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[543] トマス・H. クック 「熱い街で死んだ少女 」
From:じゅりんた(8) [関東/51歳から60歳]

1992年 文藝春秋刊
翻訳 田中 靖

クックが1989年に発表した、彼のふるさとアラバマ州を舞台にした作品。殺人事件の謎を解き明かしていく白人刑事の物語。読み出すと気持ちが熱くなっていく。

殺されてしまったのは幼さの残る12歳の少女。競技場のグランドに埋められて、手首から先だけが露出していた。少女の身元がわからない。しかし黒人であることははっきりとわかった。

人種差別が格段と厳しいこのアラバマ州のこの年、1963年5月に発生したこの殺人事件は大変デリケートな意味合いを持っていた。

この時代のアメリカは自由の国ではなかった。黒人たちにとってはどうにもならない差別と貧困の国でしかなかった。

あのマーティン・ルーサー・キング牧師が登場し、非暴力を掲げて黒人の公民権運動の闘いを繰り広げていた、そういう時代だ。
作者はミステリーの物語を書きながら、心の中には別な意図を強く持っていたのだということがひしひしと伝わる。

いったいどんな意図を持っていたのか。人として正しいと信じることを多くの人に伝えたいという意図に他ならない。

作者の思いは私の胸に伝わってきた。最後の1ページ、あの歌声が私の耳にもこだましたような気がする。目頭さえも熱くなってくる。

さて、この物語の時代から40年以上も経過したが、果たして初の黒人大統領は誕生するのであろうか。一層気になるようになった。

2008年07月24日 (木) 09時04分


[542] 高村 薫 「李歐(りおう)」
From:じゅりんた(8) [関東/51歳から60歳]

1999年 講談社刊

サクラの花が満開にほころぶ頃。教会の庭から伸びたサクラの枝はたくさんの花びらを付けて隣の町工場の裏庭に覆い被さり、目を見張るような美しさを表す。

それを目当てに、近所の人たちが集まってお花見の宴会を開く。当然、町工場はお休み。
持ち寄ったお酒と、絶品の味と絶賛されるおでん。ささやかだけど愛おしい時間。

大阪の町工場がひしめく街の一角。土地勘が全くないので思い浮かべることは出来ませんが、多分東京でいえば、下町の工場が密集しているような場所。機械油の匂いがぷーんと香ってくるような場所だろうと想像しました。

そこがこの作品の主たる舞台。そして主人公はひとりの大学生。無気力で自分の体重さえもうっとうしく感じているような男。

主人公の吉田一彰の生い立ちは薄幸だと言える。親の離婚、そして母親の駆け落ち、失踪、転居。
家族への不信とあこがれを混ぜ合わせて、希望を見いだすことが出来ないまま成長期を過ごしてきたんだろうと想像する。

離婚したばかりの母親と一緒に当てもなく大阪に住み着いた。

アパートの裏には工場がある。幼い一彰は旋盤などが並ぶこの町工場の経営者守山に可愛がられる。

やがてこの大阪の地で小学校に入学するはずだったのだが、母親が一彰を置いて家を出てしまう。その為東京の祖父母の元へと引き取られた。

再び大阪の街で生活することになるのは大阪大学工学部の大学生になってからのことだった。
大学生の一彰は懐かしい町工場にまだ足を向けていない。優しかった守山にも会わずにいる。心の中には消えることがないわだかまりがあった。

この小説はいったいどんな結末に向かうのだろうか。読んでいる間ずっとわからなかった。想像もつかなかった。

しかし読んでいるうちに物語の舞台が広がっていった。小説のスケールがどんどん大きくなっていく。

しかも場面によっては細密な描写だ。咲子が戻ってきて一緒にうどんを作って食べようとするシーンがある。そのシーンから数ページ、思わずも激しく気持ちを揺すぶられてしまった。流れ出る熱い涙を止められなかった。

良い小説だと思った。そして読み終わった後、傑作だと思った。

サクラの満開の季節にはまたこの作品のことを思い出すだろう。

2008年07月21日 (月) 10時34分


[541] 大崎 梢 「配達あかずきん」
From:じゅりんた(8) [関東/51歳から60歳]

さすがに評判通り。本好きの方にも、本屋さん好きの方にも楽しめます。

手に取ると、この本のカバーが良いです。東京創元社で刊行された人気作のカバーが沢山並べてあります。まるで店頭の平積み。なんだか本屋さんに来たみたい。ひとつひとつ見入っちゃいます。

さらにおまけ付き。「書店のことは書店人に聞け」という濃厚な会談が収録されています。これは読み応えあります。あの名編集者、戸川安宣さんが司会をしているんですからね。

そして五つの短編もそれぞれ良いです。私としてはみんな好きですが、特に「標野(しめの)にて君が袖振る」「六冊目のメッセージ」が気に入りました。

駅ビルの書店が舞台の作品です。私は駅ビルには余り縁がないのですが、一度、ある駅ビルの書店主催の講演会に出掛けたことがあります。大好きな作家さんのミニトークショーだったんですが、とても懐かしい思い出です。

