From:じゅりんた(8) [関東/51歳から60歳]
1992年 文藝春秋刊 翻訳 田中 靖 クックが1989年に発表した、彼のふるさとアラバマ州を舞台にした作品。殺人事件の謎を解き明かしていく白人刑事の物語。読み出すと気持ちが熱くなっていく。
殺されてしまったのは幼さの残る12歳の少女。競技場のグランドに埋められて、手首から先だけが露出していた。少女の身元がわからない。しかし黒人であることははっきりとわかった。
人種差別が格段と厳しいこのアラバマ州のこの年、1963年5月に発生したこの殺人事件は大変デリケートな意味合いを持っていた。
この時代のアメリカは自由の国ではなかった。黒人たちにとってはどうにもならない差別と貧困の国でしかなかった。
あのマーティン・ルーサー・キング牧師が登場し、非暴力を掲げて黒人の公民権運動の闘いを繰り広げていた、そういう時代だ。 作者はミステリーの物語を書きながら、心の中には別な意図を強く持っていたのだということがひしひしと伝わる。
いったいどんな意図を持っていたのか。人として正しいと信じることを多くの人に伝えたいという意図に他ならない。
作者の思いは私の胸に伝わってきた。最後の1ページ、あの歌声が私の耳にもこだましたような気がする。目頭さえも熱くなってくる。
さて、この物語の時代から40年以上も経過したが、果たして初の黒人大統領は誕生するのであろうか。一層気になるようになった。
2008年07月24日 (木) 09時04分
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