを見ていた。
「やってやる、そうでないと俺の全てが」
「全てがどうしたんだ」
 勇はそんな彼に問うた。
「一体何をそんなに焦っている」
「御前にはわからないさ」
 ジョナサンは吐き捨てるようにしてそう言い返した。
「御前なんかにはな。俺のことは」
「ああ、わからないな」
 勇はそう返した。
「何!?」
「御前はどう思っているか知らないがまだ子供だ」
「俺が子供だと」
「そうだ。現に今も何かに執着している。子供みたいにな」
「まだ言うか」
 子供という言葉に異様に反応してきた。
「俺は子供じゃない、ジョナサン=グレーンだ」
「ジョナサン=グレーンという子供だ」
「貴様っ!」
 それを聞いて激昂した。
「まだ子供と言うかっ!」
「何度でも言ってやる!そして」
 勇は続けた。
「俺は子供には負けない、子供にはな!」
「おのれ、勇!」
 彼はノヴァイス=ノアから目を離した。そして勇に攻撃を絞ってきた。
「ならば貴様からっ!」
「やられるものかっ!」
 勇とジョナサンの戦いも激しさを増してきた。その中ガルバーと護衛のダイモスはノヴァイス=ノアから離れていた。


[279] 題名:第二十一話 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月23日 (木) 18時59分

             漢の道
 バームとの戦いを終えたロンド=ベルは補給も兼ねて横須賀に戻ろうとした。だがここで通信が入ってきた。
「やあ、久し振りだね」
 出て来たのは冬月であった。
「長官」
「ミサト君か。そっちはどうかね」
「はあ」
 ミサトはそれに応えた。
「やはり居心地がいいですね。皆伸び伸びとやっていますよ」
「それは何よりだ。ところで赤木博士はどうしているかね」
「リツ子ですか?」
「そうだ。今そこにいるかな」
「ええと」
 見回すとラー=カイラムの艦橋にはいなかった。彼女は参謀としてこの艦に移っていたのである。ネルフの面々も同じであった。
「ちょっといませんね。グランガランに言ったわけでもないし」
「グランガランに?」
「あの、彼女猫好きですよね」
「ああ、確かそうだったな」
「マサキ君のファミリアのクロちゃんとシロちゃんに夢中でして。それでちょくちょくあっちに行くんですよ」
「ミサト、私ならここよ」
 モニターにリツ子も出て来た。
「リツ子」
「私はグランガランに移ったから。よろしく」
「ちょっと、何時の間に」
「だってクロちゃんとシロちゃんがいるでしょ。だから移ったのよ」
「シーラ様には許可とったの?」
「私の方は構いませんが」
 シーラも出て来た。
「レイさん達もこちらに移られましたし」
「何時の間に」
 これにはミサトも驚いた。
「そういうことだから宜しく。貴女もここに来たら?」
「私はちょっと」
 しかしミサトはそれを受けようとしなかった。
「色々と事情があってね」
「アムロ中佐かね」
 冬月がポツリと呟いた。
「ウッ」
 これにはギクリ、とした。
「君は確か彼のファンだったな」
「ま、まあそういう噂もありますね」
 図星だけにこの突っ込みは効果があった。
「あくまで噂ですけれど」
「そうか。あとはカトル君達かな」
「それも噂です」 
 今度は表情にまで変化が出た。焦ったものになった。
「ですから御気になさらずに」
「わかった。それでは本題に入ろう」
「はい」 
それを受けてミサトの顔が元に戻った。
「湘南で出たというあのマシンだが」
「あれが何かあるのでしょうか」
「うむ。あれがゼオライマーだ」
「あれが」
 それを聞いてミサトもリツ子も表情を一変させた。
「我々が到着した時にはもう戦闘は終わっていましたが」
「かなりの戦闘力を持っているようだな」
「ええ。傷一つ受けてはおりませんでしたし。それは間違いないかと」
「そうか」
 冬月はそれを聞いて考え込んだ。
「あの」
 そんな彼にブライトが話し掛けてきた。
「冬月司令」
「おお、ブライト大佐。暫くだね」
「ええ、お元気そうで何よりです。ところで」
「わかっているよ。聞きたいことは」
 冬月はそれに対して微笑んでから応えた。
「そのゼオライマーだが」
「はい」
「それについて細かい話をしたい。申し訳ないが第二東京市まで来てくれるか」
「わかりました。それでは今から予定を変更してそちらに向かいます」
「うむ、頼む。そうだ」
 ここで彼は思い出したことがあった。
「葛城三佐」
 そしてミサトに声をかけた。
「チルドレン達は今どうしているかな」
「シンジ君達ですか?」
「ああ。元気でいるかな。少し心配なんだ」
「それは御心配なく。元気ですよ」
「そうか、それは何よりだ。安心したよ」
「私も元気ですよ」
 ミサトはにこりと笑ってそれに応えた。
「やっぱりロンド=ベルは雰囲気がいいですから」
「アムロ中佐がいるからかしら」
「だからそれは違うって」
「うふふ」
 リツ子はミサトをからかって少し楽しんでいた。だがそれはミサトも同じであった。
「貴女もクロちゃんとシロちゃんの側にいたいだけでしょ」
「それは違うわ」
 リツ子は表面上はそれを否定した。
「私がここに移ったのは大空魔竜が手狭になってきたしそれに・・・・・・」
「それでだ」
 ここで冬月が彼女達の話を遮るようにして言った。
「色々とゼオライマーについて話したいことがある。いいか」
「は、はい」
「わかりました」
 二人は慌ててそれに応えた。そしてロンド=ベルは冬月の要請に応え第二東京市へ向かうのであった。

 その頃地下の宮殿において一人の少女が報告を受けていた。
「耐爬が!?まさか」
 幽羅帝はそれを聞き驚きの声をあげた。
「残念ながら」
 報告する男は彼女の前に跪きそのまま報告を続ける。
「湘南において。立派な最期だったということです」
「そうか・・・・・・」
 顔では何事もないことを装った。だが心では違っていた。
「わかった。さがれ」
「ハッ」
 男はそれを受けて下がる。幽羅帝はそれを見届けると後ろに控える髭を生やした老人に対して声をかけた。
「ルラーン」
「はい」
 老人は彼女に応えた。
「耐爬がやられた。これをどう見るか」
「あのマシンの力ならば」
「そうか」
 彼女はそれを聞きまずは頷いた。
「本来ならば私が乗る筈であったあのマシンの力はそこまであるというのか」
「はい」
 ルラーンは答えた。
「木原マサキの開発したものです。まだ力はあるかも知れませぬ」
「オムザックはどうなっているか」
 幽羅帝はそれを聞きながらルラーンにまた問うた。
「もう暫くお待ち下さい」
「そうか」
 彼女はそれを聞いて頷いた。
「それでは今あれを出すのは止めよう」
「はっ」
 ここで幽羅帝は前を見据えた。そして言った。
「シ=アエン、シ=タウ」
「はっ」
 それに応え二人の女が姿を現わした。
「そなた達に次の作戦を任せる」
「わかりました」
 二人はそれに頷いた。
「ゼオライマーを倒せ。よいな」
「はい」
「そなた達二人の力ならばできる筈だ。違いないな」
「はい」
「・・・・・・・・・」
 アエンが頷く。だがタウはそれに対して沈黙していた。
「タウ」
 そんな彼女にアエンが声をかけてきた。
「貴女も応えなさい」
「はい」
 タウはそれに応えた。幽羅帝はそれを受けて頷いた。
「期待しているぞ。見事ゼオライマーを倒して参れ。いや」
 だがここで彼女は考えを変えた。
「木原マサキをここに連れて来るように」
「木原マサキをですか」
「そうだ」
 彼女は二人の問いに答えた。
「よいな。あの男自身をここへ連れて来るのだ」
「わかりました」
「御命令のままに」
「うむ。では行け」
「ハッ」
 こうして二人は姿を消した。そして後には幽羅帝だけが残った。ルラーンも何処かへ姿を消してしまっていた。
「木原マサキ・・・・・・許さん」
 怒りに満ちた声でそう呟いた。その身体には蒼い炎が宿っていた。

「何か学校へ来るのも暫くぶりだね」
 シンジ達は学校に戻るとそんな話をはじめた。
「こんなに早く戻って来るとは思わなかったけれど」
「あんた何言ってるのよ。どうせすぐにまたどっかに行くことになるわよ」
 それにアスカが突っ込みを入れた。彼等は今体操服を着て体育の授業に出ていた。
「それまで精々学園生活を楽しんでいることね」
「そうそう、やっぱり学校は楽しいからな」
 ここで甲児の声がした。
「甲児さん」
「あんた確か高校生じゃなかったっけ」
「ああ。ちょっと遊びに来たんだ」
 彼はそうしたことは一切気にしていないといった態度でそう返した。
「だから気にするな」
「気にするわよ」
 しかしアスカは彼とは違っていた。
「あたしの体操服姿でも覗きに来たのね。やらしいんだから」
「今更半ズボン見てあれこれは言わねえよ」 
 見ればシンジ達の学校の体操服にも変化があった。男子は同じだが女子のそれはブルマーから半ズボンに変わっていたのである。
「大体おめえみてえなガキを見てどうしろっていうんだよ」
「フン、あたしみたいな美女によくそんな失礼なことが言えるわね」
「それはもっとおしとやかになってから言えよ。そんなんだからグランガランでもキーンと喧嘩したんだよ」
「あれはキーンが悪いのよ」
「おめえが悪いに決まってる」
「何ですってえ!?」
「まあまあ二人共」
 今度はカトルがやって来た。
「あ、カトルさん」
 シンジが最初に彼に顔を向けた。
「カトルさんもここに」
「うん。ちょっと日本の学校がどんなのか見たくて」
「僕も一緒ですよ」
 見ればウッソ達も一緒だった。
「保護者はいないがな」
 ヒイロも当然のようにいた。
「かわりにリリーナがいる」
「シンジさん、どうも」
「あ、はい」
 シンジはリリーナに挨拶を返した。
「日本の学校も独特の雰囲気があっていいですね」
「そうでしょうか」
「はい。私はこの雰囲気が気に入りました。できればこうした学校に通いたいですね」
「はあ」
 シンジはそれを聞きながら少し力のない言葉を漏らした。
「けれどこれといって何もないですよ」
「私はそうは思いませんけれど」
「そうでしょうか」
「はい」
 やはりリリーナは普段と全く変わってはいなかった。よく言えばマイペースであり、悪く言ってもやはりマイペースであった。それがリリーナであった。
「ところでリリーナさんはどうしてここにいるんですか?」
 アスカが甲児との喧嘩を中断して彼女に問うた。
「私がですか?」
「はい」
「火星でのバーム星人との交渉が不首尾に終わりまして。そしてナデシコでここまで来ました」
「ナデシコで」
「ええ。それが何か」
「いや、ナデシコってあまり知らなかったから」
「そういえばアスカはグランガランからあまり出ないよね。あと大空魔竜にいた時もそうだったし。何で」
「たまたまよ、たまたま」
 シンジにそう反論した。
「あたしだってそりゃ他の艦に行きたいわよ。けれど何か嫌な予感がするのよね」
「嫌な予感?」
「ええ。何かとんでもないのに出会いそうで」
「ナデシコにはそんな方はおられませんわよ」
「というのは嘘だ」
 すぐにウーヒェイがリリーナの言葉に突っ込みを入れた。
「あの艦長には注意しておけ」
「確かユリカさんやったっけ」
「そうだ」
 トウジにそう答えた。
「いきなり何をするかわからん。それだけは覚えておけ」
「ウーヒェイが言うと説得力があるな」
「あんたより無茶なのもいるのね」
 アスカが甲児に突っ込みを入れたが彼はそれを今は珍しくスルーした。
「それでだ」
「まだ何かあるのか」
 ヒイロが問うた。
「ここにはあとどれだけいられるんだろうな」
「一週間ってとこじゃねえのか。早けりゃ明日にでも出なくちゃいけないだろうな」 
 デュオが答えた。
「それだけか」
「嫌なの?」
 レイがシンジに問うた。
「正直に言うとね。やっぱり学校にいるのは楽しいし」
「そういうものなのか」
 トロワの言葉はいささか感情を欠いていた。
「俺にはよくわからないが」
「まあ俺だって学校にいたら何かと楽しいしな」
「甲児君は給食とかお弁当だけでしょ、楽しみなのは」
「ちぇっ」
 さやかのその言葉に口を尖らせた。彼等はそんな話をしながら学校での生活を過ごしていた。それを遠くから見る二つの影があった。
「ここでいいんだな」
「ええ」
 それは一組の男女であった。
「ここに出る」
「そう聞いているわ」
 見れば黒い髪の男と茶の髪の女である。男はやや鋭い目をしており女は整った顔立ちの美女であった。とりわけ女の声が澄んで美しかった。
「ではそろそろ行くか」
「えっ、もう?」
 女は男が歩みはじめたのを見て声をあげた。
「ああした連中は待ってはくれないからな」
「じゃあ行きましょ」
「ああ」
 こうして彼等は何処かへ姿を消した。そしてシンジ達は体育の授業を終え教室に戻った。次の授業に入ったその時であった。街にサイレンが鳴った。
「敵か!?」
 教室にいたシンジ達はすぐにそれに反応した。ここで携帯が鳴った。
「はい」
「シンジ君ね」
 それはミサトの声であった。
「はい」
「いいわ。すぐにグランガランに戻って。敵よ」
「敵ですか」
「そうよ。パターン青、わかるわね」
「パターン青!?」
 それを聞いてアスカとトウジが驚きの声をあげた。
「おい、それは嘘やろ」
「そうよ、そんな筈がないわ。だって」
「詳しい話は後」
 ミサトは電話の向こうの二人に対してそう言った。
「いい。今はそれよりも戦わなくちゃいけないから」
「それはそうだけれど」
「ミサトさんの言う通りよ」
 まだ戸惑うアスカに対してレイがそう述べた。
「行きましょう。ここでお話する前に」
「そうね」
「ほな行くか」
「カトル君達にも声をかけておこうか」
「その必要はないわ」
「えっ!?」
 シンジはミサトの声を聞いて眉を少し上げた。
「彼等ならもう出ていると思うから」
「ホンマや」
「って何処に!?」
「窓見てみい」
 トウジはそう言って窓の向こうを指差す。するとそこにはもう五機のガンダムがいた。
「早いわねえ、やっぱり」
「流石は工作のエキスパートやな」
「そういう問題じゃないと思うけれど」
「シンジ君」
「カトル君」
 カトルがコクピットの中からシンジに声をかけてきた。
「まずは僕達が防ぐから。君達は早くグランガランに戻って」
「うん」
「そして一緒に戦おう。いいね」
「頼むよ、カトル君」
「うん、こちらこそ。それじゃあ」
 こうして五機のガンダムが出撃した。そのまま市街地へ向かって行く。
「じゃああたし達も行くわよ」
「ほな行こうか。自転車でな。それしかないしな」
「中学生だから仕方ないよ」
「あら、洸さんは中学生でもバイクに乗ってるわよ。勝平の奴も」
 アスカは早速勝平とも喧嘩していたのである。だからここで憎まれ口のようなものになったのである。
「それは気にしては駄目よ。じゃあ行きましょう」
「了解」
 こうしてチルドレン達はそれぞれの自転車でグランガランに向かった。それを遠くから見る白い髪の少年がいた。
「シンジ君、頑張るんだよ」
 彼はシンジを見ながらそう呟いた。その瞳はどういうわけか異様に温かい目であった。
 その間に戦いははじまろうとしていた。既に異形の者達がロンド=ベルの前に姿を現わしていた。
「シンジ君、来たわね」
「はい」
 シンジ達はグランガランに到着すると待っていたリツ子に挨拶をした。
「準備はできているわ。すぐに出て」
「わかりました」
 モニターにミサトが出て来た。
「頼んだわよ」
「ええ」
 彼等は口々に挨拶をしながらエヴァに乗り込んだ。そして出撃する。そこには既にロンド=ベルの面々がいた。
「来たな、シンジ」
 ショウがまず彼に声をかけてきた。ダンバインは上にいた。
「使徒はもう出ている。頼むぞ」
「わかってます」
 シンジはその言葉に頷いた。
「相手が使徒ならエヴァが一番いいですから」
「そうだな。どうも俺達じゃ勝手がわからないからな」
 ダバがそれに応えた。
「メインで頼むわね。フォローはあたし達がするから」
 アムも言う。ヘビーメタルはエヴァのサポートに回る。そしてロンド=ベルは四機のエヴァを中心に進む。その先に使徒達がいた。
「さて、と」
 アスカが彼等を見据えて声をあげる。
「どうしてまた復活してきたのかは知らないけれど出て来たからにはやるわよ」
「ふっきれとんなあ」
「当たり前でしょ。言ってもはじまらないじゃない」
「さっきと言ってること違うけれど」
「あんた達は黙ってて」
 そう言ってシンジとトウジを黙らせた。
「どの道やらなくちゃいけないのはかわりないんだし」
「確かにな。ほな行こか」
「そういうこと・・・・・・ん!?」
 アスカはここで目の前に誰かがいることに気付いた。
「ちょっと待って」
「!?何かあるのか!?」
 アムロがそれに応える。
「前に人が」
「人!?」
 皆それを聞いて驚きの声をあげた。
「馬鹿な、市民達は既にシェルターに避難している筈だ。そんなことは」
「けれど実際に」
「・・・・・・確かに」
 ブライトは前にいる一人の男の姿を認めて頷いた。そこにはマントを羽織った一人の男がいた。
「いるな」
「そうでしょ。変な格好して」
「格好は言ってもはじまらないが。とりあえず避難するように言わなくちゃね」
 万丈が前に出る。そしてその男に声をかけた。
「おおい、そこの君」
「俺のことか?」
 男はそれを受けて顔をあげた。学校の前にいたあの鋭い目の男であった。
「そう、そこの君だよ」
 万丈は彼に対してそう言った。
「ここは危ないからすぐに避難した方がいい。僕が送るから」
「その必要はない」
 だがその男はそれを断った。
「いや、そういうわけにはいかないよ。君は非戦闘員だからね」
「俺は戦える」
「えっ!?」
 シンジがそれを聞いて驚きの声をあげた。
「俺はドモン=カッシュ。相手が誰であろうが戦う」
「ドモン=カッシュ」
 鉄也はその名を聞いて思い出した。
「ネオ=ジャパンのガンダムファイターか」
「その通り」
 ドモンは彼にそう答えた。
「シャッフル同盟キング=ザ=ハート」
 そう言いながら全身に力を溜める。
「今その力を見せてやる!ガンダァァァァァァァァムッ!」
「何ィッ!」
 するとそこにガンダムが姿を現わした。
「ハァッ!」
 そしてそこに飛び込む。ガンダムの全身が強い気に覆われた。
「ガンダムファイト」
「レェェェェェェェェェェディ」
「ゴォォォォォォォォォォォッ!」
 それと共に別の四機のガンダムも姿を現わした。彼等はエヴァの前に颯爽と姿を現わしたのであった。
「シャッフル同盟参上!」
 五機のガンダムが姿を現わした。彼等はそれぞれ構えを取りロンド=ベルの前に出て来たのであった。
「何かすげえのがまた出て来たな」
 デュオが彼等を見てそう呟いた。
「おうよ、俺はネオ=アメリカのジボデー。ジボデー=クロケットだ」
 まずはボクサーの構えをとるガンダムが名乗った。ワイルドな雰囲気の男が名乗る。
「シャッフル同盟クイーン=ザ=スペードだ。ガンダムマックスターに乗ってる。宜しくな」
「あれがジボデーか。話には聞いていたけれど」
 デュオは言いながらもまだ呆気にとられていた。
「また派手な兄ちゃんだな。ぶったまげたぜ」
「ドラゴンガンダム、サイ=サイシー。国はネオ=チャイナ」
 少林寺の構えをとるガンダムには小柄な少年が乗っていた。
「あれがサイ=サイシーか」
 それを見てウーヒェイが呟いた。
「シャッフル同盟、クラブ=ザ=エース」
「ふむ、噂通りの実力のようだな」
「ネオ=フランス、ジョルジュ=ドーサンド。ガンダムローズに乗っております」
 優雅な物腰の赤茶色の若者が名乗った。
「面白い兄さんね」
 シモーヌは彼の声を聞きながらそう思った。
「シャッフル同盟においてはダイヤ=イン=ジャックを務めさせて頂いております。以後お見知りおきを」
「キザだが実力は本物みたいね」
「ボルトガンダムに乗っている。アルゴ=ガルスキ。国籍はネオ=ロシア」
「ロシア人か」
 ゲンナジーがポツリと呟いた。
「ブラック=ジョーカーだ」
「ふむ」
「何かゲンちゃんと似てるね。同じロシア人だからかしら」
「気にするな、ミオ」
「我等シャッフル同盟」
 彼等はまだ名乗っていた。言葉を続ける。
「義によりロンド=ベルに助太刀させてもらおう!」
「助太刀!?」
「そうだ」
 ドモンがアスカに答える。
「今地球には多くの危機が訪れようとしている。俺達はそれを防ぐ為に御前達に力を貸そうというのだ」
「力を!?」
「そうだ。嫌か」
「嫌かも何もいきなり出て来て言われても何て言っていいかわからないでしょーーーが」
「HAHAHA,アスカは心配性ですね」
 ここでジャックがアスカをそう笑い飛ばした。
「じゃあどうすればいいと思ってるのよ、あんたは」
「ここは快くその申し出を受け入れるべきデーーーーーース。人の好意は素直に受け取りましょう」
「こんな胡散臭い連中の!?」
「おい、そりゃないぜ。おいら達はなあ」
「ちゃんとしたそれぞれの国のガンダムファイターだぜ。それを胡散臭いなんて」
 サイシーとジボデーがそれに突っ込みを入れる。だがアスカはそれでも言った。
「形はいいわよ。とりあえず」
 まずはそれぞれのガンダムの形は無視することにした。見れば海賊に似たものやナポレオンに似た帽子を被ったものまである。さしものアスカもそれには突っ込む気にはなれなかった。
「けれどそのシャッフル同盟って何なのよ。初耳よ」
「昔から世界を守ってきた戦士達だ。れっきとしたな」
 ドモンが答えた。
「これ以上はない程胡散臭く聞こえるのだけど」
「それが嘘じゃないことを今から見せよう。行くぞ、皆!」
「おう!」
 他の四人がドモンの言葉に頷く。そして一斉に動いた。
「使徒の好きにはさせん!」
「あ、ちょっと待ちなさいよ!それはあたしの獲物よ!」
 アスカが止めるより先に彼等は動いていた。そして第三使徒サキエルに突進していた。
「ハアアッ!」
 まずはドモンが拳を繰り出す。そして使徒のATフィールドを何なく貫いた。
「一撃で貫くなんて」
 シンジはそれを見て驚きの声をあげた。
「あの人、凄いよ」
「フン、あれ位誰だってできるわよ」
 だがアスカはそれを見ても強がっていた。
「あたしよりずっと弱いじゃない」
「そうかなあ」
 ドモンは使徒を押していた。そして他の四機もそれぞれ使徒に向かっていた。ジボデーがシャムシェル、サイシーがマトリエル、ジョルジュがバルディエル、そしてアルゴがゼルエルに立ち向かう。彼等はそれぞれの攻撃を使徒達に対して攻撃を仕掛けていた。
「喰らいなっ!」
 ガンダムマックスターの攻撃を受けシャムシェルが大きく後ろに飛ぶ。ドモンの攻撃に勝るとも劣らない威力であった。
「ハイハイハイハイハイハイッ!」
 ドラゴンガンダムの蹴りを続け様に放たれる。マトリエルは為す術もなかった。
「これはどうですっ!」
 ガンダムローズの剣裁きはまるで疾風の様であった。それでバルディエルを切り裂く。
「うおおっ!」
 ボルトガンダムのハンマーがゼルエルを打つ。さしもの使徒達も彼等の攻撃の前に為す術もなかった。
「止めだあっ!」
 五人は一斉に攻撃を放った。
「ゴッドスラッシュタイフーーーーーン!」
「バーニングパンチ!」
「フェイロンフラッグ!」
「ローゼススクリーマー!」
「ガイアクラッシャー!」
 それで止めであった。使徒達は結局為す術もないまま彼等に倒されてしまったのであった。
「使徒をあっという間に・・・・・・」
「何て強さだ」
「これでわかっただろう」
 ドモンは爆発する使徒を背にしてロンド=ベルの面々に対して言った。
「俺達が味方だということがな」
「何か強引な説明だな」
 洸はそれを見て少し呆れたような声で答えた。
「他にどうやって説明しろというんだ?」
「いや」
 ドモンの言葉に首を振る。
「そう言われるとないけれど」
「そういうことだ。では今から俺達もロンド=ベルに参加させてもらうぞ。いいな」
「了解」
「まあ新しい仲間が入るのはいいけれど」
 ここでアスカが突っ込みを入れた。
「何だ?」
「まだ使徒がいるんだけれど」
「ムッ!?」
 見れば第五使徒ラミエルと第七使徒イスラフェルがいた。イスラフェルは既に二体に分裂していた。
「両方共厄介なのよ」
 アスカはエヴァでその使徒達を指差しながらドモンに対して言う。
「どうするのよ」
「知れたこと」
 ドモンはそれに対して即答した。
「倒すまで。他に何がある」
「・・・・・・聞いたあたしが馬鹿だったわ」
 これにはアスカも呆れてしまった。
「あいつ等が何をして来るか知らないみたいね」
「フン、何をしてこようが俺のこのゴッドガンダムは倒せはしない」
「だといいけれど」
 ここでラミエルが攻撃を放ってきた。ゴッドガンダムがその前に出る。
「この程度っ!」
「まさか!」
 それを受け止めようとする。これを見たロンド=ベルのメンバーは流石に驚きの声をあげた。だがそれを受け止めることはできなかった。
「ドモン、今からあまり楽しむでない!」
 ラミエルの光線を何かが打ち払った。そしてその前に一人の老人が姿を現わした。
「今度は何だ!?」
「師匠!」
 ドモンはその老人の姿を認めて叫んだ。見れば彼の前に拳法着を着、長い白髪を束ねた老人がいた。
「師匠!?」
「如何にも」
 その老人はロンド=ベルの面々に対して言った。腕を組みビルの上に立っている。
「我が名はマスターアジア。流派東方不敗の伝承者にして先代シャッフル同盟のキング=オブ=ハート」
「要するにドモンのお師匠さんってことか」
「一言で言うとそうなる」
 勝平の質問に答える。
「以後見知っておくことを願う。よいかな」
「それはわかったけれど」
「一つ御聞きしたいことがあるのですけれど」
「何かな」
 宇宙太と惠子の質問に顔を向ける。
「今何をしたんですか?」
「今!?」
「はい。何か使徒の光線を布か何かで弾き返したように見えるんですけれど気のせいですよね」
「そんなこと・・・・・・できないですよね」
「ふふふ」
 マスターアジアはその質問に対して不敵に笑った。
「おい、あの爺さん笑ってるぞ」
 勝平がそれを見て言う。
「まさか・・・・・・」
「その通り!」
 そしてマスターアジアはそれを認めた。
「今あの使徒の攻撃はわしが払った。この手の布でな」
「な・・・・・・」
 それを聞いたミサトの顔が大きく崩れた。
「綾波やシンジ君があんなに苦労したのを布で・・・・・・」
「ちょっとお、そんなことできる筈ないでしょうが!」
 アスカがそれを聞いて激昂した。
「一体どうやったら生身の人間が使徒の攻撃を防ぐことができるっていうのよ!」
「どうやら東方不敗の凄さがわかっておらんようだな」
 だが彼はアスカのその言葉を聞いても余裕を崩さなかった。
「ではそこでゆうるりと見ておるがいい。ふふふふふ」
「今度は何をするつもりなのよ」
「知れたこと。今からあの使徒達を屠ってくれよう」
「まさか素手で!?」
「そんなことできる筈が!」
「まあ見ておるがいい」
 シンジの制止も無駄であった。
「東方不敗の力をな」
 そしてまずはラミエルに向かって突進する。そこにまた光線が襲い掛かる。
「甘いわあっ!」
 それを跳躍でかわす。そして宙に跳んだ。
「未熟未熟未熟っ!」
 間合いに入ると攻撃を繰り出す。連続で蹴りを繰り出した。
「なっ・・・・・・!」
 それを見てさしものブライトも驚きの声をあげた。
「ちょっとお、何なのよあれ!」
 アスカは最早半分ヒステリー状態であった。目の前で起こっていることをどうしても認めたくはないようであった。
「ははははははははははははっ!」
「素手でATフィールド破壊するってどういうことよ!」
「だからそれだけの威力があるってことだろ」
 シンジがそれに答える。
「そんなこたあどうだっていいのよ!」
「どうだってええのなら構わへんのとちゃうか?」
「あんた達、今目の前で起こっていること見て何とも思わないの!?」
「ううん・・・・・・と」
 それにシンジが答える。
「格好いいかなあ」
「人間じゃないとか化け物とかそういう言葉でしょうがこの場合!」
「まあアスカ君、落ち着いて」
 騒ぐアスカを万丈が嗜める。
「万丈さん」
「まあ世の中には色んな人がいるからね」
「そういう問題かなあ」
「まあ元気なお爺ちゃんっていうところかしら」
「そうそう。まあ確かに驚きだけれど」
 ゴーショーグンチームはこんな時でも軽口を忘れなかった。だがやはりそんな彼等もいささか驚きは隠せなかった。
「元気どころじゃないと思うけれど」
「けれど今実際に使徒を押しているよ」
「・・・・・・・・・」
 認めたくはないが認めるしかなかった。マスターアジアは実際に使徒を押しているのだ。そして遂には止めの一撃を放った。
「甘いわあっ!」
 そしてラミエルは爆発した。彼は何と素手で使徒を一体粉砕してしまったのである。
「何とまあ」
 皆それを見て呆気にとられたままであった。彼は爆発を前にして立っていた。
 だがそこにイスラフェルが来る。二体一組になってやって来た。
「フン」
 だが彼はそれを前にしてもやはり余裕であった。ニイイ、と不敵な笑みを漏らした。
「いでよ、クーロンガンダム!」
「クーロンガンダム!?」
「師匠のガンダムだ」
 ドモンがロンド=ベルの面々に対してマスターアジアに代わって答えた。
「ネオホンコンのモビルファイターだ」
「ネオホンコンの」
 それを聞いて眉を少し顰める者も中にはいた。
「確か今の国家元首はウォン=ユンファだったな」
「そうだが。それがどうかしたのか」
「いや」
 リーが首を横に振って答えた。
「何でもない。気にしないでくれ」
「そうか、わかった」
 彼等が話をしている間にマスターアジアはガンダムに乗り込んでいた。鎧に身を包んだガンダムであった。
「フフフフフフフ」
「今度は何をしようってのよ」
 アスカは観念した顔でそれを見守っていた。
「こうなったらヤケよ、最後まで見てやるわ」
「アスカも意地っ張りだな」
 甲児がそこに突っ込みを入れる。だがいつものカウンターはなかった。さしものアスカもマスターアジアを前にしてはそれは不可能であった。
「行くぞ小童共!」
 そのままイスラフェルに踊り込もうとする。だがそこにドモンが来た。
「師匠!」
「ドモン!」
 彼等は互いの顔を見て笑みを浮かべ合った。
「あれをやるか」
「はい!」
 ドモンは答えた。そしてマスターアジアがドモンの前に来た。
「行くぞ、ドモン!」
「はい!」
 彼等はそれぞれ身構えた。そして攻撃に入る。
「超級覇王・・・・・・」
「電影弾−−−−−−−−-ッ!」
「何ッ!」
「今度はっ!」
 ロンド=ベルのメンバーはまた度肝を抜かされた。何とマスターが巨大な気となったのである。顔だけ出し、その身体を台風の如き気が覆っていたのだ。
 ドモンはそのマスターアジアを放った。そして彼はそのまま二体の使徒に襲い掛かる。
 一瞬であった。一瞬で二体の使徒は消え去った。あまりにも激しい攻撃であった。
「また一撃で・・・・・・」
「何とまあ」
 エルとルーが呆然とした声をあげた。見ればもう使徒達は一体も残ってはいなかった。シャッフル同盟、そしてマスターアジアによる完全勝利であった。結局ロンド=ベルは殆ど動かないまま戦いは終わった。
「あの」
 ブライトが一同を代表してマスターアジアに声をかける。
「東方不敗マスターアジアさんでしたね」
「如何にも」
 彼はその言葉に対して頷いた。
「後は我が弟子とその者達に聞くがいい」
 だが彼はブライトに言われる前にシャッフル同盟に顔を向けてそう述べた。
「わしは少し用があってな。これで失礼させてもらう」
「師匠、どちらへ」
「香港だ」
 彼は答えた。
「香港で待っておる。よいな」
「わかりました」
「それではさらばだ。風雲再起!」
 今度は白い馬のモビルファイターが姿を現わした。見ればそれには白馬が乗っていた。
 クーロンガンダムはそれに乗った。騎馬の姿でロンド=ベルに顔を向けた。
「また会おう。さらばだ!」
 空を駆った。そしてそのまま空へと消えていった。
「香港か」
「それにしてもまた派手な退場の仕方ね。それまでも充分に派手だったけれど」
 シンジとアスカがそれぞれ呟く。それが終わってからロンド=ベルは集結した。そして今後のことについて話し合うことになった。
「今後のことだが」
 まずはブライトが口を開く。
「さっきあのマスターアジア氏が香港で待っていると言っていたが」
「香港に何かあるんですか?」
「それはわからない。だが何かあると思った方がいいな」
「はい」
「それでだ諸君」
 ここで大文字が話に入ってきた。
「今ニュースが入ってきた。ティターンズとギガノスが地球に降下を開始したらしい」
「彼等が」
「うむ。前の大戦の時と同じくな。そして東ヨーロッパにオーラバトラーの大軍が姿を現わしたらしい。オーラシップのようなものも三隻いるらしい」
「ドレイクか」
 ショウがそれを聞いて呟いた。
「おそらくな。彼等は早速オデッサの辺りを占拠したらしい。あの辺りの連邦軍は今黒海を渡って撤退中だ」
「まずいですね」
 ブライトはそれを聞いて顔を顰めさせた。
「あの辺りは資源の宝庫ですから。彼等に押さえられるのは」
「その通りだ」
 モニターにいかめしい顔立ちの男が出て来た。
「御父様」
 ユリカがその顔を認めて声をあげた。
「元気してるう?」
「おお、ユリカ」
 その男はユリカの姿を認めるとその顔を急に綻ばせた。彼はユリカの父ミスマル=ゲンイチロウである。連邦軍の重鎮として知られている。
「元気にしているな。それが何よりだ」
「元気ですよお。アキトも一緒ですし」
「うむ」
 だが彼はそれを聞くと少し不機嫌になった。
「まあそれはいいとしよう。ブライト大佐」
「はい」
「今後の君達のことだが頼みたいことがある」
「何でしょうか」
「そのオデッサのことだ。悪いことが重なりあそこにティターンズの主力も降下しているのだ」
「ティターンズもですか」
「うむ。彼等がバイストンウェルの者達と衝突してくれればそれに越したことはないのだが」
「手を結ぶ可能性もある」
「そうだ。彼等は互いに孤立している。手を結ぶ可能性は大いにある」
「そうですね。それは充分考えられます」
 ティターンズは先の戦いの後覇権の掌握に失敗しセダンの門に逃れていた。地球圏においては孤立し連邦政府から見れば完全に叛乱軍となっていた。そしてドレイク達は異邦人である。やはり彼等も孤立しているのである。
「便宜的とはいえ手を組む可能性もある。そうなれば厄介なことになる」
「それだけは阻止しなくてはなりません。ただ」
「ただ、何かね」
「ギガノスのことですが」
「それなら心配はない」
 ミスマルは厳しい顔のままそう述べた。
「実は彼等もそのオデッサに近い場所に展開していてな」
「近い場所」
「中央アジアだ。何でもグン=ジェム隊という先発部隊にマイヨ=プラート大尉を指揮官とする精鋭部隊が合流したらしい」
「またギガノスの鷹か」
 ケーンがそれを聞いて声をあげた。
「知っているか」
「知っているも何も今まで何度も俺達とやり合ってきたからな」
 ケーンはそう答えた。
「そこにいるなら好都合だ。今度こそ叩き斬ってやるぜ」
 そういきまく。だがリンダはそれを聞いて暗い顔をしていた。
「君の名は何というのかね」
 ミスマルはそれを興味深げに聞いていたがやがてケーンに対してそう問うた。
「俺ですか?」
「そうだ。よかったら教えてくれ」
「ケーン=ワカバ。階級は准尉です」
「ワカバ准尉か」
「はい」
「もしかしてオースチン参謀の御子息か」
「親父を知っているんですか」
 それを聞いたケーンの顔がみるみるうちに不機嫌なものとなっていく。
「一応はな。今はインド洋方面にいるが。かっては私の同僚だったこともある」
「そうだったのですか。今はインド洋に」
「うむ。元気にしておられるぞ。機会があったら会いにいくといい。御父上も喜ばれるぞ」
「生憎そんな気はさらさらないんで」
 ケーンは顔を顰めてそう述べた。
「俺はあいつだけは許さないんで」
「ううむ、いかんな」
 ミスマルはそれを聞いていかめしい顔をさらにいかめしくさせた。
「親は大切にしなければ。御父上がそれを聞かれたら悲しまれるぞ」
「あいつはそんなタマじゃありませんよ」
 ケーンはまだ言った。
「仕事のことしか頭にないんだから。どうせならギガノスにでも・・・・・・」
「ケーン准尉」
 だがそんな彼をベンが制止した。
「それ以上は。それよりも今は今後の作戦のことを御考え下さい」
「チェッ、わかったよ」
 ケーンは舌打ちしながらもそれに従った。
「それでだ」
 ミスマルは言葉を続ける。
「確か君はメタルアーマーに乗っていたな」
「ええ」
 今度は素直に答えた。
「なら話が早い。まずは君達には重慶に行ってもらいたい」
「重慶にですか」
「そうだ。そこで量産型メタルアーマーの開発を行っていてな。君達にもそれぞれ貰い受けて欲しいのだ」
「というと俺達にもピッカピカの新型が!?」
「そういうことだ」
 ライトにそう答える。
「というかこれで軍ともおさらば・・・・・・。うう」
「何か言ったかね」
「え、いや」
 タップは慌てて失言を引っ込めた。
「何でもないです」
「だったらいいがな。さて」
 まだ話は続いた。
「香港から入ってくれ。あちらのウォン=ユンファ主席が君達に話したいことがあるそうでな」
「彼が」
「そうだ。頼めるか」
「ええ。こちらも香港に行きたいと思っておりましたので。好都合です」
「それならばよかった。ではそれも頼むぞ」
「はい。それではこれより我々は重慶及びオデッサに向かいます」
「頼む。我々もいずれオデッサに関しては反撃に移りたい。その時は頼むぞ」
「はい」
 こうしてロンド=ベルは日本を離れ大陸に向かうことになった。その先にはまた新たな戦雲が広がっていた。


