From:じゅりんた(8) [関東/51歳から60歳]
2000年 文芸春秋刊
仁木順平は50過ぎのサラリーマン。丸の内に本社のある大手企業のサラリーマンだ。
かねてより独立の考えを持っていた彼は、人員整理(リストラ)のため提示された転職者支援制度を良い契機として捉え、その制度の最初の適用者となった。そして会社を退職し自分ひとりで新しく商売をはじめたのだが、その商売とは探偵だった。
ここまで読んで、困ったことになったと思った。 私は多くの探偵を知っているが、誰も彼もみんな様々な苦労を背負って探偵稼業を続けている。
またひとり、仕事もない、金もない、そんな探偵が誕生する。そう考えただけで、困った。しかし、困ったのはそれだけではなかった。
螺旋構造の非常階段をカンカンと音を立ててひとりの少女が猫を抱えて迷い込んできた。見も知らずの可愛いいその少女は事もあろうに、探偵の助手にしてくれと申し出てくる。とっさのことで、断るに断れない。
そこへ依頼者が入ってくる。配ったチラシを握りしめて探偵事務所へ入ってきたのは中年の女性で、栄えあるお客様第一号であった。
日常の謎を解く物語だが、設定はあまり日常的とは言えそうもない。あまりにも面白い設定だと思うから。中年のおじさんがやっている仕事のない探偵事務所に毎日美少女が無報酬で手伝いに来てくれるのだ。
さらに彼女に関しても、仁木の家族に関しても驚くような事実がわかってくるが、私には夢のように思えてならない。この物語は不思議の国の出来事なのであろうか。
ルイス・キャロルの作品を愛する探偵とその助手。せりふ回しにも事件そのものにもルイス・キャロルの作品を思い起こさせる雰囲気が漂う。やはり不思議の国の出来事なのかもしれない。
事件が解決すると、一気に現実の世界に戻され安堵する。新米探偵とはいえ、さすがに中年の思慮深さを発揮して落ち着くところに落ち着く。 心配は心配だけど、仁木さん、探偵になって良かったのかも知れない
2008年09月07日 (日) 15時26分
|