[20] ボリニパ ガチ陵辱(前編) |
- ウホッ!いいユンボル - 2007年02月18日 (日) 11時51分
ワールドザンド3002年。 彼が全てを失ったのは、努力に努力を重ねてようやく、長年の夢にたどりついたその日だった。 初仕事が一方的な殺戮の場となったトンネル工事現場。 崩れ落ちる坑道の中を、恐怖に駆られ必で逃げ延びた。 任された仲間も、仕舞いには初めて手にしたEMの自機も、気付けば全て捨て 彼は身一つで暗闇の中を這いずり回っていた。 『てめーの道はてめーで作るぜ!!』 背中で聞いた憧れの人の言葉だけが、その耳に残っていた。
ニッパが命からがら地上に這い出した時には、トンネルは既に制圧された後だった。 ボロボロの体のまま、現場を徘徊する敵兵の目を必でかいくぐり、身を隠して朝を待つ。 焦燥と一縷の望みが、疲労と混乱の限界にあったニッパの心身を突き動かしていた。 制圧隊の中に、見覚えのあるアフロヘアを見つけて、ニッパの頭に血が昇る。 (ロッド・ボりング……あの野郎!!) 重騎士隊を敵に売り、壊滅に導いた張本人だ。冷静さを失いかけた自身の心をいさめつつ 彼は状況を確認すべく身を隠した瓦礫の端から、周囲に目を走らせた。
そして見た。崩れかけたトンネル入り口に、累々と積み重ねられていく無数の大きなザックの山を。 人一人をすっぽり包むことができるそれが何なのか、実戦経験のないニッパにも容易に理解できる。 ニッパの手足からスッと温度が抜けていく。 あそこに積み重ねられているのは、一日だけとは言え、現場を共にした仲間たちだ。 (嘘……だろ?) 都合よく描いていた一握の希望が、ニッパの中から砂のごとく抜け落ちていく。 「ボリングさん、バル・クロウの体回収がまだなんですが」 「あ……ああ、アレは放っとけ。あそこはまだ戦闘の影響で地盤が安定してねえんだ。 無理に回収班を送ったら二次災害に会う。どのみちバル・クロウ組の壊滅と ヤツがくたばったのはこの目で確認済みだからな」 (……え……?) ふっと、目の前の景色が色彩を失う。ボリングの言葉を認識することを、ニッパの頭は一瞬拒絶した。 『バル・クロウの体回収が――』 たった今、目の前で繰り広げられる会話が、理解できた端からニッパの思考を凍結する。 『この目で確認済み――』
その後の詳細をニッパは憶えていない。 気が付けば何か叫びながら身を隠していた瓦礫を飛び出し、ボリングに掴みかかっていた。 即座にボリングを警護する部下に取り押さえられ、意識を失うまで殴り続けられたことまでは確かだ。 自分を踏みつけるボリングの、羨望と怯えと侮蔑が入り混じったような表情が、薄れ行くニッパの 視界に写っていた。
『そう。そのハンドル引いてみろ。ゆっくりだぞ』 『うわっ腕が!すごいよ!これ、オレが動かしたんですか!?』 『そうだ。良く覚えておけよ、坊主。今おまえが手にしてる力、それが自然と戦い人々を守るための力だ』 『……ハイっ!!』
脳裏に懐かしい声を聞きながら、ニッパは薄く目を開く。 (あ、そっか……隊長、もういないんだっけ……) 昔日の夢から戻ってくるにつれ、忘れていた喪失感が半覚醒の意識を満たしていく。 (オレもぬのかな……?) 多少でも眠っている間に衝撃が癒えたのか、ニッパにも状況を認識できる理性は戻っていた。 目覚めると、ニッパが転がされていたのは、毛足の長い絨毯の上だ。 後ろ手に縛られているのか身動きが取れず、殴られたせいで体のあちこちがひどく痛む。 「よお、新入り。目ぇ覚めたか?ようこそ、オレのハウスへ」 頭上からかけられた声に、体をよじってニッパが見上げると、口元に薄い笑みをへばりつかせたボリングが 自分を見下ろしている。 機械音の響く豪奢な部屋は、どうやら巨大な重機の内部に設置されているようだ。 独特のエンジン音が、メカに強いいニッパに、その事実を告げる。 傷の手当てもされており、あの場で殺されるか、良くて牢獄送りだろうと思っていたニッパは いまいち現状がつかめず、きょろきょろと周囲を見回す。
