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ユンボル801スレ専用*文章投稿板

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[28] バルニパ(?)で酒ネタ
ウホッ!いいユンボル - 2007年03月02日 (金) 09時07分

「祝杯を上げよう」と言い出したのはオレの方だった。
旅の途中、バーラックに立ち寄った際の事だ。
あまりいい思い出のない土地ではあるが、馴染みの顔があり、何より5年間の空白を経て
全てが再び始まったこの地は、オレにとって思い入れの強い場所でもある。
「え?でも隊長は酒だいじょうぶなんすか?」
「いんだよ、細けえ事は。折角の再会の地だ、乾杯くらいしたいじゃねえか」
何ならオレは水杯でも構わない。と、隣でハンドルを握るニッパーに答える。
5年前からの因縁に一応の決着がつき、共に無事を確かめ合える事。
新たなる使命に向けて、心持を新たにしたいという事。理由はいくらでもある。
大体、お互い積もる話は山ほどあるはずなのに、オレが生き返ってからゲンバーと戦うまでは
それどころじゃない状況続きだった。
その後も何かとバタバタして、宿に戻っちゃ寝るだけの生活が続いてたからな。
素面じゃ言えない事もあるだろうし、聞いてやるにはいい機会だ。
しかし、無礼講に乗じて5年分の愚痴でも聞いてやろうというオレの目論見は、結局
バーラックに到着して1時間もせずに、頓挫する羽目になった。




バー「TRONICA」の分厚いドアを開くと、懐かしい顔がオレ達を出迎える。
「ガキに飲ませる酒はねえ、って前にも言わなかったか?」
そう言ってニヤリと笑う店の主に
「固え事言わないでくれよマスター。再起祝いだ、乾杯の一つくらいさせてくれ」
と笑い返すと、オレ達はカウンターの奥の席に陣取る。
「お前も無事で何よりだな、ニッパ。こいつは就職祝いだ、取り置いてて良かったぜ」
ボトルを差し出され、ニッパは恐縮しきった顔で「あ、ありがとうごさいます、総長……」
とか言いながら縮こまってやがる。まあオレもマスターの正体を知った時には驚いたもんだが。
「よせよ。ここに居るときゃただの、場末の酒場のマスターだ。今まで通りでいこうや」
「あ、はっハイ!!」
そんなやり取りに、こっちも思わず頬が緩む。
「マスター、オレにも何か適当に見繕ってくれ」
「あいよ」
渋い笑みと共に出されたのはウーロン茶。
「……」
いや確かに水杯でいいとは言ったけどさ……オレはひと時、人生の非情さをかみ締めた。




積もる話は山ほどあったはずなのに、思ったほどに会話が弾むことはなかった。
オレが不在の5年間は、ニッパにとって言いたくない事と思い出したくない事ばかりらしく
心にかかっても触れることは憚られる。
自然、話題は二人が再会してからの話に限られてくるが、それはそれで互いに万感の思いがあり
容易に言葉にすることも叶わなければ、その必要もなかった。
ただ隣り合い、他愛ないやり取りを交わしながら、静かに杯を重ねる。
そんな時間すら、今までこいつと過ごしたことはなかった事実に、我ながら苦笑するしかない。

それはそうとして、隣のグラスを干すペースが、妙に早いように思える。
チェイサーも入れずに胃袋に流し込むような呑り方は、酒の神様がこの場にいたら
ブン殴られること請け合いだ。もしかして飲み方知らんのかこいつは?
勿論ニッパが見かけにそぐわぬザルなどという事は全くなく、ボトルを半分も空けないうちに
ヤツはすっかり出来上がっている。
「ニッパ、お前そんなペースで飲んでると潰れるぞ」
「アハハ……隊長、心配してくれるんすか?うれしーな」
始終ヘラヘラと浮かれた様子で、ろくに話す事もない割には妙に嬉しそうだ。
まあ大して強くもねえクセに、あんな無茶な酒が板についてりゃ当然か。
「ったく、学生みたいな飲み方しやがって……大体味わかってんのかあいつは?」
あいつあんなナリしてお子様舌だからなー。
何とはなしに苛立ちながら、ヤツが千鳥足で厠に立つのを見送ってぼやく。

