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第二掲示板@うらたにんわあるど

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[271] 題名:第十七話その一 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月20日 (月) 00時36分

            エヴァ再起動
「勇、日本に入ったわ」
 三機のアンチボディは日本に入った今までは下に青い海が拡がっていたが今度は緑の大地に変わっていた。カナンはそれを見て勇に対して言ったのだ。
「ああ、やっとだな」
 勇はそれを受けて頷いた。顔は前を見据えている。
「日本に着いたけれどこれからどうするの?」
「そう、そのヒメって娘に遭うということだが」
 ヒギンズも彼に対してそう問うてきた。勇はそれに答えた。
「とりあえずあの娘が向かっている場所はわかっているつもりだ」
「何処なの?」
「第二東京市だ」
「第二東京市」
「ああ」
 勇はそれに答えた。
「あの娘はそこに向かっている筈だ」
「どうしてそう言えるんだ?」
「心さ」
 勇はヒギンズにそう答えた。
「心?」
「ああ、感じるんだ。彼女がそこに向かっているって。だから俺も行く」
「そうなの」
 カナンはそれを聞いて呟いた。
「呆れたか?」
「いえ」
 だがそれを否定するつもりはなかった。呆れたわけでもなかった。
「わかるから。それに最後まで一緒に行くって決めたし」
「有り難う。それはヒギンズもか?」
「ああ」
 ヒギンズは静かにそう答えた。
「一緒に行くよ、何処までもな」
「済まない」
「お礼はいいわ。それより急ぎましょう」
「ああ、わかってる」
 勇はそれに頷いた。
「急ごう、何時追手が来るかわからないからな」
「ええ」
 こうして三機のアンチボディは進んだ。ただひたすら緑の大地の上を飛んでいた。

 第二東京市の地下深くに彼女はいた。白衣を着た金色の髪の女性であった。
「シュウ=シラカワ博士」
 彼女はふと呟いた。
「貴方は何故あの時私を助けたのか今わかった気がするわ」
 彼女はそう呟きながら廊下を進んでいた。そしてドアを開けてその中に入った。ドアは左右に開いた。自動ドアであった。
 彼女はその時のことを思い出していた。あの最後の戦いの時だ。
「あの時私は死のうとした。けれど貴方は私を止めたわね」
 彼女はまた呟いた。
「その時は貴方が憎かった。そしてあの娘も・・・・・・」
 声に後悔と自責が滲んでいた。そう呟きながら唇を噛んでいた。
「けれどあの戦いが終わってそして今ここに来てわかった」
 今まで俯いていた顔を上げた。そして前を見た。
「私はあの時に死んではいけなかったのよ。そして今やるべきことがある。だったら行くわ」
「リツ子、久し振りね」
 ここで横から大人の女の声がした。赤い服を着た群青の髪の女がそこに立っていた。整った顔立ちに色気を醸し出している女であった。
「ええ、ミサト」
 彼女、赤木リツ子も美しい女であった。その美しい顔をその赤い服の女に見せて微笑んだ。
「まさかまたここに集まるなんて思わなかったわね」
「ええ」
 葛城ミサトはそれに頷いた。そして言った。
「皆もね。碇司令だけはおられないみたいだけれど」
「亡くなられたからね、何処かで」
「そうね」
 ミサトはそれを聞いて少し寂しい顔をした。
「最後まで素直じゃなかったみたいだkれど」
「それもあの人らしいわ」
 リツ子は一言そう答えた。
「もういない人のことを言ってもはじまらないけれどね」
「吹っ切れたわね」
 ミサトはそれを聞いてそう言った。
「いい女になったじゃない」
「貴女はどうなの?」
「私?」
「ええ」
 彼女がここで逆にミサトに対して尋ねてきた。
「私から見ると貴女の方がいい女になったと思うけれど」
「よしてよ」
 ミサトはそれを聞いて頬を赤らめて笑った。
「彼は生きていたんだし」
「嘘」
「いや、それが本当なんだな、これが」
 ここで無精髭を生やした男が出て来た。
「生憎ね。シナリオは完全に破綻していたらしいな」
「そうだったの」
「そうさ。だからあんたも生きているんだろう、今」
 その男加持リュウジはミサトに対してそう言った。
「だからこの基地もまだあるんだろうな。そうでしょう、司令」
「ああ」
 司令の席には白い髪の初老の男が座っていた冬月コウゾウであった。
「どういうわけかはわからないがな。少なくとも君達がここにいる。そして彼等も」
「はい」
 ここで三人の制服を来た若者が声をあげた。日向マコト、伊吹マヤ、青葉シゲルの三人であった。三人は白いネルフの制服を着ている。
「お久し振りです、葛城三佐、赤木博士」
 マコトがまず二人に挨拶をした。
「お元気そうで何よりです」
「君達もね」
 ミサトは微笑んで三人にそう返した。
「先輩ご無事だったんですね」
 マヤがリツ子に笑顔でそう声をかけてきた。
「心配してたんですよ」
「有り難う」
 リツ子は微笑んで彼女にそう言葉を返した。
「心配してくれていたのね」
「はい」
 マヤは笑顔でそれに応えた。
「あの戦いの後お姿が見えなかったから。どうされたんだろうと思ってました」
「色々とあったけれどね。ちゃんと生きているわよ。ほら」
 リツ子はここで白衣の下にある脚を見せた。黒いストッキングに覆われた綺麗な脚であった。
「ちゃんと脚もあるでしょ」
「ええ」
「ご本人なんですね、よかった」
「シゲル君」
 リツ子は彼の声を聞いてはっとした。
「貴方の声は」
「どうかしたんですか?」
「いえ」
 だがリツ子は最後まで言わなかった。それを自ら途中で遮った。
「何でもないわ」
「そうですか」
「それよりも」
 再会を喜び合うのは終わったかのようにリツ子は顔と声を引き締めさせた。
「今ここに集まってもらった理由はわかってるわね」
「ええ」
 皆それに頷いた。
「お話は聞いています」
「まさかとは思いますが」
「残念だがまさかではないのだ」
 冬月は彼等に対してそう答えた。
「私も最初聞いた時には信じられなかったがな。だが事実だ」
「司令、彼はあの時確かに死にましたね」
「ああ」
 彼はミサトの問いにそう答えた。
「確かにな。アダムの前で」
「それが何故」
「わからない。だが生きているということが問題なのはわかるだろう」
「はい」
 ミサトは真剣な顔でそれに頷いた。
「それはわかっています」
「彼が生きているということは我々の仕事がまだ終わっていなかったということだ。人類補完計画は既に破棄されているとしてもだ」
 彼はまだ言葉を続けた。
「そして我々の仕事は他にもできたのだ」
「他にも」
「ああ」
 加持がミサトに対して頷いた。
「木原マサキという男を知っているか」
「木原マサキ!?」
「ああ」
「聞いたことがあるわ」
 リツ子がここで言った。
「天才科学者として名を馳せていたわね。ロボット工学だけでなく医学や科学、そして錬金術にも通じた天才だったって聞いているわ」
「そうだ」
 冬月はその説明に対して頷いた。
「やはり知っていたか」
「はい。ですがそれは十五年も前の話です」
「そうなの?」
「ええ、彼は十五年前に行方不明になっているわ。原因は不明だけれど」
「そう、一説には死んだと言われている。ところがだ」
 加持がここで言った。
「彼はある野心を持っていた。そしてそれが今動き出そうとしているのだ」
「死んでいるのに!?」
「らしいな」
 加持はミサトに答えた。
「彼は世界を崩壊させるつもりだったらしいな」
「世界を」
「ええ。何故それを考えているかはわからないわ。何でも冥府の王になると言っていたらしいけれど」
「冥府の王!?あの地獄の奥底にいる魔王かしら」
「どうやらそうらしいな」
 冬月はそれに答えた。ダンテの神曲地獄篇に一人の魔王が登場する。地獄の奥底にいる巨大な姿と三つの顔の持ち主でありそこから地獄を統括しているというのだ。
「彼はそれになろうとしていたらしい。世界を滅ぼしてな」
「何故!?人類を補完する為じゃないわよね」
「ああ」
 加持が答えた。
「わからないわ。それじゃあ宇宙怪獣とかと一緒じゃない。人間である彼が何故」
「木原マサキは人格破綻者だったのよ」
 リツ子はここでそう答えた。
「彼はかって鉄甲龍という組織にいたの。けれどあるマシンを作って脱走したの」
「それで世界を滅ぼす為ね」
「どうやらそうだったらしいな。しかし途中で行方を絶った。死んだかも知れないってのはさっき言ったな」
「それで終わりじゃなかったってことね」
「そうだ。そしてその鉄甲龍はゼーレのもう一つの姿だったのだ。人類補完計画が失敗した時の為に動くな」
「そんな、そんなこと聞いてないわ」
 ミサトは冬月のその言葉を聞いて思わずそう言った。
「そんな組織があったなんて。そしてそれの目的は何!?」
「世界の破壊だ」
 冬月は一言そう言った。
「彼等はそこから新たな世界を構築するんが目的だったのだ。そして木原マサキはその鉄甲龍にいた」
「そうだったの」
「そして彼が、鉄甲龍が世界を破壊させる為に作りだしたマシンこそがゼオライマーという」
「セオライマー」
 皆その名を繰り返した。世界を破滅させる筈なのに何故か恐ろしい響きではなかった。
「ゼーレは崩壊したが我々にはまだやらなければならないことがあるというのがわかっただろう」
「ゼーレと反する立場になってしまった我々は彼等の残照も取り払わなくてはならないのだ。わかるな」
「因果な話ですね」
「加持君」
「いや、彼の言う通りだ」
 冬月は加持の言葉を肯定した。
「我々の仕事はそれまで完全には終わったことにはならない。いや」
「いや?」
「まだ先があるのかもな。どうやら長い戦いになりそうだからな」
「そうなのですか」
「葛城三佐、もう大空魔竜隊には連絡してあるな」
「はい」
 ミサトはそれに答えた。
「大文字博士は快諾して下さいました」
「それは何よりだ。そしてエヴァの方はどうなっている」
「既に再起動の用意はできています」
 今度はリツ子が答えた。
「そちらもいいな。最後の問題は彼等だが」
「それなら問題はありませんよ」
 これには加持が答えた。
「もう四人には来てもらっていますから」
「早いわね」
 それを聞いてリツ子が言った。
「もう動いていたなんて」
「待って」
 だがここでミサトが口を挟んだ。
「今四人って言ったわよね」
「ああ」
 加持はそれに頷いた。
「四人だ。それがどうかしたのか」
「とぼけないで」
 ミサトの声がきついものとなった。
「何で四人なのよ。トウジ君はわかるけれど」
「それは私が言うわ」
 リツ子がミサトに対して言った。
「リツ子」
「あの娘・・・・・・。綾波レイのことを言ってるのね」
「ええ、そうよ」
 ミサトはそれに答えた。
「あの娘は確か」
「生きているわ、私と同じで」
 リツ子は一言そう言った。
「それだけ言えばわかるでしょう。私と同じよ」
「そう、彼が」
 ミサトにも事情がわかった。彼女の頭の中にあの紫の髪の男のことがよぎった。
「それならわかるわ。彼にも色々と思うところがあるのでしょうね」
「それが何かまではわからないけれどね」
 これはリツ子とミサトにしかわからない話であった。他の者はそれを聞いて首を傾げていた。だが冬月は何か思うところがあるようであった。
「それではいいか」
 彼はここで他の者に声をかけた。
「葛城三佐は大空魔竜と連絡をとってくれ」
「了解」
「赤木博士と加持君はチルドレン達のところへ」
「わかりました」
「日向ニ尉達はまずはここで以前と同じ業務にあたってくれ。いいな」
「わかりました」
「何か久し振りですね」
「まさかまたロンド=ベルに戻ったりしてな」
「それはあるわね」
 ミサトがそれを聞いて言った。
「いえ、多分そうなるわ」
「何か懐かしいですね」
 マコトがそれを聞いてそう言った。
「甲児君達も元気ですかね」
「また人が増えていたりしてな」
「増えてるでしょうね」
 ミサトはそれを聞いて笑っていた。微笑みであった。
「アムロ少佐に会えたらいいな、早く」
「ミサト」
 それを横で聞いていたリツ子が苦笑した。
「またアムロ少佐なのね」
「だって格好いいじゃない」
 ミサトはそれに対してそう答えた。
「ガンダムに乗ってさ。派手に活躍して」
「確かにあの人は凄いけれどね」
 それはリツ子も認めることであった。
「それでもはしゃぎ過ぎじゃない?アムロ少佐は今宇宙よ」
「あれっ、そうだった?」
「そうよ。まあ機会があれば会えるから楽しみにしてなさい」
「ちょっち期待してるわ」
「そうそう。それで」
 リツ子は話を戻してきた。
「彼等は今何処にいるのかしら」
「大空魔竜?」
「違うわ。シンジ君達よ。彼等もここにいるんでしょう?」
「ああ」
 加持が答えた。
「行くか」
「そうね」
 加持とリツ子はそれで部屋を出た。冬月はそれを見届けた後でミサトに顔を向けた。
「君はエヴァの方に向かってくれ」
「わかりました」
 ミサトは頷いた。そして部屋を出た。
「それでは行って来ます」
「うん、頼む。そろそろ彼等が来る頃だしな」
「ですね。使徒でないだけ幸いです」
「それはどうかな」
 だが冬月はその言葉には懐疑的であった。
「彼等は手強い。大空魔竜隊にどれだけのスーパーロボットが集結しているかは知っているだろう」
「はい」
「それだけの力が必要だということだ。そしてそれだけでは足りない」
「足りませんか」
「おそらくな。ダブリスやゼオライマーだけではないのだ」
「といいますと」
 先程の言葉の続きだろうか。ミサトはそれを聞き眉を顰めさせた。
「バルマーも来る。そして戦いは激しくなっていく」
「それはわかっているつもりです」
「エヴァの戦いは本来の意味に入ったのかも知れない。そう」
 彼はミサトを置き言葉を続けた。その目は遠くを見ていた。
「本来のな」
「・・・・・・・・・」
 ミサトにはその言葉の意味がわからなかた。だがこれはわかった。自分達がまた長い戦いに入るということに。
「わかっていると思うが」
 冬月はまた言った。
「エヴァは四機共大空魔竜隊に合流してもらう」
「そうですか」
 ミサトは真摯な顔で頷いた。
「そして彼等と共に戦って欲しい。おそらくタブリスは君達の前に姿を現わす」
「ですね。彼の性格からすると」
 ミサトも渚カヲル、いやタブリスの性格は知っているつもりである。それに答えたのだ。
「それならば彼等と共にいた方がいい。違うか」
「いえ」
 彼女は首を横に振ってそれを否定した。
「その通りだと思います」
「そういうことだ。無論君達にも行ってもらうぞ」
「やはりそうきますか」
 シゲルがそれを聞いて微笑んだ。
「何か予想通りですね」
「リツ子先輩も一緒ですよね」
「ああ、勿論だ」
 冬月はマコトとマヤにそう答えた。
「赤木博士がいなくては話にならないからな。そして加持君にも行ってもらう」
「彼もですか」
「そうだ。まあここに残るのは私だけになるな」54
 冬月はそう言うと静かに笑った。
「だがそれはそれで構わない。何かあったら連絡してくれればいいからな」
「そうですか」
「それよりだ」
 彼は話題を進めにかかった。
「もうすぐ来るぞ。戦闘用意はいいな」
「はい」
 ミサトは頷いた。
「第一種戦闘配置」
「了解」
 マコト達がそれに頷く。そして彼等も動きはじめた。
「エヴァ、再起動用意」
「エヴァ、再起動用意」
 マヤが繰り返す。それに従い基地の中が次第に騒がしくなっていく。
「戦いがはじまるか」
「はい」
 ミサトはまた頷いた。そして前のモニターを見た。
「恐竜が出ようが鬼が出ようが」
「鬼か」
「はい。鬼でも」
 ミサトはそう言って微笑んだ。
「使徒と同じように来るならば迎え撃つだけです」
「期待してるよ」
「有り難うございます」
 ここで通信が入った。マコトが出る。
「はい」
「私ですが」
「大文字博士ですね」
「ええ」
 二人はやりとりをはじめた。それを受けて彼は冬月とミサトに対して言った。
「大空魔竜、第二東京市に到着するまであと十分です」
「十分か。思ったより速いわね」
「はい。ちなみに敵が到着するのはあと八分です」
「二分か」
「持ち堪えるには充分な時間ね。いつもこうだと有り難いのだけれど」
「ですね。使徒はいつもいきなり来てましたからね」
「それとは違うのが救いといえば救いね。さて」
 ミサトは語気を引き締めた。
「守るわよ、いいわね」
「はい」
 三人は頷いた。そして彼等も迎え撃つ準備を固めた。
「時間は二分、その間だけよ。まあカップラーメンもできないわね」
「了解。じゃあ戦いが終わったらおごって下さいよ」
「そんなのでいいの?」
「俺あれ好きなんですよね」
「シゲル、はカレーだったよな」
「私はシーフードを」
「ええ、わかったわ」
 こうして彼等も戦いに入った。その間に加持とリツ子はシンジ達を迎えに行っていた。
 
 廊下を四人の少年と少女達が続く。彼等は皆それぞれ納得いかないような顔をしていた。
「まさかまたエヴァに乗るなんて」
 中性的な顔立ちの少年、碇シンジは困ったような顔をしていた。エヴァ一号機のパイロットである。彼はどうもまだ吹っ切れてはいないようであった。
「父さんもいなくなったのに。なんでまた」
「あんたほんっとに変わらないわね」
 それを聞いて赤茶色の髪の少女が少し怒った。惣流=アスカ=ラングレーである。エヴァ二号機のパイロットである。
「ロンド=ベルにいて少しはましになってと思っていたのに」
「仕方ないだろう」
 シンジはそれを聞いて少しムッとして言葉を返した。
「そうそう急には変われないんだから」
「甲児さんみたいになればいいでしょう」
「あの人はまた特別だよ」
 シンジはそう言い返した。
「皆あの人みたいになれる筈ないじゃないか」
「じゃあ努力したら!?」
 アスカも負けてはいなかった。
「努力しないと何時まで経ってもそんなままよ」
「そんなままって」
「まあ碇はそれが持ち味やけれどな」
 シンジの横に黒い髪の少年がそれを見て言った。エヴァ三号機のパイロット鈴原トウジである。
「あの時もそれでわしは助かったんやからな」
「トウジ」
「碇、あの時は感謝してるで」
「いや」
 だが彼はトウジの言葉に口を濁した。
「いいよ、感謝なんて」
「何言うとるんや、わしが今こうしてここにおるのは御前のおかげやで」
「それは違うよ。あの時は」
 シンジは言った。
「洸さんのおかげだよ。あの時あの人が間に入ってくれたから」
「まそうやけれどな」
 トウジはそれに納得した。
「けどそれは御前がやりたくなかったからやろ」
「それはそうだけれど」
 彼はエヴァ三号機が使徒に乗っ取られた時危うくエヴァ一号機に三号機ごと破壊されそうになったのである。だがその時洸のライディーンが間に入って止めたのである。その時シンジは何とかして一号機をコントロールしようとした。しかしそれを彼の父碇ゲンドウは操縦を停止させてまでそれを妨害したのだ。その真意は不明であるが。彼はライディーンが間に入った時一言こう言ったという。
「予定が変わったか」
 それだけであった。そしてトウジを何事もなかったようにそのまま三号機のパイロットとした。シンジはその冷酷ともとれる行動に憤りを見せたがゲンドウはやはりそれには動ずることがなかった。
「そのおかげや。わしがこうしてここにおるのは」
「有り難う」
 シンジはそれを聞いて静かにそう答えた。
「そう言ってくれるだけで有り難いよ」
「何や、辛気臭いなあ。こう忍さんみたいにガーーーーーーッとはいけんのかい」
「じゃああんたあんな命令違反ばかりするの!?」
「うっ、それは」
 アスカに突っ込まれ言葉を止めた。
「ま、まあ多少はそうかな」
「あっきれた」
 アスカはそれを聞いてそのまま呆れたような声を出した。
「あんな人を模範にするなんてね」
「何で模範じゃ」
「そうだよ、ちょっとだけ参考にしたらいいかなあ、って程度だろう」
「あの人達は特別なのよ」
 アスカは二人に対してそう言った。
「あんな人達真似するなんてあんた達何考えてるのよ」
「心配ないわ」
 ここで青灰色の髪に赤い目をした少女が静かに言った。
「綾波」
 シンジが彼女に顔を向けてその名を読んだ。彼女の名は綾波レイ、エヴァ初号機のパイロットである。
「もっと凄い人達が出て来るかな」
「あの人達よりってどんなのよ」
「そこまではわからないけれど」
 レイはやはり静かに言葉を続ける。
「宇宙を破壊できるような人が出て来るわ」
「あんたねえ」
 アスカはそれを聞いて口を尖らせた。
「そんなグランゾンみたいな人がいる筈ないでしょーーーが」
「いるわ」
 しかしレイはそれでも言った。
「もうすぐ会えると思うわ」
「まさか」
「そんな凄い人がおったら是非見てみたいわ」
「そうだね。どんな人なのかなあ」
「シンジ、あんたそんなスーパーマンかバットマンみたいな人がいると思ってるの?ほんっとうに子供ねえ」
「アスカだってそう言いながらこの前仮面ライダー見てはしゃいでたじゃないか。一号が格好いいって」
「あら、あたしは二号のファンよ。あの赤い手袋がいいわね。もっとも一番好きなのはX3だけれど」
「まんまやろが」
「私はライダーマンかしら」
「そんなこと言ってる間に着いたよ」
 ここで四人はエヴァに乗る部屋の前に着いた。そしてシャッターを開け中に入る。暗い部屋で加持とリツ子が待っていた。
「四人共久し振りだな」
「加持さん」
 二人を見てまずシンジが口を開いた。
「リツ子さんも。無事だったんですね」
「ええ。色々あってね」
「シナリオが変わってな。ちゃんと足もあるぜ」
「レイ、貴女もね」
「はい」
 レイはリツ子の問いに答えて頷いた。
「あの時のことは謝っても許してもらえないでしょうね」
「あの時のこと?」
 だがレイはその言葉に対して何の反応も示さなかった。リツ子はそれを見て呟いた。
「そう、そこは消されたのね」
「申し訳ないですけど記憶にないので」
「そう、それなら言っておくわ。御免なさい」
「はい」
 レイは頷いた。他の者はそれを見ているだけであった。それが終わると加持がまた口を開いた。
「それで御前さん達に来てもらった理由はだな」
「また使徒でも出たんですか?」
「それもある。まああらかじめ言っておくと渚カヲルが生きていたんだ」
「カヲル君が」
 シンジはそれを聞いて顔を暗くさせた。
「まあな。だがそれだけじゃない。ゼオライマーってやつが出て来るんだ」
「ゼオライマー!?何ですかそれ」
 アスカがそれを聞いて眉を顰めさせた。
「何かロボットみたいな名前やな」
「正解だ。それを何とかしなければならなくなった。まあ他にも色々とややこしいことにはなっているがな。今は」
「そうですね」
 シンジはそれに応えた。今地上も宇宙もどうなっているかは彼等もよくわかっていることだった。
「貴方達にはロンド=ベルに合流してもらううことになるわ。いいわね」
「はい」
 四人はリツ子の言葉に頷いた。リツ子はそれを見て言った。
「あら、案外素直ね」
「あの時から僕も少し変わりましたから」
 シンジはそう答えた。
「カトル君達に会って」
「そういえば前みたいにウジウジしたりはしなくなったわよね」
「シンジもつよおなったっちゅうことやな」
「別にそうは思わないけれど。甲児さんや鉄也さんにも御会いできたし」
「御二人よりもずっと凄い人が出て来るわよ」
「誰なんだい、それは」
 加持はそれを聞いて首を傾げた。
「藤原中尉か?彼も確かにあれだが」
「いえ、違います」
 しかしレイはそれに対して首を横に振った。
「もっと凄い人です」
「想像がつかないわね」
 リツ子も首を傾げていた。
「ロンド=ベルは濃いメンバーが多かったけれど。彼等より上となると」
「あ、気にしなくていいですから」
 ここでアスカが言った。
「彼女さっきも同じこと言いましたから。特に気にする必要ありませんよ」
「だったらいいけれど」
「まあ素手で使徒を倒すとかそんなことをしない限りはいいさ。BF団みたいにな」
「BF団ですか」
「ああ。彼等のことはちょっとわからない。何でもバベルの塔でかなり激しい戦いがあったそうだがな。詳しいことは俺も知らないんだ」
「けれど大作君は無事なんですよね」
「そうらしいがな。とりあえず生きているってことは勝ったんだろう」
「そうですか、よかった」
 シンジはそれを聞いて微笑んだ。
「彼は自分のお父さんとの約束を果たせたんですね」
「だろうな」
「だったらいいです」
 シンジはそう言って頷いた。加持とリツ子はそれを見てから言った。
「それで四人共早速だけれど」
「ええ。じゃあ行きます」
「それではお願いするわね」
「はい」
 こうして彼等はそれぞれのエヴァに乗り込むことになった。まずは初号機が稼動する。そして他の三機も続く。こうして四機のエヴァが稼動した。彼等は第二東京市に立った。彼等にミサトから通信が入った。
「四人共久し振りね」
「ミサトさん」
「まさかまた会うことになるとは思わなかったけれど。これも運命ってやつかしら」
「運命ですか」
「そうね。それでね」
「はい」
「ええと、この前の話だけれどね」
 ミサトはシンジをモニター越しに見て何処か顔を赤らめさせていた。
「その、ね」
「何かあるんですか?」
「いえ、いいわ。何でもないの。御免なさい」
「はい」
 彼はミサトが何を言いたいのかわからなかった。ただキョトンとするだけであった。ミサトは今度は四人に対して言った。
「話は聞いているわね」
 顔が引き締まった。
「はい」
「敵が来るわよ。それもかなりの数が」
「敵?今度は何なんですか」
「恐竜帝国かミケーネちゃうか」
「ビンゴ、今わかったわ」
 ミサトがここで言った。
「ミケーネよ。正解だわ」
「あまり嬉しくないわね、それって」
「言うんやなかったなあ」
「来たわよ」
 ぼやく二人に対してレイは冷静なままであった。見れば西の方に異様な姿をした者達が姿を現わした。その先頭には恐竜の様に巨大な姿をした巨人がいた。
「フフフ、出て来たなエヴァンゲリオンよ。わしはミケーネ帝国七大将軍の一人妖爬虫将軍ドレイドウだ」
「自分から名乗ってくれるなんて有り難いわね」
「フン、余裕だな子供よ」
 ドレイドウはアスカに対してそう言葉を返した。
「その余裕が何処まで続くかな」
「あんたみたいな変なのに言われたくないわよ」
 だがアスカは負けてはいなかった。そう言い返す。
「よくもまあ毎度毎度次から次に出て来るわね。ホンットに」
「毎度毎度だと!?」
「そうよ」
 アスカは言った。
「ドクターヘルの次はあんた達と恐竜帝国だなんて。ちょっとはこっちの都合を考えてよね」
「馬鹿を言うな」
 ドレイドウはそれに対して言った。
「我々が何故貴様等の都合など考えねばならんのだ」
「それもそうだね」
 シンジがそれを聞いて納得したように頷いた。
「あちらにはあちらの都合があるんだし」
「ちょっと待ちなさいよ」
 アスカは今度はシンジにくってかかってきた。
「何であんたがこの連中の肩を持つのよ」
「別に持っちゃいないよ。けれど僕達にも僕達の都合があるんだし」
「それはわかってるわ」
「あっちにはあちいの都合があるよ。それは事実だよ」
「そんなこと言うてもはじまらへんけれどな」
「けれど事実ね」
「綾波まで」
 アスカはレイの言葉を聞いてさらに顔を顰めさせた。
「そんなこと言ってる暇じゃないでしょーーが」
「アスカの言う通りやな。シンジ、ここはやらなしゃあないで」
「それはわかってるよ」
 シンジはそれには応えた。
「敵も来てるしね、もう」
 彼等は既に攻撃に入っていた。ドレイドウの指示の下機械獣を動かしてきたのである。
「それじゃあ行くか」
 そしてポジトロンライフルを構えた。他の三機のエヴァもそれに続く。ここでミサトからまた通信が入った。
「戦い方は覚えてるわよね」
「勿論」
 四人はそれに応えた。
「アンビリカルケーブルのことは忘れないでね。そして四機一組で戦いなさい。いいわね」
「ちょっと待って下さい」
 アスカがそれを聞いてミサトに対して言った。


[270] 題名:第十六話 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月20日 (月) 00時31分

             シュウ、再び
「サフィーネ」
 あの神殿の一室で紫の髪をしたあの男が赤い髪の女に声をかけていた。
「はい」
 その女はそれに答えた。整った顔に異常に露出の高い服を身に纏っている。一見すると高貴な雰囲気が漂うがすぐにそれは何かしら危険な香りに変わる。そうした妙な雰囲気を持つ女であった。
「ラングランとシュテドニアスの戦いはどうなっていますか」
「はい」
 彼女はそれを受けて話しはじめた。
「既に戦局は決しています。ラングラン軍はシュテドニアス軍を国境にまで追い詰めています」
「やはり。戦力差は如何ともし難かったようですね」
「それにシュテドニアス軍内部の分裂もあるようですわ」
「ほう」
 紫の髪の男はそれを聞いて興味深そうに声をあげた。
「ロボトニー元帥が更迭されたのは御存知でしょうか」
「そうらしいですね、ゾラウシャルド大統領との対立の結果だとか」
「はい、その結果軍では強硬派が実験を握りました。その代表がラセツ大佐です」
「ラセツ?ああ、あの時の」
 彼はそれを聞いて何かを思い出したように呟いた。
「彼がですか。そしてどうなりましたか」
「前線に戦力を集結させております。ラングランと決戦を挑むつもりのようです」
「それはまた随分強気ですね。戦力はあるのですか、今のシュテドニアスに」
「国内に残っている全ての戦力を動員するようです。その中には変わった魔装機もあります」
「変わった魔装機」
「はい。何でもバイラヴァというようです。それで今の戦局を挽回するつもりのようです」
「シュテドニアスも後には引けないようですね。しかし流れはもう決まっています」
「はい」
「時が来ました。サフィーネ」
 彼はここであらためて彼女の名を呼んだ。
「あれの準備はもう整っておりますか」
「何時でも」
 彼女は妖艶に微笑んでそう答えた。紫の男もそれを受けて笑った。
「ならばよいです。では行きましょう」
「はい」
「モニカもね。宜しいですか」
「・・・・・・わかりました」
 彼女はその名が出ると一瞬言葉を詰まらせた。だが心の中にある感情を押し殺してそれに応えた。男はそれを知ってか知らずか彼女に対してまた言った。
「それでは行きますよ」
「はい」
 二人は部屋を後にした。そして何処かへと姿を消したのであった。