「ニッパつったか?こうして口利くのは顔合わせ以来だが、おめーも随分上手くやったみてーじゃねえか。 オレたち以外はみんなおっんじまったぜ」 そう言うとボリングは、何がおかしいのかゲタゲタ笑い始める。 「EM乗り逃げして、一人で即行トンズラこいたそうじゃねーか。ゲンバーの連中の中でも噂になってんぜ」 その言葉に唇を噛んで俯くニッパの姿を、愉快そうに見下ろしながらボリングは続ける。 「その割にゃ、ここまでノコノコ戻って来るなんざ、随分とマヌケな話だがな」 「……何のつもりだよ」 ボリングの軽口を遮って吐かれたニッパの声は、言った本人も驚くほどの殺気を含んでいた。 「殺せばいいだろ。何のつもりでこんなフザケた真似してるんだ」 「……っと、お、怒るなよ……」 一瞬小心者の地金を覗かせて、ボリングは冷や汗を拭う。 「せっかくの元同僚のよしみだ。事と次第によっちゃオレの口利きでなんとかしてやろうと思ってな」 「ざけんな!!あんた、みんなを売り飛ばしといて、何を今更!!」 ぎしぎしとロープを軋ませ、縛られた手首が擦りむけるのも構わずにニッパは吼えた。 「オイオイ暴れるなよ。怪我してるだろーが。ん?」 そう言って近付いたボリングの目が、暴れるニッパの作業着から落ちたパスケースに止まる。 ニッパがあの崩壊の中でさえ、失くさぬように懐に入れていたものだった。
「こいつは、隊長……?」 拾い上げたパスケースを開いて、ボリングの表情が止まる。 大事な写真を奪われたことに気付き、ニッパの顔から血の気が引く。 「そっ、それはオレの……返せ!!」 「隣のガキはニッパ、てめーか……」 ニッパの声には反応せず彼はわずかの間、何度も見返されたようにくたびれた写真に見入る。 しかし再び口を開いたボリングの台詞は、あまりに下劣なものだった。 「なんだ、おめーもあの野郎狙いだったのかよ?随分マセたホモガキだったんだなオイ」 「……っ!!そんなんじゃねえ!返せ!」 笑いを含んだ声に、かっとニッパの顔が屈辱に歪む。 それをどう取ったのか、ケースをひらひらさせながら、相手はわざとらしいほど品のない声で続ける。 「いいじゃねーか。重機士隊の中にだってよ、ヤツをヤりたいだの、ヤられたいだの言う野郎は わんさか居たんだぜ。おめーどっちだ?」 「うるさい!一緒にすんな。返せ、頼むから返してくれ!!」 こういう手合いに必になって訴えても逆効果なだけだと、子供時代から骨身に染みて知っているはずの ニッパが、それすら忘れて声をあげる。 写真はニッパにとって、もはやたった一つ手元に残された、夢の残骸だ。 「頼む、返してくれよ……返して……」 そんなニッパの様子に、相手は面白くなさそうに「フン」と鼻を鳴らす。 「言われなくても返してやるよ。生かしてここを出すかどうか決めたらな」 呟くボリングの声に、何か粘着質なものが混ざる。彼は自由のきかないニッパの前にかがみ込んだ。
「ところで知ってるか新入り?おめー下っ端連中ンなかじゃ、結構話のタネにされてたんだぜ」 新人の身でありながらバルの直属部隊に配属された「細っこい茶髪」の噂を、ニッパ本人は知らない。 ボリングはその内容を思い出し笑いすると、ゆっくりとニッパににじり寄る。 「男所帯で溜まってる連中にゃ、おめーみたいなのは女がわりとしちゃ丁度いいんだよ」 場違いになよっちいからな、と、手を伸ばしニッパの頬を撫でる。 その表情と感触におぞ気立ち、ニッパは思わず後ろへずり下がった。 「な……なんの話だ?」 