「へへ……楽しーっすね、たいちょー」
戻ってくると、ヤツはふわふわと笑って、またグラスを呷る。
「おいニッパ、いい加減に……」
見かねて止めに入ろうとするオレを、マスターがカウンターの向こうから視線で制した。
「ま、今日ぐらいはいいじゃねえか。こいつは今まで、酔い潰れるためだけに酒食らってたからな」
「……」
「この店にゃ長いが、オレもこんな楽しそうなヤツを見たのは初めてだよ」
どのみちバッカスにはぶん殴られるだろうがな、と目元だけで笑って仕事に戻るマスターの背に
オレは「そうか……」と呟いて、またちびちびとウーロン茶を啜る。
カウンターにしなだれたまま、酔っ払いは相変わらずニコニコとこっちを見つめている。
5年の隙間を埋める当ては外れたが、こいつが楽しめてるならまあいいか。
「ち、仕方ねえな」
笑いながらくしゃっと薄茶の髪を撫でてやると、ヤツはくすぐったそうに目を細めた。
桜色に上気した頬と首筋。不規則に深まった呼吸。幸せそうに蕩けた瞳。
グラスと戯れる、器用で長い指。
『隊……長……』
不意に昨夜の一幕を思い出し、微妙に落ち着かない気分になる。
「ゴホン」とわざとらしく咳払いしてグラスに戻るが、流石にソフトドリンクでは間が持たない。
隣のグラスからは鼻腔をくすぐるバーボンの香り。
この時ほどオレが5歳児の体を恨めしく思った瞬間はなかった。




「そーいや、隊長は飲まないんすか?」
「てめ……」
呂律の回らぬ問いに、流石のオレも思わず口元が引きつる。
「5歳児に酒勧めようってのか?この酔っ払い」
返答次第によっちゃ殴ってやろうかという勢いでオレが返すと
「……あ、そうか」
ふっと、夢から醒めたような声でニッパが呟く。
「それもそーっすね……アハハ、ヘンな事言ってスンマセン」
無理に作ったような笑顔でそう言うと、ヤツは再びグラスを呷る。
変わってしまった空気に、何かいたたまれない気分にさせられて、オレは気付くとこいつの頬に
手を伸ばしていた。
「ニッパ、こっち向け」
「ハイ?」
椅子に乗り上がり顔を近寄せて見れば、相手は呆けた表情で目を見開く。
「んっ……」
幾度も触れた唇に、自分のそれを重ねる。
硬直したヤツには構わず、アルコールの匂いのする唇を軽く吸ってこじ開け、舌を割り込ませる。
瞼の向こうでニッパがきつく目を閉じ、息を止める気配があった。
潜り込ませた舌で、口腔に残る酒の味を奪うようにまさぐる。
店内の喧騒が聴覚から遠のき、こいつの酔いがオレにもうつったような錯覚がする。
柔らかい口蓋から、ほろ苦く懐かしいバーボンの薫りがする。
粘膜の舌触りと共に感じるそれは、記憶より些か甘いような気がしたが、これはこれで悪くない。
存分に味わってから唇を開放してやり
「オレはこれで充分だぜ」
と安心させるように笑いかけると、目の前の顔は桜色どころか、茹でダコみたいな真っ赤になっていた。

「……きゅう」
と奇声を上げると、ドタンと派手な音をさせ、ヒョロ長い体が仰向けにカウンターから
床へひっくり返る。

「へ?」
アレ?オレなんかまずいことやったのか?
というか今モロに後頭部からイッてなかったか!?オイ大丈夫かこいつ!!
「おい、ニッパ?しっかりしろ!」
慌ててニッパを助け起こすと、打った頭は後頭部のタンコブだけで大した事にはなってなかったが
ヤツは真っ赤な顔のまま目を回してやがる。
「……なんだ、急に酔いが回っただけか」
だからペースが早すぎると言ったんだがなぁ……
ひとまず胸を撫で下ろすと、今度までには酒の飲み方を教えにゃならんな、と苦笑する。
「すまん、マスター。この体たらくなんでな、タクシー呼んでくれるか?」
「あ……ああ」
払いを済ませ、何故か口から半分魂が出てるような顔のマスターに、帰路の手配を頼むと
オレは完全に伸びてる酔っ払いを引きずって、妙に静まり返った店内を後にした。




同時刻。
店内は水を打ったような沈黙から一転して、動揺とざわめきがそこここに発生していた。
「マ……マスター、今のは?」
面食らって酔いも醒めた顔の常連の一人が、恐る恐るマスターに尋ねる。
目前で男同士の、それも成人男子と幼児の濃厚なキスシーンなぞ見せられた人間としては
至極当然の反応と言えよう。
「すまん。何も言うな……何も聞かんでくれ」
問われた男は、哀愁を背中に漂わせつつ持ち場へと戻る。
(当分あのバカどもは出禁にしよう……)
痛む頭を抱えながら、チュー・ブラインはかつての同志バル・クロウがいかに天然な男だったかを
改めて痛感していた。



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