第二十一話    完


                                     2005・5・7


[278] 題名:第二十話その二 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月23日 (木) 18時50分

「貴方は」
「私は沖功という。ラストガーディアンの責任者だ」
「ラストガーディアン?」
 多くの者はそれを聞いて首を傾げさせた。
「それは一体」
「連邦軍の組織の一つだ」
 シナプスが彼等にそう述べた。
「連邦軍の?」
「そうだ。文官が中心で研究を行っている。そうでしたな」
「ええ」
 沖はシナプスの言葉を受けて頷いた。
「言うならばネルフが連邦軍の中にあるようなものでしょうか」
「ネルフが」
 ミサトはそれを聞いて眉を顰めさせた。
「まさか彼等が」
「?葛城三佐、どうかしたのか」
 ブライトがミサトの様子を見て彼女に尋ねてきた。
「急に顔を顰めさせて」
「えっ、いや」
 ミサトはそれを受けて顔を急に元に戻した。
「何でもありません。ちょっと考え事をしていまして」
「そうか。ならいいがな」
 ブライトはそれ以上聞こうとしなかった。だがミサトはまだ心の中で思っていた。
(まさか彼等があの)
 しかし確証はなかった。沖はそれには気付かず話を続けていた。
「我々のことはお構いなく。宜しいでしょうか」
「わかりました」
 それを受けてブライトが頷いた。彼はここでは詮索することは避けたのである。
(何かあるな)
 心の中ではそう思っていても今はそれを追及する時ではないと読んでいたのである。そして言った。
「それではそのロボットについても援護等は不要ですか」
「はい」
 沖はそう答えた。
「今基地に帰投中です。お構いなく」
「わかりました」
 こうしてゼオライマーは姿を消した。ブライトはそれを受けて総員に指示を出そうとした。
「それでは横須賀に戻るか」
「はい。・・・・・・ん!?」
 ここでレーダーを見ていたトーレスが声をあげた。
「どうした」
「レーダーに反応です、敵です」
「敵!?さっきの戦闘のか」
「いえ、違います。これは」
 トーレスはレーダーの反応を見ながら言う。
「バーム軍です!」
「また来たというのか!」
「どうやら。それもかなりの数です」
「クッ、総員出撃!」
 それを受けて全機出撃した。程なくして彼等の前にバーム軍が姿を現わした。
「私達は出なくていいんですか?」
 美久はラストガーディアンの基地で沖に問うた。
「構わん」
 沖はそれに対してクールに答えた。
「バーム星人達は我々の敵ではないからな」
「そうですか」
「それよりもマサトはどうしている」
 彼はマサトについて尋ねてきた。
「今は落ち着いていますけれど」
「そうか。ならいい」
 彼はそれを聞いてそう言った。
「またすぐに戦いがあるだろう。それまで休んでおくといい。美久、御前もな」
「わかりました」
 こうして彼等は静観することにした。目の前ではロンド=ベルとバーム軍の戦いがはじまろうとしていた。
「ハレックよ」
 新たな指揮官用の戦艦コブラーダからリヒテルがハレックに対して声をかけた。
「ハッ」
「わかっておるな。今回の戦いはそなたにかかっておる」
「はい」
 ハレックはそれに応えた。
「このハレック、必ずやリヒテル提督の御期待に沿えましょう」
「うむ、頼むぞ」
 リヒテルはそれを聞いて満足そうに応えた。そんな彼にライザが声をかけてきた。
「リヒテル様」
「どうした、ライザ」
「何故ハレックが今回の作戦の鍵なのでしょうか」
 それが彼女にとっては疑問であったのだ。
「知りたいか」
 リヒテルはそう言いながら彼女に顔を向けてきた。
「バルバス、そなたも」
「はい」
 バルバスもそれは同じであった。彼も頷いた。
「是非共お聞かせ下さい」
「わかった。ではまずそなた等に聞こう」
 リヒテルは言った。
「我々の兵器と地球の兵器、互いを見てどう思うか」
「決して劣っているとは思いません」
 ライザが答えた。
「互角といったところでしょうか」
 バルバスもそう述べた。
「うむ、そうだな」
 リヒテルは彼等の言葉を受けて頷いた。
「我等の兵器、決して地球のそれには劣ってはいない」
「はい」
「だが何故勝てないのか。考えたことはあるか」
「それは・・・・・・」
 それにはライザもバルバスも沈黙してしまった。それは彼等の責任でもあるからだ。
「我々が至らないばかりに」
「余が言っているのはそういうことではない」
 だがリヒテルはここではそれは問わなかった。
「余はそれに一つ気付いたのだ」
「それは」
「人だ」
 リヒテルはそう言い切った。
「人」
「そうだ。正確に言うならば操縦者だ。地球人はマシンにそれぞれ乗り込んでいるな」
「はい」
「そしてその性能以上の能力を引き出している。ならば我等もそうすべきだ」
「それでは今回のことは」
「そうだ。ハレック」
 リヒテルはまたハレックに声をかけた。
「はい」
「そなたはバームを愛しておるか?」
「勿論でございます」
 ハレックはそれに答えた。
「心から」
「うむ」
 リヒテルはそれを聞いて頷いた。
「それでは今その心を余に見せてくれぬか」
「提督のご命令とあらば。我が武術、お見せしましょう」
「頼むぞ。そなたの敵はあれだ」
 そう言ってダイモスを指差した。
「ダイモス、そしてそれに乗る男だ。竜崎一矢という」
「竜崎一矢」
「あの男こそ敵の主軸の一人。あの男の首、見事挙げてみよ」
「承知しました。私も武人の端くれ。正々堂々と正面から勝負を挑ませて頂きたいのですが」
「よかろう」
 リヒテルはそれを認めた。
「勝利の暁にはそなたを余の副官に任じよう」
「副官に」
 それを聞いたライザの顔色が変わった。だがハレックはそれには応えなかった。
「リヒテル様」
「何だ、不服なのか」
「いえ。有り難い御言葉ですが私の望みは地位でも名誉でも富でもありません」
「では何なのだ?」
「私の望みは一つです」
 ハレックは言った。
「バームの民の幸せ・・・・・・。他には何もいりません」
「フフフ、わかった」
 リヒテルはそれを聞いて笑った。
「気に入った。ならばその手でバームの民を救ってみせよ。よいな!」
「ハッ!」
 ハレックは出撃した。そしてそのままロンド=ベルに向けて名乗りを挙げた。
「竜崎一矢よ、聞こえるか!」
「何だ!」
 一矢はすぐにそれに応えた。
「俺の名はガーニー=ハレック!バーム武術師範の名にかけて御前に決闘を申し込む」
「決闘だと!?」
「そうだ」
 ハレックは応えた。
「共に母星の誇りを賭けた一騎打ち。受けてみるか!」
「望むところだ」
 一矢は躊躇うことなくそれを受けた。
「おい、何を言っている」
 京四郎がそれを止めようとする。
「罠に決まっているだろうが」
「そうよ、お兄ちゃん」
 ナナも言った。
「どうせ罠よ。やられるに決まってるわ」
「いや」
 だが一矢は二人の言葉に対して首を横に振った。
「あのハレックという男の気迫は本物だ。ここで背を向けるのは男の・・・・・・いや、地球人の恥だ!」
「ほう」
 ハレックはそれを聞いて嬉しそうな声をあげた。
「どうやら地球人の中にも男はいるらしいな」
「当然だ」
 一矢はそれに返した。
「行くぞ、ハレック」
「うむ。誰にも邪魔をされないところで勝負をつける。よいな」
「断る理由はない。皆、行ってくる」
 そう言ってロンド=ベルの他の面々に顔を向ける。皆それに頷いた。
「ああ、行け」
「勝ってこいよ」
「有り難う。じゃあ」
 そしてダイモスは移動した。ハレックのダリもそこに移る。二人はそこであらためて正対した。
「よくぞ来た、竜崎一矢」
 まずはハレックが言った。
「俺の挑戦を受けてくれた礼を言おう」
「礼はいい」
 一矢はそれに対してそう答えた。
「何故なら御前はここで俺に倒されるからだ」
「フ、その言葉はそのまま御前に返そう」
 ハレックも負けてはいなかった。
「行くぞ、竜崎!」
「来い、ハレック!」
 こうして両者が激突した。互いに攻撃を仕掛け合う。
「トォッ!」
「タァッ!」
 攻撃が交差した。両者はそれを見て互いに笑った。
「噂以上になるな。俺の相手に相応しい!」
「それはこっちの台詞だ!俺の空手を受けてみろ!」
 そして両者はまた互いに攻撃を仕掛け合う。両者はそれが終わるとまた笑った。
「流石だぜ、ハレック」
 今度は一矢が言った。
「この俺の空手と互角に戦うとはな」
「フフフ、久し振りに心踊る戦いだ」
 彼もまた戦いの美酒に酔おうとしていた。
「御前のような真の武人と出会えたことを戦いの神に感謝したくなる」
「全くだ」
 それは一矢も同じであった。
「だが竜崎一矢よ」
 ハレックは一矢を見据えて言った。
「俺達は敵同士だ。決着をつけるぞ!」
「おう!」
 そしてまた激しい攻撃の応酬をはじめる。両者は五分と五分の勝負を繰り広げていた。だがここでライザのガルンロールが後ろから一矢のダイモスに接近してきた。
「ムッ!?」
「竜崎一矢!」
 ライザはダイモスを見据えながら言った。
「覚悟っ!」
「ぐわあっ!」
 後ろからの攻撃であった。これを避けることはできなかった。
「あの女、何てことを!」
「ほら、やっぱり罠だったじゃない!」
 京四郎とナナはそれを見て叫んだ。
「一矢、ここは後退しろ!」
「待て!」
 だがここで叫ぶ者がいた。それは一矢ではなかった。
「この勝負、誰にも邪魔はさせん・・・・・・!」
 それはハレックであった。彼はライザのガルンロールの前に出てそう叫んでいた。
「ハレック!」
 ライザはそれを見て信じられないといった顔をした。
「馬鹿な、これは戦いなのだぞ!」
「そうだ、戦いだ」
 ハレックはライザを睨みつけてそう言った。
「だからこそ邪魔はさせん!」
「何を言っているのだ」
 ライザは彼の言っている意味がわからなかった。彼女の戦いと彼の戦いは根本から違っていたのだ。
「ダイモスを倒すのは今をおいて他にないのだぞ」
「いや」
 しかしハレックはそれに対して首を横に振った。
「俺はそうは思わん」
「どういうことだ」
「武人の心もわからないのか」
「そんなもの何になる」
 ライザは反論した。
「バームの為、そしてリヒテル様の為に勝てばいいのだ」
「どうやら御前と俺とは決して分かり合えぬ仲らしいな」
 ハレックはその言葉を聞いてそう呟いた。
「ならば尚更ここを通すわけにはいかん」
 そう言ってダイモスの前に来た。
「ハレック・・・・・・」
「おのれ、敵をかばいだてするか!」
「違う!」
 それに対してハレックはまた叫んだ。
「俺と竜崎は男と男の勝負をしたのだ!それを汚されたくはないだけだ!」
「まだ言うか!」
 だがライザはそれを聞いてもさらに激昂するだけであった。
「ならば貴様も■!」
 そう叫び破壊光線を放つ。だがハレックはそれを直に受け止めた。
「何っ!」
「うおおおおおおっ!」
 そしてそれを弾き返した。だがそれはかなりのダメージであった。
「ハレック!」
 ハレックの乗るダリは落下していった。そしてそのまま海に消えた。
「まさか・・・・・・」
「ええい、ライザめ、余計なことを」
 リヒテルはそれを見て叫んだ。
「撤退だ、一時態勢を立て直す!」
「リヒテル様、しかし」
「黙れ!」
 リヒテルは何かを言おうとするライザを一喝した。
「貴様に言う資格はない。下がれ!」
「は・・・・・・」
 こうしてバーム軍は撤退した。後にはロンド=ベルだけが残った。
「これで終わりかな」
 ウッソが撤退するバーム軍を見てそう呟いた。
「また激しい戦いだったけれど」
 そして朝になった。彼等はそのまま湘南に留まっていた。その時海岸に一人の男がいた。
「ううう・・・・・・」
 黒い髪の男がそこにいた。
「何とか脱出はできたか」
 だがそこに一人の男がやって来た。
「ムッ!?」
「待て、そこにいる男」
 黒い髪の若者が彼に声をかけてきた。
「御前はバーム星人だな」
「如何にも」
 彼は臆することなくそれに答えた。
「名は何という」
「ハレック」
 彼は名乗った。
「ガーニー=ハレックだ」
「何、じゃあ御前がハレックだったのか」
 彼はそれを聞いてそう答えた。
「そういう御前は誰だ?」
「俺は一矢。竜崎一矢だ」
 若者はそう名乗った。
「何、では御前があのダイモスの」
「ああ」
 一矢は答えた。
「フ、そうか。よい目をしている」
 彼は一矢の目を見ながらそう言った。
「御前のような男と戦えたのは本望だった。さあ、殺せ」
「何を言っているんだ」
 だが彼はそれを拒否した。
「俺達の戦いはお預けになっている」
「それがどうしたというのだ」
「それに・・・・・・俺は御前に命を救ってもらった」
「感謝されるいわれはない」
 ハレックはそれに対してそう答えるだけであった。
「俺は同胞の不始末をしただけだからな」
 ここで京四郎の声がした。
「一矢、そこにいるのか!?」
「いかん」
 一矢はそれを聞いてすぐにハレックに顔を向けた。
「ハレック、すぐにここを立ち去れ」
「何、どういうことだ」
「ここは俺に任せるんだ。だから逃げろ」
「竜崎」
 ハレックはそれを聞いて彼を見やった。
「御前は俺を助けるというのか?」
「そうだ」
 一矢はそれに対してそう答えた。
「敵である俺を」
「次に会った時に決着をつける」
 一矢はそう答えた。
「だから今は逃げるんだ。いいな」
「竜崎・・・・・・」
「それまでに傷は治しておけ。いいな」
「わかった」
 ハレックは頷いた。頷きながら心の中で思った。
(何という高潔な心を持った男だ)
 彼は今地球人、そしてバーム星人の垣根を越えてそう感じた。
(これならエリカ様が魅かれるのも道理)
 そしてまた一矢に対して言った。
「竜崎。この借りは必ず返す」
「ああ、拳でな」
「うむ」
 こうしてハレックはその場を後にした。そして後には一矢だけが残った。
「そこにいたのか」
 そこへ京四郎がやって来た。サンシローやピート達も一緒である。
「おい一矢」
 ピートが声をかけてきた。
「ここにバーム星人がいなかったか?」
「ああ、いた」
 一矢は素直にそう答えた。
「何!?」
「俺と戦ったバームの戦士ハレックがいた」
「それはどういうことだ」
 ピートはそれを聞いて顔を顰めて問うてきた。
「まさか逃がしたというのか」
「その通りだ」
 彼は怯むことなくそう答えた。
「敵を逃がしたというのか」
「ハレックは俺の命を救ってくれた」
 一矢はそう答えた。
「そんな男を俺は敵として扱うことはできない」
「馬鹿な!」
「それにあの男は誇り高き戦士だ。捕虜となることは望まないだろう」
「何を言っているんだ、一矢」
 ピートはいささか激昂してそう一矢に声をかけてきた。
「相手は異星人なんだぞ!」
「それはわかっている」
「敵だ。何を世迷言を!」
 ピートは言葉を続けた。
「御前も火星でどれだけの犠牲が出たか知っているだろう」
「ああ」
 一矢はそれにも答えた。
「じゃあ何故」
「ピート」
 一矢は静かな声で彼に語り掛けてきた。
「何だ」
「俺は父さんをバーム星人に殺された」
「それはわかっていたか」
「ああ。だが俺はバーム星人全てが悪だとは思ってはいない」
「何」
 京四郎がそれを聞いて声をあげた。
「御前まだ彼女のことを」
「ああ」
 一矢は彼にも答えた。
「俺はエリカを愛している。今でもそれは変わらない」
「だから俺にはわかるんだ。あのハレックという男も」
「寝言もいい加減にしろ!」
 遂にピートが感情を爆発させた。
「そんな甘い考えでこの先戦っていけると思っているのか!」
「おい、止めろ」
 だが二人の間にサンシローが入って来た。
「一矢とハレックは一対一で戦った。二人にしかわからない理由がある」
「無責任な発言は止めろ!」
 ピートは彼に対しても叫んだ。
「御前には地球を守る戦士としての自覚がないのか!」
「あるさ!御前に言われなくともな!」
「!」
 サンシローの叫びを聞いて沈黙してしまった。
「だが御前みたいに異星人だからといって牙を剥き出しになんかしない」
「どういう意味だ」
「そのままの意味さ。異星人だから悪だという御前の考えは間違っているんじゃないのか!?」
「何を言ってるんだ、サンシロー。あいつ等は」
「それだ」
 サンシロー言いながらここでピートを指差した。
「それじゃあ御前が今批判している奴等と同じだぜ。偏見の塊って意味でな」
「う・・・・・・」
 これにはさしものピートも言葉を詰まらせてしまった。だがそれでも口を開いた。
「・・・・・・御前達と話しても無駄だ」
「わからないならいい」
 サンシローは吐き捨てるようにしてそう言った。
「そういうつもりで言ったんじゃないからな。正しいことを言ったまでだ」
「御前達と話しても時間の無駄だ」
 彼は苛立ちを見せてこう言った。
「だがこのことは大文字博士に報告させてもらうぞ」
「好きにしてくれ」
 それでも一矢はそう答えた。
「俺は間違ったことをした覚えはない」
「勝手にそう思っていろ」
 ピートはそう言ってその場を後にした。そして彼等は別れた。
「京四郎さん」
 ナナはそれを見ながら京四郎に声をかけてきた。
「何だ」
「どっちが正しいのかしら。あたしにはわからなくなってきた」
「どちらが正しいということはない」
 京四郎はそれに対してそう答えた。
「そうだな」
 それにリーが頷いた。
「強いて言うならどちらも正論だ。だがそのせいでぶつかってしまうんだ」
「そうですね。難しいところです」
 ブンタもそれに同意した。彼等もまた難しい顔をしていた。
「・・・・・・・・・」
 ナナはそれを見て沈黙していた。彼女にはまだ彼等の言葉の意味がよく理解出来なかった。

 リヒテル達は海底に築いた基地に撤退していた。海底城である。
「リヒテル様」
 一人の兵士が司令室にいるリヒテルに声をかけてきた。
「ハレック様が戻られました」
「まことか!?」
 リヒテルはそれを聞いて思わず声をあげた。
「はい」
 その兵士は答えた。
「それは何よりだ。すぐにこちらへ連れて参れ」
「ハッ」
 彼はそれを受けて敬礼し部屋を後にした。そして暫くしてハレックがやって来た。
「よくぞ無事だった、心配していたぞ」
 リヒテルは彼に対し微笑みを浮かべそう声をかけた。
「申し訳ありません」
 だが彼は頭を垂れてリヒテルに対して謝罪した。
「?何故謝るのだ」
「お約束を果たせぬままおめおめと帰還してしまいました」
「よい」
 だがリヒテルはそれを咎めようとしなかった。
「そなたの戦いぶりは知っている。ライザのことも不問に処す」
「・・・・・・・・・」
 ライザはそれを聞いてその整った眉を顰めさせた。
「あのライザの行動は忘れてくれ。処罰は余がしたからな」
「はい」
「竜崎一矢の首を取るのは次の機会でよい。それまでは身体を休めよ」
「有り難き御言葉」
「気にすることはない。そなたは見事な戦士だ」
「有り難うございます。ですがこのハレック、リヒテル様に一つ申し上げたいことがあるのですが」
「申し上げたいこと。余にか」
「はい。よろしいでしょうか」
「よい。何なりと申してみよ」 
 リヒテルは優しい声でそれを認めた。
「それで何だ」
「はい」
 それを受けハレックは口を開いた。
「地球人とのことですが」
「うむ」
「争いをお止め下さい」
「何だと・・・・・・!?」
 リヒテルだけではなかった。それを聞いた全ての者の顔が強張った。
「今、何と申した」
「地球人との争いをお止め下さい」
 ハレックは再び言った。
「地球人は決して話のわからない者達ではありません故」
「たわけっ!」 
 リヒテルは激昂した。そしてハレックを打った。
「うっ・・・・・・」
「馬鹿なことを言うでない!ハレックよ、狂うたか!」
「私は狂ってなぞいません。閣下、どうかここは地球人達と話し合いの場を」
 打たれても彼は言った。
「憎しみ合い、殺し合うだけが道ではありませぬ」
「貴様は余の父がどうなったか知っておるのか」
「はい」
 彼は答えた。
「貴様の言う話し合いとやらの席で殺されたのだぞ。それでも貴様は言うのか」
「地球人全てがそうだとは限りません」
 ハレックは退かない。彼の信念がそうさせた。
「少なくともあの男は」
「あの男」
 それを聞いた周りの者が目を向けた。
「竜崎一矢は」
「何・・・・・・!?」
 それを聞いてリヒテルの顔色がまた変わった。
「エリカ様が心を魅かれたのも道理、あの男はそれだけの男であります」
「ハレック、そなたまで言うか」
 だが彼の信念はこの時禍となった。リヒテルの怒りをさらに高まらせるだけであったからだ。
「この愚か者が!」
「グッ!」
 また打った。今度はうずくまった。
「この愚か者を連れて行け!」
 リヒテルは倒れ込んだハレックを前にして兵士達に対してそう言った。
「牢に入れておけ。よいな!」
「ハッ」
 それを受けて兵士達が立ち上がってきたハレックを左右から掴もうとする。だがハレックはそれを制した。
「いい。自分でいく」
「そうですか」
「そのまま牢に入っておれ。永久に出ることはないと思え!」
 こうしてハレックは牢に入ることとなった。彼が牢に入ると隣から何やら声が聞こえてきた。
「!?」
 それは少女の声であった。
「ああ、一矢」
「その声は」
 それは彼もよく知る声であった。彼は耳をそばだたせた。
「一矢、貴方は御無事でしょうか。想うのは貴方のことばかり」
「エリカ様」
 ここで隣から声がした。
「誰でしょうか」
「私です」
 ハレックは壁越しに言った。
「ハレックです。武術指南の」
「ハレック?貴方が」
「はい」
 彼は答えた。
「兄上の信頼篤い貴方がどうしてこのような場所へ」
「話せば長くなります。ただ一つ申し上げたいことがあります」
「何でしょうか」
「私は竜崎一矢と会いました」
「一矢と!?」
「はい」
 彼は答えた。
「あの人は無事なのですか?」
「ええ。あの男は私が今まで会った中で最高の男でした」
 彼はそう言った。
「そう簡単には倒れはしないでしょう」
「ああ、一矢・・・・・・」
 エリカは彼の無事を聞いただけでもう胸が張り裂けそうであった。
「よくぞ御無事で」
「エリカ様」
 ハレックは言葉を続ける。
「はい」
「私はあの男と会い思いました。地球人があの男の言うような者達であればこの戦い続けてはなりません」
「私もそう思います」
 エリカは毅然としてそう答えた。
「ですが今の私達は牢にいる身。何ができましょうか」
「御安心下さい、エリカ様」
 だがハレックはここでこう言って彼女を安心させた。
「私はあの男に大きな借りがあります。それは必ず返さねばなりません。エリカ様、貴女を何としても彼のもとへ送り届けてみせます」
「わかりました」
 エリカはそれを聞いて頷いた。
「それでは私はその日までここであの人の無事を祈りましょう」
「はい」
 こうしてエリカとハレックは決意を強めた。戦いの中にあっても決して希望だけは消えはしないのであった。


