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[42] 隊長(6)とニパ (転載)
シリアス - 2007年04月03日 (火) 22時02分

あいつが負傷した。

血を見るのは慣れている。
だがあいつのものを目にするのは、恐らく初めてだ。

大袈裟に痛がっているだけの明らかに平気そうな様子を見ても、何となく落ち着かない。


報告を兼ねて姫のもとを訪ねた。

「今回は少々危うい場面がありました。さすがにオレも肝を冷やしましたよ」

既に事態は把握済みなのだろう、動揺は見せず頷く。

「怪我で済んだのが幸いじゃな」

姫はどこか遠くを見つめた後、腕を組んで振り返った。

「奴の健康診断の結果を見たか?」

「いえ、まだですが…何か病気でも…?」

急な話題転換についてゆけず怪訝な顔をすると、姫は先を続けた。

「病ではない、が、心肺機能にやや難を抱えておる。本来激しい運動や重労働には向かん体だ」

初めて聞く。
思えば入隊時も、長く詰めていた現場から帰還したばかりで書類に目も通せぬままの顔合わせだった。

「しかし姫、重機士団に入隊できたということは、工事に耐え得ると認められたからでは?」

「それは無論そうだろう。だが先天的なものである以上、クローンにも向かんということだ」

そこでようやく、姫が言わんとしている事に気付いた。

「覚えておくがよい。奴は死んでもそち等と同じように蘇らせる事はできんかもしれんとな」


姫の御前を辞した後も、その言葉はいつまでも耳に残っていた。

以来、あいつに戦闘をさせることに少なからぬ恐れを抱くようになった。




その日鉢合わせしたのはEM小隊、実力で言えば苦戦するほどの相手ではなかった。
ただ、数の上で分が悪すぎた。

それでなくとも、無力化するにとどめようとする自分達と全力で潰しにかかってくる相手とでは、戦闘中の負担も違う。
周囲の状況に神経を尖らせながら活路を見出そうとしていた時。

防御の死角から攻撃を受け、あいつの乗るEMが体勢を崩した。
咄嗟に身を賭して、隙を突こうとする攻撃の軌道に割り込む。

ダメージは免れられんか、そんな当たり前の予測が頭をよぎった。

次の瞬間。
EMのアームに払い退けられると同時に、嫌な音が辺りに響いた。

体を捻って着地しEMを振り仰ぎ。
絶句した。

アームが千切れかかっている。
EMは自ら動いてアームをもぎ取ると、素早く機体を転じて敵機と対峙し直した。

漏れ出したオイルが断面から滴り落ちる。
その様子は、あいつ自身がそうなった姿を連想させた。

血の気が引く。

敵機へ向かって飛び出しかけた時、ノイズの混じった声が耳に届いた。

「隊長。オレの目の前で死んだりなんかしたら、今度こそその場で後追ってやりますから」

抑揚に欠けるその声からは紛れもない本気が伝わってきた。

違うそんなつもりじゃ、オレは、オレが。
どれも言葉にならない。

コックピットを貫かれたのを見た時の感情が急激に蘇り、胸が一杯になる。

こんな絶望をオレはあいつに背負わせ続けてきたのだ。
そう思うともう、返す言葉が無かった。



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