 マサキ達はラングランとシュテドニアスの境に来ていた。そこにシュテドニアスの最後の防衛ラインがあるのだ。彼等はそこに向かって進撃していたのだ。
「さて、と。そろそろだな」
 軍の先頭には魔装機やオーラバトラーがいた。彼等は軍の先陣を務めていたのだ。
「シュテドニアス軍が出て来るぜ。皆用意はいいか」
 マサキが他の者に対してそう問うた。その横にはヴァルシオーネがいた。
「何時でもいいよ、腕が鳴るねえ」
「リューネは何時でもそう言うな」
「そうかなあ。あたしはそうは思わないけれど」
「いや、前にも言ってたぜ。まあそれはいいや」
 マサキはここで視線を前に戻した。
「それよりも・・・・・・来るぜ」
「ああ、わかってるよ」
 リューネはそれに頷いた。そして彼女も前を見据えた。
「皆、行くよ」
「了解」
 魔装機とオーラバトラー、そしてゴーショーグンはそれぞれ散開した。そして敵に向かう。その後方にはグラン=ガランとゴラオンがいた。二隻の戦艦も戦闘態勢に入っていた。
 シュテドニアスの魔装機が来た。彼等は空を飛びサイバスター達に迫る。だがここでサイバスターがファミリアを放った。
「クロ、シロ、行け!」
「あいよ、マサキ」
「おいら達に任せとくニャ」
 二つのファミリアがまず敵を一機撃墜した。それを合図にラングラン軍は一斉に攻撃を開始した。だがシュテドニアス軍は数を頼んで彼等に迫る。だがここでオーラバトラーが前で出て来た。
「やるかよっ!」
「いっけぇぇぇぇぇっ!」
 チャムが叫ぶ。ショウのビルバインは抜いた剣を真一文字に振り下ろした。それでシュテドニアスの魔装機を両断した。
「うわああああああっ!」
 両断されながらもパイロットは何とか脱出した。そして墜落する機体から逃げる。彼は何とかそこから逃げ出すことに成功した。
「助かったみたいだな」
 ショウはそれを見て少し安堵した顔になった。
「やっぱり死んじゃうと後味悪いもんね」
「ああ」
 チャムの言葉に頷いた。
「戦争だけれどな。それでも死ぬより死なない方がいいさ」
「うん、そうだね」
「ヘッ、そんな悠長なこと言ってる場合じゃねえぜ、ショウ」
 だがここで隣に来たトッドがそう言った。
「また来るぜ、敵に情をかけるよりこっちが生き残るのを優先させな」
「トッド」
「トッドの言う通りよ、ショウ」
 ここでマーベル達もやって来た。
「今は敵を倒すことだけを考えましょう、戦争なんだから」
「わかってる」
 ショウはそれに答えた。そして敵をまた一機撃墜した。今度はオーラショットであった。
「これでどうだ」
「そうよ、それでいいの」
 マーベルはそれを見て満足したように頷いた。
「行くわよ」
「ああ」
 マーベルはショウに前に出るように言った。ショウはそれに従い前に出る。そして敵をまた一機葬った。今度は剣で斬り落としたのだ。
「西部の姉ちゃんもやるねえ」
「トッド、貴方もよ」
 だがマーベルはクールにトッドに対してもそう言った。
「敵が怯んだわ、今がチャンスよ」
「了解、じゃあ行くか」
「ああ」
 オーラバトラー達は前に出た。それに魔装機達も続く。ゴーショーグンもその中にいた。
「真吾、あたし達も行くわよ」
「真打ち登場ってね」
「よし」
 彼はレミーとキリーの言葉を受けて動いた。ゴーショーグンの手にサーベルが宿る。
「ゴースティック!」
 それでもって周りにいるシュテドニアス軍の魔装機を切る。そして前へと出た。
「あのでかいのを先に倒せ!」
 彼等は目標をゴーショーグンに定めた。忽ち数機がやって来た。だが真吾達はそれでも冷静さといつもの調子を捨て去ってはいなかった。
「来たわよ」
「ここは一つ大きいのといきますか」
「よし」
 真吾は頷いた。そしてゴーショーグンの全身にエネルギーを溜めた。
「行け・・・・・・」
 ゴーショーグンからエネルギーが矢の様に放たれる。そしてそれは一斉にその数機の魔装機に向かった。
「ゴーフラッシャーーーーーーッ!」
 それで以って魔装機達を撃ち落とした。それからサイバスター達と合流した。彼等は退くシュテドニアス軍に対してさらに攻撃を加えていった。
 戦いはラングラン軍が優勢であった。彼等は先陣のみでシュテドニアス軍の主力部隊を相手にし、十二分に戦っていた。だがここでシュテドニアス軍も反撃に出た。
「おっと!」
 マサキは地上からの攻撃をかわした。そして下にいる敵に目をやった。
「チッ、またあのデカブツがいるぜ」
 見ればそこには移動要塞がいた。攻撃はその要塞からのものであった。それも一両ではなかった。
 何両もの移動要塞がそこにいた。彼等は陣を組みラングラン軍に対して攻撃を仕掛けていた。それを受けてまず彼等は移動要塞の射程外にまで退いた。その間にシュテドニアス軍も退いていた。
「さて、どうするかだな」
 マサキは下にいる移動要塞の部隊を見ながら言った。
「合計で七両か。また大勢やって来たな」
「それだけシュテドニアスも必死だということだ」
 ヤンロンは落ち着いた声でそう答えた。
「彼等も後がない。思えば当然のことだな」
「けれどこのままじゃあたし達も進めないよ。どうするの?」
 ミオがここでそう尋ねた。
「何とかしなくちゃいけないのはわかっているけれど」
 テュッティの声は考えるものであった。
「七両もいるとね。やっぱり難しいわ」
「いや、そうでもない」
 ここでタダナオがそう言った。
「奴等の陣を見てくれ」
 彼は他の者に移動要塞の陣を見るように言った。皆それに従い下にいる移動要塞を見下ろした。
「円陣を組んでいるな。一両を中心として」
「ええ」
「互いに一定の距離を置いて。そこに付け目がある」
「付け目!?」
「ああ」
 タダナオはそれに対して頷いて答えた。
「付け目なんだ。まずはそれぞれ周りにいる六両の移動要塞を狙う。魔装機神とヴァルシオーネでな」
「俺達でか」
 マサキがそれを聞いて言った。
「そうだ、そして残る一両は俺がやる。ここは任せてくれ」
「いいのか?」
「何、心配はいらないさ」
 彼はそう答えて不敵に笑った。
「それよりも移動要塞の護衛にさっき退けたシュテドニアスの魔装機がやって来ている。他の魔装機とオーラバトラーはそっちを頼む」
「了解」
「オーラシップの護衛もな。そしてゴーショーグンだが」
「やっと出番といったところか」
「ああ。中央の要塞を頼む。派手にやってくれ」
「了解」
「派手なのは得意だぜ」
 彼等もそれに同意した。これで作戦は決まった。
「じゃあ行くぜ」
「ああ」
「上は頼んだぜ」
「任せときな」
 シモーヌ達がそれに答える。
「だから安心してあのデカブツをやっちゃいな。いいね」
「ああ、わかった」
 魔装機とオーラバトラー達は動きはじめた。まずはサイバスター達が移動要塞に向かった。
「一撃でやるぜ!」
「よし!」
 サイバスターとヴァルシオーネ、そして他の三機の魔装機神、ジェイファー、ゴーショーグンが動いた。彼等はそれぞれの移動要塞に向かって行く。
「行っけええええええっ!」
 マサキが叫ぶ。サイバスターの胸にプラーナが集中される。
 他の機体もであった。その全身に力が篭る。その上ではもう戦いがはじまっていた。
「これでどうだい!」
「火気、金に克ち地を覆え!」
「ロキの息子よ、汝の敵を貪れ!」
「これならどう!?」
 魔装機神はそれぞれの攻撃に入った。そしてそれをそれぞれの前にいる移動要塞に向けて一斉に放った。
「コスモノヴァ!」
「円月殺法!」
「火風青雲剣!」
「フェンリルクラッシュ!」
「カッシーニの間隙!」
 移動要塞が炎に包まれ、氷の牙に襲われる。両断され気を叩きつけられた。そして五つの爆発が起こった。
「よし!」
 見れば中央の移動要塞もであった。ゴーショーグンのゴーフラッシャーにより完全に破壊されてしまっていた。
「残るは」
 タダナオの受け持ちの移動要塞だけであった。彼は移動要塞に照準をあてていた。
「よし、ここだ!」
 彼はハイパーリニアレールガンを放った。それで移動要塞のエンジンを貫いた。急所を貫いたのだ。
 それで移動要塞は終わりであった。動きを止めエンジンが爆発した。そして炎の中に消えていったのであった。
「これで終わりか」
「ああ、どうやらそうみたいだな」
 移動要塞は全て破壊された。そして上空での戦いももう終わっていた。シュテドニアス軍はもう国境の向こうへと撤退してしまっていた。
「これでこの戦いも終わりだな」
「何かあっという間だったな、王都解放からは」
 マサキは少し感慨を込めてそう言った。
「あんたはその頃からの参加だったのな」
「ああ」
 タダナオはマサキにそう答えた。
「いきなりこっちに来たわりにゃ凄い慣れてるよな」
「まあ前からジェガンとかに乗ってたからな。特に焦ることはなかったよ。ただな」
「ただ、何だ?」
「いや、まさかオザワの奴までこっちにいるとはな。これには驚いたよ」
「ああ、あいつか」
 マサキはそれを聞いて頷いて答えた。
「まあここは地上から人を召還することが多いからな。そういうこともあるだろ」
「そういうものか」
「そうさ、まああいつも元気でやってるんだろう。問題はないさ」
「そうだな、今は敵味方だが」
 タダナオはそれを聞いてそう言葉を返した。
「また会うこともあるだろうさ」
「そうだな、だがそれは今だ」
 するとここで声がした。タダナオのよく知るあの声であった。
「噂をすれば!」
 彼は上を見上げた。するとこちらにやって来る一機の魔装機がいた。ジンオウである。
「よう、決着をつけに来てやったぞ」
「オザワ」
「この前の借りを返させてもらうぜ、オザワ」
 モニターに彼の顔が出た。不敵に笑っている。
「ミレーヌちゃんとあのおばさんのどっちが上かってことをな」
「おばさんだと!?」
 タダナオはそれを聞いて激昂した。
「ミンメイさんはおばさんじゃないぞ!」
「じゃあ年増だな」
「年増・・・・・・。御前はどうやらあの人に対して言ってはならないことを言ってしまったようだな」
「それはこっちの台詞だ」
 今度はオザワが激昂した。
「御前はあの時何て言った」
「あの時!?」
「そうだ、ここへ来る直前だ。ミレーヌちゃんをガキだと言ったな」
「ああ、言ったぜ」
 タダナオはおくびもなくそう言葉を返した。
「他にどう言えばいいんだよ」
「ミレーヌちゃんはガキなんかじゃない!」
 彼はここでこう断言した。
「あの歌唱力と美貌が御前にはわからないのか!」
「まだガキだろうが、隙だらけだ!」
「またガキと言ったな!」
「ああ、何度でも言ってやる!」
 売り言葉に買い言葉、二人はそう言葉を返し合った。
「ガキだってな。あんな牛乳の匂いが残ってるのの何処がいいんだ!」
「あれは若さだ!」
 オザワはそう力説した。
「あのミンメイなんかもうそんなものないだろうが!」
「ミンメイさんの魅力はあの成熟にある!」
 タダナオもやはり負けてはいなかった。
「ミレーヌにはそんなものまだないだろうが!」
「それはこれから身に着けるものだ」
 彼はそう反論した。
「だがミンメイはこれからお婆ちゃんになっていくだけだがな」
「貴様・・・・・・」
「やるか」
「そのつもりで来たのだろう」
「フン、その通りだ」
 二人は互いに睨み合った。タダナオはジェイファーを飛び上がらせた。そして対峙する。
「行くぞ」
「受けて立とう」
 そして二人は戦いをはじめた。他の者が助太刀に動く前にタダナオは言った。
「手を出さないでくれよ」
「あ、ああ」
 皆それに従った。あえて周りで見守るだけであった。
「これは俺とこいつの勝負だからな」
「ケリをつけてやるぜ」
 剣を引き抜き斬り合う。彼等は互いに一歩も引かなかった。
 二人が戦いをはじめている間にまた影が来た。今度は異様に巨大な影であった。
「ん!?」
「何だこの禍々しいプラーナは」
 マサキは何かよからぬものが来たのを感じた。すると空に巨大な赤い魔装機が立っていた。何やら長い尾まで持っている。かなり異様なシルエットであった。
「何だあれは」
「バイラヴァという」
 その赤い魔装機から声がした。
「バイラヴァ」
「そうだ、我がシュテドニアスの切り札とも言える魔装機だ。我が国がその総力を挙げて作り上げた究極に魔装機がこのバイラヴァだ」
「バイラヴァ・・・・・・。ヒンドゥーでいう破壊の神シヴァの化身の一つであったな」
「その通り」
 男はティアンの言葉に答えた。
「シュテドニアスの守り神でありラングランを破壊する神なのだ。このラセツ=ノバステと共にな」
「ラセツ」
「確かシュテドニアスの大佐だったな、特殊部隊の」
 ファングがそれを聞いて言った。
「確かゾラウシャルドの腹心だった筈だが」
「ほう、よく知っているな」
 ラセツはそこまで聞いてそう答えた。肯定の言葉であった。
「その通りだ。如何にも私はシュテドニアス軍特殊部隊の者だ」
「それが何故ここに」
「君達の存在が邪魔だからだ」
 彼は周りを取り囲みだしたラングランの魔装機達を見回しながら言った。
「邪魔?」
「そうだ、私の野望にな」
 今度はザッシュに対してそう答えた。
「我がシュテドニアスがこのラ=ギアスの覇権を握る為にはな。ラングランの存在は邪魔でしかないのだ」
「そしてそのラングランにいる俺達こそがその最大の障壁だと言いたいのだな」
「否定はしない」
「クッ」
 マサキはそれを聞いて歯噛みした。
「こうまであからさまに野望を剥き出しにしてくれるとはな」
「隠す必要もないからだ」
 ラセツは冷たい声でそう言い放った。
「君達はどちらにしろここに死ぬのだからな。このバイラヴァによって」
「できるとでも思ってるのかよ、このサイバスターを」
「如何にも」
 しかし彼の態度は変わらなかった。
「このバイラヴァに不可能はないからな」
「へっ、面白え、じゃあやって見せてもらおうじゃねえか」
「フン」
 ラセツは冷たく笑った。そしてバイラヴァから何かを放った。
「ムッ!」
 皆それを見て一斉にバイラヴァから離れた。バイラヴァを中心に黒い瘴気が辺りを支配した。
「フッ、かわしたか。やはりビッグバンウェーブはかわすか」
「当たってたまるかよ」
 マサキはここで彼にそう悪態をついた。
「そんなのでこのサイバスターがやられるとでも思っているのかよ」
「確かにな。それではこれではどうかな」
 剣を抜いた。不自然なまでに巨大な剣であった。魔装機の半分程あった。
「これを受けて無事でいられるかな」
「ラセツさんよお」
 そんな彼にマサキはあえて悪びれた声をかけた。
「そうそうあんたの思い通りにいくと思ったら大間違いだぜ」
「それが上手くいくのだよ、マサキ=アンドー」
「俺の名を」
「サイバスターのパイロット。嫌でも名前は知っている」
 彼はそう言葉を返した。
「君には我が軍も随分悩まされたものだ」
「侵略してきたのはそっちだろうが、勝手なこと言ってるんじゃねえ」
「確かにな。だがそれは我々にとっては当然のことだ」
「何!?」
 マサキはそれを聞いて眉を上げた。
「それはどういう意味だ」
「ラングランはかってこのラ=ギアスの約八割を占めていた」
 ラセツはここでラ=ギアスの歴史について語りはじめた。
「そして今もこのラ=ギアスにおいて第一の大国だ。それが脅威と言わずして何というのだ」
「だからといって侵略を正当化していいのかよ」
「厳密に言うと我々のとった行動は侵略ではない」
「何!?」
「自衛の為の戦争だ」
 そしてそう言い切った。
「自衛だと、馬鹿を言うのも大概にしやがれ」
 マサキはそれを聞いて激昂した。
「御前等のやったことの何処が自衛なんだ」
「敵を倒すのだ。やられる前にな」
「そんな手前勝手な論理が通用するか!」
「する」
 しかしラセツも負けてはいなかった。そう反論した。
「勝利者ならばな。歴史とはそういうものだ」
「手前!」
「そして今私が勝利者となる。その意味はわかるな」
 そう言うと凄みのある笑みを浮かべた。そしてマサキ達を見回した。
「さらばだ、ラングランの者達よ。貴様等の名は歴史に永遠に刻まれるだろう。敗北者としてな」
「敗北者ですか」
 それに応える者がいた。
「そう、敗北者だ」
 ラセツはそれに返した。だがここで彼は奢っていた。バイラヴァの性能に。それが故にその声の主が誰なのか確かめることを怠っていた。そしてその声の主が今現われた。
「それは貴方のことですね。ラセツ=ノバステ」
「それはどういう意味だ」
「今わかりますよ」
 目の前に黒い光が現われた。そしてその中から青いマシンが姿を現わした。背中に光を背負う角張った禍々しさと神々しさを共に漂わせた威圧的な外見のマシンであった。
「馬鹿な、あれは」
 ヤンロンがそのマシンを見て声をあげた。
「あの時に滅んだ筈」
 テュッティもであった。彼女の声は震えていた。
「ちょっと、これどういうことよ!」
 リューネが叫ぶ。彼女達は今目の前に現われた青いマシンの事をよく知っていたのだ。
「まさか生きていやがったとはな」
 マサキは青いマシンを見据えて言った。
「シュウ、これは一体どういうことなんだ。説明してもらおうか」
「おや、マサキではありませんか」
 その紫の髪の男はそれに応えて顔を彼に向けた。彼がシュウ=シラカワであった。本来の名をクリストフ=グラン=マクゾート、ラングランの王族でもある天才科学者である。グランゾンの開発者兼パイロットでありその真の姿であるネオ=グランゾンのパイロットでもある。
「お久し振りですね。元気そうで何よりです」
 彼は微笑んで彼にそう答えた。
「やはりここにいましたか」
「どうやら何もかも知っているみてえだな」
「何をですか」
 シュウはここであえてとぼけてみせた。それはマサキにもわかった。
「とぼけても無駄だぜ」
「おやおや」
「また何か企んでいるんだろうがそうはいかねえぜ」
「マサキ、貴方は変わりませんね」
「何!?」
「もう少し落ち着かれてはどうですか。まさか私が今ここで貴方達を敵に回すとでも思っているのですか?」
「何しらばっくれていやがる。あの時のこと忘れたとは言わせねえぞ」
「あの時はあの時です」
 シュウはしれっとした態度でそれに答えた。
「今私は少なくとも貴方達と戦う為にここに来たのではありません」
「何っ!?」
「私が今ここに来た目的は・・・・・・」
 だがここでラセツが話に入って来た。
「待て!」
「ん!?」
 シュウはそれに気付いて彼に顔を向けた。
「おや、貴方は」
「グランゾン・・・・・・シュウ=シラカワ、いやクリストフ=グラン=マクゾートだな」
「懐かしい名前ですね」
 シュウはラセツの言葉にそう嘯いてみせた。
「一体何の御用ですか」
「それはこちらの台詞だ」
 ラセツは彼を見据えてそう言った。
「何の目的でここに来た」
「貴方には関係のないことです」
「どういうことだ」
「少なくともシュテドニアスにはね。所詮貴方達はこの話では部外者に過ぎないのですよ」
「部外者だと!?」
「ええ」
 シュウは答えた。
「私がここに来た話にはね。それに貴方は今ここでいていいのですか?」
「どういうことだ」
「シュテドニアスで何が起こっているか御存知ないのですか」
「シュテドニアスで」
「はい。たった今ゾラウシャルド大統領の弾劾裁判が決定しましたよ。今までの強引なやり方が問題となりましてね」
「何っ!?」
 流石のラセツもそれを聞いて驚きの声をあげた。
「出まかせを言うな」
「私が出まかせを言うような人間だとも?」
 シュウはそれにそう言葉を返した。そうであった。シュウは決して嘘や出まかせの類を言うような男ではないのだ。それは広く知られていた。例え背徳者であってもだ。
「クッ・・・・・・」
「当然貴方も御自身がどうなるかおわかりの筈です。もう戦争なぞしている場合ではないでしょう」
「だからといって私が諦めるとでも思っているのか」
「まさか」
「そうだろう、その通りだ」
 ラセツはニヤリと笑ってそう言葉を返した。凄みのある笑みとなっていた。
「例え大統領の後ろ楯がなくとも今の私にはこれがある」
「そのオモチャがですか?」
「馬鹿を言うな」
 ラセツはそう言ってシュウを睨み返した。
「このバイラヴァを馬鹿にすることは許さんぞ」
「バイラヴァ、ですか」
 シュウはその名を聞いて何か言いたげに呟いた。
「破壊神シヴァの仮の姿の一つの名でしたね、確か」
「如何にも」
「それでしたら私にも考えがあります。何故なら」
 シュウの顔に凄みが走った。先程までの涼しげな微笑が消えていた。
「このネオ=グランゾンも破壊神シヴァが本質なのですからね。フフフフフ」
「何が言いたい」
「何が?そのままですよ」
 シュウは涼しげな微笑を戻してそう言葉を返した。
「破壊神はこの世に一つで充分なのですよ。そう」
 言葉を続けた。
「一つだけね」
「まさか」
 それを聞いたウェンディが眉を顰めさせた。彼女は今グラン=ガランの艦橋にいたのだ。
「ウェンディ殿、どうかなされたのですか?」
 そこにシーラが声をかけた。
「いえ、何も」
 だが彼女は言葉を濁した。言うわけにはいかなかったからだ。
(破壊神が一つということは)
 彼女はネオ=グランゾンを見ながら心の中で呟いていた。その顔からは血の気が引いていた。
(クリストフ、貴方はまさかあの神とは既に・・・・・・)
 しかしそれは彼女の憶測に過ぎないことはわかっていた。ウェンディはただことの成り行きを見守るしかできなかったのであった。シュウはその間にも言葉を続ける。
「シヴァの本質は破壊だけではないのですよ」
「何が言いたい」
「破壊の後には何がありますか」
 シュウはラセツに問うた。
「・・・・・・・・・」
 だがラセツは答えられなかった。シュウが自分に対して何を言いたいのかわからなかったのだ。
「おわかりにならないようですね。貴方はその程度だということです」
「何!」
 ラセツはそれを聞いて激昂した。しかしシュウは相変わらずクールなままであった。
「貴方は軍人でしかありません。それも悪い意味で。だから破壊の後には何があるのかおわかりになられないのですよ」
「まだ言うか」
「はい。破壊の後にあるのは」
 シュウは微笑んだまま言った。
「創造と調和です。このネオ=グランゾンの力はシヴァそのものであるならば」
「それ以上言うことは許さん!」
 プライドを傷つけられたと感じたラセツは剣を振り下ろした。そしてそれでネオ=グランゾンを斬ろうとした。だがそれはあっけなくかわされてしまった。
「おやおや、無粋な」
 シュウはそれをかわして言った。
「しかし私に剣を向けた御礼はしなければなりませんね」
 彼はそう言うと間合いを離した。そして胸に黒いものを集中させる。
「縮退砲・・・・・・発射!」
「あれを使うのか!」
 マサキはそれを見て思わずそう叫んだ。彼はかってネオ=グランゾンと戦ってきた。だから縮退砲の力もよく知っているのであった。
 それは黒い巨大なブラックホールであった。グランゾンの武器でるブラックホール=クラスターのそれよりも遥かに巨大で禍々しかった。それは将に黒い破壊そのものであった。
 それがバイラヴァを直撃した。そしてラセツはその中にバイラヴァと共に消え去ってしまった。後には何も残ってはいなかった。
「愚かな。所詮はその程度だったようですね」
 シュウはラセツがつい先程までいた空間を見てそう呟いた。そこには何の感情もなかった。
「シュウ」
 マサキがここで彼に対して言った。
「それで御前の用事ってのは何なんだ」
「おお、忘れていました。それですが」
「ああ」
「マサキ、今地上で何が起こっているか御存知ですか」
「地上で!?」
「はい」
 シュウは彼に対して頷いた。
「今地上、そして宇宙は多くの勢力により争いが行われています」
「どうやらそうらしいな」
「その中にはこの地球を滅ぼそうとしている者達もおります」
「恐竜帝国とかミケーネとかだろ。あとバルマーもまた来ているらしいな」
「はい」
「俺達にそいつ等と戦って欲しいっていうんだろ、御前は」
「ご名答」
 シュウはマサキにそう言葉を返した。
「相変わらず勘がいいですね、その通りです」
「ヘッ、お世辞はいらねえぜ。背中が痒くならあ」
「ふふふ」
「それでどういうつもりなんだ、御前が僕達の前に姿を現わすなんて」
 ヤンロンが彼に尋ねた。
「何を考えているんだ」
「ですから地上に行って頂きたいと」
「あれ、確か魔装機って地上に介入できないんじゃなかったっけ?」
「普通はね」
 テュッティはミオにそう話した。
「けれど事情にもよるわ。クリストフ、貴方がそう言うからにはそれなりの事情があるのでしょう」
「ええ」
 シュウはテュッティに対してそう頷いた。
「丁度喧嘩も終わったようですし」
 見ればタダナオとオザワの戦いも終わっていた。結局決着はつかなかった。
「チッ、今日のところはこれでお預けだぜ」
「ああ、またの機会だな」
「お待ちなさい」
 シュウはここで飛び去ろうとするオザワのジンオウを呼び止めた。
「貴方にもご同行願いますよ」
「あれっ、あんた」
 オザワはその声を聞いて顔を向けた。
「知ってるのか?」
「ああ」
 彼はタダナオにそう答えた。
「僕をここに召還した人だよ。何でここに?」
「事情がありましてね」
 シュウは彼にそう答えた。
「貴方にも地上に行って頂きたいのですが」
「地上に、ねえ」
「如何ですか。といっても残念ながら選択権はないのですが」
「わかってるさ」
 彼はシュウにそう答えた。
「こちは呼ばれた身だからね。呼び出しにはまた従うしかないさ」
「ご理解頂き感謝します」
「それで何時地上へ行くんだい?こっちはもう用意は出来ているけれど」
「暫しお待ち下さい」
 シュウはここで周りにいる者に対しそう述べた。
「今地上への道を開けますので」
 ネオ=グランゾンの両手を天に掲げさせた。そして前に巨大な黒い穴を生じさせた。
「あれは・・・・・・」
「オーラロード!?」
 それを見たショウが思わず声をあげた。
「原理的には同じです。ただこれはこのネオ=グランゾンの力により作り上げたものですが」
「相変わらずとんでもねえ力だな」
「ふふふ」
 シュウはあの涼しげな微笑みで笑った。
「それでは行きますか」
「待て」
 だがここでヤンロンが止めた。
「フェイル殿下はどう考えておられるのだ」
「私なら構わない」
 ここで各魔装機のモニターにフェイルが姿を現わした。
「殿下」
「シュテドニアスの脅威もこれで消えたしな。今あちらから講和の申し出があった」
「そうなのですか」
「はい。ですからこちらは心配いりません。今ある戦力で何があっても対処が可能です」
 シーラとエレにそう答えた。
「それよりもだ」
 彼はここでマサキ達に話を戻した。
「クリストフ・・・・・・いやシュウの言葉は本当だ」
「貴方もどうやら感じておられるようですね」
「ああ。今地上では大変なことが起ころうとしている。それは地上だけには留まらない」
「まさか」
「そのまさかだ。宇宙にも、そしてこのラ=ギアスにもその影響が及ぶ。それは何としても止めなければならない」
「それは一体何なのです!?ラ=ギアスにまで影響を及ぼすなんて」
「すぐにわかることですよ、それは」
 ザッシュにシュウがそう答えた。
「すぐにね」
「相変わらず勿体ぶってるわね」
「一度死んでもそれは変わらないようだな」
 ベッキーとアハマドがそれを見て言った。
「まあいいんじゃないですか。人それぞれだし」
「あんたが言うと説得力あるね」
「そうでしょうか」
 いつもと変わらないデメクサにシモーヌは少し呆れていた。シュウはその間にも言葉を続ける。
「さて、フェイル殿下からの許可は頂きました」
「かなり強引なような気もするがな」
「マサキが言っても説得力ないよ」
「リューネだったそうだろうが」
「えっ、そうかなあ」
「話は置いておいてだ」
 ヤンロンが二人を制止して言った。
「それでは行こう。だがクリストフ」
「何でしょうか」
「僕は御前を信用したわけじゃない。それはわかっているな」
「ええ、勿論」
 シュウはそれに答えた。
「だが今はそれよりも地上の、そしてラ=ギアスのことの方が重要だ。これは魔装機のパイロットとしての義務だ」
「それでも構いませんよ。さあ、道は開いております」
「ああ」
「行かれなさい。そして貴方達の目的を果たされるのです」
「言われなくてもな。行くぜ、皆」
「おう!」
 皆マサキの言葉に頷いた。そしてネオ=グランゾンの作った道に入った。オーラバトラーやオーラシップも入った。実に巨大な道であった。
「じゃあ俺達も行くか」
「こんなの使わなくてもビムラーで戻れるんだけれど」
「まあこれはお約束ってことだ。あっちにはケン太もいるしな」
「そうだな。元気にしているかな」
「案外OVAに叱られてたりして」
「それはいつものこと」
 ゴーショーグンの面々も入った。こうして魔装機とオーラバトラー、そしてゴーショーグン達が地上に向かった。だがまだ二人残っていた。
「貴方達は行かれないのですか?」
「いや」
 そこにはタダナオとオザワがいた。彼等はまだ残っていたのです。
「当然貴方達にも行って頂きたいのですが」
「それはわかっているさ。ただな」
「ただ・・・・・・何でしょうか」
「シュウ=シラカワだったな」
「ええ」
 シュウはタダナオの問いに頷いた。
「あんたが何者かはどうでもいい。それに悪いことを考えているわけでもないようだしな」
「それはどうでしょうか」
 だがシュウはここであえてぼかした。
「冗談はいい。ただな、気になるんだ」
「何がですか」
「あんたがオザワを召還した理由だよ。どうしてここに呼んだんだ?」
「それだ」
 オザワも話に入って来た。
「タダナオもそうじゃないのか。貴方が呼んだとしか思えないが」
「その通りです」
 シュウはそれに答えた。
「貴方達をこのラ=ギアスに召還したのは私です。それは否定しません」
「何故だ」
「何故僕達をここに」
「貴方達もマサキと同じだからですよ」
「マサキ達と!?」
「はい」
 シュウは答えて頷いた。
「だから貴方達は魔装機のパイロットとなったのです。私にはそれがわかっていました」
「そうだったのか」
「そして貴方達にはやってもらいたいことがあります。それこそが私が貴方達をここに召還した理由です。それはもうおわかりでしょう」
「ああ」
 二人はそれに頷いた。
「フェイル殿下」
 彼はここでフェイルに声をかけた。
「オザワさんのジンオウはもうかなりのダメージを受けております。おそらく地上への道を通過するのには耐えられないでしょう」
「だろうな」
 それはフェイルにもわかっていた。彼はそれに頷いた。
「別の魔装機を用意して頂きたいのですが。宜しいでしょうか」
「といっても生憎ウェンディも向こうに行ってしまったしな。何がいいか」
「じゃああたしが選んであげる」
 ここでセニアが出て来た。
「おお、貴女が」
 シュウは彼女の姿を認めて声を出した。
「殿下がですか!?」
 タダナオもであった。だが彼の声はシュウのそれとは違いいささか戸惑っていた。
「そうよ。何か不都合でも?」
「い、いえ」
 タダナオはセニアにそう言われ慌てて首を横に振った。
「滅相もありません」
「ならいいけど。オザワさんだったわね」
「はい」
 オザワは動じてはいなかった。セニアを見ても何とも思ってはいないようだ。おそらくタイプではないのだろう。
「今何機か余ってるんだけれど。どんなのがいいかしら」
「そうですね」
 彼はそう尋ねられて考え込んだ。それから言った。
「機動力があるのがいいですね。そっちの方が戦い易いですし」
「わかったわ。じゃあこれね」
 彼女はここで一機の魔装機の写真をモニターに映し出してきた。それは黄色い鋭角的なシルエットの魔装機であった。
「これは」
「ギオラストっていうの。風の魔装機の一つよ」
「風のですか」
「ええ。ジンオウは火の魔装機だったけれどこれならどうかしら。悪くはないと思うけれど」
「ううむ」
 彼はセニアにそう言われまた考え込んだ。だが今度はすぐに答えた。
「わかりました。それでお願いします」
「ええ、わかったわ。それじゃあ兄さん」
 セニアはフェイルに声をかけた。
「あたしも一緒に行くわ。いいでしょ」
「セニアもか!?」
 彼はそれを聞いていささか驚いたような声を出した。
「ええ。ウェンディさんだけだと整備とかが大変でしょ。だから行きたいのよ」
「しかし」
 だがフェイルは妹が地上に行くのにはあまり賛成ではなかった。彼は言葉を濁していた。
「地上の戦いは激しい。それはわかっているね」
「勿論」
 彼女は笑顔でそれに頷いた。
「わかっててお願いしてるのよ。ねえ、いいでしょ」
「ううむ」
「フェイル殿下」
 ここでシュウが彼に対して言った。
「セニア王女も行かせてあげてはどうですか」
「シュウ」
「セニア王女は魔装機にとって必要な方です。行かせてあげるべきだと思います」
「しかし」
「兄さん」
 セニアがまた言った。
「クリストフ・・・・・・じゃなかったシュウもそう言ってることだしさ。いいじゃない」
「だが」
「大丈夫だって。あたしだって戦えるし。それにあたしを狙う奴なんてそうそういないしね」
「そういう問題ではないのだが」
 フェイルの顔は晴れなかった。実はセニアには王位継承権がない。彼女にはあまり魔力が備わっておらず王位継承権から外れているのだ。ラングラン王になるには血筋だけでなくそれなり以上の魔力も必要とされているのである。
「何なら護衛を送りましょうか」
「護衛!?」
「はい」
 シュウはまたフェイルにそう言った。
「サフィーネ」
「はい」
 ここで赤い魔装機が姿を現わした。かなり禍々しい姿であった。
「彼女か」
「はい」
「お久し振りですわね、フェイル殿下」
 その赤い魔装機に乗る女がくすりと笑って言った。シュウの部下であるサフィーネ=グレイスであった。
「まさかここで会うとはな」
「あら、お嫌ですの?」
 サフィーネはフェイルの反応を楽しむようにして言った。
「いや、そうではないが」
「彼女のことなら御心配なく」
 シュウは微笑んでフェイルに対してそう言った。
「私が保障致しますので」
「わかった」
 フェイルもそれを聞いて渋々ならがそれを認めた。
「それではお願いしたい。いいかな」
「喜んで」
 サフィーネは笑顔でそれに応えた。これでセニアが地上に行くことが決まった。
「それでセニアは何か魔装機に乗るつもりなのか」
「どうしようかしら」
「まだ決めていないのか」
「ちょっとね。考えたけどあたしに合うのがなくて」
「それならノルス=レイなぞどうでしょうか」
「ノルス=レイ」
「はい」
 シュウがまた頷いた。
「あれなら問題はないでしょう。セニア王女にも合っていますし」
「合っているのか」
「私はそう思いますが」
 シュウはそう答えた。
「モニカ王女とセニア王女は双子なのですからね」
「確かにな」
 フェイルは頷いた。だがここで言った。
「モニカは元気か」
「はい」
 シュウは答えた。
「御心配なく」
「そうか、ならいい」
 フェイルもそれを聞いて安心した声を出した。
「別に卿を疑っているわけではないがな。不愉快に感じたのなら申し訳ない」
「いえいえ」
 フェイルもシュウがどんな男かは知っていた。決して女性に害を及ぼすような男ではない。それをわかったうえで確かめたのである。
「そしてモニカはどうなるのだ」
「暫く私の側でいてもらいたいのです」
「生憎ね」
「おや」
 サフィーネがそれを聞いて小声で舌打ちした。しかしそれを聞いたのはタダナオだけであった。
「私の方でも色々とありましてね」
「そうか」
「まあフェイル王子はわかっておられるかも知れませんがね」
「?何をですか、シュウ様」
「それはおいおいわかることです」
 彼はサフィーネにそう答えた。
「そうですね、チカ」
「え、ええ御主人様」
 チカは突然そう言われ慌てて頷いた。しかしその理由がわかったのはフェイルだけであった。
「ではそれはそちらでやってくれ」
「はい」
「モニカには何もないと思うがな」
「それは御安心下さい。さて」
 彼はここでタダナオ、オザワ、そしてサフィーネに顔を向けた。オザワはもうギオラストに乗り込んでいた。シュウは彼等に対して言った。
「それでは行きますよ。いいですか」
「ああ、何時でもいいぜ」
「どうぞ」
「シュウ様の命じられるままに」
 三人はそれぞれ答えた。これで全てが決まった。そして彼等も道に入った。
「さあ、行きなさい。貴方達の使命を果たす為に」
「ああ」
 こうして三人は地上へと向かった。彼等がそこを通り抜けると道は閉じられた。
「これでよし、です」
「クリストフ」
 フェイルは彼だけになるとあらためて彼の名を呼んだ。今度は本来の名で、であった。
「何ですか」
 シュウはそれを受けて彼に顔を向けた。やはり涼しげな笑みのままである。
「変わったな。いや、本来の姿に戻ったというべきか」
「そうですかね」
「誤魔化さなくていい。今ここでやりとりをしているのは私と卿だけだ」
「私もいるんですけれどね」
 ここでチカが割って入ったがシュウが彼女に対して言った。
「チカ、貴女は大人しくしていなさい。いいですね」
「わかりました」
 彼女は渋々ながらそれに頷いてシュウの影の中に消えた。それから二人はまた話をはじめた。
「一体何を考えているのだ」
「御存知だと思いますが」
「そうだな」
 フェイルにはよくわかっていた。ここでもまた頷いた。
「それではもうすぐ行くのだな」
「はい」
 彼は応えた。
「私に命令できるのは・・・・・・」
 彼は言葉を続けた。
「私だけですから。それを確かなものにするだけです」
「そうか、では行くがいい。軍には私から言っておこう」
「申し訳ありませんね」
「いい。だがそれだけが目的ではないだろう」
「ええ」
 彼はそれも認めた。紫の目の光が不思議なものとなった。
「それは私の仕事のほんの一つに過ぎませんから」
「そうか、では多くは言えないが」
 フェイルはここで言った。
「健闘を祈る。それだけだ」
「有り難うございます。それでは」
「ああ」
 ネオ=グランゾンは何処かへ姿を消した。後には何も残ってはいなかった。黒い光もそこにはなかった。
「クリストフ、掴むのだ。卿の宝を」
 フェイルは消えたモニターの向こうでそう言った。そして彼も姿を消した。
 こうしてラ=ギアスでの戦いはひとまずは幕を降ろした。戦士達は今度は地上へと戦場を移すのであった。それはあらたなる死闘のはじまりであった。


第十六話    完



                                   2005・4・5


[269] 題名:第十五話その三 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月20日 (月) 00時23分