第二十話    完



                                     2005・5・3


[277] 題名:第二十話その一 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月23日 (木) 18時46分

           冥府の王、その名は天
 中国上海。かっては魔都と呼ばれたこの街は今では東アジア有数の経済都市として発展していた。街に灯が絶えることはなくその繁栄は永遠のものと思われていた。
 だがその闇もまた深かった。この街はかってBF団が暗躍していたこともあり、また今では別の影の組織が暗躍をはじめようとしていたのであった。
 暗い闇の中に彼等はいた。その地下の宮殿に集っていたのであった。
「八卦集、いるか」
 宮殿は中国のそれを思わせるものであった。赤を基調としており豪奢な装飾で覆われていた。その中で一人の着飾った少女がいた。見ればまだ幼さが残るが整った顔立ちをしていた。
「ハッ」
 その少女の声に応えて一人の男が姿を現わした。
「耐爬、ここに」
 黒い髪を立たせた男が姿を現わした。
「シ=アエン、参りました」
「シ=タウ、参上しました」
 黒く長い髪の二人の女が現れた。見れば二人は一方が右目を、一方が左目を髪で隠していた。姿形は同じながら見事なまでに対象的であった。
「葎、こちらに」
 白い仮面の男が出て来た。声は澄んで美しいものであった。
「塞臥参上です」
 赤い髪の男がいた。整った顔立ちながら何処か陰があった。
「ロクフェルでございます」56
 赤い髪の女がいた。彼女は姿を現わしながら塞臥の方をチラリ、と見た。
「祗鎗です」
 最後に大柄の男がやって来た。少女は彼等を見回した後ゆっくりと口を開いた。
「今回皆に集まってもらったのは他でもない」
「といいますと」
 祗鎗が尋ねた。
「そう。あれが見つかったのだ」
「ゼオライマーが」
「遂に」
 シ=アエンとシ=タウが言った。何故だろうか。タウは何処か声に力みがあった。アエンを見て何かを思ったようだが口には出さなかった。
「それでは如何なされますか」
 今度は葎が問うた。
「全ては我等が主、幽羅帝の思われるままでございます」
「うむ」
 その少女、幽羅帝はロクフェルの言葉を受けてまた口を開いた。
「もう決まっている。ゼオライマーを倒さなければならない」
「ハッ」
 八卦集はそれを受けて頭を垂れた。
「それでは私が」
 塞臥が出ようとする。だが幽羅帝はそれを制した。
「待て」
「何故でございますか」
「そなたのオムザックはまだ完成してはいない。出ることはできない」
「わかりました」
 彼はそれを受けて引き下がった。下がりながら口の端を歪めて笑っていた。
「それでは私が」
 今度は耐爬が出て来た。幽羅帝は彼の姿を認めてその目の光をほんの一瞬だけであるが晴れやかなものにした。しかしそれはほんの一瞬のことであった。
「そなたがか」
「はい」
 耐爬は頭を垂れてそれに応えた。
「必ずやゼオライマーを始末して参ります」
「ふむ」
 彼女はそれを聞いて考え込んだ。正確に言うならば考えるふりをした。
「よし。それではそなたに任せよう」
「ありがたきしあわせ」
「それでは決まりだ。セオライマーの征伐は耐爬に任せる」
「ハッ」
 他の八卦集がそれに頷いた。
「他の者は英気を養うように。それではさがれ」
「わかりました」
 こうして彼等は一先この場を解散した。幽羅帝は自分の部屋に戻った。ベットや装飾はあるが意外と質素な部屋であった。何処か落ち着いてそれでいて幼い少女の香りが残る部屋であった。そこに耐爬が入ってきた。
「帝」
「よく来た」
 幽羅帝は耐爬の姿を認めて微かに目を細めた。
「今回の件はそなたに任せた」
「はい」
 彼はまた頭を垂れた。
「必ずや帝のご期待に添えます」
「頼むぞ」
 彼女は毅然とした態度を崩してはいなかった。だが何処か彼を見る目が他の者に対するのとは違っていた。
「願わくばお願いがあります」
「何だ」
 耐爬の言葉に応えた。
「この身を愛するからこそ出撃を命ずるのだと仰って頂きたいのですが。そうだ、と」
「馬鹿を申すでない!」 
 だが彼女はそれを聞いて怒りの声をあげた。
「耐爬、私は何だ!?」
「帝でございます」
「そうだ。それでは私に対して申してもようことと悪いことがわかろう」
「はっ、申し訳ありませんでした」
「下がれ。それ以上申すことはない。ゼオライマーを倒してまいれ」
「わかりました」
 彼はそれを受けて引き下がった。部屋には幽羅帝だけとなった。
「くっ・・・・・・」
 彼女は耐爬が下がった後一人辛い声を出していた。だがそれを耐えそのままベッドに入ってしまった。
「何故私は帝なの・・・・・・」
 一言そう言い残して。
 
 日本の静岡。ここに一人の少年がいた。
 彼の名は秋津マサト。ごく普通の中学生であった。顔立ちも普通でありこれといって特徴もなかった。筈であった。この日までは。
 マサトは学校から帰る途中であった。いつもの通学路を通っていた。
「帰ったら何しようかな」
 何となくそう考えていた。しかしそれは呆気なく打ち消されてしまった。
「あの」
 彼の前に一人の少女が姿を現わした。
「君は?」
 マサトは彼女を見て声をあげた。見れば茶色の長い髪を持つ美しい少女だ。
「貴方を向かえに来ました」
 彼女は一言そう言った。
「迎えにって!?」
「はい」
 少女は答えた。
「ちょっと待ってくれよ。本当に僕なのかい?」
「ええ、マサト君」
 少女はまた答えた。
「どうして僕の名前を」
「秋津マサト君よね」
「う、うん」
 マサトは戸惑いながらもそれに答えた。
「秋津マサト。三月六日生まれ、本籍は静岡・・・・・・」
「なら間違いないわ」
 少女はそれを聞いて微笑んだ。
「私と一緒に来て欲しいの。いいかしら」
「ま、待ってくれよ」
 側まで来た少女に対し慌ててそう声をかけた。
「一体何のことなのか。それに僕は君が誰かも知らないし」
「私?」
「そうだよ。君は一体誰なんだ」
「私は美久。氷室美久よ」
「氷室・・・・・・美久」
 マサトは彼女の名をそらんじた。
「そうよ。覚えてくれたかしら」
「覚えたけれど」
 だからといって納得したわけではなかった。マサトには何が何だか全くわからなかった。
「けれどそれが」
「いいから来て!」
 美久はそう言うとマサトの手を掴んだ。そしてそのまま引っ張った。
「うわ」
 外見からは想像もつかない力だった。彼は身体をそのまま引っ張られた。そしてバイクの後ろに乗せられた。
「行くわよ」
「う、うん」
 そしてそのままバイクは走る。マサトはあっという間に湘南まで来ていた。
「何でこんなところにまで」
 彼は海を見ながらそう言った。見れば海岸は観光客で一杯である。
「まさかここへ来るなんて」
 湘南へは何度か来たことがある。美久は彼に対して言った。
「もう少しだからね」
「あの」
 マサトは尋ねた。
「何処へ行くつもりなんだい?」
「すぐにわかるわ」
「何かさっきからそんなことばかり言っていないかい?」
 ふとそう尋ねた。
「そうかもね」
 美久はそれを認めた。
「けれど今はそんなことを言ってる場合じゃないの。御免なさいね」
「うん」
 その勢いに流されてしまう。だが彼はそれを受け入れざるを得なかった。それが運命だったのだから。
「着いたわ」
 また声をかけてきた。着いたのは何かの基地のようであった。
「連邦軍の施設なのかい?」
「ちょっと違うわ」
 美久はそう答えた。
「関係はほんの少しあるかも知れないけれど」
「DCじゃないよね」
「いえ」
「じゃあ何なのだろう」
 そう思いながらも美久に連れられるままその施設の中に入った。そこは基地であった。軍事関係の設備が揃っていた。
「基地か」
 マサトはそれを見て呟いた。
「一体何の為に」
 そう思った。ここで前にサングラスの男が姿を現わした。
「美久、御苦労だったな」
「はい」
 美久は彼に挨拶をした。中年の鋭い感じのする男だった。
「貴方は」
 マサトは彼にも問うた。
「私か」
「はい」
 男はマサトの言葉を受けて彼に顔を向けてきた。
「マサキ」
「えっ!?」
 マサトはその名を聞いて声をあげた。
「僕はマサトですが」
「そうだったな」
 男はそれを受けて呟いた。
「今の姿の名は」
「!?」
 マサトにはその言葉の意味がよくわからなかった。だが男は続けた。
「私は沖功という」
「沖さんですか」
「そうだ。かって君に会ったことがあるのだが。覚えているかな」
「申し訳ありませんが」
 マサトはそれを否定した。
「覚えてないです、すいません」
「そうか、ならいい」
 沖はそれを聞くとそう答えた。特に何もないようではあった。
(変な人だな)
 マサトは沖と話をしながらそう思った。そこへ沖がまた声をかけてきた。
「それで君の今後だが」
「はい」
「ゼオライマーに乗ってもらいたい。いいか」
「何ですか、そのゼオライマーって」
「すぐにわかる」
 一言そう言っただけであった。沖は今後は美久に顔を向けた。
「マサトをあの場所へ」
「わかりました」
 一瞬顔を伏せた後でそう答えた。そしてマサトの手を掴む。
「マサト君、こっちへ来て」
「な、何なんだ今度は」
 だがその力には逆らえなかった。彼はそのまま連れて行かれた。そこは独房であった。
「暫くここにいてね」
「な、何故なんだ、どんしてこんなところに!」
「すぐにわかるわ」
 美久はそう言うだけであった。そして彼をそのままにして立ち去った。
「お、おい何処に行くんだ!何故僕がこんな目に遭わなくちゃいけないんだ!」
 マサトは叫んだ。だが誰も来なかった。彼は一人になった。
 それから暫く経った。沖は美久に問うた。
「奴は今どうしている」
 そのサングラスの奥の目の光が少し複雑なものとなっていた。
「今のところ変わりはないようです」
 彼女はそう答えた。
「そうか、今のところは」
「はい」
「だがいずれ出て来るな、あの男が」
「あの男とは?」
「美久」
 沖は答えるかわりに美久の名を呼んだ。
「マサトをここに連れて来てくれ」
「わかりました」
 こうしてマサトが連れて来られた。彼は完全に憔悴しきっていた。
「一体何でこんな・・・・・・」
「答える必要はない」
 沖の返答はこうであった。そして言葉を続ける。
「これから御前にはやってもらうことがある」
「やってもらうこと」
「そうだ。美久、連れて行け」
「はい」
 そしてマサトはまた連れて行かれた。
「今度は一体・・・・・・」
「ここよ、マサト君」
 そこはコクピットの中であった。何かしらの機具が周りにある。
「ここは・・・・・・」
「マサト、思い出したか」
 モニターに沖の顔が映る。彼はそこからマサトに対して問うてきた。
「何を」
「あの男のことだ」 
 沖はそうマサトに対して言った。
「あの男のこと」
「そうだ。思い出せないか」
「何のことなのか・・・・・・」
「では思い出すのだ。早くな」
「貴方は一体何を言っているんですか!?僕を無理矢理ここに連れて来て閉じ込めて」
「全てはあの男の為だ」
「またあの男って・・・・・・」
 マサトには何が何か完全にわからなくなってきていた。
「その男って誰のことなんですか」
「君自身だ」
「僕自身」
 マサトはそれを聞いて驚きの声をあげた。
「僕が・・・・・・どうしたっていうんですか」
「あの男を出すんだ、早く」
「そんなこと言っても」
「思い出せ、あの男を」
「うう・・・・・・」
 マサトは言葉を聞くうちに呻きはじめた。頭を抱えてコクピットの中に蹲った。
「思い出したか、あの男のことを」
「ううう・・・・・・」
 マサトはまだ呻くままであった。だが沖はそれでも問うた。
「あの男を思い出すんだ」
「くくく・・・・・・」
 それを言うとマサトはゆっくりと笑いはじめた。そして顔をあげてきた。
「ふふふ」
 マサトは顔をあげながら言った。
「あの男というのは俺のことか?」
 ここでマサトの声がした。だがそれはマサトの言葉ではなかった。
「その声は」
 沖はそれに反応した。声がした方に顔を向けた。
「マサキか」
「その通りだ」
 マサトは答えた。そこにいるのは確かにマサトであった。だが明らかに何かが違っていた。
 その表情が違っていた。あのあどけない顔は何処にもなくドス黒い瘴気が漂っていた。顔全体に険があった。それは明らかにマサトの表情ではなかった。
「沖、久し振りだな」
「その言葉、マサキか」
「ふふふ、如何にも」
 マサトはその言葉に応えた。
「俺に一体何の用なのだ。久し振りに会ってみれば」
「わかっていると思うが」
 沖は臆することなくそう答えた。
「御前自身がな」
「確かにな。あれに乗れというのだろう」
「わかっているのか」
「そしてあの計画を発動させろというのだな」
「御前が考えていた計画だ。違うか」
「ふふふ、そうだ。では再開させてもらうとするか。美久」
「はい」
 美久は答えた。
「わかっているな。行くぞ」
「ええ、マサト君」
「マサトか。そうだったな」
「あいつの名は」
 彼は面白そうに言った。
「だが今の俺は木原マサキだ。よく(覚えておけ」
「マサト君じゃないの?」
「そうだ」
 マサキは言った。
「今の俺はマサキだ。わかったな」
「ええ」
 美久は頷いた。やはり何か妙なものを感じていた。
「では行くとするか。もう客が来ていることだしな」
「何、客だと」
「奴等だ」
 マサトは一言そう言った。
「御前は感じないのだな、ふふふ」
「何が言いたい」
「あの時からそうだった。どうやら御前は肝心なところが」
「マサト」
 沖は彼の名を呼んだ。
「彼等が来ているのなら一刻の猶予もないのではないのか」
「猶予?それは誰に対して言っているのだ」
 逆にこう聞き返してきた。
「俺に対して言っているのなら違うといっておこう」
 そしてこう言った。
「まあいい。御前はそこで見ていろ、俺のやり方をな」
「やるのだな」
「答える必要はない」
 そう言うとコクピットの中のスイッチを入れていった。そして彼は出撃した。
「ふふふ、蚊トンボ一匹で何が出来るというのだ」
 夜の街に巨大なロボットが姿を現わした。それは銀の身体を持っていた。
「ゼオライマー、御前に今獲物を与えてやるぞ」
 湘南の街にゼオライマーが姿を現わすと前にもう一体マシンがいた。それこそが八卦のマシンであった。
「ゼオライマー、出たな」
 そこには耐爬がいた。彼がそこに乗っていたのである。
「今こそ陛下に報いる、行くぞ」
「フン」
 だがマサキはそれを受けても平然と笑っていた。
「戯れ言を。風が天にまで届くと思っているのか」
「八卦の一つ、風のランスター」
 耐爬はそれに臆することなく述べる。
「参る!」
 ランスターが前に出た。マサキはそれを受けて悠然と構えていた。
「御前のことは知っている」
 彼は耐爬に対してそう言った。
「その心もな」
「何っ!?」
「死ぬがいい。心おきなくな。報われることのないそれを胸に」
「貴様っ!」
 耐爬は激昂した。そして彼は突進した。
「食らえっ!」
「ふん」
 攻撃を仕掛ける。だがマサトはそれを受けても平然としていた。
「甘いな」
「クッ!」
 攻撃を続ける。だがそれでもゼオライマーは平然としていた。殆どダメージを受けてはいなかった。
「その程度だというのか、風の力は」
「おのれっ!」
 それを受けて間合いを離してきた。そして構える。
「負ける訳にはいかん、退く訳にはいかんのだ!我が愛の為に!」
「また戯れ言を」
 それでもマサキは笑っていた。冷酷な笑みであった。
「受けてみよ、我が最大の奥義」
 そう言いながら力を溜める。そしてそれを放ってきた。
「デッド=ロンフーン!」
 それでゼオライマーを撃とうとする。だがそれはあえなく防がれてしまった。ゼオライマーが両手からエネルギー波を放ちそれを打ち消してしまったのである。
「何っ!」
「茶番はここまでだ」
 マサキは戸惑う耐爬を前にそう言った。
「今度はこちらの番だ」
 そしてゼオライマーを飛ばせた。そして攻撃に入る。
「塵一つ残さず消滅させてやる」
 その両手の拳を胸の前に持って来る。両手にエネルギーが込められる。そしてそれを撃ち合わせる。
「冥王の前に消え去るがいい」
 ゼオライマーの周りに攻撃が放たれる。それはランスターも直撃した。
「ぐわっ!」
 避けることはできなかった。ランスターは忽ちのうちに致命傷を受けてしまっていた。
「み、帝・・・・・・」
 耐爬もであった。彼は最早立っていることさえできなくなっていた。
「申し訳ありませんでした・・・・・・」
 そしてランスターは爆発した。彼はその中に消えていった。
「むっ」
 だがマサキはそこで何かを感じ取っていた。しかしそれを放置した。
「ふふふ、まあよい」
「ふむ」
 沖はその戦いを基地の中から見ていた。彼はモニターを見て頷いていた。
「これでよし。ようやく最強の兵器が手に入った。私の計画はこれからはじまる」
「沖」
 ここでマサキが彼に話し掛けてきた。
「ゴミは始末した。これでいいか」
「ああ。では帰投してくれ」
「わかった・・・・・・ムッ!?」
 だがここでマサキに異変が起こった。
「グググ・・・・・・」
「どうした、マサキ」
「マサキ!?それは一体」
 その声はマサキのものではなくなっていた。
「マサキではないのか」
「違います僕は」
 あげられた顔には最早険はなかった。元のあどけない顔であった。
「マサトです。今まで僕は一体・・・・・・」
「どういうことなのだ」
 沖はそれを見て眉を顰めさせた。何が何だかわからなかったのだ。
「マサキ」
 念の為もう一度名を問うてみた。だが結果は同じだった。
「マサキ?ですから僕は」
「そうか、ならいい」
 沖はそれを見て冷静に判断した。そして美久に声をかけた。
「美久、目的はとりあえずは達した。退け」
「わかりました」
 美久はそれに頷いた。そして彼女が動かしたのかゼオライマーはその場から動いた。そして姿を消そうとする。その時であった。
「あれか」
 そこにロンド=ベルが姿を現わしたのであった。
「戦闘が行われていると聞いて向かってみたが。もう終わったようだな」
「ああ」
 ブライトにアムロが答えた。
「一方が負けたらしいな。そして一方のロボットがあれだ」
「あれか」
 ブライトはゼオライマーを見た。夜の街に白銀のマシンが浮かんでいた。
「大きいな。そしてそれだけじゃない」
「御前も感じるか」
「ああ」
 ブライトは頷いた。彼もまた多くのニュータイプ達と接しているうちに彼等に近い感性を多少ながら身に着けているのであろうか。
「全軍出撃用意。警戒を怠るな」
「了解」
 それを受けて皆攻撃態勢、出撃準備に入る。だがここで沖が入って来た。
「待ってくれ」
 彼の姿がラー=カイラムや他の艦のモニターに映し出された。


[276] 題名:第十九章その二 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月23日 (木) 18時40分