2008年07月19日 (土) 09時46分


[539] 井上 荒野 「ベーコン」
From:じゅりんた(8) [関東/51歳から60歳]

2007年 集英社刊

九つの短編の表題はそれぞれの短編の中で印象に残る食べ物から付けられています。表題の並ぶ目次を眺めただけでもなんだか入りやすいような作品に思えます。
食べ物の持つ日常性、必要性は、誰にとってもレギュラーな感覚を持つからです。

ところが、作品の内容は日常性とは大いに異なりました。イレギュラーな形の男女の関係です。不倫、不道徳がこれらの短編の中身でした。

井上荒野さんは、いのうえあれのさんと読みます。知りませんでした。あれのさんのお父様は虚構の作家、井上光晴さんです。知りませんでした。どちらの井上さんも読んだことがありませんでしたが、あれのさんは直木賞の候補に取り上げられたので、興味を持ちました。

さすがに研ぎ澄まされた作品ばかりだと思います。うまいです。短編ですが、九つを読み終えて、ひとつのまとまりのような気がします。音楽でいえばバッハのフーガです。フーガを聴いているような気がします。

人を愛することと、人を裏切ることの繰り返し。そういうフーガです。

2008年07月01日 (火) 00時03分


[538] 東野 圭吾 「夜明けの街で」
From:じゅりんた(8) [関東/51歳から60歳]

2007年 角川書店刊

高校生の時にも谷崎潤一郎を読んでいてこんな気持ちになったなぁ。「痴人の愛」はナオミズムというか、しっかりとからみつく耽美派の恐ろしい作品でしたが、似たような女性に骨抜きにされていくストーリーとして本作はハラハラしましたが、結局はミステリー作品として仕上げられておりますので路線が違っていました。

感覚としてうなずけるというか、およその想像は付くのですが、やはり不倫をする奴なんて馬鹿だという結論になるようです。冒頭で作者が「馬鹿だ。」と言っているのですから、実にはっきりとしています。「不倫をする奴は馬鹿です。」
作者はこの作品の大部分のページを割いて、これでもかこれでもかと「不倫は馬鹿だ。」と書いている小説でした。

でも、ハラハラしました。東野さん上手です。

2008年06月26日 (木) 13時37分


[537] 海堂 尊 「ジェネラル・ルージュの凱旋」
From:じゅりんた(8) [関東/51歳から60歳]

2007年 宝島社刊

「行灯君」田口公平シリーズの三作目。前作「ナイチンゲールの沈黙」は本作品のための手が込んだ壮大なる予習だったのか。

これは断然面白い。ツボを押さえられたというか、秘孔を突かれたというか。一度この時間の流れは前作で体験しているのだ。ところがビデオを巻き戻して再生したら、なんとカメラの位置が変わっていたという驚き。
従って再生される物語は全くの別物になっている。

とにかく予習済みだから、わかりやすい。順序よく見事に並べられた物語が心地よく、登場人物たちのセリフも小気味よい。実に快調にエンディングまで突き進む。
立派にエンターテイメントしています。

それにしてもジェネラル・ルージュの「伝説」には、いささか面食らいました。そういうこともあるんですね。

2008年06月26日 (木) 13時36分


[536] 梨木 香歩 「春になったら莓を摘みに 」
From:じゅりんた(8) [関東/51歳から60歳]

2002年 新潮社刊

「日常を深く生き抜くとはそもそもどこまで可能なのか。」(子供部屋)

これだけの文章を引用したからと言ってレビューとしては意味が通じるわけはないと思います。しかし私にはわかりました。このエッセイの本質が集約されているようです。だから私にはもう十分過ぎます。

さらに「林が静まってゆく音を聞」きながら猫のシーモアが「誰かの足にすり寄るような仕草」に気が付く。するとキャロラインまでが「中空を見つめた。」(クリスマス)気配に意識を向ける著者。

梨木さんの作品の根底にあるしっかりとした揺るぎない考え方が如何に形成されてきたか。もしくは若き日のイギリス留学で受けた影響とは何だったのか。これが目隠しの指をはずされるように見えてきます。

著者のことが羨ましくてならなくなります。それは巻末に掲載されているウェスト夫人からの書簡を読んだから。これほど素敵な手紙をもらえるなんてなんて羨ましい。まぶたの裏側が熱くなってしまいます。

2008年06月22日 (日) 08時42分


[535] 大倉 崇祐 「オチケン!」
From:じゅりんた(8) [関東/51歳から60歳]

副題 Rakugo Club The Key to Solving Mysteries (ミステリーYA!)