『それならばいい。それでは御前に戦う力を教えよう』
「戦う力」
『そうだ。地球を守る力だ。念じてみろ』
 弟に対して言う。
『正義の使者ガイヤーよ、来いとな』
「正義の使者ガイヤー」
 タケルはそれを受けて念じはじめた。
「来い!」
 すると地球で異変が起こった。日本から一条の光の柱が立った。そしてそれは宇宙に向けて放たれた。
「ムッ!?」
「あれは!?」
 それは戦闘中のロンド=ベルとネオ=ジオンからも確認された。そしてそれはアルビオンの側に来た。それは赤いロボットであった。
『マーズよ、乗れ』
「う、うん」
 タケルはそれに従いまた念じた。すると彼は何時の間にかその赤いロボットの中にいた。
「これは」
『これがガイヤーだ』 
 マーグは彼に対してそう言った。
『御前の脳波により動く。そして』
 言葉を続ける。
『爆弾はこの中にある。このガイヤーは御前の分身でもあるのだ』
「そうか。さっきの言葉はそういう意味だったのか」
『そうだ』
 マーグはその言葉に頷いた。
『御前が念じた時、戦死した時にこのガイヤーの中の反陽子爆弾が爆発する。そして全てが終わるのだ』
「そうなのか」
『そして御前とガイヤーを守る五柱の神もいる』
「五柱の神!?」
『そうだ』
 マーグは彼に語る。
『念じるんだ。六神合体とな』
「よし」
 タケルはそれを受けて再び念じた。
「六神合体・・・・・・!」
 念じた。すると地上に五つの柱が立った。
 エジプト、北極、インド洋、アンコールワット、そしてイースター島に。それは再び一直線にアルビオンのところに来た。そしてガイヤーとタケルを包み込み合体した。赤と青の巨大なロボットとなった。
「これは・・・・・・」
『ゴッドマーズだ』
 マーグは彼にそう答えた。
「ゴッドマーズ」
『御前とガイヤーを守る為に我々の父イデアが作り上げたロボットだ。御前の命を守る為に』
「父さんが」
『そうだ。さあマーズよ』
 マーグはさらに言う。
『それで戦うのだ。そして地球の平和を守れ、いいな』
「わかった、兄さん」
 マーズは頷いた。そして迫り来る敵を見た。
「俺はここで倒されちゃいけないんだ。死んではいけないんだ。そうだね」
『その通りだ。わかったなら戦え。そしてバルマーを退けんだ』
「よし!」
 タケルはその言葉を受けてまた念じた。そして敵に斬り込んだ。その手には剣がある。
「これなら!」
 それで切り裂く。ネオ=ジオンのモビルスーツはそれを受けて両断される。そして爆発した。
「俺は死ぬわけにはいかない!そして地球の平和を守ってみせる!」
『頼んだぞ』
 そこでまたマーグの声がした。
『また会おう。そして何時の日か』
 タケルの頭の中にいる彼は微笑んでいた。そして語りかけていた。
『共に戦おう。いいな』
「うん」
 タケルは頷いた。そして兄に対して言った。
「兄さん、また会おう」
『ああ』 
 それでマーグは消えた。タケルは戦場に心を戻した。
「地球を守る為に」
 その手に握る剣が煌いた。
「俺は戦う!」
 そしてモビルスーツを次々と倒していく。ゴッドマーズは周りの敵を断ち切りアルビオンの周りにいる敵を一掃してしまった。それを見たリュウセイが思わず叫んだ。
「すげえ、何てロボットだ!」
 ゴッドマーズはアルビオンの周りにいる敵を全て倒すとラー=カイラムの方に来た。そしてそこにいる敵も倒しはじめた。
「あれに乗ってるのは誰なんだ、凄いいかつい奴なんだろうな!」
「俺ですけれど」
 ここでタケルがリュウセイのモニターに出て来た。
「あんたなのか。ええと」
「明神タケルです。コスモクラッシャー隊の」
「コスモクラッシャー隊!?あそこにこんなロボットあったっけ」
「まあ色々ありまして。それより」
 タケルはここで話題を敵に向けた。
「今はここにいる敵を倒しましょう、話はそれからです」
「よし。後でじっくり聞かせてもらうぜ。いやあ、やっぱりロンド=ベルはいいぜ」
 リュウセイは上機嫌でそう言った。
「何でだ」
「だってこうしてスーパーロボットを次から次に見れるんだぜ。生きててよかったと思わねえか」
「俺は別にそうは思わないが」
 上機嫌のリュウセイに対してライはあくまで冷静であった。静かにそう答える。
「それよりそこにいるタケル君の言う通りだぞ」
「ああ、わかってるさ」
 リュウセイにもそれはわかっていた。彼とて戦士である。今の状況はよくわかっていた。
「行くぜ」
「よし」
 まずはR−1が動いた。腕から何かを放つ。
「念動シュート!」
 それが敵の小隊に向かう。そして小隊ごと敵を粉砕した。
「どうだい、これがR−1の実力だ!」
「次は俺か」
 今度はライが前に出た。彼は静かに迫り来る敵の小隊に向けて動いた。両肩にあるランチャーを放つ。
「行け!」
 それで敵を攻撃した。モビルスーツ達はそれをかわすことができずことごとく撃ち落されてしまった。
「並のパイロットしかいないようだな」
「そうだな」
 レビはもう攻撃を終えていた。装備されているキャノンで既に敵を倒し終えていた。
「ネオ=ジオンといえどもその程度か」
「油断をしては駄目よ」
 だがここでアヤの声がした。
「手強い敵もいるわよ、ほら」
 そこに四機のモビルスーツがやって来ていた。先頭にいる一機は赤で他の三機は緑のカラーであった。
「バウか。ネオ=ジオンの可変式モビルスーツだな」
 ライがそれを見て呟いた。
「その先頭にいるのはあれは・・・・・・」
「グレミー。グレミー=トトだ」
 リュウセイがそれを見て言った。
「ネオ=ジオンのパイロットの一人だぜ」
「何でそんなことまで知っているんだ?」
 レビがそれを聞いて不思議そうに首を傾げた。
「前の戦いでやりあったからな。知っているのさ」
「そうだったのか。私はあの時は敵だったからな。途中までは」
「あの時は苦労したぜ、色々と」
 リュウセイはそれを聞いて苦笑した。
「まあ今はこうやって一緒に戦っているからいいけれどな。じゃあ行くか」
「ああ」
 リュウセイとレビが動こうとする。だがそれよりも前にアヤが出ていた。
「ありゃ、先を越されたか」
「お喋りばかりしているからだ」
 ライが彼に突っ込みを入れた。
「ここは隊長のフォローに回るぞ、いいな」
「ああ」
「了解」
 二人はそれを受けてライと共にアヤのフォローに向かった。その時リュウセイはタケルに声をかけた。
「タケル」
「はい」
 彼はそれに応えた。
「後でゆっくり話をしようぜ。楽しみにしてるからよ」
「ええ、わかりました」
 タケルはそれを受けて戦いに戻った。そして目の前に迫るガザDの小隊に対して剣を振り被る。そしてそれを横に一閃させた。
「ファイナルゴッドマーズ!」
 それで敵を滅ぼした。だが戦いはまだ続いていた。目の前に迫る敵を倒し続けていた。
 アヤは一直線に四機のバウに向かう。間合いに入ったと見るや何かをバウに向けて放った。
「ストライクシールド!」
 それでもって敵を叩く。そして忽ちのうちに三機の緑のバウを撃墜した。だが赤いバウだけは残った。何とストライクシールドを切り払ったのだ。
「あのオレンジのバウ・・・・・・!」
 アヤはそれを見て思わず声をあげた。戦闘中は冷静な彼女にしては珍しいことであった。
「このマシン・・・・・・SRXか」
 そのバウに乗る金色の髪に褐色の肌を持つ青年が呟いた。彼がグレミー=トトである。彼はバウにサーベルを持たせて立っていた。
「やるな。前の戦いからさらに腕をあげたようだ」
 グレミーは前にいるR−3パワードを見て呟いた。
「どうやらこれは手強い相手のようだな」
「おっと、隊長だけじゃないぜ!」
 そこに三機のマシンがやって来た。
「俺達もいるってことを忘れるなよ!」
「隊長、フォローに参りました」
 彼等はアヤの周りを取り囲んだ。そしてグレミーのバウと正対した。
「さあグレミーさんよ、どうするつもりだい!?」
「あたし達の相手をしてくれるのか?容赦はしないぞ」
「クッ」
 彼はSRXチームを前にして唇を噛んだ。この状況が不利なことは彼にもわかっていた。
「この勝負、預けておこう」
 彼はそう言うとバウを変形させた。そして二つに分かれた。そのまま戦線を離脱しにかかった。
「おい、待て!」
 リュウセイが追おうとする。だがそれをアヤが止めた。
「待って、リュウセイ」
「おい、何でだよ」
「今は艦を守る方が先よ。まだ敵は残っているわ」
「ちぇっ、折角敵の名前のある奴を仕留められると思ったのによ」
「まあそういうな。これから機会は幾らでもある」
 ライがそう言って彼を慰めた。
「だからここは大人しく隊長の命令に従え、いいな」
「あいよ。じゃあ早く行こうぜ」
「ええ。じゃあ行きましょう」
「了解」
 こうしてSRXチームはラー=カイラムの側に戻った。そしてまた敵を倒しはじめたのであった。

 戦いはロンド=ベルのものとなっていた。ネオ=ジオンのモビルスーツはその数を大幅に減らしキャラの乗るエンドラにまで迫られていた。
「しつっこいっての!」
 ビーチャの百式のバズーカが火を噴く。それで敵を吹き飛ばした。
 そこにガンダムチームが斬り込む。そしてエンドラへの最後の防衛ラインを突破した。
「チッ、相変わらず滅茶苦茶強いね」
「キャラ様、どうしますか」
 舌打ちするキャラに側に控える士官が問うた。
「このままではエンドラにも攻撃が及びますが」
「ちょっとやそっとの攻撃なら構わないさ。けれどね」
 キャラは言葉を続けた。
「これはちょっとやそっとじゃなくなりそうだね。引くよ」
「はい」
 士官はそれを受けて頷いた。
「それではマシュマー様とグレミー様にもそうお伝えします」
「ああ、頼むよ。あれでも死なれたら寝覚めが悪いからね」
 キャラはそう士官に言って笑った。
「ハマーン様にはあたしから報告しておく。いいな」
「ハッ」
 こうしてネオ=ジオンは撤退にかかった。マシュマーもグレミーも戦線を離脱しにかかった。
「ジュドー、勝負は預けたぞ!」
「っておい、他の台詞はねえのかよ!」
「細かいことは気にするな!」
「あ、マシュマー様待って下さいよお〜〜〜〜!」
 マシュマーはジュドーにそう言い残してその場を去った。後にはゴットンがついていく。同時にグレミーも戦場を離脱していた。
「終わりましたね」
「ああ」
 戦闘が終わるとブライトはアルビオンに通信を入れた。すぐにシナプスが出て受け応えた。
「それにしても驚いたな」
「ええ、あれですね」
 ブライトはシナプスが何を言いたいのかよくわかっていた。
「まさか彼が」
「そうだな。しかし恐るべき力だった」
「はい」
 ブライトはその言葉に頷いた。
「ゴッドマーズといったな、確か」
「そう言っていましたね、さっき」
「一体何の力かわからないがこれからの戦いを生き抜くうえで鍵の一つとなるだろう」
「そうでしょうね。あの力、ダイモスやコンバトラーにも匹敵します」
「そうだ。ここは彼の力を借りたい。あくまで彼の意思によるがな」
「はい」
 こうしてブライト達はまずタケルにラー=カイラムのブリーフィングルームで話を聞いた。彼は自分に何が起こったのかをくまなく説明した。
「そうか、そういうことだったのか」
 ブライトはそれを聞いて納得した。
「何もないんですか?」
 タケルは彼が特に驚かないのを見てかえって自分が不思議に思った。
「俺はバルマー星人なのに。貴方達の敵なのに」
「そんなことは関係ない」
 ブライトは彼に対しそう言い切った。
「君は地球で育ったのだろう」
「はい」
「それだけで充分だ。君はそれだけももう立派な地球人だ」
「そうなのですか」
「私はそう思っている。いや」
 ここでカミーユやジュドー達も言った。
「俺達もそう思ってるぜ。君は俺達の仲間だ」
「皆・・・・・・」
「タケル」
 ここでコスモクラッシャー隊のメンバーが彼に声をかけてきた。
「御前が何者だろうと俺達のメンバーであることには変わりはない。それだけだ」
「隊長・・・・・・」 
 タケルはケンジの顔を見た。彼は微笑んでいた。彼だけでなく他のメンバーも彼を見て微笑んでいた。温かく優しい微笑みであった。
「そんなこと言ったらあたし達なんてとてもここにはいられないわよね」
「そうそう」
 アムとキャオがそれを見てそう言い合った。
「あたし達だってペンタゴナからここに来たんだし」
「ホエールは持って来れなかったがな」
「あれはレッシィの責任じゃない」
 ダバがそれを受けて彼女にそう言った。
「だがら気にする必要はない」
「そうか」
「そうそう、ここに皆いるしいいじゃない」
「うむ」
 アムにも言われようやく納得した。レッシィは頷いた。
「大体ペンタゴナの人も俺達も何も変わらないじゃないか」
 ケーンがここで言った。
「何か違うの?考え方も外見も一緒じゃない。タケルもそうだろ」
「お、たまにはいいこと言うね」
「熱でも出たか?」
 ライトとタップがケーンを冷やかした。
「違うよ。俺はただ思ったことを言っただけだ」
「またまた」
「そんなこと言うのがおかしい。まあケーンらしいけれどな」
「確かにケーンさんの言う通りだよな」
 ジュドーもそれに同じ意見だった。
「ダバさん達もタケルさんもはっきり言って俺達と何の変わりもないからな」
「ミリアだってそうだな」
 イサムがここでミリアに顔を向けた。
「そうね。元々地球人とは同じだったし」
「バルマー星人も。結局皆大して変わりはないと思うよ」
 マックスが言った。ミリアの夫だけあってその言葉は重みがあった。
「けれどマックスさんが巨大化した時は驚いたなあ」
 コウが言った。
「そうそう。最初見た時は何かと思ったよ」
「キースさんも言うわね」
 リンダがそれを聞いて笑った。
「俺だって考えたり言ったりはするよ。確かに影は薄いけれど」
「まあ控えめというところですね」
「アデルが言うと説得力があるな」
「俺達はそうでなくても地味だがな」
「御前達の何処が地味なんだ。言ってみろ」
 バニングはベイトとモンシアを嗜めた。そして話をタケル達の方に戻した。
「結局は我々は同じだということだな」
「バルマーも我々と祖先は同じですしね」
「そうだ」
 バニングはウッソの言葉に頷いた。
「タケル、そういうことだ」
 ケンジがまた彼に声をかけた。
「俺達は仲間だ。それは絶対に変わらない。何があろうとな」
「はい」
 タケルはこの時目から涙が溢れるのを必死に堪えていた。泣くわけにはいかなかったからだ。彼にも意地があった。
「これからも一緒に戦おう。俺達は何があっても御前を守ってみせる」
「はい、そして俺も」
「頼むぞ」
 コスモクラッシャー隊はここで互いに手を取り合った。彼等はあらためて結束を固めたのであった。
「これでいい」
 シナプスはそれを離れた場所で見ていた。そしてこう呟いた。
「戦いにあっては少しの亀裂が崩壊に繋がる。それはあってはならないことだからな」
「そうですね」
 隣にいるパサロフがその言葉に同意した。
「最初に話を聞いた時はそれが心配だったが杞憂だったな」
「はい」
「ただ一つ気になるのは」
「何でしょうか」
「うむ」
 シナプスはパサロフに話をした。
「あのゴッドマーズというマシンだ」
「はい」
「果たして一つなのだろうか」
「それはどういう意味ですか」
「うむ。見たところ構造自体はそれ程複雑ではない。簡単に別のものを作りだせるのではないかと思ってな」
「言われてみると確かに」
「敵に出て来たら厄介かも知れん。警戒が必要かも知れぬな」
「はい」
 彼等はここで話を止めブリーフィングルームに入った。そして先程の話はせずに一同の中に入った。話題は服に移っていた。見ればペンタゴナの者の服装は地球のそれとあまり変わりがないのだ。
「アムもレッシィもタイツなのね」
 ファがまず言った。
「ええ、こっちの方が動き易いから」
「前はもっと派手な服を着ていたんだけれどね。元のに戻したんだ」
「そうなの」
「あの服は結構好きだったんだけれどな。何かと」
「キャオ」
 エリスがそれを聞いて顔を顰めさせた。
「冗談だよ、冗談」
 キャオはその顔を見て笑って前言を撤回させた。
「まあ今の服も似合ってるしな、いいんじゃねえか」
「ふふふ」
 レッシィも褒められてまんざらではなかった。得意そうに笑った。
「そういえばフォウさんもルーもタイツよね」
「ええ」
「あたしも好きだしね、これ」
「動き易いよね」
「そうそう」
「エマさんのもそう?」
 アムがエマに話を振ってきた。
「私のはズボンよ」
 エマはそう言葉を返してきた。
「確かに細いけれどね」
「そうだったの」
「そう見えるでしょうけれどね。けれどこれはズボンなの」
「ふん。ところでエマさんの声ってミナトさんに似てるよね」
「また声の話?」
 皆それを聞いて苦笑した。言い出したアムも少し苦笑いしていた。
「まああたしもプルやプルツーに声が似てるって言われるし。気になるのよ」
「それを言うとここにいるかなりの数になるわね」
 フォウはこの話題にはいささか冷静であった。それが何故かはわからなかったが。
「あたしは色々と言われたね。エリスと間違えるって」
「似てないのにねえ」
「いや、そっくり」
 エルがそれを聞いて言った。
「同じ人が話してると思ったわよ」
「そうか。本当にわからないな」
「これでチャムが入ったらもっとややこしいことになるわね」
「ええ」
 ルーとファがヒソヒソと話をしていた。見ればアヤとセシリーも難しい顔をしていた。
「私達も似てますよね」
「そうよねえ」
 アヤの方が少し疲れた顔をしていた。
「セシリーさんには迷惑かけるわね」
「いえ、いいです」
「それならいいけれど。これからもお願いね」
「はい」
「ねえアヤさん」
 アヤにプルツーが声をかけてきた。
「何かしら」
「ポケットの写真は一体誰のなんだ」
「ああ、これね」
 アヤは言われてそれに気付いた。
「プロマイドよ、歌手の」
「歌手のか」
「今度は誰なの?」
 エマが聞いてきた。アヤが意外とミーハーなのはよく知られていることであった。
「バサラよ。熱気バサラ」
 アヤはそう言ってそのプロマイドを他の者に見せた。そこには眼鏡をかけた長い茶色の髪の若者がいた。ギターを持って何かを歌っているところであった。
「今話題のロックシンガーなの」
「ふうん、グループ名は?」
「ファイアーボンバー。もう凄いんだから」
「どう凄いのかしら」
 少し上機嫌になりだしてきたアヤにそう尋ねた。
「それだけじゃよくわからないよ」
「あ、御免なさい。曲がいいのよ。熱くて」
「そんなに熱いの?」
「よかったら聴いてみる?CD持ってるわよ」
「いえ、いいわ」
「また今度」
 だがそれは断られた。アヤはそれを受けて残念そうな顔をした。
「そう、それなら仕方が無いわね」
「ええ、悪いけど」
「また今度聴かせてよ」
 これでファイアーボンバーの話は終わった。ここでユリカが部屋に入って来た。
「みなさぁ〜〜〜ん☆」
 ここでは場にあった明るい声であった。
「私達は正式に地球に向かうことになりましたぁ」
「正式に?じゃあ今までは正式にじゃなかったのかよ」
「はい。まあ軍にも色々と都合がありまして」
 ケーンの問いにそう答えた。
「それでも何とか正式に地球に行くことになりました。宜しいでしょうか」
「いいも悪いもそれが軍の決定なら従うしかないんじゃないか?」
「ジュドー、それを言っちゃ駄目だよ」
 イーノが彼にそう注意した。
「それで何時地球に出発するんですか」
「今すぐです」
 今度は京四郎にそう答えた。
「あちらでも色々と入り組んでいまして。急いで欲しいそうです」
「入り組んで・・・・・・ねえ」
 フォッカーはそれを聞いて何か言いたそうに笑った。
「どうやら三輪長官も最近忙しいようだな」
「あの人が忙しいとロクなことがないですけれどね」
 柿崎はフォッカーが何を言いたいか理解した。そのうえで話した。
「まああの人のこと置いておいて」
 ユリカは話を続けた。
「どちらにしても民間人の皆さんは何とかしなくてはいけないですよね」
「まあそれは」
 彼等にもよくわかっていることであった。民間人を守るのが彼等の仕事であるからだ。それを理解していない者は流石にいなかった。
「それでは行くか。降下場所は」
「日本です。北海道らしいですよお」
「北海道ねえ」
 ウッソはそれを聞いて少し考え込んだ。
「ウッソ君、何かあるのですか?」
 そんな彼にルリが尋ねてきた。
「いえ、何もないですけれど」
「だったら何故考え込んでいるんですか?」
「いや、ただ寒いかなあ、って思いまして。北海道って寒いんですよね」
「そのかわりラーメンは美味しいよ」
 アキトは彼を慰めるようにしてそう言った。
「ラーメンですか」
「そうだよ。実は俺こう見えてもコックなんでね」
「将校なのにですか」
「おかしいかな。確かに連邦軍ではパイロットは将校以上でないとなれないけれど」
 以前は下士官でもなれたのだが制度が変わったのである。これはかってのアメリカ軍等に倣ったものである。それまでは旧日本軍やソ連軍に倣っていたのであるが兵制改革によってそれが改善されたのだ。それにより士官学校卒業者でなくとも大尉以上になれるようになった。もっとも将官ともなると流石にそうそう士官学校卒業者以外はなれないのだが。しかし連邦軍もそれなりに変わっているのは事実であった。アムロが少佐となったのもここに理由がある。彼程のエースパイロットが何時までも大尉のままで燻っているのは宣伝としても都合が悪いのでは、という考えがあったのだ。
「けれど将校が料理をしちゃいけないってことはない筈だよ」
「はい」
「よかったら一緒に食べに行こうよ。ご馳走するからさ」
「本当ですか!?」
「じゃあ俺も」
 オデロがそれを聞いて話に入って来た。
「一回地球のラーメン食べてみたかったんですよ」
「いいよ。誰でも。喜んで奢らせてもらうよ」
「やったぜ、アキトさんって優しいよな」
「そうだね。何か地球に行くのが楽しみになってきたよ」
「それは何よりだ」
 ブライトはそれを聞いて嬉しそうに頷いた。
「私も久し振りの地球だからな。嬉しいと言えばそうなる」
「ブライト大佐はジンギスカンでもどうでしょうか」
 ここでユリカが話を振ってきた。
「ジンギスカンか。悪くはないな」
 どうやらブライトも乗り気なようである。まんざらでもない顔をした。
「そういえばアムロと二人でよく食べたな、ジンギスカンは」
「そうだったのですか」
「ああ。もっとも最近はお互い別の艦に配属されて会ってはいないがな。それまではよく一緒にいたものだ」
「ブライト大佐とアムロ少佐のお付き合いは長いですからね」
「そうだな、一年戦争の時以来だからな。あの時はまだお互い若かった」
 ブライトはルリにそう言われて昔のことを思い出した。その目に懐かしいものが宿っていた。
「アムロもその時はどうしようもない奴だったな」
「えっ!?」
 それを聞いてそこにいる全ての者が驚きの声をあげた。
「あのアムロ少佐が!?」
「連邦軍きってのエースパイロットが!?嘘でしょう」
「嘘ではない」
 ブライトは皆にそう答えた。
「最初はな。アムロもいじけてばかりで暗くてな。それでよく喧嘩もした」
「そうだったのですか」
「私もまだ新米でな。何もわからずオロオロしているだけだった。だが共に戦っているうちにそれが変わった」
 彼はまだかっての日々を見ていた。その目は妙に温かかった。
「アムロも最初からエースパイロットではなかった。最初は誰でもそうかも知れない」
「何かシンジみてえな感じだったのかな」
「そういえば似ているな、話を聞いていると」
「そうだね。あんなのだったのかな」
 ジュドーとビーチャ、モンドはそれを聞きながらヒソヒソと話をしていた。
「私もな。今でこそ何とか艦長を務めているが」
「ブライト大佐って連邦軍の間じゃ一番の艦長って言われてますよお」
「有り難う、ミツマル中佐」
 ブライトはそれを受けて頷いた。
「だが私もな。一年戦争の時は色々とミスをした。今こうして生きているのが不思議な程だ」
「つまり努力と経験を積めば誰でもブライト大佐やアムロ少佐になれるということですね」
「その通りだ。・・・・・・ん!?」
 ブライトは答えたところで気が付いた。その声ははじめて聞く声であったからだ。彼は声がした方を見た。そこに眼鏡の少女が立っていた。
「君は」
「ツグミ=タカクラです。はじめまして」
 彼女はそれに答えて頭を下げた。それからゆっくりと顔を上げた。
「さっきは助けて頂き有り難うございます」
「というと君はさっきのアーマードモジュールの」
「そうです、アルテリオンのサブパイロットです。そしてこっちにいるのが」
 彼女はここで部屋の出入り口に立っている赤い髪の少女を手で指し示した。
「アイリス=ダグラスです。彼女がアルテリオンのメインパイロットです」
「彼女がか」
 ブライトはそれを聞いて頷いた。
「話には聞いていたが。まさかここで会うとはな」
「ブライト大佐、何か御存知なのですか?」
 フォウが彼にそう尋ねた。
「ああ。私も話に聞いているだけだが」
 彼はそう前置きしたうえで話をはじめた。
「確かDCで開発されていた恒星間航行のテスト機だったな」
「はい、その通りです」
 ツグミがそれに答えた。
「私達はアルテリオンのテストパイロットと開発者でした」
「私が乗っていたのさ」
 アイリスは微かに笑って部屋の中に入って来た。そしてそう答えた。
「DCが崩壊して今は運び屋をやっているけれどね。丁度仕事を終えてこおを通り掛ったところなんだ」
「それであの赤いやつに攻撃されたのか」
「ああ、そうさ」
 ケーンにそう答えた。
「それであの赤いやつは一体何なんだ?見たところアルテリオンと同じタイプだけれどよ」
「ベガリオン、同じく恒星間航行のテスト機さ。あれも二人乗りだ」
「そうだったのか」
「けれどおかしいな」
 ここでライトが言った。
「あれには一人しか乗っていなかったようだが。二人乗りというのは本当なのかい?」
「はい、それは本当です」
 ツグミが彼に答えた。
「ただ色々と事情がありまして。今は一人で乗っているんです」
「そうだったのか。見たところ綺麗な人のようだがな」
「こら、ライト」
 そこでタップが彼を嗜めた。
「そこでそんなこと言うから三枚目になるんだろうが」
「おやおや。俺は元々が二枚目だから変わらないのさ」
「何か声もキャラクターもマシュマーに似てるね」
「プル、それは禁句だ」
 プルツーがふと呟いたプルをそう言って嗜めた。
「とにかくだ」
 ブライトが話を元に戻した。そしてアイリスとツグミに尋ねた。
「あのベガリオンはどうやら今はネオ=ジオンに所属しているらしい。つまり我々の敵だ」
「はい」
「君達とも敵対関係にある。ここまで言って私が何を言いたいかはわかってくれると思うが」
「はい、わかっています」
 ツグミがそれに頷いた。
「丁度仕事もないですし。お金さえ頂ければ」
「あたしもそれでいいよ。どうせ暇だしね。戦争があっちゃ外には行けないし」
「外!?」
 皆それを聞いて首を傾げた。
「あ、いやこっちの話だ。気にしないでくれ」
 アイリスはそう言って話を誤魔化した。
「何でもない。どのみち今はなね」
 そして少し悲しそうな顔をした。だがそれに気付いたのはツグミだけであった。
「アイリス、やっぱり」
「それよりもロンド=ベルに入れてくれるんだよね」
「ああ、そちらさえよければ」
 ブライトは笑顔でそれを認めた。
「こちらにとっては今は少しでも戦力が欲しいところだしな。いいかな」
「ああ、あたしの方こそ宜しく」
「宜しくお願いします」
「こちらこそ」
 こうしてアイリスとツグミもロンド=ベルに入った。こうしてまた新たなメンバーがロンド=ベルに参加したのであった。そしてロンド=ベルは地球に向かった。行く先は北海道であった。そこに難民達を降ろし、そしてまた戦場に向かう予定であった。だが彼等の予定とは変えられる為にある。戦いの神のよって。それを知るのもまた戦いの神のみであり彼等は知らなかった。だがそれを知る時が来ようとしていた。


正義の使者ガイヤー     完




                                2005・3・31


[268] 題名:第十五話その二 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月20日 (月) 00時18分