「地球人共よ、聞こえているか!」
「!?」
 エリカはその声を聞いて表情を一変させた。
「余はバーム軍司令官リヒテルである!」
 背中に翼を生やした金髪の男がモニターに姿を現わしてきた。
「貴様等地球人には我が父リオンを殺されている。今その恨みを晴らしにここに来た」
「勝手なことを言うな!」
 一矢がそれに反論した。
「俺も御前達に親父を殺されている!」
「黙れ!」
 だがリヒテルはそれを聞いて激昂した。
「元はと言えば貴様等の姦計のせいだ。貴様の父は自らの罪の報いを受けただけだ!」
「俺の父さんはそんなことはしない!」
「では何故我が父は死んだ!」
「あれは何かの間違いだ!」
「問答無用!」
 リヒテルはこれ以上何かを言うつもりはなかった。そう言って話を打ち切った。そして左右に控えている大男と髪の長い妖艶な女に声をかけた。
「オルバス、ライザ」
「はっ」
 二人はそれに応えた。
「思う存分やるがいい。そしてこの戦いを我等の復讐のはじまりとするのだ」
「了解致しました」
「お任せ下さい、リヒテル様」
 二人はそう言うとそれぞれの機に移った。見ればリヒテルが乗っているものと同じものである。
「そなた等にそのガルンロールを与えよう」
「有り難き幸せ」
「それで思う存分地球人共に正義の鉄槌を下すのだ。余も行く」
「いえ、リヒテル様はここで戦局全体の指揮をお願いします」
 だがここでライザがこう言った。
「?何故だ」
「リヒテル様は我等の司令官です。何かあっては」
「ライザ」
 だがリヒテルはそれに対して嫌悪感を露わにした声を送った。
「余が奴等に遅れをとるとでもいうのか?」
「いえ、それは」
「ならわかるな。余計な詮索は無用だ」
「はっ」
「余も行く。そして自らの手で裁きを下してくれる」
「わかりました」
「わかればよい。では行くぞ!」
「はい!」
「全軍攻撃開始!地球人を一人残らず成敗せよ!」
 こうしてバーム軍の攻撃がはじまった。早速激しい応酬がはじまる。ミサイルやビームが交差し激突する。ナデシコもそれに参加していた。
「ミサイル撃っちゃって!」
「ミサイル発射です」
 ユリカとルリの声が艦橋で聞こえている。ユリカは身体全体を動かしながら言うのに対してルリは冷静なままであった。
「どんどん撃って!」
「はい、どんどん」
「ルリちゃん、それじゃわんこそばよお」
 ミナトが突っ込みを入れる。
「まあいいからいいから」
 ユリカがそう言う。
「そばならそばで打っていいから!」
「了解」
 ナデシコの艦橋は他の艦とは違っていた。やはり雰囲気が明るいのだ。いや、明るいというよりは能天気なものであった。その中心にいるのはユリカであるのは言うまでもなかった。
「さあ、敵の攻撃はちゃっちゃっとかわして」
「回避行動お願いします」
「わかったわあ」
 ミナトがナデシコを動かす。そしてライザのガルンロールの攻撃をかわした。
「よし!」
 ユリカが会心の笑みでガッツポーズをする。
「この調子でいっちゃって!激しく激しく!」
「待って下さい」
 だがそんな彼女をルリが嗜めた。
「どうしたの?ルリちゃん」
「今こちらに御客様が来られています」
「御客様?」
 見れば艦橋にエリカが来ていた。
「あれ、エリカさんここは」
「お願いがあるのです」
 エリカはユリカにそう言った。
「お願い」
「はい。この戦い・・・・・・見て宜しいでしょうか」
「ここでですか?」
「はい」
 ルリの問いに対して頷いた。
「貴女達だけ宜しければ。お願いできるでしょうか」
「う〜〜ん、本当は民間の人は艦橋に入れちゃ駄目なんだけど」
 ユリカは腕を組んで考えながらエリカに対して言った。
「それはわかっています。けれど」
「いいわ。そんな堅苦しいことはナデシコじゃ意味ないし。ルリちゃん、ハーリー君に椅子を一つ用意させちゃって」
「わかりました。ハーリー君、お願いできますか」
「はい」
 ハーリーはそれに応えてすぐにエリカを空いている席に案内した。
「ここでいいですよね」
「ええ。そこならいいです」
 ルリはそれを了承した。そしてユリカにまた言った。
「これでいいでしょうか」
「うん、いいわ」
 ユリカはそれを認めた。そしてまたエリカに対して顔を向けた。
「一応気をつけて下さいね。攻撃が当たっちゃうこともありますから」
「はい」
 エリカはまた頷いた。
「すいません。我が儘を言ってしまって」
「いいのよ。私だって我が儘なんだから」
「わかってたんですね」
 メグミがそれを聞いて少し驚いた声をあげた。
「意外」
「私だって自分のことはわかってるわよ」
 ユリカは笑いながらメグミにそう言葉を返した。
「まあ今はばびゅーんとやっちゃいましょ。いいわね」
「了解」
 それを受けてメグミ達は頷いた。そしてまた前に顔を戻した。
「ナデシコ突貫しちゃって!」
「はい!」
 ナデシコは前に出た。そして敵への攻撃をさらに強めるのであった。
「地球人共よ、降伏はしないのか!」
 戦いの中リヒテルの声が響く。エリカはそれを聞いて眉を顰めた。
「また。この声は」
「降伏だと!?」
 ピートがそれを聞いて怒りの声をあげた。
「何故俺達が貴様等なぞに降伏しなくちゃいけないんだ!」
 サンシローも言った。
「全てはバーム十億の民の為だ」
 それに対してリヒテルは昂然を胸を張って答えた。
「我等に安住の地を与える為だ」
「勝手なことを言うな!」
 サンシローの怒りが爆発した。怒気を露わにして叫ぶ。
「侵略して来たのは御前達だろうが!それで虫のいいことを言うな!」
「黙れ!」
 だがリヒテルはそれを頭から否定してまた叫んだ。
「我が父を殺しておきながらよくそんなことが言えるな!」
「俺達は御前の親父さんなんか殺しちゃいない!」
「そうだ。誰がやったか知らないがそれを人類全ての罪にするな!御前が言っていることは単なる偏見だ!」
 一矢も叫ぶ。だがそれでもリヒテルの怒りは収まらなかった。
「どうしても余の言葉に従わぬつもりか」
「当たり前だ」
 一矢は吐き捨てるようにして言った。
「御前の言葉が間違っている限りはな」
「ぬうう、よくぞ言ったそこの地球人よ」
 リヒテルはダイモスを見据えてそう言った。
「名を聞こう。何というか」
「一矢。竜崎一矢だ」
 彼は名乗った。
「そしてこれはダイモス。俺の愛機だ」
「竜崎一矢・・・・・・ダイモス」
 リヒテルはその名を復唱した。
「覚えたぞ。今この場で貴様を倒してくれようぞ」
「できるのか?貴様に」
「余は誰にも遅れをとった覚えはない」
 リヒテルは即座に言い返した。
「我が友以外にはな」
「ふん、じゃあ掛かって来るんだな」
「望むところ」
 リヒテル、そしてガルンロールの姿がナデシコのモニターにも映る。それを見てエリカの顔が一変した。
「あれは・・・・・・!」
「どうしたの、エリカさん」
 ユリカが彼女に問うた。
「そんなに驚いて。あの敵の司令官がどうしたんですか?」
「いい男なのは事実よね」
 ミナトがリヒテルの顔を見ながら言った。
「ちょっときついけれど」
「確かに顔は悪くないですね。けれど人間的には余裕がないと思います」
 ルリは彼の人間性まで見ていた。
「生真面目ですけれどまだ若いです。周りもよく見えていないと思います」
「兄上!」
 エリカは叫んだ。
「兄上って!?」
 ナデシコの艦橋のクルーはそれを聞いて顔をエリカに向けた。
「兄上、もう止めて下さい!」
「その声は」
 リヒテルも気付いた。ガルンロールに入ってきたエリカの声にハッとする。
「エリカ、エリカだというのか!」
「兄上、戦いを止めて下さい!」
「エリカ!」
「おひいさま!」
 リヒテルの横にいる初老のバーム星人も驚きの声をあげた。彼女はリヒテルの乳母であり妹の侍女でもあるマルガリーテである。
「エリカ、御前は今地球人共と一緒にいるというのか!」
「生きてらしたとは・・・・・・!」
 驚きをそのまま維持するリヒテルに対してマルガリーテは顔を喜びに変えようとしていた。
「エリカさん、これどういうこと!?」
「あの敵の司令官が貴女のお兄さんだなんて」
「皆さん、御免なさい」
 エリカは席を立ちナデシコのクルーに謝罪した。
「今全てを思い出しました。私はバーム星人だったのです」
「そんな・・・・・・」
「これは一体どういうことなんだ!?」
 それを聞く一矢は冷静さを完全に失っていた。
「エリカがバーム星人だったなんて。そんな筈がないだろう!」
「落ち着け、一矢」
 そんな彼を京四郎が嗜めた。
「話はまだ終わっちゃいないぞ」
「しかし」
「だから落ち着けと言ってるんだ」
 それでも京四郎は彼を嗜めた。
「いいな」
「・・・・・・ああ」
 一矢はそれに従った。そしてエリカを見た。見れば皆戦いを中断しエリカに注目していた。
「すいません、皆さん」
 エリカは言った。
「私は・・・・・・全てを思い出しました」
 そう言うと艦橋を後にした。そしてそのまま格納庫へ去っていく。
「待って、エリカさん!」
 ハーリーが呼び止めようとする。だがルリがそれを制した。
「ルリさん、どうして」
「ハーリー君」
 ルリは表情を消しながらも優しい声で彼に語りかけてきた。
「今は追う時ではありません」
「けど」
「わかりますから。私はエリカさんと一矢さんを信じています」
「・・・・・・信じているんですか」
「ええ。だから今は行かせてあげるべきです」
「わかりました」
 ハーリーは頷いた。そして彼は動きを止めた。
 ルリの言葉にユリカ達も従うことにした。彼女達はそのままエリカを行かせた。
「どんな苦難があってもあの二人は乗り越えます」
 ルリはまた言った。
「そしてその先には」
 エリカはナデシコを出た。そして予備のガルバーで出る。だがそこで大空魔竜に乗るピートが叫んだ。
「行かせるか!スパイを逃がすな!」
「やはりな」
 京四郎はそれを聞いて呟いた。
「おかしいとは思っていたが」
「京四郎、それはどういう意味だ」
 一矢が彼にくってかかってきた。
「まさか御前はエリカを疑っていたのか」
「ああ、そうさ」
 彼はすぐにそう答えた。
「そう思うのが普通だろう。スパイじゃないかってな」
「エリカはスパイなんかじゃない!」
 彼は叫んだ。
「じゃあ何で今逃げるんだ?」
「それは・・・・・・」
 彼は答えられなかった。そのかわりにエリカの乗るガルバーに顔を向けた。
「エリカ、説明してくれ!」
「一矢、御免なさい」
 だがエリカはそう答えた。
「そんな、こんなことが・・・・・・」
「私はバーム星人、リヒテルの妹です」
「エリカが父さんの仇の妹だったなんて・・・・・・」
 一矢は呆然としていた。今何が起こっているのか把握できてはいなかった。
「こんな、こんなことが・・・・・・」
「貴方を騙すつもりはなかったのは信じて下さい」
「エリカ」
「貴方はお慕いしてはいけない人・・・・・・さようなら」
 そしてバームの方へ行く。ダイモスはそれを追おうとする。
「行くな、エリカ!」
「一矢!」
 エリカは振り向こうとした。だがそれを止めた。
「駄目」
 行ってはいけないことはわかっていた。振り向きたくとも。
(どうして好きになってしまったの・・・・・・。愛してはいけない人なのに・・・・・・)
 涙が溢れる。それを止めることはできなかった。
「エリカ!」
 一矢はまた彼女の名を呼んだ。
「君がバーム星人でも父さんの仇の妹でも関係ないんだ!」
「一矢・・・・・・」
「だから・・・・・・戻ってきてくれ!」
「ああ、一矢・・・・・・」
 エリカのガルバーの動きが止まった。それを見てリヒテルは叫んだ。
「どうした、エリカ!こちらに合流するんだ!」
「兄上、御免なさい」
「何、何を謝るのだ」
「エリカは死にました。ですから・・・・・・」
「どういうことだ!?」
「ですから・・・・・・追わないで下さい」
「エリカッ!」
 一矢とリヒテルが同時に叫んだ。
 一矢のもとへ行こうとする。だがそこにライザのガルンロールが来た。
「ああっ!」
「エリカ!」
 一矢が彼女の名を呼んだ。
「エリカ様、たいがいになさいませ!」
 ライザが怒りに満ちた声で叫んだ。
「貴女のお兄様は戦っておられるのですよ!それがわからないのですか!」
「ああ、一矢・・・・・・」
 エリカのガルバーはガルンロールの中に収容された。こうしてエリカは捕らえられてしまった。
「でかした、ライザ」
 それを見てリヒテルはライザにねぎらいの声をかけた。
「有り難うございます」
 ライザはモニターに映るリヒテルに対して礼を述べた。そして申し出た。
「リヒテル様、私はエリカ様の保護の為戦場を離脱したいのですが」
「うむ、そうだな」
 そしてリヒテルはそれを認めた。
「では下がれ。くれぐれも頼むぞ」
「ハッ、それでは」
 ライザのガルンロールが戦場からの離脱を開始した。一矢はそれを見て追おうとする。
「待ってくれ、エリカ!」
「一矢!」
 エリカも彼の名を呼んだ。
「俺はまだ君と何も話してはいないんだ!待ってくれ!」
「一矢、御免なさい」
 それでもエリカとの距離は離れるばかりである。一矢は消えようとするエリカの乗るガルンロールに対して叫んだ。
「俺は・・・・・・俺は君が好きなんだーーーーーーっ!」
「一矢さん・・・・・・」
 ロンド=ベルの者達はそんな一矢とエリカを見て言葉を失った。同時に二人の愛の深さも知った。
「お兄ちゃん・・・・・・」
「あの野郎、短い間にあそこまで・・・・・・」
 それはナナと京四郎も同じだった。二人はそれぞれ眉を顰めて二人を見守っていた。
「エリカァァァァァッ!」
 ダイモスが飛び出た。その前にガルバーが出て動きを止めた。
「待て一矢、何のつもりだ!」
 京四郎が彼に声をかけた。
「まさか追うつもりじゃないだろうな!」
「止めるな京四郎!」
 それでも一矢は行こうとする。ダイモスは必死にエリカを追おうとする。京四郎はそんな彼に対して言った。
「馬鹿、状況をよく見ろ!」
「そんなもの!」
「落ち着け!今御前一人が飛び出したところで何になる!」
「エリカを救い出せる!」
 一矢は叫んだ。
「まだわからないのか!」
「わかってたまるか!」
「待て、一矢君」
 そんな彼に竜馬が声をかけてきた。
「リョウ」
「京四郎君の言う通りだ。今君一人が言っても何にもならない」
「クッ・・・・・・」
 一矢はそれを聞いて歯軋りするしかなかった。
「それよりも今はバームの戦力を少しでも削っておくんだ。いいな」
「エリカを見捨てろというのか!」
「彼女はバーム星人だ」
 鉄也も彼に対して言った。
「敵側の人間だ。おいかけてどうするつもりだ」
「じゃあエリカは」
「一矢」
 京四郎はまた彼に声をかけてきた。
「今は戦うことに専念しろ。いいな」
「・・・・・・わかった」
 彼はようやく頷いた。そして元の場所に戻った。そして戦いを再会した。
「フン、地球人めが」
 リヒテルは怒りに満ちた目でロンド=ベルを見据えた。
「我が妹をたぶらかした罪も償ってもらおうぞ。バルバス」
「ハッ」
 ここでバルバスに声をかけた。既にライザのガルンロールは戦場を離脱していた。
「思う存分やれ。容赦はするな」
「畏まりました、リヒテル様」
 それに応えるとロンド=ベルを見据えた。
「行くぞ、ロンド=ベル」
「望むところだ」
 一矢にかわって忍がそれに応える。
「かかってきやがれ、この翼野郎!一人残らず始末してやるぜ!」
「どうやら地球人も戦いを怖れぬようだな」
「それはあたしだってそうだけれどね」
「俺だって。御前等にやられてたまるかよ」
「今ここで葬ってやる」
 獣戦機隊の心に炎が宿った。そしてダンクーガを気が覆った。
「やるぜ、皆!」
「おう!」
 他の三人が忍の声に応える。忍はそれを受け取ると断空砲を放った。
「いっけえええええええええええっ!」
 それで目の前にいる敵を薙ぎ払う。それで終わりではなかった。
「まだだっ!」
 剣を抜く。そして敵の中に殴りこむ。
「断・空・剣!」
 それで敵を両断していく。バーム軍の陣にそれで穴が開いた。
「藤原!」
 ダンクーガにアランが声をかける。
「後ろは俺に任せろ、いいな!」
「おう、頼むぞ!」
 ダンクーガは将に鬼神の如き戦いを見せる。それにライディーンが続く。
「ミスター、サポートを頼む!」
「任せろ!」
「洸さんは敵の主力をお願いします!」
 神宮寺と麗が彼に言う。洸はそれを受けたうえで弓を構えた。
「ゴォォォォォォッドゴォォォォォォガァァァァァァァァァァンッ!」
 狙いを定める。矢が光となって放たれる。そしてそれで敵を射抜いていく。見事な腕前であった。
 その穴にロンド=ベルが雪崩れ込む。巨大ロボットを戦闘にバルキリーやダンバイン、ブレンパワードが左右を固める。モビルスーツとヘビーメタルは海岸線でそれをサポートする。見事な連携であった。
「ほう」
 リヒテルはそれを見て不敵に笑った。
「どうやら地球人共もそれなりに戦いを知っていると見える」
「リヒテル様、如何為されますか」
 側に控える部下の一人がそれに尋ねた。
「決まっておろう。我等は我等の戦いをするのみだ」
 彼はそれに対してこう答えた。
「ダリを中心に戦線を再構築せよ。奴等の勢いを殺せ!」
「ハッ!」
 リヒテルの命を受けて部隊が動く。そしてロンド=ベルを阻もうとする。だがそれよりも前にロンド=ベルが突撃を仕掛けてきたのだ。
「やるぜ、皆!」
「豹馬、調子にのんなや!」
「わかってらい!」
「そう言っていつもわかってないじゃない」
「まあそれが豹馬どんのいいところでごわす」
「そういうことですね」
 コンバトラーとダイモスもその中にいた。そして敵を蹴散らしながらそのまま突き進む。そしてリヒテルとバルバスのガルンロールに迫ってきた。
「健一」
 豹馬は二機のガルンロールを前にして健一に対して声をかけてきた。
「俺はあの左のやつをやる」
 そう言ってバルバスのガルンロールを指差す。
「御前はもう一機を頼む」
「わかった」
 健一は頷いた。そしてコンバトラーとダイモスは左右に散った。
「貴様が敵の司令官だな」
 健一はリヒテルに問うた。
「如何にも」
 リヒテルは臆することなく答えた。
「地球人よ、何か言いたいことはあるか」
「貴様は俺の兄さんに似ている」
「何っ!?」
 リヒテルはそれを聞いて眉を顰めさせた。
「馬鹿を言え、何故余が貴様等等と」
「俺の兄さんはボアダンの貴族だった」
「ボアダン!?あのボアダンか」
「そうだ」
 ボアダンのことはリヒテルも知っていた。
「では貴様はボアダンの者だというのか」
「半分はな。だがそんなことは関係ない」
「どういうことだ」
「俺は地球の為に戦う。それだけだ」
「フッ、その心意気は褒めてやろう。だが貴様の兄と余が似ているとは聞き捨てならんな。どういうことだ」
「貴様は誇り高い。だがその誇り故に見える筈のものが見えなくなっている」
「余を愚弄するか」
「愚弄なんかしてはいない。だが貴様にもそれがわかる時が来る。兄さんもそうだったからな」
「貴様の兄の名を聞いておこうか」
「ハイネル」
 健一は答えた。
「プリンス=ハイネルだ」
「プリンス=ハイネルか。覚えておこう」
 リヒテルはその名を呟いて健一に答えた。
「それではもうよいな。死ね!」
 そして攻撃に移った。破壊光線でボルテスを粉砕しようとする。だがボルテスはそれをかわした。
 逆に攻撃に移る。彼は天を見上げて力を集めた。
「天・空・剣!」
 今度は胸から剣を取り出した。そしてその剣を斜めに構える。
「うおおおおおおおおっ!」
 それでガルンロールに斬りつける。そしてそれで大破させた。
「これでどうだっ!」
「ぬううっ!」
 ガルンロールが激しく揺れた。だがそれでもリヒテルは立っていた。
「まだだっ!貴様等なぞにやられるものかっ!」
「何処までも兄さんに似ている」
 健一はそんなリヒテルを見て思った。
「それならば・・・・・・!」
 攻撃を続ける。今度は駒を取り出す。
「超電子コマーーーーーーッ!」
 それでガルンロールを撃とうとする。だがその前に一機のダリが現われそれを全て撃ち落とした。
「何っ!?」
「リヒテル様、ここはお下がり下さい」
 そしてそれに乗る一人の男がリヒテルにそう言った。
「そなたは!?」
「ハレックです。ガーニー=ハレックです」
「武術指南役のか」
「はい」
 黒い髪をした精悍な顔立ちの男が応える。
「ここはお下がり下さい。これ以上の戦闘は無意味です」
「馬鹿な、何を言う」
 リヒテルは即座にそれに反論した。
「今ここで逃げることはならん」
「逃げるのではありません」
 ハレックはそれに対して言った。
「撤退です。既に我が軍もガルンロールもかなりの損害を受けております。これ以上戦っても損害を増やすだけかと思います」
「ぬうう」
 リヒテルは呻いた。だがガルンロールの損害もバーム軍自体の損害も無視できないことは事実であった。そして彼はそれを認めた。
「わかった。ここはそなたの言葉に従おう」
「有り難き幸せ」
「地球人共よ」
 彼はロンド=ベルに対して言った。
「その命、暫しの間預けておこう。だが忘れるな」
 言葉を続ける。
「貴様等はバームの神によって裁かれる運命にあるということをな!」
 そう言い残して戦場から離脱した。後にはロンド=ベルの面々だけが残った。
「行っちまったか。また濃い奴が現れやがったな」
「あんたにとっちゃ敵はそれで片付くのね」
 アスカが甲児の言葉に呆れた声を出した。
「じゃあ何で言えばいいんだよ。ガルーダ二世とでも言うか?二代目シャーキンでもいいぜ」
「だから簡単に言うのは止めなさいよ。だから馬鹿だって言われんのよ」
「言ってるのはおめえだけじゃねえか」
「うっさいわね」
「じゃあ認めるんだな。おめえだけだって」
「だからどうしたっていうのよ」
 反撃に転じてきた。
「あんたが単純馬鹿なのは変わらないわよ」
「何、俺が単純馬鹿だってえ!?」
「違うの!?あんたみたいなのはそうそういないわよ!」
「このアマ、言わしておけば!」
「何、やろうっての!」
 二人はまたいがみ合いをはじめた。だが皆それを見ても落ち着いていた。
「止めなくていいのか?」
 ケーンがジュドー達に尋ねた。
「ああ、あの二人は放っておいていいぜ」
「喧嘩する程仲がいい」
「そういうこと」
 そう言って誰も間に入ろうとしない。それを見てケーンは首を傾げた。
「そういうもんかね」
「まあここはそういうところですから」
 そんなケーンにカトルが答えた。
「ですから気にしなくていいですよ」
「そうか。じゃあ気にしないぜ。それでいいな」
「はい」
 そんなやりとりをしながらロンド=ベルの面々は集結した。それぞれの艦に戻る。一矢はナデシコに入るとすぐに艦橋に向かった。
「何でエリカを行かせたんだ!」
 一矢はナデシコのクルー達にそう叫んだ。
「エリカは・・・・・・」
「一矢さん」
 そんな彼にユリカが声をかけてきた。
「何だ!?」
「あの人はバーム星人だったのよ。言って悪いことはわかってるけど」
「それがどうしたっていうんだ!エリカは俺の・・・・・・」
「大切な人なのですね」
 また叫ぼうとする彼に今度はルリが声をかけてきた。
「あ、ああ・・・・・・」
 ルリの静かで落ち着いた声を聞いて彼は少し落ち着きを取り戻した。
「そうだ。けれど・・・・・・」
「ですから私達はあの人を行かせたのです」
「何故だ」
「貴方が大切に思う人に傷をつけられるでしょうか。あの人を止めたなら自分で命を絶たれたかも知れません」
「エリカが!?馬鹿な」
「一矢さん、貴方は心優しい方です。おそらく貴方はあの人がいる限りあの人を守られると思います」
「それが悪いというのか」
「あの人にとっては」
 ルリの声が少し哀しみを帯びたように聴こえた。
「あの人も心優しい人です。貴方が自分の為にそうして苦しむのを見たくはないでしょう」
「だからといって・・・・・・」
「安心して下さい」
 あえて語気にほんの少しだが力を入れた。
「あの人は無事です。そして必ずまた貴方の前に現われるでしょう」
「何故そう言えるんだ!?」
「愛があるからです」
 ルリは率直に言った。
「愛、が」
「はい。一矢さん、貴方はエリカさんを愛しておられますね」
「ああ」
「そしてエリカさんも貴方を愛しておられます。それで充分です」
「それだけで何とかなるというのか」
「そうです。私はそう思います」
「何故だ、何故そんなことが言えるんだ」
「愛は不滅だからです」
 ルリは一矢を見てそう言った。
「この世で最も強いものだからです」
「・・・・・・・・・」
 一矢は答えられなかった。だがそれで感情は完全に鎮まった。
「私は一矢さんとエリカさんが必ずもう一度笑い合って過ごせる時が来ると思っています。ですからご自重下さい」
「・・・・・・わかった」
 一矢は頷いた。そして艦橋を後にしたのであった。
 ナデシコのクルーはそれを見守っていた。見ればパイロット達もそこにいた。
「ったく、とんでもねえ馬鹿だな、あいつは」
 リョーコは一矢の後ろ姿を見て呆れた声を出していた。
「よくあんなので今まで生きてこれたもんだぜ」
「そうですか?私はいいと思いますよ」
 ヒカルはそれとは異なる考えであった。
「あんなに熱い人なんてそうそういませんよ」
「俺はどうなるんだ」
 ガイがクレームをつけてきた。
「ガイさんはガイさんで。けれど一矢さんって本当にエリカさんを愛しておられるんですね」
「そうだな。だがそれで周りが見えなくなっている」
 ナガレは冷静に一矢を見ていた。そしてそう述べた。
「それが仇にならなければいいが」
「そん時は俺達がフォローすればいいじゃないか」
「サブロウタ君が言うと何か意外ですね」
「本当はジュンさんが言うところだけれどな。けれどな、あんな人は放っておけないだろう」
「まあな」
 リョーコは渋々ながらそれに同意した。
「あそこまで純粋で一途だとな。応援したくなる」
 ナガレもそうであった。
「私とアキトみたいなものだからね。本当にいいわあ」
「ここで艦長が言わなかったら本当に最高だったのだけれど」
「それは言わない約束よお」
 メグミとハルカはそう話をしていた。こうして一矢を何とか宥め大人しく引き下がらせたのであった。
「あいつへの処罰は何もなしですか」
「そうだ」
 大空魔竜では大文字がピート達にそう説明をしていた。
「損害も予備のガルバー以外ないしな」
「それだけでも十分だ」
 ピートはサコンにそう反論した。
「あの女はスパイだったんだぞ。そしてあいつはスパイと一緒にいた。それだけでも重罪だ」
「ピート、それはどうかな」
 だが健一はここでピートに対してそう言った。
「それは偏見じゃないのか」
「偏見!?俺がか」
「ああ」
 健一は彼に答えた。
「確かに彼女はバーム星人だ。けれど同じ人間じゃないのか」
「人間!?」
「そうだ」
「ピート」
 ここでサンシローが彼に声をかけてきた。
「健一はボアダン星人とのハーフだぞ。それはわかってるな」
「ああ」
 それはピートにもよくわかっていた。
「ダバ達もだ。そしてガラリアやニー達はバイストンウェルから来ている。それもわかってるな」
「わかったうえで言ってるんだ」
 ピートはサンシローにそう反論した。
「異星人や地下勢力との戦いで情は無用だ。かけたらやられるのはこっちだ。それは健一、御前が最もよくわかってることじゃないのか」
「それはわかってるさ」
 健一は答えた。
「俺だって全ての異星人とわかりあえるとは思っちゃいないさ。けれど彼等とは平和交渉の段階までいっていたんだろう?」
 彼は言葉を続けた。
「不幸な事件はあったけれどそれで一方的に拒絶するのはどうかと思うんだが」
「・・・・・・・・・」
 ピートは沈黙した。健一はそれを受けて言葉を続けた。
「ピートの言いたいこともわかってるさ。けれど俺はバーム星人と機会があればもう一度話し合うべきだと思っている。その時には」
 ここでナデシコの方を見た。
「一矢とエリカさんが地球とバームの架け橋になる・・・・・・。そんな気がするんだ」
「健一」
 めぐみ達がそんな彼に声をかけてきた。ピートは沈黙したままである。だが彼もその目はナデシコに向いていた。そこに架け橋があるのだから。

 戦場を離脱したバーム軍は海中へと入っていった。そして海底に置かれている基地に戻った。リヒテルはガルンロールから降りるとすぐに司令室に向かった。エリカも一緒である。多くの機械やコンピューターが置かれ多くのバームの者達がつめていた。極めて機能的な司令室であった。
「おひいさま、よくぞご無事でした」
 司令室に来るとマルガレーテがすぐにエリカに声をかけてきた。
「マルガレーテ、心配をかけて御免なさい」
 エリカもマルガリーテにそう言葉をかけた。その姿はまるで実の親子のようであった。
 だがリヒテルは違っていた。彼は妹を厳しい目で見据えながら問うてきた。
「エリカ」
「はい」
「率直に尋ねよう。何故そなたは地球人達とかくも長い間共にいたのだ?」
 その声も厳しいものであった。
「若」
 そこへマルガレーテが入って来た。
「おひいさまは記憶を失われていて」
「余はエリカに問うているのだ」
 だがリヒテルの言葉は厳しいままであった。
「エリカ、余は兄として問うているのではない。地球攻略司令官として問うているのだ。よいな」
「はい」
 エリカは答えた。その声からは覚悟が窺えた。
「答えよ、エリカ。何故一緒にいたのか」
「・・・・・・・・・」
 だがエリカはそれに答えなかった。ただ兄を見据えているだけであった。
「何故答えぬのだ」
 リヒテルはまた問うた。
「言えぬというのか」
「いえ」
 だがエリカはここで口を開いた。
「お答えします。私は地球の若者に恋を抱きました」
「何っ!?」
「ああっ・・・・・・」
 リヒテルはそれを聞き声を荒わげた。マルガレーテは嘆いた。
「素直に申し上げます。私は今地球の若者と恋に落ちております」
「馬鹿な、我等が父が奴等に謀殺されたのを知っているのか!」
「はい」
 エリカは答えた。
「それでも申し上げているのです。私は地球の若者を愛しております」
「まだ言うか」
「何度でも」 
 エリカも引き下がらなかった。
「ぬうう」
 それを聞いてリヒテルの顔色が変わった。見るみるうちに紅潮していく。
「ならもう言葉もない、エリカよ」
「はい」
「今ここで成敗してくれる、そこになおれ」
 剣を抜く。そしてエリカに詰め寄ろうとする。
 エリカは一歩も動かない。ただリヒテルを見据えているだけである。そして言った。
「兄上、御聞き下さい」
「黙れ!」
 リヒテルは叫んだ。
「裏切り者の言葉なぞ聞く必要はない。せめてもの情だ。世自らの手で始末してくれる!」
「若、お止め下さい!」
 そんなリヒテルをマルガレーテが止めた。二人の間に入ってきた。
「どけ、マルガレーテ!」
 リヒテルはそんな彼女をどけようとする。だが彼女は引き下がろうとはしなかった。あくまでエリカの前に立ち彼女を守ろうとする。
「この様な光景を御父様が御覧になれば・・・・・・」
「その父を殺したのは地球人だ!その地球人を愛するなぞどういうことだ!」
「どうしてもというのなら私をお斬り下さい」
 マルガレーテは言った。
「何!?」
 それを聞いたリヒテルの動きが止まった。
「どういうつもりだ、マルガレーテ」
「おひいさまをお育てしたのは私です。全ては私の責任です」
「馬鹿な、何を言う」
 リヒテルは戸惑った。彼もまたマルガレーテに育てられたのだからこれは当然であった。
「ですから、ですからエリカ様だけは・・・・・・。それだけはなりません」
「クッ・・・・・・」
 さしものリヒテルの動きも完全に止まった。掲げていた剣を下ろす。
「勝手にするがいい」
 負けた。彼は妹を斬ることを遂に諦めたのであった。
「だが許しはせぬ。そなたを牢に入れる」
「はい」
「裏切り者を許すわけにはいかぬ。よいな」
「若・・・・・・」
「マルガレーテ」
 リヒテルはマルガレーテをキッと見据えた。
「最早余に肉親はおらぬ。よいな」
「わかりました・・・・・・」
「余はこの世に一人だ。一人しかおらぬのだ」
「わかりました」
「よし。衛兵達よ」
 そう言うと彼は左右の兵士達に声をかけた。
「ハッ」
 翼を生やした兵士達がそれに応えた。
「裏切り者を連れていけ。よいな」
「わかりました。さあ、こちらへ」
「はい」
 エリカは彼等に従った。大人しくそれに従い司令室から消えた。
(さようなら、一矢)
 彼女は最後に心の中で呟いた。リヒテルはそれを何も言わず見送っていた。
「これ」
 そしてまた別の兵士達に声をかけた。
「ライザとオルバスに伝えよ。再度地球人共を殲滅するとな」
「わかりました」
 兵士達はそれに頷いた。
「そしてハレックだ。あの者にも出てもらう」
「ハレック様もですか」
「そうだ」
 リヒテルはその言葉に頷いた。
「地球人共の力、決して侮ることはできん。それはわかるな」
「はい」
 リヒテルは決して無能ではなかった。地球人達を憎んではいたがその力まで侮ってはいなかったのであった。
「あの男の力が必要だ。是非とも出てもらいたい」
「わかりました」
 こうして次の作戦が決まった。横須賀はなおも戦火に晒されようとしていた。


第十九話    完




                                   2005・4・29


[275] 題名:第十九話その一 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月23日 (木) 18時32分

