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[24] マスター目線バル←ニパ
鬱 - 2007年02月20日 (火) 20時15分

「マスター、」
閉店後の後始末を終えた店に、控えめな声が響く。
「またあの兄ちゃんが潰れてるんだが…」
「分かった、すぐ行く」
自分の為に用意したグラスを置き、ようやく落ち着けた腰を再び上げた。


ダブルベッドの隅で縮こまっている姿は、青年を本来の体格よりも小さく見せている。
近寄り、抱え上げた。
酔いと疲労の為か、そうしても青年が目を覚ます気配は無い。
いつもすまない、とホテルの従業員がお決まりのセリフを口にした。
「それにしてもマスター、何だってあんだがそいつの面倒なんざ…。こう言っちゃなんだが、何の特にもならねぇだろ?」
言いながら従業員は、何故かすまなそうな表情をしていた。
今の質問はその従業員一人の疑問ではないのかもしれないと察する。
「…さぁ、何でだろうな」
曖昧な返答に質問を重ねる気は無いらしく、従業員は黙ったままだ。
腕の中を見下ろす。
青年はよく眠っている。
「たった一人の為に人生全部投げちまうなんてのを、どう思う」
突然の問いに従業員は不思議そうな顔をしたが、すぐに考えるそぶりを見せる。
「そんな激しい恋、したこと無ぇから分からねぇなぁ」
従業員の答えは思いも寄らないのものだった。
「恋、か」
その単語を胸の内で反芻する。
「あれが恋なら…、」
「マスター?」
「いや、忘れてくれ」
腕の中のものを抱え直し、その場を後にした。

「あれが恋なら、」
ホテルを出てからひとり呟く。
「恋ってのは随分、酷いもんじゃねぇか」
規則正しい寝息を繰り返している青年を、もう一度見下ろした。



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