[352] 父親の涙 ― 夏の甲子園大会 |
- 童子 - 2013年08月09日 (金) 13時19分
そのとき、私は第62回全国高校野球選手権大会が、阪神甲子園球場でひらかれる開会式光景をみようと朝早くからテレビの前にすわりました。
冷夏を吹き飛ばさんばかりの燃える青春ドラマが展開されようとしているのです。 百五十人の関西吹奏楽団を先頭に国旗、大会旗が一塁側ゲートから姿をみせた。 出場校四十九校、七百三十五人の選手たち、三千二百余校から予選を勝ち抜いてきた若人たち。 伝統に輝く校旗のもと正々堂々の行進、行進 ・・・・・ 。 甲子園の土を力強くザクザクとふみしめてゆく若人の美の群像。 その晴れ姿にスタンドをぎっしり埋めつくした五万五千人の色とりどりの大観衆の大きな拍手 ・・・・・ 。
テレビでみている私の胸に、これら若人の青春のいぶきが生き生きと、熱く感じられてくる。
と、このとき、実況放送をしていたアナウンサーの感動にふるえた高い声がきこえてきた。
『五万五千人の観衆の大感動 ・・・・・。 涙、涙、です。 “父親の涙が光って”おります』
私はこのアナウンサーの “父親の涙が光って” いるという言葉にハッとした。 父親は正々堂々としてたくましく行進してゆく息子たちに感きわまったのであろうか。
一人一人の父親の心境をきくよしもない。 しかし父親は泣かないもの、涙を出さないものと、あるいは男は泣くものでないと常に息子たちを強くたくましく育ててきた父親の涙 ・・・・・。 はるかスタンドに向う行進をみつめての流れる涙。
私はこれ以上なにも言えない程の感動です。 息子たちよ。 娘たちよ。 父親の涙、母親の涙を理解できる人間に育ってほしいと祈る。
大沢あい子 『生命の教育』 55年10月号
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