             再会
 地上に出た二隻のオーラシップは日本に出た。そこは日本で第一の軍港横須賀であった。
「久し振りだな、ここに来るのも」
「ああ」
 タダナオとオザワは互いにそう話をした。彼等は何回かこの港に来たことがあるのだ。
 この港が開かれたのは明治以降であった。ここに目をつけた海軍が軍港を置いたのである。以後この横須賀は呉と並ぶ海軍の軍港となった。それは海軍から海上自衛隊、そして連邦軍になっても同じであった。今ここには多くの連邦軍の艦艇が停泊していた。
「あの戦艦は何だ?」
 ショウは港に見える変わった形の戦艦を指差した。
「えらく変わった戦艦だな」
 見れば艦橋がピラミッドの形をしている。見たこともない艦であった。
「ノヴァイス=ノアだな」
 タダナオがそれに答えた。
「ノヴァイス=ノア」
「ああ。連邦軍でも特別な艦でな。詳しいことは俺も知らない。任務とかも一切秘密なんだ」
「そうなのか」
「ああ。ただあの艦がここにいるなんて珍しいな」
「それを言ってた俺達がここにいるのも珍しいぜ」
 マサキがタダナオに対して言った。
「グランガランとゴラオンのことは知っている奴も多いからここには無事置かせてもらったけれどな」
「ああ、そうだったな」
 タダナオはマサキの言葉に頷いた。
「それにしてもよく置かせてもらったよ、こんなもの」
「全くだ」
 上を見上げる。そこには二隻の戦艦が浮かんでいた。
「まさかシュウがここに俺達を送るとは思わなかったな」
「一体何のつもりなんだろな」
「わからねえな」
 マサキはその問いに対して首を横に振った。
「あいつのやることはどうもよくわからねえ。企んでいるのは事実だろうがな」
「企んでいる」
「そうさ、あいつはそういう奴だ」
 顔を顰めながらそう言う。
「物腰は穏やかだが腹の中では何考えているかわかりゃあしねえ。だからあいつには注意しろよ」
「そうなのか」
 そう言われてもタダナオはピンとこなかった。シュウには悪い印象はないからである。
「まあここに来ちまったもんは仕方ねえな。俺も横須賀は行ってみたいと思ってたんだ」
「そうなのか」
「ああ。だから後で遊びに行かねえか。たまには洒落た街も悪かねえ」
「そうだな。じゃあ案内しようか」
「頼めるか?」
「ああ」
 タダナオは頷いた。横須賀はかってアメリカ軍の基地もありその街並みは異国情緒溢れるものであるのだ。かっての敵国の文化が色濃いというのも歴史の皮肉であろうか。
「店は大体知っているしな。ここは俺に任せてくれ」
「じゃあ頼むぜ」
「ちょっと待った」
 だがそれをオザワが止めた。
「何かあるのか?」
「あれを見ろ」
 オザワはそう言って前に広がる海を指差した。見れば空に一隻の巨大な戦艦があった。
「何だ、また変わった形の戦艦だな」
 トッドがそれを見て言った。
「大空魔竜だ」
 オザワがその艦の名を呼んだ。
「地球を防衛する為に建造された。だがあれは連邦軍の管轄下にはなかった筈だ」
「三輪長官は入れたがっているけれどな。上手くはいっていねえな」
「当たり前だ。あんなのにあの艦を渡したら大変なことになる」
 オザワはタダナオの言葉にそう返した。
「大体何であんなのに環太平洋区なんて重要な場所を任せているんだ?」
「岡長官が更迭されたからだろ」
「それもわからない」
 オザワはそれについても言った。
「あの人で問題はなかった筈だが」
「俺達にとって問題がなくても上の方は違うのだろうな」
「政治的配慮ってやつか」
「わかってるな」
「まあな。だがそれで迷惑する人間も多い。いや、上の方もあんなのはもてあますだろ」
「何かとんでもないおっさんみてえだな」
 マサキがそれを聞いて言った。
「軍国主義者ってやつか?」
「そんなアナクロなのがまだいるのかよ」
 トッドはそれを聞いて呆れたような声を出した。
「軍国主義者か。その通りだ」
 ここで鉄也が出て来た。
「あれ、あんたが何でここに?」
「久し振りだな、マサキ、ショウ」
 鉄也は彼等に声をかけてきた。
「俺達は大空魔竜に乗っていたんだ。それでここに来たのさ」
「そうだったのか」
「じゃあ甲児達も一緒だな」
「わかってるじゃねえか、マサキ」
 甲児が待っていたかのように姿を現わした。
「俺もさやかさんもいるぜ。あと新しい仲間も」
「宜しく」
 大介が彼等の前に出て来た。
「僕は宇門大介。グレンダイザーのパイロットだ」
「ああ、あんたがグレンダイザーのパイロットだったのか」
 タダナオはそれを聞いて言った。
「もっといかつい人かと思っていたけれど。まさかこんな涼しげな外見だとは思わなかったな」
「意外だったかな」
 大介はそれを聞いて微笑んで応えた。
「僕なんかで」
「いや」
 だがタダナオはそれを否定した。
「人は外見じゃわからないからな。顔は怖くても心は優しいことも多い」
「それで御前はミンメイを好きなのだな」
「悪いか?」
 オザワにそう言われて顔をムッとさせた。
「ミンメイさんは永遠のスターだぞ」
「それはミレーヌちゃんの為になる言葉だな」
「やるか?」
「やらないでか」
「まあ二人共待て」
 ショウが彼等の間に入って抑えた。
「折角懐かしい顔触れと再会できたのに。喧嘩することもないだろう」
「むっ、そうだな」
「じゃあこの話は後でだ。オザワ、いいな」
「ああ」
 二人はとりあえず矛を収めた。その間の大空魔竜の他のメンバーもやって来ていた。懐かしい顔触れもあればはじめて見る顔触れもあった。ショウもマサキもそれを見て目を細めていた。
「再会ってのはいいものらしいな」
 タダナオはそれを見てオザワに声をかけた。
「そうだな」
 オザワはそれに同意して頷いた。
「僕達のそれとは大違いだ」
「まあそれは置いておこうぜ」
 彼はここでは矛を手にとらなかった。オザワもであった。
「そうだな。ここは黙って彼等を見ているとしよう」
「ああ」
「へえ、あれがグランガランか」
「実際に見ると大きいわね」
 そこで子供の声がした。
「ん?」
 見れば勝平達がオーラシップを見上げていた。タダナオ達は彼等に声をかけてきた。
「何だ、あの船が気になるか?」
「ああ、ちょっとな」
 勝平はタダナオにそう応えた。
「そうか。まあ乗ってみると実際に本当に大きいってわかるからな」
「あの艦のクルーなんですか?」
 恵子が彼に問うてきた。
「あ、ああ」
 タダナオもオザワもそれに頷いた。
「魔装機に乗っているからな。ラ=ギアスから来たんだ」
「ラ=ギアス?」
「一言で言うと地下の世界かな
「地下の世界ねえ」
 宇宙太がそれを聞いて考え込んだ。
「何か俺達の知らないことが色々ありそうだな」
「な、僕の言ったとおりだっただろ」
 万丈が三人に対して言った。
「あのオルファンも凄かっただろ。あれもまだまだよくわかってはいないんだ」
「万丈さん」
「万丈?」
 タダナオとオザワはそれを聞いてすぐに反応した。
「もしかしてあんたはの破嵐財閥の」
「ああ、そうさ」
 万丈は二人の問いに答えた。
「わけあってね。今はこの大空魔竜隊に一緒にいるんだ。皆と一緒でね」
「ふうん、じゃあダイターン3も一緒か」
「ああ。呼べばすぐに来るよ。呼ぼうかい?」
「いや、今はいい」
 二人はそう言ってそれを断った。
「あんな大きいものがここに出たらまたややこしくなるから」
「そうか、じゃあ止めておくよ」
「ああ。ところでだ」
「何だい?」
「どうも地上でも何かと物騒になってるみたいだな。大空魔竜を見ていると」
「その通りさ。色々出て来てね」
 万丈はそれを認めた。
「だから今地球も大変なんだよ」
「そうか。じゃあ俺達がここに送り出された理由はそれかな」
「送り出された?」
「ああ。シュウ=シラカワって人にね。知ってるかな」
「よく知ってるよ。そうか、彼がか」
 万丈はそれを聞いて考える目をした。
「どうやらまた動き出したみたいだな」
「?まだ何かあるのか」
「それはおいおいわかることさ。ん!?」
 ここで万丈の携帯が鳴った。彼はすぐにそれに出た。
「ビューティか。どうしたんだい」
 彼は電話でのやりとりをはじめた。そしてそれが終わるとタダナオ達だけでなく他の者にも声をかけてきた。
「皆、ここにロンド=ベルが来るらしい」
「ロンド=ベルもか」
 タダナオはそれを聞いて呟いた。
「また凄いのが来るな」
「やっぱり知っているのかい」
「知らない筈がないだろう」
 タダナオは万丈にそう言い返した。
「連邦軍でも精鋭を揃えているからな。アムロ=レイ少佐にクワトロ=バジーナ大尉を筆頭にして」
 彼はまだアムロが中佐になったことを知らない。
「一条輝少尉やロイ=フォッカー少佐。艦長にブライト=ノア大佐。これだけの顔触れはそうはいないだろう」
「確かにね。最近じゃナデシコやダイモスも参加しているよ」
「ダイモス?火星開発のあれか」
「そうさ。火星がバーム星人という異星人に制圧されてね。ロンド=ベルに参加することになったんだ」
 オザワにそう答えた。
「それにしてもナデシコもか。凄い大人数になってるな」
「そうだね。その彼等もこっちに来る」
「さらに凄いことになるな」
「そうさ。楽しみにしていてね。それじゃあ」
 万丈はそう言うとその場を後にした。そして大空魔竜に戻った。後にはタダナオとオザワだけが残った。勝平達も万丈と共に向かった。
「何か大所帯になってきたな」
「そうだな」
 オザワはタダナオの言葉に頷いた。
「戦艦が六隻も集まるのか。派手なことになりそうだ」
「それだけならいいがな」
「?そりゃどういう意味だ」
 タダナオはその言葉に反応した。
「何かあるっていうのか」
「いや、そうじゃないが」
 オザワは言葉を濁した。
「何かな。何かあるような気がするんだ。僕の気のせいかも知れないが」
「いや」
 だがタダナオはそれに首を横に振った。
「御前が言うのなら何か起こるのだろうな」
 彼は友の勘の鋭さを知っていた。だからこう言ったのだ。
「あるとしたら海だ」
「海か」
「ああ。ここを攻めるとしたら海からしかないからな」
「そうだな」
 オザワはその言葉に頷いた。横須賀は後ろは山だ。攻めるには海からが最もよいのである。
「だがここに来るかな」
「来る奴は来る」
 タダナオはそれにそう答えた。
「だから用心も必要だな」
「そうだな。問題は何が来るかだが」
 彼等はそんな話をしながらショウや万丈達の中に入った。そして多くの者と知り合いになったのであった。

 翌日ロンド=ベルも横須賀にやって来た。既に難民達は安全な場所に降ろしている。少し遅れてアイリス達もやって来た。
「あの赤いのはどうなったんだい?」
「逃げられたよ」
 アイリスはジュドーの問いに首を横に振ってそう答えた。
「けれど地球にいる。また会うことになるだろうね」
「そうか」
 ジュドーはそれを聞いて応えた。
「あんたも何かと大変だな」
「別にいいさ」
 アイリスはそう答えた。
「あたしは別にそうは思っていないからね」
「そうか。あんたってそんな顔して強いんだ」
「強いかい?」
「ああ、俺はそう思うぜ」
 ジュドーはそう言った。
「パイロット向きなんじゃないか?その芯の強さは」
「まあアルテリオンに乗るのは嫌いじゃないからね」
「そうかい」
「ああ。それにツグミもいるし。ツグミと一緒ならあたしは何処へでも行けるから」
「私もよ」
 それを受けてツグミも言った。
「私もアイリスとならね。何処へでも行くわ」
「ツグミ」
 彼女はそれを聞いてその赤い目を優しくさせた。
「悪いね、いつも」
「それは私の台詞よ」
 ツグミも笑ってそれに返す。
「アイリスがいないとこのアルテリオンも動かないから」
「そんな。あたしは動かしてるだけだよ」
「いいえ、この子はアイリスを選んだから。だからこの子は飛べるのよ」
「あたしが」
「そうよ」
 ツグミは言った。
「アイリス、だから無理はしないでね。私だけでなくこの子まで何かあったら悲しむから」
「ああ」
 アイリスは頷いた。
「けれど貴女の性格からしたら無茶するでしょ」
「否定はしないよ」
「それは私がフォローするから。安心してね」
「頼んだよ」
「うん」
 そうしたやりとりをしながらロンド=ベルの三隻の戦艦とアルテリオンも横須賀に入った。そして大空魔竜隊やオーラシップと合流したのであった。六隻の戦艦が横須賀に揃った。
「こうして見ると壮観だな」
 ラー=カイラムの艦橋でアムロはそう呟いた。
「これだけの戦力が一度に集まるとは思わなかった」
「それは私も同じだよ」
 ブライトは友にそう言った。
「三隻だけかと思っていたからな」
「ああ。しかもその中にははじめて見る艦もあるな」
「艦だけじゃない。マシンもだ」
 ブライトはそう述べた。
「何でもガイキングやザンボットとかいうものまであるらしいぞ」
「それに魔装機もだな」
「ああ。それもサイバスターやガッテスだけじゃない。他のものまである」
「そこまであるからな。これから何かと大変だぞ」
「大変?ああ、成程な」
 アムロはそれを聞いて頷いた。
「あの人に対してどうするか、だな」
「そうだ。それでこれから色々と話をしたいと思っているのだが」
「俺と御前だけでか?」
「まさか」
 ブライトは微笑んでそれを否定した。
「私と御前だけだったらもうここで話は済んでいるだろう」
「確かにな」
「葛城三佐とフォッカー少佐、そして各艦の艦長達を呼んでくれ。そしてクワトロ大尉とバニング大尉も」
「了解」
 トーレスはそれに頷いて通信を入れる。こうしてラー=カイラムの会議室に主立った者達が集まった。来たのはブライトとアムロ、ミサト、フォッカー、シナプス、ユリカ、シーラ、エレ、クワトロ、バニング、そして大文字であった。彼等はそれぞれ
の席に着いた。
「それでははじめようか」
「はい」
 皆大文字の言葉に頷く。そして会議がはじまった。
「まずはこれからのことですが」
 ブライトが口を開く。
「今地球圏は大変な混乱の中にあります。それは地球を脅かす様々な勢力のせいです」
「その通りだ」
 大文字はブライトの言葉に頷いた。
「宇宙にいるティターンズやアクシズだけではない。地球にも様々な勢力が活動している」
「どのような者達でしょうか」
 シーラがそれに尋ねた。
「恐竜帝国やミケーネ王国といった地下にいた勢力です。今彼等が地表に出ようと活動を開始したのです」
「そしてそれに謎の敵。あの土偶ですね」
「はい」
 大文字はミサトに答えた。
「彼等は何でもガイゾックというらしいですが。文明を破壊する存在らしいです」
「文明を」
「はい」
「というと先の戦いの宇宙怪獣のようなものでしょうか」
「存在としてはそれに近いかと思います」
 シナプスにそう答えた。
「ただ彼等の行動はより直接的です」
「直接的とは」
 バニングが尋ねた。
「街や一般市民を狙うということです。彼等はチバでの戦いにおいて一般市民を狙おうとしました」
「何て奴等だ」
 フォッカーがそれを聞いて吐き捨てるようにして呟いた。
「ロクでもない連中らしいな」
「それが彼等にとって当然の行動だとしてもな。許すわけにはいかない」
 クワトロは冷静にそう答えた。
「あと宇宙にはバーム星人達がいます。そしてバルマーも尖兵を送って来ました」
「バルマーもか」
「はい」
 ブライトは大文字に言った後で頷いた。
「やはり彼等はまだ地球を諦めてはいなかったようです。これから本隊が来ると思います」
「何ということだ、バルマーまでか」
「厄介なことが続きますね」
 そう言うエレの顔はやや沈んだものであった。
「それだけではありません」
 ミサトがここで言った。
「我々はもう一つ厄介な敵を抱えることになるでしょうから」
「厄介な敵?」
「はい」
 真剣な時の顔であった。ミサトは鋭い声で言った。
「渚カヲルが生きています。彼もおそらく行動を移すでしょう。そして我々の前に立ちはだかります」
「まさか彼が生きているとはな」
 アムロがそれを聞いて顔を顰めさせた。
「あの時確実に死んだ筈なのに」
「それが何故かは私にもわかりませんが」
 ミサトは言葉を続ける。
「もしかすると我々が今調べているゼオライマーとも関係があるかも知れません?」
「ゼオライマー?」
 皆それを聞いて顔を上げた。大文字の声だけが他の者と違っていた。
「聞いたことがありますな。確か鉄甲龍という組織にいた木原マサキという科学者が開発したという」
「御存知でしたか」
「名前だけは。実は個人としても彼と会ったことがありますので」
「どのような人物でした?」
「そうですな」
 大文字はそれを受けて語りはじめた。
「天才なのは事実ですがその人間性は。とても褒められたものではありませんでした」
「そうですか」
 皆それを聞いてそのマサキという人物がどのような者であるか理解した。人格者として知られる大文字がそう言うからには相当問題のある人物であるからだ。
「ただ彼は十五年前に行方を断った筈ですが」
「はい」
 ミサトはそれに頷いた。
「ですが今急に彼の存在が情報にかかるようになったのです。ゼーレの残された情報を通じて」
「ゼーレの」
「ええ。どうやらその鉄甲龍はゼーレの裏組織であったようですから」
 ミサトはそう答えた。
「彼等の計画が失敗した場合に行動に移るのが目的のようです。その目的は世界の破壊です」
「また物騒な連中だな」
 フォッカーがそれを聞いて言った。
「それじゃあ恐竜帝国とかは変わりがない。とんでもない連中だな」
「私もそう思います。おそらく彼等は考えようによってはあのBF団よりも危険な組織であると思います」
「BF団よりもか」
「その目的が目的だけに放置しておいては危険であると思います」
「確かにな。葛城三佐の言う通りだ」
 シナプスがそれに同意した。
「我々はどうやらその鉄甲龍とやらも相手にしなくてはいけないようだな」
「我々も、ですか?」
 ユリカが彼に問うた。
「そうだ」
 シナプスは彼女にそう答えた。
「どのみち今我々はこれといって予定もないしな。大空魔竜隊に協力させてもらいたい。どのみち今この日本は危険な状態にある。放置してはおけん」
「確かに」 
 それにブライトも頷いた。
「だがまずはこれからの方針をおおまかに決めたいと思う」
 大文字が提案した。
「これから我々は集まって一つの部隊として行動するべきだと思うのだが。それについてはどう思うか」
「賛成」
 まずユリカが手をあげた。
「それでいいと思いますう」
「他には」
「私も異論はありません」
 エレが答えた。
「戦力は一つに集まっている方がいいですから」
「そうですね」
 それにシーラが賛成した。
「これから多くの敵と戦うことになるのを思うとそれがいいと思います」
「ふむ」
 大文字はそれを見てからシナプスとブライトに顔を向けた。
「御二人はどう思われますかな」
「我々ですか」
「はい」
「そうですな」
 まずはシナプスが答えた。
「私はそれでいいと思います。敵がこれだけ多いとなると」
「私も同じです」
 ブライトもそう言った。
「ただ一つ問題があります」
「あの人だな」
「ああ」
 アムロに答えた。
「あの人をどうするかだ」
「厄介ですね」
 ミサトがそれを聞いて難しい顔をした。
「あの人を説得するのは至難の技ですよ」
「だがやらなきゃどうしようもないな」
「それはわかっています」
 フォッカーにそう答えた。
「しかし」
「それなら心配はない」
 クワトロが彼女にそう声をかけてきた。
「彼については私のほうで話をしておく。そうしたコネもあるのでな」
「コネですか」
「あまりいい表現ではないがな。だがこう言った方がわかりやすいだろう」
「そうですね」
「それでいいか。三輪長官には私から話をしておくということで」
「お願いできますか」
「何、こうしたことには慣れているのでね」
 クワトロはあえて素っ気無く答えた。
「だから御気になさらずに。それよりもこれからどの敵と戦うのかを考えましょう」
「そうですな、まずは」
 彼等はこれからのことについて話をはじめた。何はともあれ六隻の戦艦とその部隊は一つになった。そしてロンド=ベルに編入されることとなったのであった。

「こうしてまた一つになったわけだな」
 コウが廊下を歩きながらキースにそう話をしていた。
「俺達にとっちゃ元からいた部隊だからそんなに違和感がないけれどな」
「強いて言うなら新しい顔触れが増えたってことか。あと昔の仲間と再会したと」
「そうだな。またショウや甲児達と一緒になるとは思わなかったぜ」
「俺もだ。しかしこれでロンド=ベルはさらに強くなったな。それは有り難いよ」
「ああ。今まで敵の数には正直困っていたし。御前もそれは同じだろ」
「まあな」
 コウはそれに頷いた。
「ネオ=ジオンにはあいつがまだいるしな」
 そう言って暗い顔をした。
「あいつか」
「そうだ。まだ決着はついちゃいない。俺はあいつを倒さなくちゃいけないんだ」
「ソロモンの借りか?」
「違う」
 それには首を横に振った。
「パイロットとして男として・・・・・・。あいつを倒したいんだ」
「そうだったのか」
 キースはそれを聞いて目の色を少し複雑なものにさせた。眼鏡の奥の目の色が変わった。
「御前も変わったな」
「そうか?」
「ああ。俺も変わらなくちゃな。じゃあ行くか」
「ああ」
 こうして二人は廊下を去った。それと入れ替わりに一矢とエリカがやって来た。
「エリカ、ロンド=ベルの話は聞いているかい?」
「ええ」
 エリカは一矢の言葉に頷いた。
「一つにまとまって行動することになったんだ。マジンガーやゲッターと一緒になるんだ」
「マジンガー?」
 だがエリカはそれを聞いて首を傾げた。
「それは何?」
「御免、記憶が戻っていなかったね」
 一矢はそれを聞いてエリカに謝罪した。
「マジンガーっていうのは地球のロボットなんだよ。ドクターヘルっていう悪い奴と戦った」
「そうだったの」
「他にも一杯いるけれどな。まあ皆かなり強いから」
「一矢よりも?」
「それは」
 ここで一矢は一瞬戸惑ったが言った。
「俺程じゃないけれどな」
「そうね。私にとっては一矢は一番強い人よ」
「それはどうしてだい?」
「心が。一矢は誰よりも優しいから」
「優しいのが強いのかい」
「そうよ」
 エリカは答えた。
「強いから本当に優しくなれるの。私はそう思うわ」
「エリカ・・・・・・」
 それを聞いた一矢の目が温かいものとなった。
「そこまで俺を・・・・・・」
「一矢・・・・・・」
 エリカも温かい目になった。二人はみつめ合う。だがその時であった。
 サイレンが鳴った。二人はそれにハッとした。
「敵襲!?」
「一矢、そこにいたか!」 
 京四郎とナナが駆けて来た。
「バームの連中が来た。すぐに出るぞ!」
「バーム星人が!」
「そうだ。どうやら敵さん地球に基地を置いたらしい。海からきやがった」
「地球にか」
 一矢はそれを聞いて暗い顔をした。
「恐竜帝国やミケーネまでいるってのに。辛いことになったな」
「ああ。だが今ここでそんなことを話している暇はないぞ」
「お兄ちゃん、行こう」
「ああ。エリカ」
 彼はここでエリカに顔を向けた。
「君は安全な場所にいてくれ。いいか」
「はい」
 エリカは頷いた。
「必ず戻って来る。だから心配はしないでくれ」
「わかってるわ、一矢」
 そして言った。
「信じてるから」
「有り難う」
 それを見てナナは思うところがあった。哀しげな顔になったがそれは一瞬のことであった。
「ナナ、行くぞ」
「うん」
 京四郎に応える。そして三人はその場を後にした。そしてダイモスとガルバーで出撃するのであった。
 それぞれのマシンが出撃する。そして戦艦達を中心にバーム軍を前に布陣した。シーブックが彼等を見て言った。
「地球にまでやって来るとは思わなかったな」
「それだけ向こうも必死ということよ」
 セシリーが彼にそう言葉をかけた。
「彼等には彼等の事情があるのだから」
「そうだな」
 シーブックはそれを聞いて頷いた。
「だが俺達はだからといって負けるわけにはいかない」
「ええ」
「セシリー、フォローを頼む」
「任せて、シーブック」
 バーム軍は次々に出撃して来る。その後ろには巨大なエイに似た母艦がいた。そこから高く澄んだ男の声が聞こえてきた。


[274] 題名:第十八話その二 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月20日 (月) 00時54分

