From:じゅりんた(8) [関東/51歳から60歳]
文藝春秋 2008年7月9日刊
誰だって誉められたら嬉しい。身近な人から誉められることはあっても世間様から誉められるとなるとこれはなかなかあることではない。
この物語は「ココスペース」という名の店舗内装を設計施工する会社のお話。現在従業員数47名。作者の山本幸久さんはその会社のとりわけ個性的な社員に一人ずつライトを当てて実に面白いお話を聞かせてくれた。
我が道を歩み上司とつかみ合いの口論になるなんて日常茶飯事、理想を追うあまり自腹を切って78万円もする岩手県の大きなトチの木をなんと注文もないのに買ってしまう。その一方では初対面の女性に目も合わせられないほどウブだったりする。
それが並々ならぬ情熱の持ち主で設計担当の隈元歳蔵(くまもととしぞう)。個性的な登場人物の中でも際だつ個性の持ち主。その隈元が世間から誉められた。
その若い女性のお客さんは自分でお店を持つことが夢だった。5年前にふと見つけた店舗が気に入った。その時ココスペースという内装会社が作った店舗だと知った。
それ以来ココスペースのホームページを見ては店舗を訪ね歩き気に入ったものだけ写真に撮り続けた。それが隈元の設計だとは知らずに写真を撮り続けた。いつかこんなお店を持ちたいと。
その写真を納めたスクラップブックをその女性客から見せられた。一緒にいた同僚がそのスクラップブックを見て驚いた。
「クマさん、これご覧になった方がいいですよ。」 「え、おれはべつに」 「『隈元歳蔵』作品集ですよ。」
これは仕事冥利に尽きる。自分の仕事がこれほどまで誰とも知らない人から愛されていた。夢であり希望になっていた。仕事をしていてこれほど嬉しいことがあるだろうか。きっとこの若い女性客だけではないだろうと思う、彼の作品を素敵だと思った人は。正に仕事冥利に尽きる。
そしてこの隈元の先輩が高柳という営業マン。この高柳がこの隈元に優るとも劣らぬエピソードの持ち主。いったいどんなエピソードを持っているのかというと…。キリがない。紹介はここまでにしておく。読後感がとっても爽やかだった。もう間違いなく太鼓判を押してお勧めできる作品。
2010年02月21日 (日) 22時47分
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