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[14] ボリニパ(ちょっとバイオレンス注意)
七誌 - 2007年02月10日 (土) 00時44分

くすぶる炎の中でただ喉だけが焼けるように渇いて。

***

―――狭い部屋の中で目が覚めた。
狭いベッドの一端に括り付けられた両手がぎりりと軋む。
窓もカーテンも閉め切られた部屋で、目の前のランプだけがぼんやりと、うす黄色い光を放っていた。
まどろむような意識の中、それでも未だ体中に走る鈍痛が、夢ではなかったのだと彼を苛んでいる。
(……痛って……)
手足の軽い火傷よりも殴られた頬がずきずきと疼く。
のろのろとと足を引き上げ、手を捻ってどうにか起き上がれば、眩暈で視界が白く霞んだ。
そうしてやっと、思い出す。
自分がどうしてこんな所にいるのかを。
思い出したくなくて、頬が痛くて、頭を抱え膝の間に埋めた。
嘘だ。
嘘だ。
嘘だ。
どうか誰かそう言ってくれないだろうか。

「―――……起きたかよ」

刹那、耳に響いた低い声に顔を上げれば、ドアを開けて男が立っていた。
眠っているうちに泣いたのか、記憶にすらない涙の跡を、自由にならない手でぐいぐいと擦る。
そうして顔を逸らした。
こみ上げるような吐き気がするのは、ぼろぼろになった体のせいばかりではない。
「嫌われたもんだな」
はん、と小さく溜息を漏らして、男はベッドへ近付いてきた。
上から少年を見下ろす。―――そうまだ少年だ。
華奢な顎のラインはやっと子供を脱したばかりに見える。
細い手足には無残にロープが食い込み、汚れた髪は艶を失って頬にまとわりついている。
ただその瞳だけが、憎しみと悲しみをたたえた炯炯たる光を宿して。
「そんなとこに縛られて可哀相にな。だけどお前が悪ィんだぜ?よくもまぁ、逃げ回ってくれやがって。……たかがひよっ子
一人だろうが、生き残りは逃がすなってお達しだ」
「……」
少年は何も言わなかった。
彼の方をちらとも見ようとせず、黙ってシーツを見つめている。
その態度に少々苛ついたか、男はベッドの脇に乱暴に腰を下ろした。
顔を近付けて、嫌でも視界に入るようにしてやる。
「……っ」
それでも頑なに目を逸らそうとする少年の顎をとらえ、強い力で押さえつけた。
「こっち見ろ」
少年の目に未だ焼きついているのが、誰であるのか察したように。
「……ん……で」
枯れた細い喉をついて出た、微かな、声。
今にも消えそうな声をそれでも男が聞き逃す事はなかった。
「……なん……で……」
「なんで?」
男の口元に笑みが宿る。
自分を見ようとしなかった双眸が閉じられ、そうしてうっすらともう一度開くのを、彼は小気味良さそうに眺めた。
「さァね、何から教えて欲しいか言ってみりゃいい。何でも答えてやるよ。……ん?」
「……ぅ……っ」
少年はぎりりと唇を噛んだ。
唇の端の瘡蓋から、新たな血が溢れる。
涙は枯れ果ててもそれだけは確かに流れている、赤い赤い色。
「言えねぇか。言ってやろうか?……『なんで裏切った』『なんで殺した』だろ?」
引き寄せればいとも容易く、腕の中に倒れ込んできそうだった。
細い体だ。
今や何の力も持ってはいない。
「……それから、『なんで生かした』とか、な」
細められた目が今度こそ、苦しげにこちらを見ているのを確認してから、男は言った。
「言えよ」
「……」
「言ってみろ。教えて下さいってよ」
「……せ……」
「あ?」
もう一度顔を近付ける。
空気に触れたばかりの真っ赤な血を唇に塗るように指でなぞれば、おぞましいと言わんばかりに少年が身をよじった。
「……殺、せよ……っ」
男は溜息をついた。
「嫌だね」
誰が殺してなどやるものか。
かの人のいるあの世へなど送ってやりはしない。
皆がかの人に憧れていた。輝く太陽のように星を従え、希望となり、愛され慕われる。
それがどれだけの嫉妬を生むか知りもせず。決して彼のようにはなれないのだと、どれだけ思い知らされる人間がいるのか
知りもせず。
何よりも優しく気高く何よりも残酷な太陽。その傍らにいることが、苦痛になったのはいつの頃からだったか。
だがもう終わりだ。
これからはずっと、誰かの目に映ることもなくなる。
「………隊長…ぉ」
呻きと共に漏らされた悲痛な叫びも、男は既に哀れだなどと思わなかった。
「はっ」
低く声を立てて笑い、俄かに片方の手で少年の髪を掴む。
「ぅ、あ」
「そんなに会いてぇか」
細い麦藁色の髪がひと束、するりと手から逃れて落ちた。
「もう、会えねぇよ。……いいか、んだんだ」
この少年さえも、およそ世界の全ての輝きは彼のものだったに違いない。
その事が堪らなく悔しかった。
「てめェの愛しい愛しいあの人はんだ。……二度と、何処にも、居ねぇ!」
がっ。
「っ!」
少年の白い歯が、男の指をしたたか噛んだ。
皮膚がぶつりと裂けて血が滲み出す。
「……この……!」
シーツの上に投げ出された肩は荒い息に震え、既に限界が近く見えた。
だというのに、長い髪の向こうから睨みつけてくる、目。
男は舌打ちした。

―――まるで彼が持って行ってしまったかのようだ。
暗い地の底の黄泉まで、少年の心を。

それきり、糸の切れた操り人形のように動かなくなった少年を見て、男はベッドから立ち上がった。
「……まともに寝て頭ぁ冷やせ。……少しは生きてる事に感謝したくなるまでな」
返事は返って来なかった。
後ろ手にドアを閉める。
噛まれた傷が感電じみてびりびりと痛んで、男は傷口に舌先を這わせた。
「―――……くそ」
微かな苦味に眉をひそめる。
窓の外では夜が、やがて来る朝など知らぬげに闇を落としている。

***

手に入れたかったものは壊れて消え失せ瓦礫に沈み。
どんなに探してもこの世の何処にもない。



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