「テンカワ少尉だったね」
「は、はい」
 アキトはそれに応えて顔をアムロに向けさせた。
「そうか。君のことは聞いているよ」
「俺のことをですか!?」
「ああ」
 アムロは頷いた。
「君には素質がある。優れたパイロットになる素質がな」
「まさか。俺はコックなんですよ。しかも見習いの」
「そうだったか。だが俺が見たところ君にはパイロットとしての天性の素質があるようだ」
「そんな。からかわないで下さいよ」
「テンカワ少尉、アムロは人をからかったりはしない」
 ブライトがアキトにそう言った。
「えっ、じゃあ」
「そうだ。そしてアムロの目は確かだ」
「うわあ、やっぱりアムロ中佐は凄いですねえ」
 ユリカがそれを聞いて嬉しそうに声をあげた。
「アキトを一目で見抜くなんて。やっぱりアキトの凄さってわかりますう?」
「まあな」
 少しエリカの声に驚かされながらも答える。
「君には強くなれる素質がある。料理の方はどうかわからないがな」
「そうですか」
 料理のことは保障されなくていささか不満であったが表立っては言わなかった。
「頑張るんだ。生き残ってな」
「わかりました」
「アキトは死んだりなんかしませんよ」
「それは何故だい?」
 ユリカに問う。
「だって私の恋人なんですもの。ねえ、アキト」
「えっ、何時俺がユリカの恋人に!?」
「もう、そんなこと言わないの」
 それに対して少しむくれて言い返す。
「本当は私にそう言われて嬉しいくせに。そうでしょ?」
「あ、あのユリカ」
「だから私達の間には隠し事も何もいらないんだから。ほら、ここでアムロ中佐にも言って。ねえ」
「そ、そんなこと出来る筈が」
「私はやったわよ。アキトはしないの!?」
「だ、だからねユリカ」
「二人共立て込んでいる最中申し訳ないが」
 ブライトが入って来た。
「はい、何でしょうか」
「そろそろ大気圏突入の準備に入るが。用意はできているか」
「あ、じゃあすぐにナデシコに戻ります」
「頼むぞ。同時に戦闘用意だ」
「わかりましたあ」
 ユリカは敬礼してブライトに応えた。
「じゃあアキト、戻りましょ」
「うん」
「続きはナデシコでね」
「えっ、続きって」
「いいからいいから」
 二人はそう話をしながら艦橋から姿を消した。後にはブライトとアムロ達だけとなった。
「何か凄いな」
 アムロは消えたユリカの後ろ姿を見てそう苦笑した。
「まるで台風だな。あれがミスマル司令のお嬢さんか」
「ああ。どうだ感触は」
 ブライトはアムロに対して問うた。
「彼女は。いいと思うか」
「あんな性格なのでわかりぬくいがな」
 そう前置きしたうえで言う。
「彼女もかなりの素質があるな。天才的なものがあると思う」
「そうか。それでは彼女も信頼していいな」
「最初から信頼しているんじゃなかったのか」
「いや、信頼はしていたさ。私にもそれはわかる」
「じゃあ何で俺にまで聞いたんだ」
「御前にも確かめてもらいたくてな。どうやら間違いはないようだ」
「そうか」
 それを聞いて頷いた。
「では彼女もナデシコもこれから一緒にやっていけるな」
「ああ。これから長く辛い戦いになるかも知れないが」
 ブライトは言葉を続けた。
「彼女達にも頑張ってもらいたいな」
「そうだな」
 二人は頷き合った。そしてそのまま大気圏に向かった。大気圏に入るとトーレスが放送を流した。
「三十分後大気圏に突入する」
「いよいよだな」
 皆それを聞いて格納庫に向かう。
「総員戦闘配置、敵襲に備えよ」
「ねえ、何で敵に備えるの?」
 エリカが一矢に尋ねた。彼もダイモスに向かっているところであった。
「こうした時に敵が来るのが多いかららしいな」
 彼はエリカにそう答えた。
「そう、敵が」
「ああ。大気圏突入の時は戦艦は動けないからな。そういう時を狙うんだ」
「そうだったの」
「だから俺達はそれに備えなくちゃいけないんだ。敵が来るならそれの相手をしなくちゃいけない」
「一矢、気をつけてね」
「大丈夫だよ、エリカ」
 そう言葉を返した。
「俺は何があっても君の前にいる、だから心配しないでくれ。いいな」
「わかったわ」
 エリカはそれを受けて頷いた。
「じゃあ行ってらっしゃい」
「ああ、行って来る」
 一時の別れの言葉の後一矢はダイモスへ向かった。ツグミはそれを離れた場所から見ていた。
「・・・・・・・・・」
 黙って見ている。だがその目は何処か寂しげであった。
「どうしたんだい、ツグミ」
 アイリスがそんな彼女に声をかけた。
「あ、アイリス」
「あの二人を見て思い出したのかい?」
「いえ」
 首を横に振って否定する。だが否定しきれなかった。
「わかってるよ」
 アイリスはそんな彼女を慰めるようにして言った。
「きっとまた会えるさ。生きている限りはな」
「そうね」
 ツグミは半ば自分に言い聞かせるようにしてアイリスに答えた。
「だから今のことだけを考えていればいいわね」
「ああ、そう思うよ」
 アイリスはツグミにそう言葉を送った。
「あたしも今はね。思うところがあるけれど」
「わかってるわ。貴女も彼女のことが」
「ああ。けれどそれは自分でケリをつけるしかない」
 強い声で言った。
「あいつとはね。また来るだろうし」
「そうね。彼女のことだから絶対ね。その時は私も一緒だから安心して」
「済まない」
「いいのよ」
 微笑んでアイリスに対して言う。
「アルテリオンは二人のものだから。そうでしょ」
「二人・・・・・・。あたしとツグミのだね」
「ええ」
 ツグミは頷いた。
「銀河へ行くのも二人よ。いいわね」
「ああ、勿論さ」
 アイリスも微笑んだ。そして言葉を返した。
「じゃあ行こうか。二人でね」
「うん」
 二人も格納庫へ向かった。そしてアルテリオンに入り時が来るのを待った。ナデシコではメグミ=レイナードがオペレーターを務めていた。紫の髪の女性である。
「大気圏突入まであと二十五分」
「出やがるか」
 リョーコがそれを聞いて呟いた。
「出るなら何時でも来い」
「気合が入ってるな」
「俺は何時でもこうだぜ。そういうあんたはどうなんだよ」
 そして京四郎に言葉を返した。
「俺はいつも通りやらせてもらうさ。どうも熱くなったりするのは苦手でね」
「そうかい」
「だからここはクールにやらせてもらう。それでいいな」
「ああ。別に他人のやり方にまで口を出すつもりはねえしな。そっちはそっちでやりな」
「了解。じゃあ行くかナナ」
「ワン」
 京四郎はナナを連れてガルバーに乗り込んだ。他の機も既に出撃準備を整えていた。そこでまた放送が入った。
「来たか!?」
 だがそれは違った。
「大気圏突入まであと二十三分」
「このまま何事もなく地球へ帰還といきたいねえ」
「ライトの実家の側に降りたりしてな」
「ケーンの家の真上だったりして」
「おい、そんなことになったら俺は家がなくなっちまうだろうが」
「ケーンさん達って地球出身だったんだあ」
 プルがそれを聞いて言った。
「あれ、言わなかったっけ」
「ううん」
「そういえば聞いたような記憶もあるが」
 プルツーが言った。
「あまり覚えてない。済まない」
「ちぇっ、何か俺って影が薄くないか?」
「これからもっと影が薄くなったりして」
「そのかわりにライバルが」
「縁起でもねえ。主役がそう簡単に影が薄くなってたまるかよ。なあアラド」
「えっ、俺!?」
「ついでにゼオラも」
「あたしはついで!?」
 それを聞いてアラドはキョトンとしてゼオラは怒った。
「まあ気を悪くしたら済まねえ。けれどわかるだろ」
「ええ、まあ」
「ケーンさんなら大丈夫だと思うけれど。それだけいつもペチャクチャ喋っていたら」
「そう思うだろ。何で俺が目立たないとかいう話になるんだか」
「それはこれからの展開次第だな」
「まあ俺は元々目立ってるからいいけれど」
「タップには言われたかねえよ」
「あれっ、俺は未来の偉大なミュージシャンだぜ。そんなこと言っていいの?」
「やれやれ」
 相手にするのに疲れたか言葉を止めた。そしてコクピットの中で背を伸ばした。
「じゃあこのまま一休みっと」
「ムッ!?」
 だがカミーユがここで何かを感じ取った。
「この気配は」
「まさか一休みできないとか!?」
「どうやらそうみたいだ」
 カミーユはケーンにそう言葉を返した。
「奴が来る・・・・・・!」
「奴って!?」
「ええ、彼ね」
 フォウもそれを感じていた。ここでトーレスの放送が入った。
「西に敵接近。機種はモビルスーツ」
「やはり!」
「何かカミーユさん凄いな」
「当たり前だろ、ニュータイプなんだから」
 今度はケーンがタップに突っ込みを入れていた。
「数約二百。識別信号はティターンズと判明」
「ティターンズかよ」
「あのリーゼントのどちらかかな。こう言うとわかりにくいか」
「ジェリドだ」
 ビーチャとモンドにカミーユが答えた。
「出るぞ、皆!」
 そしてまずはゼータUが出撃に入った。ここでまたトーレスの放送が入った。
「総員戦闘配置、総員戦闘配置」
「丁度いいタイミングだな。我々も出るぞ」
「了解」
「また不死身の第四小隊の出番だな」
「モンシア、死ぬなよ」
「うるせえ!」
 そんなやりとりをしながらバニング達も出撃した。そして三隻の戦艦を守るように総員陣を組みながら出て来た。
 彼等が姿を現わすとティターンズの部隊も姿を現わした。見ればバーザムやマラサイを主軸とした部隊である。それ程手強い部隊には見えなかった。
「あまり数も多くないしこれは大丈夫だな」
 コウがそれを見て言った。だがバニングが彼に対して言った。
「ウラキ、油断するな。それでも数は敵の方が多いのだからな」
「はい」
 コウはバニングにガンダムの顔を向けて答えた。
「そうですね。では用心します」
「うむ、それがいい。油断が一番の敵だ」
「そうそう、油断していたら危ないからね」
「ケーンが言っても説得力ないわよ」
「全くだよ。ダバが言うのならともかくね」
 アムとレッシィがケーンに突っ込みを入れながら前に出る。
「それでは皆いいか」
 ロンド=ベルの先頭に白いモビルスーツが出て来た。アムロの乗るニューガンダムである。その横にはサザビー、そしてリ=ガズィとヤクトドーガがいた。
「時間は二十分、その間に敵を退ける。いいな」
「了解」
 皆アムロの問いに答えて頷いた。
「それじゃあ行きますか」
「よし」
 ティターンズも動きはじめた。そして互いに戦闘に入った。まずはアムロが動いた。
「そこっ!」
 間合いに入ったとみるや背中にある翼のようなものが動いた。それは空中で変形しファンネルとなった。
「フィンファンネル!」
 それが敵の先頭にいるバーザムの小隊に向かった。そして小隊ごと取り囲むと一気に攻撃を仕掛け全て撃墜してしまった。後には爆発だけが残っていた。
「まだだっ!」
 しかしアムロの攻撃はそれで終わりはしなかった。彼はさらに動くと前に来ていた敵機にビームライフルを向ける。そして攻撃を放った。
 それで敵を撃墜する。そしてまた一機撃墜したのであった。
「すげえなあ、やっぱり」
 それを見たキースが思わず感嘆の言葉を漏らした。
「白い流星って言われるだけのことはあるよ。何時見てもすげえや」
「そうね」
 クリスがそれに同意した。
「けれどアムロ中佐だけじゃないわよ。ほら」
「あっ」
 見ればクワトロも動いていた。彼のサザビーもまたファンネルを放ってきたのだ。
「ファンネル、オールレンジ攻撃!」 
 それで敵をやはり小隊ごとに撃破していく。アムロとクワトロによりティターンズはその動きを止められてしまっていた。クェスとケーラは二人の援護に回っていた。特にクェスのそれは援護と呼べない程攻撃的であった。
「行けっ、ファンネル達」
 ヤクトドーガの六つのファンネルが一斉に飛び立つ。そしてそれが敵を撃墜した。こうしてティターンズはまた一機失ったのであった。
 戦いはアムロとクワトロ達によりロンド=ベルのものとなろうとしていた。だがカミーユはその間気を緩めることなくあの男を探していた。
「来る・・・・・・絶対に」
 辺りを探る。そこに紫の大型のモビルスーツがやって来た。
「メッサーラ!」
 その紫のモビルスーツメッサーラはビームサーベルを出してきた。それでゼータUに斬りつけてきた。だがカミーユはそれをビームサーベルで受け止めた。
「この動き・・・・・・ジェリドか!」
「そうだ、久し振りだなカミーユ!」
 メッサーラのコクピットに金髪のリーゼントの若い男がいた。ティターンズのエースパイロットの一人ジェリド=メサである。
「やっと会えたな!今までの借りを返させてもらうぞ!」
「勝手なことを!」
 カミーユはそれを聞いて激昂した。
「御前にやられるわけにはいかないんだ!」
「それはこっちだってそうなんだよ!」
 ジェリドは言い返した。
「御前には色々とやられてきたからな。今日こそは死んでもらうぞ!」
「そのメッサーラでか!」
「そうだ、シロッコから借りたこのモビルスーツでな。観念しろ!」
 ビームサーベルを振り被る。それでまた斬りつける。だがカミーユはそれをまた受け止めた。
「クッ!」
「流石にやるな。だが!」
 また振り被る。だがそこでカミーユは動いた。
「今だっ!」
 メッサーラの腹を蹴った。それで間合いを強引に離してきた。
「やったか!」
 だがジェリドはまだ攻撃を仕掛けようとする。しかしその前にカミーユはライフルを構えていた。
「これでどうだっ!」
「チィッ!」
 ジェリドはビームを何とかかわした。だがそれにより間合いを離してしまっていた。
 その間にエマのスーパーガンダムとフォウのマークVが来た。そしてゼータUの周りを固めてしまっていた。
「クッ、運のいい奴だ」
「ジェリド、気をつけろ」
 だがそのジェリドの周りにも黒い大型のモビルスーツバウンドドッグと蝉に似たモビルスーツガブスレイがやって来ていた。
「カクリコン、マウアー」
 ジェリドはバウンドドッグとガブスレイを見て声を漏らした。
「ゼータUは手強い。幾らメッサーラといっても突出は危険だ」
 額の広い男がそう言った。彼がカクリコンである。
「ジェリド、ここはあたし達にも協力させて」
 青緑の低めの声の女も言った。彼女がマウアーである。
「全体の指揮はライラ大尉がとっている。御前はゼータの相手に専念しろ」
「横にいる連中はあたし達に任せてね」
「いいのか?」
 ジェリドはそれを聞いて二人に問うた。
「ああ、その為にここに来たのだからな」
「横のことは気にしないで」
「わかった」
 それを聞いて頷いた。
「じゃあ二人は他の奴を頼む。あいつだけは俺にやらせてくれ」
「了解」
 二人はそれを受けて頷いた。そして前に出た。
「行くぞ」
「おう」
 三機のモビルスーツが動く。カミーユはそれを見てエマとフォウ、そして後ろにいるファに対して言った。
「他の奴は頼む」
「わかったわ」
 フォウとファが頷いた。
「貴方はメッサーラに専念しなさい」
「すいません」
 エマはそう言った。そして彼女達も動いた。
 こうしてメッサーラとゼータUは再び攻撃に入った。まずは互いにビームを放つ。
「これでどうだっ!」
 ジェリドのメッサーラがまず攻撃を仕掛けてきた。メガ粒子砲を放つ。
 だがそれは呆気なくかわされてしまった。カミーユは逆にビームライフルを放ってきた。
「ヌッ!」
 ジェリドはそれをすんでのところでかわした。両者はそうしている間に間合いを詰めてきていた。
 そして互いに再びサーベルを手にする。それでまた斬り合いをはじめたのであった。
 二人の戦いは激しいものであった。ケーンはそれを見て声をあげた。
「あれがカミーユさんの実力ってやつか。すげえなあ」
「ケーン、何をそんなに感心しているんだ?」
「というか御前さんも戦闘に参加しろよ」
「もうしてるよ」
 タップにそう答えながら敵を一機撃墜した。
「けどな、あの人のあれってまじですごかねえか?」
「嫉妬してるか?」
「まさか」
 元々他人に対して嫉妬するタイプでもなかった。
「ただな、すげえな、って思ってな」
「確かにな。あれがニュータイプか」
「いや、そうじゃなくてライバルとの戦いが。俺もあんなふうに戦えたら格好いいな、って思ってさ」
「そう言ってると出るぜ、おい」
「ギガノスの旦那がな。・・・・・・ムッ!?」
 ここでライトが反応した。
「何かあったのか!?」
「マギに反応だ」
 彼は一言そう言った。
「来るぞ。ギガノスだ」
「何っ、言った側から」
「呼ばれて飛び出て何とかやら」
「おい、そんな時まで緊張感がないのはどういうことなんだ」
 それを聞いてみかねたガイが声をあげた。
「生憎それが俺達なんで」
「ううむ、百機はいるな」
 ライトが呟いた。
「やっぱりそうそう簡単には地球に行かしてくれそうにもないみたい」
「やれやれだ」
「ダバ、じゃあ行きましょう」
「そうだな。あれこれ言っていてもはじまらないからな」
 ドラグナーチームの軽いやり取りの中他の者達も新たな敵に対して備えに入った。ティターンズに対してはモビルスーツ部隊を主に残し他の者達がギガノスの方に向かった。すると青いメタルアーマーを先頭にギガノスのメタルアーマー達が姿を現わした。
「ロンド=ベル、そう簡単には地球へは行かせん」
 マイヨはロンド=ベルを見据えてこう呟いた。
「大尉殿、それではすぐにでも」
「わかっている」
 マイヨはダンの言葉に頷いた。
「よいか、ティターンズは後回しだ。まずはロンド=ベルを叩く」
「ハッ」
 プラクティーズを中心に頷いた。そのままマイヨを先頭に来る。
「言ってる側から来やがったな!」
「おいケーン、あれ見ろ」
「何!?」
 見ればヒイロ達が既に動いていた。ノインも一緒である。彼等はギガノス軍の右手に回ってきた。
「奴等、何をするつもりだ」
 まずはウィングゼロカスタムが攻撃態勢に入る。バスターライフルを構えた。
「この戦い、御前達の命で償ってもらおう」
 ヒイロは呟いた。ウィングゼロカスタムの翼から羽根が舞い飛び攻撃に入る。二条の光がギガノス軍を撃つ。
「よし、今だ!」
「行くぜ!」
 アルトロンとデスサイズが敵に斬り込む。フォローはサンドロックとウィングが務める。
「斬って斬って・・・・・・斬りまくるぜえっ!」
「ナタクを舐めるなあっ!」
 鎌と槍が唸り敵を次々と両断していく。メタルアーマーの腕や首が乱れ飛びその中で四機のガンダムが荒れ狂うのが見える。そこにトロワのヘビーアームズも参加した。彼は後方にいたがそこから攻撃に加わったのだ。
「ガンダムを見た者を生かして返すわけにはいかない」 
 ヘビーアームズに搭載されているミサイルとガトリングガンを使って攻撃に入る。それにより敵を次々と倒していく。横から六機のガンダムに攻撃を受けたギガノス軍の陣に穴が開いた。そしてそこへユリカがエステバリスを突っ込ませた。
「いっちゃって!」
「いいんですか!?」
 それを見てメグミが驚きの声をあげる。だがユリカはそれで言った。
「いいから。今がチャンスなのよ!」
「わかりました。それでは」
 艦長の命令である。頷くしかなかった。
「エステバリス隊、援護を頼みます!」
「よし来たあ!」
 ガイが叫んだ。
「行くぞ野郎共!」
「俺達は女だ!」
「女でも俺って言葉使ってたら意味ないですよお」
「俺・・・・・・。逆にするとレオ。レオはライオン」
「訳わかんねえこと言ってんじゃねえ、行くぞ!」
「結局行くんですね」
「まあこれがエステバリス隊だね」
 ジュンにサブロウタが言った。
「そうだったのか。どうも思っていたのとは違うようだな」
「すぐに慣れると思うよ」
 アキトはナガレにそう声をかけた。
「ロンド=ベルにもね」
「だといいがな」
 ナガレはそれに応えて笑った。クールで端正な笑みであった。
 エステバリス隊が敵に突入した。これでギガノス軍はさらに混乱に陥った。だがその中でもマイヨは冷静に指揮を執っていた。
「案ずるな、一時的な混乱に過ぎない」
「はい」
 それを聞いてまずプラクティーズが冷静さを取り戻した。
「陣を左に移せ。エステバリス隊は御前達が行って止めろ」
「わかりました」
「私はあの連中をやらなければならないからな」
 そう言ってドラグナー達を見据えた。
「各機小隊を組み防戦にあたれ。そして機を見て攻撃に移れ。よいな」
「了解!」
 プラクティーズと各機がそれに頷く。そしてギガノス軍は動いた。
「よいな」
「はっ」
 マイヨは部下達に指示を下すと自らはドラグナー達に向かった。その先頭にはケーンの一型がいた。
「この前の続きをさせてもらおう」
「おいケーン、あれが来たぞ!」
「言われなくてもわかってる!」
 ケーンはタップに対して叫んだ。
「じゃあどうするかはわかるな」
「ここで逃げたらヒーロー失格だよな」
「そういうこと。わかってんじゃないの」
 ライトは戦場に似合わぬ軽い調子でそう言った。
「それじゃあ俺達は別の敵を相手しなくちゃならないから」
「蒼き鷹は任せたぜ」
「あっ、おい待て」
 ケーンはそれを受けてライトとタップに声をかけた。
「何処に行くんだよ」
「何処って敵をやっつけに行くんだよ」
「だからあの旦那は御前に任せたって言ってるじゃないか」
「気軽に言ってくれるな。あの旦那は強いんだぞ」
「強いライバルと戦うのもヒーローの条件だぜ」
「タップの言う通りだ。それじゃあな」
「ちぇっ」
 ケーンは左右に散ったニ型と三型を見て舌打ちした。見れば彼等は確かに敵と正対している。言葉に偽りはなかったようである。
「まあ嘘はついていなからいいか、普段みたいに」
 そこにレールガンが襲ってきた。ケーンはそれをかわした。
「おっと」
「ケーン=ワカバ、暫くぶりだな」
「ああ、生憎な」
 ケーンは態勢を建て直しながらそれに応えた。
「どうやらあんたとは何かと縁があるみたいだな」
「望んでいないにもかかわらず、な」
 マイヨも言葉を返した。
「だが多くを言う必要はない。行くぞ」
「ああ、受けて立つぜ。本当はやりたくはないけれどな」
 そう言い合いながら互いにサーベルを引き抜く。
「行くぞ」
「おうよ」
 そして斬り合った。まずはマイヨが斬り掛かる。
「ムンッ!」
「あぶねえっ!」
 しかしケーンはそれを右にかわした。
「腕を上げたな」
「いつもいつも出撃してったからな。おかげでもうエースだぜ」
「ふ、エースか」
 マイヨはそれを聞いて笑った。
「見事な成長だ。だがそれだけでは私を倒すことはできない」
「倒したところでどうせ脱出しちまうんだろうが」
「言ってくれる。中々面白い少年のようだな」
「成り行きで軍に入っちまったしな。だがそんなこたあ今はどうでもいいんだよ」
 そう言いながらサーベルを振り被る。
「当たると痛えぞおっ!」
 両断せんとする。だがマイヨは後ろに退いてそれをやりすごした。
「当たらなければ意味がない」
「チイッ!」
「そして冷静さも大事だな」
 そう言いながら突きを出す。それはドラグナーの喉をかすめた。
「あぶねえあぶねえ。剣ってのは突いてもいいんだな」
「それを今から知ることになる」
「じゃあそれをあんたに見せてやるぜ」
 二人の戦いは続いた。だがその間にも時間は刻一刻と過ぎていく。トーレスが言った。
「あと三分です」
「わかった」
 ブライトはそれを聞いて頷いた。
「皆に伝えてくれ、いいな」
「了解」 
 それを受けてトーレスが通信を入れた。その頃にはもうティターンズはもギガノスも壊滅状態に陥っていた。
「よし、皆下がれ!」
 アムロが指示を下す。皆それを受けて戦艦の方に戻る。
「ギガノスの旦那、またな!」
「ムッ!」
 ケーンもマイヨとの勝負を終え戦艦に戻る。マイヨはそれを見て冷静に呟いた。
「ふむ、頃合いか」
 そしてプラクティーズに目をやる。見れば彼等も他の者達も相手がいなくなっていた。
「撤退だ。よいか」
「ハッ」
「目的を達成できなかったのが残念ですが」
「よい。諸君等はよく戦った」
 マイヨはそんな彼等に対してねぎらいの言葉をかけた。
「だが今は頃合いだ。去るぞ」
「わかりました」
 それを受けてギガノスは撤退を開始する。ティターンズの方ではライラがそれを見ていた。
「ギガノスは帰ったかい」
 彼女はバウンド=ドックに乗りながらそう呟いた。そして残っている自軍のモビルスーツ達に対して言った。
「こっちも引き揚げるよ。これ以上の戦闘は無意味だ」
「了解」
 殆どの者がそれを受けて撤退を開始する。だがジェリドだけは別であった。
「まだだ、俺はまだいける!」
 そう叫びながらメッサーラをモビルアーマーの形態に変形させた。
「カミーユ、逃さんぞ!」
「お待ち、ジェリド」
 だがライラはそんな彼に対して言った。
「ライラ」
「まだあの坊やを倒す機会は幾らでもあるよ。今は退くんだ」
「しかし」
「メッサーラは大気圏突入はできないね。それでどうするつもりだい?」
「クッ」
 ジェリドはそれを聞いて顔を歪めさせた。
「ここでゼータUと戦っても不利なだけだ。今は大人しく引き下がるんだ。いいね」
「わかったよ」
 だが不利を悟ってそれに頷いた。そして戦場を離脱にかかった。
「カミーユ、覚えていろよ」
 そう言い残してジェリドも戦場を離脱した。後にはロンド=ベルの三隻の戦艦だけが残った。
「全機収納したな」
「はい」
 トーレスがブライトの問いに頷いた。
「それでは降下に入るぞ。いいな」
「わかりました」
「よし、総員衝撃に備えてくれ」
 こうして三隻の戦艦は降下に入った。だがここでまた敵が姿を現わしたのである。
「あれは・・・・・・!」
 見ればそれは赤いアーマードモジュールであった。ベガリオンである。
「アイリス、そこにいたか!」
「スレイ、こんな時に!」
 アイリスはその時アルテリオンをアルビオンに入れたところであった。彼女はそれを見てすぐに動いた。
「こうしちゃいられない!」
「待ってアイリスさん!」
 ゼオラが彼女を止めに入った。
「今行ったら・・・・・・」
「そうですよ、大変なことになりますよ」
 アラドも入って来た。だがそんな二人に対してツグミが言った。
「大丈夫ですよ、二人共」
「えっ、どうして」
 ツグミのにこやかな顔を見てかえって二人が驚いていた。
「あのアルテリオンは元々恒星間航行の為に開発されたものですから。大気圏での戦いも可能なのです」
「けれどそれでも」
「話は最後まで。いいですか」
「は、はい」
 二人はそれを受けて頷いた。
「それで大気圏突入も単独での地球への降下も可能なのです。わかりましたか」
「はい」
「そういうことなら」
「シナプス艦長もそれで宜しいでしょうか」
「ううむ」
 彼はツグミにそう言われ考え込んだ。
「本当に大丈夫なのだな」
「はい」
「任せておいて」
 アイリスにもそう言われ彼はようやく決意を固めた。
「よし、それでは任せる。ベガリオンを止めてくれ」
「了解」
「じゃあアイリス、行きましょう」
 こうしてアルテリオンは出撃した。そしてベガリオンの前に出て来た。
「来たな、アイリス」
 スレイはアルテリオンを見据えて言った。
「ラー=カイラムはどうでもいい。私の目的は御前だけだ」
「わかってるさ」
 アイリスは落ち着いた声でそう返した。
「だからここまで来たんだろう?決着をつけてやるよ」
「望むところ」
 ベガリオンが動いた。
「行くぞ!」
「来い!」
「アイリス!」
 ここでブライトの声が聞こえてきた。
「大佐」
「無理はするな。地球で待っているからな!」
「すいません」
 アイリスはその言葉を受けて礼を言った。
「すぐに向かいますから」
「ああ、必ずだぞ」
 ブライトはそう言葉を返した。
「待っているからな」
「はい」
 三隻の戦艦は突入を開始した。熱がその艦体を覆う。
「行ったか」
「これでとりあえずは安心ね」
 アイリスとツグミはそれを見送って呟いた。
「後はあんただけだね」
 そしてスレイに目をやる。彼女のベガリオンは既に攻撃に入ろうとしていた。
「食らえっ!」
 攻撃を放った。だがそれはアルテリオンにかわされてしまった。
「この程度でっ!」
「アイリス、その調子よ!」
「ふん、二人いれば勝てると思っているのか」
「あ、そうさ」
 アイリスはスレイの言葉に対しおくびもなくそう答えた。
「あたしはツグミと一緒なら何処ででも戦うことができる」
「アイリス・・・・・・」
「そして生き抜くことができる。それはスレイ、あんただって同じ筈だ」
「私が」
「そうさ。あたしはそれを知っている」
「言うな!」
 だがスレイはそれを否定するように叫んだ。
「私は誰の力も否定しない。このベガリオンがある限り」
「そのベガリオンは二人乗りだったとしてもか?本来は」
「ぬうう」
 それを聞いてさらに顔を歪めさせた。
「言うな、これ以上言うのは許さない」
「そうして自分から逃げるの?あの人と」
「言うなと言っている!」
 今度はツグミに対して叫んだ。
「御前達に私達のことがわかってたまるものか!」
「ああ、わからないね」
 アイリスは突き放すようにして言った。
「けれど御前が今憤っていることはわかる」
「クッ」
 スレイの顔がまた歪んだ。
「それでも言うか」
「あんたがわからない限りね」
 アイリスは言う。
「何時までも言うさ。それともあたしが言うのを止めたいのかい?」
「そう言うならば」
 ベガリオンは後ろに動いた。そして攻撃に入った。
「地球に叩き落としてやる!」
「やっぱりまだわからないみたいだね」
「アイリス」
 ツグミはアイリスに声をかけた。アイリスはそれに対して冷静であった。
「わかってるさ、ツグミ」
 アイリスは微笑んでツグミに顔を向けた。
「だから安心してて。いいね」
「うん」
 ツグミはその笑顔を見て安心した。それだけで充分であった。
「わかったわ。貴女に任せる」
「有り難う。じゃあ行くよ」
「うん」
「ブースターオン!」
 アイリスはアルテリオンのスイッチを入れた。そして大気圏に突入する。
「逃げるか!」
「逃げるつもりはないさ!」
 アイリスはスレイに対して言った。
「望みどおりここで相手になってやる。来い!」
「ならば!」
 二機のアーマードモジュールは熱気に囲まれながら戦いに入った。その真下では青い地球が広がっている。その青はまるで彼女達を誘っているように青かった。



第十八話    完



                               2005・4・21


[273] 題名:第十八話その一 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月20日 (月) 00時49分