「いやな、オレぁ運がいいって言ってるのさ」 言いながら、ニッパの煤で汚れ破れた作業着に手をかける。 嫌な予感が的中して、ニッパは全身鳥肌立てた。 「知るか変態!触んな!舌噛むぞ!!」 「どっちが変態だよええ?普通ノンケがむさい野郎の写真、肌身離さず何年も持ち歩くかっての。 どうせズリネタにも使ってたんだろ?」 「……っ!」 言われて、ぐっと言葉に詰まる。背けた顔にカーッと血が上るのが、彼自身にもわかった。 図星だった。思春期の衝動と常識と敬愛する人を汚す罪悪感の間で、ニッパが転げ回るほど悩んだのも つい先日までの日常だった事だ。 クククと笑うボリングの声が、耳を塞げないニッパの心を苛む。 「折角だからオレが本物ってやつを味わわせてやるぜ。どのみちヤツはもう人だしな」 言うと、ボリングはクローゼットから小さな黄色の瓶を取り出し、中身をハンカチーフに数滴落とす。 そしてそれをニッパの顔に押し付けた。
「んぐ!?」 湿った布が鼻と口を覆う。布に含ませているのが揮発性の薬品だと悟り、ニッパは慌てて息を止めた。 だがそれにも限界はあり、結果、止めていた呼吸の分までニッパは薬物を吸い込む羽目になる。 気化した薬液の強烈な刺激がニッパの喉と鼻腔を刺し、痛みと息苦しさに彼は激しくむせ返った。 「がふっ!……ゲホ……てめ、今の……」 「おーおー、汚ねーなオイ。結構高かったんだぜそれ」 ニヤニヤと見下ろすボリングの目の前で、変化はすぐに訪れた。 ぐらっとニッパの視界が歪む。唐突に体温が上がり、全身から汗が滲み出してくる。 (や……ば……何だよコレ!?) 酩酊したように頭の芯が痺れ、四肢から力が失われる。 動悸が激しくなり、急激に思考力が麻痺していくのが、彼自身にもわかる。 「なーに、オレなりの心遣いってやつさ。どうせネンネなんだろ?これなら初っ端からヨくなれるぜ」 とボリングは、あまりニッパにとっては救いにならない事を言う。 なけなしの気力を振り絞って、ニッパは弱々しく吐き捨てる。 「誰が……隊長の仇の言うなりになんかなるかよ……この卑怯者が」 一瞬の沈黙。 その言葉に、ボリングの顔がドス黒く歪んだ。 「卑怯者……か」 唐突に、おかしくてたまらないという風に、ボリングは再びゲタゲタと笑い出す。 「仇?ヤツの仇ねぇ?ならその大事な大事な隊長サマを、見捨てて逃げたてめーは何なんだ、えぇ?ニッパ!」
心臓が止まったと、その時ニッパは感じた。 ふっとその目から光が失せ、自分の歯の根がカチカチ震え始める音が、彼の鈍磨した頭に響く。 ニタニタと貼りついた笑みを見せながら、ボリングが顔を寄せてくる。 「ち……違っ……」 「違わねーよ」 ボリングは冷えた声で切り捨て、虚ろな瞳のニッパに言葉を続ける。 「おめーもオレも、命可愛さにあの人を見限って、こうやってのうのうと生き延びたんじゃねえか。 どこがどう違うってんだ?」 「違う、違う……オレは……オレは……」 何かが自分の中でポキリと折れる音を、ニッパは聞いた。 「違……っ、くうっ……」 「それが卑怯だってんならニッパ、てめーだって一緒だろ」 伸びてきた手がツナギの前を開きTシャツをはだけて、異常に感度を高めたニッパの皮膚を這い回り始める。 その感触は、先ほどの嫌悪感とは全く異質なゾクゾクする感覚を伴って、ニッパの理性を削る。 「わかるだろ?てめーもオレも、結局同じ穴のムジナなのさ、ニッパ」 折られ砕けた心に、優しげにトーンを変えたボリングの言葉が、毒のように流れ込んでくる。 「お互い折角生き残ったんだからよ、似た者同士、仲良くしようや。なぁ?」 ねろりと首筋を舐め上げる舌を、ニッパは空っぽになった頭で受け入れた。
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