 彼等は地球へ向かっていた。その途中ラー=カイラムに通信が入った。
「誰だ」
「私です」 
 そこには戦闘服に身を包んだ青い髪の凛々しい顔立ちの女がいた。
「ヴィレッタか」
「はい」
 その女ヴィレッタ=バゾムはブライトに微笑んでそう答えた。
「SRXチーム、只今到着致しました」
「ああ。思ったより早かったな」
「あの時の戦いでの機体の損傷が思ったよりよかったので。それで間に合いました」
「そうか、それは何よりだ」
「ただ私はR−GUNには乗っておりません」
「そうなのか」
「はい、あちらにはレビが乗っています。私はヒュッケバインマークVに乗っています」
「ヒュッケバインか。何か懐かしい名前だな」
「ふふふ」
 ヴィレッタはブライトのその言葉を聞いて微笑んだ。
「それも二機あります」
「二機もか」
「もう一機は私が乗っております」
 長めの金髪にゴーグルをかけた男がモニターに姿を現わした。
「君は」
「エルザム=フォン=ブランシュタインです」
 彼はそう名乗った。
「ブランシュタイン」
「ライは私の弟です」
 彼はそう答えて笑った。
「バルマーの時は弟がお世話になりました」
「いや、助けてもらったのはこちらの方だ」
 ブライトはそう言葉を返して微笑んだ。
「まさか彼に兄がいるとは思わなかったな」
「聞いていませんでしたか」
「彼はあまり多くのことを語らないからな。今はじめて聞いた」
「そうだったのですか」
「彼だけではありませんよ」
 ヴィレッタはここでまた言った。
「他にも誰かいるのか」
「はい。マオ=インダクトリーのリン=マオ社長とイルムガルト=カザハラ氏も来ております」
「あの二人もか」
「はい、ブライト大佐」
「お久し振りです」
 凛々しい顔立ちのピンクの髪の女と青い髪に端整な顔立ちの男もモニターに現われた。
「貴方達もか」
「ええ。今回は参加させて頂きました」
「何かと物騒ですからね」
「そうか。しかし会社の方は」
「スタッフに任せてありますので」
「俺の方も厄介ごとは全部終わらせてこっちに来ました」
「そうか。ならいいのだが。それであの四人は」
「一緒にこちらに向かっております。同時に合流できます」
「そうか。ならいいがな」
「何か引っ掛かることでも」
「そういうわけではないが」
 だが答えるブライトの顔は晴れなかった。
「やはりリュウセイが気になりますか」
「わかるか」
「ええ」
 ヴィレッタは笑っていた。見ればエルザム達もであった。
「大丈夫ですよ、アヤがいますから」
「それにライも」
「だとしたらいいのだが」
「それにリュウセイ一人でそんなに気にかけるなどブライト艦長らしくない。他にもロンド=ベルには他にも大勢はねっかえりがいるでしょうに」
「イルム、貴方もね」
「おやおや」
 リンにそう突っ込まれてイルムは肩をすくめてみせた。
「これはきつい御言葉」
「確かにそうだな」
 だがそれでブライトは思い直した。
「リュウセイは確かに突っ走るがあれ位はどうということはないか」
「そうそう」
 それにイルムが頷く。
「あれはあれで使い易いですから」
「ヴィレッタが言うと説得力があるな」
「そうでしょうか。私は彼には特に何もしていませんが」
「そうだったのか」
「私よりもアヤですね。彼の制御になっているのか」
「ふむ」
「あの四人は今ではチームワークもできていますし。安心していいですよ」
「よし。それでは合流を楽しみにしている」
「有り難うございます」
 こうしてロンド=ベルはSRXチームとの合流場所に向かった。そこでは既に四機のマシンがいた。
「何か久し振りにあのロボット達を見れると思うとなあ」
 白いマシンに乗る茶色い髪の少年がやけにはしゃいでいた。彼がそのリュウセイである。リュウセイ=ダテという。元々は高校生であったがゲームの大会に優勝し、それからSRXチームに入ったのだ。
「嬉しくてしょうがないぜ」
「それはもう何度も聞いている」
 その横にいる青いマシンに乗る金色の髪の若者が落ち着いた声でそう返した。彼はライリュース=フォン=ブランシュタインという。リュウセイと同じくSRXチームの一員である。
「いい加減落ち着け」
「これが落ち着いていられるかよ」
 リュウセイは彼にそう反論した。
「もうすぐコンバトラーやボルテスが見られるんだぜ。何でそれで落ち着いていられるんだよ」
「リュウセイ」
 そこに紫のマシンに乗る赤い髪の少女が声をかけてきた。レビ=バトラという。かってはバルマーにいたがリュウセイの説得を受けて彼等の仲間となった少女である。
「コンバトラーやボルテスは地上だぞ」
 彼女は少女にしては低い声でそう話した。
「えっ、それマジか!?」
「知らなかったの?」
「あ、ああ」
「やれやれ。それ位ちゃんと知っておけ。今彼等は大空魔竜隊に入って恐竜帝国等と戦っている」
「そうだったのか」
「だから今ここにはいない。ダイモスはいるがな」
「ああ、あの赤いやつだな」
「そうだ」
「トレーラーから変身するんだよな。それで空手で敵を薙ぎ倒して」
「・・・・・・よく知っているな」
「当たり前だろ、あんな格好いいマシン他にないぜ」
「リュウセイ、それコンバトラーにも言ったよ」
「マジンガーにもゲッターにも言ったな、確か」
 レビとライは彼にそう突っ込みを入れた。
「いつもスーパーロボットを見る度に言っている気がするのだけれど」
「そんな細かいこと気にするなよ」
「そう。ならいいけれど」
「ただもう少し静かにしろ。いいな」
「ああ、わかったよ」
「三人共話は終わった?」
 ここで赤いマシンに乗る緑のショートの髪の女が三人に声をかけてきた。
「そろそろ時間だけれど」
 彼女がアヤ=コバヤシである。このSRXチームのリーダーでもある。
「お、もうか。早いな」
「ライの相手をしていると時間が潰せていいな」
「そりゃどういう意味だよ」
「まあそれは置いておいて」
 アヤが二人を止めた。
「皆機体の調子はいいわね」
「おう、ばっちりだぜ」
「問題なし」
「何処も」
「そう、それならいいわ」
 アヤは三人のそれぞれの返答を聞き微笑んだ。
「まさかいきなりパワードが送られてくるとは思わなかったけれど」
「何かあるのですか」
「いえ、そうじゃないけれど」
 ライの言葉に首を横に振った。だがアヤの顔は晴れなかった。
(御父様、一体何を考えておられるのかしら)
「お、来たぜ」
 だがその思索はすぐに中断させられた。リュウセイがラー=カイラム達を見つけたのだ。
「何かあの艦もあんまり変わらねえな」
「修復や改装はしていたそうだがな」
「まあそれ位なら大して変わらないか。アルビオンやナデシコもいるぜ」
「多いな」
「火星からの難民の収容もあったからね。今はロンド=ベルも大変なのよ」
「だから俺達にも声がかかったってわけか」
「まあそういうことね」
「じゃあ今回も派手に暴れてやりますか」
「御前はいつもだな」
「うるせえ」
 そんな話をしながらロンド=ベルの艦艇と合流に向かう。既にヴィレッタ達は彼等の周りにいた。
「ヴィレッタ隊長、それにリンさんも」
「あれ、リンさんとイルムさんはそれなのか」
 見れば彼等はヒュッケバインには乗っていなかった。彼等はゲシュペンストに乗っていた。それもかなり新しい形のものにである。
「ゲシュペンストマークVだ」
 イルムがリュウセイに答えた。イルムのものは青、リンのものは赤であった。ヴィレッタのヒュッケバインが青紫、エルザムのそれが黒なのと同じく色分けであろうか。
「ゲシュペンストマークV」
「そうだ。かってギリアム=イェーガーが乗っていたマークT、マークUをさらに改良させたものだ。汎用性はかなり高いものとなっている」
「つまり支援用というわけですね」
「鋭いわね、そうよ」
 リンはアヤの言葉にそう答えた。
「今回私達はフォロー役に徹することにするわ」
「またえらく心強いフォロー役ですね」
「ライ、御前はフォローなぞいらない筈だが」
 エルザムがここで弟に対してそう言った。
「我がブランシュタイン家の者は自分の身は自分で守る筈だ。違ったか」
「いえ」
 口元をほころばせながら言う兄に対してそう答えた。
「その通りです」
「そうだ。だが味方のフォローは忘れるなよ」
「はい」
 ライは兄の言葉に頷いた。
「それがわかっていればいい。さて」
 エリザムは辺りを見回した。
「合流も無事終わりそうだな。では地球に向かうことになるか」
「そうね」
 ヴィレッタがそれに応えた時であった。何かがリュウセイの勘に触れた。
「ムッ!?」
「どうした、リュウセイ」
 レビが彼に声をかけた。
「何かが来るぞ」
「何かが」
「そうだ、二機いる」
 彼は辺りを見回しながらそう答えた。
「互いに激しい怒りをぶつけ合っている。何なんだ、一体」
「怒りを」
「ああ、来るぞ」
 すると西に一機のアーマードモジュールが姿を現わした。それは銀色の機体であった。
「あれは」
「もう一機後ろにいるぞ!」
 リュウセイが叫んだ。するとそのすぐ後ろに赤い同じタイプと思われるアーマードモジュールが姿を現わした。両者は互いに攻撃し合っていた。
「アイリス逃しはしないぞ!」
 赤いアーマードモジュールから声が響いてきた。
「今日こそは貴様を倒す!」
 低い、ハリのある女の声であった。凛々しさと共に強さが感じられた。
「クッ、まだ来るか!」
 それに対して銀のアーマードモジュールからはそれとは比べてやや高い声が聞こえてきた。それもやはり女の声であった。
「女の声!?」
「どうやらそのようだな」
 ライがリュウセイにそう答えた。
「どうやら戦っているらしいが」
「どっちがどっちかわからないわね。両方共敵の可能性があるし」
「そうですね」
 ライは今度はアヤにそう答えた。
「ギガノスやティターンズだとしたら」
「それはあるわね」
「けれどそうじゃなかった場合はどうするんだよ」
 冷静なライとアヤに対してリュウセイはそうではなかった。戦う二機を見て気になって仕方がないようであった。
「民間人だったら放ってはおけないだろうが」
「それはわかっている」
 しかしライはあくまでクールにそう答えるだけであった。
「だが彼等のうちどちらがそうだと断定できるか」
「ウッ」
 そう言われて言葉が詰まった。そう、今の時点ではそう断言はできないのだ。
「できないな。それに双方共武装している」
 両者は互いにミサイルを放ち攻撃をし合っていた。それを見るととても民間のものとは思えなかった。
「ロンド=ベルにはあんな機体はない。ということは」
「あの二機はどちらにしても敵である可能性が高いということか」
「そういうことだ」
 今度はレビに答えた。
「とりあえず今は様子見だな。まだ情報が少ない」
「何か性に合わねえな、そういうことは」
「リュウセイ、今私達が何をしなくちゃいけないかわかってる?」
 アヤがここで彼を嗜めた。
「ロンド=ベルと合流するのよ。わかってるわよね」
「わかってるさ、そんなことは」
 リュウセイは子供が叱られたような顔をしてそれに応えた。
「けれどそれはもうすぐじゃないか」
「ええ」
 見れば三隻の戦艦はもうすぐそこにまで来ていた。
「だったら早いとこ合流しようぜ。あの二機のアーマードモジュールは気になるけれどよ」
「わかってるじゃない。じゃあ行きましょう」
「ああ」
 四機はラー=カイラム達のところに向かおうとした。だがここで通信が入ってきた。
「ムッ!?」
「ブライト艦長からか!?」
 だがそれは違っていた。モニターには眼鏡をかけた茶色の髪の少女がいた。
「ロンド=ベルの方々ですか!?」
 彼女は必至の形相で彼等に語りかけてきた。
「ああ、そうだけれど」
「何かあったのですか?」
 リュウセイ達はすぐにそれに応えた。
「私はアルテリオンのサブパイロットツグミ=タカクラです」
「アルテリオン!?確かDCで開発されていたアーマードモジュールだったな。恒星間航行計画の為に」
「はい、そうです」
 ツグミはライにそう答えた。
「DC崩壊後は輸送業に携わっていたのですが」
「そうだったのか。その機体でか」
「はい」
 ツグミはそれにも答えた。
「ただ、それでちょっと困ったことがありまして」
「今の戦いだな」
「はい」
 見れば二機のアーマードモジュールはまだ戦っていた。赤い機体の方がやや有利に見える。
「あちらの赤い機体は」
「ベガリオンだ」
 今度は赤い髪の女がモニターに出て来た。先程の高い方の声と同じ声であった。
「ネオ=ジオンの機体だ」
「ふむ、ジオンだから赤なのか。成程」
「リュウセイ、クワトロ大尉は今ロンド=ベルよ」
 ここでアヤが突っ込みを入れてきた。
「まさかとは思うけれど」
「わかってるって」
 リュウセイはそれに対して陽気に返した。
「わかっててそう言ってるの、安心してくれよ」
「そう。だったらいいけれど」
 そう応えながらもやはり心のどこかで不安であった。そこで赤い髪の女が話を続けていた。
「ここはあたし一人でできる。だから手助けはいらない」
「おい、何言ってるんだよ」
 リュウセイがそれを聞いて口を尖らせた。
「民間人を助けるのが軍人の務めだぜ」
「フン、嘘をつけ」
 だが女はその言葉を頭から否定してきた。
「だったら今の地球連邦軍は何なんだ」
「俺達も連邦軍所属だぞ、一応」
「一応は余計よ、リュウセイ」
「そうだ、確かにリュウセイの言葉は蛇足があるが」
 ライがリュウセイにかわって女に対応した。
「そうした奴もいるが俺達の考えは違う。民間人が襲われている以上君を助ける義務がある」
「余計なことだ」
 だが女はそれでもそれを受けようとしなかった。
「あたしはそんなのいらない」
「何てヘソ曲がりなんだ、こいつは」
 リュウセイはそれを聞いて顔を顰めさせた。
「現にやばい状況じゃねえか。そんなんで何しようってんだよ」
「それはあんたには関係ないだろ」
 女はまた反論してきた。
「あたしは大丈夫なんだ。だから手出しはするな」
「待って、アイリス」
 だがここでツグミが彼女を止めた。
「ツグミ」
「今レーダーに反応があったわ。後方からネオ=ジオンが来ているわ。それも大勢」
「クッ・・・・・・」
「半端な数じゃないわよ。それでも一人でやれるの?」
「・・・・・・わかった」
 アイリスはそれを聞いて渋々ながら頷いた。
「そちらの援護を受けたい。いいか」
「最初からそう言えばいいのによけれどいいさ」
 リュウセイはそれを聞いて微笑んだ。
「行こうぜ皆、丁度戦いたくてウズウズしていたところだしな」
「御前はいつもそうだろうが」
「本当に変わらないな」
 ライとレビがそれを聞いて呆れた声を出した。しかし彼等も身構えていた。
「じゃあ行くわよ、いい?」
「了解」
 そしてアヤの言葉に従い戦闘態勢に入る。三隻の戦艦からもマシンが次々と発進する。
「エリカ、じゃあ行ってくる」
「一矢、頑張ってね」
 その中には当然一矢もいた。彼も戦場に向かうのであった。
 当然ながらコスモクラッシャー隊もいた。彼等はそれぞれ乗り込み発進した。だが席が一つ空いていた。
「タケルは?」
 コスモクラッシャーに乗り込んでいる一人の少女が他の者に尋ねた。日向ミカという。
「あいつは今は乗せていない」
 キリッとした顔立ちの男がそれに答えた。コスモクラッシャー隊のリーダーであり作戦も担当する飛鳥ケンジであった。
「何かあったんですか」
「具合が悪いようだったからな。それでおろしたんだ」
「そうだったんですか」
 ミカはケンジの言葉を聞いて頷いた。
「まあタケルのいない分は俺達で埋めるさ、なあ、ナオト」
「おうよ」
 操縦席にいるやや太った男が顎の線の細い男にそう声をかけた。太った男が木曾アキラ、操縦担当であり顎の細い男が伊集院ナオトであった。ナオトは火器担当である。
「タケルがいなくても何とでもなるぜ」
「そうかしら」
 だがミカはその言葉には懐疑的であった。
「一人がいないとそれだけ戦力が減るのよ」
「だが具合の悪い者を乗せておくわけにもいかないだろう。それはかえってタケルにも悪い」
 ケンジはここでミカに対してそう言った。
「それはわかるだろう」
「ええ」
 それがわからない程ミカも分別がないわけではなかった。こくり、と頷く。
「そういうことだ。俺達は今の状態で戦うしかない」
「そういうことですね」
「まあタケルの穴は俺が埋めてやるぜ」
 アキラとナオトもそれに頷いた。しかしミカの顔は晴れなかった。
「それでタケルは大丈夫なんですか?」
「ああ、只の風邪らしい」
 ケンジは落ち着いた様子でそれに答えた。
「だから特に心配する必要はない、いいわ」
「わかりました」
 それに頷いた。そしてコスモクラッシャーも出撃した。他のマシンも一緒であった。
 ネオ=ジオンの部隊はアイリスとツグミの乗るアルテリオンを包囲しようとした。だがそこでベガリオンから通信が入った。
「あれは私がやる」
 出て来たのは群青色に赤い軍服を着た女であった。凛々しく端麗な顔立ちをしている。
「任せてよいな、スレイ=プレスティ」
 ネオ=ジオンのモビルスーツ部隊の先頭にいるザクV改に乗る茶の髪の青年がそれに応えた。ネオ=ジオンのエースパイロットの一人マシュマー=セロである。ハマーンに心酔していることでも知られている男である。気品のある顔立ちと言えた。
「うむ、これは私がやらなければならない。わかってくれるか」
「何言ってるんですか、貴女は」
 それを聞いてザクV改の隣にいるズサに乗る鼻の大きい男が困った顔をした。マシュマーの副官であるゴットン=ゴーである。
「そんなことできるわけないでしょうが」
「いや、構わん」
 だがマシュマーはそれを認めた。
「マシュマー様、何言ってるんですか」
「ゴットン」
 マシュマーはここでゴットンの名を呼んだ。
「はい」
「素晴らしいと思わないのか」
「何がですか?」
「一人の女騎士が意地と誇りをかけて一騎打ちをするのだ。これこそが戦いというものだ」
「そういうもんですかね」
「そうだ。それこそが騎士の戦いだ」
「またはじまったよ」
 ゴットンはそれを聞いて呆れた声で呟いた。
「これさえなけりゃあな」
「ん、何か言ったかゴットン」
「いえ、何も」
「そうか。ならばよいが。さあ、今我々の敵は目の前にいる」
 ロンド=ベルは既に出撃を終え部隊を組んでいた。そしてネオ=ジオンを待ち構えていた。
「彼等を倒しハマーン様に勝利をもたらすのだ。行くぞネオ=ジオンの誇り高き戦士達よ!」
 マシュマーの声が全軍に響く。
「敵を一人残らず倒し、我等の武勇を世の者に示すのだ!」
 そう叫ぶとマシュマーが真っ先に動いた。そしてロンド=ベルに突き進む。
「マシュマー=セロ、参る!」
「あ、マシュマー様待って下さいよ!」
「ゴットン、戦場では敵は待ってはくれないぞ!」
「味方は待って下さいよ!」
 そんなやりとりをしながらロンド=ベルに向かって来た。ロンド=ベルの面々はSRXチームを加えたうえで布陣していた。
「ザクV改か」
「またマシュマーだな」
 ビーチャとジュドーはいつものことのような顔でネオ=ジオンの動きを見ていた。
「近いうちに会うとは思っていたけれど」
「出て来ると何か懐かしさすら覚えるわね」
「そうそう」
 ルー、エル、モンドも同じであった。何故か彼等は敵を前にしても緊張していなかった。だがイーノは別であった。
「皆そんなのでいいの?マシュマーは手強いよ」
「そうだな。聞いていれば俺と声がそっくりだし」
 ここでライトが出て来た。
「二枚目の声の奴は強いって相場が決まっているからな」
「じゃあ俺もだな」
 ライトの隣にいるタップがそれに合わせて言った。
「俺みたいなナイスガイはやっぱりエースになるべくしてなるんだよ」
「おい、タップの何処がナイスガイなんだよ」
 ケーンがそれに突っ込みを入れる。
「三枚目はナイスガイとは言わねえぞ」
「ケーン、そりゃどういう意味だ」
「そのまんまだよ。やっぱりエースは主役って相場が決まってるんだよ」
「じゃああの蒼い鷹の旦那がか?」
「・・・・・・ライト、それは言わない方がいいと思うぜ。何か嫌な予感がする」
「そうだな。止めるか」
「ドラグナーチームにガンダムチーム」
 ここで後ろにいるバニングからクレームが来た。
「わかってるとは思うが気をつけるようにな」
「了解」
「俺達の華麗な活躍を見せてやりますよ」
「だったらいいがな」
 バニングはドラグナーチームの軽いやりとりに対しても態度を崩さなかった。冷静に敵の動きも見ていた。
「もし駄目ならばベン軍曹にお灸を据えてもらうだけだ」
「ゲッ」
 それを聞いてケーン達だけでなくジュドー達も顔色を失った。
「それだけはご勘弁を」
「あの人のお灸はちょっと・・・・・・」
「じゃあわかっているな。真面目にやるんだ」
「はい」
「ねえジュドー、お灸って何?」
「食べ物じゃないな」
 プルとプルツーがそれを聞いてジュドーに声をかけてきた。
「そのうちわかるさ。熱くて痛いものだよ」
「うえっ、何か嫌そう」
「そんなものは欲しくないぞ」
「だったら戦争しようぜ、真面目にな」
「うん、わかった」
「後ろは任せろ」
「おう」
 ガンダムチームは右に、ドラグナーチームは左に動いた。そして中央にはバニングの小隊とコウの小隊、そしてシーブックの小隊がいた。ヒイロ達もいる。
「カミーユは左に行け」
「はい」
 カミーユ達がそれに従い左に動く。ウッソ達は中央にいた。
「ここはモビルスーツ隊とドラグナーチームで受ける。他の部隊は側面に回る」
「バルキリーもですか」
「そうだ」
 バニングはモンシアの問いにそう答えた。
「バルキリーとエステバリス、そしてダイモスはあちらだ。SRXチーム、ヘビーメタルは艦隊の防衛だ」
 モビルスーツ部隊の後方にはラー=カイラムとアルビオンがいた。ナデシコBはバルキリー達と行動を共にしている。彼等は迂回してネオ=ジオンに向かっていた。
「それでいいな。それでは戦闘開始だ」
「了解」
 皆それに頷いた。そしてライフルを構えた。
「やるぜ!」
「おう!」
 ビームライフルが一斉に放たれる。そしてネオ=ジオンのモビルスーツを次々に貫いた。敵の動きがそれで止まった。
「怯むな!」
 それでもマシュマーは突撃した。ビームをかわしロンド=ベルのモビルスーツに迫る。
「この程度で私を倒せると思っているのか!」
「うわ、やっぱり突っ込んで来たよ!」
「イーノ、落ち着け!」
 ジュドーがここで叫ぶ。
「奴は俺がやる!」
 そう言うとハイパービームサーベルを引き抜いた。そしてマシュマーのザクV改に立ち向かう。
「マシュマー、ここはやらせねえぞ!」
「ZZガンダム・・・・・・ジュドーか!」
 マシュマーは目の前にZZが来たのを見て自身も剣を抜いた。そしてZZのサーベルをそれで受けた。
「今ここで決着をつけてやろう!」
「望むところだ!」
 二人は一騎打ちをはじめた。その間にロンド=ベルの別働隊はネオ=ジオンの側面を突いた。その先頭にはダイモスがいた。
「エリカ、見てろよ」
 一矢は三節艮を取り出した。それでまずはズサを叩き潰した。
「三・竜・昆!」
 叩きながら叫ぶ。そして周りにいるモビルスーツを次々に倒していった。
「うわあ、やっぱり凄いな」
 それを見たアラドは思わず驚きの声をあげた。
「アラド、驚いてる場合じゃないわよ」
 ゼオラがそれを聞いて呆れたような、怒ったような声で彼を叱った。
「あたし達だってやらなきゃいけないんだから」
「わかってるよ」
「わかってるなら行くわよ、いい?」
「ああ」
「付いて来て。あたしが前に出るわ」
「何か逆だなあ」
「何か言った?」
「いいや」
 こちらはゼオラが主導していた。彼女が攻撃し、その脇をアラドが固めて迫り来る敵を退ける。二人一組で敵を倒していた。ネオ=ジオンのモビルスーツはその数を次々に減らしていた。
「マシュマー様、まずいですよ!」
 ジュドーとの戦いを続けるマシュマーのザクV改の横にゴットンのズサが来てそう忠告した。
「こっちばかりやられていますよ」
「わかっている!」
 マシュマーはそれを聞いて不愉快そうな声で返した。
「だが今は耐えなければならんのだ。もうすぐ援軍が来る」
「とっくに来ていますよ」
「何!?」
 マシュマーはそれを聞いて呆気にとられた声を漏らした。
「もう来ているのか」
「はい、キャラ様の部隊が」
 モニターに赤と黄色、二色の髪をした派手な顔立ちの女が出て来た。
「マシュマー、苦戦しているようだね」
「キャラ=スーンか」
 彼はその女の顔を見て名を呼んだ。
「援軍とは貴様のことだったのか」
「そうさ、ハマーン様からのご命令でね。助太刀してやるよ」
「クッ」
 断ろうとしたがそれはできなかった。ハマーンの命令とあらば致し方がなかったからである。
「わかった。それでは援護を頼む」
「了解。あんたはそのままそっちの坊やの相手を頼むよ」
「貴様はどうするつもりなんだ?」
「あたしは艦に残らせてもらうよ。ちょっとね」
「そうか」
 事情はマシュマーも知っていた。キャラはモビルスーツに乗ると人格が一変するのである。
「あたしが出なくてもいけるだろ。エンドラで援護させてもらうよ」
「わかった」
 マシュマーはそれを了承した。そしてジュドーに顔を戻した。
「ジュドー、あらためて行くぞ」
「へっ、そうこなくっちゃな」
 彼はそれを喜んで受けた。
「じゃあここで決めさせてもらうぜ」
「それはこちらの台詞だ」
 彼等はまた戦いを再開した。そして両者剣を再び重ね合いはじめたのであった。
 キャラの援軍を得てネオ=ジオンはもちなおした。キャラはまず側面を衝いてきた部隊に攻撃を集中させてきた。
「まずはあいつ等をやるよ!」
「了解!」
 ネオ=ジオンの攻撃が側面の部隊に集中される。キャラの乗るエンドラも攻撃を加えていた。
「撃て!」
 主砲が火を噴く。そしてコスモクラッシャーの至近距離をかすめた。
「おっと!」
 アキラが巧みな操縦でそれをかわす。ミカは冷や汗をかいていた。
「危なかったわね」
「何、これ位何でもないさ」
 だがアキラは至って冷静であった。どうやら敵の攻撃を見切っていたらしい。
「問題は戦艦だよ」
 彼はここでアルビオンに目を向けた。
「敵が来てるぜ。このままじゃまずい」
「けれどここからでは何もできない。護衛に任せるしかない」
 ナオトがそう言った。そしてメンバーの目を正面の敵に向かわせた。
「今は我々は正面にいる敵を倒すことを考えよう」
「了解」
 ケンジがそれに頷いた。そして攻撃を敵のモビルスーツに加える。一機撃墜した。
「こうやってだな」
「そうだ」
 ナオトは頷いた。そして彼等は目の前にいる敵への攻撃に向かうのであった。
 ラー=カイラムとアルビオンも敵の援軍が現われたのを機に前面に出ていた。そして攻撃を行なっていた。
「外すなよ」
 シナプスの指示が下る。そして敵の小隊にまがけて砲撃が加えられる。
 それを受けて敵のモビルスーツが数機撃墜される。だがそれでも敵の数は一向に減らなかった。
「こちらにも来ます!」
 シモンが叫ぶ。するとアルビオンのモニターに一機のガザDが映った。ビームを放ってきた。
「ムッ!」
 それを受けて艦に衝撃が走る。だがそれでも損害は軽微なものであった。、ただ艦内に残っていたタケルは倒れ床に叩きつけられてしまった。
「グッ・・・・・・」
 タケルは何とか起き上がった。だがそこにまた攻撃が加えられてきた。
「ウワッ!」
 また倒れた。今度は背中を強く打った。
「まだだ、俺は今はここにいるだけだが」
 彼は起き上がりながら呟いていた。
「他の皆は戦っているんだ。だからこんなところで」
『マーズよ』
 ここで誰かの声が聞こえてきた。
「マーズ!?」
 タケルはその声に気付いた。それを受けて辺りを見回す。だがそこには誰もいなかった。
「俺を呼ぶのは誰だ!?」
『私だ』
 タケルの脳裏に一人の少年が現われた。タケルと同じ顔を持つ緑の髪の少年であった。まるで中世の貴族のようなみらびやかな服を着ている。
「貴方は」
『私はマーグ。御前の双子の兄にあたる』
 彼は自分の名を名乗り彼にもそう言った。
「兄!?そんな馬鹿な」
 タケルはそれを聞いて思わず声をあげた。当然であった。
「俺には兄なんていない。俺は明神家に生まれた」
『地球ではな』
 マーグはそれを聞いてそう語った。
『確かに御前の今の名前は明神タケルかも知れない』
「知れないんじゃなくて本当のことなんだ」
 彼はそれを聞いてやや激昂してそう言った。
「それは言っているじゃないか」
『話をよく聞いてくれ』
 だがマーグはそんな彼に教え諭すように語り続けた。タケルはそれを聞いて何故か従う気になった。はじめて見る相手でしかもいきなり言われたことであるのに、だ。それは自分でも不思議であったがそれが何故かはわからなかった。
『御前は地球ではその名前なのだろう』
「当然じゃないか。何を言っているんだ」
『しかし御前のバームでの名前は違っているのだ』
「バームでの!?」
 彼はそれを聞いて思わず声をあげた。
「今バームと言ったな」
『そうだ』
 マーグはその言葉に頷いた。
『御前は本当は地球人ではない。バルマー星人なのだ』
「そんな馬鹿な、俺は地球人だ」
 タケルはそれを聞いて叫んだ。頭の中で叫んだのである。
「その証拠に俺にはちゃんと親がいる。それで何故俺をバルマー星人だなんて言えるんだ」
『言っただろう。私は御前の兄だと。私達はバルマー星に生まれた双子の兄弟なのだ』
「何を根拠に」
『根拠か』
 マーグはそれを聞いてタケルを見た。
『それは御前自身が最もよくわかっている筈だが』
「俺が!?」
『そうだ』
 彼は静かな声でそう語った。
『私と御前は同じ顔を持っている。そして今御前は私の言葉を素直に受け入れているな』
「うう・・・・・・」
 否定はできなかった。タケルはそれを聞いて俯くしかなかった。
『それが何よりの証拠だ。そして今御前がやらなければならないことは』
「待ってくれ」
 タケルはここで顔を上げた。
「俺は地球で育ち、地球の為に戦っているんだ。今ここでそれを裏切ることはできない」
『それはわかっている』
 だがマーグはそれを認めた。
『私は御前にバルマーの為に戦えとは言わない。私は御前に地球の為に戦ってもらいたいのだ』
「地球の為に」
『そうだ』
 マーグはその言葉に頷いた。
『私は確かにバルマー星人だ。だがバルマーの侵略に賛同することはできない。バルマーのやり方は間違っていると思っている』
「それで俺に今語りかけてきたのか」
『そうだ。そして御前には戦う義務がある。そして御前は死んではならない』
「死んではならない・・・・・・。どういうことなんだ兄さん」
『よく聞け、マーズ』
 彼はここでその顔と声をさらに引き締めさせた。
『御前の身体には秘密がある』
「身体にも」
『そうだ。御前の身体には爆弾が埋め込まれている』
「えっ!?」
 それを聞いて声をあげずにはおられなかった。
「それはどういうことなんだ!?」
『霊帝が地球に御前を送り込んだ時に埋め込んだのだ。地球を爆破する為にな』
「待ってくれ。バルマーは地球を征服するつもりなんじゃないのか」
 タケルはそれを聞いてマーグに問うた。
「だからこの前の戦いが起こったんだろう!?」
『その通り』
 マーグはそれを認めた。
『だがそれを為しえなかった場合のことも考えていたのだ、霊帝は』
 そのうえでそう答えた。
『その際には地球を破壊するつもりだった。その為の爆弾が御前だったのだ』
「そんな・・・・・・」
 それを聞いてタケルは絶句した。
「俺は地球を破壊する為の爆弾だったのか」
『残念だがそうだ。それは御前が死んだ時に爆発するようになっている』
「じゃあ俺は死ぬことができないのか」
『普通に死ぬのならいい。しかし戦死した場合には』
「そうか・・・・・・」
 彼はそれを聞いてうなだれた。
「何てことだ。俺はこの地球を滅ぼす為の兵器だったのか。そんな・・・・・・」
『全てはユーゼスの考えだった』
 マーグはここでユーゼスの名を出した。
『ユーゼスはそこまで考えていたのだ。そしてそれを霊帝に上奏した。そして御前が送り込まれたのだ』
「ユーゼスはもう死んだ。今もあいつに悩まされるなんて」
『今御前がやるべきことは一つだ』
 マーグはさらに強い声でタケルにそう言った。
『戦え、地球の為に』
「地球の為に」
『そうだ』
 彼は強い声で頷いた。
『地球を守りたいか』
「勿論だ」
 タケルも強い声でそう答えた。
「俺はこの地球で育ったんだ。そして今地球の皆と共に戦っている」
 その言葉に迷いはなかった。彼はそのまま語り続けた。
「地球の平和を守る為に。俺はバルマーで生まれたかもしれない。しかし」
 言葉を続けた。
「俺は地球人だ。俺は地球の為に戦う!」
『よし』
 マーグはそれを聞いて頷いた。


[267] 題名:第十五話その一 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月20日 (月) 00時12分

            正義の使者ガイヤー
 ティターンズはかっては連邦軍の一部隊であった。一年戦争後混迷を深める地球圏の防衛及び治安維持の為に設立された部隊であり連邦軍の最強硬派として知られるジャミトフ=ハイマン大将の提唱で設立された。この部隊は精鋭部隊として独自の機動力と戦力を持つ独立部隊であった。その前線指揮官にはジャミトフの腹心であるバスク=オム大佐が就任していた。
 彼等は軍服も連邦軍のものとは異なり、階級も連邦軍のものより一つ上とされていた。そして地球出身者によって構成されアースノイド至上主義を掲げていた。これはジャミトフの思想に依るものであったがこれは隠れ蓑に過ぎなかった。正確に言うならばティターンズが連邦軍に存在することそのものがそうであった。
 ジャミトフの本音は権力の掌握であった。地球圏を掌握し、ダカールでの年次総会で連邦政府を完全に手中に収めんとした。
しかしそれはロンド=ベルによって防がれバルマー戦役の後再度権力を掌握せんとマクロスを奪おうとしたが再度彼等に敗れた。
 これによりジャミトフはティターンズを宇宙に引き揚げさせた。そして旧ア=バオア=クーを改造しそこにルナツーを移動させ一大軍事基地を建造しそこに立て篭もった。そこをゼダンの門と名付けた。
 それと共にサイド3、すなわちジオン共和国と接近し木星とも同盟を結んだ。彼は表向きはアースノイド至上主義を掲げてはいたが実質的にはジオン公国、とりわけギレン=ザビの思想に共感しており彼等との接近も抵抗がなかったのである。またティターンズ自身かってジオンにいた軍人や技術者が多くその実態はジオンだと揶揄する者すらいた。その彼等がかってのジオンの基地にいるのは皮肉なことではあった。今ジャミトフはそのゼダンの門の司令室にいた。
 実務的な質素な司令室であった。頑丈そうな机と応接間の他はこれといってない。彼はその中央に立っていた。
 白い髪と顎鬚を持った険しい顔の男であった。まるで鷲の様な顔をしている。とりわけ目が鋭い。そして黒く丈の長い服に身を包んでいる。やや小柄な印象を受けるがそれは目の前にいる男が大柄なせいであった。
「ギガノスの動きはどうか」
 その男ジャミトフは前に立つその大柄な男に問うた。
「ハッ」
 男は低い声でそれに応えた。ティターンズの軍服を着たゴーグルの様な眼鏡の男であった。
「今のところ積極的な動きはないようです」
 彼はそう答えた。彼がバスク=オムであった。ティターンズの前線指揮官である。
「そうか」
 ジャミトフはそれを聞いて頷いた。
「やはりロンド=ベルの動きを警戒しているのか」
「いえ、そうではないようです」
「どういうことだ」
 ジャミトフはそれを聞いてバスクを見上げた。
「何か別の作戦を立てているのか」
「火星のことは御存知でしょうか」
「うむ」
 彼はそれに頷いた。
「バーム星人という異星人達の手に落ちたのだったな」
「それが彼等はすぐに火星を離れまして」
「何!?」
 彼はそれを聞いて怪訝そうな顔をした。
「折角占領した惑星をすぐに手放したのか」
「はい。そのかわりその衛星軌道上に巨大な船を浮かべております」
「船を」
「はい。これですが」
 彼はここで一枚のホノグラフィーの写真を取り出した。そこには透明のピラミッド型の都市が浮かんでいた。
「これか」
「はい」
 バスクは答えた。
「連中はこれを小バームと呼んでいるそうですが」
「小バームか」
「どうやら連中の母船の様です。ギガノスはそれに警戒しているようなのです」
「そうだったのか」
 ジャミトフはそれを聞いて納得した様に頷いた。
「道理でな。だがギスカールという男はそれですぐに動きを止めるような男ではないぞ」
「はい」
 バスクはジャミトフの言葉に同意した。
「伊達に連邦軍きっての切れ者であったわけではありませんからな」
「そうだ」
 ジャミトフはその言葉を待っていたようであった。
「私とあの男は士官学校において同期だった」
「はい」
「その頃からいけ好かない男だった。何かと理想を説いてな」
「昔から変わってはいなかったのですな」
 それはジャミトフ、バスクも同じであったが彼等はそのようなことには気付いてすらいなかった。
「今も選民思想を説いているな。もっとも私も不要な者なぞ消してしまえばいいとは思っているがな」
「同意であります」
「うむ。それに月でも何かを建造しているそうだな」
「そのようです」
 バスクはまた答えた。
「残念ながら全てを掴んではおりませんが」
「月に潜伏している諜報員を増やせ。そして必ずや奴等の尻尾を掴め。よいな」
「ハッ」
 ジャミトフはさらに話を続けた。
「ネオ=ジオンだが」
「はい」
「シロッコはどうしているか」
「今のところ奴等と五分に渡り合っているようです」
「そうか。ならばよい」
 彼はバスクからの報告を聞いて頷いた。
「だが、わかっておるな」
「はい」
「シロッコは最後まで信用はできぬ。あの男は危険な男だ」
「それはよく存じているつもりです」
 かって彼はティターンズにいた。しかし本来いた木星に戻るとそこでバルマーと手を組んだのである。それをジャミトフもバスクもよく知っていた。だからこそ彼等はシロッコを信用する気にはなれなかったのだ。
「あの戦いで死んだと思っていたがな」
「あれがクローンだったのでしょう」
「そうか」
「今ここにいるシロッコが本物であると私は思いますが」
「ならばよいがな」
 ジャミトフはここで思わせぶりな言葉を口にした。
「といいますと」
「む、何でもない」
 だが彼はその言葉を打ち消した。
「気にするな。よいな」
「わかりました」
「シロッコの軍には誰がいたか」
「クロノクルとカテジナ、そしてファラがおりますが」
「ふむ」
 彼はそれを聞いてまた考え込んだ。
「危険だな」
「危険ですか」
「そうだ。シロッコとあの者達を離せ。よいな」
「それではそう致します」
「そうしろ。そしてシロッコには少数精鋭の部隊を渡瀬。多くの兵は預けるな」
「わかりました」
 バスクはそれに応えてまた敬礼した。
「主力部隊はジャマイカン及びガディに預ける」
「ハッ」
「その下にはライラ、ジェリド、マウアー、カクリコンを置け」
「了解しました」
「そしてだ」
 ジャミトフの指示は続く。
「あれの準備はどうなっている」
「あれですか」
「そうだ」
 彼はここでニヤリと笑った。
「どれだけ進んでいるか」
「全て予定通りでございます」
 バスクもそれに応えてニヤリと笑った。
「近いうちに我々はこの宇宙にいる全ての勢力を滅ぼすことができるでしょう、あれの力によって」
「ならばよい」
 ジャミトフも笑っていた。そして言葉を続けた。
「そして地球に戻る。最早ゼーレもいないしな」
「はい」
「いや、待て」
 だが彼はここで考えをあらためた。
「地球には既に兵を送り込んでいてもよいかも知れぬな」
「地球にもですか」
「可能ならばな。ギガノスも地球に兵を送っているそうだな」
「はい」
 バスクはそれに頷いた。
「グン=ジェム隊でしたな。確か中央アジアを中心に暴れ回っている」
「グン=ジェム隊というのか」
「はい、何でもギガノスの汚物と称される部隊だそうです。半ば愚連隊の様な存在だと聞いております」
「愚連隊か」
 ジャミトフはそれを聞いて不思議そうな顔をした。
「あのギスカールがそのような部隊を持っているとはな」
「色々と事情があるようです」
 バスクはそれにそう答えた。
「正規軍ですが月からの統制が効きにくいこともあり。半ば独立した軍となっていると聞いております」
「そうなのか。ギガノスも一枚岩ではないようだな」
「そうですな。それが奴等の命取りになればよいですが」
「ギスカールは潔癖症だ。それにより問題が生じるやも知れぬな」
「はい」
「奴等に関してはとりあえずは守りを固めるだけでよい」
「わかりました」
「最大の問題はロンド=ベルだ」
 そう言うジャミトフの目が光った。
「ナデシコと合流したようだな」
「はい」
「そして地球にいる大塚がコスモクラッシャー隊を送ったそうだな」
「ええ、その通りです」
 バスクはそれにも答えた。
「ですがコスモクラッシャー隊といいましても僅か一機の戦闘機だけですが」
「何、そうなのか」
「はい。ですからそちらはあまり脅威とはいえないと思います」
「ふむ」
「それよりロンド=ベルにはより強力な援軍が出て来ました」
「援軍!?何だ」
「SRXチームです。今地球からラー=カイラムに合流しに向かっているようです」
「そうか」
 ジャミトフはそれを聞いてその目の光をさらに険しくさせた。
「やはりロンド=ベルにつくか」
「どうやらそのようです」
 バスクの声も険しくなっていた。彼等は先の戦いのこともありSRXチームについては快く思ってはいないのであった。
「しかも今回はリン=マオ自身が動いております」
「あの女がか」
「はい、あの女自身がロンド=ベルに参加するようです。如何なされますか」
「言うまでもない。敵は倒す」
 ジャミトフは素っ気無くそう答えた。
「それだけだ。ティターンズに歯向かう者には容赦してはならぬ」
「はい」
「徹底的にやるのだ、よいな」
「わかりました。それでは兵を送ります」
「うむ」
 ジャミトフはそれを認めた。
「ジャマイカンの部隊を送り込め、よいな」
「ハッ」
「目標はロンド=ベル、奴等も同時に叩け」
「わかりました」
「丁度ギガノスの連中も来るかも知れぬ。兵は多く出すようにな」
「ハッ」
 バスクは再び敬礼して応えた。
「それではそう致します」
「バスク」
 ジャミトフはここでバスクの名を呼んだ。
「何でしょうか」
「貴官はここに残っておれ。よいな」
「わかりました」
「この機に乗じてネオ=ジオンが動くやも知れぬからな。よいな」
「ハッ」
 彼はそれに従い頷いた。
「いざという時に備えは必要だからな」
「はい」
「さて」
 ジャミトフは話を終えると窓の外に目をやった。そこには無限の銀河が広がっている。
「この銀河は美しいがな」
「はい」
 バスクもそこに目をやっていた。
「地球を手に入れることに比べればかほどのものもない」
「全くです」
「機が来れば兵を送りたいが」
「やはりそれには限度があると思います」
「今我等はこのゼダン、サイド3、そして木星に勢力を持っている。それでもか」
「残念ながら。敵があまりにも多いかと」
「致し方ない。だが我等の目的は決まっている」
「それは承知のうえです、閣下」
 バスクはまた答えた。
「その為に手段を選ぶことはありません」
「そうだ」
 それについては彼も同じ意見であった。
「正義なぞ所詮は力の後についてくるものだ。法もな」
「はい」
「それがわかっていればよい。そしてその為には」
「勝つことです」
 二人は銀河を眺めながら話を続けていた。美しい銀河を眺めながらもその話が必ずしも美しい話ではなかったのである。

 ナデシコ、そして難民達と合流したロンド=ベルは一先地球に戻ることにした。難民達を安全な場所へ移す為であった。その時一矢はナデシコの中の一室にいた。
「あ、リョーコさん」
 彼はリョーコに声をかけていた。
「エリカは今どうしているんだい?」
「何だよ、またあいつのことかよ」
 リョーコはそれを聞いて呆れたように答えた。
「元気だよ。まだ記憶は戻ってねえけれどな」
「そうか。それはよかった」
 一矢はそれを聞いて安心した顔になった。
「前の戦いでナデシコも攻撃を受けたからな。エリカに何かあったんじゃないかって心配してたんだ」
「大丈夫ですよ、一矢さん」
 そこでルリが彼に対してそう言った。
「ナデシコの看護班は優秀ですから」
「それはわかっているけれど」
「けれどそれでも心配なのよね、一矢さんは」
 ヒカルがそれを見て嬉しそうな顔をしていた。
「恋は盲目、鯉はもう沢山」
「・・・・・・・・・」
 イズミが一言言うとその場は忽ちのうちに北極のようになってしまった。だがそれを無効化していたルリがここで言った。
「エリカさんに御会いしたいですか」
「えっ、それは」
 いささか単刀直入に問われて流石に戸惑った。
「ま、まあそれはそうだけれど」
「行かれたらどうですか。心配なのでしょう」
「う、うん・・・・・・」
「竜崎一矢、何をクヨクヨしておるかあ!」
 ここでダイゴウジが叫んだ。
「男たるもの、優柔不断であってはならぬ、一気にいかぬか!」
「まあ時には積極的にいくのも手かもな」
 サブロウタも話に入って来た。
「いきなよ、一矢さん。俺達のことは気にしないで」
「いや、気にしているわけじゃないけれど」
「だったらいいじぇねえかよ。男がウジウジするなよ」
 リョーコが一矢を見上げてそう言った。
「高い背でそんなにウジウジしてりゃあこっちが困るんだよ」
「背は関係ないだろ」
「いや、ある」
 ダイゴウジはまももや大上段にそう断言した。
「男子たるもの威厳がなくてはならぬからな」
「そういうものかな」
「そういうものですよ、やっぱり男の人って背丈がある方が格好よく見えますから」
「手長おじさんに惚れます」
「イズミさん、それを言うなら足長おじさんじゃないの」
 サブロウタが突っ込みを入れた。それを見ながら一矢は考えていた。
「ううん」
「まあ背のことは置いておいて」
「あ、アキトさん」
 ルリが最初に彼の存在に気付いた。
「エリカさんのことが心配なら言ってあげた方がいいと思うよ。彼女にとっても誰かいてくれる方がいいだろうし」
「優しいな、アキトは」
「男の人は優しくないとね」
「ヒカルさん、さっきと言ってることが違うよ」
 サブロウタがそう突っ込みを入れるがヒカルは気にはしていなかった。
「まあいいじゃないですか」
「そういうものかな」
「そう、男はただ強いだけでは駄目なのだ」
 ダイゴウジがここでまたそう断言した。
「真の男は心も備わっていなくてはならないのだ。そう、優しさも」
「何かダイゴウジさんが言うと説得力がありますね」
「ふふふ」
 アキトにそう言われ得意になっていた。それで波に乗りさらに続ける。
「そしてだ」
「はい」
「竜崎一矢、貴様にはその優しさがある。それを充分に活かすのだ」
「優しさをですか」
「そうだ」
 ダイゴウジはまた言った。
「よいな。それで男を磨くのだ。そして何時の日か真の漢となるのだ」
「わかりました」
「・・・・・・何かダイゴウジさんが話に入るといつも急に熱くなるな」
「そういう人ですからね」
「人間ガスバーナー」
 リョーコとイズミ、ヒカルは彼の後ろでヒソヒソとそう話をしていた。だがそれはダイゴウジの耳には一切入ってはいなかった。ルリには入っていたがあえて言おうとはしなかった。
「それで一矢さん」
 そのかわりに一矢に声をかけてきた。
「はい」
「すぐに行ってあげて下さい。エリカさんにとってもそれがいいですから」
「わかりました」
 一矢はそれを受けて頷いた。
「では御言葉に甘えて」
「はい」
「行って来いよ」
「死に水は用意してありますからね」
「イズミさん、何でそこで死に水が出るのですか?」
「ルリちゃん、またわかる日が来るわよ」
 そんなやりとりをしながらナデシコの面々は一矢を笑顔で送り出した。皆優しい顔だったがとりわけアキトのそれは温かいものであった。
「いいなあ、ああいう人って」
「おや、アキトが言うとはね」
 サブロウタがそれを聞いて面白そうな顔をした。
「艦長との仲は上手くいってるんじゃないの?」
「え、それは・・・・・・」
 アキトは自分に話を振られギクッとした顔になった。少し赤くなってきた。
「な、何もないよ」
「嘘つけ」
「恋愛は漫画のネタには最適だから詳しく聞きたいですね」
「恋は江戸の華」
「イズミ、火事と喧嘩だそれは」
「ダイゴウジさんの好きなものばかりですね」
 そんなやりとりをしながら彼等は一矢を見守っていた。口では色々と言っていてもその目はやはり温かいものであったのは変わらなかった。