           白い流星 赤い彗星
 アイリス、そしてゴッドマーズという新たな戦力を手に入れたロンド=ベルは地球へと順調に進んでいた。三隻の戦艦は互いに連携をとりながら航行を続けていた。その先頭をいくラー=カイラムに通信が入ってきた。
「ん、何だ」
「久し振りだな、ブライト大佐」
 出て来たのはヘンケンであった。彼は笑顔でモニターに姿を現わしてきた。
「ヘンケン大佐、暫くです」
 ブライトは言葉を返した。そして互いに敬礼をする。
「どうやら難民の護衛は大丈夫なようだな」
「はい、何とか」
 ブライトはそれに応えた。
「色々とありましたがね。ネオ=ジオンの襲撃も受けました」
「ネオ=ジオンのか」
「ええ。何とか退けましたけれどね。それが何か」
「いや、実は最近彼等が地上への侵攻を計画しているという情報が入っていてな。それで気になったんだ」
「地上にですか」
「ああ。知ってのとおり今地上は混乱している状態にある」
「はい」
「そこに介入するつもりらしい。地上に残っているジオンの残党と協同してな」
「それは厄介ですね」
 ブライトはそれを聞いて顔を顰めさせた。
「ジオンの残党はアフリカにかなりの数がいると聞いています。彼等と手を組むとなると」
「そうだな。只でさえ地上にはギガノスの別働隊もいるし」
「グン=ジェム隊ですね。かなり荒っぽい連中だとか」
「そしてもう一つの勢力も動いている」
「ティターンズですか」
「そうだ。彼等も地上への侵攻を考えているらしい。既に先発隊を向けていると聞いている」
「ティターンズまで。どうやら地上は大変なことになりそうですね」
「それで君達に頼みたいことがあるんだが」
「地上に行って欲しい、ですね」
「そうだ。頼めるか。ネオ=ジオンやティターンズまで入ってくると連邦軍だけでは手に負えない。大空魔竜隊もいることにはいるのだがな」
「わかりました」
 ブライトはそれに対して頷いて答えた。
「難民達のこともあります。それでは地上に向かいます」
「頼めるか」
「はい。彼等を野放しにはできませんからね。これも戦いです」
「そうか、有り難い。それではそちらに補充員を送ろう」
「補充員?」
「そうだ、君が最もよく知る男だよ」
 ヘンケンはニヤリと笑ってそう言った。
「彼を送りたいんだが。いいかな」
「彼?ああ、成程」
 ブライトもそれを聞いて納得した。
「喜んで。彼が来てくれたなら百人力ですよ」
「それで色々と君の負担も減るだろうしな。今そっちにミツマル司令のお嬢さんもいるのだろう」
「はい」
「どうだ?かなり驚いただろう」
「いや、それ程でも」
「あれ、そうなのか」
 ヘンケンはそれを聞いて拍子抜けした声を出した。
「それは少し意外だな」
「今更もう驚いたりはしませんよ。今までもっと凄い人間に会ってきましたから。あいつもかってはどうしようもない奴でしたし」
「君もな。あの頼りない姿が嘘みたいだ」
「昔の話は止めて下さいよ」
「ははは、これは済まない。それではエマ中尉に宜しくな」
「わかりました」 
 こうしてヘンケンはモニターから姿を消した。後には懐かしそうな笑みを浮かべるブライトがいた。
「やっとあいつに会えるな」
「これでロンド=ベルも鬼に金棒ですね」
 トーレスがブライトに対して言った。
「あの人がいると何かと頼りになりますよ」
「確かにな」
 ブライトもそれは同じ考えであった。
「あいつがいてくれるといないとではやっぱり違う」
「艦長の負担も減りますしね」
「それはどうかな」
「あれ、違うんですか」
「ああ。残念だが私の仕事は減らない。むしろこれからより忙しくなるかもな」
「厄介ですね」
「何、それが仕事だ。それを苦にはしていないさ。それよりだ」
「はい」
 ここで態度を引き締めさせた。
「すぐに合流を済ませて地球へ向かうぞ。いいな」
「了解」
「ナデシコとアルビオンにも伝えてくれ。三隻で向かいたいと。その際警戒を怠らないようにとな」
「わかりました。やはり敵は来ますかね」
「少なくとも来ると思っておいた方がいいのは確かだ」
「成程、いつも通りですね」
 トーレスとサエグサはそれを聞いて頷いた。
「わかりました。それではアルビオンとナデシコにはそう伝えておきます」
「それでいいですね」
「ああ、宜しく頼む。いつものパターンだと大気圏突入の頃にやって来るぞ」
「この前はシロッコでしたし今度は誰ですかね」
「おいトーレス、そんなこと言うと本当に来ちますぞ」
「おっと、そうだった」
 二人はそんなやりとりを続けていた。ブライトはそれを横目で見ながら考えに耽っていた。
「地上か。おそらくここよりも激しい戦いになるな」
 彼は一言そう呟いた。
「あいつが来てくれるのは正直有り難いな」
 そして友を待つのであった。その目は遠くの銀河を見ていた。
 やがて数機のモビルスーツとエステバリスがやって来た。まずは赤いモビルスーツが入って来た。
「おっ、久し振りだな」
 まずジュドーがその赤いモビルスーツを見て声をあげた。
「やっぱりサザビーも来たか。乗ってるのはあの人かな」
「久し振りだな、ジュドー」
 サザビーのコクピットが開いた。そして中からサングラスの男が出て来た。
「元気そうで何よりだ」
「クワトロ大尉、お久し振りです」
 一緒にいたカミーユが声をかける。その男クワトロ=バジーナはそれを受けて微笑んだ。
「カミーユも元気なようだな。どうやら私のような老いぼれは必要ないのかも知れない」
「何言ってるんですか、その歳で」
 エルが彼に対して言った。
「クワトロ大尉にはあたし達のフォローをお願いしなくちゃならないんですからね」
「ふふふ、私がフォローか」
 彼はそれを聞いておかしそうに笑った。
「それがいいかもな。案外似合っているかも知れん」
「大尉、何言ってるの?」
 後ろに来た赤いヤクトドーガから降りてきた青い髪の少女が彼に声をかけてきた。クェス=パラヤである。
「どうせ大尉は前線で戦わせられるよ。楽しようとしても駄目」
「それは勘弁願いたいがな」
「けれど内心では嬉しいでしょ」
「よっ、憎いね色男」
 タップとケーンが彼を茶化す。
「こらこら二人共、赤い彗星に対して失礼だぞ」
 ライトがそんな二人を嗜める。だがクワトロはそれを見ても特に機嫌を悪くしてはいなかった。むしろ微笑んでいた。
「面白い少年達だな」
「まあそれだけが取り柄ですけれど」
 エマがクワトロに対してそう言った。
「けれどパイロットとして技量はかなりのものですよ」
「それは聞いている。ドラグナーチームだったな」
「ええ。新型の兵器です。偶然乗って今ここにいるとか」
「誰かに似てるな」
 彼はそれを聞いてふとそう呟いた。
「どうやら私の周りにはそうした少年が集まるらしい。不思議なことだ」
「不思議ついでに一つ聞きたいのですけれど」
「君は・・・・・・確か」
 クワトロはレッシィを見て何かを言いかけた。だがそれよりも彼女は先に言っていた。
「ガウ=ハ=レッシィです。ペンタゴナのことは聞いていますね」
「ああ。ヘンケン艦長から聞いている」
「それで一緒に戦うことになりました。宜しく」
「こちらこそ。ところで何か言いたそうだが」
「そちらの娘ですけど」
「あたし?」
 クェスがそれを受けて声をあげた。
「ええ。何かあたしと貴女って声が似てないかしら」
「言われてみればそうだな」
 クワトロもそれを聞いて納得したように頷いた。
「これも偶然か」
「偶然であたしもプルちゃん達と声が似ているのかしら」
 アムがそれを聞いて呟いた。
「何か似た声の人が多いような気がするんだけれどなあ」
「まあそれは置いておきましょ。話が長くなるし」
 エマがそれを止めた。
「アムロ少佐はまだですか」
「彼ならもうすぐ来る」
 クワトロはそう答えた。
「ケーラも一緒だ。それに」
「それに?」
「彼もな」
「エマさん、お久し振りです」
 ここで小柄なややぽっちゃりとした少年が姿を現わした。
「あら、カツも」
「Gディフェンサーを持って来ました。これならマークUの補助にもなりますね」
「ええ、そうね。じゃあまた一緒にやりましょ」
「はい」
「あたしはリ=ガズィを持って来たよ」
 金色の背の高い女が来た。彼女がケーラ=スゥである。
「ケーラ、久し振りね」
「そうね。エマも元気そうで何よりだわ」
「また宜しくね」
「ええ、こちらこそ」
 二人はそう言って手を握り合った。そして互いに微笑み合った。
「これでかなりメンバーは全員戻ってきたかな」
 それを見てシーブックが呟いた。
「アムロ少佐がいないけれど」
 しかしセシリーが彼にそう突っ込みを入れる。そういえばアムロの姿が見えなかった。
「あれ、アムロ少佐は?」
「そういえば何処にもいないな」
 ビーチャとモンドがそれに気付き辺りを見回す。だがそこにはアムロの姿は見えなかった。
「先に艦橋に言ったんじゃないかな」
 イーノがそう呟いた。
「まさか」
「いや、有り得るな」
 京四郎が言った。
「アムロ少佐は少佐だ。もう言うまでもないことだがな」
「今更何言ってるんだよ」
「まあ聞け」
 リョーコにそう言って嗜める。
「将校ってのは責任はつきまとうんだ。それは階級ごとに上がる」
「それ位誰でも知ってるぜ」
「俺達は大体将校の待遇を受けているしな」
「まあ俺達は成り行きでなったんだけれどな」
 ドラグナーチームの軽い言葉にも京四郎は冷静なままであった。
「大尉と少佐ではかなり違うんだ。尉官と佐官ではな」
「ふむ、軍隊というものがわかっているな」
 クワトロはそれを聞いて感心したように頷いた。
「アムロ少佐にもそれだけの責任があるということだ。案外今はブライト艦長のところかもな」
「成程ねえ」
 ジュドーがそれを聞いて声をあげた。
「あんた頭がいいね。そんなこと知ってるなんて」
「知ってるも何も常識だと思うが」
「何っ、常識だったのか」
「ダイゴウジさんは知らなさ過ぎです」
 ルリが突っ込みを入れた。
「そんなのだからこの前も怪我したんですよ」
「ええい、怪我は男の勲章だ」
「おっと、それは違うな」
 しかしそんな彼をクールな言葉が止めた。
「何!?誰だ、俺の美学に対して文句をつけるのは」
「文句をつけたわけじゃないけれど」
 長髪の男が姿を現わした。
「ただそれは違うのではないかと思ってね。それで言ったのさ」
「貴様、名前を何という」
「アカツキ=ナガレ。エステバリスのパイロットだ。宜しく」
「エステバリスの」
「まだいたのか」
「?何か皆の反応が鈍いな」
「まあそれはそうですね」
 ヒカルが彼に対して言った。
「皆クワトロ大尉やアムロ少佐に期待していますから。どうしてもそうなりますよ」
「それなら仕方ないか」
 ナガレはそれを聞いて仕方なさそうに呟いた。
「しかし僕にも注目してもらいたいものだ」
「声はトレーズ閣下そっくりだしな」
「そういうノインさんの声はリョーコと同じ声」
「イズミ、それは言うな」
 リョーコがイズミを止めた。
「話がややこしくなるからな」
「まあ仲間が増えるのにこしたことはないしな」
「宜しく頼む」
「期待しているぞ」
 デュオとトロワ、ウーヒェイが彼の前に出て来た。そして手を差し出す。
「ああ、こちらこそ。君達もガンダムのパイロットだったな」
「はい、そうです」
 カトルがそれに答えた。
「僕達も参加させてもらっています」
「成り行きのうえでだがな」
「ヒイロ、おめえはもうちょっと愛想よくできねえのかよ」
「愛想で戦争はできん」
「だがピエロには笑顔が必要だ」
「ううむ、何だか聞きしに勝る個性派集団だな」
 ナガレも彼等を見てかなり戸惑っていた。そんな彼にサブロウタが声をかけてきた。
「案外慣れると楽しいもんだぜ、それでも」
「そういうものかな」
「ああ、少なくとも退屈はしねえ。俺も最初は戸惑ったけれどな」
「そうだろうな」
「ところでエステバリスのパイロットはあんただけか?」
「ああ、そうだが」
 ナガレはそれに答えた。
「それがどうかしたのか」
「いや、もう一機エステバリスがあるからな。ありゃ誰のだ?」
「僕のです」
 ここで青い髪の小柄な少年が出て来た。ナデシコ艦橋にいるクルーの一人アオイ=ジュンであった。
「あんたが?」
「はい。実は僕もエステバリスに乗ることができるんですよ」
 彼は微笑んでそう答えた。
「それで一機送ってもらったんです。これから本当に何かと大変でしょうから」
「ふうん、そうだったのか。けれどこれはこれで好都合だな」
「何故だ?」
「いや、あんたとジュンが入ってこれでエステバリスのパイロットは八人だろ。それでニ個小隊を完全に組めるからな」
「そうだったのか」
「とりあえずあんたは俺達と組もうぜ。ダイゴウジさんはどういうかわからねえけれどよ」
「俺は構わん」
 ここで彼はそう返答した。
「アカツキ=ナガレといったな」
「ああ」
「貴様の参加を歓迎する。健闘を祈るぞ」
「ああ、こちらこそ宜しく」
「うむ!」
 二人は手を握り合った。固く熱い握手であった。それが終わるとナガレはヒイロ達とも忘れた握手をした。こうして彼等は新たなメンバーを加えたのであった。
 その頃アムロはラー=カイラムの艦橋にいた。そこで旧友と再会していたのである。
「ブライト、久し振りだな」
 赤茶色の髪の青年がブライトに対して敬礼をしていた。彼がロンド=ベルのエースパイロットアムロ=レイである。一年戦争の時にサイド7において偶然ガンダムに乗ったのが全ての始まりであった。その戦争を通じて彼はパイロットとして、そしてニュータイプとして覚醒し連邦軍の英雄となったのである。戦後軟禁状態に置かれていたがロンド=ベルに合流しそこでもエースとして名を馳せた。ロンド=ベルにおいてはブライトと並ぶ英雄と呼べる存在であった。
「ああ、こちらこそな」
 ブライトも返礼して笑顔で応えた。生真面目な彼も旧友の前ではいささか砕けていた。
「お互い元気そうで何よりだ」
「そっちは少し老けたみたいだな」
「おいおい、それはないだろう」
 そう言われたブライトは苦笑してみせた。
「私だってまだ若いんだぞ」
「少なくとも俺よりは年上だろう?」
「確かにな。それは否定しない」
 笑ってそう答えた。
「子供も二人いるしな」
「ミライさんは元気かい?」
「ああ、最近では髪を伸ばしてな。さらに綺麗になったよ」
「髪をか」
「ああ。大人になった感じがするな」
「元々しっかりした人だったけれどな。一度顔を見せておきたいな」
「今度うちに来るといい。といっても時間はないがな」
「この戦争が終わってからでいいか」
「ああ。ハサウェイとチェーミンにも顔を見せてくれ」
「わかった」
「ところで御前はまだ結婚しないのか」
「結婚か」
 それを聞いて意外そうな顔をした。
「俺はそんな柄じゃないからな」
「そうか、もうそろそろ身を固めてもいいんじゃないか」
「色々あってな。まあその話は止めてくれ」
 そう言いながら横にいる青いショートの女に目をやった。技官であるチェーン=アギだ。
「わかった、そうしよう」
 ブライトもそれに気付いて話を止めた。
「ところで中佐になったそうだな」
「ああ」
 アムロはそれに頷いた。
「昨日なったばかりだ」
「それ本当ですか!?」
 それを聞いたトーレスがアムロに対して問うた。
「中佐に。また凄いですね」
「いや、実は色々あったんだ」
 アムロはトーレスに対してそう言った。
「三輪長官が反対したりな。一パイロットをそうそう贔屓するわけにはいかないと言い出して」
「またあの人ですか」
 サエグサがそれを聞いて嫌そうな顔をした。
「つくづくとんでもない人ですね」
「それでもグローバル艦長達が口添えしてくれたんだ。これまでの功績を考えると当然だって。俺はあまり興味はなかったんだけれどな」
「流石に三百五十機撃墜のエースを昇進させないわけにはいかないだろう」
 ブライトがそれに対してそう言った。
「幾ら連邦軍が官僚体質だからといってもな」
「そうは言いながら最近やけに変わったな」
「そうだな。それも岡長官たブレックス准将のおかげか」
「それにそうも言っていられないのでしょうね」
 トーレスが言った。
「今大変な時ですから」
「私みたいな技官も色々と動かされていますし」
「チェーンはまた特別だろ」
「アムロ中佐、それどういう意味ですか」
「いや、自分から動いているというか」
 チェーンに言われて少し言葉を濁した。
「その・・・・・・少しお転婆じゃないかな、って思うんだが」
「あら、御言葉ですね、お転婆なんて」
 それを聞いて口を少し尖らせる。
「それもアムロ中佐の為ですよ」
「ふふふ、相変わらずだなチェーンは」
 ブライトはそれを傍目で身ながら微笑んだ。
「アムロもどうやらお手上げのようだな」
「からかうなよ、ブライト。御前もエマリーとはどうなんだ」
「彼女とは何もないぞ、決して」
 それを聞いて急に慌てだした。
「あれは彼女が勝手に」
「わかってるさ、それは」
 アムロはそれに対して笑ってそう答えた。
「ちょっとからかっただけだ、気にするな」
「冗談が過ぎるぞ、全く」
 ブライトは憮然とした顔でそう答えた。
「最初に会った頃とはえらい違いだな」
「それはお互いだな」
「ふふふ、確かにな」
 二人はそう言い合ってまた笑った。
「何はともあれまた一緒に戦えて何よりだ」
「こちらこそな。これから我々は地上に向かうのだが護衛を頼むぞ」
「ああ、任せておけ」
 快くそれに応える。
「誰が来ようとラー=カイラムには指一本触れさせないからな」
「期待しているぞ」
「ああ」
 だがここで別の声が乱入してきた。
「ちょっとぉ、待って下さいよ」
 それは若い女の声であった。ブライトはそれを受けて顔を声がした方に向けた。
「来ていたのか」
「はい、さっきここに来ました」
「ユリカ、艦長がそう動くのはよくないと思うけど」
「いいのよ、メグミさんやハルカさんが残っているんだし」
 ユリカは隣にいるアキトに対してそう言った。
「ハーリー君もいるじゃない。だから大丈夫よ」
「そうかなあ。けれどモニターで充分だったんじゃないかな」
「何言ってるのよ、赤い彗星と白い流星をこの目で見なくてどうするのよ」
「何時でも見られるんじゃないか、一緒の部隊になったんだし」
「それでもまず見たいとは思わないの、アキト」
「いや、別に」
「それでパイロットなの!?折角一年戦争のエースパイロットがいるのに」
「ブライト」
 アムロはユリカとアキトに目をやりながらブライトに声をかけていた。
「やけに騒がしいが彼女もロンド=ベルなのか」
「ああ」
 ブライトはその問いに頷いた。
「ミスマル=ユリカ中佐だ。ナデシコの艦長だ」
「ミスマル?ああ、ミスマル司令の」
「そうだ、司令の御息女だ。色々あって今ここにいるんだ」
「火星でだったな」
「知っているのか」
「話は聞いている。何でもバルマーの時は木星で活躍したそうだな」
「そうだ。何だ、よく知ってるな」
「少佐になるとな。色々話も聞くさ」
「どうやら御前も軍人になってきたみたいだな」
「よしてくれよ、それは」
 アムロはまた苦笑した。
「俺は変わらないさ。あの頃と一緒さ」
「そうか?私はそうは思わないがな」
「おいおい、ブライトまでそう言うのか」
「ははは」
「あの、アムロ少佐」
 ここでユリカがまた出て来た。
「あの」
 それを受けてチェーンが出て来た。
「今は中佐なのですが」
「ええっ、中佐なんですかあ!?あたしと一緒!?」
「そうなるかな」
 アムロは特に気にするわけでもなくそう応えた。
「昨日付けで中佐になったんだ。宜しく」
「はい、私はナデシコBのミスマル=ユリカです」
「艦長らしいね」
「えっ、知ってるんですかあ!?」
「話は聞いているよ。一緒に戦うことができて光栄だよ」
「うっそお、あの白い流星にそんなこと言われちゃったあ!アキト、聞いた!?」
「聞いてるよ」
 はしゃぐユリカに対してアキトはうんざりしたような声を返した。
「あの、ユリカもうちょっと落ち着いた方がいいよ」
「?何で」
 そう言われて逆にキョトンとした。
「あのさ、君は艦長なんだよ。艦長だからもうちょっと艦長らしく」
「ちょっとお、アキトまでそんな堅苦しいこと言うの!?」
 だがユリカはそれを聞いて逆にふくれた。
「別にいいじゃない。ナデシコは今までそれでやってきたんだから」
「だからってブライト大佐やアムロ中佐の前でもそれはちょっと」
「ロンド=ベルはざっくばらんさが売りでしょ。そんなこと言わないでよ」
「ううん、けれど」
「そんなのだからアキトは押しが弱いって言われるのよ。もっと堂々と私の胸に飛び込んで来なさい」
「そ、それとこれとは話が・・・・・・」
「違わないわよ。さあ」
 両手を広げてアキトを迎える。だがそれに対してアキトは顔を真っ赤にさせて戸惑っているだけであった。見かねたブライトが二人に声をかける。
「ミスマル中佐、テンカワ少尉」
「はい」
 二人はそれを受けてブライトに顔を向けた。ユリカはいつもと変わらないがアキトは別であった。まだ顔が赤かった。
「その、艦橋に来た理由は何かな」
「アムロ中佐にサインをして欲しくて来ました」
「止めたんですけれど」
「成程、そうか」
 ブライトはそれを聞いて納得したように頷いた。それからアムロに顔を向けた。
「アムロ、いいか」
「俺は別に構わないぞ」
 アムロは落ち着いてそう答えた。だがチェーンは別であった。
「アムロ中佐、いいんですか!?」
「何がだい」
「サインだなんて。タレントじゃあるまいし」
「ははは、サイン位いいさ」
 アムロは笑ってそう答えた。
「そういうことには慣れてるからね」
「中佐がそう言われるならいいですけれど」
 しかしチェーンはまだ不満そうであった。だがそこで言葉を止めた。
「さっすが中佐、話がわかりますね。それじゃ」
 ユリカはアムロの前に来るとサインペンと色紙を差し出した。アムロはそこにサラサラとサインをした。
「これでいいかな」
「はい!」
 ユリカは元気よく答えた。
「有り難うございます!家宝にします!」
「それはちょっと大袈裟じゃないかな」
「いえ、そんなことはありません」
「どうしてなんだい?」
「御父様もアムロ中佐のファンなんですよ。それで是非とも一枚欲しいって前から仰ってたんです」
「あの司令がか」
 ブライトはそれを聞いて声をあげた。
「それは意外だな。あの人がアムロのファンだったとは」
「私も大大大大ファンです!ですからこれからも宜しくお願いしますね」
「ああ、こちらこそ」
 アムロはそれに返した。
「宜しく頼むよ」
「はい!アキト、アムロ中佐って凄い人よね」
「う、うん」
 アキトは戸惑いながらもそれに頷くしかなかった。
「けれどやっぱり少しは遠慮した方が」
「え〜〜〜、何で?」
「その、アムロ中佐も忙しいしさ。やっぱり中佐の都合も考えないと」
「あら、けれど大丈夫よ」
「何が?」
「私が見てるのはいつもアキトだけだから。それは安心してね」
「そ、そういう問題じゃなくて」
「じゃあ何?」
「・・・・・・いや、いいよ、もう」
 今度は言うのを諦めた。そして黙ることにした。しかし彼にアムロが話しかけてきた。


[272] 題名:第十七話その二 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月20日 (月) 00時44分