2007年 理論社刊

自分で自分をコントロールしないと学生生活は憂鬱なものになっちゃうぞ。授業は君の意欲次第で、最高のエンターテイメントになるかも知れない。学生ならば、まずは学生たるゆえんの勉学にいそしまなきゃいけないんだぞ。

寝坊したり、簡単にあきらめたりして語学も専門科目もすっ飛ばしているとサボり癖が付いちゃって、あっという間に恐ろしい2文字が浮かび上がってくるぞ。恐ろしい「留年」という2文字が。

青少年諸君。特に、越智健一君。よく学び、よく学び、そして良く読みなさい。大人になればいくらでも遊べる。でも大人になって、社会人になると勉強はできなくなってしまうのだ。目の前に面白おかしいことが沢山現れてくると、そちらについ目が向いてしまうから。

あー、どうしても説教臭いレビューになってしまう。越智君を見ていると、なんかアドバイスしたくなっちゃうんだなぁ。本当に彼はいい奴なんだ。だから後悔しない学生生活を送って欲しい。

読み終わって友人の鋭い洞察に改めて同感の意を強めました。「白戸修=越智健一説」です。大倉崇裕さんの名作「ツール&ストール」の白戸修君です。2人とも爽やかで賢くてそしてドジなんだな。

本作品は落語入門書としても最良の書であり、そしてひとつの青春小説です。ミステリーの味付けもちょうど良い。甘くそして苦い。巻末の付録、落語エッセイもなかなか為になります。

2008年06月22日 (日) 08時40分


[531] 馳 星周 「約束の地で 」
From:じゅりんた(8) [関東/51歳から60歳]

2007年 集英社刊

奥付の前のページに馳さんの紹介文が載っています。そこには「日本を代表する暗黒小説の書き手」と書かれてました。うん、確かにそうかも知れないと思う。こういう小説ばかり書いてりゃ、日本一の暗黒小説家になれると思う。

実際、見事に暗澹(あんたん)たる小説でした。読み終わってもわだかまる私の中の暗鬱(あんうつ)たるこの気持ちをどうしてくれようか。

本作品は暗色に彩られた短編小説が5編収められています。脇役のように登場する人が次の短編の中心人物になるという、凝ったリレーで連なる短編集です。

物語はとても魅力的な筆致で書かれているんです。一歩でもこの作品世界に足を踏み入れた者を作者は簡単には解き放ってくれはしません。読み出すと、もう読んじゃうんです。そしてますます暗雲に包まれてしまう。

素直にいいます。面白かった。面白かったんです。
例えて言えば、愚かしくも悲しい事件をワイドショーで見ているような人ごとの面白さ。

でももう忘れたいです。なるべく早くこの暗然たる気持ちを遮断したい。とても悲しい。

登場する人物の誰ひとりとして思いやりも優しさも暖かさもない。見せかけだけ。そこですべての人たちの心の成長が止まっている。自分のことだけ考えている人々が目の前のことだけしか見ていない。

人間らしいと言えば人間らしいが、これだけじゃ人間とは言えないのでは。笑えないですよ、全然。笑わないままで生きてく意味あるの?と、私は思うのです。

是非いつの日にか、この短編集で出会った作中の人々が笑顔を見せてくれるような物語に出会いたいとなぁと思ってます。希望でもあり、願いでもあり、祈りでもあります。

2008年06月03日 (火) 00時16分


[529] 古処 誠二 「敵影 」
From:じゅりんた(8) [関東/51歳から60歳]

2007年 新潮社刊

直木賞候補作になっていることを知り、読もうとした作品です。手に取るまで作者についても作品についても予備知識はありませんでした。何とも「みいちゃんはあちゃん」な態度です。そんなことですから、読み始めた途端、なんの話なのかさっぱり見当が付かなくてうろたえました。

この作品の時代はいつ?舞台はどこ?誰のお話?とにかく前置きもなんの紹介もなく物語が突然語りかけられるのです。初めてあった人なのに、さも顔見知り同士のようにいきなり挨拶無しで本題の話に入り込んでゆく感覚。文章作法的には、これはある意味、かなりのダイエットです。

しばらくして昭和20年つまり1945年8月14日から始まる話だとわかります。占領下の沖縄、米軍の捕虜収容施設が舞台。主人公はひとりの日本人捕虜、近藤義宗。彼は体にも心にも大きな痛手を負っています。そしてこの日の翌日には終戦を宣する玉音放送がNHKラジオで行われるのです。

沖縄での日米両軍の戦いは日本軍側にとっては民間人をも含めて多大なる死傷者を出したあまりにも無惨な敗戦でしかありません。しかしそんな戦況を解説するような文章は出てきません。出てくるのは捕虜たちのストレートな心情をむき出しにした描写ばかり。この作品はまさに、骨と皮。ゴツゴツとしていて読むだけなのにあちこちにぶつかってくるような文章です。

無駄を省いたのではなくて、もうそっくりそのままあの時代のあの場所での空気と会話を再現しているかのような、言い換えれば、やせ細った当時の日本をモノクロームで再現しているような文章なのです。

ある程度状況がわかると、面白くなりました。どんどん古処さんの語り口にはまってしまいました。
痛烈な印象を刻み込まれる文章に何度も出くわしました。「憤怒は敵影を探す。」「戦の場にあって実直であれば、死ぬ。」「死んでいないのが罪だとは悲しいよ。」決して力まない、抑制のきいたせりふ回しなのに、重いボディブローのようです。

読後感は、悪くない。そう思っています。むしろ読めて良かった。作者は年配のベテラン作家ではありません。38才の気鋭の新人と言っても良いのでしょう。それなのに舌を巻くほどの枯れた風格を感じてしまいました。

2008年05月28日 (水) 08時39分







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