 暫くして一矢は部屋を出た。そしてナデシコの面々と話をしながら自分の部屋に戻った。するとそこには京四郎とナナがいた。
「二人共、ここにいたのか」
「ああ」
 京四郎は壁に背をもたれさせて立っていた。ナナは椅子に座って一矢を見ていた。
「エリカさんの様子はどう?」
 ナナがまず彼にそう問うてきた。
「記憶は戻ったの?」
「いや」
 だが一矢はその問いに首を横に振った。
「自分の名前以外はまだ思い出せないらしい。回復には時間がかかりそうだ」
「だったらいいんだがな」
 京四郎はここで含ませた言葉を口にした。
「それはどういう意味だ、京四郎」
「そのままの意味だ」
 彼は一矢に目を向けてそう答えた。
「あの時バーム側の人間も大勢いたな。そしてあの混乱だ。何があってもおかしくはない」
「彼女がスパイだと言いたいのか!?」
「否定はしない」
 京四郎の声は冷厳なものに聞こえた。少なくとも今の一矢には。
「避難民の身元も全て確認されてはいないしな。実質的には今は不可能だろう」
「エリカを疑うのか」
「お兄ちゃん」
 ここでナナが言った。
「少し落ち着いた方がいいよ」
「何を言ってるんだ、ナナまで。俺は冷静だ」
「そう言えるか」
 京四郎の声と一矢の声、どちらが冷静なものであるかはもう言うまでもないことであった。一矢はそれを受けて沈黙した。
「言えないだろう。これはゲーテだったか」
 京四郎は一矢に言って聞かせるようにして話をはじめた。
「恋は盲目、だ。今の御前は周りが見えていない」
「そうよ。確かにエリカさんはいい人に見えるけれど」
「ナナまで・・・・・・。エリカはスパイなんかじゃない」
「どうしてそう言い切れる?」
 京四郎の言葉がさらに鋭いものとなった。
「それは・・・・・・」
 そう問われた一矢の言葉が止まった。
「確信はない。けれど俺にはわかるんだ」
「何がだ?」
「エリカはスパイじゃない、それは信じてくれ」
「御前は信じられる」
 京四郎はそう答えた。
「ナナもだ。お互い長い付き合いだしな」
「なら彼女も」
「それが甘いというんだ。俺達は長い間一緒にいた。しかし彼女は違う」
「付き合いの長さだけで人の信頼を計るつもりなのか!?」
「落ち着け、よく聞け」
 京四郎は言葉を続けた。
「付き合いが長ければお互いを知る機会も多くなる。それだけのことだ」
「しかしエリカは」
「落ち着けと言ってるんだ」
 それでも激昂しようとする一矢をそう言って宥めた。
「そうしてムキになっているだけでも今の御前はおかしいんだ。今俺達は何処にいる」
「ナデシコだ」
「そうだ、このナデシコは軍艦だな」
「ああ」
「ならばわかる筈だ。身元のはっきりしない者は怪しまれる。エリカ艦長はそうでもないようだがな」
「なら大丈夫じゃないか、艦長がそう思ってるんなら」
「そうじゃないよ、お兄ちゃん」
「ナナ」
「よく考えて、それでもエリカさんが誰なのかはっきりとわからないのよ」
「御前もそんなことを言うのか」
「ナナの言う通りだ。彼女は何処にいた」
「会談場のすぐ側だったよね」
「ああ」
 一矢は二人に対してそう答えた。
「あそこは一般人は立ち入りできなかった。警護にあたる俺達を除いてはな」
「それは覚えている」
「そして服を見れば軍人ではない。それだけでも怪しいな」
「・・・・・・・・・」
 一矢はそれに答えられなかった。彼も戦う者である。だからこそ京四郎の言葉の意味がよくわかったのだ。
「しかしバーム星人には翼があった」
 耐え切れなくなったようにそう反論した。
「エリカには翼はないだろう」
「確かにな」
 京四郎もそれは認めた。
「それなら」
「しかしそれだけで確証が得られたわけじゃない。まだ信用するには足らない」
「クッ・・・・・・」
「何度も言うが落ち着け。そして冷静になるんだ、いいな」
「もういい!」
 遂に一矢は激昂した。
「御前達がそんな奴等だとは思わなかったぞ!俺はあくまでエリカを信じる!」
 そう叫んで部屋を出た。そして何処かへと去って行った。
「あ、お兄ちゃん!」
 ナナが後を追おうとする。だが京四郎がそれを止めた。
「放っておけ」
「けど」
「頭を冷やすことも大切だ。特に今のあいつはな」
「そうなの」
「そうだ。だがいざとなった時は・・・・・・。わかるな」
「ええ」 
 ナナはこくり、と頷いた。京四郎の顔も深刻なものであった。だが一矢はそれには気付いてはいないのであった。そうした意味で京四郎の言葉は当たっていた。


[266] 題名:第十四話その二 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月20日 (月) 00時07分

「何だありゃ。土偶か!?」
「確かにそっくりね」
 クスハもそれに同意した。
「あれ、その声はクスハ姉ちゃん!?」
 勝平はその声を聞いて龍虎王のモニターにスイッチを入れた。
「やっぱり。それにブリット兄ちゃんまで。どうしてそれに乗ってるんだよ」
「勝平君こそ。貴方がそのロボットに乗ってるなんて」
「まあ色々と事情があってね。しかし姉ちゃんが龍王機のパイロットだったなんてなあ」
「意外だった?」
「ああ。普段おしとやかな姉ちゃんしか知らないから余計に。ブリット兄ちゃんは不思議じゃないけれど」
「俺はいいのか」
 ブリットはそれを聞いて思わず苦笑してしまった。
「そう思うけれど」
「お話の途中で悪いけれど」
 ここでマリアが入って来た。
「それは後でゆっくりとした方がいいわよ」
「おっと、そうでした」
「あの土偶ね」
「ええ」
 マリアは勝平とクスハにそう答えて頷いた。
「あれを何とかしなくちゃ。何かまたマシンを一杯出してるし」
「そうだな。さて、どうするか」
 大介が呟いたその時であった。彼等の後ろに青い巨大な恐竜が姿を現わした。鉄の巨人達も一緒であった。
「あれは!」
「甲児君と鉄也君か!」
「おう、大介さん久し振りだな!」
「戦闘があると聞いてきてみればやはりな」
 甲児と鉄也はすぐにグレンダイザーのところにやって来た。そして攻撃を開始した。
「スクランダーカッタァーーーーーーッ!」
「マジンガーブレーーーードッ!」
 そして敵を切り裂く。その間に大空魔竜隊のマシンが出て来た。
 そのマシン達が空と大地を駆りガイゾックに向かって突き進む。ダンクーガが剣を抜いた。
「空なる我もて敵を討つ・・・・・・」
 忍は剣をかざして神経を集中させる。
「いけえええええ、断空光牙剣!」
 それで敵を薙ぎ払った。それにより数機を両断した。
 他のマシンも続く。そしてガイゾックのマシンを次々に倒していく。それを見て勝平達は呆然としていた。
「すげえ、滅茶苦茶強いじゃねえか」
「そうだな、噂だけはある」
「けれどあたし達もそんな悠長なこと言ってられないわよ」
「あ、ああ、そうだったよな」
 勝平は恵子の言葉に我に返った。
「じゃあ俺達は俺達で頑張ろうぜ」
「勝平、俺に考えがある」
 ここで宇宙太が勝平に対して言った。
「ん、何だよ宇宙太」
「あれをやるぞ」
 彼は後方にいる土偶に似た巨大なメカを指差した。
「あれをか?」
「そうだ。あれは多分敵の母艦だ。あれをやれば戦争のカタがつく」
「ふうん、どいつもこいつもぶっ倒せば終わりじゃねえんだな」
「これは戦争だからな、喧嘩とは違う」
「同じようなもんじゃねえのか」
「全然違うわよ」
 恵子がそれを聞いて呆れたような声を出した。
「そんなので大丈夫なの?」
「何言ってるんだ、俺に任せておけば大丈夫」
「ホントかしら」
「凄く不安だな。だが今はそんなことを言ってる暇はねえ」
 宇宙太はそこで話を終わらせた。そして自分の話を再開する。
「丁度敵の数も減ってきた。行くなら今だぜ」
「そういえばそうだな」
「目の前が開けてきたし」
 大空魔竜隊の攻撃を受けたからであろう。ガイゾックはその数を大きく減らしていた。彼等にとってはそれが大きなチャンスであったのだ。
「よし、一気に行くぜ」
「おう」
「頼んだわよ」
 二人は勝平に判断を任せることにした。
「あの土偶をやる。遅れるなよ」
「一緒の機体に乗ってるのに何で遅れるんだよ」
「しっかりしてよ」
「悪い悪い、それじゃあまあ気を取り直して」
 勝平はあらためて言う。
「ザンボット、ゴーーーーーッ!」
 ザンボットを突進させた。前にいる敵は皆その手にある剣で倒していく。
「ザンボットカッターだ!」 
 血路を開き土偶の前に来た。するとそこから声が聞こえてきた。
「フォフォフォ、蚊が一匹来よったわ」
 低い男の声であった。
「蚊なんかじゃねえぞ、ザンボット3だ!」
 勝平はそれを受けて叫んだ。
「ザンボット?また変な名前じゃのう」
「御前等に滅ぼされたビアル星のマシンだ!忘れたとは言わせねえぞ!」
「ビアル?はて、知らんのう」
 だが男の声はここでとぼけた答えを出してきた。
「一体何を言っておるのかのう」
「この野郎、しらばっくれるつもりか!」
「わしはそんなことは知らぬ。ついでだから教えてやろう」
「何?」
「わしの名はキラー=ザ=ブッチャーという」
 そしてここで青い顔をしたスキンヘッドの醜い巨人の顔が空に映し出された。彼がブッチャーであるのはもう言うまでもないことであった。
「ゲ、何て顔だ」
「あんな顔ははじめて見たわ」
「フォフォフォ、わしの顔に見惚れておるな」
 彼は大空魔竜の面々の言葉を聞いて笑った。彼等は自分の美しさに驚いているとばかり思っているのだ。
「愉快愉快。そしてこの母艦じゃが」
「土偶だろ」
「土偶などではない。これはバンドックというのじゃ」
「バンドック?また変な名前だな」
「ああ。このおっさんの顔と同じだな」
「ぬ、今言ったのはそこの小僧か」
 彼は宇宙太の言葉に気付きすぐに声を向けて来た。
「ああ、俺だぜ」
 宇宙太はそれに悪びれず言葉を返した。
「じゃあ他に何て言えばいいんだ、教えてくれよ」
「ナイスガイとかそんな言葉があるじゃろうが!許さんぞ!」
「・・・・・・何処がナイスガイなんだよ」
「ほんと。どっかの悪役レスラーそっくりじゃない」
 恵子もそれを聞いてそう呟いた。
「恵子ちゃん」
 そこにクスハが突っ込みを入れてきた。
「あの人本当は凄く優しい人なのよ」
「あ、そうだったんですか」
「その通り」
 ゼンガーも話に入って来た。
「アドタブラ=ブッチャー、真に人の心を持つ漢だ」
 彼は語りはじめた。
「彼は間違っても弱い者に拳を振り上げたりはしない。だが貴様はどうだ」
 何時の間にか彼はバンドックの前に来ていた。
「武器も持たぬ市民達をその手にかけようとした。その無法、断じて許さぬ」
「それが悪いことなのかのう」
「何っ!」
 ゼンガーだけではなかった。それを聞い全ての者が怒りの声をあげた。
「それこそが戦争ではないのか。何を甘いことを言っておるのじゃ」
「手前、それでも人間か!」
「わしは人間などではないわ」
 甲児の怒りの言葉もさらりと受け流した。
「わしはガイゾックじゃ。よおく覚えておくがいいわ」
「ああ、今ので完全に覚えたぜ」
「そうだな。ガイゾック、許してはおけん」
 鉄也と大介もその言葉に怒りを含んでいた。
「甲児君、怒りはわかるがここはそれを彼等にぶつけるんだ」
「ああ、わかってるぜ大介さん」
 彼も歴戦の戦士である。それはよくわかっていた。
「やってやるぜ、こんな奴等一人残らずぶっ潰してやる」
「当たり前だよ。忍、手加減するんじゃないよ」
「何か沙羅まで怒っちゃったね」
「当然だな」 
 ダンクーガもそれは同じであった。そしてジーグも。
「ミッチー、わかってるな」
「ええ、宙さん」
「この連中だけは何があろうと叩き潰すぜ」
「後ろは任せておいて」
「マッハドリルだ、頼む!」
「ええ!」
 ビッグシューターからドリルが発射される。ジーグはそれを受け取ると天高く飛び攻撃を開始した。
「喰らえっ!」
 それでもって前にいる敵を貫く。これが合図となった。
 彼等の攻撃がさらに激しくなった。先程のブッチャーの言葉が火をつけた形となっていた。バンドックにも攻撃が加えられていた。
「これでも受けやがれっ!」
 ザンボットがミサイルを放つ。それでバンドックにダメージを与える。だがそれでもバンドックは殆どダメージを受けてはいなかった。
「ん〜〜〜、今何かしたか?」
「チッ!」
「落ち着け」
 激昂する勝平をゼンガーが制止した。
「感情的になっても何にもならん」
「しかし」
「いいか」
 だが彼は勝平の言葉を遮って話を続けた。
「一気にいくんだ。御前の最大の力を奴にぶつけろ」
「最大の力を」
「そうだ」
 彼は言った。
「一撃必殺だ。それで以ってあのバンドックを倒せ。いいな」
「ううむ」
「勝平、あの人の言う通りにした方がいい」
 ゼンガーの言葉にまず賛成したのは宇宙太であった。
「チマチマやっててもラチがあかねえぜ」
「それもそうね」
 恵子もそれに同意した。
「勝平、あれをやったら?」
「あれか」 
 彼にはそれが何かよくわかっていた。
「そうだ、あれしかねえぞ」
「一気に仕留めるならね」
「わかった」
 彼もそれに頷いた。
「じゃあ一気にやってやるぜ。宇宙太、恵子、いいな」
「おう」
「こっちはいいわよ」
「よし!」
 それを受けて勝平はザンボットの全身に力を込めさせた。特に両腕にエネルギーがこもる。
「行くぜ・・・・・・」
 両手を構える。そのエネルギーがサンボットの額の三日月に集中される。
「ザンボットムーンアタァーーーーーック!」
 そこからエネルギーが放たれる。三日月型となりバンドックに放たれた。それは螺旋状に回転しながらバンドックに向かっていった。
 直撃した。その後ろに三日月が見えた。
「やったか!」
「ぬうう、まだまだ」
 だがそれでもバンドックは沈んではいなかった。大破こそしていたもののそれでも宙に浮かんでいた。
「この程度でわしを倒せると思わんことじゃな」
「糞っ、しぶとさだけは一人前かよ!」
「ならば俺が!」
 ゼンガーが前に出る。そして巨大な剣を取り出した。
「これで今一度!」
「おっと、二度も同じ手はくいはせんぞ」
 だがブッチャーはここでバンドックを後方に下がらせた。周りをガイゾックのメカで取り囲ませる。
「メカブーストよ、我が周りを取り囲むのじゃ」
「おのれ、卑怯な!」
「フン、卑怯だからどうしたというのじゃ」
 ブッチャーはゼンガーの言葉を鼻で笑ってみせた。
「わしは目的さえ達成できればそれでいいのじゃからな」
「それを外道という」
「外道?褒め言葉じゃのう」
 やはり彼はそう言われても悪びれるところがなかった。平然としていた。そして言葉を続けた。
「少なくとも偽善者ではないわ」
「まだ言うか!」
 ゼンガーは攻撃を仕掛けようとした。しかしそれより前にバンドックは退いていた。
「今日のところは貴様等の勝ちにしておいてやろう」
「クッ!」
「じゃが忘れるな。貴様等は所詮滅びる運命じゃということをな。フォフォフォフォフォ」
 そしてバンドックとガイゾックは姿を消した。静岡は再び平穏になった。だが彼等の心は平穏にはならなかった。
「あのガイゾックってのは何者なんだ?」
 サンシローが首を傾げながら他の者に尋ねた。
「ううむ、わからん」
 リーにもそれはわからなかった。
「見たところあのバンドックとかいうのは土偶みたいですけれどね」
「土偶?」
 ヤマガタケがブンタの言葉に問うた。
「あの教科書なんかに出て来たあれか」
「そうだ」
 ピートがそれに答えた。
「あれは確か宇宙人をモデルにしたのではないかという説があったな」
「流石によく知っているな」
「まあな。これは本で読んだ」
 ピートは神宮寺の問いにそう答えた。
「といっても多少オカルトが入った本だったが」
「だがそれがあながち間違いではないみたいだな」
 サコンがここで大空魔竜の艦橋に出て来た。
「サコン」
「あのガイゾックというのもどうやら宇宙から来た勢力のようだしな」
「何でそれがわかるんだ?」
 隼人が彼に問うた。
「形でだ。恐竜帝国やミケーネのものとは明らかに違う」
「確かにな」
「あのバンドックにはブーストのようなものまであった。それを見るとな」
「その通りですじゃ」
 ここで巨大な三機の船が空に現われてきた。
「爺ちゃんか!?」
「うむ」
 兵左衛門の声がした。彼はここでガイゾックについて大空魔竜隊の面々に語った。
「成程、お話は窺いました」
「はい」
 兵左衛門は大文字の言葉に頷いた。
「何時かこの日が来るとは思っておりましたが」
「はい。聞くところによるとどうも宇宙怪獣に近い存在のようですな」
「宇宙怪獣?ああ、あれか」
 勝平は話を聞いて途中で想い出して納得した。
「そういえばそうだな」
「そうです。それでお願いがあるのですが」
「何でしょうか」
「この三人とザンボットをそちらで預かって頂きたいのですが」
「宜しいのですか?そちらも大変でしょうに」
「何、こちらにも戦力はありますから」
 兵左衛門はそう答えて笑った。
「このキングビアルは元々宇宙船でしてな。装備もかなりのものなのです」
「そうなのですか」
「ですからこちらのことはお構いなく。むしろそちらの方が大変でしょうから」
「ただ、問題がありますぞ」
「それは」
「あまり大声では言えないのですが今この環太平洋区の連邦軍は」
 それが三輪を指しているということはもう言うまでもないことであった。
「それはわかっております」
「やはり」
「ですが我々も戦わないわけにはいきません」
「そうですか。しかし」
「しかし」
「何故貴方達は戦われようとするのです?御言葉ですが民間人であるのに」
「博士」
 ここで兵左衛門は声を引き締めた。
「はい」
「我々はかって戦いを放棄しておりました」
「所謂平和主義ですな」
「そうです。しかしそれが為にガイゾックに滅ぼされました」
「そうだったのですか」
「その時我々は悟ったのです。時として戦わなくてはならないと」
「それは同感です」
「そう、貴方ならおわかりだと思います」
 彼にも大文字のことはよくわかっていた。だからこう言えたのである。
「我々はこの時が来るのがわかっておりました。そしてその時が遂に来たのです」
「戦う時が」
「そうです。だからこそ我々はこのキングビアルでガイゾックと戦います」
「わかりました」
 大文字はそこまで聞いて頷いた。
「それでは我々と共に」
「いえ」
 だが彼はそれには首を横に振った。
「大変有り難いですが」
「何故ですか」
 大文字はその態度に首を傾げた。
「共に戦われた方が何かと都合が良いでしょう」
「それも一理あります」
 兵左衛門もそれには同意した。だがそれでも彼はあえて違う道を採ったのだ。
「しかし私は別の考えを持っております。それが為に貴方達、そして勝平達と行動を別にします」
「宜しければその理由をお聞かせ下さい」
「はい」
 彼は頷いた。そして語りはじめた。
「成程、そういうことですか」
「はい。ロンド=ベルならば問題はないと思います」
「確かに。ブレックス准将は話がわかる方です。それに今あの部隊は少しでも戦力が必要ですからな」
「それも防衛用の。何でもラー=カイラムやアルビオンはティターンズ達の相手で出撃しているようですし」
「よく御存知ですな」
「ふふふ」
 兵左衛門は大文字にそう驚かれて笑った。
「こちらにも色々と話は入っておりまして」
「そうでしたか」
「そのうえで今回の判断としたのです」
「しかし敵はガイゾック以外ではありませんぞ」
「それもわかっております」
 彼はまた答えた。
「我々にとって地球は第二の故郷、それを守りたいのです」
 その声はさらに強いものとなっていた。目の光も。大文字はそれを見て彼の心も見た。
「わかりました」
 彼はそう答えた。
「それでは健闘を祈ります。ガイゾックは我々でも相手をします」
「はい」
「これは三輪長官も反対されないでしょうし」
「そうでしょうな」
 兵左衛門はそれを聞いて笑った。
「あの人にとってはどのみちガイゾックも敵です」
「ええ」
 三輪にとっては地球に攻めて来る者は全て敵であった。そういう意味でバルマー帝国も恐竜帝国もミケーネ帝国もそしてガイゾックも同じであったのだ。ある意味非常にわかり易い人物ではあった。
「それを考えると当然でしょう」
「そうですな」
「それでは三人と頼みます」
「はい」
「爺ちゃん」
 ここで勝平が入って来た。
「千代錦はどうするんだよ」
「ワン」
 見れば彼の横には千代錦がいた。尻尾を振って兵左衛門に顔を向けている。
「おっと、忘れておったわ」
「ひでえなあ」
「くぅ〜〜〜ん」
「そうじゃのう。ザンバードに乗り込んだのも何かの縁じゃろうしな」
「じゃあ俺達と一緒だな」
「うむ。それがいいじゃろう」
 彼はほんの少し考えたうえでそう答えた。
「餌は忘れるなよ」
「わかってるって」
 勝平はそう答えた。こうしてザンボットと三人のパイロット、そして犬が大空魔竜隊に新たに加入した。彼等はまた戦力を増強したのであった。
 ザンボットを加えた彼等は次の方向について協議をはじめようとしていた。攻撃目標を定めることを考えていた。
 目標は三つあった。恐竜帝国にミケーネ帝国、そしてガイゾックであった。どれを最初の攻撃目標とするかでまず議論となった。
「とりあえず三輪のおっさんは放っておいていいよな」
 サンシローがまずそう言った。
「そうだな。あのおっさんが絡むと碌なことにならないからな」
 宙がそれに同意する。
「色々と介入してきて作戦が滅茶苦茶になる。幸い俺達はかなりの独立した行動を認められているしな」
「ああ」
 亮とアランもそれに頷いた。
「さしあたってガイゾックだが」
 サコンが口を開いた。
「連中はさっきの戦闘でかなりダメージを受けていると思っていい。実際どれだけ戦力を持っているかどうかまではわからない
がな」
「そうだな」
 ピートがそこで彼に賛同した。
「この前の戦いでもかなり損害を出しているしな。奴等は当分動きを抑えると思う。それにだ」
「それに」
「まだガイゾックのことはよくわかってはいない。奴等に対処するのはもっと情報を手に入れてからだ」
「そうだな。それからでも遅くはないな」
 神宮寺が最初にそれに同意の言葉を述べた。
「話を聞く限りでは宇宙怪獣と同じような存在だがな」
「戦い方はミケーネなんかに近いですけれどね」
 麗がそれに付け加えた。
「とにかく奴等についてはまだ情報が少な過ぎる。侵略者というだけでは他の連中と同じだ。バルマーと繫がりがある可能性もある」
「バルマーですか」
「そうだ」
 猿丸に応えた。
「もしかするとだがな。とにかく今はガイゾックは相手にするにはまだ早いと思う」
「そうだな。ミスターの言う通りだ」
 ピートがそれに頷く。
「それを考えるとミケーネか恐竜帝国を叩くのが先か」
「しかしどうもわからないことがあるんだよなあ」
「どうした弁慶」
 竜馬が彼に顔を向けた。
「いや、恐竜帝国って未来の地球にいたよな」
「ああ」
「それが何でここに。今出て来る筈じゃねえだろ」
「未来が変わったからな」
 隼人がそれに答えた。
「未来が変わった」
「そうだ。俺達はあの時シュウを倒して今のこの世界を救った」
「ああ」
「その時に未来も現在も変わったんだ。だから恐竜帝国も今姿を現わしたんだろう」
「そういうことか」
「そうだ。時間の流れは決まっているわけじゃない。幾通りもあるということだろう」
「何か難しいな」
「そういうわけでもないぜ」
 鉄也が弁慶にそう答えた。
「例えばだ」
「ああ」
「俺が目の前の敵を倒したとする。倒さなかったらどうなる」
「こっちがやられるだろ」
「そういうことだ。それだけで未来が変わるだろう」
「まあな」
「それと同じだ。その時の行動によって色々と変わるものなんだ」
「なんだ、そういうことか」
「わかったみたいだな」
「何とかな。そうか、だから連中が今出て来たのか」
「未来を変えたが奴等だがそれによって奴等が姿を現わした。それだけだ」
「成程」
「それと共に敵も増えたのは予想外だがな」
「確かに多いな」
 これは皆が思っていることであった。
「各個撃破していくしかないが」
「まずは何処から」
 ここで通信が入って来た。
「はい、大文字です」
 大文字が出た。声は大人の女のものであった。
「大文字博士ですね」
「はい」
 彼はそれに応えた。
「私が大文字ですが。どなたでしょうか」
「連邦軍の葛城です」
 彼女はそう答えた。
「葛城?」
「葛城ミサト三佐です」
「ああ、あの」
 それは彼もよく知っている名前であった。
「エヴァ計画の。お話は御聞きしております」
「有り難うございます」
「ミサトさん!?」
 それを聞いて甲児達がすぐに反応した。
「確かエヴァは廃棄されたんじゃ」
「そうだよね」
「それがどうして」
 だがそれをよそに通信は続いていた。ミサトは大文字に話を続ける。
「実はお願いがあるのですが」
「はい」
「お願い?何だろうな」
「アムロ少佐は今ロンド=ベルだしな。何だろう」
 彼等はそう囁き合いながら首を傾げていた。ミサトがアムロに対してややミーハーな感情を持っていることはよく知られていることであった。
「今何か作戦行動はおありですか」
「いえ」
 大文字は素直に答えた。
「今丁度それについての作戦会議中だったのです」
「そうでしたか。それでは是非第二東京市に来て頂きたいのですが」
「そちらにですか」
「それも至急に。お願いできますか」
「何かあったようですな」
「それは極秘です」
「ふむ」
 彼はそれを聞いてまた考えた。
「わかりました」
 そしてそう答えた。
「事情はそちらで御聞きしましょう」
「有り難うございます」
「では今からそちらに」
「はい」
 こうして大空魔竜隊は第二東京市に向かった。そこにもまた新たな戦いがあるということはその時は知る由もなかった。

「カナン!」
 日本へ向かう勇に一機のアンチボディが近付いて来た。
「勇、何で相談してくれなかったの!?」
 そこには紫の髪に黒い肌の女が乗っていた。カナン=ギナスであった。彼女は勇と同じリクレイマーであった。
「私もいるよ」
 もう一機いた。そこには茶色のショートの髪の女がいた。
「ヒギンズ=サスか」
「ああ」
 彼女は頷いた。二機のアンチボディは勇の側にやって来た。
「俺をどうするつもりだ」
「どうするって」
「何を考えているんだ、勇」 
 二人はそれを聞いて不思議そうに尋ねてきた。カナンは赤、ヒギンズは黄色のアンチボディに乗っていた。
「あたし達は貴方について来たのよ」
「俺に」
「そうさ」
 カナンの声は熱かったがヒギンズの声はクールであった。
「心配だから」
「心配なのか」
「そうよ。どうして脱走したのよ」
「・・・・・・・・・」
 勇はそれには答えなかった。答えようとしなかった。
「言えないの?」
「済まない」
 そう答えるしかなかった。
「じゃあいいわ。それならそれで」
「姉さんのところへ連れて行くのか」
「いいえ」
 だが二人はそれを否定した。
「そんなつもりはないわ」
「そうか」
「ただ聞きたいことがある」
「聞きたいこと!?」
「ええ」
 二人はそれに頷いた。
「さっきも言ったけれどどうして相談してくれなかったの!?」
「相談したさ」
 彼はそう答えた。
「え!?」
「相談したよ、俺は。ちゃんとカナンにね」
「嘘・・・・・・」
「本当だよ。けれどカナンは自分のことばかり考えていていつも自分のことばかり喋っていたじゃないか」
「そうだったの・・・・・・」
「気付かなかったのかい」
「ええ・・・・・・」
 彼女は力なく頷いた。
「御免なさい、今まで気付かなかった」
「よくあることなんだ、いや」
 勇はここで言葉をかえた。
「人は皆そうかも知れない、俺だって」
「勇も」
「そうだ。だから俺はオルファンを出たんだ」
「そうだったの」
「そしてこれからどうするつもりなんだ」
 ヒギンズが彼に問うた。
「何をするつもりでオルファンを出たんだ」
「それは・・・・・・」
 彼はまた返答に窮することとなった。
「わからない。ただ考えていることがあるんだ」
「考えていること」
「ああ」
 彼はそれに頷いた。
「あの娘に会ってみる」
「あの娘」
「宇都宮比瑪っていう娘だ」
「ああ、あの娘ね」
 カナンはそれを聞いて頷いた。
「会ってどうするんだい?」
「それはまだわからない。ただ」
「ただ?」
「それで何かが変わると思う。俺にはそう思えるんだ」
「何か不安定ね、凄く」
「わかってるさ、それは。けれどそれでも行くんだ」
「どうしても?」
「どうしてもだ。それでどうするんだい?」
 そしてあらためて二人に尋ねた。
「俺を捕まえるのか、それともここで撃墜するか。どうするつもりなんだい」
「そうね」
 まずカナンがそれに答えた。
「一緒に行っていいかしら」
「一緒に!?」
「ええ」
 彼女は答えた。
「その為にここまで来たんだから」
「そうだったのか」
「私もだ」
 ヒギンズもそれに答えた。
「私もカナンと同じ考えだ。いいか」
「ああ」
 勇はそれを認めた。
「一緒に来てくれるならな。俺には異存はない」
「これで決まりね」
「ああ」
 三人は頷き合った。
「じゃあ行こう。あの娘は多分日本にいる」
「ええ」
 三機のアンチボディは日本へと向かった。そしてそのまま消えて行った。


第十四話    完



                                 2005・3・20


[265] 題名:第十四話その一 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月20日 (月) 00時02分

            愛と勇気と力とが
「俺の誕生日なんて誰も覚えていないだろうな」
 少年は一室でボンヤリとそう考えていた。青緑の髪の凛々しい顔立ちをしている。アジア系の顔であった。
「あのヒメって娘・・・・・・十七歳っていってたな」
 そして狭山で遭った少女のことに考えを移した。
 見れば殺風景な部屋であった。ベッドと椅子以外は何もない。彼は今ベッドに寝転がって考えに耽っているのだ。
「何をしているんだ、俺は」
 ふとそう呟いた。
「こんなところで。何をしているんだ」
 そう思うと急にやりきれなくなってきた。その感情が抑えられなくなりだした。それが彼にとってのはじまりであった。

「諸君、朗報だ」
 大文字は主立った者達を集めたうえでそう語った。
「大介君達がもうすぐ日本にやって来る」
「それは本当ですか!?」
 それを聞いてまず甲児が声をあげた。
「大介さんが来たら百人力だぜ!」
「そうだな。これでマジンガーチームの再結成だ」
 鉄也もここでこう言った。そして二人は会心の笑みを浮かべて頷き合う。
「何だ、そのマジンガーチームって」
 宙がそれを聞いてジュンに問う。
「甲児君と鉄也、そして大介さんの三人で組んでいるチームなの。マジンガー、グレート、そしてグレンダイザーの三機のパイロットでね」
「そうだったのか」
「この前ベガ星連合が攻めて来たでしょ」
「ああ」
「その時に一緒に戦ったのよ。甲児君と鉄也さんと組んでね。凄かったんだから」
「甲児や鉄也だけでもかなりのもんだけれどな」
 それを聞いて竜馬が言った。
「俺達も一緒だったがな。大介は凄いぜ」
「そうなのか」
 宙は隼人の言葉を聞いて声をあげた。
「楽しみだな。一体どれだけ凄い奴なのか」
「外見は穏やかだけれどね」
 さやかがそう注を入れた。
「性格も三人の中では一番まともだし」
「おいさやかさん、それはどういう意味だよ」
「俺が普通じゃないって?」
「・・・・・・自覚がないのかよ、二人共」
 それを横で聞くサンシローが呆れていた。
「普段あれだけ無茶やってるのに」
「無茶はマジンガーの特権だぜ」
「俺はあくまで戦いに専念しているだけだ」
 二人はそれに臆することなくそう答えた。
「まあ大介さんが穏やかなのは事実だけれどな」
「甲児君や鉄也さんにとってお兄さんみたいなものかしら」
「そう言われれば」
「俺なんかよくフォローされてたしな」
「それを聞くと中々頼りになる奴みてえだな」
「忍もフォローされるかもね」
「沙羅、手前は一言余計なんだよ」
「余計?何処がだよ。本当のことじゃないか」
「何ィ!?」
「まあよせ、二人共」
 ここでナンガやリーが割って入った。そして二人を止める。
「今は喧嘩していい時じゃない」
「チッ」
「フンッ」
 そして二人を別ける。それから話を再開した。
「それで合流場所は」
「うむ」
 大文字はピートの質問に頷く。
「静岡だ。そこで落ち合うことになっている」
「静岡か」
「確かクスハとブリットがいたよな」
 甲児と弁慶がそれを聞いて顔を見合わせる。
「ああ、確か」
「助っ人に来てくれたらいいな」
「ちょっと、それは駄目よ」
 マリが洸とボスに対して言った。
「クスハちゃんもブリット君も猛勉強中なんだから」
「あ、そうだったか」
「そうよ、お医者さんになるんだって。大変みたいよ」
「そうか。なら仕方がないな」
「そうですね。二人に迷惑はかけられませんし」
 神宮寺と猿丸がそれを聞いて頷いた。
「ここは私達が頑張りましょう」
「麗さんの言う通りですね」
 ブンタもそれに同意した。
「結局僕達がしっかりしないと何にもなりませんし」
「そうだよね、俺達がやらないと」
 雅人がその言葉に頷いた。
「そういうとこだな」
 ピートも同じであった。
「グレンダイザーの加入は嬉しいがだからといって気を緩めていいということにはならないからな」
「うむ」
 大文字もそれに頷いた。
「それでは気を引き締めていこう。諸君、いいな」
「了解」
 こうして彼等は静岡に向かった。

「銃を下ろしなさい!」
 暗い司令室で声が聞こえていた。中年の女の声であった。
「勇、どういうつもりなんだ!」
 顎鬚を生やした男が勇に対して問う。勇はそれに対して感情的な声で応えた。
「オルファンが浮上したら人類が滅亡するんだろ!?そんな仕事を手伝うのはもう嫌だ!」
 勇はそう叫んだ。
「貴方はもうリクレイマーになって七年なのよ!オルファン浮上の為に・・・・・・」
「精神も肉体もグランチャーになってアンチボディになるのは辛いんだぞ!」
「勇、冷静に!」
「父さんのせいだ!」
 勇は父である研作にそう叫んだ。
「そのおかげで俺も姉さんも実験体にされたんだ!」
「そんなことはないわ!」
「母さんもだ!」
 今度は母親である翠に対して叫んだ。
「母さんだって姉さんだってここに来てからまるでアンチボディじゃないか!俺はそんな・・・・・・」
 まだ言おうとする。だがここで銃声が轟いた。そして勇の銃が落とされた。
「姉さん!?」
 勇は銃声がした方へ顔を向けた。そこには赤い髪の凛々しい顔立ちの女が立っていた。服も赤かった。
「裏切り者はっ!」
 今度は勇を撃とうとする。だが研作がそれを止めた。
「待て、依衣子!」
「私は依衣子ではない!」
 だが彼女はその名を否定した。そして言い切った。
「私はクインシィ=イッサー。伊佐末依衣子ではない!」
「くっ!」
 だが勇は彼女がそう名乗っている間に逃げ出した。部屋を駆け去る。
「逃がすか!」
 依衣子、いやクインシィ=イッサーは彼を追う。残された研作と翠は暗澹とした顔で互いに顔を見合わせていた。そして言った。
「これがオルファンの意思でしょうか」
「そうなのか・・・・・・!?」
 それは彼等にはわからなかった。だが時の歯車が動いていることだけは確かであった。
 勇はそのまま青いマシン、いやヒメ達が乗っていたのと同じものに乗り込んだ。そしてそれに語りかけた。
「付き合ってくれるな」
 そして彼は空に出た。そのまま何処かへ向かって行った。