「どうしたの?」
「シンジやトウジと一緒に戦えっていうんですか!?」
「そうよ」
 ミサトはその問いに対して素っ気なく答えた。
「それがどうかしたの!?」
「うう・・・・・・」
「我が侭を言ってる暇はないわ」
 レイがここで言った。
「もう来てるから」
「うっ」
 見れば敵はもうすぐそこまで迫っていた。既に初号機と参号機は小隊を組み敵と戦闘状態に入っている。
「シンジ、左は任せとくんや!」
「有り難う」
 二人は左右を固め合い機械獣と相手にしていた。アスカはそれを見て何も言わず彼等のところへ向かった。そして共に戦いはじめた。
「私も」
 レイも続いた。彼等は四機一組となり戦闘に入った。ミサトはそんな彼等に対して言った。
「いい、二分だけ我慢してね」
「二分?」
「そうよ、二分経ったら大空魔竜隊が来るから。それまでの辛抱よ」
「了解」
「それだけやったら十分持ち堪えられますわ」
「ATフィールドがあるからね」
 アスカがそう言うと敵の攻撃が当たった。だがそれはエヴァの前面のフィールドによって弾かれてしまった。
「こういうふうにね」
「けれどそれは投げない方がいいよ、まだ」
「わかってるわよ」
「まあ頼むわね、二分だけだから」
「はい」
 彼等は四機で小隊を編成してドレイドウ配下の機械獣と戦闘を続けた。そして一分が経った。
「東にモビルスーツ部隊!」
 マヤが言う。
「モビルスーツ!?」
 それを聞いたミサトが眉を動かした。
「第二東京市には配備されていない筈よ」
「ああ、その通りだ」
 ここでネルフ司令部に若い男の声が入って来た。
「俺が強引に上の方を説得して来たんだからな」
「上!?」
「まさかあの三輪長官を!?」
「まさか」
 マコト達はそれを聞いて顔を見合わせた。彼等も三輪がどのような男であるかは知っているのである。
「嘘、あんな人を説得出来る筈がないわ。貴方は誰!?」
「俺!?俺か」
「ええ」
 ミサトはその声の主に問うた。
「一体誰なの。答えて」
「シロー。シロー=アマダだ」
 若い男がモニターに姿を現わした。
「シロー=アマダ」
「ああ。地球連邦軍第八モビルスーツ小隊にいた。階級は少尉だ」
「シロー=アマダ少尉。私は葛城ミサトよ」
「階級は三佐ですね」
「ええ」
「お話は聞いています、宜しくお願いします」
「こちらこそ。ところで一つ聞きたいのだけれど」
「何でしょうか」
「今貴方いたって言ったわね」
「はい」
「詳しいことは知らないけれど何かあったの?」
「ちょっとね」
 シローはここで不敵に笑った。
「抜けてきたんですよ、モビルスーツと一緒にね」
「えっ!?」
 ミサトはそれを聞いて思わず顔を顰めさせた。
「たまたま置いてあったGP−02を拝借してここまで来ました」
「なっ、GP−02を・・・・・・」
 ミサトもそれを聞いて流石に絶句した。
「まさかとは思うけれど」
「ええ、核は積んでませんよ。本当はEZ−8を持って来るつもりだったんですけれどね」
「よかった。けど」
 しかしミサトの質問は続いた。
「ここに来ることは許可はとってるのでしょうね」
「ええ、ですから三輪長官に」
「嘘ね」
 しかし彼女はそれを信じなかった。
「何でそう言えるんですか?」
「あの人がそんなことを認める筈ないでしょーーが。私達だってあの人には本当に手を焼いてるんだからね」
「あっ、やっぱり」
「やっぱりじゃないわよ」
 彼女はそう言って眉を顰めさせた。しかしそれをすぐに元に戻した。
「まあいいわ。そっちはネルフで何とかしとくから」
「すいません」
「援護をお願いしたいのだけれど。いいかしら」
 うってかわっていつもの落ち着いた表情に戻った。優しい笑みすら浮かべている。
「勿論、その為に来たんですから」
「じゃあお願いするわ。敵は機械獣よ、いいかしら」
「相手にとって不足あありませんよ」
「頼もしいわね。ところでここへ来たのは君だけかしら」
「いえ、他にもいますよ」
「誰かしら。教えてくれる?」
「はい。アイナ=サハリン少尉と」
「はじめまして」
 ここでモニターに青緑の髪の優しげな顔立ちの女性が姿を現わした。
「アイナ=サハリンです」
「よろしく」
 ミサトは彼女に対しても挨拶をした。
「話は聞いているわね」
「はい。私はドーベンウルフで来ました」
「またゴツいの持って来たわね」
 ミサトはそれを聞いてまたいささか呆れていた。
「綺麗な顔してるのに」
「えっ、そうですか」
 アイナはミサトにそう言われると思わず顔を赤らめさせた。
「そんな、私なんかとても」
「何言ってるのよ、そんな可愛い顔して」
「そんな・・・・・・」
「コホン」
 ここで今度は大人の男の声がした。
「そうしたお話をしている時間ではないですが」
「ん!?ガルーダやハイネルの声に似てるわね」
 ミサトはその声を聞いてまずそう思った。
「ノリス=バッカードです」
 モヒカンの男がそう名乗った。
「以前はジオンにおりましたが故あって今は連邦軍に籍を置いております」
「そうですか」
「階級は少佐であります」
「私と同じですね」
「そういうことになりますな。なお私が搭乗するのはドライセンであります」
「本当はグフの系列があればよかったんだけれどな」
 ここでシローが言った。
「グフ。また懐かしいモビルスーツね」
「私は一年戦争の頃はそれに乗っておりました。もう昔の話です」
「そうでしたか」
 ミサトはそれを聞いて頷いた。
「どうやら色々と事情がおありのようですね」
「はい」
「ですがここに来て頂いたことには心から感謝致します。この部隊の隊長は貴方でしょうか」
 そしてノリスに尋ねた。だが彼はそれには首を横に振った。
「残念ですが違います」
「違うのですか」
「そうです。実はここに来たのもとある方の主導によってです。三輪長官にも実はその方からとりなしがありました」
「あの長官に!?」
「はい」
 ミサトはそれを聞いて再び眉を顰めさせた。
「一体誰でしょうか、それは」
「考えてみれば当然だよな」
「ああ、あの三輪長官が命令違反を許す筈がないからな」
「即刻銃殺よね、あの人だと」
 マコト達はミサトの横でヒソヒソとそう話していた。
「セラーナ=カーン外務次官です」
 ノリスはそう答えた。
「カーン次官がですか」
「はい、あの方のお口添えで。我々は今こうしてそちらに来れたというわけです」
「それは何よりです」
 ミサトはそれを聞いてようやく納得したように頷いた。
「最初アマダ少尉の言葉を聞いた時には何事かと思いましたけれど」
「ちぇっ、えらい言われようだな」
「シロー、やっぱり皆そう言うでしょ」
 アイナが彼に対してそう言った。
「だから危険だって言ったのに」
「仕方ないだろ、今こうしてミケーネの奴等がいるんだからな。今はタダナオもオザワもいないんだぞ」
「ええ、仕方ないわね」
「ったくあいつ等何処に言ったんだよ」
 二人がそうやりとりをしている間にノリスとミサトは話を進めていた。
「そしてカーン次官は何処に」
「ここにおられます」
「ここに!?」
「そうです」
 驚くミサトに対してノリスは静かにそう答えた。
「こちらです」
「はじめまして」 
 するとそこには赤紫の髪の優しげな顔立ちの美しい女が出て来た。だが何処か陰がある。
「貴女がセラーナ=カーン外務次官ですね」
「はい」
 彼女は落ち着いた声でそう答えた。
「この度は有り難うございます。ですが」
「ですが?」
「何故貴女もパイロットスーツを着ておられるのですか」
 見ればモニターに映る彼女もシロー達と同じくパイロットスーツに身を包んでいるのである。ミサトが言ったのはそこであった。
「これですか」
「はい」
 しかしセラーナはそれに対しても全く取り乱してはいなかった。
「私も戦う為です」
「貴女も」
「ええ。ネルフ、そしてこちらに向かっている大空魔竜隊は複雑な立場に置かれていますね」
「それは否定しません」
「だからこそです。ですから私はこちらに参ったのです。貴女達をお助けする為に」
「しかし貴女は」
「政務のことなら御心配なく」
 彼女はそう答えた。
「もうそれは申し次ぎを済ませましたから。私はこれから貴女達と共に行動します」
「次官としてですか」
「はい」
「わかりました。それではお願いします」
 ミサトももうそう答えるしかなかった。彼女はそれに従った。
「それでは援護をお願いします」
「了解」
 こうして四機のモビルスーツが戦場に向かった。そのうちの一機は戦闘機に似たシルエットであった。
「あれはZガンダム?」
「そうrしいわね。どうやら乗っているのはセラーナ次官よ。何でももう一機開発されていたとは聞いていたけれど」
「それに乗って来たんですか、それはまた」
「流石は外務次官ってところですかね」
「喜ぶのはまだ早いわ」
 しかしミサトの声は楽観したものではなかった。
「敵は強いわ。四機のモビルスーツじゃ難しいかも知れないわよ」
「確かに」 
 三人はその言葉を聞いて顔を引き締めさせた。
「ミケーネの将軍の一人が来ていますからね。それに数も半端じゃない」
「ええ」
「あと一分、それまで持ち堪えて欲しいですね」
「そうね。結局それにつきるわ」
 彼等はそう言ってそれぞれの持ち場に戻った。そしてシンジ達に指示を出し続ける。
「シンジ君、右よ」
「了解」
 シンジはそれに従いポジトロンライフルを放つ。そして敵を倒した。それを見てミサトは会心の笑みを浮かべた。
「やるじゃない。どうやら腕は落ちていないわね」
「ちょっと待って下よミサトさん!」
 ここでアスカがモニターに怒鳴り込んできた。
「ミサト」
「あたしだってそうなんですから!」
「だったら見せてくれるかしら」
 あえて彼女を挑発するように言った。
「貴女の腕をね」
「了解!」
 アスカはそれを受けて叫んだ。そしてエヴァを派手に動かした。
「おりゃあああああああああーーーーーーーーっ!」
 フィールドを投げた。それで敵を撃つ。機械獣がそれでまとめて吹き飛んでしまった。
「これでどうかしら!?」
「上出来よ」
「フッフーーーーン、どう、シンジ」
 彼女はエヴァの首を向けてシンジに対して言った。見ればエヴァ自身も自慢していた。
「あたしの方が凄いでしょ」
「おい、アスカ」
 しかしシンジではなくトウジが突っ込んできた。
「何よ」
「今は戦闘中やぞ」
「わかってるわよ。けれど激しい戦いの中にこそ乙女は美しさを求めるものなのよ。わかる?」
「御前が乙女やったら世の中皆そうなるわい」
「フン、勝手に言ってなさい。ほら、敵が来たわよ」
「こら、逃げるな」
「逃げてないわよ」
 そう話をしながらもトウジは敵に攻撃を仕掛けた。接近してくる敵をプログレッシブナイフで切りつけたのである。
「これでどないやっ!」
 ナイフは機械獣サイコベアーの額を切った。それを受けて機械獣は爆発四散した。
「どんなもんや」
「また来たわよ」
 だがここでレイがそう言った。見ればまた来ていた。
「またかいっ!」
「私がやるわ」
 レイはそう言うとすぐに動いた。そしてライフルで敵を撃った。これでその機械獣を撃墜した。見ればそれもサイコベアーであった。
 エヴァ四機はかなりの強さを発揮していた。そこにシロー達も到着した。まずはシローがライフルを放つ。
「いけっ!」
 狙いは的確であった。敵の急所を貫き一撃で撃墜していく。その横ではアイナがドーベンウルフのインコムを放っていた。
「これならっ!」
 インコムは複雑な動きを展開しながら敵に向かう。そして複数の場所から攻撃して敵を撃つ。しかし間合いが広かった。そこに一機入り込んできた。
「来るっ!」
 アイナはそれを見て身構えた。防御するつもりであった。だがそれには及ばなかった。
「アイナ様、お任せ下さい」
 ノリスのドライセンが前に出て来た。そしてその敵をブームブレイブで両断した。鮮やかな動きであった。
「ノリス、有り難う」
「アイナ様を御守りするのが私の務めですから」
 彼は笑ってそう答えた。ここでシローが言った。
「俺のフォローには及ばないぜ」
「そういうわけにはいきません。シロー様はアイナ様の・・・・・・」
「ノリス」
 だがここでアイナが顔を赤くして言った。
「はっ、すいません」
 ノリスはそれを受けて口を止めた。そして戦闘を再開した。三機のモビルスーツは互いに連携しつつ戦っていた。その上ではセラーナのZが展開していた。
「うわっ」
 その戦いぶりを見てミサトは思わず感嘆の声をあげた。
「ありゃ凄いわ。かなりの腕前ね」
「はい」
 マヤもそれに同意した。見ればセラーナのZはウェイブライダーに変形し、敵の攻撃をかわしたかと思うとすぐにZに戻りハイメがランチャーで攻撃を仕掛ける。それで遠くの敵を撃ち、接近して来た敵に対してはその攻撃を紙一重でかわすとすぐにビームサーベルで切った。見事な戦いぶりであった。
「まるでカミーユ君みたいですね」
「まあ彼はあれよりまだ凄いけどね」
「はい」
「けれどそれを彷彿とさせるわ。まるでニュータイプよ」
「ニュータイプですか」
 セラーナがそれを受けてモニターに姿を現わした。
「あ、すいません」
 ミサトは彼女の姿を認めて謝罪した。
「御気を悪くされたでしょうか」
「いえ」
 だがセラーナは微笑んでそれを否定した。
「別にそれを悪い意味だとは思っていませんので」
「そうなのですか」
「はい。ニュータイプは人類の可能性の一つです。私はそう考えております」
「はい」
「ですから仮に私がニュータイプだとしたらそれはそれで私は受け入れます」
「そうなのですか」
「それが私の運命であれば、です」
「次官」
 ミサトはそれを聞いてセラーナの人としての懐の深さに感じ入った。だがここでシゲルが言った。
「二分経ちました」
「もう」
 ミサトは彼に顔を向けて問うた。
「はい、今大空魔竜隊が第二東京市に到着しました。今こちらに向かってきております」
「助かったわね」
 ミサトはそれを聞いて微笑んだ。
「もっともシンジ君達やシロー君達のおかげでそんなに苦労はしなかったけれど。ラッキーだったわね」
「はい。ただ」
「ただ?」
 ミサトはここで三人に対して問うた。
「何かあるの」
「いやあ、また甲児君達と一緒になるんだなあ、って思って」
「また変な人いなかったらいいけれど」
「今更何言ってるのよ」
 ミサトはそれを聞いて苦笑した。
「彼等から個性をとったら何が残るっていうのよ」
「まあそれはそうですけれど」
「何か嫌な予感がするんですよ」
「予感?」
「はい、私だけかも知れませんけれど」
 マヤは心配そうな顔で言った。
「私とよく似た変な人が出て来るんじゃないかなあ、って。気のせいですよね」
「そうじゃないの?」
「だったらいいんですけれどね」
「まあそんな心配は今からしない。いいわね」
「はい」
 マヤはミサトの言葉に頷いた。
「あたしだってどういうわけかアムロ少佐との仲が有名なんだし」
「あ、そうですね」
「わからないのよね、それが。確かにアムロ少佐は格好いいけれど」
「葛城三佐ってどちらかというと少年趣味だよなあ」
「そういえばウィングチームと仲よかたような」
「こら」
 彼女はここでマコトとシゲルを叱った。
「噂のもとは君達なの?」
「えっ、まさか」
「そもそもアムロ少佐ってチェーンさんやベルトーチカさんまでいるし。確かクェスちゃんもそうだったんじゃ」
「クェスちゃんはクワトロ大尉よ」
「あ、そうか。声が似ているんで間違えた。御免」
「まあ声は仕方ないわ。結構似ていることが多いし」
「藤原中尉とジュドー君もですよね」
「まあその話は止めましょう」
「はい」
 三人はミサトの言葉に従った。
「マコト君、大空魔竜に通信を入れて」
「はい」
 マコトはここでミサトの従い大空魔竜に通信を入れた。程なくして大文字が出て来た。
「暫くです、大文字博士」
「いや、こちらこそ」
 大文字はそれに応えて挨拶を返した。
「救援に来ていただき感謝致します。そしてこれからのことですが」
「それはもう御聞きしております」
「そうなのですか」
「はい。エヴァを我々と同行させて欲しいのですね。それはもう御聞きしております」
「そうなのですか」
「はい、セラーナ次官から。喜んでお受け致します」
「有り難うございます。それではこれからもお願いします」
「こちらこそ。ところで今の戦いですが既にそちらにこちらのロボット達を向かわせております」
「そうですか。それは何よりです」
「今回は葛城三佐がお知りでないロボットもありますぞ」
「どんなのですか」
「それは見てのお楽しみといったところですかな。まあまずは敵を倒しましょう」
「はい」
 ミサトはそれに頷いた。
「それでは宜しくお願いします、今後共」
「わかりました」
 こうして大空魔竜隊が戦場に到着した。彼等はグレートマジンガーを先頭に戦場へ向かって行く。
「行くぞ皆!」
「おう!」
 鉄也のグレートマジンガーが空を駆る。そして目の前にいる敵に攻撃を放つ。
「ドリルプレッシャーパンチ!」
 それが敵を貫く。腕が戻ると今度は剣を引き抜いた。
「マジンガーブレード!」
 それで今度は両断した。そして次々に敵を切り裂いていく。それを見てドレイドウは口を歪めて呻いた。
「ぬうう、剣鉄也め、またしても我々の邪魔をするか」
「おい、グレートだけじゃねえぜ」
 ここで別の声がした。
「その声は」
「俺もいるってことを忘れんなよ!」
 それは兜甲児の声であった。彼のマジンガーもグレートの横で戦っていた。
「スクランダーカッターーーッ!」
 背中の翼で敵を切り裂いていく。そしてそれで敵の中を突き進む。その周りでは爆発が続け様に起こっていた。
「僕もいるぞ!」
 グレンダイザーもいた。デュークはダブルスペイザーとドリルスペイザーを引き連れて戦場を駆け巡っていた。三機のマジンガーを中心として彼等は攻撃を仕掛けていたのだ。
「クッ、グレンダイザーまでいるとはな」
「ドレイドウ」
 彼の前にグレートがやって来た。
「貴様は今ここで倒す!」
 鉄也は強い声でそう言った。そして剣を手に彼に向かって行く。
「小癪な!」
 ドレイドウもそれに向かおうとする。だがここで止めに入る者がいた。
「待て、ドレイドウ」
「貴様か」
 ドレイドウは声がした方に顔を向けた。するとそこには鳥に似たシルエットに腹に無気味な顔を持つ巨人がいた。
「怪鳥将軍バータラー」
 鉄也は彼の姿を認めてそう言った。
「貴様もここに来るとはな。だが好都合だ」
 そう言って身構える。
「待て」
 だが彼はそれを制した。
「剣鉄也よ、今は貴様と戦うつもりはない」
「どういうことだ」
「わしはドレイドウに用があってここに来たのだ」
「わしにか」
「そうだ」
 彼はドレイドウに対してそう答えた。
「ドレイドウ、暗黒大将軍の御命令だ。ここは退け」
「暗黒大将軍のか」
「そうだ。事情が変わった。何かと地上も騒がしくなってきた」
「うむ」
 彼はそれを聞いて頷いた。だが甲児がそれに対して言った。
「へっ、騒がしくしてるのは手前等じゃねえか」
「兜甲児、今はその命預けておく」
 だが彼は挑発にも乗ろうとはしなかった。
「さらばだ。だがいずれ貴様等の首は我等が闇の帝王に捧げる。それは忘れるな」
「できるものならな」
 甲児はそう言って彼等を見据える。大介もであった。
「ミケーネ帝国、僕の第二の故郷は貴様等には渡さないぞ」
「フン」
 しかしバータラーもドレイドウもそれには鼻で笑うだけであった。
「貴様の都合なぞ知ったことか。我等には我等の望みがあるからな」
「そういうことだ。デューク=フリード、それが貴様なぞにわかってたまるか」
「クッ」
「それではドレイドウ、行くぞ」
「うむ」
 こうして二人は戦場を後にした。僅かに残った機械獣達が彼等の周りを護衛する。こうしてミケーネの兵達は戦場を離脱したのであった。
「これでここの戦いは終わりか」
 鉄也はそれを見届けて一言呟いた。
「シンジ君、御苦労だったな」
「いえ」
 シンジは鉄也にそう声をかけられて顔を赤くさせた。
「僕はあまり役には立っていませんでしたから」
「そうそう、何といってもあたしがいないとね。どうしようもないから」
「おめえはもっとフォローとかそういうの勉強した方がいいんじゃねえか」
「あんたに言われたくはないわよ」
 アスカは突っ込みを入れた甲児に対して早速噛み付いてきた。
「あんたはいつも暴れるだけでしょーーが」
「暴れるだと!?何言ってやがる」
 甲児はそれに反論した。
「俺は戦ってるんだ。おめえなんかと一緒にするな」
「あれの何処が暴れてないっていうのよ」
「それがわからねえからおめえは何時まで経っても胸が大きくなんねえんだろ!」
「胸は関係ないでしょうが!」
「やるか!?」
「喧嘩なら買うわよ!」
「二人共馬鹿なことは止めるように」
 だがここで大介が間に入ってきた。
「いきなり喧嘩をはじめるなんて大人げないぞ」
「大介さん」
「甲児君、ここは抑えるんだ。いいね」
「わかったよ」
「そこの女の子も。いいかい」
「はいはい、わかったわ」
「あまりわかってくれてはいないようだけれどまあいいか。それでだ」
「はい」
 鉄也も話に入って来た。
「エヴァのことは聞いているよ。僕達と同行するんだよね」
「ええ、そうですけれど」
「私達もね」
 ミサトがダイザーもモニターで出て来た。
「よろしくね、これから」
「わかりました。そしてセラーナ次官達も」
「これから宜しくな」
 シローが彼等を代表してそう言った。
「よし、では一度集結しよう。そひてこれからのことを・・・・・・」
「待て」
 しかしここでピートがそれを止めた。
「どうした」
「レーダーに反応だ。総員その場で警戒にあたれ」
「また敵かよ」
 忍はそれを聞いて言った。
「まだ暴れ足りなかったから丁度いいか」
「ダンクーガは相変わらずね」
「言うまでもないことやな」
 それを後ろから見てアスカとトウジは頷き合った。そこへ三機のアンチボディが姿を現わした。
「あれはブレンか」
 隼人がそれを見て一言呟いた。
「ヒメ達のだけじゃなかったんだな」
「豹馬、それはもうとっくにヒメちゃんが言うとるで」
「あっ、そうだったか」
「ヒメさん」
 健一がヒメに声をかけた。
「あのアンチボディは知ってるかい」
「はい」
 ヒメはそれに頷いた。
「あれはオルファンのです」
「オルファンの」
「じゃあ敵だな」
 一平はそれを聞いて言った。
「よし、全機攻撃態勢に入れ、いいな」
「了解」
 ピートの指示を受けて皆動いた。だがここで青いアンチボディから通信が入った。
「待ってくれ、俺達は敵じゃない」
「何!?」
 それを聞いて動きを止めた。
「俺は伊佐未勇、俺達は君達に投降しに来たんだ。君達と一緒に戦う為に」
「馬鹿な、誰がそんな世迷言を信じるというんだ」
 まずピートがそれを聞いてそう言った。
「構うことはない、全機攻撃用意」
「了解」
 それを受けて何機かは動く。だがそこでヒメが他の者を止めた。
「待って、皆」
「ヒメ」
「ここは私に任せて」
 そう言って前に出た。
「馬鹿な、奴は敵だぞ。さがれ」
 ピートがヒメを止めようとする。だがそれをサコンが制した。
「待て、ここはあの娘に任せてみよう」
「サコン」
「何が起こるか見てみたい。何、大丈夫だ」
 彼は落ち着いた様子でそう言った。
「何も起こらないさ。あのアンチボディ達を見ろ」
 彼はここでピートにヒメ達のブレンを指差して見せた。
「お互い攻撃をするつもりはない。だから安心しろ」
「しかし」
「もしもの時があればその時こそ動けばいい。違うか」
「むう」
 さしものピートも彼にそう言われると納得するしかなかった。
「わかった、ここは御前に従おう」
「悪いな。それに色々と見ておきたいこともある」
「見ておきたいこと?」
「すぐにわかるさ」
 彼はそう言うだけであった。そしてその間にヒメと勇のアンチボディは互いに触れ合いそうな場所まで接近していた。
「御前、宇都宮比瑪だな」
「ええ」
 ヒメはそれに頷いた。
「御前がこの前の」
「そうだよ」
 ヒメはこの前の最初の戦いのことを認めた。
「君は?」
 そして逆に勇に尋ねてきた。
「君は何ていうの?」
「俺か!?」
 尋ねられた勇は一瞬それに戸惑った。
「俺のことなのか」
「そうだよ」
 ヒメはそう言って頷いた。
「君の名前は何ていうの」
「俺か。俺は」
 彼は語りはじめた。
「俺は勇、伊佐未勇だ」
「勇、勇君だね」
「あ、ああ」
 彼は何時の間にかヒメのペースに飲み込まれていた。
「私達と一緒にいたいの?」
「ま、まあそうなるな」
 勇は戸惑いながらもそう答えた。
「俺だけじゃない。カナンもヒギンズもだ」
「いいよ」
 ヒメはそれに対して一言そう言った。
「いいのか?」
「うん。君も寂しかったんだよね」
「あ、ああ」
 勇はまた頷いた。
「だからここに来たんだよね」
「そうなるな」
 彼はそれを認めた。
「それでこれからのことだけれど」
「いいよ」
 ヒメはまた言った。
「えっ、いいって」
「一緒にいよう、そうしたら寂しくなくなるから」
「しかし」
「しかしも何もないよ。君も寂しいのは嫌でしょう、だったら」
「ああ、わかった」
 勇はヒメの言葉に頷いた。
「それじゃあ俺達も」
「おっと、それは待ってもらおうか」
 しかしここで後ろから声がした。
「誰?」
「ジョナサンか!」
 勇はそれを聞いて後ろへ顔を向けさせた。するとそこにはアンチボディの編隊がいた。
「ジョナサン=グレーン」
「あたしもいるよ」
 褐色がかった肌に黒い髪の気の強そうな女もいた。
「シラー=グラスか」
「ふふふ、そうさ勇」
 金色の髪の男ジョナサンが勇に対して言った。
「オルファンから抜けてどうするつもりなんだ」
「御前に言ってもわかるもんか」
「ああ、わからないだろうな」
 ジョナサンは勇に対してそう言葉を返した。
「何!?」
「逃げ出した卑怯者のことなんてな。わかりたくもないさ」
「貴様!」
 勇はそれを聞いて激昂した。ユウ=ブレンが前に出ようとする。だがそれをヒメ=ブレンが止めた。
「待って、君!」
「ヒメ!」
 勇はそれを見て叫んだ。
「何故止めるんだ!」
「今はいけないんだよ!」
 ヒメも叫んだ。
「いけない!?」
「そう、いけないよ」
 ヒメは勇を諭すようにして言う。
「よく言えないけど一人じゃいけないんだ」
「一人で」
「うん」
 ヒメは頷いた。そして勇はそれを聞いて気付いた。
「そうか、一人じゃ駄目なんだ」
 そしてヒメに対して顔を向けた。
「なあ」
「何!?」
「やるんだ」
「何を!?」
 ヒメは言われても何が何だかわからなかった。
「どうするの!?勇」
「ヒメちゃん、ひっつくんだ」
 勇は言った。
「ひっつく!?くっつくの!?」
「ああ」
 勇は頷いた。そしてヒメの横に来た。
「こうやってさ」
「こうやって」
「フン、何をするかと思えば」
 シラーはそれを見てせせら笑った。
「二人一緒に死なせてあげるよ!」
 そしてアンチボディを前に出してきた。それを見てヒメは叫んだ。
「来る!」
「大丈夫だ!」
 だが勇は彼女に対して言った。
「落ち着くんだ、いいな」
「けど」
 それでもヒメは戸惑っていた。
「狙えないよ」
「狙う必要はないんだ」
 勇は彼女に対してそう囁きかけた。
「こうやるんだ。合わせろ、ヒメ!」
「合わせる・・・・・・」
「そう、合わせるんだ」
 勇は言った。
「俺に合わせてくれればいい。わかったか」
「うん」
 そして二人は動きを合わせた。そして攻撃に入った。
「なっ!」
 二つのブレンパワードから攻撃が放たれた。それがシラーの乗るリクレイマーを直撃したのであった。それを受けてシラーの乗るリクレイマーはかなりのダメージを受けてしまった。
「な、何!?このオーガニック=ウェーブは」
 シラーは何とか機体を操縦させながら呟いた。
「一体何処にこれだけのパワーが」
「あれがプレンパワードの力だというの」
 それを見ていたカナンが呟いた。
「今の光は」
「二人で力を合わせたというのか」
 ナンガとラッセも驚きを隠せなかった。彼等もそれを見て戸惑っていた。
「何だったの・・・・・・今のは」
 それはヒメも同じであった。彼女は驚きを隠そうともせず勇に顔を向けていた。
「多分」
 勇はそれを受けて話しはじめた。
「オーガニック=ウェーブ」
「オーガニック=ウェーブ」
「ああ、アンチボディのチャクラ=ウェーブ=モーションってやつかも知れないな」
「それが今のなんだね」
「多分ね」
 勇は今一つ自信のない声でそれに答えた。
「ただかなりの力を持っていることは事実だな」
「ああ」
 ラッセはナンガの言葉に頷いた。
「勇といったな」
 ナンガが彼に声をかけてきた。
「ああ」
「一緒に戦ってくれるか、いいか」
「その為に来たんだ」
 彼はそう答えた。それで全ては決まった。
「よし、じゃあお願いする。行くぞ」
「よし」
 それを受けて彼等も戦う態勢に入った。そして前に出た。
「クッ!」
 シラーはなおも戦おうとする。リクレイマー達も前に出た。だがそこでジョナサンが言った。
「待て」
「ジョナサン」
「シラー、御前は下がれ」
 彼は一言彼女に対してそう言った。
「下がれ!?何故だ」
「御前のリクレイマーはダメージを受け過ぎた。今のままではとても戦えないからだ」
「馬鹿を言え」
 彼女はそれにくってかかってきた。
「私はまだ戦える、甘く見るな」
「そう、まだ戦えるな」
 ジョナサンはそれを受けてそう言った。
「じゃあこれからのことを考えるんだ。今はその時じゃない」
「これからのこと!?」
「そうだ。御前さんにはまだやってもらうことがあるってことさ」
「わかった」
 シラーはそれに頷いた。
「じゃあここはジョナサン、あんたに任せるよ」
「そうした方がいい。じゃあな」
「ああ」
 こうしてシラーは撤退した。ジョナサンは彼女にかわって前に出て来た。
「勇・・・・・・よくそんな機能不全のアンチボディでやれたな」
「悪いか」
 勇はそれを聞いて彼を見据えた。
「まあいい。俺の任務は貴様を抹殺することだからな。それ以外にはない」
「ジョナサン」
 勇は叫んだ。
「俺達が争ったところで何にもならないんだぞ」
「オルファンがやろうとしていることを邪魔する奴は誰であろうが排除する。貴様も同じだった筈だ」
「クッ」
 だが勇は言った。
「今は違う、グランチャーの任務もオルファンの目的もおかしいんだ!」
「おかしくはない!」
 ジョナサンはそれを聞いて叫んだ。
「オルファンの永遠は人類の永遠である!」
「その前に人間が滅ぼされちまう!」
「人類の歴史と遺伝子はオルファンとグランチャーに残るんだよ!」
「それは違う!」
 勇はまた叫んだ。
「馬鹿なことを言うな!」
「馬鹿なこと・・・・・・!?」
 ジョナサンはそれを聞いて口の端を歪めて笑った。
「どうやら貴様とはこれ以上話しても無駄なようだな」
「まだわからないのか」
「まあいい、どのみち貴様はここで死ぬことになるんだ」
 ジョナサンはそれを打ち切るようにして言った。
「だからせめて戦士らしい最期を見せるんだな。行くぞ!」
「クッ!」
 彼等は戦いをはじめた。まずはジョナサンのリクレイマーがミサイルを放つ。しかし勇はそれをかわした。
「勇!」
「大丈夫だヒメ!」
 彼はヒメに対して言った。
「ここは俺に任せろ。その前に」
 既に大空魔竜隊とリクレイマー達の戦いがはじまっていた。彼等はそれぞれミサイルを放ち剣を振るっていた。皆それを受けて戦っていたのである。
「他を頼む。いいな」
「うん、わかった」
 ヒメはそれを受けて頷いた。
「じゃあ任せたよ」
「ああ」
 こうしてヒメとヒメ=ブレンはユウ=ブレンから離れた。そして別のリクレイマーに向かっていった。
「勇、俺を一人で倒せるとでもいうのか!」
「当然だ!」
 彼は言葉を返した。
「ジョナサン=グレーン」
 勇はジョナサンと彼のリクレイマーを見据えた。
「貴様を倒す!」
「フン!」
 ジョナサンはそれを聞いて激昂した。
「死ねよやああああああああああっ!」
 ジョナサンは突っ込んだ。だが勇はそれを冷静に見ていた。剣から攻撃を放った。
「グワッ!」
 ジョナサンのリクレイマーの右手が吹き飛ばされる。彼はそれを受けて動きを止めた。
「な、何だと!?ブレンパワードの奴がソード=エクステンションを使えるというのか!?」
 ジョナサンは切り落とされた右腕を見て叫んでいた。だが勇はそれを見て呆然としていた。
「今の攻撃・・・・・・ソード=エクステンションというのか」
「勇」
 ジョナサンの声が怒りで沸騰していた。彼はまた言った。
「貴様は私の手を切った!貴様があああああっ!」
「ジョナサン=グレーン」
 それに対して勇の声は冷静であった。
「親父とお袋、そして姉さんに伝えろ」
「何!?」
「オルファンに仕えることは正義じゃない、そしてオルファンで人類を抹殺することも、地球を死の星にすることも絶対にさせない!」
「勇うぅぅぅっ!」
「今言ったことを伝えるんだ、行け!」
「クッ、俺をメッセンジャーボーイにするつもりか!」
「そうだ!だから今は狙撃しない。行くんだ!」
「おのれ勇、忘れんぞぉっ!」
 ジョナサンは怒りに身体を震わせながらも戦場から撤退した。そしてそれを見てリクレイマー達も次々と撤退した。こうして第二東京市での戦いはようやく幕を降ろしたのであった。
「終わったか」
 大文字は姿を消すリクレイマー達を見て一言そう呟いた。
「まさかここへきて新たな敵が出て来るとはな」
「全くです」
 ピートがそれに同意した。
「ただ、彼には色々と聞きたいことがありますね」
「そうだな」
 二人は勇に顔を向けて話をしていた。サコンもそこにいた。
「サコン君、頼めるか」
「ええ、いいでしょ」
 彼はそれを快諾した。
「まあ大体予想はついていますがね。悪い結果は出ないですよ」
「だといいんだがな」
 しかしピートはそれには懐疑的であった。
「奴は敵だったのだからな」
「まあそう言うなピート君」
 それを大文字が止めた。
「まずはしらべてからだ。いいね」
「わかりました」
 彼は不満があるもののそれに従った。こうして彼等は大空魔竜に集まり勇達に関しての調査を開始した。暫くしてサコンがブリーフィングルームに集まる皆に対して言った。そこには勇も一緒であった。
「どうだった」
 まずはサンシローがサコンに尋ねた。
「そいつは大丈夫なんだろうな」
「何」
 それを聞いて勇が眉を顰めさせた。
「それはどういう意味だ」
「悪い、悪気があって言ったわけじゃないんだ」
「そうですよ、サンシローさんはそんな人じゃありませんから」
 ブンタが彼のフォローに入った。
「ですから貴方も落ち着いて下さいね」
「ああ、わかったよ」
 勇はそれを受けて表情を元に戻した。
「これから長い間一緒になるかも知れないからな」
「そうそう」
「だがまだ完全に信用できないのは事実だ」
 隼人が口を挟んだ。
「隼人」
 それを聞いて竜馬と弁慶が咎める顔をした。
「いや、それは事実だ。そいつは伊佐木の人間だからな」
 鉄也も彼に同意した。
「まだ話も聞いちゃいないんだ。今の時点で信頼するにはまだ足りないということだ」
「手厳しいな、二人共」
 サコンがそれを聞いて苦笑した。
「だが当然だな。それは仕方ない」
「はい」
 勇はそれに応えて頷いた。
「勇君には自分の考えを述べてもらおう。それでいいかな」
「はい」
「あらかじめ言っておくが」
 サコンは皆に対して顔を向けた。
「彼を調べたところ肉体も精神も正常だ。それを理解してくれたうえで話を聞いてもらいたい。いいか」
「了解」
「それについてはわかった」
 皆それを聞いて頷いた。そして勇に顔を集中させた。
「でははじめよう」
 大文字の言葉を受けて勇は口を開いた。
「オルファンのことですが」
「あれか」
「はい」
 勇は大文字の言葉に対して頷いた。
「あれが浮上したならば人類は滅亡します」
「そう言われてもな」
 ピートはそれを聞いて首を傾げさせた。
「君の言っていることが本当だとはすぐには思えないな」
「それは仕方ないな」
 隼人も言った。
「今俺達は色々な連中と戦っている。正直あのリクレイマーとかいう連中もその中の一つに過ぎない」
「じゃあ人類が滅亡してもいいっていうのか!?」
「そうは言っていない」
 ここで竜馬が勇を嗜めた。
「俺達は人類を、そして地球を守る為に戦っているんだからな」
「じゃあ何故」
「まあ落ち着くんだ」
 サコンは勇の肩に手をやってそう言った。
「少なくともあのリクレイマーというのが地球や人類に対していい考えを持っていないことはわかっているからな」
「けど」
「今は情報が少ない。だからこれ以上は何も言えないんだ。君もオルファンの全てを知っているわけじゃないだろう」
「はい」 
 それは渋々ながら認めた。
「俺はあの家の一員といっても末っ子でしたから」
「兄弟でもいるのか?」
「はい」
 リーの問いに対して頷いた。
「姉さんが一人。けれど」
「どうやら訳ありのようだな」
「御免なさい、それについては聞かないであげて」
 カナンがリーに対して言った。
「そうか。じゃあいい。それは聞かない」
「すいません」
「謝らなくていいさ。それで君はリクレイマーとは決別したんだね」
「はい」
 大文字の言葉に対して頷く。
「だからここまで来たんです。彼等が今の俺をどう思っているかもうおわかりでしょう」
「それはどうかな」
 だがピートはそれに対しては懐疑的だった。
「芝居ということも考えられる」
「ピート、何を言ってるんだ」
 サンシローはそれを聞いて露骨に顔を歪めさせた。
「彼を疑うっていうのか」
「ああ」
 ピートはそれを認めた。
「敵から寝返った者をそう簡単に信用できると思うか?サンシロー、だから御前は甘いんだ」
「何っ!」
「俺達の敵はどれも強力だ。そしてどんな汚い手も使う連中だということを忘れるな。一瞬の油断が大変なことになるんだ」
「だからって彼を疑うのかよ!」
「これも戦いだからだ。俺は当たり前のことを言っているだけなんだぞ」
「だから御前は頭でっかちなんだろうが!」
「御前みたいな海人ちゃんに言われたくはないな」
「手前!」
「止めるんだ、二人共」
 リーとサコンが二人の間に入った。そしてブンタとヤマガタケがそれぞれ押さえる。
「今は喧嘩している時じゃありませんよ」
「頭にきたら四股でも踏んどけよ」
「くっ」
 こうして二人は離された、そして勇の話が続く。
「俺が信頼されていないことはわかっています。それは当然です」
「自分でわかっているならいい」
「はい」
 鉄也に対して頷く。
「けれどあえて言います。それでも貴方達と一緒に戦わせて下さい」
「オルファンを止める為にだね」
「いいでしょうか」
「ふむ」
 大文字は暫く考えていたがすぐに口を開いた。
「いいだろう。勇君、君の加入を歓迎しよう」
「本当ですかっ!?」
「ああ。ただし、何かあればそれなりの処置はとらなければいけないがそれはわかるね」
「はい」
 勇は頷いた。
「それならばいい。君はこれから大空魔竜隊の一員だ」
「有り難うございます」
「ただオルファンがどういったものか気になりますね」
 サコンが大文字に声をかけてきた。
「もし地球を破壊しかねないものだとしたら大変なことです」
「そうだな。それならばよく調べておく必要がある」
「はい」
「ミドリ君、今日本に展開している勢力はどうなっているかね」
「今のところありません。先程の戦闘でミケーネも撤退したようです」
「ふむ、ならば好都合だな。では行くか」
「オルファンにですか」
「そうだ。何も知らないのでは対策も立てようがないからな。我々はこれよりオルファンに向かう。皆それでいいな」
「了解」
「賛成です」
 皆それに頷いた。これで大空魔竜はオルファンへ向かうことになった。こうして新たなメンバーを加えた彼等は第二東京市を発ちオルファンに向けて出発した。
 既にその中はロボット達で一杯であった。流石の大空魔竜でも収容には限界があるのである。
「まったく何でこんなにいるのよ」
 アスカは格納庫でエヴァ弐号機を見上げながらぼやいていた。
「これじゃあエヴァが出撃するのにも一苦労だわ」
「そういう問題じゃないと思うけど」
 隣にいたシンジがそれを聞いて呟いた。
「アスカの言っていることは少しずれてないかな」
「けれど事実よ」
 アスカはそれに対してそう言い返した。
「これにダイターンまで来たらえらいことになるわよ」
「万丈さんかあ」
「あんな巨大なのどうしろってのよ。それを考えると夜も眠れないわ」
「それは大袈裟だよ。大体万丈さん今何処にいるのかだってわからないのに」
「案外すぐに出て来るわよ」
「まさか」
「いえ、それがあの人だからね。いきなりここにでもニュッと」
「呼んだかい?」
 ここで爽やかな男の声がした。そして青い髪を立たせた青年が姿を現わしてきた。
「君達と会うのも久し振りだね」
「えっ、言ってる側から」
「万丈さん、どうしてここに」
「ははは、色々あってね」
 彼は笑いながらそれに応えた。
「僕もこれから一緒に戦わせてもらうことにしたんだ」
「いって僕達に言われましても」
「大文字博士に許可はもらったんですか!?」
「勿論さ。だからここにいるんだよ」
「はあ。それならいいですけれど」
「ダイターンは大丈夫なんですか?」
「ダイターン?何時でもいけるよ」
 万丈は笑ってそう答えた。
「何なら呼ぼうか」
「いえ、いいです」
「場所がありませんから」
 二人はきっぱりとそれを否定した。
「何だ、じゃあいいよ。ところで」
「はい」
「君達これからオルファンへ行くんだろう?それで僕も来たんだけれど」
「オルファンにですか?」
「そうさ。あそこには色々あってね」
「何でも地球を破壊するとか」
「浮上したら人類が滅亡するんでしょ?」
「さあ、それはどうかな」
 だが万丈はそれには笑うだけであった。
「どうなるかはわからないよ」
「?それはどういう意味ですか」
「まさかもっと酷いことが」
「それはこれからのお楽しみってところかな。ところで君達お腹が空いてないかい?」
「えっ?」
「もうお昼だろ。僕なんかここへ来ただけでもうお腹がペコペコなんだけれど」
「言われてみれば」
 二人はそれを認めた。
「じゃあ一緒にどうだい。丁度ギャリソンが用意してるしね」
「じゃあ御言葉に甘えまして」
「レイも呼ぶ?」
「けれど彼女はお肉は」
「ははは、大丈夫さ。今日はスパゲティだからね。ソースは何がいいかな」
「ナポリタン」
「あたしはネーロ」
「了解、じゃあ行こうか」
「はい」
 こうして三人は万丈の部屋へと向かった。そしてそこでスパゲティに舌鼓を打つのであった。それは次の戦いへの英気でもあった。


第十七話    完



                                2005・4・15




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