[10] バル(子)ニパでニパ→バル(大) |
- nana子 - 2007年02月08日 (木) 21時42分
「男」の「手」が腹に触れた。 冷たく、硬い手だった、いいや、否。 小さく頭を振る、長い髪が揺れ痛んだ毛先が頬を掠めた。 「少年」の「機械」が肌に触れた。 冷たく、硬い、ただ手を模しただけの、それだった。 少年は少年と呼ぶにもずっと幼く、体は小さく顔もあどけなかった、大きな目は、テツグンテと呼ばれる機械の手が潜り込み膨らんでいる服か、それかその少し捲れた服の下から見える生白い腹部へと向けられているようで、下向きに、軽く伏せられている。 子供特有な柔らかさを持つ頬に黒い睫が影を落としているのが此処からでも見えた。 そういえば、あの「男」の顔を近くでよくよく観察するつもりで見た 事は記憶になかったし、仮にあったとしても、きっとその記憶は今となっちゃ頼りにできないものだったろうからあてにはしないが、ただそれでもあの「男」は中々整った顔をしていた(と思う)(贔屓だの惚れた弱味だの恋は盲目だと言われてしまえば、もう言い返す事は出来ないだろう)
この「少年」は何時かあの「男」になる。
そう、あの男だ、自分がずうと昔から追い続け追い求め求め続け求めて彼こそが自分の救いであり光であり夢であり目標でありやはり何よりの救いであり、作り物のヒーローなんか比べ物にならないぐらい素晴らしいヒーローと思い続け想い続けたあの男だ。あの男はずうとずうと昔この少年だったように、この少年はあの男だった。だから少年も、自分にとっては今でもヒーローであるし、当に失ったと思っていた光でもあるし、こんな自分なんかにとって泣きたくなる程の救いであった。(オレを救えるのは、あなただけです。) 服の下を、鉄が徘徊してる感触もまた泣きたくなる程の、もので。思わず唇を薄く開いた、ら、丁度指先の役割をする機械の先が、腹部を越えて厚みのない薄っぺらな胸に到達した頃だった。ので、「あ」、なんて気色の悪い声が出てしまい、今まで床に放り出していた手は動き方を思い出し咄嗟に自分の口を塞いだ。 唇が知らない間に随分と乾いていて、がさがさとした皮の感触が掌に染み付いた。 キスをして欲しいと願った。願っただけだ。願いは何時だって叶わないものだ。ほら今だって、「ニッパ」(幼い声 俺を呼ぶ) 大きな目はもう俺を見ていた、目があったからわかった事だ、服の中に入っていない方の手が、ゆっくりと自分の顔に向かってくるのも見えた。…冷たく、硬い手だった、いいや、否。 小さく頭を振る、長い髪が揺れ痛んだ毛先が頬を掠めた 「少年」の「機械」が頬に触れた 冷たく、硬い、ただ手を模しただけの、それだった
(冷たく、硬い、ただ手を模しただけの、それだった) (冷たく、硬い、ただ手を模しただけの、それだった) (冷たく、硬い、ただ手を模しただけの、それだった) (冷たく、硬い、ただ手を模しただけの、……) (冷たく、硬い、ただ…………)
「…ニッパ?」
幼い声に呼ばれたが、返事を返せなかった 自分でも失礼だと思ったが、返事を返せなかった 少し湿った掌が乾いた唇に張り付いてしまっている
「ニッパー・トーラス」
幼い声にまた呼ばれた。名前を呼ばれるのは酷く心地が良かった。特にここ数年、ろくに名前を呼ばれた事がなかった気がする。だから酷く心地が良かった。だから尚更、返事を返せなかった。目で謝ろうと思って大きな目を見つめ返すと、その目がぼやけた。目だけでなく黒い髪も柔らかそう頬の輪郭も困ったようなその癖真面目な顔も すぐ近く、頬に添えられた機械も
「…どうして泣くんだ?ニッパ」
思わず、此処から逃げ出したくて、でも逃げてまた失うのがこわくて、もう息も出来ないぐらいこわくて、せめてもの抵抗で目を、閉じた。 ぼろりと目の縁から塩分を多く含んだ液体が零れたのがわかった。目を縁取る睫は何の役にも立たずにただ濡れるだけだ。情けない話だ。情けないのは誰だ。オレだ。冷たく硬い鉄の塊が頬を撫でた時、情けないオレは濡れてしまいます隊長と忠告をしたかったのに、やっぱり掌が邪魔で何も言えなかった。言えなかった。言えなかった、 あの男の、あなたの、あの暖かく大きな掌を愛していました、なんて
(願いは何時だって叶わないものだ!)
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