 静岡は日本の東海地方にある都市である。昔から豊かな場所として知られ戦国時代には今川家が所有していた。今川家は源氏の名門であり室町幕府においては将軍の継承権すら持っていた。その中でも今川義元は有名であるが彼は東海においては傑物として知られていた。
『東海一の弓取り』
 これが彼に付けられた仇名であった。彼はその名の通り軍事と政治に功績を残した。これは彼の軍師であった太原雪斎の力に拠るところも大きかった。彼は高僧であり教養も備えた人物であったが勇気も持っていた。戦になっては自ら法衣の上に鎧を着て戦場を駆け巡った。当時としては普通のことであったが恐るべき男であった。なお彼は義元、そして徳川家康の師匠でもある。優れた教師でもあったのだ。
 その大原の補佐もあり義元は東海に大きな勢力を誇った。また本拠地である駿府には都落ちした公家達を迎え入れ京に似せて整備し公家達と親しく交わった。義元は京文化への造詣が深く、眉を丸めてお歯黒をしていた。そして髷も公家風であったのだ。
 そんな義元であったが上洛を目指して尾張に攻め込んだ。そしてまずはそこにいる織田信長を倒そうとした。しかしこれが大きな失敗となった。
 田楽挟間で休息をとっているとそこに織田軍が奇襲をかけてきたのだ。これにより義元は戦死し今川家は衰退した。そして駿河は武田、後には徳川家のものとなった。徳川家康の隠居の地もここであった。以後駿河は幕府のお膝元として発展していくことになる。
 茶や蜜柑で有名であり任侠の徒がいたことでも知られている。清水次郎長はとりわけ名の知られた人物であろう。その静岡で今清水一家程ではないが大掛かりな喧嘩がはじまろうとしていた。
「勝平、今日こそ決着をつけてやるぜ」
 中学生らしき浅黒い肌の少年がまだ幼さの残る顔立ちの少年に対して挑発的な言葉をかけていた。
「へっ、それはこっちの台詞だぜ」 
 その少年も負けてはいなかった。怯まずにそう言い返す。
「香月、観念しろよ」
「観念するのは手前だぜ」
「勝平、頑張ってね」
 それを離れたところから二人の少女が見ていた。
「負けたら許さないからね」
「おう、わかってるぜ」
 勝平はそんな彼等に声を送った。
「アキとミチはそこで見てな」
「ええ」
「わかったわ」
 黄色い髪の少女と太った少女は勝平にそう言われて頷く。そして彼を見守るのであった。
「もう勝平君たら」
 そこに青いショートの髪の高校生位の少女が現われた。オレンジの服に黒のミニスカート、スパッツを着ている。目も青い。可愛らしい顔立ちの少女であった。
「また喧嘩なんかして」
「クスハ、それは言わない方がいいぜ」
 その後ろに金髪に青い目のキリッとした顔の少年が来た。
「ブリット君」
「あの年頃ってのはヤンチャな頃だからな」
「そうかしら」
「そういうもんさ。俺だってそうだったし」
 ブリットは笑いながらクスハに対してそう答えた。
「だから心配しなくていいさ」
「けれど怪我したら」
「その時はその時。手当てすればいい」
「そんな悠長なこと言ってていいの?」
「いいさ。どのみち戦いに比べたらましだろう」
「それはそうだけれど」
 戦いと聞いてクスハは頷くしかなかった。
「けれど心配よ。勝平君って中学生なのに平気でバイク乗り回すし」
「それは洸君だって同じだろ」
「洸君は違うわよ。彼はあれで慎重だし」
「まあな。しかし何で彼等は中学生なのにバイクに乗れるんだ?」
「知らない。考えない方がいいんじゃない?」
「ううむ」
 そんな話をしながら二人は勝平と香月の喧嘩を見守っていた。二人は徐々に間合いを詰めていく。
「覚悟しろ」
「そっちこそな」
 睨み合っていた。だがここで異変が起こった。
「ん!?」
 何と沖の方に怪しげなロボットが出て来たのだ。勝平達はそれを見て動きを止めた。
「ありゃ何だ!?」
「こっちに来るぜ」
 香月もアキとミチ、ブスペアもそれを見て怪訝そうな顔をした。だがクスハとブリットは違っていた。
「ブリット君、あれ」
「わかってる」
 ブリットはクスハの言葉に頷いた。そしてすぐに動いた。
「恐竜帝国かミケーネか。どっちにしろ危険だ。あれを出そう」
「ええ」
 そして二人は何処かへ向かった。勝平達もすぐに我に返った。
「おい、どうやら喧嘩どころじゃねえぞ」
「そうみたいだな」
「香月、今日のところはお預けだ」
「わかってる、またな」
 そして二人は別れそれぞれの家に戻った。ブスペアも家に帰っていった。
 勝平は家に帰るとすぐに居間に向かった。そして家族に対して声をかけた。
「おい爺ちゃん大変だよ!」
「わかっている」
 いかめしい顔付きの白髪頭の老人がそれに答えた。勝平の祖父である神北兵左衛門であった。
「遂に時が来たな」
「はい」
 口髭を生やした中年の男がその言葉に頷いた。
「勝平、遂にこの時が来たぞ」
 彼は勝平の父である。神源五郎という。
「父ちゃん、それどういう意味だよ」
「詳しく話している時間はない。まずはこれを着ろ」
 ガタイのいい学生服の少年がそう言って勝平に服を与えた。そしてすぐに着替えさせる。
「一太郎兄ちゃんまで・・・・・・。何だよこの服」
 勝平は着せられたその服を見て思わず声をあげた。
「幕張でも行くのかよ」
「詳しく話している時間はない。早く行け」
 そして家の庭に連れて行きそこにある穴に入れた。その時別の者も入ってしまった。
「ワン!」
「しまった、千代錦も入れてしまったわい」
 こうして勝平と千代錦は穴の中を落ちて行った。そして何やら白い部屋に出て来た。
「ここは」
「勝平、聞こえるか」
 兵左衛門の声が入って来た。通信であった。
「爺ちゃん」
「そこはザンボエースのコクピットの中だ」
「ザンボエース!?」
「そうだ。我がビアル星人のロボットだ。御前は今からそれに乗って戦うのだ」
「ビアル星人!?戦う!?」
 しかし勝平は言葉の意味をよく理解してはいなかった。首を傾げていた。
「一体何言ってるんだよ」
「まず言おう。わし等は地球人ではない」
「えっ!?」
 勝平はそれを聞いて思わず声をあげた。
「二百年前ガイゾックに故郷を滅ぼされたビアル星人の生き残りなのだ」
「嘘だろ」
「嘘ではない。そして今ガイゾックが地球にやって来たのだ」
「それがあのロボットなのか」
「そうだ。ガイゾックは遂に地球へとやって来たのだ」
「ところでそのガイゾックって何なんだよ。さっぱりわかんねえんだけれど」
「宇宙の破壊者といったところか。文明を破壊して回る者達だ」
「何か物騒な連中だな」
「奴等はかってビアル星を滅ぼした。そして今度は地球を滅ぼそうとしているのだ。我等はそれに対して戦わなくてはならん」
「それで今俺がこれに乗ってるってわけね」
「そうだ。勝平、それでは出撃しろ」
「っていきなり言われても俺ロボットの操縦なんかできねえぜ」
「いや、できる」 
 兵左衛門はそれに対して答えた。
「御前ならできる。まずはレバーを持ってみろ」
「そんなこと言われてもなあ・・・・・・あれ!?」
 勝平はレバーを持ってみてあることに気付いた。
「わかる・・・・・・操縦の仕方がわかる。何でだ!?」
「それは睡眠学習のおかげだ」
「睡眠学習!?」
「そうだ、こんな時が来るだろうと御前が寝ている間に睡眠学習を施しておいたのだ。だから御前はそのマシンを操縦できるのだ」
「何か話が出来過ぎてるなあ」
「ぼやいている暇はないぞ、勝平」
 ここで一太郎の声も入ってきた。
「兄ちゃん」
「もうガイゾックの奴等がそこまで来ている。すぐに出撃するんだ」
「ああ、わかったよ。じゃあ」
 勝平はそれを受けてレバーを動かした。そしてマシンを動かした。
「じゃあ行って来るぜ!」
「うむ、行け勝平!そしてガイゾックの奴等を防ぐのだ!」
 こうして海の中から赤い戦闘機が姿を現わした。
「よし、出たぜ」
「うむ」
「ところでこのマシン何て名前だい?」
「ザンバードという」
「ザンバード!?」
「そうだ。それが我々の切り札だ」
「ガイゾックへのか」
「うむ。そしてそれは変形も可能だ。やり方はわかるな」
「ああ」
 彼はその言葉に従いスイッチを入れた。そして人型に変形させた。
「これでいいんだな、爺ちゃん」
「うむ」
「これは何て名前なんだい」
「ザンボエースという」
「ザンボエース」
「そうだ。まずはその形になっておけ。戦いにはその形の方が有利だ」
「了解」 
 二人が通信でそう話している間にガイゾックのマシンが近付いてきた。
「あの鳥みたいな奴だな!?」
「そうだ」
 兵左衛門は彼にそう答えた。
「慎重にな。まだ御前は乗って間もない」
「そんなこと言ってちゃ勝てないんじゃないの!?」
「それは違う」
 だが彼はここでそう言って孫を嗜めた。
「今は足止めだけにしておれ」
「?何でだよ」
「すぐにわかる、すぐにな」
 彼はそう答えるだけであった。ガイゾックのメカはまるで空と海を埋め尽くさんばかりの数で静岡に迫ってきていた。しかし勝平はそれを見ても怖気づくことはなかった。
「どれだけ来ても相手にはならないぜ!」
「待て、勝平!」
 だがここで声がした。そして戦車と爆撃機が姿を現わした。
「ん!?」
 モニターに映像が入った。そこには彼がよく知っている顔が二つあった。
「東京の宇宙太に長野の恵子じゃねえか。御前等も乗っていたのか」
「そうだ。二人にもこの時に備えて睡眠学習を施しておいた」
 兵左衛門はまた言った。
「俺が乗っているのはザンブルだ」
「あたしのはザンベースと」
 長い髪で顔の半分を隠した少年と長い金髪の少女がそう言った。少年は神江宇宙太、少女は神北恵子である。二人は勝平の従兄弟にあたる。
「そしてこの三機が合体した時に本当の力が発揮される」
「本当の力!?」
「そうだ」
 兵左衛門は頷いた。
「三機のマシンが合体した時にザンボット3となる。今がその時だ」
 その通りであった。もうガイゾックはすぐそこまで迫っていた。時間はもうなかった。
「行くぞ、勝平」
「時間はもうないわ」
「何かあまり話している場合じゃないみたいだな、よし」
 勝平も状況を理解した。そして三機のマシンは集結した。
「よし、行くぜ!」
「ワン!」
 ここで勝平の横にいた千代錦が一声鳴いた。
「ツー!」
 宇宙太がそれに続く。
「スリー!」
 そして恵子が。それを受けて三機のメカが飛んだ。
「ザンボットコンビネーションだ!」
 勝平が叫ぶ。三機のメカが並んで空を駆ける。その形を変えながら。
 ザンブルに二本の腕が現われた。そしてザンベースが脚になる。それが合身する。
 そしてザンボエースがザンブルの上に来た。それで三体が合体した。
 そして武者の様なシルエットの巨大なマシンが姿を現わした。それは大空に立っていた。
「これがザンボット3」
「そうだ」
 兵左衛門は三人にそう答えた。
「そのマシンでガイゾックを倒せ、そして我等の第二の故郷を守るのだ。よいな!」
「よし、行くぜ宇宙太、恵子!」
「あまり熱くなるなよ勝平」
「短気は損気よ」
「わかってらい!」
 彼はそれに答えた。そしてそのままガイゾックのマシン達に向かって突き進む。まずは両膝の脇からミサイルを放った。
「バスターミサイル!」
 それでメカブーストを一機撃墜した。だが敵はまだいる。今度はその円盤自体を投げつける。
「ザンボットバスター!」
 また敵を砕く。敵が近付くと小型の剣を抜いた。
「今度はこれだ!ザンボットクラップ!」
 敵の中に入ると次々と切り裂いていく。そしてガイゾックを倒していく。
 だが一機ではやはり限界があった。次第に敵に囲まれてしまった。
「おい、ここは退くぞ!」
「宇宙太、何でだよ!」
「敵の数を見ろ!これだけの数を一度に相手にできるかよ!」
「そんなのやってみなくちゃわからないだろ!」
「わからねえのは御前が馬鹿だからだろうが!落ち着け!」
「馬鹿とは何だこの野郎!」
「二人共何やってんのよ!」
 口論をしながらも何とか敵を倒していく。勝平も不利を悟ったのか宇宙太野言葉に従い一先敵の中から逃れようとした。だがその時であった。
「そこのロボット、無事か!」
 丸い円盤に似た形のマシンが姿を現わした。二機の戦闘機を引き連れている。そのうちの一機は普通の戦闘機だがもう一機はドリルが備わっていた。
「あれは」
「グレンダイザーか!」
「ダブルスペイザーにドリルスペイザーも!」
 三人は三機のマシンを見て思わず声をあげた。
「今からそちらに向かう!持ち堪えてくれ!」
 その円盤型のマシンは人型に変形した。それは何処かマジンガーに似たシルエットであった。その中には戦闘用の宇宙服に身を包んだ茶の髪の青年がいた。
「了解!」
「まさかグレンダイザーとデュークフリードが来るなんてな」
「僕だけじゃない」
 ここでデューク、すなわち宇門大介から通信が入ってきた。
「え!?」
「こちらに大空魔竜隊が向かって来ている。僕との合流の為に」
「大空魔竜隊が!?」
「そうだ。だからもうすぐの我慢だ。いいね」
「何かすげえことになってきたな」
「全くだ。まさかあの精鋭部隊が来るなんてな」
「もしかしたらマジンガーやゲッターを見れるのかしら。何か夢みたい」
「夢じゃない、本当のことなんだよ」
 大介はここで三人に対して言った。
「君達への脱出路は僕が作る。今そちらに向かう」
 ダイザーと二機のスペイザーがザンボットの方にやって来た。
「頼むよ。ひかるさん、マリア」
「わかってるわ、大介さん」
「任せてよ、兄さん」
 茶色い髪の大人しい感じの女性と赤茶色の長い髪の美少女がそれに答えた。牧葉ひかると大介の妹グレース=マリア=フリードであった。二人共ベガ星連合軍との戦いにおいて大介の補佐を務めた女戦士であった。とりわけマリアの操縦はかなりのものであった。
「行きましょう、ひかるさん!」
「ええ、マリアちゃん!」
 二人はスペイザーの高度を上げた。そしてガイゾックのマシンに攻撃を仕掛ける。
「これならっ!」
「よけてごらんなさい!」
 それぞれミサイルを放つ。それにより敵を倒す。そして道を開けた。
「よし!」
 大介がそこに入る。そして両手に斧を持ち、それを合わせた。
「ダブルハーケン!」
 ダブルハーケンを振り回しながら斬り込む。そして敵を次々と薙ぎ倒していく。これでザンボットの道を開けた。
「さあ、行くんだ!」
「すまねえ!」
 ザンボットはそれを受けて抜け出た。だがそこにガイゾックがさらに襲い掛かる。だがその前にはグレンダイザーが立ちはだかっていた。
「そうはさせない!」
 ダイザーはさらに攻撃を仕掛けた。
「反重力ストーーーームッ!」
 七色の光を放った。それにより敵をさらに倒す。スペイザーもそれを援護する。
 態勢を立て直したザンボットも反撃に転じる。そこにまた味方がやって来た。
「クスハ、行くぞ!」
「うん!」
 青い龍のマシンと白い虎のマシンが姿を現わした。それは一度天高く飛ぶと空中で合体した。そして龍人となった。
「これなら!」
 龍虎王となった。かってバルマー帝国を退けた伝説のマシンである。
「おい、龍虎王まで出て来たぜ!」
「見えてるからそう騒ぐな」
 龍虎王を見て騒ぐ勝平に対して宇宙太が言う。
「しかし何か凄いことになってきたわね、本当に」
「そんなこと言っている場合じゃないぞ」
 そんな三人を大介が嗜めた。
「今は目の前の敵を倒すことに専念するんだ、いいね」
「おお、わかったぜ。ガイゾックの奴等をやっつけるぜ」
「ガイゾック・・・・・・そうか、この敵の名前か」
「ああ、地球を破壊しに来た悪い奴等なんだ。宜しく頼むぜ」
「ガイゾック・・・・・・。クスハ、知っているか」
「いいえ」
 クスハはブリットの問いに首を横に振った。
「兄さん、何か知ってる?」
「僕も」
 大介もマリアの問いに首を横に振っていた。やはり彼等もそれを知らなかったのだ。
「ガイゾックは宇宙の文明の破壊者ですじゃ」
 ここで兵左衛門が彼等に対しそう答えた。
「文明の破壊者?」
「じゃあ宇宙怪獣のようなものか」
「そうですな」
 彼はここでそれに頷いた。白い髭が揺れた。
「確かに似ておるのかも知れません。我等ビアル星人の故郷は彼等に滅ぼされましたしな」
「それは聞いたことがあります」
 大介がそれを聞いてそう答えた。
「原因不明の滅亡だったと聞いておりますが」
「左様です」
 兵左衛門はその言葉にまた頷いた。
「ある日突然彼等が来まして。それで瞬く間に・・・・・・。でした」
「そうだったのですか」
 それを聞く大介とマリアの顔が曇った。
「ここにも僕達と同じような人達がおられたとは」
「貴方達は確かベガ星連合軍に滅ぼされたでしたな」
「はい」
「似た様な境遇ではありますな。ですが傷を舐めあっている暇はありません」
「わかっています。今は」
 彼等はガイゾックに再び目を向けた。意を決した目であった。
「そのガイゾックとやらを倒しましょう、そして地球に平和を」
「はい、勝平、宇宙太、恵子」
 兵左衛門は三人に声をかけた。
「わかっているな」
「勿論だよ、任せておけよ、爺ちゃん」
 勝平が三人を代表してそう答えた。
「そこで見ておきな、俺達が戦う姿をな」
「うむ、期待しておるぞ」
 そこでモニターを切った。勝平達が戦闘に専念できるようにであった。そして三人はまた戦いに向かった。兵左衛門はそれを見上げていた。その横にいる年老いた老女が心配そうに呟いた。
「勝平達は大丈夫ですかね」
 彼の祖母神梅江であった。
「大丈夫でなければならない」
 兵左衛門はそれに対して強い言葉でそう答えた。
「これから三人を過酷な運命が待っている。それを考えるとな」
「それはわかっているつもりですが」
「わし等もだ」
 そして自分達に対しても言った。
「我等神一家の戦いがはじまったのだ。わかっておるな」
 そして源五郎と一太郎に顔を向けた。
「はい」
「勿論です」
 二人はそれに頷いた。
「キングビアルを発進させよ。だがあの三人とは別行動を取る」
「何故ですか!?」
「すぐにわかる」
 彼は周りの者の問いにそう答えるだけであった。そしてまた言った。
「他の者達も来ておるな」
「はい、信州と東京から」
「皆集まっております」
「よし」
 それを聞いて満足そうに頷いた。
「ではわし等も行こう。そしてガイゾックを退けるのだ」
「はい!」
 彼等も家を出た。そして何処かへと向かったのであった。
 ザンボット達とガイゾックの戦いは続いていた。彼等は少数ながらガイゾックのメカを上手く退けていた。
 龍虎王が剣を振りかざす。そして敵を一刀両断した。
「龍虎王最終奥義!」
 クスハが叫ぶ。龍虎王は剣を大きく振りかぶる。
「龍王破山剣、逆鱗斬!」
 そしてガイゾックのマシンをまとめて叩き切った。続いて大介が動く。
「スペースサンダー!」
 グレンダイザーの二本の角に雷を溜める。そしてそれを放つ。それにより敵を数機単位で粉砕した。
「何かすげえな、両方共」
「勝平、そんな悠長なこと言っている場合じゃねえぞ」
「そうよ、こっちだって敵をまとめて倒す方法あるでしょう」
「まとめて?ああ、あれね」
 勝平はそれを言われて頷いた。
「んじゃあああれをやるか」
「おお、早くやれ」
「こっちはもう準備できてるわよ」
「よし!」
 ザンボットが大きく動いた。そして力を溜める。胸が開いた。
「ブルミサイルだっ!」
 開いた胸からミサイルが放たれた。そしてそれはそれぞれ敵に向かう。
 敵が数機単位で撃墜される。恐るべき武器であった。
「へへっ、どんなもんだい!これがザンボットの力だ!」
「おい、これは俺のザンブルに搭載されているやつだぞ」
 宇宙太が得意になる勝平にそう突っ込みを入れた。
「わ、わかってらい!」
「どうだかな」
「二人共、止めなさいよ」
 喧嘩になりそうなところで恵子が止める。そしてさらに攻撃を続けた。
 戦局は次第にザンボット達の方に傾いてきていた。だがここでガイゾックの後方に巨大なメカが姿を現わしたのであった。
「おい、あれは何だ!」
 まず宇宙太がそれを見て叫んだ。


[264] 題名:第十三話 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月19日 (日) 23時56分

