投稿日:2013年08月22日 (木) 10時21分
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「博士やりましたね!」坂本は1カ月程経って博士を訪ねた。「おめでとうございます。すごいじゃないですか。月古二文学賞受賞。」 エス博士は零れんばかりの笑みを浮かべて、当然というばかりに頷いた。 「博士、それも月古二文学賞において初の選考委員満場一致だそうですね。大げさでなく歴史的快挙と書いてある新聞もありましたよ。」 「そうらしいな。儂もそこまでは予想しなかった。「文豪くん」の優秀さを再認識させてもらった次第じゃよ。」 「さらに選考委員の評言が素晴らしいじゃないですか。選考委員長のP氏なんか、 −これは我々選考委員であっても誰もが書き得ない傑作だ。まず作者の時代考証を含むその知識に圧倒された。驚く程の豊富な知識を一切無駄にすることなく小気味よく作品を展開させて行き、ラストのスリルと意外性は圧巻であり、読了後はしばらく呆然とするばかりであった。− と、この絶賛ぶりですからね。」 エス博士は頬を緩ませながら、深く頷き、 「それは大変有難いが当然と言うべき評価だな。当たり前のことだよ。まずその知識に関しては到底一般人の及ぶ領域ではない。この「文豪くん」の知識は無限なのじゃ。全世界の全ての図書館に収められている知識と同等と言えば分りやすいかな。我々の想像を絶する知識量だからな。更に人間の心理学の分野にも造詣が深い。そのため、読者に対し最も効率よく伏線を張り、暗示を与える術を熟知しているのだ。そしてラストの意外性に付いても最大に読者の満足のいく意外性を導くことができる。そう意外性において最も効果的な度合・・・この匙かげんが難しいのだ。大きすぎても小さすぎてもいけない。こういった執筆に当たっての様々な困難を簡単に飛び越えてしまうのだから、この程度評価は当然だよ。」 エス博士の胸は益々反り返り、坂本はこのまま後ろへ倒れ込むのではないかと本気で心配した。 「そうだ坂本君、祝杯を挙げねばなるまい。このあいだ言っていたその高級ワインとかやらで乾杯しないか。ご馳走するよ。」 「博士、いいんですか、それってフランスのロマネコンティでしょう?僕だって今回の受賞賞金額は知ってますが、その倍以上ですよ。」 「何、かまうものか。これで日本中の文学賞とその賞金とを手に入れたも同然。いや、世界中の文学賞が儂の手にあるのじゃ。今、翻訳ソフトと連結する作業をしていたところだ。これはさほど難しい作業じゃないから明日にでもやることにする。さあ、行こう・・旨い酒が飲めるぞ・・」 ---------------------------------------------------------------------------
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