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[35] 続き、ボリニパver.
ビター - 2007年03月09日 (金) 22時35分

二人と行動を共にするようになってからそれなりの月日が経った。
奴の十数年前との変わりようは、慣れるまでに相当の時間を要した。
それでも例えば、抱かれに行く前に飯を食わないのは飲んできたモノを後で吐くからだとか、
そんな知りたくもない事を知ってしまうくらい一緒に過ごせば解ってくることもある。
隊長と奴と自分との距離は変わっていない。
最初からずっと。


「進捗状況報告まとまってるか?」
「できてます」
「追加分の材料の積算は?」
「今終わったとこっす」
「そうか、ご苦労。見てから戻るから先あがっててくれ」
「ハイ。お疲れっした」
言ってからペンで2、3入力した後、端末機を置いて戻っていく。
満ち足りた顔をしている。
現場を離れれば、また飢えに苛まれるというのに。
「お前ももういいぞ」
目で追っていたのを上がりたがっていると勘違いしたのか、隊長がそう言う。
それに甘んじることにした。
なせだか急に、奴を一人にしたくないと思った。


「…何だよ」
奴は脱ぎかけた手を止め、バスルームへの闖入者である自分に不審げな眼差しを向けた。
洗面台に登り、視線の高さを合わせる。
「久し振りだなァこういう眺めも。あの頃以来か」
奴が眉を顰める。
「だから、何だっての」
「またヤられに行く気だろ」
その言葉に微かに反応したのを見逃さなかった。
「今のてめーはあの頃より酷ェ。見ちゃいらんねーぜ」
「は、隊長の仇であるお前と寝てた時の方がマシっだって?どこが」
珍しく感情的に返してきた。
自分の直感の正しさを確信する。
「中毒患者みてーに闇雲に抱かれてるよりゃマシだったろうが。
 てめーがオレに黙ってヤられてたのは、オレも本当は隊長に憧れてたんだって、
 オレより先にてめーが気付いてたからじゃねぇのか」
目で見て分かるくらいに肩が揺れた。
「んな事、考える余裕なんて…、オレあの頃酔いまくってたんだからよ」
再会して以来ほとんど変わることのなかった飄々とした態度が、今は崩れつつあった。
「じゃぁ聞くがな、てめー“オレの”は吐いてたのか?」
顎を掴んで顔を上げさせ、指にあたる部位を口の中に入れる。
目が見開かれた。
離してやると、自ら手で口元を覆った。
「お前…んとに…」
「吐いてたのかって聞いてんだ」
「…吐いてなかったよ…」
汚れた手を舐める虚ろな表情、目尻に浮かぶ涙、伸ばされた腕。
脳裏に蘇る光景。
思い出した。
最初のうちこそ誰彼構わず抱かれていた奴が、自分と関係を持ってからは他人とは寝なくなったのを。
バカな野郎だと思う、奴も自分も。
「てめーもう売りやめろ」
「な、お前にそんな指図」
「今度男んとこ行きやがったら、オレがぶってぇコイツでヒィヒィ言わしてやる」
体を触れ合うほど近付け、鉄の杭できわどい場所を辿る。
間近で歪む顔。
「…オヤジ臭ぇよソレ」
分かり辛くはあったが、そこには確かに笑みが混じっていた。



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