           ドクーガ現わる
 ラングラン軍とシュテドニアス軍の戦いはなおも続いていた。徹底するシュテドニアス軍を追い、ラングラン軍は進撃を続けていた。形勢は最早誰の目にも明らかであった。
 それを見たゾラウシャルドはすぐに動いた。指揮官であるノボトニー元帥を即座に解任、そして更迭したのである。その時に彼はこう言った。
「敗戦の将が責任を取るのは当然だ」
 だが軍の多くの者はそれに納得はしていなかった。何故ならノボトニーは徹底する軍の指揮をとっており、彼の手腕により多くの将兵が何とかシュテドニアスに逃れることができていたからである。そして彼等の疑念をさらに深いものとしたのは後任の指揮官がゾラウシャルドの息のかかった人物であったことであった。
「大統領は責任を元帥に押し付けただけでは」
「権力闘争の結果か」
 軍の内部や議会ではそう囁く者が多かった。しかしそれはゾラウシャルドが大統領の強権で抑え付けてしまっており、表立った発言はできなかった。彼はその間にラセツ達特殊部隊にラングラン軍への攻撃を命じていた。表向きは撤退する主力部隊への援護であった。
 しかしそれを信じる者は少なかった。ラセツもまたゾラウシャルドと関係が深くこの作戦がゾラウシャルド本人の考えたものであるだけに余計であった。シュテドニアス軍も議会もゾラウシャルドとラセツに不信感を募らせていたがそれは言えずにいたのであった。
 そうしている間にも戦局はシュテドニアス軍にとって劣勢となっていた。ラングラン軍はそれに対して勢いを増すばかりであり戦いはシュテドニアスにとって面白くない状況となりつつあった。
 それを最よく感じているのは前線にいる者達であった。とりわけ指揮官達の悩みは深刻であった。
「今は中でゴタゴタ言うてる場合やないんや」
 ロドニーは移動要塞の艦橋において周りの参謀達に対してそう言っていた。
「それが上にはわからんのかいな」
「仕方ありませんよ、それは」
 参謀の一人が彼を慰めるようにしてそう言った。
「実際に戦場にいるわけではないんですから」
「それや」
 ロドニーは彼の言葉に突っ込みを入れた。
「そこが問題なんや」
「はあ」
「国家元首が直接戦争に出るわけにはいかんやろ。ましてや文民が」
「はい」
 その通りであった。国家元首が陣頭指揮を執る戦争は上の世界でも精々十九世紀の話であった。ナポレオンの頃までであろう。ラングランではフェイルが陣頭指揮を執ることが多いがこれは特殊な例だ。ましてやシュテドニアスでは大統領は軍の最高指揮官であるが文民である。文民が戦場に出るわけにはいかないのだ。ましてや何かあれば愚行とそしられても文句は言えないのである。
「けれどな、現場に迷惑をかけたらあかんのや。それはわかるやろ」
「はい」
 問われた参謀の一人はそれに頷いた。
「上にはそれがわかっとらんのや。現場の苦労がな」
「政治とはそういうものですよ」
「そうやな。それはわかる」
 ロドニーは観念したようにそう答えた。
「所詮戦場でのことなんか政治の一つのことでしかあらへん」
「はい」
「わい等はその中で動くだけや。命令に従ってな」
「極論すればそうなりますね」
「とりあえずは生き残ることを考えんとな。それでも。折角ここまで来たんやし」
「はい」
「で、新しく来た司令官はどうしてはるんや」
「援軍と共にこちらに向かっておられます」
「援軍」
「ええ。移動要塞を何個も連れて。かなりの数ですよ」
「最初からそれだけ送ってくれたらな。ノボトニー閣下も楽やったやろに」
「閣下、それは」
 別の参謀が彼を嗜めた。
「わかっとるで。けれどな」
 ロドニーも自分が何を言っているかはよくわかっていた。軍人、それも将軍の位にある者がこれ以上政府批判をすることはかなり危険なことであることも。
「ホンマ、何とかならへんのかいな」
「ですね」
 彼等はそんな話をしながら退却を続けていた。何とかシュテドニアス領に入ろうとしていた。
 そんな彼等をラングラン軍は激しく追撃していた。その手は緩められることはなく今にもシュテドニアス領に入らんばかりの勢いであった。
 その先頭にいるのが魔装機及びオーラバトラー達であった。彼等は攻撃の手を緩めずシュテドニアス軍を次々に打ち破っていた。
「明日またシュテドニアス軍を攻撃する」
 カークスは夜になり停泊したゴラオンの作戦会議室において集まった魔装機のパイロットや聖戦士達に対してこう言った。
「了解」
 一同それに頷く。それからショウが言った。
「明日はドレイク達は出て来ますか」
「それはありません」
 シーラがそれに答えた。
「ドレイク達はどうやら今は勢力の回復に務めているようです。やはり先の敗戦がこたえたのでしょう」
「そうですか」
「だが油断はできない。シュテドニアスはここにきて援軍を送ってきた」
「援軍を」
「そうだ。彼等は移動要塞を複数送ってきている。そして魔装機もかなりの数が増援に向かっているという」
「ここにきてですか」
「どうやら彼等も本気だということか」
「いや、それはどうやら違うらしい」
 カークスはヤンロンに対してそう答えた。
「といいますと」
「シュテドニアスの指揮官が替わった。ノボトニー元帥は更迭されたらしい」
「えっ、それは本当ですか!?」
 ニーはそれを聞いて驚きの声をあげた。
「こんな時に。シュテドニアスで何かあったのですか」
「おそらく。あの国は色々あってな」
「あそこの大統領は敵が多いからな」
 マサキがここでそう語った。
「タカ派で何かとやり方が強引だからな。議会にも軍にも敵が多いからな、あのおっさんは」
「けれどマサキさん」
 ザッシュが彼に問うた。
「あの大統領は確か今のシュテドニアスの与党のトップでもあるのでしょう。それなのに」
「ザシュフォード殿」
 そんな彼にアハマドが言う。
「政治の世界はそう単純ではないのだ。敵は同志の中にもいる場合があるのだ」
「どういうことですか」
「同床異夢ということだ」
 ヤンロンが故事成語を持ち出して説明する。
「同じところにいても求めるものが違うということだ。これならわかるだろう」
「あ、成程」
「あの大統領は権力志向も強くてな。それで与党の中でも敵が多いんだ」
「ドレイク達と一緒だな、じゃあ」 
 ショウがそれを聞いて納得したように頷いた。
「どの世界でも人間はあまり変わらないのか」
「まあそういうもんさ」
 トッドがショウに対してそう答えた。
「御前さんの国でも俺の国でもな。所詮人間なんてそんなもんさ」
「何かトッドの言葉っていつもシニカルねえ」
「こうなりたくてなったんじゃねえけどな」
 チャムにはそう返した。やはりいささかシニカルであった。
「まあ俺のことはいいさ。そのシュテドニアスのことだ」
「うむ」
 カークスはそれに応える。
「これに付け込むことはできねえかな」
「そうだな」
 カークスはトッドの言葉を聞いてさらに考え込んだ。
「今のところそれが我々にとっていい状況とはなってはいない」
 彼は増援のことを踏まえてそう答えた。
「だが隙は何処かに出来る筈だ」
「隙が」
「少なくとも前の司令官であるノボトニー元帥は優れた指揮官だった。それに兵も上手く統率していた」
「はい」
「今度は司令官はどうかな。そこに隙が出来るかも知れない」
「つまりは将としてどうかってことだね」
「そういうことになる」
 リューネにそう応えた。
「明日の戦いではそれを見極めるものとなるだろう」
「それでは明日は前哨戦のようなものでしょうか」
「そうですな」
 シーラの言葉に頷く。
「各員はそれに注意を払うように。そして隙があれば」
「そこに付け入る」
「そうだ。それでいく。よいな」
「了解」
 皆それに頷いた。そして彼等は明日に備えそれぞれの部屋に戻り休息をとるのであった。その中には当然タダナオもいた。
「さて、今度の敵将はどんな奴かな」
「何か期待しているようだな」
 彼のそんな様子を見てファングが声をかけてきた。
「まあね。楽な相手だったらいいな、と思ってな」
「楽な相手か」
「要するに大した奴じゃなければいいいってな。それはあんただって同じだろ」
「戦争に関してはそうだ」
 ファングはそれに落ち着いた声で答えた。
「だが闘いとなると話は別だ」
「それはどういう意味だい」
「戦士と戦士の戦いならば強い相手と戦いたいのだ」
 彼はそう言った。
「それは御前も同じだと思うが」
「そう言われてみれば」
 タダナオは彼の言葉に納得した。
「オザワとは少なくともそうだな」
「そういうことだ。俺の言ったことがわかってくれたようだな」
「まあな。しかしそんな奴はそうそういないぜ」
「わかっている」
「俺みたいなのは稀だろう。もっともそうなるまでは本当に色々あったが」
「どんなふうにだ」
「子供の頃からな。あいつとはその頃からの付き合いだった」
「そうだったのか」
「その時から喧嘩ばかりしていたよ。そして今も」
「何だ、喧嘩友達か」
「まあな」
 彼はそれを否定しなかった。
「だから余計そうした話は好きだな」
「そういうものか」
 ファングはそれを聞いて少し納得したようであった。
「ではこれからもそれを続けるのだな」
「まあな」
 タダナオはそれに頷いた。
「あいつが出て来たらな」
 ニヤリと笑った。そして彼は自室には入り休息をとった。
 翌日戦闘がはじまった。シュテドニアス軍は撤退を優先させ戦おうとはしない。だがラングラン軍はそのシュテドニアス軍に追いすがりさらに攻撃を仕掛けていた。
「ホンマ手強い奴等やで」
 ロドニーは最後尾で撤退する軍の指揮を執りながらこうぼやいた。
「あの地上から来た兄ちゃんはどうしとるんや?」
「オザワ少尉ですか」
「そや」
 彼は問うてきた参謀の一人にそう答えた。
「姿が見えへんのやけれどな」
「少尉ならもう出撃しておりますよ」
「ん、もうか?」
「はい。何でもあいつがいるとか言って。どうやらラングラン軍に知り合いがいるようですね」
「知り合いか」
「昔からの喧嘩友達だと言っています。それえこの前の借りを返すのだとか」
「戦争でかいな」
「ええ。本人はえらくやる気ですよ。今度こそやってやるとか意気込んで」
「まあ頑張れと伝えてくれや」
「はい」 
 ロドニーはそれを聞いて彼にとりあえず激励の言葉を送りはした。だが今一つ首を傾げていた。
「殺してもうたらどうするつもりやろな」
 しかし当のオザワのタダナオもそんなことは全く考えてはいなかった。彼等は今日も互いに一騎打ちを行っていたのであった。
「今日こそはミレーヌちゃんがいいってことを認めさせてやるぜ!」
「あん!?何言ってやがる」
 タダナオはオザワのジンオウを前にして不敵な声を出した。
「ミンメイさんの方がずっといいに決まってるだろうが」
「だから御前は年増好みだって言われるんだよ」
 オザワはそれに対してこう返した。
「やっぱり若い娘じゃなくっちゃな」
「御前のそれはロリコンっていうんだよ!」
「何、ロリコン!?」 
 オザワはそういわれて顔を赤くさせた。
「僕の何処がロリコンなんだ!」
「そのまんまじゃねえか!」
 タダナオが突っ込みを入れる。
「二十歳の兄ちゃんが十四の女の子に熱を入れて変だとは思わねえのかよ」
「アイドルだからいいだろ!それにミレーヌちゃんは唯のアイドルじゃない!」
「じゃあ何なんだよ」
「れっきとしたロックシンガーだ、それがわからないのか」
「残念だがファイアーボンバーは好きじゃないんでね」
 ファイアーボンバーとはそのミレーヌが所属するバンドのグループ名である。彼女を含めて四人のグループ編成である。今人気急上昇中のグループである。
「俺はもう少し穏やかなのが好きなんだ」
「ヘッ、よく言うぜ」
 オザワはそこで軽く口を歪めて笑った。
「ミンメイさんだって激しい曲はあるだろうが」
「うっ」
 それを言われて言葉が詰まった。
「結局御前は年増が好きなだけなんだよ」
「ミンメイさんは年増じゃねえ!」
「ミレーヌちゃんから見れば充分に年増だ!」
「手前もう許さねえ!」
「それはこっちの台詞だ!」
 こうして彼等は激しい戦いを行っていた。戦局はその間に推移しシュテドニアス軍は徐々に戦線から退いていっていた。だがその損害は決して無視できないものであった。
「こんな時にそのオーラシップとやらは動かへんのかい」
「三隻共損傷が激しいようです」
「まあ理由は幾らでも言えるわな」
 ロドニーはそれを聞きながらそう呟いた。
「あのドレイクとかいうおっさんは信用でけへんけれどな」
「閣下もそう思われますか」
 何とこの参謀も同じ考えであった。彼もドレイク達が信用し難い人物達であるということを見抜いていたのだ。
「特にあのビショットとかいう王様の横におる女やな」
「はい」
「あいつは信用でけへんで。よからぬもんを感じるわ」
「そうですな。そしてあのショットという男も腹に一物あります」
「どうせここに送られたんでラ=ギアスで何かしようっちゅう腹づもりやな。うちの軍を利用して」
「はい」
「連中には気をつけとけや。いきなり背中からブッスリいかれるで」
「わかりました」
 彼等はそんな話をしながら作戦の指揮にあたっていた。ロドニー達も戦線から離脱しはじめていた。それを受けてオザワもタダナオとの戦いを止めて撤退していた。
「また今度だ!」
「返り討ちにしてやるぜ!」
 こうして彼等は戦いを止めた。そしてオザワのジンオウはシュテドニアス軍に入り姿を消した。
「さて、と。今回はこれ位でいいな」
「ああ」
 マサキ達も戦果に満足していた。追撃するのを止めようとしたその時であった。
「!!」
 エレが突如として何かを感じた。ハッとした顔になった。
「エレ様!」
「どう為されたのですか!?」
 エレブ達が彼女に駆け寄る。だがエレはそんな彼等を手で制した。
「私なら大丈夫です」
「しかし」
「いいですから。それより新しい敵が迫ってきております」
「敵!?」
「ドレイク達か!?」
「いえ、違います」
 エレはドレイク達かと思う彼等に静かにそう語った。
「オーラが違います。これは・・・・・・」
「これは」
「地上人のものです。それもかなり強い」
 そう言うと同時に後方からカークスの通信が入って来た。
「精霊レーダーに反応!巨大な航空物体が三隻!」
「何っ!」
 それを聞いて全軍一斉に警戒態勢に入った。
「右から来るぞ!総員警戒態勢!」
 カークスの指示が下る。それを受けて全軍既に戦線を離脱したシュテドニアス軍にかわってそちらに顔を向けた。そこには三隻の巨大な戦艦があった。
 オーラシップとはまた違う意味で変わった形の艦ばかりであった。黄色く、先端にラムを取り付けたものと青く胴体が二つあるように見える艦、そして白い白鳥に似た艦の三隻であった。彼等はゆっくりとこちらに向かってきていた。
「また変なところに来てしまったな」
 白い艦の艦橋にいる金髪の男がそう言った。マントを羽織り、手には深紅の薔薇を持っている。顔立ちは中世的な整ったものであった。
「だが空に舞うあのマシンの雄姿、まさに」
 そこで目を閉じ、薔薇を上に掲げる。そして言葉を続けた。
「美しい・・・・・・」
「ふん、またそれか」
「いい加減他の言葉を覚えられんのか、お主は」
 だがここですぐに突っ込みが入った。金髪の男はその言葉を聞いて少し憮然とした。
「二人共私の美学に介入はしないでもらおうか」
「何が美学だ」
 青い艦の艦橋にいる男が言った。右に眼帯をし、肩には烏を止まらせている。それだけでかなり怪しい雰囲気を漂わせていた。
「わしにも美学はあるが貴様とは違うからな」
「おお、その通りじゃ」
 黄色いラムを付けた艦にいる青っぽい肌の大男がそれに同調した。
「わしにとってはかみさんが一番じゃがな」
「フン、ケルナグールは相変わらずよのう」
「カットナル、そういうお主はどうなのじゃ」
 青い肌の男と隻眼の男は互いに言い合った。それを見て金髪の男はクールな顔でその二人に対して言った。
「二人共、話の途中だが」
「むっ」
「何かあったのか、ブンドル」
「つい今しがたゴッドネロス様からご指示があった」
「何と」
「何かあったのか」
「目の前の敵を倒せとのことだ」
 ブンドルは二人に対してそう言った。
「ほう奴等とか」
「そうだ。そしてその技術を手に入れととのことだ。いけるな」
「無論だ」
「戦いとあっては断る理由もないわ」
 二人は既に戦う気でいた。すぐに艦載機を出す。
「ブンドル、そっちもインパクターを出せ」
「うむ」
 三隻の戦艦から小型の戦闘機が出される。そして戦闘態勢に入った。
「では行くがいい、ドクーガの戦士達よ」
 まずはブンドルが口を開いた。
「おい、ブンドル」
「わしが言おうと思っていたのに」
「悪いがこうしたことは先に言った者勝ちなのでな。言わせてもらった」
 ブンドルは二人の抗議を悠然と聞き流した。そして言葉を続ける。
「戦いに向かうその姿・・・・・・美しい」
 そしてまた美しいという言葉を口にした。それが合図となりドクーガはラングラン軍に攻撃を仕掛けてきた。すぐに全軍ラングラン軍に殺到する。
「よし、行け!」
「奴等を皆殺しにするのだ!」
 カットナルとケルナグールも指示を出す。それをラングラン軍は隊を組んで待ち構えていた。
「とりあえず何処のどいつかわかんないけれど敵なのは間違いないみたいね」
 リューネがマサキの横に来てこう言った。
「そうだな。こっちに向かってくるところを見ると」
「降りかかる火の粉は払わなくてはならない」
「出来ることなら避けたいけれど」
「ここはやるっきゃないみたいね」
 魔装機神のそれぞれのパイロット達も隊を組んでいた。そして構えをとる。
「行くぜ、そっちがやる気ならこっちもやってやるだけだぜ!」
「おう!」
 マサキの言葉に応え全軍攻撃態勢に入った。そして敵に対して攻撃を開始した。
 まずは四機の魔装機神とヴァルシオーネがいつも通り突っ込む。そして散開し攻撃を開始した。
「いっけえええーーーーーーーーーっ!サイフラァーーーッシュ!」
「サイコブラスターーーーーーーーーッ!」
 サイバスターとヴァルシオーネから光が放たれる。それがまず敵を討つ。
「メギドフレイムッ!」
「ケルヴィンブリザード!」
「レゾナンスクエイクッ!」
 他の三機も攻撃を仕掛ける。それで敵を討つ。これにより二十機近くが撃墜される。それにより出来た穴に他の魔装機やオーラバトラーが突っ込む。それで一気に勝負をかけてきた。
 戦局はラングラン軍に優勢となっていた。三隻の戦艦に乗る男達はそれを見て互いにそれぞれの反応を見せていた。
「ぐうう、トランキライザーは何処だ!」
「はい、こちらに」
 カットナルは部下から薬を受け取っていた。そしてそれを鷲掴みにし一気に口に入れて噛み砕く。
「ふうう」
 そしてそれを飲み込んで一息ついた。安心した顔になった。
「何だあいつ等は、出鱈目に強いではないか!」
 それから叫ぶ。ブンドルはそれを聞いて呆れた顔になっていた。
「相変わらずだな、カットナル」
「フン、おかげさまでな」
「そう言うと思っていた。しかし」
「言いたいことはわかっておるぞ」
「そうか。だが言わせてもらおう」
 だからといって話を終わらせるようなブンドルでもなかった。半ば強引に話を続ける。
「ケルナグールも相変わらずだな」
「そうだな」
 見ればケルナグールはロボットを殴ってうさ晴らしをしていた。彼はもう怒りを身体で現わしていた。
「何だあの連中は!こうなったらわしが行くぞ!」
「まあ待て」
「落ち着くのだ」
 前に出ようとするケルナグール艦を二人が止めた。
「今は出るべきではないぞ」
「戦いははじまったばかりだ」
「しかしだな」
「ケルナグール、宴はこれからだ」
 ブンドルが言った。
「まだ彼等も出ていないではないか。今からそんなに騒いでどうする」
「おい、待てブンドル」
 それを聞いたカットナルが声をかけた。
「どうした」
「そんなことを言っていると前に何か出て来たぞ」
「む!?」
「あの光は」
 ケルナグールもそれを聞いて顔を前に向けた。するとそこには緑の光があった。
「噂をすれば何とやらだな」
「全くだ」
「何かいつもこうした出方だのう、あいつ等は」
 三人はそんな話をしながらその光を見守っていた。光はラングラン軍と三人の手勢との間で輝いていた。
「あの光は」
「まさか」
 マサキ達はその光を見て声をあげた。そしてこの前見た光を思い出していた。その時中から現われたのは。
「ここにいたか、ドクーガ!」
「やっぱりな」
 皆それを聞いて呆れが混じった声でぼやいた。
「あれ、何かリアクションが変よ、真吾」
「折角ヒーローが出て来たってのに寂しいね、こりゃ」
「というかあんた達の行動パターンって何かありたきりなのよ」
「そうそう、もうちょっと奇をてらわないとあきられちゃうよ」
 リューネとミオが彼等に突っ込みを入れる。だがそれを受けてもへこたれる三人ではなかった。
「やれやれだな。有り難味がないというか」
「正義の味方への出迎えも最近あれだわね」
「まあ最近その正義の味方もインフレしてるわけだが」
「インフレじゃないんじゃないのか、キリー」
「こういう場合デフレじゃないの?」
「あれ、そうだったかな。俺は経済にはあまり詳しくはないんだけれどね」
「この場合インフレでいいぞ、キリー」
「い、そうか真吾」
「じゃああたしが間違えてたわけね、あ〜〜あ」
「・・・・・・おい」
 自分達で話を進める三人にマサキが口を入れた。
「ん、何だ」
「あの時の少年じゃない」
「また会えて光栄だな」
「それはいいとしてあんた達何でここにいきなり現われたんだ?バゴニアに行ったんじゃなかったのかよ」
「行ったことは行ったさ」
「けれど今はここにいるの」
「連中を追いかけてね」
「連中?まさかあれか」
「そういうこと」
 三人はマサキがサイバスターで指差した方を確認して頷いた。見ればそこにはあの三隻の戦艦がいた。
「あれがまさかドクーガっていう連中か?」
「ああ。世界経済を影に牛耳る悪の組織だ」
「またわかり易い組織ね」
「今時珍しいというか」
 シモーヌとベッキーがそれを聞きながら突っ込みを入れる。
「それでそのドクーガの野望を阻止するのが俺達の役目だ」
「これもわかり易いかしら」
「というかありたきり」
 ミオも言う。
「もっと凝った設定でないと最近受けないよ」
「ううむ、困ったなあ」
「今更そんなの変えられないしね」
「ここはキャラクターで目立つしかないな」
「・・・・・・まあキャラは立ってるな」
 ショウがそれを聞いて呟く。
「嫌になる程な。そこにいる旦那は俺と同じアメリカ人みてえだが」
「ん、アメリカ人がいるのか」
 キリーがそれに反応した。そしてトッドに顔を向けた。
「ん、ああ」
「何だ、オーラバトラーにいたのか」
「トッド=ギネスっていうんだ。宜しくな」
「おう、俺はキリーだ。前話したよな」
「そういえばそうだったかな」
「覚えていてくれよ、俺はこれから有名になる男なんだからな。もっともその前からあまりよくないことで知られていたけれ
どな」
「ブロンクスの狼ってな」
「あの頃のキリーは相当だったらしいわね」
「止めてくれよ、昔の話は」
 真吾とレミーに言われて少し照れたふりをする。
「あの頃の俺じゃないからな」
「へえ、あんたニューヨーク出身か」
「まあな。そういうあんたはどうなんだ」
「俺はボストン出身だ」
「ほお、いいところにいるな」
「といっても落ち零れだがな」
「いやいや、謙遜はいいぜ」
「へえ、トッド、あんたボストン出身だったんだ」
 ベッキーがそれを聞いて言った。
「そういやあんたはイロコイだったよな」
「まあね」
「あたしも一応アメリカ人だよ。移民だけれどね」
「リューネもかい」
「ポーランドからね」
 実はポーランドからアメリカへの移民は多いのである。アメリカは元々イギリスからの移民によって建国された国であるが人種の坩堝という言葉通り多くの国からの移民とその子孫から構成されている。原住民であるネィティブ=アメリカンやイヌイット以外は他の国から来た者達である。その中でロシアやドイツ、オーストリアからの弾圧を逃れてアメリカに移民してきたポーランド系の者もいるのである。その数はかなりのものである。
「ポーランド系か。ちょっと見えねえな」
「あれ、そうかなあ」
「どっちかっていうとカルフォルニア辺りのヤンキーみてえだ」
「おう、そういやそうだな」
 キリーとトッドは意気投合したかのように声を合わせてそう言い合った。
「好き勝手言ってくれるね、あんた達」
「ん、気を悪くしたか」
「だったらすまねえ」
「まあ別にいいけれどね」
 しかしそのようなことを特に気にするリューネでもなくそれはすぐに済ませた。
「それはそうとして早いとこそのドクーガって連中何とかしないといけないんじゃないの」 
 リューネはドクーガに顔を向けてそう言った。
「おっと、そうだった」
「何かいつものことだから忘れちゃってたわ」
「忘れたいってのもあるけれどな」
 ゴーショーグンはそう言いながらドクーガに顔を向けた。
「ふふふ、マドモアゼル=レミー」
 ブンドルはゴーショーグンを見ながら悠然と語りかけてきた。
「やはり私達は赤い糸で結ばれているのだよ」
「また勝手なこと言って」
 しかしレミーはそれを軽くあしらう。
「いい加減諦めなさいよ」
「ふ、相変わらず気が強い」
 だがブンドルも負けてはいない。
「しかしその気の強さもまた・・・・・・」
 そしてまたもや薔薇を高く掲げて言った。
「美しい」
「何かワンパターンね」
「そういえばそうだな」
「たまには別の芸も見せないと飽きられるぜ」
「ふ、何とでも言うがいい」
 それで怯むブンドルではなかった。
「ゴーショーグンよ、今日こそ決着を着けようぞ」
「おう、わしもだ」
「わしも入れろ。我等は三人揃ってなんぼではなかったか」
「そうだったか、ブンドル」
「どうも世間ではそう思われているらしいがな」
 三人は口々にそう言いながら話を続けている。
「だがそれはかえって好都合なのだぞ、二人共」
「それはどういうことだ、ケルナグール」
「三人揃えば何とやらというであろう。では行くぞ」
「わかったようなわからんようなだが」
「しかしそれでもゴーショーグンとの決着を着けるのには都合がいいな」
「よし。それではわしも行くか」
「私もそうさせてもらうか。さて」
 ブンドルはここで後ろに控える部下達に顔を向けて言った。そして三隻の戦艦は前に出て来た。
「来たな」
「ようやくおでましね」
「何だかんだ言っても来てくれるとはサービス精神旺盛ですな」
 ゴーショーグンの三人は相変わらずの態度であった。しかし魔装機やオーラバトラーのパイロット達は違っていた。すぐに戦闘態勢に入っていた。
「来たぞ!」
「散開しろ!」
 それぞれの小隊ごとに散る。そして互いに連携をとりつつ周りの敵を倒し、戦艦に近付いていく。ブンドル達はそれを見据えつつ部下達に指示を下す。まずはブンドルからであった。
「攻撃の前にだ」
「はい」
「曲を。そうだな」
 ブンドルは話をしながら考え込んだ。だがすぐに決断しまた言った。
「青く美しきドナウがいいな」
「わかりました」
 部下達はそれを受けてCDを取り出す。そしてそれでプレーヤーにかけた。そしてスイッチを入れた。
 優美な、だが戦場には相応しくない曲が戦場を支配した。皆それを聞いて思わず拍子抜けした。
「また訳わかんねえ奴等だな」
「まさかあの曲を聴きながら戦うつもりなのかしら」
「どうもそうらしいな」
 皆戸惑いながらも彼等を取り囲みはじめていた。ブンドルはそれを見ながら余裕の笑みであった。
「ふふふ、どうやら私の崇高な美の哲学に感動しているようだな」
「いや、違うぞブンドル」
「あれは呆れているのだ」
 カットナルとケルナグールは冷静に周りを見てそう答えた。
「そんな筈はない」
「いや、それがあるのだ」
「自分の趣味が全ての者に受け入れられるとは思わない方がよいぞ」
「それはわかっているつもりだが」
 それでもブンドルは負けてはいなかった。
「私の崇高な趣味は凡人にはわからないのだからな」
「・・・・・・好きに言っておれ」
「それより戦うぞ」
「うむ」
 こうして三人も戦いに入った。周りから迫る魔装機やオーラバトラーに対して攻撃を仕掛ける。しかしそれはことごとくかわされてしまう。
「ヘッ、当たるかよ!」
 マサキが得意な顔でそう言う。そしてファミリアを出した。
「これはおつりだぜ、とっときな!」
「おいら達はお金かよ!」
「心外だニャ!」
 シロとクロは文句を言いながらも敵に向かう。そしてカットナル艦に攻撃を仕掛けた。
「ぬうう、ファンネルを使うとは!」
 彼はここで認識を間違っていた。これはファンネルではなかったのだ。全く別のものであった。しかしケルナグールはそれを知らなかったのだ。
「小癪な真似を!」
 しかえしとばかりにビームを放つ。だがそれはかわされグランガランに向かって行った。
「急速降下!」
 それを見たシーラの指示が下る。カワッセはそれに従い舵を切る。
「了解!」
 そしてビームをかわした。かすりはしたがそれはオーラバリアにより弾かれてしまった。それを見てケルナグールはさらに激昂した。
「おのれ、あの城みたいな船は何なのだ!」
「ええい、黙って戦争ができんのか!」
 それを聞いたカットナルが怒り狂った声でカットナル艦のモニターに出て来た。
「それでよく連邦政府の議員が務まるのう!」
「貴様にだけは言われたくはないわ!」
 カットナルはトランキライザーを噛み砕きながらそう返した。
「さっきから隣で五月蝿いと思っておったのだ!いい加減辺りを殴ったり蹴ったりするのは止めろ!」
「これがわしのやり方だ。口を挟まないでもらおう!」
「ではわしのやることにも口を出すな!」
「何!」
 二人は口喧嘩をしながら戦闘の指揮をとったいた。見ればケルナグール艦はグランヴェールの攻撃を受けていた。
「これで・・・・・・どうだっ!」
 巨大な炎の柱を放つ。グランヴェールの切り札の一つ電光影裏であった。炎により敵を焼き尽くす攻撃である。
 それがケルナグール艦を直撃した。艦が大きく揺れたがそれでもケルナグールは艦橋に仁王立ちして立っていた。
「この程度でわしが倒れるとでも思ったか!」
「ふ、流石に丈夫だな」
 それを聞いてブンドルがモニターに出て来た。
「それは褒めておこう」
「ブンドル、皮肉もいいがな」
 ケルナグールはそんな彼に言い返した。
「お主もかなりやられているのではないのか」
「この程度で私が倒れるとでも思っているのか」
「いや」
 ケルナグールはその言葉に首を横に振った。
「貴様がそう簡単に死ぬような男ではないことはわし等が一番よく知っておるわ」
「ふ、そうだったな」
「だがゴーショーグンが来ておるぞ。油断するな」
「わかっている」
 彼はそれに答えた。
「今こそマドモアゼル=レミーとの赤い糸を確かなものとする時」
「あんたも懲りないねえ」
「しつこい男は嫌われるわよ」
「そういうこと」
 それを聞いてブンドル艦のすぐ側にまでゴーショーグンを移動させていたキリー、レミー、真吾は言った。そして構えをとった。
「グッドサンダーチームはストーカーお断り!」
「あまり付きまとうと訴えられるわよ!」
 そして空に出て来た巨大な砲を手に取った。
「スペースバズーカ!」
「真吾、いっちゃって!」
 そしてそれをブンドル艦に向ける。砲身から巨大な光が放たれブンドル艦を直撃した。
「やったか!」
「お見事、真吾」
 しかしそれでもブンドルとその艦は健在であった。悠然と宙に浮いていた。
「その程度では落ちんよ」
 反撃に転じようとする。だがここで通信が入った。
「何だ、二人共」
「ん、通信を入れたのは貴様ではないのか」
「わしではないぞ」
 だが二人はモニターに出てすぐにそう返答した。ブンドルはそれを聞いて首を傾げた。
「どういうことだ」
 だがすぐにわかった。ブンドルだけでなく三人はそれを聞いて頷いた。
「撤退だ」
「うむ」
「戦いの途中で残念だがな」
 それを受けて残っていた艦載機を収めた。そして後ろに退きはじめた。
「ん、撤退するつもりか」
「ドクーガ、何処に行く!」
 ゴーショーグンが追おうとする。しかしそれに対して三人は言った。
「また今度会った時に思う存分やってやるわ!」
「だから楽しみにしておれ!」
「マドモアゼル=レミー、続きはまた今度は」 
 そして彼等はそのまま撤退した。退き際もまた美しい撤退であった。ブンドルの言葉を借りればそうなる。
「逃げたか」
「何か手強いけれど何処か抜けた連中だったね」
 マサキとリューネはそれを見届けた後でそう言い合った。
「まあドクーガはあんなもんさ」
「そうそう、それで何時出て来るかわからないのよね」
「神出鬼没ってやつだ」
「・・・・・・あんな目立つ奴等がか」
 タダナオはそれを聞きながらそう呟いた。いささか呆れた様子であった。
「で、これからあんた達はどうするんだ」
 そこでマサキが三人に尋ねた。
「またお別れかい」
「そういうこともできるけれどな」
 真吾がそれに答えた。
「けれど今は君達と一緒にいさせてくれないか。事情が変わってね」
「事情が」
「そう、大人の事情なの」
「正確には子供の、かな」
 レミーとキリーが茶化をまじえて言う。
「君達さえよかったら同行させてもらいたんだが。いいかい」
「こちらは構わないが」
「ただ将軍が何て仰るか」
「私は別に構わないが」
 ヤンロンとテュッティにカークスがそう答えた。
「ゴーショーグンの戦いは見せてもらった。是非とも我が軍に協力してもらいたい。責任は私が持つ」
「これで決まりだな」
「ああ」
 こうしてゴーショーグンはラングラン軍に参加することとなった。彼等はグランガランの艦橋にてあらためて自己紹介をした。そこには主立った者達が集まっていた。
「北条真吾」
「レミー島田」
「キリー=ギャグレー」
「以上三人でグッドサンダーチーム。ゴーショーグンのパイロットだ。これから宜しく頼む」
 真吾が三人を代表して言う。
「おう、宜しくな」
「皆さんの参加を歓迎します」
 一同を代表してマサキとシーラが三人を迎えた。そして他の者も挨拶をする。それが終わってから真吾は一人の少年とロボットを彼等に紹介した。
「あれ、この子は」
「これがその大人の事情ってわけ」
「子供の事情だろ、レミー」
「固いことは言いっこなしよ」
「それで君の名は」
「真田ケン太です」
 少年はヤンロンに問われてそう名乗った。
「ずっとゴーショーグンに一緒に乗っていました」
「そうだったのか」
「しかし何故」
「それは私が説明しましょう」
 ここでケン太の横にいたロボットが前に出て来た。
「ロボット?」
「はい。私はOVAといいます」
 そして自らの名前をそう名乗った。
「OVAっていうのか。それで何故彼はゴーショーグンに乗っていたんだい」
「はい、それは」
 それを受けて説明をはじめた。OVAはこれまでのいきさつについて語りはじめた。
 ケン太は真田博士という高名な学者の息子であった。父の研究、そして自分自身をドクーガに狙われそこをグッドサンダーチームに救われたのだ。その際父は死亡している。ドクーガが彼を狙う理由はビムラーという謎のエネルギーにあった。ドクーガはそれを狙っているのであった。それが為にグッドサンダー隊はケン太を守る為に世界を転々としているのであった。
「もしかしてあんた達は急に出たり消えたりするのもビムラーの力か」
「ああ、その通りだ」
 真吾が答えた。
「俺達はそれを使って世界中を飛び回ってるのさ。そしてドクーガの奴等と戦っている」
「それでそのドクーガってのは何なんだ。悪の組織だってことはわかるが」
「大昔より世界を裏から支配してきた組織です」
 OVAがそう答えた。
「大昔から」
「はい。今では世界経済を操っていると言われています」
「それでか。ここに出て来れたりする技術があるのも」
「おそらくは」
「何かえらく変わった連中のようだけれど注意する必要があるね」
「何か敵がどんどん増えてくなあ」
 プレセアがここでぼやいた。
「まあそういうもんだけれどな、戦争ってのは。しかし」
 マサキは義妹の言葉を聞きながらぼやいて言葉を続けた。
「あの三人はまたヘンテコリンな奴等だったな」
「おお、あんたもそう思うか」
「俺達も最初見た時そう思ったんだ」
「特にあのブンドルってのは目立つでしょう」
「・・・・・・目立つってレベル超えてると思うけど」
「プレセアの言う通りだな。あそこまで訳わかんねえのは見たことねえ。しかも三人ときたもんだ」
「だが手強いことには変わりはないな」
 アハマドは落ち着いた声でそう言った。
「あの三人はかなりの手練れだ。それはわかっているな」
「ああ、まあな」
「ならばそれだけだ。手強い者を倒す、それだけでいい」
「アハマドはいつもクールねえ」
「戦いですからな、セニア殿」
「そういう割りきりがいいねえ」
 どうやらキリーもそれに共感を覚えているようであった。
「何か色々な人がいるね、ここは」
「まあな。そういうあんた達も結構なものだが」
 タダナオがここで三人に対して言った。
「言ってくれるな」
「坊や、名前は何ていうのかしら」
「タダナオ、栗林忠直ってんだ。宜しくな」
「ああ、こちらこそ」
「宜しくね、坊や」
「その坊やってのは止めてくれよ、お姉さん」
「ふふふ、中々できてるじゃない」
 レミーはそれを聞いて大人の女の笑みを浮かべた。
「お姉さんだなんて。見所あるわ」
「むっ」
「こらこらレミー」
 真吾が入ってきた。
「からかうのはよせ」
「あら、からかってはいないわよ」
「刺激が強過ぎるぜ、レディ」
 キリーも入る。
「あまりそうしたことは控えた方がいいってもんだ」
「心配してくれるの、キリー」
「お望みとあらば」
「じゃあ止めておくわ。タダナオ君ね」
「はい」
「これから宜しくね、個人的に」
「了解」
「タダナオに勝つなんてやるわね」
「ホント。あの人やるね」
 リューネとがベッキーそう囁き合う。彼等もタダナオのことはよくわかっているのだ。
「さてと」
 三人は話を終えるとあらためて言った。
「部屋に案内してくれるかな、よかったら」
「雨露さえしのげれば何処でも」
「ゴーショーグンの中だけは勘弁してね。もう飽きたから」
「わかっている」
 カークスは三人の言葉に笑いながらそう答えた。
「それでは彼等をそれぞれの部屋に案内してくれ」
 そう言って部下の一人に声をかけた。それを受けてその部下が三人に声をかける。
「こちらです」
「了解」
 こうして三人はそれぞれの部屋に入った。こうしてラングラン軍にあらたな仲間が入ったのであった。
 
「そうですか、彼等も」
 紫の髪の男は神殿の礼拝堂で話を聞いていた。暗い、石の柱が林立する部屋であった。
「はい。御主人様のお話通りでしたね」
 小鳥が彼にそう話していた。
「これでこっちはあらかた揃っちゃいましたね」
「そうですね」
 男は小鳥にそう答えた。
「後は最後の詰めです。ところでチカ」
「はい」
「彼等はどうしていますか」
「ドレイク達ですか」
「ええ」
「それならそろそろですね。ルオゾール様がそっちに向かっておられますから」
「そうですか」
「連中がいなくなったらシュテドニアスの奴等慌てふためきますよ」
「そうでしょうね」
「そこで御主人様の登場ですね」
「チカ」
 ここで彼は小鳥の名をまた呼んだ。
「はい」
「あれの用意もできていますね」
「勿論ですよ」
 チカはそう答えた。
「何時でも出られますよ」
「それは何より」
 男はそれを聞いて満足そうに笑った。
「それでは私も行きますか」
「いよいよですね」
「ええ。それでは貴方も来なさい」
「えっ、私もですか!?」
 チカはそれを聞いて驚きの声をあげた。
「私はちょっと・・・・・・」
「嫌なのですか」
「いや、そういうわけじゃないんですけれどね。都合がありまして」
「言っておきますが貴方は私のファミリアなんですよ」
「それはわかっていますよ」
「ならいいですね。どのみち私が死ねば貴方も消える」
「はい」
「そういうことです。問題はありません」
「それはそうですけれどね」
 それでもチカはまだ不満そうであった。それも大いに。
「何も貴方をハイ=ファミリアにして出すことはしませんよ」
「元々あれにはそんなの装備されていないじゃないですか」
「今のところはね」
 彼はここでこう言った。
「ですがまだ改造の余地はありますよ」
 男は楽しむようにしてそう言った。
「まだまだね」
「驚かさないで下さいよ」
 チカはその言葉にたまりかねてこう言った。
「そんなのできるわけがないじゃないですか」
「ふふふ」
 だが男はそれには答えずただ笑うだけであった。澄んではいるが何処か闇を潜ませた笑いであった。
「まあ話はそれ位にしまして」
「はい」
「行きますよ。歯車を動かす為に」
「わかりました」
 こうして男とチカは神殿を後にした。そして静かに目指す場所に向かうのであった。
 これから暫くしてシュテドニアスで大事件が起こった。何とドレイク達が急に姿を消したのだ。それもオーラバトラー一機、人一人残さず。
 それを受けて大規模な調査が開始されたが結局真相はわからなかった。そして事態はそれどころではなくなっていたのだ。ラングラン軍が遂に国境にまで迫っていたのだ。
 これを受けてシュテドニアス軍は兵を総動員して防衛にあたった。何としても国境を越えさせるわけにはいかないからである。侵攻した国が逆に攻められるなぞ笑い話もいいところであるからだ。
「何としても奴等を追い返せ!」
 指示が下る。そして彼等は戦場に向かうのであった。ラングラン軍を雌雄を決する為に。


第十三話   完



                                     2005・3・13


[263] 題名:第十二話その二 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月19日 (日) 23時47分

「それは言うな、いいな」
「あ、すいません」
「わかればいい。ところで」
「何だ」
 京四郎はダイゴウジに話を振られそれに応えた。
「ダイモスとウィングゼロカスタムは何処だ」
「一矢か」
「そうだ。今何処にいる」
「俺ならここにいるぜ」
 すると後ろから赤い巨大なロボットが姿を現わした。見ればガルバーやエステバリスの何倍もある。地下都市開発用ロボットであるダイモスだ。乗っているパイロットは黒い髪の精悍な顔立ちの青年であった。
「済まない、ちょっと色々あってな」
「エリカさんが?」
「ま、まあな」
 ナナにそう言われてその青年は少し赤い顔をした。
「何か身体の調子が悪そうだったからな」
「一矢」
「竜崎一矢」
 京四郎とダイゴウジ、それぞれが同時に一矢に対して言った。
「言っておくがな」
 やはり二人の声は重なった。
「今の御前はもう少し落ち着いた方がいい」
「どういうことだ、京四郎」
 一矢はその言葉に顔をムッとさせた。
「何度も言っているだろう、恋は盲目ってな。今の御前はあまりにも前が見えなくなっている。それではこれからの戦いは乗り切れないぞ」
「何でそんなことを言うんだ」
「竜崎」
 京四郎に反論する彼に対してダイゴウジが言った。
「確かに恋はいいものだ。それは己を強くもする。だがな」
「だがな・・・・・・!?」
「今の御前は少し周りが見えなくなっている。そのままでは戦士として駄目だ」
「クッ・・・・・・」
 一矢はそれに反論しようとする。だがそれはできなかった。
「もう少し落ち着け、いいな」
「そう言うとうちの艦長も大概なモンだけれどね」
 サブロウタがここでそう言った。
「えっ、そうかなあ」
「アキト、御前さんそれに気付かないのか?」
「だから何が?」
「じゃあいい。悪いな、つまんねえ話して」
「?」
 アキトはサブロウタの言葉に首を傾げたままであった。彼には何のことか全くわかってはいなかった。そんなところがアキトにはあった。
「ところでヒイロ=ユイだが」
 ここでダイゴウジはヒイロのことに話を移した。
「今何処にいるのだ。見ないが」
「ヒイロさんは今別の方向に出撃しておられます」
 澄んだ綺麗な少女の声と共にモニターに淡いピンクの髪の美しい少女が姿を現わした。肌は白く雪のようである。その目は大きく黄色かった。何処となく表情に乏しい感じがする。
「お、ホシノ=ルリか」
「はい」
 彼女はダイゴウジにそう答えた。
「側面の哨戒に出ておられます。何かあった時の為に」
「そうだったのか」
「敵は何処から来るかわかりませんから。ダイゴウジさんの御言葉通り」
「ううむ」
 これにはダイゴウジも唸るしかなかった。
「それでヒイロさんには哨戒に出てもらいました。今のところ敵はいないようですが」
「そうか。しかし油断はできないな」
「それはそうですね。何しろ敵もボゾンジャンプができますから」
 アキトがここで言う。
「ああ。バーム星人にあの兵器が渡ったのは痛いな。もっともそれだけじゃないが」
「ええ」
 京四郎の言葉に頷く。彼等はナデシコの周りを護衛しながら合流地点に向かっていく。
「さて」
 ブライトはナデシコを見ながら呟く。
「そろそろ合流だが。敵は出るかな」
「どうですかね。出るといっても何が出て来るか」
「それが問題ですね」
「ああ」
 トーレスとサエグサに応えてそう頷く。
「前のポセイダル軍もこの辺りにいる可能性がある。ティターンズやギガノスはいないと思うが」
「どちらにしろ油断大敵です」
「そういうことだ。総員スタンバっておけよ」
「はい」
 皆ブライトの言葉を待つまでもなく戦闘配置についていた。そして辺りに警戒を払っていた。その時であった。
「ムッ」
 トーレスがレーダーを見て叫んだ。
「エネルギー反応多数!合流地点に現われます!」
「何、バルマーか!」
「いえ、違います。これは」
 ラー=カイラム達の前に無数の敵が姿を現わした。
「見たこともない敵です、これは」
「ジュピトリアンの残党です」
 ルリがブライト達に対して言った。モニターに彼女の顔が出る。
「ジュピトリアンの」
「はい。バルマー戦役の時彼等はモビルスーツ部隊の他にも兵器を持っていました。それがあれです」
「そうだったのか」
「ところでだ」
 ここでシナプスがルリに尋ねた。
「何でしょうか」
「そのボゾンジャンプとは何なのだ。はじめて聞くが」
「それは」
「空間跳躍のことなのでぇ〜〜す」
 ユリカが話に入ってきた。
「空間跳躍」
「はぁい、密かに開発された技術でぇ、まあワープなんですよぉ、分かり易く言えば」
「そうなのか」
「はい。そして木星は私達にそれを使う兵器を送ってきていたのです。それが今どうしてここにいるのかはわからないのですが」
「いや、それはわかる」
「どういうことですか」
 ルリはブライトに尋ねた。
「木星はバルマーと同盟を結んでいた。それを考えると」
「これはバルマーの攻撃であると」
「そうだ。そして彼等がここに来たということは」
「ポセイダル軍も・・・・・・!」
 ダバがそれを聞いて叫んだ。
「そうさ、その通りだよ!」
 すると低い女の声が聞こえてきた。
「その声はっ!」
「まさかっ!」
 ダバ達がそれに反応する。すると無数のヘビーメタル達も姿を現わした。その先頭には金色のマシンがあった。
「金色のマシン、オージェか!」
「ネイか!」
「そうだよ。久し振りだねえ、ダバ」
 声はそこから聞こえていた。見ればきつい顔立ちの大柄な女がコクピットにいた。彼女の名をネイ=モー=ハンという。ポセイダル軍十三人衆の一人でもある女だ。
「あんたがここに来るのはわかってたんだよ」
「どういうことだ」
「ギワザ様の情報収集能力を甘く見てもらっては困るね。こっちだって遊びでやってるんじゃないんだよ」
「そういうことだ。それは私も同じだ」
「その声は」
「食い逃げ男!」
 レッシィとアムが若い男の声を聞いて叫んだ。
「ギャブレー、あんたまでいたの!」
「ええい、私は食い逃げ男などではない!」
 見ればオージェの横に四本の腕を持つヘビーメタルがいた。声はそこからであった。
「私にはギャブレット=ギャブレーという名があるのだ。いい加減に覚えろ!」
「だって食い逃げしたのは事実じゃない」
「ホント。素直に悪いことは悪いと認めるんだね、だから男らしくないって言われるんだよ」
「ぬうう、言わせておけば」
 紫の長い髪の男が四本腕のヘビーメタルのコクピットの中で怒っている。彼がそのギャブレット=ギャブレーその人なのである。
「頭ぁ」
 彼の後ろから声がした。
「何だ」
 ギャブレーはそちらに顔を向けた。そこにもヘビーメタルがいた。
「いい加減それにこだわっていちゃあ話が進みませんね」
 そこには浅黒い肌の男がいた。
「わかってる」
 ギャブレーは憮然としてそれに答えた。
「今の私のやるべきことは一つ、彼等を倒すことだ」
「そうそう」
「上手いねえ、ハッシャ=モッシャは」
 ネイはそれを横目で見て微笑んでいた。凄みのある微笑みであった。
「ギャブレー、あんたはダバをやればいいさ」
「まことか、ネイ殿」
「ああ、あいつはあんたにくれてやるよ。そのかわりあたしは」
 彼は三隻の戦艦に目をやった。
「獲物がたっぷりあるからねえ。楽しませてもらうよ。いいね、アントン、ヘッケラー」
「はっ」
「了解致しました、ネイ様」
 ネイの後ろに控える青い髪の男と痩せた男がそれに頷いた。ネイはそれを見て満足気に笑った。
「行くよ、そして一気にやる」
「はっ」
 ヘビーメタル隊が動いた。そして木星の残党達も動く。三隻の戦艦にめがけ突っ込む。ギャブレーはダバに向かった。
「ダバ=マイロード、行くぞ!」
「ギャブレー!」
 ダバはギャブレーのセイバーを同じくセイバーで受け止めた。それから両者は斬り合いに入った。
「ここで貴様を倒す!」
「俺を倒して貴様を何を手に入れるつもりだ!」
「名誉だ!そして私は身を立てるのだ!」
「志が低いぞギャブレー君!」
「ええい五月蝿い!」
 その間にアムとレッシィはダバの左右についた。そしてそこから大型のランチャーを取り出した。
「あたし達もね!」
「やらせてもらうよ!」
 二人はそれを敵にめがけて放った。巨大な一条の光がヘビーメタル達を撃つ。それだけで多くの敵が破壊された。
「クッ、バスターランチャーだって!?」
 ネイはそれを見て思わず叫んだ。だがそれは一撃ではなかった。二機は再びバスターランチャーを放った。それでまた多くの爆発が起こった。
「クッ、二発も!」
「ヌーベルディザートはバスターランチャーが使えないのではなかったのか!しかもエルガイムも二発も放つとは!」
「生憎ねえ、改造したのよ」
「地球の技術を使ってな」
 アムとレッシィはアントンとヘッケラーに対してそう言った。キャオはそれをラー=カイラムの艦橋で見てはしゃいでいた。
「どうだい、俺の腕は。凄いだろう」
「おいおい、俺が教えてやったんじゃないか」
 アストナージはその横で苦笑しながら言った。
「どうだい、地球の技術もかなりのもんだろ」
「はい」
「しかしペンタゴナのもいいね、こっちの参考にさせてもらうよ」
「はい、どんどんお願いしますよ」
 彼等は地球の技術を使いエルガイムとヌーベルディザートを改造したのである。それによりこの二機の性能は格段に上昇していた。
「まだまだこれだけじゃないわよ」
「そう、そいじょそこらのヘビーメタルじゃ相手にはならないよ」
「おのれ・・・・・・」
 ネイはそれを聞いて歯噛みする。だが戦いを忘れたわけではなかった。
「アントン、ヘッケラー」
 すぐに後ろの二人に指示を下す。
「はい」
「御前達があの二人の相手をしな。あたしは戦艦をやる」
「わかりました」
 アントンとヘッケラーはそれに従いアムとレッシィに向かう。見ればギャブレーと同じヘビーメタルであった。アシュラテンプル
と呼ばれるヘビーメタルである。
「来たね」
「思う存分相手してやるよ」
 アムとレッシィも彼等に向かった。こうして三機のヘビーメタルが互いに激突した。
 ネイはそれを尻目に突撃する。その周りではヘビーメタルや木星の兵器が次々と撃墜されていく。だが彼女はそれでも怯まなかった。そしてパワーランチャーを構えた。
「これでどうだいっ!」
 ビームを放つ。それはナデシコに向かって放たれていた。
「ビーム来るわ、よけるわよ!」
 ユリカはそれを既に察知していた。そしてナデシコの操縦士であるハルカ=ミナトに対して指示を出した。
「取り舵一杯!」
「了解!」
 派手な外見ながら落ち着いた動きでそれに応える。そしてナデシコを左に動かした。それでオージェの攻撃をかわした。
「クッ、あれだけの巨体でかい!」
 ネイはそれを見て舌打ちした。しかしそれはかえって彼女の闘争心を高めるだけであった。
「まだまだっ!」
 次々にビームを放つ。しかしそれはことごとくかわされてしまう。そして周りでは味方が次々と撃墜されていた。
「行けぇっ!」
 ウッソがビームライフルを放つ。それでヘビーメタルを貫く。一機撃墜するとまた撃墜する。オデロ達がそれに続いて攻撃を仕掛けている。
「ウッソにばかりやらせるわけにはいかないからな!」
「あたしもいるよ!」
 彼等は巧みに戦場を動きながら敵を倒していく。エステバリス達はナデシコの周りにいた。
「隊は崩すなよ!」
「わかってるさ!」
 リョーコがダイゴウジにそう応える。六機のエステバリスは三機一組、二個小隊で敵に対処していた。リョーコはイズミと
ヒカルに対して言った。
「行くぜ、イズミ、ヒカル!」
「了解」
「あれをやるのね」
「おうよ!」
 二人はそれを聞いて頷いた。そしてリョーコのすぐ後ろにきた。
「久し振りにやるぜ。俺達のフォーメーションアタックだ!」
 三機は一斉に動いた。そして目の前の三機の敵に突っ込む。
「食らいやがれっ!」
 そして彼等を瞬く間に葬り去った。恐るべき動きと攻撃であった。
「また腕をあげたねえ」
「俺達も行くぞ!」
「はい!」
 サブロウタ達も行く。そして木星の兵器を次々に撃墜していく。その横にはダイモスとガルバーがいた。
「故人曰く」
 京四郎は不敵な声と共に敵に向かう。
「先手必勝ってな」
 そして敵に機銃掃射を仕掛けた。それで一機ずつ的確に撃墜する。
「はああっ!」
 一矢はダイモスで群がる敵を次々に葬り去っていた。まずは三竜艮で敵を打ち砕く。
「そいやあっ!」
 それからとりわけ大型の敵に突っ込む。ダイモスの胸が開いた。
「ダブルブリザァァァァァァァァァァァァァァッッッッド!」 
 それの吹雪で敵を撃つ。それにより大きく飛んだ相手に拳を向ける。そして叫んだ。
「必殺!烈風・・・・・・」
 拳を振りかざして突っ込む。その拳が唸った。
「正拳突きいいいいいいいいいいいいいいっっっっっっっっっっ!!!!!」
 拳が敵を貫いていく。そして真っ二つにして破壊した。ダイモスはその間を潜り抜けるようにして突破した。まさしく闘将であった。
 しかしそれでも敵は多かった。木星の兵器もポセイダル軍もかなりの数である。三隻の戦艦もそれぞれ砲撃を行っていた。
「外すなよ・・・・・・撃て!」
 シナプスが指示を下す。それによりアルビオンの主砲が放たれ敵を小隊単位で倒していく。ラー=カイラムも攻撃を行っていた。
「主砲、一斉発射!」
 それでも数は減らない。敵の中にはナデシコに小隊ごと突っ込もうとするものもあった。しかしその小隊は瞬く間に光の中に消え去ってしまった。
「間に合ったか」
 遠くに巨大な砲を構える天使がいた。いや、それは何とガンダムであった。翼を持つガンダム、ウィングガンダムゼロカスタムであった。
「ああ、そのようだな」
 その横にもガンダムがいた。それはウィングガンダムゼロである。そこからは女の声が聞こえていた。紫のショートの髪の女である。ルクレィツア=ノインであった。
「ヒイロ、すぐ前線に向かうぞ。今ナデシコは敵に攻撃を受けている」
「わかっている」
 ウィングガンダムゼロカスタムにいる少年がそれに頷く。彼の名はヒイロ=ユイ。このガンダムのパイロットであり五人のガンダムに乗る少年達の一人であった。
「皆いるか」
 ヒイロは他の四人に声をかけた。
「ああ」
「ここには」
 見れば彼等も既にナデシコの側に来ていた。
「これからナデシコを護衛する」
 それだけであった。簡潔な言葉である。だがそれだけにわかりやすかった。
 五機のガンダムが敵の前に立つ。そしてそのまま突き進む。彼等はそれぞれの敵の小隊に向かって行った。
「行っくぜええーーーーーっ!」
 まずはデュオが叫ぶ。その鎌を大きく振り被る。月に死神のシルエットが浮かぶ。そして敵の小隊に斬り込んだ。
 鎌が一閃される。敵をまとめて両断した。それにより敵の小隊は一気に全滅した。
 次はトロワであった。彼は突き進まない。最初は静かに動きを止めていた。だが突如ガンダムヘビーアームズカスタムの目が光った。
「邪魔するのなら、容赦はしない」
 トロワは静かにそう言った。そしてヘビーアームズは両腕を交差させると飛び上がった。空中をきりもみ回転しながら飛び着地すると全てのミサイルポッドを開いた。
 無数のミサイルとロケットが放たれる。それにより敵の小隊が激しい攻撃を受ける。瞬く間にその小隊は炎に包まれて消え去ってしまっていた。
 カトルも動いた。だが彼は少し違っていた。
「マグアナック隊の皆さん、いいですか!?」
「はい、カトル様!」
 彼の周りに何十機ものマシンが現われた。そしてそれがカトルのガンダムサンドロックカスタムの周りを取り囲んだ。
「撃てっ!」
「はい!」
 それが一斉攻撃を仕掛ける。それによって敵の小隊はまさに跡形もなく消え去ってしまった。
 最後は五飛であった。彼は敵の小隊に対峙すると棒を取り出した。それはツインビームトライデントであった。
「ナタクをなめるなあっ!」
 デュオのように敵に斬り込む。そして群がる敵をトライデントを振り回して切り刻んだ。それにより敵を一掃してしまった。
 彼等はそれぞれ敵の一個小隊を瞬く間に全滅させてしまった。その腕は全く衰えていないどころかさらに上達している程であった。
「見事なものだな、何時見ても」
 ノインはそれを見て感心したような言葉を口にした。そう言う彼女もバスターライフルにより既に敵の一個小隊を消し去ってしまっていた。
「流石は今まで戦いを生き抜いてきただけのことはある」
「御前に言われるとは光栄だな」
 バスターライフルで敵の小隊をまた葬り去ったヒイロは彼女の横でそう言った。
「リリーナのいるあの艦をやらせるわけにはいかないからな」
「フッ、そういうことか」
 ノインはそれを聞いて笑みを作った。
「それも変わらないな。御前らしいというか」
「そうか」
 しかしヒイロは褒められても感情を表に出すことはなかった。
「だが戦いはまだ続いている。行くぞ」
「うむ」
 彼等は今度はビームサーベルを出した。それで敵に斬り込む。
「やらせはしない」
 銀河に天使が舞う。その手にする剣で敵を切り伏せていく。それはまるで黙示録に出て来る終末の裁きの天使達のようであった。
 戦いはロンド=ベルのものとなってきていた。数では大きく劣りながら個々のパイロットの能力と兵器の性能が大きくものを言っていた。とりわけカミーユとジュドーの活躍は凄まじかった。
「出て来なければやられなかったのに!」
 ZUのハイパーメガランチャーが火を噴くとそれだけで無数の敵が滅びる。ジュドーはZZの額のハイメガキャノンを放つ。
「いっけええええ、ハイメガキャノン!」
 それで敵を屠る。彼等の行くところ敵はなくまさしく鬼神の如きであった。
「くっ、地球人ってのは話には聞いていたけれどここまでやるのかい!」
 ネイも流石に戦局が自分達に不利なことをわかっていた。倒されるのは自軍のみであり敵は勢いを増すばかりであった。彼女は意を決し残りの者達に対して言った。
「撤退するよ、これ以上の戦闘は無意味だ」
「はっ」
「わかりました」
 まずアントンとヘッケラーがそれに従う。彼等はアム、レッシィとの戦闘を止めネイのところに来た。
「全軍退きな。いいね」
「待たれよ、ネイ殿」
 だがここにギャブレーが入ってきた。
「私はまだダバとの決着をつけてはいないぞ」
「ギャブレー」
 だがネイはそんな彼に対して顔を向けて言った。
「まだ戦いはこれからなんだ、チャンスは幾らでもあるよ」
「しかし」
「言いたいことはわかっている」
 ネイはまだ言おうとする彼に対して強い声でそう応えた。
「確かに負け戦ってのは嫌だよ。あたしも腹が立つ。だけれどね」
 彼女は言葉を続けた。
「それを認めて引き下がるのも指揮官の務めだよ。いいね」
「うむ」
 不承不承ながらそれに頷いた。ネイはそれを見届けて自軍にあらためて言った。
「全軍撤退!」
 ポセイダル、そして木星の兵器はそれを受けて戦場を離脱した。ロンド=ベルはそれを追おうとはせずナデシコの周りに集結した。彼等にとって第一の目的は難民の保護でありそれを優先させたのだ。
「行ったか」
「そのようですね」
 シナプスは艦橋でパサロフの言葉を受けていた。
「中々手強い敵だったが。何とか退けたな」
「はい。ですがあの攻撃はまだまだ序の口でしょう」
「だろうな。バルマーの力は底知れない。おそらくこれからもさらに戦力をつぎ込んでくるだろう。ましてや敵は彼等だけではないしな」
「ですね」
 パサロフはそれを受けてその固い顔に陰を落とした。
「ギガノスもティターンズもいますし。ネオ=ジオンもいます」
「そうだ。ネオ=ジオンの動きはどうなっている」
「今のところは大人しいですが」
 前の戦いにおける停戦協定がまだ生きているのである。だからこそ彼等は表だっては目だった動きをしてはいなかった。だがこの停戦協定はあくまでかりそめのものであることは誰の目にも明らかであった。そしてそれが破られた時こそが本当の戦いであると考えていたのだ。
「油断はならんぞ。ハマーン=カーンもエギーユ=デラーズも只者ではない」
「はい」
「ソロモンの悪夢もいる。あの男が何をしてくるか、注意しておけ」
「わかりました」
 ソロモンの悪夢、ネオ=ジオンのパイロットアナベル=ガトーのことである。彼は前の戦いにおいてガンダム試作二号機を強奪し、その核バズーカにより当時連邦の基地であったソロモンを攻撃したのである。それによりそこに集結していた連邦の宇宙艦隊は一瞬にして壊滅した。それを受けて彼の通り名が『ソロモンの悪夢』となったのである。ネオ=ジオンにおいて知らぬ者はいない恐るべき男であった。
「ですが艦長、今はティターンズの方が警戒すべきだと思いますが」
 ジャクリーヌがそう意見を具申する。
「わかっている」
 シナプスはそれに頷いた。
「彼等は今ゼダンの門を本拠地とし木星及びサイド3と同盟関係にある。今のところ最大の脅威だ」
「はい」
「それだけではない。コロニーレーザーの建設を進めているという情報もあるな」
「はい。それが事実だとすると大変なことになります」
「ギガノスも何かしら開発しようとしているようだしな。事態は我々が思っている以上に深刻かもしれんぞ」
「はい」
「だがさしあたっては火星からの難民達をどうするかだな」
「ですね」
 彼等はナデシコを見ていた。そしてこれからのことに思いを馳せるのであった。
 すぐに難民達についての話し合いがはじまった。ブライトとシナプス、ユリカといった各艦の艦長達、そしてフォッカー等少佐以上の将校達が集められた。そして話し合いがはじまった。
「私は地球に行くことを提案しますぅ」
 まずユリカがそれを提案した。
「地球か」
「はい。あそこなら場所も多いですし。コロニーよりもいいと思いますよお」
「確かにな。現実には。だが」
「何かあるのですか?」
 顔を曇らせるブライトを見て不思議そうな顔をする。
「いや、今地球はな」
「あの人がいるからな」
 フォッカーがここで言った。
「三輪長官だな。あの人にはまず何を言っても無駄だ」
「はい」
 シナプスの言葉に一同首を縦に振った。問題はそこであった。
「あ、それなら大丈夫ですよ」
 しかしユリカは相変わらずのお気楽さで皆に対してそう言った。
「何故そう言えるのだ?」
「ブレックス閣下もおられますし。それに三輪長官は軍の中では孤立しておられますよね」
「むう」
「確かにな」
 これは事実であった。三輪は確かに連邦軍においてかなりの発言権を持っており、権限も巨大だがあまりもの過激さにより軍の中でも彼に賛同する者は非常に少なかったのだ。流石に連邦軍でも彼程過激な思考の持ち主はそうそういなかったのである。
「それではブレックス准将にお願いしてみるとしよう。それならばまあ問題はあるまい」
「そうですね」
 ブライトはシナプスの言葉に頷いた。
「それでは地球に向かうとしよう。どちらにしろこの場所は危険だ」
「はい」
 ナデシコと合流し難民達を保護したロンド=ベル隊は地球に向かうこととなった。とりあえずの危機は退けたがすぐに次の危機が訪れることを皆直感でわかっていた。



第十二話    完



                                  2005・3・8


[262] 題名:第十二話その一 名前:坂田火魯志 MAIL URL 投稿日:2006年02月19日 (日) 23時41分

           火星からの亡命者
「エリカは見つかったか」
 火星の上空をエイに似た巨大な戦艦が飛行していた。これはバームの戦艦であるガルンロールである。バームの司令官リヒテルはこれに乗り作戦を指揮しているのである。リヒテルはこのガルンロールの艦橋において周りの者にそう問うていたのであった。
「いえ、何処にも」
 スキンヘッドの大男が首を横に振ってそれに応える。彼の名をバルバスという。バームの実戦部隊の指揮官である。
「あの時の混乱により・・・・・・」
「そうか」
 リヒテルはそれを聞いて頷いた。
「ならばよい。エリカは死んだ」
「えっ!?」
 それを聞いて周りの者は皆驚きの声をあげた。
「リヒテル様、今何と」
「聞こえなかったか」
 リヒテルは彼等に顔を向けてまた言った。
「エリカは死んだ。そう申したのだ」
「しかしまだわかったわけでは」
 黒く長い髪をした女がリヒテルにそう言って宥めようとする。
「ライザ」
 リヒテルはそんな彼女の名を強い声で呼んだ。
「はい」
「エリカもまた翼を持つバームの民だ」
 リヒテルは言った。見れば彼等の背には翼がある。まるで天界の住人のようであった。
「その誇りは持っている」
「はい」
「ならば死んだ。おめおめ生き恥を晒すわけもない」
「ですが」
「バルバス」
 リヒテルは今度はバルバスに顔を向けた。
「ハッ」
「よもやエリカが地球人共の捕虜になったなどとは思ってはおらぬな」
「それは」
「ならばよい。エリカはこの余の妹だ」
 彼はその鋭い目をさらに鋭くしてこう言った。
「ならば生きて虜囚となるような恥は晒さぬ。ならば死を選ぶであろう」
「はい」
「よいな、皆の者。エリカは死んだ」
 リヒテルはここで一同に対して言った。
「今後は地球人共への正義の鉄槌、そして我がバーム十億の民の為にその身を捧げよ。よいな」
「ハッ!」
 皆リヒテルの言葉に対して敬礼した。リヒテルはそれを受けて頷いてから言った。
「ではこれより地球に向かう。さしあたってはこの火星より逃れた者達を追う。よいな」
 こうしてリヒテルの命が下った。彼等はそれに従い出撃する。今バームと地球の本格的な戦いが幕を開けたのであった。

 この頃ラー=カイラムは一路火星に向かっていた。その途中アルビオンとの合流を予定している。今彼等はその合流場所に到着した。
「アルビオンはまだか」
 ブライトは艦橋においてトーレスとサエグサに問うた。
「そろそろだと思いますけれど」
「先程の通信によるこ間も無くだそうです」
「そうか」
 ブライトはそれを受けて頷いた。
「ではここで待っていてもいいな」
「そうですね。そうしましょう」
「うむ」
 彼は頷いた。するとそこで通信が入ってきた。
「来たか」
「多分」
 モニターを開く。するとそこに古風な武人といった顔立ちの連邦軍の制服を来た男が現われた。
「久し振りだな、ブライト大佐」
「はい」
 ブライトは彼に敬礼して答えた。
「話は聞いている。すぐ火星に向かおう」
「はい、お願いします。シナプス大佐」
 彼がアルビオンの艦長である。見れば一隻の戦艦がラー=カイラムの方に接近してきていた。白いホワイトベースに似たシルエットの艦であった。
「そちらにいるウッソ達は元気ですか」
 ブライトはシナプスにそう尋ねた。
「うむ、元気でやっている。ジュンコ君やマーベット君もいるぞ」
「そうですか。ノイエ大尉はどうしていますか」
「彼はヘンケン隊に回ったよ。転属でな」
「そうだったのですか」
「本当はマーベット君と一緒にいたかったらしいがな。仕方がない」
「そうですね。それが軍人ですから」
「あちらでは子育てにも励んでいるらしい。それはそれで彼らしいがな」
「ははは、確かに」
「そのかわりにオデロに来てもらっているよ。彼も優秀なパイロットだ」
「はい」
 それは事実であった。オデロは先の戦いで腕をあげ今ではロンド=ベルにおいても知られたパイロットとなっていた。ウッソと並んで優れたパイロットと評価されている。
「バルキリーの新型機も乗せているしな」
「新型機」
「そうだ。VF−19だ。パイロットは金龍大尉だ。後でそちらに合流させる」
「わかりました」
「そして他にも補充の部隊を乗せているのだが」
「何でしょうか」
「コスモクラッシャー隊だ」
「コスモクラッシャー隊」
 ブライトはそれを聞いて考える顔をした。彼にとってはじめて聞く名であった。
「そうだ。大塚長官が結成した部隊でな」
「大塚長官・・・・・・。ああ、あの人ですか」
 その人物についてはブライトも知っていた。連邦軍環太平洋区極東支部に所属しておりかって警官であった。だがとある功績により昇進し、今では一つの部隊の長官を務めているのである。口髭を生やした優しい顔立ちの中年の男である。
「大塚長官が派遣してくれたのだ。ロンド=ベルの為にな」
「そうだったのですか」
「彼等は一機の戦闘機に乗り込んでいるよ。コスモクラッシャーという戦闘機にな」
「コスモクラッシャー」
「うむ。五人乗りでな。小さいがかなりの性能だ」
「それは何よりです。何で今は少しでも人手が欲しいですから」
「そうだな。火星からの難民の為だ。今彼等は何処にいるのか」
「火星を脱出して今は地球に向かってきております」
「そうか。ならばすぐに向かおう。一刻の猶予も許されん」
「はい」
「指揮権はブライト大佐、君が執れ」
「私がですか」
「そうだ。大佐になったのは君の方が先だからな」
 軍においては同じ階級でも序列があるのだ。任官順となっており、同期ならば士官学校等での成績で決められる。弊害もあるが命令系統を確立させる為に必要なのである。
「よろしいのですか」
「構わんさ。こうしたことは素直に形式に従っておいた方がいい。五月蝿い人もいるしな」
「成程」
 言うまでもなく三輪長官のことであった。彼は最早連邦軍においてももてあます程の存在であったのだ。
「ではそれでいきましょう」
「うむ。さて進路は」
「火星です。すぐに出発しましょう」
 こうして合流したラー=カイラムとアルビオンは火星に向かった。目的は難民達を保護することであった。これもまた軍人としての勤めであった。

 やがてラー=カイラムに通信が入って来た。通信者の名前は『砂漠の王子』であった。
「砂漠の王子?ああ、彼か」
「やっぱり来ましたね」 
 何やらわかったようなブライトに対してサエグサがそう相槌を打つ。ここで声が入って来た。
「お久し振りです、ラー=カイラムの皆さん」
 モニターに金髪の整った顔立ちの少年が出て来た。ガンダムサンドロックカスタムのパイロットカトル=ウィナー=ラパーナであった。名門ラパーナ家の若き当主でもある。所謂貴公子だ。
「カトルか。火星にいたとは聞いていたが」
「はい。他のメンバーも一緒です」
 ここで三人のメンバーがモニターに入ってきた。
「お久し振り、ブライトさん。元気そうで何よりだぜ」
「会えて何よりだ。また世話になる」
「どうやらラー=カイラムは間に合ったようだな。これでダイモスやナデシコ隊の負担も減る」
 茶色い長い髪を後ろで束ねた少年と前が長い茶髪の少年と黒い額のやや広い少年の三人が出て来た。デュオ=マックスウェル、トロワ=バートン、そして張五飛である。それぞれガンダムデスサイズヘルカスタム、ガンダムへビアームズカスタム、アルトロンガンダムカスタムのパイロットである。少年ながらそれぞれ腕利きのパイロット、かつ工作員である。
「ナデシコ、あああの艦か」
 シナプスはそれを聞いて言った。
「ミスマル中佐は元気か」
「ああ、元気だぜ」
「元気過ぎて困る位だがな」
 デュオと五飛がそれに答える。
「何とかあの人の作戦指揮もありここまで来れました。今からそちらに合流します」
「そうか。ところでヒイロはどうした」
「ヒイロはナデシコと一緒にいる。訳ありでな」
 トロワが答えた。
「ふむ、リリーナか」
「へへっ、ブライトさんもわかってるね」
「デュオ、そんなこと言ったら駄目だよ」
「いや、いい。それよりも御前達四人だけ何故ここに」
「先遣隊です」
 カトルがブライトにそう答えた。
「ミスマル中佐から言われまして。先にラー=カイラムの方へ向かって誘導してくれと」
「そうだったのか。それで難民達はどうなっている」
「皆ナデシコに保護されています。何とか皆さん御無事です」
「そうか。それは何よりだ。それでは今からナデシコに向かう。悪いが案内してくれ」
「はい」
 こうしてラー=カイラムとナデシコは四機のガンダムの誘導を受けてナデシコの方へ向かった。暫くしてまた通信が入ってきた。
「ナデシコからか」
「はい」
 トーレスが答える。すぐにモニターが入った。
「ど〜〜〜も、ブライト大佐とシナプス大佐ですかあ?」
 いきなり朗らかな声と共に青く長い髪の目の大きい女がモニターに現われた。二十歳程だと思われるが実際の年齢よりも少し幼い印象を受ける。
「そうだが」
「何か」
 急に朗らかな声が入ってきてもブライトもシナプスも動じてはいなかった。ごく普通に対処をしている。
「連邦軍所属ミスマル=ユリカでぇ〜〜〜す、階級は中佐、これから宜しくお願いしますね」
「うむ」
「こちらこそ宜しく」
 それを見てトーレスもサエグサもいささか驚いていた。アルビオンの艦橋でもそれは同じであった。
「ううむ」
 金髪のいかつい顔立ちの男が冷静なシナプスを見て唸っていた。パサロフである。彼は隣に立つ青いショートヘアの連邦軍の軍服を着た女性に声をかけた。アルビオンのオペレータージャクリーヌ=シモンである。
「なあ」
「はい」
「ナデシコってあんな艦だったのか」
「私が聞いた話によるとそうですが」
 彼女もいささか面食らっていた。普段はクールな顔を少し崩していた。
「木星での戦いではそれでもかなりの戦果を挙げているようですが」
「ジュピトリアンか。かってシロッコ達がいたあれだな」
「はい。今はティターンズと手を結んでいますね」
 ティターンズは地球から撤退せざるを得なくなったとはいえその勢力は健在であった。ゼダンの門を本拠地にサイド3と同盟を結び、そして木星とも手を結んでいたのである。その勢力はかなりのものであった。なお月はギガノス、そしてアクシズはネオ=ジオンが掌握していた。連邦軍は地球と他のコロニーを掌握しているものの余談を許さない状況にあるのだ。
「彼等との戦いではロンド=ベルに匹敵する戦果を挙げております」
「あれでか。ううん」
 パサロフはそれがどうしても信じられないようであった。
「まるで学生だけれどな。よくあれで」
「私もそう思いますが。しかし」
「ああ、わかってる」
 彼はここでシナプスに目を戻した。
「流石だな、艦長は。こうした時でも至って冷静だ」
「そうでなくては艦長は務まらないということでしょうか」
「少なくともこのロンド=ベルではな」
 二人はそんな話をしながらシナプス、そしてブライトとユリカのやりとりを見ていた。それは軍人同士の会話にはとても見えなかった。
「それでだ」
「はい」
「君がナデシコの艦長だな。一応確認したいが」
「はい、そうでぇぇす」
 ユリカはやはり朗らかな声でそう答えた。
「私が艦長でぇ〜〜〜〜す、ぶいっ☆」
 そして今度はブイサインをした。やはりどう見ても軍人には見えなかった。
「そうか。それでは宜しく頼む。私はラー=カイラムの艦長ブライト=ノア。階級は大佐だ」
「はぁい」
「私はエイパー=シナプス。階級は同じく大佐。アルビオンの艦長だ」
「わっかりましたあ。それではナデシコはこれからそちらの指揮下に入ります。お願いしますね」
「うむ」
「こちらこそ宜しく」
「それでは今からそちらに向かいます。先にカトル君達送りましたけれど。来てます?」
「ああ」
「彼等に先導されてここまで来たからな」
 二人はそれに答えた。ユリカはそれを聞いて満足そうに笑った。
「じゃあ後は彼等にお願いしますね。それじゃあこれで。再会!」 
 ユリカの姿がモニターから消えた。トーレス達はそれを見て呆然としたままであった。
「うわあ、またえらい人だな」
「あんなので艦長が務まるのかよ」
「どうした、二人共。そんなに驚いて」
 ブライトは彼等を見て声をかけてきた。
「いやね、あんまり凄いんで」
「今まで色々な人間を見てきたけれど艦長であれはないなあ、と思いまして」
「あの程度で驚いていてはこれからやっていけないぞ」
 しかしブライトの声はあくまで冷静であった。二人に穏やかな口調でそう語る。
「これからさらに物凄い人が出て来るかも知れないからな」
「物凄い人?」
「どんな人ですか、それって」
「あ、これは私の勘だ」
 彼は二人の質問にそう答えた。
「まだ戦いは続くだろう。誰が出て来るかわからないからな。ただそんな気がするだけだ」
「そうなんですか」
「まあ普通の人が出て来るならいいですけれどね、ホント」
「これも私の勘だが」
 ブライトは彼等の話を聞きそう前置きしてから言った。
「常識を遥かに越えた人が出て来るだろうな」
「それは」
「誰かはわからない。だが」
 ブライトの言葉は続く。
「誰が来ても驚かないように覚悟はしておいた方がいいな」
「はあ」
 何はともあれラー=カイラムとアルビオンは合流地点に向かった。その前に四機のガンダムが小隊を組んで護衛にあたっていた。
「他のマシンも発進させろ」
「了解」
 ブライトとシナプスの指示に従い二隻の艦からモビルスーツやヘビーメタルが出撃する。そして護衛に就く。金龍のバルキリーは輝達の小隊に入った。
「宜しくな」
「ええ、お願いします」
 見ればスキンヘッドに麒麟の刺青をしたかなりいかつい男であった。ある意味かなり男らしい外見の持ち主と言えた。
「皆さん、お久し振りです」
「おお、ウッソじゃねえか」
 ウッソ達がジュドー達の小隊のところにやって来た。ウッソが乗っているのはX2ガンダム、その後ろには三機のXガンダムがあった。ヘキサにダッシュもある。元々量産を念頭に作られたガンダムだけあってその数も多いのであった。
「オデロ達も元気そうだな」
「おかげさまで」
 ウッソの後ろにいる黒い髪の少年がジュドーに応える。彼はダッシュに乗っていた。
「ジュンコさんもマーベットさんもいるし。何か昔に戻ったみたいだな」
「あたしは少ししかいなかったけれどね」
「私も後方にいたことが多かったけれど。あの時はあれだったから」
 マーベットはその頃既にオリファーと結婚し妊娠していた。今は出産し一児の母でもあるのだ。
「そうでしたね。けれどまた御会いできて光栄です」
 イーノがマーベットに話しかけてきた。彼のメタス改も後方支援機能が多い為彼女に納得できるのである。
「イーノ君も元気そうね」
「は、はい。まあ」
「お、また女の人が参加してきたのか」
「おい、ライト」
「俺達の持ち場はここじゃねえらしいぞ」
 ドラグナーの面々もここにやって来た。
「あれ、イーノ君に声が似ている子がいるわね」
「えっ!?」
「誰それ」
「そこの白いマシンの子よ。君ていうの」
「俺!?ケーン=ワカバ」
「ケーン君か。宜しくね。私はマーベット=フィンガーハット。これから一緒に戦わせてもらうわ」
「宜しく」
「俺も」
「俺も」
 ここでタップとライトも出て来た。三機のドラグナーはそれぞれマーベット達の前に出て来た。
「宜しくね、三人共」
「はい」
「いやあ、こんな美人さんが参加してくれるなんて嬉しいよ。やっぱりロンド=ベルに足りないのは大人の女性だからな」
「あたしじゃ駄目なのかい?」
 レッシィの通信が入ってきた。
「レッシィはなあ」
「十七歳だろ。少し違うよ」
「そのタイツは似合ってるけれどね」
 三人は口々に好き勝手を言う。また絶妙な流れであった。
「そういやアムもタイツだよな」
「悪い?」
 アムも入って来た。
「いや、悪くはねえけれどな」
「何かなあ。女の子はやっぱり素足が一番だよ」
「素足だったら危ないでしょ、戦場なのに」
「そうだよ、ケーンさん達ってやらしいんだから」
 ファとエルが彼等に抗議する。
「そんなんだとリンダさんに嫌われるわよ」
「そうそう、スケベは敵よ」
「・・・・・・好き勝手言ってくれるなあ」
「言われる方が悪いのよ」
 そんなやりとりをしながらそれぞれ配置につく。その中には一機の戦闘機があった。デュオタ遅はそれに顔を向けていた。
「あれがクラッシャー隊のやつか」
「どうやらそうらしいな」
 デュオと五飛が話をしている。
「見たところサポート用の機体ですね。運動性能はいいようです」
「それだけとは思えないがな」
「?トロワ、そりゃどういう意味だ」
「ただそう思っただけだ。気にするな」
「そうか。まあすぐにわかることだな。それより見ろ」
 五飛が他の三人に声をかける。
「来たぞ。皆に知らせる」
「おう」
 ナデシコが合流地点にやって来た。ラー=カイラムやアルビオンとは全く違った形をしている。二つの艦を合わせたような形をしている。独特のシルエットであった。
「へえ、あれがナデシコか」
「あれはBタイプだな」
 ライトがケーンに言う。
「Bタイプ?」
「木星との戦いの時に使ったのがAタイプ、あれは新型のBタイプなんだ」
「へえ、つまりアーガマとネェル=アーガマみたいなもんか」
「わかりやすく言うとそうなるな」
 タップにもそう説明する。
「性能はかなり高いらしいぜ。専用の艦載機もある」
「専用の。どんなのだい」
「確か」
「エステバリスだよ」
 ここで緑のショートの髪の女がモニターに出て来た。
「エステバリスCっていうんだ。覚えておけよ」
「あ、ああ」
「ところであんたは」
「ん!?あたしのことか」
「勿論。レディー、よかったらお名前を」
「そう呼ばれると照れるな。あたしの名はリョーコ。スバル=リョーコってんだ」
「ふうん、日系人か」
「ナデシコに乗ってるのは大体そうだぜ。あたしだけじゃなく」
「へえ、そうなんだ」
「ああ、紹介するぜ・・・・・・っと」
 それより前にモニターに二人の女が現われた。オレンジの髪に眼鏡の少女と黒い髪で右半分をそれで隠した女の二人である。とりわけその黒い髪の女は独特の雰囲気を漂わせていた。
「アマノ=ヒカルです」
「・・・・・・マキ=イズミです」
 二人はそれぞれ名乗った。
「宜しくお願いしますね」
「お願いします」
「おう、こちらこそ」
「宜しく頼むぜ」
 ドラグナーチームは彼女達にそう挨拶を返した。
「何かそれぞれ個性的なレディー達でいいねえ」
「おやおや、そこの金髪の兄さんしょってるねえ」
「ナンパですかあ?」
 リョーコとヒカルがライトにそう突っ込みを入れる。
「おや、気付かれたか。そうそう、これが終わったら艦内デートでもどうかな」
「ははは、いいねえ」
「じゃあ皆で行きましょうね」
「じゃあそういうことで」
「おい、ライト」
 ここでケーンとタップが入ってきた。
「御前だけずるいぞ」
「そうだそうだ」
「じゃあ御前等もリンダちゃんやローズちゃんと一緒に来れば」
「うっ」
 二人はライトにそう突っ込まれて終わった。リョーコ達はそれにさらに突っ込みを入れてきた。
「何だ、彼女持ちか」
「それなら関係ないわね」
「ちぇっ、まあいいさ」
「ローズちゃんと一緒に行くか」
「ローズはロースにすべし」
 そしてここでイズミがポツリと呟いた。それを受けてドラグナーチームとエステバリスチームの間に吹雪が舞った。
「・・・・・・今の何だ」
「・・・・・・いつものジョークだから気にしないで」
「・・・・・・そうか」
 何だかんだと話をしながら彼等は合流地点に集結する。見ればエステバリスは他にもいた。
「おい、二人共遅れるな!」
 三機のエステバリスの先頭にいる男がそう怒鳴り後ろの二機のエステバリスに対して言う。それを受けて後ろのその二機のエステバリスから返事が返る。
「わかってますよヤマダ大尉」
「誰がヤマダだあっ!」
 金のロンゲに赤いメッシュを入れたの男にすぐに怒声が返ってきた。
「俺はダイゴウジ=ガイだ。何度言えばわかる、タカスギ=サブロウタ!」
「いちいちフルネームで呼ばなくてもわかりますよ」
 サブロウタは辟易した顔でそう返した。
「ちゃんとついて来ていますよ、ダイゴウジ大尉」
「うむ」
 ダイゴウジはそれを聞いて満足したように頷いた。
「ならばいい。おそらく敵はすぐにでも来るだろう」
「来ますかねえ」 
 もう一機の茶色い髪の少年がそれを聞いて考えながら言う。
「テンカワ=アキト」
 ダイゴウジはそんな彼に対して言った。
「これは前にも言ったな」
「はい」
「敵は何時現われるかわからんのだ。戦場においては常に周囲に気を配れ。よいな」
「は、はい」
 アキトはそれを受けて頷いた。
「わかりました」
「そうか。ならいい」
「おいおい、旦那はまた気合が入ってるな」
「いつも通りよね」
 その横に一機の戦闘機がやって来た。
「ガルばーFX・・・・・・夕月京四郎か」
「おう」
 その戦闘機ガルバーのコクピットにいるアフロにサングラスの男が不敵に笑って応えた。緑の繫ぎの服を着て背中に日本刀を背負っている。この戦闘機ガルバーFXのメインパイロットである。
「あたしもいるわよ」
 その後ろから声がした。そこには金髪のまだ幼い顔立ちの可愛らしい少女がいた。
「和泉ナナもか」
「わん」
 彼女はダイゴウジに犬の鳴き声で応えた。それが彼女の挨拶であった。
「敵の気配はないか」
「今のところはな」
「ミノフスキークラフトもないし。レーダーにも反応はないしね」
「そうか。だが油断はいかんぞ」
 それを受けてもダイゴウジの言葉は変わらなかった。
「敵は何時出てくるかわからんからな」
「そういうことだな。油断大敵ってやつだ」
 京四郎はそれを受けてこう言った。
「旦那はやっぱり違うな」
「伊達に最近まで入院していたわけじゃねえからな」
「・・・・・・サブロウタ」
 ダイゴウジはそれを聞いて嫌そうな顔をした。そして彼に対して言った。




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